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避難用作品投下スレ2

1管理人★:2007/04/24(火) 01:55:07 ID:???0
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。
また、予約作品の投下にもお使いください。

364親友:2007/05/23(水) 21:33:34 ID:7JyTghbE0
「うっ……あっ……うわああああっ……」
泣きじゃくる杏を抱き締めながら、陽平は世界で一番大切な人の事を思い出していた。
(るーこ……今なら分かるよ。古河が最後まで岡崎の事を気にかけてたように、お前も死ぬ間際まで僕に逃げろって言ってたよね。
 お前は僕に、前を向いて生きて欲しいんだよな? どんなに辛くても、お前がいない世界でも、生き延びて欲しいんだよな?)
心の中に焼き付いたるーこの映像にそう語り掛けると、柔らかい笑みが返ってきたような気がした。
自分が朋也を殺した理由はたった一つ。
あそこで何もせずに自分達が殺されてしまっても、誰も救われないからだ。
こんな残虐に過ぎるゲームを企む主催者が、参加者の願いなど叶えてくれる筈が無い。
たとえ朋也が人を殺し続けて優勝したとしても、渚は生き返らない――そう、死んでしまった人間は、決して帰って来ないのだ。
それならばせめて、罪を犯す前に此処で止めてあげるべきだった。

それでも朋也は間違いなく自分の手で殺してしまったし、その点について言い訳するつもりは毛頭無い。
渚の遺言は、結局叶えてやる事が出来なかった。
そして自分がもう少し上手く立ち回れていれば、るーこだって死なずに済んだ筈だ。
自分の所為で、多くの親しい者達が命を落としてしまったのだ。

仮にこの地獄からの生還を果たしたとしても、何も解決はしない。
失われてしまった命はもう取り戻せないし、親友を殺してしまった罪も、恋人を救えなかった罪も、永久に消えはしない。
殺人がどれ程の罪の重さなのか、どうすれば償えるのか、自分には分からない。
それでも一つだけ分かる事がある――命を奪ったからには、責任を果たさねばならないと。
「杏。僕達まで死んじゃったら、岡崎もるーこも古河も、何の為に死んだのか分からなくなる。
 僕達は絶対、生き延びよう」
だから陽平は、るーこが生きていた頃と同じくらい強い意志を籠めて、そう言ったのだった。


【残り23人】

365親友:2007/05/23(水) 21:34:00 ID:7JyTghbE0
【時間:3日目・3:20】
【場所:G-3左上教会】
春原陽平
 【装備品:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×10、鉈】
 【持ち物1:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、89式小銃の予備弾(30発)】
 【持ち物2:鋏、鉄パイプ、工具】
 【持ち物3:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料を少し消費)】
 【状態:決意、右脇腹軽傷、全身打撲(大分マシになっている)・右足刺し傷・左肩銃創・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】
 【目的:ゲームの破壊、杏と生き延びる】
藤林杏
 【装備品:ドラグノフ(5/10)、グロック19(残弾数2/15)、投げナイフ(×2)、スタンガン】
 【持ち物1:Remington M870の予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書(英和)、救急箱、食料など家から持ってきた様々な品々、缶詰×3】
 【持ち物2:カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、支給品一式】
 【持ち物3:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、工具、首輪の起爆方法を載せた紙】
 【状態:号泣、右腕上腕部重傷、左肩軽傷、全身打撲】
ボタン
 【状態:健康、杏の足許にいる】
久寿川ささら
 【持ち物1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、救急箱(少し消費)】
 【持ち物2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:礼拝堂の隅に横たえられている、右肩負傷(応急処置及び治療済み)、疲労中 気絶】
岡崎朋也
 【所持品:三角帽子、薙刀、殺虫剤、トカレフ(TT30)銃弾数(3/8)、風子の支給品一式】
 【状態:死亡】

【備考】
・陽平と杏はささらから事の顛末を聞いてない。状況から貴明、珊瑚、ゆめみの死亡を推定。
・和英辞典は礼拝堂の床に落ちています

→846

366provided route:2007/05/24(木) 20:16:35 ID:jLt7VIIc0

「―――つまらないことで時間をつぶしていただいては困りますね」

冷水を浴びせかけるような声で、観月マナは気がついた。
切れ切れになっていた意識が繋がっていく。

「ここ……は」

次第にはっきりしてくる視界に映る景色は、変わらぬ森の中。
しかし二つだけ、記憶と違うものがあった。
一つは空だ。曇っていたはずの空に、眩しい太陽が顔を覗かせている。
そしてもう一つは、

「お久しぶりです」

眼前に立つ、少女の姿であった。
諦念と屈折に凝り固まったような瞳。
手にした本は少女には不釣合いなほど大きく、分厚い。
異様なのは、その本が内部から発光しているように見えることだった。
色は真紅。光は、まるで鼓動を打つかのように脈動していた。

「里村……茜、さん」

マナが、その名を口にする。
記憶の欠落していた間の経緯。現在の時間、位置、状況。
いくつもの疑問が脳裏をよぎるが、それらを抑えてマナの口から出ていたのは、たった一つの問いだった。

「どうして……ここに?」

途端、茜が口の端を上げた。
嘲弄と侮蔑の入り混じった、悪意ある笑み。

367provided route:2007/05/24(木) 20:16:54 ID:jLt7VIIc0
「どうして。……どうして、と訊くのですか、私に?
 つまらない路傍の小石に躓いてもがいていた貴女を助け起こした私に?」
「あたしを……助けた……?」

呟いて記憶を辿ろうとするが、どうにもはっきりしない。
朝、目覚めてから図鑑の青い光に導かれて歩き出したところまでは覚えている。
北に向けて歩いていたはずだが、そこから先の記憶が急速にぼやけていた。
脳裏には断片的な映像だけが浮かぶ。
凶悪な面構えの軍人らしき男性。無数に存在する、同じ顔をした少女。陽射し。赤い、光。

「……気にしなくて結構ですよ。こちらにも利のあることでしたので」

言って、茜が話を打ち切った。
マナもそれ以上考えるのをやめ、茜に向き直る。
茜の手にしたGL図鑑の真紅の光に同調するように、BL図鑑もまた青い光を脈動させていた。

「その光……濁ってる」

どくり、どくりと脈打つ真紅の光を見据えて、マナが呟いた。
その言葉どおり、茜の手にした図鑑から発せられる光は、マナの透き通ったそれと違い、
まるで粘り気のある血を垂らし乱暴にかき混ぜたように濁り、中を見通すことができない。
緋色の光が時折揺らめき、光の粒を零すその様は、

「まるで……泣いてるみたい」
「……」

その言葉に、茜はほんの少しだけ目を細めると、己の図鑑とマナの図鑑を見比べるように視線を走らせた。
微笑から、僅かに悪意の色が薄れる。

「……安心しました」
「……?」

意図を測りかね、眉根を寄せるマナを気にした風もなく、茜が続ける。

368provided route:2007/05/24(木) 20:17:41 ID:jLt7VIIc0
「下らない子供だましに踊らされていたので、心配していたのですよ。
 BLの力、私の想像よりも遥かに小さいのではないかと」
「……!」
「ですが、杞憂だったようです。この力―――、」

と、手にした図鑑を掲げてみせる。

「哭いていると、そう感じられたのなら及第点……いいえ、そうでなくては困るというものです。
 どうやら聞こえているようですね、黙示録の声が」

黙示録、と呼ばれた瞬間、茜の手にした本から発せられる赤い光が一際強く輝いた。
それを目にして、マナは小さく首を振ると口を開く。

「―――違うよ」
「違う……?」

意外な言葉だったのか、茜が問い返す。
マナは、己の図鑑を胸に掻き抱くようにすると、茜の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。

「違う。この子は、そんなのじゃない」
「そんなの……とは、黙示録のことですか? ……ああ、あなた方はBL図鑑と呼んでいるのでしたか」
「そうじゃない」

きっぱりと、マナは茜の言葉を否定する。

「そういうことじゃないよ。……あなただって、この子たちの声が聞こえるなら分かってるはずでしょう?」
「……」
「この子たちの、本当の名前は―――」
「―――黙りなさい」

マナの声を遮るように、茜が強い口調で言い切った。

369provided route:2007/05/24(木) 20:18:44 ID:jLt7VIIc0
「……妄言は結構です。それよりも、よろしいのですか?」
「……何のこと?」

畳み掛けるように、茜が話題を転換した。
思わせぶりなその言葉に、怪訝な表情でマナが問いただす。

「どうやら貴女のお仲間の身が危ういようですが。……キリシマ、といいましたか」
「な……、キリシマ博士が……!?」

マナが色めき立つ。

「このままでは……まぁ、酷い目に遭ってしまわれるかもしれません」
「……っ!」
「行ってさしあげてはいかがですか? ……その道を走れば、すぐですよ」

そう言って、茂みの向こうに伸びる林道を指差す茜。
反射的に走り出しかけたマナだったが、しかし一歩目を踏み出したところで足を止めた。

「……」
「どうしました? 急がないと手遅れになりますよ」

茜の言葉にも、マナは足を進めることもない。
代わりに口を開いた。

「……どうして?」
「……なぜGLの私が、貴女を助けるような真似をするのか、ですか?
 簡単な話です……今この場では、そうすることが必要だった。それだけのこと」

事も無げに、茜はそれを口にした。

「終焉へと向かうこの世界で、私が何をすべきなのか……それは黙示録の告げるままに。
 私はただ、定められた時の流れに従っているだけなのですよ」

真紅の光を放つ本を撫でながらそう言うと、茜は声もなく笑い、踵を返した。
もはや話すことなど何もないとでもいうようなその背中に、マナは小さく首を振る。
そうして一瞬だけ手の中の蒼い光に目をやると、今度こそ駆け出した。
背後から、茜の呟くような声が聞こえてくる。

「終わりの時、終わりの始まる場所で……私たちはもう一度会うことになると、黙示録は告げています。
 ―――世界の最後で、また会いましょう」

独り言めいたその言葉だけを残して、気配が遠ざかっていく。
マナは振り向かず走り続ける。
応えるように、口の中だけで小さく呟いた。

「……世界の最後? させるもんか、そんなこと」

ぐ、と手のBL図鑑を握り締める。
まるで蒲公英の綿帽子のように光が溢れ、きらきらと弾けて消えた。
光の軌跡を残しながら、マナは走り続ける。

「うん、終わりになんて、絶対にさせない。
 BLの力は……ううん、きっとGLだってそんなの、望んでやしないんだから……!」

それきり口を閉ざすと、マナは足を速めた。
手の中の図鑑は、ただ静かに蒼い光を放っている。

370provided route:2007/05/24(木) 20:19:19 ID:jLt7VIIc0

【時間:2日目午前11時ごろ】
【場所:G−4】

観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:電波の影響から脱出・BLの使徒Lv2(A×1、B×4)】
『御堂(誰彼)×七瀬彰(WHITE ALBUM)   ---   クラスB』
『七瀬彰(WHITE ALBUM)×芳野祐介(CLANNAD)   ---   クラスA』

里村茜
【持ち物:GL図鑑(B×4、C×無数)、支給品一式】
【状態:異常なし】
『巳間晴香(MOON.)×相楽美佐枝(CLANNAD)   ---   クラスB』
『砧夕霧(誰彼)×砧夕霧(誰彼)×砧夕霧(誰彼)×砧夕霧(誰彼)×砧夕霧(誰彼)×砧夕霧(誰彼)…… --- クラスC』



【場所:D−6】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:不明】

→498 763 ルートD-5

371星空・3:2007/05/25(金) 00:44:43 ID:Eo3DGS.c0
――久寿川ささらは生徒会室で、今は亡き朝霧麻亜子と再会を果たしていた。
椅子に座っている麻亜子が、紅茶を口にしてから、対面に居るささらへと視線を移す。
「さーりゃん。こんな所で呑気に油を売っていて良いのかね?
 殺し合いも、もう終盤――今は一分一秒が惜しい時だと思うよ?」
するとささらはゆっくりと首を横に振り、言った。
「ううん、もういいの……」
全てに絶望したような、何もかも諦めてしまったような、そんな声。
それを受けた麻亜子は眉を顰めて、怪訝な表情となった。
「……いいって何がさ?」
「あんな世界、もういいの。先輩も貴明さんも居ないなら、もうどうでもいいの」
「さーりゃん、それは――」
麻亜子が諫めようとするのを遮り、ささらははっきりと宣言する。
「私は死を迎えるその瞬間まで、ずっと先輩と一緒にいたい。たとえ夢の世界でも、此処には先輩がいる。だから現実世界には戻らないわ」

ささらは全てを拒んでいた。
何も出来なかった自分自身も、麻亜子と貴明の命を奪ったこのゲームも、そんな運命を与えたこの世界そのものも、拒んでいた。
しかしそれを理解して尚、麻亜子は冷たく言い放った。
「――駄目だよ」
「え……?」
「あたしが守りたかったのは、そんなさーりゃんじゃない。今のさーりゃんとは、一緒に居られない」

372星空・3:2007/05/25(金) 00:45:26 ID:Eo3DGS.c0
あの麻亜子が、自分を突き放した――?
ささらは捨てられた子犬のような目となり、肩を震わせながら言った。
「な……何を言ってるの……? 折角また会えたのに……」
「今のさーりゃんは最低だよ。ただ嘆き悲しむだけで、目の前の現実に対処しようともしていない……」
「そんな……仕方無いじゃない。目の前で先輩や貴明さんが死んでしまったのに……頑張れる訳無いじゃない……」
ささらが今にも消え入りそうなか細い声で、そう訴える。
だが麻亜子はそれには取り合わず、きりっと眉を吊り上げた。
「あたしは一生懸命戦った。さーりゃんを守りたくて、出来る限りの事をしたつもりだよ。
 その結果あたしは死んじゃったけど、後悔はしてなかった。さーりゃんの事が、本当に好きだったから。それはきっとたかりゃんも同じだと思う。
 それなのにさーりゃんがそんな調子じゃ、あたしもたかりゃんも何の為に命を懸けたか分からなっちゃうよ。 さーりゃんはあたしがいなくちゃ何も出来ないの?」
「――――!」
ささらの大きな瞳が見開かれるのを確認してから、続ける。
「それにさ――あたしもう行かなくちゃいけないんだ」
「…………っ!?」

言われてささらは、初めて気が付いた。
「せん、ぱい……から……だ……が……」
――麻亜子の身体がどんどん薄れていっている事に。

麻亜子は寂しげな笑みを浮かべた後、言った。
「……当然でしょ? そう都合良く、ずっと夢の中に居ついたりなんて出来ないよ」
それが現実だった。
この場に麻亜子が居る事自体、既に奇跡以外の何物でも無いのだ。

373星空・3:2007/05/25(金) 00:46:39 ID:Eo3DGS.c0
「やだ……行っちゃ、やだ……」
ささらは目に涙を溜めて、悲痛な絶叫を上げた。
「やだやだやだっ!行っちゃやだぁーーっ!! 行かないで、先輩。
 お願い……お願いきいてくれたら何でも言う事聞くからぁ……お願い――」
それは卒業式の時と同じ台詞。まるであの時の再現だった。
「何でもって言われるとさーりゃんに水着登校を強要したくなっちゃうけど」
ただ一つ、あの時と違うのは――
「ムリだよ、もう。あたし死んじゃったもん……」
そう。これは、永遠の別れなのだ。

「せんぱい――」
「仕方が無いの。始めから決まってた事なの」
またあの時と同じように、麻亜子が諭すように言った。しかし――
「仕方ないって――何がなの!? 何が始めから決まっていたって言うの!?」
これは二人だけの卒業式の時とは違う。
だからささらは叫んだ。腹の底から、思い切り声を絞り出した。
それでも麻亜子は悲しそうに目を閉じ、そしてゆっくりと首を横に振った。
「あたしが殺し合いに乗った時点で、さーりゃんとお別れしなくちゃいけないって事は、もう決まってたの。どうにもならなかったの」
「…………」
ささらは滝のような涙を流しながら、麻亜子の話を聞いている。
麻亜子は席を立って、ささらの目の前まで歩み寄った。
「あたしバカっこだから――この島に放り込まれた時、さーりゃんを助ける事しか考えられなかった。
 他の人の事を考えてあげるなんて、出来なかった。でも……ダメだったね。あたしが人を殺しちゃった所為で、さーりゃんを悲しませちゃった。
 嫌な思いをさせて、涙をいっぱい流させちゃって、たかりゃんまで死なせちゃって」

374星空・3:2007/05/25(金) 00:47:52 ID:Eo3DGS.c0
既に麻亜子の身体は、殆ど透明といえる状態にまでなっている。
それでも麻亜子はささらの手を握り締めて、話を続けた。
「ごめんね、さーりゃん。最後まで守ってあげたかったけど、もうお別れ。あたしはさーりゃんと一緒には居てあげられないよ。
 でもね……それでもあたしね、さーりゃんが大好きだった。だからさーりゃんは――生きて。あたしとたかりゃんの分も、一生懸命生きて」
「いや、いやっ、いやぁぁぁぁ!」
ささらが絶叫する。麻亜子はそんなささらの頭を、優しく一度だけ撫でた。
精一杯の笑顔を作り、告げる。
「――――ばいばい、大好きなさーりゃん」
「せんぱああああああああああああああい!!」
くるりと背を向けて、麻亜子は旅に出た。
二度と戻って来れない、片道切符の旅に――――



そこでささらの意識は現実へと引き戻された。
目を開けると、綺麗なシャンデリアや天井が視界に入った。
それでささらは、自分が今教会に居るのだと悟った。
続いて聞き覚えのある声――藤林杏や春原陽平のものが、耳に届く。

まだ身体に重い疲労感は残っているし、また目を閉じれば眠る事は出来るだろう。
しかしささらは直ぐにその考えを打ち消す。
(先輩、貴明さん――私頑張ります。貴女達の分まで、一生懸命生きてみせます。だからどうか、ゆっくりと休んでください)
しっかりと足を動かして、少女は自分の意思で、自分の力で、再び立ち上がった。

    *     *     *

375星空・3:2007/05/25(金) 00:48:39 ID:Eo3DGS.c0
陽平と杏は古河渚と岡崎朋也の死体を埋葬した後、意識を取り戻したささらと情報交換を行っていた。
「そっか……河野とまーりゃんって奴は、最後にささらちゃんを守り抜いたんだね……」
「マナを殺した朝霧麻亜子は許せないけど――でも、ささらを守りたいって気持ちだけは本物だったのね……」
貴明達と岸田洋一の戦いの一部始終について聞かされ、陽平と杏は各々の感想を口にした。
ささらの説明によると、貴明は麻亜子を殺そうと暴走した後に、岸田洋一の襲撃を受けた。
追い詰められた貴明と麻亜子はささらだけでも救う為に、決死の自爆攻撃を仕掛けたとの事だった。

「あたし達も散々な目に合ったけど、そっちはそっちで大変だったのね……」
「杏さん達も……お友達の方と殺し合う事になってしまうなんて……」
杏とささらはお互いの境遇に心底同情を覚え、慰め合っていた。
友人と殺し合いになってしまったり、親しい人間が全員死んでしまったり、もう何もかもが滅茶苦茶だった。
だが陽平はそんな二人の会話を途中で遮って、一際強い口調で言った。
「それでも僕達はまだ生きている。此処で悲しみに暮れていても何も変わらない。だから行こう――この糞ゲームを、ぶっ潰す為に」
その通りだった。
杏もささらも頷いて、三人は出立の準備を始めた。

    *     *     *

場所は平瀬村工場屋根裏部屋へと変わる。
主催者の監視方法を全て発見した姫百合珊瑚は、間髪置かずにハッキング作業へと移っていた。
この場所にはカメラも無い。盗聴器対策もしてある。発信機もパソコンから取り外している。
最早ハッキングを察知されてしまう可能性は皆無の筈であり、実際今の所作業は順調に進んでいた。
まずはいの一番に首輪の解除方法を調べ上げ、次は主催者に関するデータの取得へと移っている。
珊瑚の横では向坂環が、黙々と画面に表示されたデータを紙に書き写していた。

376星空・3:2007/05/25(金) 00:49:49 ID:Eo3DGS.c0




一方柳川祐也と倉田佐祐理は特に手伝える事も無いので、仲間達の亡骸を埋葬した後、外で夜風に当たっていた。
雨は何時の間にか上がっており、空には数え切れない程沢山の星が見える。
佐祐理が天を仰ぎ見ながら、感心しきった様子で声を洩らす。
「ふえー、相変わらずこの島の星空は凄く綺麗ですねー……」
「……そうだな」
柳川は素直な返答を返した。
天に浮かび上がっている星の数、星の煌きは、昨晩よりも増しているように思えた。

しかしやがて佐祐理が視線を下に伏せ、寂しげに呟いた。
「――でももう少しだけ早く雨が上がってくれれば良かったですね。そうすればゆめみさんにもきっと、この星空をお見せ出来たのに……」
ゆめみは今際の際に、星空を思い浮べて本来の役目を果たそうとしていた。
あの時、あの場所で星が見えたらどんなに良かっただろう。

しかし柳川は、淡々とした口調で言った。
「だが奴や七瀬が本当に望んでいたのはそのような事では無い筈だ。それは分かるな?」
「……はい。死んでしまった人達が望んでいるのは、残された仲間の幸せだと思います」
柳川は強く頷いた後、続けた。
「――恐らく、明日の晩までには全てが終わっているだろう。その時に俺達が生きていられるかどうか、確証など無い」

柳川は一旦言葉を切り、佐祐理の手を握り締めた。
間近でしっかりと佐祐理の目を見つめて、一つ一つ言葉を紡ぐ。
「良いか、倉田。万一俺が死んでしまっても、絶対に自分を見失うな。どんなに苦しくても最後まであがいて生を掴み取れ。それが、俺の望みだ」
それは諦観さえも感じさせる程の、悲痛な願いだった。
佐祐理は柳川の手をぎゅっと握り返した。
「……分かりました。でも佐祐理は、柳川さんと一緒に帰りたいです……」
「ああ、俺だって当然そう思っているさ。あくまで、万一の話だ」

377星空・3:2007/05/25(金) 00:50:31 ID:Eo3DGS.c0
その後は二人とも押し黙り、暫しの間場を沈黙が支配した。
二人は肩を並べ、唯只空を眺め続ける。
ふと柳川が空いてる方の手で時計を確認すると、思っていた以上に時間が経過していた。
「そろそろ戻るとするか。此処で余り時間を食う訳にもいかんしな」
「……はい」
これで見納めになるかも知れないとは言え、いつまで星空を眺めている訳にはいかない。
二人は手を繋いだまま、工場の中へと戻っていった。



柳川達が屋根裏部屋に戻った時にはもう、ハッキング作業はかなり進行していた。
柳川は環が書き上げた紙を受け取り、じっくりと目を通していく。
一枚目は主催者側の人員についてのデータだった。
どうやらゲームの運営に関わっている者達のデータは、主催者側のホストコンピューターにも無かったらしい。
それでも主催者が誰であるかといったデータだけは、かろうじて見つけられたようだ。
そして主催者の名前を目にした瞬間、柳川も佐祐理もかつてない程の戦慄を覚えた。
その様子を見た環が、紙にペンを走らせる。

378星空・3:2007/05/25(金) 00:51:10 ID:Eo3DGS.c0
『驚きましたか?まさかこれ程の地位を持った人間が黒幕だったなんて……』
『ああ。篁財閥総帥――俺が知る限りでは、最悪の相手だ』
佐祐理もペンを握り締め、肩の痛みを堪えながら書いた。
『篁財閥って……ここ数年で急成長を遂げた超巨大グループですよね』
『それだけじゃないぞ。俺は職業柄日本の裏事情に詳しいが、篁財閥の黒い噂は絶えず耳にする。篁は色々と非合法な手段も用いて、巨財を築いてきた。
 にも拘らず警察ですら手を出せない程、篁財閥は巨大となってしまったんだ。篁の個人資産は100兆円を越え、世界中のエネルギーも半ば掌握している。
 篁本人がどんな人間かは知らないが、圧倒的な技術と資金力――奴が世界の影の支配者だと言っても過言ではない』
書き綴られた内容を読んだ佐祐理が、大きく息を飲む。
世界の影の支配者――そんな存在に対して、自分達は本当に対抗し得るのだろうか?
『そうですね……こんな恐ろしい物まで開発するくらいですから』
環はそう書いた後、大きな字で『ラストリゾートその詳細について』と記された紙を手渡してきた。

(ラスト……リゾート……だと?)
柳川はそれを受け取り、佐祐理と一緒に熟読していく。
そして二人は、先に倍する戦慄を覚えた。
――ラストリゾート。
強力なエネルギーの場を対象の周辺に発生させ、物理的な力や熱、光、電磁波などを遮断する装置。
どんなに切れ味鋭い剣も、大口径の銃弾も、恐らくは核による攻撃ですらも通さない。
己の肉体を用いた直接攻撃以外は完璧に防ぐという、絶対無敵究極の防御システム。
それがこの島の地下に設置されているというのだ。

続けて残りのデータに目を通していくと、三枚目はこの島と、主催者が潜伏していると思われる地下要塞の詳細図だった。
まずこの島は、主催者が準備した『メガフロート』という巨大な浮体構造物――つまり人工島であるという事。
そして地下要塞の入り口は数箇所あり、本当なら扉にはロックが掛けられているらしいが、それは珊瑚によって解除済みらしい。
そして要塞内部には『ラストリゾート』、首輪爆弾の遠隔操作用装置、そして要塞の心臓部である巨大シェルター『高天原』があるという事だった。
要塞の大半の機能は『高天原』で管理しているようだから、そこを制圧しさえすれば全ては終わる。
しかし『ラストリゾート』と言う最悪の防御システムを破壊しなければ、恐らく心臓部は落とし切れまい。
篁がどれだけの戦力をこの島に連れて来ているかは分からないが、素手で倒し切れる程甘い敵では無いだろう。
それが、柳川の推察だった。

379星空・3:2007/05/25(金) 00:51:55 ID:Eo3DGS.c0
四枚目――最後の一枚は、首輪の解除手順図だった。
前のようにダミーである事も考えられなくは無いが、ハッキングが見つかっていない限りはまず大丈夫だろう。
そしてこれ程までに様々な情報を引き出せたのだから、少なくとも今はまだバレていない。
つまりこの首輪解除手順図は、本物であると判断して良い筈だった。

全てを読み終えた柳川は、大きく一つ、息を吐いた。
ハッキングが成功したのは間違いなく僥倖だが、色々と整理しなければいけない情報が多過ぎる。
それにある程度覚悟してはいたが、敵は予想以上に巨大な存在であり、驚異的な設備も準備していた。
これから先の事を考えると、どうしても気が重くなってしまう。
ともかく、一人で攻略計画を練れるような易しい状況では無いし、まずは皆と良く話し合わねば――

そこで柳川は、珊瑚がまだ何か作業をしている事に気付いた。
あらかた情報は引き出し終えた筈なのに、一体何を?
『おい、向坂。今姫百合は何の作業をしているんだ?』
『珊瑚ちゃんは……首輪爆弾の遠隔操作用装置をコントールしているシステムと”ロワちゃんねる”を乗っ取ろうとしているらしいです。
 そうすれば”ロワちゃんねる”上で首輪の無効化に成功した旨を伝える事によって、この場に居ない人達も皆救えるって言っていました』
『何だと……?』
柳川は眉間に皺を寄せて、怪訝な表情を浮かべた。

確かに首輪の解除方法を入手しただけでは、この場に居る人間以外は救えない。
後々友好的な者と合流して首輪を外す事は可能だとしても、島に居る全ての人間と合流するなど到底無理だろう。
そう考えれば、『ロワちゃんねる』と首輪遠隔操作システムを乗っ取るのは非常に有効な手段だと言える。
首輪を無効化し、『ロワちゃんねる』の内容を書き換える事によってそれを証明出来れば、島中の人間を味方に付けられる。
それは島中の人間を救う事でもあり、主催者の打倒に繋がる事でもあるのだ。

しかし――幾らなんでも、危険過ぎるのではないか。
自分は特別機械に詳しい訳では無いが、データを盗み出すよりも、システムそのものを乗っ取る方が遥かに困難なように思えた。
そしてもし主催者に気付かれてしまえば、今度こそ確実に珊瑚は殺されてしまうだろう。

380星空・3:2007/05/25(金) 00:52:55 ID:Eo3DGS.c0


珊瑚は無我夢中で、ノートパソコンのキーボードを叩いていた。
その指の動きは目にも止まらぬ速度であり、在り来たりなセキュリティのシステムならば一瞬で乗っ取れただろう。
実際『ロワちゃんねる』の方は、難無く管理権限を奪い取る事に成功した。
しかし首輪遠隔操作システムのセキュリティは桁外れであり、最新の規格による設備で強固な守りを誇っていた。
それでも突破し切る自信はある――否、絶対に突破しなければならない。

もし首輪遠隔操作システムを乗っ取れなかったとしたら、首輪は直接解除する以外に対処法が無くなる。
それでは運良く自分達と出会えた人間以外は救えないし、主催者打倒の際に協力して貰う事も出来ないだろう。
此処で首輪遠隔操作システムを掌握せねば、この島で行われている殺し合いは止め切れないのだ。
だからこそ、絶対にやり遂げなければならない。
前回参加者達が遺してくれたCD、そして瑠璃達が守り抜いてくれた自身の命、懸けるべきは今この時だ。

珊瑚は一つずつ丁寧に丁寧にセキュリティを突破してゆき、首輪遠隔操作システムの中核へと迫っていく。
ここからは、時間の戦いだ。
主催者に気付かれる前に、作業を全て終えれば自分の勝ち。
作業の終了前にハッキングが行われている事に気付かれてしまえば、自分は首輪爆弾で殺されてしまうだろう。
主催者からすれば誰がハッキングしているか、突き止める必要もないのだ。
最早生き残っている人間でハッキング出来る能力がある者など、珊瑚以外居ないのだから。

――突破すべきセキュリティシステムは、後二つ。
珊瑚は普段ではまず見せぬくらい真剣な表情で、ディスプレイに張り付き直す。
指は先程までよりも更に早い動きで、キーボードのボタンを叩いてゆく。
視界の端に、心配そうな顔でこちらの様子を窺っている環達の姿が映ったが、構ってなどいられない。
全身全霊を以って、防御の弱い部分を探し当て、すかさず突破する。

――突破すべきセキュリティシステムは、後一つ。
そこで異変が起こった。

381星空・3:2007/05/25(金) 00:54:00 ID:Eo3DGS.c0
「ひ、姫百合さん、首輪がっ……!」
佐祐理が驚きの声を上げる。
珊瑚がその声に反応して視線を一瞬下に向けると、チカチカと赤い光が点滅しているのが見えた。
ピピピピ、という耳障りな電子音も聞こえてくる。
とうとう主催者にハッキングがバレてしまったのだ。

「珊瑚ちゃん、そこまでよ! 作業は止めて首輪を外しなさい!」
声を張り上げて叫ぶ環だったが、珊瑚はまるで取り合わない。
珊瑚からすれば、このタイミングで自分の首輪を外そうとするなど有り得ない話だった。
敵に一度時間を与えてしまえば、外部とのネットワークを断ち切られてしまうだろう。
ハッキングに気付かれてしまった以上、首輪遠隔操作システムを乗っ取る好機は今だけなのだ。
柚原このみの爆弾が爆発するまでは1分近くあったという話なのだから、問題無い。
自分の首輪が爆発するまでにシステムを乗っ取り、作動した爆弾を止めれば良いだけの事――!
珊瑚は最後に一際強い力を籠めて、キーを押した。

――ピーッ…………、という音がした。

「……出来たっ! 首輪遠隔操作システムはウチが乗っ取ったで!」
珊瑚が立ち上がってそう叫ぶと、環も佐祐理も外まで響きそうな程大きな歓声を上げた。
「偉いっ! 良くやったわ!」
「珊瑚さん、凄いです!」
これで主催者は首輪爆弾を操作出来ないし、このゲームを成り立たせる最大の要因が消えた事となったのだ。
此処から上手く立ち回れば、十分に殺し合いを止められるだろう。

珊瑚は思わず肩の力を抜いて、柔らかい笑みを浮かべてしまう。
自分はやり遂げた。前回参加者の分も、死んでしまった瑠璃達の分も、戦い抜いたのだ。
しかし喜んでばかりもいられない。
まずは自分の首輪爆弾を停止させて、窮地を脱しなければならないのだから。
珊瑚は腰を落とし、首輪遠隔操作システムを操作して――すぐに、大きく目を見開いた。
慌てて何度か同じ操作を繰り返してみるものの、結果は変わらない。
珊瑚は急に立ち上がり、ゆっくりと環達の方へと振り向いた。

382星空・3:2007/05/25(金) 00:54:58 ID:Eo3DGS.c0


柳川は珊瑚の首輪がまだ点滅しているのを見て取り、訝しげに口を開いた。
「どうしたんだ? 早くシステムを操作して、首輪の爆弾を解除しないと間に合わなくなるぞ?」
それはその通りで、もう首輪を直接外している時間すら無い。
今すぐに遠隔操作システムを動かさねば、手遅れになってしまうだろう。
だが珊瑚は儚げな笑みを浮かべて、ぼそりと呟いた。
「アカンよ……。だって首輪遠隔操作システムは爆弾を作動させれるけど、止める事は出来へんみたいやから」

「「「…………は?」」」
一同は揃いも揃って呆然と声を洩らす。
つまり首輪遠隔操作装置は宮沢有紀寧のリモコンと同じで――起爆専用の装置だったのだ。

「ウチはここまでみたいやけど……皆は生きてね。後もうちょっとやと思うから……頑張って、主催者をやっつけてね」
珊瑚はそれだけ言うと、仲間と少しでも距離を取るべく全速力で駆け出した。
誰も反応出来なかった。
首輪の点滅が更に勢いを増してゆき、屋根裏部屋中に電子音が響き渡る。

そして、足音。
環が振り向くと、そこには藤林杏や見知らぬ少年、そして――久寿川ささらが立っていた。
「ささらっ!?」
叫び声の上がる中、一瞬で状況を見て取ったささらは素早く謎のスイッチを取り出した。
押せば楽になれるという、未だ詳細不明の危険な物体。
しかしささらは、何の躊躇も無くそのスイッチを押した。


――周囲を白い閃光が覆った。

383星空・3:2007/05/25(金) 00:57:32 ID:Eo3DGS.c0


閃光が止んだ時、その場に残っていたのは柳川祐也、倉田佐祐理、向坂環、春原陽平、藤林杏。
そして――姫百合珊瑚と久寿川ささらもまた、無事に生存していた。
久寿川ささらの持っていた謎のスイッチとは、前回参加者のメモにあった『作動した首輪爆弾解除用の電磁波発生スイッチ』だったのだ。



【時間:3日目4:30】
【場所:G−2平瀬村工場屋根裏部屋】
柳川祐也
 【所持品:イングラムM10(24/30)、イングラムの予備マガジン30発×6、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1】
 【所持品2:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
 【状態①:呆然、左上腕部亀裂骨折・肋骨三本骨折・一本亀裂骨折(全て応急処置済み・亀裂骨折は若干回復)】
 【状態②:内臓にダメージ、軽度の疲労】
 【目的:主催者の打倒。最優先目標は佐祐理を守る事】
倉田佐祐理
 【所持品1:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、レジャーシート、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
 【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、暗殺用十徳ナイフ、投げナイフ(残り2本)、日本刀、支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱】
 【状態1:呆然、軽度の疲労、留美のリボンを用いてツインテールになっている】
 【状態2:右腕打撲。両肩・両足重傷(動かすと激痛を伴う、応急処置済み)】
 【目的:主催者の打倒】
姫百合珊瑚
 【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン×2、ノートパソコン(解体済み)、発信機、コルトバイソン(1/6)、何かの充電機】
 【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD、工具、携帯電話(GPS付き)、ツールセット、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(0/6)】
 【持ち物③:ゆめみのメモリー(故障中)】
 【状態:疲労大】
 【目的:主催者の打倒】
向坂環
 【所持品①:包丁・ベアークロー・鉄芯入りウッドトンファー】
 【所持品②:M4カービン(残弾7、予備マガジン×3)、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
 【状態①:呆然、後頭部と側頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に軽い痛み、脇腹打撲】
 【状態②:左肩に包丁による切り傷・右肩骨折(応急処置済み)、軽度の疲労】
 【目的:主催者の打倒。まずは最大限に頭を使い、今後の方針を導き出す】
春原陽平
 【装備品:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×10、鉈】
 【持ち物1:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、89式小銃の予備弾(30発)】
 【持ち物2:鋏、鉄パイプ、工具】
 【持ち物3:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料を少し消費)】
 【状態:右脇腹軽傷、全身打撲(大分マシになっている)・右足刺し傷・左肩銃創・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】
 【目的:ゲームの破壊、杏と生き延びる】
藤林杏
 【装備品:ドラグノフ(5/10)、グロック19(残弾数2/15)、投げナイフ(×2)、スタンガン】
 【持ち物1:Remington M870の予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書(英和)、救急箱、食料など家から持ってきた様々な品々、缶詰×3】
 【持ち物2:カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、支給品一式】
 【持ち物3:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、工具、首輪の起爆方法を載せた紙】
 【状態:軽度の疲労、右腕上腕部重傷、左肩軽傷、全身打撲】
 【目的:ゲームの破壊、陽平と生き延びる】
ボタン
 【状態:健康、杏の鞄の中にいる】
久寿川ささら
 【持ち物1:電磁波発生スイッチ(作動した首輪爆弾の解除用、残電力は半分)、トンカチ、カッターナイフ、救急箱(少し消費)】
 【持ち物2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:中度の疲労、右肩負傷(応急処置及び治療済み)】
 【目的:麻亜子と貴明の分まで一生懸命生きる】

384星空・3:2007/05/25(金) 00:57:54 ID:Eo3DGS.c0

【備考】
・屋根裏部屋の床に『主催者(篁)について書かれた紙』『ラストリゾートについて書かれた紙』『島や要塞内部の詳細図』『首輪爆弾解除用の手順図(本物)』
が置いてあります。今作で書かれている以外の詳細は後続任せ。
・『高天原』には要塞の大半の機能をコントロールする設備があります
・『ラストリゾート』は非常に強力なバリアを発生させるシステムですが、設備そのものを破壊すれば止まります。
・ささらの持っている電磁波発生スイッチは一度使用するごとに、電力を半分消費します。その為最高でも二回までしか連続使用出来ません。
・珊瑚が乗っ取ったのは、首輪遠隔操作装置のコントロールシステムであり、装置そのものではありません。
主催者の対応次第では、首輪遠隔操作装置が再び機能してしまう可能性もあります。
・『ロワちゃんねる』はネット上にある為、珊瑚が完全に掌握しました。
・主催者の居る地下要塞の出入り口は、全てロックが外されました。
・七瀬留美・橘敬介・ほしのゆめみ・リサ=ヴィクセンの死体は平瀬村工場傍に埋葬されました。
・岡崎朋也・古河渚の死体は教会傍に埋葬されました。

→851
→855
ルートB18

385発見:2007/05/27(日) 06:19:09 ID:vu/SoZJw0
儀式を終えた4人は、部屋を改め経緯を確かめる作業に移った。
ささらは勿論現場に居合わせなかった浩平も、そしてイルファでさえも詳しい事情を知るわけではない。
最初から最後まで目撃することが叶ったのは真琴のみ、三人は静かに彼女が口を開くのを待ち続けた。
……堅苦しい空気の中、視線を床に這わせたままポツリポツリと真琴が話し出したのはそれからすぐのことだった。
紡ぎだされたのは暴力としか呼ぶことのできない一戦、突然現れたイレギュラーの襲撃は誰もが予想できないことである。
浩平もささらも気づかぬうちに起きた出来事、呆然とする二人を余所にイルファも自分の予想していた事象とは違う類であったことに驚きを隠せないでいた。
ほしのゆめみの突然変異、そこに現れた着物を着た少女。
始まる戦闘、郁乃の死亡など。真琴は、それを驚くくらい鮮明に語った。

とりあえずは事象の確認が終了したものの、しかし結局は疑問に対する明確な答えというのを彼等が出すことはできなかった。
着物の少女はどこから着たか、どうしてゆめみが変わってしまったかなど、全て憶測で語るしかない。

「ゆめみさんは、宮内さんの支給品として配られていました。……あらかじめ設定してあったプログラムである確率が高いですね」

呟くささら。
と、ここで浩平はもう一人いるはずである少女の姿がないことに気がついた。

「……そういえばレミィは?」

無学寺にて同じ時を過ごした仲間、宮内レミィ。
浩平の言葉で思い出したようにささらもはっとなる、二人はそのまま真琴へと視線を送って彼女の言葉を窺った。
しかし真琴はというと困惑した表情を浮かべるだけであり、小さく首を振ってレミィの所在を知らないことを訴えかけてくる。

「どういうことだ、レミィがそっちに向かったのは十二時とかそこらだぞ……」

今一度、浩平とささらが目を合わせる。
レミィは浩平と共に見張を担当した後、ささらと交替で部屋へと戻り休息しているはずだった。
だが現場にレミィの姿はなかった。浩平があの部屋に入った際残っていたのは間違いなく真琴と、そして立田七海を抱えたゆめみのみだった。
真琴も思い当たる節がないらしく肩を竦ませるだけである、イルファに関してはレミィの存在すら知らなかった訳だから論外だ。

386発見:2007/05/27(日) 06:19:37 ID:vu/SoZJw0
「ゆめみと変な女が争ってる時もこっちには顔すら出さなかったわよ、ずっと……ささらと浩平とレミィで、見張りやってるんだと思ってた」

怪訝な真琴の眼差しに、浩平とささらは三度顔を見合わせた。

「何かあったかもしれない、探そう」

黙って頷くささら、すぐさま部屋を飛び出す二人に真琴も慌てて後に続く。
……状況が良く分かっていないイルファだけ、取り残された形で佇むのであった。

捜索は、それから三十分ほど行われた。
しかしレミィらしき人物はどうしても見つけることが叶わず、三人とも肩を落としイルファの待つ部屋へと戻る。
気落ちしている三人の姿、イルファはそれを静かに眺めた。
これだけ探しても見つからなかったということ、それが指し示す一つの可能性をイルファは既に導き出している。
だが、それを口にして良いものか。イルファは考えた。
考えた結果……この中で感情論を出すことなく第三者の視点で語ることが出来るのが自分のみだと推測し、イルファはついに口を開く。

「お一人で、逃げられたのではないでしょうか」

場を包む沈黙が破られたことで、全員の注目はイルファへと一気に集まることになった。
飄々とした物言いでイルファは続ける、あくまで冷静に事を見たそれがイルファの出した結論だった。

「宮内様という方の姿が消えたのも、襲ってきた方が現れました時間とほぼ合います。
 これだけ探しても見つからないということは、そのようなことだと思いますが」
「お、前……ふざけんなよっ!!」

イルファが話終わると同時に、表情を怒りに染めた浩平が立ち上がる。
怒鳴りつけつかつかとイルファの元まで歩みだす浩平、一応予想は突いていたのであろうイルファが表情を揺るがすことはなかった。

「こ、浩平落ち着きなさいよ」
「うるせぇ! 黙ってられるか、レミィがオレ達放って置いて一人だけ逃げるはずないだろっ」

387発見:2007/05/27(日) 06:20:03 ID:vu/SoZJw0
真琴の制止も聞かぬまま、どかっとイルファの前に座りなおし浩平は彼女を睨みつける。
浩平にとって、島に来て半日以上生きた人間に出会うことがなかったという精神的疲弊を癒したのは間違いなくこの無学寺で知り合えたメンバーだった。
その中でも共に見張りを担当したレミィの明るい性格は、浩平に何よりも大切な日常の時間を彷彿させ、彼の疲れを癒す存在でもあった。
そんな彼女のことを、目の前のロボットがさらりと侮辱した事実に浩平の沸点はやすやすと限界を迎えた。
撤回しろ、そう目で訴える浩平をあくまで冷ややかな瞳でイルファは射る。

「折原様と宮内様は、この島にいらっしゃる前からのお知り合いだったのでしょうか」
「それは……違う、けど」
「では、余りそのような発言をするべきではありませんと愚考いたします。
 お知り合いになって短時間しか建っていないにも関わらずそこまで信頼しきるのも軽率かと」

淡々と放たれたそれに、浩平は言い返すことができなかった。
顔色を変えることなくあくまで涼し気に話すイルファに対し苛立つ気持ちを抑えきれないのは確かである、しかし浩平の頭には良い言葉が浮かぶこともなく。

「こんな、こんな……」

歯がゆいだろう、握りこぶしが白くなるくらい力を入れ肩を震わす浩平の姿に真琴もささらもハラハラする一方だった。
場に訪れた沈黙と重たい空気、そしていつイルファにつかみかかるか分からないという爆発寸前の浩平の存在。
何とかしなければと、行動に移ったのは真琴だった。

「わ、私トイレ行きたくなっちゃった! ねぇ浩平、ついてきてよ」

浩平の手を取り、真琴は外へと彼を誘導しようとする。

「は? お前な、そういうの男に言うなよ」
「あう……」

が、作戦失敗。

388発見:2007/05/27(日) 06:20:24 ID:vu/SoZJw0
「えーと……」

ちらっとイルファに目をやる真琴。
しかし助け舟は現れない、イルファはじっと浩平を見つめていてどうやら真琴の視線には気づいていないようだった。

「さ、沢渡さん、私が行きましょうか」
「あう……ありがと、ささら……」

結局は板ばさみにすらなれず、どうすればいいのかと戸惑っている真琴に手を差し伸べたのはささらだった。
そろそろと部屋を後にする二人、残されたのは浩平とイルファがどうなるか……真琴は後ろ髪を引かれる思いで扉を閉める。
軋む襖の閉じる音と、イルファが溜息をついたのはほぼ同時だった。

「……何だよ」

イルファのアクションに対し、浩平は過敏とも思えるくらいの反応を見せる。
部屋のムードは険悪になる一方であるが、浩平がそれを改善させようとする素振というのは全くなかった。
反論はできなくとも態度でイルファに対し牽制する浩平のやり方は、傍から見れば子供染みたものかもしれないだろう。
しかしそれが、浩平にとっての精一杯だった。
しばしまた訪れる無言の時、壁にかけられた年代物の時計の奏でる針の音が場を満たす。

「申し訳、ありませんでした」

口を開いたのはイルファだった。
腕を組んだまま睨みつけている浩平の目の前で、イルファは小さく会釈する。
……だがその声には特に抑揚の類が含まれておらず、それは浩平の中での懐疑心を増す一方となる。
浩平は無言のまま、イルファの出方を窺い続けた。
下げていた頭を戻すその仕草一つ一つも見落とそうとせず、じっと浩平は彼女を見つめた。

389発見:2007/05/27(日) 06:20:51 ID:vu/SoZJw0
「不躾な発言をしてしまい、すみませんでした。
 宮内さんという方を知らないからとは言え、やはり言い過ぎました。私に非があると判断します」

すみませんでした、そう言ってもう一度頭を下げるイルファの様子に……怪しい面は、特になかった。
上辺だけの台詞で煙に巻こうとでもしているようならば、浩平はその場でイルファを張り倒すことに躊躇すらしなかっただろう。
しかしどうにも気にかかる。浩平はイルファの真意を問うべく、彼女の瞳を覗き込んだ。
……作り物のそれに感情が表れることはない、そりゃそうかと自己完結する浩平の正面、イルファは彼の心を読み取ったかは分からないが、静かに再び口を開いた。

「もし私も知人を侮辱されましたら、気分を害すでしょう。大切な方でしたら尚更です。
 ただ、この島に来てからの知人となればそれは別だと、私は解釈しました。
 その上で第三者の視点から話させていただいただけです。
 ですが、それはあくまで外野から見た上での解釈です。好意を抱くのに時間は関係ないという論も私は理解しています。
 つまり先ほどのことは折原様と宮内様のことをよくも知らない私が、上辺だけで申すことではなかったという意味です。
 その意味を込め、私は非を認めました。ご理解いただけたでしょうか」

冷静に捲くし立てるイルファの姿は、見ようによってはロボットらしかったであろう。
しかしイルファは言う、彼女は浩平の『感情論』を理解していると。
それをこの短時間で導き出し、言い直すイルファの柔軟な思考回路は浩平をひどく驚かせた。

「……あんた、ロボットっぽくないな」
「え?」
「いや、俺の中のメイドロボのイメージはもっと頑なな感じだったからさ……そういう風に言われるとは思わなかった」

目を丸くする浩平を、今度は不思議そうにイルファが見つめる。
その邪心のない表情に、思わず浩平は笑みを漏らした。
どこかあどけなさの残るイルファの様子は見た目の大人っぽさに比べるとあまりにも可愛らしく、浩平の中には微笑ましく思うような感情すら生まれる。

「まぁいいよ、もう」
「はい。ありがとうございます、折原様」

390発見:2007/05/27(日) 06:21:22 ID:vu/SoZJw0
ポリポリと頭を掻くと、浩平はバツの悪さをごまかそうという意図も込めそっとイルファに右手を伸ばした。
仲直りの握手、という意味だろう。
イルファも笑みを浮かべながら、浩平の手に自らの手を重ねる。

(………?)

握手握手、一人で握手。何故か、イルファは浩平の手をいつまで経っても握り返して来ない。
顔を見合わせてもイルファは苦笑いを浮かべるだけである、疑問を浩平が口にしようとした時だった。

『きゃああああああーーーーー!!!!!』

つんざく悲鳴、それは部屋の外から聞こえてきた。

「なっ、真琴!?」

手を解きすぐさま立ち上がる浩平、イルファもそれに続く。
部屋を飛び出し声の上がった方へと、二人は一目散に駆けた。





「……レミィ?」

覗き込んだ便器の奥に、彼女はいた。
トイレの中に充満した生臭さで出血の量は窺える、見下し確認した様子からもレミィが絶命していることは明らかだろう。

391発見:2007/05/27(日) 06:21:57 ID:vu/SoZJw0
「あ、あたしトイレ入ろうとしたら、臭いが、あと、下、下に、下に……あう、あうぁぁ……」
「沢渡さん落ち着いて、大丈夫です……大丈夫ですから……」

しゃくりあげる真琴をささらがすかさず抱きこんだ。
浩平も自身の体を支えている筋肉から力が抜けていくのを感じ、よろよろとその場に尻餅をつこうする……が、瞬間腕を組まれ半身を支えられた状態になる。
ゆっくりと視線を上げると、浩平の視界に硬い表情のイルファが映った。

「……この方の体格と、場所的な問題で引き上げるのは無理でしょう」

右腕一本で浩平を支えようとするイルファだったが結局は無理だったようで、浩平の体はゆっくりと地面へ導かれていく。
イルファも、一緒になって土の上についた。
動作と共に吐かれた悲しい宣告、浩平はそれを正しい形で理解できないでいた。
イルファが「どのような意図で」それを口にしたか……理解、したくさえなかったのであろう。





こうして、安息の地は完全なる形で破壊された。
落ち着いたはずの事態に対し、朝霧麻亜子の残した物が彼等の傷痕を深く抉っていく。

392発見:2007/05/27(日) 06:22:36 ID:vu/SoZJw0
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−9・無学寺】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:呆然】

折原浩平
【所持品:スコップ、だんご大家族(だんご残り95人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:呆然】

久寿川ささら
【所持品:日本刀】
【状態:呆然】

イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、他支給品一式×2】
【状態:首輪が外れている・右手の指、左腕が動かない・充電は途中まで・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

・ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)
【備考:食料少し消費】

・ボーガン、仕込み鉄扇は部屋の中に落ちています

(関連・833)(B−4ルート)

393A Tair:2007/05/27(日) 12:00:07 ID:BFLsCE7Q0
――それは、予想だにしない反応だった。
場所は平瀬村工場屋根裏部屋。解除手順図を用いて、首輪を一通り解除し終えた後の話。
「……そう、タカ坊まで死んじゃったのね」
久寿川ささらから河野貴明の死に様を聞いた向坂環は、小さくそれだけ呟いた。
環は表情に僅かな翳りを出した程度で、傍目には大きな動揺など見て取れない。
その冷淡に過ぎる反応を目の当たりにし、貴明の死を知って泣きじゃくっていた少女――姫百合珊瑚が顔を上げた。
「環さんは貴明と幼馴染やったんやろ? ウチよりもず〜っと、付き合いが長かったんやろ?」
「ええ、そうよ」
「それなのに……どうしてそんなに落ち着いていられるのよ! ウチはこんなに悲しいのに、どうして環さんは何も感じへんのよ!」
今にも掴みかからんばかりの勢いで、珊瑚が環に詰め寄る。
鋭い剣幕、荒げた語気、あの大人しい性格をした珊瑚のものとは、とても思えない.
「おい、姫百合……」
春原陽平と藤林杏の治療を手伝っていた柳川祐也や倉田佐祐理が、場を収めようと腰を上げる。

しかし環はそれを手で制すと、全く怯む事無しに凛とした視線を珊瑚へ返した。
「落ち着いてなんかいないわ。私だって胸が張り裂けそうなくらい悲しいし、悔しい。でもね――」
近くに置いてあったペットボトル――中身が入ったままの物――を握り締め、潰した。
派手に中身がぶち捲けられ、床を大きく濡らす。
「この島では悲しい事が沢山有り過ぎたから……私はもう泣き方を忘れちゃったのよ」
環の左手から、ポタポタと雫が垂れ落ちる。それは、彼女の心が流す涙。

環は手を大きく振って水滴を払い飛ばしてから、言った。
「時間が勿体無いわ。早速行動に移りましょう――死んだ皆の仇、絶対に取ってみせる」

    *     *     *

394A Tair:2007/05/27(日) 12:00:59 ID:BFLsCE7Q0
この島に来てから、自分のスタンスは次々に変化している。
最初は娘を生きて帰す為だけに、『修羅』となりゲームに乗ろうとしていた。
その次は未来ある子供達を守る為に、主催者の打倒を決意した。
しかし傷付けられた娘の姿を目撃した途端、誰かを守りたいという気持ちよりも殺人鬼への怒りが先行した。
そして、娘の懇願を受けた後は――

凄惨な決戦から半日が過ぎた今も尚、むせ返るような死臭漂う鎌石村役場。
その広間で、水瀬秋子は折原浩平と情報交換を行っていた。
「……そうですか。ではまだ、主催者に関する具体的な情報は掴んでないんですね?」
「ああ。この島の地下に要塞があるかも知れないって事だけは推測出来たけど、主催者が何者かってのはまだ分からないな」
対主催派の人間による情報収集は、秋子の予想よりも遥かに進行具合が遅かった。
これだけ殺し合いが進行してしまったというのに、まだ主催者が誰かすらも突き止めれていないというのだ。
秋子は思った――こんな調子では、話にならぬと。

これ程手際が悪い連中では、主催者を打倒するなど到底不可能だろう。
何処まで自分達の盾として機能してくれるかも、怪しいと判断しざるを得ない。
しかしその一方で、浩平や立田七海は明らかにゲームに乗っておらず、信頼出来るという一点に於いては文句無しである。
こんな子供達を自分の手で殺したくは無いし、暫くは行動を共にしてみよう、というのが秋子の結論だった。

秋子は浩平から視線を外し、改めて部屋を見渡した。
「しかしこれは……酷い光景ですね。初めて見た時は思わず冷や汗を掻いてしまいました」
辺り一帯に飛散した鮮血、銃弾で破壊された机や壁の破片。
そして部屋の隅に横たえられている、苦悶の表情を浮かべた肉塊達。
それは正しく地獄と表現するに相応しい光景だった。
「……そうだよな。こんな物見せられちゃ、誰だって驚くよな」
浩平はそう言うと、隣に座っている七海の頭を撫で始めた。

395A Tair:2007/05/27(日) 12:01:59 ID:BFLsCE7Q0
「こ、こ〜へいさん!?」
「七海、本当にごめんな。もう少しお前に気を遣ってやるべきだった」
「そ、そんなに気にしなくても……」
恥ずかしそうに顔を赤らめる七海だったが、それでも浩平は撫でるのを止めない。
やがて七海も諦めたのか大人しくなり、気持ち良さそうに目を細めていた。

そんな二人の様子を微笑みながら眺めていた秋子だったが、ふと隣の名雪に目をやる。
(…………っ!)
秋子は大きく息を呑む。名雪の瞳はゾッとするような、底知れぬ闇を湛えていた。
そうだ――自分は娘を守り抜き、そして優勝しなければならないのだ。
心を凍らせ、感情を捨て、ただ目的の為に行動しなければならない。

秋子はもう一度、注意深く周りを見渡した。
すると視界の隅に、古ぼけたノートパソコンが映った。
「浩平さん、あそこにあるノートパソコンはもう調べましたか?」
「いや、まだ調べてないよ」
「そうですか……では今から調べてみましょう。何か役立つ情報が隠されているかも知れませんから」
秋子はすくっと立ち上がり、静かに足を進める。
ノートパソコンの電源を入れて少し待っていると、メイン画面が浮かび上がった。
そこにはただ一つ、『ロワちゃんねる』という謎のアイコンだけが表示されていた。

396A Tair:2007/05/27(日) 12:03:19 ID:BFLsCE7Q0
「……これは何でしょうか?」
「藤林さんから聞いた話だと、現在の参加者死亡状況や自由に書き込める掲示板が見れるらしいですよ」
秋子の疑問に、七海が素早く答えを返してくれた。
秋子はおもむろに『ロワちゃんねる』を調べ始め――やがて絶句した。
そこにはこの島と地下要塞の詳細や、首輪解除方法、主催者の監視方法についてなど、様々なデータが入っていたのだ。
特に注目すべきなのが、次の文章だ。
『初めまして、向坂環と言う者です。突然ですが私の仲間が主催者のホストコンピュータへのハッキングに成功しました。
 今なら首輪爆弾遠隔操作システムもこちらの手中にあるので、安全に首輪を外せます。
 私達を信用してくれる方は、090-9xxx-xxxxまで連絡をお願いします。
 島に流されてあった妨害電波は解除したので、島内への電話なら通じる筈です。
 今こそ皆で手を取り合って、全ての元凶である主催者を倒しましょう!
 向坂環・姫百合珊瑚・久寿川ささら・柳川祐也・倉田佐祐理・春原陽平・藤林杏』


「これは……本当なのか?主催者の罠じゃないのか?」
一通り読み終えた浩平が、未だに信じられない、と言った顔で呟いた。
それ程に衝撃的な内容――真実ならば、主催者打倒の準備が整いつつあるという事――だったのだ。
俄かには信じがたい話だったが、秋子は極めて冷静に思考を巡らせて、言った。
「恐らく本当でしょう。主催者が私達を殺すつもりならいつでも殺せたのですから、今更こんな罠を仕掛ける意味がありません」
「それじゃあ……」
「ええ。文面通りに受け取っても大丈夫だと思いますよ」
秋子が頬に手を当ててにこりと微笑むと、ようやく浩平の瞳から警戒の色が消えた。

浩平は七海と手を握り合って、飛び跳ねながら歓喜の叫びを上げる。
「よっしゃあああっ! ようやく希望が見えてきたな!」
「はいっ!」
これまでも諦めてはいなかったものの、主催者を打倒する方法の足掛かりさえ掴めていなかった。
それが突然、何の前触れも無く、此処まで具体的な形で示されたのだ。
だから浩平も七海も、顔を綻ばせ喜びを露にしていた。

397A Tair:2007/05/27(日) 12:04:05 ID:BFLsCE7Q0

一方秋子は、今後の方針を大きく変えようと考えていた。
これ程までに対主催の準備が進んでいるのならば、他の参加者と協力した方が良いだろう。
最早主催者の思惑に嵌り、優勝の褒美などと言った物に頼る必要は無い。
主催者側の勢力を壊滅寸前まで追い込んでから脅迫し、祐一を生き返らせれば良いのだ。
この方法なら罪の無い子供達も救えるし、主催者が人を生き返らせれるのならという条件付きではあるが、名雪の願いも叶えられる。
自分の願い、信念を曲げずに、善良な者達と手を取り合って歩んでゆける。
これ以上無いくらいの名案なように思えた。

そうと決まれば、早く話した方が良い。
方針の変更を伝えなければ、名雪が暴走して浩平達を襲ってしまうかも知れない。
そう考えた秋子は早速役場にあった工具を用いて、皆の首輪を取り外し、盗聴される危険を排除した。
念の為に自分が最初の実験台となり、首輪の解除が本当に出来るのか試してみたのだが、杞憂だった。
首輪は――参加者達を律してきた悪魔の枷は、拍子抜けするくらいあっさりと外す事が出来たのだ。

続いて『主催者を脅迫し、皆を生き返らせる』という作戦を、丁寧に説明する。
当然の事ながら誰も反対する者は居らず、秋子の提案は受け入れられた。
「それではまず電話してみましょうか? 向こうには浩平さんの知り合い……杏さんという方もいらっしゃるようですし」
浩平が頷くのを確認してから、秋子は広間の奥に設置してある受話器へ向け歩を進める。
その時に、それは起こった。

「……あうっ!」
突然の悲鳴。
秋子が振り向くと、七海の左肩から鮮血が噴出していた。
名雪が――八徳ナイフを握り締めて、七海の肩を切り裂いたのだ。

398A Tair:2007/05/27(日) 12:05:39 ID:BFLsCE7Q0
「な――――」
秋子が声を上げるより早く、名雪はトドメを刺すべくナイフを振り上げる。
しかし当然の事ながら、浩平が自身の最優先守護対象を見捨てる訳が無い。
「止めろぉぉーっ!!」
浩平はヘッドスライディングの要領で飛び込み、七海の体を抱きかかえて離脱した。
そのまま一転して起き上がり、素早い動作でS&W 500マグナムを握り締める。

秋子は慌ててスカートに捻じ込んであったジェリコ941を取り出し、一喝した。
「待ちなさいっ!!」
ピタリと浩平達の動きが止まり、視線が秋子へと集中する。
秋子はいつでも射撃体勢に移れるように身構えながら、続けた。
「名雪、一体どういうつもり? 作戦はさっき説明したでしょ? もう私達は殺し合わなくても良いのよ」
その筈だった。
首輪の爆弾が無い以上、自分達の命はもう主催者に握られていないのだから。
敵の要塞に関するデータもあるし、殺し合いを続けるより協力し合った方が、生き残れる可能性が高いのは明白だ。

にも拘らず、名雪は一瞬きょとんとした顔になった後、呆れたような微笑を浮かべた。
眼光はどこか妖しく、瞳の奥はどろりと濁っている。
罅割れた唇から紡がれる、昏く、冷たく、重い声。
「お母さん、何言ってるの? 私は何も悪い事してないのに、皆に苛められんだよ? きっと折原君も七海ちゃんも、私達が隙を見せるのを待ってるよ。
 その『ロワちゃんねる』に書いてるのだって、参加者の誰かが仕掛けた罠に決まってるじゃない。信用させてから寝首を掻く作戦だよ。
 もう、お母さんちゃんとしてよね。甘い馴れ合いなんかに逃げちゃ駄目なんだよ!」
娘が吐いた言葉は正しく狂気の理論であり、それは秋子を驚愕させるに十分であった。

399A Tair:2007/05/27(日) 12:07:21 ID:BFLsCE7Q0
「てめえ、ふざけんじゃねえ! 俺達は殺し合いするつもりなんかねえよ!」
あらぬ疑いを掛けられた浩平が、怒りで大きく目を見開きつつ叫ぶ。
しかし名雪はその怒号を一笑に付した。
「……皆最初はそう言うんだよ月島さんも最初は殺し合いに乗っているようには見えなかったでも突然掌を返して襲い掛かってきたんだよ。
 人間なんて裏で何考えてるか分からないし何が切っ掛けで心変わりするかも分からないだから私はお母さん以外絶対に信用しない!!」
「なゆきっ……」
矢継ぎ早に繋がれる異常な理論。
それは秋子の知らぬ人物だが――狂気に取り憑かれた向坂雄二と同じ、最早癒しようの無い人間不信。

秋子の口元がわなわなと震えた。
認めなければならない……本当は昨晩、優勝を懇願された時に認めなければならなかった。
――娘はもう、完全に狂ってしまったと。
こうなる事は、予測して然るべきだった。
昨晩あれ程名雪の狂態を見せ付けられた自分なら、十分予想出来た筈だった。
ただ自分の目が眩んでいただけなのだ。
子供達を守り続けるという道が、互いを想い合う浩平と七海の姿が、余りにも眩し過ぎたから。
最初から他に選択肢など無かった。
人間不信に陥った娘を引き連れ、他の者と協力し続けるなど到底不可能だ。

――だから秋子は、

「私、優勝して祐一を生き返らせる為に頑張るから、お母さんも頑張ろ?」
――ジェリコ941を構えて、

「……了承。後は私がやるから、名雪は安全な場所に隠れていなさい」
――そう言った。



400A Tair:2007/05/27(日) 12:08:31 ID:BFLsCE7Q0
浩平は唾を飲み込みながら、目の前で展開されている事態を呆然と眺め見ていた。
名雪は最初から口数が極端に少なかったので、何か違和感を感じてはいたのだが――
狂っている。
あの少女は間違いなく、このゲームの狂気に飲み込まれてしまっている。
そして間違いを正すべき存在である筈の秋子すらもが、名雪に同調したのだ。

浩平は怒りと驚愕に震える叫びを上げる。
「秋子さんまで何言ってるんだよ! アンタまで俺達を疑うってのか!?」
「いいえ……そんな事はありません。ただ私にとっては名雪が最優先であり、全てなだけです」
秋子の冷たく冴えた目が、じっと自分を捉えている。
その視線に気圧されながらも、浩平は必死に頭脳を回転させていた。
追い詰められてる状況にも拘らず――いや、だからこそかも知れないが、驚くべき速度で結論を弾き出す。

視線は秋子に固定させたまま、横で震えている七海に声を掛ける。
「七海……逃げろ」
「……え?」
「此処は俺が何とかするから、お前は高槻達の所へ逃げ込め。高槻なら……あいつならきっと、お前を守り抜いてくれる」
説得は不可能。ならば自分が敵を引きつけ、その隙に七海を逃がす。

当然七海がその作戦を認める筈も無く、反論の言葉が返ってくる。
「そんなっ……こ〜へいさんを置いていくなんてっ……」
そう――七海は自分よりも人の事を第一に考えてしまう少女だ。
それが分かっているからこそ、浩平はわざと強い口調で吐き捨てた。
「勘違いするな、お前の為なんかじゃない。七海を連れたまんまじゃ俺まで逃げ切れないから……先に行けって言ってるんだ」
とどのつまり浩平は、『お前がいると足手纏いになって逃げ切れない』と言っている。
お前が逃げなければ自分まで危なくなってしまうと、そう言っているのだ。
こうなってしまっては、七海も素直に従う他無くなる。
「……分かりました」
「何があっても決して振り向くな……どんなに疲れても決して足を止めるなよ。さあっ、行け!」
浩平が叫ぶと同時、七海が出口に向かって走り出す。

401A Tair:2007/05/27(日) 12:10:27 ID:BFLsCE7Q0
ゲームに乗っている事を広められたくはないであろう秋子が、七海の背中に銃口を向けようとする。
その行動を予期していた浩平は、素早くS&W 500マグナムの銃口を持ち上げ、その時にはもう撃っていた。
「させねえよっ!」
「くっ――――」
すんでの所秋子が横に飛び退いた為に銃弾は命中しなかったものの、七海が建物外に脱出する時間を稼ぐ事は出来た。
しかしまだまだ足りない。
怪我もしており子供でもある七海が完全に逃げ切るには、もう暫く敵を此処に釘付けしておく必要がある。
浩平は横に走りながら、一発、二発と引き金を絞った。
銃弾が敵の体を捉える事は無かったが、構わずそのまま机の影に滑り込む。
ポケットから取り出した銃弾を装填しながら、冷静に計算を巡らせた。

この大口径の銃――S&W 500マグナムは、余りにも反動が大き過ぎる。
自分の傷付いた両手では、後数回しか弾を放てまい。
このまま時間稼ぎの撃ち合いを続けるような余力などないし、一撃で敵を仕留める技能も自分は持ち合わせていない。
ならば――
浩平は机の影から飛び出し、また一発撃った。
続けて二階へと繋がる階段に向けて疾駆しながら、叫ぶ。
「くそっ、裏切りやがって!電話して島中にお前達の事を言いふらしてやるからな!」
「…………っ!」
秋子が青ざめた顔をして、疾風の如き勢いで追い縋ってくる。
それを見て取った浩平は、こんな危険な状況にも拘らずニヤリと笑みを浮かべた。

予想通り敵は、自分達がゲームに乗ったと広められるのを恐れている。
当然だ――此処まで主催者打倒への道程が明らかになった今、ゲームに乗ったと知られれば多くの者から集中攻撃を受けるだろうから。
これで良い。
七海を追うのなんて後回しにして、こっちを追って来てくれれば良い。
少しの間で良いから鬼ごっこでもして、楽しく時間を過ごそうじゃないか。

402A Tair:2007/05/27(日) 12:12:09 ID:BFLsCE7Q0
浩平はもう銃と予備弾以外の荷物は投げ捨てて、全力で階段を駆け上がった。
その最中背後から銃声がして、左脇腹に灼けつくような痛みを感じた。
(大丈夫、まだ動ける!)
脇腹の端を抉り取られ血が噴き出したが、それでも浩平は足を止めない。
階段を昇りきった後、すぐ横に見えた扉を半ば体当たりする形で開ける。
部屋――応接室の中に飛び込んだ瞬間、直ぐ様扉を閉め、鍵を掛けた。
これで少しは時間を稼げるが、ここで一息つくという訳にはいかない。
今や敵の狙いは、自分一人に集中している。
敵はすぐにドアを破り、中に侵入してくるだろう。
今度は自分自身が、どうにかしてこの危機的状況から脱さなければいけない。
選択肢は二つ。
窓を破って一階へのダイブを敢行するか、此処で息を潜めて迎え撃つか。
見た所隠れる場所は無い――部屋の中には、大きなソファーが四つあるだけだった。
即ち迎え撃つなら正面勝負という事になるが、岸田洋一と主催者以外の相手に命懸けで挑むつもりは無い。

此処は逃亡すべきだと判断し、窓を開いて身を乗り出し――驚愕した。
(な、何だよこれっ……!?)
二階とは言え、役場の二階は予想を大幅に上回る高さだったのだ。
これでは、飛び降りて逃げるなど無謀も良い所だ。
良くても足を骨折してしまい逃げられなくなるだろうし、頭から落ちれば確実に死ぬ。
自分の頭がトマトのように潰れた姿を想像してしまい、浩平の背に氷塊が落ちた。
その余分な思考、余分な感情が、行動の切り替えを大幅に遅らせる。

背後より聞こえる、ドアを蹴破る派手な音。
「――――っ!!」
浩平は弾かれたように振り返って、S&W 500マグナムを構えようとするが、余りにも遅過ぎる。
秋子の冷たい視線が自分を射抜いた次の瞬間、聞こえる銃声、腹に響く強烈な衝撃、激しい痛み。
「あっ……?」
何より今自分が立っている位置が、致命的に不味かった。
浩平の身体は撃たれた衝撃で後ろ――窓の外へと、押し出されていた。

403A Tair:2007/05/27(日) 12:13:01 ID:BFLsCE7Q0
まだ頭が現実を理解し切れていない中、強大な風圧と重圧が容赦無く身体を絞る。
浩平は重力に抗う事も適わず空中を急降下し、背中から地面に叩きつけられた。
「ぐっ……があああ……!!」
表面積の大きい背中から落ちたお陰で即死には至らなかったものの、脊椎の一部を傷付けてしまったのか体が動かない。
広い平地の上に寝そべった体勢のまま、撃ち抜かれた腹から止め処も無く血が流れ出てゆく。
もう、とても戦えないし、とても逃げれない。
間もなく追撃に来るであろう秋子に、抵抗も出来ず殺されてしまうだろう。
それにこのまま放置されたとしても、自分はもう余命幾ばくも無いに違いない。

そんな絶望的状況下であったが、浩平は血に塗れた口元を笑みの形に歪めた。
死ぬのが恐くないと言えば嘘になるが――少なくとも、最優先目標は果たした。
これだけ時間を稼いだのだから、最早敵は七海に追いつけまい。
後は上手く高槻と合流出来さえすれば、七海は助かる。
首輪を解除する方法も判明したのだから、この島から生きて脱出出来るだろう。
一番やらなければならない事を成し遂げたのだから、自分の死は決して無駄なんかじゃない。

浩平は死の恐怖よりも大きな満足感を覚えていたが、そんな中で足音が近付いてくるのを聞き取った。
まだ浩平が叩き落されてから、三十秒も経っていない。
(……幾らなんでも早すぎないか?)
どう考えても変だ。まさか飛び降りては来ないだろうし、秋子が追ってきたにしては早過ぎる。
まさか――

404A Tair:2007/05/27(日) 12:14:16 ID:BFLsCE7Q0
頭の中に浮かび上がる、最悪の推論。
「こ〜へいさんっ!!」
聞こえてきた声に首を向けると、先に逃げた筈の七海がこちらに向かって駆けて来ていた。
浩平は狼狽した表情となり、殆ど泣きそうな声を上げる。
「七海…………お前……どうして……」
「やっぱり駄目です……。こ〜へいさんを残して逃げるなんて出来ませんっ!」
七海はきっぱりとそう言って、浩平の身体を持ち上げようとする。
「こ〜へいさん――私頑張りますから、強くなりますから……一緒に逃げましょう」
しかし決して小柄とは言えぬ浩平の身体は、七海程度の膂力ではとても支え切れない。
すぐにバランスを崩してしまい、二人は地面に倒れ込んでしまう
それでも再度同じ挑戦を繰り返そうとしている七海に対し、浩平は諭すように言った。

「いいから……」
「え?」
七海の――妹のような、健気な少女の頭に、優しくぽんと手を乗せてから続ける。
「俺の事はもう良いから……お前だけでも逃げてくれ……。俺は七海を守って死ねるんなら、本望だから……。
 七海さえ生きていてくれれば、俺の死は無駄にならないから……」
死にゆく自分の事など放って、早く逃げて欲しかった。
でないと、何の為に自分は命を懸けてまで敵に立ち向かったのか、分からなくなる。
七海が大きな瞳に涙を溜め込みながら、唇を震わせる。
「こ〜へいさん、私……私――」

そこでパンッ、という乾いた銃声が一度だけ鳴り、浩平の目の前で、七海の額に穴が開いた。
七海の身体が、浩平の胴体の上に折り重なる形で崩れ落ちる。
七海の額から噴き出た鮮血が、浩平の腹部に生温い感触を伝えた。
何が起こったか、考えるまでも無い。
狩猟者――水瀬秋子が遂に此処まで来てしまい、七海を撃ち殺したのだ。
浩平の心は、人生最大の絶望と無力感により押し潰されそうになってしまう。
(守れなかった……自分自身も、みさき先輩も……そして、七海も……)

405A Tair:2007/05/27(日) 12:15:35 ID:BFLsCE7Q0
だが身体に伝わる七海の暖かさが、浩平に最後の闘志を与えてくれた。
指先に伝わる硬い感触が、最後の目標を与えてくれた。
浩平は最早動かぬ骸と化してしまった少女に目をやった。
(七海……お前、本当に優しい奴だったよな。守ってやれなくてごめんな。でも――)
残された全生命力を振り絞って、手元に落ちている七海の銃――S&W M60を拾い上げる。

(お前が来てくれた事、絶対無駄にはしねえ――――!!)
上半身を起こし、近付いてくる足音の方へと振り向くと同時に、引き金を思い切り絞る。

鳴り響く銃声を認識した時にはもう、浩平の身体は再び地面に吸い込まれていく所だった。
湿った土の感触を頬で感じ取りながら、思う。
(は……は……もう動けねえや…………。最後の一発……当たったかな…………)
秋子の姿を視認している余力すら、残されてはいなかった。
全生命力を振り絞って尚、先の動作で限界だったのだ。
(長森……高槻のオッサン……お前らはまだまだ頑張ってくれよな。悪いけど俺と七海は少し疲れたから……もう休ませて貰うよ……)
瑞佳は無事に生き延びれるだろうか? 秋子の話――今となっては本当かどうか分からないが、危険な男と一緒に行動しているようだし心配だ。
高槻は無事に生き延びれるだろうか? きっと大丈夫、高槻なら自分の代わりに、主催者に怒りの制裁を加えてくれる筈だ。
そして最後に思ったのは――
(長森や七瀬とまた一緒に学校に行って、馬鹿騒ぎしたかったな……)

そして、折原浩平は死を迎えた。
浩平に覆い被さっている七海の目から、一滴の涙が零れ落ちていた。

406A Tair:2007/05/27(日) 12:18:02 ID:BFLsCE7Q0
    *     *     *

名雪は役場の女子トイレで、八徳ナイフにこびり付いた血を洗い流しながら、先の出来事について考えていた。
敵に騙されてしまった母の目を醒ます為とは言え、先程は少しやり過ぎてしまった。
今後はもう少し慎重にしなければならない。
秋子は自分の願いを何でも叶えてくれる最高の母親だが、島中の人間に狙われてしまっては流石に分が悪い。
鎌石村に向かうまでの道中で秋子が言っていたように、ゲームに乗っている事を悟られないように動くべきだ。
この島に居る人間の誰もが何時ゲームに乗るか分からないのだから、信頼など出来る筈が無いのだが――ともかく、表面上だけでも取り繕わねばならない。
大丈夫、秋子の指示に従っておけば、きっと祐一を取り戻せる。

(……そろそろ終わった頃かな?)
最後の銃声が聞こえてから、既に十分以上が経過している。
自分は指示通りに身を隠していたのだが、そろそろ決着が着いた――即ち、秋子が浩平と七海を殺害せしめた頃だろう。
名雪はトイレを後にし、軽い足取りで広間へと歩を進める。

そこに待っていたのは頬から少し血を流している、しかしそれ以外は何時もと変わらぬ秋子の姿だった。
「お母さん、折原君と七海ちゃんは?」
訊ねると、秋子は少し表情を曇らせながらも静かに答えた。
「……安心して、ちゃんと二人とも殺したわ」
その返答を確認した途端に、名雪は可愛らしい――しかし何処か不気味な笑みを浮かべた。
「私やっぱり、お母さんの事大好き!」
名雪はそう言って秋子の胸に飛び込もうとする。

しかし秋子はそれを手で制して、子供を諭すように言った。
「駄目よ名雪、今はそんな事してる暇は無いわ。さっきの銃声は辺り一帯に響いているでしょうし、すぐに移動しないと危険よ」
「何処に行くの?」
「ロワちゃんねるに載ってた番号に電話を掛けてみたらね、どうやら平瀬村工場に人が集まってるみたいなの。
 まずはそこに行ってみましょう」
親子は手を取り合って、二人で運ぶ。
希望を持って生きている者達へ、死を届けに往く。

【残り21人】

407A Tair:2007/05/27(日) 12:19:00 ID:BFLsCE7Q0



【時間:3日目5:40】
【場所:G−2平瀬村工場屋根裏部屋】
柳川祐也
 【所持品:イングラムM10(24/30)、イングラムの予備マガジン30発×6、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1】
 【所持品2:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
 【状態:左上腕部亀裂骨折・肋骨三本骨折・一本亀裂骨折(全て応急処置済み・若干回復)・内臓にダメージ、首輪解除済み】
 【目的:主催者の打倒。最優先目標は佐祐理を守る事】
倉田佐祐理
 【所持品1:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、レジャーシート、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
 【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、暗殺用十徳ナイフ、投げナイフ(残り2本)、日本刀、支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱】
 【状態1:留美のリボンを用いてツインテールになっている、首輪解除済み】
 【状態2:右腕打撲。両肩・両足重傷(動かすと痛みを伴う、応急処置済み)】
 【目的:主催者の打倒】
姫百合珊瑚
 【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン×2、ノートパソコン(解体済み)、発信機、コルトバイソン(1/6)、何かの充電機】
 【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD、工具、携帯電話(GPS付き)、ツールセット、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(0/6)】
 【持ち物③:ゆめみのメモリー(故障中)】
 【状態:中度の疲労、首輪解除済み】
 【目的:主催者の打倒】
向坂環
 【所持品①:包丁・ベアークロー・鉄芯入りウッドトンファー】
 【所持品②:M4カービン(残弾7、予備マガジン×3)、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
 【状態①:後頭部と側頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に軽い痛み、脇腹打撲(応急処置済み)、首輪解除済み】
 【状態②:左肩に包丁による切り傷・右肩骨折(応急処置済み・若干回復)、軽度の疲労】
 【目的:主催者の打倒】
春原陽平
 【装備品:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×10、鉈】
 【持ち物1:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、89式小銃の予備弾(30発)】
 【持ち物2:鋏、鉄パイプ、工具】
 【持ち物3:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料を少し消費)】
 【状態:右脇腹軽傷・右足刺し傷・左肩銃創・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも治療済み)、首輪解除済み】
 【目的:ゲームの破壊、杏と生き延びる】
藤林杏
 【装備品:ドラグノフ(5/10)、グロック19(残弾数2/15)、投げナイフ(×2)、スタンガン】
 【持ち物1:Remington M870の予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書(英和)、救急箱、食料など家から持ってきた様々な品々、缶詰×3】
 【持ち物2:カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、支給品一式】
 【持ち物3:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、工具、首輪の起爆方法を載せた紙】
 【状態:右腕上腕部重傷・左肩軽傷・全身打撲(全て応急処置済み)、首輪解除済み】
 【目的:ゲームの破壊、陽平と生き延びる】
ボタン
 【状態:健康、杏の鞄の中にいる】
久寿川ささら
 【持ち物1:電磁波発生スイッチ(作動した首輪爆弾の解除用、残電力は半分)、トンカチ、カッターナイフ、救急箱(少し消費)】
 【持ち物2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:軽度の疲労、右肩負傷(応急処置及び治療済み)、首輪解除済み】
 【目的:麻亜子と貴明の分まで一生懸命生きる】

408A Tair:2007/05/27(日) 12:21:39 ID:BFLsCE7Q0

【時間:三日目・05:50】
【場所:C-03・鎌石村役場】
水瀬秋子
 【持ち物1:ジェリコ941(残弾6/14)、トカレフTT30の弾倉、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【持ち物2:S&W 500マグナム(5/5 予備弾2発)、ライター、34徳ナイフ】
 【状態:マーダー、腹部重症(傷口は塞がっている・若干回復)、頬に掠り傷、軽い疲労、首輪解除済み】
 【目的:優勝して祐一を生き返らせる。名雪の安全を最優先。まずは平瀬村工場へ】
水瀬名雪
 【持ち物:八徳ナイフ、S&W M60(5/5)、M60用357マグナム弾×9】
 【状態:精神異常、極度の人間不信、マーダー】
 【目的:優勝して祐一のいる世界を取り戻す】
折原浩平
 【状態:死亡】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:死亡】

【備考】
・屋根裏部屋の床に『主催者(篁)について書かれた紙』『ラストリゾートについて書かれた紙』『島や要塞内部の詳細図』『首輪爆弾解除用の手順図(本物)』
が置いてあります。詳細は後続任せ。
・ささらの持っている電磁波発生スイッチは一度使用するごとに、電力を半分消費します。その為最高でも二回までしか連続使用出来ません。
・珊瑚が乗っ取っているのは、首輪遠隔操作装置のコントロールシステムであり、装置そのものではありません。
主催者の対応次第では、首輪遠隔操作装置が再び機能してしまう可能性もあります。
・『ロワちゃんねる』はネット上にある為、珊瑚が完全に掌握しています。
・主催者の居る地下要塞の出入り口は、全てロックが外されています。
・『ロワちゃんねる』の内容は書き換えられました。作中で言及されている内容以外は後続任せ。載せてある番号は藤林杏が持っている携帯電話のものです
・(島内のみ)全ての電話が使用可能になりました
・だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)、支給品一式(食料は二人分)は鎌石村役場内に放置

→854
→857

409復活の時:2007/05/27(日) 16:43:28 ID:uxXKYAuw0
月島拓也はこれからの行動を思案していた。
消防署に瑞佳の知り合いがいるということは頼もしい限りである。
何しろ出会い自体が少なく、他の地区でどのようなことが起きているのかさっぱりわからない。
情報がまったく入らず時間を追うごとに参加者が減っていく。
第三回目の放送までに、四分の三近くの人間が死んでしまったことはゆゆしきことであった。
なるべく早く合流した方がいいのは言うまでもない。
できれば坂上智代の方から来て欲しくはあるが、いずれは村の中心部へ行くことになるだろうからこちらから出向いてもいいだろう。

「行っちゃ駄目かな?」
「外はまだ暗い。安全面を考えれば夜が明けてからの方がいいと思う。そうだなあ……放送後に行こう」
「お兄ちゃんの言う通りにするよ」
「ところで瑠璃子や長瀬君を知っている人はいたかい?」
「ううん、残念ながらいなかったよ」
まるで我がことのようにしょんぼりとする瑞佳。
頼まなかったが長瀬祐介のことも尋ねてくれたのだ。つくづく心の優しい女の子だとつくづく思わざるをえない。
「まあ仕方ない。瑞佳の方は……折原君の消息はどうなんだ」
「又聞きなんだけど、初日の夕方に七瀬さん──留美の方だけど、彼女が消防署で暫くいっしょにいたんだって」
初めて聞いた折原浩平の消息を瑞佳は目を潤ませながら話した。
「おとといか……。もう鎌石村にはいないかもしれないな」
生き残りのうち脱出を目指す者はそれぞれ仲間を集めに動き回り、彼らを殺そうとする者が追う。
通信手段がほとんどないのは実に厳しい。
「でも、今はお兄ちゃんの傍にいて一生懸命頑張るのみだよ」
「ありがとう。僕も瑞佳のために最善を尽くすことを誓うよ」
長い髪を撫でながら一際強く抱き締める。
瑞佳は拓也の腕の中で浩平の無事をひたすら祈り続けた。

410復活の時:2007/05/27(日) 16:45:08 ID:uxXKYAuw0
水瀬秋子からは何ら情報を聞くことなく別れてしまった。
拓也の気持ちを考えれば秋子の誘いに乗らなかったことは理解できなくもない。
「名雪さんのお母さんが無学寺にお出でって言ってたけど、どうする?」
拓也を弄り殺しにしかけた恐ろしい一面があったが、普段ならとてもいい人のようだ。
「おのれ、あの親子絶対に許さない」
「今は好き嫌いを乗り越えて協力し合わないと駄目だよ」
「消防署の方が近いんだからまずは坂上さんに会うとしよう。そのうち水瀬さんとはどこかで会うだろうから」
──親子同士で交じわらせて狂い死にさせてやる! 否、母親を娘の手によって始末させてやる。
裏切った代償とはいえ、拓也は水瀬母子に深い憎しみを抱いていた。
秋子には通用しなかったが、精神的に参っている名雪なら毒電波でやりたい放題で操れるに違いない。
痛みをものともせず拳を握り締めていると、瑞佳が両手でそっと包んだ。
「力入れると傷口が開いちゃうよ」
「気遣ってくれてありがとう。瑞佳といると本当に癒されるなあ」

拓也は思い出したように洗った瑞佳の衣類を差し出した。
「制服が、ブラウスが皺になってるぅ〜」
「情けない声出さないでくれよ。血を落とすのに大変だったんだから」
ブラウスを広げると脇腹のあたりに指が入るほどの穴が開いているのが見えた。
まーりゃんにボーガンで射たれ、生死を彷徨う危機に陥らせた矢傷である。
瑞佳は穴をしみじみと眺め、おもむろに着替え始めた。
「恥ずかしいんだから、後ろ向いててくれない?」
「見ちゃ駄目かい?」
「だーめ。お兄ちゃんとそんな仲になったわけじゃないもん」
「今からなろう」
拓也に唇を求められ、瑞佳は体中の力が抜けて行くのを感じた。だが──
「ん……痛ぁっ!」
下腹部を弄られ身をよじったところ、脇腹の傷口に激痛が走った。
「しまった、ごめん。痛かったね」

411復活の時:2007/05/27(日) 16:47:03 ID:uxXKYAuw0
気まずい雰囲気になり、拓也は部屋の片隅へと歩み寄ると、湾曲した木切れとナイロンの紐で何かを作り始めた。
「気にしないでいいよ。お兄ちゃん好きだから……ねえ、何作ってるの?」
瑞佳は着替え終えると隣にちょこんと座った。
「せっかく矢があるんだから半弓を作るんだ。何もないよりはマシだからな。小さいから座ったままでも射ることができるよ」
建物の裏側にあるゴミ捨て場から拾ってきた廃材で、手製の武器を作ることにしたのである。
「でも矢はどうするの? 一本しかないよ」
「さすがに矢は作れないからなあ。一本で十分。回収できなかったらそれまで。射ったら後は逃げるのみだ」
瑞佳は興味深げに見入っていたが、ふと目を伏せた。
「もし彼女──まーりゃんに会うことがあっても、わたし、射てるか自信ないよ」
「この期に及んで何を言ってるんだ。まーりゃんを前にして躊躇うことがあれば、今度こそ死ぬよ」
脱出するためには殺し合いに乗った人間を実力で排除するしか方法はない。
そのためにも瑞佳にはやむなく殺しをせざるを得ないという考えに改めてもらわなければならない。
「まーりゃんが憎いって言ったけど、殺すとなるとやっぱり──」
「君の大事な折原君も命が危ないかもしれないんだ。彼に会えなくなってもいいのかい?」
「……わかったよ。浩平のためにもお兄ちゃんのためにも戦うしかないんだね」
瑞佳は暫し俯き考え込んでいたが顔を上げた時、瞳には強い闘志がみなぎっていた。

「下に下りるよ。足元に気をつけて」
階下に降りるとまずは詰所に立ち寄り、智代に出立の予定時間を伝えておいた。
車庫の明かりを点け弓の訓練を行うことにする。
壁に的の板を掛け、まずは五メートルほどの距離から狙う。
だが弓道をやったことがない者が放っても当たるわけがない。
矢はあらぬ方向に飛び、その都度拓也が回収して渡すということが繰り返された。
「はう〜、当たんないよう。もう疲れちゃった」
「まっすぐに飛ぶようになっただけでも精進の甲斐があるよ。上達したら飛距離を伸ばそう」
「うん、わたし頑張るよ」
病み上がりの体で弓の練習をさせるのは酷なことだが、殺人鬼は待ってはくれない。
可愛そうだが引き続き訓練をさせることにした。

412復活の時:2007/05/27(日) 16:49:08 ID:uxXKYAuw0
訓練の甲斐あってどうにか的に当たるほど上達することができた。
「ここらで休憩しようか」
気を集中していたせいか、瑞佳は構わず半弓を引き絞る。
脳裏にまーりゃんと名乗っていた少女に射たれたことが思い起こされた。
あの時撃っていれば芳野祐介は死ななかったに違いない。
──芳野さんが死んだのは自分ののせいなのだ。
気持ちを鎮め的の中心めがけて静かに矢を放つ。
ヒュッという音と共に飛んだ矢は今までの中でもより中心に近い所に刺さった。
「わっ、いい所に当たっちゃったよ。まぐれにしても上出来でしょ? ……あれ? いない」
喜びも束の間、振り返ると拓也の姿はなかった。
気持ちの良い汗が一瞬にして冷や汗に変わり、体が凍りつく。
もしかして驚かそうと隠れているのだろうか。
二、三分経っても拓也は現れない。
独り残され瑞佳は寂しさと恐怖におののいた。

車庫の入り口を凝視していると、暗がりから突然拓也がリヤカーを引いて現れた。
「裏にリヤカーがあったんだ。これは何かと便利だぞ」
「もうー、怖かったんだよっ。どうして置いて行っちゃうんだよう」
瑞佳は拓也の胸に飛び込みしゃくりあげた。
「心配かけてごめん。一声かけておくべきだったな」
泣きじゃくる瑞佳を抱き締めていると、置き去りにしてしまったことを後悔の念にさいなまれる。
「お兄ちゃんも浩平と同じなんだから酷いよ。わたしを放っといてどこかに行っちゃうんだからっ」
「申し訳ない。これからはずっといっしょだよ」
「本当に?」
長い睫毛が震え、泣きはらした顔が更に美しさを増している。
「ああ本当だとも。トイレもお風呂も寝る時もいっしょだ」
拓也は顔を近づけ唇をそっと重ねた。

413復活の時:2007/05/27(日) 16:52:06 ID:uxXKYAuw0
「リヤカーは何に使うの?」
「回復するまではリヤカーに乗って移動するんだ。お尻が痛いから後で座布団を敷こう」
「え〜? もう普通に歩けるよ。なんだか売られる家畜みたいで嫌だよ」」
想像してみるといかにも格好悪いような気がしてならない。
「いや、いざという時には走らなくちゃならないから、体力を温存してもらおう。ところで走るのは得意かい?」
「うーん、早くはないけど浩平に鍛えられてるから、どちらかといえば長距離は得意な方かな」
「それはいいことだ。危険と判断したらとにかく走るんだ」
拓也は荷台の掃除を終えると部屋に戻ろうとした。
「これ、使えないかな?」
瑞佳の声に振り向くと、目の前には消火器が。
「うわっ、それはやめてくれ。頼むから向けないでくれ!」
「なんで消火器を怖がるの?」
「ちょっと悪い思い出があってね。ほら、瑞佳にも一つぐらいあるだろ、苦手なものとか」
「そっか。お兄ちゃん消火器が苦手なんだあ。いいこと聞いたっと」
瑞佳は異様に怯える拓也を不思議そうな顔で見ていた。

夜は白み始めたが放送まではかなり時間があった。
二人は部屋に戻り時間まで静かに待つことにした。
髪と梳いていると背後から拓也が抱き締める。
「ストレートのままでいいよ。瑞佳は変わったのだ。僕に染められてな」
「もう〜、意味深なこと言ってー、あっ」
手が胸に宛がわれ瑞佳は体をビクッと震わせた。
「以前の瑞佳は山の中で死んだんだ。これからは瑠璃子の代わりとしてずっと傍にいてほしい」
「うん。でもみんなの前で、ベタベタしちゃ、駄目だよ。お願いだから……恥ずかしいことしないでね」
「わかってるって。今はこのひとときを楽しもう」
瑞佳を向き直らせると再び唇を重ねる。
気だるいひと時はおごそかに過ぎて行くかに思われた。
何かにとりつかれたように拓也は突然立ち上がる。
「いきなりどうしたんだよっ」
「気が変わった。今から行こう」

414復活の時:2007/05/27(日) 16:53:25 ID:uxXKYAuw0
鎌石村消防署の真っ暗な一室にて、智代はソファーに寝転がり暇を持て余していた。
瑞佳から二回目の電話で放送後に行くということを聞き、少々がっかりしていた。
「すみませんが……」
ソファーの背もたれから突然の声。
「うわっ 誰かと思えば葉子さん。はぁ……」
ヌゥーッと現れたのは鹿沼葉子だった。
気配を感じさせぬよう近づかれたものだから、たまったものではない。
「私服を洗濯してもらえませんか? 制服だと目立ってしまうものですから」
「洗濯機は乾燥までやってくれる全自動式なんだけど……まあいいや、やっておきます」
異状の有無を聞くと葉子は自室へと戻って行ってしまった。
瑞佳と拓也の来訪のことは伝えず、後のお楽しみということにしておいた。

冷や汗を拭っていると、ほどなく入れ替わりに柚木詩子が現れた。
「長森さん、まだぁ〜? チンチン」
「何をそんなに興奮しているんだ。果報は寝て待てと言うでないか」
「だってさあ、長森さんにトイレフラグ立ったら襲ってあたしの下僕にするんだもぅん」
「寝ぼけてるのか? 永遠にお寝んねしてろ」
「ワクワクテカテカしてもう寝れないんだあ」
話によると瑞佳は同性でも惚れ惚れするいい女の子だとのこと。そんな素晴らしい同級生と彼女のいとこがやって来るという。
葉子のいう通り六人もの集団になれば戦力としては十分なものになる。
気分は大船に乗ったようなものだ。
「今日はサプライズ・パーティになるぞ」
智代は口元を綻ばせ、一日の始まりが幸先の良いものになると信じて疑わなかった。
「廊下で葉子さんとすれ違ったけど、お茶飲みにでも来たの?」
浮ついた気分に詩子が水を差した。
「なあ詩子。葉子さんのこと、どう思う?」
「あら、のめり込んでたくせに妙なこというんだね」
「さっき私服を洗ってくれって来たんだけど、声かけられるまで全く気づかなかったぞ。敵だったら私は死んでたなあ」
ただ頼み事を言いに来ただけらしいが、それにしても気配を殺して近づくのは異様である。
小声で忌憚のない意見を交わし、これまでの葉子に対する姿勢を大幅に転換せざるを得ない智代であった。

415復活の時:2007/05/27(日) 16:55:05 ID:uxXKYAuw0
葉子は布団に入り再びまどろみに浸りつつあった。
不信感はほとんど抱かれず、何もかもが上手くいっている。
このまま智代達とは適当に協力し、危険な時は盾代わりすればよいのだ。
いずれ主催者は何らかの動きを見せるだろう。
(亀の甲より歳の功とはよくいったものです。不可視の力が使えなくても私はやっていけますわ)
次の放送で何人生き残っているだろうか。
殺す側の人間もかなり死んでいるに違いない。
──願わくばで篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。
あの二人は重武装していたようで非常にやっかいだった。
だが一夜のうちに診療所で会った人間が殆ど死に絶えたなどとは、想像もできないことであった。


【時間:三日目・05:20】
【場所:C-06鎌石村消防分署】
月島拓也
 【持ち物:消防斧、リヤカー、支給品一式(食料は空)】
 【状態:リヤカーを牽引。両手に貫通創(処置済み)、背中に軽い痛み、水瀬母子を憎悪する】
 【目的:瑞佳を何としてでも守り切る、智代達と合流したい】
長森瑞佳
 【装備品:半弓(矢1本)】
 【持ち物:消火器、支給品一式(食料は空)】
 【状態1:リヤカーに乗っている。リボンを解いて髪はストレートになっている、リボンはポケットの中】
 【状態2:出血多量(止血済み)、脇腹の傷口化膿(処置済み、快方に向かっている)】
 【目的:拓也と一緒に生き延びる。まずは詩子達と合流したい】

416復活の時:2007/05/27(日) 16:57:05 ID:uxXKYAuw0
【時間:三日目・05:20頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
坂上智代
【装備品:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)】
【持ち物1:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)、38口径ダブルアクション式拳銃用予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、手斧】
【持ち物2:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:見張り中。健康、意気揚々、葉子に不審の念を抱く】
【目的:同志を集める】
里村茜
【装備品:包丁、フォーク】
【持ち物:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料は2日と1食分)、救急箱】
【状態:たぶん就寝中、健康、簡単に人を信用しない、まだ葉子を信用していない】
【目的:同志を集める】
柚木詩子
【装備品:鉈】
【持ち物:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:見張りに付き合っている。健康、葉子にやや懐疑心を持つ、瑞佳の来訪を喜んでいる】
【目的:同志を集める】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式(食料なし)】
【状態1:消防署員の制服着用、マーダー】
【状態2:就寝中、肩に軽症(手当て済み)、右大腿部銃弾貫通(手当て済み、全力で動くと痛みを伴う)】
【目的:何としてでも生き延びる、まずは偽りの仲間を作る】

【備考1:ニューナンブM60と予備弾丸セットは見張り交代の度に貸与】
【備考2:智代、茜、詩子は葉子から見聞きしたことを聞いている(天沢郁未と古河親子を除く)】
【備考3:葉子は智代達の知人や見聞きしたことを聞いている(古河親子と長森瑞佳を除く)】
【備考4:拓也は予定を早めたことを智代に伝えていない】

→843

417あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:07:38 ID:mtJ9QK0c0
空が、悲しみに包まれたような青色になっていた。
すっかり夜も明け、太陽の光が、まばらになっている雲の隙間から差し込んでいるというのに決してそれは温かみのあるようには思えない。
少なくとも彼女、るーこ・きれいなそらにとってそうは思えなかった。
るーこは泣いていた。泣きながら走っていた。
ここに来てから、いやこの星に来てから一度たりとも流した事のないはずの涙が、後から溢れて仕方がなかった。
あの民家から逃げ出して、もうどれほど時間が経っただろうか。永遠よりも長い時間が過ぎたようにさえ思えるが、実際は数十分かそこらだろう。まだ少しひんやりとした空気の匂いが、その証拠だ。
せっかく着替えたはずの衣服は涙と汗でまた濡れていた。以前着ていた服に比べれば防水性能は良かったので、身体に服が張り付くということはなかったがそんな事をとやかく思う余裕はるーこにはない。ただただ彼女はどこへともなく走るだけだった。
けれども、るーこの身体は限界を感じていたようで。
走る速度がだんだん落ちていって、最後には歩くくらいの速さにまでなってしまっていた。
歩き始めると、途端に肺が空気を求めてるーこに呼吸を催促する。それに伴って動悸も激しくなり、たちまち激しい疲労感が彼女を覆った。肩にかけられたデイパックが、訳もなく重く感じる。
走るために前を向いていた顔が徐々にうなだれていって、寥々とした黄土色の地面が視界を占拠する。たまに見える緑色の雑草が、やけにもの寂しく感じられた。
「…うーへい」
つい先程まで共に行動していた、お調子者で、少し臆病なところもあって、だけどこんな無愛想な自分にも良くしてくれた仲間の名前を口にする。感じてしまった寂しさをどうにか紛らわせる為だった。
「…うー…へい…」
けれども、それは彼女にとって逆効果だった。口に出せば出すほど、春原陽平の姿、仕草、表情、声…そして僅かな時間だったが共に過ごした思い出が蘇ってくる。
そして、その人を呼ぶ声は、もう届かない。届けられるとすればそれは遠い先の、空の向こうの世界へと行かなければならないのだ。
つたなく歩いていた足も少しずつ歩幅が狭くなって…そして、とうとう一軒だけぽつんと寂しく佇んでいる倉庫の前で足を止めてしまった。
涙は、未だに止まらなかった。
「…るーは…どうすればいい…?」
地面へと顔を向けたまま誰に言うでもなく問う。答えてくれる仲間が、みんないなくなってしまった(正確には、浩之とみさきはまだ生きているが)。ここに来た当初の自分ならそんな事を尋ねもしなかっただろうが、るーこは知ってしまったのだ――
「教えてくれ…うーへい、うーへい…うーへいっ…!」

418あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:05 ID:mtJ9QK0c0
――自分が、春原陽平という人間を好きだったという事を。
けれども、全てが手遅れだった。
何もない。大切なものをなくしてしまった。
大事にしていた宝物を、奪われてしまった気持ちだった。
「…休もう」
一時間前まで眠っていたというのに、一日中重労働していたかのように心身ともに疲弊していた。
運がいい事に目の前の倉庫には鍵がかかっていなかった(そこは夜が明ける前まで坂上智代と里村茜が使っていた倉庫で、今はもぬけの空だ)。
ぎぃ、という重苦しい音と共に薄暗い倉庫の中へと入る。誰かがいるかもしれないとも思ったが、今のるーこにはたとえ誰かがいたとしても逃げるだけの余力がなかった。
いっそのこと、ここに誰かが潜んでいて、自分を襲って殺してくれてもいい――そんな風にさえ思っていた。
ところが、倉庫の中には人の気配が感じられない。もう既に出て行ってしまったのかあるいは開けっ放しになっていただけなのか――るーことしては、もうどうでも良い事だった。
少しだけ死ぬ時間が遅くなった、その程度の事である。
とぼとぼと歩いていき、見るからにみすぼらしいソファに身を投げ出すようにして寝転がる。安物らしく、寝心地はよろしくなかった。
るーこは仰向けになり、シミのついた倉庫の天井を眺める。とても空虚で、静かな空間だった。

『そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は春原陽平。君は?』
『るーの名前はるーこ。るーこ・きれいなそら』
『るーこちゃんか。これから先よろしくな?』
『るー』

『やめなよ』
『……うーへい?』
『こいつ…泣いてるよ。 そんなやつが殺すわけ無いよ。……少なくとも、こっちの女の子は』

『僕はこういうのには慣れ…いやいや、風邪を引かない鋼鉄の肉体なのさっ! バカは風邪を引かないってね…って、僕はバカじゃねぇよっ』
『ああもうとにかく! しばらく着てていいから! ほら行くよ! こうなったら、まず着替えから探すぞっ』
『…ありがとう』

じっとしていても、思い出すのはこれまでの事ばかり。思い出す度に、また涙が溢れる。
出来事は、だんだん現在へと近づいていく。

419あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:36 ID:mtJ9QK0c0
『くそっ! るーこ、こらえてくれっ! 僕が必ずなんとかするっ』
『好き勝手にされてたまるか!』

るーこの脳裏に描き出される、あの民家での惨事。この先の結末をるーこは知っている。
「やめろ、やめてくれ…」
思い出すまいとして耳を塞ぐが、響いてくる声を押し留める事など出来はしない。

『そんな…仕込みナイフかよっ…ついてねえや』

頭の中の春原が、ゆっくりと、まるで映画のスローモーションのように動き、そして床に倒れた。
床に広がっていく血の色と匂いが今もそこにあるかのようにリアルに蘇ってくる。
どうしてああなってしまったのか。
記憶の中の自分は、ただ立っているだけで何もすることが出来ない。
誰も守れない。
誰も――救えない。
澪も、春原も、放送で呼ばれてしまった雪見も。
あまりにも、自分は無力だった。
「もう…るーには何もない…こんなるーなんて…」
消えたい。この世からいなくなってしまいたい。何も出来ない、こんな無力な自分など――死んでしまえばいい。
るーこはソファからのそりと起き上がると、自分のデイパックを持ち上げて中にあったウージーサブマシンガンを手に取る。
特有の金属光沢が、やけに凶暴な光を放っているように見える。獲物を、欲しているのだ。
だが、その欲求はすぐに満たされることだろう。何故ならその標的は、るーこ自身なのだから。
喉にウージーの銃身を押し当てる。後は軽く、引き金を引くだけ。
トリガーに指をかけた瞬間の事だった。また、頭の中にあの出来事の続きが出てきたのだ。

『――言ったろ、好き、勝手に、させるか…って』

 + + +

――ああ、そうだ。うーへいは、死に掛けた身体を引き摺ってまでるーの命を救おうとしてくれていた。他の誰でもない、るーの為に。
無力なるーは、ただ駆け寄って意味を為さぬ言葉をかけるだけで…
『るー』の力も、使えないというのに…

420あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:58 ID:mtJ9QK0c0
ただ根拠もなく、助けると言っていた。
けど、うーへいはそれを知ってるかのように笑って、怒ったりもしないで、ただ一生懸命に伝えるべき言葉を伝えようとしていた。
そう、まるで、想いをるーに託したかのように…うーへいはこう言った。

『――最後まで、戦ってくれよっ』

その言葉を口に出すまで震えていた声が、その時ばかりはまるで震えず、明瞭な、強い意志を含んだ声になっていて、そして――また笑った。
このひとならきっとそうしてくれる。そんな期待と信頼を込めた笑いだという事のように、今は思える。
うーへいは、自分が為すべき事を、出来る限りの事をして死んでいった。
なのにるーは、その想いを受け止めようとせず逃げて、逃げて、最後には死のうとまで考えている。
悲劇のヒロインだと自分に酔って。
何もしていないくせに誰も守れないと言い捨てて。
そんなのは――あまりにも自分勝手だ。
「そうだ…約束した。生き残る、って」

  + + +

るーこは銃身を喉から放し、それを近くにあった机の上へと乗せる。木製の机の上で凶暴な光を宿していたウージーが、ほんの少しだけその光を弱めたかのように見える。
命拾いしたな――そう言っているようにも思えた。
「ああ、まったくだ…また、助けられた」
もう一つ、春原陽平には借りを作ってしまった。きっと、それは一生をかけても返しきれないほど大きいものに違いなかった。
「るーは、もうこれで2度も死んだ。…だからるーは、もう『るーこ・きれいなそら』じゃない」
いつもつけている髪飾りを外す。『るーこ』の名残だ。だから…それと、決別する。
最後に一度だけぎゅっ、と力強く握り締めた後、どこへともなくそれを放り投げた。
小さな花が二つ、くるくると空中で回転する。それは途中でちんっ、と小さな音を立ててぶつかり、しかしぴたりとくっつくようにして離れないまま落ちていった。
それを見届けてから、彼女は呟く。
「これから、ずっとこの地に足をつけて生きていく。あの人と出会った星で、生きていく。
私は…『ルーシー・マリア・ミソラ』だ」
デイパックを拾い上げ、ウージーを手に持ち、踵を返してルーシーは倉庫を後にする。その瞳にはもう、後悔や悲しみは残されてはいない。

421あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:09:26 ID:mtJ9QK0c0
澪と、春原の想いを宿して。
その目は、最期まで戦い抜く事を決意していた。
だけど――せめて、思い出の中のあの人だけは、『うーへい』と呼びたい。
一番、大切にしたい呼び名だから。
「…構わないよな、うーへい?」
倉庫から出たときには、眩しすぎるほどの陽光が世界を照らし出していた。
また、長い一日が始まる。
きっと春原がいるであろうその青空へと顔を向けて、ルーシーは微笑む。
「…行ってくるぞ、うーへい」

【時間:2日目7時30分】
【場所:F−02倉庫前】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、支給品一式×2】
【状態:生き残ることを決意。服の着替え完了】
【備考:髪飾りは倉庫の中に投げ捨てた】

→B-10

422復活の時修正:2007/05/27(日) 19:59:33 ID:uxXKYAuw0
>>412>>415において誤字がありました。
まとめサイト収録の際は、
>>412
>──芳野さんが死んだのは自分ののせいなのだ。

──芳野さんが死んだのは自分のせいなのだ。

>>415
>──願わくばで篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。

──願わくば篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。

と修正をお願いします。
お手数をかけまして、大変申し訳ありません。
感想避難スレの571氏、ご指摘ありがとうございました。

423久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:47:13 ID:Bu0PslSQ0
部屋に並べられたモニター、そして目の前に置かれたディスプレイから浮かび上がる薄暗い光が久瀬の身体を包んでいた。
深く椅子に身体を預け、思案するように腕組みをしたまま規則正しく首が縦に揺れる。
密室には一定の音階から外さぬパソコンの稼動音と、深い闇に意識を落とした久瀬の呼吸音が共鳴するように響いていた。
ディスプレイは彼の苦悩の証とも言えよう、画面上を覆い尽くすように開かれたファイル達で覆い尽くされていた。
彼に与えられた観測者と言う役目。
望んでもいないその責務から一時的に開放された久瀬だったが、時折顔をゆがませ苦しそうに喘いでいた。
僅かな休息をも許されず、彼も殺し合いという舞台の裏側にいながらも苦しんでいるのがはっきりと見て取れた。

小刻みに揺れていた久瀬の頭の揺れがだんだんと大きくなっていく。
ゆっくりではありながらその幅は深さを増し、一際大きくなったかと思った瞬間久瀬の首が上半身ごと前に倒れこみ、衝撃に久瀬の瞳が薄く見開かれる。
朦朧とした意識が現状を忘れさせ、瞳をボンヤリとさせたまま久瀬はあたりを見渡した。
正面にありながら認識できずに何度も通り過ぎた視線が目の前のディスプレイにようやくたどり着き、そこで久瀬の意識は鮮明に現実へと戻された。
「――くそっ、僕は一体何をやってるんだ! 暢気に寝てる場合じゃないだろう!!」
苛立ちを隠そうともせず自身の頬を叩き、すぐさまメールボックスを開く。
だがそこには久瀬を落胆させるにはありあまるほどの無慈悲な文章が表示されていた。

『新着メールはありません』

メールを送信してから数時間が経過していた。
良い悪いに関わらず、さすがに何らかの進展があってもいいはずである。
一向に返って来ない返事に久瀬の顔に焦りの色が浮かび、唇を軽く噛みながら思わず項垂れる。

幾つもの人の死を見せ付けられ、死者の名前を読み上げさせられる。
そんな精神的疲労の中で作業をしつづけた久瀬。
久瀬が睡魔に負け、一時的に意識を閉ざしてしまったとして誰が責められるものか。
事実久瀬の助言によって何人もの人間が首輪と言う悪意から開放される事になる。
さらに言えば久瀬もまだ知りえない情報――『この殺し合いを仕組んだ人物の正体』すらも探り当てることに成功せしめえるのだ。

424久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:47:46 ID:Bu0PslSQ0
――だが、そのことを久瀬は知らない。
「まさかあいつらに殺されたなんて事は無いよな!」
――だから彼は叫ぶ。自分の不甲斐なさを悔いながら。
島内を映し出すモニターに飛びつきながら必死に目を凝らす。
「誰か、誰か生きていないのか!?」
首を、顔を、瞳を、瞳孔を、全てを動かしながら画面を凝視しつづけた。
だがみな疲弊しきった中での深夜と言う非活動的な時間であること、あたりを覆い尽くす闇、
そして20数名にまで減ってしまったことによって、生きて動いている人間達の姿を久瀬の視界で捕らえることは出来なかった。
切り替わるたびに映し出されるのは死体、死体、死体――。
それだけでも久瀬の精神を消耗させていくには十分な代物だった。
にも関わらず追い討ちをかけるように彼に突きつけられた現実。
ソレは画面の割合に対してとても小さく、無惨にも原型の半分以上が欠けており、赤い液体と薄黒い土砂により汚れ、簡単には判別をつけることも難しい。
切り替えられたモニターから視界に飛び込んできたのは、爆発であろう何かによって深くえぐられた地面、そしてその隅に転がるモノ――。
久瀬はそれが何なのか、いや誰だったのかを知っていた。
名前を見た後ですぐに開いた参加者一覧表。
そこにはどこか中性的な顔立ちの少年が写っていた。
同姓でも思わず顔が緩んでしまいそうな優しい笑顔を浮かべていた顔。
もはや再び動くことは二度とありえない――河野貴明の頭部だった。
爆発らしきものによりえぐられた地面。
身体から離れてしまった頭。
理由を想像するのに数秒とかからず――

「うああアぁァぁぁぁぁっっっ!!!!」

久瀬は感情を口から吐き出すことしか出来なかった。





425久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:48:12 ID:Bu0PslSQ0
椅子に腰をかけ、組んだ足を一度上げ逆に組み直しながら篁は目の前の光景を見て口元を緩めた。
(――うああアぁァぁぁぁぁっっっ!!!!)
目に映る絶望に打ちひしがれる表情。
耳に届く悲痛な叫び。
人とはこのようにして足掻き、そして朽ちるのか。
人の『想い』、その華奢さと儚さに篁の心は躍っていた。
久瀬の一挙一動に篁の顔は愉悦にに満たされる。
唯一悔やまれるのはここに青い石が無い事であった。
あれほどの『想い』であればまた一歩道が開けたに違いないであろう。
久瀬の姿は篁にそう確信させるには十分なほどであった。
「ふむ……少し試してみるとするか」
言いながら篁は眼前に置かれたマイクを持ち、スイッチを一つ押した。
『総帥! 何でございましょうか!!』
同時に島内で『想い』を集めているはずの醍醐の声がスピーカーから響き渡ってきた。
「その後はどうなっておる?」
『――は……それが、その……思ったよりも人間の姿があらず……その、……難航しております』
しどろもどろになりながら答える醍醐の声に、篁は椅子を激しく叩き不満げに呟いた。
「……お前は主人の使いもすぐにこなせないような木偶だったのか。期待しすぎてしまっていたのだろうか?」
明らかに不機嫌になった篁の声に醍醐が慌てて弁明の言葉を返す。
『め、めっそうもございません。ただちに! 必ずや総帥をご満足させてごらんにいれます』
「く……」
『……?』
「くはははは……」
慌てふためく醍醐の声に、篁は打って変わって清々しいまでの声で大きく笑い声を上げた。
『そ、総帥……?』
「少しからかってみただけだ、気にするでない。お前の忠義は良く知っておる」
『は、はぁ……』
「なに、少々面白い趣向を思いついたのでな。青い宝石が必要となった。早急に戻ってくるが良い」
『はっ! 仰せのままに!』





426久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:49:20 ID:Bu0PslSQ0
時はまもなく5:00を指そうとしていた。
第4回放送の時間も近い。
篁がモニターに映る久瀬を見やると、魂が抜け落ちたかのように呆然と椅子に座り込んでいる姿が映し出されていた。
思い出したようにパソコンに触れては、変化の無いことに絶望し、再び塞ぎこむのをただずっと繰り返していた。
それも仕方の無いことかもしれない。
久瀬が貴明の死を認識してからさらに数時間、一向に変化が訪れないのだから。
そうした久瀬の行動や表情を逐一観察しながら篁はゆっくりと時を待つ。
もうじき青い石が手元に戻る。
そしてそれによりまた一歩自分の理想が近づくのだ。
湧き上がる笑いを抑えようともせずモニターを眺めつづけていた。

「――それにしても」
先刻、慌しい声で聞かされた報告。
首輪遠隔操作装置のコントロールシステム・ロワちゃんねる・地下要塞のロック。
それらが再び行われたハッキングによって破られたと言うことだった。
「此度の参加者達は私の期待以上の働きをしてくれるものだ」
世辞ではなく、心の奥底から沸き起こる笑いを隠そうともせずに篁はボソリと一人ごちる。
笑いながらであるにも関わらず暗く心に突き刺さるその声に、それを聞いた隣に立つ部下の一人が畏れながらに身を震わせる。
それも仕方の無いことではあった。
ハッキングの事を報告したのは彼であり、その時の狼狽振りに篁に叱責されたばかりの事であったからだ。
普段であったら篁の機嫌を損ねた場合、どうなっていたか想像するのはたやすいことだ。
だが、今の篁はそれを鑑みても余るほど上機嫌であった。

427久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:49:51 ID:Bu0PslSQ0
「遅くなり、申し訳ございません!」
篁が無言で画面を眺めつづけるという緊迫した空気を破り、醍醐が扉を開いて姿をあらわした。
待ちかねたと言わんばかりに篁は椅子をくるりと回し、醍醐に身体を向ける。
「気にするな。それで、青い宝石は?」
「ハッ、しかとここに」
懐から醍醐が取り出した宝石を手に取り、天井に掲げながら見つめる。
ライトの光が薄く反射し、篁の目に注がれていた。
紛れも無い。ようやく我が手に戻ってきた。
篁が喜びに打ち震え顔を顰める。
それは醍醐が今までに見た事も無いような妖絶な笑みだった。
「よくやった」
簡単な、たったそれだけのねぎらいの言葉。
儀礼でもなんでも構わない。
それだけで高槻との戦いで溜まった欲求不満が抜け落ちた、そんな気分にさせてくれる主の笑みに醍醐の心は喜びに打ち震えていた。
「……総帥、お喜びのところ申し訳ありません。
 任務を中止してまでこれを必要とするなど……一体何があったのでしょうか?」
たとえ水を刺す事になろうとも聞かねばならなかった。
『想い』を集めると言う最優先事項である任務を差し置いてまで自分を、いや、青い宝石を呼び戻した理由が一体何なのか。
「そう怖い顔で睨むでない。言ったであろう? 面白い趣向だと」
言いながら篁が向けた視線。
釣られるように醍醐もそちらに目を向ける。
モニターに映し出される久瀬の姿に、やはり久瀬を泳がせて問題でも起きたのだろうかと言う疑念が沸き起こっていた。
「ハッキングしてきたものどもの頭と思われる少年が死んだのだよ」
今まで浮かべていた笑みを消し、普段の重く深い声が篁の喉から発せられる。
「……なるほど、それでショックを受けている、と言ったところですな」
「そう言う事だ」
「それで、その石と久瀬とどのような関係が?」
「まだわからぬのか……」
呆れたように溜息をつきながら篁が椅子を立ち上がる。
「まあよい、ついてくればわかることだ」
そう言い放つと醍醐にくるりと背を向け歩き出し、扉を開け放つ。
威厳に満ちた足取りに、慌てながらも醍醐はその後を小走りについていった。

428久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:50:18 ID:Bu0PslSQ0




何もする気力が沸かず、久瀬は項垂れていた。
最初のうちは可能性を信じていた。
だがそれは空回りでしかなかったのではないか?
メールボックスを確認するたびに久瀬の心は喩えようも無い悲しみに襲われていた。

――絶望。

その言葉の重さが今なら本当にわかる。
結局自分がしたことはなんだったのか。
いたずらに参加者を惑わし、結果死なせただけではないのだろうか。
だったら最初から何もしなければ……。
数時間前の決意に満ちた久瀬の姿は、もうどこにも無かった。

『だいぶ落ち込んでいるようだね』

聞きなれた、しかし聞きたくも無いウサギの声が流れ始め、久瀬は思わず硬直する。
「……放送の時間ですってところか」
久瀬が力なくそう答えるものの、まだ放送時間までは間があった。
だがそんなことを確認する気力も無いほど久瀬の精神は疲弊しきっていた。

『時間にはちょっと早いけどね、あまりにも落ち込んでいるからどうしたものかと思ってね』

「何を今更わかりきったことを……」
ウサギの台詞に激しい嫌悪感を覚える。
「これがお前の計画だったんだろう?」
……こんな奴と会話なんかしていたくない。
「僕をけしかけて邪魔者を排除したってところか」
……もう僕を放って置いてくれ。

429久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:50:53 ID:Bu0PslSQ0
『落ち込む必要はまったく無いと思うんだけどね。まあこれを見てごらんよ』

同時にパソコンのディスプレイが切り替わり、見るだけでも吐き気を催す赤色に染め上がっていった。
そして次々と浮かび上がる人名。
見間違いではない……その中にやはり河野貴明の文字はあった。
もうすでに100人以上の人間がこの島で、こんなウサギの戯れの犠牲になっている。
でも何も出来なかった……むしろ片棒を担ぐ羽目になってしまった自分に怒りが湧いてしょうがなかった。
そしてそれ以上にどうしようもなく久瀬の心を深く抉ったものがあった。
あっては欲しくなかった名前。
それだけは望んでいなかった名前。
そう、ずっと片思いを続けていた倉田佐祐理の名前がそこには書かれていたのだった。
全身から力が抜ける。
立っている気力さえ沸かなかった。
倉田さんが何をしたと言うんだ。
もはや声を発するという行為すら億劫になる。

だが、次のウサギの言葉に久瀬の全身は敏感に反応していた。

『この中にね、生きている人間がいるんだよ。何故だかわかるかい?』

……生きている?
ウサギが何を言いたいのか必死に頭をめぐらせる。
だが沈みきった心は頭をうまく回せない。

『生きているか死んでいるか。それは首輪で判定を行っているんだ。つまり――』

「首輪を外せば生きているか死んでいるかお前達にはわからないって事か?」
最後のウサギの言葉に頭がクリアになっていくのがわかった。
空っぽで冷たい風が吹きっぱなしだった心に、暖かな何かが流れ込んで来た感覚にとらわれる。
だったら可能性が無いわけじゃない、もしかしたら、もしかしたら――。

430久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:51:05 ID:Bu0PslSQ0
――パチパチパチ
突如久瀬の後ろから響いた手を叩き合わせる音。
その音に久瀬は慌てて振り返る。
固く閉ざされていた扉が開け放たれ、廊下の光が部屋に差し込む。
そこには二人の男が立っていた。
一人は軍服に身を包んだ、如何にも軍人といった恰幅の良い男。
そしてもう一人――
「その通りだよ、久瀬君。そして首輪を外すことが出来たのは君の功績が大きいのだから何も落ち込むことは無いんだ」
『その通りだよ、久瀬君。そして首輪を外すことが出来たのは君の功績が大きいのだから何も落ち込むことは無いんだ』
目の前の男の口と後ろの画面から、同時に声が響いた。
「そして君の思い人もおそらくは首輪を外すことに成功している、安心したかい?」
『そして君の思い人もおそらくは首輪を外すことに成功している、安心したかい?』
それの意味するところはつまり――
「そう、私がこの殺し合いを主催した人間だ」
――目の前の初老の男……篁はマイクを懐にしまいこむと、再び手を叩きながらそう呟いた。





431久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:51:48 ID:Bu0PslSQ0
「……ここに来たって事は良い様にやられた腹いせに僕を殺しに来たって所なのかな」
久瀬は膝についた埃を払いながら立ち上がると、ゆっくり口をついた。
そこにさっきまでの彼の姿は無く、自信に満ち溢れた口調ではっきりと発せられていた。
「ふむ、なんでそう思うのかね?」
だが、久瀬の豹変振りを嘲笑うかのように、篁は口元を上げ尋ねる。
返された言葉に久瀬は自分の身体が勝手に震えているのを感じた。
どう見ても外見だけ見れば年寄りであるにも関わらず、その口調も、立ち振る舞いも、見るものを怯ませる迫力を感じさせられた。
「そりゃそうだろ? 僕を……いや僕らを舐めてたんだろうけれど、遊び心を出して足元を掬われちゃ間抜け以外の何者でもないからね」
「貴様! 総帥になんて口を――」
久瀬の、主に対する明らかな侮蔑の言葉。
醍醐が顔を紅くしながら久瀬に飛び出そうとしたのを、篁の右手が構わんとばかりに制していた。
「良いのだ醍醐」
「そ、総帥……」
そう言われては掴み掛かるわけにもいかず、やり場の無い怒りをかみ殺しながら醍醐は久瀬を睨みつけた。
「ふむ……舐めていたのとはちょっと違うな」
「……?」
「どちらかと言うと期待していたのだよ」
「期待……だって?」
予想もしていなかった言葉に久瀬の眉がピクリと痙攣した。
「ああそうだ、そして君は。いや言い直すならば君達は、か。私の期待以上だった。それ故に私は喜びに打ち震えているのだよ」
何かを誤魔化しているような風でもない。
篁の言葉には喜びという感情が確かに感じ取れた。
かと言ってそれが何故かなどと久瀬には分かるはずも無かった。
「言ってる意味がさっぱりわからないな。首輪を外されて嬉しい?」
「わからずとも良い。所詮愚鈍な凡俗には私の考えなぞ理解することも出来まい」
再び口元を歪め、そして久瀬を見つめる瞳に苛立ちが沸き起こる。
こいつは何を言っているのだろうか。
「負け惜しみにしか聞こえないね。それじゃあんたはここに何をしに来たって言うんだ?」
「どうしても直接礼を言いたくてね」
「礼だって?」

432久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:52:17 ID:Bu0PslSQ0
「ああそうだ、願いを叶えてやろうと言うんだよ。君の願いはなんだ? 何でも言ってみたまえ」
篁の口から出た言葉に呆れながら久瀬は答える。
「馬鹿馬鹿しい。そんな嘘を僕が信じるとでも?」
「何故嘘だと思う」
そう返されるのが信じられないといったような表情を浮かべ篁は久瀬に尋ね返した。
「常識的に考えて普通の人間ならそう思うのが当たり前だと思うけどね」
「普通の人間ならな。だが違う。私はそのような矮小な存在ではないのだよ」
「……会話すら成立しないね、くだらない。何でも願いを叶えてくれると言うのならあんたの命をくれよ。
 あんたの自己満足で何人もの人間が死んだ。僕は絶対許せな――」
「いい加減にしろ、小僧!」
久瀬の言葉を最後まで許すことなく、憤慨した醍醐が一瞬で久瀬の背後に回りこんでいた。
自身の右手で久瀬の左腕を背中に回して掴み上げ、左腕でしっかりと久瀬の頭を挟み込む。
久瀬が必死に抵抗しようと身体を動かそうとするも、その怪力にピクリとも動かすことが出来なかった。
だが、その醍醐の行動に憤慨し、 篁は醍醐に歩み寄ると顔面を殴りつけ言い放った。
「醍醐! 私は黙っておれと言っている!!」
「し、しかし……」
「くどいッ! もう良い、お前は下がっておれ!!」
「グッ……し、失礼しました」
忌々しげに久瀬を睨みつけたままではいるものの、篁の言葉に従い醍醐は久瀬の身体を離すとおずおずと踵を返し、部屋を出た。
残された久瀬は痛みに身体を抑えながらも篁の目から視線を外さず無言で睨みつける。

「部下が興をそいで申し訳なかったな。ふむ……しかし確かに何でも願いをかなえるとは言ったが、それは難しいことでもある」
いきなり180度変わった言葉に久瀬は鼻で笑いつけた。
「やっぱり口だけか。結局あんたも自分で卑下した存在でしかないじゃないか」
「そう言う意味ではないのだよ。叶えてやりたいのは山々なのだが……そうだ、これならどうだ」
篁の言葉と共に取り出した一本の銃。
それは篁の手を離れ、久瀬の足元へとコロコロと転がっていった。
「自由に使って良い」
「は? ……あんたほんとにボケてるんじゃないか?」
これを使って自分を撃てとでも言うのか?
願いを叶えるということを実現するために殺されても良いと言うのか。たった今嫌だと言ったじゃないか。
目の前の老人の行動の真意がまったく読めない。
「人間とは哀れな生き物だな……。自分の理解できないものを認めようとしない。本当に醜く、卑しい、なんと悲しいことか」
戸惑いを感じていたものの、篁が発したその言葉に久瀬の中で何かが切れた。
「こんな気が触れたような爺さんのお遊びに川澄君も……相沢君も……何人もの人が死んだと思うと反吐が出る」

433久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:52:44 ID:Bu0PslSQ0
真っ直ぐと銃口を篁に向ける。
「出来ないとか思ってるんだろう? でも僕は撃つさ。皆の仇だ」
目の前に立っているのは全ての元凶の男。
こんなキチガイのせいで。
そう、何人も死んだ。
誰も望んでなんかいなかったはずの殺し合い。
生きるため。守るため。
目的は人それぞれだったけれど、本来ならばする必要の無い、日常の自分から見たらB級ホラーにもならないただの愚考。
身体が震える。
当たり前だ、銃なんか持ったことが無い。
人を撃つ……いや人を殺す?
この僕が?
何を躊躇う必要があるものか。
画面の前で流した悔し涙を忘れたのか?
お前は幾つもの悲劇を見てきただろう。
手を差し伸べることも出来ず、声をかけてやれるわけでもなく、観測者としてこの殺し合いに参加してきた。
だからこそ今のこのチャンスがあるんだ。
全ての人の想いをお前が背負ってる。
だから引け。その人差し指にゆっくり力を込めるだけでいい。迷うな――!

434久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:07 ID:Bu0PslSQ0
ドンッっと鈍い音が部屋の中にこだまする。
思わず閉じてしまった目を恐る恐ると見開いていく。
「……え?」
火薬の匂いが鼻につきクラクラと振るえる意識の中、変わらずに立ちつづける篁の姿が久瀬の目に映った。
「私の言ってる意味がわかってもらえたかな」
落ち着いた口調で、哀れむように声をかけてくる。
「て、手元が狂っただけだ」
もう引き金を引くことに怯まなかった。
ちょっと手を伸ばせば届く距離……ちゃんと目を開けて撃てば外すわけが無い。
だから今度こそしっかりと狙いをつける。
一発……そしてもう一発……。
久瀬は固い決意と共に引き金を絞った――だが、結果は何も変わってはいなかった。
篁の身体に確かに当たってはいた……はずだ。
火薬の匂いが弾丸が出たことを証明してくれている。
「すまんな、その程度じゃ死ねないのだよ……わかってもらえたかな」
申し訳なさそうに語る篁の言葉にビクリと震え、久瀬は取り付かれたように引き金を引き続けた。
「馬鹿な、馬鹿な……」
全弾を打ち尽くし、なおも引き金を絞る銃からは、カチカチとした音だけが鳴り続けていた。
――銃が効かない……嘘だろ……化け物か? こんな相手を倒すことなんて出来るのか!?
「良い顔だ」
先ほどと変わらぬ篁の顔が急激に恐ろしく冷たいモノに見えた。
手が震え力が抜け、久瀬は思わず銃を取り落としていた。
「今まで君の考えて来た事全てが私の目的だ。人は小さく弱い。だが人の『想い』は何よりも雄雄しく素晴らしい。
 だから本当に君には感謝しているよ。この篁がここまで敬意を払ったのは君が初めてだ。
 誇りに思いながら――眠りたまえ」
そう言いながら篁がポケットから取り出したもの。
宮沢有紀寧に支給されていたものと一緒の形状の物体。
多少の違いはあれどその用途はまったく一緒である。
違いとは使用回数制限が無いこと、そして爆破までに猶予が無い――つまりはすぐさま殺す為のスイッチであった。
その機械はゆっくりと久瀬の首輪へと向けられ、淀む事の無い動きで親指にかかったスイッチは押された。

435久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:28 ID:Bu0PslSQ0
久瀬の首輪が紅い光点を灯し、点滅を始める。
「僕は死ぬのか……」
久瀬の口から淡々と言葉が吐き出された。
「そうだ。これが私なりの礼だ。君をこのゲームから除外してやろう。もう何も苦しむことも無くなる」
やはり自分の考えなんて目の前の男の言う通りちっぽけなものでしかなかったのだろうか。
いや、違う。確かに自分の力は小さいけれども諦めたら、諦めたらそこで全てが終わってしまう。
首輪の解除だって一人の力じゃない。皆で力を合わせたから起こしうることが出来た。

覚悟はしていた。
僕に出来ることはここまでだ。
悔いは……無い。
きっと、後はきっと他の人間がこいつらを倒してくれる。
僕はそれを信じれる。
だから――

その瞬間久瀬は篁に向かって走り出していた。
そして同時に抱きつくように篁の身体を全身で押さえつける。
だが篁はその動きを眉一つ動かさず見つめ許容していた。
「逃げないんだな、やっぱり」
「残念だが、その必要が無い」

わかっている。
銃がまったく効かなかった相手だ。
この首輪が爆発したところで自分が死んで終わるだけだろう。
だからといって何もせず終わることなんかやはり出来やしなかった。
最後の最後まで自分に出来ることを。

436久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:49 ID:Bu0PslSQ0
――出会ったことも無い参加者達へ。

僕はここで死ぬ。

僕に出来たことは本当に小さなことだったけれど、みんなが僕の遺志をついでくれると信じている。

たとえ見知らぬ相手でも。

僕達は仲間だったと……そう、信じてる。



――倉田さん。

ずっと言えなかったけど、僕は君が好きだった。

もう言えなくなるけれど、いつか直接絶対君に告げるよ。

でもそれが出来るだけ遠い未来であることを祈ってる

だから絶対に――

437久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:54:19 ID:Bu0PslSQ0
――川澄君、相沢君。

いつも衝突していたけれど、君達が倉田さんの本当の友人だったって知っている。

僕は倉田さんを守れたのかな?

胸を張っていいのかな?

(――はちみつくまさん)

(――ああ、勿論だ。俺が保証するぜ)

……もうこの世にいないはずの二人の声が聞こえた気がした。

笑って、僕に向かって真っ直ぐ手を伸ばしてくれていた。



――……ありがとう



部屋の中に響き渡る爆音と、全てを消し去るようなまばゆい光と共に。
久瀬は自らの役目を終え生涯を閉じた……。






438久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:55:08 ID:Bu0PslSQ0
久瀬がいた部屋。
主人を失った部屋に立ち上った煙が少しずつ晴れ、そこには少し前まで久瀬であったモノが横たわっていた。
首から上にあるべきものはついておらず、もはやピクリとも動かない。
篁は傷一つ負うこともなく、そのカラダを悠然と見下ろしてながら笑っていた。
見つめる視線の先にはふわふわと漂う光。
その眩いばかりの色に目を奪われながらも、篁は懐から宝石を取り出す。
同時に久瀬から飛び出た光が宝石へと吸い込まれていった。

「そう言うことだったのですか」
篁の行動をようやく理解した醍醐が、傍らでかしづきながら納得したという表情を浮かべていた。
「理解したか?」
「はい」
「ならばこれを持って再び『想い』を集めてくるのだ。島に点在しているもの。これからもなお生み出されるもの。それは多種多様である。
 勿論、お前からの参加者への直接的接触は今までどおり禁じるが、首輪を解除しレーダーに映らない人間達……こやつらが問題ではある。
 気を抜いて不用意に近づかれることの無いようゆめゆめ気をつけることだな。とは言えお前ほどのものに言うことでもない事でもあるが」
「とんでもございません! この醍醐、総帥のお心使いありがたく頂戴いたします」
「もしもそれがより強い『想い』を得るために必要であると感じたのであれば、遠慮はいらん。思う存分腕を振るうことを許そう」
「ハッ! ありがとうございます」
「醍醐、私を失望させるなよ?」
「無論であります」
その言葉を最後に、醍醐の姿がその場から煙のように消えていった。

「さて……観測者がいなくなってしまったか」
気づけば放送時間が差し迫っていた。
首輪を外したものがいる以上生死判別が出来ないこともあり、死者放送として不鮮明なものになることは間違いない。
だが死んだと思われていたものが首輪を外して生きていたとしたらどうだろう。
それでまた大きく動きが起こるかもしれない。
もしくは死者の発表は中止して死者をわからなくし、参加者の不安を煽るのも面白いかもしれない。
どちらにせよ全ては崇高なる目的の為……如何に効率よく事を進められるか、だ。
もうじきこの殺し合いも終わるだろう。そしてそれが全ての始まりであるのだ。
その時の事を考えるだけで、篁の顔からは笑みが消えることは無かった。

439久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:55:29 ID:Bu0PslSQ0
【時間:三日目・5:55】
【場所:不明】

【所持品:不明】
醍醐
 【所持品:高性能特殊警棒、防弾チョッキ、高性能首輪探知機(番号まで表示される)、青い宝石(光5個)、無線機、他不明】
 【状態:右耳朶一部喪失】
 【目的:島に散在する『想い』を集める
     自分からの参加者への接触は禁止されている(ただし、接触「された」場合は自己判断にて行動)
     篁の許可が降り次第高槻を抹殺する】

久瀬
【死亡】

440心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:31:07 ID:8dhqo5zA0
防弾性の割烹着を着た三人組は雨の山道を一目散に駆けていた、目的地は鎌石村と平瀬村の山道の中にある廃墟のホテル跡、
目的地までの道中…雨が降っているのは分かっていた所為か一応に三人は雨合羽は着ているが、
首筋や襟元…靴の中や靴下からの雨水の浸入は免れないことだった。
「雨降りすぎだぁ!」
「にょわっ!ヒドイ雨だぞ。」
「ああっもう何なのこの雨!!」
三人は衣服に付いた雨水を不快に感じ口を言いつつも黙々と進んでいた。
そしてホテル跡へと到着する。

――――――――鎌石村から平瀬村に通じる山道の脇にあるホテル跡のロビー

「雨の山道ほど最悪なものは無いわね…しかも雨!!」
三人はホテルに付くなり雨合羽を脱いでいた、泥だらけの靴と靴下、濡れた割烹着と頭巾は雨水が滴り落ち、
雨水対策はあまり役に立たなかったと言っても過言ではない
雑巾の容量で頭巾に含んだ雨水を絞りながら広瀬真希はご立腹だ。
「はぁ…誰だろうなぁこんな無茶なスケジュールを組んだ奴は…。」
無茶なスケジュールを組んだ張本人こと北川潤は、真希のご立腹加減を見つつ社交辞令のように軽口を叩く。
勿論、北川はこの先何が起こるのかはお見通しだ

「家政婦の所為だぞ〜!!」
「そうよ!!うら若いレディに無茶させないでよ!!」

――――ペシーン!!――――スパーン!!――――
「ぎゃぁぁぁ!!!!!!」
絶妙のタイミングで北川の頭上に真希のハリセンとみちるのちるちるキックが同時に炸裂する
頭を抱えながらホテルの床に突っ伏して頭を抱えて悶絶する北川、対する真希とみちるは『決まった』と二人でガッツポーズをしていた。

441心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:31:52 ID:8dhqo5zA0
三人の目的は美凪の心を探すこと…無論何の手がかりも無い処からの捜索

そして今三人はホテル跡に着いた、北川潤と広瀬真希の二人はつい昨日の事を昔の事のように感傷に浸っていた
ここでは湯浅皐月や保科智子達と出会い…前回参加者の重要な手がかりを手に入れた場所

そして――――柚原このみの首輪が作動した惨劇の場所

「このみとエディさんのお墓にお参りにいかないとな…。」
北川は昨日の事を鮮明に思い出す…誤解とは言え保科智子に撃たれた腹の弾痕がずしりと痛み、
雨水濡れた割烹着の上から傷口に手を当てていた。
「うん…そうだね。」
横にいる真希は北川の傷口に手を沿え、このみやエディと同じくこの世にいない智子や花梨、幸村の冥福を祈る。
(このみ…智子達も逝ったけどせめてそっちでは楽しくやってね…あたし達はこっちで苦しむわ…。)
この島で生き残っている限り苦しみは続く…ある意味生きていることに対する矛盾だった。
(皐月は何処にいるのかしら…。)
昨日の朝、別れたきり消息のつかめない湯浅皐月の事を心配する真希
自分たちと同じように【生きて苦しんでいる】、一人になっても上手くやっているのだろうかと…。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

442心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:32:47 ID:8dhqo5zA0
昨日の夜に美凪と一緒に泊まった時と同じ部屋に入る三人、
部屋にはシングルのベッドが三個とソファーと椅子、バスルームと一通り完備されている、多少ホコリっぽいが一晩寝るのには支障は来たさない。
このホテル…外見は廃墟そのものだが、中はしっかりした作りで水道や電気は使え、はてまた食料の類まで備蓄されていると言う変な造りだった。
主催者の趣向と一言で片付けるのが無難だった。
流石に部屋にあかりを灯すのは無用心なので支給品の懐中電灯を点ける三人。
雨水に濡れた三人はずぶ濡れの割烹着や靴下を脱いでバスタオルで頭を乾かしていた、
バスルームではバスタブの中にお湯が溜まっていく音が聞こえてくる。
「じゃあレディファーストで失礼するわよ。」
「覗くんじゃないぞ〜きたがわぁ」
そう言って軽装になった真希とみちるはタオルと治療セットを持ってバスルームの中へと入っていく
「ハイハイッ!ごゆっくりと…。」
真希たちのいるバスルームに背を向け手をヒラヒラと扇ぐ北川、彼は自分と真希の銃の手入れをしている。
(だぁぁぁっ!!!誰が覗けるかいっっ!!)
心の中で欲望よりも良心がスンナリと勝ってしまう北川だった。

443心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:34:15 ID:8dhqo5zA0
バスルームの中では真希がみちるのツインテールを下ろしていた、
島の中を一日中ずっと動き回れば汗もかくし汚れもする、みちるぐらいの長い髪の毛になるとヨゴレも付着してくる
真希はみちるの長い髪の毛を丁寧に洗う
「長い髪の毛ねぇ、羨ましいわ。」
自分のボブカットを触りつつ真希はみちるの長い髪の毛に感心する。
「マキマキも伸ばせばいいのに。」
「あたしは似合わないわよ…美凪みたいに身長があれば別だけど」
女の子同士のお風呂での何気ない会話、
そういってみちるの耳の裏を洗う、さわり心地がいいのか真希は石鹸のついた手でみちるのおなかや胸をぺたぺたプニプニと擦る。
「マキマキはえっちだぞ〜…。」
みちるはくすぐったいのか涙目になりながら「にょわにょわ」とちるちる語を連発する
「特にお尻が良いのよね、あんたたちって。」
最後の締め括りにとみちるのおしりをさわりと擦る
美凪の制服のライン越しから見えるお尻の形は同じ女性の真希にも魅力的だった、そしてみちるのお尻…流石は姉妹
みちるも純粋に自分と美凪のチャームポイントを褒めてもらってるのでとても嬉しそうだ
「やったな!!お返しだぞ〜!!」
全身石鹸だらけのみちるは振り向いて真希に闘いを挑む!!
「ちょ…みちる、そこは駄目だって、くすぐったい、あははははっ!!」
「マキマキのお尻も良いおしりだぞ〜♪」
みちるの凶悪なボディマッサージで真希は絶頂の笑いの彼方だ。
「あひゃひゃひゃっ!うひゃひゃひゃっ!!」
違う意味で壊れる寸前の真希、しかし峠を越える寸前の処でみちるはピタッと止めてしまう

444心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:34:59 ID:8dhqo5zA0
「うひひひっ………ん…どうしたの?」
うつ伏せで馬乗りにされた真希はみちるの手が急に止まったので様子を見ている、
「真希…背中痛くない?」
真希の腰に馬乗りしているみちるは真希の背中…丁度心臓の裏辺りを横薙ぎに撃ちぬかれた数発の治療済みの弾痕を気に止める
「ああ…これね。」とむっくりと立ち上がり「見事に撃ちぬかれたもんだ」と鏡越しに自分の背中を見る
チョッキ越しに背中に弾痕とは言っても無傷ではいられない…例え傷が塞がってもこの傷は一生残るだろう、

――――美凪が助けてくれた証でもあった。

「痛いわよ〜…でもへっちゃらよ」
心配してくれているみちるを気遣う真希、みちるをぎゅっと抱きしめる。
「…真希のからだ…美凪と同じであったかいぞ。」
自分を素直に受け入れてくれるみちる…。
真希は思った…本来ならここでみちるを抱きしめる役割は美凪がするものだったんだろうと、美凪がくれたロザリオの重みを感じざるおえない…。
こうして知り合って一日も経たない自分を受け入れてくれるみちるを愛しく思う真希。
「みちる、お湯を流すわよ目を瞑りなさい。」
手にシャワーを持った真希の威勢のいい声がバスルームに響く、目を瞑るみちる
「このあとは真希が北川を悩殺だぞぉ〜。」
目を瞑ったみちるが直ぐに目を開いて意地悪な顔で真希を見る、自分と北川の関係にいつの間にか気が付いているみちるに思わずドキッ!とする真希…。
「ませた事言ってないで、さっさと流すわよ///」
真っ赤な顔をしてみちるにシャワーを流す真希、そんな顔を見てニコニコ笑うみちる。
とても微笑ましい光景…日常がここにあった。

445心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:43:14 ID:8dhqo5zA0


真希とみちるが風呂に入っている間に、銃の手入れを終えた北川潤は鎌石村で手に入れたノートパソコンでロワチャンネルを覗いていた、何か情報があるか探るためだ。
(あいつらは、何つう凶悪な会話をしとるんだ……って…これは!)
出歯亀はしてないが、二人の会話はしっかり聞いている(聞こえてしまう)北川そして
ロワちゃんねるの書き込みを見て驚愕する、珊瑚達の首輪解除の書き込みだ…。
ホテルの中にも工具ぐらいはず…そして北川は真希たちが風呂から出てくるまでに必要な工具を探し終えていた。
(…やるっきゃないか…。)
北川の決意と同時に風呂場の方からドアが開く、バスタオル一枚の凶悪な姿の真希とみちるが風呂場から出てくる、
「あ〜いい湯だった、潤も入ってきなさいよ。」
「ポカポカだぞ〜。」
気分を落ち着けるために風呂に向かう北川、
「あ、ああっ。」
素っ気無くバスルームに向かった北川に真希は不満な様子。
「みちる…もしかしてあたし魅力ない…?」
涙目になってみちるに話しかける真希
「そんなことないぞ〜。」
真希を励ますみちる「ありがとう」とみちるの頭をなでる真希、そして北川が座っていたベッドの上のノートパソコンを見る真希
(…なるほどね、潤が落ち着いていられないのも無理はないか…。)
ロワちゃんねるの中身、珊瑚のハッキングの成果…自分達のやって来た事の確かな成果がここに見えたのだ。
あとは北川がいつの間にか持ってきた工具で実行するだけ、でもリスクは伴う…。
そんな事をあれこれ考えてる間にいつの間にか北川は風呂から出てくる。

446心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:54:28 ID:8dhqo5zA0
「さ〜て、家政夫さん心の準備は良いでしょうか?」
「たのむぞ〜。」
「わかったよ、二人とも。」
工具を持つ北川、そうそうと真希は言い忘れずに付け加える
「もし上手く言ったら、さっきあたしをいろ〜んな意味で辱めた潤くんにいろ〜んな意味で…フッフッフッ。」
「ちょ…御姑さん!」
「責任とれよ〜!きたがわぁ!!」

成功しても天国と地獄、失敗しても天国と地獄…北川に最早、逃げ場は無い
そしていよいよ首輪の解除をする三人、最初は真希、みちる、そして北川の順番で作業は行われた。

―――――――ロワちゃんねるの情報は正しかった…。

―――――――つまり珊瑚がホストコンピューターにハッキングして情報を仕入れたのだ。

―――――――そこにたどり着くまでにいくつもの犠牲があったのかもしれない。

―――――――ちゃんとした結果を出した珊瑚…今度は自分達の番だ。

首輪の解除が無事に終わり、三人は自分達の目的
――――この島と心の光の秘密、そして美凪の心を見つけようと決意を新たにするのだった。

447心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:55:39 ID:8dhqo5zA0
時間:3日目・5:50】
【場所:E−4、ホテル跡】


北川潤
 【持ち物①:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物②:インパルス消火システム スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)携帯電話 お米券】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
広瀬真希
 【持ち物①:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物②:ハリセン、美凪のロザリオ、消防斧、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
みちる
 【所持品:包丁 セイカクハンテンダケ×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)食料その他諸々(ノートパソコン、真空パックのハンバーグ)支給品一式】
 【状況:健康】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】

備考
三人は首輪の解除をしました

448第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:53:46 ID:rYwBV.xw0
薄暗い部屋の中に、黒い、闇が結晶したような男の姿があった。
血が変色したようにも見える漆黒のスーツを全身に纏った、酷く人間味に欠ける存在。
男が携える異形の瞳に睨み付けられてしまえば、並の人間など秒を待たずして屈服してしまうだろう。
この殺戮ゲームの主催者にして、今や全てを統べる存在になりつつある究極の人外――篁は、放送の準備に取り掛かっていた。

放送を取り止めるという考えも一瞬浮かんだが、それは直ぐに打ち消した。
枷を外した者達を全て死者として数えれば、生き残り扱いとなっている人間の数は僅か一桁となる。
実際にはまだ二十名以上の人間が未だこの島で足掻き苦しんでいる筈だが、その事実を知り得る者は多くない。
此度の放送は首輪の事を知らぬ者にとって、正しく絶望と憎悪を振り撒く鐘になるだろう。
親しき者達の死を報された事による悲しみと怒り、打開不可能となってしまった状況を受けての葛藤と猜疑心。
そこから生まれる想いがどれだけの物になるか――想像するだけでも口元が吊り上る。
絶望に打ち拉がれた後に生ずる昏い想いこそが、幻想世界への道を拓く鍵となるだろう。

「では始めるか」
マイクを手に取り、スイッチを押し、言葉を紡ぐ。
未だ何も知らぬ愚鈍な者達に、神罰を与えるかのように。


『――参加者諸君、ご機嫌如何かな?これより四回目の定時放送を行う。
 尚観測者は舞台から退場してしまったので、僕が直接取り仕切らせて貰うよ。
 ではこれまでの死者達を発表するから、良く聞き給え。

449第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:55:05 ID:rYwBV.xw0
3番 朝霧麻亜子
12番 岡崎朋也
14番 緒方英二
16番 折原浩平
21番 柏木初音
25番 神尾観鈴
30番 北川潤
34番 久寿川ささら
36番 倉田佐祐理
38番 来栖川綾香
39番 向坂環
42番 河野貴明
45番 小牧愛佳
54番 篠塚弥生
58番 春原陽平
64番 橘敬介
65番 立田七海
73番 長瀬祐介
79番 七瀬留美
85番 姫百合珊瑚
87番 広瀬真希
88番 藤井冬弥
90番 藤林杏
93番 古河秋生
95番 古河渚
100番 美坂栞
101番 みちる
102番 観月マナ
103番 水瀬秋子
104番 水瀬名雪
108番 宮沢有紀寧
111番 柳川祐也 
117番 吉岡チエ
119番 リサ=ヴィクセン
120番 ルーシー・マリア・ミソラ

450第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:57:17 ID:rYwBV.xw0
 ――以上35名だ。
 生き残りは後一桁、いよいよゲームも大詰めだ。
 今一度言っておくけれど、勝者はただ1人、例外は無い。
 愚かな希望に縋って現実から目を背けた所で、待っているのは裏切りと冷たい死のみ。
 殺し合いを肯定した人間がいなければ、これ程多くの犠牲者は生まれないのだからね。
 勇気を持って戦う者こそが褒美で全てを手に入れ、臆病者は動かぬ骸と化すだけだ。
 何、倫理観などという下らない物は捨て去ってしまえば良いさ。
 この島で犯した罪は何者にも裁けないし、僕達以外には知られる事すら無いのだから。
 これらの事項をよく踏まえた上で、これからの戦いに挑むと良い。
 それでは此処まで生き残った勇者達の健闘を祈る』

篁はマイクを元に戻し、邪悪な笑みを形作る。
様々な人間の想いが交錯したこの遊戯、実に愉快だった。
後は――最後の詰めを行うだけだ。
枷を外した者達が虎視眈々と自分の命を狙っているにも拘らず、邪神は哂い続ける。

【時間:三日目・6:00】
【場所:不明】

【所持品:不明】

ルートB18
→862

451運命の選択:2007/05/30(水) 20:47:49 ID:KFETsNV20
あれ程激しく降り注いでいた重い雨粒は、何時の間にか鳴りを潜めていた。
空はすっかり晴れ渡り、海から流れてきたであろう潮の香りが、輪郭を持たずに辺りを漂っている。
そんな中、長森瑞佳をリヤカーで護送していた月島拓也は、呆然と立ち尽くしていた。

「な……何だって……」

拓也の心は驚愕で覆い尽くされていた。
先程流れた第四回放送で告げられた、余りにも絶望的な現実。
心の何処かで頼りにしていた長瀬祐介も死んだ。
瑞佳の幼馴染である折原浩平も死んだ。
あの忌々しい水瀬親子も死んだ。
瑞佳が電話で聞いた情報だが――このゲームを打倒し得る最有力勢力――姫百合珊瑚の一団も全滅した。
要するに自分達が知り得る限りの味方も敵も、殆どが死に絶えてしまったのだ。
生き残りはごく僅か――そして、自分達は未だ大した武装も情報も持ち合わせていない。
自分には瑞佳が絶対必要なのだから、今更ゲームに乗るなどという選択肢は有り得ないが、これから先の事を考えるとどうしても弱気な考えしか浮かんでこない。
仮に生き残った人間が全員友好的な者であったとしても、十に届かぬ程度の人数でこのゲームを覆せるのだろうか?

拓也が苦悩に頭を抱えていると、唐突に横から腕を引かれた。
視線をそちらに移すと、瑞佳が神妙な顔付きをしていた。
潮風に揺れる長い髪が、太陽の陽射しに輝いてとても美しく見えた。

「お兄ちゃん……今の放送おかしいよ」
「――え?」
「余りこんな考え方はしたくないんだけど……。
 戦いは規模が大きければ大きい程被害者が増える――逆に規模が小くなれば、その分だけ被害者も減ると思うんだよ。
 第三回放送が終わった時点で四十四人しか生き残りがいなかったのに、たった半日で三十五人も死ぬなんて有り得ないよ」
「あ……」

452運命の選択:2007/05/30(水) 20:49:27 ID:KFETsNV20
瑞佳の的確な指摘を受け、拓也は思わず言葉を失った。
そうだ――そもそもこの広大な島に於いては、他者と出会う事すら容易で無いのだ。
にも拘らず僅か十二時間程度で、生き残っていた者の四分の三以上が死ぬという事態は明らかに異常だ。
そう考えると先の放送は信憑性が皆無であると言わざるを得ないが、そこで新たな疑問が拓也の脳裏を過ぎる。

「……どういう事だ? 主催者は何の為にそんな嘘を吐いたんだ?」
「それは私も分からないよ。けどとにかく今は、坂上さん達の所へ行くのが先決なんじゃないかな」

――その通りだった。
大人数で考察した方が良い考えも浮かぶだろうし、こんな所で立ち止まっていては何時襲撃されるか分からない。
瑞佳の身体では逃げ切るのは殆ど不可能だし、自分の武装程度では敵を迎え撃つのも難しい。
今の自分達はこの島の中で、恐らく最も不利な状態にあるという事を決して忘れてはならないのだ。
拓也は気を引き締め直し、坂上智代達が滞在しているであろう鎌石村消防署に向かって再び進み始めた。

    *     *     *

「そ、そんな莫迦な……」

過去最多の名前が読み上げられてた第四回放送を受け、消防署の一室で坂上智代は掠れた声を絞り出す。
――全ては上手く行っていた筈だった。
鹿沼葉子という強力な仲間も得て、更に二人同志を加え、万全の状態で対主催の人間が集まっている教会に行けると思っていた。
しかし現実は厳しく、首輪解除の任務に就いていた珊瑚や春原陽平も、そして岡崎朋也までもが死んでしまった。

「なあ、私達はこれからどうすれば良いんだ……?」

酷く重苦しいその呟きに、里村茜も柚木詩子も、鹿沼葉子も答えられなかった。
生き残りは自分達といずれ此処に来るであろう瑞佳達を除けば、僅か三人。
その三人の中に、首輪解除し得るだけの技術を持った者がいる可能性は極めて低い。
幾ら仲間を集めた所で、首に着けられた悪魔の枷を外せなければどうしようもない。
そして――この中で唯一『鬼の力』を目の当たりにしている詩子が、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

453運命の選択:2007/05/30(水) 20:51:53 ID:KFETsNV20
「姫百合さんも柳川さんも皆、死んじゃったね……。姫百合さん達は銃を何個も持っていたのに……。
 柳川さんは、千鶴さんと同じ『鬼の力』を持っていたみたいなのに……」
「そうだな……私達よりもずっと戦力が整っていたにも拘らず、彼女達は殺されてしまったんだ。
 殺し合いに乗った、そして恐ろしい異能力を持った何者かに」

ウサギの言葉通り、殺し合いを肯定した人間――それも想像を絶する怪物が居なければ、こんな事態は起こり得ない。
珊瑚達は徒党を組んでいたのだから、並大抵の事で全滅したりはしないだろう。
それに『鬼の力』と強力な武装を有する柳川は、こと直接戦闘に於いては桁外れの実力を発揮する筈。
まだ姿の見えぬ殺人鬼は、その双方を倒してのけたのだ。
それが智代と詩子の結論だったが、茜はゆっくりと首を横に振った。

「そうとも限りませんよ。強力な人間や集団を倒す方法は、圧倒的な力による正面勝負だけではありません。
 どれだけ強い人間だって、後ろから撃たれてしまえば死んでしまいます。
 どれだけ強力な武器を揃えた集団だって、内部に裏切り者がいれば崩壊してしまいます」
「――姫百合達や柳川さんは何者かの騙まし討ちを受けてしまったと、そう言いたいのか?」
「怪物などといったものがいると考えるよりは、そう判断する方が現実的です。騙まし討ちなら、特別な力を持っていない人間だって出来ますから」
「ふむ……」

そこまで言われて、智代は思った――今回は茜の言い分の方が正しいと。
幾ら『鬼の力』などといった非現実的なものが存在するからといって、何もかもを異能力の一言で片付けるのは間違いだ。
この世には科学で説明出来ない異常な現象よりも、人智の範疇に収まる物の方が圧倒的に多い。
ならばまずは異常な要素を排した上で、整合性が取れる推論を模索してみるべきだった。
ようやくその結論に達した智代はがっくりと項垂れ、沈んだ声を洩らす。

「そうか……私はまた、早とちりをしてしまったんだな……」

454運命の選択:2007/05/30(水) 20:54:20 ID:KFETsNV20
自分はこれまで度重なる失敗を犯し、その度に茜に諫められてきた。
初めて出会った時はゲームを止めると宣言した自分が、ずっと茜の足を引っ張ってばかりいる。
そんな自分がどうしようも無いくらい情けない存在に思えた。
――しかし智代はこの時、気落ちしている時間があるならば、もっと茜の様子に注意しておくべきだった。
そうすればきっと気付けた筈だ。
いつもは抑揚の無い茜の声に、今は明らかな苛立ちの色が混じっていると。

「……そして裏切り者が一人とは限りません。大人数の集団にとって一番怖いのは、外部からの襲撃者よりも内紛の種です。だから」

茜が一歩、二歩と歩みを進め、机の上に置いてあったニューナンブM60を拾い上げる。

「――内紛の種と成り得る人間を、これ以上生かしておく事は許容出来ません」
「…………っ!?」

茜以外の人間は例外無く、驚愕に目を大きく見開いた。
茜が冷たい目で――これまで一度も見せた事の無かった暗殺者のような顔で、葉子に銃口を向けていたのだ。
鬼気迫る尋常でない様子に、修羅場を何度も経験している葉子ですらも唾を飲み下す。

「茜! あんた何やってるのよ!?」
「――――詩子。私は、貴女や智代の事は信用しています。ですが葉子さんは別です。
 葉子さん、貴女は何故一人で此処に来たんですか? 診療所には生き残っている仲間がまだいたのに、何故?
 『土地勘のない所を夜間、無闇に移動するなど自殺行為』と分かっているにも拘らず、何故夜中にこの村を訪れたのですか?」
「…………」

突然の蛮行を押し留めるべく詩子が叫ぶが、それに構う事無く茜は自身の内に巣食った不信を吐き出してゆく。
その疑念を一身に受ける事となった葉子は、何も言い返す事が出来ず、ポケットに忍ばせたメスへと手を伸ばすだけで精一杯だった。
葉子の反応を見て取った茜はますます疑惑を深め、次々に言葉を紡いでゆく。

455運命の選択:2007/05/30(水) 20:56:40 ID:KFETsNV20
「この島では普通集団で行動します――殺し合いに乗った人間以外は。
 葉子さん。貴女の行動には不審な点が多過ぎる。貴女の言動には不審な点が多過ぎる。貴女に関する全てには、不審な点が多過ぎる。
 ですから私は此処で貴女を殺し、内紛を未然に防ぎます」


最早茜の中で、葉子は限りなく黒に近い灰色だった。
確実に裏切るとまでは言い切れないが、余りにも怪し過ぎる。
このまま葉子を放置しておけば、いずれ自分も珊瑚や柳川の二の舞となってしまう可能性が高い。
そして生き残りが僅かとなってしまった以上、何時葉子が本性を見せてもおかしくは無いのだから、もう一刻の猶予も無い。

「ちょっと待て、お前は焦り過ぎてるんだ! ちゃんと話し合えばきっと……」
「――話し合えば分かり合えるとでも言うつもりですか? 冗談も大概にして下さい。そんな事をしていれば、いずれ裏切られてしまうだけです」

予想通り葉子を庇い制止を呼び掛けてきた智代に対し、茜は苛立ち気味に返事を返す。
智代の言葉は何の根拠も無い、ただの希望的観測だ。
あれだけ多くの人間が死んだにも拘らず未だそのような妄言を吐くなど、余りにも愚鈍過ぎる。
そんな愚か者の意志に従っていては自分まで、無意味に、惨たらしく殺されてしまう。
だから茜は、立ち塞がる智代を灼き切らんばかりに睨み付け、告げた。

「智代。止めるつもりなら、貴女も殺します」
「え……?」
「約束した筈です――失敗した時にはゲームに乗れば良いと」
「なっ――」


一瞬にして智代の意識が凍り付く。
仲間の――ゲーム開始以来ずっと行動を共にした相棒の放った、俄かには信じ難い宣告。

456運命の選択:2007/05/30(水) 20:59:36 ID:KFETsNV20
智代からすれば、残り少ない生き残り同士で殺しあうなど有り得ない事だった。
自分だって葉子に対し多少の疑念を抱きはしたが、それは些細なものでありいずれ時間が解決してくれると思っていた。
にも拘らず茜は突然葉子を殺害するなどと言い出し、事もあろうに邪魔をするならゲームに乗るなどと言ってのけたのだ。
智代は狼狽に支配されながらも、必死に言葉を返す。

「な、何を言っているんだ! まだチャンスはある! 疑念を捨てて皆で協力し合えば、きっと道は見えてくる!
 こんな時だからこそお互い信じ合わないと駄目なんだ!」
「智代……今の貴女は目が曇り切っているし、目的の為に人を殺す覚悟があるようにも見えません。
 この期に及んで不審人物の一人も殺せないようでは、もう主催者の打倒など不可能です。
 ですからもし此処で貴女が決断を誤まるようなら、私は優勝する事で生還を果たそうと思います」

茜の言葉に、嘘偽りは一切含まれていない。
自分だけが銃を保持している以上、今この場に居る人間達を屠るのは容易い。
そして瑞佳達が来るのはもう少し先の事である筈だから、準備して待ち伏せする余裕はある。
そうやって智代と瑞佳の一団を排除すれば、生き残りは自分を含めて僅か4名――もう優勝は目前だ。

「選びなさい智代。私と出会った『あの時』の聡明な智代に戻って、何としてでもゲームを破壊するか――それとも口先だけの女と成り果てて、此処で死ぬかを」

少女は突きつける。
堕落してしまった友に、運命の選択を――

457運命の選択:2007/05/30(水) 21:00:48 ID:KFETsNV20

【時間:三日目・06:10頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)近く】
月島拓也
 【持ち物:消防斧、リヤカー、支給品一式(食料は空)】
 【状態:リヤカーを牽引。両手に貫通創(処置済み)、背中に軽い痛み、水瀬母子を憎悪する】
 【目的:瑞佳を何としてでも守り切る。まずは鎌石村消防署へ。放送の真相を確かめる】
長森瑞佳
 【装備品:半弓(矢1本)】
 【持ち物:消火器、支給品一式(食料は空)】
 【状態1:リヤカーに乗っている。リボンを解いて髪はストレートになっている、リボンはポケットの中】
 【状態2:出血多量(止血済み)、脇腹の傷口化膿(処置済み、快方に向かっている)】
 【目的:拓也と一緒に生き延びる。まずは鎌石村消防署へ。放送の真相を確かめる】

【時間:三日目・06:10頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
坂上智代
【装備品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)】
【持ち物1:38口径ダブルアクション式拳銃用予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、手斧】
【持ち物2:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:動揺、葉子に不審の念】
【目的:今後の行動方針は不明】
里村茜
【装備品:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)】
【持ち物:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料は2日と1食分)、救急箱】
【状態:苛立ち、簡単に人を信用しない】
【目的:葉子を殺害する。邪魔をするようなら智代と詩子も殺害して、優勝を目指す】
柚木詩子
【装備品:鉈】
【持ち物:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:動揺、葉子にやや懐疑心を持つ】
【目的:今後の行動方針は不明】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式(食料なし)】
【状態1:焦り、消防署員の制服着用、マーダー】
【状態2:肩に軽症(手当て済み)、右大腿部銃弾貫通(手当て済み、全力で動くと痛みを伴う)】
【目的:今後の行動方針は不明】

【備考1:智代、茜、詩子は葉子から見聞きしたことを聞いている(天沢郁未と古河親子を除く)】
【備考2:葉子は智代達の知人や見聞きしたことを聞いている(古河親子と長森瑞佳を除く)】
【備考3:拓也は予定を早めたことを智代に伝えていない】
【備考4:拓也と瑞佳は第四回放送の内容を信じていない】

→860
→864

45863番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:41:26 ID:W2QwV58E0

「なあ」

あくび交じりの無気力な声が、狭いコクピットの中に響いた。
ブーツの足をどっかりとコンソールの上に投げ出し、自ら腕枕をして寝そべっている女性、神尾晴子の声だった。

「なあ、て」
『―――何でしょう』

理知的な声が、どこからとなく問い返していた。
神像、ウルトリィである。
半眼になって目やにを掻き落としながら、晴子が顎をしゃくる。

「撃たれとるで」
『そのようですね』

打てば響くような声。
ほぼ間を置かず、閃光が迸った。
全方位モニタに映るその光は直下、神塚山山頂からの砲撃だった。
高空からでも補正なしで視認できるほどの巨大な何かが、間断なく周囲に光線を放っている。
その内の幾つかは、上空に浮かぶウルトリィを目掛けて飛んでいた。

「ええんか」
『問題ありません。生半可な術法ではオンカミヤリューの結界を抜くことなど叶いません。
 まして光の術法で、このウルトリィを狙うなどと』
「ほぉ……ご大層なもんやな。さっすが神さんや」

どこか得意げなウルトリィの声に、晴子はぼりぼりと頭を掻きながら答える。
狭いコクピットに隔離されて数時間。
さすがに語彙の限りを尽くしたスラングをがなり立てるのにも疲れたか、悪口雑言は鳴りを潜めていた。
朝方、開き直ったように一眠りした後からは、投げやりな言動ばかりが目立っている。

「なら……アレも心配いらんねんなあ?」

45963番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:41:44 ID:W2QwV58E0
はだけたシャツの胸元に鼻先を突っ込んで顔をしかめながら、晴子が言う。
つまらなそうなその視線の先、モニタに映っていたのは、黒い影だった。
島の北西部、高原池の畔に佇むそれは、跪いてなお周囲の木々より頭一つ抜きん出ている。
木々の緑と紺碧の池、そして漆黒と銀の機体という色彩のコントラストはまるで一幅の絵画のようで、
その周辺だけ時間が静止しているかのようにも感じられた。

「キレイなもんやなー、……ぴくりとも動かへん」

にたにたと気味の悪い微笑みを浮かべる晴子。
すぐにウルトの声が返ってくる。

『……カミュにも大神の加護というものがあります。それに、あの子ならこの程度の術法、
 容易くかわしてみせるでしょう』
「せやから動かへんねやろ」
『……』

沈黙が降りる。
狭いコクピットの中に小さく、奇妙な音色の咆哮が響いていた。
直下、巨大な少女たちの哭く声だった。
額にかかるほつれ毛をかき上げた晴子の視線の先で、光が膨れ上がっていく。

「ハ、ええ感じで気合入っとるやん。……黒んぼの方は、顔上げようともせぇへんな」
『……まさか、カミュの身に何か……』
「どうやろなあ。盛大にぶっ壊れてくれたら笑えるんやけどなあ」

言って、晴子が乱杭歯を見せて笑んだ瞬間。
太陽を思わせる光が、爆ぜた。
絶対の死を内包する蒼白い光芒が、その行く手に存在する何もかもを焼き尽くしながら、黒い機体へ向けて迸る。

『カミュ―――!』


******

46063番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:42:04 ID:W2QwV58E0

その狭いコクピットの中には、沈黙だけがあった。
嗚咽も慟哭も、既にこの場から消えて久しい。
モニタは光を落としていた。
幾つかのランプが点灯しているだけで、あとは闇に包まれている。
外の陽射しも、この漆黒の空間を照らすことはなかった。
そんな中で、柚原春夏はかれこれ数時間もの間、抱えた膝に顔を埋めたまま、じっと動かずにいた。

『……』

その様子を、カミュは黙って見ている。
泣いて、暴れている内はまだ良かった。宥め、慰めることもできた。
だがこうして己の内に閉じこもられてしまえば、もうカミュにできることはなかった。
危険な状態だと、わかってはいた。
泣くにせよ、怒るにせよ、それは感情を発散するということだ。
既に起こってしまったことを、過去として処理するために必要なプロセスだ。
しかし、沈黙と抑鬱はいけない。
それは感情を渦巻かせる行為だ。渦巻かせ、どこにも逃がさないという行為だった。
行き場のない負の感情は沈殿し、やがて腐臭を放つ。
染み付いた臭いは、呼吸の度に全身を駆け巡り、容易くその人間を侵す。
それは端的に、破滅と呼ばれる状態の兆候だった。
手遅れになる前に、外部から、あるいは内部からの刺激で風穴を開けるべきだと理解していた。

しかしカミュには、声をかけることすらできなかった。
春夏の心中は、察するに余りあるものだった。
柚原このみという存在は、正しく春夏の生きる意味だったのだろう。
世界のすべて。己の半身。存在意義。それが、潰えた。
生きる意味、などと軽く言えてしまう自分には何を言う資格もないのだと、カミュは認識していた。
長い長い時間の中でも変わらぬ、否、長すぎる時間を旅するからこそ変われぬ己を、
これほど恨めしく思ったことはない。
だから声もかけられず、それでもただ春夏の傍にだけはいてやろうと、身動き一つすることなく
湖の畔に佇んでいた。

46163番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:42:24 ID:W2QwV58E0
『……?』

違和感を感じたのは、そのときである。
見られている。どこからか、ねっとりとした視線を感じる。
ねめつけるような、舐りつくすような、生理的な嫌悪感を催させる視線。
反射的にセンサーを走らせる。
捕捉。視線の方向は神塚山山頂。そこに、巨大な熱源があった。

いつの間に、とカミュは内心で舌打ちする。
少し前に、山頂で大規模な戦闘があったのは観測していた。
それが収束した後、多数の熱源が再び山頂に集いつつあることも分かっていた。
しかしカミュはそれらに特段の注意を払うことはなかった。
高密度の思念体は先刻の戦闘で消えていたし、集まりつつあるのは極小規模の熱源体だった。
どうとでも対処は可能だと、高を括っていた。
それよりも春夏にこれ以上余計な負担をかけないことの方が重大だった。
判断を誤ったかもしれない、とカミュは苦々しく考える。
山頂には再び高密度の思念体が存在していた。
原理は分からないが、あの群れが変貌したと考えるのが妥当だった。

とはいえ、とカミュは己の身体機能をチェックしながら思考する。
今、己を見つめる思念体は先刻のものよりも一回り小さい。
先ほどの戦闘観測によれば、思念体の攻撃手段は光の術法に近いものだった。
攻撃自体は単調で、直撃を避けることは難しくない。
万が一被弾したとしても、現状では正面から受ける限り被害は軽微で済む。
春夏がこの状態では操縦は不可能だろう。
ならば一時的に制動権を己に戻し、自律稼動で回避を行う。
距離さえ取れば問題はないだろう。
と、思考と並行させていたチェックが終了する。

『え……?』

一瞬、カミュの思考が凍りついた。
返ってきた結果は、明らかな異変を示していた。
システム、オールレッド。

駆動系異常。飛行系異常。循環系異常。接続系異常。術法系異常。異常。異常。異常。
思考と、感覚。それ以外のあらゆる系統が、完全に沈黙していた。
回避機動どころか、指の一本、羽根の一枚に至るまでが自分のものではなくなったように、動かない。
どくり、と。
既に存在しない筈の心臓が鷲掴みにされたような感覚を、カミュは覚えていた。
背後に、熱を感じていた。

山頂の思念体は、確かにこちらを見ていた。
光の術法に似た力を振るう、それは敵だった。
無防備な背に、光が、迫っていた。


***

46263番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:43:23 ID:W2QwV58E0

『死んでいく』

静寂の支配する暗闇に、声が響いていた。
ぼんやりと目を開けた柚原春夏が、小さく口を動かす。

「……」

拒絶を口にするはずの言葉は、しかし声にすらならず消えていく。
乾いた舌とひりつく咽喉が不快だった。
いつから口を開いていないだろうと考えて、春夏は思考を閉ざす。
何も考えたくなかった。
時間の感覚も曖昧なまま、春夏はただ膝を抱えていた。
このまま色々なものが曖昧になって、自分と自分でないものも曖昧になって、何も考えないまま
消えてしまえたら、いくらかは楽になるだろうか。
そんなことを思い、しかし思ったことは端からシャボンのように弾けて消えた。
何もかもが億劫だった。
感情も思考も、あらゆるものが不快で、曖昧で、苦痛だった。
ただ、微睡むように静寂の中にたゆたっていたかった。
再び目を閉じようとする春夏。

『死んでいく』

声は、はっきりと春夏の耳に届いていた。
ぴくりと小さく、本当に小さく、春夏が首を振る。
放っておいてくれという、それは意思表示だった。

『沢山のものが、死んでいく』

声は、止まない。
耳を塞ぐのも労苦に感じて、春夏は静かに目を閉じた。

『生まれるよりも早く死んでいく』

抱えた膝の間に、より深く頭を埋めた。
聞きたくなかった。

46363番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:43:43 ID:W2QwV58E0
『生き終わる瞬間は、唐突に訪れる』

春夏の眉根が寄せられた。

『誰にもそれは止められない』

春夏の奥歯が、小さく鳴った。

『戻らず、戻れず、ただ押し流されるように生き終わる』

爪が、掌に食い込んで血を滲ませた。

『望むと望まざるとにかかわらず』

呼気が、小さな音を立てる。

『それは永劫続く、定命のさだめ』

……て、

『生まれ、生き、生き終わる』

……めて。

『誰の上にも訪れる、それは―――』
「やめてッ!」

叫ぶような、声が出た。

「もうやめて、カミュ! いったい何のつも……」

跳ねるように顔を上げた、その視界。

「……ここ、は……?」

つい先程まで春夏を包んでいたはずの暗闇は、どこにもなかった。
代わりにそこにあったのは、どこまでも冴え冴えと広がる蒼穹。
燦々と照りつける陽射し。風にそよぐ深緑の梢と大地の朱。

『はじめまして、契約者』

そして、その背に黒翼を戴く、一人の少女だった。


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