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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

418姉と弟:2007/02/11(日) 18:59:20 ID:nlusYtBc





――雄二は見た。
環の手にした包丁は正確に雄二の胸を貫こうとし――そしてその寸前で、動きを止めたのだ。
包丁が雄二の体を捉える事は無くて。雄二の手に確かな手応えが伝わり。環は右肩を強打され、地面に力なく倒れこんだ。
仰向けに倒れている環の目に以前のような殺気は無く、それどころか涙すら溢れている。
雄二の脳裏に浮かぶのは、勝利の喜びではなく、疑問のみだった。
「あ、姉貴――?」
理解出来なかった。何故あのまま包丁を振り切らなかったのか。そうすれば負けていたのは自分だった。
環は自分を殺せた筈だ。確実に殺せた筈なのに――
「な、何でだよ姉貴っ!どうして俺を刺さなかったんだよっ!」
「……ただ思っただけよ。このまま包丁を振り切れば雄二は死んでしまう、って。そして――そんなの嫌だ、って」
「――は?」
「私はね、あんたを弟として、愛してるわ――。だから、覚悟を決めたつもりでも、あんたを殺す事なんて出来なかった。それだけの話よ……」
環は、とても落ち着いた声でそう口にしていた。それは雄二にとっても大事な存在だった、向坂環の姿だ。
乱暴で、我侭で、容赦が無くて――でも、本当はとても優しかった、自慢の姉の姿だ。
「あんたの勝ちよ……私を殺しなさい。あんたを説得するのが無理だって事は分かったわ。
それでも雄二は私の大事な弟だから……絶対に、生き延びなさい」
もう堪える事など出来ない。環は涙を流しながら、姉として、弟に向けて語りかける。
雄二はその姿を見て、自分の胸に何か熱いモノがこみ上げるのを感じた。そう、失いかけていた感情だ。

だが、それを認める訳にはいかない。それを認めたらもう人を殺せなくなってしまう。
だったら今までの自分の行動は何だったのだ?人を殺し、少女を強姦し、挙句の果てには実の姉にまで手を上げて。
それらの行為が全て間違いだったとすれば、自分はもう取り返しのつかない罪を犯し過ぎている。
今更正気に戻る事など許されない。狂気に身を任せ、ゲームに優勝するしか道は残されていない。

419姉と弟:2007/02/11(日) 19:01:07 ID:nlusYtBc




「わあああああああああああああああああっっ!」
錯乱した雄二は環の頭部に向けて、咆哮と共にバットを振り下ろそうとした。迫る死を、環は目を閉じずに眺め続けた。
少しでも長い間、弟の姿を見ていたかったから。
だが――銃声が聞こえた。既に何度も銃声は聞いていたが、今回のは一際大きく感じられた。
そして雄二の右腕が、弾け跳び、血飛沫が環の顔に降りかかった。
「ぐあぁぁぁっ!」
雄二は肘から先が消滅した腕を押さえて、うずくまった。
「――掠らせるだけのつもりだったんだが……。使った事が無いだけあって、このタイプの銃は扱いが難しいな」
声が聞こえ、雄二が顔を後ろへ振り向けた。その視線を環も追い掛け――

爆発の影響で、まるで空爆が行なわれた後のような荒廃した地に、長身の男が立っていた。
眼鏡をかけ、カッターシャツを着込んだ、一見真面目そうに見える格好。
それとは逆に、とても鋭い――ぎらぎらとした猛獣のような目。
その男は、柳川祐也と呼ばれている男だった。爆発音を聞きつけた彼は、一目散に駆けつけてきたのだ。
雄二に向けてイングラムを深く構えて、柳川は言葉を続ける。
「問い質す暇は無かったので撃たせて貰った。貴様がゲームに乗る気が無いのなら、それ以上の抵抗は止めておけ」
威圧するような声、冷酷な瞳――この男は、決して容赦しない。環にはそれが分かった。
口振りからしてゲームには乗っていないようだが、マーダー相手ならば顔色一つ変えずに殺してのけるだろう。
だが完全な錯乱状態に陥っている雄二に、そのような事を考える余裕がある筈も無い。
「てめえ!よくも俺の腕をーっ!!」
雄二は無事な左腕でバットを拾い上げると、柳川に向かって走り出した。
柳川の手にしたイングラムが火を吹き、雄二の直ぐ前の地面を跳ね上げる。
「止まれ――止まらないのなら、貴様を殺す」
明らかな威嚇、そして死刑宣告。それでも雄二は止まらない。
「うるせえ、うるせえっ!俺は姉貴にも勝ったんだ!俺は誰にも負けねえんだっ!」
「やめて……雄二、もうやめてぇぇぇぇっ!!」
環の悲鳴とほぼ同時。雄二を捉える柳川の瞳に、一瞬だけ憂いの色が混じった。
そしてイングラムがもう一度火を吹き、そこから放たれた銃弾の群れが雄二の体を貫いた。
腹に、胸に、足に。一発一発が十分過ぎる殺傷力を秘めた弾丸が、雄二の体を破壊してゆく。
弾を撃ち込まれる度に雄二の体が後ろに跳ね飛ばされる。それでも雄二の足は前進を続けようとし。
柳川が掃射を止めると、雄二の体は前のめりに地面に倒れこみ、その時にはもう雄二は死んでいた。

420姉と弟:2007/02/11(日) 19:02:40 ID:nlusYtBc


「ゆ、雄二ぃぃっ!!」
環が起き上がって、雄二に走り寄る。そして、雄二の体を抱き起こし、その顔を眺めた。
雄二の死に顔は、彼の狂気をそのまま表していた。血走った目は見開かれたままだった。
その顔にかつての雄二の面影は無いが――それでも今環が抱いている体は、間違いなく弟のものなのだ。
「生き延びろって言ったのに……どうしてあんな事したの……?」
雄二の体はまだ温かい。だが、死んでいるという事は確かめるまでも無かった。
環の目から止め処も無く涙が溢れ出す。
「あんた昔からそうよ……。人の言う事を聞かなくて……勝手な事ばかりして……。あんた馬鹿……本当に馬鹿よ……!」
環は雄二の死体に縋り付いて、この島に来てもう何度目かになる涙を流し続けた。





「はぁ、はぁ……」
爆発音が聞こえた後、柳川は一人でその音がした方向へ走って行ってしまった。
そのペースは凄まじく、二人にはとてもついて行けなかった。ようやく現場に辿り着いた時には、もう戦いは終わっていた。
そこには死体に縋り付いて泣いている女性と、それを顔を僅かに歪めながら眺める、柳川の姿があった。
辺りを見渡すと、もう一つ、別の死体――まだ佐祐理達はその正体を知らないのだが、藤田浩之の幼馴染。
赤い髪の少女、神岸あかりの死体も転がっている。
銃弾で、爆発で、蹂躙された土地は荒れ果てており、正しく地獄と呼ぶに相応しい様相を呈していた。

421姉と弟:2007/02/11(日) 19:04:25 ID:nlusYtBc

【時間:2日目16:10頃】
【場所:I−6】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

柳川祐也
【所持品:イングラムM10(18/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:困惑、左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
【目的:環が落ち着いてから現状の把握】

倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:困惑】
【目的:同上】

七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:困惑】
【目的:目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

向坂環
【所持品①:包丁、支給品一式】
【所持品②:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:号泣。頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み、左肩に包丁による切り傷、右肩骨折、疲労困憊】

長瀬祐介
【所持品1:100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:気絶、後頭部にダメージ。有紀寧への激しい憎悪、全身に痛み】

向坂雄二
【状態:死亡】

神岸あかり
【状態:死亡】

【備考】
・柳川の射撃精度は、マシンガン系の武器だと低下します
・金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式×2、包丁、レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、ロープ(少し太めは地面に放置

→691
→695
→696
→697

422ため息:2007/02/13(火) 11:41:56 ID:an3MsS0g
診療所に戻ってきた三人は、那須宗一の勧めに従って佳乃と渚がまず休憩を取ることにした。
最初渚は宗一一人で見張りをすることに消極的だったが佳乃が「しっかり休んでおかないと宗一くんの足手まといになっちゃうから、ね?」と諭したのでようやく渚も納得してもといた部屋で休憩することにしたのだった。
「ふぅ…」
二人が部屋の中に入り、一人になった宗一は秋生(渚の父親だという人。むちゃくちゃ若かった)と早苗(渚の母親だ。この人もむちゃくちゃ若かった)のデイパックに残っていたものを取り出し、整理を始めた。
「…S&W M29、か。弾丸は入ってない…デイパックには…何だ、あるじゃないか。悪いが、こいつは借りてくぜ。何しろトムキャットをあげちまったからな」
デイパックの中にあった予備弾を詰め直し、構えてみる。異常は…無さそうだった。秋生は手荒く扱っていなかったようで安心する。
「しかし、コイツは俺の趣味じゃないな…皐月あたりなら喜びそうだが。ま、やっぱ俺はオートマの方がいい」
最も、皐月が愛用しているのはM36、通称チーフスペシャルだったが。
机の上にM29を置くと、今度は食料を並べ始める。流石に五人分もあるだけあって量も相当多い。おにぎりなんかと合わせると丸三日は持ちそうだった。
「残りはおいてくか…地図やコンパスは数あってもあまり意味がないからな」
荷物は極力最小限に。サバイバルにおける基本だ。
「さて…」
近場にあった椅子に座り直しこれからどうするか、を考える。
正直な所、現状では知らない事が多過ぎる。情報が無ければ身動きがとれないのである。
情報収集はエディの役目なのだが…まったく、今頃になってエディの偉大さが身に染みて分かった。
(ともかく、まずは首輪だ)
盗聴されているのは間違い無いだろう。レーダーだけでは参加者の動きを完全に把握できないからだ。カメラがあるかとも思ったが鏡などで確認してみてもCCDカメラらしきものも見当たらない。これは単純に機能の限界だろう。
となれば、下手なことを口に出さない限りはこっちが爆破される恐れは無い。しばらく、脱出云々は伏せて、仲間集めに奔走したほうがいいかもしれない。

423ため息:2007/02/13(火) 11:42:32 ID:an3MsS0g
佳乃の姉貴にも合わせてやりたいしな。
古河…だったか、彼女の方に関してはもうどうすることもできない。しかし両親が目の前で殺されたというのはあまりにも酷い事柄だ。
果たして古河の精神状態はどうなっているのか。
普通の人間なら錯乱するか、発狂しているか、あるいは現実逃避に走るか――そうなるのが常というものであるが古河にその兆項は見られない。
彼女の話し振りからして親と仲が悪かったというわけでもないのに。
「強い…んだろうな、彼女は」
両親を目の前で殺されてもなお殺人を否定した。それは自分とは違う次元での強さだ。自分が、一生追い求めても得られないもの。
…だが、彼女の強さは本格的な戦闘では役に立たない。どんなに言葉を交わしても決して分かり合えないというものも存在するのだ。自分と、醍醐のように。
(それでも、古河は戦わないことを選ぶんだろうな)
撃たれても、あるいはもっと大切な人を殺されても、だ。
(ま、それはそれでいいさ。そういう奴こそ、俺が守らなくちゃいけないんだ)
「宗一くん…入っていいかな?」
遠慮がちに、ドア越しにかけられる声。誰かと警戒しかけたが、すぐに佳乃のものであることに気付く。
「何だ、まだ寝てなかったのか? 夜更かしは健康に悪いぞ」
「ごめん、どうしても寝られなかったから…」
声色が、あまり良くない。冗談を言っている場合ではなさそうだ。
「いいぜ。眠たくなるまでお喋りしちゃる」
ありがとう、という声が聞こえて佳乃がゆっくりと入ってきた。あはは、と顔は笑っているが泥や煤、血糊で汚れているせいでとてもじゃないが可愛くは見えない(クソ、シャワーくらい完備しとけってんだ)。

424ため息:2007/02/13(火) 11:43:12 ID:an3MsS0g
「宗一くんは眠たくないの?」
「俺はいつでも眠りたいときに眠れるんだ」
「ふ〜ん、便利な体なんだね。羨ましいなぁ。ね、じゃあ一時間おきに寝たり起きたりできるの?」
「ああ、勿論だ。何なら今ここで実演してやろうか?」
「ウソばっかり〜」
今度はさっきよりいい笑顔だった。…けど、ウソじゃないんだけどなあ。職業柄、どこでも寝られるようにしている。
「…そうだ、古河はどうなんだ? あいつは眠っているのか」
渚の名前を口に出すと、佳乃はばつの悪そうな顔をしたが、しかしはっきりと言った。
「寝てるよ。でも…泣いてた。泣き疲れて…寝ちゃったみたいだけど…やっぱり、ものすごく辛いんだね、きっと」
「…そうか」
やはり渚は強い人間だった。人前では決して涙を見せずに…むしろこちらを宥めてくれたりもした。
「…けど、少しくらいこっちに寄りかかってもいいのにな。一人で抱え込むには…大き過ぎるんだ、これは」
「そうだね…」
そのまま二人の間に沈黙が流れる。気まずい空気になっていた。宗一はそんな空気を少しでも変えようと、佳乃にM29を手渡す。
「持っとけ。古河の親父さんが持ってたやつだ。古河は…たとえどんな状況でも人を撃てるような子じゃない。ああいや、佳乃が人をバンバン撃つような危ない奴って言ってるわけじゃないんだが…
まあ、その、なんだ。こいつで、自分の身や古河を守ってやってくれ」
佳乃の手に乗っているM29は、その手に余るくらい大きいものに見えた。
「でも…これは、人を殺す道具…だよ?」
「…佳乃や古河の命を守る道具だ」
もう一度、M29を握らせる。非情な行為だった。最低の人間だな、と宗一は思う。女性に鉄砲持たせるなんざ紳士のすることじゃないのに。
「…持っとくよ」
目にはまだ殺人の道具を持つ事への不安の色が見えていたが、それでもしっかりと自分でM29を握る。

425ため息:2007/02/13(火) 11:44:07 ID:an3MsS0g
「ま、佳乃が撃つような自体にはそうそうならないから安心しろ。なんたって俺は」
「世界No.1エージェント、NASTYBOY、でしょ?」
「そういうことだ」
今度こそ、佳乃が心からの笑みを漏らした。未だに信じられないけどー、という余計な一言もついてきたが。
「やかましい。それより、もうお喋りは終わり終わり。さっさと寝ろ」
「はぁい」
「…適当に時間が経ったら起こすからな」
「うん、分かったよ。でも渚ちゃんは…」
「ああ、寝かせておくよ」
佳乃が部屋に戻った後、再び宗一はため息をついた。こんなにのんびりしてていいものか。リサあたりなら既に何回かドンパチやってそうなのにな…
ま、この際地味屋になっておくのも、今はいいか。そうだろ、ゆかり?
もう二度と出会う事が出来なくなってしまった友人を思いながら、宗一はもう一回だけ、ため息をついた。

【時間:午後11時30分】
【場所:I-07】

霧島佳乃
【持ち物:S&W M29 6/6】
【状態:睡眠中】

古河渚
【持ち物:なし】
【状態:睡眠中】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、おにぎりなど食料品】
【状態:健康。渚と佳乃を守る】

【その他:食料以外の支給品は全て診療室に置いてある、ハリセンは放置】  →B-10

426狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:15:25 ID:k7wfzhVc

正面から、少女が駆けてくる。その姿はまるで疾風のよう。
だけど、私は風を恐れない。
手にした拳銃を少女に向けると、引き金を絞る。

躊躇はなかった。
少女の殺意は明確で、ひどく鋭角な、それは奪うという意思だった。
隆山では毎日のように向けられていた、殺意。
来栖川の差し向ける刺客は山といて、年齢も性別も扱う道具もバラバラだったけれど、
私たち姉妹を殺すという一点においてのみ、共通していた。
その全員が死に、内の何人かは私が殺した。

銃を扱ったことはなかった。面倒だったからだ。
私たち姉妹に限って言えば、そんなものに頼る必要など、ありはしなかった。
だが今、私は少女を殺すために、銃を撃つことにした。それがルールだと、思った。

人間は銃で撃たれれば死ぬ。
否、最も効率よく人を殺すための方法論が突き詰められたのが、銃というものだった。
だから無数の人間が殺し殺される、下らない戯れの中では、人は銃によって死ぬのが相応しいと、
ただそう思ったのだった。

―――しかし。

「―――!?」

私は眼前の光景に驚愕していた。
疾風の少女は、銃弾に屈することはなかったのだ。
肩に担いだ猟銃を何気なく振り回した、ただそれだけのように、見えた。
そして、ただそれだけの動作で、私の放った銃弾は正確に叩き落されていた。

「そんな”ドーグ”で……湯浅さんが止められるッ!?」

嬉しそうに笑いながら、叫んでいた。加速する。
あり得ないと、そう思う。
私たちの一族ならばともかく、常人に銃弾を見切り、ましてそれを迎撃するなど、不可能だった。

427狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:15:58 ID:k7wfzhVc
「眠たい真似……してんじゃないよっ!」

不可能が、爛々と目を輝かせて迫っていた。
眼下、死角から、猟銃が振り上げられる。思考に硬直していた私は、反応が一瞬遅れた。
衝撃。
かち上げられた猟銃が、私の手を直撃していた。
激痛と共に、掌中の拳銃が天高く跳ね上げられる。
顎への直撃は、かろうじて避けていた。
唸りを上げる猟銃が前髪を弾く、ち、という音が耳を打つ。

身体が重い。重心移動が遅い。手足の統制が取れていない。
それらをまとめ上げるべき頭脳はいまだ第二撃を予測しきれずにいる。
振り上げた猟銃を返す刀で落としてくるのか、それとも勢いを殺さずにもう一度下からか。
どちらだ。思考を認識できる段階で、遅きに失している。
切り替えが鈍い。
あり得ないというノイズが、戦闘本能の枷になっている。
そんなことだから、

「……が……っ!」

神速をもって跳ね上げられた少女の脚を、かわすこともできない。
視界に閃光が散る。
猟銃をかわしてのけぞった、その姿勢の戻りを正確に狙われた。
顎が、抵抗もできず天を向く。回復しつつある視界が、少女の靴先だけを捉えていた。
仰向けに倒れることは避けようと、後傾の姿勢をなおも強引に引き戻そうとする。
そしてそれが、更なる悪手だった。
瞬間、右腹部、肝臓の部分に、追撃が入っていた。
が、とも、げ、ともつかない無様な声を漏らしながら、私は吹き飛ばされていた。

吹き飛ばされながら、私は苦笑する。
何をしているのだろう。
人間相手に、こうも一方的に連打を浴びて。
咥内には、鉄の臭いと胃液の味が充満していた。
歯も、欠けているかもしれない。

428狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:16:37 ID:k7wfzhVc
す、と血が冷めていくのを感じる。
―――いつまで、人間を相手にしているつもりでいるのか。

ただの棒切れ一本で、エルクゥである自分に傷をつける者が、人間だと。
鬼の眼に見切れぬ蹴りを放つ存在が、常人の域に留まっているなどと。
―――私は何を、寝ぼけている。

じわり、と脳が熱くなる。
刃の上を裸足で歩くような、眼球を針で擦るような、そんな、思わず笑い出したくなるような、悦楽。
人と交わって生きる上では不要な、感覚。

右手の爪が、伸びていく。
黒く染まった指から伸びる、真紅の爪。
人を殺すための武器ではなく、ヒトを狩るための、凶器。
鬼としての自分が、ようやく陽のあたる場所に出られたと、快哉を叫んでいた。
いま鏡を覗けば、紅の瞳孔を煌かせる私は、さぞ化け物じみているだろう。

文字通りと飛ぶように流れていた視界が、急に緩やかになったように感じられる。
どろりと濁った空気の中で、私は手近な民家の塀に、手を差し入れた。
ブロック塀が豆腐のように崩れるが、気にしない。
そうして制動をかけると、空中で軽く身体を丸めて体勢を立て直す。

そのまま足を伸ばせば。
私はコンクリート製の電信柱に、音もなく「着地」していた。
重力が私を絡め取るよりも早く、地面と平行の視線が、少女を捉える。
この瞬間より、少女は私の敵から、獲物へと成り下がった。
撓めた足に、必殺の意思を込める。

―――もう、時間は私に追いつけない。

足場とした電信柱が、背後で折れ砕ける。
その音をすら追い抜くように、飛ぶ。
絶対の速度、それこそが私、柏木の三女、楓の狩り。

429狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:17:49 ID:k7wfzhVc
速さという概念の限界をもって、少女に迫る。
目を見開く暇すら与えず、裂く。
右の手が、閃いた。

「―――」

着地。
学校指定の革靴の底が、煙を上げた。

私は憮然とした表情で、自らの右手を見る。
少女の首筋を掻き切るはずの爪。
その爪を宿した人差し指は、第二関節から手の甲の側に反り返っていた。

脳裏に甦ったのは、拳銃を跳ね上げられたときに感じた衝撃だった。
トリガーにかかったままの人差し指は、あの瞬間に折れていたらしい。
鬼の血の影響で、痛覚が鈍っていたのが災いした。
あれから実時間にして、数秒。治癒もまだ間に合わなかった。

「……命拾い、しましたね」

言いながら、振り向く。
我ながら、空々しい言葉だった。
命拾いなどと言ってみても、ほんの数十秒の話だった。
人差し指こそ届かなかったが、他の爪の手応えはあったのだ。
滴る鮮血が、与えた傷の深さを物語っていた。

だが、

「……っ……」

皮を裂かれ、肉を抉られた苦痛にのたうっているはずの、少女は。

「……っはは……っ」

絶望と、眼前に迫る死に怯えているはずの獲物は。

「……はははっ……はっははははは……っ!」

私に背を向けたまま、大笑していた。
痛みに狂ったかと考え、すぐに思い直す。
―――これは、そんなものではない。

430狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:18:45 ID:k7wfzhVc
少女の笑いは、心からの悦びに満ち溢れた、それだった。
嬉しくて仕方がないというような、思わずそれが零れてしまったかのような、笑い声。
震える肩に合わせて、少女の外套に大書された『狂風烈波』の四文字が揺れている。
その異様に、私は思わず身構えてしまう。

「……ははは……はははははっ……、―――ねえ、あんた」

笑い声が、やんだ。
異様が、ゆっくりと振り返る。

まず見えたのは、血塗れの顔面だった。
少女の右眼、そのすぐ上から斜めに一直線、耳の下辺りまでがざっくりと裂けていた。
紛れもなく、私の親指の爪がつけた傷だった。
傷口からはじくじくと血が流れ出している。
見開かれたままの目にも鮮血が流れ込んでいるが、少女は瞬き一つしない。

完全に私へと向き直った少女を見て、私は、己の手応えが正しかったことを確認する。
少女の肩口から、ほぼ平行に三本。
日本刀で袈裟懸けに斬られたような傷が、開いていた。
特攻服というのだろうか、裾の長い派手な外套の、千切れた襟元から覗く傷は、決して浅くない。
下に着込んでいたらしい学校の制服も下着ごと裂け、血塗れの乳房が露になっていた。
肋骨の最下段にまで達しようかという傷からとめどなく鮮血を流しながら、少女は立っている。
そして、あろうことか。

「―――やってくれるじゃない」

それでも少女は、笑んでいたのである。
ひどく現実離れした、その鮮血の笑みを前に、私は。

―――ああ、この少女はどこか、梓姉さんに似ている、と。

そんなことを、思った。

431狂風烈波の名にし負う:2007/02/14(水) 04:19:19 ID:k7wfzhVc

【時間:2日目午前10時】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】

柏木楓
【所持品:バルキリースカート(それとなく意思がある)・支給品一式】
【状態:武装錬金】

湯浅皐月
【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、ベネリ M3(残弾0)、支給品一式】
【状態:大出血】

→684 ルートD-2

432case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:17:28 ID:RiqHGaA2

「はぁぁ……まったくもう、あんたたちと来た日には……」

盛大に嘆息する七瀬留美の前には、二人のヘタレが正座させられている。
言わずと知れた、藤井冬弥と鳴海孝之だった。
全身泥まみれの上に細かい傷だらけなのは、数キロの距離を引きずられたためである。
大の男二人を引きずりまわした張本人はといえば、息を乱すこともなく説教を続けていた。

「いい? あんたたち、冗談抜きで死ぬとこだったのよ?」
「実際一人死んでるんだけど……」
「だ・か・らっ!」

七瀬がすごんでみせると、二人はたちまち萎縮する。

「状況も相手の強さも見ずに喧嘩売って、挙句腰が抜けて逃げられないって……」
「はぁ……」
「勇気と無謀の区別をつけなさい! っていうかそれ以前の問題!」
「お恥ずかしい限りです……」
「―――と、いうわけで」

び、と七瀬があらぬ方向を指差した。
素直にそちらを向いた二人が見たのは遥か遠く、昼なお暗い森の中で怪しく輝く、一人の男の姿だった。
距離にして数十メートル。何事かを呟きながら、辺りを見回している。

「……あれが今回の目標よ。乗り越えてきなさい」
「いやいやいやいや」
「何か問題でも?」

同時に首と手を振って拒否の意思を示した冬弥と孝之が、七瀬の視線に射すくめられながらも
懸命に抗弁しようとする。

433case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:18:02 ID:RiqHGaA2
「問題というか、あのね七瀬さん……」
「教官と呼びなさいっ!」
「はいっ」

反射的に背筋を伸ばしてしまう二人。
何だかんだ言いつつ、調教の成果は出ているようだった。

「そ、それでは、教官!」
「何?」
「いや、あれ……」

と、冬弥が件の男を顎で示しながら、

「なんか、オーラみたいなの出てるんですけど……」

言う。事実であった。
男の全身からは、何やら乳白色の光がゆらゆらと立ち昇っている。
炎のようにも、湯気のようにも見えるそれを遠目に見ながら、孝之が言う。

「俺、昔ああいうの観たことあるよ……マンガとかアニメとかで」
「俺も同じこと考えてた……絶対ヤバいって」

目を見合わせて頷きあう二人を見下ろす七瀬の言葉は、明快だった。

「―――で?」

鬼面の眼光が、二人に選択権など存在しないことを示していた。


******


芳野祐介ことU-SUKEは、有り体に言って道に迷っていた。

「……まだ、上手く加減できんな」

これがブランクというものか、と自らの肉体を見下ろして眉をひそめるU-SUKE。
確かに肉体強度そのものはかつての自分を大きく凌駕している。
しかし、その超強化がU-SUKEをして苦しませる結果となっていた。

軽く小突いただけで大木を薙ぎ倒す腕力に、踏みしめた大地にクレーターを作る脚力。
普通に歩こうとするだけで、万力で生卵を掴むような苦労を強いられていた。
気を抜くと、瞬く間に数キロの距離を移動してしまう。
あまりにも急激な変化に、いまだその圧倒的な身体能力を制御しきれずにいるのだった。

434case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:18:29 ID:RiqHGaA2
「U-1の気を追っていたつもりだが……これでは、いつになったら辿りつけるやら……」

憂鬱そうにひとりごちたそのとき、U-SUKEの鋭敏な感覚が妙な気を捉えていた。
小さすぎて今の今まで気がつかなかったが、気の持ち主は二人。
どうやら自分に向かってきているらしい。

「まったく、雑魚の相手などしている暇はないというのに……」

常人からすればほとんど瞬間移動に近いその移動速度をもってすれば回避は容易だったが、
逃げたように思われるのも癪な話だった。
のろのろと近づいてくる二人組を、ただひたすらに待つ。

(あれで走っているつもりなのか……退屈しのぎにもなりそうにないな)

果たして、茂みの向こうから現れたのは、いかにも頼りなげな青年たちだった。
姿を見せたというのに、何やら額をつき合わせて小声でやり取りしている。

「お、おい」
「な……何だ、打ち合わせ通りやれよ」
「やっぱりヤバいって……逃げようぜ」
「バカ、そんなことしたら七瀬さんに殺されるぞ」
「だよなぁ……」

その姿を見るや、U-SUKEはため息をついて首を振る。
相手にするに値しない、と確信したのだった。
だが、その仕草をどう取ったのか、腰の引けていた青年たちが俄かに勢いづく。

「お、おい……奴さん、ビビってるぞ」
「もしかしてあのオーラ、こけおどしか……?」
「よし、そうとわかれば……!」

青年たち、胸を張って口を開いた。

「おい、そこのお前!」
「……」

超知覚で会話を聞いていたU-SUKE、呆れ果てて返事をする気にもなれない。

「お前、おとなしく俺たちにぶっ飛ばされろ」
「……」
「どうした、ビビって声も出ないか」
「おい、こいつ真剣ヘタレだぜ……」
「ああ……こんなヘタレ野郎、見たことないな」

頷きあう青年たち。
U-SUKEの表情が次第に硬くなっていくのにも気がつかない。

435case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:19:19 ID:RiqHGaA2
「―――おい、貴様ら」

だから、その氷点下の声音が誰の発したものか、青年たちが理解するまでに数秒を要した。

「…………へ?」
「Uの」
「……ゆうの?」
「Uの称号を持つ者に喧嘩を売る……、それがどういう意味だか、分かっているのか?」

鷹の如き視線が、青年たちを射抜いていた。
どうやら様子がおかしいと気づいたらしく、青年たちの顔色が見る間に青ざめていく。
だが、既に遅かった。

「……ああ、いい。貴様らに答えられるとは思っていないさ」

す、と目を細めるや、だらりと下げていた右手を小さく打ち振るU-SUKE。
軽く手首のスナップを利かせた、ただそれだけの動作に見えた。

「……何だ? は、ははは、やっぱりこけおどし―――」

青年の言葉が終わる、その直前。
ぴしり、と小さな音が響いた。
奇妙なその音に、青年が怪訝そうな顔をして音の出所に目をやる。
近くに立つ樹木の、表皮。
重ねた年月を誇示するかのようなその外皮に、小さな皹が入っていた。

「え? ……う、うわあぁっ!?」

刹那。
轟音と共に、青年たちの傍らに立っていた大木の数本が、倒れた。
そのすべてが、U-SUKEの拳圧によって一瞬の内に極太の幹を砕かれたのだった。
顔色一つ変えず、静かに口を開くU-SUKE。

「……前置きは充分だ。かかってこい」
「え、い、いや、あの、その……」

今や隠しようもなくガタガタと震えだした青年たちに、U-SUKEは微笑む。

436case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:19:43 ID:RiqHGaA2
「安心しろ。貴様ら如きに本気を出したりするものか」
「ひ、ひぃぃ……」
「ハンデをやろう。……俺はここから一歩も動かん。そして、」

言葉を区切り、右の小指を立ててみせるU-SUKE。

「この指一本だけで戦うと、誓おう」

U-SUKE、にやりと笑ってみせる。
対する青年たちはといえば、その言葉に少しだけ気を取り直したのか、互いに頷き合って身構えた。

「よし……行くぞ!」
「おう!」
「朝霧達哉くん……君に決めたッ!」

言いざま、腰につけたボールを投げる青年。
どんな攻撃を見せてもらえるのかと、思わず口の端を上げるU-SUKEの前に、

「え!? ……今の流れで俺が行くの!? ちょっとおかしくない、それ?」

またもや、頼りなげな青年が立っていた。

「……」

とりあえず頭痛がしてきたので、こめかみを揉んでみるU-SUKE。
新たに現れた青年は、どうやら最初の二人に何やら抗議しているようだった。

「どう考えたってお前らが自分で突っ込む流れだろ!?」
「いやだって俺、ヘタレトレーナーだし……」
「じゃ鳴海、お前が行けよ!」
「俺は真打ちだからな。最後に出ると決まってるだろ」
「うわ汚え!」

一向に攻撃をしてくる気配がない。
段々、待つのが面倒になってきた。

「大体、何で俺なんだよ!? 白銀とか衛宮、鍋島さんなんかの方がよっぽど戦闘向きだろうが!」
「最初はやっぱり様子見がセオリーだろうと思って」
「あ、やっぱり捨て駒扱いかよ!」

ぐ、と伸びをしたU-SUKEが、そのまま腕を振り下ろす。
音速を超過したその動作に、大気が裂けた。衝撃波はそのまま疾り、

「それなら鳩羽だってぱべらっ」

新たに現れた青年を、両断した。

437case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:20:10 ID:RiqHGaA2
「「うわああっ!?」」

飛び散る血と肉に、青年たちが悲鳴を上げて飛び退く。
そんな姿を見て軽くため息をつくと、U-SUKEは心底つまらなそうな顔で言う。

「なあ、俺だってそう暇じゃないんだ。やるなら早くしてくれないか」
「き……、」

失禁すらしかねない顔色のまま、青年が何かを言いかける。
震えて歯の根が合っておらず、なかなか言葉にならない。

「き?」
「……き、……汚いぞ!」

ようやく放った一言が、それであった。
怪訝そうな顔をするU-SUKE。

「汚い……? 戦いはもう始まっているというのに、いつまでも下らん言い争いをしている方が悪いだろう」
「そ、そうじゃないっ! お、お前さっき、小指だけを使うって言っただろうが!」
「……?」

意味が分からない、という顔で首を捻るU-SUKE。

「そ、それが何だ、今のは! 離れたところから真っ二つなんて、は、話が違うじゃないか!」
「……ああ」

U-SUKEが、ようやく合点がいった、と頷く。

「何かと思えば。俺は約束を違えたつもりはないぞ?」
「う、嘘をつけっ!」
「何が嘘なものか」

言うや、目にも留まらぬ速さで腕を振るうU-SUKE。
一陣の風が舞った。
寸刻遅れて、近くの木々がへし折れる。

「ひ……!」
「……お前たちが言っているのは、これのことだろう?」
「そ、そうだ! それのどこが小指だけだっていうんだ!」

半分涙目になりながら、必死で食い下がる青年たち。
内心で頭を抱えながら、U-SUKEは振ってみせたばかりの腕を、二人に見えるように差し出す。

「……?」
「よく見ろ」

二人の視線が、U-SUKEの腕を舐め回すように這う。

438case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:20:30 ID:RiqHGaA2
「……小指だけ、立ってるだろうが」

途端、庭先を歩く通行人に吼える犬のように、青年たちが抗議の声を上げた。

「そ、それがどうしたっていうんだ!?」
「俺たちを誤魔化そうったって、そうはいかないぞ!」
「……だから、今のは小指で作った衝撃波だ」
「何だと!?」
「小指の先だけで大気を切り裂いた。……何か文句があるのか?」

うんざりしたようなU-SUKEの声。

「ぐ、ぐぬぬ……」
「……今度は、お前たちがその身で味わってみろ」

何気ない仕草で、U-SUKEが再び腕を振り上げた。
怯えた顔つきで後じさりする二人。

「お、おい……!」
「く、くそ、こうなったら……!」

青年の一人が、決死の形相で腰を探る。
取り出したのは、三つのボール。

「衛宮士郎くん、白銀武くん、鍋島志朗くん……君たちに決めたッ!!」

それらをいっぺんに、投げた。
同時に、U-SUKEがその必殺の手を振り下ろす。

「―――!」

大気が断ち割れた。
きん、という可聴域を超えた高音が通り抜けた後、一瞬の静寂が訪れる。

439case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:21:12 ID:RiqHGaA2
静寂を打ち破ったのは、悲鳴に近い声だった。

「あ、ああ……」

否、それは紛れもなく悲鳴であった。
だらしなく口を開けたまま、青年が腰を落とす。

「そ……そんな……」

へたり込んだ青年の、すぐ眼前。

「俺たちの中で……最強の三人が……」

三人の体が、上半身と下半身で、綺麗に二つづつ。
計六つの断片となって、転がっていた。

「一瞬、で……、そんな……馬鹿な……」

呆然とする二人に向けて、U-SUKEが静かに口を開く。

「―――もう、奇術はおしまいか?」

それは、正しく死刑宣告に他ならなかった。
力なく座り込んだまま、目線だけを動かしてU-SUKEを見る青年たち。
その目には、既に反抗の意思は宿っていなかった。

「……そうか。ならば最期にUの力、目に焼き付けて死ぬがいい」

あくまでも淡々と、U-SUKEは言う。
ゆっくりと、その手が振り上げられていく。

「さらば―――」
「―――どぉぉぉぉぉっ、せぇぇぇいっっ!!」

響き渡ったのは、雄々しくも頼もしい、声だった。

440case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:22:03 ID:RiqHGaA2
背後で巨大な気が膨れ上がるのを感じ、肩越しに振り返ったU-SUKEの視界を、影が覆い尽くしていた。

「……む!?」

それは、ひと一人分ほどもある、巨大な岩石であった。
振り上げていたその腕を、咄嗟に岩石に向けて振るうU-SUKE。
U-SUKEを叩き潰すかに見えた岩石は、しかしその眼前でいとも容易く砕け散った。
轟音と共に、破片が周囲に撒き散らされていく。
土埃が収まるのを待って、U-SUKEはゆっくりと辺りを見回した。

「逃げた……か」

へたり込んでいたはずの青年たちの姿は、既になかった。
注意しなければ感知できないほどの小さな気が、瞬く間に遠ざかっていくのを感じる。

「逃げ足だけは大したものだな……」

苦笑するU-SUKE。
服についた埃を払い落とそうとして手を止めた。
下手に扱えば一張羅が襤褸切れに変わってしまう。

「わざわざ追うまでもない、か……。しかし……」

顔をしかめながら、U-SUKEは先程、背後から感じた気を思い返す。

「あれほどの気を、あの瞬間まで感知できなかったとはな……」

試しに集中してみても、周囲にそれらしい気配はない。

441case1:sir,yes sir!:2007/02/15(木) 23:22:24 ID:RiqHGaA2
「Uの域には遠く及ばんが……暇潰しくらいにはなったかもしれん」

惜しいな、と呟いたそのとき。
遠くで、小さな声が響いたような気がした。
それが、何故だかひどく胸をざわつかせる響きに聞こえて、U-SUKEは声のした方を見やる。
棘だらけの球体が心臓の中を転がるような、奇妙に痛痒い感覚。

「向こうには……たしか、学校があったか」

距離にして、おおよそ1キロ以上。
しかしU-SUKEの足であれば、そこに要する時間はゼロに等しかった。
U-1と相見える前に、力の加減を覚えるためのリハビリも必要だろう、とU-SUKEは己に言い聞かせる。
それがどうにも言い訳じみているとわかっていても、足は止まらなかった。



 【時間:2日目午前10時すぎ】
 【場所:E−6】

U−SUKE
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:ラブ&スパナ開放。超回復により五体満足。U−1を倒して最強を証明する】

七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:漢女】

藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん(死亡) 白銀武くん(死亡) 鳩羽一樹くん
     朝霧達哉くん(死亡) 鍋島志朗くん(死亡)】
 【状態:ヘタレ】

関連:369 664 D-2

442ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:03:08 ID:ZXj8yAgY

閃光は、突然だった。

その瞬間、林道を歩いていた天沢郁未は、曇天の空に突如として雷鳴が閃いたように感じていた。
青白い光が、刹那の内に彼女の視界を奪い去っていたのである。
至近に落雷したのだ、と郁未はぼんやりと考える。
しかし耳を劈く轟音はいつまで経っても鳴り響かない。
その代わりとでもいうように、彼女の右腕が、金切り声で悲鳴を上げていた。
白く染まった視界が、徐々に色彩を取り戻していく。
あまりにも突然の衝撃に、その意味をはかりかねていた郁未の脳細胞が、ようやくにして
己の仕事を思い出した。痛覚という信号が、一瞬にして彼女の全身を支配する。

「あ……ぐぅっ!?」

反射的に傷口を押さえた手が、ぬるりと滑る。
激痛と、鼻をつく鉄の臭いに、郁未の意識が遅ればせながら事態に追いついた。

「―――郁未さん!」

声と同時。
横っ飛びに地面を蹴って転がる。
声を上げた相棒、鹿沼葉子もまた即座にその場を飛び退いていた。
一瞬前まで二人のいた場所に、新たな閃光が奔っていた。
腕を押さえながら、転がった勢いを殺さずに立ち上がる郁未。
その眼光は既に命のやり取りをする者のそれへと変わっている。

「……葉子さん、ビンゴ?」

視線の先には、一人の少女が立っていた。
ひっつめ髪を二本のおさげにまとめた、小柄な少女だった。
実用的なデザインの眼鏡の奥にある瞳は、何の感情も浮かべていない。
能面のような無表情だった。

「……ええ、あの額の輝き……砧夕霧に、間違いないでしょう」

郁未の問いかけに答えた葉子の視線は少女、夕霧の額に吸い寄せられていた。

443ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:03:55 ID:ZXj8yAgY
それは、正しく奇怪だった。
少女の額は、恐ろしく縦に長かったのである。
眉から顎にかけての端正な顔立ち、そのパーツを収めた、いわゆる顔にあたる部分が、
二つはすっぽりと収まってしまいそうな、極端なバランス。
その巨大な額が、灰色の空の下でなお、ギラギラと輝いていた。

「あれが光学戰、完成躰―――なんて、醜い……」

吐き捨てるように言った葉子が、手にした鉈を握りなおす。
それを見た郁未もまた、背負った薙刀の刃を払う。

「……腕は、大丈夫ですか」
「ん、どうやらかすり傷で済んだみたい」

言いながら、郁未が右手を何度か開いては握る。
傷口は焦げ、化繊製の制服も傷の周囲で溶けて皮膚に張り付いていたが、筋肉や骨には
達していないようだった。

「おっけ、いける」
「……敵は光学兵器です。攻撃を見てからでは避けられません」
「それは、身に沁みて分かったわ」

郁未が苦笑してみせる。

「ですが、それは同時に攻撃範囲の制限を意味します」
「どういうこと?」
「光は直進することしかできません。そして―――」

葉子の視線が、夕霧の額を見据えている。

「あの構造では、おそらく額の正面にしか反射光を打ち出せないでしょう」
「さっすがデコの先輩、よく分かるじゃない。なら……」
「はい。敵の顔が向いている方には、決して遷移しない。それが、最も単純な対処法です」

承知とばかりに、郁未が頷く。
手にした薙刀の刃が、鈍く煌いた。

444ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:04:21 ID:ZXj8yAgY
「私も思いついたわ」
「一応、聞いておきましょうか」
「うわムカつく。……まあいいわ、相手がビーム反射板ってことは……」
「はい」
「同時にニ方向へは、攻撃できない。……でしょ?」

どうだ、という口調。

「……はい、よくできました」
「うわ何か倍付けでムカつく。……ふん、じゃそういうことで」

言うや、郁未が地面を蹴る。
葉子もまた、低い姿勢で駆け出していた。

「―――合わせなさいよ!」
「そちらこそ、遅れないように」

目線をかわすことすらなく、左右に分かれる二人。
じっと佇んでいた夕霧の無表情が、小さく揺れた。
間を置かず、その額から光線が放たれる。目標は郁未。

「―――二度も、同じ手を食うかっ!」

叫んだ郁未は、既に光線の着弾位置にはいない。
足を止めることなく、夕霧の脇を大きく迂回しながら背後に出ようとする動き。
それを追うように振り向こうとする夕霧の、死角となった逆側に。

「終わりです」

音もなく、鹿沼葉子が走り込んでいた。
手にした鉈が、閃く。

「―――っ―――」

けく、と小さく吐息を漏らすような音を立てて、砧夕霧の首が、飛んだ。
数瞬の後、とさりと地面に落ちる。

445ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:04:52 ID:ZXj8yAgY
「はい、一丁上がり!」

噴き出す血潮を器用に避けながら、郁未が小さくガッツポーズを決める。

「……綺麗な連携でしたね」
「うん、上出来。……にしてもさぁ」
「なんでしょう」
「決戦兵器なんていうわりには、案外あっけなかったわねえ」

斃れた夕霧の躯を見やりながら、郁未が唇をとがらせる。
不満げな顔だった。

「葉子さんが散々脅かすから、どんなヤバい敵かと思ったけど……」
「……」
「確かに攻撃はなかなかのもんだったけどさ、身体自体は一般人並みじゃない。動きも鈍いし」
「……何を、言っているのですか?」
「正面にさえ立たなきゃ、どうってこと―――え?」

瞬間。
郁未が、目を見開いた。
眼前で険しい表情をしていた葉子が、彼女を突き飛ばしていたのである。

「な……!」

何をするの、とは言えなかった。
思わず尻餅をついたそのすぐ目の前を、光条が一閃していた。
ぢ、と嫌な臭いが鼻をつく。郁未の前髪が焦げる臭いであった。

「―――何を、油断しているのですか」

郁未を突き飛ばした葉子は、林道を挟んだ反対側に立っていた。
その表情は些かも緩んでいない。
厳しい視線は郁未に向けられることなく、周囲を見回している。

「立ってください。死にますよ」
「え、あ―――」

446ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:05:20 ID:ZXj8yAgY
半ば無意識の内に、郁未が立ち上がる。
本能が鳴らす警鐘に、ようやく気づいていた。

「い、今のって……」
「説明したでしょう。私の知る限り、量産体は数体でユニットを組むのが基本だった筈です」
「相手は、一人じゃないってこと……?」
「はい。今の攻撃がその証拠です。砧夕霧は必ずまだ、近くにいる」

事ここに至って、郁未がようやく状況を把握する。
慌てて周囲に目をやった郁未が、すぐに声を上げた。

「……つったって、こう木が多くちゃ……」
「はい。わざわざ道に立っていてくれた先ほどとは違います。気を引き締めてください」
「遮蔽物が多いってことは、向こうのビームだって通りにくいってことでしょう……!」
「樹木を貫通するだけの威力が無いことを祈ってください」

葉子の険しい声に、郁未が眉を顰めて舌打ちする。
ざわ、と梢が鳴いた。
かさかさと落ち葉が立てる音、虫や小動物が下生えを横切る音、それらすべてが郁未たちを包んでいた。

「厄介ね……」
「いえ、私の考えている通りなら、あれらの真価はこんなものでは―――っ、郁未さん!」

息を呑むような葉子の声。
問い返そうとする郁未の言葉を、遮るかのように。

「―――上です!」

郁未がその背を預けていた大木、その樹上。
つられて視線を上げたその先に、冷たく輝く眼鏡があった。

「―――ッ!!」

意識するよりも早く、身体が動いていた。転がるように、飛んだ。
刹那、閃光が奔る。
前方へと身を投げ出すようにした郁未の、革靴の底が、閃光を浴びて欠けた。

447ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:05:43 ID:ZXj8yAgY
「せ―――あぁぁッ!」

裂帛の気合と共に、葉子が手の鉈を投擲する。
風を切り裂いて飛んだ鉈が、狙い違わず、閃光を放った直後の砧夕霧の額を割った。
転がる郁未と体を入れ替えるようにして、葉子が走る。
垂れ落ちる鮮血を気に留めることもなく、樹上から転がり落ちてくる夕霧の額から鉈を抜き放つと、
険しい声を上げる。

「郁未さん! まだいます! 足を止めないでください!」

声に打たれたように立ち上がった郁未が、舌打ちして走り出す。
葉子の言葉に誘われるように、小さな人影が梢の陰から覗いていた。
途端に奔る光条を、斜行してかわす郁未。

「そこかぁっ!」

下段に構えた薙刀を、掬い上げるように振るう。
長物を横向きに薙げない不利を背負うのが、林という地形であった。
しかし郁未は人影の隠れた樹の幹を削ぐように、絶妙の軌道で薙刀を操っていた。

「まずは―――ひとつっ!」

顔を引っ込めそこねた夕霧が、その眼鏡ごと頭部を両断される。
脳漿と鮮血が、盛大に跳ね上げられた。

「……葉子さんにばっかり、スコア稼がせてらんないからね。次っ! ……って」

振り返った郁未が見たのは、並び立つ二人の夕霧を、鉈と手刀で同時に断ち、貫く葉子の後ろ姿であった。
返り血を浴びながら、葉子が静かに振り返る。

「……何か、言いましたか?」
「……いえ、別に」

び、と鉈を振って血糊を払う葉子を、郁未は半眼で見やる。
そんな視線を気に留めることもなく、葉子が口を開いた。

448ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:06:17 ID:ZXj8yAgY
「今の戦いで、幾つか分かったことがありますね」
「……なに」
「……もしかして郁未さん、気づかなかったんですか」
「だから、なにを」
「木の上から郁未さんを狙った攻撃、最初に倒した一体のそれよりも威力が落ちていました」
「そんなの分かるわけないでしょ、逃げるのに必死だったんだから!」

噛み付かんばかりの郁未の形相を無視して、葉子が続ける。

「大声で主張することですか? ……話を続けてもよろしいですね」
「……あのさ」
「……最後に私が倒した二体に、攻撃と呼べるほどのことはできませんでした。
 郁未さんが相手をしていた一体に、充填用と思われる光を飛ばしただけです」
「いや、あの、葉子さん」
「反射用の数体で増幅した光を攻撃用の一体に集中させることで、このような弱い光量下でも
 充分な威力を発揮する……それが、完成体のコンセプトのようです」
「もしもし」
「しかし、曇っている今ですから、まだ単純に数を減らすことでユニットごと機能しないように
 することも可能でしたが……。天候が回復してくれば、単体でも脅威となってくるでしょう」
「すいませーん」
「やはり早めに叩いておかなければ、取り返しのつかないことになりかねませんね……」
「いい加減にせんかぁっ!」

すぱん、と小気味いい音が響いた。
腕を組んで一人頷く洋子の後頭部を、郁未がはたいたのである。

「……何をするのですか」
「あっち、よく見てみなさいよっ!」

言われ、周囲を見渡した葉子が、何度か瞬きする。
曇天の下、林道の遥か向こうで、土煙が立っていた。

449ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:06:33 ID:ZXj8yAgY
「……おや」

もうもうと上がる土煙の向こう側で、きらりと光るものがあった。
それはまるで、満員のスタジアムで閃く撮影のフラッシュのように、いくつもいくつも連鎖する。

「どうやら、探すまでもなかったようですね」
「……どうすんの、あれ」
「決まっているでしょう。……殲滅あるのみです」

何気なく言ってのける葉子に、今度こそ郁未は絶句した。
無数の眼鏡を光らせながら歩くそれは、文字通りの意味で数え切れないほどの、砧夕霧の大群だった。

450ファースト・コンタクト:2007/02/16(金) 03:07:49 ID:ZXj8yAgY
【時間:2日目午前10時すぎ】
【場所:F−9】

天沢郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:唖然】

鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:光学戰試挑躰】

砧夕霧
 【残り29995(到達0)】
 【状態:進軍中】

→562 690 ルートD-2

451March and winter:2007/02/16(金) 21:15:20 ID:p43BYa3k
「…表、か」
冬弥の目に映ったコインの面。すっかり酸化して輝きを放たなくなってはいるが、それでも冬弥にはまるで新品のように輝いているように見えた。
「いいだろ。決め事は決め事だ」
10円玉を拾いなおすと、もう一度冬弥は親指でそれを弾いた。
軽い金属音がしてくるくると宙を舞う。てっぺんまで舞った後、重力に引き摺られて10円玉が落ちる。それを横から、しっかりと掴み直した。
ゆっくりと手のひらを開き、今一度、10円玉の面を見る。
表。
予想通り。
「行くか。ま、冷静に考えれば片っ端から襲って弾薬を浪費するのも意味がないよな」
観音堂の外へと歩を進める。由綺や理奈が、がんばれ、と言っているのが、聞こえたような気がした。
問題はここからだ。どのようにして殺人鬼どもを放逐していくか。いかに手元にP-90があろうとも自分は一般人。おいそれと戦闘の手練に手を出せば敵を討つどころじゃない。
仲間が必要だ。自分と同じく、殺人鬼を殺すことに躊躇の無い人間が。
共に行動した少女、七瀬留美のことがふと頭に浮かんだが、すぐにその考えを打ち消した。彼女はとてもじゃないがそんなことのできる人間とは思えない。
「当たるも八卦、外るも八卦、か…」
適当に出会った人間が自分と同じような人間であることを願うしかない。
何はともあれ、まずは鎌石村だ。
     *     *     *
鎌石村消防署の一室、かつて英二達が休憩していたところで、篠塚弥生は目を覚ました。
どうやら、まだ自分は生きているようで呼吸も普通に行える。だが、両手両足を縛られ今寝転がっている所――消防署備え付けのベッドだ――からまったく動く事ができない。
もっとも、縛り付けているもの(そこらへんのロープだろう)を解こうとしても英二に撃たれた脇腹が痛んだのですぐに諦めてしまったが。
なんと無様な。

452March and winter:2007/02/16(金) 21:16:17 ID:p43BYa3k
弥生は地面にツバでも吐きたい気分になった。まったく似つかわしくないことだと自分でも思ったが、英二の甘さに助けられ、生き長らえているという事実がそう思わせたのだ。
だが、すぐに弥生は思考を切り替え現在の状況を把握しようと努める。あれからどのくらい時間が経ってしまったのか。寝ている間に放送はあったのか。
何か手がかりになるものはないかと首だけ動かして周囲を見まわしてみるがこの部屋には窓がないばかりか時計すらない、完全な密室であった。
あるいは、英二がそうなるように手配でもしたのか。唯一確認できたのは部屋の隅に、申し訳程度に置かれている弥生のデイパックがあったということだけだ。
デイパックの膨らみ具合からして、まず武器は取られているだろう。当然だが。
結局、それだけしか分からなかったのでまた眠る事しかやることがなくなった。
ゲームに乗っているにしろ乗っていないにしろ人が来るのを待つしかないのだ。
ぼーっと見た天井には、恐らく英二がつけっぱなしにしていった蛍光灯が、煌々と輝いている。暗闇で怖くならないようにという英二の配慮だろう。もっとも弥生は暗闇などに恐怖するという性質の人間ではなかったが。
この部屋に窓がない以上、この明かりを頼りに誰かが訪れるという可能性は低い。これがどう影響するのか。
そんな風にして色々考えながら時間を潰していると、不意に閉ざされた扉の向こう、廊下のほうで規則正しい(たぶん人間の足音だ)音が聞こえてきた。
どうやら部屋を探しまわっているようで徐々にこちらに近づいているようであった。
誰かは知らないが、この部屋だけ探さないという理由はない。
鬼が出るか、蛇が出るか。
弥生にしては珍しく、動悸が加速度的に増していた。何しろ生か死かを賭けた至上最大の賭博なのだ。ゴクリ、と弥生の喉が鳴る。
ガチャ、とドアノブが回される音がして足音の主が侵入してきた。そして、その相手は――
「…弥生さん、か?」
――森川由綺の恋人(今となっては元、とつけるべきか)、藤井冬弥だった。
     *     *     *
「…なるほど、そんなことがあったんですか」
冬弥の助力でようやく拘束から抜け出した弥生は、これまでの経緯を説明した。
英二の件に関しては、もちろん真実を話したわけではなく、「いきなり何者かに撃たれ、気絶させられて気がついたら縛られていた」と説明した。

453March and winter:2007/02/16(金) 21:17:03 ID:p43BYa3k
弥生にとって、冬弥がまだ敵か味方か判断できなかったためだ。スターダムにのし上げるべき人、森川由綺を失ったことで、今や弥生にとって他の人間などどうでもいい存在になっていた。
藤井冬弥でさえも。
その冬弥はというと、立ち話に疲れたのか部屋に置かれてあった椅子に座ると何か考えるような目をしてからぽつりと喋る。弥生は縛られていたベッドに座ったまま、その言葉を聞く。
「しかし…どうして襲った相手は殺さずに武器だけ奪っていったんでしょう? 殺しこそすれ、気絶させるだけなんてことはないはず」
「さあ…襲った人間の心理など、私には図りかねます」
それもそうですね、と冬弥は嘆息し顔を天井に向かせた。
「ですけど、ひょっとしたら…襲った人間は、弥生さんの知り合いだったのかもしれませんね」
一瞬、どきっとしたが相変わらず無表情なまま弥生はどうしてそう思うのですか、と尋ねる。
「殺すには忍びない、だが武器を持って殺戮はして欲しくない、そんな風に考えるのは弥生さんの知り合いだけでしょう?」
「…なるほど、そういう考え方もありますね」
英二はまさしくその考え方だっただろう。
「…ところで、今は何時くらいでしょうか。気絶させられてからずっとそのままでしたので」
いつまでもこんな話題に拘泥しているのは得策ではないと思い、話題を転換する。
「ああ、今はちょうど…7時半といったところですね。…2回目の、放送がありました」
「…教えていただけますか」
デイパックから参加者一覧を取り出して死亡者を確認する。冬弥のものと示し合わせてもみたが実に20人以上もの人間が死んでいた。
この殺し合いは、間違いなく加速している。
チェックを終えた弥生が、また冬弥に尋ねた。
「これから藤井さんはどうなさるおつもりですか」
この質問だけは必ず先手を取っておかなければならなかった。返答次第で、行動を変えねばならないからだ。
冬弥は少しだけ笑ってから、肩にかけていたP-90を壁の方向へと向けた。
「由綺や理奈ちゃん…はるかや美咲さんをやった奴らを探し出して…殺します」
顔色を窺ってみる。そこには静かだが、激しい憎悪の色が表れていた。

454March and winter:2007/02/16(金) 21:17:44 ID:p43BYa3k
「…ですけど、さすがに無関係の人間までは殺しません。目的が同じような人間がいたら一緒に行動するつもりでした。…弥生さんは、どうなんですか」
今度は、こちらに質問が飛んで来る。返答次第では、こちらも撃つという考えがありありと出されていた。
それはすでに察知していたので、明確な返答を避けておいた。
「由綺さんを殺された私には…もう、目的というものはありません。恨みは、ありますが」
冬弥同様、由綺を殺した人間に報復したいという気持ちはあったがそれ以上のものはない。それは、偽らざる弥生の本心だった。
「そうですか…なら、俺と一緒に行動しませんか?」
P-90を再び肩にかけ、冬弥が目をこちらにむけて提案する。
「最終的な目的は違うかもしれませんが…由綺の仇をとるという点では利害は一致するはずです。その時まで」
その後はどうする、と返答しようかと思った弥生だったがそんな未来のことなど、誰にも分かりはしない。
「分かりました…協力しましょう」
だから、完結にそう答えた。冬弥の目に感謝の色が広がっていく。
「助かります。弥生さんはもう今では数少ない、信頼できる人ですから」
信頼――その言葉が、どこか弥生には遠い国の言葉のように思えた。弥生は自らのデイパックを持ち上げると、最後に問う。
「ならば、行動は早いほうがいいでしょう。それから…藤井さん。他に、何か伝えることなどありますか? 例えば、気をつけるべき人物とか」
ゲームに乗っている者の情報は、手っ取り早く掴んでおきたかった。いつどこで、冬弥と離れ離れになるやもしれないのだから。
「…いや。今まで何人もの奴と出会ってきましたけど交戦は一度だけです。まあ、返り討ちにはしましたが…一応、これまでに会った奴らの名前を言っておきましょうか?」
「いえ、結構です。知ったところで別に利益もないでしょう。他には?」
「他には…ああ、そうそう。放送の時に珍しく主催者から直接の声がかかりました。何でも…優勝者には、何でも願いが叶えられるとか」
その瞬間、弥生の心に戦慄が走った。平常心が失われていくのを隠しつつ「…続けてください」と先を促す。
「死人を生き返らせることも出来るとか言ってましたけど…それは与太話でしょう。普通に考えてそんなこと出来るはずありませんからね」

455March and winter:2007/02/16(金) 21:18:25 ID:p43BYa3k
確かにそうだ。冬弥の言う事は…理に適っている。
「俺には…もう由綺以外の望みなんてありませんから、褒美なんていりません。だから、仇だけは取るつもりです」
だが…もし、万が一にでも、『それ』が本当だとしたら? もし、森川由綺がこの世界に戻ってこれるとしたら?
冷静な、普段の篠塚弥生がその考えを必死で否定しようとする。だが――こんなにも多くの参加者、来栖川財閥、倉田家の礼嬢までもこの殺し合いに参加させている彼らなら…そんな事も可能なんじゃないか?
弥生の額に、冷たい汗が流れ落ちる。
恐らく――藤井冬弥が弥生のような考えに至らなかった理由は、単純に由綺の仇を討つということに固執しているのでそこまで考えていない、ということかもしれない。あるいは違うかもしれない。
だが、もし弥生の考えている通りだとしたら。
由綺の仇をとった後、彼はどうするだろうか。もしかしたら――自殺を図る可能性すらある。
ここで、彼女に新たな疑問が生じる。
仮に生きかえらせることが出来たとして、果たして『何人』生きかえらせることが出来るのだろうか?
一人か、あるいは何人でも、か? その辺りの事を尋ねてみようかとも思った弥生だが、すぐにその考えを打ち消す。
冬弥が知っているはずがないと思い至ったからだ。主催者のことだ、生きかえらせることができる、とだけ言ったに違いない。それに、下手に聞けば――冬弥に、敵だという疑念を抱かせることにもなりかねない。
代わりに、弥生はもう一度尋ねてみた。
「藤井さん…藤井さんは、このゲームに乗っているわけではない、ということですよね」
為された質問に首をかしげながらも、冬弥は言う。
「ええ…まあ、一応は。敵ならば容赦なく撃ちますが、こっちに害を及ぼさないのなら」
そうですか、と弥生は答える。そして、それが引き金となった。
「なら、私は協定を破ります」
何のことだ、と冬弥が問おうとしたときには、弥生が冬弥の肩から、P-90を奪い取っていた。
「藤井さん。朗報を教えてくださって感謝します。これで…私はまた、戦う理由ができました」
冬弥の顔面に、P-90を押しつける。唖然としていた冬弥だが、すぐに大声を上げて反論した。
「まさか…あの与太話を信じてしまったんですか!? あんなもの、大嘘に決まっているでしょう!」
「万が一、ということもあります」
「そんな理由で!」
冬弥が大声を上げるのを遮るかのように、さらに強く銃口を押しつける。ぐっ…と声を詰まらせる。
「信じがたい話ではあります。ですが…信じなかったところで、由綺さんは帰ってきません。なら、それが悪魔の所業だとしても私はそれに賭けようと思います。私には…由綺さんしか、由綺さんしか、いません。私の人生は…由綺さんそのものなんです」
冬弥がまた反論しようと口を開けたが、いたずらに刺激するだけだと考えたのか、堅く口を結ぶ。
「藤井さんは私とは違います。私よりは、よほど強い人間。だから…まず手始めに」
言い終わる前に弥生の次の行動を察知した冬弥が、思いきり体を捻った。
銃弾が、何発か冬弥の脇をすり抜けていく。
間髪いれず冬弥が、部屋を脱出して廊下へと駆ける。逃がすまいと思った弥生だが、大ぶりなP-90ではすぐに第二射を放てない。
連射を諦め、弥生も冬弥の背中を追った。

456March and winter:2007/02/16(金) 21:19:09 ID:p43BYa3k
【時間:2日目7:00】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】

篠塚弥生
【持ち物:支給品一式、P-90(46/50)】
【状態:ゲームに乗る。冬弥の殺害を狙う。脇腹の辺りに傷(痛むが行動に概ね支障なし)】

藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】

457March and winter:2007/02/16(金) 21:21:02 ID:p43BYa3k
すいません、訂正お願いします
藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】



【場所:C−6・観音堂(移動済み)】

を削っておいてください

458March and winter:2007/02/16(金) 23:24:25 ID:p43BYa3k
すんません、さらに追加…

B-10です、本スレ950の人、指摘サンクス

459Mother:2007/02/18(日) 06:11:38 ID:swIjNkyk
朝の激闘から、時を経る事六時間以上。
ようやく意識を取り戻した水瀬秋子は、すぐさま診療所を発つべく玄関に向かった。
そこで那須宗一とリサ=ヴィクセンに遭遇し、二人に見送られる形となった。
幾分かマシにはなっているが――秋子の顔色は優れているとは言い難い。それも当然だ、もう何度も無理をしているのだから。
秋子は、体の不調を気力だけで埋めようとしている。そんな彼女を気遣い、リサが声を掛ける。
「一応の処置は済ませたけど……あまり無茶するとまた傷口が開きかねないわ。それでも行くつもりなの?」
「愚問です。私にはもう名雪しかいませんから……こんな所でぐずぐずとしている訳には行きません」
取り付く島も無いとは、この事だろう。秋子は考え込む仕草すら見せずに、断言した。
「……OK。私はこれ以上力になれないけど、健闘を祈るわ」
「ありがとうございます。それから――宗一さん」
秋子はそう言って、視線を宗一の方へと移した。秋子と宗一は、一度完全な敵同士として戦闘している。
その事が原因か、宗一は険しい表情をしていた。
「何だ?」
「謝っても許されるとは思いませんが……本当にすみませんでした。私の軽率な行動で……こんな結果に……!」
秋子は何も守る事が出来なかった。澪も祐一も、死なせてしまい、みすみす自分だけ生き残ってしまった。
俯きながら、彼女は微かに肩を震わせた。宗一の位置からその表情を窺う事は出来なかったが、おおよそ推測は出来る。
宗一は諦めたように目を閉じ、そして言った。
「……過ぎた事を悔やんでも仕方無いさ。それより、これからどうするべきかを考えた方が良いぞ。
それに――俺はあんたみたいな美人には甘いんだ」
宗一はそう言うと、表情を緩め、微笑んで見せた。まるで、気にするなと言わんばかりに。
秋子は一瞬きょとんとした顔になったが、やがて頬に手を当て、笑顔を形作ろうと努力した。
強引に作られた表情は秋子本来のものとは程遠かったが、それでもそれは笑顔と呼べるものだった。
「重ね重ね、ありがとうございます。それでは失礼します――あなた方も、どうかご無事で」
「ああ、あんたもな」
宗一とリサに向けて、最後に一礼する。そうして秋子は、診療所を飛び出した。
今度こそ、罪の無い子供達を守る為に。己の命に代えてでも、最愛の娘を守る為に。

460Mother:2007/02/18(日) 06:12:38 ID:swIjNkyk



「あの人、大丈夫かしら……」
リサは不安げに呟いた。秋子の怪我の深さは、治療をした自分が一番知っている。
「正直不安は残るが、これ以上俺達がしてやれる事は無い。後は本人次第、ってトコだろうな」
「……そうね」
次々と大事な人間を失った秋子を、穏便に引き留めるのは不可能だ。無理に休ませようとすれば、また争いになりかねない。
それだけは絶対に、避けなければならなかった。自分達が倒すべき相手は主催者であって、他の参加者達ではないのだ。
「ところで宗一。さっきあなたが言った事についてなんだけど……」
秋子を見送る為に、宗一との話し合いは途中で中断してしまっていた。その時の話題を思い出し、リサが尋ねる。
「優勝者への褒美、についてか?」
「ええ。どうしてあなたは、あれが本当だと思ったの?」
どんな願いでも叶えられる――その事に関して、宗一とリサはまるで正反対の意見を持っている。
リサは主催者の話をまるで信じていなかった。ただの扇動に過ぎぬと、そう考えていた。
ならば、褒美の話を肯定する宗一の考えに疑問を持つのも当然の事だった。
「このゲームには、裏の世界や表の世界で名を馳せる人間達が、多数参加させられている。
それだけの面子を、僅か1日で強制的に集めれる者――それはもはや、人と呼んで良い存在じゃない。
そんな化け物ならば、願いを叶えるという事も不可能では無い筈だ」
「……それは否定しないわ。だけど『叶えられる』という事と、『叶える』という事は、イコールでは繋がらない」
「そうだな。主催者が約束を破る可能性だって、勿論ある。だが俺は……褒美を与えるというのは嘘じゃないと思う」
言われて、リサはとても意外そうな顔をした。
「Why?」
「そもそも、こんなゲームに何の意味がある?俺には、主催者の酔狂で行なわれているとしか思えない。
そう、奴はきっと遊んでいるだけなんだ――なら、最後に約束を破って興を削ぐような真似はしないだろう。
俺の経験則から言って、こんな事を考え付くような連中は、自らが作ったルールだけはきちんと守るもんさ」
もっとも自分にとって害になるような願いは受け入れないだろうけどな、と宗一は付け加えた。
「でも……優勝した人間の反撃を恐れて、首輪を爆発させる可能性も考えられるわ」
「それは無い。主催者にとって俺達はただの駒、復讐なんて警戒していないさ」

461Mother:2007/02/18(日) 06:15:18 ID:swIjNkyk

――その通りだった。主催者は、少なくともこれまでは参加者を完全に手玉に取っている。
参加者を警戒しているのならば、とっくの昔に首輪を爆発させているだろう。
思い通りに弄ばれてしまっている現状を再認識し、リサは爪をガリッ、と噛んだ。
「逆に考えれば主催者のその余裕こそが、俺達が付け入れる唯一の隙なんだ。連中が油断してる以上、突破口はある。
そして、正しく状況を判断する為には……主催者を倒す為には、もっと情報が必要だ」
「――そうね。まずは診療所にいる他の人達だけとでも、情報交換しましょうか」
現状では情報が圧倒的に不足している。これ以上憶測だけで話を続けるよりも、情報を集めるべきだ。
二人は席を立ち――そして、何かの音が近付いてくるのを聞き取った。
「これは……車か?」
「そのようね。私が様子を見てくるわ」
外敵の警戒は、五体満足な自分の役目。リサはすぐに銃を手に取り、玄関の外へと向かった。



【時間:2日目16:05】
【場所:I-7】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康、診療所を守る】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:左肩重傷・右太股重傷・腹部重傷(全て治療済み)、まずは情報を集める】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(再治療済み)、何としてでも名雪を探し出して保護】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付きとそのリモコン】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】

藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分、車は診療所方向に向かってます

(→601)
(→557)
→663
→687
→699

462Distrust:2007/02/18(日) 19:43:37 ID:GmBnvYnc
――すれ違い。
運命の悪戯というものだろうか。確かにすぐ近くに来ていたのに。声を掛けられる距離に居たのに。
渚が目を醒ました時にはもう、朋也の姿は何処にも無かった。
事の顛末を説明された渚が、それを確かめるように秋生に声を掛ける。
「それじゃ朋也君は……」
「ああ。役場に行く、つって出て行っちまった」
「そんな……!」
それは余りにも無謀な行動。包丁1本で、朋也は過酷な戦いの場へ身を投じようとしているのだ。
容易に想像出来る凄惨な結末に、見る見るうちに渚の顔が青褪めていく。
娘の悲痛な表情を目の当たりにして、秋生は思わず顔を逸らしてしまう。
お互い何も言えなくなり、暫しの間沈黙が場を支配する。やがて渚が意を決し、声を発した。
「お父さん、お願いがあります」
「……何だ?」
「わたし、朋也君を助けに行きたいです」
「――!」
言われて、秋生は眉を顰めた。渚は縋るような瞳でこちらを見ている。
これは本来、予測しておくべき事態。渚に朋也の事を話したのは、秋生の完全な判断ミスだった。
秋生の愛娘である古河渚は元来、自分自身よりも他の者を大事にしてしまう心優しい娘だ。
そんな彼女が他ならぬ朋也の窮地を、放っておく筈が無かったのだ。
しかし――秋生は静かに首を振った。
「駄目だ。悪いがその頼みは聞けねえ」
「なっ……どうしてですか!?」
「どうしてもこうしてもねえよ。小僧が、なんで一人で行ったのか分からねえのか?
俺達を……いや――お前を危ない目に遭わせたくねえからだろ」
秋生は朋也が一人で向かったのは、負傷してしまっている渚を気遣っての事だと思っていた。
にも関わらず、ともすれば阿鼻叫喚の危険地帯となりかねない場所に向かっては、朋也の想いを無駄にしてしまう。
いくら渚の頼みとは言え、そう簡単に頷く訳にはいかなかった。

463Distrust:2007/02/18(日) 19:44:47 ID:GmBnvYnc

「でもっ……!」
「何度言われても、こればっかりは譲れ――」
「みちるも岡崎朋也を助けに行きたい!」
なおも食い下がろうとする渚を、断固とした態度で撥ね付けようとした所で、突然叫び声が聞こえた。
見ると、朋也が連れて来た少女――みちるが、何時の間にか目を覚ましていた。
「岡崎朋也はね、とっても苦しんでるんだよ……。友達を守れなかったって、きっと今も心の中では泣き続けてる……」
「――え?」
みちるは、彼女らしくないとても悲しそうな顔で、まだ秋生達が知らぬ悲劇について語り始めた。







「あのガキは折原の知り合いか?……にしても、どうやらタダじゃ済みそうにねえ雰囲気だな」
黒髪の青年と、その青年に銃を突き付けている青い髪の男。視界にその二人を認めた途端、浩平は走って行ってしまった。
高槻達が近くまで来た時には既に、浩平は殺気立った様子で銃を構えており、これから起こりうる事態は充分に予想出来る。
「面倒くせーが、ちょっくら行ってくる。お前らはここで待っとけ」
「また……あたし達は待ってるだけなのね」
レミィが殺された時と同様に待機を命じられ、若干不満気味な郁乃。だが高槻は、まるで取り合わない。
「うっせーな。今はどう見てもやべえ事になってるんだ、文句なら後にしてくれ」
ぶっきらぼうにそう言うと、郁乃と七海を置いたまま、高槻はポテトだけを連れて浩平の傍まで歩いていった。
「おい、折原。これはどうなってやがんだ?」
浩平の横に並んで問い掛ける。無論コルトガバメントはいつでも構えられるよう、もう手に持っている。
「……そっちの腹を押さえてる奴は、俺の知り合いの七瀬彰だ。あっちの銃を構えてる男の方は、知らない」
高槻は改めて、二人の青年を見比べた。
浩平の知り合いである七瀬彰という青年の方は、腹部から血を流していた。
逆に浩平の知り合いでは無い男、岡崎朋也の方は、こちらに注意を払いながらも銃口は彰に向けたままだ。
「――そうか。つまりあの青い髪のガキの方が、ゲームに乗っているんだな」
状況を飲み込んだ高槻は、眉を吊り上げて、コルトガバメントの銃口を朋也へと向けた。

464Distrust:2007/02/18(日) 19:46:20 ID:GmBnvYnc


マーダーを排除しようとしているだけなのに、度重なる妨害を受けている。朋也は当然、現状を良しとしない。
自分に掛かった疑惑を否定するべく、そして彰の正体を伝えるべく、言葉を洩らす。
「お前ら何か勘違いしてねえか?俺はゲームに乗ってなんかいないし、この男は凶悪な殺人者だぞ?」
「違う、そんなの言い掛かりだっ!」
「――テメェ。また性懲りも無く、嘘を吐く気かよ!」
事情を教えようした朋也だったが、またも彰の厚顔無恥な出任せによって邪魔されてしまう。
この場において、自分は決定的な証拠を持ってはいない。その点に関しては彰も同じだ。
だが、二人には決定的な差があった。
「おい彰、こいつの言ってる事は――」
「嘘だ。信じてくれ折原、僕はゲームになんて乗ってない!」
この場で唯一の知り合いの浩平に対し、必死の演技で訴えかける彰。
それを援護するかのように、高槻も自分なりの推論を述べる。
「俺様も、七瀬って奴の言ってる事が正しいと思うぞ。大体その青い髪の野郎がゲームに乗ってないなら、その手に持ってる銃は何だってんだ?」
「そうだな。それに俺は彰と一緒に行動してた事があるけど、襲われたりはしなかった」
「…………っ」
朋也にとって、絶望的な会話が続く。
朋也は彰を殺害しようとしている所を見られてしまっているし、潔白を証明してくれる知り合いもこの場にはいない。
二人から銃を向けられている今、自身の銃を手放す訳にも行かない。
護身の為に絶対必要な銃だったが、その存在が誤解に一層拍車をかけてしまっていた。

465Distrust:2007/02/18(日) 19:47:46 ID:GmBnvYnc

【時間:二日目・13:40】
【場所:B−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(2/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:マーダーへの激しい憎悪、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
 【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:彰の救出、朋也に強い疑い、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也に強い疑い、岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、郁乃の車椅子を押しながら浩平の下へ】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:高槻に追従、光一個】

→672
→706

466とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:01 ID:lyyld6YM
「くっそ、えらい目にあったよ・・・・・・」

思い出すだけで肌が粟立つ、思わず自らを抱きしめるように柊勝平は身を縮めた。
それでも足を動かすことは止めない、万が一あの男が目覚めた場合先ほどの悲劇が舞い戻ってくるとしたらたまったものではない。
今、彼は校舎二階の廊下を歩いていた。
辺りは静かで、聞こえてくるのは勝平が踏みしめる木造の床が軋む音のみ。

(あいつ等、まだ下にいるのかな)

反対側を探索しているはずの、相沢祐一と神尾観鈴のことを思い浮かべる。
そんな余裕が出てきたからこそ、彼等と過ごした時間も一緒に脳裏を掠めてきた。
たった数時間、一緒に食事をしたりちょっとした会話をしたこと。
そして見張を押し付けられ、観鈴にあの質問をされ。

『勝平さんは、誰か守りたい人とかっている?』

それは、随分昔のことのような気がした。
あの時彼女に問われた際、勝平はそれに答えることができなかった。
今ではどうか。

(・・・・・・そっか。僕、杏さん殺しちゃったんだよね。椋さんにどんな顔して会えばいいんだか)

しかし、これは勝平にとっては予定調和な出来事である。
祐一と、そして藤林杏に復讐することを目的として彼はここまでやってきたのだから。
そして目的の一方は達成され、あとは祐一を排除すれば彼の復讐は幕を閉じる。
では、この復讐が終わった後。どうするのか。

「・・・・・・」

467とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:27 ID:lyyld6YM
そのビジョンを、勝平は全く持っていなかった。
思い描けない未来の変わりに、その隙間を最期まで自分を非難してこなかった少女の姿が埋めていく。
自分の受けた屈辱を味あわせたかったのに。
あの悔しさを、身をもって教えたかったのに。
それなのに。

呪詛の一つでも吐いて欲しかった、それを聞いて優越感に浸りたかった。
それなのに。

「ああもう!くそっ!!」

もやもやとした憤りに苛立ちを覚え、思考を中断させる。
・・・・・・考えても仕方のないことであった。とにかくそれら全ての問いに対し、今の勝平が出せる答えはないのだから。

(先のことよりもそうだよ、まずは目の前の問題を終わらせよう。その後、考えればいいんだから・・・・・・)

一応は、それで無理矢理自身を納得させるしかなかった。
そうでないと、手にした電動釘打ち機の引き金が引けなくなる時がきてしまう。
そんな不安が確実に生まれてしまったことに対する戸惑いを、勝平は隠せなかった。




それから少ししてのことだった。
今まで聞こえなかった物音、そう。複数の足音が、勝平の耳に入る。
音は、正面から聞こえてきた。

「は、離してな、一体どこまで行くのかな・・・・・・」

思わず構えた電動釘打ち機を握る手から、力が抜ける。
その聞き覚えのある口調、声。

468とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:52 ID:lyyld6YM
「お前、何でここに・・・・・・」
「か、勝平さんっ?!」

現れたのは、小柄な少女と彼女に手を引かれて歩く観鈴であった。

「か、勝平さん助けてぇ」
「はぁ?」

思わず、見合う。
距離的にも近くなったことから、双方とも既に足を止めていた。
観鈴は懸命に少女の拘束を解こうとしていたが、掴まれた腕はびくともしないらしく結局は現状を維持するしかないようで。

「お前、相沢はどうした。一緒じゃないのか?」

まず気になったことはそれだった、共に行動していた彼の不在に勝平は疑問を持つ。
見知らぬ少女のことも気にかからない訳ではないが、祐一は勝平にとって復讐をすべき相手である。
優先すべき確認は、まずそれだった。

「がお・・・・・・祐一さんは・・・・・・」
「おとこはころす」
「は?」

俯き加減に観鈴が悲しそうな声をあげる、しかしそれを遮るように重なった音がある。
見知らぬ少女の声だった。
ただ一言、彼女は呟くように声を出す。

「おとこはころす」

繰り返す。勝平の疑問符を、打ち消すべく。
少女はこちらに目を合わせず、下を向いたまま微動だにもしなかった。
そんな少女の様子を見て、勝平は今になってやっと彼女の異様さに気づくのだった。

469とんだ再会:2007/02/19(月) 02:26:17 ID:lyyld6YM
・・・・・・改めて見ると、彼女の佇まいは悲惨であった。
見る者が見ればすぐ分かる暴行の跡、ぼさぼさの髪に張り付く粘液の正体に吐き気が沸く。

そんな少女は、左手で観鈴の利き腕をしっかりと掴んでいた。先ほど抵抗していたが結局観鈴が振りほどけなかったその手は、蒼白だった。
しかし、何故かもう片方の手は鮮やかな赤に染まっていて。
その手に握りこまれたカッターナイフにも滴っている。そして服の袖口まで染み込まれているように思えるそれの正体は、彼女の台詞で憶測がついた。

「成る程、お前が殺したのか」
「・・・・・・」

少女は答えない。しかし、次の瞬間観鈴が声を張り上げた。

「し、死んでない!祐一さんは死んでないっ」
「どういうことだ?」
「死んでないもん・・・・・・ゆ、祐一さん、お腹刺されてたけど死んでなかったっ」
「・・・・・・」

やはり、少女は答えなかった。その代わりと言っては何だが、観鈴の嗚咽が場に響く。

「死んで・・・・・・ないもん、死んで・・・うぇ・・・えぇ・・・」

二人の様子を見守るが、結局どちらが真実かは勝平には分からなかった。
ただ、自らの手をくださずに事が済んだかもしれないという一つの事実に対し。
勝平には、何の感情も沸きあがってこなかった。
自分で止めを刺せず悔しかった、とか。ざまーみろ、とか。
そのような思い描けるであろう可能性を、今の勝平は。全て、否定していた。
そして、自身も戸惑っていた。

胸の中に広がる空洞の指す意味、再び思い描くのは杏の最期の姿。
恨み言も何も吐かず、ただ勝平の言葉を否定し続けた彼女は―――――――――。

470とんだ再会:2007/02/19(月) 02:26:38 ID:lyyld6YM
「違う!間違ってない、間違ってない!!」

これ以上、先を考えてはいけない。目を瞑り、勝平は思考を中断させる。
理解しようとしてはいけない、前に進めなくなってしまう。

(でも、相沢が死んだっていうなら・・・・・・僕は一体、これからどこに進むっていうんだ?)

浮かんだ疑問に対し、汗が止まらなくなる。
耳を塞ぐ。頭を振るが、それでも杏の姿は決して消えない。

「どうして、どうしてだよっ!!」

何故か涙腺まで緩んでくるが、ここで感情に流されることだけは嫌だった。
懸命に自身と戦い続ける勝平は、もう周りのことなど一切気にかけていなかった。見向きもしなかった。
だから、彼女の接近にも気づかなかった。

「おとこはころす」

うっすらと目を開けると、あの少女が目の前にいた。
隣には、今だ腕を掴まれたままの観鈴。まだ泣き続けているのか、しきりに瞼を擦っている。

「おとこはころす」

少女は、もう一度呟いた。その手にはカッターナイフが握られていた。
・・・・・・ああ、ここで終わるのも悪くない。ふと、そのような考えが頭を過ぎる。
勝平の手には電動釘打ち機があった、なので反撃などいくらでもできた。
しかし今の彼に、その気力は全くなかった。

何だか全てが面倒になっていた。自暴自棄と言えばいいのか。
もう、どうだって良かった。だから、勝平は事態に身を任せるつもりだった。
が。

471とんだ再会:2007/02/19(月) 02:27:45 ID:lyyld6YM
「おんなはつれていく」

次の瞬間響いたのは、木製の床の上を何かが跳ねる旋律だった。
視線をやると、少女の手から離れたカッターが転がっていく姿が目に入る。
では、空いた彼女の右手はどこにいったのか。
考えると同時に、力強い感触が勝平の左腕に伝わった。
視線を動かすと、赤く染まった少女の手が見える。
それは、確かに勝平の腕を掴んでいた。

「おんなはつれていく」

そして、彼女は繰り返す。勝平の疑問符は、さらに倍増するばかり。
ぐいっと手を引かれる、どうやら少女は観鈴と共に勝平を連行しようとしてるらしい。

「ちょ、待て!おい、お前まさか・・・・・・」

嫌な予感がした。

472とんだ再会:2007/02/19(月) 02:28:19 ID:lyyld6YM
柊勝平
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:由依に連れて行かれそうになっている】

神尾観鈴
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:すすり泣き、由依に連れて行かれている】

名倉由依
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:少し勘違い気味、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

カッターナイフはそこら辺に落ちています

(関連・662・700)(B−4ルート)

473.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:39:26 ID:uUkMQoNg
                    ______
                   |MISSION LOG|
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
激闘の末、ようやく岸田を追い払う事に成功した高槻達。
しかし岸田との戦闘でこちらも沢渡真琴(五十二番)を失い、さらに
新入隊員の折原浩平(十六番)も身体中に怪我を負い、ほしのゆめみ(支給品)
も腕が動かないという事態に陥った。
そんな折、新たに現れた女、藤林杏(九十番)と、
あわや戦闘になりかけたが誤解だと分かり、行動を共にすることになった。
現在、彼らは鎌石村への街道を歩いている…
_________________________________
                    ______
                   |  E X I T  |
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

474.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:40:18 ID:uUkMQoNg
…とまあ、いつも拝啓おふくろ様(以下略 では芸がないので今回はハードボイルドっぽくあらすじを書いてみたぞ。どうだ、中々カッコイイだろ?
いつの間にやら仲間がどんどん増えて当初の目的など場外ホムーランしてしまった俺様だが、まだまだ美女をゲッツするってのは諦めちゃいない。
こうなったらヤケだ。いっそのこと折原以外が全員女なのをいいことにハーレムを作ってやろうという結論に達した。(ちなみに折原は召使いだ)
そう言えば、これは最近(ゆめみにこっそり聞いた。勉強家だろ?)知ったことなのだが、ハードボイルドというのは「固ゆで卵」の意から転じて冷徹、非情の意を表すらしい。
なるほど、俺様にピッタリだ…と思えなくなってきたのは何でだろうな…

「そう言えばさ、ここ一連のゴタゴタで言い忘れてたことがあるんだけど…」
俺様の悲嘆をよそに、藤林に車椅子を押してもらっている郁乃が(俺様は前衛。ポイントマンというそうだ)七海のデイパックを指して言った。
で、そのデイパックの持ち主の七㍉さんは折原の背中ですやすやと寝て…あいや、気絶していらっしゃる。ゆめみが片腕を使えないし、俺様は前述の通り前衛でコイツしかいないから仕方がないんだが…
べ、別にめんどくさいとか疲れるからだとか、そんな理由だからじゃないんだからねっ、勘違いしないでよっ!
郁乃風に言い訳してみたが、気持ち悪くて仕方ない。やはり男には似合わないな。
「七海のデイパックにフラッシュメモリがあるでしょ? あれをゆめみに調べてもらっていたんだけど、役に立ちそうなファイルがいくつかあったのよ」
ほう。それは朗報だ。いくつかということはファイルは複数あるということだ。情報が圧倒的に足りない俺様にとってはたとえ主催側からの情報であってもありがたい。
これを足がかりに奴らに噛みついてやる。窮鼠猫を噛む。
「バカ、これは追い詰められた時に使う言葉じゃない」
「…おい、俺様の崇高な心の声を読むんじゃない」
俺様の的を射た言葉をバカという2文字で完全否定する小牧郁乃嬢に反論…って、待て。
「郁乃、お前って人の心が読めたのかっ!?」
「…本当にバカね。自分で声に出してたじゃない」
『バカ』の追撃。言葉の矢が突き刺さる。

475.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:40:55 ID:uUkMQoNg
「…ね、折原。コイツがあんたらを窮地から助けたって、ホント?」
「オレも信じたくない」
後方にて藤林と折原の援護射撃。もずくに浸かってパズルを食べて、俺様の心はボロボロだ。
ダディアナザーン! オンドゥルウラギッタンディスカー!!
「あ、あの…小牧さん、お話を続けた方が…高槻さんがかわいそうです」
ゆめみが非情な助け舟を出してくれる。ちくしょう、俺様がアホの子みたいじゃないか。ハードボイルドなのはこいつらだと思うんだが、どうよ?
それもそうね、と郁乃が言ってゆめみに例のメモリを取り出してもらう。それから「もう一度お願いできる?」と続けた。もう一度? 何をするのやら。
わかりました、とゆめみは心なしかこちらを気にするようなそぶりを見せてから後ろを向く。カチャカチャという機械音が聞こえて、次にゆめみが振り向いた時にはフラッシュメモリがイヤーレシーバーの横にあるUSBポートに接続されていた。
「へぇ…最近のロボットっていうのはよく出来てるのね」
藤林が感嘆の声を上げる。ありがとうございます、とゆめみが照れ臭そうに応じた。パソコンみたいなロボットだよな…なんだったっけか、どっかにそんな感じの漫画があったな…
「ゆめみ、出してくれる?」
郁乃が一声かけると、同じくイヤーレシーバーから光が出て、目の前にホログラフを作った。
スクリーンなしで映るのかと思ったが実に綺麗に画面が映っていた。最新式のコンパニオンロボは伊達ではないらしい。
俺様を含めた全員が画面に見入る。テキストファイルやら、何かの実行プログラムやらがいくつか並べられている。
「私とゆめみが見たのが、これ」
『今ロワイアル支給武器情報』という文字を郁乃が指した。郁乃の説明によれば、文字通りこのファイルには全参加者の支給武器の詳しいデータが載っているという。
俺様や藤林、折原も確認してみたが郁乃が気になったもの以外はめぼしいものはなかった。
「オッサンの支給品はやっぱポテトだったんだな…」
オッサン言うな折原。で、その話題の支給品はと言うとウリ坊(ボタン)と仲良く遊んでいた。
この野郎、一人だけ幸せそうに…
「春原…芽衣…妹さんが…預かってくれてたんだ、ボタン」
俺様がポテトへのやつあたりを計画していたところ、藤林がらしくない、涙ぐんだ声で漏らす。意外と人情家なのかもしれない。
「知り合い、だったのか?」
春原芽衣という名前はすでに放送で呼ばれている。
俺様が訊いたところ、藤林は首を横に振った。
「直接会ったことはないんだけど…よく陽平…春原陽平ってあたしの悪友がよく言ってたのよ。『僕の妹はよく出来てんだぞ』って」

476.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:41:34 ID:uUkMQoNg
数奇な運命だな…と柄にもなく感慨に耽ってしまう。そういや、俺様と郁乃&七海も…いや、気にしないでおこう。
「みんなもういい? それじゃ、次に行くわよ?」
いつのまにやら仕切り役になっている郁乃がファイルを閉じるように指示する。コイツ、学校では委員長だったに違いない。
「後残っているのは…ええと、『エージェントの心得』と、『HMXシリーズ用プログラムインストーラ』ですね。どうしますか?」
「何でエージェントなんかについてのファイルがあるんだ?」
折原が不思議そうな声を上げる。ふふん、ここで俺様の知識の見せ所だ。FARGOで培ったアングラサイト知識を見せてやろう。
「知らんなら教えてやる。エージェントってのはだな、まあ要するにスパイだ。任務中は常に命の危険に晒されてる。従って一流のエージェントってやつはサバイバル知識も豊富なわけよ。で、これにはその秘伝が書かれてるってことだ」
久々に鼻高々。見ろ、あの郁乃や藤林でさえも感心した目つきじゃないか。やはり俺様は頭脳派だ。これからはポアロ・高槻と名乗ることにしよう。
「…ってことはここにはサバイバル知識や戦闘術が書かれてるのね。参考にはなりそうだけど…今見る必要はないんじゃないかしら。こっちは大人数。敵も迂闊には手を出してこないはずよ」
「そうね…安全そうなところについてから改めてみた方がいいわね。じゃあこれは後回しってことで」
…が、やはり話の主導権は郁乃と藤林の女連中に握られていた。見ろ折原。亭主関白という言葉はもはや死語になりつつあるのだよ。
「オッサン、なんでそんな目でオレを見る」
理解してもらえなかった。これだから優男というやつは…そうか、きっとこいつはMなんだな。そうに違いない。
「…だから何だよオッサン、その哀れむような目は」
オッサンオッサン言ってるのには目をつむっておこう。
一方話の主導権を握っている女連中はホログラフを見ながらきゃあきゃあ言っている。弱者の意見など聞いてもらえそうにない。
「このインストーラってええっと…来栖川エレクトロニクスのメイドロボシリーズにしか使えないんでしょ? ゆめみはどうなんだっけ?」
郁乃の質問に、ゆめみは頭も動かさず答える。

477.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:42:11 ID:uUkMQoNg
「はい、わたしはコンパニオンロボということになっていますが…基本のOSはHMX系統のものを用いておりますので恐らく、ではありますけど使用できるのではないかと思います。ただ…わたしは試験体ですので最新型のHMXのアップデートに対応しているかは…判断できません」
なるほど、要は最新型のメイドロボをWindows vistaだとすればさしずめゆめみはMeってところだな。
「ってことはインストーラも使えるのね。それじゃ…んふふ、ゆめみさんを改ぞ…じゃなくて、機能拡大してみましょうか?」
藤林がマッドサイエンティストばりの笑みを浮かべる。のんびり屋のゆめみも流石に藤林のただならぬ雰囲気を感じ取ったらしく、カメラアイをあっちこっちに動かしている。
さらばゆめみ。俺様はお前の事を、永遠に記憶の片隅にとどめておくであろう。シャボン玉のように華麗ではかなきロボットよ。
俺様と折原は黙って背を向けた。…まあ実はゆめみの歩行能力にはいささかの不満もあったので機能が良くなることについて異存はない。折原もそれは分かっているようだった。
「ポチッとな」という声が聞こえて(実際起動するのはゆめみだが)、インストールが始まった。
「郁乃ー、どんくらい時間はかかる?」
「んー? ホログラフを見ると…あ、2、3分で終わるって」
何だ、意外と早いじゃないか。これなら退屈せずに済みそうだ。
「ん…うーん…」
などと思っていると、折原の背中から呻き声が。子泣き爺ではない。
「おっ、立田が起きたみたいだ」
折原が起きそうなのを悟って地面にゆっくりと下ろす。ほどなくして七海が目を覚ました。
「あ…あれ、ここはどこ…ですか?」
きょろきょろと周りを見まわしている。そりゃそうか、目覚めたら外の世界だもんな。
「七海、今はわけあって鎌石村まで移動中だ。それから、ゆめみが今…」
俺様がゆめみのことを口にしようとした時。
「更新が完了致しました、通常モードへ復帰します」
やたらと事務的な声が聞こえて、ゆめみのほうも終わったようだった。
「ゆめみさんが、どーしたんですか?」
純粋な疑問の瞳で聞いてくる七海。俺様は冗談半分で、言った。
「パワーアップして帰ってきた」

478.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:43:00 ID:uUkMQoNg
【時間:2日目・07:30】
【場所:D−8】

ポアロ・高槻
【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰す】

小牧郁乃
【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
【状態:目覚めた。支障などはない】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない。色々パワーアップ】

折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
【状態:全身打撲、打ち身など多数(どちらもそこそこマシに)。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】

藤林杏
【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

ボタン
【状態:ポテトと遊んでいる】
→B-10

479凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:04 ID:XmV31TEA
「あたし達、これを調べようと思って」

そう言う広瀬真希の指差す先には、彼女の首にはめられた首輪があった。

「もし脱出するにしても、一番のネックはこれだろうし。何とか解決策を見つけられたらと思って」
「成る程、確かに問題ではあるな」

霧島聖も改めて自分の首輪に触れて、その命があくまで主催者側に握られているという事実を思い知る。
俯く少女達、その中で一ノ瀬ことみだけは飄々としていた。

「あんたは呑気でいいわねぇ・・・・・・」
「?」
「はぁ、あたしも楽観的になりたいものだわ」
「むしろ、あなた達が何でそんなに頭を抱えているか分からないの」
「ちょっと、話聞いてなかったの?!」
「くー・・・・・・」
「美凪も?!」
「ことみちゃんはちゃんと聞いてたの、その上で言ってるの」

いつの間にか用意していた湯のみに口づけ、さも当たり前のことという風にことみは言ってのけた。

「そんなの簡単なの」
「はぁ?」
「チョチョイのチョイなの」
「あんた、自分で何言ってんのか分かってんの?」
「証拠を見せてあげてもいいの」
「・・・・・・からかってんなら、マジで怒るわよ」
「ふぅ、短気は損気なの」

480凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:33 ID:XmV31TEA
怒りを通り越し呆れたかにも見える、そんな真希の視線にもことみはケロッとしていた。
それがますます沸点の低い彼女の感情を刺激しているのだが、当の本人は気づかない。
囲んでいるちゃぶ台をいつひっくり返してもおかしくないだろう、そんな真希を止めたのは彼女の隣にて押し黙っていた遠野美凪であった。

「真希さん、しー」
「はぁ?」

徐に鞄の中からこの島を取り出し、ひっくり返す美凪。
手にしたシャープペンシルで、さらさらと走り書きをする。

『盗聴の可能性あり』

今度は彼女が首輪を指差しながら、周りを見渡した。

「あ・・・・・・」

真希も北川潤と話し合ったことを思い出したのだろう、はっとしたように口を閉じる。

「それは、本当なのか?」

驚いたように声を上げたのは聖だった。そのようなことを考えたことがなかったらしい彼女は、口元に手をあて考えるように身を乗り出す。

「よく気がついたの、褒めてあげるの」
「あんたはあんたで一体何様なのよ?!」
「・・・・・・いじめる?」
「いや、いじめやしないけどさ」
「あっそ」
「おま、本気でシメたろか?!!」
「真希さん、しー」

481凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:59 ID:XmV31TEA
一方、ことみはというと相変わらずの調子であった。

「でも、ちょこっと見直したの」
「何よ・・・・・・」
「ちゃーんと分からなきゃいけないことは見抜いてるの、これなら一緒にいても一安心なの」

そう言って自らも筆記用具を手にし、ことみは美凪の走り書きの下にちょこちょこと文字を書き始める。

『私たちは脱出をしようと思ってるの』
『そのためにも、キーとなるのは以下の4つなの』

『①現在地の把握』
『②脱出路の確保』
『③主催側の人間の目的』
『④首輪の解除』

『①については、灯台にてこれから確認を取るの』
『それがまず分からない限り、②を考えるのも難しいのでこっちは後回しなの』
『④については、心配しないで欲しいの。何とかできるの』

「ちょっと待って、だから何でそんな簡単に済ませようとするのよ!」

引き続き文字列を増やそうとしていくことみに対し、真希がつっこみを入れる。

「・・・・・・?」
「これが一番厄介なのよ、下手したら死んじゃうのよ?!」
「・・・・・・」

言葉で答えず、ことみは再び視線を下げ書き込みを行った。

482凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:58:35 ID:XmV31TEA
『さっき言った通りなの、数分前のことを蒸し返されても困るの』
『これぐらいならちょっとした工具があれば解体できるの』

書き終わったと同時に、ブイッと元気よく右手を上げることみ。
眉を潜めた真希は、またもや胡散臭そうに彼女を見やる。

「本当なの」
「あのねぇ、ふざけてたらマジでブン殴るわよ?」
「信じて欲しいの」
「・・・・・・」
「やってやれないことはないの」
「ここにきて不安を煽る発言やめてよ?!」

しかしそう言うことみの表情は相変わらずではあったが、確かにその言葉に真剣さは含まれていた。ようにも感じる。

『ただ、今は外すべき状況ではないと思うの』
『主催側の人間が、私がそういうことできるってこと。知らないとは思えないの』

「と、言うと・・・・・・」

『あっちの出方が分からない限り、変に目をつめられたくないの。
 この首輪には仕込んでいないと思うけど盗撮されている可能性もなくないの、死んだ人間がカメラに映ったらおかしいの』

483凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:59:07 ID:XmV31TEA
「成る程。だがことみ君、一体どうやってそれは調べるつもりなんだ?」
「・・・・・・」
「ことみ君?」
「考えてないの」
「ブン殴る!!」
「真希さん、しー」
「んー、何かしら外と通じることができるモノが手に入れば・・・・・・」
「例えばどんなものだ」
「パソコンとか、携帯電話とか。何でもいいの」
「こんな辺鄙な場所では、パソコンは期待できないな」
「え、携帯電話ならあたし持ってるけど」

俯くことみと聖に向かい真希が差し出したのは、彼女の私物である携帯電話。
ぱっと聖が目を輝かせたが、通話はできないと聞くとその表情はすぐ落胆のものになる。
ことみは何か考えているようだった、その間にと真希は彼女の書き込んでいた用紙に自らも筆記用具を用意し書き込みをはじめる。
そして、チョイチョイと指を差す。

『これはあくまであたし達の推測だけど、この島には妨害電波があると思うの』
『赤外線での番号の交換はできたんだ、でも通話はできない。だからそうじゃないかって』

『よく分かんないけど、あたしはこれを最初っから持ち込めたの。あっちが回収し忘れたみたい。
 で、もう一人、持ち込んでる参加者もいる。さっきそいつから電話がかかってきたんだけど、そいつは支給品として配られた携帯電話を使ってきたらしいの』

「それは、本当?」
「勿論よ」
「ふざけてたらマジでブン殴るの」
「真似すんじゃないわよ!」

そんなやり取りをしながら、ことみもボールペンを走らせていた。
会話が終わったと同時に、先の真希と同じようにチョイチョイと指を差す。

484凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:59:41 ID:XmV31TEA
『ジャミングの線は多分合ってると思うの。
 それを破ることができる支給品ということなら、改造すれば外と繋がる電話にすることも可能かもしれないの』

「ちょ、ちょっと、本当に?!」

コクン。静かに頷くことみ、集まる視線は驚愕そのもの。
すくっと立ち上がり周りを見渡してから、ことみは宣言する。

「決まりなの。当面の目的は学校を通って灯台へ行くの、あとはその携帯電話を手に入れればこっちのもんなの」
「そうね、また北川から電話かかってくるかもしれないし・・・・・・その時に合流できるよう伝えるわ!」
「頑張るの」
「頑張りましょう!」

がっちりと握手を交わしながら見つめあうことみと真希の間に、何やら熱い空気が流れる。

「ぱちぱちぱち・・・・・・」

そんな二人の新しい門出を祝うかのように、美凪も拍手を贈る。

「してないの、口で言ってるだけなの」
「っていうか別に頑張るのあたし達だけじゃないわよ、あんたもやるんだからね!」

はしゃぐ三人娘、一歩下がり聖は楽観的な彼女達を見つめていた。
幸先は決して悪くない、真希達の情報とことみの能力が交差したことにより自分達は誰よりも脱出を可能にすることができる参加者になったであろう。

(ただ、こんなに簡単に進んでいいものなのだろうか・・・・・・)

聖は一人、今後の展望に対する不安を拭えずにいるのだった。

485凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 01:00:56 ID:XmV31TEA
【時間:二日目午前5時過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:毒針、吹き矢、高圧電流などを兼ね備えた暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式(様々な書き込みのある地図入り)、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

(関連・673)(B−4ルート)

486LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:05:44 ID:19DpzjK.

じゃり、と嫌な音がした。
窓枠を超えて侵入してきた男の靴底が、割れ落ちた硝子の破片を踏みしだく音だった。

「ひ……ああ……」

七瀬彰は、声にならない悲鳴を上げ、ベッドの上で身をよじった。
その眼は恐怖に潤んでいる。

「ケケ……いいな、その顔……」

男が、爬虫類じみたその顔を笑みの形に歪ませ、彰ににじり寄る。
頬を紅潮させて震える彰の手を、男は強引に掴むと一気に引き寄せた。

「あっ……!」

なす術もなく、たくましい男の胸板に飛び込むかたちになる彰。
高熱に蝕まれ、頭がうまく働かない。
男は彰のおとがいに手をかけると、軽く上向かせた。
蛇のような眼に見据えられ、彰は身動きが取れなくなる。

「んっ……」

頬に、気味の悪い感触。
べろりと、男の舌が彰の頬を舐め上げていた。
舌は、蛞蝓のように彰の顔を這い回る。
紅潮した頬から涙の溜まった目尻、震える瞼を経て、鼻筋へ。

「や……だ……、んんっ……!?」

ぽろぽろと涙を流しながら呟いた口唇を、奪われた。
慌てて口を閉じようとするが、男の手が彰の頬を強く押さえ、それを許さない。
強引に開かれた彰の口腔を、男のヤニ臭い舌が侵蝕する。
歯茎の裏を舌先で擦られ、そのおぞましさに彰はただ涙を零した。
ねっとりとした男の長い舌が、彰のそれを絡め取る。
粘膜同士が触れあう感触に、彰の鼓動が早くなる。

「ん……ふ……」

鼻から漏れる吐息が、次第に荒くなっていく。

487LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:10 ID:19DpzjK.
(こんなの、やだ……)

と、男の舌が彰の口腔から抜ける。
はぁっ、と深く息を吸い込む彰。
だが次の瞬間、彰の視界は九十度回転していた。

「え……?」

ぎし、とスプリングが鳴る。
ベッドに押し倒されたのだ、と理解するよりも早く、彰の着ていた服がまくりあげられた。

「や……っ!」

慌てて押さえようとした、その手を逆に掴まれた。
赤く指の跡が残るほどの強い力に抗えず、彰は男のなすがままに身体をまさぐられる。
薄く浮いたあばらを、骨に沿ってなぞるように、男の舌が這い回った。

「この肌……白くて、すべすべしてらぁ……。ケッケ、たまんねぇな……!」

無精ひげが彰の腹を擦る。
臍の中までも、男の舌に蹂躙された。

「いや……だぁ……」

頬を紅潮させ、かぶりを振る彰。
その恥辱に歪む表情に嗜虐心をそそられたか、男の無骨な手が、彰の服を乱暴に胸の上まで捲る。

「……ん? お前……」
「……っ!」

薄いココア色の乳首をまじまじと眺めて、男が神妙な顔をする。
その表情に、彰の中に最後まで残っていた意地が、弾けた。

「そ……そうだよっ……! 僕は……僕は、男だっ!」

白を基調とした室内に、静けさが下りる。

「……」
「……」

嫌な沈黙だと、彰は思った。
ねっとりとした重苦しい空気が、手足を絡め取っているように感じられた。
しばらくの間を置いて、ゆっくりと、男が口を開いた。

「……安心しろ」
「え……?」

ひどく優しげな笑みを、男が浮かべたように、彰には見えた。
ぬるりと濁った眼が、ヤニで黄色く染まった歯が、笑みの形のまま、彰に近づいてくる。

「―――俺は男の方にも慣れてるからな。ケッケッケ」

絶望が、かたちを成して彰の前にあった。

488LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:33 ID:19DpzjK.
「んんっ……! ぁ……!」

再び、唇を奪われた。
男の空いた手が、彰の腹をまさぐる。
指先で一番下の肋骨をなぞるようにしながら、手を彰の背に回していく。

「ひ……あぁ……」

くちゅくちゅと音を立てて唾液を混ぜ合わせられながら、男の手の動きに翻弄される彰。
つう、と背筋を引っ掻くように辿る、男の爪の感触に、彰は身を捩ろうとする。

「あ……ら、や……」

唇を甘噛みされた。
眼を白黒させる彰の隙を縫うように、男の手が彰のベルトにかかる。
そのまま片手だけで、実に素早く、ベルトが抜かれた。
ズボンの隙間から、男の手が侵入する。

「や……やぁぁぁっ……!」

高熱のせいでいつもより熱を持っている逸物を、男の指が探る。
柔らかいままのそれが、男の爪にかり、と引っかかれた。ぴくりと震える。

「ん……くぅ……」

男はそのまま、広げた掌で撫でさするように、彰の逸物を嬲る。
ねっとりとした愛撫に、彰のそれが、徐々に滾っていく。

「ひ……うぁっ……!」

尿道を親指で擦られた。
逸物が、一気に肥大化する。
男の手を押し退ける勢いで膨らんだそれが、突然冷たい空気に晒された。

「ん……く、ぁ……?」

ズボンが、下着ごと下ろされていた。
ぶるん、と勢いよく反り返る彰の逸物が、男に掴まれる。

「何だ、お前……顔に似合わず立派なモン、持ってんじゃねえか……?」
「や……だぁ……」

涙を流しながら、ふるふると首を振る彰。
恥らう彰をニヤニヤと眺めていた男だったが、何を思ったか突然にその手を離した。
彰の耳元に口を寄せ、獣じみた息を吹きかけながら、囁く。

「ま、いいさ……今日は、こっちは使わねえからな」

489LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:55 ID:19DpzjK.
こっちは、使わない。
その言葉が意味するところの理解を、彰の思考は拒絶した。
悲鳴だけが、彰の口から迸っていた。

「いやだ……いやっ……いやあああああっっっ!!」

心の底から、殺してくれ、と願った。
懐かしい日常も、心安い仲間達も、あんなにも恋焦がれたはずの澤倉美咲の笑顔でさえ、
その瞬間の彰は、思い出すことができなかった。
ただ、目の前の絶望から逃れたいと、それだけを思った。

そして同時に、それはひどく不思議なことだったが、彰の心に浮かんだ、もう一つの願いがあった。
殺してくれという願いと同じだけの重さで、生きたいと、七瀬彰は思った。
誰のためでもなく、ただ、生きたいと願った。

殺してくれ。生きたい。
絶望から逃れたい。生きたい。
助けて。生きたい。なんでもする。生きたい。
助けて。なんでもする。生きたい。生きたい。助けて。助けて。助けて―――

「―――助けて、僕を、僕を助けて、誰か……っ!」

願いが、言葉となって迸った。

瞬間。
光が、射した。

「―――」

響き渡ったはずの轟音は、彰の耳には聞こえなかった。
ただ、光の中に佇むひとつの影を、彰は凝視していた。

壁を木っ端微塵に破壊して、その男は立っていた。
風が、吹き抜けた。

「―――失せろ、下種」

その声すら、天上からの響きのように、彰には感じられていた。

490LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:07:16 ID:19DpzjK.
【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱】

御堂
 【所持品:拳銃】
 【状態:異常なし】

U−SUKE
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:ラブ&スパナ開放】

→665 707 ルートD-2

491おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:46:18 ID:WkK.7gNg
まずい、実にまずい。
雛山理緒は自らが招いてしまった(と勘違いしている)状況にどうするどうすると思考回路をフル稼動させて打開策を考えていた。
(どどど、どないしよ、これは所謂橘さんのピンチというやつでないでっか、いや、芸人になってる場合とちゃうねん、つーかこの言葉遣いをまずやめんかいっ!)
「…なんや、挙動不審なやっちゃなー」
理緒本人は頭だけを働かしているつもりだったのだがそこかしこで腕や足がひっきりなしに動いている。そのあまりの挙動不審っぷりに晴子は苦笑するしかなかった。
この分かりやすさ。それが、どこか観鈴と似ていた。姿かたちは全然似てないが。
敬介が彼女と行動を共にしている理由が何となく分かったような気がした。
「…もうええわ。バラすんだけは勘弁したる。さっさと武器や食料置いてどこへでも行きぃ」
「…見逃してくれるのか?」
「でなかったら何や? ええんやで、死にたいなら撃っても」
不敵に、晴子が笑った。敬介は手を上げると、「分かった、もう何も言わずに去るよ」と言って理緒に荷物を捨てるよう指示する。
理緒はびくびくしながらもさっさと荷物を下ろして、敬介の後ろへ引き下がった。
「よーし、そのまま後ろへ下がるんや…ヘンな真似するんやないで」
VP70で牽制しつつ敬介と理緒を後ろへ下がらせる。
さて、どんな武器を持っているのやら。いつでも荷物を取り出せるようにだろう、半分開いているデイパックをちらりと覗いてみる。
「何やこれ」
思わず、呆れた声を出してしまった。鋏、アヒル隊長、トンカチ…とても役に立ちそうなものとは思えない。
「敬介。アンタ、ピクニックかなんかに来てるんか?」
「せめてクジ運が悪かった、って言ってもらえないか」
元々敬介はヒキの悪い男だと思っていた晴子だが…これは、流石に。
「なんか、無駄弾を撃ってしもうて損した気分やわ…はは」
敬介のために激昂して一発撃ってしまったことが今更ながら悔まれた。肩を落としかけていた晴子だが、ふとデイパックに未開封のものがあることに気付く。
「そういや、荷物がみっつあるんやな。誰のや、これは」
晴子の疑問に、今度は理緒が答える。
「それは…その、一人の女の子の…遺品なんです」

492おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:46:44 ID:WkK.7gNg
「誰や」
晴子の声が、険しくなる。放送で呼ばれてないだけで、それが観鈴のものである可能性も否めなかった。その剣幕にたじろぎながらもはっきりと理緒は言った。
「名前は…分からないんですけど、茶髪で短い髪の女の子でした」
「そうか…ならええわ」
観鈴のものではないことに安心し、中身を確認する。晴子としては、この先拳銃一丁では心許ない。できればもう一丁は拳銃が欲しいと思っていた――のだが。
「なんや、ハズレか」
かつての椎名繭の支給品はノートパソコン。相応の技術を持つ人間ならこれ以上ない支給品だが生憎そんな知識など持ち合わせていない晴子にとっては重たいだけの文字通り『お荷物』であった。
「あんたら、ホンマにヒキが悪いねんな」
「「余計なお世話だ!(です!)」」
ハモりながら反論する二人に、今度こそ晴子は本当の笑みを漏らす。何でかは知らない。とにかく、さっきまでまとめて殺そうとしていたとは思えないくらい、無性におかしかった。
「…何がおかしいんだ、晴子」
「知るかい。ウチにも分からん。…ま、こんなん持っててもしゃーないわ。そのノートパソコンだけは嬢ちゃんが持って行きぃ。遺品なんやろ?」
「…いいんですか?」
理緒はおろか、敬介でさえも予想しえなかった言葉に目をぱちくりさせながら、理緒は答える。
晴子は「重たいだけや、こんなん」と言うとデイパックに封をして理緒に投げ渡した。その重さによろめきながらも、しっかりとそれを受け取る。
「ありがとうございます…」
「礼なんていらんわ、ウチの得にならんと思うただけや」
憎まれ口を叩きながらも晴子の言葉には棘がなかった。しかし、すぐにそれを修正するかのようにドスの利いた声で「もう交渉は終わりや、早よ消えんかい」と言った。
敬介としても丸腰は危険だと思い、早急にその場を去ろうとして、その時、視界の隅にとある二人組を見つけた。うち一方は――銃を構えている! 狙いは…晴子!
「晴子っ、後ろだ!」
敬介の大声に反応して、すぐさま晴子が地面を蹴って、転がる。刹那、晴子のいた場所を『何か』が通りぬけて行く感触がした。
「チッ…ホンマにヒキが悪い…」
反撃しようと銃を構えた、その時。
「た、た…橘さぁんっ!」
今にも泣き出しそうな、少女の声。振り向くと――そこには、胸から血を流して息も絶え絶えな敬介の姿があった。
何があったんだ、と一瞬混乱しかけた晴子だがすぐにその原因が分かった。

493おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:47:07 ID:WkK.7gNg
「あのアホ…流れ弾なんかに当たりよってからに!」
自分で警告しといて自分で当たれば世話ない。間抜けだ、と晴子は思ったが一方で怒りも感じていた。どうしようもないアホだが…対立していたが…それ以前に、橘敬介は晴子の『友人』であった。
「誰や! 卑怯くさいマネしおって! 出てこんかい!」
大声で叫ぶと、ようやくその『犯人』が姿を現した。天沢郁未と、来栖川綾香。
一方は知らない人間だったがもう一方は見覚えがある。こんなところで借りを返せようとは。晴子はにやり、と口元を歪める。
これほどまで…ほれほどにまで、こんなに気分が高陽していたことはない。妙に感覚が研ぎ澄まされている。ハダで微妙な空気の動きまでも分かるほどに。
(敬介。ウチはこのゲームを止める気はあらへん。観鈴が生き残るには殺して回るしかあらへんのや。…だけどな、アンタのカタキくらいはとったるわ!)
VP70を気高く、猛々しく、綾香に向けて敵意たっぷりに言ってやる。
「ほぅ…いつか邪魔をしたクソジャリかいな。なんや、今は人殺し街道邁進中か?」
「あら…いつかのオバサンじゃない。久しぶりね、今のは仲間?」
「アホ。昔の知り合いっちゅうだけや。それにウチはオバハンやない、まだ十分に『おねーさん』言える年齢や」
「気にするってことはそれくらいの年なんじゃないの、オバサン」
ピク、と晴子の血管が引き攣る。さっきの台詞は綾香のものではなく、郁未のものだったからだ。
「じゃかあしいわ! 見ず知らずのアンタに言われたかないねん、いてまえクソジャリ!」
言葉は激しいものだったが、行動は冷静だった。無闇に銃を撃つことはせず、敬介から奪い取ったトンカチを、思いきり投擲したのだ。二人固まっていた綾香と郁未が驚き、やむなく森側へ散開した。
晴子の考えは一つ。
敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

494おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:47:27 ID:WkK.7gNg
【時間:1日目午後11時30分】
【場所:G−3】

神尾晴子
【所持品:H&K VP70(残弾、残り15)、支給品一式】
【状態:綾香に攻撃、激しい怒り】
雛山理緒
【持ち物:繭の支給品一式(中身はノートパソコン)】
【状態:敬介の側に】
橘敬介
【持ち物:なし】
【状況:胸を撃たれ致命傷(息はまだある)】
来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(2/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】

【その他:鋏、アヒル隊長(13時間半後に爆発)、支給品一式は晴子の近くに。(敬介の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)。トンカチは森の中へ飛んで行きました】

→B-10

495おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:51:10 ID:WkK.7gNg
すみません、以下の部分に訂正させてください

>>493
>敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

>敬介を撃ったアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

によろしくお願いします

496LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:28:29 ID:IZffcNZk
「―――失せろ、下種」

鎌石小学校の外壁を、まるで障子紙を破るように破壊してのけた男の名を、芳野祐介という。

「ゲェェーック! 何だ、貴様……ッ!?」

咄嗟に振り向いた御堂が、しかしその瞬間、凍りついたように動きを止めた。

「ゲ……ゲェェ……ック」

七瀬彰を嬲る間も肌身離さずに持っていた拳銃を抜き放とうとする手が、震えていた。
瞬く間に、御堂の全身に嫌な汗が噴き出す。

「ほう……少しはやるようだな。互いの力の差くらいは理解できるか」
「き……貴様、何者だ……!?」

だらだらと汗を流しなら、御堂が声を絞り出す。
芳野が、鋭い眼差しで御堂を射抜きながら口を開く。

「―――雑魚に名乗る名は持ち合わせていない。……そいつから離れろ」
「グ……ち、畜生……」

絞り出すような声で呻く御堂。
ぎり、と奥歯を噛み締める。

「聞こえなかったのか? ……もう一度言う。そいつから、離れろ」
「こいつ……こいつ、は……俺の……!」

御堂が言い終わる前に、芳野の手が動いていた。
風通しの良くなった室内に、軽い音が響く。

497LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:00 ID:IZffcNZk
「が……っ! なん、だと……!?」

驚愕に慄く御堂を、芳野はただ静かに見つめている。
はらり、と何かが宙を舞っていた。

「き、貴様……、俺の……軍服を……!」

震える声で唸る御堂は、いまや一糸纏わぬ姿であった。
舞い散っていたのは、御堂の着込んでいた軍服の切れ端である。
御堂の戦慄も無理からぬことであった。
芳野がしたことは、ただ差し出した手の先で、指を鳴らしてみせたという、それだけのことだった。
ただそれだけの動作で、御堂の軍服は千々に切り裂かれ、ズボンに挿していた拳銃は輪切りにされ、
そして、御堂自身にはかすり傷一つついてはいなかったのである。
達人の使うという剣圧の類と見当はつけてみても、御堂は動けない。
否、何気ない仕草でそれをやってのける技量が推し量れるからこそ、御堂は身じろぎ一つできないでいた。
それだけ、彼の眼前に立つ男の力量は圧倒的であった。

「―――勘違いするなよ、下種」

全裸の御堂を見据えたまま、芳野が淡々と言う。

「お前を殺さないのは、そいつに血を見せたくないからだ」

そいつ、と口にした一瞬、芳野が御堂の背後、彰へと目をやる。
その視線にどす黒い殺意を掻き立てられながら、御堂は芳野を睨み返した。
敵う相手ではなかった。一矢を報いることすらできぬと、わかっていた。

「ゲ……ゲ……ゲェェェーック!」

ベッドの上で中腰になった御堂が、じりじりと、円を描くように動く。
芳野との距離を詰められぬまま、壁に空いた大穴へと近づいていった。
最後にちらりと彰を見ると、御堂が言う。

「ケッケッケ、覚えてろよ……俺はいつでも、お前の傍にいるからな……!」
「次に顔を見たら、素っ首叩き落す。そのつもりでいろ」
「……ゲェーック! ゲェーック!!」

芳野の視線から逃れようとするかのように、御堂が飛び退いた。
そのまま振り返らずに走っていく。
校庭を横切り、森に入ってその後ろ姿が見えなくなるまで、芳野は厳しい眼でそちらを見据えていた。


******

498LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:35 ID:IZffcNZk

「……もう、大丈夫だ」

振り向くと、芳野は普段の彼を知る者が見れば驚くような、柔和な笑みを浮かべて言った。
慈しむようなその視線は、真っ直ぐに彰へと向けられている。
ベッドの上で、握り締めたシーツで身体を隠すようにしている彰へと、そっと手を伸ばす。
だが、その雪のように白い肌に触れようとした瞬間。

「……っ!」

彰が、声にならない悲鳴をあげて身を震わせた。
何か眩しいものを見るようだったその瞳も、怯えた小動物を思わせる色を浮かべている。

「す……すまん」

慌てて手を引く芳野。何をしているのだ、と自省する。
目の前の少年はたった今、強姦されかかったのだ。
見も知らぬ人間を警戒するのは当たり前だった。

「い、いえ、僕のほうこそ助けてもらったのに……すいません」

そう言って、涙目のまま頭を下げる彰。
その姿を目にしたとき、芳野は不思議な温かさが全身に広がるのを感じていた。
ずっと感じていた胸の中の棘が大きくなるような、それでいて転がる棘が決して痛みだけではない何かを
もたらすような、奇妙な感覚。
それはひどく甘やかで、懐かしい感情だった。
目の前の少年のことを、もっと知りたいと思った。

「俺……俺は、芳野祐介。お前の名前を、聞かせてくれないか」
「あ……、僕は七瀬、七瀬彰です」
「彰、か……いい名前だな」

彰、あきら。
その名を舌の上で転がすように、何度も小さく繰り返す芳野。

「その、ありがとうございます……芳野さん」
「祐介でいい。……俺も、彰と呼ぶ」
「はい……祐介さん」

上目遣いで見上げながら己の名を呼ぶ少年の瞳を見返した瞬間、芳野は心拍数が跳ね上がるのを感じていた。
動揺を誤魔化すように目を逸らし、咳払いしながら口を開く。

499LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:59 ID:IZffcNZk
「そ、それより早く服を着てくれ。その格好は、その……目に、毒だ」
「え……、あ!」

全裸に近い格好のまま、シーツで前を隠しているだけの彰が、己の姿に気づいて赤面する。
白い肌が、一気に紅潮した。
赤く染まった耳と細く白い肩のコントラストから視線を剥がすのに苦労しながら、芳野はようやく口を開く。

「き、着終わったら声をかけてくれ」

そう言うと、後ろを向く芳野。
背後から、小さな衣擦れの音が聞こえてくる。
目を閉じるとあらぬ妄想が浮かんできそうで、芳野は瞬きもせず己が破壊した壁の向こうに見える景色を凝視していた。
風が吹きぬける音だけが響く静けさの中で、時が流れていく。
しばらくそうしていた芳野だったが、とうとう痺れをきらして声をかけた。

「も、もういいか……?」
「……まだ、です」
「そ、そうか」

どこか恥らうような声。芳野は自身の堪え性のなさに内心で頭を抱える。
自分にとってはひどく長い時間に感じられたが、もしかすると実際には数秒しか経っていなかったのかもしれない。
そんな風にすら思えた。
明らかに平静ではない己の精神状態が、しかしひどく心地よくて、その二律背反に芳野はまた悩む。
胸の中の棘が、転がった。
痛痒いその感覚に、胸を掻き抱いて蹲り、思う様叫び出したい衝動に駆られる。

「……ね、祐介さん」

歯を食い縛って衝動に耐える芳野の背後から、小さな声がした。
恥じ入るような、それでいながらどこか鼻にかかったような、囁き声。

「なん―――」

振り向こうとした芳野の腰に、白い腕が回されていた。

500LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:30:18 ID:IZffcNZk
「な……!?」

彰が、芳野に抱きついていた。
見下ろした彰の、ミルク色の細い肩のラインがひどく艶めかしくて、芳野は正視できない。
彰は、その身に何も纏っていなかった。

「なに、を……」
「―――お礼が、したいんです」

芳野の腹の辺りに顔を埋めながら、彰が言う。
服越しに感じる吐息の熱さと声の振動に、芳野は体の芯から何かがせり上がってくるのを感じていた。

「さっき、とっても怖かった」

言いながら、彰は芳野のベルトに手をかける。

「ひどいことされて、殺されるって、思った」

かちゃかちゃと音を立てて、ベルトが抜き取られた。

「助けてって、思ったんです。誰か助けて、って」
「クッ……や、やめ……!」

ジッパーが、そっと下ろされていく。

「そうしたら、来てくれた。僕を助けに来てくれたんです。祐介さんが」

反射的に彰を突き飛ばそうとして、芳野は必死で己を抑える。

(駄目だ……! 今の俺がそんなことをすれば、こいつは……!)

加減のきかない力は、彰の華奢な身体をいとも簡単に破壊してしまう。
壁に叩きつけられて物言わぬ屍となる彰の姿が、脳裏をよぎる。

「……だから、祐介さんにお礼がしたいんです」

言葉と共にボクサーパンツが下ろされていくのを、芳野はなす術なく見守るしかなかった。

「僕にできることなんでもしてあげたいって、そう思ったんです。だから―――」

そう言うと、彰は躊躇なく、芳野のモノを口に含んだ。


******

501LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:30:46 ID:IZffcNZk

―――汚らしい。

七瀬彰は、芳野のモノを舌の上で転がしながら、そう思う。
瞬く間に大きく、硬くなりはじめたそれを、一旦口から出すと、そそり立つモノに舌を這わせる。
舌全体を広く使いながら、亀頭を舐め上げていく。

「くぅ……」

芳野の、獣じみた吐息。
こいつも同じだ、と彰は内心で唾を吐く。
高槻と、軍服の男と、同じ種類の生き物だ。
汚らしい、獣欲にまみれた、畜生以下の屑どもだ。

「どう……? 気持ちいい……?」

そうして自分は、そんな屑に奉仕している、最低の人種だ。
玉袋に添えた指をやわやわと揉むように動かしながら、エラの張った雁首を、舌先でつつくように刺激してやる。

助けて、と願った。
誰か助けて、と。何でもする、生きたい―――と。
その結果が、この様だ。
どこか遠くにいる神様が、意地悪な顔で笑っているような気がした。
どうした、生き延びるためなら何でもするんじゃなかったのか。
男に身体を差し出すくらいが何だ、その程度でお前を助けてやろうというのだ、安いものじゃないか―――。
そんな声が聞こえてくるような気すら、していた。

(ああ、やってやるさ……何だって、ね。だからそこで……黙って見ていろ、クソッタレの神様め)

たっぷりと唾液をまぶした舌で、裏スジを上下に舐める。
空いた指の腹で雁首を擦りながら、上目でちらりと芳野の様子を窺う。

「う……あ、彰……」
「ん、ふぅ……」

眼が合うや、頬を真っ赤にして視線を逸らす芳野。
予想以上の反応に呆れながらも、彰は一つの確信を得ていた。

502LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:31:28 ID:IZffcNZk
(僕には……一つの才能が、ある)

潤んだ瞳。
高く、薄い声。
少女じみた童顔。
細く華奢な体つき。
白くキメの細かい肌。
それら、これまでの人生ではコンプレックスの種でしかなかった自分の身体的な特徴が、
今のこの島では、大きな財産になり得る可能性を秘めていた。即ち、

(僕の身体は……一目で、男を惹き付ける)

特にその効果は、青年期を過ぎた男性に顕著なようだった。
高槻は出会って間もなく自分を愛していると断言し、文字通り身体を張って自分を守り通した。
軍服の男は、即座に自分を犯そうとした。
そして今、芳野祐介だ。
人間離れした能力を持ったこの男は、明らかに自分に惹かれている。
ならば、と彰は考える。

(なら、もう僕から離れられないようにしてやる……)

そのためならば、こうして奉仕することも厭わない。
口先と身体だけの愛ならば、いくらだって捧げてやる。
それほどに、芳野祐介の力は圧倒的だった。この男といれば、この場を生き延びるどころか、
ターゲットを殺害しての帰還すら現実的なものとなると、彰は思う。
澤倉美咲と合流したとしても、うまく誤魔化す自信があった。
何しろ自分の身体に群がる男たちの思考回路など、獣以下だ。

(そのためにも……今、頑張らないと)

先走り液を指に絡ませながら、彰は竿をしごき上げる。
亀頭は口にすっぽりと含んでいた。
口蓋と舌とで包み上げると、頭ごと前後に動かすようにして刺激を強める。

503LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:31:56 ID:IZffcNZk
「く……うぅっ、彰……」

びくり、と芳野のモノが震えた。
限界が近いらしいことを感じ、彰は最後の仕上げに取り掛かった。
わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら、咥内のモノを出し入れする。
竿に這わせた指の力を、少しづつ強めていく。裏スジを、爪の先で掻いた。
速いペースでしごき上げながら尿道を舌先でつついた瞬間、

「あ、あき、ら……くっ、うぁ……あぁああっっ……!」

どくり、と芳野のモノから、濁った液体が溢れ出した。
あまりの濃さに、白濁を通り越して黄色がかった粘液が、びゅくりびゅくりと彰の顔を汚していく。
頬といわず鼻筋といわず、芳野の精にまみれる。
垂れてきた液体を、ぺろりと舌を出して受け止める彰。
おぞましさを噛み潰しながら、上目遣いで芳野に照れたような笑みを見せる。

「祐介さんの……いっぱい、出てる……。……え?」

彰の表情が、凍った。
見上げた芳野の様子が、おかしかった。

「う……うぁ……ぉぉ……と、とまら……ない……くぉぉ……っ」

苦悶に顔を歪めながら、芳野が呻いていた。
そしてその言葉通りに、射精も止まる気配を見せない。
明らかに異常な量を放出していながら、いまだに粘液を吐き出し続けていた。

「祐介さん……! 大丈夫、祐介さ、……う、うわぁぁぁぁっ!?」

我知らず、彰は悲鳴を上げていた。
涙すら流して苦しむ芳野の、その顔が、彰の見る前で急速に痩せ衰えていた。
瞬く間に頬がこけ、眼窩は落ち窪み、肌に皺が刻まれる。
死が色濃く見て取れる老人の如く、芳野が枯れ果てていく。


******

504LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:12 ID:IZffcNZk

「ぐ……おぉぉぉぉッ!」

絶望と苦悶の中で、芳野祐介は己の過ちを悟っていた。
超絶的な肉体が、禁欲と過剰薬物のバランスによって成立していることを失念していた。
天秤の片方から錘を取り除いてしまえば、そのバランスは崩壊するのが自明といえた。

精液と共に、己を支えていた無数の生殖細胞が体外へと排出されていくのがわかる。
超速移動によって断裂した全身の筋細胞が、死滅していく。
回復能力を失った骨が、そこかしこで砕けるのを感じた。

死を前にして、芳野はひどく冷静に、思う。

(―――ああ。ようやくわかった)

しばらく前から、胸の中を焦がす感覚の正体。
射精によって肉欲が薄れ、ようやくにして思い出すことができていた。

(恋、か―――)

かつて、伊吹公子と出逢った頃に感じていた、胸の高鳴り。
ざわめき、揺れ、身悶えするほどに高まった、感情。
七瀬彰という少年との出会いは、そういうものに、似ていたのだ。

(すまん、公子……俺は、最期までどうしようもない男、だったな―――)

既に視力も失われ、黒一色に染まった視界の中に、たった一人の女性を思い浮かべながら。
芳野祐介は、その波乱に満ちた生涯を終えた。


******

505LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:31 ID:IZffcNZk

木乃伊の如き遺骸を前に、七瀬彰は呆然と座り込んでいた。
どうして、とそればかりが頭をよぎる。

何も残らなかった。
汚辱と恐怖とに耐えながら築き上げようとしたものは、芳野祐介と共に文字通りの灰燼に帰した。
破壊しつくされた室内。床と、壁と、そして己を穢す、栗の花の臭い。
吐き気がした。堪えきれず、白濁液が溜まる床にぶちまける。
びちゃびちゃと撥ねる吐瀉物が、白濁液と混ざり合ってマーブル模様を作り出し、その様にまた
悪心がこみ上げてきて、更に吐く。胃液に刺激されて、涙が出てきた。

「ち……く、しょう……」

感情が、決壊した。
声をあげて、彰は泣いていた。
近くにある物を掴んで、手当たり次第に投げつけた。
そうして手の届く範囲に物がなくなると、ベッドに蹲って叫んだ。
くぐもった泣き声が、ただ響いていた。

506LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:52 ID:IZffcNZk

【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱・慟哭】

芳野祐介
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:死亡】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:全裸】

→717 ルートD-2

507LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 17:11:39 ID:IZffcNZk
訂正です、「→717」ではなく「→716」でした。
申し訳ありません。

508Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:53:37 ID:R1aRfFxo
古河秋生は娘の渚を背負い、みちると共に走っていた。一直線に、役場を目指していた。
「あの大馬鹿野郎……何で俺に相談の一つもしねえんだっ!」
思い起こせば、朋也の様子はどこかおかしかった。先程別れた時の朋也は、必要以上に感情を抑えているように見えた。
自分の名前を騙っての扇動などという真似をされた日には、普段の朋也の性格ならば激怒している筈だ。
にも関わらず朋也は怒りを露にしようとせずに、逆に落ち着き払った様子で対応策を練っていた。
それもこれも、みちるから話を聞いて全て合点がいった。朋也は既に、かつての朋也では無くなってしまっていたのだ。
風子、そして秋生の知らぬもう一人の少女を守れなかった事。その事実がどれ程朋也を苦しめたか、想像するのは難しくない。
無力感と復讐心に苛まれた者が行動を起こすのならば、自身を犠牲にしてでも何かを成そうとするのものだろう。
人を救おうとするにしろ、マーダーへの報復を行うにしろ、捨て身の覚悟で行う筈だ。
そんな自殺行為は今すぐ止めさせなければならない。

前を走るみちるが、心配そうにこちらを振り返る。
「おじちゃん大丈夫?もう少しゆっくり走ろっか?」
傷付いた体で渚を背負い走る今の秋生の速度は、みちるよりも更に遅い。
左肩と脇腹より伝わる痛みで何度も身体がふらつき、その度に気力で堪えてきた。
「みちるちゃんの言う通りです。わたしはもう歩けますから、降ろしてください」
渚も、気遣うように声を掛けてくる。秋生は少女二人を不安にさせてしまっている己の不甲斐なさに、内心で舌打ちした。
「おいおい、俺はおじちゃんって呼ばれるほど、衰えてねえぞ。そんな俺だから当然……こんくれえ平気だ」
精一杯強がって見せる。それは明らかに空元気だったが、休んでいる時間は無いし、娘の足に負担をかけたくもない。
だから秋生はひたすら耐えて、走り続けた。


     *     *     *

509Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:55:08 ID:R1aRfFxo


岡崎朋也の最優先目標は、十波由真と伊吹風子を殺害した張本人――七瀬彰の殺害であった。
しかし朋也は高槻、折原浩平の両名に銃を突き付けられ、動きを封じられてしまっていた。
嘘を吐いているのは朋也の方だと判断した高槻が、棘々しい視線を送りつけてくる。
「残念だったなガキ。俺様を騙そうだなんて百年はええぜ」
「クソッ……」
追い詰められた朋也の心に、どす黒い感情が膨らんでゆく。
何故どいつもこいつも自分の言い分を無視して、彰のような極悪なマーダーを信じる?
もう、何を言っても自分の疑いが晴れる事はないだろう。なら、これからどうするべきだろうか?
仮にこの場から逃亡した場合、また彰と出会えるとは限らない。
故に離脱するというような事はしない。絶対に、その選択肢はありえない。ここで必ず、どんな手を使ってでも彰を殺す。
そうだ、もう自分に残された選択肢はここで決着をつける以外ないのだ。障害を排除して、そして彰を仕留める。
彰の味方をする気ならば、ゲームに乗っていない者でも容赦はしない。銃を向けてくる以上、逆に撃たれても文句は言えまい。
しかし、まずはこの――二人から銃を向けられている状況を何とかしなければ駄目だ。

朋也が打開策を模索している最中、高槻が刺すような冷たい声を掛けてくる。
「とっとと銃を下ろせ。そうしねえと――撃つぞ」
脅す高槻の目には、何の迷いも躊躇も見られない。従わなければ警告通り、発砲してくるだろう。
ここで逆らっても犬死にするだけだ。今は言うとおりにする他無い。
「分かったよ……」
短く答えて、朋也はS&W M60の銃口を下ろす。抵抗する意志が無いという事を、示すかのように。
「ようやく自分の立場が分かったみてえだな。そのまま、銃をこっちに投げな」
「ああ。ほら――――よっ!」
「――――っ!?」
朋也は物を投げる準備動作を小さく行って、そして――真横に跳ねて地面を転がった。銃を投げずにだ。
油断無く銃を構えていたつもりの浩平と高槻だったが、大人しく降伏するかに見えた相手の突然の行動に、一瞬硬直してしまう。
二人が慌てて銃弾を放った時にはもう、照準が合わさっていた位置には朋也の姿は無く、弾丸は空を切るばかりだった。
高槻は再度銃撃するべく朋也の姿を追い、そして朋也が銃を構えている事に気付いた。

510Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:57:22 ID:R1aRfFxo
「――!!」
「危ねえ、オッサン!」
幾分早く朋也の動きを察知していた浩平が、すんでのところで高槻の腕を引く。
「がっ……!!」
しかし、予めこの展開を予測していた朋也の方が早かった。朋也の手元より放たれたS&W M60の銃弾が、高槻の左肩を貫く。
突然の激痛に高槻は銃を手放してしまったが、それでも何とか踏みとどまって、すぐに上体を伏せた。
高槻の頭の上を、紙一重で弾丸がすり抜けていく。肌に伝わる風圧に、高槻の頬を嫌な汗が伝った。
「このっ……ナメやがって!」
浩平が朋也に向けて銃を構えるが、浩平の銃はH&K PSG−1――いわゆる狙撃銃であり、いかんせん狙いをつけるのに時間がかかる。
弾丸が切れた朋也は、小刻みに左右へ跳ねて浩平の銃撃を掻い潜り、一気に距離を縮める。
そのまま朋也は大きく左腕を後方に振りかぶり、全体重を乗せてS&W M60の銃身を振り下ろした。
「うおっ!?」
浩平は咄嗟にH&K PSG−1を盾にしてそれを受け止めようとしたが、甘い。殺し切れなかった衝撃で手が痺れ、浩平は銃を取り落としてしまう。
手を押さえて背を丸めている浩平目掛け、また銃を振りかぶろうとする朋也。だが、その視界を突然白いものが覆った。
「な、何だっ!?」
「ぴこーーーーっ!」
それは生物学的にはかろうじて犬に分類されるであろう、白い珍獣――ポテトだった。
ポテトは浩平の背を踏み台にして朋也の顔に飛びつき、そのまましっかりと張り付き、彼の視界を完全に奪い去っていた。

511Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:58:49 ID:R1aRfFxo
「でかした、ポテトっ!」
相棒の作ってくれた隙を逃さず、高槻が動く。地面を蹴って、その推進力も上乗せした拳を朋也の腹へと放った。
「ぐがっ……」
高槻の硬い拳が腹にめり込んで、朋也は苦痛に顔を歪める。それでも――朋也は下がらなかった。
浩平と高槻の銃は地面に落ちたままだった。今距離を取れば、瞬く間に銃を拾い上げられるのは明らかである。
「邪魔を……するなあああっ!」
苦痛に耐え切った朋也は、がむしゃらに腕を振り回して高槻を押し退けた。そして右手でポテトを鷲掴みにして、そのまま勢い良く投擲する。
ポテトが投げつけられた先にいるのは――今にも朋也に殴りかかろうとしていた、浩平だった。ポテトは浩平の顔面に直撃し、両者に強い衝撃を与える。
「ぴこぉっ……」
ポテトはその衝撃を凌ぎ切る事が出来ず、その場でぐったりと倒れて気を失ってしまった。
「ぐっ……」
浩平は気絶こそしなかったものの、カウンター気味に受けた攻撃に、一瞬意識が飛びかる。
2対1の戦い――普通ならば高槻達が圧倒的に有利であったが、彼らのこれまで負った怪我が、勝負の行方を予想し難いものにしていた。


     *     *     *

512Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:00:24 ID:R1aRfFxo


高槻達の戦いを、固唾を呑んで見守っている郁乃と七海。先ほどから七海は、仲間が――そして、朋也が殴られた時も、辛そうに目を閉じている。
優しすぎる性格の七海からすれば、人が傷付け合う事自体が耐え難い光景だったのだ。
七海はとうとう我慢出来なくなり、戦いを止めようと足を踏み出し始める。しかし、その後ろ手を誰かにがっしりと掴まれた。
「――郁乃さん?」
「駄目よ七海、危ないわ」
七海が振り返ると、郁乃が真っ直ぐな瞳でこちらを見つめていた。
「でもでも、このままじゃみんながっ!」
「私達が行ったって、邪魔になるだけよ……。あの馬鹿を――高槻を、信じよう?」
「……はい」
語る郁乃の手には、しっかりとS&W 500マグナムが握り締められている。しかし、それを使って援護する事は出来ない。
高槻達は今、殴り合いの混戦をしている。郁乃や七海のような子供が下手に銃を撃てば、誰に当たるか分かったものではない。
郁乃も七海も、歯を食い縛りながら人が傷付いていくのを見ているしかなかった。非力な、子供の身である自身を呪いながら。
しかしそんな彼女達に、救いの声が掛けられる。
「君達、ちょっと良いかな?」
その声を発した人物は、この戦いの元凶とも言える七瀬彰だった。郁乃にとって、彰は招かねざる存在である。
郁乃は彰に向けて、ジロリと疑いの視線を浴びせ付けた。当の彰は気にした風も無く、言葉を続ける。
「頼みがあるんだ。僕に――その銃を貸して欲しい。そうすれば、あの人達を助けられる」
「――――!」
郁乃は思わず息を飲んだ。確かに非力な子供の自分よりも、彰の方が数段上手く銃を扱えるだろう。
苦境に立たされている高槻達を救う事も、彼なら十分に可能かもしれない。
だが、そう簡単に信用していいものか?彰がマーダーで無いというのは、あくまで高槻と浩平の推測に過ぎぬ。
彰が嘘をついている場合も考えられるという事を、失念してはいけない。いつもの郁乃なら、ここで安易に銃を渡しはしなかった。
彰への疑念を捨てずに、この場で最善といえる対応を考え出そうとしていた筈である。
しかし――仲間の戦いを見守る事しか許されなかった郁乃にとって、彰の囁きはあまりにも甘く。
「分かったわ……お願い、彰さん。みんなを助けてっ!」
郁乃はS&W 500マグナムを、そして予備弾すらも、殺人者に手渡してしまった。

513Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:01:50 ID:R1aRfFxo

【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:現在の目標は朋也の救出。疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:秋生に背負われている、目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み、痛みを伴うが歩ける程度には回復)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:20】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:高槻、浩平と格闘中。マーダーへの激しい憎悪、腹部に痛み、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害


湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】

514Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:03:22 ID:R1aRfFxo
七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(5/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:朋也と格闘中、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也と格闘中、左肩を撃ち抜かれている(怪我の度合いは後続任せ)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)、H&K PSG−1(残り2発。6倍スコープ付き)

→711

515Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:09:18 ID:F9ga/RUo
相楽美佐枝と長岡志保がその行く手を遮られたのは、午前十時を少し回ったあたりであった。

「み、美佐枝さん……」
「……わかってる」

不安げに声を上げる志保を庇うように、美佐枝が前に出ながら言う。
鋭く見据えたその視線の先には、数十人を遥かに超える少女たちがいた。
少女たちの異常性は、一見して明らかだった。
何しろ、そのすべてが同じ顔をしていたのである。

「どう見たって、マトモじゃないわね……」

そもそも、朝の放送の時点で参加者の残り人数は半数を割り込んでいたはずだった。
頭数の計算からして既におかしいし、何よりも手元の探知機にまるで反応していない。
となれば目の前の少女たちはイレギュラーな存在であるか、

「あるいは、何かの能力によって生み出された、とかね……」

自分がドリー夢の能力に目覚めたように、と美佐枝は考える。
いずれにせよ、採るべき道はそう多くなかった。

「何なの、あいつら―――?」

背後で怯えたように言う志保に、美佐枝は短く声をかける。

「長岡さん」
「なに、美佐枝さん……?」
「―――あなた、先に行きなさい」
「……え?」

516Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:09:33 ID:F9ga/RUo
虚を突かれたような声。
そのようなことを言われるとは、考えてもいなかったのだろう。
しかし、美佐枝は淡々と続ける。

「ここは私に任せて。あなたには先に行って、輸血の器具を探してほしいの」
「……そんな、美佐枝さん!」
「あたしたちが何のためにこうしているか、わかってちょうだい」
「でも……」
「いいから、早く!」

一喝する。
霧島聖の連れてきた少女の容態は、素人目にも一刻を争うものだった。
出立から既に数時間が経過している。
現時点で少女が存命しているかどうかすら、危うかった。
周囲を警戒しすぎて移動が遅れた、と悔やんでも遅い。

「あたしもここを片付けたら、すぐに追いかけるから」
「でも、美佐枝さん一人じゃ……」
「足手まといだって、言ってるの」
「……っ!」

方便ではあるが、事実だった。
敵の数は多い。包囲されれば、志保を庇いながら戦うのは難しかった。
彼女を戦線から離脱させるなら、今しかなかった。

「……わかったら、行って」
「っ……気を、つけてね?」

志保の言葉に、美佐枝は苦笑する。

「それはこっちの台詞。あたしが追いつくまで、無茶しちゃダメよ。
 怪しいヤツにあったら、すぐ逃げて」
「う……うん」
「……さ、それじゃ、早く」

517Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:10:10 ID:F9ga/RUo
そっと、志保の背中を押す。
心配そうな顔で何度も振り返りながら、志保は木立の中へと入っていった。
それを見届けて、美佐枝は前方へと視線を移す。

「さて、っと……」

自分の役目ははっきりしていた。
できる限り注意をひきつけて時間を稼ぎ、しかる後に離脱する。
全滅させる必要はない。肝心なのは、とにかく足止めをすることだ。
そう再確認して、美佐枝は一歩を踏み出す。

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

見れば、前方に展開する少女たちが立ち止まっている。
こちらの存在に気づいたのだろう、と考えて、美佐枝は大きく息を吸い込む。

「どんなキャラになるのか分かんないけど、トウマだったらいいなあ、うん。
 ―――行くぞ、あたし!」

ぴしゃりと両の頬を叩いて、走り出す。
正面突撃。相手の手の内を見定めてから仕掛ける余裕は、なかった。

「―――」

洗礼は、光のシャワーだった。

「う……わ、っとぉ、熱ッ!?」

身体スレスレををかすめる光の束に、慌てて首をすくめる美佐枝。
見れば、光に触れた部分の肌が赤く腫れていた。


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