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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

2名無しさん:2006/11/12(日) 18:56:29 ID:3NIiOBjA
test

3悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:10:49 ID:plKhezlE
「智子さん落ち着きなさい。これは北川君達がやったんじゃないわ」
「何でや?うちが来た時にはもうこのみは死んどった・・・コイツラ以外に考えれへんわ!」
皐月が冷静な口調で智子を制止しようとするが、我を忘れている智子は全く聞く耳を持とうともしない。
その剣幕に皐月以外は動揺していたが、皐月はそんな智子相手でも冷静そのものだった。

「仮に北川君達が裏切っていたとして、最初にこのみを殺す必要がどこにあるの?」
「!」
その一言に、智子の動きが止まる。

「私がもし裏切るとしたら、まず最初に武器を奪うわ。もしくは寝室に集まっているところを狙って一網打尽にするわね。
このみ一人を殺しても疑われるだけで逆効果よ」
「ふむ、確かにの」
「言われて見ればそうなんよ・・・」
皐月の論理の正当性に、花梨と幸村は感心顔で頷くばかりである。
しかしそれでも智子は納得出来ていなかった。

「でも、ならなんでこのみは死んでるんや!?自殺でもしたっていうんか・・・・・。
コイツラがショットガンで撃った以外ありえへんやろ!」
「違う!何でかは分からないけど、柚原の首輪が突然爆発したんだ」
「黙らんかい!うちが・・・、うちがあんたらを信頼したせいでこのみが・・・・」
「保科・・・・」
智子の銃を握る手が震えている。その瞳には涙が浮かんでいた。

「分かったわ。じゃあ私が裁いてあげる」
「!?」
驚いて声のした方を振り向く一同。

そこにはいつの間に回収したのか、ショットガンを手にした皐月の姿があった。
そのショットガンの銃口は北川達の方を向いていた。
銃を構える皐月の表情はあまりにも無表情で、迷いや躊躇は一切感じられなかった。

4悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:13:10 ID:plKhezlE
「く・・・・!」
「き、北川!?」
北川は真希を押し退け、彼女を庇うように前に立っていた。

「良い度胸ね・・・・・じゃ、さようなら」
そう言い、北川の頭に向けて狙いを定める皐月。
食堂全体に緊張が走る。

――止めなければならない、止めなければきっと今の皐月は容赦無く北川の命を奪うだろう。
だがその事が分かっていても、皐月の声の冷たさに、迫力に、花梨も幸村も智子も動けない。
北川は目を瞑って黙って最期の時を待っている。


「駄目ぇっ!!」
叫びながら再び北川を庇おうとする真希。
それを見て、北川は慌てて真希を制止しようとしている。
ショットガンによる銃撃は広範囲に及ぶ。下手をすれば二人とも命を落としかけない状況だった。
その光景に、最初に北川達に銃を向けた張本人である智子ですら目を瞑る事しか出来ない。

だが、いつまで経っても銃声が鳴り響く事は無かった。
「・・・・・なんてね。安心しなさい、あなた達の疑いは晴れたわ」
「・・・・え?」
北川達が皐月の方へと視線を戻すと、皐月は北川達には目もくれずにショットガンを念入りに調べていた。

「疑いが晴れたって、どういう事だ?」
「この銃、弾数が一つも減ってないわ。それに床に空薬莢も見当たらない。」
「何やって!?」
「つまり、このショットガンはまだ未使用って事よ。少なくともこの場所ではね。
このみの首輪が爆発した理由は分からないけど、北川君達が犯人じゃないのは確かよ」
大体犯人だったらこんな馬鹿な庇い合いなんてしないわよ、と北川達の方へと視線を戻しながら付け加える皐月。

5悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:14:24 ID:plKhezlE
動機も無ければ凶器も無い。
第一、北川達がゲームに乗っているのなら弁明などせずにショットガンを手に攻撃を仕掛けてきている筈である。
もはや、北川達を疑う理由は存在しなかった。

「そうやったんか・・・・。北川君の話を全く聞かないで、とんでもない事してもうた・・・・。」
謝って許される問題やないけど、ごめん・・・。本当にごめんな・・・・」
「全く、冗談じゃないわよ。北川がこんな事するわけないじゃない・・・・」
若干落ち着きを取り戻した真希が、ぶっきらぼうに言い放つ。
その瞳にはまだ涙が溜まっていた。

「とにかく、これにて一件落着ね。"私"が出ていられる時間はそろそろ終わりみたいだから、後は頼んだわよ」
言い終わるとほぼ同時に皐月がその場に崩れ落ちた。

「皐月っ!!どうしたんやっ!?」
智子が慌てて駆け寄り皐月を抱き起こす。
「・・・・寝てるだけみたいやな」
そう言って、安堵の表情を浮かべる智子。
皐月のおかげで救われた。彼女がいなければどうなっていたか分からない。
いや、きっと最悪の事態になっていただろう。
智子達は今回の最大の功労者を寝室まで運んでいった。

「なあ保科。柚原の遺体を埋葬したら今日はもう休もうぜ」
皐月と遠野を運び終えて、食堂に戻る途中で北川が智子に声を掛ける。
「北川君・・・。怒ってないんか?」
「怒るとか怒らないとかじゃなくて、今やるべき事をしないと駄目だと思うんだ。
俺達は明日も頑張らないといけないんだからな。柚原の分もな・・・・・」
柚原の分も。その言葉で智子も北川自身も改めてこのみの死を実感し、俯く。
そんな彼らの様子を見ていると、真希もこれ以上文句は言えなくなっていた。

6悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:15:33 ID:plKhezlE

皐月達がホテル跡に到着してから約7時間半。
様々な悲しみを生み出しながらも、ようやくこの場所に静寂が訪れようとしていた。


湯浅皐月
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×1個&四分の三個)支給品一式】
【状態:寝室で気絶中】
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:朝まで休憩してから北川達とは別行動】
保科智子
【所持品:なし】
【状態:同上】
笹森花梨
【持ち物:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾6/10)】
【状態:同上】
ぴろ
【状態:皐月の傍にいる】

7悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:16:19 ID:plKhezlE

北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン総弾薬数8/8発+ストラップに予備弾薬8発】
【状態:朝まで休憩してから村へ(どの村へ向かうかは次の書き手さん任せ)】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:寝室で気絶中、朝からは北川達と共に村へ】


共通
【場所:E−4、ホテル跡】
【時間:2日目00:40頃】

【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連415】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端に
※花梨の銃と皐月以外の荷物は元の寝ていた部屋に

8魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:48:56 ID:mkPywDUg

名倉由依は目を閉じて携帯電話を握り締めながら、祈っていた。

(どうか―――どうか、いい人が出ますように!)

短い発信音の後、

『―――はい、天野です』

唐突に、電話が繋がった。
まるでこんな殺し合いとは関係のない誰かの自宅にかけてしまったかのような錯覚を、由依は覚える。
それほどに淡々とした、それは少女の声だった。

「え!? あ、も、もしもし!」

一瞬呆然とするも、慌てて喋りだす由依。
切られてはたまらないとばかりに、早口でまくし立てる。

「あ、あたし名倉といいます! 名倉由依!」
『……はぁ』

電話の向こうの相手は、戸惑っているようだった。
それはそうだ、こんな島でいきなり電話がかかってきて、しかも唐突に自己紹介をされても反応に困るだろう。

「あ、いえ、その、すいません突然電話なんかしちゃって!」

まるでキャッチセールスのようだった。
何を言っているのか、自分でもよくわからない。

『……落ち着いてください』

9魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:49:56 ID:mkPywDUg
相手の平坦な声に、少しだけ冷静さを取り戻す由依。
そうだ、自分は世間話をするためにこんな危険を冒してるんじゃない。
とにかく本題を切り出さなければ、と焦る。

「……その、き、聞きたいことがありますっ」

色々と考えていたはずの手順は、遥か彼方へと飛んでいった。
ままよ、とばかりに口を開く。

「あ、あなたは、殺し合いに参加していますか?」

言った。ごくり、と唾を飲み込む由依。

『……』

寸秒の沈黙が、由依にとっては永遠にも等しく感じられる。

(お願いします……神様!)

ほんのささやかな祈りが、天に通じたか。

『……いいえ、別段』

と、相手は告げた。

「……そ、そうですか! よ、よかったぁ……」

言葉とともにへたり込む由依。
冷たい木の床が心地いい。

10魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:50:18 ID:mkPywDUg
『……それが、何か?』
「あ、ええ、いえ、あ、あたし捜してたんです、そういう人を!」
『……殺し合いに参加していない人間を、ですか』
「はい、そうです! そういう人と協力できればって、そう思って!」
『……協力』
「そ、その……こんなのおかしいって、やめさせなくちゃ、って」
『この殺し合いを、ですか』
「はい、そうです……! だから、そういう風に考えて、一緒にやってくれる人がいれば、って!」
『……お話は、分かりました』

冷水を浴びせ掛けるような声に、必死にかき集めた由依の勇気が萎んでいく。

「あ、あの……やっぱり、こんなこと言うの、おかしいですか……?」
『いえ、とても立派な考え方だと思います』

不安そうな由依の声をどう感じたか、相手の言葉はどこか優しげに聞こえた。
その声に勢いを得て、由依は立ち上がると再び相手に語りかけようとする。

「じゃ、じゃあ……!」
『しりとりをしましょう』

あまりにも唐突なその提案に、由依の思考が一瞬停止する。

11魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:51:03 ID:mkPywDUg
「……え?」
『しりとりです。分かりませんか?』
「し、しりとりって、あの、しりとりですか?」
『ええ。相手の言葉の最後の音に繋げていく、あのしりとりです』
「は、はぁ……その、どうして、しりとりを……?」
『ちょっとしたゲームですよ』
「ゲーム……?」
『はい。私はあなたのお話にとても感銘を受けました』
「あ、ありがとう……ございます」
『しかし、そのお話に乗るのは非常にリスクの大きい行為です』
「……それは……その」
『ですから、ゲームをしましょう』
「あの、すみません、お話がちょっとその、よく……」
『簡単なことです。あなたはあなたの計画を賭けてゲームをするのです』
「え……?」
『言葉通りですよ。私とゲームをして勝つことができたなら、私はあなたのお話に乗りましょう』
「そ、それって……」
『お約束しましょう。全面的に協力します』

相手の意図を、由依ははかりかねていた。からかわれているのかもしれない。
相手の言うとおり、これはひどくリスクの高い計画だった。
命綱もつけずに綱渡りをするような、そんな行為だ。
それに参加するかどうかを、ゲーム、それもしりとりで決めようというのだった。
本気で言っているとは思えなかった。
だが、それでも。

「……わかりました」

そう言うほかに、由依に道は残されていなかった。

12魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:51:56 ID:mkPywDUg
殺し合いに参加していない人間に電話が繋がるような幸運が続くとは限らない。
もしかしたら次に出るのは、自分を騙して言葉巧みに居場所を聞き出そうとする殺人鬼かもしれないのだ。
少なくとも、と由依は思う。
少なくともこの相手は、そういう類の人間ではないと、そう直感していた。
この直感が外れるようなら、どの道こんな計画など成功するはずがない。
騙されて、殺されるだけだった。
だから、由依は電話の向こうの相手に向けて、口を開く。

「わかりました。勝負、しましょう」
『……いい返事です』
「その代わり、あたしが勝ったら……!」
『はい、お約束しましょう。そのときは、あなたのお力になります』
「……その言葉、信じます」
『よろしい。―――では、始めましょう』

ごくり、と唾を飲み込んで渇いた喉を湿らせながら、由依は相手の言葉を待つ。
冷たく静かな空気に、精神が研ぎ澄まされていく。不思議と緊張はなかった。

『オーソドックスにしりとりの、り、からいきましょうか。どうぞ』
「り、りんご!」『格子』「シマリス!」『寿司』「しつけ!」『芥子』「島!」『蝮』「鹿!」
『菓子』「し、獅子!」『紳士』「し、新聞紙!」『色紙』「し、し、シルクロード!」
『……ふふ、いきなりし攻めは少し意地悪でしたかね。では、趣向を変えて……道路』「ロバ!」
『販路』「ろ、ろ……ろくでなし!」『進路』「ろ、路地裏!」『ランドセル』「る、ルアンダ!」
『タイル』「る、ルノワール!」『ルール』「―――ルパン!」

しまった、と思ったのは、口に出した後だった。
全身から一気に血の気が引いていくのがわかる。
こんな、こんなつまらないことで、せっかく掴んだチャンスを不意にするのか。
ルパン、三世、と付け加えたらどうだろう。ルール違反か。そもそも遅すぎる。
あらゆる後悔が、由依を襲っていた。

13魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:52:26 ID:mkPywDUg
だが、次の瞬間。

『……ンジャメナ』

相手の声が、由依を絶望の淵から引き上げた。

「……え?」
『どうしたのですか。な、ですよ』
「で、でも、あたし、今……」
『些細なミスです。続けましょう―――それとも、ここでやめますか?』

その一言が、由依に火をつける。

「い、いえ! 続けます! な、長野!」

九死に一生を得た気分だった。
まだ勝負は終わっていないのだ。
勝って、勝って協力者を得るのだ。
そうして一緒にこのばかげた殺し合いを終わらせるのだ。
その意気込みが、由依を後押しする。

『その意気です、……ノルマ』「漫画!」『画廊』「ウサギ!」『妓楼』「馬!」『松』「月!」
『騎士』「しおり!」『利子』「し、塩辛!」『乱視』「し、四十雀!」『卵子』「……あ!」

由依が声を上げる。

『どうしました?』
「いま、同じ言葉を二回言いましたよね!?」
『いいえ』
「あ、あたしの勝ちです、……え?」

14魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:53:34 ID:mkPywDUg
『いいえ、言っていません』

その声は、どこまでも平静だった。

「で、でも今、らんしって二回……」
『先に言ったのは乱視。目の屈折異常です』
「え……」
『後に言ったのは卵子、卵巣から産み出される生殖細胞です』
「そ、そんな……! そんなのって、」
『……それより、時間切れですよ』
「え!?」

意外な言葉に、由依が驚く。

『卵子、で止まっています。……二回目のミスですね』
「え……でも、それは……!」
『―――小豆島』
「……、え……?」
『しょうどしま。ま、ですよ』
「……あ……、」
『どうしました? やめるなら構いませんが』
「ま、まち針!」

必死に言葉を紡ぐ由依。
相手の勝手な言い分に抗議しても始まらない。
この勝負の主導権は、始まる前から常に相手にあるのだと、由依はようやく理解していた。

『利回り』「り、り……料理!」『リキュール』「ルーズソックス!」『スリッパ』「パンダ!」
『達磨』「漫画!」『……』「……?」

15魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:54:17 ID:mkPywDUg
相手の声が、返ってこない。

「ど、どうしました……?」
『……』
「あ、あの……」

無言。
途端に心配になる由依。もしかして相手の身に何かあったのだろうか。
しりとりに夢中で忘れていたが、今は殺し合いの真っ最中なのだ。
だが、そんな由依の不安を打ち消すように、電話の向こうから声が返ってきた。

『……漫画、は二回目です』
「あ……」

しまった、という言葉だけが一瞬にして由依の脳裏を支配する。
言い訳が、出てこない。

『―――三回』
「は……はい……?」
『三回、ミスしましたね』

相手の声が、回線を通して由依の耳の中を撫で回すように感じられた。
冷たく無慈悲なその声音に、由依の背筋が凍りつく。

『一回なら』
「え……」
『一回なら、ごめんなさいで済ませましょう』
「はい……?」
『―――けれど、二回続けて負けたのならば、あなたの持つ財産を』
「あ、あの、何を……?」

16魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:54:51 ID:mkPywDUg
言葉の意味をはかりかねて問いかける由依の言葉を無視するように、相手の声は続く。

『そして、もしも』
「あの、」
『もしも、三回続けて負けたなら―――』

一息。

『―――その時は、あなた自身をいただきます』

その声は、厳かですらあった。
絶対の意思をもって告げられた託宣のように、それは由依の脳裏に反響する。

「なに、何を、言って……?」
『これは、ゲーム』

ゲーム、と告げたその言葉は、ひどく神聖なものを扱うかのように繊細で。
だが同時に、隠しようもなく禍々しい何かを、孕んでいた。

『あなたと私が、互いを賭けて行った、闇のゲームです』

告げられた言葉の意味が、理解できない。
しかし、その声に含まれた小さな笑いが、由依の感情をひどく刺激した。

「……もう、いいです! 切ります!」

言って、携帯のボタンを押そうとする由依。
だが、

17魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:55:19 ID:mkPywDUg
「ひっ……!?」

その手にした携帯から、黒い影がじわりと染み出していた。
影は瞬く間に指を飲み込み、腕を伝って由依の肩までを黒く染め上げる。

『―――良い夢を、名倉由依さん』

喉が、口が、鼻が目が、そして最後に耳が塞がれる瞬間に、そんな声が聞こえた、気がした。



静まり返った職員室に、カタリ、と音がした。
小さな携帯電話が、木の床に落ちた音だった。
それはしばらく、ツー、ツー、という音を響かせていたが、やがて止んだ。

闇に沈む職員室には、もう誰もいない。



【場所:D−06:鎌石小中学校・職員室】
【時間:1日目22時30分頃】

名倉由依
 【状態:消滅】

天野美汐
 【所持品:様々なゲーム・支給品一式】
 【状態:遊戯の王】

(関連・55,177,394 ルートD−2)

18名無しさん:2006/11/18(土) 04:56:28 ID:mkPywDUg
ここって30行制限なのね。
いきなりエラーが出てちょっと驚いた。

19母と子と…:2006/11/19(日) 20:01:53 ID:Lh4y2ZjY

『―――その務め、私が承りましょう』
「な……、今度は何やっちゅうねん……!」

巻き起こる土埃に手をかざしながら、晴子が叫ぶ。
透き通るような声とともに天から舞い降りてきたのは、輝く白い巨体。
吹きすさぶ風に金色の髪をなびかせた、それは美しくも壮大な彫像であった。
張り出した乳房に細い腰という女性的なフォルムの背には、どこまでも白く大きな翼。
静謐な容貌に限りない知性と包容力を感じさせるその彫像が、地響きと共に大地へと降り立つ。

『我が名はウルトリィ―――』

彫像は、動くことのないその口で、しかしはっきりと名乗った。

「は、今更喋るロボなんぞで驚けるかい……何の用じゃ、おどれ!」

言って銃を構える晴子。
だがその言葉が虚勢でしかないことは、震えるその手を見れば一目瞭然であった。
この巨体の前では、M16など豆鉄砲程度でしかないと、晴子にも分かっていた。

『……失礼ながら、お話は聞かせていただきました』

そんな晴子の動揺を無視するように、彫像が語り始める。

『そこの貴女―――、貴女には器が必要なのですね』

彫像の顔が、観鈴の方を向く。

「な……自分、観鈴が見えるんか!?」
(にはは……わたし、注目されてる)

20母と子と…:2006/11/19(日) 20:02:38 ID:Lh4y2ZjY
『私はオンカミヤムカイの巫―――時にあなたのような方と語り合う務めもありました』

彫像の言葉に、神奈が厳しい顔で彫像に問いかける。

「そなた、その翼といい……やはり余と同じ―――」

と、彫像が初めて神奈の背に生えた翼に気づいた様子で言葉を紡ぐ。

『これは珍しい……このような時の彼方で、オンカミヤリューの裔と出会うとは……。
 ……いえ、裔というよりは……貴女はむしろ……』

そこで彫像は一旦言葉を切る。

『……これも巡りあわせというものかもしれませんね』
「そなた、何を言っておるのだ……?」

ひとりごちるような彫像の言葉に、神奈が眉をひそめる。

『……いえ、今は関わりの無いことです。それよりも、貴女……』

と、観鈴のほうに向き直る彫像。

『貴女がお母様と触れ合い、言葉を交わすために……仮初めの器が必要なのでしょう。
 母と子の絆……私にも覚えがあります。遠い時の彼方の、色褪せぬ思い出……』

何か大切なものを思い出すように、声を落とす彫像。

『貴女が母を求め、母御もまた貴女を求めるというのであれば……私のこの身体、
 しばしの間でもお貸しいたしましょう……』
(ロボットさん……)

21母と子と…:2006/11/19(日) 20:03:30 ID:Lh4y2ZjY
その言葉に、神奈が腕組みをして何やら考え始める。

「ふむ……翼持つそなたなら、或いは……しかし……」
「―――何をごちゃごちゃ言うとんねや!」

話に置き去りにされていた晴子が、銃を構えたまま叫ぶ。

「このけったいなロボに観鈴が入る? ……冗談やないで!」

言いながら躊躇なくトリガーを引く晴子。
高い音が響き、弾丸が彫像に弾かれる。その表面には傷一つついていない。

「うちの観鈴はな、ぽかって叩いたら、がお言うて涙ぐむアホな子や!
 こんなん叩いたら、うちの手が痛い痛いってなってまうわ! ボケ!」
(お母さん……)

観鈴が沈痛な面持ちで呟く。

「返せっちゅうてんねん! うちの観鈴を! 泣き虫で、アホたれで、笑うのがへったくそな、
 うちの観鈴を返せ、って……、そう、言うてんのや……!」

晴子は、泣いていた。
彫像に体重を預け、その硬い表面を、素手で叩いている。

「何や……こんなん……! がお、言うてみいや……! 言えへんやないか……!」

泣き崩れる晴子を見る観鈴。

22母と子と…:2006/11/19(日) 20:03:53 ID:Lh4y2ZjY
(……ロボットさん)

その目に涙をいっぱいに溜めて、観鈴が彫像に言う。

(お願い、できますか)

神奈は何も言わない。ただ無言で観鈴と晴子、彫像を見ている。
晴子の声は、いつしか小さく掠れていた。

「うち、まだ何もしてへんやないか……なんで、なんでこないなことになってんねん……。
 なんにも……何にもできひんままなんか……、なぁ、観鈴……」

涙声と共に、力なく振り下ろされる拳。
ぺちりと、彫像の表面を叩く。

『……が、がお』

その声は、彫像から発せられていた。

「……ッ!? な……何やて……?」

がばりと顔を上げる晴子。
真っ赤に腫れた目で、白い彫像を見上げる。彫像もまた、晴子を見下ろしていた。

『にはは……お母さん、ちっこい』
「その声……観鈴、観鈴なんか……!?」

懐かしい、久しく聞いていなかったように感じられるその声に、晴子が彫像にすがって問いかける。
そんな晴子に向かって、彫像がそっと跪く。
しっかりと視線を交わすように、晴子の方を向いて離さない彫像。

23母と子と…:2006/11/19(日) 20:06:08 ID:Lh4y2ZjY
『お母さん、わたし……今なら、お母さんといっぱいお話できる』
「……観鈴、……観鈴っ!」

冷たく白い、その表面装甲。
しかし晴子は構わず、その装甲にすがりつく。
声と口調、仕草。
ほんの一瞬で、それらすべてが観鈴のものであると、晴子には感じられていた。
涙が零れ落ち、白い装甲に跳ねる。

『が、がお……お母さん、泣いちゃだめ……』
「……アホ、こういうときはいっくら泣いたかてええんや……憶えとき……」
『お母さん……』



しばらくの時間、そうしていた。
神奈はその間中、一言も口を挟むことなく、二人の様子をじっと見ていた。
晴子が泣き止むのを待って、白い機体が、跪いたままそっと手を差し伸べる。

『……乗って、お母さん』
「乗る……乗るて、このロボ……ちゃう、自分にか、観鈴?」
『にはは……観鈴ちん、いま巨大ロボ……。操縦できるよ』

言って、差し伸べた手に晴子を乗せる機体。
その巨大な手が、胸元へと引き寄せられる。

「うわ、ごっつ高っ……!」
『そこのレバー、回してみて』
「これか……? おわ、開くんか!?」

24母と子と…:2006/11/19(日) 20:06:37 ID:Lh4y2ZjY
胸元のハッチが開放される。
中はパネルに囲まれた狭い空間。シートも見えた。

「これに入れ……ちゅうんか」
『お母さん、いらっしゃい』
「何や、けったいな気分やな……」

シートに収まる晴子。
ハッチが閉まると同時に、各種パネルが点灯する。

「何や……? 観鈴、自分がやっとるんか?」
『うん、今はわたしの体みたいなものだから……』
「そか……便利っちゅうてええんかな、この場合は……」

周囲のモニターに、外の様子が映る。
視点が高くなった分、島の様子が遠くまで見渡せた。
と、暗い夜空に大きく映る金色の光。

「……満足したか?」

神奈だった。
彫像の顔の辺りまで飛び上がって話しかけているらしい。

「何や、親子水入らずの一時、邪魔せんといてや。
 ……って観鈴、この声、外に伝わっとるんか?」
『大丈夫、ちゃんと聞こえてるはず。観鈴ちん、えらい』
「はいはい、ええ子やなー。
 ……で、羽つきの姉ちゃんな。自分、さっき何ちゅうた」

25母と子と…:2006/11/19(日) 20:07:23 ID:Lh4y2ZjY
晴子の声に、神奈が答える。

「先程、とは何のことだ」
「……幸せな記憶、がどうちゃらこうちゃら、や」
「何だ、そのことか。……そなたと観鈴が幸せな記憶を作れば、それでそなたの役割は終わりだ。
 余は愚か者どもに神罰を下すべく往く」
「観鈴は」
「土に還ると言っておろう」
「ほぉ……」

思案げに言葉を切る晴子。

「……観鈴」
『なに、お母さん』
「飛べるか」

晴子の言葉が終わるか終わらないかの内に、モニターの風景が流れていく。
島の南西部が一望できるほどの高度を維持したまま、観鈴の声がコクピットに響く。

『これでいい?』
「上出来や」

一方、突然の上昇について行き損ねた神奈が地上で叫んでいる。

「……こ、こら、約束が違うではないか!」

いかに叫ぼうと、声は届かない。
追いすがるべく上昇を始める神奈。

26母と子と…:2006/11/19(日) 20:08:26 ID:Lh4y2ZjY
「……アホが。幸せな記憶なんぞ作ったら、観鈴とはおさらばやないか……!」
『……お母さん?』
「はいさいなら、ってそんなんでいいわけあるか、ボケ!」
『が、がお……無視』
「観鈴。うちにはまだ、このクソッたれた首輪がある。
 島から離れたらどうなるかわからへん。それで、や」
『うん』
「皆殺しや」
『……え?』
「どいつもこいつもブチ殺して、うちが優勝する」
『お、お母さん……』
「それで首輪外して、あの家戻って、いつまでも二人で暮らす。
 めでたしめでたし、ちゅうわけや」
『そ、そんなのダメだよ、お母さん……』
「―――やかましい!」
『が、がお……』
「うちかて分かっとる……無茶苦茶言うとるわ。けどな、これしか思いつかへんねん。
 もう、自分と離れたないんや……観鈴」
『お、お母さん……』

と、モニターを一瞥して晴子が舌打ちする。

「ち、追いかけて来よったか……バケモンが」
『……』
「とりあえず逃げるで、観鈴。さっきの黒いのは得体が知れんからな」
『……』

観鈴の心に、地面に叩きつけられて死んだ男の記憶が甦っていた。

27母と子と…:2006/11/19(日) 20:08:51 ID:Lh4y2ZjY
ひとつ首を振るようにして、徐々に加速を始める白い機体。
見る間に神奈との距離が開いていく。

(汝、神尾観鈴……それを望みますか?)

そんな観鈴に、繰り返し語りかける声があった。
観鈴にだけ聞こえるそれは、ウルトリィと名乗った彫像本来の、透き通るような声だった。
ずっと黙り込んでいた観鈴が、機体を加速させながら一つの言葉を形作る。

『……お母さんが、そうしたいっていうなら』
「ん? ……何や、観鈴。何か言うたか?」

それには答えず、ただ機体を更に加速させる観鈴。

(―――契約は紡がれました)

次第に小さくなるウルトリィの声。

(それでは、私は束の間の眠りに入りましょう―――)

やがて、声は聞こえなくなった。
母を乗せ、観鈴はただ天空を往く。

28母と子と…:2006/11/19(日) 20:09:08 ID:Lh4y2ZjY

【時間:2日目午前2時】
【場所:H−4上空】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】

 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】

 神奈
【持ち物:ライフル銃】
【状況:おのれ賤民】

→385 ルートD-2

29黒白:2006/12/07(木) 20:03:19 ID:gW6263Ic

母は歪んでいる。
そして、母をそんな風にしてしまったのは、紛れもなくこのわたしだ。
わたしを救えなかったという絶望、そしてまた、わたしがこの仮の身体を得て存えているという一縷の希望。
悔恨と、無力感と、自己陶酔と、そしてほんの少しだけの愛情めいたもの。
そんなものたちが、母を突き動かしている。

もう少しだけ踏み込んでものを言うならば、母はこの現実から逃避したがっているのだ。
わたしと暮らしていた頃、母はわたしという現実から目を逸らすために、仕事とアルコールに逃げ込んでいた。
神尾晴子というのは、そういう弱さを持ったひとだった。
そして母はいま、殺し合いを強制させられるという常軌を逸した環境に放り込まれていた。
要するに母は、より脅威的な現実を目の前にして新しい逃避の対象を探しており、そこにわたしという
格好の偶像がいたと、つまりはそういうことだった。
わたしを行動原理とし、わたしという存在に依存することで、その他のことには盲目的でいられる。
それが母の、脆い精神を支える柱となるのだ。
これまでずっと母を見てきたわたしには、母の言葉の意味、涙の意味が、手に取るようにわかっていた。

わたしは、だけどそのことに、この上もない幸せを感じている。
母はいま、どうであれわたしを中心として動いてくれているのだ。
かつてわたしという厄介者に怯え、逃げ回っていた母が、わたしだけを見てくれている。
それだけで、わたしはこの胸から溢れだした幸せに、溺れてしまいそうな錯覚を得るのだ。
いったいこの世界に、大好きな人が自分を見てくれているという、それ以上の幸せがあるだろうか。
少なくともわたしは、それをこそ幸福と、定義していた。

わたしの記憶にある母は、表情に乏しい。
怒っているか、困っているか、酔って笑っているか。いつだって、そのどれかだった。
それが今は、どうだろう。
母はわたしのために涙し、殺人すら躊躇うことなく肯定してみせた。
それが無償の愛ゆえでなかったからといって、そのことの価値は些かも揺るがない。

30黒白:2006/12/07(木) 20:03:45 ID:gW6263Ic
だから、わたしは母の、わたしに対する自己中心的な依存に感謝こそすれ、そのことで
母を責める気など、毛頭なかった。
むしろようやく親孝行ができると、そんなことをすら考えていた。
ひとを潰す、―――いや、殺すのも、その延長線上でしかなかった。

そう、ひと一人の生命を絶つというのは、わたしにとって真実、それだけのことでしかなかったのだ。
満足に生きてこなかったわたしは、死ぬということに対して希薄なのだ。
誰かのそれも、わたし自身にとってのそれもひと括りにして、わたしには理解が難しい。
死ぬということは、単に生き終わるということで、それは解放と同義だ。
勿論それが世間一般の理解とかけ離れた認識だと、わたしは痛いほど思い知っていた。

わたしとて、それを肯んじ得ていたわけではない。
生きるということが苦痛以外の意味を持つなら、それが知りたかった。
だが、わたしにそれ以外の答えを教えてくれる誰かなど、現われはしなかったのだ。
これまでの人生で、一度として。
だからわたしは今でも、死というものがよくわからない。
生も死も、その重みがわからないわたしは、だからこうして、変わり果てた姿になって
何の恨みもないひとを殺してしまっても、ひどく気持ちが悪いと、ただそれだけをしか思えない。

愛している。
わたしは、母を愛している。
そして母は、その根底はどうであれ、わたしのために歪むことを選んだのだった。
ならば、わたしの愛もまた、母の歪みのままに、歪んだものであるべきなのかもしれない。

―――してみると。
目の前に立つ黒い翼の神像は、わたしの歪みを形にしたものであったのだろうか。

31黒白:2006/12/07(木) 20:04:27 ID:gW6263Ic
「く、黒い……ロボ、やと!?」

母が、戸惑ったような声をあげる。
一方的な狩り、虐殺の陶酔に、冷水を浴びせかけられたのだ。
母が脳裏に思い描く夢には、こんなものは出てこなかったのだろう。

もっとも、わたしは母ほど驚いてはいなかった。
都合の悪いものを意図的に排除した夢の陰には、いつだってこんなものが潜んでいる。
こういうものに出くわすのは、だからわたしにとっては日常茶飯事だった。
わたしはいつだって、夢ばかりみるように生きてきた。
こういう時、わたしは決まって同じことをする。
破れた夢を繕って、新しく自分の周りに張り巡らすように、力なく笑うのだ。

『にはは……でっかいカラス』

そんなわたしの言葉を張り飛ばすように、母が声を上げる。

「あ、アホ! どこの世界に手足のついたカラスがおんねん! ってツッコむんはそこかい!」

これでいい。
母に調子が戻ってきた。

「これは敵や、気ぃつけえ観鈴!」

折りしも降り出した雨で、地面はすっかり泥だらけだった。
翼を広げたまま佇むその黒い神像から視線を離さないようにしながら、わたしは静かに立ち上がる。
後ろ手についた掌の下で、倒木がひしゃげる音がした。
いつまでも血がこびり付いたままの左手を、泥と木の葉に擦りつけて拭う。
黒い神像の後ろで、先程まで動けずにいた少女がもう一人の少女に抱えられて逃げていくのが見えていたが、
母は何も言わない。それどころではないと、わたしも母も理解していた。

32黒白:2006/12/07(木) 20:04:58 ID:gW6263Ic
眼前に影のように立つこの神像は、まさしく脅威だった。
わたしが立ち上がるまで、黒い神像は不動の姿勢を保っていた。
その背丈はわたしのこの身体とほとんど同じくらい。
女性的なフォルムに翼の生えた人型という、同系統の造形。黒と銀の色彩だけが、対象的だった。
わたしが身体を預かっているこの神像と関連があることは、ほぼ間違いなかった。

『―――お姉、様』

だから、突然そんな声がしても、わたしはさして驚かなかった。
むしろ、ひどく納得のいく感じがしたものだ。
おそらく、わたしを受け容れたウルトリィという白い神像のことを姉と呼んでいるのだろう。

「な、何や!? どっから声がしとる!?」

母が再び取り乱している。
わたしを姉と呼んだ声は、わたしの中にも響いていた。

『黒いのが喋ってる……んだと、思う』

ほぼ確信に近いものがあったが、あえて語尾は濁しておく。
母は、わたしが何かを断言することを好まなかった。

「何やて……!?」
『その声……お姉様も誰かを乗せてるのね?』

高い、澄んだ声。その声は、いくつかの事を示唆していた。

33黒白:2006/12/07(木) 20:05:29 ID:gW6263Ic
まず、一つめ。
通常、この神像はウルトリィやあの黒い神像のように、独自の人格を持ったまま行動するらしい。
だが、契約は紡がれた、と告げたあの時以来ウルトリィは眠り続けており、こうして呼びかけられていても
一向に目覚める気配はなかった。わたしのこの身体はイレギュラーというわけだ。

そしてもうひとつの事実。
「お姉様も」と口にしたということは、向こうの神像にも誰かが、母のように乗り込んでいるのだ。
そして、わたしたちの場合と照らし合わせるならば、それは、この殺し合いの参加者である可能性が極めて高い。

『聞いて、お姉様!』

だが声は、続けてこんなことを言った。

『おば様……カミュの契約者は、殺し合いなんてしたくないって言ってるの!』

黒い神像はカミュというのだろうか。
しかしそれよりも、その声が告げた内容に、母は目を丸くしていた。

『お姉様が選んだなら、そっちにいる人もきっと、こんな殺し合いなんて嫌だって思ってるよね?
 お願い、おば様のお話を……』

黒い神像、カミュの声は、そこで途切れた。
母が、お腹を抱えて笑い出したからだ。心底おかしそうな、爆笑。
その笑い声に、カミュが腹を立てたような声を上げる。

『な、なにがおかしいの!?』
「……嬢ちゃん、あんま笑かしたらあかんで」

不意に笑いを収め、母が奇妙に低い声で言った。

34黒白:2006/12/07(木) 20:06:01 ID:gW6263Ic
「姉ちゃんってな、このロボのことかいな」
『……え?』
「……観鈴にこの身体くれた、お人良しでアホな、このけったくそ悪い白ン坊のことかって聞いてんねや」

こういうとき、母の言葉はひどく判りづらい。
頭に血が登ると、自分の視点からしか物を言えなくなる人だった。
だからわたしは、一応のフォローを入れておく。

『が、がお……ウルトリィさんのこと、悪く言ったらダメだよ……』
『……ウルトリィさん、って……。それに、その声……?』

戸惑ったようなカミュの声。
どうやらカミュには、わたし自身が発する声と、乗っている人間のそれとの違いが判るらしい。
そんなことを考えた時、新たな声がした。

「―――その白い機体が、少なくとも今はあなたのお姉さんではないということよ、カミュ」

女性の声だった。
若々しい張りはあったが、中年と言っていい頃合だろう。おそらくは、母と同年代。
言葉からして、察しは良さそうだった。

『おば様……』
「観鈴、というのは……この名簿によれば、神尾観鈴さんのことかしら。
 なら、そちらに乗っているのは神尾晴子さん……違いますか?」

少し驚いた。
母の言葉を手がかりに組み立てれば、その結論にたどり着くのはそう難しいことではなかったが、
それにしても答えを出すのが速い。
母にしても、それは意外だったらしい。ひとつ舌打ちをして、忌々しげに口を開く。

35黒白:2006/12/07(木) 20:06:22 ID:gW6263Ic
「……どうも、よろしゅうに。そちらさんは?」
「はじめまして。柚原春夏と申します」

素直に答えが返ってくる。
カミュという力に護られている安心感なのか、それとも単に育ちがいいのかは分からない。
勿論、偽名ということも考えられるが、先程のカミュの言葉を聞く限りではその可能性は薄いかもしれない。

「……で、その柚原さんが、うちに何ぞ用かいな」

警戒心をむき出しにして母が訊ねる。

「お嬢さんと合流されたのですね。おめでとうございます」
「……そら、どうも」
「ただ、どういったいきさつかは存じませんが、お嬢さんは少し……。
 その、変わった状況にあるようにお見受けしますが」
「……で?」

何かを堪えているような、低い声。よくない兆候だ。
母は、こうした形式ばった物言いが何よりも嫌いだった。
眉間に皺を寄せた母が爆発するより前に、わたしは緩衝材となるべく口を挟んだ。

『にはは……ご丁寧に、どうも』
「……観鈴、大人同士の話や。黙っとき」

苛立ちの矛先が、上手くわたしの方へと向いた。
同時にわたしを子供扱いすることで、母は自尊心と体面を思い出すことができる。
落ち着きを取り戻した母の声を聞いて、わたしは胸を撫で下ろす。これでいい。

「これは家庭の問題や。口、挟まんとってくれるか」
「……」

36黒白:2006/12/07(木) 20:06:51 ID:gW6263Ic
母の無茶な言い様に、さすがに二の句が継げなかったらしく、一瞬の沈黙が訪れる。
しかし、春夏と名乗った女性はどうにか言葉を続けた。

「……申し訳ありません。ただ、私で何かお力になれることがあれば……」
「結構や」

ぴしゃりとはねつけるような、母の厳しい言葉。

「言いたいことがそれだけなら―――」
「分かりました。では、単刀直入に言います」

春夏さんの声音が変わる。これまでよりも、少し強い調子。
思ったよりも、気の強いひとなのかもしれない。

「私も……娘を、捜しています。
 娘を捜し、そして護るために、こうしてこの子……カミュにも協力してもらっています」

そこで一旦言葉を切る。
軽く息を吸い込むような気配の後、春夏さんは一気に言葉を吐き出した。

「身勝手を承知で、お願いがあります。
 そちらの……観鈴さんとあなたの力を、娘……このみを捜すために、貸してはいただけないでしょうか」
「……」

母はそれを、腕組みをしながら黙って聞いている。

「初めは、あなたに戦いをやめてもらおうと思いました。
 ……その、事情はわかりませんが、あなたや私の持つこの力……この子たちの力は、人に向けられるべきではないと、
 そう思いました。ですから、戦いを止めようと割って入りました」

37黒白:2006/12/07(木) 20:07:33 ID:gW6263Ic
理由はどうあれ水を射されることが大嫌いな母だったが、しかし春夏さんの言葉を聞いても表情は変わらない。
ただじっと正面に立つカミュと、おそらくはその中にいる春夏さんを見つめている。

「けれど、お話を伺って……あなたが、娘さんのいらっしゃる方だと、この島で娘さんを見つけられた方だと知って……、
 無理を承知で、お願いしようと思いました」

そこで少し言いよどんだ春夏さんだったが、意を決したように続ける。

「卑怯な物言いですが……同じ、母親として」

その言葉に、能面のようだった母の表情に、初めて変化が現れた。
ぴくりと、眉を上げたのだった。

「あなたが、娘さんを護るためにその力を使われる気持ち、よくわかります。
 ですが……」
「―――もうええわ」

吐き棄てるような母の声が、春夏さんの言葉を遮っていた。

「もうええ。もう充分や」
「で、でしたら……」
「……ざけんなや」

縋るような春夏さんの声を、一刀の元に斬り捨てる。

「よくわかるぅ……? ハ、あんた、なぁんもわかってへんわ。
 ちぃっとでもわかっとったら、そないなアホなこと、よう言われへん」
「な……」
「一緒に娘を捜してくれ、やって……? 笑えん冗談も大概にせぇや」

38黒白:2006/12/07(木) 20:07:59 ID:gW6263Ic
心底から嘲るような、母の声音。

「捜してどないせぇっちゅうんじゃ。諸共ぶっ殺したろか? ……それも悪ぅないなぁ」
「……ッ!」
「オマケに何や、同じ母親としてぇ? ……死なすぞボケ」

ドスの聞いた声に、春夏さんが絶句する。

「おのれに母親語られたないわ。うちの観鈴と、おのれんとこの、なんや、このみちゃんか?
 仲良しこよしで嬉しいなあ、ってか。ドタマ沸いとんちゃうか?
 それからどないすんねや。くじ引きでもして誰が死ぬか決めるんか。
 誰ぞ死なんと終わらんで、この腐れたゲームのド畜生は」
「それは……」
「ええ加減にせえよ。なら今、ここでぶっ殺したる方が、ナンボか後腐れないっちゅうもんやろ」
「……」
「安心せえ。可愛いこのみちゃんもすぐにそっち送ったるわ。
 観音様の前で親子水入らずや、好きなだけしたったらええがな」

おかしそうに笑う母の表情には、紛れもない悪意と侮蔑が浮かんでいた。
声音に滲み出す、その負の感情を感じ取ったものか、春夏さんはしばらく黙り込む。

『おば様……この人、もう……』
「―――春夏さん、でしょ。カミュ? ……分かってる」

その、何かを飲み込んだような春夏さんの声に、母が敏感に反応する。

「お喋りは終いやな。……お互い、可愛い娘のために気張って殺し合おうや」
「そうね。……私は、あなたを止めるわ」
「……観鈴」
「カミュ」

39黒白:2006/12/07(木) 20:08:16 ID:gW6263Ic
同時に、声が響く。

「―――飛んだり」

翼を広げ、大地を蹴り、大空に舞い上がったのにも、ほとんど差はない。
見上げる空から降りしきる雨が、顔に当たって痛いくらいだった。
瞬間といっていい速さで、わたしたちは何らの遮蔽物もない空間に占位する。

「ブチかましたれ、観鈴!」

母の声を合図に、わたしは急加速してカミュへと突進する。
こんな身体を得たとはいえ、わたしが格闘技の達人になったわけじゃない。
ただこの速度と重量を活かした体当たりだけが、有効な攻撃手段だった。
だが、その突進はあっさりと回避される。

「カミュ」
『うん、春夏さん』

カミュの広げられた片翼が、小さく畳まれる。
空中でバランスを崩し、斜めに傾ぐカミュ。
たったそれだけで、わたしは目標を見失っていた。

「な……もう一度や、観鈴!」

言われ、急制動から反転し、再度加速する。
しかし第二波もまた、最小限の動きでかわされる。

「く……何でや、なんで当たらん!」

40黒白:2006/12/07(木) 20:09:13 ID:gW6263Ic
苛立ちを隠せない母の声。
しかし、わたしには最初の突進を回避された段階で理解できていた。
これは、勝てない。動きが違いすぎる。

おそらくは、春夏さんというひとが細かい動きを担当しているのだろう。
わたしはこの身体を、文字通り手足のように動かせるが、しかし元の身体と大きく異なっている
その重量や慣性のバランスは、如何ともしがたい。
感覚的に飛ぶことや加速することはできても、振るった腕に逆に振り回されることまでは避けられないのだ。
カミュの場合は、春夏さんが操縦することでその辺りをカバーしているのだと、そう思う。
まさかこういった神像の操縦に熟練していたわけでもないだろうが、ともあれ春夏さんは
それを見事にこなしているようだった。

そして勿論、母にそんな技能はない。
操縦桿を握ることすらしていなかった。
結果、わたしの突進は何度も空しく宙を裂き、対して無傷のカミュはまるで雨に打たれることを
楽しんでいるかのように、悠然と夜空に漂っているのだった。
と、春夏さんの声が、隔てられた距離を感じさせないほどクリアに響いてきた。

「……カミュ」
『うん……お姉様の身体だけど、あれはやっぱりお姉様じゃない。
 ……これ以上、あの身体を使わせておくわけには、いかないよ』
「……いいのね」
『うん。……術法で、決める。その間、お願い』
「わかった」

やり取りを終えると、カミュの声が消えた。
代わりに響いてきたのは、低く重々しい、何かの呪文のような声。

「こ、今度は何や!?」

41黒白:2006/12/07(木) 20:10:29 ID:gW6263Ic
母が憔悴したような声を上げる。
必殺の突進を幾度も回避され、力の差を見せつけられた格好の母は、明らかに疲弊していた。
その声を聞いて、わたしは決意を固める。

―――ああ。
今の母が、このひとに勝てる道理がない。

術法、というのはこの呪文めいた声によってもたらされるのだろう。
やり取りから判断するならば、おそらくは、必殺技のような何か。
ならば、時間はそう残されてはいなかった。

わたしはこの身体をカミュの方へと向け、しかしこれまでのような急加速ではなく、ゆっくりとした速度で移動させはじめる。
予測していない動きに戸惑ったのは、むしろ母の方だった。

「何や、観鈴……!? どないしてん、突っ込んだらんかい……!」

母には答えず、わたしは空中でカミュに正対すると、静止した。
春夏さんとカミュ、そして母の視線を感じながら、全身で雨を受け止めるように、両手を広げていく。
見えない十字架に磔刑に処されているかのような格好で、わたしは声を出す。

『助けて、ください』

それは、赦しを乞う言葉だった。
一番最初に反応したのは、母だった。
驚いたような、怒っているような、奇妙に裏返った声で叫ぶ。

「な……何を言うてんねん、観鈴!? どないしてん!?」

42黒白:2006/12/07(木) 20:10:53 ID:gW6263Ic
それにはやはり答えず、わたしはカミュと、その中にいる春夏さんをじっと見つめる。
いつの間にか、カミュの呪文めいた声は止まっていた。
身体の表面を雨粒が叩く音だけが、静かに辺りを包んでいる。
しばらくの沈黙の後、春夏さんの落ち着いた声が響いた。

「……どういう、ことかしら」

その声に警戒するような色はない。
むしろ、何か既知の契約事項を確認するような、そんな声音だった。
だからわたしは、その察しの良さに感謝しながら、言葉を続ける。

『お願いします。わたしはどうなっても構いません。
 ……だから、お母さんだけは、助けてあげてください』

淡々と、わたしは告げる。

「な……!」
「……」

驚愕する母と、沈黙する春夏さん。
予想に違わぬ反応だった。

『お母さんは、わたしのために悪いことをしようとしてるんです。
 ……だから、わたしがいなくなれば、お母さんはもう悪いことをしません』

春夏さんの言葉を借りるなら、卑怯な物言いだった。
これは茶番劇だ。これまでに感じた春夏さんの善良さを利用し、そして母とわたしの関係を理解した彼女が
決してこの申し出を無視できないとわかった上での、ひどく打算的な命乞いだった。
だが、春夏さんはこんな茶番劇にもきっと律儀につきあってくれるだろう。
短いやり取りの中でも、彼女がそういう人間であろうことは、伝わってきていた。

43黒白:2006/12/07(木) 20:11:10 ID:gW6263Ic
『おば……春夏さん、どう……するの?』
「……」

カミュの問いかけにも、春夏さんは答えない。
リスクと心情、これまでの言動。色々なことが頭をよぎっているに違いなかった。

「ちょ、待たんかい! 何を勝手にほざいとんじゃ! 観鈴! どういうこっちゃ、答ぇえ!」

置き去りにされた母の怒声を、わたしは内心で耳を塞いでやり過ごす。
これは、わたしと春夏さんの間で取り交わされようとしている商談だった。商材は、母の命。

しばらくの間、春夏さんは沈黙を守っていた。
母の悪態だけが、際限なく続いていた。

「―――私たちが、約束を守ってお母さんを助けるという保証はないわ」

ようやくにして春夏さんの口から出たのは、そんな言葉だった。
間髪をいれず、わたしは答える。

『にはは……きっと大丈夫です』
「……では、私たちの危険に対する保障は、どうなるのかしら」

痛いところを、突かれた。
上手く切り返したつもりが、考えが甘かったらしい。

「あなたのお母さんは、随分とやる気みたいだけど。お母さんを解放したら、私の娘の安全はどうなるのかしら。
 ずっと連れて歩くにしても、四六時中監視しておかなければ何をしでかすか分からないわ。
 私の席に入れるわけにはいかないし、かと言ってカミュが手に持って飛んだら、お母さんは潰れてしまうかもしれない。
 そういうことを、きちんと考えて言っている?」
『……』

44黒白:2006/12/07(木) 20:11:33 ID:gW6263Ic
がお、と口に出しそうなところを、ぐっと堪えた。
あれは、相手に甘える言葉だ。甘やかしてくれる相手にだけ、通用する言葉だった。
言葉に詰まったわたしを、春夏さんは無言で責めている。
なにか言葉を返さなければいけない。それはわかっていたが、肝心の言葉が見つからない。
何しろ、わたしたちがこうして話をしている間、或いは沈黙を続けている間にも、母の聞くに堪えない
悪口雑言は続いていたのだ。何を言い出すにせよ、片端から説得力が失われていく。
手詰まりだった。

「……どうしたの? 言いたいことは、それで終わりかしら」
『…………』

つくづく甘かった。
温情に訴えかけるだけでは、母親として物を言うこのひとには届かない。
自分の浅知恵を悔やみ、思考の迷宮に踏み込もうとしていた、そんなわたしを救ったのは、

『―――そこから先は、私がお話しましょう』

聞き覚えのある、透明な声だった。
突然響いた新しい声に、もっとも敏感に反応を示したのはカミュだった。

『お……お姉様!? その声、ウルトリィお姉様なの……?』

そう。その声は、ずっと眠っていたはずの、わたしのこの身体の真の持ち主。
白い神像、ウルトリィのものだった。

「ウルトリィ……? カミュ、この声があなたの言ってたお姉さん……なの?」
『そうよ、春夏さん!』
『―――久しぶりですね、カミュ』
『お姉様……! ……でも、どうして……』

45黒白:2006/12/07(木) 20:12:09 ID:gW6263Ic
カミュの、不安げな声。
目の前で声を出しているのが本当に姉なのかどうか、はかりかねているのだろう。
そしてそれは、わたしにとっても同様だった。

(う、ウルト……さん?)

思わず声を出そうとして、それが叶わないことを知る。
声のみならず、身体もまたわたしの意思から離れたかのようにピクリとも動かない。

(……契約者、神尾観鈴。この場は私にお任せなさい)

ウルトリィの優しげな声が、焦るわたしを落ち着かせるように響いた。
どうやらわたしに語りかける声は、カミュや母たちには伝わっていないようだった。

(が、がお……お母さん、助けてくれる?)

思わず口をついて出る、口癖。
ウルトリィの答えは短かった。

(それが調停者の務めです)

それだけを告げて、ウルトリィは今度はカミュや春夏さんへと声を発する。

『……カミュ、そしてその契約者の方。失礼ながら、お話は伺っていました。
 あなた方の不安も、もっともなことだと思います』

どこまでも理性的なその声に、春夏さんもこれがわたしや母ではないと考えたらしい。
慎重に、探るような声音で尋ねる。

46黒白:2006/12/07(木) 20:12:39 ID:gW6263Ic
「……ウルトリィさん、と仰ったかしら。率直に伺いたいのですが」
『何でしょう、カミュの契約者の方』
「柚原春夏。春夏、と呼んでくださって結構です。……話を戻します」
『はい』
「……あなたは、私達と戦うために出てこられたのですか」

ズバリと切り込んだ。
わたしとしても、それは気になるところだった。
ずっと眠っていたはずのウルトリィが、どうしてこの窮地で目覚め、こうして場の主導権を握っているのか。
それがカミュを撃破し、自らの身の安全を確保するためかもしれないと春夏さんが考えたとしても、不思議はなかった。
だが、ウルトリィはそれを言下に否定する。

『いいえ、そのようなつもりはありません』
『そうよ春夏さん、お姉様はそんな人じゃないもん!』

カミュもまた、怒ったように声を上げる。

「ごめんなさい、カミュ。……失礼しました。なら、改めて伺います。
 あなたは、そこの……神尾晴子さんを、どうなさるおつもりですか」

またしても直球だった。
わたしへの詰問が中断していた、正確にそこまで話が戻される。
ウルトリィがどんな答えを返すのか、わたしもまた傾注する。

『……今、この身は契約者の手を離れ、私自身の意思によって動いています。
 私たちには自由にそういうことができる。そうですね、カミュ』
「そうなの、カミュ?」

突然に話を振られたカミュが、戸惑ったように答える。

47黒白:2006/12/07(木) 20:13:11 ID:gW6263Ic
『え? ……ええと、うん、一応はできるよ……?
 あ、も、もちろんカミュがそういうことをするときは、ちゃんと春夏さんに言ってからだからね!?』
「分かってるわ、ありがとうカミュ」

宥めるように言う春夏さんに、ウルトリィの言葉が続けられる。

『それは即ち、この身に取りこんだ者を解き放つかどうかも、私の意思次第ということです。
 言っている意味が、分かりますか?』

ウルトリィの問いかけに、春夏さんが探るように口を開く。

「……つまりあなたはそのまま、牢屋の役目を果たすことができるって、そういうわけですか……?」
『その通りです』
「何やて!? ちょ、待ったらんかい!」

そのやり取りに、無視され続けて不貞腐れたように黙り込んでいた母が噛みついた。

「冗談やないで! 開けえ! 今すぐここ開けえや!」

母の半ば悲鳴に近い声に、わたしの胸が締め付けられる。
しかし今のわたしには、指一本を動かす自由すらありはしなかった。
そんな母の声を無視して、春夏さんはカミュへと問いかける。

「……どう思う、カミュ」
『うん……お姉様の仰ってることはわかるよ。難しいことじゃないと思うけど……』
「そう……」

言って、しばらく何事かを考えるように黙り込んでいた春夏さんが、やがて口を開いた。

48黒白:2006/12/07(木) 20:13:30 ID:gW6263Ic
「ウルトリィさん。もう一つだけ、伺います」
『何でしょう』
「あなた自身は、これからどうされるおつもりですか」

もっともな疑問だった。
ウルトリィが自身の意思で動くというのならば、場合によっては母とわたしよりもよほど危険な存在となり得る。
だが、ウルトリィはそんな疑問を一蹴した。

『何もするつもりはありません』
「……と、いうと」
『こうして、ただここに漂い、あなた方を見守るつもりだということです』
「……」

さすがに、その答えは予測していなかった。
確かにこの高空に留まるならば、母が逃走を企てることも難しいし、他の参加者にかち合うこともあるまい。
不審な動きをするにしても、カミュたちから見上げればすぐにそれと知れる。
春夏さんにしても、それは意外な答えだったらしい。再び沈黙が降りる。

「……わかりました」

しばらくの間を置いて、春夏さんの絞り出すような声。
ウルトリィの声がそれに答える。

『ご理解に感謝します』

それが、結審の槌音だった。

49黒白:2006/12/07(木) 20:14:18 ID:gW6263Ic


「では、神尾晴子さん……そして観鈴さんのこと、お任せします」
『……じゃあまたね、お姉様!』

その言葉だけを残して、カミュと春夏さんは夜の島へと降りていった。
黒いその影が、瞬く間に夜陰に紛れて見えなくなる。

「何で……なんでや……!」

母の涙交じりの声だけが、高空に取り残されていた。

「ここ開けぇや、観鈴! うちの言うことが聞けんのかい、観鈴……!」

わたしはそれを、じっと聞いている。

50黒白:2006/12/07(木) 20:14:56 ID:gW6263Ic
【時間:2日目午前3時頃】
【場所:G−6】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:軟禁】
 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:自律操縦モード/それでも、お母さんと一緒】

 柚原春夏
 アヴ・カミュ
【所持品:おたま】
【状態:健康】

 天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:逃亡】
 鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:逃亡】

→522 ルートD−2

51鬼、その身を灼いて:2006/12/09(土) 19:29:20 ID:Q2tOKsc2

その声を、柏木千鶴は静かに聞いていた。
静かに、握り締めた拳から、噛み締めた唇から鮮血を滴らせながら、聞いていた。

『―――ターゲット、柏木梓の殺害に成功したのは、芳野祐介さん。
 同じく柏木初音殺害に成功したのは、来栖川綾香さん―――』

梓の死は仕方ないと、自分に言い聞かせることもできた。
力量を読み誤り、無謀な相手に挑んだ結果だと。
荒れ狂う感情を、狩猟民族の血、そして家長としての責任で押し潰すこともできた。
しかし。

瞼を閉じれば、浮かんでくる。
小さな初音。いつも笑顔を絶やさなかった、優しい初音。
まだ可能性に溢れていた。望めば叶わぬ夢などないと、信じていられる歳だった。
恋も知らずに、死んでいった。

来栖川。
来栖川、来栖川、来栖川、来栖川来栖川来栖川。

千遍引き裂いてもまだ足りぬ。
万遍断ち割ってもまだ足りぬ。
三界に遍く苦しみという苦しみを、久遠に続く絶望という絶望を、味わい尽くして死ね。

流す涙が、雨に混じって地に落ちる。
見開かれた目をそのままに、鮮血滴る真紅の爪を打ち振って、千鶴は叫ぶ。

「―――出て来なさい……ッ!! どうせ見ているんでしょう……!!」

びりびりと、周囲の大気が震える。

52鬼、その身を灼いて:2006/12/09(土) 19:29:48 ID:Q2tOKsc2
と。
爪の一撃に薙ぎ倒された倒木の陰から、ひとりの少女がまろび出た。
白いワンピースを纏った少女は、しかしその幼い顔に似つかわしくない笑みを湛えている。

「気が、変わったみたいね?」

気の弱い者であればそれだけで縮み上がるような夜叉の双眸に睨まれながら、少女は平然と笑い返してみせた。

「―――いいわ。あなたに、力をあげる」

誰にも負けないくらいの力を、ね。
少女はそう言って、艶然と微笑んだ。



【時間:2日目午前6時】
【場所:G−5】

柏木千鶴
 【所持品:支給品一式】
 【状態:復讐鬼】

みずか
 【状態:目的不明】

→368 →405 →432 →531 ルートD-2

53継承する思い:2006/12/10(日) 22:45:18 ID:PcauInOU
気がついたら暗いところにいた。
本当にすごく暗い。
右も左も上も下も判らないし、今自分が立っているのか、それとも浮いているのかすら判らないほど暗い場所だ。
ここを一言で言うなら……そう、『闇』だ。
そんな場所にあたし―――吉岡チエはいる。

(うぅ…なんか怖いっス……)
なんで自分はこんなところにいるのか?
確か先ほどまで自分はあの島の教会で舞先輩と耕一さんたちの帰りを待っていたはずだ。
それなのに、なぜ今自分はここにいる?
――――ワカラナイ。
判らないからただ前へと歩いてみることにした。
といってもこんな闇の中だ。足を動かしていても本当に自分は前に進んでいるのかすら判らないが…



かれこれ数十分は歩いたと思う。
闇という景色は一向に変わる様子は無い。
「はぁ……いったいあたしどうしちゃったんだろ?」
そう言ってため息をついていたら目の前から急に一筋の光が差し込んだ。
出口かなと最初あたしは思った。
もちろんあたしはその光の方へと歩いていく。

近づけば近づくほど光が徐々に大きくなっていく。
よかった。やっぱりあの光がこの闇の出口なんだと思い安堵する。

54継承する思い:2006/12/10(日) 22:47:03 ID:PcauInOU
「―――ん?」
よく見るとその光の近くに2人の女の子の人影があった。
それはあの島であたしが(多分)1番良く知っている子たちで、あたしが1番会いたかった2人だ。
「このみ、ちゃる!」
とっさに2人の名(片方は愛称だが)をあたしは叫んでいた。


「あっ。よっち〜♪」
「よっち……」
2人は同時にあたしに気づき、あたしの名(これも愛称だが)を呼んだ。
柚原このみと山田ミチル…あたしの自慢の親友の2人――よかった。やっと会えた……

すぐさま2人のもとへ駆け寄り飛びついてやろうとあたしは走り出した。
すると……

―――ゴン!
「あいたーーーーーーーっ!!」

2人まであともう少しという距離のところで見えない壁に激突した。
な…なんでっスか!?

「どうしたの、よっち?」
「よく判らんが大丈夫か?」
強打したおでこを押さえて縮こまるあたしを2人が不思議そうな顔で見る。
「あ…あたしにも判らないっスよ。なんか見えない壁があるみたいで……」
あたしがそういうと2人は「えっ?」と声をあげてこちらに近づいてくる。
ある程度歩いたところで2人もその見えない壁に接触した。
(ちなみにこのみもあたしと同じくおでこをゴンとうった)

55継承する思い:2006/12/10(日) 22:47:46 ID:PcauInOU
お互いの距離はもう手の届きそうなところまで来ていた。
しかし、あたしたちの間にはガラスほどの厚さの見えない壁がある。
どちらかが一方の元に行くことは不可能であった。
なんか水族館の魚になった気分だとあたしは思った。

「これは………ああ。そういうことか……」
何かに気づいたちゃるはそう言うと苦笑いをしてうんうんと頷いた。
「ちゃる、この壁が何だか判るの?」
このみがちゃるに尋ねる。
それにちゃるはうんと頷き答えた。
「よっち……残念だけど、よっちはまだこっちには来ちゃダメだ」
「な…なんでっスか?」
「よっちはまだ………生きているから」

―――は?
なぁに言ってるんスかこの赤い狐は。
まるで自分たちがもう死んでしまった者みたいなこと言って………
―――えっ? 死? 生きている? ちょ、ちょっと待った。
そんなこと言うってことは、もしかしてちゃるは……そして…そのちゃると同じ場所にいるこのみは……

「嘘……嘘っスよね……? そんなことあるわけが………」
「嘘じゃないさ……それなら、何故私とこのみはそっちにいけないの?」
「!?」
「そうだね……なんでよっちはこのみたちのところに来れないのかな?」
「……………」
答えることができない。
なぜなら2人の言っていることは間違ってはいないから……あたしはまだ死んじゃいないから……

56継承する思い:2006/12/10(日) 22:48:38 ID:PcauInOU
「よっち…」
「…………」
このみが心配そうにあたしの顔を見る。
―――このみには悪いが、そんな顔であたしを見ないでほしかった。なぜなら今にもあたしは泣き崩れそうだったから。
「………ねえ、よっち。よっちはタカくんのこと好き?」
「――へ?」
突然このみが先ほどとはまったく関係の無いことを口にした。
というか。なんでここで河野先輩が出てくるんスか?
「ねえ、どうなのよっち?」
このみが壁越しにぐいっと真剣そうな表情で顔を近づけてくる。
思わず圧倒されそうになった。だけど、おかげで気がついた。
なんだ。たとえ死んじゃっていてもこのみはあたしが知っているいつものこのみじゃないか。
「きゅ…急にそんなこと聞かれても困るっスよ。こ、河野先輩のことは別に嫌いじゃないっスけど………」
「よっち、顔が赤くなっているぞ」
「うっさい!」
ついでにちゃるもあたしが知っているちゃるだった。
「先輩にはこのみがいるじゃあないっスか………」
そこでハッとした。そうだ。このみはもう……
「うん…このみはもうタカくんとは一緒にいられないから……もう会えないから……だからよっちにタカくんをお願いしたいの。
多分タカくんこのみのこと知ったら壊れちゃうかもしれない……」
なるほど…そういうことか……。しかし『壊れちゃう』という言い方がなんかこのみらしい例え方だったから思わずクスリと笑ってしまう。
「………わかったよ、このみ。先輩はこの大親友の吉岡チエに任せるっス!」
「うん!」
そう言ったこのみは笑顔だった。その目にはうっすらと涙があった。
それが嬉し涙なのか悲しみによる涙なのかはあたしには判らない。

57継承する思い:2006/12/10(日) 22:49:19 ID:PcauInOU
「よっち……私も言いたいことがある」
「なんスか?」
「これはこのみにも聞いてほしいことだ」
「えっ? なに?」
「…………」
しばしの沈黙。そしてちゃるは再び口を開いた。
「………私はあの島で人を殺した」
「えっ!?」
「なっ!?」
「私はあの殺人ゲームに乗ったんだ。
私が貰ったのは銃だったから……それに、ゲームに乗るか乗らないか考えるのが面倒だったから………こんな私を2人は親友だと思ってくれる?」
「……………」
「……………」
今度はあたしとこのみが口を閉ざす。またも沈黙。そして、あたしたちは口を開く。
言うことは最初から決まっている。
「もちろんっスよ」
「もちろんだよ。たとえちゃるがどうなっちゃっても、ちゃるはちゃるであることに変わりはないもん」
「このみ……」
「そうっスね〜。普段から何をするのも面倒臭そうな顔してるっすもんね〜ちゃるは」
「うるさいぞよっち」
そう言うちゃるの顔は笑っていた。
「でもちゃる、その人に会ったらちゃんと謝らなきゃだめだよ」
「そうだな……許してくれるか判らないが………」
「その時はむこうが許してくれるまで謝り続ければいいんスよ」
「―――よっちらしい考え方だな」
「えへ。自分でもそう思うっス」
そう言ってあたしたち3人は笑った。

58継承する思い:2006/12/10(日) 22:50:13 ID:PcauInOU
「―――さて。よっち、私たちはそろそろ行くぞ」
「そうっスか………」
「元気でね、よっち」
「後は頼むぞ、よっち」
このみが手をひらひらと振る。それに習いちゃるも手をひらひらと振った。
もちろんあたしも手を振る。
徐々に2人の姿が遠くに――光の中に消えていく。今のあたしができることはただ手を振ってそれを見送るだけだ。

「さようなら…またいつか………」
その言葉を言った瞬間2人の姿は消え、あたしの視界は真っ白になった。
俗に言う『ホワイト・アウト』ってやつだと思う。


* * * * *


「うん……あ。志保先輩おはようっス」
「やれやれ……今頃になって気がついたのあんた?」
チエが目を覚ますとそこは教会の聖堂だった。
(ああ、そっか。あたしあの時あの髪の長い女の人にやられて、そのまま気絶していたんスよね)
気を失う直前までの記憶を思い出してチエは苦笑いする。

59継承する思い:2006/12/10(日) 22:50:55 ID:PcauInOU
「あっ……吉岡さん起きたのか?」
「…………大丈夫……よっち?」
仮眠を取っていた護と舞も目を覚ましチエに話しかける。
「はい。お蔭様で体調はバッチリOKっス!」
「やれやれ……あたしたちは交代交代で見張りと休憩を繰り返していたっていうのに、あんたは6時間近くぐっすり寝ていたわよ………」
「うっ……すいません」
「まあいいじゃないか。吉岡さんはこうして無事に目を覚ましてくれたんだし」
「――あれ? 耕一さんがいないっスけどどうしたんすか?」
「ああ。耕一さんなら吉岡さんが寝ている間に梓って子がここに来たんだけど、
その子と一緒に千鶴さん――ああ、千鶴さんっていうのは吉岡さんと川澄さんを襲った女の人の名前ね。
その人を止めるって言って2人で行っちゃったよ」
「そうっスか。あの人が耕一さんの探していた人の1人だったんスね……」
『――みなさん……聞こえているでしょうか。』
「!?」
――その時、2回目の放送が始まった。
「やれやれ……ホームルームの時間か………」
護がポツリと呟いた。



放送が終わると、最初の放送が終わった時と同じく、場の空気は重く沈んだ。
「うそ…レミィや来栖川先輩まで……」
「姫川さんって子の名前もあったな………」
「耕一たちが無事だった……だけど……」
舞の言葉と同時に護、志保、舞はチエの方に目を向けた。
チエは信じられないという反面、どこか判っていたという顔をしていた。

60継承する思い:2006/12/10(日) 22:51:45 ID:PcauInOU
「―――やっぱり死んじゃっていたんスねこのみ…ちゃる………おばさんも……」
チエは俯いてそう呟いた。幸いその言葉は舞たちの耳には聞こえなかった。
『さっき夢で死んだこのみたちと会った』なんて縁起の悪いことは3人には言えなかったからだ。

「吉岡さん……なんて言って良いか判らないけど……その………」
チエを慰めようと護が声をかける。
「―――大丈夫っス、住井先輩。確かに辛いけど…悲しんでなんかいられないっスよ」
チエはそう言うと顔を上げた。その表情には悲しみも怒りもなく、ただひとつの現実を受け止めた少女の顔があった。
「そうか………そうだよな。死んだ連中の分まで俺たちが笑って生きてやらなきゃバチが当たるもんな」
護がふっと笑う。それに釣られて志保も笑った。
「そうよね…悲しんでばっかいちゃあ死んだ連中に笑われちゃうものね!」
「はちみつくまさん」
暗くなっていたムードが再び少し明るさを取り戻した。

「……でも、問題はこれからよ」
「ああ。あのウサギが言っていたこと……『優勝した奴は好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてもらえる』だっけ?
嘘か本当かは判らないけど……間違いなくこれに釣られる奴は出てくるよな」
「そうっスね。もしかしたら今までゲームに乗っていなかった人も『自分が優勝して参加者全員を生き返らせれば良い』なんて考えてゲームに乗っちゃう可能性もあるっス」
「ヒロたちがそうなっていなければいいけど……」
「そうだな……」
「それで……これから先どうする?」
「もちろん今は知り合いや同志を探そう。あの放送の後でも俺たちと同じ考えの人は間違いなくいるはずだ」
「そうね。じゃあまずはここからすぐ近くにある平瀬村から行ってみるとしましょうか?」
地図を広げた志保が平瀬村に指を指す。
「そうだな。村をある程度調べ終わったらその後のことはまたその時に考えよう」
「はちみつくまさん」
「決まりっスね」
4人はうんと首を縦に振ると、早速自分たちの荷物を持って教会を出た。

61継承する思い:2006/12/10(日) 22:56:07 ID:PcauInOU
「あ…そうだったっス」
「ん? どうしたのよっち?」
平瀬村へ向かう道の途中、何かを思い出し声をあげたチエに志保が問いかけた。
「実はあたし、もう1人探したい人がいたっス」
「えっ? 誰?」
「―――河野貴明先輩っス」

(―――受け継ごう。そして伝えよう。河野先輩に。このみの思いを……あたしの秘めていた思いといっしょに………)



【時間:2日目午前6時45分頃】
【場所:F−3】

吉岡チエ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。貴明ほか知人・同志を探す】

住井護
 【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。浩平ほか知人・同志を探す】

長岡志保
 【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式)】
 【状態:平瀬村に移動中。浩之・あかりほか知人・同志を探す】

川澄舞
 【所持品:日本刀・支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。祐一・佐祐理ほか知人・同志を探す】

62継承する思い:2006/12/10(日) 22:58:13 ID:PcauInOU
訂正
>「耕一たちが無事だった……だけど……」

正しくは「耕一たちが無事だったのは幸い……だけど……」

63発動(1/4):2006/12/12(火) 14:58:15 ID:CRi3aVKE
「お疲れ様です、交替にきました」
「Oh、ササラ!」
「こっちは異常ないですよ」

寺の入り口付近にて談笑していた折原浩平と宮内レミィ、二人のもとへやってきたのは久寿川ささらであった。
あれからきっちり一時間、見張りを変わるために訪れたのであろう。
だが、一時間という短い間でで本当に休めたのだろうか、浩平の中で疑問が沸く。
・・・ほとんど眠っていないのではないか、そのような憶測も容易くついた。

「お二人とも、どうぞ休んでください。お疲れ様です」
「Ok!よろしくネッ」
「俺はもうちょっとここにいるよ。まだまだ目が冴えてるし」
「いいんですか・・・?」

遠慮深げなささらの視線に笑みを返す。
実際気絶していたとはいえ、体を充分に休めることのできた浩平にはまだまだ余力ができていた。

「頑張ってネッ!ワタシはRest roomに寄ってから戻るヨ」
「じゃあな、レミィ」
「おやすみなさい」
「また明日ネッ!!」

終始明るいレミィが去ると、場は一気に静まりかえった気がする。
たった一時間ではあるが浩平も彼女とは随分と打ち解けることができていた、レミィのテンションは嫌いじゃない。
しゃべり続けて一時間経ってしまったようなもの、それは非常に楽しい時間であった。
同じクラスにいたら絶対楽しかっただろう、そんな気さえしてくる。
すっかり意気投合した二人の様子に、ささらも微笑ましそうな視線を送ってきた。

「随分仲良くなられたんですね」
「おうよ。あいつ面白いヤツでさ、話してたらこっちまで乗せられちまったって感じだ」

64発動(2/4):2006/12/12(火) 14:59:08 ID:CRi3aVKE
まぁ、と可愛らしく笑うささらの笑顔に、これまた浩平も笑って答え。
・・・ゲームが始まってから、こんなにも朗らかな気持ちでいられるのは初めてであったから。
浩平は今いる仲間達の存在のありがたみに、心から感謝するしかなかった。

「それにしても、ボロっちいからもうちょっと過ごしづらいと思ったんだが。意外と頑丈にできてるな、この建物」
「そうですね。宮内さんと折原さんが話していらっしゃっていた際の声というのも、特に中には届いてませんでしたし・・・」
「マジか。・・・そういえば、それは?」

隣に腰掛けるささらの手には、何やら物騒なものが握られていて。
浩平にとってはどこか見覚えのあるそれを構えながら、ささらは彼の問いに答えた。

「真琴さんに借りたんです。護身にと思いまして」
「ああ、あのクソチビのか」
「・・・そういう言い方は可哀想ですよ」
「いきなり殴りかかってきた上に、人の荷物勝手に漁るようなのはクソチビで充分だ」




一方、その頃のクソチビこと沢渡真琴は。

「あうー、お腹がすいたのよ〜・・・なんで真琴がこんな窮屈な思いしなくちゃいけないのよ〜」

空腹を訴えるお腹を押さえながら、彼女は小牧郁乃と立田七海と同じ部屋にて休んでいた。
ほしのゆめみは電源のある部屋にて、バッテリーの切れたイルファの様子を見ていることになっている。
ささらもいなくなりますます寂しくなったその部屋で、真琴は一人もがいていた。
別に全く食事を摂っていないわけではない、だが見境なく支給されたパンに食いついている所を止められたため不満が残ってしまったということで。
おかげで彼女の空腹中枢は中途半端な所までしか満たされず、今も眠れず夜を過ごしているという訳だ。

「あれ、美味しかったなー」

65発動(3/4):2006/12/12(火) 14:59:57 ID:CRi3aVKE
思い出すのはつまみ食いしたダンゴの味。
可愛らしくつけられた表情に対する罪悪感など沸くはずもなく、真琴は甘いダンゴの感触を思い出し酔いしれていた。

「まだまだいっぱいあったわよね・・・ちょっとくらい貰っちゃっても、バレないわよね?」

すっかり熟睡してしまっている七海と郁乃を尻目に、真琴は一人こっそりと一箇所にまとめられた荷物の山に近づいた。
そして重なり合う荷物を片っ端から開け、中に手をつっこみだす。
部屋は暗く見通しは非常に悪い、手の感触でしか中身は特定できないような状態であったが真琴は気にせず荷物を引っ掻き回した。
・・・それ以前に、ダンゴの入っていた浩平の荷物は彼が持参して見張りについているのでここにはないのだが。
そんなことを真琴が覚えているわけもなく、彼女はひたすらひたすらダンゴを探し続けた。

カチッ。だが、場に響いたのは予想外の音であった。

「え?」

何かを押した音、そう・・・例えば、ボタンやスイッチのようなもの。
手を中に入れた勢いで当たってしまったらしい、真琴は恐る恐る指に触れるそれを取り出した。

「げっ」

見覚えのある物、それはささらに支給された正体不明のスイッチ。
・・・何が何だか分からないから保留と決めていたそれは、真琴の手によりしっかりと凹んでいた。
戻そうとしても戻らない、開閉式の鍵のようかと思いカチカチと連打しても変わらない。

「み、見なかったことにしましょ」

こっそりささらの鞄に戻し、真琴は荷物の山から遠ざかっていく。
・・・とりあえず、爆弾の類ではなくて良かったと、思った。

66発動(4/4):2006/12/12(火) 15:00:27 ID:CRi3aVKE




すぐ隣の部屋、充電をするイルファを見守る形でほしのゆめみは座っていた。
特にやることはない。むしろ彼女を見張りにおけば、他のメンバーは一晩ゆっくり休むことができただろう。
だが万が一、目が覚めたイルファに何かあった時対処できるような人材は彼女だけであった。
ゆめみはぼーっと無駄な時間を過ごし続けていた、それがいつまでも続くと思っていた
何かを特別意識することなく、虚空を見つめるその姿。
だがそれは、彼女の意識を乗っ取る存在が現れるまで。

『---------認証完了、プログラム2起動します』

紡がれたものは彼女の声だが、決して彼女の言葉ではないもの。
これが、彼らの平和な時間が終わりを迎える時であった。





【時間:2日目午前0時】
【場所:F−9・無学寺】

折原浩平
【所持品:だんご大家族(だんご残り95人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:見張り】

久寿川ささら
【所持品:日本刀】
【状態:見張り】

67補足:2006/12/12(火) 15:01:12 ID:CRi3aVKE
宮内レミィ
【所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、他支給品一式】
【状態:トイレへ】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:スイッチ押した】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:睡眠中、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:睡眠中、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)、他支給品一式×2】
【状態:充電中・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:異変】

【備考:食料少し消費】
(関連・504)(B−4ルート)

68自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:18:20 ID:VMImqlO.
「まーりゃん先輩、本当にどこに行っちゃったんだ?」
あれから貴明、マナ、ささらの3人は麻亜子を探すため鎌石村を訪れていた。
しかし、いくら探しても麻亜子の姿も彼女がいたという痕跡すら見つけられなかった。
そして今、3人は村はずれの民家で休憩を取っていた。少し休んだら再び捜索を開始するつもりである。

「もしかしたら、この村には来てないんじゃない?」
「う〜ん…そうかもしれないな……」
そう言うと貴明はデイパックを開け、中からあるものを取り出した。
「貴明さんそれって……」
「ああ。高槻さんと別れた後もう一度職員室やその周辺を調べただろ? その時に使えそうだと思って持ってきたんだ……」
貴明が取り出したもの―――それは名倉由依が持っていた携帯電話と麻亜子が落としていったSIGと鉄扇だった。
「……銃に弾はあと2発しか残ってなかったけど入ってた、だからこれは先輩が持っていたほうがいいと思う」
そう言って貴明はSIGをささらに渡した。
………しかし、ささらは無言で首を横に振りそれを貴明に返した。
「先輩?」
「………それは貴明さんが持っていてください」
「どうして?」
「貴明さんにはまーりゃん先輩を止める他にもやるべきことがあるはずですから」
「…………そうだな。わかった。これは俺が持っておくよ」
「はい」
「じゃあ、あとは……携帯は観月さんが持っててくれないかな? 銃と鉄扇は俺が持っとくから」
「うん、判った」

(―――そうだ。この島で俺がするべきことは山ほどある。
まーりゃん先輩を止めて。このみや春夏さん、小牧さんやるーこたちを見つけだして。
そして雄二やタマ姉たちと合流して……最後に、1人でも多くの仲間たちを集めてこの島を脱出する………)

69自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:19:34 ID:VMImqlO.
貴明が自身の決心を確認すると同時に玄関の扉がゆっくりと開く音がした。
「!?」
すぐさま貴明とマナは互いの銃を握り警戒体制を取る。
「久寿川先輩は俺と観月さんの後ろに……!」
「は、はい…!」
「さっきの高槻とかいう奴らかゲームに乗っていない奴だったらいいけど……」
マナの言うことは最もだと貴明は思った。いくら時に生き残るためには必要とはいえ、人に銃なんてあまり撃ちたいなんて思わない。
しかし、もし相手が出会った人間を見境なく殺していく殺戮者であったなら、そのときは容赦しないという覚悟も貴明にはあった。
(これ以上、草壁さんのような罪も無い人たちを殺されてたまるか……!)
貴明は構えているSIGをぎゅっと握り締めた。

足音がゆっくりと貴明たちのいる部屋に近づいてくる。
それに伴い貴明たちの緊張も高まってくる。それぞれの心臓の音が聞こえるのではないかというくらいの緊張感が部屋に充満していく。
そして、足音が自分たちの部屋の入り口の前で止まった。

閉めていた部屋の扉が開いた。
同時に貴明とマナは銃を開いた扉に銃を向けた。
「動かないで!」
「ひっ!」
「………え? 女の子?」
部屋に入ってきたのは今から5時間以上前に平瀬村で起きた激戦から命からがら逃れてきた水瀬名雪だった。
「ねえ、あなた………」
「いや……いやぁ! こないでぇぇぇ!」
「あ……」
ささらが一歩前に出ると名雪は泣き叫ぶように大きな声を発しながら一歩一歩後ろに下がっていく。

70自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:20:50 ID:VMImqlO.
貴明とマナは銃を下ろし名雪を見た。
見るからに名雪は怯えている。それに肩には既に治療済みだが刺し傷があった。
(そうか……ゲームに乗った奴に襲われたんだな………)
そう確信した貴明はマナとささらに「任せてくれ」と目で合図した。
マナとささらもそれに気づき黙って頷いた。

「お母さん、助けてよ……お母さん、お母さん……!」
貴明が顔を先ほど向いていた方へ戻す。
名雪は頭を抱えながら部屋の隅で震えていた。
「ねえ君……」
「ひっ!」
名雪が恐る恐る振り返る。その顔は涙と鼻水、そしてここまで走って逃げてきたことによる疲労でぐしゃぐしゃになっていた。
「……ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ……俺たちも生き残るために必死だから……
俺たちは殺し合いには乗っていないし、君に危害を加えるつもりは無いよ。だから落ち着いて話を聞いてくれないかな?」
貴明は銃を床に捨て、両手を上げながら名雪に近づく。

――普通の人間ならこれで騒ぎは終わっていた。だが、貴明のこの行動は今の名雪には貴明が自身を殺そうと近づいてきているようにしか見えなかった。
それほどまで名雪の精神はズタズタになっていたのだ。

「く……来るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、名雪は恐ろしい形相でポケットから取り出したソレを貴明に向けた。
―――支給品のルージュ型拳銃だ。
「!? 貴明さん!!」
「えっ!?」
刹那、危険を察知したささらが貴明を突き飛ばし、それと同時に……

ドン!

―――1発の銃声が民家に響き渡った。

71自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:21:38 ID:VMImqlO.
―――もちろん、名雪は自身に支給されたルージュが実は拳銃だったなんて気づいてはいなかった。
ただ恐怖心により、藁にもすがる思いで持っていたルージュを貴明に向け、偶然トリガーを引いてしまっただけだ。



「っ……」
僅かな呻き声を発し、ささらが床に崩れ落ちた。
「久寿川先輩!?」
「久寿川さん!?」
すぐに貴明とマナがささらに駆け寄る。
「だ…大丈夫………です…………」
ささらは左手で右肩を押さえていた。そこに弾が当たったんだなとすぐに貴明とマナは理解した。
それと同時に、ささらの制服の右肩部と床はみるみるうちに鮮血で真っ赤に染まっていった。
「すぐに止血をしないと………弾は……貫通してる…のか?」
ささらの背中を見ると制服の背中にも穴があったので、弾は貫通したと貴明は判断した。
「あなた……なんてことを………!」
マナはキッと名雪を睨みつける。名雪は先ほど以上に怯えていた。
「違う……違うもん………私………わたし……ワタシ……い…嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そう叫ぶと名雪はルージュを投げ捨て、民家を飛び出していった。
「あっ……待ちなさい!」
「観月さん。それよりも今は先輩を……!」
「たかあきさん……マナ…さん……彼女を追ってください………」
「なっ……何言ってんだよ先輩!?」
「そうよ。このままじゃ久寿川さんが………」
「私は本当に大丈夫ですから………だから………」
貴明はささらの目を見た。間違いなくささらのその目は貴明に何かを伝えていた。
(―――! そうか……そういうことなんだな………先輩!)

72自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:26:29 ID:VMImqlO.
ささらが伝えたかったことを自分なりに理解した貴明はほんの少し、ほんの数秒の間口を閉ざしたが、やがてゆっくりと口を開いて言った。
「………悪いけど、それは無理だよ先輩……」
「そう…ですか……」
「そうよ。当たり前じゃ……」
「――追うのは俺だけだ。観月さんには残って先輩を見てもらう」
「はぁ!?」
「………はい……」
それを聞いたささらは右肩の激痛に苦しみながらもにっこりと微笑んだ。
「観月さん。先輩を頼むよ!」
貴明はそう言うと自分の武器とデイパックを持って家を飛び出していた。
「ちょ……ちょっと………あ〜もう!!」
取り残されたマナはそう叫ぶと仕方なくささらの応急処置を始めた。
「これは借りにしとくからね………絶対にあの子を連れて戻ってきなさいよ………」
「大丈夫…ですよ………たかあき……さん…なら……」
ささらはまた微笑んでマナに言った。

73自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:27:09 ID:VMImqlO.



【時間:2日目5:45】

河野貴明
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、名雪を追う(もちろん殺すつもりはない)】

観月マナ
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、ささらの応急処置中】

久寿川ささら
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】
 【状態:右肩負傷(重症・出血多量・弾は貫通)、マナに応急処置をしてもらっている】

水瀬名雪
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:かなり錯乱している、観音堂(C−6)方面に逃亡(貴明が追ってきていることには気づいていない)】

【備考】
・赤いルージュ型拳銃(弾残り0発)はマナたちのいる民家に放置

74何を信じるか:2006/12/14(木) 07:27:48 ID:m.IzredY
定時放送が流れたのは、雅史と椋が目覚めた直後だった。
二人共、黙って放送を聞く。


「宮内さんに…来栖川先輩、それに琴音ちゃんまで…」
放送が終わった後、雅史は下を向きながら大きく溜息をついた。
「お知り合いの方が?」
「うん…同じ学校の人が4人。それに昨日会ったセリオを入れれば5人か…。椋さんは?」
「あ、はい、私の方は大丈夫です…す、すみません…」
「いや、椋さんが謝る事はないよ」
ペコペコと頭を下げる椋に、雅史は少し苦笑する。
その後、再び沈黙が訪れた。

「と、とりあえずもう一回パソコンをチェックしてみようか。何か新しい情報があるかもしれない」
雅史はそう言って沈黙を破り、ノートパソコンを起動する。
『ロワちゃんねる』を開くと、『安否を報告するスレッド』に新しい書き込みがされていた。

75何を信じるか:2006/12/14(木) 07:28:21 ID:m.IzredY
「岡崎さん…!」
その書き込みを見た椋は思わず声を上げる。
「この岡崎朋也って人…確か椋さんが探していた…」
「はい、私と同じクラスの方です」
そう言うとともに椋は民家から走って出ていこうとする。
雅史は慌ててその手を取った。
「ちょっと!どこ行くつもり?」
「どこって…そこに書いてある鎌石村へ…」
「ダメだ!危険だよ!」
思わず怒鳴ってしまう。
確かに椋のクラスメートに会いたいという気持ちは分からないでもない。
しかし、ここに書かれている橘という男のような奴だっているのだ。迂闊に信用するのは危険だ。
が、「知り合いでも簡単に信じるな」とは言いにくいので別の言い訳を考える。
「殺し合いに乗ってる人が、書き込みを見て鎌石村に来る可能性だってある。それに鎌石村はここから反対方向でかなり遠いし…」
椋を説得しようと必死に訴える雅史。
それが通じたのか、椋は俯きながらも「はい…」と小さな声で返事をした。

一安心した雅史は、自分も何か書き込んでおこうと再びパソコンに向かう。
(さて、何て書こうか…)
雅史がキーボ−ドに手をつけようとした時。
「…ごめんなさい。私、やっぱり…」
「え?」と雅史が振り向くと、既に椋の姿は無かった。
「椋さん!くそっ、しまった…!」
慌ててパソコンの電源を落とすと、雅史も民家を出て椋の後を追った。

76何を信じるか:2006/12/14(木) 07:28:56 ID:m.IzredY


【時間:2日目午前6時半過ぎ】

佐藤雅史
【場所:I−7】
【持ち物:金属バット、ノートパソコン、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:椋を追う】

藤林椋
【場所:I−7】
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:14時までに鎌石村役場に向かう】


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