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SS簡易保管庫
1
:
名無しの魔法使いさん
:2015/03/16(月) 12:44:46 ID:BSGz7U.I
性的本スレ、及びpink/pink避難所のSSを保管するスレです。
作者本人による作品の保管目的になります。
作者不明、または作者以外による貼付けは禁止です。
348
:
瓜転永理×主人公SS(6)
:2016/08/02(火) 20:42:45 ID:tKPGj8q2
(
>>347
)
「……面目なかった」
永理が洗濯・乾燥の終えた服を身に纏い、頭を下げた。君は構わないよと言うが、永理は神妙な顔のままだ。
「いや……あまりに、欲に走りすぎた。
君と二人きりで、しかも下着もつけてないと考えたら……頭が可笑しくなってしまった。申し訳ない」
でも、ちゃんと永理の気持ちを知れてよかったよ、と返す。
「それは、そうだが……」
――あんなに乱れるとは思って無かったけど。
「そ、それはヒミツだぞ。私達だけのヒミツだ……」
異界の人同士のね、と茶化すと、永理はそうだなと言ってようやく笑った。
これからは永理がどんな苦難に遭っても、自分が守るね。君はそう言う。
「嬉しいが……出来れば、そもそも遭いたくないのだが」
それもそうだね。二人で笑った。
「……まあ、でも。苦難のおかげで今こうなったのだから、ある意味感謝、かな……」
そんな事を言うと、容赦なく地球が攻めてくるよ。
君の台詞に対し、永理は冗談交じりに、でも全部守ってくれるんだろう?と返す。君は力強く頷いた。永理は嬉しそうだった。
「なあ……魔法使い」
永理はどこか恥ずかしそうに、君に改めて向き合って言った。
「……これからは、名前で呼んでも……いいか」
『遅いよ』
君はそう笑って、デコピンを返すのだった。
<FIN.>
349
:
【大体】カジノな御社の日常1【いつも通り】
:2016/09/08(木) 05:00:33 ID:BitwrNXo
【大体】カジノな御社の日常SS【いつも通り】
「スオウ。ミコト見なかったか?」
「ん? ミコトならさっき、ジョゼフィーヌのとこ行くって出ていったぞ?」
「そう――か……」
入れ違いだな、と笑いかけようとしたスオウは、セイの思案げな表情に首を傾げた。
「何かあったのか?」
「いや、『何かあった』と言うほどでは無い――と思うんだが」
物憂げな表情を浮かべていたセイだったが、やがて意を決した様に口を開いた。
「ミコトが、ジョゼフィーヌに勧められて枕営業をしてるかもしれない」
「はあ!?」
予想外の言葉に、スオウが目を丸くする。
セイはそんなスオウに慌てて両手を振り、「ちょっと小耳に挟んだだけだ」と前置きし、説明を始める。
「さっき、サクトとナゴミが立ち話してるところに通りかかって……『ジョゼフィーヌ』『ミコト』『枕』『始めたらしい』とかそんな単語が漏れ聞こえたんだ」
「で、詳しく聞こうと思ったらナゴミもサクトも慌てて立ち去った――って、そりゃ怪しいな」
そうは言いながらも、スオウは首をひねる。
「うーん……確かにミコトは早く社を建て直したがってるけど……でも、ジョゼフィーヌのやつがミコトにそんな仕事勧めるかなあ?」
――数ヵ月前。ミコトの社は何の前触れも無く突如として木っ端微塵に破裂した。バンッて。
原因は未だもって不明だが、誤字のあった和歌が時間差で発動したのだろうというのがスオウとセイの一致した見解だ。
……狭苦しい部屋にぶち込まれたツツノカミの怒りが爆発したとかでは、ないはずだ。多分。……社の爆発以降ツツノカミが行方不明なのはきっと、いちゃらぶな三人に気を使ったからだろう。
それから紆余曲折を経て、異国の神、リバティーヌの配下の手を借り、社は見事生まれ変わった。
……カジノとして。
否、“でぃーらー”も“支配人”も居なければ、“ちっぷ”も無い。カジノの様な建物というだけだ。
だが、その派手な外観ときらめく“ねおん”に誘われて、多くの若者たちが逢い引きに訪れる様になってしまった。
さらに最近は、境内の至る処で若者たちが昼夜を問わず逢瀬を重ね始める始末だ。
『門前町に連れ込み茶屋なら聞いたことはありますけど、社自体が出逢い茶屋と化すなんて、前代未聞ですわ』――とは、ジョゼフィーヌの弁だ。
社の主であるミコトと、居候であるセイとスオウは、『とりあえず当面はこの社で雨風をしのぎ、お金が貯まり次第社を建て替える』という意見でまとまったのだが……
「いくらなんでも、仮にミコトが自分から『したい』と言い出したとしても、其れをジョゼフィーヌが認めるとは思えないけどな」
「そうなんだ。だから、直接ミコトに確認してみようと思って」
「それがいいかもな。って、ミコトは今、ジョゼフィーヌのとこか……」
其処まで言って、スオウはふと動きを止めてセイを見る。
「そーいや最近、ミコトのやつ、やけにジョゼフィーヌのとこに行くこと多くないか?」
「……いやまさか、こんな昼日中から」
セイとスオウは一瞬顔を見合わせ――
同時に頷き、二人は駆け出した。
350
:
【大体】カジノな御社の日常2【いつも通り】
:2016/09/08(木) 05:01:42 ID:BitwrNXo
慌てて境内を飛び出したスオウとセイが向かったのは、ジョゼフィーヌの社だ。
「相変わらず、繁盛してんなあ……」
全力疾走したせいで額を流れる汗を袖で拭い、スオウは感心した様に呟いた。
ミコトの社と違い、ひっきりなしに訪れる参拝客が途切れることは無いし、当然ながら境内の片隅で不埒でふしだらな真似をする者も居ない。
――と。本殿からふと視線を逸らしたセイが、何かに気付いてスオウの袖を引く。
「んを?」
どうした、と問いかけようとするスオウに「シッ」と素早く静かにするようジェスチャーで制し、神楽殿を指差した。
セイの指先を目で追ったスオウも、すぐに気付く。
二人の視線の先で、ミコトは警戒するようにきょろきょろと周囲を見回しながら、さっと神楽殿に滑り込んだ。
『…………怪しい…………』
スオウとセイは、声を揃えて呟いた。
別に、ジョゼフィーヌの社に来るだけならやましいことは無く、こそこそする必要も無いはずだ。
「……どうする?」
スオウはセイと顔を見合わせ、端的に問う。
「直接確認するのが一番手っ取り早いとは思うが……一応、陰から様子を見てみよう」
その上でどうするかを判断しよう、と決めて、二人は神楽殿の裏に廻る。
「こっから入れそうだな」
演者の出入りに使われる裏口。其処から二人はするりと神楽殿に身を忍び込ませた。
中を覗くと、大きな衝立があって様子が見えない。セイとスオウは頷き合い、音もなく衝立の裏に移動する。
室内には、ミコトとジョゼフィーヌ、そして異国風の男神が十人ほど、それぞれ何かの機材を持って忙しなく動き回っている。
「ミコトとジョゼフィーヌ以外、全員男か……」
何より目を引くのは、部屋の真ん中にでんっと敷かれた大きな布団。
「布団って。布団ってオイ」
「おおお落ち着け、セイ。布団が敷かれてるだけで、まだそうと決まったわけじゃない。ジョゼフィーヌも居るんだし、多分、大丈夫……だよな?」
「お前だって、最後が疑問形になってるぞ」
小声でやり取りしていると、
「あのっ、今日はよろしくお願いしますっ」
若干緊張したような、ミコトの声が響いた。
何やら黒い箱のようなものを肩に担いだ男が、ミコトに何らかの指示を出す。
「えっと、此処の布団に横になればいいんですね?」
言うが早いか、ミコトが布団に横たわる。
「は、恥ずかしいなぁ……」
パシャッ――と音が響いて、強い光が男の手にした箱から溢れる。
「イイヨ〜ミコトちゃん、もっと肩出して、胸元もちょっとはだけようか〜」
男たちに言われるがまま、ミコトは着物の襟を緩め、胸元を覗かせる。
「太股も、もうちょっと出しちゃおっか〜」
「こ、こうですか?」
ミコトは恥ずかしそうに頬を染め、白く艶かしい脚を露出させる。
「イイヨ〜、その表情! 堪んないネ〜」
351
:
【大体】カジノな御社の日常3【いつも通り】
:2016/09/08(木) 05:02:46 ID:BitwrNXo
その様子を、衝立の陰から窺いながら、
「……あれは何をやってるんだ?」
「よく解らん。男たちに言われるままの格好をしてるみたいだが……」
ひそひそと会話をしながら、スオウは衝立の陰から身を乗り出そうとする。
「此処からだと見えにくいな。もうちょっと――」
「スオウ、あまり身を乗り出すと……」
セイがそれを制しようとした瞬間、
『――あ。』
ぐらり、と。まるでスローモーションのように、二人が寄りかかっていた衝立が倒れた。
――どがっしゃーん!
ミコトに指示を出していた、黒い箱を抱えた男を始め、何人か巻き添えになったようだ。
「っててて……」
「大丈夫か、スオウ」
「――って、スウちゃん、セイちゃん!?」
どうやら衝立は、布団まで届かなかったようだ。吃驚したような声を上げ、ミコトが横たわっていた布団から身を起こす。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
慌てて駆け寄るミコトの前で、二人は痛みを払うように軽く頭を振り、
「大丈夫だ。……それより、ミコトこそどうしたんだ?」
「へ? 私?」
ミコトはちらりと背後の布団を見、恥ずかしそうに懐から一枚の紙を取り出した。
「実は、私の『抱き枕』っていうのを作ってもらうことになって」
「抱き枕?」
首を傾げながら、セイとスオウはミコトが手にした紙を覗き込む。其処には、『抱き枕』の詳細が書かれていた。
「〈神様らんきんぐ〉1位の“ぐっず”って、『縁起が良さそう』とか『御利益がありそう』ってことで、人気があるんだって」
「それは解らなくもないが……なんでわざわざ『抱き枕』なんだ?」
「和歌の神様だから、『歌枕』にちなんでってことで」
「あー、なーる……」
真相を知ったスオウとセイが、へなへなと脱力する。
「良かった……オレたちはてっきり、ミコトが枕営業でも始めたんじゃないかと――」
「――って、全然良くありませんわ!」
それまでわなわなと身を震わせていたジョゼフィーヌがキッと顔を上げ、半分涙目になりながら、ツカツカと倒れ込んだセイとスオウに歩み寄る。
「あああ貴方たち! 一体どうしてくれるんですの!?」
ビシィッ!! とジョゼフィーヌが孔雀の羽で作られた扇で差し示す先には――
衝立の下敷きになった男たちが居た。
「不幸な事故だな」
「ああ、そうだな」
「――って、何をしれっと悪びれずに言ってますの!? 明らかに人災、もとい神災ですわ!」
そうしてジョゼフィーヌは、高らかに宣告する。
「“すたっふ”の怪我の治療費と、舶来から取り寄せた“かめら”の修理代は、ミコトさんの枕の売上から支払ってもらいますわ!!」
「ええええ――――っ!?」
352
:
【大体】カジノな御社の日常4【いつも通り】
:2016/09/08(木) 05:03:57 ID:BitwrNXo
*****
「――修理代と治療費を差し引いたら、僅かばかりの儲けが出ましたので、それは差し上げますわ」
そう言ってジョゼフィーヌが置いて帰ったポチ袋の中身を、ミコトが掌に出す。
「さ、三文……」
「三文でも律儀に持ってくる辺り、さすが商売の神様だなー」
妙なことに感心しながら、スオウがミコトの手の中の小銭を覗き込む。
「で、このお金はどうするんだ?」
「本当は、貯めておくべきなんだろうけど……」
セイの問い掛けに答えながら、ミコトは困ったように眉を寄せる。
「……なんか、経緯が経緯だけに、早めに使いきってしまいたいかも」
「それが良さそうだな」
「じゃあ、みんなで団子でも食べに行こうぜ! 一人一本ずつでぱーっと使ってしまおう」
「……一人一本ずつという慎ましさで『ぱーっと』ってのもどうなんだ」
スオウの言葉に、セイが苦笑する。
「わーい! おだんご、おだんご♪」
嬉しそうにくるくると跳ね回るミコトと共に、三人は境内を出て、里へ向かう道をのんびりと歩く。
「――でもさ、よく考えたらミコトは何も悪くないんだから、ミコトの売上から引いてもらうんじゃなくて、オレらに借金としてツケといてもらった方が良かったんじゃねーの?」
並んで歩きながら、ふとスオウが思い出したようにそう言った。
「確かにな。一蓮托生なのも解らなくはないが、俺たちが勝手に勘違いしただけで、ミコトが何かしたわけではないしな」
「そんなことないよっ」
言ってミコトはぴょんと一歩前へ飛び出し、くるりと二人の方を振り向いた。
「――スウちゃんとセイちゃんが心配してくれて、嬉しかったから。――私も、同罪だよっ」
えへへ、とミコトは照れたようにはにかんだ笑みを浮かべ、
「――スウちゃん、セイちゃん。これからも、よろしくね!」
その言葉に、スオウとセイも微苦笑を浮かべ、一歩前に出ていたミコトに並ぶ。
「オイオイ、へっぽこ神様の面倒見るの、楽じゃねーんだぞ?」
「そう言うな。俺たちも世話になっている身だ」
ぽふぽふと二人揃ってミコトの頭を撫でる。
「あー、セイちゃんもスウちゃんも、ひっどーい」
む、と頬を膨らませるミコトだったが、すぐに「えへへっ」と顔を綻ばせ――
「……って、スウちゃん、セイちゃん? 何でおもむろに私の体抱き上げて――待って。何でいきなり道を外れて林の中に入ろうとしてるの!? おだんごは!?」
「団子は明日にしよう。」
「うむ。そうだな。団子屋は逃げないしな」
「さすがセイ。いいこと言うな!」
「――って全然良くない! まだ昼間だよ!? しかも、外だよ!?」
「たまには違う趣向で」
「そうそう。野外は野外で趣があると思うぞ!」
「趣なんて無ーい!」
「団子より ミコトが食べたい 昼下がり」
「セイに同じく ミコトを食べたい」
「何二人してちょっとうまいこと言った顔してるの!? 待って、待って、心の準備が――にゃあああああん!!」
――結局。
ミコトの嬌声は、翌日の朝まで山の中に響き渡っていた――
353
:
戦神筆頭なSS
:2016/09/08(木) 05:06:25 ID:BitwrNXo
【どん】戦神の結晶〈神族ステータス50アップ〉【まい】
「ちわー! 回覧でーす!」
「おー、ナゴミじゃないか。ミコトなら今、里に降りてるぞ」
セイとサクトと共に縁側でお茶を飲んでいたスオウが、そう声をかける。
が、ナゴミは否定するようにパタパタと手を振り、
「今回は、どちらかといえばスオウ様、セイ様向きの用件ですよー。戦神四十七柱様から廻って来ましたので」
言いながら、ナゴミは『和々。新聞 号外』と書かれた紙を差し出す。
「戦神から……?」
顔を見合わせて受け取るセイとスオウの横で、
「あ、それボクのところは既に配られましたよ。カタバ様が『旅に出ます。探さないでください』って書き置き遺して行方不明になってるから、見つけたら保護お願いします、ってやつじゃないですか?」
「そーですそれです!」
サクトの言葉に頷くナゴミを前に、
『……』
スオウとセイは深くため息を吐いてから、おもむろに社に上がる。
ナゴミとサクトが不思議そうに見つめる中、スオウはぴっと指を天井に向け、
「天井裏と、床下。どっちだと思う?」
唐突にセイに問い掛けた。
「俺は、天井かな」
「じゃあオレ、床下な。――せーのっ!!」
言うが早いか、二人は腰の刀を鞘ごと抜き、
――バキッ!!
それぞれ天井と床板を突き破った。
「ええええ! 何やってんですか、ミコトさんに怒られますよ!?」
驚くサクトだったが、
「――フギャッ!」
と天井裏から響いた声に、更に目を丸くする。
「い、今のは……」
「気にするな。野良猫みたいなものだ」
「可哀想だから、後でおにぎりの一つでもお供えしてやろーぜ」
「具はおかかと梅干し、どっちがいいかな」
「山葵漬けがいいんじゃないか? 辛いもん好きだし」
「そういえば、激辛好きだったな。じゃあ、それにするか」
朗らかに談笑するスオウとセイに、ナゴミとサクトは顔を見合わせて首を傾げたのだった。
354
:
ぐらんぷりSS1
:2016/09/08(木) 05:08:31 ID:BitwrNXo
【商神が】ぐらんぷりなミコト様SS【一番過保護】
「――前々から思っていたのですけれど。元戦神のお二方は少し、ミコトさんに甘すぎではありませんこと?」
村外れの草むらの中に身を潜めた、八百万の神の一柱、商の神であるトミ・コトブキ――ことジョゼフィーヌが、ひそひそと控えめな声で傍らの元戦神、スオウ・カグツチとセイ・シラナミに話し掛ける。
「うーん、確かにそうなんだが……」
ぽりぽりと頭を掻きながら、スオウはセイと顔を見合わせて頷いた。
「ミコトが『魔物退治に行ってくる!』と言った直後に血相変えて俺たちを呼びに来た神の言うことじゃないな」
「あ、あれは、……ま、まさか貴方たちが、自分たちの仕事をほっぽらかしてまでこっそり後ろからミコトさんを見守ってるなんて思わなかったから……」
「えーと……ジョゼフィーヌちゃん。多分、そういう意味じゃないんじゃないかな〜、なんて……」
同じく草むらに身を潜めた芸事の神、ツクヨ・オトエヒナがツッコミを入れる。
「因みに、ツクヨは血相変えて私を呼びに来たぞ」
その後ろから、からかい混じりにそう言う必中の神、マトイ・ナヒサコの声にジョゼフィーヌは深々と嘆息した。
「はぁ……ツクヨさん、貴方、血相変えてマトイさんを呼びに行くくらいなら、最初から『魔物退治は禁止されてるわけじゃないから、いいんじゃないかな?』などとミコトさんをけしかけないでくださいまし。ミコトさんはへっぽこなんですから」
「うふふ。ジョゼフィーヌちゃんがミコトちゃんをへっぽこって呼ぶのは、ミコトちゃんに怪我してほしくないからなんだよね〜」
扇で口許を隠しながら艶やかに微笑むツクヨに、ジョゼフィーヌは耳まで朱くしながら、
「な゛っ、……そ、そんなんじゃありませんわ!」
「トミ、お前声が裏返ってるぞ」
「マトイさんまで……って、ジョゼフィーヌ、ですわ!」
噛みつかんばかりの勢いで答えるジョゼフィーヌに、スオウが笑う。
「くくっ。この中で一番ミコトに甘いのって、実はト……ジョゼフィーヌなんじゃねーの?」
「あら。セイさん、スオウさんの溺愛っぷりには負けますわ」
「いや、どうだろうな。『れえす』の前に、おろおろしながら泣きそうな顔で『どうかミコトさんが傷付かない様に気を付けてあげてくださいまし』と言って……」
「オレたちどころか、ミカヅチ様とツツノカミ様にも頼み込んでたよな。な、ミカヅチ様?」
『…………。』『…………。』
セイとスオウが背後を振り向きながらそう言うと、二人の後ろに佇んでいた神獣たちが重々しく頷いた。
「もう、ミカヅチ様、ツツノカミ様までそんな……」
「って、ジョゼフィーヌ、出過ぎ出過ぎ! ミコトに見つかるぞ!」
慌ててジョゼフィーヌの袖を掴むスオウの傍らで、
「……で、ボクは何故此処に居るんですかね?」
と、元・戦神で現・湯の神であるサクト・オオガミが首を傾げるが、誰も答えはしなかった。
355
:
ぐらんぷりSS2
:2016/09/08(木) 05:10:17 ID:BitwrNXo
「――結構、いい調子なんじゃね?」
ミコトの奮闘ぶりを陰から眺めながら、スオウが感心したように呟く。
「油断はできないぞ。何せ、ミコトだからな。誤字一つで戦局をひっくり返しかねない」
「それも、悪い方に、だな」
セイの言葉にうんうんとマトイが頷く傍らで、ジョゼフィーヌはハラハラしながら手にした扇をへし折らんばかりにきつく握り締める。
「ジョゼフィーヌちゃん、そんな心配しなくてもミコトちゃんなら大丈夫だよ〜」
「そ、そうですわね。たまには、ミコトさんを信じて――」
――ピシャーン!!
突如として疾る閃光に、一瞬遅れて耳をつんざくような雷鳴が轟く。
『…………』
一同の間に気まずい沈黙が訪れ、全員で顔を見合わせてから、
「……! あんのバカっ!」
「見事なまでの直撃だったな」
スオウとセイが真っ先に駆け出した。
「私とサクトで魔物を追い払うから、スオウとセイはミコトを頼む!」
続けてマトイが、言うが早いかサクトの襟首を引っ掴んで駆け出し、目を回して倒れ込んだミコトと魔物の間に割って入る。
『…………』『…………』
マトイたちに続いてツツノカミとミカヅチがミコトの元へ向かい、
「ミコトちゃん、大丈夫かなぁ……」
「ですから、言わんこっちゃないですわ!」
ツクヨに続いて、最後にジョゼフィーヌがミコトに駆け寄る。
「う、うーん……」
うなされるミコトを介抱してやりながら、ふとセイはミコトが握り締めたままの短冊に気付く。
356
:
ぐらんぷりSS3
:2016/09/08(木) 05:11:11 ID:BitwrNXo
「天つ風 雲より出し 鳴神の――」
「――雷鳴疾りて 我が『的』を討つ……って、『敵』と『的』を間違えたんですの!?」
セイの言葉を継いだジョゼフィーヌが、「ダメだこりゃ」と言わんばかりに呆れた表情で天を仰いだ。
「ミコトも、やれば出来るんだが……昔からのうっかり癖はなかなか治らないなぁ……」
「あ、マトイ。お疲れさん。魔物は倒したのか?」
「追い払った――というか、勝手に逃げて行きましたよ。なんか、『自分自身に雷を落とす』ミコトさんに、ドン引きしてたみたいです」
マトイに代わってサクトがそう答える。
「そ、そうか……」
何とも言えない表情で、セイとスオウがしばらく介抱していると、
「う……」
ミコトの睫毛がぴくりと震えた。
「はっ! そろそろ目を覚ましそうですわね! ツクヨさん、戻りますわよ!」
「へ? 別に、隠れなくても――」
「いいから! 引っ込みますわよ!」
ジョゼフィーヌがツクヨの襟首を引っ掴んで、元居た茂みの陰に隠れ、マトイとサクトも同じように茂みに戻る。
いつの間にかツツノカミとミカヅチも、ちゃっかり茂みに戻っている。
その時には既に、セイとスオウもミコトの傍を離れ、少し離れた場所から様子を眺めている。
「う、うーん……はっ!?」
うなされていたミコトが、まるでバネ仕掛けの人形のように、ガバッと飛び起きる。
「私、そういえば、魔物……!」
状況を思い出したミコトが周囲を見回すが、魔物の姿は影も形も無かった。
「やっつけたのかな……? 何も残ってないから、追い払ったのかなあ……」
魔物の形跡でも残ってないかと、きょろきょろしながらミコトは首を傾げる。
と、其処へ、
「おーい、ミコトー!」
「魔物退治に行ったと聞いたんだが……大丈夫か?」
何食わぬ顔で現れたスオウとセイが、そう声をかける。
「う゛っ……」
二人の姿を見た瞬間、ミコトの瞳にぶわっと涙が盛り上がった。
「セイちゃん、スウちゃ……うぅ〜っ、魔物退治、失敗しちゃったよぉ〜……」
「おー、よしよし。泣くな泣くな」
「具体的にどう失敗したんだ?」
半ベソのミコトに、スオウとセイが優しく問い掛ける。
その様子を遠くから見ながら、ジョゼフィーヌは、
「くぅ〜、ミコトさんが泣いてるじゃありませんの! とっとと押し倒すなりなんなりして、早くミコトさんを泣き止ませてあげなさいな!」
ギリギリと歯軋りしながら、地団駄を踏まんばかりの勢いで、手にした扇を握り締める。
「……やっぱり、ジョゼフィーヌちゃんが一番ミコトちゃんに甘いよね〜」
「そうだな」
ジョゼフィーヌを横目に、ツクヨとマトイはしみじみと頷き合ったのだった。
357
:
心竜SS1
:2016/09/08(木) 05:12:40 ID:BitwrNXo
【心竜】ザハールさんが燃え散るSS【覚醒】
深い森の中、ぱちぱちと爆ぜる火の粉を見ながら、
「……はぁ」
彼女――アデレード・シラーは、疲れたように肩に手を宛て、軽く揉みしだく。
「随分とお疲れの様だな、アディちゃん」
「……その呼び方、やめろ」
ジロリ、と。アデレードは焚き火の明かりに照らされた、軽口を叩く男性――〈賢竜〉ザハール・サハロフを睨み付ける。
「本当は今頃、村に着いて宿屋の暖かいベッドで寝ていたはずなのに、“誰かさん”のお陰で野宿する羽目になったから、疲れが取れないんだよ」
「それは仕方がない。何せ、一本しかない村に続く橋が落とされていたんだからな」
「それはそうだがその後でお前が自信満々に『こっちだ』とか言うから、ついて来たらこの様――」
アデレードの嫌味をいつもと同じように飄々と流すザハール。
それに食って掛かろうとしたアデレードは、ふとザハールの言葉に気付いて眉をひそめた。
「『落とされていた』? 先日の嵐で落ちたんじゃないのか?」
「ああ。……アディちゃんは見なかったのか。あれは自然に落ちたものじゃない。人間の仕業ではなく、魔物の仕業だとは思うが」
「……」
アデレードは、「はぁ」ともう一度嘆息した。
「……その呼び方、やめろって」
そうザハールに告げる声は、先程より弱かった。
一緒に行動していたが、一体いつの間に其処まで確認したというのか。アデレードにはさっぱり解らなかった。
〈賢竜〉ザハールの名は伊達ではない、ということか。
(……もしかしたら、出鱈目に森の中を歩いて来たのも、何か考えがあってのことだったのか?)
そうは思っても、それならちゃんと説明してほしい、とアデレードは思う。
いつもはぐらかし、おちゃらけてみせるザハールは、真意をそうと見せないから解りづらい。
358
:
心竜SS2
:2016/09/08(木) 05:13:44 ID:BitwrNXo
と、アデレードの視線に気付いたザハールが苦笑を浮かべた。
「明日にはイニューたちと合流するから、疲れているなら早めに休むといい」
イニューとは、アデレードの幼馴染みの竜人の少女だ。
久しぶりに再会して以降、アデレード、ザハールと共に三人で旅を続けていたが、今は里帰りしていて不在だ。
最近になって、リティカという竜人の少女も一緒に旅をしていたのだが、「イニューの村の近くに用事がある」ということで、イニューに付いていっている。
アデレードとザハールは魔竜の情報を集めながら別ルートで移動し、この先にある村で落ち合うことになっていたのだが。
「竜鍼士のイニューに針を打ってもらえば一発だろう」
「……それは、そうだけど」
そう答えながら、アデレードは唇を尖らせる。
「イニューには、迷惑かけたくない」
「イニューの方は、『迷惑だ』などと思っていないと思うが」
言ってから、ザハールは何かに気付いた様にくすくすと笑う。
「なるほど。アディちゃんは、イニューに心配をかけたくないのか」
「う゛。」
図星を突かれて、アデレードは押し黙った。
イニューは竜鍼士としての腕は確かだし、頼めば――否、頼むまでもなくアデレードの体調を治してくれるだろう。
元々、三人で旅していた時から、毎晩イニューがアデレードの疲れを取り払ってくれていた。
が、アデレードはイニューが『大切な友達』であり『幼馴染み』で在るからこそ、そうやって気を使わせてしまうことを申し訳なく思っていた。
なまじ、離れている今だからこそ、イニューに『自分が離れていたせいでこんなに疲れて』と思わせてしまいそうだ。
「じゃあ、俺が軽くマッサージしてやろうか。イニューほどではないが、ずっと本の虫で引き篭っていたから、肩凝り・腰痛対策ならお手の物だぞ」
わきわきと手を握ったり開いたりしてみせるザハールに、
「…………」
アデレードはこれ以上無いくらいに不審の眼差しで応えた。
359
:
心竜SS3
:2016/09/08(木) 05:15:08 ID:BitwrNXo
「あれ。なんか信用されてない」
「そう思うなら普段の態度をどうにかしろ。お前が言うとうさんくさいんだよ」
「まあそう言うな。物は試しだ、楽になればイニューを頼らずともよし、治らなければ改めてイニューに頼めばいい」
「…………」
アデレードは、かなりの間逡巡してから、
「……変なとこ触るんじゃないぞ」
不承不承、鎧を脱いだ。
疲れている事実と、イニューの手を煩わせたくない、心配をかけたくないと言う気持ちを秤にかけた上でのアデレードの行動。
「心配するな。俺は紳士だ」
それを察しているかのような素振りで、ザハールはアデレードの背後に回る。
「……紳士は自分のことを『紳士』とは言わないものだ、って昔ゾラスヴィルクが言ってたぞ」
「其処は価値観の違いというやつだな。どれ、ちょっと失礼するぞ」
露になったアデレードの首筋に触れ、力を込める。
「かなり凝ってるな」
「鎧を着てるからだろ」
「それだけじゃないと思うが」
「ちょっと待て何処見て言ってる」
「いや、女性は常にそんなモノを二つも抱えて大変だなと――アディちゃん、無言で俺の手をつねってくるのは止めよう」
「黙れこのエロ賢竜」
「冗談だ」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだって」
はぁ、と聞こえよがしに嘆息するが、アデレードはザハールの手を払わなかった。
なるほど、確かにイニューほどではないが、言うだけあってザハールのマッサージはなかなかのものだった。
「背中もやろうか。寝そべって貰えるか」
「ん……」
言われるがまま、アデレードは草むらに俯せで横たわった。
背骨に沿って、首筋、肩甲骨と徐々に手が下がってくる。
「――ひっ」
ザハールの手が腰のくびれの辺りに触れた時、アデレードが妙な声を上げた。
「今の声は……」
「な、なんでもな――ひゃんっ」
もみもみ。
「ふにゃっ」
ぐりぐり。
「ひぁっ」
そんなアデレードの様子に、ザハールは「ふむ」と一つ頷き、
「なるほど。アディちゃんは脇腹が弱点だったか」
「やめろって。私は本当に脇腹だけは弱――」
「こちょこちょこちょこちょ」
「ひゃっ、ふぁん、やめ――やめろって!!」
調子に乗ってくすぐり始めたザハールの顔面に、アデレードの拳が綺麗に決まる。
みしっ……と音を立てて、ザハールの動きが止まる。
その隙にアデレードは素早くザハールの手から逃れた。
360
:
心竜SS4
:2016/09/08(木) 05:16:14 ID:BitwrNXo
「まったく、油断も隙もあったもんじゃない……」
「いや、すまない。普段凛としたアディちゃんの意外な一面が楽しくてつい」
悪びれもせず謝るザハールだったが、ふと首を傾げた。
「どうした? 鎧は着ないのか? まだマッサージを続けるか?」
「…………」
アデレードは顔を真っ赤にし、
「……っちゃったから……」
小さな声で何かを呟いた。
「うん?」
ザハールが聞き返すと、
「〜〜〜〜〜、スイッチ入っちゃったから責任取れ!」
破れかぶれにアデレードが声を張り上げた。
ザハールは一瞬きょとんとしてアデレードを見たが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「それは、誘われているという認識でいいのかな?」
「そんな色っぽいもんでもないだろ、この場合」
軽く嘆息しながら、アデレードはザハールの膝に座る。
「……お前、マッサージしながらなんか変なツボとか刺激したんじゃないのか? なんかこう、発情するツボとか」
「生憎そんな都合のいいツボは知らないな」
言いながら、ザハールはアデレードのシャツを托し上げ、露になった乳房に舌を這わせ、ぷっくり膨れた乳首に甘く歯を立てる。
「どうだか。」
呆れた様に答えながら、アデレードはザハールの股間に手を伸ばす。
ズボンをまさぐり、取り出したソレを優しい手つきで撫でる。
アデレードはザハールの膝を降り、ザハールの股間に屈み込んだ。
「――口に出そうか?」
「そんなんで治まるわけないだろ」
仏頂面でそう答えてから、アデレードは舌にたっぷりと唾液を乗せて、口に含む。
「なるほど。じゃあ俺もアディちゃんを弄らせてもらおうかな」
ザハールに促されるまま、アデレードはシックスナインの体勢をとる。
「びしょ濡れじゃないか」
「……誰のせいだと」
思わずムッとするアデレードだったが、
「ふぁ――これ、ヤバッ……!」
すぐにその唇からは、嬌声が零れる。
「う、ん、ひぁ、あ、やめっ――」
丁寧に丁寧に。執拗に執拗に。クリトリスを集中的に責め立てるザハールの舌遣いはあまりに巧みで、アデレードの意識が持っていかれそうになる。
361
:
心竜SS5
:2016/09/08(木) 05:17:16 ID:BitwrNXo
「もう、ちょっと、抑え――んあああああっ!!」
遂にアデレードは屈服した。
鍛え抜かれた肢体をびくびくと震わせ、膣から愛液を滴らせる。
ザハールが身を起こし、アデレードの膣口に宛がう。
「やっ、今、敏感になって……やだぁ……今挿れたら……!」
普段のアデレードからは想像もつかない、涙を浮かべて懇願するアデレードに、ザハールはニヤリと笑う。
「なに、遠慮するな。お代わりもあるから存分に受け止めてくれ」
「や、あ――ああああっ!!」
一息に奥まで挿し貫いたザハールを、
「バカっ!」
アデレードは涙目で睨み付ける。
「そんな顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ」
「そんな心にも無いこと――」
言いかけたアデレードの腰を抱え、ザハールは奥まで打ち付ける。
「心にも無いことは言わない主義でな。――可愛いぞ。俺に今こんなアへ顔を晒してくれてるんだから」
「……バカっ!」
ぷいっとアデレードが横を向くが、何を考えているかは、ザハールに十分以上に伝わっている。
何せザハールのモノを包む襞は、歓喜に震えているのだから。
「中に――出すぞっ!!」
「〜〜〜〜〜っ!!」
声にならない悲鳴を上げながら、アデレードの意識は白い奔流に飲み込まれていった。
――翌朝。アデレードが目を覚ますと、昨夜の狂乱が嘘の様に何時も通りのザハールの姿があった。
「おはよう、アディちゃん。お腹を出して寝ると風邪を引くから、服は勝手に着させてもらったぞ」
その呼び方やめろとか、子供扱いするなとか色々と言いたいことはあったが、アデレードは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
ザハールについてしばらく歩くと、村の入り口に立っているイニューとリティカの姿が見えた。
二人はアデレードの姿を見るなり駆け寄り――そして、イニューがふと足を止めた。
「…………ザハールさん」
「ん?」
「……どうしてアディちゃんの『体の中』からザハールさんの竜力の気配がするのかな?」
「……………」
にっこりと。背後に恐るべき殺気を従えつつ、イニューがゆっくりと、一文字一文字を噛み締めるようにザハールに問い掛ける。
――ジャキッ!! とイニューが両手に鍼を構え、リティカはアデレードを庇うように手を広げる。
「いやちょっと待てイニュー。誤解だ。話せば解る」
「ほほーう? じゃあ言ってもらいましょうか」
「アディちゃんとはきちんと合意の上――」
「誰が合意だ! そもそもお前が無理矢理――」
アデレードはつい反射的に言ってから「しまった」と思うが、時既に遅く。
「ざ・は・あ・る・さ・ん?」
「イニュー、待っ、ぐりぐりは止めなさい、グリグリは――ぬおあああああっ!!」
長い長い絶叫が響いてから、
「……ザハール、此処に眠る……」
ぱたり、とザハールの手が力無く地面に落ちた。
……まあ、最後にそんな冗談が言えるなら大丈夫だろう。
「行こ、アディちゃん!」
「大変だったね、アディ。もう大丈夫だからねッ!」
イニューに促され、リティカに「よしよし」と頭を撫でられ、慰められながら、アデレードはちらりと後ろを振り向いた。
爽やかに照らす朝の光の中、ぴくりとも動かなくなったザハールの頭の上を、ぴよぴよとひよこが歩いている。
(……後で謝っとこ……)
そんなことを思いながら、アデレードはひっそりとザハールの冥福を祈ったのだった。
362
:
【クロスオーバー】ミコト様のアルバイト放浪記part1.5【してみた】
:2016/10/24(月) 02:55:13 ID:uXuTdnsA
【わくわく】双翼の八百万SS【魔界ふぇすてぃばる】
「――と、いうことで」
「連れてきたぞ。頼まれた通り『歌って踊れる若くて可愛い女の子』」
でん、と何故かふんぞり返ってセイとスオウが指し示す先で、
「あのあの、よ、よろしくお願いします!」
ぴょこんとバネ仕掛けの人形の様に頭を下げるミコトを見た彼――〈魔王〉アルドベリク・ゴドーは、
「……」
しばし沈黙してから、ちょいちょいとセイとスオウを手招き、三人で部屋の隅に向かう。
「……オイ」
「いや間違ってねーだろ? 『歌って踊れる若くて可愛い女の子』」
「……『女の子』?」
「……いやまあ、確かに女の『子』かと言われると、微妙な線引きだと思うが……」
「ルシエラくらい若い少女をイメージしていたんだが」
「……ミコトじゃ、ダメか?」
「ダメとは言わないが……魔界の各領から選出された少女たちによる美少女コンテストには正直、キツいと思うぞ。例えるなら、女子高生の中に制服着たOLが紛れ込んでる、みたいな感じになると思う」
「あー、そりゃキッツいな……」
「――って、なんか私、ひどいこと言われてる!?」
男三人のひそひそ話に、ミコトが涙目で抗議する横で、
「まあまあ。ミコトさんも、年の割には若く見えると思いますよ〜」
フォロー……否、フォロー? の様に朗らかにミコトの肩を叩く天使の少女――ルシエラに、
「ルシエラちゃんもさりげなくひどい!?」
完膚なきまでに叩き伏せられ、ミコトが轟沈する。
「うぅ……御利益ポイント稼げるお仕事があるって聞いたのに……」
「つーかさ、『ルシエラと同じくらいの若い少女』なら、ルシエラじゃダメなん?」
今更の様にスオウが問うと、
「ダメだ。確かにルシエラは可愛い。ルシエラは究極に可愛いが、安易に他の男たちの目に触れさせるなんて以ての外だ」
『……………』
異様に「キリッ」として述べるアルドベリクに、
(うーわー、過保護ー……)
ミコトとセイとスオウの心は図らずも一致した。
「アルさんって、思ったより独占欲強いんですよー」
「魔王なのだから、当然だろう」
「私としては、心配性だなーって思うんですけど」
「心配性などではない。というか、お前がちょっと目を離すと何をしでかすか解らないのが悪い」
やたらとらぶらぶなやり取りを見せつけてから、気を取り直した様にアルドベリクはスオウとセイに向き直った。
「今から代わりを頼んでも、エントリーには間に合わない。……上位を狙うのでなければ多分大丈夫だろう」
「悪かったな。つか、それならツクヨあたりに頼んだ方が良かったかなあ……」
「だが、ツクヨは『踊り』と言っても『舞踊』の方だし、こういうことには出たがらないから、そういう点ではミコトの方が適任だと思う」
「でもさ、こーいうのって魔界の各領の見栄とか関わってくるんじゃねーの?」
「其処は気にしなくていい。他人の評価など知ったことか」
アルドベリクとスオウ、セイが口々に勝手なことを宣う横で、
「……ミコトさん、ミコトさん」
ちょいちょい、とルシエラがミコトの裾を引いた。
363
:
魔界フェス2
:2016/10/24(月) 02:57:16 ID:uXuTdnsA
「? どうしたの? ルシエラちゃ――」
「しーっ!」
問い掛けたミコトを慌てて小さな声で制し、ルシエラは悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
「ミコトさん、ちょっと、アルさんを焚き付けてもらえません?」
「焚き付ける、って……どういう?」
男三人をよそに、こそこそと女二人の密談が始まる。
「そーですねー……『私はルシエラには無いオトナの魅力がありますから!』とかそんな感じで」
「ルシエラちゃん、十分魅力的だと思うよ?」
「いーからいーから、ですっ。お願いしますねっ」
「ふぇっ? う、うん、解った。やってみるねっ」
言ってミコトは大きく深呼吸をしてから、わざとらしくふんぞり返った。
「ふふん。ま、私にはルシエラちゃんと違って『オトナの魅力』がありますから! “こんてすと”なんて一網打尽です!」
おもむろにそんなことを言い始めたミコトに、
「待て。それは聞き捨てならない。ルシエラだってオトナの魅力はあるぞ」
「……つか、『一網打尽』の使い方間違ってね?」
抗議の声を上げるアルドベリクの隣でスオウが首を傾げる。
と、何かに気付いたセイがスオウに、ちょいちょいとアルドベリクの背後を指差した。
「……ミコトさん、『私はルシエラちゃんよりおっぱい大きいです!』、で!」
「う、うん! えっと……わ、私はルシエラちゃんよりおっぱい大きいですよ!?」
いつの間に移動したのか、アルドベリクの背後からフリップを出し、口パクと身ぶり手振りで指示するルシエラの意図を察したセイとスオウが、苦笑して顔を見合わせる。
「待て。ルシエラはこれから大きくなる余地を残している。それに、毎晩俺が揉んでいるから追い越すのも時間の問題だ」
「そんなことありませんよ! だって、毎晩スウちゃんとセイちゃんが揉んでくれてるのに、私、全然大きくなってませんから!」
「――って何とち狂ったことのたまってんだ、アルドベリク! ミコトも、売り言葉に買い言葉で応戦してんじゃねぇぇぇ!! セイ、お前何しゃがみ込んで笑い堪えてんだ! 笑ってないでお前もミコトを止めろよ!」
くつくつと肩を震わせてしゃがみ込むセイをよそに、アルドベリクとミコトのやり取りはますます白熱していく。
「ルシエラは確かにおっぱいの大きさこそ負けているかもしれないが、俺が調子に乗って色々仕込んだせいで寄せて上げてパイズリは出来るようになったんだぞ」
「わ、私だって、可愛さは負けているかもしれませんが、セイちゃんとスウちゃんに夜な夜な仕込まれた手練手管がですねっ」
「ミコトぉぉぉぉぉっ!!」
間髪入れずにスオウの手刀がミコトの首筋に振り下ろされた。
「はぅっ!? ス、スウちゃん痛い……」
思わず涙目で踞り、抗議の声を上げるミコトに、スオウが深々と嘆息する。
「ミコト……お前な、オレらが毎日毎晩あんなことやこんなことしてありとあらゆる開発しちゃってるとか大っぴらに言うなよ……」
「其処まで言ってないよ?」
「いやあのままだったら言ってた。絶対言ってた」
「同感。」
漸く笑いが治まったらしいセイが、スオウの言葉にうんうんと頷く。
364
:
魔界フェス3
:2016/10/24(月) 02:59:16 ID:uXuTdnsA
三人のやり取りで、アルドベリクも我に返ったらしい。わざとらしく咳払いするアルドベリク――の服を、ルシエラがつんつん、と引っ張る。
「ねえ、アルさん。言われっぱなしは癪じゃないですか? 白黒ハッキリつけるべきだと思いません?」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味です。此処は一つ、どっちがより魅力的かハッキリさせるためにも、私もコンテストに出て」
「そうだな。」
あっさりと頷いてみせるアルドベリクに、ミコトとスオウとセイが思いっきりずっこける。
「ちょっと待てアルドベリク! ルシエラに乗せられて当初の目的を見失ってんじゃねえ!」
「そうですよ! ルシエラちゃんが出場しちゃったら、私の御利益ポイントを稼げるお仕事がですねっ」
スオウとミコトが口々にそう言うが、ルシエラはくるりと羽を翻し、アルドベリクの耳元で囁く。
「ほらほらアルさん、ミコトさんたち遠回しに『負けるはずがない』って言ってますよ」
「ルシエラ、けしかけるな。というかルシエラ、お前本当に天使か……?」
悪魔の囁きに呆れたようにセイが呟くが、アルドベリクには届かなかったようだ。
「よし。じゃあうちの領からはミコトとルシエラの二人が出場だな」
――こうして、『ワクワク魔界フェスティバル(美少女コンテスト)』へのミコトの出場が決定したのだった。
コンテスト当日――
「――ちょ、姉さん! 何で……」
「スクブスを買収してエントリー用紙を差し換えて貰いました」
「買収されました☆」
「オイこらスクブスぅぅぅっ!!」
「さ、行きますよ、クリネア。聖王の力を、見せつけてやりましょう」
「はい! ミカエラ様」
「レノックスが一人じゃ出たくないと言うから、急遽助っ人を頼んでみたぜ!」
「わはは! 何だかよくわからないけど、私に任せろー!」
「兄さん! 助っ人はともかく、頭数合わせに女装は止めてくださいって言ったじゃないですか!」
「じゃしーん、こーりーん!!」
「ルルちゃん、それだと何処の代表か解らないんじゃないかな?」
「む。じゃあ『ドラク領代表、邪神ルルベル』! ……これでどう?」
「同じく『ドラク領代表、ミィア・ヤガダ』!」
「いいんじゃない? じゃ、私とウリシラは客席で応援してるから」
「ミィアちゃん、ルルベルちゃん、頑張ってね♪」
「……バルバロッサ家代表のイーディス・キルティと」
「カナメ・バルバロッサでーす。……挨拶の練習はこんなもんかしらね」
「そうね。……それはそうと、カナメ」
「何かしら?」
「帰ってイーディスか」
「ダメ。」
「ディミール領代表、アリーサ・ベルゴン。……イーディス、カナメぇ……」
「あれ、エストラさんも出るんですか?」
「ああ、ルシエラか。いや、他の領が二人以上選出しているようだから、急遽私も出場することにしてみた」
「お手柔らかにお願いしますねっ」
「ふふっ。こちらこそ」
365
:
魔界フェス4
:2016/10/24(月) 03:00:36 ID:uXuTdnsA
コンテスト会場は、これでもかというほど熱気に満ちていた。それだけでも、『ワクワク魔界フェスティバル』というのが魔族にとって大事な娯楽なのだと解る。
「――さあ! 水着審査も終わったところで各出場者のポイントを見てみましょう!」
拡声器を通した司会進行の魔族の声が、会場内に響き渡る。
「現時点でのトップはアリーサ・ベルゴン嬢! やはり水着審査で、普段の露出の少なさに反して蛇を巻いただけの大胆な露出が大きい! 次いで2位は邪神ルルベル! 無理して大人ルルベルに合わせた水着でのポロリが」
「うっさい!」
「――なお、最下位は水着を持っていなかったミコト・ウタヨミ! やはりJAMPANでは露出! 露出が足りない!」
「はぅぅ……」
「そして同率最下位はルシエラ・フオル! 水着審査で常に魔王が立ちはだかって全然見えなかった! ブーイングの嵐にもめげない魔王、さすがです!」
「おかしいな……ブーイング上げてた連中は軒並みボコってルシエラに組織票を入れさせた筈なんだが」
「何か聞こえましたが聞こえなかったことにします! そして最下位から大きく引き離してエストラ・ディミール! ……これは普段から露出が多いので水着姿が普段とあまり変わらないという意見が多い!」
「ふむ……まあ仕方ないな」
「――では、いよいよ最終審査です!」
司会の魔族は一拍置いてから、力強く宣告する。
「魔族といえば、力! 力こそ正義! よって今から、参加者同士でのバトルロワイヤル開始だー!!」
『うぉぉぉぉっ!!!!』
「えぇぇぇ――――っ!?」
ミコトの悲鳴は、会場内の観戦者の熱狂の雄叫びに掻き消される。
……が、そもそも参加者の中で慌てているのはミコト一人で、他の者たちは当然のように平然としている。
「勝った方が負けた方のポイントを奪う! ステージには結界を張ってあるので好きなだけ暴れて結構! 勿論協力アリ、裏切りアリ! 最後まで立っていた者、もしくは制限時間が終わって立っていた者の中で最もポイントが高い者が優勝だー!!」
「“こんてすと”の意味って!?」
思わず抗議の声を上げるミコトの腕を、ルシエラががっしと掴む。
「さ、行きますよ、ミコトさん! まずは手強そうな邪神から倒しますよ!」
それを聞き咎めたルルベルとミィアが素早く身構える。
「ルルちゃん!」
「ミィア!」
おもむろにミィアががっしとルルベルの足を掴んで持ち上げ、ぐるぐるとその場で回転を始め、
「いっくぞー! じゃしーん」
「アターック!!」
ぶん、とミィアが手を離し、遠心力に従ってルルベルが飛んでくる。
パンチの様に拳を突き出したルルベルに、ルシエラが反応する。
「なんのっ! こっちは『和歌の神バリアー』です!」
素早く押し出されたミコトを盾にするように、ルシエラがミコトの背後に回る。
「ちょ、ルシエラちゃ――ふあああ!!」
「ふ……聖王か。礼が遅れたな。以前はルシエラが世話になった」
「ふふ。それはそれです、〈強欲〉の魔王」
「イザークの姉上……一度手合わせしてみたいと思っていた」
「――ええ。参ります!」
「カナメ、イーディス……!」
「あら。貴女一人で私たち二人に戦おうというの?」
「無謀ね。……でも、嫌いじゃないわ、そういうの」
「――優勝は、セラフィム領代表、クリネア・マキア!」
全ての戦いが終わった後、立っていたのはクリネア一人だった。
「ではクリネアさん、今のお気持ちをどうぞ」
「あのあの、隅っこで震えてたらみんな相討ちで倒れちゃって……こ、これで優勝って……」
戸惑うクリネアに構わず、優勝カップが進呈される。
その様子を遠目に見ながら、ルルベルと相討ちになってステージに倒れたミコトは、
(もう二度と“美少女こんてすと”なんて出ないって誓ったッ……!)
遠退く意識の中、深く決意したのだった。
366
:
おまけのロストエデン1
:2016/10/24(月) 03:03:07 ID:uXuTdnsA
【双】おまけなロストエデンSS【翼】
「猫も歩けば魔王に当たる」
「はいっ」
「桃栗三年、三周年!」
「えっと……はいっ!」
「いまじねいてぃぶ☆ろっくおん!」
「はいっ!」
先日から〈魔王〉アルドベリク・ゴドーの城に『拐われてきた』子どもたち、リュディとリザが楽しそうに札を取り合っている。
先日から開催されていた《ワクワク魔界フェスティバル》が、一騒動があって一時中断し、再開及び期間延長になったこと和歌の神、ミコト・ウタヨミに連絡し、その時にリザとリュディを『拐ってきた』ことを話したら、ミコトが和ノ国の玩具を差し入れてくれた。
その中の一つ、『いろはかるた(※ミコトアレンジ)』で遊ぶリザとリュディ――本来は複数人で札を取り合って枚数を競うらしいが――を見ながら、アルドベリクは微笑ましそうに目を細めてから、
「……」
ちらり、と隣で同じく二人の様子を眺めている天使の少女――ルシエラ・フオルを見遣る。
ルシエラは慈愛に満ちた眼差しでリザとリュディを眺めていたが、ふとアルドベリクの視線に気付いて顔を上げた。
「――どうしました?」
問い掛けるルシエラのあまりの無邪気さに、ルシエラに慣れているはずのアルドベリクが柄にも無く狼狽える。
「い、いや……」
戸惑いながら視線を逸らすが、すぐに思い直してアルドベリクはルシエラに向き直った。
「……その。ルシエラ……」
「はい?」
にこっと。『次の言葉を待ってますよ』と。無垢な笑顔を向けるルシエラに、アルドベリクはしばし逡巡し、
「その……、……こ……」
「こ?」
「こ、こここ、……こけこっこー」
愚にもつかないことを口走ってしまった。
「ふふっ。変なアルさん」
「いや……」
アルドベリクは迷いを振り払うように二、三度頭を振ってから、気を取り直す様に深く息を吐いた。
367
:
おまけのロストエデン2
:2016/10/24(月) 03:04:28 ID:uXuTdnsA
「その――子ども、欲ないか?」
「また何処かから拐ってくるんですか?」
「違う。というかお前、解ってて言ってるだろ」
呆れたようなアルドベリクに、ルシエラは純白の羽をはためかせ、ふわりと身体を宙に浮かせ、アルドベリクの目線に合わせる。
「そうですねー。既に手のかかるお子さんが一人居ますので、その子がもう少し大人になったら考えます」
「リュディとリザはそんなに手がかかるか? あの二人より、お前の方が余程――ん? 『一人』?」
何かに気付いたアルドベリクに、ルシエラは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「『あるどべりく』って名前の大きいお子さんが、『運命』だとか『宿命』だとか『因果』だとかに縛られない様な考え方が出来るようになってから、考えまーす」
「お前な……」
ルシエラは宙に浮かんだまま、くるりと羽を翻す。
「じゃあ聞きますけどー。『運命』なんて蹴っ飛ばすのが魔王だとしたら、私と結ばれるのが『運命』だったらどうします?」
「そうだな……」
ルシエラの言葉に、アルドベリクは不敵な笑みで応えた。
「『運命』以上に愛することにする」
と、言うなりアルドベリクは宙に浮かぶルシエラをがっしと抱き寄せる。
「――ってアルさん? ちょっ……」
アルドベリクの腕の中で戸惑うルシエラに、アルドベリクは涼しい顔で、
「今からお前が子ども呼ばわりした俺のモノでひぃひぃ言わせてやるから大人しくしておけ」
「え、あの……」
「――リザ、リュディ。俺たちはちょっと席を外すが、大人しくしていろよ。城の外には出ないように」
『はーいっ』
かるたで遊ぶ手を止め、リザとリュディがにこにこと二人を見送る。
「いやあのアルさんちょっと待っ――」
ルシエラを抱き抱えたアルドベリクの姿が部屋の外に消え、
「――あぁんっ! アルさん、深い、深いですぅ!」
すぐに隣の部屋からルシエラの嬌声が響いてくる。
その声を聞くともなしに聞きながら、
「――大人って大変ね、リュディ」
「そうだね」
しみじみと二人の子どもは頷き合ったのだった。
368
:
名無しの魔法使いさん
:2016/10/24(月) 21:44:27 ID:BBEYIAzY
やっぱ魔界関係は大正義だな
実際こんな感じで終始はっちゃっけて欲しかった
369
:
メアレス1
:2017/01/04(水) 22:20:23 ID:nZC.hUvI
【黄昏】〈メアレス〉な魔法使いSS【墜ち星】
至急ギルドに来て欲しい、と言伝を貰ったキミは、急ぎ足でトルリッカのギルドに向かっていた。
詳しい話は解らないが、どうも異界からの来訪者に関わることらしいと聞いては放っておけない。
既に数多の異界に喚ばれたり飛ばされたりを幾度となく繰り返したキミの経験や知識が役に立つこともあるかもしれない。
……うん、いや……言ってて自分で悲しくなってきた。
肩に乗った師匠が、キミの心を察して悪戯っぽく舌を出した。
……この師匠に振り回されて異界に飛んだことも一度や二度では――否、言うまい。
そんなやり取りをしながらギルドに駆け付けたキミは、バロンが応対しているという応接間に通された。
其処に居たのは、果たして――
「――あら。久し振りね、黒猫の魔法使いさん♪」
バロンがこちらに声を掛けるより遥かに早く、妖艶な声の挨拶が飛んでくる。
パチリと意味深なウィンクを飛ばしてきたのは、キミがかつて訪れた街で〈ロストメア〉と戦う〈メアレス〉の一人、〈墜ち星(ガンダウナー)〉ルリアゲハだった。
(ルリアゲハ……にゃ?)
師匠の言葉が喉元まで出掛かったが、バロンが居ることを思い出したのか、寸でのところで飲み込む。
そんなウィズの様子を見たルリアゲハは、相変わらず察しがいいようで、
「黒猫ちゃんも、久し振り、ね」
敢えて『ウィズ』と呼ばずにそう言った。
『にゃぁ〜ん』
猫撫で声を上げつつ、師匠がひらりとキミの肩から降り、ルリアゲハの膝に飛び乗る。
「知り合い……か?」
話が見えず、若干置いてきぼりの感のあるバロンが、控えめに声を掛けてくる。
表面上はいつもと変わりなく振る舞っているが、尻尾が疎外感を如実に表してしょんぼりしているのがバロンらしい。
キミは「はい」とだけ答えて、頷いた。
「ふむ……」
バロンは思案げに顎髭を撫でていたが、やがて、
「なら、ルリアゲハ殿も私より知り合いであるお前の方が話しやすいだろう。世話をしてやってもらえるか」
言われるまでもない。キミは一も二もなく頷いた。
「では、後は任せたぞ。ギルドに協力できることがあれば、何でも言ってくれ」
「わかった」、と答えるキミに満足そうに頷いて、バロンが退室しようとする。
その背中に、ルリアゲハが声を掛ける。
「何から何までありがとう、カッコいいライオンさん♪」
「うむ、いや、困った人を助けるのは魔道士ギルドの努め。困った時はいつでも頼ってください」
振り向いて、しどろもどろにそう答えるバロンだったが、尻尾は正直なもので、さっきまでのしょんぼりした様子とは逆に、嬉しそうにパタパタと揺れている。
そしてバロンが退室してから、キミとルリアゲハは顔を見合わせた。
『……とりあえず、此処では話しづらいにゃ。詳しい話は此処を出てからにするにゃ』
師匠に促され、キミとルリアゲハは揃ってギルドを後にしたのだった。
370
:
メアレス2
:2017/01/04(水) 22:21:44 ID:nZC.hUvI
「へぇ〜、此処が魔法使いさんたちの住んでる街なのね」
港町トルリッカの雑踏を歩きながら、興味津々といった様子てルリアゲハか屋台を覗き込む。
所狭しと並んだ屋台からは、港町らしい色とりどりの魚が、美味しそうな匂いを漂わせている。
キミは適当な屋台で串焼きの魚を買い、一本をルリアゲハに差し出した。
「あら、ありがとう♪」
言いながら早速ルリアゲハが串焼きにかぶりつく。
元お姫様と言っていたが、食べ歩きに抵抗は無いようだ。
『……それで、ルリアゲハ。今日はどうしたにゃ?』
キミがほぐした魚の身を肩に乗った師匠に差し出すと、師匠は嬉しそうにパクつきながら、思い出した様にルリアゲハに問い掛ける。
「うーん……何から説明しようかなあ……」
ルリアゲハはちょっと悩む様に宙を見上げてから、
「平たく言うと、〈ロストメア〉が門をくぐっちゃったのよね」
あっけらかんとそう言った。
まあ、大体そんなところだろうと目星をつけていたので驚きは無かったが、キミと師匠は顔を見合わせた。
『……その〈ロストメア〉を倒すのを協力して欲しいってことにゃ? でも、私達は自力であの街に渡る方法を持たないにゃ……』
すまなそうに謝る師匠に、ルリアゲハが首を横に振る。
「その心配は要らないわ。だって、〈ロストメア〉が門を潜って向かった先は、こちらの世界だから」
『にゃっ……!?』
まるで明日の天気でも告げるように、何てことの無いように告げてくるルリアゲハに、さすがにキミと師匠も驚きを隠せなかった。
『〈ロストメア〉がこの世界に……って、大丈夫なのかにゃ?』
「アフリト翁が言うには、影響は限定的且つ局所的だから、大勢に影響は無いそうよ」
『それなら良かったにゃ……』
ほっとした様に息を吐く師匠だったが、不意にその尻尾が警戒を表す様にピンと立った。
『……待つにゃ。〈ロストメア〉が向かったのがこちらの世界だとして、ルリアゲハはどうやって此処に来たにゃ。目的の異界に自分の意思で渡れるなんて、神様くらいしか出来ないにゃ』
確かに――と思うキミの脳裏には、「ヘイ、人の子」と話し掛ける女神の姿が浮かんでいた。
だが、警戒を露にする師匠に、ルリアゲハはむしろ軽く苦笑した。
「それはアフリト翁に聞いてちょうだいな。――尤も、アフリト翁の魔力をかなり消費するみたいで、そうほいほい異界へ渡れるわけじゃないみたいだけど」
あの黄昏の街で〈メアレス〉たちの世話役めいたことをしていたアフリト翁――まあ確かに彼なら、どんな隠し玉を持っていてもおかしくは無い気がする。
師匠も納得したのか、一つ頷いてから、
『それにしても、〈ロストメア〉は何でわざわざこの世界に来たにゃ……』
ため息と共に言葉を吐き出した。
確かに、『何故この異界なのか』という気もしないではない。
ちら――とルリアゲハを見ると、何故か意味深な視線をキミに送っている。
『もしかして、キミに岡惚れでもした女の子の〈ロストメア〉が追っ掛けて来ちゃったにゃ? こーの、女泣かせにゃー』
うりうり、と前脚でつついてくる師匠に思わず「やめて下さい」と抗議の声を上げる――と。
「うわあああ、魔物だあああ!」
通りの向こうから響く声に、キミとルリアゲハは素早くそちらを向く。
街の人々が慌てて通りの端に避ける、その先に居るのは――
「〈ロストメア〉……!」
こんな街中に魔物が出るとは思ってもみなかったのだろう。驚く街の人たちを尻目に、キミとルリアゲハは〈ロストメア〉に向けて疾走する。
371
:
メアレス3
:2017/01/04(水) 22:23:52 ID:nZC.hUvI
「魔法使いさん、気をつけてね! こいつ、攻撃がすり抜けるから!」
言いながら牽制のつもりかルリアゲハの放った銃弾が、言葉通り〈ロストメア〉を突き抜けた。
『攻撃が効かないにゃ?』
隣に立つルリアゲハにしか聞こえない小さな声で問い掛ける師匠の言葉に、ルリアゲハは首を横に振る。
「じゃなくて、アフリト翁は『異界へと渡りたい願いが、界と界を繋ぐ力を持ったのでは無いか』って言ってたわ。要は、『自分の前と後ろの空間を繋いでる』ってことみたいね」
ペロリと唇を舐めて不敵な笑みを浮かべたルリアゲハは、
「――でも、『攻撃が効かない』わけじゃないわ!」
先程の牽制でルリアゲハを警戒する様に飛び上がった〈ロストメア〉に向けて、得意のファニング6連射が炸裂する。
「同時に攻撃が来ると、処理が追い付かないみたい! それと、『点』じゃなくて『面』で攻撃すればいけるわ!」
『点』ではなく『面』――となると、かなり威力の高い攻撃魔法が必要になる。さすがに街の中では使えない。
それを解っているからか、ルリアゲハも〈ロストメア〉を街の外へ追い出そうとしている様だ。
攻撃がすり抜けるとはいっても、やはり攻撃されること自体は嫌なのか、〈ロストメア〉は攻撃を避けながら街の中心から遠ざかる。
――だんっ! と力強い踏み込みの後、ルリアゲハが屋台を足場にして家の屋根に飛び移る。
ルリアゲハに続いて屋根に飛び乗ったキミも、懐からカードを取り出した。
まずは牽制。どちらにしろまだ街を出ていないので、威力の高い魔法は使えない。
「『言の葉満ちて降る流れ星』――!!」
カードから現れたへっぽこ神の怒涛の10連撃が〈ロストメア〉に炸裂する。
「――って、『へっぽこ神』じゃないですよぅ!!」
へっぽこ和歌の神が何か抗議しているが、無視。
〈ロストメア〉にダメージを与えられた様には見えない。それでも攻撃されるのは嫌なのか、〈ロストメア〉は屋根の間をすり抜け、街の外へと向かう。
トルリッカの魔道士たちも状況を察したのか、キミの援護に廻る様に、空から降りて人混みに紛れて逃げようとする〈ロストメア〉へ魔法を放つ。
その〈ロストメア〉を追いながら、キミは奇妙な感覚に囚われていた。
『どうかしたのかにゃ?』
キミの肩に乗った師匠に問われ、キミはなるべく正確に自分の感覚を伝えようと、言葉を選びながら答える。
追い掛けている〈ロストメア〉が、何と言えばいいだろうか――何だか『空虚』な気がして仕方がないのだ。
黄昏の街で遭った〈ロストメア〉たちは、それぞれ『願いを叶える』という妄執にも似た強い想いがあった。
だが、目の前の〈ロストメア〉にはそれが無い。
『門を潜って“願いを叶えた”結果、気持ちが薄らいでいるとかにゃ?』
願いを叶えた結果というより、最初から空っぽというのが近い気がする。
『――とにかく、考えるのは後にゃ! まずはあの〈ロストメア〉を街の外へ追い出すにゃ!』
師匠に言われ、キミは気持ちを切り替えて〈ロストメア〉の追撃に専念する。
他の魔道士たちの協力もあって、〈ロストメア〉は街の外へと飛び出した。
此処なら大規模な魔法を使っても大丈夫だ。
「魔法使いさん、同時に仕掛けるわよ!」
ルリアゲハの勇ましい声に頷いて返し、タイミングを見計らって魔法を放つ。
372
:
メアレス4
:2017/01/04(水) 22:25:21 ID:nZC.hUvI
決まった――筈だった。
「――!?」
ルリアゲハが小さく息を飲むのが聞こえた。
タイミングは完璧だった。ルリアゲハの銃弾が着弾した瞬間に魔法が直撃する。
銃弾を逸らした隙をついて魔法がぶつかる様に、ほんの一瞬タイミングをずらしたが、
「まさか、銃弾を受けきって魔法の方を逸らすなんて……!」
苦々しげなルリアゲハの言葉通り、多少のダメージは与えられた様だが――足りない。
キミとルリアゲハは素早く体勢を立て直し――
「――修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!」
凛とした声が響くと同時、雷鳴が〈ロストメア〉を撃つ。
〈ロストメア〉が千々に引き裂かれ、魔力の固まりとなって散っていく。
ふわり、と風を感じて顔を上げると、人形に抱かれた懐かしい少女がキミの目の前に降り立った。
「――久し振りね、魔法使い」
「リフィル!? 貴方、どうして――」
驚きの声を上げるルリアゲハに、少女は軽く肩を竦めて見せる。
「アフリト翁に無理を言って、こちらへ送ってもらったのよ。――自分の不始末だもの。自分でけじめをつけないと気が済まないのよ。お陰で、アフリト翁に借りを作ってしまったわ」
そう言って、少女は人形の腕から飛び降り、キミに駆け寄る。
――その少女に向けて、キミは問う。「君は、誰?」と。
「――!?」
ルリアゲハが息を飲んだ。ちゃき……と反射的に銃を構える音が響く。
だが、引き金は引けない。
「……どういうこと?」
銃口を向け、少女から視線を逸らさないままルリアゲハがキミに尋ねる。
「私は“リフィル”よ。……もしかして、忘れられちゃったのかしら?」
自分に銃口が向けられているとはとても思えない自然体で、少女が話す。
だがキミは、それを否定する様に首を横に振り、『キミは“リフィル”ではない』と告げる。
――リフィルと同じ姿。リフィルと同じ声。リフィルと同じ仕草。
誰がどう見ても“リフィル”だが――違う。
具体的に『何が』と聞かれても、言葉で説明するのは難しい。
――否。
キミはやっと、目の前の少女の違和感の正体を理解した。
少女の瞳の奥に覗く、強い強い願い。それは、〈メアレス〉で在る“リフィル”には無かったものだ。
『……本当にゃ?』
師匠に問われ、キミは確信を持って頷いた。
キミの肩の上で、師匠は警戒を露にして毛を逆立てた。
『キミの目は、ティアも一目置いていたにゃ。――私はキミの目を信じるにゃ』
キミは頷いて、少女から距離を取った。
ルリアゲハは動かない。目の前の少女があまりに“リフィル”と似ているため、引き金を引くことを躊躇しているようだ。
「……冗談も度が過ぎると、笑えないわ」
淡々と告げる仕草はまさしく“リフィル”そのものだ。
キミは懐からカードを取り出し――
「 ――修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!」
瞬間、〈ロストメア〉に幾多の雷撃が襲いかかった。
荒れ狂う雷条はいともたやすく〈ロストメア〉を千切り裂く。
「……、……て…かった……」
雷鳴に紛れて、〈ロストメア〉の小さな声がキミの耳に届く。
「……っと……一緒…に……」
微かな声は、魔力と共にあっけなく霧散する。
――そしてキミの前に、ふわりと人形の腕に抱かれた少女が舞い降りた。
373
:
メアレス5
:2017/01/04(水) 22:26:06 ID:nZC.hUvI
「悪かったわね、魔法使い」
開口一番、リフィルはそう言った。
いつも通りの口調だが、ほんの僅か、気まずいような気恥ずかしいような感情が見え隠れしている。
キミは『気にしてないよ』と言う様に、苦笑して首を横に振る。
「えーと……“リフィル”なのよね……?」
恐る恐る確認するルリアゲハに、リフィルは軽く肩を竦めて見せる。
「生憎『私が“私”で在ること』を証明する術は持ち合わせていないけどね。……アフリト翁に無理を言って、こちらへ送ってもらったのよ。――自分の不始末だもの。自分でけじめをつけないと気が済まないのよ。お陰で、アフリト翁に借りを作ってしまったわ」
それは奇しくも、先程の少女が放った言葉と全く同じだった。
……そういえば、〈ロストメア〉が現実に出ると、『本人としか思えないもの』が復活するという話だった。
そういう点で言えば、先程の少女もまさしく“リフィル”ではあったのだろう。
「――ルリアゲハ。アフリト翁が、早めに戻ってほしいそうよ」
「解ってるけど、残念ねえ。もっと魔法使いさんの住んでる街を見て廻りたかったわ」
やっといつもの調子を取り戻したらしいルリアゲハは、口では文句を言いつつ飄々とリフィルの隣に並ぶ。
「――それじゃあね、魔法使い」
声色にほんの少しだけ未練を覗かせるが、その想いを断ち切る様に、リフィルは凛として前を向く。
その背に、キミは「またね」と声を掛けた。
リフィルは驚いた様にキミの方を振り向き――いつもと同じ、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「――『また』、ね」
「ねぇリフィルー、何で魔法使いさんに本音を言わなかったの?」
アフリト翁に指定されたポイントに向かいながら、ルリアゲハが問い掛ける。
それに対し、リフィルは憮然とした顔で答える。
「……本音なら、とっくにバレてるわよ」
「あら、そうなの?」
「そうじゃなきゃ、自力で移動できる術も無いのに、あの魔法使いが『また』なんて言うわけが無い」
「それもそうね。――なら尚更、『急に居なくなって寂しかった』『ずっと一緒に居たかった』って言って抱きついてやれば良かったのに」
「柄じゃない」
「あん、もう、ツレ無いわねぇ」
ルリアゲハが何やらぶつくさ言っているが、リフィルはさらりと右から左へと聞き流し、ふわりと髪を靡かせて、小さな声で呟いた。
「――『また』、ね。魔法使い――」
374
:
黄昏八百万1
:2017/01/04(水) 22:27:17 ID:nZC.hUvI
【黄昏】ミコト様のあるばいと放浪記part.4【めあれす】
「――というわけで」
「“めあれす”募集と聞いて」
「“めあれす”ってよく解らないですけど、精一杯頑張ります!」
薄暗い路地の一角で。
ぺこり、と頭を下げるミコトに続いて頭を下げるセイとスオウ。
そんな三人の前に座った人物は、ほんの少し嬉しそうに目を細めた。
男性と呼ぶには妙な老獪さが漂うが、老人と呼ぶには若すぎる。彼――アフリト翁と呼ばれているらしい――は煙管から立ち上る紫煙を燻らせながら、うんうんと頷いた。
「仕事の内容は、平たく言えば魔物退治だな。叶わなかった〈見果てぬ夢〉が〈ロストメア〉という魔物になり、〈ロストメア〉は夢と現実の狭間に在るこの街の〈門〉を潜って『実現』しようと――『夢を叶えようと』する」
神妙に話を聞くミコトたちに、解りやすく噛み砕いて説明するアフリト。
「夢が『自分で自分を叶える』などという無茶が通れば、世界の『理』が乱れる。だから、止める。だが『止める』といっても全員が全員〈ロストメア〉と戦えるわけではない。――夢を持つ者は〈ロストメア〉と戦えない。……『夢を潰す』ことに己が心が耐えられぬからな。尤も――」
ふと言葉を止めたアフリトの視線を追って、ミコトたちも薄暗い路地の先に目を遣った。
強いて言えば『おたまじゃくしを大きくしたような』物が、ふよふよと飛んでいる。
「あれが〈ロストメア〉?」
「そのようだな。――行くぞ、スオウ!」
「言われるまでもねーっての!」
一瞬で距離を詰めたセイとスオウが左右から刀を振り下ろし、あっけなく〈ロストメア〉は魔力の霧となって消える。
「……異界の者は夢があろうと無かろうと、〈ロストメア〉と戦える。……いらぬ心配だったな」
刀を拭って鞘に納める二人に、アフリトが軽く笑う。
「〈門〉は黄昏時にしか開かない。必然的に黄昏時が一番活発になる。だが、黄昏時以外でも、活動しないわけではない。……普段は、儂が街中に魔力を蜘蛛の巣の様に張り巡らせてある程度の動向は探っていたのだが……」
其処で一旦言葉を切り、アフリトが苦笑する。
「先日、儂がちょいと魔力を大量に消費してしまってねぇ。……今は魔力を〈門〉の付近に集中させ、一時的に門番の人数を増やしては居るのだが」
「〈ロストメア〉の動向を探れないから、急遽〈メアレス〉を募集したわけか」
セイの言葉に、アフリトはうんうんと頷いた。
「そういうことだねぇ。お前さんたちの他にも、異界の者たちに〈メアレス〉をお願いしておる」
アフリトの言葉通り、何処か遠くから「わははー!」だの「ぬぉぉぉ!! だから投げるなと――!!」だのと聞こえてくる。
一瞬、ミコトたちがその声に意識を取られ、そしてアフリトに視線を戻すと、いつの間にかアフリトの姿は消えていた。
元戦神のセイとスオウですら、いつ消えたのか解らなかった。
「……解らないことがあれば、他の〈メアレス〉たちに聞いておくれ」
何処からともなく響いた声にミコトたちは顔を見合わせ、小さく肩を竦めたのだった。
375
:
黄昏八百万2
:2017/01/04(水) 22:28:39 ID:nZC.hUvI
黄昏色に染まる街並みの中、ミコトとスオウとセイは、三人並んで大通りを歩いていた。
この街に来てから暫くが経ち、他の〈メアレス〉に「たまには休んだらいい」とアドバイスされたため、今日はオフである。
今までゆっくり街の中を見て廻れなかったので、散歩がてらのんびり歩き廻っている。
ミコトたちは、見るもの全てが珍しいといった様子で露店を覗き込む。
「――あら。ミコトさん」
と、通りの向こうから声を掛けられ、ミコトは顔を上げた。
「リフィルちゃん、ルリアゲハさん」
喜色満面で声を上げるミコトに、リフィルたちが歩み寄る。
「この街には慣れた?」
ルリアゲハに問われ、ミコトが頷く。
「はいっ。お陰様で」
アルバイトに向かうというリフィルと、夕食を食べに行くというルリアゲハと何となく連れ立って歩くミコトに、ルリアゲハがふと問い掛ける。
「――どう? 〈ロストメア〉退治は」
「うーん……」
ミコトはちょっと考え込んでから、夕焼け色に染まる空を見上げた。
「最初は、『叶わなかった誰かの夢』だって聞いて、ちょっと悩んだんですよね。『もしこのお願いが私の社に届いていたら、何か力になれたんだろうか』――とか。私はへっぽこだけど、それでも『何かできたのかなあ』って」
そう言ってからミコトはルリアゲハに向き直り、照れた様に「えへへっ」と笑う。
「現世利益主義じゃないけど、〈ロストメア〉に襲われる人を見たら、やっぱり生きてる人の方を優先しちゃって。そうしたら、悩むより先に体が動いちゃって」
「それでいいんじゃないかしら。難しく考えても、結論は簡単よ。生きている私たちにとっては迷惑だから、〈ロストメア〉は倒す。――それだけ」
「まあ、リフィルほどシンプルにも苛烈にも考えなくていいと思うけど」
ルリアゲハが肩を竦める――と。
「カタバ……!?」
通りの向こうに立っている人物を見たスオウとセイが動きを止める。
こちらの声が聞こえたのか、その人物――戦神だが――はこちらを振り向いてから、驚いた様な顔をし、慌てて人混みの中に姿を消した。
「知り合いなの?」
問い掛けるルリアゲハに、セイが頷く。
「知り合いは知り合いだが……」
「カタバさん、こんな処で何してるんだろ?」
ミコトとスオウは顔を見合わせ、首を傾げる。
「貴方たちみたいに、異界から〈メアレス〉として来たんじゃないの?」
「どうだろうな……異界とはいえ、人間たちの為になるようなことを、アイツがするかなあ……」
苦々しげなスオウの呟きに、ルリアゲハが苦笑する。
「困ったちゃんなのね」
「そんな可愛いもんかよ。戦神に信仰を集めるために、下界を戦乱に導いた鬼神だぞ」
「――〈ロストメア〉だったりして。」
ぽつりと呟くリフィルに、全員の視線が集中する。
「人擬態級の〈ロストメア〉は、夢と関わりの在る人物の姿を取るわ。神様でも同じなんじゃないかしら」
淡々と答えるリフィルに、ミコトたちは互いに顔を見合わせた。
「カタバさんの……」
「〈見果てぬ夢〉……」
「というと――」
瞬間、ミコトの顔から血の気が引いた。
「たたた、大変! 早くあの〈夢〉を止めないと――!」
まだ〈夢〉と決まったわけではないが、いずれにしても確認しなければならない。
376
:
黄昏八百万3
:2017/01/04(水) 22:30:34 ID:nZC.hUvI
ミコトがそう言った時には既に、セイとスオウは駆け出していた。
「折角猫神様に手伝って貰って止めたのに、行かせてたまるかよ!」
「だな。此処で阻止できなければ、猫神殿に会わせる顔が無い」
とはいえ、この時間は仕事帰りの買い物客が多い様だ。思い思いの食材や屋台の料理を買い込む人で通りは埋め尽くされ、思うように進めない。
「――先に行くわね!」
頭上から降ってくる声にそちらを見ると、何処から登ったのか、ルリアゲハが屋根の上を駆けていた――と。
ルリアゲハがふと足を止めた。
「……やっぱり、考えることは向こうも同じ、か……」
呟きと同時に銃声が響く。
スオウとセイの目の前に空の薬莢が落ちて来て、石畳にぶつかって乾いた音を立てる。
「屋根の上に居るのか!?」
「〈門〉の方に向かってるわ!」
それを聞いたセイは、
「スオウ! 肩借りるぞ!」
素早くスオウの肩を足場に、屋根の上に飛び上がる。
「――セイ!」
続けてスオウが露店の看板を足場にして飛び上がり、スオウの体をセイが引き上げる。
「あ、ちょっと! スウちゃん、セイちゃん、私は!?」
屋根の上に登ろうという涙ぐましい努力の結果だろうか。
街灯にしがみつき、地上1.5mほどの位置まで登ったミコトに、スオウは屋根の上から告げる。
「ミコトは後から来い!」
「ええええ! そんなぁ……」
ちょっぴり涙目になるミコト――の体が、ふわりと浮いた。
見ると、骨骸の人形がミコトの体を抱いている。
「リフィルちゃん!」
「喋ってると、舌を噛むわよ」
人形の肩に乗ったリフィルが糸を引くと、人形は一息に跳躍して屋根の上に飛び乗った。
遠く、沈む夕陽を受けて〈門〉が黄昏色に輝いていた。
377
:
黄昏八百万4
:2017/01/04(水) 22:31:48 ID:nZC.hUvI
〈門〉の前の広場で、カタバが足を止めて振り向く。
スオウとセイも足を止め、カタバと対峙する。
「……こんな処で落ちこぼれの戦神に会うとはな……」
吐き捨てる様な苦々しげな口調に、スオウとセイが身構える。
「その『落ちこぼれ』に負けたのは何処のどいつだってんだ」
「それに俺たちはもう『落ちこぼれの戦神』ではなく、水田と水車小屋の神と、農具鍛冶の神だがな」
「――それで、お前は『カタバ』なのか。『カタバの夢』なのか。どっちなんだ?」
スオウの問い掛けに、カタバはニヤリと不敵に笑んだ。
「〈夢〉――だとしたらどうするんだ?」
「お前を叶えさせるわけにはいかない!」
地を蹴り、刀を抜き放ったセイとスオウが同時に仕掛ける。
「無駄だ。猫神の助力無しに私に勝てるつもりか?」
「確かに猫神様の助力はねーけどな!」
カタバと刃を打ち合わせていたスオウがバッと身を離す。
その隙をついて、ルリアゲハの銃撃が飛ぶ。
「くっ!」
カタバは刀で銃弾を弾くと、距離を取る様に後退する。
「貴様ら、3対1とか卑怯だと思わんのか!」
「いや卑怯って、喧嘩神輿大会の前に優勝候補封印させて廻ったお前が言うなよ!」
「それに、3対1じゃなくて呼ぼうと思えば他の〈メアレス〉も呼べるのよねぇ」
「もう実質詰んでる様なモンだよな」
セイ、ルリアゲハ、スオウが口々にそう言い、カタバに打ち込んでいく。
「くぅっ……!!」
スオウとセイの攻撃を二刀で受けるカタバは、ちょっと涙目になっていた。
――と。
「セイちゃん、スウちゃん、どいてぇぇぇ――!!」
空の彼方から声が響き、セイとスオウは同時にその場を飛び退いた。
屋根の上から大きく跳躍する人形の腕の中で、ミコトが素早く短冊と筆を取り出している。
「『薄雲に届きし花が彩られ 唐紅の想い見ぬまま』――!!」
――次の瞬間、特大の豪雷がカタバの頭上に降り注いでいた。
「……まさかねー」
「カタバが〈夢〉じゃなくて、カタバ本人だったとはな」
「でもアイツ、『〈夢〉だとしたらどうするんだ?』とか言ってきたんだぜ。フツー〈夢〉だって思うだろ」
〈巡る幸い〉亭で遅めの晩ご飯を食べながら、ミコトたちがぼやく。
あの後、何処からともなく現れたアフリトによって、カタバ――ミコトの雷の直撃を食らってパンチパーマになっていたが――が、〈メアレス〉であると説明された。
「戦が減って戦神だけじゃ糊口を凌げないからって、まさか〈メアレス〉になってるとは思わなかった」
「オレ、絶対アイツが『人の為になること』をする訳無いと思ってたわ」
「で、でもさ、戦神の部下の人たちを働かせるんじゃなくて、ちゃんと自分で出稼ぎに来てて偉いよね」
「いやソレ単に、カタバに人望が無いだけだぞ」
「友達居ないしな」
散々な言われようである。
スオウとセイは目の前に置かれたアツアツのグラタンをつつきながら、深々と嘆息した。
「なんだかなあ……アイツもそろそろ戦神を店仕舞いして、別の神になりゃいいのに」
「『戦神以外のカタバ』って、想像がつかないな……」
「〈屋根裏の神〉か〈床下の神〉でいんじゃね?」
「それって一体何を司ってるの……?」
「覗きと盗聴」
「色々とダメじゃん!?」
ミコトが思わずツッコミを入れ、スオウとセイが笑いだす。
――こうして、〈メアレス〉たちの夜は更けていったのだが。
「……」
その日、〈巡る幸い〉亭の前で入るに入れずうろついている男の姿が目撃されたことをミコトたちが知るのは、もう少し後の事である。
378
:
黄昏八百万おまけ。
:2017/01/04(水) 22:35:51 ID:nZC.hUvI
【あるばいと】黄昏八百万SS【放浪記おまけ】
「らっしゃーせー」
黄昏の街の片隅で。
リフィルはいつも通り感情の窺えない無表情で、淡々と街行く人々に手にしたチラシを差し出していた。
「らっしゃーせー」
リフィルの背後には、いつもの骨骸の人形――ではなく、鶏に似た何かの着ぐるみが、街行く人々に愛想を振り撒いている。
「今なら特別サービス価格。お値段なんと三割引」
本人はお得感をアピールしたいのかもしれないが、抑揚の無い声で告げる様は、成功しているとは言い難い。
それでもリフィルは淡々と、目の前を歩く二人組の青年にチラシを差し出し――
「――あら。」
ほんの少し、リフィルは驚いた様に片眉をぴくりと跳ね上げた。
「リフィル!? お前、こんなところで何やってんだ!?」
ぎょっとして足を止めた赤毛の青年――スオウ・カグツチにそう問われ、リフィルは一瞬考え込む素振りを見せたが、
「『何』って――」
ちらり、とリフィルは通りを見渡し、一つ頷いてからスオウに向き直る。
「客引き」
「いやちょっと待てぇぇぇぇ!!」
しれっと答えるリフィルに、スオウは大仰に手を広げて通りを指し示す。
「客引きってかポン引きじゃねーか!!」
「そうとも言う。」
大通りから一本外れた裏通り。まだ昼を廻ったばかりだというのにやけに薄暗い道の両側に所狭しと娼館が立ち並び、あちこちに飲み屋代わりの屋台がひしめき合う。
通りの至る所で酔い潰れた酔っ払いが寝転がり、娼館の二階では着飾った娼婦たちが煙管を片手に気の早い男たちをからかっている。
「……自覚はあるのか」
と、スオウの隣で半ば呆れたように呟いたのは、セイ・シラナミだ。
「いやいやいや、お前もうちょっと仕事は選べよ!」
「職業に貴賤は無い!」
「その意見には同意するが、リフィルも嫁入り前の女の子なんだから」
「……ところで、アナタたちは『こんなところ』に何しに来たの?」
リフィルがチラシ――表には『休憩コース料金表』『プレイ料金一覧』、裏には所謂『玩具』が載ったチラシを差し出しながらそう問うと、スオウとセイは二人揃って明後日の方向に視線を逸らした。
「オレたちはその……そうだ、ミコト! ミコトを探しに来たんだよ!」
「『こんなところ』に?」
「いや実際仕方ねーんだって! この街に来てからアフリト翁の紹介で宿借りてるけど『連れ込み宿じゃないから』って念押されてるし! ミコトはミコトでリフィルとルリアゲハに懐いちゃって全然こっち構ってくれなくてお預け状態だし!」
つい本音を口走るスオウに、何故かリフィルの傍らに立つ鶏(?)が反応し、羽をバタつかせる。
「……つーか、何だこの不細工な鳥」
「娼館のマイナスイメージを払拭するために、店のオーナーが考案したイメージアップ戦略のマスコットよ。名前は『クドラくん』」
「……もうちょっと何とかならなかったのか? これ……」
などと呟きながら、スオウはからかう様にクドラくんにちょっかいを出し始める。その隣で、ふとセイがリフィルに問い掛ける。
「というか、ミコトは一緒じゃないんだな。確か今朝、『リフィルに“あるばいと”を紹介してもらった』と言っていた気が――」
其処まで言って、セイは何かに気付いてクドラくんを見る。
「――もうっ!」
着ぐるみの頭を脱いだミコトが、ぷはっと大きく息を吐いた。
「私はちゃんとお仕事してるのに、セイちゃんもスウちゃんもズルいんだから!」
着ぐるみが暑かったのだろう。顔を真っ赤にしたミコトは、ぷくっと頬を膨らませている。が、言うほど怒っていないのは、『仕方無いなあ』という表情からも窺える。
――と。
「ちなみに、ミコトさんはそろそろ上がりよ」
とことんしれっとした表情で、リフィルが告げた。
『……………』
それを聞いたスオウとセイは顔を見合わせて頷き合い、
「…………」
「えっ、あの、ちょっ」
おもむろにスオウは着ぐるみ姿のミコトを引きずって店の中に足を踏み入れる。
その後ろではセイが、
「どれがオススメなんだ?」
「そうね。この『2時間しっぽりコース』なんかがいいんじゃないかしら。昼間割引もあるし。指名料の代わりに連れ込み料が発生するけれど、其処は負けてくれるよう、私から店長に頼んでおいてあげるわ」
「すまない。ありがとう」
「延長したらその分料金が加算されるから気をつけてね」
「えっ、あの、ちょっ」
まだ事態をつかめていないミコトをよそに、受付で鍵を受け取ったスオウがセイと共にミコトを引きずり、店の奥に消えていく。
それを見送ってからリフィルは、
「らっしゃーせー」
何事も無かったかの様な顔でチラシの配布を再開した。
――結局。
翌朝まで延長しまくったスオウとセイにより、ミコトの一日分のあるばいと代はそっくり飛んでいったのだった。
379
:
聖夜メアレス1
:2017/01/04(水) 22:38:29 ID:nZC.hUvI
【WHEELRIGHT】聖夜メアレス【REPURE】
「起っきろ――――っ!!」
軽快な声と共に、どすんと何かが胸の上に飛び乗ってくる。
「うぐぉふっ」
その衝撃で、彼――〈魔輪匠(ウィールライト)〉=レッジは目を覚ました。
――が、一瞬遅かった。
『滅私忠!』
続けて、よく解らない掛け声と共に、レッジの顔面にシチューが降ってきた。
シチューである。あの、野菜と肉を煮込んで作るアレである。
(……いや、普通シチューは降ってきたり、ましてや『滅私忠!』とか言わない……)
レッジは顔面に乗ったシチューもとい『シチュージン』を払いのけ、よろよろと身を起こし、自分の胸元で楽しそうに自分を見上げる少女を見下ろした。
「リピュア……お前な……」
背中から蝶の様な羽の生えた少女――リピュア・アラトは勿論人間ではない。本人曰く〈魔法の妖精〉らしいが、詳しくは知らない。
〈魔法の妖精〉はレッジの部屋の鍵を開けるなんてお茶の子さいさいらしい。何度かやめろと言ったのだが、聞き入れてくれそうにない。
「もうお昼過ぎだよ、レッジ」
「昨日飲み過ぎて寝るのが遅かったんだよ。お前も居ただろ」
〈メアレス〉――この街で見果てぬ夢の残滓である〈ロストメア〉を狩る、夢見ざる者たち。
年の暮れの昨日、その仲間たちと『一年間お疲れ様飲み会』が行われた。
「私はちゃんと朝から起きてるよ?」
「はいはい。オレンジジュースしか飲めないお子様は楽でいいな」
「むー。」
むくれた様に頬を膨らませるリピュアの首根っこを、猫の子よろしく掴んで自分の上から下ろし、レッジは服を着替える。
……妖精とはいえまだ幼い少女に見詰められながら着替えるのは気が引けたが、言ったところで多分部屋から出ていってはくれないだろう。
顔を洗うと、少し残っていた酔いも醒めたようだ。レッジは水差しからコップに水を汲みながら、リピュアに問い掛けた。
「そういや、今日はどうしたんだ」
「えっとねー、〈門〉の外につれてって貰おうと思って」
ぶっ――と、レッジは飲みかけの水を盛大に吹き出した。
「げほっ、ごほっ……あのなあ、リピュア。俺は〈門〉を管理するのが仕事で……」
「大丈夫だよ。ちゃんと代わりの人を連れてきたよ!」
にこっと差すリピュアの指先を追って視線を戸口に向けたレッジは、
「…………」
必死で口元を押さえ、笑い声を我慢しながら肩を震わせる〈メアレス〉――ラギトの存在に気付く。
「…………オイ」
「いや、すまない。さすがの〈魔輪匠(ウィールライト)〉も小さい子には頭が上がらないんだなと思ったら……ふふっ」
未だ治まらない笑いを噛み殺し、笑いすぎて目の端に涙を浮かべたラギトと反対に、レッジは憮然とした表情を浮かべる。
「――まあ、そんな訳だから、〈門〉は儂と〈夢魔装(ダイトメア)〉に任せて、リピュアを連れていってやってくれんかね」
嗄れた声は、部屋の中から聞こえた。
戸口のラギトから部屋の中に視線を戻すと、何時の間に現れたのか、煙管を燻らせるアフリト翁の姿が在った。
〈メアレス〉たちのまとめ役の様な存在だが、時折こういった現れ方をする。
怪しいことこの上ないが、そもそもリピュアの――〈魔法の妖精〉の義理の親の様なものらしいので、その存在や出自については考えるだけ無駄かもしれない。
「……アフリト翁が自分で連れて行けば……」
「こんな可愛い女の子の隣には、儂の様な老いぼれではなく若い男がお似合いさね。それに、リピュア自身がレッジに懐いておる」
アフリト翁は完全に孫を見詰める祖父の視線で微笑ましそうにリピュアを見る。親バカである。
「…………」
そうは言われても、すぐに『はい』とは言えないのが、レッジの生真面目なところだ。
昔は〈門〉を管理し、〈門〉に縛られる一生を嫌った。だが、父の後を継ぎ、〈門〉を継いだ今は、もう自分を縛るものはない。
自分の自由に動いて――極端な話、〈門〉を棄てても構わない筈だ。別に、〈門〉が壊れても〈ロストメア〉が〈門〉を潜っても自分には関係無い。
そう割り切ってしまうこともできずに、惰性で〈門〉を管理していた時とは違う。今はちゃんと目的があって、〈門〉を護っている。
返事のできないレッジに、ラギトが苦笑する。
「俺が連れていってやりたいが、生憎俺は〈門〉を潜れない。――此の身に宿る〈ロストメア〉の願いを叶えてしまうから」
「〈門〉の外の街を、ちょっと見て廻りたいそうじゃ。――儂からも、頼む」
ラギトに続けてアフリト翁にまで真摯に頼まれては、レッジも断りきれない。
かくして――レッジとリピュアは、〈黄昏の門〉を潜ったのだった。
380
:
聖夜メアレス2
:2017/01/04(水) 22:40:40 ID:nZC.hUvI
〈門〉の中の街は、夢と現実の狭間に在る。
黄昏時にだけ通行可能になる〈門〉を潜って現実へ出ようとする〈ロストメア〉を倒し、現実へと影響が出ないように水際で止める、それだけのために在るといっても過言では無い街だ。
夢と現実の狭間という土地柄か、作物を育てたりすることは難しく、街は食料品や日用品の全てを外部からの輸入に頼っていた。
勿論それは〈ロストメア〉が現実に出ることを防ぐための各国からの援助の上に成り立っている。
それにより、〈門〉の開く黄昏時に合わせて荷物を運び込めるよう、いわば荷物の中継点といった感じで〈門〉の外に街ができたのも必然といえる。
「うわあ……」
〈門〉を潜った直後、驚き半分でリピュアが感嘆の声を上げた。
――外は真っ白に染まっていた。
〈門〉の中でも雨は降るし、雪も降る。
ただ、『中』で降っていても『外』で降っているとは限らない。――逆もまた然り、だ。
「街自体は中とあんまり変わらないねー」
興味津々といった様子であちこち覗き込むリピュア。
「……あんまりフラフラうろつくな」
呆れた声でレッジは言い、リピュアの手を掴んだ。
小さな手が、ぎゅっとレッジの手を握り返す。
それがなんだか気恥ずかしくて、レッジは誤魔化す様に言った。
「それで、今日はどうして外に出たいなんて思ったんだ?」
「えっとねー、明日は“聖夜”なんだって。」
「ああ、そうか……」
――大切な人を失ってから、しばらく無気力なまま無為な日々を過ごしていたから、すっかり忘れていた。
「“聖夜”はね、大事な人にプレゼントを贈るんだって! だからね、リフィルたちに贈り物を用意したいんだ」
「お前はプレゼントを貰う側だろう」
「いい子のところには『サンタさん』が来て、プレゼントをくれるんだよ? レッジは貰ったこと無いの?」
「……無い。」
「ほほう、悪い子だったんだね」
「どうだろうな……」
何処までも純真で、無垢な笑顔。『サンタさん』の正体に突っ込むのは野暮というものだろう。
「で、何を買うか決まってるのか?」
「一応考えてあるけど……あ! 見て見て、レッジ! 可愛い手袋!」
「早速脱線!?」
ショーウインドウに張り付くリピュア。子供らしい好奇心に従い店に入るリピュアに、レッジは苦笑してリピュアの後に続いたのだった。
〈門〉は黄昏時にしか開かない。
昨日一日を〈門〉の外の街で過ごしたレッジとリピュアは、手を繋いで〈門〉を潜った。
「レッジの手、大っきいねー」
「お前が小さすぎるんだろ」
二人並んで〈門〉の前の広場へ向かうと、待っていたらしいラギトとアフリト翁が座っていたオブジェから立ち上がる。
それに気付いたレッジは慌ててリピュアの手を離す。
――と、リピュアは嬉しそうにくるりとレッジに振り向いた。
「レッジ、今日はありがとう」
「どーいたしまして。」
これでやっと子守から解放されると思う反面、何処か妙な寂しさが残るのは、昨日今日とずっと騒がしかったリピュアと離れるからか。
別に、またすぐに顔を合わせるだろうし、会えなくなるわけではないのだが。
などと考えていると、リピュアが手を差し出して来た。
「――はい、レッジ」
その手には、可愛らしくラッピングされた紙袋が乗っていた。
「え――」
驚くレッジに、リピュアはにこにこしながら告げる。
「レッジにも、プレゼント。いつも、ありがとう!」
「あ、ああ……」
戸惑いつつも紙袋を受け取るレッジ。中を覗くと、今日リピュアと共に入った店で見た、オレンジ色の手袋が在った。
「……俺は、何も用意してないぞ……」
驚きから立ち直り、レッジは苦しげにそう吐いた。
こんなことならリピュアに何か用意してやれば良かったと心の底から後悔するレッジに、リピュアはふるふると首を横に振る。
「私には、『サンタさん』からプレゼントが届くから、いいんだよ」
そう言ってリピュアはラギトとアフリト翁に駆け寄り、二人にもプレゼントを差し出している。
「じゃあね、レッジ! 付き合ってくれてありがとう!」
大きく手を振るリピュアの手に、空から舞い降りた白い結晶が触れる。
雪の降り始めた通りを、アフリト翁と連れ立って歩く小さな背を、レッジはずっと見送っていた。
――その夜。
しんしんと雪の降り積もるルクス・ソルスの街のあちこちで、『赤い帽子に白い大きな袋を担いだ悪魔の様な』――ハロウィン仮装大会優勝のフムト・アラトさんに似ていたらしいが――人物が目撃されたという。
381
:
黒猫忘年会SS1
:2017/01/04(水) 22:42:48 ID:nZC.hUvI
【中の人】黒猫精霊大忘年会SS【繋がりで】
「わははー!」
「ちょっと、誰よ! アリエッタにお酒飲ませたの!!」
「……エリス。私は大人だから酒の方を……」
「私も大人だからお酒の方を頂戴って言ってるじゃない!」
「でもルルちゃん小さいじゃん」
「オレンジジュースを差し出すなぁ!」
「グレェェート」「ザッパーッ!!」「だから、一発芸で投げるなと――!!」
「うっふっふ。ラギトくんの杵柄を拝見……」
「待てルリアゲハ頼むからズボンを引っ張らないでくれ。――誰だ、ルリアゲハに飲ませたのは」
「私よ」
「お前か」
「ぞば! ぞばばば! ぞばばばばばば!! リエンさんが一人、リエンさんが二人……いつもより沢山居るぞば!?」
「……このガトリンって、もしかして酔ってるの……?」「うむ。そのようだ」「普段からブッ飛んでるから通常時との違いが解らないわ」
「……リヴェータ。そっちのサラダを寄越せ」
「ルドヴィカこそ、目の前のアイスクリームをこっちに寄越しなさいよ」
「おいザハール。なんで私の方に野菜ばっか寄越す」
「肉ばかり食べていると栄養が偏るぞ、アディちゃん」
「おいイニュー、リティカ。酔い潰れてないでザハールを止めろ。殴ってでも止めろ」
「はーい、グリフ。海老のサラダだよー。美味しいねぇ」
「落ち着けリティカ。私はグリフじゃないぞ、オイ」
「クロムマグナお兄さんと」「クロムマグナお姉さんの」『漫才ターイム!!』
「……ディートリヒ」
「羨ましそうな顔をしても私はやらんぞ。対抗意識を燃やすな」
「ヤチヨー、もっと食べていいのす?」
「すいませーん。フライ盛り合わせ五人前こっちにお願いしまーす」
――カオスである。
その混沌の中、アルドベリク・ゴドーは手にしたお猪口をくいっと飲み干した。
「……なんつーか、とても魔王とは思えない飲み方だな」
妙に感心した様な声で、スオウ・カグツチが声をかける。
「う……う〜ん……」
「ほら、水飲んで」
スオウの隣では酔い潰れたミコトをセイが介抱しているが、スオウは特に気にしていないようだ。
「魔王なんだからこう、立て膝で大盃とか、むしろ徳利から直接煽ったりした方がそれっぽくね?」
『魔王だから』というイメージもどうなんだろう、とアルドベリクはちょっと考えた。
魔王としてあるべき姿というのがあったとしても、それを自分が踏襲する必要は無いと思うし、そもそも自分にはそういったイメージは向いていない、とも思う。
――だからこそルシエラやイザークに『お人好し』とからかわれるのだが。
「『魔王』、か……」
アルドベリクは手酌で酒を注ぎながら、ふと呟いた。
「? どうかしたのか?」
つまみに炙ったイカゲソをがじがじ噛みながら、スオウが問い掛ける。
一瞬、アルドベリクはどう答えようか迷ったものの、
「……いや、なんか大昔に魔物の子供を魔王にするため協力していたような気が」
感じたままの印象を言葉にしてみた。
382
:
黒猫忘年会SS2
:2017/01/04(水) 22:45:15 ID:nZC.hUvI
「???」
訳が解らない、といった様子でスオウが首を傾げるが、実を言えばアルドベリク自身もよく解っていない。ただ『何となくそんな気がした』だけなのだ。
「ひょっとしたら、『前世の記憶』ってやつですかねー」
のほほん、とアルドベリクの横からルシエラが口を挟む。
ルシエラの膝の上で、リザとリュディが丸くなって眠っている。そんな子供たちの髪を優しく撫でながら、ルシエラが続ける。
「特に私とアルさんは、同じ様な生を何度も繰り返しているみたいですし。――私にも、似たような経験は在りますよ」
「例えば、どんなのだ?」
アルドベリクが水を向けると、ルシエラはほんの少し、悪戯っぽく微笑んだ。
「そーですねー、私はスオウさんたちの『刀』って言うんですかね? それを振り回しながら『あたしって、ほんとバカ』とか言っていた気がします」
「……何だそれは」
「さあ? 私にもよく解りません。――あ、それと、ユッカさんとアリスさん、キーラさんは初対面の気がしないっていうか……絶対何処かで逢ったことが在ると思うんですけど、何故か素っ気ないんですよねー」
「……それは単に、お前が過去に何かやらかしたんじゃないのか……?」
「そーいうので良ければ、オレも在るな」
イカゲソを食べ終えて、今度はつくね串に手を伸ばしながら、スオウが続ける。
「オレ、アイツとだけは初対面の気がしない。」
「……誰の話だ?」
「えーっとほら、アイツだよアイツ。『小娘とやらに投げられ続ける魔杖』」
「――それはもしかして、我の事か」
些か呆れた様な声は、すぐ近くから聞こえた。
スオウは声の主を振り向き、ぽんっと手を打った。
「コイツ」
「……『初対面の気がしない』とか言う割に、名前を覚えて居ないのか……」
スオウの隣でセイが、頭痛を堪える様にこめかみに指を宛てた。
「いや、ちゃんと覚えてるって。……『ファイナルバルバトス』だっけ?」
「『エターナル・ロア』だ。……殆どかすっても居ないではないか」
深々と嘆息するロアに、スオウはケラケラと笑う。
「いやあ、悪い悪い。ケツの辺りまで出てきてたんだがなあ」
「それはもう、色々とダメではないか」
突っ込むのも疲れたといった様子で、ロアはセイと顔を見合わせ、深く頷き合った。
「つーか、今日はどした? 実体化して。誰か乗っ取らないと実体化出来ないんだろ?」
「うむ。先程小娘に一発芸と称してブン投げられ、『カタバ』という人物の頭に直撃してな。意識を失った様なので、乗っ取らせて貰った」
「……なんつーか、ちょっとカタバが可哀想になってきたぞ」
「同感。」
「――それで、ロアさんの方はスオウさんに既視感とかあったんですか?」
ルシエラが話を戻すと、ロアは山盛りの枝豆に手を伸ばしながら、
「全然無い。…………と言いたいところだが」
ちらりとスオウを見てから苦々しげな顔をし、
「……我もスオウとは初対面の気がしない」
認めるのは癪だが、と態度で示しながら言った。
「おー、ロアもそうなのか。これはアレだな。赤い糸で結ばれたうんめーってやつだ」
「……男と運命で結ばれても嬉しくないな」
「そりゃこっちのセリフだ」
「……なら言うなよ……」
横からセイがツッコミを入れるが、スオウは何処吹く風といった様子で飄々と肩を竦める。
「ま、でも多分ロアとは切っても切れない縁なんだろうなあ」
「我もそう思うが、我、小娘の子守だけで手一杯なんだが」
ちょうどロアがそう言った時、
「――エリス=マギア・シャルム、一発芸いきます! ……ヒック……」
「ちょ、エリスさ、酔っ……あばばばばー!!」
何処か遠くから断末魔の悲鳴が響いてくる。
「……やれやれ」
ロアは手にしたグラスを置き、立ち上がった。
「色々と大変だな」
「ちょっとアルさん。それどういう意味ですか」
心の底から同情したアルドベリクの声に、ルシエラが反応する。
慌てて両手を振って釈明するアルドベリクを横目に見ながら、ロアはエリスたちに歩み寄る。
――来年も、騒がしくなりそうだ。
383
:
頑張れ温泉神
:2017/01/04(水) 22:50:03 ID:nZC.hUvI
【焔狼】二刀の冴えを味わうSS【流狼】
「…………」
ウタヨミ神社の縁側で、何やら真剣な表情で考え込むサクト・オオガミに、
「お、おーい、サクト……どうした?」
恐る恐るといった様子でスオウが声をかける。
「――スオウさん。これは危機ですよ」
「何かあったのか」
ぽつりと呟くサクトに、スオウの隣でセイが首を傾げる。
「猫神様が、『今年契約した精霊の中で一番を決めるにゃ』って言い出して」
「猫神様って唐突に妙なこと始めるよな」
「……いや、お前がそれを言うなよ……」
セイが呆れ声でスオウにツッコミを入れる。
「――ボクが契約した当初、火の斬撃はシャルロットちゃんとアリエッタちゃんっていう二人組しか居なかったんですよ」
「あー、そういやそうだったな」
「で、ボクの後からミュールちゃんが来て、あれよあれよと言う間にサユリさんが来てさらにはミリィさんが来てですね」
「思ったより多いな……」
「その上さらにケルク=ナダさんっていう竜の方が来て、トドメにベティナちゃんっていう女の子が来て」
「…………」
「何ですかね、これ。ケルクさん除いて皆女の子なんですよ。めちゃくちゃ可愛いんですよ。みんな」
「……」
掛ける言葉が見つからずに押し黙るスオウとセイに、サクトが深々と嘆息する。
「もう何と言うか、ち○こ付いてるってだけで相当不利な気がするんですよ」
「言うてもお前、付いてるだけで使ったこと無」
言い掛けたスオウの口を、セイが慌てて手を伸ばして塞ぐ。幸い、サクトの耳には届かなかった様だ。
「今年新規に契約した火の斬撃の中で、エントリーしてるのはボクとサユリさんだけらしいんですけど、ぶっちゃけ勝てる気がしません」
「確かに、オレもサクトとサユリさんなら、サユリさんに投票するかな」
「……其処はサクトに投票してやれよ……」
スオウにツッコミを入れてから、セイは慰める様にサクトの肩に手を置いた。
「まあ、俺たちも投票券集めに協力するから、元気出せ」
「そうそう。どんな結果であれ、当たって砕けろだ!」←8位
「いや、当たって砕けたらダメだろう。色々と」←16位
「というか、なんかちらっと順位が垣間見えるんですけど!?」
「気のせいだろ。気にしたら負けだぞ」
とことんしれっと告げるスオウに、サクトはひっそりと涙を飲んだのだった。
後日――
「――勝負にならなかったな……」
「ああ、そうだな……」
385
:
【鬱注意】ミルドレッドSS1
:2017/04/09(日) 01:14:23 ID:00koeau2
【鬱注意】 劫初を萌す英雄SS【グロ注意】
(どうして……こんなことになったのだろう……)
ぼんやりと霞む頭の中で、レスリーはそんなことを考える。
(私は、ミーちゃんの体を治したかっただけなのに……)
娘が永くは生きられないと言われて、はいそうですかと納得できる母親がどれほど居るだろうか。
少なくとも、レスリーはそうでは無かった。
娘が生きられる未来を、レスリーは求めた。
そして幸か不幸か、レスリーは“ソレ”を求められるだけの知識と才を持っていた。
――〈神話手術〉。
『神の運命』をヒトに移植し、人為的に神を造り上げる術。
(私が……ミーちゃんの……『永く生きられる未来』を求めなければ……)
こんなことにはならなかったかもしれない。
其処まで考えたところで、レスリーは心の中で苦笑しながら首を振った。――実際の体は、苦笑しようとしただけで殴られた頬が軋み、苦笑するどころでは無かったが。
(『ミーちゃんのために』って……これじゃまるで『ミーちゃんの所為で』って責任転嫁してるみたいじゃないの……)
娘に――ミルドレッドに罪は無い。
体が弱いことは、強く生んであげられなかった自分の責任だ、とさえ思う。
実際、〈神話手術〉以外にも方法を探せば良かったのかもしれない。
それでも〈神話手術〉という方法を選択したのは間違いなく自分なのだ。
(ミーちゃん……ごめん……ごめんね……)
――〈神話手術〉を施された〈神〉たちは、人類の選別を始めた。
そしてレスリーは、〈神〉を生み出した責任を取るため、自らに〈神殺しの怪物〉の運命を移植し、次々と〈神〉を屠っていった。
其処までは良かった。
ただこの〈怪物〉は〈神〉を駆逐した後、人間を襲うという伝説が残っていた。
そして――その〈怪物〉は、〈怪物〉の血を引く〈英雄〉に依って倒された、とも。
だからレスリーは最愛の娘であるミルドレッドに、自らを倒す〈英雄〉の運命を移植してもらう様、周囲に頼んでおいた。
結果として、レスリーの目論見は成功する。
〈神〉は〈怪物〉に依って倒され、〈怪物〉は〈英雄〉に依って倒された――はずだった。
ミルドレッドは最後の最後で、最早最愛の娘であるミルドレッドのことさえ解らなくなったレスリー――〈怪物〉イェルセルに、〈抗神話薬〉を投与した。
イェルセルがまだ『レスリー』であった頃に研究していた、〈神〉から〈神話〉を引き剥がす薬。
かくして〈怪物〉イェルセルは『レスリー』へと戻り、〈英雄〉は『ミルドレッド』へと戻った。
それから二人は人里離れた森の奥で暮らし始めた。
〈神〉に依って人類の多くが淘汰され、山や森は人の手が入らなくなって久しい。
そうやって放棄された森の中の粗末な家。元は炭焼き用の小屋か何かで、『寝泊まりできるだけ』だったのだろう。
だが、炭焼き小屋だったおかげか、錆びてはいたがノコギリなどの工具も残っていた。
刃物を研いで木を斬り、小屋を補修する。
見よう見まねや、本で読んだ知識などを総動員し、焼き物も始めてみる。食べられる山菜や川魚を釣って調理する。
ちょっと不格好なベッドも、二人で使うにはちょっと小さいテーブルも、レスリーが作った。
慣れないことだらけだが、レスリーにとっては苦では無かった。
大好きなミルドレッドと一緒に居られる。それだけで、幸せすぎるほどだった。
そのミルドレッドは〈英雄〉の運命を引き剥がしたせいで、元の体の弱い少女に戻っていた。
だが、レスリーもミルドレッドも、もう一度〈神話手術〉をしようとは思わなかった。
あるがままを受け入れ、少しでも永く一緒に居られる様に願いながら、平穏な日々を送っていた。
386
:
【鬱注意】ミルドレッドSS1
:2017/04/09(日) 01:15:48 ID:00koeau2
――なのに。
穏やかな日々は、唐突に終わりを迎えた。
小屋の扉をぶち破って雪崩れ込んでくる三人の男たちを前に、レスリーはミルドレッドを後ろに庇いながら怯むことなく恫喝する。
「何ですか、あなたたちは!」
そんなレスリーを鼻で笑いながら、代表格らしい男がレスリーの前に立ち、襟を掴んで持ち上げる。
「レスリー先生よぉ……オレタチに〈神話手術〉を施して貰えねぇかなあ?」
「くっ……」
下卑た嗤いを浮かべる男に、レスリーは唇を噛んだ。
人里離れた森の奥とはいえ、一応炭などを使って髪を染めたりしていた。
それでもやはり、誤魔化せなかったということだろう。
屈辱と後悔、怒りに頬を染めるレスリーは、
「――きゃあっ!」
小さな悲鳴に瞬時に顔を青ざめさせた。
振り向いたレスリーの目に、二人の男に腕を掴まれたミルドレッドの姿が映る。
「離して! 離してったら!」
「ミーちゃん!」
体の弱いミルドレッドが、必死に手足をばたつかせて抵抗するが、
「うるせえ! 大人しくしろ!」
ぱし、と乾いた音が響いた。
男はさほど力を入れずに叩いた様だが、頬を叩かれたミルドレッドはぐったりと項垂れる。
「ミーちゃん、ミーちゃん!」
レスリーは半狂乱になってミルドレッドに手を伸ばそうとするが、レスリーの襟を掴んだ男がそれを阻む。
「センセイが大人しく施術してくれないのが悪いんだからな?」
「――……」
一瞬レスリーは、「それで済むなら施術してしまおうか」と考えた。
だが――
「……母さん……」
弱々しい声で、ミルドレッドがレスリーを呼ぶ。
その瞳は、声と対極の強い意思を宿していた。
(そう……そうよね。……やっと、〈神〉を殺して得た平和だもの……失うわけには、いかないよね……)
レスリーは一瞬でも、安易な考えに流されそうになった自分を恥じた。
そして男に向き直り、凛とした声で告げる。
「――施術はしません。お引き取りください」
「ちっ!」
舌打ちするなり、男は掴んでいた襟を離し、そのままレスリーの頬を殴りつけた。
「母さん!」
もんどりうって倒れるレスリーに、ミルドレッドの悲鳴がかかる。
頭を打ち付けて朦朧とするレスリーの前で、男は何かを思い付いた様に嗤いながら、ミルドレッドに近付く。
「何を……」
掌を滑り落ちる水の様に、思考がまとまらない。
漸くそれだけ呟くレスリーに、男は見せ付ける様にミルドレッドに顔を寄せる。
「おまえの手足を人質にしようかと思ったが、気が変わった。頼みを聞いてくれないおまえのママが悪いんだからな。恨むなら、ママを恨めよ」
言うが早いか男の手がミルドレッドの服を破った。
「いやぁ――っ!!」
何をされるか理解したミルドレッドの唇から悲鳴が零れる。
年頃の女の子だ。学校にも通っていたし、性教育もあっただろう。
暴れるミルドレッドだったが、〈英雄〉としての力を喪った今、成人の男の力には敵わない。
「おっほぉ〜。綺麗なピンク色の膜があるじゃないか」
下着を脱がされ、大事な処を覗き込まれたミルドレッドの頬が恥辱に染まる。
「嫌だ、離して、離して!!」
男たちは床に倒れたレスリーにも見えやすい様に床に座り、
「いやああぁぁぁあ――――っ!!」
そそり勃つモノの上から、ミルドレッドの腰を下ろさせる。
ずぶり、と。ミルドレッドの腰が沈み込み、男のモノがまだ毛の薄い未熟な性器に潜り込む。
前戯さえなく処女膜を破られたミルドレッドの顔が苦痛に歪む。レスリーの目の前に在る結合部から、男のモノを伝って血が滴る。
「ミ……ちゃ……」
力無い声に、ミルドレッドはそれでも強い意思を保ったまま、首を横に振った。
別の男が、ミルドレッドの髪を掴んで上向かせ、桜色の唇に無理矢理イチモツを捩じ込んだ。
「んぶっ……おごっ」
髪を掴んだまま激しいストロークを繰り返していた男から、欲望が放たれる。
噎せるミルドレッドの唇から、精液が溢れる。
もう一人の男が、レスリーのタイトスカートを脱がせるが、もうレスリーに抵抗できる力は残っていなかった。
こちらも前戯などお構い無しに捩じ込んで、腰を動かし勝手に果てた。
レスリーは、それを何処か遠い出来事の様に感じていた。
387
:
【鬱注意】ミルドレッドSS3
:2017/04/09(日) 01:16:50 ID:00koeau2
「――おい、やべぇぞ」
どれくらい、経っただろうか。
何日も経った気がするし、一昼夜すら経っていない気がする。
男たちは入れ替わり立ち替わり、レスリーとミルドレッドを犯した。男たちは交替で休みを取っていたが、レスリーもミルドレッドも休む暇無く犯され続けた。
小さな男の呟きに、レスリーは我に返った。
霞む目で見ると、テーブル――レスリーが作ったテーブルだ――の上にミルドレッドを横たえ、挿入していた男が呟いた様だ。
――と。
どさり、とテーブルからミルドレッドの体が落ちた。
ごん、と。鈍い音が響く。
口や鼻から伝った精液がカピカピに乾いている。
何度も犯されたせいで、太股の辺りは隙間無く精液がこびりついている。
「あ……あ……」
レスリーに挿入していた男から、ビュルっと音を立てて精液が放たれるが、レスリーの瞳は、呆然とミルドレッドを映していた。
――虚ろな、何も映さなくなった瞳が、レスリーの瞳を映し返している。
「ミー……ちゃん……?」
返事は無い。
絶望が、レスリーの全身を襲う。
言葉に表せないほどの虚脱感、喪失感。
そんなレスリーを嘲笑う様に、男はレスリーの目線に合わせて屈み込み、やれやれと肩を竦めた。
「センセイが悪いんだぜ? 素直にオレタチの頼みを聞いてくれないから」
言ってゲラゲラと嗤う男たちを前に、
「あ――あ――あああああアアアっ!!」
レスリーが絶叫する。
声が喉を灼く――否、実際に喉が爛れていく。
起き上がろうとするレスリーを、先程までレスリーを犯していた男が押さえ込もうとするが、
「なんだ……?」
ボコボコと服の下から盛り上がる肉に気付いて動きを止める。
次の瞬間、ぶんっとレスリーが腕を振ると、押さえ込もうとしていた男が、まるで紙細工の様に軽々と吹き飛んだ。
壁にぶつかり、それでも勢いを殺せず壁をぶち抜いて転がっていく男は、既に生きてはいないだろう。
残された二人の男は、何が起こったか解らずに、呆然と消えていった男を見送っていた。
――否。『何が起こったか』は解る。だが、理解が追い付かないのだ。
そんな男の顔を、がし、と掴む手があった。
横から伸びてきたソレは、既に人の手では無かった。
「ひっ――」
悲鳴を上げようとした男の顔は、熟した果実の様に呆気なく握り潰された。
そうしてレスリー――〈怪物〉イェルセルは、ゆっくりとリーダー格の男に視線を向けた。
その瞬間、男はやっと〈神殺しの怪物〉が目の前の人物であったことに気が付いた。
腰を抜かした男は、青い腕が男に向けて伸びてくるのを見詰めることしか出来ない――
ジョボボボボ……
恐怖の余り失禁する男に、〈怪物〉は一旦腕を止め、少し考える様な素振りを見せてから、男に向けた腕を引っ込め、代わりにミルドレッドの亡骸を優しく抱き上げた。
まるで男の小水がミルドレッドに触れることを嫌がるようなその素振りに、男はこれ幸いと逃げ出した。
腰が抜けてしまったので、走って逃げることは出来ない。それでも四つん這いになって必死に小屋から出た男は、
「……?」
数歩進んで、違和感に気付いて足を見た。
膝から先が無かった。
滝の様に溢れる血を見た瞬間、一拍遅れて灼ける様な痛みが脳に届く。
「ああ――ああ――」
言葉にならない声を上げながら、それでも腕の力で芋虫の様に這う男の前に、〈怪物〉が降り立った。
――男だったものが動かなくなってから、イェルセルは手にしたミルドレッドの体をじっと見詰めていた。
空は嵐の訪れを告げる様に、昏く澱んでいる。
『ミイチャンハ……カアサンガ……マモルカラネ……』
〈怪物〉となった口から言葉が零れ――そしてイェルセルは、ミルドレッドの肢体に噛み付いた。
咀嚼し、飲み込む。肉を骨ごと噛み砕く。
『カアサンノナカニイレバ……モウダイジョウブダカラネ……』
ミルドレッドだったものは、全てイェルセルの中に収まった。
――雨が、降ってきた。
それは、泣くことの出来なくなったレスリーの代わりに頬を伝い、滴り落ちる。
〈怪物〉の慟哭が、まるで産声を上げるかの様に、〈英雄〉の居なくなった世界に響き渡っていた。
388
:
走り書きスオミコSS
:2017/08/29(火) 04:52:54 ID:tZPbqPXY
某処でのスオミコSSに触発されて。
同じ処に上げようかとも思ったけれど、自分はこっちのが性に合ってるので、こちらで。
此処を見てるか解りませんが、面白かったです。
【蘇芳色の】スオミコ擬きなSS【和歌】
「わっ」
「――っぶね!」
倒れかけたミコトに、咄嗟にハヅキが手を伸ばす。
ぱし、と音がして、転びそうになったミコトの二の腕をハヅキが掴む。
「おっ前……何も無い処で転ぶなんて、相変わらず器よ……」
器用だな、と言い掛けたハヅキは、半ば呆然と――間抜けな顔でぽかんと口を半開きにしたミコトに気付く。
ミコトはハヅキ――ではなく、ハヅキの少し上に目線を向けている。
「はっは〜ん。このハヅキ様に惚れたら火傷するぜ?」
そう呟いて、わざとらしく「うんうん」と頷くハヅキに、ミコトは「はっ」と我に返った様に、慌てて両手を振った。
「あ、ううん、何でもない。助けてくれてありがとう!」
ミコトはそう言って、少し前を歩くキュウマたちに向かって小走りに駆け出した。
「オイオイ、走るとまたすっ転ぶぜ?」
ハヅキの声は届いていないようだったが、こけることなくミコトはキュウマたちと合流する。
それを見届けてから、ハヅキは、
「……貸し一つな」
ちらりと自分の背後に視線を向けた。
「…………二つでいい」
取り憑いているハヅキに引きずられる様に進みながら、踞ったスオウがそう答えた。
(あーもう、何だってんだ、あのバカは!)
真っ赤になった顔を隠す様に踞り、スオウは頭を抱えた。
出来るなら数分前の自分を引っ叩きたかった。
ミコトがこけそうになった瞬間、思わずハヅキの体を乗っ取って、手を伸ばしていた。それが、貸し一つ。
愕然と――恐らくは、スオウの存在に気付いたミコトをハヅキが誤魔化してくれた。それが、二つ目の貸し。
ちら、と隣を歩くツバキ――に取り憑いているセイに視線を向ける。
「……気付いた、と思うか……?」
「どうだろうな。ミコトは鈍いから」
肩を竦めるセイに、スオウは内心で(いや、絶対に気付いた)と確信する。
そうだ――あの時、セイは傍に居なかったのだ。
「きゃっ……」
「――っぶね!」
箒を手にしたミコトが躓き、傍らに居たスオウは慌ててミコトの二の腕を掴んだ。
「おっ前……何も無い処で転ぶなんて、器用だな」
「うぅぅ、ごめんなさい……」
スオウは、体勢を立て直したミコトの腕を離す。
「全く、こんなおっちょこちょいじゃ、危なっかしくて見てらんねーな」
「そ、そんなことないよ……一応、今までちゃんとまがりなりにも和歌の神様としてやってこれたんだし……」
「オレが助けなかったら今、顔面からいってた癖に何言ってんだ。……お前、オレらが来る前、一日何回転んでたんだ?」
「……………」
「オイ目を逸らすな」
スオウは深々と嘆息してから、苦笑した。
「全く……これじゃ心配で目が離せないな」
「?」
折角の言葉も、ミコトには通じなかった様だ。
其処が「ミコトらしく」て、スオウは軽く吹き出した。
「あ、スウちゃん。何笑ってるの」
バカにされた、と思った様だ。
唇を尖らせるミコトを、思わず抱き寄せる。
「目が離せないから、ずっと見ててやる。――ずっと、傍に居てやるよ」
「――えへへっ」
小走りに駆け、キュウマとトウマ、キリエに並んだミコトの口許が、花の様に綻んだ。
「お? なんかミコト、ご機嫌だねぇ♪」
キュウマの肩に乗ったフウチが、目敏くミコトの様子に気付いて声を掛ける。
「な、何か、その――新しい謳でも、浮かんだのか……?」
照れ臭そうに問い掛けるキュウマに、ミコトは楽しそうに「内緒ですっ」と口許に指を宛てて見せる。
茜差す 花と咲きにし 薄ら氷も――
389
:
名無しの魔法使いさん
:2018/09/29(土) 20:04:10 ID:oSOgU/Wo
『書いてて楽しかった&折角書いたから何処かに置かせて貰いたかった』
とかいう個人的な理由で此処に置かせて貰います_(:3 」∠)_
・腐です。BL注意。
・若干獣姦的な要素あり。
・お漏らしあり。
という目に見えた特大の地雷原ですが、お暇な時にでも目を通して頂けると幸いですm(_ _)m
390
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと1
:2018/09/29(土) 20:09:54 ID:oSOgU/Wo
【腐注意】お湯神様のあるばいと放浪記番外編1【地雷注意】
「――え。また“あるばいと”ですかぁ……?」
戦神四十七柱筆頭代理を前に、サクト・オオガミは露骨に浮かべた嫌そうな表情のまま、筆頭代理に問い返す。
年の頃なら15、6歳といった処だろうか。しかしながら白雪の銀髪と蜜色の瞳の幼い顔立ちと相俟って、13、4歳と言われても違和感は無い。――実際は既に数百年は生きているのだが。
普段なら一応取り繕った表情を浮かべるサクトだが、度重なる『あるばいと依頼』に、最近は取り繕う気も失せていた。
筆頭代理はそんなサクトの様子を気にすることなく淡々と告げる。
「ああ。温泉宿の下働き――ま、所謂三助だな。八百万の神々が湯治に来、下界の穢れを落としたり体を休めたりする由緒正しい温泉宿らしい」
「何処の油屋ですかソレ」
「因みにこちらが依頼主の温泉宿の女将さん」
「湯○婆ですよね? この人どっからどう見ても湯婆○ですよね?」
筆頭代理に紹介された二頭身の老婆を見ながらサクトがツッコミを入れるが、筆頭代理も女将とやらもどちらも答えない。
「――アンタが例の、風呂の神とやらかい?」
「ちょっとどういう紹介したんですか」
「ちぃと腕が細っこいが、まあ戦神だからね。力はありそうだね」
ムッとして、無遠慮に二の腕を掴んでくる女将の腕をサクトが振り払う。
「――嘗めないで貰えますか。これでも一応、戦神四十七柱の末席に名を連ねているんですから」
頬を膨らませるサクトに、女将はむしろ嬉しそうにうんうんと頷いた。
「男の子が元気がいいのはいいことだ。――じゃあ、約束通りこの子は借りていくよ」
「頑張れよー」
さっさとサクトの腕を掴んで筆頭代理の前を辞す女将とサクトに向けて、ひらひらと手を振って見送る筆頭代理にサクトは内心でありったけの罵倒を浴びせかけておいた。
連れて来られたのは、海に突き出た断崖の上に在るひなびた平屋建の温泉宿だった。
温泉宿といっても、一見すると立派な古民家か気の利いた料亭といった感じで、とても温泉宿には見えない。
平屋だからか、崖全体に広がった敷地は相当広い。
「はー……」
門の前に立ち、その広さに圧倒された様に感嘆の吐息を零すサクト。
「ボク、此処で働くんですよね? お風呂を沸かしたりするんですか?」
「風呂は釜爺が焚くからいらないよ」
「あ、やっぱ居るんですね釜爺。――ん? じゃあボクが手伝える事ってあんまり無いんじゃないですか?」
「今、下界に新しい温泉宿を建てていてね。そっちの開店準備の手伝いに此処から何人か出向いていて、手が足りなくなったのさ。一時しのぎに誰か、と思っていたら信仰と賽銭稼ぎに戦神四十七柱が何でも屋やってるって聞いてね」
「……いつの間にか形振り構わなくなってきてる……」
「――そしたら、うちが温泉宿と聞いたら、あの筆頭代理の男が、『四十七柱に戦神と風呂の神で二足のわらじを履いている者が居るので、将来風呂の神として生計を立てられる様に経験を積ませてやって欲しい』って言い出してね」
「…………」
サクトは先程手を振って見送る筆頭代理に内心でありったけの罵詈雑言を叩き付けたことを少しだけ後悔し――
「――『っていうのは建前で、最近アイツ筆頭代理に対する敬意がなってないからめちゃくちゃしごいてやってください』って」
サクトは、四十七柱の社に帰った暁には、筆頭代理の顔面に助走つけて飛び蹴りを叩き込むことを決意した。
391
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと2
:2018/09/29(土) 20:10:52 ID:oSOgU/Wo
「アンタには接客を手伝って貰うよ。お客様の案内、必要なら入浴の介助、お座敷に料理を運んだり……その他、お客様が望まれる雑用だね」
「ボク、接客なんてしたこと殆ど無いんですが……」
「礼儀は気にしなくていいさね。お客も従業員も全て神格は同じ八百万の神の一柱だ。丁寧にもてなしゃいい」
「あ、従業員も神様なんですね。……其処は油屋と違うなあ」
「アンタがさっきから言ってる『油屋』って何だい?」
「いえなんでも」
他愛もない話をしながら、門を潜ってよく手入れされた山茶花の生け垣の間に通された玉砂利を敷いた飛び石の小道を進む。従業員か、もしくは訪れる客の神力にでも当てられて四季が狂ったのだろうか。咲き綻ぶ山茶花のすぐ傍らで、桃が花をつけていた。
ほどなくして、広い玄関に辿り着く。
玄関に入ると、女将の出迎えなのか、ずらっと並んだ従業員が一堂に平伏する。
男女の割合で言えば男が3、女が7といった処だろうか。人と同じ姿の物も居れば、人に近いが獣の耳や尻尾が生えたもの、ないし獣にそっくりな姿のものも居る。
「お帰りなさいませ、女将」
代表して、番頭らしい男がそう口を開く。
……男がごく普通の何処にでも居そうな中年男で、別段蛙顔ではないことを、サクトはちょっと残念に思った。
鷹揚に頷いて、女将がサクトを手で示す。
「この子が今日からみんなと一緒に働く四十七柱の戦神だ。――ほら、自分で挨拶しな」
「あ、えっと、サクト・オオガミです! 精一杯頑張りますので宜しくお願いします!」
ぺこり、と頭を下げるサクトに、誰からともなく拍手が起こり、内心緊張しきりだったサクトはほっと息を吐いた。
「――さ、じゃあそろそろ暖簾を上げる準備をしな」
女将の声に従業員たちが立ち上がり、テキパキと動き始める。
パンパン、と女将が手を叩くと、先程の番頭の男が駆け寄ってくる。
「サクトはお客につかせてあげな。そうさね、初めてのお客に失礼があっちゃまずいから、常連客につかせてやるといい」
「解りました」
男が頷くと、女将は二、三度サクトの肩を叩いてから屋敷の奥へと向かっていく。
「とりあえず簡単に宿の中を案内しよう。――ついておいで」
「あ、はいっ」
サクトは男について歩き始める。
厨房、宴会でも開けそうな大座敷、個室、大浴場に露天風呂、湯沸かし室、娯楽室――何処ぞの映画で思っていたよりは『普通に』温泉宿だった。
大浴場にはだだっ広い浴槽の他、打たせ湯や寝湯など各種揃っており、他にも衝立で仕切られた中くらいの浴槽が幾つも並んだ区画が在った。露天は崖をくり貫いた豪快なものだったし、各個室にも『家族風呂』と呼ばれる浴室が在るのだという。
「――どうだ? 覚えたか?」
「え、えぇと……一階が大座敷と厨房、二階と離れが個室、地下が大浴場と露天風呂で……」
指折り告げるサクトに、男は「ははっ」と笑ってサクトの頭を撫でた。
「それだけ言えれば十分だ。後は追々覚えて行けばいい」
誉められたサクトは、気恥ずかしそうに頬を染めた。
「反応が初々しいな。――っと」
宿を一周して玄関に戻ると、先程とは打って変わって賑やかしい喧騒が響いている。
湯治に来たらしい客が何人も下駄を脱いでいるのを見て、
「おっ。丁度いい」
男はサクトに此処で待つように指示し、一人の客に声を掛けた。
392
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと3
:2018/09/29(土) 20:12:06 ID:oSOgU/Wo
サクトの倍くらいはありそうな、がっしりした体格のその客は――
(猪……?)
摩利支天の眷属か、和気神社ないし護王神社の神使か、はたまた何処かの山神だろうか。
それはまさに、『二足歩行する猪』だった。
頭は普通に猪と同じ姿をしている。風呂に入るからか薄い藍の浴衣を纏い、浴衣から覗く手足は茶色い毛に覆われている。手は意外なことに、偶蹄ではなく普通に人間の手をしている。
男が二言、三言話し掛けると、その猪神は笑顔で快諾し、鷹揚に頷いた。
男に手招きされ、サクトが猪神に駆け寄る。猪神はサクトの幼い容姿に一瞬驚いた様な顔を浮かべたが、すぐに穏やかな顔で目を細めた。
「サクト・オオガミと言います! 宜しくお願いします!」
「戦神四十七柱の御方をお付きにするなど、畏れ多いことですなあ」
ぺこり、と頭を下げるサクトに、猪神はうんうんと頷き、
「じゃあ早速風呂に付き合って貰おうか。――私は一応こんな手をしているが、元は蹄だから手拭いを絞ったりするのが苦手でね。お願いしてもよいか」
「勿論です、お任せください!」
無理難題を要求されたらどうしようと思っていただけに、ほっとしながらサクトは番頭の男に頭を下げてから、猪神と並んで歩き出した。
「――あ、この場合、ボクが先に立って案内した方がいいんですかね? それとも、後ろを歩いた方がいいんでしょうか……しまった、さっきの方に確認しておけば良かった……」
「なに、気にすることはない。初めての客なら先に立って案内する必要も在ろうが、慣れた客なら案内されるまでもなく勝手に浴場へ向かうさ」
「そんな感じでいいんですかね?」
「気難しい客なら気にするのかもしれないが、あまりそういった客の話は聞いたことが無いなあ」
首をひねる猪神に、サクトは『思ったより気さくな神様だな』、という印象を覚えた。
猪神が向かったのは、中くらいの浴槽が衝立で仕切られた区画だった。
歩きながら中を覗き込み、空いていた浴場を見付けてから、入り口に掛けられた札をひっくり返す。
「一応、入っている時はこの札をひっくり返すのが決まりだが、今覗いて来た様に返し忘れや戻し忘れが多いから、ま、言ってみればただの気休めだな」
ふんふん、と興味深そうに頷いてから、サクトは猪神に続いて浴場へ入る。
明確に区切られた脱衣所は無いらしい。浴場の片隅に無造作に置かれた籘製の篭の前で、猪神が浴衣を脱ぐ。
慌ててサクトが猪神から浴衣を受け取り、畳んで篭に置く――と、猪神が不思議そうにサクトを見る。
「サクト、お前さんは脱がないのか?」
「あっ――そっか。このままじゃ背中を流せませんね」
気が付いて、サクトは慌てて軍服の釦に指を掛けた。
ちょっと恥ずかしい気もするが、これも仕事だとサクトは上着とシャツ、ズボンを脱ぐ。
「――お前さんは風呂に入るのに褌をつけたまま入るのか?」
「あ、いえ、でも、さすがに裸になるのは……」
「いや、私は構わないのだが……びしょ濡れになった褌の上からその袴を履くのは大変ではないか?」
「それもそうですね……」
少し悩んでから、サクトは躊躇しつつ褌に手を掛けた。
一糸纏わぬ姿になったサクトに、猪神が「ほぅ……」と感嘆の吐息を零す。
「戦神というのは随分と綺麗な体をしておるのだな」
「き、綺麗……ですか?」
「もっと勇猛果敢に戦斧を振り回し、筋骨隆々の傷だらけの体をしているのかと思っていた」
「ボクとしてはむしろ『そう在りたい』んですけどね……」
「いやいや、サクトのその珠の様な肌に傷を付けるのは勿体無かろう。無粋の極みだ」
「えぇ……」
やるせない表情を浮かべるサクトを、猪神は豪快に笑い飛ばす。
「はっはっ。気にしておるのか。若いのう」
猪神は、壁際に並べられた様々な大きさの風呂椅子と手桶から、自分にあったサイズを取り、浴槽の傍らに置く。
393
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと4
:2018/09/29(土) 20:13:15 ID:oSOgU/Wo
素早くサクトが、サクトの体格には不釣り合いな桶にお湯を汲み、手拭いを浸す。
「――女将には西洋の“しゃわあ”なるものを教えたのだが、まだ設置には至らんようじゃのう」
「しゃわあ、ですか?」
「こう、しとしとと雨の様にお湯が出てな、頭を洗うのに大層便利じゃった」
「西洋にはそんなものが在るんですね」
言いながら、サクトは手拭いを絞って猪神の背に回った。
「お背中、流しますね」
「ああ、其処までしてくれるとは至れり尽くせりじゃな。――では、お願いするとしよう」
サクトは手拭いを手に、猪特有の短めの茶色い毛に覆われた背中に手拭いを掛ける。
背中全体を拭く様な動きに、猪神が「ふふっ」と笑う。
「随分と優しい手拭いの掛け方だが、もっと豪快にごしごし洗ってくれ。今の力加減ではくすぐったくて敵わん」
「こ、こうですか?」
「ああ、いい感じじゃ」
「痛くないですか? 痛かったら言ってくださいね」
「お主こそ、力を込めすぎて疲れたなら何時でも休んでいいぞ」
「これくらい、全然大丈夫ですよ」
「さすがは戦神という処か。頼もしいことだ」
「背中流すだけで感動されてしまっては、ボクの立場がありませんよ」
「それもそうだな」
くつくつと喉を震わせる猪神に、つられてサクトも微笑する。
背中を洗い終わると、前は自分で洗うと言うのでサクトは猪神に手拭いを返した。
体を洗った猪神が、ゆったりと湯舟に浸かる。
「お主も、どうじゃ」
「さすがに仕事中ですので……」
「それもそうか」
「この後は、どうなさるんですか?」
「いつもは泊まりで、部屋で按摩を頼んでおるのう。今日も同じじゃ」
「按摩ですか。ボク、多分このまま貴方のお世話をさせて頂くと思うんですけど、そうなるとボクが按摩するんでしょうか? 専門が居るんでしょうか?」
「基本は付き人がしてくれるかのぅ」
「うーん、ボクでも出来るかなあ」
「なに、難しいことではない。按摩と言っても主に香油を肌に擦り込んで貰うだけだ」
「そうですか。それならボクでも出来そうですね。指圧とか言われたらどうしようかと」
「戦神なら人体のツボを熟知していて秘孔を突いて」
「何処の世紀末世界の話ですか?」
ひとしきり笑ってから、サクトは湯舟を出る猪神について浴場を出る。
泊まりというので離れに向かうのかと思ったが、猪神はそのまま二階へ上がっていく。
「ボク、付いていっていいんですかね? 料理とか運ばなくて大丈夫ですか?」
「腹が減れば各部屋から女中を呼べば良いことになっているので気にする必要はないのではないかな?」
「そんな仕組みなんですね……すみません、全然知らなくて……」
「誰も最初からものを識っているわけではないのだから、謝ることでは無かろう。良いことじゃ」
事も無げにそう言い放ち、猪神は二階の奥の部屋へと向かう。
「本当は『萩の間』が好きなんじゃが、今日は予約で埋まっておるらしい。『菖蒲の間』じゃ」
菖蒲の間と呼ばれるその部屋は、六畳ほどの小ぢんまりとした部屋だった。
一人向けの部屋らしく、部屋の真ん中に少し大きめの卓と座椅子が一つ。布団がちょこんと隅に畳んで置かれていた。
窓から外を見下ろすと、中庭らしい池に錦鯉が泳いでいる姿と、池の畔に咲き並ぶ菖蒲の花が見える。
なるほど、それで『菖蒲』なのかとサクトは納得する。
「此処は何時でも四季の花が楽しめる」
「そうなんですね」
浴衣の帯を緩めて座椅子に座る猪神に、窓の外を眺めていたサクトは慌てて駆け寄った。
「す、すみません」
「いやなに、綺麗な景色に見惚れる気持ちはよく解るでな」
「うぅ……申し訳ないです……あ、ご飯はどうされますか?」
「そうだな。実を言えば軽く食べてきたので、腹は減っておらん。――早速按摩を頼んで良いか」
「はいっ。じゃあお布団敷きますね」
気を取り直してサクトが布団を敷くと、猪神が浴衣を脱いでうつ伏せになって寝転んだ。
「サクト――すまないが、私の荷物の中に、手のひらくらいの筒が在るだろう」
「お荷物失礼しますね。――これ、ですか?」
それは確かに、小さな茶筒の様な形をしていた。
蓋を開けると中は水筒の様な小さな口が在った。
甘いような苦いような、不思議な香気が鼻につく。
「不思議な香りですね」
「蜂蜜と、西洋で言う処の香草と呼ばれるものを調合してあるという話だったかな。――私の様な獣が使うのは不思議に思われるかもしれぬが、猪というのは存外綺麗好きでなあ」
「よく山で“ぬた場”を見掛けたので識っています。――これをお客様の背中に塗ればいいんですか」
サクトがそう答えると、何故か一瞬猪神は押し黙った。
394
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと5
:2018/09/29(土) 20:14:54 ID:oSOgU/Wo
「?」
「ああ、いや、今まで付き人についた女中はごまんと居るが、どの女中も自分の乳房に香油を塗って私の背中に塗り付けてきたでな……普通はやはり手で塗るよなあと思うてな」
「え、他の方がそうしていたならボクもちゃんとそうしますよ!」
「いや、私は手でも――」
「任せてください、ちゃんと役目は果たしてみせます!」
笑顔で請け負って、サクトは再び軍服を脱いだ。
上着とシャツを脱いでから、自分の胸元で手にした筒を傾ける。
とろっとした液体が筒の口から零れ、サクトの胸に滴った。
「んっ……」
その液体の冷たさに声が洩れる。
満遍なく垂らしてから、サクトはうつ伏せになった猪神に折り重なる様に体を密着させ、香油を擦り込む様に体を動かし始めた。
「こ、こんな感じですか……?」
「あ、ああ……」
戸惑う様な猪神の声。
サクトが体を擦るたび、猪の体毛が乳首に絡んでむず痒い様な刺激を与えてくる。
そして何より、この香気――
(何だろ……なんか、頭くらくらしてくる……この匂い……)
いつしか、はっ、はっ、と呼気を荒くしながら、サクトは一旦身を起こす。
ぴんと尖った乳首に香油を垂らし、今度は猪神の腰から臀部にかけて香油を擦り込んでいく。
石鹸の匂いと香油の香気に混じって、隠しきれない獣の匂いが鼻腔を擽る。
「は、はっ……」
香油を擦り込みながら、サクトは自分がぼんやりしていることに気付いて居なかった。
(体……熱い……なのに、頭だけひんやりして……)
もぞ、とサクトは切なげに内股を擦り合わせた。
(おちんちんのとこ、痛い……? ボク、どうなって……)
サクトの変調に気付いた猪神が顔を上げる。
「――サクト? どうかし……」
「す、すみません、ボク、何だか……!」
とろんとした表情のサクトは、自分の口の端を伝う涎を拭いもせず、猪神を見詰めている。
「すまぬ、香気に当てられたのか。大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です――けど……」
「匂いに酔うとは……サクトは狗神か何かなのか?」
「いえ――ですけど、神使は、狼です……」
とさ、と凭れ掛かる様にサクトはうつ伏せの猪神に寄り掛かる。
「すみません、すみません……ボク、何だか可笑しくて……どうしたら……」
初めての感覚に戸惑うサクトに、猪神は一瞬迷うような表情を浮かべたが、
「……苦しいのか?」
静かに問い掛けた。
一も二もなくサクトが首肯する。
「はい、苦しいです……でも何が苦しいのか……自分でも解らないんです……」
「――そうか」
言って猪神は身を起こし、サクトに向かい合う様に座り込む。
「その様子だと自慰もしたことは無さそうだが……私が介添えしても構わぬか?」
「じ、い……? よく……解らないですけど……楽に……してもらえるなら……お願いします……!」
蕩ける様な表情のサクトは、縋る様に猪神の腕を掴む。
「――承知した」
言って猪神はサクトに仰向けになって横になる様に指示する。
猪神は、命ぜられるままに布団に横たわるサクトのズボンと褌を徐にずり下ろした。
朱の昇った肌と、ちょこんと上向いた陰茎が慎ましやかに姿を現す。
「な、なんで、ボクのおちんちん、腫れて……」
「腫れているわけではないが――いや、『腫れている』で正しいのかもしれぬな。すぐ楽にしてやるぞ、サクト」
猪神がサクトの股間に顔を寄せる。
「あ……ああ……」
ぬろぉ、と長い舌が伸びて肉棒全体を包み込みながら、器用に皮を剥いて敏感な部分を剥き出しにする。
「…………っ!!」
びくん、と声もなくサクトが身を仰け反らせる。
猪の鼻がサクトの臍の辺りに密着し、熱い呼吸を伝えてくる。
「ふ、う、……」
目の端に涙を浮かべ、サクトが身を捩る。
「――我慢せずともよい。ありったけを私の口の中にぶちまけるが良い」
そう言われたからというわけでもないだろうが――
ざらりとした猪神の舌が亀頭を舐めると、サクトは跳ね上げる様にして腰を浮かす。
「あ、あぁっ、ボクなんか出ちゃう、出ちゃううぅぅぅぅっ!!」
びゅる、と陰嚢から駆け昇った精液が、猪神の口の中に放出される。
次から次へと湧き出す様に口の中を満たす精液を、猪神は全て嚥下した。
はっ、はっ、と涙をボロボロと零しながら、サクトは顔を上げる猪神を見る。
395
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと6
:2018/09/29(土) 20:18:17 ID:oSOgU/Wo
「ごめんなさい、ボク、ボク――」
「いや、サクトが謝ることではない。大層美味で在った。――して、少しは楽になったか?」
問われたサクトは涙の浮かんだ瞳を絶望に見開き、首を横に振る。
「さっきより、苦しくて……ボク……!」
「まだ勃っているので、恐らくそうであろうな。――サクト。お主の体を貰うぞ」
「え……『貰う』って……」
「ああ、別に『乗っ取る』とかではないから安心しや。――サクト、私を恨んでも構わないぞ」
「そんな、恨むなんて……お客様は、ボクを楽にしようとしてくださってるんですし……ボクの方こそ、すみません……」
謝るサクトに「気にするな」という様に優しく頭を撫でてから、サクトの姿勢をうつ伏せにして尻を持ち上げる。
「――はは。サクトは随分と好き者の様じゃな。此処をこんなにひくつかせて、今か今かと挿入を待ち望んでおる」
「え……? 〜〜〜〜っ!!」
ずる、とサクトの肛門に長い舌が侵入する。
ざらざらした舌は腸壁を圧し拡げる様にしながら、奥へ奥へと潜り込む。
「あ、ああっ……ざらってしてる、熱い……熱いのがお腹の中でうねうねって、動いて……!」
四つん這いの姿態で、サクトは涙を零しながらぎゅっと布団に爪を立てる。
「奥、奥、がぁ……! 唾液、いっぱい、流し、込まれて、ボク、イッちゃ――」
寸での処で歯を喰い縛り、サクトは何とか快楽の波を耐える。
「ふぅっ、くっ……」
滂沱と涙を流す、既に半分白目を剥いた金褐色の瞳には思いきりハートマークを浮かべ、口の両端から涎を垂らしながら、ぎり、とサクトは歯を喰い縛る。
「ざらざらの舌、が、ボクのお腹の中、全部、舐めて……んぐひぃっ」
ずろぉ、と音を立てて舌を抜かれ、びくん、とサクトが全身を痙攣させる。
ぱたぱた、とサクトのイチモツから先走り汁が糸を引く。
と、愛撫の手が止まって一瞬サクトが気を抜いた瞬間、
「ふ、あぁあっ!!」
にゅぷ、と今度は指が差し込まれた。
「指ぃ……が、ぐにぐにって――ああっ!! 其処いいっ!! 其処ダメっ!!」
『いい』のか『ダメ』なのか、口にするサクト自身ももう解らなくなっていた。
菊門から挿し込まれた長い指は、掻く様にサクトの敏感な部分を擦る。
前立腺の裏を擦られる快感は、気持ちが良すぎてそれが『快感』だと気付くのが遅れるほど強かった。
指が動くたび、ゾクゾクッと背中をなにかが這い昇る。
挿し込まれ、抜かれ、唾液を絡めて侵入する指が一本から二本に増える。
「だいぶ緩ませたつもりじゃが……猪には前戯というものは無いからなあ。下手で済まぬな」
「下手、じゃ、ない、です、気持ち、いいっ……!」
「気持ちが良いなら我慢せずともよいと言っておろうに」
「だって、また、おしっこ、出ちゃ……」
「精と小便は違うぞ?」
「ち、ちがっ……さっきの、出たら、おしっこ、出ちゃいそうで……!」
サクトの訴えに、猪神はきょとんとしてから、すぐに笑い出す。
「――なるほど」
腰の後ろからサクトの『前』に手が挿し込まれる。
「ひ、ぃっ!!」
下腹部を押さえ込まれ、サクトは目を見開いた。
「確かに膀胱は張っておるのう」
「ダメ、其処触っちゃダメ、おしっこ出ちゃうからあっ!!」
「布団を汚すくらい、私が払うから気にするでない。――出させるぞ、サクト」
「だめ、やだ、おしっこだめ――!」
サクトの抗議も虚しく、猪神は右手にサクトのモノを握り、鈴口に爪を立てながら、左手で下腹部を強く押さえて刺激を与える。
「うぅ――ああああっ!!」
泣きながら、サクトは精を放った。
布団に白い飛沫が散り、サクトの上半身を白く染め上げていく。
そして――
ぷしゃあ、と音を立てて辺りにアンモニア臭が広がっていく。
我慢していた分、勢いよく飛び出した尿は、サクトの意思に反してなかなか止まってくれそうにない。
未だ勃起した肉棒から放たれる黄色い液体は、サクトの胸に掛かって頭を下げたサクトの喉を伝って顎から滴り落ちる。
「う……ふぇ……」
一滴残らず出しきってから、サクトは排尿も我慢できない自分自身に対して幼い子供の様に泣きながら、排尿を終えてなお勃起したイチモツを見――
びく、とサクトは泣いていたことすら忘れて自らの足の向こうに見えたものをまじまじと凝視した。
背中と同じ様に毛むくじゃらの腹につくほど雄々しく反り返ったモノは、とてもサクトと同じモノには見えなかった。
一言で表すなら、『槍』が近いだろうか。
しかし、形状だけなら槍に近いが、それはまるで蛇がとぐろを巻いた姿によく似ていた。
396
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと7
:2018/09/29(土) 20:19:26 ID:oSOgU/Wo
息を飲むサクトに気付いて、猪神が声を掛ける。
「サクトは豚の陰茎を見たことは無いか」
「な、ない、です……」
目を離せなくなった様に、猪神の股間で揺れるモノを凝視しながら、サクトが頷く。
「そうか。では思う存分堪能しておくれ」
猪神の声に、僅かな喜悦が混じる。
サクトは自分の肛門に宛てがわれたソレに、ゆっくりと首を横に振る。
「う、うそ……無理……そんなの、挿入(はい)るわけが――」
「その為に十分解したから大丈夫じゃ。……私が解す前からひくついておったがな」
「や、やだやだ無理っ、無理――ああああっ!!」
ずん、と腸どころか内臓全てを突き上げられる動きに、サクトはただただ絶叫した。
「おなか、おく、ああっ――」
猪神が肉棒を引き抜くたび、腸まで一緒に引っ張られる様な感覚がサクトを襲う。
肉棒がサクトを貫くたび、内臓の奥をぐちゃぐちゃに掻き回される様な快感が全身を疾り抜ける。
――そう。
それが『強すぎる快感』だと意識した瞬間、サクトの唇から歓喜の声が零れる。
「あ、あ――おなか、くるしい、のに、き、もち、いい……っ! ボク、おかしくなる、こんなのおかしくなるぅぅぅっ!!」
「私の方が……おかしくなりそうだ……此の様に精を搾り取る様にうねる肉壺は……女の蜜壺でも味わった――ことは……くっ!!」
サクトは泣きじゃくりながら、無意識に括約筋をきつく締め上げた。
「おしりぃ、裂けちゃう、ボクのおしり、裂けちゃううぅぅっ!!」
布団をきつく握り締め、サクトが絶叫する。
「く――ぅ、サクト、受け取れっ!!」
ずどん、と奥付きに突き挿れられた肉棒が脈動する。
サクトの奥の奥で放たれるその精液は、液体というよりはゲル状と表現した方が近いほど濃い。
「あ、ああ――」
腸を精液が満たしていくのと同時、サクトのイチモツもびゅっと精液を迸らせる。
全く衰えることのない精液が、朱に染まったサクトの体を彩る様に白い飛沫を散らす。
暫く奥付きに固定されていた肉棒が精を吐き出すと、ずるん、とサクトの尻から肉棒が抜かれる。
「ふ――あぁ……」
力なく尻を落とすサクトの肛門から、ぶぴゅっ、ごぷっ、と精液が溢れ出してくる。
ぴくっ、ぴくっと小刻みに痙攣するサクトは、半分意識は飛んでいる様だがまだ意識は残っている。
その様子を見ながら、猪神は「ふむ」と考え込む。
まだ勃起したままのサクトはこのまま休ませようにも気が昂っているからすぐには寝付けないだろう。
――仕方ない、また犯すか。
猪神がそう決意した時、こんこん、と控えめに襖が叩かれた。
「ん?」
暗に「入ってこい」と言う様にそちらを見ると、
「やっ」
「狗神か」
襖の隙間から片手を上げて見せる獣の耳を持った青年に、猪神は部屋に入る様に手招きで示す。
狗神は素早く襖の中に入ってから、ひょこひょこと猪神の隣に座る。
「なーんだか面白いことやってんねえ。廊下まで声が響いて、廊下はシコる客でいっぱいだったよ。女中も仕事放り出して隠れて自慰してるし」
「そ、そうか。確かにサクトの声は大きかったな」
「サクトって言うのかい、可愛い子だねえ。――どうしたんだい?」
「いや、香油を塗って貰っていたら、香気に当てられた様で……」
397
:
【腐注意】お湯神様のあるばいと8
:2018/09/29(土) 20:20:07 ID:oSOgU/Wo
「なぁるほど。それで猪神様直々に、手ずから抜いて差し上げてたって訳か。――匂いに弱いって、僕と同じ狗神かな?」
「神使が狼だと言っていたが」
「ふぅん……」
狗神はぺろりと唇を舐め、酷薄な笑みを浮かべた。
「まだ勃ってる――ってことは、続きは僕がヤッても?」
「そうだな。頼めるか」
「勿論。――僕も廊下でこの子の声を聞いていたからねぇ」
狗神は傍らに置かれていた香油の筒を手に取り、
「お、おい」
猪神の制止も聞かず、徐に筒の口をサクトの肛門に宛てがった。
「こういうのは、欲望を昇華させるよりイカせて意識ぶっ飛ばした方が早いのさ」
「――じゃなくて、お前も匂いに弱いだろうに」
「だからこそ、だよ。一緒に狂乱に堕ちた方が手っ取り早いじゃないか」
言うが早いか、狗神は手にした筒を傾ける。
「ひっ――?」
それまで夢心地だったサクトは、直腸に流し込まれる冷たい感触に意識を取り戻した。
「つ、め、たい、何――」
「――ああ、じっとしてな。すぐに気持ちよくしてあげるから」
一滴残らずサクトの直腸に注ぎ込んでから、狗神は自身の着物をはぐる。
「もう十分猪神に解してもらっただろうから、前戯はいらないよね! 僕ももう、さっきからずっと我慢してるんでね!」
ずぶ、と訳が解らないサクトの菊門を圧し拡げて、肉棒が突き立てられる。
「ひ――あっ!! なに、これぇ……イボ……瘤……? 出し挿れされるたびに、おなか、ごりっ、てぇ……!」
挿入されたモノの形状を知覚したサクトの目が見開かれる。
「狗のモノは初めてかい? 結構いいだろう?」
「あっ、あぁっ、おしり――の、浅い、とこ、掻かれ、て――ボク、もう……っ!」
「――おっと。悪いけど、ソレはもうちょっと我慢しようね〜」
徐に廻された狗神の手が、震えるサクトのイチモツの付け根を無造作に握る。
「――――〜〜〜〜っ!!」
空撃ちを繰り返すサクトが、苦痛に顔を歪める。
「うんうん、苦しいよね。でも我慢した方がいっぱい気持ちよくなれるからね。――折角だから僕と一緒にイこう?」
激しく腰を打ち付け、注挿を繰り返しながら狗神が唇を歪める。
「狗は射精の時に亀頭球が膨らんで、栓をしながら四半時も断続的に射精するんだ。――まだまだ夜は長いんだから、いっぱい愉しもうね」
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