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SS簡易保管庫

393【腐注意】お湯神様のあるばいと4:2018/09/29(土) 20:13:15 ID:oSOgU/Wo
 素早くサクトが、サクトの体格には不釣り合いな桶にお湯を汲み、手拭いを浸す。
「――女将には西洋の“しゃわあ”なるものを教えたのだが、まだ設置には至らんようじゃのう」
「しゃわあ、ですか?」
「こう、しとしとと雨の様にお湯が出てな、頭を洗うのに大層便利じゃった」
「西洋にはそんなものが在るんですね」
 言いながら、サクトは手拭いを絞って猪神の背に回った。
「お背中、流しますね」
「ああ、其処までしてくれるとは至れり尽くせりじゃな。――では、お願いするとしよう」
 サクトは手拭いを手に、猪特有の短めの茶色い毛に覆われた背中に手拭いを掛ける。
 背中全体を拭く様な動きに、猪神が「ふふっ」と笑う。
「随分と優しい手拭いの掛け方だが、もっと豪快にごしごし洗ってくれ。今の力加減ではくすぐったくて敵わん」
「こ、こうですか?」
「ああ、いい感じじゃ」
「痛くないですか? 痛かったら言ってくださいね」
「お主こそ、力を込めすぎて疲れたなら何時でも休んでいいぞ」
「これくらい、全然大丈夫ですよ」
「さすがは戦神という処か。頼もしいことだ」
「背中流すだけで感動されてしまっては、ボクの立場がありませんよ」
「それもそうだな」
 くつくつと喉を震わせる猪神に、つられてサクトも微笑する。
 背中を洗い終わると、前は自分で洗うと言うのでサクトは猪神に手拭いを返した。
 体を洗った猪神が、ゆったりと湯舟に浸かる。
「お主も、どうじゃ」
「さすがに仕事中ですので……」
「それもそうか」
「この後は、どうなさるんですか?」
「いつもは泊まりで、部屋で按摩を頼んでおるのう。今日も同じじゃ」
「按摩ですか。ボク、多分このまま貴方のお世話をさせて頂くと思うんですけど、そうなるとボクが按摩するんでしょうか? 専門が居るんでしょうか?」
「基本は付き人がしてくれるかのぅ」
「うーん、ボクでも出来るかなあ」
「なに、難しいことではない。按摩と言っても主に香油を肌に擦り込んで貰うだけだ」
「そうですか。それならボクでも出来そうですね。指圧とか言われたらどうしようかと」
「戦神なら人体のツボを熟知していて秘孔を突いて」
「何処の世紀末世界の話ですか?」
 ひとしきり笑ってから、サクトは湯舟を出る猪神について浴場を出る。
 泊まりというので離れに向かうのかと思ったが、猪神はそのまま二階へ上がっていく。
「ボク、付いていっていいんですかね? 料理とか運ばなくて大丈夫ですか?」
「腹が減れば各部屋から女中を呼べば良いことになっているので気にする必要はないのではないかな?」
「そんな仕組みなんですね……すみません、全然知らなくて……」
「誰も最初からものを識っているわけではないのだから、謝ることでは無かろう。良いことじゃ」
 事も無げにそう言い放ち、猪神は二階の奥の部屋へと向かう。
「本当は『萩の間』が好きなんじゃが、今日は予約で埋まっておるらしい。『菖蒲の間』じゃ」
 菖蒲の間と呼ばれるその部屋は、六畳ほどの小ぢんまりとした部屋だった。
 一人向けの部屋らしく、部屋の真ん中に少し大きめの卓と座椅子が一つ。布団がちょこんと隅に畳んで置かれていた。
 窓から外を見下ろすと、中庭らしい池に錦鯉が泳いでいる姿と、池の畔に咲き並ぶ菖蒲の花が見える。
 なるほど、それで『菖蒲』なのかとサクトは納得する。
「此処は何時でも四季の花が楽しめる」
「そうなんですね」
 浴衣の帯を緩めて座椅子に座る猪神に、窓の外を眺めていたサクトは慌てて駆け寄った。
「す、すみません」
「いやなに、綺麗な景色に見惚れる気持ちはよく解るでな」
「うぅ……申し訳ないです……あ、ご飯はどうされますか?」
「そうだな。実を言えば軽く食べてきたので、腹は減っておらん。――早速按摩を頼んで良いか」
「はいっ。じゃあお布団敷きますね」
 気を取り直してサクトが布団を敷くと、猪神が浴衣を脱いでうつ伏せになって寝転んだ。
「サクト――すまないが、私の荷物の中に、手のひらくらいの筒が在るだろう」
「お荷物失礼しますね。――これ、ですか?」
 それは確かに、小さな茶筒の様な形をしていた。
 蓋を開けると中は水筒の様な小さな口が在った。
 甘いような苦いような、不思議な香気が鼻につく。
「不思議な香りですね」
「蜂蜜と、西洋で言う処の香草と呼ばれるものを調合してあるという話だったかな。――私の様な獣が使うのは不思議に思われるかもしれぬが、猪というのは存外綺麗好きでなあ」
「よく山で“ぬた場”を見掛けたので識っています。――これをお客様の背中に塗ればいいんですか」
 サクトがそう答えると、何故か一瞬猪神は押し黙った。


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