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90's バトルロイヤル

1名無しさん:2015/10/20(火) 00:14:42 ID:S/90BWeU0
こちらは90年代の漫画、アニメ、ゲーム、特撮、ドラマ、洋画を題材としたバトルロワイアルパロディ型リレーSS企画です。

90's バトルロイヤル @ wiki
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/

90's バトルロイヤル 専用掲示板
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17336/

地図
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/pages/13.html

5/5【金田一少年の事件簿@漫画】
 ○金田一一/○高遠遙一/○千家貴司/○和泉さくら/○小田切進(六星竜一)

5/5【GS美神 極楽大作戦!!@漫画】
 ○美神令子/○横島忠夫/○氷室キヌ/○ルシオラ/○メドーサ

5/5【ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風@漫画】
 ○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○リゾット・ネエロ/○ディアボロ/○チョコラータ

5/5【ストリートファイターシリーズ@ゲーム】
 ○リュウ/○春麗/○春日野さくら/○ベガ/○豪鬼

5/5【鳥人戦隊ジェットマン@特撮】
 ○天堂竜/○結城凱/○ラディゲ/○グレイ/○女帝ジューザ

5/5【DRAGON QUEST -ダイの大冒険-@漫画】
 ○ダイ/○ポップ/○ハドラー/○バーン/○キルバーン(ピロロ)

5/5【幽☆遊☆白書@漫画】
 ○浦飯幽助/○南野秀一(蔵馬)/○幻海/○戸愚呂弟/○戸愚呂兄

5/5【らんま1/2@漫画】
 ○早乙女乱馬/○響良牙/○天道あかね/○シャンプー/○ムース

4/4【カードキャプターさくら@アニメ】
 ○木之本桜/○李小狼/○大道寺知世/○李苺鈴

4/4【機動武闘伝Gガンダム@アニメ】
 ○ドモン・カッシュ/○東方不敗マスター・アジア/○レイン・ミカムラ/○アレンビー・ビアズリー

4/4【サクラ大戦シリーズ@ゲーム】
 ○大神一郎/○真宮寺さくら/○イリス・シャトーブリアン/○李紅蘭

4/4【古畑任三郎@ドラマ】
 ○古畑任三郎/○今泉慎太郎/○林功夫/○日下光司

3/3【ケイゾク@ドラマ】
 ○柴田純/○真山徹/○野々村光太郎

3/3【ターミネーター2@映画】
 ○ジョン・コナー/○T-800/○T-1000

3/3【レオン@映画】
 ○レオン・モンタナ/○マチルダ・ランドー/○ノーマン・スタンスフィールド

2/2【ダイ・ハード2@映画】
 ○ジョン・マクレーン/○スチュアート

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169復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:55:07 ID:B.ilgdx20

 ディアボロは憎悪を滾らせ、診療所への道を急ぐ。
 ―――――だが、ディアボロは気づいていなかった。
 
 T-800がスタンドではなく、サイボーグであるということに。
 T-800がスタンドであれば、死んだ瞬間には消えていなければおかしいということに。

 ディアボロは知らなかった。
 T-800は腹と心臓をブチ抜いただけでは死なないということを。
 T-800が、かつて下半身が千切れた状態でサラ・コナーを追い詰めた存在であることを。

 そして、今の攻防によってプログラムに異常をきたしたT-800がサラ・コナーを殺すために1984年にやってきた、あの化物に戻りかけている事を。
 ディアボロは――――まだ、知らない。



【C-5 草原・1日目 深夜】

【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、右拳・右腕骨折、左腕に矢傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ミネラルウォーター1本消費)、不明支給品0〜2、オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン
[思考]
基本行動方針:ジョルノ・ジョバーナ、ノストラダムスのような強いスタンド使いを倒し、真の帝王として絶頂であり続ける。
     1:早く移動して腕を治療しなければ……ッ!
     2:ジョルノ・ジョバーナを始末する。
     3:ジョン・コナー、T-1000も始末する。
     4:傷が癒えるまでは、他の参加者と手を組むのもアリか……?
[備考]
※キング・クリムゾンによる時間跳躍及びエピタフによる未来視は5秒程度に制限されています。
※このバトルロイヤルにいるものは全てスタンド使いだと思い込んでいます。
※ポルナレフのシルバー・チャリオッツ・レクイエムによって死亡したため、ドッピオにはなれません。

【T-800@ターミネーター2】
[状態]:一時機能停止、腹部・左胸部が大破、顔の皮が無い、プログラムに異常
[装備]:ボウガンの矢×4
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2、ボウガン@ケイゾク
[思考]
基本行動方針:ジョン・コナーを守る→人類、ならびに指導者のジョン・コナーを排除する。
     1:……………。
[備考]
※参戦時期は少なくともジョンとハイタッチの遊びをした後です。
※過度なダメージとジハンキジゲンのオレンジジュースによって深層に眠っていたプログラムが蘇ろうとしています。
※再び起動するまで時間がかかります。 起動前にチップを抜き差ししなければプログラムの目的が人類の殲滅に変わります。
※ボウガンはT-800の脇に転がっています。

【支給品説明】

【オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン】
ジハンキジゲンのオレンジジュース。 飲むと心の奥底に隠れていた感情や性格が出てきてしまう。
人外にも有効。 通常はランダムに切り替わり、一定時間経つと解除される。
※T-800には内部へ浸透したことや頭部へのダメージによって効果が変化しています。

【ボウガン@ケイゾク】
真山徹のボウガン、矢は全部で6本支給。

170 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:56:10 ID:B.ilgdx20
投下終了です。

171名無しさん:2015/11/03(火) 03:27:44 ID:eQOuJDds0
投下お疲れ様です。
スタンド使いとターミネーターは惹かれ合う…?
というくらいにスタンド使いとターミネーターとのバトルが多い今ロワですが、頼もしい仲間のはずのT-800に物凄く不穏な展開の匂いが…
ディアボロは戸愚呂兄と同じループからの救済参戦
まさか自分の肉体持ってる奴がいるとは思わんだろうに…
もしブチャラティと会ったら、自分の肉体を傷つけるのか、少しはためらうのか…

172 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:20:40 ID:XkQeIA9c0
投下します。

173これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:21:29 ID:XkQeIA9c0



「はぁ……はぁ……」

 微かな潮の香りは、埃塗れの冷たい空気が鼻孔へと運んでいった。それを少しずつ摘まむように吸い込みながら、荒ぶる息を必死に押し殺す者がいる。
 空の蒼茫を塗したような青いチャイナドレスを纏った、齢二十に届くか届かないかの美女である。女性としてはやや高い身長とスタイルは、整った容姿と合わせて、さながらモデルのようであったが、彼女が選んだ道は、その美貌を売る道ではなく、その格闘の才能を発揮する道であった。

 この美女──春麗は、インターポールの捜査官なのである。
 中国拳法を極め、その実力は並み居る屈強な男性職員が、手加減抜きで挑んでも誰も敵わぬほどだった。一目見ただけならば華奢にも見えるが、脚部──特に大腿部──を見る機会があれば、いかに彼女が鍛え上げられた肉体をしているのかは判然とするだろう。
 彼女は、足技の達人であった。長い足から放たれるキックは猛獣すらも昏倒させるほどだ。腕も華奢には見えるが、これもやはり体重を軽々支えるほどの筋組織が、細い腕の中に綺麗に収まっているというだけだった。

 しかし、そんな彼女も、今回は普段と違って、能動的に事件に首を突っ込むわけでもなく、事件の方に招かれてしまった為、些か状況判断が遅れたらしい。
 いきなり、変な仮面の娘の襲撃に遭い、こうして倉庫群の間をすり抜け、無様にも逃げ回った結果、その中の一つに姿を隠したわけである。
 生半可な不意打ちならば返り討ちにも出来たはずが、相手も相当の格闘の達人であったらしく、おまけに春麗のよく知った武器を装備していた。
 それから先は、何の面白味もない防戦一方という状態で、何とか逃げおおせたものの、袖ごと破れた左腕の外皮からは、既に鮮血が流れ落ちている。春麗は、そんな左手を抑え、流血が床に痕跡を残すのを避けながら、一時休息している訳だった。

「はぁ……はぁ……」

 彼女自身、わけもわからぬまま飛び込んだこの倉庫群の一角。
 大麻のシンジゲートを追っていた春麗にとっては、こんな港を張りこむ時間は警察署の机に向かう時間よりも長い程お馴染みの場所だ。
 大凡、どの辺りにどういった物資が並べられているのかは察しが付く。
 ここに逃げ込めば、後は視界に入る物を巧みに利用して、追跡者の攻撃を撒く事も出来るかもしれない。
 ……尤も、背中に襲撃者の視線を残したままここへ逃げ込んだわけではないし、春麗も一時の休息を得る為にここへ入りこんだに過ぎない。
 左の二の腕あたりを見下ろすが、怪我はさほど深手でもない。これまでの戦いでも負うのも珍しくないような傷口である。しかしながら、敵の実力を見るに、今の状態では春麗の分が悪いと見えた。

「……はぁ……はあ……」

 そっと、音を殺すようにゆっくりとデイパックのファスナーに手をかけ、中の物を取りだしていく。必要なのは、灯や地図や名簿などではない。
 目当ての物──ペットボトルを掴み取ると、キャップを回す。そこからは、少し乱雑に左腕にさらさらと中の水を塗した。消毒薬も包帯もないが、血液を垂らしたままというのも気が引けたのだろう。

(何もないよりは……ちょっとマシよね)

 止血できるような物を探した所、出て来たのは女性用のパンティストッキングである。こんな物を一つの武器として支給した意図は春麗にも理解しかねたが、とにかく、今は止血という用途において、意外にも活躍しうる状況になっている。
 春麗は、それを少し引きちぎり、左腕に巻いて、口で端を加えながら結んだ。少々恥ずかしい気持ちになったが、案外、それを腕に巻いた外見は大きな違和感もなく、怪我を止血する布として、却って本来の用途が判然とし難くなっていた。
 それから、春麗はこのパンティストッキング以外に何らかの装備が無いかとデイパックを探る。
 そう……敵は既に、武器を装備していたのである。

(あのマスク……確か、シャドルーの幹部──バルログが身に着けていた物と同じだわ。
 もしかして、あんなのが流行ってるのかしら? それとも……)

 彼女を襲撃した人物は、春麗同様に中華民族衣装を纏った娘のようだったが、その相貌は両目の位置だけを細く繰り抜いたその白面に隠されていた。そして、右腕に装着されたサーベルタイガーのような鉤爪。──あれは、憎き犯罪組織シャドルーの幹部・バルログが愛用している物と全く同じであった。

174これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:00 ID:XkQeIA9c0
 故に、パンストの下に隠れた春麗の左腕の傷口も、三本の縦線型のひっかき傷だった。
 あれを早速もって見事使いこなし、春麗を翻弄したのだから、あの襲撃者は、武具の使用に慣れているか、あるいは余程順応性が高い人間であると言えよう。
 春麗は、考えながらも自分のデイパックから、武器を取り出した。

(……こんな状況だもの。こっちも得意なモノで対抗させてもらわないとね)

 春麗の手で、カチャリと音が鳴る。
 先ほどは一時撤退させて貰ったが、捜査官としての誇りと正義感は、あの手の危険人物を野放しにして、自分だけ平然と逃げのびるのを許してはくれなかった。
 格闘で真っ向から勝負させて貰えるシチュエーションではない今、一介の捜査官として、使用できる武器は懐に入れさせてもらう事にしよう。
 射撃が得意な春麗も、支給された、このオートマチック式拳銃“グロック17”を上手く扱えるかは微妙であるし──相手によってはリュウたちのように易々と弾丸を避けてしまうかもしれないが、ひとまずそこに弾薬を込める音を聞くとともに、彼女の中には覚悟の意思が溢れたのだった。
 まさに──この倉庫群の光景など、シャドルーを追いかける仕事をしている時の自分ではないか。
 鋭利な武器を持った敵と、少し対等な状況になった気がした。

「よしっ……」

 軽く自分の気持ちを奮い立たせるように言った。
 それから、大量に積み重ねられた麻袋の影を、春麗は屈む事さえなく進んだ。
 敵もまだ倉庫内への侵入は果たしていないであろう今、本来ならば警戒する必要があるはずなのだが、麻袋は所によっては春麗の身長くらいまで高く積まれており、そこまでする必要はないように思った。
 とはいえ、まだあの仮面の娘が付近にいた場合、先に姿を見せるわけにはいかないが……。
 ──などと、考えていた時である。

 この薄暗い倉庫の入り口を、ランタンの小さな灯が倉庫の一角を照らす。無警戒に歩を進める足音がコツコツと響く。
 春麗の目の前では、壁に大きな影が映ったり、映らなかったりしていて、相手のランタンを右へ左へ動かし、何かを探そうとしている仕草を容易に想像させている。

 ──来た!

 仮面の娘は、倉庫の中を順に探索していたのだろう。
 春麗を追う影は思った以上にしつこく春麗を捜索していたらしい。付近に人影がなかった為、一度見つけた獲物を逃がさぬよう心掛けたに違いない。本格的に勝ち残りを目指す場合、敵を泳がす訳にはいかないようだ。
 しかし、春麗の準備は既に万端である。
 最後に、タイミングを見計らって再び麻袋の陰から少しだけ顔を覗かせ、その人物の姿を目に焼き付けた。──そこにあるのは、間違いなく、先ほど春麗を襲った仮面の娘だ。右腕は三本の刃を尖らせ、切っ先には微かな血の痕がまだ残っている。
 恨みは充分。理由も充分。

 そして、先に姿を見せた方が──今は、不利!

「はぁぁぁぁっ!!」

 春麗は、高く声を上げながら飛び上がると、麻袋の真上に右手を置き、跳び箱の上を撥ねるように、両脚でその上を飛び越えた。
 恐るべきはその軟体で、足は綺麗に一本の横線を作るように開いている。いわば真横に果てなく広がった跳び箱の上を飛び上がるような物だ、それくらいの芸当が出来ずしてここから不意打ちを浴びせる事は出来まい。
 力がなかったのなら、とうに逃走の道を選んでいる。

「!?」

 完全に不意を突かれたらしく、仮面の娘が少し遅れて春麗を見上げ、愕然としている。
 仮面の下が美人かどうかはわからないが──その下の目玉を広げた表情を想像して、春麗は勝気に微笑んだ。
 そして、次の瞬間、着地よりも早く、目の前の仮面のど真ん中に、左足を叩きこんだ!

「ぐぅっ……!」

 仮面の真下からの呻くような声が、春麗に手ごたえを与えた。
 それから、春麗は自分の耳に着地音が鳴ると同時──仮面に叩きつけた左足を軸に速度をつけて背中から回転する。
 右足を高く上げ、その踵が仮面の娘の右腕に激しく叩きこまれた。

175これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:24 ID:XkQeIA9c0

 ──回し蹴り!

 相手の弱点を二か所、ぶつけたような物だった。
 最初に、顔面。あの白面がいかほどの防御能力を持っているのかはわからないが、ああして密着しているという事は、そこに攻撃を受ければ、当然ながら、盾ごと押しつぶされるような痛手を追う事だろう。
 相手が娘であるのはわかっているので、同じ女として心苦しいところだが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。
 次が、攻撃の拠点である右腕。あの鉤爪攻撃を予め封じておく事が出来る一撃。上手くすれば、一撃で骨が砕けるようなキックであるが、そんな手ごたえはなかった。余程頑丈な身体をしていると見える。
 しかし──確かに効果的だった。
 ここからは、攻撃の隙も与えず、更に攻めるのみだ。

「えいッ!」

 よろけている敵に、まるで床を滑らすようにして左足の蹴りを叩きこみ、確実にバランスを崩す。──相手は春麗の奇襲と猛攻に、かなり怯んでいるようであった。
 あまりに一方的にやりすぎて、少しは手加減もしてやろうかと思った矢先、敵は渾身の力で右腕を動かし、その研ぎ澄まされた三本の刃を春麗に向け構えた。
 それが、春麗に思い浮かんだ躊躇を完全に殺した。

「イヤァーーッ!」

 春麗は、そう叫んで、アクロバティックに身体を回転させながら、仮面娘の頭上を飛び上がる。人間の身長を優に超える高さを軽々飛び越える、人間離れした身軽さ──。
 弱った仮面娘の揺れ動く視界が、それに気付けるはずもなかった。
 これで敵に充分すぎるほどの隙が出来たわけだが、あまり激しく痛めつけまくるという程でもない。
 ──しかし、少なくとも、地面には伏してもらう。

「百裂脚!」

 そのまま、敵の真後ろに立った春麗は、片足だけを軸に立ち、恐るべきスピードとバランスで、何発もの蹴りを敵の背中に放った。
 幾つもの脚が、見る者の瞳の中に残像として焼きつけられるほどである。
 ダダダダダダダダダダダダダ……!
 仮面娘の背を、尻を、髪を、何度も叩きつけるキックの連打。
 一瞬で、百に届きかねないほどの蹴りを放つ事もできるが、春麗自身の疲労も大きく、あまり無理に百回の蹴りを叩きこむ必要もなかった。
 その四分の一でも過剰なほどであったが、多少過剰なくらいでなければ犯罪者を捕縛する事は出来ない。──そして、そのボーダーラインが、見事に敵の限界だったようである。

「ぐぁ……っ!」

 仮面娘も、後方からの連撃に耐えられず、あっけなく沈んだ。──春麗の脚が止まる。
 倉庫の床にマスク越しに叩きつけられるように倒れた仮面娘の右腕第二関節を、春麗の右脚が踏みつける。体重は強くはかけなかったが、それでも充分に右腕の自由を奪える力加減であった。
 スチャ、と音を立て、春麗が懐から銃を取り出し、仮面娘の背中に銃口が向けられた。手際は見事である。

「ふぅ、一件落着──『やったぁ!』って、両手を上げて喜びたいところだけど」

 この娘の殺意を春麗は感じ取った。故に、ここまでの行為に容赦はない。
 ──だが、これ以上は、あくまで職務を逸脱しない尋問である。

「くっ……」

 不覚を取り、奇襲とはいえ敗北を喫した仮面娘は、悔しそうな声をあげている。
 じたばたと抵抗を続け、右腕が未だ必死に動かされようとしているのを、春麗の右脚はブーツ越しに感じ取れた。
 どうやら、この娘の殺意は簡単には拭い去れない物らしい。
 一応、事情を訊こう。

「インターポールの春麗刑事です。公務執行妨害及び傷害の現行犯で簡単に事情聴取をしておきたいところですが──その前に、まず、その仮面を取ってもらおうかしら?」

 形式的な敬語の挨拶を即座に取りやめ、少々横柄に仮面娘に尋問する春麗だった。
 仮面を身に着けた相手というのは何ともやりにくい物で、会話ともなると透明な壁と戦わされているような気分だった。
 その前に、まずは仮面を取らせようとする。

176これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:51 ID:XkQeIA9c0
 春麗自ら仮面に手をかけるより、彼女の空いた左腕に頼った。右腕の自由が奪われ、床に伏し、銃を背中に突きつけられている手前、普通の犯罪者ならばここで指示に従わない事はほぼありえない。
 ──が。
 彼女は、その“ほぼ”の例外に属する人間だった。

「春麗、か……。覚えたある。……ならば、春麗! 私を甘く見るな……!」

 そう啖呵を切ったかに思われた次の瞬間──仮面の娘は、拘束されていない左腕を胸の下に潜ませ、そのまま、左腕を思い切り伸ばした。床を蹴とばして飛ぶように、彼女は、左腕だけで、身体を飛ばしたのである。
 そして、彼女の右腕もまた、身体に釣られるようにして少し持ちあがった。──いや、春麗の身体ごと、持ち上げたのだ。力なき右腕ならば、当然ながら持ちあがる事もなく、左半身だけが寝返りを打つように天井を向くだけである。

「えっ!?」

 ──伸びきった仮面娘の右腕は、まるで、胴体と繋がった鉄骨のようだった。
 勿論、春麗は、それが宙に浮くとともに、そのままバランスを崩した。
 仮面の娘は、春麗の拘束を逃れて、宙に飛んだかと思いきや、そのまま後方に回転して見事、着地せしめたのである。

「──!」

 嘘でしょ、という春麗の心の声は、声にならない。
 愕然としたまま、少女に向き合う。

 少女の背中に突きつけていた拳銃の引き金を引く事は、結果的にはなかった。
 もしその引き金を引いてしまえば、春麗はこの少女を“殺害”する事になってしまうのが明らかだったからだ。──致命傷となりうる場所に銃を向けたのは、“威嚇”の為であって、“殺害”の為ではない。
 この少女は、おそらく、その躊躇を読んでいたわけではないが、おそらく、春麗が発砲するリスクも読んだ上で、拘束を逃れようとしたのだろう。

(半端な実力じゃない……!)

 やがて……構える春麗の前で、少女はその白いマスクを取った。
 春麗の要望に応えたわけではないのは、状況を見て明らかだ。もはや彼女の言う事を聞く必要は、拘束を逃れたこの少女にも皆無だ。
 それを取り去ったのは、彼女自身の都合による物である。

「……!」

 春麗も、その姿には驚きを隠せなかった。
 真っ直ぐに春麗を睨むその大きく円らな瞳も、仮面に隠されていた顔の輪郭も、幼い少女のようでありながら、大人びたようにも見えてしまう、不思議な色気のある美少女であったからだ。
 よもや、こんな少女の顔面に蹴りを叩きこんだのか、と春麗も思う。
 しかし、その瞳は憎悪に満ち、春麗への殺気立った思いを隠さなかった。

「ちょっと……あなた……」

 思わず見とれた春麗は、こちらへ向かってずけずけと速足で歩いて来る彼女を前に構えたが、それに対して、全く構う事なく、彼女は歩み寄ってくる。
 しかして、攻撃の気配がなく、それが春麗の反撃を躊躇させた。何かが彼女にストッパーをかけているような気がした。
 仮面をつけた時以上に、彼女の雰囲気は不気味に映った。

 そして──その仮面の少女は、春麗の眼前すれすれに立つと、思いもよらぬ行動に出た。

「──!?」

 春麗の顎に左手をそっとかけると、そのまま、春麗の頬に唇をつけたのである。
 所謂、キスだった。
 女同士である故、彼女が突然にそんな行為に出た理由は春麗にもまるでわからない。しかし、唇と唇で行うのではなく、頬に向けてそっと行うのは、何か挨拶や儀式のような“意味”を感じさせた。

「……」

 彼女は戦いを通して同性の春麗に惚れこんだわけではないらしい。──宣戦布告、と捉えるのが普通だろう。

177これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:12 ID:XkQeIA9c0
 柔らかい感触を頬で味わい、まだ少し濡れた左の頬をゆっくりと拭った春麗は、“接吻”を終えた少女の、凛然とした瞳を見つめた。やはり、思った通りの意味であるらしい。
 そして、その気になれば本当のキスが出来てしまうほどのこの距離──何かとてつもない恐怖を覚えた。

「お前も覚えておくね、私の名はシャンプー」

 中国娘は、自らの名前を名乗る。
 ぶっきら棒で、不良めいた言い回し。黙っていれば大人しく無邪気な少女に見えるだろうが、闘争の場に相対した時、彼女の存在は悪魔にさえ見える。
 そして、彼女は即座に、再び三本の刃をぎらつかせた。仮面を外させる事に対して、この鉤爪を奪うのは格段に難易度が上がる。故に、まだシャンプーの右手は刃に覆われたままだった。
 ──殺気。
 春麗は後ろに飛ぶ。

「春麗……おまえ、殺す!」

 シャンプーの声が響くのと、鉤爪が春麗のチャイナ服の胸の下を横一文字に裂くのは、ほぼ同時だった。──今度は、肉体へのダメージはないが、少々嫌な所を破られたらしい。
 胸と腹とを繋ぐ空洞の“段差”のあたりに穴が開く。
 春麗は、もう何歩か後ろに飛び、先ほどより固く構えた。

「──フゥッ! ……あなた、やっぱり勝ち残りを望んでいるみたいね」
「……お前は違うあるか!」
「ただの格闘大会なら喜んでそうさせてもらうわ……でも、生憎、人の命を奪う趣味はないのっ!」

 春麗は、グロックを構え、シャンプーの脚を狙って引き金を引く。まずは無力化を狙った。春麗はこれでも捜査官の中で指折りの射撃の名手である。格闘戦だけでなく、警察官としてのあらゆる能力において、男性にも引けを取らない名刑事だ。
 胴のように、ずぶの素人でも命中させられるわかりやすい的を狙う必要はなかった。
 たんっ! と、銃声が鳴る。──しかし、シャンプーは、それが命中するよりも早く、右方に回避し、速度を増して春麗に肉薄した。

「アイヤァッ!」

 春麗の胸があった場所に向けて鉤爪の切っ先を向けながら、シャンプーは駆けだす。
 だが、それよりも早く、春麗は足を地面の上に置くのをやめ、飛び上がった。──シャンプーは、空中で膝を曲げる春麗の真下を駆け抜けていく。

 猪突猛進に春麗を狙ったシャンプーの一撃は、そのまま、春麗の背にあった麻袋へと突き刺さった。腹立たしそうにそれを思い切り引き抜くと、麻袋には相当大きな穴が開いたらしく、真っ白な粉が大量に零れて落ちる。
 どうやら、春麗の背にあったのは、小麦粉の山だったらしい。

「──……理由は何かしら? それだけ実力を磨きながら、こんな戦いに乗る理由は……!」
「教える必要はないあるっ!」

 再度、シャンプーの背後にいた春麗に向けて、鉤爪は空を掻く。
 春麗に接近し、一振り、二振り、鋭い刃たちが空ぶった。
 シャンプーの攻撃の角度やタイミングを読み始めていた春麗が、軽いフットワークで回避に徹したのだ。
 対して、春麗にはまだ幾つか使用していない切り札もあった。

「教えてくれなきゃ、困るのはあなたの方だけどねっ!」

 言いながら、春麗は二つの掌を床につき、倒立をするように自分の体重を持ち上げた。しかし、倒立と決定的に違うのは、両脚を開いている事である。
 そして、その手を放し、そこから繰り出されるのは、腕を床の上で回し──全身を駒のように回しながら、回転蹴りを何度も敵に叩きつける荒業。

「スピニングバードキック!」

 なんとこの技、本来なら手を一度地に着かなくてもやってみせるというのだ。
 何発もの蹴りがシャンプーの頬に命中する。春麗の脚線を見れば、まるで丸太の直撃を受けるほどのダメージを受けるのではないかという心配をする者も現れるだろう。
 シャンプーが動機を秘匿する限り、春麗も“理由なき殺人者”として、シャンプーを冷酷に追撃しなければならない。──同時に、説得も不可能になってしまうと来ている物だから、シャンプーにとってはデメリットの方が大きい。
 こんな荒業をぶつけるにも躊躇がなくなる、というわけである。

178これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:34 ID:XkQeIA9c0
 シャンプーの身体は、その攻撃の勢いのあまり、地面を離れ、勢いよく車にでもはねられたかのように、麻袋の山に向けて叩きつけられた。

「くっ」

 吹き飛び、晴れた右の頬を左の手の甲で拭いながら、まだ戦意を喪失しないシャンプーであった。──どうやら、負けられない理由でもあるようにさえ見える。
 だが、たとえ理由がどうであれ、人を襲うスタンスである限り──そして、自らに敵対する限り、春麗はシャンプーと戦い続けなければならない。
 シャンプーは、ずきずきと痛みの残る右の頬をしきりに拭った。

「……今のは、さっきのキスのお返しよ!」
「“死の接吻”の事あるか」
「死の接吻……?」

 どうやら、先ほどの接吻にしても、何か物騒な意味があるらしい。
 そう、やはり儀礼的な何かであるようであった。──「死」という意味の。

「私たち女傑族の村の掟──もし、よそ者の女に負けたら、その相手、地獄の果てまで追いかけて殺すべし! 死の接吻はその証かし!
 中国の村の掟、絶対ね! 中国人のお前にもわかるはずある!」
「全然わかんないわよ! あなた、どこの田舎者!?」

 中国の悪い噂がまた広まってしまいそうだと思った春麗は、少し頭を抱えつつも、シャンプーの殺意は偽物ではないのを実感する。
 根本的に彼女が殺し合いに乗った理由はわからず終いであるが、いまどき殺戮の掟がある部族である以上、下手をすれば、この殺し合いに乗る事もまた宗教的な理由や儀礼的な理由による物である可能性は否めない。
 となると、真正面からの対話は不可能と見ていい。現代社会の法律を逸脱する常識が刷り込まれている以上、説得にはかなりの時間を要する事になってしまう。
 ここは、春麗も体力を消費するよりは、──手早く、自由を奪うのが良いと決定した。

「──」

 春麗は、グロックを構え、狙いを定める。
 敵は銃撃を恐れていない。──しかし、銃口の向きで回避を企てている。
 と、なると。
 ──命中率は僅か。
 だが、それでも。
 いや、だからこそ──。
 ここで決める!

 たんっ! ──と。

「──!」

 銃声が轟き、弾丸は目の前の物体を抉るように突き進んだ。──視認できないほどに素早く、それは、春麗の手の中の物体から離れて行く。

 だが……シャンプーには当たっていない。

 それどころか、シャンプーは、回避という手段さえ取らなかった。
 春麗は、全く的外れな所に弾丸を命中させたらしく、彼女が避ける必要は皆無だったのだ。それは、銃口を見ても明らかだった。
 シャンプーの脚と脚の間をすり抜けるようにして進行した弾丸は、シャンプーの真後ろにあった麻袋の山に命中した。
 何段目の麻袋かはわからないが──いや。
 しかし。
 それこそが、春麗の狙いだったのだ。

「……どうした、外したね。──撃たないならば、こっちからいくある!」
「どうぞ──」

 さらさらさらさら……。
 小麦粉が、床に零れていく。まるで砂時計が時を刻むように。
 焼けこげた小さな穴は膨れていき、下から三段目の麻袋は、形を歪ませて萎んでいった。
 四段目の麻袋が傾く。
 五段目の麻袋はそれにつられて傾いて行く。
 六段目も、七段目も……もっと大きく──。
 中身がさらさらと落ちていくのを見つめながら、春麗はニヤリと笑った。

「──ご勝手に!」

179これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:07 ID:XkQeIA9c0

 一歩を踏み出そうとしたシャンプーの背後で、大きな影が崩れだした。
 それは、積み上げられていた小麦粉の麻袋の山であった。
 
 下の麻袋が形を変え、穴の開いた方から崩れていった時──その上に積み重ねられていた麻袋はどうなるか。
 自らを支えていた麻袋がそれまで保っていたバランスを崩した時、真上にいっぱいに小麦粉を詰め込んだ麻袋の山は、当然ながら──小麦粉の量が減ってしまった方に傾く。
 そして、それが春麗の身の丈ほどまでに積まれていたのならば、元々のバランスも決して良い物ではない。
 ──結果。

「なっ……!?」

 シャンプーが一歩を踏み出しながら、奇妙な崩落音に気づいた時には遅い。
 それは、振り向いたシャンプーの視界を覆い、そのまま彼女の上に重たい豪雨として降りかかった。──一つあたり何キロというほど、ぱんぱんに膨らんだ袋だ。並の人間ならば首の骨を折ってもおかしくない。
 一斉にそれが全身に叩きつけられ、シャンプーは悲鳴をあげる事もなく、地面に倒れ込んだ。中には、今の衝撃で破れた袋もあったので、下敷きになったシャンプーは小麦粉まみれである。
 粉塵となった小麦粉はその一角にだけ真っ白な霧を作る。

「やったぁ!」

 春麗は、今度こそ両手を挙げて大喜びをした。
 見事──シャンプーをノックアウトできたようである。
 まあ、たとえ勝利せしめたにしても、警察組織のバックアップがないので、小麦粉まみれで伸びたシャンプーをどうするかという所まではいかないが、ひとまず無力化したわけだ。
 手錠もない現状、ひとまずは武器を奪い、例のパンストを両手にでも巻いて拘束するくらいしか出来ないが──それは絵面的にどうかと思い、春麗も内心では躊躇を禁じ得ない。
 が、それくらいしか拘束方法はない。
 仮にも危険人物であるシャンプーを前に、あまり迂闊な行動はとれないだろう。

「えっ……!」

 と、大量の麻袋の下敷きになった、小麦粉まみれのシャンプーに近寄った時である。
 鉤爪を装備したシャンプーの右手が、微かに動いた。
 ──ぴくり、と。
 そして、彼女の瞳は、──はっ、と、突然に開いた。

「──ッ!」

 まるで何かに揺り起こされたかのように、彼女は、力強く起き上がった。
 全身を結構な重量で打ち付けられ、挙句に真っ白の粉塗れになったシャンプーは、苦渋に満ちた表情で、肩を大きく上下させた。
 しかし、春麗としては、それだけでもまるでゾンビを目の当りにしたかのような憮然とした表情で見つめるしかできなかった。

「嘘……あなた、まだ戦えるの!?」
「忘れたあるか……。──私に勝った“よそ者の女”、地獄の果てまで追いかけて、殺す!」
「そんなくだらない掟の為に……なんて執念なの……!?」

 優位な春麗でさえ、そんな彼女には悪寒がした。
 ストリートファイターならば、かなり敬意を表せる相手であると思う。
 並々ならぬタフネスと執念。それは、既に彼女を人間の実力を越えた格闘者に育て上げていた。
 だが、彼女は、格闘の力を使い、“戦う”のではなく、たとえ誰であっても“殺す”道を選択した。──ならば、春麗も、捜査官としての顔を見せなければならない。
 おそらく、春麗よりも年は下だが──本気を出させてもらう。

「──」

 ここでは狭い。
 春麗は、ちらりと自らの後ろを見ると、急いで倉庫の外へと駆け出す。
 ──シャンプーは、よろよろと身体を揺らしながらも、春麗を追うように倉庫の外へと出た。それはさながら、亡霊であるかのようだった。
 冷えた潮風の香りは、より一層きつくなる。
 まるで世界そのものが広くなったかのような、暗い港。

「はぁ……はぁ……──でやぁぁぁぁっ!!」

180これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:29 ID:XkQeIA9c0

 早速だ。
 シャンプーは、春麗を仕留めようと、鉤爪の切っ先を向けたまま駆けだしてきた。前と同じく、猪突猛進に──。
 春麗はそれを回避するが、タイミングは些かずれ込んだ。シャンプーの攻撃が、疲労によって大きく鈍っているせいで、却ってタイミングが崩れてしまったのだ。それくらいの事も読めなかったのは不覚であったかもしれない。
 次の瞬間、彼女が我武者羅に決めた、突き上げるようなアッパーは、春麗の胸部を盾に引っ掻いた。──春麗の衣服は、胸の部分だけ、T字を逆さにしたようにめくれ上がり、真っ白な両乳房を露わにする。

「──あっ!」

 ……いや、シャンプーの疲労が読めなかったのではない、と春麗は思った。
 自分も、彼女との激戦で想った以上に疲労を蓄積したのだ。やはり、シャンプーは相当な実力者である。こんな物を使わなくても春麗を渡り合えるだろう。

「アイヤァッ!!」

 シャンプーもまた、脚を振り回すように春麗に蹴りを叩きこもうとする。
 だが、それが命中するよりも前に──。
 春麗は、シャンプーの頭上を飛び越えるように、高く飛び上がり、シャンプーの後ろに立った。──そして。

「百裂脚!!」

 先ほどと同じく──春麗のつま先から、何発もの蹴りがシャンプーの身体にめり込んだ。
 シャンプーは直前に春麗に振り返ったが、反撃の余地はない。待っていたのは、無数のキックの嵐である。──そして、それは、シャンプーの顔面にも、胸にも、腹部にも、等しく向けられた。
 しかし、賛辞であるのか、それとも、春麗が恐怖を抱いたという事なのか、先ほどよりも過剰な連撃が、シャンプーに浴びせられたのだ。
 そして、シャンプーの背には、今度は、海があった──。
 彼女は、ついに力を失い、背中から、海に向けて、吹き飛ばされて落ちていったのである……。



──K.O!!──



 やりすぎただろうか、と、水面を見下ろしながら春麗は思った。
 ……しかし、揺れる水面を見つめる春麗の前にあったのは、驚くべき光景だった。






 倉庫群の陰には、そんな中華美女二人の争いの一部始終を監視している者がいた。
 彼の名はスチュアート大佐。
 かつてまで軍人であったが、今やテロリストという汚れた役職で呼ばれて然るべき男だった。──彼は、目的の為に民間の旅客機を一機、巧妙な手段で撃墜した程である。彼の上司であるエスペランザ将軍と共に、おそらく半世紀は語り継がれる悪魔の名となるであろう。
 彼も格闘技においては軍部でも右に出る者がないほどの実力者であったが、だからこそ倉庫の中で繰り広げられていた恐るべき闘争に絶句せざるを得なかった。

(あのアジア人の娘たち……かなり腕が立つ。いや、かなりという次元じゃない)

 スチュアートは、垂直跳びで人の体重さえも超えてしまうような女の戦いを目の当りにしていたのだ。それは、手から砲撃を出したピンク色のワニの死(スチュアートはこれをあの光景をあまり過信してはいないが──)よりもずっと、身の危険を実感させる光景となった。
 とはいえ、スチュアートには、この殺し合いで勝ち残らなければならない理由が存在している。
 今の光景はスチュアートの大義を揺るがす決定打とはなり得なかった。

(──私は勝ち残って遂行すべき任務がある。
 故に、彼女たちもターゲットの一人として抹消せねばならない)

 そう。彼の目的は、エスペランザ将軍の奪還。

181これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:50 ID:XkQeIA9c0
 その為に、大勢の部下を従え、ダロス国際空港において、空港の管制中枢を乗っ取って、その機能を麻痺させた。
 そのダロス国際空港も、どういうわけか日本の東京タワーやイタリアのコロッセオなどと共に、この場に同名の施設があるようだが、彼としてはそれがそのまま存在している事実には懐疑的である。
 その座標に存在する物に関する何らかの暗号、あるいはコードネームとして「ダロス」、「東京」、「コロッセオ」などのシンボル的名称を用いていると解釈している。
 何にせよ、彼の目的は、多くの部下を従える一介の軍人としての“勝ち残り”。──その為ならば、如何に冷徹な手段も厭わない。

(ジョン・マクレーン……貴様も同様だ)

 たとえ、あの有名なニューヨーク市警(いや、今はサンフランシスコ市警だったか)が相手であっても同様である。
 奴には、空港で多くの部下を殺された。
 我々の作戦を妨害しようとしていた男だが、おそらくスチュアートが真正面からぶつかれば敗北するような相手ではないだろう。

(だが、いかにこの私といえども、今の連中と正面からの戦闘で勝ち残るのは分が悪い)

 問題は、マクレーンではなく、春麗やシャンプーのような、スチュアートも及ばないレベルの超常的な格闘能力を持った連中だ。
 これまでに見て来た中国人の兵隊たちを凌駕したその格闘の実力を見るに、この殺し合いに呼ばれた連中は、「驚異的な戦闘能力」あるいは「卓越した知力」など、何らかにおいて優秀な能力を持つ者たちであろう。

(……だとすれば、ひとまずは、マクレーン以外の連中は上手く仲間として取り入るのが最善の策か)

 あの春麗という娘──奴もインターポールなどという素性を明かしていたが、だとすれば、スチュアートも安易に接触するのは不味い。
 ひとまずは、この場からは上手く去り、彼女たちと戦闘にならないように心がけ、周囲の連中を利用する。
 ──そうだ。
 それより前に、倉庫に残っている筈の、シャンプーの支給品を奪っておくのが得策であろう。武器は多い方が良い。幸いにも、このデイパックは何故か重さを感じない。
 戦場とは違い、武器を持ちすぎる事が首を締める事にはならない筈だ。

「──」

 スチュアートは、春麗の方を見た。
 彼女は、どうやら、シャンプーを追って水面まで飛び込んだようである。──ならば、ひとまずは、彼女の目はないわけだ。
 彼は、急いで倉庫内に立ち入り、彼女たちの戦闘が繰り広げられていた場所へと駆けつける。──思った通りだ。
 シャンプーのデイパックと、彼女が装着していた仮面が残されている。
 武器類があるか確認するのは後だ。春麗と遭遇しない内にこれらを回収してここから出て、不要物を捨てて武器を得る。
 これが得策と見た。
 彼は、すぐに倉庫から外を見たが、春麗はまだ陸に上がってこないようなので、すぐに倉庫の外に出た。

「にゃー!」

 と、その瞬間、真後ろから、変な鳴き声が響いた。
 流石のスチュアートも心臓が飛び出そうだったが、どうやら、ただの野良猫のようである。
 水でも被ったかのように全身びしょ濡れだったが、スチュアートは、そんな野良猫を小声で追い払おうとする。

「なんだ、猫か……あっちに行け! シッ! シッ!」

 そう言って、発情期のようにうるさく泣きわめく猫を背に、スチュアートは走りだした。番犬に吼えられている泥棒の気分だ。だが、少しでも早く逃げなければ、目立って春麗に見つかってしまう。
 その猫は、少しだけスチュアートを追いかけようとしたようであったが、どうやらその猫も相当の疲労に参っていたようで、すぐに追い払った。
 幸いにも、春麗にも見つからずに済んだようである。





182これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:08 ID:XkQeIA9c0



 一方、春麗は、港を見下ろしながら、自分が一つのミステリーを目の前にしているのを実感していた。

「……どこに消えたのかしら」

 春麗は、海を見つめていたが、そこに浮かんでいるのは、シャンプーの着用していたチャイナ服と、鉤爪だけだった。
 彼女が逃げのびたならば、何故、彼女は服を脱ぎ、武器を捨てたのだろうか。
 それは春麗にもわかりかねる。
 まるで脱皮したように──というか、シャンプー自身の身体が、まるで水の中に溶けて消えてなくなってしまったようだった。
 春麗が目を離したのもそんなに長い時間ではなく、シャンプーが水に落ちてすぐにそこに目をやったはずなのに、既にそこに彼女の姿はなかったのである。
 ……ただ。

「……これじゃあ、流石に表を歩けないもんね。悪いけど、ちょっと貸してもらおうかしら」

 春麗は、その豊満な両乳房を覆っていた服が引き裂かれて、手で押さえなければ乳房が曝け出されてしまうような状態にある。こんな状態で歩いていれば、まるっきり痴女だ。
 小麦粉の白色がこびりついた上に、びしょ濡れであるものの、後で乾かしてどうにか着替えとして使わせてもらおう。
 ……体格も違うし、やはりサイズに無理があるだろうか?
 しかし、まずはそれを深く考えず、春麗は、海に飛び込み、シャンプーの衣服とバルログの鉤爪を回収する事にした。







 一匹のびしょ濡れの猫が港を歩いていた。
 首輪はサイズが縮小され、猫の首についている。
 この雌の猫もまた、この殺し合いの“参加者”の一人である。

(あの男……最低の泥棒ね!)

 スチュアートが“自分の”デイパックを持ち逃げするのを、この猫は見ていた。
 必死に罵倒したが、それは猫の声帯では鳴き声以上の何にもならない。──言ってしまえば、彼女はこの“体質”のせいで全部、失ってしまったわけである。
 これも、何もかも春麗のせいである。

(ああ、これで全部なくなってしまった)

 この猫はもう素寒貧だ。
 支給品なし、武器なし、服なし。
 さて、この猫の正体──それは、何者か。

「くちゅんっ!」

 くしゃみする猫は、つい先ほどまで、冷たい水の中に浸かっていた。
 あの春麗に突き落とされたのである。
 ──そう、この猫の正体は、勿論、あの仮面の格闘家・シャンプーであった。
 一見すると愛らしい猫のようでありながら、それは、この殺し合いに乗り、春麗の命を狙う中国の刺客なのである。

(やはり──乱馬以外の者、皆邪魔者……! 殺す!)

 スチュアートに支給品を奪われた事で、彼女の中の覚悟は風船のように膨らんだ。
 ああして巧妙に人目を盗んで武器を強奪する者もいる。──やはり、このバトルロイヤルに乗っている人間は自分以外にも大勢いるのだ。
 元々、性質の悪いあの手の参加者は、殺害を躊躇する必要はない。
 ……今も同じだ。早乙女乱馬以外、全員殺してみせる。

(見ていろ春麗。すぐにまたお前を殺しに行くね……そして、天道あかねも)

 女傑族の彼女には、「殺人」の掟もある。
 かつては天道あかね、そして、今、春麗にその口づけを施した。これから先、シャンプーは、掟に従って彼女たち二人を殺す為に戦わねばならない。
 それに限らず、ここにいる者たちは容赦なく六十五人殺し尽くし──そして。

183これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:31 ID:XkQeIA9c0
 早乙女乱馬を、優勝させる。

(待っててほしい、乱馬……。私は、女傑族の戦士ね……これが、忘れかけていた私の本質──)

 彼女にとって、殺し合いの始まりと、二人の人間の死は、自分の本当にあるべき姿と目的を思いださせてくる起爆剤となった。
 勿論、あの説明を聞いた時は、誰が言う事を聞くものかと思った。
 しかし、その直後、何故自分は──誰かを殺す事を忘れてしまったのか、ふと考えてしまった。殺し合いに忌避や嫌悪の念を抱く自分に気づいてしまった。
 そして、二人が死んだ時に、彼女は思った。

 ──自分は、こうしてあかねを抹殺しなければならない、女傑族の一員なのだと。

 絶対の掟を忘れ、あかねやムースと親しくなりつつあった自分──それは武闘民族の一人の女として、本来ならば恥ずべき姿だった。
 女傑族の長たる曾祖母も見逃していたようだが、そうであるようで、もしかしたら戦士としての何かを忘れて行くシャンプーを見張っていたと言えるのかもしれない。
 法治国家日本──まともに殺し合う事は許されず、武闘ではなく労働で暮らし、掟もなく自由に恋愛をする大都会。その甘美な蜜を吸い、だんだんとシャンプーの心は甘くとろけてしまっていたのかもしれない。
 だが、本当に殺し合わねばならない今──それを再び、正す必要がある。

(あかねも、殺す……)

 いつの間にか、天道あかねの顔を見ても殺そうなどとは思わなくなった。
 ただ、乱馬との仲を引き裂ければそれで良いと──シャンプーは、あかねに対してそう思い始めていた。
 しかし、掟に従うならば、それは決定的な過ちとしか言いようがない。
 死の接吻を施した相手に、何故甘い顔を見せようか。

(それに、ムースも……)

 幼馴染のムース。
 最低の男だが、今も共に働いているほど付き合いは長い。仮にも、一図にシャンプーを想い続けている馬鹿な男だ。
 彼も、乱馬の為に消さなければならない。
 いずれにせよ、彼は掟によりシャンプーとは結婚する事が出来ないのだ。

(最後には、私自身も……)

 そして、仮に乱馬以外の全てを殺したとして──最後には、乱馬と自分だけが残る。
 その自分も、結局、“最後のターゲット”になるわけである。
 勿論、二人で上手に生き残れるならば、どんなセコい手を使っても、シャンプーはその手段を使うつもりだが、逆に二人以外の存在は抹殺するしかない。
 自分が女傑族である事を、思い出す為に。
 自分の本来の目的を、忘れぬ為に。
 それを試されている気がした。

 あの場には幼い子供もいた。シャンプーも、実のところ、女傑族という枷を外せば、子供をかわいがるような側面も持っている普通の少女だ。
 ──しかし、そんな子供たちも今は敵だ。

 いつか、こんな日が来るかもしれないとは、シャンプーも薄々思っていたのかもしれない。
 いかに、これまでの日々にシャンプーが少なからず楽しいという感情を抱いていたとしても、結局は、シャンプーの目的は元々、乱馬を殺す為だったし、一時はあかねを殺す事も考えていた。
 今は、かつての自分に戻っただけだ。
 感傷に浸る暇はない。

(乱馬なら、しばらく放っといても平気ね。私は邪魔者を消していくだけある……)

 乱馬は──早乙女乱馬は、初めてシャンプーに勝てた男なのだ。
 中国の村の掟は、絶対だ。

 女傑族の娘がもし余所者に負けた時、その者が女だったならば、殺すべし。
 しかし、男だったならば、夫とすべし。

 シャンプーに勝利した男・乱馬はシャンプーの婿として迎えなければならないのが掟だ。──そして、そんな掟に縛られる事もなく、シャンプーは純粋に乱馬を愛している。自分の命さえ投げ捨てて奉仕できるほどに。
 日本での日常に呑まれて忘れかけていた掟。

184これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:06 ID:XkQeIA9c0
 それを、“ノストラダムス”は思い出させてくれたのだ……。

「あら? 子猫? びしょ濡れじゃない……」

 と、色々考えながらとぼとぼ歩いていたシャンプーに、ふと、聞き覚えのある女の声がかかった。
 慌てて振り向くと、そこにいるのは春麗である。
 春麗もまた全身に水を被ったように濡れていたが、それは、おそらくシャンプーをあの水の中で探していたせいだろう。
 随分馬鹿な事をするものだが、シャンプーは何も知らない春麗に向けて唸る。自分が目の前の猫に嫌われている事も知らず、呑気にシャンプーの身体を持ち上げる春麗。

「……うん? この猫も、私たちと同じ“首輪”が巻かれているわね」
「ニ゙ーーー!!!」

 シャンプーは思いっきり、春麗の手の甲を引っ掻いた。
 流石に、あれだけシャンプーの攻撃を回避し続けた春麗とあっても、この一撃からは逃れる隙が無かったようである。
 春麗は、先ほどより小さく作られた三本のひっかき傷に冷たい息を吹きかけながら、赤子にでも言い聞かせるようにシャンプーを咎めた。

「いたたたたた……! 駄目よ! 引っ掻いちゃ……めっ!
 ……でも、この猫、小麦粉塗れね……。うろうろ歩いてて、あれを被っちゃったのかしら」

 早速以て、春麗の心の油断が見て取れる。
 どうやら、猫の子一匹殺すつもりはないらしい。日本ならばともかく、中国では猫料理など珍しくないので、彼女も猫くらいならば殺してしまうと思っていたが……。
 まあ良い。こんな女に抱かれるよりは、

「──……と、風邪ひいちゃう……こんな所にいられないわね。早くお風呂を探さないと」

 ふ、と。
 その時、シャンプーは、春麗の手から逃れようとする手を、ぴたりと止めた。
 春麗は、冷たい水の中に入ったせいで、びしょ濡れなのである。このままでは風邪をひいてしまうリスクがあると恐れたのだろう。これ以上夜風に晒されていては、お互い危険というわけである。
 どうせ、この姿では春麗を殺す事も出来まい。
 それならば、上手に利用して彼女に温かいお湯に入れてもらおう。

「……この子も一緒に入れてあげようかしら。びしょ濡れみたいだし……」
「にー♪ にー♪」

 ご機嫌を取るように、先ほどまでの態度とは打って変って、春麗の胸の中にうずくまるシャンプー。
 春麗もそれを見て妙な猫だとは思ったが、気にする程ではなかった。
 だが、春麗は知らない。この猫こそが、シャンプーそのものだった事。
 彼女は、“水を被ると猫になり、お湯を被ると元に戻る”という不思議な体質であり、今まさにその変化が行われていたという事など……。

(ふふふ……私がお湯につかった瞬間、お前を殺す事になるとは知らずに、馬鹿な女ね)

 シャンプーは、胸中で元の姿に戻り、春麗を殺すチャンスが巡って来た事で、胸中、爪を研ぎ始めていた。



【H-3 港町/1日目 深夜】

【春麗@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、左二の腕に切り傷(パンストで)、左手の甲に猫のひっかき傷、全身びしょ濡れ
[装備]:バルログの鉤爪@ストリートファイター、グロック17(15/17)@ダイ・ハード2
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1、シャンプーのチャイナ服(びしょ濡れ)、パンスト@らんま1/2、シャンプー(猫)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す。
0:まずは猫を連れてお風呂に入ろう。
1:殺し合いには乗らないが、危険人物には対処を。
2:シャンプーの行方が心配。
[備考]
※参戦時期は「Ⅱ」の最中。少なくとも、シャドルーを壊滅させてはいません。
 また、口調や性格などは「ZERO」シリーズ以降の設定も踏襲し、パラレルワールド扱いの「ZERO」シリーズとも一定の相互関係がある物とします。
※春麗のチャイナ服は、シャンプーとの戦闘によって胸元が大きくはだけて露出しています。

185これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:35 ID:XkQeIA9c0

【シャンプー@らんま1/2】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、猫化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:殺し合いに乗り、乱馬の優勝を目指す。
0:猫のフリをして春麗についていき、風呂で元に戻って奇襲。
1:天道あかね、春麗を優先的に殺す。
2:最終的には自分の死もやむを得ない。乱馬の優勝が絶対の目的。
[備考]
※参戦時期は、本編終盤。
※「死の接吻」を春麗に対して施しました。
※自らの女傑族としての覚悟が弱まっていた事を実感し、殺し合いに乗る事でかつての誇りを保とうとしています。その一方で、良牙、ムース、子供などを手にかける事に対しては一定の抵抗もあるようです。

【スチュアート大佐@ダイ・ハード2】
[状態]:健康
[装備]:バルログの仮面@ストリートファイター
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品1〜3、ランダム支給品0〜2(シャンプー)
[思考]
基本作戦方針:どんな手を使ってでも帰還し、任務遂行に戻る。
0:奪還したシャンプーの支給品の確認。
1:正面からの戦闘は避け、上手に武器を確保しながら敵を殺害。
2:マクレーン、及び春麗のように国際警察の手の者との接触は避ける。
3:また、勝ち残る以外の術が見つかればそれに乗る。
[備考]
※参戦時期は、少なくともダグラスDC-08機の大破を確認した後。
※「ダロス国際空港」、「東京タワー」、「コロッセオ」などの存在は座標に位置する別の物のコードネームであると解釈しています。そこに現物があるとは思っていません。



【支給品紹介】

【バルログのマスクと鉤爪@ストリートファイターシリーズ】
シャンプーに支給。
バルログが使用している白いマスクと鉤爪(片手用)。
鉤爪は攻撃力やヒットを上げ、マスクは「ZERO3」では防御力を上げる効果を持っている。
ただし、いずれも攻撃を受けすぎると装着が外れる。

【パンスト@らんま1/2】
春麗に支給。
パンスト太郎が武器や包帯代わりに使用するパンティストッキング。
作中では複数のパンストを結んで繋いでいるように、一応複数枚支給されている物とする。

【グロック17@ダイ・ハード2】
春麗に支給。
グロック社が開発した自動拳銃。装弾数は17発。テロリストたちが使用。
この出典の「ダイ・ハード2」の作中では、「強化プラスチック製である為、X線に映らない」などと言われているが、実際にはこれは誤った情報。しかし、この作品によってこの銃もまた大きく知名度を上げた。
また、警察署長がマクレーンに「アンタの給料全部投げ出しても買えない」と言われているシーンなどから、高価だと誤解される事もあったりするらしい。

186 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:52 ID:XkQeIA9c0
投下終了です。

187名無しさん:2015/11/05(木) 08:42:01 ID:9B./IKOM0
投下乙です。

やはりシャンプーはマーダーになってしまったか…
素手では春麗に適いそうにないけど、風呂場でお互い全裸だとどうなるのか…狭いし
そしてスチュアート大佐wwこちらも全裸のイメージが強い
あそこだけ見ると格闘技強そうだけど、マクレーン戦では振るわなかったのでこのロワではぜひ強いところを見てみたいです

1つ訂正が…ダレス国際空港ですが、ダロスになっています。
何度も出てるので仕様なのかな?とも思いましたが一応報告しておきます。

188 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:33:05 ID:w1tlNLUE0
投下します

189 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:35:06 ID:w1tlNLUE0
「まいったなぁ……」

今泉慎太郎は巡査である。上司の古畑から最低の評価を下されてはいるが。
しかし今泉は確かにお人好しで頭は足りないものの、このバトルロイヤルという狂ったゲームを許しておける人間では決してなかった。
古畑と同様に、目の前で起こった惨劇に対して強い怒りを感じていた。彼はやはり警察官なのだ。

「とりあえずは古畑さんと合流しないと……」

名簿を見たところ、あの忌々しい小男の名前はなかった。
過去に古畑が逮捕した犯人の名前があるのは気になったが、それを除けば知り合いといえるのは古畑ぐらいしかいない。
確かに古畑は自律神経失調症の原因になるほど人使いが荒く、過去には殺害計画を立てたこともあったが、頼れる人物であるのは認めざるを得ない。

辺りを見回すと、少し離れた場所にある人影が目に入った。

「ちょ、ちょっとそこの君ぃ」

こちらを振り向いたのは小学校高学年ほどの白人の少女。
今泉は少女のもとに駆け寄る。

「…………」

「え、えっと、名前はなんていうのかな」

「……マチルダ。マチルダ・ランドー」

「ええとマチルダちゃん、マチルダちゃんはいくつなの?」

「……18歳よ」

「う、嘘をついちゃいけないよ。おじさんはこれでも警察官なんだからね」

「警察……」

「そうさ。安心すると良いよ! あのノストラダムスとかいう奴は必ず捕まえてあげるからね。おじさんには頼れる知り合いもいるんだから!」

それを聞いたマチルダは今泉の腕にしがみつく。

「……ごめんなさい。怖いの……。お願い、助けて……」

「も、もちろん」

「私のパパも巻き込まれているの……一緒に探してくれる……?」

「分かったよ。おじさんがパパと必ず会わせてあげるからね!」

「ありがとう……」

今泉は自分が古畑などよりも遥かに頼もしい存在であるように思えるのだった。

190 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:16 ID:w1tlNLUE0

名簿を確認したところ、知っている名前は2人。最も信頼する人間と最も憎む人間。
マチルダにとってはここがどこなのか、そんなことは二の次であった。
ただ自らの目的を達成するために都合の良い舞台が用意されたという事実が大事であった。
しかし肉体的に弱い立ち位置にある自分は、殺し合いに乗っている参加者から狙われやすいと考える。
レオンと合流できればよいのだが……。
この男は警察官だという。見るからに頼りなさそうではあるが、何もないよりはましだろう。
警察は善良な市民を守るのが職務である。……例外を知ってはいるが。
しかしこの男に知り合いがいるのならば、その人物も警察の人間である可能性は高い。
そうなると少々厄介なことになる。警察の人間はスタンスフィールドでもない限り、自分の復讐を止めようとするだろう。
また、殺し屋であるレオンに対してもどのような反応を示すか分からない。
この男1人ならなんとかなるかもしれないが、流石に2人ともなるとそうはいかない。
そう考えると、当面の方針としてこの男が知り合いと合流する前になんとかレオンと合流する必要がある。
それが難しいようであれば、都合の良いところでこの男を切り捨てる。
やはり単身スタンスフィールドに立ち向かうことになるかもしれない。
幸いなことに、この場に奴の仲間はいない。
そして麻薬取締局の捜査官という立場もこの場では役にたたない。
言ってしまえば奴は自分と同じ位置で対峙しているのだ。

この好機を逃すわけにはいかない。

【D-6/1日目 深夜】

【今泉慎太郎@古畑任三郎】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、 不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:事件解決
1:古畑との合流
2:マチルダの保護
[備考]
※参戦時期は、少なくとも「VS SMAP」より後。


【マチルダ・ランドー@レオン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:スタンスフィールドの殺害
1:可能ならばレオンと合流したい。
2:この男は最大限利用する。用済みになる、もしくは目的の遂行に邪魔だと判断すれば切り捨てる。
[備考]
※参戦時期は、レオンに置き手紙を残してスタンスフィールドの元へ向かった直後。

191 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:50 ID:w1tlNLUE0
投下を終了します

192 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:57:28 ID:E309ccdE0
投下乙です。
今泉はロワでも頼りないなw
マチルダにまで切り捨てるとまで思われてるなんて
そのマチルダもスタンスフィールド狙いが気になります。

遅れてすいません。
私も投下します。

193世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:59:14 ID:E309ccdE0
「……………………な、何よこれ? 何で私がこんな首輪を付けられなくちゃいけないのよ!!」

一面に広がる草むらの中、まだ幼さの残る少女が途方に暮れていた。
友枝小学校に通う少女、李苺鈴は先ほど船上で繰り広げられた惨劇を思い出す。
ピエロと鰐が首輪の爆発によって死んだ。
元来、苺鈴は怖いもの知らずと言える性格である。
小狼を追って日本まで来たほどだ。
そして日本においてクロウカードを巡る様々な事件を、小狼らと共に解決してきた。
しかしそんな苺鈴も何者かの死、それも人の死には接した経験は無い。
今でもはっきりと思い出せる。
生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感。
まだ小学生である苺鈴には、あまりにも強い衝撃だった。
未だにそれが癒え無いほどに。
そして、ピエロと鰐の命を奪った首輪が苺鈴の首にも嵌っている。
これが爆発すれば、自分も同じ運命を辿ることになる。
今までの人生において、意識したことも無かった自分の死。
殺し合いに勝ち残らなければ、その運命は不可避なのだ。
それに考えが至った途端、苺鈴を耐え難いほどの恐怖が襲う。

「……………………だ、大体なんなのあの喋るピンク色の鰐は!?
あんなの香港でも日本でも、見たことも聞いたことも無いわよ!
あんな物で誰が騙されるって言うのよ!!」

耐え難いほどの恐怖。
ゆえに苺鈴はその原因を否定する。
自分が見たはずの、ピエロや鰐の”死”を。
そして自分を欺く。迫り来る”死”など偽物だと。
否、その心底においては実は欺き切れてはいない。
苺鈴自身がそれを見て、そして感じ取っていたのだから。
あの生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感を。
それゆえに苺鈴は無理やりにでも、船上での惨劇が紛い物だと自分に言い聞かせていた。

「本物だったわよ。霊力は感じ取れたもの」

不意の声に、苺鈴は飛び跳ねそうな勢いで全身を振るわせる。
恐る恐ると言った様子で声の方を向く苺鈴。

194世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:01:06 ID:E309ccdE0
そこに居たのは一人の女だった。
形容しようの無い奇妙な衣装に、頭から虫の触覚のような物を伸ばしている。
他に人影が見えない以上、声を掛けて来たのはその女のはずだ。
しかし女は苺鈴を向いてはいない。
物憂げな視線を、どこか遠くにやっている。

(何こいつ? 自分から話かけといて……)

不可解な容姿と態度の女を、苺鈴は不審感を露にする。
それにも構わず、女は遠くを見つめながら話し続けた。

「……ここからだと、朝焼けが見えるかしら?」
「知らないわよ! 私も来たばっかりなんだから!」

女の素っ頓狂な質問に思わずつっこむ苺鈴。
その様子に女は微かに目を丸くした後、笑みを浮かべた。
しかしその笑みを見た苺鈴は、何故かより不安感を強めた。

「もうすぐ朝焼けの時間がくる……夜と朝の一瞬のすきま。
でも私は昼と夜の一瞬のすきま、夕焼けの方が好き……」
「……さっきから何の話してるのよ?」

話を続ける女は、苺鈴ではなく自分に語り掛けているようだった。
それはまるで何かを、と言うより全てを諦めたような、
諦念を漂わせていた。
それが余計、苺鈴の不安感を煽る。

「自分を重ねているのよね、夕焼けに。私は一度夜を迎えて、死んだはずだった……。
そして生き返ったと思ったら、今度は殺し合い……ヨコシマも一緒に」
「ねえ…………私に何の用なのよ……」

女が何の用かは、薄々勘付いていた。
殺し合い。
その見せしめを本物だと言った。
話によれば知り合いと殺し合いに参加している。
そして諦念に満ちた態度。

苺鈴はその場から、逃げ出そうと走り出す。
女はその背に向けて手をかざした。

「きっと私は長く生きられない運命なのよ。でも命の長さなんて関係無い。
私はヨコシマのために、アシュ様も裏切った。きっと何だって出来る……ヨコシマのためなら」

女の手に霊力が集まり、光を放つ。
そして霊力は霊波・波動と化して発射。
霊波は瞬時に走る苺鈴を捉える。
しかし苺鈴は霊波に当たる直前に、それを両腕で防いでいた。

李家で生まれ育った苺鈴は、武術もそれなりに修めている。
霊波から逃げ切れないと悟った苺鈴は、咄嗟に防御の体勢を取っていた。
問題はそれでも霊波の威力を抑え切れなかったことだ。
身体ごと衝撃で持っていかれる。
苺鈴は為す術無く、地面に倒された。

「変ね……霊力が弱まってるの?」

しかし苺鈴を倒した霊波の威力に、女は納得がいっていない。
女はその気になれば人間一人など容易に殺すことができる。
女は魔族。その中でも超上級魔族たるアシュタロスが、来るべき神族・魔族との決戦のために
直属の部下として作り上げた三姉妹の一人。
蛍の化身、ルシオラ。

「まあ、直接殺すのが確実よね」

ルシオラは苺鈴を殺すべく歩を進める。
苺鈴が立ち上がった時には、既に目前にルシオラが居た。

195世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:03:11 ID:E309ccdE0
苺鈴をその腕で殺せる距離。

「……いや…………助けて小狼!」

怯える苺鈴は、思わず想い人に助けを求めた。
苺鈴が日本まで来たのは、小狼の助けになるためだった。
しかし現実に、自分に危険が迫った時には、
心底にある小狼を頼りにする気持ちが、図らずも表に出てしまう。
それほど今の苺鈴は恐怖に震えている。

そしてルシオラもまた、かつて無い悪寒に襲われた。

魔族の、蛍の化身としての直感が告げていた。
何か途轍もなく恐ろしい物が、近付いていると。
強力な魔族である自分が恐れるほどの物が?
苺鈴を前に、不可解な想いに囚われて惑うルシオラ。

そのルシオラの腹から拳が生えた。

拳がルシオラを背中から腹に貫いたのだ。
苺鈴に当たる寸前、鼻先で止まる拳。
血と肉片が苺鈴に飛び散る。
その光景が、苺鈴に思い知らせる。

あの船上での惨劇はやはり本物だったと。
殺し合いの脅威は自分に迫っていると。
そして、途轍もなく恐ろしい物が目前に存在すると。

ルシオラを貫いた腕は、正に筋骨隆々にして赤く凶々しいオーラを纏っている。
腕はそのまま持ち上がり、ルシオラの上半身を縦に引き裂いた。
一片の慈悲も無い殺意。
それを纏った男が、ルシオラを引き裂く。
男はルシオラの死体を無造作に投げ捨てる。
目前で呆気無く行われた殺人。
何よりそれを容易く行った男が怖かった。

鍛え抜いたと言うのすら生温い、強大で高密度の筋肉。

そこから溢れ出る狂猛で凶々しいオーラ。

その形相は正しく”鬼”その物。

「我、拳を極めし者!! 妖とて敵に非ず!」

拳を極めし者。
自らをそう呼んで憚らぬ者は、ストリートファイターの世界においてもただ一人。
拳の修行の果てに、殺意の波動を身に付けた、
この豪鬼のみである。

豪鬼は苺鈴を無造作に見下ろす。

196世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:05:10 ID:E309ccdE0
苺鈴は射竦められたがごとくに、動けない。

「死合いの気構えも無き童、我が拳に値せず」

吐き捨てるように言い放つ豪鬼。
突き放すような言葉に、苺鈴は一瞬自分が見逃されるのではないかと期待する。
しかしすぐにそれは思い違いだと悟る。
先刻よりむしろ強まっているからだ。
豪鬼の叩き付ける、どころではない大気を震わすほどの”殺意”が。

「殺意の波動が高まる我が前に立つ、己が不明を恨めい!!」

苺鈴は武術を習っていると言っても、自分にとっては無きにも等しい力量であることを、
豪鬼は一目で見破っている。
まるで敵に値しない存在だと。
それでも、いかなる由縁とは言えここは殺し合い、即ち死合いの場。
一度死合いに立てば、それに対する意思や力の有無に関わらず、容赦するほど豪鬼は甘くない。
そして今の豪鬼には、ここが死合いの場であることすら関係無い。
それほど、今の豪鬼は殺意の波動が強まっていた。
今の豪鬼は、悪鬼羅刹も同然の存在と化していた。

「ぬうん!!」

全く前触れも無い状態から、豪鬼が飛ぶ。
同時にその脚で、回し蹴りを放った。
丸太と紛うがごとき豪脚が、その速度で空を鎌鼬のごとく切り裂く。
その名に違わぬ旋風脚。

旋風脚は空を裂く際に発生した衝撃波のみでも、苺鈴を切り刻んだ。
肉が裂け、鮮血が飛ぶ。

苺鈴の耳を鋭い痛みが襲う。
手を伸ばすとそこにあるはずの耳朶が――無い。

(私の耳が、無くなってる!!)

豪鬼の旋風脚それで収まらない。更に容赦無く攻め立てた。
旋風脚が直接胴体に打ち込まれる。
肉を潰し、骨を歪ませる。
直接打ち込まれたルシオラは、木っ端のごとく吹き飛んだ。

豪鬼の旋風脚は、背後に居る――死んだはずのルシオラに打ち込まれていた。

苺鈴には何が何だか分からなかった。
ただ一つ確かなのは、異常な危機が自分に迫っていることだ。
そして耳に残る痛みと、何より喪失感が苺鈴を打ちのめす。

197世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:07:28 ID:E309ccdE0
苺鈴は狂乱したがごとく叫び声を上げて、その場から走り出した。

豪鬼に背後から奇襲をかけようとして、旋風脚に迎撃され倒されていたルシオラは、
呻き声を上げながら立ち上がる。
豪鬼の旋風脚は常人ならその一撃で死んでいる威力だが、ルシオラは人間ですらない魔族。
一撃で勝負が決まるほど脆弱ではない。

「くぅ……よく幻覚を見抜いたわね」
「殺意の波動を前に、幻惑など児戯も同然!!」

蛍の化身たるルシオラは、幻覚を操る能力を有していた。
最初、豪鬼の拳で貫かれたルシオラは幻覚。
更に自分自身は周囲の風景に隠れて、豪鬼の背後から襲い掛かった。

ルシオラの誤算は、豪鬼が殺意の波動を制御し得るほどの達人であったことだ。
いかに精巧な幻覚でも、手応えで虚仮か否かを見抜くことができる。
そして殺意の波動を自らの物とする豪鬼は、殺意・敵意を感じ取る能力に誰よりも長けていた。
豪鬼はルシオラの幻覚を見抜いた上で、その殺意・敵意を察知して迎撃したのだ。

「……あんたの所為で一人逃がしたじゃない」

ルシオラは逃げ去る苺鈴を見送り、豪鬼に向く。
豪鬼の戦力はおそらく上級魔族に匹敵、あるいは凌駕している。
ルシオラにとっては、隙を見せられない相手だった。

「うぬと相対して、益々殺意の波動が強まっている」

対する豪鬼は、何故かルシオラではなく自分の拳を見ている。
その身体からは相変わらず、魔族のルシオラですら凶々しいと感じるオーラを放っていた。

「うぬはただの妖ではない。世の摂理から外れた者か」

豪鬼の指摘にルシオラは驚きを隠せない。
まさか会ったばかりの人間に、自分の出自を言い当てられるとは思わなかったからだ。
しかしその驚きの表情は、すぐに憂いを帯びた笑みに変わった。

「……あんたの言う通りよ。私はアシュ様の計画のために作られた。
その計画が成功すれば、神・魔族のバランスは大きく崩れる。
私は世界のバランスを崩すために生み出された存在と言えるわ……」

ルシオラはアシュタロスの真意、死を望んでいたと言う事実は知らない。
それでもアシュタロスのクーデター計画の大枠程度は把握している。
従って世界のバランスを崩すために生み出された存在と言うのは、概ね間違っては居ない。
しかしそれはあくまで出自についての話だ。

「でも今は私が私の意義を決められる。ホレた男のためなら、ためらったりしない!」

ルシオラの両手をかざし、そこに光が集まる。
それがエネルギー、霊力であると見抜くのは豪鬼にはあまりに容易かった。
しかしそのルシオラの姿が一つでは無い。
同じ構えのルシオラが何体も出現。
そして霊波を一斉に発射した。

198世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:09:15 ID:E309ccdE0
それでも豪鬼に動揺は無い。

「我に虚仮は通じぬ!!」

豪鬼は瞬時に手に殺意の波動を集め、迎撃のための構えを取る。
霊波を幾つ撃たれようと本物のルシオラは一人なら、本物の霊波も一つ。
他の霊波は幻影なのだから構う必要は無い。

霊波に次々と襲われても、豪鬼はまるで意に介さない。
豪鬼の身体を霊波が通り抜けても反応を示さない。
そして豪鬼はルシオラの狙いに気付いた。

「ぬん!!」

両手を合わせ、腰に溜める豪鬼。
そこに気が、殺意の波動が集中・凝縮される。
大気をも震わすエネルギーの凝縮は、さながらブラックホール。
そして居並ぶルシオラへ向けて発射された。
古より気の奥義を、殺意の波動により更に高めたそれは正に必殺技。
豪波動拳。
凝縮されたエネルギーは、居並ぶルシオラの下に着弾。
解放されたエネルギーは、居並ぶルシオラを全て巻き込み消滅させた。

全てのルシオラは光の粒子へと還っていく。
ルシオラは全て幻影だった。
ルシオラの幻影が消え去った地の、更に向こう。
そこに単車に跨った人影が一つ。
それは全速力で豪鬼から逃げるルシオラの姿だった。



「全く……危うく殺し合いに乗ってる者同士で潰し合うところじゃない……」

ランダム支給品の一つ蒸気バイクを駆って、ルシオラは豪鬼から逃げ去る。
口調は軽いが今のルシオラに余裕は無い。
アクセルは全開で、それでも背後への警戒の念は緩まない。
もし再び豪鬼に捉まったら、ルシオラとて無事では済まないだろう。
人間であるはずの豪鬼から、それほどの危険性を感じ取っていた。
何よりルシオラは殺し合いに乗っているであろう者と、潰し合う訳にはいかない。
ルシオラの目的は殺し合いの優勝なのだから。
自分ではなく横島忠夫の。

ルシオラが創造主のアシュタロスを裏切ったのも、
姉妹やアシュタロスと戦ったのも、
そして東京タワーで死んでいったのも、
全て横島忠夫のためだった。

人類の味方に付いたのも横島に迷惑を掛けないためだ。
ルシオラの行動原理は、今や全て横島に向けられている。

『私がやってきたことは全部おまえのためなのに……!!
おまえがやられちゃったら、意味ないじゃない!!』

東京タワーで死の直前に言ったこの言葉が、ルシオラの嘘偽りの無い本心。
そしてそれは今も変わらない。

だからそれが殺し合いならば、最も早く確実な手段で横島を救うために最善の方法を取る。
何を犠牲にしようと迷いは無い。

(そうよ、ホレた男のためなら……私はためらったりしない!)

ただ一つの目的のために、ルシオラの戦いが再び始まった。

【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。

【支給品説明】
蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
李紅蘭が製作した蒸気機関を動力とする単車。
太正時代の乗り物としては高性能。
もしかしたら爆発するかもしれない。

199世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:11:10 ID:E309ccdE0
(……殺意の波動の高まりが収まらぬ。やはりあの妖一人が所以ではない)

ルシオラの姿が見えなくなり、豪鬼は再び自分の身体の調子を確認する。
やはりルシオラと離れても殺意の波動の活性化は収まらない。
そう、豪鬼はこの殺し合いの始まり。
あの船の上から、殺意の波動がかつて無いほど活性化していた。

本来、殺意の波動は制御が非常に困難な物である。
多くの武道家がそれに飲み込まれていった。
飲み込まれれば、ただ闘争と殺戮を求める”鬼”となる。
豪鬼ほどの修練の結果として、やっと制御を可能とする物。
あるいは拳の歴史において、豪鬼ほど殺意の波動を制御し得た者は居ないだろう。

このまま殺意の波動が活性化し続ければ、その豪鬼ですら制御し得ぬ域に達するやもしれない。
そうなれば豪鬼自身がどうなるかは想像も付かないことだった。

(元より修羅道は承知の上! 我に退く道無し!!)

理由もわからない活性化に、それでも豪鬼に恐れは無い。
危険は元より承知の上で、殺意の波動を選んだのは豪鬼自身。
それが更なる高みに行かんとしているのだ。
豪鬼に躊躇する理由は無い。

より強きを求め、殺意の波動を身に付けた豪鬼は、
更なる強きを求め、バトルロイヤルと言う死合に臨む。

【D-5 草原/1日目 深夜】
【豪鬼@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:死合を勝ち抜く。
1:殺意の波動が求めるまま死合う。
2:殺意の波動が高まるに任せる。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺意の波動がかつて無いほど活性化しています。

200世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:14:33 ID:E309ccdE0
(小狼、小狼、小狼、小狼小狼小狼!!!)

ルシオラと豪鬼から逃げ出した苺鈴は、二人の姿が見えなくなっても一心不乱に走り続けていた。
ただただ怖かった。
ルシオラと豪鬼だけでは無い。
船上での惨劇も。
首輪も。
自分が耳を失った事実も。
殺し合いが始まってからの何もかもが怖かった。
現実に起こった何もかもが現実だと信じたくなかった。

目を瞑り自分の心中の声だけを聞き、現実の全てを拒絶して走るは苺鈴は、
ここが何処だかも分かっていない。

(早く助けて小狼!!)

苺鈴はまだ名簿も見ていない。
李小狼が参加していることも、知らないはずである。
それでも小狼に助けを求める苺鈴。
今の苺鈴には他に縋る物が無かった。

しかし目を瞑ったまま、まともに走り続けられはしない。
苺鈴は石に躓いて転倒する。

「いったぁ…………ここどこよ?」

気付くと苺鈴は岩場にまで来ていた。
自分の置かれた環境を知りたくて、辺りを見回す。

そして彼女は求めていた再会を果たす。

始めはそれが何なのかは、分からなかった。
岩場にポツンと、置かれた球体状のそれは、
上部に髪が生え、
眼も、
口も、
鼻も、
耳も在る。
それは人間の頭部だった。

「…………嘘よ。嘘……だってそんなはず無いもの…………」

苺鈴は恐る恐るその頭に近付く。
それを確かめたくは無い。
しかし確かめずにはいられない。
なぜならそれは苺鈴の想い人、李小狼の生首だった。

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

頭の中に鳴り響く言葉が、口をついて出てこない。
今や苺鈴は完全に狂乱状態だった。
いつか結婚すると思っていた。
結婚を諦めた後も、好きという気持ちの抑えられない。
誰よりも大切な人。
それが生首になっているのだ。

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

これも殺し合いの故なのか?
自分もいずれ同じ運命を辿るのか?
狂乱を収める答えなど無い。
はずだった。

201世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:16:01 ID:E309ccdE0
しかし苺鈴は答えを出す。

「…………あは……あはは…………あはははははははは!!」

苺鈴は笑い声を上げる。
それは激しいのに虚ろな、心底からなのに乾いた、
異様な笑い。
まるで人間が壊れたかのような笑いだった。

「あはははははははは! なんだ、やっぱり全部嘘だったんじゃない……馬鹿みたい」

それは現実の全てを嘘だと言う答え。
根拠も理屈も全てを拒絶して、
それゆえに現実の全てを拒絶する答え。
しかしそれだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段。
苺鈴を狂乱から救う手段だった。
しかしあるいは、より深く狂ったとも言えた。

いずれにしろ苺鈴は、この現実を否定しなければならない。

「バトルロイヤルをやって勝てば良いんでしょ? そうすればこの訳の分かんない嘘も、全部終わるのよね」

主催者は勝てば死者も蘇生させると言っていた。
それはつまり小狼が実は生きていると判明すると、苺鈴は解釈した。
だって本当は小狼は生きているのだから。
現実だと思っていた全てが嘘なのだから。

苺鈴は、ただただ小狼は生きていると言う答えに都合の良い解釈をする。
それだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段なのだから。
そして、最早殺し合いを拒む理由も無かった。
誰を何人殺そうと、全ては嘘なのだから。

「あはは……ほら、小狼も一緒に行こ!」

苺鈴は小狼の生首を持ち上げて、本人にそうするように話し掛ける。
全てが嘘なら、それは偽物のはずだが、
今の苺鈴にはもうどんな根拠も理屈も関係無い。
それは偽物だろうとやっと出会えた小狼であり、
苺鈴の寂しさを紛らわせる物であり、
それでも本当は小狼は生きているのだ。

小狼の生首をデイパックに仕舞い、苺鈴は歩き出す。
もう目を瞑ることも、恐れることも無い。
ただ殺し合いを勝ち進むことだけ考えれば良いのだ。

そう決意する苺鈴は、壊れたかのような笑身を浮かべていた。

【C-4 岩場/1日目 深夜】
【李苺鈴@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、左耳欠損、精神崩壊
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、小狼の生首
[思考]
基本行動方針:殺し合いを優勝する。
1:殺し合いを勝ち進む方法を考える。
[備考]
※参戦時期は第60話終了後です。
※支給品はまだ確認していません。
※バトルロイヤルは現実ではないと思っています。

202 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:17:47 ID:E309ccdE0
投下を終了します。
重ねて言いますが遅れてすいませんでした。

203 ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:27:34 ID:MQYImfzM0
投下乙です。

>>120
遅くなってすみませんでした。
手元の単行本が誤植されてた代物だったので、釣られて間違えてしまったようです……
wiki掲載時にはチョコラータで統一してもらえるよう修正が入ったら幸いです。

>これが私の生きる道
中国武術対決は無事に春麗の勝利。
しかし猫化によって懐に潜り込んだし、シャンプーにもこれは反撃のチャンスがあるか。
乱馬の為に乗ってしまった彼女だが、果たしてここからどう動くか。
そしてスチュアートの反応がごもっとも……そら、一般人からすりゃ次元が違うよこの人ら……

>豹
マチルダに切り捨てられる感が半端ないな、今泉……
仕方がないとはいえ、果たしてこのロワで彼は無事にやっていけるんだろうか。
しかし仮にも警察、マチルダの目的が分かったら必死で動いてくれるだろうことを期待します。

>世界の理を壊すもの
豪鬼が半端ない……そら殺し合いなんてなったら、殺意の波動も喜んで暴れるわな。
最強クラスのマーダーですが、果たして誰がこの怪物を止められるのか。
そして苺鈴……小狼の死を見て、壊れてしまった……
可哀想でならない彼女が、この先狂気に走って何をやらかすか……不安だ……

さて、遅くなりましたがこちらも投下をいたします。

204拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:28 ID:MQYImfzM0


一陣の風が吹く。


星の光が唯一場を照らす、荒涼とした地の上で。


一人の男が、風を一身に受けつつ静かに瞳を閉じ佇んでいた。



純白の胴着に身を包む、屈強な肉体を持つ格闘家。



その名はリュウ。



『真の格闘家』を目指し、拳に生きる一人の求道者だ。



(……殺し合い、か)


このバトルロイヤルという謎の催しに対し、リュウは己の中である答えを模索していた。

格闘家の本懐とは、拳に生きる者が目指すべき地点とは何かを。


あの日と同じ……強大な実力を持つ帝王サガットを打ち倒した時と同じ迷いが、彼の中には生じていた。
サガットは帝王の名に恥じぬ力を持っていた……当時のリュウにとって、あれ程の強敵はいなかった。
故に彼は、恐怖を覚えてしまった。
圧倒的実力を持つ敵への恐怖を、敗北―――死ぬかもしれないという恐怖を。

そしてその感情は、リュウに眠る強大な力―――殺意の波動を呼び起こさせてしまった。
殺意の波動を持って放たれた一撃は、サガットを見事打ち倒した。
帝王を地に下し、リュウを勝利に導いた。
しかし……その勝利にリュウが抱いたものは、歓喜でも安堵でもなかった。
言葉では言い表しにくい冷たさ……悲しみにも似た、空虚さであった。


これが自分の目指していた『真の格闘家』だというのか?

格闘家の行き着く先とは、勝利を得る為の絶対的な力―――相手を屠り滅ぼすだけの黒き力だというのか?

205拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:59 ID:MQYImfzM0


「……ほう。
 こんなところで瞑想する奴がいるとは……驚いたね」


その時だった。
リュウの前方―――このコロッセオの入場口より、一人の男がゆっくりと歩き入ったのは。
長身の、こちらもまたリュウに負けず劣らずの屈強な肉体をした男だ。
身に着けているサングラスのおかげで表情は読み取りにくいが……その身から発する闘気で、リュウは感じ取る事ができた。

この男は……この状況に対しての迷いがない。
バトルロイヤルでの闘いを望んでいる……殺し合いを望んでいると。


「見たところ、同じ武道家の様だが……このバトルロイヤルに思うところがあるといったところか?」

「ならお前は、この状況に何も思わないというのか?」


それを理解した上でなお、リュウは男に問いかけた。
同じ武道家というならば、何故そうしたのかと。

これは、単に殺し合いに乗ったか乗らないかというだけの問題ではない。
何故、拳に生きる上でその道を選んだのか。
その意味を問いかけるものでもあった。


「何とも思わない、か……そうだと答えれば嘘にはなるな。
 いきなり何の前触れも無しにこんな場に放り込まれちゃ、流石に驚きもする。
 もっとも……お前の望んでいる答えは、こんな感想じゃないようだがな」


男もまた、リュウの問いの真意を理解していた。
武道家として、血塗られた道を選んだのは何故か。
どうしてこのような道を、選ぶ事ができたのかと。


「武は、力は、敵を倒す為のモノ……命を奪うためのものだ。
 強さを突き詰めようとすれば、自然とそこに行き着く。
 命の取り合いに辿り着く……闘いに生きる者の道は、より強くなるか死ぬかの二択しかない」


武道とは突き詰めれば、敵を倒し殺す為の力だ。
ならばそれを極める為に人を殺めるのは、当然のことではないか。
故に男はその道を選んだ。
それが己が目指すべき強さの行き着く頂点であると、信じているが為に。

206拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:29:42 ID:MQYImfzM0

「違う!
 ただ相手を倒すだけの力が……命を奪うだけの黒い力が、格闘家の行き着く先であってはならない!
 皆が目指す真の格闘家への道が……無為に死に追いやるだけの悲しいものであってはならないんだ!!」


だが、リュウはそれを否定した。
あの黒き殺意の波動が……それが齎すあの空虚な闇が、本当の力である筈がないと。

今まで幾度となく、多くの者達と拳を交わしてきた。
その中で、かけがえなき多くの友と出会ってきた。
彼等と闘い競い合う中で、リュウは何度も思ってきた。


「大切な友との、ライバル達との闘いがあったからこそ俺は強くなることができた。
 尊敬すべき多くの猛者達と拳を交える事で多くを学んだ。
 互いに認め合い競い合う中で、俺は強くなれた!
 ただ屠るだけの力を振るう者には、決して得られない力がある!
 俺はそう信じている……お前の目指す道を、認めるわけにはいかない!」


こうして互いに力と技を磨きあう事で、共により高みへと行けると。
また再び、拳を交えたいと……そう何度も思ってきたのだ。
拳を交わすことで分かり合えた友との絆があるからこそ、今の自分はあるのだ。


「……甘いな。
 そんなもので得られる強さなど、タカが知れている……」


男がその言葉を受け入れられる筈もない事は、言うまでもなかった。
血塗られた道に自ら身を置き、強さを極めようとしているこの男にとって……
リュウの言葉は、甘い戯言以外の何物でもないのだから。
許す事など出来る訳がない。

まして……一目見ただけで『強い』と分かるだけの存在ならば、尚更だ。



「……戸愚呂だ。
 闘う前に、名前を聞いておこうか?」

「リュウだ……戸愚呂。
 お前がその道を歩むというなら……俺は全力でお前を止める……!」


両者が静かに構えを取った。
どうあっても譲れぬものがある。
言葉で分かりあう事などできない。

ならば、拳に生きる者として……ただ、拳を交えるのみだ。

207拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:26 ID:MQYImfzM0




■□■




「小手調べ……まずは30%といったところか……!」


先に仕掛けたのは戸愚呂だった。
自らの上着を脱ぎ捨てると、全身の筋肉を隆起させ、上半身を大型化させていく。
彼が持つ能力―――筋肉操作で、筋肉を発達させたのだ。
そしてそのまま間を置かず、勢いよく地を蹴り疾走。
戸愚呂はリュウに、真正面から右拳を叩きつけにかかった。


「ぬぅん!」
「ハァッ!!」


リュウはそれを左の手の甲で打ち払い―――ブロッキングし、右の拳で胴を狙いにいく。
しかし戸愚呂もまた、この一撃にすばやく反応した。
リュウの拳が胴に到達するよりも早く、右の掌で受け止めにかかったのだ。
そのまま強く握り締め、リュウの拳を封じようとする。


「ほう……!」


が……出来なかった。
リュウの一撃が、戸愚呂が想像していた以上に鋭く重たかったが為に。
掌を通じて、衝撃が腕から全身へと駆け上がっていく。
これ程の打撃は、久しく感じていない。
確かな強さを感じられる一撃だ。


「せいっ!!」


さらにリュウはそこから前に踏み込んだ。
戸愚呂が拳を受けて怯んだ瞬間、素早く右拳を引き、体ごと彼の懐に飛び込んだのだ。
そしてその左腕を両手で掴み、後ろへ振り向きつつその背に彼の巨体を背負う。
実にスムーズに、流れるような背負い投げを繰り出すリュウに成す術もなく、戸愚呂の体は宙を舞った。


「背負い投げか……俺を掴んで投げる奴なんて、本当に久しぶりだ……!」


否。
戸愚呂は投げられ宙を舞った様に見えているだけだ。
彼はリュウの投げから抜け出すのは不可能と瞬時に察知し、逆に自ら勢いを利用して高く跳んだのである。
そうする事で、地面へと叩きつけられるダメージから見事に逃れたのだ。
リュウも投げの瞬間に感じた違和感から、それは察せていた。
しかし、言うには簡単だが実際にそれを実行するのは相応の力量がなければ出来ない。
苦もなく両足から地面に着地する戸愚呂を見て、リュウもまたその事実―――戸愚呂が相当な強さを秘めている事を悟った。

208拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:47 ID:MQYImfzM0


「波動拳ッ!!」


故に、彼は追撃の手を緩めなかった。
戸愚呂の着地に合わせ、すかさずこの技を放ったのだ。
内なる闘気・波動を練り合わせ相手へと打ち放つ飛び道具―――波動拳を。
着地直後の不安定な体勢では、タイミングからして回避は出来ない。


「フンッ!!」


いや、そもそも回避は必要なかった。
戸愚呂は迫りくる波動拳を、拳を振り払い打ち払った。
豪腕による強引な一撃で、掻き消したのである。


「まだだ!!」


しかし、その僅かな動作の隙に。
リュウは前方へとステップし、戸愚呂との間合いを詰めていたのである。
波動拳を防御されること・迎撃されることは既に予測していた。
今の戸愚呂の様に拳の打ち払いで波動拳を破る相手とて、初めてではないのだから。

間合いに入ると共に、まずは左の拳を素早く連続で突き出す。
威力よりも速さを重視した牽制、言わばジャブの連打だ。
対する戸愚呂は、またしてもこれに素早く反応し、腕を交差させてガードをする。
しかし、そこから動きが取れない。
リュウの攻撃による固めがきいており、迂闊に反応が出来ないのだ。
ここで下手に動けば逆に拳をもらい、思わぬダメージを受けてしまいかねないが為に。


「ッ!」


だがそれは、リュウもまた戸愚呂の硬いガードを切り崩せないままでいるという事。
速さこそあれど軽い拳の連打では、戸愚呂のこの防御は到底抜けれないだろう。
ならばと、リュウは行動を切り替えた。
左拳を引くと共に、素早くその場に屈み足による攻撃へと移ったのだ。
真っ直ぐに蹴りを突き出し、その脚部を狙う。

209拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:31:25 ID:MQYImfzM0


「くっ!」


今度は防御が間に合わない。
リュウの動きが思うよりも速いからか、脚への一撃が命中することを許してしまった。
戸愚呂の体勢が僅かに崩れる。
その隙を見て、リュウは動いた。
立ち上がる勢いを乗せ、右拳を突き上げてのアッパー。
それが戸愚呂の顎に吸い込まれるように入る。
更にそのまま、上体を捻りつつ跳躍。
脚部に力をこめ、戸愚呂の側頭部目掛けて放つ……!


「竜巻旋風脚!!」


竜巻旋風脚。
前方への跳躍と共に繰り出す、空中での連続回し蹴りだ。
それは見事に戸愚呂のこめかみを捕らえ、彼を勢いよくふっ飛ばした。
その巨体が、コロッセオの闘技場に倒れ伏す。
防御の反応すらも許さない素早いコンビネーション攻撃で、リュウは見事戸愚呂を切り崩したのだ。





■□■





「……ふふっ。
 ここまで圧倒されるとは……30%の力じゃ、流石に失礼だったか」


ゆっくりと起き上がりつつ、戸愚呂は目の前に立つ男を静かに見据えた。
かけていたサングラスは今の一撃で砕け散っており、両の眼でしっかりと捉えている。
元々、30%の力では勝てる相手ではないとは踏んでいた。
あくまで小手調べのつもりであり、どれくらいできるかを確かめるために敢えてこの状態で挑んだのだが……流石にここまで圧倒されるとは思ってもみなかった。

210拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:31:51 ID:MQYImfzM0
強い。
それも道具に頼ったものでも、兄の様な特異体質に頼ったものでもない。
純粋に磨き上げた、武の力だ。
目の前の男の強さは、紛れもない本物だ。


「……嬉しいぞ。
 久々に、期待できる闘いになりそうだ……!!」


戸愚呂が歓喜の声を上げると同時に。
その上半身が、更なるパンプアップを遂げた。
一気に、筋力操作を倍の60%まで引き上げたのだ。
目の前に立つ男には、少なくともここまでの力を見せる必要があると感じたが故に。

さあ、これならばどこまでやれる?
どこまで自分の力に、この男の強さは届く……!!


「ハアァァァァッ!!」


戸愚呂は間合いを詰めることなく、その場で全力の拳を放った。
拳が届く距離ではないにも関わらず繰り出された一撃は、当然ただ空を切るのみ。



――――――ゴウッ!!



しかし……その剛拳を突き出す事で生じる風圧ならば、リュウへと届く。
60%まで力を引き上げた事で、こういった芸当も不可能ではない。
そして純粋なパワーが生み出すそれは、命中すれば拳打と同等以上の威力を発するに違いないだろう。
戸愚呂はこの攻撃を80%より低い段階で使った事はなかったが、元々80%の段階でも軽く腕を振るう程度で出来た代物だ。
やや劣るこの60%の時点でも、ビルを一棟更地に余裕で変えるだけのパワーはある。
ならばこうして全力を込めた拳を放てば使うこと自体は不可能ではないと踏んでおり、現に実現したわけである。



「波動拳ッ!!」


リュウはそれを、波動拳で迎え撃った。
波動と拳圧がぶつかり合い、掻き消える。
その瞬間、両者は同時に動いていた。
互いに真っ直ぐ、前へ。
その拳を、全力で突き出しに向かっていた。

211拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:32:32 ID:MQYImfzM0



――――――ドンッ!!



「ぬぅ……!」
「くぅ……!」


真正面から右拳同士が激突しあう。
どちらともに、拳より伝わる強い衝撃を感じつつも、一歩も下がらない。
通常、こういった場合には力の弱い方が押し合いに負けて吹っ飛ぶものだ。
だがこの二人は、微動だにしていない。
その両足がコロッセオの舞台に皹を入れつつも、力強く留まっている。
つまり、両者の威力は互角という事になるが……


「ッ……!!」


僅かに、戸愚呂の体が後ろに動いた。
リュウの拳が、戸愚呂のそれを僅かながらも押したのだ。
踏ん張っている以上、足は使えない。
ならばと、戸愚呂は空いているもう一方の拳をリュウ目掛けて繰り出した。
お互いに右拳を精一杯に突き出し合っているこの状況では、直接体へは届かない。
先程の様に拳圧で吹き飛ばすにも、この力比べの体制からでは完全には威力を発揮できないだろう。


「はぁぁっ!!」


故に狙うは……ぶつけ合っている右の拳。
そこに横からの一撃を打ち込み、リュウの体勢を強引に崩す腹だ。


「……見えたっ!」
「何……?!」


だが……同じ体勢にあるリュウもまた、考えていたのだ。
この状況下で出せる追撃は何か、敵の間合いに届く一撃は何かを。
故に戸愚呂の攻撃を察知し……反応することができた。



――――――パァンッ!!



「ぬっ……!!」


絶妙のタイミングで、リュウは左の拳を打ち下ろし。
向かってくる戸愚呂の左フックを、下へと捌いた。
剛力から繰り出される一撃を防御するのではなく、僅かに力を加えることでさばき受け流したのだ。

212拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:02 ID:MQYImfzM0
ザンギエフや本田をはじめ、パワーを武器にしてきたライバル達は大勢いた。
そんな闘いの中で、リュウは確かに学び成長していた。
強力なパワーを相手に打ち勝つならば、ただ真正面から受け止めるだけではいけない。
時には敢えて受け入れ、受け流すことで見えるものもある……!


「くっ!!」


命中でも防御でもない。
拳のぶつける先を見失ってしまった事で、戸愚呂の体はバランスを崩さざる得なくなってしまった。
振り払った自らの力に、引っ張られる形で……!


「オオォォォッ!!」


それに合わせて、リュウは強く右拳を突き出し戸愚呂を押し切った。
当然、戸愚呂にはこれを踏ん張れる道理などない。
後方へと下がらざるを得ず……そこへリュウの追撃が入る。



――――――ドゴォッ!!


力強く前へと踏み込んでの、上段足刀蹴り。
無防備な戸愚呂の喉元へと、その強力な一撃が叩き込まれる。


「くっ……ぬおおおぉぉぉっ!!」


しかし、戸愚呂はそれで倒れず。
逆にリュウの両足を掴み、そのまま横へと大きく振り回しにいった。
まるでプロレスのジャイアントスイングの様に、リュウの肉体を軽々とぶん回し……投げ捨てる!!


「ッ……波動拳!!」


だが、リュウとてただではやられない。
空にその身を投げ出されながらも気を練り上げ、激突寸前に地面へと波動拳を放ったのだ。
落着の衝撃を緩和し、ダメージを抑える為に。
更に、波動拳によって土煙がもうもうと舞い上がる。
リュウの姿が、その中に入り隠されてゆく。


(目くらましか……だが、狙ってやったのじゃあないな。
 あくまで意図せず起きた副産物……こいつの性格上、こんな小細工はしない。
 武道家同士の一対一での闘いである以上……!)

213拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:28 ID:MQYImfzM0

戸愚呂はその煙を真っ直ぐに見据えていた。
リュウがこれを利用してあらぬ方向から奇襲を仕掛けてくることは、恐らくないだろう。
一対多の戦いならばともかく、あくまで武道家同士のサシでの決闘と彼が考えているならば……小細工を用いた決着など望まない筈だから。
つまり、リュウが来るならば……それは真正面から以外ありえない。


「いいぞ……それでこそ、闘う価値がある!!
 期待した甲斐がある!」


その姿勢を、戸愚呂は心から喜んだ。
ならば自分もつまらない真似をせず、正面から相手をしようではないか。
腰を深く落とし、呼気とともに右拳に力を集中させる。
全力を込めた正拳をただ打ち込み、その拳圧を真正面より叩き込むのみだ。


「ハァッ!!」


そして繰り出された一撃は、闘技場の地を抉りながら真っ直ぐに突き進んでゆく。
やがてそれに伴い、舞い上がっていた土煙が掻き消えてゆく。
その中心には予想通り、リュウが立っていた。
迫り来る戸愚呂の攻撃を、真正面から堂々と迎え撃つべく。


「真空……!」



その両の掌に……強力な波動を込めて!



「波動拳ッ!!」


真空波動拳。
通常の波動拳よりも更に強力な波動を練り上げ放つ、必殺の一撃。
それは戸愚呂の放った拳圧と、真正面からぶつかり……



――――――ゴゥッ!!



打ち破り、なおも突き進む!

214拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:54 ID:MQYImfzM0

「ぬっ……ぬぅぅおおぉぉっ!!」


戸愚呂は咄嗟に両手を突き出し、その波動の一撃を受け止めた。
何と重く力強い一撃か。
自分の攻撃を相殺するどころか、貫きなおも襲いかかろうとは。


(これだけの霊力……いや、霊力とは少し違うようだが……!
 どちらにせよ、ここまでのものを練り上げるには相応の鍛錬がなければ出来ない……
 リュウ、この男……!!)


強力な波動をその身で受け、素直にリュウの実力に感心をしながらも。
戸愚呂は腕に力を込め、開いていた指を徐々に握り締めていく。
真空波動拳を、強引にパワーで圧殺しようとしているのだ。
見る者が見れば、それが如何に無茶苦茶な手であるかはよく分かるだろう。

しかし……!


「喝ッ!!」


戸愚呂は、それを成した……!
同等の闘気を込めるのでもなく、技によって威力を抑えるのでもなく。
リュウの放った必殺の波動は、ただただ強力なパワーの前に打ち消されたのだ。


「何ッ!?」


だが……驚愕の声を漏らしたのは、リュウではなく戸愚呂の方であった。
何故ならば、目の前の波動を打ち消した瞬間に彼の視界に飛び込んだのは、既に至近の距離まで近づいていたリュウだったのだから。
リュウは戸愚呂が真空波動拳を受け止めにかかったそのタイミングで、間合いを一気に詰めていたのだ。
必殺の波動ですらも、攻撃を打ち込む為の布石に変えて……!


「オオオォォォッ!!」


強く前へと一歩を踏み出し。
拳に闘気を、波動を込めて。
天へと昇る龍が如く……跳躍と共に打ち出す!


「昇龍拳ッ!!」


打ち出された拳は、真っ直ぐに……戸愚呂の胴体を打った!

215拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:34:21 ID:MQYImfzM0




■□■




「グゥゥッ!!?」


リュウの放った昇龍拳を受け、戸愚呂は思わず苦悶の声を漏らしてしまった。
自身の筋肉を突き抜け、肉体の内にまでこうも衝撃を届かせるとは。
30%では圧され、ならばと60%まで力を引き上げたが……それでも尚、勝負はリュウの優勢ときた。
何という事だ。


「……ふふ……フフハ!」


何という、嬉しい事だ。
まだまだこの男は、自分に力を出させてくれる。
こんなものではない、更なる力を引き出させてくれる。
これだ……これを期待していたのだ。
浦飯幽助に自分を上回る何かがあるかもしれぬと感じた、あの時と同じだ。
全力を出してもいいと、そう思わせるだけの強敵との勝負。
目の前の相手には……それが望める見込みがある!


「いいぞ……リュウ。
 もっとだ、もっとお前の強さを見せてみろ……俺と闘え……!!」


戸愚呂の肉体が、更なる変化を遂げる。
現段階の更に上……80%まで、自身の力を引き上げたのだ。
その姿は、今まで戸愚呂が出してきた最強の形態。
これまでその姿を見て生きてきた者は極僅かしかいない姿だ。


「戸愚呂……!?」


もはや人の範疇を超えたその異形の姿には、さすがのリュウも驚きの感情を抱かざるを得なかった。
ここまで見せてきた30%・60%の筋力操作は、まだ人間の範疇に入る姿だ。
寧ろ、全身から電気を放つ野生児や手足が自在に伸び口から火を吹くインド人を見てきたリュウからすれば、外見上は些細な変化でしかなかった。

だが……流石にこの80%の力にまでなると、話は別だ。
全身の筋力は明らかに人の範疇を逸脱しており、何より全身から放たれているこの異常とも言える闘気。
力の弱いものならば、相対しているだけでも体力を削られるであろう程だ。


「その姿……それが、お前の目指す力のあり方なのか……?」

216拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:34:47 ID:MQYImfzM0
「ああ……そうだ。
 力を、強さを求め俺が行き着いた……人を超えた力だ」


人を超えた力。
戸愚呂は自らの今の強さを、そう言い放った。
それは間違いではない。


「人を越える妖怪へと転生する事で、俺はこの力を手に入れた。
 強さを極める為に……人間を超えたのだ」


話は、50年前にさかのぼる。
かつての戸愚呂は、リュウと同じく拳に生き強さを日々磨く武道家であった。
自身の強さを何よりも信じていた。

だが……ある一度の敗北が、彼の全てを変えた。
敗れた末に、彼は大切な者達を失ってしまった……己の強さが、足りなかったが為に。
だからこそ、彼はその強さを永久に高め保つことを目指した。
そしてそれは、年と共に老いてゆく人間では成し得ない。
故に彼は、妖怪へと転生したのだ。
人あらざる存在になることで、より己の武を高めるために。

ただひたすらに、強さを得るために。



「……違う……!」


その戸愚呂の言葉を、リュウはまたしても否定する。
彼の力は間違っている……そんなあり方が、目指す強さの到達点であるはずがない。


「戸愚呂……それは人を超えた力じゃない!
 人を捨てた力だ!!」
「捨てた、か……どちらにせよ、同じ事だ!」


間合いを詰め、戸愚呂が迫る。
先程までと比較して、段違いの爆発的な勢いだ。

217拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:35:25 ID:MQYImfzM0

「人間である以上、得られる強さには限界がある!
 だからこそ俺は、人間である事をやめたのだ!!」


リュウを射程に捉えると同時に、戸愚呂は右の中段の廻し蹴りを放つ。


「違う!
 戸愚呂、お前は怖かったんだ!!
 人間のままであり続け、強さを磨く事から……お前は逃げた!」


その蹴りを力強く左の腕で受け止め、リュウは右の拳を真っ直ぐに放つ。


「俺が逃げただと……!?」


戸愚呂はその一撃を上体を逸らして回避し、蹴り足を戻すやいなや両の拳を組み、リュウの顔面めがけて打ち下ろす。


「そうだ!
 お前の言うとおり、人間は弱いかもしれない生き物だ。
 だが同時に、己を磨き高める事で強くなれる可能性を秘めている!
 それはただの力や技によるものだけじゃない!
 友との絆……自分以外の誰かの支えがあってこそ得られる強さだ!!」


鉄をも容易く砕きかねないその豪打を、リュウはバックステップで回避し、同時に波動を練り上げる。


「だからどうした!
 強さを得るのに他者の存在など不要……!
 全てを切り捨て、純粋に己のみを高める事で強さは得られる!!」


放たれた波動拳を、戸愚呂は手刀の一撃で両断する。


「それが逃げていると言うんだ!
 お前は強さを極める為に絆を捨てたんじゃない……絆から得られる強さを信じる事が出来なかったんだ!
 だから、人を捨てて得られる容易な力に走った……人である事から逃げた!!」


リュウは竜巻旋風脚で戸愚呂との間合いを詰めつつ、その頭部に蹴りを狙う。


「グゥッ……!?」


腕を上げて頭部へのダメージを防ぐも、戸愚呂の顔が苦痛に歪む。

218拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:35:55 ID:MQYImfzM0

(違う……さっきの攻撃とは!!)


威力が明らかに違う。
これはただの竜巻旋風脚ではない。
より力を、闘気を込めた必殺の奥義……!


「真空……竜巻ッ!!」


真空竜巻旋風脚。
より強い闘気を込めて放たれたその蹴りは、戸愚呂の体を大きく揺らした。
80%まで高められた戸愚呂の肉体にも、なお通用する威力が秘められていた奥義だ……!


「ウオォォ!!」


踏ん張る戸愚呂の肉体を、音と砂埃を立てて強引に後退せる。
この真空竜巻旋風脚には、これまでリュウが放ってきたどんな攻撃よりも重かった。


「俺は……お前にだけは負けるわけにはいかない!
 真の格闘家の行き着く先が、人を捨てた強さではないと……そう証明するためにも!!」


それは単なる威力だけの話ではない。
彼の魂……拳にかける想いが、しかと乗せられた攻撃であったからだ。
真の格闘家を目指すものとしての譲れぬ願いが、力を与えているのだ。


「証明、か……なら、リュウよ。
 俺がお前に勝てば……正しいのは俺の求める強さということになるな……!!」


しかしその一撃を受けてもなお、戸愚呂はその思いを否定した。
あくまでも自分は、自分の求める強さを信じると。
リュウの求める強さなど、甘い戯言でしかないと。


「ウオオォォォォォォォ!!」


唸りを上げ、戸愚呂が拳を繰り出す。
リュウの掲げる信念を、その肉体ごと打ち砕かんとするかの様に。



――――――バシィィッ!!!



「くっ……!!」


リュウはその拳を、真正面から両の腕で受け止める。
防御越しですら、肉を越え骨まで響く衝撃と威力。
まともに当たれば容易く体を吹っ飛ばされていただろう……だが、リュウはそれを受け止め踏ん張っていた。
全く後ろに下がらず……まるで、戸愚呂の信念を拳ごと受け止めるかの様に。

219拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:36:24 ID:MQYImfzM0


「なら……何故だ、戸愚呂」


その体勢のまま、リュウは静かに言葉を紡いだ。
目の前に立つ、己の強さを否定しようとする男へと……


彼は、悲しき瞳で告げた。



「何故……お前の拳からは、悲しみが伝わって来るんだ……!」


拳を通じて伝わった……戸愚呂の思いへの疑問を。





■□■




「……!?」


リュウの言葉を聞いた瞬間。
大きく目を見開くと共に、戸愚呂は咄嗟に拳を引いた。
引くしかなかった……できなかったのだ。


「……悲しみ、だと……?」


自身の拳から悲しみを感じたというこの男に……あのまま、拳を突きつけ続けることが。


「ああ……そうだ。
 お前の拳は、ただひたすらに強さを……
 敵を倒す事のみを追求するだけの拳じゃない。
 口ではそうだと言っても……拳から伝わる想いには、それ以外のものが確かにあった。
 少なくとも、俺にはそう感じられた……」


戸愚呂が強さをひたすらに追い求め続けているという点に、一切の間違いはない。
紛れもない事実なのは、疑いもないだろう。
だが……本当にそれだけなのかと、リュウにはどうしても思えてならなかった。
何故なら……彼の姿が、拳がそれを否定しているからだ。
自分と闘う中で、徐々に全力を出せる事を喜んでいる戸愚呂の姿が、その想いが。


「まるで……俺には、お前が『自分を倒せる相手を望んでいる』かのように思えてならないんだ」


闘いの中で……自己を越える存在を待ち望んでいるのではないかと。
それを自分に求めているのではないかと……そう感じさせたのだ。

220拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:36:43 ID:MQYImfzM0




■□■




「……まったく。
 くだらない事を言ってくれるな……白けちまったよ」


そんなリュウの言葉を聞き、戸愚呂は小さくため息をついた。
興が削がれたとでも言うべきか。
80%まで膨れ上がっていたその肉体が、徐々に元の体型へと戻りつつあった。
先程まで放たれていた圧倒的な闘気もまた、同様になりを潜め始めている……戦意を消したのだ。

これ以上……少なくとも今は、彼の中にリュウとの闘いを続行する意思はなかった。


「……リュウ。
 何を感じたのかは知らないが、それはお前の勝手な思い込みに過ぎない……お門違いもいいところだ」


戸愚呂は地に落としていたデイパックを拾い、コロッセオの入退場口へと足を向けた。
リュウに背を向け、ゆっくりと静かに外へと歩いてゆく。


「俺はただ、強さが欲しいから闘うだけだ。
 お前との闘いならば、更なる強さを得られると感じたから……だから闘いを望んだまでのことだ」
「戸愚呂……」


去りゆくその背を、リュウは追おうとはしなかった。
ダメージが抜けていないことも、もちろんあるが……それ以上に。
拳を通じて感じた悲しみと同じものを、その背から感じてしまったが為に。
今ここで闘いを挑んで……それが本当に正しいのかと、迷いを感じてしまったがためにだ。


「まあ……そういう意味では、俺とお前はどこか似た者同士なのかもしれないか。
 リュウ……このバトルロイヤルには、俺と同じ様な奴は山ほどいるはずだ。
 それでもなお、お前は……その甘い道を歩もうって言うんだな?」
「……ああ。
 ただ闇雲に命を奪うだけの力は、本当の強さじゃない……俺はそう信じている。
 だから、戸愚呂……お前は絶対に俺が止めてみせる」


それでも、この決着だけはいずれ必ずつけなければならない。
この拳への想いにかけて……必ず。

221拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:37:02 ID:MQYImfzM0

「ふっ……そいつは、次に出会う時が楽しみだな……」


その思いへと戸愚呂は静かに笑みを浮かべて答え、去っていった。



リュウと戸愚呂。
同じく拳に生き、しかし互いに違う頂きを目指す二人の求道者。
その第一戦は、引き分けに終わった。

果たしてこの先……決着となる第二戦は、無事に巡り来るのであろうか。

それとも……



【A-5 コロッセオ/1日目 深夜】
【リュウ@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:格闘家としてこのバトルロイヤルを否定する。その為にもノストラダムスを倒し、バトルロイヤルを終わらせる。
0:ひとまずは体力の回復を待ってから行動する。
1:戸愚呂(弟)との決着をいずれつける。
  彼の求める強さを認めるわけには行かない。
2:バトルロイヤルを終わらせる為に、共に戦う仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はZERO2のED〜ZERO3からです。
  その為、真・昇龍拳をまだ会得していない可能性があります。
※殺意の波動に目覚める兆候はなく、安定した状態でいます。
  ただし、置かれている状況次第によっては殺意の波動が昂ぶり、目覚める可能性もあります。

222拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:37:20 ID:MQYImfzM0




■□■




(……倒してくれる相手を望んでいる……か)


コロッセオの外回り。
出入り口を出てすぐの地点で、戸愚呂はリュウの言葉を静かに思い返していた。

彼は、自分が妖怪へと転生したのは、人であり続ける事への恐怖に負けたことからの逃げだと言った。
自身の拳からは、悲しみが感じられると言った。
自分が……本当は誰かに倒される事を望んでいるのではないかと言った。


(案外……そうなのかも、しれないな……)


100%の力を出し切り闘える、そんな相手を求めるのは……そんな想いが根幹にあるからなのかもしれない。
ああ、リュウの言うとおりだ。

50年前のあの日……暗黒武術会決勝で、潰煉に弟子達を皆殺しにされたあの時から。
潰煉を倒し敵を討ってもなお、彼らを守れなかったという罪の意識が消えなかった、あの時から。
弱い自分自身を許せず、妖怪となることで強さを手に入れようとしたあの時から。

ずっと……きっと自分は、望んでいるのかもしれない。
強さを求める反面で、心のどこかでは、彼の様な己とは違う強さを持つ男と出会い闘う事を。


「それでも……今更、後戻りなんかも出来ないんでな……」


それでも尚、戸愚呂は己の歩む道を曲げようとは考えなかった。
自分はこうして、全てを捨てて強さを得る道を選んだのだ。
だから……試してみたいのかもしれないのだ。

リュウが言った強さは、本当に正しい強さなのか。
自分が目指す強さこそが、本当に正しい強さなのか。


武道家として……どちらの強さが正しいのかを。


【A-5 コロッセオ外/1日目 深夜】
【戸愚呂(弟)@幽遊白書】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:優勝を狙い、全ての参加者と闘う。
0:自分に100%の力を出させるだけの相手を探し、闘いたい。
1:リュウとの決着をいずれつける。
  彼の目指す強さと己の目指す強さと、どちらが正しい強さなのかを確かめたい。
2:可能なら、一応兄者とは合流する。
[備考]
※参戦時期は暗黒武術会決勝戦前。
  準決勝終了後から玄海殺害までの間になります。
※リュウを強敵と認識し、80%までの力を発揮しています。
  彼ならば100%の力を出せるかもしれないと期待をしています。
※100%の力を出して全力で闘った場合、肉体が耐え切れずに反動で崩壊する恐れがあります。

223 ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:38:43 ID:MQYImfzM0
以上で、投下終了になります。

224名無しさん:2015/11/10(火) 08:46:11 ID:uV7zuQOk0
投下乙です
登場早々からの熱い展開、両者の死力を尽くした格闘に感嘆させられました!
後々の再戦も匂わせてますし双方の今後がとても楽しみです
…それにしても早速ストファイ勢はこれで全員出揃ったのか

225 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:03:40 ID:5XOn0UoM0
皆さま、投下お疲れさまです。
感想は後ほど書く形にして、今日期限の作品を今の内に投下したいと思います。

226灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:04:58 ID:5XOn0UoM0



 ──暗闇の中、赤いネオンが小さく光っていた。



 夜の風が冷たく染みわたり、「グレイ」の身体は一層ひんやりとした感触を伴っている。
 グレイは、その冷えきった口元で、一本の安い煙草を吹かしていた。
 彼の支給品だ。彼に支給された「武器」はこれだけだったが、むしろ彼にとっては、不味そうなパンや安上がりのミネラルウォーターよりも、この一服の方が生存にとって有意義な必需品といっていい。
 まだ吸い始めて間もないのか、先から燃え尽きた巻紙がぼろっと崩れ落ち、塵は冷風の中に溶け込んだ。
 煙草から発された煙は、夜風に流れて空を泳いでいく。
 グレイは、煙を見つめながら、今は亡き愛する女に想いを馳せた。

 ところで、この「グレイ」、というのが何者なのかを伏せて見てみると、何ら普通の情景が浮かぶかもしれない。
 少なくとも愛煙家であり男性であり、体温が低いという事だけが彼の特徴として挙げられたが、そんな人間はこの世にいくらでもいるのである。
 ……ただ、「彼」が何者か知った上で、それが映像として頭に浮かんだ時、多くの人はおそらく、幾許かの違和感を覚えるであろう。
 おそらく──こんな奇怪な者に会った事のある人間は、そうはいまい。

「……」

 彼は、グレイは──ロボットだった。

 その名の通り、深い黒の身体を持ち、人間のように「肉」や「皮膚」を持たない、完全な"メカニック"なのである。
 たとえば、この殺し合いに招かれたT-800やT-1000らターミネーターは人間の貌を被っていたが、そうして人間の姿形を借りる事もグレイにはなかった。
 胸部などを見れば彼が持つ回路の姿なども拝む事が出来るし、体表はブラックのメタルが包んでいて、目は赤いネオンランプとして光るのである。
 全身には無数の装備が着装されており、それらは隠される事もなく、腕や背中に露出していた。
 キャノン砲、バルカン砲といった、日本では滅多に目にかかる事のない兵器を人間大の身体一つに詰め込んでいるその姿は、もしかすれば近未来に戦争を行う兵器の姿のようであったかもしれない。
 この"地球"の出身ではなく、裏次元の世界のロボットであはるが、いつの日かこんな兵器が実線投入されれば、人間など一瞬で制圧されてしまうのではないかとさえ思えた。

 そして、そんな存在である故に、呼吸を行う器官はなく、勿論、煙草の味を吸い込む為の肺が動いている訳でもないのだった。
 いや、言ってしまえば、そんな機能は本来、どこにも「必要はない」のである。彼は戦う事さえ出来れば、充分に製作者の構想する用途に適える存在のはずだ。
 ……だが、これは果たして、製作者の悪戯か、製作者の意地か、あるいは、グレイ自身に"魂"でも宿ってしまったのか、もしか彼もかつては人間であったのか──グレイは、煙草の味や、酒の味までも覚えていた。
 時には、音楽の心地よさや迫力に、心を休ませる事もある。下手をすれば、文学も読めるかもしれないし、名画の魅力も理解できるかもしれない。美食に舌鼓を打ち、動物を飼ったとしても何ら可笑しい事ではないだろう。
 目先の安い楽しみや煩いだけの音楽に毒され、クラシックを愛する事のなくなった現代人よりも、遥かに先人たちの文化を愛する「人外」だったのだ。

 そして──そんな彼は、愛も覚えていた。

「……」

 ──マリア。

 それが、彼にとって、本当の女神にも等しい最愛の女性の名であった。
 マリアは、かつて葵リエという名の人間であったらしい。だが、グレイはリエとして彼女を見た事は殆どない。
 彼女は、「次元戦団バイラム」の元幹部。──つまりは、グレイの仲間だ。

 彼女の美しい五指が奏でる戦慄が、初めにグレイの心を奪った。
 そして、グレイは、その美しい容貌に見惚れた。並び立ち敵と戦う事はグレイの誇りであったし、共に飲む美酒は最高に美味かった……。

227灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:05:42 ID:5XOn0UoM0

 決してマリアがグレイを愛する事はなかったが、いつの日にか自分の女にしてみせたい、といつも……ただ純粋に想っていた。
 それは、彼女が生物で、彼がロボットである以上、果たされる事のない虚勢であったのかもしれないが──。

「……」

 だが、もう、マリアという女も、葵リエという女も、この世にはいない。
 死んだのだ。

 その最期は、皮肉にも、機械であるはずのグレイが拝む事になった。それこそが唯一、女神が齎したグレイとマリアの間の絆である。
 ……彼女が「リエ」を取り戻した時、マリアは当然、グレイの敵に回るかに思っていた。しかし、リエとなったマリアは、まだグレイの仲間のままだった。
 マリアは、最後には、「リエ」の心を取り戻しながらにして、グレイの名を呼び、グレイを信頼し、そして微笑みかけたのだ。
 思えば、マリアと過ごした一年で、唯一その時が、マリアがグレイに──それは確かな意味で、「本心」から──心を許した瞬間だっただろう。
 彼女の亡骸は消え去り、葵リエも、マリアも……この世からは消え去った。

 そして、彼女の最期を看取った時、鋼の身体を持つグレイも、生まれて初めて──赤く光るその瞳から、涙を、流した。

「……」

 彼女の死は、グレイにとって悲しき物であると同時に、尊き物であった。
 最後まで誇り高く戦い、散ったマリア。
 決して、グレイの一時の恋は報われなかったし、マリアを愛したあらゆる男たちも、マリアを殺した男や、マリアに愛された男でさえも──報われたとは言い難い。
 バッドエンド、と言っても何ら可笑しい物ではないだろう。

 だが……マリアの死は、どういうわけか、穢してはならない尊い瞬間だった。
 あの時、全ての男の願いさえ跳ねのける女の強さを見せつけられた気がした。その強さこそ、彼女の持っていた最大の尊さであったのかもしれない。
 そして──。

「……」

 ──そして今。
 マリア亡き今、グレイに残ったのは、「戦い」だけだった。
 強き者と戦い、いつか、誰にも見られず──ひっそりと、どこかで、野良犬のように……機能を停止する。
 それが、マリアを亡くした後に残されたグレイの生きがいであった。

 そう。最後まで戦う……それが、グレイの生き方。
 マリアと共に戦った、グレイという男の「戦士」の姿。
 近い内、その終わりの時が来るであろう事は、グレイ自身も「第六感」で悟っていた。おそらく、それは回路にすら組み込まれていない感覚。
 誰かによって、グレイの終わりは齎されるという未来が──何となく、感じ取れていた。

 ──もう、俺は長くない。
 勿論、体は万全だ。「機械」は永久に生き続ける事も出来る。
 しかし、俺は死にたい。
 ……いや、戦う事で、「永久に生き続ける」という機械の定めから脱したいのだ。
 その時が近づいている。
 そんな実感が全身の回路を駆け巡っている。

「……」

 ここで、「殺し合い」と聞いた時も、グレイは何も思わなかった。
 バイラムの一員である以上、彼は、いかに人間らしい「愛情」や「誇り」を持っていても、「正義」は持っていないのである。
 だが、正体も明かさない誰かの「命令」を素直に聞くという事は、ひとまず拒んだ。それは、いわば「誇り」という感情が、拒絶した結果だと言っていい。
 少なくとも、「誰か」でしかない者の命令には、靡かない。──これは、一個のロボットとして当然の理でもある。

 しかし、次に、「命令を聞くか、聞かないか」ではなく、「これを一つのゲームと問われた時──ゲームに乗るか、乗らないか」という選択がグレイに向けられた。
 ……そして、選択肢がそう変わった時、彼は、「バトルロイヤル」というゲームそのものは自在に選択を出来る物であるのだと再認識する事になった。
 なるほど、命を握られているとはいえ、こちらで自由に行動を決められるわけだ。

228灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:06:00 ID:5XOn0UoM0





 ──ゲームに乗るのも、悪くはない。





 ……グレイはそう思った。
 売られた喧嘩は買う、とどこかのチンピラの言うような事を考えているわけではないが、少なくとも今そういう場にある自覚だけはしっかりと持ち合わせている。
 デイパックや禁止エリアといった諸々のルールは、単純ながらに隙が無く、なかなかに凝っていて面白味があるし、おそらくこの首輪も相当な威力を持っていてグレイたりとも破壊するのだろう。
 普通の人間であってもグレイに挑めるよう、武器は煙草に限らず幾つか支給されているはずだ。個々の運勢も含め、ある意味では、非常にフェアーだ。どんな相手もただの弱者と見るつもりはない。
 生身の身体に実力の差異があったとしても、それを埋める方法はいくらでもある。
 これは、グレイに仕向けられた「ゲーム」としては、これまでに課せられたあらゆるゲームのルールとは随分と異なっていた。
 確かに面白い。──自分に相応しいゲームだ。

 ただ、あくまで、その「ゲームに乗る」とは、単に「殺し合いをし、優勝する」という事とは、やはり少し食い違ってきている。
 何せ、この殺し合いの中には、グレイにとって「殺すわけにはいかない相手」もいるし、「戦士としての誇り」もグレイの中には確かに内在し続けている。──最後のプライドが、ただ運に敗れただけの「誰か」と戦うという行為を邪魔した。

 戦いだけが残ったからこそ……その戦いだけは、自分の戦士としての誇りに適うものでありたい。
 グレイの目的は、戦いで死ぬ事だ。
 無差別に他者を襲うのではなく、その中で自分の敵と見極められる者だけがターゲットだ。──そう、たとえば、あの結城凱のように。
 ……それ以外の、戦う意思なき人間には興味はない。

 グレイの目的は、「殺戮」ではなく、「ゲーム」と「戦い」。
 その結果、勝負を決したいずれかが死ぬのは、戦士である以上やむを得ない事であるが。

「……」

 結局、何かにおいて強い戦士と、面白い戦いを行う──それが彼のゲームなのである。
 勿論、勝つ。そのつもりで戦う。
 死は勝ち続けた褒美として、いつか、誰かがグレイに齎すという物であろう。その時が来るまで戦い続ける事が、グレイに残った誇りなのだ。

「……」

 ……そういえば、この状況下、ノストラダムスは「頭脳」が必要などと言っていたが、これもまた面白い話であった。
 チェス、ポーカー、コイントス……面白い戦いは幾つもある。単純な戦闘だけではない。
 古畑任三郎や金田一一などはそれらの能力が高いらしいが、電子頭脳を持つグレイにとっては、どれを置いても人間など上回る。
 しかし、時として──凱のように、グレイさえも不意を突かれるような方法で勝利を掴む者も現れる。
 もしかすれば彼らとは、そんな戦いが来る事もありうるだろうか。
 戦士ではなく、一人の趣味人として戦ってみたい相手である。

「……」

 それから、忘れてはならないのは優勝の賞品だ。──だが、そんな物にも、縋る気はない。
 勿論、グレイの願いといえば、葵リエの蘇生であろう。
 しかし、それはやはり拒んだ。

 仮に……それでマリアが甦るとしても、グレイも、マリアも──誰も幸せになれようはずはないのだろう。
 何故だか、そんな予感がした。──そんな予感と反している、マリアの最期の声も、グレイの中にデータとして残っているはずだというのに。

『本当は……死にたくない……もう一度、一から竜とやり直したい……』

229灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:06:34 ID:5XOn0UoM0

 マリア……いや、葵リエの最期の姿が再生される。
 きっと、それがリエの確かな本心の願いであったのだろうと、グレイは思う。
 それが、一人の「戦士」の中に残った、人間としての……女性としての部分だった。

 ロボットであるグレイにも、不思議と人間が何を考えるのかはよくわかっている。
 人間たちは、迷う。グレイ同様、決して単純な想いだけが口からこぼれるわけではないし、自分の本心さえも詳しくは理解していない。──だが、最後の時に、本音らしき物が漏れる事もあるだろう。
 リエの最期の言葉は、死に直面した瞬間の、それに違いなかった。
 そう、その瞬間に見えたのが、リエの真実の姿だ。
 グレイだけが知っている、彼女の本当の願い……。
 グレイにも、その願いを叶えてやりたい気持ちはある。
 そして、確かにグレイにはそれを叶える力もあるかもしれない。

 ……だが。
 そんな願いを秘めた彼女は、最後に何をしたか。
 その言葉を竜に届かせる前の──彼女が見せた、人間の誇りをグレイは再生した。

『もう助からない! 最後にお願いよ、竜……! 忘れて……私の事を! 貴方の胸から私の記憶を拭い去って……』

 ……ああ、確かにそれは彼女の虚勢だったかもしれない。
 しかし、彼女が自分の求めた幸せと引き換えに、強がりながら見せた誇りだった。

 彼女が選んだのは、自分自身ではなく、愛する男の幸せだったのだ。
 グレイが彼女を想ったように、彼女は竜を想った。それだけの話だ。
 その時の意地を、グレイは、消してやりたくは無かった……。

 グレイが戦士であるように、リエもまた戦士だったのだから。
 その誇りを、グレイの甘い思いやりで消し去りたくは無かった……。
 そして、それが、グレイが、マリアを──いや、葵リエを「戦士」と認めた事の証明だった。
 ……結局は、彼女は正義の為に戦った戦士だったのだ。
 グレイは、かつて彼女を魔獣にする事を拒んだように、「人間」として最後を迎え、そして、「戦士」としての誇りを見せた彼女の姿を穢してやりたくは無かった。
 だから……グレイには、マリアの願いではなく、自分自身の「戦士」だけが残った。

「……」

 グレイが味わっていたラークマイルドが、一本切れた。
 普段、高級な葉巻を味わっているようなグレイには、些か安すぎた気もするが、無いよりは遥かにマシであるし、どうもこの味は嫌いになれない。
 もう一本、ラークマイルドの箱から煙草を取り出し、自らの機能で火を灯す。

 夜の闇の下に晒されながら、グレイは、ただ、ずっと、何かが起こるのを待ち続けていた。
 不意でも良い。
 奇襲を仕掛けられたとしても構わない。
 襲撃ではなく、誰かが訪れるだけでも良い。

 どんな形でも──。

 ……そうだ。確実に激突する事になる戦士がいる。彼らが良い。
 ブラックコンドル、いや、結城凱……ジェットマンの戦士。
 ラディゲ……マリアの命を奪った同胞。マリアの命を奪ったのは確かであるが、同じ定めに生まれた者として、そして仲間として、決して手にかけたくはない相手。それでも、ここでは戦う宿命があるかもしれない。
 女帝ジューザ……何故いるのかはわからないが、ジェットマンと協力の果てに倒したバイラムの首領だ。
 仮に、彼らと出会う事があったのなら、そこでグレイとの間に激突は避けられない。
 ラディゲならば、たとえ仲間といえども、グレイと相反する結果になるかもしれないだろう。

 強いて問題を挙げるならば、レッドホークこと天堂竜で、リエの最後の願いに報いるとするのならば、彼を「殺す」わけにはいかない。
 彼は、ある意味ではグレイに勝利し、リエの最後の心を受け続けた人間だ。
 彼が仮にもし、戦士の最期を迎えるとして、その相手はグレイであってはならない気がした。勿論、向かってくるならば手加減をするつもりはないが、その可能性も決して高いとは思えない。

(ブラックコンドル……いや、結城凱……)

230灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:07:10 ID:5XOn0UoM0

 逆に、凱が相手ならば、──それこそグレイ個人にとって奇妙な共感を覚える男なのだが──最後にもう一度、一勝負行い、決着をつけたい所だ。
 いや、本来ならば凱との戦いにより散るのが最も望まれる形であると、グレイ自身も何処かで感じていた。
 それこそが本来のグレイに残っている望みであるような、そんな気が……。

「……あのぉ〜」

 と、そんなグレイの元に女性の声がかかった。
 既に人間が接近している事はグレイも感知していたので、驚く事は勿論、振り向く事もない。その参加者がどう動くかは、こちらで観察しているつもりだった。

 ──グレイを避けるか、襲い掛かるのか……。
 そして、結果的に彼女はグレイに「声をかける」という選択をしたわけだ。
 珍しい判断と言えよう。そうなるとは思わなかった。

 グレイは、ラークを指に挟み、ふぅ、と息を吐いた後で、一言。

「……用があるなら少し待て。私の一服の邪魔をするな」
「はぁ……」

 そう言われて、その少女は、グレイのすぐ隣にちょこんと座り、グレイが葉巻を吸い終えるのを待った。
 グレイは、ひとまず彼女の登場にも心を動かすわけでもなく、自分の至福を味わい続けた。

「……」
「……」

 ──しかし、やはり人間にしては珍しい、とグレイも思う。
 ただの人間ならば、グレイのようなロボットに話しかける事も、こうして無警戒に隣に座る事もない。
 年齢は、少なくとも、純粋さが薄れ始めるが、まだ少女と言って良い年代──あのジェットマンのブルースワローよりも少し年下か。
 そのくらいで、さして好奇心を持つわけでもなくグレイに当然のように声をかけ、隣にちょこんと座るというのは変わった性格だ。
 それに着ている服も、少し変わっている。巫女装束という奴だ。
 どこかの神社の巫女なのだろうか?
 ……まあ、そんな事はいい。







 時間が経てども、両者は全くお互い障らず、マイペースに自分の行動を保つ。
 グレイは、一本のラークを吸い続ける。
 彼女は、ずっと不安そうな瞳でぼーっと座り込んでいる。







「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ……グレイのラークが、また一本、吸殻となるだけの時間が経った。その間、二人はただ無言を維持し続けていた。
 吸い終わるのを見計らったかのように、彼女はグレイに再び声をかける。

「あのぉ〜」
「……娘。私に何の用だ」

 まるで彼女の言葉に重ねるように、グレイは言った。
 何かの用があるから、こうしてグレイを待っていたはずだが、少なくともそれが勝負でない事は確かだった。グレイにとって、彼女に用はない。

231灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:07:32 ID:5XOn0UoM0
 ……とはいえ、ここで最初に会った参加者だ。何かの縁として少しは話を聞いておこうという気になった。
 彼女が変わり者であった事も、少なからずグレイの興味を引いた。
 一切の躊躇なく、「全身武装」のグレイに話しかけるとは、一体どんなメンタリティを持った相手なのか……と。

「えっと、大変な事になっちゃいましたね。殺し合いとか」
「……」
「あ、あの、えーっと……」

 冷や汗をかきながら言葉を取り繕う彼女は、どこか気まずそうだった。両手の人差し指の先端を重ねて、目を逸らしている。
 彼女もグレイに対して一定の距離感があるようだが、グレイも他者を突き放すような生き方をしているので仕方が無い話である。

 グレイは目を光らす。
 流石に、グレイの感情のない瞳に無言で見つめられると威圧感もあるのだろう。
 しかし、結局、そんな事はグレイには全く関係がなかった。

「……用はそれだけか」

 グレイは、呟くようにそう言った。
 何の用もないならば、わざわざ一緒にいる必要はない。
 彼はただ一人、孤独な戦士だ。……殊に、トランザやマリアがいなくなり、ラディゲとグレイも反目し合い、実質的にバイラムが解体された今となっては。
 だが、話を切り上げようとしているのは察されてしまったのか、彼女は少し焦りつつも、グレイに訊いた。

「あ、そうじゃないんです! ……あなた、ロボットの方ですよね?」
「その通りだ」
「うわぁ! やっぱり! マリアさんと同じだ〜」

 当然、その一言がグレイの注意が彼女に向くきっかけになった。
 マリアという名前を聞いて、グレイがあのマリアを連想しないはずがない。
 彼にとって、マリアという名前は特別なのだから。

「──お前は、マリアを知っているのか」
「え!? やっぱりマリアさんとお知り合いなんですか〜!? ……『ロボット友達』? いいな〜、私も幽霊友達とかいっぱい欲しかったかも……」
「……」

 この反応を見て、何となく、グレイが知っている「マリア」とは別の存在だとわかった。……少し、肩を落とす。
 考えてみれば、こんな気の抜けるような喋り方の小娘がマリアと知り合いのはずがないし、マリアなどという名前は地球上に大勢いる。
 世界一有名な教祖であるイエス・キリストの母と、全く同じ名前のロボットが地球で作られるのは何らおかしい話ではない。
 マリアがマリアと名付けられたのも、同じ由来による、バイラムの皮肉だ。
 グレイにとって特別な名でも、ありふれている名前らしい。

「……どうやら、私の知っているマリアと、お前の知っているマリアは別のようだな」
「え?」
「私の知るマリアは、ロボットではない……人違いだ」

 そう言った後、グレイは、そういえばお互いが名前を把握していない事を思い出した。
 この娘の名は知らないが、そんな人間と、「マリア」というこの場にいない人間の名前の話をしていたのだ。
 少なからず誤解が生まれても仕方ないと言えよう。

「……娘。お前の名は?」
「氷室キヌです。一応、美神さんの除霊事務所で働いています。……ここでも、今のところ、そこを目指そうと思ってるんですけど……」
「……」
「そうだ、ロボットさんのお名前は?」

 おキヌと名乗る少女は、殆どグレイに臆する事なくそう訊く。敵意がない相手だと認識したからに違いない。
 グレイにしても、ここで名を偽ったり、名を隠したりする必要はなかった。

「……グレイ」
「グレイさん……ですかあ」

232灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:05 ID:5XOn0UoM0

 何か思う所があったようだが、大方、「T-800」とか「T-1000」あたりがグレイの名だと思ったのだろう。しかし、生憎ただの型式番号に縛られるつもりはない。
 自分の名は……「グレイ」。
 無慈悲で無感情な型式番号を授けられた者たちも、おそらくは、いつぞやの「G2」のようなロボットたちであろう。
 グレイは、吸殻を持った右腕を、そっと下げた。
 と、その時、おキヌが大声をあげた。

「あっ、グレイさん!」
「何だ」
「──煙草を吸うのは良いですけど、ホラ、吸殻はあたしに預けてください!
 あとで、ちゃんとゴミ箱見つけたら捨てておきますから! 『ぽいすて』は、駄目なんです!」

 彼女は毅然としてそう言う。
 グレイは今まさに吸殻を捨てようとしていたし、グレイの足元には、一本の吸殻が落ちている。先ほど、吸い終えた粕を地面に放り捨てた証だった。
 確かに言われてみれば、人間にとって吸殻を捨てる場所は定められているらしい。その規則に則るならば、グレイは違反である。……が、彼にはそんな事は関係ない。
 ただ、おキヌがそれを拾おうとした時、グレイはそれに先んじるように自らが捨てた吸殻を拾い上げた。

「構うな。俺が、自分の手で片づける。……他人に借りを作る気はない」

 グレイは、自分の撒いた種を他人に摘まれるのを嫌う性格だった。
 自分の所作には、自分で蹴りをつける。他人には関わらせない。
 誰にも会わなければこのまま捨てただろうが、こうして他人に拾われ作業を押し付けるとなると話はまた別だ。
 ……二つの吸殻を丁寧に指先でつまんだグレイを前に、おキヌは呆然とする。
 そんなおキヌの方をグレイは見つめた。

「……一つだけ訊こう。お前は、私が怖くはないのか?」

 そう問われると、ふと我に返ったおキヌは顎の下に手を置いて少しだけ悩んだ。
 それから、すぐに答えを出した。

「私は、マリアさんっていうロボットの知り合いもいますし……今更これくらいじゃ驚かないっていうか……」
「……私が訊きたいのは私がロボットであるからという話ではない。
 ──この状況で、武装した敵に対面する事も含めてだ。今は、誰もが武器を持っている。他人を怖れず、ただ信用するのは……愚かだ」

 おキヌの不可解な所は、そのある種能天気な部分だ。
 グレイは、今この時を「戦争の只中」のように解釈している。これまでも幾つもの次元でそんな激しい戦いに身を投じて来た。
 中には、味方に裏切られた者もいる。
 そして、グレイの手に命を奪われた者もまた数知れない。
 しかし、そんなグレイを彼女はあっさり信用しようというのだろうか。

「ああ、それなら大丈夫ですよ……グレイさんも良いロボットでしたし。美神さんも横島さんも悪い人じゃないし、あの二人ならそう簡単に死にません。
 そして、美神さんや横島さんは、きっと私と一緒にこんな戦いを終えてくれるって信じてるから」
「……甘いな、氷室キヌ。生き残るつもりならば、もう少し考えて行動した方が良い。
 たとえ、生き残る事が出来るのが、この中のただ一人だとしても……」

 と、そこまで言った所で、グレイは考えた。

 彼女は何と言ったか。──そう、「戦いを終える」と言ったのだ。
 グレイには、その発想そのものがなかった。……つまるところ、ノストラダムスを打倒し、バトルロイヤルそのものを破綻に導くという事だ。
 だが、一度始まってしまったゲームを根底から崩すのは難しい。いかに理不尽な決闘であっても、ゲームマスターには、簡単には歯向かう事の出来ない仕組みが出来ている。
 たとえば、このバトルロイヤルにおいては、「首輪」である。
 だから、グレイにはその選択肢はなかったのだ。

 しかし、目の前のおキヌはおそらく、その、最も過酷な「戦い」を行う意思を持っていた。……ただの能天気かもしれないが、考え方としては面白い。
 グレイは、おキヌの目を見て、彼女の言う事を解した。

「……だが、なるほど。この戦いを終える為に戦う……それがお前の戦い方か」

233灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:29 ID:5XOn0UoM0

 グレイはそんな言葉を、思わず発した。
 ざっと見た所、このおキヌの性格ならば、確かにそれを行おうとするかもしれない。能天気である以上に、結構な楽天家だ。
 通常の人間ならば警戒するような相手に、何のブレーキもなくこうして寄ってくるのは、ある意味ではどこか狂っている人間のようにさえ思った。
 そのお陰か、おキヌは、グレイにとって、凡庸な人間ではなく、少しは話す価値のあった面白い人間として認識されたのだろう。
 グレイは、自らに支給されていたデイパックをふと一瞥し、それをがっしりと掴むと、おキヌの手に渡した。

「──これは私には不要だ。少しでも長く生きる為に、持って行くと良い」
「え? これ……私に……?」

 おキヌは、少々驚いた様子を見せている。
 この状況下、自らの支給品を明け渡す者は流石にいないと彼女も思っていたのだろう。実際、グレイも人間ならばこんな事はしまい。
 だが、グレイはそのロボットだ。
 ロボットである彼にはその鞄の中に押し込まれている物全てが嵩張るだけである。

「ああ。私にとっては邪魔なだけだ」
「……でも、地図や名簿とかは?」
「地図や名簿も情報として記憶した。メモなど取る必要はない」
「うわぁ。凄いんですね〜。私なんか忘れっぽくてぇ……この前も……」
「世間話をするつもりはない」

 グレイがデイパックを渡したのは、不要であったと同時に、おキヌに興味を示したからでもあった。
 彼女がいなければ、吸殻と同じくその辺りに捨てていただろう。

「……ありがとう、ございます」
「……」

 照れたように礼を言ったおキヌに対しても、グレイは何も思わなかった。

「あ、でも、グレイさん、知ってます? このデイパック、実は凄く変なんですよ」
「……何がだ」
「あたし、『誰かの肉体』が支給されていたみたいなんです。外国の人だと思うんですけど……」

 おキヌは不可解な事を言い出した。「誰かの肉体」……? それはつまり、どういう事だろうか。
 普通に収まるような三箱の煙草だけが支給されていたグレイは、その辺りの話は知る由もない。
 少しだけ、おキヌの話に興味も湧いた。おキヌの方を見る。

「ほら、これ……」

 すると、おキヌは、自分の方を見たグレイに見せるように、息を飲みながら、そっとデイパックの口を開けた。
 そこから出て来たのは、非常に濃い顔立ちと高い身長をしたボブカットの男性の姿だった。色っぽい姿は女性のようにも見えるが、体格上、それは男性である可能性が高い。……勿論、おキヌも確認してたわけではないが。
 ただ、おキヌの言っているように、彼は眠っていた。
 まるで死んだように冷たい身体で、そこには血液の循環すらもない。
 何より、デイパックの開け口よりも、彼の身体は大きかった。

「……」
「変ですよね? やっぱり、ドラ●もんのポケットみたいになってるのかな……。
 ……えっと、ちなみに、他にも、カードとか、私の笛とか色々入ってました」

 今度はおキヌの懐から、数枚のカードや、横笛が出て来た。
 トランプのカードでも、マリアの奏でる草笛でもない以上、グレイの興味はやはり、デイパックに入っていた人間の肉体の方だ。
 グレイは、サーモグラフィでその人間の肉体のデータを確認する。

「……この人、死体じゃないみたいですよ? 心臓とかは動いてないですけど……」
「肉体の構造は人間そのものだが、体温もない。心音、脈拍ともにゼロ。呼吸も当然していない。──死体と同じだ」
「ええ……でもやっぱり違います。『ぶろーの・ぶちゃらてぃー』さんという人の身体だそうです」
「名簿にあった名だ。……なるほど。少し興味はあるが、関係のない話だ」

234灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:54 ID:5XOn0UoM0

 そこまで確認して、グレイは、すぐに興味をなくした。
 要するに、これは魂をなくした肉体というわけだ。
 これがデイパックの中から出て来た事実は不可解ではあるが、一度おキヌに明け渡したデイパックを取り返すつもりもない。
 幾つかの謎も、バイラムの幹部であらゆる次元を旅したグレイには、大した事ではなかったのだろう。
 そんなグレイに、背後からおキヌが声をかけた。

「あ、グレイさん……私も」
「ついて来る気か? だが、私はお前に用などない」
「だって……私が向かっている場所も、そっちに行かないと行けないし……」
「……」

 グレイが向かった方角は、確かに、彼女が目指すと言っていた「美神令子事務所」があるG-5エリアの方である。
 結局のところ、グレイからすればどこに向かっても良いつもりであったが、やはり人気のある場所は、もっとマップの中央寄りの位置であろう。
 こんな隅にいるよりは、その方が良い。たとえおキヌがついてくるとしても、それで自分の選んだ道を変えようとは思わなかった。
 ただ……煩わしいが、もしついてくるならば、一言だけ忠告をしておくのが礼儀と思い、立ち止まったグレイは、おキヌに一言だけ言った。

「……キヌ。一つ、言っておく。私はゲームに乗っている」
「え? そんな人には見えませんけど……」

 おキヌは気楽な口調で言う。
 だが、グレイにとっては事実だ。
 彼は、バトルロイヤルというデスゲームには乗っている。
 ただ、おキヌをその刃を向ける対象としなかっただけである。

「……それは、私には私のルールがあるからだ。お前を倒す気にはならん。
 強い者と戦う事……それが私の、戦士としてのゲームだ。
 だが、ゲームに乗っている者はいる。──それを忘れるな。
 特に……ラディゲという男や、女帝ジューザには気を付けろ」

 グレイは、それだけ言うと、おキヌの方を見る事もなく歩きだした。
 そんなグレイの背にはおキヌがついてきているが、二人が会話をする事は、またしばらく無かった。
 夜の街のどこかに二人の姿は消えていった……。

235灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:09:45 ID:5XOn0UoM0



【H-6 街/1日目 深夜】

【グレイ@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:異常なし
[内蔵装備]:グレイキャノン(背中)、ハンドグレイザー(腕)、マルチショットガン(腕)
[追加装備(支給品等)]:なし
[道具]:ラークマイルド三箱(残数は18/20・20/20・20/20)@鳥人戦隊ジェットマン
[思考]
基本行動方針:ゲームには乗る。ただし、ノストラダムスの言った通りにはせず、自分のルールに沿い行動する(少なくとも積極的に殺して回るつもりはない)。
1:結城凱とは決着をつけたい。ラディゲ、ジューザとも殺し合う事になるかもしれない。
2:天堂竜を殺すつもりはない。少なくとも今はマリアの意思を尊重する。
3:優勝した場合も、マリアの誇りを穢すつもりはない。
[備考]
※参戦時期はマリア死亡〜凱と決着をつけるまで。
※名簿や地図は電子頭脳に記憶しています。死亡者や禁止エリアも聞いてさえいればすぐに記憶する事ができるでしょう。

【氷室キヌ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康
[装備]:ネクロマンサーの笛@GS美神 極楽大作戦!!
[道具]:支給品一式×2、ブローノ・ブチャラティの肉体@ジョジョの奇妙な冒険、クロウカードセット(雷、雨、霧、雪)@カードキャプターさくら
[思考]
基本行動方針:ゲームからの脱出。
1:美神令子除霊事務所を目指す(今は同じ方向に向かっているグレイについていく)。
2:美神令子、横島忠夫との合流。
3:ラディゲ、女帝ジューザに気を付ける。
[備考]
※参戦時期は不明(ただし少なくともネクロマンサーの笛を使うようになってから)。巫女服を着ているので、大きな騒動の最中ではないと思われます。
※幽体離脱によりブチャラティの肉体と氷室キヌの肉体を行き来する事も可能ですが、長時間、ブチャラティの肉体に入りこむ事は不可能です。
※幽体離脱中は元の肉体は睡眠状態になります。ちなみに、その間に元の肉体が死亡レベルの損壊を起こすと幽体も消滅します。
 また、幽体のまま移動できる距離も短距離に制限されています。



【ラークマイルド@鳥人戦隊ジェットマン】
グレイに支給。
結城凱が度々咥えている煙草の銘柄。
20本入りが3箱支給されている。ライターはついていない。

【ブチャラティの肉体@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の旋風】
氷室キヌに支給。
ブローノ・ブチャラティの肉体。
基本的には人間の肉体や死体などが支給される事はないが、ブチャラティがディアボロの姿で参戦した為、参加者の本来の器として支給された。
ただし身体の機能は停止しており、氷室キヌの幽体離脱などによって入りこむ事はできても、長時間彼の身体に入り続ける事はほぼ不可能。

【クロウカード@カードキャプターさくら】
氷室キヌに支給。
月属性「水」に属し、天候などを操る以下の四種類のクロウカード。
・「雨」=雨を降らす事ができる。
・「雲」=雲を操る事ができる。
・「霧」=金属を腐食させる事ができる(ただし首輪には無効で、グレイやT-800にはチョコラータのカビ同様の制限がかかる)。
・「雪」=雪を降らせる事ができる。
これらはいずれも、使用の際には、ごく局地的(戦闘を行う狭い範囲)に行われるよう制限されており、1エリアすべての天候が変動するわけではない。

【ネクロマンサーの笛@GS美神 極楽大作戦!!】
氷室キヌに支給。
霊、霊能力を持つ人間、妖魔などを操る事が出来る笛。この笛を使う事が出来る者は、ネクロマンサーの資質を持つおキヌだけに限られる。
ただし、首輪をつけた参加者を根本的に操作する事は不可能であり、上記の条件を満たす場合であっても、「パワーダウン」もしくは「パワーアップ」程度の恩恵しか与えられない(この条件を同時に使い分ける事は不可能)。
一方で、参加者外の霊や妖魔に対しては、原作通りの能力を発揮する事もできる。

236 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:10:21 ID:5XOn0UoM0
以上、投下終了です。

237名無しさん:2015/11/14(土) 00:49:01 ID:UO7upKQI0
投下乙です

グレイ渋くてかっこいいな。マイペースなおキヌちゃんとのコンビでどう動くんだろう

238名無しさん:2015/11/14(土) 22:41:30 ID:JUOcgF9s0
投下乙です
グレイは良く知らないものの、独特なキャラに引かれるなあ。
出会うキャラによって展開も変わりそうな二人だ。

239 ◆V1QffSgaNc:2015/11/15(日) 01:27:42 ID:gD/bgRyo0
感想をば。

>豹
マチルダ、別にマーダーではないけど殺し屋の卵なだけあって少しは危険で打算的。
今泉くんの無能ぶりを考えると、今泉くんが頑張れとしか言いようがないwww

>世界の理を壊すモノ
マーダーになるか対主催になるかきわどいラインだったルシオラとかも一斉にマーダーに
更には、一般人の苺鈴もいきなり発狂モードで殺し合いに乗る形に…
結構チートマーダーが多いせいもあってか、このロワもだんだんとマーダー比率が上がって結構ヤバい感じですね
強マーダー、奉仕マーダー、発狂マーダーの三人が揃ったエピソードですねコレ

>拳に生きる者達
リュウと戸愚呂、筋肉モリモリの格闘バトルですねこれは
ていうか、リュウ流石に強え…
マーダー側の戸愚呂も魅力的なキャラなだけあって、かなりド直球な熱血バトル回でした

240名無しさん:2015/11/30(月) 11:21:08 ID:NJsIUwYQ0
掲示板に仮投下ありー

241名無しさん:2015/11/30(月) 16:05:20 ID:yomSERZU0
マジですか

242 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:01:02 ID:82Fn.W3U0
投下します。

243不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:03:10 ID:82Fn.W3U0
「…………まさか、ダイやバーンとこんなことに巻き込まれるとはな……。
何の因果…………いや、やはり宿命と言うべきか。あいつと決着を付けるための……」

殺し合いの地に立つ一つの人影。
人のシルエットを為すそれは、しかし明らかに人では無かった。
全身から露になる異形は、数多の魔物の長所を移植手術によって魔族の身に宿した戦闘生物、
超魔生物たる証。
かつては地上を席巻した魔王ハドラーは、一介の戦士たる超魔生物ハドラーとなっていた。

ハドラーはその生涯において、栄光と破滅の繰り返しだった。
魔王として軍を率いて地上を侵攻し、勇者アバンに打倒される。
そして大魔王バーンの下で復活を果たし、勇者アバンを倒して魔軍司令として権勢を振るうが、
アバンの残した使徒を相手に幾度も敗北を繰り返した。
アバンの使徒に勝利するために、ハドラーは決断をする。
それは自らの肉体を超魔生物へと改造する決断。
魔族の肉体と魔王としての過去を捨て、ハドラーはダイとの決戦に臨んだ。
しかしそこで判明したのは、自分の身体に伝説の超爆弾”黒の核晶(コア)”が埋め込まれていた事実だった。
黒の核晶(コア)の爆発によってダイとの決着を付けることは叶わず、バーンとも決別したハドラー。
ハドラーは魔族の肉体も、元魔王のプライドも、地位も名誉も失った。

「……ある意味、この状況は好都合と言えるな。ダイと邪魔の入らない状況で決着を付けるのには」

それでもハドラーは目的を失ってはいない。
その意思は揺らぐことは無い。
ハドラーの目的はアバンの使徒打倒のみ。
魔族の肉体もプライドも地位も名誉も、目的のために自らの意思で捨てたのだ。
目的は明確である以上、不必要に思い悩むことも無い。
殺し合いと言う状況に巻き込まれたならば、それに沿って目的を達成するまでだ。
気に掛かる点は別にあった。

「問題はオレの崩壊しかかっている身体が、どこまでもつか……か」

ハドラーの巨躯をより際立たせている超魔生物の威容。

244不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:05:27 ID:82Fn.W3U0
しかしそれは完全な物とは言い難かった。
欠けた角。胴体に大きく開いた穴。
本来、超魔生物は強い回復能力を持っている。
しかし今のハドラーはそれを十全に発揮することができない。
既にその血肉と化していた黒の核晶を摘出したことで、ハドラーの肉体は崩壊しかかっていた。
おそらくハドラーの肉体は、もう長くは保たない。
殺し合いの時間程度は保つだろうが、ダイに出会うまでにおそらく戦闘は避けられない。
今の状態で戦闘を重ねれば、無事にダイの所まで辿り付くことは叶わないだろう。
何か危険を避ける手段が必要になる。
そう考えながらハドラーはデイパックの中を検め、目ぼしい支給品を手に取る。

もっとも既に手遅れのようだった。

「……オレに何の用だ?」

背後の気配に振り向くハドラー。
ハドラーが振り向いた先には一人の女が居た。

「へぇ……あたしの気配に気付くとはね」

長く髪を伸ばしたその女は、まだ少女と呼んでも差し支えの無いほど若い娘だった。
しかし若さに見合わない怪しげな空気を纏っている。
その気配からも人間でない、それも相当の力量を持っていることは容易に察せられた。
背後から隙を窺うように近づいて来た女を、ハドラーは睨みつけるが、
女は怖じる様子も無く、尚もハドラーに気安く話し掛け続ける。

「あんたは見た所魔族みたいだけど……」
「かつてはな……今は魔族の身体は捨てた」
「ふふふ……それでも強いことには違いないわよね?」
「もったいぶった話をする前に、名前くらい名乗ったらどうだ」

女の含みのある口振りを遮るハドラー。
今のハドラーにあるのは自分の目的のみ。
他者を無闇に撥ね付けるつもりは無いが、愛想を振り撒くつもりも無い。
他者からの情報が無くとも、殺し合いが進んでいけばダイとは自ずと行き当たるはずだ。

「私はメドーサ。竜神族だけど、これでも魔族には通じていてね」

ハドラーが只者ではないと睨んでいた通り、メドーサは神族の者だった。
主に天界に棲む神族ならば、ハドラーを知らずとも不思議は無い。
今のハドラーは自分の知名度などに関心は無いが。

「もったいぶった話が嫌なら、単刀直入に言うわ。私と組まない?」
「……組んでどうする? 二人は生きて帰れんのだぞ?」

メドーサの提案は、おおよそハドラーにも予想できた。

245不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:07:07 ID:82Fn.W3U0
そして実の所、そのメリットも理解できる。
殺し合いを優勝するのだろうと、脱出するのだろうと強い協力者が居ればメリットは大きい。

「優勝したいのなら最後の二人になるまで組めば良い。
脱出したいのなら協力者は多いに越したことは無いわよね」

ハドラーの態度も意に介さず薄い笑みさえ浮かべているメドーサ。
その様子からメドーサの己の力量に対する自信が感じ取れた。

「いずれにしても神族である私とあんたが組めば、殺し合いの中でも敵は居なくなる。
見た所殺し合いの参加者のほとんどが人間、下等なゴミに過ぎない連中なんだから」

それでもハドラーは、何故かメドーサと組むつもりにはなれない。
メドーサの言葉の中に引っ掛かるものがあるからだ。

「……下等なゴミ? 随分と人間を見縊るのだな」
「無闇に人間を見縊るつもりは無いわ…………。
油断さえなければ……人間にしてやられることは無い。そうでしょ?」

メドーサはここで初めて、その態度から余裕を無くす。
余裕を無くす、どころでは無い。
思わず歯を食いしばり、目を血走らせる。
人間を見縊る、という話題から思い出したのだ。
メドーサにとって最大の屈辱を与えた人間、横島忠夫の存在を。

神族でありながら魔族のアシュタロスと繋がり、数多の陰謀をめぐらしていたメドーサにとっては、
人間など、陰謀のための駒に過ぎない矮小な存在だった。
しかしその矮小な存在であるはずの人間、その中でも取るに足らない下らない存在であるはずの横島に、
何度も自身の計画を妨害され、その末に倒された。
メドーサにとってこれ以上ないほど屈辱的な事実だった。

だからメドーサの最優先事項は横島の殺害である。
それさえ達成すれば、後は優勝を目指しても脱出してもどちらでも構わない。
もっとも、参加者にはその横島の他に美神令子も居るために脱出は容易くは無さそうだが。

「その人間に……随分してやられてきたらしいな」

まるでメドーサの心中を見透かしたようなハドラーの口振り。
メドーサの苛立ちがハドラーに向かう。

「……あんた、私を知ってるの?」
「おまえのことなど知らんな。だが、おまえの見せた怒りには覚えがある。
見下していた相手に勝てぬ苛立ち、下らんプライドに固執する者の怒りだ」

メドーサの抱える憤りは、ハドラーにとってはよく理解できる物だった。
自分のプライドに固執して相手を見縊り、それゆえに敗北を重ねる。
アバンとその使徒を相手に失態を積み重ねてきた時の心情。
先刻のメドーサの様子は、ハドラーにそれをありありと思い出させた。

246不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:08:46 ID:82Fn.W3U0
しかし今のメドーサはハドラーにその怒りを向けている。

「知った風な口をきいてくれるね……魔族の身体も守れずに魔物に身を落とした分際で」
「種族の別は関係無い。神族だろうと魔族だろうと、自分も相手も見誤っている程度だということだ」

ハドラーにとってメドーサは、己の愚かな過去を思い出させる存在である。
当然、そんな相手と組むつもりなど無い。
そしてそれは最早、メドーサにとっても同様であった。

「…………馬鹿な奴ね。素直に手を組んでいたら、使える内は生かしておいてやったのに!!」

メドーサは最初からハドラーも使い捨ての駒にするつもりだった。
その使い捨ての駒に屈辱を思い出させられて、見透かされたようなことを言われた。
それを黙っていられるようなメドーサではない。

地を蹴るメドーサ。
その一蹴り何メートルもあるハドラーとの距離を、文字通り一足飛びに詰める。
メドーサは跳躍ではなく飛行している。
何も持っていなかったはずのその右手には、二又の刺又槍が握られていた
右手から現出させた刺又槍に、霊力を込めてハドラーに向けて振るう。
並の魔族や魔物ならば絶命を避けられない一撃。
その一撃がハドラーに届く、寸前に止まった。

「竜神族か何か知らんが……」

刺又槍はハドラーの手の甲から突き出るように伸びた爪、地獄の爪(ヘルズクロー)に止められていた。
メドーサは両手に持ち更なる霊力を込めるが、地獄の爪に挟まれた刺又槍は突端は全く動かない。
ハドラーは並の魔族や魔物ではない。
かつての魔王にして今や超魔生物であるハドラーの力は、竜神族をも上回る。

「オレをなめるなァッ!!!」

今度はハドラーが地獄の爪を振るった。
挟まれた刺又槍はおろか、メドーサの身体ごと軽々と吹き飛ばされる。
メドーサは地面に叩きつけられ、それでも勢いが収まらずに転がる。
ハドラーはそこへ更に追い討ちを掛けるべく、両肩を広げ推進力を得る。
跳躍力でメドーサとの距離を一足飛びに詰めるハドラー。

247不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:10:24 ID:82Fn.W3U0
そのまま地獄の爪で貫いた。

「――――!?」

地獄の爪が貫いたのは地面。
転がっていたはずのメドーサの姿が、地獄の爪に貫かれる前に消えたのだ。
否、ハドラーはその影を捉えていた。
メドーサの影が消え去って行った右後ろを振り向く。
同時に右肩に走る痛みと衝撃。右手に持っていた支給品を落とす。
ハドラーの右肩に刺又槍が刺さっていた。

「チッ、超加速の加速度が低い!」

ハドラーを奇襲したメドーサはしかし、自分の動きの遅さにごちる。
メドーサが使ったのは一部の神族が使える秘術”超加速”。
物理法則をも超えて加速できるこの術は、しかし常より加速度が劣っていた。
加速度の低下の原因は制限によるものだが、今のメドーサに原因を探っている余裕は無い。

「地獄の鎖(ヘルズチェーン)!!」

右肩を刺されたハドラーだが痛みも意に介さず反撃に出る。
ハドラーの左腕から伸びる鎖、地獄の鎖(ヘルズチェーン)がメドーサに襲い掛かった。
巻き付かれる寸前に超加速で回避。

捕まれば力で劣る自分は負ける。
しかし速さであれば超加速が使える自分が勝る。
自他の戦力を分析したメドーサは、勝利のための戦術を導き出す。



(速い! 速さならヒムやシグマをも上回るか……)

地獄の鎖すら回避されたハドラーは、メドーサの速さに瞠目する。
ハドラーの反応速度を上回り、超魔生物の視力でも追うのがやっとと言う有様だ。
地獄の鎖を回避したメドーサは、一瞬でハドラーの左側に周り左肩に刺又槍を刺す。

「イオ!!」

それにも構わずハドラーは即座に反撃。
魔法力を爆発させる爆裂呪文”イオ”を放つ。
自身の左側、メドーサの居た場所を爆発させた。
はずが、やはりそこにはメドーサは居ない。
次の瞬間、ハドラーの背中に痛みが走る。
背後からメドーサが刺又槍で刺していた。
ハドラーが振り返った時には、メドーサの姿は消えていた。

メドーサの取った戦術を、ようやくハドラーも把握することができた。
それはヒット&アウェイの戦術。
一撃離脱を繰り返し、ハドラーの消耗を狙う戦術である。
単純であるがゆえに対応に難かしい。
ハドラーが万全であれば、対応法もあっただろうが。

幾度かの交戦の後、遂に刺又槍がハドラーを貫通した。

248不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:11:49 ID:82Fn.W3U0
ハドラーの右掌をメドーサの刺又槍が刺し貫いたのだ。
しかしハドラーは痛みの中、右掌を握り締める。
刺又槍の動きが、メドーサの動きが一瞬止まる。

ハドラーの地獄の爪がメドーサを刺すのと、
メドーサが超加速で刺又槍を引き抜くのは、ほぼ同時。

地獄の爪はメドーサの左肩に刺さったが、
鮮血だけを残して、再びメドーサは姿を消す。

しかしハドラーには、次にメドーサの来る方向が大よそ読めていた。
ハドラーは左後方に目をやる。
そこに現れた人影。そして鮮血の色。
ハドラーはそれが何かを確認する前に地獄の爪で刺し貫いた。

何かが砕け散る乾いた音。
光や肉片、そして液体が飛び散る。
ハドラーは瞬時に、自分が破壊した物がメドーサではないと気付いた。
それはメドーサの鮮血が塗られた、ホルマリン漬けの人間の肉片だった。

ハドラーには知り得ないことだが、それはメドーサの支給品『輪切りのソルベ』。
それでもメドーサの罠に掛かったことには瞬時に気付いた。
同時にハドラーの胴体に激痛が襲う。
そこはちょうど、バランの手によって黒の核晶を摘出された箇所。
バランの手によって刺し貫かれたのと同様に、メドーサに正面から刺又槍で貫かれた。

「下等なゴミは、あんたもだったねハドラー」

勝ち誇り、ハドラーを見下ろすメドーサ。
ハドラーの全身から力が抜け、膝から崩れ落ちていた。

(馬鹿な……オレはこんな所で終わるのか…………ダイにも辿りつけず…………)

無念を抱え、未だ闘志は衰えないハドラー。
しかし身体がまるで追い付いてこない。
身体の全ての力が完全に抜けていく中で、ハドラーは自らの死を実感する。
身体を支える全ての力が完全に抜け、ハドラーは自分が落とした支給品の上に倒れ伏した。

ハドラーが落とした支給品、それは本来世に二つと無い物であった。

249不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:13:15 ID:82Fn.W3U0
それは本来、美神令子の魂と融合した一つしか存在しない。
しかし美神令子が過去にタイムスリップした際、
美神令子の前世であるメフィストフェレスと融合した固体のもう一つと同時に存在した。
そしていかなる所以か、このバトルロイヤルにおいてももう一つの固体が支給されていた。
それは霊力の高い人間の魂を集め造り出される、エネルギー結晶と呼ばれる物だった。

エネルギー結晶は倒れて来たハドラーの傷口から体内に入り込む。
エネルギー結晶は侵入した存在と融合する性質を有していた。
そして黒の核晶を失っていたハドラーの肉体は、エネルギー源となる代替物を欲していた。
エネルギー結晶はハドラーの肉体と融合していき、
ハドラーの肉体はエネルギー源を利用して、生来の回復能力を発揮する。

ハドラーの肉体が再び超魔生物の威容を取り戻していく。



「…………しつこい奴ね」

徐に身体を起こすハドラーを見て、メドーサは吐き捨てる。
超加速がある限りメドーサの有利は揺るがない。
しかしこれ以上、ハドラーを相手に手間取りたくは無かった。
今度は胴体の傷を貫通してやると決意するが、その胴体の傷が泡を吹いて治癒して行っている。
ならば治りきる前に貫ぬく。
そう決意してハドラーへ向けて飛ぶ。
ハドラーの胴体の傷目掛け、刺又槍を突いた。

「――――!?」

甲高い粉砕音。
中ほどから切断されて、宙を舞う。
メドーサは切断されて宙を舞った刺又槍ではなく、
刺又槍を切断したハドラーの剣を信じ難いと言った表情で見ていた。
ハドラーの右腕から噴出する光の剣を。



「フフフ……生まれ変わった気分だ」

ハドラーにはエネルギー結晶がどういう物かも、自分に何が起きたのかも分からない。

250不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:15:15 ID:82Fn.W3U0
そしてエネルギー結晶は、本来の持ち主であるアシュタロスでなければ完全な融合・活用は不可能。
それは不完全な融合・活用に過ぎない。
しかし取り戻された回復能力。
当然のように発現できた生命エネルギーを噴出して武器に転化する、生命の剣。
ハドラーはかつてない力が自らの身体に漲るのを実感する。

「今ならばかつてない力が出せる!! 幾らでも掛かって来いメドーサ!!」

立ち上がったハドラーは再び完全に超魔生物の威容を取り戻す。
こうしてハドラーのバトルロイヤルが始まった。



【H-4 海岸付近/1日目 深夜】

【ハドラー@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:健康、エネルギーの結晶と不完全融合中
[装備]:生命の剣@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ダイと戦い決着を付ける。
1:バーンを倒す。
2:メドーサを倒す。
[備考]
※参戦時期は、原作23巻終了後です。
※エネルギー結晶と融合しました。融合は不完全な物でエネルギー結晶を活用しきれません。
※回復能力を取り戻しました。
※生命の剣を発現させることが可能になりました。

【支給品説明】
エネルギー結晶@GS美神 極楽大作戦!!
ハドラーに支給。
霊力の高い人間の魂を集め造り出されるエネルギー集合体。
侵入した存在と融合する性質がある。
宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)の起動に使用される。

【メドーサ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:横島を殺す。
1:ハドラーを殺す。
2:殺し合いを優勝するか、脱出するかは保留。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻で復活直後です。
※刺又槍を現出させることができます。
※超加速は制限されています。
※輪切りのソルベは破壊されて、周囲に散乱しています。

【支給品説明】
輪切りのソルベ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の旋風
メドーサに支給。
暗殺チーム一員ソルベがディアボロによって輪切りにされ、
透明のケースに入れてホルマリン漬けにした物。

251 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:16:35 ID:82Fn.W3U0
投下を終了します。

252名無しさん:2015/12/04(金) 19:40:12 ID:oPwJqizcO
投下乙です

覇者の剣没収されてるとはいえ、いきなり生命の剣はダイ戦まで保たないと思うが、メドーサがそこまでの強敵ってことか

253名無しさん:2015/12/05(土) 12:14:44 ID:louiqRVw0
age

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257名無しさん:2016/02/20(土) 23:03:23 ID:9xAw.zgU0
あれ…?
参戦作品一通りチェックしてから久しぶりに来てみたらこんなことに…
うそー終わっちゃうのー?(´・ω・`)
lみんな戻ってきてよー楽しみにしてたのにー…(´;ω;`)

258名無しさん:2016/02/20(土) 23:42:54 ID:pff/NqdE0
終わって欲しくないなら自分で書けばいいだろ

259名無しさん:2016/02/21(日) 18:26:07 ID:/KYTuiqc0
簡単に言ってくれるねえ…

260名無しさん:2016/02/23(火) 23:19:04 ID:5FrJpeJQ0
イッチが書く気無いから仕方ないね

261名無しさん:2016/02/26(金) 22:32:40 ID:jUZayGcs0
更新来たのかと思ったら雑談か
せめてsageてくれよ

262 ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 17:57:50 ID:mBVUxkME0
投下します

263あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 17:59:00 ID:mBVUxkME0
GS(ゴーストスイーパー)。
それは人々のために日々命の危険を顧みず、妖怪や悪霊を退治する過酷な職業である。
厳しい国家試験を勝ち抜き、危険の代償として高額な報酬を得る、いわば選び抜かれたエリートなのだ。


横島忠夫。
殺し合いのゲームに招かれた参加者であり、一見どこか間の抜けたような風貌のこの少年もまたGSの一人。

GSの仕事での経験のおかげなのだろうか。横島は殺し合いの場に巻き込まれたというのに、静かに物音を立てず目標を窺っていた。
目には支給品としてデイパックに入っていた暗視ゴーグルを付け、じっくりと観察している。

(うーん、遠くてちょっと見えずらいな)

まだ気付かれてはいないようなので、じわじわと近づき、もっとはっきりと観察できるように試みる。
目標に気付かれる危険があるが、この非常事態において他の参加者を見極めるのは重要事項であるため仕方がない。

(焦るなよ……慎重に行動するんだ)

そう自分に言い聞かせ、緊張からか高まる気持ちを抑えつけながらゆっくりと進んでいった。















「ちくしょう。あのノストラダムスって野郎、絶対にぶん殴ってやる」

横島が進む先には、浜辺に座り込み脱いだ上着を絞りながらぶつくさ文句を言っている、ずぶ濡れの少女がいた。
赤毛の髪をおさげにした可愛らしい顔立ちでありながら、粗暴な口調で独り言をつぶやき、豊かな乳房を堂々と晒したまま人目を気にする様子もないという、なんともミスマッチな少女であった。

なぜ彼女が不機嫌なのかというと、殺し合いなどという馬鹿げたことに参加させられたのはもちろん、さらに気付いたら海に落とされていたからである。
混乱しながらも浜辺までたどり着き、落ち着いたところでふつふつと沸いてきた怒りに任せて、ノストラダムスを打倒する決意を固めていた。
名簿を確認したところ、許嫁のあかねをはじめ数人の知り合いの名前があり、尚更殺し合いに乗るわけにはいかない。
あかねは可愛くはないが一応は許嫁だ。早く合流して、自分が助けてやらねばならない。

264あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:00:24 ID:mBVUxkME0



(ん?誰か見てやがるな)

ひととおり上着を絞り終えたところで、ふと自分へ誰かの視線が向けられている気配に気付く。
注意深く見てみると、暗闇に紛れて一人の男がほふく前進をしながら迫ってきているのが見えた。

「おい、てめえ!!そこで何してやがる!!!」

明らかに怪しいこの男は、殺し合いに乗っているかもしれない。
水分を落とした上着を足元に放り捨て、熟練者と思わせる構えをとり、戦闘態勢に入りながら不審者に怒鳴りつける。

すると、男の身体が固まったように硬直したのもつかの間、すぐさま目に付けていたゴーグルを外し物凄い勢いで走り寄ってきたのである。
少女は思わず攻撃しそうになるが―――――

「すんまへん、すんまへん、すんまへーーーん!!ほんの出来心だったんや〜」

目の前に来た途端、泣きながら土下座を始めてしまう。
謝っている内容から察するに、裸を覗き見ていたことを詫びているようだが。
怒りよりも先に、こんな状況でなんとも胆の座った奴だと、呆れ半分に感心してしまっていた。




「で、お前は殺し合いに乗っているのか?そうなら半殺しにでもしてやるが」
「も、もちろん乗ってない!」

一応確認を取ってみるが、やはり殺し合いをする気はないようだ。
何が起こるかわからないので、無駄な戦闘は避けるに越したことはない。

「そうか、とりあえず信じてやる。俺の名前は早乙女乱馬。お前は?」
「横島忠夫です、よろしく」
「……ああ、よろしくな」

どことなくキリっとした表情で握手を求めてくる。どうやら今更好印象を持たれようと画策しているらしい。
面倒そうに握手に応じてやると、乱馬は次の話題を切り出した。

「ところで横島。お前、お湯持ってないか?」
「お湯?生憎デイパックの中には入ってなかったみたいだけど、風呂にでも入るのか?」
「まあそんなとこだ……」

できれば早くお湯を手に入れて万全な状態に戻したかったが、ないのならば仕方がない。
力やリーチは劣るが、幸いこの状態でも戦えないことはないので、どこかで調達するまで我慢しようと諦めかけていたのだが。



「なんとかできないこともないぜ?」

いきなりそんなことを言い出すと、ずいと手を差し出してきた。
いつの間にか横島の手には小さな玉が握られており、そこには『湯』という文字が記されている。

「冗談に付き合うつもりはねえんだ、無いのならさっさといくぞ」
「まあまあ、それは今から証明―――おっと滑った!」

何をふざけているのかと乱馬が困惑しているなか、横島はその玉を持って近づくとわざとらしくこけ、玉を乱馬の頭上に放り投げた。
すると不思議なことに玉が光ったかと思うと、頭上から乱馬とドサクサに紛れて彼女に引っ付いている横島へお湯が降り注いだ。
水をかけたのではなく、横島は紛れもないお湯を生み出してみせたということになる。

265あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:01:56 ID:mBVUxkME0




「お湯で暖まれたことだし、これは事故ってことで。ん??」

何かがおかしい。
横島が乱馬に抱きついた直後には、たしかに極楽のように柔らかな感触に包まれていたはずだ。
しかし、今は固く筋肉のような感触しか伝わってこない。
そう、まるで男に抱きついているような。


「おお〜助かったぜ。何やったんだ?」


聞こえてくる声も初めて聞いた男の声。


「ありがとよ。でも気持ち悪いから、さっさと離れろよ」


横島は恐る恐る顔を上げて確認する。


「よう、早乙女乱馬だ。改めてよろしくな」


そこにいたのは、服装や髪型は同じでも明らかに別人な黒髪の男。


「ど、どちら様で?」
「だから言ったじゃねえか、早乙女乱馬だ。
 ほんとは男なんだけどよ、水を被ると女になるって厄介な体質でな」

いや〜ほんと助かったぜと、目の前の乱馬と名乗った男は嬉しそうに笑っているが、震えている横島には途中から聞こえていない。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うおっ!!」
「男は嫌じゃーーーーーーー!!!女がいいんじゃーーーーーーーーーー!!!!」

などといきなり叫びだすと全速力で走り去っていってしまった。



「なんだったんだ……世の中には変なやつがいるんもんだな」


第三者から見たならば、同じく変人に分類されるであろう乱馬は横島が走り去る様を呆然と見つめていた。

266あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:03:03 ID:mBVUxkME0



【C-7 海辺/1日目 深夜】




【横島忠夫@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康、びしょ濡れ、霊力消費(中)、精神的ショック大、錯乱中
[装備]:
[道具]:支給品一式、暗視ゴーグル、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する
1:男は嫌じゃーーーーーーー!!!
2:女に会いたい
3:死にたくない
[備考]
※乱馬と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※乱馬の体質を知りました。
※名簿未確認。
※少なくとも文殊を使えるようになって以降からの参戦。
※叫びながら北に向かって入っています。


【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]:健康、びしょ濡れ
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスをぶん殴る
1:知り合いと合流する
2:あかね最優先
3:お湯を確保しておきたい
[備考]
※横島と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※パンスト太郎戦以降からの参戦。


【支給品説明】


【暗視ゴーグル@現実】
ゴーグル型の暗視装置。
装備すると暗闇でも視界を確保できるようになる。

267 ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:03:43 ID:mBVUxkME0
投下終了です

268名無しさん:2016/03/30(水) 19:23:01 ID:f3IitRr60
乙です
横島…お前ってヤツはどこでも変わらないな


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