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90's バトルロイヤル

1名無しさん:2015/10/20(火) 00:14:42 ID:S/90BWeU0
こちらは90年代の漫画、アニメ、ゲーム、特撮、ドラマ、洋画を題材としたバトルロワイアルパロディ型リレーSS企画です。

90's バトルロイヤル @ wiki
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/

90's バトルロイヤル 専用掲示板
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17336/

地図
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/pages/13.html

5/5【金田一少年の事件簿@漫画】
 ○金田一一/○高遠遙一/○千家貴司/○和泉さくら/○小田切進(六星竜一)

5/5【GS美神 極楽大作戦!!@漫画】
 ○美神令子/○横島忠夫/○氷室キヌ/○ルシオラ/○メドーサ

5/5【ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風@漫画】
 ○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○リゾット・ネエロ/○ディアボロ/○チョコラータ

5/5【ストリートファイターシリーズ@ゲーム】
 ○リュウ/○春麗/○春日野さくら/○ベガ/○豪鬼

5/5【鳥人戦隊ジェットマン@特撮】
 ○天堂竜/○結城凱/○ラディゲ/○グレイ/○女帝ジューザ

5/5【DRAGON QUEST -ダイの大冒険-@漫画】
 ○ダイ/○ポップ/○ハドラー/○バーン/○キルバーン(ピロロ)

5/5【幽☆遊☆白書@漫画】
 ○浦飯幽助/○南野秀一(蔵馬)/○幻海/○戸愚呂弟/○戸愚呂兄

5/5【らんま1/2@漫画】
 ○早乙女乱馬/○響良牙/○天道あかね/○シャンプー/○ムース

4/4【カードキャプターさくら@アニメ】
 ○木之本桜/○李小狼/○大道寺知世/○李苺鈴

4/4【機動武闘伝Gガンダム@アニメ】
 ○ドモン・カッシュ/○東方不敗マスター・アジア/○レイン・ミカムラ/○アレンビー・ビアズリー

4/4【サクラ大戦シリーズ@ゲーム】
 ○大神一郎/○真宮寺さくら/○イリス・シャトーブリアン/○李紅蘭

4/4【古畑任三郎@ドラマ】
 ○古畑任三郎/○今泉慎太郎/○林功夫/○日下光司

3/3【ケイゾク@ドラマ】
 ○柴田純/○真山徹/○野々村光太郎

3/3【ターミネーター2@映画】
 ○ジョン・コナー/○T-800/○T-1000

3/3【レオン@映画】
 ○レオン・モンタナ/○マチルダ・ランドー/○ノーマン・スタンスフィールド

2/2【ダイ・ハード2@映画】
 ○ジョン・マクレーン/○スチュアート

67/67

109『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:06:45 ID:lL/hbJbs0


「何……?」


男の胴体から生えた新たな剣は、ブチャラティへと僅か数ミリの距離で静止したのだ。
いや、第三の剣だけではない。
男の全身が、ピタリとその場に静止したのである。
この予想外の展開に、ブチャラティは助かった安堵よりも困惑を覚える他なかったが……


「……!?」


それ以上に驚いているのは、仕掛けた男の方だ。
信じられないと言わんばかりの形相で、目を見開いている。
当然の反応だ。
どれだけ力を込めようとも、肉体が全く動かせなくなってしまったのだから。
体の自由が、一切効かなくなってしまったのだから。



「……動きを封じるのは容易い。
 貴様の全身が、液体金属で出来ているというのなら……」
「―――!?」


その刹那。
ブチャラティとは違う別の声が、男の耳に入った。
声の方向は、ブチャラティの更に後方……モールの奥。
二人の立ち位置から、ちょうど死角になる地点からであった。
やがてその男の声は、小さな足音と共に近づきボリュームを増していく。



「俺の『スタンド』にとって……相性がいい……」



そして、その男は両者の前へと完全にその姿を現した。
黒い頭巾を頭に被る、ブチャラティとほぼ同年代程度に見える年格好の長身の男。


(こいつは……サルディニア島で死んでいた……?
死んでいなかった、生きていたというのか?)


ブチャラティはその姿に見覚えがあった。
ボスの手掛かりを得るべくサルディニア島に上陸した時、彼は確かにそこで倒れていた。
エアロスミスの弾丸で全身をうち貫かれた、物言わぬ死体となって。
その記憶に間違いがなければ、彼はボスかその側近と思わしき男と戦い倒れたと推測されていた筈の暗殺チームのリーダー。
まさか、あの状態から奇跡的に生き延びていた―――そういうブチャラティ自身も、死んだ状態から生き返ったので不思議はないが―――というのか。

110『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:07:07 ID:lL/hbJbs0

「お前は……一歩も俺に触れることはできない」


その名を、リゾット・ネェロ。
磁力を操るスタンド『メタリカ』の能力者であり。
ドッピオというハンデがあったとは言え、ディアボロを単身で追い込みその正体にも当たりを付けた程の屈指の実力者。
それが今……この場に現れたのだ。
皮肉にも、彼を苦しめ死に至らせた男の姿をしているブチャラティの、まさに目の前に。


「メタリカ!!」


リゾットは自身のスタンド能力を全開にして発動。
強力な磁力を肉体から発し、目の前に立つ男へと真正面より叩きつけた。
全身が金属そのものであるこの男に、それを回避するすべは一切なく。



―――――ドガッシャァァァァンッ!!



レールガンに乗せられた弾丸が、電磁力によって加速され打ち出されるかのように。
轟音を伴い、壁をぶち破ってショッピングモールの外部に排出されたのだった。




■□■




(……助けられたと見るべきか。
だが……)


凄まじい勢いで吹き飛んだ男―――まさかあの攻撃を受けて生きているとはさすがに思えない―――の軌跡をしばし眺めた後。
ブチャラティは、目の前に現れたリゾットにその視線を移した。
あのままだと確実にやられていた以上、助けられたことには素直に感謝すべきだろう。
しかし……暗殺チームのリーダーが、よりにもよって自分を助けるとは。
暗殺チームにとっては寧ろ、不倶戴天の敵である筈なのに……
まさか、姿がディアボロと入れ替わっているから気が付いていないのだろうか。

111『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:07:32 ID:lL/hbJbs0

「……ブチャラティだな?
 姿は全く異なっているようだが……そのスタンド能力がある以上は、別人ではない筈だ」


否。
やはりと言うべきか、リゾットは先の戦いを視て状況を判断した上で割り込んできていた。
つまり、スティッキー・フィンガーズを完全に視認している……
明確に、容姿が変化しているにも関わらず、ブローノ・ブチャラティだと認識している様だ。


「……暗殺チームのリーダーだな。
 ああ……何故、俺を助けた?」


仲間の仇の筈なのに。
言外にそう匂わせながら、以前警戒を続けながらブチャラティはそう問いかけた。
とはいえ、彼には大凡そうした理由に検討が付いていた。
もしこの場にいるのがブチャラティではなく、ジョルノやミスタ達といった他のチームメンバーならば問答無用で攻撃を受けていただろう。
ここにいるのがブチャラティだからこそ、リゾットは助けたのだ。

何故なら……彼には、力があるから。


「……お前の考えているとおりだ。
 お前のスタンド能力……スティッキー・フィンガーズの力が俺には必要だ」


ブチャラティが予想したとおりの答え―――スティッキー・フィンガーズが必要であるという理由を、リゾットは答えた。
物体にジッパーを取り付けるこのスタンド能力は、首輪の解除を行える可能性を持った文字通りの『希望』なのだ。
だからこそ、リゾットはブチャラティを助けたのである。


「……お前達は、仲間の仇だ。
 ホルマジオ、イルーゾォ、プロシュート、ペッシ、メローネ、ギアッチョ……
 あいつらの無念を晴らすためにも、俺はお前達やボスを必ず始末する。
 それがリーダーとして、あいつらの為に出来るせめてもの手向けだ」
「…………」

112『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:08:01 ID:lL/hbJbs0
「だが……あのノストラダムスは、その手向けすらも俺から奪おうとした。
 俺は断じて、それを許すことはできない……!」


リゾットとて、ブチャラティの事は恨み骨髄に入っている。
しかしそれ以上に、この様な真似をしたノストラダムスを許すことが出来なかったのだ。
あの男は大勢の人間に文字通りの首輪をかけ、その魂を穢した。
失ってはならない『誇り』を奪おうとしたのだ。


「ここでお前を殺すことは容易だ……だが、それでその後はどうする?
 ノストラダムスが望むように、殺し合いを進めるのか?
 冗談じゃない……優勝したところで、願いを叶えられる保証などどこにもない。
 何より、誇りも信念もなくただ言いなりになって動き……果てに待つのは、惨めな末路でしかないかもしれない。
 そんな結末など俺は望まない……こんなところで無様に死んでどうする!
 貴様のチームの仲間も、ボスもまだ残っている!
 ならば……あいつらの魂に報いるためにも、今本当に倒すべき敵は奴らだ!!」


真に仲間のことを思うからこそ。
チームリーダーの責を果たすためにも、目先の相手ではなく本当に倒すべき相手を倒す。
例え、憎き仇が目の前にいるとしても……その力が必要ならば、怒りの矛先を抑える。
確固たる『誇り』をもって、リゾットはそう宣言したのだ。


「……いいだろう。
 俺達にとっても、お前達暗殺チームは許せない敵だ。
 だが……お前のその言葉には、心から共感できる」


ブチャラティは、それを受け入れた。
己とてチームのリーダーだ。
彼の言う事はよくわかる……同じ立場ならば、きっと自分も同じ行動をとったに違いない。
仲間を思い信念を貫き通そうとする魂には、例え敵同士といえど共感する事ができる。


「協力しよう、暗殺チームのリーダー……名前を聞いても構わないか?」

「リゾット……リゾット・ネェロだ」




■□■




「……つまり、首輪にはスタンド能力がきかないということか?」

113『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:08:38 ID:lL/hbJbs0
「ああ、残念ながらこいつの解体はできない。
 どういう仕組みかはわからないが、俺のスタンド能力を無効化しているようだ」


それからしばらくして。
両者は、互いに情報の交換を行っていた。
自分を参加者として放り込む時点で予想は出来ていたことだが、この首輪には自身のスタンド能力を無効化する何かがある。
それが全てのスタンド能力なのか、スティッキー・フィンガーズに限定されることかまでは流石に分からないが。
少なくとも、首輪をスタンド能力で解体することが不可能なのだけは確かだ。


「気になる点はもうひとつある……さっきの男のことだ。
 奴の体なら、首輪を外す事は容易な筈……」
「だが、どういうわけか奴は首輪をつけたままだった。
 それも、バラバラにされてから再生した後でも……か」


この首輪について不可解な点はもうひとつある。
先ほど襲撃を仕掛けてきた、あの流体金属男だ。
あの能力ならば、肉体を変形させて首輪を外すことなど容易い筈である……
だが、不思議なことにあの男はそれをしていなかった。
それどころか、バラバラの状態から再生された後でさえも首輪が首に巻きついていた。
つまり……この首輪には、単にスタンド能力を無効化するだけではない別のなにかまで有るかもしれないという事である。


「……こっちはどうなんだ?」


その答えを聞いて、しばし考えた後。
リゾットは、自分の首を指差して問いかけた。
首輪にジッパーが通用しないと言うならば、装着者の首を切断して首輪を取り外すことはできないのか。
こちらならば、首輪の性質を関係なしに解除できる可能性がある。


「……結論だけ言えば、可能性はある。
 だが……」
「ワニ顔の男の最後、か」


しかし、それを実行するには大きな問題があった。
首輪を取り外そうとした瞬間、それをノストラダムスに感知され攻撃をうける可能性が高いのだ。
最初に広間で大柄なワニ顔の男が殺害されたように、この首輪に頼らない処刑方法をノストラダムスは持っている。
仮にそれを防げたとしても、首輪自体が引っこ抜こうとした瞬間に爆発するかもしれない。
脈拍や血圧の類を感知しているなら、十分あり得るだろう。


「こいつの正体がなんなのか、それを突き止めるまでは行動に移すのは危険だ。
 まずはその点から探る必要があるだろう」

114『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:09:12 ID:lL/hbJbs0
「情報を集めなければはじまらないか……そうだな。
 それに……この会場にボスがいるというならば、なおのことだ……」


そして彼等が共有し合った情報の中には、リゾットにとって首輪以外にも有力な情報があった。
追い求めてきたボス―――ディアボロの名前と、そのスタンド能力について。
ボスがあろうことか自分の娘を自分の手で始末するために、護衛任務を与えていた事だ。
最初にその話を聞いた時、リゾットはただただ驚愕するしかなかった。
まさかブチャラティ達までもが自分達と同じ裏切り者になり、ボスを討とうとしていたとは。
正体を秘匿し続けてきたボスが、そこまで恐るべき存在であったとは。


「……皮肉な話だな。
 任務に忠実にトリッシュを守り続けてきたお前達が、そのボスからトリッシュを守ろうとしているなど……
 そして挙句は、お前とボスの姿が入れ替わったときたか」
「ああ……問題は、ボスが今どんな姿でいるかが分からないという事だ。
 もっとも、この会場にいる限りはどこかで必ず鉢合わせをするだろうが……」


この時、ブチャラティはリゾットに自分の姿の変化を「あるスタンド能力の暴走」とのみ伝えていた。
レクイエムと矢の存在については伏せている……ポルナレフの言ったとおり、矢の力はあまりにも未知数で危険だからだ。
あの時コロッセオにいた者達以外に、この事実を伝えることはできない。
もし万が一、矢の力が悪用されることがあれば……最悪の事態を招きかねない。


「……そろそろ行こうか。
 ここでじっとしていても仕方ない」


とにかく、今は動く事が先決だ。
二人は互いに頷き合い、モールの出口へとゆっくり歩を進めていった。


「そうだな……ブチャラティ。
 さっきも言ったが、どうあってもお前達は俺達暗殺チームにとって倒すべき敵だ」


その最中、リゾットは静かに口を開いた。
ブチャラティとは共通の目的を果たすため、こうして協力しあう形になった。
しかし……それでも尚、チームの仇という事実には変わりはない。

115『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:05 ID:lL/hbJbs0

「だから宣言させてもらおう。
 この場を切り抜けることができたならば、その時は……必ず、俺はお前達を始末する。
 全てが終われば、敵同士だ」


だからこそ、最後には必ずこの手で命を奪う。
それだけは絶対に、譲ることはできない。


「それまで、お前に死ぬことは許されない……いいな?」
「……ああ。
 約束しよう……お前のその誇りに誓ってな」


ブローノ・ブチャラティとリゾット・ネェロ。
本来ならば互いに手をとることはありえなかった、戦う事を運命づけられていたふたりのリーダー。
しかし今……この数奇なバトルロイヤルという場を前に、協力し合う道を選んだ。

互いに生き延び……そして最後に、決着をつけるために。



【G-3 ショッピングモール内/1日目 深夜】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:健康、ディアボロの姿
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:リゾットと行動を共にする。
1:首輪の解除方法を探す、首輪がどういう物なのかを調べる。
2:情報を収集する。
3:液体金属の男を警戒……あれで倒せたのだろうか?
[備考]
※参戦時期は62巻、ナランチャの死亡直後からになります。
※チャリオッツ・レクエイムの影響でディアボロと肉体が入れ替わっています。
そのため、会場内にいるディアボロもまた別の何者かの姿に成り代わっていると推測しています。
※液体金属の男(T-1000)の能力を知りました。
  少なくとも不明支給品の中には、彼に明確なダメージを与えられるようなものは無いようです。
※リゾットに情報を提供しました。
  しかし矢とレクイエムについては、危険性を考慮して話を伏せています。
※首輪に対してスティッキー・フィンガーズを使用しましたが、能力が通用しませんでした。
  このことから、首輪にはスタンド能力を無効化する何かがあるのではないかと考えています。
  また、T-1000の様子から他にも何か特殊な機能があるとも予想しています。
※死亡したはずのチョコラートの名が名簿にある事に疑問を抱いています。
  またリゾットについては、自分同様に死亡してから息を吹き返したのではないかと思い何も尋ねていません。

【リゾット・ネェロ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:ブチャラティと行動を共にする。
1:首輪の解除方法を探す、首輪がどういう物なのかを調べる。
2:情報を収集する。
3:ブチャラティやその仲間達との決着は必ずつける。
[備考]
※参戦時期は58巻、ドッピオとの遭遇直前です。
※首輪解除のためにブチャラティの能力が必要と考えています。
  そのために敢えて彼と協力しますが、このバトルロイヤルが終わった後には決着をつけるつもりでいます。
※ブチャラティからボスについての情報を聞きました。
  しかし矢とレクイエムに関する話だけは、敢えて聞かされていません。
※首輪については、スタンド能力を無効化する何かがあると考えています。
 また、T-1000の様子から他にも何か特殊な機能があるとも予想しています。

116『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:22 ID:lL/hbJbs0



■□■




「…………」


ブチャラティとリゾットがモールから去って、しばらくした後。
流体金属の男―――T-1000は、自身の肉体に不備が無いことを確認してゆっくりと起き上がった。
磁力による攻撃。
自身にとって天敵ともいえるその技に、T-1000は流石に脅威を感じていた。
あの黒頭巾の男が如何なるモノで磁力を操っているかは知らないが、あの能力は危険だ。
再度戦闘を行うにも、どうにかして無効化を図らない限りは絶対に勝ち目がない。


(……それだけではない)


また、脅威を感じたのはあの黒頭巾の男だけではない。
スティッキー・フィンガーズという謎の人形を操っていたピンク髪の男も同じだ。
明確なダメージこそ通じなかったものの、あの人形には異様な力があった。
接触した物体にジッパーを走らせるという、原理不明の力……あの様な技術はデータにない。
いや、そもそもあれを技術と呼んでもいいのだろうか。


(……ノストラダムス……)


T-1000は人間ではない。
未来の世界において、人類抹殺を図る人工知能スカイネットによって生み出された殺人兵器―――ターミネーターである。
彼はスカイネットの指令によって、人類を勝利に導く英雄ジョン・コナーを殺害すべく過去へのタイムスリップを行った筈だった。
しかし転移を終えた時、立っていた場所は過去の世界ではなく……あの未知なる船内であった。
ありえない、不可解な現象だった。
何らかの不具合が生じて、時間転移にズレが起きたのか。
だとすると、ここは一体なんなのか。
この肉体と完全に一体化して離れない首輪といい、先程の者達といい……自らのデータにない技術が多すぎる。
過去ではなく、未来……それも相当に技術の発達した遠い未来に転移してしまったというのか?

117『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:45 ID:lL/hbJbs0

否。
それでは名簿の中にジョン・コナーがいる説明はつかない。
この世界はあまりにも異質だ。
単なる時間転移ではない……仮に当てはまるものがあるとすれば、かつて人類の化学者が提唱した並行世界説ぐらいか。
そんな突拍子もない説を持ち出さなければならないぐらいに、この状況には説明がつけられない。


「…………」


とは言え。
今この場において最も重要なのは、それではない。
自身がこうしてこの場に立ち、そして抹殺対象の人類も、ジョン・コナーもまたここにいるという事だ。
ならば成すべき事は一つ……この場にいる全てのものを殺害し、スカイネットに与えられた使命を果たすのみ。
目的そのものには、変更はない。


「…………」


その為にも、状況は大いに利用すべきだ。
T-1000は自身の姿を、警官のそれから大きく変容させていく。
このバトルロイヤルにおいて、大きく効果を得られるであろう容姿に……

つい先ほどまで交戦していたピンク髪の男と、瓜二つに。


「……スティッキー・フィンガーズ」


発声にも、問題はない。
あのピンク髪の男は、このバトルロイヤルを止めるべく動いているようだ。
では、その男の姿をそっくり真似してしまえばどうか。
このまま殺人を行えばどうか。
きっと参加者同士で疑心暗鬼となり、同士打ちの結果に持ち込めるだろう。
T-1000は唇を持ち上げ、にやりと微笑んでみせた。



まさかその姿が……他人に姿を知られないよう、己の全てを秘匿している悪魔のそれとも知らずに。

118『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:12:35 ID:lL/hbJbs0

【F-3 路地/1日目 深夜】
【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:ダメージによる金属疲労(軽度)、ディアボロの姿
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:全参加者の抹殺。
0:ジョン・コナーを優先して見つけ出し殺害する。
1:ピンク髪の男の姿で行動し、人類の同士打ちを狙う。
2:黒頭巾の男を警戒。
3:この状況が何なのかを可能ならば確かめる。

[備考]
※参戦時期は映画冒頭からになります。
※肉体の性質上、打撃や斬撃の影響を受けません。
 しかしあまりに強力な攻撃でダメージが蓄積され続けると、金属疲労を起こし異常をきたす可能性はあります。
※首輪が完全に肉体と一体化してます。
  その為取り外しができず、液状化したりバラバラに砕け散っても、再生した際には必ず首輪ごと再生されてしまいます。
※ブチャラティとリゾットの能力を知りましたが、その正体がわからず困惑もしています。
  特にリゾットの能力は自身にとって最大の天敵であると考えています。
※このバトルロイヤルを、時間転移だけでは片付けられない何かとしてとらえています。
  その候補として「並行世界説」を一考に入れてます。
※ディアボロとそっくりの姿に変化しています。

119 ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:12:51 ID:lL/hbJbs0
以上で投下終了です。

120名無しさん:2015/10/26(月) 22:46:23 ID:fPwK2Fk60
投下乙です。

ブチャラティはまさかのディアボロ姿での参戦か、リゾットと手を組むというのも予想外だった
T-1000…やはりしつこさに定評のある男、生半可なことでは死なないなww

一つ気になったのですが、「チョコラート」という名前は一部の範囲で使われてしまっていた名前ですが、「ハイエロファント・エメラルド」などとは違い完全な誤植のようです。
正式には「チョコラータ」で、後の文庫版などでは全てチョコラータで統一されているようです。

121 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:40:49 ID:0BWA3FE.0
投下乙です。

>大魔王降臨
大魔王からは逃れられない……。
とはいえ対主催なので、小狼くんも上手くすればどうにか出来たかもしれませんねぇ。
桜と苺鈴にとっては、やっぱり精神的にも大ダメージになりそうです。

>『誇り』のバレット
対立する……と思いきや、誇りを武器に協力し合う事になったブチャラティとリゾット。
「俺が殺すから殺すな」というギャングらしい約束を交わした二人も、どう転ぶかかなり見ものです。
しかし、二人のギャングの相手は、これまで数々のスタンド使いと戦ったブチャラティにとっても相手にしたくないような液体金属のターミネーター。
予約見た時は、ブチャラティが死ぬのかリゾットが死ぬのかと思ってしまいましたが、なんとか二人とも無事で安心です。
で、ディアボロが普通にディアボロとして出て来たら、ブチャラティ、ディアボロ、T-1000でディアボロだらけですね(丁度予約されてますが)。

指摘等は既に指摘されている部分のみです。
遅いので誰も見てないかもしれませんが、私も投下します。

122爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:42:47 ID:0BWA3FE.0



 えー、御無沙汰しています、古畑任三郎です。
 皆さんに、始めに言っておきたい事があります。
 私この度、不思議な殺し合いに巻き込まれてしまいました。なんでも、最後の一人になるまでバトルロイヤルをしろとの事です。
 その為……今回の私は、今までとは違い、警察組織の一員や、絶対死なない無敵の主人公ではなく、古畑任三郎という一人の人間として立ち回らなければならないんです。……んー、困りましたねぇ、ふふふ、私を守ってくれる物がなくなりました。

 ……と、いう事は、ですよ。
 今回のように、冒頭と最後にほんの少ししか出てこない話も出てきてしまいます。私のファンの方はぜひ、今回はオープニングと、最後の部分だけ見て行ってください。
 いやあ、しかし……ふふふふ……えー、やっぱり、私の性なんでしょうねぇ、こういう現場に、たまたま立ち会ってしまう宿命は切っても切れないわけで──。


♪〜


     □■
       □□□


   ♪〜


      古畑
       任三郎









【Climb Part】──ステルスマーダー



 平凡な顔立ちの二十代の男がいた。
 男の顔の印象はおおよそ髪型で決まってしまうらしいが、彼の髪型は少しだけ伸びた坊ちゃん刈りで、非常に飾り気がない。
 柔和で、どちらかといえば童顔のその容貌は、この殺戮の現場とは無縁に見えるだろう。
 真っ白なシャツにネクタイを巻いて、その上から地味なセーターを着こんでいるそのファッションは、ただの気弱な社会人であると推定するに違いない。
 本当にどこにでもいる。写真で見ても、おそらく、誰の印象にも残らない。集合写真の中では絶対に注目される事がない。

 彼の名は小田切進。
 それと偶々出会ったのは──ショートカットの髪型の、少し普通じゃない一人の女子高生だった。

「へえ、小田切さんって先生だったんだ……」

 街中で、その女子高生──天道あかねも、その男に出会って話を聞いて、仕事が教師なのだと知ると、妙に納得してしまった。まさに女子高生をやっている立場だからだろう。
 気弱で情けなく、授業を静かにさせる事も出来ない先生。
 きっと、高校生よりずっと弱そうで、コミュニケーションがあまり得意でもなく、不良生徒を叱りつける事が大の苦手で、教えるのもそんなに上手くない。
 いつかやめてしまうんじゃないか、と生徒の方は思ってしまうが、彼もいつの間にか気弱な教師のまま中年になっているのだろう。

「ああ。……一応、不動高校で先生をしているよ」

 本当にどこにでもいる。
 あかねの高校……そう、今この小田切先生とのんびり目指そうとしている風林館高校でも、たまにそういう教師はいるくらいだ。
 きっと、高校に通っていた人なら、大方、見かけた事があるはずである。

123爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:43:07 ID:0BWA3FE.0
 彼はそんな普通の人だった。

 ……だからか、あかねは、何故だか放っておけなかった。
 あかねはこれでも格闘術に関してはかなり自信のある方だが、実のところ、このバトルロイヤルの異常性というのはそれ故に早い段階で感じ取っていた。
 知り合いである早乙女乱馬、響良牙、シャンプー、ムースの四名の一筋縄では行かない格闘家仲間たちが捕まえられている事もまず異常だったし、最初の船上でそれ以外の人間の異様な闘気も感じた。
 このゲームがかなりの強者によって開かれた物なのは間違いない。

 普通の人が生き残れるような状況でないのはあの船上の時点でも確かだった。
 そんな彼女が最初に見かけたのは、体力もなければ、知力もさして高いわけでもない……普通の人だったのである。一応、教師をやるという事は何かの分野において、教えられるだけの知識を有しているという事らしいが、やはり能力はその程度だ。
 本来、生徒を守るのが教師の勤めなのだが、それが反転する形になるのもまあ致し方ないだろう。
 武道家であるあかねの性だ。

 彼女はそんな小田切進に、少々情報を明け渡した。

 まずは自分について。
 天道道場の三女として生まれたあかねは、三姉妹で唯一、格闘を習っている事。
 これが強みになるが、おそらく普通の人では生き残れないような殺し合いになりそうだという事。
 乱馬と良牙とシャンプーとムース──四人知り合いがいるが、最も優先して探したい人間が一人いるという事。

 そして、それは、彼女の許婚の早乙女乱馬。ではなく──響良牙だった。

「良牙くんだけは、早く探してあげないと……!」

 もし、あの方向音痴の良牙がこのまま孤立してしまったら、禁止エリアに迷い込んでしまう可能性が非常に高い。
 確かに良牙はかなり強いが、今後禁止エリアが指定されたら……超高確率で彼はそこに行きつくだろう。

 ちなみに、小田切の方は、あの船上にいた「金田一一」というあかねと同世代の少年を知っていた。教え子で、なんでも金田一耕助の孫でとても頭が良いのだというそうだ。
 あかねは、金田一耕助は小説の中の人物だとばかり思っていたので半信半疑だったが、小田切が言うには、実在していたのだそうである。かなり意外な事実だった。
 彼からの情報といえばそれくらいである。

「ねえ、小田切先生、あれがこの『大道寺邸』じゃない?」

 あかねは地図をランタンで照らしながらそう言った。
 小田切とあかねが二人で歩いているのは、丁度、マップの左端──南西のA-8のあたりである。

 これから風林館高校を目指すには、現在地はあまりにも遠い。だが、少なくとも、会いたい人間と会う場合に、おそらく目印になる場所は高校だろうと思っていた。一辺が3kmだとすると、あかねの普段ランニングする距離から逆算してもそこまで長くはない(──普通の人間を前提に考えれば勿論、相当長いが)。
 ここから近いのは、むしろシャンプーたちの実家の猫飯店の方であるとはいえ、高校ほど機材も揃っていないし、人も入れず何らかの拠点として利用する事は困難だ。
 こちらも後で一度試しに寄ってみて、それから風林館高校に行く事にしたいと考えている。やはり人が集まる可能性が高いのはそちらだという事だ。
 ただ、本当にそこに風林館高校や猫飯店があるかはわからない。しかし、共通して配られた地図に示された目印としては充分だ。
 そこに着く前にも、なるべく、気になる施設はとにかく寄っておきたい所である。本当にそこにあるのか、を少しでも考える為だった。
 そして、──丁度、それが見えたようだ。
 この、『大道寺邸』に。

「ああ、表札にはそう書いてあるね」
「やっぱり大道寺知世さんの実家なのかしら……? それにしても……随分大きなお屋敷ね」
「本当。凄いなぁ……」

 施設を目立たせる為か、大道寺邸の灯りはともされていた。
 あまりにも大きな屋敷だったので、流石に民家も多い街中で施設としてマップに名が乗るものだなと思う。

124爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:01 ID:0BWA3FE.0

 例えるなら、まるで宮廷の庭である。
 何度か、変な豪邸を所用で訪ねた事のあるあかねも、少しだけ恐縮するくらいだった。
 門を開けて、噴水のある庭を横切り、玄関に辿り着く。その間、庭を見回さずにはいられなかった。本当に、まるで、皇族かハリウッドスターの邸宅のようだ。
 そっと、玄関のドアを開けた。鍵はかかっていない……。

「入りましょう」
「ああ、うん……」

 中に入ると、巨大な靴箱やカーペットが出迎えた。いまどき、ホテルでももう少し窓口が狭いのではないだろうか。
 廊下は長く、いくつもの巨大なドアがある。壁には絵がかかっていて、観葉植物が並んでいる。二階の踊り場が玄関からよく見えた。今にでも家政婦が現れそうだ。

「……あの……すみませーん!」
「ちょっと、小田切先生! こっちから呼んで、変な奴が来たらどうするの……? 家の主もいないみたいんだから、来るとしたら他の参加者よ」
「ああ、そうか……ごめん。でも、人はいないみたいだし……」
「だからって、何もそんな大きな声出さなくても──」

 かなり恐縮している小田切に対して、あかねはやたらと強気だ。
 あかねもこういうタイプの教師を放っておけない性格ではあるが、勿論イライラしてしまう事もある。危険な状況なのでピリピリしているのだろう。
 そんなあかねの少しの苛立ちに、気づいていないのか、小田切は訊き返した。

「……でも、中にいるのは、金田一くんや、その響くんとか早乙女くんみたいな友達かもしれないよ?」
「……それもそうね」
「天道さん、とにかく一度部屋をくまなく探してみよう」

 小田切はそう言うが、部屋には無数のドアがある。はっきり言って迷宮のようだった。
 こんな所に普段人間が住んでいるというのだろうか。
 この玄関から見てもいきなり廊下が三叉路のように分かれており、一つ一つ探すのは気が滅入った。
 だが、とりあえず、真っ直ぐに進む事にした。

「しかし、色んな部屋があるなぁ……」

 一人で行動しても他者に襲われないようにと、小田切は常にあかねと二人で行動していく事にする。
 はっきり言って、どの部屋が居間なのかもよくわからないほど広い部屋ばかりだ──。
 順番に歩いていき、ある部屋のドアを開け、中を見た時、あかねの動きがふと止まった。

「ん? どうかしたのかい?」

 小田切は、訊いた。
 あかねが入っていった部屋の奥を見ると、そこにあるのは子供用の勉強机だ。
 ここもまるで客間のように大きな部屋で、最初見た時は、それが子供部屋だとわからなかったほどである。
 高校生のあかねの部屋が十個ばかり収まりそうだ。

「子供の部屋かしら?」
「確かに……信じられないけど、子供の部屋のようだ。確かめてみようか」

 小田切は、部屋の周囲をちらちらと見始めた。
 普通の子供の部屋……とは思えない。
 ホテルの一室がこんな所だろうか。少なくとも、自分には全く、縁のない生活である……と、彼は思った。

 そうだ。もしかすれば……“あの異人館”の人間は、……子供の時の“彼女”は、……こんな部屋に住んでいたのかもしれないが……。
                                  ──先生……
                               ──小田切先生……

 ……何かを考え込んでいた小田切の耳に、ある一人の女性の声が響いた。
 頭の中に流れる声の残響と重なったが、それは、あかねの呼びかけである。

「先生、小田切先生!」
「──……あ、ああ。……何かな、天道さん」
「……ちょっと、見て、これ! 大道寺知世って書いてあるわ。もしかして、大道寺知世ってまだ子供なんじゃ……!」

125爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:32 ID:0BWA3FE.0

 と、あかねは明らかに憤る声色で言っていた。
 彼女の手に握られているのは、学習ノートだ。小田切もそれを見てみると、「算数」と書かれているのがわかった。中学以降に習う、「数学」ではない。

「そう、みたいだね……」

 この殺し合いに子供が巻き込まれているのは、あらかじめオープニングで知っていたはずなのだが、あかねはその子供の普段の生活が見て取れるこんな部屋を見つけた時、余計に怒りを膨らませているようだった。
 クローゼットの中には、どこにも売られていないような、丁寧に刺繍された子供用の衣装などもあったが……それを確認するに、それは、本当に幼い少女が、可愛らしく着飾るような妖精の衣装なのである。

 生活感が見え始めた時、その人間の命だけではなく、感情まで見えてくる。
 ……この服を着た時、どんな気持ちだったのか。
 この服を作った人間は、これを着てもらう時に、その子がどんな気持ちでそれを着るのを想定したのか。
 そこまで考え始めた時に、その人間を殺させようとする者への怒りは急速に働きだした。

「許せないわっ! 子供まで巻き込むなんて……」

 まだどこか楽観的だったあかねの心境が改められたようである。
 小田切からすれば、まあ金田一も乱馬もあかねも良牙も、高校生ならば子供の範疇だ。
 しかし、それよりも更に下の人間がいる以上、あかねたちもその人間と対比すれば、「大人」になるのである。
 まだ、高校生活はおろか、中学生活さえ経験した事がないであろう、本当の子供──。

「これも……これも、これも……全部、子供の服……!!」

 そうして、まだまだ怒りを膨らませる為になのか、それとも、そんな現実を認めたくない気持ちが却って全てを知り尽くそうとしたのか、あかねはクローゼットの中を漁り続けた。
 だが、やはりたくさんの服が入っている。女の子用の小さな服。それらは、小学生の女の子の──大道寺知世の服であろう。
 あかねは、それを必死になって漁った。

「──そうか」

 ──そして、怒りは格闘少女に隙を作った。

 たとえ、あかねが格闘技において、どれだけの実力を持って居ようとも、背中を見せた瞬間は、全くの無防備だ。
 現実を忘れて、何かに集中してしまった瞬間など、下手をすれば一生に一度の失態の瞬間と言っていいかもしれない。
 クローゼットの中の服を取り出し、再びその中のハンガーに衣服をかけるあかねの口元──そこを、小田切は、次の瞬間、ある物を握った右手で狙っていた。

「え……!?」

 あかねが驚くのも無理はなかった。
 それは、まさに疾風のように一瞬の出来事である。
 そう……一瞬だけ、あかねは真後ろに小田切進という男がいるのを完全に忘れていた。
 常に命を狙われているようなこの状況下、そんな行動はあまりにも不用意だったと言わざるを得ない。……ましてや、初対面の人間と、二人きりの時などは、だ。
 あかねの口元は、何か布で押さえつけられているようだった。だんだんと麻酔の匂いが染み始めていく……。
 それは、クロロホルムだった。

「んーっ……! んーっ!!」

 あかねは、かつてもクロロホルムでこうして眠らされた事がある。
 これは、まさにその時と同じ感覚だった。
 麻酔の匂いの中で、だんだん薄れゆく意識の中で、あかねは思い切り、背後から忍び寄ったその右手の甲に爪を立てる。
 それが小田切の右手だとは、彼女はまだ気づかないが──おそらく、気づく機会が巡ってくる事は永遠にない──、少なくとも、彼女は、自分が今殺し合いにいる事だけは思い出したのだ。
 だからこそ、“謎の襲撃者”に──小田切の右腕に血がにじむほどに思い切り、爪を立ててやった。
 四本の線が小田切の右手の甲に作られていくが、すぐに、あかねの指先には力は通わなくなった。

「んーっ!!」

126爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:52 ID:0BWA3FE.0

 そして、思った。
 油断した……、と。
 それだけ。

 本当ならば、自分の最後の時には、許婚の顔くらいは思い出したかもしれない。
 その人が守ってくれると、きっと、どこかでそう思っているのだ。
 いつも助けてくれたからだった。
 パンスト太郎に人質にされた時も、ヤマタノオロチに狙われた時も……。
 だが、今回ばかりはあかねは、自分の力で乗り切れるような相手に敗れたのだ。

 だから──今、呪ったのは、自分の不覚だった。
 乗り切れるべき場面で、選択をミスしたからこそ、責めるのは自分自身だけだ。
 心のどこかで愛しているはずの人が──早乙女乱馬が頭に浮かぶより前に……。
 自分の力で乗り越えようとしている時に……。

「んーっ! ……」

 彼女はそのまま、ただハンカチを含まされた口の中で、悲鳴を響かせる事さえできずに眠りに落ちた。
 彼女は、最後まで乱馬を考える事は出来なかった。
 自分の力で乗り切れると信じ込んだが、むしろ、強敵と対峙して戦いで散る方が、最後に浮かぶ物の顔で安らかに眠る事が出来たかもしれない。
 しかし……残念ながら、そうではなかった。

「フンッ……!」

 そして──ドサッ、と音を立てて、床に倒れ込んだあかねの首元を見て、小田切は、デイパックからワイヤーを取りだした。
 あざけるように、眠っている彼女を見下ろす邪悪な微笑は、到底、あの冴えない小田切進と同じ物には見えなかった。







「……チッ。余計な手間をかけさせやがって。……痕が残るじゃないか」

 手の甲の傷はこれから先、怪しまれる……そう思い、あたかも少し前からあった傷であるかのように包帯を巻いていた。これだけの大きな屋敷である──これくらいの物はすぐに調達できた。
 その頃には、既に、天道あかねは生命活動を停止し、「死体」となっていた。
 死因は“絞殺”だ。
 あかねの首元に残った真っ赤な細い痕を見れば、専門家でなくても一目瞭然であろう。
 彼は、ワイヤーを使って、眠りに落ちたあかねの首を思い切り絞めたのである。呼吸がなくなっていくのは感覚でよくわかった。
 まさか、彼女も自分が眠っている間に死んでいたとは思うまい。……まあ、そんな事考える暇もないのが、「死」という物なのだが。

 しかし、厄介なのは爪痕だ。
 あかねが眠りに落ちる前に引っ掻いた、彼の右手の甲である。
 そこには、まだ、痕跡が残っている。

「──若葉の時は、こんな事には……」

 ──かつて。
 時田若葉という女子高生の首を、小田切が同じようにワイヤーで絞めようとした時、彼女は抵抗をしなかった。小田切は、それを思い出した。
 ショートカットの髪型と女子高生の制服は若葉を思い起こさせ、絞殺という手段も似通っていたからだろう。
 だが……普通は、こうして痕が残る物らしい。
 彼に、“殺人術”を教えた母もそう言っていたのである。

 ……そうだ。若葉は、一切抵抗をしなかった。

 しかし、その事について、深く考えてしまうと、小田切の目にさえも、不思議と涙が滲みそうになった。
 だから、慌てて考える事を切り替える。

(やめよう……)

127爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:10 ID:0BWA3FE.0

 別の事を考える。
 ──そう、これは必要な犠牲だった、と。

 まだ、俺は、俺たちの復讐を終えていないのだから……。
 俺は、復讐を終えるまでは死ねない……。
 何としてでも生き延びなければならないのだ……。







 小田切進の本名は六星竜一と言った。
 東北地方に位置する六角村で、その村の権力者たちに殺されかけながら、なんとか逃げのびた一人の女性・六星詩織の子として産み落とされたのが彼だ。
 詩織が竜一を生みだしたのは、その村の人間たちへの復讐を自分の代わりに行わせる為であった。
 詩織は、父と母と六人の姉妹たちを殺され──そして、細やかな幸せさえ奪われたのである。
 それが強い憎しみとなり、自らの子さえも復讐の道具と成そうとしていた。

 幼い頃から、竜一は詩織にあらゆる殺人術を教えられ、村人たちを殺す事だけを考えて育てられてきた。
 それが、復讐の為に生まれた殺人マシンの竜一の生き方であり、彼はそんな生活に何の疑問も持たなかった。
 そして、詩織は、殺人術の仕上げとして、自らを竜一に殺させたのである。

(……これでいいんだな、母さん。邪魔な人間は一人残らず消していけば……)

 それ以来、彼は何人の人間を殺しても何も感じなくなっていった。
 相手に罪があろうと、なかろうと。
 相手が子供であろうと、老人であろうと。
 今回の場合は、ここから帰れれば何でも良いのだが──その方法の一つとして優勝も考えている。
 ゆえに。
 何人かの参加者は、上手く殺していこうとも思っていた。
 特に、生き残る為に使いようがなさそうな、このあかねのようなタイプだ。

(怯える顔が拝めなかったのは残念だが、まあ、この女には大した恨みもない……。この程度で勘弁してやろう)

 結局は、彼にとって、人間を殺すのは、虫を殺すのと変わらない。
 虫より遥かに長く生きていようが、こうして、「殺害」という作業は五分で終える事ができてしまう。
 天道あかねの十七年の人生の幕を閉ざしたのは、僅か一瞬の怒りと油断である。
 所詮、人間とはこんな物だ。

(しかし……)

 問題は、その後だ。
 虫を殺すのは罪ではないが、人を殺すのは、何故だかやたらと大騒ぎされる。
 下手をすれば、警察に逮捕され、最悪の場合、死刑にもなるのが殺人者の末路である。
 だから……復讐を行う前にそうなるわけにはいかなかった。

 そして、この場にも警察はいないが、それでも、なるべく見つかるべきではないのは確かだった。──殺し合いに乗っているとバレてしまえば、それこそ、この無法地帯では、「殺し合いを乗っていない者」たちに不穏分子として消される心配だってあるだろう。
 更には、早乙女乱馬、響良牙、シャンプー、ムースなる奇妙な名前の“格闘家”たちもいる。
 勿論、小田切も格闘術には自信がある(それこそ警察が数人束になってかかってきても倒す事はできる)ので、彼らを倒す事も出来るかもしれない。
 だが、油断は禁物だ。──油断によって死んだ人間が、目の前にいるのだから。

 そうだ。
 それならば、「工作」を行わなければならない。
 これは、疑惑から逃れたい殺人者たちの通過儀礼だ。
 竜一も殺人の副次的なイベントの一つとして、密かにそれを楽しみにしている。

 幸い、この殺し合いの場に検視官などいない。指紋などの厳密な調査は行われないので、基本的には素手で工作を行っても問題はなさそうだ。髪の毛などが残る事もないだろう。

128爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:28 ID:0BWA3FE.0
 ……問題は、彼女の右手の指に引っ掻いた人間の皮膚が残っている事と、小田切の右腕に四本の傷跡が残ってしまっている事だ。
 この二つの合致だけで、もしかしたら……あの金田一のようなめざとい奴には、充分怪しまれる事になる。

 だから、今回もまた、「工作」を行い──そして、「死体」を芸術にする。

「──さて、どう料理しようか」

 彼は、あかねの支給品を既に抜き取り、全て自分のデイパックに移し替えている。
 彼女の支給品は、パプニカのナイフというナイフだった。それに、おあつらえ向きにリボルバー拳銃のスターム・ルガーGP-100まで支給されている。
 こいつはいい。竜一は銃撃も得意だ。ナイフなどよりもずっと強い武器になるだろう。

 ……あかねの支給品はこの二つだけのようだが、これだけで充分だった。







 ビデオ室。
 子供部屋の奥にある、小さな映画館のような豪勢な部屋だ。竜一は、そこをあかねの死体の処理場にする為、彼女をそこに運び込んだ。

 あかねの死体の、小指の付け根に、竜一はそっとナイフを突き立てた。
 そして、力を籠める。──彼の力で、いともあっさりとあかねの指は千切れた。
 普通の人間ならば、死体であっても躊躇するような行為だが、彼は平然と行う事が出来た。彼にとって、殺しへの不快感は無いに等しく、それゆえにストッパーとなるような物が何もなかったのだ。
 次は人差し指、次は中指、次は薬指……。リズミカルにそれを行ってのけた。
 親指には「痕跡」は残っていないので、別に切り取る必要はない。

「──」

 次だ。
 今度は──左手も同じにする。
 そうだ。死体はシンメトリーでなければならない。
 より、猟奇的で、人の目に印象の残る死体を作るのだ。
 それが殺人者の、死体への礼儀──そう、死体さえも殺す事が、真の芸術というやつだろう。

「ふふふ……ははは……」

 少し時間が過ぎると、八本の長い指が、全て竜一の手の中にあった。
 代わりに、あかねの死体からは指が親指だけを残して、全て切り取られていた。
 これくらいの作業は彼もすぐにやってのける事ができる。

 何せ、今まで死体をもっと大雑把にバラバラに切り刻んできたのだ。
 首。足。腕。
 今回も……そう。

 同じように──やってみようじゃないか。

 彼は、何の躊躇もなく──あかねの首を、野菜を切るかのように狩り取った。
 首輪がころころと地面に転がったが、こんな物には興味がなかった。首元に、輪投げでもしていたかのようにかけておけばいい。
 あかねの瞳は、いつまでも開いたまま、天井をじっと見つめ続けていた。
 ……もう二度と、その瞳が誰かに笑いかける事はありえなかった。

 それから、血の文字を残していこうと思った。

 ……だが、『七人目のミイラ』と書きこむのはルール違反だ。
 そう、今この少女を殺したのは、六角村の罪人たちを裁く復讐鬼『七人目のミイラ』ではないのだ。
 ただその復讐の仕上げの為に生還を目論んでいる、殺人マシン。
 穏やかな顔をして、その裏で牙を剥き、他者を欺き続ける猟奇殺人者。

 今は目的そのものではなく、過程を行っているだけなのだ。
 彼女に送られるべき名前は、『七人目のミイラ』であってはならない。
 別の名前が必要なのだ。

129爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:46 ID:0BWA3FE.0
 少し悩んでから、その名を、彼は天道あかねの背中に、彼女の血で描かれた文字のメモを貼りつけた。紙は屋敷を探せばいくらでもある。

『STEALTH MURDER(ステルスマーダー)』

 影に潜む殺人者、ステルスマーダー。
 竜一にぴったりな名前だった。
 よく思いついたものだと思う。

 ……そして。
 これで、竜一が求めた芸術的な死体が一つ、完成した事になる。
 あらゆるカムフラージュに満ちた、最初の死体は、知世の部屋の奥にある「ビデオ室」の客席に座らされた。

 早期発見を回避する為、その部屋のカーテンは閉ざされる。一人の死体が暗闇の中に置き去られた。
 竜一の胸は、これがいつ発見され、それを発見した者がいかに驚き嘆くのかを見たい気持ちになっていた。
 しかし……どうなるかはわからない。もしかすると、この場所を後にする事になるかもしれない。間近で発見を見る事が出来ないのは残念だ。
 次に誰かを殺す時には、もう少しわかりやすくてもいいかもしれない。
 今回は、「引っかかれる」というハプニングが大きかったが、上手くカムフラージュする事が出来たようだ。だが、今度はヘマをするわけにはいかない。
 それでも……今度は、「人差し指」でも残して、同じように殺すのも良いかもしれない。
 竜一は、部屋を出た。



 暗い客席に座る、全裸の女性の胴体。
 ──その腕の中に抱えられ、スクリーンを虚ろな目で見つめながら、自分の四指をポップコーンのように“貪る”、女性の生首。
 竜一にとっては、至高のオブジェだった。



【天道あかね@らんま1/2 死亡】
【残り65人】







【名探偵登場】──古畑任三郎



 コン、コン、コン。
 三回の、あまりに規則的なノックが鳴った。

「誰かいますかー!?」

 やがて、小田切がその大道寺邸で、いくつか、「小田切進以外」がいた痕跡を作り終えた時に、おあつらえ向きに誰かの声が響いた。
 死体の発見者となるかもしれない男が現れたのである。

 竜一は、少し警戒しながら、玄関に小走りで向かっていった。
 竜一が玄関に着いたのは、丁度ドアが開いて、襟足の長い黒服の中年紳士が入って来たタイミングだった。
 玄関より、「左方」の廊下から走って来た小田切を見つめながら、その男は丁寧な物腰と薄い笑顔で挨拶する。──どこかで見た事のある顔だった。確か、あのオープニングの船上で……。

「──あ、どうもこんばんは、私古畑任三郎です」
「古畑さん? えっと……あ、ああ、どこかで聞いたと思ったら、最初に──」
「ええ、私、ふっふっふ、これでも刑事なもので。こういう事はねぇ、やっぱり許せないんですよ、刑事の端くれとして。……あ、そうだ、ちなみにSMAPの事件解決したの私です、以後お見知りおきを。……で、あなたは?」
「はぁ。……僕は、小田切進です。つい先ほど、ここに着きまして……色々確認していたんですが、一人で心細くてほとんど何もできずにいたところです……」

130爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:46:22 ID:0BWA3FE.0

 世間では、何かSMAPの事件と呼ばれる有名な物があったのだろう。
 ──竜一の記憶には全くないが、最近、生徒がたまに話題にしているアイドルグループの名前がそんな感じだった気がする。
 まあ、話題の中心ではないので、そんな事はどうでもいいのだ。

 問題は、相手が刑事であるという事だろう。
 あまり強そうには見えないし、いざとなれば格闘術で対抗できるのだが、相手の出方を伺うのが何より優先だ。相手は銃を持っている可能性だってある。
 少年探偵、刑事、殺人鬼。
 ノストラダムスも、随分と面白いカードを揃えたものである。

「……えー、私も丁度、大道寺邸なる豪邸が見えたので来てみたのですが、まるでハリウッドスターの家ですねぇ、私も一度でいいからこんな家に住んでみたいものです、ええ。……んっふっふっふっふっ……」

 殺し合いが始まった時と同じだった。
 この古畑という男には、全く掴みどころがない。
 なるほど。話術に長けている人間なのだろう。
 金田一と同じく、何もかもを見通した目がそこにあるのは、何とも言えぬスリルがある物だ。──名探偵の瞳、という奴かもしれない。

「あ、えっと、古畑さんは……、刑事さん?」
「はい」
「……丁度良かった。ほっとしました」
「と、言うと?」
「いや、こんな状況で警察の方が来てくれたら、誰だってほっとしますよ」
「こんな状況にうかうか連れてこられてしまう刑事を? ……うっふっふっふー……いや、光栄です。市民に頼りにされるのが警察な物ですからね、……勿論、ノストラダムスと名乗る犯人の正体を明かし、我々警察で必ず彼を逮捕してみせます、その点については、ぜひぜひご安心を……」
「……はぁ。頼りにしています」

 竜一としても、それに越した事はない。
 殺しは好きだが、殺し合いというのは例外だ。──勿論、立ち回る術も必要になってくる。
 必ずしも、直接的に殺しまくるのが有効とは限らないし、そもそも、殺し合いの始まりには、「知力も必要」と言っていた。
 特に、金田一と古畑はその例として名指しされたくらいである。
 できれば活かしておき、利用したい人材だが──場合によっては、殺すしかないだろう。
 それまでは、どうにか、相手の話を聞き、殺すのは保留だ。

「あっ。……あの、小田切さん。右手、どうかなさいました?」
「え?」
「ほら、その右手。随分、包帯巻いてるじゃないですか、もう痛そうだ〜。私ね、そういうの見るだけでも立ちくらみしちゃうんですよ。……掌ですか、手の甲ですかぁ?」
「手の……甲です」
「それはどうしてまたそんな所を?」
「えっと……ちょっと前に、飼い猫に引っ掻かれてしまいまして……あはは、大袈裟に巻いておいたんです」
「ああ、そうですか〜。私も猫にはよく困らされるんですよ〜」
「古畑さんも猫を飼ってらっしゃる?」
「ええ、飼いたくて飼った猫じゃないんですがね」

 目ざとい、と竜一は思う。
 既に何か怪しまれたか……?
 ジロジロとこちらを見る古畑の目に、少し退きそうになった。
 殺した女の血の匂いがするはずはないのだが……。
 と、そう思っていた時、古畑は竜一に訊いた。

「……ちなみに〜、小田切さん。あなた、この家全部調べてみました?」
「いや……それはまだです。さっき着いたばかりですから」
「ああ、そうでしたねぇ。で、この家の家主の名前覚えてます?」
「大道寺邸……ですから、大道寺さん」
「そうそう、そうなんですよ。この家、大道寺邸というんです。参加者にも大道寺知世という名前がある。──もしかしたら、大道寺知世さんと関係あるかもしれない。この人の写真とか残されてるかもしれない、どんな人なのか調べて見たいと、そう思ったんです」
「なるほど……」
「案の定、でした。一つだけ、わかった事があります」
「何ですか?」

 竜一は、「子供」である事でももう割りだしたのかと思ったが、古畑が告げた言葉は単純だった。

131爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:47:53 ID:0BWA3FE.0

「──大道寺さんという人は、とてもお金持ちだという事です」







 ──ここで、周囲は途端に暗くなり、古畑にスポットライトが当たった。



 えー、私がたまたま入ったこのハリウッドスターの自宅のような広いお庭の屋敷。
 まだ、ここに来て私が遭遇したのは、右手の甲を怪我した、温和そうな男性教師だけです。……ええ、事件の気配は今の私にも微塵もしていません。
 ただ、今の私が何を持っているのか、どうやってここに来たのか、私はこれまで誰とも会ってないのか、私の真意も背景も、今現在のこの時点ではさっぱりわからないわけです。
 この男性に何かおかしな所があるかもしれないし、この男性は心優しい青年かもしれない。私がどう認識しているのかは、今回の話ではまだまだ情報不足です。
 つまり、「後続の書き手さんにお任せします」という奴です。
 ええ、今回出番が少なくてすみません。ただ、次回以降は…………えー、多分……んっふっふ、少しは出番が増えてほしいですねぇ。



 ……以上、古畑任三郎でした。



【A-8 大道寺邸/1日目 深夜】

【小田切進@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:パプニカのナイフ@DRAGON QUEST-ダイの大冒険-、スターム・ルガーGP-100(6/6)@レオン
[道具]:支給品一式×2、ワイヤー@現実、クロロホルム@現実、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本行動方針:元の世界に帰り、六角村の村人に復讐を行う。
       その過程で、使えない人間、邪魔者は消し、利用できる者は利用する。
0:まずは、古畑に対処する。
1:基本は相手の出方を伺う。どんくさい男のフリをしておこう。
2:殺す時にはただ殺さず、芸術的に殺すべし。
3:金田一、古畑は少し厄介だ。
[備考]
※参戦時期は「異人館村殺人事件」にて、金田一一に謎を暴かれる直前。
 ただし、兜礼児の殺害のみ遂行出来ていない。

【古畑任三郎@古畑任三郎】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:殺し合いからの脱出。
0:館の捜索。
1:?????
[備考]
※参戦時期は、少なくとも「VS SMAP」より後。
※ここまでの動向や心情が一切謎である為、彼が現在何を考えているのか、本当に単独行動なのか、非武装なのか、小田切にどんな印象を抱いたのか……それらは後続の書き手さんにお任せします。







【大道寺邸に放置されたあかねの死体の状況】
あかねの死体は、知世の部屋のビデオ室の客席に座らせてあります。
ただし、あかねの死体には首がありません。
あかねの首は、あかねの死体の腕に抱きかかえられ、その口には、切り取られた八本(左右の小指、薬指、中指、人差し指)の指が、指先を奥にして、まるで押し込まれるかのように詰め込まれています。
知世の部屋は既に犯人の手で片づけられており、既に幾つかの死体工作が行われているようです。
首輪は、首の上にかけたまま放置されています。

132爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:53:05 ID:0BWA3FE.0
投下終了です。
えー、二点だけ、執筆中の名残的なミスを発見したので修正します。

>>129
あかねの死体は全裸ではない(制服を着たままである)はずなので、

>暗い客席に座る、全裸の女性の胴体

>暗い客席に座る、制服の女性の胴体。

>>131
小田切進の状態表

>[状態]:健康

>[状態]:ほぼ健康、右手の甲にひっかき傷(包帯で処置済)

に修正をお願いします。

ちなみに、クロロホルムでは簡単に気絶しないらしいですが、「金田一少年の事件簿」にも「らんま1/2」にもそういう描写があるので、もうそれはあんまり現実に準拠しない感じにしました。
古畑の状態表も、「健康」とか書いてありますが、ここに辿り着くまでの過程を謎としているので、後続の方が色んな都合で付け加えたければ状態表の内容は無視しても良いかと。

133名無しさん:2015/10/28(水) 08:26:59 ID:kFMEA5As0
投下お疲れ様です
古畑任三郎の独白といい、周囲が暗転してスポットライトが当たるシーンといい再現がすごいですね
読んでる途中であのBGMが聞こえてきました

134名無しさん:2015/10/28(水) 21:29:15 ID:gj2mZh.E0
投下乙です

六星が一話目から、その恐ろしさを発露させましたね。
ステルスマーダーとしてどう動くか期待しちゃいます。
そして前の人も言っていますが、古畑の再現が上手いですね。
飄々とした雰囲気で、これは六星との会話劇が楽しみです。

135名無しさん:2015/10/28(水) 23:04:21 ID:KeTyl8XM0
投下乙です!

>『誇り』のバレット
ブチャラティ、まさかのボスの肉体で参戦!
しかも暗殺チームのリーダーと同盟を組むとは!
原作では考えられなかったif展開に期待ができす。
T-1000の不気味さもよく出ていました。

>爪を立てた少女
古畑はロワでもオープニング再現するとはw
とことんマイペースな古畑はロワでもどこまでその調子でいくんだろうか?
あかねも強いんだがロワで油断したのが運の尽きでしたね。

136 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:46:44 ID:vVp0OtkI0
投下します。

137暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:47:11 ID:vVp0OtkI0


 長い浜辺を海沿いに歩いて行く一人の女子高生がいた。丈を上げたセーラー服のスカートや、額に巻いた白いハチマキは海風が吹くにつれて、大きくはためいている。ショートカットの髪とそのハチマキ、そしてスカートから覗く太い脚を、見る人に、彼女が何らかのスポーツをやっている印象を与えるのは言うまでもない。
 彼女の名前は春日野さくら。
 スポーツをやっているというのは、まさにどんぴしゃりである。彼女は、ストリートファイトに明け暮れる、格闘少女なのだ。
 それも、決して弱くない。類まれな才能を秘めたその肉体は、これまでも見様見真似で多くのファイターを倒してきたほどである。

「うーん……確かにあの人だったよね」

 そんな彼女の手元には、革製の写真入れが握られていた。これは、通学の際もいつも、常に持ち歩いていた物だ。
 そして、その中に収められているのは、彼女の「心の師匠」とでもいうべき屈強な男の精悍な後ろ姿である。

『リュウ』

 写真の男は、そんな名前だった。彼も、額に白いハチマキを巻いているが、この事がまさに、さくらがハチマキを巻く理由だ。
 このさくらという少女は、ある時見かけたこの男に追いつく為に、ストリートファイトの世界に足を踏み入れたのである。
 一度は、師匠になってほしいと頼んだ相手だった。

 そして、彼は「憧れの人」だった。
 ……これではまるで恋をしている少女のようだが、恋心があるわけではない、と思う。
 ただ、強さとは何なのか、ストリートファイトとは何なのか──それを考える切欠をくれた、憧れの人に会いたいと、これまでずっと願ってきたのだ。
 以前、ようやく追いついて、一戦交えて……今はそれから少しした時だった。

 いつものようにそれを確認するように見つめながら浜辺に足跡を刻んでいるわけだが、今日は少しそれを見つめる意味が違った。

「やっぱり、この戦いに参加させられちゃってるのかな……」

 この殺し合いに参戦させられた際も──薄暗い闇の中で、確かにさくらは、その男らしき影を見ていたのである。写真ではなく、そこにいたのは生身の彼だ。
 だが、ほんの一瞬で視えなくなってしまったので、それが本当に彼なのかはわからない。もしかしたら他人の空似という事もありうる。
 少なくとも、それは幻影などではなかった筈だ……。
 そう、ここには、リュウが来ているのだ。きっと勘違いなどではない。

 ひとまずは、この殺し合いの中に“いる”という前提で、さくらは、のんびりとこの浜辺を歩きながら、その人に再び会う事を考えた。

 今も、……たとえ殺し合いが行われている真っ最中だとしても、結局、彼と会う事が、さくらの目的である。
 彼はまだまだ強くなっているのだろうか。
 さくら自身も前に戦った時よりずっと強くなっている。
 今度戦ったら、どのくらいやれるだろうか──。

 ここで会ってもまた、あの男と一戦交えて、強くなった自分を見てもらいたい。
 まあ、当面の方針はそんなところだ。

 それからは、その後ではあの人とともに、この殺し合いを始めた『ノストラダムス』も倒そうと考えている。そっちがついでになってしまうのは自分としても少し妙に感じるが、それが彼女らしい一本気な性格であった。

「ん?」

 そんなさくらの視界に、また、別の参加者の姿が映った。
 波打ち際に立ち、何か海の方をずっと見つめている、何者か……。
 背の高さを見た所では、おそらく男性だろう。しかし、少なくとも写真の男ではないのは誰の目にも明白だった。
 彼は、凛として立ち構えながら、腕を組んで海の向こうをじっと見続けている。

「誰だろう?」

138暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:47:27 ID:vVp0OtkI0

 さくらは止まる事を知らなかったので、その男との距離は徐々に近づいていった。
 中国で出会った人たちが着ていたような服を着ている……口髭の生えた初老の男性。
 そして──これは勘に近い蛾、数多のストリートファイトを経た経験からか、その男が只者ではないのをすぐに感じ取った。
 もしかしたら、結構強い相手かもしれない。……いや、おそらくそうだと思う。

 それならば。

(……あの人の事、知ってるかな? ついでに、ストリートファイトできるかも聞いてみよう!)

 そう、あの人も、あのハチマキの男の人の事を知っている可能性がある。
 その想いがさくらを突き動かす。
 さくらは通常の女子高生よりも少し無警戒であった。あらゆる情報を戦って得て来た性格のせいもある。

 今行うべきが殺し合いだとしても、彼は殆ど躊躇なく、その人に話しかけようとするかもしれない。
 さくらは、初老の男性のもとに走りだしていった。







 東方不敗マスター・アジアは、水面に映る夜の月を見ていた。
 ゆらゆらと美しく揺れる月を見ていると、──どうにも気が狂いそうになる。

(何故だ……)

 いや、実際そうなのかもしれなかった。
 自分は、おそらく気が狂っている……。
 そうでなければおかしいくらいだ。

(何故、ワシは今ここにいる……)

 自分は、かつて一度死んだ筈であった。
 弟子との死合の果てに、自然とは何か、人とは何かを知った東方不敗は──暁の下に見送られ、病魔に命を落とした。
 ……その筈であった。

 弟子の腕の中で、死と言う実感さえ覚えた。安らかでありながら、恐怖に抱かれているような想いが肉体を蝕み、やがて、遂に感覚は心だけになり、それも遂に消え去った。
 それがここに来る前の彼の最期の記憶だった。
 あまり良い気分とも言えないが、あれを経験した後は、本来ならもう二度と目を覚ます事はない……。
 しかし、彼は、どういうわけか目覚めた。
 目覚めた時はまるで、長い眠りから産み落とされたような心地である。
 死んだ記憶があるのに五代満足など、気が狂っている以外の理由で説明できるものであろうか。

(……何故、ワシを呼んだのだ) 

 波が高鳴る音を聞きながら考えた。
 自然をいくら愛しても、自然は人の疑問に答えてはくれない。

 ……殺し合い。
 又の名を、バトルロイヤル。
 その始まりに、東方不敗は『ノストラダムス』なる者の言葉を聞いたが、それはまるで東方不敗に課された『地獄』のように聞こえた。

 かのガンダムファイトを人と人との間で繰り返すような不気味な行い。
 そして、その対象者はファイターだけではなく、殆ど無作為に選ばれている。

 それを取り行う『ノストラダムス』なる者は、人を甦らせる術さえも持っているという。
 東方不敗は、ひとまずは、それを信じた。言うならば──自分自身がその証人の一人である。
 その点はノストラダムスが言った通りだ。死者の蘇生を経験した者がいるという話もされたが、そう言われた時点で彼はそれを実感していた。
 自分はまさに、その蘇った人間なのだと。
 ……しかし、納得はしなかった。

139暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:03 ID:vVp0OtkI0

 再三言うが、これはまるでガンダムファイトを人と人とで行うかのような、無益な争いだ。
 爆弾付の首輪などという罪な人工物を人間の首に嵌め込み、六十七名もの人間を殺し合わせようと画策する。
 この殺し合いを開いた者──『ノストラダムス』。

 なんと悪意に満ちた催しか。
 彼は、わざと東方不敗に、繰り返される過ちを見せようとしているのではないか?
 ガンダムファイトが正しい闘争などではなかったように、これもまた、戦争と同じ歪み切った争いに過ぎない。
 これが人間のする事だろうか。
 やはり、──醜い人間はいるのだと思った。

 それでも──もう二度と彼は、少数の人間の悪意に屈する事はない。
 人間も自然の一部だと……弟子たちが教えてくれた。
 人間を殺すも許されざる行いであるが、死んだ人間を蘇らせるもまた、自然に反する行いである。
 今こうして自分が生きているのもまた、その道理に合えばあってはならぬ事だろう。

 しかし。
 今から、自然の摂理に逆らい生きる自分の命を絶とうとはしない。
 これは、言うならば一つの機会だといえよう。
 かつて試みた、誤った償いは、今こそ本当の償いとなるべき時なのである。

 そう。東方不敗は一度死んだ。

 ならば──今宵の月にかけて。
 そう、この馬鹿げた殺し合いを止めるのが己の役目だ。
 たとえその過程で死が待っていようとも、何せ一度死んだ身。
 後に生きる人間や自然の為に使えるのならば、自由に使ってみせよう。
 自然に身を任せ、去りゆくのはその後で良い。

「おーい、おじさーん!」

 と、東方不敗は、後方から突きつけられた甲高い声に耳を貸すように、振り向いた。
 彼の真っ白なおさげ髪が、それと同時に風に靡いた。
 誰かが近くにいるらしい。
 とはいえ、至近距離というほどでもないので、まだ気配を察知していなかった。

「ヌゥ……」

 彼が振り向いたその先にあるのは、セーラー服の少女だった。無警戒にこちらに向かって大きく手を振り、駆け寄ってくる若い娘だ。
 ここから五十メートルほど離れた地点。
 見た所は女子高生だが、まともな女子高生に比べると少々、明るいというか、物怖じしない性格であるようだった。
 しかし、やはり、その性格はこの場においては、必ずしも長所とはなり得ない。あまりに無警戒すぎるだろう。
 こんな何もない場所で大声を出すのも警戒心が足らなさすぎるとしか言いようがない。

「……なんだ、小娘。ワシは今忙しい」
「えー。何してたの……? 暇そうにしか見えないけど」

 ザーッ、と、両脚でブレーキをかけるように止まるさくら。
 東方不敗もこういうが、結局は月を見ていただけである。
 だが、どうもこの手の軽い娘は苦手であり、つっけんどんとした態度で返したのだった。
 単に関わりたくはない。礼儀知らずな今どきの若者だ。

「……まあいいや。あたしの用はすぐに済むから!」

 彼女はあっさり話題を切り替えて、そう言った。

「ねえ、おじさん! 頭にこーんなハチマキした男の人知らない!? 探してるんだけど」
「──ハチマキ、だと!?」
「知ってるの!?」 

 この時、東方不敗が、愛弟子のドモン・カッシュを連想したのは言うまでもない。
 彼女が着用しているハチマキは白色、ドモンのものは赤色であったが、色そのものは問われなかったので、その特徴からふとドモンが捜索されているのかと思った。
 だが、彼女は、すぐに手元に写真があるのを思い出し、それを東方不敗に見せた。──そこに映っているのは、ドモンとは似ても似つかぬ男だ。

140暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:30 ID:vVp0OtkI0

「あ、ほら……この人!」
「なんだ、ドモンではないのか……。ならば、ワシは知らん」
「そうか……人違いか。うん……でも、ありがと!」

 目上に敬語一つ使えない娘なのかと思ったが、何故か不思議と不快感は覚えない。敬意がないわけではないのが手に取れるからだ。
 むしろ、ただの純粋な子供のような少女だった。
 思った印象とは少し違った。

(しかし……)

 本当に警戒というのを知らない。
 それはもしかすると、それは己の強さの過信が故かもしれない、と東方不敗は思う。

(ふむ……)

 東方不敗は、その少女の全身を見つめた。
 ──見れば、両腕、両脚には、女性としてはかなり発達した筋肉が備わっている。
 見た所では、ただの女子高生ではなさそうだ。ファイターとしても成り立ちそうな体つきである。
 ──だからこそ、自分は平気だと思っているのだ。
 自分ならば、たとえ相手が悪意を持つ者であろうが敗北を喫する筈がないと。
 彼女はそう思っているのだろう。

 だが、世の中には常に上には上がいる者である──頂点に立つにはその挫折を相当経験する。
 この若さでは、まだそれに気が付くより前なのかもしれない。
 本来ならば、自ずとそれを知るのが良いのだが、この状況ではそれに気づいた時には命がない可能性もあるわけだ。
 相手は殺しにかかってくるのだから。
 ……だとすれば、東方不敗はその身を以て教えるのが良いだろうか、などと考えていた時である。

「あ、それからもう一つ!」
「なんだ? 小娘」

 忘れていたかのように大きく声を張り上げたさくらに、東方不敗は答えた。
 この娘にも、これ以上、まだ用があるというのだろうか。

「ねえ、おじさんって、もしかして格闘とか拳法とかやってるの?」
「……何?」
「こんな時に何だけど、あたしとストリートファイトしない?」

 彼女が積極的に「戦闘」を求めてくる性格であったのは意外であった。
 すぐにでも東方不敗の方から彼女の油断を突いて一撃喰らわせ、一度痛い目を見せてみようと思った程なのだが、彼女自ら「ストリートファイト」なる物を望んでいるらしい。
 おそらく、近頃の若者の流行だ。路上の喧嘩試合のようなものだろう。
 東方不敗自身は、遥かにハードな「ガンダムファイト」のファイターなのだが……。
 まあ良い。受けて立たない理由はない。

「……小娘。名は?」
「春日野さくら! 高校二年」
「ほう。ならばさくらよ。……ワシの名は知っているか?」
「……えーと、ごめんなさい! わかんない!」
「フン……ならば教えてやろう!」

 格闘をやりながらにして、知らぬのかと思う東方不敗であったが、だからこそ名乗り甲斐という物がある。
 呆れながらも、どこか乗り気で、彼は張り上げた声で叫んだ。








「ワシこそ、かつて東方不敗マスター・アジアと呼ばれた男よ!!」








 ザパァ!
 まるで彼の高らかな名乗りに呼応するかのように、波が激しく跳ねた。
 東方不敗のバックで荒れる高波が、彼の凄みを伝える。
 稲妻が轟いたような気がしたが、それは気のせいである。

「……」

141暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:52 ID:vVp0OtkI0

 その名前を聞いたさくらが、少し首をひねりながら、考えた。
 なんだか凄そうな名前には感じたが、さくらは全くそんな名前に心当たりはなかったようだ。

「……誰?」

 東方不敗は思わずずっこけそうになるのを抑えた。
 こやつ、格闘の道を志しながら、ワシの事を知らんのか……と。
 しかし、知らないならば知らないで結構だ。
 そう、東方不敗は格闘家なのだ。実力さえ教えれば、名前や権威など必要はない。

「……まあ良い。知らぬならば、実力を以て教えてやろう」
「へへ……そう来なくっちゃ!」

 二人の格闘家が向かい合う。
 構えた後の二人の眼差しは、実に真剣な物であった。
 まるで殺し合いを始めた者たちのように……。



 浜辺を舞台にしたストリートファイトが始まる──。







──Round 1──

──Fight!!──


「ハァッ!」

 さくらは高く飛び上がり、足を伸ばして突き出した。
 まずは上段からいきなりの飛び蹴り。
 だが、東方不敗は両手を顔の前で組んでガードする。
 落下したさくらは、東方不敗の身体に向けて何度かキックを叩きこむ。
 しかし、手ごたえらしい手ごたえはない。

「フンッ」

 ──東方不敗は、攻撃を仕掛ける様子は一切なく、さくらの攻撃方法を見極めているようだった。
 それこそが隙になるであろうと考え、赤いグローブを巻いた腕を突きだし、東方不敗に向けて高くパンチを振りかざす。
 回転をかけたアッパー──その名も、咲桜拳。
 彼女は、思い切りその技の名を叫ぶ。

「咲桜拳!」
「ぬぅ……弱いわぁっ!」

 しかし、まともに受け、高く跳ね飛ばされたはずの東方不敗にダメージを与えた実感がない。
 彼の耐久値が高すぎたのだろうか。

「はぁっ!」

 着地しても尚、次の攻撃を仕掛けてこない東方不敗に向けて、もう一度攻撃を仕掛ける。
 回転蹴り──。
 スカートがめくれて、赤いブルマーがめくりあがる。まるで駒のように回りながら、相手の顔面に踵を叩きつける技。

「春風脚!」
「まだまだぁ!」

 東方不敗のガードは固い。
 それでも、波打ち際にまで追い詰められた東方不敗には逃げ場はないはずだ。
 この距離ならば──あの技も。

142暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:49:32 ID:vVp0OtkI0

「波動拳!」

 さくらの両腕から、青い波動が放出される。
 それは、リュウの使う技から唯一ほぼ性格にコピーした技──波動拳。
 流石の東方不敗も、石破天驚拳にも似た気功の技に少しは驚いたようである。

「ぬぅ……!? なかなかやるな、小娘……だが」

 しかし、彼は残像が見えるほどに素早く後方に飛び、十メートルほど離れたところで波の上に右足を乗せて立つ。
 真の達人は水の上に立つ事さえも容易なのである。

「──気力が足りんわッ! それでは余程距離を詰めねば当たる事はないッ!!」

 水上に立つ東方不敗に、さくらはぎょっとする。

「ええっ!? そんなのアリ!?」

 距離が遠ざかったゆえに、波動拳のエネルギーは空中に消える。──これがさくらの波動拳の弱点である。
 リュウの放つ波動拳に比べて、その射程があまりに短い。
 壁際に追い詰めたつもりだったさくらだが、この東方不敗を前には、海は壁ではないのだ。
 そして、次に構えたのは──呆気に取られ思わず戦いを忘れたさくらではなく、東方不敗の方であった。

「──知るがいい、小娘ッ!! この戦い、強さで生き残りたいならば……このくらいの芸当はやってみせい!!」

 東方不敗の右手に、少しだけ時間をかけてエネルギーが溜まっていく。
 これが武道を極めた者にこそ可能となる、流派東方不敗の必殺の技であった。
 本来なら滅多な事では使わないつもりであったが、この状況下、目の前の小娘に戦いの厳しさを教えるには丁度良いだろう。
 エネルギーが充分に満たされた時、

 ──東方不敗の右拳が突きだされる。

「石破天驚拳!!」

 “驚”
 掌の形のエネルギーが猛スピードでさくらに迫った。
 それは、さくらの目にもあまりに見慣れぬ攻撃であり、このさくらさえも戦慄させる技であった。
 巨大な掌が、海を裂き、波を立てながらさくらを襲う。

「くっ!」

 さくらは慌ててガードを行うが、東方不敗の一撃はあまりに強かった。
 まさに、巨大な壁が圧し掛かってくるような攻撃である。
 さくらのHPは次の瞬間、満タンの状態から丸ごと全て持って行かれていた。
 判定は言うまでもない。



──K.O.!!──



 倒れたさくらの身体を、波が一度撫ぜて引いていった。








 さくらがあっさりと敗北を喫した後、Round 2はなかった。
 これ以上戦闘を行う意味がないとはっきり悟ったのである。
 起き上がったさくらの目線の先には、海に半身を浸かりながら、こちらへゆっくりと向かい歩いて来る東方不敗の姿があった。
 尻を突きながら、まだピヨピヨとひよこの飛んでいる頭を何とか叩く。

143暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:49:54 ID:vVp0OtkI0

「やるね、おじさん……」
「わかったか、小娘。……これに懲りたら、二度と不用意に他人に声をかけん事だ。ワシが以前までのワシならば貴様は死んでおったぞ」
「……あはは。参りました」

 これはつまり──東方不敗からさくらへの手荒い教育的指導だったのだと、彼女もすぐに理解した。
 世の中にはこんな強い相手がいる……。
 この場では、あまり迂闊にこういう強い相手に戦いを申し込んでいたら死んでしまうかもしれない……。
 そういう事を、東方不敗は教えてくれたわけである。
 その想いは、確かに受け取ったさくらであった。流石の学習能力だといえよう。
 東方不敗も、さくらの態度を見て、彼女が少なからず反省しているのを理解したのか、すぐに告げた。

「……まあ良い、小娘。その白いハチマキの男に会った時は、貴様の事を話してやる」
「あ。ありがと、おじさん」

 なんとか手加減を受けていたお陰か、さくらは、すぐに立ち上がった。もう一度、自分の頬をぽんぽんと叩いた。
 もう一戦出来るといえば出来るのだが、それに意味はないであろう。お互い、敵意がない事も、どの程度の強さを持っているのかも理解したはずだ。それに、東方不敗はリュウの手がかりも持っていない。
 東方不敗は、それからもう一言付け加えた。

「──だが、その代わり、赤いハチマキをしたドモンという男に会ったならば……ワシに会うた事は内密に頼む」
「どうして?」
「……今更、顔を会わせようなどという物ではない。ワシが奴に教える事などもう何もないのだ」
「へえ、そのドモンって、おじさんの弟子なんだ」
「ああ」

 その直後に、東方不敗は、デイパックの中から取り出した武器をさくらに向けて投げた。
 さくらの足元に、一つのアイテムがどさりと落ちる。
 何だろう、と見てみた。
 それは、トンファー型警棒である。東方不敗がデイパックを確認した際に入っていた道具であったが、武器ならば腰に巻いた帯を使えば充分である。
 ましてや、こんなトンファーなど彼には必要なかった。

「ワシに武器は必要ない。身を守る為に持っていけ、小娘。いらなければ捨てても構わん」
「え? 本当に?」
「ワシにはこの身体一つあれば充分よ」

 さくらにとっても、それは随分と説得力のある一言に聞こえた。
 東方不敗は初老の男性の見た目に反して、あまりに強すぎる。それも、一切武器を使わずにして……だ。
 さくらですら、殆ど手も足も出ずに敗北を喫したほどである。
 ……まあ、さくらも武器を使うタイプではないのだが。

「あたしもそのつもりだったけど……。まあいっか! もしかしたら、何かに使えるかもしれないしね」

 さくらは、屈んで、トンファー型警棒を拾い上げ、適当に構えた。
 初めて構えたにしては、かなり上手く右腕の上でトンファーを弄んでいた。
 なかなか様になっている、と自分でも思ったようだ。
 それから、彼女はすぐに走り去る事になった。

「ありがとう! おじさん」

 そんなお礼だけを東方不敗に残して。
 しかし、東方不敗からすれば、礼も必要なかった。彼女が目の前から去り、もう少し落ち着く暇が出来ただけで充分だ。
 彼女もしばらくは平気だろう。
 ……そう、忠告をちゃんと聞いていればの話だが。





144暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:50:16 ID:vVp0OtkI0



(力が弱まっているのか……?)

 浜辺にただ一人残った東方不敗は、違和感を覚えていた。
 春日野さくらが軽く気を失う程度に手加減するつもりで石破天驚拳を放ったつもりが、さくらはノックアウトされても気絶まではいかなかった。
 それは、決してさくらの耐久性が高かったからではないであろう。
 思いの外、実力が発揮できなかったという実感が東方不敗の中には残っている。

(まあ良い……これだけの力が残っていれば、モビルファイター程度には負ける事もないだろう……)

 東方不敗は、それだけ考えて、その身を黒衣と仮面に纏った。
 これは東方不敗が唯一必要としたランダム支給品だ。
 これを纏う事で、東方不敗は今後、弟子に会ったとしてもその正体を明かさずに済む。

 シュバルツ・ブルーダーがそれを行ったように──。

 そう、これから先、ここに居るのは「東方不敗マスター・アジア」ではない。
 罪に惑い、弟子に完敗した一人の死者なのである。

 ──覚悟は決まった。

 この命、主催者を撃退し──この先、新しく自然を守る者たちの為に使ってみせようぞ、と。



【D-6 海辺/1日目 深夜】

【春日野さくら@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康、疲労(小)、全身びしょ濡れ
[装備]:トンファー型警棒@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、リュウの写真、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:リュウを探して、共にノストラダムスを倒す。
1:リュウを探す。
2:ドモンに出会っても、東方不敗の事は教えない。
[備考]
※参戦時期はZERO2終了後。
※デイパックの中身をろくに見ていません。

【東方不敗マスター・アジア@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康、放課後の魔術師の仮面と衣装着用(普段の服はその下にちゃんと着用)
[装備]:放課後の魔術師の衣装セット@金田一少年の事件簿
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:人間も自然の一部と認め、それを汚すノストラダムスを倒す。
2:ドモンに直接会うつもりはない。姿と正体を隠しておく。
[備考]
※参戦時期は、死亡後。
※東方不敗を蝕んでいた病魔は取り除かれていますが、それによって減衰していた分の体力はそのままです。


【トンファー型警棒@ターミネーター2】
東方不敗マスター・アジアに支給。
精神病院の警備員たちが所持していたトンファーの形の警棒。
作中ではサラ・コナーが奪って使用しており、警備員たちを攻撃。腕を折る者まで現れた。
トンファーと言うと両手に一つずつ装着するイメージがある人もいるかもしれないが、これは片方だけ。

【放課後の魔術師の衣装セット@金田一少年の事件簿】
東方不敗マスター・アジアに支給。
「学園七不思議殺人事件」に登場する怪人・放課後の魔術師の衣装。
仮面はパプアニューギニアの仮面で、衣装はただの暗幕。つまり、衝動的な殺人を誤魔化す為に即興で怪人のフリをしていた事になる。

145 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:50:44 ID:vVp0OtkI0
以上、投下終了です。

146名無しさん:2015/11/01(日) 19:04:53 ID:mC/ZNCCw0
投下お疲れ様です
ストリートファイターの再現のラウンドコールと格ゲーの常識とは違ってラウンド2がないという演出が、
格ゲー出身の女子高生VS非格ゲー出身の最強ファイターという構図を表現で来ていて非常によかったです
それにしても展開だけ見ると東方不敗がラウンド開始から程なくテーレッテーしてゲームを終了させたように見える…w

147名無しさん:2015/11/01(日) 23:49:56 ID:mOUxfRy60
投下乙です。
死亡後参戦の東方不敗は相変わらず強いなぁ。
ファイターのさくら相手に1ラウンドで決着をつけるとは。
一撃K.O.されたさくらだけど、これは相手が悪かった。

148 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:37:34 ID:6PYifF5M0
投下しますね。

149一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:00 ID:6PYifF5M0



 幾つもの難事件や悲しき復讐鬼たちを目の当りにしてきた少年名探偵・金田一一にとって、最も悲しかった殺人事件はなんだったのろう。

 恋人の復讐の為に凶行を繰り返した、オペラ座館のファントムの事件か。
 愛した人間を──涙を流しながら、しかし──殺すしかなかった悲しい殺人マシンの、六つの館の事件か。
 友人・佐木竜太が殺された、あの赤い部屋の事件か。
 小学校来の親友が起こした、魔犬たちの巣食う研究所の事件か。
 些細なすれ違いを切欠に、金田一のかつての友達たちが殺し合わなければならなかったあの雪の降る村の事件か。
 はたまた金田一がその館に足を踏み入れたばかりに起きてしまった、悲しい誤解の事件か。

 それとも……この、一面のラベンダー畑の中で起きた、夏の青森を彩る事件なのだろうか。

 結局、どれが最も悲しかったのかは、当人すらもわからないし比べる事もないだろう。
 ただ。
 ──これだけの悲しい事件の結果を目の当りにした名探偵も、その中で共通していた事を一つだけ見抜いていた。
 そして、“その事”は同時に、殺人劇のもう一人の主人公たる多くの犯罪者たちも、名探偵と同じように知っていったのだ……。

 たとえ悪魔のような人間に出会い、大切な何かを奪われ、その人間を“殺す”しかないほど憎んだとしても、復讐の果ての殺人の後に残るのは、耐えられないほどの罪の意識と、悲しみと、虚しさだけだという事だ。

 復讐を果たした後も、かつての自分が失われていく恐怖や、止まる事のない手足の震えは止まらなくなる。
 どんな目的で始まったとしても、犯罪はやがて、後悔へと形を変えていく。
 誰にも許されない事をしてしまったという自責が、大切な物は決して元に戻らず浮かばれないという結果が、当人を苦しめる。
 殺人の悪夢は絶え間なく殺人者の夢の中に出てくる。
 血で汚れた手をどれだけ拭っても、それは決して簡単には落ちない。
 かつて、悪魔たちに殺されてしまった大事な人との優しい思い出を時に思い浮かべようとするなら……それと一緒に、自らの罪が纏わりついて放れなくなっていく。
 戦場の兵士たちが、残酷に敵を殺しながら、家で家族に温かい子守歌を歌うその切り替えが──“自分の恨みの為”に人を殺した彼らには、絶対に許されなかった。

 そして、中には、自らの死を以て幕を引こうとした者も──そして、本当にその命を自ら絶つ事で幕を引いた者もいた。

 悲しい動機を知って、──決して許されない事だとわかっていながらも──お互いがどこかで共感し合っていたはずの“名探偵”と“犯罪者”の間に、最大にして決定的な認識の違いが生まれるのは、いつも、その最期の時だ。
 確かに殺人という手段が許される事ではなかったとしても……それだけの憎しみを抱えた復讐鬼たちの気持がわかる事は、金田一にもあった。

 しかし、最後に、その罪の果てに自殺し、身体の力と、最後の心を失った犯人たちの亡骸を前にした時には、彼はこう思い続けるだろう。



 ──どんなにどん底でも、どんな暗闇の中を生きていても、やり直しのきかない人生なんてないはずなのに。
 ──生きてさえいれば、罪は償えるはずなのに。本気で望めばやり直せるはずなのに。



 ──どうして。



 ──どうして……。





150一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:29 ID:6PYifF5M0



 ……ラベンダーの香がした。

 それは、和泉さくらが、そして、彼女の亡き父が最も好きな花の香だった。その温かい香が、彼女を暗闇の中から目覚めさせた。
 少しの躊躇と共に起き上がって見てみると、周囲は見紛う事なきラベンダーの紫色に囲まれている。どこか懐かしい、一面のラベンダー畑。暗闇の中でも星の灯りに照らされて、充分に映える不思議な色。

 彼女自身の偽りの家──それが、この蒲生邸のラベンダー荘だ。
 有名画家の蒲生剛三が資産で建てた巨大な敷地の家の別館……かつて、忌まわしき殺人事件の起きた場所であった。この屋敷の中で、二人の人間が殺された。
 ……忘れる由もなかった。

「……」

 さくら自身、その殺人事件が“終わり”を迎えた後だというのに、こうしてこの場にいるのが不思議でならなかった。
 少なくとも、さくらがこのバトルロイヤルに招かれる直前までは、さくらの周囲には何人もの観衆が見守っていた筈だ。
 そっと首に手を触れてみると、彼女の首には金属の固い物が押し付けられるように巻かれている。間違いなく、船の上で二人の命を奪った首輪がさくらの首にも巻かれているという事だった。
 つまり、バトルロイヤルは夢でも何でもなく、確かに行われているのである。

「……」

 この場所に来たせいで、あの冷たい感覚の後にここに招かれたように感じたが、いや、決してそういうわけではなさそうだ。本館で殺人事件の全貌が暴かれ、一度船の上で殺し合いの説明が行われ、再びこのラベンダー荘に来ている……というのは奇妙でしかない。
 ここに来るまでの時系列を纏めてみると、矛盾が生じた。
 バトルロイヤルの説明の後に殺人事件の説明が行われたわけではない。だが、さくらがいる場所からはラベンダー荘が見えている。

 ……“地獄”に、来てしまったのだろうか?
 それとも、自分が混乱しているだけなのだろうか?

 さくらは、ふと、自分の足元に転がっていたデイパックに目をやった。こんなデザインの鞄を持っていた事はないし、さくらのように大豪邸のお嬢様があまりデイパックなどを背負う物でもない。

「これは……?」

 思わず、声が出た。
 それを手繰り寄せて、ファスナーを開け、中の物をそっと取りだした。……やはり、自分の物と見て間違いなさそうである。
 彼女が最初に手にしたのは、地図だ。
 そういえば、“ノストラダムス”と名乗る人物は、同じように地図を支給していると言っていた覚えがある。
 地図を見ると、知っている場所の名前が書いてあった。

「“蒲生の屋敷”……ここが?」

 さくらは、自分がいるのは、見た事もない島の一角であり、そのB-2というエリアに属する場であるのを、その地図を見てようやく知った。
 蒲生の屋敷があるのは、本来なら青森県の某所である。
 いや、それだけではない。マップ中には「東京タワー」まである。「コロッセオ」があのイタリアのコロッセオならば尚の事不思議だし、どう考えてもこの場は常識では考えられないミステリーに満ち溢れていた。

 しかし──。
 さくらは、すぐに、その事に頓着しなくなった。

「……!」

 さくらの手が、わなわなと震えた。
 彼女が次に取りだしたのは、この殺し合いに招かれている人間の一覧がリストアップされた用紙だったのだ。
 和泉さくら、という彼女の本当の名前が書かれたその名簿をずっと下に辿っていくと、忘れてはならない名前がある。

151一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:50 ID:6PYifF5M0

「金田一君……!」

 金田一一……そうだ、彼も参加していたのだ。
 あの場で、“ノストラダムス”が二人の人間を殺した時、さくらの頭の中は、恐怖とショックで真っ白になった……。だから、その後で、誰かがノストラダムスに声をかけた事の印象が少し薄れていたのかもしれない。

 ──いや、きっと、そうだった。

 さくらは、誰かが目の前で死んだ事に、恐ろしさに震えずにはいられず──そして、大好きな人がその後で、また正義感の行動を取った瞬間を見逃すほどに、心が不穏に騒ぎ続けていたのである。
 しかし、……考えてみれば、彼は、あの広間で確かにノストラダムスに反目した。まるでBGMのように聞き流していたのは、彼の声に違いない。
 思い返してみると、いつもの「ジッチャンの名にかけて」という台詞も確かにこの耳で聞いたような記憶があった……。

 金田一一──キンダイチハジメ。
 さくらの友人であり、さくらを何度も助けてくれた想い人であった。──片想い、と言ってしまえばそれまでだが。

 しかし、それがより一層、ここが地獄であるという事の信憑性を高めた気がした。
 さくらは宗教を信じていたわけではなかったが、もしかしたら、──「地獄」というものが本当にあって、それが罪人にとっての苦痛を煽る物ならば、金田一がここに連れてこられるというのは、さくらにとっても、至極の苦痛の一つだろう。
 どうして……。────どうして?

「……どうして!」

 たとえば。
 さくらだけがここに連れてこられるならばまだわかる。
 しかし、金田一が、さくらのせいで連れてこられたというのなら、それは許されてはならない。
 何故なら。

 “さくらは死んでいて、金田一は生きているはずなのだから……“

「どうして、金田一君が……」

 さくらは、その場にへたり込んだのだった。
 かつて、さくらが死ぬ時──最後に感覚を停止する聴力は、金田一の言葉を捉えていた。

──バカだよ……お前は……──

 本当に、自分は馬鹿だったのかもしれない……。
 自分でも悲しくなるほどに……。







 ──和泉さくらは、殺人者だった。

 人を殺したくて殺したわけではない。──理由もなしに殺人を行う人間ではなかったし、むしろ、大人しく、純粋で、心優しい部類の少女であった。
 そして、それは全く、演技などではなく、何かの歯車で狂ってしまったわけでもない。彼女は、今も決して、殺人などをしないだろうし、もし、困った人間がいれば手を貸そうとするかもしれない。

 そんな人間が殺人を犯す理由のパターンは絞り込める。
 事故によるもの、正当防衛によるもの、そうせざるを得ない状況に追い込まれたもの……大方そんなところだろう。

 ──彼女の場合は、彼女の純粋さを憎しみで上塗りさせるほどにあくどい人間が、彼女の殺人の被害者だったのだ。





152一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:39:12 ID:6PYifF5M0



 さくらが殺したのは、さくらの父を殺した人間たちだった。
 彼女の父・和泉宣彦は芽の出ない画家で、さくらたちの家族は、北海道の高原で、貧しいながらも幸せに暮らしていたのだ。
 そんな宣彦の才能を見つけた蒲生剛三という男が、彼の絵を自分の絵として発表する為に、彼を利用し、用済みとなった時に殺した。
 蒲生の協力者には、海津という女医もいた。
 ……さくらが殺したのは、蒲生と海津──この二人の人間だ。
 そして、蒲生もさくらの身体を狙っていたし、海津はさくらを殺そうとさえしていた。──真性の下衆たちであり、さくらも、もし彼らの殺害を実行できなければ、死んでしまっていたかもしれない。
 結果的に、さくらが“勝利”した。
 順調に殺害計画は遂行され、二人の人間の命を奪うに至ったのである。

 しかし、そんなさくらの胸中に残ったのは、決して、父の無念を晴らす事が出来た達成感などではなく──むしろ、あの幸せだった家庭から遠ざかったような……いや、もう二度と手が届かないように閉ざされてしまったような、そんな感覚だった。
 ただただ、不快な物が纏わりついていた。

 だから──さくらは、全ての殺人計画を終えたら、後は自らの命を絶つつもりだった。

 ……最初はそんなつもりはなかったかもしれない。
 怪盗紳士に罪を着せたのは、「あんな連中を殺して罪に問われたくはない」からだったかもしれないし、「神出鬼没の怪盗ならば罪を着せても捕まらない」からだったかもしれない。
 画家の子供に生まれただけに、美術品を盗む怪盗紳士を許せない心は少なからずあったと思う。

 つまり、最初は上手く逃げるつもりだったという事だ。
 それでも、ある時から、全てを終え、金田一たちが館から去ったら、自ら死を選ぶつもりになった。
 もう自分には何もないと思ったからだ。もうさくらには、父も母もない。

 ……そして、何より、生きていく度に纏わりつく、忌まわしき殺人の記憶に耐えられない事も、よくわかったのだ。
 たとえ、どんな人間が相手でも、誰かを殺した時に平気ではいられなかった。

 ──そして、彼女は、金田一たちの目の前で、隠していたナイフで自らの胸を刺した。

 そう、最後の記憶──さくらの友人、金田一一がその明晰な頭脳と推理力を以て、さくらが犯した罪を全て暴いた後の事だった。
 去ったはずの彼は、真相を全て突き止めて帰って来たのである。
 真相を暴かれた時、彼の言う事には一切反論をしなかった。
 何せ、それは全て事実と寸分違わぬ物ばかりだ。
 まさに、反論の余地がないのである。“本物の怪盗紳士”の正体を暴いた時もそうだった。……彼は、本当に、偉大なる祖父・金田一耕助の血を引く名探偵として、貶す所がない。

 以前、不良の女子生徒に絡まれたさくらを助けてくれた時もそうだ。
 そして、殺人事件に巻き込まれた“振り”をしていたさくらを、勇気づけた時も……。
 あるいは、さくらが犯した罪を全て暴いた時の金田一も、それは強い正義感が成した行動だったのだろう。

 ……彼は本当に凄い。
 名探偵と殺人犯でありながら──二人は対立する関係でもなく、むしろ、お互いを少なからず大事に想う友人同士だったと言えよう。
 さくらは、金田一の事が純粋に好きだった。
 教室でいつも明るく笑っているクラスメイト。ちょっと馬鹿にも見えるが、いざという時には優しく、機転が利いて頼りになる男子。
 うちのクラスのみんなを笑わせてくれる太陽のような存在だった。

 本来なら決して巻き込みたくはなかったし、金田一の前で事件の全貌を明かされたくなどなかった。

 ……とはいえ、これが因果応報なのだろう。
 人を殺した報いが、“最も知られたくなかった人に、その罪を暴かれる”という結末だったに違いないのだ。





153一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:39:39 ID:6PYifF5M0



 今、殺し合いの場に来たさくらの手の中には、その時と同じように、刃が握られていた。
 ナイフというにはあまりに大きい。それは、まさしく、刀そのものだった。
 刃渡りは、ギリギリデイパックに入る程度という所で、よくこんな物を持ち歩いていたのだと思ってしまう。
 しかし、結局のところ、さくらにとって、そんな事はどうでも良かった。

 いずれにせよ、死んだはず──決して、一命を取り留めたなどと言う事があるはずなかった──のさくらがこうして生きている限り、あらゆるミステリーが許される状況になっているのかもしれない。
 異常な事が付きつけられているとしても、さくらはもう“正常”など求めない。

「金田一くん……」

 感情がある限り、苦痛は決して止まない。
 心を閉ざす唯一の手段は、死ぬ事だけだ。
 たとえ、一度死んだとしても……やる事は変わらない。

 切っ先を自らの腹部に向けてみた。
 ──あの時と同じように。

「お父さん……お母さん……」

 剣を持つ手は、一瞬止まった。
 ──そうだ。
 さくらは、かつて自分が死ぬ時、もしかしたら、父や母に会えるかもしれないと少し思っていた。
 しかし、それは決して叶わなかった。この殺し合いに巻き込まれたからだ。
 だからか、あの時のように、思い切りがつかなかった。

「──」

 それに、この場には金田一がいる……。
 もし──仮にもし、自分の罪が何らかの形で、彼を巻き込んでしまったというのなら、まずはそう……彼に謝りたい。
 彼は大事な友達だった。恋人には、なる事はできなかったが……。

 昔、さくらが死のうとした時、金田一は真っ先に駆け寄り、必死になっていた。
 力を失っていくさくらの目の前で、金田一が力を振り絞り、声をあげていたのがわかった。
 そして……さくらがゆっくりと目を閉ざした時、金田一の声が死にかけた脳に届いたのだ。

──バカだよ……お前は……──

 これまで、いじめられて罵倒される事はあっても、こんなに優しく、悲しそうな語調が耳に届いた事はなかった。
 彼がどういう意味で言ったのかは、さくらにもわからない。
 しかし──少なくとも、さくらを本心から貶す意味でそんな事を言う人間でないのは、さくらもこれまでで重々理解していた。

「駄目だぁーーーー!!!」

 さくらが手を止めた時、誰か、男の声が響いた。
 はっとしてそちらを見ると、さくらとそう変わらない──といっても、少し年下だろうが──年齢の、妙な恰好をした男の子が慌てて駆け寄って来たのだ。
 その姿に、さくらは思わず、はっと、かつての金田一の姿を重ねた。

「!?」

 彼は、呆然とするさくらの元まで、すぐに近づいていた。
 そして、息を荒げ、さくらを睨むように見つめながら、刀を、強い力で思い切り奪い取ったのだ。
 だが、刀は空中で彼の手を離れ、空を舞って地面に突き刺さった。
 流石に驚いて、さくらは彼の瞳を見た。

 彼の瞳は──真っ赤になっていて、泣いているのだとわかった。





154一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:40:18 ID:6PYifF5M0



 少年──ポップは、決して強い人間ではなかった。
 いや、むしろ、どんな人間よりも弱く、もしかすれば「あさましい」と言えてしまう人間だったかもしれない。
 自分が助かる為ならば仲間を置いて逃げる事だってあった。弱くて、卑怯で、どうしようもないほどに普通の人間だ……。

 しかし、そんな彼も、今は──誰よりも強い心を持つ人間になっていた。

 大事な師や旅で出会った人たち、そして心強い仲間たちと共に、バーン率いる魔王軍と戦ってきたこれまでの道程で、彼は悪に立ち向かう勇気を得た。自分に打ち勝つ正義を得た。
 それどころか、強敵を前にしても、その身一つで一生懸命に戦い続けるほど……強き戦士になった。
 勇気と正義だけは、勇者と──ダイと、並ぶほどである。

 そんな彼も、この凄惨な殺し合いに招かれた時は、すぐに……涙を流した。

 この前にあった出来事が彼にとって強い劣等感を煽る物だったせいもあるが、やはり、クロコダインという大事な仲間を喪った事が決定的だった。
 どれだけ回復呪文(ホイミ)を唱えても……死んだクロコダインには効き目はなかった。
 第一、矢に串刺しにされて死んでいるのだ──どうしようもない。それでも、何度も何度も彼にホイミを唱えた。
 結果、全てが虚しく……クロコダインはここにおらず、ポップはここにいるというわけだ。

「クソッ……間に合わなかった……クロコダインのおっさん……」

 あそこで見せたクロコダインによる反逆。
 それは、まぎれもなく彼の正義が発した強き意志。

 だが、ポップにはそれだけの勇気が無かった。
 仲間を殺されても、立ち上がる事さえできなかったのだ。
 アバンの使徒たちが持つ「アバンのしるし」が光り輝き起きるはずの大破邪呪文……ミナカトールを起こそうとした時もそうだ。
 自分は、クロコダインのように上手にやる事が出来ないのかもしれない。

 そう……。

 あの大破邪呪文を起こそうとしていた時に、ポップはこの殺し合いに招かれたのである。
 しかし、ただ一人、ポップのしるしだけが光らなかった。
 今も、その“お飾り”のしるしは、ポップの手元にある。
 少し前まではアバンという師から受け継いだ誇りだったその石を見つめても、彼の劣等感を煽り続けるだけだった。今にでも捨てたくなる。

 ……自分だけが。

 そう、五人もいて、自分だけが、この石を光らせる事が出来なかった。
 生まれながらの戦士や、勇者ではないポップのぶつかった才能の限界である。
 あの後、ミナカトールの呪文を起こす人間に“欠員”が出来たはずだが──それは一体、どうなってしまったのだろう。
 あの呪文が起こせなければ、何千、何万という人が死んでしまうとヒュンケルは言っていた。
 と、その時、ポップは思い出した。

「そうだ……ダイ……」

 クロコダインの亡骸に駆け寄ったのは、自分ともう一人。
 かけがえのない親友──勇者ダイだ。
 彼も大破邪呪文の為に必要なアバンの使徒の一人である。
 ……よりにもよって、二人も欠員しているわけだ。あの後、マァムやヒュンケルたちは──どうなったのだろう。
 とにかくあの呪文が中断された事に、安心してしまう自分の弱い心を、ポップはすぐに振り払った。

「……ダイ! いるか!? いたら返事してくれ!」

 ポップは、泣きながらも大きく叫んだ。
 しかし、彼の言葉は決して遠くまで響かない。大事な仲間の死の傷跡は思った以上に深く、声を殺して泣くのが精一杯だったのかもしれない。
 まるで喉の中だけで反響しているようだった。むせかえるような喉の痛みと、詰まった鼻では、遠くまで聞こえるほど騒がしく声を張れるわけもない。

「……クソォッ!」

155一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:40:48 ID:6PYifF5M0

 ポップは、この時、一度、座り込んでしまった。
 彼の周りは、一面、紫色の植物に囲まれている。鼻が詰まっていて気にならなかったが、凄く温かい香がした。
 紫の綺麗な植物、この香り……なんという名前なのだろう。

 それで……少し落ち着いてから、ポップは手元にあったデイパックの中身を確認した。
 そう、考えてみれば、この中に入っているものは、今日を生きる糧だ。上手くすれば、意外な使い方をする事で主催打倒の手がかりになるかもしれない。

 少なくとも、どれだけ打ちのめされていようとも、ポップは「正義感」だけは捨てない人間だった。
 こんな時でも、大魔王バーンや、ノストラダムスを倒す事は頭から外していないのである。
 むしろ、それを強く願っていたからこそ、しるしが光らなかった事や、クロコダインが死んだ事にあまりに強いショックを受けていたのだろう。
 ──みんなでやり遂げる、という事が出来なくなったからだ。

「ん? 名簿……?」

 ポップは、この殺し合いに招かれた者の名前が載ったリストを手に取っていた。
 ダイを探す彼の意思が呼応したのかもしれない。
 すると、その名簿には、ダイ以外にも、ポップの知る名前が幾つか載っているのがわかったのだった。

「キルバーン……バーン……ハドラー……だって!?」

 そこにあったのは、今、ダイやポップたちが倒そうとしている者たちの名である。
 大魔王や、かつての魔王が敵になっている。一応、名目上、ポップはダイや彼らと「最後の一人」の座をかけて争っている事になるわけだ。
 ノストラダムスの言葉に乗る気はないが、もしポップが最後の一人を志す場合、実力の時点で大きな壁が出来ている。
 流石に正攻法での勝利は不可能なのは明らかである。
 彼らが同名の別人や偽物でない限りは、ポップの実力の遠く及ばない所にあるだろうし、現状ではポップも負けを認めよう。
 ダイですら、バーンなどとは今、真正面から一対一で戦って勝てるのかは微妙な所であるといっていい。
 だが……それ以上に気になったのは──。

「ノストラダムスは……あいつらより強いってのかよ!」

 そう、あの三人を拉致して連れてくるノストラダムスの実力だ。
 おそらくは、彼らより上にあるといっていい。何らかの魔法や術でも使えば別だが、彼らがそんな物に引っかかるだろうか。
 大魔王を倒すには、クロコダインを含めた何人もの仲間が絶対的に必要だった。

 ……いや、しかし、考えようによってはプラスな部分もある。
 バーンやハドラーがここに連れてこられてきているという事は、元の世界で戦っている者たちも大破邪呪文の中断以上の混乱に見舞われているわけだ。魔王軍も地上侵攻を進める事ができないという事になる。

 それに、ポップの目的は最後の一人になる事ではなく、ノストラダムスを倒す事だ……。
 もし、バーンやハドラーが同じ目的を持っているとするなら──いや。
 ハドラーはともかく、バーンやキルバーンともなると、ポップや弱者は必要とせず、そもそも協力して脱出を寝返るほど対等な関係とはしないかもしれない。

 やはり。
 ポップがすべきは、ダイとの合流だ……。
 仮にバーンたちと出会っても、上手く行くかはわからない以上、うっかり遭遇しない限りは、上手にバーンたちを避けながらダイたちを見つけたい。

(よしっ! ……泣いてても仕方ねえよな。
 今俺がやるのは、大破邪呪文(ミナカトール)を完成させる事じゃなくて、ノストラダムスを倒す事だ!
 それなら、こいつが光らなくたって……これまで通り、ダイと一緒に、勇気で乗り越えればいいんだ!)

 ポップは、そう思って思い切り立ち上がった。
 すると、ポップの視界には、先ほどまで全く見えなかった、“別の参加者”の姿があった。背の高いラベンダーたちに囲まれた場所では、お互いの姿が見えにくかったが、確かにポップはそれを確認した。

 どうやら──ポップより多少年上程度の女性である。

156一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:41:26 ID:6PYifF5M0
 そして──彼女は、その手に剣を持ち、今にも自分の身体に突き刺そうとしているのである。
 あれは……。

「!?」

 ポップは、飛び上がりそうなほど驚愕した。
 苦しんで死ぬより、自らの手で命を絶とうとしたのだろうか。そう、まさにその瞬間である。──刃を自らに向けるなど。
 しかし、その少女の命がこのまま尽きるのを、ポップは強く嫌悪した。

 頭の中に浮かぶのは、やはり……。
 やはり……。

(おっさん……!!)

 クロコダインが──大事な仲間が死ぬ姿が、脳をちらついて、離れなかった。
 ポップは、止んだはずの涙を再び流し、奥歯を噛みしめた。
 いつか──そう、いつか、幼い日に両親に問うた、答え難い質問と、その答えを彼は不意に思い出した。

──どうして……──

 誰かが死ぬというのは、どういう事か。
 誰かが生きると言うのは、どういう事か。
 そして……目の前に、自ら命を絶とうとする人間がいたら、ポップは──どうすればいいのか。
 今度は、彼が泣いたまま発した叫びも、遠く響いた。

「駄目だぁーーーー!!!」

 彼は、少女の自殺を止める為に、駆け出したのだ。
 それは勇者の証や意志などではなく、彼の根っこの部分が脊髄反射を起こしたゆえの行動と言い換えても良かった。







──どうしても人は死んじゃうの!? どうしてずっと生きていられないの!?──







 そして、時間は、“現在”に戻った。

 五十メートルほどの距離を、ラベンダーをかき分けながら疾走したポップは、肩で息をしていた。
 この程度の距離では、普通はそうそう息が切れる事もない。
 しかし、泣きながら──嗚咽とともに、必死でもがくようにして、彼は、和泉さくらが死のうとするのを止めたのだった。
 さくらも、直前には躊躇していたので、結果的にはそれは無意味だったかのように思える行為だったが、実際のところ、ポップ自身が大事な事に気づくのに、大きく意味のある瞬間だった。
 遠い日の夜の事が頭に浮かぶなど……。

「──どういう理由が……あんのかは……知らないけどさ……、今……こうしてわけのわからない状況で怖いのかもしれないけど……!」

 さくらは、呆然と、彼の姿を見つめていた。
 何故か、それが、金田一少年の言いそうな事に思えたからだ。
 はっとして、目を大きく開いているさくらの顔面に、ポップは、自分が今──この殺し合いにいる誰よりも強く思っている感情を叩きつけた。

「──だけど、自分から死んじゃ駄目だ!」

 目をぎゅっとつぶり、肘で両目を擦ってから、ポップは言った。

157一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:43:26 ID:6PYifF5M0
 その手の中──拳は、固く閉ざされている。何か、強い想いが、彼の拳を強く握らせていた。

「……俺の……俺の仲間だって……クロコダインだって……死にたくなかったはずなのに……あいつらに殺されちまったんだよ……!
 なのに、……なのに……、生きてる奴が、自分から命を捨てようなんて、絶対変だ……! 俺は認めねえ……!」

 唖然とするさくらを余所に、ポップは続ける。
 さくらも、彼の知り合いが──あの広間で殺されたピンクのワニ男だったのだと悟った。
 あれは作り物のようにしか見えなかったが、しかし、ポップの表情や言葉は偽物ではなかったし、さくらの思考は混乱を極めたようである。

「どうして!? どうして自分から命を捨てちまおうとするんだ!」

 ポップは激しい語調で問うた。
 何故か、その言葉がさくらの胸には、鋭利な刃物のように深く突き刺さる。
 どこの誰ともわからない人間の言葉であるが、他人のような気はしなかった。
 まるで、目の前に金田一がいるような気分だった。

「……君は?」
「そんな事どうだっていいだろ! わけを話してくれよ……!」

 ポップの息が整い始めた。
 ここでさくらの声を初めて聞いてから、今、自分は会話をしているのだという事に気づいたのだろう、息は整っていくのではなく、整わされ始めた。
 ポップは少し、頭の中で考えをまとめる。……あまり上手に纏まったわけではないが、ポップは落ち着いて、言った。

「俺は……俺は、みんな一緒に生きて、こんな所から脱出したいんだ……。だから、誰にも死なないでほしい……」

 さくらの瞳は曇ったまま、ポップの方を見つめていた。
 彼が誰なのかはよくわからない。……いや、彼は今、名乗る事さえも拒んだ。
 ただ単に、自殺という行為への怒りが彼を突き動かしていたのである。だから、もう一度冷静に名前を聞けば、答えてくれるかもしれない。
 だが、そんな事は、今はいい。
 彼は、そんな事よりも、さくらが死のうとした理由を知りたいらしかった。

「……」

 さくらも少し悩んだ。
 相手は初対面の人間だ。何かを打ち明けるには抵抗がいる。ましてや、それは、本来、あまり他者に向かって話す事でもなかった。
 しかし……。
 初対面の人間だからこそ、容易く打ち明けられる事というのもある。
 さくらが犯した罪とは、全く無縁な少年だ。

「……あたし、人を殺したの……」

 呟くように、俯いてそう言ったさくらに、ポップは驚いたようだった。
 殺し合いが始まって、まだそう時間は経過していなかったが……まさか、と。
 しかし、そんな様子を察してか、さくらは首を振った。

「……ううん……ここに来てからじゃないわ。ここに来る前の話よ。
 お父さんの命を奪った奴らを二人、この手で殺したの……」

 ポップは、饒舌にさくらに言葉を投げかけていたはずの口を噤んだ。
 何も言われず、ポップが少し恐れているように見えたさくらは、却って気が楽になった。
 まるで置物を相手に話しているようで、──あまり気がねする必要が無い。

「……でもね、その人たちを殺したその時思ったの。
 お父さんたちとの思い出は……私自身が、穢してしまったんだって……」

 ポップの目は、殺人を犯した人間を見る目ではなかった。
 普通の人を見て、人を殺した事のない普通の人の悩みを聞いているような気持ちになっていた。
 結局は、ノストラダムスもさくらも同じ殺人者に分類されるかもしれないが、彼女だけは除外しても良いような気持ちになる。

「あなたが誰だかはわからないけど……もし、本当に脱出したいなら、私を仲間に入れない方がいいかもしれない……」

158一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:48:53 ID:6PYifF5M0

 ごくり、とポップは唾を飲み込んだ。
 さくらの重い言葉は、まるでポップの心臓を締め付けていくようだ。
 しかし、意を決して、彼は言った。

「でも……でも俺、よくわかんねえけど、──人を殺すのも悪い事だけど、自分の命を捨てるのも同じくらい悪い事だろ?
 ……それに、罪の意識ってやつを感じるなら、あんた、やっぱり悪い人じゃねえよ! ……死んじゃったら勿体ねえよ」

 今度は上手く言葉が纏まるかわからず、少し手探りになった。
 ポップには人を殺した経験などないし、それを踏まえて相手に納得のいく言葉をかけられるのかは全くわかなかった。
 ただ一つだけ。──やはり、それでも、自ら死ぬのは間違っているという意見だけは変わらなかった。

「それに、やっぱり……償う方法が死ぬしかないなんて事はないはずだぜ!
 だって、そうだろ……? 今からやり直しちゃいけないなんて、誰が決めたんだよ!」

 そして──まるで紡ぐように出たその一言が、何か、さくらをはっとさせた。
 やり直す──その言葉が、さくらの中で引っかかったのだ。
 そんな言葉をいつか、語りかけられたような……そんな気もした。

「え……?」

 そんなさくらにも気づかぬまま、ポップは続けた。
 今ポップが口にしているのは、さくらを説得する言葉というより、彼自身の願望と言った方が近かった。
 しかし、それが却ってさくらの心を揺さぶったのかもしれない。

「だって……人は必ずいつか死ぬんだ。──だから、一生懸命、生きてるんだ!
 あんただって、最後の時が来るまで、一生懸命生きて、今からだってやり直せばいいじゃないかよ!
 俺、もう誰にもクロコダインみたいに死んで欲しくないんだ……! どんな人間にだって、あがいてもがいて、一瞬でも長く生きてほしいんだ……。
 そいつが……そいつが、俺たち人間の、一番の強さだって、思ってるから……」

 クロコダインと言う仲間の死を受けたばかりだからこそ……彼は、ひたむきにそう言い続けたのだろう。もう、目の前で誰かが死ぬのを見たくは無かった。
 そして、生きている誰かが、大事な命を捨てて行くのも……。
 目を丸めたまま、さくらは、彼に訊いた。

「きみ、名前は……?」
「……俺は、ポップ。あんたは?」
「和泉、さくら……」

 苗字と名前の概念は殆どなかったが、何となくどこが名前かはポップにもわかった。
 とにかく、さくらが唖然としているのはポップにもよくわかる。
 初対面の人間をこれだけ強く説得したのだ。──誰だって少しは驚くだろう。

「……イズミ・サクラ、か。なら、サクラ……一緒に脱出したいなら、絶対大丈夫だぜ! 俺の仲間もきっと、サクラの事をわかってくれる。
 ダイっていってさ……凄く良い奴なんだぜ! まあ、俺と違って、あいつは女の子の事には、鈍感だけど……」

 それから、ポップはもう少し元気で前向きな気持ちでさくらに語りかけた。
 さくらが少しでも心を開いてくれたと思ったからだ。それはポップにとっても純粋に喜ばしい事だった。
 少なくとも、今ここで命を絶つ事はないだろうし、少しはポップの言葉を胸にしまってくれたような気がする。
 ふと、知り合いの話題で、ポップも気になる事があった。

「そうだ、サクラは……?」
「え?」
「サクラは、ここに知り合いが来てたりしないのか?」

 そう問われて、さくらは、少しだけ躊躇してから、金田一の名前を告げた。
 考えてみれば、脱出したい人間にとって、金田一はきっと、最大のブレインになる。
 彼は頭が良いだけではなく、正義感も誰よりも強い──ポップとは、きっと仲良くやれるのではないかと思った。
 さくらも、ポップに悪印象は全く無い。彼が純粋に脱出したいというのが、さくらにも伝わったのだ。

159一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:49:22 ID:6PYifF5M0

「……金田一くん、っていう友達がいるわ」
「キンダイチ? ……それって、確か、ノストラダムスの正体を暴くとか言ってた奴じゃねえか! 詳しく教えてくれよ!」

 やはり、船の一室で金田一が啖呵を切ったのは間違いないらしいと、さくらは知る事になった。

 金田一は、やはりあの時も……名探偵だったのだ。
 そんな彼に想いを馳せながら、さくらは一度、ポップとちゃんと話してみる事を決めた。



【1日目 深夜】
【B-2 蒲生の屋敷・ラベンダー畑】

【和泉さくら@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、恐怖と震え
[装備]:神刀滅却@サクラ大戦
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本行動方針:?????
0:ポップと話す。
1:金田一くんに会いたいような、会いたくないような…。
2:自分は生きていて良いのだろうか?
[備考]
※参戦時期は死亡後。
 金田一の説得は、「バカだよ……お前は……」まで聞き取ったようです。
※金田一と同じクラスだったので、小田切進の事は知っているはずですが、現在のところ特に意識はしていないようです。

【ポップ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:アバンのしるし@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:打倒ノストラダムス。 誰にも死んでほしくない。
0:サクラと話す。特に、キンダイチという人間の事が気になる。
1:ダイを探し、一緒にノストラダムスを倒す。
2:バーン、キルバーンを警戒。ただし、ハドラーは…。
[備考]
※参戦時期は26巻「大破邪呪文の危機…!!!」終了後。
 その為、アバンのしるしを光らせる事が出来ていません。


【支給品紹介】

【神刀滅却@サクラ大戦】
和泉さくらに支給。
「二剣二刀」の一つであり、帝国華撃団総司令・米田一基中将が持つ、霊力を帯びた直刀。
所持者を正しい方向へと導く力を授けられると言われる。
後に大神一郎に託され、「二剣二刀の儀」に使われた。

【アバンのしるし(勇気)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
ポップの所持品(ただし支給品枠1減)。
アバンに教えを受けた「アバンの使徒」たちだけが卒業証書代わりに持つ石。
輝聖石という特殊な石で作られており、敵から受けるダメージを軽減し、所有者の力を高める事が可能。つまり、強力なおまもりである。
いざという時には、彼らの身を守る魔力を発動するが、確実に生存を約束する物ではない。
五種類あるが、ポップが持っている石は、「勇気」の力に呼応する。

160 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:49:41 ID:6PYifF5M0
投下終了です。

161 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:33:19 ID:B.ilgdx20
投下乙です。

>暁に死して、月に再び黄泉返り。
東方不敗は死亡後からの参戦か…大好きなキャラなのでドモンの説教後で良かったです。
優しくも厳しいおじいちゃんという感じで嬉しいですね。 さくらもハツラツとしていて見ていて元気になります。

>一瞬の花火
こちらは打って変わって和泉の暗い話。バトルロイヤルを地獄と捉えていましたがあながち間違いでも無いですね。
ポップは本当にかっこいなぁ…バーン攻略の方法を知らない時期とはまた大変になりそうですね。

筆が早くておもしろいなんて凄いです。
大変遅くなりましたが、自分も投下します。

162復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:35:28 ID:B.ilgdx20
『このコートは絶対渡さねええええええーーーッ』

――― バッ……バカなッ!

                       『健康な肝臓だわ、とてもいい色』

―――― まさかッ!これはッ!?

『大丈夫ですか? そんなところにうずくまって……』 

――――― オ、オレは何回死ぬんだ!?

             『おじちゃん、オナカ痛いの?』

―――――― オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーーーーッ


『オマエは……ドコへも……向カウコトハナイ………
特ニ……「真実」ニ到達スルコトハ……決シテ!』


-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -

―――!?

 夢に魘され大量の汗をかいた男が、悪夢から逃げ出すかのように勢いよく飛び起きた。

――ハァーッ……ハァー……ハァー……

 心臓の鼓動が激しく、男は息を整えようと深呼吸している。
 その男はピンク色の髪に派手な革のパンツ、そして上は服とも言えぬ様な紐状の下着のみと、一見すると変態かパンクロッカーの様な服装をしている。
 そんな服装から首にはめられた「鉄の首輪」が妙に似合っているが、実際の男は変態でもパンクロッカーでもなかった。
 その男の名前はディアボロ、かつてイタリアで主に活動しているギャング「パッショーネ」のボスだった男だ。
 自分の正体を隠蔽し続け、ローマひいては世界を裏から牛耳る帝王になろうとしていた男だ。
 そんなディアボロが、状況を理解しようと頭を回転させる。

(……夢、なのか? いや、俺は……また―――『死んだ』のか?)

 ディアボロは、可能性の高いものとして一つの結論を導き出した。
 それは一見すると奇妙だが、ディアボロにとっては当たり前の考えといえた。
 この島に来る前、ディアボロは自分のいる場所や時間などが一切わからないような状態だった。
 なにしろ彼は様々な場所を巡り、死に続けているからだ。
 一見意味不明だが、それはジョルノ・ジョバーナのスタンドによって引き起こされた事象である。
 ディアボロは、彼によって《永遠に「真実」にたどり着くことができない》という状況に陥っているのだ。
 難しい能力だが、ディアボロは《死》という「真実」にたどり着けぬまま、死ぬという運命をたどり続けるということになっている。
 それは下手な死よりも辛い、不死のようなもの――精神が壊れる前にこのバトルロイヤルに呼ばれたことは、むしろ彼にとって幸運だとさえ言えるかも知れない。

(オレは、今度はいったいドコに飛ばされたんだ……?)

163復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:37:13 ID:B.ilgdx20

 ディアボロはすでに何度も死を経験してきているため、急な場面転換は死によるものだと直結して考えてしまう。
 そのためか、あの薄暗い船内とこの島の出来事が延長線上にあるとは思わず、ここは船内とは別の時空間だと思い込んでいる。
 今のディアボロにとって、最も恐ろしい物は不注意による事故だった。

 ディアボロは少しでも死の可能性から遠ざかる為に辺りを見渡す。
 目前に広がるのは広大な海、きつい潮の匂いがディアボロの鼻を刺激している。
 周囲には照明など見当たらず、満天の星空と丸い月だけが辺りを照らしていた。
 ――どうやら今度は砂浜に飛ばされたようだ、とディアボロは自分の状況を把握する。
 とりあえず海岸から遠ざかり、草原を目指すことにする。
 些細な事で死に至る今のディアボロには、海など死の塊以外には見えなかったからだ。
 突然倒壊する恐れのある小屋のようなものから遠ざかることも忘れずに、ディアボロは草原地帯にたどり着いた。

 いくらか気分が落ち着いたところで、ディアボロはようやく体の気持ち悪さに気づく。
 汗だくで倒れていたために全身に砂が付着しており、髪まで砂だらけになっている。
 ディアボロは背負っていた肩掛け型のデイバッグを漁ると、2Lのミネラルウォーターが入っているのを見つけ、惜しみなく使って頭と体の砂を流した。
 その際、ディアボロは飛ばされた先で持ち物を持っていたのは初めてだということに気づいた。
 果たしてこれは自分の持ち物なのか、他の誰かの持ち物なのか、確かめてみる必要がある。
 ミネラルウォーターの時は手探りで漁っただけだが、中身を引っ張り出してみるとその軽さに反して実に色々なものが入っている。
 水や食料だけでなく、ランタンやコンパスなどまるで山にでも入るのかと思うほどだ。
 ディアボロは明らかに自分のものではないが丁度良い、とランタンに火を灯して手を翳す。
 季節がわからないとはいえ、深夜の水浴びは流石に少し体が冷えた。
 船中の出来事とこの島を完全に切り離して考えているディアボロは、自分以外の人間がこの場に居ること―――まして殺し合いをしていることなど、考えてもいなかった。

◆   ◆   ◆

 体を乾かしながら、ディアボロは疑問を抱き始めた。
 今までは目を覚ました瞬間にすぐに死が訪れていたが、今回は長く生き延びられているし、周囲に死を感じさせる物も今のところ見当たらない。
 誂えたかのように準備のいい荷物を持っていたりと、今回だけやけに毛色が異なっている。

(まさか……ジョルノのゴールド・E・レクイエムの能力が消えたのか?)

 ゴールド・E・レクイエムに果たして有効範囲やジョルノの死による効果の消滅があるかは分からないが、開放されてこの島に流れ着いたと考えれば辻褄が合う。
 このバッグも漂流されている間に絡みついたのかもしれない、賞味期限など気にしている場合ではないが一応食料や水は口に入れないほうがいいだろう。
 まずはどうにかしてローマに戻らなくては、とディアボロが腰をあげようとした時―――背後から低い男の声が聞こえた。

164復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:38:25 ID:B.ilgdx20
「この少年についてなにか知っていることはないか?」

 ディアボロが背後からの声にビクッと驚きつつも振り返ると、そこには黒い革ジャンにサングラスの筋骨隆々な厳つい男が立っていた。
 その手には名簿を持っていて、ある一点を指差してディアボロに近づいて来る。
 レクイエムが消えたことは可能性として考えてはいるものの、勘違いで死んではたまらない、ディアボロは男に静止を呼びかけた。

「待て! それ以上近寄るんじゃあないッ! 聞きたいことがあるならその位置からにしろッ!」
「わかった。 俺は人を殺すつもりはない。
 ただ、“ジョン・コナー”という少年についての情報が欲しいだけだ」

 そう言って、男は名簿をランタンの光のもとへ投げ渡した。
 そこには“参加者名簿”と書かれていて、名前の数々が羅列されている。
 確かさっきの荷物にも入っていたな、とディアボロは思ったが、構わず男の投げた名簿を手に取る。
 すべて日本語で書かれているが、何故かディアボロは理解することができた。

「……これはなんの名簿だ?」
「このバトルロイヤルとやらの参加者の名簿だ、ノストラダムスという奴が言っていただろう」
「……ノストラダムスだと?」

 その時初めて、ディアボロの脳内で船とこの場所とが結びついた。
 “殺し合い”というワードやピエロ達の死で、すっかり自分もあの場で死んだつもりだったが、どうやら眠らされていただけのようだ。
 ならば、自分たちは『ノストラダムス』という新手のスタンド使いによって集められ、殺し合いを強要されている最中ということになる。
 ―――とすると、どうだろうか? あの船内から眠らされてここまで運ばれたなら、今までの傾向からいって2〜3回は死んでいなければおかしい。
 しかしディアボロはこうしてここにいるし、すぐに死にそうもない。

「ああ、奴はそう名乗っていた。 覚えていないのか?」
「……いや、今、思い出した」
「そうか、なら知っていることがあれば教えてくれ」
「ちなみに聞いておくが、なぜそいつを探しているんだ?」
「大切な存在だ。 守らなければならない」

 男の言葉を聞きながら、ディアボロは参加者名簿に目を落とす。
 『日本語』の五十音に従って並んでいる名前には、確かに男の言っていた“ジョン・コナー”という名前が書かれている。
 しかし、ディアボロはその名前よりも一つ上に書かれた文字に釘付けになった。

165復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:40:21 ID:B.ilgdx20
(―――――――ジョルノ・ジョバーナッ!!!)

 なぜコイツの名前がここにあるのか?
 認めたくはないが、ディアボロはゴールド・E・レクイエムの能力はかなり強力だと身を持って知っている。
 奴の能力に囚われてからは情報を得る機会など無く、その後の動向を知ることはできなかったが、あれから弱くなったということは考えられない。
 それならば、『ノストラダムス』という奴はジョルノのゴールド・E・レクイエムを超えるスタンドを持っている事になるのだろうか。
 もしかすると本当にゴールド・E・レクイエムの能力が消え去っているのかも知れないが、同時にジョルノを上回るスタンド使いにディアボロはほんの少しばかり恐怖を抱いた。
 名簿を見て動揺しているディアボロに、男は無表情のまま聞いてくる。

「――なにか思い出したか?」
「……いや、そいつについては何も知らん」
「そうか、邪魔をしたな」

 そういうと、男はニッカリと笑う。
 口角は上がっているが、目が笑っておらず不気味な笑みだ。
 男は、言葉と笑顔をディアボロが受け取ったことを確認し、そのまま赤い塔の見える方向へ去っていこうとする。
 その後ろ姿をみて、ディアボロに一つの考えを巡らせた。

「待て。 オレもおまえに聞きたいことがある」
「……なんだ」
「おまえも、スタンド使いか?」
「……電気スタンドのことなら俺は使わないが、ランタンが欲しいならやってもいいぞ」
「いや、必要ない……そうだな、最後におまえの名前を聞いておきたい」

 ディアボロには、今の言葉がハッタリの類には思えなかった。
 ジョルノ、自分とスタンド使いが集められているのだから、この男やジョン・コナーとやらもスタンド使いかと考えたが、この男は違ったようだ。
 ディアボロは、ジョルノの能力が消えた可能性がある今、この男でキング・クリムゾンの能力を試してみようと考えた。
 今はゴールド・E・レクイエムの能力によって、時間を消し去ったという「真実」にたどり着けなくなっている。
 もし、キング・クリムゾンが使えたならば、完全に開放されたといえるだろう。
 この男がスタンド使いなら、不用意にスタンド像(ビジョン)を晒すのは危険だったが、そうでないなら存分に試すことができる。
 ディアボロは男が油断した隙を狙い、奇襲をかける算段を企てる。

「名前か……名簿に載っている名前で言うなら、T-800というのが俺の名前だ」

 そう言いながら男が名簿に目を落とした瞬間――― 

「『キング・クリムゾン』!!」

 ディアボロはキング・クリムゾンを発動させた。
 そのままの勢いで、キング・クリムゾンはT-800の顔面を殴り飛ばす。
 妙に固く感じたが、久しぶり故に力が安定していないのだろうと当たりをつけた。
 衝撃でT-800の体は5mほど吹き飛ぶ、普通の人間ならもう生きてはいないだろう。
 だが、問題はここからである、ゴールド・E・レクイエムの能力の影響下であれば、ここから時間が逆行し何もなかったことになってしまうが――――

166復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:42:54 ID:B.ilgdx20

「時間が……逆行しないッ! フ、フハハハハハハハハハハッ!!
 ついに……ついに打ち勝ったぞッ! ゴールド・E・レクイエムにッ!」

 ディアボロの予想は当たり、キング・クリムゾンは時間を消し飛ばした。
 消し去ったのはたったの5秒ほどではあるが、これによって完全にディアボロの不安材料は無くなったのだ。
 ディアボロはこの時、真の復活を遂げたことを感じた。

「さて……T-800といったか、不思議な名だが……
 おまえの名は覚えておくぞ。 このディアボロの復活の生け贄としてな」

 そう言ってディアボロは、T-800の死体の元へ近づいていく。
 ディアボロは自身のキング・クリムゾンに絶対的な自身を持っていた。
 久しぶりとはいえ頭から上を吹き飛ばす程の威力で殴ったのだ、生きているはずもない。
 ―――そう、人間があの威力のパンチを食らって生きているはずがなかった。
 しかし今、ディアボロの腕にT-800を殴った時の違和感が蘇る。
 重く、硬い―――まるで金属を殴っているようで、結局頭は吹き飛ばずに奴は体ごと飛んでいった。
 もしや……と、ディアボロは最悪のケースを考えている。
 倒れているT-800の腕は、偶然なのか必然なのかデイバッグの中に入っている。
 ディアボロは細心の注意を払い、エピタフで予知してからT-800に近づく。
 なぜだかエピタフもキング・クリムゾン同様、5秒程度の未来しか見ることができない。

 5秒後の未来では、奴は動いていない。 予知を見ながら、ディアボロは近づいていく。
 T-800まで…………4m。

 ………3m。

 ……2m―――――!?

 その時、5秒先の未来で確かに、T-800が起き上がりデイバッグから出したボウガンをディアボロに向けて放っていた。

「な、なにッ! やはりコイツ……生きていたのかッ! 『キング・クリムゾン』ッ!!」

 迷わずディアボロは時を消し飛ばす。
 放たれたボウガンの矢を軽く避け、ディアボロはT-800に接近する。

「フンッ! 死んだフリなどと浅い知恵を働かせたようだが、このキング・クリムゾンの前にはカスの様なものよッ!」

 ディアボロはデイバッグの中から支給品の中にあったオレンジジュースを取り出し、T-800の顔面にぶち撒けた。

「これでおまえは再び時が刻み始めても目が曇って何も見えんッ!」

 キング・クリムゾンの時間跳躍が解ける。
 しかし、ディアボロはもう既にT-800の真横まで迫っていた。

「終わりだ、くらえッ!」

167復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:46:51 ID:B.ilgdx20

 スタンド使いでない相手にキング・クリムゾンのパンチは避けられまい。
 ディアボロは勝利を確信した、しかし―――――ガシィッ!!
 T-800の左手は迫り来るキング・クリムゾンの拳を受け止めていた。

「バ、バカなッ!? おまえ、なぜキング・クリムゾンをッ!」

 ディアボロは驚愕をあらわにする。
 T-800は時を飛ばしたというのに素早く対応し、目潰しを物ともせずにスタンドを掴んでみせた。
 スタンドが見えている事はあの発言がハッタリだったで済むことだが、生身でスタンドを掴むなどあり得ないことだ。
 その時、T-800の頭部の最初に殴った部分が捲れ、中身の銀色が少し見えた。

(コイツ……まさかコイツ自身が自立型のスタンドッ!?)

 ディアボロは実際に見たことは無いが、部下のうちのポルポという男が自立型のスタンドを持っているという話を聞いた覚えがあった。
 だが、T-800の首には自分と同じような首輪が見える。 スタンド事態が参加者などというのはありえるのだろうか?
 大方、コイツの言っていたジョン・コナーというやつがスタンドの主なのだろう。
 コイツがスタンドというなら先ほどの名前にも納得がいくが、同時にT-1000という名前も思い出しフクザツな気分になる。
 まさか同じ人間が2体スタンドを持っているのか? もしもT-800と似たようなスタンドなら見た目で判断できない分やっかいだ。

「貴様を敵だと判断した―――排除する」

 ――T-800は立ち上がり、そのままキング・クリムゾンの拳を万力の如き力で握り潰そうと試みる。
 それと同時に、右手で器用にボウガンの矢を装填し、キング・クリムゾンへ向けて発射する。
 今、キング・クリムゾンの右腕を拘束されているため、殴り飛ばす様な大きな動作ができない。
 ディアボロは、キング・クリムゾンの左腕を射線上に出してガードする。

「―――ぐぅ! な、何ィッ!?」

 ボウガンの矢は、キング・クリムゾンの腕に弾かれずに突き刺さった。
 ディアボロは自分の目を疑った、ボウガンは支給品だということは確認したはずである。
 ジョルノのようにスタンドで創りだしたものでも無く、本来ならキング・クリムゾンを傷つけることなどできるわけもない代物だ。 
 しかし、実際はキング・クリムゾンの左腕には矢が深々と突き刺さっており、自分の腕にも激痛が走っている。

(スタンドに物理攻撃が効いてるッ!!?)

 T-800はディアボロではなく、キング・クリムゾンを優先的に狙っていた。
 キング・クリムゾンの時間飛ばしを認識ミスだと判断していた為である。
 おそらくディアボロの支給品のロボットか何かだと当たりをつけ、電磁波か何かで認識を狂わせているものだと考えている。
 実際はピンポイントでT-800だけに効果がありそうな機能などありえないのだが、時間を消し飛ばすなどT-800からは考えられない超常能力だ。
 確かに5秒ほどの間認識ができず、時間が飛んだかのような違和感を覚えたがメモリにはきちんと映像記録が残っている。
 映像の中でT-800は直前のプログラムに則って動き、状況の変化を認識できていなかった。
 それ故にT-800は認識阻害だと判断したのだ。
 意識が戻った時、即座にセンサーが左側のディアボロを感知していなかったら、T-800はパンチに気づくことはできなかっただろう。
 一々映像記録を確認して何が起こっていたのか確認していては、対応が追いつかない。
 ならば、脅威はディアボロではなくキング・クリムゾンの方だという結論に至った。

168復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:52:45 ID:B.ilgdx20
「――ぬぐぅ!ぐ、ぐあああああああああああ」

 T-800はそのままキング・クリムゾンの拳を潰し、右手のボウガンを捨ててキング・クリムゾンの右腕を叩き折った。
 キング・クリムゾンが傷つくたびにうめき声を上げるディアボロ。
 ディアボロの右腕は折れ曲がっており、手からも血が流れていた。

「このッ……タンカスがァッ! よくも、やってくれたなッ!!
 このディアボロの腕をッ!――もう容赦せんぞッ!!

 ―――――『キング・クリムゾン』ッ!!! 」

 キング・クリムゾンの能力が発動し、時は再びディアボロの支配下に入った。
 もうディアボロに油断はない。
 T-800の左腕を殴り、右手を開放させる。

「人間に化けるだけのカス能力がッ!
 我がキング・クリムゾンを倒そうなどという幻想を見たことを後悔するがいいッ!」

 キング・クリムゾンの左拳がT-800の腹に突き刺さる。
 貫通した拳に、機械じみた配線のコードが大量に絡みついている。

「最もおまえには後悔する時間など与えんがなァッ!
 おまえは自分が死んだことにすら気づかずに死んでいくのだッ!」

 ディアボロは左腕を突き刺したまま、壊れた右拳で痛みに構わずT-800の顔面を殴り付ける。
 T-800の顔の皮が剥がれ、ロボットのようなメタリックな内側が剥き出しになる。

「それがおまえの本来の姿かッ! 
 とどめだッ! そのまま死ねェーーーーーーーッ!!!」

 最後にディアボロはT-800の心臓部に貫手のように左手を突き刺した。
 ―――そして、時は再び刻み始める。

「ハァーー……ハァー、ハァー……」

 ディアボロは用心を重ねて距離をとったが、T-800はさすがに起きる気配はない。
 怪しく赤い光を灯していた瞳にも、もう光は無くなっていた。

「復活の、祝杯にしては、高くついたが……
 頂点に立つのは我がキング・クリムゾン……このディアボロだッ!」

 首輪やデイバッグの回収も忘れて、ディアボロはその場を立ち去る。
 このまま海沿いに南西の方角へ行けば、診療所があるはずだ。
 一刻も早く治療し、体を休めなければならない。

「クソッ! 忌々しい自立型スタンドめ!
 ジョルノを始末した後は、ジョン・コナーとT-1000とやらも必ずブチのめしてやるッ!」

169復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:55:07 ID:B.ilgdx20

 ディアボロは憎悪を滾らせ、診療所への道を急ぐ。
 ―――――だが、ディアボロは気づいていなかった。
 
 T-800がスタンドではなく、サイボーグであるということに。
 T-800がスタンドであれば、死んだ瞬間には消えていなければおかしいということに。

 ディアボロは知らなかった。
 T-800は腹と心臓をブチ抜いただけでは死なないということを。
 T-800が、かつて下半身が千切れた状態でサラ・コナーを追い詰めた存在であることを。

 そして、今の攻防によってプログラムに異常をきたしたT-800がサラ・コナーを殺すために1984年にやってきた、あの化物に戻りかけている事を。
 ディアボロは――――まだ、知らない。



【C-5 草原・1日目 深夜】

【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、右拳・右腕骨折、左腕に矢傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ミネラルウォーター1本消費)、不明支給品0〜2、オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン
[思考]
基本行動方針:ジョルノ・ジョバーナ、ノストラダムスのような強いスタンド使いを倒し、真の帝王として絶頂であり続ける。
     1:早く移動して腕を治療しなければ……ッ!
     2:ジョルノ・ジョバーナを始末する。
     3:ジョン・コナー、T-1000も始末する。
     4:傷が癒えるまでは、他の参加者と手を組むのもアリか……?
[備考]
※キング・クリムゾンによる時間跳躍及びエピタフによる未来視は5秒程度に制限されています。
※このバトルロイヤルにいるものは全てスタンド使いだと思い込んでいます。
※ポルナレフのシルバー・チャリオッツ・レクイエムによって死亡したため、ドッピオにはなれません。

【T-800@ターミネーター2】
[状態]:一時機能停止、腹部・左胸部が大破、顔の皮が無い、プログラムに異常
[装備]:ボウガンの矢×4
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2、ボウガン@ケイゾク
[思考]
基本行動方針:ジョン・コナーを守る→人類、ならびに指導者のジョン・コナーを排除する。
     1:……………。
[備考]
※参戦時期は少なくともジョンとハイタッチの遊びをした後です。
※過度なダメージとジハンキジゲンのオレンジジュースによって深層に眠っていたプログラムが蘇ろうとしています。
※再び起動するまで時間がかかります。 起動前にチップを抜き差ししなければプログラムの目的が人類の殲滅に変わります。
※ボウガンはT-800の脇に転がっています。

【支給品説明】

【オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン】
ジハンキジゲンのオレンジジュース。 飲むと心の奥底に隠れていた感情や性格が出てきてしまう。
人外にも有効。 通常はランダムに切り替わり、一定時間経つと解除される。
※T-800には内部へ浸透したことや頭部へのダメージによって効果が変化しています。

【ボウガン@ケイゾク】
真山徹のボウガン、矢は全部で6本支給。

170 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:56:10 ID:B.ilgdx20
投下終了です。

171名無しさん:2015/11/03(火) 03:27:44 ID:eQOuJDds0
投下お疲れ様です。
スタンド使いとターミネーターは惹かれ合う…?
というくらいにスタンド使いとターミネーターとのバトルが多い今ロワですが、頼もしい仲間のはずのT-800に物凄く不穏な展開の匂いが…
ディアボロは戸愚呂兄と同じループからの救済参戦
まさか自分の肉体持ってる奴がいるとは思わんだろうに…
もしブチャラティと会ったら、自分の肉体を傷つけるのか、少しはためらうのか…

172 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:20:40 ID:XkQeIA9c0
投下します。

173これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:21:29 ID:XkQeIA9c0



「はぁ……はぁ……」

 微かな潮の香りは、埃塗れの冷たい空気が鼻孔へと運んでいった。それを少しずつ摘まむように吸い込みながら、荒ぶる息を必死に押し殺す者がいる。
 空の蒼茫を塗したような青いチャイナドレスを纏った、齢二十に届くか届かないかの美女である。女性としてはやや高い身長とスタイルは、整った容姿と合わせて、さながらモデルのようであったが、彼女が選んだ道は、その美貌を売る道ではなく、その格闘の才能を発揮する道であった。

 この美女──春麗は、インターポールの捜査官なのである。
 中国拳法を極め、その実力は並み居る屈強な男性職員が、手加減抜きで挑んでも誰も敵わぬほどだった。一目見ただけならば華奢にも見えるが、脚部──特に大腿部──を見る機会があれば、いかに彼女が鍛え上げられた肉体をしているのかは判然とするだろう。
 彼女は、足技の達人であった。長い足から放たれるキックは猛獣すらも昏倒させるほどだ。腕も華奢には見えるが、これもやはり体重を軽々支えるほどの筋組織が、細い腕の中に綺麗に収まっているというだけだった。

 しかし、そんな彼女も、今回は普段と違って、能動的に事件に首を突っ込むわけでもなく、事件の方に招かれてしまった為、些か状況判断が遅れたらしい。
 いきなり、変な仮面の娘の襲撃に遭い、こうして倉庫群の間をすり抜け、無様にも逃げ回った結果、その中の一つに姿を隠したわけである。
 生半可な不意打ちならば返り討ちにも出来たはずが、相手も相当の格闘の達人であったらしく、おまけに春麗のよく知った武器を装備していた。
 それから先は、何の面白味もない防戦一方という状態で、何とか逃げおおせたものの、袖ごと破れた左腕の外皮からは、既に鮮血が流れ落ちている。春麗は、そんな左手を抑え、流血が床に痕跡を残すのを避けながら、一時休息している訳だった。

「はぁ……はぁ……」

 彼女自身、わけもわからぬまま飛び込んだこの倉庫群の一角。
 大麻のシンジゲートを追っていた春麗にとっては、こんな港を張りこむ時間は警察署の机に向かう時間よりも長い程お馴染みの場所だ。
 大凡、どの辺りにどういった物資が並べられているのかは察しが付く。
 ここに逃げ込めば、後は視界に入る物を巧みに利用して、追跡者の攻撃を撒く事も出来るかもしれない。
 ……尤も、背中に襲撃者の視線を残したままここへ逃げ込んだわけではないし、春麗も一時の休息を得る為にここへ入りこんだに過ぎない。
 左の二の腕あたりを見下ろすが、怪我はさほど深手でもない。これまでの戦いでも負うのも珍しくないような傷口である。しかしながら、敵の実力を見るに、今の状態では春麗の分が悪いと見えた。

「……はぁ……はあ……」

 そっと、音を殺すようにゆっくりとデイパックのファスナーに手をかけ、中の物を取りだしていく。必要なのは、灯や地図や名簿などではない。
 目当ての物──ペットボトルを掴み取ると、キャップを回す。そこからは、少し乱雑に左腕にさらさらと中の水を塗した。消毒薬も包帯もないが、血液を垂らしたままというのも気が引けたのだろう。

(何もないよりは……ちょっとマシよね)

 止血できるような物を探した所、出て来たのは女性用のパンティストッキングである。こんな物を一つの武器として支給した意図は春麗にも理解しかねたが、とにかく、今は止血という用途において、意外にも活躍しうる状況になっている。
 春麗は、それを少し引きちぎり、左腕に巻いて、口で端を加えながら結んだ。少々恥ずかしい気持ちになったが、案外、それを腕に巻いた外見は大きな違和感もなく、怪我を止血する布として、却って本来の用途が判然とし難くなっていた。
 それから、春麗はこのパンティストッキング以外に何らかの装備が無いかとデイパックを探る。
 そう……敵は既に、武器を装備していたのである。

(あのマスク……確か、シャドルーの幹部──バルログが身に着けていた物と同じだわ。
 もしかして、あんなのが流行ってるのかしら? それとも……)

 彼女を襲撃した人物は、春麗同様に中華民族衣装を纏った娘のようだったが、その相貌は両目の位置だけを細く繰り抜いたその白面に隠されていた。そして、右腕に装着されたサーベルタイガーのような鉤爪。──あれは、憎き犯罪組織シャドルーの幹部・バルログが愛用している物と全く同じであった。

174これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:00 ID:XkQeIA9c0
 故に、パンストの下に隠れた春麗の左腕の傷口も、三本の縦線型のひっかき傷だった。
 あれを早速もって見事使いこなし、春麗を翻弄したのだから、あの襲撃者は、武具の使用に慣れているか、あるいは余程順応性が高い人間であると言えよう。
 春麗は、考えながらも自分のデイパックから、武器を取り出した。

(……こんな状況だもの。こっちも得意なモノで対抗させてもらわないとね)

 春麗の手で、カチャリと音が鳴る。
 先ほどは一時撤退させて貰ったが、捜査官としての誇りと正義感は、あの手の危険人物を野放しにして、自分だけ平然と逃げのびるのを許してはくれなかった。
 格闘で真っ向から勝負させて貰えるシチュエーションではない今、一介の捜査官として、使用できる武器は懐に入れさせてもらう事にしよう。
 射撃が得意な春麗も、支給された、このオートマチック式拳銃“グロック17”を上手く扱えるかは微妙であるし──相手によってはリュウたちのように易々と弾丸を避けてしまうかもしれないが、ひとまずそこに弾薬を込める音を聞くとともに、彼女の中には覚悟の意思が溢れたのだった。
 まさに──この倉庫群の光景など、シャドルーを追いかける仕事をしている時の自分ではないか。
 鋭利な武器を持った敵と、少し対等な状況になった気がした。

「よしっ……」

 軽く自分の気持ちを奮い立たせるように言った。
 それから、大量に積み重ねられた麻袋の影を、春麗は屈む事さえなく進んだ。
 敵もまだ倉庫内への侵入は果たしていないであろう今、本来ならば警戒する必要があるはずなのだが、麻袋は所によっては春麗の身長くらいまで高く積まれており、そこまでする必要はないように思った。
 とはいえ、まだあの仮面の娘が付近にいた場合、先に姿を見せるわけにはいかないが……。
 ──などと、考えていた時である。

 この薄暗い倉庫の入り口を、ランタンの小さな灯が倉庫の一角を照らす。無警戒に歩を進める足音がコツコツと響く。
 春麗の目の前では、壁に大きな影が映ったり、映らなかったりしていて、相手のランタンを右へ左へ動かし、何かを探そうとしている仕草を容易に想像させている。

 ──来た!

 仮面の娘は、倉庫の中を順に探索していたのだろう。
 春麗を追う影は思った以上にしつこく春麗を捜索していたらしい。付近に人影がなかった為、一度見つけた獲物を逃がさぬよう心掛けたに違いない。本格的に勝ち残りを目指す場合、敵を泳がす訳にはいかないようだ。
 しかし、春麗の準備は既に万端である。
 最後に、タイミングを見計らって再び麻袋の陰から少しだけ顔を覗かせ、その人物の姿を目に焼き付けた。──そこにあるのは、間違いなく、先ほど春麗を襲った仮面の娘だ。右腕は三本の刃を尖らせ、切っ先には微かな血の痕がまだ残っている。
 恨みは充分。理由も充分。

 そして、先に姿を見せた方が──今は、不利!

「はぁぁぁぁっ!!」

 春麗は、高く声を上げながら飛び上がると、麻袋の真上に右手を置き、跳び箱の上を撥ねるように、両脚でその上を飛び越えた。
 恐るべきはその軟体で、足は綺麗に一本の横線を作るように開いている。いわば真横に果てなく広がった跳び箱の上を飛び上がるような物だ、それくらいの芸当が出来ずしてここから不意打ちを浴びせる事は出来まい。
 力がなかったのなら、とうに逃走の道を選んでいる。

「!?」

 完全に不意を突かれたらしく、仮面の娘が少し遅れて春麗を見上げ、愕然としている。
 仮面の下が美人かどうかはわからないが──その下の目玉を広げた表情を想像して、春麗は勝気に微笑んだ。
 そして、次の瞬間、着地よりも早く、目の前の仮面のど真ん中に、左足を叩きこんだ!

「ぐぅっ……!」

 仮面の真下からの呻くような声が、春麗に手ごたえを与えた。
 それから、春麗は自分の耳に着地音が鳴ると同時──仮面に叩きつけた左足を軸に速度をつけて背中から回転する。
 右足を高く上げ、その踵が仮面の娘の右腕に激しく叩きこまれた。

175これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:24 ID:XkQeIA9c0

 ──回し蹴り!

 相手の弱点を二か所、ぶつけたような物だった。
 最初に、顔面。あの白面がいかほどの防御能力を持っているのかはわからないが、ああして密着しているという事は、そこに攻撃を受ければ、当然ながら、盾ごと押しつぶされるような痛手を追う事だろう。
 相手が娘であるのはわかっているので、同じ女として心苦しいところだが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。
 次が、攻撃の拠点である右腕。あの鉤爪攻撃を予め封じておく事が出来る一撃。上手くすれば、一撃で骨が砕けるようなキックであるが、そんな手ごたえはなかった。余程頑丈な身体をしていると見える。
 しかし──確かに効果的だった。
 ここからは、攻撃の隙も与えず、更に攻めるのみだ。

「えいッ!」

 よろけている敵に、まるで床を滑らすようにして左足の蹴りを叩きこみ、確実にバランスを崩す。──相手は春麗の奇襲と猛攻に、かなり怯んでいるようであった。
 あまりに一方的にやりすぎて、少しは手加減もしてやろうかと思った矢先、敵は渾身の力で右腕を動かし、その研ぎ澄まされた三本の刃を春麗に向け構えた。
 それが、春麗に思い浮かんだ躊躇を完全に殺した。

「イヤァーーッ!」

 春麗は、そう叫んで、アクロバティックに身体を回転させながら、仮面娘の頭上を飛び上がる。人間の身長を優に超える高さを軽々飛び越える、人間離れした身軽さ──。
 弱った仮面娘の揺れ動く視界が、それに気付けるはずもなかった。
 これで敵に充分すぎるほどの隙が出来たわけだが、あまり激しく痛めつけまくるという程でもない。
 ──しかし、少なくとも、地面には伏してもらう。

「百裂脚!」

 そのまま、敵の真後ろに立った春麗は、片足だけを軸に立ち、恐るべきスピードとバランスで、何発もの蹴りを敵の背中に放った。
 幾つもの脚が、見る者の瞳の中に残像として焼きつけられるほどである。
 ダダダダダダダダダダダダダ……!
 仮面娘の背を、尻を、髪を、何度も叩きつけるキックの連打。
 一瞬で、百に届きかねないほどの蹴りを放つ事もできるが、春麗自身の疲労も大きく、あまり無理に百回の蹴りを叩きこむ必要もなかった。
 その四分の一でも過剰なほどであったが、多少過剰なくらいでなければ犯罪者を捕縛する事は出来ない。──そして、そのボーダーラインが、見事に敵の限界だったようである。

「ぐぁ……っ!」

 仮面娘も、後方からの連撃に耐えられず、あっけなく沈んだ。──春麗の脚が止まる。
 倉庫の床にマスク越しに叩きつけられるように倒れた仮面娘の右腕第二関節を、春麗の右脚が踏みつける。体重は強くはかけなかったが、それでも充分に右腕の自由を奪える力加減であった。
 スチャ、と音を立て、春麗が懐から銃を取り出し、仮面娘の背中に銃口が向けられた。手際は見事である。

「ふぅ、一件落着──『やったぁ!』って、両手を上げて喜びたいところだけど」

 この娘の殺意を春麗は感じ取った。故に、ここまでの行為に容赦はない。
 ──だが、これ以上は、あくまで職務を逸脱しない尋問である。

「くっ……」

 不覚を取り、奇襲とはいえ敗北を喫した仮面娘は、悔しそうな声をあげている。
 じたばたと抵抗を続け、右腕が未だ必死に動かされようとしているのを、春麗の右脚はブーツ越しに感じ取れた。
 どうやら、この娘の殺意は簡単には拭い去れない物らしい。
 一応、事情を訊こう。

「インターポールの春麗刑事です。公務執行妨害及び傷害の現行犯で簡単に事情聴取をしておきたいところですが──その前に、まず、その仮面を取ってもらおうかしら?」

 形式的な敬語の挨拶を即座に取りやめ、少々横柄に仮面娘に尋問する春麗だった。
 仮面を身に着けた相手というのは何ともやりにくい物で、会話ともなると透明な壁と戦わされているような気分だった。
 その前に、まずは仮面を取らせようとする。

176これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:51 ID:XkQeIA9c0
 春麗自ら仮面に手をかけるより、彼女の空いた左腕に頼った。右腕の自由が奪われ、床に伏し、銃を背中に突きつけられている手前、普通の犯罪者ならばここで指示に従わない事はほぼありえない。
 ──が。
 彼女は、その“ほぼ”の例外に属する人間だった。

「春麗、か……。覚えたある。……ならば、春麗! 私を甘く見るな……!」

 そう啖呵を切ったかに思われた次の瞬間──仮面の娘は、拘束されていない左腕を胸の下に潜ませ、そのまま、左腕を思い切り伸ばした。床を蹴とばして飛ぶように、彼女は、左腕だけで、身体を飛ばしたのである。
 そして、彼女の右腕もまた、身体に釣られるようにして少し持ちあがった。──いや、春麗の身体ごと、持ち上げたのだ。力なき右腕ならば、当然ながら持ちあがる事もなく、左半身だけが寝返りを打つように天井を向くだけである。

「えっ!?」

 ──伸びきった仮面娘の右腕は、まるで、胴体と繋がった鉄骨のようだった。
 勿論、春麗は、それが宙に浮くとともに、そのままバランスを崩した。
 仮面の娘は、春麗の拘束を逃れて、宙に飛んだかと思いきや、そのまま後方に回転して見事、着地せしめたのである。

「──!」

 嘘でしょ、という春麗の心の声は、声にならない。
 愕然としたまま、少女に向き合う。

 少女の背中に突きつけていた拳銃の引き金を引く事は、結果的にはなかった。
 もしその引き金を引いてしまえば、春麗はこの少女を“殺害”する事になってしまうのが明らかだったからだ。──致命傷となりうる場所に銃を向けたのは、“威嚇”の為であって、“殺害”の為ではない。
 この少女は、おそらく、その躊躇を読んでいたわけではないが、おそらく、春麗が発砲するリスクも読んだ上で、拘束を逃れようとしたのだろう。

(半端な実力じゃない……!)

 やがて……構える春麗の前で、少女はその白いマスクを取った。
 春麗の要望に応えたわけではないのは、状況を見て明らかだ。もはや彼女の言う事を聞く必要は、拘束を逃れたこの少女にも皆無だ。
 それを取り去ったのは、彼女自身の都合による物である。

「……!」

 春麗も、その姿には驚きを隠せなかった。
 真っ直ぐに春麗を睨むその大きく円らな瞳も、仮面に隠されていた顔の輪郭も、幼い少女のようでありながら、大人びたようにも見えてしまう、不思議な色気のある美少女であったからだ。
 よもや、こんな少女の顔面に蹴りを叩きこんだのか、と春麗も思う。
 しかし、その瞳は憎悪に満ち、春麗への殺気立った思いを隠さなかった。

「ちょっと……あなた……」

 思わず見とれた春麗は、こちらへ向かってずけずけと速足で歩いて来る彼女を前に構えたが、それに対して、全く構う事なく、彼女は歩み寄ってくる。
 しかして、攻撃の気配がなく、それが春麗の反撃を躊躇させた。何かが彼女にストッパーをかけているような気がした。
 仮面をつけた時以上に、彼女の雰囲気は不気味に映った。

 そして──その仮面の少女は、春麗の眼前すれすれに立つと、思いもよらぬ行動に出た。

「──!?」

 春麗の顎に左手をそっとかけると、そのまま、春麗の頬に唇をつけたのである。
 所謂、キスだった。
 女同士である故、彼女が突然にそんな行為に出た理由は春麗にもまるでわからない。しかし、唇と唇で行うのではなく、頬に向けてそっと行うのは、何か挨拶や儀式のような“意味”を感じさせた。

「……」

 彼女は戦いを通して同性の春麗に惚れこんだわけではないらしい。──宣戦布告、と捉えるのが普通だろう。

177これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:12 ID:XkQeIA9c0
 柔らかい感触を頬で味わい、まだ少し濡れた左の頬をゆっくりと拭った春麗は、“接吻”を終えた少女の、凛然とした瞳を見つめた。やはり、思った通りの意味であるらしい。
 そして、その気になれば本当のキスが出来てしまうほどのこの距離──何かとてつもない恐怖を覚えた。

「お前も覚えておくね、私の名はシャンプー」

 中国娘は、自らの名前を名乗る。
 ぶっきら棒で、不良めいた言い回し。黙っていれば大人しく無邪気な少女に見えるだろうが、闘争の場に相対した時、彼女の存在は悪魔にさえ見える。
 そして、彼女は即座に、再び三本の刃をぎらつかせた。仮面を外させる事に対して、この鉤爪を奪うのは格段に難易度が上がる。故に、まだシャンプーの右手は刃に覆われたままだった。
 ──殺気。
 春麗は後ろに飛ぶ。

「春麗……おまえ、殺す!」

 シャンプーの声が響くのと、鉤爪が春麗のチャイナ服の胸の下を横一文字に裂くのは、ほぼ同時だった。──今度は、肉体へのダメージはないが、少々嫌な所を破られたらしい。
 胸と腹とを繋ぐ空洞の“段差”のあたりに穴が開く。
 春麗は、もう何歩か後ろに飛び、先ほどより固く構えた。

「──フゥッ! ……あなた、やっぱり勝ち残りを望んでいるみたいね」
「……お前は違うあるか!」
「ただの格闘大会なら喜んでそうさせてもらうわ……でも、生憎、人の命を奪う趣味はないのっ!」

 春麗は、グロックを構え、シャンプーの脚を狙って引き金を引く。まずは無力化を狙った。春麗はこれでも捜査官の中で指折りの射撃の名手である。格闘戦だけでなく、警察官としてのあらゆる能力において、男性にも引けを取らない名刑事だ。
 胴のように、ずぶの素人でも命中させられるわかりやすい的を狙う必要はなかった。
 たんっ! と、銃声が鳴る。──しかし、シャンプーは、それが命中するよりも早く、右方に回避し、速度を増して春麗に肉薄した。

「アイヤァッ!」

 春麗の胸があった場所に向けて鉤爪の切っ先を向けながら、シャンプーは駆けだす。
 だが、それよりも早く、春麗は足を地面の上に置くのをやめ、飛び上がった。──シャンプーは、空中で膝を曲げる春麗の真下を駆け抜けていく。

 猪突猛進に春麗を狙ったシャンプーの一撃は、そのまま、春麗の背にあった麻袋へと突き刺さった。腹立たしそうにそれを思い切り引き抜くと、麻袋には相当大きな穴が開いたらしく、真っ白な粉が大量に零れて落ちる。
 どうやら、春麗の背にあったのは、小麦粉の山だったらしい。

「──……理由は何かしら? それだけ実力を磨きながら、こんな戦いに乗る理由は……!」
「教える必要はないあるっ!」

 再度、シャンプーの背後にいた春麗に向けて、鉤爪は空を掻く。
 春麗に接近し、一振り、二振り、鋭い刃たちが空ぶった。
 シャンプーの攻撃の角度やタイミングを読み始めていた春麗が、軽いフットワークで回避に徹したのだ。
 対して、春麗にはまだ幾つか使用していない切り札もあった。

「教えてくれなきゃ、困るのはあなたの方だけどねっ!」

 言いながら、春麗は二つの掌を床につき、倒立をするように自分の体重を持ち上げた。しかし、倒立と決定的に違うのは、両脚を開いている事である。
 そして、その手を放し、そこから繰り出されるのは、腕を床の上で回し──全身を駒のように回しながら、回転蹴りを何度も敵に叩きつける荒業。

「スピニングバードキック!」

 なんとこの技、本来なら手を一度地に着かなくてもやってみせるというのだ。
 何発もの蹴りがシャンプーの頬に命中する。春麗の脚線を見れば、まるで丸太の直撃を受けるほどのダメージを受けるのではないかという心配をする者も現れるだろう。
 シャンプーが動機を秘匿する限り、春麗も“理由なき殺人者”として、シャンプーを冷酷に追撃しなければならない。──同時に、説得も不可能になってしまうと来ている物だから、シャンプーにとってはデメリットの方が大きい。
 こんな荒業をぶつけるにも躊躇がなくなる、というわけである。

178これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:34 ID:XkQeIA9c0
 シャンプーの身体は、その攻撃の勢いのあまり、地面を離れ、勢いよく車にでもはねられたかのように、麻袋の山に向けて叩きつけられた。

「くっ」

 吹き飛び、晴れた右の頬を左の手の甲で拭いながら、まだ戦意を喪失しないシャンプーであった。──どうやら、負けられない理由でもあるようにさえ見える。
 だが、たとえ理由がどうであれ、人を襲うスタンスである限り──そして、自らに敵対する限り、春麗はシャンプーと戦い続けなければならない。
 シャンプーは、ずきずきと痛みの残る右の頬をしきりに拭った。

「……今のは、さっきのキスのお返しよ!」
「“死の接吻”の事あるか」
「死の接吻……?」

 どうやら、先ほどの接吻にしても、何か物騒な意味があるらしい。
 そう、やはり儀礼的な何かであるようであった。──「死」という意味の。

「私たち女傑族の村の掟──もし、よそ者の女に負けたら、その相手、地獄の果てまで追いかけて殺すべし! 死の接吻はその証かし!
 中国の村の掟、絶対ね! 中国人のお前にもわかるはずある!」
「全然わかんないわよ! あなた、どこの田舎者!?」

 中国の悪い噂がまた広まってしまいそうだと思った春麗は、少し頭を抱えつつも、シャンプーの殺意は偽物ではないのを実感する。
 根本的に彼女が殺し合いに乗った理由はわからず終いであるが、いまどき殺戮の掟がある部族である以上、下手をすれば、この殺し合いに乗る事もまた宗教的な理由や儀礼的な理由による物である可能性は否めない。
 となると、真正面からの対話は不可能と見ていい。現代社会の法律を逸脱する常識が刷り込まれている以上、説得にはかなりの時間を要する事になってしまう。
 ここは、春麗も体力を消費するよりは、──手早く、自由を奪うのが良いと決定した。

「──」

 春麗は、グロックを構え、狙いを定める。
 敵は銃撃を恐れていない。──しかし、銃口の向きで回避を企てている。
 と、なると。
 ──命中率は僅か。
 だが、それでも。
 いや、だからこそ──。
 ここで決める!

 たんっ! ──と。

「──!」

 銃声が轟き、弾丸は目の前の物体を抉るように突き進んだ。──視認できないほどに素早く、それは、春麗の手の中の物体から離れて行く。

 だが……シャンプーには当たっていない。

 それどころか、シャンプーは、回避という手段さえ取らなかった。
 春麗は、全く的外れな所に弾丸を命中させたらしく、彼女が避ける必要は皆無だったのだ。それは、銃口を見ても明らかだった。
 シャンプーの脚と脚の間をすり抜けるようにして進行した弾丸は、シャンプーの真後ろにあった麻袋の山に命中した。
 何段目の麻袋かはわからないが──いや。
 しかし。
 それこそが、春麗の狙いだったのだ。

「……どうした、外したね。──撃たないならば、こっちからいくある!」
「どうぞ──」

 さらさらさらさら……。
 小麦粉が、床に零れていく。まるで砂時計が時を刻むように。
 焼けこげた小さな穴は膨れていき、下から三段目の麻袋は、形を歪ませて萎んでいった。
 四段目の麻袋が傾く。
 五段目の麻袋はそれにつられて傾いて行く。
 六段目も、七段目も……もっと大きく──。
 中身がさらさらと落ちていくのを見つめながら、春麗はニヤリと笑った。

「──ご勝手に!」

179これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:07 ID:XkQeIA9c0

 一歩を踏み出そうとしたシャンプーの背後で、大きな影が崩れだした。
 それは、積み上げられていた小麦粉の麻袋の山であった。
 
 下の麻袋が形を変え、穴の開いた方から崩れていった時──その上に積み重ねられていた麻袋はどうなるか。
 自らを支えていた麻袋がそれまで保っていたバランスを崩した時、真上にいっぱいに小麦粉を詰め込んだ麻袋の山は、当然ながら──小麦粉の量が減ってしまった方に傾く。
 そして、それが春麗の身の丈ほどまでに積まれていたのならば、元々のバランスも決して良い物ではない。
 ──結果。

「なっ……!?」

 シャンプーが一歩を踏み出しながら、奇妙な崩落音に気づいた時には遅い。
 それは、振り向いたシャンプーの視界を覆い、そのまま彼女の上に重たい豪雨として降りかかった。──一つあたり何キロというほど、ぱんぱんに膨らんだ袋だ。並の人間ならば首の骨を折ってもおかしくない。
 一斉にそれが全身に叩きつけられ、シャンプーは悲鳴をあげる事もなく、地面に倒れ込んだ。中には、今の衝撃で破れた袋もあったので、下敷きになったシャンプーは小麦粉まみれである。
 粉塵となった小麦粉はその一角にだけ真っ白な霧を作る。

「やったぁ!」

 春麗は、今度こそ両手を挙げて大喜びをした。
 見事──シャンプーをノックアウトできたようである。
 まあ、たとえ勝利せしめたにしても、警察組織のバックアップがないので、小麦粉まみれで伸びたシャンプーをどうするかという所まではいかないが、ひとまず無力化したわけだ。
 手錠もない現状、ひとまずは武器を奪い、例のパンストを両手にでも巻いて拘束するくらいしか出来ないが──それは絵面的にどうかと思い、春麗も内心では躊躇を禁じ得ない。
 が、それくらいしか拘束方法はない。
 仮にも危険人物であるシャンプーを前に、あまり迂闊な行動はとれないだろう。

「えっ……!」

 と、大量の麻袋の下敷きになった、小麦粉まみれのシャンプーに近寄った時である。
 鉤爪を装備したシャンプーの右手が、微かに動いた。
 ──ぴくり、と。
 そして、彼女の瞳は、──はっ、と、突然に開いた。

「──ッ!」

 まるで何かに揺り起こされたかのように、彼女は、力強く起き上がった。
 全身を結構な重量で打ち付けられ、挙句に真っ白の粉塗れになったシャンプーは、苦渋に満ちた表情で、肩を大きく上下させた。
 しかし、春麗としては、それだけでもまるでゾンビを目の当りにしたかのような憮然とした表情で見つめるしかできなかった。

「嘘……あなた、まだ戦えるの!?」
「忘れたあるか……。──私に勝った“よそ者の女”、地獄の果てまで追いかけて、殺す!」
「そんなくだらない掟の為に……なんて執念なの……!?」

 優位な春麗でさえ、そんな彼女には悪寒がした。
 ストリートファイターならば、かなり敬意を表せる相手であると思う。
 並々ならぬタフネスと執念。それは、既に彼女を人間の実力を越えた格闘者に育て上げていた。
 だが、彼女は、格闘の力を使い、“戦う”のではなく、たとえ誰であっても“殺す”道を選択した。──ならば、春麗も、捜査官としての顔を見せなければならない。
 おそらく、春麗よりも年は下だが──本気を出させてもらう。

「──」

 ここでは狭い。
 春麗は、ちらりと自らの後ろを見ると、急いで倉庫の外へと駆け出す。
 ──シャンプーは、よろよろと身体を揺らしながらも、春麗を追うように倉庫の外へと出た。それはさながら、亡霊であるかのようだった。
 冷えた潮風の香りは、より一層きつくなる。
 まるで世界そのものが広くなったかのような、暗い港。

「はぁ……はぁ……──でやぁぁぁぁっ!!」

180これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:29 ID:XkQeIA9c0

 早速だ。
 シャンプーは、春麗を仕留めようと、鉤爪の切っ先を向けたまま駆けだしてきた。前と同じく、猪突猛進に──。
 春麗はそれを回避するが、タイミングは些かずれ込んだ。シャンプーの攻撃が、疲労によって大きく鈍っているせいで、却ってタイミングが崩れてしまったのだ。それくらいの事も読めなかったのは不覚であったかもしれない。
 次の瞬間、彼女が我武者羅に決めた、突き上げるようなアッパーは、春麗の胸部を盾に引っ掻いた。──春麗の衣服は、胸の部分だけ、T字を逆さにしたようにめくれ上がり、真っ白な両乳房を露わにする。

「──あっ!」

 ……いや、シャンプーの疲労が読めなかったのではない、と春麗は思った。
 自分も、彼女との激戦で想った以上に疲労を蓄積したのだ。やはり、シャンプーは相当な実力者である。こんな物を使わなくても春麗を渡り合えるだろう。

「アイヤァッ!!」

 シャンプーもまた、脚を振り回すように春麗に蹴りを叩きこもうとする。
 だが、それが命中するよりも前に──。
 春麗は、シャンプーの頭上を飛び越えるように、高く飛び上がり、シャンプーの後ろに立った。──そして。

「百裂脚!!」

 先ほどと同じく──春麗のつま先から、何発もの蹴りがシャンプーの身体にめり込んだ。
 シャンプーは直前に春麗に振り返ったが、反撃の余地はない。待っていたのは、無数のキックの嵐である。──そして、それは、シャンプーの顔面にも、胸にも、腹部にも、等しく向けられた。
 しかし、賛辞であるのか、それとも、春麗が恐怖を抱いたという事なのか、先ほどよりも過剰な連撃が、シャンプーに浴びせられたのだ。
 そして、シャンプーの背には、今度は、海があった──。
 彼女は、ついに力を失い、背中から、海に向けて、吹き飛ばされて落ちていったのである……。



──K.O!!──



 やりすぎただろうか、と、水面を見下ろしながら春麗は思った。
 ……しかし、揺れる水面を見つめる春麗の前にあったのは、驚くべき光景だった。






 倉庫群の陰には、そんな中華美女二人の争いの一部始終を監視している者がいた。
 彼の名はスチュアート大佐。
 かつてまで軍人であったが、今やテロリストという汚れた役職で呼ばれて然るべき男だった。──彼は、目的の為に民間の旅客機を一機、巧妙な手段で撃墜した程である。彼の上司であるエスペランザ将軍と共に、おそらく半世紀は語り継がれる悪魔の名となるであろう。
 彼も格闘技においては軍部でも右に出る者がないほどの実力者であったが、だからこそ倉庫の中で繰り広げられていた恐るべき闘争に絶句せざるを得なかった。

(あのアジア人の娘たち……かなり腕が立つ。いや、かなりという次元じゃない)

 スチュアートは、垂直跳びで人の体重さえも超えてしまうような女の戦いを目の当りにしていたのだ。それは、手から砲撃を出したピンク色のワニの死(スチュアートはこれをあの光景をあまり過信してはいないが──)よりもずっと、身の危険を実感させる光景となった。
 とはいえ、スチュアートには、この殺し合いで勝ち残らなければならない理由が存在している。
 今の光景はスチュアートの大義を揺るがす決定打とはなり得なかった。

(──私は勝ち残って遂行すべき任務がある。
 故に、彼女たちもターゲットの一人として抹消せねばならない)

 そう。彼の目的は、エスペランザ将軍の奪還。

181これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:50 ID:XkQeIA9c0
 その為に、大勢の部下を従え、ダロス国際空港において、空港の管制中枢を乗っ取って、その機能を麻痺させた。
 そのダロス国際空港も、どういうわけか日本の東京タワーやイタリアのコロッセオなどと共に、この場に同名の施設があるようだが、彼としてはそれがそのまま存在している事実には懐疑的である。
 その座標に存在する物に関する何らかの暗号、あるいはコードネームとして「ダロス」、「東京」、「コロッセオ」などのシンボル的名称を用いていると解釈している。
 何にせよ、彼の目的は、多くの部下を従える一介の軍人としての“勝ち残り”。──その為ならば、如何に冷徹な手段も厭わない。

(ジョン・マクレーン……貴様も同様だ)

 たとえ、あの有名なニューヨーク市警(いや、今はサンフランシスコ市警だったか)が相手であっても同様である。
 奴には、空港で多くの部下を殺された。
 我々の作戦を妨害しようとしていた男だが、おそらくスチュアートが真正面からぶつかれば敗北するような相手ではないだろう。

(だが、いかにこの私といえども、今の連中と正面からの戦闘で勝ち残るのは分が悪い)

 問題は、マクレーンではなく、春麗やシャンプーのような、スチュアートも及ばないレベルの超常的な格闘能力を持った連中だ。
 これまでに見て来た中国人の兵隊たちを凌駕したその格闘の実力を見るに、この殺し合いに呼ばれた連中は、「驚異的な戦闘能力」あるいは「卓越した知力」など、何らかにおいて優秀な能力を持つ者たちであろう。

(……だとすれば、ひとまずは、マクレーン以外の連中は上手く仲間として取り入るのが最善の策か)

 あの春麗という娘──奴もインターポールなどという素性を明かしていたが、だとすれば、スチュアートも安易に接触するのは不味い。
 ひとまずは、この場からは上手く去り、彼女たちと戦闘にならないように心がけ、周囲の連中を利用する。
 ──そうだ。
 それより前に、倉庫に残っている筈の、シャンプーの支給品を奪っておくのが得策であろう。武器は多い方が良い。幸いにも、このデイパックは何故か重さを感じない。
 戦場とは違い、武器を持ちすぎる事が首を締める事にはならない筈だ。

「──」

 スチュアートは、春麗の方を見た。
 彼女は、どうやら、シャンプーを追って水面まで飛び込んだようである。──ならば、ひとまずは、彼女の目はないわけだ。
 彼は、急いで倉庫内に立ち入り、彼女たちの戦闘が繰り広げられていた場所へと駆けつける。──思った通りだ。
 シャンプーのデイパックと、彼女が装着していた仮面が残されている。
 武器類があるか確認するのは後だ。春麗と遭遇しない内にこれらを回収してここから出て、不要物を捨てて武器を得る。
 これが得策と見た。
 彼は、すぐに倉庫から外を見たが、春麗はまだ陸に上がってこないようなので、すぐに倉庫の外に出た。

「にゃー!」

 と、その瞬間、真後ろから、変な鳴き声が響いた。
 流石のスチュアートも心臓が飛び出そうだったが、どうやら、ただの野良猫のようである。
 水でも被ったかのように全身びしょ濡れだったが、スチュアートは、そんな野良猫を小声で追い払おうとする。

「なんだ、猫か……あっちに行け! シッ! シッ!」

 そう言って、発情期のようにうるさく泣きわめく猫を背に、スチュアートは走りだした。番犬に吼えられている泥棒の気分だ。だが、少しでも早く逃げなければ、目立って春麗に見つかってしまう。
 その猫は、少しだけスチュアートを追いかけようとしたようであったが、どうやらその猫も相当の疲労に参っていたようで、すぐに追い払った。
 幸いにも、春麗にも見つからずに済んだようである。





182これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:08 ID:XkQeIA9c0



 一方、春麗は、港を見下ろしながら、自分が一つのミステリーを目の前にしているのを実感していた。

「……どこに消えたのかしら」

 春麗は、海を見つめていたが、そこに浮かんでいるのは、シャンプーの着用していたチャイナ服と、鉤爪だけだった。
 彼女が逃げのびたならば、何故、彼女は服を脱ぎ、武器を捨てたのだろうか。
 それは春麗にもわかりかねる。
 まるで脱皮したように──というか、シャンプー自身の身体が、まるで水の中に溶けて消えてなくなってしまったようだった。
 春麗が目を離したのもそんなに長い時間ではなく、シャンプーが水に落ちてすぐにそこに目をやったはずなのに、既にそこに彼女の姿はなかったのである。
 ……ただ。

「……これじゃあ、流石に表を歩けないもんね。悪いけど、ちょっと貸してもらおうかしら」

 春麗は、その豊満な両乳房を覆っていた服が引き裂かれて、手で押さえなければ乳房が曝け出されてしまうような状態にある。こんな状態で歩いていれば、まるっきり痴女だ。
 小麦粉の白色がこびりついた上に、びしょ濡れであるものの、後で乾かしてどうにか着替えとして使わせてもらおう。
 ……体格も違うし、やはりサイズに無理があるだろうか?
 しかし、まずはそれを深く考えず、春麗は、海に飛び込み、シャンプーの衣服とバルログの鉤爪を回収する事にした。







 一匹のびしょ濡れの猫が港を歩いていた。
 首輪はサイズが縮小され、猫の首についている。
 この雌の猫もまた、この殺し合いの“参加者”の一人である。

(あの男……最低の泥棒ね!)

 スチュアートが“自分の”デイパックを持ち逃げするのを、この猫は見ていた。
 必死に罵倒したが、それは猫の声帯では鳴き声以上の何にもならない。──言ってしまえば、彼女はこの“体質”のせいで全部、失ってしまったわけである。
 これも、何もかも春麗のせいである。

(ああ、これで全部なくなってしまった)

 この猫はもう素寒貧だ。
 支給品なし、武器なし、服なし。
 さて、この猫の正体──それは、何者か。

「くちゅんっ!」

 くしゃみする猫は、つい先ほどまで、冷たい水の中に浸かっていた。
 あの春麗に突き落とされたのである。
 ──そう、この猫の正体は、勿論、あの仮面の格闘家・シャンプーであった。
 一見すると愛らしい猫のようでありながら、それは、この殺し合いに乗り、春麗の命を狙う中国の刺客なのである。

(やはり──乱馬以外の者、皆邪魔者……! 殺す!)

 スチュアートに支給品を奪われた事で、彼女の中の覚悟は風船のように膨らんだ。
 ああして巧妙に人目を盗んで武器を強奪する者もいる。──やはり、このバトルロイヤルに乗っている人間は自分以外にも大勢いるのだ。
 元々、性質の悪いあの手の参加者は、殺害を躊躇する必要はない。
 ……今も同じだ。早乙女乱馬以外、全員殺してみせる。

(見ていろ春麗。すぐにまたお前を殺しに行くね……そして、天道あかねも)

 女傑族の彼女には、「殺人」の掟もある。
 かつては天道あかね、そして、今、春麗にその口づけを施した。これから先、シャンプーは、掟に従って彼女たち二人を殺す為に戦わねばならない。
 それに限らず、ここにいる者たちは容赦なく六十五人殺し尽くし──そして。

183これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:31 ID:XkQeIA9c0
 早乙女乱馬を、優勝させる。

(待っててほしい、乱馬……。私は、女傑族の戦士ね……これが、忘れかけていた私の本質──)

 彼女にとって、殺し合いの始まりと、二人の人間の死は、自分の本当にあるべき姿と目的を思いださせてくる起爆剤となった。
 勿論、あの説明を聞いた時は、誰が言う事を聞くものかと思った。
 しかし、その直後、何故自分は──誰かを殺す事を忘れてしまったのか、ふと考えてしまった。殺し合いに忌避や嫌悪の念を抱く自分に気づいてしまった。
 そして、二人が死んだ時に、彼女は思った。

 ──自分は、こうしてあかねを抹殺しなければならない、女傑族の一員なのだと。

 絶対の掟を忘れ、あかねやムースと親しくなりつつあった自分──それは武闘民族の一人の女として、本来ならば恥ずべき姿だった。
 女傑族の長たる曾祖母も見逃していたようだが、そうであるようで、もしかしたら戦士としての何かを忘れて行くシャンプーを見張っていたと言えるのかもしれない。
 法治国家日本──まともに殺し合う事は許されず、武闘ではなく労働で暮らし、掟もなく自由に恋愛をする大都会。その甘美な蜜を吸い、だんだんとシャンプーの心は甘くとろけてしまっていたのかもしれない。
 だが、本当に殺し合わねばならない今──それを再び、正す必要がある。

(あかねも、殺す……)

 いつの間にか、天道あかねの顔を見ても殺そうなどとは思わなくなった。
 ただ、乱馬との仲を引き裂ければそれで良いと──シャンプーは、あかねに対してそう思い始めていた。
 しかし、掟に従うならば、それは決定的な過ちとしか言いようがない。
 死の接吻を施した相手に、何故甘い顔を見せようか。

(それに、ムースも……)

 幼馴染のムース。
 最低の男だが、今も共に働いているほど付き合いは長い。仮にも、一図にシャンプーを想い続けている馬鹿な男だ。
 彼も、乱馬の為に消さなければならない。
 いずれにせよ、彼は掟によりシャンプーとは結婚する事が出来ないのだ。

(最後には、私自身も……)

 そして、仮に乱馬以外の全てを殺したとして──最後には、乱馬と自分だけが残る。
 その自分も、結局、“最後のターゲット”になるわけである。
 勿論、二人で上手に生き残れるならば、どんなセコい手を使っても、シャンプーはその手段を使うつもりだが、逆に二人以外の存在は抹殺するしかない。
 自分が女傑族である事を、思い出す為に。
 自分の本来の目的を、忘れぬ為に。
 それを試されている気がした。

 あの場には幼い子供もいた。シャンプーも、実のところ、女傑族という枷を外せば、子供をかわいがるような側面も持っている普通の少女だ。
 ──しかし、そんな子供たちも今は敵だ。

 いつか、こんな日が来るかもしれないとは、シャンプーも薄々思っていたのかもしれない。
 いかに、これまでの日々にシャンプーが少なからず楽しいという感情を抱いていたとしても、結局は、シャンプーの目的は元々、乱馬を殺す為だったし、一時はあかねを殺す事も考えていた。
 今は、かつての自分に戻っただけだ。
 感傷に浸る暇はない。

(乱馬なら、しばらく放っといても平気ね。私は邪魔者を消していくだけある……)

 乱馬は──早乙女乱馬は、初めてシャンプーに勝てた男なのだ。
 中国の村の掟は、絶対だ。

 女傑族の娘がもし余所者に負けた時、その者が女だったならば、殺すべし。
 しかし、男だったならば、夫とすべし。

 シャンプーに勝利した男・乱馬はシャンプーの婿として迎えなければならないのが掟だ。──そして、そんな掟に縛られる事もなく、シャンプーは純粋に乱馬を愛している。自分の命さえ投げ捨てて奉仕できるほどに。
 日本での日常に呑まれて忘れかけていた掟。

184これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:06 ID:XkQeIA9c0
 それを、“ノストラダムス”は思い出させてくれたのだ……。

「あら? 子猫? びしょ濡れじゃない……」

 と、色々考えながらとぼとぼ歩いていたシャンプーに、ふと、聞き覚えのある女の声がかかった。
 慌てて振り向くと、そこにいるのは春麗である。
 春麗もまた全身に水を被ったように濡れていたが、それは、おそらくシャンプーをあの水の中で探していたせいだろう。
 随分馬鹿な事をするものだが、シャンプーは何も知らない春麗に向けて唸る。自分が目の前の猫に嫌われている事も知らず、呑気にシャンプーの身体を持ち上げる春麗。

「……うん? この猫も、私たちと同じ“首輪”が巻かれているわね」
「ニ゙ーーー!!!」

 シャンプーは思いっきり、春麗の手の甲を引っ掻いた。
 流石に、あれだけシャンプーの攻撃を回避し続けた春麗とあっても、この一撃からは逃れる隙が無かったようである。
 春麗は、先ほどより小さく作られた三本のひっかき傷に冷たい息を吹きかけながら、赤子にでも言い聞かせるようにシャンプーを咎めた。

「いたたたたた……! 駄目よ! 引っ掻いちゃ……めっ!
 ……でも、この猫、小麦粉塗れね……。うろうろ歩いてて、あれを被っちゃったのかしら」

 早速以て、春麗の心の油断が見て取れる。
 どうやら、猫の子一匹殺すつもりはないらしい。日本ならばともかく、中国では猫料理など珍しくないので、彼女も猫くらいならば殺してしまうと思っていたが……。
 まあ良い。こんな女に抱かれるよりは、

「──……と、風邪ひいちゃう……こんな所にいられないわね。早くお風呂を探さないと」

 ふ、と。
 その時、シャンプーは、春麗の手から逃れようとする手を、ぴたりと止めた。
 春麗は、冷たい水の中に入ったせいで、びしょ濡れなのである。このままでは風邪をひいてしまうリスクがあると恐れたのだろう。これ以上夜風に晒されていては、お互い危険というわけである。
 どうせ、この姿では春麗を殺す事も出来まい。
 それならば、上手に利用して彼女に温かいお湯に入れてもらおう。

「……この子も一緒に入れてあげようかしら。びしょ濡れみたいだし……」
「にー♪ にー♪」

 ご機嫌を取るように、先ほどまでの態度とは打って変って、春麗の胸の中にうずくまるシャンプー。
 春麗もそれを見て妙な猫だとは思ったが、気にする程ではなかった。
 だが、春麗は知らない。この猫こそが、シャンプーそのものだった事。
 彼女は、“水を被ると猫になり、お湯を被ると元に戻る”という不思議な体質であり、今まさにその変化が行われていたという事など……。

(ふふふ……私がお湯につかった瞬間、お前を殺す事になるとは知らずに、馬鹿な女ね)

 シャンプーは、胸中で元の姿に戻り、春麗を殺すチャンスが巡って来た事で、胸中、爪を研ぎ始めていた。



【H-3 港町/1日目 深夜】

【春麗@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、左二の腕に切り傷(パンストで)、左手の甲に猫のひっかき傷、全身びしょ濡れ
[装備]:バルログの鉤爪@ストリートファイター、グロック17(15/17)@ダイ・ハード2
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1、シャンプーのチャイナ服(びしょ濡れ)、パンスト@らんま1/2、シャンプー(猫)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す。
0:まずは猫を連れてお風呂に入ろう。
1:殺し合いには乗らないが、危険人物には対処を。
2:シャンプーの行方が心配。
[備考]
※参戦時期は「Ⅱ」の最中。少なくとも、シャドルーを壊滅させてはいません。
 また、口調や性格などは「ZERO」シリーズ以降の設定も踏襲し、パラレルワールド扱いの「ZERO」シリーズとも一定の相互関係がある物とします。
※春麗のチャイナ服は、シャンプーとの戦闘によって胸元が大きくはだけて露出しています。

185これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:35 ID:XkQeIA9c0

【シャンプー@らんま1/2】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、猫化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:殺し合いに乗り、乱馬の優勝を目指す。
0:猫のフリをして春麗についていき、風呂で元に戻って奇襲。
1:天道あかね、春麗を優先的に殺す。
2:最終的には自分の死もやむを得ない。乱馬の優勝が絶対の目的。
[備考]
※参戦時期は、本編終盤。
※「死の接吻」を春麗に対して施しました。
※自らの女傑族としての覚悟が弱まっていた事を実感し、殺し合いに乗る事でかつての誇りを保とうとしています。その一方で、良牙、ムース、子供などを手にかける事に対しては一定の抵抗もあるようです。

【スチュアート大佐@ダイ・ハード2】
[状態]:健康
[装備]:バルログの仮面@ストリートファイター
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品1〜3、ランダム支給品0〜2(シャンプー)
[思考]
基本作戦方針:どんな手を使ってでも帰還し、任務遂行に戻る。
0:奪還したシャンプーの支給品の確認。
1:正面からの戦闘は避け、上手に武器を確保しながら敵を殺害。
2:マクレーン、及び春麗のように国際警察の手の者との接触は避ける。
3:また、勝ち残る以外の術が見つかればそれに乗る。
[備考]
※参戦時期は、少なくともダグラスDC-08機の大破を確認した後。
※「ダロス国際空港」、「東京タワー」、「コロッセオ」などの存在は座標に位置する別の物のコードネームであると解釈しています。そこに現物があるとは思っていません。



【支給品紹介】

【バルログのマスクと鉤爪@ストリートファイターシリーズ】
シャンプーに支給。
バルログが使用している白いマスクと鉤爪(片手用)。
鉤爪は攻撃力やヒットを上げ、マスクは「ZERO3」では防御力を上げる効果を持っている。
ただし、いずれも攻撃を受けすぎると装着が外れる。

【パンスト@らんま1/2】
春麗に支給。
パンスト太郎が武器や包帯代わりに使用するパンティストッキング。
作中では複数のパンストを結んで繋いでいるように、一応複数枚支給されている物とする。

【グロック17@ダイ・ハード2】
春麗に支給。
グロック社が開発した自動拳銃。装弾数は17発。テロリストたちが使用。
この出典の「ダイ・ハード2」の作中では、「強化プラスチック製である為、X線に映らない」などと言われているが、実際にはこれは誤った情報。しかし、この作品によってこの銃もまた大きく知名度を上げた。
また、警察署長がマクレーンに「アンタの給料全部投げ出しても買えない」と言われているシーンなどから、高価だと誤解される事もあったりするらしい。

186 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:52 ID:XkQeIA9c0
投下終了です。

187名無しさん:2015/11/05(木) 08:42:01 ID:9B./IKOM0
投下乙です。

やはりシャンプーはマーダーになってしまったか…
素手では春麗に適いそうにないけど、風呂場でお互い全裸だとどうなるのか…狭いし
そしてスチュアート大佐wwこちらも全裸のイメージが強い
あそこだけ見ると格闘技強そうだけど、マクレーン戦では振るわなかったのでこのロワではぜひ強いところを見てみたいです

1つ訂正が…ダレス国際空港ですが、ダロスになっています。
何度も出てるので仕様なのかな?とも思いましたが一応報告しておきます。

188 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:33:05 ID:w1tlNLUE0
投下します

189 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:35:06 ID:w1tlNLUE0
「まいったなぁ……」

今泉慎太郎は巡査である。上司の古畑から最低の評価を下されてはいるが。
しかし今泉は確かにお人好しで頭は足りないものの、このバトルロイヤルという狂ったゲームを許しておける人間では決してなかった。
古畑と同様に、目の前で起こった惨劇に対して強い怒りを感じていた。彼はやはり警察官なのだ。

「とりあえずは古畑さんと合流しないと……」

名簿を見たところ、あの忌々しい小男の名前はなかった。
過去に古畑が逮捕した犯人の名前があるのは気になったが、それを除けば知り合いといえるのは古畑ぐらいしかいない。
確かに古畑は自律神経失調症の原因になるほど人使いが荒く、過去には殺害計画を立てたこともあったが、頼れる人物であるのは認めざるを得ない。

辺りを見回すと、少し離れた場所にある人影が目に入った。

「ちょ、ちょっとそこの君ぃ」

こちらを振り向いたのは小学校高学年ほどの白人の少女。
今泉は少女のもとに駆け寄る。

「…………」

「え、えっと、名前はなんていうのかな」

「……マチルダ。マチルダ・ランドー」

「ええとマチルダちゃん、マチルダちゃんはいくつなの?」

「……18歳よ」

「う、嘘をついちゃいけないよ。おじさんはこれでも警察官なんだからね」

「警察……」

「そうさ。安心すると良いよ! あのノストラダムスとかいう奴は必ず捕まえてあげるからね。おじさんには頼れる知り合いもいるんだから!」

それを聞いたマチルダは今泉の腕にしがみつく。

「……ごめんなさい。怖いの……。お願い、助けて……」

「も、もちろん」

「私のパパも巻き込まれているの……一緒に探してくれる……?」

「分かったよ。おじさんがパパと必ず会わせてあげるからね!」

「ありがとう……」

今泉は自分が古畑などよりも遥かに頼もしい存在であるように思えるのだった。

190 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:16 ID:w1tlNLUE0

名簿を確認したところ、知っている名前は2人。最も信頼する人間と最も憎む人間。
マチルダにとってはここがどこなのか、そんなことは二の次であった。
ただ自らの目的を達成するために都合の良い舞台が用意されたという事実が大事であった。
しかし肉体的に弱い立ち位置にある自分は、殺し合いに乗っている参加者から狙われやすいと考える。
レオンと合流できればよいのだが……。
この男は警察官だという。見るからに頼りなさそうではあるが、何もないよりはましだろう。
警察は善良な市民を守るのが職務である。……例外を知ってはいるが。
しかしこの男に知り合いがいるのならば、その人物も警察の人間である可能性は高い。
そうなると少々厄介なことになる。警察の人間はスタンスフィールドでもない限り、自分の復讐を止めようとするだろう。
また、殺し屋であるレオンに対してもどのような反応を示すか分からない。
この男1人ならなんとかなるかもしれないが、流石に2人ともなるとそうはいかない。
そう考えると、当面の方針としてこの男が知り合いと合流する前になんとかレオンと合流する必要がある。
それが難しいようであれば、都合の良いところでこの男を切り捨てる。
やはり単身スタンスフィールドに立ち向かうことになるかもしれない。
幸いなことに、この場に奴の仲間はいない。
そして麻薬取締局の捜査官という立場もこの場では役にたたない。
言ってしまえば奴は自分と同じ位置で対峙しているのだ。

この好機を逃すわけにはいかない。

【D-6/1日目 深夜】

【今泉慎太郎@古畑任三郎】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、 不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:事件解決
1:古畑との合流
2:マチルダの保護
[備考]
※参戦時期は、少なくとも「VS SMAP」より後。


【マチルダ・ランドー@レオン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:スタンスフィールドの殺害
1:可能ならばレオンと合流したい。
2:この男は最大限利用する。用済みになる、もしくは目的の遂行に邪魔だと判断すれば切り捨てる。
[備考]
※参戦時期は、レオンに置き手紙を残してスタンスフィールドの元へ向かった直後。

191 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:50 ID:w1tlNLUE0
投下を終了します

192 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:57:28 ID:E309ccdE0
投下乙です。
今泉はロワでも頼りないなw
マチルダにまで切り捨てるとまで思われてるなんて
そのマチルダもスタンスフィールド狙いが気になります。

遅れてすいません。
私も投下します。

193世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:59:14 ID:E309ccdE0
「……………………な、何よこれ? 何で私がこんな首輪を付けられなくちゃいけないのよ!!」

一面に広がる草むらの中、まだ幼さの残る少女が途方に暮れていた。
友枝小学校に通う少女、李苺鈴は先ほど船上で繰り広げられた惨劇を思い出す。
ピエロと鰐が首輪の爆発によって死んだ。
元来、苺鈴は怖いもの知らずと言える性格である。
小狼を追って日本まで来たほどだ。
そして日本においてクロウカードを巡る様々な事件を、小狼らと共に解決してきた。
しかしそんな苺鈴も何者かの死、それも人の死には接した経験は無い。
今でもはっきりと思い出せる。
生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感。
まだ小学生である苺鈴には、あまりにも強い衝撃だった。
未だにそれが癒え無いほどに。
そして、ピエロと鰐の命を奪った首輪が苺鈴の首にも嵌っている。
これが爆発すれば、自分も同じ運命を辿ることになる。
今までの人生において、意識したことも無かった自分の死。
殺し合いに勝ち残らなければ、その運命は不可避なのだ。
それに考えが至った途端、苺鈴を耐え難いほどの恐怖が襲う。

「……………………だ、大体なんなのあの喋るピンク色の鰐は!?
あんなの香港でも日本でも、見たことも聞いたことも無いわよ!
あんな物で誰が騙されるって言うのよ!!」

耐え難いほどの恐怖。
ゆえに苺鈴はその原因を否定する。
自分が見たはずの、ピエロや鰐の”死”を。
そして自分を欺く。迫り来る”死”など偽物だと。
否、その心底においては実は欺き切れてはいない。
苺鈴自身がそれを見て、そして感じ取っていたのだから。
あの生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感を。
それゆえに苺鈴は無理やりにでも、船上での惨劇が紛い物だと自分に言い聞かせていた。

「本物だったわよ。霊力は感じ取れたもの」

不意の声に、苺鈴は飛び跳ねそうな勢いで全身を振るわせる。
恐る恐ると言った様子で声の方を向く苺鈴。

194世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:01:06 ID:E309ccdE0
そこに居たのは一人の女だった。
形容しようの無い奇妙な衣装に、頭から虫の触覚のような物を伸ばしている。
他に人影が見えない以上、声を掛けて来たのはその女のはずだ。
しかし女は苺鈴を向いてはいない。
物憂げな視線を、どこか遠くにやっている。

(何こいつ? 自分から話かけといて……)

不可解な容姿と態度の女を、苺鈴は不審感を露にする。
それにも構わず、女は遠くを見つめながら話し続けた。

「……ここからだと、朝焼けが見えるかしら?」
「知らないわよ! 私も来たばっかりなんだから!」

女の素っ頓狂な質問に思わずつっこむ苺鈴。
その様子に女は微かに目を丸くした後、笑みを浮かべた。
しかしその笑みを見た苺鈴は、何故かより不安感を強めた。

「もうすぐ朝焼けの時間がくる……夜と朝の一瞬のすきま。
でも私は昼と夜の一瞬のすきま、夕焼けの方が好き……」
「……さっきから何の話してるのよ?」

話を続ける女は、苺鈴ではなく自分に語り掛けているようだった。
それはまるで何かを、と言うより全てを諦めたような、
諦念を漂わせていた。
それが余計、苺鈴の不安感を煽る。

「自分を重ねているのよね、夕焼けに。私は一度夜を迎えて、死んだはずだった……。
そして生き返ったと思ったら、今度は殺し合い……ヨコシマも一緒に」
「ねえ…………私に何の用なのよ……」

女が何の用かは、薄々勘付いていた。
殺し合い。
その見せしめを本物だと言った。
話によれば知り合いと殺し合いに参加している。
そして諦念に満ちた態度。

苺鈴はその場から、逃げ出そうと走り出す。
女はその背に向けて手をかざした。

「きっと私は長く生きられない運命なのよ。でも命の長さなんて関係無い。
私はヨコシマのために、アシュ様も裏切った。きっと何だって出来る……ヨコシマのためなら」

女の手に霊力が集まり、光を放つ。
そして霊力は霊波・波動と化して発射。
霊波は瞬時に走る苺鈴を捉える。
しかし苺鈴は霊波に当たる直前に、それを両腕で防いでいた。

李家で生まれ育った苺鈴は、武術もそれなりに修めている。
霊波から逃げ切れないと悟った苺鈴は、咄嗟に防御の体勢を取っていた。
問題はそれでも霊波の威力を抑え切れなかったことだ。
身体ごと衝撃で持っていかれる。
苺鈴は為す術無く、地面に倒された。

「変ね……霊力が弱まってるの?」

しかし苺鈴を倒した霊波の威力に、女は納得がいっていない。
女はその気になれば人間一人など容易に殺すことができる。
女は魔族。その中でも超上級魔族たるアシュタロスが、来るべき神族・魔族との決戦のために
直属の部下として作り上げた三姉妹の一人。
蛍の化身、ルシオラ。

「まあ、直接殺すのが確実よね」

ルシオラは苺鈴を殺すべく歩を進める。
苺鈴が立ち上がった時には、既に目前にルシオラが居た。

195世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:03:11 ID:E309ccdE0
苺鈴をその腕で殺せる距離。

「……いや…………助けて小狼!」

怯える苺鈴は、思わず想い人に助けを求めた。
苺鈴が日本まで来たのは、小狼の助けになるためだった。
しかし現実に、自分に危険が迫った時には、
心底にある小狼を頼りにする気持ちが、図らずも表に出てしまう。
それほど今の苺鈴は恐怖に震えている。

そしてルシオラもまた、かつて無い悪寒に襲われた。

魔族の、蛍の化身としての直感が告げていた。
何か途轍もなく恐ろしい物が、近付いていると。
強力な魔族である自分が恐れるほどの物が?
苺鈴を前に、不可解な想いに囚われて惑うルシオラ。

そのルシオラの腹から拳が生えた。

拳がルシオラを背中から腹に貫いたのだ。
苺鈴に当たる寸前、鼻先で止まる拳。
血と肉片が苺鈴に飛び散る。
その光景が、苺鈴に思い知らせる。

あの船上での惨劇はやはり本物だったと。
殺し合いの脅威は自分に迫っていると。
そして、途轍もなく恐ろしい物が目前に存在すると。

ルシオラを貫いた腕は、正に筋骨隆々にして赤く凶々しいオーラを纏っている。
腕はそのまま持ち上がり、ルシオラの上半身を縦に引き裂いた。
一片の慈悲も無い殺意。
それを纏った男が、ルシオラを引き裂く。
男はルシオラの死体を無造作に投げ捨てる。
目前で呆気無く行われた殺人。
何よりそれを容易く行った男が怖かった。

鍛え抜いたと言うのすら生温い、強大で高密度の筋肉。

そこから溢れ出る狂猛で凶々しいオーラ。

その形相は正しく”鬼”その物。

「我、拳を極めし者!! 妖とて敵に非ず!」

拳を極めし者。
自らをそう呼んで憚らぬ者は、ストリートファイターの世界においてもただ一人。
拳の修行の果てに、殺意の波動を身に付けた、
この豪鬼のみである。

豪鬼は苺鈴を無造作に見下ろす。

196世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:05:10 ID:E309ccdE0
苺鈴は射竦められたがごとくに、動けない。

「死合いの気構えも無き童、我が拳に値せず」

吐き捨てるように言い放つ豪鬼。
突き放すような言葉に、苺鈴は一瞬自分が見逃されるのではないかと期待する。
しかしすぐにそれは思い違いだと悟る。
先刻よりむしろ強まっているからだ。
豪鬼の叩き付ける、どころではない大気を震わすほどの”殺意”が。

「殺意の波動が高まる我が前に立つ、己が不明を恨めい!!」

苺鈴は武術を習っていると言っても、自分にとっては無きにも等しい力量であることを、
豪鬼は一目で見破っている。
まるで敵に値しない存在だと。
それでも、いかなる由縁とは言えここは殺し合い、即ち死合いの場。
一度死合いに立てば、それに対する意思や力の有無に関わらず、容赦するほど豪鬼は甘くない。
そして今の豪鬼には、ここが死合いの場であることすら関係無い。
それほど、今の豪鬼は殺意の波動が強まっていた。
今の豪鬼は、悪鬼羅刹も同然の存在と化していた。

「ぬうん!!」

全く前触れも無い状態から、豪鬼が飛ぶ。
同時にその脚で、回し蹴りを放った。
丸太と紛うがごとき豪脚が、その速度で空を鎌鼬のごとく切り裂く。
その名に違わぬ旋風脚。

旋風脚は空を裂く際に発生した衝撃波のみでも、苺鈴を切り刻んだ。
肉が裂け、鮮血が飛ぶ。

苺鈴の耳を鋭い痛みが襲う。
手を伸ばすとそこにあるはずの耳朶が――無い。

(私の耳が、無くなってる!!)

豪鬼の旋風脚それで収まらない。更に容赦無く攻め立てた。
旋風脚が直接胴体に打ち込まれる。
肉を潰し、骨を歪ませる。
直接打ち込まれたルシオラは、木っ端のごとく吹き飛んだ。

豪鬼の旋風脚は、背後に居る――死んだはずのルシオラに打ち込まれていた。

苺鈴には何が何だか分からなかった。
ただ一つ確かなのは、異常な危機が自分に迫っていることだ。
そして耳に残る痛みと、何より喪失感が苺鈴を打ちのめす。

197世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:07:28 ID:E309ccdE0
苺鈴は狂乱したがごとく叫び声を上げて、その場から走り出した。

豪鬼に背後から奇襲をかけようとして、旋風脚に迎撃され倒されていたルシオラは、
呻き声を上げながら立ち上がる。
豪鬼の旋風脚は常人ならその一撃で死んでいる威力だが、ルシオラは人間ですらない魔族。
一撃で勝負が決まるほど脆弱ではない。

「くぅ……よく幻覚を見抜いたわね」
「殺意の波動を前に、幻惑など児戯も同然!!」

蛍の化身たるルシオラは、幻覚を操る能力を有していた。
最初、豪鬼の拳で貫かれたルシオラは幻覚。
更に自分自身は周囲の風景に隠れて、豪鬼の背後から襲い掛かった。

ルシオラの誤算は、豪鬼が殺意の波動を制御し得るほどの達人であったことだ。
いかに精巧な幻覚でも、手応えで虚仮か否かを見抜くことができる。
そして殺意の波動を自らの物とする豪鬼は、殺意・敵意を感じ取る能力に誰よりも長けていた。
豪鬼はルシオラの幻覚を見抜いた上で、その殺意・敵意を察知して迎撃したのだ。

「……あんたの所為で一人逃がしたじゃない」

ルシオラは逃げ去る苺鈴を見送り、豪鬼に向く。
豪鬼の戦力はおそらく上級魔族に匹敵、あるいは凌駕している。
ルシオラにとっては、隙を見せられない相手だった。

「うぬと相対して、益々殺意の波動が強まっている」

対する豪鬼は、何故かルシオラではなく自分の拳を見ている。
その身体からは相変わらず、魔族のルシオラですら凶々しいと感じるオーラを放っていた。

「うぬはただの妖ではない。世の摂理から外れた者か」

豪鬼の指摘にルシオラは驚きを隠せない。
まさか会ったばかりの人間に、自分の出自を言い当てられるとは思わなかったからだ。
しかしその驚きの表情は、すぐに憂いを帯びた笑みに変わった。

「……あんたの言う通りよ。私はアシュ様の計画のために作られた。
その計画が成功すれば、神・魔族のバランスは大きく崩れる。
私は世界のバランスを崩すために生み出された存在と言えるわ……」

ルシオラはアシュタロスの真意、死を望んでいたと言う事実は知らない。
それでもアシュタロスのクーデター計画の大枠程度は把握している。
従って世界のバランスを崩すために生み出された存在と言うのは、概ね間違っては居ない。
しかしそれはあくまで出自についての話だ。

「でも今は私が私の意義を決められる。ホレた男のためなら、ためらったりしない!」

ルシオラの両手をかざし、そこに光が集まる。
それがエネルギー、霊力であると見抜くのは豪鬼にはあまりに容易かった。
しかしそのルシオラの姿が一つでは無い。
同じ構えのルシオラが何体も出現。
そして霊波を一斉に発射した。

198世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:09:15 ID:E309ccdE0
それでも豪鬼に動揺は無い。

「我に虚仮は通じぬ!!」

豪鬼は瞬時に手に殺意の波動を集め、迎撃のための構えを取る。
霊波を幾つ撃たれようと本物のルシオラは一人なら、本物の霊波も一つ。
他の霊波は幻影なのだから構う必要は無い。

霊波に次々と襲われても、豪鬼はまるで意に介さない。
豪鬼の身体を霊波が通り抜けても反応を示さない。
そして豪鬼はルシオラの狙いに気付いた。

「ぬん!!」

両手を合わせ、腰に溜める豪鬼。
そこに気が、殺意の波動が集中・凝縮される。
大気をも震わすエネルギーの凝縮は、さながらブラックホール。
そして居並ぶルシオラへ向けて発射された。
古より気の奥義を、殺意の波動により更に高めたそれは正に必殺技。
豪波動拳。
凝縮されたエネルギーは、居並ぶルシオラの下に着弾。
解放されたエネルギーは、居並ぶルシオラを全て巻き込み消滅させた。

全てのルシオラは光の粒子へと還っていく。
ルシオラは全て幻影だった。
ルシオラの幻影が消え去った地の、更に向こう。
そこに単車に跨った人影が一つ。
それは全速力で豪鬼から逃げるルシオラの姿だった。



「全く……危うく殺し合いに乗ってる者同士で潰し合うところじゃない……」

ランダム支給品の一つ蒸気バイクを駆って、ルシオラは豪鬼から逃げ去る。
口調は軽いが今のルシオラに余裕は無い。
アクセルは全開で、それでも背後への警戒の念は緩まない。
もし再び豪鬼に捉まったら、ルシオラとて無事では済まないだろう。
人間であるはずの豪鬼から、それほどの危険性を感じ取っていた。
何よりルシオラは殺し合いに乗っているであろう者と、潰し合う訳にはいかない。
ルシオラの目的は殺し合いの優勝なのだから。
自分ではなく横島忠夫の。

ルシオラが創造主のアシュタロスを裏切ったのも、
姉妹やアシュタロスと戦ったのも、
そして東京タワーで死んでいったのも、
全て横島忠夫のためだった。

人類の味方に付いたのも横島に迷惑を掛けないためだ。
ルシオラの行動原理は、今や全て横島に向けられている。

『私がやってきたことは全部おまえのためなのに……!!
おまえがやられちゃったら、意味ないじゃない!!』

東京タワーで死の直前に言ったこの言葉が、ルシオラの嘘偽りの無い本心。
そしてそれは今も変わらない。

だからそれが殺し合いならば、最も早く確実な手段で横島を救うために最善の方法を取る。
何を犠牲にしようと迷いは無い。

(そうよ、ホレた男のためなら……私はためらったりしない!)

ただ一つの目的のために、ルシオラの戦いが再び始まった。

【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。

【支給品説明】
蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
李紅蘭が製作した蒸気機関を動力とする単車。
太正時代の乗り物としては高性能。
もしかしたら爆発するかもしれない。

199世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:11:10 ID:E309ccdE0
(……殺意の波動の高まりが収まらぬ。やはりあの妖一人が所以ではない)

ルシオラの姿が見えなくなり、豪鬼は再び自分の身体の調子を確認する。
やはりルシオラと離れても殺意の波動の活性化は収まらない。
そう、豪鬼はこの殺し合いの始まり。
あの船の上から、殺意の波動がかつて無いほど活性化していた。

本来、殺意の波動は制御が非常に困難な物である。
多くの武道家がそれに飲み込まれていった。
飲み込まれれば、ただ闘争と殺戮を求める”鬼”となる。
豪鬼ほどの修練の結果として、やっと制御を可能とする物。
あるいは拳の歴史において、豪鬼ほど殺意の波動を制御し得た者は居ないだろう。

このまま殺意の波動が活性化し続ければ、その豪鬼ですら制御し得ぬ域に達するやもしれない。
そうなれば豪鬼自身がどうなるかは想像も付かないことだった。

(元より修羅道は承知の上! 我に退く道無し!!)

理由もわからない活性化に、それでも豪鬼に恐れは無い。
危険は元より承知の上で、殺意の波動を選んだのは豪鬼自身。
それが更なる高みに行かんとしているのだ。
豪鬼に躊躇する理由は無い。

より強きを求め、殺意の波動を身に付けた豪鬼は、
更なる強きを求め、バトルロイヤルと言う死合に臨む。

【D-5 草原/1日目 深夜】
【豪鬼@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:死合を勝ち抜く。
1:殺意の波動が求めるまま死合う。
2:殺意の波動が高まるに任せる。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺意の波動がかつて無いほど活性化しています。

200世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:14:33 ID:E309ccdE0
(小狼、小狼、小狼、小狼小狼小狼!!!)

ルシオラと豪鬼から逃げ出した苺鈴は、二人の姿が見えなくなっても一心不乱に走り続けていた。
ただただ怖かった。
ルシオラと豪鬼だけでは無い。
船上での惨劇も。
首輪も。
自分が耳を失った事実も。
殺し合いが始まってからの何もかもが怖かった。
現実に起こった何もかもが現実だと信じたくなかった。

目を瞑り自分の心中の声だけを聞き、現実の全てを拒絶して走るは苺鈴は、
ここが何処だかも分かっていない。

(早く助けて小狼!!)

苺鈴はまだ名簿も見ていない。
李小狼が参加していることも、知らないはずである。
それでも小狼に助けを求める苺鈴。
今の苺鈴には他に縋る物が無かった。

しかし目を瞑ったまま、まともに走り続けられはしない。
苺鈴は石に躓いて転倒する。

「いったぁ…………ここどこよ?」

気付くと苺鈴は岩場にまで来ていた。
自分の置かれた環境を知りたくて、辺りを見回す。

そして彼女は求めていた再会を果たす。

始めはそれが何なのかは、分からなかった。
岩場にポツンと、置かれた球体状のそれは、
上部に髪が生え、
眼も、
口も、
鼻も、
耳も在る。
それは人間の頭部だった。

「…………嘘よ。嘘……だってそんなはず無いもの…………」

苺鈴は恐る恐るその頭に近付く。
それを確かめたくは無い。
しかし確かめずにはいられない。
なぜならそれは苺鈴の想い人、李小狼の生首だった。

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

頭の中に鳴り響く言葉が、口をついて出てこない。
今や苺鈴は完全に狂乱状態だった。
いつか結婚すると思っていた。
結婚を諦めた後も、好きという気持ちの抑えられない。
誰よりも大切な人。
それが生首になっているのだ。

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

これも殺し合いの故なのか?
自分もいずれ同じ運命を辿るのか?
狂乱を収める答えなど無い。
はずだった。

201世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:16:01 ID:E309ccdE0
しかし苺鈴は答えを出す。

「…………あは……あはは…………あはははははははは!!」

苺鈴は笑い声を上げる。
それは激しいのに虚ろな、心底からなのに乾いた、
異様な笑い。
まるで人間が壊れたかのような笑いだった。

「あはははははははは! なんだ、やっぱり全部嘘だったんじゃない……馬鹿みたい」

それは現実の全てを嘘だと言う答え。
根拠も理屈も全てを拒絶して、
それゆえに現実の全てを拒絶する答え。
しかしそれだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段。
苺鈴を狂乱から救う手段だった。
しかしあるいは、より深く狂ったとも言えた。

いずれにしろ苺鈴は、この現実を否定しなければならない。

「バトルロイヤルをやって勝てば良いんでしょ? そうすればこの訳の分かんない嘘も、全部終わるのよね」

主催者は勝てば死者も蘇生させると言っていた。
それはつまり小狼が実は生きていると判明すると、苺鈴は解釈した。
だって本当は小狼は生きているのだから。
現実だと思っていた全てが嘘なのだから。

苺鈴は、ただただ小狼は生きていると言う答えに都合の良い解釈をする。
それだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段なのだから。
そして、最早殺し合いを拒む理由も無かった。
誰を何人殺そうと、全ては嘘なのだから。

「あはは……ほら、小狼も一緒に行こ!」

苺鈴は小狼の生首を持ち上げて、本人にそうするように話し掛ける。
全てが嘘なら、それは偽物のはずだが、
今の苺鈴にはもうどんな根拠も理屈も関係無い。
それは偽物だろうとやっと出会えた小狼であり、
苺鈴の寂しさを紛らわせる物であり、
それでも本当は小狼は生きているのだ。

小狼の生首をデイパックに仕舞い、苺鈴は歩き出す。
もう目を瞑ることも、恐れることも無い。
ただ殺し合いを勝ち進むことだけ考えれば良いのだ。

そう決意する苺鈴は、壊れたかのような笑身を浮かべていた。

【C-4 岩場/1日目 深夜】
【李苺鈴@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、左耳欠損、精神崩壊
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、小狼の生首
[思考]
基本行動方針:殺し合いを優勝する。
1:殺し合いを勝ち進む方法を考える。
[備考]
※参戦時期は第60話終了後です。
※支給品はまだ確認していません。
※バトルロイヤルは現実ではないと思っています。

202 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:17:47 ID:E309ccdE0
投下を終了します。
重ねて言いますが遅れてすいませんでした。

203 ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:27:34 ID:MQYImfzM0
投下乙です。

>>120
遅くなってすみませんでした。
手元の単行本が誤植されてた代物だったので、釣られて間違えてしまったようです……
wiki掲載時にはチョコラータで統一してもらえるよう修正が入ったら幸いです。

>これが私の生きる道
中国武術対決は無事に春麗の勝利。
しかし猫化によって懐に潜り込んだし、シャンプーにもこれは反撃のチャンスがあるか。
乱馬の為に乗ってしまった彼女だが、果たしてここからどう動くか。
そしてスチュアートの反応がごもっとも……そら、一般人からすりゃ次元が違うよこの人ら……

>豹
マチルダに切り捨てられる感が半端ないな、今泉……
仕方がないとはいえ、果たしてこのロワで彼は無事にやっていけるんだろうか。
しかし仮にも警察、マチルダの目的が分かったら必死で動いてくれるだろうことを期待します。

>世界の理を壊すもの
豪鬼が半端ない……そら殺し合いなんてなったら、殺意の波動も喜んで暴れるわな。
最強クラスのマーダーですが、果たして誰がこの怪物を止められるのか。
そして苺鈴……小狼の死を見て、壊れてしまった……
可哀想でならない彼女が、この先狂気に走って何をやらかすか……不安だ……

さて、遅くなりましたがこちらも投下をいたします。

204拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:28 ID:MQYImfzM0


一陣の風が吹く。


星の光が唯一場を照らす、荒涼とした地の上で。


一人の男が、風を一身に受けつつ静かに瞳を閉じ佇んでいた。



純白の胴着に身を包む、屈強な肉体を持つ格闘家。



その名はリュウ。



『真の格闘家』を目指し、拳に生きる一人の求道者だ。



(……殺し合い、か)


このバトルロイヤルという謎の催しに対し、リュウは己の中である答えを模索していた。

格闘家の本懐とは、拳に生きる者が目指すべき地点とは何かを。


あの日と同じ……強大な実力を持つ帝王サガットを打ち倒した時と同じ迷いが、彼の中には生じていた。
サガットは帝王の名に恥じぬ力を持っていた……当時のリュウにとって、あれ程の強敵はいなかった。
故に彼は、恐怖を覚えてしまった。
圧倒的実力を持つ敵への恐怖を、敗北―――死ぬかもしれないという恐怖を。

そしてその感情は、リュウに眠る強大な力―――殺意の波動を呼び起こさせてしまった。
殺意の波動を持って放たれた一撃は、サガットを見事打ち倒した。
帝王を地に下し、リュウを勝利に導いた。
しかし……その勝利にリュウが抱いたものは、歓喜でも安堵でもなかった。
言葉では言い表しにくい冷たさ……悲しみにも似た、空虚さであった。


これが自分の目指していた『真の格闘家』だというのか?

格闘家の行き着く先とは、勝利を得る為の絶対的な力―――相手を屠り滅ぼすだけの黒き力だというのか?

205拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:59 ID:MQYImfzM0


「……ほう。
 こんなところで瞑想する奴がいるとは……驚いたね」


その時だった。
リュウの前方―――このコロッセオの入場口より、一人の男がゆっくりと歩き入ったのは。
長身の、こちらもまたリュウに負けず劣らずの屈強な肉体をした男だ。
身に着けているサングラスのおかげで表情は読み取りにくいが……その身から発する闘気で、リュウは感じ取る事ができた。

この男は……この状況に対しての迷いがない。
バトルロイヤルでの闘いを望んでいる……殺し合いを望んでいると。


「見たところ、同じ武道家の様だが……このバトルロイヤルに思うところがあるといったところか?」

「ならお前は、この状況に何も思わないというのか?」


それを理解した上でなお、リュウは男に問いかけた。
同じ武道家というならば、何故そうしたのかと。

これは、単に殺し合いに乗ったか乗らないかというだけの問題ではない。
何故、拳に生きる上でその道を選んだのか。
その意味を問いかけるものでもあった。


「何とも思わない、か……そうだと答えれば嘘にはなるな。
 いきなり何の前触れも無しにこんな場に放り込まれちゃ、流石に驚きもする。
 もっとも……お前の望んでいる答えは、こんな感想じゃないようだがな」


男もまた、リュウの問いの真意を理解していた。
武道家として、血塗られた道を選んだのは何故か。
どうしてこのような道を、選ぶ事ができたのかと。


「武は、力は、敵を倒す為のモノ……命を奪うためのものだ。
 強さを突き詰めようとすれば、自然とそこに行き着く。
 命の取り合いに辿り着く……闘いに生きる者の道は、より強くなるか死ぬかの二択しかない」


武道とは突き詰めれば、敵を倒し殺す為の力だ。
ならばそれを極める為に人を殺めるのは、当然のことではないか。
故に男はその道を選んだ。
それが己が目指すべき強さの行き着く頂点であると、信じているが為に。

206拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:29:42 ID:MQYImfzM0

「違う!
 ただ相手を倒すだけの力が……命を奪うだけの黒い力が、格闘家の行き着く先であってはならない!
 皆が目指す真の格闘家への道が……無為に死に追いやるだけの悲しいものであってはならないんだ!!」


だが、リュウはそれを否定した。
あの黒き殺意の波動が……それが齎すあの空虚な闇が、本当の力である筈がないと。

今まで幾度となく、多くの者達と拳を交わしてきた。
その中で、かけがえなき多くの友と出会ってきた。
彼等と闘い競い合う中で、リュウは何度も思ってきた。


「大切な友との、ライバル達との闘いがあったからこそ俺は強くなることができた。
 尊敬すべき多くの猛者達と拳を交える事で多くを学んだ。
 互いに認め合い競い合う中で、俺は強くなれた!
 ただ屠るだけの力を振るう者には、決して得られない力がある!
 俺はそう信じている……お前の目指す道を、認めるわけにはいかない!」


こうして互いに力と技を磨きあう事で、共により高みへと行けると。
また再び、拳を交えたいと……そう何度も思ってきたのだ。
拳を交わすことで分かり合えた友との絆があるからこそ、今の自分はあるのだ。


「……甘いな。
 そんなもので得られる強さなど、タカが知れている……」


男がその言葉を受け入れられる筈もない事は、言うまでもなかった。
血塗られた道に自ら身を置き、強さを極めようとしているこの男にとって……
リュウの言葉は、甘い戯言以外の何物でもないのだから。
許す事など出来る訳がない。

まして……一目見ただけで『強い』と分かるだけの存在ならば、尚更だ。



「……戸愚呂だ。
 闘う前に、名前を聞いておこうか?」

「リュウだ……戸愚呂。
 お前がその道を歩むというなら……俺は全力でお前を止める……!」


両者が静かに構えを取った。
どうあっても譲れぬものがある。
言葉で分かりあう事などできない。

ならば、拳に生きる者として……ただ、拳を交えるのみだ。

207拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:26 ID:MQYImfzM0




■□■




「小手調べ……まずは30%といったところか……!」


先に仕掛けたのは戸愚呂だった。
自らの上着を脱ぎ捨てると、全身の筋肉を隆起させ、上半身を大型化させていく。
彼が持つ能力―――筋肉操作で、筋肉を発達させたのだ。
そしてそのまま間を置かず、勢いよく地を蹴り疾走。
戸愚呂はリュウに、真正面から右拳を叩きつけにかかった。


「ぬぅん!」
「ハァッ!!」


リュウはそれを左の手の甲で打ち払い―――ブロッキングし、右の拳で胴を狙いにいく。
しかし戸愚呂もまた、この一撃にすばやく反応した。
リュウの拳が胴に到達するよりも早く、右の掌で受け止めにかかったのだ。
そのまま強く握り締め、リュウの拳を封じようとする。


「ほう……!」


が……出来なかった。
リュウの一撃が、戸愚呂が想像していた以上に鋭く重たかったが為に。
掌を通じて、衝撃が腕から全身へと駆け上がっていく。
これ程の打撃は、久しく感じていない。
確かな強さを感じられる一撃だ。


「せいっ!!」


さらにリュウはそこから前に踏み込んだ。
戸愚呂が拳を受けて怯んだ瞬間、素早く右拳を引き、体ごと彼の懐に飛び込んだのだ。
そしてその左腕を両手で掴み、後ろへ振り向きつつその背に彼の巨体を背負う。
実にスムーズに、流れるような背負い投げを繰り出すリュウに成す術もなく、戸愚呂の体は宙を舞った。


「背負い投げか……俺を掴んで投げる奴なんて、本当に久しぶりだ……!」


否。
戸愚呂は投げられ宙を舞った様に見えているだけだ。
彼はリュウの投げから抜け出すのは不可能と瞬時に察知し、逆に自ら勢いを利用して高く跳んだのである。
そうする事で、地面へと叩きつけられるダメージから見事に逃れたのだ。
リュウも投げの瞬間に感じた違和感から、それは察せていた。
しかし、言うには簡単だが実際にそれを実行するのは相応の力量がなければ出来ない。
苦もなく両足から地面に着地する戸愚呂を見て、リュウもまたその事実―――戸愚呂が相当な強さを秘めている事を悟った。

208拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:47 ID:MQYImfzM0


「波動拳ッ!!」


故に、彼は追撃の手を緩めなかった。
戸愚呂の着地に合わせ、すかさずこの技を放ったのだ。
内なる闘気・波動を練り合わせ相手へと打ち放つ飛び道具―――波動拳を。
着地直後の不安定な体勢では、タイミングからして回避は出来ない。


「フンッ!!」


いや、そもそも回避は必要なかった。
戸愚呂は迫りくる波動拳を、拳を振り払い打ち払った。
豪腕による強引な一撃で、掻き消したのである。


「まだだ!!」


しかし、その僅かな動作の隙に。
リュウは前方へとステップし、戸愚呂との間合いを詰めていたのである。
波動拳を防御されること・迎撃されることは既に予測していた。
今の戸愚呂の様に拳の打ち払いで波動拳を破る相手とて、初めてではないのだから。

間合いに入ると共に、まずは左の拳を素早く連続で突き出す。
威力よりも速さを重視した牽制、言わばジャブの連打だ。
対する戸愚呂は、またしてもこれに素早く反応し、腕を交差させてガードをする。
しかし、そこから動きが取れない。
リュウの攻撃による固めがきいており、迂闊に反応が出来ないのだ。
ここで下手に動けば逆に拳をもらい、思わぬダメージを受けてしまいかねないが為に。


「ッ!」


だがそれは、リュウもまた戸愚呂の硬いガードを切り崩せないままでいるという事。
速さこそあれど軽い拳の連打では、戸愚呂のこの防御は到底抜けれないだろう。
ならばと、リュウは行動を切り替えた。
左拳を引くと共に、素早くその場に屈み足による攻撃へと移ったのだ。
真っ直ぐに蹴りを突き出し、その脚部を狙う。


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