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パラレルワールド・バトルロワイアル part2

1 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:17:06 ID:hUjGYcYM
『バトル・ロワイアル』パロディリレーSS企画『パラレルワールド・バトルロワイアル』のスレッドです。
企画上、グロテスクな表現、版権キャラクターの死亡などの要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方は、くれぐれもご注意ください。

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14757/1309963600/

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42 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:11:44 ID:ba3PYlbk



その刹那。
飛び蹴りの態勢に入った戦士の横ばいから、無数の礫が弾け飛んだ。

「……ッ!」

いかに強固な装甲でも、人の形をなす以上必ず隙は生じる。
中空へ飛んだ瞬間での奇襲は体のバランスを失わせ、デルタの必殺技、ルシファーズハンマーを不発に終わらせた。

「まだ……邪魔をするんですね……」

倒れ込んだ姿勢からゆっくりと立ち上がる桜。声に篭った怒気は海堂に向けた比ではない。
どす黒い灼熱の泥の情念を眼前の淑女へと注ぐ。

桜を撃墜せしめたルヴィアの周辺に重火器の類は置いてない。
代わりに差し出された、両の人差し指が機関砲の役目を果たすとばかりに伸びている。
それは遊戯の真似などではなく、指先から銃弾が撃たれた北欧の呪い、ガンドの一工程(シングルアクション)だ。
エーデルフェルト家稀代の魔術回路から生じた濃密な魔力は、通常の効果である体調不良のみならず物理的な破壊力も有している。
それを高速、多量に放射できる白い指は短機関銃(サブマシンガン)のそれと変わりない威力だ。

「ほんとうに……邪魔ばかりするんだから……あなたは」

その威力も、デルタの前には豆鉄砲も同然だ。デルタのボディは態勢を崩されただけで重大なダメージは全く感じさせない。
むしろ魔術師としての腕の器量を見せつけられたことが、火に余計な油を注いだ真似となっている。
沸点を超えて蒸発した悪意が周囲に充満していく。常人なら息を詰まらせる密度の瘴気を溢れさす。

「おいおまえ!結花に会ったのか!?あいつに何しやがった!!」

女二人を中心に形成されかけていた雰囲気に割り込みをかけるのは、ポインターが消え自由の身となった海堂。
彼とて空気を読めないわけでもないが、さりとて事を静観するわけにもいかなかった。
長田結花。『この』海堂にとっては秘めたる想いを向ける相手。
その彼女が危難に見舞われたのを知って黙っていられる程気が長くはない。

「うるさいですね、すこし黙っていてくれませんか?踏み潰しますよ」
「いいから答えろや!結花を……あいつをどうしやがったんだ!!」

これまでにない剣幕で叫ぶ海堂にルヴィアも桜も表情を変える。
それだけで、結花という人物がこの男にとってどれだけ重大なファクターなのかが見て取れた。
まるで愛する者に向けるような叫びになにか苛立ち、桜は鬱陶しげに吐き捨てる。

「さあ……名前は聞いてませんからその人かどうかは分かりませんけど。
 ちょっと痛めつけてあげたら素直に言うことを聞いてくれましたよ。悪い奴らを殺せってね」

43 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:12:21 ID:ba3PYlbk

肩を震わせる。さも可笑しそうに。愉しそうに。
我慢ならずに飛び出そうとする海堂。それを前に出た白い手が阻む。

「貴方は引っ込んでいなさい。そんな頭に血が上っていては先程の二の舞ですわよ」
「邪魔すんな!あいつには言いたいことと聞きたいことが山ほどな……!」
「ええ、その点についてはワタクシも同感です。なにやらあちらから謂れのない因縁をふっかけられてるようですので。
 ですから、ここはワタクシに任せなさいと言ったのです」

正義だの悪だのといった二元論には到底適さない敵意と憎悪。理由を問い質したいのはルヴィアも同じだ。
どの道一度立ち止まって追いつかれてしまった以上、態勢を立て直すための切欠が必要だ。
銃口に晒される危険を承知の上で、暗き仮面に対峙する。

「あら、逃げないんですか?さっきみたいに」
「戦略的撤退とおっしゃいなさい。程度も知れましたので、手袋を受け取る猶予くらいは差し上げたいと思いましてね」

適度な挑発を挟み主導権を握る。こちらが優位なのだと錯覚させるために。

「………………」

無言で立ち尽くすデルタ。
怒りに満ちているのか笑みを浮かべているのか、覆われた仮面の下の表情は窺えない。
ややあって沈黙を破り右の腰のグリップを掴む。
銃のホルダー部分のみを分割すると体表を走るラインが輝き、鎧が解除された。

「……?」

それは余裕の表れなのか、あるいは自身の顔を直接見せることに意義があるのか。
変身を解除し、改めて少女の姿がルヴィア達の前に現れる。

瑞々しい紫の髪は肩まで伸ばし、左の房は赤いリボンで結ってある。
年の頃はルヴィアよりも下だが、既に女性的な体つきは成熟しており、多感な思春期の男子の目を奪うだけの色香を漂わせている。
元の伏目がちな憂いを秘めた表情は見る影もなくなった邪悪な笑みに変わり、逆に女としての魅力を上げている。
さながら蛇か、誘蛾を絡ませる網を張って蠱惑する女郎蜘蛛だ。

「おや、顔を見せて話すだけの殊勝さは持っているようですわね」
「ええ、なんだかこのままじゃ気が済まなかったので。着心地はいいんですけどね」

胸の前で腕を組むルヴィアと、外したホルスターを弄ぶ桜。
声はあからさまな刺が立ち、今にも突き刺さるだけの千の茨となって両者を包んでいる。

「……妙ですわね。どうも貴女の顔には見覚えがあるような気がしますわ。
 視界の外でたまたま網膜に移った程度の無駄な情報ですけど」
「……奇遇ですね。私も知っている人に貴女とよく似た人がいるんですよ。
 ―――とっても嫌いな人と」

44 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:12:56 ID:ba3PYlbk

舌戦はもはや、鞘当てを省略した真剣での鍔迫り合いに入っていた。
まず間違いなく、二人の視線の間には稲妻が飛び散っていることだろう。

「まさか、他人のそら似などという理由だけでワタクシに喧嘩を売ったわけですの?」
「ええそうです。それに貴女、顔だけじゃなく中身までそっくりなんですよ。あの人のことはよく知ってるから分かります。
 だから、悪い人なんです。貴女」

とんでもない暴論だ。これにはルヴィアも辟易した。
理屈が飛躍している。過程が破綻している。
噛み合わない筈の歯車を、それでも無理やりに押し込んで動かした齟齬と軋轢がある。
海堂に対してと同様に、桜はルヴィアを見ていない。
ここにいない、偶々似通っているらしき女の幻影を勝手に重ね見ているのみだ。
そんなのは、妄想の独り言と相違がない。

「貴女みたいな悪い人は、必ず先輩の邪魔をする。姉さんみたいに悲しませて、傷つかせる。私から、何もかも奪う。
 そんな人、いていい筈がないんだから」
「………………」

ルヴィアの脳内で渦巻いていた疑問が氷解する。
どうやらこうして殺して回ってるのは言葉の節々に出てくる『先輩』とやらのためらしい。
それだけなら、いい。愛する者のために鬼女と化す。愚かと嗤いこそするが理解できなくもない。
しかし、この女は今、その理論すら捨てている。
『姉』という存在に鬱屈した感情を抱え、報復に出ようとしている。
しかしその対象が見つからないから、特徴が似ている自分にぶつけようとしている。
正義の執行とも愛故の暴走とも関係がない。ただの私情の八つ当たりだ。

そう理解したら、余白の出来た理性にふつふつと怒りが溜まってきた。
どうして、初対面の相手にここまで絡まれなくてはならないのだろうか。
要するにストレスの捌け口にされているのだ。通りすがりに耳が弟に似ていると難癖をつけて当り散らしているようなものだ。
甚だ迷惑千万であり、不愉快極まりない。

「つまりは単なる憂さ晴らしですか……全くもって品性に欠けていますわね。これで魔術師だというのだから頭が痛くなりますわ。
 ミス・トオサカに輪をかけた、いえ、それ以下の野蛮人ですわね」

銀の装甲服の威圧に隠れていたが、生身の今ならば感じる魔力からこの少女もまた魔術師であると判断する。
それが尚更ルヴィアの琴線を激しく揺さぶってくる。

魔術とは禁忌。常世より隠匿され行われるべき神秘の業だ。
それを用いる魔術師とは、より深く、より高みに昇るために魔術を研究する者だ。
その過程で渦巻く狂気と妄執は、今も夥しい血を流している。
ルヴィアもそちらに身を置く側だ。片足どころか、生まれた頃より魔術の世界に両足に突っ込んでいる。
そこに忌避はない。むしろ誇りを持って邁進している。
エーデルフェルト家の頭首として神秘を継ぎ、より研鑽を積み重ね、やがてその成果を次代に引き継がせるだろう。
だからこそ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは嫌悪する。
年若いとはいえ魔術を学んでおきながら、たまさか拾った力を無差別に振るい快楽に耽る徒を、魔導の恥と言わずしてなんと言おう。

「本来なら触れることすら汚らわしいですが状況が状況。何より売られた喧嘩を買わない野暮な真似は致しません。
 いいですわ。手袋を受け取りましょう。雑草と土の味というものを直々に教えてさしあげます」

ルヴィアが紡いだ発言は多少に挑発の意味も込めたものとはいえ、紛れも無い本心だ、。
その中で選んだ一つの言葉が、追う者と追われる者だけだった二人の関係を変化させる。

45 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:13:21 ID:ba3PYlbk



「貴女、姉さんの知り合いですか?」

考えつかなかった疑問に桜が怪訝な表情を見せる。
遠坂家の頭首である凛ならば交友のある魔術師がいるのも自然だが、この限定された環境下で遭遇することは予想外だった。

「姉、さん?」

ルヴィアもまた、桜の言葉に強い引っかかりを感じた。
今この女は何と言った?
誰を、何と呼んだのだ?

「まさか貴女……トオサカリンの妹?」

口をつぐむ様を見て、沈黙を肯定と受け取る。
有り得ない―――と断じようとしたが、可能性は皆無とは言えない。
魔術の家督は原則として一子相伝。頭首に選ばれなかった子供は魔術の存在さえ知らされずに過ごすのが通例だ。
なら、姓を変え他家に渡っていても不思議ではないだろう。学園の中で顔を見たこともあるかも知れない。
しかしそれでは、この魔力の濃さが説明出来ない。
認めたくないが、性能だけなら自分や遠坂凛に迫るものがある。明らかに魔術師としての修行を重ねている証拠だ。
他の魔術師の家に養子として出された線も無いではないが、それがこうして会することなど余りにも……

(作為的、ですわね)

出来過ぎた人選だ。アカギに何らかの意図が込められていたのは確実だろう。
平行世界、時間旅行、考察する材料は幾らでもある。
だがその前に、目の前に意識を集中させるべきだ。
今はとにかく―――この女を完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まない。

「成る程、合点がいきました。まさかトオサカの一族だったとは……その性根の悪さも頷けますわ」
「一緒にしないで下さい。もう私は姉さんより強い。もう誰にも負けたりなんかしません

 だって姉さんは、もうどこにもいないんだから」



沈黙は、森のざわめきが聞こえる程に場を静めた。

「……どういう、意味ですの?」

声は、本人も気づかぬ程僅かに掠んでいた。寝耳に水とはこのことだ。

「そのままの意味に決まってるじゃないですか。遠坂凛なんて人は、とっくにもう死んじゃってるんです。
 死体なら向こうの方にありますよ。頭を割られてあっけなく、惨めに死んでいました」

森の奥地を指差して死臭の居場所を示す。
桜の顔には張り付いた笑顔。余裕をもって勝ち誇った笑みを見せている。
目の前の女が見せるのはどんな表情か。驚愕?恐怖?畏怖?憤慨か?いずれにしてもその視線は溜飲が下がることだろう。

46 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:13:58 ID:ba3PYlbk



だが、ルヴィアが見せるのはそのどれでもない。
冷ややかな視線は氷の低温で桜を射抜く。さもつまらなさそうに顔を上げ。

「―――――――――無様ですわね」
「……え?」

突いて出たのは、嘲笑。
それは死んだ姉に向けてでもあり、それを桜にも向けられたものだ。
双方に対しての侮蔑で満ちた女帝の貫禄に思わずたじろぐ。

「貴女がミス・トオサカより上?は。ジャパニーズジョークにしても滑稽に過ぎますわ。
 彼女の杜撰な魔術と粗野で暴力的なハッケイと小狡く小賢しい卑怯さに比べれば貴女など一番の小物。まるで相手になりませんわ」

賛辞としては半端ではない扱き下ろした言動。しかしルヴィアは本気だ。
彼女にとって、これが遠坂凛に対する掛け値なしの正当な評価だ。

「ベストも尽くさず限界まで挑まずにただ優れている他を妬む。闘争本能も誇りも捨ててまで道具に頼る。そんな者に真の勝利は訪れません。
 幾ら強かろうがそれは勝者などではない、安物の酒に溺れた敗者です。
 貴女のようなスト女に付き纏われるとは、その先輩とやらも不憫な方です。いやむしろ、これは殿方の品格を疑うべきでしょうか?」

効果的なキーワードなど明白だ。突き出た逆鱗を、思い切り逆撫でしてやる。
優れたアスリートはマイクパフォーマンスにおいても一流であるべし。そこに地の高圧さを織り混ぜれば、それはもう劇物の域だ。

案の定、殺意が膨張していくのが見て取れる。唇を噛む音、爪が肌に食い込む音が軋む。

「許さない。私を馬鹿にしたこと、先輩を馬鹿にしたこと、姉さんみたいな台詞を吐くことが、みんなみんな許せません。
 絶対に―――許さない」
「でしたらさっさとかかって来なさいな。無駄な前口上は試合のムードを盛り下げるだけですわよ。
 ―――それにいい加減、ワタクシも貴女の物言いがトサカに来てますのよ」

視線は、草葉を焦がす稲光となり火花を散らす。
無限の並列に並んでいた因果はここに交差し、新たな因縁を生んでいく。
互いを許せずに、認めずに、己が立つがために敵意を交わす。
女の矜恃(プライド)を賭けた戦いのゴングが、森のリングに鳴り響いた。





そして。
完全に蚊帳の外に追いやられていた海堂直也は。

「なにこれ……こわい……」

二人の鬼女の背中に、修羅を見た。



 ■ ■ ■ ■ ■

47 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:14:31 ID:ba3PYlbk



(手持ちの宝石はストックなし、利用出来る武器もなし……はあ、ミス・トオサカ(びんぼうにん)の苦労が偲ばれますわね)

さて、大見得を切ったわいいが事態は依然として変わりない。
ベルトから精製されるというオルフェノクが使う戦士の力は相当に高い。黒化英霊にも引けを取らないだろう。
正直、正面からの勝ちは拾えそうもない。
万全の状態でも無理難題だというのに、自身の最適な戦闘手段たる宝石もなし。こういう時のために預かったステッキには絶賛見切られ中だ。

そして、ルヴィアに引く気は皆無だ。この戦いに勝機も勝因も勝率も不要である。
女には、絶対に負けられない戦いがある。
賭けたものは誇りであり、それを捨てることは戦わずして敗北する。
例え届かぬ領域の世界でも、退くわけにはいかないのだ。

(とはいえ、負ける気もしませんけど)

それに実のところ、勝機も勝因も勝率も勝算には入ってある。
ここまでは思惑通りの事が進んでいる。しかしこれから先は万事がルヴィア次第だ。
故に、失敗など恐れるまでもない。

「へん、しん」
≪complete≫

囁く魔声。従順な音声が所持者に再び鎧を装着させる。光の線が女性の体を包輪郭を成していく。
その瞬間に、ルヴィアは一気に走り出す。
肉体に魔力というエンジンを回し、体をめぐる魔術回路を白熱させて加速する。
見た目の麗しさを忘れさせる獰猛さと強靭さをもって、世界陸上レベルの速度で近づいてくる。

「ふん、その程度で―――」

変身を完了した桜が接近を察知する。時間にすれば1秒にも満たないコンマの間だが、確かに先手を取られた。
それでも桜の心に焦りは生まれない。
されど1秒、たかが1秒だ。
デルタから付与された力は反射能力も引き上げる。この程度の誤差、容易く取り戻せる。
腰に回した手をひねり銃を構えようとして―――

「っ!?」

かけた指を、魔の銃弾に弾き飛ばされた。
強化された視界に映るのは、黒色の球体。濃縮されたフィンの一撃。
一発で弾き切れないことを考慮してぬかりなく連弾で狙い撃ちにする。
あわよくばツールごと破壊する腹積もりで放ったていたが、初撃を捌いただけでも及第点だ。
ポインターから外された瞬間に撃たれたデルタムーバーは宙で回転しながら草陰に落ちた。

ロスを回収させないまま接近を果たすルヴィア。その距離は接近戦(インファイト)の間合いにまで入っている。
わざわざ近づいてきた持ち込んだ愚を桜は嗤う。銃を落としたならその隙に逃げればいいものを。
むしろ桜にとっては好都合だ。始めから銃では嬲るだけと決めていた。最後は直接手で掴んで引きちぎってやる。
最初の男に与えた惨劇を回想する。あの最中の快感と優越感をこの女で味わえるならなにものにも変え難い。
胸に飛び込んでくる哀れな蟲をつまんでやろうと手を伸ばす。

48 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:14:49 ID:ba3PYlbk

「懐が、がら空きでしてよ!」

迫る魔手を、ルヴィアは大きく屈むことで掻い潜る。
地に手が着く程まで姿勢は野を自在に駆け回る四足獣のそれだ。
腕をかわしダブルレッグダイブを仕掛ける。両足を取られた桜はたまらず倒れる。
テイクダウンを奪っただけでは攻めとはいわない。態勢が崩れた隙に更に内部へと滑り込む。
このまま組み伏せるだけの余裕はない。力の差は覆らないのは変わりない。
絞め技、寝技は却って不利になる。よって追撃の手は別になる。
デルタの胸部を椅子に、腰を据えて座り込む。伸びた人差し指は、橙色の瞳が映る頭部。
篭るのは一点に収束された魔力。
即ちは、装甲内部からの零距離射撃。

「安心なさい、傷は残りません」

全力のルヴィアのガンドは地下通路越しから地盤を突き破る威力を誇る。
たとえ身を守る鎧が厚かろうと、力の逃げ場がない超至近距離からならダメージは免れない。

「っっっ!!!」

二発、三発、加減も容赦もない釣瓶打ちが続く。声にならない苦悶が唇から漏れる。
ソルメタル材質の装甲を通して衝撃が突き破る。その身に覚え込ますかのように。
傷は軽微。痛みも薄い。しかし肉体に命令を起こす脳が前後不覚に陥っている。
痛みの耐性があっても戦闘の心得がない桜には、これは致命的。

「……!調子に、乗って……!!」

それを補うための、デルタの特殊装置。
デモンズイデアにより昂る闘争本能がこれ以上の停止を拒絶する。
ガンドが五発目を越えたあたりで再起動を果たし、のしかかるルヴィアを押し退ける。
体は問題なく動く。受けた屈辱を倍にして返すべく立ち上がろうと膝を立たせる。

その左の脚を別の脚の踏み台にされ。
閃光魔術の膝蹴りが、的確に顎骨に刺さった。

「ぇ――――――あれ―――?」

混濁していた意識を、更なる混乱がかき乱す。
相手の脚を足場にして膝蹴りを浴びせるシャイニングウィザード。これ以上ないほどのクリーンヒットだ。
本来であれば卒倒している所を、デモンズイデアの機能により意識だけは保持される。
よって意識だけが取り残されたまま、動きが完全に停止してしまう。

「これでも倒れませんか。確かに武装だけは一級品のようですわね」

ルヴィアの声も、耳を煩わさす雑音にしか聞こえない。
背中から回された腕の感触にも、気付かない。

「都合よく下は柔らかい地面。たいそう強固な鎧を着込んでいるそうですし……」

足が宙に浮く。重量96kgのデルタのボディが1人の少女の手で浮き上がる。
決めるはフィニッシュホールド。威力、難易度、どれもが文句無しのプロレスの花形技。

「手加減なしで、いきますわよ!!」

視界が、反転、する。
脳天直下。その文字が相応しい落下だ。
余りの威力に落下地点が陥没しクレーターを形成している。
破壊力よりもむしろ、観る者を感嘆させる見事なブリッジがレスラーの力量を示している。
魔術と体術の粋を凝らした絶技、ジャーマン・スープレックス。
華麗にして剛健、美と力が一致した会心のフォールであった。
その結果は、今度こそ沈黙したデルタの弛緩した体が雄弁に物語っている。

淑女のフォークリフリフト、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトVS仮面ライダーデルタ装着者、間桐桜。
一回戦、勝者ルヴィアゼリッタ。試合時間30秒のフォール勝ち。



 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

49 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:13 ID:ba3PYlbk



「……ふう、我ながら惚れ惚れするフィニッシュでしたわ」

額の汗を拭い、満足げに笑うルヴィア。その顔には清々しい爽快感が全身から発散されている。
ベストを尽くして持てる力を出し切り、どのような結果だろうと悔いの残さなず満足出来る者のみが浮かべる表情だった。

ルヴィアが桜、否、デルタに勝機を見出すには、奇襲で隙を突き押し切るしかない。
それも生半可な攻めではいけない。半端に傷つけては警戒され、火に油を注ぐ結果になる。
先手必勝、初撃必殺。全攻撃を頭部に集中させて内側に篭る本体狙いで沈める。
一連の工程で終わらせなければ勝ちを掴むことは出来なかった。

成功する算段はついていた。これまでの流れで敵の性質を把握して、付け込む余地はあるものと判断した。
情報も戦略も無視して衝動的に湧いた殺意に任せて行動する。
他を顧みずに感情的で、弱者には優越感に浸り、強者には激しく食いかかる。
守りを全く考慮に入れておらず、攻めにしても威力の凄まじさの裏に稚拙さと乱雑さが隠れている。
戦闘に関しては完全に素人だと理解するには容易かった。
そも魔術師とは研究が本分。自分のように格闘術に精通してる方が稀有なケースだ。

……とはいえ、それにしても万全を確信していたわけではない。むしろ始めから終わりまで綱渡りの連続だった。
銃をガンドで撃ち落とすのは、装甲に阻まれて弾けなかったかもしれない。
接近戦は、出力に任せて押し倒されていたかもしれない。
どれだけ打撃を加えても耐え切ってしまえば、待っているのは強烈なカウンターだ。
いずれも成功率は高いとは言えず、最善を尽くしても届かない可能性はあった。
不安はあった。しかし恐れとは無縁だった。最悪を想定しつつも己の失敗を疑いはしなかった。
最後にものを言うのは天運と自己を信ずることのみ。今回は女神は此方に微笑んだということだ。

「さて……いい汗をかいた後は優雅なティータイムと行きたいところですが、そうもいきませんわね。
 そこの、ワタクシの荷物をお持ちなさい!あとそこの女の分も!」

体を動かせば喉が乾く。紅茶といかなくとも冷たい水を一杯あおりたい気分だ。
使用人を呼ぶ仕草で手を叩く。いつもは刹那の速さで傍に来てくれる執事がいたのだが、生憎今は不在だ。
仕方ないので現地雇いの冴えない男に指示を下すが……一向に近付く気配がない。

「なにをしておりますの。さっさと持ってきてらっしゃい」
「待て、今の俺に言ったんか!?」
「貴方以外に誰がいますの?ワタクシはこれでも疲れてますの。肝心な所で使えない役立たずは雑用でもこなしなさい」
「んなっ……絶体絶命のお前を身を挺して助けた俺様の超ファインプレーを忘れたとは言わせねえぞ!」
「あんなものでは給金にまるで釣り合いません。後払いだからといって手を抜いてるのではなくて?
 それに、突き飛ばすようではまだまだ紳士度が足りませんわ。いいからさっさと取ってくる!!」
「ぐ……!勝ったと思うなよ……!」
「もう勝負付いてますから」

結局言い負かされて文句を垂れつつ渋々と従う海堂。
生来の人の良さに加えて、彼には気の強い女に弱い因果でもあるようだ。

50 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:33 ID:ba3PYlbk



「―――で、この女を拘束しておきたいのですが、あの姿にさせないためにはどうすればよろしいので?」

戦いが終わっても、その後の事後処理もまた残っている。
渡されたデイパックから取り出した水を飲みつつ、身柄を確保した女の処遇について決めなければならない。

「ベルト渡さなきゃ問題ないだろ。それだけ預かってりゃ……ってそいつソイツ連れてくのかよ?」
「あら、聞きたいことと言いたいことが色々あるのではなくて?ワタクシだって色々問い詰めたいことが山ほどありますし」

長田結花を襲い殺人を強要したこと、遠坂凛の姉妹ということ、尋問の話題は事欠かない。
今になって気付いたが、名前すら判明していないのだ。
荷物だけ奪って放置という手を取るにせよ矯正不可と断じ排除するにせよ、事情を聞き出さねば始まらない。
魔術師である以上暗示の類も効きにくいため、荒療治に出ることも有り得る。
後者においてルヴィアは選択肢のひとつとして捉えてるが、海堂は恐らく前者を選ぶだろう。
面倒を嫌うという性もあるし、人間を殺すことを忌避するのもある。
人殺しの罪罰などは人外の化物たるオルフェノクに測れることでもない。
その相違は、現時点では表面化することなく話は運んでいく。



「これは―――やはりクラスカードも支給されてましたか。ワタクシには使えませんが、あの筋肉女には交渉材料にはなるか…」

回収した荷物を検分しながらも、心は遠い彼方へと回想している。

好敵手と定め、いつの日か必ず雌雄を決すると信じていた魔術師の早すぎる脱落を耳にしても、思った以上に心に波は立たなかった。
名も知らぬ遠坂凛の妹の妄言に耳を貸さぬというわけでも、
平行世界におけるルヴィアとは異なる軸の別人云々と理論武装するまでもなく、
始めから決まっていたことのようにするりと遠坂凛の死を受け入れられた。

何故か。その理由についても分かりきっている。
魔導を学ぶにあたって最初の関門は死をていかんすること。殺し殺され、死んで死なせて、神秘という泥沼にはまっていく。
魔術の世界とは、魔術師とはそういうものだ。生まれる前より魔術師であったルヴィアにとって、それは骨の髄まで染み付いている。
宿敵だろうが肉親だろうが愛する人でも、その死に揺らぐ事など起こり得ない。

感情は死んでいない。悼みも哀しみもするだろう。
しかしそれでも、我を失い取り乱すことはないだろう。
だからこそ、平静を保ち、魔術師としての在り方を損なわないでいられるのはなに一つとして間違ってはいない。
それが、ルヴィアには何故だか気にくわない。
執着してたはずの相手が消えて感慨の沸かない自分。そんな余計なことを考えてしまう自分に腹が立つ。
これではまるで―――寂しがってるようではないか。

心あらずのままルヴィアが銀色のベルトを拾う。小さな好奇心から簡潔に機能を調べる。
魔力の残滓も感じられず素材も全て機械でできた人口製。魔術師にとっては未知の産物だ。
オルフェノクにしか扱えないという武装。海堂に渡せば少しは役に立つようになるかと、ぼんやりと思案する。

51 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:50 ID:ba3PYlbk



その光景を目に焼き付けた、狂える一輪の花が咲き乱れる。

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

事切る絶叫。異界より這いずる女怪の声に驚愕する。
振り返るルヴィア目掛けて、赤い雷撃が走る。
デルタの後遺症。不適合者はベルトの魔力に取り憑かれ暴走し、体内に残留した力が雷となって放たれる。
魔術によるものではない超常現象。反応が遅れたルヴィアは咄嗟に腕を前に出す。
白鳥の指に絡みつく縄。伝わる電撃に流麗な顔が苦痛に歪む。
痺れる左手をよそに、右手は銃弾の装填を構える。
最早躊躇はない。電光の基点である掌を注視し、最悪手首を吹き飛ばしてでも無力化させようと狙いを定める。

「―――――――――あ」

だから、足元から伸びる「影」に気付くのが、一拍遅れた。
形を持つ立体の「影」が躍り出る。命の気配を貪欲に嗅ぎつけて。
魔と呪で形成された泥の飛沫が、青のドレスを呑み込まんと口を広げた。

「ぶねえよけろ―――――――――!!」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

52 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:12 ID:ba3PYlbk



飼育箱で夢を見る。
卵の殻。黒色の黄身。愛の海に記憶は無い。
胎盤にいずる。ラインは初回からして不在。娩出は許されず育まれながら愛に溶ける。
堕胎の記憶は無い。ひたひたと散歩する。
ゆらゆらの頭は空っぽで、きちきちした目的なんてうわのそら。
ぶるぶると震えてごーごー。
からからの手足は紙風船みたいに、ころころ地面を転がっていく。
ふわふわ飛ぶのはきちんと大人になってから。
ごうごう。
ごうごう。
ごうごう。





「―――、―――、――――――」

日の届かぬ森の中で蠢くものがいる。
憂いを秘めた美貌も女性的な肉付きの体もよそに、地面の上にうずくまる。
表情は青ざめ、全身からは汗が流れる。どう見ても健康からは程遠い状態だ。

「――――――足リ、ナイ」

身をよじる原因は青い魔術師から散々喰らった打撃ではなく、体内での強い渇きからだ。

魔力が足りない。
命が足りない。
力が足りない。
誰かが、足りない。
なにが足りないのかも、分からない。

取り戻しようのない深い喪失感。知っている筈なのに名前が思い出せない。
癒えない饑餓を埋め続ける様はさながら地獄絵図の一部のよう。
藁をも掴む思いでもがく手が、堅い物体に触れる。
指先から伝わる感触は、どういうわけか安らぎを与えてくれた。
指を渡って腕、肩、胸、体中をくまなくなにかが侵入する。
デルタの魔力に魅入られた非適合者は薬物中毒者の如くベルトを手元に置こうとする。
その末路は皆灰人の最期だったが、負の感情の発露という点では桜には別の適正があった。
結果として生じた影の魔は、未だ誰にも悟られていない。

「―――誰にも、渡さない」

悪魔に見初められた少女は立ち上がる。その道が堕天の一途を辿るとも知らずに。
主語がない呟き。それは両手で抱きしめるデルタギアなのか、心に決めた人なのか。

飼育箱の夢は終わらない。蟲が潰れるその日まで。

53 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:31 ID:ba3PYlbk



【C-4/森林/一日目 早朝】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、溜めこんだ悪意の噴出、無自覚の喪失感と歓喜、強い饑餓、ダメージ(頭部に集中)
[装備]:デルタギア@仮面ライダー555(変身中)、コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)
[道具]:基本支給品×2、最高級シャンパン@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:先輩(衛宮士郎)の代わりに“悪い人”を皆殺し
0:―――
1:先輩(衛宮士郎)の所へ行く
2:先輩(衛宮士郎)を傷つけたり悲しませたりする人は、みんな殺す
3:あの人(ルヴィア)は―――許さない
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。 平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※「黒い影」は桜の無意識(気絶状態)でのみ発現します。桜から離れた位置には移動できず、現界の時間も僅かです。



 ★ ★ ★ ★ ★

54 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:57 ID:ba3PYlbk



「おい!生きてっか!」

力なく項垂れるルヴィアを背負い、海堂は森を抜ける。
オルフェノクの脚力は瞬く間に草原まで辿り着く。それでも足は止まらない。
行き先は決めてない。とにかく逃げることだけを考えてた。
ルヴィアを襲った、赤い呪詛を刻んだような影。
いち早くそれに気づいた海堂が引き剥がすも、一瞬触れただけの筈のルヴィアは糸の切れたように崩れ落ちた。

そして見た。影としか形容できない、しかし断じて虚像では有り得ない存在を。
黒い海月のような姿は吹けば飛ぶような紙風船にしか見えないのに、何よりもこの空間を支配している。
人間から進化した海堂をして、明確に「死」を意識させる圧倒的な虚無の気配。
アレはヤバイ。ヤバすぎる。生物としての本能が警鐘を打ち鳴らす。
一刻も早く逃げ出さずにはいられなくて、かろうじて倒れるルヴィアを広い全力で逃走した。
判断の早さの甲斐あってか追っ手は来ない。命は繋がったわけだ。

「おいったら!返事くらいしろ―――」
「うる、さい……耳に響き、ますわ……」

いつもの生意気な返事にも覇気がない。見るからに生気を失っている。
危険な状態であることは分かってるが海堂に手立てはない。
安全な場所まで運ぶしかないが、果たしてそんな場所がここにあるのか?
とにかく海堂に出来ることはルヴィアを背負い走る他ない。
こんな女でも、守りたいと思う程度には嫌っていないのだ。

「迂闊でしたわ……まさかあんな単純な、無意識(イド)剥き出しの魔術を喰らってしまうだなんて……
 ―――ふ、ふふふ、ふふふふふふふふ、ふふ。この屈辱、忘れませんわよ」
「なんだ、意外と元気じゃ……ば、首締めんな!もうプロレス技は勘弁だってー!」

僅かとはいえルヴィアも見た。あの影は常軌を、いや超常すら逸している。黒化英霊とは格の違う、邪悪な波動が感じられた。
触れていた時間は一秒にも満たないのに、体内の魔力を根こそぎ奪われた。
魔力と生命力は同義の関係。あともう少しあれに長く捉われていれば、命どころか肉体ごと融解されていただろう。

そうならずに済んだのは、紛れも無くこの男のおかげ。
触手に絡まれかけた体を引っ張り上げ、その余波を少なからず受けているにも関わらず身を挺した。
人類の進化系というオルフェノクでも無傷とは思えない。
先の戦闘にしても、押し倒された時の一撃は際どいものだったのだ。割り込みがなければ抵抗の隙もなく撃たれていたのかもしれない。
疑いなく、自分はこの男に助けられたのだ。

ルヴィアとてそれは理解している。礼を言ってあげてもいい筋合いであるとも思っている。
しかし声を出すのも億劫な今の体調では難儀なことだし、荷物みたいに背負われてるのがなんとなく釈然としない。

「………………」
「ぐぇ……!だーかーらー首締めんな!結構疲れてんだからよー!!」

なのでひとまず、首に回した手に力を込めることにした。

55 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:18:43 ID:ba3PYlbk



【C-4/草原/一日目 深夜】

【海堂直也@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]: 怪人態、体力消耗
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:人間を守る。オルフェノクも人間に危害を加えない限り殺さない
1:とりあえず逃げる。つーか首締めんな!
2:パラロス世界での仲間と合流する(草加含む人間解放軍、オルフェノク二人)
3:プラズマ団の言葉が心の底でほんの少し引っかかってる
4:村上とはなるべく会いたくない
5:あの女(桜)から色々事情を聞きたい
6:結花……!
[備考]
※草加死亡後〜巧登場前の参戦です
※並行世界の認識をしたが、たぶん『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の世界説明は忘れている。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました……がプラズマ団の以外はどこまで覚えているか不明。
※桜の名前を把握していません



【ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消耗(大)
[装備]:澤田亜希のマッチ@仮面ライダー555、クラスカード(ライダー)@プリズマ☆イリヤ、
[道具]:基本支給品、ゼロの装飾剣@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
0:あの女(桜)…次は見てなさい…
1:元の世界の仲間と合流する。特にシェロ(士郎)との合流は最優先!
2:プラズマ団の言葉が少し引っかかってる
3:オルフェノクには気をつける
4:あの女(桜)から色々事情を聞きたい
5:海堂に礼を言いたいが…今は疲れてるしあとにしましょう
6:遠坂凛の死に複雑な気分
[備考]
※参戦時期はツヴァイ三巻
※並行世界の認識。 『パラダイス・ロスト』の世界観を把握。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※桜の名前を把握していません

56 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:20:21 ID:ba3PYlbk
以上で投下を終了します。
タイトルは「淑女のフォークリフトVS仮面ライダー……観客:怪奇蛇男」です。「」はいりませんよ

57名無しさん:2011/10/01(土) 19:54:32 ID:RUYTQOgE
投下乙
ルヴィアは桜が凛の妹って知ったか
凛が死んだのを知ったけど、さすが魔術師と言うか冷静だ
海堂さんは安定の癒しや。女は怖いよ!
もう一度乙でした!

しかし、桜の回想で蟲による陵辱があると思った人は手を上げて! ノシ

58名無しさん:2011/10/01(土) 21:39:21 ID:2pwCTmJc
投下乙。
桜は相変わらず怖い……が、今回はルヴィアの先制攻撃勝ちか。
一話一殺は三話で打ち止め。サクライダーの今後に期待だね。
あと海堂。こんなモノは前哨戦だぞ。

ところでルヴィアって、宝石剣使えるのかな?

59名無しさん:2011/10/01(土) 23:03:08 ID:vGoAIqyk
投下乙です
指摘ですが、最後に桜がデルタギアを両手で抱きしめてるけど
それだと状態表で変身中になるのはおかしくない?

60名無しさん:2011/10/02(日) 00:37:11 ID:Stgt3CGE
投下乙です!ヤンデルタの呪いを海堂さんの癒しパワーが打ち消した・・・?まあ最初と最後以外は外野に撤してたけどw

うーん、ルヴィア△。え、このタイミングで△を書いたらデルタとややこしい?そんなヤンデルタは安定の狂いっぷり、こりゃまだまだ逝けるな。

61名無しさん:2011/10/02(日) 01:17:10 ID:7sVhUqew
投下乙です
凛と結花のことを二人は知ったか
それでもデルタに勝つとは
あとなんか海堂に笑ったw

62名無しさん:2011/10/02(日) 18:25:19 ID:LFhlUj.g
投下乙です

アンリミデットコードも真っ青なルヴィア対桜でしたねw
桜拘束失敗か・・・だれかカレーを持ってくるんだ!

63名無しさん:2011/10/02(日) 22:59:18 ID:LJvv./lU
>>56
投下乙ですー。
女の戦い恐すぎる……折角格好良く決まっていたのに海堂は乙w
ルヴィアは凄く頑張ったが…そもそも桜はまだ変身を1つ残しているのでしかたない(違

64名無しさん:2011/10/02(日) 23:26:59 ID:0NxqAPOk
投下乙です

ルヴィア、抜けてる部分はあってもやっぱり魔術師か
怖い女同士の対決は今回は彼女に軍配は上がったが…やばい状態で逃げられたなあ
さて、お互い因縁が出来た事だしリベンジ戦は起こるのか?

65名無しさん:2011/10/03(月) 21:30:03 ID:GJVjenQ6
業務連絡
>>56 ◆4EDMfWv86Q氏
「淑女のフォークリフトVS仮面ライダー……観客:怪奇蛇男」
が52235バイト(リンク込み)あるそうなので、分割点の指示をお願いしますー。

とりあえずページのみは作成しておきますー。

66 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/03(月) 22:34:49 ID:6M67m8nQ
わかりました。
>>46の内容までが前編、>>47より後編でお願いします。

67 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:37:44 ID:j1MPhj6E
乾巧、衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、投下します

68夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:38:23 ID:j1MPhj6E


 衛宮士郎が立ち上がったことに反応したのは、言うまでもなくイリヤスフィール・フォン・アインツベルンであった。
「どうしたの?」
「少し外の様子を見てくる。静かになったし、少し周りを確認しておかないと」
「じゃあわたしも一緒に行く。お兄ちゃんを戦わせる訳にはいかないし」
 どう断るべきか、とまず士郎は考えた。
 イリヤは先ほどの戦闘で傷ついたし、消耗した。疲労も溜まっているだろうから、戦闘の可能性があるうちは連れて行きたくない。
 傲慢だと思うかもしれないけれど、それが性分なのだ。
 だから、あっさりと見抜かれる。
『おやー、どうやってイリヤさんを置いていこうか考えている顔ですね?』
 士郎は苦い顔のまま、ルビーを睨んだ。
 相手はどこ吹く風で煽り続ける。
『はっきり言って賢い選択とは言えませんね。士郎さんの状態で戦うなんて論外ですし、イリヤさんをここで一人にするのも危ないでしょう。
ただでさえおっちょこちょいなんですから』
「お、おっちょこちょい!?」
「たしかにそうかも知れないけど、ルビーの探知能力ならなんとかフォローできるんじゃないか?」
「いや、お兄ちゃんも否定してよ!」
『フォローといっても限度がありますからねぇ〜……痛い痛い。イリヤさん痛いですってマジで』
 左右に引っ張られながらルビーが抗議するが、見なかったことにする。
「けど、奇襲を受ける可能性を減らすためなら、俺が出るという選択もそう悪くないはずだ。イリヤという戦力を温存できる」
『偵察だけで済むのならいいのですが……士郎さんの場合危なっかしいんですよね。なにか焦っている感じがして』
 図星だと思う。きっと自分は焦っていた。
 桜を探したい、という気持ちは押し殺せない。平行世界の彼女であり、無害なら一番いい。
 自分の世界からなら、罪を重ねる前に再会して保護したい。
 けど、同時にイリヤにも傷ついてほしないし、危険な目にあう人たちをすべて助けたかった。
 正義の味方という道は、諦めたはずなのに。ただ一人、特別な人ができてしまい、相応しくなくなったのに。
 それでも長年追い求めたものは完全に消えるはずがなく、静かに士郎の胸にくすぶっている。

 この場に海堂直也という青年がいれば、士郎を『夢に呪われている』と評しただろう。

「……お兄ちゃん、わたしは絶対ついていくからね」
「イリヤ……」
 目を合わすと、彼女の瞳には強情な色が濃く映っていた。
 なぜか鏡を見ているようで落ち着かない。どうにも自分の世界のイリヤと比べて調子が狂う。
 知らずにため息を吐いた。
「わかった、イリヤ。一緒に行こう」
 パッと彼女の顔が明るくなる。士郎の行く道を決めた、自分の世界のイリヤと違う笑顔なのに、本質的なものは似ていた。



69夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:39:07 ID:j1MPhj6E
 乾巧は諦めていた。
 マミが連れていかれたところにも、ファイズのベルトがあると言われた方角にも向かう気になれない。
 けっきょく呪われた体だ。ならば誰も巻き込まないほうが楽である。
「づッ――――!」
 ズブリ、と矢を引きぬいてから地面に捨てていく。肉が返しによってえぐられ、激痛が走るがとっくに慣れていた。
 戦い、傷つくのはいつものことだ。
 総毛立つような痛みにも耐え切り、巧は血が流れるままに任せて歩くのを再開した。
 普通なら手当をしなければ死ぬのだろうが、簡単にいかないことを知っている。
 まるで苦しみが長く続くのを願うかのように、オルフェノクの体は自分を生き永らえさせる。
 はあ、とため息を吐き、一歩踏み出すが膝に力が入らない。ドサッと、全身が土の上に放り出される。
 このまま殺人者が自分を発見したのなら、きっと殺してくれるだろう。それもいい。
 半ば本気でそう思いながら、巧は目を閉じた。
 聞きなれた声が、『死ぬなんてダメだよ、たっくん!』と叱咤したような気がしたが、幻聴だと片付けた。
 彼との絆はとっくに絶たれたのだから。


「おい、大丈夫か!?」
『あー、あまり揺らさないほうがいいですよ。倒れたときに頭を打ったかもしれませんし。
ひとまず背中の血をなんとかしてから運んだほうがいいでしょう』
 やはり出て正解だった、と士郎は思った。
 倒れているウルフカットの男に布を巻き付ける。デイパックを一つ解体して用意したものだ。
 傷の手当てをしていると、意外と深くないことに拍子抜けする。いや、回復が早いだけか。
 普通の人間ではないかも知れない。だけど、誰だろうと関係ない。男を背負い、元の民家に向かう。
「お兄ちゃん、手伝おうか? 変身すれば軽々と運べるよ!」
「申し出はありがたいけど、イリヤは周囲の警戒を頼む。今襲われたらひとたまりもないからな」
 現状だと、二人の手がふさがっているような状況は避けたい。
 イリヤを戦わせないためには怪我人を担当させるも良かったが、ルビーが反対するのは目に見えている。
 軽いくせに妙に聡明な人工精霊は、こちらの意図を正確につかむだろう。
 事実、今も『上出来ですね』と評するかのようにつぶやいていた。
 こっちだってそれくらいの分別はつく。
「あれ? この矢……」
「イリヤ、どうした? 早く行くぞ」
「あ、待ってよお兄ちゃん」
 とりあえず、前に進まないことには話しにならない。
 士郎はイリヤと共に踵を返した。

 もしもこのとき、矢を回収していたのなら、イリヤはクロと再会する可能性があったかもしれなかった。



70夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:39:37 ID:j1MPhj6E
 包丁がリズミカルにまな板を叩く音で、巧の意識は覚醒した。
 ああ、きっとここは啓太郎のクリーニング屋だ、と起き始めに巧は思った。
 ならば厨房にいるのは啓太郎か、真理か。腹が減った。
 真理の機嫌が悪ければ熱いものが出され、喧嘩になるだろう。
 意地を張り合う二人を前に、啓太郎がべそをかきながら仲裁に入る。
 そんな当たり前の風景が、なぜか涙がでるほど懐かしかった。
 台所から人が歩いてくる。人影の大きさからして真理はありえない。ならば啓太郎か。
「なんだ啓太郎、もう朝か? まだ暗いだろう、たく……」
「悪い、俺は衛宮士郎っていうんだ。ケガの具合はどうだ?」
 目を瞬き、巧は周囲の状況を把握した。
 そうだ、思い出した。
 オルフェノクであることをみんなに明かし、クリーニング屋に戻れなくなったはずだ。
 真理を、草加を殺したかも知れないから、誰も自分の傍にいてはいけない。
 けっきょく、啓太郎は殺された。マミは知らない相手が保護したのだろう。
 一人になれた。そのはずなのに、衛宮士郎とは誰だ。
「……なんのつもりだ?」
「っと、悪い。俺は倒れているあんたをここに運んで、手当てしただけだ。どうこうしようって気はない。
まあ、ちょうど朝飯もできたし、ちょっと早いけどあんたもどうだ?」
 士郎と名乗った男は笑顔でお椀を目の前においた。
 眩しいほど白い粥に、卵やきのこが乗っている。湯気がたっており、作りたてだとわかった。
 香りが鼻孔を刺激し、空腹を刺激したが受けるわけにはいかない。
「ハラは減ってねえ」
 グゥ、と巧のお腹は素直だった。バツが悪く、巧は顔をしかめる。
『いやあ、お約束のパターンですねえ』
「うわっ、なんだこれ!」
 ひらひらと飛んできた玩具のような杖に、思わず声を上げた。
『まるでゴキブリでも見たような反応ですね、失礼な!』
「気にしないでくれ。こんな見た目でも、俺の仲間だから」
 青年が苦笑しながら肩をすくめる。人懐っこい顔で、普通なら気を許すだろう。
「お兄ちゃん、もう入っていい?」
「イリヤ……まあ大丈夫だ。こちらに害を加える気もなさそうだし」
 巧はその言葉にムッとして立ち上がった。
 正確には怒ったのではなく、自分の存在を思い出したのだ。
 兄と呼んでいることは、あまり似ていないが兄妹なのだろう。二人して巻き込まれたのは運がいいのやら、悪いのやら。
 いや、きっと悪い。なぜなら自分を助けてしまったのだから。
 巧は無言で立ち上がり、玄関を視線で探した。
「出口はどこだ?」
「急にどうした。朝飯が気に入らなかったのか?」
「俺に構うな」
 何度も口にした拒絶の言葉を残し、巧は家を出ようとする。
 その肩を士郎はあっさりと掴んで抑えた。
「離せ」
「ダメだ。ふらついた状態じゃないか。俺たちだって戦闘に巻き込まれたんだ。あんただって例外じゃないだろう?
同じ目に遭うとわかって、そのままで外に出させるわけにはいかない」
「お前には関係ない」
 冷たく返し、手を払おうとする。だが、彼の手は縫いつけられたかのように動かなかった。
『よろしいではありませんか。本人が余計なお世話というのなら、放っておいても』
「あのな、俺は死ににいくような真似を目の前で見過ごすわけにはいかないんだよ」
 ため息が出る。自分にそんな価値はないのに。

『――正義の味方みたいな真似をしないで、自分や大切な人を優先してもいいんですよ? 少なくとも、今は』

 士郎と名乗った男は、杖の言葉で一気に顔色を変えた。

71夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:40:48 ID:j1MPhj6E
 妹らしき少女が不審げに彼の顔を覗くが、気づいていない。
「――――か」
 オルフェノクの聴覚は、かろうじて小さな声を拾った。だけど彼は繰り返す。
「正義の味方になりたいと思うのはおかしいか?」
『おかしいと言うよりは、現状だと厳しいというだけです。爆弾抱えたままだとわたしたちの身どころか、自分の身を守ることもままならないわけでして……』
「わかってる……そんなことはわかっている」
「お兄ちゃん……?」
 士郎は一拍おいて続ける。
「俺だって……大切な人を守ることを優先した。誰も彼も助けられるとは思っていない」
 そして諦めた。そんな彼の心の言葉は、巧には届かなかった。

「だけど俺はずっと、みんなに幸せになってほしい。俺にできることなら、助けたい。そう思って生きてきた。だから――」

 たまらず、巧の腕が伸びた。無意識に士郎の襟首を掴む。
「お兄ちゃんになにを――――、えっ?」
『おおっと、不良の因縁か! ――ってあら?』
 彼女は自分の顔を見た瞬間、怒気を萎えさせた。
 杖は興奮したようにブンブン飛んでいたが、少女と同じように勢いをなくす。
 そんな状況を尻目に、巧は思わず力が入る。
「ふざけんな」

 ―― …………みたいに、…………したい。

「あんた……」
 士郎もなんとも言えない顔をしている。
 そして、巧は胸の内から感情があふれるのを、止められなかった。

「ふざけんな! なんで……なんで、啓太郎と同じ夢を持っているんだよ!」

 ―― 世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなを幸せにしたい。
 巧が気を許し、口とは裏腹に尊敬した相手は、大きな夢を持っていた。


 アーチャーの言葉を思い出す。
『だがおまえが今までの自分を否定し、たった一人を生かそうとするのなら――その罪(つけ)は必ず、おまえ自身を裁くだろう』
 けっきょく、自分は正義の味方を諦め、桜の味方であることを選択した。
 今もそうだ。彼女を救うため、イリヤを守りながら探している。
 目の前の彼を助けたのは夢の残滓、残りカスであり、『衛宮士郎』の魂に刻み込んだ習性によるものだ。
 たとえ正義の味方を諦めても、倒れている誰かを、不幸な誰かを放っては置けない。
 だけど、根源にあるのは罪悪感だ。あの災害のとき、自分だけ生き残ったことによる罪の意識。ゆえに自分を捨てていた。
 それが魔術師には壊れていると言われる、自分の本質だ。
 なのに、彼は自分と同じ夢を持つ人を知っているという。
 健全な形で、こんな夢を見れる相手を知っているという。
 辛そうな表情は、その誰かを喪った証拠か。
 そして、彼について一つ理解した。
 この夢を笑わなかったのだろう、と。
「…………やっぱり、あんたを一人で行かせるわけにはいかない。
なにがなんでも、あんたを助ける。同じ夢を持っている奴を知っているなら、しつこいってこともわかるだろ?」
 相手の顔が痛みに耐えているかのように歪む。
 何がそんなに辛いのかわからない。いや、士郎はわからないふりをしている。

72夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:41:44 ID:j1MPhj6E
 その感情は一番身近で、違うものであって欲しいと願うものだからだ。
 青年は士郎を突き飛ばし、睨んでいた。だが、敵意は全く感じ取れない。
「だったらお前を殺してでも通る……ッ!」
 相手は深呼吸をして、狼のごとく吠えた。
 いや、『ごとく』などという生やさしいレベルではない。
 彼の全身が水面のように揺れて、体を白い外骨格が覆いかぶさる。
 狼の顔がこちらを見つめ、白い人狼が姿を見せた。
「あのときの……お兄ちゃんッ!」
 イリヤがルビーを手にとって前に出ようとしたが、手で抑える。
 士郎は拳を振りかかる白い獣をまっすぐに見据えていた。
 恐ろしい速度で拳は士郎の頬を捉えている。殴られればひとたまりもなく、確実に命を奪うそれは、自分の頭には届かなかった。
「……なんで……だよっ!」
「あんたに俺は殴れない」
 衛宮士郎は、正義の味方になりたかったと告げる切嗣を笑えなかった。
 憧れ、また自分もそうなりたいと願った。
 だからわかる。

「この夢を笑わない奴が、否定しない奴が、俺を、誰かを殺せるかよ」

 あのとき、切嗣に安心して欲しくて、夢を継ぐと宣言した自分のように。
 眼前の男と自分は、どうしようもないほど似ていた。


 数分ほど睨み合った後だ。
 相手は人狼の姿をやめ、ストンと力なく腰を下ろした。
「あのときはイリヤを助けてくれたんだな。ありがとう」
 巨大ロボに襲われたときの礼を言うと、相手はそっぽを向く。
 いくらか冷めたが、ほんのり熱を残す玉子がゆを「食べてくれ」と差し出した。
「じゃあ、イリヤ。少し早いけど俺たちも飯にするか」
「うん! 相変わらずお兄ちゃんのご飯は美味しそうで楽しみ!」
 安堵しているのかイリヤの反応も早い。
 ちなみに自分たちはオーソドックスにご飯、味噌汁、焼き魚だ。
 焼き魚は一応、彼の分も作りおきしている。温め直す準備も万全だ。
 それぞれに朝食を手に取るが、一人だけ手をつけていない者がいた。
「やっぱり俺たちは信用できないか? それでも構わないけど……」
 彼は面倒そうにこちらを見たあと、おわんをとってスプーンを口につけた。
「あちっ! まだ熱いんだよ! フー、フー!!」
 意外な文句に士郎はポカンとした。先ほども言ったように、粥はある程度冷えていたはずである。
 それで熱いとは、度を超えた猫舌だ。
『えー……なんというか……』
「今まで手をつけていなかったのって、猫舌だから……? うわ……」
 イリヤとルビーがジト目をフーフー息をかける彼に向ける。
 ますます不機嫌になった青年はムキになって、吹きかける息を強めた。
 次の料理は熱くないものがいいか、と士郎はメニューを脳内で並べ始める。

「乾巧だ」

 ボソッと、聞き逃しかねない声量で自分勝手な自己紹介が終わった。
 巧は何ごともなかったかのように、粥を冷まし続けている。
 イリヤもルビーもやれやれ、と呆れ気味だ。
 だけど、士郎は頬が緩むのを抑えきれなかった。



 士郎は知らないし、巧も無意識で気づいていない。
 園田真理は偶然、巧の名前を知った。
 この儀式でも、横にいた啓太郎や、名前を呼んだ木場の経由で名前を知った相手ばかりだ。
 巧が最初に自己紹介で名前を告げた相手は菊池啓太郎だ。
 この儀式で自分一人で名前を告げた相手は衛宮士郎だ。
 だからもう、心のどこかでこの二人を認めたのかもしれない。

73夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:42:26 ID:j1MPhj6E


【F-2/民家/一日目 早朝(放送直前)】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:カリバーン@Fate/stay night、アーチャーの腕
[道具]:基本支給品2人分(デイバッグ一つ解体)、お手製の軽食、干将莫邪@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:イリヤを守る
2:桜、遠坂、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す(桜優先)
3:巧の無茶を止める
4:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
5:桜……セイバー……
6:なるべくなら巧の事情を知りたい
[備考]
※十三日目『春になったら』から『決断の時』までの間より参戦
※アーチャーの腕は未開放です。投影回数、残り五回
[情報]
※イリヤが平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小) 、ダメージ(小)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ、クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:お兄ちゃん(衛宮士郎)を守る
2:ミユたちを探す
3:お兄ちゃんには戦わせたくない
4:乾巧の子供っぽさに呆れている
5:あまりお兄ちゃんの重荷にはなりたくない
6:もう一人の自分の事が、少しだけ気がかり
7:バーサーカーやセイバーには気を付ける
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、治療済み
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい。
1:隙を見て二人の元から離れないが、なんとなく死なせたくない
2:衛宮士郎が少し気になる(啓太郎と重ねている)
3:マミは探さない
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識
※金色のロボット=ロロとは認識していない

74 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:42:52 ID:j1MPhj6E
投下終了
なにかしらミスがありましたら、指摘をお願いします

75名無しさん:2011/10/15(土) 19:54:30 ID:MoJEVOUA
投下乙です。
誤字だと思いますけど、巧の思考の1がちょっと変になってます。
あとは主観の切り替えが判りづらい事を除けば、いい話だと思います。

しかし、いつ食べるんでしょうね、お手製の軽食w

76名無しさん:2011/10/15(土) 22:56:36 ID:9yDalhdo
>>74
投下乙ですー。
当然のように朝食を作る士郎、流石だw
しかし士郎と巧は何かどこか通じるものがあるのか。 パーティとしても中々だし期待ですなー。

77名無しさん:2011/10/16(日) 00:24:22 ID:Mtxeq4g6
投下乙ー
出たー!たっくん必殺の猫舌だー!
いやまあそれはともかく、仲直りできたのはよかったな。
士郎君、真逆の方角では桜がエライことになってるんやでぇ…

78名無しさん:2011/10/16(日) 02:18:00 ID:RHf/RV/k
投下乙です!なんとか無事に合流できたようで。しかし最後に猫舌たっくんw

79名無しさん:2011/10/16(日) 17:20:12 ID:0Vy32Jc6
投下乙です

猫舌www
士郎もいい味出してるなあw
まあ、合流出来たのは何よりだ

80名無しさん:2011/10/16(日) 18:40:17 ID:9CB0/its
しんみりしつつ和やかにしてるな。
自分から名前を教える事に重みがついてくるのは印象的だ。
投下乙。

81 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:18:34 ID:mfS682sw
予約分投下します

82闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:22:23 ID:mfS682sw
真理とタケシの二人はバーサーカーの脅威からどうにか逃げた二人は流星塾へと向かっていた。
普通に考えると向かう場所は洞穴なのだろうが真理の向かった場所は山の上だった。
地図に書いてある流星塾は山岳地帯にあったものだが、記載されているそれは洞穴の中にあるように思える配置である。
しかし真理は偶然そうなっていると思い、洞穴ではなく一直線に流星塾へと進行していた。
真理としては当然だろう。彼女にとって流星塾の思い出はとても楽しく、大事であったものであり、洞穴の中にあるべき建物ではないのだから。
だが、たどり着いた場所にあったのは一つの小さな山小屋だった。

「ここがこの流星塾ってところですか?」
「違う…、じゃあ流星塾は…?」


もし草加雅人なら、少なくともこの場にいる草加雅人であれば迷うことなく洞穴へと行ったであろう。
スマートブレインの地下で流星塾を見た彼であれば。そこで見た様々なもの、そしてその場にいた存在を見た彼であれば。
だが園田真理は知らない。彼女にとって流星塾での出来事は楽しかった思い出として刻まれているのだから。

位置を何度確認してもここが流星塾のあるエリアであることには間違いはないはずである。
だが外を見渡してもあるのは山岳の風景のみ。流星塾どころか建築物も見当たらない。
そもそもこの山小屋自体かなり不自然な位置に建っているものなのだが。

(じゃあこれはやっぱり…。でも言い出しにくいなぁ…)

タケシはやはり洞穴から行く場所なのではないかということも薄々気が付いていた。
だが、ここに来るまでの間に真理からはその流星塾という場所で過ごした思い出を聞かされていた。
その思い出を話す際の真理の顔がとても楽しそうで、とても輝いているように思えたのだ。
そんな彼女にこの事実を伝えるのは、タケシも躊躇せざるをえなかった。

真理は落胆しつつもあの巨人から逃げてきた後のこの移動で疲れたのか小屋にあった椅子に腰掛ける。
タケシはというともう少しじっくり見たいようで、小屋にあった家具などを物色していた。
無論その最中ずっと真理にどう切り出すべきか考えているようだった。
ずっとこうしていても埒が明かない。

「ん〜、どうしたものか…。あれ、グレッグル?どうした?」

ふと気付くとグレッグルは室内にあった棚の前に座ってそれをじっと凝視していた。
棚には何も置かれておらず、特に何かあるようには見えなかった。

「どうした?ここに何かあったか?」

問いかけてみるとグレッグルはタケシの方を一度向き、頬を膨らませた後また棚を見つめた。
何度見ても何かあるようには見えない。
と、その棚を凝視しているとある違和感に気がつく。

83闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:24:17 ID:mfS682sw

「ん?そういえばここの壁…」

一度小屋の外に出るタケシ。
それが違和感の正体が何なのか気付く。

「どうしたの?」
「ここの壁なんですけど、他の場所と比べて妙に厚みがあるみたいなんです」

そう、棚のある一角だけがなぜか他の三角より不自然な厚みがあった。
ぱっと見では分かりづらいが外と見比べるとその違和感はかなりはっきり分かる。

「つまり、どういうこと?」
「ここに何か隠されてるんじゃないかと…」

何かといってもこの場にあるのは棚だけである。
だがこのような場所にあるとすればこの棚自体に何か仕掛けがあるということのはずだ。
何かあるか確かめるために横から押してみたり色々まさぐってみるタケシ。
だが特になにか起こる様子はない。
タケシは棚にもたれかかり考え込む。

「おかしいな…。ここ絶対何かあるんだけど…」
「ケケ」

ふとグレッグルが鳴き声を発し、
その直後だった。棚が突然扉のように横に動いて、後ろの余分なスペース部分が開く。
突然開いたその中に、棚にもたれかかっていたタケシは驚きのまま入り込んでしまう。

「?!何だ!?」
「ちょ…!タケシ!!」

慌ててそこに吸い込まれるタケシを追いかける真理。
グレッグルがその後飛び込んできたと同時にその扉は閉じる。

「……」

訳も分からず呆然とする二人。
だが何が起きたのか把握するにはそこまで時間は掛からなかった。

「これ、エレベーターよね?」
「…みたいですね」

中はあまり広くはなく、何もない空間があるだけだった。
しかし、この空間が下に向けて動いていることは分かった。
しばらくしてまた扉が開くと、そこに広がっていたのは山小屋ではなく、真っ白で小さな空間だった。
行き止まりかと思いつつ壁に手を触れた時、そこが開き薄暗い廊下にたどり着いた。

84闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:27:17 ID:mfS682sw
「これは…どういうことなんですか?」
「分からないわ。でも…」

懐中電灯を片手に先頭を歩く真理。
やがてある一つの扉に手をかける。
中は机や椅子が積み重ねられており、床には色々なものが散らかっていた。
足元に気を付けながら、部屋の奥、絵が貼られている壁の前に立つ真理。

「間違いないわ…」

そこには様々な絵があった。多くの人が描かれた絵。男の子と女の子の二人が手を繋いでいる絵。
絵を描いた者の名前はこう記されていた。「園田真理」「草加雅人」

「ここは、流星塾よ」





ナナリーは流星塾へと向かうために洞穴へと向かっていた。
幸いにもすぐ近くに山道があったようで、そこまでの道もネモの導きのおかげで転んだりすることなく行くことができた。
だが、洞穴内はかなりデコボコしており、車椅子での移動はなかなか困難だった。
時間をかけながらもどうにかたどり着いた奥にあったのは一つの扉だった。

「中には誰かいる?」
『探知機を見る限り、この中にはいないようだ。この山の上に二人いるみたいだな。
 まあ気にすることはないだろうな』

マップ上では山の上にいるようだった二人の参加者の反応。確かにこの場から気にする物ではないだろう。
そうナナリーも考える。ただ、念のためにこまめにチェックはするようにしておく。

扉を開けて中に入るナナリーとネモ。
目の見えないナナリーには辺りの視覚情報を得ることはできない。
よってそれはネモに任せる。

「この中の様子ってどうなってるの?」
『確かここは流星塾と言う名前から教育施設とは考えていたが…、どうやらここは学校のようだな』
「学校?」
『ああ、どちらかと言えば昔日本にあった物に近いな。だがそれはかなり前の話のようだが』

辺りに無造作に積み上げられている机こそあるものの、廃校にしては随分と綺麗な廊下である。

85闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:29:51 ID:mfS682sw
(しかしここも学校か…。なぜこの場にはこうも学校が置かれているのだ…?)

ネモがマップを見たときから少しだけ思っていたこと。それはこの場に来て疑問となり始めた。
ナナリーの通っていたアッシュフォード学園。さらにそこからそれぞれ反対に離れた位置にある穂群原学園、見滝原中学校も名前からして学校だろう。
そして今いるこの流星塾。
なぜここまで学校が配置されているのだろうか。
学校だけではない。マップ上には参加者の家と思える施設まであった。
間桐、夜神、鹿目、美国、衛宮。
夜神を除くと一人ずつしかその苗字の者はいない。
ついでにNの城というのもある。
ただの民家であるならそこまで重要にはならないはずであるが、学校のこともあわせるとどうも気になってしまう。
何か意味でもあるのだろうか。

(考えすぎならいいのだがな)

だがこればかりは実際に行ってみないと分からないだろう。今いるこの場所もそうだ。

『ん?ナナリー!』

そんなことを考えながらナナリーの手にある探知機を見ると、不可解なことが起こっていた。

「どうかしたの?」
『さっきの二つの光点、この建物の中に入ってきているぞ』

山の上にいたはずの二人の参加者はどうやったのかこの流星塾の中に移動していた。
いくらネモでもずっと探知機を見ていた訳ではない。どうやってここまで来たのか、その瞬間を見損ねてしまった。
何らかの瞬間移動の能力を持っているのか、はたまた何かの移動装置でもあったのか。
己の中の油断を呪うネモ。そうこうしている内に光点はこちらに近付いてくる。

「警戒しなくてもいいわネモ。きっと彼らも殺し合いに乗っているわけではないはずよ」

足音はかなり慎重に足を運んでいる。その足取りから辺りを警戒しているのが分かる。
ナナリーの耳には少なくとも危険な人間のものとは思えなかった。
一つ気になるのは足音が三つしていることだろうか。二つは特におかしいところはないが、一つはかなり小さい足音だった。
その小さな足音がこちらに近付いてきた。
その足音はナナリーの目の前で止まる。

『?!何だこいつは?!』

ネモの驚く声が聞こえる。
ナナリーは小さな子供か何かかと思って手を差し出し、優しく声をかける。

86闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:31:34 ID:mfS682sw
「大丈夫よ。私はあなたを襲ったりしないわ」

ナナリーの手にその手が触れるのとさっきの声の主が近付いてくるのは同時だった。

「おい、グレッグル。お前どうし…、あ」

こうしてナナリーはタケシ、真理と出会った。



「あの、気を使わなくても大丈夫ですから…」
「いや遠慮しなくてもいいんだよ。こんな足場じゃ危ないだろう?」

ナナリーはタケシに車椅子を押されていた。
盲目で車椅子の少女という姿は真理、タケシに警戒心を起こさせることもなく。
ナナリーからしても声や雰囲気から特に悪い人ではないと印象づけ、おかしな齟齬も生まれることもなく今に至る。


「このグレッグルという子、ポケモンというのですか?」
「なんかそういうみたい。あなた何か知ってるの?」
「ちょっと気になることがあって。私の支給品にこんなものがあったのですが分かりますか?」

そう言ってバッグから取り出したのはプロテクター。
ポケモンという単語が記されていた支給品である。

「あ、これプロテクターだ」

タケシはそれを一目で何なのか把握する。
岩タイプのジムリーダーを勤めていたタケシにとっては重要なアイテムだ。
それを使うことで進化したドサイドンは彼の弟が継いだジムにもいる。

ナナリーは持っていたもう一つの支給品のことも一応聞いてみた。
タケシは知らなかったがそちらは真理が知っていた。
真理はそれを巧の持っていたファイズ強化ツールであることを説明する。

「じゃあこれは真理さんが持っていてください。私が持っていても仕方ありませんし」

そう言ってファイズアクセルを渡すナナリー。
真理としては巧と合流したときのために必要な物であり願ってもないことだった。
だが、同時に真理の中に一つの不安が現れる。
もしかして今巧の手元にはファイズギアはないのではないか、と。
タケシに支給されていたカイザギアもその考えの根拠の一つだ。
カイザギアがここにあるということは雅人や啓太郎の手元にはないということを意味する。
同じように、巧の手元にファイズギアがあるとは限らないのだ。
ではもしかすると、巧は今あの姿で戦っているというのだろうか?
木場や村上のような敵と。さっきのあの巨人のような怪物と。

87闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:35:00 ID:mfS682sw

「あの、タケシさん。そのポケモンという生き物についてもう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「そういえば詳しく聞いてなかったわ。この際だから教えてくれない?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。いいでしょう、このポケモンブリーダー、タケシ。
 分からないことがあれば何でもお答えしましょう!さあマリさん、聞きたいことがあればなんでもぎゃ!!」

真理の手を取り熱く語り始めるタケシに毒突きを食らわせ止めるグレッグル。

「あ…、大丈夫ですか…?」
「…だ、大丈夫、いつものことだから…」

慣れとは恐ろしいものだ。
しばらくグレッグルに引きずられていたタケシは間もなく立ち上がって何事もなかったのようにナナリーの車椅子を押し始めた。





流星塾の中を回っても特に変わったものは見つけられなかった。
真理の記憶からはかけ離れているほど散らかっているところが多かったものの、過ぎた年月を考えれば当然だろう。
しかしここを掃除する者はいなかったのだろうか?あの日々の後間もなくだれもいなくなってしまったというのだろうか?

と、ここまで考えたところで自分があの流星塾とこの場にある流星塾を同じものとして考えていることに気付く。
この場にある流星塾はあくまでこの場にある流星塾だ。いくら似ていようとあの思い出の場であるはずもない。
流星塾をそのままこの場に持ってくるでもしない限り。


やがて真理達が入ったのは理科室だった。
そこは当然何の変哲もないただの理科室である。真理の記憶の中では。
その通り、辺りにあるのは実験器具や人体模型など理科室定番の道具ばかりだ。
当然誰もいないはずの薄暗い空間である。


そしてある机に近付いたときだった。

「えっ?」

机の上においてある電灯に突然明かりが点ったのは。
そして薄暗い中では見えなかったものが目に止まる。

「これは…」

もしこれが本来の、会場に設置されたこの流星塾に通っていた真理であれば分からなかっただろう。
否、推測は立てられただろう。父親から送られてきたそれとそっくりであるこの物体に。
だが、ここにいる真理はそれとかなり似通った物をよく知っていた。
人間居住区に攻め入るオルフェノク達の、あの日大軍で襲い掛かり自分と乾巧を引き離したあの兵士達が装備していたものだから。

88闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:37:19 ID:mfS682sw
机の上で円柱のケースの中で何かの液体に浸かり浮いている物体。
それはスマートブレインの開発したライオトルーパーのベルトに似たものだった。

「これは…、あのカイザとかいう物にそっくりですけど…?」
「スマートブレインのオルフェノク部隊の兵士が使っていたものに似てるわ
 試作品か何かかしら?」
「もしかしてさっきの時計のファイズっていう言葉に関係があるのですか?」
「これは言ってみればファイズギアの量産型みたいなものなのよ」

真理としては思わぬ収穫だ。
繋がっているコードを外してバッグに入れようとしたところで真理の腕を掴む者がいた。
グレッグルが真理のその腕を掴んだ。
見ると何だか身震いしているような動きをしている。

「…真理さん、これって普通の人が使ったら危ないんじゃないんですか?」
「まあこれオルフェノク専用の物みたいだし。ただ知り合いに使えそうな人がいるから一応ね」

自分で使うことはできないが、仲間になってくれるオルフェノクがいたときこれがあると少しは戦力の足しになるだろう。
それにベルトについての情報を得る材料になるかもしれない。 

と、ここまで言ったところで真理はその知り合いの中にオルフェノクがいるということを言うべきかどうか考えた。
オルフェノクという存在を知らない彼らがオルフェノクかどうかで敵か味方かを判断するとは思えない。
巧はもちろん長田結花、海堂直也のように味方になってくれるだろう者もいるが、オルフェノク側についた木場、スマートブレイン社長の村上が仲間になってくれるとは思えない。
今は切り出しにくいが巧のためにもどこかでタイミングを見て話しておくべきだろうと考えた。


スマートバックルをバッグにしまい、理科室を見て回るが、他におかしなところは見当たらなかった。
ナナリーが持っていた探知機を見せてもらっても周辺には特に人が来る様子はない。
とりあえず理科室を出る三人。
これ以上ここにいても仕方ないと判断した真理は出口に向かいながら二人に意見を聞く。

「ねえ、二人はどこか行きたいところってある?」

本来ならここでしばらく休息をとってから出発するつもりだったが、この散らかりようと薄暗さでは休息はとれないだろう。
ならば人間居住区まで行こうかと思ったが、特にタケシにはこんな所まで付き合わせた事もあり、そっちの意見を優先しておこうというのが真理の考えだった。

89闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:42:58 ID:mfS682sw
「いいんですか?真理さんの知り合いがここに来るってことも考えられますけど」
「あ、そういえばそっか」

タケシに言われてその可能性を考える。
しかしもし巧や啓太郎との合流を考えるのならばここからは遠いがH-3のクリーニング店の方が向いている。
長田結花や海堂直也のような者達などこの場の存在も知っていないはずだ。彼らならむしろ居住区に行くだろう。
ここに来るとすれば雅人くらいしかいない。
ならばこの場にいる意味は薄いと思える。
一応何か書置きくらいはしておこう。一緒に居たくないとはいえあんな奴でも仲間なのだから。


「まあ大丈夫よ。ここに来そうな仲間はあんまりいないと思うし。
 ただもしものために伝言残して行くからあの絵のあった教室に寄らせて」

そう、あそこなら雅人への伝言を残しておく場所としては適しているだろう。

通る場所は来た道と同じ場所だ。
何箇所か鍵の掛かった部屋もあったが真理の記憶の中では特に何かあった場所でもないらしいのでそこは通り過ぎることにしていた。
あの謎の染みも今となっては気にするものではない。そのまま三人と一匹は通り過ぎる。
ただ、タケシには、そこを通り過ぎるときにその染みを気にかけるグレッグルが気になっていた。




「にしてもここ洞窟の中じゃない!
 なんでこんな所に流星塾があるのよ…!」
(ああ、やっぱりそうだったんだな)

その後最初の教室から出てきた真理は出口へ戻ろうと来た道を戻った。
しかし来た時のようにエレベーターの扉が開かずしばらく立ち往生するはめになってしまった。
だがナナリーの入ってきた場所からなら出られるだろうということで普通の入り口から出たのであった。
洞窟に埋まっているという事実に真理が怒ったのは出口から洞穴に入ってすぐのことだ。

流星塾を出たところでどこへ向かうのかまだ決まっていなかったことに気付く。

「タケシ、ここから近くに休めそうなところってない?」
「それならちょうどいいところが。この滝の下にあるポケモンセンターなんですけど。
 ここなら俺の仲間も立ち寄る可能性があるんです」
「あー、じゃあそこでいっか。ナナリーはどうするの?」
「滝の下、ですか…。分かりました。私もご一緒させてください」

タケシはもしナナリーが行きたい場所があるのなら優先するつもりではあったのだが大丈夫だったようだ。
そこについてから色々と情報交換すればいいだろう。
真っ暗であった夜も明ける時間は近い。
この深夜に移動詰めだった三人はとりあえずの目的地に向けて出発した。

90闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:44:52 ID:mfS682sw
「ところでポケモンセンターって何なのよ?」
「ポケモン達の治療や回復ができる施設で、一応我々の休息場所としても適した場所です。
 あ、そういえばポケモンについての説明まだでしたね…」
「あー、そんな話もあったわね。まあ向こうに着いてからゆっくり聞くわ」
「そうですね。ではこのタケシ、ポケモンセンターに着くまでマリさんをエスコートさせてもらいましょう!
 さあ、その手をこちらに――ぐほっ!!」

そんなやりとりの中、真理の中で一つだけ気になっていることがあった。
雅人への伝言を残すためあの教室に改めて入ったときに気付いたもの。
深く考えはしなかったがほんの少し疑問に思ったそれ。

(あそこの教室の地面にあった染み、あれは何だったんだろ?)





『さっきのあいつのこと、やはり気にしているのか』

ネモが問いかけてくる。自分にしか聞こえない声と今会話するのは控えたかったため頷くぐらいしかできなかったが。
さっきのあの少年は滝の下に落ちていったのだ。もし無事ならそこの近くにある施設にいる可能性はある。
なぜ戦いを仕掛けてきたのか、彼の兄とは誰なのか。もう少し話す時間があれば分かり合えるのではないか。
そういったことも気がかりだった。

『ああ、そういえばあのグレッグルとかいうやつ、意外と面白い能力を持ってるみたいだ』
「え…?」

聞くと、どうもあのグレッグルという生き物があのベルトを押さえたとき、ネモも一瞬何かを感じ取ったらしい。
見えたわけではないのではっきりとは分からないが、危険なものだったというのだ。
偶然かもしれないがネモは何か予知に近い能力を持っているのではないかと推測している。
いや、それ以上にもしそうだとしたら、

『あのベルトはあの二人が思っている以上に危険なものなのかもしれんな』

ナナリーの中の不安が大きくなる。
あの二人は悪い人ではない。まだ出会って間もないがナナリーにはそれがはっきり分かった。
そんな彼らが危険な目に会う。それは嫌だった。
だが何と言って説明すればいいのか。そもそも確信もないことを言って大丈夫なのだろうか。

『ナナリー、こういうことでは私が手を貸すことはできない。
 もし力のことを言うのも自由だ。だが後悔することはない選択をしろ』

それっきりネモは話しかけなくなった。
何か考え事でもしているのだろうか。

あの謎の少年、真理の持っているベルト、そしてアリスや兄達の捜索。問題は多い。
向かう先に何があるのか。ネモのギアスは何も示さない。

91闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:45:46 ID:mfS682sw
【B-6/洞穴付近/一日目 早朝】

【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(少)、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:Jの光線銃(4/5)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:ポケモンセンターへ行く。
2:タケシと同行。とりあえず今は一緒に行動。無駄死にされても困るし……
3:怪物(バーサーカー)とはできれば二度と遭遇したくない
4:巧以外のオルフェノクと出会った時は……どうしよう?
5:名簿に載っていた『草加雅人』が気になる
6:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません
 しかし機を見て話すつもりです   
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません


【タケシ@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:疲労(少)、背中や脇腹に軽い打撲、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:グレッグルのモンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:カイザギア@仮面ライダー555、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:ピンプク、ウソッキーを探す
1:真理、ナナリーと同行。ポケモンセンターへ向かう。
2:ピンプクとウソッキーは何処にいるんだ?
3:サトシとヒカリもいるらしい。探さないと!
4:菊池啓太郎と出会えたらカイザギアを渡す
5:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
6:『オルフェノク』って奴には気をつけよう
7:万が一の時は、俺がカイザに変身するしかない?
8:並行世界?
[備考]
※参戦時期はDP編のいずれか。ピンプクがラッキーに進化する前
※真理から『パラダイス・ロスト』の世界とカイザギア、オルフェノクについての簡単な説明を受けました
※真理から『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えてもらいましたが、誰がオルフェノクかまでは教えてもらっていません
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません

92闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:47:13 ID:mfS682sw
【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康
[装備]:呪術式探知機(バッテリー残量7割以上)、ネモ(憑依中)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:ポケモンセンターに同行する
2:とにかく情報を集める
3:人が多く集まりそうな場所へ行きたい
4:ルルーシュやスザク、アリスたちと合流したい
5:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)ともう一度会い、できたら話をしてみたい
6:自分の情報をどこまで明かすか…?
[備考]
※参戦時期は、三巻のCODE13とCODE14の間(マオ戦後、ナリタ攻防戦前)
※ネモの姿と声はナナリーにしか認識できていませんが、参加者の中にはマオの様に例外的に認識できる者がいる可能性があります
※ロロ・ランペルージ(名前は知らない)には、自分と同じように大切な兄がいると考えています。ただし、その兄がルルーシュであることには気づいていません
※マオのギアス『ザ・リフレイン』の効果で、マオと出会った前後の記憶をはっきりと覚えていません
※ネモを通して、ルルーシュら一部参加者の名前を知りましたが、まだ全ての参加者の名を確認していません
※園田真理、タケシとはまだ名前しか名乗っていません。

【ネモ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康、ナナリーに憑依中
[思考・状況]
基本:ナナリーの意思に従い、この殺し合いを止める
1:とにかく情報を集める
2:参加者名簿の内容に半信半疑。『ロロ・ランペルージ』という名前が気になる
3:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)を警戒
4:マオを警戒
5:ポケモンとは何だ?
[備考]
※ロロ・ランペルージの顔は覚えましたが、名前は知りません
※ロロ・ランペルージを、河口湖で遭遇したギアスユーザーではないかと認識しています
※アカギは、エデンバイタルに干渉できる力があるのではないかと考えています
※琢磨死亡時、アカギの後ろにいた『何か』の存在に気が付きました。その『何か』がアカギの力の源ではないかと推測しています
※参加者名簿で参加者の名前をを確認しましたが、ナナリーにはルルーシュら一部の者の名前しか教えていません
※マオが自分たちの時間軸では既に死亡していることは知りません
※ナナリーに名簿に載っていた『ロロ・ランペルージ』の名前を教えたかどうかは後続の書き手にお任せます


【スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555】
花形がオルフェノクの王に対抗するため製作した変身ベルト。
オルフェノクが使用することでライオトルーパーへと変身できる。
というのは完成品の話。
こちらは花形曰く失敗作であり、変身は不可能。
人間であれば装着するだけで死亡、オルフェノクであってもダメージを受ける危険物となっている。




※流星塾の絵が掲示してある部屋に草加宛の真理の書置きがあります。

93 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:48:40 ID:mfS682sw
投下終了です
問題点などありましたら指摘お願いします

94名無しさん:2011/10/23(日) 19:18:01 ID:QfTE2Tzc
投下乙です!こちらも無事合流、しかし話すべき事は山積み……ってなに嫌なフラグにしかならないのを拾ってますかw

95名無しさん:2011/10/23(日) 20:38:52 ID:6bH4EnU6
投下乙っす
どうにか合流は無事に済んだか…エリア的にもしばらくは安全だな
失敗作…ビリビリの刑に誰かが処されることになるのか…w

96名無しさん:2011/10/23(日) 22:20:07 ID:eoZXBFT.
>>93
乙です。

>>82の一行目の文章が、日本語としてちょっとおかしいみたいです。

97名無しさん:2011/10/24(月) 21:53:24 ID:6DKYcehk
>>93
投下乙ですー。
ふむ、やはり流星塾は地下なのかー。 なにやら危険なものまであるし。
グレッグルは地味にナイス。 見た目からだとアレだが結構バランスはいいメンバーなのかな?

98 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/24(月) 23:14:25 ID:XtedG2Qk
指摘と感想ありがとうございます
文章はwiki収録の際に直しておきます

それにしてもなんでこんな文章になってるんだ

99名無しさん:2011/10/25(火) 21:39:31 ID:n7ITWlVw
投下乙です

言いたい事は既に上で言われているなあ
とりあえず色々としなければならない事が多いんだよなあ…

100名無しさん:2011/10/28(金) 02:12:31 ID:j1eMktMo
投下乙です。
未完成スマートバックルって、装着すると死ぬのか。
満身創痍のたっくんが変身しようとして、止めを刺される図が頭に浮かんだ。

ところで、非常に重箱の隅な指摘で恐縮なのですが、真理の話し方に少し違和感があります。
今回のSSの真理は「分からないわ」「~かしら」みたいなちょっと芝居がかった喋りかたをしていますが、
どちらかと言うと「分かんない。でも…」「~じゃないかな」みたいな、少し砕けた話し方をする子じゃなかったかなと思います。
まどマギで例えると、ほむほむやマミさんよりもまどかに近い感じだったような。


劇場版555の記憶がだいぶ薄れてるので、劇場版真理の話し方はこれで正しい!とかだったらごめんなさい。

101 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/28(金) 03:02:20 ID:8lBTdw0M
おや、そうでしたっけ
一応wikiにて修正してみました
どうも口調はうろ覚えのキャラだと難しいもので

102 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:53:27 ID:QIHkP89I
これより、間桐桜、藤村大河を投下します。

103悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:54:54 ID:QIHkP89I



 飼育箱で夢を見る。
 廃墟の巣穴。
 黒色の蛹。
 誕生の記憶はない。
 繁栄にあつく。
 ルーツは原初からして不明。
 滅日の記憶はない。


        ◇


 ――――…………ィ……―――


 ふらふらと熱に浮かされたように彷徨う。
 あれだけあった高揚感は、身を削る様な飢餓感にすり替わり、まともな思考を奪っていく。
 まるで底なし沼。もがけばもがくほど沈んでいく泥の泉。
 もうどこに向かっているのかわからない。
 そこに向かうことに意味があるのかさえわからない。


 ―――足リ……ナイ―――


 ああ、意味など考えるまでもなかった。
 私はあの人の所へ向かうのだ。
 あの人のために、より多くの人を斃(コロ)すのだ。
 そのために、この飢えを満たして力を付けるのだ。


  ―――足リナイ―――


 だから私は歩いている。
 だってこっちからは、

「―れ? もし――て……桜ち――? やっぱ――――んだ。 よかっ―ぁ、無――ったの―。もうホント心――たんだか―」

 とてもオイシソウな匂いが――――


 フラフラと覚束ない足取りで声のした方へと歩く。
 ゆらゆらと揺らぐ視界で相手を捉える。
 目の前には、舌が蕩けそうなご馳
「―――ふじむら……せんせい?」
 目の前には、最後に見た時と何ら変わりない藤村先生の姿がある。

 あれ……?
 私は今、何を考えていたのだろう。
 頭は熱くてぼうっとしているのに、辺りはとても寒くて、矛盾した感覚に吐きそうになる。
 まるでぬるま湯の泥の中にいるみたいに気持ち悪い。

「よーし、これ――とは士郎と――バーちゃ――遠坂さ――けね。だいじ――――いじょ―ぶ、みんな元――してる――」
 頭がズキズキして、ぐらぐらして、藤村先生の声が良く聞こえない。
 けど先輩の名前で、ふわふわ浮いていた頭がひょっこり顔を上げて、
 姉さんの名前で、ギシリ、と右手に握っていた物を軋ませた。

 ……なにを、軋ませたのだろう。
 恐る恐る右手を覗きこめば、そこには私に力をくれるグリップが。
 腰にはベルトが、いつでも変身出来るように巻かれている。

「あ――も、士郎―――ぱり心配―え。セイ―――ゃんは強―し――坂さ――あ――いい―ら何とか―――だけ――士郎――ら無暗――――突っぱ―――うだ――なあ」
 辛うじて認識出来た言葉から、藤村先生が何を言ったのかを推測する。
 先生は、先輩が心配だ、と言ったのだろうか。

104悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:55:36 ID:QIHkP89I

 ああ、確かに先輩は心配だ。
 もう死んだ姉さんなんかどうでもいいけど。
 先輩はすぐにどこかに行ってしまいそうで、鳥籠にでも閉じ込めてないと安心できない。

 じゃないとあの姉さんに似た人に、先輩を盗られてしまうかもしれない。
 もっと力を付けないと。力を付けて、はやくあの人を殺さないと。

「そ―――ても――難――え。みん―――こん―――に巻き――れる――て。
 殺―合い――てやっ―――るかー! って感――ねー」
 たぶん、殺し合いなんてやれるか、と藤村先生は言ったのだろう。
 まったくだ。殺し合いなんて先輩が悲しんでしまう。
 そんな事は許せない。
 だから殺し合いなんて終わらせないと。
 もっと力を付けて、“悪い人”を殺さないと。

 そのためにも――――タクサンゴハンヲタベナイト。

「ッ――――――――………………!?」
 今……なにを考えた?
 私は一体、“何を食べようとした”?

「私………藤村先生を………?」
 そんなはずない。そんな事考えてない……!

 人間なんて食べれないし、食べたくもない。
 それに食べるということは命を奪うということで、それはつまり殺すということだ。
 藤村先生は“悪い人”じゃないから殺しちゃいけないし、そもそも先生は先輩と同じ大切な人で、


 ………でも、目の前の藤村先生は――――こんなにも美味しそうで――――


「――ゃん、どうし―の? 顔―悪いよ? 具合――悪い―?」
 意識が飛んでいた。ちゃんとしていないと、記憶がコマ送りみたいになる。
 その間に、藤村先生が、私の様子を心配して近づいていた。
 その様子があまりにも無防備で、あまりにも簡単に捕らえれそうで、私は、

「だめ、来ないでください……!」
 出来る限りの力で、必死に自分を抑え込んだ。

 怖い。怖い。怖い。
 私は今、何より自分が怖い。
 どうして私は、藤村先生を殺すことを考えてるんだろう。
 どうして私は、大切な人を食べようとしているんだろう。

「さ――ちゃ――…?」
 私の声に思わず足を止めた藤村先生が、心配そうに名前を呼んだ。

 ああ、どうしてこの人はそんな顔が出来るんだろ。
 藤村先生は本当に私の事を心配して、気に掛けてくれている。
 でもその様子には何の陰りもなくて。
 こんな所に呼ばれたのにまだいつも通りの明るさを保っていて。
 けどそれは、

 藤村先生は何も知らないからで。

「どう― の? なん― ―つも―桜ちゃ― ―ない ?」
「いつもの……私……?」
 その言葉に、グラリ、と天秤が傾く様な音を聞いた。
 いつもなら心が癒されたその明るさが、今はどうしてか癇に障る。

「いつもの私って……何ですか?」
「――らちゃ―  ? ―体――  ?」
 間桐の家の事を黙って、自分が魔術師である事も黙って、セイバーさんの事も黙って。何もかも黙ったまま、藤村先生も、先輩さえも騙していた私の事?
 それともあのジメジメとした薄暗い蟲倉で、よくわからないものに嬲られていた私の事?

105悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:57:18 ID:QIHkP89I

 そんなの決まってる。
 藤村先生は何も知らない。
 先輩が魔術師だって事も知らない。
 何もかも隠していた、嘘の私しか知らない。

「魔術師でも何でもない、なんにも知らないくせに……」
 私の事も、セイバーさんの事も、先輩の事も。
 なんにも知らない、まるで白紙のノートのようで、
 そんなんだと、

「藤村先生。私、藤村先生が思っている様な綺麗な女の子じゃないんですよ?」
 ぐちゃぐちゃに汚したくなってしまう。
「                              」
 真っ白な画用紙を黒いクレヨンで塗り潰すように。まだ誰も踏んでない新雪を滅茶苦茶に踏み荒らすように。ひらひらと舞う綺麗な蝶の肢を一本一本引き千切るように。
 目の前でそれをした時、この人は一体どんな顔をしてくれるのか、想像しただけで笑いが込み上げてくる。

「小さい頃からよくわからないものに触られて、汚れてない所なんかどこにもなくて――――今だって、私の手は真っ赤に汚れていて」
「                              」

 ああ――――私、おかしくなってる。

 そんな事をする意味はないのに。
 そんな事をしたら大切な物を壊してしまうのに。
 そんな事をしたくてしたくて堪らない。
 こんなんじゃ私、きっと先輩に嫌われてしまう。
 でも。

「でもいいんです。こんな私でも、出来る事があったんです。先輩の為に、私が代わりになるんです」
 こんな私でも、先輩の為に出来る事はある。
 今の私だから、先輩の為になれる。

「                              」
「先輩は優しい人だから、こんな殺し合いに呼ばれたら悲しんでしまう。
 先輩は正義の味方だから、きっと誰かを助けるために無茶をしちゃう。
 だからそうなる前に、先輩を悲しませる人はみんないなくなってもらうんです」
「                              」
 ベルトの力さえあれば、誰にも負けない。
 さっきはちょっと油断したけど、もう失敗なんてしない。
 今度こそちゃんと殺してあげるんだから。

「そうすれば先輩は悲しまない。
 そうすれば先輩は傷つかない。
 そうすれば先輩は、ずっと綺麗なまま」
「                              」
 あの夕陽のグラウンドの中、諦めてしまえという思いを、頑張れという想いに変えてくれた少年。
 あの人に守ってもらいたいと願ったから、今度は私が、あの人を守って見せる。
 だから。

「藤村先生。私にとっては、あなただって綺麗な人なんです。
 優しくて、暖かくて、子供みたいで。なんにも知らないからこそ綺麗な藤村先生」
「                              」
 私と先輩と先生の、大切な日常の象徴。
 先生がいなくなったら、先輩が悲しむ。
 先生がいなくなったら、帰る場所がなくなってしまう。

「だから、来ないでください。
 いま近づかれると、わたし――――何をするか、わからない」

 壊したくないのに壊してしまいそうで、近くになんて居られない。
 今にも“影”が粟立って、藤村先生へと襲いかかりそうで怖い。
 自分の事なのに自分がわからなくなりそうなのが一番怖い。

 だからはやく、藤村先生から離れなきゃ。
 はやく“悪い人”をみんな殺して、いつもの日常に帰らなきゃ。

「へんしん」
 体を黒と白の装甲が覆う。跳ね上げられた身体能力で駆けだす。
 見る見る離れていく藤村先生。ただの人間である彼女には決して追いつけない。
「                              」
 その爽快感が心地いい。藤村先生と別れるのが心苦しい。―――から離れるのが口惜しい。
 私を引き止める声がしたけど、止まったら自分がどうなるか分からない。

106悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:58:31 ID:QIHkP89I

「、っ――――――」
 本当は、藤村先生の傍にいたかった。
 藤村先生の傍で、いつものように笑っていたかった。
 あの日溜りのような人と一緒に、先輩に会いに行きたかった。
 けど、今の自分じゃ先生を殺してしまう。

「………ぃ………」
 全身を包む高揚感。
 今までは心地が良かった力。
 今でも心地が良いそれは、けれど。

「こんなんじゃ、足りない」

 もはやより強く、飢餓感を覚えさせるモノでしかなかった。

「足りないから、苦しいんだ。
 足りないから、傍にいられないんだ」
 全身を苛む飢餓感。
 そのせいで私はおかしくなってるんだ。
 “悪い人”じゃないのに藤村先生を殺そう(食べよう)としているんだ。

「――――――――」
 足りないものはわかっている。
 もとより欲しいものは一つだけ。
 それ以外のものなんて何もいらない。
 それを手に入れる為にも、

「早く会いたいです、先輩」

 はやく、先輩に会わなければ。
 先輩に会えば、この渇きも満たされる。
 そうすればきっと、いつもの自分に戻れる。

 けど。

「――――あの人の所為だ」
 こんなに渇きを覚えたのは、あの人と会ってからだ。
 あの人が、姉さんに似たあの人さえいなければ、私はおかしくなんてならなかったのだ。

 あの人がいる限り、私はまたおかしくなってしまうかもしれない。
 せっかく満たされても、また乾いてしまうかもしれない。
 そうしたら今度は、先輩まで殺したくなるかもしれない。

 ―――そんなのは許せない。

「……許せない―――絶対に許さない」
 姉さんみたいな口をきいて、先輩をバカにして、私をおかしくして。

「ははは、あははは………」
 ああ、ホントにおかしい。
 こんなにも腸が煮えくりかえっているのに、あとからあとから笑いが込み上げてくる。

 でも理由は明白だ。
 あの人が私にした事は、間桐の家で私がされた事とはぜんぜん質が違う。
 あんな風にバカにされたことは初めてだった。
 私だけじゃなく、私の大切な人まで貶められたのは本当に初めてだった。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――――!!!!」

107悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:59:04 ID:QIHkP89I

       そう。

 こんな屈辱は味わったことがない。
 こんな恥辱は身にうけたこともない。

 ―――だから、愉しい。

 あの人に、この身を焦がすほどの憤怒をぶつけ、叩きつける時がどれほど気持ちよい事か想像もつかない。

 壊す。壊す。壊す。
 少しずつ、一息に、この上なく優しく、痺れるぐらい残酷に、あの命を犯しつくそう。

 そう。

 四肢を引き千切って肋骨をあばいて臓物をよじり出して、助けをこう喉を踏み潰して眼を噛み砕いて頭蓋を切開して脳髄をバターのように地面に塗りたくるその瞬間―――――!


「待っていてください、すぐに殺してあげますから……!」


 愛する人への想いを胸に、憎悪を振りまいて少女は駆ける。
 藤村大河という日常に照らされた少女は、それ故に自身の闇をより濃くさせる。
 それはあたかも、ふらふらと揺れる振り子のように。光に照らされ現れる影のように。

 笑って、狂ったように笑い続けて、少女は全身に紅い紋様を蠢かせていた――――


【B-5/森林/一日目 早朝】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化(小)、『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、溜めこんだ悪意の噴出、無自覚の喪失感と歓喜、強い饑餓、ダメージ(頭部に集中)
[装備]:デルタギア@仮面ライダー555(変身中)、コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)
[道具]:基本支給品×2、最高級シャンパン@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:先輩(衛宮士郎)の代わりに“悪い人”を皆殺し
0:先輩に会いたい
1:藤村先生から離れる/あの人(ルヴィア)を惨たらしく殺す
2:先輩(衛宮士郎)の所へ行く
3:先輩(衛宮士郎)を傷つけたり悲しませたりする人は、みんな殺す
4:あの人(ルヴィア)は―――絶対に許さない
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※「黒い影」は桜の無意識(気絶状態)でのみ発現します。桜から離れた位置には移動できず、現界の時間も僅かです
※頭部のダメージにより、外界の認識が難しくなっています。

108悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:59:33 ID:QIHkP89I


        ◇


 そうして間桐桜は、藤村大河の前から走り去って行った。
 慌てて追いかけようと彼女もまた走り出すが、
「ま、待ってよ桜ちゃぶふっ!!??」
 彼女の腕から離れ、その足を掴んだピンプクによって無理矢理に止められた。

「うごごごご。い、いたい……物凄くいた〜い」
 ビタン、と顔面を強打し、激痛に悶える。
 それでもやるべき事があるからと身を起こすが、ピンプクに足を掴まれたままで動けない。

「プクちゃん? お願い離して、はやく桜ちゃんを追いかけないと!」
 足を引っ張りながらピンプクにそう言うが、ピンプクは首を振るばかりで離さない。

「どうして!? 今の桜ちゃん絶対変だった! だからあのまま一人にするなんて出来ないよ!」
 間桐桜は明らかに様子がおかしかった。
 自分が何を言っても上の空で、魔術師だとかなんにも知らないだとか自分は汚いとか、そんなよくわからない事ばかり喋って。
 挙句の果てには士郎の代わりになるとか言って、ヒーローみたいに変身してどこかへ行ってしまった。

 あんな状態の彼女を放っておくことは、これでも根っからの教師である藤村大河に出来る事ではなかった。
 しかし、

「プクちゃん?」
 ピンプクは、明らかに何かに脅えてその体を震わしていた。
 今にも泣きそうなのを堪えて、自分を押し留めていた。

 ピンプクが何に脅えているのかはわからない。
 だが自分の勘も、何かがヤバイことは感じていた。
 それと間桐桜の事は別問題だが、ピンプクを放っておくこともまた、藤村大河には出来なかった。

「………わかったわ、プクちゃん。おいで」
 その言葉で、ピンプクは大河の胸に飛び込んだ。
 それでも怯えたままのピンプクを安心させるように抱きしめる。

「桜ちゃん………」
 もうどこにも姿の見えなくなった間桐桜を思う。

 彼女に何があったのかは分からない。
 今すぐにでも追いかけたいが、今のピンプクの状態ではそれは出来ない。

 けど、間桐桜と話がしたかった。
 そうしていつもの彼女に戻って、いつものように笑って欲しいと思った。


【B-4/教会跡近く/一日目 早朝】

【藤村大河@Fate/stay night】
[状態]:額に大きなこぶ、顔面強打
[装備]:タケシのピンプク@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品、変身一発@仮面ライダー555(パラダイスロスト)、不明支給品0〜1(未確認)
[思考・状況]
基本:出来ることをする
1:桜ちゃんを追いかけたい。けど……
2:事が終わった後だろうとは思うが、一応教会跡に行ってみる
3:士郎と桜を探す
4:セイバーと凛も探す
5:南から聞こえて来た音の正体が少し気になる
[備考]
※桜ルート2月6日以降の時期より参加
※ミュウツーからサトシ、タケシ、サカキの名を聞きました
※Nの部屋から『何か』を感じました。(それ以外の城の内部は、ほとんど確認していません)
※間桐桜の状態が“危険”であると感じ取りました

109 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 17:00:49 ID:QIHkP89I
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

110名無しさん:2011/10/28(金) 17:04:37 ID:IZmDvcf2
投下乙です!
藤ねえ、無事に生き延びてくれて良かった! 桜もどんどんやばくなっていくなぁ……
彼女がこれから堕ちてしまうのかそれとも立ち直ってくれるか……
もしも士郎と出会ったら、どうなるだろう。

111名無しさん:2011/10/28(金) 17:34:34 ID:eXHvkqVE
投下乙!
あぶねえ…まさにタイガー危機一髪ってところか
桜が最後の一線を踏みとどまれたのは幸運なのか不運なのか…
しかしほんとタイガーが死ぬかと思ってハラハラしましたw

112名無しさん:2011/10/28(金) 21:55:18 ID:Afvmc6vM
>>109
投下乙ですー。
おおお、どうなるかと思ったけどもギリギリ助かったかー。
桜にとってはある意味士郎よりも知られたくない聖域的な人だしなぁ。

113名無しさん:2011/10/29(土) 08:29:00 ID:gAz134O.
投下乙です!

タイガーはなんとかギリギリ、ってとこかな。しかしこれ桜がルヴィアも士郎が好きって知ったらとんでもないことになる予感しかw

114名無しさん:2011/10/29(土) 11:50:33 ID:IusJDN9w
投下乙
プクちゃんかわいいよプクちゃん
タイガーと士郎次第で説得もでき…たらいいな
ここまで堕ちたら難しそうだが

115名無しさん:2011/10/29(土) 22:34:16 ID:a9.5V.e6
投下乙です

タイガーが、或いはタイガーならと思ったけど完全に堕ちた人間には…
とりあえず生きてはいるが桜にとって士郎とは違う意味で特別だったのかなあ…

116 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:24:54 ID:PEXuR5os
草加雅人、鹿目まどか、投下します

117天使のような悪魔の笑顔 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:25:29 ID:PEXuR5os


「ここは段差があるから気をつけて」
「はい……きゃっ!」
 可愛らしくバランスを崩すまどかを、草加は片手で軽々と支えた。
 申し訳なさそうな彼女に対し、笑顔を向ける。
「ごめんなさい、迷惑かけちゃって……」
「気にすることはないさ。外灯があるとはいえ、暗いところの移動は危険だからね」
 なだめつつ、周囲を警戒しながら草加は民家が密集する道を進んでいた。
 もともと夜での行動は、オルフェノクが活動時間に決まりがないためお手の物だ。
「けど、本当にわたしの家にむかってよかったんですか?」
「構わないさ。流星塾は逃げないしね。ところで、その喋り方でいいのかな?」
「こっちのほうが楽なんです」
 そうか、とだけつぶやいた。
 草加たちが向かっているところは、彼女の家である。
 最初に提案されたときは煩わしさも感じたが、魔法少女である彼女の友人が集まるかも知れない、と聞いて判断を変えた。
 杏子とは一合だけ交わした間柄だが、力自体は侮れるものではない。
 オルフェノクや三本のベルトに匹敵するくらいの力はあるだろう。
 ならば敵に回さず厄介な敵にぶつけるか、味方にするべきである。
 先は長い。北崎に村上峡児、木場勇治と始末せねばならない存在は山ほどいる。
 対してこちらの武器は不慣れなファイズのベルトのみ。
 乾巧は利用するつもりではあるが、しょせんはオルフェノク。
 いつ敵につくかわかったものではない。
 三原もいない今、戦力の強化は当面の目標である。
 しかし、一つ問題がある。
 乾巧がオルフェノクであることをいつ伝えるかだ。
 杏子や彼女に対し伝えなかった理由は作れる。
 たとえば、
「草加さん、どうしました?」
「乾巧について考えていてね。君や夜神さんたちにも伝えていないことがあるんだ」
「えっ、どうして……」
「俺にもまだ整理がついていない。それに、真理や啓太郎くんに伝わるのは好ましくないんだ。みんなを追い詰めるかも知れないからね」
「そうなんだ……」
 だけど、と笑顔を浮かべながら草加は続ける。
「心の準備ができて、仲間たちにも冷静に受け止めさせる準備ができたら、君にも教えるよ。それまでは俺を信じてくれ」
 これで草加の仕込みは終わりだ。まどかは素直に頷いている。
 それにしても不思議だ。彼女は『普通』すぎる。
 頭が切れていないが、愚鈍というわけではない。
 運動神経は多少心もとないが、それでも同年代に劣っているわけでもない。
 可愛らしい容姿だが、抜群に恵まれているというわけではない。
 なのになぜこの場に呼ばれ、殺し合いを強要されているのか。
 まったくもってわからないが、せいぜい役に立ってもらう。
 草加雅人の復讐のために。

118天使のような悪魔の笑顔 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:26:03 ID:PEXuR5os



 鹿目まどかの家を目指す途中、草加は違和感を感じていた。
 家は彼女の話では特筆した家ではないという。そこら中に見かけるものと大差ないようだ。
 なのに地図に記されている。彼女が参加者だとしても、彼女の家を再現して地図に示す根拠は薄い。
 実際、彼女の実家と変わりないかどうかは行ってみないとわからないが、ほぼ同等のものだったとして思考を進めてみる。
 参加者の家をこの土地で再現し、地図に記す状況といえばなんだろうか。
 名簿と地図を照らし合わせると、参加者の家だと思わしきものがいくらか存在している。
 この『鹿目家』を始め、『間桐家』、『衛宮家』、『Nの城』、そして『西洋洗濯舗 菊池』である。
 ならば啓太郎とまどかの共通点を抜き出すことが、彼女の呼ばれた理由を推察する材料となるわけだ。
 とはいえ、草加がパッと思いついた共通点は少ない。
 二人とも平凡な人間であり、魔法少女やオルフェノクといった超常能力者の知り合いが多いことか。
 なるほどと納得がいった。
 要するに彼女や啓太郎は贄なのである。
 魔法少女やベルトの適合者といった者を本気で殺し合わせるための餌だ。
 地図にはないが、真理もそういう目的で呼び出されたのだろう。腹立たしい。
 主催者を殺す理由がもう一つできた。
 だが、悲観することばかりではない。
 まどかを手元に置いているのは、充分メリットであるということだ。
 啓太郎のように超常能力者の知り合いが多いというのなら、こちら側に取り込めば戦力が増えるということだ。
 と、なると地図に記されている人間には会ったほうがいいだろう。
 まどかや啓太郎と同タイプの人間なら、こちらの味方を増やせる可能性が高い。
 第二の方針になり得る。
「ふぅ」
「疲れてきたのかな?」
「大丈夫! まだぜんぜん平気です」
 強がっているが、疲労しているのは目に見えて明らかだ。
 困ったような表情を作りながら、草加は一つ提案する。
「そこの家で休憩していこう」
「草加さん、ごめんなさい。気を使わせちゃって……本当はいきたいところがあるのに……」
 申し訳ないと主張する彼女を面倒に思いながらも、態度は崩さない。
 優しげな笑顔を浮かべて、諭すような口調を続ける。
「いや、放送というやつが近いから、聞き逃さないように休んでいきたいんだ。『禁止領域』も『脱落者』も必要な情報だからね。付き合ってくれるかな?」
 まどかは顔を真赤にして、首肯した。

119天使のような悪魔の笑顔 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:26:41 ID:PEXuR5os



 台所で作業している音をまどかはボーッと聞いていた。
 草加は家に入るなり時間を確認し、料理を作るから待っているようにと言ったのだ。
 こんな状況で食事の用意が行われているなんて、変な気分だった。
 家の中はとても広く、お金持ちが住んでいたのだろう、と感想を抱く。
 地図にも記載されている、とは草加の弁だ。確かめてみると、『間桐』という人の家らしいことがわかった。
 草加は自身が料理している間、少し休んでいるといいと言っていたが、とてもそんな気にはなれない。
 目をつむると嫌なことばかり浮かんで、怖くてしょうがないのだ。
 杏子は生きていた。だからさやかも生きていて欲しい。いつもの、そばにいた明るい彼女で。
 そう願うのは自然だと思う。
「浮かない顔だね」
 急に声をかけられて、まどかは驚いた。
 声の主はもちろん、草加雅人だ。彼は出来上がった料理を並べ、箸をおいた。
 並べられたのはごはんとお味噌汁。それにさばの味噌煮だ。
 意外と和風な人らしい。いただきます、と互いに言い合い、一つ口に入れる。
「あっ……美味しいです」
 味噌で煮こまれたサバは程良く身がほぐされており、噛みやすい。
 染み込んだ味付けはやや薄いものの、甘すぎずないように調整されていた。
 骨は取り除いているようだが、一見ではわからないほど見た目は崩れていない。
 どうやって取ったのだろうか。まどかは感心する。
 そういえば、自分のパパも主夫のため料理がうまかった。最近は料理上手な男性が増えているのだろうか。
 ただ、草加の場合は何でもそつなくこなすという印象のほうが強い。
「これでも一人暮らしが長かったから、栄養が偏らないように自炊していたんだ。好みの味じゃなかったら、遠慮なく言ってくれ。次までには改善しておく」
「そんな、こんなに美味しいし、文句なんてつけれません」
「そう言ってくれると助かる」
 お互いに笑顔を交わし、食事をすすめる。
 草加は『食べて休んで、体力を蓄えることも君の仕事だ』と、料理に取り掛かる前に言っていた。
 頼りになるとはこの人のことを言うのだろう。助けられてばかりで情けない。
 そう自己嫌悪に陥っているとき、スピーカーを通したような声が響いた。
 ああ、これが放送の始まりか。


 草加は箸を止めて、天を睨みつけた。
 真理が生き延びていることを、そして奴が生き延びていることを、珍しく神に祈った。
 そう、この手で殺してやらないと気が済まない。
 奴だけは絶対に生かしておけない。
 北崎。
 流星塾のみんなの、自分の復讐は絶対に果たす。
 だから草加は一瞬だけ、本性を映した顔を天井に見せた。

120天使のような悪魔の笑顔 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:26:57 ID:PEXuR5os

【D-4/間桐家/一日目 早朝】

【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:健康
[装備]:ファイズギア@仮面ライダー555(変身解除中)
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本:園田真理の保護を最優先。儀式からの脱出
1:真理を探す。ついでにまどかに有る程度、協力してやっても良い
2:オルフェノクは優先的に殲滅する
3:鹿目家に向かった後、流星塾に向かう
4:佐倉杏子はいずれ抹殺する
5:地図の『○○家』と関係あるだろう参加者とは、できれば会っておきたい
[備考]
※参戦時期は北崎が敵と知った直後〜木場の社長就任前です
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:擦り傷が少々
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜3(確認済み)
[思考・状況]
1:ひとまず自分の家へ
2:さやかちゃん、マミさん、ほむらちゃんと再会したい。特にさやかちゃんと。でも…
3:草加さんは信用できる人みたいだ
4:乾巧って人は…怖い人らしい
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました

121 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/03(木) 01:27:20 ID:PEXuR5os
投下終了
問題点などありましたら、指摘をお願いします

122名無しさん:2011/11/03(木) 01:35:33 ID:iaDmP2Ro
>>121
投下乙ですー。
ここも朝食かーw いや当然なんだけどw
その影で着々と考察を進める草加さん。 やはり頼りにはなる、のだよねー…

123名無しさん:2011/11/03(木) 01:39:07 ID:b77p0FdY
投下乙です。
まどか達はまどかの家に向かうことで決定ですか。
そっちにはおりこがいるので心配です。
他にも危険人物はいますし。

124名無しさん:2011/11/03(木) 07:55:34 ID:rEzvBcJk
投下乙です!
うーん、やっぱり草加さんは色々と良い味だなぁ。ただその子は(今はまだ違うとはいえ)普通の子やなくて一種の神様やw

125名無しさん:2011/11/03(木) 14:27:09 ID:MSGs2B42
投下乙です

火種になりそうな草加さんがロワである意味頼りがいになるとか皮肉だなあ
彼とそりが合う参加者なら組めるけど逆ならなあ…
さて、まどかの家に行くのか。でもそっちはおりこがいるぞ

126 ◆qbc1IKAIXA:2011/11/06(日) 00:08:04 ID:McpJHrvk
第一回放送投票が開始されます
投票期間は11/7(月)00:00〜11/8(火)00:00の24時間です。


No.1 《第一回放送》―システム01:円環の理― ◆UOJEIq.Rys死

No.2 無題 ◆vNS4zIhcRM氏


上記の二つのOPの内、一番良いと思ったものに投票してください
一人一票での投票となります
無効票でない限り、間違えて他の作品に投票してしまったとしても投票先の変更はできません
ご注意ください

投票スレはhttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14757/1308752361/となります

127 ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 20:59:20 ID:t16tFM2A
呉キリカ、ニア分を投下します

128言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:00:19 ID:t16tFM2A
「織莉子は健在のようだけど、魔法少女達も未だ死せず、か……」
 潮風に髪をなびかせながら、呉キリカが1人ぽつんと呟く。
 背後からの陽光を受け、ゆらゆらと揺れる黒髪の煌めきは、鴉の羽根のように妖艶だ。
 そうして後光を浴びながら、西の海岸に立つキリカは、先ほど流れた放送を、反芻し思い返していた。
「あァん、もう、やんなっちゃうなぁ。ここに飛ばされてからというもの、本気で役に立ててないじゃないか」
 がしがしと頭を掻き毟りながら、苛立たしげに吐き捨てる。
 誰かに怒っているわけではない。
 魔王を名乗るマント男に、邪魔をされたことを怒るでもなく。
 現状のそもそもの原因である、あの傲岸な男を呪うでもなく。
 誰でもない己自身の醜態が、誰より何より許せなかった。
「とんだ腐れだ。役立たずだ。いっそ腐れは腐れらしく、腐って果ててしまおうか」
 この身は織莉子のためのもの――そのために人間性を対価に捧げ、彼女は騎士(ナイト)の叙任を受けた。
 それがどうだ。このざまだ。
 かれこれ6時間以上が経つというのに、たった今読み上げられた名前の中に、己が手にかけた者は1人もいない。
 織莉子の役に立つという、何より優先すべき至上任務を、自分は何一つ為せていないのだ。
 そんな役立たずは要らない。愛の守護者が笑わせる。
 唯一無二の存在意義を、果たすことができないのなら、命の価値は無為へと消える。
 死ねよ、死んでしまえよと、己の無能をひたすらに呪う。
「……あー、でも駄目。やっぱり駄目だ。このまま死んでしまったならば、それこそ私は無能のままだよ」
 しかし、そんなろくでもない恨み節は、30秒ともたずに中断された。
 自殺は責任を取ることとイコールではない。
 せめて名誉挽回をせねば、呉キリカの汚名は消えることなく、永遠に人類史に刻まれることになる。
 それはそれでなんか嫌だ。どうせ墓標に刻まれるなら、こんな一文の方がいい。
 すげーカッコいい呉キリカ、愛する織莉子の役に立ち、愛に殉じてここに眠る。
「というわけで前言撤回……まずはあれをどうにかしないと」
 陰湿ムードはこれで終わりだ。
 わざとらしく右手を顎に沿え、斜め上方をキリカが睨んだ。
 魔獣の金眼が見据えるものは、洋上に浮かんだ巨大な影だ。
 見上げんばかりの巨大戦艦――飛行要塞・斑鳩である。
 黄金の巨人に蹴散らされ、キラ対策本部でぐだぐだして、遂にここまで辿り着いた。
 唾棄すべき害悪が立てこもる、極悪外道の本拠地の、その目前にまで到達したのだ。
「やれやれ、恩人も人が悪いね。そりゃあ戦艦だとは言ってたけどさ、それがヤマトだとは聞いてなかったよ」
 大和ならまだマシだったのに、と。
 肩を落とし、溜息をつく。
 魔法少女、そして魔女――人界と魔界の境界を跨ぎ、怪異の領域に触れたキリカには、
 生半可なものが化けて出ようが、そんなものは今更だと、驚かず受け止める覚悟があった。
 ところがバゼットの言っていた斑鳩は、そんな非常識的な常識すらも、一撃で粉砕するほどの、絶大なインパクトを宿していたのである。
 大仰な翼を船体から伸ばし、奇天烈なエンブレムの刻まれたそれは、どう見てもSFの宇宙船だ。
 その内に宿されたテクノロジーが、見た目通りのものであるなら、これは厄介な強敵である。
 レーザー光線だの波動砲だの、危険な粒子だのがばらまかれかねない。さすがに魔法少女でもSFは怖い。
「あの船全部が飲まれるように、速度低下の魔法を張れば……いや、駄目だ。それは少し贅沢すぎる」
 このまま突入するとして、あれに襲われたらどうするか。
 ああでもなければこうでもないと、ぶつぶつとシミュレーションを繰り返す。
 とりあえず、敵艦を速度低下で覆って、全武装を低速化させるというのはNGだ。必要な魔力が多すぎる。
 というかそもそも、レーザー光線を遅めたところで、光速が高速になるだけだ。どの道避けられるとは思えない。
「……あっ、でも向こうは一応、レスキュー隊のお友達募集をしてるんだった」
 少し目を丸くして、言った。
 そうだ、悩む必要などなかったのだ。
 もし仮に見つかったとしても、現状では、こちらが攻撃されることは100%有り得ない。
 仲間を集めている人間が、その相手を殺してしまっては、本末転倒だからである。
「そうと分かれば、行くとしようか。目指すは正面突破あるのみだ」
 くつくつと不敵に笑いながら、少女は砂浜に足跡を刻む。
 こうしてキリカは、本来ならば敵地であるはずの斑鳩へと、堂々と侵入を果たしたのだった。

129言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:01:20 ID:t16tFM2A


(……以上、3ヶ所か)
 きゅ、きゅっ、と油性ペンの音を立て。
 司令室に座したニアが、地図に×印を描き込んでいく。
 合計3マスのエリアは、先の放送で発表された、立ち入り禁止指定の場所だ。
 それぞれ、禁止化される時間にはばらつきがあるものの、今のうちから入らずにおくに越したことはないだろう。
 もっとも、現在地との距離を考えれば、どう足掻いても到達不可能かもしれないが。
(しかし……)
 どうにも解せない、と。
 黒いマーキングの施された地図を、瞳を細めて睨みつける。
 焦点の合わせられた場所は、3番目のG-7エリアだ。
 そこは1つきりの孤島が浮かんでいるだけで、あとは海でのみ占められている。
 本来なら、この斑鳩のような船を調達しなければ、到達することそのものが困難な場所だ。
 状況からして、海路で脱出を図ることが、不可能であろうことも推測できる。
 そこに行こうとする者はなく、そこに行く意味もほとんどない。
(ならば何故、わざわざそこを禁止エリアにしたのか?)
 あくまで無作為に選んだ結果ということか?
 否、それは有り得ない。相手が馬鹿でない限りは、普通こうしたエリアは、事前に選択候補から除外される。
 ランダムに決定する度に、こんな場所ばかりが紛れこんでいては、貴重な禁止枠が勿体ないからだ。
(ならばそこには、理由がある。わざわざ意図的にここを選び、侵入不可能とした理由が存在する)
 火のないところに煙は立たない。
 不可解としか見えない行動には、必ず意図が存在する。
 なれば、この度のこの行動の意図は、
(……ポケモン城の隠匿、か)
 導き出された結論は、それだ。
 この3番目の禁止エリアは、明らかに孤島に存在する施設――ポケモン城を隠すために設定されている。
 恐らくこの施設には、主催の存在に迫れるような、何か秘密が隠されていたのだろう。
 それに転送された誰かが、からくりに気付きかけたので、その追及の手を遠ざけるために、侵入の不可能な場所とした。
 推測するならば、そんなところか。
(狙ってやったというのなら、相変わらず白々しいというか……)
 白けた目つきで、地図から離れた。
 反撃の目を詰むための隠蔽工作……それは理屈としては分かるが、これは明らかに性急過ぎる。
 こんなからくりの解明など、ニアでなくても十分に可能だ。
 ちょっと頭の回る程度の者でも、この不自然さには気付くだろう。誰だって疑いを持つに決まっている。
 いいやそもそもさかのぼれば、このポケモン城の存在そのものが、あまりにも下策というものだ。
 何故、自分達に辿り着くようなヒントを、この儀式の会場に用意したのか。
 止むにやまれぬ事情があったとしても、それならば何故、そんな場所に、参加者の誰かを転送したのか。
(これもまた、反抗を望む者へのヒントのつもりか?)
 であれば、わざとそうしたとしか考えられない。
 それが反抗の手を強めるように、わざと分かりやすいヒントを配置して、わざと気付きやすくなるように禁止エリアにした。
 お前達の望むものはここにあるぞと。
 脱出の手立てが知りたければ、呪いを解いて入ってみろ、と。
 証拠は1つから2つに増えた。
 有り得なくもない、程度の推論は、ここに来て現実味を帯びてきた。
 あるいはこの推理そのものも、お膳立てされた誘導だというのか。
「まったく、嘗められたものですね」
 苛立ちも怒りも通り越し、呆れにも近い声色で、無感動に呟いた。
(まぁ、ぼやいたところで、どうせすぐに調べに行くことはできないが)
 そう思いながら、ニアの視線は、司令室のモニターへと向かう。
 6時間以上を費やした甲斐あって、斑鳩の操縦システムは、9割がた理解を終えるに至っていた。
 残すところの細かいところは、実際に動かしてみれば分かるだろう。
 既に先刻承知の通り、禁止エリアに選ばれた、ポケモン城にはまだ行けない。
 急げば10時までには着けるだろうが、それでも探索にかけられる時間が少なすぎる。
 ならば操舵の練習も兼ね、当初の予定通り、他の参加者を探しに行くべきか――

130言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:03:06 ID:t16tFM2A
「……ん?」
 その、時だ。
 ふと、何の気なしに見た監視モニターに、何者かの影が映っているのに気付いたのは。
(侵入者か……)
 私としたことが迂闊だった。こんな見落としを犯すとは。
 軽く額を抑えながら、己が不始末を自戒する。
 恐らくこの侵入者――黒髪の歳若い少女だ――は、ニアが地図とにらめっこしている間に、この艦内に入ってきたのだろう。
 それに気付けなかったというのは、失態といえば失態である。
 何せこちらには、身を守るための武器がないのだ。
 あれが殺し合いに乗っている人間で、それが気付かない間にここまで来ていたのなら、間違いなく大変な目に遭っていたはずだ。
 ともあれ、あれがバゼットの連れてきた、脱走計画に賛同する協力者という可能性もある。
 まずは相手の声を聞き、行動の指針を確かめなければ。
「――そこの貴方、止まってください」
 艦内放送のスイッチを入れ、マイクに向かって、声を発した。
 モニターに映った黒髪の少女が、ぴくりと身を震わせ足を止める。
 きょろきょろと視線を左右させているのは、カメラか、放送機材を探しているのか。
「落ち着いてください。すぐに貴方をどうこうしようというつもりはありません。
 とりあえずは貴方の名前と、ここに来た理由を聞かせていただけないでしょうか」
 協力的な相手であれば、受け入れる。
 敵対的な相手であれば、ここから逃げる。
 モニター越しに見える彼女が、何を想い、何のためにここに来たのか。
『……やあやあ、キミがニアなんだね?』
 第一声は、こちらの名前。
 大仰に、芝居がかったような動作で、ニアの名前を少女が発する。
『私の名前は呉キリカ。別段怪しい者じゃないよ。我が恩人バゼット・フラガ・マクレミッツの紹介を経て、キミの元へ馳せ参じた次第さ』
 得られた情報は3つだ。
 1つは、彼女の名前が呉キリカであること。
 1つは、ニアの名前を知っていたこと。
 1つは、それをバゼッド・フラガ・マクレミッツから聞き出したということ。
 現状、ニアという人間が、ここに立て籠っていることを知っているのはバゼットだけだ。
 その両者の名前を知っているということは、キリカはバゼットと言葉を交わし、彼女からニアの名を聞き出したということなのだろう。
 言葉の調子から察するに、自分が取っている立場も理解している。
 やましい素振りも見せることなく、自身の名前も公開している。
 敵対しているという線は、考えにくい。
 彼女はある程度バゼットに信用され、この場所へと案内された協力者――そう考えた方が、筋が通る。
「分かりました。ひとまず貴方を、私の所へ案内します。こちらの誘導に従ってください」
 とりあえず、テストは合格だ。
 たとえ本心を隠していたとしても、交渉に持ち込めば、言いくるめるだけの自信はある。
 ニアはこの呉キリカという少女と、対面することを選択した。

131言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:03:50 ID:t16tFM2A


「――はーっはっはっ! よくここまで案内してくれた! そしてたった今よりこの艦は、この私が乗っ取らせてもらう!」
 このくそやかましいシージャック宣言が、対面した呉キリカの第一声であり。
「……バゼットの馬鹿」
 このやたらと簡潔な悪態が、迎え入れたニアの第一声である。
 そりゃまあ、見事に騙されて、ここまで連れてきた自分も大概間抜けだが、バゼットはそれに輪をかけた大馬鹿だ。
 あの女は、こんな見るからに頭が足りなくて、見るからに不審人物な少女を、危険がないと判断したのか。
「無駄な抵抗はするんじゃないよ。生かすも殺すも与うるも奪うも、全ての権限は私にあるんだ」
 元から妙な奴だとは思っていたが、実際に出会った呉キリカは、予想を遥かに超えたパープーだ。
 どこぞの学生服を着た少女は、ろくに武装もしていないのに、根拠もない大口を叩いている。
 身のこなしもバゼットとは異なり、至って年相応の普通の動作だ。特に身体能力に長けているとか、そんな様子はないように見えた。
 これなら死んでいった弥海砂の方が、いくらかマシとも取れるかもしれない。
 だがそれはそれで、分からないことがある。
「貴方先ほど、怪しい者じゃないって言ってませんでしたか?」
 こいつはバレない嘘がつけるほど、腹芸が上手そうには見えないのだ。
「んー? ああ、確かに私は怪しくはないよ。このバトルロワイアルでは至って普通の、誰だってやってそうな殺し屋だもの」
 ああ、成る程。こいつ馬鹿などころか痛い子だ。
 彼女の脳内独自世界では、先ほどの言葉には一片たりとも、嘘偽りはなかったのである。
 そりゃあ確かに分からないわけだ。そんなの顔に出てこないもの。
 こいつは骨の折れそうな相手だ。気だるげに肩を落としながら、ふぅ、と重い溜息をついた。
「さってと、じゃあこっちも質問だよ……キミは何故、こんな馬鹿な真似をしているんだい?」
 たん、たん、とリズムを刻むように。
 場違いに軽快な足音を立て、詰め寄るキリカが問いかける。
「……私は見ての通り、戦って生き残れるほど強くはありません。私がこの場で生き延びるには、こうする他に手はないのです。
 それに、人殺しのゲームに乗るというのは、私の主義に反します」
 貴方に馬鹿と言われたくはありませんでしたが、というのは、さすがに口にはしなかった。
「くっ、はは、主義と来たか。それは無意味というものだよ、キミ。私達の正義以上に、正しいものなど有り得ないんだ。キミの正義に意義はない」
「私達? なるほど、共犯者がいるのですか」
「さぁてね。そこまで話す義理はないよ」
 ステップを踏み、歩み寄り、手元のコンソールに腰を下ろしたキリカを、ニアは冷静に分析する。
 意外に思ったのは、この傍若無人に振舞う少女が、「正義」という言葉を口にしたことだ。
 一見何も考えていない、混沌の権化のような人間に見えて、ある種の信念・倫理観を持ち合わせている。
 口ぶりからして、ノリで名乗っているキラ信者とは違うのだろう。
 殺人で人心を掌握したキラだが、あくまでその目的は犯罪抑止だ。その信者があんな軽々しい口調で、殺すと口にするはずもない。
「……それで? 呉さん、貴方は私をどうするつもりですか?」
 少し棘のこもった語調で、問う。
 自分が正しいと思うことを信じ、正義とする――それがニアの持論だった。
 だから極論するのであれば、キリカがどんな正義を語ろうと、その行為そのものを責めるつもりはない。
 問題はその正義の内容が、自分にとっては気に食わないものであったこと。
 そしてそれを他者に強要し、他人の正義を蔑ろとしたこと。
 それがニアにとっては不快であり、ニアの正義観の範疇においては、紛れもない害悪に他ならなかった。
「もちろん、始末させてもらうよ。キミの存在は邪魔なんだ。私の悲願成就のためには、みんなに死んでもらわなきゃ」
 ああ、鬱陶しい。
 けたけたと笑う黒髪の女は、馴れ馴れしく白いニアに右手を伸ばし、肩を組んで言い寄ってくる。
 金眼に宿された念は、見えない。
 ふざけているのか、本気で殺す気なのか。
 私達の正義とやらに毒されて、人格が壊れきってしまったのだろうか。
 黄金は本音も虚飾も語らず、掴みどころがないという印象を強化させる。

132言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:05:05 ID:t16tFM2A
「いいんですか? 私は貴方がたにとっても、有益な情報を持っているのに」
 Lの後継者になると決めた時から、このような修羅場は覚悟していた。
 しかし、ここで死ぬのはまっぴらごめんだ。
 こんなアホには殺されたくない。ここで死んでしまうくらいなら、いっそキラと刺し違えた方がマシというものだ。
 故にニアは生き残りを賭けて、キリカに対して交渉を切り出す。
 通用するかどうかは分からない。人の話を聞かない馬鹿は、人を騙す賢人よりもやりにくい。
 だからといって何もせず、大人しく殺されるわけにはいかない。
「有益な情報?」
「貴方は気付いていないかもしれませんが、実は私は、既に脱出のルートについて、ある程度目星は立てているのですよ」
「へぇ! そりゃすごいや。でも、じゃあ何でそこに行かないの?」
「色々と事情がありましてね。もうしばらく時間をかけないと、そのルートを使うことはできないんです」
「なら駄目だ、遅すぎる」
 この作戦は失敗だ。
 一瞬煌めいた金の瞳は、しかし即座に熱を失った。
 それくらいの時間も待てないというのか。まるでわがままな子供じゃないか。
 なんてことは口にしない。不満はぐっと胸に留める。
 ヤケになるのはまだ早い。これが駄目でも、交渉材料はもう1つあるのだ。
「それで? 情報っていうのはそれっきり? だったらお粗末な上に役立たずだねぇ、私達の世界には要らないよ」
「勝手に人の限界を決めつけないでください。そうですね……貴方、船は欲しくないですか?」
「船? この宇宙戦艦のことかい?」
「宇宙戦艦ではありませんが、私はこの船の操舵方法を、およそ9割がた把握しています。
 複雑なコンピューター制御がなされていますから、私のような専門家でなければ、動かすことは困難でしょう」
「ふむふむ、成る程。私の運転手になるから、その間だけ生かしてほしいと、キミはそうお願いしているわけだね?」
「必要なら、武装の解析も進めてみましょう。とりあえず今はそういうことで、手打ちにしてはもらえないでしょうか」
 これは嘘だ。
 武装はただ単に使えないのではなく、いずれも撤去されている。
 存在しないものを使う術など、いくら検索したところで見つからない。
 しかし、相手は殺し屋だ。武器が使えるかもしれないというのは、彼女にとって大きなプラスになる。
 それに先ほどとは違って、航行システムは解禁されているのだ。せっかちなキリカも、これを切り捨てはしないだろう。
「ふーむ……」
 ほうら、案の定そうなった。
 顎に手を当て考え込むキリカを前にして、ニアは内心で密かにほくそ笑んだ。
 もちろん、これはあくまで時間稼ぎだ。
 彼女の言うように合わせて斑鳩を動かし、味方が見つかれば、そいつに追い払ってもらえばいい。
 いざという時は、不意を突いて逃げ出せばいいだけだ。
 口やかましい置き物が増えただけ――そう考えれば、まだ気分もよくなる。
「……よっし、いいだろう! こっちも絶賛人捜し中の身だからね。お望み通り、キミを使ってあげようじゃないか」
 ぱちん、と指で音を立て、キリカは提案を快諾した。
「あぁ、でもおかしな考えは持たない方がいいよ? 誰も私からは逃げられないんだからね」
 刹那、頬を這う、指先。
 鳴らした親指と中指と、その間にある人差し指が、掬うようにして動く。
 くい、と顎を持ち上げられ、ニアの目とキリカの目が合った。
 これは戯れではなく、真意。
 光沢はこれまでになく冷徹に煌めき、黒水晶を射抜くように光る。
 今まで面白半分だった少女の、ようやく見せた本気の警告。
 その殺意は本物だ。たとえ見た目が童女でも、この目でひとたび睨まれたなら、常人は為す術もなく竦み上がるだろう。
「……覚えておきます」
 もっとも、天才ニアは常人ではない。
 この程度の殺意の吹雪なら、彼にとってはそよ風だ。
 刺すような殺気をさらりと流し、瞳を細めてそう返す。
 その様子が面白くなかったのか、ちぇっと吐き捨て手を離すと、キリカは立ち上がり、正面モニターの方へと歩いていった。

133言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:06:41 ID:t16tFM2A
「しっかしまぁ、キミも無茶をするもんだね。駄目だよ? 子供は子供らしく、大人しくしてなきゃあ」
 制服の背中を見せながら、遠ざかるキリカが暢気に言う。
 その命を摘み取ろうとする者が、口にしていい言葉ではないように感じたが、もうそこはスルーすることにした。
 ここまででもう慣れきったことだ。いちいちツッコミを入れていては、こちらの神経がもたなくなる。
「ええ、よく言われます。ですが私、こう見えて、多分貴方よりも年上なんですよ」
 とりあえず、訂正すべきはそこくらいでいいだろう。
 ニアの誕生日は1991年――今年の誕生日が来ていないので、現在は18歳ということになる。
 見たところ、ジュニアハイであろうと思われるキリカよりは、確実に年上の年齢だ。
「っ」
 ぴくり、とキリカの肩が動く。
 珍しく、反応は沈黙だ。
 彼女の性格からすれば、えー本当にー、だの、全然見えなかったー、だの、そういう反応が来るだろうと思っていたのだが。
 あるいは、同い年くらいに思っていた相手が、年上だったという事実に、素直にショックを覚えているのかもしれない。
「だから、それは本来私の台詞です。中学生くらいの子供が、人殺しをするなんて、滅多に言うものじゃないですよ」
 背中を向けているキリカからは、その感情は読み取れなかった。
 故にニアはごく自然に、それまでと別段変わらない口調で、世間話のようにそう言った。
 本当に、世間話のつもりだったのだ。
 これまでの自分達のやりとりのように、「余計なお世話だ」という答えの分かり切った、その程度の話のつもりだった。
「――駄目だなぁ、キミは」
 それが間違いだと分かるよりも早く、少女の背中が黒に染まり、
「え、」
 それが間違いだと分からないままに、ニアの意識は暗転した。



 ニアには人の心が分からない。
 もちろん、犯罪心理学には長けているのだろうが、こと人の感情というものに関しては、彼は恐ろしく鈍感で無遠慮だ。
 それが敵であれ味方であれ、遠慮というものを知らないから、相手を苛立たせずにはいられない。
 社交性は人間の最底辺――引きこもりがちな性分と合わせれば、あのLよりも酷いと言っていいだろう。
 故に、いかんせん経験の少ないニアには、それは最期まで読み切れなかった。
 錯乱した犯罪者にとって、その行為がいかに危険なものであったのかを。
 正気を失った犯罪者が、その神経を逆なでされれば、どんな行為に及ぶことになるのかを。
「ニア、それは言っちゃいけなかったんだよ」
 漆黒のキリカは淡々と呟く。
 三爪二対の閃刃は、爛々と赤黒い煌めきを放つ。
 血みどろの爪をだらりと下ろし、金眼の魔獣は眼下を見下ろす。
 狂乱の呉キリカが嫌うことが、この世には全部で4つ存在した。
 1つは愛すべき親友・美国織莉子の悪口を言われること。
 1つはその織莉子と自分の関係について、無責任にとやかく言われること。
 1つは今の自分になる前の、卑屈で根暗で臆病な自分。
 そして残る最後の1つは。
「私は、子供扱いされるのが、大っ嫌いなんだ」
 こればっかりは、耐えられない。
 たとえあの織莉子がそうしたとしても、無視して受け流すことはできない。
 それを彼女にとってはどうでもいい、赤の他人が口にすれば。
「あーあ……せっかくの船、無駄にしちゃった」
 後には、何も残らない。


【ニア@DEATH NOTE(漫画) 死亡確認】

134言っちゃいけなかったんだよ ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:07:11 ID:t16tFM2A


 激情の嵐が吹き荒れた後、そこに残ったのは静寂だった。
 元々静かだった司令室だが、2人が1人に数を減らし、機械の音も消えうせた今、1人が黙れば無音が生まれる。
 そんな静かな室内で、唯一響いていた音が、がさごそと物を漁る音だった。
「うーん、どっちが役に立つかなー……仕方ない、両方持ってくか」
 呉キリカ。
 さながら彼女は不発弾。
 ふとしたことでキレる彼女は、怒りが冷めるのも非常に早い。
 一旦怒りが解消されれば、後にはすっかり忘れている。
 さりとて刹那に凝縮された、憤怒の感情の破壊力は、紛れもなく爆弾の爆発そのもの。
 あっけらかんとした様子で、ニアのデイパックを物色する彼女は、
「あ、これいいね。後で暇潰しにでも使おう」
 すぐ傍らにいたニアを、つい数分前に、血みどろの八つ裂きにしたばかりだったのだ。
 むせかえるような臭気にも、おくびも怯んだ様子もなく、彼女はそこにあったパズルを取る。
 いくらか付着していた返り血は、脱ぎ捨てた制服で拭き取った。
 子供扱いされた腹いせに、怒りに任せてニアを惨殺。
 そうして誰もいなくなったので、ちょうど乾いていた私服に着替える。
 そろそろ用もなくなったので、戦利品であるニアの支給品を物色。
 これらを何の嫌悪感も、いいや疑問すらも覚えることなく、一切のタイムラグを置かぬままに、キリカはやってのけたのだった。
「さーってと、それじゃそろそろずらかるとするかな」
 暢気そのものな声色で、どっこいしょ、と腰を起こす。
 その時ちょうど目に留まったのは、物言わぬ男の遺体だった。
 白一色のニアの姿は、赤一色の肉塊に変わった。
 顔面だけはかろうじて、奇跡的に原型をとどめている。
 しかしそれ以外の箇所は、溢れんばかりの怒りを納めきれず、ほぼ全てがズタズタに引き裂かれていた。
 ミンチとまではいかないが、人体の面影はほとんどない。
「……ま、ここまで徹底的にやったなら、脱出する気も失せるだろうね」
 白い三日月が口から覗いた。
 あはははは、と笑いながら、八重歯の少女が歩み去った。
 希望を求め集まる者には、この死体は最高の警告文になりうるだろう。
 これがお前達の末路だ。滅多なことをしようものなら、お前達も同じ目に遭うぞ。
 きっとバゼットの案内した者は、この無惨に打ち捨てられた遺体から、そんなメッセージを読み取るはずだ。
「私達の邪魔はさせないよ。そう……それが誰であってもね」
 獣は血に濡れ残忍に笑い、闇より来たりて命を食らう。
 黒き魔獣は獲物を求め、斑鳩の司令室を後にした。


【H-2/斑鳩/一日目 朝】

【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、ソウルジェムの穢れ(2割2分)
[装備]:私服、呉キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ
[道具]:基本支給品、穂群原学園の制服@Fate/stay night、お菓子数点(きのこの山他)
    スナッチボール×1、魔女細胞抑制剤×1、ジグソーパズル×n
[思考・状況]
基本:プレイヤーを殲滅し、織莉子を優勝させる
1:織莉子と合流し、彼女を守る。ひとまずは美国邸が目的地。
2:まどかとマミは優先的に抹殺。他に魔法少女を見つけたら、同じく優先的に殺害する
3:マントの男(ロロ・ヴィ・ブリタニア)を警戒。今は手を出さず、金色のロボット(ヴィンセント)を倒す手段を探る
[備考]
※参戦時期は、一巻の第3話(美国邸を出てから、ぬいぐるみをなくすまでの間)
※速度低下魔法の出力には制限が設けられています。普段通りに発動するには、普段以上のエネルギー消費が必要です
※バゼット・フラガ・マクレミッツから、斑鳩の計画とニアの外見的特徴を教わりました。
※バゼット・フラガ・マクレミッツを『大恩人』と認定しました。

※H-2・斑鳩司令室に、ニアの遺体とデイパック(基本支給品入り)が放置されています

135 ◆Vj6e1anjAc:2011/11/12(土) 21:07:37 ID:t16tFM2A
投下は以上です。
問題点などありましたら、指摘お願いします

136名無しさん:2011/11/12(土) 21:14:26 ID:949RMQWE
投下乙です。あーあ、これどうしてくれんだよダメットさんwそしてキリカはキリカしてるなぁ。

137名無しさん:2011/11/12(土) 21:19:12 ID:nOBBdPfw
投下乙です。
ダメットさんマジダメット
あれ?ダメさんが他の参加者にニアの事伝え続けて仮にキリカがここに陣取ったら・・・

138名無しさん:2011/11/12(土) 21:33:57 ID:Q3NAnUTU
投下乙
ニアェ……
地味にダメットさんもピンチだなぁ、これw

139名無しさん:2011/11/12(土) 22:16:36 ID:N00irNi6
>>134
投下乙ですー。
うわ、一瞬上手くいくかと思ったけどこうなっちゃったかー。 ニア南無。
キリカちゃんは相変わらずアホの子かわいいなぁ、壊れてるけどw

140名無しさん:2011/11/12(土) 22:27:02 ID:gobvwYtQ
バゼットの馬鹿……
馬鹿に刃物というか、獣に肉というか、そんなイメージしかねえ。
バゼットの馬鹿……大事なことなので二回言いました。投下乙です

141名無しさん:2011/11/13(日) 14:46:17 ID:SO5OW1iA
投下乙

そしてバゼットさんこれはひどいバゼットさん


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