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パラレルワールド・バトルロワイアル part2

1 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:17:06 ID:hUjGYcYM
『バトル・ロワイアル』パロディリレーSS企画『パラレルワールド・バトルロワイアル』のスレッドです。
企画上、グロテスクな表現、版権キャラクターの死亡などの要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方は、くれぐれもご注意ください。

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14757/1309963600/

【外部サイト】
パラレルワールド・バトルロワイアルまとめwiki
http://www45.atwiki.jp/pararowa/
パラレルワールド・バトルロワイアル専用したらば掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14757/

2 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:20:08 ID:CfQCyc0o
【参加者一覧】

5/5【仮面ライダー555】
 ○乾巧/○草加雅人/○長田結花/○村上峡児/○北崎
3/4【仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
 ○木場勇治/○園田真理/○海堂直也/●菊池啓太郎
3/5【コードギアス 反逆のルルーシュ】
 ●ルルーシュ・ランペルージ/○C.C./○枢木スザク/○ロロ・ランペルージ/●篠崎咲世子
6/6【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
 ○ナナリー・ランペルージ/○アリス/○ゼロ/○ロロ・ヴィ・ブリタニア/○マオ/○ユーフェミア・リ・ブリタニア
3/4【DEATH NOTE(漫画)】
 ○夜神月/○ニア/○メロ/●松田桃太
3/4【デスノート(映画)】
 ○L/●弥海砂/○夜神総一郎/○南空ナオミ
5/5【Fate/stay night】
 ○衛宮士郎/○間桐桜/○セイバーオルタ/○バーサーカー/○藤村大河
5/6【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
 ○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○美遊・エーデルフェルト/○クロエ・フォン・アインツベルン
 ●遠坂凛/○ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト/○バゼット・フラガ・マクレミッツ
5/5【ポケットモンスター(ゲーム)】
 ○シロナ/○N/○ゲーチス/○オーキド博士/○サカキ
3/5【ポケットモンスター(アニメ)】
 ●サトシ/●ヒカリ/○タケシ/○ニャース/○ミュウツー
4/4【魔法少女まどか☆マギカ】
 ○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子
3/4【魔法少女おりこ☆マギカ】
 ○美国織莉子/○呉キリカ/●千歳ゆま/○巴マミ

【残り48/57名】 (○=生存 ●=死亡)

3 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:20:29 ID:CfQCyc0o
【基本ルール】
 『儀式』(バトル・ロワイアル)の参加者(以下『プレイヤー』と表記)は57名。
 『プレイヤー』全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が『勝者』となる。
 『勝者』には、『どのような願いでもひとつだけ叶えることが出来る権利』が与えられる。
 制限時間は無制限。『プレイヤー』が最後の一人になるか、全員死亡するまで『儀式』は続行される。
 『プレイヤー』が全員死亡した場合は、『勝者なし』(ゲームオーバー)となる。
 『儀式』開始時、『プレイヤー』はテレポートによってMAP上にバラバラに配置される。
 『儀式』中は『プレイヤー』の行動に関する制限は特になく、後述する『術式』が発動する条件に触れなければ、どのような行動をとることも許される。

【プレイヤーの持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品などは没収されている。
 ただし、義手など身体と一体化していたり、生命維持に関わる武器や装置(魔法少女のソウルジェムなど)はその限りではない。
 また、財布、時計、携帯電話など『ポケットに入る程度のサイズの日用品や雑貨』は没収されていない。
 上記の品々の中に仕込まれた武器類(夜神月の腕時計に仕組まれたデスノートの切れ端など)は没収されている。
 携帯電話やポケギアは常に圏外。ただし、後述する『ランダム支給品』として支給されたものなどは通話可能な可能性がある。

【デイパックと支給品について】
 『プレイヤー』は全員、以下の品がデイパックに入った状態で支給されている。
  ・デイパック … 普通の何の仕掛けもないデイパック。肩掛け式。結構大きい。
  ・水 … 1リットル入りペットボトルに入ったミネラルウォーター。2本。計2リットル。
  ・食料 … ただのパン。6個。大体1日(3食)分。大きさやパンの種類は後続の書き手次第。
  ・懐中電灯 … ただの懐中電灯。単一電池2本使用。
  ・名簿 … 『プレイヤー』の名前が50音順で載っている名簿。載っているのは名前のみ。
  ・地図 … 『儀式』の舞台の地図。
  ・デバイス … 自身がいるエリアを表示してくれる小型デジタルツール。外見はポケウォーカーに似ている。
  ・筆記用具 … 普通の鉛筆・ペンが数本と消しゴム1個。大学ノート1冊。
  ・ランダム支給品 … 『プレイヤー』のデイパックの中にランダムに支給される品。最小で1つ、最大3つ。
 『ランダム支給品』は銃火器、剣などの武器から各作品世界の品、日用品まで様々な物がランダムで入っている。
 ただし、デイパックの余剰部分に少々強引に詰め込まれているため、サイズの大きいものは中身がはみ出ていて丸見えであったり、最初からデイパックの外に出た状態で支給される。

4 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:20:53 ID:CfQCyc0o
【舞台】
 http://download2.getuploader.com/g/ParallelWorld_BattleRoyal/20/pararowaMAP.jpg

【禁止領域】
 定時放送終了の2時間後、3時間後、4時間後に1エリアずつ進入禁止エリアである『禁止領域』が生まれる。
 『禁止領域』は『儀式』が終了するまで解除されない。
 『禁止領域』に30秒以上留まり続けてしまうと、後述する『術式』が発動する。ただし、29秒以内ならエリア内への侵入、エリア内の通行といった行動も可能。
 『プレイヤー』が『禁止領域』に踏み込むと、身体の先端部(指先など)から青白い炎が生じ、時間が経過する毎に炎の勢いは強くなる。
 29秒以内に『禁止領域』から脱出することができれば、脱出と同時に炎は消える。
 長時間及び連続して『禁止領域』へ侵入した場合、炎が生じた場所が灰化するなどの外傷を負う可能性がある。

【定時放送】
 一日6時間毎、計4回、主催者側から定時放送が行われる。
 放送が行われる時間は0:00、6:00、12:00、18:00。
 内容は、前回放送終了後から放送開始までの約6時間中に発生した『脱落者』(死亡者)の発表と、放送終了2時間後、3時間後、4時間後に『禁止領域』となるエリアの発表。

【呪術式について】
 『プレイヤー』は全員、『魔女の口づけ』を参考に生み出された呪術式(以下『術式』と表記)を身体に刻み込まれている。
 『術式』が発動した『プレイヤー』は、身体中から青白い炎を発し、やがて灰となり『完全なる消滅』を迎える。要するに死亡する。
 青白い炎は、術式が発動した『プレイヤー』の身体以外のものや他者には燃え移らない。
 『術式』が発動する条件は以下の3つ
  ・『儀式』の舞台の外へ出る
  ・24時間『プレイヤー』から『脱落者』(死亡者)が一人も出ない。この場合、『プレイヤー』全員の『術式』が発動し、『プレイヤー』は全員死亡する
  ・『禁止領域』に30秒以上留まる
 『術式』は『プレイヤー』の首元にタトゥー状に常に浮かび上がっている。
 『術式』は常に『プレイヤー』の生死を判断しており、死亡した『プレイヤー』の肉体からは『術式』は消滅する。
 主催側はこれによって、『プレイヤー』の生死と詳細な現在位置を把握している。

5 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:21:20 ID:CfQCyc0o
【能力制限】
 一部『プレイヤー』や一部『ランダム支給品』には、何らかの要因によって能力を制限されている。
 一部『プレイヤー』や一部『ランダム支給品』が持つ能力には、使用そのものが禁止されている(要するに使用できない)ものが存在する。
 一部『ランダム支給品』は、能力面以外にも制限が科せられている。

 大まかな目安は以下のとおり

  ◆禁止
   オルフェノクの「使徒再生」による他参加者のオルフェノク化
   サーヴァントの霊体化
   ソウルジェムのグリーフシード化(穢れが浄化しきれなくなると砕け散る)
   C.C.の他者にギアスを発現させる能力
   暁美ほむらの時間遡行能力

  ◆ある程度のレベルまで制限
   オルフェノクの怪人態時の各種身体能力
   ゼロの各種身体能力
   サーヴァントの各種身体能力
   一部ポケモンの各種身体能力
   各種ギアス
   ポケモンの使用する技(主に威力面)
   各種回復能力(全快までに時間がかかるようにする)
   ナナリー、アリス(コードギアス取得後)、ゼロ、ロロ(悪夢版)のナイトメアフレーム召喚

 ※あくまでも目安のため、最終的な制限レベルなどについては各書き手の裁量に委ねられる。
  また、ロワ本編中において能力制限が解除される展開となった場合は、これら制限は消滅する。
  詳細な制限の内容などについては以下の項目を参照。
  http://www45.atwiki.jp/pararowa/pages/86.html

6 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:21:41 ID:CfQCyc0o
【書き手ルール】
 書き手は事前に、予約専用スレにおいてトリップ付きで予約または投下宣言を行うこと。トリップのない予約、投下宣言は無効。
 予約、投下宣言についての詳細は予約専用スレ参照。
 作品の最後には生存しているキャラクターの状態表を以下のテンプレートを元に記してください。

【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
[思考・状況]
基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)

【作中での時間帯表記】(0:00スタート)
 [00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
 [06:00-07:59 >朝]  [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
 [12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
 [18:00-19:59 >夜]  [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]

【修正・破棄に関してのルール】
 本スレに投下した作品が、矛盾点や注意を受けた場合、書き手はそれを受けて修正作業に入ることができます。
 修正要望を出す場合、内容は具体的に。「気に入らない」「つまらない」などの暴言は受け付けられません。
 問題点への「指摘」は名無しでも可能ですが、話し合いが必要な「要求」は書き手のみが可能です。
 既に進行している(続きが予約または投下されている)パートを扱った作品に対して修正要望を出すことはできません。
 (ただし、対象となる作品の続きが、同一書き手による自己リレーであった場合はその限りではありません)
 議論となったパートは、協議が終わるまで「凍結」となります。「凍結」中は、そのパートを進行させることはできません。
 議論開始から二日(48時間)以上経過しても作品を投下した書き手から結論が出されなかった場合、作品はNGとなります。
 修正を二回繰り返しても問題が解決されなかった場合、「修正不可」と判断され、作品はNGとなります。

7 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:23:01 ID:ExHGcG.2
これより、セイバー、バゼットを投下します。

8対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:24:53 ID:ExHGcG.2



 破壊された出入り口を超え、この距離からでも感じ取れる禍々しい魔力を目標に足を進める。
 決して駆けるようなまねはしない。敵戦力は未知数。ほんの僅かな体力さえも無駄には出来ない。
 事前情報こそ得ているが、そんなモノは当てにならない。実際の戦闘では、相手が情報にない魔術、能力、礼装を保有していた例などざらにある。
 ましてやこの『儀式』とやらの状況下、相手が“宝具”を持っていない可能性さえある。
 そうなるとそうなるとこちらも“切り札”を使えない可能性がある訳だが―――

「それならむしろ好都合。いかな英霊と言えど、宝具がなければただの強敵だ」

 英霊との戦いで最も恐ろしいのはその“宝具”だ。
 伝説にまで謳われた武具は、それだけで条理を覆す“奇跡”を保有する。

 例えば極光を以って境面界を両断したという“エクスカリバー”。

 例えば因果を逆転させ、必ず心臓を穿ったと云う“ゲイボルク”。

 例えば“後より出でて先に断つもの”の二つ名を持つ、我が家系に伝わる“フラガラック”

 これらの“宝具”は正しく発動されれば、お互いの力量に関係なく担い手の勝利が決まる。
 いかに担い手が弱く、いかに対象が強くとも。

 それこそが英霊を英霊たらしめるシンボル。英雄を伝説へと至らせる“貴き幻想”だ。

 故にこそ、“宝具”を持たない英霊などおそるるに足りない。
 無論、英霊自身の戦闘能力は侮れるものではない。
 だが、この身は既に二体の黒化英霊を倒した実績がある。
 その経験を以ってすれば、セイバーがたとえどれ程の性能を持っていようと、互角の戦いに持ち込む事も可能だろう。


        ◆


 僅かに空いた扉の隙間から室内を索敵する。
 部屋はほどほどに広く、戦闘を行うには十分な領域がある。
 家具は一般的な物で、魔術的要素を付加されてはいないようだ。
 特別注視する物はなにもない、大人数が集うための部屋のようだった。

 その中央に、“敵”はいた。

 ……黒い。
 それが、標的であるセイバーの第一印象だった。
 その身を包む重厚な鎧は元より、体から溢れ出る膨大な魔力が濃霧となってセイバーを覆い、まるで黒い恒星のような印象を与える。
 その手に握られた黄金の剣だけが、黒色の中の異物として目立っている。


 セイバーはこちらに気付いているのかいないのか、入り口から背を向けている。
 罠の可能性もあるが、その隙を突かない理由はない。
 深く、ゆっくりと、静かに息を吸い込み、

「フッ――――!!」
 一撃で扉を、その止め具ごと粉砕。セイバーへと殴り飛ばす。
 その影に隠れ、追従するように一足でセイバーへと肉薄する。

 対象の行動予測。一手目の取捨選択。
 次に取るべき私の行動は―――

「なっ………!?」

 後先を考えない、その場凌ぎの無様な回避だった。
 高品質な絨毯の上を転げ回り、近場の調度品を投擲することで次撃を牽制する。

「ぐっ…………!?」

9対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:26:10 ID:ExHGcG.2
 吹き飛ばされた。
 牽制は牽制としての用を成さず剣士に攻め入られ、そのまま弾き飛ばされた。

「づっ……!」
 守りは間に合った。戦闘の続行に支障はない。
 セイバーの追撃はない。部屋の端まで下がり、体勢を立て直す。


 ――――想定外。いや、迎撃されたこと自体は想定内だった。
 だがセイバーは、私がそうすることがわかっていたかのように、囮にした扉ごと私を斬り伏せに来た。
 しかも狙いは正確。扉に隠れて見えないはずの私の頭部を、寸分の狂いもなく狙っていた。

「くっ………」

 なんて間抜け。
 先手を取っていながら僅か一手で後手に回ってしまった。
 もはや戦いのアドバンテージはあちら側だ。
 どうにかして情勢をこちら側に持って来なくては――――

「その程度の実力で私を殺しに来たか、魔術師(メイガス)」
「――――――!」

 喋った。自我がある!
 それはつまり、クラスカードで呼ばれた英霊ではない?
 ……いや。人間自身を媒介にして召喚した例もある。それを確かめるのは対象を倒してからで十分だ。

「その程度とは聞き捨てなりませんね。この身は封印指定執行者。凡百の魔術師とは錬度が違います。
 現に、あなた同様英霊の力を持つモノ。ランサーとアーチャーの二体を既に撃破しています」
「はっ、笑わせるな魔術師。アーチャーもランサーも貴様如きに討たれるようなサーヴァントではない」

 サーヴァント? 聞いたことがある。
 確かクラスカードが出現した冬木の街で、幾度か行われたと云う儀式。その名は―――

「聖杯戦争!」

 だとすれば、眼前にいるのはセイバーのサーヴァント! 紛れもない本物の英霊!!

「なるほど。道理で自我があるはずだ!」
「自我? その言い方からすると、貴様が戦ったというアーチャーとランサーには自我がなかったのか」
「その通りです」
「――――――、ク」

 その冷淡な表情から、僅かに嘲笑が漏れる。

「何がおかしい、セイバーのサーヴァント」
「なに、貴様があまりにも愚かなのでな。
 まさか意志のない人形を倒したぐらいで粋がっていたとはな」
「自意識の有無など些細な違いでしょう。自我があろうがなかろうが、同じ英霊には違いない。その性能に変わりはありません」
「ほう? ならば試してみるか?」
「試すまでもありません。私はあなたを倒し、クラスカード回収の任務を遂行する。これは決定事項です」

 両の拳を強く打ち鳴らす。
 ルーンの刻まれた手袋をはめた拳は、金属がぶつかり合うような音を立てた。

 任務に変わりはない。
 眼前のセイバーを打倒し、名簿にあったバーサーカーも撃破し、クラスカードを回収する。
 例外はアーチャーのカードを持つクロエ・フォン・アインツベルンだが、これはその時の状況で判断する。


 だが疑問は残る。
 眼前の剣士はセイバーのサーヴァントだ。それは間違いない。
 サーヴァントはマスターの召喚によって呼ばれるモノ。その存在の維持はマスターの魔力によって行われる。
 つまりマスターがいなければ、存在するだけで魔力を消費し消滅する。
 この問題はクラスカードを依り代にしてしまえば解決される。
 だが、私の知る冬木の街で“聖杯戦争は起こっていない”。
 ならばあのサーヴァントはいつ、どこから呼ばれたと言うのか。

10対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:27:16 ID:ExHGcG.2
「私も舐められたものだ。
 喜べ、一時戯れてやる。―――そして我が力、その身を以って思い知れ!」
 セイバーが剣を構え、床を踏み砕いて突進する。
 考えるのは後だ。
 今は何より、眼前の敵を粉砕する。


 踏み込む。
 振り下ろされる剣閃を掻い潜り、その重厚な鎧ごとセイバーの胴めがけて渾身の右ストレートを打ち込んだ。

「ッ――――!」

 それを防がれた。
 時速八十キロを誇る私の右ストレートは、いとも容易くセイバーの左手に受け止められた。
 またも読まれていた。
 それで確信する。この敵に生半可な奇襲やカウンターは通じない。
 一撃を加えるには、真正面から叩き潰す必要がある。

 一瞬の間。
 渾身のカウンターを防がれた私と、その小柄な体躯ゆえに衝撃を殺し切れなかったセイバー。
 その僅かな差は、この状況を作り出したセイバーに傾いた。

「雑だな。しかも軽い!」

 掴まれた拳を起点に、力任せに私の体が持ち上げられる。
 そのまま急降下、今やリングのマットと化した、柔らかい筈の絨毯へ叩きつけられる。

 それを防ぐ。
 激突の寸前に体を捻り拘束を外し、四肢を全て使って衝撃を殺し切る。
 すぐにその場から飛び退く。
 閃く一撃。前髪を数本切り裂かれた。

 だがセイバーの攻撃は終わらない。
 壁際に詰められた私に向かって突撃し、背後の壁ごと両断してくる。

「グ、づ…………ッ」

 それをどうにか凌ぐ。
 壁ごと断ち切るのは流石に剣閃が鈍るのか、セイバーの猛攻をどうにか潜り抜け、部屋の中央へと躍り出る。

 追撃してくるセイバー。
 それを尻目に拳を振り上げ、一撃。部屋の床を粉砕し、足場を崩す。
 直後に浮遊感。床は完全に崩落し、下階との吹き抜けとなる。

 舞い上がる粉塵を煙幕に、より狭い廊下へと抜け出す。
 当然セイバーも追ってくるが、こちらの狙いを悟ったのか、廊下へ出ると同時に足を止める。

 お互いの距離は二十メートルほど。
 狭い廊下は一直線に伸びており、敵に全身か後退しか許さない。
 壁を壊せば道は開けるが、そんな隙を逃すつもりはない。
 更に、無手のこちらとは違い、あちらは長剣。
 剣は振るう度に壁に当たり、その速度を落とさざるを得ない。

 敵が後退するならよし。
 攻守は入れ替わり、今度はこちらが攻める番となる。
 前進するならそれもよし。
 鈍った剣筋なら、カウンターを入れる余地も十分にある。
 セイバーがどちらを取ったとしてもすぐに行動できるよう、拳を構える。

 だがセイバーは、そのどちらでもない行動をとった。

11対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:28:02 ID:ExHGcG.2
「ぬるいな。やはりこの程度か」

 セイバーがそう呟くと同時に、剣に黒色の魔力が渦巻く。

 “宝具”―――ではない。ラックは反応していない。
 ならばこの攻撃は―――遠距離攻撃!

「そら、躱して見せろ!」

 放たれる黒刃。
 魔力と剣圧によって繰り出されたそれは、天井床壁面を斬り抉りながら飛翔する。

「…………ッ!」

 敵の攻撃を鈍らせるための作戦が仇になった。
 作戦とは真逆に、狭い廊下は私の回避空間を殺いでいる。

「どうした? この程度の攻撃、容易く防いで見せろ。
 アーチャーの弓はより強く、より正確だったぞ」
「――――ッ!」

 躱しきれなかった黒刃に、刃の側面から一撃する。
 イリヤスフィールのソレとは違う、より強靭でより鋭角な刃は、砕けることなく私を弾き飛ばす。

「グ、ァッ………!」

 想定外すぎる。
 魔術や礼装でなく遠隔攻撃が出来る剣士など聞いたことがない。
 剣技自体も桁違いだ。追い込むどころどころか、互角にすらなっていない。

 彼我の距離はプラス十メートル。
 合わせて三十メートルのその距離は、お互いの実力差を表しているように見えた。

「立つがよい。まだ終わりではないぞ」

 セイバーから膨大な魔力が溢れる。
 剣は腰だめ、突きの形に構えられている。
 その体からは、重厚な鎧が取り払われていた。

「まさか―――!」

 即座に立ち上がり、構える。
 絶好のカウンターの好機。だが同時に、セイバーが放つ必殺の一撃のはずだ。

 ……だが、やはりまだラックは反応しない。

「行くぞ―――散るがいい!」

 ドン、と言う音とともにセイバーが突進する。
 重厚な鎧に要していた魔力さえも『魔力放出』に動員される。
 さらに狭い廊下が銃身となり、弾丸であるセイバーをより加速させる。

 お互いの距離は三十メートル。
 それをセイバーは、僅か三歩で踏破した。

「――――――ッ!」

 カウンターもなにもない。ただ自らの存命の為に、必死に敵の一撃を回避する。

「、ガハッ…………!」

 それは成功。
 だがセイバーが掠めた衝撃だけで、より後方へと弾き飛ばされる。

「そら、次だ!」
「っ…………!」

 後ろからセイバーの声。
 すぐさま跳ね起き、放たれた剣閃の回避に徹する。

 なぜこんなにも早く後ろに迫れたのかと思えば、セイバーの後方の壁が大きく凹んでいた。
 どうやらセイバーは、廊下の端の壁を足場に停止、方向転換したらしい。

「遅い。この程度も凌げぬのか? もっと足掻いて見せろ。
 ランサーの槍はより鋭く、より疾かったぞ」

 疾風怒濤と振るわれる剣閃。
 刺突を基本としたそれは、確かにランサーの槍を思わせる。
 だが速度、精度は及ばずとも、一撃の威力はそれ以上だ。

12対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:30:06 ID:ExHGcG.2
「ガ、ッ…………!」

 剣劇を捌ききれず、弾き飛ばされる。
 吹き飛ばされた私の体は、廊下の壁を粉砕し、その奥の室内へと叩き込まれる。

「、ッ…………!」

 ……これがセイバーのサーヴァント。これが本物の英霊。
 私が相手にした黒化英霊とは、そもそもの質が違う……!

「物足りぬ、立て。それともそのまま朽ちるか?」

 セイバーが部屋へと入ってくる。
 その体には、魔力の霧が集うように結晶化し、漆黒の鎧を新たに作り上げる。
 その様を見て更なる驚愕を味わう。
 あれだけの魔力放出を行いながら、セイバーのその膨大な魔力は、まったく陰りを見せていない。
 眼前のサーヴァントは、一体どれほどの魔力を蓄積させていると言うのか。

「万策尽きたか。全く……手応えのない。身の程を誤ったな」

 未だに膝をついたままの私を見て、失望したようにセイバーが言った。
 返す言葉もない。
 私から仕掛けておきながら、結局私は最後まで攻勢に出る事が許されず、セイバーの猛攻に翻弄されるしかなかった。

「自我がなくとも性能は変わらない。そう言ったな、魔術師。
 確かにその通りだ。自我があろうとなかろうと、肉体の能力はそう変わらん」

 壁の残骸を踏み砕きながら、セイバーが前進する。
 それに圧されるように、私も僅かに後退する。

「だが勘違いをするな。
 そもそも英雄とは、己が生き様を貫いた果てに成るものだ。肉体の性能など、その結果付いてきた物に過ぎん。
 故に、自我のない英霊など本物に及ぶべくもない。それを侮るなど、片腹痛いわ」

 セイバーがさらに歩を進める。
 私の体もさらに後退するが、背後の壁に阻まれる。

「無意味な勝負だった。確かに魔術師にしては鍛えられているが、それだけだ。名を覚える価値もない。
 共に時間を無駄にしたな」

 逃げ道を失くした私に、セイバーが剣を突き付ける。
 その刃から逃れる術はない。
 フラガラックは通常状態でも使用できるが、セイバーは確実に避けるだろう。
 それ以前に、発動の準備に入られた段階で気付かれる。

「くっ……」

 方法を。
 どうにかして、生き延びる方法を考えなければ……!

「祈れ。少しは楽になろう」

 セイバーのサーヴァントはそう言って、私に何の感情も向ける事なく、その剣を、この胸に突き出した。

「ッ……“後より出でて先に断つもの(アンサラー)”―――!」

 それを死に物狂いで躱し、ラックを発動させる。
 魔力を内包する鉄球が、切り裂かれ血の噴き出す左腕を砲台に、紫電を帯びて装填される。

「宝具……!」
 それを見てセイバーが警戒し、僅かに後退して剣に魔力を籠める。

 それでもなお、必勝の条件は発生しない……ッ!

 苦肉の策。
 生き延びる為の最後の一手を切る。

「くらえ……!」

 跳ね上がる鉄球。振り被られる鉄拳。
 眼前へと弾き飛ばされたそれへと向けて、渾身の右ストレートを叩き込む。

「――――我がフラガラック! ……じゃない球!」
「なっ………!?」

 ビリヤードの如く打ち出される砲丸投げの球。
 真正の宝具であるラックに注視していたセイバーは、その別方向からの奇襲に対処しきれない。
 だが、それを覆すのが剣の英霊。

 砲丸を躱すのが不可能と即座に判断し、剣での迎撃に切り替え、それを間に合わせる。
 振り抜かれた剣は違わず砲丸の軌道を遮り、見事に砲丸を両断した。
 両断して……しまった。

「ガッ………!」

 二つに切り裂かれた砲丸は、その勢いのままにセイバーへと飛来し、新たに作られたヘルムに覆われた頭部に直撃した。

13対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:30:57 ID:ExHGcG.2
 これを好機と、全力で駆け出す。
 セイバーにではない。あのサーヴァントならたとえ、今の状態からでも迎撃して見せるだろう。
 走るのは部屋に備え付けられた、外に繋がる窓へと向かってだ。

「ッ、貴様……!」
 それを見咎め、思わぬ反撃に激怒したセイバーは剣に魔力を纏わせ、一閃する。

 窓を体で叩き割り、空中に飛び出す。
 同時に体を捻り、迫る黒刃に相対する。
 魔術回路を限界まで回し、右腕に渾身の力を籠め、限界まで振りかぶる。


 生きるか死ぬか。
 生き延びるために、迫りくる死に最後の一撃を叩き込む――――!


        ◇


 崩壊した窓から地面を見下ろす。
 死体はない。
 完全に蒸発した可能性もあるが、手応えはなかった。

「……逃したか」

 それだけを呟いて、自身も跳び下りる。
 そのまま危なげなく着地し、足を進める。


 未だに鈍痛が残る頭部をさする。
 あの時、セイバー自身は砲丸を両断するのでなく、弾くか打ち砕くつもりだった。
 とっさの判断であった事と、慣れ親しんだ剣と似ているが違う剣の違和感に、失敗してしまったのだ。

 この魔剣は選定の剣によく似ている。
 似ている分だけ、その差異が齟齬となる。
 その結果、魔術師を取り逃がしてしまった。

 砲丸の威力にヘルムは砕けたものの、ダメージはない。
 だが、次も似たようなことにならないとは限らない。
 やはり、エクスカリバーの捜索は急務だろう。


 それはともかく、これからどうするか。
 対策本部はもう調べ尽くした。
 キラと呼ばれる犯罪者に関する資料があっただけで、有益な物はなにもなかった。
 先の魔術師も含め、全くの無駄足だったのが腹立たしい。

「む………」

 ふと、小腹がすいたと思い、ハンバーガーの入っていた紙袋をあさる。
 人間、空腹だと苛立ちやすいものだ。
 が、中身はない。
 どうやら既に食べ尽くしていたらしい。

「……ふん」

 紙袋を投げ捨てる。
 期待してしまった分苛立ちがさらに溜まった。

 そこでふと思い出したことがあり、地図を広げる。

 目を落としたのは【F-7】の衛宮邸。
 そこに書かれた衛宮邸が自分の知る衛宮邸なら、もしかしたら何かしらの食料があるかもしれないと思ったのだ。
 それに場所は町村。つまり参加者達が立ち寄る可能性が高い。

「決りだな」

 目的地が決まり、迷いなく北東に歩みを進める。
 心なしか早足なのは、決して食べ物の為ではない……ハズだ。


【G-5/キラ対策本部前/一日目 早朝】

【セイバー・オルタ@Fate/stay night】
[状態]:健康、黒化、魔力消費(微小)
[装備]:グラム@Fate/stay night
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本:間桐桜のサーヴァントとして、間桐桜を優勝させる
1:人の居そうな場所。さしあたっては、【F-7】の衛宮邸に向かってみる
2:間桐桜を探して、安全を確保する
3:エクスカリバーを探す
4:間桐桜を除く参加者全員の殲滅
5:次に士郎たちに合った時は、聖杯の器(イリヤ)を貰い受ける(積極的には探さない)
[備考]
※間桐桜とのラインは途切れています

14対決〜英雄の真髄 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:31:37 ID:ExHGcG.2


        ◇


 未だ血の流れる左腕を右手で止血しながら走る。

「私としたことが、とんだ失態だ……!」

 失態も失態、大失態だ。
 事前情報は当てにならないと解っていながら、自身の経験という情報を当てにしてしまった。
 その結果がこのざまだ。

「指は……動く。骨にも異常はなさそうだ。
 しかし、これでは当分、戦闘に支障が出ますね。
 ……いや、腕が繋がっているだけ良しとしましょう」

 あの時。セイバーの止めの一撃を躱した時。
 避け切れなかった刺突は私の左腕を大きく抉った。
 しかもその直後、囮に使ったラックの砲台にしたため、更に悪化させてしまった。

 幸い腕の神経は問題ないようだし、ラックも消費せずに済んだ。
 これは不幸中の幸いと言う奴だろう。

「しかし、セイバー相手でこれでは、バーサーカーと相対した時が思いやられる」

 セイバーより厄介と聞くバーサーカーだ。
 セイバーにすら相手に成らないようでは、バーサーカーを倒すなど夢のまた夢だろう。

「戦力が入りますね」

 自分一人ではどうにもならない。
 誰か、セイバーを追い詰める事の出来るだけの力を持った人物、または武装が必要だ。
 目ぼしい人物としては、カレイドステッキを持つイリヤスフィール達だろう。
 一度はクラスカードを全て封印した経験を持つ彼女たちなら、サーヴァントを相手にしてもどうにかなるかもしれない。

 問題は。
 一度は彼女達を、自分が圧倒したと言うことだが。
 自分にラックを使わせたように、他にクラスカードがあればどうにかなるだろう。

 もっとも。

「それよりもまず、この腕を止血しなければ」

 未だに血を流し続ける左腕。
 これを完全に止血しなければ、どうする事も出来ない。

 どこか安全に処置できる場所を目指し、駆け足を止める事なく、冬木大橋へと足を踏み入れた。


【H-5/冬木大橋前/一日目 早朝】

【バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身裂傷、左腕重傷(骨、神経は繋がっている)、疲労(中)
[装備]:ルーンを刻んだ手袋
[道具]:基本支給品、逆光剣フラガラック×3@プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:何としてでも生き残る。手段は今の所模索中
1:取り合えず撤退。傷の治療をする
2:セイバーを追い詰めれるだけの人員、戦力を探す
3:とりあえず会場を回ってみる
4:障害となる人物、危険と思しき人物は排除する
5:安全とみなした人物、有用な人物にはニアの存在と計画を教える
6:呉キリカには借りをつくった
[備考]
※3巻の戦闘終了後より参戦。
※「死痛の隷属」は解呪済みです。
※キリカから、セイバーの存在と、マントの男(ロロ・ヴィ・ブリタニア)の情報を教わりました。
※呉キリカを、『殺し合いに乗っていない参加者』と認識しました。
※セイバーやバーサーカーは、クラスカードを核にしていると推測しています。

15 ◆UOJEIq.Rys:2011/09/24(土) 17:35:48 ID:ExHGcG.2
以上で投下を終了します。
フラガラックの数については、まとめwikiで個数が書かれていなかったので、ホロウと同じ三個とさせていただきました。

他に何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

16名無しさん:2011/09/24(土) 18:50:57 ID:6WXhb266
投下乙です。大恩人が大故人に、と思いきやの大奮闘とは。「……じゃない球!」には不覚にもw
黒セイバーも黒仮面族(?)なだけあってやっぱ威厳あるなぁ、腹ペコだけど。

17名無しさん:2011/09/24(土) 21:05:11 ID:LUJM8PEU
大恩人が大故人にならなかった。やったね!黒セイ強ぇ…バゼット、否ダメットさん超頑張れ。
投下乙です。

18名無しさん:2011/09/24(土) 21:30:37 ID:r0Zxvecs
投下乙です!
バゼットさん、何とか生き残れたな……
セイバーは相変わらず強いなぁ、彼女の快進撃はまだまだ止まりそうにないかも

19名無しさん:2011/09/24(土) 22:21:06 ID:7IrYiN7E
投下乙です
バゼットさん生き残ったな、運がいいのか悪いのかw不幸中の幸いという言葉を作った人天才だな
フラガラックは対主催でも重要だし消費しなかったのは本当に良かったな

20名無しさん:2011/09/24(土) 22:34:30 ID:EOu.zzoQ
投下乙です
ダメット生還したかw
あとはニアがどう対処するか・・・

それにしても
>……いや、腕が繋がっているだけ良しとしましょう
原作と比べるとなんとも皮肉w

21名無しさん:2011/09/25(日) 00:20:20 ID:ynKEKjuM
>>1
スレ立て乙ですー。

>>15
投下乙ですー。
うわー、セイバー強……唯一本編より強いとまで言われるプリズマダメットでもこうか、これはヤバイ。
しかし球ってw そりゃ充分に恐ろしい武器になるだろうけどさw
あとフラガラックは前スレ>>946だと2個になってますね。 wikiには無かったか。

22名無しさん:2011/09/25(日) 18:25:46 ID:yqAfp.Jw
投下乙です

意志の無い英霊と一緒にしてた時点でアウトだわ。死んでてもおかしくなかったが生き延びたか
さすがに単独ではもうどうにもできないから仲間を募ろうと…こいつにそれが可能だろうかw
黒セイバーは食い物から士郎邸かw

23 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:02:35 ID:kmCFpsoc
美遊・エーデルフェルト、ロロ・ランペルージ、長田結花、南空ナオミ投下します

24幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:03:45 ID:kmCFpsoc


 長田結花は不幸な少女である。
 両親は物心が付く前に亡くなり、彼女を引き取った養父母によって虐待を受けていた。
 義理の妹は学校ですら彼女を追い詰め、雪のふる日に化け物となった。
 力を得た長田結花は、果たして幸せだっただろうか。
 その問は否である。
 人を守りたいと告げる木場に同調する一方で、かつての不幸の象徴である人物たちは始末してきた。
 胸の内に抱える二面性に悩みながらも、バケモノの力を振るい、追い立てられ、余裕を失っていった。
 オルフェノクとなっても彼女は昔と何ら変わらなかった。
 彼女を愛してくれる者はいない。
 そう思い込むことが、彼女を不幸へと追いやっていたと気づかずに。



 月が傾き、夜に紫が混ざりはじめたころ、ロロは同行者である少女に振り向いた。
 肩に掛かるか掛からないか程度に髪をまとめた、冷たい美貌を持つ十歳程度の女の子である。
「そろそろ行こうか、美遊」
「はい。ですけど、体の方はもういいんですか?」
「大丈夫。服も乾いてきたし、風邪も引いていないから問題はないよ。君が向かいたかった友達の家に向かおうか」
 美遊は首を縦に振る。ロロの目的はもう一人の自分を始末し、あわよくば入れ替わることに変わった。
 しかし、もう一人の自分を探すなど、現状では不可能である。
 ならば彼女の信頼を深め、始末する準備を整えるのが先決だ。
 情報、武器、地形の把握。
 やるべきことは多い。ロロは荷物をまとめつつも、冷静に思考を続けた。
 そんな時だ。
『誰か近づいています』
 カレイドサファイアの忠告に身構える。美遊はとっくに準備をすませ、杖を握りしめていた。
 敵か、味方か。
 懐中電灯の光を消して、橋にかかる薄れ始めた闇を睨み続けた。
 ほどなくして、人影が浮かび上がる。背の低さからして女性だろうか。
 ロロは油断なく構えていたが、急に隣の美遊が警戒を解く。
「美遊……?」
「サファイア、もしかして……」
『はい。真理様が教えてくれました、長田結花様と特徴が一致しています』
 サファイアが言い終えた瞬間、長田結花と推察された人物ははっきりと姿を見せた。
 遠目から見ても、彼女は負傷をしているのがわかった。
 服はところどころ敗れ、露出した肌は血で赤く染まっていた。
 息遣いは荒く、危うい足取りだ。
「大丈夫ですか?」
 美遊が冷静に尋ねると、相手の肩がびくっと震える。
 結花らしき女性は何かに怯えているのか、少し後退った。
「あの、長田結花さんで間違いありませんか? わたしは美遊・エーデルフェルトと申します」
「どうして……?」
「真理さんからあなたのことを聞きました。わたしは味方ですので、今はあなたの傷の手当てをさせてください」
 美遊は相手を刺激しないように説明を終え、近づいていく。
 ロロは黙って成り行きを見ていた。下手に口を挟んで事態をこじれさせる訳にはいかないからだ。
 一方、真理と聞いた瞬間に結花がわずかに安堵するが、それでも数歩後ろに下がる。

25幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:04:10 ID:kmCFpsoc
「長田さん……?」
「近寄らないでください! わ、私は……私は……」
 彼女の顔に何かの影が映る。ロロは気のせいかと目を瞬き、結花の顔を覗き込みなおした。
 儚げで綺麗な女性の顔だ。見間違いか、とロロは首をかしげる。
 一方美遊は何かを理解したように頷いた。
「大丈夫です。真理さんから話を聞いたとき、その可能性も考慮していました」
「……園田さんから。でも、ごめんなさい。私は……もう……」
 結花は悲痛な顔を浮かべると、一瞬にして姿を変える。
 白い鉄仮面を被ったような、伝説上の生物ハルピュイアを彷彿させる外見だ。
 彼女は泣いているかのような掛け声と共に、自分たちの頭上を飛び越えた。
 あまりの事態にロロは混乱しかけるが、どうにか踏ん張る。
 ここでうろたえるようでは、兄のお荷物でしかないからだ。
「美遊、あれは……」
「オルフェノクでしょう。サファイア、真理さんが知っていた可能性は?」
『ほぼ確定かと。彼女のオルフェノクに対する説明は『人類を追い詰めた怪物』なのに、優しすぎましたからね』
 美遊も同意らしい。ロロはあれがオルフェノクか、と認識しながら告げる。
「彼女が味方なら、追いかけないとまずいことになる」
「ええ、あの方向は……」
 顔を歪めた彼女を視界の端に、ロロは荷物を担ぐ。
 彼女の決意は決まっているだろう。それにオルフェノクの情報は集められるだけ集めたほうが、ルルーシュと合流したときに都合がいい。
「なら早く追いつこうか」
『……よろしいのですか?』
「もとより危険は承知さ」
 ロロがサファイアに答えると、美遊は頭を下げた。


 結花は変身を解きながら、近くの木にもたれかかった。
 気が強く、自分とは正反対の園田真理。美遊は彼女と出会ったといった。
 正直彼女に会いたくなかった。
 自分はバケモノだ。それだけならまだしも、自分は人を殺してきたし、また殺してしまった。
 乾巧がオルフェノクである事実を真理が受け止めたのは知っている。
 だけど、結花は巧とは違う。
 人を殺すことを明らかに楽しんだ。その報いが回ってきたのだ。
 警察に追われ、捕らえられそうになった。
 デルタと遭遇し、ルシファーズハンマーを受けた。
 きっと裁かれるべきなのだろう。そう自分の命を諦めかけていた。
 瞬間、狼のような遠吠えが響き渡る。
 同時に急に現れた黒い狼に体を切り裂かれた。
 結花は地面を転がり、襲撃者を見つめる。
 二足歩行の黒い狼にしか見えない。血のように赤いたてがみが風になびく。
 ああ、きっと天罰だ。自分にふさわしい最後がきたのだと、結花は覚悟をする。

「砲射(シュート)!!」

 なのに、決意を光が砕いた。
 紫のドレスに黒いスカート。露出の大きい背中をマントで隠し、玩具のようなステッキを携える少女が自分の前に立つ。
「ケガはありませんか?」
 美遊という名の少女が、助けに入ったのだと理解した。

26幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:04:31 ID:kmCFpsoc


 黒い狼は着弾する前に跳躍し、魔法弾を避けていた。
 軽やかな体捌きはオルフェノクでも追いつけるかどうか。
 結花はそんなことをぼんやりと思いながら、美遊に視線を移した。
 低く唸る獣を前にしても、彼女は落ち着いている。
 なぜ、という疑問がまず結花に浮かんだ。
 自分は死ななければならない。そして薄汚いバケモノだと彼女に見せたはずだ。
 なのに、助けてくれた。
「どうして……?」
 疑問が言葉となり、こぼれ出る。
 美遊は敵を見据えながら、ステッキをゆっくりと胸の前に持ち上げた。
「わたしの一番大事な友だちなら、絶対あなたを助けに向かいますから」
『来ますよ、美遊様』
 杖が喋った瞬間、結花は腕を掴まれて離れさせられた。
 美遊が放った光と似たものを、黒い狼が放ったのだ。
 いや、まだ両腕に光を溜めている。結花たちは知らないが、あれはポケモンの技の一つ「きあいだま」である。
「長田さん、一つ質問しますが、あれはオルフェノクなんですか?」
「……違うと、思います」
 結花の返答を美遊は吟味するかのように頷いた。
 黒い狼と距離を取り、結花を降ろす。小さな女の子なのに、すごい力だった。
「ならあれはおそらく……」
『タケシ様の世界からきた生物、ポケモンだと思われます。
彼のポケモン、ピンプクかウソッキーという可能性もありますが、いかがいたしますか?』
「なるべく傷つけないようにする」
 美遊はステッキと会話しながら、戦闘態勢を整えていた。
 ポケモンとか世界とか結花には理解できなかったが、相手を捕らえる気であるのは理解した。
 黒い狼が爪をたてながら襲いかかる。
 美遊は一直線に迎撃に向かった。獣の太い腕と少女の細腕がぶつかり合う。
 彼女は見た目以上の力を持っているが、それでも人外の相手と正面からぶつかるのは不利だ。
 実際、あっさりと弾き返された。結花はそんな不利な戦い方を選んだ理由に勘づいている。
 オルフェノクである、バケモノである結花自身を守るためだ。
 どうして、なんのために。
 頭が混乱しながらも、結花は美優の戦いから目が離せなかった。


 南空ナオミは現状が好ましくないことに歯噛みする。
 一人で六十人近くの人間を始末できるとは思っていない。
 最終目的は元の欧名美術館に戻り、夜神月がキラであることを世間に思い知らせ、婚約者の無念を晴らすことだ。
 だからこそ交渉できる相手は交渉し、自らの目的を隠しながら行動を共にして、隙を突いて殺そうと考えていた。
 そんな彼女の前に、いかにも『殺してください』と言わんばかりの少女が目に入ったのだ。
 やや短絡的だが、減らせるうちに減らしておきたいと思うのが人情。
 彼女の肩書きからすると信じられないほど、あっさりと始末することを決めたのだ。
 ゾロアークの性能も確かめたかった、という打算もあったため、相手を襲う手段は獣自身に委ねた。
 ただ一つ、作戦を秘めさせて。
 誤算だったのは、あの少女が一人ではなかったことと、子どもがゾロアークと渡りあえることか。
 ナオミの目付きが険しくなる。
 まだ顔は見られていない。ゾロアークを退かせ、しばらく時間が経った頃に何食わぬ顔をして合流するという手もありだ。
 頃合いを見計らうべきか、と撤退の合図を送る準備をした直後だ。
 後頭部に硬い感触を感じたのは。
「動くな」
 若い男の声だった。不覚だ。
「私はたまたまここを通り過ぎただけ……と言っても無理よね」
 相手は無言で銃を更に強く押し付けた。返答がわりだろう。
 もっとも、そんな言い訳が通用するとは思っていない。
「降参よ」
「だったらあのポケモンを戻してもらおうか。彼女からある程度、ポケモンについては教えてもらっている。嘘は無駄だ」
「そう。あの子を退かせるため、口笛を吹かせてくれないかしら?」
「いいだろう。だけど妙な真似をするな。どんな行動を取ろうと、僕のほうが速い」
 たいした自信だ。ナオミは大人しく彼に宣言した通り、ピィーっと甲高い口笛を吹いた。
 ゾロアークは美遊への攻撃をやめ、こちらに踵を返す。
 銃を構えている少年はその行動にも気を緩めていない。できる。
 だが、こちらは準備をしていたのだ。ナオミはほくそ笑み、回し蹴りで少年の銃を蹴り飛ばす。
「くっ!」
 そのまま逃げようとするが、次の瞬間少年は飛ばされたはずの銃を握りしめ、自分に向けていた。
 何をしたかは知らないが、たしかに速い。引き金にかかる指に力が入っていた。
 だけど、ゾロアークの『きあいだま』が二人の間に割って入るのが早い。
 これで、第一段階は終わった。

27幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:04:50 ID:kmCFpsoc


「ロロさん!」
 遠くの美優の声を耳にしながら、ロロはおのれの迂闊さを呪った。
 油断はしていなかった。何らかの格闘技はかじっていただろうと用心していた。
 予想通り銃を蹴り飛ばされたが、ギアスで挽回できた。そのまま撃ち殺せるはずだったのだ。
 まさか、ギアスの有効範囲が狭くなっているなんて。
 いつもなら彼女が持っていた黒いポケモンにも効果は及ぶはずだった。
 結局ポケモンの行動は縛れず、攻撃を放たれてしまったのだ。
 体力の消耗が激しくなっている時点で、効果範囲も疑うべきだっただろう。
 兄ならその可能性に思い至ったはずだ。自分の愚かさが嫌になる。
 半ば意地になりながら、煙をかきわけて殺人鬼の女性を探す。
「見つけた!」
 黒いライダースーツに包まれた細い腕を思いっきり掴んだ。
 間違いない、銃を突きつけたあの女性だ。今度は逃がすものか。
 ロロが更に拘束しようとした時、相手の口から炎が走った。
 虚を突かれ、頭の中が真っ白になる。ただ、危険を察知して本能で距離を取るだけだ。
 地面を転がり火を必死になって消す。いったいどういうことだ。
「砲射(シュート)! ロロさん、火は!?」
「大丈夫……とっさに飛び退いたおかげか、ヤケドはひどくない」
 ようやく追いついた美遊に対して強がりながら、敵を観察した。
 彼女は両手に光を溜めている。
『あれは……先ほど相手したポケモンの技で間違いありません』
「あの人もポケモンということ……?」
『いえ、今分析の最中ですが、幻影系の魔術に近いものが使われているかと。ならば、あれは先程のポケモンと判断したほうがいいでしょう』
 なるほど、とロロはサファイアの説明に納得し、悔しさに奥歯を食いしばった。
 知らなかったとはいえ、あからさまな罠に引っかかったのだ。
 悔しくないはずがない。
 再びあの女に化けたポケモンが、両手に光を作る。足手まといにならないようロロは立ちあがろうとしたが、膝が崩れた。
 火炎放射の威力は馬鹿にできない。それに気づいた美遊は庇うためか障壁に力を入れる。
 このまま逃げられるのか。
 だが、横から白い影が女を突き飛ばし、攻撃は中断される。
 同時に女の影が消えて、黒い狼のポケモンへと姿が戻った。
「長田さん!」
 美遊を助けに入った存在、オルフェノクに変身した結花に声をかける。
 手助けするほど余裕が生まれたのだと安堵したのだ。
 一方、ロロは彼女の危うさを感じ取った。精神的に追い詰められているように見える。
 そのことを伝えるべきだろうが、傷が痛む。強がったとはいえ、ヤケドの痛みは響くか。
「はぁぁぁぁぁっ!」
 表情の見えないはずの彼女は、明らかに鬼気迫っていた。
 素早い格闘と身のこなしで反撃を許さず、確実に追い詰めていく。
「長田さん、行きますッ!」
 美遊が魔法弾を放ち、ポケモンの動きを止めた。
 合間を縫って結花が蹴り飛ばす。ポケモンはたまらず木々を蹴って逃げようとしたが、オルフェノクである結花の方が速い。
 気合を込めた叫びと共に、彼女の背中から光の羽が伸びた。
 周りの木々を切り裂きながら、ポケモンに迫る。
 その瞬間、ロロは目撃してしまった。黒い狼の顔が、人間のように微笑んだのを。
 ポケモンは真上に跳躍して、必殺の一撃を避けた。
 なのに、ブシュッと液体が噴出する音が鼓膜を叩く。
 血に濡れる灰色の怪人の腕に、ロロたちを襲った女の首が落ちた。
 いきなりの状況に、殺人鬼の死体が灰になるまで、全員の視線は釘つけになった。

28幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:05:11 ID:kmCFpsoc


 殺される直前、南空ナオミは逃げる準備を整えていた。
 結花を発見するまでに、ゾロアークの特性、イリュージョンを知ったのだ。
 そしていざというときは自分に化けたゾロアークが引きつけているうちに逃げ出し、再起を図る。
 口笛から連なる作戦は、最後の手段であった。
 手持ちの戦闘道具を失うのは惜しいが、戦闘能力のある人物を三人相手取るのは分が悪い。
 だから最後の手を使った。ナオミはポケモンを意志のない道具としか見ていないためだ。
 それが、間違いであった。
 ナオミはゾロアークの生い立ちを知らない。
 Nに心を許すまで、特性『イリュージョン』により人に追い詰められ、傷ついてきた。
 アカギたちによってモンスターボールに手を加えられなければ、ナオミはおろか、他の人間に心を許すはずがない。
 だからこそ、自由を与えて敵をひきつけるように指示したのは、彼女の過ちだ。
 ゾロアークは結花に追い詰められた振りをしながらも、巧みに攻撃位置を誘導していたのだ。
 少しずつ、確実に、反意を抱いていると悟られず。
 南空ナオミを殺すため、機会を伺っていた。
 ゆえに結花の攻撃の間合いを測りながらも、限界まで引きつけてから跳んだのだ。
 結果、結花の刃はナオミの首に届いた。
 それを死ぬ直前、彼女は悟った。
 だけど、ゾロアークを恨む心はなかった。
 こうなって当然、裁きが下ったのだと納得したのだ。
 デスノートに人の行動は操れても、心は操れない。
 レイ・イワマツを殺された復讐に、関係ない月の恋人を巻き込んで、また六十人近くの人たちに犠牲を強いた。
 結局そう考えが行き着いたのは、彼女の心が憎悪に染まった証拠である。
 ゆえにこの結末は、キラは報いを受けるべきという彼女の理屈に照らし合わせると、必ずたどり着く答えだった。


 今起こった現実の光景に、誰一人反応出来なかった。
 確かに彼女は結花を殺そうとしたが、だからと言って殺すつもりはなかった。
 どうして、という疑問が頭の中でぐるぐる回る。
『あのポケモンに注意をしてください!』
 しゃべるステッキが何かを叫んでいる。意味が頭に入らない。
 ボーっと見つめていると、黒い狼は灰の中から赤と白のボールを拾い、脱兎のごとく逃げ出していった。
 誰も追いかけようとはしない。結花もどうすればいいかわからなかった。
『気にする必要はありません。これは不幸な事故です。あのポケモンが動いた先に人がいるなど、誰も判断が不可能な状況でした。
それに、殺害をあのポケモンが誘導している節が……』
「サファイア、そこまで」
『……申し訳ありません』
 なぜステッキが謝るのか、結花はわからなかった。
 人を殺したのは確かな事実なのに、ステッキは悪くないないのに。
「美遊……ちゃん? でしたか?」
「はい」
「園田さんに伝えてください。私に……殺されないようにしてください。探さないでください、と」
 美遊は目を丸くした。冷静な印象だったが、意外と表情豊かのようだ。
「あなたたちも、私から離れてください。私は……私は、人殺しのバケモノですから……」
 返事を聞かず、結花はその場から必死に離れた。
 何も聞きたくない。見たくない。
『この会場に呼ばれた中で、“悪い人”を退治してきて欲しいんです』
 意図せず、あの女性の言う通りに動いてしまった。
 ただあの子を守りたい。自分を助けようとする子どもだけは、死なせてはいけない。
 そう思っただけなのに、運命は許さなかった。
 きっと無様な結末が汚れた怪物にはお似合いだろう。
 結花は涙が流れているのも気づかず、ただ自分の知っている人たちから逃げ出した。

29幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:05:46 ID:kmCFpsoc


「長田さん! くっ……」
『申し訳ありません、わたしが迂闊でした』
「サファイアのせいじゃない。きっとなにを言っても、長田さんは引き止められなかった……」
 美遊はうつむき、悔しさで体が震えた。
 イリヤならどうしたのだろうか、と思わずにはいられない。
 一番の親友である彼女なら、何も考えず理屈抜きに感情論で結花を引き止めただろう。
 それがわかっているだけ、自分に足りないものを自覚していく。
 あの、イリヤが空を飛べた時のように。
「追いかけないのかい?」
 ロロが上着を着ながら尋ねてきた。
 ヤケドはどうしたのだろうか。
「僕の最後の支給品、やけど直しのスプレーが役に立ったよ。ここまで即効性があるなんてね」
 こちらの心を読んだかのように、彼は続けた。
 いや、今の自分なら何を考えているのか当てるのは簡単だろう。
 ロロはすくっと立ち上がって、デイパックを背負う。
「それで、長田結花さんだっけ? 彼女はあのまま進むと、君を苦しめたバーサーカーに遭遇しちゃうけど……どうする?」
「……放ってはおけません」
 美遊は答える。サファイアは判断しかねるのか、黙っていた。
 このままバーサーカーのもとに向かうのは自殺行為に近いが、このままでいいはずがない。
 結花を見捨ててイリアを探したなど、胸を張って言えるはずがない。
「友達の家に向かうのがまた遅れちゃうね」
「ロロさんは先にそちらに向かってもらえますか? さすがに長田さんとロロさんをかばいながら、バーサーカーから逃げきるのは難しいので」
「大丈夫だよ。ほら」
 ロロがそういった瞬間、彼の手にサファイアがあった。
 えっ、と驚く美遊の手に優しく返される。
「この力なら、逃げ出す手助けができる。助けに向かうなら、早くしないとね」
 掴みどころがないが、ロロの態度に美遊は助けられる。
 内心感謝しながら、もう一度バーサーカーの前に立つ決意を固めることにした。
 体が震える。傷めつけられた記憶が蘇る。
 けど、自分ならきっと乗り越えられる。そう信じながら、一歩踏み出した。


 美遊を向かわせることができて、ロロは内心安堵した。
 オルフェノクにしろ、美遊の魔法少女にしろ、味方にすると頼りになる力ばかりだ。
 兄と違って人心掌握術は不得意だが、印象を良くしておいて損はない。
 どちらもこの殺し合いで、兄と共に脱出するための力として申し分ないのだ。
 もちろん、彼女たちに気を遣う部分もあるが、優先順位の問題だ。
 ロロにとって彼女たちより、兄であるルルーシュが大事であるというだけ。
 それに、とロロは冷徹に思考する。
 話に聞いたバーサーカーならば、ナナリーや別世界の自分を自然に始末するのに都合がいいのではないか、と。
 自らの居場所を奪うため。
 充分に幸せを噛み締めたもう一人の自分の立場を奪うため。
 都合のいい駒となりうるなら、バーサーカーを利用すべきである。
 ロロは冷徹な思考を隠しながら、美遊と共に結花を追った。


 月が沈みかけ、空が白み始めた。
 ゾロアークは鼻を天に向け、おのれのトモの匂いを嗅ぎ分ける。
 彼の味方はNだけだ。理解してくれるのはNだけだ。
 南空ナオミのせいで余計な時間を食った。
 だから急がねば。トモの元へ。

30幻影と罰 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:06:07 ID:kmCFpsoc




【南空ナオミ@デスノート(実写):死亡】


【C-6/森の南東/一日目 早朝】

【長田結花@仮面ライダー555】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、怪人態、仮面ライダー(間桐桜)に対する重度の恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:???
1:仮面ライダー(間桐桜)から逃げる
2:仮面ライダー(間桐桜)に言われた通り、“悪い人”を殺す?
3:木場さんの為に、木場さんを傷つける『人間』を殺す?
4:自分を知っている人から離れたい
[備考]
※参戦時期は第42話冒頭(警官を吹き飛ばして走り去った後)です


【たった一人の 家族/友達 を守り隊】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:カレイドステッキサファイア
[道具]:基本支給品一式、クラスカード(アサシン)@プリズマ☆イリヤ、支給品0〜1(確認済み)、タケシの弁当
[思考・状況]
基本:イリヤを探す
1:結花を追いかける
2:ロロと行動
3:凛を始め、知り合いを探す(ロロの知り合いも並行して探す)
3:結花の件が片付いたら、橋を渡って東部の市街地を目指す(衛宮邸にも寄ってみる)
4:真理の知り合いと出会えたら、真理のことを伝える
5:ナナリー・ランぺルージには要警戒。ユーフェミア・リ・ブリタニアも、日本人を殺す可能性があるので警戒。
6:『オルフェノク』には気をつける

[備考]
※参戦時期はツヴァイ!の特別編以降
※カレイドステッキサファイアはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません


【ロロ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ギアス使用による消耗(中)、半乾きの服
[装備]:デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り2個)
[道具]:基本支給品、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:ナナリーとロロ・ヴィ・ブリタニアを殺害し、自分の居場所を守る
2:ロロ・ヴィ・ブリタニアを陥れる方法を考える。
3:ナナリーの悪評を振りまく。
4:ルルーシュと合流する
5:殺し合いを止めるための仲間を集める。
6:美遊・エーデルフェルトと行動。衛宮邸に立ち寄りつつ、住宅街を探索
7:『オルフェノク』と『バーサーカー』には気をつける。
8:バーサーカーを利用できるのでは?
[備考]
※参戦時期は、18話の政庁突入前になります
※相手の体感時間を止めるギアスには制限がかかっています
 使用した場合、肉体に通常時よりも大きな負荷がかかる様になっており、その度合いは停止させる時間・範囲によって変わってきます


【共通備考】
ゾロアークが自分のモンスターボールを持ってNを探しています。
南空ナオミのデイパックがC-6の森に放置されています。
内容は基本支給品と不明支給品0〜1です。


【やけどなおし】
使用することでやけどの状態異常を回復できる、即効性の薬。
本来はポケモンのアイテムだが、ポケモン以外でも使用可能。

31 ◆qbc1IKAIXA:2011/09/26(月) 20:06:55 ID:kmCFpsoc
投下終了
いつも通りミスがありましたら、指摘をお願いします

追記
海堂、ルヴィアの状態表を修正しました

32名無しさん:2011/09/26(月) 20:39:36 ID:Itowdc.2
投下乙です

ナオミは一人も殺せずにここで脱落したが結花が…
この場合は仕方ないと思うがガラスの心だわ
ってバーサーカーの方へ行くのかよっ!?
そしてそれを追う二人だが内心が大きく違うわw

33名無しさん:2011/09/26(月) 21:23:20 ID:ljfDKOis
投下乙です

ナオミ…まあ、操られて人を殺し続けるよりはこの方が幸せか
結花さん、怯えながらも人の心を保ってるのが痛々しいよ。そして死亡フラグまで

あれ?ロロが優しい…と思ったら、やっぱり計算かい!w
でもそのロロも放送後はやばいぞー。美遊さん、マジ苦労人
そしてNの元にポケモン関係のフラグが集まりつつあるな…こりゃ中央部も混沌としてきたぞ

34名無しさん:2011/09/26(月) 21:55:36 ID:UJfXOnfg
投下乙です。まあナオミはこうなるわなぁ、仮に生きててもNなりミュウツーなり会ったらミサミサの二の舞だし。
長田さんが露骨にヤバイけどロロも放送聞いた途端に爆弾化する予感しか……美遊、まあ頑張れ。

35名無しさん:2011/09/27(火) 19:14:24 ID:SJma1WOI
投下乙です。
ナオミが予約された時点でこんな展開が来るとは予想してましたが……
結局ノートに操られた状態という登場話がロワ進行にとっても彼女にとっても何らプラスにならなかったのは全員にとって残念な気がします。
彼女をうまく書ける人が誰もいなかったのが悔やまれる話でした。

36名無しさん:2011/09/28(水) 04:04:59 ID:1sXj.nz.
投下乙ー

ポケモンはあくまで命令に逆らえないというだけで
主人に不服があれば命令外でいくらでも反旗翻そうとしてくるんだなw

その点、使うのは悪人でもサカキのニドキングとかゲーチスのサザンドラとかはよく飼い慣らされてそうだな

37名無しさん:2011/09/28(水) 22:37:14 ID:BkJwmWQ6
>>31
投下乙ですー。
うーむ、やはりナオミはこうなってしまったか。 だがそれでロロに暗躍できる余地が。
ゾロアークはいい感じですな、しかし自分のボール持ってうろつくとかどれだけ賢いのかw

38 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:09:42 ID:ba3PYlbk
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、海堂直也、間桐桜投下しますー

39 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:10:21 ID:ba3PYlbk



深緑の森を白い悪鬼が駆け走る。
目に見える程の憎悪を放ちながら走る姿はまさしく鬼。
オルフェノクの強化装甲服。ライダーズギア一号機。その名はデルタ。
全身を覆う光子(フォトン)、脳を狂わせる装置(デモン)は定めた標的を追い狙う。
間桐桜という女の中に燻っていた情念は力という名の火種を喰らい、燃え盛る狂気が肉体を蹂躙している。
種を取り除かない限りはいくら火を消そうとも再燃は止まらない。
そして種は、悪魔の魅了をもって自らを手に取る獲物を離さない。
故にこの火は永久機関。くべられた薪が灰になるまで燃え続ける。

「ふぁいあ!」
≪burst mode≫

火を噴く銃口。右の腰に付けられたデルタムーバーからオルフェノクを焼き尽くす光が放たれる。
狙う先は青と金に彩られた令嬢。
はじめて見る筈なのに、その顔には忌々しい既視感がつきまとう。
ついさっき、目の前で死んでいた姉の姿を幻視する。忘れかけていた、深い喪失の念を想起してしまう。
駄目だ。思い出すな。捨てろ。記憶野から消し去れ。
胸に懐く憧憬と、胸を焼く嫉妬がせめぎあい、一刻も早い抹消を望み引き金を何度も引く。
携帯銃には望めない高威力。オルフェノクが支配する大企業スマートブレインの技術力を遺憾無く発揮される。
青白い閃光は地面を、草木を、樹木を穿ち焼き撃ち抜いていく。
反して、その成果は期待に沿うことはなかった。白光は青い背中に届くことなく逃走を許し続ける。

ルヴィアが逃走に東、森林地帯を選んだのには幾つかの理由がある。
ひとつは今追う怪物を、あの場に留まっていた他の者から引き離すため。
いずれも初対面の相手。格別礼を払う必要もないがあのまま暴れられても混乱を招くしかない。
もうひとつは、地の利を存分に活かすため。
生い茂る木々の群れは身を守る盾であり追う足を阻む障害物である。
身を掠め、通り過ぎた木が砕けることはあっても、敵の銃光は決して直撃することはない。
森の中、常に遠ざかる相手を狙い撃つなど熟練者にも至難の業だ。
そしてその点、ルヴィアは追撃者の欠点にも合点がいった。威圧と異常性に隠れているが、付け入る隙は多い。
戦術考察を隅に固めつつ、魔力を回した足を止まらず動かす。
今はまだ逃げに徹するべきだ。この屈辱を倍にして利子をつけて返すためには我慢の時だ。

「で、いったいあれは何ですの!?知ってることがあったら包み隠さず吐きなさい!!」
「えーとだな、要するにオルフェノクがあのベルトを使うと変身できんだ!俺様あんなベルト見たことねえけどな!」

40 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:10:59 ID:ba3PYlbk

最後の理由は、蛇の意向を持つ灰色の同行者から話を聞き出すためだ。
オルフェノク態の海堂はルヴィアと同じ方向で逃走を図っている。
速力では海堂が勝っているが身のこなしでは劣っているため並走している状態だ。彼もまた直撃を受けてはいない。
追う側―――如何なる因果かルヴィアに執着している―――にすれば標的が増えるだけでも狙いに苦労することだろう。

「つまり、あの女はオルフェノクだということですの!?」
「たぶんそう―――あーでも人間でも変身できるやつがたまにいるからな……」
「どっちなのかハッキリさせなさい!!優柔不断な男ですわね……!」

悪態をつきながらもルヴィアは、温室育ちを窺わせる立ち居振る舞いからは想像できない走力と持久力で走り続ける。
露になる二の腕やロングスカートから伸びる腿は、美しさと力強さがミックスされた、草原を走るカモシカを思わせる。
それでも、オルフェノクである海堂よりもスタミナが下だろう。
敵が諦める様子はない。追いすがる速度も、全身から漏れる悪意も減衰していない。
海堂はともかくとして、ルヴィアは追いつかれてしまう危険性は捨てきれない。そもそも敵の狙いはそちらにあるのだ。

(ちゅーか、なんで俺こっちについてきてんだ……?)

今更に海堂は自問する。なぜ自分はこの女の後を追ってしまったのか。
海堂は好んで厄介事に首を突っ込むタイプではない。逃げるにしてもわざわざ危険になる方角へ向かうことはなかった。
理由は……正直言って、あまり考えていない。あの時はほとんど反射的に動いていたのだ。
そうなると、ルヴィアの呼び声に素直に従ったと解釈できてしまうので海堂的には面白くない。
護衛を務めると申し出た身とはいえ、命を張るだけの義務というものでもない。

だから、理由なんてきっと単純。
一人で追い詰められたこの女が死ぬことを見過ごすことが、人間を見捨てるという行為が許容できなかっただけ。
海堂直也は、理屈や理由で動くにはお人好し過ぎる男だった。

「…しゃーねえな。こうなりゃ俺様の華麗な戦いを見せるっきゃねえな……!」
「なにをブツブツと……アレについて知ってるのなら早く何とか……!?」



「ちぇっく!」
≪exceed charge≫

41 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:11:19 ID:ba3PYlbk

処刑宣言の電子音と共に出現する銀の三角錐。
ルヴィア達を縫い留めるように向かってくるそれは、死神の鎌ならぬ神託の槍だ。

「危ねえ!!」
「な……ッ!」

どのライダーギアも持つ必殺技の準備段階。その威力を知る海堂は焦りを覚える。
オルフェノクすら灰燼に帰す破壊力。人間に向けるものでは断じてない。
咄嗟に腕力で思い切り、横にいたルヴィアを突き飛ばした。その結果起きる自分の身を考える間もなく。

「あ、やっべ……っ!!」

槍に貫かれ磔になる白い身体。ダメージはないが海堂の気は休まることはない。
『これ』はそういう仕組みなのだ。発射したエネルギーで相手を拘束し、その隙に必殺の一撃を叩き込む。
一度縛られた拘束を破るのは上級のオルフェノクでも困難だ。
その点、身体の中心に打ち込まれた海堂は致命的だ。オリジナルでない、使途再生で進化した体では耐え切れない。
こうなれば、自身の最期を焼き付ける他にない。



「あ、外れちゃいましたか。まあいいですよね。順番がひとつ繰り上がっただけです」

そして、近づく白い処刑者。
海堂の知る形ではないがその姿は紛れもない、ライダーズギアを纏ったもの。
仮面に隠れた瞳は、海堂を見ているようで見ていない。
幼い少女の声から感ずるのは歓喜と愉悦の念であり、それを向ける対象のことは問題ではない。
蟲を指で押し潰すような、絶対的な力の差を味わいたいだけでしかない。蟲か蛇かなど、余りにも瑣末な要素。
補足を終えた銃を律儀に腰に付け直し、空へ発つために腰を沈める。

「これだけじゃ死なないかもしれないですけど、頑張ってくださいね。
 さっきの女の白鳥さんみたいに、たくさん痛がってください」
「な……に?」

必死に戒めを外そうともがき、デルタの言葉など聞く耳を持たなかった海堂が、そこで止まる。
『この世界の彼』において、決して聞き逃せない言葉があったからだ。

「―――おめえ、まさか結花を……!?」

この会場にいるプレイヤーとやらにどれだけオルフェノクにいるかを判別する手段などはない。
オルフェノクになっても人間であった過去はあり、大抵はその名のままで生活しているからだ。
だが、女性で、なおかつ鳥の意向を持つオルフェノクが2人以上ここに会することなど、そうそうあるものではない。
ただでさえ死ねない理由が、さらに強固になる。
だが、どれだけ足掻こうが捕らわれた蛇身は動かない。
無情にも、未練も悔恨も嘲笑う堕天使の鉄槌が降り下ろされる。

42 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:11:44 ID:ba3PYlbk



その刹那。
飛び蹴りの態勢に入った戦士の横ばいから、無数の礫が弾け飛んだ。

「……ッ!」

いかに強固な装甲でも、人の形をなす以上必ず隙は生じる。
中空へ飛んだ瞬間での奇襲は体のバランスを失わせ、デルタの必殺技、ルシファーズハンマーを不発に終わらせた。

「まだ……邪魔をするんですね……」

倒れ込んだ姿勢からゆっくりと立ち上がる桜。声に篭った怒気は海堂に向けた比ではない。
どす黒い灼熱の泥の情念を眼前の淑女へと注ぐ。

桜を撃墜せしめたルヴィアの周辺に重火器の類は置いてない。
代わりに差し出された、両の人差し指が機関砲の役目を果たすとばかりに伸びている。
それは遊戯の真似などではなく、指先から銃弾が撃たれた北欧の呪い、ガンドの一工程(シングルアクション)だ。
エーデルフェルト家稀代の魔術回路から生じた濃密な魔力は、通常の効果である体調不良のみならず物理的な破壊力も有している。
それを高速、多量に放射できる白い指は短機関銃(サブマシンガン)のそれと変わりない威力だ。

「ほんとうに……邪魔ばかりするんだから……あなたは」

その威力も、デルタの前には豆鉄砲も同然だ。デルタのボディは態勢を崩されただけで重大なダメージは全く感じさせない。
むしろ魔術師としての腕の器量を見せつけられたことが、火に余計な油を注いだ真似となっている。
沸点を超えて蒸発した悪意が周囲に充満していく。常人なら息を詰まらせる密度の瘴気を溢れさす。

「おいおまえ!結花に会ったのか!?あいつに何しやがった!!」

女二人を中心に形成されかけていた雰囲気に割り込みをかけるのは、ポインターが消え自由の身となった海堂。
彼とて空気を読めないわけでもないが、さりとて事を静観するわけにもいかなかった。
長田結花。『この』海堂にとっては秘めたる想いを向ける相手。
その彼女が危難に見舞われたのを知って黙っていられる程気が長くはない。

「うるさいですね、すこし黙っていてくれませんか?踏み潰しますよ」
「いいから答えろや!結花を……あいつをどうしやがったんだ!!」

これまでにない剣幕で叫ぶ海堂にルヴィアも桜も表情を変える。
それだけで、結花という人物がこの男にとってどれだけ重大なファクターなのかが見て取れた。
まるで愛する者に向けるような叫びになにか苛立ち、桜は鬱陶しげに吐き捨てる。

「さあ……名前は聞いてませんからその人かどうかは分かりませんけど。
 ちょっと痛めつけてあげたら素直に言うことを聞いてくれましたよ。悪い奴らを殺せってね」

43 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:12:21 ID:ba3PYlbk

肩を震わせる。さも可笑しそうに。愉しそうに。
我慢ならずに飛び出そうとする海堂。それを前に出た白い手が阻む。

「貴方は引っ込んでいなさい。そんな頭に血が上っていては先程の二の舞ですわよ」
「邪魔すんな!あいつには言いたいことと聞きたいことが山ほどな……!」
「ええ、その点についてはワタクシも同感です。なにやらあちらから謂れのない因縁をふっかけられてるようですので。
 ですから、ここはワタクシに任せなさいと言ったのです」

正義だの悪だのといった二元論には到底適さない敵意と憎悪。理由を問い質したいのはルヴィアも同じだ。
どの道一度立ち止まって追いつかれてしまった以上、態勢を立て直すための切欠が必要だ。
銃口に晒される危険を承知の上で、暗き仮面に対峙する。

「あら、逃げないんですか?さっきみたいに」
「戦略的撤退とおっしゃいなさい。程度も知れましたので、手袋を受け取る猶予くらいは差し上げたいと思いましてね」

適度な挑発を挟み主導権を握る。こちらが優位なのだと錯覚させるために。

「………………」

無言で立ち尽くすデルタ。
怒りに満ちているのか笑みを浮かべているのか、覆われた仮面の下の表情は窺えない。
ややあって沈黙を破り右の腰のグリップを掴む。
銃のホルダー部分のみを分割すると体表を走るラインが輝き、鎧が解除された。

「……?」

それは余裕の表れなのか、あるいは自身の顔を直接見せることに意義があるのか。
変身を解除し、改めて少女の姿がルヴィア達の前に現れる。

瑞々しい紫の髪は肩まで伸ばし、左の房は赤いリボンで結ってある。
年の頃はルヴィアよりも下だが、既に女性的な体つきは成熟しており、多感な思春期の男子の目を奪うだけの色香を漂わせている。
元の伏目がちな憂いを秘めた表情は見る影もなくなった邪悪な笑みに変わり、逆に女としての魅力を上げている。
さながら蛇か、誘蛾を絡ませる網を張って蠱惑する女郎蜘蛛だ。

「おや、顔を見せて話すだけの殊勝さは持っているようですわね」
「ええ、なんだかこのままじゃ気が済まなかったので。着心地はいいんですけどね」

胸の前で腕を組むルヴィアと、外したホルスターを弄ぶ桜。
声はあからさまな刺が立ち、今にも突き刺さるだけの千の茨となって両者を包んでいる。

「……妙ですわね。どうも貴女の顔には見覚えがあるような気がしますわ。
 視界の外でたまたま網膜に移った程度の無駄な情報ですけど」
「……奇遇ですね。私も知っている人に貴女とよく似た人がいるんですよ。
 ―――とっても嫌いな人と」

44 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:12:56 ID:ba3PYlbk

舌戦はもはや、鞘当てを省略した真剣での鍔迫り合いに入っていた。
まず間違いなく、二人の視線の間には稲妻が飛び散っていることだろう。

「まさか、他人のそら似などという理由だけでワタクシに喧嘩を売ったわけですの?」
「ええそうです。それに貴女、顔だけじゃなく中身までそっくりなんですよ。あの人のことはよく知ってるから分かります。
 だから、悪い人なんです。貴女」

とんでもない暴論だ。これにはルヴィアも辟易した。
理屈が飛躍している。過程が破綻している。
噛み合わない筈の歯車を、それでも無理やりに押し込んで動かした齟齬と軋轢がある。
海堂に対してと同様に、桜はルヴィアを見ていない。
ここにいない、偶々似通っているらしき女の幻影を勝手に重ね見ているのみだ。
そんなのは、妄想の独り言と相違がない。

「貴女みたいな悪い人は、必ず先輩の邪魔をする。姉さんみたいに悲しませて、傷つかせる。私から、何もかも奪う。
 そんな人、いていい筈がないんだから」
「………………」

ルヴィアの脳内で渦巻いていた疑問が氷解する。
どうやらこうして殺して回ってるのは言葉の節々に出てくる『先輩』とやらのためらしい。
それだけなら、いい。愛する者のために鬼女と化す。愚かと嗤いこそするが理解できなくもない。
しかし、この女は今、その理論すら捨てている。
『姉』という存在に鬱屈した感情を抱え、報復に出ようとしている。
しかしその対象が見つからないから、特徴が似ている自分にぶつけようとしている。
正義の執行とも愛故の暴走とも関係がない。ただの私情の八つ当たりだ。

そう理解したら、余白の出来た理性にふつふつと怒りが溜まってきた。
どうして、初対面の相手にここまで絡まれなくてはならないのだろうか。
要するにストレスの捌け口にされているのだ。通りすがりに耳が弟に似ていると難癖をつけて当り散らしているようなものだ。
甚だ迷惑千万であり、不愉快極まりない。

「つまりは単なる憂さ晴らしですか……全くもって品性に欠けていますわね。これで魔術師だというのだから頭が痛くなりますわ。
 ミス・トオサカに輪をかけた、いえ、それ以下の野蛮人ですわね」

銀の装甲服の威圧に隠れていたが、生身の今ならば感じる魔力からこの少女もまた魔術師であると判断する。
それが尚更ルヴィアの琴線を激しく揺さぶってくる。

魔術とは禁忌。常世より隠匿され行われるべき神秘の業だ。
それを用いる魔術師とは、より深く、より高みに昇るために魔術を研究する者だ。
その過程で渦巻く狂気と妄執は、今も夥しい血を流している。
ルヴィアもそちらに身を置く側だ。片足どころか、生まれた頃より魔術の世界に両足に突っ込んでいる。
そこに忌避はない。むしろ誇りを持って邁進している。
エーデルフェルト家の頭首として神秘を継ぎ、より研鑽を積み重ね、やがてその成果を次代に引き継がせるだろう。
だからこそ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは嫌悪する。
年若いとはいえ魔術を学んでおきながら、たまさか拾った力を無差別に振るい快楽に耽る徒を、魔導の恥と言わずしてなんと言おう。

「本来なら触れることすら汚らわしいですが状況が状況。何より売られた喧嘩を買わない野暮な真似は致しません。
 いいですわ。手袋を受け取りましょう。雑草と土の味というものを直々に教えてさしあげます」

ルヴィアが紡いだ発言は多少に挑発の意味も込めたものとはいえ、紛れも無い本心だ、。
その中で選んだ一つの言葉が、追う者と追われる者だけだった二人の関係を変化させる。

45 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:13:21 ID:ba3PYlbk



「貴女、姉さんの知り合いですか?」

考えつかなかった疑問に桜が怪訝な表情を見せる。
遠坂家の頭首である凛ならば交友のある魔術師がいるのも自然だが、この限定された環境下で遭遇することは予想外だった。

「姉、さん?」

ルヴィアもまた、桜の言葉に強い引っかかりを感じた。
今この女は何と言った?
誰を、何と呼んだのだ?

「まさか貴女……トオサカリンの妹?」

口をつぐむ様を見て、沈黙を肯定と受け取る。
有り得ない―――と断じようとしたが、可能性は皆無とは言えない。
魔術の家督は原則として一子相伝。頭首に選ばれなかった子供は魔術の存在さえ知らされずに過ごすのが通例だ。
なら、姓を変え他家に渡っていても不思議ではないだろう。学園の中で顔を見たこともあるかも知れない。
しかしそれでは、この魔力の濃さが説明出来ない。
認めたくないが、性能だけなら自分や遠坂凛に迫るものがある。明らかに魔術師としての修行を重ねている証拠だ。
他の魔術師の家に養子として出された線も無いではないが、それがこうして会することなど余りにも……

(作為的、ですわね)

出来過ぎた人選だ。アカギに何らかの意図が込められていたのは確実だろう。
平行世界、時間旅行、考察する材料は幾らでもある。
だがその前に、目の前に意識を集中させるべきだ。
今はとにかく―――この女を完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まない。

「成る程、合点がいきました。まさかトオサカの一族だったとは……その性根の悪さも頷けますわ」
「一緒にしないで下さい。もう私は姉さんより強い。もう誰にも負けたりなんかしません

 だって姉さんは、もうどこにもいないんだから」



沈黙は、森のざわめきが聞こえる程に場を静めた。

「……どういう、意味ですの?」

声は、本人も気づかぬ程僅かに掠んでいた。寝耳に水とはこのことだ。

「そのままの意味に決まってるじゃないですか。遠坂凛なんて人は、とっくにもう死んじゃってるんです。
 死体なら向こうの方にありますよ。頭を割られてあっけなく、惨めに死んでいました」

森の奥地を指差して死臭の居場所を示す。
桜の顔には張り付いた笑顔。余裕をもって勝ち誇った笑みを見せている。
目の前の女が見せるのはどんな表情か。驚愕?恐怖?畏怖?憤慨か?いずれにしてもその視線は溜飲が下がることだろう。

46 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:13:58 ID:ba3PYlbk



だが、ルヴィアが見せるのはそのどれでもない。
冷ややかな視線は氷の低温で桜を射抜く。さもつまらなさそうに顔を上げ。

「―――――――――無様ですわね」
「……え?」

突いて出たのは、嘲笑。
それは死んだ姉に向けてでもあり、それを桜にも向けられたものだ。
双方に対しての侮蔑で満ちた女帝の貫禄に思わずたじろぐ。

「貴女がミス・トオサカより上?は。ジャパニーズジョークにしても滑稽に過ぎますわ。
 彼女の杜撰な魔術と粗野で暴力的なハッケイと小狡く小賢しい卑怯さに比べれば貴女など一番の小物。まるで相手になりませんわ」

賛辞としては半端ではない扱き下ろした言動。しかしルヴィアは本気だ。
彼女にとって、これが遠坂凛に対する掛け値なしの正当な評価だ。

「ベストも尽くさず限界まで挑まずにただ優れている他を妬む。闘争本能も誇りも捨ててまで道具に頼る。そんな者に真の勝利は訪れません。
 幾ら強かろうがそれは勝者などではない、安物の酒に溺れた敗者です。
 貴女のようなスト女に付き纏われるとは、その先輩とやらも不憫な方です。いやむしろ、これは殿方の品格を疑うべきでしょうか?」

効果的なキーワードなど明白だ。突き出た逆鱗を、思い切り逆撫でしてやる。
優れたアスリートはマイクパフォーマンスにおいても一流であるべし。そこに地の高圧さを織り混ぜれば、それはもう劇物の域だ。

案の定、殺意が膨張していくのが見て取れる。唇を噛む音、爪が肌に食い込む音が軋む。

「許さない。私を馬鹿にしたこと、先輩を馬鹿にしたこと、姉さんみたいな台詞を吐くことが、みんなみんな許せません。
 絶対に―――許さない」
「でしたらさっさとかかって来なさいな。無駄な前口上は試合のムードを盛り下げるだけですわよ。
 ―――それにいい加減、ワタクシも貴女の物言いがトサカに来てますのよ」

視線は、草葉を焦がす稲光となり火花を散らす。
無限の並列に並んでいた因果はここに交差し、新たな因縁を生んでいく。
互いを許せずに、認めずに、己が立つがために敵意を交わす。
女の矜恃(プライド)を賭けた戦いのゴングが、森のリングに鳴り響いた。





そして。
完全に蚊帳の外に追いやられていた海堂直也は。

「なにこれ……こわい……」

二人の鬼女の背中に、修羅を見た。



 ■ ■ ■ ■ ■

47 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:14:31 ID:ba3PYlbk



(手持ちの宝石はストックなし、利用出来る武器もなし……はあ、ミス・トオサカ(びんぼうにん)の苦労が偲ばれますわね)

さて、大見得を切ったわいいが事態は依然として変わりない。
ベルトから精製されるというオルフェノクが使う戦士の力は相当に高い。黒化英霊にも引けを取らないだろう。
正直、正面からの勝ちは拾えそうもない。
万全の状態でも無理難題だというのに、自身の最適な戦闘手段たる宝石もなし。こういう時のために預かったステッキには絶賛見切られ中だ。

そして、ルヴィアに引く気は皆無だ。この戦いに勝機も勝因も勝率も不要である。
女には、絶対に負けられない戦いがある。
賭けたものは誇りであり、それを捨てることは戦わずして敗北する。
例え届かぬ領域の世界でも、退くわけにはいかないのだ。

(とはいえ、負ける気もしませんけど)

それに実のところ、勝機も勝因も勝率も勝算には入ってある。
ここまでは思惑通りの事が進んでいる。しかしこれから先は万事がルヴィア次第だ。
故に、失敗など恐れるまでもない。

「へん、しん」
≪complete≫

囁く魔声。従順な音声が所持者に再び鎧を装着させる。光の線が女性の体を包輪郭を成していく。
その瞬間に、ルヴィアは一気に走り出す。
肉体に魔力というエンジンを回し、体をめぐる魔術回路を白熱させて加速する。
見た目の麗しさを忘れさせる獰猛さと強靭さをもって、世界陸上レベルの速度で近づいてくる。

「ふん、その程度で―――」

変身を完了した桜が接近を察知する。時間にすれば1秒にも満たないコンマの間だが、確かに先手を取られた。
それでも桜の心に焦りは生まれない。
されど1秒、たかが1秒だ。
デルタから付与された力は反射能力も引き上げる。この程度の誤差、容易く取り戻せる。
腰に回した手をひねり銃を構えようとして―――

「っ!?」

かけた指を、魔の銃弾に弾き飛ばされた。
強化された視界に映るのは、黒色の球体。濃縮されたフィンの一撃。
一発で弾き切れないことを考慮してぬかりなく連弾で狙い撃ちにする。
あわよくばツールごと破壊する腹積もりで放ったていたが、初撃を捌いただけでも及第点だ。
ポインターから外された瞬間に撃たれたデルタムーバーは宙で回転しながら草陰に落ちた。

ロスを回収させないまま接近を果たすルヴィア。その距離は接近戦(インファイト)の間合いにまで入っている。
わざわざ近づいてきた持ち込んだ愚を桜は嗤う。銃を落としたならその隙に逃げればいいものを。
むしろ桜にとっては好都合だ。始めから銃では嬲るだけと決めていた。最後は直接手で掴んで引きちぎってやる。
最初の男に与えた惨劇を回想する。あの最中の快感と優越感をこの女で味わえるならなにものにも変え難い。
胸に飛び込んでくる哀れな蟲をつまんでやろうと手を伸ばす。

48 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:14:49 ID:ba3PYlbk

「懐が、がら空きでしてよ!」

迫る魔手を、ルヴィアは大きく屈むことで掻い潜る。
地に手が着く程まで姿勢は野を自在に駆け回る四足獣のそれだ。
腕をかわしダブルレッグダイブを仕掛ける。両足を取られた桜はたまらず倒れる。
テイクダウンを奪っただけでは攻めとはいわない。態勢が崩れた隙に更に内部へと滑り込む。
このまま組み伏せるだけの余裕はない。力の差は覆らないのは変わりない。
絞め技、寝技は却って不利になる。よって追撃の手は別になる。
デルタの胸部を椅子に、腰を据えて座り込む。伸びた人差し指は、橙色の瞳が映る頭部。
篭るのは一点に収束された魔力。
即ちは、装甲内部からの零距離射撃。

「安心なさい、傷は残りません」

全力のルヴィアのガンドは地下通路越しから地盤を突き破る威力を誇る。
たとえ身を守る鎧が厚かろうと、力の逃げ場がない超至近距離からならダメージは免れない。

「っっっ!!!」

二発、三発、加減も容赦もない釣瓶打ちが続く。声にならない苦悶が唇から漏れる。
ソルメタル材質の装甲を通して衝撃が突き破る。その身に覚え込ますかのように。
傷は軽微。痛みも薄い。しかし肉体に命令を起こす脳が前後不覚に陥っている。
痛みの耐性があっても戦闘の心得がない桜には、これは致命的。

「……!調子に、乗って……!!」

それを補うための、デルタの特殊装置。
デモンズイデアにより昂る闘争本能がこれ以上の停止を拒絶する。
ガンドが五発目を越えたあたりで再起動を果たし、のしかかるルヴィアを押し退ける。
体は問題なく動く。受けた屈辱を倍にして返すべく立ち上がろうと膝を立たせる。

その左の脚を別の脚の踏み台にされ。
閃光魔術の膝蹴りが、的確に顎骨に刺さった。

「ぇ――――――あれ―――?」

混濁していた意識を、更なる混乱がかき乱す。
相手の脚を足場にして膝蹴りを浴びせるシャイニングウィザード。これ以上ないほどのクリーンヒットだ。
本来であれば卒倒している所を、デモンズイデアの機能により意識だけは保持される。
よって意識だけが取り残されたまま、動きが完全に停止してしまう。

「これでも倒れませんか。確かに武装だけは一級品のようですわね」

ルヴィアの声も、耳を煩わさす雑音にしか聞こえない。
背中から回された腕の感触にも、気付かない。

「都合よく下は柔らかい地面。たいそう強固な鎧を着込んでいるそうですし……」

足が宙に浮く。重量96kgのデルタのボディが1人の少女の手で浮き上がる。
決めるはフィニッシュホールド。威力、難易度、どれもが文句無しのプロレスの花形技。

「手加減なしで、いきますわよ!!」

視界が、反転、する。
脳天直下。その文字が相応しい落下だ。
余りの威力に落下地点が陥没しクレーターを形成している。
破壊力よりもむしろ、観る者を感嘆させる見事なブリッジがレスラーの力量を示している。
魔術と体術の粋を凝らした絶技、ジャーマン・スープレックス。
華麗にして剛健、美と力が一致した会心のフォールであった。
その結果は、今度こそ沈黙したデルタの弛緩した体が雄弁に物語っている。

淑女のフォークリフリフト、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトVS仮面ライダーデルタ装着者、間桐桜。
一回戦、勝者ルヴィアゼリッタ。試合時間30秒のフォール勝ち。



 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

49 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:13 ID:ba3PYlbk



「……ふう、我ながら惚れ惚れするフィニッシュでしたわ」

額の汗を拭い、満足げに笑うルヴィア。その顔には清々しい爽快感が全身から発散されている。
ベストを尽くして持てる力を出し切り、どのような結果だろうと悔いの残さなず満足出来る者のみが浮かべる表情だった。

ルヴィアが桜、否、デルタに勝機を見出すには、奇襲で隙を突き押し切るしかない。
それも生半可な攻めではいけない。半端に傷つけては警戒され、火に油を注ぐ結果になる。
先手必勝、初撃必殺。全攻撃を頭部に集中させて内側に篭る本体狙いで沈める。
一連の工程で終わらせなければ勝ちを掴むことは出来なかった。

成功する算段はついていた。これまでの流れで敵の性質を把握して、付け込む余地はあるものと判断した。
情報も戦略も無視して衝動的に湧いた殺意に任せて行動する。
他を顧みずに感情的で、弱者には優越感に浸り、強者には激しく食いかかる。
守りを全く考慮に入れておらず、攻めにしても威力の凄まじさの裏に稚拙さと乱雑さが隠れている。
戦闘に関しては完全に素人だと理解するには容易かった。
そも魔術師とは研究が本分。自分のように格闘術に精通してる方が稀有なケースだ。

……とはいえ、それにしても万全を確信していたわけではない。むしろ始めから終わりまで綱渡りの連続だった。
銃をガンドで撃ち落とすのは、装甲に阻まれて弾けなかったかもしれない。
接近戦は、出力に任せて押し倒されていたかもしれない。
どれだけ打撃を加えても耐え切ってしまえば、待っているのは強烈なカウンターだ。
いずれも成功率は高いとは言えず、最善を尽くしても届かない可能性はあった。
不安はあった。しかし恐れとは無縁だった。最悪を想定しつつも己の失敗を疑いはしなかった。
最後にものを言うのは天運と自己を信ずることのみ。今回は女神は此方に微笑んだということだ。

「さて……いい汗をかいた後は優雅なティータイムと行きたいところですが、そうもいきませんわね。
 そこの、ワタクシの荷物をお持ちなさい!あとそこの女の分も!」

体を動かせば喉が乾く。紅茶といかなくとも冷たい水を一杯あおりたい気分だ。
使用人を呼ぶ仕草で手を叩く。いつもは刹那の速さで傍に来てくれる執事がいたのだが、生憎今は不在だ。
仕方ないので現地雇いの冴えない男に指示を下すが……一向に近付く気配がない。

「なにをしておりますの。さっさと持ってきてらっしゃい」
「待て、今の俺に言ったんか!?」
「貴方以外に誰がいますの?ワタクシはこれでも疲れてますの。肝心な所で使えない役立たずは雑用でもこなしなさい」
「んなっ……絶体絶命のお前を身を挺して助けた俺様の超ファインプレーを忘れたとは言わせねえぞ!」
「あんなものでは給金にまるで釣り合いません。後払いだからといって手を抜いてるのではなくて?
 それに、突き飛ばすようではまだまだ紳士度が足りませんわ。いいからさっさと取ってくる!!」
「ぐ……!勝ったと思うなよ……!」
「もう勝負付いてますから」

結局言い負かされて文句を垂れつつ渋々と従う海堂。
生来の人の良さに加えて、彼には気の強い女に弱い因果でもあるようだ。

50 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:33 ID:ba3PYlbk



「―――で、この女を拘束しておきたいのですが、あの姿にさせないためにはどうすればよろしいので?」

戦いが終わっても、その後の事後処理もまた残っている。
渡されたデイパックから取り出した水を飲みつつ、身柄を確保した女の処遇について決めなければならない。

「ベルト渡さなきゃ問題ないだろ。それだけ預かってりゃ……ってそいつソイツ連れてくのかよ?」
「あら、聞きたいことと言いたいことが色々あるのではなくて?ワタクシだって色々問い詰めたいことが山ほどありますし」

長田結花を襲い殺人を強要したこと、遠坂凛の姉妹ということ、尋問の話題は事欠かない。
今になって気付いたが、名前すら判明していないのだ。
荷物だけ奪って放置という手を取るにせよ矯正不可と断じ排除するにせよ、事情を聞き出さねば始まらない。
魔術師である以上暗示の類も効きにくいため、荒療治に出ることも有り得る。
後者においてルヴィアは選択肢のひとつとして捉えてるが、海堂は恐らく前者を選ぶだろう。
面倒を嫌うという性もあるし、人間を殺すことを忌避するのもある。
人殺しの罪罰などは人外の化物たるオルフェノクに測れることでもない。
その相違は、現時点では表面化することなく話は運んでいく。



「これは―――やはりクラスカードも支給されてましたか。ワタクシには使えませんが、あの筋肉女には交渉材料にはなるか…」

回収した荷物を検分しながらも、心は遠い彼方へと回想している。

好敵手と定め、いつの日か必ず雌雄を決すると信じていた魔術師の早すぎる脱落を耳にしても、思った以上に心に波は立たなかった。
名も知らぬ遠坂凛の妹の妄言に耳を貸さぬというわけでも、
平行世界におけるルヴィアとは異なる軸の別人云々と理論武装するまでもなく、
始めから決まっていたことのようにするりと遠坂凛の死を受け入れられた。

何故か。その理由についても分かりきっている。
魔導を学ぶにあたって最初の関門は死をていかんすること。殺し殺され、死んで死なせて、神秘という泥沼にはまっていく。
魔術の世界とは、魔術師とはそういうものだ。生まれる前より魔術師であったルヴィアにとって、それは骨の髄まで染み付いている。
宿敵だろうが肉親だろうが愛する人でも、その死に揺らぐ事など起こり得ない。

感情は死んでいない。悼みも哀しみもするだろう。
しかしそれでも、我を失い取り乱すことはないだろう。
だからこそ、平静を保ち、魔術師としての在り方を損なわないでいられるのはなに一つとして間違ってはいない。
それが、ルヴィアには何故だか気にくわない。
執着してたはずの相手が消えて感慨の沸かない自分。そんな余計なことを考えてしまう自分に腹が立つ。
これではまるで―――寂しがってるようではないか。

心あらずのままルヴィアが銀色のベルトを拾う。小さな好奇心から簡潔に機能を調べる。
魔力の残滓も感じられず素材も全て機械でできた人口製。魔術師にとっては未知の産物だ。
オルフェノクにしか扱えないという武装。海堂に渡せば少しは役に立つようになるかと、ぼんやりと思案する。

51 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:15:50 ID:ba3PYlbk



その光景を目に焼き付けた、狂える一輪の花が咲き乱れる。

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

事切る絶叫。異界より這いずる女怪の声に驚愕する。
振り返るルヴィア目掛けて、赤い雷撃が走る。
デルタの後遺症。不適合者はベルトの魔力に取り憑かれ暴走し、体内に残留した力が雷となって放たれる。
魔術によるものではない超常現象。反応が遅れたルヴィアは咄嗟に腕を前に出す。
白鳥の指に絡みつく縄。伝わる電撃に流麗な顔が苦痛に歪む。
痺れる左手をよそに、右手は銃弾の装填を構える。
最早躊躇はない。電光の基点である掌を注視し、最悪手首を吹き飛ばしてでも無力化させようと狙いを定める。

「―――――――――あ」

だから、足元から伸びる「影」に気付くのが、一拍遅れた。
形を持つ立体の「影」が躍り出る。命の気配を貪欲に嗅ぎつけて。
魔と呪で形成された泥の飛沫が、青のドレスを呑み込まんと口を広げた。

「ぶねえよけろ―――――――――!!」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

52 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:12 ID:ba3PYlbk



飼育箱で夢を見る。
卵の殻。黒色の黄身。愛の海に記憶は無い。
胎盤にいずる。ラインは初回からして不在。娩出は許されず育まれながら愛に溶ける。
堕胎の記憶は無い。ひたひたと散歩する。
ゆらゆらの頭は空っぽで、きちきちした目的なんてうわのそら。
ぶるぶると震えてごーごー。
からからの手足は紙風船みたいに、ころころ地面を転がっていく。
ふわふわ飛ぶのはきちんと大人になってから。
ごうごう。
ごうごう。
ごうごう。





「―――、―――、――――――」

日の届かぬ森の中で蠢くものがいる。
憂いを秘めた美貌も女性的な肉付きの体もよそに、地面の上にうずくまる。
表情は青ざめ、全身からは汗が流れる。どう見ても健康からは程遠い状態だ。

「――――――足リ、ナイ」

身をよじる原因は青い魔術師から散々喰らった打撃ではなく、体内での強い渇きからだ。

魔力が足りない。
命が足りない。
力が足りない。
誰かが、足りない。
なにが足りないのかも、分からない。

取り戻しようのない深い喪失感。知っている筈なのに名前が思い出せない。
癒えない饑餓を埋め続ける様はさながら地獄絵図の一部のよう。
藁をも掴む思いでもがく手が、堅い物体に触れる。
指先から伝わる感触は、どういうわけか安らぎを与えてくれた。
指を渡って腕、肩、胸、体中をくまなくなにかが侵入する。
デルタの魔力に魅入られた非適合者は薬物中毒者の如くベルトを手元に置こうとする。
その末路は皆灰人の最期だったが、負の感情の発露という点では桜には別の適正があった。
結果として生じた影の魔は、未だ誰にも悟られていない。

「―――誰にも、渡さない」

悪魔に見初められた少女は立ち上がる。その道が堕天の一途を辿るとも知らずに。
主語がない呟き。それは両手で抱きしめるデルタギアなのか、心に決めた人なのか。

飼育箱の夢は終わらない。蟲が潰れるその日まで。

53 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:31 ID:ba3PYlbk



【C-4/森林/一日目 早朝】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、溜めこんだ悪意の噴出、無自覚の喪失感と歓喜、強い饑餓、ダメージ(頭部に集中)
[装備]:デルタギア@仮面ライダー555(変身中)、コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)
[道具]:基本支給品×2、最高級シャンパン@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:先輩(衛宮士郎)の代わりに“悪い人”を皆殺し
0:―――
1:先輩(衛宮士郎)の所へ行く
2:先輩(衛宮士郎)を傷つけたり悲しませたりする人は、みんな殺す
3:あの人(ルヴィア)は―――許さない
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。 平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※「黒い影」は桜の無意識(気絶状態)でのみ発現します。桜から離れた位置には移動できず、現界の時間も僅かです。



 ★ ★ ★ ★ ★

54 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:16:57 ID:ba3PYlbk



「おい!生きてっか!」

力なく項垂れるルヴィアを背負い、海堂は森を抜ける。
オルフェノクの脚力は瞬く間に草原まで辿り着く。それでも足は止まらない。
行き先は決めてない。とにかく逃げることだけを考えてた。
ルヴィアを襲った、赤い呪詛を刻んだような影。
いち早くそれに気づいた海堂が引き剥がすも、一瞬触れただけの筈のルヴィアは糸の切れたように崩れ落ちた。

そして見た。影としか形容できない、しかし断じて虚像では有り得ない存在を。
黒い海月のような姿は吹けば飛ぶような紙風船にしか見えないのに、何よりもこの空間を支配している。
人間から進化した海堂をして、明確に「死」を意識させる圧倒的な虚無の気配。
アレはヤバイ。ヤバすぎる。生物としての本能が警鐘を打ち鳴らす。
一刻も早く逃げ出さずにはいられなくて、かろうじて倒れるルヴィアを広い全力で逃走した。
判断の早さの甲斐あってか追っ手は来ない。命は繋がったわけだ。

「おいったら!返事くらいしろ―――」
「うる、さい……耳に響き、ますわ……」

いつもの生意気な返事にも覇気がない。見るからに生気を失っている。
危険な状態であることは分かってるが海堂に手立てはない。
安全な場所まで運ぶしかないが、果たしてそんな場所がここにあるのか?
とにかく海堂に出来ることはルヴィアを背負い走る他ない。
こんな女でも、守りたいと思う程度には嫌っていないのだ。

「迂闊でしたわ……まさかあんな単純な、無意識(イド)剥き出しの魔術を喰らってしまうだなんて……
 ―――ふ、ふふふ、ふふふふふふふふ、ふふ。この屈辱、忘れませんわよ」
「なんだ、意外と元気じゃ……ば、首締めんな!もうプロレス技は勘弁だってー!」

僅かとはいえルヴィアも見た。あの影は常軌を、いや超常すら逸している。黒化英霊とは格の違う、邪悪な波動が感じられた。
触れていた時間は一秒にも満たないのに、体内の魔力を根こそぎ奪われた。
魔力と生命力は同義の関係。あともう少しあれに長く捉われていれば、命どころか肉体ごと融解されていただろう。

そうならずに済んだのは、紛れも無くこの男のおかげ。
触手に絡まれかけた体を引っ張り上げ、その余波を少なからず受けているにも関わらず身を挺した。
人類の進化系というオルフェノクでも無傷とは思えない。
先の戦闘にしても、押し倒された時の一撃は際どいものだったのだ。割り込みがなければ抵抗の隙もなく撃たれていたのかもしれない。
疑いなく、自分はこの男に助けられたのだ。

ルヴィアとてそれは理解している。礼を言ってあげてもいい筋合いであるとも思っている。
しかし声を出すのも億劫な今の体調では難儀なことだし、荷物みたいに背負われてるのがなんとなく釈然としない。

「………………」
「ぐぇ……!だーかーらー首締めんな!結構疲れてんだからよー!!」

なのでひとまず、首に回した手に力を込めることにした。

55 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:18:43 ID:ba3PYlbk



【C-4/草原/一日目 深夜】

【海堂直也@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]: 怪人態、体力消耗
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:人間を守る。オルフェノクも人間に危害を加えない限り殺さない
1:とりあえず逃げる。つーか首締めんな!
2:パラロス世界での仲間と合流する(草加含む人間解放軍、オルフェノク二人)
3:プラズマ団の言葉が心の底でほんの少し引っかかってる
4:村上とはなるべく会いたくない
5:あの女(桜)から色々事情を聞きたい
6:結花……!
[備考]
※草加死亡後〜巧登場前の参戦です
※並行世界の認識をしたが、たぶん『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の世界説明は忘れている。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました……がプラズマ団の以外はどこまで覚えているか不明。
※桜の名前を把握していません



【ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消耗(大)
[装備]:澤田亜希のマッチ@仮面ライダー555、クラスカード(ライダー)@プリズマ☆イリヤ、
[道具]:基本支給品、ゼロの装飾剣@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
0:あの女(桜)…次は見てなさい…
1:元の世界の仲間と合流する。特にシェロ(士郎)との合流は最優先!
2:プラズマ団の言葉が少し引っかかってる
3:オルフェノクには気をつける
4:あの女(桜)から色々事情を聞きたい
5:海堂に礼を言いたいが…今は疲れてるしあとにしましょう
6:遠坂凛の死に複雑な気分
[備考]
※参戦時期はツヴァイ三巻
※並行世界の認識。 『パラダイス・ロスト』の世界観を把握。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※桜の名前を把握していません

56 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/01(土) 19:20:21 ID:ba3PYlbk
以上で投下を終了します。
タイトルは「淑女のフォークリフトVS仮面ライダー……観客:怪奇蛇男」です。「」はいりませんよ

57名無しさん:2011/10/01(土) 19:54:32 ID:RUYTQOgE
投下乙
ルヴィアは桜が凛の妹って知ったか
凛が死んだのを知ったけど、さすが魔術師と言うか冷静だ
海堂さんは安定の癒しや。女は怖いよ!
もう一度乙でした!

しかし、桜の回想で蟲による陵辱があると思った人は手を上げて! ノシ

58名無しさん:2011/10/01(土) 21:39:21 ID:2pwCTmJc
投下乙。
桜は相変わらず怖い……が、今回はルヴィアの先制攻撃勝ちか。
一話一殺は三話で打ち止め。サクライダーの今後に期待だね。
あと海堂。こんなモノは前哨戦だぞ。

ところでルヴィアって、宝石剣使えるのかな?

59名無しさん:2011/10/01(土) 23:03:08 ID:vGoAIqyk
投下乙です
指摘ですが、最後に桜がデルタギアを両手で抱きしめてるけど
それだと状態表で変身中になるのはおかしくない?

60名無しさん:2011/10/02(日) 00:37:11 ID:Stgt3CGE
投下乙です!ヤンデルタの呪いを海堂さんの癒しパワーが打ち消した・・・?まあ最初と最後以外は外野に撤してたけどw

うーん、ルヴィア△。え、このタイミングで△を書いたらデルタとややこしい?そんなヤンデルタは安定の狂いっぷり、こりゃまだまだ逝けるな。

61名無しさん:2011/10/02(日) 01:17:10 ID:7sVhUqew
投下乙です
凛と結花のことを二人は知ったか
それでもデルタに勝つとは
あとなんか海堂に笑ったw

62名無しさん:2011/10/02(日) 18:25:19 ID:LFhlUj.g
投下乙です

アンリミデットコードも真っ青なルヴィア対桜でしたねw
桜拘束失敗か・・・だれかカレーを持ってくるんだ!

63名無しさん:2011/10/02(日) 22:59:18 ID:LJvv./lU
>>56
投下乙ですー。
女の戦い恐すぎる……折角格好良く決まっていたのに海堂は乙w
ルヴィアは凄く頑張ったが…そもそも桜はまだ変身を1つ残しているのでしかたない(違

64名無しさん:2011/10/02(日) 23:26:59 ID:0NxqAPOk
投下乙です

ルヴィア、抜けてる部分はあってもやっぱり魔術師か
怖い女同士の対決は今回は彼女に軍配は上がったが…やばい状態で逃げられたなあ
さて、お互い因縁が出来た事だしリベンジ戦は起こるのか?

65名無しさん:2011/10/03(月) 21:30:03 ID:GJVjenQ6
業務連絡
>>56 ◆4EDMfWv86Q氏
「淑女のフォークリフトVS仮面ライダー……観客:怪奇蛇男」
が52235バイト(リンク込み)あるそうなので、分割点の指示をお願いしますー。

とりあえずページのみは作成しておきますー。

66 ◆4EDMfWv86Q:2011/10/03(月) 22:34:49 ID:6M67m8nQ
わかりました。
>>46の内容までが前編、>>47より後編でお願いします。

67 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:37:44 ID:j1MPhj6E
乾巧、衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、投下します

68夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:38:23 ID:j1MPhj6E


 衛宮士郎が立ち上がったことに反応したのは、言うまでもなくイリヤスフィール・フォン・アインツベルンであった。
「どうしたの?」
「少し外の様子を見てくる。静かになったし、少し周りを確認しておかないと」
「じゃあわたしも一緒に行く。お兄ちゃんを戦わせる訳にはいかないし」
 どう断るべきか、とまず士郎は考えた。
 イリヤは先ほどの戦闘で傷ついたし、消耗した。疲労も溜まっているだろうから、戦闘の可能性があるうちは連れて行きたくない。
 傲慢だと思うかもしれないけれど、それが性分なのだ。
 だから、あっさりと見抜かれる。
『おやー、どうやってイリヤさんを置いていこうか考えている顔ですね?』
 士郎は苦い顔のまま、ルビーを睨んだ。
 相手はどこ吹く風で煽り続ける。
『はっきり言って賢い選択とは言えませんね。士郎さんの状態で戦うなんて論外ですし、イリヤさんをここで一人にするのも危ないでしょう。
ただでさえおっちょこちょいなんですから』
「お、おっちょこちょい!?」
「たしかにそうかも知れないけど、ルビーの探知能力ならなんとかフォローできるんじゃないか?」
「いや、お兄ちゃんも否定してよ!」
『フォローといっても限度がありますからねぇ〜……痛い痛い。イリヤさん痛いですってマジで』
 左右に引っ張られながらルビーが抗議するが、見なかったことにする。
「けど、奇襲を受ける可能性を減らすためなら、俺が出るという選択もそう悪くないはずだ。イリヤという戦力を温存できる」
『偵察だけで済むのならいいのですが……士郎さんの場合危なっかしいんですよね。なにか焦っている感じがして』
 図星だと思う。きっと自分は焦っていた。
 桜を探したい、という気持ちは押し殺せない。平行世界の彼女であり、無害なら一番いい。
 自分の世界からなら、罪を重ねる前に再会して保護したい。
 けど、同時にイリヤにも傷ついてほしないし、危険な目にあう人たちをすべて助けたかった。
 正義の味方という道は、諦めたはずなのに。ただ一人、特別な人ができてしまい、相応しくなくなったのに。
 それでも長年追い求めたものは完全に消えるはずがなく、静かに士郎の胸にくすぶっている。

 この場に海堂直也という青年がいれば、士郎を『夢に呪われている』と評しただろう。

「……お兄ちゃん、わたしは絶対ついていくからね」
「イリヤ……」
 目を合わすと、彼女の瞳には強情な色が濃く映っていた。
 なぜか鏡を見ているようで落ち着かない。どうにも自分の世界のイリヤと比べて調子が狂う。
 知らずにため息を吐いた。
「わかった、イリヤ。一緒に行こう」
 パッと彼女の顔が明るくなる。士郎の行く道を決めた、自分の世界のイリヤと違う笑顔なのに、本質的なものは似ていた。



69夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:39:07 ID:j1MPhj6E
 乾巧は諦めていた。
 マミが連れていかれたところにも、ファイズのベルトがあると言われた方角にも向かう気になれない。
 けっきょく呪われた体だ。ならば誰も巻き込まないほうが楽である。
「づッ――――!」
 ズブリ、と矢を引きぬいてから地面に捨てていく。肉が返しによってえぐられ、激痛が走るがとっくに慣れていた。
 戦い、傷つくのはいつものことだ。
 総毛立つような痛みにも耐え切り、巧は血が流れるままに任せて歩くのを再開した。
 普通なら手当をしなければ死ぬのだろうが、簡単にいかないことを知っている。
 まるで苦しみが長く続くのを願うかのように、オルフェノクの体は自分を生き永らえさせる。
 はあ、とため息を吐き、一歩踏み出すが膝に力が入らない。ドサッと、全身が土の上に放り出される。
 このまま殺人者が自分を発見したのなら、きっと殺してくれるだろう。それもいい。
 半ば本気でそう思いながら、巧は目を閉じた。
 聞きなれた声が、『死ぬなんてダメだよ、たっくん!』と叱咤したような気がしたが、幻聴だと片付けた。
 彼との絆はとっくに絶たれたのだから。


「おい、大丈夫か!?」
『あー、あまり揺らさないほうがいいですよ。倒れたときに頭を打ったかもしれませんし。
ひとまず背中の血をなんとかしてから運んだほうがいいでしょう』
 やはり出て正解だった、と士郎は思った。
 倒れているウルフカットの男に布を巻き付ける。デイパックを一つ解体して用意したものだ。
 傷の手当てをしていると、意外と深くないことに拍子抜けする。いや、回復が早いだけか。
 普通の人間ではないかも知れない。だけど、誰だろうと関係ない。男を背負い、元の民家に向かう。
「お兄ちゃん、手伝おうか? 変身すれば軽々と運べるよ!」
「申し出はありがたいけど、イリヤは周囲の警戒を頼む。今襲われたらひとたまりもないからな」
 現状だと、二人の手がふさがっているような状況は避けたい。
 イリヤを戦わせないためには怪我人を担当させるも良かったが、ルビーが反対するのは目に見えている。
 軽いくせに妙に聡明な人工精霊は、こちらの意図を正確につかむだろう。
 事実、今も『上出来ですね』と評するかのようにつぶやいていた。
 こっちだってそれくらいの分別はつく。
「あれ? この矢……」
「イリヤ、どうした? 早く行くぞ」
「あ、待ってよお兄ちゃん」
 とりあえず、前に進まないことには話しにならない。
 士郎はイリヤと共に踵を返した。

 もしもこのとき、矢を回収していたのなら、イリヤはクロと再会する可能性があったかもしれなかった。



70夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:39:37 ID:j1MPhj6E
 包丁がリズミカルにまな板を叩く音で、巧の意識は覚醒した。
 ああ、きっとここは啓太郎のクリーニング屋だ、と起き始めに巧は思った。
 ならば厨房にいるのは啓太郎か、真理か。腹が減った。
 真理の機嫌が悪ければ熱いものが出され、喧嘩になるだろう。
 意地を張り合う二人を前に、啓太郎がべそをかきながら仲裁に入る。
 そんな当たり前の風景が、なぜか涙がでるほど懐かしかった。
 台所から人が歩いてくる。人影の大きさからして真理はありえない。ならば啓太郎か。
「なんだ啓太郎、もう朝か? まだ暗いだろう、たく……」
「悪い、俺は衛宮士郎っていうんだ。ケガの具合はどうだ?」
 目を瞬き、巧は周囲の状況を把握した。
 そうだ、思い出した。
 オルフェノクであることをみんなに明かし、クリーニング屋に戻れなくなったはずだ。
 真理を、草加を殺したかも知れないから、誰も自分の傍にいてはいけない。
 けっきょく、啓太郎は殺された。マミは知らない相手が保護したのだろう。
 一人になれた。そのはずなのに、衛宮士郎とは誰だ。
「……なんのつもりだ?」
「っと、悪い。俺は倒れているあんたをここに運んで、手当てしただけだ。どうこうしようって気はない。
まあ、ちょうど朝飯もできたし、ちょっと早いけどあんたもどうだ?」
 士郎と名乗った男は笑顔でお椀を目の前においた。
 眩しいほど白い粥に、卵やきのこが乗っている。湯気がたっており、作りたてだとわかった。
 香りが鼻孔を刺激し、空腹を刺激したが受けるわけにはいかない。
「ハラは減ってねえ」
 グゥ、と巧のお腹は素直だった。バツが悪く、巧は顔をしかめる。
『いやあ、お約束のパターンですねえ』
「うわっ、なんだこれ!」
 ひらひらと飛んできた玩具のような杖に、思わず声を上げた。
『まるでゴキブリでも見たような反応ですね、失礼な!』
「気にしないでくれ。こんな見た目でも、俺の仲間だから」
 青年が苦笑しながら肩をすくめる。人懐っこい顔で、普通なら気を許すだろう。
「お兄ちゃん、もう入っていい?」
「イリヤ……まあ大丈夫だ。こちらに害を加える気もなさそうだし」
 巧はその言葉にムッとして立ち上がった。
 正確には怒ったのではなく、自分の存在を思い出したのだ。
 兄と呼んでいることは、あまり似ていないが兄妹なのだろう。二人して巻き込まれたのは運がいいのやら、悪いのやら。
 いや、きっと悪い。なぜなら自分を助けてしまったのだから。
 巧は無言で立ち上がり、玄関を視線で探した。
「出口はどこだ?」
「急にどうした。朝飯が気に入らなかったのか?」
「俺に構うな」
 何度も口にした拒絶の言葉を残し、巧は家を出ようとする。
 その肩を士郎はあっさりと掴んで抑えた。
「離せ」
「ダメだ。ふらついた状態じゃないか。俺たちだって戦闘に巻き込まれたんだ。あんただって例外じゃないだろう?
同じ目に遭うとわかって、そのままで外に出させるわけにはいかない」
「お前には関係ない」
 冷たく返し、手を払おうとする。だが、彼の手は縫いつけられたかのように動かなかった。
『よろしいではありませんか。本人が余計なお世話というのなら、放っておいても』
「あのな、俺は死ににいくような真似を目の前で見過ごすわけにはいかないんだよ」
 ため息が出る。自分にそんな価値はないのに。

『――正義の味方みたいな真似をしないで、自分や大切な人を優先してもいいんですよ? 少なくとも、今は』

 士郎と名乗った男は、杖の言葉で一気に顔色を変えた。

71夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:40:48 ID:j1MPhj6E
 妹らしき少女が不審げに彼の顔を覗くが、気づいていない。
「――――か」
 オルフェノクの聴覚は、かろうじて小さな声を拾った。だけど彼は繰り返す。
「正義の味方になりたいと思うのはおかしいか?」
『おかしいと言うよりは、現状だと厳しいというだけです。爆弾抱えたままだとわたしたちの身どころか、自分の身を守ることもままならないわけでして……』
「わかってる……そんなことはわかっている」
「お兄ちゃん……?」
 士郎は一拍おいて続ける。
「俺だって……大切な人を守ることを優先した。誰も彼も助けられるとは思っていない」
 そして諦めた。そんな彼の心の言葉は、巧には届かなかった。

「だけど俺はずっと、みんなに幸せになってほしい。俺にできることなら、助けたい。そう思って生きてきた。だから――」

 たまらず、巧の腕が伸びた。無意識に士郎の襟首を掴む。
「お兄ちゃんになにを――――、えっ?」
『おおっと、不良の因縁か! ――ってあら?』
 彼女は自分の顔を見た瞬間、怒気を萎えさせた。
 杖は興奮したようにブンブン飛んでいたが、少女と同じように勢いをなくす。
 そんな状況を尻目に、巧は思わず力が入る。
「ふざけんな」

 ―― …………みたいに、…………したい。

「あんた……」
 士郎もなんとも言えない顔をしている。
 そして、巧は胸の内から感情があふれるのを、止められなかった。

「ふざけんな! なんで……なんで、啓太郎と同じ夢を持っているんだよ!」

 ―― 世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなを幸せにしたい。
 巧が気を許し、口とは裏腹に尊敬した相手は、大きな夢を持っていた。


 アーチャーの言葉を思い出す。
『だがおまえが今までの自分を否定し、たった一人を生かそうとするのなら――その罪(つけ)は必ず、おまえ自身を裁くだろう』
 けっきょく、自分は正義の味方を諦め、桜の味方であることを選択した。
 今もそうだ。彼女を救うため、イリヤを守りながら探している。
 目の前の彼を助けたのは夢の残滓、残りカスであり、『衛宮士郎』の魂に刻み込んだ習性によるものだ。
 たとえ正義の味方を諦めても、倒れている誰かを、不幸な誰かを放っては置けない。
 だけど、根源にあるのは罪悪感だ。あの災害のとき、自分だけ生き残ったことによる罪の意識。ゆえに自分を捨てていた。
 それが魔術師には壊れていると言われる、自分の本質だ。
 なのに、彼は自分と同じ夢を持つ人を知っているという。
 健全な形で、こんな夢を見れる相手を知っているという。
 辛そうな表情は、その誰かを喪った証拠か。
 そして、彼について一つ理解した。
 この夢を笑わなかったのだろう、と。
「…………やっぱり、あんたを一人で行かせるわけにはいかない。
なにがなんでも、あんたを助ける。同じ夢を持っている奴を知っているなら、しつこいってこともわかるだろ?」
 相手の顔が痛みに耐えているかのように歪む。
 何がそんなに辛いのかわからない。いや、士郎はわからないふりをしている。

72夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:41:44 ID:j1MPhj6E
 その感情は一番身近で、違うものであって欲しいと願うものだからだ。
 青年は士郎を突き飛ばし、睨んでいた。だが、敵意は全く感じ取れない。
「だったらお前を殺してでも通る……ッ!」
 相手は深呼吸をして、狼のごとく吠えた。
 いや、『ごとく』などという生やさしいレベルではない。
 彼の全身が水面のように揺れて、体を白い外骨格が覆いかぶさる。
 狼の顔がこちらを見つめ、白い人狼が姿を見せた。
「あのときの……お兄ちゃんッ!」
 イリヤがルビーを手にとって前に出ようとしたが、手で抑える。
 士郎は拳を振りかかる白い獣をまっすぐに見据えていた。
 恐ろしい速度で拳は士郎の頬を捉えている。殴られればひとたまりもなく、確実に命を奪うそれは、自分の頭には届かなかった。
「……なんで……だよっ!」
「あんたに俺は殴れない」
 衛宮士郎は、正義の味方になりたかったと告げる切嗣を笑えなかった。
 憧れ、また自分もそうなりたいと願った。
 だからわかる。

「この夢を笑わない奴が、否定しない奴が、俺を、誰かを殺せるかよ」

 あのとき、切嗣に安心して欲しくて、夢を継ぐと宣言した自分のように。
 眼前の男と自分は、どうしようもないほど似ていた。


 数分ほど睨み合った後だ。
 相手は人狼の姿をやめ、ストンと力なく腰を下ろした。
「あのときはイリヤを助けてくれたんだな。ありがとう」
 巨大ロボに襲われたときの礼を言うと、相手はそっぽを向く。
 いくらか冷めたが、ほんのり熱を残す玉子がゆを「食べてくれ」と差し出した。
「じゃあ、イリヤ。少し早いけど俺たちも飯にするか」
「うん! 相変わらずお兄ちゃんのご飯は美味しそうで楽しみ!」
 安堵しているのかイリヤの反応も早い。
 ちなみに自分たちはオーソドックスにご飯、味噌汁、焼き魚だ。
 焼き魚は一応、彼の分も作りおきしている。温め直す準備も万全だ。
 それぞれに朝食を手に取るが、一人だけ手をつけていない者がいた。
「やっぱり俺たちは信用できないか? それでも構わないけど……」
 彼は面倒そうにこちらを見たあと、おわんをとってスプーンを口につけた。
「あちっ! まだ熱いんだよ! フー、フー!!」
 意外な文句に士郎はポカンとした。先ほども言ったように、粥はある程度冷えていたはずである。
 それで熱いとは、度を超えた猫舌だ。
『えー……なんというか……』
「今まで手をつけていなかったのって、猫舌だから……? うわ……」
 イリヤとルビーがジト目をフーフー息をかける彼に向ける。
 ますます不機嫌になった青年はムキになって、吹きかける息を強めた。
 次の料理は熱くないものがいいか、と士郎はメニューを脳内で並べ始める。

「乾巧だ」

 ボソッと、聞き逃しかねない声量で自分勝手な自己紹介が終わった。
 巧は何ごともなかったかのように、粥を冷まし続けている。
 イリヤもルビーもやれやれ、と呆れ気味だ。
 だけど、士郎は頬が緩むのを抑えきれなかった。



 士郎は知らないし、巧も無意識で気づいていない。
 園田真理は偶然、巧の名前を知った。
 この儀式でも、横にいた啓太郎や、名前を呼んだ木場の経由で名前を知った相手ばかりだ。
 巧が最初に自己紹介で名前を告げた相手は菊池啓太郎だ。
 この儀式で自分一人で名前を告げた相手は衛宮士郎だ。
 だからもう、心のどこかでこの二人を認めたのかもしれない。

73夢の残滓 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:42:26 ID:j1MPhj6E


【F-2/民家/一日目 早朝(放送直前)】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:カリバーン@Fate/stay night、アーチャーの腕
[道具]:基本支給品2人分(デイバッグ一つ解体)、お手製の軽食、干将莫邪@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:イリヤを守る
2:桜、遠坂、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す(桜優先)
3:巧の無茶を止める
4:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
5:桜……セイバー……
6:なるべくなら巧の事情を知りたい
[備考]
※十三日目『春になったら』から『決断の時』までの間より参戦
※アーチャーの腕は未開放です。投影回数、残り五回
[情報]
※イリヤが平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小) 、ダメージ(小)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ、クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:お兄ちゃん(衛宮士郎)を守る
2:ミユたちを探す
3:お兄ちゃんには戦わせたくない
4:乾巧の子供っぽさに呆れている
5:あまりお兄ちゃんの重荷にはなりたくない
6:もう一人の自分の事が、少しだけ気がかり
7:バーサーカーやセイバーには気を付ける
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、治療済み
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい。
1:隙を見て二人の元から離れないが、なんとなく死なせたくない
2:衛宮士郎が少し気になる(啓太郎と重ねている)
3:マミは探さない
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識
※金色のロボット=ロロとは認識していない

74 ◆qbc1IKAIXA:2011/10/15(土) 18:42:52 ID:j1MPhj6E
投下終了
なにかしらミスがありましたら、指摘をお願いします

75名無しさん:2011/10/15(土) 19:54:30 ID:MoJEVOUA
投下乙です。
誤字だと思いますけど、巧の思考の1がちょっと変になってます。
あとは主観の切り替えが判りづらい事を除けば、いい話だと思います。

しかし、いつ食べるんでしょうね、お手製の軽食w

76名無しさん:2011/10/15(土) 22:56:36 ID:9yDalhdo
>>74
投下乙ですー。
当然のように朝食を作る士郎、流石だw
しかし士郎と巧は何かどこか通じるものがあるのか。 パーティとしても中々だし期待ですなー。

77名無しさん:2011/10/16(日) 00:24:22 ID:Mtxeq4g6
投下乙ー
出たー!たっくん必殺の猫舌だー!
いやまあそれはともかく、仲直りできたのはよかったな。
士郎君、真逆の方角では桜がエライことになってるんやでぇ…

78名無しさん:2011/10/16(日) 02:18:00 ID:RHf/RV/k
投下乙です!なんとか無事に合流できたようで。しかし最後に猫舌たっくんw

79名無しさん:2011/10/16(日) 17:20:12 ID:0Vy32Jc6
投下乙です

猫舌www
士郎もいい味出してるなあw
まあ、合流出来たのは何よりだ

80名無しさん:2011/10/16(日) 18:40:17 ID:9CB0/its
しんみりしつつ和やかにしてるな。
自分から名前を教える事に重みがついてくるのは印象的だ。
投下乙。

81 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:18:34 ID:mfS682sw
予約分投下します

82闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:22:23 ID:mfS682sw
真理とタケシの二人はバーサーカーの脅威からどうにか逃げた二人は流星塾へと向かっていた。
普通に考えると向かう場所は洞穴なのだろうが真理の向かった場所は山の上だった。
地図に書いてある流星塾は山岳地帯にあったものだが、記載されているそれは洞穴の中にあるように思える配置である。
しかし真理は偶然そうなっていると思い、洞穴ではなく一直線に流星塾へと進行していた。
真理としては当然だろう。彼女にとって流星塾の思い出はとても楽しく、大事であったものであり、洞穴の中にあるべき建物ではないのだから。
だが、たどり着いた場所にあったのは一つの小さな山小屋だった。

「ここがこの流星塾ってところですか?」
「違う…、じゃあ流星塾は…?」


もし草加雅人なら、少なくともこの場にいる草加雅人であれば迷うことなく洞穴へと行ったであろう。
スマートブレインの地下で流星塾を見た彼であれば。そこで見た様々なもの、そしてその場にいた存在を見た彼であれば。
だが園田真理は知らない。彼女にとって流星塾での出来事は楽しかった思い出として刻まれているのだから。

位置を何度確認してもここが流星塾のあるエリアであることには間違いはないはずである。
だが外を見渡してもあるのは山岳の風景のみ。流星塾どころか建築物も見当たらない。
そもそもこの山小屋自体かなり不自然な位置に建っているものなのだが。

(じゃあこれはやっぱり…。でも言い出しにくいなぁ…)

タケシはやはり洞穴から行く場所なのではないかということも薄々気が付いていた。
だが、ここに来るまでの間に真理からはその流星塾という場所で過ごした思い出を聞かされていた。
その思い出を話す際の真理の顔がとても楽しそうで、とても輝いているように思えたのだ。
そんな彼女にこの事実を伝えるのは、タケシも躊躇せざるをえなかった。

真理は落胆しつつもあの巨人から逃げてきた後のこの移動で疲れたのか小屋にあった椅子に腰掛ける。
タケシはというともう少しじっくり見たいようで、小屋にあった家具などを物色していた。
無論その最中ずっと真理にどう切り出すべきか考えているようだった。
ずっとこうしていても埒が明かない。

「ん〜、どうしたものか…。あれ、グレッグル?どうした?」

ふと気付くとグレッグルは室内にあった棚の前に座ってそれをじっと凝視していた。
棚には何も置かれておらず、特に何かあるようには見えなかった。

「どうした?ここに何かあったか?」

問いかけてみるとグレッグルはタケシの方を一度向き、頬を膨らませた後また棚を見つめた。
何度見ても何かあるようには見えない。
と、その棚を凝視しているとある違和感に気がつく。

83闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:24:17 ID:mfS682sw

「ん?そういえばここの壁…」

一度小屋の外に出るタケシ。
それが違和感の正体が何なのか気付く。

「どうしたの?」
「ここの壁なんですけど、他の場所と比べて妙に厚みがあるみたいなんです」

そう、棚のある一角だけがなぜか他の三角より不自然な厚みがあった。
ぱっと見では分かりづらいが外と見比べるとその違和感はかなりはっきり分かる。

「つまり、どういうこと?」
「ここに何か隠されてるんじゃないかと…」

何かといってもこの場にあるのは棚だけである。
だがこのような場所にあるとすればこの棚自体に何か仕掛けがあるということのはずだ。
何かあるか確かめるために横から押してみたり色々まさぐってみるタケシ。
だが特になにか起こる様子はない。
タケシは棚にもたれかかり考え込む。

「おかしいな…。ここ絶対何かあるんだけど…」
「ケケ」

ふとグレッグルが鳴き声を発し、
その直後だった。棚が突然扉のように横に動いて、後ろの余分なスペース部分が開く。
突然開いたその中に、棚にもたれかかっていたタケシは驚きのまま入り込んでしまう。

「?!何だ!?」
「ちょ…!タケシ!!」

慌ててそこに吸い込まれるタケシを追いかける真理。
グレッグルがその後飛び込んできたと同時にその扉は閉じる。

「……」

訳も分からず呆然とする二人。
だが何が起きたのか把握するにはそこまで時間は掛からなかった。

「これ、エレベーターよね?」
「…みたいですね」

中はあまり広くはなく、何もない空間があるだけだった。
しかし、この空間が下に向けて動いていることは分かった。
しばらくしてまた扉が開くと、そこに広がっていたのは山小屋ではなく、真っ白で小さな空間だった。
行き止まりかと思いつつ壁に手を触れた時、そこが開き薄暗い廊下にたどり着いた。

84闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:27:17 ID:mfS682sw
「これは…どういうことなんですか?」
「分からないわ。でも…」

懐中電灯を片手に先頭を歩く真理。
やがてある一つの扉に手をかける。
中は机や椅子が積み重ねられており、床には色々なものが散らかっていた。
足元に気を付けながら、部屋の奥、絵が貼られている壁の前に立つ真理。

「間違いないわ…」

そこには様々な絵があった。多くの人が描かれた絵。男の子と女の子の二人が手を繋いでいる絵。
絵を描いた者の名前はこう記されていた。「園田真理」「草加雅人」

「ここは、流星塾よ」





ナナリーは流星塾へと向かうために洞穴へと向かっていた。
幸いにもすぐ近くに山道があったようで、そこまでの道もネモの導きのおかげで転んだりすることなく行くことができた。
だが、洞穴内はかなりデコボコしており、車椅子での移動はなかなか困難だった。
時間をかけながらもどうにかたどり着いた奥にあったのは一つの扉だった。

「中には誰かいる?」
『探知機を見る限り、この中にはいないようだ。この山の上に二人いるみたいだな。
 まあ気にすることはないだろうな』

マップ上では山の上にいるようだった二人の参加者の反応。確かにこの場から気にする物ではないだろう。
そうナナリーも考える。ただ、念のためにこまめにチェックはするようにしておく。

扉を開けて中に入るナナリーとネモ。
目の見えないナナリーには辺りの視覚情報を得ることはできない。
よってそれはネモに任せる。

「この中の様子ってどうなってるの?」
『確かここは流星塾と言う名前から教育施設とは考えていたが…、どうやらここは学校のようだな』
「学校?」
『ああ、どちらかと言えば昔日本にあった物に近いな。だがそれはかなり前の話のようだが』

辺りに無造作に積み上げられている机こそあるものの、廃校にしては随分と綺麗な廊下である。

85闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:29:51 ID:mfS682sw
(しかしここも学校か…。なぜこの場にはこうも学校が置かれているのだ…?)

ネモがマップを見たときから少しだけ思っていたこと。それはこの場に来て疑問となり始めた。
ナナリーの通っていたアッシュフォード学園。さらにそこからそれぞれ反対に離れた位置にある穂群原学園、見滝原中学校も名前からして学校だろう。
そして今いるこの流星塾。
なぜここまで学校が配置されているのだろうか。
学校だけではない。マップ上には参加者の家と思える施設まであった。
間桐、夜神、鹿目、美国、衛宮。
夜神を除くと一人ずつしかその苗字の者はいない。
ついでにNの城というのもある。
ただの民家であるならそこまで重要にはならないはずであるが、学校のこともあわせるとどうも気になってしまう。
何か意味でもあるのだろうか。

(考えすぎならいいのだがな)

だがこればかりは実際に行ってみないと分からないだろう。今いるこの場所もそうだ。

『ん?ナナリー!』

そんなことを考えながらナナリーの手にある探知機を見ると、不可解なことが起こっていた。

「どうかしたの?」
『さっきの二つの光点、この建物の中に入ってきているぞ』

山の上にいたはずの二人の参加者はどうやったのかこの流星塾の中に移動していた。
いくらネモでもずっと探知機を見ていた訳ではない。どうやってここまで来たのか、その瞬間を見損ねてしまった。
何らかの瞬間移動の能力を持っているのか、はたまた何かの移動装置でもあったのか。
己の中の油断を呪うネモ。そうこうしている内に光点はこちらに近付いてくる。

「警戒しなくてもいいわネモ。きっと彼らも殺し合いに乗っているわけではないはずよ」

足音はかなり慎重に足を運んでいる。その足取りから辺りを警戒しているのが分かる。
ナナリーの耳には少なくとも危険な人間のものとは思えなかった。
一つ気になるのは足音が三つしていることだろうか。二つは特におかしいところはないが、一つはかなり小さい足音だった。
その小さな足音がこちらに近付いてきた。
その足音はナナリーの目の前で止まる。

『?!何だこいつは?!』

ネモの驚く声が聞こえる。
ナナリーは小さな子供か何かかと思って手を差し出し、優しく声をかける。

86闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:31:34 ID:mfS682sw
「大丈夫よ。私はあなたを襲ったりしないわ」

ナナリーの手にその手が触れるのとさっきの声の主が近付いてくるのは同時だった。

「おい、グレッグル。お前どうし…、あ」

こうしてナナリーはタケシ、真理と出会った。



「あの、気を使わなくても大丈夫ですから…」
「いや遠慮しなくてもいいんだよ。こんな足場じゃ危ないだろう?」

ナナリーはタケシに車椅子を押されていた。
盲目で車椅子の少女という姿は真理、タケシに警戒心を起こさせることもなく。
ナナリーからしても声や雰囲気から特に悪い人ではないと印象づけ、おかしな齟齬も生まれることもなく今に至る。


「このグレッグルという子、ポケモンというのですか?」
「なんかそういうみたい。あなた何か知ってるの?」
「ちょっと気になることがあって。私の支給品にこんなものがあったのですが分かりますか?」

そう言ってバッグから取り出したのはプロテクター。
ポケモンという単語が記されていた支給品である。

「あ、これプロテクターだ」

タケシはそれを一目で何なのか把握する。
岩タイプのジムリーダーを勤めていたタケシにとっては重要なアイテムだ。
それを使うことで進化したドサイドンは彼の弟が継いだジムにもいる。

ナナリーは持っていたもう一つの支給品のことも一応聞いてみた。
タケシは知らなかったがそちらは真理が知っていた。
真理はそれを巧の持っていたファイズ強化ツールであることを説明する。

「じゃあこれは真理さんが持っていてください。私が持っていても仕方ありませんし」

そう言ってファイズアクセルを渡すナナリー。
真理としては巧と合流したときのために必要な物であり願ってもないことだった。
だが、同時に真理の中に一つの不安が現れる。
もしかして今巧の手元にはファイズギアはないのではないか、と。
タケシに支給されていたカイザギアもその考えの根拠の一つだ。
カイザギアがここにあるということは雅人や啓太郎の手元にはないということを意味する。
同じように、巧の手元にファイズギアがあるとは限らないのだ。
ではもしかすると、巧は今あの姿で戦っているというのだろうか?
木場や村上のような敵と。さっきのあの巨人のような怪物と。

87闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:35:00 ID:mfS682sw

「あの、タケシさん。そのポケモンという生き物についてもう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「そういえば詳しく聞いてなかったわ。この際だから教えてくれない?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。いいでしょう、このポケモンブリーダー、タケシ。
 分からないことがあれば何でもお答えしましょう!さあマリさん、聞きたいことがあればなんでもぎゃ!!」

真理の手を取り熱く語り始めるタケシに毒突きを食らわせ止めるグレッグル。

「あ…、大丈夫ですか…?」
「…だ、大丈夫、いつものことだから…」

慣れとは恐ろしいものだ。
しばらくグレッグルに引きずられていたタケシは間もなく立ち上がって何事もなかったのようにナナリーの車椅子を押し始めた。





流星塾の中を回っても特に変わったものは見つけられなかった。
真理の記憶からはかけ離れているほど散らかっているところが多かったものの、過ぎた年月を考えれば当然だろう。
しかしここを掃除する者はいなかったのだろうか?あの日々の後間もなくだれもいなくなってしまったというのだろうか?

と、ここまで考えたところで自分があの流星塾とこの場にある流星塾を同じものとして考えていることに気付く。
この場にある流星塾はあくまでこの場にある流星塾だ。いくら似ていようとあの思い出の場であるはずもない。
流星塾をそのままこの場に持ってくるでもしない限り。


やがて真理達が入ったのは理科室だった。
そこは当然何の変哲もないただの理科室である。真理の記憶の中では。
その通り、辺りにあるのは実験器具や人体模型など理科室定番の道具ばかりだ。
当然誰もいないはずの薄暗い空間である。


そしてある机に近付いたときだった。

「えっ?」

机の上においてある電灯に突然明かりが点ったのは。
そして薄暗い中では見えなかったものが目に止まる。

「これは…」

もしこれが本来の、会場に設置されたこの流星塾に通っていた真理であれば分からなかっただろう。
否、推測は立てられただろう。父親から送られてきたそれとそっくりであるこの物体に。
だが、ここにいる真理はそれとかなり似通った物をよく知っていた。
人間居住区に攻め入るオルフェノク達の、あの日大軍で襲い掛かり自分と乾巧を引き離したあの兵士達が装備していたものだから。

88闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:37:19 ID:mfS682sw
机の上で円柱のケースの中で何かの液体に浸かり浮いている物体。
それはスマートブレインの開発したライオトルーパーのベルトに似たものだった。

「これは…、あのカイザとかいう物にそっくりですけど…?」
「スマートブレインのオルフェノク部隊の兵士が使っていたものに似てるわ
 試作品か何かかしら?」
「もしかしてさっきの時計のファイズっていう言葉に関係があるのですか?」
「これは言ってみればファイズギアの量産型みたいなものなのよ」

真理としては思わぬ収穫だ。
繋がっているコードを外してバッグに入れようとしたところで真理の腕を掴む者がいた。
グレッグルが真理のその腕を掴んだ。
見ると何だか身震いしているような動きをしている。

「…真理さん、これって普通の人が使ったら危ないんじゃないんですか?」
「まあこれオルフェノク専用の物みたいだし。ただ知り合いに使えそうな人がいるから一応ね」

自分で使うことはできないが、仲間になってくれるオルフェノクがいたときこれがあると少しは戦力の足しになるだろう。
それにベルトについての情報を得る材料になるかもしれない。 

と、ここまで言ったところで真理はその知り合いの中にオルフェノクがいるということを言うべきかどうか考えた。
オルフェノクという存在を知らない彼らがオルフェノクかどうかで敵か味方かを判断するとは思えない。
巧はもちろん長田結花、海堂直也のように味方になってくれるだろう者もいるが、オルフェノク側についた木場、スマートブレイン社長の村上が仲間になってくれるとは思えない。
今は切り出しにくいが巧のためにもどこかでタイミングを見て話しておくべきだろうと考えた。


スマートバックルをバッグにしまい、理科室を見て回るが、他におかしなところは見当たらなかった。
ナナリーが持っていた探知機を見せてもらっても周辺には特に人が来る様子はない。
とりあえず理科室を出る三人。
これ以上ここにいても仕方ないと判断した真理は出口に向かいながら二人に意見を聞く。

「ねえ、二人はどこか行きたいところってある?」

本来ならここでしばらく休息をとってから出発するつもりだったが、この散らかりようと薄暗さでは休息はとれないだろう。
ならば人間居住区まで行こうかと思ったが、特にタケシにはこんな所まで付き合わせた事もあり、そっちの意見を優先しておこうというのが真理の考えだった。

89闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:42:58 ID:mfS682sw
「いいんですか?真理さんの知り合いがここに来るってことも考えられますけど」
「あ、そういえばそっか」

タケシに言われてその可能性を考える。
しかしもし巧や啓太郎との合流を考えるのならばここからは遠いがH-3のクリーニング店の方が向いている。
長田結花や海堂直也のような者達などこの場の存在も知っていないはずだ。彼らならむしろ居住区に行くだろう。
ここに来るとすれば雅人くらいしかいない。
ならばこの場にいる意味は薄いと思える。
一応何か書置きくらいはしておこう。一緒に居たくないとはいえあんな奴でも仲間なのだから。


「まあ大丈夫よ。ここに来そうな仲間はあんまりいないと思うし。
 ただもしものために伝言残して行くからあの絵のあった教室に寄らせて」

そう、あそこなら雅人への伝言を残しておく場所としては適しているだろう。

通る場所は来た道と同じ場所だ。
何箇所か鍵の掛かった部屋もあったが真理の記憶の中では特に何かあった場所でもないらしいのでそこは通り過ぎることにしていた。
あの謎の染みも今となっては気にするものではない。そのまま三人と一匹は通り過ぎる。
ただ、タケシには、そこを通り過ぎるときにその染みを気にかけるグレッグルが気になっていた。




「にしてもここ洞窟の中じゃない!
 なんでこんな所に流星塾があるのよ…!」
(ああ、やっぱりそうだったんだな)

その後最初の教室から出てきた真理は出口へ戻ろうと来た道を戻った。
しかし来た時のようにエレベーターの扉が開かずしばらく立ち往生するはめになってしまった。
だがナナリーの入ってきた場所からなら出られるだろうということで普通の入り口から出たのであった。
洞窟に埋まっているという事実に真理が怒ったのは出口から洞穴に入ってすぐのことだ。

流星塾を出たところでどこへ向かうのかまだ決まっていなかったことに気付く。

「タケシ、ここから近くに休めそうなところってない?」
「それならちょうどいいところが。この滝の下にあるポケモンセンターなんですけど。
 ここなら俺の仲間も立ち寄る可能性があるんです」
「あー、じゃあそこでいっか。ナナリーはどうするの?」
「滝の下、ですか…。分かりました。私もご一緒させてください」

タケシはもしナナリーが行きたい場所があるのなら優先するつもりではあったのだが大丈夫だったようだ。
そこについてから色々と情報交換すればいいだろう。
真っ暗であった夜も明ける時間は近い。
この深夜に移動詰めだった三人はとりあえずの目的地に向けて出発した。

90闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:44:52 ID:mfS682sw
「ところでポケモンセンターって何なのよ?」
「ポケモン達の治療や回復ができる施設で、一応我々の休息場所としても適した場所です。
 あ、そういえばポケモンについての説明まだでしたね…」
「あー、そんな話もあったわね。まあ向こうに着いてからゆっくり聞くわ」
「そうですね。ではこのタケシ、ポケモンセンターに着くまでマリさんをエスコートさせてもらいましょう!
 さあ、その手をこちらに――ぐほっ!!」

そんなやりとりの中、真理の中で一つだけ気になっていることがあった。
雅人への伝言を残すためあの教室に改めて入ったときに気付いたもの。
深く考えはしなかったがほんの少し疑問に思ったそれ。

(あそこの教室の地面にあった染み、あれは何だったんだろ?)





『さっきのあいつのこと、やはり気にしているのか』

ネモが問いかけてくる。自分にしか聞こえない声と今会話するのは控えたかったため頷くぐらいしかできなかったが。
さっきのあの少年は滝の下に落ちていったのだ。もし無事ならそこの近くにある施設にいる可能性はある。
なぜ戦いを仕掛けてきたのか、彼の兄とは誰なのか。もう少し話す時間があれば分かり合えるのではないか。
そういったことも気がかりだった。

『ああ、そういえばあのグレッグルとかいうやつ、意外と面白い能力を持ってるみたいだ』
「え…?」

聞くと、どうもあのグレッグルという生き物があのベルトを押さえたとき、ネモも一瞬何かを感じ取ったらしい。
見えたわけではないのではっきりとは分からないが、危険なものだったというのだ。
偶然かもしれないがネモは何か予知に近い能力を持っているのではないかと推測している。
いや、それ以上にもしそうだとしたら、

『あのベルトはあの二人が思っている以上に危険なものなのかもしれんな』

ナナリーの中の不安が大きくなる。
あの二人は悪い人ではない。まだ出会って間もないがナナリーにはそれがはっきり分かった。
そんな彼らが危険な目に会う。それは嫌だった。
だが何と言って説明すればいいのか。そもそも確信もないことを言って大丈夫なのだろうか。

『ナナリー、こういうことでは私が手を貸すことはできない。
 もし力のことを言うのも自由だ。だが後悔することはない選択をしろ』

それっきりネモは話しかけなくなった。
何か考え事でもしているのだろうか。

あの謎の少年、真理の持っているベルト、そしてアリスや兄達の捜索。問題は多い。
向かう先に何があるのか。ネモのギアスは何も示さない。

91闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:45:46 ID:mfS682sw
【B-6/洞穴付近/一日目 早朝】

【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(少)、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:Jの光線銃(4/5)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:ポケモンセンターへ行く。
2:タケシと同行。とりあえず今は一緒に行動。無駄死にされても困るし……
3:怪物(バーサーカー)とはできれば二度と遭遇したくない
4:巧以外のオルフェノクと出会った時は……どうしよう?
5:名簿に載っていた『草加雅人』が気になる
6:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません
 しかし機を見て話すつもりです   
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません


【タケシ@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:疲労(少)、背中や脇腹に軽い打撲、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:グレッグルのモンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:カイザギア@仮面ライダー555、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:ピンプク、ウソッキーを探す
1:真理、ナナリーと同行。ポケモンセンターへ向かう。
2:ピンプクとウソッキーは何処にいるんだ?
3:サトシとヒカリもいるらしい。探さないと!
4:菊池啓太郎と出会えたらカイザギアを渡す
5:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
6:『オルフェノク』って奴には気をつけよう
7:万が一の時は、俺がカイザに変身するしかない?
8:並行世界?
[備考]
※参戦時期はDP編のいずれか。ピンプクがラッキーに進化する前
※真理から『パラダイス・ロスト』の世界とカイザギア、オルフェノクについての簡単な説明を受けました
※真理から『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えてもらいましたが、誰がオルフェノクかまでは教えてもらっていません
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません

92闇の実験室 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:47:13 ID:mfS682sw
【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康
[装備]:呪術式探知機(バッテリー残量7割以上)、ネモ(憑依中)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:ポケモンセンターに同行する
2:とにかく情報を集める
3:人が多く集まりそうな場所へ行きたい
4:ルルーシュやスザク、アリスたちと合流したい
5:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)ともう一度会い、できたら話をしてみたい
6:自分の情報をどこまで明かすか…?
[備考]
※参戦時期は、三巻のCODE13とCODE14の間(マオ戦後、ナリタ攻防戦前)
※ネモの姿と声はナナリーにしか認識できていませんが、参加者の中にはマオの様に例外的に認識できる者がいる可能性があります
※ロロ・ランペルージ(名前は知らない)には、自分と同じように大切な兄がいると考えています。ただし、その兄がルルーシュであることには気づいていません
※マオのギアス『ザ・リフレイン』の効果で、マオと出会った前後の記憶をはっきりと覚えていません
※ネモを通して、ルルーシュら一部参加者の名前を知りましたが、まだ全ての参加者の名を確認していません
※園田真理、タケシとはまだ名前しか名乗っていません。

【ネモ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康、ナナリーに憑依中
[思考・状況]
基本:ナナリーの意思に従い、この殺し合いを止める
1:とにかく情報を集める
2:参加者名簿の内容に半信半疑。『ロロ・ランペルージ』という名前が気になる
3:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)を警戒
4:マオを警戒
5:ポケモンとは何だ?
[備考]
※ロロ・ランペルージの顔は覚えましたが、名前は知りません
※ロロ・ランペルージを、河口湖で遭遇したギアスユーザーではないかと認識しています
※アカギは、エデンバイタルに干渉できる力があるのではないかと考えています
※琢磨死亡時、アカギの後ろにいた『何か』の存在に気が付きました。その『何か』がアカギの力の源ではないかと推測しています
※参加者名簿で参加者の名前をを確認しましたが、ナナリーにはルルーシュら一部の者の名前しか教えていません
※マオが自分たちの時間軸では既に死亡していることは知りません
※ナナリーに名簿に載っていた『ロロ・ランペルージ』の名前を教えたかどうかは後続の書き手にお任せます


【スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555】
花形がオルフェノクの王に対抗するため製作した変身ベルト。
オルフェノクが使用することでライオトルーパーへと変身できる。
というのは完成品の話。
こちらは花形曰く失敗作であり、変身は不可能。
人間であれば装着するだけで死亡、オルフェノクであってもダメージを受ける危険物となっている。




※流星塾の絵が掲示してある部屋に草加宛の真理の書置きがあります。

93 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/23(日) 18:48:40 ID:mfS682sw
投下終了です
問題点などありましたら指摘お願いします

94名無しさん:2011/10/23(日) 19:18:01 ID:QfTE2Tzc
投下乙です!こちらも無事合流、しかし話すべき事は山積み……ってなに嫌なフラグにしかならないのを拾ってますかw

95名無しさん:2011/10/23(日) 20:38:52 ID:6bH4EnU6
投下乙っす
どうにか合流は無事に済んだか…エリア的にもしばらくは安全だな
失敗作…ビリビリの刑に誰かが処されることになるのか…w

96名無しさん:2011/10/23(日) 22:20:07 ID:eoZXBFT.
>>93
乙です。

>>82の一行目の文章が、日本語としてちょっとおかしいみたいです。

97名無しさん:2011/10/24(月) 21:53:24 ID:6DKYcehk
>>93
投下乙ですー。
ふむ、やはり流星塾は地下なのかー。 なにやら危険なものまであるし。
グレッグルは地味にナイス。 見た目からだとアレだが結構バランスはいいメンバーなのかな?

98 ◆Z9iNYeY9a2:2011/10/24(月) 23:14:25 ID:XtedG2Qk
指摘と感想ありがとうございます
文章はwiki収録の際に直しておきます

それにしてもなんでこんな文章になってるんだ

99名無しさん:2011/10/25(火) 21:39:31 ID:n7ITWlVw
投下乙です

言いたい事は既に上で言われているなあ
とりあえず色々としなければならない事が多いんだよなあ…

100名無しさん:2011/10/28(金) 02:12:31 ID:j1eMktMo
投下乙です。
未完成スマートバックルって、装着すると死ぬのか。
満身創痍のたっくんが変身しようとして、止めを刺される図が頭に浮かんだ。

ところで、非常に重箱の隅な指摘で恐縮なのですが、真理の話し方に少し違和感があります。
今回のSSの真理は「分からないわ」「~かしら」みたいなちょっと芝居がかった喋りかたをしていますが、
どちらかと言うと「分かんない。でも…」「~じゃないかな」みたいな、少し砕けた話し方をする子じゃなかったかなと思います。
まどマギで例えると、ほむほむやマミさんよりもまどかに近い感じだったような。


劇場版555の記憶がだいぶ薄れてるので、劇場版真理の話し方はこれで正しい!とかだったらごめんなさい。


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