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パラレルワールド・バトルロワイアル part2

105悪夢→浸食〜光の影 ◆UOJEIq.Rys:2011/10/28(金) 16:57:18 ID:QIHkP89I

 そんなの決まってる。
 藤村先生は何も知らない。
 先輩が魔術師だって事も知らない。
 何もかも隠していた、嘘の私しか知らない。

「魔術師でも何でもない、なんにも知らないくせに……」
 私の事も、セイバーさんの事も、先輩の事も。
 なんにも知らない、まるで白紙のノートのようで、
 そんなんだと、

「藤村先生。私、藤村先生が思っている様な綺麗な女の子じゃないんですよ?」
 ぐちゃぐちゃに汚したくなってしまう。
「                              」
 真っ白な画用紙を黒いクレヨンで塗り潰すように。まだ誰も踏んでない新雪を滅茶苦茶に踏み荒らすように。ひらひらと舞う綺麗な蝶の肢を一本一本引き千切るように。
 目の前でそれをした時、この人は一体どんな顔をしてくれるのか、想像しただけで笑いが込み上げてくる。

「小さい頃からよくわからないものに触られて、汚れてない所なんかどこにもなくて――――今だって、私の手は真っ赤に汚れていて」
「                              」

 ああ――――私、おかしくなってる。

 そんな事をする意味はないのに。
 そんな事をしたら大切な物を壊してしまうのに。
 そんな事をしたくてしたくて堪らない。
 こんなんじゃ私、きっと先輩に嫌われてしまう。
 でも。

「でもいいんです。こんな私でも、出来る事があったんです。先輩の為に、私が代わりになるんです」
 こんな私でも、先輩の為に出来る事はある。
 今の私だから、先輩の為になれる。

「                              」
「先輩は優しい人だから、こんな殺し合いに呼ばれたら悲しんでしまう。
 先輩は正義の味方だから、きっと誰かを助けるために無茶をしちゃう。
 だからそうなる前に、先輩を悲しませる人はみんないなくなってもらうんです」
「                              」
 ベルトの力さえあれば、誰にも負けない。
 さっきはちょっと油断したけど、もう失敗なんてしない。
 今度こそちゃんと殺してあげるんだから。

「そうすれば先輩は悲しまない。
 そうすれば先輩は傷つかない。
 そうすれば先輩は、ずっと綺麗なまま」
「                              」
 あの夕陽のグラウンドの中、諦めてしまえという思いを、頑張れという想いに変えてくれた少年。
 あの人に守ってもらいたいと願ったから、今度は私が、あの人を守って見せる。
 だから。

「藤村先生。私にとっては、あなただって綺麗な人なんです。
 優しくて、暖かくて、子供みたいで。なんにも知らないからこそ綺麗な藤村先生」
「                              」
 私と先輩と先生の、大切な日常の象徴。
 先生がいなくなったら、先輩が悲しむ。
 先生がいなくなったら、帰る場所がなくなってしまう。

「だから、来ないでください。
 いま近づかれると、わたし――――何をするか、わからない」

 壊したくないのに壊してしまいそうで、近くになんて居られない。
 今にも“影”が粟立って、藤村先生へと襲いかかりそうで怖い。
 自分の事なのに自分がわからなくなりそうなのが一番怖い。

 だからはやく、藤村先生から離れなきゃ。
 はやく“悪い人”をみんな殺して、いつもの日常に帰らなきゃ。

「へんしん」
 体を黒と白の装甲が覆う。跳ね上げられた身体能力で駆けだす。
 見る見る離れていく藤村先生。ただの人間である彼女には決して追いつけない。
「                              」
 その爽快感が心地いい。藤村先生と別れるのが心苦しい。―――から離れるのが口惜しい。
 私を引き止める声がしたけど、止まったら自分がどうなるか分からない。


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