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悪魔憑きバトルロワイアル

262 ◆rXek/f915.:2022/09/22(木) 22:46:31 ID:4ChXtkOw0
エシディシで予約します。

263 ◆rXek/f915.:2022/09/30(金) 01:09:40 ID:lNVBu.Ds0
予約延長します

264 ◆rXek/f915.:2022/10/06(木) 00:20:28 ID:weEKzlkI0
すみません、予約破棄します

265月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:34 ID:iRmSq/Zg0
投下します。

266月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:52 ID:iRmSq/Zg0

「行くぜ行くぜ行くぜええええエエエぇぇェぇッッッ!!!!」


けたたましいモーター音と、人間の叫び声。
傍で見ていても耳を塞ぎたくなるような轟音が響く。
地獄で生まれた魔獣の雄たけびと言っても相違ない。


「ハ、なんともうるさい音だ。」

その爆音を一番近くで受けるのは、吸血鬼の王。
彼は逃げもせず、抵抗の意志も見せない。
最初は構えていた2本の銃剣は、刃先を下に向けており、そのままでは武器の役割を成さない。


「良いコト思い付いたぜェ!!」


言うが早いか、チェンソーの右腕をブンと振るう。
狙いは雅の白く細い首。
チェンソーで首を斬り落とされれば、悪魔だろうと生きてはいられない。
勿論、切り裂くことが出来ればの話だが。


「ほう。」


雅は余裕しゃくしゃくと言った様子で、首だけを動かして斬撃を躱した。
全身を動かす必要などない。本気を出さずとも簡単にあしらえると言った態度の表れだ。


「テメエみたいな悪い奴を全員ブッ殺せば、悪いオババがやりたいこと出来なくなって、万々歳じゃねえかァ!?」


良いアイデアを出せた悦びで、斬撃に勢いが乗る。
だが第二撃、第三撃も、同じ様に紙一重の動きで躱される。
敵の巨大な双剣で受け止められることは無い。一対の刃は縦横無尽に空間を暴れまわる。
だが、斬られたのは地面や雑草のみ。飛び散るのは血ではなく、草の切れはしや石畳のかけらだけだ。
その様子だけを見れば、押しているのはデンジの方。
だがよくよく見れば押されている雅が、これから嬲る獲物のイキの良さを下調べしているかのようだった。


「お前の言うことは正しい。実に素晴らしい解答だ。」
「だろ!?褒めても悪い奴には何も出さねえけどなァ!!!」


デンジの強気な言葉には、どことなく敵に対する恐怖を孕んでいた。
今まで斬殺して来た悪魔とはまるで違う相手の底知れなさを、僅かな間に感じ取っていた。

267月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:28:25 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

268月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:09 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

269月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:32 ID:iRmSq/Zg0

「どーだッ!これが未来のノーベル賞受賞者の頭脳って奴だぜ〜!!」


いくら格上の相手と言えど、仰向けに転んでしまえば、即座に反撃は出来ない。
おまけに銃剣は落としてしまい、斬撃を防御することも出来ない。
今こそがとどめを刺すチャンス。
両手ではなく、頭に付いてある刃で、吸血鬼の王を圧し潰そうとする。
シンプル故に確実に倒せる方法だ。頭をミンチにされて生きられる生物はいない。
しかも、破壊を司る悪魔の刃ならば猶更だ。


だが、それで倒すことが出来るとするなら。
雅はとある剣士によって、何度も倒されているはずだ。


「足りん。」


とどめを刺すはずだったチェンソーは、いとも簡単に止められた。
しかも、剣ではなく真っ白な両手で。
真剣白刃取りと言えばどのような状況か、明白だろうか。


「クッソおおおおおお!!離しやがれええええエエエエエェェェッッッ!!」
「ハ、その威勢だけは評価に値するよ。」


デンジはライブ中の観客が見せるヘッドバンキングのように頭を振ろうとするが、全く歯が立たない。
あろうことか、凄まじい腕力でチェンソーの回転まで止められる。
そもそも、白刃取りというのは実戦向きの技術ではない。そんな行動をとるのは、王者としての余裕の顕れでしかない。


ならばと両手の刃で、雅の両手を切り裂こうとする。
だがデンジが両手を動かす前に、雅はチェンソーを掴んだまま両手を高く掲げた。巴投げの体勢だ。


「うわああああああ!!」


急に重力の鎖を断ち切られ、空の旅へ送られてしまえば、デンジでなくとも驚くはずだ。
チェンソーの悪魔は、跳ぶ能力は持っていても、空を飛ぶ能力は持っていない。
従って、空中を支配することは出来ないのだ。


「刹那の暇つぶしにはなったが、宮本明の方がマシだ。」


雅としては、最初のチェンソーに変身する力には驚かされたが、それを使いこなす技術が未完成と言った所。
人間でありながら、手を変え品を変え自分の首を狙って来た男に比べれば、遠く及ばない。
終わりにしようと2本の剣の内の1本を拾い、円盤のように投げ飛ばす。


くるくると回転する刃がデンジの右手を切断する。
それだけではない。ブーメランのように回転し、戻って来た剣がデンジの腰より下を斬り落とす。


ぐちゃ、という音を立てて地面に落ちるデンジ。そこから血が水たまりのように広がって行く。
四肢の内三本を斬り落とされれば、まともな着地など出来やしない。
その様を雅は黙って見下ろしていた。


「出来はまだまだだが、その力は面白かった。どうだ?私の息子とならないか?」


雅はデンジそのものよりも、デンジの力に興味を示した。
腕を切り落としても再生する力に、チェンソーに変化して攻撃する能力。
人間というより邪鬼や混血種(アマルガム)に酷似しているというのに、自分の支配下に置かれていない。
逆に言えば、自分の血を与えれば、更なる力を得る可能性もある。

270月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:24 ID:iRmSq/Zg0

「何で俺がそんなものにならなきゃいけねえんだ。毎日三食食わしてくれんのか?」
「お前は頭が良いのか悪いのか分からないな。私に付けば助かるし、おまけに強い力が得られるんだぞ?」
「誰が男の言いなりになるかバーカ!」


ぺっ、と吐いた唾が雅の顔に飛んだ。
デンジは既にマキマという女性の物になっている。飯を食わせてもらったし、人並みの扱いをしてもらった。
それがなんで今更になって、こんな顔色の悪い男のしもべにならねばならんのだ。


「そうか。ならば私の手で吸血鬼にしよう。」


強者が弱者を従える。
単純にして明快な構図だ。


だが、忘れるなかれ。
この場では、雅も弱者の立場に落とされることもあるのだ。



黒い雷が、その場を走った。



気が付けば雅の目の前から、デンジは消えていた。



「邪魔立てか……どこにでもいるものだな。不必要な正義感に駆られて命を散らす者が……。」
「正義感?正義感と言ったわね!?アハハハハハハハハ!!だとしたらてんで見当違いだわ。
そもそも、私の格好が正義の味方に見えるかしら?」


あの医者の先生じゃあるまいし、と彼女は付け足す。
よく見れば、女性の格好は、暖色を中心とするスーツとマントを身にまとったヒーローとは程遠い。
むしろ、急所に該当する部分のみを黒で隠し、肩甲骨に当たる部分から翼が、臀部から尻尾が出ているという、悪魔じみた格好だ。
誰が言ったか。悪の組織の女幹部のようだと。


「え、えええええええ!!?」


デンジがそんな悲鳴を上げるのも無理はない。
彼女の美貌に魅了される間もなく、ポイっと離れた場所に投げ飛ばされた。
雅との戦いで、多少雑に扱っていい相手なのも分かっている。


「確かに言う通りだな。今の所作といい、悪の方に近い。
尤も、私にとって肝心なのは善や悪じゃ無いが。」


日本を手中に収めた雅にとって、大切なのは正義だの悪だの、そんなちっぽけなものじゃない。
己の退屈を紛らわせることが出来るか出来ないかという、それ以上に矮小なものだ。
雅はさらなる強者を相手に、2本の剣を構える。


吸血鬼の王と女王の戦いが幕を開けた。

271月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:39 ID:iRmSq/Zg0




雅は吸血鬼の女王、ドミノ・サザーランドを強敵と見なした
先の動きと言い、彼女は態度だけではないことは、すぐに理解した。
だからこそ。全力を以て潰す。ただ勝つのではない。敗北を味合わせてから殺す。



強大な力が、夜の中で躍動する。
ドミノが両の翼を広げたと思ったら、チェンソーの刃で飛ばされた瓦礫が宙に浮き、雅に襲い掛かった。


「これは……中々面白い手品だ。」


雅は2本の長剣をバトンのように振り回し、瓦礫を豆腐のように切り裂く。
四六時中その身を守っているだけではない。
瞬間、雅の動きは守りから攻めへ。


デンジの時と違い、守りから攻めのリズムを作ることが出来ないと判断した雅は、地面を蹴る。
狙いは勿論、ドミノの翼。
物理法則では説明の出来ない動きは、彼女の黒い翼によるものだと判断した。


瓦礫の雨のなかを駆け抜け、ドミノを切り裂こうと剣を振りかぶる。
だが、その剣は振り下ろされることは無かった。


「何だこれは!動かないぞ!!」


先程まで、両手を開いていたドミノが、いつの間にか閉じている。
これもまた、彼女の吸血鬼としての能力。
堂島正との戦いで敵の自由を奪った時のように、雅の運動神経を阻害したのだ。


だが、上半身の動きは封じられても、下半身は比較的自由だ。
地面を思いっ切り蹴り、空へと逃げる。人間とは比べ物にならぬほど高い跳躍だ。
だが、それは雅のミスだった。
翼を持たぬ雅が、翼を持つドミノには空中で敵うはずがない。


「それで吸血鬼の王を名乗るつもり?」


今度は能力を使うためではなく、空を滑空するためにドミノは翼を広げる。
空中での軌道力ならば、ドミノが上。だが、高さならば先に地上を離れた雅の方が上。


「無論。」


空へ逃げた時、ドミノの能力の拘束は無くなった。
両腕が自由になると、雅は上空から剣を交叉させ、迫り来るドミノを切り裂こうとする。
その剣は化け物退治に向けて作られた道具。
吸血鬼の常人離れした力を持って振るえば、ドミノとて切り裂くことが出来るだろう。
切った部位、突いた部位によれば、一撃で息の根を止めることも不可能ではないはずだ。

272月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:31:34 ID:iRmSq/Zg0


(あの医者より早い剣さばきね……でも!!)

ドミノは吸血鬼に対する凶器に臆することなく突っ込んでいく。
滑空したまま右手の拳を突き出し、雅の心臓を打ち抜こうとする。
王が切り裂くか、女王が穿ち抜くか。


「これで終わりよ…」
「ぐっ………。」


ドミノの右手は、雅の斬撃によって切り落とされた。
だが、お返しとばかりに雅の心臓を左手で貫く。元々右手はブラフ。本命は背後で構えていた左手だ。
右手と心臓、等価交換で済む話でないのは自明の理だ。
だが、吸血鬼。しかも異なる世界同士の吸血鬼であれば話は異なる。


「……!?なにこれ!!?」


ドミノは勝利を確信していた。何しろ、彼女の世界の吸血鬼は心臓こそが急所だから。
だが、鼻がムズムズし、喉がいがらっぽくなったと思いきや、金属棒に脳味噌をかき回されるような感触を覚える。
いや、その程度で済むというのは、ドミノが吸血鬼の上澄みたる証左だろう。
雅の脳波干渉(サイコジャック)をまともに受ければ、顔中から血を流し、強靭な精神を持っていなければ操り人形になってしまうはずだから。


「ちっ!!」


接近戦では危ないと感じたドミノは、左手を思いっ切り振り、雅を地面に叩き落とす。
高さと勢いからして、まともな硬度を持つ生き物ならばミンチになっていてもおかしくない。
だが、相手も吸血鬼の王。
服が汚れた程度で、ムクリと立ち上がる。


それを追いかけるように、ドミノも雅から少し離れた場所に降り立つ。


「やるじゃないか。お前ならば私の退屈を紛らわせてくれそうだ。」
「まさか、退屈しのぎにこんなことをしている訳?」


ドミノは気になっていた。
日ノ本士郎やユーベンとは別の、自分を吸血鬼の王と名乗る雅に。
最初は他者を甚振るような行為を目にしたからこそ、止めようとした。
だが、それからは男がどのような哲学を持つのか、王としてどのような未来を作りたいのか、戦いを通して見極めたかった。


「その通りだ。私が元いた世界はつまらなさを極めていた。退屈は人だけじゃない。吸血鬼も殺す。」
「あなた、本当につまらないヤツなのね。まあいいわ。」
「ほざけ。」


雅は常に品定めする側だった。
玩具を作り、脅える人間の挙動を眺め、酒の肴に人間が作り出す血の染みを眺め。
つまるつまらないは彼によって決めていた。
だというのに、目の前の女はなんだ。
自分を品定めし、しかもマイナス評価を付けて来た。
初めて経験した状況に苛立ち、ギリギリと牙をこすり合わせる音を立てる。

273月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:31:55 ID:iRmSq/Zg0

「まあいいわ。あの子もどこかへ行ったことだし……フルパワーよ!!」


ドミノの顔が、女王のものから羅刹のものへと変わった。
美しさと妖艶さから、恐怖を感じさせる表情へと変わる。
同時に、彼女を覆っていた黒い翼が巨大化し、空気を鳴らす。


「なんだ……これは……!!」
「せいぜいそこで指をくわえて、新しい世界を見ていなさい。私が女王になれば、世界は楽しいわよ。」


それは技というより災害。その一撃が、どれほど常識外れなのか、語るのに難を要するほどだ。
天が叫び、地は唸る。
凄まじい力を持ったエネルギー波が、雅に襲い掛かる。
まるで核でも落としたかのような爆発が、雅を飲み込もうとする。


「ハ、長生きしてみれば、面白いことに巡り合えるものだ。」


彼の表情からは、諦念が現れていた。
抵抗の遺志を見せず、逃走もせず、ただ黙って爆風が飲み込むのを待っているかのようだった。


この戦いで、吸血鬼の女王は王に対し、ほとんど全ての面で勝っていた。
戦闘センス、能力、単純な力、そしてカリスマ性。
だが、唯一雅が勝っていた点があった。


それは生き汚さである。
何度も何度も宮本明とその兄に追い詰めながら、時には首をも斬り落とされても、生き延びてきた。
それがあったからこそ、ついには日本を征服することが出来たのである。
彼は銃剣の柄に仕込んであった爆薬で地面を吹き飛ばし、ドミノの力が彼を飲み込む前に、
即興の防空壕を作っていた。
勿論、それだけでダメージを全てカバーできたわけではないが、それでも即死や戦闘不能は免れた。


「………逃げたのね。」


音が止み、辺りが荒れ地と化すと、ドミノは呟いた。


(ハ、ひとまずお前の勝利で終わらせてやろう。吸血鬼の女王。)


雅はそこから出て、ドミノに対して反撃に出るような真似はしなかった。
命こそ助かったが、それが勝利につながるとは思っていないからだ。
地面をひたすら掘り進み、女王の目が光る場所から離れていく。
王とは思えないほどの動きだが、今は雌伏の時ということなのだろう。


(だが、この戦いでの勝者は私だということを忘れるな。)


吸血鬼の頂上決戦は、ひとまず終わりを告げる。

274月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:32:21 ID:iRmSq/Zg0

(ひとまず、あの男の子をどうにかしないと。捨て置いたままというのも、女王として無責任だしね。)


ドミノは雅のことは一旦置いて、デンジを探しに行くことにした。

(それに……私の3人の部下や、死んだはずの燦然党の奴等も気になるわね……。)


女王というのは、いつの世でも仕事に追われるのだ。
積極的に世に出ようとし、より良い治世をするならば猶の事である。





【F-3/1日目・黎明】

【デンジ@チェンソーマン】
[状態]ダメージ(大) 貧血
[装備]なし
[道具]基本支給品(食料消耗済み)、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:主催の悪魔をぶっ殺して全部解決だぜ〜!
1.雅って奴はヤバいが、いつかブッ殺してやる
2.あのエロいねーちゃんは誰だったんだ?
3.パワーの奴どこへ行きやがったんだ?

※参戦時期は少なくとも岸部に鍛えてもらった後


【F-2/1日目・黎明】


【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]疲労(中) 右手にダメージ 回復中
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:この世界でも女王となり、殺し合いをやめさせる
1.まずは助けた少年(デンジ)に会いに行く
2.殺し合いに乗った者には容赦しない。
3.部下(善、京児、七原)を探す
4.雅には今度会ったら倒す。

※参戦時期は少なくともユーベンに会った以降
※真祖の能力に制限が課せられています


【F-2・地下/1日目・黎明】


【雅@彼岸島】
[状態]ダメージ(大)(再生中)
[装備]アンデルセンの銃剣@HELLSING
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:宮本明を探す
1.この世界で戦いを楽しむ
2.吸血鬼の女王(ドミノ)よ。いずれお前をその座から引き摺り降ろしてやるぞ。


※ドミノの力で、F-2一体に爆音が響きました。周囲にいる者が気付いたかもしれません。

275 ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:39:47 ID:1xboIOo60
投下します

276僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:35 ID:1xboIOo60

夜のとばりに包まれた世界を、ほんの一筋の光が照らした。
その光は、悪鬼羅刹から人を守るには、余りにも弱い火だった。
だがそれでも、ある人間の生きる実感にはなった。
小さな火の行きつく先は、タバコの先端だった。


「はーーーー。」


タバコが似合いそうな、悪く言えば柄の悪い中年、芭藤哲也は口から煙を吐き出す。
身体に悪い物質が肺に満ちていくその感覚は、ニコチンが身体の中を循環する死者には味わえないものだ。
一度死んだその男は、生者にしか味わえないであろう感覚を噛み締めると、幾分か安堵を覚える。
自分が生きていることを知ると、今度は思考を始める。


なぜ死んだはずなのに、こうして生きているのか。
名簿を探ってみると、自分の知っている名前があった。
自分を殺した佐神善と狩野京児に、その2人が従っているドミノ・サザーランド。
同じ燦然党のメンバーで、自分と同じように死んだはずの加納クレタ、その燦然党に加入したばかりの堂島正。
そして、自分が同じ道に進むように勧誘した七原健。


知り合いがいないわけではないが、だからといってなんだという感情を抱いたわけではなかった。
自分を殺した相手に報復を加えようという気もない。
自分と同じチームにいた者達を探して協力しようという気もない。
七原だけは僅かながら、会ったらどうするか考えたが、すぐにその考えを捨てた。
覆水盆に返らずというが、一度あの関係になってしまった以上は、ここでも同じように殺し合うしかない。

「はーーーー。」


二本目のタバコを吸い始める。
自分は死んだ。それでおしまい。
生き返ったからと言って、自分の人生をやり直そうなんて気はさらさら無かった。
この世界でも、誰かが不幸になれば良いとは思うが、進んで50人以上を不幸にすることは出来ない。
たとえ右腕の銃を撃ったとしても、これだけ広い場所だと殺せるのは多くて3,4人。
中にはその力を受け止める者もいるかもしれない。



何かをしようにも、人が集まっていないんじゃ何をする気にもならない。
3本目のタバコに指をかけようとした、その時だった。
つかつかつかつかと、一人の少女が芭藤の前を横切って行った。


「おい、冷たいじゃねえか。」
「………。」


芭藤は一瞬、彼女が盲目で、自分のことをそもそも見えないのではないかと思った。
だが目の前の少女は、黙って静かに自分をじっと見据えていた。
何とも言えず、付き合い辛い奴を呼び寄せちまったな。
少女の物憂げな眼を見て思った言葉はそれだった。

277僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:52 ID:1xboIOo60

「人が座っているのに、挨拶もせずに素通りするなんてよ。」


まるでヤクザのような恫喝のかけ方。
実際に彼はヤクザなのだが。
芭藤が少女、栗花落カナヲを呼びかけたのは、彼女を殺そうとするつもりではない。
彼女の外からの光を閉ざしているような瞳に、思い出すものがあったからだ。


カナヲは芭藤の前に近づく。その足取りは物憂げな雰囲気に似つかわしくない、大地をしっかりと踏みしめた歩き方だ。
だが、歩いて近付くだけだ。その後に何かの言葉を話すわけでも、何かしらのアクションを取る訳でもない。


「隣、座れよ。俺が見上げっぱなしじゃ首が痛くてかなわねえ。」


いやに素直に、カナヲは芭藤の隣に座った。
抵抗の態度も見せず、かといって恐れる訳でもない。
あまりに素直過ぎて、言い出した芭藤でさえ罠かと思ったほどだった。
座った後は、何もしない。
芭藤が吐き出した煙が、たまたま彼女の顔にかかった際、一瞬顔を歪めただけ。
静かな時間が続いていた。


「なあ、お前はこの殺し合いをどうするつもりだ?」
「……分からない。」


栗花落カナヲは、心を閉ざした少女だ。
同じ心を閉ざした者同士、この場で惹かれ合ったのだろうか。


「それなら、俺と一緒に周りを不幸にしていかねえか?」


言葉を聞かずとも、目を見て分かった。
カナヲも自分と同様に、光のない世界で生きていたのだと。


「……!」


その言葉を聞いて、彼女は反射的に身構える。
先程まで座っていたというのに、瞬時に立ち上がり、臨戦態勢に入る。
表情は変わらない。だがその姿勢は、死地へと向かう戦士の物だった。
この殺し合いに乗るつもりが無かったように、善悪の判断も最低限は出来る。
そして今の言葉で、目の前の男が悪なのだと分かった。

278僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:10 ID:1xboIOo60

「ひでえな。俺がまるで人殺しみてえな態度じゃねえか。まあ、俺がお前を殺すかは態度次第なんだがな。」


そして今のカナヲの挙動で、芭藤がはっきりと分かったことがあった。
目の前の少女は、少なくとも燦然党の下っ端よりかは力を持っていることだ。
ヴァンパイアにはなれないにしろ、自分と共に行けばさぞかし役に立つだろうとは思った。


「……!!」
「その目を見りゃ分かる。お前も俺と同じで、糞共に理不尽を押し付けられてきたんだろ?」


芭藤の言うことは当たっている。
栗花落カナヲは幼少期、愛というものを与えられずに育った。
覚えているのは、動かなくなった兄弟の冷たい感触と、父親の怒声と殴打。
そして、二束三文で売りに出されそうになった。


だから、それをカナヲは否定しない。
それでも、肯定もしない。
肯定すれば最後、自分の心は目の前の男に飲まれて行ってしまうと、脳ではなく心が思ったからだ。


「だからだ。俺達が今度は奪う側になればいい。目をきらめかせて、希望だの何だの語っている奴等を、片っ端から不幸にしてやればいいんだよ。」


世の闇を湛えている瞳を覗き込む。
世の闇を湛えている瞳から見つめられる。


(この人……悪い人?斬らなきゃいけない?でも鬼じゃない。……不幸にするって?どうすれば……
指示。指令。命令……しのぶ姉さん……。アオイ姉さん……。)


芭藤が一方的にカナヲに興味を抱いていただけではない。
カナヲもまた、彼と話をしているうちに、どこか放っておけなくなっていた。

既に彼女は気づいていた。
芭藤哲也という男が、自分が斬って来た鬼とは違う。少なくとも悪だと断定しきれる相手ではないということに。
彼女の並外れていた視力を以てすれば、彼の闇を知ることなど難しい事ではない。
そんなことは、彼の長髪に隠された傷痕を見ずとも分かる。
彼の同期である炭治郎が匂いで人の感情を知ることが出来たように。
善逸が音で人の胸の内を探ることが出来たように。
彼女もまた、神経の動きや表情筋の動きで人や鬼の奥を見抜くことが出来る。


「何が何だか分かんねえって面持ちだな。
気持ちいいぞ。自分を正しいと思っていた奴等が絶望する瞬間を見るのは。なのに何でお前は嫌がるの?」

「……したくない……から。」


カナヲの心は、凍土のようなものだ。
幼い頃に理不尽という名の吹雪に、荒らし尽くされてしまった。
心という名の種を植えても、それが芽吹くことは無い。
芽吹くことは無いはずだった。

だが、それでも胡蝶カナエという柱が、善意という種をまき続けた。
その剣士は不幸にも、カナヲの行く末を知る前に帰らぬ人となったが、その妹が、同じ弟子がその芽を育て続けた。
その甲斐があり、花の力を持つ剣士の植えた種は、ほんの小さな芽を出した。

279僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:28 ID:1xboIOo60

「初めはそうやって嫌がるんだ。みんなで幸せにありたいってな。でも、一度やってみりゃスッキリするぞ。
この殺し合いを壊して皆で生きて帰ろうって、理想ばかり吐いている奴等を殺してやるんだ。」

芭藤は言葉を続ける。
だが、その言葉を言い切る前に、カナヲは脱兎のごとく駆け出した。


目の前の男は、育ての親がくれた物を摘み取ろうとしている。
それを背筋で分かったカナヲは、そうなる前に彼の言葉が聞こえなくなる場所まで走ろうとした。


「おい。」


その動きは、実力者が闊歩する燦然党幹部の芭藤から見ても俊敏だった。
だが、拘束力を持つヴァンパイアに変身すれば、捕まえることも難しくない。


「!?」


彼がカナヲの目の前に投げたのは、獲物を拘束する体の一部―――ではなかった。
芭藤には知らぬことだが、一本の刀だった。
殺すつもりで投げたのではないことは、鞘に入っていた時点でカナヲにも伝わった。


「好きなように使えよ。俺としてはそいつで正義面した奴等を不幸にしてくれればうれしいことこの上ないがな。」

剣だけ受け取ると、カナヲはさらに走り出した。
あの男は殺すべき相手ではないかもしれない。
それでも、手を取るべき相手ではないかもしれない。
どうすべきか全くわからない相手を、彼女は置き去りにするしか出来なかった。



【E-4北西/1日目・深夜】

【栗花落カナヲ@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]日輪刀@鬼滅の刃
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2(武器の類は無し) カナヲのコイン@鬼滅の刃
[行動方針]
基本方針:コインで決める(殺し合いには乗らない)
1:西へ進む
2:あの人(芭藤哲也)は何だったんだろう…いい人?悪い人?







カナヲの姿が見えなくなると、彼はまたタバコを吸い始めた。
自分の手を振り払った相手を殺さず、よりによって武器まで与えるとはどういうことだろうか。

「らしくねえことをしたもんだ。」


紫煙と共に、独り言が虚空へと消える。
とりあえず名も知れぬ少女のことは頭の片隅に追いやり、これからどうするか決める。
とはいえ、結局彼の回答は1つしかない。
殺し合いを打破し、あの老婆を殺そうという、正義に身を委ねた者達を殺して行く。
最早彼にとって、他者の不幸でしか満たされる物は無い。


それを見た瞬間、あの少女はどんな顔をするだろうか。



「あばよ。」


彼女が走って行った方向へそう告げると、逆の方向に歩き始めた。




【芭藤哲也@血と灰の女王】

[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:正義面した対主催の者達を不幸にする。
1:次に会った相手は殺すべきか泳がせるか。
2:あのガキ(栗花落カナヲ)はどうなるんだろうな。
※参戦時期は死亡後

280僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:43:31 ID:1xboIOo60
投下終了です

281名無し:2023/10/12(木) 23:25:20 ID:aF4jyD2o0
予約します。


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