したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第102話☆

1名無しさん@魔法少女:2010/01/27(水) 22:25:53 ID:PTO7s./k
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の5スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第101話☆
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1259008244/

380名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 09:57:40 ID:KdlBuUsw
ユーノ(♀)が穴と言う穴を魔王(♂)に掘られる展開しか想像つかねえwwww

381名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 12:43:52 ID:bSRwwjTU
>>379
トーマとスバルの場合、見た目じゃなくて中身が変わりそうな感じだな。
体力倍増とか足腰の強度アップとか。

382名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 13:45:15 ID:shyFnuSk
>>381
じゃあ二人とも変身すれば休まずに一週間くらいヤり合える訳か…

383名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 14:22:03 ID:ccOa3n/o
>>368-371
TSネタは苦手だけど、クロノとはやての漫才に爆笑しました!
二人をストーキングしていたフェイト……何やってんだオマエは。
特に、クロノの台詞が強烈過ぎです……もう、どこからツッコミ入れていいのか分からない。


俺はマテリアルズ19歳verを妄想しよう。
・星光…ある意味、なのはより部下に慕われそうな上司になりそう。

・雷刃…ナイスバディで露出度高いBJで、僕っ娘でアホの子なんて最高だと思うんだ。

・闇統べ…超トラブルメーカー、彼女の部下になった方達はご愁傷様。
でも>>351みたいにリインⅡ相手だとペース崩れまくりって良いな。

384名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 15:02:13 ID:ka3QNC3o
>>383
待て!雷刃たんは逆だ!
オリジナルであるフェイトが真・ソニックの外見仕様を変えない限り変更できなくて涙目で訴えてる
だけどフェイトは首を傾げ疑問顔
プルンプルンと胸を震わせながら涙目で真・ソニック姿で戦うしかない雷刃たんの永久ループコンボ!






そしてそれを眺めて鼻血たらしてるなのはと星光たん

385名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 16:12:38 ID:VY8ihfh6
>>384
雷刃  「防御力足りないよ、もっと露出度減らして!(涙目)」
フェイト「一度、全身拘束後にスターライトブレイカーの直撃をくらうか、広範囲型SLBに巻き込まれかけてみれば、
     考え方も変わると思うよ?(慈愛に満ちた微笑み)」
星光  「なるほど。所謂ショック療法ですか。ならば私達2人が一度に全力で撃ち込んだほうが効率的ですね。いきましょう、なのは」
なのは 「あ、それいいね。今回は特別に全身拘束の熟練者であるクロノ君も呼んで、じっくり時間をかけて特訓しようか」
雷刃  「いやー!熟練者に拘束されてピンクのぶっといの二本刺し耐久は壊れちゃうよ!!」

・・・こういう流れ?

386名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 16:22:05 ID:j9SN.3gw
>>385

このフェイトの言葉は当たる前に躱すことなのか、マゾヒスト的な意味なのか? そこが問題だ。

387F-2改:2010/02/14(日) 16:59:28 ID:jRHfFeCI
どうも、初めての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶり。いつぞや
にクロなのを投下させて頂いたF-2改です。
一応バレンタインと言うことなので前作「踏み出す一歩は誰のために」の続き
でバレンタインネタを描かせてもらいましたので投下します。

388F-2改:2010/02/14(日) 17:00:50 ID:jRHfFeCI
それでは投下します。

・CPはクロなの
・拙作「踏み出す一歩は誰のために」の続編
・バレンタインネタ





「〜♪ 〜〜♪」

ふんふんふん、と気分の良さそうな鼻歌。キッチンの中を行ったり来たりの右往左往、忙しなく動き回っているのに彼女の表情は楽しそう。
冷蔵庫から取り出したのは、何枚かの板チョコ。少女はこれもまた楽しそうに鼻歌を続けながら、手早く袋を破ってボウルの中に落としていく。
察しがよくてもよくなくても、よほど年間の行事に疎くなければ、彼女――高町なのはが楽しそうにチョコレートを調理している理由も分かるだろう。
二月一四日。すなわち、バレンタインデー。すなわち、女の子には特別な日。作者の私にはどうでもいい日。どうせ今年もゼロだよこの畜生め。
ともかくも、バレンタインの日にウキウキ楽しそうにチョコを作っているのならば、当然渡す相手がいる。彼女にとってはそれがクロノ・ハラオウンであり、彼と愛を交わしてから最初のバレンタ
インとなる。気合が入るのも、当然である訳で。

<<Master>>
「ん? どしたのレイジングハート?」

唐突に、首元に引っ掛けてあった赤い宝石に声をかけられる。相棒たるデバイス、レイジングハートはこう言った。楽しそうですね、と。
なのははニンマリ、幸せ一〇〇パーセントが詰まった笑顔を浮かべて

「そりゃそうだよー、クロノくんと初めてのバレンタインだもん」

とか言う。ミッドチルダにバレンタインと言う風習は本来ないのだが、幸運にも現在のハラオウン家はなのはの出身世界、すなわち地球に居を構えている。休暇で時折しか戻ってこないとはいえ、
意中の男性もそれなりに地球の風習、文化に詳しくなっている。バレンタインだってもちろん知ってるし、その辺りはがっつり教えておいた。
渡した時にクロノくんなんて言うかな。やっぱり「美味しい」とか「ありがとう」とか、いやいや、ひょっとして「好きだよ」とか「愛してる」とか。っは、もしかして「チョコのあとは君を食べ
たいな」とか。やだやだもう、クロノくんってばもう大胆なんだから〜!
――などと、チョコレートそっちのけで妄想に入り浸ってニヤニヤしたりバンバンッ!と壁を叩いたりするマスターを見て、もはやデバイスは何も言わず。

<<……I want also to meet Bardiche(私もバルディッシュに会いたいです)>>

ただ一言、聞こえるか聞こえないか分からない小さな声で呟く。どうかしたのー?と何気に地獄耳ななのはが妄想から帰ってきてもいえ何も、ときっぱり返した。

「さってと、続きやらないと」

いい加減妄想も終わりにして、彼女は調理に戻ることにした。普通に板チョコを渡すなんて素っ気無い、やっぱり大好きな人には丹精込めたものを作らねば。恋する乙女は全力全開で調理に挑む。
――そのはず、だったのだが。レイジングハートが、通信が来ている旨を知らせる高音を鳴らす。何だろう、と怪訝な表情を浮かべて彼女は通信回線を開いた。



チョコの代わりに

389F-2改:2010/02/14(日) 17:01:21 ID:jRHfFeCI
あれはいつだったか。父親が借りてきたアニメのビデオを一緒に見ていた。
当時のなのはには何が面白いのか分からなかったそのアニメは、ガチガチのロボットもの。どうやら原作があるらしく、その作品は外伝的な位置づけらしい。色々と語るエピソードには事欠かない
が、その中でも妙に印象に残っていたシーンがある。
すなわち、ニンジンが嫌いな主人公がバカでかい機動兵器を乗り回し叫ぶのだ。間に合え、間に合えと。阻止限界点を迎える直前のコロニー、しかし敵艦隊は強固な防衛網を築き、ライバルの存在
がさらに彼の行く道を阻む。いまいち作品の面白さが分からなかった小学生の女の子でも、この時ばかりは緊迫感溢れる描写に固唾を呑んだものだ。
で、である。具体的に何が言いたいのかと言うと、今の高町なのは一六歳もほぼ同じ状況下にある訳で。

『ごめん、なのは。式典に向けて出港予定だった他の次元航行艦がトラブルを起こしたようなんだ。埋め合わせでアースラが出ることになったから……』

意中の彼から送られてきた通信は、あまりにも予想外なものだった。もう間もなく退役を予定している次元航行艦アースラは式典に参加しないと、そう聞いていたばかりに安心しきっていた。何も
無ければ彼は本日ハラオウン家に帰宅する予定であり、バレンタインのチョコはその時渡そうと思っていたのだ。その目論見は、ものの見事に木っ端微塵に粉砕された。一度式典に参加すれば、戻
ってくるのはまた明日になる。すなわち、バレンタインが終わってしまうのだ。
一日遅れくらいいいじゃないか、とクロノは言うけれど、それじゃ駄目なのだ。ちゃんとバレンタインの日に渡してこそ、意味がある訳で。
気がつくと、恋する乙女は家を飛び出し転送魔法で本局へと飛んでいた。

「間に合え……」

よもや、あの時見たアニメの主人公と同じ台詞を自分が使う羽目になるとは。
転送ポートに降り立つなり、ダッシュ。本局内の無機質な廊下を駆け抜け、とにかく走って次元航行艦が停泊するブロックへ向かう。すれ違う局員たちが何事かと視線を送っていたが、ほとんど彼
女は無視していった。

「間に合え――っ!!」

にゃ、と悲鳴が上がる。自分が運動音痴であることを改めて自覚しながら、なのはは派手に転んだ。そりゃもう、ビターン!と擬音でもつければ似合いそうな感じで。

「あの……大丈夫?」

心配そうに通りがかった局員が声をかけてくれた。が、むくりと彼女は自力で起き上がる。顔は真っ赤、目尻に涙を浮かべて凄く痛そうだったが必死に堪えた。
ともかく心配してくれた局員に無事であることと礼を告げ、ダッシュ再開。
ようやく次元航行艦の停泊ブロックに辿り着くと、真っ先に以前クロノに教えてもらった、停泊中の艦船が一望できる窓にまで走り込む。食い入るように、なのはは窓の外を睨んだ。アースラ、ア
ースラ、アースラどこ、アースラ!?
ほとんど血眼になって愛する彼の艦を探すが、いくら探しても見つからない。窓の向こう、視界に映る停泊中の次元航行艦。上から順に確かアカギ、カガ、ヒリュウ、ソウリュウ、ズイカク、ショ
ウカク、コンゴウ、キリシマ、ハルナ、ヒエイ、ナガト、ムツ、ムサシ――駄目だ、ない。

「あぁ……」

絶望。脳裏によぎるのはこの言葉。アースラの姿は、もうそこには無かった。彼の艦は、もう出港してしまったのだ。
南無三。恋する乙女の願いは叶いませんでした。もう、彼は次元宇宙の海の向こう。

「どうかしたのかい?」
「う……グスン。好きな人に、チョコを渡したかったんだけど」
「駄目だったのか、残念だね。じゃあ、僕が代わりにもらってあげよう」

暫しの間、沈黙。
え、なんでなんで? アースラ出港したんじゃなかったの? なんで後ろから聞き覚えのある声するの? って言うか確信犯だよね、これ?
まさかとは思う。でも、現実として聞き覚えのある声が後ろからするのは確かだ。
振り返る。視線の先にいたのは、クロノ・ハラオウン。

390F-2改:2010/02/14(日) 17:01:52 ID:jRHfFeCI
「なんで、とか思ってるんだろう? 答えてあげようか」

訳が分からない、信じられないようなものを見たなのはに優しく微笑みかけながら、彼は訳を話す。
曰く、連絡を入れた直後にトラブルを起こしていた艦が復旧した。このためアースラは出港しなくて済んだこと。
曰く、その後の点検でアースラにも老朽化が著しい箇所が見つかり急遽ドック入りしたこと。
曰く、一連の流れを連絡しようと思ったらなのははもう出ていたこと。

「案外そそっかしいんだね、君は」
「だ、だって、チョコ、渡したかったんだし……」
「それでそんな格好で来たんだ」

もじもじと恥ずかしそうに俯くなのは、クロノの「そんな格好」と言う言葉を聞いて、えっと視線を下げる。
腕まくりしたブラウスに、翠屋のエプロン、スリッパ――なるほど、「そんな格好」である。これで本局内を走って来たのだから。しかも彼女の場合、エースオブエースとして有名人。

「え、あ、だ、う、あ」
「こりゃ明日には局内に話が出回ってるね」

エースオブエース、エプロンとスリッパで本局内を爆走、しかも途中でコケた――何の冗談だ、三流ゴシップ記事でももう少しまともな見出しを書くだろう。
湯気が昇りそうなほどに顔を真っ赤にするなのはを見て、彼は愉快そうに笑った。笑ってから、そっと優しく、彼女を抱き寄せた。
ありがとう、と耳元で囁く。わざわざ渡しに来てくれて。うん、と力の抜けた頷きが返ってきて、クロノは彼女の頭を撫でてやった。

「で、肝心のチョコは?」
「え、ええと……あっ」

しまった、となのはが気付いた時にはもう遅く。飛び出したはいいが、肝心のチョコ、ただのチョコではなくて丹精込めて作ったチョコレートケーキ、現在の所在地は高町家のキッチンにあり。
泣きそうになった恋人を、慌ててクロノは慰めた。だけども、彼女の表情はなかなか変わらない。どうするべきか、迷った挙句に彼はふと思いつく。

「なのは、ほら、泣かない泣かない。顔を上げて」
「うぅ、だって……」

ぐい、と少し強引に。頑固に泣き止もうとしないなのはの顔を上げて、自分のそれに引き寄せた。重なる唇、チョコなど比較にならない甘さ。

「……ほら、さ。チョコの代わりってことで」
「く、クロノくん……不意打ちなんて、そんな」

いいだろう、別に。してやったりな笑顔のクロノに、彼女は結局何も言えず。そのまま涙は消え去って、代わりに浮かべた表情は、花の咲いたような笑顔。
チョコの代わりは、愛しい人のキスでした。



後日

「聞いたで聞いたでなのはちゃん、本局内でクロノくんとアツアツやったんやてな?」
「……私は何にも言わないよ。うん。でも場所は選ぶべきだと思うよ、なのは?」
「ち、違うの違うの。あれはクロノくんの方から……」

親友二人の視線が妙に痛かったなのはちゃんでした。

391F-2改:2010/02/14(日) 17:03:47 ID:jRHfFeCI
投下終了。
と言う訳でバレンタインでした。私は一個ももらえてませんが。

392名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 17:32:09 ID:KCWVDu0E
GJだぜ!朋友(バレンタイン的な意味で…血涙)
管理局の次元航行部隊が連合艦隊だったとは初めて知ったw
ラスト言い訳するなのはちゃんかわいい

393名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 19:13:27 ID:f4qW52PU
ババババレンタイン万歳!
いいよいいよークロなのいいよーGJッ!
何気に恋する乙女入ってるレイジングハートさんかわゆいですなあ

394名無しさん@魔法少女:2010/02/14(日) 22:23:40 ID:FmJfFH4A
うわあああ妄想なのはちゃんでぐはああああああ
俺がばたばた悶えてどうするよしかし強烈ぐはああぁぁ
あとクロノがなちゅらるにえろい。こいつ……手馴れてやがるッ
クロなの最高GJと叫ばざるを得ない

395イクスピアリ:2010/02/14(日) 23:35:42 ID:ka3QNC3o
間に合った!
投稿します

雷刃シリーズ特別編 バレンタイン

注意

・雷刃とフェイトとなのはパートは微エロ

・カップリングはこの話限定であり雷刃シリーズ本編でこうなるとは限りません

・セイ=星光たん ライ=雷刃たん ヤミ=闇王たん

396雷刃がいる風景 特別編 〜マテリアル達のバレンタイン〜:2010/02/14(日) 23:36:24 ID:ka3QNC3o
闇統べる王ことヤミは手にしたそれを丁寧に包装していた

「くっくっくっ……ようやく完成したぞ!」

可愛らしいピンク色の包装紙に包まれた四角い箱
それを掲げてヤミは笑う

「あとはあやつにどう食べさせるかだが……」

「ただいま〜ヤミ、帰ったで〜」

「ぬおわぁ!?」

いきなり後ろから抱きつかれ危うく箱を落としそうになるヤミ
抱きついたはやてはそれに気づく

「ん?なんやそれ?」

「っ!返せ!返さぬか!」

「んっ?せやけどヤミ、これ私の名前書いとるやん。」

と、そこではやては気づく

「ははーん♪」

「な、なんだ?」

するとはやてはヤミの頬にキスをする

「!?!!?!?!?」

「バレンタインのチョコ、ありがとな。」

ゆっくり包装を解き中を見るはやて
基本なハートのチョコだが手作りであるためか少し形が歪つである

「ヤミも一緒に食べようか。」

「し、仕方ない。我も伴に食しよう。」

真っ赤になってるヤミを見て思わずはやては笑うのであった



星光の殲滅者ことセイは本局を歩いていた
目指すはとある執務官がいる場所である
目的の人物を見つけたセイは声をかける

「ハラオウン執務官。」

「んっ、セイじゃないか。本局に来るなんて何かあったのか?」

「はい。世間ではバレンタインという日らしいので私もそれに習ってみようかと……」

そう言ってセイは持っていたチョコを口に含む

「セイ?」

クロノがそう呟いた瞬間セイがクロノに抱きつき唇を塞ぐ

「んむっ!?」

くちゅ、ちゅる、ちゅぱと舌を絡ませる音が数分
唇が離れると少し頬を赤くしたセイは唇に指を当てる

「ファーストキス、ですから」

ては、と一礼し去っていくセイ

「〜〜っ!全く……」

そう呟いたクロノはセイの柔らかな唇の感触とチョコの甘さを思い返していた



高町家
士郎達が美沙斗のいる香港にライの戸籍のお礼をしに行ってるのだがなのはとライは学校がある為留守番である

なのはの部屋には泊まりに来たフェイトがライと一緒にいる

「ライ、やるよ。」

「うん、姉さん。」

そう言って二人は服を脱ぎ捨てた



お風呂からあがったなのはは去年のバレンタインを思い出していた

(去年はチョココーティングフェイトちゃんを食べたから今年はライちゃんも……)

にぱぁ〜と頬が綻ぶなのは
端から見てると可愛らしいが……

「あれ?電気消えてる……」

部屋に着いたなのはが電気を点ける

「っ!?」

なのはが見たのはパンツ一枚でベッドに押し倒されたライと押し倒しているフェイト

「なのは。これが私たちのバレンタインチョコ」

二人がパンツをずらす

「ふぇっ!?」

見える二人の股は濡れており二人とも愛液が溢れているのだが何故か色がチョコレートだ

「僕と姉さんの蜜でできたチョコレート。」

「「ご賞味あーれ。」」

ぷるぷると震えていたなのはだが服を脱ぎ捨てる

「実はね二人に言わなきゃいけないの。」

なのはもベッドに横になるとパンツをずらした

「私からのバレンタインチョコも同じなの。だから……みんなで食べよう。」

そう言ってなのははフェイトの、フェイトはライの、ライはなのはの股の間に顔を潜らせその割れ目をなめ始め――




その日の高町家から三人の少女の声が途絶える事はなかった

397イクスピアリ:2010/02/14(日) 23:39:27 ID:ka3QNC3o
以上です


構成、執筆1日じゃこれが限界でした……




雷刃シリーズ本編後編9割執筆完了
後は事件後を書けば……


ところで雷刃シリーズはなのは撃墜までは予定してるけど……StSどうしよう?

398ザ・シガー:2010/02/14(日) 23:57:29 ID:cAyiL3c.
F-2改氏ぐっじょーぶ!
うわ、可愛いなぁ、もう可愛いなぁ。
なにこのなのは、なんか兵器ですか? 新手の、人を萌え殺す系のwww


さて、もうちょいでバレンタイン終了なのであっしも駆け込んで投下するぜ。
またしてもウェンディ×オリ彼氏のお話。 非エロ。 短編。 『十一番とツンデレ彼氏 バレンタイン』

399十一番とツンデレ彼氏 バレンタイン:2010/02/14(日) 23:58:06 ID:cAyiL3c.
十一番とツンデレ彼氏 バレンタイン


「なんだ、これは?」


 そう、彼は問うた。
 何が、というと、眼前にある物体についてだ。
 黒い、それは黒い塊だった。
 まるで全世界の悪意と混沌を一個の物体に集約したかのような、黒く禍々しいオブジェ。
 色彩もところどころに赤やら黄色やらが光り、目に悪い事この上ない。
 果たしてそれが食材より生まれ出でたと、聞いて何人の人間が信じようか?
 まず間違いなく、大概の人間は耳を疑うだろう。
 それほどまでに醜悪な物体であった。
 だが、彼に問われた少女は言い切った。


「チョコレートッス」


 と。
 それがチョコであると、少女は、ウェンディは言ったのだ。
 恋人たる彼は、その言葉に思わず頭を抱えた。


「なんでチョコからミカンの皮が飛び出てんだ」

「美味しくなるかなー、と思ったッス」

「なんでチョコからせんべいの欠片が見えてるんだよ」

「美味しくなるかなー、と思ったッス」

「なんでミソの匂いがするんだ」

「美味しくなるかなー、と思ったッス」

「なあ、味見したか?」

「……うん、まあ」


 問われたウェンディの顔は苦々しく歪む。
 味の如何に関しては言うまでもなくその表情が全てを物語っている。
 まあ上記のようなめちゃくちゃな内容物を許容したチョコレートが美味くなるなど、この世界の物理法則上ありえないのは考えるまでもない事ではあるが。
 眼前に鎮座する、自分が作り出した暗黒物質に対し、ウェンディはすまなそうに苦笑した。


「あ、その……申し訳ないッス。やっぱり捨てるッスね」


 外見的醜悪さもさる事ながら、一度己が舌を以って味わった壮絶な不味さから、流石にこれを恋人に差し出す事を否と断じた少女はそう言った。
 オリジナリティのある創意工夫をするのでなかった、と後悔するにはあまりにも遅すぎたのだ。
 力なく眉尻を下げたウェンディは、言葉と共に卓上の黒き混沌へと手を伸ばす。
 が、その手は遮られる。
 少女より先に、彼の手がチョコを掴んでいたのだ。
 

「え?」


 ウェンディの瑞々しい唇から疑問符が零れると同時、彼は手にしたチョコを自分の口に放り込んでいた。
 ぼりぼりめちゃくちゅべきゅめちぃぱきがきゅむりゅむりゅ。
 何だか壮絶というか、凄まじく異様な咀嚼音を響かせ、彼は一気に口内の激烈なる異物を飲み込んだ。
 

「げほ! ごほごほッ!!」


 当然の事だが激しくむせ返り、だが決して吐き出さず全てを嚥下。
 ウェンディは突然の事にポカンとなってただ目を丸くする。
 そして、そんな少女に、男は呟く。


「捨てるとか、その……もったいねえだろ」


 少し恥ずかしそうに顔を伏せ、頬を僅かに赤く染め、言葉は続く。
 静かな静かな残響の、照れくささと愛しさの混じった言の葉。


「お前が……俺に作ってくれたんだしよ」


 ともすれば聞き逃してしまいそうな小さな声で、だけど正面のウェンディにはしっかり聞こえる声で。
 少女の顔は、まるで朝日を受けて咲き誇る花みたいに、ぱぁっと笑顔を輝く。
 


「えへへ……ありがとうッス」


 口の中は苦いんだか酸っぱいんだか分からない状態になったが、まあそれでも良いか、と彼は思った。
 大好きな女の子が笑ってくれていれば、それで概ね自分は幸せなのだから。


 それに、その後口直しにと奪った彼女の唇は、チョコなんかよりよっぽど甘かったのだから。



終幕。

400ザ・シガー:2010/02/14(日) 23:59:42 ID:cAyiL3c.
ほい投下終了!
突発的に書いたのでかなり短いぜ。
ウェンディは可愛い、これは決定事項。


んで、まあ鉄拳なんすが。
現在完成度99%超。
明日には投下します。

401名無しさん@魔法少女:2010/02/15(月) 00:19:32 ID:Lhz8C5mE
ぐはっ
なんというウェンディ

寝る前にいいもの見させてもらった


402名無しさん@魔法少女:2010/02/15(月) 10:35:45 ID:.sCX4Qho
>>391
どこの連合艦隊ですかwwwwwww

403ザ・シガー:2010/02/15(月) 17:51:46 ID:NFhbVVQQ
さて、自分の投下が続くようで申し訳ないが、前言どおり投下させていただこう。

長らくお待たせしてしまった鉄拳だこんちきしょう!


鉄拳の老拳士シリーズ、最新話、非エロ、長編、オリ主、タイトル『鉄拳の老拳士 拳の系譜11』

404鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:53:01 ID:NFhbVVQQ
鉄拳の老拳士 拳の系譜11



「ああ……もう泣かないでくれよ、ティアナ」


 ほとほと困り果てた声で、ティーダ・ランスターは言った。
 彼を困らせている原因は、玄関先で蹲って泣いている一人の少女。
 ティーダの妹、ティアナ・ランスターである。
 オレンジ色の髪の少女は、仕事に出かける兄に寂しいと言い、蹲って泣きじゃくっているのだ。
 ティアナとティーダの兄弟は親がいない、もう随分と前に亡くなっている。
 少女にとって、ティーダは兄であると同時に父や母でもあるのだ。
 時に優しく、時に厳しく、自分を愛してくれる家族。
 ティアナは彼が大好きだった。
 どこにも行って欲しくない、ずっと一緒にいて欲しい。
 でも、そんなティーダにも仕事がある。
 彼は時空管理局地上本部に所属する首都航空隊の一員なのだ。
 決して妹の優先順位が低い訳ではない、むしろティアナは彼にとってこの世の何より大事な存在だろう。
 だが、寂しいと駄々をこねる妹と、自分に掛かった緊急出動の要請とでは、流石に後者に天秤が傾いてもしょうがない。
 しゃっくりを上げて泣くティアナの頭をそっと撫で、ティーダは優しく諭す。


「すぐ帰ってくるから、な? 機嫌を直してくれよ」


 彼の言葉に、ティアナは涙で濡れた目を擦りながら顔を上げた。


「……ほんとう?」


 今にも零れそうなくらい涙を湛えた青く澄んだ眼差しで、少女は問う。
 大切な妹の、庇護欲を掻き立てられる仕草にティーダは思わず胸が痛んだ。
 彼だって本当は出かけたくなどない。
 寝付くまで一緒にいてやりたいと思う。
 しかし、自分は法の守り手であり、管理局という組織の一員であるという事実がそれを拒ませた。
 妹の目元を指で拭ってやりながら、ティーダは答えた。
 

「本当だよ。俺が今まで嘘言った事があったか?」

「……」


 兄のこの言葉に、ティアナは小さく首を横に振る。
 少女のその答えに、ティーダは優しげな微笑を浮かべて言った。


「約束するよティアナ。絶対すぐ帰ってくる。だから、今日は良い子にしててくれ」

「……やくそく?」

「ああ、約束だ」


 約束。
 そう告げたティーダの言葉に、ようやくティアナは涙を止める。
 今まで、一度だって兄が自分との約束を破った事はないから。
 だから、もう少しだけ泣くのは我慢しようと。
 でも、最後に一つだけわがままをしたくて、ティアナは目の前の兄に飛びついた。
 小さな手を必死に彼の大きな身体に回し、力いっぱい抱きつく。
 ティーダはそんな妹を受け入れ、優しく髪を撫でてくれた。


「大丈夫。すぐ戻るから」


 彼は最後にそう言うと、これ以上ないくらいに柔らかな微笑を浮かべて、出かけて行った。
 ティアナは溢れる涙を拭いながら、兄を見送った。
 すぐ帰って来る、その言葉を信じて。
 だが、ティーダ・ランスターはその約束を果たせなかった。
 次にティアナが目にした兄は、死体安置所で横たわる冷たい身体。
 全身に傷跡を穿たれ、それを繕う為につぎはぎだらけになった痛ましい骸。
 犯人が刻んだそれらの傷は、わざと死に難い箇所ばかりを狙ったもので、その惨たらしさは小さな子供が見るにはあまりにも過酷が過ぎる様だった。
 再会は同時に永遠の別れ。
 葬儀は冷たい雨の振る中で行われ、頬を伝うのが涙か雨かも分からない。
 そして、ティアナはその時聞いた一つの言葉を一生忘れなかった。
 葬式の最中、式に集った管理局員の高官らしき男はこう言った。

 “無駄死にするくらいなら、せめて犯人を捕まえてから死ねば良かったものを”

 と。

405鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:53:48 ID:NFhbVVQQ
 死した兄への侮辱に、幼きティアナは歯噛みして負の感情を飲み込んだ。
 いつか見返してやろう。
 自分が大きくなったら、きっと強くなって、絶対に強くなって、見返してやろう。
 少女は思った。
 兄の汚名を、自分の力でいつか晴らしてやろうと。
 尊き誓いを胸に立てる。
 だが、その時ティアナの胸に生まれた思いは一つではない。
 ティーダの汚名を雪ぎたいという思いとは別に、黒いものが燃え上がっていた。
 どろどろとした粘度を持つ暗黒の感情、胸の内で揺らめく妖しき炎。
 肉親を奪われたが故に生まれた、どうしようもないくらいの憎悪と殺意は、その日から今も消える事無く燃焼を続けている。
 いつか、兄を殺した者への死という制裁が下るまで、きっと消える事のない怨嗟として。



 

 闇夜に沈む廃棄工場区画で、それは起こっていた。
 閃光のバックライトの中、爆音の合唱を背に幾つもの影が舞う。
 どこか幻想的で、浮世離れな舞踏。
 名を闘争と言う名の舞い踊り。
 ステップを刻む人影は全部で八つ。
 一方は六人が組む編隊で、もう一方は二人の男。
 前者はスターズ分隊の隊長二人を欠く、機動六課の前線メンバー。
 後者はただ報酬が為に戦う魔銃の二つ名を持つ悪鬼、テッド・バンディ。そして闘争が為に戦う魔剣の二つ名を持つ剣鬼、ジャック・スパーダの二人の外道。
 かつて死した一人の女の為に繰り広げられる、戦闘機人ナンバーズを収監した収容所を巡った激烈なる戦いだった。
 収容所の護衛部隊との戦闘があった上、機動六課の面々は数で圧倒的に有利な筈である。
 相手はたった二人、高ランクの魔導師とてこのメンバーならば、普通は即座に無力化が可能だろう。
 だがそれは成らなかった。
 機動六課の精鋭の前に立ったのは、ただの魔導師ではない。
 最強の力を持つ、最悪の鬼共であるが故に。
 

「あああああああッッ!!!」


 それは、まるで獣のような声。
 普段の彼女を、ティアナ・ランスターを知る者ならば、耳を疑いたくなるような叫びだった。
 叫びの連なりは力を産み、力は光となって溢れる。
 工場区画を縦に裂くように通る一本の道路の上をバイクで疾走しながら、ティアナは叫びの声と共に銃を撃つ。
 二丁銃の形をした愛機、クロスミラージュの生み出した魔力の弾頭、直射式射撃魔法の発現だった。
 目標は、上空で夜気を引き裂き飛ぶ赤。
 真紅のレザー調バリアジャケットに身を包んだ、金髪の美青年、兄の仇、テッド・バンディに向けて。
 ティアナの放った魔力弾、都合十三発の殺意は放たれる。
 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに、少しの淀みもなく敵を討つが為。
 撃ち出された弾頭は、速度、威力、精度、その全てにおいて少女が放てる最高のものだった。
 撃てば必中、当たれば必倒。
 渾身の射撃が冷たい大気を引き裂き、眩き光条と化して迸った。
 しかし無意味。
 次なる刹那、まるで最初から予測していたような高速・不規則な機動を以って、バンディはティアナの放った射撃弾を全て回避する。
 
 
「あっったらねぇええ!」


 美貌を愉快そうに邪悪に歪め、バンディは回避機動から遊撃機動へと移行。
 月光を浴びて妖しく艶を放つ深い赤のバリアジャケットを翻し、さながら獲物を追う猛禽のように急降下する。
 生まれるのは赤の光輪。
 血よりも赤い鮮紅色の魔力光を放つ魔法陣が闇の中で輝き、幾重にも射撃魔法の術式を構築していく。
 誘導弾の呈を成した合計三十四発の悪意と殺意は、術式構築が完了するや否や瞬きする間もなく解放された。
 威力、精度、破壊力、全てにおいて先ほどティアナの放ったものを凌駕する光の雨。
 意趣返しの如き射撃の返礼は、一辺の慈悲も容赦もなく降り注ぐ。
 上空から迫る赤い閃光のシャワー、まともに当たれば死を約束された絶命の光条。
 ティアナは跨った鉄の馬、愛用したバイクのアクセルをこれでもかと絞り、飛来する弾幕を回避せんと加速する。
 最初に一発はなんとか振り切って後輪をかすめるに終わった。
 幸運とも呼べる回避の成功。
 だがラッキーは一度きりで終わる。
 次なる刹那、続けて飛来した赤の光弾はバイクの後輪を穿つ。
 一発どころの話ではない、それはほとんど引き裂くという現象に等しい被弾。
 後輪は一瞬でゴムと金属の無数の破片に成り、夜闇の中に散った。
 走行する為の生命線であるタイヤを破壊され、ティアナの跨る鉄の馬が横転したのは当然の摂理である。
 加速の慣性で転がるバイク、普通ならば死を覚悟するべき大事故。
 だが少女は悲鳴すら上げない。

406鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:54:22 ID:NFhbVVQQ
 そんなものを上げる必要がないと、怒りに染まりながらも働く冷静な思慮が断じた故に。
 バイクが横転する最中、ティアナは魔力で脚力を強化して跳躍し、宙で身を捻る。
 後方に身体を向ければ、まだ二十発以上の数で飛来する鮮紅の魔力弾が視界に入った。
 間違いなく殺傷物理破壊を設定され、当たれば哀れな肉塊になる事は確定した殺戮の光。
 宙を緩やかに放物線を描いて跳びながら、ティアナは自身に迫る光弾の群れに銃口を向けた。
 脅威への対処は回避でなく撃墜。
 愛機クロスミラージュの銃口に二重、三重にと魔法陣を刻み、オレンジ色の銃火へと転じる。
 殺意には殺意を、射撃には射撃を。
 迫り来る誘導弾の群れに、落下しながらの体勢でティアナは引き金を絞った。
 誘導性の魔力弾を操る暇はない、ならば放つのは直射型の射撃魔法。
 カートリッジ使用によって劇的に魔力量を増加させたクロスミラージュは、さながら機銃のようなフルオート掃射の如き閃光を吐き出す。
 魔力弾同士の衝突は空中で激烈なる爆破の連奏となり、閃光と爆音が闇夜に花と咲く。
 迫る魔力弾を撃ち落したティアナは、宙でさらに身を捻り回転、地面と熱烈なキスをする前に着地体勢に入った。
 
 
(イケる……今の私なら、この男にだって引けは取らない!)


 Sランクオーバーの怪物の猛攻を凌ぐ己の腕に、ティアナは心中にて思った。
 機動六課に入ってより成長した自分の力なら、憎き兄の仇に少しでも深く牙を突き立てられよう。
 と。
 着地すると同時、慣性でアスファルトを靴底で削りながら少女は身を翻し、背後の敵に向けて銃口を向けた。
 今度はこちらの反撃だとでも言わんばかりに。
 されど、そこにあったのは炎上するバイクと闇夜のみ。


「……え?」


 先ほどこちらに無慈悲なる射撃の雨を降らせた男は、影も形もない。
 まるで幻のように消えてしまった。
 一体どこへ、と疑問符が脳裏を駆ける。
 そんな時、ふと耳元に一つの残響が届く。


「――こっちだよ、間抜け」


 ひどく愉快そうな男の声が背後から響く。
 振り返れば、そこにいた。
 輝く金髪をなびかせた、血よりも赤いジャケットの美男子。
 憎い憎い、兄の仇、テッド・バンディという名の男の顔が。
 突然の事に思慮に空白が生まれ、ティアナを硬直させた。
 何で、どうして、何時そこに。
 無数の疑問視が頭を駆け巡り、だが結論は即座に出た。
 答えは簡単。
 誘導弾の射出と制御をすると共に高速移動の術式を行使、ティアナの背後を取る。
 魔力制御、術式構築速度、運動能力、全てが高次に完成されていなければ不可能。
 理屈は容易く、行使するには難関極まる技前だった。
 それらを理解した時、少女は背筋に冷たいものを感じた。
 本能的に察した危険への予感。
 それを感じた刹那、少女は動いた。
 死と危険に対する生物としての反射で身を捻る。
 それが、彼女の命を救った。
 身を捻ると同時、一筋の煌閃が宙を裂く。
 バンディの手に握られたデバイス、十字架に似た形をした大型拳銃、ディセイクレイターズ、冒涜者共という名を冠した凶器が吐いた魔力の弾。
 それは瞬きする間もない程の早撃ちだった。
 だらりと下げたままだったデバイスを跳ね上げ、瞬時に腰だめに構えた銃の引き金を絞る、まるで西部開拓時代のガンマンさながらの銃捌き。
 身を捻ったティアナがBJを裂かれ、腹を僅かに抉られるに終わったのは奇跡と言えるだろう。
 本来なら身体の中心を貫き、胃に風穴を開ける筈だった魔弾を逃れて少女は地を転がる。
 だが反撃の余裕はない。
 突然の回避行動と腹筋を僅かに抉られた苦痛でデバイスを取り落とし、ティアナは無様にも大地でもがいた。
 怒りと憎悪が冷静な思慮を奪い、恐怖と混乱が手足の自由を奪う。
 必死に立ち上がろうと煤けたアスファルトを虚しく掻く少女に、あまりにも無慈悲に絶望が突きつけられる。
 ぽっかりと、地獄の底まで覗けるそうに開いた小さな穴。
 十字架型のフォルムをした二丁銃、テッド・バンディのデバイス、ディセイクレイターズの銃口だった。
 哀れに目の前で転がる少女に銃を向けつつ、バンディは唇を端を吊り上げて、笑っていた。
 それはまるで楽しいゲームに興じる子供のようで、それでいて獰猛な獣が獲物を狩り殺す時に浮かべるようにも見える微笑。
 邪気と無邪気の混在たる混沌の表情である。
 
 
「さあて、どうするよ、え? 命乞い? それとも儚い抵抗? 好きな方を選べよ、自由意思の尊重ってやつだ」


 美貌にたっぷりの悪意と無垢な悦びを湛え、外道なる男はそう告げる。

407鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:54:55 ID:NFhbVVQQ
 要約、つまりどう足掻いても殺す。
 今までの戦いで身を以って体感した力の差が、ティアナの四肢から絶望として戦意を削いでいく。
 先の誘導弾から、回り込みと早撃ちの一連の流れ、バンディはまるで本気ではなかった。
 殺そうと思えばいつでも殺せるという余裕、相手をすぐに死なせず遊んでいるという事がありありと伝わる。
 そして今、目の前に突きつけられた銃口。
 死。
 圧倒的な絶望がそこにあった。
 兄の仇を討つ事はおろか、傷一つ付ける事も叶わず死ぬのか。
 悔しさに、ティアナは瞳に涙を浮かべて歯を噛み締めた。
 そんな少女の様が愉快なのか、バンディの笑みはより嬉しげに歪む。

 瞬間、閃光が走った。
 
 それは夜闇を鮮やかに裂く青き光条で、ティアナの後方より飛来。
 今まで嫌になるほど見てきた、相棒の魔力光を少女は見た。
 リボルバーシュート、と術式の名を叫ぶ凛と澄んだ声と同時に飛来する魔力弾は、正確にバンディにヒットする。
 炸裂する魔力の光、舞い散る爆炎と煙、たたらを踏む外道の身体。
 そして、彼女の声が連なる。
  

「ティア、大丈夫!?」


 白いハチマキを頭に巻いた、ショートカットの青い髪を揺らす乙女。
 細くしなやかな四肢に不釣合いな鉄の拳脚を装着したティアナの頼もしい相棒。
 スバル・ナカジマが疾駆する。
 さらに、鉄拳の少女に追随する閃光。
 ジェットの炎を巻き上げた一筋の鋭い稲光、アームドデバイスの刃の煌めきが飛来する。
 名をストラーダ、使い手たるエリオ・モンディアルにより振るわれる激しき刺突。
 遥か後方で、巨大化した召喚竜フリードリヒの背に乗った少女、キャロ・ル・ルシエの行使するブースト魔法の魔法陣が煌めく。
 召喚師の乙女の加護を受け、加速を重ねる幼き槍騎士の刃は先行するスバルに遂に並び。
 そして放たれた。
 重厚な外観をした鉄の拳が。
 鋭利な刃を持つ魔力の槍が。
 ほとんど同時に、体勢を崩した男目掛けて振るわれる。
 打撃と刺突の二重奏、必中必倒の大打撃。
 今度こそバンディを打ち倒すという気概を以って、フォワードメンバー最大の近接戦闘の一撃が夜気を引き裂いた。
 生まれるのは先ほどのリボルバーシュートの一撃など比べるべくもない、激烈なる爆音と閃光。
 衝撃によって舞う風が、先ほどの攻撃の残滓として漂っていた煙を一掃する。

 そして現れたバンディの姿は――倒れてなどいなかった。
 
 しっかりと大地に立つ二本の脚は体重を支え、纏うレザー調の赤いバリアジャケットは傷一つなく、金髪の美貌は獰猛な笑みを浮かべ。
 そして両手が持つデバイス、鈍色に輝く十字架銃が、ありえないほど強固な物理保護の術式を纏い、スバルの拳とエリオの槍を受け止めていた。
 カートリッジをたっぷり消費し、真正面から全力で打ち込んだ攻撃を、この男は微動だにせず防御。
 右手の銃でスバルの拳を、左手の銃でエリオの槍を、金属音と火花を孕んで軋ませ、そしてバンディは笑った。


「はは! 良い攻撃だったぁ……が、火力足りてねえぞ、おい」


 圧倒的実力差。
 オーバーSランククラスの魔導師との間に隔てられたその壁は厚く、そして高い。
 ぞくりと背筋を伝う感触。
 冷たい汗が心身を凍らせるのを、フォワードの少年少女らは感じた。
 生物的な本能の警鐘、獰猛な大型肉食獣と相対した草食獣さながらの感覚が刻まれる。
 恐ろしい、と。
 されど餓えた野獣は獲物の心など知らず、吼えた。
 

「さあて、じゃあ今度はこっちの番だな、ええ!?」


 瞬間、反応速度を遥かに超えた速度で形勢された大量の誘導弾がテッド・バンディの周囲から溢れ、迸った。





 フェイト・T・ハラオウンは、眼下に並ぶ廃棄工場区画から真っ赤な光が生まれるのを見た。
 赤い、赤い、赤い。
 血よりも紅く夕焼けよりも鮮やかな、妖しい鮮紅色のイリュージョン。
 こんな魔力光を生み出す者は、今日この場に一人しかいない。
 テッド・バンディ、あの冗談みたいな威力と精度の射撃魔法を使う男の紡ぎ出した破壊の奔流だと、考えるまでもなく理解できる。
 しかも、その相手はフォワードメンバーの四人。
 確かに成長著しい彼らだが、相手はあまりにも常軌を逸したレベルの怪物だ。
 先に収容所の警備に当たっていた陸士部隊のように、四人が全滅する様を想像してしまい。
 フェイトは胸の内に湧き上がる恐怖と不安を拭えなかった。

408鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:55:26 ID:NFhbVVQQ
 だが、そんなセンチメンタリズムにうつつを抜かしている暇などありはしない。
 思慮に生まれた一瞬の空隙を縫うように、一刹那の時に刃が舞った。
 乱舞。
 そう形容すべき刃閃が群れを成し、美しき執務官の血肉を求めて放たれる。
 魔力による物理保護と加速を施された超絶の斬撃、下手に防げば障壁ごと微塵と裂かれる事は必定たる絶命の剣戟。
 高速化した思考回路でそう判断するや、フェイトは既に身を翻していた。
 意識と同時に身体が動く、反射と同化するまで磨き上げた戦技の賜物。
 亜音速クラスで空を断つ魔剣の刃を、彼女は寸前で回避する。
 避けきれなかったバリアジャケットのマント部分が裂け、夜の漆黒に白い衣を散らすが傷一つ負わず。
 そして代わりに返礼を送る。
 まるで空中サーカス顔負けの軌道、そして速度ならばドッグファイトを交わす戦闘機にすら肉薄する回避軌道の中、彼女は術式を紡ぐ。
 手にした純黒の戦斧、愛機バルディッシュが鎌へと可変して金色の魔力刃を生み出す。
 そしてさながら無慈悲なる死神の一撃のように、フェイトは生み出したその刃を迷う事無く振るった。
 回避より連ねる反撃の鋭い一閃、必倒必至の刃閃。
 されど、バルディッシュの刃は中空にて弾かれた。
 先ほどフェイトに向けて猛攻を成した長剣が、ありえない速度、ありえない軌道で宙を泳ぎ、そして鎌を跳ね上げる。
 起死回生の一撃は容易く弾かれ、今度はまたこちら番だと長剣が月光を反射して妖しく輝いた。
 

(……やられるッ!)


 声には出さず心中にて叫び、フェイトは訪れるであろう反撃に身構えた。
 その刹那。
 長剣は彼女ではなく天上に伸び、爆ぜた。
 冴え冴えとした銀に輝く長剣と、煌々たる炎刃との斬り結び。
 二刀の交錯によって生まれた爆炎と衝撃が夜空に満ちた冷たい空気を蹂躙し尽くした。
 衝撃によって生まれた間断は戦闘の一区切りとなり、フェイトは爆風の勢いのままに後退。
 身を華麗に翻して体勢を立て直す。
 そして、彼女の隣にふわりと舞う一陣の風。
 現われたのは麗しき美女。
 刃に炎の剣を手にした、凛たる誇り高きベルカ騎士。
 機動六課ライトニング分隊副隊長、フェイトとは十年来の剣友、烈火の将と剣の騎士の二つ名を持つ、シグナムその人である。
 そして凛々しい女騎士は、構える刃をそのままに傍らの友へと口を開いた。
 

「油断するな、下を気にかける余裕はない」


 眼下で戦う部下を案ずるフェイトの想い、それを一刀両断に断ち斬るかのような言葉。
 油断、その二文字が死に繋がるという意を込めた諌め。
 フェイトは彼女のその言葉に、言葉でも頷きでもなく、手の愛機を構える事で答えた。
 刃持ち並び立つ二人の美女。
 凛然として、同時に背筋の凍りつきそうな気迫を纏う猛者。
 されど。
 その眼光を真っ向から浴びてなお、長剣の打ち手は静かな笑みを浮かべ、告げる。


「いやはや、なんとも、素晴らしい……素晴らしいですよ、あなた方は……」


 さながら至上の愉悦を味わうが如く、そう男は言葉を紡いだ。
 ざんばらに伸ばし、乱雑に結った黒の髪。
 身に纏う聖職者さながらの白い詰襟の服。
 左の袖は虚しく風になびき、男が右腕のみしか持たぬ隻腕だと分かる。
 そして何より目を引く、右手に持った長剣。
 浅く反りを有した、血塗れの諸刃の刃が月光を浴びて妖しく濡れ光る諸刃剣。
 男の名はジャック・スパーダ。
 Sランククラスの力を持つフェイトとシグナム、この二人と堂々真っ向から対等に斬り結ぶ、常軌を逸した異常なる剣士。
 刃手に闘争のみを愛する狂える剣鬼が、そこにいた。
 

「こんなに、こんなにも嬉しいのは久しぶりです」


 謳うように朗々と語りつつ、スパーダは手にした刃をゆっくりと持ち上げていく。
 動きこそ緩慢に見えるが隙など微塵も存在しない、剣身一体の風情。
 存在そのものが刃と同化したかの如き異様。
 凄絶なる切れ味を全身から発しつつ上段に剣を構え、鬼は嬉しげに楽しげに、言った。


「あなた方は、本当に素晴らしい。これ程の使い手はそうそうおりませんでしょう」


 斬り結び、命のやり取りをする場においては場違いとさえ思える程に慇懃で穏やかな口調。
 だが言葉に反して手にした剣と肉体からは尋常ならざる鋭利な気迫。
 悪夢のように不釣合いな組み合わせに、相対した二者は背筋に冷たい汗が伝うのを感じる。

409鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:56:33 ID:NFhbVVQQ
 決闘趣味と揶揄されるシグナムとはまるで別次元の、正真正銘の異常性。
 命の奪い合い、死闘、殺人。その種類のレベルの戦いでしか悦びを見出せない男の異様さ。
 口元に浮かべた笑みが、その異常ぶりをより一層と強めている。
 そして、幽鬼のような微笑を浮かべた剣鬼は眼前の美女二人に布告。


「ではやりましょう。もっともっとやりましょう。刃交える悦びを、“死ぬほどに”楽しむ為に」


 朗らかさえ孕む残響と友に、ジャック・スパーダは身を翻した。
 刃と一体と化した身は既に入神の域と成り、次なる刹那には再び乱舞と銀閃を放ち。
 そして雷撃と炎熱を纏いし刃と斬り結ぶ。
 激烈なる剣戟演舞の音色は、耳をつんざくほどに奏でられた。





 天空の剣戟音、地上での爆裂音、大気を蹂躙する闘争の調。
 そんな大音の連なりに掻き消されるように、炸裂音が収容所の一角で響いた。
 火薬で生じる炸裂音、乾いた音、薬莢の転がる金属音、すなわち銃声。
 ブラウンの陸士制服を着たオールバックヘアーの青年、陸士108部隊捜査主任にしてナンバーズ更正組の担当官の一人である、ラッド・カルタスの握る四十五口径の自動拳銃が銃火を咲かせ、眼前の扉の蝶番を破壊した音色であった。


「よし、これで開いたぞ」


 言うや、彼は目の前の金属製ドアを蹴破り、背後に控えていた少女らに視線を向ける。
 そこに並ぶのは九人の少女ら。
 チンク、セイン、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディード、ナンバーズの七人。
 さらにそこへルーテシアとアギトを加えた、計九人の少女達である。
 先の襲撃で電力ラインをメインとサブを含めて破壊され、もはや動かぬ鉄壁となったドアを破壊し、開き、カルタスは少女らに脱出を促した。

 
「早く行け! ここから道なりに行けば、地下通路に出る。後はとにかく逃げろ」


 と。
 たった九人しか囲われた者のいない収容所への襲撃。
 狙いはどう明らかに見ても彼女達だ。
 カルタスは己に課せられた責務、少女らを保護する為に一人脱出ルートを探り出し、誘導し、そして実行していた。
 襲撃時の混乱でゲンヤやギンガとはぐれてしまった事が気がかりだが、しかし今は心を鬼にして優先事項を保護すべき対象に向ける。
 如何に先のスカリエッティの起こしたテロ事件の犯人だとて、今は自分自身の身を守る術さえない女。
 ならば、守るより他に己が成す事などありはしない。
 使命感と正義感に駆られるまま、カルタスは少女らにドアをくぐらせる。
 後は己も続き、彼女達を最後まで誘導すれば今課せられた使命は達せられるだろう。
 手にした銃の硬い木製グリップを握り締め、カルタスは最後尾を走る小柄な銀髪の少女の背に向けて駆け出そうとし。
 だが出来なかった。


「――ッ!」


 口から漏れたのは声にならない叫び。
 腹を抉られるような苦痛に膝は地につき、身体はくの字に曲がる。
 全ては、ドアをくぐろうとした刹那、側方から脇腹に生じた衝撃と痛みが根源。
 一体自分の身に何が起きたのか、何も分からないままカルタスは意識が遠のいていくのを感じた。
 そして、蹲り胃液で床を汚す彼の傍に、一つの影がいた。
 音もなくカルタスへと接近し、その脇腹に鉄拳の一撃を見舞った襲撃者である。
 黒い影、人型をした殺意。
 闇夜においてなお黒い黒髪、革製品のような艶を帯びた黒いコートを纏った長身にして筋肉質な体躯。
 その中で鈍く輝く鋼ローラーブーツと左右対となったナックル型デバイス。
 胸の内にはどす黒く燃え続ける復讐の怨嗟。
 さながら閃光と爆発で人間を屠る伝説の怪物、黒犬獣(ブラックドッグ)の風情。
 ギルバート・ゴードン。
 憎悪と怒りを糧に動く復讐の鬼が、そこにいた。
 黒き狂犬は足元で呻く男を一瞥し、目を細める。
 野生の獣が獲物を値踏みする際の、無慈悲で冷たい眼差し。
 あえて死なない程度に打撃を加えたこの男を殺すか、それともその前に憎い仇の居場所を吐かせるか。
 その二択を、憎悪に沸き立ちながらも冷静さを失わない彼の思考回路は算段し。
 そして結論。
 
 
「――死ね」


 小さな、されど冷たく腹の底まで響くような響きで告げ、魔力で強化された拳を下段に向けて構える。
 尋問する手間を惜しみ、迅速に邪魔者を排除する為の無残なる一撃。
 防御障壁を展開した魔導師はもちろん、魔法を一切使えない、それも無抵抗なカルタスの頭蓋骨など一瞬で砕け散るだろう。

410鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:57:05 ID:NFhbVVQQ
 ギルバートの右手に魔力が満ち、そして放たれるべく力む。
 一瞬の後、瞬きする程の間でカルタスは脳髄を床にぶち撒けて死ぬ事は必定。
 さながら死神が死するべき運命の人間から命を刈り取るが如し。
 慈悲なき死の鉄拳に冷たく凍りついた殺意がまとわり付く。
 されどその拳が放たれる刹那、


「やめろッ!!」


 凛とした響きの声が遮りを掛けた。
 既に気配にてその存在を察知していたのか、ギルバートは驚きもせずそちらに視線を向ける。
 そこに立っていたのは小さな少女。
 夜闇の中で艶やかに輝く銀髪、右目を覆う黒い眼帯、そして未発達な小さい身体を包む白い囚人服。
 チンクという名の戦闘機人。
 明らかにこの収容所に収監された者の証に、ギルバートの瞳が殺意を孕んでギラついた。
 

「てめえが……ナンバーズ、か」


 静かに唇から放たれる言葉。
 熱い憎悪と冷たい殺意の交じり合った、地獄の底から響くような声音が大気に溶ける。
 その言葉に、チンクは背筋に氷塊を差し込まれたような怖気を感じた。
 視線だけだというのに、魂の奥底まで伝わる敵意と怨嗟。
 生物としての本能的な恐怖感がその小さな肢体をぞくりと震わせる。
 だが、チンクはその生物的警鐘にただ身をわななかせるような娘ではなかった。
 本能が感じる脅威を理性的な精神力で捻じ伏せ、少女は視線を周囲に走らせる。
 何か武器になるもの、何か敵の注意をそげるもの。
 何かないだろうか。
 そう思い、視線を泳がせる。
 その間たったの一秒。
 チンクが視線を戻した時――先ほどまで十数メートル先にいた黒衣が目の前にまで迫っていた。


「がッ!!」


 回避する隙など微塵もなく、一瞬でチンクの首を締め上げ、小さな身体を宙に吊り上げられる。
 そして背後のコンクリート壁まで押しやられ、叩き付けられた事で少女の口からは苦しげなうめきが虚しく漏れた。
 だが、そんな少女の様にもギルバートは微塵の情けを掛ける事もなく。
 鋼で覆われた指を首に食い込ませながら、言う。


「焦がれたぜ……てめえらを殺す日をずっとな。まずは、てめえが最初の一人だ」


 あくまで口調は静かに、だがその内に灼熱と化した憎しみと怒りを込めて。
 ゆっくりと指先に力を込め、彼は容赦なく白く滑らかな首と共にチンクの命をへし折ろうとする。
 その瞬間だった。


「チンク姉ぇ!」


 一つの絶叫が響き渡った。
 ギルバートとチンク、二人の視線が同時にそちらを向く。
 そこに立っていたのは、短く切りそろえられた赤毛、澄んだ金色の瞳を持つ少女。
 ナンバーズ九番、ノーヴェの姿だった。
 細められる復讐鬼の眼光、次なる獲物を見た野獣の瞳。
 その様に、吊られたチンクが叫ぶ。


「くッ……逃げろノーヴェ! 今すぐ、ここから逃げろ!!」

「で、でも……」

「私は大丈夫だ……良いから早く」
 
「そんな、でも……」

「早くしろッ!!」


 慕う姉の叫びに、ノーヴェは身体をびくりと震わせる。
 彼女の身を案じながら、だが今の自分の無力さも分かっている。
 助けたいけれど、それを成す術がないという現実に心が打ちのめされるのを、少女は感じた。
 僅かな間を逡巡し、そして少女は決断。
 その場で踵を返すと、ノーヴェは一目散に駆け出した。


「待っててチンク姉、すぐ誰か呼んで来るからッ」


 そう叫び、ノーヴェは全力で駆けた。
 誰でも良い、大好きな家族を助けてくれる者を探しに。


 □


「くそ、派手に燃やしてやがる」


 夜天を裂く青き道、魔力が練り上げた直線、ウイングロードを駆けながら男は言った。

411鉄拳の老拳士 拳の系譜11:2010/02/15(月) 17:57:40 ID:NFhbVVQQ
 目的地である収容所を包む炎、既に激戦が繰り広げられている証だ。
 自分があいつを、息子を止めていれば起きずに済んだ惨劇。
 老いたる男は眉間に深いシワを幾重にも刻み、己の不甲斐なさに怒る。
 何としても止めなければならない。
 復讐に血潮を滾らせた狂える犬、拳を継ぎし息子の行く手を。
 黒き鋼に覆われた拳を握り、軋ませ、彼はそう決意した。
 そんな時だった。
 眼下、収容所の裏手に闇に一つの影が立ち、こちらに向かって何事かを叫んで手を振っている事に気付く。
 敵という可能性は、この場合かなり低いだろう。
 先の件から判断しても、敵は三人のみと考えるのが妥当だ。
 そう判断し、男はウイングロードの進路を変更、一気に下降してその人影に近づいた。
 近づけば、それが少女だと分かる。
 燃えるような赤毛に、白い囚人服を着た少女。
 気の強そうな眼差しだが、今は涙に潤んで力なく眉尻を下げている。
 そして少女は涙交じりのかすれた声で請うた。


「あ、あの……たすけて。チンク姉が、チンク姉が殺されちゃうよぉッ」


 綺麗な金の瞳からポロポロと涙を流し、少女は男に縋りつく。
 取り乱した少女に、男は努めて冷静な、渋くしわがれた声で宥めた。


「分かった、だからまず良いから落ち着け」


 言いながら手を伸ばし、鋼に覆われた指でそっと髪を撫でてやる。
 一瞬びくりと身体を震わせるが、その感触に心が落ち着くのか涙をそっと指で拭い、頷いた。


「……うん」

「よし、お前名前は?」

「……ノーヴェ」

「この収容所の、戦闘機人か?」

「……」


 無言、だが小さく頷いて肯定するノーヴェ。
 相手が戦闘機人であると。
 最初からある程度察していた事実に、男はただ小さく、そうか、とだけ言った。
 男は拳を握り、瞑目し、熟慮し、思う。
 義侠心と正義感は、息子を止めろと叫ぶ。
 だが反対に復讐に燃える怨讐と憎悪は、見捨ててしまえとのた打ち回る。
 相反する二つの熱に、男の胸中は混沌と燃え上がる。
 だが、そこに一滴の水が差し込んだ。
 ノーヴェが男の胸に飛び込んで、顔を押し付け、穢れなき涙の雫を流しながら――請うた。


「おねがいだから、たすけて……ちんくねえ、たすけてよぉ」


 乙女が、涙を流してそう懇願する。
 それはどこまでも悲痛で、どこまでも純粋な願い。
 もはや迷う必要など微塵もなく、男の決意は一瞬で完了する。
 そっとノーヴェの肩を抱き、僅かに自分から引き離す。
 そして、不安そうにことらを見上げる少女に、犬歯を見せ付ける獰猛で不敵な、だがどこか愛嬌のある笑みで言った。
 

「安心しろ、すぐ助けに行ってやる」


 と。
 黒き衣を纏った男は。
 鉄拳の老拳士は。
 アルベルト・ゴードンは、ただ一言そう言い、そっと少女の涙を拭ってやった。
 そうだ、何が迷う事がある。
 鉄拳を握り、軋ませ、ゴードンは思う。
 目の前で泣いて助けを請うた少女の為に、そして復讐に狂う己が子の為に。
 
 
「こんなふざけた事は、すぐ俺が終わらせてやるからよ」



続く。

412ザ・シガー:2010/02/15(月) 18:03:38 ID:NFhbVVQQ
はい投下終了。
爺さんとギル叔父、相手がクイントの因子を引いてると知らずに遭遇するの巻。
あんど、六課メンバーが変態外道コンビときゃっきゃうふふ(血煙的な意味で)の巻。
でした。

とりあえず次回は、スパーダとシグフェイコンビで血風剣戟演舞祭とかしたいね! ね!


いやしかし、ほんともう待たせてすまんかった。
前回投下から四ヶ月近く、爺さんの登場に関しては八ヶ月近く間が開いてしまったwww

次回は出来るだけ早く仕上げたいと思いますwww

413名無しさん@魔法少女:2010/02/15(月) 23:32:19 ID:llQXpfHI
鉄拳キター(゚∀゚)!
超GJです。
いつもながら密度の濃い戦闘シーンに圧倒されます。

414B・A:2010/02/16(火) 02:18:36 ID:BvsYK4s2
バレンタインSS、今年は何も思いつかなかった。
代わりに星光さんのSSを書いてみました。ゲーム未プレイなんで動画サイト見まくって性格掴めるように頑張ったつもりです。

注意事項
・なのはポータブルIF(未プレイ)
・主人公は星光の殲滅者
・なのはルートのネタばれあり(脚色付き)
・バトル要素あり
・オリしかでてこない。オリ設定だらけ。
・タイトルは「とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)」

415とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)①:2010/02/16(火) 02:19:56 ID:BvsYK4s2
砂埃が舞う荒野を1人の少女が歩いている。
年の頃は10歳前後。大目に見積もってもローティーンには届いていないであろう。
首筋でざんばらに駆られた髪は亜麻色で身に纏った衣装は漆黒。一見すると水兵の制服のようにも見えるが、
禍々しい黒と赤いラインは船乗りではなく死神を彷彿とさせる。
何よりも異様なのが彼女の手にしている赤い杖である。
まるで鮮血のような赤いフレームを持つそれは最先端の科学の結晶、世の理を覆し、不条理を条理として顕現させる魔導の杖(デバイス)だ。
だというのに、先端の宝玉から放たれる光はこの世ならざるものの妖しい輝きを放っている。
それこそ、科学ではない異質な力で構成されているかのように。
そして、そんな妖しいデバイスを無造作に引きずりながら歩く少女は、正に異様であった。
少女は1人だった。
ずっと1人だった訳ではない。
世に生まれ出でた瞬間には同胞と呼べる者達がおり、崇高な目的のためにその命を賭けて戦った。
少女にとってそれこそが己の生きる意味であり、全てであった。
だが、彼女達は敗北した。
巨大な力の前に。
決して砕けぬ想いの前に。
分かり切った事である。戦いに身を投じたのなら、必ず勝者と敗者のどちらかに己が貶められると。
そして、少女は1人になった。

「……………………ぅ?」

少女の蒼い瞳が、砂塵に包まれた小さな町を認める。
茶色くくすんだ砂の町。
自分の記憶にある町とは余りにかけ離れた、古くて汚い田舎町。
風に流されるまま、少女はふらふらと町に向けて歩みを進める。
1歩踏み出す毎に砂が宙を舞い、拭きつける風から少女は己の目を庇う。
彼女の進む先には1輪の白い花が咲いていた。
砂と岩ばかりの乾いた土地で、花が咲くこと自体が1つの奇跡。
だが、少女は故意か偶然か、そんな小さな奇跡を無慈悲にも踏みつけて前へと進む。
小さな足跡と踏み潰された白い花弁。それは風が運んだ砂によって大地に埋もれ、儚い存在すらも忘却の彼方へと押しやれれてしまう。
後に残ったのは、何事もなかったかのように静寂に包まれた荒野のみ。
そんな不毛の大地を歩む少女の名は星光の殲滅者。
かつて、闇の書の残滓によって生み出された防衛構成素体(マテリアル)であった。









宛てもなく砂だらけの町を彷徨いながら、星光の殲滅者はどうしたものかと途方に暮れていた。
目的があってこの町を訪れた訳ではない。ここに流れ着いたのはあくまで偶然、立ち寄ろうと思ったのは人の集まる町ならば
情報を集めるのに事欠かないと思ったからだ。だが、辺境世界の田舎町はこちらが思っていた以上に冷たく猜疑的であった。
無理もない、こういった小さな町は狭く閉ざされたコミュニティを形成していて、外部からの訪問者を極端に嫌う気質がある。
見たところこの町は開拓途中で行商以外の出入りがなく、放牧によって生計を立てているようだ。
道を行き交う人々は男はスーツかマントと前掛けを足したような上着に唾の広い帽子、女はドレスに日傘という出で立ち。
交通の手段は車ではなく馬か馬車で、酒場らしき建物の前には馬用の水飲み場らしきものもある。
科学万能の時代、それも先進世界である他の世界と交流がある管理世界でありながら、このような生活様式を続けている町は非常に珍しい。
時空管理局によって重要文化保護区域として認定されたのか、或いは外部との交流がなく時代の流れに取り残されてしまったのか、
そのどちらかだろう。

416とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)②:2010/02/16(火) 02:20:41 ID:BvsYK4s2
とにかく、このまま通行人に無視をされ続けても埒が開かない。かといって、自分の背格好では酒場のような場所に入ることもできない。
ならば、今日は早々に切り上げて寝床を探した方が得策かもしれない。生憎、旅費の持ち合わせなどないが、
頼み込めば軒先の屋根の下くらいは貸してくれるかもしれない。この際、顔に降りかかる砂は我慢するしかないだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、不意に背後から力強く大地を蹴る複数の音が聞こえてくる。
特に興味も湧かなかったので無視して歩いていると、今度は罵声とも悲鳴とも取れる叫び声と馬のいななきが空気を震わせた。
同時に、何やら凄まじい勢いで近づいてくるプレッシャーが殲滅者の背中を襲う。
まさかと思いおもむろに振り返ると、2頭の黒馬に引かれた1台の馬車がすぐ目の前にまで迫っていた。
御者台に座る男が必死で馬の進路を変えようとしているが、勢いのついた2頭の馬は我が身を御することができず、
一直線にこちらへ向かってきている。
その場にいた誰もが、馬車に少女が轢かれる様を想像して目を逸らした。
だが、数瞬後に訪れるはずの悲劇は、突如として舞い上がった砂埃によってかき消され、馬車は何事もなかったかのように走り去っていく。
見れば黒衣の少女は数メートル離れた家と家の間にしゃがみ込んでいた。
彼女の両足には桃色の光で編まれた一対の羽根が生えており、数度羽ばたいた後に儚い桃色の塵となって霧散していく。
馬車に轢かれる寸前、彼女は移動速度を速める魔法を使って迫り来る巨大な質量を逃れたのだ。
難なく危険を逃れた殲滅者は、ため息の1つも漏らさず立ち上がって衣装に被った砂埃を払い落す。
彼女からすれば、その力はごく当たり前のものでとても身近なものだった。
しかし、この町の者達は違うのだろう。先程までこちらを忌避の目で見ていた通行人達の何人かは、物珍しさと興味の視線を向けている。
興味半分恐怖半分と言ったところであろうか?
遠巻きに眺めているだけだが、こちらの正体と町を訪れた理由を知りたそうな顔をしている。
余り良い状況ではないと感じた殲滅者は、余計な詮索をされる前に踵を返して表通りから遠ざかることにした。
夕暮れ時なせいか商店などがない路地には人通りが少ない。宿探しという目的からは遠ざかってしまうが、好奇の目に晒されるよりはマシだった。

「………っ!?」

もしも神というものが実在するのなら、これは自分の生い立ちに対するちょっとした嫌がらせなのだろうかと、柄にもなく考えてしまった。
目の前にいるのは自分よりも幼い金髪の少女。買い物帰りなのかその腕には一抱えほどの荷物が詰まった買い物かごが抱かれている。
そばかすだらけだが笑えば可愛らしい少女の顔は、涙で濡れて恐怖の色を浮かべていた。
一方、彼女の周りにはどう贔屓目に見ても柄の悪い男が2人。酒を飲んでいるのか1人は半分ほど飲み干された葡萄酒の瓶を握っており、
どちらも浅黒い肌が真っ赤に染まっている。
ふと足下を見れば、少女の買い物かごから零れ落ちたと見えるリンゴと割れた葡萄酒の瓶が転がっている。葡萄酒の瓶は男が持っているものと同じで、
男の1人のズボンには紫色の血のような染みができていた。これだけで、ここで何が起きているのか容易に想像がつく。
鬱陶しいトラブルが続くと考えるのも億劫になるのか、殲滅者は軽い苛立ちにも似た感情を覚えて自身の短い髪をかき上げる。
今更、表通りに戻る気にはなれない。かと言って、この狭い道を進む為には目の前の男2人がどうしようもなく邪魔な存在だった。質量的に。

「すみません、そこを退いてもらえませんか?」

「あん!?」

下顎が突き出るほどの勢いでこちらに振り向き、不躾な視線を遠慮なくぶつけてくる。
余程、虫の居所が悪いのだろう。明らかに無関係なこちらに対してまで敵意を向けている。

「またガキか。この町には子どもしかいないのかよ!」

「関係ねぇ奴は引っ込んでいろ。それとも、お仲間に入りたいか?」

「いいえ、寧ろ巻き込まれるととても迷惑です」

「なら消えろ、鬱陶しい」

「そういう訳にもいきません、私の中には戻るという選択肢が存在しない。ですから、そこを退いて頂けるとありがたいのですが」

「何を訳わかんねぇことをううぉっ!?」

不意に男の片足が持ち上がり、何もない空中に固定される。
バランスを崩して仰け反った男は成す術もなく後頭部を地面に打ち付け、転んだ拍子に手放した葡萄酒の瓶が顔面を直撃する。
紫色に肌を染めた男はそのまま目に火花を散らし、動かなくなった。

417とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)③:2010/02/16(火) 02:21:22 ID:BvsYK4s2
「なっ、こいつ魔導師!?」

空中に固定された相方の片足に嵌め込まれた半透明の桃色のリングを見て、もう1人の男が叫ぶ。
殲滅者がバインドを使って男の足を掬い上げたのだ。非魔導師ならば、この程度でも十分に護身術として通用する。

「うっ、うわぁぁぁっ!!」

まだ理性が残っていたのか、もう1人の男はみっともない悲鳴を上げながら逃走を図る。
別に後を追う理由もないので、殲滅者は走り去る男の姿を見送り、通り道のできた狭い道を再び歩き出す。
その場に1人、取り残された少女は、目の前で起きた出来事が信じられないかのようにポカンと口を開けたまま呆然とし、
風で転がるリンゴを拾うのも忘れて自分を助けてくれた少女の背中を見つめていた。
その視線を敢えて黙殺し、殲滅者はデバイスを引きずりながらゆっくりと歩いて行く。
一度として目を合わせることのなかった少女のことなど、最初から眼中になかったかのように。
しかし、あくまで部外者に徹する殲滅者を幼い声が呼び止める。

「あ、あの……………………ありが……………とう……………」

精一杯の勇気を振り絞った感謝の言葉。
殲滅者はその言葉を背中で受け止め、無言でその場を後にする。
それが、黒い少女と1人の幼子の出会いであった。







どうしてこうなったのかと、殲滅者は造りの悪い椅子を軋ませながら考えていた。
あの後、自分は少女のことなど忘れて寝床を貸してもらえそうな家を探すはずだった。
元々、酔っぱらいを追い払ったのは通行の邪魔になっていたからだ。決して、恐怖に震える幼子を助けようなどという善意によるものではない。
だが、少女の方はそうはいかなかったようだ。彼女はお礼の言葉だけでは満足し切れなかったのか、
自分の後をしつこく追いかけ回してきた。それも、無言で。
土地勘がある為か走ったり物陰に隠れたりしてもすぐに見つかってしまう。
追いかけ回す内に遠慮がなくなってきたのか、互いの距離はその度に近づいていった。
空を飛べば逃げることは簡単だったが、それは何だか彼女に敗北したような気がしてならなかった。
何より、これ以上目立つ行為は避けたい。
結果、とうとう根負けした殲滅者は少女の言葉に耳を傾けることにした。

『あの……………お家に、来て下さい……………』

助けてくれたお礼をしたいので、家に来て欲しい。
ただそれだけの言葉。いや、10歳にも満たない幼子が口にするにはとても勇気がいる言葉かもしれない。
そんな純粋だが無遠慮な誘いに乗せられ、殲滅者は幼子の家へと訪れていた。
ビイと名乗る少女の家は宿屋で、事情を聞いた彼女の両親も快く自分を迎え入れてくれた。
宿賃を支払う持ち合わせがないことも説明したが、一晩だけなら特別に無料で構わないと小さな個室を貸し与えてくれた。
他に個室が1つと2人部屋が2つあったが、今は宿泊客もいないようだ。そもそも、こんな辺鄙な町に旅行客が来ること自体稀らしく、
ビイの両親も普段は風呂屋を営んで生計を立てているらしい。
酒場にしなかった理由は、表通りにもっと大きな酒場があるからだとビイの父親が笑いながら説明していた。

(私は、何をしているのでしょう?)

心の中で呟き、殲滅者は返ってくることのない自問に対して自嘲気味に笑みを浮かべる。
自分には目的があった。
行方のわからなくなった同胞達を探すという目的が。
なのに、その目的が果たされることなく、自分はこんな辺境の世界で小さな女子に振り回されている。
何とも情けない。これでは、星光の殲滅者の名が道化のようではないか。

「はい」

「?」

コトンと、テーブルの上に湯気が香り立つコップが置かれる。
顔を上げると、ビイが気恥ずかしそうにこちらを見上げていた。
お盆を持っているところを見ると、このコップを持って来たのはビイのようだ。
コップの中には牛乳らしき液体が波打っており、コップに触れると仄かな温かさが指先を伝って来る。

418とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)④:2010/02/16(火) 02:22:01 ID:BvsYK4s2
「それ、ビイが作ったんですよ。この娘が作れる唯一の得意料理です」

「ああ、そうなんですか」

断る道理もないので、コップを手に取って人肌に温まった液体をゆっくりと喉に流し込む。
口の中に広がる甘い香り。僅かに酸味が感じられるが、飲めないほどではない。
温かい感触が喉を嚥下する度に、胸の隙間へ染み渡るような感覚が新鮮で、何とも言えない心地よさと気だるさが全身を支配していく。
有り体に表現するならば、おいしいと言うのだろうか?

「………………………」

「……………?」

半分ほど飲み干したところでコップをテーブルの上に置くと、ビイが何かを聞きたそうな目でこちらを見つめていることに気づく。
どう対応すれば良いのかわからず、助けを求めるようにビイの母親に視線を送ったが、彼女はにこにこと笑みを浮かべたまま沈黙を保っている。
ただ、その目は何かを訴えかけているようにも思えた。

(………………ああ、そういうことですか)

逡巡した後、殲滅者は癖の強いビイの金髪に左手を添える。
まだ言葉の意味はよくわからないが、彼女が求めている言葉はこれで間違いがないだろう。

「ありがとうございます」

抑揚もつけずに素っ気なく紡いだ言葉であったが、ビイはとても明るい笑みを浮かべで喜びを表現する。
些細な言葉のやり取りが人間の感情をこんなにも一喜一憂させる。
殲滅者からすればそれはとても不思議な出来事で、どこか別世界の理のように思えてならなかった。
ただ、彼女が作ってくれたホットミルクの味は悪くない。
この味のために一言、唇の筋肉を動かすことへの労力を惜しむ気にはなれなかった。

「ビイ、夕飯を作るから手伝って。今夜はお客様もいるから、少し多めに作らなくちゃね」

「うん」

母親に呼ばれ、ビイはトテトテと奥にあるキッチンへ消えていく。
その背中を見送ると、殲滅者は窓の外で夕日に照らされている砂の町を眺めながら、もう一度ホットミルクを呷っていた。







その夜、少女は夢を見た。
それはほんの数ヶ月前の出来事。
自分がこの世に生まれ出でた日に起きた事件。
否、自ら望んで起こした災厄。
かつて、闇の書と呼ばれたロストロギアの残滓より生み出されたマテリアル。
それこそが星光の殲滅者の正体にして、唯一つの存在理由であった。

『ああ…………私は消えるのですね』

『うん…………ごめんね』

自分を倒した自分と同じ顔の少女が、夢の中で済まなそうに詫びる。
鏡に映った表裏存在である自分達は、まるで見えない糸に導かれるかのように出会い、死力を尽くしてぶつかり合った。
自分と同胞の目的は、力ある魔導師を屠り闇の書を復活させること。
敵対した白衣の少女の目的は、自分達の目的を阻止すること。
互いに譲れぬからこそ両者はぶつかり合い、こちらは僅かに思い届かず敗北した。
そのことに対して悔いはない。
戦えば勝敗は決する、それは自明の理だ。
だが、目の前の少女は違った。
彼女は、敵対した相手が闇の書を復活させるという目的の為だけに生み出された存在であると知っていた。
仮初とはいえ命と意思を持つ相手に対して、存在理由を奪ってしまうことに涙を流していた。
いったい、自分が打ち破った少女は何のためにこの世に生を受けたのかと。
それは殲滅者にとって、とても良くないことであった。
勝者に涙は似合わない。
だから、この少女には笑っていて欲しい。
だから、負け惜しみではなく、素直な称賛を彼女に対して贈っていた。

419とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑤:2010/02/16(火) 02:22:36 ID:BvsYK4s2
『なに、強い戦士と戦って破れたのです。生まれた甲斐はありましたとも』

『うん………ありがとう』

『もし、次に見える事があれば、今度はきっと決して砕け得ぬ力をこの手にして、あなたと戦いたいと思います』

『ん……待ってる、とは言えないけど』

『次に私と戦うまで、あなたの道が、勝利に彩られますように』

目を閉じ殲滅者は告げる。

『それでは……さらばです』

少女の笑顔に見送られながら、殲滅者は静かに無の闇へと帰していった。
だが、消滅する寸前、彼女は願ってしまった。
自分が敗北した理由が知りたいと。
白衣の少女が抱いていた、砕け得ぬ力が何なのか知りたいと。
次に気がついた時、目の前には自分を打破した白衣の少女はおらず、消滅した世界とは違う別の世界で同じ姿へと再構成されていた。
どうして、このようなことが起きたのかはわからない。だが、期せずして手に入れた新たな肉体、目的遂行の為に使わない手はない。
闇の書の復活。
それがこの身に課せられたただ一つの存在理由。
だが、前回のように場当たり的に暴れ回るだけではすぐに管理局に嗅ぎつけられ、同じ轍を踏むことになる。
強大な敵と戦う為には、仲間が必要だ。
消滅するはずであった自分がこうして存在できているのだから、他の2人のマテリアルもどこかの次元世界で自分と同じように
再構成されている可能性がある。なら、まずは彼女達を見つけ出すのが先決だ。
その為に殲滅者は各世界を回り、仲間の行方を探して回った。
だが、旅を続けても仲間の行方は掴めず、無為に時間だけが過ぎ去っていく。
1ヶ月が経過した時点で、自分のしていることが酷く徒労であると感じ始めもした。
それでも、殲滅者は世界を回り続けた。
風の噂で、あの白衣の魔導師が管理局の魔導師として順風な日々を送っていると聞いた。
ならば、自分はこんなところで立ち止まっている訳にはいかない。
ただの一念、あの少女ともう一度戦いたい。
その思いだけが、殲滅者を奮い立たせ、終わりの見えない旅を続けさせる原動力となっていた。









目覚めた時、既に太陽は真上に差しかかろうとしていた。
久し振りのベッドの感触に思わず寝入ってしまったようだ。
空気を入れ替えようと窓を開けると、だだっ広い荒野の中にぽつりと浮かぶ緑の群れが目に飛び込んでくる。
昨日は気づかなかったが、町のすぐ近くに森があるようだ。

「あら、おはようございます」

階下に下りた殲滅者を、ビイの母親が出迎えてくれる。
昼食の支度をしていたのか、エプロン姿でティーポットをテーブルに運んでいるところだった。

「すみません、寝過してしまいました」

「良いんですよ、あなたはお客様なんですから」

「いえ、タダで泊めてもらっておいて、長居までする訳には………………」

そこまで言いかけて、殲滅者はある違和感に気がついた。
昨日はべったりとくっついて回っていたビイが、どういう訳か姿を見せていないのだ。
そのせいか、鳥が巣立った後の巣箱のような静けさが宿屋全体を包み込んでいる。

「ああ、ビイでしたら町外れの森へ出かけていますよ。あそこはあの娘の遊び場ですから」

「森……………ああ、東にある森ですね」

「あなたにプレゼントする花を摘んでくるんだって張り切っていました。あの娘、一人っ子ですから、
お姉ちゃんができたみたいにはしゃいじゃって。ああ、ホットミルクを作りますから座っていて下さい」

「いえ、お構いなく。先を急ぎますので」

「お急ぎですか? せめて、あの娘が戻るまで……………」

「急ぎますので」

一方的に会話を終わらせ、殲滅者は小さく目礼して2階へ戻ろうとする。
その時、開けっ放しの窓の向こうから馬の嘶きと男の怒号が聞こえてきた。
清閑なお昼時の空気を引き裂く金切り音にも似た悲鳴。
災いを告げる鐘の音が、荒野の町に響き渡った。

420とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑥:2010/02/16(火) 02:23:12 ID:BvsYK4s2
「化け物だ、管理局が輸送していた化け物が逃げ出した! 東の森に逃げ込んだぞぉっ!!」

伝令役の男が通りを駆け抜け、知らせを聞いた通行人達が一目さんに我が家へと舞い戻っていく。
のどかな往来の風景が一変して混乱と喧騒に包まれ、騒ぎを聞きつけた酔っ払いの土間声が混沌を更に加速させていく。

『何でも、分厚い鉄檻を破壊して逃げ出したそうだ』

『護衛していた局員はみんなやられちまったらしい、生き残った奴も重傷だ』

『凶暴で人を食っちまうらしいぞ』

切迫しているのか吞気なのかわからない酔っ払いの言い合いは何とも物騒なものだった。
素面ならば血相を抱えて逃げ出しているだろうに、酒の力というものは良くも悪くも偉大である。
そんな場違いな感想を抱いた直後、背後で陶器が砕ける音と共に何かが倒れる音が聞こえる。
振り返ると、ビイの母親が青白い顔色で床の上に倒れ込んでいた。
恐らく、ビイが遊びに行っている東の森に化け物とやらが逃げ込んだことにショックを受けたのだろう。
酔っ払いの言い合いも不安を加速させる材料になったのかもしれない。
だが、これで心置きなくこの家を後にすることができる。
煩わしい別れの挨拶を交わすのは性に合わないからだ。
そう思って宿泊した部屋に置きっ放しのデバイスを取りに戻ろうと踵を返した瞬間、鍋の中で温められている
作りかけのホットミルクが目に入る。

「………………………」

鋭い目つきで煮え滾り始めた白い液体を見下ろし、星光の殲滅者は何事もなかったかのように2階へと戻る。
後に残されたのは、気を失ったビイの母親と沸騰して溢れ返るホットミルクだけであった。









目の前で大木を張り倒した怪物を見上げ、ビイは恐怖に体を震わせる。
酔っぱらいに絡まれた時とは訳が違う。
自分の何十倍はあろうかという巨体を前にして、恐怖を感じないものなどいない。
ましてや、それが見たこともない奇天烈な生物であれば尚更だ。
類人猿をそのまま大きくしたかのような巨体、毛皮はなく不定形に波打つ紫色の肌、背中から生えた無数の触手と先端から滴り落ちた腐臭を放つ粘液、
根元まで裂けた顎と剥き出しの牙、白目のない大きな1つ目。
今までに見てきたどの生物ともかけ離れたシルエットを持つ、正に化け物。
そんな生き物を前にして正気を保っていられるのが奇跡的であった。

「ひぃ……………やぁ…………………」

恐怖に震え、声にならない悲鳴を上げながら、ビイは必死で地面を這って怪物から逃れようとする。
こんなはずではなかった。いつものように緑に溢れた森の中を駆け回り、野ウサギや小鳥と戯れるはずだった。
綺麗な花があればそれを摘んで帰り、あの黒い服の魔法使いにプレゼントするつもりだった。
なのに、どうして自分はこんなに怖い目にあっているのだろう?

421とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑦:2010/02/16(火) 02:23:44 ID:BvsYK4s2
「GRUUUU………………」

「ひゃぁ………………いぃ、あぁぁ………………」

怪物が低い唸り声を上げながら、こちらに向かってくる。
一歩踏み出す度に大地が軋み、開き切った口から粘性の唾液がボタボタと零れ落ちて足下に生えている青葉を腐食させていく。
たちまち、家畜の糞と油が混ざり合ったような汚臭が辺り一面に立ち込め、芳香の直撃を受けたビイの意識がふわりと現実から遠退いていった。
迫り来る鋭い犬歯。
ぱっくりと開いた口の中はどす黒く、唾液の海がブクブクと泡を立てている。
殺される。
このまま何もしなければ、自分はこの怪物に頭からバリバリと食べられてしまう。
だが、恐怖で竦んだ体は言うことを聞かず、萎んだ喉は悲鳴ではなく壊れた笛のような音を奏でるだけ。
理不尽を前にして、ビイはどうしようもなく無力な存在であった。
そして、臨界点へと差しかかっていた彼女の理性は、ここにきてとうとう限界を迎えた。

(助けて、お姉ちゃん…………………)

気を失う寸前、ビイは名前も知らない黒衣の魔法使いに届かぬ声を送っていた。
物静かで自分達とは違う、異質な雰囲気を纏った少女。彼女ならば、こんな怪物もきっと簡単にやっつけられる。
それは切なる願いであった。
叶わぬとわかっていてなお、祈らずにはいられない願いであった。
ビイとて荒野で生まれ育った少女だ、幼いなりに現実というものをしっかりと捉えている。
人間はそれほど、優しい生き物ではない。
何かの気紛れで酔っ払いを追い払うくらいはしてくれるかもしれない。
強引に家へと招き、頼んでもいない飲み物を振る舞ってもお礼の言葉を言ってくれるかもしれない。
だが、凶暴な怪物を前にして、我が身を省みずに無関係な他人を助けるなどという選択はしないであろう。
彼女は旅人で、自分は宿屋の娘。縁もゆかりもない相手を気にかけるようなお人好しではないことは、あの冷たい目を見れば容易に察することができた。
それでも、祈らずにはいられなかった。
嬉しかったのだ。
酔っ払いに絡まれ、恐怖の余り何も出来ず立ち竦むだけだった自分を助けてくれたことが。
例え、彼女に助けるつもりがなかったとしても、恐怖で震え上がった自分には彼女がとても眩しく暖かい存在に見えた。
だから、今度も同じように助けて欲しいと。この恐怖から救い出して欲しいと願わずにはいられなかった。
それが、万に一つもありえない奇跡であったとしても。


《Blast fire》

その時、一条の光が自分の横顔を掠め、迫り来る怪物を吹っ飛ばした。
大木に叩きつけられ、焼け焦げた匂いを発する異形の怪物。ビイは痛みにのた打ち回る怪物の姿をポカンと見上げながら、張り詰めていた緊張の糸を解く。
ビイには何が起きたのかわからなかった。
ただ一つ確かなことは、もうこれ以上、怖い思いはしなくて良いということだ。
それを理解すると、ビイは懸命にしがみついていた最後の理性を手放し、背後に降り立った一つの奇跡へと身を預けるのだった。









腕の中で気を失ったビイを手近な岩場に下ろし、殲滅者は異形の化け物へと向き直る。
ビイは大丈夫だ。ケガらしいケガはしていないし、呼吸も安定している。怪物と対峙して張り詰めていた緊張の糸が切れ、気絶したのであろう。
ならば、問題はこちらの化け物である。
見たところ普通の生き物ではない。手加減していたとはいえ、砲撃によって焼かれた跡が見る見る内に修復していっている。
それに既存のどの生物にも当てはまらないシルエットにバランスの崩れた筋肉の付き方。
それに合わせて骨格も歪んでいるようで、猫背でなければまともに歩くこともできないようだ。
よく見ると左の二の腕辺りに刺繍のような跡がある。かなり潰れていて判別は難しいが、数字の“06”か“08”のようだ。
差し詰め、どこかの物好きが違法研究に手を出して生み出した人造生物といったところであろう。
伝令が管理局が輸送していたと言っていたので、その物好きは摘発されたか逃げ出したかのどちらかに違いない。
そして、異端の子どもだけが世に解き放たれた。
この化け物は自分と同じだ。
目的の為に生み出され、その是非を他者の価値観によって貶められる。
哀れで滑稽な道化人形。
皮肉というのは、正にこのようなこと指すのであろう。

422とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑧:2010/02/16(火) 02:24:19 ID:BvsYK4s2
「戯言ですね。それに、余り時間もない」

直に知らせを受けた管理局の別部隊がこちらに向かってくるだろう。
低ランクの魔導師が束になってかかってきても負ける気はしないが、自分の存在が公になるのはまずい。
今はまだ、暗く静かな闇の中に身を沈めておかねばならないのだ。

「あなたに恨みはありませんが、滅させて頂きます」

愛用のデバイス、ルシフェリオンの先端を異形の怪物へと向ける。
常に地面を引きずりながら持ち歩いているというのに、その妖しい輝きは決して曇ることがない。
それどころか、彼女の闘志の昂ぶりに呼応するように赤い輝きを益々深く、鮮烈なものへと昇華していく。
こちらの敵意を感じ取ったのか、異形の怪物は無数の触手を震わせながら大地を蹴る。
不格好な姿勢でありながら、その踏み込みは猫科の肉食動物を連想させるほど素早い。
あっという間に距離を詰められ、出鼻を挫かれた殲滅者は展開した円形のバリアで怪物の剛腕を受けざるを得ない。

「っ………………ルシフェリオン!」

《Rubellite》

振り下ろされた丸太のような巨腕を拘束魔法で強引に縛りつけ、転がるように相手の間合いから離脱する。
だが、怪物の攻撃手段は台風のような暴力をまき散らす両腕だけではない。
寧ろ、中距離こそがこの異形と対峙する際の最も危険な立ち位置。
背中の触手が縦横無尽に三次元を飛び回り、腐臭を放つ酸性の粘液をまき散らしながら襲いかかって来る。

「パイロシューターっ!」

《Fire》

立て続けに撃ち出された魔力弾が不規則に揺れ動きながら触手の群れを迎撃し、怪物の巨体を撃ち抜いていく。
だが、必殺の念を込めて撃ち抜かれた肉体は撃たれた端から再生していき、その痛みが怪物の怒りを呼び起こしてしまう。
咆哮と共に膨れ上がった筋肉が渾身のバインドを砂糖菓子か何かのように引き千切り、粉々に砕けたリングが魔力残滓となって霧散していく。
その際に怪物は勢い余って手近にあった大岩に体をぶつけるが、大岩が粉々に砕けるほどの衝撃を受けたにも関わらず堪える素振りも見せない。

(私は、何をしているのでしょう? こんな意味のないことに、何を躍起になって………………)

四方から迫る触手をシールドで逸らし、空へと逃れる。
複雑に絡み合いながら追撃してくる触手を避けながら、殲滅者は何度目かの自問を投げかけていた。
不思議でならない。
こうしている間にも、管理局の部隊が着々とこちらに向かってきている。
己の安全を鑑みるのならば、直ちに離脱して身を隠すのが得策だ。
闇の書を復活させるという目的を遂行する為にも、今は目立つ行動は避けねばならないのだ。
なのに、自分は正体露見の可能性がある戦闘を選んだ。
少しでも戦いが長引けば、遅れて到着した管理局に自分の存在が知られてしまうかもしれないというのに。
そんな危険を冒してまで、どうして自分はビイを助けたいなどと思ったのだろうか?

(わからない、理由なんてない。一宿一飯の恩義で片づけられる問題じゃない。
そもそも、私には人を助けるなどという機能は最初からプログラムされていないはず。
ならば、これは欠陥なのでしょうか? 私の中に巣くった、治しようのないバグなのでしょうか?)

綻びにも似た欠陥が、殲滅者の中で大きくなっていく。
ありえない。
こんなエラーはありえない。
あの時、ビイが遊びに行った森に化け物が向かったと聞いた時すら何も感じなかった。
彼女の母親が倒れた時も感情は動かなかった。
なのに、あの作りかけのホットミルクを見た瞬間、思ってしまった。
ビイが作ったホットミルクが二度と飲めなくなるのは、とても寂しいと。

「終わりです」

全ての触手を焼き切り、剛腕と健脚をバインドで二重に締め上げて相手の懐に飛び込む。
分厚いを肉を抉る感触がルシフェリオンを握る手へと伝わり、腸を突き破られた怪物が痛みの咆哮を上げた。。
裂けた腹から溢れ出る青い血と腐臭を放つ酸性液。だが、草木も枯らす汚水も特殊合金で生成されたデバイスを溶かすには至らない。

423とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑨:2010/02/16(火) 02:24:55 ID:BvsYK4s2
「ブラストファイアァァッ!!」

集束する閃光。
桃色の光が怪物の背中を突き破り、全身を隈なく焼き尽くされた怪物は力尽きて動かなくなる。
信じられないことに、それだけのダメージを受けてなお、この怪物は生きていた。
傷口から血飛沫をまき散らし、千切れてはみ出た内臓は折れた骨が突き刺さって形容し難い痛みを与えているはず。
そもそも、丸ごと焼き尽くしたのだから皮膚呼吸すらままならないはずだ。
それでも、この異形はか細い呼吸を繰り返し、ゆっくりとではあるが再生を始めている。
今すぐにでも頭を吹き飛ばさねば、こいつはまた暴れ出すだろう。

『ああ…………私は消えるのですね』

『うん…………ごめんね』

不意に、白衣の魔導師と戦った時の会話が脳裏に蘇る。
目的を持って生まれ落ちたこの身を無へと帰した少女の涙。
今の自分は、丁度あの時の彼女と同じであった。
この怪物とて、どのような不純な動機であれど目的の為に生み出された存在。
このまま引き金を引くことはそれを否定し、この者の命に意味はないと貶めることになる。
だから、白衣の少女は自分を打ち倒した時に涙を流したのだ。
生み出された理由を持ちながらも存在を許されなかった者達への謝罪。
一方的な否定で相手の存在を無価値とすることを、彼女は己の中で悪だと断じたのだ。

「行ってください」

ルシフェリオンを下ろし、気絶したままのビイを抱きかかえて怪物に告げる。

「気が変わらぬ内に、ここから逃げて下さい。そして、どこか人のいないところで静かに生きて。
あなたほどの生命力ならば、どんな環境にも適応できるでしょう」

怪物は大きな黒目でジッとこちらを見つめると、やがて傷ついた体をゆっくりと立ち上がらせ、森の奥へと消えていく。
その先は荒野。砂と土によって彩られた死の大地。今はまだ人の手が届かぬ未開の地だ。
あの怪物がこちらの言葉を解する程度の知性があったのかはわからない。
だが、殲滅者は何故か確信めいたものを抱いていた。
あの怪物は、きっともう人の前に姿を現すことはないと。









ビイが目を覚ましたのは、その日の夕方のことであった。
まず最初に目に飛び込んできたのは泣きじゃくる両親の姿。
2人は自分の無事を確かめると、みっともないくらい涙を流しながら小さな体をきつく抱きしめてきた。
後で聞いたことだが、自分はいつの間にか家の前で倒れていたらしい。
森に逃げ込んだという怪物も行方がわからず、管理局は近い内に大々的な山狩りを行うとのことだ。
ビイはあの後、管理局の局員に何度か質問をされたが、気を失っていたので自分がどうやって助かったのか、
怪物はどこへ逃げたのかはわからなかった。ただ、気を失う前に黒い服の魔法使いが助けに来てくれたことはおぼろげながらもハッキリと覚えている。
名前も知らない黒衣の魔法使い。
彼女はいつの間にか町から姿を消していて、二度とビイの前には姿を見せなかった。
彼女はいったい何者だったのか、どうして自分のことを助けてくれたのか、それは永遠の謎だ。
覚えているのは抱き留められた時の暖かい感覚だけ。
母親に抱かれているかのような安心感を、ビイは忘れることができなかった。
お礼が言いたい。
もう一度会って、助けてくれたことへのお礼を言いたい。
いつしか彼女は、去っていった恩人と同じ魔導の道を志すようになった。
自分にその素質があるのかはわからないが、例えなかったとしても必ず彼女を見つけ出そう。
あの人と同じ魔法使いになって、同じ世界で生きていれば、きっとあた巡り合える機会も訪れるはずだ。
ビイは決意すると、両親にその願いを包み隠さず告白した。
数年後、ビイは時空管理局陸戦魔導師訓練校の門を叩くことになる。
恩人の背中を追いかけ、いつか再会する為に。

424とある魔導の明星魔砲(ルシフェリオン)⑩:2010/02/16(火) 02:25:55 ID:BvsYK4s2





砂埃が舞う荒野を1人の少女が歩いている。
年の頃は10歳前後。大目に見積もってもローティーンには届いていないであろう。
首筋でざんばらに駆られた髪は亜麻色で身に纏った衣装は漆黒。一見すると水兵の制服のようにも見えるが、
禍々しい黒と赤いラインは船乗りではなく死神を彷彿とさせる。
星光の殲滅者はあれからも旅を続け、同胞に関する情報を求めて幾つかの町を巡って回った。
しかし、それらしい少女の噂すら掴むことができず、空振りを繰り返す日々を送っている。
ひょっとしたら、この世界には彼女達はいないのかもしれない。
いや、或いはどこの世界にも同胞はおらず、稼働しているマテリアルは自分だけなのかもしれない。
もしもそうだとしたら、こうして世界を回り続けることは無意味な行為だ。

「まあ、それでも仕方がありませんね」

その時はその時で考えるしかないと思考を止め、星光の殲滅者は赤いデバイスを引きずりながら荒野を進む。
デバイスを引きずった跡に並んだ彼女の足跡の横には、可憐な白い花が小さな花弁を太陽に向けて広げていた。






                                                      おわり

425B・A:2010/02/16(火) 02:26:29 ID:BvsYK4s2
以上です。
星光さんのストイックな印象が流れ者のイメージと重なってできた結果がこれです。
きっと、彼女は世界中で一人ぼっちだったとしても立ち上がってくるはず。
あの潔さは何だか癖になりそうです。

426名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 08:22:20 ID:cyYPBIKM
星光さんカッコいい……惚れてまうやろ
GJです
>世界中で一人ぼっちだったとしても立ち上がってくる
星光もまた不屈の心の持ち主だ…と

427名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 09:30:36 ID:JbIcK7RM
やばっ!格好いいよ!星光たん!!

歪んだ言い方だけど

なのは=10を救おうとするけど悪にはなれない正義の味方

星光=10を救うなら悪にもなる正義の味方

なイメージがある私にとってはこう取りこぼされてる小さな辺境世界の小さな事件も何だかんだで解決しちゃうっていうのは好きですよ

428イクスピアリ:2010/02/16(火) 10:16:55 ID:JbIcK7RM
投稿します
雷刃シリーズ本編続きになります


注意
・とらハ3の人物が戦いまた強いです

・とある一部分だけエロ表現

429雷刃がいる風景 〜絆〜 後編 1/4:2010/02/16(火) 10:17:45 ID:JbIcK7RM
第00管理外世界 コキュートス

無人となったこの星にライは連れられていた

「…………」

体中に刻まれた傷
クロノ達はライを引き渡した後封印方法探索を命じられ今は無限書庫などをあたっているため彼らは知らない
上層部がその間ライを弄んでいる事に

「お姉さま……姉さん……」

着ていた服は破かれ冷たい床に直に座り膝を抱えながらライは呟く

「……会いたいよ。」

キィッと扉が開き局員が入ってくる
彼らは皆闇の書の被害者でありその顔はイヤらしく笑っていた





地球 海鳴
なのはとフェイトは高町家にてライの居場所を探る相談をしていた

「やっぱり誰かから聞き出さないと駄目かなぁ……」

「でも……誰から聞くの?」

クロノは先に手を打ちはやてらも封印方法探索に駆り出しており八神家には誰もいない
ハラオウン家もクロノの対応から二人は除外している

「やっぱり局のコンピューターから」

コツコツ、と窓から音が聞こえる

「……なんだろう?」

窓を開けたなのは
そこにいたのはフェレットユーノ

「ユーノくん!?」

「なのは、話はクロノから聞いたよ。」

二人が身構えるがユーノは部屋に入りフェレットモードを解除する

「二人はどうしたい?」

「「助けたい!」」

迷いなく答える二人にユーノは苦笑する

「第00管理外世界コキュートスに彼女はいるけど封印方法が見つからないらしくてクロノ達が探してるのを僕も手伝わないといけないからそろそろ行くね。」

ユーノは転移しいなくなる

「なのは。」

「うん……ユーノくんに感謝だね。」

二人はこっそり高町家を後にしようとして――

「どこに行く気だ、なのは?」

無銘の小太刀二刀を腰に携え鋼糸、飛針とフル装備の恭也
傍らには月村家のメイドであるノエル
反対側には美由希とライの戸籍書類を持って香港より来日した美沙斗がいる

「えっとその……」

「ライを助けにいくんだろう?」

「はうっ!」

恭也に言い当てられしゅん、と落ち込むなのは

「兄達もライを助けたい気持ちは同じだ。二人だけだと思うんじゃない」

「とはいえ……その想いは尊い。大事にしなさい。」

恭也と美沙斗は笑っていた

「で、なのは。ライちゃんはどこにいるの?」

美由希が優しく問う

「……」

葛藤するなのは
なんせ今からする事は管理局に反する事であり犯罪者になる
そんななのはの葛藤を見抜いたフェイトがそっと手を握る

(フェイトちゃん……)

なのはが顔を合わせるとフェイトは微笑んでいる

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、美沙斗さん。」

なのはばいい子゙の仮面を着けてから初めて家族に我が儘を言う

「私に……力を貸してください。」

大切な妹を助けるために

430雷刃がいる風景 〜絆〜 後編 2/4:2010/02/16(火) 10:19:25 ID:JbIcK7RM
暗い暗い牢獄の中
男達がライの体を弄び貫いている
吐き出された欲望がライを汚していた

「…………」

気が済んだのか男達が牢獄から立ち去る

「…………」

虚ろな瞳でライは股に手を当てる

「…………」

男達の欲望が溢れでている
それをライは懸命に手で掻きだしていた

「……汚されたんだ。」

ライの瞳から一筋の涙が零れて消えていった



翌日
ライは汚された体を洗われ封印場所へと連れられてきた
管理局の局員がライに行った暴行の隠蔽の為であり決してライを気遣ったものではないのはライ自身気づいていた

(夜天の主に管制人格、守護騎士達に黒い奴もいるんだ……まぁ当然だよね)

封印場所に立たされたライ

クロノがデュランダルを構え詠唱に入る

(最後に……会いたかったなぁ)

デュランダルを振り上げるクロノ

(お姉さま、姉さん……)

静かに目を閉じるライ
デュランダルが振り下ろされ――


「ディバィィィィン!バスタァーーーー!!」


る瞬間桜色の砲撃がクロノが持つデュランダルのみを撃ちクロノの手から離れていく

「ぐっ!」

「クロノ君!?」

手首を抑えるクロノにはやてが近づき現れた白い魔導師を見る

「なのはちゃん……」

ライを庇うように立ちふさがるのはその手に不屈の心を握る高町なのはその人

「高町、そこをどけ。」

レヴァンティンを抜いたシグナムがそれを突きつける

「どきません。ライちゃんは私の大事な……大事な妹です!」

レイジングハートが変形
エクセリオンモードが発動する
それだけではない
なのはの背後にはエクセリオンモードのレイジングハートの先端に似たものが二つ浮いていた

「だからどきません!」

先手をとり放たれたエクセリオンバスター
回避したシグナムとヴィータがライを確保しようとして――

「ハーケンセイバー!」

上空から放たれた魔力刃を回避した二人の間にフェイトが降り立つ
同時にバルディッシュが変形し両刃の双剣になる

「テスタロッサ……お前もか?」

「ライは私の妹でもあります。もう私は失いたくない!」

シグナムに斬りかかるフェイト
その隙にヴィータが抜けようとする

「させない!」

「ちぃ!邪魔すんななのは!」

A.C.Sを起動させヴィータに突っ込んだなのは
奇しくも闇の書事件の時と同じ組み合わせとなった


唖然としていたライ
その背後からシャマルとザフィーラが近づき拘束しようとした瞬間だった

「御神流奥義之参 射抜」

「きゃあ!」

現れた女性の刺突によりシャマルが吹き飛ぶ

「魔法というから通じないと思ったがそうでもないか……」

小太刀二刀を手に薄い紫のコートを着た女性が呟く

「何者だ貴様……」

ザフィーラの問いを無視し女性――不破美沙斗は着ていたコートをライに着せる

「美由希、この子を頼むよ。」

「任せてかあさん。」

ライを抱え美由希が右手に小太刀を構える
美沙斗が二刀小太刀を構え告げる

「私達の家族に手を出したことを後悔しろ……」

不破の剣が荒れ狂い局員をなぎ倒していった



別の場所でも次々と局員が倒されていた

「御神流奥義之六 薙旋」

周囲にいた局員達が倒れていく
怯んだ局員を手にした飛針を投げる
狙いはデバイスコア
突き刺さり砕け散るデバイスコア

「ば、化け物か!?」

局員の一人が思わず叫ぶ

「いや、一応人間だ。お前達みたいな魔法など使えないな」

後ろから迫る局員に斬撃を繰り出す
斬撃は通らずとも衝撃ば徹゙り気絶する

「さて……俺の家族に手を出したんだ。覚悟はして貰う。」

「ひ、怯むな!数は我々が多い!一斉にかかれ!」

局員達がそう言いながら襲いかかる
それを見て小太刀二刀を握りなおした彼――高町恭也は告げる

「嘗めるな……守る御神に負けはない!」

神速の領域に入り局員の群れへと恭也は飛び込んでいった

431雷刃がいる風景 〜絆〜 後編 3/4:2010/02/16(火) 10:25:21 ID:JbIcK7RM
メイド服を着た女性が右腕に着けたブレードを振るう
漆黒の翼を生やしたリインフォースはそれを防ぐが次の瞬間驚愕する

「ファイエル」

「ぐあっ!?」

リインフォースの腹部に当てられた女性の左手が放たれゼロ距離であったため衝撃がリインフォースの騎士甲冑を貫いていた

「お前……人間ではないのか?」

「はい。しかし私の体を構成する部品一つ一つが忍お嬢様の愛でできている。」

左手が戻ると女性――ノエル・K・エーアリヒカイトは新たに取り出したパーツを左腕に着ける

「そして……救えなかったあの子の忘れ形見も忍お嬢様が私に合わせてくれた。」

バチッとノエルの左腕に着けたそれが放電する

「あの時私が感じた悲しみをなのはお嬢様にまで感じさせるなどできません。よってあなた達を倒しライお嬢様を取り返させて頂きます。」

左腕のそれが放たれリインフォースに絡みつく

「イレイン、あなたの力借りますよ。ウロボロス、フルスパーク」

ウロボロス
かつてノエルが戦った姉妹機の装備
それを形見としてノエルは忍に頼み自身のオプションへと変えて貰ったもの
そのウロボロスからリインフォースへと高圧電流が流れる

「っああああぁぁ!?」

いかに騎士甲冑が弾こうと関節部分から直接肌に流されては意味がなかった

「私の勝ちです」

倒れたリインフォースを一瞥しノエルは恭也の元へと去っていった



フェイトとシグナムが互いに斬りかかる

「紫電一閃!」

シグナムの斬撃
だが斬ったのはフェイトの残像

「遅い!」

双剣となったバルディッシュをクロスさせ斬りかかるフェイト
咄嗟に鞘で受けるシグナム

「はぁぁぁぁぁ!」

吼えるフェイト
次の瞬間レヴァンティンの鞘が切り裂かれ真っ二つになる

「なにっ!?」

「雷光連閃!」

驚愕するシグナムの隙を逃さずフェイトが左手のみ逆手にし放つ

「プラズマスラッシャー!」

恭也が、いや御神の剣士がそれを見たら驚愕しただろう
フェイトのそれは速度、威力全てが劣るが間違いなく薙旋だったのだから

「ぐぁぁぁ!」

さすがのシグナムもこれには耐えきれずレヴァンティンを握ったまま気を失った

「はぁ、はぁ……勝った。」

体力魔力共に大きく消耗したフェイト

「なのはは……」

「ヴィータちゃんの分からず屋!」

フェイトが振り返ればそこにはバインドされたヴィータに向けて集束砲を放つなのはの姿

(……ヴィータ、きっとこの戦いが終わったら何も怖くなくなるよ)

吹き飛ばされたヴィータにフェイトは心から同情した

432雷刃がいる風景 〜絆〜 後編 4/4:2010/02/16(火) 10:35:55 ID:JbIcK7RM
あらかた片づけ集まったなのは達

「ライちゃん!」

「ライ!」

なのはとフェイトがライを抱きしめる

「お姉さま…姉さん……」

暖かな温もりにライは泣いた
ひたすら泣き続けた

「さて……どうやらまだ来るみたいだな。」

恭也が見上げた先には空戦魔導師達がいる
その下には新手の陸戦魔導師もいた

「私とフェイトちゃんでなんとか」

する、という前に桜色の砲撃が空戦魔導師の一部を吹き飛ばした

「「「えっ?」」」

そこに現れたのは黒衣に身を包みレイジングハートの色違いの杖を手にした少女
その顔には赤い星を象った仮面を着けていた

「天知る地知る」

ようやく復帰したクロノ達も唖然とする

「我知る星知る」

杖を突きつけ少女が名乗った

「歪んだ正義に裁きを下す闇よりの使者、仮面赤星参上です。」

少女――仮面赤星はなのは達を見る

「全く……あなたに託したというのに何ですかこの状況は?」

トントンと肩に杖を当てると仮面赤星はなのはに近づく

「えっと……ごめんなさい?」

取りあえず謝るなのは
突如現れた黒衣の少女を見てリインフォースが呟く

「理のマテリアル……」

「いいえ違います。私は理のマテリアル等ではなく仮面赤星です。何度も言わせないで下さい管制人格。」

そこに転移魔法陣が現れ一人の局員が現れる
腕の階級証から准将クラスのようだ

「何をやっている!さっさと封印しないか!!」

ギャアギャア喚くのを余所にクロノにある念話が届く

「……っ!分かりました艦長。ようやく捕まえましたか。なら残りはこいつだけですね」

クロノがデュランダルを准将に突きつける

「准将、あなたを逮捕します。罪状は闇の書の欠片に関する情報隠蔽並びに管理外世界の住人の拉致監禁。他にもあるでしょうがそれは後ほどじっくり聞かせて頂きましょう」

「き、貴様ぁ!お前達!こいつらを片づけろ!」

准将の周りにいた局員達が迫る
なのは達はライを守るように広がりクロノ達は准将の部隊へと立ち向かう

「やれやれですね」

仮面赤星は手にした杖を構える

「貸し一つですよオリジナル。」

「えっ?」

空へと飛び立つ仮面赤星

「空中は私が受け持ちましょう。」

仮面赤星が一気に駆け上がり局員に向けて放つ

「ハイロゥシューター!」

飛び交う誘導弾が的確に局員を貫いていく
さらに右手を前に突き出し振り抜く

「ルベライト」

次々と拘束されていく局員達が見たのは桜色の砲撃

「ブラストォファイヤーーー!!」

砲撃を維持したまま右から左へと薙ぎ払い一掃する

「脆いですね……少々物足りませんが」

地上を見る仮面赤星
その視線の先にはディバインバスターを放つなのはとサンダースマッシャーを放つフェイト
それにより地上側の局員が一カ所に固まっている

「終わりですね。」

仮面赤星が念話を飛ばすと慌ててなのは達が離脱
クロノ達もなのは達とは逆方向に逃げる

「集え、赤星。総てを焼き消す焔となれ。」

集束された砲撃が放たれる

「ルシフェリオンブレイカー!!」

なのはのスターライトブレイカーと同規模の集束砲が地に突き刺さり爆発
後には局員が気絶しバタバタと倒れていた

433雷刃がいる風景 〜絆〜 後編 5/4:2010/02/16(火) 10:37:38 ID:JbIcK7RM
クロノが倒れた局員達を逮捕し連行していく
その傍らでなのはとフェイトはライを守るように傍に寄り添い恭也と美沙斗、美由希はリインフォースらヴォルケンリッターと対峙していた

「……申し訳ない。」

先に頭を下げたのはリインフォース

「全ては私の責任。如何なる罰も」

「まずはそちらの事情を話して貰おう。全てはそこからだ。」

交渉術に一番長けた美沙斗が小太刀をいつでも抜けるように体勢を整えながら問う

「ああ……私から話そう。事の始まりは我が主にかけられた偽りの罪からだ。」

リインフォースが語る

「我が主は未だ闇の書の主であり構築体を操り再び闇の書の力を取り戻そうとしている、そう疑われロストロギア不法所持の罪に問われかけた。」

美沙斗の目がすっと細まる

「そうか……ライが兄さんの家にいるのを知ったんだなあなた達は。」

「高町なのはとフェイト・テスタロッサと共に出かけたのをヴィータが見かけた事から調べさせてもらった……だが私達も監視するうちに力のマテリアルに害はないと思うようになった時に封印破壊の命令がくだった。」

リインフォースを見ていた美沙斗はふうっとため息をつく

「後は想像つく……従わなければ、という陳腐な脅しでライをあの子達から引き離した。そこにきな臭いものを感じたが故に君達は表向き従い誰かが裏を探ったというところか。」

次の瞬間美沙斗の拳がリインフォースの頬を捉え殴りつける

「リインフォース!」

シャマルが支えヴィータが美沙斗を睨む

「今のはライが味わった痛みとなのはとフェイトちゃんの悲しんだ分の傷みだ。」

そう言って美沙斗はリインフォース達に背を向けてなのは達の下に戻っていった

局員達の連行を終えたクロノはなのは達の傍にいる仮面赤星に話しかける

「ところで君は何故僕たちを助けた?」

「私が助けたのはオリジナル達だけであなた達まで助ける結果になったのは偶然に過ぎません。」

そう言って立ち去ろうとした仮面赤星

「待て。君を僕個人の部下、補佐官候補としてスカウトしたい。」

「物好きですね。」

「だが代わりになのは達をすぐに助けれる……形式だけでも構わないんだが駄目か?」

しばし悩み仮面赤星は仮面を外す

「あなたが届かない闇を振り払うために……ですか?」

「ああ。」

すると彼女微笑みクロノに手を差し出した

「私は星光の殲滅者。元理のマテリアルです。今はセイと名乗っています。」

「管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。よろしく頼む。」

仮面赤星こと星光の殲滅者―セイとクロノは握手を交わした



海鳴市 高町家
夜になりようやく帰ってきたなのは達
今なのはとフェイトはライを挟むようにベッドで眠っている

(帰ってきたんだ……)

二人に抱きしめられたライは泣く

(お姉さま…姉さん……本当にありがとう)

静かにライは二人の額にキスをした

434イクスピアリ:2010/02/16(火) 10:39:43 ID:JbIcK7RM
以上です

なんと字数制限オーバーで4つにまとめたのが5つに……

5/4はそういう理由なのでお許しを……


次は闇王をどう出すか……

ホームレスで公園か八神家に居座ってるか……

436ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:50:37 ID:DY/PWfIk
えーどうも皆様、お久しぶりです。結構前に投下したぷよです。
なんか聞いたことある名前だなーと思って後で調べてみたら、ハルヒちゃんの作者と名前かぶってたことに気付き若干へこみ中。
そんなこんなで投下させていただきます。

437ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:51:59 ID:DY/PWfIk
 ナカジマ家第三女・ディエチと、第四女・スバル。
 この組み合わせで2人きりになるというのは、実はとても珍しい。
 まず、スバルの方に問題がある。彼女は他の姉妹達と違い、職場近くのマンションで独り別居中の身だ。
 レスキューの仕事は滅多に休みが取れないため、ここで他の5人と顔を合わせる機会が激減する。
 もちろんたまの休みの日には、家族と一緒に過ごすことも多いのだが、ディエチは大体、他のN2R姉妹と行動を共にしている。
 おまけにスバルも大体ノーヴェの方にくっついていくため、たまに顔を合わせることはあっても、2人きりになることはないのだ。
 故にこの日のように、ひとつ屋根の下に2人だけがいるというシチュエーションは、極めて稀なことなのである。



ご飯もトンカツも好きなのでカツ丼を作ろうと思ったら、何をどう間違ったのかご飯フライとでも言うべき微妙な料理ができてしまったでござるの巻



 ひた、ひた、ひた。
 軟質な足音がフローリングを叩く。靴下すら履いていない、素足のリズム。
 剥き出しになった太ももが、歩を進めるたびにしなやかに伸びる。
 すっと伸ばした右の指先が、冷蔵庫の扉を開けると同時に、左手が冷気を受けながら中へと入った。
 手探りで取り出したオレンジジュースを、テーブルの上に置いたコップに注いでいく。
 とく、とく、とく、と。
 窓から注ぐ陽光を反射し、きらきらと煌く透明ガラスが、鮮やかな橙色に染まった。
「もうちょっとちゃんとした格好をしなよ」
 そんな休日の光景を、ディエチはソファにうつ伏せで寝そべりながら、憮然とした表情で見つめていた。
「えー? いいじゃん、どうせ部屋着なんだし」
 悪びれた様子もなく、笑みを浮かべてコップを取るスバル。
 にやついた口元にそれを当て、中身をぐいっと飲み干した。
「それはまぁ、そうなんだけどさ」
 すっ、と。
 傍らの雑誌を手に取って、所在なさげに呟く。
 姉妹の誰かが買ったファッション誌のページを開いたが、それでもその黄金の視線は、青色の髪の義妹の方へと向けられていた。
 今日は珍しく、スバルと彼女の2人きりだ。
 彼女やギンガに比べれば、幾分か暇をもてあましているはずの3姉妹も、それぞれに事情があって家にいない。
 チンクは訓練校の特別授業を受けに行き、ノーヴェは急のバイトが入ってお仕事中。
 ウェンディもウェンディで、バイト先でできた友達と一緒に遠出をしていた。
 ギンガとゲンヤは言わずもがなで、どちらも108部隊で勤務中である。
 現在時刻にして午前11時。少なくとも午後にでもならなければ、誰かが帰ってくることはあるまい。
(どう接したらいいものか……)
 ふぅ、と。
 トレンドのワンピースの写真が載せられた、紙面の奥でため息をついた。
 正直な話、少々やりづらい。
 元々面と向かって話をしたことの少ない相手だし、おまけにウェンディ同様、テンションが高い方の人間である。
 根が大人しめなだけあって、このような相手と話すのは、苦手だ。
 いきなり一対一という状況に放り込まれては、何からどう話していいものか分からない。
 情けないことだ。
 自分がまともに人間社会でやっていくには、もう少し時間がかかりそうだな、と実感する。

438ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:53:17 ID:DY/PWfIk
(……それにしても……)
 そこまで考えたところで、改めてスバルの姿を見据えた。
 数十分前にシャワーを浴びたばかりの彼女は、どうしようもないくらいにラフな格好をしていた。
 布で覆われている部分よりも、肌色が露出している部分の方が多いくらいだ。
 上は黄色いノースリーブ。丈の短い布地からは、お腹どころかへそまで露出している。
 薄い生地を押し上げるのは、たわわに実った2つの果実。ぱっと見た感じからして、下にはブラジャーすら着けていないだろう。
 下も下だ。薄物の黒いハーフパンツは、バリアジャケットのズボンの丈とさほど変わらない。
 そのくせジーンズほど分厚くないので、尻から太もものラインが丸分かりになってしまう。
 扇情的を通り越して、官能的。
 異性どころか同性ですら、思わず顔を背けそうになるような艶かしい姿。
(自分がどう見られてるのか、自覚したことあるのかな?)
 両の頬に熱を感じた。
 鏡を見れば、そこにはほんのりと赤く染まった自分の顔が映るだろう。
 ディエチ自身も、決してスタイルは悪くない。
 だが、それもあくまで1つ下の五女・ノーヴェと同じくらいに過ぎない。どうしても目の前のプロポーションには負けてしまう。
 弾けるようなバストに、瑞々しいヒップ。
 首筋からウエストを経て爪先に至るまでの、さながら芸術品のように滑らかなライン。
 一体何を食べれば、あんなダイナマイトボディが仕上がるというのだろうか。
 肉体年齢は半年しか違わないはずなのに、一体この差は何なのだろうか。
 ああ、困ったなぁ。
 内心で呟く。
 そんなに挑発的な格好をされては、目のやり場に困ってしまう。
 そんなに無防備な格好をされては、耳まで赤くなってしまう。
 本当に。
 そんな格好をされてしまっては。
 

 ムラムラして仕方がないじゃないか――


「えっ……ちょ、ちょっとディエチ……?」
 スバルが異変に気づいたのは、ジュースを飲み終えたコップを食器洗い機に入れた頃のことだった。
 ソファから立ち上がったディエチが、自分の方へと歩み寄ってくる。
 それぐらいならどうということもない。至って普通の行動に過ぎない。
 だがこの気配は何だ。
 この全身からにじみ出る、怖気を誘う雰囲気は何だ。
 瞳は半ば据わっていて、普段以上に感情が読み取れない。意識があるのかどうかさえ、ぱっと見ただけでは判然としない。
 それでもその背後に揺らめく気配が、彼女に危険を訴え続ける。
 異様な気配を醸し出すその様が、スバルの受ける印象を一変させる。
 ただ歩み寄るのではなく、じりじりとにじり寄ってくるようだ。
 戦場ですら感じたことのない、全く未知のプレッシャー。
 殺気ではない。敵意すら感じられない。
 だがこの身に訴えかける違和感は何だ。身震いすら起こさせる凄みの正体は何だ。
 ごとりと音が鳴った時、自分が知らぬうちに後ずさっていたことを理解した。
 テーブルに尻をぶつけた時、瞬間的に追い詰められたと意識した。
 距離がゼロに詰まった瞬間。
 目と鼻の先まで迫ってきた瞬間。
 ディエチの細い指が伸びる。そっとスバルの顎に添えられる。
 少女の顔に影が差し。
 緑と黄金の視線が交錯し。
 次の瞬間。
「んんっ……!?」
 スバルの唇が、ディエチによって乱暴に貪られていた。

439ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:55:10 ID:DY/PWfIk
 肉と肉が触れ合う。
 赤と赤が重なる。
 強引に奪われたファーストキッス。
 がつがつと食いつくようなその様は、さながら獰猛な肉食獣。
 あまりの唐突さと荒々しさ故に、自分の生涯初の接吻の相手が、
 よりにもよって義理の姉になってしまったことを悟るまでには、それから更に数瞬の間を要した。
「んぷっ……む、うぅ……っ」
 そしてそれと同時に、肉壁をこじ開け侵入するものがある。
 ぴちゃぴちゃと涎の音を立て、絡み付いてくるのは舌。
 あたかも一個の独立した生命体のごとく、赤い軟体が口内を這い回る。
 唾液と唾液をかき混ぜながら。
 舌と舌を絡め合わせながら。
 甘美な飴細工を舐め回すようにして、スバルの口の中を蹂躙していく。
 ぴちゃり、ぴちゃりと。
 他に音を立てるものもない、2人きりの静寂の中。
 ただの水音に過ぎないはずのそれが、ひどく淫靡に艶やかに響いた。
「ぷはっ……」
 唇が解放され、口が空気を取り込むと同時に。
 ソファの柔らかな感触に、ぽふっと身体が包まれるのを感じた。
 テーブルからそこまで移動していたのにも、全く気づく余裕がなかった。
「はぁ……はぁ……」
 羞恥に頬を紅色に染め。
 荒い息を上げながら、眼前に佇むディエチを見上げる。
 さながら蛇に睨まれた蛙。
 否、百獣の王に睨みつけられた小さな鼠か。
 意識があるかどうかすらも怪しかった双眸が、今では獲物を前にした獣のようだ。
 前期型戦闘機人特有の金色の瞳が、その獣的イメージをより助長させている。
 動けない。身体に力が入らない。
 遠距離戦タイプの砲撃型など、その気になれば余裕で組み敷けるというのに、身体が言うことを聞いてくれない。
 その脱力を知ってか知らずか。
 身を屈める色獣の右手が、スバルのノースリーブシャツに伸びた。
 獅子が鋼の爪をもって、獲物の皮を裂くように、荒々しい動作で布地を剥ぎ取る。
 はちきれんばかりの2つの乳房が、ぷるんと外気に晒された。
 ぎょっとして目を丸くする。顔全体が赤熱する。
「ま……待って……駄目だよ、こんなっ……」
 おぼろげには察していた。
 だがこの瞬間をもって、それが確定事項として突きつけられてしまった。
 これから何をされるか悟ったスバルが、動揺も露わな声で制止をかける。
 しかし、それも今更なことだ。
 獣に言葉は通じない。
 実力行使を伴わない言葉で、この茶髪の猛獣は止められはしない。
 ぐに、と。
 ふくよかな乳肉が、歪む。
 ぎらぎらと眼光を輝かせながら、遂にディエチの右手が乳房を捕らえたのだ。
「あっ……」
 思わず、声が漏れる。
 反射的に、背筋が僅かにのけぞった。
 色欲の獣の手つきは繊細。
 獰猛な雰囲気とは裏腹に、極めて細やかな手つきと共に、スバルの胸を蹂躙する。
 ぐにゃりぐにゃりと歪む乳房に、痛みはほとんど感じない。
「くふっ、んん……ぅああ……っ」
 反対に鋭敏に感じられる快楽が、艶っぽい喘ぎとなって口を突いた。
 時に力を込めて勢いよく、時に緩やかだが的確な動作で。時には乳首を摘み上げ、親指と人差し指で扱き上げて。
 瞬間ごとに移り変わるパターンが、飽きさせることなく快感を叩き込んでくる。

440ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:56:36 ID:DY/PWfIk
 いかに色恋沙汰には疎いといえど、スバルとて自慰くらいは経験したことはあった。
 胸を揉めば性感が刺激される。身をもって効果を知っていたからこそ、ティアナにも執拗にセクハラを仕掛けた。
 しかし、今まさに己が身を襲う悦楽のなんとしたこと。
 自分の手で触れた時には、これほど感じることはなかった。
 否、自分に揉まれたティアナでさえも、これほどの刺激を得ることはなかったに違いない。
 自分自身の手慰みとも、はたまた冗談交じりの戯れとも違う。
 獣の獰猛性をもって襲い掛かりながら、しかし一流の技巧を駆使して責め立てる他者に、自分は犯されているのだ。
 ぴちゃり。
 水音と共に冷たさを感じた。
 感覚を訴える方向へと目を向ければ、そこには放置されていた右胸。
 粘性をもった透明な液体が、つんと隆起した乳首に降り注いでいる。
「ちょ、ちょっと! それは洒落にならな――んああぁっ!」
 制止の声も意味をなさず。
 焦燥の顔は快楽に歪む。
 スバルが言い終えるよりも早く、ディエチの口が乳首をくわえ込んでいた。
 乳飲み子のように、舐める。赤子よりも強く、吸い上げる。
 押し付けられた顔面が、さながら揉まれたような刺激を叩き込む。
 右手によって与えられるものと同等か、あるいはそれ以上の刺激だった。
 身体を陵辱する快感が、一瞬にして倍以上に膨れ上がった。
「ひゃうっ! はぁ、あっ! んううぅぅっ!」
 呼べば返る山彦のように。
 叩けば響く楽器のように。
 責め手が勢いを増せば増すほど、湧き上がる悦の悲鳴もボリュームを増す。
 もはや抵抗など不可能だった。
 ただただソファの布地を握り締め、喘ぎと共に首を振ることしかできなかった。
 一流の格闘戦力を有した陸戦魔導師も、この瞬間はただの小娘に過ぎない。
 茶色の尻尾を振る肉食獣に、むしゃぶりつくようにして捕食されるだけの草食動物だ。
 肉体を食い尽くす痛覚はない。
 精神を覆い尽くす快楽がある。
 暴力的なまでの悦楽の波濤に、弓なりにのけぞり返る肢体を、ただ溺れさせることしかできなかった。
「………」
 程なくして、それも終わる。
 前戯にはもう飽きたということなのだろうか。
 左胸を揉みしだく手のひらも、右胸に吸い付く唇も、ゆっくりとスバルから引き剥がされていく。
 しかし、それは幕引きを意味するものではない。
 これからメインディッシュにありつかんとするサインに他ならない。
 腰に添えられた両手の五指が、黒いハーフパンツを引きずり下ろす。
 視線も思考も蕩けきったスバルには、もはや制止の声すらかけられなかった。
 ただ荒い息を上げながら、下着ごとズボンが下ろされるのを、黙って見ていることしか許されなかった。
 ショーツと一緒に両足から引き抜いてしまえば、それだけでもう生まれたままの姿になってしまう。
 いかに身を覆っていた布が少なかったかを、頭の片隅で再認識させられた。
 裸に剥かれた彼女の前で、かちゃりかちゃりと金属音。
 ディエチの方を見てみれば、ジーンズのベルトを外す姿。
 やがて拘束が解かれた後、これまた内側のショーツごと、ズボンを潔く脱ぎ落とす。
 そして艶やかな湿気を纏った蜜壷を、スバルの股ぐらへと運んだ。
 仰向けの態勢からは、自分の股間を直接見ることはできない。身体を持ち上げるだけの余力も残されてはいない。
 それでも、太ももを伝う冷たさと粘り気が、我が身を這う愛液の存在を認識させる。
 短時間胸のみを責められただけで、これほどまでにしとどに濡れそぼっているという事実に、改めて驚愕させられた。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 さながら焦らすかのように。
 粘液と粘液が引き合うように。
 やがて、それも。
 ひとつに、重なる。
「くぅあああああぁぁぁぁっ!」

441ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:57:37 ID:DY/PWfIk
 怒濤のごとき衝撃が、スバルの下半身を貫いた。
 男性器を突き刺されただけではない。ただ女性器と女性器を接触させ、腰を打ち付けられているに過ぎない。
 たったそれだけのはずなのに、腰が砕けそうになる。
 鍛えに鍛えた肉体が、気を抜いた瞬間に突き崩されそうになる。
 猛烈な勢いの前後運動と共に、擦れ合うのは互いのクレバス。
 これまでなぞるだけどころか、一度たりともろくに触れられていなかった、彼女の急所中の急所。
 それは本能が待ち焦がれていた接触。
 されどこの身を震わすのは、その許容限界を遥かに超えた、想像を絶する悦楽の嵐。
 膣液が腹まで飛び散るのを感じた。口内が涎でべとべとになった。
 痛みとも悲しみとも異なる涙に、視界がじわじわと歪んでいく。
 そして。
 ぼやけかけた視界に、飛び込む影。
「んむぅぅっ!?」
 口が塞がれる。
 嬌声が相手の口の中に閉じ込められる。
 この局面にきて、再び唇を奪われた。
 絶頂寸前のスバルへと、ディエチが再びディープキスを仕掛けたのだ。
 腰をうちつける振動と、粘膜を摺り合せる感触。
 更に口の中をかき混ぜる舌先が、少女の昂ぶりを極限まで加速させる。
「ぷはっ」
 意外なほど、接吻は呆気なく終わりを告げた。
 それだけ相手にも余裕がなかったのかもしれない。
「ハーッ……ハーッ……ハーッ……」
 それは密林に潜む豹か、はたまたサバンナで獲物を貪るハイエナか。
 これが人間の吐息なのかと、一瞬スバルは我が耳を疑った。
 低く唸るようなブレスは、黄金の瞳の獣が放つもの。
 口から漏れる息すらも、まさに餓えた野獣のそれに他ならなかった。
 ぎらぎらとした視線を向けながら、腰の律動が速さを増す。
 男女の絡みの正上位にも似た姿勢で、もたれかかりながら腰を打ち付けてくる。
 長袖のシャツの生地越しに、乳房が乳房に押し付けられた。
「あっ! はぁっ! はんっ!」
 声の間隔が短くなってくる。終わりが近いという何よりの証拠だ。
 玉のような汗を振りまきながら、短い髪を振り回しながら。
 もはや無理やり犯されているという状況すらも忘れ、ただひたすらに乱れ狂う。
 身体と身体が擦れ合いもつれ合い、互いの体液でぐちゃぐちゃに濡れる。
 駆けるは電光。
 舞うは電流火花。
 快感が稲妻となって神経を疾走し、光の速さで全身に伝達。
「ぁ、く……ふぁ、あああああぁぁぁぁぁっ!!」
 ぐわんと背筋が一層しなった。
 ぐっと瞳が硬く閉じられた。
 ディエチの背中にしがみつきながら、布地越しに肌を引っかきながら。
 極大の浮遊感と共に。
 脳を焼ききらんばかりの熱量と共に。
 この日スバル・ナカジマは生涯で初めて、他者との行為による絶頂に達した。


「本っっっ当にごめんなさい……」
「あーいや、その、別にそんな気にしなくてもいいよ。怪我させられたわけでもないんだし……」
 ナカジマ家の一室での痴態から数分後。
 むんむんと女の匂いの立ち込める室内では、すっかり正気を取り戻したディエチが、スバルの目の前でひたすら謝り倒していた。
 下手をすれば土下座までして、おまけに床に額をぶつけまくるんじゃなかろうか?
 犯されてしまったのは確かにショックだが、ここまで謝られるのを見ると、逆に相手のことが心配になってくる。

442ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 18:59:28 ID:DY/PWfIk
「えーっと……その、何であんなことになっちゃったの?」
 そこで思い出したように、問いかけた。
 ともかくも、今は彼女の頭の運動を中断させたかった。
 とはいえ、その答えが気になるのも確かである。
 同性相手に性行為に及ぶのも十分普通ではないだが、あの時の雰囲気はそれに輪をかけて異常だ。
 レイプされたことなどこれが生涯初めてだが、そこらの強姦魔ですら、あそこまでおかしな気配を漂わせてはいないだろう。
「実は、その……あたしがまだ、ドクターの所にいた頃の話なんだけど……クアットロっていたじゃない」
「ああ、あの眼鏡の?」
 今は軌道拘置所に収監されている、かつてのナンバーズの作戦参謀の顔を思い出す。
 直接顔を合わせたことはないが、恩師・高町なのはいわく、人を弄ぶことを楽しむ陰険な女なのだそうだ。
 目の前のディエチとは、ポジションの都合でよくセットで運用されていたことも、ディエチ自身から聞いていた。
「出撃がない時とかに……その……彼女にしょっちゅう……調教、されて……」
「それで、えっと……いわゆる、レズビアンになっちゃったってこと?」
「いや……多分、バイなんだと思う」
「んっと……ああ、そういうことか」
 最後の単語は一瞬意味を図りかねたが、程なくして何となく理解できた。
 恐らくバイというのは、レズのように女性のみが好きというわけではなく、男も女も両方好きということなのだろう。
 しかし困った、実に困った。二重の意味で困ってしまった。
 真っ当な人間に更生するためのプログラムを受け、それを修了してきたはずのディエチだったが、よもやこんな爆弾を抱えていようとは。
 そしてもう1つ。クアットロの性格を省みると、生々しく想像できてしまうからたちが悪い。
 比較的常識人に当たる彼女の理性すら超越し、条件反射的に本能が性交に向かう――神業をも超えた魔技の領域だ。
 その手の筋においては大層重宝するだろう。
 もっとも、こんな厄介極まりない特殊能力、神業なんて呼んで崇めていいものでもないのだが。
 ともあれそんな風にして、情交が身体の隅々にまで染み込んでいるほどである。
 夜な夜な繰り広げられていた調教とやらは、現在進行形で想像するものよりも、実際は更に壮絶で凄絶なものだったのだろう。
 こんな自分と同年代の少女に、それこそ15かそこらの頃に、それほどの調教を叩き込んでいたとは。
 むかむかと怒りがこみ上げてくると同時に、ディエチに対して同情した。
 それでもまだ男嫌いになっていなかったのが、せめてもの救いなのだろうか。
「それで、他の姉妹……ノーヴェ達に対しても、こんなことがあったりしたの?」
「いや。さすがに血の繋がった家族には、クアットロみたいに襲われでもしない限り、欲情できないし」
 肉親には、ねぇ。
 ほんの少し、笑顔が引きつる。
 となると欲情された自分は、まだまだ家族として認識されていないということか。
 一緒に暮らすようになって、それなりに壁もなくなってきたと思っていたのだが。
 やはり日頃ノーヴェやウェンディとばかり絡んでいて、ディエチとはあまり面と向かって話さなかったのが悪かったのか。
 もう少し、彼女とも色々と話をすべきだったのかもしれない。そうなればそこはスバルの落ち度だ。
「このことは、他のみんなも?」
「うちにいる分では、チンク姉だけが知ってる」
「じゃあ、他のみんなには黙っておくから、今後は気をつけるように……ね?」
 ギン姉にも薄着は控えるようにと、それとなく忠告しておかないとな。
 こくりと小さく頷くディエチを前に、そんなことを思っていた。


 それから更に5時間後。
「ただいまーッス。……あれ? なんかソファの模様が微妙に違うような?」
「気のせいだよ、きっと」
 汁まみれでぐちゃぐちゃになったものに代わり、大急ぎでホームセンターで購入し引っ張ってきたソファがそこにはあった。
 前のソファは即刻廃棄されたとか。合掌。

443ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 19:03:09 ID:DY/PWfIk
投下は以上です。
スバルが好きで、ディエチが好き。だからってそんなホイホイとカップリングSSが浮かぶわけじゃない。
要するに、そんな話。

もうちょっと他の書き手諸氏のように、色々エロい単語が使えたらなーと後悔しております。
どっちかというと、バトルかホラーみたいな感じになっちゃったし。
某完全独走で超変身なヒーローモノで、○ロンギが暴れまわるシーンの曲をBGMに濡れ場を書いてたら、こんなことになっちゃったでござる。
グ○ンギならぬエロンギですね。うん、さっぱり上手くない。

444ぷよ ◆aWSXUOcrjU:2010/02/16(火) 20:07:08 ID:DY/PWfIk
あ、注意書き必要だったのね。失念。そして申し訳ありません。

445名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 20:21:07 ID:nheq1.Yc
ナカジマ家SSはやはりいいものだなGJ

欲を言えばトーマがまだか、といいたいがいつから居るのかわからんよな

446Foolish Form ◆UEcU7qAhfM:2010/02/16(火) 20:33:16 ID:4Zhl7vC2
>ぷよ氏
アンナアルンゲンナデカャール!!
……あ、間違えた。とにかくGJ!(ぇー
いやいや、エロ単語はむしろこちらが参考にさせて貰いましたよ。
直接的なのしか書かないから読み返すと首を吊りたくなる(遠い目

***

『狂宴』ですが、何かちと延びそうです。
「おめーも触手書け」って言われちった。なんなんだ「も」って。
あと、はやユノだけじゃなくてイクスバも書いてるよ!
前に書いたロストロギアのせいでスバルがちっちゃくなっちゃうよ!?
全部書き終ったら怒涛の更新だよ……!!

447名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 20:50:37 ID:4ehp3Il.
>ぷよ氏

ディエチが攻め!?
なん……だと……

新たな境地を教えてもらったようだ。GJ!

448名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 22:38:09 ID:2EmZfD9Q
シガー兄貴の老拳士の続きが読めて本当に嬉しいです! 次回スパーダのキチ●イぶりに期待!
それにしても、最近のここの活気は凄いです。

449シロクジラ:2010/02/16(火) 23:15:39 ID:KNYFetEc
うわーあんちゃん、シリアスとかエロとかほのぼのとか、すごくたくさんあるのぅ。

特大にダークなお話を一つ。
・残虐表現盛りだくさん
・キャラの暗黒落ちあり
・ゼスト無双
・ナンバーズ死亡多数。これからも増える。

NGは「槍騎士“悲愴”」で。

450槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:17:52 ID:KNYFetEc
槍騎士“悲愴”
中編


夢を見るのは、生きとし生けるものすべてに与えられた、極めて非創造的で素晴らしい行為だ。
思想家も革命家も労働者も資本家も、人間も戦闘機人も使い魔もプログラムも、すべての人格存在に認められた行為。
そうだ――きっと、きっと、私の夢は叶うと信じている。信じることを、私という存在は実行している。
一度は殺し合った正義と悪も、傷つけあった人造生命と人間も、何時か分かり合える日が来ると、そういう夢を信じている。
それはこの決戦の勝ち負けに関係なく、ドクターが勝とうと管理局が勝とうと訪れるのだろう。
世界は優しい。いつかきっと、時を経た生命は、罪も咎も赦してくれる。
修復ポッドの中で夢を見る私。私を隻眼にした騎士は、何時か言っていた。

『……愚直だな。お前の願いは純粋すぎる』
『いつか裏切られる、いつか信頼は朽ち果てる、それでも信じるのか?』

――信じるよ。
私は、機人として生まれたチンクは、そういう希望を夢見たい。
未来を願おう。きっとあの騎士にも、せめて願った正義を果たせる未来が来ると信じよう。
それは――――きっと、とても素晴らしいことだから。





願いは残酷である。
チンクが決して知らない事実がある。
彼女が殺し創造主が蘇生させた男は、蘇生時の改造の結果、もう夢を見ることも出来ないのだ。
チンクが見たその尊い夢は光であると同時に、二度と叶わない希望を嘲笑うかのごとく、残酷極まる声なのだと。

“悪夢しか残らない”。

そういう夢もあるのだと。





  燃え尽きた残骸にもなお、僅かに燻る火種があるように。
  爆ぜる狂気の裏側には忘れえぬ幸福が刻まれていた。
  それを理解できる人間がいないだけで。
  確かに、そこにある記憶。


  男自身にも、理解できないけれど。




451槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:18:50 ID:KNYFetEc
「――死ね」

ゼスト・グランガイツの死に満ちた言葉――ノーヴェは生への渇望から殴りかかる他ない。
まるでそれから行う行為を予告するように、悲鳴のような声を上げて。
だから。

「あ、あああああああぁああああ!!」

ゼストの冷徹な目は死を実行するべく、ノーヴェの拳をズタズタに刈り裂いた。
鋼鉄のナックルが寸断され血の飛沫が溢れ、肉が抉られ機械化フレームが捩れて軋む。
繰り出される刃はV字の斬撃。それだけでノーヴェなる機人の少女の身体は分割され、背後にあった装甲車は爆発炎上した。
綺麗に脊柱を中心とした正中線と四肢が別れを告げ、機械化された部位のスパークと血流が噴出し、炎を焦がす汚物と成り果てる。
血煙が炎によって汚泥の一部となり、どくどくと血液を流しながら、ノーヴェの生体脳を積んだボディは倒れ込んだ。
その顔は泥と流した血に塗れ、悲痛な感情に歪んでいた。もう立つことも出来ず、内臓型機関の機能低下も著しい。
己はもう死ぬのだと悟ったから、ノーヴェはあくまで祈ることだけを考えた。
もうすぐ死を迎える自分を、既に死を迎えた姉妹たちを、――悼むように。
だが、瞼を閉じようとした彼女に安堵は赦されず。
ただ男の燃える相貌が、砕け散った心の覗く虚無の双眸が焼きついた。

「祈るか、戦闘機人。悲嘆しろ、貴様らに祈るべきものは残さない。死を悼むものは残さない。
元々あった鉄屑と、タンパク質の残骸……それだけ。あるべきものを、あるべき虚無へ戻すだけだ」

なんだよそれ――口答えも出来ずに、失意の淵でノーヴェという人格は死んだ。


あるいは、得られたかもしれない救い。
その安らぎさえも踏みにじり、ゼスト・グランガイツは“微笑んだつもりだった”。
もう、笑うことさえ忘れてしまったけれど、彼はひどく――救われていたから。
残酷な死の化身が、次なる獲物を求めて目を眇めた。
通信機をデバイスの演算機能で侵略し、情報を収集する。
その結果として、彼は飛翔する。


聖王のゆりかごは機能を停止した後、次元航行艦隊の集束砲撃で撃沈。
戦闘機人二名、人造生命「聖王クローン」を確保した機動六課メンバーのいる場所を特定。
その過程でルーテシア・アルピーノのいるエリアを通り過ぎるという事実さえ、ゼストを喰らった虚無にはどうでもいい。
案じていた理由さえも、今は虚無を求める暗黒に飲まれていたから。





ルーテシア・アルピーノは優しい少年と少女に助けられ、ようやく未来を掴むことが出来ると、――こんな自分でも生きられると信じていた。
母親を眠りから覚まし助けるためにと、押し殺してきたすべての情動を解放され、少女は泣くことや声を押し殺すことを覚えていた。
泣き止んで、涙を払って。彼女はようやく前を見据えて――ふと、ゼストに通信を試みようと思った。
思い悩んだ末の答えとして、臆病な心を叱咤して真実を求め、二度と戻らない覚悟を身に纏った男へ。
空間モニターの起動音と、受信を待つ間の沈黙が、ひどく苦しかった。
受信。空を飛ぶゼストの姿――その無骨さに、少女は安堵していた。

《……ルーテシアか》
「ゼスト……アギトは?」
《……別所だ。安心しろ、生きている》

452槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:19:53 ID:KNYFetEc
奇妙な違和感を覚える。ルーテシアを見るゼストの瞳には、それまで見られた優しさも不安も見受けられず、
ただただ彼女という“存在”を認識する冷徹な知性のみがあった。一瞬、怖気を覚えながらも、ルーテシアは言った。

「ゼスト……私、負けた。でも大丈夫……きっと、前に進めると思う」
《そうか。お前は――――そうなのか》

すれ違っている? 異常なまでに、ゼストは“変わっていた”。
ただ、ルーテシアは思い出して欲しかったのだ。
たとえ残り少ない命であっても生きることが出来るはずだと
なのに、彼は他人事のように、冷たい言葉を返すばかり。
幼い情動は、気づくと親代わりだった男に叫んでいた。

「――っ! ゼスト、ゼストも生きて! きっと、未来は私たちにもあるからっ!
お願い、私のために――」

――生きて。

そんな願いに対し、変わり果てた男はこう応えた。

《まだだ。俺は殺し尽くす。そのために、土塊同然の命を削る。ルーテシア、》

呪いのように淡々と。
祝いのように心を込めて。
だからきっと、それは真実だった。

《――――お前は生きろ。この世に存在する幸福がまやかしでないと信じろ。
俺は殺す。奪われた全てと等価にするために――奴らに未来を与えぬために》

誰にも制御できない……何人(なんびと)であろうと触れることも赦されない、凝縮された『悪』がある。
慟哭することさえも出来ない男は、身に余る虚無を撒き散らすためだけに、そこに存在している。
それを、男の人格を飲み込んだ“ナニカ”を感じ取り、ルーテシアは凍りついた。


通信が、切られた。




453槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:22:15 ID:KNYFetEc
次元犯罪者ジェイル・スカリエッティは、Fの遺産――テスタロッサに捕らえられ、己が企てた陰謀も潰されたことを知った。
聖王のゆりかごは沈められたし、可愛いルーテシアも精神制御から解放されたようだ。
あの面白みのない騎士は、勝手に真実を知って自滅したことだろうし――ああ、なんて面白みのない結果だ。
そのように自分勝手な理由で世界に失望していると、テスタロッサ執務官が慌てて空間モニターを開いていた。
いったいどうしたんだね、と口を開こうとすると……突然、研究所の通信モニターが点滅し、奇妙な光景が映し出された。
一面を覆う焔と、グチャグチャに捻れた車両の群れ。それらを背景に映る、肉で出来た顔のようなもの。

《ぎゃぁっ……ど、ドクター、ドクタァァ!》

まず、悲鳴に良く似た声が聞こえた。それはゆりかごの指揮を任せた娘、クアットロのもので……。
画面に映った彼女の様子は残酷無残であり、テスタロッサなどは目を背けている。
なぜならば――眼球のあるべき部位を一文字に裂傷が走り、ドバドバと血の飛沫が溢れ出て、四肢は全てが圧し折られ、人体としての機能を為していない。
にもかかわらずおぞましいのは、彼女がそれでも生かされていることだった。
首根っこを掴まれて無理矢理画面と向かい合わられたクアットロは、痛みに耐えている――涎と鼻水が悲鳴といっしょに溢れているが。

《こ、こいつがァァ! わだじを》

首根っこを掴んでいた、しわの寄った男の手がクアットロの顔をアスファルトに叩きつけた。
びしゃり……と血の飛沫が上がり、「ひぎゃ」とくぐもった声が上がる。
暗色の固い道路に広がる、赤黒い血溜まり。混じる白いものはおそらく歯だろう。

《黙ることを覚えろ。所詮は傀儡か》

画面から遠ざかったクアットロに代わり映ったのは、顔に無表情を貼り付けた壮年男。
茶色の髪、暗褐色の瞳、しわがれ摩耗したような顔――全身に擦り切れたコートと装身具を纏った騎士――古代ベルカ式魔導師。
その男の名を、スカリエッティは知っていた。その騎士が誰なのかを、フェイトは把握していた。

「騎士ゼスト、かね……?」
「ゼスト・グランガイツ三等陸佐!?」

言葉に対しゼストは無反応。
クアットロの――今やISの使用も出来ず地を藻掻くのみの存在だが――首を再び掴むと、その耳元でこう囁いた。

――俺の部下たちに懺悔しろ。そうすれば、命だけは助けよう。

激痛と驚愕に支配され、もはや身動きひとつままならない戦闘機人は……。
プライドで脆い自我を固め、高慢に振舞っていた彼女の心は、折れた。

《……ずいまぜん、ごめんなざい……わだじが悪かっ……だ、です……絶対に、絶対にバカにしてまぜんがらぁ……!
い、いのちだげは、だずげてくだざ、い……》

懺悔でありみっともない哀願であり、戦士の矜持など欠片も存在しない声。
それを聞き届けた騎士は誇るでも嘲笑うでもなく、ただぽつりと呟いた。

――こんな“モノ”が、か。

男の手中に音もなく実体化するのは、漆黒を塗り固めたような大槍――捻くれた刃の兇器。
両目を潰されたうえ、精密機器であるIS発動機を破壊され、センサー系統も混乱したクアットロはそれを理解しえない。
だから、だろうか。傍から見れば滑稽なほど、少女は一縷の生存の可能性に縋っていた。

《ごめん、なさい……わだじは、》

454槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:23:56 ID:KNYFetEc
それはフェイクか、それとも心からの懺悔だったのか。
あるいは真実そうなのかもしれなかったが、ゼスト・グランガイツの心を喰らった真っ暗闇は。

“理解を必要としない”。

画面に映る光景が何を意味するのか――ようやく悟ったフェイトの声が、甲高く響いた。

「やめて――――――」

《冥府でわび続けろ。至福だろう?》

呪いのように口ずさむ、ただ一振りの禍つ風。
振り下ろされた黒刃が少女の頭蓋をバターのように両断し、その苦しみは終わりを告げた。
――醜く食い散らかされたような、機人の死骸を除いて。

《刮目し待て。貴様らに安住はない》

通信が切られた。





  夥しい死があった。

  正義は意味を為さず。
  死に意味はないと悟り。
  ならば罰を望む。  
  せめて罪に報いはあると。
  悪に裁きはあるのだと。
  そう信じたかった。

  けれど。

  そうはならない。
  絶対に。
  優しい世界は許容する。
  罪があろうと生きる者を祝福するのだ。  




455槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:25:50 ID:KNYFetEc
戦闘機人クアットロ――四肢破損、眼球裂傷により失明の末、頭蓋両断で即死する。
戦闘機人ディエチ――固有兵装を奪われ拘束済み、無防備の状態で内臓器官を破砕され、ショック死。
創造主ジェイル・スカリエッティのクローンを胎内で育てると言う歪んだ目的を与えられた少女たちは、
一欠片の救いさえも赦されず、二度と動かない肉と鋼の塊となって横たわっていた。
燃え爆ぜる合成燃料の悪臭の中、動くのは正義を信じる若者たち――あるいはかつての自分を見るような心境。
青い髪の少女――おそらくはクイント・ナカジマの二人の娘の片割れ――が、涙を流して己を睨む。
金色の瞳への変色……たしかに、彼女は機人だった。

だが殺さない。それが一つの行動理由ゆえに。

「なんで、」

あまりにも、理解されることのない理由。
きっと、自分は二度と戻れないのだから。
あるいは刻むために。

「どうして、まだ殺す!? 何も戻らないのにっ!」
「取り戻すつもりはない、のだ」

思い出す。
急に出来た二人の娘に戸惑い、それでも愛情を持って育て上げた戦士のことを。
それを心から喜び、家族と認めた男との幸福を。

「奪われたすべては虚無へ還った」

思う。
もし神がいるのなら、何故あれらを生み出したのかと。

「ならばせめて、奪った者たちもそこへ還す」

思う。
もし正義があるのならば、何故自分たちでは駄目だったのかと。

拳がゼストに迫る。おそらく一撃必殺の素早さで。
シューティングアーツ。彼女が使い、娘へと継承された技。

456槍騎士“悲愴”:2010/02/16(火) 23:26:29 ID:KNYFetEc
「……そんなの、間違ってる……」

目を細め、ゼストは思う。

「母さんは、そんなこと望んでないのに!」

――だろうな、と。
拳以上の速さで繰り出され、間合いの上でも優る予備動作の無い膝蹴り。
外見上からはわからないがフィールド魔法で防護された腹部へ鋭く打ち込まれ、圧倒的な衝撃として少女を吹き飛ばす。
弾き飛ばされた少女に聞こえるように、ゼストは声高に告げた。

「当然だ。死者は語らない、死者は笑わない、死者は望まない……これは俺の……」

きっと正義は振り向かない。
自分の心は凍ったままで。
砕け散った。

「……報復、なのだろうな。この世界の優しさが、一欠けらでもあったならば」

――部下たちだけは、生きていたなら。

いいや、一抹の裁きと報いが、己らが死してもなお存在したなら。
こうはならなかったに違いない……無意味な仮定だったが。

「そうはならなかった……だから、殺す」

正義さえ失った虚無の果てに、男はそう言い放ち飛び去った。
悲愴なる暴虐は、終わらない。

457シロクジラ:2010/02/16(火) 23:32:05 ID:KNYFetEc
あとがき

Q:俺の夢に何をするだぁぁぁ!
A:「選んで殺すのが、そんなに上等かね?」アイムスィンカー

大丈夫、貴方の嫁のナンバーズがお亡くなりになってても、大丈夫!
たぶん次回で作者のお気に入りも犠牲になるから!
・・・orz


そういうわけでひどい話です。
でもまあ、2010年を迎えて、作者的に一つの節目だったり。
胸に渦巻いていたSTSの「なにそれ?」感を形にしてみました。
まだ続く。その果てまでご覧あれ。


追伸
だがTSとかひどいギャグとか書いてるときと人格同じだろうか――

458名無しさん@魔法少女:2010/02/16(火) 23:34:02 ID:4ehp3Il.
ディエチ……………泣

ああああ、しかし、SSとしてはGJ!
なに、このジレンマ。

459名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 00:27:10 ID:Ye3FVh/.
うわ、クア姉がシグルイっぽい展開に…

むーざん むーざん
根性曲がりの 第4女 ずーんずん
ゆりかごの 指揮をとったら
あーかいまがくし咲いた

460名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 01:48:13 ID:SEtUqMOU
GJ!!
ゼストの復讐……お見事!お見事にございまする!!w
復讐ってのは、救いがない方がいいですね。
ただただ、得るものなんてないのは分かってる。
しかし、やり返すってのがたまらない。
>>459
ゼストが槍で星流れしてんのを想像しちゃったよw
腕とか圧し折ったのは虎拳で。

461マルチマックス:2010/02/17(水) 02:50:10 ID:z7PdK/rg
深夜に失礼します。
本当にご無沙汰ですが、以前、こちらで「復讐鬼」という陵辱SSを投下していたものです。
フェイト、はやて、なのはと続けるはずがフェイトが終わったところで中断しておりました。
間が空いたので完全に忘れ去られていますよね。
以前投下したものは保管庫で確認していただくとして、続きを投下させていただきたいと思います。

※注意
陵辱モノです。
オリジナル設定、というかアニメ以外で公開された情報のために不具合が多少出ています。
陵辱する側はオリジナルキャラになります。

これらが嫌いな人はNG設定をお願いします。

462復讐鬼・はやて陵辱編①:2010/02/17(水) 02:51:33 ID:z7PdK/rg
フェイトらが行方不明になり、数日が過ぎた。
懸命の捜索にも関わらず、5人の所在は未だに分からず……。
管理局の内部にも、最悪の可能性を口にする者も現れだした。

当然……彼女たちと深い繋がりがある者は日に日に焦りを募らせていった。

「大丈夫だよね、みんなは?」
「あたりまえや。例え何が起こったとしても、みんなが切り抜けられない事態がそうそうあるとは思えへん」

空き時間の全てを、仲間の捜索に費やしているなのはとはやてにも、さすがに疲労の色が隠せない。
彼女たち程の実力の持ち主が、全力を尽くしても仲間の行方は杳として知れなかった。

「わたしより、はやてちゃんの方が情報は入ってきてると思うんだけど、何か聞いてない?」
「それを言うなら、なのはちゃんの方が現場に出ている人との接触は多いやろ? 何も情報はないんか?」

幹部候補として、仕官訓練を受けているはやて。
戦技教導官として、実戦に身を置くなのは。
2人の役割は自ずと違っている。

「はぁ……ダメかぁ」
「世の中うまくはいかんなぁ」

本来、一番バランスよく情報を仕入れられるのはフェイトなのだろう。
でも、彼女は行方不明。2人の間に入ることも多かったフェイトがいなくなり、なのはとはやての間もぎくしゃくすることが増えていた。

「今日の勤務は終わりだから……わたしはまた探しに行くね」
「そうやな。わたしも色々と調べてみるわ」
「約束だよ? 何か分かったら、すぐに連絡ちょうだいね?」
「当たり前や。なのはちゃんも、何かあったらすぐに連絡するんやで?」
「もちろんだよ。じゃあ、また後でね!」

「はやっ!!」

あっという間に、空へと消えていくなのはを、はやては呆然と見つめていた。
あれ程の行動力は、仕官候補として慎重な動きを求められる今のはやてには発揮できない。

(言い訳やな)

もしも立場が逆でもなのはは、ためらわず仲間のためにああやって空へ飛び出していくだろう。
それをしないのは、自分が結局組織に組み込まれている証明。

だからこそ、はやてにはなのはが眩しかった。

「わたしも……自分を取り戻さなあかんな」

はやては、ポケットの中にある紙を握りつぶす。
なのはの言う通り、幹部候補生であるはやてだからこそ得られた情報がある。

いや……。
正しくは幹部候補生であるはやてにのみ伝わるように仕組まれた情報があった。

『一人で来い』

はやてに指定された場所は……以前、フェイトとなのはと共に出向いた場所。
アルカンシェルで焼き払われたあの島だった。

「罠……やろうな」

そんなことは百も承知のはやてだった。
それでも行かなければならない。
大切な仲間を救うために。

「リィン。わたしに何かあったら頼むで……」

今の時間、はやてがいなければならない場所ではリィンが様々な対応に追われている。
一心同体。それが理解されているからこそ、自由に動ける時間ができる。
もうしばらくはやてが戻らなくても、誰も気にもとめないだろう。

「いこか」

発光と共に、はやての姿がバリアジャケットに変わる。
幹部候補生になってから、めっきり着ることが少なくなった。
それでもこれははやての大事な『甲冑』だ。
身を包めば、一人の戦士に戻ることができた。

「帰ってくるときは……みんな一緒や」

軽やかにはやては地面を蹴ると、久しぶりの大空へと飛び立つ。
だが、はやての願いは叶うことは無い。
もう二度と……はやてがこの場所に戻ってくることはなかったのだった。

463復讐鬼・はやて陵辱編①:2010/02/17(水) 02:52:56 ID:z7PdK/rg
「ひどいもんやな……」

指定された場所に降り立ったはやての第一声だった。
はやてでなくても、他に形容する表現はなかっただろう。
アルカンシェルによって焼き払われた島は、その表面にあったものが全て失われていた。
焼け焦げたなどという言葉さえも生ぬるい。
そこにあるのは、厳然たる破壊の跡だけであり未だにその爪あとは痛々しく残されていた。

「あんなもん……撃たずに済むに越したことはないんや」

あまりに強力な魔道兵器の存在はいつでも賛否を呼ぶ。
だが、その威力ゆえに発揮される抑止力の存在を、幹部候補生でもあるはやては無視できない。

「わたしも、似たような存在やしな」

『デバイス』そのものの力で言えば、おそらく管理局どころかこの世界でも最強クラスの力を誇る『夜天の書』。
その持ち主であるはやても……管理局の切り札であり同時にその力を知る闇の犯罪者達への抑止力でもあった。

「で? 隠れてないで出てきたらどうや?」

死の気配しかないはずの島だからこそ、イヤでも分かる。
そこに蠢く『生命』の気配。
そして、本来陰陽で言えば『陽』であるべきはずの生命が、嫌悪を催すほどの『陰』の気配であることもはやては感じていた。

「やっぱり……あんた達か」

遠めには森に見えたかもしれない。
だが、その幹と勘違いする部分はおぞましいぬめりを持った生き物の身体。
そして、その枝葉は大小さまざまな形を持ったいわゆる触手の集合だった。

「全部焼き払ったと思ったんやけどな。あんたが連れてきたんか?」

はやての視線は触手を持つ魔物の大軍を通過し、その先に向けられていた。
『陰』の気配の中に、たった一つ潜む『陽』の気配を持つ存在がそこにはいた。
だが……その表面から発せられる気配は、魔物以上の負を感じさせる。

「ほう。気配は完璧に隠したつもりだったが……」

魔物の影から姿を現したのは、体躯のいい一人の男だった。

「招待状の差出人はあんたか?」

はやては取り出した一枚の紙に折り目を入れながら男に語りかける。
それはやがて飛行機の形を取り、はやての手から離れ男へと飛んでいく。
魔力も与えられていないのに、その飛行機は正確に男にたどり着いた。

「そうだ。わざわざご足労いたみいる」

男は紙飛行機をキャッチすると、恭しくはやてに向かって頭を下げる。
その仕草は場に似つかわしくなく優雅だった。
後ろに控えた、おぞましい魔物たちがいなければはやてを舞踏会に招いた貴族……と言っても不思議が無いほどに。

「本当に一人で来るとは感心だな」
「わたしは、約束を守ることをモットーにしとるからな」
「なるほど。さすが、将来人の上に立とうという者。いい心がけだ」

薄く笑う男を前にしても、はやては探知魔法を使うのをやめていなかった。
はやてがここにきた理由。それは、行方不明の仲間の救出以外にはないのだから。
だが、はやての探知魔法を持ってしても……目当ての手がかりを探ることはできなかった。

「探知魔法に引っかかるような無様なことはせんよ」
「お見通しか。さすがやね」

細心の注意を払ったはやての探知魔法を察知するのは容易ではない。
それを見破る時点で、男の実力は……はやてに劣らぬレベルにあることは間違いなかった。

464復讐鬼・はやて陵辱編①:2010/02/17(水) 02:54:27 ID:z7PdK/rg
「教えてくれるつもりは?」
「条件次第だな。お前が無条件降伏し、さらに高町なのはを差し出せば……考えてやらないでもない」
「随分と欲張りな要求やなぁ……」

はやてが二つのデバイスを構える。
いきなりの交渉決裂。それが行き着く先は一つしかなかった。

「欲張りなものか。お前達が奪ったこの地の我の仲間の命を考えれば安いくらいだ」
「やっぱり……あの一件の生き残りなんやな」

予想できていたこととはいえ、はやては唇を噛み締める。
そんな男が自分たちを狙う理由はひとつだけ。復讐と考えるのが妥当だろう。
男の目的が復讐である以上、取引での仲間の解放は不可能であることを悟ってしまう。

「仮に、や。もしもその要求を呑んだら……わたしやなのはちゃんはどうなるんや?」
「聞くまでも無かろう。女として生まれたことを後悔するほど……死すら生ぬるい目に遭ってもらうだけのことだ」

男の言葉の意味が分からないほど、はやては子供ではなかった。
そして……その言葉は、すでに男の手に落ちているであろう彼女の仲間がそういう目に遭っていることを意味しているに等しい。

「我は復讐のターゲットを、あの夜空に浮かんでいた三人の女に定めている」
「そちらから手を出されなければ……他の者に危害を加えるつもりはない」

言葉を失い、俯いたはやてに向けて男は抑揚の無い声で告げる。

「どうだ? 管理局の幹部候補として、その二名の犠牲で他の犠牲を食い止められるのであれば悪い話ではあるまい?」

決断を迫る男の声に、はやてが重い口を開いた。

「そうやって、管理局(うち)のお偉いさんにわたしを売らせたわけやね?」
「察しがいいな。だが、上に立つ者として、この判断は間違いとは言えないだろう」
「損得勘定が得意なところは、あんたと気が合いそうやね、あのおっさん達……」

はやてにデバイスを降ろす気配は無い。
男の言葉を聞き入れる意思がないことは、それだけで十分に伝わる。

「でもな? わたしは管理局のそういう体制を変えたくて士官候補生をやっとるんや」

一言発するたびに、はやての周囲に魔力が満ち溢れていく。
普段は、その大きすぎる力ゆえに魔法を使う状況を限定しているはやてだったが……。
今は、その限定の全てを解除していく。

「あのアルカンシェル発射の件も……あんたに理があるのは知っとる。腸煮えくり返っとるやろうな」
「そこまで知っていて、責任も負わずに我に手向かうのか?」
「……責任は、ここであんたに屈することや無い。生き延びて……仲間と一緒に管理局を変えていくことや」

はやての足元に魔方陣が幾重にも形成されていく。
夜天の魔道書も、騎士杖のシュベルトクロイツも輝きを増していく。

465復讐鬼・はやて陵辱編①:2010/02/17(水) 02:55:40 ID:z7PdK/rg
「なあ。虫がええのは分かっとる。でも……わたしを信じてみる気はあらへんか?」
「なるほど。もしもあの時、お前が力を持っていれば我の運命も変わったかも知れぬな」

男の負の気配が、わずかに緩む。
フェイトも、はやても本来ならば、この島を理不尽に潰す考えの持ち主ではない。
もう一人の少女、高町なのはさらにそれを望まない人間であるという情報も得ている。

「だが……今現在、貴様らが無力で、我の大事な者を殺すのを止められなかった事実は変わりはない!」
「……っ!」

男の周囲の空気が揺らぐほどの気合が、満ちていく。
その凄まじさに思わずはやては一歩飛びずさり、男との距離をとっていた。

「いかに奇麗事を言おうが、お前らは我の復讐の標的だ!」
「そうか。お偉いさんの損得勘定やないが、その怒りが今はわたしだけに向けられているのは悪いことやない」

自分が頑張れば……はやては事態の全てを収めることができる。
あのときとは違い、無力な自分を悔やむだけではない。

「あんたのためにも……わたしは負けられないんや」
「いいだろう! その想いを砕いてこそ我の復讐は成し遂げられる!」

はやてと男の魔力が、二人の間でぶつかり火花を散らす。
本来なら人質を持つであろう男が圧倒的有利な状況。
だが……男の復讐が人質を使った投降では満たされないことをはやては理解していた。
だからこそ、もてる魔力の力を全てぶつけることができる。

「ほほう。想像以上にやるようだな……」
「そうやな。後ろに控えてる雑魚どもやなくって、あんた自身が来いや」

はやてに一瞥されると、その魔力にひるんだ魔物が後じさっていく。

「あんたはもしもあのとき自分がいれば……。そんな風に今も自分を責め続けとるんやろ?」
「無論だ。我が居れば……あんな事態は招かなかった!」

当時のことを思い出したのか、男の言葉の語尾が微かに震える。
だが、それを打ち消すほどに男の声は力強かった。

「それも思い上がりや。無力なのは、わたし達じゃなくって……あんたや!」
「なに?」
「それを思い知らせたる。わたし一人も倒せないあんたに、そんな力がないことを」
「挑発か? だが、我はその程度で冷静さを欠いたりはせぬぞ?」

応じてしまったことこそが、挑発の効果があったことに他ならない。
それほど、男にとって失ったものは大きかった。

466復讐鬼・はやて陵辱編①:2010/02/17(水) 02:56:19 ID:z7PdK/rg
「それにな? あんたに言われんでもここには一人で来るつもりやったんよ」
「それこそ思い上がりだ! お前達! 思い知らせてやれ!」

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

戦端をきるように、男の背後に控えた魔物たちが一斉にはやてに向けて襲い掛かってくる。

「雑魚はひっこんどりや!」

だが、次に瞬間には閃光と共に、魔物の全てがその姿を消していた。

「わたしな? まだ夜天の力をまだうまく扱いきれてないんや。全力で戦ったら他の人を巻き込んでまうかもしれへん」

残骸さえもなく消え去ったために、はやてと男の間の視界はクリアになる。
さらに生き残りの魔物までも、はやての気迫に押されるように遠巻きに囲むだけとなってしまった。

「並の魔道士では足手まといと言うことか。だが……あの場で一緒にいた高町なのはならば、共に戦えたのではないのか?」
「いいや」

男の言葉にはやては大きく首を横に振る。

「なのはちゃんは優しいから。あんたを……たとえ何があっても許してしまうかもしれへん」
「反吐が出そうだな。そんな甘さ……虫唾が走るわ!」

叫びと共に、男の手に現れた鞭状のデバイスが四方八方からはやてを襲う。
だが、その全ては何事もなかったかのようにはやてが張った障壁に弾かれていく。

「半分はあんたに同意したるわ。そんな優しさ……あんたには必要ない!」
「ぬ! くぉおおおお!」

単純な魔力弾が男を襲う。
すんでのところで回避に成功した男だったが、込められていた力に改めてはやての実力を痛感する。

「容赦はなしや! 今はただ……心のままに、あんたをぶちのめしたる!」
「ふん! その方が分かりやすくてよいわ! 下がっていろ! お前達!」

男は周囲の生き残りの魔物を遠ざけると、はやてに向けてデバイスを構える。
はやての言う通り……この場にそぐわない実力の持ち主はただの足手まといだった。

「かなりやるようだな。だが、それでいい。お前があまりに弱ければ我はそんな者からも大切なものを守れなかったことになるからな」

男の魔力に空気が震えていく。
幾重にも張り巡らされた魔方陣の数ははやてが展開したものに匹敵していた。

「全力で来てくれるなら好都合! それを倒し! ひれ伏させてこそ、我が復讐は完成する!」
「言ったやろ? あんたには……絶対できへん!」
「口だけでないと証明してみせるがいい!」

膨れ上がる二人の魔力がぶつかりあい……。
それを合図に、戦いの幕が上がる。
それは……夜天の王と呼ばれた八神はやての最後の戦いとなった。

467マルチマックス:2010/02/17(水) 02:58:20 ID:z7PdK/rg
本日はここまでになります。
導入部分で陵辱まではもう少しかかります。
次の投稿で触りくらいには入れるかと思われます。

一区切りつくまではあまり間を空けずに投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

468イクスピアリ:2010/02/17(水) 07:52:07 ID:8A9IiqSs
マルチマックス氏

待ってました
続きジャンピング正座して待ってます


ところでマルチマックス氏の復讐鬼が保管庫から読めないんですが……私だけですか?









独り言
雷刃シリーズ投稿したのに何も言われなかった……
いやまぁ分かってるよ
感想みたいなレスを強制しちゃいけないって
でもね……グスン

469名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 09:56:59 ID:Q9tX0Arg
戦闘民族高町家は流石に引いた

というか分かってないでしょ…いくら独り言だの分かってるけどだの予防線張ってもそれ書いちゃったら意味が無いよ

470イクスピアリ:2010/02/17(水) 10:59:57 ID:8A9IiqSs
すいませんでした



私の書くSSにそれだけの魅力がないという事でしたね
精進します

皆様本当に申し訳ない
m(_ _)m

471名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 11:40:59 ID:QrrUk3vE
さあ、>>469が書いてくれる新作に期待しようかw

472名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 15:22:34 ID:.vfQQgzg
気持ちはわかるが、いろいろと飲み込んでおこうという事で

473名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 15:30:55 ID:PMlwCTDQ
>>470
投下のタイミングが悪いとそうなる、ドンマイ。

474名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 15:36:53 ID:k1fu91/c
レスが付かなかったことを悔いるより
次はレスが貰える様な作品を作ることに意気込んでもらいたい

475名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 15:59:52 ID:OcFrTXuE
>>467
GJ! ずっとお待ちしておりましたよ〜。
この後は熱いバトルの後にねっとり濃厚な陵辱ですね、わかります。
それにしても、複雑な思惑が絡みついてるな……

>>470
いや、コメントの少なさは投下のタイミングが悪かっただけだと思う。上でも言ってる通り。
俺は面白かったよ。今更だけどGJ。

ただ、書く方としての意見を言わせて貰うと、描写力が弱いかな。
○○が××をしました、だけじゃなくてもっと深く表現して欲しいというか。
GJ言うのが基本の板で指摘とかすると、
大抵のSS書きは嫌になるか詰まらなくなるかして消えちゃうんだけどね……
氏ならきっと、今よりももっと面白いものを作れるだけの才能がある。
頑張れ!

476名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 20:39:24 ID:61xVKEpM
感想の数は文章の良し悪しとは別の問題も結構あるよな
注意書きのカプ・設定で読む層の幅が全く変わるし
それに最近は投下多いから、読むのが間に合わなくて感想がつきにくそう

477名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 22:16:22 ID:Ply27oRU
>>467
GJ!

待っていました。
今のはやてが格好いい分、後々がとても楽しみです。

自分は携帯からですが、マルチマックス氏の作品のみ何故かwikiで見れません。

何故かわかる人います?

478名無しさん@魔法少女:2010/02/17(水) 22:44:03 ID:f7gNYkYE
>>470
気を落とすな。
感想ゼロなんてよくあることだ。
身に覚えのない書き手のほうが少ないと思うぞ。

479マルチマックス:2010/02/18(木) 01:20:57 ID:VPtLFpGw
こんばんわ。
覚えていてくださった方がいらして嬉しいです。
保管庫が閲覧できない理由は自分にはわかりません。
PCからなら問題なく見られるようですが……申し訳ありません。

しばらく待ってみましたが今日は投下がないようなので連続になりますがいかせていただきます。
今回は区切りどころが難しく少し長めになってしまいました。
お付き合いいただければと思います。

いつものように注意書きから。

※注意
陵辱モノです。
オリジナル設定、というかアニメ以外で公開された情報のために不具合が多少出ています。
陵辱する側はオリジナルキャラになります。

これらが嫌いな人はNG設定をお願いします。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板