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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

532名無しリゾナント:2015/01/24(土) 03:43:11
そして彼女の思った通りに、本当にあっという間の出来事だった。
腹へ滑り込ませたはずの銀の凶器は里保の鞘によってまたしても弾かれる。さらに危険を察知して後ずさ
ろうとする里奈の足を、里保が思い切り踏みつけていた。

そこから空いているほうの足で、里奈の側頭部にハイキック。
綺麗に決まった蹴りは、里奈の意識を一撃で奪い去った。

ぱたりと倒れる里奈に、もう「隠密」の力は働いていない。
急にばたばたと動き始める里保に何事かと目を剥いた香音だったが。

「え、何里保ちゃん? この人誰!?」

ようやく、ナイフを握り締めたまま倒れている少女を認識する。
対して里保はポーカーフェイスを崩すことなく、床の一点を見つめていた。
そこにはくっきりと刻まれた黒い染みが、数個。

里奈の「隠密」は完璧だった。里保が作った水溜りのトラップにも対応できたはずだった。
だが彼女が最後に詰めを欠いたのは。黒い染み。濡れた靴が刻み込んだ、足跡だった。

「隠密」の能力は、里奈の触れたものを対象の意識から消す。
逆に言えば、里奈から離れてしまったものにはその影響は及ばない。つまり、床の足跡がゆっくり近づい
てゆく軌跡を、里保は目撃する事ができるということ。

姿を消して、こちらに気づかれないよう忍び寄る人間。
それは最早、里保にとって倒すべき敵であった。

533名無しリゾナント:2015/01/24(土) 03:48:58
>>532
間違えてこちらにコピペしてしまいました
申し訳ありません

534名無しリゾナント:2015/01/24(土) 06:25:31
>>524
差し出がましいとは思いつつ代理投稿しました

535名無しリゾナント:2015/01/24(土) 09:53:36
>>534
おはようございますリゾネイター作者です
お手数おかけしました
どうもありがとうございます

536名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:21:11
■ レージフォックス −田中れいな− ■

それは【能力】によって、成し遂げられた。

『きつね』の言った通りだった。
田中は本来、『弱い』のである。
その身体能力は最大限高く見積もっても『普通』。
ただの普通の女性にすぎない。

だが、そこにひとたび、彼女の【能力】が加わるならば、たちどころ、
常人ならざるパワーとスピード、反射神経を獲得する。

かつて鞘師が田中に感じていた、戦闘能力の高さに見合わぬ『怖くなさ』とは、
すなわちこの『素の状態の田中』を、
直感的に看破していたからかもしれない。

狡猾さなど育たぬはずだ。
田中にとっての戦闘術とは、
見えたものを追い、見えたものを避け、見えたものを殴る。
ただそれだけで事足りたのだ。

単純で直線的。
ただそれだけで事足りたのだ。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

己の肉体の機能を増幅させる。
かつて高橋と出会う前までの、元々の【能力】。
田中れいな、その本来の【能力】。
その蹴りの一撃は【増幅】によって、数倍の威力となった。

537名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:21:43
「ぎゃふっ!」
テグスによって身動きできぬ田中が、背中から地面へと落下する。

【増幅】によって、その蹴りの威力は高められた、だが。

だが、この状況は【増幅】のみで成し遂げられたものか?

否。

田中は身動き出来ないのだ。
体の自由を奪われ、地面に転がったままで、
なぜ空中にいた?なぜ蹴りを叩き込めた?

「『こんなんいらん』ゆって、一回つっかえしよったけど、
やっぱりさゆ達の言う事聞いとって正解やったと」

その右手に小さな紙片。
そう、これは、
【能力複写】によって作られた紙片、
そこに込められていたのは…

石田の【空間跳躍】

538名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:22:15
そう、それは【能力】によって、成し遂げられたのだ。

顔面に両足による蹴りの一撃を受け、『きつね』が、
頭からゆっくりと地面へ倒れ伏す。

「・・・」

その光景を『うま』と『ごりら』がぽかーんと眺めている。
何が起こったのかわからない。

蹴りの衝撃で『きつね』のお面が、ぐしゃりとつぶれ、顔から剥がれ落ちる。
落下したお面が、二人の足元に転がってくる。

「あっ…りな…」
『ごりら』が何事か言いかけ慌てて口を抑える。

「…はっ!ああっ!」
その声に『うま』も声を上げる。
ようやく、理解が追いつく。
事態を把握する。

「きっ『きつね』!しっかり!」
『うま』と『ごりら』が、倒れた『きつね』に駆け寄る。
「ねぇ!ちょっと!大丈夫?ねぇって!」

539名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:23:08
仰向けに転がる田中がその光景を眺める。
「でも、やっぱさゆの言う事、全部きいとったらよかった。」
もはや、ここまで。
「石田の、一枚だけしか、もっとらんっちゃ…」

一枚じゃ何かあったとき足りないかもしれないでしょ?って
その通りやん、さゆの心配性、もう笑えんけん。

「うっ…」

『きつね』が息を吹き返す。
なん?もう気がついたと?早くない?
どんだけ頑丈ったい。
さて、どうする?こんあとどうやってガキさんとこ行く?

「ほっ…ちょっと!鼻血すごいよ!大丈夫?」
「うるさいっ!大丈夫だよっ!」

心配する『うま』の手を振りほどく『きつね』。

フラフラと立ち上がるも、よろけて膝をつく。
脚に来ている。

「…てっめ…田中ぁ…」

お面は飛んでしまっている。
が、夜の帳のせいか、その顔は田中には見えない。

「…はっ!ちょっと『きつね』まって!だめだよ!」
何かを感じ取った『うま』が『きつね』を制止する。

540名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:24:01
「…」

『きつね』は答えない。

「ねぇ!もうてっしゅーでしょ?ほら、いこうよ!」
「…」

無視。

「だめだよ!田中さんは!『でれ』さんの計画では…」
「先、撤収しなよ…」
「は?」
「『ごりら』の時間は、もう切れる…『あたしのやつ』で撤収したほうがいい」
「うん、そうしよう…いや待って、先ってなに?『きつね』どうすんの?」
「あたしは田中さんをしばらく足止めして、それから行く…」
「いやいや!意味わかんないって!それいらないでしょ?一緒に消えれば…」
「嫌い」
「は?」
「…なんでもないよ…ほら」

『きつね』が右手を肩の高さに上げる。
「いやいやいや!だめだよ!まだっ!」
「…はやく行けっての」
「ちょっと!落ち着きなって!なんか変だよ!計画ではっ…」

 はー! やー! くー!

「ひっ!」

夕闇を『きつね』の怒号が切り裂く。
そして、長い、沈黙。

541名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:24:45
「…『ごりら』、先行って…」
「…う、うん…」

差し出された右手に『ごりら』が左を合わせる。

ぺちん。

瞬間その姿が掻き消える。
いや、消えた?のか?
田中には、その瞬間が、わからなかった。

確かに消えた。
おそらく『きつね』の右手に左手を合わせたときにだろう。
だが、それは…その瞬間は『いつ』だった?

「『うま』行って……行って。」
「じゃ…じゃあ、行くけど…無茶はっ、なしっ、だかんね?」
「うん」

『うま』の少女が消える。
またしても、その瞬間は、わからずに。

「その『消えようやつ』が、アンタの【能力】か」

田中れいなが、立ち上がる。
謎の粘着性を失い、ゆるんだテグスが、パラパラと落ちていく。

『きつね』は、答えない。
表情は、わからない。
ただ、こちらを向いたまま、動かない。

542名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:25:57
「ふん、しゃべらんか…べつにかまわんと…ただし」

消えよう相手か、やっかいやね、でも…

首を回し、腕を抱えて肩を伸ばす。
ざん、腰を落とす。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

パワーとスピード、反射神経、そして、
視力が、聴覚が、嗅覚が、皮膚感覚が…
田中のあらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。

「ただし、アンタは打っ倒す…
そんで、ガキさんどこやったか、そっちは全部、しゃべってもらうけん」

543名無しリゾナント:2015/01/24(土) 20:27:02

>>536-542
■ レージフォックス −田中れいな− ■
でした。

544名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:42:42
>>525-530 の続きです



「痛ったっ!!!!」

これで何度目だろうか。
亜佑美は「見えざる何か」によって、標的の香菜に辿り着くことなく跳ね返される。
目の前にトランポリンの生地のようなものが張り巡らされているような、感触。
ぽーん、と跳ね返され、地面に尻餅をつく。お尻の部分がじんじん痛い。

「だからぁ、無駄なんですって」

柔らかな関西弁で、香菜が言う。
笑顔。街角でばったり会った友達だったら、きっと心が温かくなるんじゃないかと思うくらいの笑顔。けれど。

「むかつく!あんた何へらへらしてんのっ!!」

この状況下においては、腹の立つ笑顔だ。
少なくとも気の長いほうではない亜佑美にはそうとしか思えない。

「むかつく、言われましても。もともとうち、こんな顔やし」
「うるさいわね!大体攻撃も仕掛けて来ないで、何が目的なのよ!!」
「福田さんって、知ってますやろ?」

再び特攻をかけようとした亜佑美の動きが止まる。
福田花音。忘れられるわけがない。リゾナンターを襲撃した、警察の人間のくせに妙に自分達を敵視してい
た、いけ好かない奴。

545名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:44:00
「その福田って奴が、何の用なのよ」
「ええ。その福田さんが、あんたらを痛めつけてこいって。うちの能力なら、あの磨り減った鉛筆みたいな短
気なチビ…あっ香菜が言うたんと違いますよ? は勝手に自滅するやろ、って」
「な、なんですってえ!?」
「だからぁ、うちが言うたんと違いますって」

香菜の言葉も聞かずに、亜佑美は獅子と鉄巨人を同時に召喚する。
リオンが咆哮しながら飛びかかり、バルクが巨体を震わせて拳を繰り出す。
が、やはり相手が言うところの「結界」の前には無力。「結界」に思い切り拳をめり込ませた後に、反動で後
方へと吹っ飛んでいった。リオンの牙も、結界の隙間すら生み出すことができない。

突然、眩暈が襲う。息が苦しい。
周りの酸素が、薄くなっているような気がした。

「一応通気性はあるんやけど、あんま暴れると酸欠起こしますよ」
「ほんとむかつくわね!そんなことくらいわかって…」

そこで亜佑美の脳裏に何かが引っ掛かる。
通気性、ということは。どうやら結界の向こうのおかめ納豆の言葉を信じれば、結界には無数の細かい穴が空
いているようだ。でないと、通気性は確保されないからだ。

とは言え、空気が通るのがやっとの穴だ。リオンやバルクではそんな細い穴に入り込めるわけがない。無論、
いくら亜佑美が小さいからと言っても無理である。

546名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:45:26
「ま、しばらくおとなしくしといてや。他のお仲間さんはどうなるかわからへんけど、少なくともあんたは暴
れなければ無傷のままやし」
「そ、そんなわけにいかないじゃない!!」

香菜の言葉を額面どおりに捉えれば。
今この時に、みんなが福田花音の刺客に襲われているということになる。
すぐに駆けつけなければ、しかし相手の様子からして自分の周りに「結界」が張られているのは明白だ。

くそ!あたしの能力が召喚なら、もう一体くらい出てきてくれてもいいじゃない!!

亜佑美は正直、自分の能力が何なのか、把握しているとは言えなかった。
はじめは「高速移動」だと思っていた。古巣である「Dorothy」の研究所の人間も、そう言っていた。けれど、
実際はそうではなかった。

リオン。蒼き獅子。
高速移動は内に宿っていたリオンの力だった。
同様に、蒼き鉄巨人・バルクも。彼らが一体どういう存在なのか、亜佑美は知らない。能力開発の担当者も、
この世にはいない。

だったら…だったらあたしがこの手で、実践するしかない!!

亜佑美の中の「見えざる獣」がもう一体いるのか、それとも二体で終わりなのか。
念じる。リオンやバルクにするように、まだ見ぬ存在に向かって、呼びかける。だが、イメージは雲のよう
に掴み辛く、そして手ごたえは無かった。

「だから無駄やってー。そんなんより、うちと一緒にゴリラごっこしませんか。結構楽しいんですって、これが」

そんな亜佑美の苦悩などいざ知らず。
結界の向こう側の香菜は、ウホウホーッウホッ、とゴリラの真似をはじめた。体を屈め、両手をぶらぶらさ
せながら。ひょこっ、ひょこっと移動する。顔を見ると、目は白目を向き、鼻を限界まで広げている。全力
で、ゴリラ。

547名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:46:19
その物真似の完成度の高さは。
亜佑美の癇に障るには、十分すぎた。

「あんたっ!いい加減にしなさいよぉ!!!!!!!」

アトラクションの暗闇に響き渡る、怒声。
それとともに、何かが亜佑美の目の前に現れる。

「うそ!もしかして三体目!?」

期待に胸を震わせる亜佑美、しかしその期待は一瞬にして萎んでしまう。
何故なら、現れたのは。

「か、かかしぃ?」

思わずそんな間抜けな声が出てしまうくらいに。
しかも普通の案山子ではない。藁を幾重にも編みこんだだけの、簡素な作り。背丈こそ、亜佑美よりも高いも
のの、とても役に立ってくれそうには見えない。

「そんなぁ…」
「うちにはよう見えへんけど、残念やったなぁ。ウッホ!ウッホホ!!」

三体目、と聞いた時にはさしもの香菜も身を硬くしたが。
相手の意気消沈した姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
亜佑美の落ち込みが伝わったのか、案山子もまた霧のように散ってしまった。

548名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:47:33
いや。そうではない。
消えたはずの案山子は、再び姿を現す。
それも、結界の向こう側。香菜のすぐ、そばに。

ぞわぞわ、という感触とともに何かが体に巻き付く。
突然の攻撃に、思わずひっ、と声を上げる香菜。

「な、なななななんやぁ!?」
「さあ!おとなしくこの結界を解け!!」

してやったりのどや顔を決めつつ、綱状になった案山子を操り香菜の体を締め上げた。
そして今なら。この案山子の名前が良くわかる。

スケアクロウ。新しい、あたしのしもべ。

草の蒼さを残した案山子が、なぜ結界を超えて香菜のもとへたどり着いたのか。
その謎は、スケアクロウの特性とも言うべき性質にあった。

亜佑美が項垂れた時に消えてしまったと思われた藁の案山子は、自らの体をばらばらにしていたのだ。
それこそ、亜佑美の目に見えないほどの細かさに。
そして極細の繊維になった藁たちは、結界の細かな穴をいとも容易くすり抜けてゆく。あとは、結界の向こう
側で自らの体を編み直すだけ。

「早くこれを!何とかしなさいよ!!」

しかし、亜佑美がいくら目の前の空間に手をやろうとも、結界は消えてくれない。
香菜は、目を白黒させつつも必死にスケアクロウの攻撃に耐えていたからだ。

549名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:48:42
「これは…香菜が任された任務や。香菜が頼まれたんや…絶対に解かへんで!!」

香菜は、敵襲の前に花音に言われていた。
この作戦如何で、「スマイレージ」の将来が変わる。
そのためにも、香菜の能力「結界(スピリチュアルバリア)」が必要不可欠なのだと。

「意地張らないで結界解いてよ!」
「福田さんは、喧嘩もようでけへんかった香菜を『スマイレージ』に入れてくれた…なのに、香菜のせいで作
戦が失敗したら…だ、だから…そんなに通して欲しかったら、うちを殺して通ったらええやろ!!!!」

優位に立っているはずの亜佑美が、押される。
気迫。香菜が「スマイレージ」にかける想いが、彼女の精神力を支えていた。

「あんたが『スマイレージ』のために戦ってるのはわかった。けど。あたしだって!リゾナンターのために戦
ってるんだ!!!!!!」

スケアクロウが、さらに香菜の体を締め上げた。
このまま手を拱いては、仲間たちの身が危ない。その危機感と仲間を思いやる心が、再び香菜の精神力を凌駕
したのだ。

亜佑美の手を遮る感触が、徐々に薄れてゆく。
あれだけの強固な防御力を誇っていた結界が今、解かれてゆく。

「あ、あかん…あんたの行く手すら遮れんかったらみんなに申し訳…ない…」

消えてゆく結界にすがるように手を伸ばす、香菜。
けれどその手は何も掴むことなく、体ごと床に崩れてしまった。

550名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:50:11
亜佑美を阻んでいた抵抗が、ふっと軽くなる。
結界は完全に消えたようだった。

しかしながら、と倒れた少女に目を向ける。
敵ながら天晴と言ったところか。
でも、倒した敵に賞賛を送っている場合ではない。

早く、仲間のもとへ。

距離のせいか、それとも何かに妨害されているのか。
微かにしか感じられない仲間たちの気配を探りながら、亜佑美は暗闇の中を駆け抜けていった。

551名無しリゾナント:2015/01/25(日) 20:51:18
>>544-550
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

お気づきの方もいるかと思いますが、かななんの元ネタ
http://www.colorful-hp.net/archive/entry-2848.html

552名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:38:27
■ ステルスフォックス −田中れいな− ■

月が出てきたようだった。

三日月。

木々の間、かすかな光が差し込み、
暗闇にグラマラスなシルエットが浮かぶ。

仮面の落ちた、その顔は、見えない。

無言。

先ほどまでの饒舌が嘘のよう。

何も語らず、身じろぎもせず。

『きつね』が、ただ、立ち尽くす。

静かな息遣い。

身を低く延べた田中が、全神経を眼前のシルエットに集中させる。

『きつね』は、まだ、動かない。
そして、『消え』ない。

なん?まだれいなのこと、ナメとる?んにゃ…

そんや、しばらく足止めして、そういっとったっちゃね。

時間稼ぎか

553名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:39:26
なんね頭に血が上っとっちゃおもっとったっちゃけど、えらいれーせーやね。

かまわんちゃ。

田中の五感が最大限研ぎ澄まされる。

おそらく『きつね』の能力は『見えなくする能力』だろう。
光学的なものか、感覚・精神的なものかはわからない。
自身はもちろん、触れた対象も一時的に見えなくさせる。
先ほどの『うま』や『ごりら』、そして『見えないテグス』のからくりだ。

であれば、『そういう能力者』がとる、基本的な戦術はこうだ。

田中の接近および攻撃と同時に『消え』、隙の出来た田中に反撃、
その後素早く位置を移動する。
時間を稼ぐ、ということであれば相手の攻撃は腰の引けたものになる。

ならば問題ない。

反撃の瞬間、田中が攻撃を食らっている、その瞬間は、
同時に確実に『きつね』が田中と接触している瞬間となる。

田中ならば、そこを必ず、捉えられる。

どん。

田中が突進する。

さぁ!さっきの消えようやつ、来いやぁ!

554名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:40:23
フルスイング。
フォームの上では隙だらけなその攻撃で、田中は数限りない猛者どもをなぎ倒してきた。
田中に倒されたすべてのものは、隙があることすら、認識できず、沈んでいった。
圧倒的なパワー、そして、スピード。

その一撃が、『きつね』の顔面へ打ち下ろされる。

パァン!

乾いた打撃音だった。

「なん?…ね?」

左の、ジャブ。

頭部の真芯を捉えた、綺麗な一撃。
スナップの利いた、『キレはあるが軽い』打撃が、
田中の目と目の間、鼻根を打ち抜く。

いや、それは大したことではない。
想定内の攻撃だ。
衝撃、音、力の方向。
『きつね』の位置は特定された。
これで終わり、あとは田中の猛烈な反撃が、連打が、叩き込まれ…

違和感

きつねの位置は特定『されていた』。

最初から。

555名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:41:12
「消えん?やっと?」

田中の眼前から真っ直ぐに腕が伸び、その向こうに顔。
『きつね』の素顔が、すぐ目の前にある。

違和感

『きつね』は、ずうっと、見えていた。
変らずに立ち尽くし、身じろぎもせず、そこにいた。

消えんならそれでええったい!このまま…

パン!パン!パァン!

顎、こめかみ、人中、軽快な打撃が次々と田中に突き刺さる。
見えている、聴こえている、だが『当たらない』。
一方的に『当てられ』続ける。

「ちぃ!」

ならぶつかって、身体で止めちゃろうもん!

ビシィ!

「ぐっ!」
いつの間に?
粘りのある蹴り。
踏み込む寸前の前足、膝の内側を捉えている。
出足を潰され、前へ出るタイミングを外される。

こいつ…ケンカ(格闘技)が…上手い!?

556名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:42:06
違和感

たしかに正規の訓練を受けていることは明白だった。

違和感

そこから繰り出されるコンパクトでキレのある打撃。

違和感

だが、問題はない。
大したことはない。
田中の【能力】は、その身体機能と感覚だけでなく、頑健さにおいてもまた【増幅】出来る。
相当な体重差があるならまだしも、女性の素手の攻撃だ。
たかが数発、耐えられる。

違和感

この程度の相手ならば今まで数限りなく倒してきている。
大の大人の、5年10年という血のにじむような努力を一瞬で粉砕する。
【能力】とはそういうものだ。

『きつね』の打撃もまた、過去倒してきた『普通の人間の』打撃と変わらない。

違和感

ならば、気にすることではない。
打たせておけばいい。

あとは田中の攻撃が一発『当たる』だけで…

557名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:44:13
パァン!

またも『きつね』が田中を捉える。
が、これも軽い。

違和感

突然『きつね』は間合いを切り、大きく後退する。
どうやら『きつね』も、己の打撃が効いていないことを理解したらしい。
その場にしゃがみ込む。

「なんで消えんかしらんちゃけど、そんなん気にせんけんね!」

休ませるつもりなど無い。
一気に畳みかける!

違う、違うのだ。
まだ、気づいていないのか。
この違和感に、気づいていないのか。

『きつね』が立ち上がる。
田中が突進する。

違和感

『きつね』もそれに合わせ、右腕を引く、大きく後方へ。
大振り、隙だらけだ。

よっしゃ、そん攻撃をかわして、そん顔に一発。
打っ叩いてやるっちゃ!
そん右を避けて、そっから、そん顔に一発…

558名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:47:00
違和感

…ん…?

違和感

…避けて、それから、そん顔…顔?

気づいていないのか。

顔って…なんやっとかいな?

―――出せなきゃ無いのと同じ、『弱い』のと、同じ。―――

ごっしゃぁ!

血しぶきが飛び散る。



『きつね』の右手に、その拳大ほどの、石。
素手では倒せぬならばと、拾った石で、顔面を。

559名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:48:41
気づいていないのか。
田中は、まだ、一度も…

膝が落ちる。
その膝が地面につくその前に。

ごっ!

左に持ち替えた石で横殴り。

意識が飛ぶ寸前、田中が見たのは、両手で持った石を振りかぶり
自分に向かって打ち下ろす『きつね』の…

顔…?

わからない

最初からそうだった

夜の帳のせいではなかった

見えないのではなかった

そう

『きつね』の

顔が

『わからない』!

560名無しリゾナント:2015/01/29(木) 17:50:26
>>552-559
■ ステルスフォックス −田中れいな− ■
でした。

561名無しリゾナント:2015/01/31(土) 00:57:48
■ エンビアスフォックス −田中れいなX勝田里奈− ■

勝田里奈は、横たわる田中れいなを見下ろした。

真っ赤だ。
全身を朱に染め、立ち尽くす。

その両手、赤黒く、拳大の石。
鼻血、赤黒く汚れ、口元、胸元。
そして、両耳。
両の耳の穴から流れ落ちる、赤黒い筋。

ゴォオオオオオオ…

激痛。

世界の全てが不気味な轟音に支配される。

気が遠くなりそうになるのを必死にこらえる。

出血。

目、耳、鼻、じくじくと滲みいで、止まらない。

がくん

両膝をつく。

…嫌い…
…痛い…

562名無しリゾナント:2015/01/31(土) 00:58:28
目が、霞む。

…こんなやつ…

両手で、血に染まる石を

…こんなやつ…

頭上へと、掲げ…

死ねばいい

――――

ごっしゃぁ!

田中の顔面に拳大の石が打ちつけられる。

一瞬の空白の後、鼻の砕ける激痛。

損傷を把握する暇もなくさらなる激痛。
横殴りの一撃。

ゆっくりと倒れていく。
脚の踏ん張りがきかない。

意識が…とぶ…

田中が倒れていくごとに『きつね』の顔も傾いていく。

563名無しリゾナント:2015/01/31(土) 00:58:59
その表情は…わからない…
…顔が…わからない…

…そう、やったと

田中は気づく。
違和感の正体に。

もう…消しとったっちゃね…

『きつね』の【能力】

それは消える力、消す力。

姿を消すのではない。
自らの存在を『消す』すなわち『観察させない』力。

全身はもちろん、部分的にも、そして任意の他者も。

なるほど…全部消さんとれいながちゃんとアンタば狙うように…

田中との戦いにおいて全身を消さなかったのは、田中に己を見失わせないため。
完全に消してしまわず、攻撃目標としての意味だけを失わせる。
普通に戦っていると、錯覚させる。

…でも…なんかいね?…なんで全部消えようらんかいね?…やっぱりなめようっとかね?

それは田中に攻めさせるため、普通に戦わせるため…普通に…

564名無しリゾナント:2015/01/31(土) 00:59:33
普通に…?…そうだ…

普通ではないことを、させないため

…そうったい…そっちば…心配しとったちゃね…アンタマジ…れーせーやね…

それは単なる可能性の一つ。
田中れいなの性格からして、まずないであろうと思われた可能性。
だが、田中はその行為を実行した。

だから、『きつね』は『もう一度あり得る』ことを警戒した。
「もしかしたら、他にも…」その警戒が『きつね』に全身を消させることをためらわせた。
警戒したから、全身を消さず、田中からの攻めを誘い『その可能性』を潰した。

が、全身を『消さなかった』がゆえに、それゆえに今、『気づかれて』しまった。

れいなは少しも使う気なかったっちゃのに…

可能性は低い。

565名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:08:59
汎用性の高い『あの二つ』を新垣が所持してくる事はわかっていた。
だから田中が持っている可能性も確かにある、だが田中がそれを使う可能性など、ほぼない。
まして、それ以外のものを持っていることなど…
だが…

「あーっ!みにしげさんとあゆみのだけずるいっ!たなさたんっ!まーのも!まーのもぉ!」

強引に持たされた『それ』は『役に立たない』無用の長物であった。
『それ』は、田中がいつも目にする『それ』とは、まるで別物であった。

こんなん、使いもんにならんちゃおもっとったけど…

あまりにうるさい佐藤に強引に持たされたそれは…

それは、まさに『きつね』が警戒した、範…

――――

キーーーーーーーーーン!

世界から、すべての音が、消えた。

「ぎゃああああああ!!!」

絶叫。

引き裂かれる!
脳が、眼球が!内臓が!骨が!筋肉が!

バラバラにされる!ぐちゃぐちゃに!かき回される!

566名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:10:15
それは佐藤優樹の【能力】
普段彼女が使うそれとはまるで異質。
原始的で、強引で、愚かな、【能力】の『間違った』使用法。

【振動操作(オシロキネシス;oscillo kinesis)】!

譜久村聖によって【複写】された【能力】は当初、その力の半分も発揮されない。
それはたとえば威力、といったことだけでなく、
『操作性』という点でも、また同様にオリジナルを下回るものとなる。

振幅などまるで安定しない、強いか弱いかだけ。
指向性などまるでない、単に同心円状に。
距離などまるで選べない、ただ己の内側から。

すなわち…

その、ごく狭い範囲の、全ての物体が、『等しく』揺さぶられた。
地面が、空気が、木々が、虫が、小動物が、そして。

田中と!『きつね』が!

――――

勝田里奈は、その両腕を振り上げる。

手の痙攣が、止まらない。

…嫌いだ…こんなやつ…
…こんな…こんな『やつら』…

…だから…

567名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:11:01
だから…死ねばいい!

最後の力を振り絞る、思い切り、思い切り!

「もう、やめよう、りなぷー」

天使。

動けない。

朱に染まる石、頭上に掲げられたまま、動けない。

指。

小麦色の、長く細い、中指。

その指先が触れている。

【加速度支配(アクセラレートドミネーション;accelerate domination)】

「和田…さん…」

指先に固定された石が、そっと勝田の手から離され、はるか後方へ、打ち棄てられる。

「だって…だって…こいつ…こいつら…こいつらが!」

ひざまづく少女の後ろから、そっと頬に触れ、おでこを合わせる。

「うん…そうだね…」

568名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:12:54
勝田里奈。

脱力感と倦怠感、皮肉屋で嘲笑屋で冷笑屋。
冷静で、思慮深く、慎重。
だが、その裏に隠された、その内面、その本質…

どろどろと燃えたぎり、燃えさかるそれは…
『すべて』を台無しにするほどの、それは…

怒り

「なんで!なんでこいつらだけ!」

なまじ、知らなければ、よかったのかもしれない。

…共鳴…

作戦に当たり、リゾネイターについての説明を受けた時は、なんとも思わなかった。
ふーん、珍しい能力者もいたもんだ、そう思った。
だが、時間が経つにつれ、理解が進むにつれ、その感情は澱のごとく勝田の心に…

「アタシらは!アタシたちが!どんなに!どんなに!だれも!だれも!」

―――そう願えば、そこに、必ず―――

「なんなんだ!そんなご都合主義あるわけっ…あるなら…あったのに…なんで…」

みんな死んだ…みんな死んでいった…だれも助けてくれなかった…
それなのに…それなのに…

569名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:14:02
「こいつらは…『こいつらだけ』が…」
「ごめんね、りなぷー」
「!」
「彩が悪いんだ…りなぷーがこんなに怒っていたのに気づいてあげられなかった彩が…」
「…ちが…」
「彩はね、りなぷーのこころはわからない…誰のこころもわからない…」

【加速度支配】をもち【支配者の瞳】をもつ、無敵の能力者が…

「りなぷーがこころの中でどんなに叫んでも、彩にはわかってあげられない…」

後ろから、そっと。

「でも、彩には【力】がある…どんなものでも壊せる、どんな相手にも勝てる…だから」

さらり、長い黒髪が、勝田の顔にかかって…

「彩にまかせて…いつか、りなぷーがきらいなものは、彩がぜんぶ、壊してあげるから…」

…その表情は…

「だから、『今は』帰ろう?田中さんには、まだリゾナントにいてもらわなくちゃいけない」

「…うう…ううう…ぐぅ…ぐうう…」

570名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:15:55
慟哭

三日月

慟哭

――――

「なんとか、間に合ったみたいね」

いまだ泣きじゃくる勝田の声を切り、福田花音はインカムを外した。

彩が悪いんだ…

「そうリーダーは言ってくれてたけど、これは、どう考えても、アタシのミス。」

冷静で、思慮深く、慎重なはずの彼女が…
あれほどの怒り…その身を焼き尽くさんほどの…

嫉妬

「…あたしもホンット、ボンクラ」

今、倒してはいけなかった。
勝つべき時、倒すべき時というものがある。
この戦いの情報は、リゾネイター達に共有され、分析される。

…まずい…これは、実にまずい…

「多少、計画の修正が、必要だわ」

571名無しリゾナント:2015/01/31(土) 02:17:30
>>561-570
■ エンビアスフォックス −田中れいなX勝田里奈− ■
でした。

572名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:20:21
数年ぶりに現れたにもかかわらず、その外見は驚くほど最後のときと変わっていなかった
伸びた髪の毛と染め上げた毛色を除けば、そう、時が止まっているかのようだった

「愛ちゃん!!」「高橋さん!!」
仲間達の驚きの声に対して、当の本人は、ただ笑みを浮かべるのみ
店内を懐かしげに眺め終え、ようやく「久しぶりやね」と新垣の肩に手を置こうとするが、新垣はその手を払いのけた
「久しぶりじゃないよ!!いったいどこに行っていたのよ!!
 愛ちゃんが突然いなくなって、どれだけ私達が混乱したのかわかっているの?」
肩を組まれた相方にいきなり怒られ目を丸くする高橋だったが、すぐさま笑い直した
「アヒャヒャヒャ、ごめんごめん、ガキさん。でも、なんとかなってるじゃない
 確かに、勝手に飛び出したのは悪いとは思ってるよ、ガキさんにも相談しなかったからね
 でも、あっしにもやることがあったがし。ガキさんがいま、動いているように、私もね、『あのこと』について」
「!! 愛ちゃん、それはこの場では!!」

「それにしても、れいな・・・ちょっと健康的になった?」
「れーなの好きなことできることになったし、しっかりと食べるようになったからっちゃろ」
「あっひゃーあんた、やっぱ化けもんやわ!全然かわってないって、魔法みたい!!」

「愛佳、元気そうだね」
「ええ、何とかって感じですね。この足が動けばって感じですけど」
「愛佳には申し訳ないことをしたって思っている。もっと私達が愛佳のことを守れれば」
「いえ、愛ちゃんには十分すぎる程守っていただいたので、これは愛佳自身の問題です」

「ジュンジュンは・・・変わらない」
「いや、ソウでもナイ。色々経験してるダ」
「・・・それは」
「ソッチもダ」

「リンリン!ずいぶん大人っぽくなったね!!」
「20歳も越えましたカラネ!!見た目だけではナイデスヨ。愛ちゃん、あとでお手合わせ願いマス!!」
「あーそれはちょっと勘弁で」

573名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:21:04
そして、ひときわ暗い表情の人物を浮かべた現リゾナントのリーダーの元へ椅子を持ち寄り、目線の高さを合わせて座り込んだ
「さゆ」
「・・・愛ちゃん」
「大丈夫、えりはきっと戻ってくる。泣き顔、可愛くないよ
さゆが今のリゾナンターのリーダーやろ?リーダーが凹んでいたら誰もついてきてくれない」
そして、最後に耳元で道重に聴こえないように何かを呟いた
道重は慌てて高橋の瞳を覗き込み、高橋は笑ってみせ、肩をぽん、と叩いた

「・・・それで愛ちゃんもカメを助けに来たんでしょ?」
「えり?ああ、そうやった、うん、えりをどうにかしてあげたいって思ったんだった
 久しぶりにみんなにあったからうれしくなって忘れるところやった」
振り返った高橋は無邪気な笑顔であり、それをみて新垣は頭痛を感じてしまう
「はあ・・・またか」

「・・・あの方が『高橋愛』さんですか?」
「ああ、そっか小田ちゃんは高橋さんに会うの初めてなんですよね?
 そういう私も数回しかお会いしたことはないんですがね。ジュンジュンさん、リンリンさんとは初めてですし」
小田がじっくりと新垣と夫婦漫才を始めた高橋を観察するが、意図せず冷や汗をかいていた
(・・・この人、こんな状態でも常に四方を警戒している。隙が無い)
新垣の頭をばしばし叩いて一人で笑っている、にも関わらずだ

「それで愛ちゃん、えりを助けたいっちゃけど、知恵を貸してくれんと?」
いつの間にかキッチンからポットを持ってきて、ホットココアをマグカップに注いでいる
「何かいい方法ないかなって色々考えたっちゃけど、ほら、れーなもともとそーいうこと、苦手やん
 昔やってガキさんとか愛佳に任せとったけん。拳で交わす、なんて通じそうもなさそうやし
 そりゃ、できることならえりを傷つけたくないっちゃけど、れーなにはわからん」
新垣に緑色、高橋に黄色のマグカップを渡しながら「どうすればいいと?」と口に出さずに問いかけた
田中からココアを受け取りながら、新垣は眉に皺を寄せた
「簡単に答えが出るなら、とっくに私と愛佳で動いているわよ・・・あ、田中っちありがと」
「いいえ〜どういたしまして」

574名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:21:43
でも田中さん、と会話に割り込むように光井が暗い声で輪に加わる
「愛佳と新垣さん、一晩考えたんですわ、どうしたら亀井さんに傷を負わすことなく、正気を取り戻させるか
 せやけど、実際にあの亀井さんをみて思ったんは策を練っても巧くいく保証なんてあらへんっちゅうことでした
 だから、力ずくでまずは『亀井さんを捕える』ことしか思いつきませんでした、恥ずかしいことですけど」
「ま、そういうことだね。田中っち、簡単にはいかないね」
「ふ〜ん、まあ、あんな死んだような目の絵里、頭使ってなんとかできるそんな気もれーなしなかったけん、驚かんけどね」

「なんか光井さんらしくないんだろうね、あんな不安定なこと言うなんて
さっきの高橋さんも何て言っているのか聴こえなかったし。あ〜あ、私が超聴力の持ち主だったらな〜」
「私にも聴こえませんでした。根拠のないことをしようとするなんて、らしくない」
光井本人に聴こえないように鈴木と石田は小さな声で『先輩』たちの会話に耳を傾ける
「里保の刀をさばく風、リンリンさんの体術を余裕でさばく身体能力、詐術師を消す消失の力、確かにチートっちゃね」
「チートって生田さん、まるでゲームみたいな表現ですね」
「あながち間違っとうないやろ?どうすればええか、策を練る、それって攻略法の一つやけん」

鞘師は仲間達の輪に加わらず、ただ沈黙を保つ。それは道重の一挙一動を逃さまいとするため
高橋が道重に囁いたその唇の動きから読み解こうとしたが、不運にもすべては説き切れなかった
とはいえ、一部は見えてしまい、その動きは・・・
(覚悟?)
そう言っているようにみえて仕方がなかったので、気が気ではない

何を覚悟しなくてはならないのか、亀井を救うことに覚悟がいる、ということなのであろうか
それならば・・・命を賭する必要がある、それを意味するのか?
それを今の頼れるリーダーであった、道重に鞘師達は求めてよいのか、泣き崩れている彼女に

575名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:22:47
いつの間にか田中と新垣、光井による今後の『作戦会議』も進んでいたようだ
ジュンジュンとリンリンは初めて会った後輩達が気になるようで、一向に会議には入ろうとしない
それがかつてのリゾナンターのあり方だったのかもしれないが、現リゾナンター達は知ることはない

「・・・それで愛ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「う〜ん、わかんない!」
「はあ!?」
新垣が大声をあげても、高橋は、いや、だってさ、とマイペースのままだ
「絵里があんな風に暴れているのをみて、絵里自身の思いがあるなんて到底思えないんだもん
 きっとジュンジュンが言ったように、絵里の時は止まったまま、体だけが動いているんだよ」
「・・・愛ちゃん、どこから私達のことみてたの?」
「え?佐藤があの工場にみんなを跳ばしたところから」
「そんな前から見てるのに、なんで助けてくれないのよ!私、腕吹き飛ばされたんだよ」
「ガキさんならそれくらいなんってことないと思ったし、さゆもいるから大丈夫だよ」

腕を吹き飛ばされた、それを「それくらい」と表現する高橋の発言を聞き、工藤の喉がごくりと動く
(この人はいったい、どんな道を進んできたんだ?)

「いま、できるのは絵里の動きを止めることじゃないと思う
 あの体とダークネスが操り人形のように動かしている。でも心は絵里のもの
 あの『絵里』は心と体が一体化していない不安定な存在だと思う。
 もし無理やりにでも捕えてしまったならば、心の居場所がなくなってしまうと思う
 ただでさえ『時』を止められている絵里の心は不安定なはず。もしかしたらあの行動も見えているのかもしれない
 そんな絵里の心をこれ以上傷つけたら、もう元には戻せないかもしれない」
「・・・それならばどうすれば」
「簡単なことだよ。絵里が自分で自分を取り戻せばいい」

自分で自分を取り戻す、簡単なこと、と高橋は言ったが誰もが思った
それができれば苦労しないのに、と
仲間達の顔を見ても、技を受けても、凍り付いたびくともしない、あの心にどうやったら傷つけることなく記憶を蘇らせようか

576名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:23:53
「愛ちゃん、簡単に言うけどそれができたら苦労しないって」
新垣が思わず弱気を漏らすが、高橋は気にする様子もなく急に立ち上がった
「愛ちゃんどうしたと?」
「ん?さゆが疲れてるみたいだから、二階に連れて行こうと思って」
話の途中でまた勝手な行動をしようとする高橋に新垣はまた大声をあげそうになったが、道重の顔を見て留まった
「そ、そうだね。手伝うよ」

しかし高橋は「ガキさんはいいよ。鞘師!!手伝って」と鞘師の名前を呼んだ
「え?は、はい」
「鞘師、左肩支えてあげてね」
そういい、右腕を自身の肩に回し、座り込む道重を立ち上がらせた
階段をのぼりながら高橋が、「あ、そうだ」と首だけを振り向き新垣に笑って見せた
「あっしは上でさゆの看病してるから、作戦はガキさんに任せるからね」
「ちょっと!嘘でしょ?愛ちゃん?」
「じゃあね、里沙ちゃん、よろしく♪」
「・・・」

唖然とする新垣
それと対照的に田中は「愛ちゃんらしいっちゃね」と表情を変えず、ゆっくりと立ち上がった
「田中さん、急に立ち上がってどないしましたん?」
「え?だって愛ちゃんが『作戦はガキさんに任せた』いうけん、れーなも帰る」
新垣の「はあ?」という声をかき消すように、佐藤が「えーたなさたん、帰るのやだ〜」とれいなの前に瞬間移動で飛び込んだ
「まさ、もっともっとたなさたんと話す!」

「ちょっと、まーちゃん、田中さんだっていろいろあるんだから、離れろって!」
「やだ、まさは大好きなたなさたんといるの」
「だめだって」
「ヤダ!!!!」

577名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:24:37
子供のけんかを繰り返す二人だったが、れいながにかっと笑い、二人の肩に手を置いた
「佐藤、工藤、喧嘩はやめると。ま、喧嘩と言ってもかわいいもんやけどね
 ねえ、愛佳、この二人、今日はれーなが送って行ってもいいと?
 もう遅い時間やけん、家まで送り届けると」
佐藤の「まさ、子供じゃないもん」という反論と工藤の「なんで私まで?」という表情のコントラスト
「え、ええ、田中さんがええんならお願いしますわ」
「よし、佐藤、工藤、帰るとよ」
元気に「おやすみなさやし〜」とあいさつする佐藤と「おやすみなさい」と丁寧な工藤を連れて田中は去って行った
「ほ、ほんとうに帰るんだ・・・・」
田中にまとわりつくように歩く佐藤の後姿を見て石田はあきれ顔を浮かべた
「新垣さんに任せる、っておっしゃった高橋さんの言葉を信じて帰る田中さんも田中さんですけど・・・
 そんなに高橋さんのことを信じているんですね」

「まったく、愛ちゃんも田中っちも私に任せる、なんて、もう・・・
 ああ、疲れた!!いろいろあったし、愛佳、悪いけど、私ももう帰らせてもらうからね」
半ばやさぐれ状態で新垣がコートを羽織る
「ええ〜〜新垣さん、帰っちゃうんですかぁぁぁ?」
ここにもまた一名、疲れさせる天才がいることを思い出し、新垣は軽い眩暈を感じた
「せっかく、こうやってお会いできたんだから、もっとお話ししましょうよ」
「・・・生田、うざい」
「またまた〜それは愛情の裏返しってやつですね〜」
そんな生田を無視するように一人、店を出ようとする新垣だが、当然のように生田もついてくる

「ちょっと、えりぽん、何してるの?新垣さんが疲れちゃうでしょ!」
「ええ〜だったらえりが〜送って差し上げますよ〜」
「・・・いらないから」
そういいながらも帰ろうとする新垣、それを追う生田、それを追う譜久村という奇妙な構図のまま3人の姿は小さくなっていく

578名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:25:35
「結局、フクちゃんも新垣さんの邪魔になっているんだろうね」
鈴木が残ったコーヒーを飲みながら半笑いでいると、光井も立ち上がった
「まあ、今日はなんやかんやあったわけやし、みんな、疲れたやろ?
 これで今日は解散ってことにせえへん?」
リンリンとジュンジュンに同意を求めるように顔を向けた
「そうデスネ、色々あって、ジュンジュン疲れた。休みたい」
「リンリンも久々に日本を楽しみたいデスネ」
すでにバナナを1房近く食べているジュンジュンは眠そうに、あくびをかみ殺している

「決まりやな、ほな、あんたらも帰りや」
「え・・・あの、光井さん、ちょっとだけ相談に乗ってもらっていいですか?」
「なんや鈴木?また相談?・・・まあ、愛佳でなんかでよければ話くらいは聴いてもええけど」
そう言って、浮かべてカバンを手にし、帰る準備を整え、コートを羽織った
「ほな、鈴木行くで」
身支度を整えた光井に飯窪が遠慮がちに「・・・光井さん、私もいいですか?」と伺いを立てた
「なんや飯窪、あんたもあるんか?」
「はい、お邪魔でしょうか?」
表情は不安げな飯窪に光井は「そんなことあらへん。ま、あってもおかしくないやろと思ってたんや」と返した

光井達を見送った後、リンリンが椅子に座っている小田の真正面の席に座った
「さて、これでミンナ帰っタ。ここからはリンリン達の時間デス
 ダークネスにより作られた能力者、小田さくらダナ」
「・・・はい」
「これから、私と一緒にキテもらおう。それはリゾナンターとしてではなくて、万千吏、リンリンとしてのお願いダ」
「・・・拒否権は」
「ナイ。そして、中国式のもてなし方というものをさせてモラウ」
小田は下を向き、一息ため息をついた
「・・・仕方ありませんね。素直に応じさせていただきます」
「やけに素直ダナ」
「・・・いけませんか?」

579名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:26:11
「そして、ジュンジュンは石田ちゃんをもてなしさせてモラウ」
「!! なんでだ!!」
「だって、石田ちゃん、かわいいカラナ」
「やめろ!変態!!」
大声を上げる石田と笑顔のジュンジュン、お互い真剣な小田とリンリン
焦り、思わずリオンを出しかける石田に対して小田が「何してるんですか?」といわんばかりに視線を向ける
「ジュンジュン、冗談いってるだけダ」
それを聞いて安心した石田だったが、小田は唇を尖らせた
「・・・冗談、なのですね。本気でもよかったのに」

にぎやかな夜は過ぎていく
田中にじゃれつく佐藤、新垣に纏わりつく生田、光井に相談を持ち掛ける飯窪、中国史のもてなしを受ける小田
リゾナントの二階では鞘師が寝込んだ道重に付き添い、時折冷えたタオルで額を冷やす
高橋はそんな様子を見ながら、時折、鞘師に問いかけ、鞘師は静かに答えを返す
深夜3時も過ぎたころ、道重が体を起こしたのをきっかけとし、3人は語り合い始めることとなる

★★★★★★

「・・・」
亀井は転送装置を使い、ダークネスの本部に戻ってきた
リンリンの炎で、新垣のワイヤーで召物はぼろぼろだが、気にする様子もない
無表情
無機質な表情
ただただ、歩き続け、与えられた部屋、単なる休憩室に戻り、眠り始める
夢などみない、みれない、夢の中で彼女は寝る、そしてその中で眠り、さらに眠り・・
眠って、眠って、眠って・・・
そして幾重の夢の中でようやく、彼女は笑う

580名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:33:57
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(7)です
遅筆で申し訳ないです。言い訳すると忙しかった。
そして展開がΧや■と比べて遅くて申し訳ありません

ここまで転載お願いします。

581名無しリゾナント:2015/02/02(月) 06:54:18
更新乙です!転載行ってきます

582名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:14:53
>>544-550 の続きです



しかし見れば見るほど異様な光景だ。
異能力に目覚めて以来、大抵の異様なものには慣れていたつもりの春菜だったが。

「何を驚いているんだい? 見ての通りさ! 君の盟友である生田衣梨奈は今まさに! 四つの魂
に分けられたのだよ!!」

赤を基調とした、中世フランス的な軍服に身を包んだ男装の麗人。舞うように、踊るように春菜の目
の前に一歩踏み出す。どこかで見たことがあるような所作。
巻き巻きの金髪ロングからして、ベルばらだ。いや、宝塚か。

それよりも、問題はその衣梨奈のほうだ。

「はるなん、これどういうこと?」
「お前ら、元に戻すっちゃ!!」
「あーもう面倒臭いと。どうでもよかろ」
「全員ぶっ飛ばす! えりはいつでも臨戦態勢やけん!」

同じ顔した衣梨奈が、四人。
さっきのオスカルの言葉を信じれば、文字通り「魂を分けられた」のだろうが。
恐る恐る四人の衣梨奈に近づくも、今度は別の変な奴に遮られた。

583名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:16:12
「…リリーに近づかないで」
「り、リリー?」
「あなたはリリーを不幸にする…取った!あなたのイニシアチブ!」

同じく意味がわからない。
春菜の前に立った、奇妙な白と黒のドレスを着た少女は、まるで観客に語りかけるようにそんなこと
を口にした。

「そーゆーことなんだよ。うちら福田さんにこいつを無力化しろって言われてんだよ。怪我したくな
かったら引っ込めよばーか」

今度は、特攻服を着た少女がガムをくちゃくちゃ噛みながら、顔を限界までこちらに近づけてくる。
迫り来る特大ロングのリーゼントは、存在だけで十分な威嚇である。

「説明補足させていただきますと。ワタクシ田村芽実は、『劇団田村』という能力によってですね。
自分はもとより、相手の魂も分裂させることができるんです。ちなみに、ワタクシのような熟練者
でなければ、分裂させられた人はそれぞれが好き勝手なことを言ってまるで纏まりがなくなります」
「は、はあ…」

最後に、メガネスーツの社長秘書風な少女。
それぞれが違う格好をしているが。共通点は、濃い眉、垂れ目、犬ッ鼻、特徴的な八重歯。
全員同じ顔なのに、違うキャラ。ある意味壮観ですらある。

「というわけでワタクシ達は退散させていただきます」
「ずらかるぜ!!」
「永遠の繭期なの!」
「それでは!ごきげんよう!!」

それだけ言って、すたすたと部屋を出てゆく四人の田村芽実。
奇妙。滑稽。そんな空気に押されていた春菜は、ようやくあることに気がつく。

584名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:17:27
「逃げられた!!」

どうしよう。今から追いかけて捕まえるべきか。
聴覚を強化するも、足音はばらばらの方向から聞こえてくる。一体どっちを追えばいいのか判断がつ
かない。

「はるなん早く追っかけると!」
「いやいやその前にえりを元に戻して」
「あーもうおなかすいたけん」
「……」

矢継ぎ早に四人、と言っていいのだろうか。分裂させられた彼女たちに言葉をかけられる。
みんな言ってることがばらばら、しかも最後の一人は、ヘッドホンを被ってスマホをいじっている。
これは厄介なことになった。

いや、ちょっと待った。
確か芽実のうちの一人が、「福田さんの指示で」みたいなことを言っていたのを春菜は思い出す。こ
の前のことを逆恨みしてのことなのか。

だったら、この状況は明らかにおかしい。
それに。気になっている点が一つ、あった。
一人だけならまだしも、全員がだなんて、怪しすぎる。

春菜は、意識をある一点に集中させる…やっぱり。
確証を得た春菜が、部屋のロッカーのうちの一つに手をかけた。

「見つけた!!」
「ひいっ!?」

中から現れたのは。
二つ結びの、地味な格好をした少女。
顔はやはり先ほどの仮装集団と一緒の顔である。

585名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:18:36
「ど、どうしてここが」
「あの人達。匂いがしなかったんです」

春菜が感じた違和感。
それは、その場にいた四人の少女たちから匂いがまったく感じられなかったこと。
さらに、福田花音の指示という事であれば、衣梨奈を分裂させてそれでおしまいなんてことはありえ
ないだろう。必ずどこかに自分達を見ている人間がいる。そういう結論に達した。

あとは、嗅覚と聴覚を少しずつ、絞ってゆくだけ。
微かな心音と呼吸音。それと、自分と衣梨奈以外の「誰か」の匂い。
辿るのは、簡単だった。

「さあ、おとなしく生田さんを元に戻してもらいます!」

芽実の計画では。
分裂した衣梨奈に春菜が戸惑っている隙に、不意打ちを仕掛けるというものだった。
しかしここまで簡単にばれてしまっては、計画もへったくれもない。
花音からは「呪いの人形みたいのがいるかもしれないけど、そいつ自身は弱いから」と説明されてい
たものの。芽実もまた、戦闘特化タイプというわけでもない。

頑張った。一度は相手の虚をついた。
やれるだけのことはやったんだからしょうがない。
ついこの間までサブメンバーだった割にはいい仕事をした。
そう思いかけた芽実の頭に、花音がかけた言葉が過ぎる。

586名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:20:23
― この襲撃は、あんたたちの試金石でもあるんだから ―

そうだ。
この戦いに、自分達の今後が掛かっている。
こんなんじゃダメだ。ぜんぜん、仕事してない。
芽実の体が、小刻みに震えだす。

「ふ、ふふ、ふはははは!!!!」

気弱そうで地味な格好をしていた少女の姿が、ゆっくりと変わってゆく。
髪型が、そして服装が。
春菜の前に姿を現れたのは、ついさっき見た柄の悪い不良だった。

「テメー…よくも暴いてくれたなこの野郎ぉ!!」
「ひ、ひっ!!」

芽実の能力である、「分裂(スプリット)」。
文字通り、自らの魂を分裂させることができる能力。ただ、一人の本物以外は肉体を持たない分身の
ようなもの。春菜が匂いによって本体を突き止めたのはこの特性によるものだ。
また、能力の応用として他者の魂をも分裂させる事もできるわけだが、それはあくまでも副次的なもの。

その真骨頂は、芽実の持つ凄まじい「演技力」によって発揮される。
もともと芝居というものに尋常ならざる興味を抱いていた芽実は、やがて自らの能力に「演技」を結
びつけた。結果。

587名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:21:18
不遇の人間と吸血種のハーフを演じれば、その圧倒的な生命力を。
中世の男装の麗人騎士を演じれば、その鮮やかな剣技を。
有能な社長秘書を演じれば、その聡明な思考力を。
そして凶悪なヤンキーを演じれば、不良喧嘩殺法を手に入れることができるのだ。

なりたい自分に、なれてしまう。
恐るべきは、芽実のアクトレスとしての才能。
それこそ頭の天辺から爪先まで不良と化した芽実は、春菜に凶悪な眼差しを向けていた。

588名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:23:00
>>582-587
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

589名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:23:36
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■

「おそい!遅いよぉ!田中っち!」

目を開けると、そこにガキさんがおった。

なん?バス?れいなたち以外誰もおらんと?貸切かいな。

「ちょぉっとぉ!いーつまでそこ突っ立ってんのぉ?
今日は田中っちが地元を案内してくれるってゆーさぁ」

そうやったっけ?れいな地元飛び出してから一度も帰ってないっちゃのに…
…もう…あれからどんくらい経っとるとかいね?
あっという間だったような…長かったような…

あれ?れいなどこ案内するつもりやったとかいね?
だってあの頃の流行のお店も行きつけのお店も
みんな無くなっとるかもしれんちゃのに…

590名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:24:46
「みて!田中っち!さくらだよぉ!さくら!あそこいこうよ!ほれ!
なんかでっかい神社見えてきたよぉ!」

えー!いつのまにバス走っとっちゃかね?
まいいかガキさんの行きたいとこいきましょう。
神社がええならそこに。

「いやーでっかい神社だったねぇ」

ですねー。

「ほぉっ!さくらだ!さくらだよ?田中っち!」

きれいですねー。

「田中っち!田中っち!…」

楽しい…楽しい…
なんやっとかね…
久しぶりったい…

ガキさんと、二人でこんなに…

楽しかった…楽しかったと…
また、また行きたいです…
ガキさんと…また…いっしょに…

―――そうだね…また、行けたら、いいね。―――

591名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:25:26
>>589-590
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■
でした。

592名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:36:11
>>582-587 の続きです

本物さながらのヤンキーと化した芽実を前にして。
春菜は完全に、びびっていた。

「いっ!生田さんをははは早く元にいい!!」

春菜は。
ヤンキーという人種が苦手であった。
この世界に足を踏み入れる前はもちろんのこと、異能力を手にしてからも。
コンビニなどでこのような輩に遭遇する度に、五感全てをシャットダウンしてしまいたくなる。
サブカルガールと不良は、相容れない生き物同士なのだ。

「さっきからごちゃごちゃうっせえんだよ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!!!」

春菜の襟元を掴み、壁伝いに吊るし上げる不良芽実。
いつの間にか、ガムまで噛んでいる。

「俺はこの姿になるとなぁ、喧嘩最強になるわけよ? オメーみてえなモヤシ、3秒でボッコだっつー
の!あぁん?」
「生田さん!た、助けてくださいっ!!」

これがヤンキーの気迫なのか。
すっかり気押されてしまった春菜は、思わず先輩に助けを求めてしまう。
しかし。

593名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:37:02
「えー、五感強化があるやん」
「じゃあ準備体操してから」
「面倒臭い…」
「……」

春菜は絶望する。
最後の一人に至ってはヘッドホンで音楽を聴きながら頭をぶんぶん振っている。
あまりにも自由。それが生田衣梨奈なのか。

「もう頼みません!こうなったら私一人で…!!」

襟首を掴む手、その手首を逆に掴み返す春菜。
痛覚を最小限に絞ることで、春菜は痛みを感じない戦闘マシーンと化す。
皮膚を切り裂かれても。骨が折れても。決して止まる事の無い暴走機関車となるのだ。

594名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:41:01
……

結果は、春菜の完敗だった。
容赦なく叩き込まれる拳、拳、拳。それでいて春菜の攻撃は全てかわされる。
痛みは確かに感じない。しかし、攻撃が当たらなければただのサンドバッグだ。文字通
りの喧嘩の達人となった芽実に、春菜の格闘術はまったくと言っていいほど通用しなか
った。

「ご、ごめんなさいぃぃ…」
「もやしが逆らってんじゃねーぞコラァ!」
「や、やっぱり生田さんじゃないと…」

情けない声をあげながら、完全に敵意喪失。
何よりも、ボコボコにされた体がついて来ない。

やはりここは、衣梨奈を戦線復帰させるしかないのか。
床にへばりついたまま、顔だけ横に向けて衣梨奈のほうを見る。
相変わらず好き勝手なことをしている四人。
纏まりのない衣梨奈。彼女たちを、何とか一つのことに目を向けさせることができれば。

そこで、ふと思いつく。
人間の三大欲求の一つである食欲。そこを利用すれば、彼女、というより彼女たちの意
識を集中させることができるのではないかと。
もちろん、都合よく春菜のポケットにそんなものは入っていない。そこで。

春菜の能力である、「五感強化」。これを最大限に駆使する。
味覚。視覚。嗅覚。聴覚。そして触覚。これを衣梨奈と共有することで、春菜の思い描
いたイメージをそのまま衣梨奈にぶつけることができるはずだ。

595名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:42:06
五感を総動員し、春菜はある食べ物を思い浮かべた。
これなら、衣梨奈の意識を一つの方向へ向けることができるはず。
漫画で鍛えた妄想力が今、爆発する。

次の瞬間。
四人の衣梨奈が一斉に起立する。
その表情は苦悶に満ち、そして顔面蒼白。
口を人間がすることのできる限界までひん曲げた彼女たちの発した言葉は。

「ピ…ピーマン!!!!!!!!!!!!!」

そう。
春菜は敢えて、衣梨奈の大嫌いな食べ物であるピーマンを頭に思い浮かべたのだ。
口にした時の歯ごたえ。食感。色味や香り。まるで本当に食べているかのような感覚は、
そのままダイレクトに衣梨奈に伝わった。

「ううっ…えりピーマン食べれんのにはるなん酷いと…」

するとどうだろう。
四人の衣梨奈は徐々にその姿を寄せてゆき、元の一人の衣梨奈に戻るではないか。
ピーマンを忌み嫌う心が、ばらばらになった魂をひとつにした。まさに奇跡。

「てめっ!何で元に戻ってんだよコノヤロー!!」
「ん…お前は確か…えりに変な術かけた店員!!」

状況を把握した衣梨奈が懐から糸を仕込んだグローブを装着しようとする。
しかし芽実はその隙を与えない。烈火の勢いで襲い掛かり、衣梨奈の手を叩き落す。

「そうはさせねえよ!!」

糸を繰っての精神破壊という攻撃方法を封じられた衣梨奈、それでも彼女は動じない。

596名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:43:11
「糸を使えない時もあるって、新垣さんに言われとるけんね!」

迫り来る芽実の顔面に、衣梨奈の唸る拳がクリーンヒット。
それでも芽実の勢いは止まらない。そのまま足を踏み出し、衣梨奈を殴り返す。

「てめーのへなちょこパンチなんて、めいには効かねーんだよ!!」
「はぁ?それはこっちの台詞やけん!!」

互いに一歩も退かない乱打戦が始まる。
衣梨奈が殴れば、芽実も殴り返す。殴り、殴られ、殴り、殴られ。
加勢に出ようとした春菜も、戦いの激しさに思わず立ち尽くしてしまう。

一進一退、ほぼ互角の勝負。
だが、徐々に衣梨奈が押し始める。彼女の一撃は、ただの一撃ではない。
衣梨奈の能力である「精神破壊」の力が込められた、一撃。

えりだって、成長しとるとよ!!

能力が発現した当初は、能力を垂れ流し状態だった衣梨奈。
強すぎる力の抑制も兼ねて、先輩の里沙の勧めもあり彼女と同じように糸を媒介しての精
神攻撃の鍛錬を始める。
しかし、里沙はこうも言っていた。

生田、糸が使えなくなった時のことも考えなさいよ。

思うままに精神破壊の力を使うのは強力ではあるが、反面自身の消耗も激しくなる。
そうならないように、衣梨奈は稽古の中で、そして実戦の中で。力をいかに効率的に使えるか。
その効果は、如実に現れていた。

597名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:44:40
「ぐぅ、がっ!!」

一撃一撃が、芽実の精神力を削ってゆく。
それはついに、彼女自身の膝を着かせるに至った。

体の冷や汗が止まらない。
体に力も、入らない。最早ここまでか。

「…めいは。めいたちはっ!!ここで!倒れるわけにはいかないんだ!!」

花音の指示によるリゾナンター襲撃。
それが花音の単なる私怨だということは、芽実たち四人も知っていた。
第一、リーダーである彩花がこの計画から外されているのがいい証拠だ。
あやちょは病み上がりだから、という空々しい言い訳を聞いて。それでもなお花音につい
てきたのは。

一見ダークネスの幹部崩しに成功し、他の能力者たちの一歩先を行ったと思われているス
マイレージ。
けれどそれが仮初の評価であることは、能力部隊の本拠地から帰ってきた花音の様子から
は容易に窺えた。
そのことと、花音が口にした「試金石」という言葉がぴったりと重なる。

これは自分たちだけではない。
6人となった新生「スマイレージ」にとっても、試金石なのだと。

強い思いが強い力となり、衣梨奈の顔面を撃ち抜く。
だが。

598名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:45:17
「それは衣梨奈たちも、一緒やけんっ!!!!」

衣梨奈は倒れなかった。
寧ろ力強く踏ん張り、逆に芽実を殴り返す。
彼女にも、負けられない理由がある。

ここに、さゆみはいない。
チケットが1枚足りなかったというのもあるが、それだけではない。
さゆみ抜きでも、この子たちは自分たちの身を守れる。そう信じて、送り出してくれた。
ならばその信頼を裏切るわけにはいかない。

「うらあああああぁっ!!!!」
「しゃあぁぁ!!!!」

互いに、最後の一撃。
繰り出された拳は交差し、相手の顔面を捉える。
あまりに激しい攻撃、春菜は思わず目を瞑ってしまう。

結果として、再び目を見開いた春菜が見たのは。
倒れている芽実と、辛うじて両足を突っ張り立っている、衣梨奈。

「生田さん!!」
「それより、みんなが危ない…みんなを、助けんと」

勝利の美酒に酔っている暇はない。
今この時、他のメンバーたちも同じように襲撃を受けている。
よろけつつも前に進もうとする衣梨奈に、春菜はそっと自らの肩を差し出すのだった。

599名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:46:05
>>592-598
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

600名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:52:17
■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■

電光掲示板が搭乗可能な旨をインフォメーションしている。

「ほな、ウチ行くわ」

はい、お気をつけて

「堪忍な、急なことやったのに、なにからなにまで手配してくれて」

いいえ、私は…

「?」

本当に…

「んん?」

本当に、いいんですか?
この記憶を奪えば、リゾナントの皆さんは、もう光井さんを追えない…
たとえ共鳴したとしても…
光井さんには『それが共鳴だとわからない』し、自らも『共鳴を返そう』と『想え』なくなる。
…それは、きっといつか…

601名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:52:48
「ええんや…どのみち…な…」



「ええんやて、ええんや…」



「なあ福田ちゃん」

はい

「もし…ウチの記憶がすべて戻ったとしたら…
…そんとき、ウチは、アンタを許せるんやろうか?それとも…」

許せない…でしょうね

「…そうか…堪忍な…」

…変な光井さん、なんで光井さんが謝るの?

「だってアンタ、ええ子やん?
なのにウチはアンタ憎まなアカンのやろ…そんなん悲しすぎるわ…」

…ちがいます…私は…

…私は…

光井を乗せた便を見送り、一人、つぶやく。

そのつぶやきは、北風だけが――

602名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:53:31
>>600-601

■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■
でした。

603名無しリゾナント:2015/02/08(日) 23:50:24
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■

すべては終わってしまっていた。

道重さん…聖が目を覚ますまで、ずっといてくれたんだ…。

聖のせいだ。

聖を、選ばせてしまった。

道重さんに…捨てさせてしまった…

亀井さんを…親友を追うのを…諦めさせてしまった。

こんなはずじゃ、なかった…

道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!聖が探す!…絶対探すって…

何も訊かない

道重さんは何も訊かない

ごめんねって、譜久ちゃんが無事でよかったって…

今は、ゆっくり休んでって…

…そんな!…聖がわるいのに!…

聖は…役立たずだ…

みずきは…

604名無しリゾナント:2015/02/08(日) 23:50:55
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■
でした。

605名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:23:35
>>592-598 の続き



白亜のお城をバックに、玉座に座るシンデレラ。
彼女を守るようにして、生気のない顔をした取り巻きたちが取り囲む。

「唐揚げ」

姫が命じれば、下僕の一人が跪き、白い皿に盛られた唐揚げを差し出す。
その山の一つを摘み、満足そうに口に入れ頬張る姫。
唐揚げだったら、無限に食べられる。そんな至福の表情だ。

「ティッシュ」

次の命令で、別の下僕が引き抜きタイプのウエットティッシュを御主人様の目の前に。
引き抜いたティッシュで油のついた指を丁寧に拭い、それから意地悪な視線を正面に立つ人物
へと差し向けた。

「タケちゃんさあ、あたし、何て言った?」

ゆっくりとした口調に隠された、鋭い棘。
名指しされた、茶色い頭の少年少女は途端に顔を引き攣らせる。
覚悟を決めてきたはずなのに、たった一言で朱莉は萎縮してしまった。

606名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:25:01
「あの、て、敵を倒せって」
「だよねえ。びっくりしちゃった。あたし、間違った指示を出したんじゃないかって」

大げさに表情を緩め、朱莉に問いかける花音。
気にするでない、よきに計らえ。そんな台詞が飛び出てもおかしくないような、寛容さ。
薄く微笑みを作ったまま、花音は。唐揚げの一つを思い切り朱莉に投げつけた。水っぽい音を
立てて朱莉にぶつけられた唐揚げは、ぽそりと地面に落ちる。

「じゃあさ。なんでフクちゃんがここにいるの?」

ゆっくりと玉座から立ち上がった花音が、朱莉の目と鼻の先まで近づく。
油で汚れた指を朱莉の着ているパーカーで拭い、それから。

「ブクブク太ったアザラシの言うことは聞けないって?」
「いや!そんなことは」
「福田さん違うの!これは聖が朱莉ちゃんに」
「外野は黙ってな!!」

見かねて声をあげた聖を、花音が強く制する。

「あたし言ったよね?今回の襲撃が、『スマイレージ』の名誉を回復させる唯一の方法だって。
それをしないってことは、タケは『スマイレージ』なんかどうだっていいんだ?」
「だから、ちがっ!!」

近距離からの右フックが、朱莉の脇腹に叩き込まれた。
もちろん非力な花音であるから、大してダメージにはなっていないが。

607名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:26:16
「何が違うの?」
「あかりはただ!こんなやり方…間違ってるって…」
「嘘つくなよ。あんたはただフクちゃんがリゾナンターにいるって知ったから躊躇しただけで
しょ。あたし、知ってるんだから」

朱莉の顔が、苦くなる。
花音の言う通りだ。スマイレージに敵対しているという、リゾナンター。その中に、聖がいる
ことを朱莉は知らなかった。だが、実際に聖に会い、話を聞くと。どうしても花音がお題目通
りの行動をしているとは思えなくなってしまった。

「福田さん、お願い、聖の話を聞いて!!」
「今あたし、タケと話してるの。フクちゃんの下らない話はその後に聞いてあげる」

聖は、覚悟を持ってこの場に来た。
何故、花音は執拗にリゾナンターをつけ狙うのか。そのことを問い質すために。
その答え如何によっては、戦うことも止むを得ない。けれど。
こんな朱莉を吊るし上げるような結果は、望んではいなかった。

「ねえタケ。『スマイレージ』としての決断より、フクちゃんのことが大事? もしかしてなん
か怪しい関係なんじゃないの?」
「だからっ!」
「なーんてね。わかってる。タケちゃんとフクちゃんは養成所時代からの仲良し。そうでしょ」

無言で頷く、朱莉。
それを見た花音は心底嬉しそうな顔をする。

608名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:27:21
「じゃあさ。その美しい友情とやらに免じて。ここは退いてあげる」
「えっ!ほんと!?」
「ただし…これを耐え切ったらね」

花音が、指を鳴らす。
それを合図に朱莉に群がる、花音の下僕たち。

「福田さん何を…きゃあっ!!!」

それと同時に聖の周りにも操られた男女が集まる。
両手を取られ、さらに身動きができないように固められてしまった。

「フクちゃんは黙ってそこで見てな。お友達が頑張る姿をね」

朱莉を取り囲んでいた群集のうちの三人が、一気に襲い掛かる。
それに対する、当然の反応。朱莉は両手を合わせ、光り輝く何かを発生させる。合わせた手を
広げれば、それは棒状に伸びてゆく。

一瞬。
朱莉がその棒状の何かを翻し、回し、相手に叩き付ける。
崩れ落ちた男を飛び越え、なおも襲い掛かってくる二人。朱莉に打ち込まれる拳と蹴り。
しかし朱莉には傷ひとつ与えられない。先ほど朱莉が出した光る棒が、薄く延ばされ楯状にな
って相手の攻撃をシャットダウンする。

それでも怯まずに向かってくる敵の一人に、朱莉の派手な回し蹴りが突き刺さる。
足はやはり、光り輝く何かに包まれている。さらに背後を狙おうとにじり寄っていた最後の一
人に向き直り。
大きく弧を描いての突進で懐に飛び込んでからの、ゼロ距離からの拳。
光輝く何かに包まれた拳の一撃を受け、男はぐうと音を立てて崩れ落ちた。

609名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:30:07
「ちょっとー。何やってんのタケちゃん。抵抗しちゃあダメなんだって。増してや『可塑錬気』
を使うなんて、論外」
「そんな!!」
「あれ?タケは、フクちゃんのために頑張れないんだ?」
「くっ…」

自らの気を練り、思いのままの形にして操る「可塑錬気」。
それが朱莉の能力だった。
ある時は棒状にして武器とし、ある時は手足に纏わせ攻撃力の強化に使う。さらに、盾として
展開することで相手の攻撃を凌ぐ装甲ともなる。
それを奪われるということは。

「がっ!がぼっ!!」
「いいねー。今のはみぞおち入ったかな?」

囲まれ、無防備の腹に一撃を加えられる。
操られている男に力の加減などできるわけもなく。
ただの少女となってしまった朱莉の体に、容赦ない拳が突き刺さった。

610名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:31:57
「あかりちゃん!」
「みずきちゃんだ…大丈夫だって。こんなの、ぜーんぜん、効かねーから…ぐっ!!」

精一杯の強がりを見せて笑ってみせる朱莉。
だが、花音の下僕の一人の繰り出した足払いに、体勢を崩し地面に倒れてしまう。
そこへさらに無慈悲な追い打ちをかけられる。文字通りの、袋叩き。

「福田さんっ!もうやめて!!これじゃ朱莉ちゃんが!!」
「あたしは別にやめてもいいんだけど。タケがフクちゃんのために体張るって、どうしても聞
かないからさぁ」

まるで朱莉が自ら申し出て今の状況を作っているかのように話す、花音。
それでも朱莉は地に手をつき、立ち上がる。

「ふ、福田さん…あかりがこれを耐え切ったら…約束、守ってくれるんですよね」
「あったりまえじゃん、可愛い後輩の頼みだもんね」

満面の笑み。
それが何を意味しているのか。
大勢の手で上から押さえつけられ身動きできない聖は、ただ見守ることしかできない。
それが、途方も無く悔しかった。

611名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:33:08
>>605-610
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

612名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:50:57
>>605-610 の続きです



里保と香音を引き連れ、歩く女。
元いた宇宙ワールドのエリアの端まで来ると、そこから先は「関係者立入禁止」の看板と鉄板
によるバリケードで封鎖されていた。そう言えばリヒトラウムの新しいアトラクションを擁するテ
リトリーが開発中であることを、ニュースか何かで聞いたのを二人は思い出す。

鉄の板に設けられた、扉が一つ。
そこにもご丁寧に「関係者以外立入禁止」とある。しかし女は。
自らのポケットをごそごそと探り、取り出した鍵で扉を開けてしまう。

「え」
「一応、関係者だから」

それだけ言うと、再び背を向けて歩き出す。
変な人。二人の率直な感想だ。
能力者のはずなのに、それらしき気配はまったく感じられない。ということはダークネスの手の
者か。いや、それとも違う。この感覚、どこかで感じたような。里保は思い返してみたが、うまく
それを記憶から掘り出すことができないでいた。

鉄骨が組まれただけの建物群を抜け、広い敷地に出る。
女は気だるそうに左右を振り返りつつ、ここなら誰にも邪魔されないか、と呟いた。

「あなた、何者なんですか」

里保が、何度目かの同じ質問をする。
女がゆっくりと、振り返った。

613名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:52:05
「このリヒトラウムの管理人、なのかな。ただ、この敷地に悪意を持って侵入してくるような
連中に対しての、だけど」
「悪意?そんなのあるわけない!だってうちら、ただ遊びに来ただけなのに…」

そこで香音は気づく。
いたではないか。里保がいつの間にかぶっ倒していた、いかにもな少女が。

「もしかして…」
「そう。あんたが倒したあの子を含めた数人が、悪意を持ってこの『夢の国』に入ってきた。
目的は、多分、あんたたち」

さして興味もなさそうな顔で、二人を指差す女。
話を総合すると、「外敵」がやって来たから出動した、ということは。間違いなく自分達はそ
の外敵ではないのだから、何の問題もないということになる。が。

「じゃあ何で、あたしたちをこんな場所へ?」
「…退屈しのぎ」

空気が、明らかに変わる。
やる気のある顔には見えないが、やる気のようだ。

「はぁ!?うちらが何であんたの退屈しのぎに付き合わなきゃなんないの!」
「そこのぽっちゃり、あんたのことは別に呼んでない」
「ぽ、ぽ、ぽっちゃり!!」

至極当たり前の疑問をぶつけただけなのに。
返って来た返答はあまりにも理不尽で、かつ日頃から気にしている事をぐさりと突き刺した。

614名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:53:01
「私はそこの子と一対一でやりたいから。さっさと帰って」
「そんなことできないし!てかぽっちゃりじゃなくてちょっとふくよかなだけだし!!」
「そうだよ、香音ちゃんはちょっと人より体が大きいだけだから」
「里保ちゃん…」

ここにも身も蓋もないことを言うやつがいたか。
しかも無自覚ときたもんだから、手の付けようがない。

「それにさ。今頃、さっきのゆるふわっぽい子の仲間たちがあんたたちの仲間に対して同じよ
うなこと、してるはずだし。助けに行ったほうがいいと思うけど」
「なっ…!!」
「香音ちゃん、うちからもお願い」

半身になり、構えを取りながら里保。
瞬間、背筋が寒くなる。こんな彼女を見たのはいつぶりだろうか。

「大丈夫。後から駆けつけるから」
「…わかった」

ここは里保の反対を押し切って二人で戦う、そんな選択肢もあったかもしれない。
しかし、香音は敢えて選ばなかった。女の言うように、他の仲間のことも心配だし。それに。
里保の言葉を、里保自身を信じているからこそ。

踵を返し、振り返ることなく駆け出す香音。
そのまま壁を透過したのだろう、足音はまったく聞こえなくなった。

615名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:54:16
「…あんた、リゾナンターでしょ」

二人きりになってすぐに。
女は表情を変えず、里保の所属を言い当てる。

「どうしてそれを」
「会ったことがあるからね、『高橋愛』に」

編上靴を鳴らし、里保との間合いを詰める。
ダークネスの差し向ける、人工能力者に良く似た感じ。それでも、やはり決定的な何かが違う。

「遠くにいたのを見ただけだったけど。一人だけ、オーラが違った。至高の、光使い」

そうだ。
里保はようやく思い出す。
これは。この感じは。ゼロから作られた、無機質なもの。

「あんたは。高橋愛の後継者でしょ?」

自らを、デュマの小説の登場人物に準えた、三人組。
そして元ダークネスの構成員が立ち上げた、能力者集団。彼女たちに共通する事項。
かつてダークネスに身を置いていた新垣里沙は言った。ダークネスが生み出した人工能力者を
「造る」技術、それが提供され大量生産という形で応用している組織があるということを。

「その肩書きに相応しいかどうか。力、見せてよ」

凄まじい風が、地面から吹き上げているような感覚。
ただそれは錯覚に過ぎない。あくまで相手がこちらに発する、威圧の具現化。

616名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:58:12
もうすでに、戦いは始まっている。
ファーストコンタクトで里保が感じた、達人クラスの相手という評価は間違っていなかった。そ
れどころか。かつて里保たちを圧倒的実力差で苦しめた「赤の粛清」の域に達している可能性す
らある。

「うちがどれだけ強くなったか。悪いけど、いいチャンスだと思ってるから」

香音を行かせたのは。
もちろん他のメンバーたちが心配なこともある。
けれど、自分自身の今の力。成長。もう敵ではなくなってしまった舞美や茉麻相手では出すこと
ができない、全力。
それをこの手で、確かめたかった。

女の右手から、白い何かが生み出されてゆく。
相手は、塩を操る能力者。倒れている刺客・里奈に向けて使った様子から、そう予測立てていた。
問題は、それがどう人体に影響を及ぼすか。

「はあっ!!!!」

愛刀「驟雨環奔」を地面に突き立てる。
舗装されていない、むき出しの砂利が敷き詰められた地面が砕け、礫となって女に襲い掛かる。
その瞬間。女の体の周囲に、白い輪のようなものが現れる。輪に軌跡を阻まれた石礫は、輪と
同じように白くなり、ぽろぽろと崩れ落ちていった。

やっぱり。
里保は確信する。
女の、塩を析出させる能力は危険だ。あの塩に触れたら最後、塩と化して崩壊してしまう。幸
い、人体に対してはある程度タイムラグがあるようだ。証拠に、里奈の塩にされた足は里保の
水流によって事なきを得ている。

617名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:59:15
「…塩に触れたら、危険。そう思った?」

女の問いに、里保は答えない。
答える必要も無い。気を抜いたが最後、あの塩の餌食になってしまう。

体勢を低くし、抜刀の構えを取る。
向かい合っているだけで、空気が焼け付く日差しのように肌を刺す。
強い。改めてそう感じる。だから。

一発で決める。そのつもりで女に向かって駆け出した。
刀を抜き、同時に携帯していたペットボトルを相手に向かって投げつける。
だが目的は相手にぶつけることではない。口の開いたペットボトルは回転しながら、水を撒き散
らす。それら全てが、里保の武器となる。

走りつつ、撒かれた水でもう一本の刀を象る。
二刀流。加えて中に舞う水の粒を珠に変え、集中砲火を浴びせる。持ちうる限りの、全力だ。

「勝たせて、貰う!!」

俊敏な動きで女の懐に入り、水の刀を逆手に持ち替え下から上へと薙ぐ。
塩の輪を崩し、返す刀で相手を斬る。
瞬時に出来上がった里保のイメージ、だがそれは予想もつかない出来事によって崩される。

破裂。
そう。先ほどまで自分の物だと思っていた水の刀が、まるで支配を拒むかのように。
形を崩し、砕け散った。
それだけではない。前方に展開していた水球、その全てが同じように破裂し消えていく。

618名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:00:46
「どうして!!」
「あんたの水は、あたしの塩が混ざることで、『あんたのもの』じゃなくなる」

アトラクションの行列の中で里保の水の刀を難なく霧散させたのも、そのせいか。
水が使えない。ならば、相手の意のままにならない「水」を使うしかない。
覚悟を決め、刀を振り上げようとしたその時だ。

「30から、300。あっという間だから。『それ』は、やめときなよ」
「何を」
「自分の血で刀を作ろうとしてたでしょ。やめたほうがいい」

切っ先を掌に這わせ、血の刀を作ろうとしているのを見抜かれた。
それだけではない。30から300とは何を意味しているのか。
考えあぐねていると、自らの足の感触が変わっていくことに里保は気づいた。

地面を覆いつくす、塩。
いつの間にか、湧き出るように。まずい。
目に付いた街灯に飛び移り、事なきを得る里保だが。

「塩の致死量って、30グラムから300グラムなんだって。傷なんてつけたら、すぐ死んじゃう。
特に、こんな嵐の中じゃ」

最初は、そよ風程度だった。
雪のように積もった塩が、ぱらぱらと舞うくらいの。
けれどもそよ風は円を描き、円を重ねるうちに勢いを増してゆく。舞い上げられる白い結晶。
ついには、街灯のガラスフードの上に乗っていた里保がバランスを崩し地上に降りざるを得ない
ほどの大嵐と化していた。

まるで、塩の吹雪。吹き荒れる風にすべてのものが白に染められる。
外灯の柱に白い結晶が吹きつけ、朽木が倒れるかのようにゆっくりと崩れ落ちた。
この空間は非常に危険だ。

619名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:01:45
「くそっ!!」
「どうする? あたしを止めないと、塩の嵐に塗れてそのまま固まるけど」

女の言うとおりだった。自らの身を守る水がない現状では、瞬く間に吹き付ける塩に絡め取られ
てしまう。水は。里保は周囲を見渡す。作りかけのアトラクションの他には…いや。里保は、見
つけた。お誂え向きのものを。

なるべく自分の体に塩がこびり付かないよう、転がりながらそこに移動する。
そして立ち上がり刀を一閃。
赤色の鉄の箱は見事に斜めから真っ二つになり、中のものをばらばらと撒き散らす。
ミネラルウォーターの、ペットボトル。

「なるほどね」

自販機を目ざとく見つけた里保。
里保が自らの武器とも言うべき水を探し当てたにも関わらず、女が動じることはない。
それは、いくら水があっても無駄なのを知っているから。

それでも里保は、水の入ったペットボトルを次々に斜斬りにしてゆく。
そして撒き散らされた水は、里保の体に張り付くようにして纏われた。水の鎧。同じ水使いとし
て一戦を交えた矢島舞美の得意とする戦法。

「行くぞ!!」

渾身の力で、大きく刀を振るう。
太刀筋を避けるかのように、塩の嵐が薄くなった道。
それを、一直線に駆け抜けた。

620名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:02:35
鎧がもつ時間は、おそらく僅か。
その僅かな時間で、一気に畳み掛ける。
女の眼前に迫った里保が、上段からの切り下ろし。これは女に読まれ、バックステップでかわさ
れる。だがそこからの素早い切り返し、斜め上への切り上げ、燕返し。女の着ていたカーキ色の
ツナギが切り裂かれ、下に着ている黒のTシャツが顔をのぞかせた。

「さすがに舐め過ぎたか」
「まだまだっ!!!」

さらなる攻勢を掛けようとする里保だが。
タイムリミット。水の鎧は塩分をたっぷりと含み、花が枯れるかのように形を崩し消える。
だが。躊躇している時間はない。

再び刀を上段に構える里保、それは敵の目を引くフェイント。
振りかぶる態勢を取りつつの、まさかの投擲。女は身を低く屈めて避けざるを得ない。

そこを一気に攻める。
れいなに仕込まれた格闘術の真価が発揮される時だった。
屈んだ体を刈り取るように中段の蹴り。すかさず、女が頭部を右手でガードする。
しかも、ただの防御ではない。里保の足を絡め取り、地面に引き倒す投げ技のコンボ。

この人、格闘術も!?

地面に打ち付けられる前に、空いたほうの足で相手の胸板を思い切り蹴りつける。
手を放した隙に距離を取り、再び相手に突っ込んだ。
腹部への右ストレート、半身になってからのひじ打ち。全てが女に当たる前に捌かれてしまう。

621名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:03:08
「そろそろ、塩になるよ?」
「…そう。そろそろ」

里保が無我夢中に繰り出したように見えた拳。
明後日に放たれたようなその攻撃は。
攻撃するためのものではなかった。空を掴んだかのように見えたその手には。
握られていた。投げつけたはずの、「驟雨環奔」。

「本命は、それか!!」

はじめて女が、大きく叫んだ。
投擲したかに見えて、ブーメランの要領で描いた弧の軌跡。
持ち主の手に還った刀が、女の体を一閃した。

「さすが、高橋愛の後継者。と言いたいところだけど」
「?」
「それじゃあ、切れないでしょ」

女に言われて、ぎょっとする。
刀には。びっしりと塩がこびりついていた。

622名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:06:47
咄嗟に距離を大きく取り、地面に刀身を叩きつける。
塩が剥がれ銀色の刃が姿を現した。損傷はないようだが。

「…退屈だ」

女が、塩の嵐を収める。
その表情には、不満がありありと映っている。

「お前の実力は、そんなものじゃないだろう。何を戸惑ってる?」
「な、何を…」

何を馬鹿なことを、と言いかけた里保だが。
彼女の記憶の海の奥底に、それは確かに沈んでいた。

自らを律することができずに能力を暴走させてしまった、幼き日。
そして水面に映る、深い赤の瞳。
水に揺蕩う、黒い髪。燃えるような、赤い毛先。
心の奥に封じ込めたそれは、ゆっくりと、浮かびつつあった。

623名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:07:37
>>612-622
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

624名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:51:28
■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■

らせん階段。
巨大な、巨大な、らせん階段。

中央の支柱をくりぬく資材用エレベーターは、
生物が載ることを許さぬ構造となっていた。
殺菌と粉塵除去…
低温と低酸素…

その『実験室』の、主のもとにたどり着くには、
この階段を、降りていくしかない。

中澤裕子は、いつもそうしていた。
それが、この女に会うための、儀式か何かであるように…

やー中澤さん、おひさしぶりです…

「最近、定例に出てこんな…」

いろいろいそがしくて…

「それがこれ、か」

ええ、まあ…

「セルシウスを動かしたんは、お前やな」

ふふっ…

625名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:52:47
「勝手は困る…『あれ』の確実な回収…それが至上命題や。
お前の横やりのせいで、余計な犠牲が増えた。
…この責任、どう取るつもりや。」

責任?もちろん…私の責任は、いつでも、いくらでも、とりますが…
もし、矢口さんや保田さんのことをおっしゃっているのなら…
それは自業自得というものです…

「…なんやと」

何も知らずに首を突っ込むのが悪い…
『横やり』というのであれば、そもそも私の実験の邪魔をしてきたのは、
矢口さんですからね…中澤さんもおっしゃったはず…
…すべて、私に一任する、と…

「来たるべき時のため、『あれ』を完全に組織の制御下に置く…
その為の権限は与えた。
だが、それだけや。
その為のあの子らであり…そのための実験だけや…
『あれ』の制御どころか、回収すらできん状態で、
勝手にあの子らを殺すことまで許可した覚えはない」

ご期待通り、『あの人』には鎖をつけてあげたじゃないですか…
私は私の責任は果たしていると考えますが?

「その鎖が制御できとらんというのでは、元も子もない。
あの子らは生き残り…『あれ』の回収は失敗…
それで責任を果たしとると?」

…何をおっしゃるかと思えば…『あの人』の回収など…
もう、どうでもよいではないですか…

626名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:53:24
「なに?」

あの子たちにも『夢』は必要でしょう、と、言う事です…

「何が言いたい?何を言っとる?」

障害が大きければ大きいほど、『夢』への渇望は強固なものに…
もはや、あの子たちは、どんな犠牲を払っても、その『夢』を諦められない…
引き返せない…
あんなに失ったんですもの…あんなに失って、ここで諦められるわけがない…
たとえ、この先もっと…何倍も何倍も…失うとしても…
…『夢』とは、そういう『呪い』ですよ…

あの子たちの『夢』にとって、『A』の覚醒は、夢のとん挫を意味することになる…
…ふふふ…もう、放っておいても勝手に、あの子たちは、
こちらの意図したとおりに動いてくれます…

「ばかな…お前は、あの子らを捨てた…
セルシウスまで使って…お前は失敗した!
これでどうやって『あれ』を使うんや?
もう…時間は残されておらんのやぞ!」

先日、あの子たちから連絡が来ました、と言ったらどうです?…

「なん、やと?」

取引したい、だそうです…ふふふ…

ふふふふふ…

627名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:53:55
…良い子たちでしょう?

なんてすばらしい!

特にあの子!
私も!惚れ惚れするほどの!
完璧な!合理主義!

あんなにだましても!友人を二人殺しても!
地下深くに捨て去っても!それでもちゃあんと!戻ってくるんです!

しっぽをふって!

ははは!傑作!はらわたが煮えくり返っていることでしょうに!
今すぐ私を八つ裂きにしたいでしょうに!
それなのに、微笑すら浮かべて!

命の恩人で!全ての元凶で!
友のかたきで!裏切り者の!

この私!

この私に!まだ!利用価値があると!

628名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:54:53
ふふふ…ふふふふふふ…

私は取引に応じましたよ…
あの子たちの要求を す べ て 、飲みました…

だぁって…それは!私自身、一度『やってみたかった』ことだったんですもの!

あははは!

いやもう本当に!
思わず!この手で抱きしめたくなります!

『直接会えないのが!本当に残念!』

中澤さん!私たちは何も失いませんよ!すべてが私の!思い通りだ!

あはははは!あははははは!あはははははは!

629名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:55:30

■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■
でした。

630名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:40:10
月明かりに照らされた大通りから一本外れた小道に影が三つ
二つの陰、小柄な女性とそれよりも少し背の高いショートカットの少女
そして、その小柄の女性の左手を常に握ってぶらぶらとあたかも行進するかのように歩く少女
「それで、あゆみんなんて言ったと思います〜?『まあちゃんは、子供だから』
 3つしか違わないのに、そんなこと言われたくないです」
「アハハ、石田らしいっちゃね」
「・・・」

楽しそうな二人をみて、工藤はなぜだか苛立たしを感じた
(なにさ、まあちゃん、田中さんが来ると、田中さん、田中さんってなってさ
 はるだって、色々田中さんにせっかくだから訊きたいことあるっていうのにさ)

「・・・・あ!!」
突然、佐藤の足がピタッと止まり、真面目な顔で田中の真正面に立った
「タナサタン!!」
「まあちゃん、どうしたの?もしかして敵襲?」
千里眼で周囲を見渡しながら、身構える工藤
「まさ、おなかすいた」
膝から崩れ落ちる工藤と腹を抱えて笑い出す田中
「アハハハ・・・ほんと、佐藤は天然っちゃね。でもそうやね、もうこんな時間やん」
携帯に映し出された電子時計の光で顔が照らされる
「れーなもちょっと食べようかな、工藤もおなかすいとう?」
「え、そ、そうですね、はるも少しおなかすいてます」
本当は空腹なのだが、自分はそうでもないと取り繕う工藤
「それなら、コンビニ行こっか」
「ヤッホータイ」
「なんかいな、それ」
「イシシシシ」

631名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:40:55
コンビニでおでんを買った三人は偶然見つけた公園と名の付いた広場のベンチに横になって座った
当然のように田中が真ん中である
プラスティックのふたを開けた途端に広がる白い湯気とこぼれる白い息
「おいしそーまさ、がんも食べる」
「こら、佐藤、れーなが食べたいって思ったけん、買ったと!!」
「え〜じゃあ、たなさたんとわけわけする〜」
「もうしかたなかとね」
割りばしでいびつに二つにわけようとしたが、ふと田中は考え直し、みっつにわけた
「ほら、工藤も食べると」
「え・・・」
「イシシ、美味しいよ〜きっと」
ゆっくりと口元に運んで、かじりつく、甘みが広がる

一口一口でオーバーリアクションをする佐藤、それをみて笑う田中、適当に相槌をうつ工藤
「これも食べてください」と食べかけのおでんを田中に差しだし、田中は「ほんとやね」と優しく答える
工藤が「はるにもちょうだい」というと佐藤は「はい、DOどぅにゆでタマゴ」と食べたくないものを差し出す
「なんで、はるにはまあちゃんのおすすめくれないの!」
「だって、まさとたなさたんで食べたんだもん」
「答えになってない」
「ほらほら二人とも、まだおでんはあるっちゃ。仲良く食べるとよ」

まるで仲の良い姉妹のように寒空の下、暖かな夜食は進む
しかし、当然というか、必然というか、佐藤は事件を起こす
「あああああ」
おでんの汁をこぼしてしまったのだ
「何してんのまあちゃん」
「うう、ぬるくて気持ち悪いよ」
「ほら、佐藤、ハンカチ貸してあげるなら、洗っておいで」
ハンカチの臭いをクンクンと嗅ぎながら、は〜い、と言って佐藤は立ち上がり、消えた
どこに向かったのかはわからないのだが、跳んだのだ


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