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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

219名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:21:27
行ってきます

220名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:29:17
行って来ました

221名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:32:04
ありがとうございました!夏風邪引きました

222名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:02
(7)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

さえみの元へと戻る足取りは重かった
何をすればいいのかわからなかったのだから
(決して愛ちゃんに打開策が浮かんでいるわけではない。ただ、あの場にいられなかっただけなんだ)

初めは「さゆみを取り戻す」ことから始まった戦いがいつの間にか「さえみの暴走を止める」ことに移っている
優しいさゆみの影でさえみがここまで思いつめていたことに気がつかなかったのは―ある意味仕方ないのだろう
『共鳴』という絆を運命的なものとして捉えてしまい盲目的になってしまったのだから
共鳴の絆に誰よりも近くいたのに、絆に入れなかったその存在を見落としていたのだから

体力もある程度回復し、自分の足でさえみのもとへと向かって先頭で走る高橋に光井が声をかける
「高橋さん、どないします?さえみさんを止めなあかんわけですけど」
「・・・止めるにはさゆを起こすしかない、と思う。
ただ、今のさえみさんはさゆに拒否されているからなんとも言えない。光ですら…」
「希望があるなられーな達は愛ちゃんに付いて行くとよ!
またれーな達が時間を稼ぐけん、さゆへの思いを込めた光を撃つとよ!」
れいながこんな状況でもほほ笑んでくれたので高橋は少し心が軽くなった

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していくようだった
あちらこちらの壁や木々に穴があいていたり、瓦礫が積み重なっている
しかしリゾナンターは光井の予知の指示で各自は光を回避していき、さえみの姿を目視できる距離まで近づいた
高橋の作戦―光の攻撃を知ったメンバーはそれぞれの位置に着く

れいな、亀井、久住、リンリンはさえみの注意をひく
光井は光に当たらないように指示を出し、新垣が光井を守る
そしてジュンジュンは高橋を背負い逃げる

遠距離からカマイタチ、雷、炎が放たれて、さえみは自身の身を守ろうとそれらを消しさる
れいながちょこまか動きさえみの視線に当たらないように気をつけながら走り続ける

223名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:48
「リンリン、2秒後に左から来ます。亀井さん、かがんでください!」
光井の指示は止むことなく、新垣も光井を守ろうと必死だ

ジュンジュンはなるべく高橋の集中を邪魔しないように動かず、光井の指示が入った時だけ動く
「…高橋サン、道重サンを頼みマス」
上から崩れ落ちてきた瓦礫をパンダの筋肉質な腕が払いのける

時間にしてほんの一分なのだろう
高橋の声が7人の心に届いた
(ありがとう、みんな、準備できたよ)

(愛ちゃんよろしく!)(愛ちゃん、さゆをよろしくね)(愛ちゃん、頼むと)
(お願い、光よ道重さんを取り戻させて)(高橋さん、愛佳の思いも込めさせていただきます)
(道重さん、戻って来てクダサイ)(高橋サン、任せマシタ)

7人の仲間を思う気持ちも高橋の心に届き、それらは力となって高橋の体にしみわたる
築きあげてきた信頼、かけがえのない時間、忘れられない思い出、そして世界を守りたい願い
全てを詰め込んだ光は眩しい輝きを放ち、高橋の掌の上で浮かんでいる

「さえみさん、あっし達の思い受け取って!!」
光がさえみに向けて放たれた

光は何者に遮られることなくさえみに向かって伸びていく
さえみが光の存在に気付き、消そうと睨みつける
漆黒の瞳で睨まれた存在は何でも消してきた

しかし、この光だけは消せなかった
さえみの瞳に映ったのはただの光ではなかったのだから

224名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:20:27
さえみは光の中に見た
―笑いながらココアを差し出す高橋の姿を
―目を三日月にしながら亀井をしかる新垣の姿を
―自信満々にこげたホットケーキを出すれいなの姿を
―馬鹿みたいに笑って自分にケーキを食べさせようとする亀井の姿を
―興味深々な目で自分に近づいてくる久住の姿を
―カウンターで勉強しているのを邪魔して怒っている光井の姿を
―一緒にバナナを食べているジュンジュンの姿を
―奇妙な動きでみんなを笑わせているリンリンの姿を

消せなかった、消してはいけないような気がした

だってそれは

さゆみにとって大切な記憶だったのだから

225名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:23:18
以上、パート(7)でした。
極端に短いっすw昨日のコメントの意味分かりました?
あまりにも短いんで別日に落とすかどうかで迷ってたんですwすみません
緊張感が薄いのは作者の力量だと思っています
さて、終わりも近づいてきています

代理投稿お願いしますm(_ _)m

226名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:45:32
承って候

227名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:49:48
終了

228名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:11:10
(8)
高橋の光をさえみは真正面から受け止めたのだろう、さえみの周囲は煌びやかな光に包まれ、動かなくなった
「やったの?」
先程からさえみの放つ光の兆候は何も感じられないのでそう感じるのは当然であろう
「・・・かもしれナイデス」
そうは言うもののリンリンは気を抜かずにいつでも炎を放てるようにと手には飴を構えている

さえみの姿がようやく確認できるくらいに光が弱まってきた
光を受けたさえみは地面に片膝をついて座っていた
何も反応が無く、思わず「死んでるの?」なんて久住は声に出してしまう

「ククククク・・・」
さえみが笑い始めた
生きていて良かったという思いとなぜ笑っているのかという思いが全員に浮かんだ
「あなたに必要なのは…あくまでも『さゆみ』なのであって、私じゃないのね・・・」
確かに8人が思い浮かべたのはさゆみであって、さえみではなかった

「私はさゆみにも求められていないし、あなた方にも求められていない」
ふらふらとさえみは立ちあがる
「私は誰にも必要ない存在…どこにも居場所はない…必要ないんだぁぁぁぁ」
さえみは大声を上げる
「や、やばいって愛ちゃん、れーな達、事態を悪化させたんやなと?」
「愛ちゃん、どうしようか?」
「そんなこと言われても全然予測できなかったわけだし、こうなることを」
光を放った高橋は地面に膝をついたままで動けずにいる

「キャー、小春の、小春の腕が、右腕が!」
「久住さん、しっかりしてください!早くさえみさんから離れましょう」
光井とリンリンが久住の肩を支えて駆けだす
「さえみサンの視線から逃れマショウ!高橋サン達も早くしてクダサイ」
ジュンジュンも光井達の後を追う

229名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:28
「田中っち、愛ちゃんの右肩支えて!私は左肩支えるから」
「愛ちゃん、れーなの肩に腕回すと!」
「ちょっと、待ってよ、二人とも!さえみさんをこのままにしてしまったら、本当にどうなるのかわからないんだよ」
じたばたする高橋に新垣が真剣な表情ながらも目に涙を浮かべながら問いかける
「だからって何が出来るのよ、これ以上私達にさ
 攻撃も効かないし、話も聞いてくれない、しかもさえみさんの心は崩れる寸前なのよ」
「そうや、愛ちゃん、ここは一旦引いて、仕方ないけどダークネスに頼むことにするっちゃ
さっき言っとたやろ?マルシェなら『さえみを止められる』って。ここは頼るしか」
「…あっしはここに残る」
高橋の言葉は静けさに満ちていた

「は?愛ちゃん、何言うとると?」
れいなが思わず高橋の肩から腕を外したので、高橋は地面に倒れ込む
「愛ちゃん、ここに残って何をするつもりっちゃ?もう何も出来んやろ?
 一人で立つことだってままならんのに何する気や?」

「・・・何もすることはできないよ。ここでこうやって座ってさえみさんに消されるのを待とうと思ってる
 たださ、れいな、ガキさん。さえみさんからさゆを奪ったのはあっしらやろ?
 甘い考えだけどさ、もしかしたら、あっしが消えたらさえみさんの怒りが消えるんじゃない?」
高橋はゆっくりと自分の意思で新垣に支えられた左腕をそっとはずす
「あっしが消えることくらいでさえみさんの心に何か変化が起きるかもしれない
 もしかしたらそのことでさゆがまたさえみさんを抑えてくれるかもしれないし、憎しみが薄まるかもしれない
 それに…少なくともあっしは無駄死にする気はないよ」
高橋は足を投げ出して、頭を抱えたままのさえみを眺める
(あと一回くらいなら跳べるからさ)

れいなと新垣を見て高橋は微笑んだ
「ほら、れーな、ガキさん、あっしがいなくなったら誰が他の子を指示すんの?
 あっしがいなくてもみんな自分を誇れるだけ強くなったんだからさ」
そして前を見て「さあ、行って、あっしの分まで生きて」と小さく言った

230名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:59
「アホなこというやないと、愛ちゃん!!誰が愛ちゃんが犠牲になることなんて望むと?
 愛ちゃん、おらんで誰がリゾナンターすると思うと?」
そしてれいなは高橋の頬をぶった
「れいな?」と高橋は思わず目を丸くしてしまった
「愛ちゃんがおったかられーなはここまで来たとよ、みんなと一緒だから来たっちゃ!!」

「そうだよ、愛ちゃん、愛ちゃんだけが消えるなんてそんなこと私もさせないから」
「ガキさん?」
そういい新垣は自分自身の腕と高橋の腕をロープで結び付けた
「・・・愛ちゃんのおかげで私はダークネスの呪縛から解き放たれたの
 でも、まだ私は恩返しをしていない。それなのに先に死ぬ?そんなことさせないわよ」

「愛ちゃん」「死ぬときは」「「一緒」」「だよ」「っちゃ」
二人は高橋を挟むようにして座りこんだ

「こんなことして誰がこれからダークネスと戦うんや!?」
「大丈夫っちゃ、小春や愛佳がおると。みんなに託すと。さあ、れいな達でさえみさんを止めると」
れいなが白い歯を見せて高橋に微笑んだ

「いや、すみまへんが田中さんのお願いといえどもそれはお断りさせていただきますわ」
「そうなのカナ☆」
高橋、新垣、れいなの三人が振り返ると久住、光井、リンリン、ジュンジュンの4人が立っていた
「何しとると?みんな、早く逃げると!!」
「田中サン、さっき高橋サンに言いました、高橋サンのいないリゾナンターはリゾナンターじゃナイト
 それはリンリン達も同ジク思ってイマス。皆サンとリンリンはもっと一緒にイタイ」
「それに三人の犠牲で救われて平和になっても、ジュンジュンの心、全然平和ジャナイ!!」

「だからってみんなくる必要ないじゃない!」
「新垣さん、さっきから頑張っているんですけど、愛佳、もう何も視えないんですわ
 きっとこれって世界が終わりってことか愛佳が消えるってことやと思うんです」

231名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:13:42
尚も光井の言葉は続く
「世界が終わればそれまでです。
 でも愛佳が消えたら世界が終らないかもしれないやないですか?せやったら愛佳も世界を救いたい」
高橋の目を見て光井は微えみ、ピースを向けた
「高橋さん、愛佳でも世界を救えるかもしれない時が来ましたよ」

「小春も死ぬのは怖いけど…みんなと一緒だったら怖くないもん」
そう言って新垣に久住は両手で抱きついてきた
「ガキさ〜ん、小春とガキさんはいつまでも相方ですからね!!」
「うんうん、わかった小春」

とここで高橋があることに気がついた
「ちょっと、ちょっと、小春、右手、右手!!
「え、なに?なに?あれ?小春の腕がある?」
全員の視線が久住の右腕に集まる
確かに消されたはずの右腕が再生していた。更には
「愛ちゃん、右手戻っているよ!」
先程光を放った時には消えていた高橋の右手首も戻っていた
「なんや?何が起きているんや?」

そう光井が呟いた瞬間、7人を強烈な風が包みこんだ
そして彼女が言った
「ごめん、約束守れそうにないや」
その声は風の外から聴こえた

そして彼女―亀井はゆっくりと消えている右腕の代わりに左腕で笑顔のまま7人に手を振った

232名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:18:21
「Vanish! Ⅱ(8)」パート(8)です。
ジュンジュンの台詞は…名セリフをリゾナントせてもらいました。
作者様すみませんm(_ _)m
そして・・・明日、最終回★長かったお話しもついに完結します
お楽しみに?

今日の分です。代理よろしくお願いします。いつもありがとうございます

233名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:42:21
いってきます

234名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:48:29
行ってきたの

235名無しリゾナント:2011/07/29(金) 21:25:22
ありがとうございます。
今日は何かスレ自体がパソコンで開けないので・・・延期にします

236名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:32:50
(9)
亀井の風に囲まれた7人は笑顔で手を振る亀井を見て呆気に取られていた
「あっしの右手も小春の右腕も『傷の移動』で自分の体に傷を移したっていうの?」
高橋は自分の右手が戻ってきたのが信じられないと、掌の感覚を確かめている。
「そんなことよりカメはなにする気なのよ!嫌な予感しかしないんだけど!!」
新垣は亀井の先程の笑顔が今まで見たことのない種類の笑顔であったのを感じていた

「でも、この風から出れませんよ」
久住とリンリンが雷と炎を放っているが、風はカマイタチの性質を持っているようで一向に弱まらない
獣化したジュンジュンが風の中に飛び込んだが、外に出られず弾き飛ばされた
「全然出れナイゾ」
「れいなもさっきからしてるけん、わかってるとよ!」

そんなギャーギャーと騒ぎ戸惑っている高橋達を尻目に亀井はすぅっと呼吸を整え始めた

(愛ちゃん達がずっとさえみさんと戦っている時からエリはずっと愛ちゃん達を守る方法を考えていたの
 風のバリアを張って…あそこから出られないようにすることがまず一つ)

亀井は走り出した―さえみに向かって

(そして、これがもう一つのみんなを、世界を救う確実な方法なんだ)

さえみに向かって走り出す亀井の姿は高橋達にも見えていた
「愛ちゃん、エリが!」
「亀井さん、勝手に何しはる気ですか!!」

仲間達の怒号が飛ぶ中亀井はさえみとの距離を詰めていく

走り出した亀井の右腕は消えている
それは久住がさえみから移したもの

237名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:33:21
(小春ちゃんは初めは鋭い目つきが怖かったし、全然エリを信用してくれなかったよね
 でも時を重ねていくにつれて小春ちゃんの本当の部分が見えてきた
 信じられないくらいに純粋でまっすぐで綺麗な瞳をしていたよね
 思うんだよ、エリ、小春ちゃんみたいな子と出会えてよかった、って
 だって誰よりも人の醜さを見ていたはずの小春ちゃんがあんなに綺麗な瞳をしていたなんて
 いつでもうるさくて、自分勝手で、ワガママで、だけど本当は泣き虫で寂しがりやな小春ちゃん
 いつまでも元気で明るい笑顔を忘れないでね)

そんなことを思われているとも知らずに久住は
「亀井さん、何するんですか?教えてくださいよ」と叫んでいる

さえみに近づいていく亀井の耳に片言の日本語が届いた
「亀井サン、やめてクダサイ!また一緒にご飯食べる約束したじゃナイデスカ」

(リンリン、こんなときまで笑わせようとしないでよ
 生きるか死ぬかって時にご飯なんて、リンリンらしいな
 正直、羨ましかったよ。リンリンのギャグはつまんなくてなんか嬉しかった
 同じ匂いがするなあってさ、でもいつの間にか本当に面白くなって、あなたのまわりには笑顔が咲いていた
 でもね、みんなのために頑張りすぎてこっそりと泣いていることも知ってたの
 ・・・そんなリンリンが大好きだし、生き残ってエリの分まで笑ってほしいの)

亀井がそんなことを思っていると後ろから大声が飛んできた
「亀井さん、二秒後、左から来ます!」

(ふふふ、愛佳、こんなときでも指示してくれるなんて嬉しいな、エリ勝手なことしているのに
 正直初めて出会ったときは自分に自信がない愛佳を、昔の絵里と一緒だなあって重ねてたよ
 友達もいないし、笑顔もなかったし、何よりつまらなさそうだった、生きていることが
 でも時間をかけて自分の弱さを受け入れて、びっくりするくらいに変わったよね
 いつの間にか自然に笑えるようになって、みんなを笑わせてくれることもあってさ
 でもただ笑うだけじゃなくてしっかり周りを見てくれて、本当に大人だよね
 エリと違って頭がいい愛佳なら、きっとみんなを守ってくれるよね)

238名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:34:21
光井の言葉に従って、亀井が体を右に傾け、さえみの光を避けた
後方の壁に綺麗な円形の穴が空く
「亀井サン、何しているデスカ、いつも亀井サンはワガママダ!」
もう一人のカタコトな日本語が耳に飛び込んできた

(ジュンジュン、最初に連れられて来た時は驚いたよ、だって裸だったんだから
 獣化能力って聴いてどんな怖い動物になるかって思ったらパンダだよ、笑いこらえるの大変だったんだから
 エリ達よりも後に仲間になったけどみんなを包み込んでくれるその暖かさってどこから来るのかな?
 寛容な心で気配りができて、それでいて主張するときはしっかり主張する
 それで甘えてきたりする…本当にジュンジュンって変わってるよね
 でも、そんなジュンジュンのことがエリは大好きなんだよ)

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していく
距離にしてほんの10mほどまで近づくと、さすがにさえみも亀井の存在に気がつく
視界に入ってはいけないと思い、必死に避け続ける

ただそれも限界に近づき、一筋の光が亀井の左腕に突き刺さる
光に照らされ、ゆっくりと消えていく亀井の左腕
不思議と消えていく左腕に痛みは感じなかった
消えるってこういうものなんだって思い、亀井は微笑んだ

それを遠目から眺めているしかできない仲間達
「アホカメ!!やめなさいよ!」

(ガキさん、いつもガキさんは『このぽけぽけぷうが!』って突っ込んでくれましたね
 本当はエリと同じくらいにボケなのに、ガキさんったらおかしいですよ
 でもガキさんがいたからエリは好き勝手出来ていたんだと思っています
 エリが適当にしたこともガキさんが一生懸命フォローしてくれてエリは嬉しかったです
 適当な絵里と生真面目なガキさんだから息があったのかもしれないですね
 最後にまた自分勝手なことしちゃったけど、アホだからできるんですよ、可愛いアホですよ
 ガキさん、アホの意地みててくださいよ)

239名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:35:24
さえみは亀井の姿を捉えているのかどうかも分からない
ただもう無茶苦茶に光を放ち、全てを消そうとしている
その適当に放った光がまた一つ亀井に突き刺さる

消されたのは亀井の左足
自分の軸足を失った亀井はバランスを失い、地面に前のめりに倒れ込む
「エリ、何しとると!早く立つっちゃ!!」

倒れ込みながら亀井はおもった

(れいなか・・・こんな出逢いでなくちゃ絶対友達にはならなかっただろうな、怖いもん
 初めて出会ったのはエリが入院していた病院だったね
 あの時にはこんなにれいなに対して心を開けるようになるなんて思っていなかったよ
 ずっと一人だったから誰よりも仲間っていうものを大事にしてくれるれいな
 ただ不器用で意地っ張りだから素直になれないのも知ってるよ…ぶっちゃけるけどね
 でもそうやって真正面から言ってくれるのがれいなのいい所なんだよね
 本当はもっと、ずっと一緒にいたかったけど…)

右腕も左腕も左足も消えた亀井は立ちあがることはできない
(神様、ワガママなエリにもう少しだけ力をください)
亀井が眉間にしわをよせて全身に力を込める

建物内に強烈な風が流れ込んできた
風は壁を強く揺らし、瓦礫を宙に舞わせ亀井へと流れていく
埃により流れが見えるようになった風は亀井へと纏わりつき、幾重にも幾重にも重なりあう
失われた右手を握りしめるような感覚で亀井は右手を指揮者のように振るイメージを浮かべた

まとわりついた風が亀井を優しく包み、ゆっくりと、本当にゆっくりとその体を浮かび上がらせる
「!!亀井さんが空を飛んではります!!」

240名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:37:13
亀井はかつて光井から言われたことを思い出していた
『うまく風をとらえられれば空を飛ぶことだってできる』
光井の言っていることは難しかったが、亀井は何となく理解していた
―そう感覚的に

(練習してたわけじゃないけど…今のエリなら出来るような気がしたんだ)
驚いているのは亀井自身も含まれていた、できるなんて思っていわけではないから

風に包まれ亀井はさえみに向かって更に向かって飛んで行く

「止めるんや、エリ!一人で行くんじゃない!あっし達を置いて一人で行く気か!」
亀井の作った風の防御壁の中から聴こえる高橋の声にも亀井は振り向きもしない

(・・・愛ちゃん、エリは本当に愛ちゃんに会えて感謝しています
 こんなにたくさんの仲間、いや友達に恵まれて幸せですよ
 みんな体が弱くて可哀そうとかいうけれど、この体のおかげでみんなに出会えたんだから
 幸せだなあってエリは思うんですよ、そうじゃなきゃこんなに光のある世界に生きている価値がないなって
 エリ思うんです、小さい幸せが多すぎて幸せに気付かなさ過ぎているんですよ。
 幸せって気付かないくらいがちょうどいいんですよ、幸せって気付いたらそれまでは幸せじゃないんですから
 ホントのこと言うと愛ちゃんと出会う前からエリは幸せだったけど、もっともっと幸せになれましたよ
 ねえ、だから、いつも愛ちゃんの背中を見ていたけど、最後くらいエリの背中を見ていてください)

さすがにさえみの周囲には破壊の光が蜘蛛の糸のように張っているようだった
風で舞い上がった塵がさえみの周囲で綺麗に消されているのだから
でもさえみに近づくにはそこを突っ切っていくほか道はない

(それにいつさえみさんの光が愛ちゃん達に向けられるか分からないし・・・)
躊躇っている時間はない、亀井の背を押すように強い風が吹いた

ほんの少し動くだけでもさえみの光が亀井に降り注ぐ
風は光を曲げることなんてできないので容赦なく亀井は光を受けるしかない

241名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:08
光は亀井の顔、上半身、下半身、至る所に突き刺さる
寒さを防ぐために着ていた可愛い洋服はつぎつぎと消え去り、亀井本人の白い肌がむきだしになる
しかしその肌も次の瞬間には淡雪のように溶けていく
ぼろぼろと欠けていく自身の体を亀井はすごく冷静に見ていた
(こうやって消えていったんだ。でもよかった、思ったほど痛みはないよ)

さえみと視線があったとしても、この手の届く距離なら何も怖くない
亀井はさえみの正面に回った

遠目から見る亀井の姿はもう人の形をとどめていなかった
形容するなら小さい頃に遊んで、今は壊れてしまった着せ替え人形
腕も足も欠け、ぼろぼろになって浮かんでいる姿は海月を連想させた
高橋は目をまん丸に見開いて一人で震えるしかない

そんな仲間の様子を知ってか知らずか亀井を纏う風はますます強さを増す
破壊の光の中心にいるさえみの胸へと亀井は飛び込んだ

(さえみさんを確実に倒す方法、これしか思い浮かばなかったんだ)

自身の胸の中に飛び込んだものが何かしっかり見ようとさえみはゆっくりと視線を下ろす
さえみが見たのは顔に何重もの穴を開けた人の亀井
それでも何とか保たれている亀井の口はにこっと笑顔だった

「みんな、さえみさんを見て!」
新垣がさえみを指差す
遠いのではっきりとは分からないが、さえみの体に変化が起きていた

―左脚、両手が欠け、体中に無数の穴が開きはじめていたのだ

「あれは」「亀井サンの」「傷の移動と共有っちゃ」

242名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:48
さえみはどんな傷でも必ず消すことが出来る。だからこそ一気に倒さなくてはいけない
でも、亀井の力なら消すことはできないはずだ、と
自分自身にできた傷を治してしまえば、それは移した『傷』、元の持ち主の傷も消えてしまう
それに一回で大きな傷、治せないほど大きな傷を共有させれば―倒せる、と

だからこそ亀井は光を受け続け、さえみの懐に飛び込んだのだ

しかし、その代償は大きい
さえみに治させないほど深い傷を自分自身が負わなくてはいけないのだから

それにもう一つ、亀井は覚悟を決めていた・・・『さえみさんを助けよう』と
亀井にとって『さゆみ』はたった一人の存在であり、『さゆみ』は『さえみ』で、『さえみ』は『さゆみ』
さえみが亀井を妬んでいるのと違い、亀井は何もさえみに譜の感情は持ち合わせていなかった
むしろさゆみを守ってくれたことに対する感謝の気持ちが強い

そんなさえみが苦しんでいる―それを知った亀井がまず思ったことは他の7人とは違った
「さゆを救わなくては」ではなく「さえみさんを救ってあげたい」だった
それが戦っているうちに少しずつさえみの本心が分かってきた

「居場所が欲しい」

それがさえみの思い、そう亀井は感じた

だからこそ、亀井は決意したのだ
さえみといつまでも一緒にいてあげよう、と

さゆみと時を重ねたように、今度はさえみと時を重ねよう
一緒になって消えたとしても、さえみが生きていけるような意味を持たせてあげようと
それが亀井がさえみにできる最高の恩返しだと思った

そうして今は亀井はさえみの胸の中にいる
歯の欠け、風穴の空いた口からは自身が生みだした風が往来し奇妙な笛の音をならす

243名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:39:58
それでも亀井は笑ってさえみの目をじっと見つめる
もう喉は壊されて声は出ない
筋肉が壊されて動かすことはできない
神経が壊れて感覚なんて失われている
それでもさえみの目をじっと見つめている

幸運なことに脳への損傷は思った以上に少なく、まだ考えられる余裕があった
(ごめんなさい、さえみさん、こんなことまでしてさゆを守りたいなんて思ってもいなかったの
 でも、今後は私がずっと一緒にいますから、安心してください
 さゆには私以外にもたくさんお友達が出来ましたし、ずっと強くなりましたよ
 
 最後にさゆみに一言だけ言わせてください)

そして風がゆっくりと亀井を持ち上げ、道重と亀井の顔が同じ高さになる

(さゆぅ、大好きだよ)

強い風が亀井を押し上げ、満面の笑みを浮かべた亀井の唇が道重の頬にそっと触れた

亀井の唇が触れた瞬間、亀井とさえみの周囲から桃色とオレンジ色の光と強烈な風が放たれた
光と風は建物を突き抜け、森を走り抜ける

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

風が止んだのを確認して高橋はゆっくりと仲間たちの姿を確認し始めた
1、2、3、4、5、6、そして自分を入れて7人
さえみの放つ桃色の破壊の光は消えており、部屋の中はぼんやりと仄暗い
「カメは?さえみさんは?」
新垣がゆっくりと立ち上がる

そこに迫ってくる足音

244名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:40:43
コツン、コツン

ブーツの音を立てて近づいてきたのは、一人の黒髪の女−道重だった
女は何も言わないで、高橋達の姿を眺めた
「さえみさん?それともさゆ?」

「・・・愛ちゃん」
「さゆや!!」
道重の姿をしたものから高橋の名前が出たのでれいなは思わず駈け寄ろうとする
「「道重さん」」「「サン」」
次いで久住、光井、ジュンジュン、リンリンの4人も駈け寄っていく

抱きしめられてもさゆみは嬉しそうな顔一つしない
「?」
道重はれいなを振り払い高橋と新垣の元へと向かって駈け寄り、高橋の腕を思いっきり掴んだ

「愛ちゃん…どうしよう?さゆみ、エリを・・・」
高橋と新垣は何も言えなかった
これまで一度たりともさゆみがさえみだった時の記憶を覚えていたことが無かったのだから
「消しちゃった…一番大事な人を、この手で…どうしよう…
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん」
道重は人目もはばからず大声で泣いた

高橋は何も言わずに、道重をぎゅっと抱きしめ、一緒に泣いた
そして、新垣はそんな道重の姿を見て大声で叫んだ
「アホカメェェェx」
静かにその声は行きつく場所を探すように冬の空へと登っていく

もう風は吹かなかった

(Vanish! Ⅱ(8) 完) エピローグに続く。

245名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:43:43
以上「Vanish! Ⅱ(8)」の最後、本編終了です。
まず謝ります、ごめんなさいと。後味の悪い話です
ただ、エピローグもあるので微妙に続きます。それは…来週にでも書きます
それを書き終わったら、あとがきも書きます。

最後の代理よろしくお願いします。結局あげました(汗

246名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:12:03
あげたんかい

247名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:24:44
完了
負の感情を譜の感情と表現するのはいつものアレなのかもしれないけどちょっと残念w

248代理投稿お願いいたします:2011/08/10(水) 14:43:18
 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■


共鳴セヨ…
少女は声にならぬ声を聞いた気がした
共鳴セヨ…
なにに?
『憎シミ』ニ…
蒼キ『憎シミ』ニ共鳴セヨ!

―――――

249名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:43:54
「あっいちごー!エリ、いちご好きっちゃん」
そう言ったとき生田衣梨奈は
すでにイチゴのパックを掴んでいる。
「えりいちごすきっちゃん」
その小さな暗殺者は生田の手からイチゴを掠め取り
ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。
「すきっちゃんすきっちゃん」
―明らかに嘲笑気味な声音で生田のセリフを繰り返しながら―
イチゴパックを元の位置に。
「あー!里保ちゃん!それエリのいちごやけん!」
「高橋さんに頼まれた買物リストにはイチゴは入ってませーんざんねんでーす」

天敵。

ものを知らない生田に、この単語が思いつくわけもないが、
鞘師里保はまさに生田の天敵だった。

大人の前では礼儀正しくまじめ。絵にかいたような優等生。
だがこの優等生、どういうわけか生田のやること為すことすべてを妨害してのける。
一方、生田衣梨奈は全く正反対、
大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
ヘラヘラと笑いながら大人たちの神経を逆なでする。

優等生と問題児。優良と不良。水と油。
…最悪の関係だった。

最悪な関係?…いや、それは違っていた。
少なくとも生田にとって、これほど心地よいことはなかったのだ。

250名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:44:48
返り血を浴び、貼りついた笑顔の仮面の裏で泣きじゃくっていたあの冬の日。

そこに鞘師里保は現れた。

あの日…―生田が共鳴者となった―あの冬の日…。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

―――――

251名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:45:23
生田は、大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
子供を支配の対象としか考えていない大人たちからすれば、
生田はただ一言「反抗的」と記号化されスポイルされるだけの存在でしかないだろう。
大人だけではない。
同級生にとっても、生田は「ただへらへら笑っているだけの怖くてキモい女」でしかなかった。

事実、彼女は幼いころからそう扱われ、周囲から疎まれてきた。

だが、違うのだ。本当の彼女は違うのだ。
彼女は「反抗」などしていない。

聞かないのではない、「聞けない」のだ。
守らないのではない、「守れない」のだ。
反省しないのではない、反省している人間はどういう態度をとるものなのか「理解できていない」のだ。

そう…彼女は、ただ「出来ない」だけなのだ。

それでも幼い少女は必死に皆と関わろうとしてきた。
だが、彼女の精一杯の親愛の表現は、ことごとく他人を傷つけるものだった。

同級生の持ち物を勝手に盗むなど日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
それは、自分が好きな人のものと自分のものとの違いがわからなかったから。

同級生に暴力を振うことも日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
ただ嬉しくなって跳ねまわっていたら、いつの間にか誰かが動かなくなっていただけ。
彼女にとって不幸だったのは
彼女が女性離れ…いや人間離れした身体能力をもっていたことだろう。
その怪力、敏捷性、天性の勘…

252名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:48:35
だが、誰もその才能を褒めてはくれない。誰にも気づかれない。興味を持ってもらえない。

「なぜこんな非道いことをするの?」

なぜ?皆が生田に説明を求めた。
生田には答えられない。答え方がわからない。
そんな生田を周囲は一方的に責め続けた。

理由を言え。さあ早く!さあ!。説明しろ。
説明できないならば理由など無いとみなす。
説明「出来ない」お前が悪い。

「出来ない」お前が悪い。

無能は罪…

そう、この世界は「無能力者」にとって地獄そのものだった。

それでも、生田はあきらめなかった。
いや己が住む地獄に気づいてすらいなかった。
そして必死に努力した。

笑顔…。
美しい彼女の顔を一遍で台無しにする不自然で、不気味な笑顔の仮面。
彼女に出来る最高のつくりわらい。

彼女の努力は、報われなかった。

253名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:49:26
キモい。
キモい、キモい、キモい、キモい!
周囲は不快を表明する。
生田はまだ気がつかない。
自分が嫌われていることに。
キモい!死ね!死ね!
それでも気がつかない。
キモい!死ね!死ね!死ね!。死ね!!!


そしてあの冬の日、生田は気がついてしまった。
自分がこの世界から拒否されていることに。
あの日気がついてしまった。
そんなこと、
と う に 理 解 し て い た 
ことに。
あの日気がついてしまった。
自分の心に潜む『蒼き魔獣』の存在に。


共鳴セヨ

蒼キ『憎シミ』二、共鳴セヨ!


―――――

254名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:50:23
「愛ちゃん!」
思わず田中れいなが叫ぶ。
「ぐうっ!」
吹き飛ばされ、教室の壁に叩きつけられながらも、高橋が即座に起き上がる。
「愛ちゃん!どうしたんね!?」
「わからないんやよ!」
「わからん?!」
「あの子、『心がわからない』…【読心術】が効かないんよ」
「なんてー!」

「ガキさん!動ける生徒たちは?」
「うん!全員支配出来てる。もうすぐ一階まで誘導終わるっ。」

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!

「笑ろうちょる…こんだけのことしといて!よう笑ろうもん!」
怒りに打ち震える田中が叫ぶ。

割れたガラス、ひしゃげた机、散乱するノート、教科書…
踏み潰された携帯、携帯、携帯。
そして、血の海…。
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】
それが生田を無限の孤独へと押遣っていた力の正体だった。
力の意味を知らず、そのコントロールを知らぬ少女は漏れ出るその力によって
周囲にある種の精神的妨害を無秩序にまき散らし続けていたのである。
他者の心を推し量ろうとする意思そのものを奪い取り続ける生田を、
その発生源たる生田を排除しようとする防衛本能。
それはただ何となくの生田への不快感へと、そして、不快なものを遠ざけんがための無関心へと繋がっていた。
だが生田の力が無関心では防衛しきれないほど増大したとき、
一気にそれは生田への憎悪となって噴出し、
そしてそれはさらなる生田の能力の増大…いや、決壊を促してしまった。

255名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:07
もはやそれは止められない。
際限なく溢れ続ける憎悪の感情は、直接その手に触れた者の心を一瞬で究極の狂気へと突き落とし、
ずたずたに引き裂き、切り刻み、すり潰す。
普通の人間であれば一瞬で発狂してしまう…。

あるものは見境なく暴れ、あるものは窓からその身を投げ、
あるものは自らの耳を引きちぎり、唇を噛み切り、自らの腕をただひたすらにペンで刺し続ける…
自らの指を食いちぎり、泣きながら過去の罪を懺悔しひたすらにその頭を床に叩きつけ続ける者…
…地獄…
そこはまさに地獄だった。

その地獄の中心で少女はただ、ひきつった笑顔で立ちつくしている。

「だめ…完全に自分を見失っている…多分、自分自身も能力に喰われてしまっている…」
助けられない…
先ほどから何度となく高橋は少女に呼び掛け、同時に暴れ続ける少女を取り押さえんと格闘を繰り返していた。
通常ならば相手の攻撃を全て読み、あっという間に取り押さえることが出来るはずが、
心が読めぬその少女はその生来の動体視力と身体能力だけで、格闘戦のエキスパートたる高橋の、しかも
【瞬間移動(テレポート)】によってどこから来るかわからないはずの攻撃を全て跳ね返し続けていたのだ。
迎撃のたび、高橋はその反撃による激痛に耐え続けていた。
一般人ならば一瞬で発狂しかねないその【精神破壊】を幾度となくガードする。
精神系の能力者である高橋であるがゆえに辛うじて単なる「激痛」のレベルに抑えている。
しかも、田中の【共鳴増幅(リゾナントアンプリファイア)】によりその防御力が高まっているにもかかわらず、
徐々にその激痛は大きくなっている。
やがては高橋といえど狂気の侵入を防ぎきれなくなるだろう。
手詰まりだった。

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!
教室に一人、生田の乾いた笑い声が響きわたる。
「ちぃ!もういいっちゃ!愛ちゃん!もう無理っちゃ!やるしかないよ!」

256名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:42
つまりそれは、生田を殺す、ということだった。
「でも!れいなだって感じたやろ!あの子は!…あの子も!」

共鳴者なんやよ!

「仕方ないっちゃ!どの道、こんなこと笑いながらやるようなもん!救いようがないっちゃ!」

仕方が無い…排除されても仕方が無い存在…

「笑ってないです」

え?

「あの人、笑ってないです」

小さな少女だった。
小さな、その小さな少女は音もなく教室に現れた。
音もなく、教科書を踏みしめ、音もなく、血の海を渡って。
この教室で地獄をその目におさめていた。

「鞘師ちゃん!外で待機っていっとったやろ!」

生田が跳躍する。
突然現れたその少女を排除するために。
どうせコレも同じなんだ。みんな憎んでしまえばいいんだ!
全部同じなんだ!

「鞘師ちゃんダメ!その子に触れさせては!」

鞘師の脚元から、深紅の血刀が突き出され鞘師のたなごころへと納まった。
鞘師の体は流れるように、溶ろけるように低く変形し、一瞬の躊躇もなく生田の懐へ飛び込んだ。

257名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:52:30
ガガンッ

血刀は、ひと呼吸のうちに左右に跳ね跳び、生田の両の腕を、
鞘師に掴みかかろうとするその両方の前腕…内碗部を打ち折っていた。
まるで関節が一つづつ増えたかのごとく、生田の腕がありえぬ方向へと折れ曲がる。
血刀は刃引きであった。刃のない血の塊は重い鈍器となって生田の腕を襲ったのだ。
だが、生田は止まらない。
そんなものでは生田の憎悪はとまらない。
止まりはしない。

「ガァァァァァ!!!」

大きく開いたその口が鞘師の首筋へと襲いかかる。
鞘師はなにもせず、立ちつくしている。
生田のあぎとが、あとすこしで鞘師の首に届く、あとすこしで…
ガガッ!
電光石火、血刀が生田の右膝を砕き、ほぼ同時にかち上げられた柄頭が生田の顎をとらえた。
ドサァッ
一瞬浮き上がるように空中に停止したのち、生田は床に倒れ伏した。
手足を砕かれ血反吐を撒き散らす、哀れな姿となって、床をはいずっている。

「鞘師ちゃん!」

無言で鞘師は「待ってください」と高橋をとどめた。

ムクリ…
生田がその場で上体を起こした。
壊れた人形のように尻だけで体を支える。

ハハッ…

ハハハ…

258名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:53:17
ハハハハハハ…

「まだ…笑っちゅう…!」

アハハ…アハ…ハハハハハハ…

「なぜ、泣いてるの?」

唐突に、そう鞘師は尋ねた。

アハ…ハ?

「なぜ、あなたは泣いているの?」

読めぬはずのその心を鞘師は…

水軍流

凡庸なる人類がその身体資源の限界を超えることなく、それでも究極の殺傷力を求め、編み出された、殺法。

それは、まず己れのあらゆる内的感覚を観察し分析し解読する力を育む。
ほんの些細な膝の角度、背骨の変化、重心の位置、呼吸における内臓と横隔膜の変化、
そこからさらに生まれる、全身の重さの配分の変化…
その自己の身体感覚に基づいた観察力は他者を観察する力へと拡張されていく。
その積み重ねが敵「意」という概念に置き換えられ、敵の次の一手を正確に指し示す。
もはやそこには神経伝達速度の限界は無い。いや逆だ。
初めから次の一手がわかっているのだから神経的な伝達速度など一般人と変わらぬ程度で十分なのだ。
やがて敵「意」が単純な五感の情報以外からも察知できるほどになるころ、
その観察力は身体運動から相手の心理状態まで読みとる力へと深化していく…
鞘師は丁度、その途上を歩む者だった。

超能力ではなく、純粋に、ただの「技術」によって鞘師は生田の心を見抜いていた。

259名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:56:12

彼女は泣いている…と。

そこに同情は無い。
鞘師もまた、未熟な心の、「あるべき何か」が欠落した、未完成な子供である。
でてきた言葉は、ただの感想にすぎない。

「泣いているなら…」
ハハ…ハ?
「泣いているなら、普通に泣けば?」

ハハハ…ハハハ…ハ…ハ……
ハ…ァ…ァ…ァァァ…ァア…アアア…
アアアアアアアアア!!!
アアア!!!アアアアアア!!!!

鞘師の言葉は限りなく冷たい。

だが、そんな言葉が限りなく温かいものとして、あれほどの憎悪を…
生田の心を簡単に溶かしてしまった。

涙だ。あたたかい、あたたかい涙がとめどなく頬を流れ落ちる。

どんな形であれ、それは、「生田の心が他人に通じた」瞬間。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

260名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:59:54

------------------------------------------------------------

※未練たらたらの付録(イクちゃんの能力設定、そのボツネタの記録)
いくちゃんに関してはどんな能力がいいか?そもそもどんなキャラなのか全く掴めず、全然筆が進まない状態でした。
そんななか、『――― Erina』が発表され、KYそのものが能力というアイディアが示されました。
当時も「なるほどうまい。実にうまい。これはいいなぁ(でも自分のイメージとは違うな)」
という印象だったのですが、能力的には物理的な能力者がいいと思っていました。
(卒業メンバーが軒並み物理戦闘系でしたし…)
が…なぜか日を追うごとに勝手にその延長線上の能力で自分の中のイクちゃんが暴れ出してしまいまして…
泣く泣くそっちへと引きずられてしまった感があります。

でも未練が残る。あーせっかく設定考えたのに。とまあそういう未練をここに。

■生田衣梨奈:【空気制動(アトモスフィアフリージング:atmosphere freezing)】

現状では「一瞬、その場の空気を凍りつかせる」だけの能力。
一種の空気限定の念動力ともいえる。
生田を中心に半径5m程度の範囲内のうち任意の空間に充満している空気(酸素に限らず、ガスや水蒸気も含め)を自然の摂理に反して「その場に固定する」
扇風機の「強」程度の流れならば完全に停止させる。
但し、人間が全速力で突っ込んでくるなど大きな力が加わった場合、それなりには動いてしまう。
が、逆にこれを応用し衝突や落下の衝撃を弱めるクッションとして使うことが出来るかもしれない。
また使い方によっては範囲内の生物を窒息させることもできるかもしれない。
ただし能力の連続使用は生田本人も相当に消耗するので我慢比べのようなことになるだろう。

能力の発展性について
もしかしたら彼女の能力は「空気を止めること」から拡張されていくかもしれない。
空気の成分を正確により分ける、空気を自在に動かす(風を起こす)、など。

261名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:01:08
■生田衣梨奈:【電磁操作(エレクトロマグネティック;electromagnetic)】

電気を操る力のうち、主に電磁波に関する能力に特化したもの。
能力の強度、どれだけの自由度にするかはいまだ未設定。
どれくらいの誤差かは未設定だが発振する電磁波の周波数はコントロールできる
また周囲の電波や電磁波の存在を感知できる
未熟なうちはただのノイズにすぎない(相当不快だろうからこれを無視する習慣は必須となるかもしれない。KYの原因?)
が熟練によって有益な情報として(例えばその電波がラジオ放送ならちゃんと人の声や音楽として)感知できる日
がくるかもしれない。

具体的な能力使用例
弱めの能力設定であれば、電子機器を狂わせる等。
強めならば、メーザー砲、つまり水のような極性のあるものを共振させ発熱。敵を蒸し焼きにする。
電撃を操る能力を持たせるかは未定。

■生田衣梨奈:【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

悪意、敵意、攻撃の意思を持ってその手で触れたものを発狂させる能力。
現状、強力な発狂作用をもたらすためには接触せねばならないようだが、
非接触であっても軽度の精神妨害を常に撒き散らしているため、
将来的には非接触であっても発狂に至らせる能力者となるのかもしれない。

非接触時の軽度の精神妨害は
「自他の心が読めない」「空気が読めない」と周囲に認識されているようだ。
リゾネイターとしての覚醒以前は完全にダダ漏れ状態であったが、
リゾネイター達との出会いにより、徐々にそのコントロール法を身につけていくことだろう。

262名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:04:01
>>248-261
以上、 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ でした。


以上の代理投稿をお願いいたします

263名無しリゾナント:2011/08/10(水) 20:54:47
長いなw
場合によっては分割投稿で対応しますか

264名無しリゾナント:2011/08/10(水) 21:10:07
完了

265名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:14:47

「なんでよっ!!」

ガチャン、と食器が激しくぶつかる音と共に聞えた絵里の声。
滅多に声を荒げない彼女が怒っている。
さゆみは急いで病室の扉を開けたが、そこに居た絵里が今にも泣きそうな顔をしていた所為で声をかける事を躊躇った。

「二日延びるだけじゃない」
「そんなの嘘でしょ!絵里知ってるもん!そうやってもっと入院延ばすんでしょ!?」

幸い食事は済ませた後らしかった。絵里が感情に任せて強く机を押した所為で
今度こそ食器は白い床に落ちて音を立てた。
その音に驚いて思わず息を呑むと気配に気付いた絵里と目が合った。

「さゆ…」

気まずそうに目を逸らされる。絵里はシーツをぎゅっと握って唇を噛んだ。
こんな姿を見るのは久しぶりだ。
昔―絵里とまだ出会ったばかりの頃―は入院が予定より長引く度に泣きじゃくり、物を投げていたのだが
さすがに年齢を重ねるたびそれは減り、そしてリゾナントの仲間と出会ってからは滅多と起こらなかった。

「どーしたのよ絵里。珍しいね、怒鳴ってるなんて」

努めて明るい声で、いつもの調子で話しかけたがバツが悪かったのか絵里は目を合わせようとしない。

266名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:15:50

「さゆみちゃん、絵里ちゃんの着替え後二日分よろしくね。軽い貧血。大事をとってだから、心配しないで」

落ちた食器をトレイに乗せながら看護士が小声でさゆみに伝えた。

「すぐに先生来るから、どこも行かないでね」

優しい声でそう残し部屋を後にする。静寂が二人を包んだ。
――― 大したことないって。二日延びるだけじゃん。
平気な振りしてそう声をかけるのは簡単だった。だが今のさゆみにそれを言うことは躊躇われる。
絵里にとっての二日間がどれほど長いか。病院で過ごす一日一日がどれほど不安か。
出会ってもう10年近い。その気持ちは、痛い位理解しているつもりだ。

「調子悪かったの?」

ベッドの傍にあった丸イスに腰を下ろした。顔色も悪くない。点滴だっていつものやつだ。
大事をとって、その言葉に間違いはないようだ。

「悪くないもん。元気だもん…」

ベッドに備え付けられているテーブルに突っ伏した。

「明日着替えもって来るね。赤いチェックのパジャマ、乾いてるから」
「持ってこなくていいよ。絵里今日帰るもん」

くぐもった声は震えていた。

「絵里…」
「帰るもん!!帰るんだってばっ!!!!」

ドン、と拳でテーブルを叩いた。部屋が揺れた様な気がした。
どうしようもないことは絵里自身が一番分かっている。だからこそ、この感情をどこにぶつければいいのか分からない。
絵里の腕はさゆみを求めた。さゆみはイスから立ち上がり絵里のしたいように体を預ける。
ぎゅう、と痛いほどの力で抱きしめられて、さゆみはどうしようもなく切なくなった。だから同じくらいの力で絵里の頭を抱きしめた。

267名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:16:42

「約束したんだもんっ!明日帰るねってみんなに言ったもん!絵里がチーズケーキ作るって
 愛ちゃんがお店に出してくれるって言ったもん。れいなだって材料買ってきてくれるって
 ガキさんも愛佳ちゃんも、小春もジュンジュンもリンリンも楽しみにしてるって…!」

さゆみのお腹に顔を押し付けながら、絵里は喚いた。涙でいっぱいの、そして震えた声で。

「それから、さゆと約束したもん…今日はクレープ買って帰るんでしょ…、一緒に、食べたいよぉ…」


明日生きられるか分からない絵里にとって、約束がどれほど大切なものか、それはきっとさゆみの想像を遥かに超える。
でもその約束が、明日を生きるための目印になっている事は知っている。明日の約束を守ること。絵里はそれを大事に胸に抱き眠るのだ。

あの日、屋上で青空へ飛び出してしまいそうな絵里に、約束を取り付けた。
明日またこの屋上に一人で来てしまわないように。さゆみはしっかりと絵里の手を掴んだ。

明日は絶対クレープ食べようね
明日は面白い絵本もって来るね
明日は絵里の好きな本をさゆみに教えてね
明日はこっそりお菓子もって行くね
明日は、あしたは…



だから絵里は。ワァァァァと、迷子になった小さな子どもみたいに声を上げて泣た。

268名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:17:16

「明日も絶対来るよ、絵里。予定は変更。中庭に行こ。ね、何しよっか」



絵里が生きる目印を見失わないように。
絵里の約束が果たせぬ日が来ぬように。
絵里が明日もわらっていられるように。

時々弱虫になる絵里をさゆみは守らなくちゃいけないの。
明日も明後日もずっとその先も、さゆみは約束を守るよ。

明日の約束をすることがさゆみの約束
明日の約束を守ることが絵里の約束



寝癖で跳ねた頭に鼻先を押し付けて、さゆみは精一杯の弾んだ声で絵里に明日の約束を取り付けた。

269名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:23:16
>>265-268『やくそく。』
ちょっと真面目で懐かしい感じ、でした。
もうちょっとスマートに書けたら…と不完全燃焼ですが上げさせていただきます。

9期設定にも夢中になるけど、やはり、ふと原点に戻りたくなります
とりあえず形が変わってもリゾナンターは大好きだということです。

270名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:24:34
以上代理投稿宜しくお願いいたします。
この間まで大丈夫だったのに規制されてましたorz

271名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:29:10
行って来ましょうかね。上手く書き込めるか不明ですが。

272名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:42:33
投稿して参りました。改行の規制のためレスの区切りが変わってしまいました。
ご容赦下さい。

273代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:05:58
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■

イクちゃんってやっぱりKYだよなぁ

自分より年上で背も大きいくせに買い物を手伝うわけでもなく
カゴ一つ持ってくれるでもないその「美しきポンコツ」を横目に
鞘師は重たい買い物カゴを運んでいた。
水軍流によって、重量物を効率的に運搬するための体のコントロールは
知り尽くしている鞘師であったが、いかんせんもとの身体資源そのものが乏しいのだ。
瞬間的な動きの中なら敵の体重が100kg超であろうと片手で楽々放り投げる事が出来ても、
のんびり重いものを運びつづけるのは、やはりしんどい。

「カゴ持って」とか具体的に指示すれば生田は喜んで手伝ってくれるだろう。
だが、鞘師は頼まない。

ごく短い付き合いではあるが彼女の「ポンコツ」ぶりは身に染みてわかっている。
勝手にイチゴを取るぐらいならまだマシだ。
誰かの役に立てた、そのうれしさからカゴを振り回すかもしれない、
別の興味を引くものが眼に飛び込んできていきなりカゴを放り出す可能性もある…
なんにせよ、現状より良くなることは一切ない。その確信だけはある。

で、鞘師なりのささやかな抵抗が博多弁イジリというわけだ。

274代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:07:10
例の一件は表向き、全て済んだこととなっている。
「特務安全調査室?」なるところと高橋との間でどんな密約がなされたものか、
『福岡県立防人中学集団ヒステリー事件』は、
思春期特有の不安定な精神状態により…とかなんとか、もっともらしい理屈とともに
ごく小さくとりあげられ、その他の瑣末なゴシップの中に埋もれて消えていった。

鞘師にはそういったことはどうでもいいことだった。
生田に対して同情も断罪するつもりもない。全く興味が無いのだ。

実はリゾネイターの中でも、高橋と新垣ぐらいしか気がついていないことだが、
鞘師自身、善悪とか合法違法に関しての感覚に大きな欠落部分を抱えている。
鞘師が全く問題を起こさない優等生であるのはそれが自分の安全にとってベストであるからだ。
善悪や道徳ではなく合理性によって『そうしている』にすぎない。
が、あの一件からわずかな期間で、喫茶リゾナントでの生活で、仲間との交流の中で、鞘師も大きく変わりつつある。

生田に対する不満からちょっとしたイジワルをする。
これなど、ほんの少し以前の鞘師には考えられないほどの「人間性」ではないか。

対して、生田の方はこの鞘師の不満には全く気がついていない。

一方的に「鞘師ちゃんは衣梨のことわかってくれる」そう生田は感じている。
だが、以前よりはるかに力のセーブが上達しているとはいえ、
実際のところ鞘師も生田の能力の影響をもろに受けているのだ。

275名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:05
「イクちゃんって何考えてるのか全然わからない」そう感じている。

それでも、わずかな足の向き、目線の変化、全身の微細なシフトウェイト…
そういった情報から一瞬先の行動ぐらいは判断できる。
通常、人間はこういった具体的な情報を正しく分析できず
「あてずっぽう」「たんなる思い込み」で判断し行動している。
鞘師は常人とは桁外れに多くの「具体的情報」を入手でき、それらを正しく判断できる。
生田の能力によってそれらが半減させられたとしても、それでも常人をはるかに超えている。
ただそれだけのこと。
感情にいたってはせいぜい喜怒哀楽が読み取れる程度の事だ。
犬がしっぽを振っていたら「多分喜んでるんだろう」誰にでもそのぐらいはわかる。
鞘師が人、生田を犬にたとえるなら、要はその「しっぽのこと」を鞘師だけが知っている状態。

276名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:57
本当に、ただそれだけのことだ。

あの一件の少しあと、リゾネイターにはもう一人、譜久村聖が加わっていた。
【残留思念感知】をもつ彼女もまた、生田の心を読める能力者であった。
鞘師、譜久村、そして能力のセーブが上達するに従い高橋、新垣…
いまや生田の心を読めるのは鞘師だけではない。
むしろ、高橋、新垣、譜久村のほうが鞘師よりはるかに生田に興味を持ち、生田を心配し、気にかけてくれている。
だが、「衝動性の塊」のような生田の突発的な奇行に対して「ダイレクトに」割り込めるのは今のところ鞘師だけなのだった。

先ほどのイチゴの事などもうすっかり忘れた生田が鞘師の前をスキップしている。
やっぱりかのんちゃんと一緒の班がよかったよ。鞘師は思う。
かのんちゃん…鈴木香音は譜久村聖と日用雑貨がそろう向かいのビルで買物しているはずだった。

ちょっとかのんちゃんに電話しよう。
高橋さんに用意してもらった携帯を取り出す。
「ほーいこちら神のケータイである〜」
「あ香音ちゃん。そっち終わった?」
「うんにゃ。でももうちょいかな」
「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

このとき、
もし、鞘師一人だけだったら?
もしかしたら、すでに異変を察知できていたかもしれない。
だが、それだとして、無事に何事もなく済んだだろうか?
逆にもし、このとき、生田がこの場にいなかったら?
 −生田がKYでは無かったら?−
鞘師は命を落としていたかもしれない。

危機が…迫っていた。

277名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:15:17
>>273->>276
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■ でした。

以上、代理投稿願います。

278名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:53:07
遅れたけど行って来ますか

279名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:58:23
完了
本格的に9期の物語が動き出したって感じでしたね

280名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:37:19
>>627からです。
泉はバックステップをし、愛を庇うように前に出て再び構えをとる。
井坂は落ちていたナイフを拾いニヤリと笑って刃を泉に向けながら近づいてくる。
「逃げて、早く、逃げて!もう私の目の前で誰も殺させない、傷つけさせない、誰も失いたくないの!!」

泉が叫ぶ。

泉の脳裏には時間を魔術で戻す前、自分を犯人から守って血まみれになった高取刑事、港で灯子が
『愛してる』と言いながら銃をこめかみに当てて引き金を引き、そのまま海に落ちた事が浮かんだ。

その様子が泉の背中にいる愛に伝わってきた。

「泉さん……」

「うるせえ!」

281名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:39:29
井坂が銃をぶっ放す。
空砲が泉の耳をつんざく。思わず構えをとき、肩をすくめてしまった。

「次の弾は入ってるぞ……」
うすら笑いを浮かべながらゆっくりと近づいた後、一気に井坂は泉にナイフを振りかざしながら向かってきた!
「死ねぇっ!」

「危ない!」

井坂が愛めがけてナイフを振り下ろした時、泉は間一髪で愛の小さな体を抱いて受け身を取った。
ゴロゴロとアスファルトを転がっている間、泉の腕から鈍い音が聞こえてきた。

「泉さん!」
ナイフで泉の半袖のシャツを切り裂かれ更にそこからは深くはないが切り傷があり、ポタポタと血が滴り落ちている。
「泉さん……」
愛は悲しそうな目で泉を見た。
そんな愛を見た泉は顔を痛みでしかめながらも笑顔を作った。
「大丈夫よ。いつものことだから」
「でも……」
泉は思った。
彼女がこんなに怖い目に合っているのに自分を心配してくれている。
彼女を信じて良かった。
見ず知らずの女の子だったけど悪い人じゃなかった。

泉は愛の頭を撫でて立ち上がった。
(これだけ騒げばもうすぐ警察が来てくれる、それまで私が井坂を食い止めないと!)

282名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:41:16
「今度は外さねぇぞ」

「はぁ、はぁ……」
右腕を押さえても血はまだ滴り落ちている。
泉の息が荒い。

「逃げて、早く……」

「嫌や……」

「もう、誰も死なせたくないの」
泉は稟として言い放った。
「死ねえっ!!」

「嫌やーー!!」

井坂がナイフを振り下ろした時、愛は泉を突き飛ばした。

守られる愛ちゃん。
次と次くらいで終わりそうです。
保母さん強えー、ただの女子大生じゃねえ。
最終回には超猿達(英訳)に最後に入った人を出す予定です。
このスレの平均年齢の低さに嫉妬。
アク禁されちゃった……。

283名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:50:27
以上です。
初狼の代理お願いします。

284名無しリゾナント:2011/08/15(月) 04:43:09
書き込めました。
ありがとうございます。

285代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:24:41
 ■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■

「これで全部?」
「ああ、そうだよ」
「ふうん…
で、これらのデータから導き出された答えが、これなのね」
「なんだよ、なにが言いたいんだ?」
「矢口、あんた、このデータ見て何も気づかない?」
「ああ?」
「結論から言うわ。
その答えはほぼ間違ってるとみていい」
「なんだよそれ!意味わかんねーよ」
「このデータ、確かにみんな本物よ。こっちの内容…それ自体にも矛盾は無い。
でも…それらのデータを総合して出てきた答えが正しいものになるとは限らない。
いい?
この供述書、それとこっち、それからこっち、あとこっちも…
口調や文脈、勤めて特徴を変えてはいるけど、これ全部『同一人物の作った台本』を基に言わされてる内容よ。
こっちに教えたい情報だけを意図的に、ね。」
「なっ!?そんなはずは」
「あなたの尋問が甘かったわけじゃないわ。
彼らも台本を言わされてるつもりも、嘘をついているつもりもないはず…」
「じゃ…」
「そう。精神系の…例えば新垣のような能力者…それも、かなり強力な…」
「なるほど。和田、前田っていう子供のほかに、まだ能力者がいるってことか。」
「なんだよ市井まで」
「責めちゃいないよ。分析のミスは修正すればいいだけだ。」
「あんたも、あの二人が譜久村って子と接触している可能性を考えてたじゃない。
譜久村以外にも生き残りがいても何ら不思議はないわ。
おそらく、『大半が本当』のデータの中に巧妙に嘘が混ぜ込んであるのね。

286代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:25:50
もう一度、廃棄物のデータを洗い直す必要があるわ。
それも、外部に持ち出されたとされる廃棄物のデータではなく、
完全に処理が完了していることが判明しているデータの方を、ね。」
「その中に…このシナリオを書いた子がいる…か」
「容易ならざる敵ね…矢口、アンタの言う和田って子より、もしかしたら厄介な相手かもしれないわよ」
「圭ちゃんはアイツと直接会ってないからそう言える。アイツは…」
「わかってる。過小評価はしていないわ。
和田彩花…自在に『空を飛び』まわり、至近距離からの銃弾にも『当たらない』、
そして、矢口と後藤の能力を『妨害』する力…
組織の歴史上かつて存在したことのない【三重能力者(トリプルアビリティ)】かもしれない相手。
しかも空を飛ぶ以外の能力に関してその実態は全く不明…
過小評価しろという方が無理よ。」
「厄介の性質が異なる…といったところか。
保田さん、矢口の考えた対和田攻略法については?」
「うーん…何とも言えないわね…それこそ私たちは彼女に会っていない。
彼女の能力を体験したわけじゃないわ。
ただ、こんな単純な手で防げるものかどうか…。それこそやってみないと何とも言えないわね。」
「認めたくはねーけど…和田のもってる【能力阻害】はオイラの比じゃない。
けど、『オイラ同様の能力である以上』オイラと『同じ弱点を持ってるはず』だ。」
「…本当に…【能力阻害】なのかしら?…」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ。どの道、現段階ではその方法以外にいい方策は思いつかないわ。やってみるしかないわね。」
「つうかさ、この攻略法はもともと市井と二人でやるつもりで考えたもんだからさ。
圭ちゃんがいるなら最初から圭ちゃんに時間を止めてもらえばすぐ済む。」
「まあそうね。でも、まずはその作戦を試しましょう。」

全てが停止した中、三人の女が邂逅し、やがて別れ、世界に時間が戻っていく。

『和田彩花…必ず殺すわ…後藤を…真希の仇はとってあげなくちゃね…』

287代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:26:41
>>285-286

■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■ でした。

以上代理投稿願います

288名無しリゾナント:2011/08/15(月) 19:46:36
行ってきました

289いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:07:25
 ■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"仕入れ担当さわやか伍郎です。
いやー福田さん今日もセクシーですねーいやホント。」
「そんなこと全然知ってます。てゆうか電話だし見えてないし嘘だし、どっちみち
さわやかさんに言われてもきもちわるいだけでちっとも嬉しくないんですけど」
「いやいや!またまた!サンキューフクーダ!」
「…チッ」
「い…いやー!しかし今回もまた見事な手際でございましたね!どれも実に状態がよろしくて!
私も上司も大喜びですよ!」
「話薄い。ってゆうか報酬値切るつもりならこっちだって考えがありますからね」
「いやいやそんなめっそうもない!ただー…そのぉ…『丸太』の数の方がちょっと合わないといいますか…」
「そんなことこっちの責任じゃないでしょ。回収はそっちがやるって契約だったんだから。
回収し切れなかったなら、それはそっちのミスじゃない?」
「いやーしかし、まさか『船』をあんな状態にしてしまうとはこちらも聞いてなかったといいますか…」
「あたし達が依頼されたのはあくまで『丸太』。やり方はこっちに任せるって契約でしょ?
もしかして、『丸太』代だけ払って『船』ごと手に入れようなんて考えてたわけじゃないですよね?」
「いやーそれは」
「とにかく、報酬は約束通り。交渉は一切しません。いやならこれきりです。」
「やだなぁ福田さん。値切ったりなんかしませんって。もちろんいつも通りお支払い致しますよ!ホントホント!」
「…もう切りますからね」
「あっ。待ってください!またいいバイトがありましてですね。是非一度お話を…あっ切られちゃったよ…相変わらず不機嫌だねあの娘も。生理かねぇ?」
ほぼトラ刈りの頭にちょび髭、どう見てもチンピラか、よく見てもチンピラ…そんな風貌の男が
一方的に切られた携帯に向かって一人愚痴をこぼす。

「つうかまぁ…、あんな『物騒なもん』くすねてなにする気なんでしょうねーあのお姫様たちは…」
さほど気にしているふうでもなく、男は携帯をかけ直す。

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"『販売』担当、さわやか伍郎です。
ご注文の品、入荷いたしましたー。つきましてはお取引の日時と場所をですね…」

290いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:10:31
■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■ でした。

以上、代理投稿願います
狼、最近また弾かれるようになってしまった…

291名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:12
エピローグ
「・・・ここに来るのひさしぶりなの」
「そうっちゃろ?」
れいなと道重は街を一望できる丘の上に来ていた
「なんで、ここに来たか、わかるっちゃろ、サユなら」
れいながまだ目が腫れぼったい道重に尋ねた

道重は目の前に広がっているまだ淡い白い雪を被った街を眺めながら言った
「ここは・・・エリが・・・大きい夢を言ってくれたところだから」

『れいなと手をつないで、さゆの癒しの力をさ、絵里が起こす風に乗せて、世界の人たちに幸せを届ける』
この丘の上で亀井が二人にそんな大きな夢、いや計画を語ったのはもう数年前のこと

「ここに来ると、いつも思うことがあるっちゃ。エリとサユのためにも頑張ろうって
 エリみたいな目標を持つことを素直に格好いいと思ったけん、少しでも出来ることはしたいって」
れいながさゆみの横に並んで立つ。その目はさゆみにも負けないくらいに大きく腫れている
「だけど、そんときはれーな思ってもみんかった。まさか・・・エリがその夢を最初に諦めることになるなんて」
隣に立っている道重は思わず涙ぐむ
「れいな、そんなこと思っても言わないで欲しいの」

そんな道重を知ってか知らずかれいなは語り続ける
「リゾナントは開いているけど、やっぱり愛ちゃんも元気ないと。だけどお店は休めないって愛ちゃんらしいと
もちろん、れーなも愛ちゃんも一緒に泣いたっちゃ。だってエリがおらんくなるなんて…信じられんもん」
事実れいなは一日中泣いて、泣いて、泣き通した
流れ落ちた涙がお気に入りのベッドに染みいり、大きな跡として今も残っている

「他のメンバーも気になって、こっそり見に行ったと。メールするの恥ずかしいっちゃろ?」
泣き崩れている高橋に気付かれないようにれいなは二階からこっそりと脱出したのだ
リンリンとジュンジュンはバイトしているようであったが、いつもよりも目の周りの化粧が濃かった
久住は生放送のテレビに出ていたが、笑顔がいつもよりもかなりひきつっていた
光井は授業には出ているようだが、うつむいて登校しているで首に巻いたマフラーは黒かった
そして、新垣はお店にすら現れていないらしい

292名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:55
「みんな、つらそうな顔してたと。ガキさんは見とらんけど、特にショックを受けとう。
 もちろん、一番ツライのはサユやと思ってるけど」
「・・・」
道重はカバンからハンカチを取り出し涙を懸命に止めようと悪戦苦闘している
「みんなエリがいなくなったことに向き合うことはできておらんっちゃ
 自分達に出来たことが何かなかったのかってずっと自問自答していると
 もちろん、れーなも悩んだとよ。れーなの思いが足りなかったんじゃないかって」

「ねえ、れーなはどう思ったの?・・・さゆみと戦っているとき」
最後の一言を口に出すのは苦しそうであった
「怖かった?それとも、悲しかった?」
「正直、複雑だったと。さえみさんを倒したらサユを失うことになったかもしれんっていう不安もあった
 さえみさんがれーな達を認めてくれるなら、無事に帰れると思ってたけどさえみさんが暴走して…
 それにさえみさん、手加減しなかったけん、れーな、途中で何をしたいのかわからなくなってたとよ」
「そうなんだ・・・ごめんね、れいな」
道重はさえみが表に出ていた時の記憶はほとんどなかった
「れーなに謝られてもどうしようもないとよ」

「でも、一つだけわからんことがあると・・・なんでさえみさんが消えたのにさゆは消えなかったと?」
「エリの傷の共有で体ボロボロになったのに、なんでサユの体は無事なんやろ?」
れいなはピンクとオレンジ色の光に包まれる直前の二人の姿を思い出していた

「・・・お姉ちゃんが守ってくれたの。『私が消えるからさゆみは生きなさい』って」

293名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:24:15
亀井の傷を移されたさえみは悟ったのだろう、このままでは自分も消えてしまうと
それは自分が存在する意味そのものであった何より愛しい妹を消すことになる
確かにさゆみとさえみ、二人の存在が消えることになれば永遠にさゆみを自分のモノにできる
ただ、それは・・・さゆみが望んでいることではないとわかっていた
さゆみの望むことを全て叶えてあげたい、それがさえみの生きる目的であったのだから―

「最後の最後までお姉ちゃんがさゆみを守ってくれたの。さゆみが拒否してもやっぱり離れられなかったみたい
・・・あのね、れいな、最後にね、お姉ちゃんと会話できたの
『さゆみちゃんに本当に申し訳ないことをしてしまった』って悲しそうな声してたの
それに『さゆみちゃんも大人になった。いつまでも守らなくてもいいのよね』とも言ってた
ただ正直、お姉ちゃんを許していいのかわからないの。だってお姉ちゃんは私自身だったから」
れいなは何も言わない方がいいのだろうと思い黙っている

「それから・・・お姉ちゃんにみんなに伝えてって言われたの」
「なにを言われたと?」
「『私がいなくなってもさゆみをよろしくって、それからエリちゃんのことは償わせてもらいます』って」
「『償う』ってどういうことっちゃ?」
道重はわからないという風に首をかしげているが
「多分、さゆみを守っていたようにエリを守ってくれるんで事だと思うの」

「ほら、そんなことよりれーな、持ってきたの?」
「もちろんとよ、提案したのれーなやけん」
そういいれいなが取りだしたのは猫の飾りのついた青色の携帯ストラップ
さゆみもカバンからピンク色のウサギの飾りのついたピンク色の携帯ストラップを取り出した

294名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:25:17
「本当ならエリの思い出のモノも一緒に埋めたいっちゃけどれーなお揃いのモノないけん」
そういいながられいなは凍った地面をスコップで掘り始めた
「これ、さゆみエリとお揃いのリングなの。変わりにこれを入れるの」
さゆみはれいなから受けとったストラップ、そして二つのリングを穴の中に丁寧に置いた

れいなが優しく土をかぶせていく
「エリ、ここでゆっくり眠るっちゃ。エリの分までサユとれーな頑張るけん
頑張ってきたぶん、休むと、れーな達負けんからね!」
「さゆみ達、前を向いて行かなくちゃいけないのわかっているの。
 今まで本当にエリと一緒に入れて幸せだったよ。あ、こういうのエリ嫌いだっけ?幸せがああだこうだ言うの
 ・・・そうだよ、今、全然幸せじゃないんだからね!もう幸せになれる気なんてしないんだから!
 エリがいて、馬鹿見たく笑って、泣いて、感情隠さないでいたから楽しかったんだから!!エリのバカ!」
そう大声で叫び、道重は涙を流しながらブーツをはいたその足で荒っぽく土をかけ始めた

れいなと道重の手によって埋められていく絆の証
携帯ストラップもリングも亀井絵里と共に時間を過ごしたという証明
それを忘れないために二人はこの丘に埋め、亀井の『墓』ではない

「エリはこの場所がとても好きだったの。愛ちゃんがこの場所を教えてくれたって言ってたの
 ここならエリも安心して笑っていられるでしょ?・・・この世界一の幸せ者がぁ」
「・・・エリはずっとここで生き続けるっちゃ。多分、れーな達は思いだすんやろうね、風が吹くと」
「アホっぽくて、適当で、天然で、だけど誰より考えていて、強くて、意地っ張りなエリのことを」
自然と手を握っていたれいなとさゆみ、そんな二人の間を一筋の風が吹きぬけた

「さあ、さゆ、リゾナントに戻って愛ちゃん達に何か作ってもらうよ!
 愛ちゃん達はまだ立ち直れていないっちゃけど、いつまでも立ち止まれないやろ?
 出会うのも運命、だけど別れ、それも運命っちゃろ!うじうじしてたらエリにバカにされるっちゃ!」
「・・・そうだね、愛ちゃん達にも早く向き合って欲しいの!エリ、さゆみ負けないから笑ってみてて!」
れいなとさゆみ、二人は小さく「ありがとう」と呟き、今来た道を駆け足で戻り始めた

295名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:28:17
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(1)です
待たせてしまいましたか?待っていないですかねw
最近投下多いので…遠慮していましたが待っていられないので投下しました
(1)とあるように・・・少しだけ続きますw
(2)(3)で終わる予定ですのであと少しだけ辛抱を!


代理投稿よろしくお願いしたします

296名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:11:07
遅くなったけど行ってきました

297名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:16:02
すみません、自分で行けばすべて済むんですけど(汗
ありがとうございました。

・・・なんか最近、『外れた』話が多い気がする、なんてつぶやいてみる

298名無しリゾナント:2011/08/18(木) 13:59:13
>>289です
いつもお世話になっております
暫定保管庫で>>289の解説をしていただいておりますが(ありがとうございます)
さわやかさんの実際の名前は「さわやか五郎」「岡見時秀(おかみときひで)」です。
作中では伍と守に変えてあります
ご存じの通りさわやかさんはアップフロントの人ではあるんですが
まあ男は一文字づつ変えとこうかぐらいの気持ちで名前を少しいじったのが災いしてしまいましたね

299名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:00:21
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

誰にもつけられていないことを確認して彼女は部屋に入った
施錠したことを確認して、ほっと一息つき、右手をのばし部屋全体に灯りをつけた

「元気にしてた?ほら、ここにあなたの大好物を置いておくから」
女は近くに立っている若栗色の女の子の足元にプリンを置き、目を閉じて手を胸の前に合わせた
「今日で、あなたがここにきて3年ね、どう?後悔してる?」
女の子は何も言わずに目を大きく見開いたまま微動だにしない

女は部屋の奥へと足を進め、奥に置かれたテーブルにカバンを置き近くの椅子に座った
「ただいま、久しぶりね、元気だった?」
椅子のすぐ横に立っている茶髪の女に声かけたが、その女もやはり反応はない
「・・・あんたが話せたらいいんだけどね・・・まだその時じゃないのよ、残念ね」
女は一人呟き、部屋を見渡した

部屋の中には数十人の人間の姿、ただしそれらはまったく動いておらず人形の館の様だ
思い思いの格好のまま止まっていて、呼吸すらしていないのだが、死んでいるのではない
彼らはこの部屋の主である女―保田圭によって永遠の時を与えられた存在だからだ

保田は時々この部屋にやってきては彼らの欲望のあまり止められた愚かさを確認しに来ていた
それは自分自身が強欲であることを戒めるためでもあり、同時に変化がないことを見るためであった

数日ぶりに来たこの部屋にはほとんど変化はない
保田がテーブル横の女の足元にかぼちゃプリンを置き、自分は持参した水筒からコーヒーを飲みだした
「あらやだ、おいしいじゃない。あのお店いいもの扱っているのね」

保田の目はゆっくりとかぼちゃプリンを置いた女の隣へと移動する
そこには栗色のふんわりとした髪の女の姿が。もちろん止められている
ゆっくりと保田はその女性の全身を眺め、変にねじれているところがないことを確認した

300名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:02:12
時々・・・保田の力が弱まり、勝手に動くことがあったのだ
それは主に、大きな相手、Gだの天使と戦う時に限られてはいたが用心にこしたことはないと考えている

時間を止めること、それが保田の能力
あの時−さえみに消されそうになった吉澤、マルシェを救いだしたのもその力があったためだ
マルシェと吉澤を連れて帰ってきたのはもう一週間も前のことになる

                ★    ★   ★   ★   ★   ★

「おかえり〜キャハハ、圭ちゃん大変だったねえ〜」
転送装置に乗って本部に帰ってきた保田、吉澤、マルシェを出迎えたのは矢口だった
「矢口さん、珍しいですね、お出迎えしてくださるなんて」
「キャハハ、誰か幹部が消えればおいらの出世も近づくじゃん、残念だけどみんな無事なようだね」
そういいながらも矢口が出迎えてくれたことがマルシェにとっては嬉しかった

「矢口いいの?仕事中でしょ?」と尋ねる保田にも矢口は「休憩」といって相変わらず笑っている
「それじゃあ、俺は疲れたからシャワー浴びて来るわ」
さえみと戦い自慢の髪の毛に埃が付き、汗をかいた吉澤が早々に立ち去ろうとした
しかし、矢口が吉澤を呼びとめた
「ちょっとよし子、少しくらい話聞かせてよ。おいらの部屋に来てさ、コーヒーくらい用意するからさ」
先輩の半ば強制的な誘いを断れることなく、4人は矢口の部屋へと向かった

矢口の部屋は巷で人気のフィギィアや漫画が置かれており、悪の幹部の部屋とはとうてい思えなかった
矢口は自分の椅子に座り、保田達は部屋に置かれているソファーに腰掛けた
机の上に置かれたボタンを押し、「すぐにコーヒー4つね」と矢口が注文する。どうやら厨房と繋がっているようだ

「それで一体何があったって?マルシェ、簡潔に説明してね」
「あ、はい。あ、でも一体矢口さんはどこから知っているんですか?」
マルシェは矢口が何を聴きたいのか把握するために尋ねた
「ん?おいらが知っていること?」
矢口がうーんと指を顎に当てて考え出した
「そうだね・・・あの誘拐現場での犯人がさえみさんってことくらいかな?」

301名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:03:20
「え?なんで矢口さん、そんなこと知っているんすか!?」
そう声を上げたのは吉澤だった。犯人がさえみだと判明したのは本人の口からでたからだった
にもかかわらず目の前にいる先輩は行かなかったにも関わらずそのことを知っていた
あの現場で唯一生き残った男の精神にダイブした吉澤ですら犯人がさえみであることはわからなった
なのに・・・なぜ?

そこにノックの音
「矢口様、コーヒーお持ちいたしました」「ごくろうさん、入っていいよ〜」
ドアノブが回される音がして「失礼いたします」と男が入ってきた
その男の顔に吉澤は見覚えがあった
「あ!お前!なんでここにいるんだ!」

吉澤が驚いたのも無理もないだろう、そこにいたのはさえみに消されなかった誘拐犯の唯一の生き残りの男だった
この男の心に吉澤は前日に飛び込んだばかりで、後の『処理』を矢口に任したはずだったからだ
処理とは言わずもがな―消すことだが、なぜかこの場にいる

「矢口様、こちらケーキもお持ちいたしました」
矢口にお盆に載せたケーキを渡している男に矢口は「相変わらず気がきくね〜」と言った
「矢口さん!こいつと知り合いなんですか?」
吉澤が尋ねると男は吉澤の姿を見て背筋を伸ばして、敬礼した

「ん?こいつ?ああ、おいらの部下の一人だけど、言っていなかったっけ?」
敬礼している男を指差して矢口が紹介した

「吉澤がこいつの心に飛び込んだときに教えていなかったけ?キャハハ」
矢口が憎たらしく笑うのをみて吉澤は苦虫をつぶした表情を浮かべた
「・・・どうりでこいつの心をしっかりと見れなかったわけだ
 矢口さん、あなたが外から俺の『ダイブ』を邪魔していたってわけですか」
吉澤の言葉にも動揺せず矢口はケーキにフォークを伸ばした

302名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:04:25
吉澤はマイペースにティータイムを楽しむ矢口を見て一人考えた
(よく考えれば、こいつらがどうやって能力者を選別して集めていたのかわかる
 矢口さんが頂点を務めている部隊なら能力の保有の有無を判定できるからな
 前もって矢口さんが部下に『こいつ』と指示すればただ隊員達は捕まえるだけでいいからな)

一年前の雅との接触の際にも矢口は雅を「能力者」として判断する目を使っていた
今回の「能力者のたまご」を集めるにも矢口の「能力者判定」がなければ不可能であるはずだ

マルシェも同じことを考えていたのだろう。思わず口に出してしまった
「まさか矢口さんが絡んでいたなんて思ってもいませんでした
・・・しかし、そうだとしてもなんで道重さゆみを連れ去ったんですか?彼女は強力な能力者なのに」
マルシェの疑問に対して矢口はぴくりと少しだけ体を動かして反応してしまった
「なにか大きな理由があるみたいですね。ただ、矢口さんが言わないってことは・・・」
「別に大した意味なんてないよ、よし子。メンドクサイだけ」
矢口が空になった皿を机に置きながら言った

言わないでいるものつまらないと思ったのか矢口は自ら口火を切った
「ねえ、マルシェはさ〜今回のおいらの目的は何だと思う?」
「え?それは新しい能力者を捕まえて支配下に置くためかと」
突然名指しされたとはいえ、まさにマルシェはお手本のような回答を示した
「キャハハ・・・マルシェは本当に教科書通りだね〜キャハハ・・・
 ブー、残念でした〜そんな普通のことしてたら道重なんて連れていかないって」
「つーことは道重は『あえて』連れ去ったということになりますね、矢口さん」
矢口はどうして、吉澤に対してだけ「どうだか」とはぐらかしてばかりだ
そんな先輩の姿を見て吉澤はなんとなくいらいらを感じずにはいられない

303名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:06:22
「あたしの考えなんだけど、矢口は道重を暴走させるつもりだったんじゃない?」
低い声で保田がマルシェと吉澤の視線を惹きつけた
「あんた達は知らないかもしれないけど、道重が連れ去られる前日、あいつらと私達の小隊がぶつかったの
 それはもちろん、ダークネスが撤退して終わったけど、それはどこの部隊かと言うと矢口のところ
 しかもそこで道重さえみによって一隊員が消されている」
矢口はなんでそのことを知っているんだ?とでもいう表情だ

「それから吉澤がだれよりも知っているだろうが…一年前の雅との接触の際にあいつの心の中に闇を感じたでしょう?」
「ええ、保田さん、雅の中には田中へのねじ曲がった愛情が詰まってましたよ」
「吉澤、あなた、撤退するときに雅になんて言ったか覚えているかしら?」
「『ダークネスは闇に巣くいし者。いつでも闇を持つ者がいれば、そいつに近づき…闇へといざなう』」
吉澤はゆっくりとそのボスから教えられたダークネスの存在する意味を噛みしめながら口に出した

「それなら道重さえみはどういう存在?正義という光の元に生きている道重さえみを支える影の存在
 その一方で彼女はリゾナンターとして戦ったことは一度もなく、たださゆみを守るだけの存在
 彼女は決して正義ではなく、むしろ雅に似たねじ曲がった愛情の塊であったといえないかしら?」
保田の推理の範囲でしかならない想像に矢口は鉄仮面をかぶったように表情は変えまいと必死だ
「さえみは闇に巣くいし存在。そして、矢口はこう思ったんじゃないかしら?
 『もし、さえみが仲間を裏切ったならば誰も止められず、リゾナンターは消される』とね
 そしてリゾナンターを消し去ったら、今度はダークネスがさえみを倒す、いや私が『止める』と」

ダークネスの言っていたさえみを止める手段、それはなんてことはない保田の『時間停止』だった
動きを止めてしまえば何も怖くない、そのために多少の犠牲はあるのかもしれないが致し方が無いことだと

「ついでに言うと熊井っていう子、あれは単なる偶然だったんでしょうね
 矢口が誰でもいいから身近にいた能力者を集めた時に偶然混ざってしまっただけの存在でしょうね」
マルシェは逃してしまった可愛い獣化能力者を思い、強く唇を噛んだ
「おい、マルシェ、目がやばいぞ」
マルシェの目をみて吉澤が肩をたたき、マルシェはウーっと唸った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

304名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:10:01
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(2)です。
裏のボス登場ってことでw 今回無駄なシーンはありませんよ〜

motorシリーズ、マイケルシリーズ、Vanish!はすべて同一世界で起こっていますから〜
あと一回で終了です・・・長かったな・・・

代理投稿よろしくお願いします

305名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:14:11
行って来ますか

306名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:20:21
完了

307名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:56:31
ありがとうございました!本当に毎度毎度すみません・・・

308名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:40:15
保田の推理に対して矢口は何も言わなかったが、おそらく図星なのだろう
突然仕事の時間だといって部屋を飛び出してしまったのだから

保田の推理を聴いた吉澤とマルシェは何も言わなかった
別に自身が出世するためだとかリゾナンターが嫌いとかそんな理由でしたわけではないこともわかっている
全ては組織のため、だと、上から許可が下りているということを

そのことをあの二人がどうとらえたのかはわからない
本来ならばリゾナンターは私達にとっては邪魔だけの存在なのだが…奇妙な感情が湧いているのも事実だ

あれからそれなりの日にちがたっているが、あの二人はきっと前と変わらない日常を送っているのだろう
相変わらず矢口は笑っていて、吉澤は裏世界を駆けまわり、マルシェは兵器制作に取り掛かる
先程、表世界に出たが、喫茶リゾナントも開いているし、月島きらりもテレビで笑っている
大学受験の近い光井もおそらく学校に出ているだろうし、ジュンリンも生きるためバイトをしているだろう
雅も熊井も変わらず学校で笑っているようだ―熊井の記憶は雅が消したようだが

もちろん一人という人間が消えたこと、特に身近にいるならば、それは確かに精神的には大きい
だからといって日常が全て崩れるというわけではないのだろう
関わることが少ない、多い、そんなことは関係ないのであろう
変わらないのだろう、だってみんな、生きていくしかないのだから
命のある限り前に進み続ける、それは仕方がないこと

ただ思わざるを得ないこともあった
この世に生きること、それは人と人との関わりで、人は一人では生きていけないということ
でもそれは一人くらい欠けたって世界は変わらないことの裏返し
小さい一人がどんだけ大きな声をあげてみても、どれだけ立派なことを叫んでもそれは小さいこと
それを認め、共に動いてくれる存在がいなければ止まってしまう
仲間という存在は一人では生きていけない私達が生きていくために見つけ出した手段なのだろう

結局、私、そんな一人は小さい歯車(motor)にすぎないのだろう
歯車を集めて、互いに支え合って大きな力になる、そうなのだろうか

309名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:41:20
じゃあ、それが二人だったらどうなのだろうか?
それも大切な二人を―さえみと親友、亀井絵里を失ったならば?
ここで言っているのはもちろん、道重さゆみのことだ

あの子は自分では気付いていないが依存して生きていた
「気付いていないこと」、それは彼女にとって偶然ながら幸せなことだろう
なぜなら、今はまだツライだけの感情が先走っているのだから

私くらいの年齢になれば誰だって大切な人を失うという経験はしたことがあるだろう
悲しみにうちひしがれ、思い出を巡り、最後には居なくなったことを受け入れる、そんな過程を取る
関わりが深ければ深いほど立ち直るまでには時間がかかる
そう、彼女が耐えなくてはならないのはこれからなのだろう
笑ってくれる仲間は多くても、一番傍にいた人がいない、一番近くで慰めてた人を失った

でも、こういうときだから泣くのが一番なんだろう、悲しい時なんだからこそ
止めたりしちゃダメ、素直の心を溢れるままに任せていけばいつかは気持ちは晴れるんだろう
溜めこんでいて誰にも言えなかったからこそ、爆発してしまった
弱さを見せること、それは本当の意味での強くなるために必要なことなんだから

これくらいしか私はこの子にかけられる言葉は無いのだろう

あの日−道重さえみが暴走した日、私はダークネス本部に戻ってきた
それは、矢口の計画に隠されたもう一つの計画をするため
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと送ったの
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね

310名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:42:24
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと『送った』
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね
手紙には宛名は書かず、住所とこの建物が誰にも使われていないので人が来ないことを記しておいた
その手紙は・・・裏に熊井が雅を助けるために『逃げて』と書かれていたわね
そう、あの時、マルシェとリゾナンターをさえみの光から救う時に取り返させてもらったわ

ただ時間が止まった間は私が触れたもの以外は動かせないから、移動する時に余計なものも移動させざると得なかった
そう、それは死んだ隊員と部屋に置かれたテーブル
あの装置で隊員の一部とテーブルの角が削られて、その部分は異空間へと消えた
だからこそ、あんな綺麗な円形に抉られたテーブルが残してしまったのだ
もちろんすぐにリゾナンターが来てしまったので処理することが間に合わなかったのが残念だが仕方がない
幸運なことにあいつらはそのことに気がつかなかったのだが

なんのためかって?それはシンプルな理由
道重の暴走をより強力にするには一旦エネルギーを抑えなくてはいけないから
食事もこっそりと『嗣永印』の野菜を置いて届けるなど、支給していた
時間がたてばたつほど怒りのエネルギーが強くなる、そうボスがおっしゃっていたからそれに従っただけ
―そう、私はそれに従っただけのこと

そして実際に、さえみは私達の想像以上の暴走を見せてくれた
残念ながらリゾナンターを消すことは出来なかったが、まあ、それはいいだろう
必ず成功する作戦は無いのだし、リゾナンター達は仲間を失ったと思い落ち込んでいるのだから

311名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:43:40
・・・
そろそろ会議の時間だわ、またここに来るわね
さあ、強欲の象徴のみんな、またお会いしましょうね

あ、そういえばあなたにはまだ何も置いてなかったわね、新入りさん

はい、これ、あんたの好物なんでしょ?置いておくわね

ピンク色のお漬物とチーズケーキ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

『聖痕』−それはイエス・キリストが磔刑となった際についたとされる傷
足首なり手首なりに残され、科学では証明できない神秘の傷

部屋を去る保田を見送る人は誰もいない
みな、永遠の時の中に閉じ込められているのだから

しかし、保田は知らない、たった今『お供え物』を置いた栗色の髪の女が残したものを
それは服で隠れた彼女の背中の傷

タイプは違うのだろうがある意味ではその傷も『聖痕』と言っていいのかもしれない
女の背中には傷が浮かんでいた
そして、その傷は部屋を出ていった保田の背中にも同じ位置にできている

健康的なその肌に刻まれていたのは本当に短い文章
『絵里は生きてるよ』

保田が出ていき暫くするとその女の目が金色に光った・・・ように見えた
それは部屋に差し込む僅かな光の加減なのかもしれないし、そうではないのかもしれない

312名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:45:38
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』エピローグ(3)で、完結です
半年かかってようやく完成しました。お付き合いいただきましてありがとうございました
あとがき書いておくので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです

最後の代理投稿よろしくお願いします

313名無しリゾナント:2011/08/21(日) 01:48:00
行ってまいりました

314名無しリゾナント:2011/08/21(日) 10:01:54
ありがとうございました。本当に何回もしていただきまして(+o+)

315名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:55:18
 ■ テンクトナイ −能力者− ■  

「吉澤サン!吉澤サァン!」
「あ?ああ…タ……シ…」
「よ…よじざわさぁ…」
「悪かったな…無茶な頼みごとばっか押し付けて…
それと…ふふっ…今夜はサンキューな…
さ…最後にお前と…"踊れて"楽しかったよ…ベイベー…」

"共鳴者"は首を振る。少女のように、そう「あの頃の」ままに。
吉澤と共にいた、あの頃のように。

あぁ…そうだ…勝ったら教えてやる…約束だったっけ…
三つ目は…」

吉澤の声は屋上に吹く突風にかき消され、言葉は"共鳴者"にだけに伝えられた。

「そう…さ…笑っちまうよなぁ…それが…俺たちの"能力"の本質さ…
そんなもののために…いや…だからこそ…俺たちは守らなければならな…
"D"から人間を…人間から…"D"を…俺たちは…そのための"器"…そのための"組織"…」

吉澤の声はかすれ…床には鮮血の海が広がっていく。

「た…た…シ…頼む…ぜ…"組織"を…"GOD"を…
お…俺たちは…"M"…悪を…粉砕…する…せ…せぃ…ひ…」

「…粉砕する正義の鉄槌。"モーニングスター"…明けの…明星…」

最後の言葉は"共鳴者"によって紡がれた。

316名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:56:51
…沈黙…

これ以上ないほどの、優しい、悲しい、微笑み。

吹きすさぶ風…

…そして"能力者"だけが残された。

朝日が昇る…剣のような一筋の光が、闇を切り裂いてゆく…
切り裂かれた闇は苦痛に身をよじり…
怯え、悶え、哭き叫び…それでも…光へ戦いを挑む…
やがて…全てを日の光に焼かれ…消えゆくとしても…闇は抗い続ける…
決して勝てぬと知りながら…

"能力者"は立ちあがる。
光の剣から己の体で最後の闇を守るように。

…もう、そこには、もう…

太陽に背を向け、"能力者"は…

317名無しリゾナント:2011/09/18(日) 05:02:37
>>315-316

 ■ テンクトナイ −能力者− ■ でした。

http://gree.jp/michishige_sayumi/blog/entry/599540353
この衣装のイメージと"あの歌"でようやく踏ん切りがつきました

318名無しリゾナント:2011/09/18(日) 10:28:54
♪おはよん
 今から行ってくるよん


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