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【大正冒険奇譚TRPGその6】

96倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho ::2013/09/02(月) 22:52:47
玉座へと視線を移し、冬宇子は続けた。

「……と言っても無礼講って話だったよね。なら遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらうよ。
 呪災は、あくまで過程―――あんたの宿願は未だ道半ば―――…
 だから私らを、この国に呼んだんだろう?」

呪災発生の大本には清王の思惑がある―――生還屋の追及は、実に見事だった。

フー・リュウは、王都に展開されている空白地帯の謎を知らなかった。
旧来の防災計画を変更し、対策拠点を設置しなかった一帯――
そんな場所があることにさえ気付いていなかったと言う。
日本の嘆願所に依頼された『遺跡保護の人材派遣』についても、彼の働き掛けによるものではない。そう断言した。
フーが真実を言っているのなら、二つの出来事を差配したのは、一体何者なのか。

それらが可能な者、という観点から推測していくと、
各拠点への派兵を見送る決議が出来るのは――『軍部』…それも上層部の者でなければならない。
遺跡保護の嘆願は、『清国政府』より直々の依頼という触れ込みであった。
嘆願受理の当日、その日のうちに黒免許持ちの冒険者を掻き集め、現地に出発させた嘆願所の対応も、
依頼の出所の確かさを裏付けている。
清国において、『軍』、『政府』、双方に、権限を発揮できる者とは―――?

大陸全土を襲った呪災は、"不死の法の研究"が、発端となっている。
そもそも、不老不死を望み、研究を命じたのは誰か――?
清国の国体は絶対王政。君主が統治の全権能を持ち、自由に権力を行使することが出来る。
国王は政治の最高権力者であると同時に、祭祀の長であり、軍の総帥でもあるのだ。
動機と権力の両面から――自ずと浮かび上がって来る名があるではないか。

謁見の作法に従い、王座が据えられた壇の下に起立する冒険者達。
鮮やかな青緑色の旗袍に身を包んだ冬宇子は、清王の顔に視線を留めたまま、言葉を連ねた。

「……大陸の事情は知らぬが、不死王の遺跡を探るのは、禁忌にでも触れるのかい?
 表立っては下せぬ命令を、あんた自身は禁忌を侵さずに、果たす事が出来たって訳だ。」

傍らに佇む八卦衣の男――フー・リュウを見遣り、皮肉を交えた口調で言い放つ。

「そりゃ、成功の前例があるんなら、それに習いたいのが人情ってモンさねえ。
 まるで研究が上手くいっていない上に、まだか、まだか、とせっつかれりゃ、禁断の法に触れたくもならァね。
 しかも、急かした相手は、巒頭(らんとう・地理風水)の達人だってんだから。
 手段を持つ者なら、尚のこと、手を出さずにはいられない……!」

生還屋は特異な勘の持ち主だ。
フー・リュウの言葉の真偽を見抜き、起こした推論を元に、王に鎌をかけて見せた。
結果――少々乱暴とも思える王都の空白地帯の謎も含めて、全てが的中。
災害対策拠点の設置されていない一帯は、『森羅万象風水陣』の使い手――フェイ老師と、
かつて清軍の英傑と呼ばれた男――ジン、
野に下った二つの稀有な戦力を、王の手中に収めるためだけに敷かれた布石だったのだ。
偶然にも、フーと接触した冬宇子達によって、その目論見は挫かれてしまったことになる。

「道士の兄さん……少しは、腹を立ててもいいんじゃないのかい?
 そこの王様は、あんたの呪医としての腕前を見込んで、せっついていたんじゃあない。
 別口から不死の法に迫る方法を探っていて――たまたまあんたが、打って付けの能力を持っていたってだけだ。
 要するに、フー・リュウ…あんたは、この呪災を起こすために必要な、手札の一枚だったのさ。」

肩を竦め、小さく溜息を吐きながら、

「何も、利用されてたのは、あんただけじゃないがね。
 私らも……清国にとっちゃ日本に一枚噛ませるための、日本からすりゃ清国に恩を売るための、
 使い勝手のいい駒だったってことだ。
 はん……!やはり黒免許なんてロクなもんじゃなかったよ。」

97倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho ::2013/09/02(月) 22:53:12
日露戦争――ポーツマス条約締結の数年後、
露・独・仏・英・米・日は、小国勃興、群雄割拠状態の支那大陸の騒乱に干渉しない内約を交した。
列強との内約の手前、表立って清国に協力出来ぬ日本は、あくまで民営の組織を通した民間人の派遣という形で、
腕前の確かな冒険者を清国に送り込んだのだろう。

冬宇子は、再び清王に視線を戻して言った。

「まァ、そのお陰で、口封じに始末されちまう……なんて心配は無用って訳だ。」

呪災は、清国の大陸統一を推進する為に、意図的に起こされたもの。
そして、日本政府はそれを承知していた。
日本が統一後の修交、協力を見据えて、冒険者を差遣していたのならば、清王の冒険者達への扱いが、
そのまま、この国の信用を量る為の指標となる。大使相当の価値を持つ人間に、危害は加えられない筈だ。

色素の薄い王の瞳を見据え、冬宇子は、意地の悪い薄笑いを浮かべて見せる。

「しかし、日本への借りは高くつくだろうねえ。
 満州の租借権…いや、割譲……北方を丸ごと剥ぎ取られちまうかもしれないよ。
 そんなこたァ、ただの『駒』が、口出しする必要も無いってかい?
 国同士の駆け引きは、賢明な名君の腕次第ってことかねぇ。」

皮肉は、一種の意趣返し。
日本の軍部が満州を狙ってるという噂が、清王の耳に入っていない筈が無い。
いざ清が大陸を統一し、国体が安定した後は、日本にとって、隣の大国は脅威に変じる。
露西亜と清の接近を牽制するためにも、国境の満州を押さえるべきだという論説が、度々新聞を飾っていた。

「話は変わるがね、あんたも承知の通り、冒険者ってなァ官人じゃないんだ。
 仕事を請けるかどうかは、本人の意思次第。
 請けた仕事を途中で放り出したとて、報酬がフイになるだけで罰則なんかありゃしない。
 要するに、仕事をほっ放って、逃げちまってもいいってことさ。
 もし、私らが、この仕事を断ったら―――国王陛下…あんた…どうするつもりだい?」

試すような口調。
けれど言葉とは裏腹に、冬宇子は、呪災絡みの仕事を降りるつもりなど、毛頭無かった。
事情も知らされず、二つの国の狭間で手駒のように利用されていたことは、耐え難いほどに腹立しかったが、
だからこそ、未消化のまま帰国することなど考えられない。
呪災の全容を詳らかにして、『納得』しなければ、収まりが付かないのだった。
第一、全てを知らねば、この馬鹿げた災害を引き起こした連中を、嘲笑ってやることすら出来ないではないか。

「さてと、その、『仕事』とやらについて聞こうか。
 そりゃ、無論、不死王の遺跡の攻略ってんだろうが、
 あんたが呪災の原因を知っているかどうかで、仕事の危険と難易度は大きく変わる。
 ……陛下、呪災の発生を画策していたのは、あんただが、
 具体的に、誰が、どうやって、この呪災を発生させたのか――どこまで正確に把握しているのさ?
 話してもらおうか。仕事を請けるかどうかは、それからだ。」

呪災の淵源に向かえば、マリー達にジャンを嗾けた正体不明の『日本人の女』と、相間見える機会が必ず訪れる。
そんな確信めいたものが冬宇子にはあった。
――『冒険者が不死の法を見つけ出すのを阻止すれば、自分達が親父や兄貴を生き返らせてやる』――
女はジャンに、そう伝えたという。
日本と清の密約まで含めて、冒険者がこの国に差し向けられた事情を知っていなければ、出来ない発言だ。
彼女…いや、彼女を含む一味も、おそらく、不死の法を狙っている。
一味が、王を出し抜き、先んじて呪法を完成させることを目的に動いているとしたら、
不死王の遺跡で、互いが接触する可能性は極めて高い。


【清王に質問1:日本政府の手前、冒険者を殺すとか出来ないよね。もし、仕事断ったら私達をどうする気?】
【ちょっとゴネてみせたけど、仕事請ける気満々。】
【清王に質問2:王様は呪災の発生原因をどれくらい把握しているの?】

98◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:53:40
>「あ、えーまあ、それで……ゲフンゲフン、褒美の方は日本国へ私の華族承認を勧める礼状でも書いていただければ、うぇひへへ」

延々と垂れ流されるなんとも愚昧な戯言を、清王はにこやかに微笑んだまま聞いていた。
頼光が一頻り喋り終えると何度か頷いて――それから深く溜息を吐いた。
そして唐突に王座から立ち上がり、冒険者達――頼光の傍へと歩み寄る。

「どうやら君は……自分の身の程と言うものが分かっていないようだ」

静かな呟き――穏やかな響きは微かにも残っていない。
金行を帯びた鋭い眼光が、頼光を見下ろしている。

が、不意に、王の口元が緩んだ。
それから彼は頼光の肩に腕を回す。
さり気なく他の冒険者達との距離が開くように、引き寄せていた。

「……君は華族だなんて小さな器に収まるべき人間じゃない。
 日本という国でさえも……君の器には小さ過ぎるくらいだ」

目と目をまっすぐに合わせて、王は真剣な口調でそう告げた。

「……いいかい。確かに日本は清よりも優れた国だ。……今はまだ、ね。
 だが……日本は小さいよ。今は良くても、土地と資源に劣る日本は、いずれ世界について行けなくなる。
 ……いや、そうじゃないな。もっと率直に言おうか」

「ボクは君を、とても高く評価している。君が欲しいんだ。清の為に働いてもらいたいと思っている。
 その為なら……地位も、富も、君が望むがままの物を用意してもいい」

無論――清王の言葉は嘘に塗れている。
唯一、君が欲しいという事だけは本心だが――それも当然、頼光の才や武勲故ではない。
頼光は過去に一度、転生術の媒体となっている。
不老不死とは少し異なるが、研究対象として確保しておいて損はない。

「……ま、考えといてよ。色よい返事を期待してるからさ」

頼光の肩を軽く二三度叩いてから、清王は玉座に戻った。
国使同然の頼光を強引に確保して日本の心証を損ねる事は出来ない。
が、もし彼が自分から清に来る事を望んだのなら話は別だ。
無論、嘆願中に行方不明に――と言った形での拉致も出来るが、何にせよ本人の同意があって損はない。
彼の人格を考えれば、望ましい結果は十分期待出来る。

99◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:54:37
>「安心おしよ。"仕事を取り消す"なんて、心にも無いことなんだから。
  ええ?そうじゃないのかい、国王様?」

「あ、バレちゃった?やだなぁ。そう言うのはボクの口からバラすからこそ面白いのに」

>「あんたは、この生成り小僧とは違う――"完璧な不老不死"を望んでいる。
  おや、失礼…じきに大陸を統一する、清の国王陛下に対する口の利き方じゃなかったねえ。」
>「……と言っても無礼講って話だったよね。なら遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらうよ。
  呪災は、あくまで過程―――あんたの宿願は未だ道半ば―――…
  だから私らを、この国に呼んだんだろう?」

「……物分かりが良くて、賢い。それに美人だ。君は理想の女性だねえ。
 どう?仕事が終わったら、こっちで暮らさない?なーんて……」

>「……大陸の事情は知らぬが、不死王の遺跡を探るのは、禁忌にでも触れるのかい?
  表立っては下せぬ命令を、あんた自身は禁忌を侵さずに、果たす事が出来たって訳だ。」

「……いや、別に?そんな事はないよ。
 でもボクがそれを命じた後で呪災が起きたら、ボクのせいになっちゃうでしょ。
 それを理由に「お前には大陸の統治は任せられない。我々が分割統治する」なんて論調に持っていかれたら……面倒じゃないか。
 だけどまぁ、フーちゃんは良くやってくれたよ」

>「そりゃ、成功の前例があるんなら、それに習いたいのが人情ってモンさねえ。
  まるで研究が上手くいっていない上に、まだか、まだか、とせっつかれりゃ、禁断の法に触れたくもならァね。
  しかも、急かした相手は、巒頭(らんとう・地理風水)の達人だってんだから。
  手段を持つ者なら、尚のこと、手を出さずにはいられない……!」

>「道士の兄さん……少しは、腹を立ててもいいんじゃないのかい?
  そこの王様は、あんたの呪医としての腕前を見込んで、せっついていたんじゃあない。
  別口から不死の法に迫る方法を探っていて――たまたまあんたが、打って付けの能力を持っていたってだけだ。
  要するに、フー・リュウ…あんたは、この呪災を起こすために必要な、手札の一枚だったのさ。」

「……まさか、彼は怒ったりしないさ。だって彼がここまでしたのは、ボクの為だけじゃない。
 リウちゃんの為でもあったんだろ?その割合は……可哀想だから聞かずにおいてあげるけどね」

「……あ、一応言っとくけど、彼女の失敗はボクのせいじゃないよ。むしろ期待さえしてたさ。
 それが駄目だったから、仕方なく君を利用したんだ」

>「何も、利用されてたのは、あんただけじゃないがね。
  私らも……清国にとっちゃ日本に一枚噛ませるための、日本からすりゃ清国に恩を売るための、
  使い勝手のいい駒だったってことだ。
  はん……!やはり黒免許なんてロクなもんじゃなかったよ。」
>「まァ、そのお陰で、口封じに始末されちまう……なんて心配は無用って訳だ。」

>「しかし、日本への借りは高くつくだろうねえ。
  満州の租借権…いや、割譲……北方を丸ごと剥ぎ取られちまうかもしれないよ。
  そんなこたァ、ただの『駒』が、口出しする必要も無いってかい?
  国同士の駆け引きは、賢明な名君の腕次第ってことかねぇ。」

「んー、そうだねぇ。ものは考えようさ。ボクは日本とは仲良くしたいと思ってるし……
 ……厄介な露西亜との間に勝手に入ってくれると言うなら、それも有難いかな」

にこやかに王は語る。
君達が他所で余計な事を口走るとは思ってもいないようだ。
危害を加えずに口を封じる術を、既に用意しているのだろう。

100◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:55:02
>「話は変わるがね、あんたも承知の通り、冒険者ってなァ官人じゃないんだ。
  仕事を請けるかどうかは、本人の意思次第。
  請けた仕事を途中で放り出したとて、報酬がフイになるだけで罰則なんかありゃしない。
  要するに、仕事をほっ放って、逃げちまってもいいってことさ。
  もし、私らが、この仕事を断ったら―――国王陛下…あんた…どうするつもりだい?」

「……君達冒険者は、とても優れた機構だ」

「と言うのも、君達は国使同然の存在として派遣されておきながら、同時に個人としての性質も失っていない。
 だから大使のように丁重に扱えと言いながら、仕事を受けるかどうかは個人の自由と主張出来る。
 だけど……君達が国使であるか個人であるかを選べるのは、何も君達だけじゃない」

「君達のお上……国だって同じ事を考えるし、同じ事が出来る。
 成功すればこちらの国使のお陰だから一つ貸し。
 でも、もし何か面倒な事になった時は……それは君達の個人的な失敗だ」

「君達が仕事を蹴れば、ボクは呪いを暫く放置して、もう一度使いを出して別の人材を派遣してもらうか。
 あるいは自前の戦力で遺跡を攻略しなくちゃならない。いずれにせよ損害が出る。
 その責任は本来なら、責任感のない国使を送ってきた日本に負わせたい所なんだけど……」

「……君達は多分、トカゲの尻尾になるよ」

「……けど、そんな事は今は関係ないよね。もし仕事を蹴られたらかぁ……そうだなぁ。
 仕方ないから、こちらからも追加の報酬を出すよ。
 それくらいしか出来ないけど……君達ならきっと引き受けてくれると、ボクは信じてるよ。ね?」

>「さてと、その、『仕事』とやらについて聞こうか。
  そりゃ、無論、不死王の遺跡の攻略ってんだろうが、
  あんたが呪災の原因を知っているかどうかで、仕事の危険と難易度は大きく変わる。
  ……陛下、呪災の発生を画策していたのは、あんただが、
  具体的に、誰が、どうやって、この呪災を発生させたのか――どこまで正確に把握しているのさ?
  話してもらおうか。仕事を請けるかどうかは、それからだ。」

「……簡単だよ。不死王の遺跡に封じられているのは、不死王だけじゃない。
 伝承では確か……彼を不死にした少年も、そこに幽閉されたと言われている」

「……今回の呪災なんだけどさ。もし不死という現象を、伝染する呪いのように
 組み直して振り撒けるとしたら……それは王様じゃなくて、その少年の方だと思わないかい?」

「そうさ。不死の法を編み出し、そして地の底へと囚われた少年は、きっとまだ生きていたんだ」

「つまり相手は、ただの兵士に捕らえられて、そのまま生き埋めにされちゃうような子供だ。
 術才は凄いんだろうけど、対策さえしてしまえば何も怖くないさ。
 呪災を起こしてくれたお陰で……対策の仕方は、もう分かってるしね」

「正直言って……後はその子を連れてくるだけでいい。
 人助けみたいなものさ。どうだい?まさか難しいとは言わないよね?」



会話を終えれば、王は君達に歓迎の宴を手配するだろう。
振舞われるのは補陽の効果が強い食事や酒――きりきりと働いてもらう為の準備を、宴という言葉で飾っただけだ。
またその途中で『王都の地図を持ち出した件』『不死の研究を宮仕えの道士から聞き出した事』についても触れられる事になるだろう。
本来なら外患罪に相当するが、それが必要な事だったとは十分理解出来る。
『だから土行の術を用いて、その情報を君達の心中に『埋伏』させてくれるだけでいい』と。
つまり記憶は確かにあるが、表層化させられない――口外出来ない状態にすると言う事だ。
もっとも――口外出来なくなるのが本当に地理情報のみなのか、施術を受けるまで君達には確かめようがない。

術を施された後で、何故か些細な手違いで、つい先ほど交わした会話の内容まで
口に出来なくなっている可能性も――なきにしもあらずだ。

101◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:55:21
――さておき、およそ四半日の休息を得た後、君達は不死の王の遺跡を目指す事になる。

「市街地の動死体はもう殆ど処理が済んでるよ。
 時折妙な個体がいたらしくて、それは捕獲するよう言っておいたけど。
 なんでも人を襲わず、特定の行動や場所に固執する個体がいたそうでね」

「なんか、ひたすら鍛錬を繰り返す太った動死体とか……面白そうじゃない?見ていくかい?」

「ま、それらを解剖、分析すれば……君達がしくじったとしても、ボクは安心だ。……冗談だよ」

「都外に車を用意してある。……原始的な方のね。
 彼らの脅威は数と接触による冷気の感染だけど……開けた地形なら馬には到底追いつけない。
 国を出てからは動死体共とまた出会うだろうけど、相手にする必要はないさ。
 ゆっくりしていればいい。……墜落する飛行機よりかは、乗り心地もマシだろうしね」

とは言え――馬車の移動速度は道の状態が良くても精々、時速20km程度。
清の首都、北京から北方にある遺跡に辿り着くには――少なくとも半日はかかる。
小刻みに、不規則に揺れる馬車の中での十二時間は、決して快適とは言えないだろう。
もっとも――その後で、日の沈んだ薄暗闇の中、君達は周囲に動死体の蔓延る遺跡に乗り込まなくてはならない。
その事を考えればむしろ、馬車の中での半日は至福の時だとすら言えるかもしれない。

――遺跡からやや離れた地点に、小高い丘があった。
馬車のような目立つ物を安全に停められるのは、そこが最後になる。
それ以降は多少の地形の隆起や窪みはあるが、馬車で通過しようものなら間違いなく動死体に察知される。
動死体共の数は北京で遭遇した時とは比べ物にならない。
清と北方両軍の兵士の殆どがそのまま動死体に成り果てたのだ。
亡国士団や一部の優秀な兵士は動死体化を免れたかもしれないが――
――それはつまり、突然動死体の群れに放り込まれたに等しい。
結局、生き残る事は出来なかっただろう。

「……なぁにが、後はその子を連れてくるだけ、だ。あのクソッタレ……。どうすんだよ、コレ」

生還屋が眼下に広がる光景を見下ろして、そうぼやいた。



【遺跡の周りには動死体がわんさかいます。
 馬車を使えば素早く突破出来ますが、間違いなくバレます。
 馬車を使わなければ、身を隠せない事もない地形です。
 遺跡に乗り込んだとしても、不死の法は遺跡の地下にあります。
 地下向かう必要がありますが、悠長に入り口を探していては動死体達に襲われてしまうでしょう】

102鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:55:58
馬車に揺られながら、鳥居呪音は悶々と考えていた。
清王の言ったこと、見られないことと、見ないことは違う。
その意味を…。

鵺の洞窟で、神気の力で人の子に戻った。
そのときから、何百年ぶりかに太陽の下の世界をみた。
嬉しくてはしゃいで、ホマレヤマでは倉橋冬宇子に抱きついた。
それは自分が拒絶されうる存在では最早ないと思っていたからだ。

予想通り、倉橋はいい香りがした。
だから鳥居は「お母さんのかおりだ〜」とか言ってしがみついた。
だが、頭に思いっきり握り拳固をお見舞いされた。

そう、倉橋は鳥居の母親と同じ術者だが、当然本当の母親ではない。
細い糸を手繰り寄せるかのように、繋がりを求めても
それは所詮紛い物。ほんものではないのだ。
故に鳥居は悟る。
母親と同じ存在を、この世ではもう二度と見ることはないだろうと。
母親のように鳥居を愛してくれる人なんてすでにいないのだ。
必死に世界に目を凝らして見ても何もない。ただの無常の繰り返し。

それなら自力で孤独を埋めるしかないのだろう。
だから鳥居は、不死の王に会ってみたいと思った。彼が何を見ているのか知りたいと思った。
不老不死に成り立ての清王では、ダメ。と思う。
そして、倉橋が言葉にした完全なる不老不死。
不老不死に完全なる状態があるのなら、その者はいったい何を見るのだろうか。

103鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:56:22
馬車の窓の、カーテンの隙間から差し込む光は紅く、
すでに夕闇を孕んでいる。もうすぐ日は沈むのだろう。

ここで鳥居は、結構長い間自分が無言だったことに気がつき
頼光を指でつつくと…

「ね〜、頼光の好きな食べ物はなに?」
唐突にしつもんを浴びせた。
日本に帰ったら、それを食べさせてあげたいと思っていた。
なぜなら清王に頼光をとられてしまうことはアムリタサーカスにとって
一番の大打撃なのだ。

そして、倉橋のほうをむく。
清王が言っていたように、よくよく
あらためてみると、倉橋は綺麗だった。
でも、鳥居にとっては他人に近い。

まるで何かに追いかけられているかのように
清王を問い詰めた冬宇子。
その思いのうちというか、強さのようなものは
いったいどこから来るのだろう。
彼女が何かを求めているから?
鳥居は気になっていたことを思いきって聞いてみた。
今の倉橋はある意味、清王よりも話しかけ辛い感じだったが…。

「……あのぅ、倉橋さんと頼光は王様に気に入られちゃったみたいですね。
でも倉橋さんは、あの人こと、どう思います?
…正直な方ですよね。普通ならあれほど正直にものは語らない。
自国の国民に少しでも犠牲者がでたのなら、
少しは悲しい素振りくらいみせるはずだし
嘘でも泣いてみせるのが一国の王の姿ではないでしょうか。
あのような人と日本が仲良くできるとアナタは思いますか?」

これは鳥居の遠回しな悪口。
もちろん綺麗事だけでは国を統括できないことは理解しているつもりだ。
だが、フェイ老人とその小さな弟子たちを救うのに、鳥居たちがどれほどの苦労をしたのか、
彼は理解しているのだろうか。
言葉一つで簡単に多くの命が奪われる。
こっちは目の前の命一つ救うのにいっぱいいっぱいなのにだ。

この鳥居の発言に倉橋が同調するとしたら、
浮かれ気分の頼光に冷や水を被せることができるかもしれない。
そして冬宇子の内面も少しは垣間見ることができるかもしれない。

104鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:57:28
馬車の速度が徐々に緩やかになり、止まった。
遺跡についたのだろうか。
生還屋に続いて馬車から飛び降りた鳥居は息をのむ。

>「……なぁにが、後はその子を連れてくるだけ、だ。あのクソッタ レ……。
どうすんだよ、コレ」

丘から見下ろした薄闇の遺跡に徘徊する無数の動死体。
この遺跡の地下に不死の王。それと少年がいる。

(こんな寂しい場所に…閉じ込められているなんて……)
少年が呪災の原因となっているのならそれも頷ける。
動死体の群れと辺りに漂う冷気は少年の怨念を
具現化しているようにも見えた。

「あんなに広い遺跡じゃ、入り口をさがすのも骨がおれちゃいますね。
倉橋さんは呪災の発生源とか感知できますか?
闇雲に入り口を探して見つけるなんて奇跡の技ですよね。
何かよい案とかありますか?」

鳥居はいつになく慎重だった。
はぐれたら終わり。動死体に見つかっても終わり。
入り口の探索時間に比例して上昇してゆく動死体との遭遇率。
ここは慎重にならざるおえなかった。

105名無しさん:2016/05/19(木) 17:27:25
http://jbbs.shitaraba.net/game/40372/
http://jbbs.shitaraba.net/game/59089/

106名無しさん:2018/01/12(金) 09:52:35
http://jbbs.shitaraba.net/game/60421/


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