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八月の海に解けるようです
1
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:22:11 ID:r4XkT5/w0
海に行こうと、奴が言った。
.
32
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:49:49 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「別に僕と帰っても楽しい事ないでしょ」
ヰ`∀´)「最近全然帰れんかったやん、僕玉木と帰ると元気出るんよ」
狐に摘まれたような気持ちとはこういう事なのか。目の細い男がニッと笑って何でもないように言葉を溢すから、僕は何だか、何でも良くなってしまった。
カバンを肩に掛けて歩いて、いつもなら金城が何かを喋ったり聞いたりしてくるタイミングで口を開いた。
(・ゞ・) 「……ねえ、金城の家ってどんな?」
ヰ゚∀゚)「んんー?どんなでもないよお。それよか玉木んちの話が聞きたい、僕玉木んちの話聞くの好きやから」
わかってはいた。金城は自分のことを話したがらない。いつもニコニコ笑いながら流そうとするから、こちらもしつこく聞いたりは出来ない。代わりに提示された話題に、心臓がグッと痛む。いつもちゃんと見てなかったから、ちゃんとこの目で確かめよう。『そう』言った時、金城はどんな顔をしてるのかを。
33
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:50:48 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「……うちなんて、ほんとに普通の、つまんない家だって」
ヰ゚∀゚)「……ええやんけ」
噛み締めるように、ものすごい苦い薬を飲み込むみたいに、金城が声を絞り出した。
ヰ゚∀゚)「つまんないなんて、そんな事ないて。ええもんよ、玉木んち。僕、ほんとうにそう思う」
何かを我慢するような、ぎゅっと堪えるような顔だった。
いつもそんな、そんなふうに?
僕の言葉が嘘っぽいのを馬鹿にして、それを耐えてそんな顔をしているんだきっと。だから、つまり、だから金城は、僕のことを、
34
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:51:41 ID:r4XkT5/w0
(#・ゞ・) 「……っ嘘つくなよ」
ヰ゚∀゚)「え?」
いきなり立ち止まった僕に驚きながら金城が振り向く。僕の声は怒りに滲んで、震えている。
(#・ゞ・) 「ばかにしてんだろ」
ヰ゚∀゚)「なんで、そんな思うん」
(・ゞ・) 「だ、って金城、……僕の話嘘だって言ったじゃん」
何が『いい』のか。そっちの方が嘘じゃないか。
金城は何の話をしているかわからないような顔をしている。金城が、こいつが、狼狽えれば、不機嫌になれば、逆ギレでもすればまた違ったのかもしれない。けれど金城は何も変わらない。いつもと同じ温度で、態度で、いつものように僕に声をかけて僕の話を聞いて『ええな』と言う。全部がほんとうってことなんだ。あの時、僕の話は嘘みたいだと言ったのも、今僕の話を聞いて羨ましがっているのも、全部全部本当なんだ。
尚更意味がわからない。
わからない事が悔しくて、むかついて、僕は驚いた顔のままの金城に怒鳴り付けた。
(・ゞ・) 「馬鹿にしてんだろ」
ヰ゚∀゚)「なん」
(・ゞ・) 「なにが、何がキンタマコンビだよ、そんな、それすら馬鹿にしてんだろ!」
ヰ゚∀゚)「ちゃうって、ちゃうやんそんな、僕玉木を馬鹿になんかしとらん……」
(#・ゞ・) 「馬鹿にすんなよ!!」
手を伸ばしたけれど、それをどうしたら良いかわからないような顔した金城を置いて僕は走った。走って走って、馬鹿みたいに汗を流して、息もしづらくなって、それから叩きつけるような勢いで家に入った。
それから夏休みに入るまで、金城は僕に話しかけて来なかった。
.
35
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:52:19 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「あん時、玉木が何怒ってんのかもわからんくてごめんなぁ。ニッシ達と話してた時に僕言うたん、聞いとったんやって、すっごい考えてわかった。時間かかったけど。玉木んちは嘘みたいやて、言うたのあん時だけやったから」
(・ゞ・) 「……うん。聞いた。立ち聞きしてたのは、ごめんだけど」
日焼け止めなど一切塗っていない首の後ろがジリジリ熱に焼かれているのも気にならない。ベタつく額も、張り付く服の不快感も、多分どうでも良くて、今一番気にすべきなのは目の前でクラゲみたいに風に揺らされている金城だった。
僕はなんとか足がつく場所に立っているけど、ほんの拳ひとつ離れたとこにいる金城は足がついていなくて、大きな波がやって来たらそのまま流れていきそうな気さえする。
36
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:53:00 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「玉木、僕が馬鹿にしとる言うてたけど、ちゃうんよ。逆や」
(・ゞ・) 「逆?」
ヰ゚∀゚)「僕が、僕が馬鹿にされとんのやって思ったわ」
(・ゞ・) 「僕そんな事した?」
ヰ゚∀゚)「ちゃう、全部」
(・ゞ・) 「全部?」
ヰ゚∀゚)「世界全部が僕を馬鹿にしとんの」
波の音がうるさい。
風の鳴く音がうるさい。
遠くを飛ぶ飛行機の音がうるさい。
頼むから静かにして欲しかった。
先程までとは打って変わって、金城の声はこんなに聞き取りにくかっただろうか。
37
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:53:49 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「普通ってさあ」
バシャンと波が打ち上がる。
ヰ゚∀゚)「普通の家はさあ、父親が母親の首、絞めること無いねやろ」
バシャンと弾みで飛んだ水飛沫が腕にかかった。波が高い。
ヰ゚∀゚)「子供むかついたら教科書破いたり煙草で炙ったり踏みつけたりせんのやろ」
バシャンという音が頭に響いて、波に揺蕩うように身体が左右に引っ張られる感覚に襲われる。
ざぁっと一度波が引いて、それからまた大きな波が奥から奥からやってくる。僕らに構うことなく、僕らを海の一部と判別してすらいそうな力で波が泡を生み出していた。
ヰ゚∀゚)「あっついコンクリの上、裸足で歩かせて笑いものになんか、せんのやろ。服で隠せるからって脚の皮にアイロン押し付けて椅子に座れんような火傷作ったりなんかせんのやろ。なあ僕、それが、それだけが普通じゃないって事ぐらいは知ってんのや」
38
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:54:20 ID:r4XkT5/w0
何を
先程から金城が何を言っているかわからなかった。何の話をしているのかもわからなくて、でもこれは金城のほんとうだということは察して、僕は訳もわからず自分の両方の手のひらをぎゅっと握りしめた。
ヰ゚∀゚)「僕な、僕んちそんなやって、でもどこんちだって色んなもん抱えとるやん?僕、人んちの話聞くん好きなん」
ヰ゚∀゚)「だってどこもどっかおかしいとこ、あるやんな。そんなもんよって、うちだけが、親父だけがおかしいわけやないから大丈夫やって思ってたんよ」
ヰ゚∀゚)「玉木んちの話、好きなんよ。悪口あんま言わんやろ玉木って。友達もやけど家族の悪口言わんやん。みんなの話聞くの好きやけど、僕の勝手やけど、全然良い家やのに悪口言うとるの聞くとな、じゃあ僕んちどないなんのって苦しくなるんよな。やけん好きなんよ玉木の話」
ヰ゚∀゚)「好きやけど、好きなのに、そんなん絶対嘘やって、夢物語じゃろて、じゃないと、そんな幸せみたいなのがほんとうなら、それが普通やってんなら僕の、僕のきったない人生はさ、何も価値なくて、ゴミ以下で、最低で、そんなことって酷すぎやろって可笑しなって、笑う気にもなれんかったわ」
金城がぽつりぽつりと雨の降りはじめみたいな弱さで言葉をこぼすから、僕はただただそれを拾って、手の中に押し込めるだけでいっぱいだった。
39
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:55:24 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「宇宙人やったらええのにってずうっと思ってた。親父も母ちゃんも、別の星のやつやからなんもわからんくて、何も伝わらんのやて、それなら僕なんも可笑しないやんなって」
ヰ゚∀゚)「親父もな、人間やった時あんの。どこに住んでた時やったか、だいぶ昔で、なんか方言使っとってな、そん時のこと思い出したらええなって僕、無理くり方言喋ってたら金城弁になったのに、親父はもう標準語話とんの。うけるやろ」
鋭いものが人を傷つけるかと思っていた。
けれどひどく柔らかい、波線みたいに穏やかなやさしさだって暴力性を孕んで人を傷つけるらしい。
(・ゞ・) 「僕、僕はずっと金城を傷付けてたの?」
ヰ゚∀゚)「ちゃうよ、それだけはないんよ。あんな、僕の人生あんまいいことってホント少ないんやけど、多分、きっと、玉木と友達になれたことって僕の人生最大のラッキーなんやて」
40
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:56:07 ID:r4XkT5/w0
何の話をしているのか。
金城が何を言いたいのか、全くわからない。
わからない事なんて今まで数百回以上あったけど、それでも今日の、今目の前にいる金城は今までで一番よくわからなくて、何故だか無性に怖くなって手を伸ばしかける。
いきなりパッとこちらを振り向いた金城は、
ヰ゚∀゚)「玉木さあ、地球に来た宇宙人が星に帰るとこ、見たない?」
こちらが何かを言う前に、助走をつけて走り出し一直線に海へ、跳んだ。
(;・ゞ・) 「ばっ」
41
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:56:43 ID:r4XkT5/w0
馬鹿じゃないの、という声すら間に合わず、バシャンと無慈悲な音が耳に響く。
海は寛容に靴のまま服のまま飛び込んだ金城を包み込むように、波を立てた。地面は岩と石で歩きにくいのに全く意に返すこともなくあそこまで行ける意味がわからない。海から顔を出した金城と目が合って、何の意味もわからないけど、わからないまま僕も飛び出した。
ヰ゚∀゚)「だあ、しょっぱうわははは 玉木やばい、あかんな、海ってくそまじい」
(・ゞ・) 「お前ほんとばか!」
ヰ゚∀゚)「うわ、玉木まで入ってくんなや」
(・ゞ・) 「うっさい、僕だって──」
僕だってこんな汚くて暗い海になんか入りたくなかった。でかい石を踏んだのか足の裏は痛いし、お気に入りのサンダルもカーゴパンツも馬鹿みたいに濡れて最悪だ。
でも、けど、馬鹿みたいにぬるくなった海水にでも入らなきゃいけないって、そうでもしないと金城が本当にどこかへ消えていきそうな気がして、勝手に体が動いたんだ。
42
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:57:30 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「玉木に、謝らんといけんの僕、僕さ宇宙人ちゃうんよ。でもな、初めて喋った時に宇宙人か?って聞かれたん、めっちゃ嬉しかったあ。宇宙人になりたかったから、そう見えたんなら僕やっぱ可笑しくないって、大丈夫って言うてくれてるみたいに勝手に思ったんよ」
曇り空だというのに、生暖かい風と空気は健在で、八月の所業は厳しい。水温も同じく生温いのに、握った金城の腕は嫌に冷たい。
ヰ゚∀゚)「あと親離婚するから金城じゃなくなんねん。キンタマコンビじゃなくなるんよ、ごめん、ごめんな」
さっきから見当違いのことばかり謝っている金城をどついてやりたかった。それと同時に、泣いている妹を見ている時みたいな気持ちになった。
泣くなよ、大丈夫だから、そう声をかけられたらどんなにいいか。
ヰ゚∀゚)「玉木、僕な、もう溶けてしまいたいんよ。星があるならそこに帰りたいんよ。僕の家な、家じゃないし、家じゃなくなんの。嫌でも、嫌いでも、無くならんよう耐えてたけど、駄目やった。無くなるて。全然駄目やった僕。だから、見送ってや玉木」
(・ゞ・)
(・ゞ・) 「馬鹿」
(・ゞ・) 「馬鹿だ金城は」
43
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:58:13 ID:r4XkT5/w0
気付けば雨が降ってきていた。何もかもが濡れているから、もうどうでも良かった。僕がやっと口を開いたことに金城はほんの少しだけ顔を上げる。情け無い顔。どうしようもないやつ。
なんだこいつ。
僕が金城に思っていることは、初めて喋ったあの時から、何にも変わっちゃいなかった。
僕の頭の中をも侵略しておいて、金城は宇宙人ではないらしい。
どこからどう見ても僕の同級生で、ただのちっぽけで無力な人間の子どもだった。誰よりも不器用で、馬鹿で、迷子のなり方も知らないどうしようもない人間なんだ。
別にいい。金城が人間でも、金城って名前じゃなくても、どうしようもない馬鹿でも、それで良かった。それだけがほんとうで、それだけあれば十分だった。
44
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:58:42 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「お前が宇宙人じゃなくても、キンタマコンビじゃなくなっても、人んちの普通さに憧れてても別にどうだっていいよ馬鹿。僕は……僕はお前の名前だけで一緒にいるわけじゃないんだよ馬鹿、ほんとに馬鹿」
ヰ゚∀゚)
ヰ゚∀⊂)"
ヰ゚∀゚)「……ひどいわ玉木、馬鹿って、五回も言って」
(・ゞ・) 「帰ろう、金城」
水飛沫が顔にかかっても、力強く水面が揺れるのに合わせて身体が持っていかれても、僕は金城の長袖を離さなかった。
ヰ゚∀゚)「……帰れない」
(・ゞ・) 「帰れるよ」
腕を引っ張り上げて海から引き出す。こないだ見たSF映画で宇宙人を引きずり上げるシーンがあったけど、こんな泥臭い感じでは無かった。そう、僕らは泥臭いし、青臭いし、汗臭いし、良いとこなんて全く無い。だけど別にいい。金城が迷子になったら僕が探して一緒に帰ればいいだけなんだ。
45
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:59:31 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「帰ろう、金城。人間は海には溶けないし、お前が宇宙人じゃないなら帰る先はここじゃないんだよ」
ヰ゚∀゚)「はは」
ヰ゚∀゚)「あーあ、はは……」
下を向いた金城が諦めたように顔をくしゃっと歪ませた。
ヰ゚∀゚)「海水めっちゃ傷に染みるわほんと」
(・ゞ・) 「うん、僕もさっき切ったっぽい足のとこ滲みてる。金城と僕は同じ生物らしいね」
ヰ゚∀゚)「はは、じゃあキンタマコンビ改め人間コンビやね」
(・ゞ・) 「普通じゃんそれ」
ヰ゚∀゚)「うん。普通って最高やろ」
重たくなった服を引きずって陸へと上がる。
雨はいつの間にか止んで、灰色に湿った空は意地らしい熱気を纏った光が差している。波は相変わらず荒々しく、それでもさっきより水面は澄んで見えた。
八月の海に解けた風が、僕らの間を吹き抜けていく。
46
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:00:14 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ-)
(-ゞ;)
(;ゞ;)
瞬きをしたら駄目だと思ったけど間に合わなくて、一度閉じた瞼を開くと世界は蜃気楼に当てられたみたいにぼやけている。
いつからか汗でもなく雨でもなく海水でもない水が顔を流れていた。
何の水だって、なんだっていい、どれであっても結局塩辛く舌を濁らせて不味いんだ。そのしょっぱさに呆れて笑う。
ヰ;∀;)「しょっぱ」
(・ゞ; )「ふっ」
見れば金城も同じように顔中をべしょべしょに濡らしていて、あまりの酷さに思わず吹き出す。
47
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:01:16 ID:r4XkT5/w0
(つゞ∩) "
(・ゞ・)
(・ゞ・) 「帰るか」
ヰ゚∀゚)「……うん」
ヰ゚∀゚)「やけど僕さっきICカード落とした」
(・ゞ・) 「本当馬鹿」
金城も僕も馬鹿みたいに笑って、土砂降りみたく笑って、ふたりで笑いながら濡れたまま歩いた。
.
48
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:01:41 ID:r4XkT5/w0
終わり
49
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:04:25 ID:tCLumsms0
乙
50
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:52:40 ID:uhUmSQMk0
傷に染みるのは海水だけじゃなくて玉木の優しさもだったろうな
良い話だった乙
51
:
名無しさん
:2025/08/09(土) 19:56:01 ID:KdJKW8SE0
友達だな、いいな、という気持ちになった
言葉選びや描写が良かった
52
:
名無しさん
:2025/09/02(火) 00:11:07 ID:BGPDge260
乙乙
泣いている妹に対しての玉木の感情が聖人君子だ…本当に良い人
読後感、救われた気持ちと解消し切れない辛い気持ちが混在していて波に揺られているような気分になった。
子供の頃ほど今あるもので受け入れなくちゃいけない感覚強かったなというのを思い出しました。乙。
53
:
名無しさん
:2025/09/13(土) 23:55:16 ID:qTCIIyF.0
乙!
「僕はお前の名前だけで一緒にいるわけじゃないんだよ馬鹿」ってセリフが凄く好き。色んな意味でしょっぱく感じる話だった、面白かった!
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