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( ^ω^)は見えない敵と戦うようです

1 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 22:44:52 ID:0w0/X/Ow0






          『人は誰しも、自分にしか見えない敵と戦っている』

64 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 23:55:52 ID:0w0/X/Ow0
 * * *


ほどなくして夕暮れ時になっても、僕はツンを見つけることができなかった。
思いつく場所は全て回った。あらゆる可能性を検討した。それでも彼女が見つからなかった。

(; ^ω^)「なんでどこにも居ないんだお……ツン……」

まさか、本当にやられてしまったのか。
治癒力が追いつかないほどのダメージを受けたか、あるいは熱病のぶり返しで、動けなくなってるのか。
途方にくれて、あるはずもない電話番号を探して僕は携帯をとる。

( ^ω^)「…………」

そのとき、ある閃きが頭の中を駆け巡った。
それは最低の考えで、自己嫌悪に押しつぶされそうになったが、頼れるものはもうほかにない。
インターネットブラウザを開き、国内で最も有名なSNSに接続する。

かつて、ツンは僕の差し伸べた手をとることを躊躇した。
同じことを言って、彼女を騙した連中がいたからだ。
彼らが、今もなお津村ツンを笑いものにして、いたとしたら。
彼女の一挙一動を、晒しあげているとしたら。

僕は検索欄に、思いつく限りの検索ワードを打ち込む。
ツンの名前や、容姿の特徴、口上、行動、そして考えうる蔑称に至るまで。

そして、見つけた。
口に出すのもいらいらするような酷いあだ名で、ツンの姿を写真に撮った投稿を。
タイムスタンプは今日の30分前。ご丁寧に場所まで記載してあった。

こいつらを殺してやりたいほど憎らしいが、今だけは感謝しよう。
ツンの居場所がわかった。
僕はすぐにタクシーを捕まえた。

投稿に書いてあったのはこの街の一番大きな図書館の駐車場。
営業時間は終わっていて、タクシーの運転手は今更ここを指定した僕を訝しんだ。

タクシーを降りて、痛む足を引きずってツンの姿を探す。
あたりは暗くなり始めていたが、彼女がどこにいるかはすぐにわかった。
戦闘の音が響いてきたからだ。

65 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 23:57:32 ID:0w0/X/Ow0
ξ;゚⊿゚)ξ「く……!」

細長い刃渡りをもつ柳刃包丁を片手に、ツンは走り回っていた。
白刃を振り回し、ときおり飛びのいたり踏み込んだりしているが、その動きにはこれまでのような精細がない。
やはり本調子ではないのだ。

僕はもう何も迷わなかった。
彼女の姿を捉えた瞬間、自分がなにをすべきかがはっきりとわかった。

ゆっくりと、低く身を屈めていく。太陽熱を残したアスファルトの温もりが心地よい。
姿勢は、スターターなしのクラウチングスタート。

靭帯の損傷自体は回復している。
ただ、切れグセがついたというか、事故前より脆弱で、長時間の走行や練習には耐えられないと診断された。
それでも、一回ダッシュするぐらいなら保ってくれるはずだ。

短距離走において重要なのはもちろん第一に足の筋力だが、同時に同じぐらいフォームや走法も大きく影響する。
それはおしなべて言えばスプリントの感性。より効率よく前へ進む身体の操縦方法。
入院生活で確かに僕の足の筋肉は衰えたが、走行感性まで錆びつかせたつもりはない。

――たった一走限りなら、僕は今でも陸上部のエースだ。

( ^ω^)「おっ!!」

第一歩目から理想通りのスピードが乗った。
二歩、三歩と速度が掛け算のように追加され、僕は掛け値なしに風と一体になる。
これが、陸上部時代に全ての部員をごぼう抜きにした僕の走法、内藤ストライド!

( ^ω^)「おおおおおおおおお!!!」

視界の下をアスファルトが凄まじい速度で流れていき、僕の眼はまっすぐ前を見る。
ツンが膝をつき、武器を取り落として見えない敵を見上げていた。
ツンの前に立ちはだかる敵は、僕には見ることができない。
見えなくても、理解はできる。

ダビデ像という有名な彫像がある。
かの作品が傑作たる所以は、少年ダビデの目線や仕草で見る者に敵対者の姿を想像させられる所にある。

僕はこれまで何度も、ツンが敵と戦うところを見てきた。
だからたとえ目に見えなくたって、彼女の目に映るものを――想像で補完できる!!

そこにいるのは見たこともないタイプの"敵"だった。
既存のどの生物にも例えることのできない、五体を持ち、二足で立つ巨大な化け物。
一対の両腕には、凶悪な爪が彼岸花のように開いており、ツンの首を刈ろうとしていた。

確かに凶悪で強力な化物だが、僕はちっとも怖くない。
だってこいつ――胴体がガラ空きだ。

66 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 23:58:23 ID:0w0/X/Ow0
(# ^ω^)「ウンコカスを舐めんなああああああああああッ!!!」

トップスピードに乗ったまま、僕は肩から化物に体当たりした。
砲弾じみたタックルは、僕の全体重と全速力を威力へと正しく変換し、ブチかまされた化物が身体をくの字に折って吹っ飛ぶ。
身体のあちこちから血を流したツンが、瞳を開いて僕を見た。

ξ;゚⊿゚)ξ「内藤!?」

(; ^ω^)「いってええええ!」

同じぐらい凄まじい衝撃を肩に受けて僕もまた後方へ吹っ飛んだ。
こいつの横腹めちゃくちゃ硬い。鈍い激痛は、肩が脱臼してしまったことを意味していた。
そして、僕が肩を犠牲にしたタックルを食らわせたってのに、"敵"はもう起き上がり始めようとしている。

それでもなお、僕に恐怖はなかった。
傍にはツンがいたからだ。

ξ゚⊿゚)ξ「――っだああああ!!」

僕がここにいる意味、その戦略的意義を瞬時に理解した相棒は、既に行動を開始していた。
取り落としていた包丁を掴み、砂塵が上がるほどの衝撃をもって疾走する。
その刃の先には、上体を起こしたばかりの化物タイプがいた。

瞬間、交錯。
化物の額ど真ん中へと正確に突き立てられた柳刃包丁が、煌めく粒子となって砕け散った。
その最後のときまで立ち続けていたツンは、化物の絶命と同時にふらりと後ろへ倒れていく。
僕はその線の細い背中を、肩の外れた両腕でしっかりと抱きとめた。

( ^ω^)「相変わらず危なっかしいお、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「ない、とう……」

67 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 23:59:59 ID:0w0/X/Ow0
ツンは僕に背中を預けながら、しかし僕の方を見ようとはしなかった。
それでいい。そのまま聞いてくれれば良い。

( ^ω^)「僕は……正直、あの事故で陸上人生が駄目になったのが悔しくてしょうがないお。
     僕の半身みたいなものだった。失ったのが辛かった。今からでも足が治るならなんでもするって言えるお」

ツンがびくりと肩を震わせる。
彼女が逃げ出してしまう気がして、自由な片手をツンのお腹に回す。

( ^ω^)「でも、確かに半身だったけど、それでも半分なんだお。
     もう半分の僕は、ドクオの友達であり、見えない敵を倒す者であり、ツンの――仲間。
     僕の全てが失われたわけじゃないんだお。この半分がまだ、僕には残ってるんだ」

それは、情けない選択肢なのかもしれない。
なくしてしまった陸上という半身を、体の良い代替品で埋めているだけなのかも。
それでも、代理に過ぎなくても、僕にとっては陸上と同じくらい大切で、かけがえのないものなのだ。

( ^ω^)「残り半分である君を、僕は失いたくない」

ξ゚⊿゚)ξ「――――!」

これが僕の出した結論。戦わなきゃいけない自分自身との向き合い方。
厳しく辛い現実があるならば、僕はそれを、大事なものをこれからも大事にしていく理由にしよう。
自分に打ち勝てば負けるのもまた自分。それなら、無理に倒さなくったっていいじゃない。

敵対関係の終着点は、なにも勝ち負けだけではない。
和解し、共に別の敵と戦っていく選択肢だってあるはずだ。
昨日の敵は今日の友って言うしね。

ξ;⊿;)ξ「でもっ……私のせいで内藤が怪我したのはほんとのことで……っ」

( ^ω^)「あるいはそうかもしれんお」

ツンの顔は見えない。
だけど、彼女がどんな顔をしているかわかるくらいには、僕はツンを見てきた。
泣いてる顔も、笑ってる顔も。その中で、一番好きな顔で居て欲しいから、僕は言う。

( ^ω^)「ツン」

僕はなかば強引に、彼女をこちらに向かせる。
案の定、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔があった。
ツンは急いで顔を隠そうと手を翳すが、僕はその腕を掴んで下げた。

68 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/04(月) 00:01:30 ID:JFWlLpYY0
( ^ω^)「そうかもしれないけど、それとこれとは関係ないんだお。
     僕が君を好きになった理由は、そんなこととはこれっぽっちも関係ないんだ」

ξ;⊿;)ξ「!?」

あまりにも陳腐で、言葉にするのは思春期の僕には憚られるようなことだけど。
だからこそ言いたい、言うべき時じゃなくても、僕は言いたいことを言う。

( ^ω^)「あの日、噴水公園で君の戦う姿を見た時。
     傷ついて、裏切られて、それでもなお人々の為に戦う君を見た時。
     歴史上のどんな英雄よりも、創作上のどんなヒーローよりも。
     ……君のことを格好いいと思った」

男の子はいつだって、戦う者に憧れる。
だけどこの気持ちは男の子だからじゃない。僕が僕だからだ。

戦うことを恐れ、目を背けて生きていきた僕には、ツンの姿は眩しかった。
この想いは、かつての抱いた絶望と、矛盾なく同居する。

( ^ω^)「僕は君のことが好きだお。君と一緒に戦っていきたいんだお。
     負い目に付け込むみたいでIQ低いけど、これからも君の傍にいさせてほしい」

ツンは耳まで真っ赤にして、僕のことを見ていた。
その吸い込まれそうな大きな瞳に、僕は本当に吸い寄せられるように顔を寄せる。

ξ゚⊿゚)ξ「うん……これからも、私の傍にいてください」

僕を吸い寄せる彼女の両眼が、静かに閉じられた。
これで言い訳できなくなった。僕は僕の意志で、最後の一歩を踏み出して。
彼女の鮮やかな唇に、自分の唇を重ねた。

69 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/04(月) 00:03:45 ID:JFWlLpYY0
* * *


とまあそんなことが二ヶ月ほど前にあって、僕達はいまもこうして戦いを続けている。
狂人カップルの爆誕は校内を震撼させるかと思ったが、全然ニュースにならなかった。
やっぱ片っぽがファッションキチガイな常識人だとパンチが弱いのかな?

('A`)「そりゃそうだろ。ほぼ事実婚状態だったじゃねえか初めから」

僕の驚愕を、ドクオはそう切って捨てた。
彼は相変わらず受験勉強に精をだしていて、僕は相変わらず彼とお喋りしに図書館を訪れている。

ξ*゚⊿゚)ξ「内藤!おはよう!!今日も良いぶち殺し日和ね!!!」

ツンも相変わらずだった。本当に相変わらずだった。
あれぇ?もしかしてはしゃいでるの僕だけだったりするぅ?

('A`)「だから元鞘に収まっただけだろ。ぬるい痴話喧嘩見せやがってゴチソウサマデス」

( ^ω^)「……うまかったかお?」

('A`)「生命(いのち)の味がする」

( ^ω^)「流行ったーーッ!」


今日も僕達は放課後見えない敵と戦う為に街へと繰り出していく。
明日もやっぱり見えない敵と戦うのだろう。
明後日も、その先も、いつかこの世から見えない敵がいなくなるまで。

……それまでは、こうして日々を楽しむくらいの役得はあっていいはずだよね。


さあ、僕の語りたいことは概ねこんなところだ。
片田舎の、小さな街の片隅で繰り広げられている、ちょっとした戦いの記録。
その締めくくりには、やはりこの言葉こそが最適だと思う。


――僕達の、見えない敵との戦いは、これからだ!

70 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/04(月) 00:05:01 ID:JFWlLpYY0





( ^ω^)は見えない敵と戦うようです       了

71名無しさん:2016/04/04(月) 00:38:10 ID:CAq0fI7U0

すげえええ綺麗に纏まってたし面白い設定だった
無茶苦茶良かった

72 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 02:14:22 ID:aThORpRk0
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73名無しさん:2016/04/04(月) 10:05:52 ID:WJF.FlG20
すげーよかった

なんかギャルゲーの不思議ちゃんルートのような楽しさがあった!

74名無しさん:2016/04/04(月) 16:20:03 ID:BB6eiaZc0
これ良い

75名無しさん:2016/04/05(火) 18:13:19 ID:FbICYgMA0
>>44
野暮だけど最近どっかで魚にも痛覚あるって発表されてた気がする

76名無しさん:2016/04/05(火) 20:29:34 ID:51Xw3REI0
動物愛護の観点で議論になっとるみたいやね
既存の釣りの方法は魚に要らぬ苦痛を与えとるんやないかって

77名無しさん:2016/04/05(火) 23:11:57 ID:6TTjdxgU0
クッソ面白いじゃねえかウンコカスが!!!!!!!!!

78名無しさん:2016/04/06(水) 10:43:57 ID:LdFrZTGQ0
おもしろかった!!!
ギャグとバトルと感動が程良くはいってて良かった!!!!
乙!!!!

79名無しさん:2016/04/06(水) 18:43:05 ID:p1.bhduE0
面白かったー 乙乙

80名無しさん:2016/04/07(木) 11:41:31 ID:rlSghlYQ0
漫画的な楽しみ方が出来たかもしれない
文が下手だと言ってるわけではなくて、寧ろ上手いと感じるんだけど、良い意味でのラフさがあるおかげで
つまり何が言いたいかというとツンちゃんかわいい、話も文句なしに面白い
実に良いボーイミーツガールだった

81名無しさん:2016/04/07(木) 14:44:30 ID:1/V99Vhs0
乙乙
久しぶりに熱くなれた!!!
ツン可愛すぎ

82名無しさん:2016/04/08(金) 18:08:13 ID:oOqyxNHc0

アツいし、なによりツンがかわいい
ブーンのAAだけちょっと残念だったけど、すげー面白かった

83名無しさん:2016/04/09(土) 14:55:59 ID:dOjY0.660
面白いなぁちくしょう

84名無しさん:2016/04/10(日) 22:27:26 ID:60XvWnzg0
>>42
「魚タイプは他に比べて力も弱いし動きも鈍いわ。でも水中では超つよい」

つまり劇鉄は魚タイプだったんだよ!



超乙。ツンちゃんはやはり馬鹿にかぎる。

85名無しさん:2016/04/10(日) 22:28:00 ID:60XvWnzg0
撃鉄だったわ

86名無しさん:2016/04/15(金) 22:05:31 ID:.PJB9BiA0

面白い!

87名無しさん:2016/04/17(日) 17:25:41 ID:PLX4RvGc0
>>63
>ひり出してこい、お前のケツ論を。ツケを返してケツを拭いてこい」

ここワロタ
好き

88名無しさん:2016/04/19(火) 19:47:27 ID:duoSueIk0
俺は基本退避姿勢が仰向けなブーン君にワロタ
シュール過ぎる

89 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/23(土) 01:18:13 ID:XC98Flcs0
MVP3位!身に余る名輝をいただき本当に嬉しくて小躍りしております!!
無職が有り余る時間に任せて創作意欲の全てをぶっ放した拙作、ご愛読ご投票本当にありがとうございました!!!
闇の中を這いずっていたところにぱっと光明の射した気持ちです!

なかなか機会が掴めずお伝えできなかった絵師様への謝辞もこの場にて述べさせていただきます。
参加者控室>>310様、>>325様、>>351様、>>374
素晴らしいイラストを贈ってくださり本当にありがとうございます。
家宝にさせていただきます!!具体的にはデスクトップとかに!!!


俺たちの再就職はこれからだ……!!

90名無しさん:2016/04/23(土) 02:05:51 ID:Z0DHc63s0
頑張れ!!!!!!!!!れ!!

91名無しさん:2016/04/23(土) 03:47:38 ID:.eZR6Be60
応援してるぞ…落ち着いたらまたなんか書いてくれな……


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