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( ゚¥゚)わが赴くは獣の群れのようです
1
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:12:22 ID:4QLUhYnU0
1
準惑星ケレスにほど近い宇宙コロニーで入港手続きを終えて一息つく。
偽造パスポートはうまく動作し、俺の今の名は宇津谷 毒男となっている。
そう、宇津谷 毒男だ。自分の名前を間違えないようにしないといけない。
以前、自分の名前に反応できなかった時、スパイ疑惑をかけられて厄介な目にあったからな。
俺は誇りある辺境の戦士である。VIP帝国やアフィ商業教団たちの勢力争いなどに興味はない。
ただただ科学の信奉者であればそれでいい。
だが、どうにも帝国や教団の狂信者たちはそうでもないらしい。
俺たち辺境の民にとって神は科学である。
故に高度な科学技術を擁するクシナイアンは信仰の対象であることは間違いないが、彼らの技術は所詮技術でしかない。
技術の産物とはすなわち、設計された意図がある。
クシナイアンが休むために作ったものであれば、それは休むために使われるべきだ。それでこそ、その道具は本領を発揮できる。
VIPやアフィの連中のようにそれらから動力源を取り出し、その動力源を活かしきれない兵器に転用など、するべきではない。
だが、奴らはクシナイアンの宇宙タワーに群がり、その遺物の価値もわからずに、奪い合うことで頭がいっぱいな連中だ。
俺の乗る宇宙艇がクシナイアン製で、それが自分たちの勢力ではない人間が持っているとバレれば、必ず取り上げるためのでっち上げが起こるだろう。
それを避けるための偽造パスであった。科学を信奉する辺境の民であればこの程度のハッキングは朝飯前だ。
クシナイアンの宇宙艇を持っていても不自然でないよう、宇津谷 毒男は帝国の貴族ということになっている。
避けられるトラブルは避けるに越したことはないだろう。
2
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:13:04 ID:4QLUhYnU0
2
( ゚¥゚)「おっと……」
そんなことを考えながら、書類作成のために生体LANを繋ごうと首筋にコネクタを当て、差し込みそこねてケーブルを落とす。
無重力に慣れた身体が引力のある動きにうまく適応できていない。ぼやけた頭を叩いて回転させながら、首を回してスヌースの缶を探した。
どうにも分解冷凍睡眠明け特有の微睡みが俺の思考を鈍らせているようだ。
船に取り付けられたロック式の戸棚を開け、スヌースを見つけると1ポーション出して上唇と歯茎の間に挟み込む。
ニコチンが口から全身に周り、多少目が冴える。眠気はあるが、寝るには早いのだ。
今はグリニッジ標準時で16時だ。点検業者もまだ開いているだろう。これからケレスに向かうにあたって、艇検を申し込む必要がある。
俺の宇宙艇はクシナイアン文明の遺物である。一人旅なのだから当然だ。
未だ現代の技術力では、時空間跳躍が可能な個人艇の完成は果たされていない。
もちろん、個人用の例に漏れず常温核融合炉が搭載されている。個人艇に載せられるような小型動力はこれしかないからだ
常温核融合炉は点検の必要性が薄く、不安定な対消滅エンジンと違い危険性は低い。
だが、最近は文明の遺物も産出量が減った。それが情勢を変え、安全規定が厳しくなったのだ。
教団たちの手で新造された大型宇宙艇には不安定な対消滅エンジンが使用されているため、来訪者は必ず指定された宇宙コロニーで点検を済ます決まりがある。
ケレスは帝国の勢力圏だが、奴らはまだ対消滅エンジンの再発見に成功していない。
今は戦争相手からエンジンを買っているらしい。
ここからケレスまで高速航行をすれば8時間ほどの距離であるが、戦時の今は入国審査に恐らく手間取る。
今日はこのコロニーで一泊することになるだろう。
3
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:13:37 ID:4QLUhYnU0
3
||‘‐‘||レ「オペレーター? 入国審査の電子書類は一応、生体記憶媒体で持ち歩いた方がいいのでは?」
( ゚¥゚)「問題ない。身分は生体コードで認証できる。仮にバレれば書類など見せる暇などなく即アウトだろう」
||‘‐‘||レ「そうですか。オペレーター? 石橋を叩いて渡るってコトワザ、ご存じないですか?」
( ゚¥゚)「お前は叩き壊しそうだな」
||‘‐‘||レ「AIには手もないのに不思議ですね」
船のAI「カウガール」がスピーカーを通して俺に声を掛ける。
現代のAIに自我はないらしいが、俺の船「ブルーバッファロー号」はクシナイアン製だ。自我を持ち、当然喋る。
AIは船の管理以外にも任務のアシストや生活の支援など、様々な雑務を行ってくれる。が、一言多いのが難点だ。
宇宙艇検査の書類に電子署名を載せて、業者に送信する。映話でのやり取りはなしだ。
わざわざ何かの証拠になりそうな顔を見せる必要はない。
一応、カウガールに任せれば顔をリアルタイムで変えてくれるだろうが、多少のラグから偽装がバレる危険を孕む。
コロニー内のやり取りで、ましてクシナイアンの船が映像ラグを出せば不審だろう。
( ゚¥゚)「おい、出るぞ。艇検業者へ行ってくる」
||‘‐‘||レ「オペレーター、帰りの予定は?」
( ゚¥゚)「予定が確定できたら端末から一報入れる。そうだな1時間で連絡がなければ臨戦態勢に入ってくれ」
||‘‐‘||レ「また強引な出港ですか? やめてくださいよ、綺麗な肌に傷ついちゃう」
( ゚¥゚)「AIには肌がないのに不思議だな」
||‘‐‘||レ「オペレーター? 上手いこと言ったと思ってます?」
4
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:14:10 ID:4QLUhYnU0
4
・かの名状しがたき獣を地の果てまで追い詰め殺すべし。
・武芸を尊び常に修行を重ね、自らを誇れる武人であるべし。
・偉大なる科学を賞賛し、科学的であることを誇るべし。
――トロヤ群辺境民の掟
( ゚¥゚)わが赴くは獣の群れのようです
5
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:14:43 ID:4QLUhYnU0
5
用語解説
『スヌース』
不織布に袋詰された噛みタバコの一種。
刻んだタバコ葉を袋に詰め、それを下唇と歯の間に差し込んで口腔でニコチンを摂取する喫煙方法。
単に噛みタバコと呼ぶと、噛みタバコ用の袋詰されていない刻んだ葉を指す。
スナッフ(嗅ぎたばこ)や噛みタバコなど無煙タバコは、大気が貴重な宇宙空間での標準的な嗜好品である。
無重力の宇宙艇では、タバコ葉が舞わないスヌースの愛好家が主流。
遠心力による擬似重力がある宇宙コロニー・コロニーではスナッフ・噛みタバコ愛好家が多い。
現在、代表的な産地であった火星は対消滅事故を理由に産出量が激減し、ニコチンと風味をハーブに吹きつけた合成タバコが主流。
『トロヤ群』
惑星の公転軌道上の、太陽から見てその惑星に対して60度前方と60度後方に存在する小惑星群のこと。
全ての惑星に存在する小惑星群だが、単にトロヤ群と呼んだ場合、群を抜いて多くのトロヤ群を持つ木星のトロヤ群を指す。
木星と軌道を共有する2つの小惑星群で、L4とL5の2つがあるが辺境の民のコロニーはL5に存在する。
トロヤ群は小惑星が狭い範囲に密集しており、小惑星を事前に観測することが非常に難しい。
現在主流の時空間跳躍航法はその特性により、移動時における周囲の確認が不可能である。
つまり、前もって障害物がないこと確認したあと、目をつむって走りだす状態に近い。
よって、木星のトロヤ群は空間転移航行禁止区域に指定されている。
そのため、辺境の民を自称する民族が、どの宙域にコロニーを構えるかはあまり知られていない。
6
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:15:44 ID:4QLUhYnU0
6
予定では8時間でケレスにたどり着くつもりだった。しかし、予想外の足止めを食らうことになる。
( ゚¥゚)「は? 艇検できない?」
¥・∀・¥「申し訳ありません。現在中央動力炉が検査中でして、艇検のような大規模電力消費が軒並み停止しているんです」
( ゚¥゚)「検査はいつ終わる?」
¥・∀・¥「なにぶん、教団からの爆撃を受けましたからね。正確なことは言えませんが、前例から予測するに一週間ほどかと」
現在、太陽系の支配権を巡って、二大勢力、VIP帝国とアフィ商業教団は戦争を行っている。
我ら辺境の民にとって最大の関心は『獣』の討伐であり、人間同士が争うことなどどうだっていい。
しかし、彼らの争いは時に辺境の民の足を引っ張ることがある。
パスポートを偽造しなければならなくなったのもその一つであり、そして、今回の件もその一つだろう。
主に、宇宙コロニーや戦艦など大型施設に使われる対消滅エンジンは、原理上、大型かつ複雑になる。
そして、同時に大爆発を起こす危険を孕む。その破壊力は、太古の戦争に使われたという原爆でいえば数億発分に匹敵した。
故にコロニーの機能を停止させたければ、このエンジンを狙って攻撃すればいい。
大爆発を起こされても困るが、安全装置がまず間違いなく働く。
そして、その安全装置が働いて緊急停止した場合、その復旧には時間が非常にかかるのだ。
( ゚¥゚)「アフィの金の亡者どもめ、全く厄介なことを」
¥-∀-¥「……こればかりは私どもでは何もいたせません。ご容赦を」
その態度に一瞬こみ上げた言葉を飲み干す。
彼ら民間企業にここで何を言っても、時間とカロリーの無駄だろう。
とはいえ、ここで1周間も待ちを食らうのは非常に問題だ。
我ら辺境の民には、『獣』を殺す義務があるのだ。
7
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:16:21 ID:4QLUhYnU0
7
その『獣』がケレスの研究所にサンプルとして確保されたと聞いた。
VIPは名状しがたき忌々しい『獣』を戦争の道具に使うつもりらしい。
それだけは防がなくてはならない。あの『獣』はクシナイアン文明すら手に負えなかった。手を出してはいけないのだ。
奴らは生命と同化しその生命を無尽蔵に歪に増やす。魂という不可侵の領域を冒涜する、悪しき存在だ。
ならば、我ら辺境の民はそれを滅ぼすため、研究所へと潜入するのみである。
科学の聖人達はそれを望んでいる。
我ら辺境の民は、かつてクシナイアン文明を滅ぼし、文化を終わらせた怨敵『獣』を殺すために存在する。
文明崩壊前、我らの祖先は科学者と戦士から選ばれた。クシナイアンに『獣』の討伐の研究を命じられ隔離された者達だ。
『獣』を滅ぼすために代々実力を磨き2000年。クシナイアンは滅んでいたが、それでも我らは使命を忘れていなかった。
クシナイアンの人工生命技術は失われ『獣』は確かに弱体化した。
しかし、金星やエリスは未だ『獣』から取り返すことができていない。
だというのに、帝国人は『獣』の恐ろしさを忘れたのだろう。
一週間の遅れは致命的だ。『獣』は一週間あればケレス世界を滅ぼしかねない。
そうなればもはや駆除は非常に困難を極めるだろう。
俺は辺境の民としては半人前だ。惑星全域を覆う『獣』の駆除は難しい。
( ゚¥゚)(一週間は厳しい。最悪他の惑星に輸送される可能性がある)
( ゚¥゚)(だが、今すぐ出るとなると幾つか手があるが、中央制御塔への侵入が絡む)
( ゚¥゚)(しかし、中央制御塔への工作はリスクが高い……)
考えるのはまず、この宇宙コロニーを制御する中央コンピュータに侵入しデータを改ざんすることだ。
データの改ざんは容易い。だが、そこにアクセスできるのはコロニー中心部にある制御塔だけだ。
制御塔は守備が堅い。いくら辺境の民であっても危険が伴う。できれば避けたいところだ。
クシナイアン文明の遺産であり、時空間跳躍航法の管理を行う時空管制塔。
ここへのアクセス権を持つのもこの中央制御塔であり、ここを制圧されると最悪惑星全体の航行にも支障をきたす。
そのため、ここの守りは非常に堅くせざるを得ないのだ。
8
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:17:46 ID:4QLUhYnU0
8
もちろん、辺境の民は必要であれば、犠牲を払ってでも武力を行使することに躊躇をしない。武は行使してこそ本懐を果たす。
だが、宇宙コロニーで辺境の民が戦闘行動を行えば最悪、『獣』を別の惑星に輸送される恐れがある。
最低でも『獣』を駆除するまでバレない必要があるだろう。如何に屈強な辺境の民と言えど、これはギャンブルだ。
俺は、いや、辺境の民はギャンブルは好かない。
なぜならば、偉大なる科学の信徒、聖アインシュタインはこう言った。
「神様はサイコロを振らない」
故に我ら辺境の民もまた、サイコロを振らない。つまり、賭け事を嫌う。
ギャンブル、リスクは極力避けるべきだ。可能な限り、万全を喫し確実に屠る。それが辺境人であった。
しかし、帝国が『獣』をサンプルとして捕らえたという情報を手に入れてから既に2日経過している。
( ゚¥゚)(これも偉大なる数学の始祖、聖ピタゴラスからの試練か……)
そんなことを無想しながら、点検業者を後にしてコロニーの白い廊下を歩く。
廊下は商業通りとなっており、夜にさしかかる時分、仕事帰りだろうたくさんの人で賑わってる。
しかし、その脇道を見ればダウンタウンからあぶれた子供がポツリポツリと当て所なく座り込んでいるのが対照的だ。
子供たちの中には、春を売る年端の行かない少女の姿もある。平均的なVIP帝国コロニーの光景だ。
俺がそんな少女に哀れみの視線を送っていると、小さな衝撃が腰に当たった。
(=゚д゚) 「ぼーっとしてんなよオッサン! 気ぃつけな!!」
貧民街の出身だろう。粗末な衣服に身を包んだ子供が腰にぶつかり声を荒げた。
次の瞬間、立ち去ろうとする子供の手首を掴み、強引に捻り上げる。
(=゚д゚) 「お、おう! なにしやがる!」
( ゚¥゚)「……」
9
:
◆d7bMXbKy6Q
:2016/04/03(日) 04:18:16 ID:4QLUhYnU0
9
(=゚д゚) 「なんだ? ぶつかった腹いせか? てめえからぶつかったんじゃねえか! てめえが謝れよ!」
( ゚¥゚)「……ポケットの中のものを出せ」
(=゚д゚) 「なんだと!? こんなガキ相手に腹いせで強盗かよオッサ――ぐえっ」
躊躇なく、やかましいガキの腹を膝で蹴りあげる。ガキは奇妙な嗚咽を出して、胃の内容物を吐瀉した。
周囲を通り過ぎる人々が、チラリとこちらを見てからサッと目を逸らした。
このVIP帝国で貧民のガキを助ける酔狂な輩はいないのだ。
(= д ) 「げほっがはっ」
( ゚¥゚)「もう一度しか言わん。ポケットの中のものを出せ」
(= д ) 「わ、悪かったよ。許してくれ。幼い弟がいるんだ。この金がないと――ギャッ!!」
再度脇腹を蹴り上げる。手首を離せば、ガキはそのまま脇腹を抑えて蹲った。
俺は興味も失せて、そのままガキを置いて歩き出す。
誇り高き辺境の民が、貧民街のガキに舐められたのだ。二発の蹴りで済まされただけ安いだろう。
(憲ФωФ)「おやあ?」
しかし、歩き去ろうとした所で前方に厄介な奴がきた。
猫のような目と口を忌々しく歪めながら、三人。頬に憲の刺青のある同じ顔が歩み寄る。
VIPの憲兵だ。それも複数。思わず舌打ちをする。奴らは金にがめつい。
今の俺の身分はVIPの貴族になっている。それはつまり児童虐待の現場は憲兵にとって、賄賂をせびる絶好の機会である。
しかも、今俺の手元には元手がない。
(憲ФωФ)「これはどういうことかね? そこの児童を蹴り飛ばしたように見えたが?」
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