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もしもだーさくこと石田亜佑美と小田さくらが賞金稼ぎコンビだったら

20名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 14:36:48
さくらは拳銃に手を伸ばした。耳を澄ましたが物音は聞こえない。
机から立ち上がり、外の様子を知ろうと窓際へ向かう。
カーテンを少し開けて、通りをうかがった。
嵐は勢いを増して、あたり一面が暗やみに包まれている。停電したらしい。

オールド・センダイでは停電に見舞われることは、それほど珍しいことでもない。
懐中電灯に頼らざるを得ず、さくらは机を調べ続けた。
停電のおかげで、懐中電灯を使うのを躊躇する必要はなくなった。
いまごろは全住民が使っているだろう。
さくらは室内を捜索し、隠し金庫がないかどうか確かめた。そうしたものはなかった。

コンピューターからUSB メモリーを抜き出す。
幸いにも停電する前にコピーは終わっていた。

机以外で手がかりがありそうな場所を探すことにした。家主の寝室だ。
箪笥からかかろうとしたところで、背の高い書類棚を見つけて、開けようとすると鍵がかかっていた。

奇妙に思ったさくらは、ピッキング用の工具を取り出した。
解錠に集中力を使う。背後のカーテンはぴったり閉じられている。
外では風がいよいよ荒れ狂っていた。
そのせいでさくらは、家主の車が私道に入ってきたことに気づかなかった。

家主は鍵を玄関の扉に差しこみ、片手で開けた。
屋根にあったタイルが外されたせいで、家のなかに嵐が吹きこんでいることに気づいた家主は、ただちに異状を悟った。
それだけでは確信を持てなかったとしても、上階から聞こえる足音が不審者の侵入を明確に告げていた。

家主は車に戻り、緊急通報した。
奇妙ではあるが、家主がただちに踏みこまず緊急支援を要請したことが、さくらにチャンスを与えてくれた。
家主が戻った物音は、風にほとんどかき消されながらもさくらの耳に入った。

経験が浅いハンターであれば、反射的に窓際に走って外の様子を見ただろう。
さくらはその場に踏みとどまり、ひたすら耳を澄ました。
わずかな時間ではあれ、チャンスであることに変わりはない。
この際、与えられたものは文句を言わずに受け取るしかない。

ハンターは他人が見過ごしてしまうような危険の兆候を読み取り、
常人ならば死んでしまう状況で生き抜く方法を身につけている。
当座しのぎの解決策は、さくらにもあった。
しかし、今回の「仕事」ではそうはいかない。
自分を特定できる可能性は残してはならない。家主を傷つけることは論外だった。

さくらは書類棚の書類をいくらか床に撒き散らした。
さらに箪笥を引き出して逆さにし、空き巣狙いに見せかけた。
通報を受けた側がいつ到着するかは分からないが、この家主の要請となれば全力で救援を送りこむ。

さくらは屋根裏部屋に通じる梯子へ走った。
逃げるときに備えて、梯子も屋根のタイルもそのままにしてある。
家の照明が灯った。一帯の送電が復旧したのだ。

足音が聞こえてくる。同時に車のドアが開けられる金属的な音も聞こえた。
バタンと閉じられなかったことから、警官隊が音を忍ばせて接近していることが分かった。

梯子をよじ登っているとき、玄関の扉が開け放たれる音と、叫ぶ声が響いた。
武器を捨てて出てこいと言っていた。
さくらはもちろんそんな言葉には従わず、タイルを取り外した場所の下まで行くと、傾斜した屋根まで上がった。

暗がりに隠れて、匍匐前進しながら、素早く下の様子を偵察した。
車庫と裏庭のほうへ警官隊が移動している。家を包囲していた。
脱出方法はひとつ。屋根を助走して、私道を挟んだ倉庫の屋根に飛び移る。
造作もないことだ。この程度の距離を飛び越える訓練は何度も繰り返してきた。

わけもない。さくらは目算で距離を計り、自分に強く言い聞かせた。
訓練よりもはるかに長い距離であることは関係なかった。

身を伏せたまま、もうちょっとましな方法がないかと考えようとしたとき、家のどこかの扉が開け放たれる音がした。
続けてスタン・グレネードの爆発音が響いた。
家主たちは時間を空費するつもりはまったくないらしい。

もはや迷う暇はない。さくらは低い姿勢で軒先めがけて疾走した。
一瞬の後、両足が宙を飛び、さくらは少しでも遠くへ行くため両腕を懸命に伸ばした。
倉庫の雨樋をつかみ損ねて、身体が落下を始めた。
もうだめだと思ったそのとき、左手が金属に触れて滑り、右手が金属をどうにかつかんだ。
さくらは曲芸師さながら、ブランコのように揺れながら、倉庫の屋根へよじ登ろうとした。

だが、幸運の女神にはここで見放された。
夜の闇はさくらを完全に隠してはくれなかった。
叫び声と同時に銃声が響いた。

見られていた。しかし、銃弾は見当違いの方向に飛んだ。
暗がりでさくらが飛ぶのに気づいた者はいないようだ。まだ女神に見放されてはいない。

21名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 15:51:21
問題は倉庫の屋根からどうやって逃げるかだった。
屋根のどこかにメンテナンス用の階段があるはずだ。
そこから建物に入り、裏手にあるスクーターまで抜け出さなければならない。

追っ手との競争になるだろう。
さくらは全速力で屋根の鋼材を突っ切り、給水塔を目指した。
きちんと保守点検されているならば、給水塔には扉があり、そこが階段に通じている。

あった。さくらは扉を蹴り開けて、階段を飛ぶような勢いで駆け下りた。
幾筋ものサーチライトが点灯されて、倉庫の外から光が差しこんできている。
さくらはそれらを片っ端から拳銃で撃ち抜きたかったが、そんなことはしなかった。

サーチライトを増やそうと配線を伸ばしている警官が見えた。
ライトを上に傾けて、順番に照らされている。
さくらは、見つからないように給水管を伝って物品庫の屋根に飛び降りた。

屋根から側壁に手を伸ばし、警官隊が自分を捜すのを横目にアルミニウムの突起を握って下りた。
サーチライトは、頭上の梁を照らしている。
さくらは裏手へ駆け出した。

シャッターを抜けて夜気のなかへ飛び出した。
スクーターのイグニッションに鍵を挿しっぱなしにしておいて正解だった。
両手がひどく震えていたので、鍵を挿しこむだけで手間取ったに違いない。

コンテナの山を突っ切り、横滑りしながらスクーターを走らせた。
警官隊がまだ倉庫にいるうちに、さくらは夜の闇に消えた。

追跡してくる気配はなかった。交通量の多い通りに出ると、さくらは荒っぽい運転をやめた。
“寮”に着いて、小さな車庫にスクーターを入れた。
さくらは、自分が負傷していることにさえ気づかないほど疲れていた。

しかし、気づいた者がいた。
「こんな嵐の夜に、あんた仕事熱心だね」亜佑美が言った。
さくらが答える前に、亜佑美の表情が変わり、心配と当惑の入り混じった顔になった。
「怪我してるじゃない!?」

いつも塵ひとつないタイルの床に血の足跡がついている。
さくらは床を見下ろし、自分の左のふくらはぎが出血しているのに気づいた。
逃げる途中、深い傷を負ったようだ。
血で濡れた靴底で歩いていたのだ。

「道の真ん中に錆びた鉄の手すりがあって。飛び越えたとき、こすれたかもしれないです」
とっさに思いついたことをさくらは口にした。
特に疑う理由もないので、亜佑美は納得したようだった。

さくらはなるべく床を汚さないようつま先立ちで歩いて、自分の部屋へ戻った。
傷口はやはり屋根から飛び降りたりしているときに、どこかにこすれたのだろう。
きれいに洗ってから止血用の包帯を巻いた。

とにかく今回はいろいろとお粗末だった。
ヘッドラインを飾るニュースになるとは思わないが、隠密行動と呼ぶには騒がしくなりすぎた。
夜明けまではとりあえず動かないほうが賢明だろう。
さくらは、不安と怒りを覚えながらも疲労に負けて就寝した。

22名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 19:28:11
夜明け前に目覚めたさくらは、傷む脚を引きずってラップトップに向かった。
USB メモリーをスロットに挿入してファイルを調べた。
ある程度の勘を働かせながら慎重に調べたが、不審を覚えるものは何ひとつなかった。

大半の人々が犯す過ちは、見られたくないものを暗号化することである。
さくらのような練達から見れば、それは何を調べればいいか教えてくれているに等しい。

しかし、嫌な予感がした。やはりどれも暗号化していない。
意図的に手がかりをなくそうという判断かどうかはともかく、これでは突き止める術がない。

あきらめたさくらは、通常の仕事をするために支度をした。
部屋を出てエレベーターへ向かった。

“寮”の食堂「パシフィック・ヘル」は朝だというのに宴会のような騒ぎだった。
亜佑美が近づいてきて、事情を説明してくれた。
「どこかの誰かが譜久村さんの家に侵入したらしいよ」
「譜久村さんの?命知らずな泥棒ですね」
「間抜けよね。きっと知らなかったんでしょうけど」

「事件はいつ起きたんです?」さくらは素知らぬ顔で調子を合わせた。
他のハンターたちは、テーブルのまわりにいたので、亜佑美とさくらの声は聞こえなかった。

「夕べ、あんたが出かけてたころだよ。あんたが血だらけで…」
亜佑美は何かを思いつき、話すのを途中でやめた。
しかし、いったん口から出た言葉は取り消しようがなかった。

「話によると、船の修理工場あたりから犯人が逃げた跡には血がついていたらしい…」
亜佑美はそこで口を閉じて、さくらを見つめた。

亜佑美とさくらの目が合い、どちらも目をそらさなかった。
亜佑美が犯人を知ったのは疑いない。
さくらは否定することもできたが、亜佑美が納得してくれるかどうかは確信が持てなかった。
あるいは脅しをかけることもできたかもしれないが、亜佑美が簡単に怖じ気づく人間ではないことは分かっていた。

望ましい状況ではないが、さくらは直感を信じて、いちかばちか賭けることにした。
「石田さん。いまは本当のことは話せないんです」
さくらはちょっと間を置いて続けた。
「私が出かけたのは昨夜ではなく、一昨日の晩です」

亜佑美は驚いた様子で反駁しかけたが、さくらはそのいとまを与えず話し続けた。
「昨夜、石田さんと私はコンビとして任務にあたっていた」さくらは言った。
「静かな夜で、ただのパトロールでしたね」

亜佑美の目がにわかに輝きを帯びた。意図は伝わったようだ。
「ちゃんと説明すると約束する?」
亜佑美は声を低くした。

ふたりはふたたびお互いを見た。
さくらは直感を信じるよりほかなかった。
秘密は守られるか。さくらは相棒の目をじっと見つめた。
「約束します」

23名無し募集中。。。:2016/08/24(水) 21:58:10
期待

24名無し募集中。。。:2017/10/29(日) 17:21:43
牧野真莉愛と加賀楓はターボクルーザーの座席から、ある家を監視しているところだった。
その家の前に、けばけばしい黄色に塗られた高級車が乗り付け、ふたりの男が降りてきた。
どちらも、膨らんだバックパックを肩にぶら下げている。

真莉愛が腕時計に目をやって、驚いたように首を振る。
「きっかり2時。犯罪者なのに几帳面なのね」

「忘れないで」楓が言う。「相手は幼児虐待の逮捕歴があるクズだから。抵抗したら撃つ」
ボディアーマーを装着しながら真莉愛が答える。「抵抗しなくても撃つ、でしょ?」

真莉愛と楓は、さっきの男たちが車に戻ってきて走り去るのを待ってからターボクルーザーを降りた。
ほぼ同じ戦闘装備のふたりは、家の横手の暗がりへ素早く駆け込んでいく。
防弾ヘルメットには暗視単眼鏡が装着されていた。

裏口の強化スチールドアの蝶番に導火線をダクトテープで貼り付け、先端を雷管に繋ぐ。
身を屈めて逆戻りし、革製の戦闘手袋をはめた両手で耳を覆った。

激しい爆発を生じさせたところで、真莉愛は屋内に突入すべくドアを蹴り開ける。
ドアが大きな音を立てて、キッチンに倒れ込んだ。
楓は思いきり大声で「警察だ!」と叫び、真莉愛と共に家の中に入り込んだ。

「警察だ!」と真莉愛も叫ぶ。
ふたりが居間に移動すると、テレビの前に男が唖然とした様子で座っていた。
「警察だ!床に這いつくばれ――すぐに!」楓が怒鳴る。
男が床に身を投じて、頭の後ろに両手を持っていく。

「仲間はどこ?」楓は詰問した。
「2階だ」男が言う。「上にいる」
真莉愛が男を押さえておき、楓が居間の向こう側にある階段に移動する。
銃声が鳴り響き、楓はボディアーマーの背中に銃弾が食い込むのを感じた。

くるっと振り向いてアサルトライフルをぶっぱなし、廊下の突き当たりにある閉じられた直後のドアに弾丸を撃ち込む。
ドアを蹴破ると、血まみれの男がバスタブに倒れ込んでいるのが見えた。
居間へ取って返す。

「あっちは終わった」と楓は言った。「そいつに嘘をついた罰を与えてやって」
真莉愛が嬉しそうな顔で男の頭に銃弾を撃ち込み、脳漿と骨片が床に飛び散る。

2階の寝室に行くと、ベッドの上に2個の黒いバックパックが置かれているのが見えた。
中身をチェックする。情報屋に教えられたとおり、カネがぎっしり詰まっていた。

真莉愛と楓は顔を見合わせて笑った。
肩にバックパックを担いで、ドアに足を向けたとき、誰かが咳をする音が聞こえた。

25名無し募集中。。。:2017/10/29(日) 18:07:59
ふたりは立ち止まってアサルトライフルを構える。
出所はクローゼットの中で、子どもの咳のように聞こえた。
クローゼットのドアを開くと、幼い少女が枕の上に座って、こちらを見上げている。

せいぜいが小学校低学年ぐらいの少女で、大きな目を希望を込めたように見開いている。
中の様々な物品の様子からして、かなりの期間、クローゼットの中に閉じ込められていたのだろう。
「おうちに帰れるの?」震える声で少女が言った。

楓はしゃがみ込んで少女を抱え上げた。
「もちろん帰れるよ」そう言ってから少女を抱えて廊下に出た。
バックパックを真莉愛に渡して、楓は階段を降りる。
真莉愛は両肩にバックパックをぶら下げた格好で階段を降りきった。

「こいつらはあなたの家族?」頭の吹き飛んだ死体を指差して真莉愛が少女に問いかけた。
幼い少女は怯えて口がきけず、無言で首を振っただけだった。

真莉愛と楓はターボクルーザーに乗り込んだ。
楓がハンドルを握り、ターボクルーザーを縁石から車道に出す。
近所の住民は屋内に留まっていたが、それは意外なことではなかった。
この界隈は警察が現れて壁が穴だらけになるほど銃をぶっぱなしても、住民がぽかんと見物しているような場所ではない。
そんなことをしたら、両側から銃弾を食らうはめになるだけだからだ。

「後始末はきっちりできた?」楓が真莉愛に問いかけた。
「ギャングが撃ち合った跡のようにしておいたよ」
真莉愛が後部シートに目をやると、幼い少女はちょこんと座って現金の詰まったバックパックにもたれ込んでいた。

「狭くてごめんちゃいまりあ。お嬢ちゃん、どこに住んでるの?」
「オールド・ケセンヌマ」少女が答えた。
楓は始末してきた誘拐犯どもをもう一度殺してやりたい気分になった。

「まだ通報が入った様子はない」楓は言った。
「正直、そろそろこんな危ない街におさらばするほうがいいような気分。“資金”もあるし」

「だよね」真莉愛が言って、親指で背後を指差す。
「この子を見つけちゃったのは、潮時だっていう神様のお告げかも」

ほどなくして、少女の両親は長い間行方不明だった娘と再会した。
ドアがノックされて出てみると、娘が玄関に立っていて、その左右にサングラスをした女がふたり。
手にはテディベアのぬいぐるみとホットケーキの入った袋を持っていた。

「よく頭に入れておいて下さい。――わたしたちはここに来たことは一度もないってことを」
楓はホットケーキの袋を少女の父親に手渡し、真莉愛と共に徒歩で去っていった。

26名無し募集中。。。:2017/10/30(月) 07:01:26
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

27名無し募集中。。。:2018/01/24(水) 12:53:55
まりでぃーだと!?久しぶりに覗いてみたらまさかの急展開w
あっちの話ともリンクするのかしら?

28名無し募集中。。。:2018/01/29(月) 14:44:13
だーさく含めたフクちゃんたちはいわゆる「警察機構」なわけですが
まりでぃーはそこから逸脱した「悪い賞金稼ぎ」でもあるんです
小田ちゃんがいろいろ探っているのはこのあたりに真の目的があるようなないような…

29名無し募集中。。。:2018/01/29(月) 23:17:52
小田ちゃんの暗躍が気になるねぇ

30名無し募集中。。。:2018/02/10(土) 10:30:52
4日間、真莉愛と楓は毎夜、麻薬密売人たちを襲撃した。
仲間のアジトがある場所を吐かせながら、効率的かつ迅速に“資金”を溜めていく。
前夜も街に出てひと稼ぎしようとしたのだが、ふたりに痛めつけられた密売人が商売敵のことをべらべらとしゃべった。

「あの野郎は、優に1億は貯めこんでる!ウソじゃねえよ!」
密売人は血まみれになった顔を戦闘ブーツの底で踏みにじられながら、ぎゃあぎゃあとわめいた。

そういうわけで、真莉愛と楓はターボクルーザーの中から暗視ゴーグルを通して、そのくたびれた家屋を観察している。
「ねえ、かえでぃー、どう思う?」
楓はチョコムースポッキーをぽりぽり食べている。
「わたしにはボロ屋にしか見えないね」
「もしそいつらがほんとうに大金を持っているとしたら、わざとそうしてるのかも」

真莉愛は手を伸ばし、後部シートの男の頭から黒いフードを剥ぎ取った。
両手を背後で縛られた密告者は口にダクトテープが貼られ、鼻と頬骨が折れ、目が開かないほどまぶたが腫れている。
「これが罠だったら、あんた、じっくり拷問しちゃうからね」
テープの隙間から血と鼻汁を浸み出させながら男がうなずいた。

「じゃ、取りかかろ」真莉愛は密売人の頭にフードを被せ、コードをしっかり引っ張りきつく結んだ。
楓が銃床で男の側頭部を殴りつけて気絶させる。

ふたりはターボクルーザーを降りて、猫のように民家の方へ移動し、闇を探りながら裏手へまわった。
1階の窓から9ミリ弾を連射する鋭い銃声が響く。
楓は胸と肩を守っているボディアーマーに被弾した。
ふたりは応射し、消音された223口径弾を窓から室内にばらまいた。

発砲してきた相手の頭部が粉砕され、ドスンと音を立てて床に倒れこむ。
別の窓からまだ誰かが発砲してきたので、ふたりは古びた炉の陰に身を隠した。
「これはヤバい」弾倉を交換しながら楓が言った。「退散する?」
「やだ、まりあは1億が欲しいもん」弾倉の再装填を素早く済ませて真莉愛が言う。

「ここにカネなんかありゃしないよ。ただの罠だ」
「まりあはそうは思わないな。あれ見て」真莉愛は家の上の方の角を指差した。
そこを通る雨樋の下に、目立たない小さな赤外線カメラが仕掛けられている。
「警備を厳重にしてるのは、ここに大金があるからだよ」

「あのね、それは退散した方がいいってことでもあるんじゃないの」
「そうしたいならしてもいいよ。でもまりあはこの家を襲ってフロリダかどこかでリタイア生活をエンジョイする」
楓がくくっと笑う。「ふたりとも殺されたらあんたのせいだからね」
「そうこなくっちゃ。頑張っちゃいまりあ!」

31名無し募集中。。。:2018/02/12(月) 14:46:58
夜が明けようとしていた。
朝日が差しこみ、通りに立ちこめている霧とともに広がっていく。
いま、聞こえるのは足音だけだ。

大きな音が古びた建物のあいだでこだまする。
佐藤優樹が履く支給品の戦闘ブーツが舗道を叩く。
空気は冷たいが優樹の皮膚からは汗が噴き出していた。
脚が折れそうだ。筋肉という筋肉が痙攣する寸前だった。
歯がギシギシ鳴り、心臓はスネアドラムのごとく大きく脈動している。

優樹は工藤遥の身体を米俵のように肩に担いでいた。
一見すると楽そうに見えるが実際はそうではない。
肩は焼けるように熱い。遥の重みで背骨が尾骨にめりこみそうだ。
遥の脚をつかんでしっかり胸に押しつけているので腕がブルブル震える。

遥はすでに死んでいるかもしれない。身体はまったく動いていない。
短距離走のようなスピードで駆け抜けていくのに合わせて、遥の頭が優樹の腰の後ろにコツコツとあたる。
脚を伝い落ちてブーツに溜まる液体が、遥の血なのか自分の汗なのかも分からない。

遥はもう無理だろう。こんな怪我をして生きていられるはずがない。
銃撃は予測していない方角からだった。

優樹はよろめきながら走った。アドレナリンと恐怖心だけが優樹を支えていた。
遥の頭が破裂した。その光景を思い出すのに記憶を探る必要はない。
目に焼きついていて、まばたきするたびによみがえる。

優樹は遥を見ていた。そして大音響に鼓膜が震えた。
同時に遥の顔の片側が熟れた果実のように赤く歪んで崩れるのを見た。
そして自分の顔に降り注いだ飛沫が遥の血や骨や肉の断片だと分かった。

膝がアスファルトをかすめ、靭帯が切れそうになったとき、前方に明るい看板が見えてきた。
白地に赤い十字。
優樹は泣きたかった。負荷はいっこうに軽くならない。
むしろ、遥はさっきより重くなっていた。

優樹はガラスのドアに寄りかかった。
ドアは大きく開き、優樹の膝がガクリと折れる。

頭から救急待合室に倒れこんだ優樹を少なくとも20組の目が見つめた。
誰も何も言わない。治療エリアの奥では電話が鳴っている。
待合室の人々はふたりを見つめていた。ふたりの下から流れ出て広がる血を。

優樹は片方の手を遥の顔にあてていた。
崩れた側でなく――まだ遥らしく見えるほうの側を。
「大丈夫」優樹は声を絞り出したものの、大丈夫でないことは分かっていた。「大丈夫」

遥が咳きこんだ。優樹はびっくりして息が止まった。
死んだと思いこんでいたのだ。「誰か!助けを呼んで!誰か!!」
まわりの人々に叫んだつもりだったが、出たのはささやき声だった。

32名無し募集中。。。:2018/02/13(火) 07:32:38
どぅー…

33名無し募集中。。。:2018/02/23(金) 13:28:49
え…なんだか凄い急展開…どぅーはまりでぃーとは別の第三者に頭吹っ飛ばされたの?

34名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 09:14:33
真莉愛と楓は、ナイロン製の折りたたみ式ジム・バッグにせっせと札束を詰めこんだ。
床にはずたずたになった死体が転がり、コルダイト爆薬の匂いが重く漂っている。

5分後、ふたりが裏口から外へ飛び出すと、赤と青のライトが近所の木々や家屋の壁を照らしているのが見えた。
「まずい」楓が言った。
「こっち」真莉愛はバッグを塀の外へ放り投げてから、塀を跳び越えた。
楓もそれに続く。積み上げられている古いタイヤや屋根板を乗り越えながら走った。

パトロールのターボクルーザーが街路を行き来しているのが民家のあいだから見える。
道路封鎖にかかっていることがすぐに明らかになってきた。
「無害な住民に見せかけるようにした方がよくない?」真莉愛が言う。
「だね」と楓。

ふたりは現金を詰めたバッグを倒壊したガレージの土台の下へ隠した。
バッグが見つからないように軽量ブロックの破片を隙間に押しこんでから、裏道を駆け抜ける。
治安の悪化で住民が激減している地区の奥へと走っていった。

裏道の突き当たりをサーチライトが照らし、大きな声が呼びかけてきた。「止まれ!」
真莉愛と楓はそろってその場に凍りつき、次に聞こえるのは機関銃の発射音だろうと予想した。
他の音が聞こえるようなら自分たちは運がいいのだ。

カービンをしっかり肩づけした迷彩服の兵士が姿を現す。
「武器を捨てろ!」そのひとりが叫んだ。「今すぐにだ!」

「落ち着いて」兵士たちに目を留めながら楓は言い、真莉愛にささやきかけた。「話はわたしに任せて」
「その方がいいよね」真莉愛がつぶやき、ライフルを捨てた。
半秒ほど遅れて楓もライフルを路面に投げ捨てた。

「撃たないで」冷静な声で楓は言った。
「わたしたちとあなた方は同じ側にいる」さりげなく両手を上げたが、肩より高くは上げずにおく。
「オールド・センダイ所属の加賀楓です」

真莉愛が思わず苦笑いの声を漏らしたせいで、楓は危うく警察機構の職員としての態度を崩してしまいそうになった。

35名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 10:06:02
真莉愛と楓が両手を上げて立ち、兵士たちに戦闘ハーネスやボディアーマーを剥がされている。
すると後方から背の高い女がひとり、ふたりを蔑むように見やったあと、ぎょっとしたように真莉愛と楓を見直した。

「か、かえでぃー?…まりあ?」背の高い女が言った。
「いったいここで何してるの?」
楓がにやっと笑った。「久しぶり。調子はどう、佐々木?」

兵士たちのカービンの銃口がわずかに下がる。
「こいつらと知り合いなのか、佐々木巡査?」

「はい」と佐々木莉佳子。「オールド・センダイ署のハンターで、何度も表彰されてます」
ボディアーマーを剥いでいた兵士が後退り、その場にいる兵士全員が好奇心を募らせた目でふたりを眺めやった。

「IDは?」兵士のひとりが、この状況の処理にいくぶん自信を失ったような口調で問いかけた。
「秘密任務に従事する場合は持たないようにするのが通常ですよ。そうでしょ?」

主導権を奪えたと思った楓は両手を下ろし、真莉愛にも同じようにしろと指示した。
“身分保証人”になってくれた莉佳子に感謝だ。
「任務の詳細を明かすことは許されていないんです」

「しかしなぜ、オールド・ケセンヌマに?管轄下ではない以上、確認を取る必要――」
兵士を遮って楓が言う。
「作戦行動の妨害をされたと報告しますよ。こっちはここでぐずぐずしている暇はないんで」

そわそわと足を踏み換えている兵士を見て、真莉愛は楓の大ぼらが功を奏したと察した。
そこで真莉愛は袖口をまくり腕時計を露出させ、これ見よがしに時刻を確認する。
スケジュールに遅れが出ていると楓にささやきかけた。

上官らしき男が莉佳子に目をやって顎をしゃくり、暗がりへ連れていく。
「間違いないのか、佐々木巡査?」
「あのふたりは有能なハンターです。まさしく、“秘密任務”に投入される類いの」

「諸君!」楓が大声で呼びかける。「我々は時間を無駄にしている!」
「作戦行動を妨害したなんて報告されたら厄介ですよ。解放しましょう」
莉佳子の言葉に、上官らしき男は少し考えてからうなずいた。

36名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 10:51:34
ライトを光らせながら交差点を回りこんできたパトロールカーが急ブレーキをかけ停止した。
助手席のドアが開き、見るからに激怒している警官が降りてくる。

「どういうことだ、これは!?」警官が詰め寄ってきて太い指で真莉愛と楓を指差した。
「そのふたりを逮捕しろ!ついさっき、そいつらのクルーザーの後部で半死半生の男が発見された」

警官がなおも怒鳴る。
「そのふたり組は、オールド・ケセンヌマのありとあらゆるゴロツキの根城を襲ってカネを強奪したやつらだぞ!」
莉佳子が真莉愛と楓を見やる。
「なんの話をしてるの?」

「クルーザーにいたのは重要な情報屋のひとりですよ」楓は言った。
「極秘の任務をぶち壊しにする気ですか!?」
警官が眉をひそめて不信感をあらわにする。
「なんの話だ?」声が裏返り、金切り声のようになった。「おまえらは何者なんだ!?」

莉佳子がふたりをわきへ連れていき、他の者に話が聞こえないところへ遠ざかった。
「かえでぃー…まりあ…。ほんとうに秘密任務に従事してるの?それとも強盗してまわってるのか、どっち?」

殺気立つにらみ合いになる。
「オールド・センダイ署に話の真偽を確認しなきゃならない」莉佳子が言う。
「これ以上死者を出さないうちに」

1分後、真莉愛と楓は装甲されたパトロールカーの後部シートに乗せられ、ドアがバシッと閉じられた。
「いまだかつて聞いたことのない、よくできた大ぼら吹いたね」真莉愛が言う。
「あとちょっとで成功だった――あとちょっとでね」ため息を吐いた。

楓はブーツを履いた両脚を助手席の背もたれに乗せて組んだ。
「まあ、まだ手錠はかけられてないから、機会が訪れたらすぐに動こう」
楓は続けた。「脱走するには何人か倒さなきゃならないけど」

真莉愛が忍び笑いを漏らす。
「“秘密任務”…“作戦行動”…大ぼらもいいところだね」
楓もつられて笑った。「他に言いようがないでしょ?」


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