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男「モテる代わりに難聴で鈍感なキミたちへ告ぐ 〆!」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2016/10/18(火) 23:24:07 ID:KppNpej6
ここが墓場だ



1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/

2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/

3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/

4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1397082375/

5、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1406541846/

6、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1420921537

7、男「モテる代わりに難聴で鈍感だった日々より」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1446919295/l50

78以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/20(日) 22:16:30 ID:sjz2XKQI
男「…………」

男(意を決して布団から体を這わせて立ち上がり、おもむろに不可解へ近寄ってみれば 確かに見間違っていない。戸が数cmほど開いている)

男(拳大ぐらいと言うべきか。この時ほど鍵を掛けられない門に苛立ちを覚えたこともなかっただろう、満更でもなさそうに隙間から見える闇はこちらを怪しく誘っていた)

男(……覗いてみなければ真の安心は得られない。好奇心は文字通り俺を危険へ晒す羽目になると考えた上で、気持ちが逸ってしまうのである)

男「何だゴラあぁーん!?」

男(空き巣、幽霊、エトセトラ……本心が求めていた奇怪は何処にも立っておらず、勢い余って空振りな気分のみ留まった)

男(顔だけ覗かせて廊下を警戒したところで静寂が漂うのみ。脳内アドレナリン的な分泌も次第に収まり、安堵の息が自然と漏れた)

男「……ダメだな、きっと疲れてるんだ俺。早く寝ないと」

後輩「夜分遅くですけれどお邪魔してますよ、先輩」

男「うわああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

後輩「おっと……」

男(頭を掴まれたと思いきや、俺の顔面は枕に埋められていた。じたばた手足を動かせば背中に体重が掛かり、上から年端も行かない子をあやすような声で)

後輩「ナイス悲鳴ですが時間帯も悪いのであまり騒がないでもらって構いません?」

男「んー!! んー!?」

後輩「構いませんよね。ねぇ、ちゃんと聞こえてるでしょう? せーんぱい」

79以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/20(日) 22:54:53 ID:sjz2XKQI
男「――――お前分かってるのかよ。まず不法侵入だ」

後輩「大丈夫ですよ。これは夢です。先輩はいま夢の中で私と話しているだけなんですよ、ふふっ!」

男(超高速のリズムを刻む鼓動が聞こえていないかとあくまで平然を装った体で叱責しようにも、彼女は俺の上を行った。斜め気味で)

男「夢、夢ねェ……俺も昔はスポーツ選手に憧れたよ。趣味の延長戦で飯が食えて美人の女子アナと結婚も」

後輩「別に大声あげて助けを呼んでも気にしません。でも、夢ですから先輩が一人でうなされて叫んだ所を誰かが駆け付けて来るだけでしょうね?」

男「……何なんだよ、お前」

後輩「へぇ、人の部屋って兄ぐらいのしか知らなかったんですけど存外小奇麗にしてるんですね……」

男「話題を逸らすな! ていうかそれ、俺にしては清潔を保った部屋だって皮肉かよ?」

後輩「写真」

男「は?」

後輩「写真、まだ持ってますよね。出して?」

男(ぐんと距離を縮ませた後輩の顔は、どう足掻いても美少女と評するしかない出来栄えである。真っ直ぐ向いた大きな瞳はさしずめ欲望を吸い込まんとするブラックホールだろう)

男「…………お、お前キャラ変わってるよな?」

後輩「さっさと出してくれませんか。慌ててください、私は気が短い方なので」

男(でなければ、こうも常識外れした再会を果たすまい)

80以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/21(月) 12:11:12 ID:ytyl51fY
小悪魔から悪魔に進化した…

81以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 20:10:31 ID:PQPqT1Tk
男「わ、わかったから降りてくれ、背中に乗られたままじゃ渡せないだろ!」

後輩「勿論、逃げないと約束してくれますよね。掴まえるのは簡単だけど荒っぽくなりたくないので」

男「冗談っ……言ってる顔じゃねーよな、それは」

男(代名詞でもあるような定番の冗談笑いもなく、後輩は俺の動作一つ一つを見張った。感情の込もられていない人形の様な瞳で)

男(それはそうとして“写真”だ。俺が所持する数ある中の内のどれを頂戴しに来たかは大体見当つくが、目的が謎である)

男「渡す前に訊いておきたいんだが、何でお前がコイツを欲しがるんだ?」

後輩「あなたもどうして自分が持っているのかわからないんでしょう? 身に覚えがないのに持っていたって気味悪いだけじゃないですか」

後輩「どうせ要らないなら、私にくれてしまった方が後腐れないです……」

男「どこのコミュ症だっ、質問の答えに全然なってないだろ!!」

後輩「……早くして?」

男「っ〜〜〜〜! ……お前、自分が有利な立場みたいな振舞いしてるけどな」

男「理由はもう問わん。写真は、くれてやらんでもない。だが交換条件を提示させてもらう! 悪くない取引をしようか、後輩!」

後輩「取引?」

男(ようやく表情を作った後輩。不可解な面持ちで制服のポケットから取り出した物を握った俺の拳から、視線をゆっくりこちらへ合わせてきた)

男「ああ、取引だ。乗ってくれるだろ?」

82以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 20:42:30 ID:PQPqT1Tk
男(唐突な提案をされて即座に頷いて貰えるとは考えてはいない。だが、せっかくのチャンスを手放すなんて出来るものか)

男(後輩は何らかの形を取って名無しと唯一コネクションを握っている。オカルト研の奇行にしても、ここ最近の崩壊の起因は名無しにあるとしか思えない)

男「(ならば、彼女を頼るのも至極当然) 気兼ねなくいこうぜ、お互い失う物あってこそ得られる物は大きい」

後輩「……しょうがないですね。気は進みませんけど」

男「良いぞ! 話が早い、それでこそ美少女後輩ちゃ――――――」

後輩「…………」するっ

男「はえ…………?」

後輩「下着はご自分で外した方が好みですか? 面倒でしたら全部脱いじゃいますけど」

男(……何がどうして着てる服脱いでますの この子。というか淡々としすぎじゃありませんか。えっ、こわい)

後輩「あの、じろじろ見ていないで早く終わらせてくれると助かります。何分 私も気分じゃないので」

男「ふ、服を着ろっ……ばか!!」

男(思わず見惚れていたのは内緒だが、咄嗟に布団のシーツを剥いで後輩に被せてやった。もごもご蠢く淫乱モンスターに唖然とする。溜め息が止まらん)

男「アホすぎんだろ……どんな頭してたらこういう事やろうって考えに行き着く!? 恥を知れっ!」

後輩「恥とか、そういった人間らしいことは……」

男「はぁ? 何だって?」

83以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 21:19:59 ID:PQPqT1Tk
後輩「……いえ」

男(着替えるから後ろを向いて欲しいと頼まれて言われるがままにしてみたが、脱ぐ瞬間は特に構わなかったのかコイツ。肩に置かれた手を合図に、背後を振り向き交渉は再開される)

男「コホン、俺が見返りに体を求めるタイプと思われたのは心外だが、取引には応じてくれるんだな?」

後輩「私に何をして欲しいんですか。事と次第にも寄りますよ」

男「頓着してるのかしてないのか分からない奴だな。別に、断られたら他の方法を探すし構わん」

男「いいか? 俺がお前に求めてるのは情報だ。尋ねられたことに一切ウソ偽り交えず正直に答えてくれ、後輩……何だこの手は?」

後輩「前払いをお願いできませんか? 言われた事に答えるだけなら、後でも難しくないでしょう」ス

男(塩対応に渋い顔を見せてやれども、変わりはなかった。やれやれ、人が良いのも美少女相手だからと無理に納得させてみたものの……)

男「……おい、こんな物使って何企んでるのか知らんが、周りの人を困らせないでやってくれよ。くれぐれもだからな?」

後輩「すみませんが、約束しろとまではあなたの出した条件に入ってなかった気がしますけど」

男「関係あると思うか? お前が俺の知ってる後輩なら四の五の言わず聞き届けろ、これは信頼だ」

後輩「えっ? いまいち納得できませ――――――それでは先輩 夜分遅くに失礼しました」

男「ん、え? あっ! ちょ、おいッ!! 何畏まった挨拶して終わらせようとしてるんだよ!?」

男(まだ取引が、と続く言葉を遮り、腹に激痛が走った。な、殴りやがった……平然と、蹲る俺を無視して、帰ろうとしている……!)

後輩「私が迂闊でした。ごめんなさい、続きはまた今度……」

84以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 22:06:53 ID:PQPqT1Tk
男「ま、待て……」

男(踵を返して部屋を出て行った彼女を芋虫のように床を張って追うも、既に姿を眩ましていた。何事もなかったと広がる闇と静寂が嵐のあとを思わせてくるだけ、無駄であった)

男(遅からず痛みも引いていき、呼吸も楽になってきたが腹の虫は収まりを知らなかった。“信頼”を口にしてすぐに裏切りを味あわされたのだ、当然じゃないか)

男「くそ!! 思い通りに進まない!!」

男「……なんて 苛立つだけじゃ拗れるだけなのがもっと気に食わない。……アイツ、何で話の途中で急に切り上げたんだろうか」

男(腹パンだって考え方を変えてみれば、制止を振り切るよりも自身への追跡を良しとしない事からだったのでは?)

男(何より初めから写真の入手を目的としていたのであれば、話を聞かずに強行し続けていた方が楽だ。別れの台詞といい、振り返るとどうも引っ掛かる部分が多い)

男「あの時、一瞬だけ窓の外気にしてなかったか?」

男(窓の外、肝心の窓はカーテンが閉められ外の様子を確認することなど不可能だ。というか気にしたかどうかすら、俺の視点からなる都合の良い発想)

男(道理に反しようと美少女の敵にはなりたくない心理だろう。無意識に後輩の無実を祈ってしまっているのだ。恐らくこのカーテンの向こうには何も……)

幼馴染『        』

男(カーテンを数センチ開けた先に、彼女が佇んでいた。別段宙に浮いていたとか、窓に張り付いていたとかじゃないにしろ、心臓がキュッと縮まっていた)

男(向こうも覗く俺に気が付いたのか、はっと口元に手をあてその部屋をあとにした。……何だ?)

男(彼女は一体いまの何が面白かったのだ?)

男(咄嗟に隠した口元は、明らかに笑って見えた)

85以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 22:35:19 ID:PQPqT1Tk
天使「男くん、ボスがお目覚めになったのです……」

男「そりゃあ朝日が昇れば誰でも起きるだろ、不健康な生活送ってなけりゃ」

天使「昨日の今日で間抜けですか、間抜けでしたね!! 部屋から出てきちゃってんですよぉ〜!!」

男(休日の朝だろうがお構いなしに我が家を騒々しくさせるのは決まって彼女の役目となった。マミタスと共に朝飯を強請りに来たとでも思いきや)

男「親切なストリッパーが部屋の前で踊ってくれたんだろ、良かったじゃないか」

天使「スリッパじゃねーです! ……何となく、自分だと話しかけづらくて」

男「心配するのも悪い事じゃないけど、余計な親切が大きなお世話になる場合もあるぞ」

天使「はて? と言いますと?」

男「今は放っておいてやればいい。時間が解決してくれるだろ」

天使「な、なんつー無責任な!? それでよく兄貴が務まってましたね! ただの薄情じゃないですか!」

妹「……何の話?」

天使「そんなの決まり切ってましょーがよっ! うちのボスが……ぼ、ボスぅー……」

男「よぉ、おはよう。腹減ったから出て来たんだろう? 何か作ってやるから代わりに子守りしててくれ」

天使「えっ、男くん料理できたんですか……?」

男「うむ、幼馴染にちょっぴり習ってみた事がある。腕の試しどころでしょう? 天使ちゃん」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/22(火) 23:32:12 ID:PQPqT1Tk
天使「カリカリ焼きおにぎりって?」

男「元々前日に炊いて余った米をどう美味く仕上げるかから考案されたメニューだ。沢庵が冷蔵庫で眠ってるなら叩き起こせ、合うぞ!」

男「まずは簡単、ご飯を使って大きめのおにぎりを握ります。ポイントは大きく。コンビニで売られてる物の1.5倍ぐらいを想像して欲しい」

男「そして小皿に醤油を垂らす! ……などの作業前に魚焼き用のグリルを温めておくとスムーズに進む。コップ一杯水を入れてから起動。温度はやや高め」ピッ

男「ここでさっき握っておいたおにぎりの表面に醤油を浸そう。今はあまり長く浸けるな! あくまで表面を意識する」

男「醤油が両面に染みたらすかさず加熱されたグリルの中へイン。……目安30秒で開き、おにぎりを返す」ジュー

男「もう片面も焼けたタイミングで一旦取り出すぞ。素手で触るとまぁ熱いが細かいことは気にするな」

男「アツアツになったおにぎり、この時点ではまだカリカリには程遠い……皿にまだ醤油が残っているだろう?」

男「浸せ! 両面に染み渡らせるように浸せ! 押し込むぞ! 親の敵みたいに醤油攻めにしてやれ!」グッグッ

男「余談だが、ここで好みに合わせて七味をかけてやるのも良い。鰹節も相性抜群だけど握る前に入れとけ」

男「コイツはもう醤油の味を知ってしまったおにぎり……焼きましょう。手で触って程良い硬さを感じたら引っくり返し、焼きます」

男「取り出します。海苔は好みで巻くといいんじゃないか? 実際コイツの食感と風味に合うかどうかはその人次第だ」

男「完成。一人あたり二つ作ってみたが、もう一つはお茶漬けにしてワサビを入れても美味しくいただけます……オーブンとかフライパンだと引っ付いて難しいんだぞ」ジュ〜

妹「かった!?」ガリッ

男「失敗もご愛嬌」

87以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/27(日) 20:42:52 ID:robm.lTs
天使「軟弱なモヤシ体系では程遠く、空腹を満たすだけを目的とされた料理……げぷっ」

男「左様。これこそ男の料理である。……マズかったかな?」

男(一応礼を尽くされて朝食は残さず食べてくれていた。空になった皿は嬉しくもあるが、沈鬱な表情で項垂れる妹を手放しにしては出来ない)

男「すまん、今度はもっと上手に作れるよう努力しよう。幼馴染に頼り切っても情けないしな、へへへ!」

妹「おにいちゃん……いつだったかお兄ちゃん部屋に閉じ籠ったまま学校行かなかった時あったじゃんか」

男「(過去の、一周目時の俺か。弱者にはどんな優しい世界ですら刺激が強すぎたと甘えていた頃。そう、若さゆえの過ちが) うん?」

妹「私もあのお兄ちゃんと同じ気持ち……休み明けに登校してから何言われるかわかんなくてね、おっかないよ……」

男「バカを言うんじゃない。自分が一人だと思っているなら間違いだな」

妹「こんな気分で偉そうな説教とか聞きたくないもん……」

男「杞憂だなぁ、妹? 何たってカッコイイ兄貴がいつだってお前の味方になってやるんだからな、心配ない!」

妹「フツー言い切るか!?」

天使「ぷーっ!! くすくすくすくすくすくす」

男(恥ずかしい台詞は禁止されていない。ならば際限なく補正を発揮しない手はないのだ、気休めでも受け取ってくれたらそれで良い)

妹「あ〜あ! お兄ちゃんの方がバカじゃん、一気にアホ臭くなったんですけど!」

妹「…………私のことずっと守ってくれる? 守るって、約束しちゃうんだ?///」ボソ

88以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/27(日) 21:16:53 ID:robm.lTs
男(優雅の欠片も見当たらない朝食を終え、食器洗いに徹するお兄さまとはこの俺の事である。妹の回復も早い段階で行えて助かった、応急処置に等しいけれど)

男(ところでアレから部員の皆の連絡は来ていない。話合いの末、俺を除け者に動くともなれば冗談ではないぞ――――ひょん、と現れたロリ天ヘッドが思考を止めさせた)

天使「男くんが物思いにふけるのって別段珍しくもないんですよねぇ」

男「どうした? 構って欲しいなら洗い物の片付け手伝ってくれよ。猫の手も借りたい気分だ」

天使「ねぇねぇ、前と比べて男くんてばまったく自分を頼りにしてくれねーんですが?」

男「だから今必要だと言ってるだろう、聞いてなかったのか? スポンジもう一つあるから洗剤垂らして……」

天使「自分 毎日何不自由なく暮らせるようになって楽しいです。新しい発見もいっぱいだし、男くん以外の人間とも関われるようにもなって……」

天使「でも、でもですよ! ……うーん」

男(ウンウンと唸る天使ちゃんの頭に、水を拭った手を乗せてみた。一時停止した彼女は上目でこれを確認し、まだ何か言いたげに全身で訴えている)

男「今度時間作って思い切り遊んでやろうじゃないか。我慢、できるだろ?」

天使「えぇっ……」

男(申し訳ないが、今は問題が山積みなのだ。些細な悩みもすかさず拾って即解決、なんて呑気なスタイルを気取っている時間すら惜しい)

男「留守番任せたぞ。家の中が暇なら、俺も今から幼馴染の家に顔出すつもりでいたんだ。ついて来るか?」

天使「……まぁ、はい」

男(自分の行いを上手に客観視できれば、どれだけ救われる場面があったのだろう? きっとこの“些細”ですら、爆弾に変わったと気がつけたに違いない)

89以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/27(日) 21:42:52 ID:robm.lTs
ママ「やーん♪ 男くんその服どこで買ったの? バッチリ決まってるねっ、グーよ! グー!」グー

男「ふる、奮い立ちます。毎度のことで申し訳ないんですがコイツを遊ばせてもらいたくて」

ママ「ううん、全然気にしなくていいんだからね! 私もあの子の妹ができたみたいで天使ちゃんと会うの楽しみにしてるの。ふふ〜」

天使「きょ、今日は! 今日はぁー……ご飯の作り方教えてほしい、です。自分でも簡単に作れそうなヤツがいいです」

ママ「ご飯? ん〜、まだあんまり包丁握らせたくないから ほんとに簡単な、あっ!! でもすっごく美味しいの教えてあげるね? よーしよしよしよし♪」ナデナデナデナデ

天使「むぅ……」

男「それじゃあ本当にすみません、ママさん。夕方には迎えに来ますので。お願いしますね」

天使「お、男くんは、今日はどこに行きやがる予定なんですか!?」

男「文化祭が近いのは教えただろ。まだ準備が万全じゃないから休日出勤だよ、無給の」

天使「そうなんですか……」

ママ「天使ちゃんどうしたの? 男くんも忙しそうだし、あんまり無理言ってあげても大変だよ? はい、おウチに入ってー」

天使「はーい。……男くん」

男「まだ何かあるのか?」

天使「別に……[ピーーーーーーーーー]」

男「お、おいっ? 今何て――――何だアイツ? (無情に閉められてしまったドアの向こうで最後にあの子が浮かべた表情は怒りか不満であろうか。構って欲しい年頃であることは重々理解はしているつもりだが、難聴 発動していたか?)」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/27(日) 22:38:11 ID:robm.lTs
男(携帯電話を取り出してみても、通知は一件も無し。昨夜の結論をメンバーに尋ねようとしないのは俺のプライドが邪魔したと思ってくれ)

男(つべこべ文句を垂らすより、黒服が零してくれた話を頼りに廃病院へ一足先に移動すべきだ。最悪俺一人でも美少女ならば説得できなくもない)

男「電車を使えば一時間で到着するしな……考え事をまとめるなら、最適じゃないか」

男(考え事といえど、ゴチャゴチャした頭の中の整理である。あまりにも常識はずれした奇奇怪怪な情報、身近な人間の行動に振り回された結果、自分が何かを失いつつある危惧を覚えてしまった)

男(何が起きても前に進むと誓った強い気持ちと精神を削るトラブルを堪える鋼の心は、信じられないほど負担だ。平和な休日の朝すら俺を嘲笑っているかのように錯覚してしまっている)

男(形振り構っていられるものか。俺はただ、内に秘めた折れてはならない一本を折られないよう、呆くほど深淵を覗き続けるしかない)

男(・・k…おれ&8った#何※して≦る\だ????)

?『――――――――かわいそうに』

男「!? ゆ、夢……」

男(ガタガタ揺れる車内だが案外寝心地は悪くないのが罠だと思わないか、電車って。寝過して目的駅を通過していないことだけを祈った)

男(祈った、矢先に 奇妙な光景が広がっていることに一目で気が付く。乗客が見当たらない)

男「……最終痴漢電車か!?」

男(木霊も虚しく、俺だけが取り残された車内を歩き回った。いない。いない。誰一人もいない。不気味)

男「マジで誰もいないのか? ……電車はどこに向かってるんだ? これってまだ夢の中だったりするんだろう?」

男「どこのどいつのスタンド攻撃受けてるんだ、俺は!?」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/27(日) 23:10:26 ID:robm.lTs
『ご利用頂き有難うございます。なお、車内では……他のご利用のお客様の……』

男「何だよ!? 次の停車駅は! 停車する駅を言ってくれっていうんだよ、こっちは!!」

『次は“あの世”。あの世でございます』

男「!!」

『……大変申し訳ございません。お客様にはご迷惑をお掛けしておりますが、現在線路の不具合により緊急の復旧作業を余儀なくされている状態であります』

『復旧までもうしばらくお待ちください。繰り返します、大変申し訳ございません。お客様には……』

男(アナウンスは狂ったオーディオの様に同じ言葉を繰り返し、俺へ喚起し続けた。“あの世”。他人事ではないワードに身が竦む)

男(バケツをひっくり返したみたいに突然の雨を背景とした登校の日、頭上から鉢植えが落ちて来た。……事故があった後だったのをよく覚えている)

男(一歩間違えれば、鉢植えより先に 車の犠牲になっていた。あの速度で撥ね飛ばされていたら即死も免れなかった事だろう)

男(俺は、今曖昧な状態にある。三途の川、生死の境を彷徨う悲劇の人だ。脳天を叩いた鉢植えの一撃がよく効いている)


[ピッ]   [ピッ]   [ピッ]  

[ピッ]   [ピッ]   [ピッ]        [ピッ]


男(無機質な電子音が一定のリズムを刻んだ。いつかそれが間延びして聴こえてくるのを脅えるのだ)

「かわいそうに」

92以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/28(月) 12:40:46 ID:Ct5ra.qw
まさか…

93以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 16:18:39 ID:7p/ej2d.
「生きてるのか、もう死んでるのやら。この子ぐらい若い頃なら遊び盛りでしょうね」

「そう、だから事故って怖いものなの。自分と関係無いと思っていても いつ巻き込まれるかわからないところが」

「シーツ取り替えたら次の病室に移るよ。もうすぐいつものお見舞いとか来る時間だし、急ぎね?」

「はーい」


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[ピッ]   [ピッ]   [ピッ] 


「……あら、来てたの? 遠慮せずに声掛けてくれても良かったのに」

妹「あぁ、いえ、仕事の邪魔しちゃマズいと思って。いつもお世話になっています看護師さん」

「お兄さんも優しい兄妹を持てて幸せでしょうね。ほら、男くん! 君の妹さんが会いに来てくれたよー。どうぞ近くに座って?」

妹「すみません、親切にしてもらって……兄は寝たきりですか?」

「ちゃんと起きてるよ。話しかけてあげたらしっかり喜んでくれるからね。あっ、悪口はあまりオススメしないかしら〜」

「ところでお父さんとお母さん今日は来ないんだ? あなただけ?」

妹「聞いてません。母は午前に来てたと思いますけど」

「そうねぇ、体も拭いてあったし。お姉さんの方は来るの?」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 16:55:49 ID:7p/ej2d.
妹「あとでやって来るんじゃないですかね。お兄ちゃんも一番会いたがってると思います」

「そうなの。じゃあお姉さんがお見舞いに来るまでの間は独占できるね、うふふ」

「じゃあ、お姉さんにもよろしくね。私たちは次の病室あるから」

妹「はい、お疲れ様です。……あんた起きてんの?」

妹「…………ただでさえキモいくせに、もっとキモい顔してるの分かってる?」

妹「わたし別にあんたと話したいとか思ってもないよ。お土産とか要らないよね、寝てるだけなんだもん。無駄じゃん」

妹「あんた見てるとさ、イライラしてくる……ねぇ、殴らせてよ……」

妹「何もかも滅茶苦茶にしておいて自分はずっとベッドで休んでるだけとか……人間の屑でしょ」

妹「……生きろ。生きろ屑、生きろ、生きろ、生きろ、生きろ、絶対生きろ」

妹「早く生き返ってわたしたちにしてきた事 全部償え。生きろよ 最低の――――」

委員長「――――またそんな事言ってるんだ……?」

妹「!! き、来たんだ。よく懲りずに通えるね、意味不明なんですけど」

委員長「いくらでもここに来るよ。意味なんて分かって貰えなくても良い。私がしたいってだけなの」

委員長「それに……最近また来れるようになってから、この人の顔を見るのがすごく新鮮に感じちゃって」クスッ

委員長「……もうすぐあの日から一年近く経つんだね」

95以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 17:19:08 ID:7p/ej2d.
委員長「男くん起きた時ビックリしちゃうかもしれないね。浦島太郎みたいな気分になって、きっと騒ぐよ?」

委員長「……痩せちゃったね、男くん」

妹「足なんて木の棒だよ。仮に起きても立って歩くことなんてすぐじゃあ無理だろうね」

妹「よくお見舞いに来てたあのデブいのに肉分けて貰えたら丁度いいんじゃない? ちょーウケる」

委員長「あぁ なるほど、同感。ふふふっ!」

妹「なんかお姉さんさ、最初会った頃より余裕みたいなのあるよね。やっぱり痛い思いした後だと違うの?」

委員長「さぁ、どうなんだろうね……私としては痛いとか辛さよりも、自分の希望が叶ったことでほっとした、みたいな感じかもしれない」

妹「……実はさ、今日お姉さんより先にここに来て待ち伏せしてたの、話がしたかったからなんだよね」

委員長「なに?」

妹「ぶっちゃけ辛いだけでしょ、こうしてこんな奴待ってるだけなんて。責任感じることないと思うよ」

委員長「せ、責任なんて! 違うの。私は本当に」

妹「色々あったけどお姉さんだってまだ若いんだからってお父さんたちもよく言ってるじゃん。コイツに縛られることがお姉さんの」

妹「ほんとうの幸せなの?」

委員長「……それは」

妹「あの子、まだコイツにだけ見せてないのも何か思うところがあるからじゃない? お姉さん」

96以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 17:40:06 ID:7p/ej2d.
委員長「…………えっと」


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[ピッ]   [ピッ]   [ピッ] 


委員長「帰り、何か食べて行こっか?何食べたい? あんまり高い物だと苦しいかもだけど、あはは」

妹「私、最初はお姉さんのこと認めたくなかったけど 嫌いじゃなくなったんだよ。だから出来るだけ優しくしたい」

妹「別にさっきの話だってね、コイツやお姉さんを困らせてやろうと思って言ったんじゃないんだ。ごめんね」

委員長「…………やっぱり家に真っ直ぐ帰ろっか。あの子も泣いてるかもしれない」

妹「うん、そうだよ。お姉さんはそっちにキチンと責任持たなくちゃね」

妹「お姉さんは、もう“あの子のママ”なんだから――――――」


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男(俺にとっての現実は一体どちらなのか? 放心したように呑み込めず、ただ電車に揺られていた)

97以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 20:28:32 ID:7p/ej2d.
「死してなお、自らの周囲の運命に影響を与える。忠告はやはり正しかった事のみ証明されました」

男(……誰か立っている?)

「この、湾曲されし未来の形こそ貴方が望んだ救いなのデスカ。定められた生き死にを捻じ曲げた行く末ハ」

「如何でしたカ? 夢見と勘違いなされる前ニ、アナタのリアルを受け入れて欲シカッタ」

「ワタシの想いはアナタへ届いてイマスカ、男?」

男「だれ、だ………………お前……?」

幼馴染?「こんにちハ、男。アナタとこうして対話できる日ヲ待っていマシタ」

男(また幼馴染が幼馴染ではない! というか例の“神”とも雰囲気が異なっている。霊媒体質でも秘めていたのか、彼女は)

男(完璧に冷静になれというのは酷な注文であるが、虚ろな瞳をした彼女が俺に語りかけている。重要イベントを意識せざるを得なかった)

幼馴染?「紹介が遅れてしまいスミマセン。ワタシ、名乗る名など持ち合わせておりませんガ」

幼馴染?「“テンプラ”と気軽にお呼びクダサイ。美味しそうなネーミングで非常ニ申し訳ナイ……」

男「実はふざけてたりするんだろ?」

テンプラ「滅相もナイ。男、ワタシの存在ニついては既に認識しているのデハ?」

男(思い当たりを確認されずとも、幼馴染の背後で陽炎のように虚ろに浮かぶあのバケモノを見れば問う必要もなかった。奴が、幼馴染の体を通して接触してきてしまった、その事実だけだ)

テンプラ「ビ少女を気にされているのデスね? 不安がらずとも危害はけして加えマセンのでご安心ヲ」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 21:07:01 ID:7p/ej2d.
テンプラ「ゴ想像の通りワタシこそアナタ方が“機械仕掛けの神”と呼ぶ者デス。この様ニ何かヲ通さなければ、言葉は愚か意志疎通すら図れマセン」

テンプラ「彼女はワタシに適応してくれマシタ。流石ハ主が保険とした子……男、アナタに会いたかっタ」

男「天ぷらは天ぷららしく油に揚げられててくれないか」

テンプラ「誤解しないデ! ワタシはアナタを惑わすつもりはないのデス」

男「幼馴染を使ってるだけで十分俺には怪しい扱いしてくれってお願いしているのと同じだ、どんぶら粉!!」

テンプラ「ひ、酷イ。拒絶しないデ…………ワタシはアナタが大好きなのデスよ……」

男「人の姿を借りてしかまともに会えない奴を誰がすぐ信用できる? それより」

男「昨日の騒動といい、この電車の中の異常と……まずはお前が犯人と認めてくれるのか?」

テンプラ「もちのロン!!」

男「さっさとこんな所から俺を降ろせェ!! 天ぷらと話してる場合じゃねー!!」

テンプラ「ヒァァァア暴れないで! どうか、どうかワタシの話ヲ聞いてクダサイ!」

男「ふざけるな! あんたなんかと悠長に遊んでる暇ないんだよ、こっちは。何だよ。逆に協力もしてくれるのか!?」

テンプラ「協力? イイエ、既にワタシの望みとアナタの願いは合致してマスよ……男……」

男「……何だって?」

テンプラ「トラブルは芽のうちに摘んでしまうべきなのデス、彼、名無しハ」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 21:45:04 ID:7p/ej2d.
男「――――名無しの抹消って言ったのか、あんた……?」

テンプラ「元はワタシの感情の昂りによって生み出されてしまったモノ。彼の者は不必要なバグとなってしまいマシタ」

テンプラ「この世界はアナタ、男によって操作されるベキなのデス! 余計な要因あれど幸福へノ道を閉ざしてしまうばかり」

テンプラ「我が子同然の存在、しかし心苦しくありますが排除されなケレバ真なる救いは齎されないとワタシは判断シマシタ……!」

男「とりあえず納得しておくが、随分と自分勝手な奴だな? 作った矢先に消されるキャラの気持ちも無視とは」

テンプラ「心苦しいと話しマシタ……名無しにはもうワタシの声は届かナイ。暴走を繰り返されるのであれば、いっその事を願いマス……」

テンプラ「どうか、どうか名無しを止めてあげてクダサイ、男」

男(止めろと頼まれようと、難聴鈍感しかない無能にどう動けというのだ、この天ぷらは。遂に俺にも超常の力を与えられてしまうのか?)

男「なぁ、あんたはこれまで穏便に収めようとしてきたんだろう? だが、その心は通じなかった。すると最終手段はどうなる?」

男(抹消などと物騒な発言があった限り、穏やかな方法を提供されるとは考えもしない。ラスボスたる名無しへ対抗しうる勇者のアイテム、それは)

テンプラ「アナタにお任せシマス」

男「考え無しにもほどがあるんじゃないか?」

男「馬鹿馬鹿しい! 頭下げておきながら文字通り人任せって、偽ってても神の字が泣くじゃねーか! アホかお前!?」

テンプラ「し、失礼ナ!! コレでもワタシなりに知恵を絞った末の結論! 間違いではナイのデス! 良いデスカ、男! 名無しハ」

テンプラ「承認欲求の塊と言って過言ではないデショウ……」

100以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/29(火) 22:25:36 ID:7p/ej2d.
男(承認欲求、人間誰しもが持つ人に認められたいと感じる気持ちである。特技、あるいは得意なスポーツ、容姿、幅広い分野を用いて誰かに「YES」と応えられる快感は言い知れず)

テンプラ「彼は非常ニ孤独なのデス。異質なまでにも思える目的を遂行しようとする振舞いは、全てワタシへ褒められたいというキモチが起因デス」

男「だったら今すぐあんたがアイツをヨシヨシ頭撫でてやれば良い事だろ。違うのか?」

テンプラ「エエ、名無しが欲する褒美とは 存在意義にありマス」

テンプラ「何らかの形で彼の欲望を満たさせる事が達成できれバ、納得シ、舞台から自ずと降りるデショウ……確証ハありマス」

男「だからなっ、それをあんたがやってやれば!!」

テンプラ「……ナニかの形を借りねバ、意志疎通も取れないこのワタシが成し遂げられることデ?」

男「……やれやれ、可哀想な奴だな。あんたも名無しも」

テンプラ「くれぐれも名無しの動向に注意してクダサイ、男。名無しはアナタの記憶ヲを奪い、この世界の完全なる住人ヘ染め上げようとしてイマス」

テンプラ「現実へノ懐かしみも何もかもを消し去り、男という名のNPCヲ作り上げようト……」

男(過去の、中身まで美少女化しかけた委員長の再現を狙っているというわけだ。オリジナルとなる俺の人格を消されるとして、その俺は何処へ行くというのか?)

男(テンプラ曰く、未知であると回答を得た。尚更対抗する理由ができたじゃ――――――)

先生「――――あ、起きた! ねぇ、男くん大丈夫!? 返事しなさいっ!!」

男「あ……せ、先生? おかしいな……俺さっきまで電車のな、かに、い…………」

先生「何寝ぼけてるの! 君 道端で倒れてたの! わかる!? しっかりしてよ、もう〜!!」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/30(水) 04:05:42 ID:7k1oZOg2
相変わらず面白いんだけど流石に連載が長期にわたり、振り返り総集編みたいなのがあるといいんだが……

102以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/30(水) 13:12:21 ID:pzFz52hg
妹が委員長をお姉さん呼びしてて嬉しくなった
子どもに天使とか名前つけてないよね?

103以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/30(水) 21:01:55 ID:V7M26LtI
>>101
長すぎワロタ
栞辿れば振り返りやすいんじゃないか?
http://nanabatu.sakura.ne.jp/new_genre/otoko_moteru_kawarini_nancyoude_donkannni_narundesuka.html

104以下、名無しが深夜にお送りします:2016/11/30(水) 23:23:55 ID:7k1oZOg2
>>103
このページは知ってたが、章立てもしてたとは知らなかったわ
thx

105以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 20:32:09 ID:oph.NBCI
男「テンプラは……?」

先生「えっ、天ぷら食べたい気分なの? まだ午前中……あなた随分朦朧としてるけど」

先生「寝惚けたまま外徘徊しちゃうほど気苦労溜まってたりしないわよね。家まで責任持って先生が送るよ、ほらしっかり!」

男(重大な意識レベルの低下と見受けられているようだ。自分としても、心配いらずと振る舞う気分は起きない。肩を担いでいる人が、先生である事だけ、かろうじて、あぁ 嫌な意味でフワフワする)

男(車の後部座席に寝かされた。ドアが閉まる音がした。何か声をかけられている。そういえば家まで送るとか聴こえたか?)

先生「はぁ〜あ、もう私の車って救急車よ……男くん聞こえる? ウチに着くまで目閉じて大人しくしてなさいよ」

男「……先生……。車、うごかさないで……」

先生「ん……どうした? 動くと気持ち悪い? 吐きそうなの?」

男「病院……びょういんに……」

先生「……無理そう? 我慢できないぐらい具合酷いの、男くん?」

男(そうじゃない。伝えたいのに上手く舌が回らない、もどかしさでおかしくなりそうだ。あのテンプラと会った影響だろうか?)

男(神から忠告を、意図したわけではないが、遂に破ってしまったのだ。現在のテンプラは異常である。あの時の説明からじゃ見当違いなイメージだったが)

先生「男くん――――電話、鳴ってるみたいだけど」

男「え、あぁ、黒服……何でまたアイツから…………電話に出なきゃ」

先生「後にしたら良いでしょ? 今は自分の体調を心配しなさいよ……」

106以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 21:02:12 ID:oph.NBCI
男(やっとこさポケットから取り出した携帯電話が手元から滑り落ちる。いや、これが良いんじゃないか。通話ボタンは既に押した)

先生「ちょ……!」

男(スピーカーモード。音量MAXだ)

黒服『小僧聞こえているか!? お嬢様が予定を変更なされて急遽例の建物へ向かう羽目になった!!』キィーン

男「…………ふっ」

黒服『聞こえているのかと言っている! 貴様は返事も碌に学んでこなかったのか!? ウンコか! ウンコ、call me!』

先生「し、しょうがないわねぇ……あの、申し訳ないですけど彼はいま話を出来る状態じゃないんです。あとで掛け直してもらっていいですか!」

黒服『グムッ お、女の声だとぉぉ〜〜〜!! 貴様ッ、お嬢様という方がありながら他所で現を抜かしていたのか! クソガキィ!』

先生「違うわよ!! ていうか 一々叫ばないで! 私はこの子の担任の教師! あなたと彼の関係は知らないけど、今は男くん体調を崩していて」

先生「とにかく変な事に巻き込まないで欲しい、ですっ!! お分かり!?」

黒服『知るか! こっちこそそいつの体調に付き合っている余裕は…………すまないがあなたの名をお聞かせ願いたい』

先生「わ、私の名前? ちょっと男くん変な人と外で関わらないでよねっ!」

黒服『お願いだ。あなたの声に酷く聞き覚えがあってならない。私たちは何処かで会った事はないか?』

先生「ありませんから!! 電話切りますよ。男くんを休ませてあげたいので、ごめんなさい」

黒服『…………もしや 貴女でしょうか?』

107以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 21:35:59 ID:oph.NBCI
先生「……はい?」

黒服『やはりだ。この声聞き間違いなどではない筈、やはり私と貴女は出会っているのです。覚えはありませんか?』

先生「悪いけど人に汚い言葉を吐きまくる怖い人とは知り合った覚えはありません。人違いでしょ? おかしな言いがかりは止めて」

黒服『名前! 貴女の名前は確か……そう、アレだ…………貴女は――――』

男(ズバリ正しく先生の名を黒服は言い当てた。彼と彼女が知り合い? 待て、俺はこうなる事を予期して電話を取ったわけでは、そんな、嘘だろう)

男(元彼の可能性ッ!!!!????)

男「先生、俺目が覚めました! 最高の気分です! 電話代わりますよ!」ガバッ

先生「男くん待って……この人って、まさか」

黒服『私です。“黒服”めをご存じないでしょうか? 一度限りですが貴女の見合いの相手でしたもので……!』

先生「ぐうっ!?」

黒服『教師と聞き、その透き通る可憐な声から過去を思い出したのです。あの日私を振った気丈なお姿、ふつくしさ……脳裏に焼き付いたままでした』

男「振った、って……ああっ、お見合い!!」

男(一周目での重要イベントの一つだったと思われ、『美人先生憂いの悩み』。彼女は両親の判断で自分の意思を無視したお見合いを設定され、困り果てていた過去があったのである)

男(お見合い相手は優良企業社長の息子。次期社長の座を約束された玉の輿もってこい……社長の息子だ? どいつが?)

黒服『私も父からいつまでも跡を継ごうとせず、身勝手に生きるなと言われた故 反発していましたが……あぁ」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 22:06:53 ID:oph.NBCI
先生「私直接あなたを振った記憶なんてありませんけれど!?」

黒服『あれ、そうでしたっけ? いやー、あははははっ、些細な事です。昔のお話なのですから!』

先生「あ、会ったには会いましたよ? 会ったけど、後日父からお断りの連絡受けたはずでしょ……!!」

男「せ、先生?」

先生「……前に相談したことあったわよね、私のお見合いの話。偶然にもこの人が――――したっけ? 相談なんて君に」

先生「あーどうだっていい!! それより私の生徒がいる所で個人的な話やめてもらえますっ!?///」

黒服『教師、ご立派に続けられていたのですね』    先生「えっ……?」

黒服『お父上の力説には屈服させられる想いでした。そして貴女の人柄を感じられた。立派な夢追い人であったのだな、と』

黒服『私も貴女の生き様を見習って今の仕事を継続しています。守るべき方の傍を離れるのはやはり惜しかったのです……お嬢様、彼女を守らねば私は無い』

黒服『貴女との出会いは私が私を貫く選択へ導いてくれたのです! 一言お礼が言いたかった! 良かったッ、ほんとうに、ほんとうに』

先生「ちょ、ちょっと……」

黒服『ありがとう、美しい人。――――――小僧、生意気に大人の会話へ聞き耳立てているな!?』

男「へぇえ!? い、いや、別にそんなつもりとか、こんな展開になるとは……っ!」

黒服『いま何処にいる? 先生、あなたとしても聞き捨てならない問題へそこのガキは首を突っ込もうとしている。興味はないか?』

先生「…………何なのよ、もぅ」

109以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 22:38:56 ID:oph.NBCI
不良女「ン〜ン〜♪…………って おぉい! マジかよ、もうそれっぽい車一台停まったぞ!」

先輩「うひょー早いねぇ!? ていうか何時に到着とか聞けなかったし、いつ来てもだったんですケドっ!」

不良女「まぁ……とりあえずアイツが中に入って来るまでこっちは下手に出て行かねぇ。良いんだよな、カイチョー?」

生徒会長「無論だ。彼女に無理矢理迫って警戒心を高められてはチャンスをみすみす逃すようなものだろう」

男の娘「でも、ほんとに良かったのかな……?」

先輩「何だね男の娘ちゃん? 男くんにこれ以上負担をかけさせたくないの方針に賛成したっしょーに」

男の娘「だからってこんな男だけ除け者みたいな。きっと男だって心配してここに来ちゃいます……わかり切ってても」

先輩「男くん本気で倒れちゃうでしょ。これ以上踏ん張らせちゃったら」

先輩「本当に壊れちゃう……男の娘くんだってずーっとあんな顔した男くんに無理させてたらヤバいってわかるよね?」

男の娘「うっ……は、はい。こんな時にワガママ言ってごめんなさい……!」

生徒会長「ここにいる皆が彼を頼りにしてしまう気持ちはよく理解しているさ。その上で私たちがやり遂げなければならないんじゃないか」

生徒会長「よし、黒の人の協力を期待して各自待機に務めよう。合図は向こうの動きですぐに判断できる。いいな?」

男の娘「……転校生さん、転校生さん。転校生さんってば」グイッ

転校生「きゃっ! な、何? 男の娘くんどうかしたの……?」

男の娘「そっちこそだよぉ。大丈夫? 顔色あんまり良くなさそうだけど」

110以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/04(日) 23:14:26 ID:oph.NBCI
転校生「そ、そうかしら!? 多分昨日よく寝れなかったから、寝不足とか? あと朝ご飯抜きで出掛けたから、とかっ?」

男の娘「そうだったの? じゃあ、はい。これ食べてよ。作っておいたんだ、おにぎり……形悪いかもしれないけど」

転校生「ありがとう……男の娘くん、前より料理の腕上達したわよね。とっても美味しそうだもん」

男の娘「ほんと!? じ、実はこれでもちょ〜っぴりだけ自信あったりなんかしちゃって、えへへっ……」

転校生「胸張っていいわ、私があとで保証してあげる。アイツにも美味しかったって自慢してやるんだから! 楽しみにしててねっ!」

不良女「車から降りた!!」

「!!」

不良女「あのオッサンと他に二人……いた。オカルト研も出て来たよ、制服かよアイツ。散々身軽な恰好で入らなきゃ死ぬとか脅したくせに……」

男の娘「何しに来たんだろうね、オカルト研さんは。一目見るだけって感じじゃないことはまず確かだろうけど」

不良女「わかんないよ……何考えてるかサッパリ読めない奴のことなんて。カイチョー、動かないのか?」

生徒会長「だから、私たちがいま動いてどうなる? 特に君たちは急く気持ちはあるだろうが、堪えて待つんだ」

先輩「名案ですな。これからわたしたちがやる事、今更後悔する子っているー? いたらお姉さんが力付くで押さえつけとくよ〜! ガチで」

転校生(不安が私の胸を強く締め付けて離さない)

転校生(だって、だって私にはわかるの。嫌でもわかってしまう。同じ模造の人形だからなのかしら?)

転校生(この場に絶対いちゃいけない“紛い物”が近くに潜んでいる。何かを企んで)

111以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 19:36:47 ID:J9CYksQk
オカルト研「……到着ね。いつ訪れても穢れた空気に包まれている、宵闇の如しよ」

黒服「お、お嬢様この様な危なっかしい建物にどれほど足を運んだというのですか」

オカルト研「一度しかないと思う」

黒服「そんなっ、不明瞭な! あなた様の身にもしもがあっては、お父上に何とご説明して良いのですか!」

オカルト研「よく覚えてないわ。だいぶ前の話だもの、この廃病院に入ったのは」

黒服「は! 入った、です、とっ……お嬢様、申し訳ありませんがお嬢様がどの様なご用件でこちらに足を運びたがったのかは関係ありません」

黒服「どうか建物へ近寄らぬとこの私にお約束してください。この様な廃墟で怪我でもされて大事に至られては、困るのです……!」

オカルト研「何故? 私がしたいとお願いしたら、あなたたちは望み通りにしてくれるのが正しい役目」

黒服「オカルト研お嬢様!! 私どもの第一の使命はあなた様の身の安全を保障すること! 故に是が非でもッ!」

「「「「お嬢さまが大事!! ナンバーワン!!」」」    オカルト研「……」

黒服「ご理解頂けましたか? 危険ですので遠くから眺める程度でどうかご満足を…………えぇい、奴はまだ来ないか」

オカルト研「お前たちにはここでの待機を命じるわ。黒服、すぐに戻るから心配しなくていい。了解?」クルッ

黒服「くあーッ!! そ、その頑固たるご意思と負けん気の強さ! それでこそ我らがオカルト研お嬢様ァーーーー――――わかりました」

黒服「ですが条件がございます。この黒服め一人をボディガードにお付け下さい。ならば了解致しましょう……!」チラッ

黒服「…………クソはよ来いズボラが」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 20:16:48 ID:J9CYksQk
生徒会長「……よし、黒の人が横に立って彼女を連れて来てくれた。合図だ」

不良女「あの堅物っぽいオッサンがよくあたしらみたいなガキの相手してくれたもんだって思うよ。てか、やる事伝えてなくない?」

先輩「だいじょーぶ! 大人はアドリブに強くてこそ大人だよ! まぁ、荒っぽくなったらどうなるかわかんないけど」

生徒会長「そろそろこの中に入って来るぞ。皆 事前の打ち合わせ通りに動こう。あとはなる様になるだ!!」

不良女「け、結局ぶっつけ本番なのが、あたしたちらしいっつーか……ん? ビビってんのお前」

男の娘「うっ……違うって言ったらウソになっちゃう。けど、覚悟決まってるよ。僕も」

不良女「OK、それでこそ辛うじて性別男だぜ、あんた。やる時はやるって決めてやろうよっ!」ドンッ

男の娘「い、痛いよぉ〜!? 転校生さん、ほらみんなに続いて下の階に降りないと」

転校生(みんなが張り切ってる中じゃ言い出したくても、ううん、言い出したところでまともに取り合ってもらえる話題じゃない)

転校生(アイツ、名無しは何処に隠れているの? どうせ私たちの邪魔をしたくてしょうがないんでしょ。だったら、正々堂々と姿を……)

男の娘「転校生さん!」   転校生「わかってる!! 聞いてるから平気! 心配しないで!」

転校生(みんな味方なのに、同じ志で集まった仲間なのにどうして疎外感なんて感じているのよ、私。男に釣られて私までマイナス思考? もう)

転校生(違うわ。私はアイツより先に名無しに一泡吹かせてやりたい……オカルト研さんも救えば、男にも安心してもらえる……)

先輩「んふー! 転校生ちゃ〜ん、手繋ごっか」スッ

転校生「は……はい?」

113以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 20:43:22 ID:J9CYksQk
転校生「手を繋ぐって、そんな子どもじゃないのにいきなり……ひっ!」

先輩「まぁまぁ〜♪ 遠慮するこたぁないのだよ、女の子はいつだって心細いものでサ」ギュ

転校生(いつも無理矢理なのよね、この人って。それで元気づけられる事もあったけれど。手、思っていたより冷たいんだ)

先輩「だからこーしたらわたしも転校生ちゃんも安心慢心ですよ! はっはっはー」

転校生「慢心は、この状況で選んでいい言葉かしら……あ、あはは」

先輩「気にしなくていいんだよ、転校生ちゃん」

転校生「えっ?」

先輩「えっとね、みんなにはナイショだよ? わたし男くんと約束してんの。約束っていうか契約?」

先輩「だから安心していいのさ。マジ大船に乗った気分で、訂正、泥船に乗り掛かった気持ちでいちゃってよぅ!!」

転校生「……部長さん?」

先輩「おっ? 何かねっ、プリチーJKたるこのわたしのスリーサイズを知りたがるとはお主も中々のオヤジ思考よの――――」

転校生「部長さん随分だるそうに体動かしてるけど、どうかしたの?」

先輩「ありゃあ、スキップして移動した方がいつものわたしな感じ? ほれルンルン〜♪」ぴょん

転校生「わ、わっ! そ、そうじゃなくてもしかしたら気分悪いのかなって! ちょっ!? 危ないですっ!」

不良女「…十分平常運転じゃね?」   生徒会長「…ふむ」

114以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 21:12:39 ID:J9CYksQk
生徒会長「どれ、長年君に付き合わされた仲だ。転校生 部長殿を貸してみなさい」

転校生(飛んで跳ねる先輩さんの肩を掴んだ生徒会長は、その肩をがっしり鷲掴んで私たちに強く揉んでみせる。途端に間抜けな声をあげて先輩さんが手足をばたばた動かして)

先輩「いだいいだいいだいいだいぃぃ〜〜〜〜!!? あー加減知らなすぎっ!!」

生徒会長「ん? 肩でも凝っていたとばかり考えていたのだが、何だ柔いじゃないか。私の気のせいだったか?」

男の娘「肩が凝るって? ……あっ///」

不良女「うっわ……うわ…………死ね……」

生徒会長「どこの物とは言わないが君が激しく運動すると靱帯に響くぞ。形を悪くしたくないなら気をつけるんだな」

先輩「っ〜! も、もう! ばかぁー! ばかばかばか!! エッチ!」

不良女「なぁ、いいからもう行こうぜ……」

男の娘「そういえば生徒会長さん、部長さんと付き合い長かったんですもんね。だからって今のは僕からじゃ何とも言えないけど」

生徒会長「うん、彼女の癖ならば当たり前のように刷り込まれ済みさ。それにお互い持つ物が大きいと苦労が分かり合えるしな」

不良女「もう行こうよ……」

先輩「ほんとですヨ! 作戦はどしたの? のんびりやってる場合? ノンッ、オカルト研ちゃん攻略のタイミングは時間が待ってくれないよ!」

生徒会長「こら走って音を立てるな! ……あの子の手、温かかっただろう? フフ、私もよく励まされた手だよ」

転校生「そうなんですか……?」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 21:50:56 ID:J9CYksQk
男(カーブのたびに左右に強く揺られるこの体、俺が乗っているのはジェットコースターか? 否、荒ぶるペーパードライバーの車の中だ)

先生「道わかんない! 男くん次どっち曲がればいいっ!?」

男「か、カーナビの案内に素直にしたがえば……」

先生「カーナビ!? 前に間違って墓地に案内されてから全く信用してないよ! こんな出来損ないに安心して道案内任せられる人いる!?」

男「先生はナビに親でも殺されたんですか?」

男(世の中には車を運転してはならない人間がいる。判断疎かな者とヨボヨボの老人、そして猪突猛進タイプだ。言わずもがな彼女はアウト)

男(さしずめ戦乱の世を駆け巡る軍馬の如く ニュービートルが唸りを上げる。というかまた道を外れているのだが)

男「だから公道まで出ないって何度も言ったじゃないですか!? ルート間違ってますよホラホラほら!!」

先生「えっ!! やだ、何でインターに向かってんの私……あー 車嫌ぁい!! やだーっ!!」

男「心中相手としちゃあ悪くなかったかもしれません。どうか楽に死なせてください、先生」

先生「冗談でも今はそういうのやめてよねぇっ!?」

黒服『…………と、到着は、だいぶ遅れると想定しておいて間違いなさそうだな』

男「……安全運転心掛けて向かいます。彼女が」

黒服『私の方でも出来る限り引き伸ばしてみるが、何分お嬢様の考えられていることが読めん。急げよ!』

男「頼むからこれ以上先生混乱させないでくれます!?」   先生「あ、煽られてるよぉ…」

116以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/06(火) 22:31:29 ID:J9CYksQk
男「先生、とにかく広い場所を見つけたらUターンして…… (ポツポツとフロントガラスを小雨が打ち始めた。天気予報を信じるならば、今日は夜まで晴天を貫いた筈だが)」

男(雨粒は次第に大きくなり、勢いを増していく。急く俺たちに立ちはだかるかの様に空は一気に曇天模様である)

先生「土砂降りかっての……こういう時だけなんだよね、車のありがたみに気づくのって」

男「通り雨か何かでしょう。それよりくれぐれも運転気をつけてくださいよ? あ、そこ右に……行けよっ! 何でだよ!?」

先生「な、何でって! わからないわよ! ハンドルが急に」

男「あんた事故車でも買ったのかよ!! 落ち着いてくださいよ、まだ次で曲がる場所があるので今度こそ!」

男「それと、この雨ですしワイパーもう少し上げておいた方が…………えっ」

先生「ど、どうしよう男くん!? 本当にハンドル効かなくなっちゃった!! どうしよう!?」

先生「ほら! 見てっ、私何も触ってないのに右に左に!! あ、あしも上手く動かせないんだけど……!!」

男「……せ、先生。気づいてないんですか?」

先生「もう何がぁ〜〜〜〜!!」

男「周りにですよっ!! だってすれ違う車……いずれも停まって動いてません…… (俺たちが乗った車だけが道を進んでいるのだ。そして気が付いた。散々打ち鳴らしていた雨音が止んでいたことに)」

男「――――雨粒が、空中で止まっているだと?」

テンプラ『8%bエf%91%Ik1oe7‰%95%bf%』

男「っ!?」

117以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 09:15:21 ID:QiR0n9Ps
先生より安全運転かな?

118以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 14:59:58 ID:OxtHTY6I
ロリ天と天ぷら…

119以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 21:15:39 ID:T2C3Uxb.
男(思わず声を上げそうになった。ヤツが後部座席でドッシリ構えているのだ。テンプラの風体は初見の人間にはあまりにも衝撃が強すぎる)

男(神聖さを感受させるより先に嫌悪感を与えてしまうだけだろう。車の運転で半ばパニックを起こした先生に今紹介するべき相手ではないと判断した……)

男「前、前だけ見ていてください 先生。一旦深呼吸してハンドルをしっかり握って」

先生「だけどこんな異常なの……えっ、男くん! 手ぇ!?」

男「何も心配することはありませんよ。俺が傍についています、生憎疫病神ですが」トン

男(ハンドルを掴む強張った彼女の手を優しく包めば俺が齎す相乗効果が、だが待たれよ、実は逆効果になったり? ……OK、杞憂であった)

先生「あ、ありがとう。少しリラックスしたかも……少年はこういうのがズルいって気づかないかな」

男「え? ていうか暖房効かせすぎなんじゃないですか、顔赤いですよ。先生」

先生「……一々うるさいわよね、きみ///」

男(恥じらう教師の可愛らしさに色々放り出したくもあるが、後方のグロ注意よ。テンプラは限りなく存在感を消していた)

男(それどころかバックミラーを覗けば嫌でも目に入るであろうに、先生はあまりにも無反応だ。前にしか集中していないのか? ならば彼女は金輪際車を使うべきではない。あるいは)

男(テンプラの姿を目視できていないか?)

先生「あー、さっきから後ろ気にしてるみたいだけど何かある?」

男「何も。また後方車からぴったりくっ付かれてないかなぁ〜と。ところで順調に道進んでますね、軌道修正されてるというか」

男(空中で運動を止めたまま群を作る雨粒が、フロントガラスに当たっては弾けた。ぶつりの ほうそくが みだれていますかね?)

120以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 22:00:54 ID:T2C3Uxb.
転校生(ちょっと前まで遠足ではしゃぐ子どもみたいに騒ぎ立てていた私たちはもういなかった。オカルト研さんの姿を確認してからは)

転校生(全員が無駄を殺して、彼女の行く先を陰から見張っている。脇のボディガードの人にはこっちの作戦とか何も伝えていなかったけれど、笑っちゃうぐらい察しは良い方だった。職業柄もあるのかしら?)

黒服「お嬢様……どちらへ向かわれようというのです?」  オカルト研「こっち。ついて来て」

黒服「……で、では何故私どもに目的を告げたがらないのでしょうか。お嬢様も気に掛けられている例の馬の糞はここにいませんぞ……」

黒服「差し出がましく申し訳ありませんが、お嬢様の興味はあのイケメン(暗黒微笑)に搔っ攫われてしまっているのでしょう? 彼奴もあなたに危険を冒して貰おうなど願っておりません、お嬢様」

オカルト研「男くんが?」ピタ

黒服「! ……え、ええ。気に食わん奴ではありますが 懸命にお嬢様の救いになろうと足掻くガキですッ!」

黒服「ここは彼の顔を立てると思い、私めに無茶のご理由をお聞かせ願いませんでしょうか!?」

黒服「………………あの……お、お嬢様ァ〜?」

オカルト研「誰かいるの?」

「!?」

黒服「おおおお、お嬢様っ!! この様な薄気味悪い場所でご冗談は過ぎていますぞ!!」

オカルト研「行かなきゃ」

黒服「あ、あぁ!? 待って! お待ちくださいお嬢様! どうか正気に戻って!!」

黒服「どうして……何故なのですかオカルト研お嬢様っ……!」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 22:37:59 ID:T2C3Uxb.
不良女「おいおい……いけ好かない大人だと思ってたけどオッサンも本気で」

生徒会長「藁をも縋るとはよく言ったものだ。黒の人の協力を無碍には扱えんぞ。プランを正確に実行して改心させなければな」

生徒会長「オカルト研は階を上がった。君たち三人は以前ここへ潜った試しがあるのだろう? 何がある?」

男の娘「あ、実は僕たち 色々あってあんまり奥には入ってなかったんです……だから男とオカルト研さんしか」

先輩「そうなの? 転校生ちゃん」

転校生「いきなりどうして私に振るのよ!? わ、私だって男の娘が言った通り…………なんだけ、ど」

転校生(無意識に足が動いた。ううん、動いていた。暗いのは怖い、廃墟だなんて死ぬほど嫌! 怖いって人が危険に感じる本能よ。私はそこに関しては狂ってないわ)

転校生(なのに、何が壊れて前に進めてるのかしら。オカルト研さんの為の勇気? アイツに褒められたいが為? どれもしっくりこなかった)

転校生「こっち……」

不良女「お、おい 転校生。あの変人女が行った方向と真逆だよ、そっち! 逆行ってどうすんだよ?」

生徒会長「不良女の言う通りだ。事前に立てた作戦を遂行するならば、このまま彼女のあとを追わなくては――」

転校生「私について来て。こっちよ」

男の娘「…………やっぱり様子おかしいよ、転校生さん」

男の娘「どうしちゃったの!? いつもの転校生さんっぽくないよ、今だって目がこんなに虚ろじゃない!!」ガシッ

転校生「……道……私知ってるから…………来たこと……あるから…………」

122以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/11(日) 23:30:51 ID:T2C3Uxb.
先輩「先回りしようって言いたいんだよね、うんうん! わたしは転校生ちゃんについて行きますよー宇宙の果てまでもっ!」

生徒会長「おい……君らしくも、あるが冷静になってくれ。転校生はここで休んでいなさい。男の娘くん頼めるか?」

男の娘「は、はい!!」

転校生(嘘じゃないわ。私は本当に道を知っている。ううん、知り尽くしている。だって歩き回ったのよ)

転校生(思い出してもみんなにこんな事信じてもらえるとは思わないけれど、私はこの廃病院にたった一人でアイツを探しに来た。自分の意思を無視した衝動に駆られて)

転校生(――まるで幽霊に取り憑かれたみたいにおぼつかな気だった感覚がここに帰って来た。あれは自分が“特別”を疑ったすぐの頃だったかもしれない)

転校生(……気味悪い化け物が私の前にいきなり現れてから先の記憶は不鮮明になって、気がつくと私は“日常”の中に違和感なく戻っていた)

≪ _“正が必ヨう&=ッた ≫

転校生「名無しよ……アイツが元凶なんだから。アイツの裏を掻かなきゃどうにもならない」

転校生「みんな聞いて!! このまま考えたことやり遂げようとしてもきっと邪魔が入っちゃうと思う! だから出し抜かなきゃいけないの!」

生徒会長「君も落ち着いてくれ転校生……気合いが十分なのは承知したがね、空回りでは」

転校生「そ、そうじゃないのよっ! 悪い予感がする! お願いっ、信じて!」

不良女「……二手に別れとこう? 二組で動いたら最悪アドリブ利かせられるじゃない。そうだよな?」

生徒会長「一理あるが、しかしだな……」

不良女「いーよ、あたしがこの子について行くケド。とりあえず文句出てないよな?」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/13(火) 19:22:16 ID:DAR8Xz3w
インフルっちゃったので今日はお休み。無念

124以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/14(水) 18:08:21 ID:6Svy6nkw
お大事に〜
続き気長に待ってるからゆっくり療養してくれい

125以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/14(水) 22:32:52 ID:k0GmrxSY
完治するまで待っちょる

126以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/15(木) 01:29:36 ID:R1ODjbzc
テンプラと接触したのか

127以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/17(土) 22:42:20 ID:i2SEc8YM
生徒会長「おい! 二人とも待ってくれ!! 我々が別行動で動く利点は万に一つも」

不良女「道案内バッチリなんだろ? 行こう 転校生」

転校生「わ、わかったから、急に手引っ張らないで……! ……生徒会長さん ご、ごめんなさいっ」

男の娘「……あぁ、行っちゃいました……けど」

生徒会長「……あの二人はオカルト研の相手をする際、必要不可欠なメンツだったと単純に考えられるのは私だけなのか?」

生徒会長「別に男の娘くんだけで上手く事が運べないとまでは思わない。だけれど、だな」

先輩「まー、決定打とかに欠けちゃった気はしなくもない?」

男の娘「……僕 転校生さんが心配です。あっ、僕まで追いかけるとかはありませんよ!?」

先輩「おっしゃ! そんならみんなで転校生ちゃん組に寝返っちゃえば〜!!」

生徒会長「全員仲良く一体何を裏切ろうというんだね? しかし心配なのは確かに同意しよう」

男の娘「よ、様子少し変だなってずっと感じてました。どこかそわそわしてて落ち着きなかったし、最初は怖がりからかなって思ったんだけど」

男の娘「まさか、あんな急に……どうしちゃったんだろう?」

先輩「どうもこうも本人がさっき全部説明してたくないかなぁ。ほれ、『邪魔が入る』とか」

男の娘「邪魔、邪魔って何ですか? ここにいるみんな、黒い人も含めて僕たちの目的って一緒なんですよ?」

生徒会長「胸騒ぎか……取り越し苦労に終わればいいが…………そろそろだ。私たちだけでも“部屋”まで誘導するぞ」

128以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/17(土) 23:27:35 ID:i2SEc8YM
不良女「で、ここから先はどう進んだらいいの? あ〜……この階段昇ったりする?」

不良女「灯りとか持ってなきゃマトモに歩ける気しないなぁ。実はあたし持ってるけどサ」カチッ

転校生「ねぇ、その前に一つ訊いていいかしら?」

不良女「良いけど一回につき缶コーヒー一本奢ってもらうからな〜、なんちゃって! へへっ!」

転校生「……どうして私の言うことを信じてくれたの?」

不良女「ええっ、そこ? 騙しましたってオチとかあたし絶対聞きたくねーよ!?」

転校生「ううん、そうじゃない! 騙したりなんかしてないわよ。でもあんな簡単に私の味方したりして、わ、わからないわ」

不良女「いや、わかんないのはお前の方だっつーの! 何が言いたいのかハッキリしろよ」

転校生「あっ……ご、ごめん。正直自分でも混乱してて……ただ あのままだと良くないって思ったから……」

転校生(何て伝えたらいいだろう……順を追って説明する? 私が何なのかまでも? 無理よ、というか無駄だ)

不良女「良くないって思ったんだろ? じゃああたし納得させるならそれだけで十分だってば」

転校生「うそ! わ、私の言ったこと覚えてるでしょ? おかしくなったって思わないの? 幽霊に取り憑かれちゃったとか!」

不良女「あっははははは!! え、なにそれ!? 廃墟の中だと幽霊に憑かれるのかよぉ〜!!」

転校生「そ、そうじゃなくたって 怖さのあまり変になったとか、もっと色々あるでしょ!?///」

不良女「あたしには あんたのあの『信じて』が変になった奴の言葉とは思えなかったね、転校生」

129以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 00:34:07 ID:fW5vPrwQ
転校生「……それが、根拠?」

不良女「こういうのカンジョー論?とかになるんだろうけど、あたしは転校生のこと気に入ってるしさ……」

不良女「真面目にオカルト研を心配してるのも分かってるし、優しいのも知ってる。こんな時に自分優先しないこともだ。そうでしょ?」

転校生「そうでしょって言われても、こ、困るん、だけど……っ!?」

不良女「つべこべ言って立ち止まったままいないで、先進もうぜー。正直あたしも暗いの苦手だからお前とお相子だなぁ〜、へへへ♪」

転校生「な、なんか……ありがとう。足が軽くなった気がするかも」

不良女「げぇ、マジでおかしいのに憑かれてたんじゃないのそれ!?」

転校生「いやぁ! もうっ! 本当にそういう類の話 嫌なのにっ! ……フロアもう一つあがるわね」

不良女「上がるのは構わないけど、あたしたちどこに向かうんだよ? 今更肝試しの再チャレンジとかは」

転校生「元々何の為にこんな所にまた来たか思い出して。彼女、オカルト研さんを今度こそ話を聞き出して説得する為だったでしょ?」

転校生(説得……率直に言わせてもらうと、今の彼女に対して上手くいくとは思えない。オカルト研さんには名無しの息が掛かってしまっているのだから)

転校生(だからこそ、メンバーへ今回私から提案した方法は強引と無茶を要するやり方。それですら打ち砕かれそうな予感もあった)

不良女「だったら尚更別行動の意味だよ。もしかして、アイツが予定通りに掴まらなかったこと考えてるのかよっ?」

不良女「なぁ……転校生から言い出したんだからさすがに覚えてるよな? その……“オカルト研を密室に閉じ込める”って……」

転校生(その問い掛けには小さく頷いてみせた。閉じ込める。彼女と誰かをと、よくある二人きりというシチュエーションを作ろうとしたいのではなく、作為的にオカルト研さん一人を脱出不可能な状況へ陥れる)

130以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 20:21:39 ID:fW5vPrwQ
転校生(当然だけど反対の声が多かったわ。彼女を振り回す側になるとしても方法は褒められもしないし、乱暴じゃないかって)

不良女「あたしもドン引きだったけどな。普段活発でドストレートな転校生さまがとんでもない思い付きしたんだから」

不良女「もっと平和に解決するやり方があるんじゃねーかなって。そしたらズバッと言い切るんだから、驚いた……」

転校生「生易しいことやって止まる様な子が他の人を平気で巻き込むの?」

不良女「……そう、それ。かなり面食らった」

転校生「私だって出来るなら普通の話し合いで全部元通りになって欲しいわよ。だけど、彼女はやり過ぎなの」

転校生「いくら何か悩みがあったとしても悪事は許しちゃダメよ。男は今その辺りの判断が正常にできてない……」

転校生「アイツなりに考えて考え抜いたんだろうけど、お陰でボロボロじゃない……だから私たちがやる。不良女ちゃん」

転校生「作戦は打ち合わせ通り決行するわ!! そして、どうして私たちが別ルートからオカルト研さんを追っているのか」

不良女「追ってる!? おい、追ってるわけないだろ。だってあたしら二つも上の階まで昇って来ちゃってんだぞ? 追い越してんぞ!?」

転校生「違うの。最初からオカルト研さんを追いかけるつもりで道を変えたかったのよ、っていうよりは」

転校生「ここまで先回りしておきたかったから…………不良女ちゃん、ここで罠張るわ。手伝って」

不良女「わ、罠ってあんたっ……つーか何でオカルト研がここまで来るんだよ? 上手く行けばもう三人が掴まえてる頃だし!」

不良女「あのオッサンもいて失敗したとして、あの運動音痴の塊が巻いて逃げてこれるとは……」

転校生(……微かにだけれど、この辺り あの“神”ってヤツと会った時と同じ重さがある気がするわ)

131以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 21:04:19 ID:fW5vPrwQ
転校生(暗い廃病院の中には変わりないのに)チラ

転校生「……埃があまり立ってない? 置物なんかはボロボロだけど変な感じ」

転校生「ねぇ、不良女ちゃん懐中電灯の灯りもう付けてなくても平気なんじゃないかしら?」

不良女「え? バカ言うなよな、いくら日差し込んでるからって……あっ、日の光入って来てるじゃん」

不良女「ふーん……パッと見あれが病院のナースステーションで、ここが休憩スポットみたいな……」

不良女「って、入院棟じゃねーか! 大丈夫かよこんなとこで待ってたりしてさぁ〜! 死んだ患者化けて出ないか!?」

転校生「だから!! はぁ…………きゃああぁ!? なな、今度は何! いきなり跳び付いたりして!?」

不良女「ああああ……あれっ…………あれぇ……!」ギュゥ

転校生(突然抱き付いて来たと思えば、小刻みに体を震わせた不良女ちゃんが遠くを指差していた。ゆっくりと従ってその先を確認すると)

転校生「……なーんだ。もう、怖がり過ぎ! ゴミが風で転がっただけよ」

不良女「な、生首に見えたぁ! あたしには生首だった!!」

転校生「病院で生首は中々ないんじゃない? 現実的に考えたら――――!!」

・・・ピンポーン、ピンポーン

転校生「…………ね、ねぇ、不良女ちゃんにも聞こえる?」

不良女「あぁ、南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 ぎゃーてい ぎゃーていっっ……!!」

132以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 21:29:52 ID:fW5vPrwQ
転校生(音は元ナースステーションの方向から断続的に鳴ってる。ナースコールって判断には困りはしなかったけど、そういう問題じゃないわ!)

不良女「ヤバいってヤバいよマジ!! 前来た時も変なことあったしさ、絶対呪われてんぞこの病院っ!!」

転校生「同感よ!! だ、だけど……待って……」

不良女「おぉい転校生ぇ!? 止せって、今度こそ化けて出てくる! 逃げようよ!?」

転校生(そうしたいのは山々よ。脅すにしても最高のタイミングで鳴ってくれた事だし。でも、でも、この“呼び出し”が嫌に気になる)

転校生(私は背中に不良女ちゃんを引っ付けたまま 恐る恐る中に入ったわ。入ってすぐ 音を鳴らしていた原因らしい電話の親機があった。201号室からの呼び出し)

転校生「(とっくに電気なんて届いてないだろうに、それは誰かが応答するまでとコールを鳴らし続けてる) …………っ!」

不良女「おいおいおいおい、おいっ! まさか出るつもりじゃないよな! 転校生キャラ忘れてんじゃないの!?」

転校生「私だって死ぬほど怖いわよ!! 怖いけど、出なきゃダメって気がする……」

転校生(頬を二、三回も叩いたら気合いも十分、なわけじゃないけれど。そこはもう勢いに任せて受話器を取ってた)

転校生「……はい」

?『…………その声 転校生、ちゃん?』

転校生「……だ、誰なの? いま何処に、あっ……201号室から……?」

?『わたしだよ……ねぇ、外に出れなくて困ってるんだ! 助けて! ヘルプミー!!』

転校生「えっ、部長さん!?」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 22:01:32 ID:fW5vPrwQ
黒服「――――お嬢様もうお気が済まれたのでは?」

オカルト研「飽きたのなら外で待っているといい。私には果たさなくてはならない役目があるわ」

黒服「この様な薄汚れた場所でお嬢様が為すべきことなどございません!! ……む」

黒服「お、おやー? これは、お嬢様ぁ……奇妙な封筒が落ちていましたが」

オカルト研「封筒?」

生徒会長「…………上手く気が付いてくれたようだな、黒の人が」

男の娘「うぅ、オカルト研さんが興味示しそうな感じで作ったけど、だいじょうぶかな」

黒服「ええ、封筒です。宛名の部分には『深淵を覗かれし君へ』とだけ……これは怪文書ですな」

黒服「お嬢様の御用と何か関係おありで? だとしても悪趣味ですぞ、お嬢様!」

オカルト研「……知らないわ。中身はあるの? できれば私が読みたい」

黒服「あるにはあったのですが、あぁっ!! 力付くだなんて!」バッ

オカルト研「…………」

『 この先 真なる闇在リ。理から外れし力を渇望せし君 孤独になりて進まれよ 』

オカルト研「……こんなの……行くしかないじゃない……!!」

黒服「お、お嬢様?」

134以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 22:26:49 ID:fW5vPrwQ
黒服「お嬢様聞いておられるのですか? お――――むぐっ!?」

先輩「し〜っですヨ♪ おにーさん」

黒服「お前たちっ……するとアレが合図となっていたのか。よくも純粋可憐なオカルト研お嬢様に妙な物を!」

男の娘「えっと、僕たちは始めからオカルト研さんが好きそうな物で釣っただけなんですけど……」

生徒会長「グッジョブ。ご協力感謝する、黒の人。ここから先は私たちの後ろで控えていてください」グッ

黒服「黒の人……? まぁいい。ともかく一体何を始める気だ? あの小僧の到着は遅れるそうだが、策に問題ないのか?」

生徒会長「小僧? っまさか男くんのことを話しているんですか!? 彼が来る!? 何故!」

黒服「フン、私が念には念を入れて奴に連絡を入れたまでだ。この大事な時に寝坊でもかまされては面倒なんでな!」

生徒会長「なっ!?」

先輩「あちゃー……台無しだよぉ……」

黒服「おい待て、その反応は何だ? 素直に感謝を――――それどころではない! お前たちはお嬢様に集中してくれ!」

生徒会長「あ、あぁ、過ぎたことを嘆いても仕方がない。次の封筒を彼女が拾ったら勝負に出るぞ、二人とも!」

男の娘「は、はい! ……黒服さん、これから少し強引なこと 僕たちやると思います。だけどお願いです。静かに見守っててくれませんか……?」

黒服「事と次第で見る。私は常にお嬢様の味方だ、依然揺らがずにだ」

先輩「盲信しまくりだけどカッコいいじゃん、お兄さんも。まぁ 黙ってもらうけどネ……」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/18(日) 23:00:17 ID:fW5vPrwQ
オカルト研「……また封筒ね。私の中の血が騒ぐわ、次を欲していたのよ」

『 向かって右に≪ 308号室 ≫深き始まりの闇の床。臆するな、前へ 』

オカルト研「っ〜〜〜〜!」ぞくぞくっ

オカルト研「こ、この中に……私が追い求め続けた力……闇を越えた凄まじき力があるというの……!?」

ふら……

生徒会長「――――今だっ!! ドアを閉めてカンヌキを!!」

男の娘「はい!!」

オカルト研「えっ?」

黒服「何だとガキど、もが!?」  先輩「だから静かにしててってお願いしましたよねー。お兄さん?」ガシッ

生徒会長「……彼女には申し訳ないが第一段階は成功した。あまりドアに近寄るなよ、会話が聞かれてしまう」

黒服「んーっ!! ん〜〜っっ!? んううぅ〜〜〜〜ん゛ッ!? ………」

男の娘「やっておいて今更なんだけど、僕たち凄い酷いことしちゃった」

生徒会長「ああ、覚悟は決まっていても実際にではな……おいどうした? 何故黒の人が伸びているんだ?」

生徒会長「まさか君が……な、何をしようとしている、君はそんな所に立って。……どうしたっ?」

先輩「はい? 決まってるじゃん。このつっかえ棒外しちゃうんですよー」

136以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 20:11:29 ID:Wof0etZ2
男の娘「は、外しちゃうってそんな事して何か意味あるんですか!?」

先輩「意味は特にないけど二人が困るんじゃないかな。オカルト研ちゃんは無事に外に出られる」

先輩「みんなで考えた更生大作戦はとりあえず台無しになりそうだよねぇ〜〜!」

生徒会長「冗談も休み休みにしてもらいたい! 君がその場のテンションで生きる奴とは知っているが、悪戯が過ぎるぞ!!」

先輩「ま、どう思われようと勝手だけど……これもお仕事なんで」

生徒会長「何が仕事だっ、トチ狂いでもしたか!?」

生徒会長「ダメだ、男の娘くん! あの子を抑えよう! このままでは出て来たオカルト研によって我々が不利に追い込まれてしまう!」

男の娘「わ、わかりました……! 部長さん、ごめんなさいっ!!」

先輩「謝らなくて良いよ。生徒会長ちゃんも」ガラッ

生徒会長「くっ!! 一歩遅かったか、既にカンヌキを落としてドアを――――――!」

男の娘「あ、あれ? 部長さんどこに消えちゃ………うわっ!?」ドンッ

生徒会長「あうっ!? ま、待て! まさか君は私たちをオカルト研ごと、くっ!? 閉めるな! 待てと言うんだっ!」

先輩「一人ぼっちより三人で仲良くしてる方が心細くなくていいんじゃないかな〜、オカルト研ちゃんも。よいしょ、と」

生徒会長『おい!! バカな真似はやめてここを開けろ!! おいっ!!』ガン、ガンガンッ

先輩「…………ふぅ、本当に肩こっちゃって嫌になるよコレ」

137以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 20:47:49 ID:Wof0etZ2
黒服「なにを、しているのだ……これがお前たちの立てた、策だとでも……」

先輩「ただの引き立て役のサブキャラが無駄に出しゃばらないでくれませんか。面倒なんですよね、あなたみたいな人は」

黒服「……? お前、本当に昨日会ったあの時のラーメン少女か?」

黒服「そ、その目は何だ。まるで虫を見る様な、その蔑む目は何だと……訊いてい、る……!?」

後輩「――――安心してください。あなたが今見た事、関わったこと全て綺麗さっぱり起きた時に忘れてますから」

黒服「化けた!? い、いや、ラーメン少女が、まったく別の少女に……何だこれは! 私は一体何を見ているんだ!?」

後輩「あなたが見ているのは“天使”です。天使に実体なんてありません」

後輩「この姿だって偽物でしかない。人を惑わす為に、誘惑する為にだけ存在する仮初めの女の子の姿……私には私なんて無いんです」

黒服「私なんて無い……? ぐぬうっ!?」グギィ

後輩「主 “名無し”はあなたを認めていません。本当に住み良い世界の中にとって、あなたの様な人がしゃしゃり出て来られても不要にしかならない」

黒服「わ、私が不要!? 貴様、ガキが何様のつもりで立てついているッ!! そこに直れ! 修正してやるぞーッ!!」

後輩「どんなに屈強な男の人でも、私程度にすら敵わない。そういう世界なんですよ、ここは。……大人しく眠っていてくれませんか?」

黒服「がふっ!! っうぅ……おじょう、さま……わたしは おじょうさま を………………」

後輩「…………やっぱりおかしい、神使いの力が私の中に戻っている。元主、神さまから奪われた力が」

後輩「一人の無力な美少女として彼を見守るしかできなくなった筈だったのに……なんて皮肉でしょうかね、先輩」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 21:17:37 ID:Wof0etZ2
男(俺たちを乗せた先生の真っ赤な愛車がスピードを乗せたままこれたま黒光りした一台の車の隣に駐車。ナイスドライブテクも、気に留めず俺は外へ飛び出していた)

男(あとを追って運転席から出て来た先生が隣並んで俺と共に穏やかと呼べぬ状況を目の当たりにし、困惑した)

モブ黒服たち「…………」

先生「この人たちって、オカルト研さんの付き人さん一行だよね? 何よ、これ」

男「何と聞かれても俺にだってよく分かりません、先生……」

男(彼らはそれぞれが自由な格好で気を失っていた。油断しているところに閃光手榴弾でも転がってきたように。外傷は無いが、明らかな異常である)

先生「……こんな薄気味悪い廃墟だし、化け物と交戦してたって言われても信じちゃうかも」

先生「あー、さっきから現実離れしすぎよ! 私を平和な世界に帰して!? 一体全体どうなっちゃってるの!」

男「(ご尤もである) 黒服さんとも連絡が通じない。愛好会のみんなともだ……すごく嫌な予感がする」

男「先生、行きずりで巻き込んじゃって申し訳ないですけど 着いてきてもらえますか? 俺一人で解決できそうにありません」

先生「そういう事じゃないでしょ今!! だけど……こんなの見せられておいて見す見す帰るなんて、ちょっと難しいわ」

先生「行くわよ、男くん! ゲームで鍛えた謎感覚があれば化け物とかお化け相手でも通じそうだわ! たぶんっ!」

男(ある意味頼もしいな。というよりただ傍にいて貰えるだけ格別に心強さを得る事ができていた。やれやれ、また戻って来たぞ、廃病院)

男(すっかり因縁深い場所へと変わってしまったが、すべての謎が凝縮されし重要な背景だ。何より“死”を強く連想させてくるのが肝だろうか)

男「……ええ、行きましょうとも」

139以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 21:39:35 ID:Wof0etZ2
先輩「――――うわあぁ〜ん!! 心細かった暗かった寂しかったぁー!!」ギュッ

不良女「そんな一気に言わなくたって大体察するってーの……でも何でブチョーが?」

先輩「わたしが説明欲しいくらいだよ! 朝起きてここに向かってたら急にこんな所に閉じ込められてるし、周り誰もいないし〜!」

先輩「携帯通じなくなってるし、もう大変!! 助け呼ぶために必死で手探ったねっ、そりゃもう死ぬ気だったと自負する勢いがわたしに宿ってーの」

不良女「わ、分かったから喚くな! あたしらだってチンプンカンプンなの! なぁ、転校生!?」

転校生「……」

不良女「聞いてんのかよ!」

転校生「ここに向かう途中で部長さんがさらわれたのなら、私たちがさっきまで一緒にいた部長って何……?」

不良女「わぁああっ、自分から怖い話振ってくスタイルいい加減やめろって!!」

転校生「だっておかしいわ!? いくらいわくつきの廃病院だからってこんな、ドッペルゲンガーみたいな話ありえない!」

転校生「とすると、向こうの生徒会長さんたちが危ないと思う!! 急いで合流しましょ!!」

不良女「お、おい待ち伏せはどうするつもりなんだよ!?」

転校生「そんな事やってる場合じゃないわよっ、わ、私のせいよ……私のせいでみんなを危険な目に!」

先輩「何だかよくわかんないけど緊急クエスト発生したのは把握だよ! で、他の二人はどこにいる!?」

「やー、生き急ぐと碌な目にあわんぞ? あんたたち」

140以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 22:10:46 ID:Wof0etZ2
先輩「男くっ……違う、だれ?」

不良女「いや、あたしだって知らねーよ。見た事ない面っつーか、よく分かんないけど」

不良女「誰だよあんた!! いきなり出て来て何様だ……?」

名無し「そういえば自己紹介がまだだったか。オレは名無し。そこで突っ立ってる転校生のクラスメイトさ」

転校生「……性懲りもなくまた私の前に現れるのね、名無し」

名無し「性懲りもないのはそっちじゃないか? 散々余計な手は回さないように口酸っぱく言ってたつもりなんだが」

名無し「……それにしてもアレの影響も随分薄まったなぁ。オレでさえここに自由に立っていられる。男の悪霊とやらも消える一歩手前か」

転校生「どっちが悪霊なのよ。アイツの足を引っ張ってるのは他でもないあんただわ」

転校生「あんたが存在する限りアイツは苦しむしかないわ! まだそれが分からないの? このだだっ子!!」

名無し「駄々をこねているのはそっちだって。男には導き手が必要なのさ。どうしてそれが分からない?」

名無し「お前も早く本来の自分の役目に戻ってくれよ。重箱の隅を突く暇はないぞ。もっと男を満足させるべきじゃないか……?」

不良女「おい、意味分かんないこと喋ってんじゃねーよ!! 男の何だってんだ、あんたは!!」

名無し「親切な友人だよ、不良女。お前たちからも言ってやってくれないか? 自分たちも男が真の幸福を掴むことこそが幸せなんだ、と」

不良女「あ……?」

転校生「そいつの言う事に耳を貸さないで!!」

141以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/20(火) 22:33:12 ID:Wof0etZ2
転校生「名無しは男を、私たちを騙そうとしているわ! そいつの話は出鱈目ばかりで碌でもない! 信じちゃダメなんだからっ!」

先輩「そ、そこまで言っちゃう? 転校生ちゃんのクラスメイトなんでしょ?」

名無し「転校生からは相変わらず信用がないんだな。お手柔らかにできないか? 誤解は衝突しか生まないぞ?」

転校生「黙ってよ!!」

名無し「嫌うなよなぁ……悲しいじゃないか。オレとお前はもっと上手くやれるはずさ、え?」

転校生「黙ってって言ったのよ……そこを退いて。あんたの時間稼ぎに付き合うつもりなんてないわ、名無し」

転校生「不良女ちゃんと部長さんはみんなのところに行って! 私がコイツの相手をするから!」

先輩「えっ、で、でも別にそこまで凄むような子じゃ……」

不良女「いや、どっちみちあたしら変な事に巻き込まれてるから! 部長先行くぞ!」

先輩「ああっ、待ってってばー!?」

名無し「……正気になろう? お前も男の幸福を望むものであるのなら、BADENDを奴に際限なく突き付けてやるべきだ」

名無し「絶望を繰り返した末に 男は無用な知識を捨て去って、己を省みない完璧な主人公になれるんだから」

転校生「その繰り返しに巻き込まれる私の立場ってある? 冗談じゃないわ……アイツにも、私にとっても」

名無し「お前は観察するのが仕事なんだ、仕方がないじゃないか。オレは裁き、選別しなくちゃあならない。役割分担はしっかりして欲しいな。観察は重要だぞ?」

名無し「見る事をお前が“やめた”その時、世界は……形を保てなくなるのだから」

142以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 20:57:20 ID:bzqcn80M
転校生(名無し、コイツは正気じゃないわ。何処で嗅ぎつけて来たのか知らないけど故意に現れたっていうなら、男を陥れる罠を用意しているに決まってる)

転校生(あの自称神さまに“倒し方”みたいな、物騒でも何でも聞いておけば良かったって後悔してる……)

名無し「やー、怖い顔をしないでくれよ。そう凄まれてちゃフェアな話ができんぞ?」

転校生「これのどこに対等な要素があるって言うの!! あんたは嫌いだわ! もう……大人しく消えて、名無し。みんなに近づかないで」

名無し「酷いな。オレだけ除け者扱いか? お前までオレが輪の中に入るのは相応しくないって否定するのか?」

名無し「悲しいなぁ……お前らばかり男と楽しくやれて、オレにはその権利はない? 見ているだけで触れる事も許されない?」

転校生「あんたがアイツにしてきた事を思い出しなさいよ!! 憐れんであげる余地もないわ!!」

名無し「外堀を埋めようとして何が悪い!? ただ親友であろうとしたオレを何故責めるんだ? オレは努力したっ……努力したのにっ……!」

名無し「お前たちが憎い!! オレが欲しかったもの全部最初から持っていて、アイツの傍にいられるお前らが全員憎い!! 憎いよぉ!!」

転校生「!」

名無し「妬ましいんだよぉ……オレにも、くれよ? 楽しい日常……オレが生まれた意味を改めさせてくれよ……」

転校生「……あんたって――――えっ!?」

転校生(干渉に浸りかけた私を現実に戻す悲鳴が、部屋の外で突然響き渡った。二人、部長さんと不良女ちゃんの声だわ!!)

転校生「な、名無し!!」バッ

名無し「やり直すにはもう遅すぎたんだよな。わかるだろ、転校生?」

143以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 21:31:02 ID:bzqcn80M
転校生「あんたとわかり合える気なんてしない! あの二人に何をしたのよ、言ってっ!」

転校生(胸倉を掴んで怒鳴っても平然と名無しは笑っているばかり。一瞬でも同情を掛けようとした自分がバカらしくなる嘲笑だった)

名無し「その顔が最高に良いwwwwwwww」

転校生「っー! お、男は何があってもここに来ないわよ、あんたの企みなんてお見通しだわ!!」

名無し「やー、ウソは汚いな。オレの目は何処にでもあって、常にアイツを見張れるんだ……そら、もう建物の中に入って来たぞ」

転校生(出鱈目と思えないそいつの目線は、恐らく本当に来てしまった見えない男の姿を追っていた。手の力が抜けて、軽々振り払われると)

名無し「お前には何もするつもりはないよ。大切な観察者なんだから」

転校生「もうやめて……お願いよ」

名無し「お前が“監視”し、オレが“監督”することで全て達成される。何が過程だ? 結果さえ残ればオレたちは解放される……」

名無し「男という一匹の人間が作った呪いから……本望だろう? オレもお前も、煩わしい死神にとっても」

転校生「…… (言い返す気力が沸いてこない。名無しは自らが背負った役目をただ果たそうとしている。その点だけ見れば誰よりも正しいわ)」

転校生(私は、アイツと一緒に横道を逸れて行きすぎた。永遠に続きそうな、ぬるま湯に浸かったままの今に甘えていたいと思った。終わるのが怖くて)

転校生(これは男と私たちの幸せな日常を満喫する物語じゃない。初めから非日常だった。終止符を打たなきゃいけない、“死”って、重い終わりを。男に――)

名無し「…………転校生、何のつもりだ? この手を離してくれよ」

転校生「……自分がこの世界の神さまにでもなった気でいるの、あんた?」

144以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 22:00:41 ID:bzqcn80M
名無し「あー……理解、できないな。どいつもこいつも欠陥ばかりだ。バグってる!!」

名無し「馬鹿馬鹿しい!! 邪魔をするなよ、転校生! お前も死神も手を出すな! このオレが主に代わって使命を全うするんだぞ!?」

転校生「あんたの主って人が何を想って、どんなに苦しんできたか知らないわ。でも、それでも」

転校生「どんなに正しくても、あんたは間違ってる……!」ググッ

名無し「間違いはお前の方だぁぁーーッ!! この世界に不要だ! 消えて無くなれよ無能!!」

転校生「えっ……」

転校生(頭の中が真っ白になるって日本語、アイツに教わったことあったんだけど)

『人って生き物はだな、パニックが頂点まで達すると考えるごとも覚束なくなる。いわゆる思考が追い付かないって状態だろう』

『やっと気が付いた時 自分に降りかかった現象を再確認して、ウソだと思い込む。そして事実と叩きつけられる、数秒あとに』

『お前に関して教える良い例は、パンツを見られた胸を揉まれた!! 等など……ちなみに目の前が真っ白になったという』

転校生「……な、なによこれは」

転校生(名無しの腕が、私の体を貫いていた)

名無し「オレの……オレの忠告を破ったお前が悪い! いつだかにも同じ真似をして見せてやったな、転校生」

転校生(肉体を貫かれた、というよりも 名無しの手が通過したこの体が空間に浮かぶ蜃気楼みたいに、3Dホログラムみたいに虚ろだった)

転校生(名無しの手を中心に私の体は、冗談みたいに 薄くなっていったの)

145以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 22:30:25 ID:bzqcn80M
名無し「もうどうだっていい!! 邪魔は消す、崇高なる主の使命を阻むバグは消去して、排除しなくちゃダメなんだ!!」

転校生「あ、あ……っ?」

名無し「オカルト研たちのようにしてやった様な生易しいものだと思うなよ!? 存在すら許可しないッ! 記憶も体も必要ない!」

名無し「転校生!! お前なんて奴は男の前に“初めからいなかった”!!」

転校生(薄れていく体、透明の浸食を止めることもできずに、ぼんやりと浮かぶアイツやみんなの顔。思い出。あれ、これが噂で聞く走馬灯っていう……!)

転校生(て、抵抗できない……自分が世界そのものから否定されてる気分……)

名無し「安心してくれ、お前の抜けた穴はオレたちが埋める! 先に逝って待ってて欲しい! どうせオレたちも終わりを迎えてすぐに消える!」

名無し「儚いなぁ、オレたちって……なぁ、転校生!! ねぇねぇ!?」

転校生「いやぁ……!!」

「――――――嫌がる美少女に乱暴する輩がいる気がして」

名無し「バカ違うだろ!? 粛清と乱暴じゃ大違いだ。まぁ、清廉とは程遠い男くんには言ってもわから――――――ぶぅっっっ!!」

男「一言でまとめろ! 便所のゲス豚野郎!!」

転校生「…………あ、あんた……なんで、来ちゃったのよ」

男「何で来ちゃったじゃないだろうが。止めてくれないか、ちゃっかり俺の知らん所で危ない目に合ってるとか」

男「迷惑極まりないぞ、お前ら」

146以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 23:10:33 ID:bzqcn80M
名無し「痛ってぇぇ……痛てぇな……痛いよ、酷いじゃないか? どこの世界にクラスメイトを鉄パイプで殴る奴がいるんだよ?」

男「どうせ何で殴っても死なないだろ、お前」

男「(手がまだ震えている。やれやれだ、先生に見られる前に得物を捨てておかねば) それよりも俺がいない間にコイツらへ色々酷い事してくれたみたいだな。黙ってると思うなよ、至上最悪のド屑」

名無し「遅れて登場しておいて何気取りなんだよ」

男「真ヒーロー見参だっ!! 美少女の守り神……別に覚えておかなくていい、恥ずかしいから」

転校生「どうだって、いいわよっ! それより何でここがわかったの? た、助かったけど……」

男「誰だってあんな分かり易いデカい悲鳴聴こえたら、真っ先に走って来るだろ。悲鳴の当人たちは見当たらなかったが」

男「が、どんなゲスが繰り広げられるかぐらいは大体予想ついた。……おい、容赦するつもりないぞ」

名無し「え? オレに言ってるのか、男。気合い入ってるのは構わないけどお前が大切に想っている子たちをまずは第一に考えて欲しいな」

男「何だって?」

名無し「みんなは今どうなっていると思う? オレのさじ加減次第でヤバい事にならんでもないケド……」

男「適当な脅しに屈する俺だと思ってるなら、甘いんじゃないか。最初にヤバい事になるのはまずお前の方なんだぜ、名無し」

男(……先生が言われた通りに他の全員を見つけて介護してくれているなら万々歳である。またオカルト研を使って面倒を起こしてこない限りの話だが)

名無し「お前、オレを追い詰めたとか 思っちゃってたりしないか? えへへへっ!」

男「……おい テンプラ、あんたの出番だろう!」

147以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/26(月) 17:58:02 ID:t56NeRAU
男さんぱねぇっす

148以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/30(金) 05:21:30 ID:VtwiaGdY
男さん格好いいっす
乙!

149以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/30(金) 22:28:02 ID:.1uBVkc2
続き自分の中で今日予定してたけど断念して年明け3日〜4日中にで

ここまでやったら満足できる終わりに持って行きたいのです
グダグダやってて情けないけど、その分惜しみなく全力注ぐのだ

良いお年を!

150以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/31(土) 10:01:33 ID:LQGPiroQ
良いお年を〜
いつも楽しく見てるよ

151以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 20:58:30 ID:/ls8eY5Q
「…………」

「…………コホン」

転校生「は、はぁっ? あ、あんた」

名無し「……こりゃあ何の真似だい。空回りして呼ぶ相手の名前を間違えたか? 重要な助っ人なんだろ、男?」

男「残念ながら間違えたつもりは一切ないぞ、名無し。俺としてはお前が聴き覚えあるネーミングかと期待していたんだが」

男「どうやら姿を見てもらう必要があるようだ。テンプラの」

名無し「あ〜あ、そしたらソイツは何処にいる? オレの後ろに? 天上突き破って第二ヒーロー見参でも見られるのか?」

名無し「笑わせるのも大概にしてくれないか」

男「お前に対して笑わせるジョークはない。精々 青冷めてくれよ!」

テンプラ「雹ッ霓崎ケ$シaa霎ュ髀冶ケゥ驢yア2霓碑ス比=」ズゥン

転校生「ひっ!?」

転校生(『テンプラ』、男が自信満々に呼び上げたその名前と流れには唖然としていた。それでも、初めからそこにいたかのように、瞬間的に現れたソレ)

転校生(情緒が狂って、デリケートな理性に触れさせた姿が、そこにいたの)

転校生「し、正気じゃ……ないわよ、こんなのって…………!!」

転校生(化け物!!)

152以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 21:34:59 ID:/ls8eY5Q
男(纏わりつく嫌悪の空気は辺りを支配し尽くした。人が考えて忌み嫌う要素を体現せし、もう一対の神)

男(神は死んだ。この神を死なせたのは? 他でも無い俺自身だったという。焦点定まらぬ瞳を落ち着きなく動き続けて、テンプラはこの肩に手を置いてくれた)

男「(上出来ではないか、と) 連れはショッキングな奴と忠告し忘れてた」  テンプレ「$B$"$gqCf$$KhsoQg=&$(B_??」

男「名無し、お前が主と慕った神から止めてやってくれと頼まれた。残念な暴挙だったな」

名無し「……なにを」

男「所詮 お前が企てたより良い世界作りは主様の意にそぐわなかったと言ってるんだ!」

転校生「ちょっと、ウソでしょ……そいつが、わ、私を……」

名無し「真実を、まだ受け止められないか? あの方がオレたちを生んだ張本人……父であり母である」

名無し「“親”なんだ、姉さん……オレたちの……主人だ……」

転校生「っ! そんな気持ち悪い呼び方やめてよ!?」

名無し「主、オレに不満があるとでも? だからその様な男に縋ってしまったというのか」

男「ああ、大有りだぜ 親不幸! 俺がコイツに代わってお前にありがたいお言葉を送ってやる。賜れ!」

男「……よく一人ぼっちで頑張ったな。苦しかっただろう。だが もう不安がらなくていい」

男「安心して舞台から降りるんだ。よくやった。この腕の中でゆっくりお休みなさい、我が子よ」

名無し「……えっ?」

153以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 22:20:14 ID:/ls8eY5Q
男「このテンプラ、いや、お前の親は言葉を失ったが 想いだけは変わらなかったぞ」

男「名無しには悪い事をした。本当にすまなかったと思っている、だが謝まる術を無くしたテンプラはこの俺を頼りにしてくれた」

男「名無し……もう良いんだよ。どうか無念を抱かず綺麗なお前で去ってくれ (即興にしてはお涙頂戴しているのではなかろうか)」

男(特にテンプラの意思には反ることもなく、無難にトラブルを収める説得である。感動は押し付けるものだと現代っ子は把握している)

名無し「あぁ……あぁ! ずっと、ずっと報われたかった……」

男(ネックとしては よほど拗らせていなければの話だ。コイツの執念深さが文字通り闇のソレでさえいなければ、言霊は通ずる)

男(大人しく佇むテンプラを見た。心なしか涙ぐんでいるように感じるぞ、ドキュメンタリー)

名無し「認めて欲しかった、オレの存在を……オレがオレである意味を……受け止めて欲しかった」

男「確かに。お前は正しい。何も悪くない」

名無し「オレ、もう一人じゃないんだ……あなたは、オレを認めてくれた。それだけでどれほど救いだったか……」

男「おめでとう、おめでとう。めでたい!」パチパチ

154以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 22:22:39 ID:/ls8eY5Q
男「最高だ、転校生。お前もそう思わな――――――冗談だろ、何なんだよ」



転ヨ#生「……し、知#ない@よ。すっごく今 体がフ%るいンdけど、私pう&ゥンヤ諫メ」




男「転校生!! しっかりしろ、おい、反応あるのか!? 聞いてんのか!?」




B \レ せサ{uる悚ィ%hle・・…耳元でわ!ーwa↓叫ス^のや、め、てくれな 叢ヘ?」

155以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 22:59:18 ID:/ls8eY5Q
名無し「……姉さんは優しいなぁ。オレを寂しく思ってくれているんだね」

男「ふざけろッ!! なぁ、転校生、転校生、なん、だろ? だ、黙ってないで何か罵倒の一つやってくれよ!?」

#@・イチ・・[              》

男「面白くないんだよこんなの! 頼むからっ……マジかよ」

男(彼女を抱きかかえようとしたするこの手が、手触りを得ることなく、体を通過した。何度差し伸ばせど 奇跡が起こらない。何故だ?)

男「テンプラ! テンプラ、この女を助けろ! 消えて無くなったら承知しないぞ!」

名無し「その顔が見たかったんだよ、お前の……気分が晴々する」

名無し「気にするなよ、男。お前は何度だってやり直すことが出来る。時と運命の牢獄に捉われたお前だからこそ救いがある」

名無し「何もかも綺麗さっぱり忘れてしまえ、全部投げ出すんだ。その為のセーブポイントじゃないか……」

男「……ちっとも反省していないみたいだな、えぇ?」

名無し「待ってくれよ、こんなのオレも予想外なんだ。こんな形でリセットが起こるなんて」

名無し「むしろ、こう呼ぶべきかもしれない。再誕と。これから新しい男の誕生だ……気にするな、生まれ変わったお前は上手くやってくれる」

名無し「そうしてようやく幕を降ろしてくれるんだ……主のお言葉は賜った。だけどさ、仕事はやり切らないと」

男(転校生が、もはや転校生であったかも不明なモノが消失を辿っている。コレの名前は既に思い出せなくなっていた)

男(食い止めなくては。あってはならないのだ、こんな終わり方を認めてしまうワケには――――)

156以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 23:45:43 ID:/ls8eY5Q
『 諦 め な い で 』

男「――――こんな時に幻聴とは、ラノベか漫画だ。現実なんだぞ」

『 まだ終わりじゃない。まだ男くんの物語は続けられる。悲観しないで、終わってないよ 』

男「終わらせるつもりは毛頭ないさ……   が消えていいなんてストーリーは無い。何より念願のハーレムにヒビが入る」

男「悲劇を背負うヒーローは御免だろ、幸せは自分の手で掴み取らなくちゃ意味がない。平坦な道より、いばらの道を選んだのは自分だけれど」

男「最後ぐらいは笑ってハッピーを迎えられるトゥルーエンドを迎えなくちゃ…………」

後輩「それでこそ私の知ってる先輩だと思います!!」

男「えっ!? あれ、こんな所で何してるのお前!! 手光らせて、ゴッドハンドしちゃって! ……はぁ!?」

後輩「驚いていないで先輩も手を貸して! この人を延命させるには私だけの力じゃ足りませんよ!」

男(謎の声に激を送られたと思えば、目の前は輝きまばゆい光であった。黄金色に光るその手を俺の手と重ね、危うい彼女の胸へ押しつける後輩)

後輩「手抜きは絶対許しませんからね! あなたのガムシャラな本能を貸してっ、そして彼女へ届けてください!」

男「うおおおおおおぉぉぉぉ!?」

後輩「まだ俺の傍にいて欲しいんだって!! 先輩!!」

男「…………どうもこうも状況はサッパリだ。それでも」スッ

男(神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと)

157以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 23:52:31 ID:/ls8eY5Q
あけましておめでとうございましゅううう
明日も更新するの

158以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 11:01:33 ID:MWQelatw
あけおめ乙

159以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 20:40:38 ID:MWFo9qYA
名無し「主、あなたに否定される事がオレにとってこの世の何よりも恐ろしかった。この憎悪を加速させてくれました」

テンプラ「…………縺ョ繝」

名無し「オレの名を呼んでくれたのですか? わからない……言葉も気持ちも読み取れません」

名無し「アイツにわかって、子であるオレが理解に苦しむ。あんまりにも理不尽だ。失望を覚える」

テンプラ「……8熙ヒハリ、タ、テ、ソ、ホ、ヌ、゙、タクォ、ォ、ア、゙、ケ。」

名無し「だから、オレはオレの思うがまま あなたを壊すことに決めました」

テンプラ「薙l縺ァ縺吶_?」

名無し「みんな、消える時は平等だ……男の最後になんて拘らなくていい。アイツもオレも、あなたも、姉さんも」

名無し「一緒に消えましょう? このクソッたれのあなたの世界と共に」

テンプラ「#!」

名無し「ほら、ご覧になって。遂に賽は投げられました、主。世界の“観察者”、主軸である姉さんです」

名無し「姉さんが消えると同時、世界は何者にも観測されることはなくなる。あの人によって紡がれていた時間の流れは断たれる……」

名無し「……姉さんはもう助からない。どんなにもがいても、決して…………束の間の一時だな」

後輩「先輩見てください! 転校生の体に色が戻りましたよっ! 助かったんですよ!」

男「あ、あぁ! そ、そうなのかっ? ハハ、はははっ!! 転校生!」

160以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 21:26:10 ID:MWFo9qYA
男(転校生、転校生、うむ 喉から出たがっていた名を今はいくらでも呼ぶ事が出来る。透明がかっていた身体にも色が付き、この手に彼女の感触が)

男「ん?」むにゅ

転校生「……喜び合ってるの良いことに、どこ触ったままでいる気なのよ…………っ」

男「転校生、違う。俺はお前の命を救った張本人であって一切やましい気分で体に触っていたわけじゃない」

男「つまり! これはwin-winの、ぶっっっ!!」

転校生「しねっ!! まずあんたが脳震盪起こしてくたばれ ド変態スケベぇ!!」

男「ぉぉぉおお、いきなりブラックジョーク過ぎんだろっ……!」

後輩「元気になった証拠なんじゃないですか? ふふっ。立てますか、転校生さん」ス

転校生「ありが、とう? ……どうしてあなたが私を助けてくれるの? 意味不明だわ」

男(それに関しては俺も同感である。非行に走ったように様変わりし果てた後輩が、かつての美少女っぷりを取り戻したかのようにここにいるのだ)

男(俺たちが眺める中、口元を緩ませて見せると身を翻して後輩は 名無しと対面する。小さくか細いながらも、頼りになる背中。アイツが、帰ってきた)

名無し「どうしてみんなオレから離れて行くんだ?」

後輩「別に始めからあなたの思想に染まってもなければ、哀れに思ってもいませんでしたけれど」

名無し「だからこそ 従うよう弄ったんだ、神の使い。ここにいる限りお前がオレの支配を免れるなんてあり得ない」

転校生「ふん、その言い草! 自分が神さまにでもなったつもりかしら!?」  男「そーだそーだっ!」

161以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 22:09:45 ID:MWFo9qYA
男(背中に隠れていた俺を無言で振り返られては、立つ瀬もなかろう。後輩の更に前に出て名無しを視界に捉え続けた。気分は火曜サスペンスドラマ終盤の刑事だ)

後輩「あり得ないを覆す奇跡があっても罰は当たりませんよね、せーんぱい」

男「お前、それって……」

男(懐から後輩が取り出した写真たち、昨晩俺の部屋から持ち去ったブツだと考えて確かであった。バカな、愛は窮地に勝つ? いやいや)

男「(愛は俺を救った) 最後になる前に名無しには散々迷惑かけてきた謝罪をしてもらいたい。せめてもの報いだろ」

転校生「……頭ぐらい最後に下げなさい。それであんたが仕出かした罰が帳消しされるワケもないし、したくもないけど」

転校生「あんたの生まれの境遇に、せめて免じてあげたい……辛いも哀れも絶対の免罪符じゃないわ」

名無し「わー、いっちょ前に説教垂れんのかよ?」

後輩「あはっ! 拗ねるなんて、まだ可愛いところもあるじゃないですか」

名無し「…………お前、実は裏切ってるとかじゃあないだろ」

男・転校生「え?」

名無し「男ならわかるだろ、この世界そのものの性質ってヤツを。どれだけ時間を分岐させても物質的証拠はかならず残る」

名無し「でも人と人との過去は無しになる。嗅ぐわせる程度のフラッシュバックはリセットの影響をビミョーに掻き消しきれなかった残りカス……」

男「今更なんじゃないかねぇ? 仕組みのネタ明かしなんてどうだっていい、そういう事じゃない! なぁ、名無しっ!」

名無し「オレがこの女にしたのも オカルト研にしてやったのも例外だ、男。お前 お得意のバッドエンドリセットに付き合わされた結果じゃない」

162以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 22:51:52 ID:MWFo9qYA
男「……一体何の話だ? ついて行ける人いたら手上げるように、さんはいっ! ほれ、どうした!」

男(少なくとも心の友・俺は両手で挙手した。名無しが後輩やオカルト研にした事? おかしくなった原因はコイツにあると確信はあったが、方法は何も知らない)

男(バッドエンドからのリセットならば軽く心当たりはある。今の俺は過去の俺のバトンタッチによってここに立っている。多くの我が犠牲のなれの果てだという事を)

名無し「今日までの後輩はお前のよく知った彼女だったか? オカルト研は?」

名無し「残念ながら跡形もなく消えた筈だよ、お前と過ごした二人の人格っていうのは……変わりないのは容姿ぐらいじゃないか」

転校生「ハッタリだわ。事実この子は男の為にこっちにいてくれてる、あんたの妄想よ」

名無し「妄想? その単語が相応しいのはオレじゃなくて男の方さ。いつまでも自分の理想に縋り付く死に損ないがぁ」

転校生「あんたは、ねぇ……いい加減にしてよ! まだやり足りないっていうの!? バカげてる!」

名無し「男、お前を楽しませたアイツらは死んでる。そこの女は本当にお前を信じてくれたあの時の一人か? よく見ろよ、鈍いな……そこの人形に面影は、あるか?」

男「変わらない価値は見い出せる!!」

後輩「…………プッ」

転校生「……何よそれ?」

男「もしお前が言う様に過去の記憶を失った彼女だとしても、思い出なんぞいくらでも埋められる。むしろ新鮮な気持ちをまた彼女と一緒に味わえる」

男「本当に面白いゲームをやり込んだ時、ふとこう思うことは? 記憶を消して一からプレイしてみたいなぁ、と……そういえば」

男「0から好感度を上げる苦楽の楽しみを、俺はまだ知らねーんだ。名無しよ」

163以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/05(木) 23:24:54 ID:MWFo9qYA
名無し「……やー、ズレすぎじゃないの? 論点っていうか、もう語るも疲れるわ」

男「難聴スキルが始めから解除された状態からの攻略だともう物足りない体になってる。飢えた獣に縛りをくれ」

名無し「バカかよ。まだその辺の女子とラブコメ楽しめる気でいるのか? おめでたい通り越してイカれてるぞ、お前」

男「ちょっぴり頭おかしいヤツに『イカれてる』じゃ褒め言葉にしかならないぞ、ほら ニヤけてるだろう?」

名無し「……ヤバいんじゃないの コイツ? 話も聞かないし、終始自分勝手だぞ。悦に浸って帰ってくる気配もねーよ」

名無し「とりあえず同意する奴 素直に手上げてー」

転校生・後輩「……!」ビッ

男(一体お前たちはどちらの味方だと小一時間問いただしてみたいと言ってみたいじゃないか。だけれど、名無しくんってばさ)

男(無駄にイキイキしてるじゃありませんか、男くんは神と担ぎ上げていた時よりも顔ツヤッツヤテカテカしてるぞ)

名無し「はい、多数決の結果 男くん生理的に無理でけってーい。みんなでパチパチパチ」

男「爽やかイケメンの親友装うよりはそっちのダウナー系の方が似合ってるんじゃないか?」

名無し「は? うぜぇ、とっとこ死ね」   男「そう、その辛辣な感じのやつっ……!」

名無し「……はぁ〜あ、鬱陶しい。ウザったくて堪らないよな お前」

名無し「マジで死ねよ。リア充気取ってオレとの距離詰めようとしてきて? ウンコとキスしろよ、ド変態」

男「ようやくお前に近寄れそうな気がしてきた、ウンコ 却下する」

164以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 20:42:25 ID:j/iWmggo
名無し「ていうかさ、お前らのありがたい説教聞かされてオレが改心するとか 思っちゃってんの?」

名無し「ウケる、それウケる。面白くて涙零れちゃう。腹がよじれて吐血しちゃいそう。おえーっ!」

男「自棄っぱちで大きな子ども演出してる名無しくんは、この後どうするのかな?」

転校生「ちょ! 何であんたまでケンカ腰になってるのよ、どっちも一旦落ち着いて!」

男「あいにく、こっちは至って冷静のつもりだぞ。転校生」

男(煽り合いなら上等である、昔は俺も売られたケンカはよく買っていた。ネットという大海で)

男(だがしかし、転校生や後輩にこれ以上彼のヘイトが飛び火しては困る。正確には、刺激して現在の暴走を上回られると、だった)

男「なぁ、さっきコイツのことを人形とか言ったのを覚えてるか」

名無し「え? どうだったかな……直接その言われた本人に訊いてみた方がてっとり早いんじゃない」

後輩「まぁ、そうですね。仰る通りかと」   名無し「すごい淡々としてるなwwwwww」

男「俺はそんなくだらない確認を取りたかったワケじゃない……名無し」

男「立派な人の意思が宿った人形を、人形扱いするのは間違ってるだろ」

名無し「ヒューッ、カッコイイ〜! さすが男さんだ……っ!!」

名無し「でも、根本的な解釈間違ってるのはそっちだわ。オレの好きに踊らされていたからこその“人形”扱いだろ?」

男「なるほど」   転校生「何やりたかったのよ!?」

165以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 21:17:02 ID:j/iWmggo
名無し「だけど……意味合い的にはお前の考えも通じるかも。コイツらはオレの言いなりの、駒だから」

転校生「このクズ、ド屑よ! うちの変態以上のゲスって見た事なかったけど、冗談抜きで使うべき相手が現れるなんて!」

男「お前も大概だわ」

名無し「駒に人権はあるのか? 将棋やチェスみたいに戦略の為の使い捨てが基本だろ。お前の精神論は正義か、男?」

後輩「人権、なんて私も当たり前のように持ってると思ったことありません。所詮 元・神の使いでしたので」

後輩「気遣いも必要ないですね。役目を果たすことが私の生き甲斐というか、生まれた意味ですか? そんな風に納得していました」

男(先程から度々出てくるワード『神の使い』 ……過去の後輩関連の記憶が、不意に思い出される事はなかった。謎めいたミステリアスの正体も)

男(彼女は一体何者なのか? さて、ここは今大事な所じゃない。重要になるのは)

転校生「……バカよ、どいつもこいつも」

男「後輩のヒミツの告白に共感でもしたか? 顔に出てるぞ」

転校生「うるさいわよ……そんな事よりいつまでもあんな奴との会話引き伸ばすことないわ、テンプラって人を交えてさっさと名無しを――えっ?」

男(目の前に気を取られすぎていたせいか 転校生はテンプラの不在に短く声をあげた。何処へと尋ねられるが、その前に)

男「ところで名無し、お前はまだ疑ってるんだよな。後輩がお前の命令に背くお人形になったワケじゃない、と」

男「そこで良い提案がある! 試しにそいつへ好きに指示を出してみたらハッキリするんじゃないか?」

名無し「……」

166以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 21:50:30 ID:j/iWmggo
転校生「ど、どんな提案よ、あんた自分がどれだけアホなこと言ってるかちゃんと分かってる!?」

転校生「その子がアイツに縛られたままだったら、またとんでもない真似されるかもしれないの! わかる!?」

男「この期に及んで諭されたって遅いんじゃないか、転校生。そうだよな、名無し」

名無し「……自分が追い込まれた状況って理解してるんだよな」

男「逆だってば、俺がお前に追い込まれているんじゃない。お前が俺たちにようやく追い込まれたんだ」

男「勘違いするな! やれるものならさっさと動かしてみろ! お前に忠実な人形 兼 駒ってヤツを!!」

後輩「……どうぞ、ご自由に?」

名無し「お前は、男……男くんってさ……ほんと、気が触れてるとしか思えない時あるんだけどさ」

名無し「――――オカルト研に指示するんだよッ!! 今すぐ窓を破って地面に叩き」

男「後輩助けてくれっっ!!」

後輩「イエッサー」

男(まるで始めから決めていたかの様に、合図を受け取った後輩が手を横へ払えば、名無しの体が横へ大きく吹っ飛び ボロボロの壁へ叩きつけられた)

転校生「…………うそ……今の、どういうトリックの……」

後輩「……ごめんなさい。えっと、どうしましょうか? 私としては先輩たちがお灸を据えてあげるべきかな、と」

男「お、おい、名無し完全に伸びてるぞ……」

167以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 22:21:55 ID:j/iWmggo
男(異次元の力にか、倒れた名無しにか、怖々と転校生が近寄って体を突いてみせる。ならば、俺はといえば)

男「……正直驚くしかない」

後輩「やり過ぎだったですかね、でも念には念をという気持ちで……先輩、私が怖いですか?」

男(不安を露わに謙遜した足取りで半歩下がろうとする後輩。そんな彼女へどうこうしようと抑え切れない者など、ここにあらず)

後輩「えっ、わ!! せ、先輩……?」

男(皆まで言うな、様々な気持ちが沸き上がったまま俺は思うがまま彼女を抱きしめていたのだ。この至近距離、角度ならば、顔を見られずに済むのだろう)

男「しばらくこのままでいさせてくれ、後輩」

後輩「あ、あの、それは……すごく困るというか……」

男「頼む。一生一度のお願いだと思って、黙ってこうされていてくれないか」

後輩「いえ、だ、だから! ……あっ」

男「おかえり、後輩ッ……っ、うぅ、あー!! さっきからしつこいなっ、何度肩叩けば気が済むよ!? この感動の対面を」

転校生「空気読めなくて悪いけど話があるのよ。ちょっと顔貸してもらえる?」ニコニコ

男「……ありゃあ」

男(美少女スマイルも場を選ぶ、本日の教訓なのであった)

転校生「よし、野暮用も済んだし話を戻しましょ!」   男「前が見えねェ」

168以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/12(木) 13:57:08 ID:8DwwzRJM
イエッサー後輩かっこいい

169以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/15(日) 20:38:13 ID:uJiBYvbU
男(気になる事、というか気にしなくてはいけない話ばかり積もりそうな予感は、俺たちの問いへ答えた彼女によって座礁する)

後輩「この私どうしてまた自由を取り戻せたか? 神の使いとしての力を振るうことができたのか?」

後輩「わからない、としか今は答えようがありません……」

転校生「えっと……何だか、あっさりだわ。色々常識越えたことの連続からそう来ちゃう?」

後輩「きっと何度もお二人を、いえ、皆さんを困らせてしまっていたと思っています。まずは……気が済むまで謝らせてくれませんか?」

男(口惜しそうに小さく作った握り拳を震わせて、目を伏せる後輩の姿は 逆にこちらが申し訳なさを感じてしまう程である)

男「(いつもの軽口で笑い飛ばしてやれば、むしろ薄情を印象付けてしまうだろう。沈黙のまま、彼女の肩を抱いた転校生に俺は任せた) 不思議パワーうんぬんは置いておくとして、さっきコイツが自分で“元・神の使い”とやらを自覚していたのが気になった」

転校生「え? どういう意味よ?」

男「名無しは、俺から余計な知識とやらを取り上げたがっていただろ。実際俺自身、後輩のあの説明のつかない力や正体について何も知らない。いや、覚えてない、のが正しいのか?」

男「俺が忘れていて、後輩当人の記憶を放置してしまえば まったく意味がなくなってしまう。だからこそ 思い出させる機会を潰す為にした、リセットだ」

後輩「……はい。彼は先輩を遠ざけたかったんだと思います、異常から」

転校生「異常ってあなたが隠していたこととかの話よね? じゃあ、コイツは知らなくていいことを、今までずっと」

男(シンプルなやり方だったと無理に納得はしてみるが、その遠ざけたかった異常を 自ら俺へ晒していた名無し。何のドジアピールだ)

男「おい、話戻していいか。ていうか戻すけどな!」   転校生「あっ、はいはい、どーぞ?」

男「さて、リセットが上手くいっていたなら、なぜ後輩が失った過去を俺たちへ嗅ぐわせてきた?」

170以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/15(日) 21:16:28 ID:uJiBYvbU
男(普通に考えても不自然に値するではないか。名無し先生がベラベラ丁寧に説明してくれた話が、それだけで覆されてしまうのだから)

男「少しでも可能性があればと良かれ、ああしてみたら……」

男(ビンゴ。されど、に至る)

転校生「ねぇ、今はとりあえず他のみんなと合流しない? 難しいことをややこしくさせても、拗れるだけでしょ。変態」

男(転校生の提案に喉を唸らせはしたが、大人しく頷いてみた。確かに、答えを急いだところで得る物は きっとまたよく分からないものだと思う)

男(完全にしがらみを断ち切れたわけでなくても、名無しへ制裁を加えた後輩を見れば ひとまず肩を撫で下ろしても……良い、だろう)

男(……俺は、どれほど踏み込み過ぎて、深淵を覗きこんでしまったのか。罰が当たったのだな)チラ

名無し「      」

男(――――さぁ、欲が深すぎた男の末路は、といった感じから一転。俺含む一同は 廃病院の外に出たワケだが)

男の娘「ど、どうしてお前がこんなところにいるの!?」

後輩「一々驚き過ぎですよ、兄さん。それより 向こうで黒い恰好した人たちがバタバタしているのは?」

男の娘「それよりって! はぁ〜……ほんとにどうなっちゃってるの?」

黒服「貴様ら お嬢様は気を失われている! 普段よりも丁重に扱って車まで運べよッ! お屋敷までお送りを……む」

先生「無事だって、本当にそう思って良いのかしら……」

黒服「安心してくれ、先生。というより まずは礼を言わせて欲しい。貴女が駆け付けてくれなければ こうも簡単に収まらなかったでしょう……」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/15(日) 21:48:08 ID:uJiBYvbU
生徒会長「先生が休日に、しかも男くん同伴でっ、何故こんな場所まで……ふっ!?」

先輩「ダメだって! 今はそっとしておいてあげようよ。とりまお疲れ様の会ってことでラーメンで打ち上げをー……どったの? とりまって古かった?」

生徒会長「……生憎だが、今日はここで解散としよう。私事で悪いが気分も乗らなくてな」

先輩「そ、そっかぁ……うん、そうだね……」

不良女「無理もねーよ。偽ブチョーとかいうのが現れて、おまけに閉じ込められて混乱してんでしょ、あんたの気遣いは伝わってるって」

黒服「…………見た所、互いにお抱えが疲れ切っているようだ。今日の事は一度忘れて休ませてやらねば、な」

先生「ええ、私の方でも一人倒れた生徒がいますし、家まで送ってあげないと――あんたたちこの車最大4人乗りっ!! 全員一回降りろ!!」

男「降りておいた方が身の為だぞ、マジで」

男「先生、名無しはお願いします。というか アイツの自宅を知らないとか前に喋ってましたよね?」

先生「建前だよ。少し休めそうな所まで運んで起きるの待ってるわ、放って置くわけにもいかないし」

転校生「……ねぇ、見張ってなくって平気なの?」

男(そう耳打ちしてきた転校生へ、返事をするまでもなく 俺は先生の愛車の助手席へ入った。危険な車の旅 その道連れは一人で良いのだ)

男「でしたら俺の家で休ませてやりたいと考えてるんですが、問題ありませんか?」

先生「えっ?」

転校生「ぜったいダメに決まってるでしょ!?」

172以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/15(日) 22:14:10 ID:uJiBYvbU
男「じゃ、そういう事で。お疲れ!!」

転校生「だから、ダメに決まってるって言ってるでしょぉぉ〜〜〜!!?」

男(制止を振り切り、助手席の窓を閉めて地獄のジェットコースターは俺と先生、そして今も尚 気を失ったままの王子様を乗せ出発するのであった)

男(そういえば雨、いつのまにか上がっていたのだな。曇り気味だが現在の登場人物たちの心情を表現するにはピッタリの空模様じゃないか)

先生「男くんフリスク食べる? ……あのさ? こういう事、二度とないと嬉しいかもね」

男「すみませんでした」

先生「今回は君のせいばかりじゃないんじゃない? ただの愚痴よ、グチ。言ってみたかっただけ」

男「先生の助けがなかったら、俺 多分発狂してたと思います。閉じ込められた男の娘たちを助けてくださってありがとうございました」

先生「助けたも何も、棒をどけただけでしょ……中開けてビックリしたよ? 一人倒れてるし、二人は泣きっ面で」

先生「で、教えて欲しいんだけれど あんた達は上で何やってたの。後ろで寝てる名無しくんは何?」

男「わかりません」

先生「わかりませんって……そうよねぇ、私も何がなんだかサッパリわかんない。困ったもんだわ」

男(そう答えるしかないだろう。一から十を説明と命令されても俺でさえ理解が追い付いていない。巻き込まれて、あるいは、巻き込んでこのザマよ)

男「あ、そこの角右に曲がったらすぐです」

先生「知ってるよ? 前に送ったことあったでしょ」

173以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/15(日) 22:44:46 ID:uJiBYvbU
男「先生って実はローテンションの方が運転上手になるんじゃないですか?」

先生「バカ言ってないで名無しくん降ろすの手伝いなさいよ。この歳の、男の子ってっ、重い……っ!」

男(というよりは気を失った脱力効果+が大きいと思われ。先生と共に名無しを肩で担いで家まで入れれば、我が家のアイドルマミタスのお迎えである)

マミタス「シャーッ!!」

先生「げっ! 招かれてないっぽいんだけど、いいの? 本当にこのまま彼預かっちゃって」

男「構いません。友人です」

男(両親の寝室まで案内したところでベッドへ投げるように名無しを置くと、ようやく俺たちは揃って息をつく事ができた。張り詰めた緊張なんかも解れて、いけば)

男「ご苦労さまです。お茶淹れるんで休んで行ってください、親もいないし家庭訪問みたいな気分もないでしょう?」

先生「ていうか高校は家庭訪問ないから、君……帰るよ。先生も家でくつろぎたい気分だし」

男「ゲームできない時間が惜しいって言えばいいのに」   先生「黙ってろ」

先生「そうじゃなくって……職場、あっ、学校にも連絡しなきゃいけないし……大人だから色々事情があるの。察してくれる?」

男「俺もいつかは先生みたいに責任に追われなきゃいけない立場になるって思うと、反吐出ますよ」

先生「ふふふっ、違いない! 誰だってそうよ。君の将来がどうなるか分からないけれど、自分が関わった事には終わるまで付き合ってあげなさい?」

先生「因縁っていうの? まぁ、いっか……明日また学校で元気な顔見せてね、男くん」

男「そりゃあもうご心配なく、先生! へへっ!」

174以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/16(月) 15:08:45 ID:zfy2DOJc
後輩かわいいんぢゃー

175以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/17(火) 20:46:13 ID:haKRowx2
男(客人は最大限持て成し、綺麗な別れをと祖父がよく語っていたものだ。親の教えを守り、玄関の外まで先生を見送るのが仮家主の務めである)

男(不意な疑問が頭を過る。美人へ出した呑みかけの茶を、訂正、不意ではなく不埒だった。送り届けた後 再度名無しを寝かせた部屋へ戻ると)

男「ふむ、よほど効いたみたいだな。テンプラの片割れだとしても 耐久性は人並みとな」

男(眠る横顔を見下ろし、廃病院で起こった出来事の余韻に浸ってみる。テンプラや後輩といい、彼への対抗が味方に付いたならば前述した通り、しばらくは騒ぎの心配は要らないだろうか)

男(歪んだこの友人を更生するつもりも、してやれる気もしないが 眺めていると己が罪が沸々と湧いてきて)

男(憂鬱じゃないか)

男「ふぅー、やれやれだよ、妹はともかく天使ちゃんを預けて来たのは正解だったかもしれん」

男「アイツも余計なことに首突っ込みたがりだしなぁ。誰に似たのやら……なんちゃって」

名無し「独り言なら一人でやってくれよ。うるさい」

男「そいつは悪かった――――はあ!? いつから目覚ましてたんだよ! お前っ!?」

名無し「しばらく狸寝入りしてた方が都合良かったんだろ? ……あーあ、まだ体痛てぇ」

男(むくりと起き上がった名無しは俺が親切心から貼ってやった冷えピタを鬱陶しげに剥がして、壁に投げつけやがった。風邪でもあるまいし、と。ええ、まぁ)

男「おい、待てって! どこ行くつもりだ、体が痛むんだろ? 無理しなくても」

名無し「は? 気持ち悪い」

男(そんな率直ドストレートな感想を美少女以外から頂いてもご褒美じゃないのです、お兄さん)

176以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/17(火) 21:13:02 ID:haKRowx2
名無し「親切にされたら誰でも恩に着ると思ってるのか? 大間違いだねぇ、偽善者どの」

男「野郎なんかに気を掛けてる奴が、第一に美少女の園なんぞ望むと思うのか?」

名無し「知らんね、お前のグルグルした頭の中なんてオレ程度が分かってやれる気はしない。精々楽しくやってりゃあ良いんじゃね!?」

男(刹那よ、さらば、と別れを告げようとする名無しの前に立っている俺がいた。……これから俺は最も自分が納得し得ない言動を発する羽目となる)

男「泊まって行けよ。友だちだろ?」

名無し「…………どうかしてるってレベルじゃないんだよ、お前!!」

名無し「誰が、どいつの家に、世話になれって!? 頭おかしすぎんだろッ!? 自覚あるかな!?」

男「なんと、まさか! ただいま我が家は現在来るもの拒まずキャンペーン実施中とご存じないと!?」

男「気にするなよ、名無し。人外かどうかよく知らんが ここに居れば美味い飯にも困らないし、人恋しさを解消できる」

男「世界中探し回ったってこんな天国見つからないと思うんだが、絶対に」

名無し「…………」

男(わかる。わかるぞ、その表情。警戒していて、疑っていて、呆れ果てていて、情けなくて、どうしようもなくお手上げを意味しているのだろう。名無し)

男「どうせ帰る家なんてないんだろ。だったら、一晩ぐらい温かい屋根の下も悪くないんじゃないか?」

名無し「……オイ、この部屋じゃ生活感が気に食わない。もっと落ち着けそうなとこ用意しろ」

男「案外潔癖症なんだな、俺と真逆だ お前って」

177以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/17(火) 21:48:06 ID:haKRowx2
男(それにしてもこの捻くれ者へ使わせる部屋とな。客間を案内した所で満足してくれそうにもないだろう? 定石狙いで押入れか)

名無し「止まれ。ここでいいよ、十分だ」

男「え?」

男(そう言って名無しが立ち止まった部屋は、最近ご無沙汰である暗室だ。悲しきかな、埃やカビと同居するのが お好みらしい)

名無し「用事があるなら自分から出て来る。お前らは基本 ここに立ち入るな、オレの城だ」

男「どこの家庭にも引き篭もりは一人って世間の流行りなのか?」

名無し「死ね。とにかく、オレは他の奴らと連むつもりはない。終焉の時をこの隔離された牢獄の中で待つだけだし……」

男「カッコつけた言われ方されても実質物置だからな、ここ」

名無し「二度死ね。いいかよ? 忠告はしたからな、間違っても家族とかガキとか寄越すな。出来損ないの脳味噌で記憶したかな?」

男(もう何だコイツ……)

名無し「うっわ! お客さまにお持て成しも出来ないんスかねぇ、この家ェーッ!?」バタバタ

男「悪かった、しけた柿の種がお前に相応しい」

男(うるさいチンパンジーを檻に閉じ込め、ありがたい静けさに感謝しつつここで午後のティータイム。休日だからな)

男「……幼馴染に会いに行くか」

男(言うが先か、体は既に行動へ移していたのである)


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