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('A`)は撃鉄のようです
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__ ,、
く_;:::ハ /::ヘ
(_厂 ヒコ
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放棄区画から入る場合、目的の噴水広場はほぼ反対側になってしまう。
メリットは足止めを食らわないこと、無関係な人の迷惑にならないこと。
主に後者を心配してのルート選択だったが、それが運良くミルナの死角を突いていた。
結果、なおるよは難なく放棄区画に立ち入る事ができたのだった。
('(゚∀゚;∩(……よし、まだ来ない。気付かれてないんだよ)
('(゚∀゚;∩(時間は……)チラッ
人気のない大通りを走りながら腕時計を一瞥。
時刻は午前十一時を数分過ぎた直後だった。
('(゚∀゚;∩(あと十分も走ればこの区画を抜けられる!
それまで気付かれなければっ……!)
なおるよが希望を持って思った時、それは、空からやってきた。
('(゚∀゚∩「――――」ピクッ
頭上に落ちた黒い影。
なおるよは反射的に顔を上げ、一気に目を見開いて叫んだ。
.
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('(゚∀゚;∩「――来たッ!!」ズザザザッ!
なおるよは咄嗟に踏ん張って立ち止まり、全力で後方にジャンプした。
直後その場に爆風と砂塵が巻き起こり、なおるよは衝撃の余波に大きく吹き飛ばされた。
('(゚∀゚;∩「おおっ!?」
飛ばされた先は廃屋。
なおるよは古びた窓ガラスを突き破り、中の家具もろとも床を転がった。
砕けたガラスが彼の体に降り注ぎ、いくつもの切り傷を作る。
('(゚∀゚;∩(一つ! 止まらないッ!)ガバッ!
なおるよは一瞬で立ち上がり、振り返らずに廃屋の奥へと駆け込んだ。
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グチョッ・・・
”
. ..:.“..:.:. .:..:. :::.,..;;;(⌒ 、 . ..”
:.:.:. .. .:..ノ;;ゞ/,,リ、∵∴ ∴) ...
”(∵ ⌒" ∴∵∴ r'. ..:.: グチッ・・・
(●)∴¨"、,∵∴∵.∴.). .:.:
..・・¨ γ ∵ ”
一方、空から落ちてきた定形すらない黒い塊は、
ゆっくりと、なおるよの後を追い始めた。
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なおるよは廃屋の裏口から路地裏に出た。
左右をそれぞれ一瞥し、より広い場所を目指して進路を決める。
('(゚∀゚;∩「あっち!」
なおるよは右に向かって飛び出した。
間髪いれず、彼を追って黒い塊が背後に現れる。
黒い塊は水のように流動し、一定の速度を保ってなおるよを追跡した。
('(゚∀゚;∩(あの感じ、やっぱりミルナと同じだよ……)
一瞬振り返って黒い塊を目視するなおるよ。
彼はその物質から、ミルナと同じ雰囲気を直感した。
('(゚∀゚;∩(……話し合いは無理だ……!)
.
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路地裏から大きな通りに出て、再び左右を見回す。
噴水広場への道順を急いで整理し、今度は左に向かって走り出した。
そうしてしばらく走ってから、ふと背後を振り返る。
そこに、黒い塊の姿はない。
('(゚∀゚;∩「……」
走るのを止め、ゆっくりと歩いてみる。
自分の足音が消えた今、そこには不穏な静寂が広がっていた。
放棄された場所だからという理由だけではない、もっと別の違和感。
言葉を変えれば、なおるよが肌で感じたものは 『危機感』 だった。
こっちからは見えないが、敵がどこかから見ている。
('(゚∀゚;∩(……屋内に入るんだよ)
なおるよはじりじりと壁際に寄り、大きめの廃屋を選んで中に入った。
元は飲食店だったであろうその廃屋は、開店当時のまま放棄されたのか、
各所に分厚い埃を被っていても家具や食器はしっかりと整理されていた。
それはそれで不自然だったのだが、今は無駄な事を気にする余裕はない。
('(゚∀゚;∩(とりあえず入り口を塞ぐんだよ)
なおるよは店内のテーブルや椅子を持ち寄ってドアを封鎖した。
あの物質なら液体のようにすり抜けてくるだろうが、少しでも足止め出来ればそれでいい。
ミルナの追跡は手強い。今後更に激化するのも目に見えている。
だからこそ、今ここで考える時間を作らなければ先が無いのだ。
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('(゚∀゚;∩(……ハッキリした攻撃がまだ来てない。
どうして? こっちの能力が分からないから警戒してる?)
('(゚∀゚;∩(あの黒い塊で僕の能力を探ってるのかな……。
だったら逆に、向こうの能力を探ってやるんだよ……)
なおるよが持つ超能力は『無効化』の能力。
三つの条件を満たした場合に限り、他者の超能力を問答無用で消滅させる能力だ。
('(゚∀゚;∩(発動条件その1・対象の能力を理解すること)
('(゚∀゚;∩(まず、この状況を利用してミルナの能力を把握するんだよ……)
活路を見出し、再び奮起したなおるよ。
外から水音が聞こえてくる。黒い塊が追いついて来たのだ。
('(゚∀゚;∩(まあ、素早くないのだけが救いかな……)
ピチャピチャという水音はドアの向こう側にしばらく留まった後、呆気なく沈黙した。
なおるよはジッとドアを睨みつけ、黒い塊が入ってくるのを待ち構えた。
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――ふぉん。
風を切るような、軽い音。
その直後、近くにあったテーブルが真っ二つに分かれ、床に倒れた。
('(゚∀゚;∩(……前言撤回)
切断されたテーブルを一瞥し、なおるよは拳を固く握りしめた。
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( ゚д゚ )(……外した、のか)
なおるよが隠れた廃屋を観察しながら、ミルナは物陰で小さく呟いた。
( ゚д゚ )(tanasinnの感知能力、感知範囲はともかく精度が駄目だ。
俺自身が力を制御出来てない証拠だな……)
ミルナが頭の中で 『戻れ』 と唱える。
すると、なおるよを攻撃していた黒い塊はいそいそと彼の所に帰ってきた。
黒い塊はミルナの影に混ざり、居なくなる。
( ゚д゚ )(形状の変化も難しいし、不定形の維持もすごい疲れた……。
遠隔操作は燃費が悪いな……)
物陰を出て歩き出し、胸元で右拳を構える。
ミルナは超能力『マグナムブロウ』を発動した。
( ゚д゚ )(ドクオに怪しまれるし、さっさと殺して戻ろう)
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≪3≫
ドアノブを捻って手前に引くと、足元をテーブルや椅子が塞いでいた。
( ゚д゚ )(……バリケードなのか?
引くドアだから意味無いんじゃ……)
ミルナは普通に障害物をどかし、中に入った。
細かい埃が舞い上がり、視界を濁らせる。
目の前の埃を手で払い、店内を見渡す。
ミルナはその途中、二つに切断されたテーブルが床を転がっているのを見つけた。
二つに分かれたテーブルをよく観察すると、わずかに血痕があった。
( ゚д゚ )(……掠っていたか。感が冴えん)
血のついた手で触ったであろう痕跡も周囲にいくつか見受けられる。
ミルナはそれらを冷静に見つけ出し、血痕を辿った。
( ゚д゚ )(血は奥に続いてる。厨房に逃げ込んだな)
――と、ミルナはここまで考察して我に返った。
(;゚д゚ )(感知すりゃいいんだった)
集中し、なおるよの居所を探る。案の定、やはり厨房の中に居た。
しかも先程の攻撃が致命傷になっていたらしく、彼は厨房の壁際に座ってグッタリしていた。
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( ゚д゚ )「……」
ミルナは忍び足で厨房のドアに近づき、ドアを少し開けた。
その隙間から荒い息遣いが聞こえてくる。しかし、なおるよの姿は見えない。
ミルナは徐々にドアを押し広げた。
('( ∀ ;∩「ぐううううッ……!」
やがて、痛切な唸り声が右側から聞こえてきた。
ミルナは勝負が決した事を察し、厨房に入ってなおるよを捉えた。
( ゚д゚ )「……」
('( ∀ ;∩「はぁ……はぁ……!」
なおるよは右肩から腰骨にかけて大きな切り傷を負っていた。
出血量も凄まじく、放っておけば確実に死ぬのは明らかだった。
( ゚д゚ )「……」
放っておけば、彼は苦しんで死ぬ。
ミルナはしばし考えてから、なおるよに歩み寄った。
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( ゚д゚ )「中途半端に当てて悪かった。
今、止めを刺す――」
なおるよの前に行くと、ミルナは超能力を解いて床に片膝をついた。
彼の首元に手刀を当て、その手にtanasinnの黒煙を纏わせる。
('( ∀ ;∩「や、やめ……」
( ゚д゚ )「ここで生き延びても殺す。諦めろ」
黒煙を纏った手刀が首の薄皮を切り、グッと押し込まれる。
首筋からたっぷりと血が溢れ、死が近づいてくる。
('( ∀ ;∩
最中、なおるよは笑っていた。
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( ゚д゚ )(……なんだ?)
違和感を覚えて手を止めるミルナ。
嫌な感じがした。その一瞬の停滞が、彼に冷静な思考をさせてしまった。
後ろで、何かがパチパチと鳴っている。
ミルナは咄嗟に振り返った。
( ゚д゚ )(あれは――――)
点火済みのガスコンロと、それに加熱される多数のガス缶、ガラス片。
それを見つけ、彼の笑みの理由を察した時には手遅れだった。
(;゚д゚ )「こいつッ!!」 バッ!!
('(゚∀゚;∩「おああッ!」
ミルナが身を引くと同時になおるよは動いた。
彼は隠し持ったガラス片を振りかざし、ミルナの太腿に深々と突き刺した。
(; д )「ぐッ!」
('(゚∀゚;∩「舐めんなッ!」 ゲシッ
なおるよは足を抑えて悶えるミルナを蹴り飛ばし、自分は窓を突き破って外に逃げ出した。
.
-
直火に晒されたガス缶が、いよいよ炸裂した。
中身がコンロの火に引火して燃え上がり、巨大な火炎となって一気に膨れ上がる。
なおるよが仕掛けた罠は、たった今ミルナを“詰み”の状況に引きずり込んだ。
0.5秒にも満たない時間の最中、ミルナは咄嗟に体を丸めて防御の体勢を取った。
(;゚д゚ )(tanasinnならまだ間に合ッ――)
更にtanasinnを用いて守りを固めようとした瞬間、多数の鋭い痛みが彼の思考を遮断した。
ミルナは反射的に、自身の両腕を見直してしまった。
(;゚д゚ )(これは――)
腕には透明な破片がいくつも突き刺さっていた。
それには見覚えがあった。ガス缶と一緒に加熱されていたガラス片だ。
ガス缶の炸裂で細かく砕けたガラス片が、火の手よりも早くミルナを攻撃したのだ。
(;゚д゚ )(――――)
そんな無駄な思考を経て視線を戻すも、思考が状況に追いつかない。
膨大した火炎は、一瞬でミルナを包囲した。
.
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≪4≫
(,,゚Д゚)「あそこだ。先に始めてやがる」
(;'A`)「まともなメシ、久し振りな気がする……久し振りばっかだ……」
店に入ったギコとドクオは、奥のテーブルに集まったダディクール一行のもとに行った。
|(●), 、(●)、|「おお、来たか。元気にしてたか?」
('A`)「不健康そのものだよ。そっちは元気そうだな」
(,,゚Д゚)「お前そっちつめろよ」 グイ
【+ 】ゞ゚;)「押すな」
ノパ⊿゚)「おう。元気が一番だ」ムシャムシャ
|(●), 、(●)、|「まぁとりあえず食べるぞ、話はそれからだ」
ノハ*゚⊿゚)「ぶっちゃけ監獄の方がメシ美味かったけどな!」
.
-
その後は、各々好き勝手に飲み食いしながら雑談を楽しんだ。
(#,,゚Д゚)「それオレのもんだぞ!」
ノハ*゚⊿゚)「追加注文しろよどうせ奢りだろ〜」
(,,゚Д゚)「じゃあこれ貰うぞ」ヒョイパクー
ノパ⊿゚)「あっ殺す」
(,,゚Д゚)「は?」
(#,,゚Д゚)「上等だ女ァ!! 表出ろォ!」
ノハ#゚⊿゚)「出たらメシ食えねェだろ馬鹿かァ!?」
(;'A`)「タベモノガ・・・モウナイ・・・」
【+ 】ゞ゚;)「……俺のをやる」
がっつく二人に気圧されて貧困根暗クソ野郎と化したドクオ。
棺桶死オサムはクソ野郎を哀れみ、自分のスパゲッティを分け与えた。
.
-
('A`)「……棺桶死、だったよな?」
フォークでスパゲッティを巻き取りつつ、ドクオは無難な話題で彼に話し掛けた。
【+ 】ゞ゚)「呼び方は何でもいい。それも偽名だ」
('A`)「……じゃあオサム。お前それ眼帯、カッコイイよな」
【+ 】ゞ゚;)「同じ事を、脱獄の日にも言われたが」
( 'A`)「そうだっけ? でもマジでカッコイイぜ、それ」
ちゅるりん。ドクオはスパゲッティを食べた。カルボナーラ(笑)
('A`)「あん時な、脱獄の時。手ぇ貸してくれて助かったよ。
お前すげー強いんだな。ビックリしたわ」
【+ 】ゞ゚)「それならこいつのおかげだ。あの晩、俺は役立たずだった」
彼は得意気に右目の眼帯を叩いた。
,_
('A`)「……それがぁ? なんで」
【+ 】ゞ゚)「異物を知らないか? 何も無くても超能力を使えるんだ」
('A`)
('A`)「……マジかよ……」
今までの俺の努力は何だったのか。ドクオは脱力して呟いた。
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('A`)「――あっ」
【+ 】ゞ゚)「どうした?」
('A`)「そうだ、見たわ。お前の言う『異物』を使うすごい奴」
ドクオはフォークで空中に弧を描いた。
('A`)「八頭身! あいつ凄かったなぁ」
('A`)「なんか凄いデカイ剣を持っててさ、その剣に水晶はめるんだよ。
そしたら色々出てくんの。しかも水晶いっぱい持ってたし、あれ反則だって」
【+ 】ゞ゚)「……凄いあやふやだが、異物を複数持ってたのか?
確かに凄いな。異物の扱いは結構難しいんだが……」
('A`)「そうなの? お前の眼帯も?」
【+ 】ゞ゚)「こいつの場合、はっきりした人格と意思を持ってる。
それに認められない限り、力は使えないんだ」
(;'A`)「……ふ、ふ〜ん……」
ドクオは歯切れ悪く言ってから、オサムの眼帯をチラ見した。
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来てるな支援
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(;'A`)「……ちなみに、俺じゃ使えない?」
【+ 】ゞ゚)「……付けてみるか?」
(;'A`)「……中の人に怒られない?」
【+ 】ゞ゚)「見込みが無ければ、そもそも話も出来ない」
ドクオは少し考えてから、オサムに手の平を差し出した。
(;'A`)っ 「……ちょっといい? ダメ元で試す」
【+ 】ゞ゚)「まぁ根は良い奴だ。話せるといいな」
ドクオは渡された眼帯をまじまじと見つめてから、意を決してそれを装着した。
【+】A`)
【+】A`)「似合う?」 チラ
( ゚"_ゞ゚)「……」
【+】A`)「……」
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('A`)「ところでさ、お前はなんでココに来たんだ?」
【+ 】ゞ゚)「……なんで、というのも分からんな。
動機の話でいいのか?」
直前三十秒間のやり取りを忘れ、二人は話を続けた。
('A`)「正直この中じゃ一番冷めた感じがするから、不思議に思った」
【+ 】ゞ゚)「お前こそ、女の為に体を張るような感じはしないがな」
( 'A`)「……察しろ恥ずかしい」
わざとらしく顔を背けたドクオを見て、オサムは頬を緩めた。
【+ 】ゞ゚)「……俺は、なんというか……」
シャキンが言った事を確かめる為、とは言えず、オサムは語尾を濁す。
【+ 】ゞ゚)「……そうだな、強いて言えば気まぐれだ」
(;'A`)「あー出た、強い奴にありがちなヤツ」
('A`)「ったく、強い奴は主体性がない法則でもあんのかよ」
呆れた様子で瞑目し、頭を振る。
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('A`)「……そういや遅いな」
【+ 】ゞ゚)「料理がか?」
('A`)「いや、ミルナ。あいつ今ウンコしてるんだ」
ミルナという言葉に、オサムの眉がピクリと跳ねた。
【+ 】ゞ゚)「……来てるのか?」
('A`)「ああ。なおるよも来てたんだぜ、さっき帰ったけどな」
(;,,゚Д゚)「帰った!? なんでだよ、引き止めろよ!」
山盛りポテトを抱えたまま、ギコが話に割り込んできた。
(;'A`)「いやっ! だって流石に小さすぎるだろ! 危ねぇよ!」
(;,,゚Д゚)「貴重な戦力が……。つーかお前も十分ガキだっての!」
ギコはそう言い、ポテトでドクオをつついた。
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【+ 】ゞ゚)「……探しに行ってくる」
('A`)「お?」
ドクオは席を立ったオサムを目で追った。
【+ 】ゞ゚)「ミルナがどこに行ったか分かるか?」
('A`)「その辺のトイレだろ? 別に探しに行かなくても……」
【+ 】ゞ゚)「……襲われてるかもしれないだろ。
俺達の思惑を向こう側が知れば、何かあっても不思議じゃない」
(;,,゚Д゚)「いや、考えすぎだろ。俺らが動き出したの一週間前だぞ」
【+ 】ゞ゚)「俺だってそう思う。だから見てくるだけだ。
本当にトイレが長引いてるならそれでいい。
紙が無くて困ってるだけかも知れん」
('A`)(ありそうだなぁ……)
ダディクールは、視線をティーカップに向けたまま思考した。
|(●), 、(●)、|(……『本当に』か。何を探っているんだかな……)
ノパ⊿゚)「行くならお前らで行ってくれよな。あたしはメシを食うから」ムシャムシャ
(,,゚Д゚)「お前は周りに合わせるって事を覚えろ」サクッ
ヒートの鼻に熱いポテトが突き刺さった。
【+ 】ゞ゚)「それじゃあ、また後でな」
('A`)「……俺も行こうか?」
ドクオは提案したが、彼はそのまま店を出て行った。
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≪5≫
クソワロタの放棄区画に、男の声がこだまする。
\(^o^)/「色々売ってるよぉ〜」
\(^o^)/「仕入れも出来るよぉ〜」
男は健気に売り文句を言いながら、周囲を見回しながら客が来るのを待っていた。
しかしここは放棄区画。小さな露店を構えて数ヶ月、客足は絶滅していた。
\(^o^)/「……」
\(;^o^)/「……」
彼の名前は人生オワタ。
('A`)は撃鉄のようです第8話に登場し、黒ローブの男と戦った一般的な会社員である。
そんな彼がなぜ、一体どうしてレムナントの街・クソワロタに居るのか。
その理由を簡潔にまとめると以下の通りになる。
1・『ThisMan』の一件が色々作用して会社が倒産
2・色々あって一文無しに
3・以上の理由でレムナントでの生活を余儀なくされる
社会の荒波に揉まれた結果、彼はこの街に流れ着いたのだった。
世の中には色んな事があるため、決して不自然な事ではなかった。
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\(;^o^)/「ハァ〜〜客なんか来る訳ねえだろ〜こんなトコでさぁ〜〜」
オワタは弱々しく空を見上げた後、がっくりと肩を落とした。
\(;^o^)/「あんな奴の言うこと聞くんじゃ無かった……。
こっちに居た方が利口だとか……完全に騙されたわ……」
\(^o^)/(……お?)
遠くに足音を聞いたオワタは、咄嗟に姿勢を正して身構えた。
この客の羽振り次第で今日の夕飯が決まる。心身は自然と滾った。
\(;^o^)/(ぜってえ逃がさねぇ……!)
('(゚∀゚;∩「……」
しかし、やってきたのは大怪我をした子供。
とても金銭を期待できる雰囲気ではなかった。
.
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\(;^o^)/「……いらっしゃい」
('(゚∀゚;∩「……水、ある?」
\(;^o^)/「……水ってか、絆創膏とかあるけど、買う?」
('(゚∀゚;∩「……水だけ」
なおるよはポケットから紙幣を掴み取り、数えもせずにオワタに渡した。
オワタは状況が分からず面食らったが、すぐに水入りのペットボトルを彼に差し出した。
('(゚∀゚;∩「……銃……」
ボトルを開けて水を飲み始めたなおるよが、商品として出されていた拳銃に目をつける。
なおるよは水を飲み干してボトルをポイ捨てし、拳銃を指した。
('(゚∀゚;∩「あれ、使えるの?」
\(;^o^)/「一応使えるけど……え、買うの?」
('(゚∀゚;∩「……お金、さっきので足りる?」
\(;^o^)/「足りるけど……お前、何? どうかしたの?」
('(゚∀゚;∩「子供にも色々あるんだよ」
なおるよは拳銃を受け取り、弾が入ってるのを確認してポケットに差し込んだ。
.
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('(゚∀゚;∩「助かったよ。じゃあ急いでるから……お願いね……」
なおるよは軽く頭を下げ、オワタの前を去った。
\(;^o^)/(……物騒な街だぜ。
ガキがあんなに逞しいってスゲー……)
\(^o^)/(でもまぁ何にせよ収入ゲット!
これでまともなメシを食える! うおお!)
オワタは早速売上金を数えた。
今回の売り上げは五万円。今のオワタにとって、これは十分すぎる額であった。
\(^o^)/(なんという奇跡……ありがとう名も知らぬガキよ……)
\(^o^)/(これを元手にして、いつか向こう側の生活に戻ってやる!)
\(^o^)/「……お?」
その時、オワタは紙幣の中に別の紙切れが混ざっているのを見つけた。
\(^o^)/「なんだこりゃ……」
オワタは紙幣に紛れていた紙切れをつまみ、訝しげに広げた。
.
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≪6≫
ミルナは 『不幸』 を自覚した事が無かった。
彼は、『俺は不幸だ』と人に言った事が無かった。
彼には、昔からこういう考えがあった。
自分より弱い人間に助けを求めるのは、それ自体が暴力であると。
ミルナは殆どの他人を『弱者』だと思っていた。
自分より弱く、頼るに値しない存在だと認識していた。
決して周囲の人間を見下していた訳ではないが、少なくとも、助けを求めるには脆すぎる存在だと思っていた。
実際それは正しい認識だった。
tanasinnと関わる以前でも、ミルナに匹敵する強者はそう居なかった。
だから誰にも頼らなかった。あらゆる事を一人でこなし、あらゆる敵を一人で倒してきた。
.
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しかし、tanasinnに出会ってからその生き方は一変した。
彼は変わりゆく世界を生きながら、時に仲間を作り、tanasinnに立ち向かった。
結末は全滅。何度仲間達と戦いを挑もうと、その悉くを皆殺しにされた。
結局最後には何も残らず、誰もついて来ていない。
振り返れば、そこには死体の山が積み上がっているだけ。
死体の山を見る度、彼は自分の言葉を思い出して自責した。
そして、孤独に耐え切れず、自分以下の存在に囲まれて現実逃避に励む自分を強く自覚させられる。
上には立ち向かわず、延々下に向かって吼えているだけ。
tanasinnを得て強くなった筈なのに、ミルナは自分がどんどん弱くなっている気がしていた。
一方的に与えられた力は、呪いに他ならない。
ミルナは自責する。
( д )(俺はこんな人間じゃなかった筈だ)
( д )(自分より弱い人間を、こんな風に利用する卑怯者じゃなかった筈だ)
( д )(俺は、自分の現実から目を背ける為に他人を利用している……)
.
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深い深い漆黒の中にひきこもった彼は、孤独を享受した。
そうせざるをえなかった。
誰彼構わず人に頼る弱い自分を否定しながら、
一人で何にでも立ち向かっていた頃の自分を演じるには、孤独に身を潜めるしかなかった。
自分の人生から他者を排除する事でしか自分を守れない。
そんな人間に成り果ててしまいながら、ミルナは心の奥底で願い続けていた。
いつか自分より強い誰かが現れて、この弱さ諸共自分を消し去ってくれないか。
この願いすら自分の弱さだと自責しながら、彼はひたすら漆黒の中で考え続ける。
漆黒を出て、荒野を歩き、今に至っても。
ミルナの願いは、それだけだった。
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('(゚∀゚;∩「……もう少しだよ……!」
なおるよは、確実に噴水広場へと前進していた。
傷を負った体を懸命に動かし、彼は放棄区画を抜ける寸前にまで来ていた。
人の声がだいぶ近くに聞こえる。
ほんの少し、胸をなでおろす。
('(゚∀゚;∩(……頭がぼーっとする……切りすぎたかな……)
なおるよが負った右肩から腰骨にかけての大きな切り傷。
それは、自らガラス片で作った自作自演の傷であった。
ミルナを誘き出して注意を引く為とはいえ、やりすぎたと反省する。
('(゚∀゚;∩(まぁ、あの程度で死んだはず無いけど、足止めは出来た、と思いたい……)
('(゚∀゚;∩(追ってきたとしても、今なら僕の能力で対抗できる……はず)
なおるよの無効化能力の発動には、対象となる能力への理解が必要である。
十分ではないにしろ、なおるよはミルナの力を多少なり理解している。
いずれ追いつかれた時には、問答無用で超能力を発動するつもりだった。
.
-
――黒煙の具現化、形状変化、遠隔操作、感知能力、撃鉄の能力。
そして更に回復能力もある、となおるよは推測していた。
ミルナが追って来ないのも、恐らく肉体の回復に手間取っているからに違いない。
('(゚∀゚;∩(……はず。多分。分かんないけど)
何にせよ前進を急ぐべきだ、と結論を出す。
あらゆる推測に自信を持てない今、出来るのは前に進む事だけだ。
なおるよは傷の様子を見つつ、走り出した。
('(゚∀゚;∩
――その矢先、なおるよは背筋に冷気を感じた。
今度のは分かりやすい脅しではない。
凍てついた殺意。それが背後に現れた。
.
-
('(゚∀゚;∩「クッソ!!」
なおるよは脇目もふらずに疾走した。
あと少しで人気のある場所に出られる。あと十秒あれば安全圏に出られる。
当初は人混みを避けようと考えていたが、もはや人混みを利用してでも前に進むしかない。
なおるよには伝えなければならない事がある。自分しか知らない『この事』を、誰かに残さなければ……。
彼は薄暗い小道を光に向かって走った。殺意がそれを追い、どんどん近づいてくる。
猶予は無かった。崩れ落ちていく崖が一歩後ろにあるような絶望感が、今にも彼の足を掴もうとしていた。
('(゚∀゚;∩(間に合う――ッ!)
あと数歩で明るい日差しのもとに出られる。
彼は微笑んだまま、光の中に身を投げた。
.
-
――鮮烈な太陽の日差しが、なおるよを照らした。
彼は勢い余って倒れ込み、地面をごろごろと転がった。
('(゚∀゚;∩(――間に合ったッ!)ガバッ
すぐ近くに聞こえるガヤガヤした声、ドタバタした足音。
いつもは小うるさいとしか思わない雑音に心底安心を覚えながら、なおるよは汗ばんだ顔を上げた。
.
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('(゚∀゚∩
なおるよが聞いた、それらの雑音。
それには、ノイズが混ざっていた。
人の声には悲鳴が。
足音には、足ではない物が地面を叩く音が混ざっていた。
赤い塊がひとつ、地面に落ちて転がっていく。
なおるよは目に映る光景を理解出来ず、立ち上がるという思考すら出来なかった。
何かをする、という段階まで脳が動かなかった。
.
-
形振り構わず逃げていく人々がとは別に、道に巨大な人混みがあった。
数人が、それぞれ超能力を発動したまま誰かを睨んでいる。
一人の能力者が意を決して中心に飛び込む。
それが箍を外したのか、他の能力者も一斉に動き出した。
次いで、風を切る音が響いた。
直後、人混みを形成していた人間は全て血飛沫に変わった。
ある程度は肉として残ったが、大半は粘り気のある血飛沫になって広範囲に飛び散った。
人が消えた事で、なおるよにも中心が見えた。
( ゚д゚ )
無機質な瞳と、目が合う。
そこに居たのは、黒煙を周囲に漂わせたミルナだった。
ミルナの視線は一直線にこちらに向いていた。
('(゚∀゚;∩「ひっ……!」
押し潰された悲鳴が小さく上がる。
なおるよは逃げるとか戦うとか以前に、全身から力が抜け落ちてしまった。
.
-
この場の人間が、ミルナの黒煙によって次々と血肉に変わっていく。
ミルナに近づく者は何度もシュレッダーに掛けられたように粉々になり、
逃げていく者はわざわざ黒煙で引っ張り戻されて殺された。
標的に例外は無かった。
泣き叫ぶ子供も、それを守ろうとした母親も細切れになって死んだ。
そこで行われているのは、単なる屠殺作業でしかなかった。
( ゚д゚ )
ミルナの視線はなおるよを捉えたままだった。
その傍らで、ミルナの黒煙が作業的に人々を殺していく。
“お前が巻き込んだ”。
ミルナの目は、そう語っていた。
('(゚∀゚;∩「……やっ……」
やめろ、とは言えなかった。なおるよは直感して分かっていた。
彼らを巻き込んだのが自分で、自分の考えが甘かったせいで、こうなってしまった事を。
.
-
ミルナの作業はものの数十秒で終わった。
生きている人間は、少なくともこの周辺には二人だけ。
それだけ徹底的に邪魔者を排除した以上、次に殺されるのが自分なのは考えるまでもなかった。
( ゚д゚ )「……この傷は……」
ゆっくりと歩き出したミルナは、その歩調同様にゆっくりと話し始めた。
彼は、自身の顔に残った火傷の痕を指でなぞった。
( ゚д゚ )「俺が 『人間』 として負った、最後の傷になるだろう」
( ゚д゚ )「……目撃者は皆殺しだ」
('(゚∀゚;∩(……な、何か……何かしなくちゃ……)
なおるよは腰を抜かしたまま後ずさり、言う事を聞かない体を動かした。
その時、なおるよはポケットに硬い感触を覚えた。
それはさっき露店で買った古い拳銃。彼は咄嗟にそれを掴み取り、ミルナに突き付ける。
('(゚∀゚;∩「……」
だが、その行為は自身の非力さを際立たせるだけだった。
('( ∀ ;∩(今更こんなの出して、何が出来るって言うんだよ……)
.
-
( ゚д゚ )「……お前、銃を持つのは初めてか」
一歩一歩、ミルナが着実に近づいてくる。
( ゚д゚ )「……お前、こんな事をするタイプじゃないだろう」
('(゚∀゚;∩「……」
気を持ち直し、なおるよは唇を食いしばってミルナを見返した。
なおるよの口元に血が滴る。
( ゚д゚ )「……小さな正義漢という訳か。
だが、そのせいで多くの人間を巻き込んだ」
( ゚д゚ )「さっさとお前を殺しておくべきだった。
そうすれば無駄な殺しをせずに済んだ」
なおるよの目前に立ったミルナは、周囲をたゆたう黒煙をなおるよに差し向けた。
( ゚д゚ )「言いたい事があれば聞くぞ」
('(゚∀゚;∩「…………」
( ゚д゚ )「…………」
.
-
('(゚∀゚;∩「……なんで」
すこし考えて出てきた言葉に、なおるよは点々と言葉を繋げていった。
('(゚∀゚;∩「なんで、人を殺すの……?」
( ゚д゚ )
('(゚∀゚;∩「……ドクオと居る時の、あの時のアンタは……」
なおるよは固唾を飲んだ。
('(゚∀゚;∩「そんなに悪い人じゃないって、少し思ったよ……」
ミルナは答えを探すように視線を泳がせてから、はっきり答えた。
( ゚д゚ )「人殺しは俺だけじゃない。殺しなら、あの面子の殆どが経験している」
( ゚д゚ )「無論、棺桶死オサムもだ。他の奴らに聞け」
('(゚∀゚;∩「……オサムも言ってたよ、俺も人殺しだって。
でも、オサムの言葉は違ったよ。アンタの言葉より、もっともっと重かった……」
( ゚д゚ )「……言い返せないな。俺はもう、人が死んでも動じない。
俺にとって、人殺しはとても軽い……」
.
-
('(゚∀゚;∩「……アンタが、何の為に人を殺すかは分からないよ。
でも、殺さない事だって出来たはずだよ……」
( ゚д゚ )「だろうな」
俺は暗闇の中でずっとそうしてきた。
ミルナはそう思いながら、なおるよを冷ややかに見下ろした。
('(゚∀゚;∩「今からでも、止めればいいんだよ。
人が死ぬのは、たとえ他人であっても嫌なんだよ……」
間を置いてから、ミルナはたっぷり溜め息をついた。
子供らしい、白紙のような意見だと思った。
希望で塗り尽くされているように見えて、実は何も書いていない。
人間はそういうものを希望と呼ぶ。ミルナはそういうものに対して、本当に呆れきっていた。
( ゚д゚ )「……お前は優しいな。優しすぎるが故に、何も救えなかった。
正しさだけでは救えない人間が居るという事を、お前は分かっていないんだ」
ミルナはじっとなおるよを見つめたまま、淡々と言った。
.
-
瞬間、なおるよは拳銃の引き金を引いた。
大きな銃声が空に響く。
彼なりに不意をついたつもりだったが、弾丸は黒煙が受け止めていた。
('(゚∀゚;∩「……ハ」
乾いた笑いさえ、まともに出てこなかった。
( ゚д゚ )「……何なら、お前の能力も使わせてやろうか」
( ゚д゚ )「悪あがきもそれが最後なんだろ。やってみろ」
.
-
('(゚∀゚;∩「……考えてる事が分かるの?」
( ゚д゚ )「まぁな。どうする?」
最後の一策をも見抜かれてしまい、なおるよは思わず嘲笑をもらした。
ミルナの口振りから察するに、きっと彼の能力を無効化する事は出来ないのだろう。
出来たとして、きっと大した意味を成さないのだろう。
あと、自分に出来る事は何だろうか……。
('( ∀ ∩(……いや、もう、やれる事はやった。
残せるものも残した……大丈夫、あとはみんなが……)
なおるよは、一時の安楽の為に考える事を放棄した。
( ゚д゚ )「……もし次があったら、身の丈にあった生き方をするんだな」
黒煙が巨大な刃をかたどり、なおるよの体を包囲する。
なおるよは空を見上げ、微笑んだ。
('(゚∀゚∩(……死んだら親に会えるとか、考えとこうかな)
それが、彼の最期の思考だった。
.
-
≪7≫
(,,゚Д゚)「あー食ったァー」
ノパ⊿゚)「ここ一週間分は食った。満足」ゲップ
|(○), 、(○)、|「……予算が……」
(;'A`)「そら無くなるよ、かなり食ったもん……」
ダディクール一行は長い昼食を終え、外に出ていた。
噴水広場周辺のベンチを陣取り、今はオサムとミルナが帰ってくるのを待っている。
|(○), 、(○)、|「……宿泊場所は同室でいいな?」
白目を剥いたダディクールが低い声でギコとヒートに問い掛ける。
反対意見は許さないと暗に伝わってくる雰囲気に、二人は押し黙ってコクンと頷いた。
.
-
――ぽつん、と冷たい感触がドクオの頬を叩いた。
('A`)「……あ?」
ドクオは空を見上げた。頭上には、灰色の大きな雲が広がっていた。
青空を覆いきる程の雨雲ではなかったが、嫌な予感がして、ドクオは皆に声を掛けた。
('A`)「おい、なんか雨降りそうだぞ。お前ら先に行ってていいぞ」
ドクオに言われて気付いたギコは怪訝な表情で空を見た。
(,,゚Д゚)「……マジで雨か。珍しいな」
レムナントでは滅多に雨は降らない。
メシウマ側だけ雨、こっちは超快晴みたいな事も多々ある。
なのにも関わらず突然の雨雲。ダディとヒートも、この空の様子を不思議に思った。
(,,゚Д゚)「不思議な事もあるもんだ」
ギコは口を半開きにしたまま、暗んでいく空を望遠した。
|(●), 、(●)、|「しかし君はどうする? ミルナとオサムを待つのか?」
('A`)「そのつもり。でも少しだけだ。さすがに遅すぎる」
('A`)「多分何かあった。なんとなく、そう思う」
.
-
|(●), 、(●)、|「……ならば全員で待とう。
個人の危険を皆で分かつ、その為に手を組んだ」
('A`)「……良いこと言うぜ」
ノハ;゚⊿゚)「え゙ぇ゙ー! アタシは寝たい!」
(;,,゚Д゚)「お前ほんとに自分勝手だな!」
やがて、しとしとと雨が降り始める。
四人は適当な軒下に逃げ込み、二人の帰りを待った。
( 'A`)「……遅いなぁ」
ドクオは俯き、地面の泥をぼんやり眺めた。
.
-
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【以下、レムナント監獄に入っていたなおるよ】
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ 「みんな〜」
ヽ 〈
ヽヽ_)
【以下、なおるよの弟妹6人】
\ワイワイ/
ハ,,ハ ハ_ハ \ドッ/
ハ_ハ('(゚∀゚∩∩゚∀゚)'ハ,,ハ
(^( ゚∀) ハ_ハ Y ハ,,ハ('(゚∀゚∩
) (^( )^) )^) 〈
(_ノ_ノ ) /´ `ヽ ( ヽヽ_)
(_ノ_ノ ヽ_ヽ_)
-
嗚呼なおるよ…
-
('(゚∀゚∩「兄ちゃん!」 (六男)
('(゚∀゚∩「兄ちゃん!」 (五男)
('(゚∀゚∩「兄ちゃんだ! 久し振り!」 (四男)
('(゚∀゚#∩「どこ行ってたの! みんな心配してたんだよ!」 (三男)
('(゚ー゚*;∩「こらこら、怒らないの!」 (長女)
('(゚∀゚;∩「兄ちゃん、凄い怪我してる!」 (次男)
('(゚∀゚*∩「これくらいヘッチャラだよ! すぐになおるよ!」
('(゚∀゚*∩「それより今は、またみんなに会えて嬉しいんだよ〜〜」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('( ∀ ∩(兄ちゃんは……凄いことを沢山やって、帰ってきたんだよ……)
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.
-
('(゚∀゚*∩「すごいことしてきたの!? すごいよ!」 (六男)
('(゚∀゚∩「それじゃ意味分かんないよ」 (四男)
('(゚∀゚;∩「また危ないことしたんでしょ! もぉ〜」 (次男)
('(゚∀゚*∩「えへへ! でもね、良い事をしたんだよ!
悪い人を出し抜いてね、恩人に恩返しもしたんだよ!」
('(゚ー゚*∩「兄ちゃん、すぐご飯にするから休んでて!
自慢話もいっぱい聞くよ!」 (長女)
('(゚∀゚;∩「兄ちゃんの自慢話は長いんだよ〜〜」 (三男)
('(゚∀゚*∩「分かったよ! じゃあ、いっぱい話しちゃおうかな!」
('(゚∀゚*∩「話す事はいっぱいあるから! いっぱい――」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('( ∀ ∩(いっぱい……話したい事が……)
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【+ 】ゞ )「……何をした」
雨の中、声が聞こえた。
ミルナはなおるよから目を逸らし、背後を振り返った。
( ゚д゚ )「……来たらこうだった」
( ゚д゚ )「驚くよな。俺もだ。
俺の事は知ってるか? ドクオの……」
白を切るつもりで口走った名前で、ふと思い止まる。
ミルナは一度口を閉じ、改めて言った。
( ゚д゚ )「……ああ、俺がやった。分かってて聞いてんだろ」
オサムは血と肉にまみれた地面を一歩、また一歩と進んだ。
雨の匂いに意識を集中する。
でなければ正気を保てない程の臭いが、この場所には充満していた。
.
-
( ゚д゚ )「……お前がこいつに尾行させたんだな。
自分でやれば、こうはならなかった」
( ゚д゚ )「……俺はお前達にだけは手出ししないつもりだった。
お前が無駄な事を考えなければ、俺もここまではしなかった……」
【+ 】ゞ )「……」
( ゚д゚ )「……弱い人間に頼ったから、こうなる」
その時、空の雨雲が雷鳴を放った。
周囲の電灯、電光板が光を失い、炸裂して煙を上げる。
現象の原因は停電ではない。棺桶死オサムが、超能力を全開発動していた。
( ゚д゚ )「……この力、まだ加減が出来ない。
逃げるなら今の内だが、しないだろ」
( д )「……後悔するなよ」
お前も、俺も。
ミルナは周囲の黒煙を硬質化させ、甲冑のようにして全身に纏った。
.
-
【+ 】ゞ゚;)(――なんだ、これは)
黒い甲冑を纏ったミルナの変わり様に、オサムは思わず戦意を忘却した。
【+ 】ゞ゚;)(光を使わずに超能力。しかも、これは……)
目の前で起こった現象は、甲冑を着たというより、何かと融合したと言う方が的確だった。
体格や気配も変化し、一瞬前とはまるで別人になっている。
これが同一人物のものだとすれば、明らかに常軌を逸し、人として破綻しているとしか思えない。
「……」
二つ角の兜の奥に、赤い双眸が輝く。
だらりと伸びた獣の尻尾が、雨に濡れて黒光る。
聞こえてくる呼吸音は最早人間のそれではない。
白い息が兜の口元から立ち上り、低く唸るような声が聞こえてくる。
人の形をした別の生き物。
似たような物に言い換えるなら、人の形をした黒竜。
.
-
( д )「……」
ミルナは膝を折って背中を丸め、視線をオサムに集中した。
既に人としての意識を失っているのか、素振りは乱雑で、野生動物のようだ。
その瞬間、ミルナが立っていた地面が弾け、彼の姿が消えた。
【+ 】ゞ゚;)(来る――ッ!)
雨がほんの一瞬、止んだ。
ミルナの速さについていこうとしたオサムの目が、そう錯覚させたのだ。
【+ 】ゞ゚;)(やはり、あの男の言う通りだった――!)
「――――■■■■■■■■■■■!!」
人外の咆哮が、暗い雨空に響き渡った。
.
-
.
-
≪8≫
ドクオは雨中に人影を見た。一人だった。
雰囲気から、それが棺桶死オサムなのは何となく分かった。
('A`)ノシ 「お〜〜い。どうだったよ〜〜」
遠くから声を掛ける。しかしオサムは何の反応も示さなかった。
|(●), 、(●)、|「……様子が変だ。行くぞ」
ノパ⊿゚)「……嫌な感じがする」
ダディとヒートが雨の中に飛び出す。
ドクオとギコも彼らに続き、棺桶死オサムのもとに駆けつけた。
(;,,゚Д゚)「ったく、何だってんだよ」
|(●), 、(●)、|「おい、何があった。棺桶死!」
ダディはずぶ濡れのオサムの肩を揺すり、はっきりした口調で呼び掛けていた。
それでもオサムはしばらくの間、完全に沈黙して口も開かなかった。
.
-
【+ 】ゞ゚)「……やられた」
呆然自失の状態から、ようやく少しだけ回復する。
彼の瞳に光が戻り、体にも少し力が戻ったようだった。
やっと出てきた一言は殆ど雨音にかき消されたが、辛うじてダディだけが、オサムの言葉を聞き取っていた。
|(●), 、(●)、|「……連れて行ってくれるか」
ダディの頼みを聞いたオサムは、何も言わずに来た道を歩き出した。
(;'A`)「……どうしたって?」
|(●), 、(●)、|「……やられた、とだけ」
心配そうなドクオに簡潔に答える。
ノパ⊿゚)「……行くぞ。お前らも」
(;'A`)「……なんなんだよ」
(,,゚Д゚)「……覚悟はしておけ、ドクオ」
皆は、オサムの後に続いて雨の中を歩き出した。
その先に待つものが何なのか、予感していなかったのはドクオだけだった。
.
-
なおるよを前にして、オサムを含む五人は言葉を失っていた。
('( ∀ ∩
激しい雨が冷たい体に降り注ぐ。
彼が生きていた証は、この雨が全て洗い流してしまった。
血の流れは終わり、死んでいるとは思えないほど綺麗なまま、なおるよはそこで死んでいた。
壁に背もたれ、俯き、微笑んだまま。
|(●), 、(●)、|「……認識が甘かった……」
ダディは、まるで全員の言葉を代弁するかのように言った。
ダディだけはなおるよに近づき、彼の肉体がその機能を終えているのを確認した。
|(●), 、(●)、|「……オサム。念のために聞くが、お前じゃないな」
【+ 】ゞ゚)「……俺が来た時には、もう死んでいた」
腰を上げ、ダディは皆を一望して言った。
|(●), 、(●)、|「この街に知り合いが居る。
彼に頼んで、なおるよを葬る」
.
-
('A`)「……冷静だな」
なおるよを見たまま、ドクオがぽつんと囁く。
ドクオの静かな怒りを感じ取ったギコが、彼を宥める為に喋りだした。
(,,゚Д゚)「……こいつを殺した奴が今もその辺に居るかもしれない。
取り乱したらダメだ。いいか、冷静とかって話じゃないんだ」
(,,゚Д゚)「何で殺されたのか、誰が殺したのか。
今それを考えたら動けなくなる。言い方は悪いが、黙れ」
('A`)「……俺はなおるよに会ってた。昼に、少しだけ話をした」
('A`)「こいつ、『頑張れ、ありがとう、またね』って、そう言ってた……」
ドクオはギコの制止を無視して喋りだした。
誰かに向けての言葉ではなかった。
しかし今すぐ吐き出さなければ、胸の内でより大きな怒りを生み出しかねなかった。
('A`)「手伝ってくれるって言った。でもまだガキだと思って、俺は帰るように言った……」
('A`)「……それが、コレか……」
.
-
('A`)「……なんで殺された……」
(,,゚Д゚)「……やめろ」
('A`)「誰が殺しやがった……」
ドクオの頭いっぱいに、素直クールが目の前で殺された時の光景が蘇る。
( A )「……誰だ……」
その時、ドクオはペンライトを点けて超能力を発動した。
左腕が強固な装甲に覆われ、背中に二つの撃鉄が具現化する。
そして彼自身は自覚していなかったが、彼の周囲には不透明な靄が漂っていた。
蜃気楼のように漂うそれは、ドクオの怒りに応えるように、少しずつ黒くなる。
.
-
(,,゚Д゚)「……どうやって相手を見つける。
一人でどうやって居場所を突き止める」
( A )「……」
(,,゚Д゚)「そいつと会えたとして、お前は勝てるのか?
俺達は協力しないぞ。自分勝手な行動には誰もついて来ない」
(,,゚Д゚)「……だけどな、今ここで『それ』を抑えられるんなら、俺達はまだ仲間で居られる。
今、それを抑えられないなら、お前はただの人殺しだ」
( A )「……俺はただの人殺しでいい……」
(,,゚Д゚)「……」
(,,-Д-)「……ああそうかよ。だったら言ってやる」
ギコは目を閉じ、息を吐いてから言った。
.
-
(,,゚Д゚)「なおるよを殺したのはお前だ。
お前はとっくに、ただの人殺しだ」
( A )「……そうだ。だから殺した奴を殺す」
(,,゚Д゚)「償いにはならねぇ」
( A )「それでいい」
ドクオは即答した。
(,,゚Д゚)「分からず屋か」
ギコもまた、即答した。
(,,゚Д゚)「……じゃあ好きにしろ」
するとギコは呆気なく、ドクオを突き放した。
(;'A`)「…………」
(,,゚Д゚)「……どうした行けよ。お前がそう言った」
(#'A`)「……ッ!」
何か言いたげにギコを睨む。
しかしそれも一瞬で、ドクオはみるみる内に息苦しそうな顔になり、目を伏せた。
.
-
【+ 】ゞ ;)「……ダディクール」
|(●), 、(●)、|「……どうした?」
【+ 】ゞ ;)「後を、頼む……」
弱々しく名前を呼ばれて振り返ると、脱力して倒れゆくオサムが視界に入った。
|;(●), 、(●)、|「――棺桶死ッ!!」
ダディは咄嗟に手を伸ばして受け止めようとしたが、オサムはそのまま地面に崩れ落ち、意識を失った。
(;,,゚Д゚)「こいつ怪我人かよッ!」
ギコはオサムの傍で膝をつき、彼の呼吸と心音を確かめた。
|;(●), 、(●)、|「どうだ……?」
(;,,゚Д゚)「……息はある。だが、心臓が無い……」
ノハ;゚⊿゚)「……は? 何が無いって?」
ギコは自身が理解する前に、ありのままを伝えた。
|;(●), 、(●)、|「……不可能を可能にする能力だ。
恐らくそれで生きている。光源のある場所で絶対安静だ」
.
-
|;(●), 、(●)、|「ヒート、みんなを連れてホテルに行ってくれ。
場所は分かるな? オサムもすぐに寝かせてやれ」
ノパ⊿゚)「了解だ。ギコ、そいつ運べ」
(;,,゚Д゚)「急に仕切んな。つーかマジで分かってんのか?」
ノハ#゚⊿゚)「いいから黙ってついて来い。そいつ死ぬぞ」
(;,,゚Д゚)「……分かった」
ヒートとギコはオサムを連れて走り出した。
周辺には早くも野次馬が湧いていたが、彼らはそれを突っ切っていった。
(;'A`)「……オサム……」
|(●), 、(●)、|「君もだ」
ダディはドクオに対してキッパリと言い、なおるよの体を慎重に持ち上げた。
|(●), 、(●)、|「私はなおるよを知り合いの家に運ぶ。
ここに置いておけば雑多に始末されてしまう」
(;'A`)「……」
|(●), 、(●)、|「……どうした。まさか動かないつもりか?」
.
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(; A )「……一人で動くのは危ない。俺も一緒に行く……」
長い沈黙の末に、ドクオは絞り出すように言った。
それはドクオが自分で導き出した、今出来る最善の行いだった。
|(●), 、(●)、|「……分かった。遅れるなよ」
ダディはドクオへの視線を切り、力強く駆け出した。
(; A )「……」
友達になれる。笑い合う仲間にもなれる。
そう思ったからこそ、なおるよを巻き込んではいけないと思った。
俺みたいな奴と関わってはいけないと、そう思った。
だが、なおるよは死んだ。誰かに殺された。誰かに……。
.
-
全てを洗い流すこの雨に、ぬるい雫がこぼれ落ちる。
この胸の苦しさは、俺に戦いの始まりを告げているのか……。
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第二十二話 「不治のくらやみ その2」
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――なおるよは、夢の中に六人分の笑顔を思い浮かべていた。
ただ、それだけで良かった。
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1〜15話 >>2
第十六話 仲間を求めて >>6-24
第十七話 Waste Land >>33-71
第十八話 限りある世界 >>89-134
第十九話 ドクオは泥を見た。ミルナは星を見た >>149-173
第二十話 説明をする回>>194-199 >>240 >>200-233
第二十一話 不治のくらやみ その1 >>247-285
第二十二話 不治のくらやみ その2 >>291-363
次回は5月30日
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乙乙
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おつ
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おつ
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おつううう!
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乙
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一気に最初から最後まで読んでしまった
セリフとか地の文好き
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乙乙ー
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ミルナ強くなりすぎィ!
おつ!
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乙乙乙
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≪1≫
荒野のレムナント、その中で唯一都会としての体裁を保つ街・クソワロタ。
人口の集中に伴うその場凌ぎの開発が繰り返された結果、
街は荒廃と発展が混在する独自の社会体系を得るまでに拡大していた――
.
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――叩きつけるような雨が降っていた。
空のずっと向こうまで、灰色の雲が続いている。
暗雲に覆われた昼下がり。
ホテルに入ったギコ達は、それぞれ自由に休息を取っていた。
(,,゚Д゚)「……素直ヒート」
窓辺に立ち、外をじっと睨んでいるギコが口を開いた。
ノパ⊿゚)「……んだよ」
(,,゚Д゚)「……けっこう良い部屋に泊まるんだな。
俺達のリーダーは金持ちなのか?」
ギコは振り返って室内を見た。
彼の言うとおり、このホテルはクソワロタの中でもかなり上等な施設だった。
木目のフローリングにクリーム色のカーペットが敷いてあり、その上にはL字形のソファがある。
ソファの前にはコーヒーカップを置いたテーブルが一つ。コーヒーを淹れたのはギコだが、まだ口はつけていない。
テーブルの向こうにはテレビ台と薄型テレビが設置されており、その両脇には細長のスタンドライトと観葉植物があった。
.
-
ノパ⊿゚)「事の大きさを考えれば当然だ。
寝込みを襲われる可能性は低い方が良い」
ヒートはソファから離れた食事用のテーブルに居た。
こちらのテーブルはキッチンに程近く、五人分の椅子が用意されていた。
彼女はその中の一つに腰掛け、机上で手を組んで静かにしている。
ギコに話しかけられなければ、彼女はずっとそのままだっただろう。
(,,゚Д゚)「……案外、全員同室で良かったのかもな」
ノパ⊿゚)「アタシらの大食いに感謝しろ、ってな」
ヒートは普段通りに軽口を叩いたが、彼女は無表情だった。
大きな考え事をしながら平静を装っているのだと気付くのに、大した洞察は必要なかった。
(,,゚Д゚)(なおるよの事含め、今後の話はダディクールが帰ってからだな……)
ギコはコーヒーカップを手に取り、ぬるくなったコーヒーを飲んだ。
.
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(,,゚Д゚)「……おい」
ノパ⊿゚)「……んだよ。話があるなら一回で済ませろ」
(,,゚Д゚)「棺桶死になんか持ってってやれ。
女だろ、気を利かせろ」
ノハ;-⊿-)「……コーヒーと水道水しかねぇのにどう気を利かせろってんだ、ったく……」
ヒートは小言を呟きながらも席を立った。
電気ケトルで早々に湯を沸かし、コーヒー粉末と一緒にカップに注ぎ込む。
ノパ⊿゚)「おら、持ってけ」
(;,,゚Д゚)「……いや、なんで俺が」
ノパ⊿゚)「お喋りは他所でやれって言ってんだ。
人を気遣うフリして自分慰めてんじゃねえよザコ」
コーヒーカップをテーブルに置き、ヒートは勢いよくソファに飛び込んだ。
.
-
(,,゚Д゚)「寝るなら寝室で寝ろ」
ノハ-⊿-)「……あんまり女扱いしてっと殴るぞ」
(,,゚Д゚)「お前三十路入ってんだろうが。
女扱いされんのもここらが限界だ、ありがたく思え」
ノハ#-⊿-)「マジでブッ殺すぞ」
(,,゚Д゚)「じゃあオッパイ触っても文句言うなよ」
ノハ-⊿-)「別にいいぜ。だけど触って文句言ったら殺すからな」
(,,゚Д゚)「そのサイズなら文句無しだ。良かったな」
ヒートは最後に「あいあい、まったくだぁ」と欠伸交じりに言い、ギコに背中を向けた。
(,,゚Д゚)「……」
話し相手を失ったギコは改めて外を見た。
それと同時に、外の人影が電柱の後ろに身を隠した。
(,,゚Д゚)(……バレてもいいって感じだな。
あれの後ろには何が控えてんだか……)
ギコはカーテンを締め、一人静かにダディクール達の帰りを待ち続けた。
.
-
≪2≫
ダディクールが向かった先には、古い教会があった。
この場所は放棄区画の隙間に生まれた小さな空き地で、四方は建物の背中に囲まれていた。
ここに出入りできる道はたった一つ。しかもその道は網目のように入り組んだ狭い路地と繋がっているのだ。
ダディいわく、ここまで迷わずに来れたのは運が良かった。
彼も教会には久し振りに来ると言っていた。
もっとも、この場所が何なのかは最後まで一切語らなかったが。
|(●), 、(●)、|「……居てくれよ……」
ダディはなおるよを背負い直し、教会の扉を叩いた。
雨音に負けないよう、強めに数回。
ノブが回り、扉がゆっくりと開け放たれる。
|(●), 、(●)、|「……急用だ。この死体を運んでほしい」
( l v l)「……どっちの死体だよ。俺の目の前には死体が二つあるんだが」
扉の向こうには教会の主であろう神父服の男が立っていた。
彼の冗談に顔色一つ変えず、ダディは教会に押し入った。
|(●), 、(●)、|「とにかく邪魔する。後ろのは私の連れだ」
(; l v l)「久し振りに来たかと思えばコレかよ……」
.
-
(; l v l)「あーあー、びしょ濡れで入りやがって……」
男はダディが通った後の床を一瞥し、軽い溜め息をついた。
それを見かねたドクオは一歩前に出て、男に話しかけた。
('A`)「すんません。俺がやっときます」
( l v l)「……知らん顔だな。お前も組織を抜けたクチか?」
('A`)「……組織?」
聞き返すと、ムネオは何かに気付いて息を呑み、苦い笑みを作って目をそらした。
(; l v l)「いやあ? なんでもねえよ」
ムネオはダディの後を追い、逃げるように教会の奥に行った。
(; l v l)「モップはあっち、タオルは後で持ってこさせる。
連れが礼儀知らずじゃなくて安心した。掃除、頼んだぜ」
('A`)「あ、はい……」
('A`)(……まあ、やるか)
ドクオはさっさとモップを用意し、床掃除に取り掛かった。
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
床掃除を終えて暇になったドクオは、
教会で唯一やれる暇潰しに興じるため、最前列の長椅子に座って薄汚いステンドグラスを見上げていた。
女神か神様かよく分からないが、なにか神々しい感じのデザインだった。
('A`)「……」
思考は不思議と穏やかだった。
神様のおかげなのか、止まない雨が逡巡を遮っているのか。
どちらにせよ、今のドクオはシンプルに物事を考えていた。
そこに足音が近づいてきた。
目線を落とすと、肩にタオルを掛けたダディクールがすぐそこに居た。
|(●), 、(●)、|「タオルとホットミルク、砂糖入り」
('A`)「……ああ」
ドクオは渡されたタオルで全身を拭った。
ダディはその間にドクオの隣に腰掛け、彼と同じようにステンドグラスを見上げた。
|(●), 、(●)、|「……なおるよの事は終わった。
実家に送りつけるような真似は出来ないが、彼の故郷で弔うよう依頼した」
|(●), 、(●)、|「名前は刻まれないが、ちゃんと墓も立つ。
この一件が終わったら墓参りだな」
('A`)「……そうだな」
.
-
|(●), 、(●)、|「……さ、早くみんなの所に行こう。話し合う事もある」
('A`)「……なあ、死にたいって思った事はあるか?」
ドクオは唐突に質問した。
ダディは飄々と答えようとしたが、思いとどまって真剣に答えた。
|(●), 、(●)、|「……思うだけなら、何度かは」
('A`)「……そっか」
|(●), 、(●)、|「……聞いた割りに、随分と素っ気無い反応だな」
('A`)「……ごめん。俺は、死にたくないって思った事がないんだよ。
無自覚にでも 『俺は生きてて当然なんだ』 とか思ってたのかな、俺は……」
ドクオは席を立ち、ダディクールと一緒に教会を出て行った。
空は未だに暗く曇っており、土砂降りの雨がひたすら降り注いでいる。
|(●), 、(●)、|「……ついでだし、神に快晴でも祈るか?」
('A`)「てるてる坊主で十分だろ。帰ったら作るよ」
二人は再び、雨の中を走り出した。
.
-
≪3≫
ギコ達の部屋を見張っていた男は、交代と報告の為に一時間程でその場を去った。
男は離れたところに停車していた大型トラックに近づき、運転手に合図を送った。
トラックが動き出し、男を迎えに近づいてくる。
男が助手席に乗り込むと、トラックはすぐに発進した。
「対象に動きは無い。とりあえず現状を教えてくれ」
「……あっちで起きた殺しの現場に対象が居たらしい。それがこの仕事の発端」
「……それだけ? それだけか?」
「……早く帰って、報告を済ませよう」
運転手は渋い表情で言った。
言いたい事は分かっている、という口調だった。
「下っ端だとしても、俺達だって組織の一員だろ……。
給料どころか、最低限の情報すら貰えないとはな」
「……仕方無いんだよ。仕事があるだけマシだと思っておこう」
二人はそれぞれ不満を思い浮かべ、それぞれに飲み下した。
.
-
数分後にトラックが行き着いたのは、商店街から少し離れたシャッター街だった。
この通りで開いている店は既に片手で数えるぐらいで、ここも早々に放棄区画の一角に加わるだろう。
「……おい」
そんなシャッター街を進んでいく最中、運転手が小さく声を掛けた。
助手席の男は目を閉じて眠っていたため、その一言に気付かない。
「――おい!」
大声で放たれた二度目の呼びかけで、助手席の男はようやく目を覚ました。
「なっ、なんだよ……」
「あの煙、支部の方向じゃないか!?」
そう言われておずおずとフロントガラスを覗き込む。
見上げると、空に向かって立ち上る大きな黒煙を見つけた。
その方向には運転手が言ったとおり、彼らのアジトがある。
「――支部に連絡を取る! 急げ!」
男は携帯電話を手にして支部との通信を試みたが、コール音が続くばかりで誰も応答しない。
遠くの空に見える黒煙。それを見ながら、彼らは何かを予感していた。
.
-
――やがて彼らが支部に到着した時、予感は現実として目の前に現れた。
組織のレムナント支部とその周辺の光景は、跡形もなく、火炎に飲み込まれていた。
「う、嘘だろ……」
燃え盛る炎を前にトラックを止め、運転手は息を呑んだ。
支部として使っていた三階建てのビルは粉々になって崩壊し、今は瓦礫の燃えカスでしかない。
近隣の建物も一つ残らず崩壊・炎上しており、その一帯は、ただの焼けた荒野と化していた。
「……本部には伝言を残した。行くぞ」
助手席の男はそう言ってトラックを降りた。
支部で待機していた他の能力者達はどうなったのか――という自問に、全滅という答えを出しながら。
「バカ野郎! 逃げた方がいい! 見つかる前に――」
その瞬間、運転手の言葉が爆発にかき消された。
男は背中に焼けるような熱風を受けながら、咄嗟に振り返った。
.
-
振り返ると同時に、男の右肩がふっと軽くなった。
男は一瞥して理解する。右腕は、消えて無くなっていた。
「お゙っ……!」
突然の激痛に傷口を押さえて身を捩る。
男はなんとか目を見開いてトラックを見直したが、そこには炎の塊があるだけだった。
運転席で黒い影がバタバタしているが、あれを助けている余裕は最早無い。
「くっそ――」
男は唾棄し、残った左手で光源を取り出した。
しかし出来なかった。その時すでに、男の左手は地面に落ちていた。
死の直前、男の眼前を黒い影が過ぎる。
何が起きたのか、誰にやられたのか。
そのどちらも理解出来ないまま、男は後ろから心臓を貫かれた。
( д )「…………」
ミルナとしての意識を失いながら、なお動き続けるその肉体。
黒甲冑を着た“それ”は、男の胸に突き刺した腕を引き抜き、喉を鳴らした。
.
-
「――『天を仰ぐ狂戦士。かの者は、真紅の丘に死を刻む』 」
燃え盛る景色、降り注ぐ雨。
終わらない喧騒の中に、穏やかな声が入ってきた。
黒甲冑は獣のように背中を丸め、声の方に体を向けた。
ミセ*゚ー゚)リ「……みたいな」
薄ら笑みを浮かべた女――ミセリが、炎の向こうに立っていた。
ミセ*゚ー゚)リ「お久し振り。まさに狂戦士って感じね」
.
-
( д )「…………」
ミセ*゚-゚)リ
ミセリは笑みを消し、緊迫した表情になった。
作り物ではない本物の表情。彼女にそうさせるだけの威圧感が、“それ”にはあった。
ミセ*゚-゚)リ「……良い感じだけど、その力はまだ必要無いの。
これ以上暴れても困るでしょうから、止めてあげる」
瞬間、彼女を中心にして突風が起こった。
風が周囲の雨粒と炎を吹き飛ばし、一瞬の静寂を作る。
ミセ* - )リ「――≪終焉する原初の業火≫」
静寂を破り、ミセリは囁くように言葉を発し始めた。
黒甲冑はそれを攻撃と判断し、大地を蹴ってミセリに急襲する。
ミセ* - )リ「 ≪断罪者は剣を収め、地を這う骸を哀れ見る≫ 」
二文目を言い終えた瞬間、ミセリの背後から無色透明の鎖が飛び出した。
鎖は黒甲冑の右腕にぶつかると同時に、彼の右腕と融合してその動きを止めた。
.
-
(# д )「■■■■■■ッッッッッ!!!!」
――途端、鎖は呆気なく引き千切られた。
技も特別な力も用いず、純粋な力だけで。
ミセ* - )リ「 ――≪不在の鎖、餓狼の爪牙を戒める―― 」
眼前に迫った黒甲冑の拳。それに応じ、更に言葉を繋げる。
今度は四つの鎖が出現し、黒甲冑の四肢に融合した。
(# д )「――――――ッ」
だが、これも数秒ともたずに破壊。
口早に続きを発しながら、ミセリは大きく退いた。
鎖を切られる程度は想像の範疇ではあったが、思わず体が逃げてしまった。
ミセ*;゚ー゚)リ「――全ての骸は彼の地の扉を叩く者なり≫」
ミセ*;゚ー゚)リ「≪骸に群がる亡者を繋ぎ、貪り尽くす鉄鎖の再現≫――」
ミセリの詠唱が終わろうとした時、黒甲冑の頭上に光が落ちる。
雨が止み、神々しい光が空に満ち溢れた。
黒甲冑の意識が頭上にそれた瞬間、ミセリは最後の一文を口にした。
ミセ*;゚ー゚)リ「 ――【Over fiction・Gleipnir】――」
.
-
(#゚д )「――――」
空を見上げた彼の双眸が捉えたのは、黄金色の光を受けて乱反射する透明な鎖。
数は千。その全てが、彼を捕縛しに襲い掛かってきていた。
鎖の一本が飛び抜けて迫ってきた瞬間、黒甲冑は空高くに飛翔した。
体を丸めて回転し、空中でスピードを増加させる。
鎖は空中を駆け巡り、黒甲冑に追随していく。
ミセ*;゚ー゚)リ(……これで駄目となると、こっちも無傷じゃ済まないわね)
鎖と黒甲冑の速さはほぼ互角だった。しかし互角では駄目だ。彼を捉え切ることは出来ない。
今のミルナは数本、数十本程度の鎖なら簡単に振り払える。
生半可な拘束など無意味に等しかった。
ミセ*; ー )リ(対価の後始末は、後の私に任せましょう――)
しかし、まだ術はある。
ミセリは息を整え、次の一手に備えた。
.
-
(# д )「――■■■■■■■」
千の鎖に追われながら空中を疾駆する黒甲冑。
近づく鎖を薙ぎ払い、弾き、砕きながら、彼は何かを呟いた。
breaking my body.
ミセ* - )リ「――――≪血肉の器が砕け散る≫」
新たな言葉が始まった瞬間、ミセリの両目は真紅に染まった。
彼女の足元に、赤い閃光が迸る。
Even if I see all unreason
ミセ* - )リ「 ――≪血は空を流れ、肉は大地に解けていく≫ 」
I pray. The end of ideal world.
ミセ* - )リ「 ≪しかして神に叛逆し、孤独の旅路に意味を問う≫―― 」
(; д )(――――止まれ)
心の奥底に閉じ込められた精神が、暴走した体に命令する。
悪意と怨嗟の濁流は、そんな小さな言葉すら飲み込んで暴走を続ける。
黒甲冑の背中に、四つの撃鉄が具現化した。
撃鉄から噴き出す黒い閃光は翼のように空に広がり、彼の肉体を更に加速させた。
黒甲冑は音すら置き去りにする速度に達し、鎖の追跡を完全に振り切った。
(#'゚'д )「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!」
最高速度を維持したまま、向きを転じてミセリに立ち向かう黒甲冑。
人としての在り方を失って得た力で、彼はまた、同じ道を歩もうとしていた。
.
-
I crave 【Breaking The Rules】.
ミセ* - )リ「 ――≪誰も居ない、一人きりの荒野の果てで≫」
――直後、赤と黒の閃光が雨空を引き裂いた。
.
-
≪4≫
ドアが二度叩かれた。
ギコは超能力を即発動できる状態で、ドアに向かった。
(,,゚Д゚)「……なおるよは一緒か?」
「……下手な冗談は止めておけ」
その答えと声色に一定の信用を置き、ギコはドアを開けた。
(,,゚Д゚)「……早く入れ。監視されてる」
|(●), 、(●)、|「ドクオ君、入るぞ」
('A`)「……ああ」
ギコは二人を招きいれると、廊下の左右を見渡してからドアを閉めた。
.
-
('A`)「……ミルナとオサムは?」
リビングに入り、ドクオはここに居ない二人の事を聞いた。
(,,゚Д゚)「棺桶死は寝室を独占中だ。相当きてるらしい。そっちは知らん」
ギコは寝室のドアを一瞥して答え、素直ヒートの頬を力強くひっぱたいた。
彼女を起こすにはこれぐらい必要なのだと、ギコは数日の共同生活で十分に理解していた。
ノハ;゚⊿゚)「いってえ!!」
(,,゚Д゚)「ダディクールとドクオが来たぞ。今後の方針を決める」
|(●), 、(●)、|「ドクオ君、オサムを呼んで来てくれ」
('A`)「分かった」
|(●), 、(●)、|「寝てたら起こさなくていいからな」
頷き、ドクオは寝室にそっと入っていった。
.
-
('A`)「……オサムー……」
寝室内は暗く、電気は点いていなかった。
寝室にはベッドが三つあった。
窓際のベッドに腰掛けている人影に、ドクオは声を掛けた。
('A`)「……オサム? 俺だ、みんな揃ったぞ」
【+ 】ゞ゚)「……お前か。すぐに行く」
その時、外で唸るような雷鳴が起きた。
光が大地に落ち、部屋の中を真っ白に照らし出す。
(;'A`)「――――ッ!?」
部屋が光に満ちた一瞬、ドクオは自分の目を疑った。
棺桶死オサムの胸には大きな裂傷の古傷と、拳ほどの風穴が開いていた。
そこに収まっているべき器官は、無い。
やがて部屋に暗闇が戻る。オサムは服を着直し、立ち上がった。
(;'A`)「……お前……」
【+ 】ゞ゚)「……気にするな。峠は越えた」
オサムはドクオの横を通り過ぎ、リビングに出た。
しかし、ドクオはその場に立ち竦んでしばらく動けなかった。
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