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('A`)は異世界で戦うようです

6641:2014/09/04(木) 22:14:47 ID:JgPwpBr60

モララーと戦っていたはずの炭鉱夫達が、光の粒子となって消滅したのだ。始めから、存在などしていなかったかのように。

( ・∀・)「……どうなってんだよこれ」

(;´ ω `)「分からない。分からないが、とてつもなく嫌な予感がする」

( ・∀・)「奇遇ですね。俺もそんな気がします」

立っていられなくなり、ショボンが地に膝を着く間際、モララーが肩を貸してくれた。

( ・∀・)「とにかくここを離れましょう。ドクオ達も気がかりだ」

(;´ω`)「僕のことはいい。あとは自分で何とかする。モララーはドクオとしぃの方を優先してくれ。何かあれば、連絡を頼む」

一瞬迷った顔を見せたが、モララーはすぐに頷いた。今優先すべきが何かを理解できないほどモララーは馬鹿ではない。

だからこそショボンは彼を信頼できるのだ。

6651:2014/09/04(木) 22:15:36 ID:JgPwpBr60

( ・∀・)「勝手に死なれちゃ困りますからね。ジョルジュ団長もいない今、あなたを失うのは痛い」

(´ω`)「分かっているさ」

それだけを言って、モララーが去っていく。途端に膝を着き、大きく息を吐いた。

もしかすると、約束は守れないかもしれない。

(´ω`)(すまない。モララー)

瓦礫の上に寝転び、流れていく雲を眺める。どこまでも穏やかで、戦闘の真っ最中だということも忘れてしまいそうなほどに、美しい朝焼けだった。

と、その中に高速で飛行する物体を見つける。魔物、ではない。あれは、人だ。

だんだんと近付いてくるそれに、臨戦態勢を取ろうとして、ショボンは体に力が入らないことに気付く。どうやら戦うことすらできそうにない。

从'ー'从「あ、ショボンさん見つけたよぉ〜」

(*゚∀゚)「ニャニャ。ご主人お手柄ニャ」

(´ω`)「渡辺!? 何故君が━━」

从'ー'从「はいは〜い。話はあとですよ〜。えっと、確か、もう一本……」

渡辺がポケットから瓶を取り出した。確か、あれは魔力を回復させる薬だ。それを飲まされ、ショボンの体にある程度力が戻っていく。

6661:2014/09/04(木) 22:16:19 ID:JgPwpBr60

失ったマナまですぐに回復するわけではないが、先程よりは幾分ましになった。少なくとも自力で立つのは問題ない。

(´・ω・`)「……すまない。助かったよ。それにしても、何故君が」

从'ー'从「えっと、どこから話せばいいのかなぁ〜」

(*゚∀゚)「そんなことより、さっきの魔法使いに言われたこと忘れたのかニャ」

从'ー'从「あ、そうでした。あの、ショボンさん、ツンちゃんが早くこの街から離れてって言ってました〜」

(´・ω・`)「……何?」

渡辺が手短に今までの経緯を話す。モ・トコに来た理由、これまでの戦い、ツンが今何をしているのか。

(´・ω・`)(なるほど。ということは、さっきまで僕のカバーをしてくれていたのは彼女だったのか)

一つ目の謎が解けたところで、二つ目の謎であるここから離れろとはどういうことだろうか。

(´・ω・`)(あの術式はよく分からないが、魔力を操る用途のものだろう。そして、消えた炭鉱夫達)

さらに周辺の街から消えた住民、オサムという敵の目的。

様々な角度から思考を張り巡らせ、ショボンが導き出した答えは━━

6671:2014/09/04(木) 22:17:13 ID:JgPwpBr60

(´・ω・`)「まさか、この街全体の魔力をマナへと変換するつもりなのか?」

从'ー'从「ほえ? そうなんですか?」

(*゚∀゚)「ニャ。魔力の流れから考えれば、あり得なくはないと思いますニャ」

(´・ω・`)「……ところで、この猫は」

(*゚∀゚)「ニャ。魔法使い渡辺の使い魔、ツーといいますニャ」

(´・ω・`)「……そうか」

深くは突っ込まないようにしよう。使い魔を作る魔法道具は確かにあった気はするが、普通人語を解さないはずだ。

だが、今はそれを考えている暇はない。

(´・ω・`)「どのみち、今彼女は一人で術式の解除をしているんだろう。ならば、僕がそちらの補助に回ろう。何をするつもりかは分からないが、力にはなれるはずだ」

从'ー'从「私はどうすればいいですか?」

6681:2014/09/04(木) 22:18:02 ID:JgPwpBr60

(´・ω・`)「モララーと共にドクオ達の元へ。彼らが戦闘中であれば支援し、速やかにこの街から離れるんだ」

从'ー'从「分かりました〜」

(´・ω・`)「君は魔法使いといえど、騎士団に属していない。けして無茶はしないように」

从'ー'从「は〜い」

渡辺が気の抜けた返事をして箒で空へと消えた。

これである程度の問題は解決に向かうはすだが、最大にして最悪の問題である方は、すぐにでもなんとかしなくてはならないだろう。

ショボンが行ったところで役に立たないかもしれないが、やらないよりはましだ。

(´・ω・`)「本調子ではないが、なんとかなるだろう」

ショボンは再び魔力を辿り、戦場を駆ける。

いつ倒れるとも知れぬ身でありながら、救えるはずの人達のために。

6691:2014/09/04(木) 22:18:45 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

宙に浮いている氷の剣を一本掴んで思いきり降り下ろす。ビコーズの体に当たるものの、強度が足りないせいか一撃で粉々になった。

横薙ぎに向かってくる剣撃を身を低くしてかわすと、すぐにもう一本。やはり当たると同時に粉砕される。

('A`;)(やっぱろくなダメージにならねぇ!!)

距離をとるために横へと飛ぶが、ビコーズの魔法がドクオを襲う。後方に待機しているしぃがうまく防御魔法を敷いてくれるが、全ての攻撃を防ぐことは敵わない。

突き破ってきた魔法がいくつか体を掠めるも、致命傷にはならなかった。三度氷の剣を取って投擲。

ビコーズはそれを手を払うだけで簡単に防いだ。

武器を持たぬドクオは先程からしぃに簡易的な氷の剣を至るところに精製してもらい、それらを無造作に引っ付かんで攻撃しているのだが、元が人を超越した存在であるビコーズには傷一つ負わすことができなかった。

代わりにドクオは完全に生身なうえ、魔剣による身体強化もないため、一撃一撃が酷く重い。

食らえばその時点で死亡、なのにこちらの攻撃は一切通らないというあまりの戦力差。もしこの場にしぃがいなかったらと思うと背筋が震える思いだった。

6701:2014/09/04(木) 22:19:28 ID:JgPwpBr60

だが、泣き言を言っていてはビコーズにも、しぃにも合わす顔がない。

ドクオはもうとっくに腹を括っている。

しぃを、ビコーズを、ありとあらゆる報われない人達を救う。

ビコーズがそうしてきたように、しぃがそうあろうとしたように。

だからここで引くという選択肢は端からない。あるのはギリギリでもなんでも、彼と戦い、目を冷まさせることだけ。

幸い敵の攻撃はしぃとの連携で避けられないわけではないのだ。攻撃が通らないのが目下の問題点ではあるものの、それにもきちんと目処はつけている。

あとは然るべきタイミングで然るべきことをするのみ。

('A`;)(とはいうものの、俺の体が無事でいてくれるか怪しいな……)

威力、速さ共に魔剣の加護を受けたドクオをゆうに越えている。おまけに魔法まで使えるのだからどこまでも反則級の相手だった。少なくとも今までドクオが相手取ったどの敵よりも手強い。

こちらの動きはいとも容易く見切られるし、あちらの動きにドクオはついていけないし、とないない尽くしである。

('A`)(あとは、ビコーズ神父がどこまで人間であるか、だろうな)

いくら人を越えた存在であっても、目があり、鼻があり、手があり足がある。関節や筋肉の動きにも限界はあるし、視界も全方向確認できるわけではない。

6711:2014/09/04(木) 22:20:19 ID:JgPwpBr60

人型をしている以上、弱点はいくらでもあるはずだ。

ドクオは自分の知識をフル動員して出来る限りの抵抗を試みる。その全てが通用するわけではないが、最悪被弾は防げるはずだ。

('A`;)(しかし、ほんと隙がねえな。今んとこはうまくいってるけど、気を抜いたら即死亡だぞ)

うまく距離を図りながら敵の攻撃のあと、動作の継ぎ目を狙いながら牽制にもならない攻撃を繰り返す。

しぃに攻撃をさせる案も一度は考えたが、氷の剣をどれだけ使うかも分からないし、仕上げに至るまでどれほどの時間がかかるか予測ができない以上、無駄玉を打たす訳にはいかなかった。

ドクオに決定的な危険が迫るまで温存するに越したことはない。

( ゚.゚)

ビコーズの周辺に光の玉が漂い始める。同時にドクオへ向かって突っ込んできた。

氷剣で迎撃。両手に剣を持って力一杯袈裟に振り抜く。

閃光。光が一気に弾けた。

(うA-;)(うおっ、まぶしっ)

6721:2014/09/04(木) 22:21:08 ID:JgPwpBr60

視界を奪われ、ドクオは急いで後ろへ跳ぶ。

(*゚ー゚)「右です!」

しぃの声に従い、さらに右へ。左から大量の破片が突き刺さる。たまらず膝から崩れ落ちそうになるが、踏みとどまり視界の回復を待つ。

が、背中から何かが炸裂した。おそらく、先程の光弾だろう。気を失いそうな痛みを耐えると、視界が元に戻る。

( ゚.゚)

目の前にビコーズが迫っていた。近くの氷剣を掴んでガードの体勢を取ろうとして、思い直す。

敵の武器は魔剣。全ての魔法を破る絶対的破壊の象徴。

辺りには逃げ道がない。

('A`)(やばい……!?)

しかし、ビコーズの攻撃はドクオの顔面数ミリ前を切った。体勢が後ろに崩れている。

下を見れば足元から氷の塊が隆起していた。どうやらそれに足元を掬われたようだ。

6731:2014/09/04(木) 22:21:54 ID:JgPwpBr60

(*゚ー゚)

しぃに魔法を使わせてしまった。礼を言いたいところだが、自分の不手際に申し訳ない気持ちになる。

それでもこれはチャンスだ。ドクオは少し大きめの氷剣を取ると脇腹に叩き込む。さらに顔面へと膝を入れ遠くへと吹き飛ばした。

あまりの硬さに叫び声をあげそうになるが、なんとか抑えてもう一本を投擲。

敵に当たったかを確認せず、ドクオは駆け出す。敵の視界に入る前に次なる死角に入らねばならない。

その瞬間。

( ゚.゚)

('A`;)「なっ」

気付けばビコーズが目の前に立っていた。なんの前触れもなく、さも当然のように。

突然のことにドクオは反応できず、頭上に振り上げられた魔剣を見上げることしか出来ない。

('A`;)(何が……)

6741:2014/09/04(木) 22:22:52 ID:JgPwpBr60

停止した思考。避けなければ、と考えれば考えるほどに動かなくなる体。スローモーションのように一瞬が一秒に、一秒が一分に引き伸ばされていく。

その長く短い一瞬で、ドクオはようやく把握した。オサムが使っていた空間を自由に行使する魔法を、どういうわけかビコーズも使用したということ。

たった、それだけのこと。

簡単に他人の魔法を体得するなどできるはずがないのに、彼は、人ではないそれはなんでもないかのようにやってみせた。

それは自分ではけしてできないことだ。魔法など分からないし、分かったところでできるはずもない。

どれだけ魔力を理解しても、どれだけ世界を知っても、ドクオは所詮ただの人間。

魔剣を持っているだけの、人間でしかないのだから。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!! 動いて!!」

遠くでしぃの声が聞こえた。氷や水の魔法をしっちゃかめっちゃかに発動させているようだが、間に合わないだろう。距離が離れすぎている。

考える時間はたくさんあるはずなのに、伝えなきゃいけないことも山ほどあるのに、ドクオはそれを言葉にすることが出来ない。

6751:2014/09/04(木) 22:23:36 ID:JgPwpBr60

( ゚.゚)

('A`)

(;*゚ー゚)「ドクオさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

魔剣がドクオに触れる。自身の体が魔力となる感覚、そして消滅を始める自分だったもの。

消え行く間際、ドクオは自分の内から溢れるものの存在に、ようやく気付いたのだった。

6761:2014/09/04(木) 22:24:21 ID:JgPwpBr60




(;* ー )「あ、あぁ……」

しぃの目の前で、また一人大切な人がいなくなってしまった。

ドクオは自分が合図を出すまで指示された魔法を使うなと言っていた。それがビコーズを止める唯一の手立てだから、と。

だが、そんなもの律儀に守る必要なんてなかったのだ。ドクオの命を脅かされた時点で使うべきだった。

自分で決めて、自分で選ぶのだと決意したはずなのに、肝心の場面で何故躊躇ってしまったのか。

ドクオは誰にでも優しかった。誰にでも分け隔てなく接していた。平等に誰かを救おうとしていた。

それは渡辺という存在に感化されただけのエゴだったのかもしれないが、それでも彼は自分でそうすると決めて戦い続けていたのだ。

そんなドクオだったからこそ、しぃは信じることができたし甘えることができた。あのひょろくて頼りない背中を見て安らぎを得ることさえあった。

なのに、

6771:2014/09/04(木) 22:25:03 ID:JgPwpBr60

自分のせいで、

自分の弱さで、

自分の甘さで、

彼は、

死んでしまった。

他の誰でもない、自分のせいで。

(* ー )

しぃは力なく膝を折る。無感情のビコーズがゆっくりと近付いてきた。

何も言わず、ひたすらに魔法を発動。小さな威力のものも、大きなものも片っ端から呼び出して攻撃していく。

ビコーズは魔法の嵐の中にも関わらず、散歩するような気軽さで悠々と歩いている。こんなもの、何でもないと主張するように。

手にした力を、格の違いを見せつけるように。

最後の魔法を打ち終えて、しぃは今度こそ虚脱感に身を任せた。

もうビコーズを止める手段も、力もない。しぃ一人では役不足だ。

何より、この世界のどこを探してもドクオがいない。

一緒にビコーズを探しにいこうと笑った柔和だけど整っているとは言えない顔。

やる気がなくていつも気だるげに話す声も、全部、全部。

(* ー )「ごめ……なさ……」

6781:2014/09/04(木) 22:25:45 ID:JgPwpBr60

誰にともなく呟く言葉と同時、しぃは魔法陣を展開させる。

自身の全ての魔力、果ては自分の体のマナをも使っての最大火力。

もう、自分には何もできない。大切な人を、仲間を守ることさえろくにできず、探していた恩人を救うこともできない。

全部、自分の覚悟が足りなかったから。

だから、せめてもの償いを。

何もできない自分にできる最後の贖いを。

(* ー )「さよなら」

しぃは魔法を発動させた。

しかし、何も起こらない。どころか展開させていたはずの魔法陣さえ輝きを失い霧散していく。

静寂が訪れ、音もなく近づいてくるビコーズの姿にしぃの思考はより深みへと堕ちていった。

(* ー )「……どうし、て」

周囲にはいつの間に張っていたのか魔法無効果の術式が展開されていた。しぃが集めた魔力も、自身のマナもごっそりと消えていく。

最後の足掻きさえ出来ない。させてもらえない。

6791:2014/09/04(木) 22:26:39 ID:JgPwpBr60

自分の命さえ賭けたのに、心に灯ったはずの光が徐々に弱くなっていく。

(* ー )「これが、私の贖罪というわけですか。咎だと、あなたは仰るんですね」

ビコーズは答えない。

(* ー )「私には誰も救う権利なんてなくて、救われる権利もないと」

ビコーズが足を止めた。魔剣を振りかぶっている。

(*;ー;)「確かに私は咎人ですよ!! それでも、最後くらい、自分の死に場所くらい選ばせてくれたっていいではないですか!!」

彼女の痛々しいほどの叫びが辺りに響いた。それに答える者はどこにもいない。

かつて信じていた神も、その教えを説いた神父も、この場においてはしぃを断罪する処刑人で、しぃには許しを乞うことも全てを嘆く権利もない。

でも、それでも、しぃは彼に伝えなければならなかった。

届くことはないと知っていても、ここにいる何かはビコーズではないけれど確かにビコーズなのだから。

(*;ー;)「私は神父様を恨みません。あなたに沢山の愛を頂きました。たくさんの教えを頂きました。人を愛すること、誰かを救うこと、人として受けるべきだった全てをあなたは私にくれたのです」

6801:2014/09/04(木) 22:27:22 ID:JgPwpBr60

(*;ー;)「血の繋がりなんてなくとも、あなたと過ごした日々が、思い出が、想いが、私達みんなが家族であると教えてくれています」

(*;ー;)「私は神父様を救うことはできません。悲しみに暮れている神父様に手を差し伸べる権利も力もないのでしょう。たから、私は自分にしかできない最後のことをしようと思います」

(*うー;)

しぃは涙を拭い、泣き顔を笑顔へと変える。

もう涙は出ない。

今、目の前にいるのは紛れもない彼。想い焦がれたいつかの父親なのだ。

別れに相応しいのは涙じゃない。

感謝を込めた、心からの笑顔。

6811:2014/09/04(木) 22:28:04 ID:JgPwpBr60





(*。^ー^。)「育ててくれてありがとうございました、お父さん」





.

6821:2014/09/04(木) 22:28:51 ID:JgPwpBr60

( ゚.゚)……

ビコーズは何も言わない、動かない。剣を振りかぶったまま、しぃを見ているだけ。

もう十分彼は苦しんだ、地獄を見てきた。

教会を無くし、たった一人で何を見てきたのかしぃは知らない。けれどもここで娘に刃を向けなければならないほどには辛い経験をしてきたのだろう。

だからこそしぃは最後に笑ってあげなければ、認めてあげなければ彼の人生が無意味なものだったと肯定することになる。

しぃは立ち上がり、ビコーズと真っ正面から向き合い、その体を抱き締めた。

(*。^ー^。)「もう一度会えてよかった」

しぃがそう言ったとき、冷たい滴が彼女の頬を濡らす。

ビコーズの顔を見れば、大きく見開かれた瞳から大粒の涙が溢れていた。

(*゚ー゚)「お父さん?」

6831:2014/09/04(木) 22:29:35 ID:JgPwpBr60

( ;.;)コンナフガイナイワタシヲマダチチトヨンデクレルノカ

(*゚ー゚)「当たり前ですよ。親というのは、そういうものでしょう?」

( ;.;)アア、アア

(*゚ー゚)「私が最後までそばにいます。だから、終わりにしましょう。これ以上誰も傷つけなくていいんです」

その言葉と同時に、ビコーズの体色が人本来の色を取り戻していく。羽は光の粒子となって溶け、異様に盛り上がった筋肉も年相応の痩せ細ったものへと戻っていった。

( ;.;)「私はもう人を傷つけたくない!」

(*゚ー゚)「神父、様……」

けして泣くまいと自らの感情に蓋をしていたはずなのに、次から次へと涙が溢れていく。

(*;ー;)「神父様、いえ、お父さん!!」

しぃは生まれて初めて、人目を憚らず大声をあげて泣いた。

( ;.;)「すまなかった。そして、ありがとう……」

ビコーズの腕がしぃを力強く抱き締める。

しぃは、この日神父が、ビコーズが父としてくれたものを一生忘れまいと、心から誓った。

本当に大切なものは、今この瞬間をもって確かなものとなったのだから。

6841:2014/09/04(木) 22:30:27 ID:JgPwpBr60

( -.-)

(*-ー-)

けれど、しぃは忘れていた。幸福も大切なものも、きちんと掴んでいなければすぐにさらわれていくということを。

だから、しぃは気づかなければならなかった。敵はけしてビコーズだけではないということに。

━━ドクン━━

(*゚ー゚)「……え?」

━━ドクン、ドクン━━

( ∵)「━━」

ビコーズがしぃを突き飛ばし、何かを言っていた。なのに、それを理解できない。

いや、理解できないのではなく、何を言っているのか分からなかった。

(;*゚ー゚)「お父さん!!」

何故なら、

( . )「━━!!」

ビコーズはもう、

(*;ー;)「やめてええええええええええええ!!」

ビコーズではなくなっていたから。

6851:2014/09/04(木) 22:31:09 ID:JgPwpBr60

( ∵)「ハハハハハハ!! 手ニ入レタ!! 手ニ入レタゾ!! 全テヲ越エル力ヲ、全テヲ操ル体ヲ!!」

再びビコーズの体が黒く変色、白き翼を纏い魔力を放出。

体はビコーズのもののはずなのに、顔付きはまるで別人。先程瞬殺されたオサムのように見える。

( ゚"_ゞ゚)「コレガ力、コレガ世界ノ全テ。実ニ面白イ!! サァ!! 死ノ饗宴ヲ始メヨウデハナイカ!!」

6861:2014/09/04(木) 22:31:51 ID:JgPwpBr60



ここは、どこだろうか。

自分は死んだのだろうか。

真っ暗で何も見えない。

魔剣アポカリプスの力で、自分は魔力へと分解されたのだ。もう生きてはいないだろう。

なのに、何故自分はまだここに存在しているのか。

そもそも死とは何だろう。生きるとはなんだろう。

人が魔力の塊だと言うのなら、魔力さえ生きていると言えるのではないか。

じゃあ、魔力となった自分はどんな存在なのだろう。

人であると言えるのか、はたまた別の存在へと変化するのか。

いや、人はどこまでも人だ。

泣いて、笑って、苦しんで、悲しんで、悔やんで、それでも歩き続けるのだから。

ほら、同じようにたくさんの人が感情を、心を燃やしている。

懸命に、這いつくばっても、たくさんの人が生きようとしている。

6871:2014/09/04(木) 22:32:45 ID:JgPwpBr60

ξ;゚⊿゚)ξ(;´・ω・`)

あれは、ツンとショボンだ。街に張り巡っている魔法を解こうと奮闘していた。

誰かのために、みんなのために。

从;'ー'从( ;・∀・)

渡辺とモララーがこちらに向かってきている。尋常じゃないくらいに焦燥した顔をして、戦っているであろう自分達のために。

(*;ー;)( ;.;)

しぃがオサムの前で泣いている。オサムに乗っ取られたビコーズも、必死に叫んでいる。

血の繋がりがなくても、しぃとビコーズは紛れもなく親子という絆で繋がっているから。だから二人で戦おうとしている。

( ゚"_ゞ゚)

オサムの手によって弄ばれたたくさんの運命が、たくさんの命が、ここには集まっているのだろうか。

誰も彼もが戦っている世界で、一人俺は何をしている?

('A`)

6881:2014/09/04(木) 22:33:42 ID:JgPwpBr60

想いが、絆が、心が、終わりじゃないと伝えている。

まだ死んじゃいない。

オサムも、きっとここに連れてこられたのかも知れない。

繋がっていく世界を、人の絆を、想いを、全てを、あいつも知ったんだ。

それでもあいつは私欲を望み、顕現した。

俺は止めなくちゃならない。

終わりにさせちゃいけない。

ここにある幾つもの心が、記憶が、俺を導いてくれる。

('A`)「なあ、そうだろ? そのために俺を連れてきたんだろう、   」

『━━━━』

声は遠い。なのにはっきりと意思だけが伝わってくる。

ドクオは手を伸ばした。

戦うために、抗うために、守るために。

この心は、想いは、まだ砕けちゃいない。

ならば、ドクオは歩みを止めてはならないのだ。

己の矜持をなかったことになどできやしないから。

ドクオの目の前に、光が現れた。

6891:2014/09/04(木) 22:34:25 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

後方から来た渡辺から事情を聞いたモララーは、信じられない気持ちで一杯だったが、現状を鑑みるに事態は最悪の方へ進行していることをようやく飲み込んだ。

( ・∀・)「こいつは参ったね」

从'ー'从「早くどっくん達にも伝えないといけませんね〜」

( ・∀・)「毎度思うんだけど、渡辺ってあんまり焦らないよな」

从'ー'从「こう見えてすごく焦ってるんですよ〜」

(*゚∀゚)「マイペースとも言えるんだニャ」

( ・∀・)(え? なんで猫が喋ってんの? てか、これ使い魔だよね? どういうことなの?)

どうしようもなく疑問を口にしたいところではあるが、今はそれを聞いたら負けな気がする。詳しくはあとで話してもらうことにしよう。

現在モララーと渡辺は大量の魔力が流れる方を追っているところだった。

6901:2014/09/04(木) 22:35:08 ID:JgPwpBr60

もし、ショボンの予想が正しいとすればこの町にいる全ての人間が魔力へと変換される可能性がある。そうなればもはや敵を止める人間はいないし、下手をすれば大陸そのものの崩壊を招きかねない。

本来であればモララーも一目散に逃げ出したいところではあるが、ぐっと心の奥底に押し込めておく。

( ・∀・)「と、ここだな」

从'ー'从「……あれれ〜? 何か変な音がしませんか〜?」

( ・∀・)「変な音?」

渡辺に言われて、モララーは耳を澄ませてみた。

確かにどこからか妙に甲高い音が聞こえる。モララーの耳、というより感覚が正しければ、これは……。

( ・∀・)「魔力が、共鳴してる?」

从'ー'从「共鳴って……」

( ・∀・)「……分からん。が、様々な魔力が入り交じって相互干渉を引き起こしてるみたいだな。こりゃ、マジで離れた方が」

モララーの言葉は最後まで紡がれることはなく、すぐに防御魔法を発動。膨大な魔力が下方から噴出する。

岩壁を食い破り、弾き飛ばし、飲み込みながらあらゆる方向へと暴れまわる魔力の波。あとコンマ数秒防御が遅れていたら、モララーと渡辺は塵も残さず消滅していたかもしれない。

( ・∀・)「……何が起こってるんだ、あれ」

6911:2014/09/04(木) 22:35:51 ID:JgPwpBr60

(*゚∀゚)「何者かが世界の理を垣間見たんでしょうニャ」

( ・∀・)「は? 世界の理?」

从'ー'从「断り? お引き取りくださーいってこと?」

( ・∀・)「……よくわからねえけど、魔力とはまた違った力ってことか?」

(*゚∀゚)「ご主人達もよく知ってる力だニャ。魔剣、と言えばわかるかニャ?」

魔剣。

その一言にモララーはある程度の意味を理解する。

魔剣アポカリプス。伝承の中で絶大な力をもたらし、神をも殺した最凶の象徴。

だが、それは今ドクオの手にあるのではないか。そしてそれを持つドクオはすでにその力を知っているはず。

ならば、猫の言う理を垣間見たというのは少々腑に落ちない。

(*゚∀゚)「今の持ち主は魔剣の力を、魔剣が秘める力の意味を僅かたりとも理解していなかったニャ。けれど、どういうわけか今、その入り口に立ったということだニャ」

( ・∀・)「……」

得意気に語る猫の使い魔。渡辺は無邪気に物知りだね〜、などと誉めちぎっているが、モララーはうすら寒ささえ覚えてしまう。

何故、こいつは使い魔の癖に人語を解するのか。さらに、どうしてモララー達が知らないような情報まで事細かに話せるのか。

ただの使い魔でないことは分かる。けれど、こいつはそれ以上に常軌を逸している。

( ・∀・)「……猫。お前は」

6921:2014/09/04(木) 22:36:36 ID:JgPwpBr60

(*゚∀゚)「今それを聞いてどうするつもりですかニャ? そんニャことよりすべきことがあると思いますがニャ」

使い魔に指摘され、舌打ちを打つ。

確かにその通りだ。あそこにドクオ達がいるなら助太刀しない理由がない。

( ・∀・)「くそったれ!!」

モララーと渡辺は暴走した魔力が収まるのを見計らって中へと突入。グシャグシャになった広い空間の中に、二つの人影。

(* ー )

一人は力なく瓦礫に転がる小さな少女。

( ゚"_ゞ゚)

もう一人は見たことのない姿形をした漆黒に染まった異形の存在。

なのに、モララーにははっきりと分かる。あれは自分達の敵で、倒さねばならない驚異なのだと。

从'ー'从「しぃちゃんと、オサムさん……なのかな?」

( ・∀・)「おい、ドクオがいねえぞ」

瓦礫に降り立ち、しぃを抱き起こす。息はある。死んじゃいない。

( ・∀・)「喋れるか?」

6931:2014/09/04(木) 22:37:19 ID:JgPwpBr60

(* ー )「たい……ちょ……あれは、あの人は……私の、おとう、さん……で」

( ・∀・)「無理に喋るな。渡辺、しぃを頼む」

(* ー )「どく、お……さんも、死んで……」

( ・∀・)「……あいつはまだ死んじゃいないさ」

(* ー )「へ?」

( ・∀・)「あいつがそう簡単にくたばるたまかよ。何、時間稼ぎでもしてりゃそのうちひょっこり顔出すさ」

あいつはそういうやつだ、とは口に出さず、狼狽える渡辺にしぃの介抱を任せる。

槍を呼び出し、構えて男と対峙。

( ・∀・)「うちの部下が随分世話になったみたいじゃねえか」

( ゚"_ゞ゚)「マタ生贄ガ現レタカ。貴様ハ神ヲ目ノ前ニシテイルノダ。平伏シタラドウカネ」

( ・∀・)「神だか白髪だか知らねえが、てめえは俺の敵で、世界の敵だ。なら、さっさと終わらせてもらうぜ!」

男━━渡辺がオサムと呼んでいた━━の返答を待たずにモララーは瓦礫を蹴っていた。

鋭い突きの嵐、さらに後方から大量のレーザーを発動。自身は上空へと跳躍し、そこから落下速度を加えた一撃を放つ。

轟音、周囲に砕け散った岩や砂利が巻き上がった。だが、手応えがない。

( ;・∀・)(後ろ!?)

6941:2014/09/04(木) 22:38:03 ID:JgPwpBr60

( ゚"_ゞ゚)

軽く頭を背に向ければ、オサムが無防備に立っている。特に何かをしてくる様子もなく、不気味な笑みを浮かべているだけだ。

( ・∀・)(どういうことかは知らねえが、チャンス、だな!)

振り返り様、オサムを光の弾で蟻一匹通さないほどびっしりと取り囲み、一斉に発射。瓦礫の山を全て破壊し尽くすほどの威力と数を込めた魔法だ。無事で済むわけがないのだが……。

( ;・∀・)「!?」

モララーは瞬間的に防御魔法を展開。刹那、モララーが放ったはずの光弾がそっくりそのままこちらへと跳ね返ってくる。

( ;・∀・)(ちっ!!)

どこまで耐えられるかも分からないが、防御壁の外側に別の魔法を設置、展開し、モララーは防御を解く。

魔法陣が展開されると同時に光弾はそちらへと誘導され、次々と弾けとんだ。

( ・∀・)「らぁっ!」

視界は未だに土煙で遮られているが、モララーにはオサムが動いていないという確信めいた予感があった。

力を得て、己を過信しているものはゆっくりと敵をいたぶるのが好きな傾向がある。おそらく、オサムも同じだろう。

( ・∀・)(捉えた!)

6951:2014/09/04(木) 22:38:49 ID:JgPwpBr60

予想通り、さらに幸運なことにオサムはそっぽを向いてこちらに気付いていない。今が絶好のチャンス、これを逃さない手はないだろう。

だが。

(  ∀ )「はっ」

何が起こったのか分からなかった。一歩踏み込んだ瞬間、謎の衝撃が腹部を圧迫。おまけに体の至る部分に切創が大量に作られていく。

(  ∀ )(何が……)

( ゚"_ゞ゚)「脆イゾ人間」

声が聞こえ、追い討ちをかけるように再び謎の衝撃がモララーの頭部に加えられた。

一気に意識を持っていかれそうになり、気づけば瓦礫の上に転がっていた。やはり、分からない。

(  ∀ )(どうなってやがる……)

( ゚"_ゞ゚)「マルデゴミクズノヨウダ。神ニ逆ラウナド愚カダヨ」

なおもやかましく一人大仰しい動作を交えながら高説を垂れるオサムだが、さすがのモララーもこれは予想外である。

確かに本調子でないとはいえ、こうもあっさり戦闘不能にされるとは思わなかったのだ。

いくら神だなんだといったところで大したことはないと踏んだのが間違いだったらしい。不可視の力は的確にモララーの急所を捉えている。

6961:2014/09/04(木) 22:39:33 ID:JgPwpBr60

(  ∀ )「ゲホッ……やべえな、これ」

時間稼ぎにすらならないなんて、騎士団の隊長としての面目丸潰れだ。

しかし、目に見えない強力な攻撃などどうすることもできない。あの猫が言っていた世界の理とやらの力だとでもいうのか。

( ゚"_ゞ゚)「モウ動ケナイカ。当然ダ。世界ノ理ヲ覗イタ今ノ俺ニトッテ人ナド玩具同然ダカラナ」

下卑た笑い声と嘲笑の笑顔が、モララーを見下ろしていた。動こうにも体の隅々までピクリともしない。体中を駆け巡るマナに何らかの細工がなされたのかは知らないが、もはやモララー、いや、ショボンやジョルジュでさえ敵わないだろう。

从;'ー'从「ね、猫ちゃん!」

(*゚∀゚)「ニャ」

動けないモララーを見かねたのか、渡辺が炎弾を、猫が光弾をオサムへと放つ。

だが当然のようにオサムには届かない。届く前に消えてしまった。

( ゚"_ゞ゚)「神ノ前デ無駄ナコトヲ」

オサムが腕を振り、使い魔であるツーが消滅。この間、コンマ数秒の出来事だった。

涙を浮かべ、腰が引けているにも関わらず、渡辺はけして逃げることはせずに、深呼吸の後、渡辺は口を開いた。

从;'ー'从「か、神様なんて知らないもん! 少なくとも、神様は私達人間を傷つけたりなんてしないよ!」

6971:2014/09/04(木) 22:40:16 ID:JgPwpBr60


( ゚"_ゞ゚)「全知全能ノ神ガドノヨウナ気紛レデ虫ケラヲ殺ソウト構ワナイダロウ。憐レナ下等生物共ヨ」

(  ∀ )「渡辺! 逃げろ! お前じゃどうしようもねえ!」

モララーは精一杯の声で叫ぶ。しかし渡辺はオサムをしっかりと見据える。

从'ー'从「……あなたは、どこまでも悲しい人だね。人として大切なものを失くして、人としての命まで捨ててしまうなんて」

( ゚"_ゞ゚)「ナニ?」

从'ー'从「人はね、神様なんかに負けないよ。だって、人はいつだって自分の力で歩いてきたもん」

从'ー'从「誰かを助けて、笑顔をもらって、明日も頑張ろうって思えるから、それが私達を動かす力になる」

从'ー'从「人は、あなたに比べたらすっごく小さな存在だよ? でもね、私達は一人で戦ったりしない。一人で生きてるわけじゃない」

6981:2014/09/04(木) 22:41:00 ID:JgPwpBr60

从'ー'从「あなたは今、誰かと繋がってる? 誰かのために何かをしようとしてる? そんなあなたになんて私達は負けない!」

从#'ー'从「だから、私は最後まで戦う! みんなのためにも、私のためにも、絶対、絶対なんだから!」

馬鹿野郎。本当にどうしようもない大馬鹿野郎だ。

そういえば、みんなそうだった。あいつに関わったやつはみんな何かのために、誰かのために、倒すための戦いではなく、守るために剣を取るようになる。

(  ∀ )「はは、ったく、馬鹿ばっかりだな」

(* ー )「本当に、そう思います」

自嘲気味に呟いた言葉に、返事がくる。モララーと同じく、体中血塗れになりながら、震える足で必死に立ち上がろうとしていた。

(* ー )「教えてもらいました。戦う意味、理由、人を救うために必要なこと。そして、私が私であるための大切なものを」

(* ー )「私はずっと自分というものを偽って生きてきました。誰も救えず、力がないからと言い訳をして、逃げていた」

(* ー )「本当は何かができたはずで、行動できたはずなんです。弱さを知りながら、向き合うことができなかっただけ」

(* ー )「一人じゃ怖くて、足がすくんで、進むことができなかったから。でも、私は知りました。気付きました」

(* ー )「私は一人じゃありません。たくさんの人に支えられて生きています」

(* ー )「だから!」

6991:2014/09/04(木) 22:43:35 ID:JgPwpBr60
(* ー )「私は! 神父様を、お父さんを助けるために出来ることをします! もう逃げません!」

絶望的な状況の前で、よくこうまで言い切れるものだとモララーは呆れを通り越して感心してしまった。

死にかけの体で、策も力もない弱い体で、それでもなお戦うというのか。

ならば、大人の男で、騎士である自分が寝ているわけにはいかないだろう。

( # ∀ )「んなろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

筋肉が軋みをあげ、ぶちぶちと何かが切れる音がする。

知ったことか。小娘どもにここまで言わせたのだ。今だけでいい、死んだっていい。動け。

7001:2014/09/04(木) 22:45:28 ID:JgPwpBr60

( #・∀・)「らぁ!」

立ち上がり、槍を取る。まだ終わらない。終われない。

心が折れるまで、モララー達は何度でも立ち上がるだろう。たとえ腕をもがれ足がちぎれても、戦わねばならない理由がある。

( ・∀・)「さぁ、もう一戦始めようかくそったれな神様よ!」

( ゚"_ゞ゚)「愚カナ……人トハドコマデモ愚カダナ。何故コウモ死ニ急グ。ヤハリ、改革ガ必要ダ」

从'ー'从「させないもん! 私達の世界は私達で守って見せるんだから!」

(*゚ー゚)「あなたの好きにはさせません。たとえあなたが神様だとしても、私はあなたを認めません」

( ゚"_ゞ゚)「クックックッ、シカシ、モウ遅イ。戦イニスラナランヨ」

( ・∀・)「あ?」

オサムがパチリと指を鳴らすと、地面が揺れた。

始めは小さく、しかし徐々に強さを増していく。

从;'ー'从「え?」

( ゚"_ゞ゚)「ハハハ! 刮目セヨ! 世界ハ今宵生マレ変ワル!」

(;*゚ー゚)「何を……」

7011:2014/09/04(木) 22:48:12 ID:JgPwpBr60
次の瞬間。

モ・トコに絶望が舞い降りた。
空は赤く染まり、街に光が降り注ぐ。破片が舞い上がり、炎が地面を駆け巡っていく。

爆発音、破裂音、粉砕音、ありとあらゆる破壊の断末魔が響き渡っていった。

( ;・∀・)「……これは」

( ゚"_ゞ゚)「人ノ命ガ、自ラノ世界ヲ破壊スル様ヲ見届ケルガイイ! ココカラ世界ガ始マルノダ!」

光はやがてモ・トコに留まらず、南へと流れていく。あの方角は━━

(;*゚ー゚)「あっちは……」

从;'ー'从「王都だよ!?」

( ; ・∀・)「冗談じゃねえ!! 今すぐ止めろ!」

( ゚"_ゞ゚)「フン!」

モララー達の前で何かが弾ける。

それだけ、たったそれだけでモララーの体は動けなくなった。腕、足、腹、胸から血が滴っていく。

横を見れば渡辺やしぃも同様に地に伏している。

7021:2014/09/04(木) 22:48:54 ID:JgPwpBr60



(  ∀ )(戦うとか戦わねえとか、そんな次元じゃねえ……端から勝負にすらなりやしねえ……)

力の桁が違いすぎる。不可視なだけでなく、理論も理屈も分からない。魔法ではない他の力。

未来も、過去も、心も、体も、

神の前では児戯でしかないというのか。

(  ∀ )(くそ……くそ……! くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!)

( ゚"_ゞ゚)「終ワリダ。死ネ」

从; ー 从「うぐっ……」

(;* ー )「まだ……あきらめ……」

( ;  ∀ )「っのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

モララーの叫びが響き渡り、どう足掻いても避けきれない光の弾幕がこちらに向かってきた。

7031:2014/09/04(木) 22:52:09 ID:JgPwpBr60
かってきた。

自身の無力さ、自身の思慮の浅さ、考え出せばきりがないほどたくさんの後悔が押し寄せてくる。

力があれば、ああしていれば、もっと別の方法もあったはずなのに、せめて二人の少女を守ることだってできたはずなのに。

ここに必要なのは圧倒的な力で、誰かを守ってくれる救世主で、それは神様なんかじゃないのだ。

たとえボロボロになっても、弱い心だとしても、力の使い方を、在り方を履き違えないどこまでも馬鹿な人間。

それが、

('A`)

横合いから一人の男が乱入する。

紅い剣を携え、伝説の力を引っ提げて、

そいつは、遅い到着を果した。

从'ー'从「どっくん!」

(*゚ー゚)「ドクオさん!」

( ・∀・)「おせえぞ、馬鹿野郎」

('A`)「わりい。ちょっと道が混んでてさ」

7041:2014/09/04(木) 22:52:52 ID:JgPwpBr60

ちらりとこちらを一瞥し、軽く手を振る。すると、モララー達の傷がみるみるふさがり、体力も幾分か回復した。

( ;・∀・)「な!?」

ドクオは魔法を使えないはず。なのに、この現象はどういうことだ。

それに、どこかその背中が頼もしく見える。姿形は変わらないのに、纏う雰囲気だけが別人のようだった。

( ・∀・)(また一皮剥けたってわけか)

('A`)「三人とも。あとは俺に任せてみんなを連れて逃げてくれ」

(*゚ー゚)「何を……」

('A`)「もうこの街は限界だ。しかもオサムが発動してる魔法はこの街の全魔力が対象になってる」

从'ー'从「それって……」

('A`)「このままここにいたら助からない」

モララーは判断に迷う。確かにモララー達では歯が立たないどころかまともに戦うことも出来ないが、支援くらいなら出来るはずだ。

敵の攻撃の出所や、方法をゆっくりと検証していけば勝機を見出だせるかもしれない。

7051:2014/09/04(木) 22:53:36 ID:JgPwpBr60

('A`)「モララー。お前の言いたいことは分かる。けど、ツンやショボンさんにも伝えてる時間がないんだ」

( ・∀・)「……最後に一つ聞かせろ」

ドクオの言いたいことも、自分が聞きたいことも理解して、飲み込んで、モララーはたった一つ、たった一つだけ大事なことを口にする。

( ・∀・)「勝てんだろうな」

('A`)「当たり前だ」

ニヤリとドクオが笑った。モララーも釣られて笑う。

( ・∀・)「……分かった。さっさと終わらせろよ。俺達じゃ逆立ちしても勝てそうにねえんだ」

('A`)「おうよ」

从'ー'从「どっくん! 早く帰ってきてね!」

(*゚ー゚)「ドクオさん」

と、しぃがドクオの手をきゅっと握る。

(*゚ー゚)「あの、その……」

('A`)「しぃちゃん。終わったら、全部話す。何もかも」

(*゚ー゚)「……はい」

('A`)「それと、神父のことは任せろ」

(*゚ー゚)「ッ!」

7061:2014/09/04(木) 22:54:20 ID:JgPwpBr60

(*゚ー゚)「はいっ!」

( ・∀・)「行くぞっ!」




ビコーズを乗っ取った本物の悪魔と向き合い、ドクオは無表情で睨み付ける。

('A`)「よぉ」

( ゚"_ゞ゚)「ヤハリ帰ッテキタカ」

('A`)「もう言葉はいらねえだろ。さっさと始めようぜ」

( ゚"_ゞ゚)「イイダロウ。俺カ、オ前カ、世界ノ命運ヲ、神ト呼バレルハドチラガ正シイカ」

地響きが大きくなっていく。他に人はいない。人の、世界の理を外れた二人が視線を交差させる。

(#゚A゚)「オサムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

( ゚"_ゞ゚)「コォォォォォォォォォイ!!」

ドクオとオサム、理を知ったもの同士最終決戦の火蓋が切って落とされた。

7071:2014/09/04(木) 22:55:03 ID:JgPwpBr60
第十四話 終

708名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 22:56:25 ID:b6BMUx6M0
おつおつ

7091:2014/09/04(木) 22:56:56 ID:JgPwpBr60
皆さま大変お待たせいたしました
第十四話これにて投下完了です
次回でモ・トコ編終了となります
ではまた約二週間後に投下いたします
今回も読んでいただきありがとうございました
それではまた次回

710名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 23:17:19 ID:xPzAxDGw0


711名も無きAAのようです:2014/09/05(金) 00:25:04 ID:uLx6ALLs0
乙!!!
理とは一体…

712名も無きAAのようです:2014/09/05(金) 00:29:17 ID:U8TxXkf.0
乙乙
続きが気になります

7131:2014/09/17(水) 20:55:21 ID:5578e4r.0
どうも1です
今月末から出張が入ってしまいました
年内一杯までだそうでして、かきための方がなかなか進まないことが予想されます
ですのでしばらく不定期の更新とさせていただきたいと思います
完結までは逃げることはないので、みなさまのんびりとお待ちいただければと思います
大変申し訳ありません

714名も無きAAのようです:2014/09/17(水) 21:27:24 ID:.tlB1Wlw0
待ってますよ

715名も無きAAのようです:2014/09/18(木) 22:29:16 ID:lI2dWaG60
>>713
それを言うやつの大半が帰ってこないんだぞ
ちゃんと帰ってこいよ

716名も無きAAのようです:2014/09/18(木) 22:39:32 ID:LkoAlEyw0
待ってる

717名も無きAAのようです:2014/09/21(日) 20:02:13 ID:cFXT.drI0
これタイトル変えなくていいのか?

718名も無きAAのようです:2014/09/21(日) 20:20:34 ID:USs0vCSk0
すでに>>26から>>40までに結論がでてますし

719名も無きAAのようです:2014/09/23(火) 10:56:01 ID:.8lCfeZk0
一通り目を通したつもりだったけど見落としてたわ
ありがとう

7201:2014/09/25(木) 22:39:15 ID:MmZDOqrI0
どうも1です
十月中旬くらいに投下する時間が作れそうです
次回でモ・トコ編終了です
お待たせして大変申し訳ありません

721名も無きAAのようです:2014/09/25(木) 23:14:57 ID:XsxEE0yM0
キターー(゚∀゚)!

722名も無きAAのようです:2014/09/26(金) 21:25:54 ID:roJe45Dw0
待ち遠しい
本当に好きな作品だから完結まで読みたい

723名も無きAAのようです:2014/09/27(土) 06:16:23 ID:jn9q.4cs0
よし全部めを通したぞー
さくしゃがんばらい

724名も無きAAのようです:2014/10/05(日) 04:32:59 ID:0EMU2hwk0
いつの間にかまとめがついてたことにびっくりした

725名も無きAAのようです:2014/10/05(日) 21:52:23 ID:EZY0KHj20
http://boonzone.web.fc2.com/different_world.htm
これか

7261:2014/10/19(日) 18:23:16 ID:YXzuX9nI0
お待たせして申し訳ありません

明日の21時から投下出来そうです!

727名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 19:07:02 ID:Lr4GRp020
待ってる

728名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 19:34:34 ID:UNprwVgY0
まってたぞ!!!!

729名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 22:07:39 ID:bYzPauyo0
おっしゃ待ってた

730名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 14:24:36 ID:jOwQCam20
追いついた
楽しみに待ってるで!

731名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:39:28 ID:1j5FkWLI0
キタ━━ヽ(´ω`)ノ゙━━!?

732名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:46:57 ID:yM8xbfhw0
ξ゚⊿゚)ξウズウズ

733名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:57:29 ID:1j5FkWLI0
( ^ω^)ツンどうしたお

734名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:25:58 ID:/z22627U0
ダメそうか?忙しいって言ってたもんなあ

7351 ◆B8K2xdDAGY:2014/10/20(月) 22:34:00 ID:OowH3q0c0
お久しぶりです、1です
書き込んだ覚えがないのに投下予告が出ているのにちょっと驚きです
今後このようなことがないよう酉つけておきます
そして本編の進捗状況なのですが、予想以上に長くなってるのと、重大なミスを発見してしまい現在書き直しております
もしかしたらまた話を二つに分けるかもしれません
その際は再び投下予告に参りますのでよろしくお願いします
次の投下は10月31日〜11月の頭くらいを目処にしていただけると助かります
なかなか顔を出せずに申し訳ございません
そして毎度ながら読んでいただいてる皆様には最大の感謝を
それではまた

736名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:39:40 ID:jOwQCam20
おお、まさかのなりすましだったのかw
楽しみに待ってますわ

737名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:45:27 ID:/z22627U0
       ∧∧
      ヽ(・ω・)/ ズコー
     \(.\ ノ
  、ハ,,、

738名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:54:52 ID:JZN7TagEO
ほんとにズコーだな(AA略)

739名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:56:06 ID:LLuHzcCE0
なりすましで作者を誘い出す高度な外道技

740名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 23:26:48 ID:m2vpLxYs0
乙乙ゆっくり書いて完結してくれ

741名も無きAAのようです:2014/10/21(火) 00:19:53 ID:/XAOGoUM0
( ゚ω^ )ゝ 乙であります!
ゆっくりでいいぞ!!
その間に読み直しておくから!

742名も無きAAのようです:2014/11/06(木) 10:04:16 ID:fgKdE9qI0
そろそろ…

7431 ◆B8K2xdDAGY:2014/11/09(日) 18:25:12 ID:oZDNoOvw0
おひさしぶりです、1です
ようやく投下の目処が立ちました
予定してた時期より大幅に遅れをとっていますが、11月20日の21時より投下をしたいと思います
大変お待たせしまして申し訳ございません

744名も無きAAのようです:2014/11/09(日) 22:55:16 ID:XLXiaqAM0
待ってた

745名も無きAAのようです:2014/11/11(火) 19:25:46 ID:RMBGZ2SA0
きたああああ

746名も無きAAのようです:2014/11/21(金) 07:06:01 ID:5JCPB7Oc0
・・・

748名も無きAAのようです:2014/11/25(火) 00:02:38 ID:r80BlYAcO
あれれ〜?

749名も無きAAのようです:2014/11/25(火) 00:07:27 ID:zsG4nz5k0
前も一時的に規制されてたってVIP総合でヘルプ出してたからそれかもなあ

750名も無きAAのようです:2014/11/27(木) 02:44:59 ID:7iBjJjVc0
気長に待とうではないか

751名も無きAAのようです:2015/03/22(日) 21:48:27 ID:iyl5n7SE0
待ってるよー

752 ◆5EWptf5Cbg:2015/06/04(木) 16:48:59 ID:ORCc//7c0
これかな

753 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/04(木) 16:49:41 ID:ORCc//7c0
こっちか

7541 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/04(木) 16:54:27 ID:ORCc//7c0
皆様約半年ぶりでございます
1は仕事の忙しさとか色々なことから逃げてスレから逃亡しておりました
大変申し訳ございません
ようやく自分の気持ちも踏ん切りつきましたのでぼちぼち再開していこうかなと思いますので
よろしければお付き合いいただければ嬉しいです

つい先程また再開しようかなと思い立ったので、いつ頃投下するかは分かりませんが、夏が終わるまでには投下しますので、よろしくお願いいたします

755名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 17:41:28 ID:ywxLv2j.0
よろしくお願いいたします

756名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 17:53:09 ID:Jbise1e6O
ほほう。期待して待っとるよー

757名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 19:27:51 ID:VhF5csno0
良かったよ、気にせずまたよろしく!
楽しんで読んでたからね

7581 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/14(日) 01:31:30 ID:3.aqaflI0
どうも1です
今までどこまで書いたかとか色々と考えていた設定を書いたデータが
どっかにいってしまったため初めから読み直してきました
とりあえず十五話に関しては以前書いたものの冒頭が残ってたので今月中には投下したいなぁと考えております

また進捗具合などを報告しに参りますので、その際はよろしくお願いいたします

759名も無きAAのようです:2015/06/14(日) 09:05:20 ID:Yu1PIQpU0
きたい

760名も無きAAのようです:2015/06/14(日) 10:40:07 ID:riYLBk8E0
待ってるよー

761名も無きAAのようです:2015/08/16(日) 21:42:24 ID:fjrG4mo60
今年中に来てくれることを祈る

762名も無きAAのようです:2015/08/22(土) 20:03:44 ID:iEnPJe3Y0
気長に待つさ

763名も無きAAのようです:2017/02/24(金) 05:34:27 ID:xiPdW8fA0
追いついたけどもう更新は無いのかなあ
悲しいなあ

764 ◆B8K2xdDAGY:2018/09/30(日) 19:01:21 ID:Lt3LK7jc0
テスト

765 ◆B8K2xdDAGY:2018/09/30(日) 19:03:59 ID:Lt3LK7jc0
書き込めた
久しぶりです、人いないと思いますが
久々に思い出して続き書こうと思い立ったのでやってきました
気が向いたらまた書きます

766名も無きAAのようです:2018/09/30(日) 19:48:16 ID:gbJB2eLQ0
>>765
マジか、嬉しい。

767 ◆B8K2xdDAGY:2018/10/04(木) 23:50:41 ID:kRj7Xg4o0
10月中旬くらいに15話の半分投下させていただきます
結構長めなんで半分に分けます

768名も無きAAのようです:2018/10/19(金) 08:50:37 ID:2f7YqYC60
待ってる

769名も無きAAのようです:2018/10/21(日) 11:59:24 ID:2PaE8LFI0
今度はほんとにほんとなんだよなぁ?!

770 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:57:59 ID:EmUWWVKM0
すっかり投下予告を忘れていました
今から投下します

771 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:58:43 ID:EmUWWVKM0


第十五話「報われぬ者に救いの手を」


.

772 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:59:49 ID:EmUWWVKM0
「報告! 大陸北方より未確認の力を確認! 魔法⋯⋯いや、マナの⋯⋯塊?」

「結界の出力を上げろ! 王都が消し飛ぶぞ!」

「住民の避難を急げ! 可能な限り地下に入れるんだ!」

王都ヴィップでは強大な力がこちらに向かっているのが観測され、城下だけでなく騎士団内部でさえ慌ただしくなっていた。

騎士団長のみならず、副団長までいない今、各部隊長が少ない騎士を取りまとめ、被害を最小限に止めようと奔走している。

ヴィップは大陸最大の街であり、住民の数も相応に多い。都市崩壊級の魔法にも耐えられる強固な結界が街全体を覆っているとはいえ、差し迫っている不可思議なエネルギー体の前ではどれほどの効果を持つかは分からない。一瞬にして王都が消滅する可能性もある。

過去を遡っても、これほどの危機が王都を襲ったことがあっただろうか。当然騎士達の焦りと緊張は最大限まで高まり、住民の避難、ひいては防衛対策も滞っているようだった。

773 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:01:25 ID:EmUWWVKM0
( ФωФ)「どうも面倒なことになったようであるな」

王都ヴィップを治める王、ロマネスクはそんな騎士達に嘆息しながら呟く。

『仕方がないでしょう。あれは魔法であって魔法ではない。世界の法則を無視した高エネルギー体なんて、彼らには初めてでしょうから』

誰もいないはずの場所から声が聞こえた。しかし、ロマネスクはそれが当たり前のように続ける。

( ФωФ)「貴様の同志とやらの仕業であろう。計画も最終段階を迎えた今、王都が消し飛ぶのはまずいのではないか?」

『そうね。あれをどうにかするのは簡単だけれど、それを目撃されるのは困るの』

協力者であるロマネスクにさえなかなか姿を見せないのだ。意図は分からないが、それも当然と言える。

774 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:02:10 ID:EmUWWVKM0
( ФωФ)「ではどうする。我輩が先導して祈りでも捧げさせればよいのか?」

それはそれで面白い。奇跡を起こした王として、大衆の支持は集められるだろう。

だが、そんな奇跡は起こらない。タネがある以上、それはペテン以外の何物でもなく、ロマネスク自身もそんなご都合主義は好みではない。

『まぁもう少し待ちましょう。モ・トコには魔剣の主がいるのでしょう?』

( ФωФ)「やけに信用しているな。確かに脅威ではあったが、相手は悪魔に最も近しい存在であろう。魔剣といえどどうにかなるものなのか」

魔剣アポカリプスを顕現させる為だけの媒体に、事態を収束させる力があるとは思えないが。

報告書を読んだ限りでは、分隊長クラスと五分、それ以上は敗戦濃厚。そんな巻き込まれただけの一般人だ。

775 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:03:37 ID:EmUWWVKM0
『あなたはまだ魔剣の力を知らないから。それに、彼は理に呼ばれていた』

( +ω+)「⋯⋯ふむ」

世界の理。計画の最大にして最後の壁。ロマネスクが最も憎むべき存在。

奴は、導かれているとでも言うのだろうか。あんなものに。

( ФωФ)「貴様が言うのであれば我輩は傍観しよう。どうせ他にすべきこともない」

『懸命ね。万が一は、私が何とかしましょう』

声はそれきり途絶えた。ロマネスクは小さく溜息を吐く。

( +ω+)(忌まわしいのは魔剣だけではないぞ。貴様もだ)

776 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:04:26 ID:EmUWWVKM0
◇◇◇◇

目の前の空間がヒビ割れ、光が漏れる。瞬間、爆発、爆発、爆発。説明のつかない力がドクオの周囲を渦巻いていく。

構わず疾走。オサムの半歩前、剣を薙ぐ。

鈍い音と共に不可視の壁が刃の進行を阻み、同時に弾き返される。堪らず距離を取るが、ドクオを追っていくつもの光が流れた。

咄嗟に魔剣を横に一閃。いくつかは消しとばしたが、撃ち漏らした光に被弾。幸いダメージはそれほどでもない。魔法で傷を癒し、さらに攻撃魔法。

('A`)「はぁっ!」

空間を抉るように魔力の道筋が捻れ、白金の輝きがオサムへと向かう。

( ゚"_ゞ゚) 「効カヌ!」

またしても不可視の壁に阻まれる。が、その隙にドクオは懐へと潜り込んだ。

777 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:05:23 ID:EmUWWVKM0
('A`)「どうやら自動じゃないみたいだな」

( ゚"_ゞ゚) 「クッ⋯⋯!」

まずは一太刀。今までのように消滅はしない。しかし、オサムの体には一筋の傷ができた。

奴は不死身ではない。通常の攻撃や魔法は効果がないが、魔剣の力は通る。この街に仕掛けられた術式がすぐに回復させるのだろうが、効かないわけではないのだ。

王都に向けて放った攻撃、さらにモ・トコの崩壊術式のせいで時間はかけられない。それでも、奴の体には限界がある。

所詮ドクオが使える魔法は一時的なものだ。端から通用するとは思っていない。

('A`)(魔法はあくまで牽制。本命はこいつ。どっちかが倒れるまでインファイトしかねえ!)

ドクオが距離を取るより早く、弾き飛ばされる。一度地面を跳ねるも、空中で回転しうまく着地。

('A`)(いない!?)

剣を構えるが、オサムの姿がない。後方、そして頭上から魔力の収束を感知。

778 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:06:09 ID:EmUWWVKM0
前方に回避。ドクオの立っていた上方から浄化の光が、後方にはアニメで見たワームホールのような大きな穴が空いており、砂や岩を吸い込んでいる。

嫌な予感がして、ドクオは駆け出した。一瞬遅れて同じ魔法がドクオの進行方向を塞ぐように無数に現れる。壁際に追いやられ、ドクオは退路を失ってしまう。

「食ラウガイイ!」

声だけが聞こえ、ドクオの視界が白と黒で埋め尽くされる。

('A`;)(避けきれない!)

剣を構え、迎撃の態勢へ。全ての力を消すことはできないが、直撃だけは免れた。身体のあちこちに黒と白の痣ができ、異常な痛みを感じるが動かないわけではないようだ。

ドクオが動き出す瞬間、再び空間にワームホールが出現。そこから無数の流星が飛来した。

('A`)「ちっ!」

こちらに向かうものだけを的確に叩き、消し飛ばす。流星は追尾性がないらしく、ドクオは駆けながら穴まで接近。斬りつけようとして、

( ゚"_ゞ゚) 「甘イ!」

中からオサムが顔を出す。同時に半透明の鎖がドクオの四肢に絡みつき、引きずり込んでいく。

('A`)「ぐっ⋯⋯」

抵抗はするがうまく力が入らない。先程の痣が輝き始め、ドクオの動きを妨げているようだ。

( ゚"_ゞ゚) 「虚無ノ世界ニ誘ッテヤロウ」

('A`;)「さ⋯⋯せ⋯⋯る⋯⋯」

剣を落とさなかったのは幸いか、手首を捻り鎖に当てる。

(#゚A゚)「かぁぁぁぁぁぁ!」

779 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:06:53 ID:EmUWWVKM0
甲高い音を立てて鎖が消え、一瞬力が
弱まった。その隙にオサムの顔に剣を突き立てる。

( ゚"_π) 「ガァァァァァァッ!」

引き抜くと同時に他の鎖を断ち切り、その場を離れる。いつの間にかワームホールは消え、オサムの体が現れた。

('A`)「らぁっ!」

一つ、二つとオサムに連撃を叩き込む。上下左右へ目に見えぬ速度でダメージを与えていく。

回復する暇を与えてはならない。回復させても全快させてはいけない。

ドクオの攻撃に怯んでいたオサムだが、不意に彼の周囲を漆黒の風が吹き荒れた。

( ゚"_ゞ゚) 「舐メルナ!」

瞬間、拡散。辺りの地面や壁を所構わず破壊する。空間も激しい損傷を受けたのか、ヒビが入っていた。

空間にヒビを入れるだけの魔力を制御せずに垂れ流したということは、奴には余裕がないということの証明だろう。今の攻撃は相当効いたようだ。

( ゚"_ゞ゚) 「俺ハ神ダ! 等シイ力ヲ手ニ入レタノダ! 貴様ノ様ナ弱者ニ負ケル訳ガナイ!」

オサムの声は怒りで震えている。それに呼応して大気が、大地が揺れた。おそらく、最大級の攻撃が来る。

( ゚"_ゞ゚) 「オオオオオオオオ!!!!!!!」

周辺の魔力がオサムの前に集まり、圧縮される。

('A`)(あれは、まずい!)

駆け出し、魔剣が触れる瞬間、辺りの景色が白一色に変わった。

魔剣アポカリプスと同等の破壊の力が広がっていく。音を立てず、形を変えず、ただただ、消える。

('A`;)「オォォォォォ!」

もはやドクオですら理解していない力の本質さえ奴は掌握しているらしい。どうすれば力を効率的に使えるのか、何をすれば魔剣と渡り合えるのか。

否、魔剣を超えられるのか。

オサムの力はその領域にまで至っている。

780 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:08:08 ID:EmUWWVKM0
ドクオが気がついた時、辺りには何も見当たらなかった。白一色となった世界に一人、立ち尽くしていた。

自身が消滅の力に飲み込まれなかったのは、まだ魔剣の力が上回っていたからだろうか。それとも単に力同士の衝突で相殺できたからなのか。

( A ;)「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」

だが、ドクオの体からは著しく力が失われている。立っていることがやっとの状態だった。

ふとドクオの前方、宙空に浮かぶオサムが着地。あちらは随分と余裕がある。

( ゚"_ゞ゚) 「ククク、辛ソウダナ。コレガ神ト、人間ノ差ダ」

オサムの言う通り、この短時間を戦ってみて分かった。ドクオと奴の間にはどうしても埋められない差があることは。

オサムは力の扱い方を完全に理解している。おまけに体力も魔力も無尽蔵、有限と無限ではどちらに分があるか考えるまでもない。

さらに、戦闘は得意ではないと嘯いていたが、ドクオなどよりも豊富な戦闘経験に加え、理に触れたことでさらなる高みに登っていた。

モララー達には勝てると言ったものの、はっきり言って勝ち目が薄いのはドクオも感じている。

781 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:08:56 ID:EmUWWVKM0
付け焼き刃の魔法は陽動くらいにしか使えない、唯一の対抗手段である魔剣は本体に近付くことがままならない。

せめて、オサムの魔法だけでも一時的に封じることができれば勝算は少なからずある。

( ゚"_ゞ゚) 「大人シクシテイルナラバ、神トシテノ慈悲ダ。一瞬デ消シテヤルゾ?」

( A ;)「悪いがお断りだ。お前を倒して、神父を救い出すって約束したもんでね。子供との約束は守る主義なんだ」

( ゚"_ゞ゚) 「戯言ヲ。神ノ前デハ全テガ児戯ニ等シイ。アマリ笑ワセテクレルナ」

( A ;)「俺一人殺せないくせに何が神だ。どれだけの力を持ってたって、どれだけの知識を持ってたって、人間は神になんかなれない」

オサムの力は絶大で、戦闘は確かに有利だろう。だが、オサムは自分の力を振るうのが楽しくて仕方がないと言わんばかりに決着を早めていない。

遊んでいるのだ。ドクオを舐めている。

もし人の命すら自由にできる本当の神なら、自分に逆らう存在を問答無用に、絶対的な力ですぐに終わらせる。

何故なら人と神の格の違いを思い知らせるため。

勝てる勝てないという場所ではなく、到底手が届かないのだと思わせなければ、きっと神という存在は認められない。

ならば、自身の感情に左右されるオサムはけして神ではなく、どこまでいっても人なのだ。

そして、人であるならドクオでも対抗できる。

('A`)「人間舐めんじゃねえぞクソ野郎!」

782 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:13:05 ID:EmUWWVKM0
◇◇◇◇

オサムの術式により崩壊を始めるモ・トコを渡辺達は飛行していた。街に残った少数の住民達も、オサムによって消されたのか、はたまた避難したのか一度も目撃していない。

从;'ー'从「うー、逃げるってどこに逃げればいいのぉ〜?」

オサムが使っている術式は街どころかその外部にまで影響が及んでいるようで、遠くの空までも不気味に揺れている。この分では渡辺達が餌食になるのも時間の問題だろう。

( ・∀・)「状況を整理して考えてみりゃ、このまま逃げてたっていつかはこの魔法にやられるだけだろうし、術式の解除が最優先じゃないか」

隣を飛ぶモララーが嘆息しつつ答える。平然とした顔をしているが、絶え間なく周囲を警戒しているところを見ると、あまり余裕はないのだろう。

状況を鑑みれば、モララーの言う通り自分達が捕まるのは時間の問題だ。モララーやしぃがうまく敵の魔法の探知をしてくれているからこそこうして無事でいるが、一瞬でも判断を間違えればそこで全てが終わる。

ならば、こちらからその原因を取り除いてしまえばそれでいい。そこまでは渡辺でも理解できた。

(*゚ー゚)「しかし、ここまで複雑な術式を私達で解除できるでしょうか」

渡辺の胸中を代弁するかのように、しぃが呟いた。

783 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:18:05 ID:EmUWWVKM0
事実、自分達の中に魔法理論に詳しい者がいない。実戦における魔法の扱いに関しては太鼓判を押せるだろうが、研究者━━オサムが自身をそう言っていた━━が自作した術式を解析して破壊できるほど精通しているとは言い難い。

ツンは黒の魔術団時代の経験、ショボンは騎士団の副団長としての責任から大なり小なり知識があった。それでも危険な綱渡りであることには違いないが。

( ・∀・)「考えてても仕方ねえよ。解除が無理なら体張って時間を稼げばいいだろ。何にせよ何もしないで逃げ回ってるなんて俺の性に合わないしな」

(;*゚ー゚)「しかし、その時間が今一番足りないものなんですよ」

しぃの言う通りだ。かと言って、この場で押し問答をしている時間も勿体ないのだが。

「それニャら、あたしが力を貸すにゃ」

不意にどこかから声がする。しかも聞き覚えのある口調で。

他の二人も驚いた顔をして辺りを見回すが、誰もいない。

「ここだニャ」

声と同時、渡辺の頭上に光が集まっていく。それは羽根の生えた猫を形取ると、実体を帯びていった。

从'ー'从「あれれ〜、猫ちゃん?」

そこには、先程オサムにやられたはずのつーが何故か復活していた。

从'ー'从「えっと〜」

(*゚∀゚)「あたしはご主人の魔力によって生み出されてるニャ。ご主人が死ニャニャい限り何度でも蘇るニャー」

渡辺が聞きたかったことをツーが察してくれたのか、先に答えてくれた。傷一つないところを見ると、彼女の言は間違いないようだ。

从'ー'从「へぇ〜、そうだったんだ〜。びっくりだよぉ〜」

(;・∀・)「使い魔としては規格外だとは思うけどね。普通復活しないから」

784 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:20:47 ID:EmUWWVKM0
モララーもしぃもどのように反応すればいいか、言葉に詰まっている。もしかしなくても、この猫はすごいのだろうか。

えへん、と胸を張るつーを眺めていると、はっとした顔でモララーが一つ咳をした。

( ・∀・)「って今はそんなことはどうでもいい。それより、力を貸すってのはどういうことだ」

(*゚∀゚)「そのままの意味だニャー。あたしは⋯⋯」

つーが言い淀むと、ちらりとこちらを一瞥。

(*゚∀゚)「忌み子の使い魔だからニャ」

从'ー'从「???」

正直意味が分からない。自分の使い魔であることがどんな理由になるというのか。

モララーやショボンの反応から察するに、喋る使い魔は珍しいことは分かる。渡辺自身も使い魔を連れる生徒を見たことはあるが、いずれも言葉を発していなかった。

だが、それはたまたま見たことがないだけで世の中には人の言葉を操る使い魔だっていてもおかしくないはずだ。

自分達は魔法使いで、それに仕えるのが使い魔なのだから。

(*゚ー゚)「とにかく、つーさんにはこの術式を解除する算段があるんですよね?」

再びあれこれと考えていると、しぃが発言する。

(*゚∀゚)「任せてほしいニャー」

頷くつーは自信満々のようである。先程の戦闘を見る限りではあまり期待できそうにないのだが。

785 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:22:30 ID:EmUWWVKM0
モララーもしぃも渡辺と同意見のようで、互いに顔を見合わせている。

それも一瞬、すぐにモララーが頷く。

( ・∀・)「オッケー。んじゃ決まりだな。ツンのとこまで急ごうじゃねえか」

(*゚∀゚)「了解ニャ。大船に乗ったつもりでいるニャ」

すべきことは決まった。そして自分達には出来ることがある。

モ・トコに来てから、渡辺は周りの誰かに頼ってばかりで、何もできなかった。

唯一できたのはツンを守ることとショボンを助けられたこと。それさえもツンのお膳立てがあったからこそだった。

つーという使い魔を得たことも、ツンのおかげと言えばそうなのだが、それでも今はありがたい。

从'ー'从(ツンちゃん、待っててね)

三人と一匹は飛行する。目指すはツンの元。


.

786 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:26:25 ID:EmUWWVKM0


ξ ⊿ )ξ(範囲拡大、魔導関数の変数を固定化。工程の長期化⋯⋯駄目だ間に合わない。なら、一時凍結させる)

表示される情報を頭の中で整理しながら、やらなければならない作業を一瞬で組み立て、機械的に打ち込んでいく。

本来これらは人が手作業で行うことではない。専用のツールで作業を代理させなければ間に合わないのだ。

それでもツンは、自分でも驚くほどの速さと正確さで術式の書き換えに成功している。

否、成功はしていない。邪魔が出来ているに過ぎない。

何せこちらが解析、書き換える間にも術式は複雑に変換されている。あちらを弄ればこちらがさらに高度で難解な術式を描いていくのだ。

もしかしたら、僅かながらの可能性として、それだけならツン一人でもなんとかなったかもしれない。

ツンが手をつけられない、どうしようもない一番の問題は━━

787 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:28:46 ID:EmUWWVKM0
ξ ⊿ )ξ(なんなのよ、この言語は!)

未知の魔法言語。

様々なルーンや魔導関数で構成される術式のはずが、見たことも聞いたこともない文字と記号で埋め尽くされているのだ。

もちろん変換されていない部分も沢山あるのだが、そちらに手をつけている間に他が未知の言語に置き換わっていく。

これでは、完全にお手上げだった。

せめてもの抵抗として、術式の対象が拡がっていかないようにはしているが、どれだけの効果が望めるか。

かといってツンが諦めてしまえば、術式の拡散は止まることを知らず、間も無くして大陸中の生き物がマナへと変わっていくだろう。

その中には渡辺や、ドクオだっている。

ξ ⊿ )ξ「諦めるわけには、いかないのよ⋯⋯」

そう、諦めるわけにはいかない。自分がやっていることはほんの少しの時間稼ぎでしかないことも、痛いほど理解していた。

だからこそ、だからこそツンはここにいるしかない。

ξ ;⊿;)ξ「どうすればいいのよこんなの! 手立てがないじゃない!」

788 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:30:54 ID:EmUWWVKM0
流れてくる涙を拭おうともせず、ひたすら魔法モニターを叩いていく。ここで手を止めてしまえば、自分はもう何も出来ないだろう。それが分かっているから、動かし続けるしかなかった。

だから、ツンにはどうすることも出来なかった。自分に向けられた魔法に対処出来なかったのだ。

ξ ⊿ )ξ(ごめん、渡辺)

浮かんでくるのは短かった王都での日々。たった一人の親友と過ごしたかけがえのない時間。

自分の身なんてどうでもいい。せめて、彼女だけは助かって欲しい。

それだけを願って、ツンは自分の死を受け入れ━━

「諦めるのはまだ早いと思うよ」

ξ゚⊿゚)ξ「!?」

ようとして。

(´・ω・`) 「ふっ!」

巨大な防御術式がツンを守るように展開される。半透明の光はバチバチと音を立てると霧散していった。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボン⋯⋯さん⋯⋯!?」

(´・ω・`) 「遅くなってすまない。思いの外ダメージが大きくてね」

ツンの隣に、ショボンが立っていた。

(´・ω・`) 「術式に干渉していたのはやはり君だったか。若いのに大したものだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなことより━━」

(´・ω・`) 「分かっている。だが⋯⋯これは」

横からショボンがモニターを覗くと、眉を顰める。やはりショボンですら見たことはないようだ。

789 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:36:00 ID:EmUWWVKM0
(´・ω・`) 「なるほど。これを作った奴は天才だな、本当に。どれ、少し変わってくれるかな?」

しばらく、と言ってもたかだか数分、ツンの隣で作業を眺めていたショボンが口を開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンさんこれは」

ツンの説明を遮るように、優しく肩を押され、首を横に振る。

(´・ω・`) 「私も騎士団副団長という肩書きだ。こういう場合の対処法は心得ている。もちろん、一時凌ぎではあるが」

ツンと場所を変わると、ショボンは物凄い速さで術式の書き換えを行なっていく。ツンが手をつけることが出来なかった部分もまとめて変換しているようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、これ、大丈夫なんですか?」

ツンの見立てだと、魔法の有効範囲の縮小どころか更なる拡大と、対象の追加に見えるのだが。

(´・ω・`) 「ん? ああ、これはね、魔法学に精通した旧友に教わったんだが」

ショボンが一度言葉を切ると、最後の一文を入力。すると、術式の書き換えが一瞬止まった。

ξ゚⊿゚)ξ「え!?」

さらに未知の言語で構成された部分がツンのよく知る見慣れたルーンに変わっていく。その命令の意味は━━

ξ゚⊿゚)ξ「マナの、相互干渉?」

(´・ω・`) 「特定のルーンと関数を用いると、相互に干渉し合って歪みを起こすらしい。旧友の言葉を借りるならバグる」

集められたマナは、特定の人物へと供給されていたが、ショボンが書き換えた直後から供給先からも同じラインを通ってマナを吸い取るようになっていた。

ラインの中でぶつかったマナはそこで、消失。

ツンの知識をフル動員しても、術式自体にそのような命令にはなっていない。だが、マナの流れを追う限り、マナは消失していく。

ξ゚⊿゚)ξ「すごい⋯⋯」

790 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:38:11 ID:EmUWWVKM0
(´・ω・`) 「この言語はマナや魔力の種類、大きさの選別、そちら側に関係しているのだと思う。もちろん解読は出来ないし、する時間もない以上、推測だがね」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、これなら!」

(´・ω・`) 「長くは保たない。どうにも、変換されていく言語は私達が扱う術式よりも遥かに多くの意味を持っているようでね。すぐに書き換えられてしまうはずさ」

ショボンはまごうことなき天才なのだろうとツンは感じた。遠く離れた場所から道具を使わずに術式を解析、書き換えを行い、果ては少しの時間でツンよりも多くの戦果を上げている。

なのに、そのショボンですら敵わない。それすなわち、自分達には手の施しようがないということ。

再びツンの胸中を暗雲が覆い始める。限界は近い。

(´・ω・`) 「諦めるのはまだ早い。今、君は一人じゃないんだ。全てを一人で背負い込む必要はないんだよ」

ξ ⊿ )ξ「でも⋯⋯」

ショボンはこちらの考えを悟ったのか、励ましにもならない言葉をかけてくる。

どうしようもないのに、出来ることなど、何もないのに。

(´・ω・`) 「君は自分に出来る精一杯をやったと思っているだろう。けれど、諦めない限り、戦いは終わらない。心が折れない限り、勝負は分からないんだよ」

それに、とショボンは続ける。

(´・ω・`) 「解決するための道筋は、案外すぐ近くにあるものなのさ」

791 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:40:32 ID:EmUWWVKM0
その一言が、ツンを現実に引き戻した。

いや、その一言があったからこそ、ツンはこの現実に気づくことができた。

『ツンちゃーん!』

ξ ⊿ )ξ「⋯⋯」

ξ゚⊿゚)ξ「⋯⋯え?」

大切な友人の声が聞こえた気がして、ツンは振り向く。

从'ー'从( ・∀・)(*゚ー゚)(*゚∀゚)

そこには、いつも通り緊張感のない顔をした渡辺と、仲間達がいた。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンさんは、知っていたんですか?」

(´・ω・`) 「⋯⋯」

ツンの問いかけにショボンは何も答えない。それは、否定とも肯定とも取れる。だが、この人のことだ。きっと全てを考慮した上で、最善の選択をしていたに違いない。

だからこそはっきりと諦めるなと語りかけていたのだ。

(´・ω・`) 「ま、まぁ僕くらいになると当然予想の範囲さ。何せ副団長だからね」

ξ゚⊿゚)ξ(脂汗がすごい。というか、さっきのはただの気休めだったのね)

それでも、この状況において援軍が来てくれたのは大きい。勿論、本音を言えば渡辺には逃げて欲しかったのだが、彼女がここに来たということはきっと意味がある。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺、私は」

从'ー'从「ツンちゃん! 猫ちゃんがこの術式を何とか出来るんだって!」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたに逃げ⋯⋯え?」

言いかけて、渡辺の言葉を反芻する。

从'ー'从「そうだよね? 猫ちゃん」

(*゚∀゚)「任せてほしいニャ」

思わぬ所から、逆転の目が舞い降りた。

792 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:41:51 ID:EmUWWVKM0
十五話半分終わりです
投下したら意外に短いですね
今月中にもう半分投下できたらなと思います
それではまた

793名も無きAAのようです:2018/11/23(金) 00:06:51 ID:Nf.3zt9Y0
いつのまにか更新されてるね お疲れ様見てるよ

794名も無きAAのようです:2019/01/03(木) 19:19:43 ID:IX7CFJ.c0
おっおー

795名も無きAAのようです:2019/02/12(火) 00:31:37 ID:Mg1TkYwo0
そして気付けば2月なんだよなぁ…

796名も無きAAのようです:2019/02/21(木) 21:45:54 ID:pNZ86c4.0
待ってます


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