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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

552名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:24:09 ID:CXsdzfUM0
ゆっくりと三口飲んだところで、ロウガはゆっくりとブーンに目を向けた。
深紅の瞳の奥に宿る光は、何を考えているのかを悟らせない。
だが優しげだった。
言葉よりも雄弁に、ロウガの眼は多くを語る。

今、ブーンは試されているのだと。

リi、゚ー ゚イ`!「講義の続きだ。 先ほどは聴覚と嗅覚を使った情報収集だが、今回は視覚だ。
      今、見るべき物は?」

ブーンは考えた。
目の前には多くの情報があるが、犯人の目的に直結する情報は砂浜で砂鉄を探すようなものだ。
情報を絞る必要がある。
絞った上で、観察すべき対象を決めるのだ。

(∪´ω`)「ひと……じゃないです。
      じめんとか、ですか?」

そう答えを出した理由は、情報が持つ鮮度の問題だ。
海賊襲撃の際、この屋上は閉鎖されていた。
警備員がいたかもしれないし、海賊がいたかもしれない。
ならば、何かしらの情報が残るとしたらそれは地面などの構造物に限られる。

流動的な人間を観察しても、成果はまず得られないだろうと考えたのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「……その通りだ、ブーン。
      取り分け、警備員の近くだ。
      彼らが動いていないことに気付いたか?」

二人の警備員は、左舷の縁一か所に固まって立っていた。

553名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:29:49 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「では、今から三分間様子を観察するといい。
      いいか、足元だ。
      警備員は動いてその場所の安全を保つのが仕事だと、頭に入れておきなさい。
      動こうとする人間は、目の次に足を動かす」

言われた通り、ブーンは警備員の足元に注意を向けた。
オレンジジュースを飲みながら。
潮風に耳を傾けながら。
注意深く、足元を観察した。

三分の間、彼らはただの一ミリたりとも足を動かそうとはしなかった。
動くつもりがまるでない。

(∪´ω`)「うごきたくないだけかもしれませんお」

リi、゚ー ゚イ`!「緊急事態において動きたくない理由は、怠惰ではない。
      そこに人を近寄らせたくないからだ」

警備員の後ろには、転落防止用の柵が後ろにあるだけだ。
何故、そこに近寄らせたくないのか。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、人工芝の形状は見ての通り入り組んでいる。
       一度汚れてしまえば、短時間で掃除をするのは困難だ」

目を凝らして警備員の足元を見る。
人工芝の影に、赤黒い染みを見つけた。
ここで戦闘があったことを意味する証拠だ。
だがそれを隠す意味は何だ。

554名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:33:21 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、なるほどね。
      ブーン、ここで少し待っていなさい。
      私は報告と、少し確認することがある」

ブーンの頭を軽く撫でて、ロウガは席を立った。
柵から覗き込んでその下にある何かを確認し、反対側も同様に確認。
それから、船首部分から船尾に向かって大きな歩調で進んで行った。
言われた通りにそこで待つことにしたブーンは、引き続き観察を続けることにした。

ただし、今度は目ではなく耳を使うことにした。
観察していることを悟られないように、視線は空と海に。

(∪´ω`)「お?」

その時。
ブーンは水平線の彼方に浮かぶ入道雲の向こう。
果てしなく続くその先に、極小のビル群を見たような気がした。

(∪´ω`)「……?」

瞬きをした次の瞬間、それは消えた。
どうやら、パラソルの下で男が読んでいる本の表紙がビルだったために、勘違いをしたらしい。

リi、゚ー ゚イ`!「お待たせした。
      確認ついでに主に話をしておいた。
      これで、我々が手に入れた情報が向こうで役立つだろう」

主とは何者なのだろうか。
犯人の目的も気になるが、今のブーンには、そちらの方が興味深かった。

555名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:37:12 ID:CXsdzfUM0
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      ト,:::::::ハ                      ‘f  ム-イハ ィ乍ハ  ぃぐ/ミ=-}.ィ=-}
     f゚ '^¨ト、_L -ミ             ,、 n    ア:::::::::::〈 ム_ムz.〈災什ミ=-ム_.ム_
 __,、  ヒ ./:::::::{ ,、  ヽ            〈 ` }   ./:::::;::::::::└ァ':::::::::::::ト, ム三匕_/:::::::::::::
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     ‥…━━ August 6th PM14:15 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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第三ブロックの復旧作業はまだ続いていた。
主に死体処理が大きな障害となっていて、探偵と警備員はその作業に駆り出されていた。
ショボン・パドローネは作業補助を得意とする強化外骨格“マハトマ”を装着し、海賊の死体を運んでいた。
人間の腕力だけで作業をしていては時間が掛かる上に、腰に負担が掛かるからだ。

マハトマはレリジョン・シリーズと呼ばれる軍用強化外骨格で、戦闘向きではない。
物資の運搬や作業に特化しているために、普段は船倉内での作業に使われていて、従業員は自由にそれを使える。
地面に散らばるガラス片で怪我をすることもないし、重い瓦礫を撤去するのにも適した棺桶だ。

(´・ω・`)「ふぅ……」

ベッドメイクの際にリネンを回収するカートには、血みどろの死体が乱雑に詰められている。
ショボンはそれを両手に一台ずつ持って、死体投棄場所を目指していた。
死体を回収してカートに詰める道中で、ショボンは損耗の大きさに驚いた。
探偵、警備員の死傷者は三桁。

報告書によれば頼みの綱であったジュスティア軍“ゲイツ”は全滅し、司令官も死亡した。
四十二人の勇猛果敢な兵士は死体安置所に収容され、ジュスティアへの無言の帰宅準備を整えている。
長距離無線でジュスティア軍に被害を報告したところ、最初の襲撃で全滅を告げる連絡があったとのことだ。
色々と予定から狂ってしまったが、ここからならまだ修正が出来る。

556名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:42:37 ID:CXsdzfUM0
死体廃棄場所となっている第一ブロック警備員詰所非常口には、先客がいた。
ベニー・ジンジャー。
探偵の同僚だ。

(´・ω・`)「やぁベニー」

「ショボンか、無事だったか」

ベニーはカートから死体を取り出しては、海に放っている。
その隣に並び、ショボンは彼の戦果を褒めた。

(´・ω・`)「実戦は初めてだったんだろう?
     すごいじゃないか」

「あぁ、だけどトーマス達が……」

トーマス・“ブルーフェイス”・トレインはベニーの旧友だ。
いつも二日酔い状態の顔色をしていることから、ブルーフェイスの渾名が付けられた。
トカレフ自動拳銃を愛用していたが、自動小銃の前には無力だった。

(´・ω・`)「彼らの死を悔やむよりも、その死をどう活かすか、さ」

死体を海に捨てながら、ショボンはそう言った。
人の死は避けようのない現実として、誰にでも訪れる。
それを乗り越えるためには、その死を自分なりに解釈してやる必要がある。
特に、親しい間柄ともなればそれは絶対に必要だ。

カートを置いて、ショボンはその場を去った。

(´・ω・`)「……さて、犯人でも見つけますかね」

557名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:47:24 ID:CXsdzfUM0
ショボンは自分の任務を果たすために、第三ブロック内の捜査を始めることにした。
ここからが彼の本職だ。
死体が大量にある中で、尚且つ死体を処理していては推理をするのは難しい。
まずは一度自分に相応しい場に変えてから始めるのが推理の鉄則だ。

ショボンの中で、犯人の候補として挙がっているのは三人。
第一ブロック長、ノレベルト・シュー。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
そして市長、リッチー・マニー。

当然なことながら、犯人の目的は海賊に船を襲わせることだ。
それによって利益を得ることが出来る人間は、ノレベルトとリロースミスの二人だ。
オアシズの鍵である市長を捕らえれば、多額の現金を手に入れることが可能になる。
金以外にこのオアシズに狙いはないはずだ。

だが、オアシズには多額の金が眠っている。
オアシズの運営に充てられるだけの膨大な金だ。
人を狂わせるだけの金。
マニーを犯人候補に挙げたのは、彼が被害者を装って海賊と協力し合っている可能性もあるからだ。

現に、保険金を手に入れるために銀行員が保険屋と手を組んで、わざと銀行強盗をさせる例がある。
誘拐事件でも同様だ。
オアシズが契約している保険会社は誠実なところだが、どんな物事にも例外はある。

(´・ω・`)「バーは開いてるかな?」

ショボンはバーボンウィスキーが好きだった。
飲み始めたきっかけは、男らしいからという単純な物だったが、今ではその甘い風味が病みつきになっている。
逆に、スコッチウィスキーが嫌いだった。
匂いが独特で、どうしても好きになれなかったのだ。

558名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:50:20 ID:CXsdzfUM0
考え事をする時。
情報を仕入れる時。
酒は大きな力を与えてくれる。
第三ブロックにある酒場で、美味いバーボンを出してくれるのは“ジムマーク”だ。

モップで血を洗い流す人の間を、軽い挨拶を交わしながら歩いていく。
店の電気は消えていた。
木製の扉には弾痕。
窓ガラスは砕けていた。

(´・ω・`)「あらら……
     マクフライ、生きてるか?」

店の中に声をかける。
ぼろぼろの扉が開いて、マクフライ・モーガンが顔を出した。

「肩に一発ぶち込まれたけど、どうにか生きてるよ」

(´・ω・`)「年代物の散弾銃で刃向うからさ。
     レバーアクションはもう古いよ」

「あれがいいんだよ、探偵」

マクフライは警備員の一人だ。
ただし、彼の場合は臨時の際にだけ警備員として働くことになっている。
選択は自由だったが、彼は第三ブロックで長い間店を出してきたこともあり、ぜひ戦いたいと志願したのだ。
彼は自分の店で戦うことを選んだ。

559名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:55:38 ID:CXsdzfUM0
その結果、マクフライは第三ブロックの復旧に手を貸すこととなり、自由に出入りが出来る立場にいた。
まだ第三ブロックは封鎖体勢が解除されていないが、彼は復旧に手を貸すために店を開けていた。
このブロックで酒が飲めるのは、彼の店を置いて他にはないはずだ。

「オープンは当分先だが、あんたは特別さ。
入りな、探偵」

(´・ω・`)「すまないね」

「昼間っから酒を飲む探偵は、お前ぐらいさ」

証明が銃弾で破壊されたため、店内は薄暗かった。
薄らと見える、砕けた酒瓶と銃弾が抉った木のカウンターが痛々しい。

(´・ω・`)「ジム・ビーム・プレミアムをもらおうかな」

「他には?」

(´・ω・`)「いや、ストレートのダブルで頼む。
     チェイサーはいらない」

埃を被った酒瓶を棚から取って、マクフライはその栓を抜いた。
グラスに注がれる琥珀色の液体は、甘い香りを漂わせる。

(´-ω-`)「嗚呼、これだよ、これ」

唇の先を湿らせるほどの少量を飲んで、その風味を味わう。
鼻から息を抜くと、その香りがよく分かる。
甘い香りは気分を落ち着かせてくれる。
その時、ドアが軋む音を立てて開いた。

560名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:58:39 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「店主、俺もいいか?」

そう言いながら現れたのは、トラギコ・マウンテンライトだった。
確かに彼は第三ブロックで戦っていた。
今ここにいるのは不自然ではない。
同僚からの報告によれば、コンセプト・シリーズの棺桶を駆使し、海賊たちを輪切りにしたとのことだ。

了承を得ずにカウンター席に座ったトラギコは、ショボンを一瞥もしなかった。

(=゚д゚)「スコッチだ。 アードベック・ウーガーダールをストレートで」

(´・ω・`)「トラギコ君、昼間から酒とは感心しないね」

(=゚д゚)「うるせぇラギ。
    自分の手元を見てから言えラギ」

(´・ω・`)「不機嫌だね、大丈夫?」

いつもは不要な火種を撒き散らさないトラギコが、いつになく不機嫌だ。
何かが彼の身に起こったのだと考え、ショボンは話を聞くことにした。

(=゚д゚)「あんたも知ってるだろ。
    俺はバーボン野郎が嫌いなんだ」

ベニーは雰囲気から状況を察して、無言でアードベックを注いだ。

(´・ω・`)「そのことでは随分と意見が食い違ったね。
     だけど君は人の好みで喧嘩を吹っ掛けるようなことはしない。
     何があったんだい?」

561名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:01:20 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「喋りたくないラギ」

グラスを傾けて、トラギコはスコッチを半分飲んだ。
ペースが速い。
いつになく不機嫌だ。

(´・ω・`)「君は昔からそうだ。
     何かあると自分の中だけで解決しようとする。
     良い姿勢だとは思うが、たまには僕を頼ってもいいんじゃないかな?
     十五年前の“CAL21号事件”でも、そうだっただろう?」

次の瞬間、ショボンは胸倉を掴まれて持ち上げられていた。
利き手でない左手で大の男一人を持ち上げる腕力もさることながら、その速度も素晴らしい。
右手は懐にあったベレッタM8000を自らの腋の位置で構え、撃鉄も起きて安全装置も解除されている。
動きが鈍るどころか、磨きがかかっている。

流石はトラギコだ。
“虎”の渾名は伊達ではない。

(#=゚д゚)「いいか老いぼれ、俺の前でその事件の事を口にするんじゃねぇラギ。
     特に、手前にみたいな元糞同僚に言われるのが一番嫌いラギ」

(´・ω・`)「……せめて、銃は止めてくれないかな?」

両手を上げて無抵抗を強調するが、トラギコの眼から殺意は消えない。
想像以上に怒らせてしまったらしい。

(#=゚д゚)「なら、口の利き方には気を付けろ。
     こいつは俺よりも気が短けぇし、ちょっとしたことで熱くなりやすいラギ」

562名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:07:07 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「悪かった。 確かに、僕にはあの事件を語る資格はない。
     本当にすまなかった」

今から十五年前の話だ。
トラギコが特徴的な頬の傷を作るきっかけとなった事件。

(#=゚д゚)「いいか、次は殺す。
     警告なしで肺をぶち抜いて、両手足をぶった切る。
     あんただから一度だけ警告してやったが、次はねぇラギ」

ショボンを突き放して、トラギコは残ったスコッチを一気に煽って出口に向かった。

(´・ω・`)「もういいのかい?」

(=゚д゚)「……血の匂いのするマハトマを外してない奴と、これ以上同じ場所にいたくねぇラギ」

店を出て行ったトラギコの背中を見送って、ショボンは彼の抜け目のなさに驚いた。
頭に血が上って行動していながらも、冷静な観察力の持ち主だ。
彼の座っていた席に目を向けると、白い名刺サイズの紙が置かれていた。

(´・ω・`)「……ん?」

手に取って裏返して見ると、そこには場所と時間が書かれていた。
それは、パーティーへの招待状だった。
恐らくは事件終結のためのパーティーだ。

(´・ω・`)「午後六時に、第三ブロック一階会議室……」

563名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:13:18 ID:CXsdzfUM0
ショボンはバーボンを一気に飲み干して、店を出て行った。
まだ推理は終わっていない。
時間まで、約三時間半。
パーティーの時間までにやるべきことは分かっていた。

(´・ω・`)「探偵ってのも、楽じゃないね」

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部屋の空気は冷たかった。
エアコンの設定温度は二十四度。
快適なはずだった。
しかし、確かに空気は冷たかった。

その部屋に集められた、もしくは集まった人間は全部で十人だった。
彼らの共通点は、招待状を受け取っている事だった。
招待状を受け取った人間は全員、その部屋にいた。
ただの一人も逃げることなく、遅れることなく、時間通りに席について円卓を囲んでいた。

564名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:17:28 ID:CXsdzfUM0
第三ブロック会議室。
最早説明の必要もなく、そこは決着の場と化していた。
第一ブロックから第五ブロックまでの各代表者、五名。
第一ブロック長代理、ライトン・ブリックマン。

ライトンの隣に第二ブロック長、オットー・リロースミス。
続いて第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。
第四ブロック長、クサギコ・フォースカインド。
第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。

ブロック長陣の対面に、市長、リッチー・マニー。
探偵、ショボン・パドローネ。
刑事、トラギコ・バクスター。
解剖学者兼検死官、クルウ・ストレイトアウト。

そして、一般客のデレシアが席についている。
息の詰まる程の沈黙を破ったのは、市長だった。

¥・∀・¥「突然の招集にもかかわらず、よく集まってくれた。
      ここに呼んだのは、このオアシズで起こった事件を終わらせるためだ」

マニーの発言に、誰も驚かなかった。
誰もがそれを予期して覚悟していたのだ。

¥・∀・¥「海賊の行動を見るに、それなりの立場の人間の中に、内通者がいる。
      ハザードレベル5の限定解除をしたのが、第三ブロックであるのを知っていたことから明白だ。
      裏切り者か、或いは元からそれが目的で潜入したのかは分からない。
      だが、海賊に手を貸すために罪のない常客を殺し、オアシズの船員にも犠牲者を出した。

      ……ショボン・パドローネ、推理は出来たかい?」

565名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:22:29 ID:CXsdzfUM0
指名をされ、マニーの隣にいたショボンが立ち上がった。
人を集めた場で推理を披露させられることは経験と立場上、予期出来ていた。
だから事前に情報を集め、整理をして、推理もしてきた。
その為、黒皮の手袋を嵌めた手には数枚の紙があった。

時間までに集めた証言、証拠がそこには書かれている。
これが、ショボンの武器となる。
準備は万全だった。

(´・ω・`)「ではこれより、この事件を終わらせます。
     ……どうか、ご協力をお願いいたします」

ショボンは咳払いをして、久しぶりの推理に心を躍らせた。
集まった人間は一人を除いて、彼の話に耳を傾け、目を向けていた。
唯一、金髪碧眼の旅人だけは美味しそうに紅茶を飲んで、時折横目でショボンを見ている。
まぁいい。

こちらの推理を聞く内に、彼女も理解するだろう。
ショボン・パドローネが暴く真実を。

(´・ω・`)「事件の始まりは、当船の従業員であるハワード・ブリュッケンが殺害されたことでした。
     知っての通り、彼の死体は関節を無視して破壊され、足の付け根を切って血抜きをされた上に頭を撃たれていました。
     ここまでは、いいですね?」

全員が無言の同意を示す。
最初の被害者、ハワード本人の事はあまりよく知らない。
しかし、彼の事を知る人間から話を聞く内に、彼の事がだんだんと好きになった。
まるで自分の友人のように、ショボンは犯人に対して憎しみの感情を抱いた。

まずは状況の再確認からだ。

566名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:25:49 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「被害者の住んでいる第三ブロックの監視カメラは、事件時には作動していなかったことが分かっています。
     死体からは毒物が確認され、身動きが取れない中で殺された。
     クルウ、そうだね?」

ショボンは二つ隣のクルウにそう話を投げかけた。

川 ゚ 々゚)「えぇ、そうよ。 人工の毒で即効性が高く、ほんの少量で身動きを奪うってやつ。
     だから痛覚はそのまま、意識もそのまま。
     きっと殺された時も同じよ」

(´・ω・`)「毒はどこから検出されたんだい?
     つまり、何を媒介にして摂取させられたか、ってことだ」

川 ゚ 々゚)「飲食物よ。 彼が飲んだお酒に入っていたわ。
      銘柄や種類は分からないけど、アルコールと一緒に検出されたのは確かだわ。
      でも、現場には毒入りの飲食物が何も残されていなかった」

それからショボンは、現場にビールの空き缶とウォッカの空き瓶が転がっていた事を説明した。
鑑識に回したが、どちらからも毒は発見されなかった。
ショボンは犯行後に犯人が毒を混入した酒を回収したのだと、自分の推理を補足事項として話した。
それなら、証拠が残っていないことに説明がつくのだ。

誰も、彼の推理に茶々を入れることはしなかった。
この段階まで全員が納得しているという意味だ。
次に、毒の混入に関わる情報の説明に入る。

567名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:29:27 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「さて、その酒ですが、殺害前日に詰所で同僚と賭けをした際に譲り受けたものだと云うことが分かっています。
     同僚の目撃証言で裏は取れています。
     オルェイ・マケバッカス、賭け好きの男で独身、借金は過去にはありましたが、現在はゼロ。
     新品のビールと開封済みのウォッカを賭けたそうですが、毒の混入については否定しています。

     彼の部屋を捜索しましたが、毒は見つかりませんでした」

毒はいくらでも隠せる。
特に液体ともなれば、下水にでも流してしまえばそれまでだ。
彼を犯人だと勘違いさせないように、ショボンはすぐに強調した。

(´・ω・`)「ですが、彼は犯人ではありませんし、毒を混入してもいません。
     その根拠は、彼には賭けの記憶があった点と、殺害予想時間には同僚とポーカーをしていました。
     複数人が証言しています。
     完璧なアリバイがあるんです」

彼の無実を証明するためにも、これは重要な証拠だった。
時にアリバイは物証よりも信憑性を持つことがある。
特に、複数人からのアリバイ証言は現場に残された時計よりも信頼することが出来る。

(´・ω・`)「では誰が、どの段階で毒を混入したのか?
     答えは簡単でした。
     その日以降、船倉の詰所で目撃されていない人物がいるのです。
     ジャック・ヒューストン、という人物です」

後に調べた結果、そのような名前の従業員はいないことが分かったとも付け加えた。

568名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:32:36 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「その人物は恐らく、オルェイの酒がロッカーに入っている段階で毒を混入したのでしょう。
     船倉の詰所なら、それは容易です。
     更に言えば、詰所なら第三ブロックのカメラを機能させなくすることが可能なのです。
     ここまででお分かりかと思いますが、犯人は変装を得意とし、船の警備構造を熟知している人物です。

     該当する人物はただ一人、ノレベルト・シューなのです」

確たる証拠を繋ぎ合わせることで、ノレベルトの足跡がハッキリと浮かび上がった。
長々と推理を披露したが、犯人の一人目はノレベルトであると理解されれば十分だ。

(´・ω・`)「ハワード氏を死に至らしめた銃弾を回収して線条痕を調べたところ、ノレベルト氏の持つ銃と一致しました。
     続いて第二の事件、警備員詰所の事件です。
     この事件で分かったのは、犯人は棺桶の操縦に長けているということです。
     ですが思い出してください。

     この襲撃の前にサイタマ兄弟が襲われるという事件が起こりました。
     ノレベルトは格闘術に長けているとは言えませんでしたし、何より、棺桶を使うことも出来ませんでした。
     これは、探偵なら誰もが知る事実です。
     彼女は格闘テストに四回、落ちているんです」

腕を隠すためにそのような演技をしていた可能性もあるが、探偵免許取得のための試験で落ちたことを考えるとそれは低い。

(´・ω・`)「第二の事件と第一の事件では、実行犯が異なるとしか考えられません。
     共犯者がいるのだと、私は考えました。
     そうでなければ、“三銃士”たちを襲えるはずがない。
     棺桶一機で警備員詰所を襲撃、殲滅するなど、とてもではないが無理です。

     第三の事件、801号室の毒殺にも手を貸す事が出来た人物こそが、共犯者なのです」

共犯者、という言葉に数人が動揺を見せた。

569名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:36:40 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「そう、我々の中に共犯者がいるのですよ。
     ノレベルトを匿い、海賊を手引し、道具を調達した人間が。
     偽りの忠誠心で捜査をかく乱し、多くの人を殺した愚劣な人間が、ここにね」

ここからが本質。
ショボンが時間をかけて調べていたのは、ノレベルトの人間関係だ。
彼女と協力してこの船を恐怖と混沌に陥れ、互いに利益を得ようとした卑怯者。
その人物を探していたのだ。

彼女の人間関係は非常に広く深かった。
関係者に彼女の話を聞くと、口を揃えて彼女は健全で真面目な人間だったと語る。
異性関係もなく、そのことで焦りを見せることもなかったという。
つまり、出会ったばかりの男に唆されて動くような人間ではなかったのだ。

何が彼女を変えてしまったのか。
それは時間だ。
時間と出会い、そして影響が全てを変えたのだ。
複数の情報筋から手に入れたのは、彼女が最近ある男と頻繁に出会っていた目撃談だ。

両者に尋ねても否定されるばかりで答えは出なかったと言うものの、その鮮烈な姿は目撃者の記憶に残されている。
静かに息を吸って、ショボンはその人物を見つめた。
自分は大丈夫だと安心しきった顔だ。
この瞬間からショボンの目は撃鉄。

言葉は弾丸。
激情は炸薬。
そして口は、銃口と化す。
狙いは対面にいる男。

570名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:41:12 ID:CXsdzfUM0
.














(´・ω・`)「ねぇ、オットー・リロースミスさん」













.

571名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:44:27 ID:CXsdzfUM0
£;°ゞ°)「はぁっ?! な、何を言い出すんだ、ショボン!!
       私が共犯? おいおいおい、冗談はよしてくれ!!」

普段の冷静な態度はどこへやら。
取り乱したロミスに、ショボンは追い打ちをかける。

(´・ω・`)「おやおや、随分と慌てていますね」

£;°ゞ°)「当たり前だろう!! いきなり人を犯人呼ばわりして、君、正気か?!」

(´・ω・`)「正気ですよ、私は常に。
     ではお尋ねしますが、海賊迎撃中、貴方はどこにいたのですか?」

£;°ゞ°)「そ、それは……」

ショボンは偶然、彼が海賊迎撃中に第三ブロック内を移動している様子を目撃している。
彼を除くブロック長陣が一か所に集められているにも関わらず、だ。
何か答えられない事情があったのは明白だ。

(´・ω・`)「大方、海賊とお話をしていたのでしょう。
     ちなみに分け前は?」

ロミスは真っ青にしていた顔を赤くして、激昂した。

£#°ゞ°)「ふざけるのも大概にしたまえ、探偵!!
       私がやったという証拠がないだろう?!
       私がノレベルトとつるんでいるという証拠もないだろう?!
       いい加減な捜査と推理で、人を貶めるのが君の仕事かね!!」

572名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:44:29 ID:avS9kZEw0
支援

573名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:03:42 ID:CXsdzfUM0
今にも掴みかからんばかりの権幕で、ロミスは机の上を叩いた。
その様子にほとんどの人間が驚いた。
デレシアは眉一つ動かさずに、紅茶を飲んでいた。
トラギコは爪を眺めていた。

(´・ω・`)「あるんですよ、証拠が」

£;°ゞ°)「う、嘘だ!! そんなもの、あるはずがない!!」

(´・ω・`)「貴方の部屋で、一つの薬莢が見つかったんですよ。
     貴方のベッドの下にね」

真空パックの中に入った薬莢を机の上に置く。
あるはずのない証拠品を見て、ロミスは言葉を失った。
顔面蒼白のロミスは、誰かに助けを求めようと目を動かす。
誰も彼を擁護しない。

哀れな姿だ。

(´・ω・`)「そして、この薬莢は最初の事件、つまりハワードの殺害に使われた物であることが分かっています。
     これは、貴方がノレベルトと関係を持っている事を雄弁に物語る証拠です」

一発の銃弾。
探偵たちが意地になって下水の中からそれを見つけなければ、その薬莢が事件と関連性のあるものだとは分からなかった。
真実を語ってくれたのは、その銃弾だったのだ。

£;°ゞ°)「あ、有り得ない…… 私は、私は!!」

(=゚д゚)「共犯ってことは、主犯がいるんだろう?」

574名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:07:32 ID:CXsdzfUM0
やっとトラギコが推理に口を出してきた。
これが推理の醍醐味だ。

(´・ω・`)「あぁいるさ。
     本来この場にいなければならない男の事が、分かるかい?」

(=゚д゚)「探偵長、“ホビット”のことラギか?」

トラギコなら、必ずその名前に辿り着くと信じていた。

¥;・∀・¥「彼が、あの“ホビット”が?!
      彼はこの船のために何年も――」

(´・ω・`)「欲望の前に、年月も情も意味はないんですよ。
     彼なら今頃、海賊の乗ってきた船で優雅にシャンパンでも飲んでいるでしょう。
     ……気づくのが、少し遅かった」

目頭を押さえ、ショボンは深い溜息を吐く。
推理において、犯人を追いつめる際には慎重にならなければならない。
それと同時に、より強烈な発言も必要となる。
致命的とも言える、決定的な矛盾。

それを指摘してやることこそが、推理においての詰みの作業だ。
ただしこれは初手としては使えない。
事前の下ごしらえとして幾つもの細かな前提を用意した上で、初めて効果を発揮する切り札なのだ。

(´・ω・`)「更にもう一つ」

£;°ゞ°)「な、何だ」

575名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:12:15 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「貴方、そこのデレシアさんの部屋を間違えて記憶していましたね。
     彼女の部屋が801号室だと勘違いをしていた。
     毒殺された人は、勘違いで殺されたのです」

£;°ゞ°)「あ……あっ……」

ロミスはショックのあまり、それ以上言葉が出てこない様子だ。
音もなく席を立ったショボンは、ロミスの傍に歩いていく。
彼は数歩後退ったが、ショボンは彼の腕を素早く掴む。
自殺などされたら事だ。

探偵の本分とは、犯人を殺さずに生け捕りにし、死よりも辛い思いをさせることにある。
ロミスの腕を引いて、マニーの隣まで連れて行く。

(´・ω・`)「……市長、これ以上の被害拡大を防ぐために、彼を船倉房に連れて行こうと思います。
     お手数ですが、ご同行していただいても?」

マニーは深い溜息を吐いた。
一度だけロミスの顔を見たが、直ぐに下を向いた。

¥・∀・¥「……仕方あるまい」

動機についてはまた後で聞けばいい。
今は、この男をマニーと共に船倉に連れて行くだけだ。

(´・ω・`)「続きは下で聞こう……さ、行くぞ」

これで、長く続いた惨劇も終わる――

576名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:17:11 ID:CXsdzfUM0
.
ζ(゚ー゚*ζ「あら、茶番はもうお終いなの?
      これだけ待たせておいて、随分と荒っぽい推理ね」

――はずだった。

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                    Now, it's time to do.
                  さぁ、答え合わせの時間よ。

Ammo→Re!!のようです                           Ammo for Reasoning!!編

                  第十章【Reasoning!!-推理-】

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デレシアの発言に、ショボン・パドローネは静かに反応を示した。
上半身と視線をデレシアに向け、口を結んで待っている。
不満に感じているわけではない。
彼は先ほどまでのデレシアと同じく、待ち望んでいるのだ。

好奇心を満たし、納得させ得る推理を。
推理とは料理だ。
揃えた材料を上手く形に出来るか否かが、成功に直結する。
先ほどの推理は、最低の料理だった。

ファストフードと同じ、早さだけを重視した推理だった。

577名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:21:29 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「そんな言いがかりが推理と言えるのかしら?」

(´・ω・`)「……随分と強気だね。
     だが、私はそれ相応の材料を揃えているんだ。
     言いがかりとは心外だな」

紅茶の水面を眺めながら、デレシアはそれを聞き流した。
聞く必要もない。
ここから先に必要なのは、一方的な証明だ。
勿論、彼が用意した情報を使うつもりはない。

そのような物は、使うまでもないのだ。
必要な物は自分自身で用意してある。

ζ(゚ー゚*ζ「ハワードの下りは概ね正解でしょうね。
      だけど、肝心な部分が証明されていないのよ」

オアシズ内で殺されたハワードの殺害には、一つの矛盾点がある。
その部分にショボンは一切触れていない。

ζ(゚ー゚*ζ「犯人はどうやって被害者の部屋に入ったのかしら?」

(´・ω・`)「マスターキーだろう?
     履歴にもそう残っている」

ζ(゚ー゚*ζ「ではどうして、被害者は犯人の侵入に気付かなかったのかしら?
       鍵が開けられた上に、チェーンが切断されたのにどうして対処しなかったのかしら?
       犯人はハワードが毒を飲んだと、どのようにして知ったのかしら?
       さ、説明を」

578名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:24:25 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「それは……」

不可思議なのは、侵入のタイミングだ。
残されていた衣類などから、彼が酒を風呂上がりに飲んだ可能性が非常に高い事が分かっている。
つまり、何かの作業の途中ではなく、ゆっくりと腰を据えて酒を飲んでいたことは間違いないのだ。
盛られた毒は即効性で、摂取されてからすぐに体の自由を奪う種類のものだったと調べがついている。

当たり前の話だが、摂取しなければ自由を奪うことは出来ない。
この際、どの酒に毒が含まれていたかは問題ではない。
問題なのは、毒を飲んだタイミングを知った方法だ。
ハワードが毒を飲んだと云う事、そしてその瞬間を正確に把握しなければ、抵抗されずに侵入することは不可能なのだ。

毒の性質上、正に賭けだ。
だが殺人を賭けで行うほど、この犯人は馬鹿ではない。
より確実な方法で、ハワードが毒を飲んだタイミングを把握してから犯行に及んだと考えるしかない。
そうなると、犯人が扉を開いてチェーンを切断して侵入したという前提が違うのだ。

逆なのだ。

(´・ω・`)「……説明してくれるかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「犯人は、最初から部屋にいたのよ。
      そしてそこで毒を盛った」

チェーンを掻い潜って部屋の中に入るには、家主が席を外しているタイミング以外にない。
最初から部屋にいれば、ハワードが酒を飲むタイミングも分かるし、彼が風呂に入っている間に毒を盛ることも可能だ。
それならば、彼が万が一職場で酒を飲んだとしても計画は一切狂わない。
主な下準備は全て、部屋で行われたのである。

その言葉に、トラギコが反応した。

579名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:27:06 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「だが、カードキーの履歴はどう説明する?
    ハワードの後に、確かにノレベルトが入室した履歴が残ってるラギよ。
    時間もそこまで開きがないラギ」

デレシアの推理を推測でなくするためには、その証明が必要となる。
カードキーの履歴を偽造するには、デジタル・アーカイブ・トランスアクターだけでは不可能だ。
だが。
それが真実であれば、何の問題もないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「カードが入れ替わっていたのよ。
      本人の知らない間に、ノレベルトの物と彼の物がね」

彼の持つカードとノレベルトのカードが入れ替わっていれば、説明がつく。
履歴だけを見れば確かにノレベルトが後に入室した事になっているが、それはカードの順番の話なのだ。
実際は真逆。
犯人がハワードのカードで入室した後に、ノレベルトのカードを使ってハワードが帰宅したのだ。

(=゚д゚)「……例の賭けか」

トラギコはすぐに、その答えに辿り着いた。
証言の中にある通り、被害者は帰宅前に一つの賭けを行った。
タネは手品と同じ。
財布の内容物の数を賭けの対象とするもので、その際にカードを入れ替えたのだ。

相手が別の物に目を奪われている隙に、目的の物を入れ替えるという単純な物だったが、効果は覿面だった。
扉が難なく開けば、誰もその鍵が別の物だと疑うことはしない。
それがカードキーの様な物ともなれば、尚更だ。
使用の度にカードの番号を確認するような人間は、平時であればまずいない。

580名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:30:44 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「そして、忘れ物を取りに船倉に戻ったハワードが目撃されているけれど、恐らくそれは変装をした犯人だったはずよ。
       犯人は船倉である物を手に入れて、別の場所に保管したの。
       ただ、ハワードを殺した犯人は彼よりも先に部屋に向かう必要がある関係で、その場にいることが出来なかった。
       それを解消するのが、自由に動ける人間がもう一人いたという仮定。

       ――そう、貴方が推理した通り、犯人は二人いる」

そろそろ、核心部分へと迫る時間だ。
肝心なのは、犯人が二人いるという事実。
一人は大胆で、暴力的な行動をしながらも決してその影に気付かせない。
もう一人は繊細かつ慎重な性格の持ち主で、表にその姿を見せる役割を担っている。

性格と役割が真逆の配置。
これによって、実体と影とが別々に動き回るためにその動きが全く掴めず、追いかけることが出来なかったのだ。
これが犯人像に靄をかける仕組みだった。
よく練られ、よく訓練された人間の成せる犯行だ。

変装に長けた方の犯人はハワードが船倉を出た後に続き、道中で戦闘を得意とする仲間にカードを渡した。
カードを受け取った犯人は素早く移動し、ハワードよりも先に部屋に入った。
一方、変装を得意とする方はそのままの格好で船倉に戻り、忘れ物を回収したのだ。

(´・ω・`)「待ってくれ、ある物って?」

ζ(゚ー゚*ζ「軍用強化外骨格、ジョン・ドゥ。
      警備員詰所襲撃の際に使われた物よ」

武器庫の使用履歴には、ハワードの名前が残っていた。
彼の名前で何かの武器が持ち去られたのは、言うまでもない。
最も強力な武器は、やはり、棺桶だ。
それも、汎用性に富んだジョン・ドゥを選ぶのは自然な話である。

581名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:34:23 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「そこまではいいラギ。
    だがその物言いは、ハワード殺害に使われた棺桶がジョン・ドゥでないと言っているように聞こえるラギ」

流石は刑事だ。
細かいところに気が付く。
だからこそ、喋り甲斐がある。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョン・ドゥでは大きすぎて目立つために、犯行後の移動に支障が生じるわ。
       だから小型の棺桶が必要だった。
       どの棺桶を使ったのかは、今日の作業を見れば分かることよ」

(=゚д゚)「マハトマ、ラギね」

マハトマは殺傷能力の高いジョン・ドゥとは違い、貸し出しに厳しい制限がない。
実際問題として、死体の処理に使われるほどにマハトマは危険視されていないのだ。
だが腕力を人間以上に強化する点で言えば、十分に殺傷力がある。
人間の四肢を折り曲げることなど、造作もない事だ。

両腕に付ける形の棺桶であるため、非常に容易に持ち運びができる。
犯行後には何食わぬ顔で船倉に戻せば、証拠品の隠滅は完了する。

ζ(゚ー゚*ζ「ハワードが毒を飲んだことを確認してから、犯人は彼を殺した。
       排水溝の上で頭を撃って、弾丸を消し去ろうとした。
       犯人の計算通り、結局見つかったけどね」

デレシアはあえて、殺害の過程について詳しく触れなかった。
この場合、過程はどうでもいいのだ。
彼女が話そうとしているのは、犯人の動きについてなのだから。

582名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:37:54 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「これがハワードの事件の全貌。
      次に、私が遭遇した警備員詰所襲撃の事件よ」

これから話すのは、単身で詰所を襲った人間。
デレシアと銃口を向け合い、ブーンを海に投げ捨てた人間の話だ。

ζ(゚ー゚*ζ「探偵さん、犯行の前に死体の映像が流された理由、考えた?」

(´・ω・`)「船全体を恐慌状態にするため、かな」

ζ(゚ー゚*ζ「私も最初はそう思ったわ。
      でもね、本質は違うのよ」

秘密裏に事件を起こしていた犯人が、突如としてその方向性を変えた瞬間だ。
この瞬間にこそ意味があるのだと、デレシアは考えた。
犯人が見せた隙の一つ。
本命の動きがここに隠されていると。

ζ(゚ー゚*ζ「保険掛けと安全な移動のためだったのよ。
      ノレベルトのマスターキーが使用不可能になるのは時間の問題だったし、足跡がついてしまう。
      そこで犯人はまず、警備員詰所に入ることの出来る新たなカードキーを手に入れることにした。
      どのようにして手に入れるか、としたら答えは力づくしかないわ。

      如何に人目に付きにくい場所で、確実に権限のあるカードを持つ人間を襲うとしたら、探偵か警備員しかいない。
      案の定、反応した人たちがいた。
      “三銃士”こと、サイタマ兄弟よ。
      こうして犯人は、警備員詰所に向かうための新たなカードキーを手に入れた」

583名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:03:48 ID:CXsdzfUM0
これが保険掛けだ。
万が一、マスターキーが使えなかったとしても、警備員詰所に入ることが出来る。
そしてその保険は見事に効果を発揮した。

ζ(゚ー゚*ζ「もう一つ、犯人は安全を欲しがった。
      その安全と云うのは、誰にも怪しまれずに目的の場所に移動するための状況が欲しかったのよ。
      船内がビデオで混乱している時が、犯人にとって最も移動がしやすい時間であったと推定すると、ある推論が出てくる。
      犯人の一人はこの船の関係者。

      もっと言えば、事件に関わる役職の人間であるという可能性がね」

(;=゚д゚)「……」

(´・ω・`)「……」

探偵たちが目を光らせている中、詰所に向かうのは容易ではない。
だが大きな事件が起きた直後に事件解決を任された立場の人間ならば、例え警備員詰所に向かったとしても誰も気にも留めない。
誰の記憶にも残らない安全な移動こそが、犯人がビデオを流した主な目的だったのである。
結果、犯人が計画した通り警備員詰所への侵入と大量殺人を許してしまったのだ。

(´・ω・`)「だが分からないことがある。
      どうして詰所を襲ったんだ?
      何のために、そんなリスクを?」

ζ(゚ー゚*ζ「事件に本腰を入れてもらうためよ。
       船全体が事件解決に向かって足並みを揃えれば、海賊への迎撃準備に致命的な時間を与えられるからね」

(´・ω・`)「……ほぅ」

584名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:08:24 ID:CXsdzfUM0
関心を態度に表すショボンとは対照的に、トラギコは不服そうだった。
ただ、直ぐに感想を口にするのではなく、彼は何かを考えている様子だった。
ややあって、トラギコはやっと口を開いた。

(=゚д゚)「ここまでは全部、手前の推測だろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、そうよ。 それがどうしたの?」

(=゚д゚)「……何を隠しているラギ?
    なんでまだ、犯人の名前を挙げない?」

いい食いつき方だ。
しかしまだだ。

(´・ω・`)「トラギコ君、まだ推理は終わっていないんだよ。
     デレシアさん、続けて」

ζ(゚ー゚*ζ「……犯人の目的は海賊を招き入れ、市長の身柄を確保させることだった。
      何故か? 目的達成のために、どうしてもマニーが必要だったからよ」

オアシズ内でマニーの存在は絶対だ。
彼は生きている限り、オアシズの全てを自由にできる。
ブロック間を閉鎖することも、閉鎖されたブロックを行き来することも。
生きた鍵としての彼の利用価値は、オアシズでは最上だ。

¥;・∀・¥「……私、が?」

突然名前が出されたマニーは、目を丸くして驚いた。
彼は海賊襲撃時、デレシアの指示で別の場所に避難していたのだ。
海賊たちが彼を探していたことは、その耳に届いていない。

585名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:10:54 ID:avS9kZEw0
支援

586名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:12:53 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、貴方よ。 海賊には報酬を、そして犯人は貴方を手に入れる予定だったの。
      何が欲しいかまでは分からないけどね」

(=゚д゚)「目的は分かった。 で、結局犯人は誰ラギ?」

焦ってはいけない。
急いてはいけない。
これは、一種の駆け引きなのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ここまでで私が説明したのは犯人の目的と、その行動。
      肝心の犯人については、これから説明するわ」

ここからが本命の推理。
犯人の正体に迫るための推理だ。
その為にはまず、第一の事件から紐解く必要がある。
第一の事件こそが、一連の事件を解決するための大きな矛盾を秘めていたのだ。

これに気付かなければ、犯人の正体に辿り着くことは出来ない。

ζ(゚ー゚*ζ「そもそも、この事件の始まりはハワードではなかったの。
       ねぇ、トラギコ?」

その言葉に、初めは不服そうな表情を浮かべたが、次第に待ち望んでいたように目を輝かせて反応した。

(=゚д゚)「……あぁ、ポートエレンだ」

事前にトラギコに話していた通り、ここでバトンを彼に渡す。
彼に話してもらいたいのは、ポートエレンで発見されたクリス・パープルトンの事だ。
デレシアはトラギコがポートエレンの事件を調べていたことを知っていた。
そこで、彼にポートエレンの事件を語ることとその詳細、更には海賊殲滅後の船内の調査報告を求めた。

587名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:16:30 ID:CXsdzfUM0
思った通り、トラギコはその話を飲む代わりに条件を提示してきた。
この船で起こった事件の解決に、デレシアが手を貸すというものだ。
双方の利害が一致し、タイミングはデレシアに一任された。
そして、今がその時だった。

デレシアの推理に対して異議を唱える事をしなかったショボンが、ここで動いた。

(´・ω・`)「彼女は自殺だ、事件ではない」

トラギコは彼の言葉を無視し、説明を始めた。

(=゚д゚)「被害者はクリス・パープルトン。 コクリコ・ホテルが立つ崖下にある入り江に浮かんでいるのが見つかった。
    死因は窒息死。 部屋には遺書が残されていたラギ」

それから、チェックインの時間、発見時の部屋の状況。
事細かな情報をトラギコは話し始めた。

(=゚д゚)「チェックインしたのは、八月三日の夜十一時三十八分。
    無人でのチェックインが可能だったために、目撃者はいない。
    発見時、部屋には鍵が掛かっていた。
    テラスの窓――内開き式の――が開いて、 遺書は、鏡台に置かれていた。

    この遺書の字と、チェックイン時の筆跡は一致したラギ。
    そうラギね、ショボン?」

(´・ω・`)「……あぁ、そうだよ」

ショボンは面白くなさそうな口調で肯定した。
だが、トラギコは気にせずに続ける。

588名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:20:01 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「ショボン、あんたはホテルに滞在していたオアシズの人間が無実だと証明するためにここに行ったんだよな?」

(´・ω・`)「あぁ、そうだ」

(=゚д゚)「滞在していた人間の名前は?」

(´・ω・`)「守秘義務がある。 乗客の安全が最優先だ」

リロースミスの肩から手を動かさずに、ショボンは言い放つ。
彼は探偵だ。
探偵は顧客の情報を墓まで持って行く。
一度断ったら、二度目はない。

肩をすくめて、トラギコはデレシアを見た。
彼は約束を果たした。
次は、デレシアが果たす番だ。

(=゚д゚)「と、こんなところでいいラギか?」

ζ(゚ー゚*ζ「上出来よ。 その被害者の名前を特定した証拠品は?」

(=゚д゚)「部屋の番号と台帳からだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……そう、つまり被害者の名前はあくまでも台帳上のもの。
      本名は全く別の物よ」

(´・ω・`)「別?」

ζ(゚ー゚*ζ「貴方達がよく知る名前よ。
      ノレベルト・シュー、って名前」

589名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:24:04 ID:CXsdzfUM0
その瞬間、それまで沈黙していたブロック長達がその顔を衝撃に歪めて驚きを露わにする。

£;°ゞ°)「そんな!!」

ノリハ;゚ .゚)「死んでいたのですか……」

('゚l'゚)「ブロック長が、死んだ……?!」

¥;・∀・¥「どういう事だ、ショボン!!」

当然、その原因はショボンにある。
死体の顔を確認していながら、ノレベルトと分からなかったのだから。

(´・ω・`)「……それは気付かなかった。
     だが事件、と断言していることについての説明は?」

ζ(゚ー゚*ζ「遺書があっても、それは誰でも書けるわ。
      そして、トラギコも気付いたことがあるはずよ」

旨味を全て持って行くと、彼が気の毒になる。
予定外の対応だったが、トラギコは不満一つもらさずに、改めてデレシアからのバトンを受け取ってくれた。

(=゚д゚)「有り得ねぇんだよ、遺書があるってことが」

(´・ω・`)「有り得ない? 現に在り得ているからこそ、遺書があったんだろうが」

(=゚д゚)「遺書は鏡台の上に置かれていた、そうだろ?」

(´・ω・`)「あぁ」

590名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:27:53 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「被害者が飛び降りたとされる夜は、かなりの強風だったことが記録されているラギ。
    それこそ、シーツが捲れ上がるぐらいのな」

真っ先に気付いたのは、マニー、そしてノリハの二人。
それからロミス、ライトンが理解する。
強風の中で遺書だけが飛ばされずにいたのは、有り得ない話なのだ。
鏡台の上から発見するには、風が弱まった時に置かれるしかない。

本人が飛び降りた後では、それを置くことは不可能。
何者かが置いたのだ。

(=゚д゚)「他にもあるラギ。
    死体にあるべきものがなかったラギ。
    でっけぇ打撲傷がな」

シーツが飛ぶほどの風力ならば、飛び降りる人間にも影響を及ぼす。
ましてや風の影響が強い崖上ならば、体は崖側に向けて流されるはずだ。
当日に風が崖側に向いて吹き付けていたのはシーツの捲れ方と、窓の開き方で証明できる。

(=゚д゚)「死体にあったのは細かな擦過傷、そして古い銃弾の傷ラギ。
    薬で意識が朦朧としているなら、力まず、余計なことを考えずに頭から飛び降りるはずラギ。
    助走をつけて飛ばない限り、絶対に打撲傷が出来る。
    だが、手摺を飛び越えるってなると、薬の件がどうにもおかしいんだ。

    意識を混濁させるのは、死の恐怖を和らげるための物だ。
    つまり、薬がある程度効いた状態で飛び降りないとならねぇ。
    落ちることは出来ても、全力疾走するなんてこと、出来ないんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そして、彼女の死亡とノレベルトの失踪のタイミングは一致するのよ」

591名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:33:25 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「台帳の件は? どう説明するんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの人間が泊まっていたのなら、その中に例の共犯者がいたと考えるのが普通よ。
      存在しないクリスという人物を生み出して、捜査のかく乱を狙った。
      もっと正確なことを言えば、打ち上げられた遺体がオアシズと無関係であることを決定づけたかったのよ。
      そうすることで、ノレベルトは姿を消して船のどこかに隠れながら無差別な殺人を行った、と演出することが出来たわけ」

第一の事件、つまりノレベルト殺害は彼女の姿を船から消すために行われた。
あたかも彼女が変装をして、船のどこかにいると思わせるために。
しかしショボンはそう簡単に頷かなかった。

(´・ω・`)「じゃあどこで、彼女は殺されたんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズで殺し、海流を計算に入れてから投棄したんでしょうね」

(´・ω・`)「……君の推理力には恐れ入るが、それがどう犯人に繋がるんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「犯人の一人は、ノレベルトの事を知っていて、彼女に近づけた人物」

腐っても彼女はブロック長だ。
周囲からの注目もあるし、責任と自覚のある人間だ。
その彼女に近づき、人目に付かずに殺害するためには彼女と二人きりになる状況しかない。
つまり、親密な関係で彼女に毒を盛れる人間以外、ほぼ不可能な犯行なのである。

もう一つ、確かな情報がある。

ζ(゚ー゚*ζ「そして、犯人は右利きよ」

(=゚д゚)「それについての根拠は?」

592名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:37:01 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「私と対峙した時、その人物は右手で銃を使っていた。
      人が咄嗟に拳銃を抜くのは利き手よ。
      それまで誤魔化していたとしても、ね」

ブーンが捕らえられた時、犯人はブーンの頭に右手で銃を突きつけた。
そしてその銃ごとデレシアの銃弾が砕き、犯人は逃亡した。
その際、犯人は腕を負傷している。
骨が砕けたのか、それとも肉が千切れたのかまでは分からないが、怪我を負ったことは断言できる。

ζ(゚ー゚*ζ「今現在、犯人は右手を負傷しているのは間違いないわ」

視線が、一斉にロミスに向けられた。
彼の右手には、白い包帯が巻かれている。
背後に立つショボンは、ロミスの手を高々と持ち上げて言った。

(´・ω・`)「ロミスさん、これは?」

£;°ゞ°)「襲われたんだよ、実は……
       ハザードレベル5が発令されてからしばらくして、それこそ、801号室のお客様が毒殺された後に。
       警備員の格好をした男が目の前に現れて、いきなり襲ってきたんだ。
       必要なら、警護についていた三人の証言もある」

¥;・∀・¥「どうして報告しなかったんだ!!」

£;°ゞ°)「申し訳ありません、あの段階で皆をあれ以上不安にさせたくなかったのです」

ζ(゚ー゚*ζ「ロミスは白よ。 彼、左利きだもの」

593名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:40:24 ID:CXsdzfUM0
その証拠は、彼の腕時計が右腕についていることだった。
作業効率を重要視する人間ならば、利き腕の反対側に時計をつけるものだ。
少なくとも、ロミスは詰所を襲ってはいない。
それは間違いない。

ζ(゚ー゚*ζ「彼はあくまでも、自分の職務を全うしようとしただけ。
      でしょ?」

£;°ゞ°)「あ、あぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「そしてロミス、貴方が私の部屋を801号室だと言った理由も、同じよね?」

彼がデレシアの部屋を探していたことは知っている。
彼が惹かれていることも。

£;°ゞ°)「その通り、だ」

ζ(゚ー゚*ζ「毒殺の対象が完全な誤算だったのは事実だけどね。
      犯人は実在の従業員に変装し、毒入りのチョコを届けさせた。
      カードは警備員の死体から奪った」

(=゚д゚)「で、いい加減犯人を教えてくれないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは簡単な話よ。
      どうしてこの事件が、これだけ厄介になったのか。
      犯人が仕掛けたトリックだけでは、これほどまでに現場が混乱することはない。
      もう一つ、犯人にはとびっきりの仕掛けがあったから。

      そうでしょう?」

594名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:58:21 ID:ADf2eaUA0
デレシアは笑みを浮かべた。
勝利に酔う笑みではない。
一つの大きな事件を、一つの大きな夢を踏み潰す楽しみを前にした、嗜虐的な笑みだった。
得物を前にした獣が浮かべる残虐な笑みだった。

大勢の人間を殺し、海賊を操り、目的を果たそうとした人間。
捜査をかく乱させ、真実を靄にした人物。
デレシアの愛するブーンを海に落とした、忌むべき人間。











ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ショボン・パドローネさん?」











名を呼ばれたショボンは、ただ静かに口元を釣り上げただけであった。

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Ammo→Re!!のようです                           Ammo for Reasoning!!編

                         第十章 了

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595名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 00:39:40 ID:vsQC/TvkO
微妙にこっちのほうが時間早いんだな

596名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 17:56:54 ID:CWoc8Etk0
お前かよ……
オアシズ編
見返してこよう

597名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 20:39:08 ID:sPLcYO7o0
今気づいた乙
やっぱりロミスじゃなかったか信じてたよ(適当)

598名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 23:06:22 ID:zssCs7c20
えぇ!?ショボンなのかよ!
ショボン視点読み返さないと

599名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 20:57:37 ID:/qa9QjN60

探偵が犯人か……

600名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 21:29:56 ID:q691EqkQ0
begin toのto要らなくね

601名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 23:39:38 ID:ki4h8HcU0
ほぅ…

602名も無きAAのようです:2014/06/05(木) 23:26:52 ID:L18rKib.0
>>600
おぉ!そこに気付いてくださってありがとうございます。
そのbegin toのtoの直後には do が本来はあるのですが、馬鹿な探偵達には何も出来ないだろー、という嫌味の意味でいれていません。
それに対して、>>576でデレシアがdoを使うことで彼女がそれを打ち破る、という状況を表現してみたものです。
分かりづらくて済みませんでした。

603名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 01:39:56 ID:DgRsM5/c0
>>602
なるほどー

604名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 04:48:59 ID:y0lTopzo0
あ、うーんでも探偵は無能だから何も「出来なかった」んじゃなく探偵が犯人だったから発表した推理が完全じゃなかったわけで
英語は誰視点なんだか分からなくなったぞ・・・

605名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 07:00:55 ID:t2eI4f0k0
今読んだおつ!

これあれか、アンリライアブルナレーターってやつか

606名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:41:59 ID:JHK3X.IM0
>>604
他の探偵達に対しての呼びかけでありまして、まだデレシアが真実を語っていない段階の言葉です。
詳しくは日曜日に投下予定のエピローグで分かると思います。


>>605
今調べたら、それに該当するそうです。

607名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 00:06:21 ID:tAv7.OxI0
今夜か待ってる

608名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 14:50:30 ID:Xf6oanDE0
今夜VIPでお会いしましょう

609名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:37:32 ID:Xf6oanDE0
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                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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豪華客船オアシズ。
全部で五つのブロックに分けて統治されるその船の、第三ブロック会議室。
そこは、静寂に包まれていた。
剃刀で肌を撫でるような沈黙の中、探偵であるショボン・パドローネが深い溜息を吐いたのをきっかけに、彼は静かに言葉を発した。

驚きの色など、微塵もない。
感嘆の響きだけが、そこには含まれていた。




(´・ω・`)「いつから気付いた?」




一連の事件を起こした犯人とされたが、彼は冷静だった。
慌てることも、戸惑うことも、否定することもしない。
穏やかな表情のまま、質問を一つしただけだった。
それは肯定の言葉に等しい質問だった。

だが彼は、大人しく答えを待つだけだった。
だから、金髪碧眼の旅人であるデレシアはその期待に応えた。

610名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:44:37 ID:Xf6oanDE0
ζ(゚ー゚*ζ「厳密な事を言えば、最初からよ。
      貴方はポートエレンの事件を、頑なに事件とは認めなかった。
      そして、遺書の第一発見者は貴方。
      この時点で、もうおかしいのよ。

      あるはずのない遺書を手に入れることの出来た人間は、犯人か共犯者しかしかいない。
      探偵全体を指揮して糞まみれの銃弾を探させ、別の方向に向かせたのも貴方。
      貴方に探偵たちの指揮を任せたのは、どちらの味方なのかを判断する為よ。
      意図的に被害を拡大させる配置だったかどうかを知るためには、現場の状況と情報が必要だった。

      だから配置の内容と結果を知るために、私がロミスにお願いして様子を見てもらったのよ」

かなり大きな被害が出たが、それがなければショボンが犯人であるという確実な根拠は得られなかった。
美化するつもりはないが、探偵たちの命が犯人を捜し出すのに貢献したのである。
死を賭して真実の断片を手に入れるためには、オットー・リロースミスの協力が不可欠だった。
民間人の頼みをブロック長が聞き入れたと分かれば、大きな信用問題につながる。

大きなリスクを伴った提案にロミスは同意し、銃弾の飛び交う中事実を確認した。
ショボンに犯人に仕立て上げられた時でさえ、彼はそれを言わなかった。
彼には矜持があったからだ。
驕りに等しい矜持の持ち主の彼なら、自分の下心のために失敗を絶対に口外しないとデレシアは確信していた。

それを見越して、この話を彼に持ちかけたのだ。
ショボンがロミスを疑っている素振りを見せていたのは、ブーンから聞いていた。
更に、別の人物からもショボンの行動についての情報が入っていたことも、デレシアの推理を後押しした。

ζ(゚、゚*ζ「貴方が“偽りの主”として探偵達を誘導し、真実から遠ざけた。
      だから、何時まで経っても事件は解決しなかった」

611名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:49:33 ID:Xf6oanDE0
完全犯罪を目指すのであれば、事件を別の方向に誘導するのが一番だ。
ショボンの立場は、絶好の物だったのである。

(´-ω-`)「……そうか。 私は、最初から君に……
      ふふ…… そうか……」

両手をロミスの肩に乗せ、ショボンはくつくつと笑い始めた。
その笑い声は、本当に嬉しそうなものだった。
往年の夢が成就した男の笑いだった。

¥;・∀・¥「お、おい、ショボン…… お前が、犯人なのか?」

市長、リッチー・マニーが恐る恐るそう尋ねると、ショボンは両手を広げ、満面の笑顔を浮かべた。
目は病的なまでに輝き、声は演者のように大きく、部屋に響き渡る。



(´・ω・`)「嗚呼、やっと、やっとだ!!
     デレシア、やはり君は優秀だ!!
     鋭い洞察力、恐れを知らぬ行動力、実に素晴らしい!!
     宿敵とはこうでなければならない!!

     この船にいる役立たずとは大違い、桁違いだ!!」



観念、諦め、そういった負の感情の発散ではない。
驚くほど純粋な、悦からくる感情の爆発だ。
彼の言葉に嘘はなく、真実を暴かれたことに対して悦びを表している。

612名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:54:25 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「デレシア、君の推理は模範解答だ、大正解だ!!
     そう、君の推理した通り、このショボン・パドローネこそがこの事件の犯人だ。
     真実などと云う不確かな物を信じ、それを追う探偵の無能さにはがっかりさせられたが、君のおかげで報われた。
     死んでいったノレベルトも、これで報われるだろう」

川;゚ 々゚)「う、嘘よ……」

検死官、クルウ・ストレイトアウトは言葉を失った。
つい先ほどまで、協力し合っていた間柄が、一瞬で崩壊したのだから、無理もない。
驚き様から察するに、ショボンに対して恋愛感情のようなものを抱いていたのかもしれない。
座ったまま気を失いそうな彼女の姿は、哀れとしか言えなかった。

(´・ω・`)「嘘じゃないさ。
     真実を話すついでに君に言うが、僕は君の事が好きだったよ。
     君は利用価値があった。
     おかげで死体から身分証を取ることも容易だったし、海に捨てることも出来た。

     さて諸君、名残惜しいが私は失礼するよ。
     よく言うだろう? “握り拳と握手は出来ない”ってね」

ショボンの告解によって異様な空間と化したその場において、トラギコ・マウンテンライトだけが殺しの道具、自動拳銃ベレッタM8000を構えた。
撃鉄は起き、安全装置も解除されている。
銃爪に指がかけられているが、彼は引けなかった。
ショボンはトラギコよりも素早くロミスを付き飛ばし、マニーの首をマハトマで掴み、力を込めていた。

部屋に入った段階でショボンの右腕が“マハトマ”を纏い、何気ない会話の中で解除コードを口にしていた事に気付いた時にはもう遅い。
わざわざロミスをマニーの傍にまで連れてきたのは、これを予期していたからだろう。
この男は、リスク管理が病的なまでに徹底している。
全員がショボンの行動に注目する中、デレシアだけは彼が仕掛けた別の手に注意をしていた。

613名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:58:31 ID:Xf6oanDE0
ショボンはマニーを掴み起こし、彼を楯にしながら会議室の出入り口に向かう。
トラギコは銃口を向けたまま、ショボンの動きを待つ。




(´・ω・`)「さぁ始めよう、デレシア!!
     ここから先は、楽しい答え合わせの時間だ!!」




声高らかにそう言い放ったショボンは、部屋を飛び出した。
これが“オアシズの厄日”、その最終幕の始まりであった。


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                 脚本・監督・総指揮【ID:KrI9Lnn70】

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ショボンの言う答え合わせが、思考の読み合いの話だとデレシアにはすぐに分かった。
彼は馬鹿ではない。
この場が設けられた時点で、その先を見越して手を打っているはずだ。
逃走経路の確保も済んで、万が一の際の指示もしていると考えて挑むべきだ。

道中に彼が仕掛けた数々の罠、細工。
デレシアがそれをどこまで見抜き、対抗できるか。
互いの手の内を打ち消し合う追跡劇。
そのことを、答え合わせと言っているのだ。

614名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:00:44 ID:Xf6oanDE0
デレシアも準備をしていない状態でここにいるわけではない。
しっかりと先読をして、手を打った状態でここにいるのだ。
後は、双方の思考の読み合いが結果となって現れるのを見届けるだけだ。
銃を向け合った状態で撃ち合い、互いの弾丸を撃ち落とすようなものだ。

(=゚д゚)「……で、“言われた通りに”撃たないでやったけど、どういうことラギ?」

トラギコには、犯人がマニーを人質にして逃亡する可能性の高さを話してある。
彼がすぐに撃ち殺さないように言っておいて、大正解だった。
これで読み合いの先制点は、デレシアの物となった。
一連の事件によって信頼を大きく失ったオアシズを復興する際に、マニーの存在は絶対だ。

彼の死はオアシズの崩壊に繋がり、船はどこかの街の支配下に置かれるに違いない。
恐らくはそれがショボンの保険だ。
仮に船がジュスティアなどに買収された場合でも、ショボンは目的を果たせるのだろう。
最悪の事態は避けられた。

しかしマニーの命が握られている以上、状況はショボンに傾いている。
デレシアが彼の思惑を潰すにはマニーを生きた状態で奪い返し、目的を阻止するしかない。

ζ(゚、゚*ζ「説明は後。 各ブロック長はノリハの指示に従って。
      それと、武装させた警備員をショボンの部屋に。
      探偵長の死体があるはずよ。
      トラギコ、ブリッツを装着して彼を追うわよ」


(=゚д゚)「けっ、やりゃあいいんだろ。
    ――“これが俺の天職なんだよ”!!」

.

615名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:04:50 ID:Xf6oanDE0
トラギコの声に応じて、足元のアタッシュケースが展開した。
彼はそこから籠手を取り出して両手に装着し、右手に高周波刀、左手にM8000を持った。
デレシアとトラギコは部屋を飛び出し、ショボンの姿を探した。
黒い絨毯の敷かれた廊下には誰もいない。

だが重要なのはショボンがどこを目指しているかだ。

(=゚д゚)「上か、それとも下か?」

ζ(゚、゚*ζ「下よ」

二人は左に進み、突き当りを右に曲がった。
そこにある扉が開いており、誰かが通ったことが分かる。
デレシアは歩調を緩め、トラギコを先に行かせた。
扉を蹴り開けると、そこには広い道路が広がっていた。

次にショボンが使うと予想できる経路は、エレベーターだ。
自分が追われることは分かっているはずだし、急ぎたいはずだ。
何も言わずに、トラギコはエレベーターを目指した。
その後ろに続いて、デレシアも駆ける。

高速エレベーターの前に着くが、既に呼び出しのスイッチがマハトマで殴り壊されていた。

(#=゚д゚)「くっそ、あの禿!!」

最寄りの物ではなく反対側のエレベーターを利用するしかない。
だが、道路の向こうにあるエレベーターの近くに二体のハムナプトラが待機しているのが見えた。
待ち伏せしていたハムナプトラも、二人に気付いた。

<=ΘwΘ=>『来たぞ、殺せ!!』

616名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:10:12 ID:Xf6oanDE0
ハムナプトラが構えるアサルトライフルが火を噴いた。
銃弾は二人のすぐ傍を通り抜け、壁や地面を抉っていく。
距離による弾道のずれを棺桶が自動で整えるには、五秒ほどの時間が必要だ。
デレシアはローブを広げて咄嗟に応戦しようとするが、トラギコが叫んだために両手をデザートイーグルから離した。

(=゚д゚)「伏せてな!!」

僅か四発で、トラギコは二体の棺桶を屠った。
疾いだけではない。
かなり正確な腕をしている。

ζ(゚ー゚*ζ「ナイスショット」

(=゚д゚)「うるせぇ」

この銃撃戦によって、短時間ではあるが追跡の時間を稼がれた。

ζ(゚、゚*ζ「急ぎましょう、この調子だと逃げられるわ」

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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船倉の最深部に向かって降下するエレベーターの中で、ショボン・パドローネは楽しさのあまり、笑い出した。
やはり思った通りだ。
彼女こそが事件を解き明かす人間だったのだ。
探偵たちの無能さには落胆したが、デレシアと云う人間の有能さには驚愕した。

617名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:15:39 ID:Xf6oanDE0
真の目的から目を逸らさせるためだけに引き起こした事件だったが、それなりに手の込んだ仕掛けだったつもりだ。
探偵たちがこの事件を解いていく内に袋小路に入り、迷走することが当初の予定だった。
一つの事件として、中々に完成度の高い物だったと自負できる。
だがそれは、事件を可決できるだけの能力のある人間がその場所にいれば、の話だった。

それ以前の問題だったのだ。
結局、探偵たちの誰一人として、ショボンの思惑通りには動かなかったのだ。
多少の手助けはしたものの、正しい推理も出来なかった。
先ほどの場に現れることも期待したがそうはならず、ショボンの偽りの推理に流されるがままだった。

探偵長はもう少しの所まで来たが、ショボンに相談に来たのが運の尽きだった。
話すのも面倒だったため、殺してしまった。
用意された真実に到達できたのは、デレシアただ一人。
彼女なら、ショボンを楽しませてくれる。

この答え合わせの時間も、彼女無しでは虚しいだけだ。

(´^ω^`)「うふふふ、あああああああああっははははは!!」

¥#・∀・¥「……キチガイが」

両手足をワイヤーで固定され、肩の上に担がれたリッチー・マニーはショボンの耳元で可能な限りの増悪を込めてそう呟いた。
こんな男の発言一つ気にも留めない。
ショボンにとっては、ただの生きた鍵だからだ。
ショボンは笑みを失わないまま、答えた。

(´^ω^`)「……貴方には分からないでしょうね。
     好敵手の出現程嬉しいことはない。
     こんな事をしていて、唯一の楽しみはそれぐらいなんですからね」

618名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:19:18 ID:d8jt7rN.0
支援

619名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:20:22 ID:Xf6oanDE0
¥#・∀・¥「こんな事?」

(´・ω・`)「人殺しですよ、市長。
     私はね、極力人を殺したくないんですよ。
     何かしらの罪があれば別ですが、無実の人間を殺す時には胸が痛みます」

この言葉をマニーが信じるとは思っていない。
人を殺す時には、常に罪悪感が彼を襲った。
全てはより大きな目的のためと言い聞かせ、人を殺した。
一を殺して千を救う。

それこそが正義。
それこそが、ショボンの見出した新たな生き方だった。

(´・ω・`)「信じてもらえるとは思っていませんけどね」

¥;・∀・¥「海のように広い理解力があれば、信じられるんだろうけどね」

ショボンを乗せたエレベーターは、存在しないはずの地下二階に到着した。
扉が開くと、目の前には銀色の巨大な壁があった。
そこには鍵もなく、パネルもない。
凹凸のない滑らかな銀色の壁と床、そして天井しかない。

人一人分の最小のスペース。
これが、オアシズの大金庫だ。
音声入力と網膜スキャン、そして分厚い特殊合金によって守られた金庫内部は六つの部屋に区切られ、要求に応じて金庫内部の部屋が回転する。
音声によって指示された金庫を開く、回転式金庫だ。

マニーを地面に降ろし、ショボンは要求を伝えた。

620名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:25:31 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「さて、市長。
     貴方の所有する“キング・シリーズ”の棺桶を渡してもらいましょう」

その名を聞いた途端、マニーは驚きに目を大きく見開き、ショボンを睨み上げた。
呆れ、そして激怒の色が窺える。

¥;・∀・¥「あれが、狙いだったのか……
      あんな、棺桶一機のために!?
      そのためにどれだけの人間を殺した!!」

(´・ω・`)「人間は七十億以上。 対して、この世界に現存するキング・シリーズは十機もいない。
     価値の高さは、比べるまでもない。
     他と一線を画するその内の一機、是非とも欲しい」

¥・∀・¥「断る、と言ったら?」

(´・ω・`)「この船を沈めます。
     現在、この船の操舵室は私の同胞が占拠しています。
     いつでもどうにでも出来るんですよ?」

¥・∀・¥「地獄に落ちろ」

マニーは扉を睨みつけ、下唇を噛んだ。
唇は次第に白くなり、そして、血が滲みだした。
最初の血の一滴が地面に花を咲かせた時、マニーは怒りに声を震わせながら言った。

¥・∀・¥「……アイデンティファイ、リッチー・マニー。
      コード、アルファ・レガシー・トロント。
      オーダー、SK-00」

621名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:31:14 ID:Xf6oanDE0
金属の扉の向こうから、低い唸りの様な音が聞こえ、ゆっくりと壁が床に沈んだ。
そして、回転式金庫の中からそれが現れた。

(´・ω・`)「――素晴らしい!!
     これが……これが……!!」

縁が金色に塗装されただけの長方形の黒柩が、そこにあった。
光沢のないコンテナの表面には、擦り傷さえついていない。
ざっとした目測ではBクラスに分類されるが、性能はCクラス並みの高性能な機器を搭載している。
まだ見ぬその中身は、これまでに出会ったどの棺桶よりもショボンを興奮させた。

(´・ω・`)「……“ドリームキャッチャー”!!」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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ショボンを追うデレシアとトラギコは、非常階段を使って地下を目指していた。
エレベーターに伏兵を配置していた用意周到さを見ると、エレベーターに爆発物を仕掛けている可能性が高かったからだ。
市長を人質にしたショボンは、オアシズの地下二階に位置する金庫室に向かっているとデレシアは推理した。

地下二階に行くための道はエレベーター以外にもある。
デレシアはその道を知っていた。
やられっぱなしも性に合わないので、デレシアは別の手を使ってショボンの逃走経路を妨害することにした。
トラギコの棺桶を利用して、第三ブロックのエレベーターの昇降を行うワイヤーを切断させたのだ。

これで上に向かう道を制限し、時間を稼げる。
階段を駆け下りる途中、先頭を行くトラギコは後ろを見ずに質問した。

622名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:36:30 ID:Xf6oanDE0
(=゚д゚)「……なぁおい、どうしてショボンが金庫室だと?
    普通なら、救命ボートを目指していると考えるはずラギ」

ζ(゚、゚*ζ「ボートで逃げるつもりなら、マニーは必要ないわ。
      海賊の襲撃の段階で船に乗ればよかったもの。
      狙いは、金庫内の棺桶よ」

地下一階に到着し、まっすぐに続く薄暗い廊下を走る。
じめじめとした空間はくぐもったがして不快だった。
硬い靴底が金属の床を踏みつける音が木霊する。

(=゚д゚)「これだけのことをした目的が、棺桶?
    あの禿とは少しの間仕事をしたことがあるラギが、そんな大げさなことが好きな奴じゃなかったラギよ」

ζ(゚、゚*ζ「“キング・シリーズ”って棺桶の事は?」

(=゚д゚)「知らないラギね」

突き当りを右に曲がり、三段だけある階段を飛び降りる。
左右には天井に接続された巨大な円筒が立ち並び、生ぬるく湿気の多い空間だった。
機関室の一部だ。

ζ(゚、゚*ζ「S・キングと云う兵器設計の名匠が手掛けた棺桶の事よ。
      復元されているのは僅かに六機だけ。
      マニーが所有しているのは、その中でも二番目に新しい“ドリームキャッチャー”。
      ショボンはそれを狙っているはずよ」

(=゚д゚)「わざわざ棺桶一機のために、随分と大げさな……」

ζ(゚、゚*ζ「それだけの価値を見出しているのだから、仕方ないわ」

623名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:40:12 ID:Xf6oanDE0
デレシアは先を行くトラギコの肩を掴んで、動きを止めさせた。
周囲を見渡し、溜息の代わりに強い口調でトラギコに訊く。

ζ(゚、゚*ζ「……爆弾解体の経験は?」

(=゚д゚)「そりゃ、何回かはあるけどよ。
    なんで急に?」

ζ(゚、゚*ζ「ここ、爆弾だらけよ」

目を凝らせば分かる。
天井、パイプの下に四角い物体が取り付けられている。
形状から推測するに、プラスチック爆弾だ。
変幻自在の爆弾が相手となると、捜索だけでも大量の時間が必要になる。

見事な足止めによって、デレシアはショボンに追いつくことが不可能になった。
ここの爆弾を解体しなければ、船は最後に沈められる。
それを阻止するためには、今ここで爆弾を全て解体しなければならない。
ショボンを追っている時間も、追いつく時間もない。

(;=゚д゚)「どうするラギ?」

ζ(゚、゚*ζ「他の階に、まだ残党がいるはず。
      私がそっちを片付けるから、貴方はここをお願い」

(=゚д゚)「人使いの荒い奴ラギね。
    ……やってみる。
    手前、死ぬなよ」

ζ(゚、゚*ζ「当たり前よ。 貴方もね、刑事さん」

624名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:44:31 ID:Xf6oanDE0
デレシアはショボンの追跡を諦め、船内の大掃除にその行動を切り替えた。
この時点で、デレシアがショボンに追いつける確率はゼロになった。

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棺桶を背負い、ショボンは悔しさで振るえるマニーを見下ろした。
空になった金庫に転がる彼の姿は、この船における彼の立場を比喩しているようだった。
両手足を縛られ、使えるのは口だけ。
正に、無力の象徴だ。

(´・ω・`)「……市長、こんなことを言うのは残念ですが、貴方は優秀だった」

殺してもいいが、極力無駄な殺しは避けたかった。
人が死ぬと、誰かが悲しむ。
それが事件であれ、事故であれ、戦争であっても、だ。
エレベーターに乗り込み、屋上行のボタンを押す。

しかし、一向に昇降機が上昇する気配がない。
原因に思い至り、ショボンは嬉しくなった。

(´・ω・`)「ふふ、楽しませてくれるね」

625名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:51:04 ID:Xf6oanDE0
デレシアはこちらが地下に向かったことを予想し、エレベーターの機能を奪ったのだ。
つくづく、面白い女だ。
女にしておくには惜しい人材だ。

(´・ω・`)「いい女だ、全く」

あの二人がここに来るまでには、かなりの時間が掛かるはずだ。
彼女の洞察力の高さを考えると、道中に用意した爆弾で長い間足止が出来る。
時間的には、まだ余裕がある。
背中のドリームキャッチャー、両腕のマハトマが今のショボンの主装備だ。

ドリームキャッチャーはギリギリまで使いたくない。
左手の小指から順に拳を作り、地面に向けて叩きつけた。
跳躍するよりも高く上空に体を浮かせたショボンは、すぐさま右手のアッパーカットで天井に大穴を空け、その縁を掴んだ。
工夫の仕方では、脱出経路は確保できる。

昇降機の上に乗り、ショボンはワイヤーが蜷局を巻いて屋根に落ちているのを見つけた。
鋭利な断面。
トラギコの仕業だ。
彼の持つブリッツなら、この程度のワイヤーはタコ糸以下の存在でしかない。

この事態は予測していた。
最悪の中でも最上の部類として。
だからこそ、鋭い推理力を持つ人間を足止めするための機関室の爆弾があるのだ。
あれは足止めであると同時に、船を沈めるための物でもあった。

ここまでの相手と分かっていればと後悔するが、やはり嬉しく思う。
世界はこれから大きく変わる。
変わりゆく世界を動かすのは、強い意志と力を持つ人間だ。
彼女なら、これから訪れる新世界を象徴する人物になれるのは違いない。

626名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:55:11 ID:Xf6oanDE0
それが分かっただけでも、ショボンにとっては十分な成果だ。
知恵比べなど、何十年ぶりだろうか。
警察に入ってからは片手に数えるほどしかなかったこの高揚感。
その全てを足しても、これほどの物は得られなかった。

用意したほぼ全てを見抜かれ、準備された。
双方の技量の優劣を知るには、結果を見るしかない。
新たな穴を拳で開け、ワイヤーの切れ端を先ほど開けた穴に通して結ぶ。
幸いだったのは、滑車伝いにワイヤーが両端とも残っていたことだ。

これで、エレベーター機構の再現が出来る。
天秤と同じく、より重い方が下に行く。
その機構が再現できれば、ショボンは屋上に辿り着くための道を手にすることが可能となる。
地下一階まで上がれば、後は階段を使えばいい。

デレシアの事だ、第三ブロックにある二つのエレベーターを無効化しているだろう。
ワイヤーを引っ張り、安全を確認する。
両手でそれを掴んで、ショボンは静かに上を目指した。
時間としては、五分もあれば地下一階に戻れるはずだ。

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その人物は逃走経路の掃除を行っていた。
使う道具はナイフか拳銃だけで、背中のトゥエンティー・フォーは一度も使わなかった。
対象となるのは、どうしてか道中で待ち構えている警備員達だ。
こちら側の人間ではなく、オアシズ側が配置した人間と云うのが気になる。

627名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:58:11 ID:Xf6oanDE0
計画が表沙汰になったと考えるしかない。
それも、あのショボン・パドローネを上回る形で。
オアシズ付の人間ではないはずだ。
外部の人間の仕業だ。

跫音を消すことをせずに廊下を突き進むその人物は、ショボンの共犯だった。
真犯人の影を演じ、大胆な犯行を担当した。
姿や存在が捜査線上に現れることなく犯行を手掛け、ショボンにアリバイを与えた。
それが彼の役割だった。

そして今、彼の部下が船の各ポイントに立ちショボンの逃走を手助けすることになっている。
仲間のためとはいえ、部下を捨て駒のように使われるのはいい気分がしなかった。
部下全員の顔と名前を憶えている訳ではないが、それでも人間だ。
既に報告で上がっているのが、海賊襲撃時にブロック長達の警備兼監視役の部下が、全員殺されたことだ。

それ以外にも死者が確認されている。
この船に乗り込んだ猛者がおり、トラギコとか云う人間がその内の一人なのは間違いない。
第三ブロック七階にある操舵室の前に来た時、嫌な感覚に襲われた。

「……?」

まず、いるはずの歩哨がいなかった。
命令ではその場から動くなと言ってあったはずだ。
決められた回数、そして間隔で操舵室の扉をノックしたが、応答がない。
扉を押すと、何の抵抗もなく開いた。

一瞬で状況を理解することは出来なかった。
地面に落ちた大量の血痕はまだ乾いていないが、人がいない。
誰一人、そこにはいない。
海を見渡すことの出来る強化ガラスに近づき、他にめぼしいものが無いかを確認した。

628名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:01:18 ID:Xf6oanDE0
窓の傍に一つだけ落ちていた薬莢を爪先でつついた時だった。

「――へぇ、あんたか。
なんだか少し残念だよ」

その声は後ろからかけられた。
刃の様な女性の声だった。
気配は全くしていなかった。
今こうして声を掛けられても、気配を感じるのがやっとだ。

すぐに襲ってこないことを考え、その人物は顔だけを声の方向に向けた。
若い女だった。
細身だが、黒いスラックスの下にある実用的な筋肉の存在は、立ち振る舞いから分かる。
目尻がやや吊り上がった、鋭い眼光を放つ瑠璃色の瞳。

見たことのある女性だった。
餃子を売っていた時に現れた女性だ。
只者では無い事は察していたが、まさかここまでとは。

ノパ⊿゚)「さて、お相手願おうか」

この女性が単身で操舵室にいた部下を皆殺しにしたのは、確認するまでもなかった。
そして、この女性がショボンの言う障害の一人であることはより明白だ。

( `ハ´)「……」

必要なのは先制攻撃だ。
シナー・クラークスは溜息を殺し、覚悟を決めた。

( `ハ´)「私の部下はどうしたアルか?」

629名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:03:55 ID:Xf6oanDE0
ノパ⊿゚)「あんたの部下だったのか、あいつらは。
    悪いが、殺して捨てたよ」

シナーは理解した。
この女性は、強い。
勝てると思って戦わない方がいいだろう。
出来ることは時間を稼ぐこと。

こちらの勝利条件は、ショボンが“迎え”に間に合って荷物を渡すことだ。
矜持や意地は捨て、時間稼ぎに徹する他ない。

( `ハ´)「……名前は?」

ノパ⊿゚)「名乗るつもりはないね。
    ――“あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ”!!」

コンセプト・シリーズの起動コードに、シナーは覚悟を決めた。
別に動いているショボンが逃げ切るまで、この場で戦い続け、生き延びる。
最悪、殺せなくともいい。
殺されさえしなければ。

( `ハ´)「ふん……
     “今日は今までで一番長い一日になる”!!」

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        ‥…━━ August 6th 19:40 on the penthouse ━━…‥

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630名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:07:44 ID:Xf6oanDE0
屋上に到着したショボンは、月と星明りの美しさに思わず感動して涙ぐんでしまった。
何と美しい景色だろうか。
この汚い世界の中でもなお失われない美しさを保ち、ショボンを祝福してくれることの嬉しさ。
今、自分とその行いは世界に受け入れられているのだと自信を持って言える。

濃い群青色をした水平線の向こう、歪な形をした紫色の雲の下に赤と緑の位置灯が見えた。
ローターの羽音を響かせて飛んでくるヘリコプターの姿を幻視し、ショボンは理解した。
迎えが来た。
あと数分で、答え合わせはショボンの勝利で終わる。

少し残念だったが、楽しませてもらえた。
目的は果たした。
後は、帰るだけだ。
ポケットの中の発信機のスイッチを入れ、目的の達成を伝える。

肌寒い空気を運んでくる風は、走り続けた体を良く冷やしてくれる。
風の音が大きい。

(´・ω・`)「ふぅ……」

溜息を吐き、任務達成の解放感に浸る。
ヘリの黒い姿が大きくなるにつれ、ショボンは肩から力が抜けるのが分かった。
多目的ヘリコプター、UH-60ブラックホーク・ヘリコプターだ。
自然エネルギーで飛行を可能にするために、二十年近く改修し続けた機体だ。

昼間の間に充電し、夜中でも飛べるように改良された大容量バッテリーはまだ量産されていない。
迎えとしてそれ一機を飛ばすだけでも、この作戦の重要度がよく分かる。

(´・ω・`)「さよなら、オアシズ」

631名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:11:57 ID:Xf6oanDE0
爆音を響かせ、ブラックホークがショボンの頭上に現れた。
オアシズの屋上は、ヘリの離着陸をするのに十分すぎる広さがある。
海で逃げるのが困難なら、空から逃げるのに限る。
着陸したブラックホークの後部席のスライドドアが開き、室内灯が照らす懐かしい顔があった。

ローターの生み出す風に長めの黒髪を靡かせる碧眼の男性、ドクオ・バンズだ。
空気を震わせ、轟音となったローターの音に消されないように、ドクオは大きな声で話しかけてきた。

('A`)「お疲れ様です、同志!! 船旅はいかがでしたか?!」

両耳を押さえながら、ショボンは口の動きから言葉を読み取り、返答した。

(´・ω・`)「悪くはなかった!!
     無事、ドリームキャッチャーは手に入れた!!
     だが追手が来ている、急いで出よう!!」

背中の棺桶を降ろしてドクオに引き渡すだけで、長い任務は終わる。
これでショボンはオアシズから去り、デレシアとの答え合わせは――

(∪´ω`)「お」

――最後の局面に現れた一人の少年に、その勝敗が託された。

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             Ammo→Re!!のようです Ammo for Reasoning!!編

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632名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:14:59 ID:Xf6oanDE0
ブーンは驚かなかった。
そして、恐れもしなかった。
ショボン・パドローネが犯人であることも聞いていたし、ここに来る事も予期出来た。
戦い方は聞いている。

恐ろしい相手を前にするのは、これが初めてではない。
今、自分が成長するための一枚の壁の前にいる。
故に臆するわけにはいかなかった。
例え、自分を海に投げ捨て、大量殺人を犯した人間が目の前にいたとしても、だ。

(´・ω・`)「……ブーン君?
     生きていたのか?」

(∪´ω`)「はいですお」

この質問は、予想していた。
驚くことはない。

(´・ω・`)「それは良かった。
     どうしてここに?」

(∪´ω`)「つよくなるためですお」

この質問も、予期していた。
恥じることはない。

(´・ω・`)「何が起きたのかは知っているのかい?」

(∪´ω`)「しっていますお」

633名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:19:59 ID:d8jt7rN.0
支援

634名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:21:11 ID:Xf6oanDE0
この質問も、想定していた。
迷うことはない。

(´・ω・`)「なら、どうするつもりだい?」

(∪´ω`)「あなたのゆめを、つぶしますお」

この質問も、想像していた。
躊躇うことはない。
ショボンは一連のやり取りと終えると、眉ひとつ動かさずに、手を懐に入れた。
そこから拳銃を取出し、銃口をブーンの胴体に向けた。

まだ動いてはならない。
ブーンが師匠と敬う人物から教わった事。
相手が銃爪を引くまでは、その銃口と相手の視線から目を逸らしてはならない。
限界まで見極め、最小限の動きで応じる。

然る後に、反撃に転じる。

(´・ω・`)「海に捨てておいてなんだが、君を殺したくはないんだ。
     君はまだ子供――」

ローターが生み出した風と、強い潮風がブーンの被るニット帽を飛ばした。
ニット帽はフェンスに引っかかり、海には落ちなかった。
黒髪の下にある垂れ下がった犬の耳が露わになったことに気付くと、目の前で別の変化が起きた。

(´・ω・`)「――耳付きは死んでいい」

635名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:25:54 ID:Xf6oanDE0
態度を一変させ、ショボンが動いた。
暗闇の中でも、ブーンは彼の動きが良く見えた。
発砲する直前に途切れる殺意。
それを感じ取るのと同時に、銃口の先をよく見る。

自分から見て左側に向かって弧を描くように走り、銃弾を避ける。
ヘリの影に隠れられれば、銃弾は当たらない。

(´・ω・`)「くそっ、耳付きのクソガキと話したのか、僕は。
     最悪だ、悪夢だ。 女にレイプされるよりも辛いな、これは」

淡々と言葉を並べながら、ショボンは発砲を続ける。
銃弾はブーンの後ろを通り過ぎていたが、次第にブーンの目の前を通過するようになり、迂闊に走れなくなった。
走れなくなると、ショボンの射撃の腕の正確さに気付かされた。
ショボンから約三ヤードの位置で最小限のサイドステップで動いているが、銃弾はローブの端を掠め、このままでは胴体に当たるのは確実だった。

武器が。
武器が、欲しかった。
ショボンに反撃し、自分を守ることの出来る武器が。
銃でもナイフでも、なんでもいい。

(´・ω・`)「デレシア程の人間が糞耳付きを最後に残すとは、確かに予想外だったよ。
     だけど死ね。 この世界のためにも死ね!!
     忌々しい耳付きが!!」

これまでに、耳付きと呼ばれる人種を嫌う人間は多く見てきた。
誰もが気味悪がり、嫌悪していたのは分かっていた。
害虫を殺すのと同じく、気分の問題で殺されかけたことがほとんどだ。
だが、ショボンの声には怒りがあった。

636名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:29:34 ID:Xf6oanDE0
この男は怒りの感情でブーンを殺そうとしている。
彼の背後、ヘリコプターに乗る男も異変を察したのか、大声で静止を試みた。

('A`)「同志ショボン、早く乗ってください!!
   そんな子供は放っておいて、急いで!!」

(´・ω・`)「いいかドクオ、こいつらは害虫と同じだ!!
     一匹残せば増えていくんだ。 見つけたら殺さなければならない!!
     もう少し待っていてくれ!!
     私と口をきいた駄犬の肋骨をへし折って、喉に突き刺してやるんだ!!」

ショボンが拳銃の弾倉を排出した時、涼しげな女性の声が響いた。

「――駄犬? 私の可愛い弟子を駄犬扱いとは、気に入らないな」

時間だ。
ブーンの役割はここまで。
後は、ブーンにはない物を持つ人物が、彼の役割を引き継ぐ。

リi、゚ー ゚イ`!「どれ、一つ試してみるか?」

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            Ammo→Re!!のようです Ammo for Reasoning!!編

                          Epilogue

                     【Ammo for Reasoning!!】

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637名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:34:55 ID:Xf6oanDE0
黒い鍔広帽子に黒いロングコート。
限りなく黒に近い灰色の髪。
宝石のように輝き、深淵の如く底の無い深紅の瞳。
影のようにブーンの後ろから現れたロウガ・ウォルフスキンは、ショボンをまっすぐに睨みつけた。

ブーンが屋上で担った役割は、時間稼ぎと銃の弾を尽きさせること。
これが上手く行かなければ、答え合わせはショボンの勝利で終わっていた。
何故なら、ブーンには武器がない。
誰かを殺すだけの力もない。

だから、ロウガがそれを代わりにやる。
その為に必要な道具を取りに行く時間を稼ぐのが、ブーンの真の目的だった。
ロウガの放つただならぬ雰囲気に、ショボンは怒りの感情を抑えた。

(´・ω・`)「……ドクオ、ヘリを上空で待機させることは可能か?!」

('A`)「五分だけなら!!」

(´・ω・`)「いいだろう。 この女、今ここで犬と一緒に殺す!!」

ショボンは棺桶をヘリコプターの男に渡し、両の拳を眼前で打ち鳴らした。
機械仕掛けの籠手の正体は、マハトマだ。
Aクラスの棺桶で、重い荷物の運搬に使われるようなもので、戦闘には向いていない。
しかし、生身の人間との肉弾戦の場なら殺傷能力は十分だ。

(´・ω・`)「相手をしてやる。 こい、女」

638名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:38:44 ID:Xf6oanDE0
ショボンの注意がロウガに移行したのを見逃さなかった。
指示を待つよりも先に、ブーンが動いた。
狙いは、彼の脚だ。
足払いでバランスを崩せば、ロウガに有利な状況を作り出せる。

上昇を始めたヘリコプターの風圧で近づくのは困難だったが、距離が縮まっていたのが幸いした。
人工芝の摩擦の少なさを利用して、片膝を突きながら素早くショボンの背後に滑り込む。
視線も注意も、ブーンには向けられない。
眼中にないのだ。

片手を軸にして、ロウガに習った足払いを繰り出した。

('A`)「悪いな、小僧」

いつの間にかヘリから飛び降りた男が、足払いが形となる直前のブーンの足を掴んだ。
ショボンの脚までもう僅かの地点で、それは阻まれた。

(;∪´ω`)「お!?」

('A`)「あの女を殺したら、すぐに楽にしてやる」

男は懐から拳銃――コルト・ガバメント――を抜いて、ロウガに向けて発砲した。
だがロウガはそれを避けた。
一発ずつ、銃口を確認しても回避行動だ。
それだけではなく、彼女はブーンとは比較にならないほどの速度でショボンに接近している。

彼女の目の輝きが、まるで残光のように見えた。

(´・ω・`)「疾いっ?!」

639名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:39:32 ID:LyEmKjUM0
支援!

640名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:43:29 ID:Xf6oanDE0
ロウガの接近に半歩後退したショボンは、リーチのある回し蹴りで応じた。
その蹴りは、虚しく空を切った。
彼女は上半身の動きだけで紙一重でそれを避けたのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「遅いぞ、探偵」

たじろぐショボンに、ロウガは後ろ蹴りを下方から一発放った。
それで、二人の勝負は終わった。
両腕を交差させて攻撃を受け止めたショボンだったが、その体は嘘のように宙を舞い、ブーン達の頭上を越えて地面に叩きつけられた。
圧倒的な戦力の開きに、男は立ち向かうのを諦めた。

(;'A`)「ちっ!! 人質ってのは好きじゃねぇが!!」

もう二度と、人質になって足手纏いになりたくない。
その想いが、ブーンを動かした。
体を一回転させ、男の手から足を解放させる。
そして、蹴り上げによって男が持つコルトを蹴り飛ばした。

(;'A`)「お!?」

リi、゚ー ゚イ`!「墳っ!!」

呆然とする男の腹に、ロウガの掌底が命中した。
男もまた、宙を舞ってショボンの隣に落下した。
男の手を離れたコルトも、ほぼ同時に地面に落ちた。

リi、゚ー ゚イ`!「他愛ない連中だ」

ロングコートの裾を風に棚引かせるロウガは、帽子が飛ばされないように鍔を摘まみながら短く落胆の言葉を吐いた。

641名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:47:39 ID:Xf6oanDE0
(;´・ω・`)「……なんだ、この女。
      本当に人間か?」

ゆっくりと立ち上がりながら、ショボンはロウガを見た。
距離は十ヤード近く。
その気になれば、ロウガは二人を殺しに行ける距離だ。
耳付きと呼ばれる人間にとって、この程度の距離は問題にならない。

リi、゚ー ゚イ`!「勿論、人間さ」

(;´・ω・`)「お前も、耳付きだな」

忌々しげな口調でそう言ったショボンに、ロウガは冷ややかな目と言葉を与えた。

リi、゚ー ゚イ`!「貴様の嫌悪する耳付きに、手も足も出ないのか。
      情けないな」

(#´・ω・`)「ケダモノがっ」

(;'A`)「ごっ……げぇぇぇっ」

ロウガに発砲した男は、体をくの字に曲げて吐瀉し、悶絶している。
文字通り、決着は一瞬でついた。

リi、゚ー ゚イ`!「貴様らの負けだ」

その言葉を聞いたショボンは、肩を震わせて笑い声をあげた。

642名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:52:37 ID:Xf6oanDE0
(´^ω^`)「……はははははっ!! それはないね!!
     確かに、私は君に負けたが、答え合わせでは私の勝ちだ。
     分かるかい? すでに棺桶は我々が手に入れた。
     この時点で、私達の勝ちなんだよ!!

     最後の一問で君達の負けだ、犬が!!」

リi、゚ー ゚イ`!「……“最後の一問”、か。
      ならそれは、貴様の採点ミスだ。
      主の盟友は、こうなることを予期していた。
      最後の最後で、詰めを誤ったな」

直後、上空に浮かんでいたブラックホークで爆発が起こった。
ブーンには見えていた。
爆発が、内側からの物であることが。
小さめの爆発だったが、黒煙がヘリから立ち上り、棺桶の運搬用コンテナがそこから海に落下した。

(´^ω^`)「え」

リi、゚ー ゚イ`!「マニーに頼んで、コンテナの中にプラスチック爆弾を詰めておいた。
      内側からの爆発なら、例え棺桶といえども耐えきれない。
      コンテナの頑丈さに感謝するんだな。
      おかげで、ヘリはまだ墜ちていないぞ」

(´^ω^`)「……」

誰が仕掛けて、誰が起爆したのかは分からない。
それは、ブーンも知らないことだった。
しかし分かる気がする。
ここまでの戦術を組み立てた人物の仕業だ。

643名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:56:58 ID:Xf6oanDE0
つまり、デレシアの仕業だ。
それ以外の人間に出来るとは、とても想像できなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「詰みだ。 どうする、探偵?」

(´・ω・`)「……ふ」

足元で悶える仲間を尻目に、ショボンは再び笑った。
今度の笑いは心の底からの笑い声だと、直ぐに分かった。

(´^ω^`)「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
     アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッキンヘル!!
     やるねぇ、やるねぇ!!
     想像以上だよ、この展開は!!」

黒煙を撒き散らしながら高度を落とすヘリコプター。
響き渡るショボンの笑い声。

(´^ω^`)「全部、デレシアの指示かい?」

リi、゚ー ゚イ`!「あぁ。 あの方はここまで予想していた。
      答え合わせは、あの方の勝ちだよ」

(´^ω^`)「仕方がないさ。 これはあくまでも私の戯れだ。
     この程度で私に勝ったと思われたくないが、負けは負けだ」

ヘリから一本の太いロープが落とされる。
蹲る男にロープを握らせ、ショボン自身もロープを掴んだ。
ロープが巻き上げられ、ショボンの姿はみるみる遠ざかっていく。
ロウガは追撃をする素振りを見せない。

644名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:00:19 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「次は、こうはいかないよ。
     ……さよなら、犬ども」

ヘリが十分な高度に達した時、ショボンはそう言い残した。
空いた手でショボンが何かのスイッチを押すと、大きな爆発音が響いた。

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爆発はオアシズから離れた沖合で起こったものだった。
船に仕掛けられた全てのプラスチック爆弾を積んだ脱出艇は木っ端みじんになり、海の藻屑と化した。
その様子を見ていたトラギコ・マウンテンライトは、安堵の溜息を吐いた。
結局、爆弾の解体は不可能だった。

どのコードを切断しても起爆するように設定されていて、手出しができなかった。
出来たのは、設置されている爆弾を取り外す位だ。
それでも、自力で全てを見つけ出すのは不可能だった。

(=゚д゚)「……どうして、協力したラギ?」

トラギコの声は横に立つ女性にかけられたものだ。
彼のいる船尾のプールサイドには、彼と女性の二人しかいない。
その女性は笑みを浮かべて、答えようとはしなかった。

(=゚д゚)「答えろよ」

デレシアが賊の討伐に動き出してから数分後、トラギコの前にその女性が現れた。
初めは妨害に来たのかと思ったが、女性は武器を持たず、代わりに情報を与えた。
爆弾の隠された位置、そして構造。
全ての情報は正しかった。

645名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:04:29 ID:Xf6oanDE0
彼女がいなければ、船の機関部が吹き飛ばされてオアシズは漂流、もしくは沈没していた。
当然とも言えるトラギコの質問に対して、返答はない。

(=゚д゚)「あいつらの仲間なんだろ?
    どうして裏切ったラギ?」

首を横に振るだけの否定。
裏切っていない、ということなのだろうが意味が分からない。

(=゚д゚)「裏切ってないなら、どうして爆弾の位置を全て教えたラギ?」

笑顔を崩さぬまま、無言。
気味が悪い。
何を考えているのか分からない。

(=゚д゚)「おい、答えろよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

从'ー'从「……」

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ノパ⊿゚)「ちっ……」

ヒート・オロラ・レッドウィングは割れた窓ガラスの向こうを睨みつけた。
相対した餃子屋の男は、時期を見計らったかのようにヒートとの戦闘を中断して逃走した。
良い引き際だ。
緊急時に最適なタイミングで撤退を決断できる人間は、総じて優秀だ。

646名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:09:05 ID:Xf6oanDE0
細目の男、シナー・クラークスは迷うことなく逃げた。
対峙したトゥエンティー・フォーの装甲には穴を空けたし、何度も殴り飛ばした。
だが倒せなかった。
使い手のシナーは巧みな動きで全ての攻撃を人体に到達させず、自分の身だけを守った。

久しぶりに骨のある男だった。
初めて会った時、あの男はとても敵には思えなかった。
ブーンによくしてくれたし、料理も美味かった。
しかし改めて殺し合って分かったのは、ヒート達と同じ世界に足を踏み入れた人間と云うことだ。

ブーンには才能がある。
人を魅了して味方にするか、嗜虐心を擽って暴力を振るわれるか、だ。
旅を始めて分かったのは、後者の方が世界には溢れているということだった。
前者の場合、夥しい量の人間を殺し続け、心の平穏を求めている人間に限られる。

殺し屋として長い間生きてきたヒートには、ブーンは心の救いだった。
彼が生きているとデレシアから聞いた時、彼女の用意周到さに驚いた。
驚いたのと同時に、胸が苦しくなった。
何時かまた彼を失ってしまうことがあるのではないかと、そう思ったからだ。

もう失うのは嫌だった。
ブーンを失わないためには、彼に四六時中貼りつかなければならない。
それでは、彼のためにはならない。
戦い方を教えなければならないのと同時に、武器を渡した方がいいと考えた。

彼の腕力は歳以上ではあるが、非力の部類だ。
ならば、筋力の関係ない銃を持たせてやるべきだ。
棺桶を背負いなおし、ヒートは操舵室を後にした。

ノパ⊿゚)「後味わりぃな……」

647名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:14:02 ID:Xf6oanDE0
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                 ‥…━━ August 6th 21:20 ━━…‥
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本当の意味でオアシズの厄日が終わったのは、午後九時を過ぎた時だった。
各階に散らばっていた賊の死体と、亡骸となった船長の供養など、やることは本当に多かった。
オアシズの厄日は結果として、偶然乗り合わせた人間の活躍によって大参事を免れた。
犯人側の目的は全て打破できたが、爪痕は残ってしまった。

ζ(゚、゚*ζ「……」

航行を再開したオアシズの屋上で、デレシアは月を見上げていた。
大きな月だった。
美しい星空だった。
昔から考えれば、有り得ないほどの輝きだ。

デレシアは考えに耽っていた。
これから先、旅は続いていく。
ブーンの成長速度には驚かされるし、彼の魅力に気付く人間が増えるのは嬉しかった。
しかし、それでは足りない。

探偵としてオアシズに長い期間潜りこんでいた、ショボン・パドローネ。
彼はまず間違いなく、ティンバーランドの人間だ。
使われた棺桶に残されていた、金色の樹のエンブレムがその証拠だ。
今、ティンバーランドは世界中にその根を下ろし始めている。

かつてデレシアが潰した組織が、再び芽生え始めている。
潰さなければならない。
彼らの最終目的を考えると、それは絶対だ。
その為には速さが必要だ。

648名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:18:19 ID:Xf6oanDE0
ブーンの成長を促し、少しでも早く立ち向かえるようになってもらう必要があった。
いつまでもブーンを守れるわけではないのだ。
今回がそのいい証明となった。

ζ(゚、゚*ζ「……ロウガ、ブーンちゃんの事、礼を言っておくわ」

眩い月が生んだ濃い影。
その影に潜むように傍に立っていたロウガ・ウォルフスキンは無表情のまま、答えた。

リi、゚ー ゚イ`!「礼には及びません。 私も彼に個人的な興味がわきました」

ノパ⊿゚)「あたしからも礼を言うよ、ありがとう」

その隣にいたヒート・オロラ・レッドウィングもロウガに礼を述べた。
彼女がいなければ、ブーンは海に沈んで溺死していた事だろう。

リi、゚ー ゚イ`!「私は主の友を救ったまで。
      ですがそのお言葉は、ありがたく受け止めさせていただきましょう。
      それで提案なのですが、どうですか、月を肴に一杯」

ロウガは耳付きだ。
空気の動き、人の動きを察することに関しては人間以上に発達している。
胸糞悪い気分になった二人をリラックスさせようと、彼女なりに気を遣ったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、折角私達だけの貸切状態だしね。
      ヒートちゃんも一緒に飲みましょう?」

ノパ⊿゚)「あぁ、だけど酒はどこに?」

リi、゚ー ゚イ`!「こちらに。 ハイランドパークの十二年ですが、お嫌いかな?」

649名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:22:09 ID:Xf6oanDE0
ノパー゚)「あたしの好きな酒さ」

リi、゚ー ゚イ`!「それはなにより」

三人は丸椅子を三つ並べ、それを海側に向けた。
ロウガがどこからか取り出したボトルは、スコッチ・ウィスキーのハイランドパークだった。
甘い香りが特徴の酒で、長く続くフィニッシュ(※注釈:飲み終えた後に残る香り)は食後酒として非常に優秀な物だ。
美しく繊細なカットの施された三つのグラスに琥珀色の液体を注いで、ロウガは全員に手渡した。

デレシアを中心に三人は席につき、グラスを掲げた。
誰も何も言わなかった。
三人は無言の尊さを知っていた。
三人は無言の儚さを知っていた。

何も言わずとも、分かることがある。
それを助けるのが、酒なのだ。

ノハ*^ー^)「ふぅ」

美味い酒は溜息を誘発する。
特に、疲れ切った体にはよく染みる。
少量であっても心地よい陶酔感を味あわせてくれる。
デレシアは空を仰ぎ見た。

月明かりに照らし出される群青色の雲。
水平線の彼方に漂う雲の群れ。
どれもこれもが、美しい。
世界の美しさは、何年見続けても飽きることはない。

――一瞬だけデレシアの瞳に浮かんだ愁いの色に気付いた人間は、誰もいなかった。

650名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:26:12 ID:Xf6oanDE0
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                 ‥…━━ August 6th 21:30 ━━…‥
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ブーンはお祭り状態の第二ブロック一階にいた。
オアシズの全ての封鎖状態は解除され、全ブロックの一階は繋がっている。
その道路に沿って、屋台が軒を連ねている。
全階層の客が来ているのではないかと疑うほどの、大盛況だった。

道は混み合い、店に寄るのも一苦労だ。

(*∪´ω`)「おー」

人混みを見下ろしながら歩くのは、初めての経験だった。
いつもは人混みの中を泳ぐように歩くのだが、今だけはそうする必要がない。
ブーンは今、肩車をしてもらっていた。

(*∪´ω`)「たかいですおー」

漂う空気は様々な匂いが混ざり、何とも言えないが、食欲をそそる匂いがほとんどだ。
雰囲気は良く、皆、陽気に過ごそうとしているのが分かる。
市長、リッチー・マニーの配慮で目的地に到着するまでの飲食代は全て無料と云う措置がされたため、人々は気兼ねなく飲み食いを楽しんでいる。

(*∪´ω`)「お、リンゴパイ!!
       餃子!!」

様々な看板がブーンを魅了する。
きっと、どの食べ物も美味しいのだろう。
とは言え、ヒートやデレシア、ロウガの料理には適わないだろうが。

651名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 23:30:16 ID:Xf6oanDE0
「何を食いたいんだ?」

ブーンの脚の下から、厳めしい声が聞こえた。
ゆっくりとした歩調、がっしりとした体格、ずっしりとした存在感。
旅を始めて出来た、二人目の友人の声だった。
その友人こそがロウガに指示をし、ブーンを荒れ狂う海から助けさせた人物だった。

ロウガが“主”と慕う人物は、夜色の髪をオールバックにした、黄金瞳の持ち主だった。
年老いても失われぬ鋭い気配は、獣のそれ。
両瞼の上からついた深い傷は彼の誇り。

(*∪´ω`)「おいしいもの!!」

(´ФωФ)「これ、それでは分からんだろうが」

前イルトリア市長“ビーストマスター”、ロマネスク・O・スモークジャンパーは呆れ顔でそう言ったのであった。

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                 ‥…━━ August 6th ??? ━━…‥
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考え得る限り最悪の報告だった。
彼らの組織で最も優れた計画力と推理力を持つショボン・パドローネが、失敗した。
船を沈めることも、棺桶を奪うことも。
歩みが止まってしまった。

内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンは、持っていたワイングラスを床に叩きつけた。

ξ#゚⊿゚)ξ「どこの誰が、こんな真似をっ!!」


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