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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

452名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:10:47 ID:46mCtulo0
ここから先は害虫駆除に似た動きをするだけだ。
短い合図を受け、先頭に立つ男が水密扉に付いたハンドルを回し、ゆっくりと押し開く。
そして、空いた隙間から一気に二人が侵入した。
海賊団切っての命知らず、ブロックリンとジンサだ。

声を立てずに侵入した彼らがまず中の安全確保と偵察を行い、その後で残りが入る作戦だ。

(::0::0::)「クリア!」

一発の銃声を聞くことなく、クリア、の声を先に聞くこととなった。
銃を構えながら船内に入る男達の最後尾に、船長であるラフィングは余裕の表情で付いた。
広々とした警備員詰所には、誰もいなかった。
多少は反撃を予期していたのだが、どうやら、全員出払った後のようだ。

拍子抜けではあるが、戦闘が避けられたのは良い事だ。
構えていた銃を下に降ろし、指をトリガーガードに乗せる。
胸の無線機を取り出して、専用の周波数に合わせて状況を報告する。

(::0::0::)「第三ブロック警備員詰所、制圧したぞ」

453名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:14:30 ID:46mCtulo0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
          レ′
 r.二二.)     /   ・ ・ ・
  ≡≡    ,イ
.       / !
\   /  ├、
::::::` ̄´   /  !ハ.
           ‥…━━ August 6th AM11:40 In the 3rd block ━━…‥
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制圧の報告後、ラフィングたちはこの詰所を念入りに調べた。
爆破物などの危険や、罠である可能性を考えたのだ。
考え過ぎだったようだ。
楽な仕事だ。

今日はいい日だ。
仕事が円滑に進めば、それだけ時間が有効活用できる。
その分金も手に入るし、好きなことに時間を使える。
例えば、海賊業の旨味の一つ。

(::0::0::)「よし、まずは人質だ。
     若い女、それと子供を選んで連れてこい。
     ここを一旦、我々の拠点にするぞ」

人質は儲かる。
世界中、どこでもそれは通じる。
生かしておけば金が入るかもしれないし、売っても金になる。
特に、女子供は高値で売れる。

454名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:20:36 ID:46mCtulo0
連れ帰って彼らの慰み者になってもらってもいいし、いいこと尽くしだ。
中でも、ラフィングが好むのは女児だ。
美人になる素質を漂わせる、六歳ぐらいの女児が最もいい。
子供の中でも、女児は特に恐怖に屈しやすいからだ。

邪悪な笑い声を上げながら、男達が続々と詰所から出て行き、居住区へと進んでいく。
ラフィングと男二人が詰所に残り、部下が連れてくる人質を待つことにした。
ナイフ使いのババロア・ジロー、そして狙撃の天才ソイップは煙草を咥えて余裕の表情を浮かべている。

「――ひきゅっ?!」

悲鳴が、どこかで上がったような気がした。
周囲を見渡すが、ラフィング以外にそれに気付いた様子がない。
気のせいだろうか。

「――あぱっ!」

否。

「どうっ!?」

これは。

「みけっ!」

気のせいなどではない。

「てゅっ!?」

「うがあああああ!!」

455名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:27:30 ID:46mCtulo0
「誰だてめ――」

間違いなく、悲鳴だ。
サンドバッグを殴るような鈍い音――サプレッサーで抑えてはいるが、紛れもなく銃声だ――の後に悲鳴が上がっている。
そして、フロンキーの悲鳴を最後に銃声が止んだ。
ラフィングは叫んだ。

それは命を奪われたコニー・ビロンやニトー・チョップー達のための叫びではない。
自分自身の身を守るための叫びだ。

(::0::0::)『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

謎の襲撃者がすぐにでもここに攻め込んでくる可能性を考慮して、咄嗟に棺桶を装着した。
それが幸運だった。
コンテナに取り込まれる一瞬前に、目の間でババロアとソイップの頭が一部吹き飛び、コンテナの蓋に銃弾が当たる音を聞いたのだ。
防弾性に優れたコンテナの中では装着を終えるまでの間、外の音がほとんど聞こえてこない。

ただ、何者かがラフィングたちを殺そうとしているのは分かった。

「早く、早くっ……!!」

残り三秒。
着々と、彼の体に合わせて強化外骨格が取り付けられているのが分かる。
この暗闇から外に出れば、襲撃者を返り討ちにできる。
早く敵を殺したい一心で、ラフィングは乾く唇を舐めた。

残り二秒。
誰の気配もしない。
ラフィングが棺桶を使おうとしているのを見て、怖気づいたのだろうか。
今更許しを請われようが、絶対に許さない。

456名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:32:23 ID:46mCtulo0
そして、時間になった。
コンテナが開き、強化外骨格で全身を固めたラフィングが一歩を踏み出す。

〔欒゚[::|::]゚〕『どこだ、どこにいる……』

銃を構えて、周囲にそれを向ける。
それ以上、足を踏み出せない。
否、踏み出さないでいる。
少なくともこの位置にいれば、背中はコンテナが護ってくれる。

三方向に意識を集中させていればいい。
仲間達を皆殺しにして逃げたのか。
いや、それはない。
この部屋に、まだいる。

どこかでこちらの様子を見ている。
ラフィングは、試されているのだ。
これまでに感じたことのない緊張感に、ラフィングはたまらず呟く。


〔欒゚[::|::]゚〕『くっ……何が、何が目的だ……』












                      声が、聞こえた。















.

457名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:37:39 ID:46mCtulo0
.









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                   I want love or death. That's it.
              『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』


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458名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:40:03 ID:aWwOaI.IO
遂に来たか

459名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:40:36 ID:2ZM1rNTEC
こっちにも支援

460名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:45:12 ID:46mCtulo0
それは女性の声だった。
それは美しい声だった。
それは歌うように紡がれた言葉だった。
声が聞こえてから振り返ろうとするまでの間は、僅か三秒。

命取りとなる三秒だった。
だがそれに、ラフィングが気付くことはない。
背後から電磁誘導で射出された杭がコンテナを貫通し、彼の後頭部から顔を貫いたのだから。

【+ 〔欒゚[●ル>フ。゚ ・ ィ゚

強化外骨格を運搬するためのコンテナは、そう簡単な事では破損しない。
棺桶はその装着時間が最も無防備であるため、それを補うためにコンテナはかなり堅牢な作りをしている。
状況によっては遮蔽物としても使用することが可能なそれに対して、棺桶持ちは絶大な信頼を置いている。
勿論、使用頻度によっては強度が落ちて徹甲弾に貫かれる例もあるが、普通はコンテナごと急所を破壊されるなど、夢にも思わない。

ラフィングも例外ではなかった。
声が聞こえてから彼はまず、左右の確認を行った。
これで一秒半を消費した。
残された一秒半で彼が判断したのは、背後にいると分かった人間への対処方法だ。

彼が選んだのは、コンテナを相手側に蹴り飛ばして機先を制すことだった。
だがそれは、コンテナが後ろにある限り、背中から攻撃されることは有りえないと云う感覚があったからだ。
棺桶持ちだけが持つ、無意識の内に芽生えた油断。
襲撃者は、そのことを熟知し、その油断を容赦なく狙った。

しかしラフィングの考えは間違いではない。
長年に渡る戦闘を経験して理解した、コンテナの強度に対する信頼。
室内と云う状況を合わせて考えれば、彼の動きは模範的だった。
普通なら、それで対処できる。

461名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:55:03 ID:46mCtulo0
相手が普通なら、の場合だが。
杭が引き抜かれると、死体はその重みで背後に倒れ、再びコンテナの中に納まった。
文字通りの棺桶となったそれの上に足を乗せ、襲撃者は杭打機を振って血を振り落とした。
それは、単一の目的のために開発された対強化外骨格用強化外骨格、“レオン”に相違なかった。



となれば、それを駆る迎撃者は――





ノハ<、:::|::,》「さぁ、お仕置きの時間だ」





――ヒート・オロラ・レッドウィング、ただ一人なのである。

462名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:57:35 ID:46mCtulo0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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     /,..-,.'ニ-‐''''"ヾz、_/ヽ-‐'゙``<‐┬-゙ヽ、l   〉-ヽ、‐‐---<゙  ル人 レー… ´
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           ‥…━━ August 6th AM11:44 In the 3rd block ━━…‥
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                                       第八章【intercept-迎撃-】
                                         To be continued...!!
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463名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:01:29 ID:oitFW0.w0
読んでる支援

464名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:05:42 ID:46mCtulo0
支援ありがとうございました!
これにて本日の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

465名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:10:51 ID:FaWtvpoc0
お疲れ様です。
迎撃開始、という事で次回が既に楽しみです。
さっそくブーンが練習の成果をみせる事になるのかなー。楽しみです!

で、ひとつ質問なんですが海賊の名前は、ワン○ースの麦わら帽子被った海賊からとったんでしょうか?w

466名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:15:16 ID:46mCtulo0
>>465
はい、その通りです。
例の海賊団から参加してもらって退場してもらいました。

467名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:15:54 ID:oitFW0.w0

おもしろい
前話であたらしい棺桶のキングシリーズってのが出てきたけど、棺桶の国別のカラーリングとかあったりしますか?

468名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:19:11 ID:46mCtulo0
>>467
その国らしい、っていう漠然としたイメージですね。
銃と同じで状況に合わせてカラーリング出来るって設定です。

469名も無きAAのようです:2014/04/05(土) 21:40:28 ID:kPK7OpXE0
棺桶が第三世代だったり第七世代だったりするのってなんか意味あるのかな?棺桶によって世代が違う物もあるってこと?

470名も無きAAのようです:2014/04/05(土) 23:11:57 ID:MD5blfwY0
>>469
そこに気付くとはやりますね。
そのことについては後々作品内で語る予定ですが、
第三世代と第七世代を使っている人間の共通点なんか気にしていただけるといいかと思います。

471名も無きAAのようです:2014/04/06(日) 17:48:25 ID:l6wHcDow0
めっちゃ気になるなそれwww

読み返そうか

472名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 14:04:04 ID:WhlWnops0
今晩VIPでお会いしましょう

473名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 15:43:07 ID:OUFh8imE0

待ってる

474名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 17:08:04 ID:jfPlWyBM0
うお来るのかwktk!

475名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:18:08 ID:WhlWnops0
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If giving is the love, killing means the love.
与えることが愛ならば、殺すことも愛なのだろう。

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476名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:19:02 ID:WhlWnops0
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          !.ニ'.           _,,....,_   〈ニニ/ヽ
        '.ニ,' , - '''' ‐ 、   〃 ,. 斗 ヽ  マy'ム !'.
          '.ニ! / `゙_ー-_..,_',u、ji!‐'´-‐ 。ァ }}‐'´l! 〉ヽl !
         マ {{ ゝ-‐゚ ´.}!⌒!、 `¨¨´ .〃  l!'  У
            'ム、     〃.!   ー-‐ '    ノ´
              '., ` ¨¨´  .!           !´
           ‥…━━ August 6th AM11:43 In the 3rd block ━━…‥
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海上を我が物顔で荒らし回るストローハット海賊団に所属する彼らは、嵐を愛していた。
自らの蛮行を嵐に例える同業者がいたが、彼らは嵐ではなかった。
人間がいくら徒党を組んで強力な装備を手に入れたところで、本物の嵐になることも、それ以上の存在になることも出来ないのだ。
嵐を自称する海賊団と対峙した時、ストローハット海賊団は容赦なく敵船を攻撃し、海に沈めてきた。

確かに、猛烈な弾幕と攻撃を嵐に例えたくなる気持ちも分からないでもないが、所詮は人間の技。
弾雨は豪雨には敵わず、砲声は雷鳴にも劣った。
RPG-7の一撃で喫水線に穴を空けただけで沈む船の脆さは、嵐の豪健さと比べることが無礼なほどだった。
人間は嵐を始めとした自然現象には絶対に勝てない。

勝てないが、利用することは出来る。
人の不幸を糧に生きる人間ならば分かることだが、嵐とは、被害だけをもたらすものではない。
要は捉え方と動き方だ。
確かに、嵐はあらゆるものを根こそぎ吹き飛ばし、何事もなかったかのように青空と瓦礫の山をそこに残す。

同時に、何の労力も割かずに人間に対して精神的、肉体的なダメージを与えるものでもある。
嵐によって壊滅的な打撃を受けた街には崩れた家が多々見受けられるが、その下から価値のある家電を容易に掘り出すことが出来る。
また、家族と離れ離れになって途方に暮れた子供を手に入れる絶好の機会でもある。
言わば、無欲な暴虐者の後ろに付き従うハイエナとして、嵐を利用するのだ。

477名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:20:35 ID:WhlWnops0
海賊の中にはその行為が卑怯だと言う者もいるが、それは間違いだ。
要は、人が手を下すかどうかの問題であり、無駄な労働をするか否かと云う違いしかないのだ。
あくまでもこちらは自然災害の猛威によって打撃を受けた街から利益を得ているだけであり、被害者から金を巻き上げる警察と大差ない。
どちらも人の不幸を商売にしているのであって、誰もが幸せな世界なら、どの商売も成り立たずに消え去るだろう。

それが成り立つということは、これは商売として成立しているということだ。
悔しければ真似すればいい。
腹立つならば真似すればいい。
咎めるなら止めて見せればいい。

電池を使い果たして動きのとれない豪華客船もまた、彼らが幸せになるためには不幸になってもらう対象でしかない。
そうなってもらう予定だった、と言うべきだろう。
一カ月も前から計画されたオアシズ襲撃計画。
それは、非常にシンプルかつ大胆な内容だった。

孤立した船で起こる連続殺人事件とその内容のエスカレート。
全ての注意がそこに向けられている隙に彼らが乗船し、目的を達成するという流れだ。
それを達成するための最大の障害が、オアシズに搭載された高性能なレーダーだ。
一般の船舶に積まれているそれとは違い、海底の形状は勿論だが、接近してくる影の速度や種類までも詳細に分かる代物だ。

レーダーの無効化と云う問題の解決は、協力者が請け負った。
事件解決を目的にジュスティアから派遣される兵に混じり、オアシズ内に潜入。
既に船に潜伏している人間と協力し、内部からレーダーを無効化すると言うのだ。
絵空事の様に思えた作戦は、だがしかし、現実化した。

計画通りに各階に二人一組で散った海賊達の中で、第三ブロック三階の船外に設置された非常扉を開いたのは、ガイモン・グリーンヘッド、そしてパール・シールだ。
ストローハット海賊団の戦闘員である二人は素早くクリアリングを行い、船内に通じる最後の非常扉の前で待機し、仲間に合図を送った。
合図は無線機の通話ボタンを一定間隔で数回押すことで伝わり、声を使わないので敵に聞かれる心配がない方法を取っている。
その合図からすぐに応答が来た。

478名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:24:15 ID:WhlWnops0
攻撃を実行せよ、とのことだ。
水密扉のハンドルをパールが回し、ガイモンが扉の向こうに銃を向けて待機する。
慎重に開かれた扉の向こうには、写真や噂で聞いた通りの街が広がっていた。
これまでに多くの船を見てきた彼らにとって、それは常識を変える光景だった。

世界最大の船上都市として機能しているだけはある。
飲食店は勿論、その他娯楽施設、住居までが船に収まっている。
ある意味で混沌としていて、またある意味では整然とした景色。
あまりにも現実離れした光景に、一瞬言葉を失ってしまう。

胸の無線機から警備員詰所を制圧したとの報告が音声で入り、あまりの呆気なさに驚きを隠せなかった。
世界最大の船上都市の警備は、ここまで脆かったのだ。
本当は、熾烈な戦闘を期待していたのだが、それは期待のし過ぎだったようだ。
彼らの役目は搖動。

警備員詰所が空になるまでの間、注意を惹きつける役割を担っていたのだが、その必要はなくなってしまった。
危険を承知でそれを受けたのは、危険を楽しむためだった。
銃撃戦の中で自分が生きているという実感と、相手の人生を終わらせることに快感を覚えたかったからだ。
だが、素早く展開された作戦がオアシズを陥落させるのに有効だったという結果は、素直に受け入れるべきだ。

例え撃ち合いが行われなくとも、仕事は果たす。
それがプロと云うものだ。
気を取り直して、意識を整える。

「クリア。 パール、行くぞ」

「あいよ、ガイモン。 目標は市長だ」

479名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:27:07 ID:WhlWnops0
ガイモンが角から足を踏み出した瞬間、視界の端に黒い何かを捉えた。
積み重ねた経験と勘が、彼の体に対して後退を命じた。
一瞬でもその行動が遅れていたら、彼の首に特注の空気穴が出来ていただろう。
堰を切ったように銃声が連続して響き、目の前を銃弾が通り過ぎる。

ガイモンは、この呆気のない制圧が罠であることを瞬時に理解した。
どこかで何かがずれたのだ。
噛み合うべき歯車が、噛み合わなかった。

待ち伏せされていたということは、つまり、初動の際に綻びがあったのだ。
協力者側の失態で、接近が知られていた可能性が非常に高い。
今すぐに計画の変更をしなければ、多くの死人が出て作戦そのものが破綻する。
無線機を胸から取出すが、本体に空いた銃痕を見てそれを地面に叩きつけた。

パールは無線機の代わりに防弾プレートを入れる男。
これで、本隊に連絡が取れなくなった。

「ガイモン、大丈夫か?!」

「大丈夫だが、やつら待ち伏せしてやがった!
情報と違うぞ!」

「本隊に連絡は?」

「駄目だ、無線機が撃たれた!
この調子だと、他の連中も危ない!」

あちらこちらで響く銃声が、第三ブロック全体で同じことが起こっている事を物語る。
接近してくる複数の跫音が耳に届き、ガイモンはパールに言葉をかけた。

480名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:29:58 ID:WhlWnops0
「ここは俺達で切り抜けて、他の連中と合流しよう!
俺達ならやれる!」

銃弾は曲がり角を削り取り、弾雨によって二人をそこに釘付けにした。
背中には出口、正面はT字の道だ。
あまり待ってもいられない。
反対方面の道に陣取られて狙撃でもされたら、ひとたまりもない。
逃げるという選択もあるが、今は進む方が賢明だ。

襲い掛かった以上、後退は悪戯に被害を出しただけという結果だけを残す。
地の利は相手にあるが、来る方向さえ分かれば対応は出来る。
ダットサイトとレーザーサイトを装着した個人防衛火器P90を肩付けに構え、パールは壁を背に付けた。

「よし、やってやろうぜ!」

「おい、パール! 壁にっ……!!」

屋内の銃撃戦の中で忘れてしまいがちなのが、壁に近づくという愚行だ。
木製ならいざしらず、鉄製の床と壁が周囲にある状況では跳弾の危険性が高まる。
特に、壁に近い位置にいると跳弾を受けやすくなる。
その為、室内戦、特に廊下のような狭い場所での戦闘では壁から離れて真ん中に位置取る事が基本とされている。

しかし、パールの性格上、それは難しい話だった。
彼は臆病故に、防弾チョッキを重ね着するほどの慎重な性格をしている。
そのため、一方向を安全な状態にしようと壁を利用したのだ。
それが、失敗だった。

「おぷっ!」

481名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:33:12 ID:WhlWnops0
運悪く跳弾した銃弾は、何の防御もない彼の頭を直撃してその命を奪った。
銃弾の飛んできた先を確認し、ガイモンは姿勢を低くしてパールの死体の傍に近寄って彼の銃を手に取った。
悲しいことだが、彼の利口さが足りなかったがために起きた事態だ。
いちいち悲しんでなどいられない。

近接戦闘が予想されるため、両手に銃を構える。
数の不利を補うには、弾の数と命中精度が必要だ。
呼吸を止め、跫音と銃弾の飛んでくる方向と、その逆方向に銃口を向けて敵を待つ。
正面にはまだ敵の姿が見えないため、備えはしない。

数は複数だが、十人以下だ。
そこまで多くはない。
殺り甲斐がある。
一つ、簡易な罠を使うことにした。

「ぐおっ、ぐっ……い、あがぁっ……!?」

偽りの悲鳴。
偽りの悶絶。
致命傷を負っていると勘違いをして、勇み足でやってくるかもしれない。
十回に七回は成功したこと、実績のある罠だ。

そして、その時が来た。
クリアリングのために角から僅かに覗いた銃身。
次に出てくるのが人の顔か小型の鏡かで、対応が変わってくる。
呼吸を止め、相手の動きを待つ。

482名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:37:37 ID:WhlWnops0
左の曲がり角から僅かに現れたのは男の顔。
それが、発端となった。
銃爪を引いて銃弾の雨を浴びせると、名も知らぬ男の顔が砕け散った。
床の上でのた打ち回り悲鳴を上げる男に、右手のP90で弾を浴びせる。

その時間を契機と見た新たな男が姿を見せるが、左手の銃が火を噴いてその勇気を凌辱する。
胸に弾丸を受けた男は正面から殴られたように後ろに倒れる。
防弾チョッキを着ていたのだろうが、こちらの銃弾はそれを貫通する。
殺した男達の武装はいずれも拳銃だった。

つまり、警備員の可能性が低い。
正規の警備員は、アサルトライフルで武装しているはずだ。
警備員以外で武装していてもおかしくないのは、探偵だけだ。
敵は総出で迎え撃とうとしているのだが、妙なところで詰めが甘い。

マニュアルでしか対処したことのない事態だから慣れていないのだろう。
だが情況的に、決してこちらが有利なわけではない。
楽観的な行動は禁物だ。
切り札を使う時だと、ガイモンは心を決めた。

『そして望むは、傷つき倒れたこの名も無き躰が、国家に繁栄をもたらさん事を』

背負った軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の解除コードを静かに口にして、ガイモンは鎧を身に纏う。
銃撃戦で命を失うのはまっぴらだ。
生身で殺し合いをするのはガンマンのすること。
棺桶を持っているのならば、躊躇わずに使うべきなのである。

483名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:42:32 ID:WhlWnops0
コンテナの中から姿を現したのは、Bクラスの傑作機として名高いジョン・ドゥの軽量型モデル、ジェーン・ドゥ。
基本的な運動性能を損なうことなく、軽量化に伴う機動力を有する機体だ。
カメラを光学モードから熱源探知モードに切り替え、曲がり角の向こうにある僅かな熱を感知し、可視化する。
敵は三人。

全員生身。
楽勝だ。
両手にP90を構え、ガイモンは角から姿を現した。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ばぁ!』

(+゚べ゚+)「ひっ!?」

二挺の弾倉を使い切るまで撃ち続け、三人の頭を瞬く間にミンチにする。
カメラを光学モードに変更し、男達の姿を確認する。
スーツを着ている男もいれば、シャツにジーンズとラフな格好をした男もいた。
だが、得物は拳銃で統一されている。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……探偵?』

何故、ここに警備員を配置しなかったのだろうか。
何故、装備を整えて配置されていないのか。
ただの捨て駒として考え、最低限の武装だけさせたのだろうか。
いや、有り得ない。

味方を犠牲にする戦法を取るような状況ではないはずだ。
彼らからすれば、船内のあらゆる箇所が要所。
一か所たりとも通過させてはならない状況なのだ。
考えられる可能性としては、要点を別の場所に定めて――

484名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:47:01 ID:WhlWnops0
『名も無き私は知っている。人類最後の日まで、銃が世界から消えない事を』

背後から聞こえたのは、ジョン・ドゥと比較される傑作機、ソルダットの解除コードだった。
棺桶同士の戦い。
興奮に、全身に鳥肌が立つのが分かった。
振り返ると、十三ヤードの位置に仁王立ちになる者がいた。

武骨な鎧は堅牢な装甲の証。
表面に負った浅い傷は経験値と技量の証明。
そして漂わせる雰囲気は、棺桶持ちの実力。

([∴-〓-]『海賊風情が乗っていい船じゃないんだよ、オアシズは』

歳を重ねた男の声。
これは期待が出来そうだった。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……楽しめそうだ』

対峙する男は鋼鉄の拳を打ち合わせて、言った。

([∴-〓-]『来なよ、若造』

駆け出したのは同時。
速度はほぼ互角の時速五十マイル。
銃弾よりも肉弾戦による戦闘が望ましい距離と速度だ。
P90を手放し、両の拳を握りしめ、ガイモンは右ストレートを相手の頭部に打ち込む。

485名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:51:36 ID:WhlWnops0
相手はそれを左手で払い飛ばし、頭突きを放つ。
狙われたのはこちらの顔。
ジェーン・ドゥの同型機は皆、他の場所と比べて顔面前部の装甲が弱い。
その弱点を潰しに来た一瞬の中、ガイモンは仰け反ることでそれをギリギリで回避した。

両者共に速度を生かした攻撃だったが、共に外れた。
残された結果としては、互いの胸部がぶつかり合っただけ。
鈍い音と強い衝撃。
一瞬だけカメラが乱れるが、問題はない。

距離はゼロ。
完全に密着した状態になり、ガイモンは戦術を一瞬で立てた。
引き剥がしてから、再び肉弾戦に持ち込む。
その戦術を、即行動に移す。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『せあっ!!』

バックステップと同時に前蹴りで距離を離し、五ヤードの位置に付く。
相手も同じようにして距離を開け、十五ヤードは離れた。
仕切り直すなら今だ。

([∴-〓-]『君の役割はここまでだ』

そう言うと、ソルダットは股間の前に取り付けられた鞘から大振りの高周波ナイフを右手で抜き放ち、空中で逆手に構えた。
高周波の小さく甲高い音が、ガイモンを興奮させる。
彼も左腰の鞘からナイフを抜いて右手で構え、切っ先を相手に向ける。
じりじりと距離を詰めつつ、手の中でナイフを弄ぶ。

486名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:56:40 ID:WhlWnops0
高周波ナイフを使えば、棺桶の装甲を切断することが出来る。
狙うなら関節部か急所。
先に仕掛けたのはガイモンだった。
突き殺すためにナイフを構えながらの突進。

リーチを考えても、相手にできるのは払い除けるか横にずれてからの反撃だけだ。
ならば、勝てる。
肉薄するこちらの様子を見ても、相手は静かに立ったままだ。
喉元目掛けてナイフを突き出し、必殺を狙う。

([∴-〓-]『甘い』

逆手に構えた状態から、ソルダットはそのナイフを腰の位置から低い位置に投擲してきた。
加速した状態と距離、そして構えから、それを回避したり弾き飛ばしたりするのはまず無理だった。
意識の全てがナイフの飛んでいく先に向けられた一瞬。
それが、ソルダットの狙いだった。

ナイフは回転しながらガイモンの右膝に突き刺さり、バランスを崩させた。
その一撃で精密さを要求される攻撃から集中力が削がれ、命中率は絶望的な物となった。
回避行動一つなく攻撃は鋼鉄の仮面を僅かに掠るだけに止まり、お礼に繰り出された巨大な握り拳が左胸を直撃する。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ぐおっ!?』

装甲越しに浴びせられた凄まじい衝撃は、銃弾の比ではない。
心臓が一瞬止まり、意識が飛ぶ。
前屈みになったところに合わせた肘蹴りが顔を襲う。
装甲越しの攻撃に、顔面の骨が砕けるのが分かった。

([∴-〓-]『せっかくもらったおもちゃも、使いこなせなければ意味ないのさ』

487名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:59:11 ID:WhlWnops0
後頭部を両手で掴まれ、男は肘蹴りを何度も顔に浴びせてくる。
装甲が変形して顔に食い込み、攻撃の度に激痛が走る。
肘蹴りの最中、頭を掴む手が徐々に時計回りに力を込めていることに気付けなかった。

([∴-〓-]『さよなら』

首が一回転する直前に聞いたその声は、恐ろしいほどに優しげだった。


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Ammo→Re!!のようです

Ammo for Reasoning!!編

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488名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:01:26 ID:WhlWnops0
撃ち合いは第三ブロックの各階で起こっていた。
特に熾烈さを極めていたのは、一階だった。
待ち伏せしていた状況にも関わらず、僅か三分で死傷者五名。
逆に、仕留められたのは一人だけ。

短時間の間に住民を室内に避難させていたからよかったものの、オアシズ側の受けた被害は大きすぎた。
警備員の意識は高いが、戦闘経験が浅いのが問題だ。
撃ち合いになる前に棺桶を使うべきなのだが、彼らはどうしてか棺桶を使おうとしない。
そのせいで、棺桶持ちが銃弾に倒れるという情けない状態になっている。

あれは恐らく、自分自身の生存本能とは別の意志に従っているのだろう。
そうでなければ、ただの自殺志願者だ。
対等な武力での応戦という戦い方には、覚えがある。
正義の都として名を知らしめる、ジュスティアの軍人が最も好む戦法だ。

生まれついての馬鹿か、馬鹿な命令に従う馬鹿なのか。
どちらにしても、オアシズ側の受ける被害は大きなものとなるのは間違いない。

(=゚д゚)「あーあ、信じらんねぇラギ」

公園のベンチの下で冷めた餃子と炭酸の抜けたビールに舌鼓を打つトラギコ・マウンテンライトは、目の前で起こる殺し合いを見て嘆きの溜息を吐いた。
野球観戦よりもつまらないし、観劇よりも退屈だ。
どちらもトラギコには気付いていないのか無関心なのか、構ってくれない。
構われても面倒だが、何もないのは少しつまらない。

かと言って自ら進み出て参戦する気はない。
立ち上がった瞬間に両陣営から撃たれるか、流れ弾に殺されるのがオチだ。
脇に置いたアタッシュケースが既に三発も弾を防いでいるのがその証拠だ。
冷めてしまった餃子を一口で頬張り、甘味と塩気が口の中に広がってきた辺りでビールを飲む。

489名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:07:31 ID:WhlWnops0
食べ辛い上に飲み辛いが、それでも摂取する。
アルコールの魅力である酔いも全くないが、それでも胃に収める。
それというのも、空腹では戦うに戦えないし思考が上手く回らないからだ。
それにしても、この餃子は美味い。

結局あれから、五回も餃子を買うことになり、ビールは七回も買ってしまった。
領収書をもらうことが出来たので、後で費用として警察本部に請求できる。

(=゚д゚)「……ったく」

正直な所、トラギコはまだこの襲撃に対してあまり危機感を抱いていなかった。
海賊の質は下の上。
装備は上の上だ。
不釣り合いな装備が意味するのは、彼らが何者かの支援を受けていると云うことだ。

それは、フォレスタとオセアンで起こった事件に似ていた。
民間人がインテリアとして家に飾っておくには高級すぎる棺桶、銃器。
この事件も、それに限りなく近い何かが関係しているはずだ。
ならばこのような小事が目的のはずがない。

茶番だ。
別の目的があるに違いない。
それをどこかの段階で見極め、突き止め、叩き潰せば後手に回って悔しい思いをしないで済む。
今は時間が経過して相手の目的が浮き上がるまで、じっとしているのが得策だ。

ベンチの下で優雅なランチを満喫しているのは、部屋に閉じ込められて身動きが取れなくなるという事態を避けるため。
そして、宿泊している部屋がないためだ。

(=゚д゚)「お」

490名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:11:11 ID:WhlWnops0
新たな餃子を箸で摘まみ上げた時、目の前で戦闘を繰り広げていた海賊たちの動きに変化が現れた。
遮蔽物として屋台に身を隠しながら銃撃していた海賊たちは、銃弾が飛んでくる方向に背中を向け始めたのである。
棺桶の使用前によく見られる動作だ。
注意、深く次の言葉を待つ。

背負っている棺桶のサイズはBクラス。
屋内戦で強力なそれだ。
問題となるのはその種類だ。
現存する棺桶は数百種類を優に超え、その性能は多種多様。

全方位にベアリング弾を発射できる危険極まりない物もあれば、荷物運搬に使われる支援型の物もある。
耳を澄ませてコードを聞き取ると、それは聞いたことのないコードだった。

『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

現れたのは純白の強化外骨格。
しかし、その型をトラギコは良く知っていた。
ジョン・ドゥだ。
塗装と解除コードを除けば、一般的なそれと同じ。

〔欒゚[::|::]゚〕『市長はどこだ!!』

やっと、海賊が目的の一部を口にした。
彼らは市長を探している。
目的は分からないが、とにかく、彼らは市長をどうにかしたいそうだ。

『今日は今までで一番長い一日になる!!』

警備員側から帰ってきた言葉は、トゥエンティー・フォーの起動コードだ。

491名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:15:52 ID:WhlWnops0
〔::‥:‥〕『誰が答えるか!!』

六つのカメラと武骨な装甲を備えた巨人が、ジョン・ドゥに突進した。
良い選択だ。
トゥエンティー・フォーの装甲は堅牢で、今の海賊が持つ装備では止められない。
独自の装備を持たない体なら、肉弾戦が最も賢い。

〔欒゚[::|::]゚〕『マジかよ糞っ!!』

機体の性能差による不利に気付いたのか高周波ナイフを抜き放ち、ジョン・ドゥ三機が屋台の影から散開した。
すると、その内の一機がトラギコのすぐ目の前に着地し、銃を撃ち始めた。
そのせいで視界のほとんどが覆われ、落ちてくる薬莢ぐらいしか見えない。
そのことに対して、トラギコは憤りを感じはしなかった。

鋼鉄の脚がトラギコの餃子を踏み潰していることについては別だ。

(=゚д゚)「……!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、クリス!!』

目の前の脚が地面を踏み砕いて消えたかと思うと、今度はトゥエンティー・フォーの脚が現れ、ジョン・ドゥを追い始めた。
開けた視界に、頭部が背中とくっついたジョン・ドゥが転がっていた。
トゥエンティー・フォーにやられたのだろう。
だがしかし、トラギコにとって最も衝撃的だったのは、潰された餃子だった。

(=゚д゚)「俺の餃子……」

大切に食べていた餃子が、これで無くなった。
ビールは餃子の量に合わせて残していたが、餃子だけがない。
残ったビールを一気に飲み干し、トラギコは殺意を込めて呟いた。

492名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:19:21 ID:WhlWnops0
(#=゚д゚)「……俺の餃子ぁ」

アタッシュケースを左手で掴み、右手で懐からベレッタM8000を取り出す。
安全装置を解除し、歯で遊底を引いて薬室を確認する。
対棺桶用の徹甲弾が装填されていた。
この公園にいる海賊の数は二人。

使用している棺桶はジョン・ドゥ。
今は公園で追いかけっこの真っ最中だ。
トラギコは銃を懐に戻して、ベンチの下から這い出た。
立ち上がってスーツの埃を払落すと、左側から声がした。

〔欒゚[::|::]゚〕『民間人?』

(=゚д゚)「あぁ?」

顔を声の方に向けると、白いジョン・ドゥがいた。
周囲の確認はしていたから、恐らくはもう一機のジョン・ドゥの援護に行こうとしてどこからか姿を現したのだろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『丁度いい、人質に――』

男の敗因は三つあった。
一つは銃口が地面を向いていた事。
もう一つはトラギコが民間人だと勘違いした事。
そして最後は、捕獲と殺害と云う両者の思惑の違いによる、速さの違いだ。

初夜を迎える生娘を扱うような自然で滑らかな手の動きで、トラギコM8000を構えてジョン・ドゥの頭部に狙いを定めていた。
銃爪を引くまでには躊躇いはなく、照準は精確だった。
口を覆うマスクを貫通した銃弾は使用者の脳幹を破壊した。

493名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:22:20 ID:WhlWnops0
(=゚д゚)「何が丁度いいラギ?」

いくら棺桶に身を包んでいても、心に贅肉を纏っていては意味がない。
銃声を聞いて、ジョン・ドゥを纏った警備員の視線と銃口がトラギコに向けられる。

〔欒゚[::|::]゚〕『手前よくもケディを!!』

つい先ほどまでトゥエンティー・フォーを追っていたジョン・ドゥ――餃子を踏んだ男――が、途端にトラギコに標的を変えた。
一時停止の後の方向転換。
距離は目測で二百ヤード。
得物は高周波ナイフだけ。

こちらまでの到達予想時間は三秒。
速度なら、こちらが勝る。

(=゚д゚)『これが俺の天職なんだよ!!』

アタッシュケースを放りながら口にした言葉は、彼の切り札を呼び起こすそれ。
即ち、緊急時の近接戦闘特化型、Aクラスのコンセプト・シリーズ、“ブリッツ”の起動コードだ。
左手に持つアタッシュケースが展開し、機械籠手と高周波刀が現れる。
しかし、悠長に両腕に付けている時間はない。

そこでトラギコは、空中で開いたアタッシュケースに収まる籠手に左手を叩きつけ、強引に装着した。
そして高周波刀を掴むと同時にスイッチを入れ、左の下段から右上段に向けて斬り上げる。
それは盲斬りではない。
幾度も棺桶相手に近接戦闘を挑んできた経験が教える、正確無比な一閃だったのだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『きゅ……っ?!』

494名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:27:01 ID:WhlWnops0
左の腋から侵入した刃は左腕を切り落とし、その手が握っていたナイフごと地面に落下する。
刃はジョン・ドゥの首元の堅牢な装甲を前にしても止まることなく、喉元を切り裂いた。
ほぼ同時に、トラギコの右腕は万が一に備えて銃爪を引いて銃弾を放っており、男の胸部を貫いていた。
コンマ一秒を争う殺し合いは、経験値と覚悟の差でトラギコに軍配が上がった。

悲鳴すら上げられずに、トラギコの隣を通り過ぎたジョン・ドゥの使用者は噴水の淵に躓いて頭から水に突っ込んだ。

(=゚д゚)「……この俺相手にどこまでやれるか、試してみるラギか?」

銃口を向けてくる警備員に対して、トラギコは血に濡れた刃とM8000の銃口、そして殺意にぎらつく鋭い眼光を向けてそう言ったのであった。

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           ‥…━━ August 6th AM11:50 In the 3rd block ━━…‥
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第三ブロック全体の指揮を任せられたのは、ブロック長であるノリハ・サークルコンマではなかった。
彼女は優秀であるが故に、他のブロック長と共に別の場所に退避をしており、そこから戦況を把握して海賊たちを退けるための策を練る役に回っていた。
では、誰が指揮を執ることになったのかと言えば、オアシズ付きの探偵の中でもずば抜けた推理力を持つ男、ショボン・パドローネその人である。
市長であるリッチー・マニーは彼を直々に任命し、侵入を試みる海賊に対する布陣をすぐに考えさせた。

495名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:30:34 ID:WhlWnops0
最初は困惑した様子を見せた物の、ショボンはすぐに頭を働かせ、職員の配置について思考を巡らせた。
最も激しい戦闘が予想されるのは、最も侵入が早い一階だ。
そこでショボンは一階に対して最優先で人を割くことを決め、戦闘経験の豊富な人材を優先してそこに配置した。
警備員のほぼ全員が、一階に集結することになったのはそのためだ。

各階での迎撃には、戦闘経験が浅い探偵たちを配置。
それは、被害を最小化して、海賊たちに打撃を与えるという戦術に乗っ取って考えられたものだった。
強力な銃は優先して警備員に回し、探偵達には強襲を可能にするために拳銃のみの携帯を命じた。
あえて私服姿に扮することで、海賊の眼を欺くことを狙ったのである。

それが成功だったか失敗だったかは、まだ分からない。
結果は最後まで立って武器を手にしていた人間の立場によって変わる。
恐らくは、ショボンの側が勝つ事だろう。
その為には、万全の態勢で海賊たちを排除し、然るべき報いを受けてもらう必要があった。

([∴-〓-]『各フロア、状況を知らせろ』

雑魚を片付けた感慨にふけることなく、三階から無線連絡を入れて状況の確認を行う。

『七階、クリア』

『十一階、クリア』

真っ先に連絡を寄越したのは、その二つのフロアだった。
それ以降、順調にショボンの望む結果が返ってきて、最終的には最上階から二階までの連絡が届いた。
しかし、一階からは連絡がなかった。
連絡の代わりに聞こえる銃声が、その答えだ。

496名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:34:38 ID:WhlWnops0
それでいい。
これもまた、予定の内だ。
そう簡単に状況が好転するはずがない。
ここからが本番だ。

([∴-〓-]『……各員、一階に向かうんだ。
      残党を蹴散らすぞ』

合図と共に、ショボンはその場から右舷と左舷にかけて架かる橋に急行し、眼下を確認してから手摺を乗り越えて一階に飛び降りた。
胃を持ち上げるような浮遊感の後、ショボンの鋼鉄の脚はほぼ同じ強度を持つ金属を踏み潰した。
彼の落下を受け止めたのは、海賊が身に纏うジョン・ドゥだった。
左足は肩に、右足はその頭上に。

([∴-〓-]『済まない、手加減の仕方が分からなかったんだ』

〔欒゚[::|::]゚〕『ごぷっ……』

〔欒゚[::|::]゚〕『何?!』

如何に頑強な装甲でも、それを支えて運用するのが人間である以上、限界がある。
頸部に対する攻撃はBクラスの棺桶相手には有効な手段であり、格闘に長けた棺桶が一撃で相手を殺す際に選ぶ部位でもある。
踏み殺された棺桶から離れ、ショボンはセンサーを使って周囲に残る戦闘の跡を見た。
薬莢の転がる数と死体の数とが合っていない。

まだ膠着状態なのだ。
殺したばかりの男の隣にいたジョン・ドゥが、数歩後退って怒声を浴びせた。

〔欒゚[::|::]゚〕『こ、この野郎!!』

([∴-〓-]『来なよ、海賊』

497名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:40:37 ID:WhlWnops0
ショボンは殺し合いの途中で交わされる無駄な会話を好まない。
最低限の発言だけをしてから、襲い掛かる。
距離は互いの拳がぶつかるほどの近距離。
言い換えれば、先手必勝の距離だ。

先に攻撃を当てたのは、ショボンだった。
使ったのは足。
それにより、ジョン・ドゥの右膝関節が砕け、バランスを奪う。
ふらついた顔面に、右アッパー。

仰け反ったところで、ショボンは男の後ろに回り込み、両手を組んでハンマーの様に後頭部を振り下ろした。
それが決定打となった。
叩きつけられるようにして地面に倒れ、ショボンは無線に呼びかけた。

([∴-〓-]『残党がまだいるぞ。 分散して対処するんだ。
      市長の場所はまだ分からないのか?』

ショボンの問いかけに対して、答える者はいなかった。
誰か周囲にいないかと見渡したショボンの眼に、ある人物の姿が映った。

([∴-〓-]『……ブロック長?』

レインコートの様な物で顔を隠した第二ブロック長、オットー・リロースミスが足早に建物の影を移動しているのを見つけた。
そこでショボンの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
この状況下で、果たして、市長は勿論だが各ブロック長はどのような動きを取っているのであろうか。

498肘蹴りは「膝蹴り」の誤植です。すみませんでした:2014/04/29(火) 21:47:54 ID:WhlWnops0
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座席数は百十三。
最大同時収容人数、五百六十五人。
オットー・リロースミスを除いた全ブロック長は、オアシズで最も広いレストランでコーヒーと山盛りのドーナッツを前に沈痛な表情をしていた。
今、船で起きていることのほとんどは情報として彼らの耳に入っているが、彼らから現場に指示が飛ぶことはない。

彼らが滞在している第三ブロックに店を構える “ヒュージ”では海賊襲撃前に、徹底した洗浄作業――盗聴器の発見と除去――が行われた後だった。
更に、強力な妨害電波によってあらゆる通信機器が機能しない状況を作り出すことによって、その空間を安全な物とした。
その指揮を執ったのは、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドだった。
日頃から船内のこういった店の洗浄作業を得意とする彼の部下は、何の疑問も持たずにヒュージでの作業を行った。

実を言うと、それを指示したクサギコ自身もこの店がまさか、彼らブロック長の砦となるとは想像していなかった。
第三ブロック長ノリハ・サークルコンマを通じてリッチー・マニーから受けた命令は、ただシンプルに、日頃の作業の一環としてレストランの洗浄を行え、だった。
クサギコは多少の焦りを感じていたものの、それを表に出すほど経験は浅くない。
逆に、経験の少ない人間に対して気を遣うぐらいの余裕はあった。

白いテーブルクロスの敷かれたテーブルに置かれたドーナッツの載った皿を指さし、クサギコは対面して座る男に声をかけた。

W,,゚Д゚W「なぁ、ライトン。 ここのドーナッツは美味いのか?」

第一ブロック長代行、ライトン・ブリックマンは三杯目のエスプレッソを飲みながら、どうにか笑顔を浮かべた。

499名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:50:35 ID:WhlWnops0
('゚l'゚)「えぇ、まぁ。 警察の方がよく来るみたいです」

W,,゚Д゚W「さっきから誰も食べないんだが、それはどういう訳だろうな」

('゚l'゚)「食欲がわかないのかも」

本当は、クサギコにも分かっている。
手を付けたがらないのは毒を恐れているから。
コーヒーを飲むのは、それに毒が盛られている可能性が低いからである。
恐らく、この部屋に居合わせる十五人の海軍が銃を持って出入り口の前に立っているのも、食欲減退の一役を担っているだろう。

マト#>Д<)メ「せっかくなのだから、食べればいいのに。
       美味しいですよ」

第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。
彼女は自ら率先して行動を起こすという信念に基づいて行動しており、ドーナッツを食べる唯一の人物だ。
ストロベリーチョコレートのドーナッツを食べながらも、彼女は思考を巡らせているに違いなかった。
それは、この場にいるブロック長全員に言えることだ。

種類は違うがそれぞれがコーヒーを摂取してカフェインで気分を高揚させ、角砂糖で糖分を脳に送り込んでいるのだ。
現に、ライトンの飲むエスプレッソには角砂糖が三つ入っている。
事実上、この部屋に閉じ込められた彼らにできるのは、事態の推移に伴う最善の策を練ることだけだ。
最善の策とは、彼らの行動によって船全体が動いて海賊を撃退できる策に他ならない。

そのような策、あればとうに浮かんでいる。
とどのつまり、彼らに策は浮かばなかった。

マト#>Д<)メ「それより、ロミス……いや、リロースミスはどこに?」

500名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:55:15 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W「分からない。 それに、市長もだ。
     市長がいなければ、ここの扉も開かない。
     全く分からないことだらけで、頭がどうにかなりそうだ」

(::0::0::)「ブロック長」

四人のブロック長が、唐突に声をかけてきた男に目を向けた。
鋭い眼光の男は、深刻そうな口調で報告した。

(::0::0::)「こちらのレストランも、敵の手に落ちました」

W,,゚Д゚W「なんだと?!
     電気系統でもやられたのか? それとも、壁に穴を空けて?
     手段は何だ?」

意味の分からない報告に対して、クサギコは冷静に対処した。
良いにしろ悪いにしろ、大きな動きがあった。
まずは情報を手に入れるところからクサギコは始めた。

(::0::0::)「我々の手によってです」

W,,゚Д゚W「……何?」

マト#>Д<)メ「何の冗談ですか?」

冗談では無い事を示す様に、銃で武装した男五人がテーブルを囲む。

(::0::0::)「我々の話し合いで決まったのです。
     無線機も使えず、外にも出られない。
     ならば、各ブロックの権限を持つあなた方を我々の支配下に置き、然る後に……」

501名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:57:32 ID:OUFh8imE0
支援

502名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:58:38 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W「ジュスティア軍の決定か?」

所詮は利害関係で結びついていた街同士。
オアシズをジュスティアの一つとして奪い取ろうと思うなら、今が絶好のタイミングだ。
ならば、海賊を寄越したのもジュスティアと云う事になる。
初めから、全てが仕組まれていたのか。

正義の都のジュスティアが、こんな汚い手を使うとは、とても考えられなかった。

(::0::0::)「我々はジュスティアの所属などではありません。
     さ、マニー氏の居場所に関する情報と、あなた達の持つカードをお渡しください。
     そうすれば、直ぐに終わります」

ノリハ;゚ .゚)「例えカードがあったところで、この部屋から出ることは出来ませんよ。
     それに、私達は市長の居場所を知りません」

(::0::0::)「そうですか」

男はそう言って、自らの体を使って背後からノリハの体をテーブルの上に押さえつけ、右腕を掴んでドーナッツの載る皿の上に叩きつけた。
抵抗を試みるも、男の力と体重を払い除けるには、彼女の力はか細すぎた。
クサギコたちは咄嗟に立ち上がってそれを止めさせようとするが、周囲を取り囲む男達が銃口を向けてきたため、椅子に座り直すしかなかった。
どう考えても、このまま見ているしかできない。

ここで勇ましく抵抗しようものなら、その人間が殺されるのは明らかだ。
例え目の前でノリハが強姦されたとしても、黙って見ている他ないのだ。
しかし強姦が目的ではないのは分かる。
ノリハを押さえつける男は、空いた左手で腰の軍用ナイフを抜いて、ノリハの右手に突き付けたのだ。

目的は尋問。
要求は情報。

503名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:01:12 ID:WhlWnops0
(::0::0::)「第三ブロック長、もう一度訊きます。
     市長はどこに?」

ノリハ;゚ .゚)「し、知りません!」

(::0::0::)「もう少し素直になりましょう」

ナイフの切っ先がノリハの白い肌に食い込み、小さな赤い点が浮かび上がる。

(::0::0::)「無駄な手間と痛み、どちらがお望みですか?」

ノリハ;゚ .゚)「……」

男は残念そうに溜息を吐き、ナイフを手の甲から親指の付け根に合わせた。

(::0::0::)「……では、親指からにしましょうか」

――その時だった。
巨大な銃声が響き渡り、ノリハにナイフを突きつけていた男の顔がなくなったのは。
顔を失った男はノリハに乗りかかり、首から溢れ出る赤黒い血で白いテーブルクロスを赤く汚した。

(::0::0::)「どこだ!?」

マトマトの背後で狼狽を露わにした男に、新たな銃弾が撃ち込まれる。
着弾したのは、胸だった。
クサギコはその瞬間の事を、後にこう語る。

504名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:04:44 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W『賊は確かに防弾チョッキを着ていました。 えぇ、確かです。
     でも銃声とほぼ同時に、マトリクス・マトリョーシカの背後にいた男の胸部がなくなっていたんです。
     銃弾に詳しいわけではありませんが、あれは徹甲弾の類で無い事は確かです。
     私が見た中で、最も恐ろしい銃弾でした』

胸に空いた大穴を呆けたように眺める男は、続けて放たれた銃弾によって顔を失った。
男は勢いよく後ろに吹き飛び、そこにあったテーブルの上に大の字になって落下した。

(::0::0::)「誰だ!! そこにいるのは!!」

銃声の方向――キッチンの奥――に、男達の視線が集中する。
釣られて、クサギコ他全ての人間の視線もそこに向けられる。
そこにいたのは、この血生臭い場所には似つかわしくない人物だった。
血よりも、赤いバラが似合う人物だった。

収穫前の小麦を連想させる黄金の髪は、毛先に向かうにつれて凪いだ水面の様にウェーブしていた。
肌は透き通るように白く、完璧な彫像のように傷一つ、欠点一つ見つからない。
髪と同じ色をした長い睫は、瞬きの度に花が咲くようなイメージを連想させた。
優しげに垂れた目尻と、薄らと笑みを浮かべる桜の花びらのような薄い桃色の唇は瑞々しく、妖艶な印象を与えた。

くっきりとした大きなスカイブルーの瞳は、あまりに美しく、宝石のように輝いている。
カーキ色のローブで全身を包み、足元を飾る武骨なスエードのデザートブーツは、長い時間履き慣らされていることが一目で分かった。
堂々とした足取りにも関わらず、跫音は全く聞こえない。
両手に持つ漆黒の大型自動拳銃の銃口からは、彼女の体に纏わりつくように硝煙が漂う。

キッチンの奥から歩み出たのは、二挺の拳銃を構える若い女性。
彼女の背後にある調理台の上には、倒れて身動き一つしない人間の姿があった。
得体の知れない恐怖が、その場にいる全員に伝染した。
女性の姿を見ていないノリハでさえ、後に新聞社のインタビューに対してその瞬間をこう述懐している。

505名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:07:54 ID:WhlWnops0
ノリパ .゚)『何か、こう、絶対に勝てない何かがそこにいることは分かりました。
    子供の頃に親に抱く感情というのでしょうか。 とにかく、あんな感覚はこれまでに味わったことがありませんでした』

賊が一斉に銃口をその女性に向ける。
銃爪に指をかけてはいるが、引こうとはしない。
否、引けないのだとクサギコは理解した。
恐怖か、或いは別の目的があったのかは分からないが、兎に角、その瞬間に銃爪を引ける人間はこの世の中にいないことだけは分かった。

そのことを、第五ブロック長のマトマトはこう表現した。

マト#>Д<)メ『どれだけ力のある人間でも、海中で二十メートル級のホホジロザメに出会ったら、逃げるとか戦うとか以前に、呆然とするかしかないでしょう?
       それと同じで、どうしようもない、何をしても無駄だって感じでしたね』

銃爪を引く代わりに、男は口を開く。

(::0::0::)「誰だ、貴様!!」

男は震える声で問うた。
正体不明の敵。
実力不詳の怨敵。
分かっているのは、その女性が恐怖を忘れさせるほどに美しいということだけ。

ζ(゚ー゚*ζ「ただの乗客で、貴方達の宿敵よ」

訛りのない完璧な発音、濁りのない甘美な美声、そして、聞き間違い様のない宣戦布告の言葉。
一対十二。
数の差は歴然としていた。
だがしかし、戦力の差が数の差と同じとは限らないと、その場に居合わせたブロック長達は後に知ることとなる。

これが後に言う、“オアシズの厄日”の大きな転換点であった。

506名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:11:05 ID:WhlWnops0
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     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
Ammo→Re!!のようです                         Ammo for Reasoning!!編
                     第九章【order-命令-】

           ‥…━━ August 6th PM12:05 In the 3rd block ━━…‥

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ここまでは、デレシアの予想通りだった。
被害者の殺害方法とタイミングの不自然さが、この連続殺人犯の持つ疑問点だった。
殺人犯には大なり小なり、その目的がある。
連続殺人犯ともなれば、私怨か金か、或いは快楽と目的を狭めて犯人の正体を把握することが出来る。

探偵たちが推理を進める中で、デレシアは真逆の発想をしていた。
犯人の思惑は、その疑問点が全てを有耶無耶にしてしまうことだと考えたのだ。
ただの私怨であれば、警備員詰所を襲撃する必要はないし、映像を流す意味もない。
金が目的であれば、恐喝をした方がいい。

507名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:14:11 ID:WhlWnops0
快楽を求めての犯行であれば、何も船上で行う必要はないし、警備員達を敵に回す必要もない。
つまり、見せかけだけの事件にしかデレシアは感じることが出来なかったのだ。
彼女が考えた通り、犯人の目的が陽動だとするならば、別の方向に目を向けなければならない。
デレシアは全員が犯人の次の目的と云う一点を見ている中、犯人の最終目的を見ていた。

その結果、デレシアは外部からの攻撃があると結論付けた。
そうした場合、真っ先に狙われるのは市長であるリッチー・マニーだ。
彼が生きている限り、彼は鍵になる。
この船の出入り口を全て封鎖しても、彼がいればそれを突破することが可能だ。

ハザードレベル5の発令は犯人側にとっては誤算だっただろう。
その誤算を帳消しにするためには、どうしても船の出入り口を開く必要があった。
入り口が開かなければ、オアシズは海上の城となる。
もしもデレシアが犯人ならば、真っ先にマニーを手に入れようと新たな事件を起こす。

そこで、敵に滅茶苦茶に食い千切られるよりも先に、自ら第三ブロックだけを解放することを選んだ。
侵入箇所を一か所に絞ることで、敵の攻撃に対して迎撃と準備が可能となるからである。
マニーの次に狙われるのは、どう考えてもブロック長達だ。
彼らは彼らで、様々な権限を持っているため、人質として非常に役立つ。

その為に、デレシアはマニーを別の場所に移動させてブロック長らを一か所に集めることにした。
敵が攻め入る、その最前線に。
マニーの姿が見当たらないとなると、犯人はブロック長を狙う。
この状況下でブロック長に対して意識を向ける人間が、犯人一味の可能性が非常に高いのだ。

犯人に関わる人間を一機に炙り出す事を狙った結果、その下準備の用意周到さに呆れ返った。
ジュスティア海軍の船と指揮官、そして軍服と装備で乗船した者達のほとんどが、ジュスティアの人間ではなかった。
指揮官は真っ先に殺され、残った四十一名は皆、犯人の仲間だった。
つまり、ジュスティア内部にまでその手を伸ばして工作をするだけの技術と人間を持つ組織が、犯人の背後にはある。

508名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:17:14 ID:WhlWnops0
――まずは目の前にいる“石ころ”を払い除けるべく、デレシアは意識を戦闘に集中させることにした。
ここまで予想通りであれば、後のことは万事上手くいく。
今日中にこの海賊もどきたちは片付けられるだろう。

(::0::0::)「宿敵? 宿敵だと? 笑わせてくれる……!!」

男達が持つ武器は、コルトM4のカービンモデルだった。
弾倉の中身は三十。
薬室内と合わせても最大で三十一発の計算だ。
十二人分なので、三百七十二発。

何一つ、ただの一瞬たりとも、臆するに値しない戦力だ。
背負った棺桶を使用するだけの肝っ玉があれば、それなりに楽しめそうだ。

(::0::0::)「殺せ」

鳴り響く銃声。
デレシアは銃弾から逃れるために、キッチンに舞い戻った。
鉛弾がステンレス製のシンクや食器棚を破壊し、甲高い音が響く。
ガスの様な引火性の強い物は調理に使われていないため、引火する心配はない。

ただ、軽量化を重要視した調理器具は防弾性に乏しい。
貫通の度合いを見ると、フルメタルジャケットや対棺桶用徹甲弾ではない。
通常のライフル弾だ。
跳弾にだけ気を付ければいい。

シンク下の収納スペースを開いて、そこから各種刃物を抜き取る。
相手はプロだ。
下手に近づいてくるような真似はしないだろうが、二、三人の斥候は寄越すだろう。
判断材料は銃声の影に聞こえる跫音だ。

509名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:20:19 ID:WhlWnops0
左のデザートイーグルを腋のホルスターに戻し、果物ナイフを一本摘まむ。
応戦の一発をシンク越しに放つと、悲鳴が聞こえた。
ブロック長には当たったのであれば、それは彼らの危機意識が低いだけだ。
マニーは無力な市長だが、無能ではない。

その辺りの管理が出来る人間をブロック長の座に据えているはずだ。
ここで死ぬなら自己管理不足だし、弾に当たるならその程度だ。
仮に被弾した場合、通常の生活に復帰するのは難しい。
現在、デザートイーグルの弾倉に入っているのは歴史上最も悪質なマンストッピングパワーを持つホローポイント弾、“INF(訳注:父の名において)”と名付けられた銃弾だ。

家庭用に販売されたワンショット・ストッパーの究極系と言えるこの銃弾の弾頭は、四つに別れた鋭利な爪が蕾のように一つに集まって形成されている。
花弁に例えられる弾頭の一つ一つには横に走る四本の切れ込み線が入れられ、先端は貫通力を高めるための加工がされた銀色をしている。
特殊な加工技術を用いて作られた弾頭は硬質な物に対しては貫通し、人体の様な柔らかな物質になると途端に凶悪な力を発揮する。
防弾着ですら喰い千切って開花する凶暴な弾頭は人体に入り込むと細かく散り、肉と内臓を吹き飛ばす性質を持っている。

発表から三日で販売禁止、即時回収、単純所持禁止となっただけあってかなりの力を持っていた。
相手が棺桶を使用しなければ、かなりの打撃を与えられる代物だ。
デレシアは右手で相手の動きと位置を推測し、銃口だけを出して牽制射撃を行った。
発砲できる弾数が七発に対し、デレシアは銃爪を六回引いた。

銃を引き戻し、右手中指で空になった弾倉を排出しつつ、一瞬だけ体を出して左手でナイフを投擲した。
左手の攻撃は右手とは異なり、計算に基づき必殺を狙った攻撃だった。
空中で回転しながら飛んで行ったナイフは、接近していた男の首元に突き刺さり、致命傷を与えた。
喉仏を貫いた包丁を抜き取ろうと男は反射的に手を伸ばすが、それは無駄に終わった。

ゴボゴボと声にならない呻き声を漏らしながら、男はその場に倒れる。
一瞬だけ確認した敵の配置は、見事だった。
斥候に出したのは二人。
その二人が排除されたことで、敵はデレシアの戦力を再計算し、テーブルを倒して楯にしながら少しずつ前進して来ている。

510名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:23:54 ID:WhlWnops0
牽制射撃を行いながらこちらの出方を見るつもりだろう。
弾薬と兵力差で言えば、それがいい。
しかし、見誤っている。
デレシアの戦力は、少なくとも彼らを遥かに凌駕している。

銃声の合間に聞こえた、ピンを抜く音。
手榴弾を使われると厄介だ。
素早く弾倉を交換し、通常の弾に切り替えた。
電子コンロの上からフライパンを手に取り、デレシアは半身を出して銃撃した。

案の定、手榴弾が放物線を描いて飛んできた。
それに対してデレシアはフライパンを投げて対処した。
空中でフライパンに打ち返された手榴弾は、使用者の元に帰った。

(::0::0::)「にげっ!!」

爆音が声をかき消した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、けっこう上手くいったわね」

両手にデザートイーグルを構え直して、デレシアはキッチンから飛び出した。
飽きるほど聞かされた銃声から、もう相手の位置ははっきりと分かっている。
両の弾倉が空になるまで撃ちまくり、テーブルを貫通してその向こうにいた男達を殺していく。
これだけ場を盛り上げたのだ。

そろそろ、背負っている棺桶を使う頃合いだろう。
銃弾を躱しながら、大きなテーブルの傍に転がり込む。
分厚い木で作られた二十人掛けのテーブルをひっくり返し、それを楯にしてデレシアは相手の出方を待った。

(::0::0::)『一度は死んだが、天国がどんなだか聞きたいか?』

511名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:26:24 ID:WhlWnops0
なるほど。
汎用型の“ハムナプトラ”だ。
軽量化と速戦的なことに特化した棺桶だが決定打に欠ける代物だ。
開発当初から言われてきた棺桶らしからぬ装甲の薄さは、大量生産を容易にするための苦肉の策だった。

棺桶の開発ではどうしても金属などの資源が必要になる。
戦時中では棺桶の性能よりも生産の速さが喜ばれた。
アジアの大国がその生産力を世に知らしめ、尚且つ巨大な国土を守るために作り出した棺桶。
棺桶と云うよりもミイラ。

戦闘中に期待できるのは運動能力の強化と、大量の弾薬の携帯ぐらいだ。
それが、ハムナプトラの特性だ。
銃声が止み、男の声がホール全体に響き渡った。

<=ΘwΘ=>『その強さと豪胆さに敬意を表して、棺桶でお相手仕ろう』

堂々と物陰から姿を現した男に対し、デレシアはソウドオフショットガンを向け、銃爪を引いた。
対棺桶用のスラッグ弾がヘルメットを貫通し、男の脳味噌を後ろに吹き飛ばした。
例えトゥエンティー・フォーの装甲でも貫通できる代物だ。
紙の様な装甲では、防げない。

デレシアの銃の恐ろしさに気付いたのか、男達は何も言わずにその場から散った。
弾の雨をデレシアに浴びせるが、テーブルがそれを阻む。
デザートイーグルの弾倉を交換し、対棺桶用のものにする。
両手に銃を構えた状態でテーブルを乗り越え、デレシアは正面から迎え撃つことにした。

時折彼女のローブの裾を銃弾が捉えるが、その先に彼女の体はない。
このローブの構造は実に理に適っている。
余裕がある作りをしているために動きを邪魔することはなく、弾も止められる。
通常弾であれば、それこそダメージはあるが貫通はしない。

512名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:31:50 ID:WhlWnops0
倒れたテーブルの上を跳躍し、相手を翻弄する。
残党は七人。
宙返りをして弾を躱しざまに発射した銃弾は、男二人の頭に命中し、息の根を止めた。
新たなテーブルの影に姿勢を低くした状態で着地すると、一機が駆け寄ってくるのが騒々しい跫音で分かった。

近接戦闘なら勝てると思ったのか。
愚かな。
音の方向を見もせずに銃だけを向け、銃爪を引く。
恐らく、当たったのは胸部だ。

派手な音を立てて転がり、デレシアが背にする机にぶつかって止まった。
残りは四人。

<=ΘwΘ=>『こいつ、ただの女じゃないぞ!!』

ζ(゚ー゚*ζ「ただの女なんていないのよ」

無礼な発言をした男の声の方向に、三発放つ。
残り三人。
ホールもだいぶ静かになってきた。
弾倉を交換し、ゆっくりと立ち上がる。

腹から声を出して、相手の矜持を突く言葉を発した。

ζ(゚ー゚*ζ「この世界にいるのは、弱い女か、強い女だけよ」

デレシアは意識を集中させた。
次に何が起こるかを知っているからだ。
この状況下で身を晒せば、間違いなく銃弾が飛んでくる。
今は、そうしてもらわなければ困るのだ。

513名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:34:08 ID:WhlWnops0
膠着状態になれば、ブロック長達が人質になる可能性が出てくる。
ブロック長は優秀な人材だ。
今後、オアシズが復興していく上では欠かせない。
この状況で身を晒すのは、一気に大部分を削られたことによって相手の戦意が喪失して、膠着状態になることを避けるための手だ。

焦った相手はデレシアに対して攻撃を仕掛けてくることだろう。
そうなれば、位置が分かる。
位置が分かれば殺せる。
そして、敵は全員デレシアに対して殺意と敵意をむき出しにして銃撃をしてきた。

実に単純だ。
冷静に銃口の向いているその先を確認して上体を逸らして弾を避け、三発撃って彼らの夢を終わらせた。

ζ(゚、゚*ζ「……」

殺し合いの最中、デレシアは考えていたことがあった。
彼らはジュスティアへの潜入を成功させている。
それは事実だ。
では、何故ジュスティアなのだろうか。

そこに意味がある。
残った屑共の始末は、それを考えながらいいだろう。
そして、犯人を追いつめるための手を進めておけば、ティンカーベルまでの間はのんびりと過ごせる。
全ては有意義な旅のために。

残った海賊を処分しに行くために、デレシアは店の正面玄関に足を向けた。

514名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:38:41 ID:OUFh8imE0
読んでる支援

515名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:39:12 ID:WhlWnops0
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           ‥…━━ August 6th PM12:27 In the 1st block ━━…‥
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船内で小規模な戦争が起きる中、オアシズの住民達は皆、部屋でそれぞれの時間を過ごしていた。
海賊に襲われるのではと恐慌を来して訳の分からない神に祈りだす者、酒を飲んで泥酔する者、歌い出す者までいた。
多くの乗客がいたが、トレーニングをしている客は二人だけしかいなかった。
一人は妙齢の女性で、もう一人は少年だ。

女性はその身の細さからは想像もできない力強い蹴り技で、少年を追いつめていた。
足が空を切る音に気圧されながらも少年は果敢に立ち向かい、その小さな拳を打ち込むタイミングを見計らっている。
二人はロープの張られたリングの上にいた。
双方の顔に浮かぶ表情には、険悪な色は混じっていない。

これは喧嘩ではなく訓練。
実戦に近い闘気を放ちながらも、殺意は必要のない戦いなのだ。
とは言うものの、少年と女性の間には圧倒的な戦闘力の差がある。
果たして戦いと呼べるものなのかは、結果を見るまでは分からない。

女性が手加減をしていることは明らかだった。
放つ雰囲気から、その気になれば一瞬で終わらせられるだけの力を持っている事が伝わる程の人物だ。
速攻で勝負を終わらせないのは、少年の実力を測って鍛えることが目的だからだ。
その為に、両腕を使わないというハンデと特別なルールまで与えた。

516名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:41:24 ID:WhlWnops0
勝敗を決定する条件はゴム製のナイフが少年の体に触れるか、少年が女性の足以外に触れるか、だった。
代わりに女性は、華麗な足技の数々を披露した。
上下左右、拳以上の攻撃範囲と攻撃力、そして速度が少年に新たな攻撃の幅を教えた。
更に少年を驚愕させたのは、黒いゴムで作られたナイフが女性の背中から現れ、それを足の指で掴んだ瞬間だ。

ナイフを足で使うなど、聞いたことも見たこともなかった。
驚愕する暇もなく、ナイフの切っ先は疾風の様な速さで少年の心臓の上に構えられた。
動くことすらできなかった。
ほんの数ミリだけ離れた位置で静止するナイフに、少年は瞬きを忘れた。

女性は何も言わずに両腕を小さな胸の前で組み、深紅色の瞳で眼前にいる少年をじっと見つめている。
凛とした気高さを持つ女性だった。
限りなく黒に近い灰色の髪を持つ女性には、獣の耳と尻尾があった。
狼の耳と尻尾だ。

右足を上げて立つロウガ・ウォルフスキンと名乗った女性は、俊敏で軽快な動きを一時間以上も続けていたが、汗一つかいていない。
彼女は右足の指を器用に使ってゴム製のナイフを掴んでいた。
気を取り直し、少年は後退を選んだ。
それから、ロウガはまるで披露するかのようにナイフを縦横無尽に振るった。

刃渡りの小さいナイフだったが、彼女の長い脚と合わさると槍にも薙刀にもなった。
辛うじてそれを避けるが、とても反撃の隙を窺うどころではない。
攻撃の軌跡を見切ることすらできない。
それだけの攻撃にもかかわらず、ロウガは呼吸を乱す気配を見せない。

対して、垂れた犬の耳と尻尾を持つ少年は肩で息をして、ナイフの届かない距離を保つだけで精一杯だった。
顎の先から汗がリングに落ち、染みを作る。
軽い気持ちではなかった。
必要量の覚悟をもって挑んだとしても勝てない相手だということは、重々承知している。

517名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:43:14 ID:WhlWnops0
防戦では勝てず、捨て身の攻撃で勝てる相手ではない。
これまで多くの争いを見てきた経験が、そう教えた。
だから少年は、必要以上の覚悟を用意してロウガとの戦闘訓練に臨んだ。
戦術も戦略もないが、兎に角、相手の動きについていこうと必死になった。

何度も攻撃を仕掛けても、拳は掠りもしなかった。
逆に、カウンターの回し蹴りが何度も少年の前髪を撫でた。
どうにかその攻撃を避け、気が付けば攻撃の主導権は完全に相手の手にあった。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「ま、歳の割にはよくやった方だ」

ロウガがそんな感想を口にする。
まだ終わっていないと、少年は答えた。
それを聞いたロウガは嬉しそうに口元を緩め、容赦なくナイフによる斬撃を再開した。
少年は三十秒にも満たない休憩を終え、その場から飛び退く。

横薙ぎの一撃は、少年の顎に溜まっていた汗の一滴を切り払った。
もう一歩距離を開けようとした時、少年は気付いた。
自らがリングの隅に追い詰められていることに。
背中にロープの存在を感じ、後退が出来ないことを悟る。

左右か正面の、三面にしか活路は見いだせない。
足元を払うような一撃が、気休めにもならない状況把握を強制的に終わらせた。
それを飛んで回避し、続けて反射的にしゃがんだ。
相手は剛の者だ、攻撃の間は最小であるはずなのだ。

518名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:45:24 ID:WhlWnops0
案の定、少年の上半身がそれまであった場所をナイフが通過する。
しゃがんだ状態を好機と捉え、少年は左手でロウガの脚を掴んで道を確保し、前に進んだ。
片足ならば、蹴りは繰り出せない。
ナイフは今や、少年の背後。

引き戻すまでの時間とこちらの拳がロウガの腹部を捉える時間を考えれば、こちらが有利だ。
これ以上細かな計算をしている時間はない。
点と点を線で結ぶ最短の攻撃を足元から放った。

リi、゚ー ゚イ`!「良い判断だ」

ロウガは片足を支えに思いきり仰け反り、ブーンの拳は空振りに終わった。
信じがたいバランス感覚を発揮し、ロウガはそれを回避したのだ。
否、耳付きと呼ばれる人種ならばそれは容易な芸当。
自分にもできる技だ。

拳が空を切った瞬間、少年は背後からの強い力でロウガに引き寄せられた。
その正体はナイフを掴んでいる右足だ。
誘い込まれたのだと分かった時には、もう遅い。
右足のナイフはしっかりと背中に当てられており、ロウガの勝利であることを物語る。

にこりと笑みを浮かべながらロウガはわざと背中から倒れ、少年を両足でしっかりと取り押さえる。
痛くはなかった。
ロウガの硬い腹筋が、クッションとなってくれたのだ。
完敗だった。

リi、゚ー ゚イ`!「動きは悪くない。 私が言うんだ、自信をもっていいぞ。
      さ、シャワーをして汗を流そう。
      そうしたら、お昼ご飯を食べて少し外の空気を吸いに行こうか」

519名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:57:48 ID:WhlWnops0
.




(;∪´ω`)「はい、ししょー!」






少年の名はブーン。
まだ成長途中の、小さな旅人である。






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                  これは、愛に満ちた旅の物語。

                      To be continued!!
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520名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 22:59:28 ID:WhlWnops0
支援ありがとうございました。

これにて本日の投下は終了となります。
なお、今回の文章中に出てきた

「肘蹴り」なる人体法則を無視した攻撃ですが、「膝蹴り」の誤植です。
脳内変換をよろしくお願いいたします。

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。

521名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 23:01:52 ID:OUFh8imE0
乙!

522名も無きAAのようです:2014/05/01(木) 06:54:48 ID:2gN2ptKo0
おつおつ

523名も無きAAのようです:2014/05/02(金) 02:14:32 ID:l7E4RSJIO

ソルダットはジョンより近接戦闘が得意な感じ?
戦闘シーン見る限り機動力は上なイメージだ

524名も無きAAのようです:2014/05/02(金) 15:06:10 ID:XF86ORx.0
>>523
機動力に関しては使い手次第ですが、装甲の硬さはソルダットの方が上です。
ただ、ジョン・ドゥの方は細かな動きが得意です。

銃で言うなら、ソルダットがAK47 ジョン・ドゥがM4 ってなイメージです。

525名も無きAAのようです:2014/05/02(金) 16:48:34 ID:VClSPi2Y0
肘蹴りワロタ

526名も無きAAのようです:2014/05/02(金) 18:33:51 ID:Rt4.YV/k0
トゥエンティ・フォーの見た目がレジスチル以外想像出来ない

527名も無きAAのようです:2014/05/02(金) 22:12:54 ID:XF86ORx.0
>>526
トゥエンティー・フォーのイメージはこんな感じです。
どう見てもレジギガスです、本当にありがとうございました。

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1527.jpg

528名も無きAAのようです:2014/05/03(土) 08:07:35 ID:i6kjlbHQ0
>>527
やだ…イケメン要塞…

529名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:05:13 ID:jTQ.wdNkO
やっぱおもすれーな

530名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:53:17 ID:CXsdzfUM0
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Do you have the fucking evidences?
証拠は持った?

Fucking conviction?
確信は?

Fucking confidence?
自信は?

Can you begin to fucking reasoning now?
クソッタレな推理は始められそう?

So, foolish detectives, it is ShowTime!!
では愚かな探偵諸君、ショータイムだ!!

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531名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:55:22 ID:CXsdzfUM0
嵐が過ぎ去ったその海域は、赤子の肌を撫でるような優しい風が吹いていた。
猛烈な嵐が上空から連れてきた冷気が潮の香りと混ざり合って、海上は優しい夏の香りがしていた。
蒼穹を映す群青の水面は、乱反射を繰り返して煌めきを放つ。
穏やかな波の中、一隻の船がその巨体を海に浮かべていた。

象牙の様な白い肌の船は、雄々しくも上品な雰囲気が漂っている。
一見すると体を休める鯨のようだが、船内は穏やかな状況ではなかった。
その巨大な船の名は、オアシズ。
世界最大の豪華客船にして、世界最高の船上都市である。

船には街がまるまる一つ収まっていた。
集合住宅、飲食店、果ては風俗店。
大型のプールやスケート場、コンサートホールまでもが設けられている。
巨大な発電設備によって船の電力は全て賄われ、不自由のない船旅が約束されていた。

最高水準の安全性と設備を持つその街で、大きな事件が起こった。
全ての始まりは、八月四日に起きた無差別連続殺人事件だ。
船員の殺害から始まり、警備員詰所の襲撃、民間人の毒殺。
そして、海賊団による襲撃事件。

“オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件は、大きく二つの枠組みで構成されていた。
連続殺人事件と、海賊襲撃事件だ。
一つ目の事件は未だに解決をしておらず、犯人の見当も付いていない。
二つ目の事件が起こった時、オアシズに常駐する探偵たちは全てがその瞬間のために仕組まれた物であることに気が付いた。

そして今、二つ目の事件が解決に向けて大きな動きを見せていた。
事前に第二の事件を予期した人間が指示した迎撃策が、その効果を発揮し始めたのである。
意図的に入り口を解放し、敵の行動を制限したのだ。
簡単な奇襲になるはずだった海賊たちは一つのブロックにその戦力を集中させられ、大打撃を受けた。

532名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:58:06 ID:CXsdzfUM0
勿論、オアシズ側も無傷では済んでいない。
迎撃に参加した探偵、警備員の三割が死傷した。
オアシズ側の迎撃作戦は、決して賭けではなかった。
立案者は多少の被害が出てもオアシズが勝てるように、この作戦を立てた。

作戦の核となる迎撃は時間との勝負であると同時に、連携力の勝負でもあった。
船全体がその作戦を理解して、命を失う覚悟が出来るかどうかに全てがかかっていた。
それは杞憂だった。
オアシズの乗組員たちは勇敢で、愚直だった。

命を落としかねない作戦に対して不服を言わずに、果敢に戦って死んでいった。
被害者の中には船内に家族がいる者もいた。
激しい攻防によって、双方共に甚大な被害を被ったのは一階だった。
熾烈を極める殺し合いは、血で血を洗う争いへと変貌し、美しい彫刻の施された噴水を破壊し、水を赤く染めた。

流血の成果として事件は今、終息に向けて着実に進んでいた。

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     ‥…━━ August 6th PM13:26 on the 5th floor, in the 3rd block ━━…‥
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ノハ<、:::|::,》『これで終わりだ、海賊』

533名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:59:37 ID:CXsdzfUM0
その女性は五階にいた。
全身を黒の軍用強化外骨格――通称“棺桶”――に包み、その顔は透過性のあるスカイブルーのヘッド・マウント・ディスプレイが覆い隠していた。
細身の体に似つかわしくない巨大な左手には、悪魔的な造形をした鉤爪が付いている。
そして、右手に装着された巨大な杭打機は傑作強化外骨格ジョン・ドゥの心臓部を打ち抜いていた。

女性はジョン・ドゥから杭を引き抜いて、血を振り落とした。
ねっとりとした赤黒い血が、薬莢の転がる地面に花を咲かせて彩る。
地面には同じようにして一撃で胸の急所を破壊されたジョン・ドゥがもう一体、転がっていた。
強い芯を感じさせる声の女性の駆る棺桶は、最小単位であるAクラスの物だ。

サイズの差を物ともせずに海賊たちを翻弄できたのは、彼女の技量と棺桶の性能の差だった。
彼女のそれは、量産型の棺桶とは設計思想がまるで違う。
単一の目的のために特化して作られた棺桶は、“コンセプト・シリーズ”と呼ばれる物だった。
そして彼女が使う棺桶は“対強化外骨格用強化外骨格”であり、この世界にある棺桶の天敵だった。

殺し屋 “レオン”の渾名でマフィアたちを恐怖の底に叩き落とした女性は、戦闘終了を確認してから棺桶を脱いだ。
汗で額に付いた髪の毛を振りながら現れたのは、凛とした目鼻立ち、瑠璃色の大きな瞳を持つ二十代半ばの女性だった。
小柄ながらもその体に搭載した筋肉の質は決して男に引けを取らず、激情のままに磨き上げた技は体格差、性別差を無意味にする。
経験と実践に基づいて構築された心と体の強さは、オアシズに乗り込んだどの海賊よりも上だった。

棺桶を運搬用コンテナに収めてそれを背負った女性の名は、ヒート・オロラ・レッドウィング。
共に旅をする小さな耳付きの少年に別の影を重ねる、元殺し屋の旅人である。



ノパ⊿゚)「さて、愚かな夢の結末を見に行くか」



.

534名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:08:10 ID:CXsdzfUM0
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         /  ../」 ,,/ 、||/′   ´   _/     i|'、  _
        _ィ -‐フ ,,/i !/  ゙丶_ ,、 ヘ 、 ,..彡ーtッ----y ヘ|,' i ,'< -
           ./ l'、∨ _,,-‐''tッ''ヽ、`""  .__    _/ . i l ,'|lィくヘ
         /ノ' ノ/!ヽ 丶__,,,,-       `''''''''"´    ナ `lノ
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     ‥…━━ August 6th PM13:27 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(=゚д゚)「けっ」

その男は一階にいた。
皺だらけのスーツに、返り血で赤い斑の付いたワイシャツ。
両手は機械仕掛けの籠手に覆われ、右手には甲高い音を立てる高周波刀が握られている。
対強化外骨格用近接戦闘特化型“ブリッツ”は、棺桶の堅牢な装甲を容易く切り裂くために作られた物だ。

男が左手に持つのは、対棺桶用の徹甲弾が装填されたベレッタM8000。
最後に切り倒した海賊の米神にその狙いを定め、銃爪を引いて確実に息の根を止めた。
これで、彼の周囲にいた海賊たちは全滅した事になる。
戦闘経験はあるらしかったが、彼からしたら話にならないレベルだった。

男にとっては他愛のない相手と云うだけで、オアシズの人間からしたら苦戦する相手だった。
優れた棺桶の有無以前に、オアシズ側の兵隊は戦い方が綺麗すぎる。
もっと卑怯であるべきだ。
相手が非武装であろうと何であろうと、敵対の意志を示した以上は優位な状態で戦うのが自然だ。

それが互いの生存をかけての殺し合いならば、尚更だ。
弱い者が先に死ぬのが自然の摂理だ。
生き残りたいのであれば、最善を尽くして相手を殺す手段を考え付く必要がある。
共に海賊討伐をしていた探偵たちが周辺の探索を行い始めたのを確認し、高周波刀のスイッチを切りって男はそれをアタッシュケース型のコンテナに収めた。

535名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:10:31 ID:CXsdzfUM0
男の名はトラギコ・マウンテンライト。
生涯で最も興奮する事件を解決するために、とある旅人を追う刑事である。

(=゚д゚)「歯応えがねぇ連中ラギ」

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           / / .ィ。´ ノ      /バ:.
          .' 1  ´ ̄        f′ } '.
         У          _/  ) / |
        〈/ 、ノ- 、 ==x  |     ノ   、
     ‥…━━ August 6th PM13:28 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(´・ω・`)「……これで一階、クリアだ」

地面に伏せるその男もまた、激戦地である一階にいた。
同僚の探偵達と喫茶店前に机と椅子で組んだバリケードの間から、その瞬間が来るのを待っていた。
建物の影に隠れている海賊が、プレッシャーに耐えかねて逃げ出す瞬間を見計らっているのだ。
そして、その時が来た。

電池切れになった棺桶を捨てて走り出した海賊の後頭部を撃って、一発で仕留めた。
膝から先がなくなったかのように力なく倒れ、海賊はそれきり動かなくなった。
脳幹を撃ち抜き、あらゆる行動を無に帰した。
その銃声を最後に、一階から銃声が消えた。

悲鳴も怒号もない。
あるのは硝煙と血の濃厚な香り。
海賊襲撃から約一時間での幕引きだ。
想定よりも早い幕引きだった。

536名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:14:50 ID:CXsdzfUM0
それと云うのも、事前の対応があったからだ。
市長であるリッチー・マニーからの指示がなければ、こうはいかなかった。
オアシズ側の死傷者は五割を超えたことだろう。
彼の英断で、多くの人間が命を救われた。

冷静に事件の分析と結果の確認を行う男の名は、ショボン・パドローネ。
オアシズで起こった事件を担当する、熟練の探偵である。

(´・ω・`)「……さて、市長はどこだ?」

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               ‥…━━ August 6th PM13:30 ━━…‥
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八月六日。
午後一時三十分。
船上都市オアシズを襲った海賊たちは文字通り一人残らず全滅し、船に取りついていた海賊船は全て斬り離された。
勇敢な船員たちの活躍により、オアシズはシージャックの危機を脱したのである。

後に“オアシズの厄日”と呼ばれるこの事件は、全部で三部構成であった。
第一部、連続殺人事件の発生。
第二部、海賊襲撃事件の発生と解決。
そして、最終部。

537名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:19:07 ID:CXsdzfUM0
.


―――“オアシズの厄日”そのものの解決である。


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Ammo→Re!!のようです
     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
                                        Ammo for Reasoning!!編

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危機が去った事を知らせるアナウンスが入ると、船内は歓声に包まれた。
それから、全てが逆転した。
第三ブロック以外の全てのブロックが解放され、乗客たちは抑圧された鬱憤を晴らす様に酒を飲み、食事を楽しんだ。
事件を一種のエンタテインメントのように楽しみ、酒場は海賊の話題で持ち切りとなった。

客の中には、この事件で犠牲になった海賊以外の人に対して黙祷を捧げ、涙を流す人もいた。
その間、船員たちは第三ブロックに転がる死体を袋に詰め、血を洗い流す作業を黙々とこなしていた。
クルウ・ストレイトアウトが取り仕切る死体安置所は死体で溢れかえり、ショボン・パドローネの提案でやむなく海賊の死体を海に投棄した。
警備員と探偵の人数が大幅に削れたことへの対処は、当日中に各ブロック長で話し合いの場を設けることとなった。

そう云った事後処理などの影響でしばらくの間は、第三ブロックを通ることは出来ない。
第一ブロックと第二ブロック。
第四ブロックと第五ブロック。
当面は、これらのブロック間の移動が頻繁に行われるだろう。

538名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:23:41 ID:CXsdzfUM0
行こうと思えば、屋上まで上がってそこから第三ブロック以外に自由に行くことが出来る。
既に好奇心旺盛な客達はそうやって移動をしているそうで、確かに言われてみれば、他とは違う興奮の仕方をしている人間がいる。
観察するべきポイントは、彼らの目と口だ。
目が何か目的の物を探している風でもなく、忙しなく動いたり、緩みそうな口元を無理矢理引き締めていたりと、観察し甲斐があった。

他人の不幸は蜜の味と云う言葉は、幸不幸は表裏一体であることを意味しているのだそうだ。
誰かが不幸になれば、それによって幸福になる人間がいる。
なるほど、その通りだ。
人は他人の不幸を前にして、やっと幸福を感じられるのだ。

海賊たちも、その考えでオアシズを襲ったのだ。
極端な話をすれば、狩りや釣りと同じ。
生きるために行動を起こしただけに過ぎない。
ただ奇妙なのは、彼らが持つ武器や兵器が似つかわしくないほど高価であること。

――と、オアシズ内で今起こっている事態について、つば広の黒い中折れ帽子を目深に被る女性は隣を歩く少年に向けて話した。
限りなく黒に近い灰色の髪は肩まで伸び、毛先に行くにつれて軽くウェーブしている。
深紅の瞳は影の中でも鋭く光り、周囲の細かな部分を注意深く観察していた。
女性は夏だというのに、黒いスーツとシャツ、糊の効いたスラックスの上に、同じく黒のロングコートを着ていた。

帽子とコートの下には、狼の耳と尻尾が隠れている。
いわゆる、耳付きと呼ばれる人種だ。
だが女性がそれを隠すのは、羞恥心やコンプレックスのためではない。
自らの容姿について多くを語らないが、それだけは断言できる。

この女性、ロウガ・ウォルフスキンは自らの容姿を誇りにしているのだ。
今の服装には意味があるのだと、手を繋いでいるだけで聞かずとも分かる。

リi、゚ー ゚イ`!「この事件、ブーンはどう考える?」

539名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:32:00 ID:CXsdzfUM0
ロウガは左手の先にいる少年に目を向け、意見を聞いた。
踝まである大きなカーキ色のローブに身を包み、ベージュ色のニット帽を被る少年は、ブーンと云う名を持っている。
彼はロウガと同じく獣の耳と尻尾を衣服の下に隠す、小さな旅人だ。
質問に対し、ブーンは素直な考えを口にした。

(∪´ω`)「ししょー、まだおわってないとおもいます」

確かに、海賊の撃退は完了した。
それが犯人の狙いなら、阻止できたことになる。
目論見は破綻した。
だがそれだけだ。

オアシズ内にいる内通者がまだ捕まっていない以上は、事件は終わっていないということだ。
事件の終了が犯人の確保を意味するならば、まだ終わっていない。
犯人が生きている限り、いつまた再起を図るか分からない。

リi、゚ー ゚イ`!「その通りだ。 では、それが分かっている状況で我々にできることは何だ?」

(∪´ω`)「はんにんをさがすこと、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「惜しい。 それも楽しいが、それは主たちに任せることになっていてね。
      我々が探すのは、犯人の目的だ」

確かに、ブーンは犯人が引き起こした事件にそこまで関わることが出来ていない。
海に投げ捨てられて以降、事件の概要は人伝にしか聞いていないのだ。
船内で誰がどのような動きをしているか、それが観測できていない以上、犯人に目星を付けることは出来ない。
最前線で事件と向き合っている人間こそが適任なのである。

(∪´ω`)「……あるじさんが?」

540名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:36:29 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、そうだ」

それ以上、ロウガは“主”について話すそぶりを見せなかった。
午前中に行った実戦訓練でブーンが負けたから仕方がない。
そういう約束だった。
主について聞くことは諦め、ブーンは自分達がやることを考えた。

犯人の目的を探す。
それは、犯人との接点が少ないからこそ可能な行動だった。
この事件を引き起こした犯人は愚かではない。
ならば、その真の目的についてそう簡単に表に出すはずがない。

ロウガの言葉がそのまま答えになっていた。
犯人の目的を探すという言葉は、海賊の襲撃が真の目的では無いと考えていると云うことだ。
ブーン達にできることは、高い位置から状況を見て犯人の真意を探ること。
事件から離れていなければできない動きだ。

これはこれで難しそうだが、ロウガが一緒ならば大丈夫だろう。

リi、゚ー ゚イ`!「そのためにも、まずは船全体を見て回ろう。
      幸い、ここは第一ブロック。 すなわち、船首側だ。
      大きな魚の頭にいるわけだ。 さ、食後の散歩を続けようか」

541名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:39:30 ID:CXsdzfUM0
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             ,. ===、、 o   ○o.  i       :::ト、
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           //      .::::/  :::::!===l      :::|ス. ',
             /./       .::::/   ::::l    |  __ ..... _::::|} ヽ l-、
.           ,ィク ,'..__    .::::/    ::::l    :l '´    `)'`ヽ ヾ;\
       /::{゙ ヽ、 ``丶、;/‐‐- 、::::l     `'::┬‐--<_   } ./;:::::\
     /::::::::!   ,>---‐'゙ー- ...__)イ ,. -‐‐-、ト、   |l::ヽ /;';';';';::::\
.     /|::::::;';';'\/} (ヽ、  _/|   (´    _,.ィ!::ヽ.  ヾー'´;';';';';';';';';:: /ヽ、
   / ,ノ:::;';';';';';';';';'/  /ヽ、二ニ-イ   ヾT ¨´ ,/;';';::`、. \';';';';';';';';';';〈::...
. /  i::;';';';';';';';';';'/ ,イ.:::::::::::::::::: !    ヽ`ー‐'";';';';';';';ヽ   \';';';';';';';';';!:::::
     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
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第一ブロック一階はお祭り騒ぎとなっていた。
喫茶店や居酒屋が階を無視して出店を開き、それまで感じていた恐怖を忘れるように賑わう。
商売よりも乗客の心の傷を癒すために、全ての店が料金を取らなかった。
市長であるリッチー・マニーの配慮で、ハザードレベル5発令中と同様の処置が施されるとのことだった。

ロウガは屋台の一つに足を向け、“たこ焼き”なるものを購入した。
湯気の立ち上る丸いそれは、ソースとマヨネーズがたっぷりとかかっている。
食欲をそそる香りだ。
爪楊枝を刺して一つとり、ブーンに差し出した。

リi、゚ー ゚イ`!「食べてみなさい」

(∪´ω`)「お!」

542名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:45:26 ID:CXsdzfUM0
空気を口に含みながら咀嚼する。
とろりと蕩けた中身で上顎が火傷したのが分かったが、ソースの香りが生地と合わさり、中に隠れていた大きなブツ切りのタコを噛んだ時、それは気にならなくなった。
熱くて蕩けて香ばしい。
歯応えもある。

甘じょっぱいソースと生地の組み合わせの美味さもさることながら、一口サイズなのが嬉しい。
これならいくつでも食べられそうだ。

(*∪´ω`)「ほふほふ」

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、幸いなことに、このたこ焼きが目的ではなさそうだな」

ロウガも一つ食べて、残りをブーンに手渡した。
薄い紙で作られた船の様な奇妙な器に盛られたたこ焼きは、残り四つだった。
屋台から十ヤード離れる頃には、全て胃袋に収まっていた。
ゴミ箱にそれを入れて、二人は移動を続ける。

向かうのは、船首方向だ。

(∪´ω`)「どうしてこっちなんですか、ししょー」

リi、゚ー ゚イ`!「船を掌握したいなら、まずは操舵室か船尾のスクリューを狙う。
      で、最も近い場所が操舵室だからこちらに向かうんだ。
      最高レベルの厳戒態勢が敷かれているだろうけどね」

それでもそこを目指すというのだから、ロウガは自分の腕に相当の自信があるらしい。
まだ彼女が他の人間と戦う様子を見ていないため、その実力は分からない。
ブーンはこれまでに多くの戦う人間を見てきた。
ロウガの放つ雰囲気はブーンに自由を与えてくれた人に近いが、どことなく不思議な親近感がある。

543名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:49:48 ID:CXsdzfUM0
その為に、安心して素性も知らない彼女と共に行動が出来た。
命の恩人であるデレシアがお守りにくれたニット帽も、常に守られているような気がして、気に入っていた。
ロウガの足取りは早く、一歩が大きい。
彼女が歩いているのに対して、ブーンは小走りで付いていかなければならなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、甘い物も食べたいな。
       ひょっとしたら、犯人はこれが目的かもしれないぞ」

いきなりそう言って、ロウガはリンゴ飴と書かれた屋台に足を運んだ。
ブーンの拳程の大きさがあるリンゴを飴で覆ったお菓子だった。
ロウガはそれを二つ買った。

リi、゚ー ゚イ`!「食べるのは後だ」

エレベーターまで行き、それに乗って七階を目指した。
二人きりのエレベーター内で、ロウガが手短に言った。

リi、゚ー ゚イ`!「我々がやるのは、情報の入手、そして報告だ。
      手に入れた情報は逐一報告し、共有する。
      戦いにおいて情報の共有は重要な鍵を意味する」

(∪´ω`)「はい、ししょー。
      でも、どうやってじょーほーを?」

操舵室に入るのは不可能だろう。
それなのに、どのようにして情報を入手するのか。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、我々にしかできない方法だよ。
       エレベーターが七階に到着できるということは、封鎖されているのは出入り口だけのはずだ。
       なら、入らないで情報を知ればいい」

544名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:58:37 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)゛「お?」

ロウガの答えはよく分からなかった。
再び聞こうとしたが、その前にエレベーターが七階に到着した。
二人は無言のまま操舵室に近づき、五十ヤード離れた場所にある橋に設置されたベンチに腰掛けた。
操舵室の扉の前には銃を持った制服姿の男が二人立っている。

リi、゚ー ゚イ`!「リンゴは好きだろう? 私も好きなんだ」

状況に相応しくない質問をされ、ブーンは彼女の意図があるのだろうと考え、頷いた。
リンゴ飴を渡され、ブーンはとりあえずそれを舐め始めた。
ロウガは視線を前に固定したまま、質問をしてきた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、ブーン。 何が見える?」

視界に入っているのは壁と操舵室に続く扉。
武装した男が二人。
それぐらいだ。

(∪´ω`)「とびらと、おとこのひとがふたり、あとライフルです」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 ライフルで武装しているということは、その向こうに行かせたくないということだ。
      向こう側には操舵室がある。
      さて、操舵室がどんな状況か知りたいとは思わないか?」

(∪´ω`)゛「しりたいです」

545名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:58:50 ID:avS9kZEw0
支援

546名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:01:15 ID:CXsdzfUM0
それを知るために、こうしてここに来たことは分かっている。
犯人の目的の手がかりを掴むには、船全体の状況が分かっていた方がいい。
仮に犯人が操舵室を狙っているとしたら、あるいは、騒ぎに乗じて既に操舵室を襲っていたとしたら。
船が置かれている状況は、限りなく最悪と云う事になる。

だが、情報を手に入れるための方法が思いつかなかった。
距離は離れているし、中に入るための出入り口には警備がいる。

リi、゚ー ゚イ`!「封鎖は船長の独断だそうだ。
       これ以上、シージャックの危険を船に与えるわけにはいかないから、誰も入れない、という理屈らしい。
       しかしそれが真実かどうか、中で何が起きているのかを確かめる必要がある。
       会話が聞ければ僥倖だ。

       では方法は?」

(;∪´ω`)「ちからずくですか?」

ブーンの答えに、ロウガは小さく笑った。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、急いでいる時ならそれも有りだが、私はそれを好かない。
      あそこの二人、年齢は?」

(;∪´ω`)「え、えっと……さんじゅっさいぐらい、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「正解だ。 三十代前半だろうな。
      その判断材料は?」

(;∪´ω`)「かん、です」

547名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:04:56 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「いいや、違うぞ。 ブーン、君は感じ取って計算したんだよ。
      彼らの顔に刻まれた皺、匂い、呼吸音を。
      それらの情報から彼らの年齢を考え付いたが、それを勘と考えたんだ。
      勘と云うのはつまるところ、無意識下での計算だ」

(∪´ω`)「そうなんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうなのさ。
       加えて、我々には普通の人間よりも遥かに優れた耳があり、鼻があり、目がある。
       ならば、この距離で操舵室の情報を入手するのは不可能ではない」

だが限りなく不可能だ。
今の自分に、果たしてその様な芸当が出来るのだろうか。
そう考えているのが分かったのか、ロウガはまっすぐに目を見つめて言い切った。

リi、゚ー ゚イ`!「意識と訓練の問題だ。 まずは聴覚情報。
      耳に意識を集中させろ。 扉の向こうに入り込む様にイメージするんだ。
      難しければ、目を閉じろ」

言われた通り、ブーンは目を閉じて耳に意識を集中させた。
様々な音の情報が聞こえる中、前方の音だけを選別する。
思えば、日常生活の中で無意識の内に音を選別するようになっていた。
そうしなければ、うるさすぎて眠ることもできなかったのだ。

音の情報が形となって、不鮮明な映像を瞼に浮かべさせた。
人の息遣いと跫音が位置と姿、性別、体重、精神状態を教える。
反響する跫音が建物の壁と柱の位置を教える。
次第に、操舵室の前に立つ男達の姿が浮かんできた。

548名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:08:50 ID:CXsdzfUM0
その先に、三人分の息遣い。
それ以上は聞こえない。
それでも確かに内部の情報が手に入った。

リi、゚ー ゚イ`!「さぁ、次は嗅覚情報だ。
       これが出来るようになれば、今後の人生でかなり役立つ。
       一階から立ち上ってくる匂いは飲食店のそれだ。
       それと混じった匂いの中から、明らかに飲食系の物ではないものを探し出せ」

ロウガの香り。
リンゴの香り。
誰かが残した匂いのきつい香水。
その中から、血の匂いを嗅ぎ取った。

(∪´ω`)「ししょー、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「上出来だ。 つまり、血が流れるはずのないブロックで血が流れている。
      それが意味するのは?」

(∪´ω`)「きづかれないように、ちをながすことがおこった?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 操舵室から漂う匂いかは分からないが、少なくともこの階層で血が流れた。
      それも少量じゃない。 操舵室が襲われたとの情報は聞いていないが、これは知っておいた方がいいな」

自分でも驚きだった。
扉を開けずに部屋の中の状況を知るなど不可能だと考えていた。
だが、自分には出来ることがあった。
無力ではないのだ。

549名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:12:32 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「これが、我々の持つ力さ。
      ここではこれ以上の情報を得るのは難しいだろう。
      さ、裏付けだ」

ロウガに促され、二人は操舵室前に向かった。
警備に立っている男二人が、すぐにその視線と注意を二人に対して向けた。
近づくにつれて、血の匂いがより鮮明になってきた。
血の発生源は紛れもなく、操舵室だ。

そして、警備している二人からも血の匂いがした。
操舵室前を通過して、エレベーターに乗る。
エレベーターで屋上へ行く途中、ロウガから再び問いがあった。

リi、゚ー ゚イ`!「どうだった?」

(∪´ω`)「あのふたりからも、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「奇妙な話だ。 第一ブロックでは銃撃戦が起こっていないのに、警備員が血の匂いをさせている。
       さぁ、これはどう云うことだろうか」

ロウガは先ほどから幾度もブーンに質問をして、答えるのをじっと待っている。
この奇妙なやり取りは、ペニサス・ノースフェイスの授業形式にとてもよく似ていた。

(∪´ω`)「けがをしたんじゃなくて、けがをさせた?」

リi、゚ー ゚イ`!「その可能性が高い。 いずれにしても、あの二人が血の匂いをさせているのは事実だ。
      屋上に行き、別の情報を収集しよう」

550名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:16:31 ID:CXsdzfUM0
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  (⌒ヽ                                              (⌒ヽ
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          ‥…━━ August 6th PM14:04 on the penthouse━━…‥
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人工芝の敷かれた屋上に白いパラソルを広げ、その下に並ぶ白い椅子に深々と腰掛けて酒を片手に海を眺める人がまばらにいるだけだった。
警備員が二人、銃と棺桶を持って待機している。
この場所はどこのブロックにも属さないために、封鎖はされていない。
主に飲み物の屋台が出店していて、よく冷えた酒やジュースが振舞われていた。

柔らかな潮風が運ぶ夏の空気は涼しかった。
日差しは強く、果てしなく続く青空の眩しさに目を細めた。
一面に広がる大海原。
水平線の果てに浮かぶ大きな入道雲に心を奪われ、その先に向かって歩いてみたいと云う気持ちが生まれる。

今、自分は旅の途中。
あの水平線の向こうに行くことも、出来るかもしれない。
正面から吹いてくる冷たい潮風はローブの中にも入り込み、ブーンの体を冷やしてくれる。
少し肌寒く感じるほど、風は冷ややかだった。

日差しの強さと風の冷たさのアンバランスさが、気持ちよかった。

リi、゚ー ゚イ`!「良い風だ。 さて、ここでは匂いを元に何かを見つけるのは期待できない」

質問される前に、ブーンは自分の思う正解を口にする。

551名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:19:53 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「かぜと、うみのにおいがあるからです」

屋上は先ほどと比べて環境が大きく違う。
風が強く、匂いが分散してしまっている。
尚且つ、潮風と云う海の匂いの運び手がいるために、弱い匂いはたちどころに上書きされてしまうのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「いいぞ、その調子だ。 では、何を頼りにするべきだと思う?」

(∪´ω`)「め、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 まぁ、折角だから飲み物でも飲んで観察するとしようか」

手近な屋台でロウガはミントジュレップ――砕いた氷をぎっしりと詰めたミントの香りがするカクテル――を注文し、ブーンにはオレンジジュースを頼んだ。
ストローの刺さった大きなグラスを持って、二人はフェンス沿いの席に腰掛けた。
勧められるままにジュースを飲み始める。
オレンジの独特の甘味と酸味、そして果肉の食感が美味しかった。

リi、゚ー ゚イ`!「うむ、美味い。
       しかし、もう少しミントの風味が欲しいところだ」

特に慌てる様子もなく、ロウガは優雅にストローでカクテルを飲む。
その目線は、ブーンと同じく空に向けられていた。
ロウガも、あの入道雲に想いを馳せているのだろうか。
胸を締め付けられるような、この奇妙な感覚に胸を痛めているのだろうか。

ここではないどこか。
自分の知らないどこか。
誰も見たことのないどこか。
世界の果てを知りたいと、そう思っているのだろうか。


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