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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

529名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:05:13 ID:jTQ.wdNkO
やっぱおもすれーな

530名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:53:17 ID:CXsdzfUM0
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Do you have the fucking evidences?
証拠は持った?

Fucking conviction?
確信は?

Fucking confidence?
自信は?

Can you begin to fucking reasoning now?
クソッタレな推理は始められそう?

So, foolish detectives, it is ShowTime!!
では愚かな探偵諸君、ショータイムだ!!

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531名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:55:22 ID:CXsdzfUM0
嵐が過ぎ去ったその海域は、赤子の肌を撫でるような優しい風が吹いていた。
猛烈な嵐が上空から連れてきた冷気が潮の香りと混ざり合って、海上は優しい夏の香りがしていた。
蒼穹を映す群青の水面は、乱反射を繰り返して煌めきを放つ。
穏やかな波の中、一隻の船がその巨体を海に浮かべていた。

象牙の様な白い肌の船は、雄々しくも上品な雰囲気が漂っている。
一見すると体を休める鯨のようだが、船内は穏やかな状況ではなかった。
その巨大な船の名は、オアシズ。
世界最大の豪華客船にして、世界最高の船上都市である。

船には街がまるまる一つ収まっていた。
集合住宅、飲食店、果ては風俗店。
大型のプールやスケート場、コンサートホールまでもが設けられている。
巨大な発電設備によって船の電力は全て賄われ、不自由のない船旅が約束されていた。

最高水準の安全性と設備を持つその街で、大きな事件が起こった。
全ての始まりは、八月四日に起きた無差別連続殺人事件だ。
船員の殺害から始まり、警備員詰所の襲撃、民間人の毒殺。
そして、海賊団による襲撃事件。

“オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件は、大きく二つの枠組みで構成されていた。
連続殺人事件と、海賊襲撃事件だ。
一つ目の事件は未だに解決をしておらず、犯人の見当も付いていない。
二つ目の事件が起こった時、オアシズに常駐する探偵たちは全てがその瞬間のために仕組まれた物であることに気が付いた。

そして今、二つ目の事件が解決に向けて大きな動きを見せていた。
事前に第二の事件を予期した人間が指示した迎撃策が、その効果を発揮し始めたのである。
意図的に入り口を解放し、敵の行動を制限したのだ。
簡単な奇襲になるはずだった海賊たちは一つのブロックにその戦力を集中させられ、大打撃を受けた。

532名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:58:06 ID:CXsdzfUM0
勿論、オアシズ側も無傷では済んでいない。
迎撃に参加した探偵、警備員の三割が死傷した。
オアシズ側の迎撃作戦は、決して賭けではなかった。
立案者は多少の被害が出てもオアシズが勝てるように、この作戦を立てた。

作戦の核となる迎撃は時間との勝負であると同時に、連携力の勝負でもあった。
船全体がその作戦を理解して、命を失う覚悟が出来るかどうかに全てがかかっていた。
それは杞憂だった。
オアシズの乗組員たちは勇敢で、愚直だった。

命を落としかねない作戦に対して不服を言わずに、果敢に戦って死んでいった。
被害者の中には船内に家族がいる者もいた。
激しい攻防によって、双方共に甚大な被害を被ったのは一階だった。
熾烈を極める殺し合いは、血で血を洗う争いへと変貌し、美しい彫刻の施された噴水を破壊し、水を赤く染めた。

流血の成果として事件は今、終息に向けて着実に進んでいた。

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    '"´ ̄       |/ \ _/!  〉 ./\/`ヾ、. _>‐--、.,__`ヽ、 =ニ´     /
     ‥…━━ August 6th PM13:26 on the 5th floor, in the 3rd block ━━…‥
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ノハ<、:::|::,》『これで終わりだ、海賊』

533名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 18:59:37 ID:CXsdzfUM0
その女性は五階にいた。
全身を黒の軍用強化外骨格――通称“棺桶”――に包み、その顔は透過性のあるスカイブルーのヘッド・マウント・ディスプレイが覆い隠していた。
細身の体に似つかわしくない巨大な左手には、悪魔的な造形をした鉤爪が付いている。
そして、右手に装着された巨大な杭打機は傑作強化外骨格ジョン・ドゥの心臓部を打ち抜いていた。

女性はジョン・ドゥから杭を引き抜いて、血を振り落とした。
ねっとりとした赤黒い血が、薬莢の転がる地面に花を咲かせて彩る。
地面には同じようにして一撃で胸の急所を破壊されたジョン・ドゥがもう一体、転がっていた。
強い芯を感じさせる声の女性の駆る棺桶は、最小単位であるAクラスの物だ。

サイズの差を物ともせずに海賊たちを翻弄できたのは、彼女の技量と棺桶の性能の差だった。
彼女のそれは、量産型の棺桶とは設計思想がまるで違う。
単一の目的のために特化して作られた棺桶は、“コンセプト・シリーズ”と呼ばれる物だった。
そして彼女が使う棺桶は“対強化外骨格用強化外骨格”であり、この世界にある棺桶の天敵だった。

殺し屋 “レオン”の渾名でマフィアたちを恐怖の底に叩き落とした女性は、戦闘終了を確認してから棺桶を脱いだ。
汗で額に付いた髪の毛を振りながら現れたのは、凛とした目鼻立ち、瑠璃色の大きな瞳を持つ二十代半ばの女性だった。
小柄ながらもその体に搭載した筋肉の質は決して男に引けを取らず、激情のままに磨き上げた技は体格差、性別差を無意味にする。
経験と実践に基づいて構築された心と体の強さは、オアシズに乗り込んだどの海賊よりも上だった。

棺桶を運搬用コンテナに収めてそれを背負った女性の名は、ヒート・オロラ・レッドウィング。
共に旅をする小さな耳付きの少年に別の影を重ねる、元殺し屋の旅人である。



ノパ⊿゚)「さて、愚かな夢の結末を見に行くか」



.

534名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:08:10 ID:CXsdzfUM0
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         /  ../」 ,,/ 、||/′   ´   _/     i|'、  _
        _ィ -‐フ ,,/i !/  ゙丶_ ,、 ヘ 、 ,..彡ーtッ----y ヘ|,' i ,'< -
           ./ l'、∨ _,,-‐''tッ''ヽ、`""  .__    _/ . i l ,'|lィくヘ
         /ノ' ノ/!ヽ 丶__,,,,-       `''''''''"´    ナ `lノ
         ''′〃 |./'、      、               /ン
     ‥…━━ August 6th PM13:27 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(=゚д゚)「けっ」

その男は一階にいた。
皺だらけのスーツに、返り血で赤い斑の付いたワイシャツ。
両手は機械仕掛けの籠手に覆われ、右手には甲高い音を立てる高周波刀が握られている。
対強化外骨格用近接戦闘特化型“ブリッツ”は、棺桶の堅牢な装甲を容易く切り裂くために作られた物だ。

男が左手に持つのは、対棺桶用の徹甲弾が装填されたベレッタM8000。
最後に切り倒した海賊の米神にその狙いを定め、銃爪を引いて確実に息の根を止めた。
これで、彼の周囲にいた海賊たちは全滅した事になる。
戦闘経験はあるらしかったが、彼からしたら話にならないレベルだった。

男にとっては他愛のない相手と云うだけで、オアシズの人間からしたら苦戦する相手だった。
優れた棺桶の有無以前に、オアシズ側の兵隊は戦い方が綺麗すぎる。
もっと卑怯であるべきだ。
相手が非武装であろうと何であろうと、敵対の意志を示した以上は優位な状態で戦うのが自然だ。

それが互いの生存をかけての殺し合いならば、尚更だ。
弱い者が先に死ぬのが自然の摂理だ。
生き残りたいのであれば、最善を尽くして相手を殺す手段を考え付く必要がある。
共に海賊討伐をしていた探偵たちが周辺の探索を行い始めたのを確認し、高周波刀のスイッチを切りって男はそれをアタッシュケース型のコンテナに収めた。

535名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:10:31 ID:CXsdzfUM0
男の名はトラギコ・マウンテンライト。
生涯で最も興奮する事件を解決するために、とある旅人を追う刑事である。

(=゚д゚)「歯応えがねぇ連中ラギ」

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           / / .ィ。´ ノ      /バ:.
          .' 1  ´ ̄        f′ } '.
         У          _/  ) / |
        〈/ 、ノ- 、 ==x  |     ノ   、
     ‥…━━ August 6th PM13:28 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(´・ω・`)「……これで一階、クリアだ」

地面に伏せるその男もまた、激戦地である一階にいた。
同僚の探偵達と喫茶店前に机と椅子で組んだバリケードの間から、その瞬間が来るのを待っていた。
建物の影に隠れている海賊が、プレッシャーに耐えかねて逃げ出す瞬間を見計らっているのだ。
そして、その時が来た。

電池切れになった棺桶を捨てて走り出した海賊の後頭部を撃って、一発で仕留めた。
膝から先がなくなったかのように力なく倒れ、海賊はそれきり動かなくなった。
脳幹を撃ち抜き、あらゆる行動を無に帰した。
その銃声を最後に、一階から銃声が消えた。

悲鳴も怒号もない。
あるのは硝煙と血の濃厚な香り。
海賊襲撃から約一時間での幕引きだ。
想定よりも早い幕引きだった。

536名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:14:50 ID:CXsdzfUM0
それと云うのも、事前の対応があったからだ。
市長であるリッチー・マニーからの指示がなければ、こうはいかなかった。
オアシズ側の死傷者は五割を超えたことだろう。
彼の英断で、多くの人間が命を救われた。

冷静に事件の分析と結果の確認を行う男の名は、ショボン・パドローネ。
オアシズで起こった事件を担当する、熟練の探偵である。

(´・ω・`)「……さて、市長はどこだ?」

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               ‥…━━ August 6th PM13:30 ━━…‥
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八月六日。
午後一時三十分。
船上都市オアシズを襲った海賊たちは文字通り一人残らず全滅し、船に取りついていた海賊船は全て斬り離された。
勇敢な船員たちの活躍により、オアシズはシージャックの危機を脱したのである。

後に“オアシズの厄日”と呼ばれるこの事件は、全部で三部構成であった。
第一部、連続殺人事件の発生。
第二部、海賊襲撃事件の発生と解決。
そして、最終部。

537名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:19:07 ID:CXsdzfUM0
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―――“オアシズの厄日”そのものの解決である。


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Ammo→Re!!のようです
     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
                                        Ammo for Reasoning!!編

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危機が去った事を知らせるアナウンスが入ると、船内は歓声に包まれた。
それから、全てが逆転した。
第三ブロック以外の全てのブロックが解放され、乗客たちは抑圧された鬱憤を晴らす様に酒を飲み、食事を楽しんだ。
事件を一種のエンタテインメントのように楽しみ、酒場は海賊の話題で持ち切りとなった。

客の中には、この事件で犠牲になった海賊以外の人に対して黙祷を捧げ、涙を流す人もいた。
その間、船員たちは第三ブロックに転がる死体を袋に詰め、血を洗い流す作業を黙々とこなしていた。
クルウ・ストレイトアウトが取り仕切る死体安置所は死体で溢れかえり、ショボン・パドローネの提案でやむなく海賊の死体を海に投棄した。
警備員と探偵の人数が大幅に削れたことへの対処は、当日中に各ブロック長で話し合いの場を設けることとなった。

そう云った事後処理などの影響でしばらくの間は、第三ブロックを通ることは出来ない。
第一ブロックと第二ブロック。
第四ブロックと第五ブロック。
当面は、これらのブロック間の移動が頻繁に行われるだろう。

538名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:23:41 ID:CXsdzfUM0
行こうと思えば、屋上まで上がってそこから第三ブロック以外に自由に行くことが出来る。
既に好奇心旺盛な客達はそうやって移動をしているそうで、確かに言われてみれば、他とは違う興奮の仕方をしている人間がいる。
観察するべきポイントは、彼らの目と口だ。
目が何か目的の物を探している風でもなく、忙しなく動いたり、緩みそうな口元を無理矢理引き締めていたりと、観察し甲斐があった。

他人の不幸は蜜の味と云う言葉は、幸不幸は表裏一体であることを意味しているのだそうだ。
誰かが不幸になれば、それによって幸福になる人間がいる。
なるほど、その通りだ。
人は他人の不幸を前にして、やっと幸福を感じられるのだ。

海賊たちも、その考えでオアシズを襲ったのだ。
極端な話をすれば、狩りや釣りと同じ。
生きるために行動を起こしただけに過ぎない。
ただ奇妙なのは、彼らが持つ武器や兵器が似つかわしくないほど高価であること。

――と、オアシズ内で今起こっている事態について、つば広の黒い中折れ帽子を目深に被る女性は隣を歩く少年に向けて話した。
限りなく黒に近い灰色の髪は肩まで伸び、毛先に行くにつれて軽くウェーブしている。
深紅の瞳は影の中でも鋭く光り、周囲の細かな部分を注意深く観察していた。
女性は夏だというのに、黒いスーツとシャツ、糊の効いたスラックスの上に、同じく黒のロングコートを着ていた。

帽子とコートの下には、狼の耳と尻尾が隠れている。
いわゆる、耳付きと呼ばれる人種だ。
だが女性がそれを隠すのは、羞恥心やコンプレックスのためではない。
自らの容姿について多くを語らないが、それだけは断言できる。

この女性、ロウガ・ウォルフスキンは自らの容姿を誇りにしているのだ。
今の服装には意味があるのだと、手を繋いでいるだけで聞かずとも分かる。

リi、゚ー ゚イ`!「この事件、ブーンはどう考える?」

539名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:32:00 ID:CXsdzfUM0
ロウガは左手の先にいる少年に目を向け、意見を聞いた。
踝まである大きなカーキ色のローブに身を包み、ベージュ色のニット帽を被る少年は、ブーンと云う名を持っている。
彼はロウガと同じく獣の耳と尻尾を衣服の下に隠す、小さな旅人だ。
質問に対し、ブーンは素直な考えを口にした。

(∪´ω`)「ししょー、まだおわってないとおもいます」

確かに、海賊の撃退は完了した。
それが犯人の狙いなら、阻止できたことになる。
目論見は破綻した。
だがそれだけだ。

オアシズ内にいる内通者がまだ捕まっていない以上は、事件は終わっていないということだ。
事件の終了が犯人の確保を意味するならば、まだ終わっていない。
犯人が生きている限り、いつまた再起を図るか分からない。

リi、゚ー ゚イ`!「その通りだ。 では、それが分かっている状況で我々にできることは何だ?」

(∪´ω`)「はんにんをさがすこと、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「惜しい。 それも楽しいが、それは主たちに任せることになっていてね。
      我々が探すのは、犯人の目的だ」

確かに、ブーンは犯人が引き起こした事件にそこまで関わることが出来ていない。
海に投げ捨てられて以降、事件の概要は人伝にしか聞いていないのだ。
船内で誰がどのような動きをしているか、それが観測できていない以上、犯人に目星を付けることは出来ない。
最前線で事件と向き合っている人間こそが適任なのである。

(∪´ω`)「……あるじさんが?」

540名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:36:29 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、そうだ」

それ以上、ロウガは“主”について話すそぶりを見せなかった。
午前中に行った実戦訓練でブーンが負けたから仕方がない。
そういう約束だった。
主について聞くことは諦め、ブーンは自分達がやることを考えた。

犯人の目的を探す。
それは、犯人との接点が少ないからこそ可能な行動だった。
この事件を引き起こした犯人は愚かではない。
ならば、その真の目的についてそう簡単に表に出すはずがない。

ロウガの言葉がそのまま答えになっていた。
犯人の目的を探すという言葉は、海賊の襲撃が真の目的では無いと考えていると云うことだ。
ブーン達にできることは、高い位置から状況を見て犯人の真意を探ること。
事件から離れていなければできない動きだ。

これはこれで難しそうだが、ロウガが一緒ならば大丈夫だろう。

リi、゚ー ゚イ`!「そのためにも、まずは船全体を見て回ろう。
      幸い、ここは第一ブロック。 すなわち、船首側だ。
      大きな魚の頭にいるわけだ。 さ、食後の散歩を続けようか」

541名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:39:30 ID:CXsdzfUM0
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             ,. ===、、 o   ○o.  i       :::ト、
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             /./       .::::/   ::::l    |  __ ..... _::::|} ヽ l-、
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   / ,ノ:::;';';';';';';';';'/  /ヽ、二ニ-イ   ヾT ¨´ ,/;';';::`、. \';';';';';';';';';';〈::...
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     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
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第一ブロック一階はお祭り騒ぎとなっていた。
喫茶店や居酒屋が階を無視して出店を開き、それまで感じていた恐怖を忘れるように賑わう。
商売よりも乗客の心の傷を癒すために、全ての店が料金を取らなかった。
市長であるリッチー・マニーの配慮で、ハザードレベル5発令中と同様の処置が施されるとのことだった。

ロウガは屋台の一つに足を向け、“たこ焼き”なるものを購入した。
湯気の立ち上る丸いそれは、ソースとマヨネーズがたっぷりとかかっている。
食欲をそそる香りだ。
爪楊枝を刺して一つとり、ブーンに差し出した。

リi、゚ー ゚イ`!「食べてみなさい」

(∪´ω`)「お!」

542名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:45:26 ID:CXsdzfUM0
空気を口に含みながら咀嚼する。
とろりと蕩けた中身で上顎が火傷したのが分かったが、ソースの香りが生地と合わさり、中に隠れていた大きなブツ切りのタコを噛んだ時、それは気にならなくなった。
熱くて蕩けて香ばしい。
歯応えもある。

甘じょっぱいソースと生地の組み合わせの美味さもさることながら、一口サイズなのが嬉しい。
これならいくつでも食べられそうだ。

(*∪´ω`)「ほふほふ」

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、幸いなことに、このたこ焼きが目的ではなさそうだな」

ロウガも一つ食べて、残りをブーンに手渡した。
薄い紙で作られた船の様な奇妙な器に盛られたたこ焼きは、残り四つだった。
屋台から十ヤード離れる頃には、全て胃袋に収まっていた。
ゴミ箱にそれを入れて、二人は移動を続ける。

向かうのは、船首方向だ。

(∪´ω`)「どうしてこっちなんですか、ししょー」

リi、゚ー ゚イ`!「船を掌握したいなら、まずは操舵室か船尾のスクリューを狙う。
      で、最も近い場所が操舵室だからこちらに向かうんだ。
      最高レベルの厳戒態勢が敷かれているだろうけどね」

それでもそこを目指すというのだから、ロウガは自分の腕に相当の自信があるらしい。
まだ彼女が他の人間と戦う様子を見ていないため、その実力は分からない。
ブーンはこれまでに多くの戦う人間を見てきた。
ロウガの放つ雰囲気はブーンに自由を与えてくれた人に近いが、どことなく不思議な親近感がある。

543名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:49:48 ID:CXsdzfUM0
その為に、安心して素性も知らない彼女と共に行動が出来た。
命の恩人であるデレシアがお守りにくれたニット帽も、常に守られているような気がして、気に入っていた。
ロウガの足取りは早く、一歩が大きい。
彼女が歩いているのに対して、ブーンは小走りで付いていかなければならなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、甘い物も食べたいな。
       ひょっとしたら、犯人はこれが目的かもしれないぞ」

いきなりそう言って、ロウガはリンゴ飴と書かれた屋台に足を運んだ。
ブーンの拳程の大きさがあるリンゴを飴で覆ったお菓子だった。
ロウガはそれを二つ買った。

リi、゚ー ゚イ`!「食べるのは後だ」

エレベーターまで行き、それに乗って七階を目指した。
二人きりのエレベーター内で、ロウガが手短に言った。

リi、゚ー ゚イ`!「我々がやるのは、情報の入手、そして報告だ。
      手に入れた情報は逐一報告し、共有する。
      戦いにおいて情報の共有は重要な鍵を意味する」

(∪´ω`)「はい、ししょー。
      でも、どうやってじょーほーを?」

操舵室に入るのは不可能だろう。
それなのに、どのようにして情報を入手するのか。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、我々にしかできない方法だよ。
       エレベーターが七階に到着できるということは、封鎖されているのは出入り口だけのはずだ。
       なら、入らないで情報を知ればいい」

544名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:58:37 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)゛「お?」

ロウガの答えはよく分からなかった。
再び聞こうとしたが、その前にエレベーターが七階に到着した。
二人は無言のまま操舵室に近づき、五十ヤード離れた場所にある橋に設置されたベンチに腰掛けた。
操舵室の扉の前には銃を持った制服姿の男が二人立っている。

リi、゚ー ゚イ`!「リンゴは好きだろう? 私も好きなんだ」

状況に相応しくない質問をされ、ブーンは彼女の意図があるのだろうと考え、頷いた。
リンゴ飴を渡され、ブーンはとりあえずそれを舐め始めた。
ロウガは視線を前に固定したまま、質問をしてきた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、ブーン。 何が見える?」

視界に入っているのは壁と操舵室に続く扉。
武装した男が二人。
それぐらいだ。

(∪´ω`)「とびらと、おとこのひとがふたり、あとライフルです」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 ライフルで武装しているということは、その向こうに行かせたくないということだ。
      向こう側には操舵室がある。
      さて、操舵室がどんな状況か知りたいとは思わないか?」

(∪´ω`)゛「しりたいです」

545名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 19:58:50 ID:avS9kZEw0
支援

546名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:01:15 ID:CXsdzfUM0
それを知るために、こうしてここに来たことは分かっている。
犯人の目的の手がかりを掴むには、船全体の状況が分かっていた方がいい。
仮に犯人が操舵室を狙っているとしたら、あるいは、騒ぎに乗じて既に操舵室を襲っていたとしたら。
船が置かれている状況は、限りなく最悪と云う事になる。

だが、情報を手に入れるための方法が思いつかなかった。
距離は離れているし、中に入るための出入り口には警備がいる。

リi、゚ー ゚イ`!「封鎖は船長の独断だそうだ。
       これ以上、シージャックの危険を船に与えるわけにはいかないから、誰も入れない、という理屈らしい。
       しかしそれが真実かどうか、中で何が起きているのかを確かめる必要がある。
       会話が聞ければ僥倖だ。

       では方法は?」

(;∪´ω`)「ちからずくですか?」

ブーンの答えに、ロウガは小さく笑った。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、急いでいる時ならそれも有りだが、私はそれを好かない。
      あそこの二人、年齢は?」

(;∪´ω`)「え、えっと……さんじゅっさいぐらい、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「正解だ。 三十代前半だろうな。
      その判断材料は?」

(;∪´ω`)「かん、です」

547名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:04:56 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「いいや、違うぞ。 ブーン、君は感じ取って計算したんだよ。
      彼らの顔に刻まれた皺、匂い、呼吸音を。
      それらの情報から彼らの年齢を考え付いたが、それを勘と考えたんだ。
      勘と云うのはつまるところ、無意識下での計算だ」

(∪´ω`)「そうなんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうなのさ。
       加えて、我々には普通の人間よりも遥かに優れた耳があり、鼻があり、目がある。
       ならば、この距離で操舵室の情報を入手するのは不可能ではない」

だが限りなく不可能だ。
今の自分に、果たしてその様な芸当が出来るのだろうか。
そう考えているのが分かったのか、ロウガはまっすぐに目を見つめて言い切った。

リi、゚ー ゚イ`!「意識と訓練の問題だ。 まずは聴覚情報。
      耳に意識を集中させろ。 扉の向こうに入り込む様にイメージするんだ。
      難しければ、目を閉じろ」

言われた通り、ブーンは目を閉じて耳に意識を集中させた。
様々な音の情報が聞こえる中、前方の音だけを選別する。
思えば、日常生活の中で無意識の内に音を選別するようになっていた。
そうしなければ、うるさすぎて眠ることもできなかったのだ。

音の情報が形となって、不鮮明な映像を瞼に浮かべさせた。
人の息遣いと跫音が位置と姿、性別、体重、精神状態を教える。
反響する跫音が建物の壁と柱の位置を教える。
次第に、操舵室の前に立つ男達の姿が浮かんできた。

548名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:08:50 ID:CXsdzfUM0
その先に、三人分の息遣い。
それ以上は聞こえない。
それでも確かに内部の情報が手に入った。

リi、゚ー ゚イ`!「さぁ、次は嗅覚情報だ。
       これが出来るようになれば、今後の人生でかなり役立つ。
       一階から立ち上ってくる匂いは飲食店のそれだ。
       それと混じった匂いの中から、明らかに飲食系の物ではないものを探し出せ」

ロウガの香り。
リンゴの香り。
誰かが残した匂いのきつい香水。
その中から、血の匂いを嗅ぎ取った。

(∪´ω`)「ししょー、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「上出来だ。 つまり、血が流れるはずのないブロックで血が流れている。
      それが意味するのは?」

(∪´ω`)「きづかれないように、ちをながすことがおこった?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 操舵室から漂う匂いかは分からないが、少なくともこの階層で血が流れた。
      それも少量じゃない。 操舵室が襲われたとの情報は聞いていないが、これは知っておいた方がいいな」

自分でも驚きだった。
扉を開けずに部屋の中の状況を知るなど不可能だと考えていた。
だが、自分には出来ることがあった。
無力ではないのだ。

549名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:12:32 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「これが、我々の持つ力さ。
      ここではこれ以上の情報を得るのは難しいだろう。
      さ、裏付けだ」

ロウガに促され、二人は操舵室前に向かった。
警備に立っている男二人が、すぐにその視線と注意を二人に対して向けた。
近づくにつれて、血の匂いがより鮮明になってきた。
血の発生源は紛れもなく、操舵室だ。

そして、警備している二人からも血の匂いがした。
操舵室前を通過して、エレベーターに乗る。
エレベーターで屋上へ行く途中、ロウガから再び問いがあった。

リi、゚ー ゚イ`!「どうだった?」

(∪´ω`)「あのふたりからも、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「奇妙な話だ。 第一ブロックでは銃撃戦が起こっていないのに、警備員が血の匂いをさせている。
       さぁ、これはどう云うことだろうか」

ロウガは先ほどから幾度もブーンに質問をして、答えるのをじっと待っている。
この奇妙なやり取りは、ペニサス・ノースフェイスの授業形式にとてもよく似ていた。

(∪´ω`)「けがをしたんじゃなくて、けがをさせた?」

リi、゚ー ゚イ`!「その可能性が高い。 いずれにしても、あの二人が血の匂いをさせているのは事実だ。
      屋上に行き、別の情報を収集しよう」

550名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:16:31 ID:CXsdzfUM0
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          ‥…━━ August 6th PM14:04 on the penthouse━━…‥
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人工芝の敷かれた屋上に白いパラソルを広げ、その下に並ぶ白い椅子に深々と腰掛けて酒を片手に海を眺める人がまばらにいるだけだった。
警備員が二人、銃と棺桶を持って待機している。
この場所はどこのブロックにも属さないために、封鎖はされていない。
主に飲み物の屋台が出店していて、よく冷えた酒やジュースが振舞われていた。

柔らかな潮風が運ぶ夏の空気は涼しかった。
日差しは強く、果てしなく続く青空の眩しさに目を細めた。
一面に広がる大海原。
水平線の果てに浮かぶ大きな入道雲に心を奪われ、その先に向かって歩いてみたいと云う気持ちが生まれる。

今、自分は旅の途中。
あの水平線の向こうに行くことも、出来るかもしれない。
正面から吹いてくる冷たい潮風はローブの中にも入り込み、ブーンの体を冷やしてくれる。
少し肌寒く感じるほど、風は冷ややかだった。

日差しの強さと風の冷たさのアンバランスさが、気持ちよかった。

リi、゚ー ゚イ`!「良い風だ。 さて、ここでは匂いを元に何かを見つけるのは期待できない」

質問される前に、ブーンは自分の思う正解を口にする。

551名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:19:53 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「かぜと、うみのにおいがあるからです」

屋上は先ほどと比べて環境が大きく違う。
風が強く、匂いが分散してしまっている。
尚且つ、潮風と云う海の匂いの運び手がいるために、弱い匂いはたちどころに上書きされてしまうのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「いいぞ、その調子だ。 では、何を頼りにするべきだと思う?」

(∪´ω`)「め、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 まぁ、折角だから飲み物でも飲んで観察するとしようか」

手近な屋台でロウガはミントジュレップ――砕いた氷をぎっしりと詰めたミントの香りがするカクテル――を注文し、ブーンにはオレンジジュースを頼んだ。
ストローの刺さった大きなグラスを持って、二人はフェンス沿いの席に腰掛けた。
勧められるままにジュースを飲み始める。
オレンジの独特の甘味と酸味、そして果肉の食感が美味しかった。

リi、゚ー ゚イ`!「うむ、美味い。
       しかし、もう少しミントの風味が欲しいところだ」

特に慌てる様子もなく、ロウガは優雅にストローでカクテルを飲む。
その目線は、ブーンと同じく空に向けられていた。
ロウガも、あの入道雲に想いを馳せているのだろうか。
胸を締め付けられるような、この奇妙な感覚に胸を痛めているのだろうか。

ここではないどこか。
自分の知らないどこか。
誰も見たことのないどこか。
世界の果てを知りたいと、そう思っているのだろうか。

552名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:24:09 ID:CXsdzfUM0
ゆっくりと三口飲んだところで、ロウガはゆっくりとブーンに目を向けた。
深紅の瞳の奥に宿る光は、何を考えているのかを悟らせない。
だが優しげだった。
言葉よりも雄弁に、ロウガの眼は多くを語る。

今、ブーンは試されているのだと。

リi、゚ー ゚イ`!「講義の続きだ。 先ほどは聴覚と嗅覚を使った情報収集だが、今回は視覚だ。
      今、見るべき物は?」

ブーンは考えた。
目の前には多くの情報があるが、犯人の目的に直結する情報は砂浜で砂鉄を探すようなものだ。
情報を絞る必要がある。
絞った上で、観察すべき対象を決めるのだ。

(∪´ω`)「ひと……じゃないです。
      じめんとか、ですか?」

そう答えを出した理由は、情報が持つ鮮度の問題だ。
海賊襲撃の際、この屋上は閉鎖されていた。
警備員がいたかもしれないし、海賊がいたかもしれない。
ならば、何かしらの情報が残るとしたらそれは地面などの構造物に限られる。

流動的な人間を観察しても、成果はまず得られないだろうと考えたのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「……その通りだ、ブーン。
      取り分け、警備員の近くだ。
      彼らが動いていないことに気付いたか?」

二人の警備員は、左舷の縁一か所に固まって立っていた。

553名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:29:49 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「では、今から三分間様子を観察するといい。
      いいか、足元だ。
      警備員は動いてその場所の安全を保つのが仕事だと、頭に入れておきなさい。
      動こうとする人間は、目の次に足を動かす」

言われた通り、ブーンは警備員の足元に注意を向けた。
オレンジジュースを飲みながら。
潮風に耳を傾けながら。
注意深く、足元を観察した。

三分の間、彼らはただの一ミリたりとも足を動かそうとはしなかった。
動くつもりがまるでない。

(∪´ω`)「うごきたくないだけかもしれませんお」

リi、゚ー ゚イ`!「緊急事態において動きたくない理由は、怠惰ではない。
      そこに人を近寄らせたくないからだ」

警備員の後ろには、転落防止用の柵が後ろにあるだけだ。
何故、そこに近寄らせたくないのか。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、人工芝の形状は見ての通り入り組んでいる。
       一度汚れてしまえば、短時間で掃除をするのは困難だ」

目を凝らして警備員の足元を見る。
人工芝の影に、赤黒い染みを見つけた。
ここで戦闘があったことを意味する証拠だ。
だがそれを隠す意味は何だ。

554名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:33:21 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、なるほどね。
      ブーン、ここで少し待っていなさい。
      私は報告と、少し確認することがある」

ブーンの頭を軽く撫でて、ロウガは席を立った。
柵から覗き込んでその下にある何かを確認し、反対側も同様に確認。
それから、船首部分から船尾に向かって大きな歩調で進んで行った。
言われた通りにそこで待つことにしたブーンは、引き続き観察を続けることにした。

ただし、今度は目ではなく耳を使うことにした。
観察していることを悟られないように、視線は空と海に。

(∪´ω`)「お?」

その時。
ブーンは水平線の彼方に浮かぶ入道雲の向こう。
果てしなく続くその先に、極小のビル群を見たような気がした。

(∪´ω`)「……?」

瞬きをした次の瞬間、それは消えた。
どうやら、パラソルの下で男が読んでいる本の表紙がビルだったために、勘違いをしたらしい。

リi、゚ー ゚イ`!「お待たせした。
      確認ついでに主に話をしておいた。
      これで、我々が手に入れた情報が向こうで役立つだろう」

主とは何者なのだろうか。
犯人の目的も気になるが、今のブーンには、そちらの方が興味深かった。

555名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:37:12 ID:CXsdzfUM0
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                               x≠:.:ミ、
      ,、zxz 、                    ,{ 狂三ミ }z≠-ミ    _  ィ=ミx
      ト,:::::::ハ                      ‘f  ム-イハ ィ乍ハ  ぃぐ/ミ=-}.ィ=-}
     f゚ '^¨ト、_L -ミ             ,、 n    ア:::::::::::〈 ム_ムz.〈災什ミ=-ム_.ム_
 __,、  ヒ ./:::::::{ ,、  ヽ            〈 ` }   ./:::::;::::::::└ァ':::::::::::::ト, ム三匕_/:::::::::::::
.〈 .ハ    `):::::::T:::::ヽ ヽ         `ヽ `ーヤミ/ヽ:::::::ノ::::::;:::::::::::L人/::::::::::::::\ー 、::
     ‥…━━ August 6th PM14:15 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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第三ブロックの復旧作業はまだ続いていた。
主に死体処理が大きな障害となっていて、探偵と警備員はその作業に駆り出されていた。
ショボン・パドローネは作業補助を得意とする強化外骨格“マハトマ”を装着し、海賊の死体を運んでいた。
人間の腕力だけで作業をしていては時間が掛かる上に、腰に負担が掛かるからだ。

マハトマはレリジョン・シリーズと呼ばれる軍用強化外骨格で、戦闘向きではない。
物資の運搬や作業に特化しているために、普段は船倉内での作業に使われていて、従業員は自由にそれを使える。
地面に散らばるガラス片で怪我をすることもないし、重い瓦礫を撤去するのにも適した棺桶だ。

(´・ω・`)「ふぅ……」

ベッドメイクの際にリネンを回収するカートには、血みどろの死体が乱雑に詰められている。
ショボンはそれを両手に一台ずつ持って、死体投棄場所を目指していた。
死体を回収してカートに詰める道中で、ショボンは損耗の大きさに驚いた。
探偵、警備員の死傷者は三桁。

報告書によれば頼みの綱であったジュスティア軍“ゲイツ”は全滅し、司令官も死亡した。
四十二人の勇猛果敢な兵士は死体安置所に収容され、ジュスティアへの無言の帰宅準備を整えている。
長距離無線でジュスティア軍に被害を報告したところ、最初の襲撃で全滅を告げる連絡があったとのことだ。
色々と予定から狂ってしまったが、ここからならまだ修正が出来る。

556名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:42:37 ID:CXsdzfUM0
死体廃棄場所となっている第一ブロック警備員詰所非常口には、先客がいた。
ベニー・ジンジャー。
探偵の同僚だ。

(´・ω・`)「やぁベニー」

「ショボンか、無事だったか」

ベニーはカートから死体を取り出しては、海に放っている。
その隣に並び、ショボンは彼の戦果を褒めた。

(´・ω・`)「実戦は初めてだったんだろう?
     すごいじゃないか」

「あぁ、だけどトーマス達が……」

トーマス・“ブルーフェイス”・トレインはベニーの旧友だ。
いつも二日酔い状態の顔色をしていることから、ブルーフェイスの渾名が付けられた。
トカレフ自動拳銃を愛用していたが、自動小銃の前には無力だった。

(´・ω・`)「彼らの死を悔やむよりも、その死をどう活かすか、さ」

死体を海に捨てながら、ショボンはそう言った。
人の死は避けようのない現実として、誰にでも訪れる。
それを乗り越えるためには、その死を自分なりに解釈してやる必要がある。
特に、親しい間柄ともなればそれは絶対に必要だ。

カートを置いて、ショボンはその場を去った。

(´・ω・`)「……さて、犯人でも見つけますかね」

557名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:47:24 ID:CXsdzfUM0
ショボンは自分の任務を果たすために、第三ブロック内の捜査を始めることにした。
ここからが彼の本職だ。
死体が大量にある中で、尚且つ死体を処理していては推理をするのは難しい。
まずは一度自分に相応しい場に変えてから始めるのが推理の鉄則だ。

ショボンの中で、犯人の候補として挙がっているのは三人。
第一ブロック長、ノレベルト・シュー。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
そして市長、リッチー・マニー。

当然なことながら、犯人の目的は海賊に船を襲わせることだ。
それによって利益を得ることが出来る人間は、ノレベルトとリロースミスの二人だ。
オアシズの鍵である市長を捕らえれば、多額の現金を手に入れることが可能になる。
金以外にこのオアシズに狙いはないはずだ。

だが、オアシズには多額の金が眠っている。
オアシズの運営に充てられるだけの膨大な金だ。
人を狂わせるだけの金。
マニーを犯人候補に挙げたのは、彼が被害者を装って海賊と協力し合っている可能性もあるからだ。

現に、保険金を手に入れるために銀行員が保険屋と手を組んで、わざと銀行強盗をさせる例がある。
誘拐事件でも同様だ。
オアシズが契約している保険会社は誠実なところだが、どんな物事にも例外はある。

(´・ω・`)「バーは開いてるかな?」

ショボンはバーボンウィスキーが好きだった。
飲み始めたきっかけは、男らしいからという単純な物だったが、今ではその甘い風味が病みつきになっている。
逆に、スコッチウィスキーが嫌いだった。
匂いが独特で、どうしても好きになれなかったのだ。

558名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:50:20 ID:CXsdzfUM0
考え事をする時。
情報を仕入れる時。
酒は大きな力を与えてくれる。
第三ブロックにある酒場で、美味いバーボンを出してくれるのは“ジムマーク”だ。

モップで血を洗い流す人の間を、軽い挨拶を交わしながら歩いていく。
店の電気は消えていた。
木製の扉には弾痕。
窓ガラスは砕けていた。

(´・ω・`)「あらら……
     マクフライ、生きてるか?」

店の中に声をかける。
ぼろぼろの扉が開いて、マクフライ・モーガンが顔を出した。

「肩に一発ぶち込まれたけど、どうにか生きてるよ」

(´・ω・`)「年代物の散弾銃で刃向うからさ。
     レバーアクションはもう古いよ」

「あれがいいんだよ、探偵」

マクフライは警備員の一人だ。
ただし、彼の場合は臨時の際にだけ警備員として働くことになっている。
選択は自由だったが、彼は第三ブロックで長い間店を出してきたこともあり、ぜひ戦いたいと志願したのだ。
彼は自分の店で戦うことを選んだ。

559名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:55:38 ID:CXsdzfUM0
その結果、マクフライは第三ブロックの復旧に手を貸すこととなり、自由に出入りが出来る立場にいた。
まだ第三ブロックは封鎖体勢が解除されていないが、彼は復旧に手を貸すために店を開けていた。
このブロックで酒が飲めるのは、彼の店を置いて他にはないはずだ。

「オープンは当分先だが、あんたは特別さ。
入りな、探偵」

(´・ω・`)「すまないね」

「昼間っから酒を飲む探偵は、お前ぐらいさ」

証明が銃弾で破壊されたため、店内は薄暗かった。
薄らと見える、砕けた酒瓶と銃弾が抉った木のカウンターが痛々しい。

(´・ω・`)「ジム・ビーム・プレミアムをもらおうかな」

「他には?」

(´・ω・`)「いや、ストレートのダブルで頼む。
     チェイサーはいらない」

埃を被った酒瓶を棚から取って、マクフライはその栓を抜いた。
グラスに注がれる琥珀色の液体は、甘い香りを漂わせる。

(´-ω-`)「嗚呼、これだよ、これ」

唇の先を湿らせるほどの少量を飲んで、その風味を味わう。
鼻から息を抜くと、その香りがよく分かる。
甘い香りは気分を落ち着かせてくれる。
その時、ドアが軋む音を立てて開いた。

560名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 20:58:39 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「店主、俺もいいか?」

そう言いながら現れたのは、トラギコ・マウンテンライトだった。
確かに彼は第三ブロックで戦っていた。
今ここにいるのは不自然ではない。
同僚からの報告によれば、コンセプト・シリーズの棺桶を駆使し、海賊たちを輪切りにしたとのことだ。

了承を得ずにカウンター席に座ったトラギコは、ショボンを一瞥もしなかった。

(=゚д゚)「スコッチだ。 アードベック・ウーガーダールをストレートで」

(´・ω・`)「トラギコ君、昼間から酒とは感心しないね」

(=゚д゚)「うるせぇラギ。
    自分の手元を見てから言えラギ」

(´・ω・`)「不機嫌だね、大丈夫?」

いつもは不要な火種を撒き散らさないトラギコが、いつになく不機嫌だ。
何かが彼の身に起こったのだと考え、ショボンは話を聞くことにした。

(=゚д゚)「あんたも知ってるだろ。
    俺はバーボン野郎が嫌いなんだ」

ベニーは雰囲気から状況を察して、無言でアードベックを注いだ。

(´・ω・`)「そのことでは随分と意見が食い違ったね。
     だけど君は人の好みで喧嘩を吹っ掛けるようなことはしない。
     何があったんだい?」

561名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:01:20 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「喋りたくないラギ」

グラスを傾けて、トラギコはスコッチを半分飲んだ。
ペースが速い。
いつになく不機嫌だ。

(´・ω・`)「君は昔からそうだ。
     何かあると自分の中だけで解決しようとする。
     良い姿勢だとは思うが、たまには僕を頼ってもいいんじゃないかな?
     十五年前の“CAL21号事件”でも、そうだっただろう?」

次の瞬間、ショボンは胸倉を掴まれて持ち上げられていた。
利き手でない左手で大の男一人を持ち上げる腕力もさることながら、その速度も素晴らしい。
右手は懐にあったベレッタM8000を自らの腋の位置で構え、撃鉄も起きて安全装置も解除されている。
動きが鈍るどころか、磨きがかかっている。

流石はトラギコだ。
“虎”の渾名は伊達ではない。

(#=゚д゚)「いいか老いぼれ、俺の前でその事件の事を口にするんじゃねぇラギ。
     特に、手前にみたいな元糞同僚に言われるのが一番嫌いラギ」

(´・ω・`)「……せめて、銃は止めてくれないかな?」

両手を上げて無抵抗を強調するが、トラギコの眼から殺意は消えない。
想像以上に怒らせてしまったらしい。

(#=゚д゚)「なら、口の利き方には気を付けろ。
     こいつは俺よりも気が短けぇし、ちょっとしたことで熱くなりやすいラギ」

562名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:07:07 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「悪かった。 確かに、僕にはあの事件を語る資格はない。
     本当にすまなかった」

今から十五年前の話だ。
トラギコが特徴的な頬の傷を作るきっかけとなった事件。

(#=゚д゚)「いいか、次は殺す。
     警告なしで肺をぶち抜いて、両手足をぶった切る。
     あんただから一度だけ警告してやったが、次はねぇラギ」

ショボンを突き放して、トラギコは残ったスコッチを一気に煽って出口に向かった。

(´・ω・`)「もういいのかい?」

(=゚д゚)「……血の匂いのするマハトマを外してない奴と、これ以上同じ場所にいたくねぇラギ」

店を出て行ったトラギコの背中を見送って、ショボンは彼の抜け目のなさに驚いた。
頭に血が上って行動していながらも、冷静な観察力の持ち主だ。
彼の座っていた席に目を向けると、白い名刺サイズの紙が置かれていた。

(´・ω・`)「……ん?」

手に取って裏返して見ると、そこには場所と時間が書かれていた。
それは、パーティーへの招待状だった。
恐らくは事件終結のためのパーティーだ。

(´・ω・`)「午後六時に、第三ブロック一階会議室……」

563名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:13:18 ID:CXsdzfUM0
ショボンはバーボンを一気に飲み干して、店を出て行った。
まだ推理は終わっていない。
時間まで、約三時間半。
パーティーの時間までにやるべきことは分かっていた。

(´・ω・`)「探偵ってのも、楽じゃないね」

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       ‥…━━ August 6th PM18:00 on the in the 3rd block ━━…‥
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部屋の空気は冷たかった。
エアコンの設定温度は二十四度。
快適なはずだった。
しかし、確かに空気は冷たかった。

その部屋に集められた、もしくは集まった人間は全部で十人だった。
彼らの共通点は、招待状を受け取っている事だった。
招待状を受け取った人間は全員、その部屋にいた。
ただの一人も逃げることなく、遅れることなく、時間通りに席について円卓を囲んでいた。

564名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:17:28 ID:CXsdzfUM0
第三ブロック会議室。
最早説明の必要もなく、そこは決着の場と化していた。
第一ブロックから第五ブロックまでの各代表者、五名。
第一ブロック長代理、ライトン・ブリックマン。

ライトンの隣に第二ブロック長、オットー・リロースミス。
続いて第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。
第四ブロック長、クサギコ・フォースカインド。
第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。

ブロック長陣の対面に、市長、リッチー・マニー。
探偵、ショボン・パドローネ。
刑事、トラギコ・バクスター。
解剖学者兼検死官、クルウ・ストレイトアウト。

そして、一般客のデレシアが席についている。
息の詰まる程の沈黙を破ったのは、市長だった。

¥・∀・¥「突然の招集にもかかわらず、よく集まってくれた。
      ここに呼んだのは、このオアシズで起こった事件を終わらせるためだ」

マニーの発言に、誰も驚かなかった。
誰もがそれを予期して覚悟していたのだ。

¥・∀・¥「海賊の行動を見るに、それなりの立場の人間の中に、内通者がいる。
      ハザードレベル5の限定解除をしたのが、第三ブロックであるのを知っていたことから明白だ。
      裏切り者か、或いは元からそれが目的で潜入したのかは分からない。
      だが、海賊に手を貸すために罪のない常客を殺し、オアシズの船員にも犠牲者を出した。

      ……ショボン・パドローネ、推理は出来たかい?」

565名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:22:29 ID:CXsdzfUM0
指名をされ、マニーの隣にいたショボンが立ち上がった。
人を集めた場で推理を披露させられることは経験と立場上、予期出来ていた。
だから事前に情報を集め、整理をして、推理もしてきた。
その為、黒皮の手袋を嵌めた手には数枚の紙があった。

時間までに集めた証言、証拠がそこには書かれている。
これが、ショボンの武器となる。
準備は万全だった。

(´・ω・`)「ではこれより、この事件を終わらせます。
     ……どうか、ご協力をお願いいたします」

ショボンは咳払いをして、久しぶりの推理に心を躍らせた。
集まった人間は一人を除いて、彼の話に耳を傾け、目を向けていた。
唯一、金髪碧眼の旅人だけは美味しそうに紅茶を飲んで、時折横目でショボンを見ている。
まぁいい。

こちらの推理を聞く内に、彼女も理解するだろう。
ショボン・パドローネが暴く真実を。

(´・ω・`)「事件の始まりは、当船の従業員であるハワード・ブリュッケンが殺害されたことでした。
     知っての通り、彼の死体は関節を無視して破壊され、足の付け根を切って血抜きをされた上に頭を撃たれていました。
     ここまでは、いいですね?」

全員が無言の同意を示す。
最初の被害者、ハワード本人の事はあまりよく知らない。
しかし、彼の事を知る人間から話を聞く内に、彼の事がだんだんと好きになった。
まるで自分の友人のように、ショボンは犯人に対して憎しみの感情を抱いた。

まずは状況の再確認からだ。

566名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:25:49 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「被害者の住んでいる第三ブロックの監視カメラは、事件時には作動していなかったことが分かっています。
     死体からは毒物が確認され、身動きが取れない中で殺された。
     クルウ、そうだね?」

ショボンは二つ隣のクルウにそう話を投げかけた。

川 ゚ 々゚)「えぇ、そうよ。 人工の毒で即効性が高く、ほんの少量で身動きを奪うってやつ。
     だから痛覚はそのまま、意識もそのまま。
     きっと殺された時も同じよ」

(´・ω・`)「毒はどこから検出されたんだい?
     つまり、何を媒介にして摂取させられたか、ってことだ」

川 ゚ 々゚)「飲食物よ。 彼が飲んだお酒に入っていたわ。
      銘柄や種類は分からないけど、アルコールと一緒に検出されたのは確かだわ。
      でも、現場には毒入りの飲食物が何も残されていなかった」

それからショボンは、現場にビールの空き缶とウォッカの空き瓶が転がっていた事を説明した。
鑑識に回したが、どちらからも毒は発見されなかった。
ショボンは犯行後に犯人が毒を混入した酒を回収したのだと、自分の推理を補足事項として話した。
それなら、証拠が残っていないことに説明がつくのだ。

誰も、彼の推理に茶々を入れることはしなかった。
この段階まで全員が納得しているという意味だ。
次に、毒の混入に関わる情報の説明に入る。

567名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:29:27 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「さて、その酒ですが、殺害前日に詰所で同僚と賭けをした際に譲り受けたものだと云うことが分かっています。
     同僚の目撃証言で裏は取れています。
     オルェイ・マケバッカス、賭け好きの男で独身、借金は過去にはありましたが、現在はゼロ。
     新品のビールと開封済みのウォッカを賭けたそうですが、毒の混入については否定しています。

     彼の部屋を捜索しましたが、毒は見つかりませんでした」

毒はいくらでも隠せる。
特に液体ともなれば、下水にでも流してしまえばそれまでだ。
彼を犯人だと勘違いさせないように、ショボンはすぐに強調した。

(´・ω・`)「ですが、彼は犯人ではありませんし、毒を混入してもいません。
     その根拠は、彼には賭けの記憶があった点と、殺害予想時間には同僚とポーカーをしていました。
     複数人が証言しています。
     完璧なアリバイがあるんです」

彼の無実を証明するためにも、これは重要な証拠だった。
時にアリバイは物証よりも信憑性を持つことがある。
特に、複数人からのアリバイ証言は現場に残された時計よりも信頼することが出来る。

(´・ω・`)「では誰が、どの段階で毒を混入したのか?
     答えは簡単でした。
     その日以降、船倉の詰所で目撃されていない人物がいるのです。
     ジャック・ヒューストン、という人物です」

後に調べた結果、そのような名前の従業員はいないことが分かったとも付け加えた。

568名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:32:36 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「その人物は恐らく、オルェイの酒がロッカーに入っている段階で毒を混入したのでしょう。
     船倉の詰所なら、それは容易です。
     更に言えば、詰所なら第三ブロックのカメラを機能させなくすることが可能なのです。
     ここまででお分かりかと思いますが、犯人は変装を得意とし、船の警備構造を熟知している人物です。

     該当する人物はただ一人、ノレベルト・シューなのです」

確たる証拠を繋ぎ合わせることで、ノレベルトの足跡がハッキリと浮かび上がった。
長々と推理を披露したが、犯人の一人目はノレベルトであると理解されれば十分だ。

(´・ω・`)「ハワード氏を死に至らしめた銃弾を回収して線条痕を調べたところ、ノレベルト氏の持つ銃と一致しました。
     続いて第二の事件、警備員詰所の事件です。
     この事件で分かったのは、犯人は棺桶の操縦に長けているということです。
     ですが思い出してください。

     この襲撃の前にサイタマ兄弟が襲われるという事件が起こりました。
     ノレベルトは格闘術に長けているとは言えませんでしたし、何より、棺桶を使うことも出来ませんでした。
     これは、探偵なら誰もが知る事実です。
     彼女は格闘テストに四回、落ちているんです」

腕を隠すためにそのような演技をしていた可能性もあるが、探偵免許取得のための試験で落ちたことを考えるとそれは低い。

(´・ω・`)「第二の事件と第一の事件では、実行犯が異なるとしか考えられません。
     共犯者がいるのだと、私は考えました。
     そうでなければ、“三銃士”たちを襲えるはずがない。
     棺桶一機で警備員詰所を襲撃、殲滅するなど、とてもではないが無理です。

     第三の事件、801号室の毒殺にも手を貸す事が出来た人物こそが、共犯者なのです」

共犯者、という言葉に数人が動揺を見せた。

569名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:36:40 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「そう、我々の中に共犯者がいるのですよ。
     ノレベルトを匿い、海賊を手引し、道具を調達した人間が。
     偽りの忠誠心で捜査をかく乱し、多くの人を殺した愚劣な人間が、ここにね」

ここからが本質。
ショボンが時間をかけて調べていたのは、ノレベルトの人間関係だ。
彼女と協力してこの船を恐怖と混沌に陥れ、互いに利益を得ようとした卑怯者。
その人物を探していたのだ。

彼女の人間関係は非常に広く深かった。
関係者に彼女の話を聞くと、口を揃えて彼女は健全で真面目な人間だったと語る。
異性関係もなく、そのことで焦りを見せることもなかったという。
つまり、出会ったばかりの男に唆されて動くような人間ではなかったのだ。

何が彼女を変えてしまったのか。
それは時間だ。
時間と出会い、そして影響が全てを変えたのだ。
複数の情報筋から手に入れたのは、彼女が最近ある男と頻繁に出会っていた目撃談だ。

両者に尋ねても否定されるばかりで答えは出なかったと言うものの、その鮮烈な姿は目撃者の記憶に残されている。
静かに息を吸って、ショボンはその人物を見つめた。
自分は大丈夫だと安心しきった顔だ。
この瞬間からショボンの目は撃鉄。

言葉は弾丸。
激情は炸薬。
そして口は、銃口と化す。
狙いは対面にいる男。

570名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:41:12 ID:CXsdzfUM0
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(´・ω・`)「ねぇ、オットー・リロースミスさん」













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571名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:44:27 ID:CXsdzfUM0
£;°ゞ°)「はぁっ?! な、何を言い出すんだ、ショボン!!
       私が共犯? おいおいおい、冗談はよしてくれ!!」

普段の冷静な態度はどこへやら。
取り乱したロミスに、ショボンは追い打ちをかける。

(´・ω・`)「おやおや、随分と慌てていますね」

£;°ゞ°)「当たり前だろう!! いきなり人を犯人呼ばわりして、君、正気か?!」

(´・ω・`)「正気ですよ、私は常に。
     ではお尋ねしますが、海賊迎撃中、貴方はどこにいたのですか?」

£;°ゞ°)「そ、それは……」

ショボンは偶然、彼が海賊迎撃中に第三ブロック内を移動している様子を目撃している。
彼を除くブロック長陣が一か所に集められているにも関わらず、だ。
何か答えられない事情があったのは明白だ。

(´・ω・`)「大方、海賊とお話をしていたのでしょう。
     ちなみに分け前は?」

ロミスは真っ青にしていた顔を赤くして、激昂した。

£#°ゞ°)「ふざけるのも大概にしたまえ、探偵!!
       私がやったという証拠がないだろう?!
       私がノレベルトとつるんでいるという証拠もないだろう?!
       いい加減な捜査と推理で、人を貶めるのが君の仕事かね!!」

572名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 21:44:29 ID:avS9kZEw0
支援

573名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:03:42 ID:CXsdzfUM0
今にも掴みかからんばかりの権幕で、ロミスは机の上を叩いた。
その様子にほとんどの人間が驚いた。
デレシアは眉一つ動かさずに、紅茶を飲んでいた。
トラギコは爪を眺めていた。

(´・ω・`)「あるんですよ、証拠が」

£;°ゞ°)「う、嘘だ!! そんなもの、あるはずがない!!」

(´・ω・`)「貴方の部屋で、一つの薬莢が見つかったんですよ。
     貴方のベッドの下にね」

真空パックの中に入った薬莢を机の上に置く。
あるはずのない証拠品を見て、ロミスは言葉を失った。
顔面蒼白のロミスは、誰かに助けを求めようと目を動かす。
誰も彼を擁護しない。

哀れな姿だ。

(´・ω・`)「そして、この薬莢は最初の事件、つまりハワードの殺害に使われた物であることが分かっています。
     これは、貴方がノレベルトと関係を持っている事を雄弁に物語る証拠です」

一発の銃弾。
探偵たちが意地になって下水の中からそれを見つけなければ、その薬莢が事件と関連性のあるものだとは分からなかった。
真実を語ってくれたのは、その銃弾だったのだ。

£;°ゞ°)「あ、有り得ない…… 私は、私は!!」

(=゚д゚)「共犯ってことは、主犯がいるんだろう?」

574名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:07:32 ID:CXsdzfUM0
やっとトラギコが推理に口を出してきた。
これが推理の醍醐味だ。

(´・ω・`)「あぁいるさ。
     本来この場にいなければならない男の事が、分かるかい?」

(=゚д゚)「探偵長、“ホビット”のことラギか?」

トラギコなら、必ずその名前に辿り着くと信じていた。

¥;・∀・¥「彼が、あの“ホビット”が?!
      彼はこの船のために何年も――」

(´・ω・`)「欲望の前に、年月も情も意味はないんですよ。
     彼なら今頃、海賊の乗ってきた船で優雅にシャンパンでも飲んでいるでしょう。
     ……気づくのが、少し遅かった」

目頭を押さえ、ショボンは深い溜息を吐く。
推理において、犯人を追いつめる際には慎重にならなければならない。
それと同時に、より強烈な発言も必要となる。
致命的とも言える、決定的な矛盾。

それを指摘してやることこそが、推理においての詰みの作業だ。
ただしこれは初手としては使えない。
事前の下ごしらえとして幾つもの細かな前提を用意した上で、初めて効果を発揮する切り札なのだ。

(´・ω・`)「更にもう一つ」

£;°ゞ°)「な、何だ」

575名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:12:15 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「貴方、そこのデレシアさんの部屋を間違えて記憶していましたね。
     彼女の部屋が801号室だと勘違いをしていた。
     毒殺された人は、勘違いで殺されたのです」

£;°ゞ°)「あ……あっ……」

ロミスはショックのあまり、それ以上言葉が出てこない様子だ。
音もなく席を立ったショボンは、ロミスの傍に歩いていく。
彼は数歩後退ったが、ショボンは彼の腕を素早く掴む。
自殺などされたら事だ。

探偵の本分とは、犯人を殺さずに生け捕りにし、死よりも辛い思いをさせることにある。
ロミスの腕を引いて、マニーの隣まで連れて行く。

(´・ω・`)「……市長、これ以上の被害拡大を防ぐために、彼を船倉房に連れて行こうと思います。
     お手数ですが、ご同行していただいても?」

マニーは深い溜息を吐いた。
一度だけロミスの顔を見たが、直ぐに下を向いた。

¥・∀・¥「……仕方あるまい」

動機についてはまた後で聞けばいい。
今は、この男をマニーと共に船倉に連れて行くだけだ。

(´・ω・`)「続きは下で聞こう……さ、行くぞ」

これで、長く続いた惨劇も終わる――

576名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:17:11 ID:CXsdzfUM0
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ζ(゚ー゚*ζ「あら、茶番はもうお終いなの?
      これだけ待たせておいて、随分と荒っぽい推理ね」

――はずだった。

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                    Now, it's time to do.
                  さぁ、答え合わせの時間よ。

Ammo→Re!!のようです                           Ammo for Reasoning!!編

                  第十章【Reasoning!!-推理-】

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デレシアの発言に、ショボン・パドローネは静かに反応を示した。
上半身と視線をデレシアに向け、口を結んで待っている。
不満に感じているわけではない。
彼は先ほどまでのデレシアと同じく、待ち望んでいるのだ。

好奇心を満たし、納得させ得る推理を。
推理とは料理だ。
揃えた材料を上手く形に出来るか否かが、成功に直結する。
先ほどの推理は、最低の料理だった。

ファストフードと同じ、早さだけを重視した推理だった。

577名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:21:29 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「そんな言いがかりが推理と言えるのかしら?」

(´・ω・`)「……随分と強気だね。
     だが、私はそれ相応の材料を揃えているんだ。
     言いがかりとは心外だな」

紅茶の水面を眺めながら、デレシアはそれを聞き流した。
聞く必要もない。
ここから先に必要なのは、一方的な証明だ。
勿論、彼が用意した情報を使うつもりはない。

そのような物は、使うまでもないのだ。
必要な物は自分自身で用意してある。

ζ(゚ー゚*ζ「ハワードの下りは概ね正解でしょうね。
      だけど、肝心な部分が証明されていないのよ」

オアシズ内で殺されたハワードの殺害には、一つの矛盾点がある。
その部分にショボンは一切触れていない。

ζ(゚ー゚*ζ「犯人はどうやって被害者の部屋に入ったのかしら?」

(´・ω・`)「マスターキーだろう?
     履歴にもそう残っている」

ζ(゚ー゚*ζ「ではどうして、被害者は犯人の侵入に気付かなかったのかしら?
       鍵が開けられた上に、チェーンが切断されたのにどうして対処しなかったのかしら?
       犯人はハワードが毒を飲んだと、どのようにして知ったのかしら?
       さ、説明を」

578名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:24:25 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「それは……」

不可思議なのは、侵入のタイミングだ。
残されていた衣類などから、彼が酒を風呂上がりに飲んだ可能性が非常に高い事が分かっている。
つまり、何かの作業の途中ではなく、ゆっくりと腰を据えて酒を飲んでいたことは間違いないのだ。
盛られた毒は即効性で、摂取されてからすぐに体の自由を奪う種類のものだったと調べがついている。

当たり前の話だが、摂取しなければ自由を奪うことは出来ない。
この際、どの酒に毒が含まれていたかは問題ではない。
問題なのは、毒を飲んだタイミングを知った方法だ。
ハワードが毒を飲んだと云う事、そしてその瞬間を正確に把握しなければ、抵抗されずに侵入することは不可能なのだ。

毒の性質上、正に賭けだ。
だが殺人を賭けで行うほど、この犯人は馬鹿ではない。
より確実な方法で、ハワードが毒を飲んだタイミングを把握してから犯行に及んだと考えるしかない。
そうなると、犯人が扉を開いてチェーンを切断して侵入したという前提が違うのだ。

逆なのだ。

(´・ω・`)「……説明してくれるかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「犯人は、最初から部屋にいたのよ。
      そしてそこで毒を盛った」

チェーンを掻い潜って部屋の中に入るには、家主が席を外しているタイミング以外にない。
最初から部屋にいれば、ハワードが酒を飲むタイミングも分かるし、彼が風呂に入っている間に毒を盛ることも可能だ。
それならば、彼が万が一職場で酒を飲んだとしても計画は一切狂わない。
主な下準備は全て、部屋で行われたのである。

その言葉に、トラギコが反応した。

579名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:27:06 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「だが、カードキーの履歴はどう説明する?
    ハワードの後に、確かにノレベルトが入室した履歴が残ってるラギよ。
    時間もそこまで開きがないラギ」

デレシアの推理を推測でなくするためには、その証明が必要となる。
カードキーの履歴を偽造するには、デジタル・アーカイブ・トランスアクターだけでは不可能だ。
だが。
それが真実であれば、何の問題もないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「カードが入れ替わっていたのよ。
      本人の知らない間に、ノレベルトの物と彼の物がね」

彼の持つカードとノレベルトのカードが入れ替わっていれば、説明がつく。
履歴だけを見れば確かにノレベルトが後に入室した事になっているが、それはカードの順番の話なのだ。
実際は真逆。
犯人がハワードのカードで入室した後に、ノレベルトのカードを使ってハワードが帰宅したのだ。

(=゚д゚)「……例の賭けか」

トラギコはすぐに、その答えに辿り着いた。
証言の中にある通り、被害者は帰宅前に一つの賭けを行った。
タネは手品と同じ。
財布の内容物の数を賭けの対象とするもので、その際にカードを入れ替えたのだ。

相手が別の物に目を奪われている隙に、目的の物を入れ替えるという単純な物だったが、効果は覿面だった。
扉が難なく開けば、誰もその鍵が別の物だと疑うことはしない。
それがカードキーの様な物ともなれば、尚更だ。
使用の度にカードの番号を確認するような人間は、平時であればまずいない。

580名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:30:44 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「そして、忘れ物を取りに船倉に戻ったハワードが目撃されているけれど、恐らくそれは変装をした犯人だったはずよ。
       犯人は船倉である物を手に入れて、別の場所に保管したの。
       ただ、ハワードを殺した犯人は彼よりも先に部屋に向かう必要がある関係で、その場にいることが出来なかった。
       それを解消するのが、自由に動ける人間がもう一人いたという仮定。

       ――そう、貴方が推理した通り、犯人は二人いる」

そろそろ、核心部分へと迫る時間だ。
肝心なのは、犯人が二人いるという事実。
一人は大胆で、暴力的な行動をしながらも決してその影に気付かせない。
もう一人は繊細かつ慎重な性格の持ち主で、表にその姿を見せる役割を担っている。

性格と役割が真逆の配置。
これによって、実体と影とが別々に動き回るためにその動きが全く掴めず、追いかけることが出来なかったのだ。
これが犯人像に靄をかける仕組みだった。
よく練られ、よく訓練された人間の成せる犯行だ。

変装に長けた方の犯人はハワードが船倉を出た後に続き、道中で戦闘を得意とする仲間にカードを渡した。
カードを受け取った犯人は素早く移動し、ハワードよりも先に部屋に入った。
一方、変装を得意とする方はそのままの格好で船倉に戻り、忘れ物を回収したのだ。

(´・ω・`)「待ってくれ、ある物って?」

ζ(゚ー゚*ζ「軍用強化外骨格、ジョン・ドゥ。
      警備員詰所襲撃の際に使われた物よ」

武器庫の使用履歴には、ハワードの名前が残っていた。
彼の名前で何かの武器が持ち去られたのは、言うまでもない。
最も強力な武器は、やはり、棺桶だ。
それも、汎用性に富んだジョン・ドゥを選ぶのは自然な話である。

581名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:34:23 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「そこまではいいラギ。
    だがその物言いは、ハワード殺害に使われた棺桶がジョン・ドゥでないと言っているように聞こえるラギ」

流石は刑事だ。
細かいところに気が付く。
だからこそ、喋り甲斐がある。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョン・ドゥでは大きすぎて目立つために、犯行後の移動に支障が生じるわ。
       だから小型の棺桶が必要だった。
       どの棺桶を使ったのかは、今日の作業を見れば分かることよ」

(=゚д゚)「マハトマ、ラギね」

マハトマは殺傷能力の高いジョン・ドゥとは違い、貸し出しに厳しい制限がない。
実際問題として、死体の処理に使われるほどにマハトマは危険視されていないのだ。
だが腕力を人間以上に強化する点で言えば、十分に殺傷力がある。
人間の四肢を折り曲げることなど、造作もない事だ。

両腕に付ける形の棺桶であるため、非常に容易に持ち運びができる。
犯行後には何食わぬ顔で船倉に戻せば、証拠品の隠滅は完了する。

ζ(゚ー゚*ζ「ハワードが毒を飲んだことを確認してから、犯人は彼を殺した。
       排水溝の上で頭を撃って、弾丸を消し去ろうとした。
       犯人の計算通り、結局見つかったけどね」

デレシアはあえて、殺害の過程について詳しく触れなかった。
この場合、過程はどうでもいいのだ。
彼女が話そうとしているのは、犯人の動きについてなのだから。

582名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 22:37:54 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「これがハワードの事件の全貌。
      次に、私が遭遇した警備員詰所襲撃の事件よ」

これから話すのは、単身で詰所を襲った人間。
デレシアと銃口を向け合い、ブーンを海に投げ捨てた人間の話だ。

ζ(゚ー゚*ζ「探偵さん、犯行の前に死体の映像が流された理由、考えた?」

(´・ω・`)「船全体を恐慌状態にするため、かな」

ζ(゚ー゚*ζ「私も最初はそう思ったわ。
      でもね、本質は違うのよ」

秘密裏に事件を起こしていた犯人が、突如としてその方向性を変えた瞬間だ。
この瞬間にこそ意味があるのだと、デレシアは考えた。
犯人が見せた隙の一つ。
本命の動きがここに隠されていると。

ζ(゚ー゚*ζ「保険掛けと安全な移動のためだったのよ。
      ノレベルトのマスターキーが使用不可能になるのは時間の問題だったし、足跡がついてしまう。
      そこで犯人はまず、警備員詰所に入ることの出来る新たなカードキーを手に入れることにした。
      どのようにして手に入れるか、としたら答えは力づくしかないわ。

      如何に人目に付きにくい場所で、確実に権限のあるカードを持つ人間を襲うとしたら、探偵か警備員しかいない。
      案の定、反応した人たちがいた。
      “三銃士”こと、サイタマ兄弟よ。
      こうして犯人は、警備員詰所に向かうための新たなカードキーを手に入れた」

583名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:03:48 ID:CXsdzfUM0
これが保険掛けだ。
万が一、マスターキーが使えなかったとしても、警備員詰所に入ることが出来る。
そしてその保険は見事に効果を発揮した。

ζ(゚ー゚*ζ「もう一つ、犯人は安全を欲しがった。
      その安全と云うのは、誰にも怪しまれずに目的の場所に移動するための状況が欲しかったのよ。
      船内がビデオで混乱している時が、犯人にとって最も移動がしやすい時間であったと推定すると、ある推論が出てくる。
      犯人の一人はこの船の関係者。

      もっと言えば、事件に関わる役職の人間であるという可能性がね」

(;=゚д゚)「……」

(´・ω・`)「……」

探偵たちが目を光らせている中、詰所に向かうのは容易ではない。
だが大きな事件が起きた直後に事件解決を任された立場の人間ならば、例え警備員詰所に向かったとしても誰も気にも留めない。
誰の記憶にも残らない安全な移動こそが、犯人がビデオを流した主な目的だったのである。
結果、犯人が計画した通り警備員詰所への侵入と大量殺人を許してしまったのだ。

(´・ω・`)「だが分からないことがある。
      どうして詰所を襲ったんだ?
      何のために、そんなリスクを?」

ζ(゚ー゚*ζ「事件に本腰を入れてもらうためよ。
       船全体が事件解決に向かって足並みを揃えれば、海賊への迎撃準備に致命的な時間を与えられるからね」

(´・ω・`)「……ほぅ」

584名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:08:24 ID:CXsdzfUM0
関心を態度に表すショボンとは対照的に、トラギコは不服そうだった。
ただ、直ぐに感想を口にするのではなく、彼は何かを考えている様子だった。
ややあって、トラギコはやっと口を開いた。

(=゚д゚)「ここまでは全部、手前の推測だろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、そうよ。 それがどうしたの?」

(=゚д゚)「……何を隠しているラギ?
    なんでまだ、犯人の名前を挙げない?」

いい食いつき方だ。
しかしまだだ。

(´・ω・`)「トラギコ君、まだ推理は終わっていないんだよ。
     デレシアさん、続けて」

ζ(゚ー゚*ζ「……犯人の目的は海賊を招き入れ、市長の身柄を確保させることだった。
      何故か? 目的達成のために、どうしてもマニーが必要だったからよ」

オアシズ内でマニーの存在は絶対だ。
彼は生きている限り、オアシズの全てを自由にできる。
ブロック間を閉鎖することも、閉鎖されたブロックを行き来することも。
生きた鍵としての彼の利用価値は、オアシズでは最上だ。

¥;・∀・¥「……私、が?」

突然名前が出されたマニーは、目を丸くして驚いた。
彼は海賊襲撃時、デレシアの指示で別の場所に避難していたのだ。
海賊たちが彼を探していたことは、その耳に届いていない。

585名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:10:54 ID:avS9kZEw0
支援

586名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:12:53 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、貴方よ。 海賊には報酬を、そして犯人は貴方を手に入れる予定だったの。
      何が欲しいかまでは分からないけどね」

(=゚д゚)「目的は分かった。 で、結局犯人は誰ラギ?」

焦ってはいけない。
急いてはいけない。
これは、一種の駆け引きなのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ここまでで私が説明したのは犯人の目的と、その行動。
      肝心の犯人については、これから説明するわ」

ここからが本命の推理。
犯人の正体に迫るための推理だ。
その為にはまず、第一の事件から紐解く必要がある。
第一の事件こそが、一連の事件を解決するための大きな矛盾を秘めていたのだ。

これに気付かなければ、犯人の正体に辿り着くことは出来ない。

ζ(゚ー゚*ζ「そもそも、この事件の始まりはハワードではなかったの。
       ねぇ、トラギコ?」

その言葉に、初めは不服そうな表情を浮かべたが、次第に待ち望んでいたように目を輝かせて反応した。

(=゚д゚)「……あぁ、ポートエレンだ」

事前にトラギコに話していた通り、ここでバトンを彼に渡す。
彼に話してもらいたいのは、ポートエレンで発見されたクリス・パープルトンの事だ。
デレシアはトラギコがポートエレンの事件を調べていたことを知っていた。
そこで、彼にポートエレンの事件を語ることとその詳細、更には海賊殲滅後の船内の調査報告を求めた。

587名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:16:30 ID:CXsdzfUM0
思った通り、トラギコはその話を飲む代わりに条件を提示してきた。
この船で起こった事件の解決に、デレシアが手を貸すというものだ。
双方の利害が一致し、タイミングはデレシアに一任された。
そして、今がその時だった。

デレシアの推理に対して異議を唱える事をしなかったショボンが、ここで動いた。

(´・ω・`)「彼女は自殺だ、事件ではない」

トラギコは彼の言葉を無視し、説明を始めた。

(=゚д゚)「被害者はクリス・パープルトン。 コクリコ・ホテルが立つ崖下にある入り江に浮かんでいるのが見つかった。
    死因は窒息死。 部屋には遺書が残されていたラギ」

それから、チェックインの時間、発見時の部屋の状況。
事細かな情報をトラギコは話し始めた。

(=゚д゚)「チェックインしたのは、八月三日の夜十一時三十八分。
    無人でのチェックインが可能だったために、目撃者はいない。
    発見時、部屋には鍵が掛かっていた。
    テラスの窓――内開き式の――が開いて、 遺書は、鏡台に置かれていた。

    この遺書の字と、チェックイン時の筆跡は一致したラギ。
    そうラギね、ショボン?」

(´・ω・`)「……あぁ、そうだよ」

ショボンは面白くなさそうな口調で肯定した。
だが、トラギコは気にせずに続ける。

588名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:20:01 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「ショボン、あんたはホテルに滞在していたオアシズの人間が無実だと証明するためにここに行ったんだよな?」

(´・ω・`)「あぁ、そうだ」

(=゚д゚)「滞在していた人間の名前は?」

(´・ω・`)「守秘義務がある。 乗客の安全が最優先だ」

リロースミスの肩から手を動かさずに、ショボンは言い放つ。
彼は探偵だ。
探偵は顧客の情報を墓まで持って行く。
一度断ったら、二度目はない。

肩をすくめて、トラギコはデレシアを見た。
彼は約束を果たした。
次は、デレシアが果たす番だ。

(=゚д゚)「と、こんなところでいいラギか?」

ζ(゚ー゚*ζ「上出来よ。 その被害者の名前を特定した証拠品は?」

(=゚д゚)「部屋の番号と台帳からだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……そう、つまり被害者の名前はあくまでも台帳上のもの。
      本名は全く別の物よ」

(´・ω・`)「別?」

ζ(゚ー゚*ζ「貴方達がよく知る名前よ。
      ノレベルト・シュー、って名前」

589名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:24:04 ID:CXsdzfUM0
その瞬間、それまで沈黙していたブロック長達がその顔を衝撃に歪めて驚きを露わにする。

£;°ゞ°)「そんな!!」

ノリハ;゚ .゚)「死んでいたのですか……」

('゚l'゚)「ブロック長が、死んだ……?!」

¥;・∀・¥「どういう事だ、ショボン!!」

当然、その原因はショボンにある。
死体の顔を確認していながら、ノレベルトと分からなかったのだから。

(´・ω・`)「……それは気付かなかった。
     だが事件、と断言していることについての説明は?」

ζ(゚ー゚*ζ「遺書があっても、それは誰でも書けるわ。
      そして、トラギコも気付いたことがあるはずよ」

旨味を全て持って行くと、彼が気の毒になる。
予定外の対応だったが、トラギコは不満一つもらさずに、改めてデレシアからのバトンを受け取ってくれた。

(=゚д゚)「有り得ねぇんだよ、遺書があるってことが」

(´・ω・`)「有り得ない? 現に在り得ているからこそ、遺書があったんだろうが」

(=゚д゚)「遺書は鏡台の上に置かれていた、そうだろ?」

(´・ω・`)「あぁ」

590名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:27:53 ID:CXsdzfUM0
(=゚д゚)「被害者が飛び降りたとされる夜は、かなりの強風だったことが記録されているラギ。
    それこそ、シーツが捲れ上がるぐらいのな」

真っ先に気付いたのは、マニー、そしてノリハの二人。
それからロミス、ライトンが理解する。
強風の中で遺書だけが飛ばされずにいたのは、有り得ない話なのだ。
鏡台の上から発見するには、風が弱まった時に置かれるしかない。

本人が飛び降りた後では、それを置くことは不可能。
何者かが置いたのだ。

(=゚д゚)「他にもあるラギ。
    死体にあるべきものがなかったラギ。
    でっけぇ打撲傷がな」

シーツが飛ぶほどの風力ならば、飛び降りる人間にも影響を及ぼす。
ましてや風の影響が強い崖上ならば、体は崖側に向けて流されるはずだ。
当日に風が崖側に向いて吹き付けていたのはシーツの捲れ方と、窓の開き方で証明できる。

(=゚д゚)「死体にあったのは細かな擦過傷、そして古い銃弾の傷ラギ。
    薬で意識が朦朧としているなら、力まず、余計なことを考えずに頭から飛び降りるはずラギ。
    助走をつけて飛ばない限り、絶対に打撲傷が出来る。
    だが、手摺を飛び越えるってなると、薬の件がどうにもおかしいんだ。

    意識を混濁させるのは、死の恐怖を和らげるための物だ。
    つまり、薬がある程度効いた状態で飛び降りないとならねぇ。
    落ちることは出来ても、全力疾走するなんてこと、出来ないんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そして、彼女の死亡とノレベルトの失踪のタイミングは一致するのよ」

591名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:33:25 ID:CXsdzfUM0
(´・ω・`)「台帳の件は? どう説明するんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの人間が泊まっていたのなら、その中に例の共犯者がいたと考えるのが普通よ。
      存在しないクリスという人物を生み出して、捜査のかく乱を狙った。
      もっと正確なことを言えば、打ち上げられた遺体がオアシズと無関係であることを決定づけたかったのよ。
      そうすることで、ノレベルトは姿を消して船のどこかに隠れながら無差別な殺人を行った、と演出することが出来たわけ」

第一の事件、つまりノレベルト殺害は彼女の姿を船から消すために行われた。
あたかも彼女が変装をして、船のどこかにいると思わせるために。
しかしショボンはそう簡単に頷かなかった。

(´・ω・`)「じゃあどこで、彼女は殺されたんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズで殺し、海流を計算に入れてから投棄したんでしょうね」

(´・ω・`)「……君の推理力には恐れ入るが、それがどう犯人に繋がるんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「犯人の一人は、ノレベルトの事を知っていて、彼女に近づけた人物」

腐っても彼女はブロック長だ。
周囲からの注目もあるし、責任と自覚のある人間だ。
その彼女に近づき、人目に付かずに殺害するためには彼女と二人きりになる状況しかない。
つまり、親密な関係で彼女に毒を盛れる人間以外、ほぼ不可能な犯行なのである。

もう一つ、確かな情報がある。

ζ(゚ー゚*ζ「そして、犯人は右利きよ」

(=゚д゚)「それについての根拠は?」

592名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:37:01 ID:CXsdzfUM0
ζ(゚ー゚*ζ「私と対峙した時、その人物は右手で銃を使っていた。
      人が咄嗟に拳銃を抜くのは利き手よ。
      それまで誤魔化していたとしても、ね」

ブーンが捕らえられた時、犯人はブーンの頭に右手で銃を突きつけた。
そしてその銃ごとデレシアの銃弾が砕き、犯人は逃亡した。
その際、犯人は腕を負傷している。
骨が砕けたのか、それとも肉が千切れたのかまでは分からないが、怪我を負ったことは断言できる。

ζ(゚ー゚*ζ「今現在、犯人は右手を負傷しているのは間違いないわ」

視線が、一斉にロミスに向けられた。
彼の右手には、白い包帯が巻かれている。
背後に立つショボンは、ロミスの手を高々と持ち上げて言った。

(´・ω・`)「ロミスさん、これは?」

£;°ゞ°)「襲われたんだよ、実は……
       ハザードレベル5が発令されてからしばらくして、それこそ、801号室のお客様が毒殺された後に。
       警備員の格好をした男が目の前に現れて、いきなり襲ってきたんだ。
       必要なら、警護についていた三人の証言もある」

¥;・∀・¥「どうして報告しなかったんだ!!」

£;°ゞ°)「申し訳ありません、あの段階で皆をあれ以上不安にさせたくなかったのです」

ζ(゚ー゚*ζ「ロミスは白よ。 彼、左利きだもの」

593名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:40:24 ID:CXsdzfUM0
その証拠は、彼の腕時計が右腕についていることだった。
作業効率を重要視する人間ならば、利き腕の反対側に時計をつけるものだ。
少なくとも、ロミスは詰所を襲ってはいない。
それは間違いない。

ζ(゚ー゚*ζ「彼はあくまでも、自分の職務を全うしようとしただけ。
      でしょ?」

£;°ゞ°)「あ、あぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「そしてロミス、貴方が私の部屋を801号室だと言った理由も、同じよね?」

彼がデレシアの部屋を探していたことは知っている。
彼が惹かれていることも。

£;°ゞ°)「その通り、だ」

ζ(゚ー゚*ζ「毒殺の対象が完全な誤算だったのは事実だけどね。
      犯人は実在の従業員に変装し、毒入りのチョコを届けさせた。
      カードは警備員の死体から奪った」

(=゚д゚)「で、いい加減犯人を教えてくれないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは簡単な話よ。
      どうしてこの事件が、これだけ厄介になったのか。
      犯人が仕掛けたトリックだけでは、これほどまでに現場が混乱することはない。
      もう一つ、犯人にはとびっきりの仕掛けがあったから。

      そうでしょう?」

594名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 23:58:21 ID:ADf2eaUA0
デレシアは笑みを浮かべた。
勝利に酔う笑みではない。
一つの大きな事件を、一つの大きな夢を踏み潰す楽しみを前にした、嗜虐的な笑みだった。
得物を前にした獣が浮かべる残虐な笑みだった。

大勢の人間を殺し、海賊を操り、目的を果たそうとした人間。
捜査をかく乱させ、真実を靄にした人物。
デレシアの愛するブーンを海に落とした、忌むべき人間。











ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ショボン・パドローネさん?」











名を呼ばれたショボンは、ただ静かに口元を釣り上げただけであった。

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Ammo→Re!!のようです                           Ammo for Reasoning!!編

                         第十章 了

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595名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 00:39:40 ID:vsQC/TvkO
微妙にこっちのほうが時間早いんだな

596名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 17:56:54 ID:CWoc8Etk0
お前かよ……
オアシズ編
見返してこよう

597名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 20:39:08 ID:sPLcYO7o0
今気づいた乙
やっぱりロミスじゃなかったか信じてたよ(適当)

598名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 23:06:22 ID:zssCs7c20
えぇ!?ショボンなのかよ!
ショボン視点読み返さないと

599名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 20:57:37 ID:/qa9QjN60

探偵が犯人か……

600名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 21:29:56 ID:q691EqkQ0
begin toのto要らなくね

601名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 23:39:38 ID:ki4h8HcU0
ほぅ…

602名も無きAAのようです:2014/06/05(木) 23:26:52 ID:L18rKib.0
>>600
おぉ!そこに気付いてくださってありがとうございます。
そのbegin toのtoの直後には do が本来はあるのですが、馬鹿な探偵達には何も出来ないだろー、という嫌味の意味でいれていません。
それに対して、>>576でデレシアがdoを使うことで彼女がそれを打ち破る、という状況を表現してみたものです。
分かりづらくて済みませんでした。

603名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 01:39:56 ID:DgRsM5/c0
>>602
なるほどー

604名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 04:48:59 ID:y0lTopzo0
あ、うーんでも探偵は無能だから何も「出来なかった」んじゃなく探偵が犯人だったから発表した推理が完全じゃなかったわけで
英語は誰視点なんだか分からなくなったぞ・・・

605名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 07:00:55 ID:t2eI4f0k0
今読んだおつ!

これあれか、アンリライアブルナレーターってやつか

606名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:41:59 ID:JHK3X.IM0
>>604
他の探偵達に対しての呼びかけでありまして、まだデレシアが真実を語っていない段階の言葉です。
詳しくは日曜日に投下予定のエピローグで分かると思います。


>>605
今調べたら、それに該当するそうです。

607名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 00:06:21 ID:tAv7.OxI0
今夜か待ってる

608名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 14:50:30 ID:Xf6oanDE0
今夜VIPでお会いしましょう

609名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:37:32 ID:Xf6oanDE0
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                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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豪華客船オアシズ。
全部で五つのブロックに分けて統治されるその船の、第三ブロック会議室。
そこは、静寂に包まれていた。
剃刀で肌を撫でるような沈黙の中、探偵であるショボン・パドローネが深い溜息を吐いたのをきっかけに、彼は静かに言葉を発した。

驚きの色など、微塵もない。
感嘆の響きだけが、そこには含まれていた。




(´・ω・`)「いつから気付いた?」




一連の事件を起こした犯人とされたが、彼は冷静だった。
慌てることも、戸惑うことも、否定することもしない。
穏やかな表情のまま、質問を一つしただけだった。
それは肯定の言葉に等しい質問だった。

だが彼は、大人しく答えを待つだけだった。
だから、金髪碧眼の旅人であるデレシアはその期待に応えた。

610名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:44:37 ID:Xf6oanDE0
ζ(゚ー゚*ζ「厳密な事を言えば、最初からよ。
      貴方はポートエレンの事件を、頑なに事件とは認めなかった。
      そして、遺書の第一発見者は貴方。
      この時点で、もうおかしいのよ。

      あるはずのない遺書を手に入れることの出来た人間は、犯人か共犯者しかしかいない。
      探偵全体を指揮して糞まみれの銃弾を探させ、別の方向に向かせたのも貴方。
      貴方に探偵たちの指揮を任せたのは、どちらの味方なのかを判断する為よ。
      意図的に被害を拡大させる配置だったかどうかを知るためには、現場の状況と情報が必要だった。

      だから配置の内容と結果を知るために、私がロミスにお願いして様子を見てもらったのよ」

かなり大きな被害が出たが、それがなければショボンが犯人であるという確実な根拠は得られなかった。
美化するつもりはないが、探偵たちの命が犯人を捜し出すのに貢献したのである。
死を賭して真実の断片を手に入れるためには、オットー・リロースミスの協力が不可欠だった。
民間人の頼みをブロック長が聞き入れたと分かれば、大きな信用問題につながる。

大きなリスクを伴った提案にロミスは同意し、銃弾の飛び交う中事実を確認した。
ショボンに犯人に仕立て上げられた時でさえ、彼はそれを言わなかった。
彼には矜持があったからだ。
驕りに等しい矜持の持ち主の彼なら、自分の下心のために失敗を絶対に口外しないとデレシアは確信していた。

それを見越して、この話を彼に持ちかけたのだ。
ショボンがロミスを疑っている素振りを見せていたのは、ブーンから聞いていた。
更に、別の人物からもショボンの行動についての情報が入っていたことも、デレシアの推理を後押しした。

ζ(゚、゚*ζ「貴方が“偽りの主”として探偵達を誘導し、真実から遠ざけた。
      だから、何時まで経っても事件は解決しなかった」

611名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:49:33 ID:Xf6oanDE0
完全犯罪を目指すのであれば、事件を別の方向に誘導するのが一番だ。
ショボンの立場は、絶好の物だったのである。

(´-ω-`)「……そうか。 私は、最初から君に……
      ふふ…… そうか……」

両手をロミスの肩に乗せ、ショボンはくつくつと笑い始めた。
その笑い声は、本当に嬉しそうなものだった。
往年の夢が成就した男の笑いだった。

¥;・∀・¥「お、おい、ショボン…… お前が、犯人なのか?」

市長、リッチー・マニーが恐る恐るそう尋ねると、ショボンは両手を広げ、満面の笑顔を浮かべた。
目は病的なまでに輝き、声は演者のように大きく、部屋に響き渡る。



(´・ω・`)「嗚呼、やっと、やっとだ!!
     デレシア、やはり君は優秀だ!!
     鋭い洞察力、恐れを知らぬ行動力、実に素晴らしい!!
     宿敵とはこうでなければならない!!

     この船にいる役立たずとは大違い、桁違いだ!!」



観念、諦め、そういった負の感情の発散ではない。
驚くほど純粋な、悦からくる感情の爆発だ。
彼の言葉に嘘はなく、真実を暴かれたことに対して悦びを表している。

612名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:54:25 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「デレシア、君の推理は模範解答だ、大正解だ!!
     そう、君の推理した通り、このショボン・パドローネこそがこの事件の犯人だ。
     真実などと云う不確かな物を信じ、それを追う探偵の無能さにはがっかりさせられたが、君のおかげで報われた。
     死んでいったノレベルトも、これで報われるだろう」

川;゚ 々゚)「う、嘘よ……」

検死官、クルウ・ストレイトアウトは言葉を失った。
つい先ほどまで、協力し合っていた間柄が、一瞬で崩壊したのだから、無理もない。
驚き様から察するに、ショボンに対して恋愛感情のようなものを抱いていたのかもしれない。
座ったまま気を失いそうな彼女の姿は、哀れとしか言えなかった。

(´・ω・`)「嘘じゃないさ。
     真実を話すついでに君に言うが、僕は君の事が好きだったよ。
     君は利用価値があった。
     おかげで死体から身分証を取ることも容易だったし、海に捨てることも出来た。

     さて諸君、名残惜しいが私は失礼するよ。
     よく言うだろう? “握り拳と握手は出来ない”ってね」

ショボンの告解によって異様な空間と化したその場において、トラギコ・マウンテンライトだけが殺しの道具、自動拳銃ベレッタM8000を構えた。
撃鉄は起き、安全装置も解除されている。
銃爪に指がかけられているが、彼は引けなかった。
ショボンはトラギコよりも素早くロミスを付き飛ばし、マニーの首をマハトマで掴み、力を込めていた。

部屋に入った段階でショボンの右腕が“マハトマ”を纏い、何気ない会話の中で解除コードを口にしていた事に気付いた時にはもう遅い。
わざわざロミスをマニーの傍にまで連れてきたのは、これを予期していたからだろう。
この男は、リスク管理が病的なまでに徹底している。
全員がショボンの行動に注目する中、デレシアだけは彼が仕掛けた別の手に注意をしていた。

613名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 20:58:31 ID:Xf6oanDE0
ショボンはマニーを掴み起こし、彼を楯にしながら会議室の出入り口に向かう。
トラギコは銃口を向けたまま、ショボンの動きを待つ。




(´・ω・`)「さぁ始めよう、デレシア!!
     ここから先は、楽しい答え合わせの時間だ!!」




声高らかにそう言い放ったショボンは、部屋を飛び出した。
これが“オアシズの厄日”、その最終幕の始まりであった。


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                 脚本・監督・総指揮【ID:KrI9Lnn70】

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ショボンの言う答え合わせが、思考の読み合いの話だとデレシアにはすぐに分かった。
彼は馬鹿ではない。
この場が設けられた時点で、その先を見越して手を打っているはずだ。
逃走経路の確保も済んで、万が一の際の指示もしていると考えて挑むべきだ。

道中に彼が仕掛けた数々の罠、細工。
デレシアがそれをどこまで見抜き、対抗できるか。
互いの手の内を打ち消し合う追跡劇。
そのことを、答え合わせと言っているのだ。

614名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:00:44 ID:Xf6oanDE0
デレシアも準備をしていない状態でここにいるわけではない。
しっかりと先読をして、手を打った状態でここにいるのだ。
後は、双方の思考の読み合いが結果となって現れるのを見届けるだけだ。
銃を向け合った状態で撃ち合い、互いの弾丸を撃ち落とすようなものだ。

(=゚д゚)「……で、“言われた通りに”撃たないでやったけど、どういうことラギ?」

トラギコには、犯人がマニーを人質にして逃亡する可能性の高さを話してある。
彼がすぐに撃ち殺さないように言っておいて、大正解だった。
これで読み合いの先制点は、デレシアの物となった。
一連の事件によって信頼を大きく失ったオアシズを復興する際に、マニーの存在は絶対だ。

彼の死はオアシズの崩壊に繋がり、船はどこかの街の支配下に置かれるに違いない。
恐らくはそれがショボンの保険だ。
仮に船がジュスティアなどに買収された場合でも、ショボンは目的を果たせるのだろう。
最悪の事態は避けられた。

しかしマニーの命が握られている以上、状況はショボンに傾いている。
デレシアが彼の思惑を潰すにはマニーを生きた状態で奪い返し、目的を阻止するしかない。

ζ(゚、゚*ζ「説明は後。 各ブロック長はノリハの指示に従って。
      それと、武装させた警備員をショボンの部屋に。
      探偵長の死体があるはずよ。
      トラギコ、ブリッツを装着して彼を追うわよ」


(=゚д゚)「けっ、やりゃあいいんだろ。
    ――“これが俺の天職なんだよ”!!」

.

615名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:04:50 ID:Xf6oanDE0
トラギコの声に応じて、足元のアタッシュケースが展開した。
彼はそこから籠手を取り出して両手に装着し、右手に高周波刀、左手にM8000を持った。
デレシアとトラギコは部屋を飛び出し、ショボンの姿を探した。
黒い絨毯の敷かれた廊下には誰もいない。

だが重要なのはショボンがどこを目指しているかだ。

(=゚д゚)「上か、それとも下か?」

ζ(゚、゚*ζ「下よ」

二人は左に進み、突き当りを右に曲がった。
そこにある扉が開いており、誰かが通ったことが分かる。
デレシアは歩調を緩め、トラギコを先に行かせた。
扉を蹴り開けると、そこには広い道路が広がっていた。

次にショボンが使うと予想できる経路は、エレベーターだ。
自分が追われることは分かっているはずだし、急ぎたいはずだ。
何も言わずに、トラギコはエレベーターを目指した。
その後ろに続いて、デレシアも駆ける。

高速エレベーターの前に着くが、既に呼び出しのスイッチがマハトマで殴り壊されていた。

(#=゚д゚)「くっそ、あの禿!!」

最寄りの物ではなく反対側のエレベーターを利用するしかない。
だが、道路の向こうにあるエレベーターの近くに二体のハムナプトラが待機しているのが見えた。
待ち伏せしていたハムナプトラも、二人に気付いた。

<=ΘwΘ=>『来たぞ、殺せ!!』

616名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:10:12 ID:Xf6oanDE0
ハムナプトラが構えるアサルトライフルが火を噴いた。
銃弾は二人のすぐ傍を通り抜け、壁や地面を抉っていく。
距離による弾道のずれを棺桶が自動で整えるには、五秒ほどの時間が必要だ。
デレシアはローブを広げて咄嗟に応戦しようとするが、トラギコが叫んだために両手をデザートイーグルから離した。

(=゚д゚)「伏せてな!!」

僅か四発で、トラギコは二体の棺桶を屠った。
疾いだけではない。
かなり正確な腕をしている。

ζ(゚ー゚*ζ「ナイスショット」

(=゚д゚)「うるせぇ」

この銃撃戦によって、短時間ではあるが追跡の時間を稼がれた。

ζ(゚、゚*ζ「急ぎましょう、この調子だと逃げられるわ」

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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船倉の最深部に向かって降下するエレベーターの中で、ショボン・パドローネは楽しさのあまり、笑い出した。
やはり思った通りだ。
彼女こそが事件を解き明かす人間だったのだ。
探偵たちの無能さには落胆したが、デレシアと云う人間の有能さには驚愕した。

617名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:15:39 ID:Xf6oanDE0
真の目的から目を逸らさせるためだけに引き起こした事件だったが、それなりに手の込んだ仕掛けだったつもりだ。
探偵たちがこの事件を解いていく内に袋小路に入り、迷走することが当初の予定だった。
一つの事件として、中々に完成度の高い物だったと自負できる。
だがそれは、事件を可決できるだけの能力のある人間がその場所にいれば、の話だった。

それ以前の問題だったのだ。
結局、探偵たちの誰一人として、ショボンの思惑通りには動かなかったのだ。
多少の手助けはしたものの、正しい推理も出来なかった。
先ほどの場に現れることも期待したがそうはならず、ショボンの偽りの推理に流されるがままだった。

探偵長はもう少しの所まで来たが、ショボンに相談に来たのが運の尽きだった。
話すのも面倒だったため、殺してしまった。
用意された真実に到達できたのは、デレシアただ一人。
彼女なら、ショボンを楽しませてくれる。

この答え合わせの時間も、彼女無しでは虚しいだけだ。

(´^ω^`)「うふふふ、あああああああああっははははは!!」

¥#・∀・¥「……キチガイが」

両手足をワイヤーで固定され、肩の上に担がれたリッチー・マニーはショボンの耳元で可能な限りの増悪を込めてそう呟いた。
こんな男の発言一つ気にも留めない。
ショボンにとっては、ただの生きた鍵だからだ。
ショボンは笑みを失わないまま、答えた。

(´^ω^`)「……貴方には分からないでしょうね。
     好敵手の出現程嬉しいことはない。
     こんな事をしていて、唯一の楽しみはそれぐらいなんですからね」

618名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:19:18 ID:d8jt7rN.0
支援

619名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:20:22 ID:Xf6oanDE0
¥#・∀・¥「こんな事?」

(´・ω・`)「人殺しですよ、市長。
     私はね、極力人を殺したくないんですよ。
     何かしらの罪があれば別ですが、無実の人間を殺す時には胸が痛みます」

この言葉をマニーが信じるとは思っていない。
人を殺す時には、常に罪悪感が彼を襲った。
全てはより大きな目的のためと言い聞かせ、人を殺した。
一を殺して千を救う。

それこそが正義。
それこそが、ショボンの見出した新たな生き方だった。

(´・ω・`)「信じてもらえるとは思っていませんけどね」

¥;・∀・¥「海のように広い理解力があれば、信じられるんだろうけどね」

ショボンを乗せたエレベーターは、存在しないはずの地下二階に到着した。
扉が開くと、目の前には銀色の巨大な壁があった。
そこには鍵もなく、パネルもない。
凹凸のない滑らかな銀色の壁と床、そして天井しかない。

人一人分の最小のスペース。
これが、オアシズの大金庫だ。
音声入力と網膜スキャン、そして分厚い特殊合金によって守られた金庫内部は六つの部屋に区切られ、要求に応じて金庫内部の部屋が回転する。
音声によって指示された金庫を開く、回転式金庫だ。

マニーを地面に降ろし、ショボンは要求を伝えた。

620名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:25:31 ID:Xf6oanDE0
(´・ω・`)「さて、市長。
     貴方の所有する“キング・シリーズ”の棺桶を渡してもらいましょう」

その名を聞いた途端、マニーは驚きに目を大きく見開き、ショボンを睨み上げた。
呆れ、そして激怒の色が窺える。

¥;・∀・¥「あれが、狙いだったのか……
      あんな、棺桶一機のために!?
      そのためにどれだけの人間を殺した!!」

(´・ω・`)「人間は七十億以上。 対して、この世界に現存するキング・シリーズは十機もいない。
     価値の高さは、比べるまでもない。
     他と一線を画するその内の一機、是非とも欲しい」

¥・∀・¥「断る、と言ったら?」

(´・ω・`)「この船を沈めます。
     現在、この船の操舵室は私の同胞が占拠しています。
     いつでもどうにでも出来るんですよ?」

¥・∀・¥「地獄に落ちろ」

マニーは扉を睨みつけ、下唇を噛んだ。
唇は次第に白くなり、そして、血が滲みだした。
最初の血の一滴が地面に花を咲かせた時、マニーは怒りに声を震わせながら言った。

¥・∀・¥「……アイデンティファイ、リッチー・マニー。
      コード、アルファ・レガシー・トロント。
      オーダー、SK-00」

621名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:31:14 ID:Xf6oanDE0
金属の扉の向こうから、低い唸りの様な音が聞こえ、ゆっくりと壁が床に沈んだ。
そして、回転式金庫の中からそれが現れた。

(´・ω・`)「――素晴らしい!!
     これが……これが……!!」

縁が金色に塗装されただけの長方形の黒柩が、そこにあった。
光沢のないコンテナの表面には、擦り傷さえついていない。
ざっとした目測ではBクラスに分類されるが、性能はCクラス並みの高性能な機器を搭載している。
まだ見ぬその中身は、これまでに出会ったどの棺桶よりもショボンを興奮させた。

(´・ω・`)「……“ドリームキャッチャー”!!」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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ショボンを追うデレシアとトラギコは、非常階段を使って地下を目指していた。
エレベーターに伏兵を配置していた用意周到さを見ると、エレベーターに爆発物を仕掛けている可能性が高かったからだ。
市長を人質にしたショボンは、オアシズの地下二階に位置する金庫室に向かっているとデレシアは推理した。

地下二階に行くための道はエレベーター以外にもある。
デレシアはその道を知っていた。
やられっぱなしも性に合わないので、デレシアは別の手を使ってショボンの逃走経路を妨害することにした。
トラギコの棺桶を利用して、第三ブロックのエレベーターの昇降を行うワイヤーを切断させたのだ。

これで上に向かう道を制限し、時間を稼げる。
階段を駆け下りる途中、先頭を行くトラギコは後ろを見ずに質問した。

622名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:36:30 ID:Xf6oanDE0
(=゚д゚)「……なぁおい、どうしてショボンが金庫室だと?
    普通なら、救命ボートを目指していると考えるはずラギ」

ζ(゚、゚*ζ「ボートで逃げるつもりなら、マニーは必要ないわ。
      海賊の襲撃の段階で船に乗ればよかったもの。
      狙いは、金庫内の棺桶よ」

地下一階に到着し、まっすぐに続く薄暗い廊下を走る。
じめじめとした空間はくぐもったがして不快だった。
硬い靴底が金属の床を踏みつける音が木霊する。

(=゚д゚)「これだけのことをした目的が、棺桶?
    あの禿とは少しの間仕事をしたことがあるラギが、そんな大げさなことが好きな奴じゃなかったラギよ」

ζ(゚、゚*ζ「“キング・シリーズ”って棺桶の事は?」

(=゚д゚)「知らないラギね」

突き当りを右に曲がり、三段だけある階段を飛び降りる。
左右には天井に接続された巨大な円筒が立ち並び、生ぬるく湿気の多い空間だった。
機関室の一部だ。

ζ(゚、゚*ζ「S・キングと云う兵器設計の名匠が手掛けた棺桶の事よ。
      復元されているのは僅かに六機だけ。
      マニーが所有しているのは、その中でも二番目に新しい“ドリームキャッチャー”。
      ショボンはそれを狙っているはずよ」

(=゚д゚)「わざわざ棺桶一機のために、随分と大げさな……」

ζ(゚、゚*ζ「それだけの価値を見出しているのだから、仕方ないわ」

623名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:40:12 ID:Xf6oanDE0
デレシアは先を行くトラギコの肩を掴んで、動きを止めさせた。
周囲を見渡し、溜息の代わりに強い口調でトラギコに訊く。

ζ(゚、゚*ζ「……爆弾解体の経験は?」

(=゚д゚)「そりゃ、何回かはあるけどよ。
    なんで急に?」

ζ(゚、゚*ζ「ここ、爆弾だらけよ」

目を凝らせば分かる。
天井、パイプの下に四角い物体が取り付けられている。
形状から推測するに、プラスチック爆弾だ。
変幻自在の爆弾が相手となると、捜索だけでも大量の時間が必要になる。

見事な足止めによって、デレシアはショボンに追いつくことが不可能になった。
ここの爆弾を解体しなければ、船は最後に沈められる。
それを阻止するためには、今ここで爆弾を全て解体しなければならない。
ショボンを追っている時間も、追いつく時間もない。

(;=゚д゚)「どうするラギ?」

ζ(゚、゚*ζ「他の階に、まだ残党がいるはず。
      私がそっちを片付けるから、貴方はここをお願い」

(=゚д゚)「人使いの荒い奴ラギね。
    ……やってみる。
    手前、死ぬなよ」

ζ(゚、゚*ζ「当たり前よ。 貴方もね、刑事さん」

624名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:44:31 ID:Xf6oanDE0
デレシアはショボンの追跡を諦め、船内の大掃除にその行動を切り替えた。
この時点で、デレシアがショボンに追いつける確率はゼロになった。

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                            配給

【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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棺桶を背負い、ショボンは悔しさで振るえるマニーを見下ろした。
空になった金庫に転がる彼の姿は、この船における彼の立場を比喩しているようだった。
両手足を縛られ、使えるのは口だけ。
正に、無力の象徴だ。

(´・ω・`)「……市長、こんなことを言うのは残念ですが、貴方は優秀だった」

殺してもいいが、極力無駄な殺しは避けたかった。
人が死ぬと、誰かが悲しむ。
それが事件であれ、事故であれ、戦争であっても、だ。
エレベーターに乗り込み、屋上行のボタンを押す。

しかし、一向に昇降機が上昇する気配がない。
原因に思い至り、ショボンは嬉しくなった。

(´・ω・`)「ふふ、楽しませてくれるね」

625名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:51:04 ID:Xf6oanDE0
デレシアはこちらが地下に向かったことを予想し、エレベーターの機能を奪ったのだ。
つくづく、面白い女だ。
女にしておくには惜しい人材だ。

(´・ω・`)「いい女だ、全く」

あの二人がここに来るまでには、かなりの時間が掛かるはずだ。
彼女の洞察力の高さを考えると、道中に用意した爆弾で長い間足止が出来る。
時間的には、まだ余裕がある。
背中のドリームキャッチャー、両腕のマハトマが今のショボンの主装備だ。

ドリームキャッチャーはギリギリまで使いたくない。
左手の小指から順に拳を作り、地面に向けて叩きつけた。
跳躍するよりも高く上空に体を浮かせたショボンは、すぐさま右手のアッパーカットで天井に大穴を空け、その縁を掴んだ。
工夫の仕方では、脱出経路は確保できる。

昇降機の上に乗り、ショボンはワイヤーが蜷局を巻いて屋根に落ちているのを見つけた。
鋭利な断面。
トラギコの仕業だ。
彼の持つブリッツなら、この程度のワイヤーはタコ糸以下の存在でしかない。

この事態は予測していた。
最悪の中でも最上の部類として。
だからこそ、鋭い推理力を持つ人間を足止めするための機関室の爆弾があるのだ。
あれは足止めであると同時に、船を沈めるための物でもあった。

ここまでの相手と分かっていればと後悔するが、やはり嬉しく思う。
世界はこれから大きく変わる。
変わりゆく世界を動かすのは、強い意志と力を持つ人間だ。
彼女なら、これから訪れる新世界を象徴する人物になれるのは違いない。

626名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:55:11 ID:Xf6oanDE0
それが分かっただけでも、ショボンにとっては十分な成果だ。
知恵比べなど、何十年ぶりだろうか。
警察に入ってからは片手に数えるほどしかなかったこの高揚感。
その全てを足しても、これほどの物は得られなかった。

用意したほぼ全てを見抜かれ、準備された。
双方の技量の優劣を知るには、結果を見るしかない。
新たな穴を拳で開け、ワイヤーの切れ端を先ほど開けた穴に通して結ぶ。
幸いだったのは、滑車伝いにワイヤーが両端とも残っていたことだ。

これで、エレベーター機構の再現が出来る。
天秤と同じく、より重い方が下に行く。
その機構が再現できれば、ショボンは屋上に辿り着くための道を手にすることが可能となる。
地下一階まで上がれば、後は階段を使えばいい。

デレシアの事だ、第三ブロックにある二つのエレベーターを無効化しているだろう。
ワイヤーを引っ張り、安全を確認する。
両手でそれを掴んで、ショボンは静かに上を目指した。
時間としては、五分もあれば地下一階に戻れるはずだ。

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その人物は逃走経路の掃除を行っていた。
使う道具はナイフか拳銃だけで、背中のトゥエンティー・フォーは一度も使わなかった。
対象となるのは、どうしてか道中で待ち構えている警備員達だ。
こちら側の人間ではなく、オアシズ側が配置した人間と云うのが気になる。

627名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:58:11 ID:Xf6oanDE0
計画が表沙汰になったと考えるしかない。
それも、あのショボン・パドローネを上回る形で。
オアシズ付の人間ではないはずだ。
外部の人間の仕業だ。

跫音を消すことをせずに廊下を突き進むその人物は、ショボンの共犯だった。
真犯人の影を演じ、大胆な犯行を担当した。
姿や存在が捜査線上に現れることなく犯行を手掛け、ショボンにアリバイを与えた。
それが彼の役割だった。

そして今、彼の部下が船の各ポイントに立ちショボンの逃走を手助けすることになっている。
仲間のためとはいえ、部下を捨て駒のように使われるのはいい気分がしなかった。
部下全員の顔と名前を憶えている訳ではないが、それでも人間だ。
既に報告で上がっているのが、海賊襲撃時にブロック長達の警備兼監視役の部下が、全員殺されたことだ。

それ以外にも死者が確認されている。
この船に乗り込んだ猛者がおり、トラギコとか云う人間がその内の一人なのは間違いない。
第三ブロック七階にある操舵室の前に来た時、嫌な感覚に襲われた。

「……?」

まず、いるはずの歩哨がいなかった。
命令ではその場から動くなと言ってあったはずだ。
決められた回数、そして間隔で操舵室の扉をノックしたが、応答がない。
扉を押すと、何の抵抗もなく開いた。

一瞬で状況を理解することは出来なかった。
地面に落ちた大量の血痕はまだ乾いていないが、人がいない。
誰一人、そこにはいない。
海を見渡すことの出来る強化ガラスに近づき、他にめぼしいものが無いかを確認した。

628名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 22:01:18 ID:Xf6oanDE0
窓の傍に一つだけ落ちていた薬莢を爪先でつついた時だった。

「――へぇ、あんたか。
なんだか少し残念だよ」

その声は後ろからかけられた。
刃の様な女性の声だった。
気配は全くしていなかった。
今こうして声を掛けられても、気配を感じるのがやっとだ。

すぐに襲ってこないことを考え、その人物は顔だけを声の方向に向けた。
若い女だった。
細身だが、黒いスラックスの下にある実用的な筋肉の存在は、立ち振る舞いから分かる。
目尻がやや吊り上がった、鋭い眼光を放つ瑠璃色の瞳。

見たことのある女性だった。
餃子を売っていた時に現れた女性だ。
只者では無い事は察していたが、まさかここまでとは。

ノパ⊿゚)「さて、お相手願おうか」

この女性が単身で操舵室にいた部下を皆殺しにしたのは、確認するまでもなかった。
そして、この女性がショボンの言う障害の一人であることはより明白だ。

( `ハ´)「……」

必要なのは先制攻撃だ。
シナー・クラークスは溜息を殺し、覚悟を決めた。

( `ハ´)「私の部下はどうしたアルか?」


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