[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
202
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:44:42 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「それで、音楽でどう勝負するつもりだ」
( ^ω^)「シックスティーン・バースだお」
ブーンが応える。
空流と出麗が首を傾げた。
( ^ω^)「ジャズなんかでよくある、ソロの掛け合いだお。南蛮式の楽譜は知ってるかお?」
川 ゚ -゚)「ああ。横書きのやつだな?」
( ^ω^)「そうだお。まず一人が楽譜の16小節分弾く、続けて相手が16小節弾く、というのを繰り返すんだお」
川 ゚ -゚)「勝敗はどう決める」
( ^ω^)「流れに乗って弾けなくなったら。つまり──」
ブーンが、空流を睨んだ。
これが狙いだ、というのを空流に解からせる為に。
( ^ω^)「──心が屈して、演奏できなくなったら、負けだお」
203
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:46:16 ID:bh8WsPgM0
本来、音楽に直接勝負という概念は無い。
派閥の対立やカテゴリーの分裂、競争などは一般的にある話だが、
対決し勝ち負けを決めるというのは難しい。
例えば現代で行われるギターやベースやドラムバトル。DJやバンド対決。
それらの勝敗の決め方は、大抵「客の盛り上がり」か「審査員の判断」だ。
今この場には客もいなければ、公平な判断ができる第三者もいない。
だからこそ、勝敗の決め方は本人達に委ねられる。
現代で言うなら、ラップのフリースタイルバトルに近い。通常の掛け合いではあり得ない16小節という長さにしたのも、バトルが成立しやすくするためだ。
流れに乗れなかったら。音が出てこなかったら。心が屈したら。それが勝敗になる。
空流はもちろん初めてのことだろう。
ブーンも未経験のことだ。
川 ゚ -゚)「…なるほどな。演奏技術だけでなく、流れの読みや即興力が問われるわけか。面白い」
( ^ω^)「お前は琴で、僕はギターを使うお。お前から始めていいお」
川 ゚ -゚)「曲は、何でもいいんだな?」
空流が部屋の外にいる見張りの兵達を呼ぶ。
根野の死体を片付けて琴を持ってくるように命じると、彼らは急ぎ足で取りかかった。
204
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:47:22 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「…数年前、ある南蛮船が近くに漂流してきた」
座布団に座り、突然話し出した空流。
ブーンも対面して座り、ギターを膝に乗せる。
川 ゚ -゚)「彼らの持ち物の中に、非常に興味深いものがあってな」
空流の前に、琴が丁寧に置かれた。
兵達がそそくさと退室する。
空流は琴爪を付けながら話を続けた。
川 ゚ -゚)「楽譜だった。琴の楽譜とは違い、横書きで何やら記号だらけだった」
川 ゚ -゚)「私はそれを理解するために、彼らを留め、楽譜の読み方を習った」
川 ゚ -゚)「一年以上もかかってしまったよ。それで得た曲は、実に面白かった」
.
205
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:48:12 ID:bh8WsPgM0
指を構える。
驚くほど綺麗な姿勢。
人を殺したばかりとは思えないほどの、綺麗な指。
世界が、止まったように感じた。
川 ゚ -゚)「この神々しき旋律。まさに光世真宗に相応しい」
美しい音色が、室内に響き渡った。
.
206
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:50:08 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(外国音楽で仕掛けてくるとは…)
一音一音が、綺麗に伸びていく。
音自体の輪郭は非常にはっきりしている。琴の特徴だろう。
はっとするほど綺麗な音だ。
しかし、すぐ違和感に気付いた。
音の伸びはあるものの、音数そのものが非常に少ないのだ。
日本の古典的な音楽は、音数の多い流れるような曲、というイメージがブーンにはあった。
しかし、空流が今弾いてるのは本来の和製音楽ではないとは言え、これはいくらなんでも少なすぎる。
シックスティーン・バースとは言ったが、これでは掴みにくい。
リズムも難しい。
(;^ω^)(何の曲かは知らないけど、こっちも間伸びするような曲がいいのかお…)
しかし、ハードロックを好んで聴いていたブーンは、そのレパートリーは少ない。
そもそも、二人の音楽性には約500年のギャップがあるのだ。
207
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:51:24 ID:bh8WsPgM0
それでも、リズムをどうにか掴んだブーン。
そろそろタッチされる頃だ。
曲の雰囲気やコンセプトは、結局よくわからなかった。
しかし空流は適当に弾いてるわけではない。それだけは確かだ。
曲としては完成しているのがわかる。だが、とにかく掴みにくい。
ブーンを乗らせない為の、空流の狙いなのだろうか。
( ^ω^)(…とりあえず、耳コピで大まかな流れを弾いて、ベース音で主導権を握るお)
川 ゚ー゚)「……」
最後に丁寧な音を鳴らし、ブーンの方を見る。
さあ、お前の番だ。
そう言いたげな目を向ける。うっすらと笑みを浮かべながら。
琴の余韻が響き渡る中、頭の中でリズムに乗り、ブーンはピックでなく指を構えた。
.
208
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:15 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(行くお!)
まずは、楽器が変わることによるわだかまりを消し飛ばすため、開放弦を鳴らす。
そして、空流の弾いた曲に近い高音に加え、4、5、6弦を親指で刻むようなベース音を作っていく。
川 ゚ -゚)「……」
空流の顔つきが変わった。
自分の弾いた曲がその場で再解釈されて返されるのは、初めてなのだろうか。
少なからず、驚いているようだった。
( ^ω^)(……あれ?)
弾きながら、また違和感。
ベース音が作りやすいのだ。
まるで、和音をただ丁寧に解いたような。
ブーンの弾き慣れたアルペジオが、何も考えずとも出てくる。
そうなれば、あとは簡単だ。
.
209
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:58 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(主導権はこっちのもんだお!)
伸びる高音に、ベース音を刻み続ける。
リズムも取りやすい為、曲としての輪郭が明確になってくる。
川 ゚ -゚)「……」
空流は無表情でその様子を見ていた。
焦る様子は全くない。
ブーンの16小節が終わりに近づく。
川 ゚ -゚)「…勉強になったよ。これが未来の音楽か」
空流の番。
ブーンに慣い、同じような伸びのある高音に加え、弾くような低音を入れる。
琴の迫力に絶妙にマッチした音色だ。
低音が加わり、曲の全体像が見えてきた。
立体感を帯びたその曲は、まるで──
.
210
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:54:10 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(──ルネサンス音楽かお?)
ルネサンス音楽。
ヨーロッパのルネサンス期に発祥した音楽だ。
宗教歌・聖歌として発展したものが多く、主に教会音楽として広まったと言われている。
やたら伸びのある高音にもこれで納得いく。宗教歌のメロディによくある曲の構成だ。
「南蛮船に乗っていた」というのは、恐らく宣教師か何かだろう。
それにしても、西洋音楽の知識が全く無いはずの空流が、リュートやオルガンといった西洋楽器で奏でる音楽を、琴一つで表現するとは。
それも僅か一年で。
外国の楽譜を読み、尚且つ自分の技術に当てはめたのは、この時代なら恐らく空流が初めてだろう、
川 ゚ -゚)「……未来には、きっと私の想像を超えるような音楽や楽器が溢れているんだろう?」
( ^ω^)「!」
空流が演奏しながら話し出す。
音色が、変わった。
.
211
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:55:29 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「正直、私は今喜んでいるんだ。未来の音楽と、私の全てを賭けて戦っているわけだからな」
神々しい旋律は、より高揚感の出る旋律へ。
川 ゚ -゚)「来いブーン。お前の、未来の全てを、私にぶつけてみろ。素直流の最強を示す良い機会だ」
いや、音色だけでない。曲そのものが変わった。
まるで、音楽のカテゴリー自体が変わったような。
不穏な流れの中、ブーンの番が来た。
( ^ω^)「…浮かれてられるのも、今の内だお」
空流は次の番で何かを仕掛けてくる。旋律の不穏さでわかる。
それを払拭するため、ブーンは違った趣向の流れを鳴らし始めた。
仕掛けさせる前に、技術で上回ってやる。
.
212
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:56:24 ID:bh8WsPgM0
ベース音を刻みながら、音数を極端に増やす。
その旋律は、より芸術的に。より現代的に。
ブーンは、ある曲を勝負に出した。
( ^ω^)(行くお!)
──東京事変『丸の内サディスティック』のソロギターアレンジ。
ジャズやポップスの色が強いこの曲調は、テンポをどれだけ落としても、強烈なほどメロディアスだ。
恐らくは空流が見たことのない演奏技術、感じたことのない世界観だろう。
( ^ω^)(お望み通り、これが未来のミクスチャーだお!)
川 ゚ -゚)「……」
213
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:57:11 ID:bh8WsPgM0
空流の表情に変化はない。
だが、ブーンの演奏から目が離せないようだった。
やがて、16小節の終わりが近づく。
空流はまだ動かない。
( ^ω^)(決まったかお…?)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)
(;^ω^)「!」
.
214
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:58:24 ID:bh8WsPgM0
素敵な笑みを浮かべる空流。
ブーンの16小節が終わった瞬間、最初のブーンのように、空流は開放弦を大袈裟に鳴らした。
(;^ω^)(来る!!)
何かを仕掛けてくるのはわかってた。
そして、それが始まる。
直後、ブーンは全身の毛が逆立つのを感じた。
(;゚ω゚)「…そんな、バカな……」
思わず声を漏らす。
バカな。ありえない。
一体どうなっている。
川 ゚ー゚)「漂着した南蛮船の奴らを、私は数年留めた。私が作った曲を南蛮にも広めてもらう為にな」
.
215
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:59:20 ID:bh8WsPgM0
またも、演奏しながら話す空流。
空流が始めたそれは、聴き覚えのありすぎる曲だった。
川 ゚ー゚)「彼らにその曲を授け、ちょうど先日出航させたんだ。どう広まるか楽しみにしてたが…」
川 ゚ー゚)「……その反応を見る限り、未来にも継がれる曲と成ったようだな」
(;゚ω゚)「……」
何も言い返せない。
だが、空流の言うことが事実なら。
これが事実なら。
恐らく、世界史に影響するほどの事態だ。
空流の弾くその曲を、改めて言葉にする。
.
216
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:00:03 ID:bh8WsPgM0
(;゚ω゚)「それは……『カノン』、かお」
ヨハン・パッヘルベルが作曲したと言われる名曲、『カノン』。
世界中で愛される、バロック音楽の代表的な曲の一つだ。
それを、空流が、作曲した?
(;゚ω゚)「そんなはずが無いお…」
そう、そんなはずが無い。
『カノン』が作曲されたのは、1680年頃と言われているのだ。もちろんこの1499年にバロック音楽などそもそも存在しない。
だからこそ、空流が作曲したなど、あり得ない。
川 ゚ー゚)「……」
(;゚ω゚)(でも…)
だが、実際に、空流は目の前で『カノン』を弾いている。
.
217
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:05 ID:bh8WsPgM0
もし、空流の言うことが事実なら。
空流の作曲した楽譜が、南蛮船に乗って無事ヨーロッパに着いたのなら。
その楽譜を、およそ200年後に誰かが発掘したのなら。
発掘した楽譜を、パッヘルベルが再現できたというのなら。
空流は、当時の西洋音楽どころか、バロック音楽をも先駆けた日本の琴奏者であり。
音楽史上でも、トップクラスの作曲家とも言える。
川 ゚ー゚)「……」
演奏は続く。
ブーンは自らの両頬を叩き、無理やり気持ちを切り替えた。
.
218
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:59 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)「……邦楽アーティストがよくカノンを取り入れる理由が、今ようやくわかったお」
皮肉を込めて呟く。
が、空流に完全に気圧されてどうしていいかわからない。
空流の16小節が、もうすぐ終わってしまう。
(;^ω^)(ど、どうすればいいんだお…)
どうすればいい。
この最強の作曲家、最強の琴奏者を、圧倒する為には、一体どうすればいい。
この勝負に敗れてしまえば、自分は本当に空流の配下になるかもしれない。
そうなれば、もう元の時代には戻れないのだろうか。
出麗を救うことも、叶わないのだろうか。
.
219
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:05 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(……いや、負けるわけにはいかないお)
負けるわけにはいかない。
空流を、音楽で、真っ向から倒さねばならない。
ネックを握りしめて考える。
『カノン』に勝る、方法を。曲を。
頭の中に残っているレパートリーを、全て漁っていく。
(;^ω^)(……あ!)
あった。
素直空流に、勝てるかもしれない曲が。
.
220
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:46 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ー゚)「さあ、来い」
空流の勝ち誇った笑みが、ブーンに向いた。
ピックを取り、空流を睨み返す。
16小節が、終わった。
( ^ω^)「…この曲は、僕が練習した中でも、最も難しかった曲だお」
空流の『カノン』の余韻を、ギターで引き継ぐ。
ピッキングの激しいミュートで、新たなリズム感と躍動感を作っていく。
空流の顔から、笑みが消えた。
( ^ω^)「素直空流、お望み通り聴かせてやるお!! これが、僕の全て──」
.
221
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:09 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)「──『カノンロック』だお!!」
川; ゚ -゚)「!?」
空流が一瞬で青ざめる。
何が起きたか、すぐに理解できたようだ。
『カノンロック』。
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
バロック音楽をメタルアレンジすること自体は、昔からあった手法だ。
だが、『カノンロック』はその完成度の高さ、演奏力、親しみやすさなどが評価され、一躍有名になった。
一時は、世界中のギタリストが曲にアレンジを加え動画投稿するという流行を巻き起こしたほどだ。
細かい旋律。圧倒的に多い音数。
それでいて丁寧で、原曲の尊厳を保つアレンジ。
.
222
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:52 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)(どうなっている…!)
狼狽する。
自分が数年かけて作った曲を。全身全霊をかけて作った作品を。
ブーンは、より優雅に、より激しく。
より新しく弾いている。
ビブラート、チョーキング、ハンマリング、タッピング。
この時代にはない技術を駆使し、ギターを鳴らしていく。
ζ(゚ー゚;ζ「な、何、あの弾き方…」
川; ゚ -゚)「……」
見たことないほど細かく動く左手。
見えないほど速く動く右手。
それでいて、原曲の形は、純粋な程に保たれている。
.
223
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:06:51 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)「…これが、未来か」
ブーンの16小節の終わりが近づく。
だが、どうしていいかわからない。
両手が震える。
手汗が、琴爪に伝っていく。
弾かなければ。
生涯最高の曲をブーンは返した。それをさらに圧し返さねば。
( ^ω^)「──さあ、お前の番だお!」
圧し返さねば。
.
224
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:07:38 ID:bh8WsPgM0
やがて、その震える指先から。
琴爪が、静かに落ちていった。
第八話 終
.
225
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:08:24 ID:bh8WsPgM0
今回は以上です!iPhoneが熱い!ありがとうございました!
226
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:28:49 ID:bh8WsPgM0
あ、やべ
>>221
の
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
を、
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、『カノン』のメタルアレンジの曲だ。
に変えたい!!読んでくださった方、脳内で変えてください!
227
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:53:13 ID:bh8WsPgM0
やべえ、本当にすんません…
>>214
素敵な→不敵な
です。
228
:
名も無きAAのようです
:2018/09/02(日) 16:09:21 ID:hcVKGRFE0
誠に勝手ながら、ファイナル板に移動しました。
最初から投下し直しています。
よろしくお願いします!
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1535846063/l50
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板