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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです

1名無しさん:2018/09/02(日) 08:54:23 ID:upZCq1QE0
前作
「( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです」
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/guitarist/guitarist.htm
文丸様

283名無しさん:2018/09/19(水) 15:54:17 ID:yAwhJitI0
 
 
 
 楽しかった。
 その気持ちに嘘偽りはない。

 
 三年前の自分もこんな気持ちだったのだろうか。
 
 
 
 
 手にした琴爪で、ブーンはギターを鳴らした。
 
 
  


 
 
.

284名無しさん:2018/09/19(水) 15:54:39 ID:yAwhJitI0
 
 
 
──
 
 
 
 
 
 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 

  
 
 
 
 
 
 
 
 
──
 
 
.

285名無しさん:2018/09/19(水) 15:55:00 ID:yAwhJitI0
 
──
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──…ちゃ──

 
 
 

 
 ──…ちゃん!──

 
 
 
 
 
 
 
(;^ω^)「──ツンちゃん! 一体どうしたんだお!」

 
ξ;⊿;)ξ「…え?」

 
.

286名無しさん:2018/09/19(水) 15:55:28 ID:yAwhJitI0
 
 目を開ける。
 そこは、通いなれたバイト先のコンビニ。
 自分はレジにいるようだ。
 
 
 
ξつ⊿;)ξ「え? ブーンさん? 何してるんですか」

(;^ω^)「こっちの台詞だお! 気づいたらツンちゃんがレジで泣いてたんだお! 制服着てないし!」

(;^ω^)「気づかなかった僕も悪いけど、マジでびっくりしたお…とにかく事務室行くお!」

 
 ブーンに無理やり腕を引っ張られる。
 涙を拭き、ブーンに従って歩いていると、だんだん記憶を取り戻してきた。
 
 
ξ;゚⊿゚)ξ「待って!!」

(;^ω^)「え!?」
 
 
 ブーンを押しのけ、事務所のドアにあるマジックミラーの前に立つ。
 恐る恐るそれを見ると。
 
 
ξ;゚⊿゚)ξ「…映ってる」

(;^ω^)「は?」

ξ*゚⊿゚)ξ「私、鏡に映ってる!」

(;^ω^)「いや普通でしょ…どうしたんだお本当に…」

287名無しさん:2018/09/19(水) 15:56:17 ID:yAwhJitI0
 
 事務室に入り、椅子に座る。
 ブーンはすぐにお茶を出してくれた。童貞なのに手際がいいなと思った。

 
( ^ω^)「ツンちゃんなんか様子が変だし、今日は帰っていいお」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」

( ^ω^)「悩んでることがあるなら、僕で良ければいつでも話聞くお」

ξ゚⊿゚)ξ「童貞なのにありがとうございます」

( ^ω^)「平常運転じゃねーかお」
 
 
 無意識に余計なことを言ってしまったが、ブーンはいつも通り気にしていないようだった。
 その姿を見て、ふと、自分が泣いていた理由を思い出す。

 ブーンが羨ましかった。
 夢を追い続けるブーンが羨ましかった。こんな人生を歩みたかった。
 いや、今でもそうしたい気持ちがある。だから就活もやる気が出ないのだ。

 でも、よく考えると。
 ブーンは23歳だけど、自分はもっと若い。
 なら、自分にも、今から夢を追うことはできるのではないか。
 

 
( ^ω^)「じゃあ僕は売り場に戻るけど…何かあったら本当に行ってくれお」

ξ゚⊿゚)ξ「待って」

288名無しさん:2018/09/19(水) 15:56:44 ID:yAwhJitI0
 
 事務室を出ようとしたブーンが、驚いて振り返る。
 拳を小さく握りしめ、ツンは絞り出すように声を出した。

 
ξ゚⊿゚)ξ「…私、ブーンさんと」

( ^ω^)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「私も、ブーンさんと音楽やりたい! 歌手になりたい!」

(;^ω^)「!?」
 

 ブーンが大きく目を見開いた。
 あまりにも予想外だったのだろう。

 少し考える素振りを見せた後、ブーンは満面の笑みで応えた。

 
( ^ω^)「本気なんだおね?」

ξ゚⊿゚)ξ「はい…」

( ^ω^)「…来週、ジャケの相談しにスタジオに行くんだお。一緒に来るかお?」

ξ*゚⊿゚)ξ「い、行きます!」

 
 即答する。
 就活なんて捨てちまえ。夢を追うほうが何倍も良い。
 ミセリには文句を言われるだろうな、と苦笑した。

289名無しさん:2018/09/19(水) 15:57:08 ID:yAwhJitI0
 
(*^ω^)「そうと決まれば話は早いお! 早速ドクオさんに連絡いれとくお」

ξ*゚⊿゚)ξ「スタジオの人ですか?」

(*^ω^)「そうだお。あ、その前にツンちゃんの歌の感じが知りたいからカラオケにでも行くお」

ξ*゚⊿゚)ξ「はい! …え、二人で?」

(;^ω^)「なんで急に嫌そうなの……」

 
 話がとんとん拍子で進んでいく。
 胸の内に高揚感が込み上げてくる。

 
ξ*゚⊿゚)ξ「ブーンさん」

 
 さっきまでの絶望感は、どこに行ったんだろう。
 自分の人生が、こんなにも愛おしい。
 前世の行いが良かったのかな、なんて思うほどに。
 
 
ξ*゚⊿゚)ξ「…ありがとう」

 
.

290名無しさん:2018/09/19(水) 15:57:33 ID:yAwhJitI0
 
 
 
 
 
 
 

 退屈で、無意味な人生だと思っていた。
 
 だが、それももう、終わりだ。
 
 
 
 
 
  

 
 
 
 最終話 終

 
.

291名無しさん:2018/09/19(水) 15:58:22 ID:yAwhJitI0
 
 
──
 
 エピローグ
 
──

 
 
 
 
 
 
 今日もツンとのレコーディングを終え、ブーンは自室に戻った。

 
 ツンの歌声は想像以上に良かった。
 透明感のある声をさらにウィスパー気味に発するタイプだ。その上声量が大きい。
 それが、アルペジオを多用するブーンのギターと、絶妙にマッチする。

 ドクオも珍しく大絶賛した。
 「とんでもない原石を見つけた」とまで言っていた。

 童貞と美少女のラブソングというキャッチフレーズにするか、という話になったが、これにはツンが大反対した。
 「誤解されそう」ということらしい。
 

 
(;^ω^)「誤解されそうって…」
 
 
 一人で呟きながら、テレビをつける。
 毎週流れている音楽番組がちょうど始まっていた。
 今回は日本の名曲特集らしい。

292名無しさん:2018/09/19(水) 16:00:10 ID:yAwhJitI0
 
 一曲目に、ある曲が取り上げられていた。
 解説者がその曲の解説を始める。
 
 

 「この曲の凄いところといえば、やっぱりコード進行ですね」

 「コード進行?」
 
 「はい。非常に現代的なんですね。具体的には、メジャーコードとセブンスコードの使い方が、昨今のJPOPに共通するものがあります」
 
 「その、コードとかっていうのは、そもそもこの曲が作られた時代から知られてたんですか。コードという概念自体が近代的な気がしますが」
 
 「どうなんでしょう。当時からコードという概念が日本にあったかどうかは…」

 「不思議ですねえ。まるで未来から贈られた曲みたいだ。そんな曲が五百年前から存在するわけですから」
 
 「そうですね。作曲者は尾付出麗という琴奏者となっています。きっと素晴らしい才能を持った作曲家なのでしょう」
 
 
( ^ω^)「ふうん…」
 
 
 ベッドに座りながら、司会者と解説者の会話を聞く。
 確かに不思議な話だ。やたら現代的な曲が五百年前の曲だったなんて。
 だが、古くから伝わる曲が現代的な構成をしているというのは、海外では割とある話だ。
 例えば、ヨハン・パッヘルベルの『カノン』のように。

 実際、この曲は今や世界中で知られている。
 もちろんブーンも知っている。

 そして、この司会者と解説者以上に、ブーンには不思議に思えることがあった。

293名無しさん:2018/09/19(水) 16:00:31 ID:yAwhJitI0
 
( ^ω^)「この曲…」
 

 解説が終わり、曲が流れる。
 何度聴いても、やっぱりそうだ。
 
 
( ^ω^)「昔作った曲にめちゃくちゃ似てるお…似せたつもりはないのに」
 
 
 この曲の雰囲気は、一貫して切ない。
 孤独感すら覚えるほどだ。
 実際、ブーンが作った曲も、孤独をイメージして作った。

 なのに、テレビに映るその曲名は、あまりそのイメージにはフィットしない曲名だった。

 
 
( ^ω^)「『贈り物』……」
 
 
 その曲名を呟くと、ブーンは何となく、懐かしさを感じた。
 
 
 
 
 

 

 エピローグ 終

294名無しさん:2018/09/19(水) 16:00:53 ID:yAwhJitI0
 
 
以上です。長々とすんませんでした!
それと、逃亡しててほんとすんませんでした!

 
質問・誹謗・中傷・愛撫、なんでも受け付けます。
 
ありがとうございました!

295名無しさん:2018/09/19(水) 17:16:23 ID:F4/ZnoX20
二部は内容が駆け足な感じだな乙

296名無しさん:2018/09/19(水) 18:54:46 ID:ejAbJs5U0
楽しかったのにもう終わっちゃったよ・・・また戦国になんやかんや行ってもいいんだよ?チラッチラッ
まあそれはそれとして乙でした!

297名無しさん:2018/09/19(水) 20:48:10 ID:37vis1iE0
乙!面白かった

298名無しさん:2018/09/19(水) 22:14:50 ID:e/f2Ps.s0
乙!

299名無しさん:2018/09/20(木) 12:45:34 ID:1kcTO8pw0
乙乙!!
またブーンに戦国にいってほしい!

番外編でまったり観光とかも|´-`)チラッ

最後の曲名にはグッときた

300名無しさん:2018/09/23(日) 09:56:14 ID:5asXlnQU0
お疲れ様!
次は欧米編だな!

301名無しさん:2020/12/23(水) 19:08:46 ID:L9irMuC20
 
('A`)「クリスマスソングを作れ」

( ^ω^)「は?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」

('A`)「ツンちゃん返事が怖い。まあ聞けよ二人とも」

 
 十二月に入り、本格的な寒さが事務所の中にも蔓延する。
 その事務所の一角。三人はストーブの前で縮こまりながらミーティングをしていた。
 

(;^ω^)「クリスマスソングって…もう12月ですお?」
 

 音楽で生きるという夢を追うフリーター、ブーンが言い返し。
 

ξ゚⊿゚)ξ「私も、さすがにもう遅いと思います」
 

 ブーンをタッグを組むボーカリスト、ツンも便乗する。

.

302名無しさん:2020/12/23(水) 19:09:46 ID:L9irMuC20

 
 二人が一緒に音楽をするようになってはや半年。
 ネット上での人気が徐々に広まり、ファン(主にツンへの)も増えてきた。
 手応えを感じてきた頃ではあるが、伸びるのはまだこれからだ、と二人を担当するドクオは思っている。
 

('A`)「君達二人は注目されてきている…が、代表曲がまだ無いんだ。バズりが足りない」
 
(;^ω^)「はあ…」

('A`)「そこでだ。基本的にクリスマスソングは良い印象を与えやすい。というかバズりやすい。クリスマスソングを作るということは、お前らの躍進のチャンスなんだ!!!」

(;^ω^)「…で、なんで今このタイミングで言ってきたんですか?もう12月なのに」

('A`)「完全に今日思いついた」

ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」

('A`)「やめてそれ怖い」
 

――
 
 
.

303名無しさん:2020/12/23(水) 19:10:40 ID:L9irMuC20
 
――
  

 
( ^ω^)「クリスマスソングって幸せ系が良いんじゃないのかお? みんながハッピーになる日なんだから、幸せな二人を歌うほうがいいお!」

ξ゚⊿゚)ξ「幸せより儚さの方が響きますよ。クリスマスソングで売れてる曲って大体そうじゃないですか」
 

 ブーンとツンのアルバイト先のコンビニ。
 相変わらず客のいない店内で、二人は商品の補充をしながら言い争っていた。

 争点は、課題となったクリスマスソングのコンセプトだ。
 ブーンが理想とするのは愛が成就する幸せな曲。
 ツンが理想とするのは愛が成就しない切ない曲。

 真っ向からぶつかり合った意見は、なかなか落としどころが見つからない。

 
(#^ω^)「だいたい、ツンちゃんはそうやって普段から僕に童貞とか言うけど、ツンちゃんこそデートとか恋愛とか経験あるのかお!?」

ξ゚⊿゚)ξ「あるから言ってんだろクソ童貞」

( ^ω^)「ごめんなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンさんは幸せな曲がいいとか言いますけど、クリスマスに幸せな経験とかしたことあるんですか?」

( ^ω^)「無いから言ってるんだお。そういう傷つけ方やめろ」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい」

 
.

304名無しさん:2020/12/23(水) 19:11:19 ID:L9irMuC20
 

 ため息。

 議論は平行線のまま進まない。
 ブーンはいっそのこと二曲作るかとも考えたが、もうそんな時間はない。
 
  
 沈黙が続いたあと、ふとツンが呟いた。
 

ξ゚⊿゚)ξ「…どっちでもない物語を作る、ってのはどうですか?」

( ^ω^)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと聞け童貞。成就も失敗もしてないような、どちらとも取れるような話にするんです」

ξ゚⊿゚)ξ「例えば…クリスマスまでに決めるつもりだったけど、結局距離が縮まっただけ、とか」

( ^ω^)「お、なるほどだお。確かにそのほうが共感性高そうだおね」
 

 ブーンが繰り返し頷く。
 確かに、それなら幸せな話とも切ない話とも受け取れる。その中途半端さがむしろリアルだ。
 
.

305名無しさん:2020/12/23(水) 19:11:54 ID:L9irMuC20
 

( ^ω^)「よし、この品出しが終わるまでに物語を考えるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ今ですか?」

( ^ω^)「もちろんだお!例えばこういうのはどうだお?ある男が――」
 

 話が盛り上がる二人。
 横で熱弁するブーンを見ながら、ツンはこの会話になんとなく居心地の良さを感じていた。

 そういえば、以前に比べるとブーンに対しての口数が増えた気がする。
 ブーンに慣れたのか、自分の性格が変わったのかわからない。
 が、自分という存在にずっと疑問を抱えていた半年前に比べると、今のほうがずっと心地いい。

 閑散としたコンビニの中で、二人は曲のイメージを退勤時間まで語り合った。

  

――

 
.

306名無しさん:2020/12/23(水) 19:12:27 ID:L9irMuC20
 
 

―― 
 
 


 孤独な男が、一人寂しく過ごしていた冬の日、ある女性ミュージシャンと出会う。
 彼はその出会いにより、それまで興味のなかった音楽に心奪われていく。
 そしてクリスマスの日。彼女が作った曲を聴いているうちに、彼が愛しているのは彼女の音楽ではなく、彼女そのものなのだと気づく。
 男は、彼女にその愛を伝えることを決心する。


 
 
――
 
 
.

307名無しさん:2020/12/23(水) 19:12:56 ID:L9irMuC20
  
 
ξ゚⊿゚)ξ「…いいんじゃないですか?」

(*^ω^)「いいおね!」

ξ゚⊿゚)ξ「正直、いいと思います」

(*^ω^)「いいおね!!!」

ξ゚⊿゚)ξ「うるさい」

( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ「私のイメージ通りだし、こういうストーリーなら色々納得できます。ブーンさんにこんなこと言うの癪ですけど、理想的です」
 
.

308名無しさん:2020/12/23(水) 19:13:50 ID:L9irMuC20
 

 翌日。
 ブーンが家で書いた曲のコンセプトをツンに確認させてみると、予想の遥か先を行くほどの良い反応が返ってきた。

 ブーンはその反応を嬉しく思いつつも、別の感覚に襲われていた。
 

( ^ω^)「僕としても、なんか不思議なくらいしっくりくる物語なんだお。経験したわけでもないのに」
 
ξ゚⊿゚)ξ「でしょうね」

( ^ω^)「やめろ」

ξ゚⊿゚)ξ「私も不思議なくらい納得できました。初めて見る物語なのに」
  

 どうやらツンも同じ感覚を持っているようだ。

 そう、自分でも不思議に思うほど、この物語が自分の理想にフィットするのだ。
 まるで同じ経験があるかのように。
 

(*^ω^)「まあとにかく、このコンセプトで曲を作ってみるお!僕らの意見がこんなに合致するんだから、きっと良い曲ができるお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですね。これで行きましょう」
 
 
 
――
 
.

309名無しさん:2020/12/23(水) 19:14:30 ID:L9irMuC20
 
 
 
――
 
 

 寒さが包み込む根十城の朝方。
 兵舎の裏庭で、焚火で暖を取る男がひとり。

 
(´メω・`)「……」

 
 かつて戦魔と恐れられた剣豪、太田渚本介。

 小さな火の前に座り込み、両手を見ながら指を上下に動かす。
 寒さで動きにくい。

 
ζ(゚- ゚*ζ「…アンタ、何してるの?」

 
 二茶根留家近習一族にして、有名な琴奏者、尾付出麗が後ろから呼びかける。
 
.

310名無しさん:2020/12/23(水) 19:15:09 ID:L9irMuC20
 
 
(´メω・`)「出麗か」

 
 出麗が自然と渚本介の隣に座る。
 汚れるぞ、と声をかけたが、出麗はこれを無視した。
 

ζ(゚- ゚*ζ「中に暖かい場所はいくらでもあるのに、なんでわざわざ外で火を起こすわけ?」

(´メω・`)「慣れだな。大勢で囲炉裏を囲むより、少数で火を見る方が落ち着く」

ζ(゚ー゚*ζ「あは、なんとなく分かる気がする」
 

 火を見ながら自然と笑顔になる二人。
 渚本介の言う通り、こうして火を見ているだけで落ち着く。

 思えば、ブーンと旅をしていた日々、まさにこんな雰囲気が多かった。

 
(´メω・`)「ブーンの残した曲、できそうか?」
 
 
 渚本介がふと尋ねる。
 出麗は苦笑いで答えた。
 
.

311名無しさん:2020/12/23(水) 19:16:04 ID:L9irMuC20
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「かなり苦戦してる。琴の楽譜に写し始めてから気づいたんだけど、見たこともないような音階を使ってるみたいなの」

ζ(゚ー゚*ζ「暫く時間がかかりそうね。師匠の凄さを思い知らされたわ」
 

 そうか、と呟く。

 出麗が師匠と呼ぶのは、光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥、素直空流のことだ。
 八尾井山焼き討ちの際に出麗達は裏切られ殺されかけたが、ブーンが音楽で彼女を止め、結果的に彼女は吹連久斗尚に裏切られて命を落とした。
 
 謀反者とは言え、惜しく思う。
 
 
 二人して暫く無言で火を眺めたあと、ふと、渚本介が口を開いた。
 

(´メω・`)「…琴は、冬でも弾けるのか?」

ζ(゚- ゚*ζ「は?」

 
 出麗が思いっきり怪訝な表情で渚本介を見た。
 質問の意味がわからない。
 
.

312名無しさん:2020/12/23(水) 19:17:14 ID:L9irMuC20
 
 
(´メω・`)「武器術や徒手戦闘は、冬になると動きが圧倒的に悪くなる。寒さで鈍くなるんだ」

(´メω・`)「琴はどうなんだ?寒さの影響は指こそ受けるだろう」
 

 考える。
 確かに寒いと指が動きづらいが、弾けるかどうかで言えば、弾ける。
 

ζ(゚- ゚*ζ「激しい動きがあるわけじゃないし、そもそも弾くのは室内だし、弾けるわよ。武器なんかと比べないで」

(´メω・`)「そうか、そう言われるとそうだな」

ζ(゚- ゚*ζ「急にどうしたの?琴なんか興味なさそうなのに」
 

 渚本介は両手を開き、もう一度指を上下した。
 先程よりは動く。

 
(´メω・`)「…頼みがある。確かめたいことがあるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「なに?琴を教えてほしいの?」
 
.

313名無しさん:2020/12/23(水) 19:17:37 ID:L9irMuC20
 

 出麗が悪戯っぽく笑う。
 それに対し、渚本介は至って真剣な表情で返した。
 

(´メω・`)「その通りだ。琴を教えてほしい」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ」
 
 
 
.

314名無しさん:2020/12/23(水) 19:18:05 ID:L9irMuC20
 
 
――
 
 

(´メω・`)♪〜♪♪〜

ζ(゚д゚;ζ

(´メω・`)♪〜♪〜♪〜

ζ(゚д゚;ζ
 

 出麗の部屋で琴を教え始めてから数日。
 渚本介の覚えの速さは異常なほどで、基礎はあっという間にできるようになってしまった。
 普通なら一か月以上はかかるであろうレベルに既に達している。

 
ζ(゚д゚;ζ「…ほんとに琴は初めてなの?」

(´メω・`)「ああ。ぎたーなら何度かあるがな」

ζ(゚д゚;ζ「それもおかしいけど…」

 
 それにしても、上達が速すぎないだろうか。
 渚本介の持つ音楽センスに驚きつつも、出麗はふと別のことが気にかかった。
 
.

315名無しさん:2020/12/23(水) 19:18:52 ID:L9irMuC20
 

ζ(゚- ゚*ζ「そういえば、確かめたいことがあるって言ってたけど、ぎたーが弾けるから琴も弾けるかってこと?」

(´メω・`)「……いや」
 
 
 琴爪を外し、丁寧に置く。
 その仕草も既に様になっている。
 
 
(´メω・`)「俺は、ブーンを羨んでいた」

 
 出麗と目を合わさず、琴を眺めながら渚本介が語る。

 
(´メω・`)「あいつの音楽に触れるたびに、俺は自分の人生の価値の無さを突き付けられる気分だった。俺は憎しい相手を追って刀を振っていただけだからな」

(´メω・`)「だがあいつは違った。自分の為に、ひたすら音楽の道を歩んでいた。俺が陰なら、あいつは陽だ。それが羨ましかった」

(´メω・`)「だから、天野を斬った後、俺はブーンからぎたーを習った。あいつのように、俺も音楽で人生が変わるんじゃないかと期待したんだ」

ζ(゚- ゚*ζ「……」
 
.

316名無しさん:2020/12/23(水) 19:19:26 ID:L9irMuC20
 
 無言で見つめる出麗。
 渚本介は相変わらず下を向いている。

 
(´メω・`)「…だが、あいつが最初に未来に帰ったとき、俺は音楽から離れた。あいつの音楽はぎたーだ。そのぎたーが無いなら意味がないからだ」

(´メω・`)「そして、あいつはお前に曲を託した。未来から来た音楽を、この時代の琴に託したんだ。だから、触れてみたかった」

(´メω・`)「確かめたいのは、俺も音楽で人生が切り開かれるか、ということだ。ブーンの認めた琴なら――」

ζ(゚- ゚#ζ「もういい」
 
 
 出麗が静かに話を切る。
 その声は明らかに怒気を含んでいる。

 渚本介は、一瞬、何が起きたか理解できなかった。
 
.

317名無しさん:2020/12/23(水) 19:20:08 ID:L9irMuC20
 
 
ζ(゚- ゚#ζ「なら、ブーンがいなければ、私の琴は音楽ですらなかったってこと?」

(´メω・`)「いや、そういうわけでは…」

ζ(゚- ゚#ζ「そんな偉そうな姿勢で音楽に触れるのは、音楽家に対する侮辱よ。ブーンが示した音楽がすべてじゃない。ブーンだって、きっとそんなつもりでぎたーを弾いてない」

ζ(゚- ゚#ζ「気分が悪いわ。出て行って」

(´メω・`)「……」
 

 暫く固まったあと、無言で立ち上がり、出麗の部屋を出た。

 
 兵舎の裏庭で、ひとり座る。
 渚本介は暫く戸惑った。なぜ出麗が怒ったのか理解できなかったからだ。

 彼女を侮辱するつもりも、傷つけるつもりもなかった。
 何が彼女を怒らせたのか、よくわからない。
 
.

318名無しさん:2020/12/23(水) 19:20:32 ID:L9irMuC20
 
 
(´メω・`)「…火を起こすか」

 
 いつもそうしているように、一人で火を起こし始める。
 こうして外で作業をしていると、ブーンと旅をしていた日々を思い出し、気持ちが落ち着いてくるのだ。

 ブーンはいつだって平和だった。彼の住む未来では、斬り合いなんか起きていない、平和な時代なのだと教えてくれた。

 
 緩んだ顔が一瞬で固まり、手が止まった。

 
(´メω・`)「……」

 
 ブーンと出会った日の、彼のある一言が、急に脳裏をよぎったからだ。
 それは、芸能は高貴なものだと教えられたブーンが、憤慨して発した言葉だった。

 
.

319名無しさん:2020/12/23(水) 19:20:53 ID:L9irMuC20
 
 
 

 

 ――音楽や芸能というものは人間すべてが楽しめるもので、愛すべきものなんですお!――
 
 

 
 
 
.

320名無しさん:2020/12/23(水) 19:22:14 ID:L9irMuC20
 
 
(´メω・`)(ブーン…)

 
 体が熱くなる。
 そうか。そういうことだったのか。
 熱がひたすら体中を駆け巡る。

 火起こしを途中で放り投げ、渚本介は自室へと急いだ。

 出麗に謝ろう。それはもちろんのことだ。
 そして、出麗にある贈り物をしよう。今考えられる謝罪と弁明は、これしか思いつかない。
 その準備が必要だ。

 飛び込むように部屋に入ると、渚本介は一晩中それに打ち込んだ。

 
 
――
 
 
.

321名無しさん:2020/12/23(水) 19:22:42 ID:L9irMuC20
 
 
――
 
 
 
 翌日の夜。

 渚本介は出麗の部屋の前に来た。
 一つ深呼吸し、呼びかける。

 思いっきり不機嫌な顔の出麗が、襖を開けた。

 
ζ(゚- ゚#ζ「…なに?」

(´メω・`)「謝りに来た」

 
 堂々と言い切る渚本介。
 謝る者の態度なのかと思いつつ、出麗は渚本介を中に入れた。

 
(´メω・`)「昨日のあの後、俺なりに考え込んだ。そして気づかされた。あれは音楽に対する、お前に対する非礼だった。申し訳ない」

ζ(゚- ゚#ζ「…なんで私が怒ったか、本当にわかってるの?」

(´メω・`)「勿論だ」
 
.

322名無しさん:2020/12/23(水) 19:23:55 ID:L9irMuC20
 
 
 そう言い切るなり、渚本介は立ち上がり、部屋の端にある出麗の琴へと歩き出した。

 
ζ(゚- ゚;ζ「は?何する気?」

(´メω・`)「一曲、聴いてくれ」

 
 渚本介は琴爪をつけ、琴の前に座った。
 何が起きてるか、何がしたいのか理解できない出麗の前で、渚本介は構わず演奏を始めた。

 途端、出麗の目が大きく見開かれた。

 
(´メω・`)♪〜♪♪〜

ζ(゚- ゚;ζ「え、それもしかして…」

 
 出麗は体が崩れそうになるのを堪えるのに必死だった。
 その感情を、言葉として精一杯絞り出す。

 
ζ(゚- ゚;ζ「どうなってんの…それ…」

ζ(゚- ゚;ζ「ブーンの曲じゃない!」
 
.

323名無しさん:2020/12/23(水) 19:24:44 ID:L9irMuC20
 

 渚本介が弾いたのは、ブーンが残した名前のない曲だった。

 出麗に琴を習っていた数日の間に、出麗が必死に書き写している琴用の楽譜を、渚本介は暗記していたのだ。
 そして前の晩、渚本介はそれを別の紙に書き写し、自分なりに加筆し、見事その曲を完成させてしまった。

 
ζ(゚- ゚;ζ「……」
 

 その才能の底知れなさに驚きながらも、出麗はやはり渚本介の考えがわからなかった。
 まるで琴の腕前を自慢されているような気もしたが、渚本介がそんな嫌味なことをするはずがない。

 曲が終わり、音の余韻が薄くなると同時に、渚本介は真っ直ぐ出麗を向いた。

 
(´メω・`)「…俺が間違っていた」

 
 その声には、昨日の語りとは違った、明るい響きがあった。
 
.

324名無しさん:2020/12/23(水) 19:26:34 ID:L9irMuC20
 
(´メω・`)「ブーンが教えてくれたのは音楽そのものではない。音楽は誰でも平等に愛せるということだ。だから、ぎたーひとつで大勢の人間を救えた」

(´メω・`)「これは、そんなことすら理解できなかった俺にお似合いの曲だ。孤独な男の歩みの曲だ。だが、もう違う」

 
 渚本介に笑顔が宿る。
 出麗も、自分の心に少しずつ高揚が増していくのがわかった。
 
 
(´メω・`)「俺は、この曲をブーンに送り返そうと思う。俺の人生をかけて、この曲を、音楽を、音楽の持つ自由さを広め、未来に贈ろうと思う」

(´メω・`)「手伝ってくれるか、出麗」
 
 
 出麗の胸には、もはや怒りも戸惑いもなかった。

 この男は、音楽をまるで便利な道具のように捉えていた。そして、ブーンの音楽以外を認めていなかった。
 だが今は違う。音楽に向き合い、自分の人生を、音楽に捧げようとしている。
 まるでブーンの生き様のように。出麗の生き様のように。

 音楽を愛する、すべての人々と同じように。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「…うん」

.

325名無しさん:2020/12/23(水) 19:27:32 ID:L9irMuC20
 
 笑顔で頷く。

 渚本介も笑顔を返し、立ち上がって出麗のもとに歩み寄った。
 出麗の琴爪を、そっと差し出す。
 

ζ(゚ー゚*ζ「……」
 

 出麗はそれを受け取る際、渚本介の手に触れた。

 たまたま触れたのか、わざとそうしたのか、自分では判断がつかなかった。
 指先に感じた渚本介の温もりに、心臓が反応する。

 
(´メω・`)「…雪か」

 
 はっとする。
 渚本介は手に触れたことなど全く意に介さない様子で、格子の外を眺めていた。

 やっぱり、何を考えているのかよくわからない。

 
.

326名無しさん:2020/12/23(水) 19:28:03 ID:L9irMuC20
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「そうね」
 
 
 降り注ぐ雪を見つめる二人。

 火を眺めるのも、雪を眺めるのも、気持ちは大して変わらない。
 誰と見るかが重要なのだ。

 心地の良い沈黙が、二人を包み込んだ。
 
 

 明応八年、十二月二十五日のことである。

 
 
 
 
  
 
 
――
 
 
 
.

327名無しさん:2020/12/23(水) 19:28:30 ID:L9irMuC20
 

 
――

 
 
('A`)「君たちに…報告がある…!」

( ^ω^)「は?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」

('A`)「それやめてくれない?」

 
 クリスマス当日。
 相変わらず冷え切った事務所内の一角で、ストーブの前で三人は集まっていた。

 
('A`)「君たちの作ったクリスマスソングだが…」

('∀`)「……絶賛大ヒット中でございますッッッ!!」

(*^ω^)「マジですか!!やっほーう!!!」

ξ゚⊿゚)ξ(ネットの評価見たらわかるだろ…)

 
.

328名無しさん:2020/12/23(水) 19:29:15 ID:L9irMuC20
 
 二人の作った曲は、見事に大ヒットした。
 ネット販売、動画共有サイトでの急上昇ぶりは恐ろしいほどだ。

 
('∀`)「いやはや、恐れ入ったよ。まさか本当にバズるとは思わなかった」

( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(こいつ…)

('∀`)「この調子で頼むよ!音楽の世界では、有名になればなるほど軌道に乗りやすいからな!」

('∀`)「次はお正月ソングでも作ってもらおうかな!?つって」
 
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「あ"?」

('A`)「すみません」

 
.

329名無しさん:2020/12/23(水) 19:30:04 ID:L9irMuC20
 
 事務所を出て、同じアルバイト先に向かう二人。
 夕暮れの中、街灯やイルミネーションがうるさいほど二人に降り注ぐ。

 
(*^ω^)「ドクオさんの言う通り、結局は大成功だったおね」

 
 ブーンが嬉しそうに呟く。
 ツンはそっけなく相槌を打った。

 
(*^ω^)「音楽で生きるっていう夢が、徐々に現実になりつつあるお。なんだか実感わかないお」

ξ゚⊿゚)ξ「私もです。就活もしないでこの世界に入って、本当に成功しそうなのが信じられないです」
 
 
 ブーンは満足気に頷いた。

 二人の夢は共通している。音楽で生きていくということだ。
 その夢に日増しに近づいていく感じが、いい意味で、なんだかむず痒い。
 
.

330名無しさん:2020/12/23(水) 19:30:46 ID:L9irMuC20
 
( ^ω^)「それにしても、まさかクリスマスまでバイトのシフトぶち込まれると思わなかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「どうせ予定ないでしょ」

(;^ω^)「いやそうなんだけど…あれ、ツンちゃんも予定ないのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ないですよ。相手いないし、いてもデートとかめんどくさいので」

( ^ω^)「てことは、今日は僕とコンビニデートするようなもんだおね」
 

 ブーンはいつもの調子で軽口を叩いた。
 そして、すぐ違和感に気づいた。
 いつもならメンタルを潰されるギリギリのツッコミを入れられるのだが、その反応がないのだ。

 思わずツンの横顔を見ると、彼女は少し顔を赤らめ、俯いていた。

 
ξ*゚ -゚)ξ「…そうですね」

 
 その声はあまりにも小さく、ブーンには届かなかった。

 心地の良い沈黙が、二人を包みこんだ。

 
 
 
 戦国を歩いたギタリスト 番外編

 完

.

331名無しさん:2020/12/23(水) 19:31:35 ID:L9irMuC20
以上です!!
皆様も良きクリスマスを!!!

332名無しさん:2020/12/23(水) 21:20:46 ID:5VHcFOBo0
クリスマスプレゼントありがとう


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