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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
102
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 01:55:57 ID:gGUyMa/c0
つづきまだかなー
103
:
名も無きAAのようです
:2013/07/07(日) 01:28:40 ID:xl.7qWDs0
期待してたんだが…
104
:
名も無きAAのようです
:2013/10/25(金) 14:09:34 ID:OF4TxAaw0
読み返したらやっぱし面白い
105
:
名も無きAAのようです
:2013/10/28(月) 16:01:33 ID:p.jFcdGkO
続き見たいな
106
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:24:11 ID:FMpnlpkQ0
一つ、理解できないことがあった。
いや、この時代に飛ばされていること自体がもはや理解の外だが。
それ以上に、ブーンの心に引っかかることがあった。
渚本介の話によると、前にこの時代に来たときは、尾付出麗の命を救うため──彼女に音楽の人生を与える任務があったという。
これは、恐らく今回にも当てはまる。
八尾井山焼き討ちによって、二茶根留領一帯の平和が危ぶまれる。
それは、出麗の命にも直接関わるのだ。
そこまでは理解できる。
だが、やはりどうしてもわからないことがある。
どうして、出麗の為に、五百年も先から自分が駆り出されるのか。
──
107
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:25:37 ID:FMpnlpkQ0
第三話
「剛の旋律」
──
渚本介の言う通り、八尾井山はかなり近いようだった。
百合町を抜けて、大きな丘を越えると、それはすぐに見えてきた。
(´メω・`)「見ろ、あれが聖地八尾井山だ」
(*^ω^)「おお…!」
光世真宗の修行僧が、何十年も籠もるという山。
決して高くはない山だが、近隣の山に比べると、横幅は圧倒的に大きい。
その山頂付近には、下からでもはっきり見えるほどの立派な寺が建てられている。
(*^ω^)「こりゃ凄いですお!」
(´メω・`)「さあ、このまま登るぞ。光世真宗の連中に軍隊を用意させなくては」
(*^ω^)「はいですお」
108
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:43:51 ID:RFcPCrvQ0
整備が施された山道を登り、光世真宗の本殿へと向かう。
近くで見るとその威圧感は凄まじいものだった。
観光客で賑わう現代の寺や神社とは雰囲気がまるで違う。一種の感動が、ブーンの心を震わせた。
(*^ω^)「ほんとすごいお…」
(´メω・`)「未来にも寺はあるんじゃないのか?」
(*^ω^)「ありますけど、なんつーか、こんなに神聖じゃないですお」
(´メω・`)「そうなのか」
壮麗な雰囲気を持つ本殿に入ろうとすると、すかさず門番に止められた。
渚本介が名乗ると、門番は目を丸くし、慌てた様子で境内へと走っていった。
(;^ω^)「…渚本介さん、なんかすっげー怖れられてましたけど」
(´メω・`)「ああ、いつものことさ」
109
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:55:39 ID:0wUGovVo0
あげ
110
:
名も無きAAのようです
:2014/04/02(水) 16:33:11 ID:27iBvjtAC
キテター
111
:
名も無きAAのようです
:2014/07/21(月) 09:53:11 ID:cvJjLW/YO
見てますよー!!
112
:
名も無きAAのようです
:2015/10/03(土) 11:36:26 ID:5Q.cU9LM0
もう来ないのかしら
113
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:41:19 ID:y4OWW/RE0
本殿に入る。
案内人の後ろを歩き、長い廊下を歩く。
外観を正面から見ただけでは分からなかったが、本殿はかなり奥行きのある建物らしく、
光世真宗の最高指導者――座主(ざす)の居る部屋はその一番奥、ということだった。
部屋の前に着くと、案内人は驚くほど深く頭を下げ、そそくさとその場を去った。
(´メω・`)「さあ、入るぞ」
(;^ω^)「はいですお…」
何となく、緊張してしまう。
宗教組織のリーダーだ。それも戦いのできる宗教組織。
一体どんな怖い奴がそれを統べてるのか、気にはなるが関わりたくない。
ブーンの緊張を知ってか知らずか、渚本介は何の躊躇いもなく扉を開いた。
中に居たのは。
川 ゚ -゚)「――来たか。待っていたぞ、太田渚本介」
(;^ω^)(女!?)
中に居たのは、30代半ばの女だった。座布団の上に綺麗に座っている。
かなりの美人だが、眼光が鋭い。
ブーンの予想外ではあったが、最高指揮者と呼ばれるほどの威厳は何となく感じる。
114
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:42:54 ID:y4OWW/RE0
(´メω・`)「俺が来ることを知ってたのか」
川 ゚ -゚)「吹連が兵を集めてる。天野亡き今、奴らとまともに敵対しているのは、我々光世真宗くらいだ」
川 ゚ -゚)「私から二茶根留に連絡するつもりだったが、既にお前が動いてると私の使者から言伝があってな」
川 ゚ -゚)「お前から来るということは、奴らはやはり我々を攻める気なのだな――して、そこの南蛮人は?」
(;^ω^)「えっ、あっ、はい!」
急に指され、驚くブーン。
相棒だ。と渚本介が即答する。
(;^ω^)「そ、そうですお。ブーンと呼んでくださいお。へへえ」
(;´メω・`)(へへえってお前…)
川 ゚ー゚)「ブーンだな。そんなに緊張しなくていいぞ」
川 ゚ー゚)「私は光世真宗の座主、素直空流(くうる)だ。よろしくな」
(*;^ω^)「よ、よろしくですお」
空流と名乗った女は、先程の威厳ある雰囲気から打って変わって、優しい笑顔をブーンに向けた。
その笑顔の柔らかさに、またもブーンは驚いた。
「怖い奴」というイメージは、この時点で完全に拭われた。
115
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:44:10 ID:y4OWW/RE0
川 ゚ -゚)「それで、ブーン。お前のその荷物は何だ? 楽器のように見えるが」
空流がブーンの荷物に目を向ける。
ブーンは慌てて荷袋からギターを取り出した。
( ^ω^)「はい、楽器ですお。ギターといいますお」
川 ゚ -゚)「ぎたー? 随分いびつな楽器だな」
川 ゚ -゚)「そうだ、折角だし弾いてみてくれないか。これから難しい話が始まるからな。まずは心を癒そう」
(´メω・`)「はは。それもそうだ」
渚本介がその場に座る。空流は純粋に興味があるといった目を向けている。
不慣れなタイミングで演奏を振られたが、それでもブーンはギターを構えた。
心が静まっていく。
( ^ω^)「わかりましたお。曲はどうしますかお?」
川 ゚ -゚)「そうだな…戦の前だ。私や兵の士気が上がるような音楽がいい」
116
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:44:51 ID:y4OWW/RE0
( ^ω^)(士気って…)
士気の上がる音楽。
即ち、戦を盛り上げるような曲だ。
そういう曲はいくつも知っている。だが、ブーンはそういった曲を弾くことにあまり気が進まなかった。
この旅は、戦を止めるのが目的だ。だからブーンはこの時代に飛ばされた。
吹連のように戦の準備を進める者もいれば、百合町の竜兵衛のように、心を削ってまで戦を止めようとする者もいる。
その中で、士気を上げるというのは、ブーンのが選びたい選択肢ではないのだ。
ギター弾く。たかがそれだけの話でもあるのだが。
頭の中に何百とあるレパートリーから、ある曲をみつける。
「それじゃあ行きますお」と呟くように言うと、ブーンは演奏を始めた。
( ^ω^)♪〜♪♪〜
川 ゚ -゚)「……」
(´メω・`)「……」
ブーンが選んだのは、ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズのメインテーマだった。
曲名は『metal gear solid main theme』といったところか。
本来はオーケストラで奏でる曲だが、ブーンはそれをソロギターで表現していく。
知る人ぞ知る名作ゲームのその曲は、優しい旋律の中に、戦争に関する様々な感情を含んでいる。
117
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:45:34 ID:y4OWW/RE0
例えば、メタルギアシリーズといえば戦争やテロの中を進むアクションゲームだが、
監督した小島秀夫は、反戦争・反核兵器という思想を持っている。
戦は人が死ぬ。人が死ぬと、様々な感情が生まれる。
様々な感情の中で生きていくことに必要なのは、戦ではない。
( ^ω^)♪〜♪♪〜
名曲と呼ばれたその曲は、ブーンの左手が奏でるビブラートと共に、消え入るように終わった。
川 ゚ -゚)「……ありがとう。良い演奏だった。私が想像したものと少し違った雰囲気だったが」
ブーンがぎくりとして空流を見つめると、また優しい笑顔が返ってきた。
川 ゚ー゚)「素晴らしい曲だ。お前の表現力も相まって、いろいろと響いてくるものがあった。」
(;^ω^)「あ、ありがとうございますお…なんかすいません…」
川 ゚ー゚)「渚本介、お前はいつもこの演奏を聴いているのか」
(´メω・`)「ああ。贅沢だろう?」
川 ゚ー゚)「はは、そうだな。お前が相棒にしたくなるのもわかるよ」
さて、と空流が立ち上がり、部屋の奥にある戸棚から書物を取り出した。
川 ゚ -゚)「だいぶ頭が冴えたよ。さあ、作戦会議と行こうじゃないか」
118
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:46:50 ID:y4OWW/RE0
――
夜。
止まっていけという空流の言葉に甘えて、ブーンと渚本介は一晩過ごすことに決めた。
吹連が拠点とする具麗芭城は、この八尾井山からさほど遠くない。
だからこそ、決まった作戦は、ブーンにとって合理的かつ単純かつ不安なものだった。
川 ゚ -゚)「直談判だ」
(;^ω^)「はあ!?」
(´メω・`)「俺もそれがいいと思う。奴には一度命を拾わせた。俺が直接行くとなお話を聞いてくれそうだ」
川 ゚ -゚)「ブーン、何をそんなに驚いてるんだ」
(;^ω^)「え、だって空流さん、なんかさっき戦争する気満々ぽかったから、なんかこう、奇襲とか…」
しばしの沈黙。
渚本介と空流が顔を見合わせ、少し吹き出した。
川 ゚ -゚)「あのなブーン、確かに勘違いされやすいが、我々は最初から武力で争う気はない」
(´メω・`)「交渉も戦だ。勝ち負けがある。結果次第では誰も死なないしな」
(;^ω^)「そうなんですかお…」
119
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:50:41 ID:y4OWW/RE0
肩すかしを喰らった。そんな気分になった。
それなら、戦争なんかしなくても、自分がそんなこと気負わなくてもいいのか。
――後に、その安心が大きな間違いだったと、ブーンは知ることになる
第三話 終
120
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 17:44:41 ID:RJ1Fb3uc0
まじか乙
121
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 20:01:26 ID:mO9QSbtA0
え、まじ?
いろいろ帰ってきてるな
122
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 06:05:40 ID:MNeyZtZM0
いつのまに!おかえり待ってました!
123
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:20:52 ID:L7waZog60
作者です。
まず、本当にごめんなさい。逃亡してました。言い訳はしません。僕のことは煮るなり焼くなり挿れるなりして下さい。
とりあえず物語は続けます。
すべて終了後に、改めて謝罪会見を開きます。
創作版ファイナルの存在は今日知りました。
せっかくなのでこのまま投下します。
124
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:21:55 ID:L7waZog60
朝。
馬に跨った二人は、木の生い茂る森の中を進む。
空流は八尾井山に残った。万が一の攻撃に備えて準備がしたいという。
彼女の落ち着いた態度は、何となく渚本介に似てると思った。
ふと、ブーンはあることを思い出した。
( ^ω^)「あれ? 渚本介さん」
(´メω・`)「どうした」
( ^ω^)「最初から戦じゃなくて、交渉でいくつもりだったんですおね?」
(´メω・`)「ああ」
( ^ω^)「それなら、どうして二茶根留城で兵の準備なんかさせたんですかお?」
この旅に出る前のことを思い出す。
渚本介は二茶根留城の巳留那と出麗に、万が一のため兵を集めるよう進言していた。
(´メω・`)「空流と同じだ。万が一の攻撃に備えてだな。それに…」
渚本介の眼差しが、少し下がる。
(´メω・`)「──少々、思うところがあってな」
──
125
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:23:40 ID:L7waZog60
第四話
「混沌の渦中」
──
何度か休憩を取り、夕方。
小高い丘の上に、具麗芭城が見えてきた。
夜に備えて、既に明かりを灯し始めている。
(´メω・`)「さあ、乗り込むぞ」
(;^ω^)「え、正面から堂々と行くんですかお?」
(´メω・`)「当然だ。こそこそ入ってくるような奴と交渉に応じたいと思うか」
(;^ω^)「そりゃそうですけど…」
馬を近くに待機させ、城門へ近づく。
門番に偽名を名乗り、光世真宗の使いとだけ身分を明かした。
最大限の警戒を受けた二人は、まず武器を預けるよう指示された。
渚本介は愛刀の虎恍丸を手渡す。
ブーンのギターは武器にならないと判断されたのか、没収されずに済んだ。
前に案内人、後ろに武器を持った数人の兵士。
挟まれた形で、二人は城内へ入っていく。
126
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:25:34 ID:L7waZog60
本丸に入り、幾つかの廊下や階段を進む。
誰も何も話さない。
横を歩く渚本介は涼しい顔をしているが、ブーンは緊張で汗が止まらなかった。
案内人が大きな襖の前で立ち止まると、「お連れしました」と合図を送った。
(;^ω^)(この襖の向こうに、吹連久斗尚が…)
(´メω・`)「……」
ブーンにとっては、日本史の授業でしか知らない男。戦争を始めようとしている男。
渚本介にとっては、かつて天野が倒れた隙に二茶根留へ攻め込んだ、危険な男。
襖の向こうから返事はない。
案内人が襖に手を掛けた、その瞬間。
127
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:28:58 ID:L7waZog60
二人の体に、衝撃が走った。
(; ゚ω゚)「あっ!!」
(;´メω・`)「!!」
罠だ。
渚本介は襖の向こうに突き飛ばされ、バランスを崩しながらその部屋に入ってしまう。
部屋の中には槍を構えた大勢の兵士。
咄嗟に左腰に手を回すが、虎恍丸を門番に預けたことを思い出し、すぐに諦めた。
一方、ブーンの方を振り返ると。
数人の兵士達に抑えられ、引きずられるように廊下の奥へと連れ去れていくところだった。
(; ゚ω゚)「しょ、渚本介さん!!」
(;´メω・`)(…くそ、どういうことだ)
門番には名前も身分もまともに明かしてない。
なのに、突然襲われている。
考えられる理由は二つ。
光世真宗の使いは問答無用で捕まえ、必要なら殺し、宣戦布告にでも利用するつもりか。
或いは──
128
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:30:35 ID:L7waZog60
(;´メω・`)(──俺とブーンが来ることを、最初から知っていたのか?)
馬鹿な。有り得ない。
だが、そうでなければ、渚本介とブーンを分けた道理がない。
やがて、ブーンは引きずられたまま廊下の曲がり角へと消えていった。
大量の槍が向けられた渚本介に、リーダー格の男が一歩踏み寄り、話しかける。
(’e’)「"戦魔"、太田渚本介だな?」
(´メω・`)「……なぜ俺の名を」
(’e’)「着いてこい。抵抗したら即座に殺す」
男は背を向け、部屋の外へ歩き出した。
質問に答える気は無いということか。
一拍置いて、渚本介も歩き出す。
(´メω・`)「どこに連れて行く気だ。ブーンはどうした」
(’e’)「……」
徹底してるな、と小さく呟く。
もといた部屋より更に奥に進み、別の部屋に通される。
そこには、見知った男が座っていた。
129
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:31:35 ID:L7waZog60
(‘_L’)「久しぶりだな。戦魔よ」
具麗芭城城主、吹連久斗尚。
かつて渚本介に敗れた男が、そこに居た。
(´メω・`)「……三年前、俺はお前に二つ命じたはずだ」
(´メω・`)「二茶根留は諦めよ。そして」
渚本介の語気が、強まる。
(´メω・`)「──二度とその名を口にするな、と」
復讐はやめた。
戦も、命を奪うことも、もう辞めた身だ。
業深き時代の、その呼び名は、もう捨てたのだ。
"戦魔"は、もう居ない。
(‘_L’)「ふん、関係ないな。お前はもうここで死ぬ身だ」
130
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:32:34 ID:L7waZog60
(´メω・`)「立派なことが言えるようになったものだな。吹連久斗尚」
久斗尚の向かいに、渚本介が座った。
渚本介の背中に向けられていた数多の槍先が、それに合わせて下を向く。
(´メω・`)「聞きたいことが山ほどあるが… お前の目的は何だ」
まっすぐ睨み合う二人。
久斗尚が即答する。
(‘_L’)「天下統一。その為に、二茶根留と光世真宗を潰す」
(´メω・`)「それは知っている。何故、俺とブーンを狙った。そもそもどうやって知り得たのだ」
(‘_L’)「情報を得る力は自負しているからな。あの南蛮人には、部下が用があるらしい」
(‘_L’)「お前に関しては──そうだな、私情とでも言っておこうか」
久斗尚の口角が上がる。
目は笑っていない。目に見える殺気だ。
131
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:33:46 ID:L7waZog60
(‘_L’)「お前のことが憎くてしょうがないんだ、渚本介」
悪寒。
渚本介の背中に冷たいものが走る。
どこかで聞いた台詞だ。誰かに似ている。
(‘_L’)「本当はこうして話す間も与えずに殺したいほどだ。憎くて憎くて、仕方なかった」
(‘_L’)「この三年間、お前を殺すことだけを考えてきた」
そうだ。これは──
(‘_L’)「我が野望を打ち砕いたお前への復讐。もはや、それだけが俺の生きる理由だったのだ」
──自分に似てるのだ。
かつて、天野擬古成に抱いていた猛烈な復讐心。ブーンをも巻き込んだ、復讐の旅。
後悔ばかりの生き様だった。そして、ブーンのおかげで生まれ変わった。
だが、復讐に明け暮れる"戦魔"も、また新たに生まれ変わってしまったのだ。
132
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:34:52 ID:L7waZog60
思わず、目を瞑る。
自分には責任があるのだろう。
"戦魔"として生きた責任が。"戦魔"を生み出した責任が。
それは、己の手で終わらせなければならない。
(´メω-`)「……そうか」
だが、その責任を果たすにはどうすればいいのだろう。
今ここで大人しく斬られるわけにはいかない。
ブーンが元の時代へ帰る為に、久斗尚を止めなければならないのだ。
それなら、道は一つ。
(´メω・`)「なれば、俺はお前を止める。お前を止め、この戦乱の世を終わらせる」
(#‘_L’)「綺麗事を抜かすな! 戦魔、お前こそ戦乱そのものだ!!」
声を張り上げ、久斗尚が立ち上がる。
(#‘_L’)「天野を斬るまで暴走を続けたお前に、戦を終わらせる筋合いはない!」
(´メω・`)「いや、止めるさ。それが俺の責任だ」
133
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:36:32 ID:L7waZog60
再度の睨み合い。
緊迫した空気が、辺りを包み込む。
(‘_L’)「…俺以外、にも」
久斗尚が口を開く。
怒りを必死に堪えているようだった。
(‘_L’)「俺以外にも、お前を狙う人間はごまんといる。」
(´メω・`)「ああ、何度か喧嘩を売られたよ」
(‘_L’)「俺の部下にもそういう奴がいてな」
(´メω・`)「部下?お前が相手しなくていいのか」
(‘_L’)「一人でお前に飛び掛かるほど馬鹿じゃない」
連れて行け、と兵達に指示する。
複数の槍で渚本介に立つように促すと、渚本介は素直に立ち上がった。
134
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:37:52 ID:L7waZog60
(´メω・`)「最後に一つ。ブーンをどうするつもりだ」
歩き出す前に、渚本介が尋ねる。
無表情で久斗尚は答えた。
(‘_L’)「別の部下が、あの南蛮人に興味があるらしい」
(´メω・`)(別の部下…)
(‘_L’)「俺にとっても、あいつは殺し損ねた獲物だ。用が済んだら直ちに殺す」
(;´メω・`)「……」
渚本介の額に、冷や汗が流れる。
この場を切り抜けるとしても、ブーンの居場所を特定しなければならない。
兵士に促され、廊下を進んだ。
本丸の外に出る。外はすっかり日が沈んでいた。
135
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:39:20 ID:L7waZog60
(´メω・`)「ここは…」
広大な敷地。作りは日本庭園と同じだ。
綺麗に敷き詰められた石庭。
石や砂を使って山や川を表現するのが石庭の特徴だが、此処は広すぎるあまり本物の芝生や小川もある。
その石庭の中央。
筋骨隆々の男が仁王立ちをしている。
(;´メω・`)(あいつは、まさか…)
見覚えのあるシルエット。見覚えのある顔。
男は、低くくぐもった声を出した。
136
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:41:10 ID:L7waZog60
( ゚∋゚)「会いたかったぞ、戦魔」
天野家家臣、堂土狗久流。
三年前、渚本介が一騎討ちで辛勝した男。
馬を吹き飛ばす程の力を持ち、本隊の一員として、天野の従順な家臣として活躍した男。
かつて渚本介を追い込んだその男は、吹連の元に蘇っていた。
第四話 終
137
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 20:26:24 ID:fc94DjBg0
きてる おつ
138
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 20:41:47 ID:q.CCIT6c0
謝罪より誠意を見せろ毎秒投下しろ
139
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 23:53:37 ID:vYxUNZFY0
乙 挿れる役は任せろ
140
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 01:31:31 ID:UDsfB99M0
クックル生きてたのか
141
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:22:50 ID:i3wgWf6M0
ありがとうございます。
僕も尻も喜んでます。
投下します!
142
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:24:20 ID:i3wgWf6M0
──
ξ゚⊿゚)ξ「はあ…」
夜。自室のベッド。
リクルートスーツを脱ぎ捨て、ツンは携帯片手に寝転がっていた。
ξ゚⊿゚)ξ(…なんでこんなことしてるんだろ)
合同説明会に行くとき。一次試験を受けているとき。
ふと、我に返ってしまう瞬間がある。
周りには兵隊のように同じスーツを着込んだ学生。
職場の雰囲気や給料をアピールする、聞いたこともない会社。
大学で学んだことなんか生かしようがないとでも言いたげな雰囲気。
自分は、何がしたいんだろう。
ξ゚⊿゚)ξ(やりたいことをやって生きるって、どうやるんだろう…)
ふと、同じバイト先の、あの童貞ミュージシャンの顔が思い浮かんだ。
──
143
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:26:52 ID:i3wgWf6M0
第五話
「過去の呪い」
──
幾本もの松明が、辺りを照らしていた。
視界は問題ない。
( ゚∋゚)「お前のだろ?使え」
(´メω・`)「!」
狗久流が渚本介に刀を投げ渡す。
鞘と柄の部分を両手でキャッチし、それが虎恍丸であることを確認した。
(´メω・`)「…男らしく一騎打ち、ということか」
( ゚∋゚)「そんなところだ」
対する狗久流は、まだ何の武器も構えない。
だが、渚本介より頭一つは高く、二回りほど大きいその体つきから、既に巨大な威圧感を覚える。
( ゚∋゚)「お前に斬られて、俺は何日も何日も死の淵を彷徨った」
(´メω・`)「……」
( ゚∋゚)「蘇った俺を待っていたのは、負けたという事実だけだった。初の敗北だ。だから──」
144
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:27:54 ID:i3wgWf6M0
狗久流が足元に手を伸ばす。
辺りに、重い金属音が鳴り響いた。
巨大な鞘。
人の上半身を包み込むような、冗談のように大きな刀身。
(;´メω・`)(まさか…)
( ゚∋゚)「──お前を最も苦しめたこの刀で、俺は、誇りを取り戻す」
斬馬刀。
亡き暴君、天野擬古成の愛刀を、狗久流は握り締めた。
145
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:29:31 ID:i3wgWf6M0
(;´メω・`)「……悪趣味が」
虎恍丸を中段に構える。
あの斬魔刀は、剛拳と呼ばれた擬古成だからこそ操れると言ってもいい代物だった。
だが、力だけなら狗久流もそれに並ぶ。或いは、もっと強いかもしれない。
擬古成ほどの技術を、狗久流が持ち合わせているのなら。
あの死闘を繰り返すというのなら。
次は、勝てるかどうか怪しい。
(´メω・`)(様子見だな)
頭の中を切り替え、中段の構えのまま狗久流を見る。
その巨大な刀は、地面に寝かされるように構えられている。
脇構えだ。下から突き上げるように、或いは薙ぎ払うように振るつもりか。
146
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:30:32 ID:i3wgWf6M0
渚本介は構えを下段に下げた。
あの刀は、まともに受けると必ず押し負ける。
一撃目を流し、一瞬で距離を詰め、攻撃する。
流れをイメージした渚本介に、狗久流の視線が重なった。
( ゚∋゚)「──参る!」
(´メω・`)「!!」
脇構えのまま、狗久流が走り出す。
その体躯からは考えられないような速さだ。
渚本介は下段に構えたまま、その場に留まる。
直後、狗久流は背負い投げのように斬馬刀を振り上げた。
(# ゚∋゚)「せいやァァァァ!!!」
(´メω・`)(上か!)
軌道が変わった。だが、虎恍丸で攻撃を流すことは充分可能だ。
虎恍丸を上に向け、斬馬刀の軌道を読む為、視線を若干上げる。
147
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:31:35 ID:i3wgWf6M0
だが、振り下ろされてきたのは、白刃ではなかった。
(;´メω・`)(しまった…!)
横向きになった刀身──巨大な鎬地が、渚本介に振り下ろされて来ていた。
まるで頭上から壁が降ってくるような威圧感。
足捌きでは避けられないタイミングだ。
咄嗟に頭を下げ、手首と肘を折って刀の柄を向ける。
だが、斬馬刀の重さと狗久流の力は、その抵抗を遥かに上回り。
鎬地は、渚本介の頭と肩を捕らえた。
(;´メω・`)「がっ…!」
(# ゚∋゚)「トドメだ!!」
叩きつけられ、バランスを崩した渚本介に、狗久流が再度襲いかかる。
148
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:32:33 ID:i3wgWf6M0
もう一度、上段からの振り下ろし。
今度は刃を向けている。
(;´メω・`)「くっ!」
転がるように距離を取り、その攻撃を避ける。
斬馬刀が石庭の地面に突き刺さった。
( ゚∋゚)「相変わらずすばしっこい奴だ」
(;´メω・`)(クソ…頭に響くな)
世界が揺れて見える。耳の中に何かが鳴り響く。それほどの衝撃だった。
よろよろと立ち上がり、何とか虎恍丸を構え直す。
相変わらずの剛力。しかし、柔軟な攻撃だ。
以前より遥かに強くなっている。
( ゚∋゚)「さあ、遠慮なく行くぞ!」
(;´メω・`)「!」
149
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:33:17 ID:i3wgWf6M0
激しい頭痛を堪え、狗久流の動きに集中する。
斜めから振り下ろす袈裟斬り。渚本介は頭を下げて避けるも、此方のリーチは届かない。
すかさず、斬馬刀の返し胴が渚本介の脇腹を目掛けて襲いかかる。
瞬時に半歩分ほど下がり、その軌道は空を切った。
(´メω・`)(今だ!)
( ゚∋゚)「!!」
大股で踏み込み、突き。
最も捌きにくい攻撃で、狗久流の腹を狙う。
しかし、狗久流は伸びてくる虎恍丸を蹴り上げた。
がら空きになった渚本介の腹に、再度斬馬刀が襲いかかる。
150
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:40:08 ID:i3wgWf6M0
(;´メω・`)(避けられない!)
(# ゚∋゚)「せいやァァッ!!!」
何とか虎恍丸で受け止めることができた。
だが、狗久流の剛力をまともに受けた渚本介の体は、石庭から小川まで飛ばされた。
激しい音を立て、全身に水を被る。
(;´メω・`)「ぐはあッッ!」
( ゚∋゚)「勢いが無いな。戦魔よ」
低くくぐもった声が、渚本介に届く。
狗久流のシルエットが、擬古成と重なった。
(;´メω・`)(強い……)
どうすれば。
どうすれば勝てる。
ずぶ濡れの顔を荒く拭き、思考を巡らせる渚本介に。
狗久流が斬馬刀を引きずりながら迫ってくる。
──
151
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:41:15 ID:i3wgWf6M0
──
下半身に伝わる振動と、甲冑や轡がガチャガチャと揺れる音で、ブーンは目が覚めた。
いつの間にか眠らされていたらしい。
地面に勢いよく流れる石や草が視界に入る。
暫くぼうっと眺め、ブーンはようやく馬に乗せられているのだと気づいた。
手足は縛られていて動かない。
急に、焦りが生まれる。
(;^ω^)(ど、どうしよ…)
周りを見ると、同じように馬に乗った兵士達が並走している。
自分と同じ馬にも、もう一人乗っている。後ろから抱えるように綱を握っている。
ブーンが起きたことに気が付いたようだが、何も話しかけてこなかった。
勇気を振り絞り、後の男に声をかける。
(;^ω^)「あ、あの」
( `ー´)「あ?」
(;^ω^)「今、どこに向かってるんですかお?」
( `ー´)「……おまん、南蛮人なのに言葉がわかるんかい」
152
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:42:38 ID:i3wgWf6M0
男は全く別のことに驚いてるようだった。
妙な訛りが目立つ。
( `ー´)「まいいや。おいらは何も言わねえように言われてるんや」
(;^ω^)「そうですかお…」
( `ー´)「逆に聞きてえんだがよ、おまんのその荷物、何や? 暗器か?」
(;^ω^)「楽器ですお。ギターといいますお」
(;`ー´)「楽器!? おまん、南蛮人のくせに身分高いんやな」
(;^ω^)「いやあ……」
聞いたことはあった。
昔は、音楽や芸術は高貴な嗜みだから、庶民には触れ得ないものだったという。
しかし、実際はフリーターだ。身分で言えば高くないだろうとブーンは自覚していた。
( `ー´)「ほんならあれか、おまんちは全員音楽家ってやつかい」
(;^ω^)「そういうわけじゃないですお」
( `ー´)「羨ましいもんや。おいらは絵の一つも描かせてもらえんかった。ずっと刀と槍の練習さ」
何も言わないよう言われてる割に、よく喋る男だ、と思った。
単に話好きなのだろうか。
悪い気はせず、ブーンは段々落ち着きを取り戻してきた。
153
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:44:24 ID:i3wgWf6M0
( ^ω^)「武家の生まれなんですかお?」
( `ー´)「まあ一応そうやな。小せえけど」
男が遠慮がちに笑う。
( `ー´)「信じられっか?日が出て起きたら、飯も食わずにまずは刀の手入れをするんや」
( `ー´)「ほんで、それが終わったら足捌きと素振り。動けなくなった頃にやっと朝飯や」
( `ー´)「そんなんを毎日毎日や。何度逃げ出そうかと思ったことか」
(;^ω^)「はあ…」
( `ー´)「おまんも、そのぎたーとやらの稽古を毎日してたんやろ? 大変やなー」
( ^ω^)「僕はそれほど大変と思ったことはないですお。好きでやってるんで」
男は驚いたようだった。
暫く黙ったあと、「そうか」と笑った。
( `ー´)「…幸せもんやな、おまんは」
男の呟きは、走る馬が風を切る音にかき消された。
第五話 終
154
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 12:56:15 ID:FPrzW.Uk0
ブーンへの用って誰だろうな
155
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:04:25 ID:tZMFrB.s0
──
客人をお連れしました、と使者が声を掛ける。
川 ゚ -゚)「通せ」
襖が開き、一人の女が入ってきた。
よく見知った顔だ。
ζ(゚ー゚*ζ「師匠!」
尾付出麗。
健気で明るい少女が、空流に駆け寄ってきた。
ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりです」
川 ゚ー゚)「ああ。琴の稽古は怠ってないな?」
ζ(゚ー゚*ζ「もちろんです。琴は私の命ですから」
空流が微笑む。
かつて、出麗に琴を教えていた時期があった。故に出麗から師匠と呼ばれている。
だが、出麗にはもともと音楽の才能があった。伸びの速い教え子だった。
才能のある弟子だ。
川 ゚ -゚)「昨日、渚本介とブーンが来たよ」
ζ(゚ー゚*ζ「本当ですか!」
156
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:05:26 ID:tZMFrB.s0
嬉しそうに反応する出麗。
ご無事だったんですね、と呟いた。
川 ゚ -゚)「ブーンがな、何やら奇怪な楽器を持ってきたんだ。確か…」
ζ(゚ー゚*ζ「ぎたーです」
川 ゚ー゚)「そう、ぎたー。見事な音色だった」
ζ(゚ー゚*ζ「師匠はよく、琴の音色を着物や空に例えてましたね」
川 ゚ー゚)「ああ。あの色味や躍動感を目に見えるものにするなら、それが一番近い」
川 ゚ー゚)「ぎたーは、そうだな、木や森、川…難しいな」
ζ(゚ー゚*ζ「ブーンは"ぎたーひとつあれば何でも表現できる"と言ってました」
ははは、と空流が笑う。
川 ゚ー゚)「"何でも"? はは、そうか。確かにあいつの演奏は見事だった」
ζ(゚ー゚*ζ「私もそう思います」
川 ゚ー゚)「もっとよく聴いてみたいもんだな。あいつが無事に帰ってくることを祈ろう」
──
157
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:06:29 ID:tZMFrB.s0
第六話
「新たな混沌」
──
全身が濡れてしまった渚本介。
衣服が重く感じる。
狗久流が。斬馬刀を引きずりながら走り出した。
(#゚∋゚)「せいッッ!!!」
(´メω・`)「!」
引きずってきた斬馬刀を、そのまま流れるように下から突き上げてきた。
距離を取ってその攻撃を避けるが、数多の小石が渚本介に襲い掛かる。
(;´メω・`)「くっ…」
(#゚∋゚)「隙ありィッ!!」
(;´メω・`)「!」
顔面にも飛んできたそれに、思わず顔を背ける。
目線を戻した途端、首筋に斬馬刀が迫っているのが見えた。
虎恍丸でそれを受け止めるも、またも体ごと吹き飛ばされた。
158
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:07:35 ID:tZMFrB.s0
(;´メω・`)「かはっ…!」
重すぎる一撃。
手の痺れも、頭痛も、一向に取れない。
(;´メω・`)(まともに斬馬刀の相手をしてられないな…)
鉄板を相手に戦っているようなものだ。
あの重さに対抗するわけにはいかない。
虎恍丸の刃も、接触部分が潰れているのがわかる。
(;´メω・`)(…渋沢に見せておくんだった)
鍛冶屋の友を思い出す。
彼は、擬古成に挑もうとする渚本介を案じていた。
だが、結果的に彼に虎恍丸を鍛え直させた。
辛い葛藤だった。
(#゚∋゚)「ふんッ!!」
(;´メω・`)「!!」
159
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:09:07 ID:tZMFrB.s0
胴を狙ってくる狗久流。
体をくの字に曲げて避け、返し胴を狙う。
しかし、狗久流は斬馬刀を下に向け、縦のように攻撃を防いだ。
そのまま斬馬刀で押し返し、渚本介の腹に前蹴りを見舞う。
バランスを崩した隙に斬馬刀を撃ち込むつもりだったが、渚本介は巧く体制を建て直した。
渚本介と狗久流の間に、またも距離が生まれる。
──「刀ってェのは、人斬りの道具だ。その理由が護身や復讐でも、人さえ斬ってりゃ刀は生きる」
──「でもよ、人の魂までは絶対に斬れねえ。絶対にだ」
──「考え直せ渚本介。おめぇが擬古成を斬ろうと、擬古成の天下統一の精神までは斬れねえ」
160
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:10:06 ID:tZMFrB.s0
(;´メω・`)(渋沢…)
ふと、三年前の渋沢の声が蘇る。
虎恍丸を握る手の力を、無意識に緩めた。
目を瞑る。
(;´メω-`)(俺は──お前に、謝らなければならない)
渋沢の言う通りだった。
擬古成を斬ろうと、擬古成の魂は生きている。
こうして、渚本介の前に立ち塞がっている。
復讐心に従わず、別の方法で擬古成を止める方法を探るべきだった。
そうしておけば、ブーンを危険に晒すことなく元の時代に帰せたかもしれない。
出麗を危険な目に合わせることもなかったかもしれない。
今こうして、ブーンがまた危機に遭うことも、吹連や狗久流が復活することもなかったかもしれない。
責任は、全て自分にある。
諸悪の根源は、この太田渚本介なのだ。
(;´メω-`)(…だからこそ、この戦乱を止めるべきは、この俺だ)
虎恍丸を握り直す。
頭痛は、いつの間にか治まっていた。
161
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:11:21 ID:tZMFrB.s0
( ゚∋゚)(──こいつ、目を瞑っているのか?)
この死闘の最中、何を考えている。
瞑想か。精神統一のつもりか。
そんな暇は、与えてられない。
(#゚∋゚)「せいッッッ!!」
(´メω-`)(──)
風を切る音が聞こえる。
見なくてもわかる。
斬馬刀が迫ってきているのだろう。
上段からの振り下ろし。
斬馬刀の重さにも、それを操る狗久流の力にも、恐れ入る。
だが、もう、斬り合う必要はない。
162
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:13:10 ID:tZMFrB.s0
(´メω・`)「そこだ!!」
(;゚∋゚)「!?」
両手で持った虎恍丸の柄を、振り下ろされてくる斬馬刀の柄に向ける。
狙いは、斬馬刀を握る、狗久流の指。
(;゚∋゚)「ぐあっ!」
衝撃。
指が潰れる感覚に顔が歪む。
斬馬刀が、その手から離れた。
(;゚∋゚)(しまった…)
武器を放してしまった。
斬られる。
血の気が引くのを感じながら、狗久流は渚本介へと顔を上げた。
163
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:14:24 ID:tZMFrB.s0
だが、渚本介が向けてきたのは、虎恍丸ではなかった。
(#´メω・`)「はあっ!」
(;゚∋゚)「!!」
──拳だ。
固く握られた右拳が、狗久流の鼻と頬を捉えた。
思わず下を向いた顔に、今度は左拳のアッパーが入る。
(;゚∋゚)「ぐっ…!!」
仰け反る。
鼻血が勢いよく流れるのを感じながら、よろよろと体制を整える。
(´メω・`)「喧嘩の真髄ってやつだ。構えろ」
渚本介は、虎恍丸を鞘に戻して地面に置いていた。
武器の無い両拳を構える
左拳は突き出すように前へ。右拳は顎の横へ。
落ち着きを取り戻した狗久流が、手の甲で鼻血を拭く。
( ゚∋゚)「…刀では敵わないと悟ったか」
(´メω・`)「否。刀では終わらないからだ」
164
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:15:12 ID:tZMFrB.s0
そう、刀では終わらないのだ。
復讐。戦。それらの螺旋を止める方法は、刀で斬ることではない。
( ゚∋゚)「…徒手なら、勝てるとでも思ったか?」
狗久流の雰囲気が一変する。
その大きくて太い手が、開いたまま構えられた。
まるで切り裂くように横に向けられた両手。
"前羽の構え"だ。
( ゚∋゚)「琉球に、空手という徒手戦闘の技がある」
(´メω・`)「……」
( ゚∋゚)「凄絶なる鍛錬の末、五体を武器と化す。俺はこれを──」
狗久流の眼が、鋭く光った。
( ゚∋゚)「──体得している!!」
(´メω・`)「!」
狗久流が飛び掛る。
拳での攻撃を警戒していた渚本介の頭部に、狗久流の右足が飛んできた。
ハイキックだ。
顔を引き、鋭い蹴りを何とか避ける。
165
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:16:36 ID:tZMFrB.s0
(´メω・`)(五体が武器、か…)
予想以上の鋭さ。柔らかさ。
あれを貰ってしまっては、一撃で倒れそうだ。
( ゚∋゚)「せいッッ!!」
(´メω・`)「はッ!」
狗久流の正拳突きを潜って躱す。
渚本介が同時に繰り出した左フックが、カウンター気味に狗久流の顎を捉えた。
(;゚∋゚)「ぐっ…」
頭がぐらつく。膝の力が抜ける。
これでは狙いが定まらない。
苦し紛れに繰り出した両手を、渚本介の両手が捕らえた。
掴み合いだ。
(;゚∋゚)「!?」
(´メω・`)「行くぞ、堂土狗久流」
手四つ。
現代で言えば、プロレスの試合でよく見られる、力比べだ。
渚本介が、大きく息を吸い込んだ。
.
166
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:17:47 ID:tZMFrB.s0
(#´メω・`)「はあああッッ!!!」
(;゚∋゚)「ぬおっ…!!」
全体重を乗せた渚本介の力が、狗久流の両手に圧し掛かる。
抵抗はするが、手首が勝手に曲がっていく。
(;゚∋゚)「おおおおおおッ!!!」
徐々に、手首が曲がる。
膝が折れ、体ごと倒れていく。
(;゚∋゚)「おおおおおッ!!!」
抵抗を続ける。
だが、体はゆっくりと崩れていく。
(;゚∋゚)(この俺が、力負けをするだと…!?)
土下座をするように体が折れ。
ついに、狗久流は地面に倒れ込んだ。
手首への重さが、痛みへ変わる。
.
167
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:18:30 ID:tZMFrB.s0
(#´メω・`)「はああああああッ!!!」
(; ∋ )「おおおおおおおおお!!!」
渚本介の力が更に増していく。
手首が軋む。今にも折れてしまいそうだ。
いや、渚本介は折るつもりなのだろう。
力で抵抗するために上がっていた体温が、急激に下がる。
骨が、曲がってはいけない方向に曲がっていく──
(; ∋ )「──降参だ!!」
(´メω・`)「!!」
狗久流の抵抗が、消えた。
ゆっくりと、渚本介が手を離す。
.
168
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:19:25 ID:tZMFrB.s0
(; ∋ )「ま、参った…… 降参…する……」
力の抜けた両手を、地面に捨てるかのように下ろし。
狗久流は、負けを認めた。
項垂れたまま、大量の汗をかきながら、肩で息をしている。
(´メω・`)「…潔し」
強敵だった。
痺れた両手をはたき、虎恍丸を腰に差す。
狗久流の方を見ると、同じ体制のままだった。
どうやら完全に心を折ることに成功したようだ。
渚本介が、再度近づく。
(´メω・`)「答えろ。ブーンはどこに連れ去られた。何をする気だ」
(; ∋ )「…あの南蛮人のことか」
169
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:20:21 ID:tZMFrB.s0
(; ∋ )「助けるつもりなら… 急げ、あいつは間もなく殺される」
(´メω・`)「場所は」
(; ∋ )「あいつは──」
──八尾井山にいる。
渚本介の背中に、冷たい汗が走った。
第六話 終
170
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 09:15:36 ID:4h0B8VtA0
きてたー!乙乙
171
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:01:37 ID:diF.uzzI0
ありがとうございます!
今日も投下しますー
172
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:03:24 ID:diF.uzzI0
暗い夜道を進み、道が開けた頃。
月明かりに照らされて、見覚えのありすぎる光景が見えてきた。
(;^ω^)(あれは…八尾井山かお?)
聖地・八尾井山。
空流のもと、光世真宗の本殿が構えてある場所。
(;^ω^)(なんで八尾井山に向かってるんだお…)
何やら騒がしい。大勢の声が八尾井山から聞こえる。
争うような大勢の声。
嫌な予感が、ブーンの脳裏を過ぎる。
まさか。
吹連勢による攻撃が始まってるのだとしたら。
八尾井山焼き討ちが、既に始まっているのなら。
(;^ω^)(空流さん…!)
173
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:04:06 ID:diF.uzzI0
( `ー´)「あれが目的地や。南蛮人」
ずっと同じ馬に乗っている男が声を掛ける。
(;^ω^)「…八尾井山で、何が起きてるんですかお」
恐る恐る、ブーンが問う。
あれだけ喋り好きだった男は、何も答えなかった。
ブーンの額に、焦りの色が見え始める。
──空流が、危ない。
.
174
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:05:45 ID:diF.uzzI0
第七話
「刀無き戦い」
──
庭園の柵を乗り越える。
他の兵士達に見つからないように、という考えからだったが、渚本介はすぐにある違和感に気付いた。
(´メω・`)(静かすぎる)
そもそも兵士なんていないかのように、周りが静かなのだ。
もし、狗久流の言うことが本当ならば。
ブーンは八尾井山に向かっていると言っていたが、他の兵士も、皆向っているとしたら。
「八尾井山焼き討ち」という事件が起こるのは、まさに今日なのかもしれない。
(´メω・`)(急がねば……!)
八尾井山の本殿に居た時、吹連勢が近日中に攻撃を仕掛ける気配など、微塵も感じなかった。
つまり、奇襲なのだ。
光世真宗はすぐに落ちてしまうだろう。
光世真宗が落ちれば、出麗の身が危険だ。
何より、ブーンの命が、危ない。
175
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:07:06 ID:diF.uzzI0
無人の城門を抜け、馬を止めてあった場所に走る。
幸い、二頭の馬は誰にも見つからずにいたようだ。
渚本介の姿を見るなり、二頭は体を揺らしながら寄りかかってきた。
自分の馬に飛び乗り、ブーンが乗ってきた馬の綱を外す。
何も背負わないその背中を、渚本介は優しく撫でた。
(´メω・`)「短い間だったが、ありがとう。お前のお蔭で旅は順調に終わった」
▼・ェ・▼ブルルッ
(´メω・`)「時間がない。俺はもう行くが…お前は自由だ。自然に戻るも良し、二茶根留に戻るも良し」
(´メω・`)「……さらばだ」
▼・ェ・▼…
不思議そうな目を渚本介に向ける。
渚本介は背を向け進みだした。
(´メω・`)「ハアッ!」
自分の馬を走らせる。
月明かりが強いおかげで、視界は悪くない。
ブーンの乗っていた馬は、そこから動く様子がなかった。
──
.
176
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:09:59 ID:diF.uzzI0
──
山道を登る。
山頂に近づくに連れ、騒がしさは増していった。
しかし、この騒がしさはなんだろう。
争うような声だと思っていたが、何か違う気がする。
やがて、ブーンは馬から降ろされ、同じ兵士たちに囲まれながら歩かされる。
(;^ω^)(…これからどうなるんだお)
不安はある。
そもそも、何故自分だけが八尾井山に連れてこられてるのかわからないのだ。
いきなり殺される可能性だってある。
しかし、ブーンはまだ何もされていない。それが返って不気味だった。
不気味な点はもう一つある。
吹連にとって、八尾井山は敵地のはずだ。
なのに、何の障害もなく──まるで敵などいないかのように、スムーズに進んでいく。
177
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:12:41 ID:diF.uzzI0
(;^ω^)(誰からも攻撃されないということは…)
空流が危険を察知して、全員で逃げたのか。
それとも、既に八尾井山は落とされているのか。
もちろん、前者であって欲しい。
そのまま本殿に入り、廊下の奥に進む。
奥の部屋は、確か空流の部屋だ。
(;^ω^)(空流さん……)
無事でいてほしい。逃げていてほしい。
少なくとも捕まっていないことだけを祈りつつ、歩き続ける。
( `ー´)「着いたぞい。ここや」
(;^ω^)「……」
( `ー´)「突っ立ってねえで、入れや」
(;^ω^)「のわっ!」
178
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:13:27 ID:diF.uzzI0
背中を押され、部屋に入るよう促される。
襖を開け、一歩中に踏み込んだ。
(;゚ω゚)「え……」
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪える。
なんだ。
何が起こった。
必死に頭を整理しようとするも、ブーンが理解できることなんか何一つなかった。
ζ(゚ー゚;ζ「ぶ、ブーン…」
中に居たのは、両手足を縛られ、泣きそうな目を向ける出麗と。
.
179
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:14:26 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「よく来たな、ブーン」
──その隣で悠々と座る、空流の姿だった。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:15:33 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「……なん、で」
言葉が出てこない。
何故そこにいる。
何故出麗が拘束されている。
何故、敵の目の前で笑っている。
素直空流。光世真宗。八尾井山。
渚本介と共に守るはずの存在が、まるで──
(;゚ω゚)「く、空流さん、あなたは…」
──まるで、吹連側に寝返ったかのように。
.
181
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:16:36 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「出麗から聞いたよ。お前、未来の日本から来たらしいな」
寒気のするほど美しい笑顔が、ブーンに向けられている。
川 ゚ー゚)「南蛮人のような恰好も、ぎたーの存在も、全部合点がいったよ。お前は──」
(;゚ω゚)「う、うるさいお!!」
思わず、叫ぶ。
空流の言葉が止まった。だが、その余裕のある表情は崩れない。
(;゚ω゚)「なんなんだお! どういうことだお!! 何で、お前が、」
川 ゚ -゚)「まだ分からないのか」
空気が一変する。
空流の表情から、笑みが消えた。
川 ゚ -゚)「吹連と光世真宗は、最初から敵対などしていなかった」
川 ゚ -゚)「天野が破れ、吹連が二茶根留攻めに失敗したのち、我々は天下統一のため結託した」
川 ゚ -゚)「我々の目的は同じだったからだ。この国を、この大地を治めるほどの、力が欲しかった」
182
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:17:53 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「だが、その為にはやはり二茶根留が邪魔だ。特に、天野を倒した実績と、あの戦魔の存在がな」
川 ゚ -゚)「だから、まず我々は敵対しているフリをした。戦魔が光世真宗の味方つく為にな」
川 ゚ -゚)「単独行動を好むあの戦魔なら、それでまず交渉をとると踏んだからだ」
(;゚ω゚)「…でも」
混乱した頭で必死に考える。
その流れだと、単独行動を取る渚本介を殺し、大軍で二茶根留に攻め入るつもりだったというところだろう。
だが、わからないことがまだある。
(;゚ω゚)「でも、なぜ僕と渚本介さんを分けたんだお」
川 ゚ -゚)「一つだけ予想外のことが起きたんだ」
空流が即答する。
その瞳は、ブーンを捕らえて離さない。
川 ゚ -゚)「──お前の存在だよ、ブーン」
.
183
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:19:02 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「…え?」
川 ゚ -゚)「お前の存在だけが予想外だった。どう対処していいかもわからなかった」
川 ゚ -゚)「どんな役割で、何故あの戦魔と組んでいるのかも知りたかった」
川 ゚ -゚)「それを知るにはちょうど良い材料もあったしな」
(;゚ω゚)「……出麗のことかお」
出麗の方を見る。
泣きそうな顔は変わらない。空流とブーンの顔を何度も見ている。
川 ゚ -゚)「そうだ。それに、戦魔とはどうしても一騎打ちをしたいという馬鹿がいてな。今頃、戦いの最中だと思うが…」
川 ゚ -゚)「まあ、それに勝とうが負けようが、戦魔はどうせ死ぬ。私の興味はそこじゃない」
空流の口角が上がる。
川 ゚ー゚)「未来から来たと言ったな。未来では音楽で生活していくための努力をしてるんだとか」
(;゚ω゚)「だ、だったら何だと言うんだお!」
184
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:20:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「簡単だ。私の配下に就け」
思考が、止まった。
(;゚ω゚)「……は?」
川 ゚ー゚)「私は琴を教える立場でもある。天下統一の目的は、この地すべてに素直流の琴を広めたいというのもあるんだ」
川 ゚ー゚)「だが、私の世界観だけだと音楽は固くなる。琴には別の捉え方が必要だと思ってたところなんだ」
川 ゚ー゚)「ぎたーの音色、お前の演奏。あれは見事だった。私の配下に就き、私にその全てを伝授しろ」
(;゚ω゚)「い、嫌に決まってるお!」
ほとんど反射的に、ブーンが応える。
(;゚ω゚)「なんで、お、お前なんかの為に、僕がギターを教えなきゃいけないんだお! そもそも、僕はそんな事の為に来たわけじゃないお!!」
川 ゚ -゚)「…断るつもりか?」
(;゚ω゚)「当然だお!!」
185
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:21:03 ID:diF.uzzI0
ブーンにとって、もはや空流は裏切り者の極悪人だった。
そんな奴に関わりたくない。関わるべきではない。
第一、ブーンは出麗を救うために、この時代に来たのだ。
川 ゚ -゚)「なれば用済みだ。お前を殺し、出麗を殺し、これから二茶根留に攻め入る」
(;゚ω゚)「──!!」
川 ゚ -゚)「根野。こいつを始末しろ」
ブーンの後方へ、空流が声をかける。
思わず後ろに目を向ける。
(;`ー´)「………おいらが、ですかい」
根野と呼ばれた男は、此処にくる道中、ブーンの話し相手になった男だった。
.
186
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「ああ。早くしろ。戦魔への対策もしないといけないからな」
(;`ー´)「……」
根野は、腰に差した刀を抜かず、固まっていた。
空流が苛立った視線を向ける。
川 ゚ -゚)「何をしてる。やれ」
(;`ー´)「……」
川 ゚ -゚)「やれと言っている」
(;`ー´)「……」
根野の腕が、唇が、微かに震えている。
川 ゚ -゚)「根野、一体どういう──」
(;`ー´)「で、できません!!」
.
187
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:53 ID:diF.uzzI0
空流の目が、僅かに見開いた。
ブーンと出麗は状況が掴めず固まっている。
川 ゚ -゚)「…私の命令に背くということが、どういうことか、わかっているだろう」
恐ろしいほど冷たい声を向ける。
あれだけ気さくだった根野の顔は真っ青だ。
それでも、精一杯、抵抗する。
(;`ー´)「できません…だ、だって」
震える手を握りしめ、根野ははっきりと言い切った。
(;`ー´)「だって、こいつ、音楽が好きやと言ってました」
川 ゚ -゚)「──は?」
ζ(゚ー゚;ζ「?」
(;゚ω゚)「え…」
全員が全員、固まった。
誰も理解が追いついていないといった様子だ。
188
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:24:09 ID:diF.uzzI0
(;`ー´)「お、おいら、頼んでもねえのに武家に生まれて、好きでもねえ刀や槍の練習ばっかさせられてたんや」
(;`ー´)「嫌やったよ。何度人生をやり直したいと思ったか、数えらんねえくらいや。みんなそうだと思ってた。でも…」
根野がブーンを見る。
固まるブーンと目が合うと、無理やり笑顔を作った。
(;`ー´)「…でも、こいつ、生まれてからずっと続けてた音楽を、好きやと言いました」
(;`ー´)「この世界に、こんなこと言えるやつが、一体どれほどいることか。 少なくともおいらは初めてや」
(;`ー´)「だから、こんな勿体ないやつ、こんな勿体ない人生を、おいらが終わらせたくありません! 少なくとも──」
(;`ー´)「──あ、あんたよりは、こいつの方が立派や!」
静まり返る。
震える根野か、カチカチと歯を鳴らす音が聞こえる。
川 ゚ -゚)「…言いたいことは、それだけか」
189
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:25:11 ID:diF.uzzI0
空流が静かに立ち上がる。
根野の元へ、ゆっくりと歩き出す。
ブーンは思わず距離を取った。
前を向いたまま震える根野。
その周りを、空流が歩く。
川 ゚ -゚)「失望したよ。お前、結局奴らと同じなんだな」
空流が根野の背後に来た途端。
懐刀で、根野の首を切り裂いた。
(; ー )「カッ……」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃああああっ!!?」
(;゚ω゚)「………」
叫び声を上げる出麗。
声が出ないブーン。
空流だけが、怒気を含んだ冷静な声を漏らす。
190
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:02 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「結局同じだ。百合町を担わせた山田竜兵衛も、武士道とやらに拘る堂土狗久流も、糞の役にも立たない駒だ」
川 ゚ -゚)「根野。お前は少々話好きなだけで、従順な部下だと思っていた。だが結局これだ」
ため息。
人の命を何とも思わない態度が、目に見えてわかる。
ζ;ー;*ζ「し、師匠、どうして…」
出麗の目から涙が溢れる。
絶望か。裏切りへのショックか。
血の滴る懐刀を握り、空流が出麗のもとへと歩き出した。
.
191
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:53 ID:diF.uzzI0
ζ;ー;*ζ「やだ、やだ、助けて…」
川 ゚ -゚)「弟子のよしみだ。苦痛なく殺してやる」
ζ;ー;*ζ「やめて、お願い、助けて……ブーン…」
( ω )「………」
ブーンは未だ固まっていた。
様々な思いが、記憶が、ブーンの中を駆け巡っていく。
戦を止める為、心を削って光世札を流通させた、山田竜兵衛。
そのせいで、居場所を失って傷付いた、斉藤又武貴。
自分を慕う出麗も、本気で味方として行動した渚本介も。
そして、正義感から勇気を振り絞った、根野も。
──全て、利用していただけだったのか。
.
192
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:27:51 ID:diF.uzzI0
(# ω )「待つお!!!」
叫ぶ。
ピクリと肩を跳ねさせ、空流はゆっくりと振り向いた。
川 ゚ -゚)「何だ。お前から死にたいのか?」
(# ω )「僕を配下にしたいと、そう言ったおね」
空流が片眉を上げる。
川 ゚ -゚)「…確かに言ったが、今更それがどうした」
(# ω )「配下に就いてやってもいいお。ただし──」
.
193
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:29:11 ID:diF.uzzI0
勢い良く立ち上がり、声を上げる。
(# ω )「僕と勝負するお!! 僕に勝ったら配下にするなり殺すなり好きにするお!」
(# ω )「僕がお前に勝ったら、今すぐこの場から退いてもらうお!!」
川 ゚ -゚)「…勝負、だと?」
(# ω )「そうだお。僕と──」
怪訝な顔を向ける空流を睨む。
荷袋から飛び出たギターのネックを、無意識に握りしめた。
(# ω )「──音楽で、勝負するお」
第七話 終
194
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:30:35 ID:diF.uzzI0
以上っす!
毎日投下してましたけど次はちょっと時間あけます!
195
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:13:52 ID:k5kv6ozM0
空くって数日だよな!?数日なんだよな!?
よろしい、全裸で待とう!
めっちゃ続き気になる
196
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:49:01 ID:wqPu9D9.0
おま!!!おまえええええええええええええ!!!!!
ずっと待ってたんだぞこの野郎!!!!!!!!!
復活してくれてめっちゃ嬉しいぞ!!!!!!!
197
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:39:47 ID:bh8WsPgM0
>>195
ありがとうございます!
思ったより早くできました!
>>196
スマヌ…スマヌ…
期待を裏切らないよう頑張ります!
投下します!
198
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:40:30 ID:bh8WsPgM0
最近、映画『バタフライ・エフェクト』を思い出すことが増えた。
理由はよくわからない。
ただ、何となく、ふと考えてしまうのだ。
例えば、自分の先祖が結婚相手を間違えたり。
ちょっとしたすれ違いで運命の人に出会わなかったり。
結婚もしないまま人生を終えたり。
それだけで、自分という存在は無かったことになるかもしれないのだ。
『バタフライ・エフェクト』では、主人公が過去を操作することで、未来の凄惨な運命を変えようとした。
それを思い出すたびに、少し不安になるのだ。
有り得ない話だが、もし誰かが過去を操って、自分の運命を変えてしまったら。
運命どころか、自分の存在そのものに影響が出るとしたら。
ξ゚⊿゚)ξ(……私は、どうなっていたんだろう)
199
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:41:42 ID:bh8WsPgM0
就活に無意味さを感じるのは、自分のこれからの人生が、あまりにも見えてこないからだ。
まるで、近いうち、自分の存在が無かったことになりそうな気すらする。
妄想だと笑われるかもしれない。
だが、一つだけ、自分しか知り得ない事実がある。
時々、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
自分の名前を、忘れてしまうことがあるのだ。
──
200
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:42:52 ID:bh8WsPgM0
第八話
「歴史対決」
──
川 ゚ -゚)「お前と勝負だと?」
嘲笑。
空流は懐刀を振り、刃に付着していた血を飛ばした。
川 ゚ -゚)「お前如きの命一つに、二茶根留攻めを、天下統一を賭けろというのか」
川 ゚ -゚)「どうにも釣り合う気がしないな。だが…」
懐刀を布で拭く。
慣れた手付きだ。何度も使った経験があるのだろう。
鋭い視線が、ブーンに向いた。
川 ゚ -゚)「素直流の琴を進化させ、天下に広める為には、お前の…未来の音楽理論や技術が欲しいのも事実だ」
川 ゚ -゚)「面白い。お前の喧嘩を、買ってやろうではないか」
( ^ω^)「…決まりだお」
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン!!」
201
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:43:57 ID:bh8WsPgM0
慌てた様子の出麗が、声を上げる。
ζ(゚ー゚;ζ「師匠は…素直空流は、音楽界では知らぬ者がいない程の琴奏者なの!」
ζ(゚ー゚;ζ「琴最大の素直流、その元帥よ!? 私なんかじゃ足元にも及ばない! 無茶よブーン!」
出麗も名の知れた琴奏者だ。その師匠というのだから、よっぽど大物なのだろう。
光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥。
確かに天下統一でも出来そうな立派な肩書きだ。
出麗の言う事もわかる。無茶な勝負かもしれない。
だが。
( ^ω^)「知ったこっちゃないお。僕はこの極悪人が、許せないだけだお」
ブーンにとって、そんなことはどうでも良かった。
こいつを止めるには、音楽しかない。
音楽勝負で、心を折るほど圧倒的に勝つしかない。
それだけが狙いだった。
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン……」
川 ゚ -゚)「私を相手に、大した自信じゃないか」
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