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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです

1名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:09:52 ID:71GE3tJQO
前作
( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/guitarist/guitarist.htm
文丸様

2名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:10:52 ID:71GE3tJQO
 

──

 

 こうしてアコースティックギターを右膝に乗せると、まるで心地の良い毛布のように──或いは強力な武器のように、ブーンを安心させた。

 目の前のマイクに、決して臆することなく。
 柔らかいリズムを意識しながら、ブーンはギターを鳴らせ始めた。

 ハイコードのE、B、D、A。
 E、B♯m、D、A……

 
( ^ω^)「…春は〜私の〜大好きな季節〜のは〜ず〜なのに〜♪」
 

 浮かぶは、曲の情景。
 叶わないと思っている片思い。何故なら、「彼」はいつも高みにいて、主人公の「私」には到底届かない場所にいて。
 振り向いてもらえるはずなんて、ないのだから。

 ピッキングのアルペジオが、一つの音にまとまり。
 曲は、サビに移った。

 
( ^ω^)「…きっとあなたは〜私に〜興味など〜無くて〜♪」

( ^ω^)「私の知ら〜ない〜世界で輝いていて〜♪」

 
──

3名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:11:50 ID:71GE3tJQO
──

 

('A`)「はーいレコーディング終了でーす…お疲れさん」

( ^ω^)「ありがとうございました。お疲れ様ですお」

 
 内藤ホライゾン、通称ブーン。23歳。
 まだまだ売れないシンガーソングライターとして活動するフリーター。
 音楽の世界で生きることを夢見る青年は、その演奏力を買われて、22歳で小さな事務所にスカウトされた。

 まだ人気もクソもない段階だが、「童貞が歌うラブ・ソング」をキャッチフレーズに、現在では徐々にその名が広まりつつある。

 
('A`)「あー、今度はジャケのデザイン相談するからさ、来週もこの時間に来てよ」

(*^ω^)「了解ですおー。ジャケとかワクワクしますお」

('A`)「めんどいから昔のイングヴェイみたいな感じでいい?」

(;^ω^)「顔面どアップですかお。嫌ですお…」

4名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:12:28 ID:71GE3tJQO
 
 事務所を出て、アルバイト先へと向かう。

 コンビニのアルバイトを始めて、もう五年くらいになる。
 なんだかんだ時給も上がり、シフトの融通も利くので、このぬるま湯からはまだ出る気になれない。

 
( ^ω^)「おいすー」

ξ゚⊿゚)ξ「おはようございます」

( ^ω^)「おはようツンちゃん。相変わらず透き通るような白い肌だね」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと店長呼ぶんで動かないでくださいね」

(;^ω^)「ウソウソウソ!嘘だからそのボタン押さないで!店長じゃなくて警察が来るんだおそれ!」

 
 ブーンと同じく古株で、もう三年くらいこのアルバイトを続けている尾付ツン。
 大学三年生になったばかりだ。

5名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:13:15 ID:71GE3tJQO
 
( ^ω^)「そういやさっき新曲のレコーディングがあったんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「へえ、どんな歌なんですか?」

 
 1人の立ち読み客しかいない店内で、ブーンは揚げ物の確認をしながらツンに話しかけた。
 ツンの方はレジ点検をこなしながら、大して興味もなさそうに応える。

 
( ^ω^)「今度は片思いソングだお。手の届かない相手を、見上げるだけの恋…切ないラブストーリーだお…」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんと気持ち悪いですねお前」

( ^ω^)「ツンちゃんならそう言ってくれると思ったお。てかお前って」

ξ゚⊿゚)ξ「いつ発売されるんですか?」

( ^ω^)「たぶん来月には流通が始まるお。今なら握手券もつけるから買ってくれお」

ξ゚⊿゚)ξ「真面目にいらないんで、またyoutubeにあがったら教えてくださいね」

( ^ω^) 「わかりました」

6名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:14:03 ID:71GE3tJQO
 
 揚げ物が出来上がり、随分油っこいそれを店頭に並べる。
 我ながら完璧な仕上がりだ。美味そう。

 
( ^ω^)「そうそう、ツンちゃんは就活とかどうするんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「え?うーん…」

 
 先ほどのブーンの新曲の話よりはよっぽど興味が向いたのだろう。
 少し困ったような顔で、中空を眺めている。
 

ξ゚⊿゚)ξ「…まだなんとも。やりたいこともよくわかんなくて」

( ^ω^)「そっかお…よくわかんないけど、お嫁にいけばいいってもんじゃないのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「もうそんな時代じゃないですよ。女性の社会進出が著しいし、そもそも主婦はやりたい仕事がないから主婦をしているとは限らないし」

(;^ω^)「そ、そうなのかお?難しいもんだお…」

 
 「時代」か。
 全ての言い訳に使えそうな言葉だが、それ以上に複雑な背景を孕んでいる。

 少し考え込んでいると、突然ツンが呟いた。

 
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンさんは良いですね」

7名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:15:04 ID:71GE3tJQO
 
( ^ω^)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「23にもなってフリーターだけど、自分の夢があって、活動してて…」

( ^ω^)「さり気なく失礼なこと言ってるけど、確かに我ながら気が楽な人生だお」

ξ゚⊿゚)ξ「正直羨ましいです、やりたいことがある人って」

(;^ω^)「い、いやそんな大層なもんじゃないお。むしろ現実逃避に近いし」

ξ゚⊿゚)ξ「それも羨ましいですよ…いらっしゃいませこんばんは─」

( ^ω^)「いらっしゃいませー」

 
 中年の客が入店し、意識が仕事に移る。

 就職、生活。
 ブーンは音楽の夢を追いながら、言い換えればそれらの現実に目を向けていないだけなのかもしれない。

 ツンもいっそ歌手とか目指せばいいのにとも思ったが、ブーンはそれを言うことができなかった。

 

──

8名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:15:53 ID:71GE3tJQO
──

 

 夜、自室。
 風呂上がりのブーンは、自分のCD棚を見ながら「今日のアーティスト」を考えていた。

 
(*^ω^)「どうしようかな…今日はどっちかってと洋楽の気分だお」

(*^ω^)「もうすぐ夏だし、テンションの上がる曲がいいお…そういう時はチョイ古なロックかメタルだお」

(*^ω^)「ガンズアンドローゼズ…エクストリーム……ふ、ふふ、ふふ」

(*^ω^)「君に決めた!ミスタービイイイッグ!!」

 

 CDをセットし、ギターが寝かされたベッドへと向かう。
 ギターを手にとり、鏡の前に立ってポーズをきめる。

 
( ゚ω゚)「ホアアアアまずはビリー・シーンの超絶技巧ベース!!高速タッピング!」ビロビロビロビロビロビロ

( ゚ω゚)「そしてポール・ギルバートォォォ!!」ピロピッピロッピッピロ

( ゚ω゚)「…ん?」

9名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:16:37 ID:71GE3tJQO
 
 ふと、足下を見る。
 なんだか見たことのない、ピックを大きく変形させたような不思議な物体がそこにあった。

 
( ^ω^)「…なんだこれ」

 
 その物体を拾い上げ、色々な角度から見つめてみるが、何なのかわからない。
 

( ^ω^)「…まいっか」

 
 そのまま、その妙な物体を持ってギターを構えるブーン。
 ふと、冷静になってしまった頭で、今日のアルバイトでの出来事を思い出した。

 
   ξ゚⊿゚)ξ『正直羨ましいです、やりたいことがある人って』

 
( ^ω^)「ふふ…僕のやりたいことなんて、」

10名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:16:58 ID:80HpPNhQ0
合戦中に俺の歌をきけー! ですねわかります

11名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:17:27 ID:71GE3tJQO
 
へ(#゚ω゚)/「所詮こんなもんだおおお!!エリック・マーティィィィ……」

 
 ギターを構え直し、その物体で、ギターを思いっきり鳴らした。
 その直後。

 
へ( ゚ω゚)/

 
 世界が、変わった。
 
 
.

12名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:18:05 ID:71GE3tJQO
 

( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです

 
.

13名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:19:20 ID:71GE3tJQO
 
第一話
「ロックスターが戸惑った日」

 

──

 

 明応八年、根十城。
 蜂の巣をつついたかのような騒ぎが、城中に広まっていた。

 その様子を見に、本丸を回る男と、それに出くわした女が、互いに今の状況をさぐっていく。

 
(´メω・`)「一体何の騒ぎだ」
 

 男は、城の兵とは違った武装で警戒し。
 

ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ…大手門のあたりで何かあったみたい。行きましょう」

 
 女は、似合わない懐刀を握り締めながら、不安げな表情を見せる。

 2人で大手門の方へと向かうと、そこでは大勢の兵が野次馬のように何かを囲んでいた。

14名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:20:05 ID:71GE3tJQO
 
 妖怪だ、バケモノだ、などと兵達が騒いでいる。
 

(´メω・`)「通せ、通してくれ」

ζ(゚ー゚;ζ「失礼しまーす…」

 
 兵達を掻き分け、2人が目にしたのは、信じがたい光景だった。

 周りの兵達に囲まれた、南蛮人のような男。

 
へ( ゚ω゚)/

 
 かの偉大なロックギタリスト、ポール・ギルバートを彷彿とさせるポーズで、その男は大量の槍に囲まれていた。

 

(;´メω・`)ζ(゚ー゚;ζ「え…?」

15名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:20:50 ID:71GE3tJQO
 
 それは三年前、復讐の旅路を共に歩んでくれた相棒。
 そして、戦闘で疲弊した城を、未来を変える覚悟で救った男。

 
(;´メω・`)「ブーン……?」

へ(;゚ω゚)/「へ?」

ζ(゚ー゚;ζ「ちょ、ブーン!?」

へ(;゚ω゚)/「ん、ん?え?」

 
 この場にいる誰もが、この状況を全く理解できていなかった。
 兵達に槍を収めるよう指示し、ブーンのもとへと2人が駆け寄る。

 
(;´メω・`)「ぶ、ブーン、一体どうやって…何故またこの時代に来たんだ」

(;゚ω゚)「この時代…?」

ζ(゚ー゚;ζ「まさか、覚えてないの?」

16名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:21:56 ID:71GE3tJQO
 
 ブーンにしてみれば、気が狂ってないのが奇跡なくらい、今の状況が掴めていなかった。

 いや、本当は気が狂ってのかもしれない。
 目の前には剣豪のような格好をした男と、ナイフのようなものを持った物騒な女。ちょっとツンに似てる。
 周りには刀やら槍やらを持った兵士、向こうには、立派な日本式の城。

 全く意味がわからない。
 とりあえず落ちつこう。落ちつくのが先だ。
 こういう時は素数を数えろと、高校のときクラスの陰キャラが一人で言ってた。
 そうだ、素数を数えるんだ。
 0、1、1、2、3、5、8、13…

 
(;´メω・`)「ブーン、俺がわかるか?」

(;゚ω゚)「フィボナッチ数列かよ!!」

(;´メω・`)「!?」

17名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:22:15 ID:o7BMYuyYO
ふおおおおおおお!続きか!?

18名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:22:48 ID:71GE3tJQO
 
ζ(゚ー゚;ζ「…錯乱してるわね」

(;´メω・`)「とりあえず中で休ませよう。ブーン、来るんだ」

(;゚ω゚)「は、はは、離せお!!つーか何で僕の名前知ってるんだお!」
 
 フィボナッチ数列を数えたおかげで、幾分かの冷静さは取り戻せた。
 しかし、そうなると疑問が滝のように流れてくる。

 
(;゚ω゚)「なんなんだお!誰だお!!どういうコスプレだお!」

(´メω・`)「ブーン…」
 

 男の表情が、悲しみに染まる。
 ブーンはそれを察知したが、余計に状況がわからなかった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「…どうしようもないわね、覚えてないなら」

(´メω・`)「…いや」

19名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:23:49 ID:71GE3tJQO
 
 手はある、と男が呟く。

(´メω・`)「もう二度とあるまいと、あの時は思っていたが…仕方ない」
 

 腰にぶら下がる愛刀。
 その柄を握りしめた途端、一瞬で刃を抜き、ブーンの喉元に当てた。

 
(;゚ω゚)「……!?」

ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ…」

(´メω・`)「懐かしいなブーン。我々が初めて会ったときも、こうやってお前の口を封じたのだ」

(´メω・`)「そして、お前は音楽のおかげで落ち着いた」

(;゚ω゚)「……音楽…?」

 
 目一杯に顎を引いたブーンが、震えながら答える。

 
(´メω・`)「そうだ。久しぶりに弾いてみせてくれ。その"ぎたー"を」

20名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:24:44 ID:71GE3tJQO
 
 刀を鞘に戻しながら、男はブーンの目の前に座り込んだ。

 その横で、女もつられて座りこむ。
 周りの兵達は困惑した様子でそれを見つめている。

 
 ますます意味が理解できないブーンだが、とりあえず話を整理するとこうなる。
 「凶器を持った男がギターを弾けと要求してきた」

 抗う術はまったく無い。
 要求通り、ブーンはギターを持って座り込んだ。

 
(;^ω^)「あの…曲は…?」

(´メω・`)「なんでもいい、お前に任せる」

(;^ω^)「わかりましたお…」

21名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:25:46 ID:71GE3tJQO
 
 ギターを膝に乗せ、指を構える。
 こうすると、不思議なくらい、ブーンの心に静けさが戻ってきた。
 そのまま、ブーンはチューニングを合わせ、ゆっくりと演奏を始めた。

 曲は押尾コータローがアコースティックカバーした、坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence」。
 喩えようのない切ない曲調が、空気を震わせ、周りの人間の口を閉ざせていく。

 
 不思議な感覚だった。
 まるでギターなど見たこともなさそうな野次馬達が、ブーンの演奏を聴き、何かを眺めるようにブーンを見つめる。
 初めて心が通じ合ったような、妙な心地良さと共に、演奏は続いていく。

 
( ^ω^)♪〜♪〜〜

(´メω・`)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

 
 静かで、それでいて力強い音。
 それを辺りに響かせながら、ブーンの演奏はゆっくりと終わった。

22名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:26:39 ID:71GE3tJQO
 
( ^ω^)「…終わりですお」

 
 感激を示す溜め息が、周りの兵達からいっせいに漏れた。
 先程まで凶器を構えていた男は笑顔になり、女は目を丸くしている。

 
ζ(゚д゚;ζ「……」

(´メω・`)「…相変わらず、お前のぎたーはどんな刀よりも強い武器だな」

(;^ω^)「そ、そうですかお」

(´メω・`)「もう落ち着いたな?」

(;^ω^)「はい…さっきよりは」

(´メω・`)「中に入ろう。共に状況を整理するのだ」

23名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:27:25 ID:71GE3tJQO
 
 なんだかよくわからないが、今の演奏で場の雰囲気が落ち着いたのは確かだ。

 ギターのストラップを肩にかけて、立ち上がろうと前を向く。
 すると、男が此方に手を差し伸ばしているのに気付いた。

 
(´メω・`)「俺は太田渚本介(しょぼんのすけ)だ」

( ^ω^)「…ブーンですお」

(´メω・`)「はは、そうか…よろしくなブーン」

( ^ω^)「よろしくですお」

 
 手を握り、勢いよく立ち上がる。

 得体の知れない既視感が、うっすらと脳裏に浮かんだ気がした。
 

──

24名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:29:31 ID:71GE3tJQO
──

 

 ここは五百年前の日本、根十城。
 自分は三年前にもこの場にタイムスリップし、色々と歴史をひん曲げたらしい。

 以上のことを目の前の男──渚本介が語った。

 太田渚本介の名は知っている。日本史では割と名の知れた剣豪だ。
 隣の女、尾付出麗の名は知らなかったが、二茶根留家近習一族の末裔だと言われれば、立場はなんとなくわかる。

 それにしても、まだまだ理解できないことは多い。

 
(;^ω^)「三年前って…」

 三年前。20歳の時だ。
 あの頃は、生活の中にアルバイトかギターの2つしかなかった。今もそうだが。
 タイムスリップして渚本介と旅をしていたなんて記憶は全くない。

25名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:30:27 ID:71GE3tJQO
 
 ただのコアなコスプレイヤーが人違いしてるだけだろうとも思ったが、渚本介がブーンの情報をかなり精密に把握していることから、その考えは掻き消された。

 
(´メω・`)「ところで、一体どうやってここに飛ばされたんだ?」

(;^ω^)「えっと、この物体でギターを鳴らし…」

( ゚ω゚)「ああああああ!!」

ζ(゚ー゚;ζ「!?」

(;´メω・`)「まさか…」

(;^ω^)「僕はこれでギターを鳴らしたらこうなったんですお!つまりもっかい鳴らせば、元の時代に帰れるはず!!」

( ^ω^)「ハアッ!」ジャラーン
 

 不細工な音が、部屋中に響いた。
 ああ、何をやっているんだ僕は。
 何故この2人は可哀相な目で僕を見るんだ。

26名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:31:36 ID:71GE3tJQO
 
(´メω・`)「…とにかく、また出麗の琴爪を持って現れたということは、何らかの任を与えられたのだな」

ζ(゚ー゚;ζ「で、でも私は前みたいな苦痛なんかないわよ?」

(´メω・`)「ふむ。天野が倒れてのち、戦乱も収まっている…二茶根留領も平穏だ」

(;^ω^)「??」

ζ(゚ー゚;ζ「じゃあ、何故かしら…」

(´メω・`)「ブーン。お前が未来で教わった限りでいい。今この時代で、何が起きようとしているのだ」

(;^ω^)「え…?」

 
 この時代、つまり天野が倒れた三年後の世界で、何があったのかを知りたいということか。
 天野が天下統一の最中に倒れたのが1496年。となるとここは1499年。

 
(;^ω^)「1499……あ」

 
 ある。
 この年、大きな出来事が起こったはずだ。

27名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:32:54 ID:71GE3tJQO
 
(;^ω^)「確か、この年は八尾井山(やおいざん)が焼き討ちをくらいますお」

(;´メω・`)「!?」

ζ(゚ー゚;ζ「八尾井山!?」

(;´メω・`)「あの聖地が…原因はなんだ?一体何の争いだ?」

 
 2人の狼狽ぶりに、逆に焦るブーン。
 日本史が得意だった高校の頃の記憶を、必死に掘り下げる。

 
(;^ω^)「く、詳しくは覚えてないけど、たしか天野が倒れた次に天下統一を企む連中が、勢力を広げていた宗教…組織?を押さえ込む為に仕掛けるんですお」

(´メω・`)「光世真宗のことだな。奴らは武力にも非常に長けてる」

ζ(゚ー゚;ζ「それで、天下統一を企んでるのは誰…?」

(;^ω^)「えっと…」

28名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:33:55 ID:71GE3tJQO
 
 思い出せ。
 天野家が敗れ、訪れようとした平和をすぐに壊した連中を。

 1499年。八尾井山焼き討ち。

 
(;^ω^)「吹連……」

(;´メω・`)「え…?」

(;^ω^)「吹連久斗尚!それが主謀者ですお」

(;´メω・`)「!!」

ζ(゚ー゚;ζ「うそ…」

 
 1499年、吹連久斗尚、八尾井山焼き討ち。
 そうだ。年表暗記で何度も繰り返したから間違いない。

 
(´メω・`)「奴め…まだ懲りずに…」

ζ(゚ー゚;ζ「光世真宗は二茶根留家との関わりも強いわ。ひょっとしたら…」

(´メω・`)「ああ、まだ二茶根留を狙っているはずだ」

29名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:35:01 ID:71GE3tJQO
 
(´メω・`)「だが、それがわかれば話は早い。ブーン、お前がまたこの時代に飛ばされたのもきっとそれだ」

(;^ω^)「はい?」

(´メω・`)「二茶根留が落とされる…出麗に危険が迫っているからだ」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

(;^ω^)「は、はあ…」

 
 出麗に危険が迫っているから。
 …と言われても、それがタイムスリップの理由に繋がる意味がよくわからない。

 まあ、タイムスリップの理由は良いとして。
 これからどうすればいいのだろう。
 

(´メω・`)「恐らく、出麗の命に影響があれば、未来への影響も強いのだろう」

(´メω・`)「なれば、話は簡単だ。我々で八尾井山を守ればいい」

(;^ω^)「は…?」

30名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:36:04 ID:71GE3tJQO
 
 渚本介はブーンの方を向き、にやけるように笑った。

 いや、ちょっと待て。
 何やら不穏なその案に、まさか僕も加える気ではないですよね?

 
(´メω・`)「ブーン、俺2人で吹連久斗尚を食い止めるぞ」

(;^ω^)「いや、いやいや、ちょっと待ってくださいお」

(;^ω^)「こういう時って、もっとほら、兵力勝負とかで行くもんじゃ…?」

(´メω・`)「それだと危険が強くなる。我々が内密に吹連久斗尚のもとへと潜入し、直接食い止めるほうが効率がいい」

(´メω・`)「出麗は巳留那殿にそれを告げ、万が一のために兵を用意させるよう言ってくれ」

ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」

 
 渚本介のリードで、話がとんとん拍子に進む。

 ちょっと待ってくれ。この流れは絶対におかしい。
 そう言いたいが、何故か強く抵抗できない自分もいる。

31名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:36:28 ID:A67oIitc0
支援
これ好きだった

32名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:36:55 ID:hUYFa91s0
続編キター!!!
昨日まとめ読んでよかった支援

33名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:37:13 ID:71GE3tJQO
 
 不安が顔に出ていたのか。
 渚本介はブーンに優しく笑いかけた。

 
(´メω・`)「はは、心配するな。八尾井山も、吹連が籠もっている具麗芭(ぐれば)城も、目鼻の先だ。以前のように何ヶ月も旅をするわけじゃない」

(;^ω^)「何ヶ月も旅してたんですかお…」

( ^ω^)「あれ?じゃあもしかして」

 
 ふと、日本史の記憶が頭に蘇る。
 授業ではあまり取り上げられなかったが、資料集に載っていたあまりにも奇怪な一文は未だに覚えている。

 
( ^ω^)「じゃあ、太田渚本介と旅してた、楽器を背負った南蛮人って…」

(´メω・`)「お前のことだな。まごうことなく」

(;^ω^)「まじかお…」

 
 いつの間にか、歴史の1ページに僕は刻まれていたようです。
 

──

34名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:38:44 ID:71GE3tJQO
 
──

 

 渚本介のリードは完璧で、3日後にはブーンと渚本介の旅の用意ができた。

 この3日間、ブーンは馬に乗る練習をさせられていた。
 急いで処理すべき問題だからという、渚本介の計らいからだ。

 だが。

 
( ^ω^)「ハァッ!」

▼・ェ・▼ ヒヒーン

( ゚ω゚)「ぬぅふ!」

 
 何度やっても、振り落とされる。
 馬に乗った経験といえば、小さい頃に山梨県の乗馬体験でインストラクターと一緒に乗ったくらいだ。

 
(;^ω^)「クソ、なんでこんな子犬みたいな馬に振り落とされるんだお…」

▼・ェ・▼ ヒヒーン(笑)

(;^ω^)「うわーすごい腹立つ」

(´メω・`)「ははは、馬は慣れだ。まずはその馬と心を通わせるんだな」

35名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:40:41 ID:71GE3tJQO
 
 渚本介の教えで、馬の練習を繰り返した3日目の夕刻。
 出発の時が来た。

 久斗尚が籠城する具麗芭城に潜入し、久斗尚を捕らえる。
 内密の任務となる故に、出発の見送りはなかった。
 出麗は二茶根留巳留那とともに"万が一"の準備をしているらしい。

 
(´メω・`)「準備は大丈夫か?」

( ^ω^)「大丈夫ですお。つっても、特に持ち物もないけど…」

(´メω・`)「はは、何を言ってるんだ。ほら」

( ^ω^)「お?」

 
 渚本介が、大きな荷物を差し出した。

 あまり綺麗じゃない、布地の荷袋。
 それは、ちょうどギターが収まる大きさで、リュックのように背負える作りだった。

 
( ^ω^)「おお、こりゃ便利ですお!」

(´メω・`)「ははは。三年前の旅で、お前がずっと背負っていたぎたーの荷袋だ」

36名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:41:35 ID:71GE3tJQO
 
 三年前。
 自分の記憶の外で、タイムスリップして渚本介と旅をしていた時。

 ブーンは不思議な落ち着きを感じていた。
 いや、ブーンを落ち着かせる何かが、渚本介にはあった。

 
(´メω・`)「さ、自分の馬に乗るんだ。馬はいざという時の強力な武器となる」

( ^ω^)「はいですお。…よいしょ!」

▼・ェ・▼ ヒヒーン^^

( ゚ω゚)「ぬぅふ!」

 
 馬に跨った途端、またしても振り落とされた。
 しかも、振り落とされながら煽られたような気がした。

 とっくに自分の馬に跨った渚本介が、「優しく乗るんだ」と声をかける。
 言われた通り、ブーンは優しさを込めて馬に跨った。

37名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:42:49 ID:71GE3tJQO
 
(´メω・`)「時間がない。出発だ」

( ^ω^)「はいですお」

 
 渚本介が先に走り、ブーンがその後を追いかける。
 振り落とされずに一度走ってしまえば、あとは楽だった。

 
( ^ω^)「なあ、馬。お前にぴったりな名前を考えたお」

▼・ェ・▼ ?

( ^ω^)「マルフォイだお」

▼・ェ・▼ …?

(;´メω・`)(馬と会話してる…?)

 
 駆ける二騎は、人気のない山道へと進んでいく。

 未来を変える力を、その体に秘めながら。

 

 
 第一話 終

38名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:44:32 ID:kpLScN8.0
乙乙
まさか続編くるとはな
おかえり

39名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 23:45:40 ID:71GE3tJQO
以上です。ご支援・コメントありがとうございます!
酉無しですみません。前作の作者です

40名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 00:01:14 ID:TiVUfLZs0

いやあこれでまた楽しみが増えてしまった
作者おかえり

41名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 00:01:22 ID:q4i.vFzU0

まさかの続編に僕、満足!

42名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 00:18:51 ID:9jNzq/cc0
ヤック・デカルチャー!



43名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 01:04:05 ID:WDapfFJ20

頑張れ

44名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 01:49:02 ID:4fZMgr3I0


45名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 11:27:49 ID:bUM4bBZs0
ギタリストの続編ktkr!!!
吹蓮まだ諦めて無かったのか

46名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 14:53:22 ID:Lr0YeZWw0

丸見え
wwwono ←検索(yahoo Google)

47名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 18:09:20 ID:Q6xe/7Ww0
乙だ

48名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 11:57:51 ID:My/4T5Tc0
前作見てきた
期待して待つよ

49名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 11:59:14 ID:yxCsoeYAO
乙!
前作好きだったから続編とか嬉しい限り

50名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 21:37:40 ID:5frVaaCo0
乙!
期待してます

51名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 22:47:11 ID:3I03eJ2Y0
前作も好きだったから超嬉しい
これからの展開を楽しみにしてるよ乙

52名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 00:29:56 ID:CropchTY0
おつ

53名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 01:23:50 ID:wCsLJXaM0
え?続編?

うぎゃあああああ嬉しいいいいいいいいいいいい
超期待なんだぜ

54名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 02:20:19 ID:VtVBA6Mg0
おおおマジか
楽しみにしてんよ

55名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:15:33 ID:wZZ3IsMkO
わー皆さんありがとうございます!覚えててくれてるなんて!

第二話投下します

56名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:16:20 ID:wZZ3IsMkO
 

──

 

(‘_L’)「…そなたらも聞いておろう」

 

 夜。
 山中にある具麗芭城は、月明かりに照らされて妖しく輝いている。

 その一室で、城主の吹連久斗尚は、対面する二人に話を続けた。

 
(‘_L’)「光世真宗が動き始めた。八尾井山で兵を募っている」

(‘_L’)「奴らの狙いも天下統一だ。そして、奴らが最初に潰しにかかるのは」

 
 一呼吸、間に入れる。
 この緊張は、どうにも晴れなかった。

 
(‘_L’)「…恐らく、我々吹連であろう」

57名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:17:05 ID:wZZ3IsMkO
 
(‘_L’)「根十城攻めに敗れた我々は、最初に狙いやすいというのもあるやも知れん。だが、我らにも勝算はある」

(‘_L’)「先に我々が潰すのだ。八尾井山をな」

(‘_L’)「光世真宗が敗れれば、二茶根留にとっても痛手の筈。光世真宗は戦力補充の頼り先故にな」

 
 対面する二人は、久斗尚の目をまっすぐ見つめたまま動かない。
 そこには、別々の意思を含みながら。

 
(‘_L’)「戦の準備だ。八尾井山焼き討ちを決定する」

 
 そして、二人のうち片方が、太くくぐもった声を響かせた。

 
「御意に」

 

──

58名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:17:57 ID:wZZ3IsMkO
 
第二話
「勇気と矛盾の寝床」

 

──

 

 二茶根留領から出ると、いかにも日本の内陸地らしく、大きな山がいくつも続いていた。
 その途中にある小さな宿場町で、ブーンと渚本介は馬を下りた。

 
(´メω・`)「今日はここで宿を借りよう。旅にはうってつけの宿場町だ」

( ^ω^)「了解ですお。マルフォイもここで休むんだお」

▼・ェ・▼ ブルル

( ^ω^)「スリザリン寮ならロンドンにあると思うお(笑)」

▼・ェ・▼ ヒヒーン

( #)ω゚)「ぬぅふ!」

(;´メω・`)「何やってるんだ…早く来るんだ」

(;^ω^)「はいですお…」

59名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:19:08 ID:wZZ3IsMkO
 
 山間の宿場町、百合(ユリ)。
 様々な国の境場にあるため、常に人で賑わっている。
 商人や武士が入り組む小さな町は、明るい声が飛び交うほどの活気を持っていた。

 だが、その中でもブーンは異質な存在であるらしい。
 渚本介とブーンが通ると、町の人間達は一旦話を止め、見知らぬ「南蛮人」に目を奪われていた。

 
(;^ω^)(な、なんか恥ずかしいお…)

(´メω・`)「……」

 
 恥ずかしそうにコソコソ歩くブーンに対し、渚本介は逆に町の人間達を見つめながら歩く。
 その目には、ある違和感と警戒を秘めていた。

 
(´メω・`)(……何か、変だ)

(;^ω^)「しょ、渚本介さん、いつまで歩くんですかお」

(´メω・`)「ん?ああ、すまない。宿はここにしよう」

60名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:20:12 ID:wZZ3IsMkO
 
 適当な宿屋に入り、勘定を済ませる。
 その間、中にいる人間達は皆ブーンを執拗に見ていた。

 
(;^ω^)(うわー…初レコーディングの時のドクオさんより視線がきついお…)

(;^ω^)(ここは目を逸らさなきゃ…ん?)

 
 ふと、目を逸らした先。
 何やら黄色の紙が、天井に貼ってあるのが見えた。

( ^ω^)(お札かお…?)

 よく見れば、あちこちの柱にも同じような黄色の紙が貼ってある。
 札のような形のそれには、何やら文字が書いてあったが、ブーンには全く読めなかった。

 
(´メω・`)「上がるぞ、ブーン」

( ^ω^)「あ、了解ですお」

 
 あちこちに貼られてある札に、一種の不気味さを感じながら。
 ブーンと渚本介は、二階の部屋まで上がった。

61名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:21:13 ID:wZZ3IsMkO
 
 二階の部屋で、荷物を下ろす。
 窓から町並みを見ると、やはり活気の良さが伺える。
 だが、先程の札や周りの態度から、この町に対する違和感は拭えなかった。

 さらに下、表通りを見下ろしてみる。
 すると、まだ10歳前後であろう子供達が、何かを囲っているのが見えた。

 
(;^ω^)(あれは…イジメかお?)

 囲っているのは、一人の小さな男の子だった。
 どうやら、周りの子供はこの男の子に向かって色々と罵倒しているらしい。
 聞こえたのは、「悪霊」や「貧乏」といった単語だけだった。
 だが、その状況を詳しく察知するには充分な材料だった。

 
(´メω・`)「ブーン、何を見て…」

(;^ω^)「ちょっとあの子達を止めてきますお!」

(;´メω・`)「えっ」

62名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:22:08 ID:wZZ3IsMkO
 
 宿屋を飛び出し、子供達の方へと駆け寄る。

 
(#^ω^)「こら君たち!イジメはダメだって道徳の時間に習わなかったのかお!」

(`A´;)「うわ、なんだこの南蛮人!」

(;゚ヽ゚)「こいつの味方だ!悪霊だ!逃げろー!」

(#^ω^)「誰が悪霊じゃこら!!お前らなんか今年大殺界に堕るがいいお!」

 
 あっけなく逃げる子供達。
 そして、そこには砂まみれになった男の子だけが残った。

 
(・∀ ・メ)「……」

( ^ω^)「キミ、大丈夫かお?あんな奴らとはもう関わらないほうがいいお」

(・∀ ・#)「う、うるさい!!」

63名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:23:06 ID:wZZ3IsMkO
 
 優しく差し伸ばした手は、勢いよく弾かれた。
 唖然とするブーンに、男の子は更に声を上げる。

 
(・∀ ・#)「お前らなんか、みんな死んじまえばいいんだ!!人間も、仏様も、みんな死んじまえ!!」

(;^ω^)「ちょっ…!」

 
 ブーンだけでなく、周りの野次馬達にも吠えるような言葉。
 それだけを残し、男の子はブーンに背を向けて走り出した。

 
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待てお!話を…!」

(<´-`)「あー、やめときな南蛮人」

 
 驚いて振り向く。
 そこには、荷台を引いた商人らしき男が、無邪気な顔で立っていた。

64名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:23:58 ID:wZZ3IsMkO
 
(<´-`)「ありゃ紛れもなく悪霊が憑いとるんだ」

(;^ω^)「は?」

(<´-`)「あの子は持ってねぇんだよ。光世札をよ」

(;^ω^)「こうせ…ふだ?」

 
 思い当たる節はある。
 恐らく、先の宿屋で見たあの札のことだろう。

 しかし、あの札を持っていないから「悪霊が憑いている」というのは、あまりにも短絡すぎる。

 
(<´-`)「ま、あんたみてぇな南蛮人には考えらんねぇかもしらんけどよ。でも、あの子の態度を見りゃわかるだろう。悪霊がいなきゃ、人間はあそこまで汚くならねえ」

(;^ω^)「そ、そんな勝手な…」

(<´-`)「少なくとも、光世札を持ってなきゃこの町では生きてらんねぇ。あんたも早いとこ手に入れな」

65名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:24:56 ID:wZZ3IsMkO
 
(;^ω^)「はあ…ありがとうございますお」

 
 いまいち言ってる意味が掴めなかったが、とりあえずこういうことだろう。

 この町では、「光世札」を持っていない者は悪霊に憑かれている、とされる。
 光世札とは光世真宗に関わるものだろうか。
 だとすれば、光世真宗は想像以上に強い影響力を持っている。

 それにしても、この現状ではあまり良い影響とは言えない。

 
(;^ω^)(光世真宗って、本当は良くない宗教なのかお…?)

 
 光世真宗を守る旅だというのに、これでは気分が落ち込んでしまう。
 とぼとぼと宿屋に戻るその姿を、町の人間達は睨むように見つめていた。

 

──

66名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:25:50 ID:wZZ3IsMkO
──

 

(´メω・`)「光世札…」

 
 宿屋に戻り、事の顛末を渚本介に話したブーン。

 疑問と警戒が、更に絡まったような。
 難しい顔のまま、渚本介は黙り込んでしまった。

 
(;^ω^)「渚本介さん、光世札って一体何なんですかお?」

(´メω・`)「うむ…」

 
 まだあまり状況が理解できていないブーンが、渚本介に尋ねる。
 聞いた話だが、という前置きの後に渚本介が語った。

 
(´メω・`)「光世札が光世真宗に則った、所謂魔除けの為の札であるということは間違いない。ただ…」

( ^ω^)「ただ?」

67名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:26:48 ID:wZZ3IsMkO
 
 出かけた言葉を戻しながら、渚本介が溜め息をついた。

 
(´メω・`)「…いや、まだ確証がないな。俺が知ってるのは光世札という存在だけだ」

( ^ω^)「光世真宗の信者はみんな持ってるんですかお?」

(´メω・`)「否、恐らくこの町に流行しているだけだ。他ではあまり知られていないからな」

 
 余計に理解が追いつかない。
 数多い光世真宗の信者達の中で、この百合町にだけ流行する光世札が、先程の子供達のようなイジメを作っているということか。

 「この町にだけ流行」する、「光世札」…

 
(´メω・`)「…いずれにせよ」

 
 深く考え込んだブーンを、渚本介が現実に引き戻す。

68名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:28:59 ID:wZZ3IsMkO
 
(´メω・`)「光世札による悪しき慣習が広がっては、今後の問題となりうる。できれば原因を突き止めたいのだが…」

 
 渚本介が、ちらりと窓を見た。
 外の賑やかな声は、もはや悪意のざわめきのように感じてしまう。

 
(´メω・`)「…少し、外に出てみるか」

 

──

69名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:30:52 ID:wZZ3IsMkO
──

 

 町に出て改めて見てみると、確かに光世札は至るところに貼られてあった。

 あらゆる建物の壁、柱。
 携帯している者も少なくない。

 
(´メω・`)「流行…なんてものじゃないな、これは」

 
 渚本介が思わず呟いてしまうほど、それはもはや日常の一部だった。

 黄色の札が散在する町を歩く二人。
 その一角。小さな男の子が、ぽつんと座っているのが見えた。

 
(・∀ ・)「……」

(;^ω^)「あ、さっきの!」

(・∀ ・;)「!?」

 
 光世札を持っていないという、男の子。
 ブーンの姿を発見した途端、慌てて逃げ出した。

70名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:31:36 ID:wZZ3IsMkO
 
(;^ω^)「ちょ、待てお!なんで逃げるんだお!」

(;´メω・`)「ブーン!?」

(;^ω^)「さっきのいじめられてた子ですお!追いかけますお!」

(・∀ ・;)「!」

 
 人混みを掻き分けて逃げる子供と、それを追いかける奇怪な南蛮人と武士。
 人混みを抜け、ようやく自由に走れるようになると、男の子はすぐに捕まえられた。

 
(;^ω^)「つ、捕まえたお…久しぶりに走った…」

(・∀ ・;)「離しやがれ南蛮人!悪霊め!」

(;^ω^)「人間じゃボケ!いいから話を聞けお!」

(・∀ ・;)「うるせえ!お前が……」

 
 憎しみの籠もった目を、ブーンに向ける。
 そして、全く理解できない台詞が、ブーンを襲った。

 
(・∀ ・#)「お前のせいで、こうなったんだ!」

71名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:32:56 ID:wZZ3IsMkO
 
(;^ω^)「え…?」

 
 言ってる意味が、わからない。
 この子とはもちろん初対面だ。この町も初めて来た。
 そもそも、この時代に来てまだ間もないのに。

 
(´メω・`)「…どういうことなのか、話を聞かせてくれないか」

 
 男の子の横に、渚本介がしゃがみこむ。
 渚本介には何の敵意も持っていない様子で、男の子は静かに俯いた。

 
(´メω・`)「俺達は、光世札の悪習を止めに来たんだ」

(・∀ ・;)「!」

 
 男の子の驚いた顔が、渚本介の方へ跳ね上がる。
 しかし、またすぐに俯いてしまった。

 
(・∀ ・;)「……無理だよ」

72名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:33:50 ID:wZZ3IsMkO
 
 聞き返す間もなく、男の子が続ける。

 
(・∀ ・;)「もう無理だよ…町のみんなは光世札を信じ込んじまってる。よくわかんねえけど、光世札を持ってたら救われるんだってよ」

(・∀ ・;)「うちは貧乏だからさ…光世札なんて大層なもん、買えなかった。光世札が買えなくて町から追い出された奴もいっぱいいる」

( ∀  ;)「おいらが小さいときは、町のみんなはこうじゃなかったのに……みんな…仲良く暮らしてたのに…」

( ^ω^)「……」

(´メω・`)「……」

 
 小さな体が、更に小さくなり、震えている。
 ブーンが慰めの言葉をかけようとしたのを、渚本介が制した。

 
(´メω・`)「安心しろ。俺達が絶対に止める」

(;∀ ;)「……」

73名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:34:46 ID:wZZ3IsMkO
 
(´メω・`)「だから、最後にもう少しだけ教えてくれないか」

 
 優しく尋ねる渚本介に対し、男の子は乱暴に頬を拭いて向き直った。

 
(´メω・`)「光世札を"買えない"と言ったな。光世札とは、売り物なのか?」

(・∀ ・)「…うん」

(´メω・`)「どこに売ってるんだ」

(・∀ ・)「商人が荷台を引いて売ってる。顔の骨が出た、目の細い奴だ」

(;^ω^)「!」

(´メω・`)「そうか…ありがとう」

 
 男の子の手を引き、立ち上がる渚本介。
 小さな体にまとわる着物の砂を払い、頭を撫でた。

 
(´メω・`)「お前、名は?」

(・∀ ・)「…斎藤又武貴(またんき)」

(´メω・`)「そうか。強く生きろよ、又武貴」

74名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:36:21 ID:wZZ3IsMkO
 
(・∀ ・)「…うん!」

 
 嬉しそうに頷き、走り去る又武貴。
 その姿は、何ら普通の子供だった。

 
(´メω・`)「…さて、必要な情報は得られたな」

(;^ω^)「渚本介さん、又武貴くんが言ってたその商人、覚えがありますお」

 
 最初に又武貴に逃げられ、話しかけてきた男。
 その男の顔が、又武貴の言っていた特徴と合致する。

 
(´メω・`)「よし、その男を探すぞ」

( ^ω^)「了解ですお」

 
 疑問と警戒が、一つの線となって結びついていく。
 ブーンと渚本介は、人混みの中へと戻っていった。

 

──

75名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:37:15 ID:wZZ3IsMkO
──

 

(<´-`)「…百合町における、殿の光世札の計…」

 
 夕方。
 商人の男は、誰もいない小さな部屋の中で、ひたすらに文を綴っていた。

 
(<´-`)「潤滑に、進行し候…」

 
 書が完成し、それを丸める。
 窓から差し込む夕陽と、夕陽に照らされる百合の町。

 
(< - )「……もう…」

 
 小さな声が、男の口から洩れる。

 
(< - )「耐えられねぇよ…こんなの……」

 

 その声は、小さな夕陽の光に吸い取られていった。

 

──

76名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:38:06 ID:wZZ3IsMkO
──

 

 夜、小さな小屋。
 ブーンと渚本介は、その扉の前に立った。

 
(´メω・`)「ここだな。町人達が言っていたのは」

( ^ω^)「ごめんくださいおー」

(<;´-`)「!?」

 
 突然の来客に、飛び上がる商人。

 この声には聞き覚えがある。昼間の南蛮人だ。
 短刀を手にとり、扉を開ける。

 
(<;´-`)「…どちらさん」

(´メω・`)「話を聞きたい。上がらせてもらうぞ」

(;^ω^)「あっ僕も…おじゃましますお」

77名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:38:51 ID:wZZ3IsMkO
 
 警戒を面に出した武士と、昼間の南蛮人。
 用件はすぐに察した。
 

(<;´-`)「……」

(´メω・`)「早速で悪いが、お前にはちゃんと話を聞かなければならない」

(<;´-`)「…何の用だよ」

(´メω・`)「光世札を売る唯一の商人とは、お前のことだな?」

(<;´-`)「!?」

 
 予想通り、目の前の二人は光世札のことを問いただしに来たようだ。
 臆する様子を隠し、商人が応える。

 
(<;´-`)「…そうだ」

(;^ω^)「……」

(´メω・`)「それでは問う。お前は、光世真宗の使いなのか?」

78名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:39:50 ID:wZZ3IsMkO
 
(<;´-`)「………」

 
 開きかけた口を、必死に抑える。

 言ってはならない。それを答えてはならない。
 言ってしまえば、全てが台無しになる。
 
(<;´-`)「……」

(;^ω^)「……」

 
 痺れを切らした渚本介が、ゆっくりを膝を立てた。
 その目に、いつもの優しさはない。
 

(´メω・`)「……答えろ。さもなくば」

(;^ω^)「渚本介さん!?」

 
 自らの刀に手をかける渚本介。
 その瞬間、ブーンが飛び込んで渚本介の手を止めた。

 だが、ブーンはすぐに手をどけた。

79名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:40:41 ID:wZZ3IsMkO
 
(;^ω^)「……」

(´メω・`)「……」

 
 渚本介の腕には、全く力が入っていなかった。
 刀を出すつもりなど、元からないのだろう。

 ブーンが安心したのも束の間、商人が静かに呟いた。

 
(<; - )「……斬れよ」

(´メω・`)「!」

(;^ω^)「え…」

 
 心に貯まった感情が、溢れ出るように。
 商人はゆっくりと呟いていく。
 

(<; - )「……斬れよ。俺なんて、さっさと殺してくれよ」

(;^ω^)「ちょ…」

(´メω・`)「…どういうことだか、話してくれないか」

 
 又武貴のときと同じように、優しく尋ねる渚本介。
 商人は、消え入るような声で続けた。

80名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:41:40 ID:wZZ3IsMkO
 
(<; - )「俺はこの町の商人なんかじゃねえ。俺の名は山田竜兵衛」

(<; - )「…吹連家家臣だ」

(;^ω^)「!!」
 

 二人の中に、衝撃が走る。
 吹連家なら、光世真宗とは敵対しているはずだ。
 

(´メω・`)「なれば、光世札とは…」

(<; - )「ああ、光世真宗はこんなもん作っちゃいねえ。全ては殿、吹連久斗尚様の計らいだ」
 

 そうとわかれば、話は見えてくる。

 つまり、吹連久斗尚は光世真宗を弱体化させる為、光世札を作って流布した。
 その結果、光世札が流行した地域では、光世真宗を巡って対立することになる。

 そう、あの又武貴のように。
 光世札を持っているか否か、ただそれだけで。

81名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:42:42 ID:wZZ3IsMkO
 
(<; - )「殿の命で光世札を持ってこの地に降りた俺は、八尾井山が近く光世真宗が浸透したこの町で、ありもしない話をでっち上げた」

(<; - )「南蛮人が悪霊を連れ込んだ。天野が滅んだのも悪霊のせいだ。救われたくば光世札を買うがいい、と」

(;^ω^)「!」

 
 又武貴に突然嫌われたのも、町の人間達がブーンを睨みつけていたのも、これで納得がいく。

 全ては作り話だったのだ。
 光世札を流行させる為に。
 光世真宗を弱らせる為に。

 
(<; - )「我ながら、馬鹿みてえなおとぎ話だと思ったよ。でも、町の人間は思いの外それを信じた。光世札は売れに売れた」

(<; - )「でもよ、それは同時に、貧乏人達を淘汰しちまう結果になった…予想してたとはいえ、俺は…」

 
 深く、深く、その頭は下がっていく。
 悪い人間ではないことは、その様子でわかる。

82名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:43:43 ID:wZZ3IsMkO
 
(<; - )「…俺はよ、女房と娘を戦で亡くしてるんだ。天野の仕業さ」

(;^ω^)「!」

(´メω・`)「……」

(<; - )「だから、戦は嫌いなんだ。できれば刀も矢も見たくねえ」

(<; - )「だが、殿が光世真宗と戦う気でいることはわかってた。それでも俺は、戦だけは避けたかったんだ。だから…」

(´メω・`)「…だから、光世札で結果を残すことに専念したのか」

(<; - )「………」

 
 兵と兵がぶつかり合う戦なんて、絶対に嫌だった。
 戦が何も生み出さないことは、よくわかっていた。

 だから、この男、竜兵衛は光世札を売りに売ったのだ。
 戦をするまでもないほどに、光世真宗を弱らせることが目的だった。
 そうすれば、もう誰も死ぬことなんてないのだから。

83名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:44:44 ID:wZZ3IsMkO
 
(<; - )「だがよ…光世札を売れば売るほど、罪のない人間達が苦しんでいくんだ。それに、殿は八尾井山焼き討ちを計ってる」

(<; - )「とんだお笑い草さ。もう、どうして生きていいのかわかんねえよ」

(<; - )「……だから、斬ってくれ。殺してくれよ。俺はもう疲れたんだ…」

(;^ω^)「……」

(´メω・`)「……」

 
 あまりにも、哀れな男だ。
 戦を忌み嫌う者が、また別の戦を生み出している。

 恐らく、この男は強烈な自己矛盾と闘ってきたのだろう。
 誰にも真相を語れずに。
 たった一人で、家族を失った心を抑えながら。

84名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:45:37 ID:wZZ3IsMkO
 
( ^ω^)「竜兵衛さん…」

 
 ブーンが、竜兵衛の横に座る。
 溢れる気持ちをまだ抑えようとするその横顔に、ブーンは静かに語りかけた。

 

( ^ω^)「竜兵衛さんは悪くないですお。戦を無くす為に、戦から人を救う為に闘ってきた竜兵衛さんは、誰よりも強い男ですお」

( ^ω^)「だから、顔を上げてくださいお。天にいる家族に顔を向けてくださいお」

( ^ω^)「竜兵衛さんは、よく頑張ってきましたお」

(<;-;)「……」

 
 少しだけ上げた顔に、涙が流れる。

 泣くわけにはいかなかった。
 光世札を売るために、この町では明るい商人を演じなければならなかった。

 これまで抑えていた感情が、勢いよく溢れ出る。

85名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:46:29 ID:wZZ3IsMkO
 
(<;-;)「俺は……俺はどうすりゃいいんだよ…」

(´メω・`)「…俺達に任せるがいい、山田竜兵衛。お前の勇気は、俺達が必ず成就させる」

(<;-;)「………」

(´メω・`)「……ブーン」

 
 二人と向かい合う位置に座りながら、渚本介がブーンに話しかける。
 

(´メω・`)「ぎたーを弾いてくれ。曲は任せる」

( ^ω^)「……」

 
 不思議と、違和感なくギターを用意する。
 ブーン自身、何故かギターを弾かなければならないと感じていた。

 不思議そうにその様子を見つめる竜兵衛と、静かに座る渚本介に向かって、ブーンはギターを構えた。

86名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:47:18 ID:wZZ3IsMkO
 
( ^ω^)「…いきますお」

 
 指を弦に置き、ゆっくりと演奏を始める。

 曲は、Secret Gardenの「you raise me up」のソロギターバージョン。
 力強い愛の旋律が、小さな室内を響き渡る。

 
(<;-;)「…あ……あぁ…」

(´メω・`)「……」

 
 一人で続ける戦いが、一体どれほど重いのか。
 一体どれほど苦しいことか。

 ブーンにはよくわからなかったが、この男を前にして、初めて理解した。
 人間は、たった一人では闘えない、ということに。

 自分の心と戦い続けた勇敢な男、山田竜兵衛。
 その嗚咽は、夜の世界でいつまでも響いていった。

 

──

87名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:48:22 ID:wZZ3IsMkO
 
──

 

 翌朝。
 これまでにないほど大量の光世札を荷台に詰め、竜兵衛は表に出た。

 
(<;´-`)「ほ、本当にこれで大丈夫なのか…?」

(´メω・`)「大丈夫さ。ブーンが言うんだから間違いない」

( ^ω^)「間違いないですお。だから、思いっきり町中に光世札をバラまいてくださいお」

 
 光世札の解決策は、ブーンの提案が採用された。

 それは、「光世札を大量に消費すること」だ。
 つまり、大量消費によって物の価値を極端に下げる、資本主義的な方法だ。

 高校のとき、社会科の何らかの授業で、そういった話を聞いたことがあった。
 例えば、ダイヤモンドは希少で一定の価値を持つから特別なものであって、もしダイヤモンドが「誰もが持ってて当たり前の物」になると、その価値や興味は完全に薄まる。

88名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:49:39 ID:wZZ3IsMkO
 
( ^ω^)「誰もが光世札を持ってて当たり前…消耗品みたいになってしまえば、光世札への興味なんてなくなりますお」

( ^ω^)「そうやって町は元通りになっていくはずですお」

(´メω・`)「しかし面白い方法だな。確かに説得力はある」

(<´-`)「…そうと決まりゃ、信じるしかねえな」

 
 幾分か明るい顔になった竜兵衛が、荷台を動かす。
 すると、表通りの一角に、子供達が集まっているのが見えた。

 
(;^ω^)「あ、昨日のガキ共!またイジメを…」

(´メω・`)「待て」

 
 飛び出そうとするブーンを、渚本介が抑える。
 すると、竜兵衛が荷台ごとその子供達に近づいていった。

89名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:51:05 ID:wZZ3IsMkO
 
(<´-`)「うおーい、お前ら!」

(`A´;)「!」

(;゚ヽ゚)「やべ!」

(・∀ ・メ)「!」

 
 仁王立ちの子供達と、砂まみれの又武貴が、驚いて振り向く。
 すると、竜兵衛が笑顔で近づいてきた。

 
(<´-`)「朝からえげつねえもん見せんじゃねえよ!ほら、これ全部やるから帰りな!」

 
 笑いながらそう言うと、竜兵衛は百枚近い光世札を足元に投げた。

 
(`A´;)(;゚ヽ゚)「!?」

(<´-`)「ほら又武貴、お前の分だ」

(・∀ ・;)「!?」

90名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:52:00 ID:wZZ3IsMkO
 
 何百枚という光世札が、足元に広がる。
 固まる子供達に、笑いながら続ける。

 
(<´-`)「手に余るんなら、家族やお隣さんにも分けてやりな!じゃあな!」

 
 そのまま荷台を引いて歩きだす竜兵衛。
 未だ固まる子供達を後目に、竜兵衛は此方を振り向いた。

 
(<´-`)「じゃあな!ブーン、渚本介!あんがとよ!」

(<´-`)「俺、もっとこの町で生きてみるわ!」

 
 元気な商人の姿は、百合町の人混みへと消えていく。

 
( ^ω^)「…強い人ですお、本当に」

(´メω・`)「ああ、そうだな」

91名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:53:15 ID:wZZ3IsMkO
 
 荷物を持ち、各々の馬の元へと戻る。
 

( ^ω^)「でも渚本介さん、あれで良かったのか不安ですお…もし吹連にバレたら…」

(´メω・`)「問題ない。流通しすぎた結果だと言えば、吹連も納得せざるを得ないはずだ」

( ^ω^)「なるほど」
 

 自然と笑顔に戻り、馬に跨る二人。
 吹連領は、もう目の前だ。

 
(´メω・`)「さ、行くぞ」

( ^ω^)「了解ですお。行くおマルフォイ」

▼・ェ・▼ ヒーン

92名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:54:04 ID:wZZ3IsMkO
 
 活気のある宿場町を背に、二人は進む。

 もう二度と訪れることはないだろう。
 だが、この町の動向はいつまでも見守っていたい。
 ブーンは心からそう思った。

 一人の男の闘いが、成就するその時まで。

 

 

─You raise me up... To more than I can be.─

 「あなたが勇気づけてくれるから 私は自分を超えてゆける」

 
  「you raise me up」歌詞より

 

 第二話 終

93名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 21:54:46 ID:wZZ3IsMkO
今回は以上です
ういっす

94名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 22:30:24 ID:cV19wMfU0
やべ、今までで一番好きな話かもしれんww

95名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 23:07:49 ID:KoBFdiLU0
前作読み返したが、前作に負けず劣らずの面白さだ


96名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 23:19:12 ID:M9uMxiRI0
ギター一つで人々を助けていくブーンはかっこいい
次回も楽しみだ

97名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 23:24:30 ID:8Blg/lts0
お、来てた
乙!

98名も無きAAのようです:2013/02/18(月) 18:47:51 ID:i7mMQbf.0

前作読んでみるかな

99名も無きAAのようです:2013/02/19(火) 12:57:13 ID:WCcdteaw0
おつ

100名も無きAAのようです:2013/03/21(木) 14:27:48 ID:h9X1ASDI0
乙です!


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