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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:09:52 ID:71GE3tJQO
前作
( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/guitarist/guitarist.htm
文丸様
2
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:10:52 ID:71GE3tJQO
──
こうしてアコースティックギターを右膝に乗せると、まるで心地の良い毛布のように──或いは強力な武器のように、ブーンを安心させた。
目の前のマイクに、決して臆することなく。
柔らかいリズムを意識しながら、ブーンはギターを鳴らせ始めた。
ハイコードのE、B、D、A。
E、B♯m、D、A……
( ^ω^)「…春は〜私の〜大好きな季節〜のは〜ず〜なのに〜♪」
浮かぶは、曲の情景。
叶わないと思っている片思い。何故なら、「彼」はいつも高みにいて、主人公の「私」には到底届かない場所にいて。
振り向いてもらえるはずなんて、ないのだから。
ピッキングのアルペジオが、一つの音にまとまり。
曲は、サビに移った。
( ^ω^)「…きっとあなたは〜私に〜興味など〜無くて〜♪」
( ^ω^)「私の知ら〜ない〜世界で輝いていて〜♪」
──
3
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:11:50 ID:71GE3tJQO
──
('A`)「はーいレコーディング終了でーす…お疲れさん」
( ^ω^)「ありがとうございました。お疲れ様ですお」
内藤ホライゾン、通称ブーン。23歳。
まだまだ売れないシンガーソングライターとして活動するフリーター。
音楽の世界で生きることを夢見る青年は、その演奏力を買われて、22歳で小さな事務所にスカウトされた。
まだ人気もクソもない段階だが、「童貞が歌うラブ・ソング」をキャッチフレーズに、現在では徐々にその名が広まりつつある。
('A`)「あー、今度はジャケのデザイン相談するからさ、来週もこの時間に来てよ」
(*^ω^)「了解ですおー。ジャケとかワクワクしますお」
('A`)「めんどいから昔のイングヴェイみたいな感じでいい?」
(;^ω^)「顔面どアップですかお。嫌ですお…」
4
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:12:28 ID:71GE3tJQO
事務所を出て、アルバイト先へと向かう。
コンビニのアルバイトを始めて、もう五年くらいになる。
なんだかんだ時給も上がり、シフトの融通も利くので、このぬるま湯からはまだ出る気になれない。
( ^ω^)「おいすー」
ξ゚⊿゚)ξ「おはようございます」
( ^ω^)「おはようツンちゃん。相変わらず透き通るような白い肌だね」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと店長呼ぶんで動かないでくださいね」
(;^ω^)「ウソウソウソ!嘘だからそのボタン押さないで!店長じゃなくて警察が来るんだおそれ!」
ブーンと同じく古株で、もう三年くらいこのアルバイトを続けている尾付ツン。
大学三年生になったばかりだ。
5
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:13:15 ID:71GE3tJQO
( ^ω^)「そういやさっき新曲のレコーディングがあったんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「へえ、どんな歌なんですか?」
1人の立ち読み客しかいない店内で、ブーンは揚げ物の確認をしながらツンに話しかけた。
ツンの方はレジ点検をこなしながら、大して興味もなさそうに応える。
( ^ω^)「今度は片思いソングだお。手の届かない相手を、見上げるだけの恋…切ないラブストーリーだお…」
ξ゚⊿゚)ξ「ほんと気持ち悪いですねお前」
( ^ω^)「ツンちゃんならそう言ってくれると思ったお。てかお前って」
ξ゚⊿゚)ξ「いつ発売されるんですか?」
( ^ω^)「たぶん来月には流通が始まるお。今なら握手券もつけるから買ってくれお」
ξ゚⊿゚)ξ「真面目にいらないんで、またyoutubeにあがったら教えてくださいね」
( ^ω^) 「わかりました」
6
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:14:03 ID:71GE3tJQO
揚げ物が出来上がり、随分油っこいそれを店頭に並べる。
我ながら完璧な仕上がりだ。美味そう。
( ^ω^)「そうそう、ツンちゃんは就活とかどうするんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「え?うーん…」
先ほどのブーンの新曲の話よりはよっぽど興味が向いたのだろう。
少し困ったような顔で、中空を眺めている。
ξ゚⊿゚)ξ「…まだなんとも。やりたいこともよくわかんなくて」
( ^ω^)「そっかお…よくわかんないけど、お嫁にいけばいいってもんじゃないのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「もうそんな時代じゃないですよ。女性の社会進出が著しいし、そもそも主婦はやりたい仕事がないから主婦をしているとは限らないし」
(;^ω^)「そ、そうなのかお?難しいもんだお…」
「時代」か。
全ての言い訳に使えそうな言葉だが、それ以上に複雑な背景を孕んでいる。
少し考え込んでいると、突然ツンが呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンさんは良いですね」
7
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:15:04 ID:71GE3tJQO
( ^ω^)「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「23にもなってフリーターだけど、自分の夢があって、活動してて…」
( ^ω^)「さり気なく失礼なこと言ってるけど、確かに我ながら気が楽な人生だお」
ξ゚⊿゚)ξ「正直羨ましいです、やりたいことがある人って」
(;^ω^)「い、いやそんな大層なもんじゃないお。むしろ現実逃避に近いし」
ξ゚⊿゚)ξ「それも羨ましいですよ…いらっしゃいませこんばんは─」
( ^ω^)「いらっしゃいませー」
中年の客が入店し、意識が仕事に移る。
就職、生活。
ブーンは音楽の夢を追いながら、言い換えればそれらの現実に目を向けていないだけなのかもしれない。
ツンもいっそ歌手とか目指せばいいのにとも思ったが、ブーンはそれを言うことができなかった。
──
8
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:15:53 ID:71GE3tJQO
──
夜、自室。
風呂上がりのブーンは、自分のCD棚を見ながら「今日のアーティスト」を考えていた。
(*^ω^)「どうしようかな…今日はどっちかってと洋楽の気分だお」
(*^ω^)「もうすぐ夏だし、テンションの上がる曲がいいお…そういう時はチョイ古なロックかメタルだお」
(*^ω^)「ガンズアンドローゼズ…エクストリーム……ふ、ふふ、ふふ」
(*^ω^)「君に決めた!ミスタービイイイッグ!!」
CDをセットし、ギターが寝かされたベッドへと向かう。
ギターを手にとり、鏡の前に立ってポーズをきめる。
( ゚ω゚)「ホアアアアまずはビリー・シーンの超絶技巧ベース!!高速タッピング!」ビロビロビロビロビロビロ
( ゚ω゚)「そしてポール・ギルバートォォォ!!」ピロピッピロッピッピロ
( ゚ω゚)「…ん?」
9
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:16:37 ID:71GE3tJQO
ふと、足下を見る。
なんだか見たことのない、ピックを大きく変形させたような不思議な物体がそこにあった。
( ^ω^)「…なんだこれ」
その物体を拾い上げ、色々な角度から見つめてみるが、何なのかわからない。
( ^ω^)「…まいっか」
そのまま、その妙な物体を持ってギターを構えるブーン。
ふと、冷静になってしまった頭で、今日のアルバイトでの出来事を思い出した。
ξ゚⊿゚)ξ『正直羨ましいです、やりたいことがある人って』
( ^ω^)「ふふ…僕のやりたいことなんて、」
10
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:16:58 ID:80HpPNhQ0
合戦中に俺の歌をきけー! ですねわかります
11
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:17:27 ID:71GE3tJQO
へ(#゚ω゚)/「所詮こんなもんだおおお!!エリック・マーティィィィ……」
ギターを構え直し、その物体で、ギターを思いっきり鳴らした。
その直後。
へ( ゚ω゚)/
世界が、変わった。
.
12
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:18:05 ID:71GE3tJQO
( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
.
13
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:19:20 ID:71GE3tJQO
第一話
「ロックスターが戸惑った日」
──
明応八年、根十城。
蜂の巣をつついたかのような騒ぎが、城中に広まっていた。
その様子を見に、本丸を回る男と、それに出くわした女が、互いに今の状況をさぐっていく。
(´メω・`)「一体何の騒ぎだ」
男は、城の兵とは違った武装で警戒し。
ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ…大手門のあたりで何かあったみたい。行きましょう」
女は、似合わない懐刀を握り締めながら、不安げな表情を見せる。
2人で大手門の方へと向かうと、そこでは大勢の兵が野次馬のように何かを囲んでいた。
14
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:20:05 ID:71GE3tJQO
妖怪だ、バケモノだ、などと兵達が騒いでいる。
(´メω・`)「通せ、通してくれ」
ζ(゚ー゚;ζ「失礼しまーす…」
兵達を掻き分け、2人が目にしたのは、信じがたい光景だった。
周りの兵達に囲まれた、南蛮人のような男。
へ( ゚ω゚)/
かの偉大なロックギタリスト、ポール・ギルバートを彷彿とさせるポーズで、その男は大量の槍に囲まれていた。
(;´メω・`)ζ(゚ー゚;ζ「え…?」
15
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:20:50 ID:71GE3tJQO
それは三年前、復讐の旅路を共に歩んでくれた相棒。
そして、戦闘で疲弊した城を、未来を変える覚悟で救った男。
(;´メω・`)「ブーン……?」
へ(;゚ω゚)/「へ?」
ζ(゚ー゚;ζ「ちょ、ブーン!?」
へ(;゚ω゚)/「ん、ん?え?」
この場にいる誰もが、この状況を全く理解できていなかった。
兵達に槍を収めるよう指示し、ブーンのもとへと2人が駆け寄る。
(;´メω・`)「ぶ、ブーン、一体どうやって…何故またこの時代に来たんだ」
(;゚ω゚)「この時代…?」
ζ(゚ー゚;ζ「まさか、覚えてないの?」
16
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:21:56 ID:71GE3tJQO
ブーンにしてみれば、気が狂ってないのが奇跡なくらい、今の状況が掴めていなかった。
いや、本当は気が狂ってのかもしれない。
目の前には剣豪のような格好をした男と、ナイフのようなものを持った物騒な女。ちょっとツンに似てる。
周りには刀やら槍やらを持った兵士、向こうには、立派な日本式の城。
全く意味がわからない。
とりあえず落ちつこう。落ちつくのが先だ。
こういう時は素数を数えろと、高校のときクラスの陰キャラが一人で言ってた。
そうだ、素数を数えるんだ。
0、1、1、2、3、5、8、13…
(;´メω・`)「ブーン、俺がわかるか?」
(;゚ω゚)「フィボナッチ数列かよ!!」
(;´メω・`)「!?」
17
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:22:15 ID:o7BMYuyYO
ふおおおおおおお!続きか!?
18
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:22:48 ID:71GE3tJQO
ζ(゚ー゚;ζ「…錯乱してるわね」
(;´メω・`)「とりあえず中で休ませよう。ブーン、来るんだ」
(;゚ω゚)「は、はは、離せお!!つーか何で僕の名前知ってるんだお!」
フィボナッチ数列を数えたおかげで、幾分かの冷静さは取り戻せた。
しかし、そうなると疑問が滝のように流れてくる。
(;゚ω゚)「なんなんだお!誰だお!!どういうコスプレだお!」
(´メω・`)「ブーン…」
男の表情が、悲しみに染まる。
ブーンはそれを察知したが、余計に状況がわからなかった。
ζ(゚ー゚;ζ「…どうしようもないわね、覚えてないなら」
(´メω・`)「…いや」
19
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:23:49 ID:71GE3tJQO
手はある、と男が呟く。
(´メω・`)「もう二度とあるまいと、あの時は思っていたが…仕方ない」
腰にぶら下がる愛刀。
その柄を握りしめた途端、一瞬で刃を抜き、ブーンの喉元に当てた。
(;゚ω゚)「……!?」
ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ…」
(´メω・`)「懐かしいなブーン。我々が初めて会ったときも、こうやってお前の口を封じたのだ」
(´メω・`)「そして、お前は音楽のおかげで落ち着いた」
(;゚ω゚)「……音楽…?」
目一杯に顎を引いたブーンが、震えながら答える。
(´メω・`)「そうだ。久しぶりに弾いてみせてくれ。その"ぎたー"を」
20
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:24:44 ID:71GE3tJQO
刀を鞘に戻しながら、男はブーンの目の前に座り込んだ。
その横で、女もつられて座りこむ。
周りの兵達は困惑した様子でそれを見つめている。
ますます意味が理解できないブーンだが、とりあえず話を整理するとこうなる。
「凶器を持った男がギターを弾けと要求してきた」
抗う術はまったく無い。
要求通り、ブーンはギターを持って座り込んだ。
(;^ω^)「あの…曲は…?」
(´メω・`)「なんでもいい、お前に任せる」
(;^ω^)「わかりましたお…」
21
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:25:46 ID:71GE3tJQO
ギターを膝に乗せ、指を構える。
こうすると、不思議なくらい、ブーンの心に静けさが戻ってきた。
そのまま、ブーンはチューニングを合わせ、ゆっくりと演奏を始めた。
曲は押尾コータローがアコースティックカバーした、坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence」。
喩えようのない切ない曲調が、空気を震わせ、周りの人間の口を閉ざせていく。
不思議な感覚だった。
まるでギターなど見たこともなさそうな野次馬達が、ブーンの演奏を聴き、何かを眺めるようにブーンを見つめる。
初めて心が通じ合ったような、妙な心地良さと共に、演奏は続いていく。
( ^ω^)♪〜♪〜〜
(´メω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
静かで、それでいて力強い音。
それを辺りに響かせながら、ブーンの演奏はゆっくりと終わった。
22
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:26:39 ID:71GE3tJQO
( ^ω^)「…終わりですお」
感激を示す溜め息が、周りの兵達からいっせいに漏れた。
先程まで凶器を構えていた男は笑顔になり、女は目を丸くしている。
ζ(゚д゚;ζ「……」
(´メω・`)「…相変わらず、お前のぎたーはどんな刀よりも強い武器だな」
(;^ω^)「そ、そうですかお」
(´メω・`)「もう落ち着いたな?」
(;^ω^)「はい…さっきよりは」
(´メω・`)「中に入ろう。共に状況を整理するのだ」
23
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:27:25 ID:71GE3tJQO
なんだかよくわからないが、今の演奏で場の雰囲気が落ち着いたのは確かだ。
ギターのストラップを肩にかけて、立ち上がろうと前を向く。
すると、男が此方に手を差し伸ばしているのに気付いた。
(´メω・`)「俺は太田渚本介(しょぼんのすけ)だ」
( ^ω^)「…ブーンですお」
(´メω・`)「はは、そうか…よろしくなブーン」
( ^ω^)「よろしくですお」
手を握り、勢いよく立ち上がる。
得体の知れない既視感が、うっすらと脳裏に浮かんだ気がした。
──
24
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:29:31 ID:71GE3tJQO
──
ここは五百年前の日本、根十城。
自分は三年前にもこの場にタイムスリップし、色々と歴史をひん曲げたらしい。
以上のことを目の前の男──渚本介が語った。
太田渚本介の名は知っている。日本史では割と名の知れた剣豪だ。
隣の女、尾付出麗の名は知らなかったが、二茶根留家近習一族の末裔だと言われれば、立場はなんとなくわかる。
それにしても、まだまだ理解できないことは多い。
(;^ω^)「三年前って…」
三年前。20歳の時だ。
あの頃は、生活の中にアルバイトかギターの2つしかなかった。今もそうだが。
タイムスリップして渚本介と旅をしていたなんて記憶は全くない。
25
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:30:27 ID:71GE3tJQO
ただのコアなコスプレイヤーが人違いしてるだけだろうとも思ったが、渚本介がブーンの情報をかなり精密に把握していることから、その考えは掻き消された。
(´メω・`)「ところで、一体どうやってここに飛ばされたんだ?」
(;^ω^)「えっと、この物体でギターを鳴らし…」
( ゚ω゚)「ああああああ!!」
ζ(゚ー゚;ζ「!?」
(;´メω・`)「まさか…」
(;^ω^)「僕はこれでギターを鳴らしたらこうなったんですお!つまりもっかい鳴らせば、元の時代に帰れるはず!!」
( ^ω^)「ハアッ!」ジャラーン
不細工な音が、部屋中に響いた。
ああ、何をやっているんだ僕は。
何故この2人は可哀相な目で僕を見るんだ。
26
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:31:36 ID:71GE3tJQO
(´メω・`)「…とにかく、また出麗の琴爪を持って現れたということは、何らかの任を与えられたのだな」
ζ(゚ー゚;ζ「で、でも私は前みたいな苦痛なんかないわよ?」
(´メω・`)「ふむ。天野が倒れてのち、戦乱も収まっている…二茶根留領も平穏だ」
(;^ω^)「??」
ζ(゚ー゚;ζ「じゃあ、何故かしら…」
(´メω・`)「ブーン。お前が未来で教わった限りでいい。今この時代で、何が起きようとしているのだ」
(;^ω^)「え…?」
この時代、つまり天野が倒れた三年後の世界で、何があったのかを知りたいということか。
天野が天下統一の最中に倒れたのが1496年。となるとここは1499年。
(;^ω^)「1499……あ」
ある。
この年、大きな出来事が起こったはずだ。
27
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:32:54 ID:71GE3tJQO
(;^ω^)「確か、この年は八尾井山(やおいざん)が焼き討ちをくらいますお」
(;´メω・`)「!?」
ζ(゚ー゚;ζ「八尾井山!?」
(;´メω・`)「あの聖地が…原因はなんだ?一体何の争いだ?」
2人の狼狽ぶりに、逆に焦るブーン。
日本史が得意だった高校の頃の記憶を、必死に掘り下げる。
(;^ω^)「く、詳しくは覚えてないけど、たしか天野が倒れた次に天下統一を企む連中が、勢力を広げていた宗教…組織?を押さえ込む為に仕掛けるんですお」
(´メω・`)「光世真宗のことだな。奴らは武力にも非常に長けてる」
ζ(゚ー゚;ζ「それで、天下統一を企んでるのは誰…?」
(;^ω^)「えっと…」
28
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:33:55 ID:71GE3tJQO
思い出せ。
天野家が敗れ、訪れようとした平和をすぐに壊した連中を。
1499年。八尾井山焼き討ち。
(;^ω^)「吹連……」
(;´メω・`)「え…?」
(;^ω^)「吹連久斗尚!それが主謀者ですお」
(;´メω・`)「!!」
ζ(゚ー゚;ζ「うそ…」
1499年、吹連久斗尚、八尾井山焼き討ち。
そうだ。年表暗記で何度も繰り返したから間違いない。
(´メω・`)「奴め…まだ懲りずに…」
ζ(゚ー゚;ζ「光世真宗は二茶根留家との関わりも強いわ。ひょっとしたら…」
(´メω・`)「ああ、まだ二茶根留を狙っているはずだ」
29
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:35:01 ID:71GE3tJQO
(´メω・`)「だが、それがわかれば話は早い。ブーン、お前がまたこの時代に飛ばされたのもきっとそれだ」
(;^ω^)「はい?」
(´メω・`)「二茶根留が落とされる…出麗に危険が迫っているからだ」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
(;^ω^)「は、はあ…」
出麗に危険が迫っているから。
…と言われても、それがタイムスリップの理由に繋がる意味がよくわからない。
まあ、タイムスリップの理由は良いとして。
これからどうすればいいのだろう。
(´メω・`)「恐らく、出麗の命に影響があれば、未来への影響も強いのだろう」
(´メω・`)「なれば、話は簡単だ。我々で八尾井山を守ればいい」
(;^ω^)「は…?」
30
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:36:04 ID:71GE3tJQO
渚本介はブーンの方を向き、にやけるように笑った。
いや、ちょっと待て。
何やら不穏なその案に、まさか僕も加える気ではないですよね?
(´メω・`)「ブーン、俺2人で吹連久斗尚を食い止めるぞ」
(;^ω^)「いや、いやいや、ちょっと待ってくださいお」
(;^ω^)「こういう時って、もっとほら、兵力勝負とかで行くもんじゃ…?」
(´メω・`)「それだと危険が強くなる。我々が内密に吹連久斗尚のもとへと潜入し、直接食い止めるほうが効率がいい」
(´メω・`)「出麗は巳留那殿にそれを告げ、万が一のために兵を用意させるよう言ってくれ」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」
渚本介のリードで、話がとんとん拍子に進む。
ちょっと待ってくれ。この流れは絶対におかしい。
そう言いたいが、何故か強く抵抗できない自分もいる。
31
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:36:28 ID:A67oIitc0
支援
これ好きだった
32
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:36:55 ID:hUYFa91s0
続編キター!!!
昨日まとめ読んでよかった支援
33
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:37:13 ID:71GE3tJQO
不安が顔に出ていたのか。
渚本介はブーンに優しく笑いかけた。
(´メω・`)「はは、心配するな。八尾井山も、吹連が籠もっている具麗芭(ぐれば)城も、目鼻の先だ。以前のように何ヶ月も旅をするわけじゃない」
(;^ω^)「何ヶ月も旅してたんですかお…」
( ^ω^)「あれ?じゃあもしかして」
ふと、日本史の記憶が頭に蘇る。
授業ではあまり取り上げられなかったが、資料集に載っていたあまりにも奇怪な一文は未だに覚えている。
( ^ω^)「じゃあ、太田渚本介と旅してた、楽器を背負った南蛮人って…」
(´メω・`)「お前のことだな。まごうことなく」
(;^ω^)「まじかお…」
いつの間にか、歴史の1ページに僕は刻まれていたようです。
──
34
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:38:44 ID:71GE3tJQO
──
渚本介のリードは完璧で、3日後にはブーンと渚本介の旅の用意ができた。
この3日間、ブーンは馬に乗る練習をさせられていた。
急いで処理すべき問題だからという、渚本介の計らいからだ。
だが。
( ^ω^)「ハァッ!」
▼・ェ・▼ ヒヒーン
( ゚ω゚)「ぬぅふ!」
何度やっても、振り落とされる。
馬に乗った経験といえば、小さい頃に山梨県の乗馬体験でインストラクターと一緒に乗ったくらいだ。
(;^ω^)「クソ、なんでこんな子犬みたいな馬に振り落とされるんだお…」
▼・ェ・▼ ヒヒーン(笑)
(;^ω^)「うわーすごい腹立つ」
(´メω・`)「ははは、馬は慣れだ。まずはその馬と心を通わせるんだな」
35
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:40:41 ID:71GE3tJQO
渚本介の教えで、馬の練習を繰り返した3日目の夕刻。
出発の時が来た。
久斗尚が籠城する具麗芭城に潜入し、久斗尚を捕らえる。
内密の任務となる故に、出発の見送りはなかった。
出麗は二茶根留巳留那とともに"万が一"の準備をしているらしい。
(´メω・`)「準備は大丈夫か?」
( ^ω^)「大丈夫ですお。つっても、特に持ち物もないけど…」
(´メω・`)「はは、何を言ってるんだ。ほら」
( ^ω^)「お?」
渚本介が、大きな荷物を差し出した。
あまり綺麗じゃない、布地の荷袋。
それは、ちょうどギターが収まる大きさで、リュックのように背負える作りだった。
( ^ω^)「おお、こりゃ便利ですお!」
(´メω・`)「ははは。三年前の旅で、お前がずっと背負っていたぎたーの荷袋だ」
36
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:41:35 ID:71GE3tJQO
三年前。
自分の記憶の外で、タイムスリップして渚本介と旅をしていた時。
ブーンは不思議な落ち着きを感じていた。
いや、ブーンを落ち着かせる何かが、渚本介にはあった。
(´メω・`)「さ、自分の馬に乗るんだ。馬はいざという時の強力な武器となる」
( ^ω^)「はいですお。…よいしょ!」
▼・ェ・▼ ヒヒーン^^
( ゚ω゚)「ぬぅふ!」
馬に跨った途端、またしても振り落とされた。
しかも、振り落とされながら煽られたような気がした。
とっくに自分の馬に跨った渚本介が、「優しく乗るんだ」と声をかける。
言われた通り、ブーンは優しさを込めて馬に跨った。
37
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:42:49 ID:71GE3tJQO
(´メω・`)「時間がない。出発だ」
( ^ω^)「はいですお」
渚本介が先に走り、ブーンがその後を追いかける。
振り落とされずに一度走ってしまえば、あとは楽だった。
( ^ω^)「なあ、馬。お前にぴったりな名前を考えたお」
▼・ェ・▼ ?
( ^ω^)「マルフォイだお」
▼・ェ・▼ …?
(;´メω・`)(馬と会話してる…?)
駆ける二騎は、人気のない山道へと進んでいく。
未来を変える力を、その体に秘めながら。
第一話 終
38
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:44:32 ID:kpLScN8.0
乙乙
まさか続編くるとはな
おかえり
39
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:45:40 ID:71GE3tJQO
以上です。ご支援・コメントありがとうございます!
酉無しですみません。前作の作者です
40
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 00:01:14 ID:TiVUfLZs0
乙
いやあこれでまた楽しみが増えてしまった
作者おかえり
41
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 00:01:22 ID:q4i.vFzU0
乙
まさかの続編に僕、満足!
42
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 00:18:51 ID:9jNzq/cc0
ヤック・デカルチャー!
乙
43
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 01:04:05 ID:WDapfFJ20
乙
頑張れ
44
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 01:49:02 ID:4fZMgr3I0
乙
45
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 11:27:49 ID:bUM4bBZs0
ギタリストの続編ktkr!!!
吹蓮まだ諦めて無かったのか
46
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 14:53:22 ID:Lr0YeZWw0
丸見え
wwwono ←検索(yahoo Google)
47
:
名も無きAAのようです
:2013/02/13(水) 18:09:20 ID:Q6xe/7Ww0
乙だ
48
:
名も無きAAのようです
:2013/02/14(木) 11:57:51 ID:My/4T5Tc0
前作見てきた
期待して待つよ
49
:
名も無きAAのようです
:2013/02/14(木) 11:59:14 ID:yxCsoeYAO
乙!
前作好きだったから続編とか嬉しい限り
50
:
名も無きAAのようです
:2013/02/14(木) 21:37:40 ID:5frVaaCo0
乙!
期待してます
51
:
名も無きAAのようです
:2013/02/14(木) 22:47:11 ID:3I03eJ2Y0
前作も好きだったから超嬉しい
これからの展開を楽しみにしてるよ乙
52
:
名も無きAAのようです
:2013/02/15(金) 00:29:56 ID:CropchTY0
おつ
53
:
名も無きAAのようです
:2013/02/15(金) 01:23:50 ID:wCsLJXaM0
え?続編?
うぎゃあああああ嬉しいいいいいいいいいいいい
超期待なんだぜ
54
:
名も無きAAのようです
:2013/02/15(金) 02:20:19 ID:VtVBA6Mg0
おおおマジか
楽しみにしてんよ
55
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:15:33 ID:wZZ3IsMkO
わー皆さんありがとうございます!覚えててくれてるなんて!
第二話投下します
56
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:16:20 ID:wZZ3IsMkO
──
(‘_L’)「…そなたらも聞いておろう」
夜。
山中にある具麗芭城は、月明かりに照らされて妖しく輝いている。
その一室で、城主の吹連久斗尚は、対面する二人に話を続けた。
(‘_L’)「光世真宗が動き始めた。八尾井山で兵を募っている」
(‘_L’)「奴らの狙いも天下統一だ。そして、奴らが最初に潰しにかかるのは」
一呼吸、間に入れる。
この緊張は、どうにも晴れなかった。
(‘_L’)「…恐らく、我々吹連であろう」
57
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:17:05 ID:wZZ3IsMkO
(‘_L’)「根十城攻めに敗れた我々は、最初に狙いやすいというのもあるやも知れん。だが、我らにも勝算はある」
(‘_L’)「先に我々が潰すのだ。八尾井山をな」
(‘_L’)「光世真宗が敗れれば、二茶根留にとっても痛手の筈。光世真宗は戦力補充の頼り先故にな」
対面する二人は、久斗尚の目をまっすぐ見つめたまま動かない。
そこには、別々の意思を含みながら。
(‘_L’)「戦の準備だ。八尾井山焼き討ちを決定する」
そして、二人のうち片方が、太くくぐもった声を響かせた。
「御意に」
──
58
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:17:57 ID:wZZ3IsMkO
第二話
「勇気と矛盾の寝床」
──
二茶根留領から出ると、いかにも日本の内陸地らしく、大きな山がいくつも続いていた。
その途中にある小さな宿場町で、ブーンと渚本介は馬を下りた。
(´メω・`)「今日はここで宿を借りよう。旅にはうってつけの宿場町だ」
( ^ω^)「了解ですお。マルフォイもここで休むんだお」
▼・ェ・▼ ブルル
( ^ω^)「スリザリン寮ならロンドンにあると思うお(笑)」
▼・ェ・▼ ヒヒーン
( #)ω゚)「ぬぅふ!」
(;´メω・`)「何やってるんだ…早く来るんだ」
(;^ω^)「はいですお…」
59
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:19:08 ID:wZZ3IsMkO
山間の宿場町、百合(ユリ)。
様々な国の境場にあるため、常に人で賑わっている。
商人や武士が入り組む小さな町は、明るい声が飛び交うほどの活気を持っていた。
だが、その中でもブーンは異質な存在であるらしい。
渚本介とブーンが通ると、町の人間達は一旦話を止め、見知らぬ「南蛮人」に目を奪われていた。
(;^ω^)(な、なんか恥ずかしいお…)
(´メω・`)「……」
恥ずかしそうにコソコソ歩くブーンに対し、渚本介は逆に町の人間達を見つめながら歩く。
その目には、ある違和感と警戒を秘めていた。
(´メω・`)(……何か、変だ)
(;^ω^)「しょ、渚本介さん、いつまで歩くんですかお」
(´メω・`)「ん?ああ、すまない。宿はここにしよう」
60
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:20:12 ID:wZZ3IsMkO
適当な宿屋に入り、勘定を済ませる。
その間、中にいる人間達は皆ブーンを執拗に見ていた。
(;^ω^)(うわー…初レコーディングの時のドクオさんより視線がきついお…)
(;^ω^)(ここは目を逸らさなきゃ…ん?)
ふと、目を逸らした先。
何やら黄色の紙が、天井に貼ってあるのが見えた。
( ^ω^)(お札かお…?)
よく見れば、あちこちの柱にも同じような黄色の紙が貼ってある。
札のような形のそれには、何やら文字が書いてあったが、ブーンには全く読めなかった。
(´メω・`)「上がるぞ、ブーン」
( ^ω^)「あ、了解ですお」
あちこちに貼られてある札に、一種の不気味さを感じながら。
ブーンと渚本介は、二階の部屋まで上がった。
61
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:21:13 ID:wZZ3IsMkO
二階の部屋で、荷物を下ろす。
窓から町並みを見ると、やはり活気の良さが伺える。
だが、先程の札や周りの態度から、この町に対する違和感は拭えなかった。
さらに下、表通りを見下ろしてみる。
すると、まだ10歳前後であろう子供達が、何かを囲っているのが見えた。
(;^ω^)(あれは…イジメかお?)
囲っているのは、一人の小さな男の子だった。
どうやら、周りの子供はこの男の子に向かって色々と罵倒しているらしい。
聞こえたのは、「悪霊」や「貧乏」といった単語だけだった。
だが、その状況を詳しく察知するには充分な材料だった。
(´メω・`)「ブーン、何を見て…」
(;^ω^)「ちょっとあの子達を止めてきますお!」
(;´メω・`)「えっ」
62
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:22:08 ID:wZZ3IsMkO
宿屋を飛び出し、子供達の方へと駆け寄る。
(#^ω^)「こら君たち!イジメはダメだって道徳の時間に習わなかったのかお!」
(`A´;)「うわ、なんだこの南蛮人!」
(;゚ヽ゚)「こいつの味方だ!悪霊だ!逃げろー!」
(#^ω^)「誰が悪霊じゃこら!!お前らなんか今年大殺界に堕るがいいお!」
あっけなく逃げる子供達。
そして、そこには砂まみれになった男の子だけが残った。
(・∀ ・メ)「……」
( ^ω^)「キミ、大丈夫かお?あんな奴らとはもう関わらないほうがいいお」
(・∀ ・#)「う、うるさい!!」
63
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:23:06 ID:wZZ3IsMkO
優しく差し伸ばした手は、勢いよく弾かれた。
唖然とするブーンに、男の子は更に声を上げる。
(・∀ ・#)「お前らなんか、みんな死んじまえばいいんだ!!人間も、仏様も、みんな死んじまえ!!」
(;^ω^)「ちょっ…!」
ブーンだけでなく、周りの野次馬達にも吠えるような言葉。
それだけを残し、男の子はブーンに背を向けて走り出した。
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待てお!話を…!」
(<´-`)「あー、やめときな南蛮人」
驚いて振り向く。
そこには、荷台を引いた商人らしき男が、無邪気な顔で立っていた。
64
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:23:58 ID:wZZ3IsMkO
(<´-`)「ありゃ紛れもなく悪霊が憑いとるんだ」
(;^ω^)「は?」
(<´-`)「あの子は持ってねぇんだよ。光世札をよ」
(;^ω^)「こうせ…ふだ?」
思い当たる節はある。
恐らく、先の宿屋で見たあの札のことだろう。
しかし、あの札を持っていないから「悪霊が憑いている」というのは、あまりにも短絡すぎる。
(<´-`)「ま、あんたみてぇな南蛮人には考えらんねぇかもしらんけどよ。でも、あの子の態度を見りゃわかるだろう。悪霊がいなきゃ、人間はあそこまで汚くならねえ」
(;^ω^)「そ、そんな勝手な…」
(<´-`)「少なくとも、光世札を持ってなきゃこの町では生きてらんねぇ。あんたも早いとこ手に入れな」
65
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:24:56 ID:wZZ3IsMkO
(;^ω^)「はあ…ありがとうございますお」
いまいち言ってる意味が掴めなかったが、とりあえずこういうことだろう。
この町では、「光世札」を持っていない者は悪霊に憑かれている、とされる。
光世札とは光世真宗に関わるものだろうか。
だとすれば、光世真宗は想像以上に強い影響力を持っている。
それにしても、この現状ではあまり良い影響とは言えない。
(;^ω^)(光世真宗って、本当は良くない宗教なのかお…?)
光世真宗を守る旅だというのに、これでは気分が落ち込んでしまう。
とぼとぼと宿屋に戻るその姿を、町の人間達は睨むように見つめていた。
──
66
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:25:50 ID:wZZ3IsMkO
──
(´メω・`)「光世札…」
宿屋に戻り、事の顛末を渚本介に話したブーン。
疑問と警戒が、更に絡まったような。
難しい顔のまま、渚本介は黙り込んでしまった。
(;^ω^)「渚本介さん、光世札って一体何なんですかお?」
(´メω・`)「うむ…」
まだあまり状況が理解できていないブーンが、渚本介に尋ねる。
聞いた話だが、という前置きの後に渚本介が語った。
(´メω・`)「光世札が光世真宗に則った、所謂魔除けの為の札であるということは間違いない。ただ…」
( ^ω^)「ただ?」
67
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:26:48 ID:wZZ3IsMkO
出かけた言葉を戻しながら、渚本介が溜め息をついた。
(´メω・`)「…いや、まだ確証がないな。俺が知ってるのは光世札という存在だけだ」
( ^ω^)「光世真宗の信者はみんな持ってるんですかお?」
(´メω・`)「否、恐らくこの町に流行しているだけだ。他ではあまり知られていないからな」
余計に理解が追いつかない。
数多い光世真宗の信者達の中で、この百合町にだけ流行する光世札が、先程の子供達のようなイジメを作っているということか。
「この町にだけ流行」する、「光世札」…
(´メω・`)「…いずれにせよ」
深く考え込んだブーンを、渚本介が現実に引き戻す。
68
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:28:59 ID:wZZ3IsMkO
(´メω・`)「光世札による悪しき慣習が広がっては、今後の問題となりうる。できれば原因を突き止めたいのだが…」
渚本介が、ちらりと窓を見た。
外の賑やかな声は、もはや悪意のざわめきのように感じてしまう。
(´メω・`)「…少し、外に出てみるか」
──
69
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:30:52 ID:wZZ3IsMkO
──
町に出て改めて見てみると、確かに光世札は至るところに貼られてあった。
あらゆる建物の壁、柱。
携帯している者も少なくない。
(´メω・`)「流行…なんてものじゃないな、これは」
渚本介が思わず呟いてしまうほど、それはもはや日常の一部だった。
黄色の札が散在する町を歩く二人。
その一角。小さな男の子が、ぽつんと座っているのが見えた。
(・∀ ・)「……」
(;^ω^)「あ、さっきの!」
(・∀ ・;)「!?」
光世札を持っていないという、男の子。
ブーンの姿を発見した途端、慌てて逃げ出した。
70
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:31:36 ID:wZZ3IsMkO
(;^ω^)「ちょ、待てお!なんで逃げるんだお!」
(;´メω・`)「ブーン!?」
(;^ω^)「さっきのいじめられてた子ですお!追いかけますお!」
(・∀ ・;)「!」
人混みを掻き分けて逃げる子供と、それを追いかける奇怪な南蛮人と武士。
人混みを抜け、ようやく自由に走れるようになると、男の子はすぐに捕まえられた。
(;^ω^)「つ、捕まえたお…久しぶりに走った…」
(・∀ ・;)「離しやがれ南蛮人!悪霊め!」
(;^ω^)「人間じゃボケ!いいから話を聞けお!」
(・∀ ・;)「うるせえ!お前が……」
憎しみの籠もった目を、ブーンに向ける。
そして、全く理解できない台詞が、ブーンを襲った。
(・∀ ・#)「お前のせいで、こうなったんだ!」
71
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:32:56 ID:wZZ3IsMkO
(;^ω^)「え…?」
言ってる意味が、わからない。
この子とはもちろん初対面だ。この町も初めて来た。
そもそも、この時代に来てまだ間もないのに。
(´メω・`)「…どういうことなのか、話を聞かせてくれないか」
男の子の横に、渚本介がしゃがみこむ。
渚本介には何の敵意も持っていない様子で、男の子は静かに俯いた。
(´メω・`)「俺達は、光世札の悪習を止めに来たんだ」
(・∀ ・;)「!」
男の子の驚いた顔が、渚本介の方へ跳ね上がる。
しかし、またすぐに俯いてしまった。
(・∀ ・;)「……無理だよ」
72
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:33:50 ID:wZZ3IsMkO
聞き返す間もなく、男の子が続ける。
(・∀ ・;)「もう無理だよ…町のみんなは光世札を信じ込んじまってる。よくわかんねえけど、光世札を持ってたら救われるんだってよ」
(・∀ ・;)「うちは貧乏だからさ…光世札なんて大層なもん、買えなかった。光世札が買えなくて町から追い出された奴もいっぱいいる」
( ∀ ;)「おいらが小さいときは、町のみんなはこうじゃなかったのに……みんな…仲良く暮らしてたのに…」
( ^ω^)「……」
(´メω・`)「……」
小さな体が、更に小さくなり、震えている。
ブーンが慰めの言葉をかけようとしたのを、渚本介が制した。
(´メω・`)「安心しろ。俺達が絶対に止める」
(;∀ ;)「……」
73
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:34:46 ID:wZZ3IsMkO
(´メω・`)「だから、最後にもう少しだけ教えてくれないか」
優しく尋ねる渚本介に対し、男の子は乱暴に頬を拭いて向き直った。
(´メω・`)「光世札を"買えない"と言ったな。光世札とは、売り物なのか?」
(・∀ ・)「…うん」
(´メω・`)「どこに売ってるんだ」
(・∀ ・)「商人が荷台を引いて売ってる。顔の骨が出た、目の細い奴だ」
(;^ω^)「!」
(´メω・`)「そうか…ありがとう」
男の子の手を引き、立ち上がる渚本介。
小さな体にまとわる着物の砂を払い、頭を撫でた。
(´メω・`)「お前、名は?」
(・∀ ・)「…斎藤又武貴(またんき)」
(´メω・`)「そうか。強く生きろよ、又武貴」
74
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:36:21 ID:wZZ3IsMkO
(・∀ ・)「…うん!」
嬉しそうに頷き、走り去る又武貴。
その姿は、何ら普通の子供だった。
(´メω・`)「…さて、必要な情報は得られたな」
(;^ω^)「渚本介さん、又武貴くんが言ってたその商人、覚えがありますお」
最初に又武貴に逃げられ、話しかけてきた男。
その男の顔が、又武貴の言っていた特徴と合致する。
(´メω・`)「よし、その男を探すぞ」
( ^ω^)「了解ですお」
疑問と警戒が、一つの線となって結びついていく。
ブーンと渚本介は、人混みの中へと戻っていった。
──
75
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:37:15 ID:wZZ3IsMkO
──
(<´-`)「…百合町における、殿の光世札の計…」
夕方。
商人の男は、誰もいない小さな部屋の中で、ひたすらに文を綴っていた。
(<´-`)「潤滑に、進行し候…」
書が完成し、それを丸める。
窓から差し込む夕陽と、夕陽に照らされる百合の町。
(< - )「……もう…」
小さな声が、男の口から洩れる。
(< - )「耐えられねぇよ…こんなの……」
その声は、小さな夕陽の光に吸い取られていった。
──
76
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:38:06 ID:wZZ3IsMkO
──
夜、小さな小屋。
ブーンと渚本介は、その扉の前に立った。
(´メω・`)「ここだな。町人達が言っていたのは」
( ^ω^)「ごめんくださいおー」
(<;´-`)「!?」
突然の来客に、飛び上がる商人。
この声には聞き覚えがある。昼間の南蛮人だ。
短刀を手にとり、扉を開ける。
(<;´-`)「…どちらさん」
(´メω・`)「話を聞きたい。上がらせてもらうぞ」
(;^ω^)「あっ僕も…おじゃましますお」
77
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:38:51 ID:wZZ3IsMkO
警戒を面に出した武士と、昼間の南蛮人。
用件はすぐに察した。
(<;´-`)「……」
(´メω・`)「早速で悪いが、お前にはちゃんと話を聞かなければならない」
(<;´-`)「…何の用だよ」
(´メω・`)「光世札を売る唯一の商人とは、お前のことだな?」
(<;´-`)「!?」
予想通り、目の前の二人は光世札のことを問いただしに来たようだ。
臆する様子を隠し、商人が応える。
(<;´-`)「…そうだ」
(;^ω^)「……」
(´メω・`)「それでは問う。お前は、光世真宗の使いなのか?」
78
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:39:50 ID:wZZ3IsMkO
(<;´-`)「………」
開きかけた口を、必死に抑える。
言ってはならない。それを答えてはならない。
言ってしまえば、全てが台無しになる。
(<;´-`)「……」
(;^ω^)「……」
痺れを切らした渚本介が、ゆっくりを膝を立てた。
その目に、いつもの優しさはない。
(´メω・`)「……答えろ。さもなくば」
(;^ω^)「渚本介さん!?」
自らの刀に手をかける渚本介。
その瞬間、ブーンが飛び込んで渚本介の手を止めた。
だが、ブーンはすぐに手をどけた。
79
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:40:41 ID:wZZ3IsMkO
(;^ω^)「……」
(´メω・`)「……」
渚本介の腕には、全く力が入っていなかった。
刀を出すつもりなど、元からないのだろう。
ブーンが安心したのも束の間、商人が静かに呟いた。
(<; - )「……斬れよ」
(´メω・`)「!」
(;^ω^)「え…」
心に貯まった感情が、溢れ出るように。
商人はゆっくりと呟いていく。
(<; - )「……斬れよ。俺なんて、さっさと殺してくれよ」
(;^ω^)「ちょ…」
(´メω・`)「…どういうことだか、話してくれないか」
又武貴のときと同じように、優しく尋ねる渚本介。
商人は、消え入るような声で続けた。
80
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:41:40 ID:wZZ3IsMkO
(<; - )「俺はこの町の商人なんかじゃねえ。俺の名は山田竜兵衛」
(<; - )「…吹連家家臣だ」
(;^ω^)「!!」
二人の中に、衝撃が走る。
吹連家なら、光世真宗とは敵対しているはずだ。
(´メω・`)「なれば、光世札とは…」
(<; - )「ああ、光世真宗はこんなもん作っちゃいねえ。全ては殿、吹連久斗尚様の計らいだ」
そうとわかれば、話は見えてくる。
つまり、吹連久斗尚は光世真宗を弱体化させる為、光世札を作って流布した。
その結果、光世札が流行した地域では、光世真宗を巡って対立することになる。
そう、あの又武貴のように。
光世札を持っているか否か、ただそれだけで。
81
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:42:42 ID:wZZ3IsMkO
(<; - )「殿の命で光世札を持ってこの地に降りた俺は、八尾井山が近く光世真宗が浸透したこの町で、ありもしない話をでっち上げた」
(<; - )「南蛮人が悪霊を連れ込んだ。天野が滅んだのも悪霊のせいだ。救われたくば光世札を買うがいい、と」
(;^ω^)「!」
又武貴に突然嫌われたのも、町の人間達がブーンを睨みつけていたのも、これで納得がいく。
全ては作り話だったのだ。
光世札を流行させる為に。
光世真宗を弱らせる為に。
(<; - )「我ながら、馬鹿みてえなおとぎ話だと思ったよ。でも、町の人間は思いの外それを信じた。光世札は売れに売れた」
(<; - )「でもよ、それは同時に、貧乏人達を淘汰しちまう結果になった…予想してたとはいえ、俺は…」
深く、深く、その頭は下がっていく。
悪い人間ではないことは、その様子でわかる。
82
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:43:43 ID:wZZ3IsMkO
(<; - )「…俺はよ、女房と娘を戦で亡くしてるんだ。天野の仕業さ」
(;^ω^)「!」
(´メω・`)「……」
(<; - )「だから、戦は嫌いなんだ。できれば刀も矢も見たくねえ」
(<; - )「だが、殿が光世真宗と戦う気でいることはわかってた。それでも俺は、戦だけは避けたかったんだ。だから…」
(´メω・`)「…だから、光世札で結果を残すことに専念したのか」
(<; - )「………」
兵と兵がぶつかり合う戦なんて、絶対に嫌だった。
戦が何も生み出さないことは、よくわかっていた。
だから、この男、竜兵衛は光世札を売りに売ったのだ。
戦をするまでもないほどに、光世真宗を弱らせることが目的だった。
そうすれば、もう誰も死ぬことなんてないのだから。
83
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:44:44 ID:wZZ3IsMkO
(<; - )「だがよ…光世札を売れば売るほど、罪のない人間達が苦しんでいくんだ。それに、殿は八尾井山焼き討ちを計ってる」
(<; - )「とんだお笑い草さ。もう、どうして生きていいのかわかんねえよ」
(<; - )「……だから、斬ってくれ。殺してくれよ。俺はもう疲れたんだ…」
(;^ω^)「……」
(´メω・`)「……」
あまりにも、哀れな男だ。
戦を忌み嫌う者が、また別の戦を生み出している。
恐らく、この男は強烈な自己矛盾と闘ってきたのだろう。
誰にも真相を語れずに。
たった一人で、家族を失った心を抑えながら。
84
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:45:37 ID:wZZ3IsMkO
( ^ω^)「竜兵衛さん…」
ブーンが、竜兵衛の横に座る。
溢れる気持ちをまだ抑えようとするその横顔に、ブーンは静かに語りかけた。
( ^ω^)「竜兵衛さんは悪くないですお。戦を無くす為に、戦から人を救う為に闘ってきた竜兵衛さんは、誰よりも強い男ですお」
( ^ω^)「だから、顔を上げてくださいお。天にいる家族に顔を向けてくださいお」
( ^ω^)「竜兵衛さんは、よく頑張ってきましたお」
(<;-;)「……」
少しだけ上げた顔に、涙が流れる。
泣くわけにはいかなかった。
光世札を売るために、この町では明るい商人を演じなければならなかった。
これまで抑えていた感情が、勢いよく溢れ出る。
85
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:46:29 ID:wZZ3IsMkO
(<;-;)「俺は……俺はどうすりゃいいんだよ…」
(´メω・`)「…俺達に任せるがいい、山田竜兵衛。お前の勇気は、俺達が必ず成就させる」
(<;-;)「………」
(´メω・`)「……ブーン」
二人と向かい合う位置に座りながら、渚本介がブーンに話しかける。
(´メω・`)「ぎたーを弾いてくれ。曲は任せる」
( ^ω^)「……」
不思議と、違和感なくギターを用意する。
ブーン自身、何故かギターを弾かなければならないと感じていた。
不思議そうにその様子を見つめる竜兵衛と、静かに座る渚本介に向かって、ブーンはギターを構えた。
86
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:47:18 ID:wZZ3IsMkO
( ^ω^)「…いきますお」
指を弦に置き、ゆっくりと演奏を始める。
曲は、Secret Gardenの「you raise me up」のソロギターバージョン。
力強い愛の旋律が、小さな室内を響き渡る。
(<;-;)「…あ……あぁ…」
(´メω・`)「……」
一人で続ける戦いが、一体どれほど重いのか。
一体どれほど苦しいことか。
ブーンにはよくわからなかったが、この男を前にして、初めて理解した。
人間は、たった一人では闘えない、ということに。
自分の心と戦い続けた勇敢な男、山田竜兵衛。
その嗚咽は、夜の世界でいつまでも響いていった。
──
87
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:48:22 ID:wZZ3IsMkO
──
翌朝。
これまでにないほど大量の光世札を荷台に詰め、竜兵衛は表に出た。
(<;´-`)「ほ、本当にこれで大丈夫なのか…?」
(´メω・`)「大丈夫さ。ブーンが言うんだから間違いない」
( ^ω^)「間違いないですお。だから、思いっきり町中に光世札をバラまいてくださいお」
光世札の解決策は、ブーンの提案が採用された。
それは、「光世札を大量に消費すること」だ。
つまり、大量消費によって物の価値を極端に下げる、資本主義的な方法だ。
高校のとき、社会科の何らかの授業で、そういった話を聞いたことがあった。
例えば、ダイヤモンドは希少で一定の価値を持つから特別なものであって、もしダイヤモンドが「誰もが持ってて当たり前の物」になると、その価値や興味は完全に薄まる。
88
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:49:39 ID:wZZ3IsMkO
( ^ω^)「誰もが光世札を持ってて当たり前…消耗品みたいになってしまえば、光世札への興味なんてなくなりますお」
( ^ω^)「そうやって町は元通りになっていくはずですお」
(´メω・`)「しかし面白い方法だな。確かに説得力はある」
(<´-`)「…そうと決まりゃ、信じるしかねえな」
幾分か明るい顔になった竜兵衛が、荷台を動かす。
すると、表通りの一角に、子供達が集まっているのが見えた。
(;^ω^)「あ、昨日のガキ共!またイジメを…」
(´メω・`)「待て」
飛び出そうとするブーンを、渚本介が抑える。
すると、竜兵衛が荷台ごとその子供達に近づいていった。
89
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:51:05 ID:wZZ3IsMkO
(<´-`)「うおーい、お前ら!」
(`A´;)「!」
(;゚ヽ゚)「やべ!」
(・∀ ・メ)「!」
仁王立ちの子供達と、砂まみれの又武貴が、驚いて振り向く。
すると、竜兵衛が笑顔で近づいてきた。
(<´-`)「朝からえげつねえもん見せんじゃねえよ!ほら、これ全部やるから帰りな!」
笑いながらそう言うと、竜兵衛は百枚近い光世札を足元に投げた。
(`A´;)(;゚ヽ゚)「!?」
(<´-`)「ほら又武貴、お前の分だ」
(・∀ ・;)「!?」
90
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:52:00 ID:wZZ3IsMkO
何百枚という光世札が、足元に広がる。
固まる子供達に、笑いながら続ける。
(<´-`)「手に余るんなら、家族やお隣さんにも分けてやりな!じゃあな!」
そのまま荷台を引いて歩きだす竜兵衛。
未だ固まる子供達を後目に、竜兵衛は此方を振り向いた。
(<´-`)「じゃあな!ブーン、渚本介!あんがとよ!」
(<´-`)「俺、もっとこの町で生きてみるわ!」
元気な商人の姿は、百合町の人混みへと消えていく。
( ^ω^)「…強い人ですお、本当に」
(´メω・`)「ああ、そうだな」
91
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:53:15 ID:wZZ3IsMkO
荷物を持ち、各々の馬の元へと戻る。
( ^ω^)「でも渚本介さん、あれで良かったのか不安ですお…もし吹連にバレたら…」
(´メω・`)「問題ない。流通しすぎた結果だと言えば、吹連も納得せざるを得ないはずだ」
( ^ω^)「なるほど」
自然と笑顔に戻り、馬に跨る二人。
吹連領は、もう目の前だ。
(´メω・`)「さ、行くぞ」
( ^ω^)「了解ですお。行くおマルフォイ」
▼・ェ・▼ ヒーン
92
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:54:04 ID:wZZ3IsMkO
活気のある宿場町を背に、二人は進む。
もう二度と訪れることはないだろう。
だが、この町の動向はいつまでも見守っていたい。
ブーンは心からそう思った。
一人の男の闘いが、成就するその時まで。
─You raise me up... To more than I can be.─
「あなたが勇気づけてくれるから 私は自分を超えてゆける」
「you raise me up」歌詞より
第二話 終
93
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 21:54:46 ID:wZZ3IsMkO
今回は以上です
ういっす
94
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 22:30:24 ID:cV19wMfU0
やべ、今までで一番好きな話かもしれんww
95
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 23:07:49 ID:KoBFdiLU0
前作読み返したが、前作に負けず劣らずの面白さだ
乙
96
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 23:19:12 ID:M9uMxiRI0
ギター一つで人々を助けていくブーンはかっこいい
次回も楽しみだ
97
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 23:24:30 ID:8Blg/lts0
お、来てた
乙!
98
:
名も無きAAのようです
:2013/02/18(月) 18:47:51 ID:i7mMQbf.0
乙
前作読んでみるかな
99
:
名も無きAAのようです
:2013/02/19(火) 12:57:13 ID:WCcdteaw0
おつ
100
:
名も無きAAのようです
:2013/03/21(木) 14:27:48 ID:h9X1ASDI0
乙です!
101
:
名も無きAAのようです
:2013/03/30(土) 22:13:01 ID:yY0hb4QM0
(´メω・`)「斬ったオイラが悪いのか…斬られたオメエが悪いのか…拙者、ギター侍じゃ 」
って… 言うじゃなーい?
102
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 01:55:57 ID:gGUyMa/c0
つづきまだかなー
103
:
名も無きAAのようです
:2013/07/07(日) 01:28:40 ID:xl.7qWDs0
期待してたんだが…
104
:
名も無きAAのようです
:2013/10/25(金) 14:09:34 ID:OF4TxAaw0
読み返したらやっぱし面白い
105
:
名も無きAAのようです
:2013/10/28(月) 16:01:33 ID:p.jFcdGkO
続き見たいな
106
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:24:11 ID:FMpnlpkQ0
一つ、理解できないことがあった。
いや、この時代に飛ばされていること自体がもはや理解の外だが。
それ以上に、ブーンの心に引っかかることがあった。
渚本介の話によると、前にこの時代に来たときは、尾付出麗の命を救うため──彼女に音楽の人生を与える任務があったという。
これは、恐らく今回にも当てはまる。
八尾井山焼き討ちによって、二茶根留領一帯の平和が危ぶまれる。
それは、出麗の命にも直接関わるのだ。
そこまでは理解できる。
だが、やはりどうしてもわからないことがある。
どうして、出麗の為に、五百年も先から自分が駆り出されるのか。
──
107
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:25:37 ID:FMpnlpkQ0
第三話
「剛の旋律」
──
渚本介の言う通り、八尾井山はかなり近いようだった。
百合町を抜けて、大きな丘を越えると、それはすぐに見えてきた。
(´メω・`)「見ろ、あれが聖地八尾井山だ」
(*^ω^)「おお…!」
光世真宗の修行僧が、何十年も籠もるという山。
決して高くはない山だが、近隣の山に比べると、横幅は圧倒的に大きい。
その山頂付近には、下からでもはっきり見えるほどの立派な寺が建てられている。
(*^ω^)「こりゃ凄いですお!」
(´メω・`)「さあ、このまま登るぞ。光世真宗の連中に軍隊を用意させなくては」
(*^ω^)「はいですお」
108
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:43:51 ID:RFcPCrvQ0
整備が施された山道を登り、光世真宗の本殿へと向かう。
近くで見るとその威圧感は凄まじいものだった。
観光客で賑わう現代の寺や神社とは雰囲気がまるで違う。一種の感動が、ブーンの心を震わせた。
(*^ω^)「ほんとすごいお…」
(´メω・`)「未来にも寺はあるんじゃないのか?」
(*^ω^)「ありますけど、なんつーか、こんなに神聖じゃないですお」
(´メω・`)「そうなのか」
壮麗な雰囲気を持つ本殿に入ろうとすると、すかさず門番に止められた。
渚本介が名乗ると、門番は目を丸くし、慌てた様子で境内へと走っていった。
(;^ω^)「…渚本介さん、なんかすっげー怖れられてましたけど」
(´メω・`)「ああ、いつものことさ」
109
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:55:39 ID:0wUGovVo0
あげ
110
:
名も無きAAのようです
:2014/04/02(水) 16:33:11 ID:27iBvjtAC
キテター
111
:
名も無きAAのようです
:2014/07/21(月) 09:53:11 ID:cvJjLW/YO
見てますよー!!
112
:
名も無きAAのようです
:2015/10/03(土) 11:36:26 ID:5Q.cU9LM0
もう来ないのかしら
113
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:41:19 ID:y4OWW/RE0
本殿に入る。
案内人の後ろを歩き、長い廊下を歩く。
外観を正面から見ただけでは分からなかったが、本殿はかなり奥行きのある建物らしく、
光世真宗の最高指導者――座主(ざす)の居る部屋はその一番奥、ということだった。
部屋の前に着くと、案内人は驚くほど深く頭を下げ、そそくさとその場を去った。
(´メω・`)「さあ、入るぞ」
(;^ω^)「はいですお…」
何となく、緊張してしまう。
宗教組織のリーダーだ。それも戦いのできる宗教組織。
一体どんな怖い奴がそれを統べてるのか、気にはなるが関わりたくない。
ブーンの緊張を知ってか知らずか、渚本介は何の躊躇いもなく扉を開いた。
中に居たのは。
川 ゚ -゚)「――来たか。待っていたぞ、太田渚本介」
(;^ω^)(女!?)
中に居たのは、30代半ばの女だった。座布団の上に綺麗に座っている。
かなりの美人だが、眼光が鋭い。
ブーンの予想外ではあったが、最高指揮者と呼ばれるほどの威厳は何となく感じる。
114
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:42:54 ID:y4OWW/RE0
(´メω・`)「俺が来ることを知ってたのか」
川 ゚ -゚)「吹連が兵を集めてる。天野亡き今、奴らとまともに敵対しているのは、我々光世真宗くらいだ」
川 ゚ -゚)「私から二茶根留に連絡するつもりだったが、既にお前が動いてると私の使者から言伝があってな」
川 ゚ -゚)「お前から来るということは、奴らはやはり我々を攻める気なのだな――して、そこの南蛮人は?」
(;^ω^)「えっ、あっ、はい!」
急に指され、驚くブーン。
相棒だ。と渚本介が即答する。
(;^ω^)「そ、そうですお。ブーンと呼んでくださいお。へへえ」
(;´メω・`)(へへえってお前…)
川 ゚ー゚)「ブーンだな。そんなに緊張しなくていいぞ」
川 ゚ー゚)「私は光世真宗の座主、素直空流(くうる)だ。よろしくな」
(*;^ω^)「よ、よろしくですお」
空流と名乗った女は、先程の威厳ある雰囲気から打って変わって、優しい笑顔をブーンに向けた。
その笑顔の柔らかさに、またもブーンは驚いた。
「怖い奴」というイメージは、この時点で完全に拭われた。
115
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:44:10 ID:y4OWW/RE0
川 ゚ -゚)「それで、ブーン。お前のその荷物は何だ? 楽器のように見えるが」
空流がブーンの荷物に目を向ける。
ブーンは慌てて荷袋からギターを取り出した。
( ^ω^)「はい、楽器ですお。ギターといいますお」
川 ゚ -゚)「ぎたー? 随分いびつな楽器だな」
川 ゚ -゚)「そうだ、折角だし弾いてみてくれないか。これから難しい話が始まるからな。まずは心を癒そう」
(´メω・`)「はは。それもそうだ」
渚本介がその場に座る。空流は純粋に興味があるといった目を向けている。
不慣れなタイミングで演奏を振られたが、それでもブーンはギターを構えた。
心が静まっていく。
( ^ω^)「わかりましたお。曲はどうしますかお?」
川 ゚ -゚)「そうだな…戦の前だ。私や兵の士気が上がるような音楽がいい」
116
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:44:51 ID:y4OWW/RE0
( ^ω^)(士気って…)
士気の上がる音楽。
即ち、戦を盛り上げるような曲だ。
そういう曲はいくつも知っている。だが、ブーンはそういった曲を弾くことにあまり気が進まなかった。
この旅は、戦を止めるのが目的だ。だからブーンはこの時代に飛ばされた。
吹連のように戦の準備を進める者もいれば、百合町の竜兵衛のように、心を削ってまで戦を止めようとする者もいる。
その中で、士気を上げるというのは、ブーンのが選びたい選択肢ではないのだ。
ギター弾く。たかがそれだけの話でもあるのだが。
頭の中に何百とあるレパートリーから、ある曲をみつける。
「それじゃあ行きますお」と呟くように言うと、ブーンは演奏を始めた。
( ^ω^)♪〜♪♪〜
川 ゚ -゚)「……」
(´メω・`)「……」
ブーンが選んだのは、ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズのメインテーマだった。
曲名は『metal gear solid main theme』といったところか。
本来はオーケストラで奏でる曲だが、ブーンはそれをソロギターで表現していく。
知る人ぞ知る名作ゲームのその曲は、優しい旋律の中に、戦争に関する様々な感情を含んでいる。
117
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:45:34 ID:y4OWW/RE0
例えば、メタルギアシリーズといえば戦争やテロの中を進むアクションゲームだが、
監督した小島秀夫は、反戦争・反核兵器という思想を持っている。
戦は人が死ぬ。人が死ぬと、様々な感情が生まれる。
様々な感情の中で生きていくことに必要なのは、戦ではない。
( ^ω^)♪〜♪♪〜
名曲と呼ばれたその曲は、ブーンの左手が奏でるビブラートと共に、消え入るように終わった。
川 ゚ -゚)「……ありがとう。良い演奏だった。私が想像したものと少し違った雰囲気だったが」
ブーンがぎくりとして空流を見つめると、また優しい笑顔が返ってきた。
川 ゚ー゚)「素晴らしい曲だ。お前の表現力も相まって、いろいろと響いてくるものがあった。」
(;^ω^)「あ、ありがとうございますお…なんかすいません…」
川 ゚ー゚)「渚本介、お前はいつもこの演奏を聴いているのか」
(´メω・`)「ああ。贅沢だろう?」
川 ゚ー゚)「はは、そうだな。お前が相棒にしたくなるのもわかるよ」
さて、と空流が立ち上がり、部屋の奥にある戸棚から書物を取り出した。
川 ゚ -゚)「だいぶ頭が冴えたよ。さあ、作戦会議と行こうじゃないか」
118
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:46:50 ID:y4OWW/RE0
――
夜。
止まっていけという空流の言葉に甘えて、ブーンと渚本介は一晩過ごすことに決めた。
吹連が拠点とする具麗芭城は、この八尾井山からさほど遠くない。
だからこそ、決まった作戦は、ブーンにとって合理的かつ単純かつ不安なものだった。
川 ゚ -゚)「直談判だ」
(;^ω^)「はあ!?」
(´メω・`)「俺もそれがいいと思う。奴には一度命を拾わせた。俺が直接行くとなお話を聞いてくれそうだ」
川 ゚ -゚)「ブーン、何をそんなに驚いてるんだ」
(;^ω^)「え、だって空流さん、なんかさっき戦争する気満々ぽかったから、なんかこう、奇襲とか…」
しばしの沈黙。
渚本介と空流が顔を見合わせ、少し吹き出した。
川 ゚ -゚)「あのなブーン、確かに勘違いされやすいが、我々は最初から武力で争う気はない」
(´メω・`)「交渉も戦だ。勝ち負けがある。結果次第では誰も死なないしな」
(;^ω^)「そうなんですかお…」
119
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 15:50:41 ID:y4OWW/RE0
肩すかしを喰らった。そんな気分になった。
それなら、戦争なんかしなくても、自分がそんなこと気負わなくてもいいのか。
――後に、その安心が大きな間違いだったと、ブーンは知ることになる
第三話 終
120
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 17:44:41 ID:RJ1Fb3uc0
まじか乙
121
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 20:01:26 ID:mO9QSbtA0
え、まじ?
いろいろ帰ってきてるな
122
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 06:05:40 ID:MNeyZtZM0
いつのまに!おかえり待ってました!
123
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:20:52 ID:L7waZog60
作者です。
まず、本当にごめんなさい。逃亡してました。言い訳はしません。僕のことは煮るなり焼くなり挿れるなりして下さい。
とりあえず物語は続けます。
すべて終了後に、改めて謝罪会見を開きます。
創作版ファイナルの存在は今日知りました。
せっかくなのでこのまま投下します。
124
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:21:55 ID:L7waZog60
朝。
馬に跨った二人は、木の生い茂る森の中を進む。
空流は八尾井山に残った。万が一の攻撃に備えて準備がしたいという。
彼女の落ち着いた態度は、何となく渚本介に似てると思った。
ふと、ブーンはあることを思い出した。
( ^ω^)「あれ? 渚本介さん」
(´メω・`)「どうした」
( ^ω^)「最初から戦じゃなくて、交渉でいくつもりだったんですおね?」
(´メω・`)「ああ」
( ^ω^)「それなら、どうして二茶根留城で兵の準備なんかさせたんですかお?」
この旅に出る前のことを思い出す。
渚本介は二茶根留城の巳留那と出麗に、万が一のため兵を集めるよう進言していた。
(´メω・`)「空流と同じだ。万が一の攻撃に備えてだな。それに…」
渚本介の眼差しが、少し下がる。
(´メω・`)「──少々、思うところがあってな」
──
125
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:23:40 ID:L7waZog60
第四話
「混沌の渦中」
──
何度か休憩を取り、夕方。
小高い丘の上に、具麗芭城が見えてきた。
夜に備えて、既に明かりを灯し始めている。
(´メω・`)「さあ、乗り込むぞ」
(;^ω^)「え、正面から堂々と行くんですかお?」
(´メω・`)「当然だ。こそこそ入ってくるような奴と交渉に応じたいと思うか」
(;^ω^)「そりゃそうですけど…」
馬を近くに待機させ、城門へ近づく。
門番に偽名を名乗り、光世真宗の使いとだけ身分を明かした。
最大限の警戒を受けた二人は、まず武器を預けるよう指示された。
渚本介は愛刀の虎恍丸を手渡す。
ブーンのギターは武器にならないと判断されたのか、没収されずに済んだ。
前に案内人、後ろに武器を持った数人の兵士。
挟まれた形で、二人は城内へ入っていく。
126
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:25:34 ID:L7waZog60
本丸に入り、幾つかの廊下や階段を進む。
誰も何も話さない。
横を歩く渚本介は涼しい顔をしているが、ブーンは緊張で汗が止まらなかった。
案内人が大きな襖の前で立ち止まると、「お連れしました」と合図を送った。
(;^ω^)(この襖の向こうに、吹連久斗尚が…)
(´メω・`)「……」
ブーンにとっては、日本史の授業でしか知らない男。戦争を始めようとしている男。
渚本介にとっては、かつて天野が倒れた隙に二茶根留へ攻め込んだ、危険な男。
襖の向こうから返事はない。
案内人が襖に手を掛けた、その瞬間。
127
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:28:58 ID:L7waZog60
二人の体に、衝撃が走った。
(; ゚ω゚)「あっ!!」
(;´メω・`)「!!」
罠だ。
渚本介は襖の向こうに突き飛ばされ、バランスを崩しながらその部屋に入ってしまう。
部屋の中には槍を構えた大勢の兵士。
咄嗟に左腰に手を回すが、虎恍丸を門番に預けたことを思い出し、すぐに諦めた。
一方、ブーンの方を振り返ると。
数人の兵士達に抑えられ、引きずられるように廊下の奥へと連れ去れていくところだった。
(; ゚ω゚)「しょ、渚本介さん!!」
(;´メω・`)(…くそ、どういうことだ)
門番には名前も身分もまともに明かしてない。
なのに、突然襲われている。
考えられる理由は二つ。
光世真宗の使いは問答無用で捕まえ、必要なら殺し、宣戦布告にでも利用するつもりか。
或いは──
128
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:30:35 ID:L7waZog60
(;´メω・`)(──俺とブーンが来ることを、最初から知っていたのか?)
馬鹿な。有り得ない。
だが、そうでなければ、渚本介とブーンを分けた道理がない。
やがて、ブーンは引きずられたまま廊下の曲がり角へと消えていった。
大量の槍が向けられた渚本介に、リーダー格の男が一歩踏み寄り、話しかける。
(’e’)「"戦魔"、太田渚本介だな?」
(´メω・`)「……なぜ俺の名を」
(’e’)「着いてこい。抵抗したら即座に殺す」
男は背を向け、部屋の外へ歩き出した。
質問に答える気は無いということか。
一拍置いて、渚本介も歩き出す。
(´メω・`)「どこに連れて行く気だ。ブーンはどうした」
(’e’)「……」
徹底してるな、と小さく呟く。
もといた部屋より更に奥に進み、別の部屋に通される。
そこには、見知った男が座っていた。
129
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:31:35 ID:L7waZog60
(‘_L’)「久しぶりだな。戦魔よ」
具麗芭城城主、吹連久斗尚。
かつて渚本介に敗れた男が、そこに居た。
(´メω・`)「……三年前、俺はお前に二つ命じたはずだ」
(´メω・`)「二茶根留は諦めよ。そして」
渚本介の語気が、強まる。
(´メω・`)「──二度とその名を口にするな、と」
復讐はやめた。
戦も、命を奪うことも、もう辞めた身だ。
業深き時代の、その呼び名は、もう捨てたのだ。
"戦魔"は、もう居ない。
(‘_L’)「ふん、関係ないな。お前はもうここで死ぬ身だ」
130
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:32:34 ID:L7waZog60
(´メω・`)「立派なことが言えるようになったものだな。吹連久斗尚」
久斗尚の向かいに、渚本介が座った。
渚本介の背中に向けられていた数多の槍先が、それに合わせて下を向く。
(´メω・`)「聞きたいことが山ほどあるが… お前の目的は何だ」
まっすぐ睨み合う二人。
久斗尚が即答する。
(‘_L’)「天下統一。その為に、二茶根留と光世真宗を潰す」
(´メω・`)「それは知っている。何故、俺とブーンを狙った。そもそもどうやって知り得たのだ」
(‘_L’)「情報を得る力は自負しているからな。あの南蛮人には、部下が用があるらしい」
(‘_L’)「お前に関しては──そうだな、私情とでも言っておこうか」
久斗尚の口角が上がる。
目は笑っていない。目に見える殺気だ。
131
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:33:46 ID:L7waZog60
(‘_L’)「お前のことが憎くてしょうがないんだ、渚本介」
悪寒。
渚本介の背中に冷たいものが走る。
どこかで聞いた台詞だ。誰かに似ている。
(‘_L’)「本当はこうして話す間も与えずに殺したいほどだ。憎くて憎くて、仕方なかった」
(‘_L’)「この三年間、お前を殺すことだけを考えてきた」
そうだ。これは──
(‘_L’)「我が野望を打ち砕いたお前への復讐。もはや、それだけが俺の生きる理由だったのだ」
──自分に似てるのだ。
かつて、天野擬古成に抱いていた猛烈な復讐心。ブーンをも巻き込んだ、復讐の旅。
後悔ばかりの生き様だった。そして、ブーンのおかげで生まれ変わった。
だが、復讐に明け暮れる"戦魔"も、また新たに生まれ変わってしまったのだ。
132
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:34:52 ID:L7waZog60
思わず、目を瞑る。
自分には責任があるのだろう。
"戦魔"として生きた責任が。"戦魔"を生み出した責任が。
それは、己の手で終わらせなければならない。
(´メω-`)「……そうか」
だが、その責任を果たすにはどうすればいいのだろう。
今ここで大人しく斬られるわけにはいかない。
ブーンが元の時代へ帰る為に、久斗尚を止めなければならないのだ。
それなら、道は一つ。
(´メω・`)「なれば、俺はお前を止める。お前を止め、この戦乱の世を終わらせる」
(#‘_L’)「綺麗事を抜かすな! 戦魔、お前こそ戦乱そのものだ!!」
声を張り上げ、久斗尚が立ち上がる。
(#‘_L’)「天野を斬るまで暴走を続けたお前に、戦を終わらせる筋合いはない!」
(´メω・`)「いや、止めるさ。それが俺の責任だ」
133
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:36:32 ID:L7waZog60
再度の睨み合い。
緊迫した空気が、辺りを包み込む。
(‘_L’)「…俺以外、にも」
久斗尚が口を開く。
怒りを必死に堪えているようだった。
(‘_L’)「俺以外にも、お前を狙う人間はごまんといる。」
(´メω・`)「ああ、何度か喧嘩を売られたよ」
(‘_L’)「俺の部下にもそういう奴がいてな」
(´メω・`)「部下?お前が相手しなくていいのか」
(‘_L’)「一人でお前に飛び掛かるほど馬鹿じゃない」
連れて行け、と兵達に指示する。
複数の槍で渚本介に立つように促すと、渚本介は素直に立ち上がった。
134
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:37:52 ID:L7waZog60
(´メω・`)「最後に一つ。ブーンをどうするつもりだ」
歩き出す前に、渚本介が尋ねる。
無表情で久斗尚は答えた。
(‘_L’)「別の部下が、あの南蛮人に興味があるらしい」
(´メω・`)(別の部下…)
(‘_L’)「俺にとっても、あいつは殺し損ねた獲物だ。用が済んだら直ちに殺す」
(;´メω・`)「……」
渚本介の額に、冷や汗が流れる。
この場を切り抜けるとしても、ブーンの居場所を特定しなければならない。
兵士に促され、廊下を進んだ。
本丸の外に出る。外はすっかり日が沈んでいた。
135
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:39:20 ID:L7waZog60
(´メω・`)「ここは…」
広大な敷地。作りは日本庭園と同じだ。
綺麗に敷き詰められた石庭。
石や砂を使って山や川を表現するのが石庭の特徴だが、此処は広すぎるあまり本物の芝生や小川もある。
その石庭の中央。
筋骨隆々の男が仁王立ちをしている。
(;´メω・`)(あいつは、まさか…)
見覚えのあるシルエット。見覚えのある顔。
男は、低くくぐもった声を出した。
136
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 17:41:10 ID:L7waZog60
( ゚∋゚)「会いたかったぞ、戦魔」
天野家家臣、堂土狗久流。
三年前、渚本介が一騎討ちで辛勝した男。
馬を吹き飛ばす程の力を持ち、本隊の一員として、天野の従順な家臣として活躍した男。
かつて渚本介を追い込んだその男は、吹連の元に蘇っていた。
第四話 終
137
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 20:26:24 ID:fc94DjBg0
きてる おつ
138
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 20:41:47 ID:q.CCIT6c0
謝罪より誠意を見せろ毎秒投下しろ
139
:
名も無きAAのようです
:2018/08/26(日) 23:53:37 ID:vYxUNZFY0
乙 挿れる役は任せろ
140
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 01:31:31 ID:UDsfB99M0
クックル生きてたのか
141
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:22:50 ID:i3wgWf6M0
ありがとうございます。
僕も尻も喜んでます。
投下します!
142
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:24:20 ID:i3wgWf6M0
──
ξ゚⊿゚)ξ「はあ…」
夜。自室のベッド。
リクルートスーツを脱ぎ捨て、ツンは携帯片手に寝転がっていた。
ξ゚⊿゚)ξ(…なんでこんなことしてるんだろ)
合同説明会に行くとき。一次試験を受けているとき。
ふと、我に返ってしまう瞬間がある。
周りには兵隊のように同じスーツを着込んだ学生。
職場の雰囲気や給料をアピールする、聞いたこともない会社。
大学で学んだことなんか生かしようがないとでも言いたげな雰囲気。
自分は、何がしたいんだろう。
ξ゚⊿゚)ξ(やりたいことをやって生きるって、どうやるんだろう…)
ふと、同じバイト先の、あの童貞ミュージシャンの顔が思い浮かんだ。
──
143
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:26:52 ID:i3wgWf6M0
第五話
「過去の呪い」
──
幾本もの松明が、辺りを照らしていた。
視界は問題ない。
( ゚∋゚)「お前のだろ?使え」
(´メω・`)「!」
狗久流が渚本介に刀を投げ渡す。
鞘と柄の部分を両手でキャッチし、それが虎恍丸であることを確認した。
(´メω・`)「…男らしく一騎打ち、ということか」
( ゚∋゚)「そんなところだ」
対する狗久流は、まだ何の武器も構えない。
だが、渚本介より頭一つは高く、二回りほど大きいその体つきから、既に巨大な威圧感を覚える。
( ゚∋゚)「お前に斬られて、俺は何日も何日も死の淵を彷徨った」
(´メω・`)「……」
( ゚∋゚)「蘇った俺を待っていたのは、負けたという事実だけだった。初の敗北だ。だから──」
144
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:27:54 ID:i3wgWf6M0
狗久流が足元に手を伸ばす。
辺りに、重い金属音が鳴り響いた。
巨大な鞘。
人の上半身を包み込むような、冗談のように大きな刀身。
(;´メω・`)(まさか…)
( ゚∋゚)「──お前を最も苦しめたこの刀で、俺は、誇りを取り戻す」
斬馬刀。
亡き暴君、天野擬古成の愛刀を、狗久流は握り締めた。
145
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:29:31 ID:i3wgWf6M0
(;´メω・`)「……悪趣味が」
虎恍丸を中段に構える。
あの斬魔刀は、剛拳と呼ばれた擬古成だからこそ操れると言ってもいい代物だった。
だが、力だけなら狗久流もそれに並ぶ。或いは、もっと強いかもしれない。
擬古成ほどの技術を、狗久流が持ち合わせているのなら。
あの死闘を繰り返すというのなら。
次は、勝てるかどうか怪しい。
(´メω・`)(様子見だな)
頭の中を切り替え、中段の構えのまま狗久流を見る。
その巨大な刀は、地面に寝かされるように構えられている。
脇構えだ。下から突き上げるように、或いは薙ぎ払うように振るつもりか。
146
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:30:32 ID:i3wgWf6M0
渚本介は構えを下段に下げた。
あの刀は、まともに受けると必ず押し負ける。
一撃目を流し、一瞬で距離を詰め、攻撃する。
流れをイメージした渚本介に、狗久流の視線が重なった。
( ゚∋゚)「──参る!」
(´メω・`)「!!」
脇構えのまま、狗久流が走り出す。
その体躯からは考えられないような速さだ。
渚本介は下段に構えたまま、その場に留まる。
直後、狗久流は背負い投げのように斬馬刀を振り上げた。
(# ゚∋゚)「せいやァァァァ!!!」
(´メω・`)(上か!)
軌道が変わった。だが、虎恍丸で攻撃を流すことは充分可能だ。
虎恍丸を上に向け、斬馬刀の軌道を読む為、視線を若干上げる。
147
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:31:35 ID:i3wgWf6M0
だが、振り下ろされてきたのは、白刃ではなかった。
(;´メω・`)(しまった…!)
横向きになった刀身──巨大な鎬地が、渚本介に振り下ろされて来ていた。
まるで頭上から壁が降ってくるような威圧感。
足捌きでは避けられないタイミングだ。
咄嗟に頭を下げ、手首と肘を折って刀の柄を向ける。
だが、斬馬刀の重さと狗久流の力は、その抵抗を遥かに上回り。
鎬地は、渚本介の頭と肩を捕らえた。
(;´メω・`)「がっ…!」
(# ゚∋゚)「トドメだ!!」
叩きつけられ、バランスを崩した渚本介に、狗久流が再度襲いかかる。
148
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:32:33 ID:i3wgWf6M0
もう一度、上段からの振り下ろし。
今度は刃を向けている。
(;´メω・`)「くっ!」
転がるように距離を取り、その攻撃を避ける。
斬馬刀が石庭の地面に突き刺さった。
( ゚∋゚)「相変わらずすばしっこい奴だ」
(;´メω・`)(クソ…頭に響くな)
世界が揺れて見える。耳の中に何かが鳴り響く。それほどの衝撃だった。
よろよろと立ち上がり、何とか虎恍丸を構え直す。
相変わらずの剛力。しかし、柔軟な攻撃だ。
以前より遥かに強くなっている。
( ゚∋゚)「さあ、遠慮なく行くぞ!」
(;´メω・`)「!」
149
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:33:17 ID:i3wgWf6M0
激しい頭痛を堪え、狗久流の動きに集中する。
斜めから振り下ろす袈裟斬り。渚本介は頭を下げて避けるも、此方のリーチは届かない。
すかさず、斬馬刀の返し胴が渚本介の脇腹を目掛けて襲いかかる。
瞬時に半歩分ほど下がり、その軌道は空を切った。
(´メω・`)(今だ!)
( ゚∋゚)「!!」
大股で踏み込み、突き。
最も捌きにくい攻撃で、狗久流の腹を狙う。
しかし、狗久流は伸びてくる虎恍丸を蹴り上げた。
がら空きになった渚本介の腹に、再度斬馬刀が襲いかかる。
150
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:40:08 ID:i3wgWf6M0
(;´メω・`)(避けられない!)
(# ゚∋゚)「せいやァァッ!!!」
何とか虎恍丸で受け止めることができた。
だが、狗久流の剛力をまともに受けた渚本介の体は、石庭から小川まで飛ばされた。
激しい音を立て、全身に水を被る。
(;´メω・`)「ぐはあッッ!」
( ゚∋゚)「勢いが無いな。戦魔よ」
低くくぐもった声が、渚本介に届く。
狗久流のシルエットが、擬古成と重なった。
(;´メω・`)(強い……)
どうすれば。
どうすれば勝てる。
ずぶ濡れの顔を荒く拭き、思考を巡らせる渚本介に。
狗久流が斬馬刀を引きずりながら迫ってくる。
──
151
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:41:15 ID:i3wgWf6M0
──
下半身に伝わる振動と、甲冑や轡がガチャガチャと揺れる音で、ブーンは目が覚めた。
いつの間にか眠らされていたらしい。
地面に勢いよく流れる石や草が視界に入る。
暫くぼうっと眺め、ブーンはようやく馬に乗せられているのだと気づいた。
手足は縛られていて動かない。
急に、焦りが生まれる。
(;^ω^)(ど、どうしよ…)
周りを見ると、同じように馬に乗った兵士達が並走している。
自分と同じ馬にも、もう一人乗っている。後ろから抱えるように綱を握っている。
ブーンが起きたことに気が付いたようだが、何も話しかけてこなかった。
勇気を振り絞り、後の男に声をかける。
(;^ω^)「あ、あの」
( `ー´)「あ?」
(;^ω^)「今、どこに向かってるんですかお?」
( `ー´)「……おまん、南蛮人なのに言葉がわかるんかい」
152
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:42:38 ID:i3wgWf6M0
男は全く別のことに驚いてるようだった。
妙な訛りが目立つ。
( `ー´)「まいいや。おいらは何も言わねえように言われてるんや」
(;^ω^)「そうですかお…」
( `ー´)「逆に聞きてえんだがよ、おまんのその荷物、何や? 暗器か?」
(;^ω^)「楽器ですお。ギターといいますお」
(;`ー´)「楽器!? おまん、南蛮人のくせに身分高いんやな」
(;^ω^)「いやあ……」
聞いたことはあった。
昔は、音楽や芸術は高貴な嗜みだから、庶民には触れ得ないものだったという。
しかし、実際はフリーターだ。身分で言えば高くないだろうとブーンは自覚していた。
( `ー´)「ほんならあれか、おまんちは全員音楽家ってやつかい」
(;^ω^)「そういうわけじゃないですお」
( `ー´)「羨ましいもんや。おいらは絵の一つも描かせてもらえんかった。ずっと刀と槍の練習さ」
何も言わないよう言われてる割に、よく喋る男だ、と思った。
単に話好きなのだろうか。
悪い気はせず、ブーンは段々落ち着きを取り戻してきた。
153
:
名も無きAAのようです
:2018/08/27(月) 20:44:24 ID:i3wgWf6M0
( ^ω^)「武家の生まれなんですかお?」
( `ー´)「まあ一応そうやな。小せえけど」
男が遠慮がちに笑う。
( `ー´)「信じられっか?日が出て起きたら、飯も食わずにまずは刀の手入れをするんや」
( `ー´)「ほんで、それが終わったら足捌きと素振り。動けなくなった頃にやっと朝飯や」
( `ー´)「そんなんを毎日毎日や。何度逃げ出そうかと思ったことか」
(;^ω^)「はあ…」
( `ー´)「おまんも、そのぎたーとやらの稽古を毎日してたんやろ? 大変やなー」
( ^ω^)「僕はそれほど大変と思ったことはないですお。好きでやってるんで」
男は驚いたようだった。
暫く黙ったあと、「そうか」と笑った。
( `ー´)「…幸せもんやな、おまんは」
男の呟きは、走る馬が風を切る音にかき消された。
第五話 終
154
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 12:56:15 ID:FPrzW.Uk0
ブーンへの用って誰だろうな
155
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:04:25 ID:tZMFrB.s0
──
客人をお連れしました、と使者が声を掛ける。
川 ゚ -゚)「通せ」
襖が開き、一人の女が入ってきた。
よく見知った顔だ。
ζ(゚ー゚*ζ「師匠!」
尾付出麗。
健気で明るい少女が、空流に駆け寄ってきた。
ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりです」
川 ゚ー゚)「ああ。琴の稽古は怠ってないな?」
ζ(゚ー゚*ζ「もちろんです。琴は私の命ですから」
空流が微笑む。
かつて、出麗に琴を教えていた時期があった。故に出麗から師匠と呼ばれている。
だが、出麗にはもともと音楽の才能があった。伸びの速い教え子だった。
才能のある弟子だ。
川 ゚ -゚)「昨日、渚本介とブーンが来たよ」
ζ(゚ー゚*ζ「本当ですか!」
156
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:05:26 ID:tZMFrB.s0
嬉しそうに反応する出麗。
ご無事だったんですね、と呟いた。
川 ゚ -゚)「ブーンがな、何やら奇怪な楽器を持ってきたんだ。確か…」
ζ(゚ー゚*ζ「ぎたーです」
川 ゚ー゚)「そう、ぎたー。見事な音色だった」
ζ(゚ー゚*ζ「師匠はよく、琴の音色を着物や空に例えてましたね」
川 ゚ー゚)「ああ。あの色味や躍動感を目に見えるものにするなら、それが一番近い」
川 ゚ー゚)「ぎたーは、そうだな、木や森、川…難しいな」
ζ(゚ー゚*ζ「ブーンは"ぎたーひとつあれば何でも表現できる"と言ってました」
ははは、と空流が笑う。
川 ゚ー゚)「"何でも"? はは、そうか。確かにあいつの演奏は見事だった」
ζ(゚ー゚*ζ「私もそう思います」
川 ゚ー゚)「もっとよく聴いてみたいもんだな。あいつが無事に帰ってくることを祈ろう」
──
157
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:06:29 ID:tZMFrB.s0
第六話
「新たな混沌」
──
全身が濡れてしまった渚本介。
衣服が重く感じる。
狗久流が。斬馬刀を引きずりながら走り出した。
(#゚∋゚)「せいッッ!!!」
(´メω・`)「!」
引きずってきた斬馬刀を、そのまま流れるように下から突き上げてきた。
距離を取ってその攻撃を避けるが、数多の小石が渚本介に襲い掛かる。
(;´メω・`)「くっ…」
(#゚∋゚)「隙ありィッ!!」
(;´メω・`)「!」
顔面にも飛んできたそれに、思わず顔を背ける。
目線を戻した途端、首筋に斬馬刀が迫っているのが見えた。
虎恍丸でそれを受け止めるも、またも体ごと吹き飛ばされた。
158
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:07:35 ID:tZMFrB.s0
(;´メω・`)「かはっ…!」
重すぎる一撃。
手の痺れも、頭痛も、一向に取れない。
(;´メω・`)(まともに斬馬刀の相手をしてられないな…)
鉄板を相手に戦っているようなものだ。
あの重さに対抗するわけにはいかない。
虎恍丸の刃も、接触部分が潰れているのがわかる。
(;´メω・`)(…渋沢に見せておくんだった)
鍛冶屋の友を思い出す。
彼は、擬古成に挑もうとする渚本介を案じていた。
だが、結果的に彼に虎恍丸を鍛え直させた。
辛い葛藤だった。
(#゚∋゚)「ふんッ!!」
(;´メω・`)「!!」
159
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:09:07 ID:tZMFrB.s0
胴を狙ってくる狗久流。
体をくの字に曲げて避け、返し胴を狙う。
しかし、狗久流は斬馬刀を下に向け、縦のように攻撃を防いだ。
そのまま斬馬刀で押し返し、渚本介の腹に前蹴りを見舞う。
バランスを崩した隙に斬馬刀を撃ち込むつもりだったが、渚本介は巧く体制を建て直した。
渚本介と狗久流の間に、またも距離が生まれる。
──「刀ってェのは、人斬りの道具だ。その理由が護身や復讐でも、人さえ斬ってりゃ刀は生きる」
──「でもよ、人の魂までは絶対に斬れねえ。絶対にだ」
──「考え直せ渚本介。おめぇが擬古成を斬ろうと、擬古成の天下統一の精神までは斬れねえ」
160
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:10:06 ID:tZMFrB.s0
(;´メω・`)(渋沢…)
ふと、三年前の渋沢の声が蘇る。
虎恍丸を握る手の力を、無意識に緩めた。
目を瞑る。
(;´メω-`)(俺は──お前に、謝らなければならない)
渋沢の言う通りだった。
擬古成を斬ろうと、擬古成の魂は生きている。
こうして、渚本介の前に立ち塞がっている。
復讐心に従わず、別の方法で擬古成を止める方法を探るべきだった。
そうしておけば、ブーンを危険に晒すことなく元の時代に帰せたかもしれない。
出麗を危険な目に合わせることもなかったかもしれない。
今こうして、ブーンがまた危機に遭うことも、吹連や狗久流が復活することもなかったかもしれない。
責任は、全て自分にある。
諸悪の根源は、この太田渚本介なのだ。
(;´メω-`)(…だからこそ、この戦乱を止めるべきは、この俺だ)
虎恍丸を握り直す。
頭痛は、いつの間にか治まっていた。
161
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:11:21 ID:tZMFrB.s0
( ゚∋゚)(──こいつ、目を瞑っているのか?)
この死闘の最中、何を考えている。
瞑想か。精神統一のつもりか。
そんな暇は、与えてられない。
(#゚∋゚)「せいッッッ!!」
(´メω-`)(──)
風を切る音が聞こえる。
見なくてもわかる。
斬馬刀が迫ってきているのだろう。
上段からの振り下ろし。
斬馬刀の重さにも、それを操る狗久流の力にも、恐れ入る。
だが、もう、斬り合う必要はない。
162
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:13:10 ID:tZMFrB.s0
(´メω・`)「そこだ!!」
(;゚∋゚)「!?」
両手で持った虎恍丸の柄を、振り下ろされてくる斬馬刀の柄に向ける。
狙いは、斬馬刀を握る、狗久流の指。
(;゚∋゚)「ぐあっ!」
衝撃。
指が潰れる感覚に顔が歪む。
斬馬刀が、その手から離れた。
(;゚∋゚)(しまった…)
武器を放してしまった。
斬られる。
血の気が引くのを感じながら、狗久流は渚本介へと顔を上げた。
163
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:14:24 ID:tZMFrB.s0
だが、渚本介が向けてきたのは、虎恍丸ではなかった。
(#´メω・`)「はあっ!」
(;゚∋゚)「!!」
──拳だ。
固く握られた右拳が、狗久流の鼻と頬を捉えた。
思わず下を向いた顔に、今度は左拳のアッパーが入る。
(;゚∋゚)「ぐっ…!!」
仰け反る。
鼻血が勢いよく流れるのを感じながら、よろよろと体制を整える。
(´メω・`)「喧嘩の真髄ってやつだ。構えろ」
渚本介は、虎恍丸を鞘に戻して地面に置いていた。
武器の無い両拳を構える
左拳は突き出すように前へ。右拳は顎の横へ。
落ち着きを取り戻した狗久流が、手の甲で鼻血を拭く。
( ゚∋゚)「…刀では敵わないと悟ったか」
(´メω・`)「否。刀では終わらないからだ」
164
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:15:12 ID:tZMFrB.s0
そう、刀では終わらないのだ。
復讐。戦。それらの螺旋を止める方法は、刀で斬ることではない。
( ゚∋゚)「…徒手なら、勝てるとでも思ったか?」
狗久流の雰囲気が一変する。
その大きくて太い手が、開いたまま構えられた。
まるで切り裂くように横に向けられた両手。
"前羽の構え"だ。
( ゚∋゚)「琉球に、空手という徒手戦闘の技がある」
(´メω・`)「……」
( ゚∋゚)「凄絶なる鍛錬の末、五体を武器と化す。俺はこれを──」
狗久流の眼が、鋭く光った。
( ゚∋゚)「──体得している!!」
(´メω・`)「!」
狗久流が飛び掛る。
拳での攻撃を警戒していた渚本介の頭部に、狗久流の右足が飛んできた。
ハイキックだ。
顔を引き、鋭い蹴りを何とか避ける。
165
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:16:36 ID:tZMFrB.s0
(´メω・`)(五体が武器、か…)
予想以上の鋭さ。柔らかさ。
あれを貰ってしまっては、一撃で倒れそうだ。
( ゚∋゚)「せいッッ!!」
(´メω・`)「はッ!」
狗久流の正拳突きを潜って躱す。
渚本介が同時に繰り出した左フックが、カウンター気味に狗久流の顎を捉えた。
(;゚∋゚)「ぐっ…」
頭がぐらつく。膝の力が抜ける。
これでは狙いが定まらない。
苦し紛れに繰り出した両手を、渚本介の両手が捕らえた。
掴み合いだ。
(;゚∋゚)「!?」
(´メω・`)「行くぞ、堂土狗久流」
手四つ。
現代で言えば、プロレスの試合でよく見られる、力比べだ。
渚本介が、大きく息を吸い込んだ。
.
166
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:17:47 ID:tZMFrB.s0
(#´メω・`)「はあああッッ!!!」
(;゚∋゚)「ぬおっ…!!」
全体重を乗せた渚本介の力が、狗久流の両手に圧し掛かる。
抵抗はするが、手首が勝手に曲がっていく。
(;゚∋゚)「おおおおおおッ!!!」
徐々に、手首が曲がる。
膝が折れ、体ごと倒れていく。
(;゚∋゚)「おおおおおッ!!!」
抵抗を続ける。
だが、体はゆっくりと崩れていく。
(;゚∋゚)(この俺が、力負けをするだと…!?)
土下座をするように体が折れ。
ついに、狗久流は地面に倒れ込んだ。
手首への重さが、痛みへ変わる。
.
167
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:18:30 ID:tZMFrB.s0
(#´メω・`)「はああああああッ!!!」
(; ∋ )「おおおおおおおおお!!!」
渚本介の力が更に増していく。
手首が軋む。今にも折れてしまいそうだ。
いや、渚本介は折るつもりなのだろう。
力で抵抗するために上がっていた体温が、急激に下がる。
骨が、曲がってはいけない方向に曲がっていく──
(; ∋ )「──降参だ!!」
(´メω・`)「!!」
狗久流の抵抗が、消えた。
ゆっくりと、渚本介が手を離す。
.
168
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:19:25 ID:tZMFrB.s0
(; ∋ )「ま、参った…… 降参…する……」
力の抜けた両手を、地面に捨てるかのように下ろし。
狗久流は、負けを認めた。
項垂れたまま、大量の汗をかきながら、肩で息をしている。
(´メω・`)「…潔し」
強敵だった。
痺れた両手をはたき、虎恍丸を腰に差す。
狗久流の方を見ると、同じ体制のままだった。
どうやら完全に心を折ることに成功したようだ。
渚本介が、再度近づく。
(´メω・`)「答えろ。ブーンはどこに連れ去られた。何をする気だ」
(; ∋ )「…あの南蛮人のことか」
169
:
名も無きAAのようです
:2018/08/28(火) 20:20:21 ID:tZMFrB.s0
(; ∋ )「助けるつもりなら… 急げ、あいつは間もなく殺される」
(´メω・`)「場所は」
(; ∋ )「あいつは──」
──八尾井山にいる。
渚本介の背中に、冷たい汗が走った。
第六話 終
170
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 09:15:36 ID:4h0B8VtA0
きてたー!乙乙
171
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:01:37 ID:diF.uzzI0
ありがとうございます!
今日も投下しますー
172
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:03:24 ID:diF.uzzI0
暗い夜道を進み、道が開けた頃。
月明かりに照らされて、見覚えのありすぎる光景が見えてきた。
(;^ω^)(あれは…八尾井山かお?)
聖地・八尾井山。
空流のもと、光世真宗の本殿が構えてある場所。
(;^ω^)(なんで八尾井山に向かってるんだお…)
何やら騒がしい。大勢の声が八尾井山から聞こえる。
争うような大勢の声。
嫌な予感が、ブーンの脳裏を過ぎる。
まさか。
吹連勢による攻撃が始まってるのだとしたら。
八尾井山焼き討ちが、既に始まっているのなら。
(;^ω^)(空流さん…!)
173
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:04:06 ID:diF.uzzI0
( `ー´)「あれが目的地や。南蛮人」
ずっと同じ馬に乗っている男が声を掛ける。
(;^ω^)「…八尾井山で、何が起きてるんですかお」
恐る恐る、ブーンが問う。
あれだけ喋り好きだった男は、何も答えなかった。
ブーンの額に、焦りの色が見え始める。
──空流が、危ない。
.
174
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:05:45 ID:diF.uzzI0
第七話
「刀無き戦い」
──
庭園の柵を乗り越える。
他の兵士達に見つからないように、という考えからだったが、渚本介はすぐにある違和感に気付いた。
(´メω・`)(静かすぎる)
そもそも兵士なんていないかのように、周りが静かなのだ。
もし、狗久流の言うことが本当ならば。
ブーンは八尾井山に向かっていると言っていたが、他の兵士も、皆向っているとしたら。
「八尾井山焼き討ち」という事件が起こるのは、まさに今日なのかもしれない。
(´メω・`)(急がねば……!)
八尾井山の本殿に居た時、吹連勢が近日中に攻撃を仕掛ける気配など、微塵も感じなかった。
つまり、奇襲なのだ。
光世真宗はすぐに落ちてしまうだろう。
光世真宗が落ちれば、出麗の身が危険だ。
何より、ブーンの命が、危ない。
175
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:07:06 ID:diF.uzzI0
無人の城門を抜け、馬を止めてあった場所に走る。
幸い、二頭の馬は誰にも見つからずにいたようだ。
渚本介の姿を見るなり、二頭は体を揺らしながら寄りかかってきた。
自分の馬に飛び乗り、ブーンが乗ってきた馬の綱を外す。
何も背負わないその背中を、渚本介は優しく撫でた。
(´メω・`)「短い間だったが、ありがとう。お前のお蔭で旅は順調に終わった」
▼・ェ・▼ブルルッ
(´メω・`)「時間がない。俺はもう行くが…お前は自由だ。自然に戻るも良し、二茶根留に戻るも良し」
(´メω・`)「……さらばだ」
▼・ェ・▼…
不思議そうな目を渚本介に向ける。
渚本介は背を向け進みだした。
(´メω・`)「ハアッ!」
自分の馬を走らせる。
月明かりが強いおかげで、視界は悪くない。
ブーンの乗っていた馬は、そこから動く様子がなかった。
──
.
176
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:09:59 ID:diF.uzzI0
──
山道を登る。
山頂に近づくに連れ、騒がしさは増していった。
しかし、この騒がしさはなんだろう。
争うような声だと思っていたが、何か違う気がする。
やがて、ブーンは馬から降ろされ、同じ兵士たちに囲まれながら歩かされる。
(;^ω^)(…これからどうなるんだお)
不安はある。
そもそも、何故自分だけが八尾井山に連れてこられてるのかわからないのだ。
いきなり殺される可能性だってある。
しかし、ブーンはまだ何もされていない。それが返って不気味だった。
不気味な点はもう一つある。
吹連にとって、八尾井山は敵地のはずだ。
なのに、何の障害もなく──まるで敵などいないかのように、スムーズに進んでいく。
177
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:12:41 ID:diF.uzzI0
(;^ω^)(誰からも攻撃されないということは…)
空流が危険を察知して、全員で逃げたのか。
それとも、既に八尾井山は落とされているのか。
もちろん、前者であって欲しい。
そのまま本殿に入り、廊下の奥に進む。
奥の部屋は、確か空流の部屋だ。
(;^ω^)(空流さん……)
無事でいてほしい。逃げていてほしい。
少なくとも捕まっていないことだけを祈りつつ、歩き続ける。
( `ー´)「着いたぞい。ここや」
(;^ω^)「……」
( `ー´)「突っ立ってねえで、入れや」
(;^ω^)「のわっ!」
178
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:13:27 ID:diF.uzzI0
背中を押され、部屋に入るよう促される。
襖を開け、一歩中に踏み込んだ。
(;゚ω゚)「え……」
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪える。
なんだ。
何が起こった。
必死に頭を整理しようとするも、ブーンが理解できることなんか何一つなかった。
ζ(゚ー゚;ζ「ぶ、ブーン…」
中に居たのは、両手足を縛られ、泣きそうな目を向ける出麗と。
.
179
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:14:26 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「よく来たな、ブーン」
──その隣で悠々と座る、空流の姿だった。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:15:33 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「……なん、で」
言葉が出てこない。
何故そこにいる。
何故出麗が拘束されている。
何故、敵の目の前で笑っている。
素直空流。光世真宗。八尾井山。
渚本介と共に守るはずの存在が、まるで──
(;゚ω゚)「く、空流さん、あなたは…」
──まるで、吹連側に寝返ったかのように。
.
181
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:16:36 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「出麗から聞いたよ。お前、未来の日本から来たらしいな」
寒気のするほど美しい笑顔が、ブーンに向けられている。
川 ゚ー゚)「南蛮人のような恰好も、ぎたーの存在も、全部合点がいったよ。お前は──」
(;゚ω゚)「う、うるさいお!!」
思わず、叫ぶ。
空流の言葉が止まった。だが、その余裕のある表情は崩れない。
(;゚ω゚)「なんなんだお! どういうことだお!! 何で、お前が、」
川 ゚ -゚)「まだ分からないのか」
空気が一変する。
空流の表情から、笑みが消えた。
川 ゚ -゚)「吹連と光世真宗は、最初から敵対などしていなかった」
川 ゚ -゚)「天野が破れ、吹連が二茶根留攻めに失敗したのち、我々は天下統一のため結託した」
川 ゚ -゚)「我々の目的は同じだったからだ。この国を、この大地を治めるほどの、力が欲しかった」
182
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:17:53 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「だが、その為にはやはり二茶根留が邪魔だ。特に、天野を倒した実績と、あの戦魔の存在がな」
川 ゚ -゚)「だから、まず我々は敵対しているフリをした。戦魔が光世真宗の味方つく為にな」
川 ゚ -゚)「単独行動を好むあの戦魔なら、それでまず交渉をとると踏んだからだ」
(;゚ω゚)「…でも」
混乱した頭で必死に考える。
その流れだと、単独行動を取る渚本介を殺し、大軍で二茶根留に攻め入るつもりだったというところだろう。
だが、わからないことがまだある。
(;゚ω゚)「でも、なぜ僕と渚本介さんを分けたんだお」
川 ゚ -゚)「一つだけ予想外のことが起きたんだ」
空流が即答する。
その瞳は、ブーンを捕らえて離さない。
川 ゚ -゚)「──お前の存在だよ、ブーン」
.
183
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:19:02 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「…え?」
川 ゚ -゚)「お前の存在だけが予想外だった。どう対処していいかもわからなかった」
川 ゚ -゚)「どんな役割で、何故あの戦魔と組んでいるのかも知りたかった」
川 ゚ -゚)「それを知るにはちょうど良い材料もあったしな」
(;゚ω゚)「……出麗のことかお」
出麗の方を見る。
泣きそうな顔は変わらない。空流とブーンの顔を何度も見ている。
川 ゚ -゚)「そうだ。それに、戦魔とはどうしても一騎打ちをしたいという馬鹿がいてな。今頃、戦いの最中だと思うが…」
川 ゚ -゚)「まあ、それに勝とうが負けようが、戦魔はどうせ死ぬ。私の興味はそこじゃない」
空流の口角が上がる。
川 ゚ー゚)「未来から来たと言ったな。未来では音楽で生活していくための努力をしてるんだとか」
(;゚ω゚)「だ、だったら何だと言うんだお!」
184
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:20:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「簡単だ。私の配下に就け」
思考が、止まった。
(;゚ω゚)「……は?」
川 ゚ー゚)「私は琴を教える立場でもある。天下統一の目的は、この地すべてに素直流の琴を広めたいというのもあるんだ」
川 ゚ー゚)「だが、私の世界観だけだと音楽は固くなる。琴には別の捉え方が必要だと思ってたところなんだ」
川 ゚ー゚)「ぎたーの音色、お前の演奏。あれは見事だった。私の配下に就き、私にその全てを伝授しろ」
(;゚ω゚)「い、嫌に決まってるお!」
ほとんど反射的に、ブーンが応える。
(;゚ω゚)「なんで、お、お前なんかの為に、僕がギターを教えなきゃいけないんだお! そもそも、僕はそんな事の為に来たわけじゃないお!!」
川 ゚ -゚)「…断るつもりか?」
(;゚ω゚)「当然だお!!」
185
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:21:03 ID:diF.uzzI0
ブーンにとって、もはや空流は裏切り者の極悪人だった。
そんな奴に関わりたくない。関わるべきではない。
第一、ブーンは出麗を救うために、この時代に来たのだ。
川 ゚ -゚)「なれば用済みだ。お前を殺し、出麗を殺し、これから二茶根留に攻め入る」
(;゚ω゚)「──!!」
川 ゚ -゚)「根野。こいつを始末しろ」
ブーンの後方へ、空流が声をかける。
思わず後ろに目を向ける。
(;`ー´)「………おいらが、ですかい」
根野と呼ばれた男は、此処にくる道中、ブーンの話し相手になった男だった。
.
186
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「ああ。早くしろ。戦魔への対策もしないといけないからな」
(;`ー´)「……」
根野は、腰に差した刀を抜かず、固まっていた。
空流が苛立った視線を向ける。
川 ゚ -゚)「何をしてる。やれ」
(;`ー´)「……」
川 ゚ -゚)「やれと言っている」
(;`ー´)「……」
根野の腕が、唇が、微かに震えている。
川 ゚ -゚)「根野、一体どういう──」
(;`ー´)「で、できません!!」
.
187
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:53 ID:diF.uzzI0
空流の目が、僅かに見開いた。
ブーンと出麗は状況が掴めず固まっている。
川 ゚ -゚)「…私の命令に背くということが、どういうことか、わかっているだろう」
恐ろしいほど冷たい声を向ける。
あれだけ気さくだった根野の顔は真っ青だ。
それでも、精一杯、抵抗する。
(;`ー´)「できません…だ、だって」
震える手を握りしめ、根野ははっきりと言い切った。
(;`ー´)「だって、こいつ、音楽が好きやと言ってました」
川 ゚ -゚)「──は?」
ζ(゚ー゚;ζ「?」
(;゚ω゚)「え…」
全員が全員、固まった。
誰も理解が追いついていないといった様子だ。
188
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:24:09 ID:diF.uzzI0
(;`ー´)「お、おいら、頼んでもねえのに武家に生まれて、好きでもねえ刀や槍の練習ばっかさせられてたんや」
(;`ー´)「嫌やったよ。何度人生をやり直したいと思ったか、数えらんねえくらいや。みんなそうだと思ってた。でも…」
根野がブーンを見る。
固まるブーンと目が合うと、無理やり笑顔を作った。
(;`ー´)「…でも、こいつ、生まれてからずっと続けてた音楽を、好きやと言いました」
(;`ー´)「この世界に、こんなこと言えるやつが、一体どれほどいることか。 少なくともおいらは初めてや」
(;`ー´)「だから、こんな勿体ないやつ、こんな勿体ない人生を、おいらが終わらせたくありません! 少なくとも──」
(;`ー´)「──あ、あんたよりは、こいつの方が立派や!」
静まり返る。
震える根野か、カチカチと歯を鳴らす音が聞こえる。
川 ゚ -゚)「…言いたいことは、それだけか」
189
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:25:11 ID:diF.uzzI0
空流が静かに立ち上がる。
根野の元へ、ゆっくりと歩き出す。
ブーンは思わず距離を取った。
前を向いたまま震える根野。
その周りを、空流が歩く。
川 ゚ -゚)「失望したよ。お前、結局奴らと同じなんだな」
空流が根野の背後に来た途端。
懐刀で、根野の首を切り裂いた。
(; ー )「カッ……」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃああああっ!!?」
(;゚ω゚)「………」
叫び声を上げる出麗。
声が出ないブーン。
空流だけが、怒気を含んだ冷静な声を漏らす。
190
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:02 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「結局同じだ。百合町を担わせた山田竜兵衛も、武士道とやらに拘る堂土狗久流も、糞の役にも立たない駒だ」
川 ゚ -゚)「根野。お前は少々話好きなだけで、従順な部下だと思っていた。だが結局これだ」
ため息。
人の命を何とも思わない態度が、目に見えてわかる。
ζ;ー;*ζ「し、師匠、どうして…」
出麗の目から涙が溢れる。
絶望か。裏切りへのショックか。
血の滴る懐刀を握り、空流が出麗のもとへと歩き出した。
.
191
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:53 ID:diF.uzzI0
ζ;ー;*ζ「やだ、やだ、助けて…」
川 ゚ -゚)「弟子のよしみだ。苦痛なく殺してやる」
ζ;ー;*ζ「やめて、お願い、助けて……ブーン…」
( ω )「………」
ブーンは未だ固まっていた。
様々な思いが、記憶が、ブーンの中を駆け巡っていく。
戦を止める為、心を削って光世札を流通させた、山田竜兵衛。
そのせいで、居場所を失って傷付いた、斉藤又武貴。
自分を慕う出麗も、本気で味方として行動した渚本介も。
そして、正義感から勇気を振り絞った、根野も。
──全て、利用していただけだったのか。
.
192
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:27:51 ID:diF.uzzI0
(# ω )「待つお!!!」
叫ぶ。
ピクリと肩を跳ねさせ、空流はゆっくりと振り向いた。
川 ゚ -゚)「何だ。お前から死にたいのか?」
(# ω )「僕を配下にしたいと、そう言ったおね」
空流が片眉を上げる。
川 ゚ -゚)「…確かに言ったが、今更それがどうした」
(# ω )「配下に就いてやってもいいお。ただし──」
.
193
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:29:11 ID:diF.uzzI0
勢い良く立ち上がり、声を上げる。
(# ω )「僕と勝負するお!! 僕に勝ったら配下にするなり殺すなり好きにするお!」
(# ω )「僕がお前に勝ったら、今すぐこの場から退いてもらうお!!」
川 ゚ -゚)「…勝負、だと?」
(# ω )「そうだお。僕と──」
怪訝な顔を向ける空流を睨む。
荷袋から飛び出たギターのネックを、無意識に握りしめた。
(# ω )「──音楽で、勝負するお」
第七話 終
194
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:30:35 ID:diF.uzzI0
以上っす!
毎日投下してましたけど次はちょっと時間あけます!
195
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:13:52 ID:k5kv6ozM0
空くって数日だよな!?数日なんだよな!?
よろしい、全裸で待とう!
めっちゃ続き気になる
196
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:49:01 ID:wqPu9D9.0
おま!!!おまえええええええええええええ!!!!!
ずっと待ってたんだぞこの野郎!!!!!!!!!
復活してくれてめっちゃ嬉しいぞ!!!!!!!
197
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:39:47 ID:bh8WsPgM0
>>195
ありがとうございます!
思ったより早くできました!
>>196
スマヌ…スマヌ…
期待を裏切らないよう頑張ります!
投下します!
198
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:40:30 ID:bh8WsPgM0
最近、映画『バタフライ・エフェクト』を思い出すことが増えた。
理由はよくわからない。
ただ、何となく、ふと考えてしまうのだ。
例えば、自分の先祖が結婚相手を間違えたり。
ちょっとしたすれ違いで運命の人に出会わなかったり。
結婚もしないまま人生を終えたり。
それだけで、自分という存在は無かったことになるかもしれないのだ。
『バタフライ・エフェクト』では、主人公が過去を操作することで、未来の凄惨な運命を変えようとした。
それを思い出すたびに、少し不安になるのだ。
有り得ない話だが、もし誰かが過去を操って、自分の運命を変えてしまったら。
運命どころか、自分の存在そのものに影響が出るとしたら。
ξ゚⊿゚)ξ(……私は、どうなっていたんだろう)
199
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:41:42 ID:bh8WsPgM0
就活に無意味さを感じるのは、自分のこれからの人生が、あまりにも見えてこないからだ。
まるで、近いうち、自分の存在が無かったことになりそうな気すらする。
妄想だと笑われるかもしれない。
だが、一つだけ、自分しか知り得ない事実がある。
時々、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
自分の名前を、忘れてしまうことがあるのだ。
──
200
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:42:52 ID:bh8WsPgM0
第八話
「歴史対決」
──
川 ゚ -゚)「お前と勝負だと?」
嘲笑。
空流は懐刀を振り、刃に付着していた血を飛ばした。
川 ゚ -゚)「お前如きの命一つに、二茶根留攻めを、天下統一を賭けろというのか」
川 ゚ -゚)「どうにも釣り合う気がしないな。だが…」
懐刀を布で拭く。
慣れた手付きだ。何度も使った経験があるのだろう。
鋭い視線が、ブーンに向いた。
川 ゚ -゚)「素直流の琴を進化させ、天下に広める為には、お前の…未来の音楽理論や技術が欲しいのも事実だ」
川 ゚ -゚)「面白い。お前の喧嘩を、買ってやろうではないか」
( ^ω^)「…決まりだお」
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン!!」
201
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:43:57 ID:bh8WsPgM0
慌てた様子の出麗が、声を上げる。
ζ(゚ー゚;ζ「師匠は…素直空流は、音楽界では知らぬ者がいない程の琴奏者なの!」
ζ(゚ー゚;ζ「琴最大の素直流、その元帥よ!? 私なんかじゃ足元にも及ばない! 無茶よブーン!」
出麗も名の知れた琴奏者だ。その師匠というのだから、よっぽど大物なのだろう。
光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥。
確かに天下統一でも出来そうな立派な肩書きだ。
出麗の言う事もわかる。無茶な勝負かもしれない。
だが。
( ^ω^)「知ったこっちゃないお。僕はこの極悪人が、許せないだけだお」
ブーンにとって、そんなことはどうでも良かった。
こいつを止めるには、音楽しかない。
音楽勝負で、心を折るほど圧倒的に勝つしかない。
それだけが狙いだった。
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン……」
川 ゚ -゚)「私を相手に、大した自信じゃないか」
202
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:44:42 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「それで、音楽でどう勝負するつもりだ」
( ^ω^)「シックスティーン・バースだお」
ブーンが応える。
空流と出麗が首を傾げた。
( ^ω^)「ジャズなんかでよくある、ソロの掛け合いだお。南蛮式の楽譜は知ってるかお?」
川 ゚ -゚)「ああ。横書きのやつだな?」
( ^ω^)「そうだお。まず一人が楽譜の16小節分弾く、続けて相手が16小節弾く、というのを繰り返すんだお」
川 ゚ -゚)「勝敗はどう決める」
( ^ω^)「流れに乗って弾けなくなったら。つまり──」
ブーンが、空流を睨んだ。
これが狙いだ、というのを空流に解からせる為に。
( ^ω^)「──心が屈して、演奏できなくなったら、負けだお」
203
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:46:16 ID:bh8WsPgM0
本来、音楽に直接勝負という概念は無い。
派閥の対立やカテゴリーの分裂、競争などは一般的にある話だが、
対決し勝ち負けを決めるというのは難しい。
例えば現代で行われるギターやベースやドラムバトル。DJやバンド対決。
それらの勝敗の決め方は、大抵「客の盛り上がり」か「審査員の判断」だ。
今この場には客もいなければ、公平な判断ができる第三者もいない。
だからこそ、勝敗の決め方は本人達に委ねられる。
現代で言うなら、ラップのフリースタイルバトルに近い。通常の掛け合いではあり得ない16小節という長さにしたのも、バトルが成立しやすくするためだ。
流れに乗れなかったら。音が出てこなかったら。心が屈したら。それが勝敗になる。
空流はもちろん初めてのことだろう。
ブーンも未経験のことだ。
川 ゚ -゚)「…なるほどな。演奏技術だけでなく、流れの読みや即興力が問われるわけか。面白い」
( ^ω^)「お前は琴で、僕はギターを使うお。お前から始めていいお」
川 ゚ -゚)「曲は、何でもいいんだな?」
空流が部屋の外にいる見張りの兵達を呼ぶ。
根野の死体を片付けて琴を持ってくるように命じると、彼らは急ぎ足で取りかかった。
204
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:47:22 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「…数年前、ある南蛮船が近くに漂流してきた」
座布団に座り、突然話し出した空流。
ブーンも対面して座り、ギターを膝に乗せる。
川 ゚ -゚)「彼らの持ち物の中に、非常に興味深いものがあってな」
空流の前に、琴が丁寧に置かれた。
兵達がそそくさと退室する。
空流は琴爪を付けながら話を続けた。
川 ゚ -゚)「楽譜だった。琴の楽譜とは違い、横書きで何やら記号だらけだった」
川 ゚ -゚)「私はそれを理解するために、彼らを留め、楽譜の読み方を習った」
川 ゚ -゚)「一年以上もかかってしまったよ。それで得た曲は、実に面白かった」
.
205
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:48:12 ID:bh8WsPgM0
指を構える。
驚くほど綺麗な姿勢。
人を殺したばかりとは思えないほどの、綺麗な指。
世界が、止まったように感じた。
川 ゚ -゚)「この神々しき旋律。まさに光世真宗に相応しい」
美しい音色が、室内に響き渡った。
.
206
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:50:08 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(外国音楽で仕掛けてくるとは…)
一音一音が、綺麗に伸びていく。
音自体の輪郭は非常にはっきりしている。琴の特徴だろう。
はっとするほど綺麗な音だ。
しかし、すぐ違和感に気付いた。
音の伸びはあるものの、音数そのものが非常に少ないのだ。
日本の古典的な音楽は、音数の多い流れるような曲、というイメージがブーンにはあった。
しかし、空流が今弾いてるのは本来の和製音楽ではないとは言え、これはいくらなんでも少なすぎる。
シックスティーン・バースとは言ったが、これでは掴みにくい。
リズムも難しい。
(;^ω^)(何の曲かは知らないけど、こっちも間伸びするような曲がいいのかお…)
しかし、ハードロックを好んで聴いていたブーンは、そのレパートリーは少ない。
そもそも、二人の音楽性には約500年のギャップがあるのだ。
207
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:51:24 ID:bh8WsPgM0
それでも、リズムをどうにか掴んだブーン。
そろそろタッチされる頃だ。
曲の雰囲気やコンセプトは、結局よくわからなかった。
しかし空流は適当に弾いてるわけではない。それだけは確かだ。
曲としては完成しているのがわかる。だが、とにかく掴みにくい。
ブーンを乗らせない為の、空流の狙いなのだろうか。
( ^ω^)(…とりあえず、耳コピで大まかな流れを弾いて、ベース音で主導権を握るお)
川 ゚ー゚)「……」
最後に丁寧な音を鳴らし、ブーンの方を見る。
さあ、お前の番だ。
そう言いたげな目を向ける。うっすらと笑みを浮かべながら。
琴の余韻が響き渡る中、頭の中でリズムに乗り、ブーンはピックでなく指を構えた。
.
208
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:15 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(行くお!)
まずは、楽器が変わることによるわだかまりを消し飛ばすため、開放弦を鳴らす。
そして、空流の弾いた曲に近い高音に加え、4、5、6弦を親指で刻むようなベース音を作っていく。
川 ゚ -゚)「……」
空流の顔つきが変わった。
自分の弾いた曲がその場で再解釈されて返されるのは、初めてなのだろうか。
少なからず、驚いているようだった。
( ^ω^)(……あれ?)
弾きながら、また違和感。
ベース音が作りやすいのだ。
まるで、和音をただ丁寧に解いたような。
ブーンの弾き慣れたアルペジオが、何も考えずとも出てくる。
そうなれば、あとは簡単だ。
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209
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:58 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(主導権はこっちのもんだお!)
伸びる高音に、ベース音を刻み続ける。
リズムも取りやすい為、曲としての輪郭が明確になってくる。
川 ゚ -゚)「……」
空流は無表情でその様子を見ていた。
焦る様子は全くない。
ブーンの16小節が終わりに近づく。
川 ゚ -゚)「…勉強になったよ。これが未来の音楽か」
空流の番。
ブーンに慣い、同じような伸びのある高音に加え、弾くような低音を入れる。
琴の迫力に絶妙にマッチした音色だ。
低音が加わり、曲の全体像が見えてきた。
立体感を帯びたその曲は、まるで──
.
210
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:54:10 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(──ルネサンス音楽かお?)
ルネサンス音楽。
ヨーロッパのルネサンス期に発祥した音楽だ。
宗教歌・聖歌として発展したものが多く、主に教会音楽として広まったと言われている。
やたら伸びのある高音にもこれで納得いく。宗教歌のメロディによくある曲の構成だ。
「南蛮船に乗っていた」というのは、恐らく宣教師か何かだろう。
それにしても、西洋音楽の知識が全く無いはずの空流が、リュートやオルガンといった西洋楽器で奏でる音楽を、琴一つで表現するとは。
それも僅か一年で。
外国の楽譜を読み、尚且つ自分の技術に当てはめたのは、この時代なら恐らく空流が初めてだろう、
川 ゚ -゚)「……未来には、きっと私の想像を超えるような音楽や楽器が溢れているんだろう?」
( ^ω^)「!」
空流が演奏しながら話し出す。
音色が、変わった。
.
211
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:55:29 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「正直、私は今喜んでいるんだ。未来の音楽と、私の全てを賭けて戦っているわけだからな」
神々しい旋律は、より高揚感の出る旋律へ。
川 ゚ -゚)「来いブーン。お前の、未来の全てを、私にぶつけてみろ。素直流の最強を示す良い機会だ」
いや、音色だけでない。曲そのものが変わった。
まるで、音楽のカテゴリー自体が変わったような。
不穏な流れの中、ブーンの番が来た。
( ^ω^)「…浮かれてられるのも、今の内だお」
空流は次の番で何かを仕掛けてくる。旋律の不穏さでわかる。
それを払拭するため、ブーンは違った趣向の流れを鳴らし始めた。
仕掛けさせる前に、技術で上回ってやる。
.
212
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:56:24 ID:bh8WsPgM0
ベース音を刻みながら、音数を極端に増やす。
その旋律は、より芸術的に。より現代的に。
ブーンは、ある曲を勝負に出した。
( ^ω^)(行くお!)
──東京事変『丸の内サディスティック』のソロギターアレンジ。
ジャズやポップスの色が強いこの曲調は、テンポをどれだけ落としても、強烈なほどメロディアスだ。
恐らくは空流が見たことのない演奏技術、感じたことのない世界観だろう。
( ^ω^)(お望み通り、これが未来のミクスチャーだお!)
川 ゚ -゚)「……」
213
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:57:11 ID:bh8WsPgM0
空流の表情に変化はない。
だが、ブーンの演奏から目が離せないようだった。
やがて、16小節の終わりが近づく。
空流はまだ動かない。
( ^ω^)(決まったかお…?)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)
(;^ω^)「!」
.
214
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:58:24 ID:bh8WsPgM0
素敵な笑みを浮かべる空流。
ブーンの16小節が終わった瞬間、最初のブーンのように、空流は開放弦を大袈裟に鳴らした。
(;^ω^)(来る!!)
何かを仕掛けてくるのはわかってた。
そして、それが始まる。
直後、ブーンは全身の毛が逆立つのを感じた。
(;゚ω゚)「…そんな、バカな……」
思わず声を漏らす。
バカな。ありえない。
一体どうなっている。
川 ゚ー゚)「漂着した南蛮船の奴らを、私は数年留めた。私が作った曲を南蛮にも広めてもらう為にな」
.
215
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:59:20 ID:bh8WsPgM0
またも、演奏しながら話す空流。
空流が始めたそれは、聴き覚えのありすぎる曲だった。
川 ゚ー゚)「彼らにその曲を授け、ちょうど先日出航させたんだ。どう広まるか楽しみにしてたが…」
川 ゚ー゚)「……その反応を見る限り、未来にも継がれる曲と成ったようだな」
(;゚ω゚)「……」
何も言い返せない。
だが、空流の言うことが事実なら。
これが事実なら。
恐らく、世界史に影響するほどの事態だ。
空流の弾くその曲を、改めて言葉にする。
.
216
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:00:03 ID:bh8WsPgM0
(;゚ω゚)「それは……『カノン』、かお」
ヨハン・パッヘルベルが作曲したと言われる名曲、『カノン』。
世界中で愛される、バロック音楽の代表的な曲の一つだ。
それを、空流が、作曲した?
(;゚ω゚)「そんなはずが無いお…」
そう、そんなはずが無い。
『カノン』が作曲されたのは、1680年頃と言われているのだ。もちろんこの1499年にバロック音楽などそもそも存在しない。
だからこそ、空流が作曲したなど、あり得ない。
川 ゚ー゚)「……」
(;゚ω゚)(でも…)
だが、実際に、空流は目の前で『カノン』を弾いている。
.
217
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:05 ID:bh8WsPgM0
もし、空流の言うことが事実なら。
空流の作曲した楽譜が、南蛮船に乗って無事ヨーロッパに着いたのなら。
その楽譜を、およそ200年後に誰かが発掘したのなら。
発掘した楽譜を、パッヘルベルが再現できたというのなら。
空流は、当時の西洋音楽どころか、バロック音楽をも先駆けた日本の琴奏者であり。
音楽史上でも、トップクラスの作曲家とも言える。
川 ゚ー゚)「……」
演奏は続く。
ブーンは自らの両頬を叩き、無理やり気持ちを切り替えた。
.
218
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:59 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)「……邦楽アーティストがよくカノンを取り入れる理由が、今ようやくわかったお」
皮肉を込めて呟く。
が、空流に完全に気圧されてどうしていいかわからない。
空流の16小節が、もうすぐ終わってしまう。
(;^ω^)(ど、どうすればいいんだお…)
どうすればいい。
この最強の作曲家、最強の琴奏者を、圧倒する為には、一体どうすればいい。
この勝負に敗れてしまえば、自分は本当に空流の配下になるかもしれない。
そうなれば、もう元の時代には戻れないのだろうか。
出麗を救うことも、叶わないのだろうか。
.
219
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:05 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(……いや、負けるわけにはいかないお)
負けるわけにはいかない。
空流を、音楽で、真っ向から倒さねばならない。
ネックを握りしめて考える。
『カノン』に勝る、方法を。曲を。
頭の中に残っているレパートリーを、全て漁っていく。
(;^ω^)(……あ!)
あった。
素直空流に、勝てるかもしれない曲が。
.
220
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:46 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ー゚)「さあ、来い」
空流の勝ち誇った笑みが、ブーンに向いた。
ピックを取り、空流を睨み返す。
16小節が、終わった。
( ^ω^)「…この曲は、僕が練習した中でも、最も難しかった曲だお」
空流の『カノン』の余韻を、ギターで引き継ぐ。
ピッキングの激しいミュートで、新たなリズム感と躍動感を作っていく。
空流の顔から、笑みが消えた。
( ^ω^)「素直空流、お望み通り聴かせてやるお!! これが、僕の全て──」
.
221
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:09 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)「──『カノンロック』だお!!」
川; ゚ -゚)「!?」
空流が一瞬で青ざめる。
何が起きたか、すぐに理解できたようだ。
『カノンロック』。
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
バロック音楽をメタルアレンジすること自体は、昔からあった手法だ。
だが、『カノンロック』はその完成度の高さ、演奏力、親しみやすさなどが評価され、一躍有名になった。
一時は、世界中のギタリストが曲にアレンジを加え動画投稿するという流行を巻き起こしたほどだ。
細かい旋律。圧倒的に多い音数。
それでいて丁寧で、原曲の尊厳を保つアレンジ。
.
222
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:52 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)(どうなっている…!)
狼狽する。
自分が数年かけて作った曲を。全身全霊をかけて作った作品を。
ブーンは、より優雅に、より激しく。
より新しく弾いている。
ビブラート、チョーキング、ハンマリング、タッピング。
この時代にはない技術を駆使し、ギターを鳴らしていく。
ζ(゚ー゚;ζ「な、何、あの弾き方…」
川; ゚ -゚)「……」
見たことないほど細かく動く左手。
見えないほど速く動く右手。
それでいて、原曲の形は、純粋な程に保たれている。
.
223
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:06:51 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)「…これが、未来か」
ブーンの16小節の終わりが近づく。
だが、どうしていいかわからない。
両手が震える。
手汗が、琴爪に伝っていく。
弾かなければ。
生涯最高の曲をブーンは返した。それをさらに圧し返さねば。
( ^ω^)「──さあ、お前の番だお!」
圧し返さねば。
.
224
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:07:38 ID:bh8WsPgM0
やがて、その震える指先から。
琴爪が、静かに落ちていった。
第八話 終
.
225
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:08:24 ID:bh8WsPgM0
今回は以上です!iPhoneが熱い!ありがとうございました!
226
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:28:49 ID:bh8WsPgM0
あ、やべ
>>221
の
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
を、
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、『カノン』のメタルアレンジの曲だ。
に変えたい!!読んでくださった方、脳内で変えてください!
227
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:53:13 ID:bh8WsPgM0
やべえ、本当にすんません…
>>214
素敵な→不敵な
です。
228
:
名も無きAAのようです
:2018/09/02(日) 16:09:21 ID:hcVKGRFE0
誠に勝手ながら、ファイナル板に移動しました。
最初から投下し直しています。
よろしくお願いします!
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1535846063/l50
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