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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot
1
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/26(木) 05:30:51 ID:ytUFOiFEO
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.
106
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:51:35 ID:GXwXwpuY0
(@ゝ@)「ギュウキは初期のモデルとしては、戦闘用義手の中でもずば抜けて頑丈だ。
当時のバウンティハンター達なんかがよく愛用していた。あの頃は、ウチに来る奴らの大半がこれだったな」
マイクロドライバーを、鉄板装甲を止めるネジに当てて、医師はスイッチを入れる。
蚊の羽音に似た微細な回転音に、俺は束の間歯医者のソレとの相違点に思いを馳せた。
(@ゝ@)「しかしまあ、サイバネ技術の進歩に伴って、頑丈さと繊細を併せ持った義手が次々と開発されていくに従い、こいつを見る事も少なくなっていった。
実際、ギュウキは戦闘の事だけを考えて設計されているから、握力調整なんかがかなり大雑把だ」
('A`)「今年まででもう二十個はグラスを握りつぶしたぜ」
(@ゝ@)「だろう?まあ、開発元がS&Kじゃあな。あそこは元々ガンスミスだ。
あそこの銃との有線式ターゲット機構との互換性だとかは確かにいいが……。
逆に言えば、それだけだ。今の時代、戦闘用義手という括りで選ぶにしても、もっといいものは幾らでもある」
('A`)「財布と相談した結果だ。それは前にも言っただろう?」
(@ゝ@)「守銭奴ここに極まれり、ってか。確かに、お前さんの相棒はそこら辺厳しそうだからな」
鉄板装甲を無造作に剥がしながら、サイバネ医師は鼻で笑う。
それについては、あの鋼鉄の処女においても「金より体の事を考えろ」という言質を頂いているが、それを口にしたらしたで、面倒になるのは目に見えていた。
107
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:52:15 ID:GXwXwpuY0
鉄板を全て剥がし終えたサイバネ医師は、染みだらけの白衣のポケットからペンライトを取り出して、俺の左腕の中身を左右に照らす。
その口から、呆れたような溜息が洩れでた。
(@ゝ@)「ヒュー。こいつぁおったまげた。こんなんで良く一年も持ったな。錆やら液漏れやらでどろっどろだ。ちょっとしたゴアだな、こりゃ」
('A`)「治るのか?」
(@ゝ@)「――治る事は治るさ。ただ、なにぶんパーツが旧式でね。揃うまで少しばかり待って貰う事になる」
('A`)「幾ら掛る?」
(@ゝ@)「施術料で二十万。パーツの料金も合わせて七十万か」
('A`)「サービスするんじゃなかったのか」
(@ゝ@)「サービス込みでだ。ホントの所を言えば百万は最低でも貰っておきたい。
だが、あんたには嬢ちゃんの定期メンテで世話になってる。こっちも赤字覚悟だよ」
俺は苦い顔を作る。
七十万。決して少なくない出費だ。闇医者の事。無論、保険は降りない。
金で健康を買えるなら、と割り切るしかなさそうだった。
108
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:53:20 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……分った。それで頼む。パーツが揃うのは何時頃だ?」
(@ゝ@)「一週間、と言いたい所だが、こればっかりはどうなるか。互換性を無視すりゃ、三日と掛らないが。
あとで整備不良を訴えられちゃ、俺の沽券に関わるんでね」
('A`)「知った事かよ。一週間で用意しろ」
(@ゝ@)「ヘイ、口には気をつけな。これはお前さんの為でもあるんだ。
互換性を無視した結果、拒絶反応でニューロリジェクションを患いたかないだろう?」
語気を強めるサイバネ医師。
眠たげに垂れたその瞳には、有無を言わせぬ眼光が宿っていた。
('A`)「――オーライ、オーライ。俺が悪かった。お前さんに任せるよ。だからそうカッカすんな」
右手を上げて降参する。
サイバネ医師は肩を竦めると、マイクロドライバーを握って、鉄板装甲を留めに掛った。
(@ゝ@)「それでいい。お前さんはもうちょっと自分の身体を気遣う事だ。モルグに入るにはまだ早い。そうだろう?」
('A`)「――どうだかね。時たま、早い所コフィンで安らかに眠るのも悪くないと思う時があるよ」
(@ゝ@)「てめえの患者からそんな言葉を聞くのは些か悲しいね。そんなに人生は辛いか?」
('A`)「辛くない人生があるんなら聞かせて欲しいね。借金、借金、また借金。
それを返す為に下らねえ仕事を繰り返す。時々、何のために生きているんだか分らなくなる」
109
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:54:09 ID:GXwXwpuY0
(@ゝ@)「仕事があるうちが華だぜ。それと、もう一つコトワザがあってだな…なんて言ったか…馬鹿は考えない方がいい、みたいなよ」
('A`)「馬鹿の考え休むに似たり、か?」
(@ゝ@)「そう、それだ。――思うに、考えるだけ無駄なんだよ。人生ってのはな。
何で俺はこんな事をしているんだろう、とか、何で俺は生きているんだろうとか。
答えなんてでねえのに、無い知恵絞って考え過ぎる奴はごまんといるがよ。考えたら負けだよ」
('A`)「ハッ!お前に人生を語られるとは、俺も落ちぶれたな」
(@ゝ@)「俺も何でお前さんと人生相談なんかしてるのかと、さっきから疑問だったよ。――っとこれでよし」
最後のネジを留め終えて、サイバネ医師が鉄板装甲を軽く叩く。
手術台から降りてコートをはおりなすと、俺は彼と共に処置室を出た。
(@ゝ@)「なるたけ大急ぎで、伝手を当たってみるが、それなりに時間が掛る事は覚悟しといてくれ。揃い次第、連絡する」
('A`)「それまで俺はベッドの中で震えながら、人生について考えておくよ」
(@ゝ@)「お前さんも大概しつこい奴だな。そんなに悶々としてるんなら、気晴らしにパーっとやったらどうだ?だが、ドラッグは止めとけよ」
('A`)「そんな金があったら、事務所の返済に充てるよ」
(@ゝ@)「馬鹿野郎、俺への借金を先にしやがれ」
110
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:56:19 ID:GXwXwpuY0
軽口の応酬をそこで切り上げると、ハインリッヒを促して俺は施術所を後にする。
貸しビルと貸しビルの間、猫の通り道めいた細い路地に出た所で、肌にまとわりつくじめりとした湿気を感じ、俺は思わず頭上を仰いだ。
('A`)「こりゃ、一雨くるか?」
ツタめいてビルの壁を這うパイプや、エアコンの室外機の間から見える空は、相変わらず黒灰の分厚い雲に覆われているが、今は何時にも増してそれが低く垂れこめている。
そろそろ梅雨入りが近いのだと、今朝のニュースホロが言っていたのを思い出した。
('A`)「嫌な季節が近づいてきたな」
从 ゚∀从「メンテナンスの頻度も増えるな」
前にも似た様なやり取りをしたな、なんて事を考えながら首を戻すと、この狭苦しい路地に入ってくる人影が目に入った。
「あの野郎…俺がヘマしたからって、報酬をケチりやがって…ふざけやがって…畜生め……」
ぶつぶつと呟きながら、ふらふらとした足取りで歩いてくるその男のシルエットは、些か不格好だった。
具体的には、右の腕が左よりも随分と太く、長く、角ばっていた。
「反応速度か…?もう少し処理の速いチップに変えるか?…いや、増設パックで火薬の量を増やすべきか……」
くたびれた鼠色のトレンチコートの袖越しにでもわかる、その節くれだった右腕は間違いなくサイバネ義手だろう。
人体のバランスを欠きかけたその大きさから見ても、格納兵装が内臓されているのは明らかだ。
恐らくは、杭打ち機構か、ハンドキャノンだろうか。片腕で扱える範疇のギリギリといったところだ。
111
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:56:59 ID:GXwXwpuY0
「……おい、何見てンだよ」
俺の視線に気づいたのか、剣呑な響きで言いながら、男が俯けていた顔を上げる。
瞬間、脳裏を「二度ある事は三度ある」という言葉が過った。
( ´_ゝ§)「――って、もしかしてアンタ、あの時の!?」
驚きの声を上げるその男は、記憶が確かならば、かつての俺のクライアントだ。
(;´_ゝ§)「ま、まさかこんな所でアンタとまた会うなんてな…いやあ、偶然ってのは恐ろしいものだぜ……」
左のカメラアイを中心に配線が這った顔には、困惑と焦りが浮かんでいた。
(;´_ゝ§)「ホント偶然だ。また会うなんて、これっぽっちも――」
視線を右往左往させて、男は取り繕うように左の手を振る。
(;´_ゝ§)「イヤ、でも俺は感謝してるんだぜ。アンタがあの時見逃してくれたから、俺は立ち直る事が出来たんだ…それだけは言わしてくれ……」
卑屈な笑みが、その口元に浮かんだ。
(;´_ゝ§)「見てくれよ、これを。アンタがくれた金で義手に換えて、バウンティーハンターをやってるんだ。お、俺にしては、中々様になってるだろ?」
右の袖をたくって、男はその下の鋼の腕を見せる。
ごつごつとしたクロムメタルの装甲板が、西洋甲冑の籠手めいたシルエットを形成するそれは、二世代程前の戦闘用サイバネ義手「チャリオット」だ。
記憶が確かならば、その武骨な太腕の中には、単分子槍が格納されていて、それを火薬を使い掌からパイルバンカーの原理で打ち出すものな筈だ。
112
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:57:45 ID:GXwXwpuY0
(;´_ゝ§)「十万じゃ足らなかったから、借金をする事にはなったがよ…へへ…そんなのは屁でもねえさ……。
クスリに溺れるのはもう止めだ。社会復帰するのさ、俺ァ……」
一度言葉を区切ると、そこで男は自身の右腕をうっとりとした眼で見つめ、クロムメタルの表面を撫でる。
(;´_ゝ§)「あの時、お前さんにドヤされてよ…俺ァビビってた…実際、小便をちびりかけた。
――だがよ、それと同時に、痺れてたんだ。頭の後ろを、何かに殴りつけられたような、って言うだろう?あんな…へへ…そうさ」
右腕を見つめる男の口には、引きつった様な笑みが浮かんでいた。
(;´_ゝ§)「ま、まだまだ駆け出しだけどよ…何とかかんとか、食いつないで行けてるよ…へへ……。
もしかしたら、俺にはこういうのが向いているのかもしれねえ。今日も、新しいインプラントを増やしに来たのさ」
言いながら、男は俺の背後の闇サイバネ・クリニックを左の手で指差す。
そして、その指で首の後ろのニューロ・ジャックをほじくった。
引き抜かれた指の先には、黄色い油がべっとりとついていた。
(;´_ゝ§)「こ、ここまで来るのに色々あったがよ…人間、思ったよりも何とかなるもんだな……。
破れかぶれになりゃあ、出来ねえ事はねえって言うかよ…まあ、それもこれもアンタのお陰なんだがな」
俺は、肩を竦めた。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/07/27(金) 22:58:06 ID:d8uuIxvg0
おいおい今日もかよ
嬉しすぎてやばいぞ
114
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:58:35 ID:GXwXwpuY0
( ´_ゝ§)「もし…もしもだけどよ、アンタさえよけりゃ、今度奢らせてくれよ。
何だかんだ言って、アンタとはゆっくり話もした事が無かったし……。
それに、俺ァちゃんとした礼が言いてぇんだ。な?いいだろう?」
サイバネ置換していない方の男の瞳に、縋るような色が浮かぶ。
俺は、そのどんよりとした黒を暫くの間見つめていた。
やがて、俺は曖昧に頷いた。
( ´_ゝ§)「そ、そうか…ありがてぇ…ヘ、ヘへ…誰かと呑むなんて、ひ、久しぶりだな……そうか…そうか……」
安堵したように溜息をつくと、男はぎこちない笑みを浮かべる。
泣き笑いの様な、皺のよったその表情が、不思議と印象的だった。
( ´_ゝ§)「コレが、俺の端末のアドレスだ。飲みたくなったら、電話、くれよな」
鼠色のトレンチコートのポケットから、折れ曲がった名刺を取り出し、男は差し出す。
俺がそれに一瞥をくれて頷くのを確認してから、男は俺とすれ違い、闇クリニックの中へと消えていった。
从 ゚∀从「……」
無言で俺を見つめる仏頂面の相棒。
名刺をトレンチコートの内ポケットにしまい、俺は歩き出す。
鋼鉄の処女もまた、それに従った。
115
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 22:59:50 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「名刺は、捨てないのだな」
隣に並んだ相棒が、聞いてくる。
('A`)「ああ、そうみたいだな」
他人事めかして答えてから、空を見上げる。
どんよりとしたそこから雨粒が落ちてくるのを見て、俺達は足取りを速めた。
116
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:00:31 ID:GXwXwpuY0
#track-6
――饐えた臭いが鼻をつく。
もしも全身義体であったのならば、嗅覚のスイッチをオフにしている所だ。
('A`)「これで言うのは何度目か分らんが言わせてくれ。鼻がもげたら、換えの鼻ってつけられるか?」
傾いた冷蔵庫の上で、凝った肩を揉みながら弱音を吐く。
眼下に広がる粗大ゴミの山。
そこに腕を突っ込んでいた相棒が、振り返らずに言った。
从 ゚∀从「これで178度目になる台詞だが、言わせてもらおう。
かつての貴様の部屋と比べたら、ここは滅菌消毒した手術室みたいなものだ」
扇風機、冷蔵庫、自転車、タイヤ、電子看板、果ては貨物コンテナから小型ジャイロコプターまでもが転がる夢の島。
ニーソク区の港湾部、遥か太平洋を望む、出島のようなその鉄屑の島は、誰が呼んだか地域住民達からは「グレイブ・アイランド」なんて通称をつけられている。
港から何十キロと離れたこの小島は、かつてはゴミ処理船によって行き来がなされていたが、相次ぐ不法投棄の末、遂にはゴミで形作られた道によって、港と繋がってしまったというショッキングな逸話を誇る、不法投棄のメッカだ。
人工的な埋め立て工事を行ったわけでもなく、ただ、無数のゴミだけによって浮島めいた形を保っているその威容は「圧巻」の二文字で済ませられるものではない。
グレイブ・アイランド周辺の海底には、海面まで出てこないだけで、多くの粗大ゴミ達が暗礁めいて沈んでおり、近隣を航行する船などがこれで船底を擦って沈んだという話は枚挙にいとまがない。
そうして座礁した船でさえもが、この夢の島を形成する鉄の陸地となる事で、このグレイブ・アイランドはその面積を今なお拡大している。
海面からビルめいて垂直に屹立するタンカーの黒い船体や、その下に群がるようにして船腹を晒しているクルーザーなどを見れば、ここがニホンのサルガッソーと呼ばれるのも頷けた。
117
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:01:38 ID:GXwXwpuY0
('A`)「何か、使えそうな物は見つかったか?」
額の汗を拭いながら、冷蔵庫の上から両腕を使って慎重に降りる。
「電脳喫茶しゅらふ」と書かれた巨大なネオン看板の上に足を置けば、そのプラスチックパネルがみしりと音を立てて軋んだ。
从 ゚∀从「いや、何も――いや待て、これは……」
こちらに背を向けたまま、鉄屑の山に手を突っ込んでいたハインリッヒが、確信めいた声音と共にその腕を引き抜く。
ケーブルや海藻が巻きついた、何世代も前のターミナルの液晶ディスプレイが、その両手に握られていた。
从 ゚∀从「ハズレ、か」
無感情に言い捨てて、彼女は液晶ディスプレイを放り投げる。
そのまま再び、黙々とゴミ漁りに戻る彼女の、汚れたゴシック・ロリータ・ワンピースの背中を見て、俺は溜息が洩れるのを禁じ得なかった。
('A`)「まさか、この歳でゴミを漁るような生活を経験するなんて、思いもしなかったよ」
从 ゚∀从「経費削減の一環だ。そもそも、事務所の経営難の十割は貴様の浪費癖と甲斐性不全が原因だろう」
('A`)「それについては、全面的に謝罪するがな……」
それにしたって、グレイブ・アイランドくんだりまで来て、ゴミを漁らないといけないなどと考えれば、惨めにもなろうものだ。
118
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:02:36 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「ゴミ漁りと考えるから惨めなのだろう。スカベンジング、もしくはサルベージと言えばいい。
分りやすい所でリサイクルというのを採用するのもいいだろう」
('A`)「スカベンジングの方は英語になっただけだろ……」
懐からマルボロを取り出そうとして、持ってきた分は全て吸い終えてしまったことに気付く。
煙草が切れた以上、最早一分一秒でも早く帰りたかった。
無論、我が相棒がそのような怠慢を許すわけも無い。
千切れた義体の腕を検分しては、無言でそれを投げ捨てゴミの山と格闘するその背中から視線を外すと、辺りを見渡す。
何か適当な物でもないかと視線をさ迷わせていると、ズタズタになった日の丸の国旗の陰に、アップライトピアノを見つけた。
('A`)「ふむ、どれ」
煤けた日の丸国旗を取り払ってみれば、茶色の表面は思ったよりも綺麗だ。
試しに、鍵盤を叩いてみる。
くぐもってはいるが、修理に出せばまだまだ使えそうだった。
近くに転がっていた外部記憶端末の四角いボディを引っ張ってきてそれに腰かける。
鍵盤に右の手を乗せると、少し考えてから、唯一弾ける曲である所の、「ねこふんじゃった」を引いてみる事にした。
ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた
ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた
119
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:03:16 ID:GXwXwpuY0
('A`)「ははっ、意外と憶えているもんだな」
ふざけた歌詞だが、片手だけで弾けるというのを知った当時は、ただそれだけで画期的な事だと思っていた。
無論、きちんと弾くとなると左の手も使う事になる。
演奏を止めて、黒革の手袋に包まれた左の手を見やる。
未だ、修理が済んでいないとは言え、これといった支障は出ていない。
('A`)「……やれるか?」
恐る恐る、鍵盤の上に左の手を乗せて、曲の頭から弾き直す。
ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた
ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた
わるいねこめ、つめをきれ、やねをおりて、ひげをそれ
('A`)「おっ、おっ、いけるんじゃないのか?」
にゃーご、にゃーご、ねこかぶり、ねこなでごえで、あまえてる
ねこごめんなさい、ねこごめんなさい、ねこおどかしちゃってごめんな
――ばきりっ。
120
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:04:31 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……」
左の手の下で、鍵盤が砕け散り、白と黒の木屑と化している。
義手の動作不良という訳ではない。
調子に乗って弾いていたら、力加減を間違えた。
('A`)「やっぱ、楽器弾くのは無理そうだな」
从 ゚∀从「相棒にゴミ漁りを任せて自分は演奏ごっこか。良い御身分だな」
('A`)「サボタージュじゃないさ。もしも使えそうだったら、持って行って売り飛ばせるかと思ってよ」
从 ゚∀从「――それをか?」
鍵盤の砕けたアップライトピアノを顎で指して、相棒が尋ねる。
('A`)「偶発的な事故だ」
俺は肩を竦めてみせた。
同時に、懐で携帯端末が振動した。
('A`)「はい、こちらD&H探偵事務所」
('A`)「…ええ、ええ、はい…分りました」
('A`)「では、これから戻りますので、夕方頃という事で…はい、お待ちしております…」
通話を切り、懐にしまう。
相棒が、何時もの仏頂面でこちらを見ていた。
121
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:05:50 ID:GXwXwpuY0
('A`)「仕事が入った。さっさと戻ろうぜ」
从 ゚∀从「――思っていたんだが」
('A`)「ん?」
从 ゚∀从「矢張り、D&Hというのはいかがなものか」
('A`)「今更何を言っているんだか……」
やれやれと首を振り、ゴミの山の上を歩きだす。
ここから立ち去れるのならば、仕事であっても大歓迎だった。
122
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:07:12 ID:GXwXwpuY0
#track-7
――兄を、探して欲しいんです。
ああ、これが兄の写真でして――僕とそっくりでしょう?――ええ、よく言われます。
……最後に会ったのは、僕が高校を卒業してからなので……もう、十年も前ですね。
僕達兄弟は、早くに両親に先立たれてしまいましてね。父親は僕の物心がついた時には既に居ませんでしたし、母親も僕が小学生に上がる頃には食道ガンで逝ってしまったものですから、僕らはそれから孤児院に引き取られる事になったんですがね……。
――ああ、いえ、すいません。大丈夫です。ええ…ただ、あまり、孤児院の事は思い出したくないものでして。……あそこは…何というか…とにかく、決して「良い所」とは言えない所だった。
結局、逃げ出しちゃったんです。僕達は、孤児院をね。僕が十二歳で、兄が十九歳の頃の事です。
ニーソクのあちこちを転々としましたよ。日銭は、兄がアルバイトで全て賄っていました。ここら辺は、身元照明がはっきりしていなくても、たとえ未成年であっても、「働き口」にだけ関して言えば、困る様なことはありませんからね。
アパートも、最低限の所を選んで借りる事が出来ていました。廃教会の裏側の、路地の所に「耶麻無」ってプレハブみたいな建物があるの、ご存知ですか。ええ、ええ、そこです、そこ。
僕は、あそこから小学校、中学校、高校と通っていたんです。今にして思えば、よくアパートなんて借りて居られたな、って思いますよ。万魔殿で寝泊まりしていたとしても、決して不思議じゃなかった。
123
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:08:52 ID:GXwXwpuY0
人一人が幾つもアルバイトを掛け持ちした所で、僕の学費や生活費の全てを捻出できるわけがないんです。
きっと、あの時で既に兄は裏の社会に片足を突っ込んでいたんでしょうね。
全て、僕を養う為にしてくれていたのに、僕はそれを許してやることが出来なかった。
高校三年の時です。もう、あと数週間で卒業するって時になって、兄に向って言ったんです。
卒業を機に、自分も大人になる。これからは、自分の食いぶちは自分で働いて自分で賄う。だから、もうヤクザな仕事は止めてくれって。
随分と生意気な事を言ってしまったと、今でも後悔してます。
あの時の僕は、兄がどれだけの覚悟で裏の仕事に手を出していのか、それを知らなかった。
ただ、世間体というものに怯えるだけの子供でしか無かった。
兄は、何も言いませんでした。何も言わないで、それから二日後に家から姿を消してしまいました。
残されたのは、僕用の口座に振り込まれた五百万円と、兄のピアノだけでした。
当時は、そんな無責任な兄の行動を恨み、憤る日々でした。
何も言わずに居なくなるなんて、どういう事なんだって。
やっと自分の行動を反省して、後悔するようになったのは五年前程からです。
それまでは、唯一の家族である筈なのに、捜そうともしなかった。
兄のお陰で、僕は高校も卒業出来て、ちゃんとした会社にも就職出来た。それなのに僕は――。
124
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:10:08 ID:GXwXwpuY0
――来月、結婚するんです。だから、兄には是非出席してもらいたくて…今更、ムシの良い話かな、とも思うんですが……。
兄のお陰で、僕はこんなに幸せになれた、兄のお陰でここまで来る事が出来た、それを兄に伝えたいんです。そして謝りたいんです。あの時の言葉を。
だからどうか。どうか、兄を、捜してやってくれませんか。
('A`)「“報酬は、そこまで多くは用意出来ませんが”」
从 ゚∀从「我らが事務所の相場も随分と下がったものだな。
私としては、あの額では猫一匹捜してやる気にはならないものだが」
('A`)「“仕事を選んでいる程高貴な身分では無いだろう?”ってのは、何時ものキミの言葉と記憶しているが」
从 ゚∀从「塩豚への調査費用も含めれば、完全に赤字だ。こんなふざけた仕事は前代未聞だな」
('A`)「宣伝効果を期待してるんだよ」
「一体何を宣伝しようというのだ。貴様の頭の悪さか?」、というハインリッヒの言葉を聞き流して、後ろ腰からカスタムデザートイーグルを抜いて構える。
「イヒ…いヒヒ…アバー…アア…ヒッヒッヒヒ…」
闇の吹き溜まりの中から、引きつった笑い声が上がった。
125
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:10:54 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……この中に、入っていくのか?」
从 ゚∀从「それが、仕事と言うものだ」
万魔殿。崩れかけたビルの廃墟の一室。
俺達の目の前には、地下へと続く階段が口を開けている。
傾きかけた太陽の、橙色の光さえも届かない、暗闇への入り口だ。
「アヒッ!ヒヒヒッ…ヒヘッ!…ウブブ…ゴエ…ッフ――ヒィヒィイィヒヒッ!」
暗がりの中から、再びあの引きつった笑い声が響いてくる。
常人のものからはほど遠い、病み、狂ったような、そんな響きの笑い声。
俺は、もう一度相棒の顔を振り返る。
傍らの相棒は目を閉じ、首を左右に振った。
('A`)「――やれやれ、だな」
カスタムデザートイーグルから結線ケーブルを引っ張り、ニューロジャックに繋げる。
左手で銃を、右手でマグライトをそれぞれ頭の高さに構えると、俺は地下室への階段を一段一段、慎重に降りて行く。
マグライトの明りの中に照らし出される、朽ちかけたコンクリート壁からは、パンクス達が描いていったであろう、スプレーグラフィティアートの髑髏や悪魔などがこちらを睨んでくる。
階段のそこここには、鼠の糞や酒瓶の破片、何十年も前の新聞の切れはしなどが散乱しており、アンモニアとアルコール、そして仄かな血の臭いもがそれに混じり合い、吐き気を堪えるのにも一苦労した。
126
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:13:53 ID:GXwXwpuY0
思いの他長い下りの末、視界が開ける。
深さにして、地下5メートル程だろうか。
地下室の割には天井の高い部屋は、元はボイラー室だったのだろう。
パイプやダクトが這いまわり、錆ついたボイラー設備が無言のままに鎮座する空間。
階段を降り切って、真っ直ぐ、突き当りの壁に、背を預けて座り込む人影があった。
( ※_ゝ§)「ヒヒ…アー…イイ…ソイツを…アア……」
('A`)「……」
これで、会うのは五度目だな。
そんなことを、ぼんやりと考えながら近づいて行き、その前にしゃがみ込む。
サイバネティクスの配線が顔面を這いまわる男は、俺の接近にも何ら反応を示す事も無く、痙攣した様な笑いを漏らし続けていた。
( ※_ゝ§)「コ、コレが…フィヒ…き、キモチイイんだ…アア…フィヒヒヒ!」
前に会った時は、右腕と左目だけだったサイバネ改造は、今は右眼と左腕にまでも広がっている。
配線や強化樹脂装甲が露出する男の左耳の下には、追加ニューロジャックやソフトウェアソケットが増設されており、そこからは膿みと機械油の混じった腐汁が溢れ、彼の肩に垂れていた。
改造に次ぐ改造。整備不良によるサイバネティクスの老朽化。
それらによってニューロンが損傷した結果、精神を病む者は少なくない。
目の前の彼もまた、「サイバーサイコ」と呼ばれるその一人だった。
127
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:14:51 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……」
頭の高さに構えていたカスタムデザートイーグルを、だらりと下ろす。
こうなってしまったら、もうどうする事も出来ない。
ふん縛ってアサイラムに入れた所で、何かが変わるわけでもない。傷ついたニューロンを修復することなど、今の科学では不可能だ。
俺は、踵を返す。
腹の底から胸へと向かって、言いようのない倦怠感のようなものが、せり上がってくる。
背後で聞こえていた笑い声が、ふいに途切れた。
(;'A`)「――シッ!」
即座に振りかえり、銃を構える。
( ※_ゝ§)「ケヒ!ケヒヒヒィィイイ!」
バネ仕掛けめいて飛び出してくる男を、ニューロンが補足。
コンマゼロ秒の誤差も無く、パルス信号の命令で、直結されたカスタムデザートイーグルのトリガーが引かれる。
少なくとも、引かれはした。
(;'A`)「なっ――!?」
腰の高さで固まった左腕。あらぬ方向へと飛んでいく銃弾。ここに来てのフリーズ。
たとえそれが、一コンマの遅れであろうと、命のやり取りにおいては致命的な遅れだ。
低く飛んだ男が、両腕を熊めいて振りかぶった姿勢で、突っ込んでくる。
咄嗟に左の手で上体を庇おうとするが、三世代も前のサイバネ義手は未だその硬直が解けない。
間に合わない。俺は、反射的に目を閉じる。
128
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:15:49 ID:GXwXwpuY0
予測された痛みは、しかしやってこなかった。
ゆっくりと目を開ける。
从 ゚∀从「やれ、矢張り貴様を先行させるべきでは無かったな。これは私の判断ミスだ」
黒衣の堕天使めいた鋼鉄の処女が、サイバーサイコの振り上げた左の長腕を、両手の長物で受け止めていた。
从 ゚∀从「――で、“コレ”は処分してしまっても構わないか?」
つばぜり合いを続けながら、鋼鉄の処女は振り返らずに尋ねてくる。
( ※_ゝ§)「イヒ!フィヒヒヒー!裂いて!裂いて!裂きたいのおおおお!アヘヒャヒャヒャ!」
俺は、依頼人の言葉を束の間思い出す。
「来月、結婚するんです。だから、兄には是非出席してもらいたくて…今更、ムシの良い話かな、とも思うんですが……」
「兄のお陰で、僕はこんなに幸せになれた、兄のお陰でここまで来る事が出来た、それを兄に伝えたいんです。
そして謝りたいんです。あの時の言葉を」
('A`)「……」
俺が答えを出しかねている間にも、鋼鉄の処女はサイバーサイコを腕ごとその長物で押しやり、自分もバックステップで距離を取る。
ボイラー室の狭い通路ギリギリの長さを誇る彼女のエモノは、幅広にして肉厚な刃を持つ大鎌だ。
伸縮式の柄と取り外し可能な刃によって構成されるそれは、何の特殊機構も持たない極めて原始的な武装だ。
刃自体の重量と、伸縮式の柄により間合いの調整が可能な事以外、何の強みも持たないそれは、本来は常人が扱う様な代物ではない。
ハインリッヒが、人外の運動能力を有する鋼鉄の処女が握ってこそ、初めて一線級の活躍が期待できるものなのだ。
129
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:17:22 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「ヘヒ…ヘヒヒ…?」
从 ゚∀从「……哀れな奴だ。私の主の次くらいには、哀れな奴だよ、貴様は」
二人は、互いの間合いを窺うように、足を前に出したり引っ込めたりしながら、通路の間で睨み合う。
だがすぐに、サイバーサイコの方が待ちきれなくなり、右の腕を腰だめに構えて地を蹴った。
( ※_ゝ§)「刺して!挿して!サシテサシテサシテサシテエエエ!」
鋼鉄の処女に向かって一直線に突進するサイバーサイコの右腕の掌が、カメラのファインダーめいて開く。
ボディブローの要領でもって、電撃的速度で突き出される右腕。
その肘の部分に仕込まれた火薬が炸裂し、くい打ち機構めいて打ち出された単分子ランスの鋭い切っ先が、鋼鉄の処女を狙う。
ハインリッヒはこれを、上体を僅かに逸らして回避。
サイバーサイコはすぐさま右腕を引き戻し、続く第二撃を放つ。
瞬時に格納された単分子ランスが、次弾の装填の済んだ火薬によって再び爆発的に突出。
鋼鉄の処女は上体と膝を曲げてブリッジの姿勢。
難なく避けると、そのままの姿勢で両手を地面につき、バックフリップの勢いで蹴り上げた。
下から掬いあげるように繰り出された爪先が、カミソリのような鋭さでサイバーサイコの顎を捉える。
金属と金属のぶつかる硬質な音。鋼鉄処女の重い蹴りを受けたサイバーサイコはよろめき後ずさる。
一回転して姿勢を整えたハインリッヒは、大鎌を構えて一歩前進。両者の距離は2メートル弱。
从 ゚∀从「攻撃が単調に過ぎる。最も、サイコに判断力を求めるのが間違いか」
無機質な言葉と共に、両手の中の大鎌を振るった。
130
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:18:03 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「アバッ!?アババババ!?」
銀の閃きとなった大鎌の切っ先が、サイバーサイコの右腕を捉える。
和紙を勢いよく千切る様な断裁音に続いて、西洋甲冑の籠手めいたサイバネ義手が宙を舞う。
一拍遅れて、その平坦な切断面から、潤滑油と血の混じり合った毒々しい液体が噴出、地下ボイラー室の湿った床を斑に染めた。
从 ゚∀从「トドメッ!」
振り抜いた勢いを利用して大鎌を頭上で回転。
ハインリッヒは袈裟掛けに切り下ろす。
死神の審判めいたその切っ先がサイバーサイコの肩口を捉える寸前、狂える男はその場で後ろに跳躍、死の刃を逃れると同時、後方の壁を蹴って斜め上からの奇襲に出た。
( ※_ゝ§)「アイイイイイ!エエエエエェエ!」
サイバーサイコが頭上で振りかぶる右の腕は、左に比べて線の細いシルエットの鉄板装甲に覆われている。
軽装鎧の籠手めいた上腕部の装甲が跳ね上がり、そこからスリット状の発射口が出現。
空気の抜けるような乾いた射出音と共に、そこから円盤状の小型刃が無数に飛びだした。
閃く銀環の群れが、鋼鉄の処女の黒衣を裂いて、その上体に次々と突き刺さる。
矢襖めいて円盤を生やした鋼鉄の処女は、しかし怯む様子は無い。
从 ゚∀从「羽虫の特攻が――」
先に袈裟掛けに振りおろしていた大鎌の刃を上に向け、彼女は柄を逆手に握り直す。
从 ゚∀从「私を止められるなどと思いあがるな!」
怒号と同時、鋼鉄の処女は逆手に握った大鎌を振り上げる。
悪鬼の下顎から突き出す牙めいて跳ね上がった大鎌の切っ先が、頭上に迫ったサイバーサイコの腹を貫通。
振りあげた勢いもそのままに、鋼鉄の処女は半身を捻ると、空中で串刺しにした狂人の身体を、後ろの床に叩きつけた。
131
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:19:05 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「オグッ――!カッ――ポッ――!?」
ずしりと音を立ててボイラー室の床に伏したサイバーサイコの口から、血の泡が吹き出す。
蛙めいて手足を痙攣させるその体は、大鎌の刃によって縫い付けられ、最早身動き一つ取れそうも無い。
最後の足掻きとばかりに、大鎌の刃を掴もうとする右の手を、鋼鉄の処女が無慈悲に踏みつけた。
从 ゚∀从「――それで、どうする?」
刹那の内に殺陣を終えた鋼鉄の処女が、上半身に食い込んだ銀環を引き抜きながら、こちらを振り返る。
血の様に真っ赤な双眸は、相変わらずの機械らしい無表情を湛えて、真っ直ぐに俺を見つめていた。
从 ゚∀从「ここで処分して、依頼主には適当な報告を返すか?それとも拘束して連れ帰り、引き合わせるか?」
('A`)「……」
妙に気だるい体を動かし、サイバーサイコの元へ近づき屈みこむ。
未だに痙攣し続けながら、血の泡を噴き出す男の顔を、俺は覗きこんだ。
( ※_ゝ§)「ゲフッ――ガッ――ハァ…カアァ…ェエェ――ッサをヤるのサ…」
虫の息の彼の口が、意味のある言葉を紡ごうとしている。
俺は、耳をそばだてた。
132
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:20:07 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「俺がマスターで…お前が給仕でよゥ…ヘヘッ――ジャズ喫茶を…やるんだ」
むせながらうわ言を言う男の眼は、焦点があっていない。
( ※_ゝ§)「だから――お前…ジャズ喫茶だからヨゥ…練習――チャんとしておけよゥ――ゲホッ!ウェホッ!エホッ!」
('A`)「……」
( ※_ゝ§)「オオオオオレも――ゲホッ!ガホッ!――ピピピアノの…練習…しとくかラ――ウェッ!…馬鹿野郎――俺ァ、お前とは年季が――ゲホッ!ガボッ!ゴボッ!」
そこまで聞いて、俺は立ち上がる。
カスタムデザートイーグルの遊底を引いて、銃口を男の頭に向けた。
( ※_ゝ§)「イイ案だと思わねェか?なあ、兄弟でジャズ喫茶だ――なあ――」
俺は、無言でトリガーを引いた。
乾いた音が地下室にこだまし、男の身体が一瞬大きく跳ねた。
薬莢が、ボイラー室の床を叩く音が、耳朶を打った。
133
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:21:43 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「依頼主には、何と報告する?」
大鎌を引き抜き、柄と刃を分解しながら相棒が聞いてくる。
しばらく考えてから、俺は答えた。
('A`)「病死だ。過労が祟っての病死。カルテや戸籍は適当に用意する」
ホルスターに銃をしまいつつ、コートの内ポケットを探る。
くしゃくしゃになった紙片を引っ張り出して、それを開く。
ミミズののたくったような字で書かれたアドレスを一瞥してから、俺はそれを男の亡骸に向かって放った。
从 ゚∀从「――結局、一度も飲むことは無かったな」
別段興味も無さそうに言う相棒を促し、俺は地下室の階段へと足を進める。
('A`)「そういう事の方が多いさ、この街では」
言いながら火を点けたマルボロは、味がしなかった。
134
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:23:18 ID:GXwXwpuY0
track-8
――その日の「コシモト」には、俺達以外の客の姿は無かった。
∬´_ゝ`)「ン何よモウ!今日は暇だったからもう閉めようと思ってたのにン!」
来店一番、俺達の姿を認めた姐者が顰め面で口をとがらせる。
('A`)「客商売がそんな事を言ってて成り立つのか?」
∬´_ゝ`)「アータ達は別ヨゥ!うちにボトルも入れてくれないじゃないの!」
相棒が入ったのを確認して、後手にドアを閉めるとガラガラのカウンターに腰を下ろす。
('A`)「それじゃあ今日は特別だ。コレで空けられる適当なウィスキーを頼む」
一万円のクレジット素子を、カウンター越しに姐者に放る。
両の手で挟むようにしてそれをキャッチした彼女が、珍しそうに眉を上げた。
∬´_ゝ`)「何?ボトル?アータが?何があったのヨ?」
('A`)「快気祝いだよ。俺の」
∬´_ゝ`)「ハァ?アータが病気?ヤダモウ、変な冗談止めテよネ!」
右の手を振り、ケタケタと笑いながら酒瓶棚へと向かう姐者。
隣の相棒が密かに鼻を鳴らすのを聞きながら、俺は黒革の手袋に包まれた左の手を見つめる。
ここに来る度に何度も繰り返したが、もう一度掌を握っては開いてみる。
微細な稼働音こそすれ、以前よりも遥かにマシになった感触がニューロンに返ってきた。
135
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:24:16 ID:GXwXwpuY0
('A`)「そう言えば、前にキミは事務所の名前が気に入らない、って言ってたな」
右隣に行儀よく座って、お冷のグラスをじっと見つめる相棒を振り仰ぐ。
从 ゚∀从「んん?ああ、そう言えばそんな事もあったな」
膝の上に両手を揃えて、魅入られたようにグラスを見つめていた彼女は、まるで慌てたようにしてこちらを向く。
カウンターで酒瓶を吟味する姐者をちらりと見て、先の鋼鉄乙女の挙動を思い出した俺は、胸中で密かに笑った。
('A`)「今、良い案が思い浮かんだんだ。リブート、と言うのはどうだろう」
从 ゚∀从「リブート?再起動?――由来は?」
問い返してくる相棒に、左の手を振って見せる。
相変わらずの仏頂面でそれを見ていた彼女は、口を半開きにしたまま暫く思案するかのようにしていたが、やがて鼻を鳴らして首を振った。
从 ゚∀从「まあ、貴様にしては悪くないんじゃないか?」
('A`)「新しい門出、ってわけ。再出発だよ」
从 ゚∀从「これで借金もリセットされれば言う事は無いんだがな」
('A`)「違いねえ」
136
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:25:32 ID:GXwXwpuY0
束の間、封を切っていない督促状の山の事を思い出しかける。
幸いな事に、目の前に勢い良くおかれたウィスキーのボトルが、俺の思考を遮ってくれた。
∬´_ゝ`)「どうせもう閉めるつもりだったんだから、アタシにも付き合わせなさいヨ」
氷の入った二つのグラスに、銘柄も知らないウィスキーが注がれる。
先に注いだグラスに俺が手をつけようとすると、姐者はそれをひったくる様にして奪うと、一気に煽ってゲップを吐いた。
俺は、唖然としてそれを見つめるしかなかった。
∬´_ゝ`)「アータ達だからこんな姿見せるのヨ」
('A`)「嬉しくねえよ」
∬´_ゝ`)「ヤーダー!モーウ!」
芝居めかしてしなを作ったかと思えば、一転、厚かましい中年女性の態度で笑いだす姐者に、俺は顰め面を作る。
仕方なく、手酌でウィスキーをついでいると、視界の端では隣の相棒が、カルピスの入ったグラスを前に、再びあの姿勢を取っていた。
洗浄が面倒なので、今までこのような場面になる度お預けをくわせていたが、少しばかり哀れに思えた。
∬´_ゝ`)「それよりヨ、ちょっとアレ見テ、アレ」
既に赤ら顔になりつつある姐者の指し示す先、カウンター席の隅の壁には、古ぼけたグランドピアノが置いてある。
137
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:26:30 ID:GXwXwpuY0
∬´_ゝ`)「こないだ馴染みのお客さンがね、持って来たのよ、ソレ」
('A`)「は?」
∬´_ゝ`)「トラック呼んでヨ!?信じられル!?」
グラスを煽ろうとして開いていた口が、そのままの形で固まる。
∬´_ゝ`)「ピアノの心得があるから、ここで弾きたいって言いだしてサ。
でも、ウチにそんなピアノを買うお金なんテ無いッテ言ったのよ。
そしたら、自分で用意するカラいいって言って、それでアレよ」
「ホント、信じられないわ」と言いながら、二杯目をグラスに注ぐ姐者。
从 ゚∀从「世の中には、貴様以上に想像を絶する狂人が居るものだな」
皮肉っぽく言って、相棒はカルピスのグラスを手に取る。
唇にグラスが触れた所で、我に返ったのか、彼女は恨めしげな顔でグラスをカウンターに置こうとした。
視線でそれに、OKサインを出す。
目を見開いた後、彼女は僅かに眉を顰め、それでもグラスを空にした。
口元が僅かに緩んだ。
∬´_ゝ`)「でもネ、結局そのお客さん、それから一度もウチに来てないのヨ。
連絡先も知らないし、捨てるにもお金が掛るじゃない?だから仕方なく、そこに置いてるッテわけ」
('A`)「まあ、置いてる分には金は掛らんからな」
138
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:27:55 ID:GXwXwpuY0
言いながら、グラスを空にしてカウンターに置くと、俺は立ち上がってピアノの方へと近づく。
年季こそ入っているが、黒塗りのそれには傷一つ無い。
不釣り合いに粗末なパイプ椅子に腰を下ろすと、鍵盤を覆うカバーを上げた。
∬´_ゝ`)「なにアータ、ピアノ弾けるの?」
('A`)「いや別に」
露われた鍵盤も綺麗なものだ。
白い鍵盤の上に両手を乗せると、俺は矢張り「ねこふんじゃった」の譜面を頭に思い浮かべた。
ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた
ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた
∬´_ゝ`)「やだもう、下手くそねェ。アタシのがヨッポドか上手いワヨ」
('A`)「芸才には恵まれてなくてね」
言いながらも、鍵盤の上を打つ指は止めない。
修理を済ませた為か、左の手も前より滑らかに動いている。
にゃーご、にゃーご、ねこかぶり、ねこなでごえで、あまえてる
ねこごめんなさい、ねこごめんなさい、ねこおどかしちゃってごめんな
歪んだ音が、ひと際高く響いた。
俺は、両の手を止めた。
139
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:28:57 ID:GXwXwpuY0
∬´_ゝ`)「ンモー、ホンッと下手くそ。なにヨソレ、小学生?アータ小学生でももっとマシよソレ」
げんなりした表情で茶々を入れてくる姐者に苦笑いを返して、左の手を見つめる。
黒革の手袋に包まれた三世代前の戦闘用義手は、相変わらず低いモーター音を立てていた。
140
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:29:41 ID:GXwXwpuY0
Epilogue
――暮れなずむ夕日が、あばら家の建ち並ぶ下町の傍らを流れる、ドブ川を黄金色に染め上げる。
少年とその兄は、まばゆい金の輝きを反射する川沿いの堤防を、二人並んで家路についていた。
「ねえ、兄ちゃん、僕の演奏どうだった?」
胸の前で、両手を演奏の形にして動かしていた少年が、傍らの兄を振り仰ぐ。
黒い楽器ケースを肩に担いだ兄は、小さく鼻を鳴らすと、その顔に意地の悪い表情を浮かべた。
「まだまだだな、ありゃ。全然、まだまだ」
「えー!だってお客さん、沢山拍手してくれたよ!?」
「そりゃ、お前がガキだからサービスしてくれたんだよ、馬鹿」
兄の言葉に、少年はしゅんと項垂れる。
予想以上のその落ち込みように、兄は幾分かばつの悪い表情で頭をかいた。
カラスが、遠くの空で鳴いていた。
「あー、その、なんだ、それじゃあ今度一回、俺と音合わせしてみるか?」
「だって兄ちゃんピアノじゃん。意味無いじゃん」
「馬鹿、他の楽器に合わせるってだけでも、練習になるんだよ」
「本当に?」
「本当だ」
141
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:30:42 ID:GXwXwpuY0
納得のいかないような顔を作る少年。
その歩みが、知らず知らずのうちに遅くなる。
夕飯の買い物を済ませた主婦が、スーパーの袋を自転車の籠に入れて通り過ぎていく。
兄は、空いている手で少年の背中をどやしつけた。
「ジャズ喫茶、やるんだろ?なあよ?だったら、今からその時の為に練習しねえとよ」
少年は、兄の顔を見上げる。
兄はそれに、にっかと笑ってみせた。
「ちゃんとよ、俺の演奏についてこられるように、練習しねえとなあ。お前はまだまだだから……」
ぶつぶつと言いながら歩き出す兄の背中を、少年は足を速めて付いて行く。
「ねえねえ、じゃあどっちがマスターやるの?僕?」
「はっ?お前、酒作れんの?」
「作れるようになる!」
「あそう」
「作れるようになるよ!」
「酒もいいけど、お前はサックスの方をいっちょ前にしろよ」
「うん!」
142
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:32:18 ID:GXwXwpuY0
「分ってんの?」
「うん!」
「本当に?」
「うん!」
目を輝かせて、自信満々に頷く少年に、兄は苦笑を返すと再び前を向く。
夕焼けが、丁度彼らの向かう先を照らして橙色に灼熱していた。
「約束だぞ。ちゃんと、サックスの練習をすること」
「約束する!」
元気に返事を返す少年に、兄は手を差し出す。
その手を握ろうともせずに少年は駆けだすと、兄を追い越していった。
紅の中で逆光になったその背中を、目を細めて見送りながら、兄はゆっくりと瞬きした。
「兄ちゃん、早く!早く!」
ある日の、帰り道の事だった。
143
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:36:38 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从は鋼鉄の処女
=Яeboot=
/// the end ///
.
144
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:37:49 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从は鋼鉄の処女
=Яeboot=
「the common case」
/// the end ///
145
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/27(金) 23:54:52 ID:zubNyNBAO
■親愛なる読者の皆さんへ■責任問題だ■囲んで棒で叩く■激しく重点■
今回のエピソードはこれで終了です。尚、最後のエンドタイトルに不手際が散見された為、投稿担当者は速やかにケジメされました。ごあんしんください。
次回の投稿日についてはまだ決まっていない。だがどういう話を書くかは決まっているので大丈夫だ。なので大丈夫です。と思う。
いじょうおわり
146
:
名も無きAAのようです
:2012/07/27(金) 23:58:52 ID:Hu7Gs.K60
投下はえーなおい
乙
147
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 00:35:10 ID:4784m5Wc0
乙
148
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 00:50:48 ID:fa37GdkQ0
乙
なんていうか世の無常って感じのお話だったな
エピローグぐっときた
ところで
>>9
のget ladyはreadyじゃなくてあえてのlady?
149
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 00:58:21 ID:bWFT8CDA0
乙
救われねぇな
150
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/28(土) 01:56:19 ID:F7IOq84cO
>>148
=サン指摘された通りざっと見返しただけでも今回のエピソードではミスタイプが目立っています。
担当責任者を問い詰めた所、UNIX端末の不調によって、出力時に何らかのエラーがあったかもしれないとの証言があったため現在事実関係をついきゅうちゅうです。
尚、この間違いはなんか後日修正されるかもしれません。お騒がせしております。
151
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 03:50:04 ID:UrSaLR6.0
乙!
なかなかキツイ話だったな
152
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 03:51:42 ID:N/k/FF/Q0
帰ってきてくれてマジで嬉しい
当時一番好きな作品だったものの続きが読めると思うとwktkが止まらない
153
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 00:36:49 ID:co/VI7Co0
おかえりなさああああい!
昨日気がついて、一気に読みました!
また読めるなんて思わなかった!!
154
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 08:33:51 ID:JkD/QpYY0
鋼鉄処女の人お久しぶり、そしてお帰りなさい
芸さんの掲示板でラブコールかけまくってホントに良かったよ
155
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 08:38:17 ID:lR2Ed3Q6O
久しぶりだな!ダークヒーロー!
156
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 10:38:16 ID:a12.RbYE0
ところでなんでコメントだけこんな翻訳して再翻訳したような文章なんだ
157
:
名も無きAAのようです
:2012/07/31(火) 01:45:45 ID:y2ZS.ST60
ドクオの性格変わった?
だいぶハードボイルドになったような気がするwww
これも作者さんの意図かな?
158
:
名も無きAAのようです
:2012/07/31(火) 02:18:01 ID:Cm9KWx8Q0
年月は人を変えるものよの
っていうかヘッズになって戻ってくるとは
159
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/31(火) 13:12:09 ID:tFqY5Ngo0
ドクオがどうしてカタユデになったのかは、彼の左腕と事務所移転の秘密と共にこれから語られるだろう。備えよう。
という構成担当者からの言葉を我々は預かってきております。
因みに今日はЯeboot以前の頃(以後、無印)のダソク・リチュアルであったキャラクウータープロフィールと、インデックスの投稿にやってきた。
キャラクウータープロフィールの方はЯebootになってからもやるかもしれないが、インデックスの方は無印が完結次第廃止される。
何故ならばそれは大いなる宇宙意志の思し召しによるもので、遥か電子空間の果てに存在するハッカー達のヴァルハラの繊細なコズミックバランスを崩しかねない危険性を孕んでいるからに他ならない。
だけどインデックスが無くなっても鋼鉄処女は鋼鉄処女だし、ハインリッヒは毒舌のままだ。ごあんしんください。
160
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/31(火) 13:14:14 ID:tFqY5Ngo0
=index=
【blank disc P-4. Subliminal murder】
story…幼き日の淡い愛。若かりし日の青い誓い。在りし日の残照をグラスに浮かべる暴君。
血濡れの言葉。不確かな現実。罪人を追う電脳の申し子たち。
過去と現在が交錯する先に待つのは、果たして光か闇か。
――人は、変わらなければ生きていけない。
tips…パーナル外伝。彼女とダイオードの出自を描いた話。サスペンス風。
↓成分表↓
バトル…☆☆☆☆☆
罵詈雑言…★☆☆☆☆
ミステリ…★★★☆☆
サイバーパンク…★★★★★
萌え…★★★★☆
サスペンス…★★★★★
ショタ…★★★★★
ハイン…☆☆☆☆☆
シュール…★★★★☆
R-18…★★★☆☆
田所さん…★☆☆☆☆
161
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/31(火) 13:15:55 ID:tFqY5Ngo0
キャラクタープロフィール
ノ从パ-ナル
氏名:パーナリア・カンテミール
年齢:70歳(AD;2150年現在)
性別:♀
誕生日:9月4日
血液型:A 型
人種:ロシア人(スラブ系)
現住所:不明
本籍:ロシア モスクワ カンテミール財閥本社ビル12‐1
所属:“シベリア”モスクワ支部代表
病歴:無し
術歴:脳核挿入手術(非公式施術の為市民IDは無い)、全身義体置換手術
頭髪:灰色。ウェーブがかった肩甲骨までのロングヘア。
瞳:鳶色
好きなもの:ダイオードが作ったスィルニキ、ワイルドターキー、クラシック(特に小フーガト短調)、ニーチェ
嫌いなもの: 紅茶、ロックンロール、野球とそれを好んで見る人種、人混み(人の波を見るたびにチェーンソーで薙ぎ払いたいと思う)
――シシリアンマフィア“シベリア”のモスクワ支部、通称「氷の旅団」の代表。50年前の灰の二年間を生き延びた帰還兵。
全ての戦闘行為において加減というものを知らず、目の前に立ち塞がるもの全てを根絶するそのやり方から「氷の暴君」と呼ばれている。
日本という国に対して非常に強い憎悪を抱いており、出来るならこの小さな島国を世界地図から消し去りたいとすら思っている危険思想の持ち主。
中途半端を嫌い、全ての行動が徹底的だが、零か百かでしか物事を考えられない不器用な性分であるともとれる。
162
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/31(火) 13:16:41 ID:tFqY5Ngo0
キャラクタープロフィール
/ ゚、。 /
氏名:ダイオード・アバカロフ
年齢:78歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:2月19日
血液型:AB
人種:ロシア人(スラブ系)
現住所:不明
本籍:ロシア モスクワ カンテミール財閥本社ビル12‐1
所属:“シベリア”モスクワ支部構成員
病歴:無し
術歴:脳核挿入手術(非公式施術の為市民IDは無い)、軍用特殊全身義体置換手術
頭髪:くすんだ白
瞳:白(サイバーアイ)
好きなもの:雪、ベラスケス、廃墟、退廃美全般。
嫌いなもの:いさかいごと。
――パーナルの右腕にして“氷の旅団”の切り込み隊長。特注サイズの軍用全身義体は並大抵の火器では貫けない堅牢な装甲を誇る。
根は穏やかで争いを嫌う性質だが、主人であるパーナルへの忠誠心から現在の立場を受け入れた。
余談であるが、現在の義体を入れてから今日至るまでの40余年の間、彼は一睡もしていない。
163
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/07/31(火) 13:23:26 ID:tFqY5Ngo0
インデックスとプロウフィールの方はいじょうだ。
公式まとめサイトブーン芸VIP=サンの掲示板でも告知しましたが、無印は無印として完結する話であり、わかりやすくいえば無印は第一部ということになるだろう。つまりЯebootは第二部だ。
どうして第一部が完結しないのに第二部が始まるのかという質問があるかとも思いますがごもっともだ。しかしそれについては大丈夫。マザーユニックスの判断にゆだねよう。不安は無いです。安定です。
いじょう緒連絡などでした。
164
:
名も無きAAのようです
:2012/07/31(火) 13:49:55 ID:a.9phntk0
70越えてたのか
びっくりだわ
165
:
名も無きAAのようです
:2012/07/31(火) 16:48:09 ID:OO2Z2G5s0
可愛らしい女の子と従順な執事が戦場に放り込まれたら
スーパージジババになって帰ってきたでござる…
スィルニキをググったら腹減ってきた
166
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 09:16:57 ID:6X/4rOVIO
へははw
戻ってきたのかー
楽しみしております。
167
:
名も無きAAのようです
:2012/08/07(火) 01:01:20 ID:RZtzTpzkO
てめぇこのやろう忍殺重点しすぎて忘れかけてたぞこのやろう。いいからハイクを詠め、さもなくば…あとはわかるな
168
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 13:35:40 ID:WbucYHaY0
■RADIO塊IM■capsule‐Starry Sky
http://www.youtube.com/watch?v=LA37DbXmx9E
■接続■貴方?筒■
169
:
名も無きAAのようです
:2012/08/08(水) 15:39:17 ID:9obI6rSg0
何か狙いがあるんだろ。
期待して待ってようぜ
170
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:33:58 ID:WbucYHaY0
【IRON MAIDEN】
.
171
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:37:35 ID:WbucYHaY0
“Today I’m dirty
I want to be pretty
Tomorrow I know, I’m just dirt
We are the nobodies
Wanna be somebodies
When we’re dead , they’ll know just who we are”
……The Nobodies/Marilyn Manson
172
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:39:15 ID:WbucYHaY0
从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです
Disc11.No. of the beast
.
173
:
名も無きAAのようです
:2012/08/08(水) 18:40:02 ID:Ajlw6rYA0
もう来たのか!wktk支援
174
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:41:23 ID:WbucYHaY0
Prologue
――極彩色のライトをミラーボールが反射して、ダンスホールの中は赤、青、黄、緑とひっきりなしにその色彩を変ずる。
多元アンプから吐き出される、重低音の繰り返しに合わせて、サイバーテクノヒッピー達が踊り狂う様は、一種宗教染みてすら見えた。
ニーソク区三番街の地下ディスコ「ゲヘナ」。
享楽と頽廃の権化。夜毎繰り返される、サバト染みた狂乱の宴に足を運ぶのは、
埋め込み式サイバーサングラスやミラーシェードで目元を覆い隠した与太者達、サイバーヒッピーと呼ばれる人種が殆んどだ。
幾何学的なシルエットのヒッピー達の服装は、ホール内の目まぐるしく変わる毒々しい色彩にも共通するカラーコーディネートで、
そのPVC加工されたジャケットやズボンの表面を、0と1などの意味の無い英数字の緑色の羅列が、電光掲示板のように流れ過ぎていく。
およそ非自然物のカリカチュアめいたサイバーテクノヘアやボブカットの男女は、
その露出した腕や腹、背中にも衣服同様の電光掲示板めいた液晶ディスプレイをインプラントしている者が散見された。
サイバーテクノへと帰属する者達の間で共通のシンボルのようにして流行している、この「テクノタトゥー」は、
彼らサイバーテクノヒッピー達の自己表現の一種でもある。
自分の座右の銘や、リスペクトするテクノアーティストや思想家の名前などを、
緑色の電子文字にして自分の肌の上を流す事は、サイバーテクノへの帰属度を計る一種のバロメータとしても機能しているようだ。
175
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:45:57 ID:WbucYHaY0
服の上にLEDを這わせただけのものは二流。ファッションテクノだ。
自らの肌に直接ディスプレイをインプラントし、サイバーテクノと文字通り一つになる。
無論、そのような反道徳的なインプラントなどを施してしまえば、社会においては真っ当な地位につける筈も無い。
そのリスクを冒してでも、インプラントを良しとし、反社会の精神を体現する事こそが、
「サイバーテクノヒッピー」としての覚悟の表れなのだと彼等は語るのだった。
(,,゚Д゚)「――理解出来んな」
炭のように黒いトレンチコートを着こんだ、がたいの良いその男は、サイバーテクノヒッピー達の饗宴の中にあって、浮いていた。
短く刈り込まれた黒髪と、無精髭の生えた浅黒く精悍な顔立ち。
夜の闇の底で獲物を狙う狼のような鋭い眼光とも相まって、とてもカタギの人間には見えない。
首筋から覗く展開式ヘッドギアの漆黒のシルエットと、トレンチコートの下に隠された夜色の強化外骨格は、
彼が電脳時代の狩人である事を無言のうちに語っていた。
黒狼のギコ。
夜に生きる住民の中で、その名を知らない者はいない。
漆黒の強化外骨格に身を包み、日本刀めいた振動実剣を振るう、始末屋。
サイバーヒッピーの群れを掻き分けながら、ギコはダンスホールの中を確かな足取りでもって進んで行く。
無論、彼にサイバーテクノを聴く趣味は無い。ギコの眼は、サイバーヒッピー達の群れの、ある一点に注がれていた。
176
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:47:36 ID:WbucYHaY0
(,,゚Д゚)『対称の一人を捕捉した。この騒ぎの中ならやれるが』
脳核回線を開いて、ギコは依頼主に問いかける。
『タイミングについては全て君に任せるよ。荒事に関しては、僕よりも君の方が専門だろうからね』
アノニマス表示の依頼主が、ギコの視覚野の隅で合成音声を返した。
『ただ、気をつけて欲しい。彼女は君が思っているよりも遥かに手強い。くれぐれも、油断はしないように』
(,,゚Д゚)『俺に油断は無い。後にも先にもだ』
短く告げて通信を切ると、ギコは改めて今回の標的の後頭部を注視する。
プラチナブロンドの頭髪は、左側がピンクや青のメッシュを入れたウェーブ状、右側がドレッド編みにされたアシンメトリースタイル。
一見した所では、ネオ・ゴス・パンクスのようにも見えるその女が何をしたのか、ギコは知らない。だが興味はある。
普段なら、女子供は手に掛けない主義を持ち出して、依頼そのものを突っぱねる筈だったが、今回は違った。
依頼主からの事前情報と、尾行によって見えてきた標的の輪郭は、この女が、
何時も相手にしているサイバーサイコやヤクザ崩れ達とは一味も二味も違った存在である事を示している。
隙だらけに見えて、その実は涎を垂らして牙をむき出しにした狂犬の如き殺気を、薄皮一枚の下に押し隠したかのような立ち居振る舞い。
長年この稼業を続けてきたが、ギコはついぞこのような者を相手にした事は無かった。
177
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:49:00 ID:WbucYHaY0
トレンチコートの裾の下で、手首の内側の格納鞘から単分子ナイフを手の中に滑り込ませる。
久しぶりに強敵と相まみえるかもしれない、という予感めいた感覚に、ギコは暗い期待を寄せている自分が居る事に気付いた。
(,;-Д-)「……」
ゆっくりと目を閉じ、苦悩深い皺の刻まれた眉間を、ギコは左の手で揉む。
その浅黒いこめかみを、脂汗が伝っていた。
自分の思考回路は、まるでウォーモンガーのそれではないか。
ミイラ取りがミイラになる。ぞっとしない話だ。
体内のドラッグホルダーを起動し、ダウナー系のドラッグを脳髄に染み込ませる。
ダンスホールの重低音が遠くに聞こえ、幾分か冷静さが取り戻されてきた。
(,,゚Д゚)「大丈夫だ…俺は、まだ大丈夫だ……」
自分に言い聞かせるように呟くと、ギコは額の汗を拭って単分子ナイフの感触を確かめる。
テクノカットやボブカットの頭の中にあって、ピンクとブルーのメッシュが入ったドレッド・アシンメトリーのヘアスタイルは随分と浮いている。
標的を見失う心配が無い事に、幾分かのやり易さを覚えながら、ギコはその背中へとヒッピー達の群れを掻き分け近づいて行った。
トランスミュージックと、ハードコアテクノの中間の様な、ざらざらとしたサウンドがギコの耳朶を嬲る。
異常な熱気に沸いたダンスホールの中で、標的と自分の周りの時間だけが静止したかのような、妙な錯覚を覚える。
標的の、レザーボンテージスーツの開いた背中に、狙いを定める。
幾重にも巻かれた、包帯と拘束ベルトの隙間から覗く、病的なまでに白い肌。
手を伸ばせば、届く距離。何気ない動作に見せかけて、右手を動かすだけ。それだけで、一つの命を刈り取れる。
178
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:50:17 ID:WbucYHaY0
(,,゚Д゚)「……」
果たして、そんなに上手くいくものなのか?
ギコの胸中に、疑問が浮かんだ、まさにその瞬間だった。
「やあっと、来てくれた」
目の前の、拘束衣めいた衣装に包まれた背中が、ゆっくりと振り返った。
(*゚∀゚)「尾行ばっかで、全然話しかけてくれないから、待ち遠しかったんだゾ?」
血の気の無い石膏めいた輪郭の中で、白と黒の逆になった双眸が、愉悦の三日月に歪む。
(,,;゚Д゚)「――ッ!?」
不味い。ギコのニューロンが、警告のレッドアラートを鳴らした時には、既に遅かった。
(*゚∀゚)「レディを待たせるなんて――マナーがなって無いゾ?」
胸を貫く、生温かい感触。
ギコは、目を落とす。
包帯に覆われた生白い腕が、トレンチコートと、その下の強化外骨格を貫いていた。
喉元から、鮮血の奔流がせり上がってくる。
全身の力が、一瞬にして抜け切る。
そのまま倒れ込むギコの上半身を、左の手で受け止めながら、アシンメトリーヘアの病的な女は、彼の耳朶に愛おしそうな声で呟いた。
179
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:50:59 ID:WbucYHaY0
「逢いたかったよ、ギコ」
相前後、彼の意識は黒の奔流に飲み込まれていった。
180
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:53:18 ID:WbucYHaY0
Track-α
――はためくジープの幌の間から、生ぬるい潮風が吹きこみ、彼の頬を撫でる。
無理を言って大陸から取り寄せた「飛虎包」も、湿気を吸ってか酷く不味かった。
<ヽ●∀●>y―~「――これは興味本位で聞くんだが…お前さん達にも嗜好ってものは存在するのかい?
自己発想許容型AIってのは、実際の所はどうなんだ?」
ジープの荷台の隅、木箱の上に腰を下ろした中華系の男が、大陸葉巻を唇から離して紫煙を吐き出す。
茶色のトレンチコートに、黒のスーツ。
オールバックに撫でつけた頭髪と、いかつい顔を更にいかつくしている丸サングラスからは、右の眼に走った裂傷が微かにはみ出していた。
(゚、゚トソン「……禁則事項です」
ユーラシア最大の犯罪組織、三合会。
その下部組織である陣龍の日本支部代表を任された、香主ニダーの言葉にも、ワタナベの秘書官は淡々とした態度を崩す事は無かった。
列島から出島めいて突き出した、ニホン国特別政令指定都市VIP、その北の外れ。
松の防砂林の向う、黒々とした太平洋の表面を、重金属酸性雨が叩く。
足が三本になったウミネコ達の群れを左手に望むここは、円形の出島の外周部を走る沿岸道路。
大型装甲車と、兵員輸送車じみたトレーラーが幾台も縦に連なり、手狭な車道を大名行列めいて走る光景は、
どんよりと黒く濁った太平洋の荒波とも相まって、破滅から逃げ出す一種のエクソダスめいてすら見えた。
181
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:54:24 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「――なあ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃあないか?ウリ達は、一体何を運んでいる?」
輸送隊列の先頭から二番手を走る装甲ジープの荷台の中。
潮風を吸って不味くなった葉巻を幌の間から捨てて、ニダーは再び寡黙な秘書官に問い返す。
(゚、゚トソン「……禁則事項です」
菫色の瞳を揺らがせる事も無く、機械的に跳ね付けるトソン。
もうかれこれ、十度ばかり繰り返されたやり取りであった。
芝居めいた仕草で肩を竦めると、ニダーはやれやれと小さな溜息をついた。
<ヽ●∀●>「……確かに、お宅からは口止め料にビルが買えるだけの金は受け取っている。
ウリ達としても、渡辺グループのお墨付きが貰えるなら、今よりも遥かに商売がしやすい。それについては何の文句も無いさ」
だが、と香主はその先を続ける。
<ヽ●∀●>「これだけのダミーの輸送車両と警備を用意するっていうのは、ちっとばかし尋常じゃあねえ。一体これは何事だ?」
(゚、゚トソン「……」
事務所を訪れた、渡辺のネゴシエイターを名乗るラテン系のイタリア男の弁を、ニダーは束の間思い出す。
_
( ゚∀゚)『ブツを運んで欲しい。前金はここにある。足りなかったら言ってくれ。上と掛け合ってみる。
詮索は無用だ。渡辺グループはそれを望まない。兎に角重要なブツだ。受けるか?受けないか?この場で直ぐに決めてくれ』
182
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:55:46 ID:WbucYHaY0
挨拶もそこそこに、ビズの話を持ち出したネゴシエーターが喋ったのもそこまで。
胡乱な話ではあったが、渡辺グループとのパイプは持っていた方がこの街では遥かにやり易い。
陣龍の香主としては、そこに何かしらの地雷が見え隠れしていようと、受けざるを得なかった。
<ヽ●∀●>「それとも、このキャラバンは地獄行きか?積み荷はウリ達、華僑共と、こう来るわけだ」
(゚、゚トソン「……」
<ヽ●∀●>「笑えねえ冗談だったか?」
(゚、゚トソン「……いえ」
荷台の中央、巨大な麻布で覆われた、棺桶程もある縦長の鉄箱の傍らにしゃがみ込んだトソンは、相変わらずの鉄面皮だ。
“オーライ、レディ”。香主は小さく頭を振る。
<ヽ●∀●>「それじゃあ、質問を変えよう。今度のオフは何時になる?是非ともキミを食事に誘いたい」
少しの間。思案するようにしていたトソンは、ややあってから、矢張り表情を崩すことなく答えた。
(゚、゚トソン「……禁則事項です」
少しの間。豆鉄砲を食らった鳩のようにしていたニダーは、ややあってから、首を仰け反らせて乾いた笑いを上げた。
気に入らない仕事だ。それでも、乗るしかない。
乾いた笑いの下に、泥濘のようにどろりとした表情を押し隠し、ニダーは葉巻をもう一本咥えた。
183
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 18:57:28 ID:WbucYHaY0
※ ※ ※ ※
――黄昏の空、光化学スモッグの琥珀色。
バベルの塔めいて、天の神まで届かんばかりに林立する超高層ビルの大森林と、
その間に御神木めいて頭を突き出す、企業アーコロジーの超巨大三角錐のシルエット。
地上から伸びたサーチライトが右に左に光の道を伸ばす空を飛ぶのは、浮遊式街頭スクリーンや、セキュリティボットの群れ。
電脳時代のニホンの中心たるラウンジ区の高層建築の景観は、宝石を散りばめた巨大な墓石群めいたおどろおどろしさを持って、
足元を歩くハイソサエティなビジネスマン達の頭上にのしかかってくるようでもあった。
( <●><●>)『それで、ヴォルフの尻尾の方は、無事回収できたのかね?』
ニホンの中心ラウンジ、更にその中心、ニホンという国の玉座たる、渡辺グループのアーコロジー。
CEOとその身辺警護担当者を含む、ごく一部の人間のみが立ち入る事を許可された、ピラミッドの頂上階層部。
大理石の床にギリシャ彫刻や世界の名画や芸術品が立ち並ぶ、美術館めいたこのフロアは、
階層そのものが丸ごと、渡辺グループのCEOの為だけに用意された執務室となっている。
从'ー'从「ええ、その件につきましては、何も滞りなく。事は全て、順調に進んでおりますわ」
クリスタル細工のローテーブルの上に置かれた、三角錐型の立体ホログラフ投影機。
そこから掌サイズの小人のようにして映し出される、老人のホログラフに語りかける女性こそ、
このフロアの――ひいてはVIPという街の支配者たる女王、渡辺グループ総帥アヤカ=ワタナベに他ならない。
184
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:00:39 ID:WbucYHaY0
緩く外に跳ねた飴色のくせ毛に覆われたその顔は、渡辺グループの総帥という立場にしては異常なまでに幼い。
空色のスーツを上品に着崩し、本革のソファにしなを作る様にしてもたれかかった彼女は、
そのくるくると動く子供のような瞳をホログラフの老人から逸らして、わざとらしい仕草で髪をいじった。
从'ー'从「最も、この時期にムズリーマに飛ぶと言われた時は、正気の沙汰とも思えませんでしたけれどね」
したり顔でそう言う彼女の言葉の端には、ホログラフの老人を非難する様な響きがあった。
( <●><●>)『全てはTHUKU-YOMIの導き出した答えだ。“彼等”の言葉に間違いは無い』
从'ー'从「我々は、その有り難い御言葉に従うのみ、ってわけかしらん?」
ホログラフの中の老人は、ワタナベの言葉を咎める様な様子も無く、まるで幻想小説の中の賢者のような顎鬚をしごく。
皺だらけの顔の中から覗くその二つの眼は、老獪な鷲か、はたまた宇宙の深淵を宿したかのような、底知れない輝きを湛えて静かに揺れていた。
( <●><●>)『兎に角、ヴォルフの尻尾を回収できたのなら、それに越した事は無い。至急、我々の下に移送を――』
老人の言葉を遮るように、甲高く短い電子音が、断続的なリズムで響く。
从'ー'从「あら、失礼。キャッチが入ってしまいましたわ。お話の続きはまた後ほど……」
( <●><●>)『そんなものは後でいい。ヴォルフの尻尾の方が……』
185
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:02:01 ID:WbucYHaY0
尚も抗議の声を上げようとする老人を無視して、ワタナベは手元のチャンネルからキャッチ先を呼び出す。
从'ー'从「ビジネスは一分一秒を争うものですわ」
既に途切れた映像に向かって舌を出して見せると同時、新たな通話相手のホログラフ映像が彼女の前に浮かび上がった。
(´・ω・`)『やあ、アヤカ総帥におきましてはご機嫌麗しゅう……取り込み中だったかな?』
从'ー'从「ううん、全然〜。何も問題は無いよぉ。何も、ねっ」
くたびれたような垂れ目と眉が特徴的な、優男のホログラフ映像。
ワタナベの声音は、その相手を認めた瞬間に、蠱惑的に砕けたものとなった。
(´・ω・`)『それは良かった。先日のムズリーマの件ではお世話になったね。
何しろニホンじゃどうしてもアレの試運転を気軽に行えるものでもないからね。助かったよ』
从'ー'从「こちらこそ、面白い物を見せてくれて有難う。
うちの工場の人たちも、貴方に触発されて量産化の打診をしてたみたいで、良い刺激になったよぅ」
(´・ω・`)『ははは、それもまた面白いかもしれないね。
――それで、今日はそのお礼と言ってはなんだけど、耳寄りな情報を持って来たよ』
しょぼくれ眉の優男は柳が笑うような表情を作る。
昼下がりの喫茶店での恋人同士の会話めいたその物腰の中には、しかし、
どろりとした得体の知れない灰褐色の何かが蟠っている様な空気が感ぜられるようだった。
186
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:03:13 ID:WbucYHaY0
(´・ω・`)『そう、これはムズリーマの話の続きでもある。ヴォルフの尻尾を、キミ達は持っているね。それを狙う賊の情報さ』
ぴくり、とワタナベの眉が上がる。
(´・ω・`)『向うでも随分と多くの賊に狙われていたみたいだけど、彼等中々しつこいね』
从'ー'从「……それで、賊と言うのは?」
勿体ぶったような優男の口調に、ワタナベは努めて平静を装いながらも、焦れた様子を隠し切れない。
優男はそれが可笑しかったのか、口の端を僅かに緩めた。
(´・ω・`)『一週間前、フェリーの監視カメラで確認した。ムズリーマでやんちゃをやらかしていた二人が、日本入りを果たしたようだよ』
束の間、ワタナベは記憶の糸を辿る。
燃え盛る兵器格納庫の中で、狂ったように笑うネオゴスパンク女の姿が、直ぐに思い出された。
(´・ω・`)『御節介だと思ったけれど、既に僕の方でも一人、その道のプロを雇って後を追わせている。
それでもあの二人は手強い。キミ達の方でも準備をした方がいいだろうね』
優男の言葉と同時に、ロ―テーブルの脇の情報端末がメールデータの受信を知らせる。
直ぐ様それを開いて、中身のデータを確認したワタナベは、その薄い唇を忌々し気に歪めた。
187
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:04:43 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「“髑髏と骨”……米帝も、随分と“あのお方”に御執心みたいだねぇ……」
(´・ω・`)『元同僚としても、彼らの百カ年計画には舌を巻かざるを得ないよ。
その内、彼等は銀河の警察でも名乗るつもりなのかな?ぞっとしないね』
从'ー'从「本当、ぞっとしないよねぇ……」
優男の言葉に合わせながら、ワタナベは先の老人の事を思い出す。
予言の忠実な遂行者。ニホンという国の舵を取っているつもりの、賢者気取りの愚者。
支配者達の欲望に果ては無い。
地上の全てを手に入れても尚、飽く事の無いそれは、最早無限にも等しい。
自分もまた、それらと肩を並べ、予言の為に動く一つの歯車となって動いているという事実が、尚の事腹立たしかった。
(´・ω・`)『そう言うわけで、僕の方でも動いてはいるけれど、
そっちでも出来る限り何か対策を練っておいてほしい、という話でした』
最後に「またね」と下手くそなウィンクを作って通信を切る優男を見届けてから、
ワタナベは本革のソファから身を起こすと、顎の下に指を当てて思案を繰りつつフロアの端へと歩いて行く。
360度が総ガラス張りの頂上フロアからは、VIPという街の全景が見渡せる。
大気汚染にくすむ、黄昏の街並みを見下ろす彼女の脇に、何時の間にか並ぶようにして佇む者があった。
188
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:06:13 ID:WbucYHaY0
(゚、゚トソン「それで、如何なさいますか?」
栗色の髪をバレッタでひとまとめにした、秘書風の井出達の女の名前はトソン。
菫色の瞳で主を真っ直ぐに見詰める彼女は、ワタナベの傍仕えを任された特A級護衛専任ガイノイド、「アイアンメイデン」だ。
(゚、゚トソン「先日のムズリーマでの彼女達の様子から鑑みるに、やると決まれば彼女達は手段を選ばないと思われます。
脅威度で言えば、シベリアの“暴君”には及ばないかもしれませんが、それ以上に行動に予測がつきにくい分、危険かと」
从'ー'从「うん…そう、かもね」
(゚、゚トソン「シベリアの“暴君”と言えば、我が社の株式は未だ彼女達の手に大半を握られたままです。
買い戻しや新たな株券の発行により、彼女達の影響力を弱める工作は続けておりますが、それでも寝首を掻かれる危険性は十分に存在するかと」
从'ー'从「……うん、うん、分ってるよ」
(゚、゚トソン「ニーソク界隈における陣龍の台頭も無視できない状態です。
加えて、ブラウバイオニクス社も今でこそは協調路線を維持しておりますが、彼等の動向も注意すべき所でしょう。
“カグラ”の方も、今回のヴォルフの尻尾の移送が滞っているという事で―-」
从#'ー'从「分ってる!分ってるって言ってるでしょ!」
189
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:09:20 ID:WbucYHaY0
堪え切れなくなったワタナベの一喝が、二人だけのフロアに木霊する。
何時もは支配者の余裕たる微笑を湛えた唇は、今は焦燥と怒りに歪んで引きつっていた。
从;'ー'从「分ってる…分ってるわよ…そんな事…」
海外犯罪組織の流入からこっち、渡辺グループの支配体制は目に見えない所で揺らぎ始めている。
ニーソクを二分していた日系ヤクザが、陣龍と氷の旅団によって壊滅させられてからは、その傾向が顕著だ。
渡辺傘下の企業でさえも、下部の下部にまで視線を落とせば、これら海外犯罪組織の買収・脅迫活動により、
既に食い物にされたものが何社も見受けられる。
ムズリーマ行の少し前に、業を煮やした渡辺によって、ロイヤルハントを導入しての「氷の旅団壊滅作戦」が指揮されたが、
それさえもニホン軍の過去の汚点を盾に回避されてしまった。
実際、その痛手はかなり大きかったと言えよう。
今の所、ラウンジ区を中心に根を張った「氷の旅団」と、ニーソク区に根を張った「陣龍」が、
ニューソク区を干渉地帯にして睨み合っており、これからどう転ぶのかは未だに判然とはしない。
いっそのこと、この二勢力が互いに食いつぶしあってくれれば、渡辺グループとしては言う所は無い。
最も、三合会とシベリアという世界規模の犯罪組織に、そのような愚鈍な采配を期待するのが間違いと言うものだろう。
企業警察を導入して一斉摘発を行おうにも、「氷の旅団」は先だっての壊滅作戦の失敗以後、
その本拠地を変えた様で、それを突き止めるにも時間が掛りすぎる。
片や陣龍はと言えば、万魔殿を中心としたニーソクの与太者達を賄賂などで上手く抱きこんでいるようで、
多少の攻撃もトカゲの尻尾切りで上手く逃げられるだけだろう。
氷の旅団にも共通して言えることだが、頭を潰さない事には決定打には至らないと言えた。
190
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:10:22 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「頭を潰す……」
強化ガラスの向うに広がる悪徳の街を見下ろしていたワタナベの顔が、何かを思いついたかのように上向く。
すぐさま情報端末の方へと取って返すと、アドレスリストを開いて定型文からメールをこしらえて送信した。
(゚、゚トソン「何か、案が?」
機械らしい無感情な調子で秘書官が尋ねてくる。
从'ー'从「トソン、貴方には陣龍に出向してもらいます」
得意の嘲う様な調子を取り戻すと、ワタナベは口の端をほころばせて言った。
从'ー'从「――そこで、香主殿と共に、ヴォルフの尻尾の移送任務に当たってもらいま〜す」
満面の笑みを湛える渡辺グループCEOの顔は、苺のケーキのワンホールを前にした少女のようですらあった。
191
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:11:35 ID:WbucYHaY0
※ ※ ※ ※
――アサヒ・ウギタは今年で43歳になる。
結婚十年目、妻と一人娘と三人で、ニューソク区の一番安い2LDKのマンションで暮らしている。
酒と煙草はほどほど、ギャンブルには見向きもしない、いたって真面目な男だ。
中肉中背の体型に、牛乳瓶の底のような眼鏡を掛けた彼は、一見しただけでは何処にでも居る中流階層のサラリーマンにしか見えない。
(-@∀@)「こないだの父兄参観も、結局出られなくてよ……」
「で、今日の学芸会も出られない、と」
(-@∀@)「埋め合わせに今度遊園地連れて行く事になってはいるがよ……」
「そっちも潰れたりして」
(-@∀@)「馬鹿野郎!――そういうのは…止めろ。……ホント、止めてくれ」
「ハハハ、スンマセン」
輸送隊の最後尾。
ダミーの10トントレーラーの助手席に座ったアサヒは、二回りも年下の若手組員の軽薄な笑いに、顔をしかめる。
ピンクファウンデーション系列のマーケティング企業に就いていた彼は、
ピンクファウンデーションがブラウナウバイニクス社を買収した際の人員整理の煽りを受けて、二年前の四十路突入早々、職を失った。
二十年以上を務めた会社も、手を切るとなればそこには一切の慈悲も無い。
会社の為にとサムライが如き忠義で仕えてきたアサヒは、雀の涙程の退職金だけを突き付けられて、
一方的に追いだされるような形で路頭に放り出された。
192
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:12:58 ID:WbucYHaY0
あの時。
あの時だ、とアサヒはふとした瞬間などに述懐する。
あの時から、アサヒの中での価値観は一転した。
上司の嫌味に耐え、行きたくも無いキャバレーに接待と称して連行され、取引先に頭を下げて、残業、残業、また残業の繰り返し。
それでも妻子の為にと粉骨砕身してきたアサヒは、あの時、何の前触れもなく、
一瞬にして職を奪われたあの瞬間から、止まっていた時間が動き出したかのような錯覚を覚えている。
ピンクファウンデーション系列と言えば、一流とまではいかなくても株式上場企業の一端だ。
同業他社の再就職先に困る様な事は無い。
それでもアサヒは、もう二度とあのような世界に戻りたいとは思わない。
それはある種のトラウマなのかもしれない、とも思う。
(-@∀@)「そういうお前はどうなんだよ?え?アケミちゃんだっけ?」
窓外を流れる松の防砂林の刺々しい頭の群れから眼を戻して、アサヒは隣の同僚に向かって小指を立てて見せる。
二回りも年下の、アサヒにとっての“先輩”は、バツの悪そうな顔で目を逸らした。
「いやーほら、アイツはアイツで忙しいだろうし。一応、俺もたまに店に顔出したりするんすけどね」
(-@∀@)「それだってお前、陣龍の仕事とかでだろう?プライベートではどうなんだって話だよ」
「んープライベートっすかあ…無いっすねえ…特に…あ、こないだ一緒に焼き肉行ったかも」
(-@∀@)「こないだって何時だよ」
「えーと、半年前?」
193
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:14:36 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「馬鹿野郎、それはこないだって言わねえんだよ。
大昔だ、大昔。そんなんじゃ、直ぐに冷められちまうぜ?」
「ウェー……。止めて下さいよ、そういうの。……マジで、止めて下さいよ」
(-@∀@)「ムハハハ!スマンスマン!」
苦虫を噛み潰したような顔でハンドルを握る同僚の背中を叩いてひとしきり笑った後。
ふと、アサヒはフロントガラスの向うに気になるものを見つけ、その目を細めた。
(-@∀@)「ん?なんだ、ありゃ?」
目の前を走る装甲トレーラーのコンテナの上に広がる、灰色の雨雲。
重金属酸性雨降りしきる、暗黒の空。
疲れ切ったウミネコの群れに混じって、ひと際大きな白い影が飛んでいた。
(-@∀@)「鳥か?……それにしたって、ありゃ随分と――」
「どうしたンスか?」
(-@∀@)「いや、アレなんだけどよ――」
欠伸を噛み殺しながら聞いてくる同僚に、答えを返そうとして、アサヒはもう一度その影があった場所へと視線を戻す。
重金属酸性雨で粘ついたフロントガラスの向うには、しかし先に彼が認めた影は見当たらなかった。
194
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:15:48 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「んん?おかしいな…確かにさっき――」
首を傾げてフロントガラスに首を近付けるアサピー。
前の装甲トレーラーのコンテナと灰色の雨雲の間の空に、目を凝らす。
耐えがたい程の衝撃がアサヒ達を襲ったのは、まさにその瞬間だった。
「なななななんなンスか!?」
上からの衝撃に、10トントレーラーが束の間揺れる。
タイヤが滑り、車体がかしぐ。若手組員がハンドルを慌てて切りなおす。
なんとか、横転だけは免れた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
(;-@∀@)「ナンダ!?一体何が起こっているってんだ!?」
トレーラーのコンテナを、巨大なハンマーか何かで打つような鈍い音が断続的に響く。
コンテナ。襲撃か?
二人がその予測を頭に浮かべた瞬間、ひと際大きな打撃音の後、金属が裂ける身の毛もよだつような音が、車体全体に響き渡った。
(;-@∀@)「通信を!香主にこの事を知らせなければ!」
慌てふためきながらも、咄嗟に思い至ったアサヒがダッシュボード脇の車載無線に手を伸ばす。
しかし、その手は無線を掴むことは無かった。
195
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:16:35 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「――え?」
アサヒは、我が目を疑った。
これは、何だ?手か?人の手、生白い、包帯だらけの細い腕?それが、自分の肩越しに突き出して――。
(-@∀@)「――何で?」
疑問に答えるように、生白い掌が開く。
相前後、鷲の鉤爪めいて開いた掌が、アサヒの顔を掴み、後ろに引いて押しつぶした。
196
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:19:34 ID:WbucYHaY0
◆休憩時間◆ご飯とか食べなさい◆
197
:
名も無きAAのようです
:2012/08/08(水) 19:29:31 ID:uq4li3AI0
飯くっちゃったよ!
198
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:47:00 ID:WbucYHaY0
■RADIO塊IM■Marilyn Manson- The Nobodies (Against All Gods Remix)
http://www.youtube.com/watch?v=qi5nTb-NRFU
■白粉■貴方?筒■
199
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:50:15 ID:WbucYHaY0
◆再開ドスエ◆
200
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:52:04 ID:WbucYHaY0
※ ※ ※ ※
――脳核通信を切ると、香主は後ろ腰のホルスターからつがいのベレッタM76を抜き取り、両の手にそれぞれ構えた。
<ヽ●∀●>「パラグライダーでの襲撃だとよ。この雨模様で、よくもフライト許可が下りたものだな?」
冗談めかして、香主は傍らのトソンに語りかける。
遠くで、金属を殴りつける鈍い音に紛れて、ひっきりなしに銃声が響いている。
後続車両の間では、既に戦いが始まっているようだった。
(゚、゚トソン「……」
ダークブラウンのスーツを召した渡辺の忠実な秘書官は、ニダーの冗談に応じる事は無い。
麻布に覆われた鉄箱の傍らにしゃがみ込んだ彼女は、揺らぐ事の無い菫色の双眸で、ジープの幌をじっと睨みつけていた。
<ヽ●∀●>「オーライ、お喋りの時間はここまでだ。真面目に勤労に取り組ませて貰うとするさ」
二丁拳銃を握ったままで、香主が降参めいて両の手を肩の高さで上げる。
直ぐ後ろの車両で、爆発音が上がった。
続けざまに、サブマシンガンの銃声が響き渡る。
「糞ったれが!なんだコイツは!何なんだこいつは!」
「死ね!死ね!死ね!死ね畜生めえええええ!」
201
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:53:03 ID:WbucYHaY0
組員達の恐慌した叫び声。
風切音。肉の弾ける湿った音。
「邪魔、邪魔、邪魔、邪魔だよ邪魔あ」
場違いな程に間の抜けた、女の声。
硝煙の臭いと、それに混じる血の臭気。重金属酸性雨の湿り気。
ひと際高く銃声が響いた後、不気味なまでの静けさが訪れた。
<ヽ●∀●>「……」
遥か後方で、トレーラーが横転して爆発する音が聞こえてきた。
ニダーは、両掌に握ったベレッタM76の感触を確かめる。
恐らくは、今ので全てのダミー車両がやられた事だろう。
<ヽ●∀●>「――舐めた真似、してくれるじゃあねえか」
混沌する脳核通信で、ニダーが唯一確認できた現状の襲撃者は一人。
一人。たった一人に、自分達の部下が、恐らくは全滅させられた。
腹の底から赤黒い炎にも似た感情がせり上がり、ニューロンを焼けつく舌先で舐める。
ニダーは、昨年の冬の事を思い出していた。
たった一人の殺し屋崩れに、陣龍そのものが地獄の釜の上でジルバを踊らされた、あの時の事を。
知らず、噛みしめていた奥歯から、ゆっくりと力を抜く。
もう終わった事だ。あの悪夢は、もう冷めたのだ。
202
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:53:44 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「下らねえ…下らねえ茶番だ…全部な」
ジープの幌の間から、白い指が覗く。
物思いを中断すると、ニダーは両手のベレッタM76を、両腕を交差させる形にして構えた。
遠くの空で、稲光がどよもした。
203
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:55:04 ID:WbucYHaY0
※ ※ ※ ※
――沿岸道路を一列になって走る、装甲トレーラーとジープの群れ。
重金属酸性雨降りしきる太平洋の黒波を背景に、そのトレーラーの間を飛び石めいて跳ね渡っていく一つの影があった。
(*゚∀゚)「……」
黒革の拘束衣めいた衣装の上から、拘束ベルトと包帯を幾重にも巻きつけたその姿は、果たして人のものなのか。
プラチナブロンドヘアの左側頭部を、ピンクとブルーのメッシュのウェーブヘアに、
右側頭部をドレッド編みにしたそのネオ・ゴス・パンクの女の瞳は、黒と白が真逆になっており、一種の怪物めいた様相を呈していた。
今しも、その怪物じみた女が蹴って跳躍した10トントレーラーが、制御を失ったかのように蛇行し、
車線を外れて左の防砂林へ向かって流れていく。
バイオ植林の松の林にぶつかった車体が、壮絶な爆音と共に爆発炎上する中、
既に前のトレーラーのコンテナの上に着地していた女は、その包帯と拘束ベルトが巻きついた腕を槍のようにして構えると、
足元のコンテナの鉄板装甲に勢い良く振り下ろした。
鋼鉄と生身の拳の衝突は、しかし生身の拳の勝利だ。
泥濘を長靴で踏み抜いたかのような穴がコンテナの鉄板装甲に穿たれ、怪物じみた女はその穴の中へと滑るようにして降りていく。
「来やがった!撃て!撃て撃て撃てー!」
直後、コンテナの中で待ち構えていた陣龍の組員達が、手に手に握っていたサブマシンガンによる一斉放火を浴びせてくる。
黒のスーツで上下を固め、防弾ベストを着こんだ組員達の数は五人。
白と黒の逆になった双眸でそれらをぬらりと見渡すと、女は人形めいた仕草で首を傾げた。
204
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:56:10 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「ああ?んんん〜?」
運転席側と接するコンテナの、二つの頂点からの十字砲火。
飛んでくる銃弾の一発一発の軌道を、女は鈍化した世界の中で確かに認めた。
認めたうえで、その中へと無造作に飛びこんで行った。
「糞ったれが!なんだコイツは!何なんだこいつは!」
「死ね!死ね!死ね!死ね畜生めえええええ!」
弾幕の中に身を晒し、肉を抉られ、嬲られながらも突進してくる女に、組員達は狂乱の叫びを上げる。
違う。こいつは違う。人間じゃあ、ない。
組員達の誰もが同じ思いで引き金を引く中、刹那の疾駆で距離を詰めた女の爪先が、一人の組員の頭を文字通り砕いた。
「うわ、うわ、うわ、うわああああああ!?」
血の飛沫になったそこから、女は爪先を鎌めいて横に薙ぐ。
隣の組員の首が、壁に衝突したトマトめいて破裂し、肉塊がコンテナの壁に飛び散って赤黒い染みとなった。
(*゚∀゚)「んん――んっん〜…ああ、うんうん、まあ良いか?」
振り抜いた足を、カポエイラの型めいて宙でぶらぶらさせて、女はもう一方の隅の組員達を焦点の合わない眼で見据える。
一瞬にして二人の仲間を失った組員達は、狂乱と恐怖の中にも、目の前の怪物に対する戦闘意欲を失ってはいない。
三人のうちの二人が、マガジンを交換する中、残る一人が弾の切れたサブマシンガンを捨て、腰の特殊警棒を手に突進して来た。
205
:
◆fkFC0hkKyQ
:2012/08/08(水) 19:58:04 ID:WbucYHaY0
「くそっ!くそっ!くそっ!くっそおおおお!」
(*゚∀゚)「あーちょっと待て。今、繋がる…ああ、もうちょっともうちょっと」
組員の決死の特攻を前に、怪物じみた女はヤク切れのジャンキーめいて口を半開きに、こめかみの辺りを自らノックするような仕草を取る。
(*゚∀゚)「…いー……ああ、うんうん…イイんじゃあないか…うん…」
「しゃっこらー!死ねやああああ!」
手負いの獣の如き形相で特殊警棒を振りかぶる組員。
電磁パルスが流れるその黒い棒身が、女の首筋に叩きつけられる瞬間。
(*゚∀゚)「よしっ、繋がったっ」
虚ろな目で虚空を見つめていた女が呟く。
同時、特殊警棒を握っていた組員の右手の手首から先が、消失していた。
「――え?」
何が起こったのか。組員が自分の右手へと視線を向けた瞬間、彼の全身を赤黒い奔流が飲み込んだ。
(*゚∀゚)「ケッ。こんなもンかよ。ま、悪くはねえか?」
組員を一瞬にして飲み込んだ赤黒いゲル状のそれは、血と肉片の散乱するコンテナの床から立ち上っている。
ぼこぼこと泡立つ、不定形の怪物染みたその奇怪な物質の登場に、組員達の中に残っていた最後の勇気が崩れ落ちた。
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