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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
1
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。
今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。
ご存じない方は、下記URLを参考ください。
ブーン文丸新聞 様
第一部 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm
では、開始します。
261
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:00:10 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)=3
スペルシーラーやスペルキャンセラーなど、所謂『対抗魔法』と呼ばれるものには
打ち破る方法が二つある。
一つは純粋に、それを回避すること。
魔法に触れさえしなければ、効果は発動しない。
もう一つは、術者の魔力より、より大きな魔力をぶつけること。
網で獲物を捕らえようとも、網の強度が負ければ捕獲にはならない。
今回、モララーはどちらの方法でも回避できたのだが……彼はあえて、後者の手段を取った。
(;^^ω)「!?」
理由は、対象に反撃がしやすいから。
スペルシーラーを唱えていた近衛魔術師は、モララーに強く睨まれる。
周囲の薔薇が解けるように散り、見えない力が一直線に飛んでいく。
途端に、術者は泡を吹いて気絶してしまった。
視線を通して、そのまま脳の機能を混濁させる精神汚染魔法の効果だ。
ミ,,゚Д゚彡「シッ!!」
集中で視野が狭くなったと踏んだ、その近衛騎士は槍による刺突をしかけていた。
並の相手であれば、速度と強度に抗う暇もなく、傷を負って床に転げていることだろう。
( ・∀・)「残念でした」
ミ;゚Д゚彡「あギッ!?」
262
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:02:08 ID:oLCKM6Z.0
まるで紙のように、体を旋回させてそれを躱す。
穂先から体まで、回り込むようにして接近し、鎧に触れる。
短い魔術詠唱で、近衛騎士は気絶した。
身体能力を強化させ、動体視力も超化。
今のモララーは、近衛騎士であれどまともに敵う相手ではない。
( ・∀・)「連携でもしてこないと、あっという間に終わっちゃいますよ。
まあ、ぼくはそれでも構いませんが」
余裕そうに、モララーが手をぷらぷらと振る。
彼の周囲には、既に数人の騎士と魔術師が倒れていた。
既に立っている者と伏せている者が、ほぼ同数になっている。
何度も言うが、王の側近でもある『近衛』の称号を持つ騎士と魔術師は
大陸の中においても、最強に位置する強さを持っている。
そんな彼らを相手に、息を切らすこともなく
たった一人で制圧できるモララー=レンデセイバーは、まぎれもなく異常だった。
地面から突如、激しくせり出す巨大な岩柱。
対象を高速で上昇させつつ、体を断面で傷つける土魔法が発動された。
包み込まれているのは、当然モララーだ。
263
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:03:09 ID:oLCKM6Z.0
だが、聳えた岩山は次の瞬間には氷と化す。
氷の結晶をまき散らしながら砕けると、それはそのまま攻撃へと転じられた。
術者は抵抗も空しく、四肢を氷漬けにされ動けなくなっていた。
次はナイフを投擲されたので、モララーはそれを中空でせき止める。
何本も何本も重なったところで、束に電流がぶつけられた。
二重の攻撃で、一気に押し切る算段だったのだろう。
( ・∀・)「スペルカウンター。レベル10」
( ・∀・)「5倍返し!」
刃は爆ぜたように飛び交い、騎士の鎧を破壊していく。
遠くで援護していた魔術師は、反射された雷撃を防護魔法で防いだが
最終的に威力負けをして、感電と失神をしてしまった。
接近戦を騎士が、遠距離から魔術師が。
お手本のような戦いの連携に、モララーは感心する。
高度な技術、魔術を肌身で感じる。
( ・∀・)(ああ、やっぱ近衛のたちは凄いなぁ)
素直に、そう思った。
彼にとってはわからないが、魔術書や戦術書を読む限りでは
この領域に達するには相応の経験と才能が必要のはずだ。
ならば、努力には敬意を払わなくてはならない。
264
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:05 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「国王陛下、少々失礼。」
/ ,' 3「ほ?」
安全な場所で見られるよう、遠くで離れて魔術結界を張られていた国王。
声を直接脳内に届かせる魔法で、そう言うと
モララーは、今いる次元から国王だけを返した。
( -∀-)「さて……」
攻撃の手は止まない。
回避のために空中へモララーは飛び立つが、氷の刃や火球の嵐が彼を襲う。
合間を縫うように鋭い弓矢も飛んできた。
強化された肉体で、それらを防御しつつ
彼は神経を集中させた。
( -∀-)「無音斬り裂く死の胎動。混沌へと還す静謐の刃よ……」
両の手をかぎ爪状にして力を溜める。
脇を締め、そこに魔力を込めると黒い雷がバチバチと音を立てながら発生した。
(;-@∀@)「ば、バカな……!?」
……その詠唱に聞き覚えるのある魔術師は、腰を抜かした。
騎士は、恐れずに立ち向かっていった。
止めなくては、終わってしまう。
誰もが、次の一手が最後のチャンスであることを悟っていた。
265
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:55 ID:oLCKM6Z.0
( -∀-)「心切り裂く瘴炎と化せ」
集中のせいで、浮遊魔法を解いたからか
モララーは落下を始めていた。
着地をした、今こそが好機だ。
残り僅かな近衛騎士たちが、その千載一遇の瞬間を狙う。
(;-@∀@)「違う、そこじゃない!!」
( ・∀・)「ネインエスパルダ!」
一人の近衛魔術師が叫んだ時にはすでに遅く。
狙っていたはずのモララーの体が透けた。
攻撃が空を切る感覚は、希望を絶望へ変える。
それは自動発動される、幻影魔法を事前に使っていたため起こった現象。
彼らの目に映るより、はるか遠くにモララーはいる。
そこで、闇魔法の『大魔法』を既に放っていた。
稲光する両手を一気に握る。
黒い空間を、更に覆いつくすように広がる漆黒の波動。
包み込まれた人間は、永遠に闇の奥底へ落ちていく感覚と
全身を縦横無尽に振り回される錯覚で、一瞬にして廃人へと化してしまう。
扱えるものが多くない、最高等に位置するランクの魔法だった。
266
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:05:42 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「こんなところで、どうですか」
パンと手を叩くモララー。
いくら何でも、今回は完全発動まで出来ない。
気を失ったと同時に魔法解除。
時空転移魔法も消し、既に周囲は会議室へと戻っていた。
周りに横たわる、戦意を完全に失った最強の兵士たち。
その結果を見て、スカルチノフ王は静かに涙を流した。
/ ,' 3(おお……この子が居れば……戦争は終わる。間違いなく!
『今度こそ』、天は我々を見放しはしなかったか……!)
歓喜に打ち震え手を叩く国王を見て、モララーは満足げに笑った。
つづく
267
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:08:57 ID:oLCKM6Z.0
こんばんは。作者です。
本編の後の話は書かないつもりでしたが、前日譚的なのはまだ書けるな
と思って、書き始めました。
既に完結まで書き終えているので、毎週土曜日か日曜日の夜に投下しようと思っています。
よろしくお願いします。
あ、トリップも無いままだとアレなので、一応新しいのつけておきます。
268
:
名も無きAAのようです
:2021/02/21(日) 22:19:22 ID:tztj5/Vg0
え”マジですか
269
:
名も無きAAのようです
:2021/02/22(月) 00:38:42 ID:L3BGNJn.0
やったぜ
全何話とかは書き上がっててもまだ明かせないやつ?
270
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/22(月) 06:53:35 ID:xn4bgDv.0
>>269
話数については、作品の中にヒントがあるので探してみてください。
来週の更新で、まずわかるかと
271
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:12:02 ID:CwhOLy0A0
嘗八話「モララーの役目」
国王が、側近に僅か15歳の少年を置いたという達しが出てから一週間が経った。
王の目的はただ一つ。
長きにわたる戦争を終結させるため。
その切り札として、モララー=レンデセイバーを手中に収めた。
当然、彼のやるべきことは決まっている。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊の為の支援魔法をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
272
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:13:32 ID:CwhOLy0A0
ミ,,゚Д゚彡「こぉら、レンデセイバー。何度言わせる。
スープを掬う時は手前から奥だ」
(`_L')「食べる際に、いちいちフォークを持ち替えるんじゃない」
(;-∀-)「ぐ……。はい」
――――わけではなかった。
何かしらの策があるのか、モララーは戦場へ出ることなくNEET城で生活をしていた。
庶民の出自ゆえ、特に厳しい教育もなく。
自分には余りにも関係のない世界のことだから、知りもしなかった
基本的な会食でのマナーについて、近衛の役職の方々から教授されていたのだ。
_、_
( ,_ノ` )「お、来たね。今日も頼むよ」
(;・∀・)「はい。頑張ります」
食事が終われば、次は厨房で皿洗いの手伝い。
庶民の者ならまだしも、王族貴族の使う食器類だ。
身体に害が出る可能性のある魔法は使えない。
よって、王宮内の食器類は手洗いのみとされていた。
防水魔法も使えないので、手が荒れる。
モララーは傷に良く効くクレスト草の軟膏が手放せなかった。
273
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:15:30 ID:CwhOLy0A0
|゚ノ ^∀^)「それにしても、あなたも大変ね。こんな雑用ばかり任されちゃって。
よく知らないけど、凄い魔術師なんでしょう?」
( ・∀・)「いえいえ。新参者ですから、これぐらいはしないと」
城の傍にある大きな大きな庭。
兵士達の洗濯物を、モララーと雑用係の女性で手分けして干していた。
干す場合は魔法を使っても問題ないので、モララーは素早く手際よく
紐にシャツを通したり、タオルの皺を完璧に伸ばしながらスタンドへ掛けていく。
量が量なので、二人がかりで魔法を使っても、それなりの時間を要する重労働だ。
慣れている女性は、鼻歌交じりで次々に干し紐へ服を通していく。
モララーと遜色ない速度なのは、熟練の業ゆえだろう。
( ・∀・)「しかし、流石は王宮ですね。外で洗濯物を干せるだなんて」
仕事を終え、出来上がった色取り取りの衣類による虹を前に、腕組をしながらモララーは感嘆する。
|゚ノ ^∀^)「確かにね。普通は家の中だし」
( -∀-)「食事に作法……何もかも、ぼくが知らない生活ばかりだ」
|゚ノ ^∀^)「辛い?」
( ・∀・)「いえ、全く」
モララーは嘘偽りなく、笑顔で答えた。
/ ,' 3『おぅい、レンデセイバーくん』
274
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:17:03 ID:CwhOLy0A0
夜も更けた頃合いだった。
モララーが額に流れる汗を拭っていると、頭の中に声が響いた。
対象とのみ、会話が出来る中級ランクの音信魔法。
魔術師といえ、王がそんな魔法を使えることに驚きつつ
モララーは返事をする。
(;・∀・)『はい、なんでしょうか』
/ ,' 3『少しこっちに来てくれんかの』
魔力の発信源を探る。
モララーが居る場所から、はるか遠く。
王都の上方……城の頭頂部からだった。
(;・∀・)『今すぐですか?』
/ ,' 3『出来る限りの』
(;-∀-)『かしこまりました。では、急ぎで』
モララーが、音信魔法を切ったと同時に念じる。
275
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:18:31 ID:CwhOLy0A0
上部から勢いよく滝のような水が降り注いだ。
全身を洗い流すと、頭を揺さぶり水滴を軽く弾く。
そして、風の魔術と火炎魔術を同時に使用。
温風で肌と衣服の湿り気を、瞬時に無くす。
遠くに生えている、香りの良いシルムの葉をちぎって引き寄せ
手の中に取ると、ぎゅっと握りしめた。
液体に変化したそれを霧状にし、モララーは体に振りまいてから
別の魔術詠唱をする。
( ・∀・)「時の間で空成る間へ。我が描きし時空へ飛ばせ」
青い魔法陣を足元に発生させると、光の球に体が変化する。
空間転移魔法。
彼が、この城に連れてこられた時に近衛魔術師が使ってた上級魔法だ。
( ・∀・)「お待たせしました」
/ ,' 3「ほー。本当にキミはなんでも使えるんじゃの」
276
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:19:43 ID:CwhOLy0A0
そこは、国王の部屋。
王位を脱ぎ、肌触りの良いガウン一枚で過ごせる快適な空間。
夜風が気持ちの良いバルコニーで、王は待っていた。
手には中身の減ったワイングラスを握っている。
普段から肌身離さずつけているという、金色のブレスレットが月光に反射し
少しだけモララーは目を細める。
/ ,' 3「どうじゃね、一週間過ごしてみて」
( ・∀・)「ええ、とても楽しいことばかりです」
/ ,' 3「ほっほっほ。そうかそうか。それは良かった」
( ・∀・)「国王陛下こそ。気は休まっていますか?」
/ ,' 3「ほ?」
( ・∀・)「お部屋の外……後は屋上の方も。
見張りの者が居るみたいですが。普段から、そうなんですか?」
/ ,' 3「おお、それか。
いやな、普段はそこまで厳しくしてはないんじゃよ。
ただ、君が近くに来る場合はどうしても、とな」
( ・∀・)「気配探知魔法は気にならないので?」
/ ,' 3「慣れたもんじゃよ。まったく。みな、過保護すぎるんじゃ」
( ・∀・)「そうですか……」
277
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:21:30 ID:CwhOLy0A0
過保護、と王は言うが。
モララーは、きっとその行為が
ただの善意で成り立っているのだろうと気付いていた。
会って、話して。改めてわかる。
自由そうだけれど、いつも民や国の為を思って
ただひたすらに邁進して生きていることを、肌で感じる。
そんな人に仕えられて、幸せ以外のものはない。
だからこそ、損得勘定なしにこの人を守らなくてはならない、と思うのだろう。
きっと、得体のしれない人物が急に傍に現れたから
みんな普段より、強く緊張しているに違いない。
ましてや、認否はさておき……自分たちより実力は上の存在。
忠義があるのであれば、警戒しない方がおかしい。
/ ,' 3「ところで、今日の訓練はどうじゃった?」
( ・∀・)「そうですね。捗ったんじゃないでしょうか。
みなさん、流石ですよ、昨日より、三十分も長く掛かりました」
/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず、無茶苦茶なことを言うのキミは。
あれでも、我が大陸随一の精鋭なんじゃがのぅ……」
278
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:23:07 ID:CwhOLy0A0
モララーが先ほどまで行っていたのは
最上級の兵士に与えられる称号『近衛』達との模擬戦。
街から遠く遠く離れた、訓練専用の荒野で毎晩執り行われている。
近衛の兵士たちは、訓練こそすれ戦いの最前線には居ない。
故に、実践の感覚が薄れてしまう。
かといって、まともに相手を出来るのは同じ称号帯の人間のみ。
時間や相手を考えると、実戦形式の訓練をする機会は非常に少なくなってしまう。
そこで抜擢されたのがモララーだった。
それなりにプライドを持っていた彼らだが。
あの日、モララーに完膚なきまでに屈服させられてから
反発するように、挑み続けている。
未だ、誰も彼に土をつけることは適わないが
それでも、着実に距離が縮まりつつある実感はあるそうだ。
( ・∀・)「ところで、国王。ぼくから一つお伺いしても?」
/ ,' 3「おお、なんじゃね。なんでも聞くが良いぞ」
( ・∀・)「初陣はいつ頃になるのですか?」
/ ,' 3「ほっほっほっ。それか」
279
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:25:26 ID:CwhOLy0A0
不満があるわけではなく、純粋なる疑問だった。
スカルチノフは、モララーを戦争を終わらせる最強の手札として引き入れた。
だが、一週間経ってもやっていることは雑務や訓練のみ。
早く戦場に出せば、戦況は一変するはずだ。
なのに、どうして……?
ずっと思っていた疑問であった。
/ ,' 3「キミ一人の力で軍を押し進めるには、まだ信頼がなくての」
/ ,' 3「戦場に出て、場を制圧するまでは良い。
その後どうするか、じゃ。戦場は何も、原っぱだけではない。
野営地、市街地。それらも戦場になりうる」
/ ,' 3「敵とはいえ、非戦闘員をむやみに殺生するのは悪でしかない。
それではいけない。戦争が悪だと、怨恨しか生まぬ。
怨恨は終わりのない戦いを増長しかせん。
ゆえに、残された敵の『民』を保護する義務がワシらにもある」
/ ,' 3「たとえ、彼らが望まなくともの」
/ ,' 3「そこまでのケア、キミ一人で出来るかな?」
( ・∀・)「……いいえ」
280
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:26:57 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「となれば、人を頼るしかないの。
じゃが、国を離れればワシの庇護も薄くなる。
ただただ、力ばかり強いキミの後ろを、不平不満無く任せられるようになるには
もう少しだけ時間が必要なんじゃよ」
( ・∀・)「なるほど。それでお城中の世話を……」
/ ,' 3「嫌かもしれんが、キミ自身の為に。
我慢して続けてくれぬかの。
時を見て、ワシはキミを使う予定じゃ」
/ ,' 3「その時は頼むぞ。大魔術師よ」
スカルチノフは、心の底からモララーのことを考えてくれていた。
ただの戦闘兵器では、軍の士気を維持するのは難しい。
特に、内戦と違い大陸間の戦争の場合は海も渡るほど長距離だ。
一日二日で終わる戦ではない。
士気が下がれば、質も下がる。
そこまで考慮して、スカルチノフはVIP大陸の一戦士として
モララーを馴染ませようとしていたのだ。
/ ,' 3(……心配しているのは、それだけじゃないんじゃがな)
今までの戦い方、訓練での動き。
スカルチノフは余さず見ていた。
そして、一つだけ気付いたことがある。
281
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:29:27 ID:CwhOLy0A0
それは、戦争においては致命的な弱点。
一人の戦士として、究極の欠陥。
だから、いつかどこかで克服してもらいたい。
しかし、それは本当にモララー自身が許せるだろうか。
堕ちゆく自分を受け入れられるだろうか。
この長い戦争を終わらせるためとはいえ
たった15の少年へ、重い十字架を背負わせるのに
無責任であってはならない。
スカルチノフ国王も、本当はどこかで迷いがあったのだろう。
そのために、少しでも平穏の場を作ってあげたくて
彼を城中作業員として兼任させていたのだ。
( -∀-)「はい。精一杯頑張ります……!」
モララー自身にも覚えのある『弱点』。
それを押し込めるように、強く拳を胸に当てて返事をした。
つづく
282
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:30:53 ID:CwhOLy0A0
おまけ
/ ,' 3「ところで、レンデセイバーくんよ」
( ・∀・)「?」
/ ,' 3「お主、近しい家族がおらんと言っておったの」
( ・∀・)「ええ。親戚は居ましたが……別段仲良くは。」
/ ,' 3「ワシも、妻に先立たれてからもう長くてな。
子供もおらんうちに、いつの間にか年ばかり食ってしまった」
/ ,' 3「ちょうど、息子や孫が居ればのぅと思っておったのじゃよ」
( ・∀・)(まさか……)
/ ,' 3「と、いうわけで。これからは、ワシの事を『お爺ちゃん』と呼んでも良いぞ」
(;・∀・) て「いやいやいや。仮にも国王様が何を仰っているんですか」
/ ,' 3「国王じゃが、一人の老人でもあるんじゃ。人恋しくなって、何が悪い!」
#
(;-∀-)「それはそうでしょうが……」
283
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:31:47 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「別に、皆の前でそう呼べと言うわけではない。
ただ、少しでもお主にも
王都へ来て、安らかに思える場所があれば、と思ったんじゃが」
/ ,' 3「……ワシのことなんて、そんな風に思いたくないわけかの……」
(;・∀・)(うわあ! わかりやすく落ち込んでるぅ!)
/ ,' 3「寂しいのぅ……寂しいのぅ……」
チラチラ
(;・∀・)
(;-∀-)
(;-∀-)=3
(;・∀・)「わかりましたから。顔をあげてください、おじい様」
284
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:33:00 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「ほ? 今なんと?」
( ・∀・)「おじい様、です。それじゃダメですか?」
/ ,' 3「よい、良いぞ! それじゃ! おじい様!
* 良い響きじゃのう……」
(;-∀-)(全く、本当に道楽好きな御人だなぁ……)
/ ,' 3「また暇な夜には呼ぶからの。
* その時はちゃんと来るんじゃよ、モララーくん」
( -∀-)「……ええ、わかりました」
王の威厳を下ろした時の、無邪気な老人の笑顔。
この人の為なら、頑張っても良いかもしれない。
そう思いながら、モララーは静かに夜風に当たりつつ
楽し気に話す、老人との会話を楽しむこととしたのであった。
285
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:36:02 ID:CwhOLy0A0
今回はちょっと短めでした。
基本的には土曜日のこれぐらいの時間更新になりそうです。
そんなことより、聖剣伝説LOMのリマスター発売が発表されましたね。
この作品を作る際に、発想の元となった作品なので興奮が止まりませんでした。
良かったらみなさんも、ホームタウンドミナを聞いてみてください。
モララー君の山小屋モデルは、「マイホーム」だったりします。
286
:
名も無きAAのようです
:2021/02/28(日) 06:55:35 ID:CdpBQlSs0
乙です
287
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:29:43 ID:xNGrs6b20
嘗七話「初陣」
( ・∀・)(おや……?)
城に来てから、二週間が経った頃。
テーブルマナーに怒られることもなくなり
皿洗いの速度や精度も格段に上昇した頃。
洗濯物を取り込み、城の倉庫へ戻る途中のことだった。
仰々しい鎧を着た軍隊。
破れたローブを纏う集団。
意気揚々としながら、上部の謁見室へ向かおうとする兵士たちが居た。
それ自体は別に珍しいことはない。
どこかで戦いがあって、戦果の報告に来たのだろう。
だが、今日は違っていた。
その集団から、一人だけ。
分厚い金属の鎧をガシャガシャと鳴らしながら
大股でモララーの所へ向かってくる男性が居たのだ。
288
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:31:19 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「……」
(;・∀・)「な、何か……?」
普段誰かに話しかける部位より、かなり上。
意識しないと見えないほど高くにある顔へ、頑張って首を向けながら問う。
だが男性は何も言わず、品定めするようにただただ少年を見つめている。
時折、何かを感じ取ったのか大きく息を吸い込むのだが
その動作が、捕食前の獣のようで強く恐怖心を煽る。
敵兵ではないし、何か粗相をした覚えもない。
どうしたものかと、ピタッと合ってから逸れない鋭い眼光に、脂汗を流している時だった。
ζ(゚ー゚*ζ「こら、怖がってるでしょ!」
( ゚д゚ )「おっ!? お、おお。そうか! こいつは失礼した」
気持ちの良い高い音がパシーンと、モララーの上方から鳴り響く。
杖の先から延びた薄い布が、男性の頭部で叩かれたことが原因である。
音の割に痛みのない小道具を魔法でしまうと
男性の後方から、ゆるりと巻いた髪の小柄な女性が出てきた。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんねぇ。この人、初対面の相手を無言で見つめる癖があって」
( ゚д゚ )「力量を測っているんだ。戦士として必要な行為なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからって、誰も彼もやって言いわけじゃないでしょー?
そんなんだから、ロマネ君に抜かされるんだよ」
(; ゚д゚ )「そ、それは今関係ないだろう!」
289
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:33:19 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「……あの?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっと。ごめんごめん。いきなりビックリしたね」
親し気に話す二人の空気と、今の状況がわからず
モララーは中身が山になった洗濯籠を脇に浮かせたまま、動けずにいた。
それを見て、女性は『白魔術師』の証である
戦闘用純白ローブの埃を叩きながら向き合う。
ζ(゚ー゚*ζ「私はレイ=デ=ジェレイド。デレでいいよ。
こっちは私の夫のミラン。みんなからは、ミルナって呼ばれてるんだ。
あなたは、モララー=レンデセイバー君でしょう?」
( ゚д゚ )「君のことが、戦線でも噂になっていてな。
それで気になっていた所、姿を目にしたからつい見入ってしまった。
無礼をしてすまないね」
大男は厳しい顔を緩ませて、握手を求めた。
鎧の胸元に刻まれた白い獅子は、彼が『白騎士』の階級であること示している。
おずおずとモララーも、勢いに飲まれながら大きな手を握り返す。
( ゚д゚ )「しかし、話を聞いた時は何かの間違いかと思ったが……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、物凄い魔力ね。見たことないわ、こんな膨大な量」
(;・∀・)「ど、どうも……」
近衛の階級の人たちですら、一見ではモララーの強さを看破できなかった。
前情報があったからとはいえ、それを直に見て判断できるとは。
290
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:34:43 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「それほどの力量があれば、本当に終わりは遠くないのかもしれんな」
ζ(゚ー゚*ζ「出撃命令とか出ているの?」
( ゚д゚ )「おお、そうだ。戦利品なのだが、綺麗な小刀が手に入ってな。
お近づきの印だ、君にあげよう」
ζ(゚ー゚*ζ「やだ、そんな小汚いもの渡しちゃ失礼でしょ。
モララー君、今度もっとマシなもの持ってくるから。
そんなの受け取らなくていいよ」
(;-∀-)「あー……えーっと……」
似たもの夫婦という言葉があるが、その通りだ。
ペースがわからない。
デレが手綱を握っているように見えるが、デレもデレで
割と相手の様子を伺わずに、話したいことを述べてくるタイプだ。
モララーの周囲で見たことない人種ゆえ、困惑してしまう。
( ФωФ)「二人とも」
そんな二人の背後から、声がかけられた。
ミルナに劣らない、巨大な体躯。
佇まいだけで、モララーも一目でわかった。
かなり強い人だ、と。
291
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:36:49 ID:xNGrs6b20
身の丈ほどもある、大剣を背負った姿。
その階級にのみ着用が許可されている、金細工で魔術加工をされた輝く白銀の鎧。
彼ら、白騎士を従える部隊の総隊長……『聖騎士』だ。
( ゚д゚ )「ロマネスク」
( ФωФ)「寄り道する暇はないのである。
戦果の報告は速やかに行うように、と常に言っているのである」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったね。
ごめんなさい、ロマネく……団長。
じゃあ、レンデセイバー君。またね」
( ゚д゚ )「好きな食べ物とかあれば、教えてくれ。また持っていくよ」
手を振りあい、二人は集団へ戻っていった。
その背を追うように、ロマネスクと呼ばれた軍団長も歩みを進める。
が、歩みを止めて背中越しにモララーへ話しかける。
( ФωФ)「……お主が『大魔術師』であるか」
(;・∀・)「え? あ、はい」
ちらりと、その風貌を見る。
王都での出来事は、ロマネスクの耳にも当然入っていた。
言うように、凄まじい魔力だ。嘘でも誇張でもない。
292
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:38:35 ID:xNGrs6b20
誰かが、その強さを持ってすれば戦争の終結も夢ではないと吹聴していた。
確かに、そうだろう。
……だが。
( ФωФ)(まだ、ほんの子供なのである……)
少しだけ失望のため息をつくと、ロマネスクはそのまま王の下へと歩いて行った。
一人残ったモララーは、無駄に流してしまった汗もそのまま
呆然と立ち尽くす。
(;・∀・)(なんか、嵐みたいだったなぁ……)
同時に思ったこともある。
ここに来て、初対面で。
モララーを恐れなかった人たちに、初めて出会った。
兵士以外の人たちですら、彼を受け入れるのに少しの時間を要した。
にも拘らず、まるで最初から恐怖なんて持たず
純粋にモララー=レンデセイバーという個人を見てきた人は
国王を除いて、居なかった。
( -∀-)(……ああいう人達も居るんだ……)
世の中、知らないこと。まだ出会ったことのない人が、本当にたくさん居るんだ。
改めて、世界の広さを身に染みて感じるモララーなのであった。
293
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:40:37 ID:xNGrs6b20
――――。
/ ,' 3『モララーくん、今からこっちまで来てくれるかの』
またしばらくしてからの事。
普段よりやや緊張気味の声で、王はモララーを呼び出した。
遠隔対話魔法の発信源を辿ると、どうやら『こっち』とは作戦会議室のことらしい。
それだけで、これから告げられるであろう出来事を理解した。
手に汗を握り、短く返事をする。
あてがわれていた自室から遠くないので、その高鳴る気持ちを抑える時間を作るため
モララーは歩いて、現場へ向かった。
/ ,' 3「よく来たの。ま、座りなさい」
( ・∀・)「はい」
既に、王と謁見するのに緊張は無くなっている。
城内の、日常と戦争が入り混じる独特な雰囲気にもとっくに慣れた。
だが、今日だけは違う。
今までにない、新しい出来事がこれから起こる。
その確信で、モララーの額はしっとりと汗ばんでいた。
294
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:42:37 ID:xNGrs6b20
/ ,' 3「この地図を見てくれるかね」
投影魔法で鮮明に映し出された、大陸の地図が部屋の真ん中にある。
スカルチノフが指をさすと、魔力に反応して赤い点が浮かび上がった。
王都から離れた土地。
戦線の激戦区というわけではないが、決して安全ではない地域だ。
/ ,' 3「今さっき入った情報での。
このシャトー方面に、ラウンジ軍の補給地があるそうなんじゃ」
/ ,' 3「隠蔽『呪文』で隠されておったせいで、なかなか見つけられんでな
ようやくしっぽを掴んだのじゃが……」
/ ,' 3「今、近隣で動ける部隊がなくての。
あるにはあるんじゃが……戦闘後で消耗が激しい」
/ ,' 3「じゃが、この機会を逃せば、また拠点を移動してしまうじゃろう。
ゆえに、早く叩く必要がある」
( ・∀・)「そこで、ぼくの出番……というわけですか?」
興奮を押さえながら、静かにモララーが告げる。
スカルチノフ王は、それに対してゆっくり頷いた。
/ ,' 3「聖魔術師シャキンの部隊が、近くで待機しておる。
彼らと合流し、速やかに敵拠点を潰して欲しいんじゃ」
/ ,' 3「出来るかの?」
295
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:44:44 ID:xNGrs6b20
返答は決まっていた。
モララーはゆっくり息を吐くと、覚悟を決めるように力強く答える。
( ・∀・)「はい、出来ます」
少年のやや強張った表情。
その覚悟と……一抹の不安を抱きながら。
スカルチノフは、遠くにいるシャキンへ魔法でやり取りを始めた。
が、その前に何かを思い出した王が、作戦机の傍にあった箱に手をかける。
/ ,' 3「おお、そうじゃ。初陣を飾るキミにプレゼントがあるんじゃった」
( ・∀・)「?」
――――。
(`・ω・´)「……む」
( ・∀・)「お待たせしました。モララー=レンデセイバー、ただいまより作戦に合流致します」
半刻後。
浮遊魔法を使って急行していたモララーが、地へ降り立つ。
長髪と共に、黒い外套がふわりと浮かび上がった。
296
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:47:16 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「なんだ、そのマントは。黒魔術師の戦闘服とは違うようだが」
( ・∀・)「スカルチノフ国王からの戴物です。初陣祝いだそうで」
(`・ω・´)「……ふん。随分と可愛がられて。良い気分なものだな」
( ・∀・)「はあ……」
(`・ω・´)「いいか。お前を見つけ、そして王に推薦したのは私だ。
つまり、私が居なければ今のお前はここに居ない。
それを肝に銘じておけ」
( ・∀・)「それはどうも。ありがとうございます」
(`・ω・´)「……ちっ。作戦を伝える。こっちへ来い」
いまいち子供らしくない反応が気に食わないのか
シャキンは苛立ちながら、部隊を収集させた。
モララーは彼の態度に、苛立ちを覚えないわけではなかったが
何かを言い返しても、きっとこういう類の人には無意味だろう。
そう思って、グッと堪えることにしていた。
はたして、どちらが大人と言えるのだろうか。
(`・ω・´)「今我々が居る場所がここだ。
敵の拠点は、ここにある。
斥候によると、今動いているのは補給調達部隊のみ。
本隊はそれが戻り次第、活動を開始するそうだ。」
投影魔法で地図を使いつつ、シャキンが状況を説明する。
聞いている人数はかなり少ない。
動ける者だけ集められたようだが、下手すると両手で数えられるぐらいだ。
297
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:48:52 ID:xNGrs6b20
敵の拠点の規模を考えると、明らかに劣勢。
まともな戦闘行為であれば、逃げに徹する状況だが……。
(`・ω・´)「そこで補給部隊を我々が制圧し、その間に……レンデセイバー。
お前が拠点の本隊を潰せ」
( ・∀・)「ぼく一人で、ですか?」
(`・ω・´)「こちらは戦闘行動後なのだ。
逃げているわけでもないのに、連戦はかなり厳しい」
(`・ω・´)「だから、万全のお前一人でやるんだ。
出来るんだろう? 『大魔術師』であれば」
……この人は、多分ぼくの心配なんて微塵もしていないのだろう。
何かしら場をかき乱し、そしてあわよくば漁夫の利で功績をあげておく。
ダメならば、状況を鑑みて撤退を選んだ。そう報告すれば納得が行くから問題はない。
そんな魂胆が、嫌味ったらしい物言いから聞いてとれる。
棘のある言葉から汲み取った裏側に対し、思考を巡らせるモララー。
( ・∀・)「ええ、わかりました」
だからこそ、あえて胸を張って答えた。
内なる感情を押し殺し、何食わぬ顔で返事をすると
ショボンは、やはり不機嫌そうな顔で戦闘の準備を始めた。
( ・∀・)(…………ずるい人間だな)
298
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:49:52 ID:xNGrs6b20
ただ戦争の道具として。
自分の利益のためだけに、他人を利用する。
近衛の階級の人間は、もう上を見ることがない。
それぞれが国王に信頼を置かれているため、降格の心配もないだろう。
だから、権威の割には優しい人が多かった。
初見こそ、様々な軋轢があったにせよ、今ではモララーと不仲とは言えない。
王に呼び出されて、雑談をする夜の時間においても
既に見張りとして警戒する兵士は誰一人居なかった。
逆に、モララーが傍に居るならむしろ安全だろう。
そういう態度が見て取れるほど。
( ・∀・)「覚悟してなかったわけじゃないけど……」
実際に、悪意と悪態をつかれると癪に障るものだ。
このまま感情に身を任せると、自我のコントロールも難しくなりそう。
( -∀-)
国王から受け取った黒外套を、ギュッと握りしめる。
魔法繊維で編まれた特殊な素材のそれは、全ての光を吸収する闇のよう。
静謐を司るような、その様相と
自分を信頼して送り出した王の想い。
それぞれを胸に抱き、飽和させ、怒りを追い出す。
( ・∀・)=3「ふぅ」
一息ついて、顔を軽く叩いた。
開始の合図もないまま、いつの間にかシャキンの部隊は動き始めている。
299
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:52:06 ID:xNGrs6b20
自分が動いても問題ないだろう。
理解したモララーは、期待と不安が入り混じった複雑な感情のまま。
敵の陣営へと単身乗り込んでいった。
そんな背中を見ながら、一人の部下がシャキンに尋ねる。
( ><)「ノーファル団長。
本当に、あのような子供一人に任せて良いのですか?」
問いに対し、シャキンは移動用の馬に乗馬しつつ
鼻で笑いながら答えた。
(`・ω・´)「任せるも何も、奴はやると言った。
その結果を待つだけだ」
( ><)「僕も話は聞いています。
ですが……あの拠点の人数を制圧できるとは、とても……」
そもそもの前情報も少ない。
どんな兵士が居て、どんな武装がしてあるのか。
人数だけは、概算で把握している。消耗したシャキン部隊の5倍は居るそうだ。
(`・ω・´)「新兵が、己の力を過信して戦場で散る。
別に珍しい話でもあるまい。どうであれ、我々には関係ないこと」
(`・ω・´)「補給部隊の殲滅後、報告を待つ。
あの小僧へ手出しの必要はない。帰ってこなければ、我々も帰還すればいい。
これ以上、無駄な戦闘は避けるべきだ」
300
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:55:25 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「まったく、王の道楽に付き合わされる身にもなってほしいものだ……。
気まぐれで、手駒に出来そうな優れた魔術師を見つけたというのに
まさか、王自らの側近……ましてや、特権階級を授けるとはな」
( ><)「……お気持ち、察します」
遠くで爆発音が鳴り響いた。
方角は、ラウンジの拠点方面。
どうやら、始まったらしい。
シャキンの部隊は、既に街道から逸れた高台の方で待機していた。
遠視、拡大の魔法と気配察知の魔法。
それらを行使して、好機を待つ、
自分たちの根城が攻撃を受けたのでは。
そう判断した、異国の装いをした集団が
案の定、慌てたように走っている姿を部隊の一人が捉えた。
(`・ω・´)「よし、行くぞ!」
数の不利もない。
立地も完璧。
これならば、問題なく勝てる戦。手柄になる。
運が良ければ、自らの招いた誤算の排除も可能。
どう転ぼうが、自分には利しかない。
ニヤリと笑ったシャキンは、馬から跳躍し
風魔術による上空からの奇襲を実施した。
301
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:56:27 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「これで全部か?」
周囲に出来上がった、死体の山を見ながら聖魔術師が問う。
( ><)「はい。生存者なしです」
( ^^)「こちらも、制圧完了です」
泥が跳ねた頬を拭い、シャキンは遠くに待機させていた自分の馬を呼び寄せた。
軽くまたがり、さらなる追手が来ないか、しばし備える。
(`・ω・´)(思ったよりは時間がかかってしまったな)
いくら有利であったとはいえ、シャキン達は別の地域で戦闘行動をした後だ。
疲労もあったし、体力魔力共に消耗している。
自分たちの拠点を出てから、帰らぬ者になった兵も居る。
それでも、勝利を掴み取ったことには小さな誇りを感じていた。
( ><)「……そういえば団長。本拠点の方はどうなったのでしょう?」
(`・ω・´)「……報告もない。戦闘行為らしき音や魔力も感じない」
(`・ω・´)「この様子じゃ、どうせ死ん( ・∀・)「生きてますよ」
302
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:57:38 ID:xNGrs6b20
(;><)「な!?」
(;^^)「いつの間に!?」
突然、馬の前にモララーが立ちはだかった。
着地音すらしなかったので、本当にいきなり目の前に出現したように見える。
(`・ω・´)(転移魔法ではない……。ならば、風魔法か?)
僅かに足元に残る魔力を感じ、シャキンは憶測した。
物理的に移動してきたにしては、あまりに遠い距離の移動だが……。
それをここまで隠密状態で出来るものなのか?
(;`・ω・´)「……拠点はどうした」
冷や汗を垂らしながら、唾を飲み込み
意を決するように、一つの疑問を尋ねた。
( ・∀・)「とっくに制圧済みですよ。
皆さんの邪魔になってはいけないと思って、待っていたんです」
(;`・ω・´)「なに?」
( ・∀・)「戦果報告をしたいのですが。構いませんか?」
(;`・ω・´)「……」
その素っ頓狂な言葉に、部下と顔を見合わせる。
終わった? 既に?
あり得ない。
あの数を、自分たちの戦闘より早く終わらせた?
疑問は尽きることがないが、一つだけそれを解決する方法があった。
そもそも、それをするためにモララーはわざわざ彼らの前に来たのだから。
303
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:59:38 ID:xNGrs6b20
馬を走らせ、急いで現場へ。
目の前に映る光景は、信じがたいことだが……
モララーの言葉通りの、事実だった。
草は焦げ、家は凍り。
不自然なほど鋭利に切り裂かれた家屋。
無数の光弾痕や、呻き声をあげて横たわるラウンジの武士。
一個師団が近づいても、迎撃の気配がしない時点でわかっていた。
本当に、拠点一つを短時間で潰してしまったのだ。
(;><)「す……凄い……」
(; ^^)「これほどとは……」
倒れている敵兵を見る。
気を失い、浅い呼吸をしているその人物の装いは上位の呪術師だ。
VIP大陸で言うなら、聖魔術師級である。
(`・ω・´)「……」
爆破魔法で消し飛んだ家屋を、シャキンは覗き込んだ。
武装をしていない人間たちも、もちろん存在している。
衛生兵や給仕係だろう。
彼らも余さず、気を失って倒れている。
304
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:00:48 ID:xNGrs6b20
―――――聖魔術師は、既に違和感に気付いていた。
それは、戦闘を行ったのであれば、一つや二つはあっておかしくないもの。
戦士ならば、軍人ならば、誰であろうと作れるもの。
しかし、ここには一つもない。
繊細な動作、気遣いをすれば不可能ではない。
だが、それは……戦争においては、あまりに『無駄』な行為。
(`・ω・´)「!」
(;=゚д゚) 「ッ!!」
息を潜め、気配を殺し。
僅かな呪力で、音を消し。
一切の迷いなく、冷たい刃が首筋を襲う。
部屋の死角に隠れていた、敵兵の一人がシャキンへ奇襲を仕掛けてきたのだ。
305
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:02:09 ID:xNGrs6b20
並の戦士ならばやられていただろう。
だが、そこは聖魔術師。
動きに出る前の、微細な殺気を探知し迎撃行動に入っていた。
瞬時に繰り出せる得意の氷魔法。
動きを予測し、回避のために一歩だけ下がり。
凍てついた刃をもって、確実にその頸動脈を切り裂く!
(;=゚д゚)「がっ!?」
次の瞬間、敵兵は意識を失い泡を吹いて倒れた。
手に持っていた武器は、凄まじい力で掴まれたせいで
骨の砕けた腕と共に、重力に引かれる。
(`・ω・´)「なんのつもりだ」
(;-∀-)「……」
氷の刃は、斜めに敷かれたスペルカウンターで弾かれ、天井に突き刺さっていた。
問いに対し、焦りながらも間に割り入っていたモララーが答える。
(;・∀・)「そこまでする必要はないでしょう」
(`・ω・´)「……こいつは私を殺す気だったぞ」
306
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:03:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「ですから、ぼくが制しました。ぼくの不始末です」
(`・ω・´)「……」
その怯えるような、まだ光を秘めた純粋な瞳。
シャキンの邪魔をしたことを叱責されると、恐れているのではない。
原因はもっと別の……。
(`・ω・´)「お前は先ほど、拠点を制したと言ったな」
(;・∀・)「ええ、その通りだったでしょう。
多少、詰めが甘かったのは認めます」
(`・ω・´)「お前が言う『制する』とはなんだ?」
(;・∀・)「敵兵を屈服させ、再度戦闘行動を起させない状態にすることです」
(`・ω・´)「……」
(`・ω・´)「…………クク。はっはっはっ!!
なんだ、所詮はガキだったか!!」
モララーの答えに、シャキンは大きな口を開いて笑った。
周囲の人間も、堪らずその言葉に失笑する。
307
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:04:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「な、何が……!」
味方のはずの人間たちが、まるで途端に敵になったかのよう。
自分がおかしいはずもないのに、咎められる理不尽な感覚。
四面楚歌の状況が呑み込めないモララーの胸元を、シャキンは思い切り掴み引き寄せた。
(`・ω・´)「いいか、小僧。ここは戦場だ。
私たちは、戦争をやっているんだ。子どもの遊びではない!」
(`・ω・´)「お前の戦闘能力の高さには驚かされたよ。
残った魔力を見ても、間違いなくお前は我々の誰より手練れの魔術師だ」
(`・ω・´)「だが……この場において、お前を『強い』とは言わん。
何故だかわかるか?」
(;・∀・)「……」
(`・ω・´)「お前……『一人も殺していない』だろう?」
(;・∀・)「……!」
308
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:05:43 ID:xNGrs6b20
シャキンが言う前に、モララーは既に予感していた。
その核心を突かれることを。
彼の使った強力な火炎魔術も、激しい雷撃も、鋭い風の刃も。
全て、致命傷には至っていない。
気を失わせたり、腕を折ったり足を折ったりしただけだ。
確かに、即座に戦闘行動をすることは難しいかもしれない。
だが、確実な『とどめ』は一人として実行していなかった。
(`・ω・´)「そんな甘っちょろい心構えで戦場に出てくるとはな。
国王も盲目になったものよ。訓練のつもりだったか? えぇ?」
(;・∀・)「お……国王陛下は関係ない!」
(`・ω・´)「ある。王が気付いていなかったわけあるまい。
それでも、淡い期待を込めて送り出したのだろう。責任が伴う行為だ」
(`・ω・´)「だが、結果はどうだ? 私は今、殺されたかもしれないのだぞ?」
(`・ω・´)「私ではなく、別の人間であったなら死んでいたかもしれない。
そうなれば大きな喪失だ。鍛えた戦士を失うのだからな」
(`・ω・´)「わかるか? お前の言う『制圧』が招く結果がこれなのだ!
こんなものが、制圧行動になるわけがあるまい!」
(`・ω・´)「最も簡素でわかりやすい制圧とは、『敵の息の根を止めること』だ。
何故そんな簡単なことができん!?」
309
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:07:15 ID:xNGrs6b20
(;-∀-)「………………ぼくは」
(`・ω・´)「なんだ?」
(;・∀・)「…………」
言葉が出なかった。
何を言っても、きっと返される。
それは、モララー自身が誰よりわかっている。
(`・ω・´)「聞いてやる。言え。何故なんだ? あ?」
(;-∀-)「…………」
詰め寄られた顔をそっと押しのけ。
懸命の魔力で、掴まれた胸元の手を解く。
(`・ω・´)「はっ、言い返せもしないか。臆病者め!」
感情による反論をぐっとこらえ、モララーはマントを翻して歩き出す。
(`・ω・´)「このことは王にも報告するぞ。さぞや残念な顔をするだろうがな」
(`・ω・´)「はっはっはっはっ!」
(; ∀ )(…………くっ!)
モララーは逃げるように、青い色の魔法陣を発動させた。
光に体が消えていくその間も
周囲からの嘲笑だけは、ずっと耳に残っていた。
つづく
310
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:08:00 ID:xNGrs6b20
中々、こいつマジでむかつくな……っていうキャラクターが作れなくて四苦八苦してます。
次回も予定通りに投下しますので、よろしくお願いします。
311
:
名も無きAAのようです
:2021/03/06(土) 22:40:41 ID:oNBg8PhE0
otu
312
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:26:01 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
その夜。
モララーは星の煌めく空を眺めていた。
風が強く、空気も薄い。
誰にも邪魔されることのない、自分だけしか居ないと思える空間。
そこは、城の最上部である、見張り台の更に上部。
屋根の上で風ではためく、NEET国の旗が飾られたポールの先に少年の姿はあった。
浮遊と足場固定の魔法を上手に使い、横なぎの激しい気流を物ともせず
ただただ座って虚空を眺めている。
彼の頭に反芻されるのは、戦場での出来事。
自分の甘さが招いた結果と、それを咎められたこと。
シャキンの態度に腹を立てたわけではない。
あの時、あの場においては彼の言動は正しかったと言えよう。
なのに、何故こんなにもやもやするのだろう。
お腹を摩ってみても、答えは見つからない。
( -∀-)=3「……はぁ」
悩んだところで、意味はない。
それを解消する手立てはあるのだが、踏み切れないのは自分の弱さ。
313
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:27:35 ID:2vfxdqwE0
沈む気持ちをため息に出してみたものの、わだかまりは解けない。
頭を思い切りかきむしり、髪がぼさぼさになるまで力を籠め続けた。
自傷行為で少しだけ落ち着いた心を取り戻すと、モララーは立ち上がる。
そして気配の遮断魔術を自分にかけた。
トンッとポールを蹴ると、甲高い金属音が空に溶ける。
見張りの人へ無駄な心配をかけぬように、真っすぐ急降下。
地面に向いていた頭をぐるんと回転させ、足を伸ばし
風魔法で重力と落下速度を相殺させ、ゆっくり着地した。
場所は、自室の窓枠。
施錠せずに出かけたので、そのまま楽に開けられた。
身体を屈ませて、柔らかなカーペットに足を落とす。
埃一つ立てずに受け入れた高級絨毯は、未だに彼の足には馴染まない。
モララーの自室は、城の一角に与えられた。
古い客室を、彼専用に仕立ててもらったのだ。
唯一の身内である親戚は、別に裕福ではなかった。
最低限の生活は保障されていたが、余裕とは無縁の世界。
だからこそ、落ち着かない。
無駄に装飾のされた部屋の照明も、艶やかに磨き上げられたテーブルも。
全身が溶けていってしまいそうなほど、ふかふかのベッドで眠ったことはまだない。
頭から肩まで覆える大きな羽毛枕と、薄いシーツを被って地面で眠るのがいつもの彼の就寝スタイル。
少しでも混乱した脳をすっきりさせようと、煩雑に置かれた寝具に手を伸ばした時だった。
314
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:28:41 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)(ん……?)
部屋の外に、誰かの気配がある。
それも二つ。
こんな夜更けに来る人物には、心当たりがない。
国王ならば『呼び出し』をするはず。
他にあるとすれば、清掃係の人だが……。
どうにも妙だ。
扉を跨いだ先に、じっと佇んでいる。
待ちくたびれているのか、爪先で地を叩く音も聞こえる。
何だろう、と思いつつ、敵意がないことだけは理解できる。
襲ってくるのであれば、もう少し上手に隠れるはずだから。
( ・∀・)(あ、そうだった)
忘れていた気配遮断の魔法を解いてみる。
すると、すぐにリアクションがあった。
「あれ? もしかして、もう部屋に居るのかな?」
「む? しかし、誰も通らなかったであるぞ?」
315
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:30:12 ID:2vfxdqwE0
「そうだけど……。うーん……。いや。やっぱり居るよ」
「おーい、レンデセイバーくーん! いるー?」
高い声と低い声。軽く戸をノックで叩く音もする。
障害物を挟んでいるため、くぐもって聞こえるそれには聞き覚えがあった。
( ・∀・)「どうしたんですか、こんな夜更けに」
ζ(゚ー゚*ζ「おお、やっぱり居た。
やあやあ、こんばんは。いつの間に帰ってきてたの?」
( ФωФ)「……こんばんは、である」
そこに居たのは、白魔術師のデレと聖騎士のロマネスクだった。
嘗六話「戦う理由」
316
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:31:15 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ。お茶が好きって聞いたから。私と旦那からね。
初陣お疲れ様の労いの品です!」
( ФωФ)「……こっちは、衣類である。あまり替えを持っていないと聞いたので」
( ・∀・)「はあ、ご丁寧にどうも……」
香りの高い茶葉の詰め合わせと、仕立ての良いシャツを受け取りながら
モララーは戸惑いつつも、二人を迎え入れる。
何度か声をかけてもらったことがあるが、こうして面と向かって話すのは初めてだ。
部屋に客なんて招くこともなかったので、モララーは魔法で簡易ソファーを作った。
普段は使わない羽毛布団に、防水の魔術をかけて、水球を中に閉じ込める。
座れるように形成したそれは、柔らかく二人の腰を受け止めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ、何か飲んでたの?」
テーブルの上に置かれた、飲みかけの飲料物を見てデレが問う。
( ・∀・)「ああ、すみません。これは今朝のもので……。片付け忘れていました」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。何を飲んでたの?」
317
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:32:54 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「クレスト草の薬茶です」
( ФωФ)「クレスト草?」
( ・∀・)「はい、そうです」
ζ(゚ー゚*ζ「塗るのは聞いたことあるけど……飲むのは初めて聞いたなぁ」
( ・∀・)「すり潰して、高い温度で煎ずれば飲めるんですよ。
一種の着付け薬ですね」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだぁ。今度試してみようかなぁ」
( ・∀・)「ええ。ちょっとコツが要りますけど、簡単ですよ」
( ФωФ)「……」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「……おっと。おもてなしもせず失礼。
頂いたお茶、煎れますね」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、どうも」
( ФωФ)「かたじけないのである」
ポットを瞬時に洗い、お湯で満たす。
統一感のないカップを人数分揃え、お茶を濾す。
318
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:33:52 ID:2vfxdqwE0
ピーベリーという、柔らかく甘い桃のような香りの茶葉だった。
舌に触れれば、踊るような甘味が口全体に広がる。
( ・∀・)「……」
( ФωФ)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
普段口にしない茶に舌鼓を打っているが、会話は弾まない。
再び沈黙が訪れる。
薄暗い部屋の中で、時計の音だけがただ規則的に鳴り続けていた。
他愛もない会話をしに来たわけではあるまい。
遅い時間。
初陣の後。
報告内容は既に、城内へ知れ渡っていることだろう。
『期待の大魔術師』の戦果だ。誰もが興味を持ったに違いない。
普段では起こりえない、普通じゃない出来事。
関連付けるには、充分な理由だ。
ζ(-ー-*ζ「……ふぅ」
319
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:35:03 ID:2vfxdqwE0
デレが小さくため息をつく。
この均衡状態に、意味がないことはわかっていた。
最初から変な探りを入れる必要もあるまい。
目の前に座る少年の、何かを伺うような目線に観念したのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、レンデセイバーくん」
( ・∀・)「はい」
ζ(゚ー゚*ζ「今日、初めての実戦だったよね」
カップを両手で抱えるように持ちながら、優しい口調で話す。
( ・∀・)「……はい」
ζ(゚ー゚*ζ「どうだった?」
( ・∀・)「どう、とは?」
ζ(゚ー゚*ζ「そのまんまの意味だよ。
人生の初体験だもん、何も感じなかったわけじゃないでしょう?」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「よかったら、聞いてみたいな」
( ФωФ)「……」
聖騎士の団長も、表情を変えずに聞きに徹している。
320
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:36:51 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……そうですね」
予想から遠くない内容の質問が出てきたので、モララーは動揺していなかった。
適当な嘘を述べることもできる。
大げさに話を盛って、落胆させることもできるだろう。
でも、何故だろう。
この人たちの前で、そんなことをするのは間違っている。
特別親しい間柄でもないはずなのに。
どうしてか、モララーは取り繕わずに口を開くことが出来た。
( ・∀・)「はじめ、国王陛下に命を下された時は、胸が躍りました」
( -∀-)「ああ、ぼくも遂に戦いの役に立てる時が来た、って」
( ・∀・)「学校での訓練とは違う。自分の意思、行動で全てが左右される戦の場。
そんな所に、自分も足を踏み入れるんだと思うと……」
( -∀-)「……なんだろう。ワクワク……うぅん……。ドキドキしていたのかな」
ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」
( ・∀・)「一人で、拠点を制圧するように言われた時は、ちょっと驚きました。
そこまで任せてもらって、いいのだろうかって」
321
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:38:18 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「それはシャキンの独断なのである。
力量があれど、新兵を一人で戦場に送り出すなんて、あってはならないのである」
( ・∀・)「ですよね。……でも、ぼくは抗議をしなかった」
( ・∀・)「だって、出来ると思ってしまったから」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「敵の拠点を見つけ、どう攻め入ろうか考えました。
奇襲するのか、正面突破なのか」
( ・∀・)「探知魔術で、敵の数が思ったより多くないことがわかったので
結局、正面突破で行こうと決めました」
( ФωФ)(……報告書の通りなら
普通はあの人数を、多くないとは言わないのである)
( ・∀・)「相手が何をしてこようと、勝てる自信がありました」
( ・∀・)「見たことない剣術だったけど。知らない武器だったけど。
魔法……いえ、呪文ですら、ぼくより何もかも劣る連中だった。
だから、怖くなかったんです」
( -∀-)「……でも」
モララーは思い出す。
それは、初めて相まみえた『敵』の姿。
322
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:39:45 ID:2vfxdqwE0
必死の形相で、自分を殺しに来る異国の人間。
気が遠くなるほど積んだ研鑽の時間。いや、毎日サボってたかもしれない。
若い男性だけど、故郷には誰か好い人でも居るのだろうか。
そうでなくても、大事な家族が居たりするかもしれない。
共に汗を流し、涙を飲んだ盟友達と晩酌を交わす約束もしただろう。
ああ、何でもいいから早く戦いが終わらないかな。
何もかも面倒くさい、逃げてしまうか。
一人ひとり、背負う人生がそこにはある。
ぼくは今から、そんな『人間』たちの今日を終わらせるんだ。
( ・∀・)「そんな権利が、ぼくにあるのだろうか」
( ・∀・)「たかだか15の子供が、他人の人生を左右しても良いのか」
( -∀-)「覚悟をしてきたつもりだったけれど……」
( ・∀・)「そう思ったら、魔力を強く込められませんでした」
323
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:41:26 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「結局、ぼくに出来るのは、敵を地に伏せることだけだったんです」
( ・∀・)「情けない話ですよね。
やろうと思えば、出来るはずのことをしないで。勝手にやり遂げた気になってたのに。
結果的に……誰も殺すことは出来なかった」
( -∀-)「殺すことが……怖かった」
それ以上の言葉を紡げなかった。
何を言っても、もう自分を庇護することしかできない。
( ФωФ)「なんとも、甘えた思想であるな」
だから、そう言われても納得しかできなかった。、
数多の戦を勝ち抜き、首を切り落としてきた聖騎士は続ける。
( ФωФ)「情けが仇。自分の逃した敵兵は、いずれ力をもって反逆してくるかもしれない」
( ФωФ)「戦場では死ななかった者が強者である。
運よく生き延び、それを繰り返すうちに強大な力を蓄えるやもしれないのである」
( ФωФ)「だから、反逆の機会を与えぬよう、敵意を持った戦士は余さず殲滅すべし」
( ФωФ)「闘技学校の出自ならば、当然習ってきたはずである」
( ・∀・)「……ええ、もちろん。習いました」
324
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:42:48 ID:2vfxdqwE0
拳を握りしめる。
当たり前のことだ。
我々は戦争をしている。
幼稚な陣取り合戦ではない。
殺せば勝てるし、殺さねば負ける。
戦場に身を置くものならば、誰もがわきまえている心構え。
けど……それでも。
( ・∀・)「学生時代に疎まれている時でも。
こうして皆さんに受け入れてもらえて、お城で暮らしている時でも」
( ・∀・)「ぼくは不思議と、誰かの姿を目で追ってしまう」
( ・∀・)「楽しそうにしている姿、泣いている顔。怒っている背中。楽しそうな足取り。
どんな背景があるのか、いつだって興味がわいてしまう」
( ・∀・)「……人間が、どうしても大好きなんです」
325
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:43:51 ID:2vfxdqwE0
( ∀ )「だから……」
人間一人だけで、どれほどの歴史があるのだろう。
誰と会って、誰と別れたのだろう。
何が好きで、何がきっかけでそれに興味を持ったんだろう。
色んな人の、色んな人生を考えるのが好きだ。
そんな色づく明日を止めてしまうような自分は……堪らなく嫌だ。
ζ(-ー-*ζ「……なぁんだ、そんなこと悩んでたんだね」
( ・∀・)
相槌を打って、子供をあやすように聞いていたデレが鋭い言葉を放った。
少年が抱える、一つの、大きな悩み。
『そんなこと』なんて片付けられるなんて、酷く失望する。
真剣に悩んでいることを、大人は馬鹿にしたがるかもしれない。
幼稚な問題なら、なおさらだ。
それでも、決定的な何かに踏み出せない障壁に変わりはない。
簡単にあしらわれるのは、いくらなんでも。
326
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:45:27 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私だって、誰かを殺すことは今でも怖いよ」
( ・∀・)「え?」
( ФωФ)「吾輩もである」
(;・∀・)「え? え?」
予想しなかった言葉に、モララーは挙動不審になる。
そのまま、正論で言いくるめられるものだと思っていたから。
まさか、肯定されるとは思わなかった。
白魔術師のデレでも、武勲のある勇士ロマネスクでも。
殺人には抵抗がある……?
ζ(゚ー゚*ζ「いくら敵でも、殺す行為に何も感じないなんて。
そんな人は、滅多に居ないよ」
( ФωФ)「いるとすれば、頭のねじが外れた戦闘狂か。
もしくは、大義名分で感情を押し殺せる大英雄ぐらいなものである」
ζ(゚ー゚*ζ「多少の慣れはあるけどさ。何も感じないって言えば嘘になっちゃうかな」
(;・∀・)「……そう……なんですか」
ζ(゚ー゚*ζ「私ね、今年で3歳になる娘がいるの」
( ФωФ)「吾輩は息子が」
327
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:47:12 ID:2vfxdqwE0
それぞれが、大事そうに持っていたロケットペンダントを見せてくれる。
ぷっくりとした顔の幼児、無邪気に笑う女の子。
二人とも、どこか親の面影がある。
ζ(゚ー゚*ζ「戦いがつらくなった時は、いつもこの子のこと思い出すの。
私がここで踏ん張らなきゃ、この子たちの未来が無くなってしまう、って」
( ФωФ)「相手も、同じことを抱えているかもしれないのである。
けれど、それを考え始めてしまえばキリがないのである」
( ФωФ)「そうなると、もう後に残るのは己が掲げる『正義』のみ」
( ФωФ)「生き残った方が、正しいと証明する」
( ФωФ)「誰かの為ではなく、自分自身の為に。我々は戦うのである」
( ФωФ)「自分たちの未来は、そうやって築いていくしかないのであるよ」
ζ(-ー゚*ζ「ま、うちの旦那みたいに、難しく考えるのをやめる人も居るけどね〜」
( ФωФ)「ミルナは、先ほど言った戦闘狂に片足を突っ込んでいるのである」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。だから不用意に敵陣へ突っ込んでケガしちゃったんだけど」
( ФωФ)「間抜けなのである。この場に居ないことを後悔すべきなのである」
328
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:48:46 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
( ∀ )
ああ、凄いな。この人たちは。
きっと、本当にたくさんの死体の山を作ってきたんだろう。
その度に、悩んだに違いない。
でも、守るべきものがあって、
それを失いたくない。
だから、戦う。
強い信念を持って生きている、本物の『戦士』なんだ。
モララーの視界が薄く滲む。
感銘を受けただけではない。
……悔しい。
自分も、その領域に入れるだろうか。
不安だらけだ。
今でも相手のことを考えないなんて、出来る気がしない。
理性の箍を外す器用な真似も出来るはずもない。
329
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:50:20 ID:2vfxdqwE0
けど。
それでも。
誰かのためじゃない。
自分の為に……!
( ∀ )「……ぼくも」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
( ФωФ)「なんであるか?」
( ・∀・)「ぼくも、あなた達みたいな……立派な戦士になれるでしょうか?」
月明かりが部屋を照らす。
深く沈んだ気持ちを払拭するように、瞳に光が灯る。
330
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:51:32 ID:2vfxdqwE0
まだ年若い少年。
背負うには重すぎるかもしれない。
いつか重責に潰されるかもしれない。
しかし、それでも大人たちはあえて言う。
ζ(^ー^*ζ( ФωФ)「もちろん(である)」
少しでも先達の威厳を、若者の未来を明るく照らすため。
大きく頷きながら、返事をしてくれた。
つづく
331
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:52:51 ID:2vfxdqwE0
おまけ
ζ(゚ー゚*ζ「というか、モララーくんなら私たちより、ずっと凄い魔術師になるよ」
( ФωФ)「間違いないのである。
現時点でモララー殿の魔術は、近衛階位の人たちですら恐れているのである」
(* ・∀・)「そ……そうです……か?」
ζ(^ー^*ζ「やだー、照れちゃって。可愛い!
よーし、元気出てきたなら、もうちょっとお話しようか!」
( ФωФ)「では、今後のことを考えて海上決戦の戦術理論でも……」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君、そんなクソつまんない話で夜を更けさせるつもり?」
(;ФωФ)「クソつまんないとは失礼である! 大事な知識なのであるぞ!?」
( ・∀・)「……そういえば、お二人はやけに仲が良いですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、うん。幼馴染だからね」
( ФωФ)「実家は共にVIP街なのである」
( ・∀・)「へー……どの辺ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うわ、地図も投影できるんだ? キミ、本当に凄いね」
( ФωФ)「吾輩の家は……ああ、そこ。その家である」
332
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:53:49 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私の家はそっちの方。ね、結構近いでしょう?」
( ・∀・)「凄いなぁ、お二人とも一等地じゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょう? 頑張ってるんだよ、これでもね。
そうだ。モララーくんのおうちはどこなの?」
(;-∀-)「……あぁ……ぼくは……えー……」
( ФωФ)「……デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。ね、ね。
ロマネ君の奥さんって、どんな人だと思う?」
( ・∀・)「え? うーん…………何となくでいいですか?」
( ФωФ)「言ってみるのである」
( ・∀・)「背が高くて……髪が長くて……ちょっと冷たい感じの綺麗な人……?」
ζ(゚ー゚;ζ「え、もしかしてモララーくんてば、読心魔法使えるの?」
( ・∀・)「あはは、まさか」(今は使ってないですけどね)
( ФωФ)「まさに、そのまんまの人である」
ζ(゚ー゚*ζ「今は休暇を取って、お子さんの世話してるんだって。
いずれは、どこかで会えるかもね」
( ФωФ)「……いずれ、であるか」
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ロマネ君」
333
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:54:53 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「いずれの話であれば。このまま戦争が長引けば
いつか吾輩たちの息子たちも、戦に出なくてはならないのかもしれない」
( ФωФ)「そんな時……吾輩たちは何が出来るのか……少し不安である」
ζ(-ー-*ζ「……そうだね。まともでいられるか、自信がないね」
( ・∀・)「……ぼく、お二人のお子さんたちと、いつか話をしてみたいです」
( ・∀・)「お二人の住む、VIP街で」
( ФωФ)「!」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
ζ(^ー^*ζ「そうね。あなたみたいな子なら、ぜひ友達になってあげて欲しいな」
( ФωФ)「吾輩も同じ気持ちである」
( ・∀・)「ええ、楽しみにしてます」
( -∀-)(……そのために。ぼくは、もっと頑張ろう)
冷めたお茶を一気に飲み干したモララーは、心の中で強く誓った。
334
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:56:00 ID:2vfxdqwE0
以上です。
花粉と忙しさで最近は時間がとりにくいので、書き溜めしておいてよかったと心の底から思いました。
次回もまた土曜日を目途に投下します。
335
:
名も無きAAのようです
:2021/03/14(日) 00:50:25 ID:UxSEJL/U0
乙です
336
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:57:47 ID:eAJ/Jxuk0
嘗五話「城の地下深く」
(;-∀-)「……ッ!」
手が止まる。
高速で突き付けた貫き手。
魔力による硬度の上昇、鋭利さの増幅。
一たび触れれば、絶命は免れない必殺の一撃。
あと少し肘を伸ばせば。あと少し膝を踏み込めば。
その絶対的破壊力を持つ複合魔術攻撃は意味を成すはずだった。
だが……出来ない。
あるの夜、デレやロマネスク達から、戦士の本当の声を聞いた。
誰だって、悩んで、苦しんで、それでも尚歩んでいる。
自分も、そうなりたい。そうありたいと望んだ。
踏ん切りのつかない覚悟は、一瞬の隙を生み出す。
ラウンジ大陸の戦士は、生への諦念を瞬時に切り替える。
握っていた刀の柄をより一層強く持ち、敵呪術師の首を撥ねるため
決死の形相で挑んだ。
しかし、そこで意識は途絶える。
貫き手から、掌底へ変化していたモララーの手。
胴に突き付けられた途端、圧縮された風の魔法が背まで貫通するほど
激しく穿たれたのだ。
337
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:58:45 ID:eAJ/Jxuk0
(;・∀・)「はぁ……はぁ……」
いつもそうだ。
もう今日で、何度目の前線だろう。
季節は既に夏を迎えていた。
戦闘力の高さだけは、間違いなく認められている。
故に、彼が拠点や敵の急襲を防ぐ場合、常に一人で実行していた。
実際、他の魔術師が居たところで連携が取れるわけでもない。
モララーに協調性がないわけではなく、比肩する人間が居ないからだ。
合わせようとすれば、それだけ能力を落とさなくてはならない。
モララー=レンデセイバーという、唯一無二の切り札を十分に使うにはそれしかなかった。
/ ,' 3「ふぅむ……」
戦果報告を聞いていたスカルチノフ国王は、小さく唸った。
これ以上は、もう危険だ。
そう判断しかけている。
338
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:59:46 ID:eAJ/Jxuk0
初陣後から今まで、それなりの時間が経った。
しかし、戦況は変わっていない。
迎撃ばかりで、水際の戦いを制しているだけ。
攻めの一手を、決めあぐねている。
もうそろそろ、ラウンジ側も気付いているだろう。
敵大陸に、異様なほど強力な呪術師が居る、と。
戦後処理を行ってはいるが、モララーの現状であれば
生き残りが居てもおかしくはない。
大陸中に知れ渡っている可能性もある。
/ ,' 3(彼が後れを取るとは思えぬが……)
力を持たない蜂が、強大な敵に向かって群れで襲い掛かることがある。
たった一匹の害虫を倒すためだけに、無数の命を賭して勝利をつかむ。
これは飽くまで昆虫の話だが。
ラウンジ大陸の人間たちに、似たきらいがあるのは良く知っていた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
339
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:00:58 ID:eAJ/Jxuk0
モララーを、ただ処分するためだけに想像を絶する軍を率いるかもしれない。
絡め手の可能性もある。
打開する方法としては、ただ一つ。
モララーを主軸に、一点突破でラウンジ大陸の中枢を目指す。
迎撃部隊をすべて殲滅し、戦力を大幅に低下。
そして、大陸の中心人物であるラウンジ王を降伏させる。
それだけだ。
/ ,' 3(しかし、今のモララーくんでは絶対に出来ぬ作戦じゃな)
一点突破までは良い。
だが、問題はその後だ。
彼の進む先進む先で、兵をいちいち捕縛していてはキリがない。
反逆でもされれば、懐から痛手を受けてしまう。
340
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:02:15 ID:eAJ/Jxuk0
また、消耗の多さも問題だ。
敵を殺さないというのは、繊細な手加減が必要な行為。
若さゆえの回復力をもってしても、連戦の期間はどうしても長くなってしまう。
/ ,' 3(…………)
出来るならモララーの意思を尊重したい。
まだ大人になれていない少年の、白いキャンバスを汚す行為を
大人たちが勝手にしていいわけがない。
だが、このままでは意味がなくなる可能性もある。
せっかく掴んだ好機を、いつ再来するかわからないこの時を
手放して良いものなのか。
(;`_L')「国王陛下!」
自室に慌てた様子で、近衛騎士フィレンクトが入ってきた。
/ ,' 3「どうした」
ノックすらせず入ってきたことで、火急の用であることがわかる。
無礼を咎めもせず王は先を促す。
(;`_L')「ニメア地区が陥落しました」
/ ,' 3「なに?」
341
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:03:39 ID:eAJ/Jxuk0
それは、大陸の海岸部の一つ。
攻め入られれば、敵側にとってかなりの優位を取れる拠点。
だからこそ、過剰なほど強力な部隊を編制していた。
白や黒の階位は当然、聖の階位級の騎士と魔術師を
通常の部隊の数倍は揃えていた、強固な守りの最前線が。
/ ,' 3「……生き残りは?」
(;`_L')「小隊の被害は未だ完全に把握できていません。
推定では六割ほど死傷者がいるそうです」
/ ,' 3「六……!?」
部隊の全滅を優に超える数だ。
そこまでしてでも食らいついた彼らを褒めてやりたい。
逆に、そこまでするほど恐ろしく強い敵がいる証明にもなっている。
/ ,' 3「聖騎士と聖魔術師は誰が残った?」
(`_L')「ロマネスク団長のみです。
ただ、彼も重傷を負っていまして……」
/ ,' 3「ふぅむ……参ったのう」
次から次へと問題ばかり。
スカルチノフ国王は頭を抱えて、目を閉じた。
342
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:05:00 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3(……やはり……荒療治しかないかの)
やりたくない、やらせたくない、奥の手。
望まないことだろう。
だが誰かが手ほどきをするのであれば、責任を擦り付けられるかもしれない。
それで、彼の心が少しでも軽くなるのであれば僥倖だ。
/ ,' 3「フィレンクトよ」
(`_L')「はっ」
/ ,' 3「近衛の者たちを集めてくれ。完全武装をさせてな。
準備が整ったら……『常闇の間』へ行くぞ」
(;`_L')「は? な、なぜ今……?」
/ ,' 3「理由は追って話す。
あまり時間がなさそうじゃ。やるしかない時が来たんじゃよ」
(;`_L')「……かしこまりました。通達致します」
343
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:06:00 ID:eAJ/Jxuk0
反論しようとした近衛騎士フィレンクトは、それを黙って飲んだ。
国王がここまで決意をもって命を下すのだ。
よほどの理由がなければしない。
信頼と不安の入り混じった感情を抱え、騎士は部屋を足早に立ち去った。
――。
(;メω-)「……」
(;・∀・)「ロマネスクさん……」
医務室。
激しく負傷した聖騎士団長が、ベッドで浅い息をしたまま眠っている。
いつもは巨大な体も、小さく見えてしまう。
無数の切り傷は包帯とクレスト草の薬液で手当てされているが
癒えるのには時間を要するだろう。
ここまで酷い状態だと、回復魔法を使う方が危険だ。
あれは飽くまで、自身の代謝を促進させて行うもの。
低下した体力の相手に使えば、生命そのものを脅かしかねない。
344
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:07:07 ID:eAJ/Jxuk0
何も出来ないことに、モララーは歯がゆさを覚えながらも
にじみ出ているロマネスクの脂汗を拭った。
たまに、うわ言のように何かを呟いている。
直前の戦闘の状況が、フラッシュバックしているのだろうか。
(;メω-)「ぶすだ……どく……お……ヤツは……吾輩が……」
(;・∀・)「ぶすだドクオ……?」
ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことあるよ。『悪鬼』って呼ばれているラウンジの武士だね」
武士とは、VIP大陸で言う騎士の階級。
少し前から話題になっていた、『悪鬼』の通称。
一振りで幾人もの人間を切り伏せる、恐ろしい腕力と技術。
血の海と死体の山を、怯みもせず歩み続ける恐ろしい形相と姿から
そんな通り名で呼ばれるようになったそうだ。
( ・∀・)「そんな危険な敵が……」
看病に来ていたデレが、額に被せていた濡れタオルを取り換える。
ラウンジ側にも、恐ろしい殲滅能力を持った戦士がいるのか。
モララーは少し恐怖を覚えた。
345
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:08:03 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「モララーくん」
ζ(゚ー゚*ζ「国王陛下!」
医務室に突如現れたスカルチノフに、周囲の人間は驚く。
後ろには護衛の近衛騎士と魔術師が、仰々しく武装して立っていた。
( ・∀・)「どこかへ向かうのですか?」
/ ,' 3「うむ。城の地下へ行くんじゃ。キミもな」
( ・∀・)「ぼくも?」
言っていることがさっぱりわからない。
状況を鑑みても答えが出ないが、敬愛する王の命令だ。
モララーはおずおずと、強張っている王の顔を見て頷いた。
―――――NEET城の地下。
城の地下には、食糧の保管庫や訓練所、牢獄などがある。
暴徒が拘留されている危険地域を除き、誰もが行き来できる場所。
大陸最大の規模を誇る、NEETであっても特に他所との変わりはない。
346
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:09:18 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「というのは、建前じゃ」
近衛騎士の鎧が擦れる金属音の響く地下階段を下りながら
スカルチノフは続ける。
灯りを持たなければ、足元も覚束ない螺旋状の階段の先には何があるのか。
/ ,' 3「キミが生まれる前のことじゃ。
王都に、一人の魔術師が現れた」
/ ,' 3「その男は、あらゆる魔術を使いこなし
誰にも負けないほど強大な魔力を内包していた」
/ ,' 3「まるで、誰かさんのようじゃな」
( ・∀・)「……」
/ ,' 3「じゃがの……キミとの大きな違いが一つあったんじゃ」
/ ,' 3「その男は、『禁術』に狂っておったんじゃ」
( ・∀・)「禁術……?」
魔術師ならば知らないわけがなかった。
禁術とは、過去の偉人たちが生み出し、そして封印した特殊な魔術のこと。
347
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:10:40 ID:eAJ/Jxuk0
何故そんなことをしたかと言えば、それは世界の均衡を崩しかねない力を持つから。
また、他でもない術者本人に多大な影響を及ぼすものが大半なのだ。
/ ,' 3「魔力増幅、精神操作。まさに、何でも有りじゃった」
たまたま、スカルチノフがその脅威を看破できた。
周りの人間には、その狂気が何も見えていない状態だったらしい。
放置すれば、国家そのものが転覆していた可能性すらある。
/ ,' 3「ワシらは処刑を試みたんじゃが……結局できたのは、捕縛のみ。
殺すことすら適わぬほど、ヤツはあまりに強大で……狂気に満ちておった」
( ・∀・)「……つまり」
地下牢の更に奥。
封印魔術で隠蔽された扉の先。
誰もが知っている場所の、誰も知らない場所。
今歩いている、この階段の先にあるもの……いや、居る人物。
/ ,' 3「そやつの名は、ハインリッヒ=ボンデリンク。『白炎(ばくえん)』とも呼ばれておった」
/ ,' 3「長いVIPの歴史の中でも、おそらく最大にして最恐の魔術師じゃ」
348
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:12:49 ID:eAJ/Jxuk0
スカルチノフの魔力にのみ反応する、重く硬い鉄の扉が開く。
大声を発しても吸い込まれそうなほど、広大な空間が目の前に飛び込んできた。
淡く黄色い魔法陣が、石畳の上に描かれている。
光源はそれだけ。
天井は暗くて何も見えない闇だ。
『常闇の間』と呼ばれる所以だろう。
そんな無駄ともいえるほど広い部屋に一つ。
ぽつんと、一つだけおいてある椅子があった。
从三//从
座っているのは、やけに細身の男性。
全身を包帯のようなもので捕縛されていて、顔どころか足の指すら見えない。
衣服を纏っているが、経年劣化でボロボロになっていた。
( ・∀・)「この人が……ハインリッヒ=ボンデリンク」
/ ,' 3「第零式帯状封印装具で押さえつけておるが……。
この数十年、水すら与えておらぬのに、こやつはまだ生きておる」
349
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:14:07 ID:eAJ/Jxuk0
第零式帯状封印装具とは
ありとあらゆる魔力や魔法を封じ込める帯の形をした、魔術装具だ。
通常の魔術師ならば、何も出来なくなる。
魔法を使うどころか、魔力そのものを吸い上げるので、戦うことすらままならなくなる。
そのはずなのだが……。
/ ,' 3「何かしらの禁術を使っておるんじゃろう」
呼吸をしている様子もない。
だが、その体に触れるとわずかに温かみがある。
このまま処刑をしようにも、第零式帯状封印装具は魔法を受け付けない。
かといって、物理的に攻撃し、装具が損傷すれば封印効力が無くなってしまう。
その隙に、何かしらの手段で逃げ出すかもしれない。
結局のところ、捉えたまま寿命で死ぬのを待つしかなかった。
それがいつになるのか、皆目見当もつかぬまま、今日を迎えているわけである。
( ・∀・)「国王陛下」
モララーがスカルチノフに向き合う。
( ・∀・)「ぼくを連れてきた理由を教えてください」
わかっている。
予測は出来ている。
それでも、口にしてもらうまでは、逃げたかった。
350
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:15:27 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「うむ」
/ ,' 3「大魔術師、モララー=レンデセイバーよ」
国王はモララーの目を見た。
恐怖と不安、けれど希望を忘れていない純粋な瞳。
この真っすぐな少年の顔を、自分が曇らせることになる。
負い目と申し訳なさと。
やらなくてはならない責任を込めて、告げる。
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの『処刑』をお主に命ずる」
モララーの胸に、鉛のような重さが圧し掛かった。
つづく
351
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:16:53 ID:eAJ/Jxuk0
思ったより短くなってしまいましたが
ここらへんがちょうど区切りが良かったので今週はここまです。
また来週も忘れず更新したいです。モンハンの誘惑に負けないように
352
:
名も無きAAのようです
:2021/03/20(土) 21:52:03 ID:/NdRoR5I0
おつでさ
353
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」
脂汗を流しながらモララーが聞く。
/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」
逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。
(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」
/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」
ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。
実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。
他に出来る人はいない。だから、一任する、と。
(;・∀・)「なぜ、今ここで?」
/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」
/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」
354
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」
/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」
/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」
/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」
(;-∀-)
モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。
結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。
戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。
/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」
/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」
/ ,' 3「出来るな?」
355
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。
優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。
でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。
わかってる。
ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。
重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。
(; ∀ )「はい」
――――。
部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。
356
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』
( ∀ )『……いつでも』
戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。
それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。
もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?
想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。
/ ,' 3『では、始めよ!』
部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。
( ・∀・)「……!」
遅れて起こった変化は、上空からだった。
何かが落下してきている。
鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。
それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。
357
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)
モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。
異常は既に始まっている。
椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。
ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。
从三//从
从 ゚//从「…………あ?」
(;・∀・)「ッ!!!」
スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。
目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。
从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」
358
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。
対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。
かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。
从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」
口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。
/ ,' 3「始まったか……」
近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。
常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。
359
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。
中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。
どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。
魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。
下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。
スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。
从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」
( >∀・)「ぐっ!?」
無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。
だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。
目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。
360
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」
( ・∀・)「プロミネンス!」
高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。
从 ゚∀从「ふゥむ」
ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。
从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」
(;・∀・)「……」
从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」
(;・∀・)「……な!?」
言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。
从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」
クハハ、と楽し気に笑う。
从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」
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