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( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン
1
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:07:09 ID:pjD1kZAc0
(; ∀ )「あ゛ぁ…ぶ……はっ」
冷たい苦しい沼の中。
息を吸おうとしても咥内に入ってくるのは臭い泥ばかりで。
こんなことはなら、いっそう死んでしまった方がマシだと思った。
(; ∀ )「ぶぁはっぐっふぅ…ぅ」
これは夢だ。そんなことわかってる。いつものように…いつものように冷静にここから這い上がればいい。
けれど、何故かいつもなら自由に動く手足は、恐怖に弄ばれ言うことを聞いてくれなかった。
霞む視界で見上げた空は星一つない暗闇で、黒い空の真ん中には青白く光る鋭い三日月が
こちらをにんまりと見下ろしている。
ああ、苦しい、クルシイ。
47
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:30:58 ID:7GwzlyB20
きたきた
48
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:35:49 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(……また嘘を吐いてしまった)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(まあ、仕方ない仕方ない)
何が仕方ないのか自分でもよく考えていないが。
携帯を短パンのポケットに戻し、机の棚から教科書とノートを取り出す。
多分今の範囲はここだろうなあというページを適当に開き、シャーペンに新しい芯を入れなおした。
今、トソンの両親は長期の出張でイギリスに行っている。
本当は、両親はトソンも一緒に連れて行くつもりだったのだが、トソンが日本に残りたいと言ったのだ。
今まであまり自分の願いを口にしなかったトソンの言葉に、両親はとても驚いたらしい。
滅多にないトソンの要望を無視するのも忍びなく、両親は渋々彼女の一人暮らしを許したのだった。
トソンの独り立ちを願い、彼女に託した我が家。
両親の中では、立派に一人で家事をこなす娘の姿があるのだろう。
だから、トソンは若干の罪悪感を感じつつも、今日も両親の理想とはかけ離れた生活を送っていた。
今日の勉強ノルマを終え、時計を見る。
学校はきっともう放課後だろう。先生は今暇だろうか。連絡でも入れておこうと思った。
再び頭の中をあらゆる言葉が飛び交い、作り話を形作る。家の電話からかけようと思い、リビングへ向かった。
すっかり嘘を吐くことに慣れてしまったことに、少しだけ不安を感じながら、
トソンはそのことに気がつかないふりをする。
○
49
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:40:19 ID:QHk5lOM.0
窓の外の空もすっかりと暮れ、真っ黒な空間に小さな星が輝き始めた頃。
適当にあわせたチャンネルでやっていたバラエティをぼんやり眺めながら、
トソンはインスタントのスープを飲んでいた。
今日の晩御飯は、朝と違い綺麗に焼けたトースト二枚に、それぞれ苺ジャムとマーマレード。
それから、ちょっと怖いが牛乳の入ったコップも、テーブルには並んでいる。
本当はちゃんと米を炊いておかずを作ったほうがいいのだろうし、両親もそれを望んでいるだろう。
一人暮らしの提案のときにも、
+(゚、゚トソン「家庭科の調理実習で一通り習ってるから料理は大丈夫です」
と大見得をトソンは切っていた。
けれど実際は、今まで調理実習は周りがやってくれるのに任せていたため、
トソンは包丁の持ち方もわからないレベルなのだ。
ついでにいうと、調理実習はトソンにとってあまり良い思い出は、どれ一つとしてない。
米を炊く方法も、炒め物の仕方も、何となくしかわからない。
わからないことには手を出さない。失敗したときが怖いから。
そして数少ない使い方のわかるトースターと電子レンジを駆使し、トソンは今まで食事を取っていた。
50
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:45:09 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(コンビニ弁当という手もあるにはあるんですけどねえ。でもあれは食べると舌が痛くなるから…)
もそもそとマーマレードジャムを塗りたくったトーストを頬張り、インスタントのスープで飲み下す。
テレビの枠の中では、最近イケメンを売りにしてあちこちに出てきているタレントが笑顔でこちらに微笑みかけている。
しかし、はっきり言ってあんまりイケメンには見えない。
なんだか誰かと誰かを切り貼りしたみたいな中途半端な顔だった。
(゚、゚トソン(最近こういうタレント増えたな)
(゚、゚トソン(イケメンってどういう人のこというんでしたっけ……)
ふと、脳裏に昼間の夢に出てきたスーツの男が浮かんで消えた。
まともに顔を見れる状況ではなかったが、なんだかそれなりにイケメンだった気がする。
(゚、゚トソン(また、会えますかね)
そう簡単に同じ夢を見れるとは限らない。
けれど、いつも同じはずのあの夢に出てきた初めてのイレギュラーに、トソンは強い興味を持っていた。
やっぱり夢は面白い。自分の内面を写しているとかそういうのは信じていないけれど。
でも現実では体験できないことを体験できるあの世界が、トソンは好きだった。
51
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:50:08 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(あの人が夢の中ではどういう人物なのかすごく気になる)
(゚、゚トソン(それに……)
「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」
(゚、゚*トソン(……『またね』って言ってくれたし)
そういえば、見た夢のことを細かく思い出したら、
次見た夢もまた同じ夢だということが多々あることを、トソンは思い出した。
だとしたら、あの男のことを鮮明に思い出せば、もしかしたら、もしかするかもしれない。
トーストの最後の一切れを口の中に押し込み、食器を片付けテレビを消す。
さっさと風呂場に向かいながら、トソンはスーツの男の姿を頭の中に詳細に描きだし、好奇心に胸を膨らませた。
○ ○ ○
52
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:55:01 ID:QHk5lOM.0
トソンが晩飯を食べ終わったところで
作者もちょっと晩飯を食べてきます申し訳ない
食べてきたら再開します
53
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:15:00 ID:QHk5lOM.0
再開します
54
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:20:09 ID:QHk5lOM.0
ギラギラとしているけれど決して眩しくない、銀色と黒でデザインされた入り組んだ駅の構内。
高い天井はぼんやりと暗く、そこから床へと何本も輝く銀の柱が伸びている。
床は、銀色のベースに黒いラインが緩やかなカーブを描きながら一面を覆い、
どこにあるのかわからないライトの光を反射していた。
行き交う人はいつもよりも疎らで少なく、けれどいつものように人々は厚いコートに身を包み、
目深く帽子を被って俯いて歩いていて。
前方に視線を投げれば、遠くの方には大きな縦に長いガラスの扉。
観音開きのそこから、多くの人間が出入りを繰り返している。
背後からはざわざわと人々の声や足音の波、車両発車のアナウンス。
でも、トソンは振り向いたことがないから、後ろに何があるのかは知らなかった。
(゚、゚トソン(………?)
トソンは高校の制服を着て、俯き歩く人々の流れの真ん中で突っ立っていた。
学校指定のセーラー服は、その装飾の細部は現実の物とは若干違う。
恐らく、トソン自身があまり自分の高校の制服をそこまで真剣に見たことがなく、
着た回数もそんなに多くないからだろう。
そんなことよりも、トソンはいつもと少し様子の違う駅に首をかしげた。
55
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:25:03 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(なんか、いつもより落ち着く)
いつもなら、この夢にやってきたらすぐに“誰か”から逃げ始め、
犇めく通行人を押しのけ前に前にと進むというのに、
今回は何故かいつもの“誰か”の存在も感じなければ、どこかへ逃げなければという不安もない。
通行人も少ないため、前に進むのに人を掻き分ける必要もない。
ギラギラと輝く銀の光も、なんだか自分を包み守ってくれているような気がするくらいだった。
,_
(゚、゚トソン
“誰か”の存在がなければ、逃げる必要もない。
トソンはここに居る目的を感じることが出来なくて、少し戸惑った。
戸惑った末、とりあえずいつも通りの手順を踏むことにする。
逃げる必要がなくなったから、いつもは足早に通り過ぎるこの場所をゆっくりと歩いた。
それでも、不安で押しつぶされそうな感覚がないためなのか、
人が疎らなせいなのか、いつもよりもさくさくと進むことが出来た。
普段はちゃんと観察したことのない構内をじっくりと見回しながら、いつもの道を進む。
目的の場所にはすぐにたどり着くことが出来た。大きな縦に長いガラスの扉を下の方から見上げる。
ガラスの扉は他の銀の柱同様、暗い天井の奥に吸い込まれる様に消えていた。
その先で、何かがキラキラと輝いているように見えるが、あれはいったい何だろう?
56
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:30:15 ID:QHk5lOM.0
トソンは好奇心に胸を膨らませるが、輝きはあまりに高いところにありすぎる。
その正体を知ることを諦め、トソンは渋々先に進むことにした。
ガラスの扉をくぐれば、その先には白い、幅の広いエスカレーター。
普通のエスカレーターが十機ほど並んだぐらいの幅のエスカレーターに手摺はなく、
まるで階段がぐるぐると回っているように見える。
そして、エスカレーターが登りきった先にあるのは、駅の構内と同じデザインの、銀と黒で装飾された電車。
トソンは迷うことなく電車の中に乗り込むと、誰も座っていない紺色の座席の真ん中に腰掛けて、車内を見回した。
車内にはトソンの他に数人乗客が居たが、皆が皆一様に俯き、
顔はぐちゃぐちゃとした影に覆われ霞んでみることは出来ない。
アナウンスもない、おしゃべりもない、静かな車内に座って、電車が発車するのを待っている。
もしかしたら今回は乗客の顔を見ることが出来るかもしれない、
と少し期待していたトソンは、ちょっとがっかりしてしまった。
ここからはどうやら、いつもと同じという事らしい。
しばらくすると、電車はふしゅーという音をたてて扉を閉め、ゆっくりと走り出した。
最初のうちは真っ暗だった、トソンの向かいの窓の外が、パッと光を取り戻し明るくなる。
けれどそこに風景というものは存在しない。
あるのは、まるで雑誌や写真集や落書きを切り刻み、ぐるぐると回る洗濯機に放り込んだような景色だった。
57
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:35:19 ID:QHk5lOM.0
見続けていると目が回りそうな景色から視線を逸らし、トソンも他の乗客と同じように俯く。
窓の外を見続けているとどうしても気分が悪くなってしまうからだ。
それに、この電車に乗るときはいつだってこうだ。そして、現実の電車に乗る時も。
車内で見知らぬ人と目があったり、“見られている”と思われると面倒だから下を向く。
きっと周りの人々も、同じ理由で俯いているのだと、トソンは思った。
そうこうしてその場をしのいでいるうちに、電車の窓の外は再び暗くなる。
それから、次の瞬間にはまたどこかの駅に到着する。
ぷしゅーという音とともに開いた電車の扉の下のほうに、トソンは視線を向けた。
いつもなら、このまま電車には誰も乗ってこないまま扉は閉まり、そして次の駅へと出発する。
次の駅がどんなところかは知らない。いつも、この後トソンは起きてしまうからだ。
この駅の次の駅はいったいどんなところなのだろう。
この前はこの駅に着いても、また発車しない内に目覚めてしまった。
今回はちゃんと行くことができるのだろうか。
そんなことを考えながら、電車の扉が音を立てて閉まるのを見ていたトソンは、
扉が一度完全に閉まる直前になってから、再び開いたことに驚いて、思わず目を見開いた。
一度しまりかけた電車の扉が開く理由は、一つだけ。
それは、ギリギリ乗り損ねた人を迎え入れるためだ。
.
58
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:40:13 ID:QHk5lOM.0
再び開いた扉の向うに居た人物、なんだか見たことのあるスニーカーが車内に乗り込んでくる。
スニーカーは車内の通路の真ん中で一度立ち止まり、
つま先をこちら、トソンのほうへ向けると、ずんずんと近づいてきた。
トソンは体中に期待と不安が広がるのを感じた。
視線を上げ、こっちに近づいてくる人物の顔を確かめたい気持ちと、
もし予想と違っていたらという気持ちが押し合う。
電車の扉が閉まり、ゆっくりと視界の端に映る窓の外の景色が動き出す。
スニーカーの主は、車内の座席はどこもがら空きで座り放題だというのに、
迷うことなくトソンの隣に座ると足を組んだ。
トソンのすぐ側で、やはり見覚えのあるスーツのズボンとスニーカーが揺れている。
これはもしかしなくても、間違いない、明らかにあのスニーカーとスーツだ。
意を決したトソンは、パッと顔を上げると隣に座る男の顔をしっかりと視界に入れた。
(・∀・ )
(゚、゚*トソン「!」
.
59
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:45:20 ID:QHk5lOM.0
やっぱりだ、やっぱりあの男だった。
すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いている。
あの大きな木槌は今日は持っていなかったけれど、でも間違いない。
トソンは再びこの人物と出会えたことに感動と興奮を覚えながら、男が自分を見るのを待った。
(゚、゚*トソン
(・∀・ )
(゚、゚トソン
(・∀・ )
(゚、゚;トソン
無言。
男は、なにやら楽しげな表情でただ窓のぐちゃぐちゃな景色を見ているだけで、
トソンのほうはチラリとも見ようとはしなかった。
もしかしたらこちらのことは忘れてしまっているのかもしれない。
それに、これは夢なのだ。夢の中の人物に何度もあったからと言っても、
相手に前に会った時の記憶があるかなんてわからない。
むしろ、無いときの方が圧倒的に多い。
いや、それよりもまず、この場合それは記憶と言っていいのだろうか?
60
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:50:06 ID:QHk5lOM.0
まあそれは今はともかく。
(゚、゚;トソン
そのことにやっと気が付いたトソンは、一瞬腹の底が冷えたような気分になった。
すっかり一人で浮かれてしまっていたのが、すごく恥ずかしい。
でも、ここは夢であって自分以外現実の人間なんて一人も居ない、だから恥ずかしがる必要もないのだ。
なんとか腹の底から沸きあがる羞恥心を抑え、もう一度男のことをじっと見る。
(・∀・ )
ここは自分の夢なのだと割り切ったトソンは、遠慮することなく、現実なら不躾なくらいじろじろと男を眺めた。
どこか浮世離れした雰囲気に、なんだか不思議な色合いをしている瞳。
スーツには皺も染みも無く、スニーカーは近所の小学生が履いているものと同じメーカーのものだった。
,_
(゚、゚トソン(んー……)
やはり、何故か違和感を感じる。ここは自分の夢の中だというのに、
この男だけはまるで別の場所の異物のように思えるのだ。
男は、トソンに見られていても気にすることなく楽しげなままだ。
こちらにはきっと気がついているのだろう。
というか、こんなにじろじろと見られていて気がついていないわけがない。
だんだん、トソンはこの男にからかわれているような気がしてきた。
そして、それを決定付ける行動を、男がとった。
61
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:55:04 ID:QHk5lOM.0
(・∀・ )
( ・∀・) チラ
(゚、゚トソン「!」
(・∀・ )彡フイ
(・∀・ ) ニヤァ
,_
(゚、゚トソン(こいつ……)
確信犯だった。
男は、己が行動を起さないことでトソンが戸惑っているのを楽しんでいるようだ。
さっきよりもいっそう楽しげにニヤニヤと窓の外を眺める横顔を、ぐっと睨みつける。
,_
(゚、゚トソン「……あの」
(・∀・ )
,_
(゚、゚トソン「あの、今日の昼間会いましたよね!」
言ってから、そういえば昼間の夢は夢の中では夜だったことを思い出したが、
言ってしまったものは仕方が無い。
62
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:59:57 ID:QHk5lOM.0
それに、トソンの言葉に男はきちんと、初めてまともな反応を返してくれた。
今まで窓の外を見ていた視線をこちらに向け、パァッと明るい笑顔を浮かべた男は、
「その通り!」と言うと握手をトソンに求めた。
( ・∀・)「やあやあ、やっと話しかけてくれた、よろしく、僕の名前はモララー。君は?」
(゚、゚;トソン「え、あ、都村トソンです」
( ・∀・)「トソンくんか、いやあ君の夢は便利だね、乗り物だなんて」
(゚、゚トソン「へ? はあ、ありがとうございます」
( ・∀・)「これで都市の交通の便も少しはよくなるかなあ」
(゚、゚トソン「都市?」
( ・∀・)「そう、都市。今まではこんな夢を持った人なんて夢遊者にいなかったからずっと徒歩が主流でさあ」
( ・∀・)「目的地が遠い場合でもいっちいち歩かなくちゃならないしね」
( ・∀・)「個人でバイクとか自転車とか持ってる奴はいるんだけどねえ、でもやっぱり大半は徒歩だったから」
( ・∀・)「運び屋は新入りは乗せてくれるけど古参はあんまり乗っけてくれないんだよ」
( ・∀・)「あいつらケチだよな、こちとら毎日皆が平和に暮らせるようにせっせと片付けしてるってのに」
( ・∀・)「本当に助かったよー、ありがとう」
(゚、゚;トソン「……ええっと」
63
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:05:25 ID:QHk5lOM.0
突然のマシンガントークにトソンは口を挟む暇もなく、わけのわからない話を聞かされた。
“都市”や“夢遊者”といった単語や、徒歩が主流だとか交通の便がどうだとか。
わけがわからない、というのは確かに夢の専売特許だ。
だがなんだろうこのなんともいえない感覚は。
言われていることはわけがわからないのに、この男――モララーと話していると夢だという実感がまるで沸かない。
何故か現実でわけのわからないことに遭遇しているような感覚だった。
そして頭に襲ってくるのは、昼間見た夢でも感じた違和感、不快感。
しかも今度はそれがよりいっそう強くなり、まるで電車に酔ってしまったかのような気分だった。
( ・∀・)「あれ、どうかしたのかい?」
(゚、゚;トソン「いえ、なにも…」
グラグラする頭を抑え、トソンはモララーから電車の床に視線を落とした。
モララーは、それを気にする様子もなく、電車の窓の外を眺めながら嬉しそうにしている。
( ・∀・)「それにしても今日はいい日だ」
( ・∀・)「電車は開通するし、トソンくんにもちゃんとまた会えたし、目立った悪夢の目撃情報もない」
( ・∀・)「都市の皆も喜ぶだろうな」
64
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:10:16 ID:QHk5lOM.0
再びモララーが口にした“都市”という言葉が、頭にひっかかる。
そういえばこの電車は今どこに向かっているのだろう?
もしやその“都市”という場所に電車は向かっているのだろうか?
自分の夢なのに、何度も飽きるほど見てきた夢のはずなのに、
トソンはこの先いったい何が起こるのか全くわからなかった。
電車酔いのような症状が、一時的かもしれないが波が引き、少しだけ楽になる。
トソンは何度か瞬きをしてから顔を上げた。
(゚、゚トソン「あの」
( ・∀・)「ん、なんだい?」
(゚、゚トソン「その都市って、どこの都市ですか?」
( ・∀・)
(゚、゚トソン「他にもさっき言ってた夢遊者とか悪夢とかはいったい……」
(゚、゚;トソン「これは…私の夢、ですよね?」
65
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:15:40 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)
( ・∀・)「……うんまあ、それらの質問は次の駅に着いたら教えてあげるよ」
(゚、゚トソン「次の駅……」
(゚、゚トソン「今この電車はいったいどこに向かってるんですか…?」
三度モララーに投げかけた質問の直後、
今までごちゃごちゃと極彩色に溢れていた窓の外がふと暗くなった。
それにすぐに気がついたモララーが、トソンの視線を窓の外に向けさせる。
( ・∀・)「そんなの決まってるじゃないか」
( ・∀・)「次の駅は、君が今僕に尋ねた場所」
暗かった窓の外が、今度はサァッと明るくなり、突然の強い光にトソンは目を瞑った。
電車がゆっくりと減速し、停止する。
扉の開く音がする。
モララーに手を引かれ、目が眩んだまま電車を降りる。
少しずつ瞼を開き、トソンの視界に映ったのは――
( ・∀・)「ようこそ、我らが“夢都市”へ」
.
66
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:20:21 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン「これは……」
そこにはまるで、極彩色のおもちゃ箱をひっくり返したような光景が広がっていた。
トソンが立っているのは見たことがあるようでないような駅のホームだった。
ところどころ出発した駅に似ている銀と黒のデザインの中に、古い駅のような鉄骨が見える。
トソンたちの背後の電車からは、いったい今までどこに乗っていたんだという数の人が車両から降りていた。
駅はどうやら小高い丘の上にあるらしい。
すぐ側にある改札から雪崩れるように人が出て行く端で、トソンは呆然と目の前の町を見下ろした。
電車の窓から見えた景色と同じようなコラージュのように継接ぎの景色。
一見、遊園地のアトラクションが所狭しと並んでいるかのようにも見えるし。
けれどよく見れば、それはちゃんと街の形をしているようにも見えた。
かと思えば廃れた過疎地のようにも見え、瞬きをすれば繁華街にも近代都市にも姿を変える。
朝と昼と夜が空に張り付くように揺らめき、僅かに歪んでいる。
少し首を動かしただけでまるで万華鏡を覗きこんでいるかのような景色が広がる現象に、
またトソンは一瞬眩暈を覚えた。
トソンの隣で相変わらずモララーは笑みを浮かべている。
67
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:25:21 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン「な、え……なん、ですかこの街は」
( ・∀・)「言っただろう、“夢都市”だよ。君がさっきどこにあるのかって質問してきた都市」
( ・∀・)「まあ最初のうちはこの光景を見てるのも大変だろうけど。慣れれば結構綺麗だよ」
(゚、゚;トソン「夢、都市……」
今まで見てきた夢のどれにも似つかない夢。
これは本当に自分の夢なのか、疑わしくなったトソンは試しに自分の頬を抓ってみた。
じんわりと頬に広がる痛みは、今まで夢の中では一度も感じたことがない。
(゚、゚;トソン「…痛い、え、痛い、まさか…」
まさか現実なわけがない。こんな光景が現実にあってたまるものか。
それに確かにさっきまで自分はいつもの見慣れた夢の中にいたのだ。
いつのまにか現実の世界を歩いていたなんて夢遊病を患っていた覚えはない。
68
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:30:22 ID:QHk5lOM.0
トソンがさらに混乱して視線をあちこちに漂わせていると、
隣で彼女の様子を見ていたモララーは少しだけ表情を硬くした。
( ・∀・)「……言っとくけどここは現実じゃないよ」
(゚、゚;トソン「でも……痛みが」
( ・∀・)
( ・∀・)「うーん……」
( ・∀・)「君がまさかこれくらいで混乱するとは思わなかったなあ…」
,_
(゚、゚;トソン「は…? え?」
( -∀-) フー…
( ・∀・)「それは君が『頬を抓ると痛い』ことを知ってるから痛いんだよ。現実だからじゃない」
言われた言葉がいまひとつ飲み込めず、トソンはもう一度確かめるように頬を抓る。
やはりじんわりと広がる痛みに変わりはなかった。
69
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:35:35 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン
とりあえずはここは現実ではないと考えよう。
だとしても、トソンはこの痛みに関しては何だか納得がいかなかった。
今までだって現実なら痛みを感じるような夢を見てきたはずだ。
けれどもそれらの夢の中でトソンは一度も痛みを感じたことはなかった。
なのに何故今更、頬を抓ったくらいで痛みを感じたのだろう?
( ・∀・)「それは君が『痛み』を意識しながら頬を抓ったからだよ」
( ・∀・)「今までどんなに夢の中で酷い目に合おうと、君は夢の中では痛みなんて感じないと思っていた」
( ・∀・)「だから今まで君は夢の中で痛みを感じたことはなかったんだろう」
( ・∀・)「でもさっき君はここが夢なのか僅かながらも疑いつつ頬を抓った」
( ・∀・)「痛みを感じる可能性を意識していたから、痛みを感じたんだよ」
( ・∀・)「夢の中で痛みを感じないなんて誰が最初に言ったんだろうね」
70
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:40:32 ID:QHk5lOM.0
表情をあまり感じさせない笑みをモララーは浮かべる。
トソンはやはりいまひとつ言われたことを飲み込めないまま、抓った頬を撫でた。
( ・∀・)「さて、まずはどこに行こうか」
そういいながら、モララーはさっさと改札機に向かって歩き出した。
さっきまでは五月蝿いくらいいた人の波も消え、そこはすっかり静まり返っている。
トソンは慌ててモララーの後にくっ付いて、開きっぱなしになっている改札口の扉を通り抜けた。
一瞬、切符もないのに通り抜けていいのだろうかと不安になりかけ、ここが夢の中だということを思い出す。
( ・∀・)「トソンはどこに行きたい?」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「どこと言われましてもここがどこだか未だによくわかってません」
( ・∀・)「そっかあ、そうだよねえ」
(゚、゚トソン(さっきこの人ナチュラルに呼び捨てにした…)
71
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:45:25 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)「まあ僕はここの案内人ってわけじゃないし」
( ・∀・)「じゃあとりあえずは――」
「おー、モララーじゃねえか!」
モララーが何かを言おうとしたとき、どこからか声がかかった。
そして声と一緒に聞こえてきたのは、低く轟くエンジン音。
声の方に視線を向けると、モララーはにっこり笑って片手をあげた。
( ・∀・)「やあジョルジュ、配達かい?」
_
( ゚∀゚)「おう、兄者に頼まれた奴をさっき届けたとこだ」
( ・∀・)「そりゃお疲れさん」
暴走族にも似た音を発してやってきたのは、濃い黄色に塗られた車体の、
バイクに似た乗り物に乗った、短い金髪の、眉毛の濃い若い男だった。
男の乗ってきたバイクは、だいたいの形とエンジンの音で何となくバイクとトソンは思ったのだが、
実際形は現実のバイクに比べると随分デフォルメされていた。
72
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:50:13 ID:QHk5lOM.0
まるでアメコミに出てきそうなそれに跨る男は、親しげにモララーと談笑している。
身につけているのはバイクと同じく、けれどこっちは目が痛くなるような鮮やかな黄色のロングコート。
はめている手袋も履いている靴も暖色で、頭の先から足の先の隅々まで男は明るい色をしていた。
トソンがその派手な見てくれに目をぱちくりさせていると、男は「ところで……」と視線をトソンの方に寄越した。
好奇心に溢れた視線に、思わずモララーの陰に隠れる。
_
( ゚∀゚)「配達から帰ってる最中に、今まで何もなかった所にいきなり見たことない駅が現れやがったから、
もしやと思って来てみたんだが……そこのお嬢ちゃん、新入りか?」
(゚、゚トソン「え、新入り?」
_
( ゚∀゚)「何だ、違うのかよ」
(゚、゚トソン「え、あの」
( ・∀・)「いや、新入りだよ」
(゚、゚トソン「え?」
_
( ゚∀゚)「だよなあ、新入りじゃなかったらこんなとこ来れねぇもんな。
その様子だと、まだ自覚はないって感じか?」
( ・∀・)「だね」
73
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:55:05 ID:QHk5lOM.0
なにやらトソンにはよくわからない話を始める二人。
新入りとはいったい何の新入りなのだろう?
トソンは自分が最近何かのグループに参加したり所属したりといった記憶は全くなかった。
なによりもここは夢の中だ。
さっきから夢の中のはずならないような出来事ばかりで、トソンは頭が痛くなりそうだった。
収まっていた酔いのような気持ち悪さもまた波が来ている気がする。
訳が分からないことには下手に口を挟まない方がいい。
深く深呼吸をしつつ、トソンは大人しく二人の会話を聞いていようと思った。
けれど、そう思った直後、モララーが妙なことを言い出し、トソンは首を傾げた。
( ・∀・)「さっき僕もここで偶然会ってね」
( ・∀・)「ちょうどここのことを説明してたとこなんだよ」
(゚、゚トソン「え、モララーさんさっき私と一緒に…っでぇ!」
モララーの言葉を訂正しようとしたトソンは、
彼にジョルジュからは見えない角度で二の腕をつままれ、
それをトソンが認識した瞬間思いっきり抓られて、痛みに悶えた。
74
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:00:09 ID:QHk5lOM.0
(;、;トソン「っくぅ〜」
_
( ゚∀゚)「ん、どうしたんだ?」
( ・∀・)「頭痛だよ」
( ・∀・)「いやあ、まだここに来てばっかりで、彼女夢酔いしてるみたいで」
_
( ゚∀゚)「ああ、夢酔いは確かに辛ぇよな」
( ・∀・)「今薬持ってる?」
_
( ゚∀゚)「おう、あるぞ。ちょっと待て、今渡すから」
結局訂正をできないまま、トソンはジンジンと痛む二の腕を押さえていた。
モララーはそれを横目で一瞥しただけで、謝るそぶりはない。
憎々しげにトソンはモララーを睨んむと、一発蹴りを彼のスネにかまそうとしたが、
ひょいとあっさり避けられてしまった。
ジョルジュがバイク(だと思われる乗り物)の荷台をがさごそと漁る。
取り出したのは、なにやらきらきらと光る粒状の何かが入っている瓶だった。
ジョルジュは瓶の蓋を開けてそこから三つほど粒を取り出し、トソンに粒の乗った手のひら差し出す。
75
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:05:21 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「夢酔いにはこれが一番だ。噛み砕かずに飲み込め」
( ・∀・)「普通の錠剤と違って水なしでも飲めるから」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます……」
渡された粒は、大きさは一粒が指先に乗るくらいの小さなもので、
これもまた町の風景同様見る角度によって色や模様が様々に変化した。
言われたとおりに、噛み砕くことはせず口に放り込むと、一気に飲み込む。
一瞬異物が喉を通るのを感じた後、薬は胃に落ちた。
とたん、今までずっとぐらぐらしていた重い頭が少しだけ軽くなった気がした。
( ・∀・)「あ、効果は服用しないと現れないから」
_
( ゚∀゚)「ここに来るたびに三粒ずつな」
――気がするだけだったらしい。
_
( ゚∀゚)「んじゃ、そろそろ行くか」
76
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:10:28 ID:QHk5lOM.0
トソンが薬を飲み込んだのを確認すると、ジョルジュは停止させていたバイクのエンジンを吹かす。
すると、単車だったはずのバイクの脇が突然ぐにゃりと変形し、何もなかった場所にサイドカーが現れた。
ジョルジュはサイドカーが完全に形を作るのを見届け、トソンに視線で乗れと促す。
(゚、゚トソン「あの、行くって……どこへ?」
( ・∀・)「君を案内屋のいるところまで案内するんだよ」
_
( ゚∀゚)「ほら、さっさと乗れ」
(゚、゚;トソン「あ、はい」
( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「んだよ」
( ・∀・)「このサイドカー、一人乗りに見えるんだけど」
_
( ゚∀゚)「そうだぞ、それがどうした」
(゚、゚トソン「あの、ヘルメットとかは…」
77
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:15:47 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「ヘルメット? そんなもんいらねえいらねえ、ここをどこだと思ってんだ?」
_
( ゚∀゚)「落っこちたら痛ぇくらいだ、心配すんな、死なねえよ」
(゚、゚;トソン(痛みはあるのか)
( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「なんだよ」
( ・∀・)「僕はどこに乗ればいいのかな?」
_
( ゚∀゚)「ねーよんなもん」
( ・∀・)「なんだい僕は置いてけぼりかい?」
_
( ゚∀゚)「お前なら自力でついて来れるだろうが」
( ・∀・)「疲れるから嫌だ」
_
( ゚∀゚)「バーカ嘘吐け。夢の中で疲れた奴なんて見たことねーよ」
( ・∀・)「いやいやいや本当だって、めちゃくちゃ疲れるんだって」
_
( ゚∀゚)「俺の夢遊者暦なめんなよ。誰がそんなホラ信じるかっての」
78
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:19:17 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「そらお嬢ちゃん、しっかり掴まってな。
スピードは遅めにしといてやるけど万が一落ちたりしたら拾うのが面倒だから――な!」
(゚、゚;トソン「ぅわっ――」
( ・∀・)「あっちょっ置いてくなよ!」
言葉とともにジョルジュがバイクのアクセルだと思われる場所を触ると、
一瞬トソンには周りの景色が吹き飛んだように見えた。
体も一緒に吹っ飛びそうな感覚に、思わずサイドカーに掴まる。
けれどもそれはほんの一瞬のことで、しばらくすればトソンの周囲にはちゃんと景色が戻ってきた。
といっても、速度は僅かに遅くなっただけ。
今にも振り落とされそうなのは変わらないまま、トソンは必死でサイドカーに掴まった。
いったいどのくらいのスピードが出ているのか、バイクはもう駅から随分離れ、
目の前の都市へと続く丘の一本道を爆走している。
夢の中だからなのか、風は感じないため、目は開いていることが出来た。
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん大丈夫かー!?」
(゚、゚;トソン「はいー! なんとかー!」
79
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:23:27 ID:QHk5lOM.0
爆音のエンジン音の隙間を縫う様に聞こえてきたジョルジュの声に、トソンも声を張り上げて答える。
聞こえたかどうかわからないが、その後ジョルジュは何も言わないから多分聞こえたのだろう。
トソンはもう一度しっかりとサイドカーに掴まりなおすと、
置いてけぼりを食らってしまったモララーの様子を見ようとちらりと後ろを振り返った。
ジョルジュは彼に自力でついて来れるだろうと言っていた。
けれどトソンにはモララーが何か乗り物になりそうなものを持っていた記憶はない。
走ってついてくるということも考えられるが、このスピードについて走ることなんて出来るのだろうか……。
(゚;トソン チラ
(、゚;トソン「え」
( 、 !iトソン「えええー…」
そんなトソンの心配はあっさり消えることになった。
.
80
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:27:03 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)「なにそんなポカンとしてるんだい、トソン!」
( ・∀・)「僕がこんな風になってるのに驚いたのかい?!」
( ・∀・)「忘れちゃいけないよ!」
( ・∀・)「ここは夢の中だ! 夢の中なんだよ、トソン!」
呆然とモララーを見上げているトソンに、モララーはあっはっはと楽しげな笑いを落とした。
今、モララーの身長は優に五メートルを越しているかもしれない。
元から背は高いほうだったが、まさかいきなりこんなに人の背が高くなるなんて誰が予想しただろうか。
それに、単に背が高くなっただけだったらトソンはこんな気持ちにはならなかった。
なんというか、はっきり言って気持ちが悪い。
夢酔いをしている中で、こんなものを見せられて、トソンの気分の悪さは絶頂にたどり着きそうだった。
ここが夢の中でなかったら胃の中のものを吐き出してしまっていたかもしれない。
現在のモララーは、手や胴はは今までどおりのサイズで、足だけが妙に長くなっているのだ。
81
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:30:43 ID:QHk5lOM.0
いちいち、ぶんっぶんっと音がしそうなほどの大降りな一歩。
本人はきっと普通のスピードで歩いているくらいの感覚なのかもしれない、
けれど、ちゃんとモララーはジョルジュのバイクのスピードについて来ていた。
関節はいったい幾つあるのだろう、まるで何かの化け物のような見た目は、只管悪寒を誘う。
_
( ゚∀゚)「相っ変わらずキモチワリィ見た目だなあ!」
( ・∀・)「失礼だなあ、だったら僕もバイクに乗せろよなあ!」
_
( ゚∀゚)「やーなこったぁ!」
やっとバイクに追いつき、並走するモララーを見上げ、ジョルジュは怒鳴った。
それに負けじと、モララーも声を張って言い返す。
けれどトソンには、そんな二人のやり取りを傍観する余裕もなく、
必死にサイドカーから落ちないようにしながら気分の悪さと戦っていた。
( 、 !iトソン(なんだかとんでもない所に来てしまった気がする……)
82
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:33:07 ID:QHk5lOM.0
駅はどんどん後方へと遠ざかる。
夢都市はだんだんと目の前に近づいてくる。
これからトソンの身には、いったいどんなことが待っているのだろう?
出来れば、これ以上気持ちが悪いことには遭遇したくない、とトソンは心の底から願った。
( 、 !iトソン「うぇっ」
第二話「運ばれる夢」 おわり
83
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:18 ID:QHk5lOM.0
今回はこれでおわりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
次回は一応もうありますが、ちょっともう一話分書き溜めてから投下しにきます。
では、また今度。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:37 ID:RzE4WT1E0
おつ、地の文が綺麗で羨ましいよ
次回も楽しみにしてる、
85
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 06:11:52 ID:cDEcIJlI0
おつ
86
:
名も無きAAのようです
:2012/05/18(金) 20:07:35 ID:X8Lwg1Uw0
好きだわートソン
87
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 19:15:25 ID:l3IWarkw0
マダカナー
88
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 20:23:13 ID:UPqNmzkw0
読み返してる?
第一話脱字が多いお
89
:
名も無きAAのようです
:2012/06/08(金) 22:41:44 ID:oC4lnlaM0
大丈夫大丈夫
90
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:04:31 ID:38SxqkVM0
( 、 !iトソン(20XX年5月10日……)
( 、 !iトソン(あ、今現実は夜中だから)
( 、 !iトソン(20XX年5月11日…今回の夢は………)
( 、 !iトソン(…………)
( 、 !iトソン(くそう、ノートがないから記録できないじゃないですか)
( 、 !iトソン(なんか色々ありすぎて覚えていられるか自信が…)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(というか、これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン「うぇっ」
91
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:07:27 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「大丈夫かあい、トソーン! バイクに吐いちゃ駄目だよー!」
_
( ゚∀゚)「夢の中で吐くとかねーよ!」
( ・∀・)「そんなこと一概に言えないだろう?!」
( ・∀・)「ここは夢の中なんだから何があったって可笑しくない!」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん、あとちょっとで着くからな! それまでの辛抱だぞ!」
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン「うっ…うぇぇえぇ」
( 、 !iトソン(ああ…吐けない分、ずっと気持ち悪い……)
92
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:10:49 ID:38SxqkVM0
彼は目的を達成するまで、木槌を振るい続けている。
第三話「アパートの夢」
.
93
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:13:28 ID:38SxqkVM0
現在、トソンを乗せたジョルジュの運転するバイクと、
バイクと並走する足だけ異様に長くなったモララーは、目的地に入ったばっかりだった。
突然周囲に増えた建物は、遠くから見たときとは違い、形がしょっちゅう変わることはなく、
どこか異国を思わせる町並みの形を保っている。
シックな色合いの建物に、石畳の表通り。
見通しはあまり良くなく、道は真っ直ぐではなく緩やかな波のようにくねくねとしている。
そんな道をジョルジュの運転するバイクはスピードを落とさず、爆走していた。
もしもトソンが夢酔いとモララーの姿のせいで気分を悪くしていなければ、
もっと街並みを楽しむことが出来ただろうに。
しかし、あっちこっちへと激しく揺れる車体の上のトソンには、そんな余裕は微塵もない。
吐きたくても吐けない状況に口元を押さえ、彼女は何度もえづきながらサイドカーに掴まっていた。
94
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:16:38 ID:38SxqkVM0
表通りを出歩いている人間は誰もいないため、その通りをジョルジュはお構いなく爆走する。
建物の窓は、どれも暗く、その向こう側に人が住んでいる気配はない。
途中、バイクは小さな広場のような場所に出たが、そこもすぐに通り過ぎて後方に遠ざかってしまった。
(゚、゚!iトソン(あれ…)
広場を通ったのは一瞬。
けれど、トソンはその一瞬の間に、広場に人が固まっているのを見た。
町の中をこんな爆音のバイクが走っているのに、彼らはそれには目もくれず、こちらに背を向けて何かをしていた。
何をしていたかまではわからなかった。
でも、トソンは人々の後姿を見たとき、何か嫌な印象を受けたのだ。
心の奥の方に、泥を押し込められたような不快感が、あの場を通った一瞬トソンを襲った。
あれはいったいなんだったのだろう。
95
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:19:32 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「……おい、モララー!」
( ・∀・)「ああ、わかってる」
( ・∀・)「ジョルジュ、トソンをよろしく頼んだ!」
_
( ゚∀゚)「おう、当ったりめぇだ、任せとけ!」
(゚、゚!iトソン「え?」
トソンが後方に遠ざかる広場を、もやもやとした気持ちで見つめていると、
モララーがいきなり長かった足を元の長さに戻して、視界に現れた。
そして、いったいどこに持っていたのか、初めて出会ったときに持っていた木槌を右手に構えると、
バイクの進行方向とは真逆の方向――さっきの広場へと駆け出した。
(゚、゚!iトソン「モ、モララーさん、何しに行くんですか?!」
96
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:22:22 ID:38SxqkVM0
どんどん遠ざかるモララーにかけたトソンの言葉は、モララーには届かない。
いったいどうしたのだと、今度はすぐ隣でバイクを操るジョルジュを見る。
ジョルジュはトソンの視線に、口端を上げた。
(゚、゚!iトソン「ジョルジュさん、モララーさんは…!」
_
( ゚∀゚)「ああ、あいつは今な」
_
( ゚∀゚)「片付けに行ってんだよ」
○ ○ ○
97
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:25:13 ID:38SxqkVM0
さっき通り過ぎたばかりの小さな広場には、三十人くらいの人だかりが出来ていた。
美しい街並みの中で、その人だかりが出来ている一角だけが、今は異様な空気を放っている。
どろどろとした、頭の痛くなるような空気。
人だかりのその誰もが皆、再び広場に戻ってきたモララーには気がつかないまま、
背を向けて何かを取り囲んでいる。
取り囲まれているモノは、人が壁となっているために確かめることは出来ないが、
モララーにはもう、そこに何があるのかはわかりきっていた。
背後のバイクがカーブを曲がり視界から消えるのを確かめてから、
モララーは広場の入り口に立って木槌を持ち直した。
そして、目の前の沢山の背中の人数に、改めて呆れる。
( ・∀・)(なんかまた数増えてない?)
( ・∀・)(前はまだ十三人だったよな)
98
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:28:10 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)(また現実のほうで何かあったな、ドクオの奴)
( -∀-) ハァー
( ・∀・)「おーっし、さっさと片付けようか!」
広場全体に響く声で宣言し、木槌を手の中で一回転させて駆け出す。
何かを取り囲んでいる人々はこちらに気がついていないのか、振り返ることはせず、
ずっと取り囲んだモノを見下ろしているようだった。
近づけば、なにやらブツブツと呟いているのが聞こえるが、その内容には興味がない。
モララーは人々にぶつかる直前で足を止める。
そして、そのままの勢いで振りかぶった木槌を目の前の男の後頭部に叩き付けた。
パァンとはじける様に男はその場から消え去り、代わりに現れたのは六角形の黒い物体。
コロンと石畳の上に転がったそれを拾っている暇は今はない。
99
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:31:21 ID:38SxqkVM0
突然襲われたにもかかわらず、人々はモララーに見向きもしなかった。
ただ只管、取り囲んでいるモノを見下ろしている。
振り下ろした木槌を、今度は左に振るい、男の隣にいた女二人を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされた女二人は、モララーよりも後方の石畳にぐしゃりと落ちたが、呻き声一つ上げなかった。
ただ、じっと一点を見つめ、何かを呟き続けているのだ。
その様子に、モララーは少しだけ背筋がゾクリとし、脳裏にある映像が浮かびかけたが、すぐに思考から追い出した。
女たちの反対側にいた老婆と青年もふっ飛ばし、その前に立っていた女も叩き潰し、
やっと彼らに取り囲まれたモノはその姿を現した。
(;'A`)「モ、モモモモ、モッモモモラララーっ」
( ・∀・)「『モ』多過ぎだから。なんかまた人数増えてるけどなんかあった?」
100
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:34:17 ID:38SxqkVM0
(;'A`)「そんなそんなそんなこといいいいから早くっ早く助けっ…」
( ・∀・)「あーはいはいわかったから、ほら、ドクオ、さっさとそこから退いて」
そこにいたのは、少し貧相な体格をした、石畳の上に情けなく尻餅をついている青年。
傍らには、蓋が外れ中身が散乱した鞄が転がっている。
ドクオと呼ばれた彼は、長く伸ばした黒い前髪の隙間から、怯えたようにモララーを見上げた。
そして、慌てて言われた通りにモララーの作った隙間から、人の囲いの外に出ようとする。
しかし、ドクオがあとちょっとで囲いから出ようとしたとき。
両側で今までブツブツと何かを呟いているだけだった者たちが、ガシリとドクオの腕を掴んだ。
(;'A`)「ひぃっ」
再び囲いの中に引き戻されそうになる。
が、ドクオは顔を真っ青にして、目立った抵抗なくされるがままになっていた。
恐らく恐怖で身動きできないのだろう。
それを見て、モララーは木槌を振り上げた。
101
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:37:04 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「もー、何やってんだ、よ!」
ガッとドクオの腕を掴んでいた者の半分を叩き潰す。
続けざまにもう半分もふっ飛ばし、モララーはドクオの服の襟首を掴むと、広場の反対側へと投げ飛ばした。
('A`;)「ぅわああぁぁぁああぁ……ぐふぁっだふっ」
広場の反対側まで飛んだドクオは、そこにあった建物の壁にぶつかると、ぼたっと石畳に落ちた。
どうやら、飛ばされた瞬間に痛みを意識したらしい。
地面に転がったまま、芋虫のように悶えているドクオをみて、モララーは呆れた顔をした。
(; A )「おまっ…モラ、ぐふっ…なにす…っ」
( ・∀・)「いや、そろそろ学習しような。
そういうときに痛み意識したら駄目だって何回言えばいいんだよ」
('A`;)「んなっ…それ…いってぇえぇ」
( ・∀・)「今から速攻でこいつら片付けるから、そこ動くなよ」
102
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:40:04 ID:38SxqkVM0
痛みに悶えるドクオは、まあ大丈夫だろう。
擦り傷ぐらいは出来ているかもしれないが、それはまた帰ったら手当てしてもらえばいい。
それよりも構うべきは目の前にいる奴ら。
ドクオに向かってのろのろと歩み、ずっと何かを呟いている気味の悪い奴らだ。
モララーはまず最初にふっ飛ばした女たちの上に木槌を振り上げ、叩き潰した。
そしてすぐ背後に迫っていた男の横腹を殴り飛ばし、
続けざまそのすぐ後ろにいた子供の体を地面にめり込ませる。
前回片付けたときと比べて増えているとは言え、
そいつらはモララーにとってはただの掃除の対象でしかなかった。
自分やドクオに近づく者は、片っ端から叩き潰していく。
あちらこちらでパンパンと風船がはじけるような音が響き、黒い物体が転がった。
103
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:43:15 ID:38SxqkVM0
例え相手がどんな見てくれをしていたって容赦はしない。
男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうが、叩き潰す。
奴らがいったい何を呟いていたって気にとめることもしない。
奴らはドクオにとって恐怖の対象でしかないのだ。
そして、モララーにとっては片付ける物でしかない――
――“悪夢”なのだから。
都市の皆が平和に心穏やかに暮らしていくために。
モララーがここで目的を達成するまで暮らしていくために。
彼は奴らを、“悪夢”を殴り、叩き、潰す。
( ・∀・)「バイバーイ」
ガッ。
パァンと再び破裂音を立てて叩き潰された老人を最後に、モララーはドクオの“悪夢”の片付けを終えた。
○ ○ ○
104
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:46:29 ID:38SxqkVM0
モララーと別れてしばらくして、ジョルジュとトソンは目的の場所にたどり着いた。
いつの間にか周りの景色は異国風の町並みから、寂れた工場地帯のような場所に変わっていた。
トタン塀が続く、殺風景な道。
コンクリートで出来た背の高い、表面ののっぺりとした塔のようなものが、
トタン塀の向こう側にずらりと立ち並んでいて、空は白っぽく、灰色の煙がどこからか漂っている。
どこか寒々しく、ここは胸のうちに心細さを植えつけるような気がした。
町の中で立てていた爆音も成りを潜め、ゆっくりとスピードを落として、ジョルジュはバイクを停止させた。
_
( ゚∀゚)「おい、着いたぞ」
( 、 !iトソン「ふぁ…ふぁーい……」
_
(;゚∀゚)「大丈夫かよ……」
( 、 !iトソン「ふぁ……………うぇっ」
105
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:49:12 ID:38SxqkVM0
サイドカーからふらつきながら降りる。
すると、サイドカーは出現したときと同じように、ぐにゃりと変形するとバイクの中に吸収されて、消えてしまった。
ジョルジュが心配して肩を支えようしてくれたが、トソンは首を振って何とか自力で立つ。
視界がまだあちこちに揺れているが、まあ何とかなるだろう。
深呼吸を何度か繰り返し、気持ちを落ち着ける。
しかし、ジョルジュは目的地についたと言ったけれど、ここはどこだろう?
ここは、今までトソンが見たことのない夢だった。
トタン塀だけが延々と続いている殺風景な場所。
さっき別れてしまったモララーが言うには、ここに“案内屋”がいるということだが。
そんな人物はどこにもいるように見えないし、店や家のようなものもあるようには見えない。
只管、トタンばかりが目に付く場所に人気はなかった。
(゚、゚!iトソン「……えっと、ジョルジュさん」
_
( ゚∀゚)「なんだ、立ち直ったか?」
106
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:52:27 ID:38SxqkVM0
(゚、゚!iトソン「はい、まあ。……あの、目的地はここであってるんですか?」
_
( ゚∀゚)「あってるぞ」
(゚、゚!iトソン「トタン塀と変な塔しかないように見えるんですけど」
_
( ゚∀゚)「あー、確かにパッと見はそうだよなあ。俺も初めて来たときは同じこと思ったわ」
ジョルジュはトソンの言葉に、懐かしそうに頷きながら、バイクをトタン塀の脇に止める。
そこから少しだけ離れた場所にあるトタン塀に掌を付けると、ぐいっと力を込めた。
すると、その箇所のトタンにだけ、人ひとりが通れるくらいの穴が開いた。
いや、穴が開いたのではなく、そこにどうやら扉があったらしい。
(゚、゚*トソン
まるで秘密の組織の隠し扉のようなそれに、トソンは思わず鼓動が早くなった。
好奇心と緊張が混ぜこぜになったような感覚。
電車の中で、モララーと再び出会ったときのような感覚。
トソンはすっかり夢酔いのことなんて忘れて、トタンに開いた穴に魅入っていた。
107
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:54:32 ID:38SxqkVM0
ジョルジュは扉の中に体を半分だけ滑り込ませたところで、トソンが着いて来ていないことに気がついた。
_
( ゚∀゚)「おい、さっさと来いよ。仲の奴らにお嬢ちゃんのこと紹介するから」
(゚、゚*トソン「あ、はい!」
呼ばれて、トソンも慌ててジョルジュに続く。
トタン塀の穴を潜った先には、外とは全く印象の違う風景が広がっていた。
一見、そこは現実ではオンボロアパートと言われる類の建物だった。
二階建ての、ぽろぽろの鉄骨とトタンで出来た建物。
廊下やそれぞれの部屋の扉は木で出来ていて、窓ガラスはところどころ割れている。
建物全体はコの字型になっているらしい。
二階の通路の曲がり角に当たるところが、両側とも壁が黒く塗られているのが奇妙だった。
ちょうどトソンの正面の二階部分には大きなベランダのようなものがあり、
そこには大きなテーブルと椅子が置いてある。
建物を覆うように被さっている高いトタンの天井には、ところどころ穴が開いていて、
そこから光が漏れて、木漏れ日のように地面にさしていた。
108
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:57:02 ID:38SxqkVM0
とても綺麗な場所とは言えない。
でも、雰囲気は決して寂れた感じはなく、寧ろどこか暖かい場所だった。
_
( ゚∀゚)「あれ? 誰もいねえなあ」
ジョルジュはアパートを見回し、頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「っかしいなあ、この時間なら皆あそこで何か食ってるんだが」
指差した先は、大きなテーブルと椅子のある場所。
どうやらあそこは食卓らしい。
よく見れば、テーブルよりも奥の壁際に、キッチンの陰が見える。
(゚、゚トソン「ここに住んでいる方たちは皆あそこで食事をしているんですか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、ここに住んでなくてもタイミングが合えば皆で食うぞ」
_
( *゚∀゚)「り、料理の上手い人がひとりいて、その人が、いつも作ってくれるんだ。
その人の料理、すっげぇ旨いんだぞ」
109
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:00:13 ID:38SxqkVM0
突然頬を染めて、恥ずかしそうにジョルジュは説明してくれたが、
今の話の中に頬を染めるような部分が見当たらなくて、トソンは首をかしげた。
他にも、夢の中で食事をする、ということにもやや疑問を感じる。
夢の中ではたしか食べ物は味を感じなかった気がするのだ。
まあ、痛覚の件もあるから、これも意識の問題なのかもしれない。
もしかしたらこの夢自体がどこか可笑しいのかもしれない。
いや、可笑しい以前にまず夢なのだろから、
夢の中の人物が夢の中の食べ物を美味しいと言っていても何も可笑しくはないのか。
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(結局この夢は私の夢なんでしょうか……?)
色々ありすぎて考えるのが遅れていたが、トソンは未だこの夢が自分の夢なのか自信が持てていなかった。
現実でないことは確かだ。現実で人間の足が伸びたり、乗り物の形があんな風に変形するなど考えられない。
でも、電車の中でモララーと再開してからというもの、どうしても違和感が拭えなかった。
110
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:03:11 ID:38SxqkVM0
最初は自分の頭の中に異物が入ったような違和感だった。
しかし、今はその逆。
まるで、自分がこの世界にとって異物のような感覚をトソンは感じていた。
初めて来た土地にやってきたような、新鮮な感覚。
夢の中だと例え初めて訪れた場所でも、今までずっとそこにいたような馴染みがあるはずだ。
なのに、今トソンは他人の家に上がりこんでいるような緊張を感じている。
_
( ゚∀゚)「おーい! 誰かいねぇのかあ!」
人気のないアパートに向かって、ジョルジュは声を張り上げた。
すると、アパートの奥から、なにやらこちらに走ってきているらしい、騒がしい足音が響いた。
次の瞬間、二階の通路の左側の曲がり角――だと思っていた場所にあった黒い壁から、人が飛び出した。
(;^ω^)「ぶほっ…はいはいはあい! 今行くお!」
.
111
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:06:06 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「お、ブーン! おいおい、そんなに慌ててどうしたんだよ」
(;^ω^)「いやっはあははは」
黒い壁だと思っていた場所はどうやら、通路があったらしい。
そこから飛び出してきたのは、白いパーカーを着た、少々ぽっちゃりした青年だった。
彼は慌てるように黒い通路からすぐに離れると、アパートの左側の一番端にある階段を使ってこっちに降りてきた。
そして、その直後黒い通路の奥から、今度はまた別の人物が飛び出す。
ξ#゚皿゚)ξ「コルァアアアブゥウウウウゥン!」
現れたのは、白い薄手の、華やかなフリルのついたチュニックに、
紺色のホットパンツを着た、金髪碧眼華奢で色白の超美少女だった。
黒い通路から飛び出し、クルクルと巻いた金髪のツインテールを揺らし、こちらを見下ろす。
112
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:09:10 ID:38SxqkVM0
しかし、その表情は阿修羅の如く。
折角の美貌も台無しになるほど、彼女は何故か怒っていた。
_
(;゚∀゚)「げぇっ! ブーンお前何したんだよ、ツンめっちゃ怒ってんじゃねぇか!」
(゚、゚;トソン「え? え?」
(;^ω^)「ツンのプリン間違って食べちゃったんだおー!」
_
(;゚∀゚)「ちょっ…アホ!」
ツンと呼ばれた彼女はアパートの階段の最後の段を踏んでいるブーンと呼ばれた青年を見つけると、
階段の方には向かわずに、食卓のあるベランダの手すりに足をかけた。
トソンは一瞬何をしようとしているのかわからなかったが、ジョルジュにはすぐにわかったらしく、
彼はトソンの手を引くと慌ててその場を離れて、アパートの右側へと避難した。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:11:06 ID:38SxqkVM0
(;^ω^)そ「えっちょ、ジョルジュ呼んでおきながらどこ行くんだお?!」
_
(;゚∀゚)「巻き込まれて堪るかっての!」
(;^ω^)「この薄情者! ツンー! この通りだから、許してくれおお!」
ξ#゚皿゚)ξ「 問 答 無 用 !!」
ブーンが、さっきまでジョルジュとトソンがいた場所にやってきて土下座をするのと、
ベランダの手すりに足をかけていたツンが、そこから跳躍したのは同時だった。
(゚、゚;トソン「うわ……」
ひらりとまるでモンシロチョウのように身軽にベランダから飛び降りたツンは、
綺麗な弧を描いて真っ直ぐにブーンのいる場所へと飛ぶ。
空中で振りかぶり握り締めた拳を、落下するタイミングに合わせて、ブーンへと叩き込んだ。
瞬間、隕石が落下してきたかのような轟音が響き、辺りを砂煙が覆う。
114
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:14:03 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「え」
(゚、゚;トソン「ぇええええなんですかこれえ!」
_
( ゚∀゚)「今回も派手にやったなあ」
(゚、゚;トソン「えええっその程度のリアクションでいいんですかこれ!」
_
( ゚∀゚)「まあよくあることだし」
(゚、゚;トソン「よくあるんですか?!」
_
( ゚∀゚)「おう、お嬢ちゃんもそのうち慣れるよ」
もうもうと砂煙のたつ中、ジョルジュは完全に傍観者の位置で暢気にそういうと、
とりあえず二階に避難しとくか、とすぐ側にある階段を登った。
トソンもそれについて、階段を登る。
今にも板が抜けそうな見た目に反して、階段はしっかりとした作りになっていた。
115
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:17:18 ID:38SxqkVM0
「なんであんたは何度言っても私のプリン食べちゃうのよ!!」
「悪かったお! 悪かったから殴らないで…って、あひぃそこはだめえぇ!」
未だ収まらない砂煙の中から響く声。
声のほかにも何やら柔らかいものを殴るような音も聞こえる。
砂煙のおかげで姿が見えなくてよかったとトソンは思った。
きっと今頃あの中では目も当てられないような事が繰り広げられているに違いない。
(゚、゚トソン「……止めなくていいんですか?」
_
( ゚∀゚)「俺が入ったところで止まんねーよ。逆に俺も殴られて終いだ」
アパートの二階の手すりに寄っかかり完全に見物を決め込むジョルジュの隣に立つ。
相変わらず砂煙はやむことなく、ブーンとツンを包んだままだ。
はっきり言えば、置いてけぼりの状況である。
何のためにここに連れて来られたのかわからなくなりそうだった。
116
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:20:04 ID:38SxqkVM0
(-、-;トソン(うーん…)
自分は一体どうすればいいのだろうとトソンが考えあぐねていると、
さっきブーンとツンが飛び出してきた黒い通路から、今度は三人目が飛び出してきた。
('、`;川「ツンちゃん、やめてやめて! プリンならまた作ってあげるから!」
飛び出してきたのは、黒い髪の垂れ目の淡い色のワンピースを着た女性で。
彼女は手すりから身を乗り出すと、ブーンに暴力を振るっているであろうツンに必死になって呼びかけた。
しかし、ブーンを成敗することに夢中のツンは気がついていないらしく、全く止まる様子はない。
女性はしばらく呼びかけていたが、いつまでたってもツンが止まらないことを確認すると、
彼女は手すりの一部を掴んで、ばっとそこから一階へと飛び降りた。
すると、彼女に掴まれていた手すりがぐにゃりと曲がって、伸びた。
117
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:23:09 ID:38SxqkVM0
ずるーんと柔らかい飴のように伸びた手すりは、女性をゆっくりと地面へと下ろす。
そして女性が手を離すと、びゅるんっと、ゴムのように元の形に戻った。
(゚、゚;トソン(なんと!)
トソンは一瞬、いったいどんな構造をしているのかと目を見張ったが、すぐに、脳内にモララーの声が再生された。
そうだ、ここは夢の中だ。それを忘れてはいけない。何が起こったって可笑しくないのだ。
そんな方法で一階へと降りた女性は、翻ったスカートの裾を一回はらうと、
慣れた様子で砂煙に向かって走り、中へと突っ込んだ。
「もうやめな――さい!」
砂煙の奥から声が響く。
それとほぼ同時に、今まで砂煙の中から聞こえてきた打撃音がやんだ。
今までツンが暴れていたためにずっと舞い上がっていた砂煙が、だんだんと晴れていく。
少しずつ薄い膜の向こうから現れた光景は、女性に抱きつかれてバタバタもがいているツンと、
案外傷一つなく、けれど地面の上で大の字になって伸びているブーンだった。
○ ○ ○
118
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:26:08 ID:38SxqkVM0
カタリと目の前に置かれたのは、華奢なティーカップ。
中には、透き通った琥珀色の、香り高い紅茶の水面が揺れている。
大きな食卓の中央には、クッキーが山盛りになっているバケット。
他にもバスケットの周りには、ベイクドチーズケーキやベリータルトなど、様々なお菓子が所狭しと並んでいた。
女性はそれらをすべて並べ終えると、トソンの向かいの席に座ってにっこりと優しく微笑む。
('、`*川「どうぞ、遠慮なく食べて」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます」
('、`*川「ツンちゃんもジョルジュさんもどうぞ」
ξ*゚⊿゚)ξっ「わーい」
_
( *゚∀゚)っ「い、いただきますっ」
( *^ω^)っ「お!」
119
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:29:01 ID:38SxqkVM0
食卓についた全員がお菓子に手を伸ばす。
けれど、女性はブーンの手だけをぺちりと軽く叩くと、彼からお菓子の皿を遠ざけた。
('、`*川「ブーンくんは今回はだめよ?
ツンちゃんのプリン食べちゃったペナルティ」
(;^ω^)っ「……おーん」
('、`*川「もー、ごめんなさいね。来て早々でびっくりしたでしょ?」
(゚、゚トソン「ああ、いえ、まあ」
トソンはなんと返せばいいかわからなかった。
ブーンとツンのことは確かに驚いたといえば驚いた。
リアクションも大いに取った。
だけれど、トソンはここにくるまでにも、十分に驚くことに遭遇していたため、少しだけ体制がつきかけていた。
120
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:31:17 ID:38SxqkVM0
今はここにいないモララーの言う通り、ここは夢なのだ。
何かが起こる度に驚いていたらキリがないだろう。
とりあえず曖昧に頷き、トソンはティーカップを手に取った。
さっきも疑問に思っていたが、味を感じることは果たしてできるのだろうか?
鼻先までカップを持っていき、香りを嗅いでみる。
(゚、゚トソン(ん……?)
ふわりと香ったのは、今まで嗅いだことのない種類の香りだった。
これはなんの紅茶だろう?
ダージリンでもアールグレイでもなければ、その他の紅茶の香りにも似ていない。
もしかしたら目の前の女性のオリジナルブレンドなのだろうか。
試しに、一口だけ口に含んでみる。
(゚、゚トソン(……んー?)
121
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:34:09 ID:38SxqkVM0
味は確かにちゃんとした。
これで、最初の疑問は解決したのだが。
トソンは首を傾げて紅茶を見た。
いや、これは紅茶と言っていいのだろうか。
今まで飲んだことのない味は、トソンの知っている紅茶のどの味にも当てはまらなかった。
といっても、トソンがそんなにたくさんの紅茶の味を知っている訳でもないけれど。
それでも、この味は紅茶ではないとは思った。
なんと表現すればいいかわからないが、とりあえずこれだけは言える。
(゚、゚*トソン(すごく美味しい)
次いで、トソンは食卓中央の山盛りのクッキーに手を伸ばした。
一つだけ手に取り、端をかじって紅茶(のようなもの)を啜る。
(゚、゚*トソン(おお〜……!)
122
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:37:08 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「美味いか」
(゚、゚*トソン「はい、とっても!」
_
( *゚∀゚)「だろだろ? これ全部ペニサスさんが作ったんだぜ……!」
(゚、゚トソン「ペニサスさん?」
('、`*川「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。
ツンちゃんやブーンくんもまだじゃない?」
( ^ω^)「お、そうだったお。僕としたことがすっかり忘れてたお」
ξ*゚⊿゚)ξ゛モグモグコクコク
_
( ゚∀゚)「そういや、俺もまともに名乗ってなかったな」
女性の言葉に、その場にいた皆はいったん食べるのをやめた。
123
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:40:01 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「えっと、私は都村トソンといいます」
(゚、゚;トソン「突然ここにやってきてしまって、右も左もわからない状態なんですが…」
('、`*川「ああ、気にしないで。最初のうちは皆そんなものだから」
_
( ゚∀゚)「じゃあ改めて、まずは俺から。
俺の名前はジョルジュ……つっても、もう知ってるよな」
_
( ゚∀゚)「『運び屋』ていう配達の仕事をしてる。ちなみに荷物担当だ。
新入りの夢遊者をここまで連れてくるのも俺の役目だ」
('、`*川「ペニサスよ。
ここではみんなのご飯係と、時々怪我しちゃう子の手当なんかをしてるの」
('、`*川「クッキーと紅茶、気に入って貰えて良かったわ」
(゚、゚トソン(あ、これやっぱり紅茶なのか……)
124
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:43:24 ID:38SxqkVM0
自己紹介の終わったジョルジュが再びお菓子に手を伸ばす。
それを見てトソンも、もう一口紅茶(らしい飲み物)を飲んだ。
作った本人であるペニサスが紅茶と言っているのだから、やはりこれは紅茶なのだろう。
正直得体が知れないが、味は申し分ないので、その辺は今は黙っておく。
ξ*゚⊿゚)ξ モグモグ…ゴクン
ξ*-⊿-)ξ フゥ…
ξ゚⊿゚)ξ「私はツン。一応この都市のリーダーみたいなことしてるわ」
次に自己紹介をしたのは、お菓子を食べてやっと機嫌が直ったらしい、
先の阿修羅のような顔をしていた超美少女のツンだ。
ツンは、すっかり怒気が抜けたために、素の表情でトソンに微笑みかけた。
ξ゚ー゚)ξ「何か困ったことがあったらことがあったら、遠慮なく言ってね」
(゚、゚*トソン「あ……はい、よろしくお願いします」
125
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:46:02 ID:38SxqkVM0
彼女が笑えば、柔らかいツインテールがしゃらんと揺れる。
意志の強そうな碧い瞳は細められ、優しい視線がなんだか気持ちがよかった。
先程の阿修羅の顔とのギャップも相まって、彼女の笑顔はとても綺麗だった。
そして、歳はトソンと変わりないように見えるのに、何だか頼りになりそうな雰囲気。
最初にこの都市のリーダーと聞いたときは少し以外だった――どちらかというと、大人の女性である
ペニサスさんの方がリーダーっぽいと思ったのだ――が、この感じなら確かに頷ける。
ツンの微笑みに少し惚けてしまっていたトソンの肩をつついたのは、
隣でお菓子のお預けを食らっていたブーン。
( ^ω^)「ツンに見惚れてるところ悪いけど、自己紹介するお」
(゚、゚;トソン「はっ…あ、すこません」
( ^ω^)「僕はツンの補佐みたいなことと、
新入り夢遊者さんの都市案内をしているブーンだお」
126
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:49:11 ID:38SxqkVM0
ブーンはぽっちゃりと丸い顔で、ニコニコと人当たりのいい笑みを浮かべながらよろしくと言った。
弓なりになった目の奥の瞳は、どこか不思議な色に輝いていて、
誰だったか忘れたが、最近見た誰かを思わせる気がする。
( ^ω^)「わからないこととかは僕に聞いてくれれば何でも答えるお」
(゚、゚トソン「あ、モララーさんの言ってた案内屋って」
( ^ω^)「そうそう、それ、僕のこと」
( ^ω^)「…ん? モララーにはもう会ってるのかお?」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃんと最初に会ったのはモララーだぞ」
( ^ω^)「おっ、そうだったのかお。で、そのモララーは?」
_
( ゚∀゚)「最初は一緒にこっちに向かってたんだけどな。あいつは片付けのために途中で別れたんだ」
_
( ゚∀゚)「今頃はもう片付け終えてドクオと一緒にこっちに向かってんじゃねぇかな」
127
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:51:38 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン(片付け……)
“片付け”とはいったいなんだろう。
この単語はモララーと出合った時にも彼が言っていた。
モララーとはあの異国風の街で別れたきりだが、
あの時ジョルジュも確かに、モララーは“片付け”をしにいったと言っていた。
何だか、この夢の中にやってきてから、知らない単語がどんどん出てきている気がする。
それも、現実では聞きそうもない妙な言葉ばかりだ。
“片付け”は言葉自体は聞く事はあるが、恐らく使われ方が現実とは異なるのだろう。
現実で聞く言葉のニュアンスとは少し違った意味を彼らの会話の中でトソンは感じていた。
あと、ドクオとは誰だろう。
ξ゚⊿゚)ξ「あら、片付け対象ドクオのなの?」
_
( ゚∀゚)「おう、あれはどう見てもドクオのだった。なんか人数増えてるように見えたけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……また現実の方で何かあったのね。ちょっと悪いことしちゃたかなあ」
128
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:54:07 ID:38SxqkVM0
('、`*川「ツンちゃん、ドクオくんと何かあったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん…前にドクオが見つけてきてくれた香水の香りが好みだったから、
また探してきて欲しいってこないだ言ったの」
( ^ω^)「あの好い匂いの、ドクオが見つけたのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「場所はパレードの街?」
_
( ゚∀゚)「おう、パレードは今回はやってなかったけどな。だから思いっきり爆走してやった」
ξ゚⊿゚)ξ「あーじゃあやっぱり香水探しに行ってくれてたんだわ。
あいつがここに来たら謝らなくっちゃ」
(゚、゚トソン「あの」
( ^ω^)「なんだお?」
(゚、゚トソン「ドクオさんというのは」
( ^ω^)「あー、あいつはまた会った時に紹介するお。
それよりもまずはこの都市についてのことを説明しなきゃならんのだけど…」
129
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:57:21 ID:38SxqkVM0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあすればいいじゃない、何渋ってんの?」
( ^ω^)「んー、先にモララーに会ったの考えると」
('、`;川「ああ、彼たまに新入りさんにあることないこと吹き込むものね」
( ^ω^)「クーなんか最初の頃はそれのせいで勘違いが酷かったお……」
ξ゚⊿゚)ξ「ハインも少しだけ洗礼受けてたわね」
_
( ゚∀゚)「ああ、お化けアパート『ラウンジ』な」
('、`*川「それ懐かしいわねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かにお化けアパートは別にあるんだけどね」
( ^ω^)「ハイン、嘘だって知るまでビクビクしながらここを出入りしてたおね」
( ^ω^)「ま、そういうわけで、新入りが最初の頃にモララーと二人っきりの時間が長かった場合、
この都市について嘘八百言われることがあるんだお」
( ^ω^)「トソンはどうだお? モララーから何か聞いたかお?」
130
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:00:10 ID:38SxqkVM0
(゚、゚;トソン「あー……」
トソンはブーン言われ、すぐに今までのモララーとの会話を思い出した。
モララーに言われたことは、今までトソンが認識していた夢の中の常識からは、
俄かには信じられないことが多かったのは確かだ。
でも、それらは、すぐにこの夢の中では本当だとわかった。
だから強いて嘘っぽいことがあると言えば、ジョルジュとの吐く吐かないという会話くらいだろう。
トソンは凄く吐きたかったが、結局吐くことはできなかった。
ブーンにそれを伝えれば、それじゃあ大丈夫だと安心したようだった。
( ^ω^)「それじゃあまずはこの付近を簡単に散策しながら説明しようと思――」
「たっだいまー!」
噂をすればなんとやら。
ブーンの言葉を遮ってアパート中に響いたのは、先程別れてからしばらく聞いていなかった声。
131
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:01:15 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「おお、皆お集まりのようで。ほらドクオ、ペニサスさんのお菓子の香りがするよ」
(!i'A`)「…………うぇっ」
( ・∀・)「こらこら、『うぇっ』はないだろ。ペニサスさんに失礼じゃないか」
(!i'A`)「いや…これお前のせいだから……なんだよあれ…足長過ぎ…気持ち悪過ぎ…」
( ・∀・)「君もジョルジュと同じこというのか。あと僕の上では絶対吐くなよ」
_
( ゚∀゚)「何度も言うけど、夢の中で吐くとかねーから!」
トソンたちが入ってきたトタン塀にある入り口。
そこから入ってきたのは、貧相な体格の青年を背負ったモララーだった。
モララーは二階の食卓に人が集まっているのを見つけると、貧相な青年を背負ったまま、
左の階段を使ってこちらへとやって来た。
恐らく、あれがドクオという人物なのだろう。
トソンはモララーに背負われている、顔色の悪い青年を見て、そう思った。
その予想通り、階段を登っている最中にモララーは青年のことをドクオと呼んでいた。
132
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:04:04 ID:38SxqkVM0
周りの人々は、モララーの背中でぐったりしているドクオを見ると、皆一様に心配そうな顔をする。
('、`;川「どうしたの? ドクオくん、大丈夫?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ま…まさか“悪夢”にどこか喰われたんじゃ…」
( ・∀・)「いや、その心配は全くないよ」
( ^ω^)「じゃあどうしてそんな具合悪そうなんだお?」
( ・∀・)「ああ、それは……」
(!i'A`)「モララ…の足…長……キモ…チ悪………うぇっ」
_
( ゚∀゚)「な、ドクオもやっぱり気持ち悪いと思うよな!」
(!i'A`)「うぇっ」
(゚、゚;トソン(ああ、把握)
133
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:07:02 ID:38SxqkVM0
('、`*川「あら、ちょっと両膝小僧と両肘と顎擦り剥いてるじゃない!」
('、`*川「モララーくん、ドクオくんそこの椅子に下ろして。今消毒液持ってくるから」
( ・∀・)「はいはい」
( ・∀・)「……で、トソン」
(゚、゚トソン「はい?」
モララーは背負っていたドクオをぽすんと軽く、椅子の一つに座らせると、
自分は立ったまま食卓の上のベリータルトに手を伸ばしつつ、トソンを見た。
不思議な色合いをした瞳が、トタンの屋根の穴から漏れる陽に、キラリと光る。
( ・∀・)「僕と別れて結構時間経つけど、都市の案内とかはもう終わったのかい?」
(゚、゚トソン「あ、それならさっきちょうど行くところだったんですけど」
( ^ω^)「モララーたちが帰ってきて話が中断されたんだお」
( ・∀・)「そりゃ悪かったね。でも良かったや、僕が帰ってくる前に終わってなくて」
134
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:10:07 ID:38SxqkVM0
もごもごと、言葉の合間にベリータルトを頬張っては飲み込む。
なんとも器用な行為だ。
というよりも、トソンには何だかモララーの口の動きが何だか霞んでよく見えなかった。
これも、モララー曰くの「夢だから」なのだろうか。なのだろう。
( ・∀・)「だって折角僕が見つけた新入りに僕が構えないなんて詰まんないもんね」
(;^ω^)「構うのはいいけど、あんまり変なことは吹き込んだりしないで欲しいお」
( ・∀・)「ええ? 僕がいつ誰に変なこと吹き込んだっていうのさ」
ξ゚⊿゚)ξ「よく言うわ、全く」
モララーは、本当に何を言われているのかわからない、と言った様子で、首をかしげている。
本人はもしかしたら自覚がないのかもしれない。
もしかしたら、わざとそうしているのかもしれない。
どっちにしろ、トソンは最初にモララーに抱いた印象が、この夢の中でガラガラと崩れて行くのを感じていた。
まあ、もともとそんなに期待していたわけでもないから、別段ショックはないが。
135
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:11:20 ID:38SxqkVM0
( ^ω^)「まあ、そんなわけでさっきトソンに話してたドクオも来たんだし」
( ^ω^)「ほら、ドクオ、新入りさんのトソンだお、自己紹介自己紹介」
(!i'A`)「お……おぅ…」
ドクオは頭をぐらぐらと揺らしながらも、何とかブーンの言葉に頷く。
どうやら相当辛いらしい。
彼がモララーに背負われてきたことを考えれば、トソンには痛いくらいその気持ちがよくわかった。
きっとモララーの背中の上は、がくがくと上下に揺れて非常に居心地が悪かっただろう。
加えて、恐らくモララーはあの長い足の状態だったことは間違いない。
それで気持ち悪くならないはずがない。
トソンはドクオに同情すると、彼の血色の悪い手をそっと取った。
(゚、゚トソン「初めまして、都村トソンといいます」
(!i'A`)「俺……ドクオ」
(゚、゚トソン「ドクオさんのお気持ち、すごくよくわかります」
136
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:13:02 ID:38SxqkVM0
(!i'A`)「おぉ…おう」
(゚、゚トソン「今はまだ気分が優れないかもしれませんが、終わらない気持ち悪さはありません!」
(!i'A`)「……」
(゚、゚*トソン「またきっとすぐに元気になれますよ! 私がついてます!」
('A`)
(*'A`)(……かわいい)
(*'A`)「あ、あの」
(゚、゚トソン「はい、なんですか?」
(*'A`)「俺、調達屋っつって…この都市探索して見つけたものを…それが必要な奴に渡すっていう仕事してて……」
(゚、゚トソン「はい」
137
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:19:08 ID:38SxqkVM0
(*'A`)「で…たまに、頼まれたものを探しにいくっていうのも…やってるんだけど……」
(゚、゚トソン「はい」
(*'A`)「な、なんか必要なものがあったら…言って欲しいな……俺、探してくるから」
(゚、゚トソン「はい、よろしくお願いします、ドクオさん!」
(*'A`)「よ…よろしく……」
ドクオは照れくさそうに頭を掻くと、俯いてしまった。
もう少し、トソンは何か言おうかと思ったが、彼女が口を開くよりも先に、ブーンが二人の間に割ってはいる。
( ^ω^)「はい、じゃあお互い自己紹介も終わったところで。
トソン、これからこの都市のこと説明しながら、実際歩いて案内しようと思うお」
(゚、゚トソン(あ、そうだった。忘れてた)
本当なら、もう少し前にブーンの案内を受けていたはずだったのだ。
それが、いつの間にやらいろいろとずれてしまっていた。
もともと予定なんて合ってなきが如しだが、案内してもらう以上、彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
138
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:21:07 ID:38SxqkVM0
ついて来てくれ、と手招きするいうブーンに、トソンはすぐに駆け寄ろうとした。
ところが、一歩踏み出したとたん、視界がガクッと傾き、思わず立ち止まる。
眩暈とはまたちがう、目の前の世界と自分が、グラグラと揺れる感覚に、トソンは目を白黒させた。
(゚、゚;トソン「あ……あれ?」
( ^ω^)「お、どうしたお?」
(゚、゚;トソン「なんか、地震? が……」
( ・∀・)「ブーン、あれだよ、時間切れ。ほら、今現実も多分」
( ^ω^)「お…」
(;^ω^)「おー、本当だお。皆でわいわいしてたらもうこんな時間だお」
(;^ω^)「時間切れなら仕方がないお。トソン、案内はまた今度ここにトソンが来たときにするお」
(゚、゚;トソン「は、え?」
突然辺りをきょろきょろ見回し、額に手をやって「しまったしまった…」と呟きだしたブーンに、
トソンは疑問の表情を浮かべつつ、どうやら己だけに起こっているらしい地震と戦っていた。
自分の頭が揺れているのか、自分の足元が揺れているのか全く判別できない感覚に、
また、あの夢酔いがぶり返す気がして、口元を押さえる。
139
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:23:02 ID:38SxqkVM0
食卓の周囲でお菓子を食べていたジョルジュ、ツンや、
ドクオの手当てをしていたペニサスもトソンの様子に気がつくと、
皆一様に残念そうな表情を浮かべて、口々に「じゃあ」「バイバイ」「またね」と言い出す。
トソンはいったい何が何だかわからず、縋るようにモララーの方を見れば、
彼は最初に出会ったときの別れ際の瞬間と同じ顔をして、こちらに掌を向けて、くいくいと指の先を曲げた。
( ・∀・)「じゃあね、トソン、また今度」
( ・∀・)「ちなみに今君はめちゃくちゃ揺れてると思うけど、それも慣れればなくなるからね!」
(゚、゚;トソン「え? モララ、さん、え? あ、れ、わ、ちょ、お――」
( 、 ;トソン「 ! 」
一回揺れるごとに、視界が白んでいく。
一回グラつくごとに、頭から思考が飛んで行く。
そうして、トソンは最終的に、真っ白に眩む世界に放り出された。
○ ○ ○
140
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:25:56 ID:38SxqkVM0
耳元で、激しい邦楽ロックが鳴り響く。
携帯のスピーカーから流れる音は、普通にイヤホンで聴くときよりも、
高温が耳を刺す様な響き方をしていて耳障りだった。
正直、あまり朝っぱらから聞きたくない音域だったが、
トソンの携帯には今、この曲しか彼女が起きれるアラーム曲はない。
布団の中から手を出し、目を瞑ったまま手探りで携帯を掴み、停止ボタンを押す。
ついでにスヌーズも解除してしまい、布団を体の上から跳ね除けた。
時刻は午後七時半。今から準備しても、十分に学校に間に合う時間だった。
が、しかし。
(゚、゚トソン
,_
(゚、゚;トソン「……う、ん」
,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
141
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:27:26 ID:38SxqkVM0
その日、トソンは腐ったものを摂取してしまったことによる腹痛で、
久々に仮病を使わずに学校を休むことになったのだった。
,_
::( 、 ;トソン::(もう絶対……)
,_
::(;、;トソン::(日向に置いといた牛乳は飲みません……!!)
第三話「アパートの夢」 おわり
142
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:40:53 ID:38SxqkVM0
どうも、ちょっと日が経ってしまいましたお久しぶりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
ちなみに、
>> ,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
部分の「*」は投下する瞬間に誤入力しました、脳内補正で消していただきたい…
>>88
一応読み返してはいましたがチェックが甘かったようです。
今後誤字脱字を見つけたら遠慮なく(^Д^)9mしてください。
最近別ジャンルのSSを書いたり、
妹にニートと蔑まされ誹られるのでそんな状況から脱却すべくバイト探したりとやや忙しくなり、
投下間隔が疎らになると思います。
次はできるだけ早く投下できるように努力します。
では、また今度。
143
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:45:00 ID:IkdMLo7w0
良かったぁぁぁぁ!!
乙ですたい!
144
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 20:55:57 ID:JkGaKvc.0
おつおつ
次も期待してる
145
:
名も無きAAのようです
:2012/06/10(日) 21:00:13 ID:qi9Qdbdg0
良いねえ良いねえ
146
:
名も無きAAのようです
:2012/06/11(月) 12:42:08 ID:g4busvtcO
面白いな、これ
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