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クリフトとアリーナへの想いは Vol.1

1管理人★:2015/04/05(日) 00:08:03 ID:???
クリアリの話題を扱うための待避所です。
ほのぼのから悲恋物まで、あらゆるクリアリの行く末を語り合っていきましょう!
職人さんによるSS投稿、常時募集!

【投稿内容に関するお願い】
・原作や投下された作品など他人の作品を悪く言うのは控えてください。小説版も含めて。
・趣向の合わない作品やレスはスルーしましょう。
・個人のサイトやサークルなどを特定する投稿(画像などへのリンク含む)はご遠慮下さい。
・読む人を選ぶ作品(死ネタ、悲恋、鬱ネタ等)を投下する時には、先に注意書きをお願いします。
・性描写を含むもの、あるいはグロネタ801ネタ百合ネタ等は、相応の場所でお願いします。


    ,. --、
    | |田|| 姫様、お気をつけて
     |__,|_||     __△__ 
     L..、_,i    ヽ___/
 . 。ぐ/|.゚.ー゚ノゝ   / ,ノノハ)) クリフトがいるから
   `K~キチス  (9ノ ノ(,゚.ヮ゚ノi. 大丈夫よ!
    ∪i÷-|j @〃とヾ二)つ
    Li_,_/」   ん'vく/___iゝ
     し'`J      じ'i_ノ

クリフトとアリーナへの想いは@wiki(携帯可)
ttp://www13.atwiki.jp/kuriari/
 ※wikiに掲載されたくない場合は、作品を投下する際にお申し出ください。

557名無しさん:2017/07/29(土) 01:35:35 ID:vPUzXPqg
本格的に暑くなってきましたね。
皆様、食中毒にはお気を付けください。
昼に作った料理が夕方まで無事とか思わない方が良いですよ。

ドラクエ4の世界だと食べ物が腐る気はしないですね。
お弁当が永遠に腐らないんですから。
ネネさんの製造技術が優れすぎているのかも知れませんが。

558名無しさん:2017/07/29(土) 13:53:40 ID:IftSqn9I
トルネコのダンジョンでは
腐ったパンを拾って食べたら毒にあたることがあったような

559名無しさん:2017/07/29(土) 19:00:12 ID:sAkmBXTk
ややこしくなるので、そっちのダンジョンの世界には触れるのを避けましたが…。

トルネコのパンって、高温多湿+時間経過で腐るものでしたっけ?
普通のパンが腐ることはあっても、何かイベントがあって初めて腐るものだったような。
我々の考える腐敗とは別の概念な気がしますけど、どうなのでしょうね。
トルネコが腐ったパンを食べても、腹を下すかと言えばそうでもないですし。

そもそも具のないシンプルなパンが腐敗するのは難しい気も…。
カビは生えますが、よほど水分が多くないと腐敗しづらい気がします。
あの世界の腐敗って何なのでしょうね。

560名無しさん:2017/07/31(月) 00:09:37 ID:VtEboBNo
不思議なダンジョンは物理法則が違う別世界と考えた方が良いかと・・・

561名無しさん:2017/07/31(月) 06:14:22 ID:RSvK.Nw.
アリーナの手料理vs腐ったパン

562名無しさん:2017/07/31(月) 23:24:38 ID:Ep87dGgw
クッキーを作ったら黒焦げ
ケーキを作ったらめちゃくちゃ
アリーナのお茶を飲んだら昇天
失神するほど地獄の味
キアリー必須
パデキア味

アリーナの料理は色々な描かれ方をしてきました

逆に、美味しく料理するアリーナという切り口でSSがあってもいいですね
一般市民に紛れて暮らすとか、料理上達の経緯とか

563名無しさん:2017/08/18(金) 03:36:32 ID:/T/w.Bfw
関東地方では雨天続きで夏なのだか梅雨なのだか分からない今年。
家具の後ろにも風を通さないと壁一面にカビとかあり得ますのでご注意を。

ドラクエ4の世界では、雨の日は傘を使うのでしょうか。
勇者御一行様も戦闘時以外では傘を使うのでしょうか。
傘があれば相合傘もあり得ますね。
クリアリと傘…今まで見たことのない組み合わせですが案外悪くないのかも。

564名無しさん:2017/08/26(土) 14:19:56 ID:P1RPb4t6
「あー雨降ってるー。さっきまで晴れてたのに」
「姫さま、こちらをお使いください」
「え、なんで傘持ってるの?」
「先ほど鳥が低く飛んでいたもので雨になるかと思い用意を……」
「えー?なんで鳥が低く飛ぶと雨になるの?」
「雨の前は湿度が上がるので空を飛ぶ羽虫の羽根が重くなり低く飛ぶようで……」
「うん、わかったわ。行きましょう」(バサッ)
「」
「あれ、クリフトの傘はないの?」
「いえ、私はこれで充分です。両手を空けていたいもので」
「この傘けっこう大きいわ。一緒に入りましょ?」
「えっそれはその…」
「入るの!」
「は、はい。では私が傘を持ちます」
「両手を空けたいんじゃないの?」
「……持ちます!」
「ちょっとクリフト、肩が濡れてるじゃない。もっと傘をそっちにやりなさいよ」
「いえ、それでは姫さまが…」
「っもう、じゃあもっとつっくけばいいんだわ」
「あの、姫さま…!」
「こうすれば私もクリフトも濡れないわ」
「……!」
「まだ回ってないお店がたくさんあるのよね。早く回りましょう」
「……!!」
「ねえクリフト、あのお店とってもおいしい匂いがするわ。行ってみない?」
「はい!姫さま!(ああ、願わくはこの時間が少しでも長く続きますように…)」

565名無しさん:2017/08/27(日) 18:20:13 ID:nGZnieU6
「ブライ導師様、そのような話を聞いてはおりません」
「聞いておったら王宮にお主は奉職せんかっただろう」
 クリフトはブライの前に狼狽した顔で立っていた。
「無論です。まだ私は若輩者ですから修業したいのです。まだ聖地巡礼もしてませんし、まだまだやり残した事あるんです。だから勘弁して下さい」
「儂としても姫様にさっさと婿を迎えてもらって、楽隠居と行きたいものでな」
「そんな身勝手な。しかし固辞致します。それに私より相応しいお方がおられます」
 ブライの涼しげな顔に対して、クリフトは至極真面目な顔で言葉を返した。
「もう話になりません。転属届け出を出させて頂き、今回の異動は無効にして抱く所存です」
「それは困る。せっかくお父様にお願いしたのに。クリフトが届けを出す前に既成事実作っちゃいましょう」
「姫様!! 」

周囲が押せ押せで引っ付けようとするクリアリネタを気まぐれのように投稿して、はぐれメタルのように逃走

566名無しさん:2017/08/31(木) 21:31:23 ID:nw4BaoGo
ただでさえゆったりなスレなのにはぐれメタルで逃げられては追いかける隙もなし
本当は嬉しいけど一生懸命立場を貫こうとしている照れ隠しなクリフトなのか
信仰にしか関心がなく姫はあくまで姫であると割り切ってもいるストイックなクリフトなのか
アリーナのほうがもっと近づきたいと思うようなストイックリフトもいいね!

567名無しさん:2017/08/31(木) 23:51:49 ID:odCRlWiU
乙です!

傘は何気に恋愛アイテムですがドラクエでは見かけないような
ゲーム内では描かれなくても馬車には積んでるのかも
無尽蔵に荷物を収納できる袋があれば傘くらい持ってますよね

本人よりも周囲が積極的という珍しいパターンも面白いものです
ブライさんが後押ししてくれたら心強いです
色々なクリアリが楽しめるのはいいですね!

568名無しさん:2017/09/21(木) 21:55:15 ID:Wlpex1ic
アリーナのほうがクリフトのこと気になってて幼いころみたいに仲良くやりたいと思ってるんだけど
クリフトのほうはクソ真面目でしれっとしてて仕事一本で全然取り合わない。
けどたまに社交辞令なのか本気なのかよくわからない優しさを見せるものだからアリーナは嬉しくなって
もっと近づこうとしたらまたしれっと返される。いつになったらクリフトと仲良くできるんだろう。

てな感じのクリ←アリ誰か描いてくれませんか。

569名無しさん:2017/09/21(木) 23:55:55 ID:JPLUWk/U
あらすじが書かれれば肉付けくらいはできるかも。
全然違う話の流れに改変するかも知れませんが。
得手不得手があるのでお応えできるとは限りませんけどね。

570名無しさん:2017/09/26(火) 09:32:56 ID:JuKD3592
あらすじを書くのが難しいんですって。例えば

自分の誕生日は国を挙げて祝ってもらってたけどクリフトの誕生日を祝った記憶がない。
何とかどうにか誕生日を聞きだしてこっそりプレゼントを渡すも下々の者と関わっては父上に叱られます、お気持ちだけと返される。
どうしても受け取ってほしくてやいのやいのやってるうちにプレゼントが壊れたりブライが飛んできたり。
アリーナはプレゼントを床に叩きつけて部屋に駆けこんで泣きじゃくる。
次の自分の誕生日、あれからクリフトとなんにも進展ないし憂鬱になってたらクリフトから思わぬプレゼントのお返しが…?
とか

おてんばなアリーナはよくケガをする。すり傷切り傷は毎度のことでたまに打ち身や捻挫をすることも。
その度にクリフトが飛んできてお説教しながら手当てする。
お説教がなければいいのにと思いながらはいはいと答えて手当てを受けるアリーナ、本当はクリフトは自分のやること中断して
こっちに飛んできてるんだから迷惑してるんだろうな、だからお説教するんだろうなと思っていた。
あるとき自分で手当てするからいい、いつも時間つぶされて迷惑でしょとクリフトに言ったらまったくですと返しながらも思わぬ返事が…?
とか。

けどそんな思わぬことが度々起こっても次の日になるとまたしれっと真面目でお説教なクリフトに戻ってるからがっかりな感じな。
あらすじ書くので力尽きました。。。

571名無しさん:2017/09/26(火) 23:19:21 ID:QHdwcI0M
思いの外素敵なあらすじが出てきて驚愕です
そこまで作れるのでしたら書けるに違いないと思ってしまいます
ちょっと台詞を足す程度でもSSとして成立しますからね…

572名無しさん:2017/09/28(木) 02:12:10 ID:CiDN5.oU
あらすじだけでも心を動かれずにはいられないクオリティ
これを乙と言わずして何を乙と言いましょうか
新たな職人が活躍する予感!

573名無しさん:2017/09/30(土) 23:08:25 ID:.R5DGmgo
>>570
1個目で書こうと思ったけれど、ちょっと手が止まるところが…。

プレゼントは何を渡しましょうか?
お城にあるものですか?
何か手作りしましょうか?
お花とかの採集物にしましょうか?
慣れないお外でモンスターを倒して何か買いましょうか?

姫様というお金を持たない身分の人なので、贈り物の入手方法が違ってきます。
税金を元に家来に買わせて…というのは避けたいですよね。
そうすると心を込めた何かを贈るわけで、そこに物語性が発生せざるを得ません。
贈るものが何かは重要な気がします。

色々なパターンを書くのも良いですけど、贈って終わりじゃないので大変です。
1つのパターンが決まっていれば物語を進めやすいです。

あと、何歳くらいのときを想定したあらすじでしょうか?

574名無しさん:2017/10/01(日) 00:29:58 ID:ruOvejKo
夜が更けて薄暗い馬車の中でマーニャとミネアと一緒にお菓子を囲むアリーナ。
「まさか野宿で誕生日を迎えるとは、ある意味忘れられない誕生日になるわね。
早く平和を取り戻して、次の誕生日は普通に過ごせたらいいわね。」
「早く落ち着いた生活に戻らなきゃね。」
そんなミネアやマーニャを、祝われるアリーナは不思議そうに見ていた。
「そう?私はこの旅の生活を結構気に入ってるし、この誕生日は今までで一番楽しいわよ。」
妙に嬉しそうなアリーナを見て、ミネアとマーニャは顔を見合わせた。

「アリーナの今までの誕生日って、やっぱり国を挙げて盛大に祝ってもらってたの?」
ランタンの揺れる光が曇るアリーナの表情をゆらゆらと照らした。
「うん…そうだけど、祝ってもらってるっていうよりは儀式だから、いつも以上に窮屈なのよ。
人間じゃなくて儀式をこなすお人形さんでいなきゃいけないから、1日中何も楽しいことがないの。
だから、こうやって間近で心から祝ってもらう誕生日ってすごく新鮮で、すごく嬉しいわ。」
揺れる炎に合わせて揺れる影がアリーナの抱える切なさのようで、ミネアは胸に傷みを感じた。

「でもさ、女だけで祝うってのもアレよね。本当はクリフトに祝ってもらってもいいんじゃない?
テントで寝てると思うけど、あとで起こして2人きりで祝ってもらったら?」
無遠慮に色恋方面に話を持っていこうとするマーニャに、ミネアはため息をついた。
「もう…そういう話ばっかり。クリフトさんなら、どうせもうアリーナさんを祝ってるでしょ?」
「うん…プレゼント、もらっちゃった。」
炎の色に紛れて分からないたが、アリーナの頬が心なしか赤くなったように見えた。
「こんなの初めてなの…いつもは言葉だけのお祝いだし…
私がプレゼントを渡そうとしても、下々の者と関わっては父上に叱られますとか、お気持ちだけとか…
だけど今は…今までのように距離を置かなくなって…すごく身近に感じられるの。
私、この旅がずっと続けばいいのにって思う…。」

「へぇ…」
思わぬ収穫とばかりにニヤけるマーニャ。
「あ、もちろん早く平和にしたいし、早くお城のみんなに戻ってきて欲しいのよ。
ただ、この旅が終わるとしたら…寂しいなって…」

「クリフトさんにも立場がありますからね。この旅が終わったらまた距離を置こうとするでしょうね。
それでも、この旅で築いてきた絆が消えることはないし、元通りの関係に戻ることはないわ。
そこから先、どう外堀を埋めていくかが大切ね。」
「え、外堀?」
ミネアの分かりづらい言い回しにキョトンとするアリーナに、マーニャが優しく語り掛けた。
「お城でもクリフトと距離を縮めたいなら、2人にそれなりの努力が要るってことよ。
周りは身分不相応とか言って引き離そうとしてくるだろうし、クリフトだって気を遣うに決まってる。
だから、周りの人を納得させるように頭を使わなきゃってことよ。」
「えー、何をすればいいか全然分からないわ。」
「1人で考えちゃダメよ。そういう悩み事こそクリフトの得意技でしょ。
今のうちにクリフトと戦略を練っておけばいいのよ。
ずっと近くにいたいから方法を一緒に考えようって。」
「それ、いいわね!」
アリーナの表情が一気に華やいだ。
「こうしちゃいられないわ!クリフトのところへ行ってくる!」
思い立ったらまっすぐなアリーナは、勢いよく馬車を飛び出した。

馬車に残った2人の横顔をランタンの炎がゆらゆらと照らした。
「姉さん…尊敬するわ。」
「うふふっ」


更け行く夜、叩き起こされたクリフトとアリーナが何を話したのかは分からない。
ただ、2人の距離が縮まったのは確かなようだ。

575名無しさん:2017/10/01(日) 00:35:30 ID:ruOvejKo
決まってない部分を避けて書いてみましたよ。
職人じゃない人が結末とか考えずに行き当たりばったりで書いてます。
誤字もありますねぇ…すみません。

他の方の書く作品も見たいです。職人さんじゃない方も是非。
無理やりでも書き始めなきゃ何を始まらないんですよ。

576名無しさん:2017/10/01(日) 04:42:19 ID:0ZdFmGTU
「姫様、またお怪我ですか」
「こんなの怪我のうちに入らないわ!」
「治療します。お見せください。」

暖かな光で傷口が癒される。
「一国の姫様なのですから、もっとご自覚をお持ちください。」
「もうっ、今日もお説教なのね!」
「それだけのことをなさっているのですよ。」
「はーい」
暖かな光、暖かな声。
クリフトに治療してもらうのは暖かくて好きなんだけどな。
お説教がなければいいのにな。

「いつもクリフトが来てくれるわよね。
今度から自分で手当てした方がいいよね。
いつもお仕事を中断して駆け付けて、迷惑でしょ?」
「まったくです。
治療しようとしても姫様が嫌がるとかでいつも私が呼ばれて。
姫様を治療するのは好きですが、姫様がお怪我ばかりではこのクリフト…」
「え?」
「あ、いや、王様がいつもお嘆きです。
将来の国を背負うお立場ですから、相応しい振る舞いをなさいませんと。」
「うん…」

何だろう、今、すごくドキッとした…
クリフトって時々何を考えてるか分からない。
闇のようなものに吸い込まれそうな気がして、でもとても暖かくて。

「ねえクリフト」
「何でしょうか?」
「やっぱりまた治療に来てくれる?」
「またお怪我をなさるおつもりですか?」
「もしもの話よ、もし怪我をしたら!」
「…もちろんです。」

あ、クリフト、笑ってくれた。
いつも難しい顔をしてるけど、時々笑顔を見せてくれる。
「ありがとう、クリフト。」
「何ですか、急に。」
クリフトの照れたような笑いに、アリーナもつられる。

なんだかクリフトには不思議な力があって。
お説教ばっかりでも一緒にいたいって、もっと笑顔を見たいって思っちゃう。
不思議だな…

577名無しさん:2017/10/01(日) 05:24:04 ID:0ZdFmGTU
なんかIDが変わりましたが、また行き当たりばったりで書きましたよ。
話の締め方が思いつかないまま惰性で書きましたよ。

こういう書き方の良し悪しはともかく、こだわり始めるといつまで経っても書きづらいわけで。
いくら悩んでも無投下なら成果ゼロ。ゼロは嬉しくないですね。

同じあらすじから別の作品が生まれたらきっと楽しいですね。
他の方はどう肉付けして書くのでしょうか。
職人の方はもちろんですが、そうでない方の作品も見たいですね。

578名無しさん:2017/10/01(日) 16:11:13 ID:ys5YElfY
誕生日は国を挙げて祝ってもらってたけどクリフトの誕生日を祝った記憶がない。
何とかどうにか誕生日を聞きだしてこっそりプレゼントを渡そうとしても、下々の者と関わっては父上に叱られますとかお気持ちだけとかで返されて。
どうしても受け取ってほしくて押し問答してたらプレゼントが壊れたりブライが飛んできたりしたっけ。
プレゼントを床に叩きつけて部屋に駆けこんで泣きじゃくったっけ。悲しかったんだもん。

今日は私の誕生日。今年も1日中解放してもらえないんだろうな。
あれからクリフトとなんにも進展ないし、今日は会えないんだろうし。憂鬱だな。

「姫様。」
床に就くアリーナに、侍女が小声で囁いた。
「何?」
訝しげに問いかけるアリーナに、侍女は小さな包みを差し出した。
「クリフト様からです。」

(皆様の脳内で)続く。

579名無しさん:2017/10/01(日) 16:22:08 ID:ys5YElfY
省力化パターンでも書いてみましたよ。
ほとんどあらすじの流用で成立しちゃうのは、あらすじが上手いってことです。
あらすじがほぼSSなのですよ。
完成目前で力尽きるなんてもったいないです。

580名無しさん:2017/10/01(日) 21:35:52 ID:bCQ9nqXY
ちょ、あの、なんというか、

GJGJGJ!!

まさか本当に描いてくれる方が現れるとは…!しかもなんという微笑ましい…!!
テンション上がりまくって感想が追いつきません。本当にGJです!!

>>573
いや、改変してもらえると思ったもんでまったくもって適当でございました。
>>565さんのクリフトがめちゃめちゃカッコよくて何かそんな感じのクリアリが見たかったんです。
なにぶん自分自身がストイックリフト描くの苦手なもので……
けど>>573さんのおかげでとてつもなくテンション上がったら何かこんな風に仕上がりました。
あらすじがただ細かくなっただけみたいなのですがどうぞ。本当に感謝です!!

5811/3:2017/10/01(日) 21:40:16 ID:bCQ9nqXY
今日はアリーナ姫の生誕日。国を挙げての祝賀行事はアリーナにとって退屈でしかなかった。
好物のおいしいものがたくさん食べられる代わりに行事が終わるまで拘束される、自由に動き回れない。
社交辞令を適当に済ませながら早く終わらないかなとアリーナはぼんやりしていた。
ふと遠くにクリフトが見えた。
ごあいさつするときは国民全員が集まるからだわ、アリーナは思いながらクリフトをぼんやり見た。
そういえばクリフトの誕生日いつだっけ、ふと思う。
誕生日なんてなくなればいいのにと思っていたアリーナは他の人たちの誕生日を気にしたことがなかった。
一通りの儀式を済ませたあとアリーナはブライや大臣、神父にそれとなく誕生日を聞いて回り
クリフトの誕生日を聞きだすことに成功した。
よし、お父さまとお母さまだけじゃなくクリフトにもお誕生日プレゼントを渡してみよう、心に決める。
でも何を渡せばいいんだろう、アリーナは身の周りをきょろきょろしてみた。そこで目に留まったもの。
「じい、私フルーツバスケットを作ってみたいの!」
最近アリーナ姫がもの作りにはまっているという噂がまことしやかに囁かれるようになる。

試行錯誤して完成させたいびつなフルーツバスケットを大事そうに抱えアリーナは城内を歩き回る。
出会う兵士や国民に完成したのと笑顔で見せながらそれとなく教会へ向かった。
神父にあいさつを済ませいざクリフトのもとへ。
笑顔いっぱいで完成したのと見せるとクリフトも笑顔でおめでとうございます、素敵ですねと返してくれた。
「あのね、これほんとうはクリフトへのプレゼントなの」
「は…?」
「クリフト、今日誕生日でしょ?こないだ神父さまから聞いたの」
「…………」
「だから、お誕生日おめでとう!これ、私からのプレゼント。はい!」
両手をいっぱいに伸ばしてフルーツバスケットを差し出すアリーナ。
だがクリフトは微動だにしない。
「なんと……もったいない……」
「え?」
思わず顔を上げるとクリフトは眉にしわを寄せ表情を曇らせていた。

「アリーナ姫、そのお気持ち、ご祝辞、このクリフトしかとお受け取りいたしました。
ですからそのプレゼントは、そのまま、お持ち帰りください…」
「え…」
「下々の者と関わったとあればお父上に叱られます。
まして私は男、あらぬ噂を立てられたとあればアリーナ姫の御身が……」
「いや!」
アリーナは大声でクリフトの言葉をさえぎった。
「クリフトに渡したくていっしょうけんめい作ったの!受け取って!おねがい!」
「姫さま…」
なんとか受け取ってもらおうとクリフトの胸にプレゼントを押しつける。だがクリフトは丁重に戻そうとする。
何度か押し問答を繰り返しているうちにバキッと鈍い音が響いた。
「あ!!」

5822/3:2017/10/01(日) 21:46:30 ID:bCQ9nqXY
弦がいくつか折れてしまいいびつなフルーツバスケットはますますいびつな形に変わってしまった。
壊れたプレゼントをぼんやりと見つめるアリーナ、クリフトはみるみるうちに顔が青ざめ唇を震わせた。
「姫、さま……申し…訳……」
「姫さま、ここにいらしたのですか!」
戻りの遅い姫君を心配したのかじいやのブライが部屋に飛びこんできた。
止まった時間が一気に動き出す。
「うわあああん!!」
アリーナは大声で泣きわめき壊れたプレゼントを床に叩きつけた。
止めようとするブライを押しのけ教会を飛び出し周囲の目も気にせず泣き散らしながら自室に駆けこんだ。
じいに見つかっちゃった、プレゼントが壊れちゃった、クリフトに渡せなかった……、
いろいろな悔しさやるせなさがアリーナを襲う、その日はベッドにくるまり朝まで声を上げて泣き明かした。

クリフトの誕生日とアリーナの誕生日は近かった。
ぼんやりしているうちにまたアリーナの生誕日、あの退屈な祝賀行事の日がやってきた。
あれからクリフトとはほとんどしゃべっていない。
もとより気軽に話せる関係でもなかったがあの日からますます縁遠くなっていた。
誕生日がますます嫌になっていたアリーナは憂鬱な気分を隠せずにいた。
無理やり作った笑顔でなんとか一通りの儀式をこなしやっと退屈な時間から解放されたアリーナ、
玉座でぼんやりしていると面会の申し出があった。
「だれ?」
「神官のクリフト様です」
「え!?」
思わず大きな声を上げてしまった。
やだな……そう思いつつ少し迷ったが、結局通すことにした。

緊張しているのか待っている間ずっと背筋が伸びているのがわかった。なんだかドキドキする。
少しして大事そうに荷物を抱えたクリフトが王座の間に現れた。
「あ…」
その手にしていたのは紛れもない、あの日壊れてしまったクリフトへのプレゼント、フルーツバスケットだった。
折れた部分はすっかり元に戻りいびつな形すらなくなっているように見えた。
「アリーナ姫」
クリフトは恭しくアリーナの前でひざまづく。アリーナはクリフトから目が離せなくなっていた。
「こちらにございますのは以前姫さまが私にお見せくださったフルーツバスケットにございます。
あの日私は取り返しのつかぬ粗相を犯し、姫さまの大事な手作り作品を壊してしまいました」
クリフトは切なげな面持ちで静かに話す。
「元通りとはいきませんでしたが、私なりにせいいっぱい修繕を試みました。
こちらがその成果でございます、どうか、お受け取りいただけますでしょうか」
あの日の粗相をお許しいただけますでしょうか、クリフトは両手であの日のプレゼントを差し出した。

5833/3:2017/10/01(日) 21:50:32 ID:bCQ9nqXY
「…………」
アリーナは答えられなかった。それはクリフトに渡したくて作ったプレゼント。だから……
答えられるはずもなかった。
その空気を察したのか、クリフトはアリーナにしか聞こえないような小さな声でまた話し始めた。
「私のような立場の者では、姫さまのプレゼントを堂々とお受け取りすることができません。
堂々と差し上げることもできません……。ですからこれは、私なりの、精一杯の……」
クリフトはそこで言葉を止めた。
その先を続けることがはばかられると言わんばかりに唇を噛んでいる。
「…………」
だが少ししてことさらに小さな声で言葉を続けた。
「精一杯の、あの日いただいたプレゼントのお返しなのです…」
「…………」
言い終えるとクリフトは苦し気な表情で目を閉じ、頭を下げ、床を見つめた。

まるで泣いているように見えた。
アリーナはこんなに重苦しく、切なげで、真剣な顔のクリフトを見たことがなかった。
「…………」
気がついたら自分の目に涙があふれていることに気づいた。
なぜだろう、からだが熱い……。
「姫、さま…!」
戸惑うクリフトをよそに席を立ち差し出されたプレゼント、フルーツバスケットを手にする。
これはクリフトからのプレゼント、あの日私が渡したプレゼントを受けてのクリフトからのお返し……。
そう思ったら嬉しさがこみあげてくるのがわかった。
「うん……うん……ありがとう」
きっとみんなはそんなこと知らない。
私の手作り作品をクリフトが壊したから直して返しに来た、きっと周りにはそうとしか映らないんだろう。
だからこれは私とクリフトしか知らないプレゼントのやりとりなんだ。
そう思ったら今まで憂鬱だった気持ちが一気に晴れていくのがわかった。思わず笑顔がこみあげる。
「ありがとう!」

アリーナの自室のテーブルにはフルーツバスケットが置いてある。思い出の一つだ。
あの日からアリーナはまた城内をうろうろし教会にも足を運ぶことが増えた。
「クリフト、またプレゼント渡すからね!」
あるとき笑顔で話すアリーナをよそにクリフトはあんぐりと口を開けたままかたまっていた。
「何をおっしゃるのです!もうおやめください。そのようなもったいないこと……!」
眉にしわを寄せ険しい面持ちでアリーナに向く。
「そのお気持ちだけでじゅうぶんです。姫さまはもう少しご自分の立場をご理解ください」
「えー」
あの日の切なげなクリフトはどこへやら、まるで何事もなかったかのようにお説教されてしまった。
「ぜったい渡すもん!」
「姫さま…!」
次のクリフトの誕生日、アリーナがまたこっそりプレゼントを渡したかどうかはまた別のお話。

584名無しさん:2017/10/01(日) 22:11:57 ID:0/skaGTA
乙です!
本格派の書き手さんでビックリ。
このスレにはとんでもない人材が潜んでおられたようです。

思い悩みがちなクリフトらしい人柄がにじみ出ますね。
堂々とやりとりできない間柄ゆえの精一杯のやり方。
そういうのを描くのもクリアリの大きな要素であり魅力だと思うのです。
大きな壁があるから物語が深まり、より大きな幸せを感じられます。
盛大な拍手をお送りいたします。

585名無しさん:2017/10/04(水) 05:04:37 ID:PraHDcKM
同じあらすじから別のものが生まれる不思議!
本格派もあれば軽いのもアリで乙な競演!
さらに続けばさらに乙!

5861/2:2017/10/07(土) 23:49:49 ID:4xKmoTEA
「クリフトもブライも、私にとってすごく大切な存在になったわ。
もちろん2人とも大切だったけど、今はすごく身近で、2人といるだけで心強いの。」
「もったいないお言葉でございます。」
頭を下げるクリフトに対してアリーナは苦笑い。
「本当はそういう距離を取りすぎた言葉遣いがなくなると嬉しいんだけどね。」
「それはいけませんぞ。だいたい姫様は…」
いつものようにお小言を始めるブライを横目に見ながら、アリーナは話を続けた。

「クリフトはともかく、ブライはもういい年でしょ。隠居してのんびり暮らす頃よね。
それなのにこんな楽じゃない旅について来てくれて。
感謝してるし、すごく申し訳ないって思ってるわ。」
「フン。まだまだ年寄り扱いされるには早いですわい。」
憎まれ口を叩きながらもブライはどこか嬉しそうだった。

「この3人で旅してるのは何かの縁だと思うの。
平和を取り戻してお城に戻っても、この縁は大切にしていきたいと思ってる。
クリフトもブライも、私の特別な存在だからね。」
「私はともかく、ブライ様と距離を縮めることは喜ばしいことです。」
「もうっ、クリフトも一緒よ!
私たちは家族みたいなものなの。ブライがおじいちゃんで、私たちは孫なの。
ブライのお葬式も私たちで挙げるのよ!」
ブライの眉がピクッと上がった。
「葬式…?」
「家族なんだから当然よ。ブライは私たちで看取って、お葬式も私たちが挙げるの。」
「いえ、私は教会の者としてブライ様をお送りする側ですので…」
「クリフト、お主まで…」
「いや、姫様、縁起でもない話をするものではございません。
ブライ様がお倒れになってからで良いではありませんか。」
「むぅ…」

「しかし、ブライ様はともかく、私は姫様のお側に仕える者ではございません。
お気持ちはありがたいのですが、やはり近しい存在にはなりづらいかと。」
「うーん。それよね。何か私の近くにいられる役職はないのかしら。
近衛兵も距離を置くから、侍女くらいかしら?」
「男は無理ですな。男をむやみに近づけると問題になりますゆえ。」
「ブライは近くに仕えてるじゃない。」
「ワシは問題にならん年齢ですからな。」

「うーん。いっそクリフトと結婚すればいいのかなぁ?」
驚きのあまりクリフトはせき込んだ。
「ひ、姫様は、ご自分より強い男とでなければいけないのでは、ないのですか…?」
「私より強い男を探そうと思っても、ソロとかライアンくらいしかいないだろうし。
人間以外から探すのもさすがに無理だと思うの。
そう考えていくと、クリフトは案外悪くないのよね。
腕力はないけど一緒に闘う相棒としてならじゅうぶん強いわ。
性格も悪くないし権力欲や金銭欲もないんだから、悪くないって思わない?」
問われたブライは顔をしかめる。
「…身分の差というものがありましてな。」
「その身分の差って何?どんな害があるの?」
「…王家の格が下がるのですが、何より諸侯の支持を得られないのです。
そうすると姫様の代になったときに足を引っ張られ、政治が難しくなります。」
「それを防ぐために今から何ができないの?
お父様はまだ若いんだから対策をする時間はあると思うの。
ねえ、クリフトはどう思う?」
「そ、そのような話は、いけません。…畏れ多いお話です。」
「また距離を置こうとするのね。私じゃ不満なの?
もっとおとなしい女の人の方が良いんだろうけど…。」
「そんなことは…姫様くらいお元気な方が…良いかと…」
頬を赤らめるクリフトを見ながらも、鈍感なアリーナはクリフトの気持ちに気づかない。
「うーん、クリフトって立場でものを話すから本音が分からないのよね。
ねえブライ、クリフトは私と結婚したら幸せになれるかしら?」
「…ワシに聞かんでくだされ。」

深呼吸して、クリフトは自分の気持ちを落ち着けた。
「…夫婦になるからには、恋愛感情を抱ける相手でなければなりません。
その、私で良いのなら、それも否定しきれるものではありませんが…」
横からのブライの視線がクリフトに突き刺さる。
「そ、そういう意味で好きになれる相手なのか、よくお考えになった方が良いかと…。」
「クリフト…違うのよ。私は普通に過ごしてたら政略結婚させられるの。
最初から恋愛結婚なんてないんだから、お互いに恋愛感情がなくても問題ないの。」
「いや、しかし…」
なぜかアリーナから結婚を迫られる流れになる反面、恋愛感情はないと宣告されている。
喜びとショックが混ざり合って、クリフトは言葉が出せなかった。
「そんなに恋愛感情が大切なの?
なら私を好きになる努力をしてくれないかしら?
私もマーニャに方法を聞いて努力してみるから。」

クリフトは目を閉じ、また深呼吸をした。
ブライからの無言の圧力を感じながら、クリフトは告げた。
「                 」

5872/2:2017/10/07(土) 23:58:40 ID:4xKmoTEA
平和が戻ってから暫く後、ブライは病の床についていた。

「ブライ、あの時の約束通り、お葬式は私たちが挙げるからね。」
「ただの風邪ですゆえ、縁起でもないことを言わんでくだされ…」
「そうですよ、姫様。」
「もうっ、いつまで姫様って呼ぶつもりなの?」
「そう言われましても、習い性でして…」
「そろそろ普通に呼んでくれてもいい頃よね?」
「そう…ですが…」
頬を赤らめるクリフト。笑顔のアリーナの頬もほのかに赤かった。
「いったい何をしにきたのですかな?
風邪が感染りますぞ。早く出て行ってくだされ!」


2人が出て行った後、ブライはあの時のことを思い出していた。
何気ないはずの会話から運命の歯車が回り始めた瞬間。
若い2人の未来のために力を尽くそうと思った瞬間。

「まだ心残りだらけで、死ねもせんわい…」
目を閉じながら、ブライは幸せそうな微笑みを浮かべた。

588名無しさん:2017/10/08(日) 00:20:46 ID:9pQHSkqg
誕生日のあらすじに沿って書くはずが、何の関係もない話になってしまいました。
それでもあらすじが起点になったのは事実です。>>570さんの功績は大きいです。

ストーリーに余白を大きく残しました。結末すら想像任せです。
「想像に任せすぎ!」と思う方は、ぜひ具体化した版をお書きになってください。泣いて喜びます。
皆さんがどう補完するのか興味をそそられます。

589名無しさん:2017/10/14(土) 17:42:39 ID:SkOjuWFo
「姫様、最近表情が優れないご様子ですが、何かお悩み事でもお持ちなのですか?」
クリフトは心配そうにアリーナの顔を覗き込んだ。
「子供の頃…ケガの手当てをするとき、そういう風に心配してくれたよね。
あの頃は良かったな…」
「姫様?」

「あのね、私、もっとクリフトと仲良くしたいって思うの。
昔はもっと仲が良かったのに距離が開いちゃって。一緒に旅してる今でも距離が開いたままで。
いつになったらクリフトと仲良くできるんだろうって、ずっと考えてるのよ。」
「それが…姫様のお悩みなのですか?」
「そうよ。」
まっすぐなアリーナの視線に吸い込まれそうで、クリフトは目をそらした。
「それは…やはり難しいです。
姫様にも私にも、それぞれの立場というものがございます。」
「お城にいたときにはそうでも、今は違うわよね。
咎める人がいたとしたらブライくらいでしょ。」
「そう…だとしても…」

煮え切らないクリフトに、アリーナは新しい言葉を続けた。
「クリフトって私のこと、好きなの?」
「え…それは、どういう…」
「マーニャは恋だって言ってた。そういう意味で私のことが好きなの?」
「わ、私は買い出しに行かないと…」
その場を離れようとするクリフトの手をアリーナが掴む。
「買い出しにはブライたちが行ったわ。」
「お、お離しください!」
「嫌よ。」

手を振りほどこうとするが、クリフトの力で振りほどけるものではない。
「ひ…姫様は…それを聞いてどうなさるおつもりなのですか…
どのような答えをお求めなのですか…」
「私は…恋愛感情が分からない。
私のことが好きなら恋愛感情を教えてよ。
そうしたらずっと私たち、ずっと一緒にいられるかも知れない。」
「…姫様が望まれているのは子供の頃の関係ですよね。
私たちはお互いに子供ではありません。子供の頃の純粋な関係には戻れません。」
「クリフトは…どうしたいのよ…」
アリーナの瞳から涙が溢れ出した。
「私たち、求めてるものがそんなに違うのかな…」

クリフトはどうすれば良いか分からなかった。
アリーナが自分に向けている好意には恋愛感情がない。
アリーナのために、国のために、自分はどうするのが一番なのだろうか。

「クリフト…苦しいのよ…」
アリーナはクリフトの胸に顔をうずめて泣き始めた。
「私も…苦しいのです…」
肩を抱くこともできず身を震わせるクリフトの頬を涙が伝った。


「どーにかしてやれねーの?」
物陰に潜んでいたソロは隣のブライにささやいた。
「若者の未来のために一肌脱ぐのも年長者の務め…ってな。」
「うむむ…」

590名無しさん:2017/10/14(土) 18:10:30 ID:SkOjuWFo
書いてるうちに悲恋になって切なくなってきたので、唐突にソロとブライが登場。
悲恋も好きですけど、そういうのを描く心境ではありませんでしたので。
ほんのり暖かな恋愛模様を描くつもりで悲恋ラストって、さすがに私の心が追いつきません。
ケガのあらすじに沿って書くはずが、あらすじどこ行った状態ですね。

591名無しさん:2017/10/14(土) 22:42:40 ID:SkOjuWFo
「恋愛感情ってどういう感情なのかな?」
「恋愛感情…ですか?」
「そうよ。私、恋愛感情を知らないまま一生を終えるのかしら?」
「それは…きっと…素敵な王子様が現れるのでは…」
アリーナはムッとして言い返した。
「いないわよ。この旅で色々な国の王族に会ってきたけど、どの王子もひ弱だったわ。
そんな貧弱な王子に一生かけて守りますとか言われても悪い冗談にしか思えないわ。」
「…そうでしょうね。」
姫様は腕っぷしの強いお方でないといけないのでしたね…

「クリフトがどこかの王子だったら良かったんだけどな。
そうしたら、子供の頃に婚約してて、今頃は結婚してたりするんだろうね。」
「いや、私は姫様好みの腕っぷしの強い男ではありませんので…」
「クリフトは強いわ。どこの王子と手合わせしても勝てるだけの剣の腕前は持ってる。
腕力は弱いけど、私と2人なら最強のパートナーになれる。」

「世界を救ったらクリフトも救世主だから、どこかの国に養子に行って王子になれないかしら?
そうしたら私はクリフトを結婚相手に選ぶわ。」
「その…恋愛感情的なものは…よろしいのですか?」
「きっと訓練すれば何とかなるわ。
クリフトは強いし一緒にいて悪い気はしないから好きになれるはずよ。
だからクリフトも私のことを好きになって。」
「私は…大丈夫です。」
「大丈夫って何?」
「あの…もうお慕い申し上げて…」
真っ赤なクリフトに対し、アリーナはあっけらかんとしていた。
「なら都合が良いわ。結婚できるように全力を尽くすわよ。
結婚できたら恋愛を教えてね。」

かくしてアリーナとクリフトは結婚の約束を交わした。
約束を果たすためには、まずブライの理解と協力を得なければいけない。
さて、どうなるだろうか。

続く(…かもしれない)

592名無しさん:2017/10/14(土) 22:50:26 ID:SkOjuWFo
さっきのを書くとき、第1稿の後半部分をボツにしたので整えて別の作品に仕立てました。
今のスレには1つでも多くの作品があった方が良いかなと。

続きを書くにしても、ブライの協力をいかに得るかだけでしょうね。
そこから先があまり思い浮かばないので書かないかも。
皆さんの想像の中で話が進めば良いのかも知れません。

593名無しさん:2017/10/16(月) 04:06:29 ID:F8joZzhM
この流れには乙という言葉を禁じえません
同じはずのあらすじから色々な作品が生まれることになろうとは
しかもあらすじを書いたご本人はまだ2つ中1つしかSSにしていないご様子なので、期待が膨らみます!

594名無しさん:2017/10/19(木) 12:24:43 ID:3oNLMqyQ
570です。たった2つのあらすじからたくさんのお話本当にすごいです。ありがとうございます。
導かれし者たちが二人の恋路を陰ながら応援する話は本当に心温まりますね。
ケガのほうのあらすじは576さんがイメージ以上の話を描いてくださり私からは出そうにないですよ。
やはり「このクリフト……」って言葉はグッときますね。
589さんのお話も悲恋気味で切ないですが一番ストイックリフトを表しているのかなと感じます。
立場を弁えての言葉なのか恋心を寄せているがための言葉なのか気になるところです。
ソロとブライが出てきてくれたことにより一層続きが見たくなりました。
586さんの余白、591さんの「もうお慕い申し上げて…」あたりが個人的にも浮かびましたがいかがな
クリフトにとっては一世一代の告白の場、その緊張感が伝わってきていいですね!

確かに今のスレには1つでも多くの作品があったほうがという点にはまったくの同意です。
長くても短くても思いついたものを誰でも気軽にぽんぽん載せられるようなスレにしたいものです。
先陣を切ってくださる592さんに本当に感謝、お話を描いてくださった皆さまに心からGJです!
最後に>>581-583の続きができたので載せます。やはりストイックリフトを描くのは難しいです。

5951/3:2017/10/19(木) 12:30:11 ID:3oNLMqyQ
最近アリーナ姫がお菓子作りにはまっているという噂がまことしやかに囁かれるようになった。
その噂を耳にしたクリフトは一瞬手が止まる。まさか……
クリフトの誕生日はもうすぐだ。まさか本当にプレゼントを?今度は手作りお菓子で!?いやいやまさか……
クリフトは動揺を隠せずにいた。
アリーナ姫がクリフトにまたプレゼントを渡すと言ったものの今日まで何事もなく日々が過ぎていた。
たまたま時期が重なっただけだ、クリフトはそう結論づけ再び書物に手を伸ばした。

アリーナは焦っていた。目の前の真っ黒なケーキがかすむ。目がうるんでいるのがわかった。
どうして!?どうしておばさまと一緒に作るときはうまくいくのに私一人だけで作ると失敗するの!?
アリーナは手を強く握る。うるんだ目をぎゅっと閉じて涙をこらえた。
プレゼントの中身や渡し方、言い方は万全、後はちゃんと仕上げられる腕だけだった。
だって、だってこれでクリフトが私のことどう思ってるかわかるかもしれないから……。
アリーナはふうっと息を吐いた。もう一度一人だけで作ってみよう、そう思い再び分量を量り始めた。

日課を終えクリフトは部屋に戻ると軽く息をついた。
何事も起こらなかった……。
僧服を脱ぎ普段着に着替えようとした最中、ドアをノックする音が聞こえた。
神父に案内され入ってきたのはアリーナ、その手には小さな箱を持っている。
クリフトは固唾を飲んだ。
「クリフト」
「はい、姫さま…」
緊張するクリフトをよそにアリーナは満面の笑みを浮かべ小さな箱を差し出した。
「お誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」

予期していたことが起こってしまった、クリフトは小さく息をついた。
「姫さま…」
「ん?」
クリフトは恭しく一礼する。
「ありがとうございます。このような身にもったいないお言葉です」
頭を上げ少し切なげな表情で言葉を続ける。
「ただ、去年同様プレゼントをお受け取りすることはできません。
その、立場が、ございますので……」

来た!アリーナはお見通しと言わんばかりに言葉を返した。
「去年はなんだかんだいって受け取ってくれたじゃない」
「…………」
「大丈夫よ、今回は形に残らないものにしたの。ケーキよ、食べちゃえばわからないわ」
「ケーキ…!い、いえ、そういう問題ではないのです」
「じゃあどういう問題なのよ」
「お受け取りするという行為自体が立場を超えているのです」
クリフトは一歩も引き下がらない。
「もう、クリフトってほんとに堅苦しいのね」
「なんとでもおっしゃってください」
「じゃあこれならどうかしら」
「?」
アリーナは自信満々に言葉を続けた。
「今回のプレゼントはお父さまの許可を得ているの。だから立場とか考えなくていいのよ?」

5962/3:2017/10/19(木) 12:34:56 ID:3oNLMqyQ
一瞬何を言われたのかわからなかった。
おてんばで破天荒なアリーナはいつも人と違うことを言ったりやったりしてしまう。
王の許可を得ている……クリフトはその言葉の意味を理解するのに時間を要した。
アリーナはそのあいだ緊張した面持ちでクリフトを見守る。
立場を考えなくていい、プレゼントは形にも残らない、だからこれでわかるはず。
クリフトがプレゼントを心から喜んでくれるかどうかが…!
クリフトは何を考えているのか真剣な表情でずっと足もとを見ていた。
アリーナはその様子をじっと見守る。
「…………」
「…………」
考えがまとまったのか、クリフトはふと顔を上げアリーナを見た。

アリーナは見た。クリフトの頬がほのかに赤らむのを。
クリフトはアリーナのずっと先を見ているかのような遠い視線で棒立ちになっていた。
「クリフト?」
クリフトはとっさに横を向く。口もとに手をやり少しだけ眉を寄せた。
「王は、王はなんとおっしゃったのですか?」
「お父さま?喜んでもらえるといいなって言ってたわ」
手で隠しても隠し切れない、クリフトは頬を赤らめたまま目を強く閉じた。
「プレゼント、受け取ってもらえる?」
アリーナは間髪入れずプレゼントを差し出す。クリフトは目線だけプレゼントに向けた。
「…………」

答えない。クリフトは目線を戻し眉を寄せたまま黙っていた。
「クリフト?」
「最近お菓子作りをしていらしたのは、このためですか?」
「そうよ」
「王の許可を得てまで?」
「そう」
「…………」
クリフトは再び目を閉じた。

どうしてもすんなりと受け取ってはもらえない。
やっぱり私のことキライなのかな、アリーナは少しずつ気分が落ちていくのを感じた。
「そこまでしていただいて、私はどうお返しすれば……」
「あ、お返しなんていいのよ。その代わり」
「?」
アリーナはかねてから考えておいた言葉を口にした。
「今度の私の誕生会にクリフトも出てほしいの」
「は…」
「ううん、誕生会だけじゃない、これからも呼んだときは来てほしいの。
都合が合えばだけど」

5973/3:2017/10/19(木) 12:40:25 ID:3oNLMqyQ
クリフトは信じられない事態が起こったと言わんばかりに目を見開きアリーナを見た。
いつの間にか手は解いている。その変わりようにアリーナも少なからず戸惑った。
「そ……」
クリフトは言葉が続かない。
「それでお返しはじゅうぶんだから。ねえクリフトお願い、受け取ってよ」
再びプレゼントを差し出す。クリフトはゆっくりとプレゼントに目を落とした。
「…………」
「クリフト」
「もう……」
「え?」
クリフトは声の調子を下げ、呟くように小さな声をもらした。
「もう、これ以上……」
「…………」
「これ以上、私を……」
「…………」
私は惑わせないでください……。

クリフトが何を言おうとしたのかアリーナにはわからなかった。
アリーナはただ時間をかけて計画したこのプレゼント作戦を成功させたかった。
もう自分のことを嫌いでもいいからとにかく受け取ってほしかったのだ。
まるで懇願するかのごとくか細い声でねだる。少し目がうるんでいるのも気にせずに。
「ねえクリフト、おねがい。受け取って…?」
「…………」

「はい…」
小さな声が、喜びとも悲しみともつかない静かな声が、しかし確かに聞こえた。

「王よ、よかったのですかな」
「何がかね」
玉座の間で王とじいやのブライが二人にしかわからないほど小声で話している。
「クリフトは一僧兵に過ぎませぬ。いくら姫さまの望みとはいえ下々の者と関わるのは……」
「クリフトの母には世話になった。彼女が乳母を務めてくれなければ今のアリーナはなかったのだからな」
「しかし……」
「何か問題があるかね」
「は…」
今ごろ二人は共にケーキをつまんでいるころだろう、王は表情を緩め言葉を続けた。
「アリーナはただ幼なじみの友人に誕生日プレゼントを渡し自分の誕生日パーティーに招待しただけじゃよ」

後に訪れたアリーナの生誕祝賀行事にはクリフトの姿があった。
誕生日なんてなくなればいいとすら思っていたアリーナが初めて心から笑顔を見せた日でもあった。
その後も時折アリーナの呼び出しによってクリフトは玉座の間に姿を見せることになる。
ある者はその待遇を羨みまたある者は嫉妬や厳しい目を向けた。
それでも今日まで何事もなく日々が過ぎているのは一重にクリフトが立場や礼節を弁えているからだろう。
そのことを知らない、深く考えないアリーナはこの先もその奔放さでクリフトを惑わせていくことになる。

598名無しさん:2017/10/20(金) 01:06:27 ID:RtESMUAc
乙です!
ストイックなクリフトから離れてあらすじからも離れて咲き乱れるフリーダム!
そうなるとご本人の作品がますます気になりますし、さらに他の方の作品も見たくなってきます!
同じあらすじからというのも作風の違いが際立って面白いですね!

599名無しさん:2017/10/23(月) 08:05:12 ID:Lky01EVw
最近wiki管理者さん見ないけど元気かな

600名無しさん:2017/10/24(火) 22:39:28 ID:hdNTc/6A
長いことwikiに動きがないんですよね
作品のない過疎スレを見張り続けるのはしんどかったのかも

避難所内に作品まとめ専用スレを設けるのもアリですが、
歴代の作品と一緒にwikiに載ったほうが便利ですよね

601名無しさん:2017/10/29(日) 02:05:20 ID:hU4gk2.g
>>586-587って本当に大きな余白を残したストーリーで、2人の関係とかブライの心残りとか色々と謎のまま
ブライの心を動かすほどの会話があったはずだけど内容は読者の想像に任せるというのもね
脳内補完せざるを得ないので読者は意図せず創作者になります
読み手が書き手になるきっかけになるのかも?

>>595-597のような続き物って意外と多くないので貴重です
次に続きそうな終わり方が想像を掻き立てますし続編への期待が膨らみます
ご本人が書いただけあって、あらすじから忠実に発展していったストーリーに安心感を覚えます
こういう方向性を持ったあらすじだったのかと知る楽しみがあります
そしてご本人が書く治療+ストイックものがどうなるのか気にならざるを得ません

過去スレにないほど活発なコラボ企画が発生中と言えるかも
GJです!

602名無しさん:2017/10/31(火) 14:01:54 ID:mOUg/6C2
570です。乙ありがとうございます!GJ嬉しいです!
それにしてもまさかのひどいミスをしました。
>>597の1段落目最後
私は惑わせないでください……。
じゃなくて
私を惑わせないでください……。
ですよ一番大事なとこ間違えましたよすみませんです……。
自分が描くとどうしてもクリフトが照れたり慌てたりしてしまうので
治療+ストイックはいよいよ描けませんて。
誕生日の話からの治療+その後のクリアリなら描けるかな。
としてもすぐには浮かばないので小ネタを置いて逃走

603名無しさん:2017/10/31(火) 14:05:31 ID:mOUg/6C2
「クリフト、今日はかぼちゃの日なのね」
「かぼちゃの日?ああ、ハロウィンのことですか」
「かぼちゃをくり抜いて飾ったりかぼちゃをかぶったりかぼちゃ料理を食べたりかぼちゃで戦ったりするんでしょ?」
「行事の一部分しか引用していない上に最後がおかしなことになっていますが」
「ねえクリフト、かぼちゃでどうやって戦うの?」
「そんなことを私に聞かれましても……」
「あ、そのまえにかぼちゃがなくなっちゃったら大変だわ!戦う分だけとっておかないと」
「姫さま、本当にかぼちゃで戦うおつもりなのですか」
「こうしちゃいられないわ!私とクリフトの分だけでもとっておきましょ!」
「わ、私と姫さまが戦うのですか!」
「ちょっとクリフト、急いで!早く食堂に行きましょ!」
「ひ、姫さま、手をつなぐのはおやめください!」

「えー!かぼちゃで戦うんじゃないのー!?」
「そもそもハロウィンとは秋の収穫を祝い悪霊などを追い払う行事で……」
「悪霊?悪霊とかぼちゃで戦うの?」
「姫さま、まずは戦うことから離れてください。これは行事なのです」
「むー」
「有害な精霊や魔女から身を守るために仮面をかぶり魔よけのたき火を焚いていたことから……」
「クリフトのバカー!わからずやー!」
「ぐはっ!ひ、姫さまのかぼちゃ攻撃、き……効きました……」(バタッ)


ただのギャグになってしまった。

604名無しさん:2017/10/31(火) 22:48:52 ID:cPGFJ/nM
>>602
乙です。そんなところに誤記があったとは気づきませんでした。
人間の脳はそれらしく読みかえてしまうものですから。

今のところストイックで書いた作品はあまり出てないように見受けられます。
ならそのストイックはどういう感じだったのかなと気になるわけです。
いよいよハロウィンでストイックな治療ものが書かれるのでは期待が膨らみます。

605名無しさん:2017/11/02(木) 00:23:37 ID:M84U7sSo
乙です!
ハロウィンでクリアリは意外と見かけたことがないです
ヨーロッパ的な世界観とハロウィンは相性良し!

仮装一色になる城下町に行きたいアリーナとか
お城でのイマイチなハロウィンを華々しくしようと画策するアリーナとか
アリーナのためにハロウィンで精一杯スベってしまう王様とか
旅先のハロウィンに心躍るアリーナとか
ハロウィンでアリーナに楽しんでもらえないか悩むクリフトとか
ブライの頭をハロウィンらしく華やかに飾ろうと考えるアリーナとか
マーニャたちに連れられてハロウィンを満喫したアリーナとか
ハロウィンでストイックな治療ものとか

ハロウィンにはクリアリのネタが豊富にありそうです!
時期遅れの投下にも期待します!

606従者:2017/11/07(火) 16:37:39 ID:o46AGxQI
お久しぶりです従者です。まったりしたクリアリコラボ本当にGJです!書き手さんもっと増えるといいですね!
流れを切って恐縮なのですがこちらももう少しで6章が終わりまったりできそうなので何とぞ……
PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、山奥の村編最後「やりたいこと」26レス分一気にいきます。
6章(>>496>>499-512)の続きでソロの行きたいところに行った先でのこと、クリアリパートは9/26〜21/26くらいです。
こちらも少しですが暴力、流血、(回想にて)残酷描写、オリジナル展開もありますご覧に際にはお気をつけください。
ではどうぞ。

607従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 1/26:2017/11/07(火) 16:41:15 ID:o46AGxQI
――ピサロさまがソロさんの村を…?――

私たちは今ソロの村に来てる。魔物に、デスピサロに滅ぼされたもうなにもないこの村に……。
今は夕暮れ。遅くなっちゃった。
ロザリーヒルで私たちがお話ししてたときにソロはピサロと山奥の村に行く話をしてたみたいで。
私たちのお話が終わるまで待ってたら子どもや動物たちが集まってきたんですって。
ピサロと話したいこといっぱいあったみたい。
そしたらソロはゆっくりでいいぜって、存分に話せよって、みんなが話し終わるまで待ってくれたの。
ロザリーを生き返らせたことで私たちも受け入れてもらえて、みんなでゆっくりしてたら今になった。
ソロは何を思ってたんだろう。ほんとうは早く行きたかったんじゃないのかな……。
ソロはほんとうにすごいなって思った。

ソロは村にピサロだけを連れていくつもりだったみたい。
けどロザリーがどうしてもついていきたいって言い出して、思わず私もってお願いしちゃったの。
そしたらマーニャにこういうときは空気読むもんでしょって言われちゃって……
そういうものなのかな……。
けどソロは少ししていいぜって、あんな村でよけりゃついてこいよって言ってくれたの。
すかさずクリフトのほうを向いてお前も来るんだろって、クリフトもついてくることを許してくれて……
クリフトは恐れ入りますって静かに頭を下げてた。

村に入る直前で私はソロに呼び止められた。
ソロは私に小さく耳打ちしたの。

「もし俺がバカなことしそうになったら止めてくれな」
「え?」

――アドンのときみたいに……――

ソロ…?
ソロはそれ以上何も言わないでピサロにこっちだって招いてた。
バカなこと……ソロは何をするつもりなの……?
ソロ……?

「姫さま…」

私の足が止まっちゃったからね、クリフトが寄ってきた。

「ソロさんと、何か話したのですか…?」
「ん……」
「…………」

ソロ……。

608従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 2/26:2017/11/07(火) 16:45:04 ID:o46AGxQI
「大丈夫」
「…………」
「ソロならきっと大丈夫」
「……そうですか」
「うん」

なんとなくじゃなくてほんとうにそう思ったから私はしっかり答えた。クリフトもうなずいてくれた。
私たちもすぐにソロのあとを追った。


村とはとても呼べないありさまにロザリーはすっごく驚いたみたい。
ずっとあたりをきょろきょろしてた。

――ピサロさまがソロさんの村を……――

「……では、ソロさんがピサロさまのおっしゃっていた勇者…?」

ロザリーはソロを見つめた。驚いたままの顔……ロザリーは知らなかったのね。
ソロはずっとピサロを見てる。でもピサロはソロを見なかった。

「ソロさんが……」

――聞いてくれロザリー。ついに勇者を見つけたのだ。ブランカの北、山奥の小さな村に匿われていた――
――…………――
――始末してきた。庇おうとする人間もろともな――
――そんな……殺したのですか……?――
――……ああ――
――どうして……どうして……っ――
――ロザリー……。もう時間がないのだ。人間は変わらなかった――
――いいえピサロさま、そんなことはありません。人は変われます。どうかもう罪を重ねるのはおやめください…っ――
――……お前の自由だけは必ず保障する――
――いやです!自由などいりません!どうかもう一度あのころのピサロさまに戻ってください…っ――
――ロザリー……。過ぎてしまえば思い出になる。それまでは……――
――ピサロさま!お待ちくださいピサロさまっ!――
――……――
――あっ…放して……お願い放してっ……っ放しなさいナイトっ!!!――
――…………――
――っ…ピサロさま!!まだ間に合います!!きっと間に合いますから!!!どうか……ピサロさまっ!!!――
――…………――
――……ああぁぁああああっ……!!!!――
――………………ロザリー様……――

609従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 3/26:2017/11/07(火) 16:51:17 ID:o46AGxQI
「…………」

ロザリーの顔がみるみる青ざめてく。悲痛な顔……
ロザリー……。

「わたしは信念にもとづきこの村を滅ぼしたまでだ。何かを得るためには何かを失う、それは当然のこと……
少しもまちがった事をしたとは思っていない」

突然響いたピサロの声。
は…?なに言ってるのこいつ…!?

「……だが、大切なものを失う悲しみはわかる。一度はロザリーを失った今ならな……」

そこまで言うとピサロは目線を下げた。ソロは……震えてた。
震えてた…っ。
ふとにぶい音がしたと思ったらピサロが宙に舞ってた。派手な音を立てて地面に転がる。
ソロが殴ったんだ。起き上がって口をぬぐうピサロをまた殴る。
ロザリーの悲鳴が上がった。けど私はただ見てることしかできなかった。クリフトも動かない……。
再び起き上がろうとするピサロの前にソロが立った。

「立てよ」
「…………」
「あいつらの痛みはこんなもんじゃなかった」
「ソロさん!!」

ロザリーが駆け寄ってピサロの前に出る。

「どけ」
「いやです!」

ピサロがロザリーを無理やり引き戻そうとするけどロザリーは払いのけた。

「ソロさん!どうか殴るのでしたら私を殴ってください!斬っても構いません!!」
「ロザリー!」
「本当に、本当にごめんなさい…っ!!」
「ロザリーどけ!!」
「いや…っいやです。離れるのはもういやです…っ!!」

ピサロはロザリーを引き戻すけどロザリーは必死にピサロにしがみつく。なんどもなんども……。
結局ピサロがロザリーをかばうような体勢でソロを見上げることになる。
ロザリーは泣きながらピサロの背中にしがみついてた。涙がいく筋もルビーとなってこぼれ落ちる。

「本当に、本当に、ごめんなさいっ……ごめんなさい……っっああぁぁぁあああああ…っ!!」

610従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 4/26:2017/11/07(火) 16:54:49 ID:o46AGxQI
ロザリーはソロに謝る。なんどもなんども……。
泣き叫ぶ声があたりに響いた。その声を聞いて私も目が熱くなった。
ロザリー……。
私はソロを見た。ソロは……顔を伏せてた。
ソロ……。
どれだけの間そうしてたんだろう。けっこう長い時間たったと思う。
ソロが少しだけ上を向いた。

「よけいな寄り道しちまったな。みんな、悪かった。帰ろう」
「ソロ……」

ソロはピサロとロザリーに背中を向けた。

「なぜだ……。意味がわからん」

ピサロが後ろから声をかけた。

「わたしをここに連れてきたのは、ここでわたしと戦うためではなかったのか?
なぜ来ない!お前はいったい何がしたいのだ!」
「うるせえよ…」
「それほどまでにこのわたしが憎いのなら、それほどまでにこの村の人間どもが大事だったのなら!
なぜ世界樹の花をそいつらに使わなかったのだ!!」
「…………」
「意味がわからない……」

こいつ…っ!!
ソロ……
ソロが震えてる……。
ソロ…っ

「使わなかったんじゃない……」
「……」

ソロが勢いよく振り返る。

「使えなかったんだよ!!」
「…………」

ソロ…っっ

「だとしても、なぜ、ロザリーを……」
「…………」

「そんなこと……」

611従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 5/26:2017/11/07(火) 16:58:54 ID:o46AGxQI
――俺が聞きたいくらいだ!!――

「大切にしてやれよ」
「…………」
「いつでもそばにいて、守ってやれよ。俺も、できる限りエルフ狩りがこの世からいなくなるよう呼びかける。
だから、これ以上大切な人を泣かせるような真似すんな」
「………………」

――俺は決してお前と同じにはならない――

「ソロ…っ」
「ソロさん…っ」

ソロはそう言うと再びピサロに背中を向けた。こっちに歩いてくる。
ソロ……。

「わたしは……」

ピサロはずっとソロを見てた。

「わたしはまちがっていたのか…っ!?」

「ソロ……」
「この下に木こりの家があるんだ。ちょっとじいちゃんとこ寄ってっていいかな…?」
「うん、いいよ。ソロの行きたいとこに行こう」

ソロがちょっと泣きそうな顔で、けど明るい声で言うものだから私はすぐうなずいちゃった。
ずっと黙ってたクリフトもうなずいてくれる。
馬車のみんなにも行くよって声をかけたらみんなも何も言わずにうなずいてくれた。
ソロのあとについて木こりの家へ向かう。
ピサロとロザリーはずっと私たちを見てた。もう来ないのかなって思ったけど少しして後からついてきた。
こんなことがあってなんでまだついてくるんだろう……でもソロはなんにもいわなかった。

「わんわんわん!」
「なんだ、またおめえか。生きてたのか」
「じいちゃん……」

家には犬とおじいさんがいた。
木こりの家っていうんだから木こりのおじいさんなのね。
あのとき、まだソロと出会って間もなかったとき、ソロはここで泊ったんだ。
ここがソロの安心できる場所……?

「じいちゃん…っ」

612従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 6/26:2017/11/07(火) 17:03:22 ID:o46AGxQI
ソロはおじいさんをもういちど呼ぶと崩れるように寄りかかった。
おじいさんがびっくりする。

「なんだてめえは、ガキみたいに甘えるんじゃねえ!」
「殺さなかった」
「……」
「俺、殺さなかったよ……」
「……そうか……」

ソロ……。

「おう、あんたら連れのもんか。悪いがこいつは今使いものにならねえ」

木こりのおじいさんがソロの頭をグーでこつこつやりながら話す。
ソロはおじいさんにずっとひっついてた。

「そこの戸だなに茶がある。そこらにあるもん適当に食っていいからゆっくりしていきな」

おじいさんはそう言うとソロを奥に招いた。
ソロは肩を落としてうつむいたまま中に入っていった。
私たちのほうは見なかった。

「お言葉に甘えてお茶をいただきましょうか」

クリフトがすかさず声をかける。

「うん、そうね」

なんとなく場を取りつくろおうとしてくれてる気がして私もすぐ返事した。
振り返るとさっきの声とはうらはらになんかかたまってるクリフト……

「ちょっとクリフト、どうしたの?」
「え?」
「なんか、かたまってない?」
「そ、そんなことはありませんよ」

やっぱりかたまったままお茶をいれようとするクリフト。
なんかちらちら犬のほうを見てるような……なんだろう、犬が気になるのかな。
お茶を飲みながら家の中を見て回る。
お茶、ちょっと苦い……おじいさんは苦いお茶が好きなのかな。
犬は私たちが来たときわんわんて吠えてたけど家に入ってからは静かに座ってた。

「俺、裏切り者なのかな……」
「裏切り者ってなんだよ」

613従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 7/26:2017/11/07(火) 17:07:05 ID:o46AGxQI
家の中を回ってたらソロの声が聞こえちゃった。
近づきすぎちゃったんだわ。これじゃ盗み聞きになっちゃう。早く離れないと……。
でも……
でも…………
私は結局離れることができなかった。

「あいつは、あいつはみんなを殺したんだ。親も、先生も、シンシアも、みんな……」
「……」
「でも俺、あいつを殺さなかった。けど俺……」
「……」
「わかんねえんだ。
みんなのこと考えれば考えるほど憎いのに、あいつらのこと考えるとなんかどっかで許さなくちゃって思ってる。
それが許せねえ。なんかもう、わかんねえんだよ」
「…………」
「あいつは、俺があいつを憎むずっとずっと前から人間を憎んでたんだ」

――ニンゲン……――
――ニンゲン…ッ!!――

「夢を見たとき、その憎しみを肌で感じたんだよ。鳥肌が立った。半端なかった。俺、あいつと一緒に泣いちまったんだ。
けど、俺だって……俺だってぇ……っっ」

――ソロや。わたしのことはいいからすぐにお逃げ!――
――よいか、ソロ。強く正しく生きるのだぞ――
――たとえなにが起こってもな……――
――今は逃げて……そして強くなるのだ、ソロ!わかったなっ!――
――大丈夫。あなたを殺させはしないわ――
――さようなら、ソロ……――

――大好き!――

「もう、わかんねえ……。もう、やだ……」
「…………」
「じいちゃんおれもうわかんねえよぉ……っ」
「…………」
「うっ……ぐすっ……」
「…………」

ソロ……。

「で、わかんねえなりきにとりあえずてめえの出した結論は、殺さなかったってことか?」
「…………うん…………」

…………。

614従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 8/26:2017/11/07(火) 17:11:01 ID:o46AGxQI
「いいか、ソロ。よく聞け」
「……」
「この世に絶対的に正しい答えなんてものはねえんだよ。
てめえがてめえの頭で考えて、どうすりゃいいか必死に悩んで、でもっててめえの意志でそうした。
てめえでてめえのことができるようになったんだ、親とすりゃこれほど嬉しいもんはねえっての」
「……そうなのかな」
「てめえも親になりゃわかる」
「じいちゃんはわかるのか?」
「…………」

「……できのわりい息子だったさ、てめえみたいにしけた面してやがってな」
「……」
「だが芯は強かった。このオレに反抗しやがったんだからな。
反抗して、結局オレの言うこときかねえで死んじまったけど、それでも最期まで幸せそうな面してやがった」

――罪を犯しても生き続けるのだから、いつ死んでも悔いのない生き方をする――
――彼はよくそう言ってましたよ――
――とても幸せそうでした。今も、いい顔してますよね。まるで眠っているようです――

――きっと、幸せだった……――

「胸クソわりいけどな、親ってえのは、子どもが自分の意志でその道選ぶってんなら、最後はそれを応援するもんよ」
「…………」
「てめえがわかんねえながらも必死に考えてそうしたってんなら、てめえの親も応援してくれるさ」
「……そっか……。よかったのかな、俺……」
「悩むくれえならその場になってから答えを出しゃいいんだよ。最初からひとつにしぼる必要なんかねえさ。
途中で答えが変わったっていいさ。答えをすぐに出せなきゃ出せるまで立ち止まったって後戻りしたっていいんだ。
大切なのは、そんときどんだけ真剣に考えたかだ」
「…………」

少しだけ間が空いた。
思わずのぞいたらおじいさんがソロの頭をなでてるのが見えた。

「てめえはよくやった」
「…………うん…………」
「それでもまだふっ切れてねえんだろ」
「…………うん…………」
「あせる必要はねえさ。答えはその男が出させてくれる。そいつと一緒にいられる時間を好都合だと思いな。
てめえはもう、殺そうと思えばいつでも殺せるくらい強くなってんだからよ」
「……殺しても、いいのかな……」
「んなこたてめえで考えやがれ。てめえの人生なんだ、てめえでじっくり考えな。誰もせかしゃしねえからよ」
「…………うん…………」

615従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 9/26:2017/11/07(火) 17:14:38 ID:o46AGxQI
ソロ……。
ふと振り返るとクリフトがいた。すっごくかたい顔してる。
わたし……!
けどクリフトは私を見ると小さく笑って首を横に振った。少しソロのほうを見たあと手で戻りましょうの合図をする。
クリフト、私が盗み聞きしたの、許してくれるの…?

しばらくしてソロとおじいさんがこっちに戻ってきた。クリフトがお茶のお礼を言う。おじいさんはなんか適当に返してた。
ソロはさっきとは打って変わって明るい顔してた。

「じいちゃん、俺もお茶飲みてえ!」
「勝手に飲みやがれ!」
「おう!」

お茶を飲みながらソロは私たちに茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。

「へへ。じいちゃんをじいちゃんって呼んでいいのは俺だけだからなっ」
「てめえ!久しぶりに来たんならマキのひとつも割りやがれ!!」
「わかったよじいちゃん!」
「おう、それが終わったら裏の倉庫からいちばんダルふたつ持ってきとけ」
「え?」

「いちばん風呂やるのか!?」
「こんだけの人数だ、やるに決まってんだろ」
「馬車にあと5人いるんだけど呼んでもいいか!?」
「あったりめえだ、どんどん呼びやがれ!」
「やったあ!」
「?」

おじいさんは台所からとっても大きなナベをいくつか重ね持って外に出ていった。
ソロは嬉しそうな顔して私を見る。

「いちばんぶろってなに?」

ソロがにやっとした。
え、なに?え…?

「タルのお風呂に入るの!?外で!?おもしろそう!!」
「ひ、姫さま…!」

外に大きなタルを用意して沸かしたお湯をたっぷり入れてそのままタルの中にどぼーん!!
ふたつ用意するのは、男風呂と女風呂と分けられるようにするからだって。

616従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 10/26:2017/11/07(火) 17:18:19 ID:o46AGxQI
「そのタルどこにあるの!?私もひとつ持つわ!」
「まずはまきを割ってからだよ」
「じゃあ私もいっしょに割る!」
「お前にできるかな。オノとか切り株とかちがうもん割りそうだぜ」
「失礼ね!できるわよ!」
「オノは重たいんだぜー?」
「むー」
「お」

ソロがちらっと私の後ろを見た。

「ともかくさ、すぐすましてくるからお前はクリフトと馬車のやつら呼んどいてくれよ」
「えー」

そういうとソロも大きなオノを手にして外に出ていった。
家の中がいっしゅんしんとなる。

「っもう」

振り返るとなんか複雑そうな顔して扉のほうを見てるクリフト……

「ちょっとクリフト、どうしたの?」
「え?」
「なんか、複雑そうな顔してない?」
「そ、そんなことはありませんよ」

クリフトは苦笑いして目線を下げた。そのままぼんやり遠くを見る。
笑ってるようでぜんぜん笑ってない、何か考えてる。
私はクリフトの考えがまとまるまで待った。こういうときのクリフトって言葉を考えてることが多いから。
みんなを呼びに行くのなんてそんなに時間かからないし。

「最近、いろいろなことがありすぎまして……」

言葉がまとまったのかな、少ししてクリフトが話し始めた。
やけに静かな声。

「うん……」
「情けないです……」
「そう?」
「はい……」
「そうかなー」
「…………はい…………」

――ソロさんには敵わない――

617従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 11/26:2017/11/07(火) 17:21:48 ID:o46AGxQI
クリフトが苦笑いしてる……ぜんぜん笑ってないのに笑ってるの、なんでだろう。
前もこんなことあったかな、なんだかクリフトに隠しごとされてる気がする、なんでだろう。
私はぜんぜん笑う気になれない。時々クリフトのことがわからなくなる。

「あの、姫さま……」
「ん、なに?」
「いちばん風呂、というもの、その……」
「ん?」
「入られるのですか?」
「もちろん!おもしろそうだし!」
「…………」

クリフトが何かを言いたいけど言えないみたいなもどかしい顔してる。
むー。

「なに?」
「その……」
「んー?」
「あまり、肌をさらすのは……」

ああ、それか。確か前もあったわね、こんなこと。
あ、もしかしてそのことを気にしてたのかな。んー?

「じゃあクリフトもいっしょに入ればいいのよ!」
「そっ…」
「今度こそいっしょに入るの!いいわね?」
「っ……」

クリフトは口をあんぐり開けたまま私を見てた。何かを言いたいけど言えない顔。
心なしか赤くなってきたような……いつもの得意技が出たわね。
もう夜だから日焼けする心配はないしみんなもいるから敵の心配もないし、何がそんなに心配なんだろう。
ほんとクリフトって無駄に過保護で心配性だわ。


パチパチとたき火の音が聞こえる。
お湯は次から次へと沸かしてるしお水もたっぷりあるからどんどん使っていいって。
すぐ近くにきれいな川があってそこからくんできてるみたい。
タルはとっても大きくてなんにんか一気に入っても大丈夫みたい。すごいなー。
男湯のほうは年長者からなんていってブライやトルネコ、ライアンが入ってる。
みんな嬉しそう。やっぱりお湯のほうがさっぱりするし湯船につかったほうがあったまるわよね。
私たちはさんにんそろって外とうや布を羽織った。クリフトに言われたからじゃないけど首までしっかり隠してみる。
みんなが私たちに注目した。クリフトも見てる。
私たちは目で合図、みんなが注目する中そろって羽織りをほどくしぐさをする。肩をちらっ

618従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 12/26:2017/11/07(火) 17:25:44 ID:o46AGxQI
「「「「「え!?」」」」」

びっくりするみんな。私たちはそろって顔を見合わせた。

「「「せーの!」」」

バッ!!

「「「じゃーん!!」」」

ハダカかと思いきやさんにんピンクのレオタードー!
女性だけの国ガーデンブルグに行ったときにいいわねってさんにんおそろいで買ったの。
さすがに男の人たちの前で濡れた布を巻いただけじゃ恥ずかしいから。

「私としたことが、年がいもなく……お恥ずかしい」
「姫さま!しもじもにまぎれてなんちゅうはしたないマネをしておるんじゃ!!」
「脱ぐときは少し恥じらいつつゆっくり脱いでもらうほうが……私ってヘンですかね」
「…………」
「…………ぶはあっ!!」
「ちょっとクリフト、どうしたのよ!!」
「あー、ソロとクリフトにはちょっと刺激が強かったかしら」
「クリフトさんは姉さんじゃなくてアリーナさんに反応されたのだと思います」

クリフトがまた鼻血を出しちゃったの。ソロも心ここにあらずみたいな顔してるし。
っもう、せっかくの楽しいお風呂が台なしだわ。
とりあえずクリフトは丸太に座って安静にしてもらった。ハンカチで鼻を押さえてもらう。
私もレオタード姿のままはなんだからまた自分の外とうを羽織った。

「……大丈夫?」
「……申し訳ありません……」
「そうじゃなくて、大丈夫?」
「……はい……」

血は止まったみたい。よかったー。
なんか前にもこんなことなかったかしら。

「ねえクリフトー」
「……はい、姫さま」
「これ、ピンクのレオタード。ちゃんとした装備なの」

私は外とうの前を少しほどいてレオタードの生地を見せた。
クリフトは目だけこっちに向けたけどすぐ戻した。

619従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 13/26:2017/11/07(火) 17:29:40 ID:o46AGxQI
「……まあ腕とか足とか出てるけど、でも肌をさらしてるわけじゃないからね」
「…………」

胸もはんぶん出てるし説得力ないかな。でもほんとうに肌をさらすつもりはないの。
私はクリフトの目を見て言った。

「だいじょうぶだからね」
「………………」

「……はい」

クリフトがふっと笑った気がした。

――ありがとうございます――

クリフトはハンカチをほどいて私に頭を下げたの。やっぱり笑ってた。
よかった。もう大丈夫そうね、クリフト。

「姫さま」
「ん?」
「私はもうだいじょうぶですから、どうぞ湯浴みをなさってください」

クリフトはそう言うとお風呂のほうを見た。

「えー、まだいいわ」

私もマーニャとミネアがお風呂に入ってるのを眺めながら返した。

「ソロさんとゆっくりされてはいかがですか?」

え?

「なんで?」
「…………」

突然ソロの名前を出されて思わず聞いちゃった。
クリフトも聞き返されたのが意外だったのかな、驚いたような顔で私を見る。

「いえ、先ほどもソロさんと楽しげに話をされていましたし……」

…………。

「別にソロと話すのが楽しかったわけじゃないわ、いちばん風呂が楽しそうだったの」
「そう、なのですか」
「そう。今は別にソロと話す用事はないし」

620従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 14/26:2017/11/07(火) 17:34:08 ID:o46AGxQI
あれ、今なんの話をしてるの?

「特別話したいわけでもないし……」
「…………」
「だからもう少しここにいるの!」

あれ、なんだろう、なんで私ムキになってるんだろう。

「そうですか」
「そう!」
「わかりました。ではもう少し、ここにいてください」

え?

「…………」
「…………」

今なんて言ったの?
クリフトはお風呂のほうを見てる。さっき笑ったときみたいに穏やかな顔で。
えっと……今、クリフト、ここにいてって……言ったのよね。私に……
え…?

「あ、あのね!」
「?」
「私ちょっとお話ししたい人がいるの。ソロじゃなくてっ」

あれ、なんで私話をそらしちゃってるんだろう。

「ほら、あそこ、おじいさん!」

私はたき火の近くでまきを足しているおじいさんを見た。クリフトも目で追う。

「ひとりだとちょっと話しにくいの。いっしょに来てくれる?」

クリフトはまた驚いたような顔して私を見たけどすぐにさっきの穏やかな顔に戻った。

「はい、姫さま」


「お、大丈夫か?」

おじいさんのところに行こうとお風呂の近くを通ったらソロが声をかけてきた。

「はい、ご心配をおかけしました」

621従者:2017/11/07(火) 17:37:35 ID:o46AGxQI
すみませんちょっといったん席を外します。
また再開します。

622従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 15/26:2017/11/07(火) 18:14:16 ID:o46AGxQI
クリフトは苦笑いしながら頭を下げる。ソロもつられて苦笑い。ん?なんで苦笑い?
ふとソロがクリフトのずっと向こうを見た。苦笑いはなくなってた。

「ピサロ」
「え?」

ソロの視線の先には木かげに腰を下ろしてるピサロとロザリーがいた。

「あいつも呼んでくる」
「え…?」

ソロはおけにお湯をくんでピサロのほうに歩いてった。
ソロ……。

「おいピサロ!」

バシャッ!
ソロがピサロに勢いよくお湯をかける。服や髪がびしょびしょになるピサロ。
驚いてソロとピサロを交互に見るロザリー。

「…………」
「ソロさん……」
「服洗たくするからよ、ぜんぶ脱げよ。血もついてるからな」
「…………」

ピサロは無言でソロを見上げる。濡れた顔を手でぬぐうこともしないで。
ピサロって、敵の攻撃はひょいひょいかわすくせにソロが殴ったときや今はよけないのね。
なんでだろう、なんだかよくわからない。
ソロとピサロがこっちに歩いてきた。ロザリーも後から静かについてくる。
歩きながらピサロはそばに置いてあったおけを手にした。すかさずお湯をくむ。
バシャッ!!

「わっ!」

ピサロがすごい勢いでソロにお湯をかけたの。

「やったな…!」
「……」

ソロとピサロのお湯かけ合戦が始まった。

「ねえ、なにあれ……」
「さあ、なんでしょう……」

623従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 16/26:2017/11/07(火) 18:18:04 ID:o46AGxQI
なんでふたりとも必死なの。

「おいてめえら、遊んでねえでさっさと入りやがれ!」
「わ、わかったよじいちゃん」
「てめえもだ!そっちは女風呂だ、そこの耳のなげえじょうちゃんのためにとっときやがれ」
「む……そうか……」
「え…?わ、私も入っていいのですか?」
「あったりめえだ、みんなで入るように作ったんだからよ」
「まあ……ありがとうございます!」

「入ろうぜ」
「…………」

「ピサロさま……」
「………………」

ソロとピサロが向かい合わせでお風呂に入ってる。なんか、なんかヘンな感じ。
ピサロは髪が乱れないように上で束ねてるからますますヘンなカンジ。

「…………」
「…………」

「……なんだ」
「…………」

「なんでもねえよ」
「…………」


「おじいさんは、ソロの、本当のおじいさんなんですよね……」
「…………」

ソロとピサロのお湯かけ合戦も落ちついてお風呂へのお湯足しも終わってまき足しに戻ったおじいさん、
私は思いきって聞いてみた。

――むかしむかし、北の山奥に天女が舞いおりたそうです――
――そして木こりの若者と恋に落ちふたりの間にはそれはそれはかわいい赤ちゃんがうまれたとか――

――その昔、北の森の中に木こりの親子が住んでおった――
――木こりの息子は森の中で美しい娘と出会って結婚までしたのじゃが……――
――ある日雷にうたれて死んでしまったのじゃ――
――息子は死んでしもうたが親父のほうは今でもひとりで木こりをしておるそうじゃ……――

624従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 17/26:2017/11/07(火) 18:22:05 ID:o46AGxQI
――その昔、地上に落ちて木こりの若者と恋をした娘がおりました――
――しかし天空人と人間は夫婦になれぬのがさだめ――
――木こりの若者は雷にうたれ娘は悲しみにうちひしがれたままこの城に連れ戻されたのでした――
――しかし娘はどんなときでも地上に残してきた子どものことを忘れたことはありません――
――もし今のソロを見ればきっと涙にくれるでしょう――

――ひとつはっきりしたことは、ソロさんのお父上は死んでこの世にはいない、ということですね――

ブランカの言い伝え、天空城での言葉、クリフトの言葉……いろんなことを照らし合わせると見えてくる真実。
このおじいさんは、ひとりで木こりをしているお父さんのほう、つまり、ソロのおじいさま…!

「どうだかな」
「…………」

「北の森の中に木こりの親子が住んでたって。
息子さんは雷にうたれて死んでしまったけど、お父さんのほうは今もひとりで木こりをしてるって。
それ、おじいさん、あなたのことなんですよね…?」
「…………」

「さあな」
「…………」

だめだ、取り合ってもらえない。こっちを見てもくれない。このままじゃはぐらかされちゃう。
でも、でも、きっと合ってるはず。このおじいさんがソロの本当のおじいさまのはずなの。

「ソロには名乗ったのですか?教えてあげたのですか…?」
「………………」

「あいつが今求めてるのは身内でもねえしなあ」
「そんなのわからないじゃないっ」

おじいさんはちょっとびっくりして私を見た。私もまっすぐおじいさんを見た。

「ああ……」

おじいさんはずっと私を見てる。私も目をそらさないでずっとおじいさんを見てた。

「お前か……」
「え?」

おじいさんは手を止めた。私からいったん目をそらして遠くを見る。

「あいつも、お前みたいにまっすぐしゃべるやつだったな」
「え…?」

625従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 18/26:2017/11/07(火) 18:25:39 ID:o46AGxQI
おじいさんは改めて私をゆっくり見た。さっきとちがうとっても優しい目をしてた。
丸太を無造作に置いて私たちに座るよう勧めてくれる。私たちが座ったあとおじいさんも向かいに座った。
何かを言いかけようとしてやめて、また言おうとするけどやめて。
まるで口にするのが惜しいと言わんばかりにためらいながら、けどゆっくり話し始めたの。

――手放したくなくなっちまうからよ――

…………。

「ソロを……あいつを初めて見たとき、いっしゅん息子が帰ってきたのかと思った。
本当にそっくりだったんだ……。
しけた面も、ちょっときついこと言うと大声で泣きだすしぐさも、すぐ逃げだそうとするくせも……
なにもかも……。
ああ、こいつはオレの孫で、村でなんかあったなって、すぐわかった。
煙が上がってたようだったからな、空も紅かったし、まあそういうことだったんだろう」
「…………」
「なんで助けに行かなかったんだって、思うか?」
「ん……」
「…………」

「オレはオレでまあいろいろあったんだ。もうあの村には戻らないつもりでここに家を建てた」

まさか、村がなくなるとは思わなかったがな……おじいさんは小さくつぶやいた。

「もしソロに名乗っちまったら、お前はたったひとりの身内なんだって伝えちまったら……」

おじいさんはそこで一息つく。また惜しそうに遠くを見ながら、けど言葉を続けた。

――また手放したくなくなると思う……――

…………。

「手放したくなくて、意地でも手もとに置こうとして、反抗させて、村に逃げられることになって……」

――そうして息子は失った――

「…………」
「オレなりにちったあ反省して息子と嫁と孫を受け入れる準備はしてたんだ。あの風呂もそのひとつでな」

言いながらおじいさんはお風呂のほうを見た。
お風呂の中で結局取っ組み合いになってるソロとピサロに苦笑いする。

「だから……」
「………………」

626従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 19/26:2017/11/07(火) 18:29:22 ID:o46AGxQI
「ごめんなさい…っ」
「…………」

わたし……いつの間にか目に涙がたまってた。息が詰まる。胸が苦しい……。
クリフトはなんにもしゃべらない。おじいさんもしばらく黙ってた。

「嫁も、お前みたいな気の強い女だった」
「…………」
「オレをまっすぐ見やがって、嫁と認めてもらおうと必死だったな」
「…………」
「息子を生き返らせてもらおうと必死だったって、後から聞いた……」
「…………」

――天女っつったって、オレたちとなんら変わらない……――

人間だったんだ、おじいさんは聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。

「あんただろ?やたらソロに話しかけてくれてたのは」
「え?」

――じいちゃん、こないだ仲間になった女の子がやけに俺に話しかけてくるんだ――
――ほとんどがどうでもいい話だけど――
――へえ――
――さっきもどこ行くのって聞かれた。別にどこだっていいだろうのに、なんなんだろうな――
――そりゃてめえ、てめえのこと心配してるからじゃねえか?――
――心配?――
――おう――
――…………。……俺のこと心配するやつなんかいねえよ――

――俺は、地獄の帝王を倒して世界を平和にする勇者さまだから……――

――そいつがそうだったらどうすんだよ――
――どうって……――
――興味がなきゃ話しかけねえさ。少なくともそいつがてめえのこと気にしてんのは確かだ――
――…………――

――……じいちゃん……――
――あ?――
――俺……――
――…………――
――…………――
――……まあ茶でも飲むか――
――………――

627従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 20/26:2017/11/07(火) 18:34:05 ID:o46AGxQI
――泣かせちまった……――
――…………――
――アリーナ泣かせちまった……――
――……ああ、おまえによく話しかけてた女か――
――……うん……――

――シンシアを泣かせてからもう二度と女は泣かせないって決めてたのに……――

――……で、そいつはなんて言ってた?――
――…………。……一緒に行こうって……――
――へ、やっぱりてめえのこと気にしてるんじゃねえか――
――…………――

「…………」

おじいさんは私をのぞき込むように見る。うーん、なんだろう。

「ソロを見てると息子を思い出して、あんたを見てると嫁を思い出す」
「…………」
「あんたに先約がいなけりゃソロの嫁に欲しかったな」
「え!?」

そういうとおじいさんはクリフトを見るの。びっくりするクリフト。

「いえ、あの、私は、その……」
「?なんだちがうのか?」
「っ……」
「じゃあ、ソロにもチャンスがあるってことか?」
「いや、あの…っ」
「え?なんの話?」

クリフトがすっごくヘンな顔してるの。眉にしわが寄って……
こまる?くやしい?もどかしい?うーん、なんだろう、ほんとにヘンなカオ。

「はっはっはっ」
「〜…っ」
「?」
「それに、あいつももう気づいてるかもしれねえ」

――じいちゃんをじいちゃんって呼んでいいのは俺だけだからなっ――

「少なくとも、あいつにとってオレは特別な存在みたいだ」

それだけでじゅうぶんだよ、おじいさんはソロを見ながら言葉を切った。

628従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 21/26:2017/11/07(火) 18:37:47 ID:o46AGxQI
「それにしても……」

おじいさんはまた私とクリフトを交互に見る。うーん、なんだろう。

「てめえらはまったく……」
「…………」
「???」
「いつどこで誰がどうなるかわからねえ時代だ。
今日笑顔で別れたやつと明日も笑顔で会えるとは限らねえ。だから」
「…………」
「…………」
「思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな」
「…………」
「…………」

思ったことはそのときに……

「はい」
「…………はい…………」

私に遅れてクリフトが返事した。あんまり元気のない声。
クリフト…?

「じいちゃん」

ソロが頭をふきながらこっちに歩いてきた。

「俺たぶん、あいつを殺したいんじゃないんだと思う」
「あ?」

ソロはいっしゅん私たちのほうを見たけど気にしない様子で言葉を続けた。

「俺さ、あいつを殺したいんじゃなくて、あいつに頭を下げさせたいんだと思う。
罪を認めて、償って、二度と同じこと繰り返さない生き方をさせたいんだと思う」
「…………」

――あいつのこれまでの人生を俺の手でひっくり返してやりたいんだ――

「あいつを殺しちまったらそれまでだ。きっと本当の意味であいつに復讐を果たせない。だから」

――バルザックはもういない。でもお父さんも帰ってこないのね。……当たり前か――
――バル……お父さん……――

629従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 22/26:2017/11/07(火) 18:41:26 ID:o46AGxQI
「あいつはまだ殺さない」
「……そうか」

「やりてえことが見つかったじゃねえか」
「……うん」

ソロ……。


「みんな、寄り道させて悪かったな」

お風呂も終わってご飯もすませて、一息ついたところでソロが声をかけた。

「いーえ、さっぱりしたしー」
「楽しかったわ、ソロさん」

マーニャとミネアもすっきりした顔してる。私もいい気分転換になったわ。
いちばん風呂、とっても広々してて手足いっぱいに伸ばしてもゆったり入れたの。
空を見ながら入るお風呂なんて最高!
あったかくてお湯もたっぷりで、ずっと入ってたいくらいだったわ。

「なんだ、もう行くのか?」

荷物をまとめようとするソロにおじいさんが声をかけた。

「ん、うん」
「…………」

「ふん!てめえらみたいなガキどもはこのままひと晩泊まっていきやがれ!」
「え?」

「こんな人数だけど泊ってっていいのか!?」
「毛皮ぶとんでよけりゃあな!」
「やったあ!」
「?」

「毛皮ぶとんってどんなの?」

ソロがまたにやっとするの。

「羽根ぶとんとはまた違うぜ?寝てみるか?」
「うん!」
「ひ、姫さま…!」

630従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 23/26:2017/11/07(火) 18:47:13 ID:o46AGxQI
「えー?なにこれ、みんな毛皮ぶとんなのー?高級じゃーん!」
「先ほどの大きなタルといいおじいさんて手先が器用なのですね」

ベッドがひとつにあったかそうな毛皮ぶとんがみっつ。けっこう広めだからひとつにふたりで寝られそう。
おじいさんは自分が食べる分しか動物を狩らないから毛皮ぶとんはとっても時間をかけて作ったんですって。
場所によって毛並みが違うからなんまいもぬい合わせて……
これはきっと、おじいさんの息子さんとお嫁さんとソロの分だったんだ……そう思ったらまた目が熱くなった。

「あまり大人数で押しかけてもなんです、私は馬車で休むとしましょう」
「あ、私もそうします。どうぞ皆さんごゆっくり」
「ふむ……。あまりクリフトのアホーめに姫さまを任せたくはないが、この人数ならまあよいでしょう」

ライアンとトルネコ、ブライはおじいさんにごあいさつして馬車へ戻ってった。
気を利かせてくれたのね。じいはクリフトにも何か小声で話してた。ふたりともまじめな顔。なんだろう。
半端に残ってる毛皮があったみたいでおじいさんが防寒に使いやがれってみんなに渡してた。すごいなあ。
私は毛皮ぶとんで寝てみたいから泊めてもらうようお願いした。
ピサロとロザリーはまたどこかに行っちゃったからあとはソロとクリフトとマーニャとミネアのよにん、
みんなでかたまって寝ればいいわよね。
おじいさんはベッドにお願いしてソロとクリフトで毛皮ぶとんひとつ、私たちさんにんで毛皮ぶとんをふたつ使わせてもらった。
さんにんで並んで寝るなんてそんなにないから嬉しい。
私たちはおやすみのあいさつをしても明かりを消しても小声でずーっとおしゃべりしてた。
羽織りをいっせいに放り投げたときの話がいちばん盛り上がった。
最初はあんまり乗り気じゃなかったミネアがけっこうノリノリで飛ばしてたのよね!
そしたらおじいさんにさっさと寝ろって怒られちゃった。あ、日課の腕立てふせが……うーん、ムリか。

「おやすみ、マーニャ、ミネア」
「おやすみー」
「おやすみなさい」


「てめえら、いつまで寝てんだ!」

朝、おじいさんにたたき起こされる。
私よっぽど疲れてたのかしら、毛皮ぶとんが気持ちよかったのかな、起きたときには日が高くのぼってた。

「あーよく寝た!」

おじいさんの家で朝ごはんをとらせてもらう。ちょうど動物を狩ってきたってお肉料理を用意してくれた。
馬車のやつらにも持ってけって持たせてくれる。
おじいさんて……マーニャが正に私が思ったこと、おじいさんてけっこうやさしい人じゃないのって代わりに言ってくれた。
クチは悪いけどって茶化しながら。おじいさんはいっしゅん手が止まる。

「やめてくんな!けつがかゆくならあ!」
「えー?」

631従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 24/26:2017/11/07(火) 18:50:53 ID:o46AGxQI
「おしりがかゆくなるなんて変なおじいさん」
「照れているのですよ」
「え?そうなの?」

なんで照れるとおしりがかゆくなるんだろう。よくわからない。

「私が照れるとおしりではなく頭のほうがかゆくなってきますけどね」

クリフトもよくわからない。
クリフト、昨日は元気なさそうに見えたけど、だいじょうぶだったのかな。
今はなんともないみたい。相変わらずすぐそこに座ってる犬を気にしてる。
うん、だいじょうぶかな、クリフト。

「あーあ、赤くなっちゃって。おじいさんて照れ屋さんなのね」
「うるせえ!」
「ちょっと姉さん……。
でも、照れるとおしりがかゆくなるなんて、ずいぶんと変わった体質の持ち主ですね」
「てめえもだまってやがれ!」

赤くなったおじいさんにマーニャがにやにやしてる、ほんとに照れてるのね。
どうしてみんなわかったんだろう。私さっぱりわからなかったわ。

私たちはおじいさんになんどもお礼を言った。
おじいさんはまた照れたのかな、さっさと出てゆきやがれってまた怒られちゃった。
ソロがおうって元気よく返事する。これがふたりのあいさつなのね。
また来たいな。ソロのおじいさま、いちばん風呂にやわらかな毛皮ぶとん!
修行のために山にこもってこんな小屋で過ごすってのも悪くないわ。
あ、修行といえば……

馬車に戻って出かけるしたくを整えたあと私は腕立てふせを始めた。
きのうはすぐに寝かしつけられたから日課の腕立てふせができなかったんだわ!
日課をこなしながらソロに声をかける。

「ねえソロ!」
「あ?」
「ソロはおじいさんのことが好きなのね!」
「…………」

「……まあ、俺の親代わりみたいな人だからな」
「そうなのね」

私は腕立てふせを急いですませてソロのそばに寄った。

632従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 25/26:2017/11/07(火) 18:54:42 ID:o46AGxQI
「村をなくして独りになって、最初に着いたのがこの家、最初はじいちゃんに追い出されたんだ」
「え…?」
「けど俺が、まあ、出ていこうとしたら引き止めてくれてさ、昨日みたいにひと晩泊まってけって、結局何日も泊らせてくれたんだ。
こづかいもくれたし防具もくれた。飯も食わせてくれた。だから俺も木こりの手伝いした。どんだけここにいたんかなあ」

そう言うとソロは少しだけ笑った。きっとそのときのことを思い出してるのね。
懐かしそうな顔してる。

――おい、あんまりひっつくなよ――
――…………――
――まったくてめえは……――
――…………――
――おい、寒いのか?震えてんじゃねえか――
――…………――
――だいじょうぶか?――
――……うん……――
――もっとしっかりくるまりやがれ。風邪ひいたらつれえぞ?ふとんいちまい足しとくか――
――…………――

――なんか……父さんみたいだ……――
――てめえみたいなしけたやろうを息子に持った覚えはねえわ――
――へへ、父さんみたいだ……――
――…………――
――父さん…っ――
――だいいち歳が離れすぎてるだろう。オレのことはせめてじいさん……じいちゃんって呼べ――
――じいちゃん……うん、じいちゃん……っ――
――…………――

――じいちゃん……いてえ……いてえよお……――
――てめえ!なにやってんだ!――
――いてええ…!――
――キリキリバッタか、また派手に喰われやがって…!さっさと横になりやがれ!――
――うん…っ――

――いてえ……いてえよ……じいちゃああん……――
――あせるんじゃねえ、だいじょうぶだ。ゆっくりちゃんと息しやがれ――
――うん……はあ……ふう……――
――目は開けたままにすんな。よけい疲れるぞ。ちゃんとまばたきしやがれ――
――うん……――
――ちょっとくれえ閉じたって死にゃあしねえからな――
――うん…っ――

633従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 26/26:2017/11/07(火) 18:58:19 ID:o46AGxQI
――いてえ……――
――だいじょうぶだ、だいぶ血は止まったからな――
――俺、死ぬのかな……――
――バカやろう、ちょっとはらわた喰われたくれえで死ぬわけねえだろう――
――そっか……よかった……――
――まったく……――
――じゃあ、なんでこんなにいてえのかな……――
――そりゃてめえ、生きてるからに決まってんだろ。いてえっていってるうちはだいじょうぶだ――
――……どうしよう、そんなこといったらあんまりいたくなくなってきた……――
――バカやろう、いてえことにしとけ――
――うん……いてえよお――

――おう、あんまり無理すんな――
――腹の傷は治るのに時間がかかるし後にも響くから厄介なんだ。ここでちゃんと治していけ――
――……うん……――

――いいか、ソロ――
――どうしても相手を殺さなきゃならねえときは首か腹を狙え。そこが急所だ――
――腕や足を斬りおとしたところで相手は死にゃあしねえ、長く苦しませるだけだからな……――
――逆に相手もそこを狙ってくる。どこ失ったって急所だけはぜったいにとられるんじゃねえぞ――
――うん――

「実戦はぜんぜん違った。俺が村で習ってたことは本当に基礎で、じいちゃんに教わったことも多かった。
じいちゃんには敵わねえよ」

ソロが笑いながら話してる。なんだかすっきりした顔。ふっ切れたのかな。
きっと迷いが晴れたのね。やりたいこと、本当に見つかったんだ。見つけられたんだ。
それはきっとおじいさんのおかげ……
私もお城のみんながいなくなったときクリフトがそばにいてくれた。クリフトがぎゅってしてくれた。
だから今まで元気にやってこれた。
ソロにとってはここの木こりのおじいさんがそうだったのね。私はふとクリフトを見る。

「……?姫さま?」
「ううん、なんでもない。見てただけ」
「そ、そうですか」

クリフトがいてくれてほんとうによかったって思う。なんだかくやしいな。ひとりでなんでもできるはずだったのに。
でも、私も……
私のやりたいこと。

――思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな――

ソロはピサロとの戦いに一区切りをつけた。だから次は、私の番。
あまりにいろんなことが起こりすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、私もやっと決意が固まった。

634従者:2017/11/07(火) 19:02:40 ID:o46AGxQI
何かと謎の多い山奥の村ときこりの家ですが、山奥の村では宿屋の主人が「昔の習慣」と言いつつ部屋の掃除をしていたことから
かつてあの村は宿屋が稼働できるくらいには人の行き来があり木こりの親子も最初はそこで暮らしていたとしました。
それがソロが地獄の帝王を倒して世界を平和にする勇者と予言されてからは理解者のみを残して人を寄せつけなくなり
ソロが物心つくころには村の存在自体語られなくなったとしました。
(宿屋の主人は理解して村に残ったので別に宿屋が稼働しなくても生きていけるのですが何かと昔の習慣が忘れられなかったということで)
ブランカでは木こりの親子の存在は知られているも天女の存在はおとぎ話にされていたことから
村の存在を語られなくするために木こりのおじいさん(というかおじいさん世代の人たち)も一役買っていたのではと考え至りました。
また6章後にでもクリアリに絡めてこのあたりを書けたらと思います。ソロでクリアリ第二弾、どうぞ気長に待っていてください。

ありがとうございました。

635名無しさん:2017/11/11(土) 00:38:52 ID:c2bhkkMI
あら、これはこれは乙です。
長らくお見かけしませんでしたがお変わりなさそうで何よりです。
お越しになる頻度は人それぞれ。ご無理は禁物。
便りがないのは無事の知らせと前向きにとらえております。
wikiの管理人さんもきっとご無事なのでしょう。

作品を書く方も乙。他人投下のきっかけを作る方も乙。
今日の読み手も明日の書き手候補。
皆さん乙です。

636従者:2017/11/15(水) 17:27:10 ID:2e7LBrXc
乙ありがとうございます。お心遣い痛み入ります……。
以下の投下で6章は最後のエビルプリースト戦を残すのみですのでこれでやっと2章に戻ります。

PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、6章「失踪の行方」25レス分一気にいきます。
ほぼオリジナル展開ですご覧の際にはお気をつけください。クリアリパートは1/25〜14/25くらいです。
前回も今回もクリアリ以外の部分がとてもデリケートな問題で恐縮です。
2chではまず投下できなかった範囲と存じます。このスレの寛大さに心より感謝いたします……

637従者の心主知らず 失踪の行方 1/25:2017/11/15(水) 17:30:54 ID:2e7LBrXc
――お父さまたちを返してもらう――

「ピサロ」
「…………」
「話があるの」

食堂で夕食をすませたあと私はまだいすにかけていたピサロの前に立った。
ロザリーが驚いて私と後ろのクリフト、ブライを見る。ピサロは目だけこっちに向けた。

「私はアリーナ、サントハイム王の娘よ」
「……」

「そのようだな。エンドールの武術大会で知った」
「そう……」

「なら話は早いわ」

私はピサロをにらむ。

「お父さまたちをどこにさらったの」
「……」
「返して」
「…………」
「アリーナさん……」

ピサロは目線を戻して小さく息をついた。

「わたしではない」

…………。

「報を受けサントハイムに向かったときにはすでに廃墟になっていたのだ」
「なんじゃと…?」

なに言ってんのこいつ……。

「うそおっしゃい!」
「うそをついて何の得があるのか」
「だって、あんたがいなくたったとたんに魔物たちもいなくなったって聞いたわ。
あんたが魔物たちを連れてお父さまたちをさらったんでしょう!?」
「逆だ。魔物たちが身を潜めたから大会を放棄して現場に向かったのだ」

…………。

638従者の心主知らず 失踪の行方 2/25:2017/11/15(水) 17:34:31 ID:2e7LBrXc
「だって、だってお城を乗っ取ったじゃない!」
「ああ……。空き巣だったからな」
「そんな言い方…!」
「姫さま……」
「ピサロさま……」
「あんたじゃないっていうなら誰だっていうのよ。誰がみんなをさらったっていうの!?」
「教えてやる義理もない。どのみち、今となってはもうどうでもいいことだ」
「なんですって…!!」
「ピサロさま…!」
「返してよ…!!お城のみんなを返してよっっ!!」
「…………」

ピサロが笑った。笑ったの。こいつ…っ!!

「そうだ、そうでなくてはな……。
己がため、己が身内のためには手段を選ばない。やはり人間とはそういう生き物なのだ。
安心したぞ……」
「ピサロさま…っ」

寒くないのに寒気がした。鳥肌が立つ。息がつまって……背筋がぞくっとした。
なにこれ……。
気づいたらクリフトとブライが私の前にいて構えてた。とっさに私も身構える。

「何やってんだよ」
「ソロ……」
「ソロさん」
「…………」

「別段何もしておらん。もう寝ようと思っていたところだ」

寒気がいっしゅんで消えた気がした。ぞくぞくも消えてる。
いつもの食堂に戻ってた。
もしかして、さっきのはピサロのちから…?そしてこれは、ソロのちから……?
ピサロはソロが苦手なんだってことがなんとなくわかった。

「待ちなさいよ、まだ話は終わってないわ」
「お前に話すことはもう何もない」
「待ちなさいよ!!」

ピサロは返事もしないで食堂から出ていった。

「ピサロさま、お待ちくださいピサロさま!」

ロザリーが後を追って出ていく。振り向きざまに泣きそうな顔で私に頭を下げながら。

639従者の心主知らず 失踪の行方 3/25:2017/11/15(水) 17:38:07 ID:2e7LBrXc
「アリーナ、大丈夫か?」
「うああぁぁぁああああ…っ!!」
「アリーナ!?」
「姫さま…!」
「姫さま…っ」
「なんで、なんでえ…っ!?ピサロじゃないのお…っっ!?」


「姫さま……」
「…………」

私たちは部屋に戻った。私がお願いしてクリフトといっしょの部屋にしてもらったの。
ソロは何か言いたそうだったけど黙って見送ってくれた。じいも何も言わずにふたりにさせてくれた。

ここはサランの宿屋。私もピサロと決着をつけたい、ソロにそうお願いしたらわかってくれて。
故郷でつけるかって聞いてくれたんだけど、私は今のあのお城にはあんまり行きたくなくて……
でも勇気をわけてほしかったからとなりのサランに連れてってもらったの。
お前も来いよってソロが言ってくれて、ピサロとロザリーは何も言わずについてきた。
お昼をすませて教会に行って、神父さまにごあいさつしてお祈りしてご加護をもらって……

――これで決着がつくはずだったの…!――

部屋に戻ってからクリフトがなんどか声をかけてくれてたけど今は返事をする元気がなかった。
クリフトが私のこと見てるのわかったけど私は見なかった。
見られなかった。頭の中がぐちゃぐちゃでもやもや、なんだかぼんやりしてしまってるの。

「姫さま」
「…………」

クリフトはずっと私を見てる。

「あの口ぶりですと、ピサロさんは確実に何かを知っています。もう一度、話してみる価値はあると思います」

クリフトが話し始めた。やけにゆっくりで静かな声。

「それに……お詫びをしなければならないことがありますし」

え…?

「あんなやつに何を詫びるっていうの?」

私は思わず顔を上げてしまった。クリフトを見る。

「…………」

640従者の心主知らず 失踪の行方 4/25:2017/11/15(水) 17:41:44 ID:2e7LBrXc
クリフトも私がいきなり返事したからびっくりしたのかな、しばらく私を見てたけどまたゆっくり話し始めた。

「私たちは、デスピサロという名前だけを頼りに、漠然としたまま旅を続けてきました。
それがいつしか、サントハイムの皆さんをさらったのはデスピサロなのだと思い込むようになっていたのです」

――そうしなければ旅を続けられなかったから……――

「ですが、今日ピサロさんの話を聞いて、私がただそう思っていたかっただけなのだとわかりました」
「…………」
「サントハイムの皆さんをさらったのはピサロさんではなかったのです。その事実は、受け入れなければなりません。
今まで疑ってしまっていたことを……詫びたいのです」

…………。

「あいつは私たちにさんざんひどいことをしてきたのよ!?」
「姫さま……それとこれとは、話が別なのです。少し、難しい話なのかもしれません。
ですが、どうか、聞いてください……」
「…………」

「サントハイムを占拠したこと、ソロさんの村を滅ぼしたこと、人間を滅ぼそうとしたこと、これまで奪ってきた多くの命、
それらすべては決して許されることではありませんし、私も片ときとて忘れたことはありません」
「…………」
「ですが、だからといって、してもいないことをしたと疑っていい道理はないのです」
「きっとうそついてるのよ!」
「ええ、もしかしたらうそかもしれません。ですが、それを決められるのは私たちではありません。
彼がうそではないと言っている以上、私たちがそれを疑っていい理由はないのです。
誰がサントハイムの皆さんをさらったのか、それを教えていただくためには、まずピサロさんだと疑ってしまっていたことを詫びる、
それは人として、当然の礼儀ではありませんか…?」

……………………。

「わかんない…っわかんないよっ!私はクリフトみたく大人になんかなれないもんっ!」
「姫さま……」

クリフトは忘れてしまったんだ、今までのこと……
ロザリーを生き返らせてあいつに会いに行ったとき、あいつは私たちにお礼を言った。私たちと戦うことをやめた。
アンドレアルが飛んできたときも戦わないよう指示してくれた。あのとき、すこしでもいいやつなのかと思った。
これでよかったのかしらって、ほんとうにそう思った。
けど、ソロに向けたひどい言葉。
ロザリーはあんなに謝ってくれてたのに、あんなに泣いてくれてたのに、あいつはなんにもしなかった。
さっきだって、空き巣とかどうでもいいとか、ぜんぜん悪いことしたと思ってない。私たちの気持ちなんかなにひとつ考えてくれてない!
あんなやつに謝ることなんかひとつもない!!あんなやつ……!!

「姫さま……」

641従者の心主知らず 失踪の行方 5/25:2017/11/15(水) 17:45:29 ID:2e7LBrXc
クリフトは寂しそうな顔してた。

「……必ず、情報を得てまいります……」
「…………」
「必ず、取り戻しますから……」

――サントハイムの平和は、姫さまの笑顔は、このクリフトが必ず取り戻してみせますから……――

クリフト……?
クリフトはとても真剣な顔してた。

「ですから、少しだけこちらで待っていてください」
「…………」

クリフトはそういって上着を羽織った。出かけるしたくをする。
クリフト……

「…………」

クリフトはなんでピサロに謝るの?謝りたいの?あんなやつ……
先に謝るべきなのはあいつのほうなのに、なんで……

「…………」
「…………」

お父さまたちのためなの……?私のために、ピサロに謝ってくるの……?
そうなの?クリフト……

「…………」

いつもの優しいクリフトなの……?いつものお説教クリフトなの……?

――忘れてしまったわけじゃないの……?――

「姫さま、ではすぐ戻ってまいります」

クリフトは一礼してお部屋から出ていった。何の迷いも戸惑いもなくさっそうと出ていった。
お部屋がいっしゅんしんとなる。

「…………」

クリフト……

「……………………」

642従者の心主知らず 失踪の行方 6/25:2017/11/15(水) 17:49:05 ID:2e7LBrXc
クリフトぉ…………

「やだ、まって……クリフトまってよっ」

私は勢いよく扉を開けて廊下へ出た。
私の声が聞こえたのかな、すぐ向こうでクリフトが振り返ってるのが見えた。

「姫さま…?」

私はクリフトのもとまで駆けていく。急いでそでをぎゅってつかんだ。

「姫さま?」
「私が行く」

え…?

「私が謝る……」
「姫さま……」

わたし、なに言ってるんだろう。

「私が謝って、私が聞いてくる……」
「…………」
「ちゃんと、自分のちからで聞いてくる……」
「………………」

「ご一緒いたします」
「…………ん…………」

思わず口をついて出てしまった言葉。自分でもびっくりした。
でも、だいじょうぶ。クリフトが行くのなら、私が行く。私はひとりでだってなんでもできるはずなの。だから、
たった今そう決めた。


「ソロ…ッ!!」

ピサロとロザリーのお部屋の前に行ったらピサロの声が聞こえた。
なんだかイライラしてるみたい。

「なぜだ!なぜだ…っ!!」
「ピサロさま…っ」
「人間とは欲深い生きものだ。愚かな種族のはずなのだっ!」
「ピサロさま、そんなことはありません」
「なぜお前はいつも……お前はこれまでどれだけの人間に狙われ続けてきたと思っているのだっ!!」

643従者の心主知らず 失踪の行方 7/25:2017/11/15(水) 17:53:02 ID:2e7LBrXc
っ…。
胸がずきってした。
そう、ピサロはロザリーを人間の手から守ってきてくれてたんだ……。
それはきっと、ほんとうのこと……。

「お前の必死の呼びかけに応じ、いく度も人間を見逃しては改心を試みさせた。
だが、結果人間たちのとった策は何だった?」
「…………」

……聞きたくない。そんな話聞きたくない。

「お前はどんな人間たちにも寛大だったが、人間たちはたった一人のお前に寛大だったか?
われわれ魔族に、寛大だったか…?」
「…………」

ロザリー……。

「でも……でも……それでもわたしは、誰かを憎んで生きていきたくはないのです……」

――みんなが笑って過ごせる日が、いつか必ず来ると信じてる――

ロザリー…っ

「それに、すべての命は尊ばれるべきだと、わたしに教えてくださったのはピサロさまではありませんかっ」

え?

「………………」

ガタッ。

「…っ」

え。

「んっ…」
「っ…」
「あぅっ…」

え?え…?何してるの?何かにぶつかった音……声を出したいけど出せないみたいな声……
背筋がぞわってした。もしかして、もしかして首とか絞めてるんじゃ…?
思わずクリフトのほうを見る。クリフトも少し焦ったような顔してこっちを見る。どうしよう…!

「ロザリー!!」

644従者の心主知らず 失踪の行方 8/25:2017/11/15(水) 17:56:36 ID:2e7LBrXc
私はいても立ってもいられなくなって扉を勢いよく開けた。

「あ…」
「アリーナさん…っ」

ピサロはロザリーを抱きしめてた。ロザリーを見てたけど、にらみつけるような目でこっちを見た。
ロザリーは顔を真っ赤にして目をそらした。

「何の用だ……」

ピサロはロザリーを離した。
ロザリーは顔を真っ赤にしたまま両手で口もとを隠して後ずさりした。

えっと……今……いっしゅんしか見えなかったけど……えっと……キス、してたのよね……。

「えっと……謝ろうと思って……」
「謝る?」
「疑ったから」
「…………」
「お城のみんなをさらったのはあなたじゃないって言ってたのに、疑ったから……」
「…………意味がわからん」

ピサロがこっちに歩いてきた。私を見下ろしことさらににらみつける。

「オレがきさまらに何をした?
確かにかの人間どもを転移させたのはオレではない。だがあの城を占拠させたのはオレだ。
きさまら愚かな人間どもを滅ぼそうとしているのもオレだ。きさまらにとって敵であることに変わりはない。
何を詫びることがある?頭がいかれたのか!?」
「っ…!!」

ピサロがイライラしてるのが伝わってきた。口調も荒い。
いっしょうけんめい我慢しないと私も頭が沸とうしそう。

「それとこれとは、話が別だから…っ」

わたしはいっしょうけんめい言葉で返した。

「お城を乗っ取ったのは許さない。ソロの村のみんなを殺したのだって、人間を滅ぼそうとしたのだって許さない!
ぜったい許さないっ!!
でも………っ…でも……だからって、みんなをさらってないって言ってるのにさらったって疑うのは悪いことだから…っ」

わたしはクリフトに言われたそのまんまの言葉をならべた。
自分でもなにを言ってるのかわからない。とにかくクリフトに言われたまんましゃべった。

645従者の心主知らず 失踪の行方 9/25:2017/11/15(水) 18:00:11 ID:2e7LBrXc
「アリーナさん……」
「だから…っ」
「………………」
「ごめんなさい…っっ」

ふるえる手をぎゅってして、わたしはいっしょうけんめい頭を下げた。

ガタッ!
いすが揺れた。ピサロがぶつかったみたい。でも私は顔を上げられなかった。
くるしい。もういやだ。いちびょうもここにいたくない…!

「じゃあ、おやすみ……」
「まて……まて……」

パタン……。


「姫さま……。よくがんばりましたね……」
「ん……」

けっきょく聞けなかった。だれがお城のみんなをさらったのか、聞けなかった……。
でも……

「もうあんなやつと話したくない……」
「……はい」

「姫さまは一番言いにくいことを誰よりも先に言ってくださいました。誰よりもがんばってくださいました。
後のことは、どうかこのクリフトにお任せください」

クリフトがそっと私の髪をなでてくれた。心地いい……。
なんだろう、いつもはこんなことしないのに。
私はクリフトを見た。クリフトも私を見てた。とっても優しい顔。優しい目。笑ってる……
クリフト……

――やっぱりいつものクリフトだ――

「ねえクリフト、いっしょに寝よ…?」
「えっ?……いえ、その、それは……」
「お願い、いっしょに寝て……」
「姫さま……」
「おねかい……」
「…………」
「おねがい、そばにいて…………」
「………………」

646従者の心主知らず 失踪の行方 10/25:2017/11/15(水) 18:04:04 ID:2e7LBrXc
「…………はい…………」


「姫さま…っ」
「……」
「あ、あの…っっ」

お風呂をすませ、着替えてお祈りしてベッドに入った私たち、私はクリフトの上に乗りかかった。
なんだか寒いの。からだがふるえてて眠れないの。ひっついてるとあったかいから……

「クリフトあったかい……」
「姫さま……」
「おねがい、このままでいて……」
「……は、はい……」
「…………」
「…………」
「…………」
「………………」

クリフトがわたしの腰にそっと手を回してくれた。
最初はさわったりはなしたりまるでおそるおそるさわるみたいな感じだったけど、だんだんしっかりふれてくれる。
あったかい……。

「…………」

どれくらい時間がたったのかな、ふとクリフトが手をほどいて動いたのがわかった。

「え?クリフトどうしたの?どこかに行くの?」
「…………」
「お手洗い?」
「いえ、ちょっと外に……。大丈夫です姫さま、すぐ戻りますから」
「やだクリフトどこにも行かないで。クリフトが外に行くならわたしも行く」
「姫さま……」
「わたしをひとりにしないで……」
「……………………」

「はい、姫さま」

クリフトはまたからだを戻して私の腰に手を戻した。どこにも行かないみたい。
ちょっと気を抜くと私より早く起きたりどこかに行ったりしてしまうクリフト、私は思いっきりぎゅってした。

「姫さま……」
「…………」
「………………」

647従者の心主知らず 失踪の行方 11/25:2017/11/15(水) 18:08:03 ID:2e7LBrXc
クリフトも私を優しくぎゅって返してくれた。
もう片ほうの手も伸ばして私の背中に回してくれる、私はほとんどクリフトの上に乗っかる感じになった。
私、重たくないかな、だいじょうぶかな……。

「…………」
「…………」

だいじょうぶかな……クリフト、もうどこにも行かないかな……。
だいじょうぶかな……。

「…………」
「…………」

だいじょうぶ、かな……。
わたし、またちょっと気が抜けたみたい。でもクリフトはずっと私をぎゅってしてくれた。
クリフトほんとにあったかい……。

「…………」
「…………」

――…っ――

…………。

――んっ…――
――っ…――
――あぅっ…――

「…………」
「…………」

あのとき……

「…………」
「…………」

キス、してた……。
なんで今になってあの光景だけ思い出すんだろう。ピサロはロザリーを見つめてた。
ロザリーは顔が真っ赤だった。

「ねえクリフトー……」
「……はい、姫さま」
「キスって、そんなに気持ちいいのかな……」
「っ…姫さま…!?」

648従者の心主知らず 失踪の行方 12/25:2017/11/15(水) 18:11:35 ID:2e7LBrXc
「ロザリーはね、アドンともキスしたことあるんだって」
「…………」
「アドンがずっと泣いてて震えててつらそうで、ぎゅってしてもぜんぜんおさまらなくて……
気づいたら自分からしてたんだって。
アドンね、キスしたらすっごく気持ちよさそうにしてたんだって。緊張がとけて、泣いてたのも震えてたのもおさまったんだって。
スライムがキスすると健康にもいいんだよって言ってたんだって」
「姫さま……」
「クリフトにお薬飲ませたときはよくわかんなかった」
「………………」

「ねえクリフト……」
「…………」
「キスしよ…?」
「姫さま……」

「魔族やエルフの文化は私にはわかりません。
ですが、神に仕える者にとって口づけとは誓いを示すものです。将来を誓い合う者たちだけの神聖な儀式……」
「クリフトー……」
「……はい」
「難しいことよくわかんない」
「姫さ…んぅっ」

私はクリフトにキスした。クリフトが逃げないよう首に腕を回して。

「ん…」
「っ…っ」

クリフトのくちびる、やわらかい。あったかい。クリフトの匂いがする。今クリフトとすっごく近いんだ。
あ、ちょっと待って。やだもう、よだれたれちゃう。恥ずかしいなあ。
私は自分のよだれといっしょにクリフトのだえきも吸った。なんかヘンな味。
クリフトは最初されるがままになってたけど私といっしょでよだれがたれそうになったのね、私のだえきを吸ってきた。
私のなんておいしくないのに。キスってやっぱり抵抗あるなあ。
最初は気づかなかったけどちゅ、とかちゅぱ、とかヘンな音が聞こえてきたから私はなんとなく口を離した。

「ん……やっぱりよくわかんない……」
「ひめ…さま…」

クリフトは私を横によけてそのまま私の肩に顔をうずめた。

「クリフト?」
「どうか、このままで…っ」
「ん……」

649従者の心主知らず 失踪の行方 13/25:2017/11/15(水) 18:15:05 ID:2e7LBrXc
なんだろう、クリフトは顔をうずめたままだまっちゃった。
少しだけ息が乱れてるみたい、なんでだろう。
さっきのキス、息が苦しくなるほど長くはなかったと思うけど。

「…………」
「………………」

――思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな――

またひとつ、思い出した。
あのとき、クリフトは元気ないように見えた。
次の日にはいつもの調子に戻ってたからあんまり気にしなかったけど、あのときクリフトは何を思ってたのかな。

「ねえクリフトー」
「…………」

クリフトは顔をうずめたまま返事しない。ずっとだまったまんま。うーん、ほんとになんだろう。
私は構わずあのときのことを聞いてみた。クリフトもきっと思うこといっぱいあると思うの。

「あのときクリフトは、何を思ってたの…?」
「…………」
「私には、言えないこと…?」
「………………」
「…………」
「……………………」

やっぱりクリフトは答えない。顔をうずめたまま。やっぱり言えないことなのかな……。
少ししてクリフトはゆっくり顔を上げた。今度は私を倒して上に乗っかるような体勢になる。さっきとはんたい。
クリフトが私を見てるのがわかった。でも暗くてどんな顔してるのかはわからない。

「姫さま……」
「ん…?」
「……………………」
「?クリフト?」

クリフトがゆっくり私に顔を近づけてきた。え?
え、もしかして……え、もういちど?え?え?えええ??

「ん…っ」
「っ…」

私たちはもういちどキスした。クリフトから来るとは思わなかったわ。
神に仕える身とか言ってたくせに。私にはよくわからないけどやっぱりキスって気持ちいいのかな。
クリフト、今、気持ちいいのかな。だからもういちどキスしてきたのかな。

650従者の心主知らず 失踪の行方 14/25:2017/11/15(水) 18:18:35 ID:2e7LBrXc
「……」
「……」

うーん、やっぱりキスってよくわかんないや。

クリフトはキスが終わったあとまた私の肩に顔をうずめた。
途中から私をぎゅってしてきて。私もぎゅって返したらちょっとびくってしたけどまたぎゅって返してきて。
ちょっとからだが震えてたからおふとんをかけ直してもっとぎゅってしたら少し落ち着いたみたいで。
そのまま寝ちゃったの。
うーん、なんだったんだろう。変なクリフトだったわ。
私はそっとクリフトの頭をなでた。動かない、よく眠ってるみたい。
きっと朝になればまたいつものクリフトに戻ってるわ。優しくてまじめで堅苦しいお説教クリフトに。
私はもういちどクリフトの頭を優しくなでた。私もゆったり目を閉じる。

「おやすみ、クリフト」


「娘」

食堂で朝ごはんを食べてたらピサロが寄ってきた。娘って私のことかしら。

「おはようございます、ピサロさん」
「……おはよ……」

私はちらっとピサロを見てすぐ視線を戻した。できるならもう話したくないから。

「…………」

ピサロはしばらく無言で突っ立ってたけどそのままあっちに行っちゃった。

「なんなのあいつ」
「…………」

「ピサロさん、夕べはあまり寝ていないかもしれませんね」
「え?」
「目が少しくすんでいましたから」
「…………」

そんなの知らない。

「娘」

朝ごはんを食べ終わったころあいつがまた来た。ほんとになんなの。

651従者の心主知らず 失踪の行方 15/25:2017/11/15(水) 18:22:06 ID:2e7LBrXc
「昨日の話だが」
「…………」
「サントハイムの人間どもを転移させたのは帝王エスタークだ」
「え…?」
「伝えたからな」
「え、待って。エスタークって、あいつでしょ?あの、地獄……そう、アッテムトの洞くつの奥にいた……」
「……そうだが」
「だって、倒したのに……。やっつけたのにどうしてみんなは戻ってこないの?」
「…………」

「術師を屠れば過去に施した転移魔術が反転するなどどんな理屈だ……」
「だって……だって……」
「姫さま……」

「なぜ、エスタークだとわかったのです?」
「……サントハイム城を占拠した目的の一つは時空転移魔術の軌跡を辿るためだった。
ただでさえ高位複合魔術だ、エスタークである可能性は高かった。魔素も強かったからな」
「あのまがまがしい気配ですね……」

「あの気配……。そうか……私としたことが……」

クリフトが手で顔を隠した。

「だが、そのエスターク帝王は予言のとおり討ち滅ぼされた……」
「…………」
「だから言っただろう。今となってはどうでもいいことだとな」
「そんな……」

確かに伝えたからな、ピサロはそう言って食堂から出ていった。

「もういちど、エスタークのとこに行ってみる……。もしかしたら何か手がかりになるものがあるかもしれないし」
「姫さま……」

「ご一緒いたします」


「え?」
「どうしても行きたいところがあって……」
「どこだよ」
「……すぐすむから。後ですぐ追いかけるから」
「…………」

「答えになってねえよ。俺たち今までずっと一緒だったろ?今度だって一緒だろ?」
「……でも、もしかしたら無駄足になるかもしれないし、みんなにも迷惑……」
「あのな、アリーナ」

652従者の心主知らず 失踪の行方 16/25:2017/11/15(水) 18:25:40 ID:2e7LBrXc
ソロは私をまっすぐ見てしゃべった。

「行きたいところに無駄なところなんて一つもねえよ。言えよ。どこでも連れてってやるから」
「…………」

私は口ごもった。なんていえばいいの?なんていえば、ソロを傷つけずに伝えることができるの?
ピサロと決着をつけたいって頼んだときはソロとおんなじ気持ちでいたから堂々と頼めたの。
でも、今回は……まだ希望があることに対しては……なんていえば……

「エスタークだったんです」
「クリフト……」
「サントハイムの人々をさらったのはエスタークだったことがわかったんです。
ですから、もう一度あの場所に行って何か連れ戻すための手がかりがないかを探したいのです」
「…………」

「それを早く言えよ。みんな、聞いたな?」
「聞いてなーい」
「聞いとけよっ」

「なんですって!?」
「行きましょう、アリーナさん!」
「善は急げですぞ、すぐ出かける準備をしましょう」
「皆さん、馬車の準備はもういいですよー」

「な?」

みんな…っ

「どうして……どうしてそんなに優しくなれるの……?」

――ソロの村のみんなは、マーニャとミネアのお父さまは、もうどんなにがんばっても戻ってこないのに…!――

「お前さ、世界樹の花手に入れたとき、真っ先に俺の村のみんなやマーニャとミネアの父ちゃんのこと口にしてくれたろ?
自分とこのやつらが助かる保証なんかどこにもなかったのに」
「…………」
「あれさ……すっげー嬉しかったんだ」
「…………」
「仲間の家族は俺の家族だ。少なくとも俺はそう思ってる。早く行こうぜ」
「………………」

「うん……うん……っ」

「ピサロ、お前は別についてこなくたっていいぜ」
「…………」

653従者の心主知らず 失踪の行方 17/25:2017/11/15(水) 18:29:13 ID:2e7LBrXc
「エスターク帝王のもとへ行くのなら同行させてもらう」

私たちはもういちどアッテムトへ向かった。


「俺も行くよ」
「ううん、お願い。私たちで行かせて」

アッテムトに着いて出かけるしたくもととのって、ソロが同行を申し出てくれたけど私は断った。
これ以上みんなに迷惑かけられない。ただでさえいっしょに来てくれたのに。
これは私たちサントハイムの問題、だから行くのは私とクリフトとブライのさんにんって決めたの。
そう、私たちの問題なのにみんながいっしょに来てくれた……急いですませてこよう。

「わたしは同行させてもらうぞ」

ピサロが口をはさんできた。

「なんで来るのよ……」
「勘違いするな。わたしはわたしで目的があるだけだ。別に並んで歩く必要もない」
「…………」
「ピサロさま、あなたが行かれるのでしたらどうかわたしも……」
「…………」

「お前は、ソロのそばにいたほうが安全だと思うがな……」
「ピサロさま……いえ、わたしは…っ」
「………………」

え、なにこの微妙な空気。

「………………別についてきても構わんが、もうそんな非力な腕でナイフなど振るなよ」


「そういえば、この場所ではお前たちに煮え湯を飲まされたのだったな」

歩きながらピサロがつぶやいた。にえゆ…?

「……まあいい。それはすでに過去のことだ」

いいのなら口にしなくちゃいいのに、私たちがエスタークを倒したこと根に持ってるのかしら。
私たちはそれぞれのペースで洞くつに入ったんだけど敵と戦ってるあいだに結局いっしょになって。
ロザリーもいるからみんなで守るためにもいっしょのほうがいいかもってクリフトに耳打ちされて。
確かにそう思ったからなんだかんだいってやっぱりいっしょに行動することにしたの。
ピサロがすきなく強いのがなんだか腹立つ。この戦いが終わったらぜったい決着つけてやるんだから。
洞くつの奥へ、私たちはエスタークのいる玉座の間まで無事たどり着いた。

654従者の心主知らず 失踪の行方 18/25:2017/11/15(水) 18:32:39 ID:2e7LBrXc
「エスターク!私はサントハイム王の娘アリーナよ!」

私は玉座でぐったりと傾きかけているエスタークに大きな声で呼びかけた。

「エスターク!」

ちからいっぱい大きな声で呼ぶ。

「エスターク、返事して!」

「エスターク!!」

でもエスタークは動かない。

「お願いみんなを返して…っ!!」
「やはり、動かぬ……か」
「姫さま……」
「ふむ……」
「おねがい返事してっ!!」

エスタークはもう動かない。

「おねがいエスターク…っ!!」
「姫さま…っ」

もうにどと動かない。

「エスタークっ!!」
「アリーナさん……」
「おねがいっっ!!」

殺した。

「おねがい返事して…っっ!!」

――私たちが殺した――

「ごめんなさい…っ!」

――時間は戻らない。死んだ者はよみがえらない……――
――ごめんなさいぃ…っ!!――

どうすれば……わたしどうすれば……。

655従者の心主知らず 失踪の行方 19/25:2017/11/15(水) 18:36:05 ID:2e7LBrXc
「姫さま」
「クリフトぉ…っ」
「以前、さえずりの蜜を手に入れたあと、もしエルフたちが戻ってこなかったらとうなだれていた私に、
姫さまはおっしゃったではありませんか。それならそれで、また別の方法を探すまでだと」
「っ……」
「大丈夫です、きっと何か別の方法があるはずです。探しましょう」
「クリフト……」
「大丈夫です。さあ姫さま、戻りましょう」
「…………」
「確かに、この場所にはもう用はありませんな。ささ、姫さま、参りましょうぞ」
「………………」

クリフトとじいの声がとっても優しく聞こえた気がした。

「クリフトどうしたの?」
「…………」
「クリフト…?」
「む、何かあったか、クリフト?」
「いえ、今一瞬、エスタークが動いたような気がしたのですが……」
「え…?」

私は思わずエスタークを見る。

「…………」

動いてるかはわからない。

「……………………」

申し訳ありません、気のせいだったようです、そう言ってクリフトはこっちに向き直った。


「なぜ、詫びたのだ……」
「え?」

帰りみち、ずっとだまってたピサロが話しかけてきた。

「お前たちにとって、かつて地上に闇を落とした地獄の帝王エスタークこそ敵でしかないはずだ。なぜ……」

…………。

「敵だからって、何でもやっつければいいわけじゃないから」
「…………」

656従者の心主知らず 失踪の行方 20/25:2017/11/15(水) 18:39:33 ID:2e7LBrXc
アドンもそう。アンドレアルもそう。
もし最初からお話ができていたら、戦わなくていい敵だった。
きっと、殺し合いの戦いじゃなくて、競い合いの闘いができる相手だった。
もしお話ができていたら……

「何にもお話ししなかった。
お父さまの夢の話とか、歴史の話とか、周りの話しか聞いてなくて、いちばんかんじんな本人とは何にもお話ししなかった。
自分の目で、肌で、ほんとうに悪いやつだったのか、どうしてお父さまたちをさらったのかも、何ひとつ確かめないで攻撃した」

――なに…やつだ……。わが眠り…さまたげる者は……――

「それは、今思えば悪いことだったから」
「姫さま……」
「………………」

アドンやスライムは私たちに謝ってくれたから……。

「……それは、わたしが勇者を……」
「え?」

ピサロが歯ぎしりしたような気がした。すぐ向こうを向いたけど、イライラしてる…?

「かつて、エスターク帝王率いる魔族軍とマスタードラゴン率いる天空軍は大規模な戦争を起こした」

いきなりなに言い出したのこいつ。

「地上は戦火に巻き込まれたが、マスタードラゴンが一つの提案をし、エスタークが承諾し、戦場を時空間に移したそうだ。
天空ではどのように記されているか知らんが魔界の歴史書にはそう記されている。夢世界という単語も出ているが詳しくはわからん。
だが、もしその記述が事実であるなら、時空転移魔術はマスタードラゴンも使える」

え…?

「わたしは偽善者の代表になど会う気はさらさらないが、一度会ったことがあるのなら文字通り神頼みでもしてみたらどうだ?」
「ピサロさん……」

「王は夢でエスタークの存在を知りました。そしてこの場所も……。
エスタークもまた眠っていた……眠りながら転移させた……。
そして歴史書にある夢世界……それと何か関係があるのかもしれません。一度話を聞いてみる価値はあると思います」
「ふむ……夢世界か……」

マスタードラゴン……竜の神さま……

「姫さま、行ってみましょう。天空城へ」


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