したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

改訂版投下用スレッド

1書き手さんだよもん:2003/03/31(月) 00:33
作品に不都合が見つかり、改定となった場合、改定された作品を投下するためのスレッドです。
改訂版はこちらに投下してください。
ただし、文の訂正は、書いた本人か議論スレ等で了承されたもののみです。
勝手に投下はしないでください。

編集サイトにおける間違い指摘もこちらにお願いします。
管理人様は、こちらをご覧くださいますよう。

50クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:19
 しばしの間思案していた大志だったが、
「――そうか」
 突如叫んだ。なにか閃いた様子だ。
「な、なによ突然?」
 隣の瑞希がこれに驚くも、大志は顧みもせず真っ先に鶴来屋左端に位置する階段へと走っ
た。
「ちょ、どこ行くのよ大志!?」
「大きな声をだすなまいしすたー!!! というか早くこっちに来い!」
「太志さーん、どうしたんですかー?」
「な、なによどーしたってのよちょっと太志ー!?――」
「――お嬢さん方、ちょいと我慢してくれ」
 事態が呑み込めない郁美と瑞希を両脇に抱え、クロウは大志の後を追う。彼の体力を以ってす
ればその程度の運動など容易い。あっという間に廊下のつきあたりまで移動した。
「……大志の旦那」
「うむ、ひとまず階下へ移動するぞ。ヤツら5階から調べるつもりかもしれん。その場合、対策を考
える余裕すらないだろう」
「なるほど。そりゃ困るわな」
「――よし、行くぞ。足音を立てるな」
「了解」
 二人とはうって変わって、さすが歴戦の兵のクロウ、落ち着き払った口調で太志と会話を交わ
す。とりあえずクロウは暫定的に太志を指揮官と位置付けた。彼我の性格から言って適切と言え
るだろう。
 太志が先頭に立ち、ついで二人を担いだままクロウが続く。利用客の移動をエレベーターに
頼っているのか、階段の装飾は必要最低限だった。ほとんど非常用といってさしつかえなく、床
は鉄で出来ていた。
 途中、大志は床に機械を置いた。
「旦那――なんだそれは?」
「……秘密兵器だ」
 ニヤソと笑う大志。


 ウルトリィと千紗が部屋を改め、その間国崎は廊下を見張る。
 彼らは今2Fをチェックしているところだった。
「いない、ですね」
「入ってますかー? ……いませんねー」
「となると……やはり上か」
 国崎は天井を見上げ焦燥感を露にするが、しかし思いなおす。
「――出口はどうせ一箇所しかない。焦ってもしょうがないな」

51クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:20


 4F階段のすぐ傍に四人は待機している。郁美が階下の様子を窺おうとしたが、鬼達の姿はお
ろか声すら届かなかった。
「どうだ、郁美嬢?」
「全然だめです」
「ふむ…」
「ちょっと、どうするのよ太志!?」
「まあまあ、ちょっと落ち着きましょうや」
 廊下の物品を弄繰り回したり、部屋に入って様子を窺っている太志と対照的に、全然落ち着か
ない瑞希。それをクロウがたしなめる。
「……」
 実は太志、ある方法を思いついていた。よく映画などでも襲撃から脱出するために使われてい
るあれ。実際この場合でも方法次第によっては有効であろう。
 彼はエレベーターの扉を見やった。
「――同志クロウ。ちょっといいか?」
「あん?」


 ちょうどそのころ。
 国崎もまた、3Fエレベーターの前に立っていた。
「どうしたのですか?」
 2F同様この階もあらかた調べ尽くして、手持ち無沙汰になったウルトリィが国崎に尋ねる。
 国崎は扉に手をついた。
「これが何だか分かるか?」
「扉――ですか。そういえば先ほどもこのようなものがありましたが」
「エレベーターだ。この扉の向こうがわに人間を乗せられるだけの巨大な箱が吊るされてある。
そいつが動いて上の階に人間を運ぶ」
「エレベーター、ですか……」
 さきほど獲物がどこへ行ったのかいまいち理解しかねていたウルトリィ、なるほどと得心する。
「というと、これを使われる心配が」
「一番下の階にムリヤリ止めてあるから大丈夫だ。――ただ」
 国崎は扉を指差した。
「向こう側に最上階まで続く竪穴がある」


「ふんっ……!!!」
 ギギギギギという重たげな音とともに、4Fエレベーターの扉が開いてゆく。機械の力を使わな
いそれは普段よりも重そうに見えた。
「気を付けろ同志クロウ。向こうは穴だ。落ちたらシャレにならん」
 後ろ側から声を掛ける太志。様子を心配している郁美と瑞希。
 やがて完全にドアが開き、そこには暗い空間が広がっていた。
「うわぁ……」
「へえー…こんなふうになってたのね」
 普通はエレベーター内部を見る機会などないだろう。二人は素直に感嘆した。が、ふとした勢
いで瑞希は見てはいけないものを見てしまった。
「……ず、ずいぶんとまた高いわね……」
「だからあれほど言っただろうが」
 やれやれといった感じで太志は嘆いた。
「しょ、しょーがないでしょ!」
 瑞希の罵声があたりに響いた。

52クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:20


「――ウルトリィ」
「ええ。聞こえました」
「にゃー、びっくりしましたです」
「……まだ上にいるみたいだな」
「二手に別れているのかも知れません。ここで相手方に合わせてみすみす見逃してはいけませ
んし……とにかくこの階を調べましょう」
「――くそっ」
 国崎は扉を一瞥し、そして彼女達に加わって部屋を改めていった。


 にわかに階下から音が響く。
「――まずいな。今のまいしすたーの咆哮に反応したということは」
「案外すぐ下かもしれない」
 クロウが続ける。
 慌てる瑞希。
 郁美が別の問題に気付いた。
「太志さん……梯子、届きそうにないですよ?」
 見ると、梯子はちょうど真正面――2m向こう側の壁にくっついている。ようやく気付いたのか、瑞希はやっと驚いた。
「うむ、分かっている。こういう時は――」
 そう言って太志はいきなり助走を付け始めた。
「え? え? ちょ、まさかアンタ」
「そう!」

 たたたたっ。
 すばっ。
 ――がしゃーん。

「こうするのだッ!」
「出来るか!!!!」
 2mの大跳躍を経、梯子にしがみつきながら器用にガッツポーズをとる太志。
 瑞希が音速でツッコんだ。
 太志の右手からボールペンが落ちたのには気付かない。
 横で郁美が困惑する。んな離れ業一般人でも出来るわけ無いのだから当然だろう――
 と、クロウが彼女に背中を差し出した。
 乗れ、ということらしい。
「え? ……でも」
「なぁに、太志の旦那だって出来たんだ。大丈夫」
 巨体に似合わずウインクなどかますクロウ。
 ややあって郁美は決心した。
「ウッし、じゃ行くぜ!」
 クロウは立ち上がり、ほとんどノーモーションで飛翔した。
 がっしゃーんと一際おおきな音を立て見事着地する。
 郁美は目を開けた。
「わっ……クロウさんすごいです!」
「何、お安い御用さ」
 もう瑞希はたまったもんじゃない。ガクガクプルプルしつつその様子を見ていた。

「(やはり、か)」
 瑞希から下方に目線を逸らし、太志は呟いた。
 その数瞬後、三度大志は梯子の衝撃を感じた。

53クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:21

「くそっ! ここもか!」
 焦燥感が募る。文字通り目と鼻の先に獲物は潜んでいるというのに――
「ということは、国崎さん」
「上だな…!」
 既に国崎は駆け出していた。
 長い長い廊下をつき抜け、階段の踊り場を通過し、
 17段目を踏み、手すりに左手をかけ、
 90度方向転換。
 
 ――下から四段目の廊下が、長く続いていた。


「……っ」
 限界まで開いた両足を僅かなとっかかりにつっぱね、クロウはエレベーターの扉を内側から閉
めた。次いでその扉に両手をあてがい、
「フッ!」
 思い切り押し出す。反動を利用して、彼は空中移動した。
 もはや常人の業ではない。
 先ほどとは別の感嘆の声を上げようとした二人だったが、しかし慌てて口を塞ぐ。
「(あぶないあぶない)」←郁美。
「(ここでヘマしたら太志に後で何言われるか……)」←瑞希。
 ――彼女は思った。
 でも、たかが鬼ごっこでこんなことやるハメになるなんて、ね。招待状が来た時は(彼女には事
前に鬼ごっこの内容が伝えられていた)せいぜい全力で走るくらいまでにしか考えていなかった
けど……
 でも、まあ楽しいからいいか。それにうまくすれば和樹のマンガのネタにも――って、なんで和樹
にわざわざ教えなきゃならないのよ!
「(クックック…)」
「(!?)」
 こういった瑞希の動揺に逐一反応するのが九品仏太志という人間である。暗くてよく見えなかった
が、たぶん心底嬉しそうな表情をしているんだと思う。
 そして、瑞希はある事に気付いた。
 九品仏太志は高瀬瑞希の、ちょうど足の下に位置している。

 ――つまり。
 とどのつまりは。
「………………………………どぉしたぁまぁいしすたぁぁぁx」

 ずがっ。


 ぼふむっ。

 ややあって、ものすごい衝撃が階下から響いた。
 音は4Fの三人の耳にも届く。
「下か!!」
「え? ちょっと国崎さ……」
 ウルトリィの制止も解さず、国崎は既に1Fに向かって走り出していた。

54クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:21


「………………っ、」
 信じられないほどの衝撃が全身を襲ったが、しかし瑞希の身体は殆ど無傷だった。
「――なにここ?」
 太志に蹴りをくれるはずが誤って梯子を踏み外してしまい、そのまま落下してしまった一連の
事実に彼女は気付かない。
「な、なにこれ?」
 床が柔らかい。
 立ち上がってみるも、殆ど歩けなかった。
 この謎物体のお陰で無傷で済んだ事にも、やはり気付かなかった。


 国崎は1Fに辿り着くと3基あるエレベーターを片っ端から調べ始める。
 厭な予感が的中しつつあった。
 ――さっきの声は囮だったのだろうか?
「っ!」
 考えが至らなかった事に改めて憤慨する国崎。やはりエレベーターのドアは開けておくべき
だったのだろうか――いや、それだと逃走路を増やすことになりかねないだろう……。
「国崎さんっ…!」
 やや遅れて二人が到着した。
 息をあげながら国崎に近寄り、事情を問いただす。
 国崎はかいつまんで説明した。
「――なんにせよ出口を抑えてれば最悪の事態は免れるはずだ」
 それが彼の出した結論である。消極的ではあったが二人は理に適っていると合意し、彼と共に
エレベーター箱の再点検にかかった。


「(株)来栖川化学…?」
 謎物体にはこう書いていた。ご丁寧に豆電球の光が当てられている。こんなところで商品宣伝
してどうするのだ、と瑞希は思った。
 と、上の方から金属音がする。豆電球を強引に向けてみると、それはどうやら大志たちらしい。
「あ、あ、アンタ」
 瑞希の咆哮が再度響き渡ろうとした時。
 クロウは豪快にジャンプ、瑞希の口に掌をあてがう。
「んぐぐぐぐぐぐ」
「大きな声はまずいぞ、嬢ちゃん」
 ややあって大志、そして郁美が降りてきた。
 大志は足元で反射しているボールペンを拾い上げた。
「やはり吾輩の推理は的中したようだ。ホテルを会場として使うとなれば吾輩らのような輩がい
つ出てくるとも限らんからな」
 豆電球の光がメガネに反射した。ちょっとブキミだが、見ようによってはかっこよくなくもない。郁
美は無言で拍手をし、クロウは微笑をたたえていた。
「……」
 そして一人不満げな瑞希。


「――いや、1F全部を探す必要はない」
「にゃぁ、どういうことですか?」
 千紗の疑問にはウルトリィが言葉を継ぐ。
「ここまで到達してしまえば、後は逃げてしまえば良い。そういうことですよね?」
「そうだ」
「じゃ、やっぱり鬼さんは上ですか?」
「かもしれん。さっきの音こそ囮なのかも知れないが――いや、まてよ」
 ちょっと来い、と国崎は千紗を引きつれて3基あるエレベーターのうちの1基に入った。つっぱね
てあった椅子を引き出し、代わりに千紗にドアを抑えてもらう。
「さっき、竪穴があるって言ったよな?」
「ええ……それが何か?」
「この箱がその穴を移動するんだ」
 国崎は椅子の上に立ち、気合いを入れて天井の一点に一撃をくれた。
「にゃっ…!」
 結構な音が響き、千紗は思わず身を縮める。
 構わず天井にあいた隙間に忍む。

「ハズレか」
 ややあって、舌打ちと共に国崎が出てきた。

55クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:22


 ごおん。
 天井を叩く音が聞こえた。
「(気付いたようだな……)」
 大志は焦る。
 即興で思いついた作戦の割にはなかなかいい線いっていたが、まいしすたーが落下したのは
予定外だった。……いや、そのお陰で途中でエレベーター内部を見られずに済んだのだから、僥
倖と云えばいいのだろうが――。


「――ここもハズレだ」
 国崎は先ほどと全く同じモーションで天井から降りてきた。その様子を見かねたウルトリィが口
を出す。
「国崎さん……本当に、彼らはそこにいるのでしょうか?」
 今までの全部が全部囮で、彼らはまだ探して居ない5Fにいるのではないか――彼女はそう言
いたいらしい。
「理由が無いな。俺達をおびき寄せるのなら、むしろ出入り口に近い上のほうが妥当だろ」
「こうやって我々に無用な疑念を抱かせるのが目的かも知れません」
「むぅ……」
 そう云われるとそんな気がしないでもない、といった表情で国崎は黙り込んでしまった。案外論
理的思考をするのが得意でなかったりする彼。しばし考え込むも結論は出ない。
「にゃぁ……よく分からないですけど、エレベーターを調べたほうがいいんではないでしょうか?」
 千紗の指摘に国崎はハッとして、
「そうだな」
 と無愛想に呟き、残るエレベーターに向かって歩きだした。


 マットのしたからかすかに音がする。足音だ。
「ふっ……まるでアンネ・フランクみたいじゃないか」
「ちょ、ヘンな事言わないでよっ…!」
 そんなわけ分からんことを呟く大志。アンネを知らないクロウ以外の二人は何かそこ知れぬ恐
怖に襲われた。
 だが、大志の表情に陰りはなかった。
 ちらと時計を見る。
「(もうすぐだ)」
 そう呟くや否や――

56クライム・ザ・ラダー/サウンド・ザ・ボイス(アナザー):2003/04/14(月) 01:22


『ま〜いしぃすたぁ〜』
『うわっ! ちょ、ちょっと! あんまり近寄らないでよ!』
『んー、特にあてもないしなぁ。嬢ちゃんどうする?』
『そうですね。ちょっと疲れちゃったかな』
 

 国崎が椅子に上がろうとした時。
 階段から、居るはずの無い四人の声が聞こえた。
「国崎さん!」
 今度はウルトリィが先走った。呼び止める暇もなく、彼女は階段を抑えにかかる。
「にゃぁ……国崎さん、どうしますか?」
 悩む国崎。状況から考えれば、おとりである可能性は十分あり得た。
 だが、獲物の肉声という圧倒的な証拠の前ではそれも怪しい。これ以上の証拠がどこにあると
いうのだろうか?
 ――くそっ。
「――行くぞっ!!」
「にゃぁぁああ、国崎さん待ってくださいー!」
 この行動を愚かだと思う方はいるだろうか。普通に考えればある可能性が思いつくはずだ。
 しかし。国崎はテレビ予約すら出来るか怪しいほどの機械音痴。千紗は、その存在自体は
知っているだろうが、こういった活用法に気付いているだろうか。ウルトリィに至っては「機械」の
概念すら知らないだろう。

 だから、現場に辿り着いた時、ウルトリィは文字通り困惑した。

『これでは我輩達が何階にいるかまる分かりではないか……!!
他の階のボタンも押しておくべきだったのだ!』
『……なるほどな。そうかもしれんがあの状況でそんな事を思いつくのは総大将ぐらいだぜ
大志、あんま自分のミスを責めなさんな』
 
「なんなの、これ?」
 足元に転がるは、アウトドア派オタク七つ道具の一つ・テープレコーダー。
 むろんそんなもの見た事も聞いた事も無いウルトリィはどうしようもなかった。
 ややあって国崎が到着、音の正体を理解した彼は歯がゆそうに地面を睨む。

 が、それも一瞬。
「――!!! 1Fだ!」
「え?」
「にゃっ」
 ほとんど落とすように二人の背中を押し、彼は駆けた。

 無人の1F。
 身調査のエレベーター。
 そして、衝撃音。
 既に役は揃っていた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板