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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

155N2:2004/05/02(日) 06:43

『ひろゆき』の顔が一瞬ピクリ、と動いた。
そして静かに笑い、『トオル』に向けて不気味な笑顔を突き付けた。
『トオル』は椅子ごと少しだけ後ずさりした。

「…流石ですね、トオル。察しが良い。
本当はプライバシーに関わるからあまり言いたくはなかったですが…、
これもみんなに事の深刻さを知ってもらう為には致し方無いです。
確かにその男はかつて私と接触がありましたです」

「それはどのような経緯だったのですか?」
今まで個人的な発言を控えてきた『夜勤』が始めて口を開いた。

「ええ、あれは確か15年位昔だったですが、私がインドに観光旅行した時の事です。
あの男は前触れも無く突然私の前に現れたです。
そして私に、『あるもの』を預かるよう頼まれたです」

「『あるもの』…?
それは一体何だったのですか?」
『トオル』がいぶかしげに『ひろゆき』に尋ねる。

『ひろゆき』の顔が笑顔のまま険しくなる。
彼は机から立ち上がり、そして言った。
「…『矢』です。古めかしい、いつの時代に作られたかも分からない『矢』です。
しかし、それはただの古めかしい骨董品などではないです。
後に調べたところ、その『矢』は才ある者にスタンドを発現させる代物だったのです」

「な、なんだってー!?」
全員が声を揃えて叫んだ。
この場にいる者は皆生まれついてスタンドを身につけていたので、そのような物の存在は誰一人として知らなかった。

「そ…そんな恐ろしいモノがこの世に存在したのですか!?」
血の毛が失せたまま立ち尽くす『SupportDESK』。
他の者も口にこそ出さないが、彼と同じ様に強い衝撃を受けていた。

「…残念ながら、これは事実です。
私は何故あの男が私に預けたのか全く分かりませんでしたが、ずっと大切に保管してきたです。
そしてあの夜…」

「…このビルの厳重な警備の合間を縫って、ふてぶてしくもひろゆき様のお部屋に侵入したということですか」
『トオル』が険しい顔をして言った。
顔も知らぬ男に対して既に敵意剥き出しと言わんばかりである。

「ええ、そして奴は隣の部屋の金庫から『矢』を一本奪い取り、そのまま逃げ去ったです…」

156N2:2004/05/02(日) 06:43

「…ちょっと待って下さい!
そんな危険なブツを持ち逃げされただなんて、何されるかわかったもんじゃないですよ!!」
『マァヴ』の顔色が変わる。
元削除管理人委員長という立場上、町の公安に関わる事項に彼はうるさかった。

「…その通りです。
そして昨日のあの騒動をもう一度、その上でよく考え直して欲しいです。
突如自我を失ったように狂戦士と化した町民達、
それが町民全体の約95%以上というこの不可解な現象を改めてどう思うですか?」

「…スタンド攻撃!!」
『トオル』が最初に真実に気付いた。
それを聞いた回りの者達もあっ、という顔をした。

「そうです、しかもこんな突然にこんな現象が起こるなど、
まるで『何か突然の出来事を契機に発現したスタンドが半ば暴走気味に町民を操った』みたいでしょう…?」

「もう既に、『矢』によってスタンド使いが誕生している…」
『夜勤』は唖然とした。
しかし『ひろゆき』によって更に残酷な現実が突き付けられる。

「それ以上にあの『矢』の危険なところは、『矢』によってスタンドを発現出来なかった者は
例外無く皆死んでしまう事です…。
…実際ここ数日で変死体の発見数が爆発的に増加しているらしいですね」

「ひろゆき様!!」
これまで冷静さを保ってきた『トオル』が突然怒鳴り声を上げながら起立した。
『ひろゆき』は彼の意図をすぐに察した。

「…分かっているです。その為にみんなをここへと集めたです。
―――コードネーム、<『矢』の男>!
      罪状、『矢』による無差別大量殺人及び殺人未遂!
      その素性、スタンド共に未だに不明!
      しかしその凶悪性から危険度はAAAと認定!
      この場に居る全員に命ずるです!
      目的は『矢』の奪還!
      そして『矢』の男を発見次第、即刻『削除』するです!!」

「ハッ!!」
全員が起立し、『ひろゆき』へと敬礼する。

「さあ、行くです!罪無き町民達の命を弄ぶ悪を、その手で断罪してくるのです!!」
彼の号令に一同は再び敬礼し、そして直後部屋を後にしていった。
無論それは『夜勤』にとっても同じだった。
しかし、その彼を『ひろゆき』が呼び止めた。

(…後でちょっと部屋に来て欲しいです)

『夜勤』は何故自分だけにそのように命じたのかふと疑問に思ったが、
二つ返事で「はい」と答えると同僚達を追って走っていった。

157N2:2004/05/02(日) 06:44



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



『ひろゆき』は嘘を付いた。
彼が話した『矢』の男との出会いは、彼にとって重要な部分だけが隠されていた。
インドへは観光などではなく、空条モナ太郎一行を抹殺する為に向かったのであり、
『矢』の男から受け取ったのは『矢』などではなく『石仮面』であった。
しかしその事実は、彼がこの15年間「不老不死」の野望を果たすべく隠してきたことであり、
どうしても部下達に知られてはならない事であった。

それ故、この時期に『矢』の男が自分の前に出没したことは完全に計算外であった。
今この時期自分の前に現れられては、これまで積み上げてきた計画全てが台無しになる危険性がある。
その為、いずれはそうすべく運命ではあったが、彼は何としても、その計画が明るみとなる前に、
自らの野望を知る唯一の存在、『矢』の男に消えてもらわなくてはならなかった。

彼のすぐ傍には、『夜勤』が控えている。
彼にとって、自分の計画の安全性は1%でも高めておく必要があった。
その為には、『矢』の男と不要な接触を試みる危険因子は全て取り払わなくてはならない。

「…それで、一体どのような御用でしょうか…?」
『夜勤』はそんな彼の真意など知る由もなく、純粋な忠誠心から成る言葉を『ひろゆき』に発した。
『ひろゆき』は一瞬そんな彼が不憫にも思えたが、すぐに思い直して命令した。
「まず、この茂名王町でここ最近恐らく『矢』によってスタンドが発現したであろう者達を、
一人の漏れも無く私に報告するです」

「…それで、その者達を如何なさるおつもりですか?」
『夜勤』が尋ねる。
『ひろゆき』は何の躊躇もせず、極めてあっさりと『夜勤』に言い放った。
「…他の者にもこれはすぐに伝えるのです。
『矢』の男に与する危険性のある者全て、私が命じ次第問答無用で全員すぐに消し去るです」
彼の目には、うっすらと狂気染みた物が感じ取られた。
が、『夜勤』にはその命を断れるはずもなかった。
「…仰せのままに」

158N2:2004/05/02(日) 06:46

だが、新たなスタンド使いを片っ端から消していっただけでは、それはそれで彼にも不都合に働く。
実際に『矢』の男のスタンドと戦ったことは無いが、『矢』を奪われた時に彼は二人の間に絶望的な実力差を感じた。
恐らく、自分が戦ったのでは呆気なく返り討ちに遭い、不老不死以前にお陀仏となってしまう。
『矢』の男を殺しうるスタンド使い。
彼にはそれもまた必要であった。

思い浮かぶのはあの夜、月に照らされた『矢』の男の姿。
あの時、彼の手には血に染まる包帯が巻かれていた。
…あくまで彼の勝手な推測ではあったが、『矢』の男はもしかしたら、
自分の所へ来る前に何者かと戦い、そして負傷したのではないか、と彼は思った。

無論、その人物が今でも生きている可能性は極めて低い。
十中八九、その場で男に殺されてしまったであろう。
…だが、彼はそれでもそのスタンド使いがまだ生きている、と何の証拠も無いのに強く思っていた。
単なる妄想か現実逃避か、しかしその者を上手く利用すれば、自分は一切の手を汚さずに
『矢』の男を抹殺することが出来るという思いが、彼の中では激しく燃え盛っていた。
彼は続けて『夜勤』に言った。

「…そしてこれは貴方に対してだけの極秘任務です。
ここ最近、この町に外からやって来たスタンド使いを先程のとは別に調べ、私に報告するです」

「その者達も処分するおつもりですか?」
『夜勤』は薄っすらとではあるが、それでも嫌そうな顔をしていた。
彼とて無意味な殺害は削除人本来のあるべき姿とはかけ離れていると感じているのだろう。

「いや、その者達はしばらく様子を見るです。
…あ、それと、その者達の実力が如何ほどか、という事も詳しく調べておくです」
『ひろゆき』はPCの省電力モードを解除し、書類の作成に当たり始めた。

「承知しました。では…」
そう言って、『夜勤』は静かに退室していった。

『ひろゆき』は再びPCを閉じると、グラスにワインを注ぎ、『矢』の男の事を考え始めた。

(かつて私に世界の覇王たる者の風格を感じ、石仮面を渡した貴様が…
何故今になって私の前に現れるというのですか!
今まで私が積み上げてきた15年、ここで全て失ってしまったならば、私は……。
……こんな所で私の計画を崩してたまるものですか。
今私の前に現れた、貴様の方が悪いですよ…。
貴様にはこのまま大人しくあぼーんされて頂くことにしましょう…。
クク…クックックック…クハハハハハハ………!!)

やがて『ひろゆき』は耐え切れなくなり、大声を上げて不気味な笑い声を辺りに響かせた。

159N2:2004/05/02(日) 06:47



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「いい加減にしろ!貴様一人の我がままでチーム全体に支障がきたされると言っているんだ!!」
狭い部屋の中に『トオル』の怒鳴り声が響く。
怒りの対象は『SupportDESK』。
その彼は不機嫌そうに頬杖を突いて座っていた。

「フン!どうせ僕が頑張ったところで褒められるのはいつもお前か夜勤だけだ!
だったらお前ら二人だけで頑張ってろよ!
僕はその間に荒らし共を血祭りに上げるんだからな!」
『SupportDESK』は再びバズーカを取り出し、部屋から出ようとした。
この態度が『トオル』の神経を逆撫でした。

「…それが常日頃からひろゆき様へ人一倍忠誠を捧げてきた者の取る態度か!!」
『トオル』からスタンドが浮かび上がり、『SupportDESK』目掛け拳を振り下ろす。
しかし、その拳は『マァヴ』のそれによって止められた。

「落ち着けよ、トオル。確かにまあ私にも彼の気持ちが分からないでもないよ。
だからまあ、ここは少し抑えてくれないか?」
『マァヴ』にたしなめられ、『トオル』は渋々スタンドを引っ込めた。

「SupportDESK!お前もお前だ!ひろゆき様からの勅令を無視するなんてお前らしくないぞ!!
お前も少しでもひろゆき様に気に入られたいんだったら、それなりの行動をしてから言え!!」
流石に『マァヴ』に言われたのであっては、彼にも文句を言い返すことは出来なかった。
彼は無言で小さく頷いた。

「…全く、こんな大事件が起こった傍から内部分裂だなんて笑えないよ!
二人とも、少しはよく考えてくれよ。ひろゆき様を慕う気持ちは、我々皆一緒のはずだ!」
『マァヴ』はそう言い残して部屋を後にした。
そして居辛くなった『SupportDESK』も間も無く外へと出て行った。

後には、『トオル』だけが残された。

160N2:2004/05/02(日) 06:47



彼には、『ひろゆき』の言葉が本当だとは思えなかった。
全くの確信も無いが、しかし自らの主の言葉の裏には、何か良からぬ思惑が渦巻いているのではないか。
家臣筆頭であるからこそ、彼にはそう強く感じられた。
同時に、その主人を疑う気持ちが彼にはどうしようもなく許せなかった。
信じられぬ主と、信じられぬ自分。
彼は堪らず近くの長椅子の上に大の字になって横になった。

(…どうして、こんな事になっちまったんだろう)

思い出されるのは懐かしき日々。
皆の間でのいざこざも無く、ただ毎日が楽しかった。
それが今では―――

(こんな時にあんたが居てくれたならどんなに助かったか…。
…切込隊長、あんた今どこで何をしてるんだ?
教えてくれよ、切込隊長…)

真上の天井に、在りし日の彼の姿が浮かび上がる。
そして間も無くその像は、水面に映る月の如く歪んでいった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

161452:2004/05/02(日) 10:18

              こ れ が 日 常 な ん で す 
                               そ の 1



  ・・・・・・ろ ・・・・い ・・・・・きろ ・・・・・い ・・・おい・・・起きろ!起きろ!

「・・・う・・・ん?」

よく寝た。いつものことだ。けど、このちょっと遅いくらいのすがすがしい朝を、これからも大切にしていきたいと思う。

・・・あれ?
・・・?
・・・・・・??

・・・2本の機械的な腕が、僕の頭をがっちり掴んでいる。

少しだけ頭を動かし、そいつの顔を見た。

・・・無い。
肩から先だけだ。

・・・・・・あ、これ、スタンドか。多分そうだ。
そうかと思うと、その腕はすっ、と消え、頭が自由になった。

目をこすりながらゆっくり起き上がった。枕元には、40分ほど前に喧しく鳴っていたであろう目覚まし時計が8時10分を示していた。

「やっと目が覚めたか・・・。」
おや・・・?
布団の横の卓袱台にものすごく不機嫌そうに座っている男がいた。
「俺は元来、時間にルーズな奴には厳しいタチでな・・・。10分遅刻だぞ、ゴルァァッ!!8時に第2公園に行くんだろ―がっ!」

そうだ。8時に第2公園に行くんだった。
今更急いだって遅れるが、とりあえず急ごう。
とりあえず顔を洗って、着替えて、朝食を食べて、歯を磨いて、ついでにもう一度顔を洗う。
途中何度もひっぱたかれた気がしたが、これは日課なのだ。一日の始まりを実感するための儀式だ。通過儀礼だ。
モナを何度もひっぱたいた男はこれが終わったのを確認すると、モナをこの家――マンションの一室だが――に2枚だけの座布団に座らせ、
自分は前にもまして不機嫌な顔で卓袱台に腰掛けた。

「・・・・・・えっと・・・何から聞こうか・・・・・・君は誰モナ?」
「・・・ギコでいいや。ポリゴンモナーの協力者だ。
 ところでテメェ、どういう思考回路してんだ?俺が起こさなかったら一体いつまで寝過ごしていやがったんだ?
 しかもなんだ?状況を把握していながら、顔洗って着替えて飯食って歯ァ磨いてまた顔洗って、いつもそんな生活してんのか?
 そんなんでこの高速社会で生き抜くつもりなのかと小一時間問い詰めたい。・・・おっと、話が反れちまったようだな。オマエ、さっき何つったっけか?」
「・・・まだ、名前を聞いただけモナ。」
「ああ、そうだったな。・・・で、オマエ、俺達に協力すんだろ?」
「確かにそのつもりモナが・・・どうして言い切れるモナ?モナは何の連絡もしてないのに・・・。」
「ハァ?・・・あの野郎、また独断で指示出しやがったな・・・。まあ、いい。急いで駅前に行くぞ。」
「了解モナ。」

普通に靴を履き、いつものように元気に玄関の扉を開けた。

162452:2004/05/02(日) 10:19

    ガ ァ ァ ン !
「うおあぁぁっ!?」


・・・と同時に、たった今インターホンを押そうとしていたであろう中年の男をなぎ倒してしまった。
鼻を押さえてうずくまる中年男。かなりひどくぶつけたようだ。

「・・・あ・・・ごめんなさいモナ・・・。」
「いや・・・大丈夫です。すんません、こちらこそ・・・。」
明らかに精一杯怒りを堪えている。

「おい、急ぐぞ!」
後ろから怒鳴られた。
「あ、わかったモナ・・・。」
ギコの方に振り向く。

おや?ギコの表情が変わった。
ギコが自分のスタンドを出して、玄関前に立っている男に腕を伸ばした。
驚いて、男の方に向き直った。
ギコのスタンドの腕と男のスタンド・・・――この男も!・・・――が組み合っている。
「・・・いきなりやってきて、いきなり殴りかかるたぁ、とんだ礼儀だな・・・。・・・目的は何だ、ゴルァ!」
「・・・上からの指令でね。」
「ということはテメェ、どこぞの敵対組織の・・・下っ端か?」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」
どうも彼をプッツンさせてしまったらしい。
男のスタンドはギコのスタンドを投げ飛ばした。
同時にギコも後ろに吹っ飛んだ。ギコは受身をとって着地し、叫んだ。
「ぼさっとしてんじゃねぇ!テメェもスタンドを出せっ!」
「え!?あ、ああ・・・どうやって?」
「本能だっ!そのうち使いこなせるようになるだろ―よっ!」
「本能って・・・簡単に言われても・・・」

「・・・そろそろ、お喋りをやめて、こっちに集中したらどうだい?」
不意に男が口をあけた。スタンドは今にもモナに殴りかからんばかりに振りかぶっていた。
ギコが叫ぶ。
「おい、来るぞっ!今こそ本能をフル稼働して身を守れっ!」
「う、うおおああっっ!出ろ――っっ!」

・・・出たっ!
昨日見たあの2人組みのチビ達が目の前に出てきた。
男のスタンドはモナがスタンドを出したことを確認すると、目標を変更してモナのスタンドに殴りかかった。
「く、来るならこいっ!モナのスタンドに触ると―」



    バ ギ ャ ッ !

「おぱあああぁぁぁっ!?」
スタンドの顔面を思い切り殴られた。スタンドと一緒に、モナも一緒に大きく吹っ飛んだ。
あれ?おかしいな。
昨日は柵を消し飛ばしたり塀に穴開けたりしていたからスタンドにも殴られないだろうと思っていたのに、思っていたのに、
なんで普通に殴られちゃうの?何で男は何ともないの?

ああ、

意識が・・・ ・・・



「・・・・・・んの・・・役たたずがぁっっ!」
「・・・思ったよりあっさりと終わってしまったようだね。」
・・・ああ、めんどくせぇ事態になってきちまった・・・。

ギコは懐から携帯電話を取り出し、
3番を押した後で通話ボタンを押した。
「・・・最近の携帯電話は便利だよなぁ。一々電話番号を押さなくても通話ができるんだ。」
「仲間を呼ぶのかい?」
                      ・  ・  ・  ・
「ああ。とりあえず、テメェは確実に 生 け 捕 り にする。」

「・・・ポリゴンモナー、ギコだ。敵対勢力の下っ端らしき野郎の襲撃を受けている。
けっこ―ヤバイ。悪ぃ、なるべく急いでモナーの家まで来てくれ。」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」

163452:2004/05/02(日) 10:20

「・・・了解。すぐそちらに向かう。それまでなんとか繋いでいてくれ。」

・・・やれやれ。

・・・ああ、本当に面倒臭い事態になってきた・・・。
               ・ ・ ・ ・ ・ ・
私を襲ってくるのは恐らく何処かの一団であることは以前から分かっていたが・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲間になるかもしれないモナーの方を襲ったということは・・・
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
『これまでよりも情報収集に長けたスタンド使いが新しく仲間入りした』か、『『これまでの奴』が成長または進化した』か・・・
      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
若しくは『組織の方針に何かしら変化があった』か・・・

今幾ら考えたって推測の域を出ないだろう。とりあえずギコ達を助けに行くか・・・。
・・・・・・。

「邪魔する気か・・・。」
前方に殺気がある奴が2人。
向かって右の奴――見たところモララー族――が口を開いた。
「問答無用だからな。君はここで抹殺・・・最低でも足止めさせてもらうからな。」
さらに向かって左の――こちらもモララー族――が続けた。
「君の相手は俺達・・・人呼んで『ageブラザーズ』が務めるからな!」
・・・相手はしていられない。
『ヒマリア』を発動する。

「・・・『ageブラザーズ』?聞いたことが無いな。何処かの穀潰し集団か何かか?」
「穀潰し集団・・・ひどい言い様だな。」
「俺達を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな!
 お前はすでに俺達のスタンドの術中にはまっているんだからな!
 ・・・なあ、そうだろ?兄貴!」
「おう!もうとっくに・・・ッ!?」
「あ、兄貴ぃっ!?・・・おうっ!?」
兄弟仲良く前のめりに倒れて気を失ってしまった。
彼らの後ろには、今の今まで彼らの眼前約20㍍に立っていたポリゴンモナーがいる。
「キメが少し遅れたが・・・。当て身。」

さて・・・急ぐか。



「繋いでいてくれ・・・って簡単に言われてもなあ・・・。」
「彼に期待するのか?あっちには俺達の仲間が2人向かっているんだぞ?」
「あいつは大丈夫だろ―よ。それにオマエ等、あいつの能力は詳しくは分かってないんじゃね―か?」
「まあ、とりあえず・・・今は君を始末させてもらうからな。」

「やれやれやれやれ・・・やるしかねえのか。」


←To Be Continued

164ブック:2004/05/02(日) 15:36
     EVER BLUE
     第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜


 …僕が彼と出会ってもう何年になるだろう。
 あの日僕達は出会い、そして今まで常に共に在って来た。
 僕は彼の事が何でも分かる訳じゃない。
 彼も僕の事が何でも分かる訳じゃない。
 それでも、誰よりも大切な僕の掛け替えの無い友達。
 そう、彼は、彼の名前は―――

「…ルダ』?おーい、『ゼルダ』?」
 …と、どうやら干渉に浸りすぎていたようだ。
(ごめん、ちょっとぼーっとしてた。)
 僕ははにかみながらオオミミにそう答えた。

「おいおい。頼りにしてるんだから、しっかりしてくれよ『ゼルダ』。」
 オオミミが笑いながら僕に語りかける。
 この『ゼルダ』というのは、僕の本名じゃない。
 オオミミが僕の為につけてくれた名前だ。

 僕には、オオミミと出会う以前の記憶が無かった。
 自分の名前は何なのか。
 自分は何処から来たのか。
 自分は何をしたかったのか。
 自分は一体何者なのか。
 それらの事が全く思い出せない。
 この世界から消えそうになっていた僕を、オオミミがその体に受け入れてくれた時、
 それからがこの世界での僕の思い出の全てだった。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を発射するぞ!
 野郎共、準備はいいか!?」
 サカーナの親方のがなり声が、僕を現実に引き戻した。
 今日は何か変だな。
 いつもはこんなおセンチな事考えたりしないのに。
 外で降りしきる雨が、僕を感傷的にしているのだろうか。
 そうだ。
 そういえばあの日も、丁度こんな酷い雨で…

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射!!!」
 サカーナの親方の叫びと、轟音と振動が重なり、
 巨大な錨が先程僕達を攻撃してきた小型戦艦に撃ち込まれた。

165ブック:2004/05/02(日) 15:36



     ・     ・     ・



「…あの民間船、逃げたようだな。」
 船の甲板上で、マジレスマン率いる戦艦の兵士の一人が、横の同僚に話しかけた。
「そのようだな。ま、しゃあねぇさ。
 こんなに雨雲が深けりゃあ、一旦雲の中に逃げ込まれたらどうしようも…」
 その時、戦艦に振動が走った。

「!?何だあ!?」
 その衝撃で転倒した兵士が、慌てて身を起こしながら叫んだ。
「!!おい、あれ見ろ!何だありゃあ!?」
 隣の兵士が甲板に突き刺さった巨大な錨を指差す。

「糞!あいつら、雲に隠れた所から…」
 しかしその兵士の言葉は最後まで紡がれなかった。
 口をだらしなく開いたまま白目をむき、その場に崩れ落ちる。

「!!なあ…!?」
 その場の兵士達の視線が一斉にその場に釘付けになった。
 そこには、黒いマントを羽織った男が一人佇んでいた。
 隻眼の目が兵士達を冷ややかに見据える。

「撃―――」
 「て」という言葉と銃声とが重なり、
 自動小銃から大量の銃弾が吐き出されて雨のように黒マントの男に襲いかかる。

「『ストライダー』。」
 しかし男は身じろぎ一つせずに、マントを銃弾に向かって翻した。

「!!!!!!!!!」
 銃弾が、まるで手品のように次々とマントの中へと吸い込まれていった。
 隻眼の男には、傷一つついていない。

「馬鹿な…!」
 狼狽する兵士達。
 黒マントの男はそんな彼等を一瞥すると、マントの襟を掴んで無造作に広げた。
 マントの内側はまるで別世界に繋がっているかのような漆黒の闇色であり、
 その中から無数の刀剣が出現しては地面に突き刺さった。

「……!」
 その異様な光景を、攻撃するのも忘れて呆然と見つめる兵士達。
 黒マントの男はそんな事など全く意に介さない様子で、
 地面に突き刺さった剣を一本引き抜くと、その切っ先を兵士達に突きつけた。

「…来るならば、殺す。」
 黒マントの男が、短く呟いた。

166ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



「…相変わらず、容赦無ぇなあフォルァ。」
 錨をつたって甲板まで降りてきたギコ族の亜種の男が、
 呆れたように黒マントの男に向かって言った。
 それに続いて、オオミミも甲板に降りてくる。

「あいつらは俺達を殺すつもりだった。
 ならば、逆に殺されても文句は言えまい?」
 黒マントの男がギコ族の亜種の男の顔も見ないまま答える。

「いやだけどさあ、俺達強いんだし、
 もっとこう、ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ますとか、
 手心ってもんをよお…」
 ギコ族の亜種の男が、渋い顔をする。

「無駄口を叩いている暇があるなら、さっさと錨を外しておけ。
 この戦艦とチェーンデスマッチをやらかした日には、
 俺達の船などあっと言う間にお陀仏だぞ。
 それ位の事にも頭が回らないのか、低脳が。」
 黒マントの男が吐き捨てるように言う。

「んだとぉ!?
 手前下手に出てりゃあいい気になりやがって…!」
 ギコ族の亜種の男が黒マントの男に掴みかかろうとした。
「馬鹿には付き合いきれんな…」
 黒マントの男も、マントの中から短剣を取り出す。

「ちょっ、ニラ茶猫も三月うさぎも落ち着いて!
 今こんな事をしてる場合じゃないだろ!?」
 オオミミが二人の間に割って入った。
 二人はしばし睨み合った後、ようやく諦めた様子でそっぽを向き合う。

「ちっ…!
 いいか!?この場はオオミミに免じて引いてやるけどな、
 次やる時にはぼっこぼこに…」

 次の瞬間、三人の居る場所に無数の銃弾が飛来した。
 三月うさぎと呼ばれた黒マントの男は、
 マントで自分とオオミミの身を守る。
 しかし、ニラ茶猫だけはマントの庇護下に置かれなかった為に、
 体に幾つもの穴が次々と穿たれ、その場に倒れて床を血の赤色に染めた。

「貴様ら!生きて帰れると思うなよ!!」
 三人が一悶着を起こしている間に、
 新たな兵士がその場に駆けつけて来ていた。
 当然と言えば当然である。

「動くなよ。そこで穴だらけになった男のようになりたくなかったら、大人しく…」
 その時、兵士達の動きが止まった。
 銃弾で無残なまでに撃ち抜かれたニラ茶猫の体が、不気味に蠢いたからである。

「…痛でぇ……う痛でええぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇ…!!」
 血を滴り落として呻きながら、ニラ茶猫がよろよろと立ち上がる。

「畜生がぁああぁ…!
 …三月うさぎ、手前わざと俺だけ守らなかったなあああぁぁああ!?」
 ニラ茶猫が三月うさぎを恨めしげに見つめた。
 彼の体の銃で撃たれた傷口からは無数の虫の姿が覗き、
 擬態を繰り返す事でニラ茶猫の体を修復していた。

「お前の嫌いな俺に助けられるのは嫌だろうと思ってな。
 これでも気を利かせたつもりだが?」
 黒マントの男が肩をすくめながら口を開く。

「…手前、いつか殺して…うおわぁ!?」
 そこに、再び兵士達が銃弾を浴びせてきた。
 間一髪、三人は遮蔽物に隠れる。

「さてと。それではな、ニラ茶猫。
 俺とオオミミは先に艦内に侵入して、金目の物を頂いてくる。」
 三月うさぎがニラ茶猫に向かって言った。

「お、おい、ちょっと待てや!
 俺一人に面倒事押し付けるつもりか!?」
 ニラ茶猫が憤慨する。

「俺はさっき運動して疲れた。
 後はお前がやれ。」
 三月うさぎが冷淡に言い放つ。

「でも、三月うさぎ…」
 オオミミが心配そうに両者の顔を見つめる。
「こいつに余計な心配など要らんよ、オオミミ。
 こいつとこいつのスタンド『ネクロマンサー』は、殺しても死なん。」
 三月うさぎが鼻で笑いながらオオミミに答える。

「そういう事だ。では頼んだぞ。」
 そう言い残すと、三月うさぎはオオミミを連れてさっさと行ってしまった。
 その場に、ニラ茶ギコだけが取り残される。

「この…ド畜生がああああああああああああああ!!!!!」
 ニラ茶猫の叫びが甲板に木霊した。

167ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



 オオミミは通路の曲がり角に差し掛かると、顔だけをヒョコッと出して
 見張りが居ないかどうかを確かめた。
 誰も居ない。
 幸い、ニラ茶猫が甲板で暴れてくれているお陰で、警備がそこに集中しているようだ。

(オオミミ、気をつけて。)
 それでも僕は一応オオミミに注意を呼びかけた。
 彼はそそっかしい所があるから、こうして釘を刺しておくに越した事は無い。

「分かってるって、『ゼルダ』。」
 オオミミが小声で僕に答えた。

 そうは言ってもやっぱり心配だ。
 頼りの三月うさぎも、別の場所にお宝を探しに行ってしまっている。
 こんな時には、僕がしっかりしておかなければ。

「……!」
 と、オオミミが歩くのを止めた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが押し殺した声で僕に語りかける。
(うん…)
 横の部屋の扉から、何やら呻き声が聞こえてきた。
 よく分からないけど、どうやら女の子の声のようだ。

「どうする…?」
 オオミミが僕に尋ねる。
 個人的には『触らぬ神に祟り無し』、という事で放置しておきたいけれど、
 オオミミの性格からしてそう言った所で抑止力にはならないのは明白である。

(取り敢えず、気をつけて調べてみよう。)
 なので、僕はこう答える事にする。
 だが、このオオミミの何にでも首を突っ込みたがる悪癖はいつか注意してやらねば。
 彼の身に何かあったら、彼の中に住まう僕にとっても大事になってしまう。

「…鍵がかかってる。」
 オオミミがドアノブを何度か回そうとするも、ドアは開かなかった。
(OK。任せて。)
 僕の意識がオオミミの体から離れ、実体化する。
 僕は、サカーナの親方達が言うにはスタンドという存在らしい。
 それで、僕の姿はそのスタンドを使える人以外には見えないそうだ。
 …いや、今はこんな事言ってる場合じゃない。

(せー、の!)
 僕はドアノブを握り、力任せに捻る。
 僕の力の前に鍵は呆気無く破壊された。
 役目を終え、僕は再びオオミミの中へと戻る。

「よし、行こう。」
 オオミミがゆっくりとドアを開けた。
 僕も、不測の事態に備えていつでも飛び出せるようにしておく。
 ドアがゆっくりと開き、その中には―――

168ブック:2004/05/02(日) 15:38


「…あなた達は?」
 その中に居たのは、ロープで縛られた女の子だった。
 それも、一般的に美少女と呼ばれる類の。

「…!助けて下さい…!!」
 と、女の子は僕達にそう懇願してきた。
「私、ここの空賊に捕まってしまったんです!
 お願いです!
 どうかここから連れ出して下さい!!」
 女の子が必死な顔で頼む。

「分かった、今すぐロープを解くよ。」
 オオミミがすぐさま少女を助けようと…

(待った、オオミミ。)
 そこで、僕はオオミミを止めた。

「?何言ってるんだ、『ゼルダ』?」
 オオミミが怪訝そうに聞き返す。

(サカーナの親方にいつも言われてるだろ?
 『厄介事を船の中に持ち込むな』って。
 気の毒だけど、その子は放っておいた方が…)
 僕は思い声でオオミミにそう告げる。

「!!
 じゃあ、この子をここで見捨てろって言うのか!?
 これからここの連中に何をされるか分からないってのに!!
 そんな事、出来るもんか!!」
 オオミミが激昂する。
(仕方無いよ。
 それに僕達だって、この女の子にしてみれば、ここの連中と大差無い。)
 オオミミの場合、邪な下心でこの女の子を助けようとしている訳ではない分余計に質が悪い。
 お人好しなのはいいが、この厳しい空の海を渡り歩くにはオオミミは余りにも甘すぎる。
 三月うさぎ程非情になるのも考えものだとは思うが、
 こうも面倒事に首を一々突っ込まれては、こちらとしても気が気でない。

「だけど、だけど『ゼルダ』…!」
 オオミミが納得いかないといった風に僕に食い下がる。

 …やれやれ。
 本当に君は、甘いんだから。
 仕方無い…
 僕も一緒にサカーナの親方に怒られるとするか。

(…分かったよ、オオミミ。その女の子を―――)


「ちょっと!?
 何一人でブツブツ言ってるのよ!!
 こういう時は即断即決で助けるのが常識でしょ、このトンチンカン!!!」
 と、女の子がいきなりその態度を豹変させた。
 僕とオオミミは、そのあまりの変わり様に硬直する。

「やばっ…
 うっかり本音が出ちゃった。」
 女の子がしまったという顔をする。

 ―――前言撤回。
 オオミミ、この子はやっぱり見捨てた方がよさそうだぞ。



     TO BE CONTINUED…

169 丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:01



   一九八四年 四月十日 午前三時四十一分



ビチッ、と音を立てて、両腕の革ベルトが噛み切られた。
「…切レマシタ!」
「何十分かけてんだよ」
 二郎の言葉に、B・T・Bが下を向いて恨めしそうに呟いた。
「言ワレマシテモ非力ナモノデ…」
 確かにB・T・Bは、物体の破壊に関して最も不向きなスタンドと言える。
幼児程度の力しかないとはシャマードから聞いていたものの、焦りが二郎の頭にちらついた。
 ともかく、自由になれた以上ここにいる意味はない。
「うし。人が来る前に逃げるぞ」
「御意」
 自由になった親指を口元に持っていき、ぷちりと噛み切る。
ピリッとした痛みと共に、指先に血の玉が膨れた。
 ぽたぽたと、B・T・Bの掌に血を落としてやる。
手で触れるだけが『種』を植える方法ではない。
生きている二郎の細胞があれば、血の一滴でも『石の花』は咲く。
 B・T・Bの射程は約一メートル。
ギリギリまで二郎から離れ、格子の外のコンクリ壁に血を塗りつけた。


   ―――『花』のイメージ。種が殻を破り根を張り茎を伸ばし、ただしつぼみは堅いまま―――


 二郎のイメージが、『石の花』を成長させていく。
己の体を支えるために根が張られ、花を付けるために茎が伸びる。
根と茎が成長している中、唯一花だけはつぼみのまま。

「んん〜…。イメージ通り」

 満足げに二郎が呟く。
二メートルほどに成長した『石の花』が力を溜めるように鎌首をもたげ―――


「行けっ!」
 思いっきり、檻に向かって撃ち出された。
槍の穂先よりも鋭く固く閉じたつぼみは、銃弾並みのスピードで精密に蝶番を撃ち抜いた。
「よし」
 ガコンと牢の扉を蹴り開け、縛られていた手首をこきこきとならす。
廊下を抜けて出口のドアに手をかけ―――――

  ジリリリリリリリリッ !!

―――――高らかに警報が鳴り響いた。

170丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:02
 サ ノ バ ビ ッ チ
「 Son・of・a・Bitch!バレマシタ!」
「言われんでも判るわっ!」
「伏セテ!」
 みなまで聞かず、地面に寝転がる。
鉄製のドアをぶち抜いて、一瞬前まで二郎の頭があった位置を鉛弾が通り抜けていった。
「困るね、Mrニローン。逃げちゃダメでしょ。俺らみたいな仕事は信用第一だからね」
 やたらと軽薄な声。二郎は知らなかったが、先程シャマードを狙撃した人間だ。
「お前…SPMの人間じゃないな?」
 財団の人間が、上からの命令で吸血鬼狩りに動く事はまず無い。
SPMは基本的に、吸血鬼に対しては干渉しないポジションを取っているのだ。
「ん、当たり。ギコさんに頼まれた便利屋だよ。アンタ『スタンド使い』らしいけど…」
 ぢゃっ、と両手の自動式拳銃を向けた。
「弾が当たりゃ流石に痛いだろ?」
フルール・ド
「『石の』」


 引き金にかかった指が、何の躊躇もなく引かれた。

 ロカイユ
「『花』ッ!!」
 踏みしめた地面から花が伸び、つぼみを開いて銃弾を受け止める。
ヒュッ、と小さな口笛。この野郎、賞賛をどーもありがとう。
 更に放たれる銃弾を、石の花びらで防ぎながら更に『種』を植え付けた。


 B・T・Bが二郎の元にある今、太陽の光はシャマードにとって猛毒に等しい。
現在時刻三時四十四分。日の出時刻は、五時三十分。
 彼女と暮らしていたせいで夜明けの時刻は毎日キチッとチェックする癖がついていた。
ともあれ、タイムリミットは既に二時間を切っている。
通路の奥に、アパートで階段から蹴落とされた数人が見えた。
 スタンド使いではないようだが、二郎の『フルール・ド・ロカイユ』は同化実体型。
普通の人間でも、訓練を積んでいれば充分対処できる。


  ―――時間ギリギリだがしょうがない…必ず助ける!


 全ての種を発芽させる。二郎の周囲を守るように、『石の花』が展開された。

171丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:04



   一九八四年 四月十日 午前四時四八分


  リュィィィイイイイイオオオオオオオンッ―――――

 猿轡越しではない、弦楽器を爪弾くような『デューン』の咆吼。
足下を砂に変えながら、物凄い速さで跳んできた。
「このっ!」
 左拳を握り、無防備な顎にクロスカウンターをかける。
ぢりり、と灼けつくような痛み。
 指の付け根が風化し、紅い肉が姿を見せていた。
「痛〜ッ!」
 言っている間にも、じくじくと傷口が再生する。
あの『デューン』とか言うスタンド、思った以上に厄介な能力だ。
腹だろうが頭だろうが全身が能力の対象なので、下手に手を出せばこちらが風化させられる。
 おかげで浅くしか打てず、決定打が一発も入らない。

『どうした…?何故スタンドを出さない?』
                      テレパシー
 頭に響く、低い声。スタンド使いの精神感応。
まさか『二郎に預けてる』なんて言えようはずもない。

『アンタなんか、生身の私でお釣りがくるよ』
                               ノスフェラトゥ
『…人間を嘗めるなよ、業と死のみを振りまき続ける化け物。俺はお前等全員を滅ぼして』


  砂色の乙女が、再び吼えた。


『悲しみの連鎖を終わらせる!』

 『デューン』の足下が弾け、爆発的なダッシュでシャマードに走る。

『業と死のみ…か。確かにそうかもしれない。共存なんてできないのかもしれない。けど』

 砂色の掌が向かってくる。
極限まで研ぎ澄まされた神経が、その全てを捉えていた。

『信じてる限り、神様は微笑んでくれる』

心臓に向かって突き出される掌底は避けない。
避ければ避けるほど、相手のペースにはまっていく。
 ―――ならば、受け止めてやればいい。
左足の踏み込み、腰の打ち込み、肩のひねり、手首の回転。
全ての力が、全ての動作が、左拳の一発に集約される。
 『デューン』の一撃に合わせて、シャマードの左ストレートが閃いた。

『絶対に…―――――ッ!!』

172丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:05
   ヅ
「っ痛あああああああっ!」
 掌底に合わせて突き出した左拳が、しゅうしゅうと崩れていく。
血を吸わずに人間として生きてきたせいで、痛覚が切れない。
左腕が先から風化していく感覚に、脳の全てが苦痛で支配される。
 食いしばった牙がぎしりと軋み、出したくもないのに涙と涎が零れ出した。

(ぃ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――ッ… !!)

 今すぐ手を引っ込めたいのを、根性総動員で押さえ込む。
『風化』の能力があるからなかなか気づかないが、『デューン』の筋力自体は、人間と殆ど変わらない。
  つまり―――――
 ウ…リヤアアアアア
「U…RIYAAAAA―――」

  ―――力比べなら、勝てる。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 痛みを吹き飛ばそうとするかのように慟哭を続け、崩れかけた左腕で『デューン』を跳ね飛ばし、ギコに向かって走る。
それが解っていたかのように、ギコの拳銃から鮮やかなクイックドロウで銀の銃弾が発射された。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 だが、シャマードの反射神経はそれすらも上回っていた。
眼球に向けて放たれた銃弾を、崩れた左腕で叩き落とす。
 更に無事な方の右腕でギコの頭を掴み―――
     アアアアア
「―――AAAAA―――――ッ !! !!!!」

 ―――コンクリの床に叩き付けた。

 後頭部への衝撃に、白目を剥いてギコが昏倒する。
同時に、シャマードの後方数センチまで迫っていたデューンが消滅した。

173丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:07
「………イ……ッッッッ痛ゥ……ッ!」

 安心した途端に全ての力が抜け、ビルの屋上に座り込んだ。
恐る恐る左腕を見ると、肘を通り越して二の腕までが風化して無くなっている。
心臓の鼓動に合わせて、びゅくびゅくと血を吹き出していた。
(あうぅっ…ご飯食べる時大変そう…)
 対象者の生命を世界に縛り付ける『石仮面』の呪い。
呪いの中心となっている『頭部』を破壊されない限り、吸血鬼が死ぬ事はない。
 噂では、首一つになっても元気に活動を続けた者までいるとかいないとか…
ともあれ、だらだら流血しまくったままでもいられない。シャツの端っこを引き裂いて、上腕をきつく縛り上げる。
「…二郎…探してくれてる…よね」
 彼の顔を思い浮かべるたび、ちりっ、と胸の奥に甘い痛みが刺した。
風化した腕の傷よりも、遙かに大きな痛み。

  ―――けど…悪くない、かな。

「私…馬鹿だから、さ。アンタがどう言っても、二郎と生きたい。
 人も食べないし、殺さない。だから、見逃して。…お願い」
白目を剥いたままのギコに向けて、それだけ言い、立ち上がった。
「とっ…わわっ」
 左腕が無いせいで、酷くバランスが悪い。右手をついて、どうにか尻餅をつくのはこらえる。


 ―――――そこで、ようやく気がついた。
床に着けた右手から伝わってくる、さらさらした感触。
 コンクリート製の無骨な屋上の床の表面が、粒子の細かい砂で覆われている。

(………まさか………!!)

 瞬間、両足をすくわれた。
為す術もなく右足が折られ、砂の上に倒れ込む。
起きあがろうとしても、限界を通り越した肉体は何も応えてくれない。
     デューン
「―――『砂丘』と戦った吸血鬼で…自信のままに打ち合って最初の一撃で風化したのが五割…
 能力を知って、浅くしか打てずに風化したのが三割…
 彼女に力が無い事に気付き、腕だの脚だのを犠牲にしようとして、失敗したのが一割…
 『デューン』をはね除けた事で油断して、俺に撃ち抜かれたのが最後の一割…
 ―――敬意を表してやる。俺に一撃与えたのは、お前が初めてだ」

174丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:08
(『デューン』の能力で屋上の床全てを風化、砂のクッションを形成…
 いくら接触しているとはいえ、屋上の床全てを風化できるか不安だったが…底力に救われたな)

 『デューン』の脚が、音を立ててシャマードを蹴り上げる。
ごろごろと数メートルほど転がり、仰向けの状態で止まった。
そのまま無造作に近づき、『デューン』の拳を胴にぶち込む。
 服が風化し、真っ白な肌があらわになる。


更に一撃。皮膚が風化する。
更に一撃。筋肉が風化する。
一撃。一撃。一撃。一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃―――――



 既に脳のキャパシティを超えているのか、痛みも苦しみもどこか遠ざかり始めた。
そのせいだろうか、やけに頭がスッキリしている。
ふと、一つの疑問が意識の表層にスッ、と浮かび上がってきた。

  ―――どうして、彼はひと思いに脳を風化させない…?

 くうぅ、と喉を鳴らす。大丈夫、まだ声は出せる。

「どう…して…?」
「……何がだ」
 折れた奥歯が、口の中で転がる。喋るのが酷く億劫で、途切れ途切れにしか声が出ない。
「簡単…に、殺せる…筈、なのに…そう…し、ない…貴、方…は誰…かを…いた、ぶっ…て…喜ぶヒト…じゃ、ない」
 沈黙。返事が無かろうと、構わず続ける。
シャマードは気付いていなかったが、この時ギコの顔がにわかに強張っていた。
「…迷…ってる…?私…を…殺して…正しい、のか……うまく、いく…ん、じゃ…ないか、って…思、って…る…?」
「……違う…」

 彼の体が、瘧のように震えている。
青ざめたギコに向けて、皮膚がはがれた顔で微笑みかけた。
            ワタシタチ   アナタタチ
「違、わ、ない…よ。吸血鬼…も、人間…も、仲良く…できる…必ず…」         オレタチ  オマエタチ
「…違う…違う…違う、違う、違う違う違う違う違う!!共存などできるはずがない!人間も!吸血鬼も!
 どちらかが滅びるまで、悲しみの連鎖は終わらないんだ!」
「違わ、ない。そ、んな…悲…し…い、事…は、イヤ…絶対…」
「黙れ!」
 『デューン』の拳が、シャマードの鳩尾にぶち込まれた。
「…か…ッ!」
「それでも俺には…この道を行くしか選択肢は無いんだ!」  ハラワタ
 インパクトの瞬間に体組織を風化させて穴を開け、そのまま内臓をぶちまける。


  リュオオオオオオッ―――


 『デューン』が咆吼する。床に転がったシャマードの頭部に向けて拳を振り上げ、全力でラッシュを叩き込んだ。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

175丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:09
フルール・ド・ロカイユ
 石 の 花 

本体名:茂名 二郎

破壊力:C  スピード:A 射程距離:C(数十m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C

二郎自信が触れた無機物に同化し、『石の花』を作り出す。ヴィジョンはなし。
固いつぼみを使った槍のような攻撃や、花や葉を使っての防御などと応用性は高い。
触れて『種』を植えた後、どれだけ成長させるかによって破壊力等が変わる。
『種』を植えた後なら、知覚できなくても大体は動かせる。

176丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:13

( ´∀`)( ・∀・)(*゚ー゚)(*゚∀゚)

 便利屋の皆さん

ギコが雇い入れた便利屋。
シャマードは他と比べてもかなりひっそり生きてるタイプに分類される。
ゾンビをぽこぽこ生まない限りSPMは吸血鬼を放置しているため、SPMが兵を動かす事はまず無い。
ナイフ使いのモララー、軍隊格闘術使いのモナー、暗器使いのしぃ、銃火器使いのつーで四人一組。
…とはいえ、初登場であっさりと階段から蹴落とされて退場、更に今回の戦闘シーンも長さの都合上カット。
本編再登場の予定も今のところ無し。噛ませ犬っぷり全開の可哀想なやつ

177丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:31

 〜普通に喋る自作自演のSPM講座・その2〜

┌────────────―――――――
│ 今回は、作中で出てくる『呼称』について
│ 説明させて頂きます。
 \_   _____
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━
   コード
  『呼称』って何じゃい

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

178丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:33

┌────────────―――――――――――――――――――
│ 前回も言いましたが、SPM財団では発見したスタンドをまとめています。
│ しかし、能力が流出するのは避けねばなりません。
│ その為作られたのが『呼称』です。
 \_   ______________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

 本名を隠して、誰がどの能力を
 持ってるのか解らないように。

 −各キャラ呼称−
        トリックスター
 マルミミ…変動因子
      オーガ
 茂名…羅刹
       キャリィ
 ジエン…運び屋
     ホール
 フサ… 穴
        デーモン
 『チーフ』…悪魔
 名も無きモララー1,2…呼称無し
 『矢の男』…『矢の男』。そのまま呼称。
 <インコグニート>…呼称無し。旧『矢の男』 。

   ※大抵は漢字にルビで表記。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

179丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:40
┌────────────――――――――――――
│ 『花売り』のように、ルビ無しの物もあります。
│ 呼称は性格・スタンド能力・経歴・役割などで決まります。
 \_   ____________________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 −番外キャラ呼称−
        ソウルイーター
 シャマード…魂喰い
     マリア
 ギコ…女神

 茂名 二郎…花売り


 マルミミ…吸血鬼と人間、二つの特性を併せ持つイレギュラー。
 ジエン…『ジズ・ピクチャー』での武器輸送。
 フサ…スラングで女性のアレ+スタンド能力。
 ギコ…スタンドの外見。

 ※この設定も『丸耳達のビート』独自の物です。
 流用・無視・改変はご自由に。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

180ブック:2004/05/03(月) 15:04
     EVER BLUE
     第二話・ESCAPE 〜土砂降りの逃避行〜


 僕が必死に説得したにも関わらず、オオミミは結局女の子の縄を解いた。
 オオミミ、今なら間に合う。
 この子を無視してさっさと帰ろう。

「あの…大丈夫?」
 オオミミが女の子に尋ねた。
「大丈夫じゃないに決まってるでしょ!?
 全く…もっとちゃっちゃと助けなさいよ!
 これだから男ってやつは…」
 わざわざ助けてやったにも関わらず、この憎まれ口。
 オオミミ、捨てよう。
 この女を窓から外に捨ててしまおう。

「ごめん…
 すぐにでも助けてあげようとは思ったんだけど…」
 オオミミが情けない声で弁明する。
 何で君はそこで謝るのだ。
 寧ろ感謝されてもいい位なのだぞ?
 というかその物言いは何だ。
 僕が悪いとでも言いたいのか?

「あ〜、もう。
 男の癖にうじうじしないの!
 ほら、さっさとここから脱出するわよ!」
 ついに女の子は我々に指図までするようになった。
 言っておくが、僕はこの女の子の子分になった覚えは一つも無い。
 なのに、何故この子はまるで僕等のリーダーであるかのように振舞うのだ?

「あの…君、名前は?」
 オオミミが部屋を出る時に遠慮がちに女の子に聞いた。
「『あめ』。天と書いて『あめ』って読むの。
 いい名前でしょ?」
 女の子がそっけなく答える。

「あ、うん。
 俺はオオミミっていうんだ。」
 オオミミが天という少女にそう名乗った。

「オオミミ…か。貧相な名前ね。
 ま、いいわ。
 そんな事より急ぐわよ。」
 女の子がどんどん先に進んで行く。
 オオミミ、君は本当にこんな女を助けるつもりなのか?

181ブック:2004/05/03(月) 15:04

「どこに行くつもりかな?お二人さん。」
 と、その時後ろから声をかけられた。
 オオミミと天が、足を止めて反射的に振り返る。
 そこには、屈強な男が立っていた。
 その横には、大量の鉄屑みたいなものが転がっている。

「…人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものじゃないかしら?」
 天はそれでも全く気後れしていない様子で口を開く。
 この神経の図太さだけは、オオミミにも見習わせたいものだ。

「調子に乗るなよ、糞餓飢共!
 このマジレスマンが貴様等のような小童に名乗ると思ってか!!」
 …名乗ってるじゃん。

「そこのお前、あの民間船の連中の仲間だな?
 よくもまあやってくれたな。」
 マジレスマンと勝手に名乗った男がオオミミを睨む。

「…!お前等が先に仕掛けてきたんだろう!」
 足を一歩後ろに下げながらも、オオミミが吼える。
 まずいな。
 相手の気迫に押されている。
 オオミミの悪い癖だ。

「ふん…
 まあいい。
 その罪は、お前をスクラップにする事で償ってもらおう。」
 その時、マジレスマンの周りにあった鉄屑がいきなり動き出した。
 そして、それがみるみる接合していき、大きな人の形へと変わっていく。

(ヤバいぞ、オオミミ!
 すぐにマジレスマンを攻撃するんだ!!)
 僕はオオミミにそう告げた。

「分かった!」
 オオミミがマジレスマンに突進する。
 そして僕はオオミミの外部にスタンドとして実体化し、
 マジレスマンに拳を撃ち下ろし―――

「『メタルスラッグ』。」
 完全に人型に形成された鉄屑が、僕のパンチを受け止めた。
 これは、スタンドか…!

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが叫ぶ。
(任せろ!!)
 一度パンチを止められた位で怯みはしない。
 今度は逆の腕で拳を叩き込んでやる。

(無敵ィ!)
 左の拳が鉄屑人形の右肩部を破壊する。
 よろめく鉄屑人形。
(無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵!!!)
 僕は次々とパンチを鉄屑人形に打ち込んでいく。
 いける。
 こいつ、動きは全然のろいぞ。

(無敵ィィィ!!!)
 止めの一撃を鉄屑人形に喰らわしてやった。
 体中を粉砕されて地面に叩きつけられる鉄屑人形。
 どうだ。
 これなら本体へのダメージも計り知れないものに…

182ブック:2004/05/03(月) 15:04

「!!!!!!」
 しかし、マジレスマンには全く効いている様子は無かった。
 あの鉄屑をいくら攻撃しても、本体にダメージは無いという事か!?

「…凄いな。スタンド使いだったとは。
 この程度の大きさでは倒せんか。」
 マジレスマンが余裕の笑みを浮かべたまま喋った。

「!?」
 と、破壊した筈の鉄屑人形に、打ち砕いた鉄屑の残骸が集まっていく。
 そして、再び何事も無かったかのように鉄屑人形が再構築された。

「!!!」
 その時、鉄屑人形が何を思ったか周りの壁などを砕き始めた。
 何だ?
 気でも違ったのか?

「なっ…!」
 オオミミが狼狽する。
 壁や天井を砕いて生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていっている。
 まさか、こいつ周りの瓦礫や鉄屑を取り込んで―――

「やれ、『メタルスラッグ』。」
 マジレスマンが僕達を指差した。
 僕達に直進してくる、一回り以上大きくなった鉄屑人形。

「『ゼルダ』!」
 オオミミが僕に呼びかけた。
 鉄屑人形が、オオミミに向かって拳を突き出す。

(させるか!!)
 僕はその拳を両腕でガードして…

「!!!!!!!」
 オオミミと僕の体が宙を舞い、そのまま後方に吹き飛ばされた。
 威力を、受け止め切れなかった!?
 この鉄屑人形、さっきよりパワーもスピードも上がっている…!

「ちょっと!
 あなた大丈夫なの!?」
 天がオオミミに駆け寄った。
「…何とか、ね。」
 力無く答えるオオミミ。
 まずいな。
 肋骨を少し痛めたか。

「俺の『メタルスラッグ』は周りの無機物を取り込んで幾らでも強くなる!!
 さあ〜て、どうやって殺してやろうか?
 圧殺か?斬殺か?轢殺か?撲殺か?
 それとも全部がいいかなあ〜!?」
 下卑た笑みを見せながら、鉄屑人形と共に歩み寄るマジレスマン。

「潰れろ!!」
 鉄屑人形が乱暴に腕を振るう。

「きゃああああ!!」
「くっ!!」
 天を抱え、飛びのくオオミミ。
 オオミミという目標を失った鉄屑人形の腕が、代わりに壁に大穴を開けた。

(何てこった…)
 僕はうんざりしながら思った。
 壁に穴が開けられた時に出来た瓦礫が、更に鉄屑人形と同化していく。
 糞、どうすれば…

183ブック:2004/05/03(月) 15:05

「『ゼルダ』、壁を壊すんだ!」
 オオミミが、僕にだけ聞こえる声でそう言った。
(何を言ってるんだ、オオミミ!?
 そんな事したら、余計にあいつが…)
 当然ながら僕はそう反論する。
 オオミミ、恐怖のあまり気でも狂ったのか!?

「いいから、早く!」
 しかしオオミミの言葉に狂気や迷いの色は無い。
 僕は何故か、荒唐無稽な筈のオオミミの提案を、その声を聞くだけで信じる事が出来た。

 …仕方が無い。
 やってみるか。

(無敵ィ!!)
 僕は壁に殴りかかり、そこに大きな穴を開けた。
 その時生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていく。

「何だあ!?」
 拍子抜けといった顔をするマジレスマン。

(無敵無敵無敵無敵無敵ィィ!!!)
 構わず壁、床、天井、その他あらゆる場所を破壊しまくる。
 それと同時にその瓦礫を吸収して大きくなり続ける鉄屑人形。

「ははははは!!これはいい!!
 お前自ら『メタルスラッグ』のパワーアップに協力してくれるとはな!!!」
 高らかに笑うマジレスマン。
 オオミミ、君は一体どうする心算なんだ?
 このままでは、向こうに有利になるだけで…

「もういいよ、『ゼルダ』。」
 あらかた周りを破壊した後で、オオミミが言った。
「行くよ!天さん!!」
 オオミミは天の手を取ると、後ろに向かって走り出す。

「ちょっ、乱暴な事しないでよ!」
 オオミミに引っ張られるように駆け出す天。
 馬鹿な、オオミミ。
 敵がすぐ後ろに居るというのに、無防備に背中を見せて逃亡するだと!?

「馬鹿め、逃げられると思ってか!!」
 後ろからマジレスマンが叫ぶ。
 駄目だ。
 オオミミ一人ならともかく、天を連れた状態ではすぐに追いつかれてしまう。

「『メタルスラッ』…
 …何いぃ!?」
 その時、マジレスマンが驚きの声を上げた。
 何だ。
 何が起こったと…

「!!!!!」
 僕は振り返ってみて、初めてオオミミの狙いを理解した。
 大きくなり過ぎた鉄屑人形が、通路に引っかかって動けなくなっている。

 そうか。
 僕達の勝利条件は『ここから生きて脱出する事』。
 『必ずしもあいつに勝つ必要は無い』んだった。
 三十六計逃げるに如かず。
 これも立派な戦術のうちだ。
 やっぱり君は凄い奴だよ、オオミミ…!

「な…糞…!
 待てーーーーー!!!」
 悲鳴のように叫ぶマジレスマン。
 勿論、待てと言われて待つような間抜けはいない。

 頭の中まで筋肉の馬鹿を後ろ目に、
 僕達はさっさとその場から離れるのであった。

184ブック:2004/05/03(月) 15:05



 僕達は甲板目指して走り続けていた。
 あのマジレスマンも、スタンドを解除して追いかけて来ている筈だ。
 もたもたしている暇は無い。

「大丈夫?」
 オオミミが息を切らし始めた天に尋ねた。
「馬鹿にしないでよ。
 これ位で疲れる程ヤワじゃないわ!」
 負けず嫌いなのか、健気にも天は言い返す。

「分かった。それじゃあ少し、スピード上げるよ。」
 オオミミはそんな彼女の強がりにも気づかず、足を速めた。
「ちょっ、冗談でしょ!?」
 呆れたように呟く天。
 様ぁ見ろ。
 いい気味だ。

「…!三月うさぎ!!」
 と、横の通路から三月うさぎが合流して来た。

「…?そこの女は何だ?」
 怪訝そうにオオミミ尋ねる三月うさぎ。
「ごめん、今それ所じゃないんだ。
 早くここから脱出しよう!」
 オオミミが説明を後回しにして、三月うさぎに答える。

「全く…
 船に厄介事を持ち込むなと、お前は何回言われれば…」
 しかめっ面をしながら苦言を漏らす三月うさぎ。
 僕も、彼の意見には賛成だ。

「…こちら三月うさぎ。今から帰還する。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を打ち込んでくれ。」
 マントから無線機を取り出し、三月うさぎがそう言った。
 無線機から、高崎美和さんの「了解」という声が聞こえてくる。
 高崎美和さんとは僕達の船のオペレーターで、
 和服の似合う綺麗な大和撫子だ。

「俺はその女の事は知らんぞ、オオミミ。」
 三月うさぎが短く告げる。
「…うん、分かってる。」
 オオミミが俯きながらそう答えた。



 扉を乱暴に開け放ち、僕達は甲板へと飛び出す。
 激しい雨が、オオミミ達の体をしたたか打ちつけた。

「あ、手前、三月うさぎ!!」
 全身血塗れのニラ茶猫が、僕達に気づいて声を上げた。
 周りには、夥しい数の兵士が倒れている。
 流石はニラ茶猫。
 一人でこれだけの人数を片付けるとは。

「言い争いをしている場合じゃない。
 早くここから脱出するぞ。」
 三月うさぎはそんなニラ茶猫を軽く流した。

『急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射します。』
 その無線機からの高崎美和さんの声より少し遅れて、
 甲板に巨大な錨が打ち込まれた。
 皆が、急いでそれに掴まる。

「…?そういやオオミミ、その女は誰だ?」
 ニラ茶猫が今気づいたのか、オオミミに質問した。
「え〜と、その、詳しくは後で話すよ。」
 言葉を濁すオオミミ。
 しかし本当に、このじゃじゃ馬娘をどう説明すればいいのやら。

「居たぞ!逃がすな!!」
 マジレスマンが甲板に出てくる。
 ヤバイ、もう追いつかれたか。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、回収急げ!」
 三月うさぎが無線に向かって話す。
 同時に、錨が物凄い速さで巻き上げられていった。

「撃てーーーーーーー!!!」
 マジレスマンの声と共に、僕達に向かって自動小銃が発射される。

「『ストライダー』!」
 しかし、その銃弾は全て三月うさぎのマントに吸い込まれた。

「ははははは!あ〜ばよ〜、とっつぁ〜〜ん!」
 ニラ茶猫が勝ち誇ったように大笑いをする。
 錨はそうしている間にも僕達の船へと巻き上げられ、
 マジレスマン達の姿は見る見る遠ざかっていった。

185ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



「よっしゃ!上出来だ!!
 野郎共、引き上げるぞ!!
 カウガール、船を出せ!!」
 サカーナが乗組員達に大声で告げる。

「全速前進、出発しま〜す!」
 テンガロンハットを被った、カウガールと呼ばれた女性が、
 舵を思い切り回した。

「…敵船、私達の追撃を開始してきました。」
 高崎美和がディスプレイを見ながら話す。

「何ぃ!?
 上等だ、砲撃準備!!」
 サカーナが口元を吊り上げる。

「後部砲撃室から準備が整ったとの連絡が入りました。
 いつでも行けます。」
 高崎美和がサカーナの方を向いた。

「よお〜し、上出来だ。
 撃てーーーーーーー!!!」
 そのサカーナの声と同時に、サカーナ達の乗る船『フリーバード』の
 後部に備え付けられていた大砲が火を吹いた。
 しかし…

「…命中。ですが、敵艦はビクともしていないみたいです。」
 高崎美和が冷静に告げる。
「だから言ったんですよー!
 この船の装備で小型戦艦と闘うなんて無茶だって!!」
 カウガールがなじるようにサカーナに言う。

「うるせー!
 しゃあねぇ、尻まくって逃げるぞ!!
 スピード上げろ!!」
 サカーナが困ったような顔で仕方なしに命令を下す。

『無茶言うな親方!
 こっちはもうエンジン室が大火事になりそうだぜ!!』
 エンジン室からそういった内部通信が入ってくる。

「…だ、そうです。
 どうするんですか?
 サカーナ船長。
 あなたの蛮勇のおかげで私達まで道連れですね。」
 高島美和が責めるような視線をサカーナにぶつけた。

「て…敵船攻撃開始…!
 このままでは打ち落とされ…きゃあああ!!!」
 轟音と衝撃が、サカーナの船を揺るがした。



     ・     ・     ・



「おいおいどうすんだ!?
 敵さんムキになって追いかけて来てんぞ!?」
 『フリーバード』に戻って来たニラ茶猫が、
 先程敵船からの砲撃で壁に開けられた穴を覗き込んだ。

「…ふむ。このままでは撃墜されてしまうな。」
 顔色一つ変えずに冷静に告げる三月うさぎ。

「どうしよう。このままじゃ…!」
 うろたえるオオミミ。

「…仕方無い。」
 と、三月うさぎが壁に取り付けられていた内部通信回線電話を取った。

「はい、こちらブリッジ。」
 電話口から高島美和の声がする。
「三月うさぎだ。
 この回線を後部砲撃室に繋げろ。
 ただしこの事は船長には伝えるな。」
 三月うさぎがそう電話口に向かって話した。
「了解。」
 短く答え、高島美和が後部砲撃室へと回線を繋ぐ。

「どうしました、三月うさぎさん!?
 いまこっちは手が放せない状況でして…」
 後部砲撃室の乗組員が慌しい様子で通信に出る。

「この前船長が買っていた『弾』がある筈だ。
 それを使え。」
 普段と変わらぬ声で話す三月うさぎ。

「ええ!?でも『あれ』は…」
 あからさまに不安そうな声になる乗組員。

「構わん。責任は俺が取る。」
 三月うさぎが大した事ではないかのように答えた。

「おい、三月うさぎ…」
 ニラ茶猫が三月うさぎに声をかける。
「何だ?この期に及んで金の心配でもするのか?」
 三月うさぎがニラ茶猫を見据える。

「いや、ありったけ敵さんにぶち込んでやれ、って付け足しておいてくれ。」
 ニラ茶猫が不敵な笑みを浮かべる。
「…ふん。珍しい事もあるものだ。
 貴様と意見が一致するとはな。」
 三月うさぎもそれを受けて愉快そうに微笑むのであった。

186ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



 後部の大砲からの砲撃が、マジレスマン率いる戦艦の装甲に大穴を開けた。
「!!おい!!!
 まさか、あれは!?」
 サカーナがそれを見て顔色を変える。

「はい。恐らく船長が先日購入された、『爆裂徹甲弾』だと思われます。
 あの装甲にこれ程のダメージを与えるとは…
 流石に値段が張るだけはありますね。」
 冷静に分析する高島美和。

「馬鹿野朗!
 今すぐ止めさせろ!!
 あれ一発いくらすると思っているんだ!!?」
 顔を真っ青にしながらサカーナが取り乱す。

「およそ私達の一ヶ月の稼ぎの約半分だと思いますが、違いましたでしょうか。」
 高島美和はそんなサカーナを尻目に冷徹に告げた。

「分かってんなら止めろ!!
 今回の稼ぎをチャラにする気か!!」
 サカーナが後部砲撃室に連絡を入れようとする。
 しかし、回線からは「ツー」という音が虚しく響くのみだった。

「部砲撃室の回線は切断されているようです。
 連絡を取ろうとしても無駄ですよ?」
 高島美和がサカーナの方は見ずに口を開く。
 そうこうしている間にも、
 船の後方からは次々と爆裂徹甲弾が湯水のように吐き出される。

「わあ〜、凄い凄〜い!」
 手を叩きながら喜ぶカウガール。
 それとは対照的に、サカーナの顔色はどんどん悪くなる。

「やめろ!!
 馬鹿!!
 あんぽんたん!!
 やめろ!!
 阿呆!!
 お願いだから止めてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 サカーナはすでに半泣きだった。

「あ。私の記憶が確かならば、今のが最後の爆裂徹甲弾ですね。」
 高島美和がいつの間にか持っていたお茶を啜る。

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOおおおオオオオオおおぉぉォォ!!!!!!」
 サカーナの絶叫が船内に響き渡った。



     TO BE CONTINUED…

187:2004/05/03(月) 22:29

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その4」



          @          @          @



「ふむ…」
 白衣を着た男は、ビデオの一時停止ボタンを押した。
 TV画面に映っている、ありすと呼ばれる少女の動きがぴたりと止まる。
 輸送ヘリの残骸や、兵の死体が宙に舞っていた。
 ASA本部ビルに投入した空挺部隊は、この少女一人に壊滅させられたのだ。

「E-8C(地上管制警戒機)が捉えた、ASA本部屋上の映像だ」
 フサギコは、腕を組んで言った。
「先程の、廊下での映像をもう一度見せてもらえるかね…?」
 白衣の男は、机の上に積み重なっている書類を脇にのけた。
 そのまま、椅子に座り込む。

 TV画面に、再びありすの姿が映った。
 兵士のヘルメットに備え付けられたカメラからの映像だ。
 ゆっくりと近付いてくるありす。
 彼女に向けて一斉に放たれた銃弾は、空中で静止しバラバラと床に落ちた。

「ふむ… 断定は出来んが、物理的な静止だな。
 能力ではなく、スタンドのヴィジョンによって防いだ可能性が高い」
 白衣の男は、顎を撫でながら言った。
 フサギコが口を開く。
「弾丸の散らばり具合からして、拳で弾いた訳ではないようだけどな。
 彼女のスタンドが、盾のように立ち塞がったのか…?」
「…」
 白衣の男は、その質問には答えない。

 映像は続く。
 小隊長が、ありすに向けてグレネード弾を放った。
 しかし、それすらありすは微動だにしない。

 フサギコは腕を組んだ。
「向こうの衣服に損傷はない。ヴィジョンのみで、弾体破片や爆風を完全にシャットアウトできるものか?」
「この少女のスタンドヴィジョンは、従来の人型ではないと思うね…」
 白衣の男が、TV画面を見つめたまま言った。

 画面に映っているのは、一方的な殺戮である。
 7人の兵の肉体が無惨に捻り潰される映像が、淡々と無慈悲に流れていた。

「…これも通常の破壊だ。加害側の姿が見えない点を除き、超物理的な現象は無い。
 また、同時に多数の箇所を攻撃している。相当に大きいヴィジョンであることが類推できるな」
 白衣の男は、ビデオの停止ボタンを押して言った。
「ここまでパワーがあれば、固有の能力は持っていないのかもしれん」

「…なるほど。ヴィジョン自身の射程が広い、パワー型スタンドか」
 フサギコは、本棚にもたれて言った。
 部屋は、書類や本で足の踏み場も無い。ある意味、研究者らしき部屋ともいえる。
 男は、フサギコの旧知の知り合いである研究者であった。
 この部屋の主である、白衣の男は頷いた。
「あくまで類推だがな。それにしても、さすが三幹部と言ったところか。
 携行火器で彼女を殺すのは不可能だろう。あの距離からのHE弾を無効化したんだからな。
 屋上での輸送ヘリ破壊の映像を見る限り、射程は最低でも20mはあるぞ」

「対戦車ミサイルではどうだ…?」
 フサギコは訊ねる。
 白衣の男は額に手を当てた。
「HEAT弾か。モンロー効果による貫通力ならば、効果があるかもしれんが…
 あれだけの射程を持つ相手が、みすみす当たってくれるものか?」

「敵スタンドの射程が20mならば、ヘルファイアで問題は無いはずだ。
 それを搭載していたアパッチが、早々に落とされたのが災いしたな…」
 フサギコが悔しげに呟く。
「それにしても、アパッチがあそこまで簡単に落とされるとは… これでは、納税者に申し訳が立たん」

 白衣の男は、フサギコが持ってきたテープの一つをデッキに入れた。
 例の、しぃ助教授によるアパッチ撃墜の映像だ。
 男は再生ボタンを押した。
「その映像だけは、何度見ても腹が立つな…」
 フサギコは、憎々しげに呟く。

188:2004/05/03(月) 22:30

 対戦車ヘリ・アパッチが、三幹部の執務室に30mm機関砲弾の掃射を浴びせていた。
 通常なら、部屋にいたものは全て肉塊である。
 だが、アパッチは直後のしぃ助教授による反撃で墜落した。
 最強の攻撃ヘリであるアパッチが、いとも簡単に。

「まず、メインローターが何らかの力で曲げられている」
 墜落時の映像を見て、白衣の男は口を開いた。
「続いて、その負荷に耐えられなくなったようにメインシャフトが折れている。
 これは、明らかにスタンド能力によるものだ。ヴィジョンそのものによる攻撃ではない」

 捻じ曲がったメインローターが空中に吹き飛び、アパッチの機体が大きく傾く。
 そして、そのまま高度を下げていった。
 映像はそこで途切れている。
 そのまま、ビルの壁面に激突したのだ。

 白衣の男は、フサギコを慰めるように言った。
「まあ、何だ… 損傷による誘爆を防ぐ機構の有効性が実証されたと言える。
 スキッド・ランナーで、墜落時の70%の衝撃を吸収するという謳い文句は嘘ではなかった。
 アパッチのダメージ・コントロールはかなりのものではないか…」

「…いや、慰めになってないぞ」
 フサギコは大きなため息をつく。
「それより、メインローターの損傷だけで墜落したのは腑に落ちんな。
 DAFSS(デジタル自動飛行安定装置)は作動しなかったのか…」

 白衣の男は椅子にもたれて言った。
「メインローターの破壊と同時に、DAFSS機構が無効化されたのだろう。それしか考えられん」
「…そんな馬鹿な。兵器マニアでもなければ、アパッチのDAFSSの位置なんて知らんだろう。
 三幹部の一人とは言え、相手は仮にも女性だぞ?」
 フサギコは軽く笑う。

 白衣の男は、つられて笑った後に口を開いた。
「まあ、それは置いておくとして…
 交戦の様子から見るに、しぃ助教授のスタンド能力は動体の移動方向を変える事だな。
 無論、弾道も例外ではない」
 白衣の男は断言した。
「クレイモア(指向性対人地雷)を無効化したのを見る限り、かなり精度は高いようだ。
 銃弾はもちろん、ミサイル類ですら破壊力に関わらず無効だろう。
 サンバーン対艦ミサイルのほとんどを撃墜した事から見て、マッハ2.5までは確実に対応できる。
 下手をすれば、航空機の類は能力射程内には近寄れんぞ」

189:2004/05/03(月) 22:31

「ふむ、厄介だな…」
 フサギコは腕を組んで視線を落とした。
「…で、最後にこいつはどうだ?」
 デッキにテープを入れ、再生ボタンを押すフサギコ。
 クックルが画面に映る。
 その鶏は戦車を殴り、主砲を喰らい、戦車に踏まれ、戦車を投げ飛ばしていた。
「…素手で戦車に損傷を与えた。さらに、120mm滑腔砲の直撃でも大したダメージはない」
 フサギコは腕を組んで呟いた。
「これは、どういう能力なんだ…?」

「ふむ…」
 白衣の男はビデオを止めると、フサギコが持参してきた何枚もの写真を見た。
 前部装甲の破壊状況を様々な角度で移した写真だ。

「90式MBTの複合装甲をここまで破壊するとはな…
 だが… 映像を解析する限り、スタンドの関与はないように思える」
 白衣の男は、無造作に机の上に写真を放り投げた。
「…スタンドの関与がない、だと?」
 フサギコが視線を上げる。

「破壊部位の超微粒子超硬ファインセラミックスが、どう劣化したか見てみたいところだが…
 とにかく、これは拳で破壊したものだよ。それは間違いない。
 自分自身の肉体を増強させる類の能力か、もしくはただの馬鹿力か…
 何にせよ、詳しいところは分からん」
 白衣の男は呆れたように言った。
 匙を投げたようにも見える。

「…たまらんな」
 フサギコはため息をついた。
「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)でダメージがないとなれば、
 デイジー・カッターか、FAE(燃料気化爆弾)か、もしくは…」
「BC兵器かね…?」
 白衣の男は、視線を上げた。
「…」
 フサギコは黙り込む。

 白衣の男は、椅子から立ち上がった。
「まあ、私に言えるのはここまでだな。
 スタンドの研究は歴史が浅い。まして、映像のみで能力を割り出すのは至難の業だ。
 私の意見も、参考程度に留めてもらいたい。
 それを元に作戦を立て、多くの死傷者を出したら… 私の首程度では責任が取れんからな」

「…ああ、分かってるさ」
 フサギコは腰を上げた。
 白衣の男はフサギコに視線を向ける。
「それと、少しは家に帰れ。ひどい顔をしてるぞ。息子も放ったらかしだろう」

「あいつは、意外にしっかりしてる奴だ。放っておいても大丈夫だろ」
 フサギコは言いながらコートを羽織った。
「…ここまで来たんだ。スタンド使い共を全員片付けるまでは、俺ものんびりできん」

190:2004/05/03(月) 22:31


          @          @          @



 俺とリナーは、並んでソファーに腰を下ろした。
 以前、しぃ助教授と面会した部屋とは異なる。
 部屋の奥には流し台があった。
 どうやら、台所として使用されている部屋にソファーとテーブルを運び込んだだけのようだ。
 部屋のカーテンは閉まっている。当然、俺達の事を考慮したのだろう。

 テーブルの向こうには、どことなく疲れた顔をしたしぃ助教授が座っていた。
 部屋の端には、忠実な執事のように丸耳が控えている。
 ふと、リナーの方に目をやった。
 彼女は、右腕を服の中に突っ込んでいる。

「…すみませんね、こんな部屋で。日光を遮断できる部屋は、ここしかなかったんですよ。
 幹部執務室は、今ちょっと天井がないもんで…」
 しぃ助教授は、うんざりしたような顔で言った。
 どうやらリナーと揉める気はないようだ。
 丸耳が、テーブルの上に三人分の飲み物を置く。

「麦茶です。良かったらどうぞ…」
 しぃ助教授が、グラスに口を付けながら言った。
 なぜコーヒーではなく麦茶なのだろうか。

「…」
 リナーは、しぃ助教授を無言で睨んでいる。
 流石に殴りかかったりはしないだろうが、こちらとしては気が気ではない。

「…単刀直入に言いましょう。私達の戦闘に同伴してください」
 しぃ助教授は、グラスをテーブルに置いて言った。
「どういう事だ…?」
 不審げな目で、リナーが訊ねる。
 しぃ助教授はため息をついた。
 やはり、相当に疲れているようだ。
「知っての通り、私達ASAは自衛隊と交戦しています。
 この場所は戦略・戦術両面において不利なんで、海に出ようと思ってるんですよ」

 自衛隊に攻撃されたのはTVで知っていたが、海に出るとは…?
「…なるほど。拠点を海上に移そうという事か」
 リナーが納得したように腕を組んだ。
「ええ。こんな場所に本拠地を構えていては、ICBMで狙い撃ちですからね。一刻も早く居を変えないと…」
 しぃ助教授は視線を落とす。

 リナーが口を開いた。
「それで、軍艦か何かを仮本拠地にすると言う訳か。だが、向こうが黙っているはずがないな」
 この会話に、俺が介入する余地は無いようだ。俺は麦茶に口を付けた。
 しぃ助教授が大きなため息をつく。
「その通りですよ。海上封鎖は当然の事、護衛艦隊を投入してでも阻止してくるでしょう。
 そこでいっその事、艦隊決戦に持ち込もうと思ってるんですよね…」

「艦隊決戦?」
 俺は訊ねる。
「…『艦隊決戦』とは、海軍の戦略構想の1つだ」
 リナーが俺の疑問を補足した。
「1回の海戦で相手の主力艦艇を壊滅させ、一気に制海権を確保しようという作戦構想だ。
 そして相手の通商を遮断し、一気に有利な講和を進める事も可能となる」

 しぃ助教授は頷いた。
「そう。向こうのアドバンテージを一転、こちらの波にしてしまおうという事ですよ。
 この国から撤退するように見せて、敵艦隊の総駆逐に臨みます。
 島国である以上、通商遮断の効果は覿面でしょうしね」

「孫氏曰く、『兵は詭道なり!』ってとこモナね」
 俺は、何となく胸を張って言った。
「孫氏曰く、『百戦百勝は善の善なるものにあらず』。
 戦い以外の選択肢を失ってしまった時点で、ASAは既に戦略的敗北を喫していますよ…」
 しぃ助教授は呟く。
「で、『艦隊決戦』と銘打つ以上、大海戦が予想されます。そこで、非常に有効なスタンドがあるんですよね…」
 ニヤリと笑って俺の方を見るしぃ助教授。

「それで、『アウト・オブ・エデン』か…」
 やっと話が繋がったという風に、リナーは呟いた。
 しぃ助教授は大きく頷く。
「そういう訳で、私達の船に乗りませんか? 戦闘は私達がやるんで、そちらは船旅気分で結構ですよ」

「…そんな話に、私達が乗るとでも思ったのか?」
 そう言いながら、リナーが不機嫌そうに立ち上がった。
「まあ、最後まで聞くモナよ」
 俺は慌ててリナーを諌める。
 まだ話は終わっていないのだ。最も重要な部分を聞いていない。

191:2004/05/03(月) 22:32

 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
 まるで、こちらの反応など最初から予想していたといった風に。
「丸耳は取引だと言ったでしょう? 当然、そちらにも見返りがありますよ。
 おそらく、貴方達が切望しているものがね…」
 そう言って、指を鳴らすしぃ助教授。
 丸耳が、赤い液体の入ったパックをゆっくりとテーブルに置いた。
 これは…!!

「輸血用の血液パックです」
 しぃ助教授が言った。
「貴方達は、これが入り用なんでしょう…?」

 俺は、その赤い液体が詰まった袋を見つめた。
 そして、リナーに視線をやる。
 だが、彼女の不機嫌そうな表情は消えてはいなかった。
「私の体は、すでに通常の吸血鬼とは異なっている。生気の残った血液でなければ、身体の衰弱は防げない。
 まあ、どちらにしても時間稼ぎには変わりないがな…」
 リナーは、しぃ助教授を見据えて言った。
 彼女は人工(それも、まだ技術が確立していない時代)の吸血鬼である。
 さらに、スタンドでの抑圧によって吸血鬼の血が変成しているのだ。

 表情を曇らせるしぃ助教授。
「うーん。思ったより喜んではもらえないようですね。
 とにかく、貴方達の食事量に換算して2ヶ月分を差し上げましょう。
 その代わり、私達の船に乗ってもらいます。そういう取引ですが…?」

「断る。ASAに貸しを作る気はない。輸血用血液など、調達は他からでも可能だ」
 リナーは取り付く縞もなく言った。
 そして、話は終わったとばかりに立ち上がる。

「貴方達に乗ってもらう船は、タイコンデロガ級イージス艦なんですがね…」
 しぃ助教授はゆっくりと視線を上げて言った。
 部屋から出て行こうとするリナーの動きがピタリと止まる。

「トマホーク巡航ミサイルの一発くらい、撃たせてやってもいいかな?なんて思ってたんですが…」
 しぃ助教授は、残念そうに呟いた。
「乗りたくないのなら、仕方がないですねぇ…」

 リナーは再びソファーに座った。
「詳しい話を聞こうか…」
 麦茶のグラスを傾けて、リナーは呟く。

 しぃ助教授は、にっこりと笑みを浮かべた。
「今晩の9時に、近海に停泊しているASA所属イージス艦『ヴァンガード』に乗り込んでもらいます。
 艦長はありす。副艦長にはねここが付きます。実質、艦を指揮するのはねここでしょうけどね」
「えっ、しぃ助教授が艦長じゃないモナ?」
 てっきり、しぃ助教授が艦長をだと思っていた。
 だが、今のはしぃ助教授自身は艦に乗らないような言い方だ。

「私がいないと寂しいですか?」
 しぃ助教授がニヤリと微笑って言った。
 何故か、リナーが俺を睨みつける。
「…誤解を招く表現はやめてほしいモナ」
 俺は汗を拭きながら言った。

 しぃ助教授が話を元に戻す。
「船は1艦だけじゃありませんよ。私は艦隊を指揮しなければいけないので、旗艦に乗り込みます。
 イージス艦は、言わば艦隊の『眼』ですからね。それに貴方のスタンドが加われば心強いですよ。
 …まあ、『異端者』はおまけですがね」

「暴れちゃ駄目モナよ…」
 殺気を放つおまけ… いや、リナーに釘を差す俺。
 丸耳が少し慌てたような表情を見せる。

 しぃ助教授は思いついたように言った。
「そう言えば、貴方達とありすはあんまり面識がありませんでしたね。丸耳、ありすを呼んできてください」
「…はい」
 丸耳は、無駄のない動きで部屋から出て行った。

「ねここはいいけど、ありすはちょっと怖いモナね…」
 俺は呟いた。
 あの、ありすの感情のない瞳を思い起こす。

「…ねここはイイ!!ですか。モナー君は、よっぽどねここがお気に入りのようですね」
 しぃ助教授が深く頷いて言った。
「ちなみに、ねこことはありすの補佐で、モナー君と同年代の女の子です」
 そして、不必要な補足を加えるしぃ助教授。
 リナーが無言で俺を睨みつけている。
「誤解を招くような表現は勘弁してほしいモナ…」
 なんで俺がさっきからいじめられているのか、さっぱり理解できない。

192:2004/05/03(月) 22:33

「ありすをお連れしました…」
 丸耳の声と共に、ドアが開く。
 その後ろには、かって見たことのある少女が立っていた。

 何の感情も宿さない瞳。
 フリルに覆われた衣服。
 そして、周囲を覆うような圧迫感。

「彼が、船に乗ってくれるモナー君と『異端者』です」
 しぃ助教授は、ありすに俺達を紹介した。
 感情のない瞳で、俺達を眺めるありす。
 リナーは、ありすを凝視して緊張した表情を浮かべている。
 やはり、この圧迫感は普通ではないようだ。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 ありすの感情の波は非常に緩い。
 だからこそ、圧迫感が突出するのだ。
 同じ艦に乗る以上、これにも慣れないといけない。

 …それにしても、この衣服は素晴らしい。
 メイド服をアレンジしたような独特の装飾。
 特に、レトロなペチコートはSクラスだ。
 ぜひ、一着我が家にほしい。
 そして、リナーに着せてみたい…!!

「…まあ、そう睨まないであげて下さい。敵意さえ持たなければ、ありすは大人しいですよ。
 彼女のスタンド、『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』も強力ですので、貴方達に苦労はかけませんしね」
 ありすを凝視している俺に、しぃ助教授が告げた。

 ――『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』。
 それが、彼女のスタンドの名。

「無愛想ですが、可愛いところもありますよ。そう思いませんか、モナー君?」
 しぃ助教授は笑顔で言った。

 …何で俺に振るんだ?
 リナーの目も光っている。
 肯定すればリナーに、否定すればありすに屠られるかもしれない。
 …さて、どう答えたものか。

「…サムイ?」
 俺の苦悩をよそに、ありすが言った。
「え? 別に寒くはないモナよ」
 俺は困惑しつつ答える。
 ありすは無言でこくりと頷くと、背を向けて部屋から出ていってしまった。
 俺達は、しぃ助教授に視線を戻す。

「まあ、挨拶も済んだようですし… 取引は成立でいいですね?」
 しぃ助教授は微笑んで言った。
 …あれは、挨拶だったのか?

 とにかく、2ヶ月分の血液パックは是非必要だ。
 俺自身は、これさえあれば生きていける。
 リナーに関しても、ないよりはマシだろう。
「じゃあ、取引は成立という事で…」
 俺はそう言おうとした。
「…何か忘れてないか?」
 リナーが口を挟む。

 …あっ!!
 公安五課の要人救出とブッキングしてる!!

「何か先約でも?」
 しぃ助教授は、俺達の様子を見て言った。
 その通りだが、公安五課が隠密行動をしている以上、迂闊に口に出す訳にもいかない。
「…まあ、そんなところモナ」
 俺はそう言って、リナーの顔を見た。
 …どうしようか?
 あっちの方は、行きたい奴のみが行くという結論が出たはずだが…

193:2004/05/03(月) 22:33

「…私個人の意見を言わせて貰うならば、ASAに協力すべきだと思うが」
 リナーは偉そうに腕を組んで言った。
 虚勢とは裏腹に、すがるような視線。
 どうやら、イージス艦とやらに乗りたくてたまらないようだ。
 ならば、腹は決まった。

「…じゃあ、その船とやらに乗るモナ」
 俺は、しぃ助教授に言った。
 満足そうに頷くしぃ助教授。
「それでは、血液パックは貴方の家に届けておきます。特別に専用の冷蔵庫もサービスしましょう」

 …これで、話は決まった。
 今夜は、ギコ達とは別行動になるようだ。
「9時モナね。ヘリで迎えに来てくれるモナ?」
 俺は、時刻と交通手段を確認した。
「…ええ。武器類の持参は自由です。おやつは300円まで。バナナはおやつに入りません」
 まるで遠足のようにしぃ助教授は言った。
「…了解モナ」
 俺はグラスを手に取ると、麦茶を喉に流し込む。

「ところで『異端者』…」
 しぃ助教授は、不意に真剣な表情を浮かべた。
 そして、リナーを真っ直ぐに見据える。
「貴方、モナー君と寝ました?」

 ……………!?!?!?
 俺は、飲んでいた麦茶を吹き出した。
 床が麦茶まみれになる。
 一方、リナーが持っていたグラスは粉々になっていた。
 思わず握り潰したようだ。

 しぃ助教授は頭をポリポリと掻いて言った。
「あらあら。貴方達の間柄が、前に見た時より落ち着いていたから…
 てっきり何かあったんだと思ったんですがね」
 丸耳が慌てて雑巾を持ち出した。
 そして、俺が吹き出した麦茶を拭く。

「モ、モナ達はゴホッ、そんなガフッ、ゴフッ!!」
 麦茶が気管に詰まり、まともにしゃべれない。
 リナーは露骨に視線を逸らして、掌に刺さったグラスの破片を払っている。
「…失礼します」
 丸耳がグラスをお盆の上に載せた。
 そのまま、背後にある流し台に運んでいく。

「ふーむ。まだまだ恋愛に潔癖な年頃みたいですね」
 しぃ助教授は、ニヤけながらソファーにもたれた。
 そして、何かを思い返すように胸の前で腕を組む。
「…学生時代を思い出しますね。私もハイティーンの時は、まだまだ純情な乙女でした…」

 突然、背後からグラスの割れる音がした。
 丸耳がお盆を引っくり返してしまったようだ。
「…失礼、不注意でした」
 丸耳が恐縮した声で詫びる。

「あら? 何か驚く事でもあったんでしょうかね…」
 しぃ助教授は微笑んで言った。

 …もう、話は終わったのだ。
 これ以上ここにいると、無駄な騒動に巻き込まれかねない。 

「…では、モナ達はここらでお暇するモナ」
 俺はソファーから腰を上げた。
 リナーも続いて立ち上がる。

「丸耳。後片付けはいいですから、モナー君達を家まで送ってあげなさい」
 しぃ助教授は、グラスの破片を集めている丸耳に言った。
「…はい、分かりました」
 そう言って、丸耳が腰を上げる。

「…最後に忠告です」
 しぃ助教授は、真剣な目で俺の方を見た。
「モナー君、ヨーロッパの格言にこんなのがあります。
 『フランスの女性は、裏切られたらライバルの方を殺す。イタリアの女性は、騙した男の方を殺す。
  イギリスの女性は、黙って関係を絶つ。 …だが、結局はみんな別の男に慰めを見い出す』
 『異端者』は確かフランス系でしたっけねぇ…?」

「じゃあ、また夜に会うモナッ!!」
 俺は、何かを言いかけるリナーの手を引いて部屋から出た。
 …これ以上、火に油を注ぐのは止めてもらいたいものだ。
 俺達は、こうしてASA本部ビルを後にした。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

194ブック:2004/05/04(火) 13:02
     EVER BLUE
     第三話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その一


「…で、お前ら何か言う事は?」
 僕とオオミミ、ニラ茶猫と三月うさぎの四人は、サカーナの親方の前に整列させられていた。

「言う事って言われても、なぁ?」
 ニラ茶猫がオオミミと三月うさぎの顔を見ながら言う。

「手前ら!
 勝手に爆裂徹甲弾全部使って詫びの一言も無しか!!」
 サカーナの親方が鬼の様な形相で叫んだ。
 その目はうっすらと充血している。
 どうやらさっきまで泣いていたようだ。

「悪いが俺達が謝る道理など無いな。
 そもそも船長のあんたがあの戦艦に喧嘩など吹っかけなければ、
 あの弾だって使わずに済んだのだ。
 自業自得というやつだな。
 それとも何か?
 あのまま空の藻屑となって大切な弾と共に地面に墜落する方がよかったと?」
 三月うさぎが極めて理性的に反論する。
 サカーナの親方はぐうの音も出ない。

「でもなあ、いくら何でも全弾つぎ込む事は無ぇだろうが!?」
 サカーナの親方が諦め切れないといった風に食い下がる。

「そんなに弾が欲しいならこれをくれてやる。」
 三月うさぎがなにやらマントをゴソゴソと動かした。
 すると、マントの中から銃の弾丸が出るわ出るわ。
 恐らく、あの戦艦での自動小銃の射撃による弾丸だ。
「都合百五十六発の鉛玉だ。
 数だけならば、使った爆裂徹甲弾と差し引いてもお釣りが来るだろう。」
 幾つもの銃弾をサカーナの親方に握らせる三月うさぎ。

「阿呆か!
 こんな鉄屑貰った所で、一銭にもなるか!!」
 サカーナの親方が銃弾を地面に叩きつけた。
 銃弾がころころと地面を転がり、壁に当たって止まる。

「どうでもいいが船長。
 他にも言及すべき事があるんじゃないか?」
 三月うさぎが、脇の方に佇んでいた天に視線を移した。

「あ、そうだった。
 おい、オオミミ!
 お前船に厄介事持ち込むなって、あれ程言っておいただろう!!」
 サカーナの親方の雷がオオミミに落ちた。

「『ゼルダ』もだ!
 どうしてオオミミを止めねぇ!
 どうすんだ、こんなお嬢ちゃん拾って来ちまって!
 犬や猫じゃねぇんだぞ!!」
 案の定僕までもが怒られる。
 やれやれ。
 だからこの子を連れて帰るのは嫌だったのだ。

195ブック:2004/05/04(火) 13:02

「ごめんなさい…!
 私が悪いんです。
 私が無理矢理オオミミさんに連れて行って貰うようにお願いした所為で、
 オオミミさんは仕方無く…」
 と、天がオオミミとサカーナの親方の間に割って入った。

 ちょっと待て。
 何だこのしおらしさは。
 さっきまでの態度と全然違うじゃないか。

「だからオオミミさんを怒らないであげて下さい…!
 責めるなら代わりにこの私を…」
 この猫被りめ…!
 皆を騙くらかそうとしてもそうはいかないぞ。
 お前の本性は、どこまでもまるっとお見通しなんだからな。

「…?どうしたの、天さん。
 さっきと全然雰囲気が違……あぐっ!」
 彼女の豹変振りを指摘しようとしたオオミミの足を、天が踵で踏みつけた。

「ご、ごめんなさい!
 オオミミさん、大丈夫ですか!?」
 わざとらしくオオミミに謝る天。
 こいつ、今の絶対故意だろう。

「…私の本当の性格喋ったら酷いわよ。」
 と、天がオオミミにだけ聞こえる声で脅迫した。
 その威圧感に思わず顔を引きつらせるオオミミ。

 …オオミミ。
 殺そう。
 今ここでこの女殺そう。
 神様だって、きっと許してくれる。

「…ったく、しゃーねーなー……
 兎に角だ。
 船の修理に近くの島まで寄らなきゃなんねぇ。
 その嬢ちゃんをどうするかは、そこで決める。」
 サカーナの親方がやれやれといった風な顔で告げた。
 そして、怒るのにも疲れたのか振り返ってその場を去ろうとする。

「…ああそーだ。
 オオミミ、お前は罰として船に穴が開いた所の掃除だ。」
 サカーナの親方が思い出したように言う。
 そのまま親方はその場を離れていった。

「ま、運が悪かったな。
 せいぜいがんばれよ。」
 ニラ茶猫がオオミミの肩を叩いた。

「…やれやれ。
 後先考えず行動するからそうなる。
 …いや、それはこの船の奴ら全員か。」
 三月うさぎもそう言い残すと去って行った。

「天ちゃん、だったわね。
 ごめんなさいね、説教に付き合わせちゃって。
 取り敢えず今日の寝室の案内をするからついて来て。」
 高島美和がそう言って天と共に出て行く。

 かくして、その場には僕とオオミミだけが取り残された。
 糞。
 あの女、後で絶対覚えてろよ。

196ブック:2004/05/04(火) 13:03



 オオミミは見事に船室に開けられた穴の辺りの床を、せっせと磨いていた。
 ある程度掃除した所で、オオミミは服の袖で額の汗を拭う。
 しかし、後始末をすべき部分はまだ沢山残っている。
 いつになったら終わる事やら。

(…オオミミ、何であの子に言い返してやらなかったんだよ。)
 僕は苛立たしげにオオミミに尋ねた。
「ん〜?何で『ゼルダ』はそんな事考えるの?」
 オオミミは呑気な顔でそう答える。

(何言ってんだよ!
 あの我侭娘の所為で、
 君がここでこうして一人で掃除させられる羽目になってるんじゃないか!
 少しは悔しいとか思わないのか!?)
 全く呆れる位お人好しな奴だよ、君は。
 そんなんだから、あの女に体よく扱われるんだ。

「あはは。俺はそんなに気にしてないよ。
 あの子、そんなに悪い人じゃなさそうだし。
 それに、何か寂しそうな目をしてたからさ…
 ほっとけないだろ?そーいうの。」
 あっけらかんとした顔で笑うオオミミ。
(君は馬鹿か。もう少し世間の厳しさというものをだな…)

「全く…善意の押し売りもいい所ね。」
 その時、いきなり横から声をかけられた。
 見ると、天が雑巾を持って立っていた。

「…?何でこんな所に?」
 不思議そうに尋ねるオオミミ。
 何だこの女。
 オオミミの邪魔でもしに来たのか…?

「魚でも買いに来たように見えて?
 掃除を手伝ってあげに来たのよ、
 そ・う・じ・を。」
 厭味ったらしく口を開く天。
 何様だ、この女。
 …え?
 掃除を、手伝いに来た?
 まさか、そんな、幻聴か!?

「そんな、悪いよ。」
 手を振りながら断ろうとするオオミミ。
「うるさいわねぇ。
 せっかくこの私が手伝ってあげるって言ってるのに、
 なーに?その態度は。」
 お前も、手伝いに来たわりには随分と偉そうな態度だな。

「いや、でも、サカーナの親方は僕に命令したんであって…」
 オオミミがぼそぼそと呟いた。

「勘違いしないでよ。
 別にあなたの為にやる訳じゃないわ。
 実際、あなたがここの掃除をする事になった原因の一旦には私の責任もあるんだし、
 ここであなたに借りを作っておきたくないだけよ。」
 ぶっきらぼうに言うと、天は雑巾で床を拭き始めた。
 可愛くない女。
 もっと他にも言い方ってもんがあるだろう。

「ごめん。助かるよ。」
 オオミミが屈託の無い笑顔を天に向けた。

「あのねぇ、私はわざと神経逆撫でするような言葉を選んでるんだから、
 少しは嫌な顔の一つでもしなさいよ!」
 天が呆れたような顔をする。
 その意見については僕も賛成だ。
 オオミミは、もっと人を疑うとか、そういう事を学んでもいい。

「でも、ありがとう。」
 それにも関わらず、オオミミは天に心からの礼を告げる。
「…全く、あんたと話してると調子が狂うわ。」
 天は顔を少し赤くすると、ツンとそっぽを向いてしまった。

197ブック:2004/05/04(火) 13:04


「…ねえ、天さん。」
 不意に、オオミミが天に尋ねた。
「天でいいわ。それで、何?」
 天が面倒臭そうに聞き返す。

「えっと、じゃあ天。
 君、どこであいつらに攫われたの?
 出身は何処?」
 オオミミがそう質問した。

「…悪いけど、ノーコメント。
 生憎、出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 あからさまに不機嫌な顔をする天。
 感じ悪い奴。
 それ位、答えたっていいじゃないか。

「じゃあ今度はこっちから質問するわね。
 あなたさっきから一人でぶつぶつ言ってる時があるけど、
 それってあの変てこな鉄屑と闘ってた時に出てきた奴と話してるの?」
 天がオオミミにそう聞いた。

 …!
 この子、僕の姿が見えていたのか!?

「…!そうだけど、もしかして君もスタンドが使えるの!?」
 驚いた様子で聞き返すオオミミ。

「さっき言ったでしょ。
 私は出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 こいつ…
 自分は何も答える気が無い癖に、オオミミに質問しやがって…!

「ご、ごめん。」
 頭を下げるオオミミ。
 だから君が謝るなって!
 そういうの、君の悪い所だぞ。



 掃除もようやく終わり、オオミミが大きく欠伸をした。
 時計はもう深夜の二時。
 早く寝ないと明日に響いてしまう。

「…やっと終わったわね。
 全く、とろいんだから…」
 最後まで悪態をつく天。
 この女、どこまで口が減らないのだ。

「それじゃ、私は寝るわね。お休み。」
 欠伸をすると天はさっさと帰って行ってしまった。
 やれやれ。
 ようやくうるさいのが居なくなったか。

(オオミミ、それじゃあ僕達もそろそろ休もう。)
 僕はオオミミにそう提案した。
 今日は何だか色々と疲れた。
 早くぐっすりと眠りたい。

「うん、そうだね。」
 オオミミがもう一度眠そうに欠伸をする。
 そして彼は自分の寝室に向かって足を伸ばし―――

「おい。」
 野太い声がいきなり聞こえてきた。
 この声は、サカーナの親方か。
 声の方を向くと、その予想が正しかった事が判明する。

「親方…」
 もう夜も遅いので、静かな声で喋るオオミミ。
「明日船の修理に、近くの『tanasinn島』に寄る。
 そこでお前とあの嬢ちゃんを散歩でもして来いってお題目で外に出す。
 それがどういう事かは、言わなくても分かるな。」
 サカーナの親方がオオミミに厳しい目を向けた。
 つまりは、そこであの子を置き去りにしてこいという事だ。

「……」
 親方と目を合わせずに俯くオオミミ。
「…あの嬢ちゃんを放っておけねぇって気持ちは分かるさ。
 だけどな、実際問題うちみたいな所に置いとく訳にもいかねぇだろう。
 幸いあの島は割と大きいし、船の出入りも多い。
 役所に頼みゃあ、あの嬢ちゃんも一人で元の家に帰る事くらい簡単さ。」
 なだめるように、サカーナの親方はオオミミを説得した。

(親方の言う通りだよ、オオミミ。あの子とは明日お別れだ。)
 この説得には僕の個人的願望が半分程含まれていた。

「…分かったよ。」
 暗い表情で呟くオオミミ。
 やった。
 これであのいけ好かない女ともお別れだ。
 今夜はぐっすり眠れそうだ。

198ブック:2004/05/04(火) 13:04



「…天気もいいし、ちょっと散歩に行かない?
 サカーナの親方も、船の修理の間に船内に居られたら邪魔だって言ってるし。」
 オオミミにしては上手な嘘で、僕とオオミミは雨と共にtanasinn島の中を散歩していた。
 ここtanasinn島は小の大といった程度の大きさの浮遊島で、そこそこ活気もある。
 ここならば、天を捨てて行った所で野垂れ死にはすまい。

 それにしても、あの我侭な女が素直に散歩に付き合うとは思わなかった。
 悪いものでも食べたのだろうか。

「…本当に、置き去りにしていいのかなあ?」
 オオミミが不安そうな声で僕に尋ねた。
(今更何言ってるんだよ。
 また親方にどやされるぞ。)
 僕は叱るように答える。
 全く、君は本当に甘過ぎる。
 もっとこうガーンといった風に…

「ちょっと、一人で自分の世界に入っていないでよ。」
 後ろから、天が傘の先っぽでオオミミを小突く。
 この野郎、やりやがって。
 しかしこの女、何で晴れてるのに傘なんか持ち歩いているんだ?

 …まあいいや、どうせこいつともここでおさらばなんだ。
 余計な事を気にするのはやめておこう。

「……」
 今日の雲ひとつ無い晴天とは対照的に、オオミミの表情は晴れない。
 オオミミ、こんな女を置き去りにする事何かに良心の呵責を感じる必要なんか無いぞ。
 さっさとどこか適当な場所で、お別れを…

「…早くどっか行きなさいよ。
 あなた、私をここに置いて行く為に、私を散歩に連れて来たんでしょう?
 なら、さっさとどっかに行ってくれなきゃこっちが居心地悪いわ。」
 …!
 この子、気づいていたのか!

「……!!」
 動揺を隠せないオオミミ。

「気づいていないとでも思ったの?
 はっ、私だってそこまで馬鹿じゃないわ。」
 勝気な笑みを浮かべながら天がオオミミに顔を向ける。
 思わず目を逸らすオオミミ。

「勘違いしないでよ。
 別に、その事を責めるつもりはさらさら無いわ。
 実際私があなた達の立場でも同じ事をしたと思うし、
 あの船から出れただけでも運が良いんだしね。」
 天が振り返って背中を向ける。
 長い綺麗な髪を束ねた大きなリボンが、風に揺れた。

「…何してるの。
 さっさと行きなさいよ。
 空気を読めない男は嫌われるわよ。」
 そっぽを向いたまま天がオオミミに告げる。
 …オオミミ、彼女の言う通り、
 早くこの場から立ち去って…

199ブック:2004/05/04(火) 13:05

「!!!!!」
 と、オオミミが天の腕を掴んで物陰に引き込んだ。
「!?
 ちょっ、何するのよ変た…!」
 叫ぼうとする天の口を手で塞ぐオオミミ。
 天がそれから逃れようと必死にもがいた。
 オオミミ、どうしたんだ!?
 いきなりこんな事するなんて、君らしくないぞ!?

「静かに…!」
 オオミミが小さく呟いて通りの方に視線を向ける。

 …!
 赤い鮫のロゴのついた服を着た奴等が、大勢で何かを探し回っている。
 まずい。
 あいつらは…!

「『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)…!」
 険しい顔になるオオミミ。
 天も状況を理解したのか暴れるのをやめる。

「居たか!?」
「…いや。」
 向こうから『紅血の悪賊』の連中の声が聞こえてくる。

「マジレスマン様からの話だと、
 黒マントで隻眼の男と、頭がニラみたいな男、
 それからデカ耳の男と頭にリボンを巻いた女らしい。
 この島に来てるかもしれないから、草の根分けても探し出せ、との事だ!」
 最悪だ。
 まさかこの島に、奴等の仲間が居ただなんて…!

「…天、逃げるよ。」
 オオミミが天の手を引いた。
「ちょっと、別に私一人でだって、
 あいつらから逃げ切るくらい訳無い…」
 その時、天の体が近くに積まれていた箱に当たった。
 派手な音を立てて箱が崩れ、その場の視線が一斉に僕達に向けられる。

「…おい、あれ。」
 『紅血の悪賊』の一人が僕達を指差す。
「…デカ耳に、頭にリボンの女。」
 ヤバい。
 気づかれた!

「走るよ!!」
 オオミミが天を引っ張る形で走り出した。
「追え!!逃がすな!!!」
 全力で奴らが僕達を追いかけて来る。

 糞、何て事だ。
 よりにもよって僕達しかいない時に見つかるなんて。
 いや、それよりも、早くこの事をサカーナの親方達に知らせなければ…!

200ブック:2004/05/04(火) 13:05


「はっ、はっ、はあ…!」
 どれ位走ったのだろう。
 天の息が上がり、走る速度も落ちてくる。
 後ろからはなおも追跡してくる男達。

 まずいぞ、オオミミ。
 唯でさえ僕達はこの場所に土地勘が無いんだ。
 このままでは、捕まってしまう!

「…あなた、何で私を置いて逃げないのよ。
 あなただけなら逃げれる筈でしょう?」
 息も切れ切れに、天がオオミミに尋ねる。
 そうだ、オオミミ。
 何故君は一人で逃げようとしない。

「何言ってんだよ!
 捕まったらどうなるか分からないってのに、
 君だけ置き去りにして逃げるなんて事出来る訳ないだろう!?」
 珍しく怒った顔をして、オオミミが天に告げた。

「はっ、何それ!
 そうやって善意を押し売りして、自己犠牲に酔いしれるつもり!?
 そんなの、こっちが迷惑だわ!
 そういうのを偽善者って呼ぶのよ!!」
 こんな状況でも減らず口を叩く天。
 この女、せっかくお前を助けようとしてるオオミミに向かって、
 よくもまあそんな事を…!

「…そうかもしれない。
 でも、やっぱり自分だけ助かればいいってのは、
 いけない事だと思うよ。」
 オオミミが暗い表情になる。

(今はそんな事言ってる場合じゃ無いだろう!?
 喋ってる暇があったら足を動かすんだ!!)
 こらえ切れなくなり、僕はそうオオミミに喝を入れた。
「そうだね…!
 急ぐよ、『ゼルダ』!!」
 オオミミが精悍な顔つきに戻る。
 そうだ。
 今は取り敢えず、逃げ延びる事だけを考えて…


「!!!!!!!」
 オオミミと天の足が止まる。

(行き止まり…!)
 僕達は、袋小路に追い詰められていた。

「手間ぁ掛けさせてくれたなあ…
 ええ?兄ちゃん達…」
 僕達に向けて一斉に銃を突きつける『紅血の悪賊』達。
 オオミミが天を庇うように、奴らに対して身構える。

「どうする?
 お前等の仲間の場所まで案内するって言うんなら、
 痛い目に遭わせないでおいてやるが…」
 品の無い笑みを顔に貼り付けながら、リーダー格らしき男がオオミミに言った。

「教えると思って…!」
 オオミミのその言葉を銃声が遮る。
 オオミミの右頬がを銃弾が掠め、そこから赤い血が流れた。

「…言葉は選んだ方がいいぜ。
 それとも、後ろの女を突っ込み廻しまくってやりゃあ、
 少しは気が変わるかな?」
 奴らが下品な声で笑う。

 まずいな。
 数が、多過ぎる。
 オオミミ一人なら、僕の力でここを切り抜ける事も出来るかもしれないが、
 天を守りながらとなると話は別だ。
 オオミミの性格上、天を見捨てる事は出来ないだろう。

 畜生。
 一体、どうすれば…!

201ブック:2004/05/04(火) 13:06


「あの〜、お取り込み中のところ済みません。」
 その時、いきなり修羅場に似つかわしくない呑気な声がその場に響いた。

「!?」
 僕達も『紅血の悪賊』も、一斉にその声の方を向く。
 そこには、一人の青年が立っていた。
 ダークグレーのスーツを着こなし、人の好さそうな笑みを浮かべた青年。
 およそこんな状況とはかけ離れている風貌である。

 しかし、この人はいつの間に現れたのだ!?
 さっきまで、この人が居た場所には誰も居なかった筈だ。

「誰だ!?」
 『紅血の悪賊』の一人がその青年に銃を向けた。

「いや、私はしがない小市民ですよ。
 しかし銃声がしたので何事かと思って来てみれば…
 どうやらとんでもない事になっちゃてるみたいですね。」
 軽薄な笑みのままそう返す青年。
 その顔には、銃に対する恐れは微塵も見られない。
 何なんだ、この人は。
 頭がおかしいのか!?

「…生きてるうちに、失せろ。」
 リーダー格の男が青年にそう告げた。
 言ってみれば、これは最後通告である。

「いやそんな、大の大人がいたいけな少年少女に銃を向けるなんて現場を見て、
 『はいそうですか』と立ち去るなんて事出来ませんよ。
 すみませんが、ここは私に免じてその物騒な物をしまってくれませんかね?」
 それでも青年は笑顔を崩ずに答える。
 それが、『紅血の悪賊』の連中の堪忍袋の緒を切っているのは、
 火を見るよりも明らかだった。

「―――殺せ。」
 その男の声と共に、青年に向かって無数の銃弾が飛び交った。

 駄目だ!
 やられ―――


「!?」
 しかし、銃弾は全て男の体をすり抜けた。
 我が目を疑う『紅血の悪賊』達。
 僕達も、何が起こったのか理解出来ない。

 どういう事だ!?
 だって、男の姿はちゃんとそこに…

「…私は、荒事は嫌いなんですけどねぇ……」
 と、男の姿が掻き消えていく。
 何だ。
 一体、何が起こっている!?

「仕方がありません。
 それでは、今度はこちらから参りましょうか。」
 何も無い空間から、男の声だけが聞こえてきた。



     TO BE CONTINUED…

202( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:19
「ぶっ潰してやるッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『生まれし力』ジェノサイアact2

「ひ・・っ!」
緑の男は一歩退いた。
「待てよ。」
俺は思いっきり拳に力をためる
「お前には、たんまりはいてもらうぜ。」
ジェノサイアの拳がガチャピンの頬に直撃する
「ブ・・ッギャアアアアアアアッ!」
ガチャピンは吹っ飛んでいった
「・・スタンドを砂にされたのにダメージのフィードバックが無いって事は・・。遠隔操作型ね。」
・・懐かしい声
「こんな時に言うのもなんだが、久しぶりだな。ジェノサイア・・。」
ジェノサイアは満面の笑みを浮かべる
「ええ。本当に・・久しぶり・・。」
その微笑んだ眼から涙が流れる
しかし再会を喜ぶ暇も無く、邪魔者が入る
「貴様ァ・・許さん・・食ってやる・・食い尽くしてやるワァィゥッツァッ!!」
ガチャピンは物凄いスピードで突進してきた
「『ジミー・イート・ワールド』ォッ!」
突進する緑の男の眼前にジミー・イート・ワールドが現れる
「ジェノサイア。魅せてくれ。お前の『能力』」
「OK。」
ジェノサイアは地面に拳を叩きつける
「まず1つ。私は前とは違う『近距離パワー型』への変貌を遂げた。」
そして床から緑の男の方向に無数の針状の柱が現れる
「そして私の能力は『バグ』の発生ッ!元からある物体の形を主人の『思念』によって変えたり、物体を停止させたりする能力ッ!
相手への『敵意』があれば、床から相手に向かって針状の柱が現れたり、敵が砂になったりッ!殴った場所が永久停止したりッ!
相手への『仲間意識』があればッ!傷が回復したりするッ!正に一撃当たれば勝利の可能性も高いッ!万能型スタンドッ!」
いや、自分で言うなよ
「・・・精密動作がまだあまり出来ないのが問題ですが・・。」
ジェノサイアが呟く
「クソッ・・!ココは一旦てっきゃk・・」
しかし次の瞬間ガチャピンの前に『ジェノサイア』が現れる
「え・・・ッ」
「ジェノサイアact2ッ!相手に対する『敵意』ィッ!」
緑の男の頬に命中し、再度吹っ飛ぶが緑の男に『バグ』の発生は見当たらない
「あ・・れ・・?」
「言ったでしょう・・。精密動作性は低いって・・。」
・・つまり成功する確率は100%じゃないし、自分の思った効果が出るかどうかも怪しいのね・・。
「チ・・ッ!驚かせやがってッ!」
ガチャピンはソレを聞いて安心したのか一気に突っ込んでくる
「そらッ!死ねェィッ!」
一気に突っ込んでくるジミー・イート・ワールドとガチャピン
畜生、コイツ調子乗ってやがる
「『ジェノサイアact2』ゥッ!相手に対する『敵意』ッ!」

203( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:20
拳を思いっきり床に叩き付けた が
何と床がいきなり水になった
「うおッ!?」
「何ィッ!」
ヤバい。このままじゃ下の階に落ち・・ッ!
・・・そうだッ!
「『落ちるのが嫌』か?ガチャピン。」
俺はわざとらしく言ってみる
「何を・・嫌に決まっているだろがッ!」
ガチャピンは必死に泳いでいる
「その言葉・・待っていたぜッ!」
俺は思いっきりジャンプし、地面めがけてジェノサイアを撃った
「『ジェノサイアact2』!バグの解除ッ!」
地面の水が元通りになる。・・そしてッ!
「クゥッ・・『抜けん』だとッ!?」
「YESッ!狙い通りッ!」
そう。水になった床を元に戻し・・水の中で泳いでいたガチャピンの下半身を固定したッ!
「『抜けたい』か?ガチャピン・・。」
俺はまたもわざとらしく言う
「貴様・・調子にのりやが・・」
「出たい。そうか。よしわかった。出してやるよ」
ガチャピンの意思を無視してジェノサイアでアッパーをかました
「グゥッ!?」
そして俺は宙を舞うガチャピンの右腕をぶん殴った
「相手に対する・・『敵意』ッ!」
俺がそう叫ぶとガチャピンの腕がブレはじめ、砂となった
「―――――ァッ!」
声にならない叫びをあげ、地面に思いっきり叩きつけられるガチャピン
「イマのが俺を恐怖に陥れた分!そしてコレがムックの右腕の分ッ!」
そして俺は更にガチャピンの頭をブン殴る
して再度宙を舞うガチャピン
「んでコレがムックの左腕の分・・ッ!」
俺はジャンプし、宙を舞うガチャピンに更にアッパーを加えた
天井に頭をぶつけたガチャピンは急降下する。
「そしてコレがムックの腹の分だァッ!」
ガチャピンの後頭部にジェノサイアのカカト落としを食らわす
「・・ァッ・・ガーッ!・・」
意識もちゃんとして無い様で叫び声すらあげれてない様だ
そして一気に床に叩きつけられ声にならない叫びを再度するガチャピン
「まだだ。」
俺は倒れたガチャピンを起き上がらせラッシュを加える
「これもッ!」
「これもこれもッ!」
「これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
ムックの分だァーッ!!!」
俺は157回言った『これも』と最後の『ムックの分だ』分だけガチャピンを殴った
ガチャピンは顔面を紅く腫らしながらその場に倒れる
「あ・・アッガガガガ・・グゥ・・フゥ・・ハァ・・。」
ガチャピンが眼を開けた瞬間俺はもう一度ガチャピンを殴る。
「まだだ・・。」
俺はつぶやく
「まだおわんねーぞッ!てめぇがッ!泣くまでッ!殴るのはやめねぇッ!」
・・・もう何分経っただろう。
いや、何十分か・・。
ずっとガチャピンを殴っていたと思う。
不思議と腕が疲れない。いや、疲れても俺は多分まだ殴ってると思う。
コイツは、ヤバい奴だ。
半端に殴っておいて逮捕するだけじゃコイツは間違いなくまたココにくる。
だから、俺は、コイツを・・・
殺・・・
「ピリリリリリリリ!!」

204( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:21

「で・・電話?」
俺の携帯だ。取りに行くべきか。コイツをまだ殴るべきか。
・・・コイツは多分もう気絶してる。
だったら・・。
「・・・誰から・・だ?」
俺は携帯を見に行こうとする。その時だった。
「ジミー・・・イート・・ワ゛ル・・ド・・」
ガチャピンのスタンドが現れる
「・・ッ!の野郎・・!」
俺は身構えるがガチャピンは俺とは逆方向を向いた
「・・ッカ・・ジャ・・あ・・ナ・・」
ガチャピンは窓を食いつくし、落っこちていった。
・・・ヤバい・・ココは四階だぞっ!落ちたら・・
「ガチャ・・ピ・・」
俺は慌てて窓の外を見るが、ガチャピンの姿は無い。
逃げた・・?馬鹿な。早すぎる。死んだとしても死体が無い。
・・・・一体ドコへ?
「ピリリリリリ!」
俺はハッと我に帰る。そうだ。電話だ。
「・・・この電話に感謝だな。鳴ってなかったら俺はきっとアイツを・・」
・・殺してた
「お。殺ちゃんか・・。」
殺ちゃんからの電話を取る
「もしもし?殺ちゃん?おーい?もしもーし?おーい?」
・・?
「もしもし?殺ちゃん!?もしもし!?」
マズい!
嫌な予感がするッ!
・・コンビニだ・・。何かあったに違いないッ!
「殺ちゃ・・」
俺が外に出ようとすると倒れているムックが眼に入る
「クッソ・・ッ!世話の焼ける・・ッ!」
俺はムックをオブって大雨の外に出た。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

走った。雨なんて気にせずに。走った。
「殺ちゃ・・ッ!」
コンビニの前についた俺は衝撃的な光景を眼にした。
殺ちゃんが紅くそまり倒れていた。
そして、その後ろには見覚えのある頭が居た。
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

←To Be Continued

205N2:2004/05/04(火) 14:37

             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  某漫画ネタ始めました
             \____ _________
                    ∨ 
    ∧_∧ モジモジ      〃ノノ^ヾ
   ( *・∀・)           リ−` ル 
   (つ<V>)  旦   旦.   ( V  ノ 
   ( ̄__)__)  ̄| ̄ ̄ ̄| ̄  (_  ̄}0
   __∧________
 /
 |  君も探してみよう!
 \___________
             
                   (このにわかヲタ作者め!!)
 (筋肉質ビスケタソハァハァ)

206N2:2004/05/04(火) 14:37

 リル子さんの奇妙な見合い その③

町の中心から離れた、この町内でも最も自然の多い地域にある一軒の料亭「伍瑠庵」。
ここは知る人ぞ知る「隠れた名店」で、噂によれば政財界のトップまでもが
わざわざこんな遠くまでお忍びで食いに来るって言う話まである。

オレ達は大将に連れられるまま、この料亭にやって来た。

「ここがリル子の奴が今日見合いすることになっている料亭だ」
外から見ただけでも、この店がオレの体験したことのない空気に包まれていることがすぐ分かる。

「…わざわざこんなメチャ高級そうな所で見合いするだなんて…。
あの人、金の方は本当に大丈夫なんだろうな?」
相棒ギコは見合いの方よりもそっちが気になるらしい。

「あいつとて人気アナウンサーなんだ、いっぱい番組を掛け持ってんだからこの位大丈夫に決まってんだろ」
大将が根拠もない余裕を浮かべる。
自分の懐以外の金はどーでもいいんかい。

すっかり忘れていたが、リル子さんはこっちの地元テレビ局の看板アナウンサーである。
「2ch News」や「モナー板3分クッキング」と彼女が出演する番組は数多く、そのいずれもが(様々な意味で)人気が高い。
…特にモララー族のヲタが異常に多いらしく、おっかけやストーカーなど日常茶飯事、
挙句の果てには職場でもしつこく言い寄ってくる男がいていい加減疲れている、と彼女は漏らしていた。

そのせいかどうかは知らないのだが、コーチングは「サザンクロス」内でも
後の男二人を遥かに超越する鬼っぷりを発揮するのだが、
それもまあ特訓の為であって、一応普段は(表向き)それなりに優しくて礼儀正しいので
特訓の厳しさは「hate」故と言うよりかはやはり「severe」のはずである、らしいのだが
ギコやギコ兄の話を聞く限り、どうもオレに対してだけは種族的な「私怨」が働いているように思えて仕方ない。
はたはたいい迷惑な話だ。


「よし、それじゃあ乗り込むか!」
大将が威勢良く号令を掛けた。
いやいやいや。
アポ無し・金無し・正装無しのオレ達が如何にして入れるというのか。
後二週間を518円で過ごさねばならんというのに…。
(*ちなみにサザンクロス等の空条モナ太郎公認のスタンド自警団に入ると、スピードモナゴン財団から毎月特別手当が入ります)

「おい、どうしたんだお前ら?早くしないとリル子の奴が来てばれちまうぞ」
大将に促され、オレとギコ、それにキッコーマソにシャイタマー達は様々な不安を感じつつも渋々歩き始めた。

207N2:2004/05/04(火) 14:40



門をくぐった瞬間、オレ達はその外界から隔離された、余りに壮麗で厳粛な空気に押しつぶされそうになった。
均衡を無視した、余りに自然的でダイナミックな力強さを誇る日本庭園。
松や苔の放つ強烈な緑・茶色と敷き詰められた小石の薄い灰色の調和がこの空間の基礎を支えている。
しかしこの時期、庭園内を明るく彩るのは何と言っても紅葉である。
一年の中でもこの季節だけでしか味わえない、重く力強い雰囲気を一転して軽く親しげなものにしてくれる、赤・黄の葉。
その自然が織り成すシンフォニーに、オレ達6人はしばらくその場に立ち尽くしてしまった。

「・・・スゴーイ・・・」
「…マジにすげえな。こんな美しく形作られた庭を見たのは初めてだ」
「ホントだよ、これは…」
オレもギコも、そして子供たちもこの壮大な風景にしばし見入ってしまった。

その横で、
「うむ、この庭園はまさしく和の美の集大成とも言うべきものだ。
ここで食う和の調味料・醤油と目玉焼きのコラボレーションはどんなに上手いことであろうか…」

『クラァッ!!』『ゴラアッ!!』『シャイタマー!!』
「うわなんだおまえたちなにをするやmどわあああ!!」
我々の幽波紋の拳を受けた亀甲男は、伊勢海老の如く身体を反らせながら、器用に頭から池へ着水した。
もう上がっては来ないだろう…。南無妙法蓮華経アメーン。

「おい、おめえら何遊んでんだ!さっさとこっち来い!!」
…と、大将がオレ達を大声で呼ぶのが聞こえた。
5人は池に落ちたキッコーマソは放って、さっさと建物の方へと走っていった。



「お待ちしておりました。大将様御一行ですね?」
玄関の奥から、着物に身を包んだ女性がやって来て言った。

「ああ、そうだ。これで全員…おや?キッコーマソはどうした?」
大将はようやく彼の不在に気付いたらしい。
まずい、ツッコミ入れたら池に落っこちましたなんて言えるわけがない。
果たしてどう説明したものか…。

「…あの人はもうしばらく庭を見たいって言ってたから、その内来ると思いますよ」
幸いにも、とっさにギコが機転を利かせて嘘を付いた。
大将も初めは仕方ない奴だという表情を浮かべたが、やがて
「しょうがないな、いつまで玄関に居たらリル子と鉢合わせになりかねないからな。
すまないが、部屋の方へと案内してくれ」
諦めて仲居さんに案内を頼んでしまった。


オレ達は『松の間』という部屋に案内された。
仲居さんが障子を開けた途端、中から和室独特の懐かしいかほりが漂ってくる。
カビ臭くない畳など何年振りだろうか。

「それでは、ごゆっくりどうぞ…」
仲居さんは戻っていき、部屋には男6人だけが残された。

「それじゃあ、リル子の奴が見合いを始めるまでここで待機しよう。
その内料理も運ばれてくるから楽しみに待ってろよ」
やけに楽しそうな大将。

「…大将、昨日決まったばかりの見合いのはずなのに部屋も料理も予約してあるだなんて…、
もしかしてリル子さんがここで見合いすることも、俺達にその監視をさせるのも予定通りとか言うんじゃないでしょうね?」
相棒の鋭いツッコミが入る。
大将は急に鼻歌交じりで外を眺めだした。
…図星か。
こんな真似をするほど、大将の彼女に対するフラストレーションは募っていたというのか?

「…まあ、そこんところはもう何も言いませんけどね、
それよりも隣の部屋に陣取ったところで、一体どうやって見合いの様子を覗くつもりなんですか?
この中には透視能力を持つスタンド使いはいませんし…」

「『クリアランス・セール』!!」
スタンドを発動。
そのまま指を壁に突き立て、ドリルのようにグリグリグリグリグリダグリグリと貫き通す。

「完成!覗き穴!!」
これで隣の様子はバッチリ分かる。
果たしてリル子さんがどんな恥じらい方をするのか、バッチリこの目で見届けて…

208N2:2004/05/04(火) 14:41



「…悪いんだがな相棒、お前の分解能力が今何秒持つかは俺には分からねえがよ、
それって限界過ぎたらどうするつもりだ…?」

…そう言われれば、そうだ。
「…いや、さ、そうしたらまた改めて分解するとか…。
そうだ!んじゃ初めから分解抜きで穴を開けりゃいい話なんだ!!」

「…リル子の奴は直接覗かれて気付かない訳が無いと思うんだがな。
それ以前に効率も悪いし、部屋を荒らしたら罰金ものだ」
駄目だ、こいつら分かってねえ。
オレはすっくと立ち上がって言い放った。
「あのな、覗きってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
壁の向こうに座った奴といつ目が合ってもおかしくない、
バレるかバレないか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。ガキと初老は、すっこんでろ。」

「で、やっと合流したかと思ったら、いつもの阿呆が、スタンドで壁に穴開ける、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。」
そこでタイミング良くギコ兄が入ってきた。
ギコ兄は続ける。

「あのな、覗き穴なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、覗き穴で、だ。
お前は本当に見合いを覗きたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、エロい響きだけで覗きって言いたいだけちゃうんかと。
                        ウォッチャー
裏社会通の俺から言わせてもらえば今、監視家の間での最新流行はやっぱり、
監視カメラ、これだね。
超小型マイク付きCCD監視カメラ。これがプロのやり方。
マイク付きってのは音声も撮れる。そん代わり値段も割高。これ。
で、それを部屋の64ヶ所に設置。これ最強。
しかしこれをやるとリル子にバレた時に半殺しにされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあ三流貧乏商人及び変態教授は手鏡でも使ってなさいってこった。」

「…てめえ、オレのやり方に文句でもあるってのか!?」
「当然じゃないか、そんな古典的かつ非効率的更に発覚の危険性の高い方法を使おうなどと抜かす貴様の心理が全く読めん」

睨み合いが続く。
まさに一触即発。
動き始めたのは、ほぼ同時だった。

「『クリアランス・セール』!クラァッ!」
「貴様はここで一度死んでろッ!『カタパルト』!!」

「いい加減にしねえかゴルァ!『バーニング・レイン』ッ!!」
オレ達が拳を交える直前、相棒の銃弾がオレ達を貫いた。
身体が痺れ、立つことさえままならなくなった2人はそのまま倒れ込む。

 レモンイエローオーバードライブ
「『黄蘖色の波紋疾走』弾…!
てめえらは吉野家コピペの挙句室内荒らしか…?
迷わず2人とも逝ってよし!!」

『…はい…』
電撃で身体が痺れただけでなく、殺気に押されたオレ達は大人しく返事をすることしか出来なかった。

209N2:2004/05/04(火) 14:43



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



モニターの前に群がるムサい男4人とガキンチョ3人。
そこには無人の和室が映されている。

男達が、にわかに画面に接近する。
目的の人物の片割れが映し出されたのだ。

(おいッ、リル子さんが来たぞ!)
(ギコ屋、てめえ声がデカいぞ!!)
(…二人とも、少し黙っててくれないか?)

抜群の感性を誇る彼女には、少しでも声が届けば自分達の存在が知れてしまう。
大将はヒヤヒヤしながらオレ達を誡める。

画面越しのリル子さんはいつになくやたら顔がニヤけている。
そんなにその阿部という男に会うのが楽しみなのか。

「阿部様…早くお会いしたいわ…ウフフ」
(マッチョでアレの大きそうな男ハァハァ)

テレビのスピーカーからリル子さんの独り言が聞こえてくる。
同時に心の声まで聞こえてくる…ような気がする。いつもの事だが。
前から思ってたんだがこの人、俗に言う『サトラレ』って奴ではないのだろうか?

(こんな間抜けっ面したリル子さんを見るのも初めてだな…)
ギコが思わずそう呟いた。
オレ達も余りのアホさ加減にちょっとクスクス笑いそうになった。

瞬間、モニター向こうのリル子さんがテーブルをバン!と叩いて立ち上がる。
オレ達は一瞬ビクッ、としてしまった。

「…今聞き覚えのある声が聞こえたような気が致しました…空耳でしょうか?」
(…あのアホ男子共の声が聞こえたな…単なる気のせいか?)

…なんつう感性。
これでは少しでも普通に喋ったら絶対気付かれる。
大将が指を口に当てて静かにしろ、と合図した。
オレ達もそれにうなずく。
これからは、極力お互いの話も無くさなくては。



「失礼致します、今日お見合いをなさる方が参りました」
隣の部屋の外で、仲居さんがそう言った。
遂にその阿部とやらが来たのか。

「どうぞ、お入りになるようにおっしゃって下さい」
(さあ、阿部様早くお入りになって!!)

リル子さんは相変わらず物静かでおしとやかな様子で仲居さんにそう言った…
…のだが、どう考えても心の方はもう完全に興奮しきっているようだ。

「では、お入りになってください」
仲居さんの声がした。
いよいよか。

障子が開く。
さあその阿部って奴よ、お前がリル子さんに喰われるのかそれともリル子さんがお前に喰われるのか、
どっちにしろ餌になる方の無様さをとくとこの目に…



                 バーソ
   ┏┯┯┯┳┯┯┯┓.               ┏┯┯┯┓
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨ ∧_∧.        ┠┼┼┼┨
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( *・∀・)       ┠┼┼┼┨ /
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( <V> ).       ┠┼┼┼┨ ガン!
   ┣┷┷┷╋┷┷┷┫| | |.       ┣┷┷┷┫ \
   ┃      ┃      ┃(__)_)       ┃      ┃

210N2:2004/05/04(火) 14:48

………???
………あれっ、この人誰?
……仲人さんか?
…いや、でもいま確かに『お見合いをなさる方』って…。
…………ええええええ????

「…あの…どちら様で?」
テレビの中のリル子さんも混乱した様子で尋ねている。

「やだなーリル子さん、僕だよ僕ぅー!
何年間『2ch News』一緒にやってきたと思ってるんだーい?」
男は馴れ馴れしくリル子さんに語った。
…思い出した。
この男、確かにニュース番組でリル子さんと一緒にキャスターやってるな。
番組中にセクハラまがいの事して何回クビになりかけたか知らない名物キャスターだ。
…でもなんでこいつが?

「あの…私は阿部高和という方と今日見合いをするつもりだったのですが…」
(てめえはどうでもいいんだよ!阿部様はいつ来るんだいつ!)
リル子さんは表向き冷静さを崩さずに男に尋ねる。

「やだなあリル子さん、まさか今日僕と見合いするって知らなかったのかい?」
(どうやら作戦成功みたいなんだな!)
男はさも当然のようにとんでもない事を言い出した。

211N2:2004/05/04(火) 14:49

「…知るわけがありませんわ。
第一私の手元の写真に写っているのはもっと素敵なお方ですわ」
さりげなく貶しとる…。
だけど、あの写真、ムサいおっさんがベンチに座っているようにしか…

「だからー、あの写真ホントによく見たのー?」
しつこい。ひっくり返して見ようが裏から見ようが写っているのは阿部って男だけだ。
リル子さんもバッグから写真を取り出し、顔に近付けてよく目を凝らしているようだ。

「…失礼ですが、やはりあなたの姿はどこにも見当たりませんわ」
(見つかるわけねえだろ、遂にこいつ頭に持病の水虫でも回りやがったか!?)
リル子さんの言う(思う)通り、どう考えてもこいつの言っていることはでたらめだ。

「だ〜か〜ら〜、そうやって持つから分からないんだよ!
ちょっとその右の隅っこを持ってる手をちょっと離してごらんよ!」
本当に諦めが悪い奴だな、何度やったって変わるわけ………

………あ。

┌───────────────────────────────────────────┐
│┌─────────────────────────────────────────┐│
││                                                                ││
││             , '´  ̄ ̄ ` 、                                               ││
││           i r-ー-┬-‐、i                                             ││
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││           N| "゚'` {"゚`lリ     見 合 い や ら な い か?                     ││
││              ト.i   ,__''_  !                                            ││
││           /i/ l\ ー .イ|、.                  安 部 高 和                  ││
││     ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、                                        ││
││     /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.                                           ││
││   /    ∨     l   |!  |   `> |  i                                           ││
││   /     |`二^>  l.  |  | <__,|  |                                         ││
││ _|      |.|-<    \ i / ,イ____!/ \                                      ││
││   .|     {.|  ` - 、 ,.---ァ^! |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l                            ││
││ __{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|                         ││
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││ __f゙// ̄ ̄     _ -'     |_____ ,. -  ̄ \____|                         ││
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│└─────────────────────────────────────────┘│
└─────────────────────────────────────ニソックリナモララー.┘

212N2:2004/05/04(火) 14:51

      、__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__,
      _)                                                (_
      _)  ナ ゝ        ナ ゝ  /   ナ_``  -─;ァ              l7 l7   (_
      _)   ⊂ナヽ °°°° ⊂ナヽ /'^し / 、_ つ (__  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ o o    (_
      )                                                (
      ⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒
                                        )
            (と叫びたい)                   (
       ∩_∩                             )
     G|___|∧∧| |∧ ∧∧ 、 l , ∧∧ ∧∧       (          〃ノ^ヾ
      ( ;・∀・) ;゚Д゚)| |Д゚;) ;゚Д゚)( ;゚∀゚) - ;゚∀゚) :゚∀゚)         )          リ;´−´ル



…なんて姑息な真似を…。
って言うかこんな事に全然気が付かなかったオレ達もオレ達だが。

「さあ!これでようやくこの見合いがリル子さんと僕のものだということが証明されたんだな!
それじゃあこんな僕だけどよろしくお願いするんだな!」
(これで強引にこぎつけられたんだな!あとは密室で2人っきりハァハァハァハァハァハァ)

…こんな奴の為にオレ達はここまで期待してしまったというのか?
つーかこいつはそれよりもこんな方法で強引に見合いしたところで成功するとでも思って……


……強烈な殺気が隣の部屋から伝わってきた。
モニター越しにも、リル子さんの周りに黒いオーラがくっきりと映っていた。
それに気が付いていないのは原因を作った張本人自身である。
「さあ!さあ!早くじっくりと愛を語らうんだな!!」
(ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ)

リル子さんが、ゆっくりと立ち上がった。
そして一歩一歩、ゆっくりと男へと歩み寄っていく。
とうとう男の目前まで来ると、今度は改めて写真をじっと見つめた。
しばらくそのまま何か考えていたらしいが、それも終わると左手を顔に当て、何か残念そうな振る舞いをした。

「ああ〜〜 残念!!」
リル子さんは突然そう叫んだ。

「え、何が残念なんだい、リル子タン!」
((*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
いや、恐らく残念なのはこれからのお前の運命の方だ。
哀れ、リル子さんを怒らせた者の行く末というものをその身を以って味わってくれ。

「アウト――!!」
リル子さんの指が男に向かって指される。
男は何の事だかさっぱり分からないらしい。
「え? い…いったい…」

ボムッ!!

…鈍い音がした。
男の顔面に、リル子さんの裏拳が炸裂したのだ。
男はそのまま畳に声も無く倒れ込んだ。

「嘘をついた者は爆する!! よし次だ」
…何が次なのかよく分からんが、リル子さんはそういって満足そうに自分の席に戻っていき、
美味そうに高級料理に舌鼓を打ち始めた。

213N2:2004/05/04(火) 14:52



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



料亭の閑として落ち着いた空気。
それを乱す、穢れ無き黒い殺気。
一人の少女が、標的の元へと向かおうとしていた。
頭には、「葱看」と書かれた帽子を被っている。

「ここがおじさんの言ってたギコ屋たちのいるお食事亭だよー。
みる、みる、みるまらーーー!」

少女は料亭の敷地内へと足を踏み入れた。
店の者がその招かれざる客に気付くにはそう時間は掛からなかった。

「ちょっとそこのお譲ちゃん、どうしてこんな所に来たの?
ママはいないの?一人?」
彼女の存在に気が付いたある仲居が、彼女へと歩み寄る。

「new! new! new model!!!!!!
I'm not in love, but I'm gonna fuck you!!!!」
少女は突如謎のフレーズを口にした。
仲居も少女の奇々怪々な発言に困惑した。

「ちょっとお嬢ちゃん、一体何がどうしたの?」
そう言って、仲居が少女に手を差し出そうとすると…

「みるまらー!」
仲居の右手から、おびただしい量の血が噴出す。
それは文字通り、「蜂の巣」となった。

「………!!??」
突然の激痛に、仲居は自分の身に何が起こったのか分からなかった。

「みるまらー」
少女はそのままそこを立ち去る。
「ちょ…あな…なによ……これ………
あ……ああ……」

血まみれの店員は力なくその場に座り込み、しばらく呻いていたが、
やがて痛みに耐え切れず気を失ってしまった。

214N2:2004/05/04(火) 14:53



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「それで、リル子さんの趣味は何なんですか?」
(ここから一気に距離を縮めるんだからな!)
「…あなたみたいな男の人を完膚なきまでに痛めつけること…かしら?」
(いい加減これで諦めろよこのクズが!!)
「それも結構楽しそうなんだな!!」
(実はMなんだよハァハァ)
「…………」
(…このド変態がッ!!)

…さっきからずっとこんな調子が続いている。
この男、リル子さん必殺の一撃を食らったというのに何事も無かったかのように復活した挙句、
少しでもリル子さんに気に入られようと質問責めだ。
…んな事しても余計に嫌われるだけなのに。

オレの周りを見ても、皆そこら辺でダラダラしてるか、料理を味わってるかのどっちかである。
真面目にモニターを観察してるのはもうオレとギコだけだ。

(…相棒、俺ももういい加減飽きてきたんだが…)
ギコもそろそろ限界が近いらしい。
そりゃそうだ、あのリル子さんがメロメロになった男との見合いだからこそ見る価値があると思ったのに、
こんなリル子さん上位の見合いなんか見てても日常の風景と何にも変わり映えが無くてつまらないことこの上ない。

(んじゃいいよ、後はオレが一人で見てるからさ)
オレはそう言って、ギコを休ませることにした。

(分かった、それじゃあ後でまた交代するぞゴルァ)
ギコがそう言って、その場を離れようとした瞬間―――

215N2:2004/05/04(火) 14:54


「更なる力を

#7Hjj9qn$
さあ 真の脅威に!」

モニターから第三者の声がする。
…一体何事だ!?

「あら…あなた一体どこのどなた?」
「こらこら、おじちゃんたちは今大事なお話中なんだよ。
さあ、あっち行った!」
2人も突然の少女登場には驚いているようである。
だが、この女の子は一体…。

「えーと、そこにいるのがギコ屋で…、
あれ?相棒ギコとギコ兄ってのは一体どこなんだろ?」
……!?
この女、オレ達の事を知っているだと!?
…いや待て、確かこの女は…。

(相棒、こいつは例の最近大量発生したっていう荒らしAAじゃねえか!?)
ギコの言うとおり、こいつはさっきこいつとも話していた街中で大量発生した
通行人の首を切り落とす悪魔の女じゃないか!
…しかし、それならばどうしてオレ達を探しに来たというんだ?

「…ま、いいや。あとの2人がいなくたって。
とりあえず、そこのギコ屋から殺すよー。
みるまらー」

………!!
こいつ、もしやあの男の一味か!!

と同時に、少女が並外れたスピードでモララーに飛びかかる。
まずい、こいつあの男がオレだと完全に勘違いしている!
このままでは殺られる!!

216N2:2004/05/04(火) 14:55


「…何だかよく分かりませんけど、とりあえずここでガードしておきますわ…」
少女の動きが止まった。
リル子さんがスタンドで彼女を捕らえたのだ。

「…あなた、今『ギコ屋』って言いましたわね…?
ひょっとして、あの『矢』を持つ男のグルでありませんこと?」
リル子さんのスタンドの締め付けが強くなる。
少女の顔が段々と苦痛に歪んでゆく。

「…言うわけないよ、みるまらー」
少女は苦しみながらも不気味な笑みを浮かべた。
そんな風に笑うだなんて、その余裕は一体どこから…

…と思った瞬間、リル子さんの手から激しく血が噴き出した。
思わず、スタンドの手も彼女から離れてしまう。
一体、この女は何を…?

「…なるほど、あなた肉体強化型のスタンド使いってことですわね?」
リル子さんは手の痛みを少しも顔に出さず、自分の方が圧倒的優位に立っているように笑ってみせた。
それに反応して少女も笑う。

「正解、みるまらー」
と、みるみる彼女の全身の毛という毛が太く、固く、尖っていった。
そして仕舞いにはとうとう毬栗のようになってしまった。

…こいつ、見た目はヘボそうだが実際はそんな事ない、むしろかなり戦い辛いスタンドだ。
尤も、部屋を一つ間違えてしまう辺り人間的にはまだまだだと思わされるが。
ただ、本当ならすぐに隣に応戦に行きたいところだが、今日はそんな真似が出来ない。
ただ指を咥えて見ているしかないのだ。

(大将、本当にリル子さん大丈夫なんですか!?
このまま放っておいて、もしもの事があったら…)
オレは耐え切れず大将に言った。
いくら何でも、これでリル子さんが負けでもしたら洒落にならない。

「大丈夫だ、あいつを馬鹿にするんじゃねえ。
あいつはあれでも『サザンクロス』No2の実力者だからな」
大将は余裕といった様子だ。
…本当に大丈夫なのか!?

リル子さんは続けて言った。
「…まあ、何の事かよくは分かりませんけれど、
あなたが私の敵であるのだとすればすべき事はただ一つ!
…あなたを抹殺するのみですわ」
…おいおい、抹殺って…。
それも単なる冗談かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
リル子さんは続けた。

「…あ、それとあなた、私が手加減でもするんじゃないかと思ってるでしょう?
でも、それは残念。私、歳とかで人を差別しないですから。
…私、残酷ですわよ」
リル子さんはそう言うと、その手から糸の束を出した。
絹のように滑らかで艶やかで、それでいて丈夫そうな糸。
その中から、何か得体の知れない液体がしたたり落ち、光る目のようなものが見える。
恐らくあれはスタンドなのであろう。
リル子さんはその糸を集めて鞭を作り、女を警戒する。
女は女で針を伸ばせるだけ伸ばし、リル子さんに威嚇する。

だが、やがてその均衡が砕かれる。
精神的に耐え切れなくなった少女がリル子さんへと襲い掛かる。
女同士の熾烈なバトルが、スタートした。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

217ブック:2004/05/04(火) 21:47
     EVER BLUE
     第四話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その二


 一体…
 一体、何が起こったというのか。
 さっき青年の体を銃弾がすり抜けた。
 そうかと思ったら、青年の姿が消えてしまったのだ。

 そして―――
 それから一分もしないうちに、『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の下っ端達は、
 引き金を引く間も無く全員地面に倒れたのだ。

 何者だ。
 あの青年は、一体何者なんだ!?

「…二十六秒ですか。
 ふむ、まだまだ勘を完全には取り戻していないようですね。」
 と、青年が再び姿を現した。
 先程と変わらぬ、人の好さそうな微笑み。
 やや背が高めの優男。
 その姿からは、とてもこの荒くれ共を完膚無きまでに叩きのめした者と
 同一人物だとは、想像もつかない。

「あ…あの……」
 オオミミが、青年に話しかけようとする。
「しっ、静かに…」
 青年はそんなオオミミの口に指を当てた。

「おい!
 こっちの方で銃声がしたぞ!!」
「探せ!!」
 野太い罵声。
 『紅血の悪賊』の仲間達だ。
 まずいな。
 早くここから動かなくては…

「あの、急いで逃げないと…!」
 オオミミが不安そうな顔を青年に向ける。

「…大丈夫です。
 少し、じっとしてて貰えますか?」
 そう言うと、青年の周りに銀色の飛行物体が出現した。



     ・     ・     ・



「こっちだ!!」
 『紅血の悪賊』の面々が倒れている現場に、
 他の場所を探していた仲間達が駆けつけた。

「…!こりゃあ…」
 その場に転がる仲間達を見て、絶句する『紅血の悪賊』達。

「…幸い気絶してるだけのようですけど……」
 『紅血の悪賊』の一人が、仲間の呼吸や脈拍で生存を確認する。

「まだ遠くには行ってねぇ筈だ!!探せ!!!」
 一人の男が叫ぶ。
 それに合わせて、『紅血の悪賊』達はその場から走り去って行った。

218ブック:2004/05/04(火) 21:47



     ・     ・     ・



「…行ったようですね。」
 『紅血の悪賊』の奴等が倒れている場所のすぐ脇から、
 オオミミと天と青年の姿が浮かび上がってきた。
 これが、青年の力なのか?

「あの…ありがとうございます。」
 オオミミが青年にペコリと頭を下げる。
「なあに、礼には及びませんよ。」
 微笑みながらそう返す青年。

「本当にありがとうございました…」
 船の時と同様、オオミミ以外の奴に天の奴がぶりっ子ぶった。
 この、二重人格者め。

「どういたしまして、お嬢さん。
 ですが、自分を偽るのは良くありませんね。」
 その青年の言葉に、天が目を丸くする。

「お…仰っている意味がよく分かりませんわ……」
 あからさまに動揺する天。

「それがあなた本来の話し方ではないでしょう?
 隠しても分かる人には分かりますよ。」
 青年が紳士的な口調で告げる。

「…何で分かったの?
 これでも猫を被るのには自身があったんだけど。」
 観念したのか、天がオオミミと話す時の口振りに戻った。

「ふふ、私も人を騙すのが得意技でしてね。
 蛇の道は蛇、という訳です。」
 おかしそうに笑う青年。
 騙す事が得意技って、善人っぽい顔をしていながら何て得意技だ。

「さて…いつまでもここにこうしている暇はありません。
 どこか安全な場所に移動しないと。」
 思い出したように青年が言った。

「じゃ、じゃあ、僕達の船に行きましょう!
 あそこなら、安全です。」
 オオミミがそう提案する。

(オオミミ、何を言ってるんだ!?
 サカーナの親方は天を捨てて来いって言ったんだぞ!
 それなのに、逆に人数増やして帰って来るなんて駄目だろう!!)
 僕は語尾を荒げながらオオミミを叱りつける。
 それに、せっかくこの女ともおさらば出来ると思ったのに、
 これでは元の木阿弥だ。

「今そんな事を言っている状況じゃないだろう!?
 『ゼルダ』、君は人を見殺しにする様な事をして平気なのか!?」
 僕は言葉を詰まらせた。
 …そりゃあ、少しは心が痛むけど、
 でも、僕は君の事を心配して……

(…分かったよ。今回は目を瞑る。
 それに、こうなったら君は梃子でも動かないんだろう?)
 結局、最後は僕が折れる形で終わった。

「ありがとう。だから俺、『ゼルダ』の事好きだよ。」
 オオミミがはにかみの笑顔を浮かべた。

 …卑怯だよ、オオミミ。
 そんな顔でそんな事言われたら、僕は君に何も言えなくなるじゃないか。

「決まりね。
 それじゃあ、ちゃっちゃと進みましょうか。」
 天が誰も頼んでないのに仕切り出す。
 やっぱり、こいつ嫌いだ…

「あ、そうだ。」
 オオミミが青年の方に顔を向けた。
「どうしたんです?」
 聞き返す青年。

「いや、そういえば自己紹介がまだだと思って。
 俺、オオミミです。よろしくお願いします。」
 オオミミが青年に手を差し出した。

「ふふふ、珍しい位に礼儀正しい少年ですね。
 嫌いではありませんよ、そういうの。」
 青年が感心したように呟いた。
「私はタカラギコと申します。
 以後、お見知りおきを。」
 オオミミと青年が、固く握手を交わした。

219ブック:2004/05/04(火) 21:49



「オオミミ!手前嬢ちゃんを置いて来いって言ったのに、
 何で逆に一人多くなって帰って来るんだよ!!」
 案の定、天とタカラギコと名乗った青年を連れて帰って来たオオミミに、
 サカーナの親方の雷が落ちる。

「ごめん、親方。
 でも、それどころじゃないんだ!
 『紅血の悪賊』が、俺達の事を探し回ってる!」
 そのオオミミの言葉に、クルー全員の顔色が変わった。

「何ぃ!?
 そりゃ本当か!?」
 オオミミに詰め寄るサカーナの親方。

「本当だよ!
 早くここから出発した方がいい!!」
 オオミミが親方を急かした。

「成る程、通りで島が騒がしいと思った…」
 三月ウサギが納得したように呟いた。

「糞、ツイてねぇぜ。
 高島美和!
 船の修理はどうなってる!?」
 親方が高島美和さんに大声で聞く。

「一応ですが完了しています。
 いつでも出航出来ますよ。」
 冷静な声で答える高島美和さん。

「おい、こいつらはどうするんだフォルァ?」
 ニラ茶猫が天とタカラギコの見据える。

「仕方がねぇ。状況が状況だ。
 取り敢えずこの島を離れてからそういう事は考えるぞ!」
 ちょっと待ってくれ、親方。
 それじゃあ、もう暫くこの女と一緒に居なければいけないって事か!?

「よろしくお願いしますわね。オオミミ、『ゼルダ』。」
 天が、小癪な程にっこりと僕とオオミミに対して微笑む。
 オオミミは屈託の無い笑顔で返すが、僕としては憤懣やる方無い。
 悪夢だ。
 これは、悪夢だ…!

「改めてよろしく、天。」
 天に手を差し出すオオミミ。
 やめろ、オオミミ。
 こんな女と握手なんかするんじゃない!

「こちらこそ。」
 天がオオミミの手を握り返した。

 …その時の笑顔はとても透き通ったように見えて、
 不覚にも僕は一瞬だけ彼女に心を許しそうになったのだった。

220ブック:2004/05/04(火) 21:49



     ・     ・     ・



「あいつらはまだ見つからないのか!?」
 マジレスマンが乱暴に机を叩いた。
 その音に、周りの兵士がビクッ体を震わせる。

「も、申し訳ありません!!
 近隣の島に在中していた『紅血の悪賊』の一派に連絡は入れたのですが、
 まだこれといった報告は…」
 そう言いかけた兵士を、マジレスマンは殴り飛ばす。

「言い訳など聞きたくないわ!!
 早くあいつらを探し出せ!!
 でなければ、俺の進退に関わるのだぞ!!!」
 大声で怒鳴り散らすマジレスマン。

「し、失礼しましたーーーーー!!!」
 とばっちりを受けては叶わぬと、部屋にいた兵士達は我先にと部屋を飛び出して行く。
 部屋の中に、マジレスマンだけが取り残された。


「…糞。
 早く奴らを見つけ出さなければ。
 もしこの事があの御方にバレたら、どうなる事か…!」
 机の上で手を組み、マジレスマンは唇を噛む。
 彼は今更ながら、自分の軽率さを呪っていた。

「大変な事になってるみたいだね?マジレスマン。」
 その時、マジレスマンの後ろからいきなり声が掛けられた。
 マジレスマンが驚愕しつつ振り返る。

「山崎渉…!」
 マジレスマンが背後に立っていた男を見て呟いた。

「君の帰りが遅いんで、様子を見て来るように言われて来てみれば…
 全く、とんだ事をやらかしてくれたものだ。」
 山崎渉と呼ばれた男が、一歩マジレスマンに近づいた。

「ま、待ってくれ。
 すぐに俺達を襲った奴は見つける。
 だからもう少しだけ時間を…!」
 マジレスマンが顔を引きつらせながら懇願する。
 しかし、山崎渉はそんな彼の言葉など耳にも入っていない様子だった。

「悪いけど、君の言い訳を聞くという任務は与えられていない。
 大人しくあの御方の所まで来て貰うよ。」
 山崎渉がマジレスマンの目前まで迫る。

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」
 マジレスマンが、豚のような悲鳴を上げた。



     TO BE CONTINUED…

221 丸耳達のビート Another One:2004/05/04(火) 23:57



   一九八四年 四月十日 午前五時零分

                〜夜明けまで、残り三十分〜


  ―――――スタンドパワーの余波で、屋上に砂煙が上がる。
風化した粒子は細かく、視界の全てを覆いつくす程に舞い上がった。
「ハァ…ハァ…ッ!」
 額に脂汗が滲む。砂煙が晴れると、灰色の固まりが風にさらわれていった。
肉片一つ残さず風化させる、『デューン』の能力。

 震える腕を握りしめ、ガチガチと歯を鳴らしながら『デューン』を消した。
「俺は…間違ってなどいない…!」

「―――ああ、間違っちゃいない。…だけど、正しくもない」
「ニローン…」        フルール・ド・ロカイユ
 ギコの背後に咲いている『 石 の 花 』。
その中に、上半身だけになった吸血鬼を抱えた二郎が立っていた。
 先程崩れ去ったのは、『石の花』で作ったダミーか。
「お前さんの雇った奴らは全員ノして来た…もう止めろ、ギコ」
「―――――『もう止めろ』だと?お前はそれがどういう事だか理解しているのか…?
 ここで俺が退けば、今までしてきた事が…何の意味もなかったと認める事になる。
 俺の信じてきた事が、只の塵になる!俺が吸血鬼を殺したのが、只の我が儘になる!
 彼女を殺してしまったのが、間違いだった事になる !! !! !!
 …だから…俺はこの道を行くより他に無いんだ!」

 再び、『デューン』が咆吼した。
              フルール・ド・ロカイユ
自分たちを守るように『 石 の 花 』を展開させるが、触れた端から風化して足止めにすらならない。
 慌てて足下に花を急成長させ、自分たちの体を跳ね上げる。

222丸耳達のビート Another One:2004/05/04(火) 23:58



(オ逃ゲ下サイ、二郎様…!相性ガ悪スギマス)
「…駄目。アイツだって、石仮面の犠牲者なんだ。
 ここで逃げたらシャマードは助けられても、アイツは救えない」
(シカシ…!)
「シャマードは助ける…ギコも救う。両方ともやるのが、俺の我が儘だ」

 とんとんとん、とステップを踏み、『種』を植え付ける。

「だから…ギコ。お前もお前の我が儘を通してみろ。
 間違ってようが何だろうが、それに命を懸けられてたなら…そいつは我が儘じゃない。」


 べきべきと、コンクリートの床を突き破って一輪の花が咲いた。


「それは―――『信念』だ」

 細く、長く、堅く、そしてしなやかに、真っ直ぐに。
二郎の身長程度まで成長した花を、べきりと手折る。
 イメージ通り、即席の槍。

「来いよ、ギコ。受け止めてやる」

 ―――馬鹿な選択だとは、わかってる。
それでも、俺は馬鹿だから…こんな方法しかとる事はできない。

「行くぞ!」

「来い!」

 確かこのビルは、来週だか再来週だかに取り壊される予定。暴れても壊しても、なんら問題はない。
上半身だけのシャマードを『石の花』で繭のように包む。

 『デューン』が跳んだ。『フルール・ド・ロカイユ』で形成した槍を風化させながら受け流し、先程植えた『種』を発芽・成長。
二十本を超える、槍より鋭いつぼみが撃ち出された。狙いは『デューン』ではなく、本体のギコ。

  リュオオオオオンッ―――

 弦楽器のような声と共に、手近な五本が茎を風化させられた。
花のつぼみが二郎の制御下から離れ、ぱきんと割れる。
更に驚異的なダッシュで本体の元へ舞い戻り、全方位からのつぼみを全て塵へと還した。

223丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:01

(…速い…!)

 この距離では、フルール・ド・ロカイユの攻撃はほぼ完封される。
『デューン』自体にも、フルール・ド・ロカイユでは傷を与えられそうにない。
 かと言って、あんなモノに接近戦を挑むのは自殺行為。
シャマードのようなパワー・スピード・再生能力があるのならまだしも、こっちは生身の人間だ。
腕一本の犠牲どころか、本体のギコにたどり着く前に軽く二ケタは殺されてしまう。


 …やはり、強い。完璧な防御・『風化』の能力・本体を絶対守る忠誠心………


  ―――いや…待てよ。


 フルール・ド・ロカイユで屋上の床を花に変え、人が通れる程度の穴を開けた。
上半身だけのシャマードに向けて、『スタンド』の声を送る。
(B・T・B…手、貸してくれ)
(…何カ策ガ アルノ デスカ?)
 シャマードの肉体から、ひょこりとB・T・Bが顔を出した。
(ああ。ちょっぴり無茶するんだけど…)
 B・T・Bの頭に、二郎が考えている『作戦』をイメージで伝える。
瞬間、B・T・Bの白塗りメイクが蒼く染まった。
            フルール・ド・ロカイユ
(スタンドパワーは、 石 の 花 に送り込んでるやつを使ってくれればいい。頼んだ)
(…正気デスカ!?ソンナ無茶苦茶ヲ!)
(YES,YES,YES…当・然・だ。ほら、さっさと行かないと夜が明けるぞ!)
 ぱんっ、と壁際に手を置き、『種』を植えた。
根を伸ばしていくのをイメージし、そこにB・T・Bを入り込ませる。
    サノバビ――――ッチ
(サッ…SonofaBiiiiitcccch !!)



 『種』は、B・T・Bも制御できるようにプログラムしてある。
『根』を伸ばし、『根』を伸ばし、根を伸ばし根を伸ばし根を伸ばし根を伸ばし『根』を伸ばす。
『花』も『茎』もいらない。『葉』も、養分を集める最低限でいい。

(いつだったか…『釣り鐘』って話してやっただろ?)

224丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:02



「二郎ー。何コレー?」
 …思い出す。二郎様との出会いから、二週間ほど経ったある日のこと。
私の主人が、アパートの片隅にあったミニチュアの釣り鐘を指さしていた。
「ああ、それ?『鐘』って言ってな。医大にいる同僚への土産。
 こっちの言葉で言えば…『ジャパニーズ・ベル』かな?」
「ベル?教会とかにぶら下がってる?」
「そ。そんな感じの」
「…シカシ、中ノ玉ガ 無イデスネ。コレデハ 鳴ラナイノ デハ?」
 鐘の内側を覗き込みながら、不思議そうに私が聞く。
「ああ、こっちのとは違って外から叩くんだ」
二郎様がガラクタの山をまさぐって、付属の木槌を取り出した。
軽く叩いてやると、ごぉぉぉぉぉん…と低く鳴る。
「どうだ」
「オォ、渋イ音色」
「大晦日には一〇八回叩いて、悪い心を追い出す風習があるんだ。確か写真が…あ、あった」
「わー、凄ーい。大きいー」
「振り袖もあるから着てみるか?下着は付けずに肌襦袢を着るのが…
 いや待て冗談冗談冗談冗談、待って、ヘイ、ストップ、チョット、ア、ダメ、イヤン」
 ―――この後お約束の如く、主人が一〇八回の 鉄 拳 制 裁 を下したのは言うまでもないが、そんなことはともかく。



(…あれを指一本で振り子みたいに揺らす事ができる、って話があってな…)

225丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:03





   一九八四年 四月十日 午前五時十五分

                〜夜明けまで、残り十五分〜


  ―――――『デューン』に追い立てられながら、廃ビル内を走る。
取り壊しが決まっただけあって、中には人っ子一人いない。

 ―――良し…最高だ。

 『フルール・ド・ロカイユ』に抱えられたシャマードが、僅かに呻いた。
「待ってろ…もう少し…」


(例えば、釣り鐘をちょっとでも指で押せば、僅かだけど『揺り返し』が起きる。
 その『揺り返し』に合わせて押せば、またちょびっと…けど、最初より大きく『揺り返し』が起きる)


  そして、廃ビル内のほぼ全てに『根』が行き渡った。


(更に『揺り返し』に合わせて押して、そのまた『揺り返し』に合わせて―――
 これを繰り返せば、指一本で釣り鐘を揺らせる。
 …お前さんにやって欲しいのは、要するにそう言うこと)


「はっ…!はっ…!」
 『デューン』にいくらスピードがあると言っても、射程は十メートル程度。
ギコより十メートル早く走れば、何とか逃げ続けられる。
 シャマードは『フルール・ド・ロカイユ』に持たせているし、二郎自身は殆ど習っていないとはいえ波紋使い。
フェイントで更に一フロア下に降りたし、多分見つかることは無いだろう。
「…よーし…だいぶ引き離」


  ざぁっ。


 寄りかかって一休みしようと思っていた壁が風化した。
「してなかったッ!」
 シャマードを抱えている『フルール・ド・ロカイユ』に掴まって急ブレーキ、回れ右して階段の方へ再び逃げる。
三段抜かしで階段を駆け下りながら、9mm拳銃をギコに向けてクイック・ドロウ。
 『デューン』に叩き落とされるのを尻目に、踊り場を回る。

226丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:05

(まだだ…B・T・B…俺が『やれ』って言うまでは絶対に使うな…!)

 更に階段を下ろうとした瞬間、咄嗟に脚を止めた。
階段を風化させながら、上のフロアから『デューン』が跳び降りてきた。
 前の階段には大穴があき、登りの階段からはギコが大口径の拳銃を構えている。
銀にアレルギーを起こす吸血鬼専用の、四十五口径純銀弾。
「…そこまでだ」
 喉元二ミリの位置に、『デューン』の手刀が突きつけられた。
ごろりと、シャマードが中に入ったフルール・ド・ロカイユの繭が転がる。
「流石だよ、ニローン。俺の『デューン』からそこまで逃げ延びた人間はお前が初めてだ」
「…ありがとよ」     ソウルイーター
「今ならまだ間に合う。『魂喰い』を引き渡せば、殺しはしない」
 ギコの問いに、二郎が大きく息を吐いた。
      デューン
「お前の『砂丘』…多分、俺が知ってる中じゃ最強のスタンドだよ。
 破壊力抜群の能力に、電光石火のスピード、主人に対しての忠誠…俺一人じゃ、とても敵わない」
脈絡のない二郎の言葉に、ギコが顔をしかめた。
 まさか、疲労で脳が動かないわけでもあるまい。
「質問に答えろ、ニローン。渡すか…渡さないか…どっちだ?」
「…けど…こっちにはB・T・Bが…シャマードがいる」

  ぐらり、と僅かに足下が揺れた。

「彼女を只の人食いとしか見てなかった…それがお前の敗因だよ」

  もう一度、揺れる。先程より大きい、どんっと突き上げるような揺れ。

「逃げる俺を追っかけて…必死こいて走り回ってたから、気付いてなかっただろ?」

  更にずずんっ、ともう一度。もはや大地震と言ってもいいような揺れになっている。

「小さく小さく…ビルが揺れ続けてるの」
「なっ…!地震!?」
「…ハズレ」

227丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:06



   一九八四年 四月十日 午前五時二十七分

                 〜夜明けまで、残り三分〜


  ―――――壁一面に張り巡らされた、フルール・ド・ロカイユの『根』。
それらを伝わって、情報がB・T・Bに流れ込んでくる。
                          フルール・ド・ロカイユ
(つまり、『根』の操作をやって欲しいんだ。『 石 の 花 』だって器用な方だけど、
 とても無数に伸ばした『根』の端っこまではその精度も保てない。…そこで、お前さんの出番。
 その精密動作で『釣り鐘揺らし』をやってもらう)

 根の始まりから先端までを、ほんの少しだけ脈動させる。
小さな小さな力の波がビルの壁面をめぐり、あちこちで反射する。
跳ね返る力に合わせて、また小さく脈動させる。
 少しずつ少しずつ、力が大きく膨れ上がっていく。


   力の波が反射する。それに合わせて脈動させる。

  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。



(いいか?B・T・B…)


 ふぅ、と溜息を一つ。
こんな無茶なスタンド利用法を思いついた人間など、過去に何人いるのだろう。


(このビル―――――ぶっ潰すぞ)

228丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:07



   一九八四年 四月十日 午前五時二十八分

                 〜夜明けまで、残り二分〜


  ―――――コップに注がれる水が溢れ出すように、蓄えきれなくなった衝撃がひときわ大きくビルを揺らした。



 踊り場の天井に、音を立ててヒビが走る。
ギコの方に、人の頭ほどもあるコンクリ塊が幾つも幾つも崩れてきた。
(まさか……ッ!)

  リュオオオォォォッ―――!

 『デューン』が一声啼く。二郎に突きつけた手刀を引っ込め、両手を広げてギコをコンクリ塊から庇った。
コンクリートは『デューン』に触れるたびに塵へと分解され、ギコに当たることはない。
無論、『デューン』のダメージになることもない。
 二郎が立ち上がる。だが、『デューン』が攻撃に移ろうとしない。

 ―――これが狙いか…!
  デューン
 『砂丘』は、宿主であるギコを守ることを何より優先する。
降り注ぐコンクリ塊と、素手の二郎。
 致命傷を与える可能性が大きいのはどちらかと聞けば、答えは明白。
しかし、『デューン』は知らなかった。二郎の父がどんな人間だったかを。

  コオオォォォォォッ
  Coooooooo―――――!


 独特の呼吸法。                              モナ ハジメ
見よう見まねの不器用なものではあったが、それは確かに彼の父・茂名 初の―――
           ムソウケン
「茂名式波紋法 "無双拳"」

 握りしめた拳が燐光を放ち、一撃でギコを昏倒させた。

「俺達の―――勝ちだ」

229丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:11






   一九八四年 四月十日 午前五時三十分

                          〜夜明け〜



  ―――――夜が、明ける。
                      フルール・ド・ロカイユ
 倒壊したビルの瓦礫から、一輪の『 石 の 花 』が咲いた。
ほどけたつぼみから、二人の人影がはい出てくる。
 これが美女だったら親指姫よろしくメルヘンな光景だが、残念ながら二人とも男。
瓦礫の一つに座り込んで、一人が煙草に火を付けた。
寝転がったままのもう一人が、起きあがろうとして失敗し、頭をぶつける。
 痛そうな音がした。
「…ニローン」
「よう…無理するなよ。まだ痺れてるだろ?」
「何故、殺さない。何が『信念を通せ』だ。この馬鹿が」
 憎々しげに言うギコに、殆ど吸っていない煙草をもみ消して二郎が向き直った。
「…ああ、気付いてなかったのか」
「何をだ?」
「シャマードが、お前さんの頭をコンクリに叩き付けただろ。アレ、おかしいと思わなかったか?
 『魂喰い』とまで呼ばれるシャマードなら、吸血鬼の爪一発で殺せるのに。なんでわざわざそんな事したと思う?」
…そう言われてみれば、そうかもしれない。
 表情の変化を見て取ったのか、二郎が誇らしげに笑った。
「あいつは…さ。あんな死線ギリギリでも、『人殺しをしない』って約束を守ったんだよ」
 その言葉にギコが目を丸くし―――次の瞬間、力が抜けたように呟いた。
「……………馬鹿…が」
「そ。アイツが馬鹿やったから…俺も命懸けでその馬鹿に付いて行くんだよ」

230丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:12

 瓦礫の隙間から、「二郎様ァ〜…」とB・T・Bの声。
ビル全体に張った根に指令を出して、フルール・ド・ロカイユの繭を掘り起こしてやる。
「シャマード?開けるぞ」
「はー…い」               フルール・ド・ロカイユ
 しゅるしゅると、繭を形成している『 石 の 花 』をほどいてやる。
「…悪いね…グロ画像みたいなカッコで」
「申シ訳アリマセン、ドウニカ 顔ダケハ 修復デキタノ デスガ…」
 言った通り、彼女の肉体は物凄い事になっていた。
下半身の殆どは風化し、腸がぷらぷらと揺れている。
かろうじて顔は再生を終えているものの、センスによってはギャップが余計に怖いかもしれない。
「大丈夫。こう見えても医学生だ」
「あ、そう言えばそうだね…ありがと」
 そのまま、二人ともしばし押し黙る。
たっぷり数十秒ほど無言で見つめ合い、二郎が後ろを向いた。
「ギコー。お前さんあっち向いてろー」
 突然話を振られて驚いたようだが、素直に二人から目をそらす。
「B・T・B。アンタも引っ込んでて」
 同様に少し間をおいて、B・T・Bがシャマードの体内に入っていった。

 更に数十秒見つめ合い、二郎が恥ずかしそうに口を開く。
「えーと…俺はなんて言うか馬鹿だから、気のきいたことの一つも言うことはできないんだけど」
「奇遇だね。私も馬鹿だよ」
 一呼吸の間をおいて、二人がくすくすと笑いあった。
笑いがおさまると、お互いの手と手を重ねた。指が絡み合い、ほどけ、互いに頬を撫ぜ合う。
言葉はいらない。

 顔に回した手をお互いに引き合い、唇と唇を、そっ…と―――――

「……馬鹿が…」

 ぽつりと漏らしたギコの呟きは、月と太陽の同居する夜明けの空へと吸い込まれていった。

231丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:14





  シャマードは知らない。
 数年後、自分が二郎と結婚して一人の息子が生まれることを。


  二郎は知らない。
 自分が医者になり、シャマードと一緒に茂名王町で診療所を営むことを。


  B・T・Bは知らない。
 自分が、彼等の息子に受け継がれることを。


  ギコは知らない。
 二人が、最後の最後まで『人を殺さない』という約束を守りきったことを。


  誰も知らない。
 十数年後、二人が一体のスタンドに殺されることを。

232丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:14
   一九八四年 十月三十日 午前五時三十分


「ッッッッッふ…んあぁ…ッ」
 ベッドの上で、マルミミが大きく伸びをする。
B・T・Bに命じて鼓動を制御、覚めない目を覚まそうとして、反応が鈍いことに気がついた。
「…どしたの?B・T・B。体調でも悪い?」
はっ、としたように、B・T・Bが我に返る。
「ア、イヤ、失礼シマシタ。チョット 昔ノ夢ヲ 見タモノデ」
「夢?」
興味深そうに問うマルミミに、B・T・Bが答えた。
「ハイ、御主人様ノ 父君ト 母君ノ 夢ヲ。懐カシイ夢デシタ」
「…そっか。幸せそうだった?」
「エエ。…トテモ」
 突然、茂名の張りのある大声が寝室に響いた。
「マルミミー!ランニング出かけるぞー!」
「シマッタ、時間ガ」
「うわっ…!おじいちゃん今行くー!」

233丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:16




  マルミミは知らない。
 この後、虐待を受けている大人びた外見の少女に出会うことを。


  茂名 初は知らない。
 数日後、息子達の仇である一体のスタンドに出会うことを。


  しぃは知らない。
 この日から、自分が大きな事件に巻き込まれることを。





「二郎様…シャマード様…貴方達ハ、イイ息子ヲ オ持チデスヨ」




  B・T・Bは知っている。
 二人の気高き心が、マルミミという少年に受け継がれていくことを。






                               『丸耳達のビート Another One』

                                                   〜FIN〜

234丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:19









     〜あとがき〜
            ※ネタバレを含みます。注意。

 番外編『丸耳達のビート Another One』お付き合いいただきありがとうございました。
本編『丸耳達のビート』は、テーマが『受け継ぐ』となっております。
 ジジイとかショタとか801とかエロスとかも大切なテーマですが…げふんげふんげふ(ry
ともあれ、この番外編でマルミミの後ろにあるものを見てくれれば幸いです。
 …しかしこの番外編、戦闘描写にえっらい苦労しました。
シャマードのB・T・Bは本体がスタンド並みに強いせいで出番がないし、
ギコのデューンは『触れば風化』って設定のせいでがっぷり四つに組む戦闘が書けない。
 唯一使い勝手いいのは二郎のフルール・ド・ロカイユでした。使い捨てにしちゃうのが惜しいな。

 〜キャラについて〜

  二郎&シャマード・B・T・B

 単身アメリカに渡って頑張る医学生と、追っかけ回される吸血鬼です。
シャマードみたいな『〜だよ』『〜かな』といった口調のキャラは、
下手に媚びた口調より萌える気がするのは…私だけ、ではない筈。
 シャマードがフリ&ツッコミ、二郎がボケ、B・T・Bがツッコミです。
彼らの日常は書いてて楽しかったなぁ。
 二郎の戦闘スタイルはひたすらトリッキーに、
シャマードの戦闘スタイルはマルミミをもっとスピーディ&パワフルに…を心がけました。
 両親とも丸耳のモナー族と書いてしまったので(※スタンド小説スレ1ページ『丸耳達のビート』第3話参照)
固有名を名乗らせることに。モナーだかギコだか解らないキャラ名付けてしまったのはちょっと後悔。まあいっか。香水だし。
 彼らは既に結末が決定しているので、極力『明るく』を心がけました。
そのせいで、キャラ全員がトラウマ持ちの本編よりライトな雰囲気に。
ちなみに『指一本で釣り鐘を揺らして〜』には元ネタがあります。ワカルカナ?

  ギコ

 自分の恋人を殺してしまった可哀想なSPM構成員です。
『馬鹿が』が口癖なんだけど…ちゃんとわかって貰えてるんだろうか。
スタンドがエロいです。エーロティーック。
身につけてるのは革ベルトのみ、戦闘シーンは全部スッポンポン。キャー。
 なのに汁ネタの方にしか反応してくれなくて寂しかったです。
そんなにみんな汁好きなのか、単にアッピールが足りなかったのか…多分後者。
もっとエーロティーックを前面に出した方が良かったかな?
 しかし、番外キャラとはいえ単純にギコ猫を持ってくるあたりどえらく適当なキャラチョイスやってるナァ。

  それでは次回から、本編『丸耳達のビート』をお楽しみに。
                                                        ポロリモアルヨ…

235新手のスタンド使い:2004/05/05(水) 08:48
〜スタンドを使って泥棒は出来るか〜 モナ―達の場合。

モナー。
「これ位スタンドのコブシで割ってやるモナー」
ドカガシャー―ン ウーウーウーウーウーウー
「防犯ベルモナ!失敗だモナー」

ギコ
「ギコハハハ、モナーと違って俺は頭を使うぜ。見てろよ(スゥゥゥ)」
ゴルァ!!!!!! パリ―ン 「やっ「なんだー!うるせぇぞー!!」
どたどた「畜生失敗だぞゴルァ!」

モララー
「みんなバカだなぁ。こうすればいいのさ」
ドカッ「ガラスと防犯ベルを(マタ―リ)させた・・・。これでバレない」
こそこそ「ぉっ金庫発見!!またまたマタ―リさせるぜっ」
ドカッ!「よしよし・・・・・これで開けられ・・ないだとォォォ―――ッ!?」
    「そうかッ!マタ―リしたせいで番号を忘れちまったのかァァーー」

おにぎり
「ワショーイオニギリルストハリケーン!」バリバリ―ン!!グワシャー
ぴーぽーぴーぽー「タイ―ホされたよワショーイ」

リ(ry)

「なんとも無防備ないえだ」こそこそこそ
「どれどれこれが目的の金庫か」かちっかちっかちゃり「ムッ開いたか」
ごそごそ・・・・・・「・・・・・巫女装束?網タイツ?なんだこれは」

で(ry)
「悪魔世界!!」バリバリバリガシャーンガシャーン
うーうーうーうー「貴様逮捕す」メキグシャパリ―ンズギャアアア

矢の男
「興味ないよ」すたすた・・・・

結果発表・・・・・成功者。リ(ry)さんのみ

236アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:13
合言葉はWe'll kill them!第九話―初めての吸血鬼戦

「……この町に今何人のスタンド使いがいるか知っているかい?」
「さあな……アンタと俺と、俺が『矢』で生み出した奴ら以外は知らない。」

BARのカウンター席で、二人の男が並んで座っている。
『矢の男』蜥蜴の答えに対し、もう一人の男は含みのある表情をしてみせた。

彼は情報屋だった。蜥蜴が世話になっている情報屋は、この町にたくさんいる。
しかし、スタンド使いでもある情報屋は彼ひとりだ。
彼はスタンドを知り、見ることができ、その情報を集めてくることが出来る。
だから蜥蜴はこうして定期的に彼と会う。
無論、自分の追っている仇の情報を得るためだ。

「そういえばお前に協力する奴がいたっていっていたよな?」
「ああ、本名は忘れたが・・・アヒャって言うニックネームで呼ばれている奴だ。
 血液を自由自在に操るという変わった能力を発動していた。
 彼の仲間にもスタンド使いは居たが、念写系の能力者が居なかったのが少々残念だった。」

蜥蜴はポケットから一つのボタンを取り出した。
「お前が持っている仇の手掛かりってのがそれ一つだけだからなぁ。」
「犯人の服から引き千切ってやったって死に際まで俺の兄貴が持っていた物だ。」
「お前の連れの女の子は念写能力を持っていないのか?」
「ああ、だが林檎のスタンドは単純に人を殺す能力としてはこの上ない性質のスタンドだ。
 しかも敵味方の区別も無いんだぜ。下手をすれば本体自身も危ない厄介な能力さ。」

情報屋の男は自分の手元にある酒を飲み干すと蜥蜴に折りたたんだ新聞を手渡した。
「コレを見てみな。」
新聞の一面には「作業員13名失踪」と大きく書かれていた。
事件の内容は、海宮町で老朽化した建築物を解体中の作業員13名が一度に失踪したという事だ。

「最近殺人による死者や行方不明者が増えてると思わないか?しかも吸血鬼の仕業だという首筋に牙の跡、
 そして血を吸い取られた死体がこの町で毎日のように見つかっている・・・・・。」
「……」
「何かの前触れかもなコレは・・・・ま、つまんねー噂さ。」

     ・     ・     ・

「しまったァ!今日ジャンプの発売日じゃねーか。」

夜7時、コンビニから家へと向かうアヒャがすっとんきょうな声を上げた。
無免許なのに原チャリで爆走している。

「今週は土曜日発売なの忘れていた。引き返すか。」
「もういいっしょ。必要な物は買ったんだから。」
アヒャに背負われているブラッドがから揚げを頬張りながら答えた。
「ま、明日買えばいい事だな。」

その時進行方向に見覚えのある顔を発見した。
「お、蜥蜴の旦那じゃねーか。」
アヒャは原チャを止めると蜥蜴に声をかけた。

「なにしてるんっすか〜?旦那。」
「ん、ああ君か。」
蜥蜴は手に懐中電灯を持ってうろついていた。
「ちょっと近所を見回りしていてね。」
「見回り?」
「ここんとこ殺人事件やら行方不明者が多いだろ。だから自主的に見回りをしているのさ。」
「そーっすか。頑張って下さいねー。」
アヒャは会釈するとバイクを走らせた。

237アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:14
「静かだねェ。」
夜道を走りながらブラッドが呟いた。

「さっき旦那が殺人事件が多いって言っていたろ。そのせいさ。」
「物騒な世の中だね〜、・・・・っておい!前!」
ブラッドが慌てて前方を指差した。
見ると一人の女が道路にうつ伏せに倒れている。

ドガキャキャキャキャキィ〜〜〜〜〜〜!!!

豪快なスリップ音を轟かせ、原チャリは急停車した。
「おいおい何でこんな所に女が倒れているんだ?もしかしてリナーか?」
「んなわけねーだろ!」

ブラッドに突っ込まれながら倒れている女に近づく。
少しばかり出血している。
「・・・・・こりゃあもう死んでいるな。脈が無いぜ。」
「アーメン」
手で十字を切るブラッド。

「それにこの首の傷見てみろよ。」
「何だこれ?針で刺したような傷跡は?」
「この前旦那が言っていただろ。吸血鬼に襲われた奴はこんな傷跡が付くって。」
「ああ〜なるほど吸血鬼・・・・・ってちょっと待てー!!!」
「何だよ。」
「この死体まだ暖かいし、死後硬直から見たところ死んでからそんなに時間がたってねーぞ。と、言う事は・・・・。」
「まだこの近くに居る可能性が高いと?」
「大当たり!」
「大当たり?そいつはグレートだぜッ!景品もらえっかよぉ〜。」
「ふざけてねーで早く逃げるぞ!もし襲われたら・・・・」

「誰がこの俺様から逃げるだって?」

不意に誰かの声が割り込んできた。
声のするほうを見ると塀の上に、一人の男が立っていた。
残念ながら旦那の言っていた十字の傷の男ではなかったが。

「あっちゃ〜遅かったか。あいつが犯人らしーぜ。」
「『遅かったか』じゃねー!!どーすんだよ!血ィカラカラになるまで吸い取られるぞ!!」
しかも男のほかに最低四人はいる。

(どうしよ〜。俺吸血鬼と闘うの初めてなんだよな。確か旦那から教えてもらったのは・・・・
「吸血鬼は太陽の光に弱い」
「吸血鬼は波紋の力に弱い」
「吸血鬼を倒すには頭を攻撃するしかない」
「吸血鬼に血を吸われた人間は、同じように吸血鬼になってしまう」
「吸血鬼には再生能力があり、まだ普通の人間に比べて数倍の能力を持っている」
 こんだけだ。
 しかしあの吸血鬼のほかの四人・・・・吸血鬼は普通の人間と外見は変わらないって言っていたけど、
 この、腐ったような臭い!?…つーか、こいつら人間じゃねぇ!
 よ…よく見ると、顔も一部一部ドロドロに溶けて…グエッ…気持ちわりいぜ・・・
 とりあえず、はやくこいつらを倒さねぇと被害が拡大するって事は確かだな。)

238アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:17
「見ちまったもんはしかたねぇ・・・・オメーの血を吸ってやるぜッ!いけぇ屍生人ども!」
男が叫ぶと同時に控えていた屍生人二匹が襲い掛かってきた。

「お、おい!い、いきなり飛び掛るなって!しかたねえ、戦闘態勢をとれブラッド。」
「ったく・・・・・やるよ、やりますよ。」

生ぬるいことでは、こっちの身がヤバイ、殺される。

とりあえず様子見でB・R弾を一匹の右腕に五、六発ぶち込んだ。
破れた皮膚の傷口から、液体が体内に侵入する。

血液の弾丸は相手の体内の血液を取り込み一気に膨張!

グボオオオオオォォォ!
腕がみるみる膨れ上がる。

ドッバアアアアアァァー!
「ギャアアアアアー!」
右腕が破裂した瞬間、屍生人は悲鳴を上げてうずくまった。

そしてすぐにブラッドが蛇のような形を成しうねったかと思うと、猛スピードでもう一匹に飛び掛る。
屍生人の上半身が引き千切れてブッ飛んだ。だが、そこへ追撃!
両腕を処刑鎌に変形させて、左右から振り下ろし残る部分を切り裂く。容赦はしない!

ズゥッバアァァァーッ!

もう一匹は一瞬にして赤い血の噴水と化した。

(これで、残りは…っておい!あの二匹まだ生きているぜ。やっぱこの程度じゃ、死なねぇかよ…)

「な、何だいまのは!?」
リーダー格の吸血鬼が叫ぶ。

(どうやらスタンドの事を知らないらしく、この「吸血鬼」どもが「スタンド使い」っていう、
 最悪の状況は免れているみたいだ。)

「クソッ!こうなったら全員でかかるぞ!」
吸血鬼どもが、オレに集中攻撃の構えを見せる。

(1対5の状況、ここからどうしようか…目覚ましテレビの星座占いじゃ俺の運勢最高のはずなのに・・・
 もう二度と見ねーからなチクショー!!いやでもお天気お姉さんかわいんだよな・・・・)
ピンチの時でもこんな事を考えているアヒャであった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

239丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:33


  ぴんぽーん。


「ただいまデチー」
 かちりとドアノブが回り、血まみれヤケドまみれのマルミミを担いだ三人が入ってきた。
「なっ…!?」
「ああ、しぃ。ただいまー」
「あ、おかえりー…じゃなくてどうしたのその大怪我っ!」
 のどかに返事をしかけるが、我に返って問いつめる。
「えーと…ちょっと転んだの」
「ああ、転んだんじゃよ」
「うん、転んだんデチ」
「そう、転んだのですよ」
「…ってどこで転べばそんな血まみれの大ヤケドにはにゃぁん」
 ムチャクチャな説明にツッコミを入れようとした瞬間、胸に感じた数発の衝撃。
一瞬のうちに意識が薄れ、色っぽい声を上げて倒れ込む。
 慌ててしぃを支えるジエンの隣で、いつの間にか具現化したB・T・Bがポーズを決めていた。
     B・T・C
「必殺・静寂ノビートッ」
「よーし、よくやった…」
「光栄ノ至リ デゴザイマス、御主人様」
 マルミミの賞賛に、B・T・Bがうやうやしく頭を下げた。
「よし、手当するぞ」
「はーい…」


「うっわー…大ケガみたい」
 数分後、包帯でぐるぐる巻きになった自分の体を見て、マルミミがポツリと感想を漏らした。
「バカモン。骨折七箇所、裂傷十六箇所、両腕と両足の腱もブチブチ、
 打撲・擦過傷に至っては数知れず。更に、全身スタンドによる炎症。
 おまけに疲労困憊もついて、これ以上なく立派な大ケガじゃ。無茶ばかりしおって」
「あははー。あの状況で無茶しなきゃいつ無茶するの」
 額を抑える茂名に、笑うマルミミ。二人に呆れながらも、『チーフ』が言葉を挟んだ。
「まったく…まあいいデチ。ボク達はあっちで色々と話し合うから、ゆっくり休んでるデチ」
「はーい…あ、B・T・B連れてって。おじいちゃんの鼓動借りるよ」
 ひゅるりとピエロのヴィジョンがマルミミから抜け出し、茂名の側に寄り添った。
茂名の鼓動から無意識に流れ出る生命エネルギーをスタンドパワーに変換、そのままヴィジョンを維持。
「便利デチねー、燃費がイイのは」
 冗談めかす『チーフ』をよそに、ジエンが一枚の写真を置いた。
中には、沢山のビニールパックが写されている。
「とりあえず、医療用のパック血液です。傷が酷いようなら飲んでください」
「ありがとー…」
「ソレデハ、私ドモハ アチラデ 話シ合イヲ サセテ 頂クノデ」

240丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:34



「…で、マルミミ君の完治にはどの位かかる予定ですか?」
 リビングのテーブルにそれぞれ腰掛け、三人と一体が顔をつきあわせていた。
「骨折や裂傷、腱の断裂は一晩二晩で完治できるのぉ。問題は全身の炎症じゃ。
 <インコグニート>の前に戦ったスタンド使いにやられたそうなんじゃが、吸血鬼の肉体でも火傷は治りにくいんじゃよ」
「戦う前…って連戦であのバケモノ相手にしたんデチか?ボクならさっさとトンズラしてるデチよ……で、そのスタンド使いは?」
 一瞬だけ口をつぐみ、観念したように口を開く。
「…おぬしに隠し事は通じんしの…二人とも殺してしもうたよ」
                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そうデチか…イヤ、別に構わないデチよ。正当防衛だったし、警告もしたんデチ?」
 なんでわかるのか、とは聞かない。
軽く首肯し、先を続ける。
「ま、そうじゃな。…話を変えるが、『矢の男』が自立型のスタンドで、『負の思念』を集めて進化した…ここまでは話したな?
 『矢の男』…いや、今は『インコグニート』か。…奴の正体…判明した」





  ―――――私が、八歳の頃だったか。
 貧乏だった家は、私を商館に売った。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 私を売らなかったら、一家が揃って路頭に迷ってた。
 そのまま虐殺されてカラスに啄まれる事も、珍しくはない。


  商館に売られたその後…その頃から私は背も高くて、大人びた顔をしてた。
 だから『商品価値』もあったんだろう。
 商館を経営してた男の人は、まだ八歳の私を客に抱かせた。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 経営の人には、お嫁さんも子供もいると聞いた。
 何べんも、すまない、すまない、って謝ってた。


  何週間か経った後、私は顔立ちも整ってたから『人気商品』になっていた。
 いつだったか、一晩中何人もの男をくわえさせられた事もあった。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 彼等はお金を払って私を抱いた、ただそれだけ。
 一緒に働いてた女の人たちは優しかったし、勉強も人並みに教えてもらってた。


  何年か経った後、私はもうそんな暮らしに慣れきっていた。
 目隠しをされて縛られながら犯されるのも、いつもの事になってきた。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 外出だって許されてたし、あったかいお風呂とご飯、柔らかいベッドも与えられてた。
 生活だけなら、スラムよりはずっとマシだった。



                   ―――――そう、別に、私は、誰も、恨んで、ない…



 目が覚めた。
「…………ッぅ…わ…夢…?」
 どくどくと心臓が脈打ち、じっとりと汗をかいている。
口の中がカラカラに乾いている。
 側に置かれた冷蔵庫からスポーツドリンクを一本貰い、キャップを開けた。
口をつける。一口で半分くらいを飲み干して、サイドテーブルに置く。
息継ぎを一つ。
…汗で濡れた浴衣が熱を奪い、寒気がした。
むくりとベッドから立ち上がり、シャワールームに向かう。
 体を洗いたかった。
―――穢れたのが綺麗になるわけではないと、わかっていても。

241丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:35


  ちるるるるっ。


 長い牙でパックに穴を開け、すする。
「…あ、当たり」
 二十代前半の男性、脂っこい物を控えた食生活。適度な運動・睡眠をとり、酒もタバコもやってない。
「美味しー♪」
 けぷっ、と小さく喉を鳴らし、次のパックに穴を開け、すする。
「………ぶふぅっ!」
 四〇代の脂ぎった中年男性、酒にタバコにユンケル漬け、更にパソコンの電磁波に犯されてストレスまみれのドロドロ血。
挙句の果てに採血前にレバニラを食べてる。ハズレもハズレ、最低の血。
 それ以上は怖くて分析する気も起きないので、飲みかけのパックをテーブルに戻した。
 マッヅ
「不ッ味…気分悪…ッ。寝よ」

 くい、と口元を拭い、ぽふりとベッドに倒れ込む。
人心地がついたせいか、戦闘中は大して痛いとも思わなかった傷が熱を持って疼く。
「う゛ぅん…」
 それでも、肉体を限界まで酷使するB・T・Hの反動で、疲労回復の眠気が襲ってきた。
小石が泥の中に沈むように、ウトウトと眠りに落ちていく。




「『矢の男』の…正体?ホントデチか?教えて欲しいデチ」
「うむ…まず、奴と戦ってわかった事なんじゃが、あの瞬間移動じみた動き、見たじゃろ?
 アレは『ロリガン』のような空間制御やB・T・Bのような超スピードではない」
茂名の言葉に、B・T・Bが頷いた。
「茂名様ノ 波紋糸ヲ 断チ切ッタ時、何カ所モ切ラレテ イルノニ 切断ノ タイムラグガ アリマセン デシタ。私ノ眼ト能力デス。狂イハ アリマセン」
 自信に満ちた声で、B・T・Bが断言する。
「更に、奴が話した『世界の帝王になる』と言う目的…どんなスタンドを持っていようと、
 そんなトチ狂った事をしようと考えた奴は後にも先にもたった一人―――」
言葉の最後を、『チーフ』が受け継いだ。
「今は亡き最強のスタンド使い、ディオ・モランドー…デチ?」
 その言葉に、茂名が重く頷いた。
                   The・2ch
「そうじゃ。時空制御型スタンド『 世 界 』…それが、奴の正体じゃ」
 その言葉に、ジエンが青ざめた顔で問いかけた。
「…お待ち下さい…それでは、奴に勝つ方法は?」
「ハッキリ言って想像もつかん。『矢の男』の時は本体が存在しない分、大幅にスペックが落ちとったんじゃが…
 <インコグニート>に進化したせいで、近距離パワー型レベルまでパワーもスピードも上がっておる。
 おまけにあの『思念の具現化』が厄介じゃ。ほぼ無尽蔵に武器を生み出されるしのぉ。
 結論として、『死』が…『残留思念』が存在するこの世界にいる限り、まともにぶつかっても不利は明白…」

「…空間作成型スタンドは?『残留思念』の無い…『この世』から切り離された空間なら、『思念の具現化』は封じられます。
 そこを多人数で攻めてやれば、苦労はするでしょうが何とか…」
すがるようなジエンの言葉に、『チーフ』が小さく首を振った。
「問題が三つあるデチ。まず、人殺しをやったことのない空間作成型スタンド使いはSPMにいないデチ。
 次に、奴がノコノコ空間にはまってくれるかどうか。仮にハメる事ができたとしても、
 <インコグニート>の体内にも多数の思念が渦巻いてるデチ」
「…反則ではありませんか」
「ともかく、戦闘型スタンドを集められるだけ集めておいた方がいいじゃろ」
 茂名の言葉は要するに、『破る手立ては考えつかない』と言っているに等しい。
―――いや、それでも勝てるかどうか。それでも、『チーフ』は頷いた。
「了ー解デチ。SPMに申請しとくデチ。…じゃ、提供できる情報はそれで全部デチね?」
「うむ」
 茂名が頷く。『チーフ』が一枚のカードを取り出して、茂名の方へ放った。
「じゃ、A級情報の提供報酬デチ。ドルで五千…で、この後<インコグニート>に対しての戦闘に参加すれば、
 更に高額の報酬と、武器を用意するデチ。どうするデチか?」
「無論その時は、腕がちぎれようが首がもげようが一切文句は言えません。報酬も後払いです」
 事務的に告げる二人を前に、茂名が笑みを浮かべた。
普段は好々爺と評判の柔和な顔が、肉食獣のように獰猛に。
「…聞くまでもないじゃろ?奴らは儂の息子の仇で…マルミミの両親の仇じゃ」
「ご協力、感謝します」
深々と、ジエンが頭を下げた。

242丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:37


 浴衣の帯を解いて、下着も脱ぎ捨てる。
バスルームの戸を開けて、乱暴に蛇口を捻った。

  さぁああああああっ。

 冷たい水が出てくるが、構わずにかぶった。
だんだんと水が暖まると、指先で腕をこする。
腕だけではない。脚も、胸も、腹も、頭も、乱暴に爪を立てて擦りたてる。
 いや、それは既に『こする』と言うよりも『掻きむしる』と言った方が正しいかもしれない。
白い肌に、うっすらと紅い痣が刻まれる。
 それでも、掻きむしるのを止めることはない。


  さぁあああああああっ―――――


 水音だけが響く。体を掻きむしる。

   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。
   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。
   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる―――――

 ―――――胸に鋭い痛みが刺して、ようやく我に返った。
爪が立てられて皮がめくれ、血が滲んでいる。

(あ…れ?何…やってたんだっけ…)

 鏡を見ると、体中に紅い線が走っている。
自分でつけた、紅い傷。
(ちょっ…やだな、何してるんだろ)
 きゅ、と蛇口を捻る。

  さぁあっ。

 流れ出していた水が止まり、静寂が支配した。
「早く…出よ」
 シャワールームから出て、バスタオルで体を拭く。
柔らかい布が傷に触れるたび、ちりり、と小さく痛んだ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

243丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:38

               │本・編・再〜開〜ッ!
               └y┬────────────―――――
               │お久しぶりです。マルミミのショタ口調や、
               │儂のジジィ口調書くのが懐かしかったそうです。
               └──────y――──────―――――



               ∩_∩    ∩_∩
              ( ´∀`) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ  
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
           _______Λ_____________

               次回はいよいよお待ちかね…

244丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:39

    ∧_∧ ∧  
   (::::::::::::::)│
   (::::::::::::::つ|
   |::|::::| │
   (__)_)川

『矢の男』

茂名王町に出没し、『スタンド使い』を増やしていた。
     The・2ch
正体は『 世 界 』。本体ディオ・モランドーの死語、
彼の目的を受け継ぐ為にスタンド使いを増やしていた。
そのうち自らを帝王にするため、人間に憑依して虐殺をさせるようになった。
『丸耳達のビート』では弓持ってません。別人です。

破壊力−B スピード−B   射程距離 −E
持続力−A 精密動作性−C 成長性 −E


  ∧_∧
 (    )
 (    )
 | | |
 (__)_)


<インコグニート>

元『矢の男』。世界の帝王となるため、
何人もの人間に憑依し、虐殺によって茂名王町に思念を集めていた。
『矢』を使い、茂名王町に集めた思念を一気に具現化、
自分の体をベースにした一つの生命体へ進化させた。
B・T・Bに鼓動を乱された影響で、現在はフルパワーが出せず潜伏中。
…なお、このヴィジョンはイメージ化された『名無し』であり、手抜きではありません。決して。


破壊力−A スピード−A   射程距離 −A
持続力−A 精密動作性−A 成長性 −A

245新手のスタンド使い:2004/05/05(水) 18:25
調子こいて続き〜スタンドでビルは潰せるか!?〜 いろんな人のバヤイ
モナー
「モナモナモナモナモナモナ・・・・・」どどどどどど・・・・・・
・・・・・どべっ「もうだめぽ・・・・・・・。」
ギコ
「ようし、行くぜッ!!」すーーーーー
ゴルァァーー!!パリ―ン
「ガラスだけかよ・・・・・」
モララー
「ふっ。ビルを「マタ―リ」させるッッ!!」
またーり「・・・・・・新品ですた。」
オニギリ
「WOHHHHH−−−−」ボココココココ
ぴしっ「・・・・・・。ダメ?」
リ(ry)
がちゃっズドドドドドドドキュンキュンドカーンドカーン
ズズズズーン
丸(ry
「URYYYYYYYYYYY」ズーン!!ドカドカドカドカ
・・・・・・・・しーん
で(ry
「悪魔世界!!」ドッカー―――――――――ン
モ(ry
「楽園の外!!」ズバっ
・・・・・「でかいよ」
二(ry
「石の花!」ズズーン
二打―
「ビルを無かった事にするぅっ!!!」ずばーなん
ヒナち(ry
「銘菓ヒナ饅頭いるかい?」
矢の男
「神銅像乗移!!」かきかき・・・・・
パッ

結果・・・・成功者:リ(ry)で(ry)二打ー 二(ry)矢の男 ヒナちゃん(?)

246ブック:2004/05/05(水) 19:55
     EVER BLUE
     第五話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その一


「うわ〜、本当に船が空を飛んでますよ!
 何度見ても信じられませんねぇ。」
 デッキ上の手すりで外の景色を眺めながら、タカラギコが感嘆する。
「…?別にそんなの珍しくもないでしょう?」
 オオミミが不思議そうにタカラギコに尋ねた。
 変だな、この人。
 船が雲の海を飛んでる位、日常茶飯事の事なのに。
 ここまで驚く程のことでもないだろう。

「あ…いえ、実は田舎の出でしてね。
 失礼、忘れて下さい。」
 慌てた様にタカラギコが会話を切る。
 田舎って…
 どんな辺境に住んでれば飛空挺を見ずに暮らせるんだ。

「…しかし、本当に素晴らしい。
 私の同僚にも見せてあげたいものですね。」
 タカラギコが寂しそうな目で呟いた。
 僕はそんなタカラギコの目を見て驚いてしまう。
 この人、いつもニコニコしているばかりかと思ったら、
 こんなに哀しそうな目もするんだ。

「そういえば、タカラギコさんってどんなお仕事してるんですか?」
 オオミミがタカラギコの方を見て言った。

「私、ですか?
 そうですね…『元』正義の味方ですね。」
 タカラギコが苦笑する。

「正義の味方って…『聖十字騎士団』ですか?」
 オオミミがそう聞き返した。
 成る程、『聖十字騎士団』ならば、先程のあの体術の切れ味の鋭さも頷ける。

「いえ、違います。
 それに、さっき言った通り『元』正義の味方です。
 今はもう関係ありませんよ。」
 タカラギコが再びうっすらと寂しそうな目を見せた。
 が、すぐに元の笑顔に戻る。

 …不思議な人だ。
 まるで、どこか別の国から来た異邦人と話しているみたいに、
 そんなどこか噛み合わない感じ。
 それでいて、昔から知り合いだったかのような…

「じゃあ、一体どこに勤めて…」
 オオミミが質問を続けようとする。

(駄目だよ、オオミミ)
 僕はそんなオオミミに注意した。

「『ゼルダ』…?」
 オオミミが僕に言葉を返す。

(それ以上は、多分聞いちゃ駄目だ。
 初対面の人に、あんまり踏み込んだ質問をするものじゃない。)
 本当は僕もタカラギコには興味があるのだが、
 流石にこれ以上プライバシーに触れる質問をするのはまずい。
 それにさっきまでの様子から察するに、
 仕事の話は多分この人にとって地雷だ。

「ご、ごめんなさい!
 タカラギコさん、俺…」
 オオミミがタカラギコに平謝りする。
 しかし君は、いつでも誰にでも謝っているな。

「いいんですよ。
 私も、お喋りが過ぎました。」
 タカラギコがそっと目を閉じる。

247ブック:2004/05/05(水) 19:55


「…そういえばオオミミ君。君は自分の中に居るスタンドと話せるんですね?
 差し支えなければ、彼の姿を見せてはくれませんか?」
 タカラギコがオオミミに言った。

「あ、はい。勿論。
 『ゼルダ』もいいよね?」
 僕も断る理由は無い。
 意識をオオミミから出し、実体化する。

「『ゼルダ』です。どうぞよろしく。」
 礼儀正しく一礼。
 僕の無礼はオオミミの無礼に繋がる。
 粗相は出来ない。

「いや、こちらこそよろしく。」
 お辞儀を返すタカラギコ。

「…いやしかし、この雰囲気はまさしく……
 やはり、私同様『アレ』もこちらに……」
 と、タカラギコがなにやらブツブツ言い始めた。
 何だ?『アレ』って、『こちら』って。

「タカラギコさん、どうしたんです?」
 オオミミがタカラギコに尋ねた。

「…!いや、何でもありませんよ。
 少しぼーっとしてしまいました。」
 はっと我に返った様子で、タカラギコが返答する。
 やっぱりこの人、どこか変だ。
 もしかして世に言う不思議ちゃんってやつか?

「ちょっとオオミミ〜!
 今日はあなたが食事当番でしょ〜!
 手伝いなさ〜い!!」
 と、下の階からカウガールの声が聞こえてきた。
 そうか、もう晩御飯の準備の時間か。

「は〜〜い!!」
 大声で返事をするオオミミ。

「タカラギコさん、ごめんなさい。
 俺、晩御飯作りにいかないと。」
 オオミミがタカラギコにそう告げて厨房に向かおうとする。

「あ。待って下さい、オオミミ君。」
 タカラギコがオオミミを引き止めた。
「…?」
 オオミミがそれを受けて振り返る。

「私も手伝いましょう。
 勝手に船に乗り込んで何もしないのも失礼ですしね。」
 タカラギコが微笑みながら口を開く。

「え?でも、悪いですよ。」
 オオミミがその申し出を丁重に断ろうとした。

「何、構いませんよ。
 まあ任せてみて下さい。
 これでも、家事全般には心得がありましてね。」
 タカラギコがやる気充分といった感じに、服の袖を捲り上げた。

248ブック:2004/05/05(水) 19:56



     ・     ・     ・



 夜も更けた頃、一つの人影がtanasinn島の外れにある裏びれた酒場に入る。
 体中を黒く大きなコートに身を包み、更にフードを目深く被っている。
 そして目にはサングラス。
 あからさまに異様な出で立ちである。
 しかし何より、その背中に担いだ大きな荷物こそ
 その場に居る者達全員の視線を独占していた。
 人の身の丈程もある、包帯とベルトでぐるぐる巻きにされた巨大な「何か」。
 それがおよそ日常とは全く縁の無いものである事は、
 赤子の目から見ても明らかであった。

「……」
 その者は巨大な荷物を床に置くと、店の奥の方の席に座った。
 そしてフードを脱いでサングラスを外した。
 光るような金色の髪の毛に、透き通るような白い肌。
 それらに血の様に紅いルージュの唇が一段と映える。
 何より思わず勃起してしまう程に整った顔立ち。
 店に居た男の客の何人かが、下品に指笛を鳴らしてからかった。

「…赤ワイン。それとAコースのセットを。」
 メニューにざっと目を通した後、女はマスターに食事を注文をした。
 程無くして、女の前に料理が運ばれてくる。

「……」
 店中から浴びせられる下卑た視線と野次など我関せずといった様子で、
 女は黙々と料理を口に運ぶ。
 二十分程で、女はペロリと料理を平らげた。

「マスター、水を。」
 食事を終えた女は、マスターにそう告げた。
 マスターと呼ばれた男がしけた顔で水を運んで来る。

「……」
 女は懐から赤い錠剤のような物を取り出すと、
 それを二粒水の中に落とした。
 錠剤が瞬く間に溶け出し、水を血のような紅色に変える。
 女は、それを一気に飲み干した。

「姉ぇちゃん、何だそりゃ。新手の薬か?」
 と、いかにも三流のゴロツキといった風貌の男が女の横に立った。

「……」
 答えない女。

「おいおいシカトかよ。
 せっかく俺がもっといい薬を紹介してやろうってのに。」
 男がわざとらしく大きな素振りで女に話しかける。

「…失せろ、下郎。」
 短く、女が告げた。

「…!ああ〜!?
 この尼、下手に出りゃあつけ上がりやがって!!」
 男が女に掴みかかった。
 その場の誰もが、その後の惨劇を予想して体を硬直させる。


「!!!!!!」
 想像通り、惨劇は起こった。
 しかし唯一つ全員の考えと違っていたのは、
 床に這いつくばっているのは女ではなく男の方だという事だった。

「…生きているうちに教えろ。
 『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の連中に、最近何か動きは無かったか?」
 冷徹な声で女が倒れた男に詰問する。

「へっ…只で答えるとでも……ぐわあ!!」
 女の踵が男の顔を踏みつけた。
 男の顔がどんどん醜く歪んでいく。

「…まだ生きているのじゃろう?
 それとも、今ここで人生を終わらせるか?」
 女が男を踏みしめる足に力を込めた。

「い…言う言う言う言います〜〜〜!!
 今日この島で、『紅血の悪賊』の連中が誰かを探していたんです!!
 だから、殺さないで〜〜〜!!」
 男が情けない声で叫んだ。
 女は男の頭から足を離すと、今度は襟首を掴んで男の顔を眼前に引き寄せる。
「…詳しく聞かせるのじゃ。」

249ブック:2004/05/05(水) 19:57



     ・     ・     ・



 本日五件目のバーを出て、夜の町を当て所無く散策する。
 結局この島での聞き込みの結果判明したのが、
 『紅血の悪賊』の空賊船の一つが、つい先日何者かに襲撃された事。
 そしてその襲撃した奴らを、血眼になって探し回っている事であった。
 日中に聞き込みを行えば、もう少し情報も手に入るのかもしれないが、
 自身の体質がそれを許さない。
 まあいい。
 取り敢えず今後の目標を定める位には情報が集まった。
 今現在私がすべき事は、『紅血の悪賊』を襲撃した奴らに接触する事だ。

「……」
 もう夜明けも近い。
 そろそろ宿に引き上げる頃合なのだが…

「…出て来い。居るのであろう…?」
 脇道の暗がりに視線を移す。
 そこから、板前の格好をした男が姿を現した。

「こんばんは、美しい方。
 じゅんさいはいかかです?」
 一品料理を差し出す男。
 ふざけた態度とは裏腹に、こいつがかなりの使い手である事が
 そこから漂う威圧感から感じ取れる。

「無駄口を叩くな。
 儂に何用じゃ。用件だけを話せ。」
 男との距離を充分に保ちながら、質問を投げかける。

「これは失礼。
 私は岡星精一。聖十字騎士団の者です。
 ここまで言えば、後はお分かりですね?
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』。」
 不敵な笑みを浮かべながら男が喋る。
 矢張り、聖十字騎士団の手合いか。

「…失せろ『人間』。
 そちらから手出しせねば、儂もそちらに手は出さん。」
 男の目を見据えながらそう告げる。
 しかし、恐らく無駄だ。
 奴は、いいや、『奴ら』は、脅しの通用するような相手では無い。

「肌を晒すのを極端に嫌うような黒尽くめ。
 そして何よりその背中の大きな得物。
 はっきり言ってその情報を耳にした時には耳を疑いましたよ。
 『常夜の王国』の懐刀たる貴女が、
 まさかこんな辺鄙な島に居るなんて。」
 男の背後に人型のスタンドのビジョンが浮かび上がる。

 …しかし、もう居所がバレていたとは。
 流石『聖十字騎士団』、手が早い。

250ブック:2004/05/05(水) 19:57

「…正気かや?お主。
 いくら聖十字騎士団とは言え、夜に『吸血鬼』と一人で相対するとは。
 それとも儂を見くびっておるのかのう?」
 男を睨みながら背中の得物に腕を伸ばす。
 『ガンハルバード』。
 我の振るう、鋼の牙。

「いやいや、貴女を見くびってなどおりませんよ。
 三下を何人連れてきた所で、被害が増大するばかり。
 それに情報の指す人物が本当に貴女なのかも、
 正直こうして面と向かって見るまで半信半疑でしたからね。
 それにもうすぐ夜も明ける。
 そうなれば貴女にとっては圧倒的に不利。
 本当は夜が明けるまで待ちたいのですが、
 ここで貴女を見失うのもまずい。
 そんなこんなの理由があって故の一対一です。
 どうか気分を害されずに。」
 慇懃無礼な態度を取る男。
 間合いが、少しずつ詰まっていく。

「…そういう訳で、そろそろ始めましょうか。
 この身を正義の刃と変えて、貴女を討ち滅ぼさせてもらいます。」
 その言葉が、私の激情を刺激した。

「…『正義』…?
 『正義』じゃと…!?」
 必死で溢れそうな怒りを抑える。
 こいつらが、こいつらが自分を『正義』だと!?
 心の底から笑えない冗談だ。

「そうです。
 あなた達吸血鬼は紛れも無い『悪』。
 ならばそれを打ち倒す我々こそが『正義』。
 最期の時を迎える前にじゅんさいでもどうですか?」
 男が自身に満ちた声で答える。
 変わっていない。
 こいつらは、何も変わってなどいない…!

「…いいじゃろう。
 ならば儂は絶対の『悪』となりて、
 貴様ら『正義』とやらを漆黒の煉獄に叩き堕として焼き尽くしてくれる…!」
 包帯とベルトを剥ぎ取り、『ガンハルバード』の姿を顕にする。
 ハルバードのグリップ部分にマシンガンが取り付けられた無骨な凶器が、
 男に向かって牙を剥いた。
「来い、『人間』。
 『人間』、来い。
 殺劇の顎は、今この時より開かれた。」



     TO BE CONTINUED…

251ブック:2004/05/06(木) 16:09
     EVER BLUE
     第六話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その二


「IIIEEEEEYYYYYYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
 大きく踏み込み、『ガンハルバード』の斧の部分での右肩口からの袈裟斬り。
 スウェイバックにより、紙一重でかわす岡星精一と名乗った男。

「『ヘッジホッグ』!!」
 岡星精一が青い半獣人のような姿をしたスタンドを発動させ、
 攻撃を外した私の隙を突き、懐へと侵入して攻撃を加えんとする。
 近寄って来るという事は近距離パワー型か。
 大方、この長物では接近戦に対処出来ないと踏んだのであろう。
 だが―――

「甘い!!」
 『ガンハルバード』を手元で半回転させて持ち替え、
 柄の根元の部分で男の鳩尾を打つ。
 その衝撃で岡星精一は後方へ吹き飛んだ。

「ごえええええ!!!」
 岡星精一が腹部を強かに打ち、胃液の口から出しながら悶絶する。

「散れぃ!!」
 倒れた岡星精一に向かって『ガンハルバード』の刃先を突き出す。
「おわあ!!」
 だが、あと一歩の所でその場から飛びのかれてしまった。
 しかし、仔細無い。
 『ガンハルバード』の銃口を岡星精一に合わせ、グリップ部分の引き金を絞る。

「うおわああああああああ!!!!!」
 鋼鉄の獣の咆哮が、岡星精一に襲いかかった。
 雨のように降りかかる銃弾を、岡星精一はそのスタンドでガードする。
 が、矢張り全ては受け切れなかったみたいで、
 彼の肩や腕の部分から赤い液体が散る。
 しかし急所には一発も当たっていない所は、流石といった所か。

「あ、危ないじゃないですか!
 本当、死ぬかと思いましたよ!」
 儂と大分距離をはなした所で、岡星精一が息を切らした。
 殺し合いをしておきながら『危ない』などとは、つくづくふざけた男だ。

「いやしかし…凄まじい得物ですね、その『ガンハルバード』は。
 槍の刺突に、斧の斬撃、さらには接近戦での柄の部分による打撃、
 それだけでも充分恐ろしいのに、
 挙句の果てには遠距離での銃撃まで兼ね備えている。
 狭い屋内ならばいざ知らず、このような開けた場所では死角がどこにも見当たらない。
 まさに全距離対応型兵器(オールレンジウェポン)。
 これはじゅんさい並に素晴らしい存在ですよ。」
 感心したように口を開く岡星精一。

「…今更命乞いをした所で無駄じゃぞ?
 『正義』という言葉を口にした瞬間、お主の命運は潰えたのじゃ。」
 儂は『ガンハルバード』を構え直した。
 油断は出来ない。
 こいつの顔には、まだまだ余裕の色が残っている。

「命乞い…?まさか。
 ですが正攻法で貴女に勝つのは私には無理のようなので、
 そろそろズルをさせて貰います。」
 岡星精一が飛び上がった。
 そして瞬く間に近くの建物の上に駆け上がり、
 その屋上から儂を見下ろす。

「人間である私が、夜に吸血鬼である貴女と闘うのに、
 何も下準備をしていない訳が無いでしょう。」
 その言葉と同時に、岡星精一のスタンドがその建物の屋上に取り付けられていた
 貯水タンクを私に向けてひっくり返した。

「!!!」
 貯水タンクの中の液体が儂に浴びせられ、
 その上辺り一面は水浸しになってしまった。

 …!?
 待て、この匂い。
 まさか…重油!?

「点ではなく、避けられない面攻撃。」
 岡星精一が、建物の上から火のついたライターを投げ落とした。

 まずい。
 これでは―――

 火―――重油―――

 着火

      今

  熱

252ブック:2004/05/06(木) 16:09


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
 儂の体を紅蓮の炎が包み込んだ。
 さらに炎は周りの空気を奪って呼吸を困難にし、思考回路を減退させる。

「UUUUUUWWWWWWWWWWAAAAAAAA!!!!!!!!」
 無様に転がりながら、体についた火を何とか消し止める。

「!!!!!!」
 その時、背中にゾクリとするものを感じた。

 殺気―――

 反射的に、体を動かす。
 同時に、さっきまで儂の頭があった場所に、
 岡星精一の『ヘッジホッグ』の拳が穴を開けた。

「外しましたか…」
 業火を背に、岡星精一が呟いた。

「きゃああああああああああ!!」
「うわああああああああああ!!」
 いきなりこの場を埋め尽くした炎に、住民たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う。

「…貴様……自分が何をしたか分かっておるのか……!?」
 岡星精一を睨みつける。
「…?何の事です?」
 しかし岡星精一は訳が分からないといった顔をする。

「この火事の事じゃ!!
 貴様は、自分の守るべき民草まで巻き込んでおるのじゃぞ!!!」
 火傷の痛みも忘れて、叫ぶ。
 今この火災で苦しんでいるのは、何の戦う力も無いか弱気者達だ。
 それを、こいつは喰う為でも生きる為でもないのに平気な顔で巻き込んだ。
 そしてそんな奴が、済ました顔で『正義』を名乗る。
 これが、これがお前ら『聖十字騎士団』のやり口か…!

「何、貴女という厄災を祓う為の尊い犠牲ですよ。
 ここで貴女を生かして帰す方が、そり人々の不利益になりますのでね。」
 一つも悪びれない顔で岡星精一が答える。
「人々の不利益じゃと!?
 はっ、白々しい!!
 『聖十字騎士団』(お前ら)の不利益であろうが!!!」
 『ガンハルバード』の剣先を岡星精一に向ける。
 これが『正義』か。
 これが『正義』だというのか。

「ふふ。『聖十字騎士団』の不利益は、
 それに縋る人々の不利益も同然ですよ。
 それよりお喋りをしていてよろしいのですか?
 もうすぐ日も明けますよ。」
 癪に障るくらいに丁寧な口調で、岡星精一が儂を挑発する。

「この…下種が……!
 『限命種』(ニンゲン)がああああAAAAAAAAAAA!!!!!」
 跳躍。
 岡星精一の首筋目掛けて迫る迫る迫る迫る―――

「!!!!!」
 その時、儂の足元が突然滑り、動作が中断された。

「!?」
 足元を見てみると、水溜りがまるで油のような質感に変わっている。

「『ヘッジホッグ』!!」
 その一瞬の隙を狙って、岡星精一が拳を放ってくる。

「くっ!!」
急いで後方にジャンプ。
 間一髪の所で攻撃をかわす事が出来た。

 …しかし、これで分かった。
 さっきの貯水タンクの重油。
 今の油みたいな水溜り。
 これは―――

「…液体の変質化。」
 儂は岡星精一を見据えながら言った。

「その通り。
 まあここまで見せればバレて当然ですか。」
 続けざまに『ヘッジホッグ』が儂に向けて透明なカプセルボールを投げつける。

「!!!!!」
 眼前で破裂するカプセルボール。
 そこから飛び散った液体が儂の肌を灼いた。
 これは、酸か…!

「UUOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
 しかし痛みにかかずらわっている暇は無い。
 痛覚を遮断(き)る。
 そのまま、儂は岡星精一に向かって飛び掛かった。

253ブック:2004/05/06(木) 16:10



     ・     ・     ・



 上段、中断、下段、右、左、正面。
 あらゆる方向から超高速での斬撃、打撃が飛んでくる。
 流石は『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』。
 これが、『常夜の王国』の懐刀の実力か。

「RRRRRYYYYYYYYYAAAAAAAAA!!!!!!」
 攻撃がさらに速度と重さを増す。
 矢張り、接近戦では敵わない。

 並みの相手ならあの水を重油に変えての攻撃で難無く焼却出来た筈なのだが、
 そう簡単には殺(と)らせてくれないようだ。

「WWWWWWRYAAAAAAA!!!!!」
 どんどんジャンヌからの攻撃を捌き切れなくなってくる。
 だが、いい。
 もう間も無く夜が明ける。
 そうなれば、こちらの勝利は揺るがない。
 夜明けまでおよそあと一分。
 それ位なら、攻撃を凌ぐ事に徹すれば生き延びる事は充分に可能だ。
 勝てるぞ。
 あの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』に。


 …しかし妙だな。
 私の『ヘッジホッグ』が見えているという事は、奴もスタンドを使える筈だ。
 なのに、先程から向こうがスタンドを使ってくる様子は無い。
 肉体強化型の能力なのか?
 いや、考えるな。
 今は、相手の攻撃を受け切る事に専念しろ。

 だが、やっぱりおかしい。
 そういえば、今までの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』との交戦記録によると、
 日中の闘いにおいても『聖十字騎士団』の手練が、奴に返り討ちに遭っている。
 これは、異様だ。
 日中の闘いで、『聖十字騎士団』がいくら強いとはいえ吸血鬼に敗れるなどと―――


「!!!!!!」
 その時、私の体を電流のようなものが走った。
 何だ。
 何だ、今のは。

 …これは、恐れ?
 私が、恐れている?
 何に?
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』か!?
 いや、確かに奴は恐ろしい。
 だが、もうあと三十秒もしないうちに夜は明けるのだ。
 最早彼女を恐れる理由は微塵も無い。
 無い筈なのだ。
 なのに…何故私は彼女を恐れている!?
 まるで、このまま夜が明けないような、
 覚めない悪夢を見るかのような、
 そんな恐れ―――

254ブック:2004/05/06(木) 16:10



     ・     ・     ・



「!!!!!!!」
 いきなり、岡星精一が大きく退いた。

「待て!逃げるのか!?」
 大声で奴を呼び止めるも、岡星精一は構う事無く私から離れていく。

「今回は逃げさせて貰います。
 どうも、貴女が恐いので。」
 そう言い残すと、岡星精一は瞬く間に逃げ去って行った。

「くっ…!」
 もう夜も明ける。
 奴を追うのは余りにも無謀だ。

 …しかし、奴が儂の『ブラックオニキス』の能力を知っていたとは思えない。
 にも関わらず、不安という漠然な理由で逃げたというのか!?

 成る程。
 戦闘能力だけでなく、危険回避能力も一流という事か。
 これだから、『聖十字騎士団』は侮れない。

「…兎に角、『聖十字騎士団』が出てきた以上のんびりとはしていられぬ。
 一刻も早く、『紅血の悪賊』を襲った連中に接触せねば…」
 そう独りごちながら、儂は日光から逃れる為に取っておいた宿へと急ぐのであった。



     ・     ・     ・



「うっまーーーい!!」
 オオミミが次々と料理を口の中へと運んでいく。

「本当に美味しいですわ、タカラギコさん。」
 『フリーバード』の乗組員の中で一番料理の上手い高島美和さんですら、
 タカラギコを手放しで褒める。
 この人、強いだけでなく料理も上手なんだ。

「いえいえ、それ程でもありませんよ。」
 タカラギコが謙遜しながら笑う。

「そんな事ありませんよ〜。
 誰かさんとは大違いですね。」
 カウガールがニラ茶猫へと目を向けた。
「どういう意味だフォルァ!!」
 ニラ茶猫が憤慨する。
 まあ確かに、彼には料理のセンスがあるとはお世辞にも言えないから、
 僕もカウガールの意見には賛成だ。

「……」
 と、今まで料理には手をつけていなかった三月ウサギが、
 ようやく料理を食べ始めた。

「…?三月ウサギ、お前食欲無かったんじゃなかったのか?」
 サカーナの親方が、三月ウサギに尋ねた。

「…誰もそんな事は言っていない。
 食べても大丈夫かどうか観察させて貰っただけだ。
 毒を盛られでもしていたら堪らんのでな。」
 その三月ウサギの言葉に、場の空気が凍りついた。

「三月ウサギ!!
 そんな言い方は無いだろう!?」
 オオミミが三月ウサギに向かって叫んだ。

「俺にしてみればお前らの方が信じられんよ。
 よくもまあ見ず知らずの胡散臭い男に、そこまで親しく接せれるものだ。」
 冷たい目で三月ウサギが言い放つ。

「三月ウサギ―――」
 オオミミが三月ウサギに掴みかかろうとする。
「!!」
 しかし、そんな彼を止めたのはタカラギコだった。

「およしなさい、オオミミ君。
 彼の言う通りですよ。」
 タカラギコが柔和な声でオオミミをいさめる。

「でも…」
 納得のいかないような顔をするオオミミ。

「…付き合いきれんな。
 俺は一足先に休ませて貰う。
 精々、寝首を掻かれぬように用心する事だな。」
 三月ウサギはそう吐き捨てると食堂から出て行ってしまった。

「……」
 皆が一様に押し黙ってしまう。
 先程までの楽しい雰囲気は何処へやら。
 今は、思い沈黙だけが食堂を黒く包み込んでいた。



     TO BE CONTINUED…


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