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スタンドスレ小説スレッド

1新手のスタンド使い:2003/11/08(土) 01:58
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

6:2003/11/09(日) 10:12

「〜モナーの夏〜  9月15日・その2」


 その娘は、奇抜な服装をしていた。
 十字架のマークが刻まれた帽子。
 衣服にも、いたるところに十字架模様が刻まれている。
 そして、腰まで届く長さの美しい黒髪。
 ミニスカートからすらりと伸びた綺麗な足。
 白く繊細な手… 右手がない!?
 よく見ると、勘違いだったことに気付いた。
 右手を袖から抜いて、服の中に納めているようだ。
 服を着ている途中で、右手だけ袖を通すのをやめてしまったような感じ。
 俺が小さい頃、『ドラゴンボール』という漫画が流行していた。
 その作中に、緑色の宇宙人が、切断された腕を気合と共に再生するという描写があった。
 俺達はよくそれをマネして、服の中に腕をしまった後、「はあぁぁぁ…」といいながら
 ニョッキリ生やしたものだ。
 この女も、そうやって遊んでいたのだろう。

 そんなアホな事よりも、困ったことがある。
 この女、重すぎて家に運ぼうにも動かないのだ。
 今までの人生の中で、気絶している女を運んだという事は一度としてないが、
 ここまで重いものなのだろうか。
 しかも今の状況を誰かに見られれば、俺は間違いなく不審者だ。
 俺は思わず周囲を見渡した。
 …仕方ない。不本意ながら、俺はこの娘を引きずって家に連れて帰ることにした。



 ひたすらに重い。
 いくらなんでも重すぎだ。
 この娘、どう見ても太ってはいない。俺のほうがよっぽど太っている。
 それが、なぜここまで重いのだろうか。
 おぶって運ぼうとも考えたが、そんなことをすれば、そのまま崩れて動けなくなるだろう。
 一分ほどで、足と腕が限界になった。少し休憩しよう。
 俺は女を地面に寝かせると、道端に腰を下ろして塀にもたれた。
 家まで後一分ほど。
 それにしても、車がほとんど通らない道でよかった。
 なぜあんな場所で倒れていたのだろうか。ケガなどはないようだが。
 俺は女の顔を覗き込んだ。とても綺麗な顔だ。
 俺の脳内ウホッ!いい女ランキングで1位に君臨していたじぃちゃんが、2位に転落した。
 1位はもちろんこの娘だ。
 これがムサい男だったら、迷わず放置していたところだ。

 そう言えば、少し気になることがあった。
 この娘、重いだけじゃなく、なにか服がゴツゴツしているのだ。
 何か持っているのか?
 俺は、女のスカートを触ってみた。
 断っておくが、この時の俺にやましい気持ちは半分くらいしかなかった。
 何か硬いものが手に当たった。ここに、何かある。
 俺はハァハァと息を荒立てながら、少しずつスカートをめくっていった。
 ここを他人に見られたら、俺は間違いなく変態だ。

「これは…!」

 少しめくっただけで、その物の正体は分かった。
 それは、拳銃だ。
 何というか、これはマズいのではないか。どう見ても、モデルガンには見えない。
 この女を家に連れて帰ると、ヤバイ事になるような気がする。
 だが…
 俺は女の顔を見た。固く目を閉じ、綺麗な顔を少し歪ませている。
「ミステリアスな美女も悪くはない…」俺は呟いた。間違いなく似合わないセリフだ。
 ギコの言うとおり、もう少し痩せた方がいいのかもしれない。
 さあ、家まであと少し。がんばって運ぶとするか。
 しつこいようだが、あくまで道徳的親切だ。下心などない。

7:2003/11/09(日) 10:12

 なんとか家に辿り着いた。
 手も足も感覚はない。明日は間違いなく筋肉痛だ。
 ここで一つ、大きな問題がある。妹だ。
 俺は妹と二人暮しである。さて、何と言い訳するか…

「ここは…?」

 背後から声がした。
 俺は驚いて振り向く。女は目を覚ましていた。
「ここはどこだ?」女は俺を凝視して言った。思ったよりも低い声だ。だが、それがいい。
「ここはモナーの家モナ」俺は心臓をドキドキいわせながら言った。
「君は?」女は真っ直ぐに俺の目を見つめている。
「モナはモナーモナ」俺は名を名乗った。
「君が道で倒れていたから、連れてきたモナ。モナの家でゆっくり休んだ方がいいモナ」
「君は…誰彼構わず、道に倒れている者を連れてくるのか?」女は痛いところを突いてきた。
 君があまりに美人だからハァハァして連れてきた、とは言えない。
 俺が口ごもっているのを見て、女は言った。
「まあ、君は悪い人には見えない。何より、私の体は休息を欲している。君の好意に甘えるとしよう」
 やった!
 …いや、もちろん道徳的理由による喜びだ。
「じゃあ、家に入るモナ。妹には、モナの友達ということで通すモナ」俺はドアノブを握りつつ言った。
「君の妹に、虚偽の申告をすればいいのだな。その方が、面倒が少なくていいが」女はそう言って、俺の後ろに立った。

 俺は玄関のドアを開け、家の中に入った。女が俺の後に続く。
 奥から、妹が出てきた。
「ちょっと兄さん! 私のプリン食べたでしょ!!」出た。萌えない妹、ガナー。
「あれ?その人は?」ガナーは、俺の後ろに立っている女の存在に気付いた。
「ああ、モナの友達モナ」俺はなるべく普通に言い、靴を脱いで家に上がった。
「友達です。よろしく」女は軽く頭を下げた。
「とりあえず、こっちモナ」俺は女を案内しつつ、立ち尽くす妹に声をかけた。「あっ、布団の用意をしといてほしいモナ」
「こ、こんな昼間っからッ!?」ガナーは真っ赤になった。なにか物凄い想像をしているようだ。


「じゃあ、しばらく休むモナ」
 女は、ガナーが敷いた布団に体を横たえた。
「すまない。この恩はかならず返す」女は申し訳なさそうに言った。
「気にすることはないモナよ」俺は首を振った。
「何であんな所に倒れていたのかとか、聞きたいことは一杯あるけど… とりあえずはゆっくり休むモナ」
 女は無言で頷いた。
 一番気になったのは銃の事だが、それにはあえて触れなかった。
 おっと。俺は、最も重要なことを聞くのを忘れていた。
「あ、名前を聞かせてほしいモナ」
 女は少しきょとんとした。
「私の名前か…? リナーライト・ヴェル・アレクシアだが。」
 余りに長い。
「…リナーと呼んでもいいモナ?」
「…特に問題はない」女はきょとんとして言った。「君は変わっているな。わざわざ私の名前を聞きたがるとは…」
 君のほうが変わってる、と言いかけてやめた。
「では…おやすみ」女は布団にもぐっていった。
 そのまま寝顔を眺めるているのも変なので(本当はそうしたかったが)、俺は自分の部屋に戻った。

8:2003/11/09(日) 10:13

 リナーはいつまで家にいるのだろうか。
 1時間もしたら起き上がって、どこかへ去ってもおかしくはない。
 なんとか、家に留めたいが…
 リナーの分まで夕食を作っていれば、引き留められるかもしれない。
 ガナーに一食分多く作るのを頼みに行こうとしたその時、ドアがノックされた。
 もしかして、リナーか!?
 「どうぞモナ!!」期待に胸が躍る。
 ドアが開く。
 そこに立っていたのは、萌えない妹、ガナーだった。
「ん?どうしたモナ?」俺は落胆交じりに言った。見ると、膨らんだスポーツバッグを肩にかけている。
「今夜は、友達の家に泊まってくるから」ガナーはそう言った。
「今から?急に?」俺は当惑する。ガナーがいなくなったら、誰が夕食を作るんだ?
「今の私、どう考えても邪魔者でしょ?」ガナーが答えた。
 ガナーなりに、勘違いしつつも気を遣ったのだ。
「全く… どんな手を使って、あんなに綺麗な人を引っ掛けたのやら…」ガナーは呟く。
「どんな手って… 失礼モナ」


 妹は、行ってしまった。
 自慢じゃないが、俺は食事など作れない。
 そうだ!リナーがいるではないか。
 休息の場を提供した代わりに夕食を作ってくれと言えば、断れないかもしれない。
 リナーを家に押し留められるし、リナーの手料理が食べれる。一石二鳥だ。
 なにか卑怯な気がしたが、こちらもリナーを家に連れてくるまでに、かなりの努力をしたのだ。
 それくらい要求しても、バチは当たらないだろう。
 俺は嬉々として、リナーのいる部屋に向かった。






 俺はこの時から既に、リナーに心を奪われていた。
 俺は思う。この時にリナーに出会わなければ、後に起こる悲劇は防げたのだろうか。
 俺は思う。あの時にリナーを放置していれば、俺は何も知らずにそのままの日常を過ごせたのだろうか。
 俺は思う。その時に俺がリナーに好意を抱かなければ、命を落としたはずの多くの人は救われたのだろうか。
 なぜ、俺はリナーと出会ったのか。
 どこまでが、俺の意思なのか。
 どこまでが、リナーの意思なのか。
 どこまでが、奴等の意図なのか。
 運命は、何を求めているのか。



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9:2003/11/09(日) 10:14
「〜モナーの夏〜  9月15日・その3」


          *          *          *


月。
煌々と私を照らす月光。
私の足下には、女の死体。
今、私がその命を奪ったばかりである。
この女のことは何も知らない。
夜、私に出会った。それだけだ。
そう。私は殺人鬼だ。

私は女を殺す時、必ずその腹を切り開き内臓を露出させる。
馬鹿な犯罪心理学者は、その行為に意味を見出すだろう。
だがそれは、その学者自身の闇であり私の闇ではない。
意味を問う事。それ自体が愚かな事に気付いている人は少ない。

私は女を殺す事により、性的快感を感じているわけではない。
「女」というものを憎んでいる訳ではない。
そして、おそらく常人が想像できる範囲の理由でもない。
私は・殺すために・生まれた。
それだけだ。
では、次の夜にまた会うとしよう。


          *          *          *


俺は、リナーが寝ている部屋に向かった。
起こすといけないので、ゆっくりとドアを開ける。
リナーは布団の上で座って、窓の外を眺めていた。
「あっ、起きてたモナか」
「ああ。もう体も大丈夫だ。世話をかけた」リナーは無表情に言った。
これはマズい。帰る気マンマンだ。
俺はあわてて言った。
「あ、せっかくだから、夕食を作ってほしいモナ」
リナーは怪訝な表情を浮かべた。
自分自身で、押し付けがましい言い方だったのに気付く。
俺は単にリナーにもっと居てもらいたいだけなのだが。
だが、リナーは俺の言葉に気分を害したのではないようだ。
「私が…作るのか?」意外そうにリナーは言った。
「そうモナ。リナーが作る食事が食べたいモナ」
俺は半ばヤケクソだ。どう考えても、出会ってすぐの人間に対する要求ではない。
「私の料理を食べるだと…?」リナーは驚いた顔で言った。
「君の思考は理解不能だ。それは勇気とは言わん。ただの無謀だ」
何か、話が噛み合っていない。リナーが言葉を続けた。
「サバイバル技術の一環として、ほとんどの食材の調理法は習得している。だが…」
リナーは下を向いた。俺は当惑する。
彼女はさらに呟いた。「いや、君がそれを望むならば、止めはしない…」
俺は一言も言葉を発せない。
リナーは澄んだ瞳で俺を見据えて言った。
「最後に問う。君は覚悟があるのだな?」
一体、なんなんだ。俺は早くもピンチなのか。
俺は無言で頷いた。ここで退けば、リナーと二度と顔を合わせられない。そんな気がした。
「ならば、行くか…」
リナーは台所に進んでいった。

10:2003/11/09(日) 10:15

台所に着くと、リナーは冷蔵庫の中などをチェックした。
「牛肉…ジャガイモ… この国の伝統料理、肉じゃがが調理できそうだな」
俺は驚く。
「えっ!リナーは肉じゃが作れるモナ!?」
そう、女の料理の腕を見るのには、肉じゃがが一番だ。
「調理経験はない。だが知識はある」リナーは冷蔵庫をゴソりながら言った。
リナーは一体、どこの国の人なのだろうか。少なくとも、日本語は流暢に喋れている。
「…鮭か。焼き鮭などはどうだ?」リナーは鮭を発見して言った。
「いいモナ。焼き鮭なんてよく知ってるモナね」
俺は感心する。
「私を甘く見てもらっては困る。鮭に塩を振り、焼却すれば完成だろう?」
「焼却しては駄目モナ…」
「では、調理開始といこうか」
心なしか、リナーは少し楽しそうだ。無表情を崩してはいないが。
料理する姿を横で眺めているのも変なので、テーブルに座って眺める事にした。
何というか、無駄のない動きだ。料理中にも右腕を出さないのが気になるが…
美女が料理をしている姿は、それだけで絵になる。
これを毎日見れるならば、悪魔に魂を売っても後悔はない。
率直に言おう。後ろから抱き付きたい。
そしてハァハァしたい。

「くッ…! 油断した!!」
リナーの声が、俺を現実に引き戻した。
「どうしたモナ?」俺はリナーに声をかける。
「単純なフェイクに引っ掛かってしまった。端的に言えば、砂糖と塩を間違えたのだ…」
伝説の大技だ。時は21世紀にもなる世の中、そんなミスをやらかす人間はそう多くない。
見ると、肉じゃがの鍋に塩がブチ撒けられていた。
リナーは言った。「まあいい。焼き鮭に砂糖を振れば、プラスマイナスはゼロだ」
リナーとの付き合いは浅い俺でも、本気で言っている事は分かった。
「いや、それは止めた方がいいモナ…」
リナーは俺を睨む。
「私に料理を委ねたのではなかったのか?君に口を挟まれるいわれはない」
その迫力に気圧され、俺は台所から出て行った。
まあ、食卓に何が並ぼうか構わない。
リナーと一緒ならば、地獄でも平気だ。


「完成だ。待たせたな」
リナーは4つの皿を器用に左手に乗せて運んできた。
それは、リナーの手によってテーブルに並べられる。
肉じゃがは、見た目は普通だが、塩入り。
焼き鮭は本当に焼却してしまったらしく、2cmほどの炭屑になってしまった。
ご飯からは香ばしい洗剤の香りがする。何をやったかは言うまでもない。
味噌汁は、形容不能だ。この世界に存在するあらゆる表現技法を超越している。
味噌汁の存在そのものを誤解しているとしか思えない。
リナーは俺を凝視している。
これは一歩も退けない。
「覚悟は…出来てる」俺はそう呟いた。
とりあえずご飯以外は、食べても命に別状はなさそうだ。
俺は、肉じゃがを一気に食べた。ひたすら塩辛い。
途中で舌がマヒしたので、それほど苦痛ではなかった。
そのまま、かって鮭であった消し炭を口の中に放り込み、味噌汁を超えしものを一気飲みした。
さすがにご飯は無理だ。中性洗剤とは言え、命にかかわる。
「お腹いっぱいだから、ご飯は今度おにぎりにして食べるモナ」俺は嘘を言った。
「よく食べましたね…」リナーは驚嘆の声を上げる。
「君の作った料理ならば、食べれるモナ。あ、愛の力モナ…!」俺は虚勢を張った。
「少し錯乱しているな。やはり私にとって、料理はオーバースキルか…」リナーはそう呟いた。

俺は洗剤入りのご飯をラップでくるむと、冷蔵庫に入れた。
さすがにリナーの目の前では捨てられない。
「だが、他人のために食事を作るというのも悪くはないな。このような感情を思い出させてくれた君に感謝しよう」
リナーは少し微笑んで言った。少し、いやかなり罪悪感を感じる。
思えば、初めてリナーの笑顔を見た。余りにも素敵過ぎる。
俺も微笑みを返した。もっとも俺は普段から笑っている顔なので、余り変わらないが。
その時、俺は幸福だった。
そう、しょせんは崩れていく幸福に過ぎないが…




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11:2003/11/09(日) 10:15

「〜モナーの夏〜  9月15日・その4」



          *          *          *


今夜も月は美しい。
殺すには、とてもいい夜だ。
だが、最近は女が一人で歩いている事も少ない。
流石に短期間に殺しすぎたようだ。
こんな時は、無為に町を彷徨うのがいい。

妹と同じような年齢の、二人連れの女を見かけた。
二人連れに興味はない。私はその女達を見送った。
そう、私には妹がいる。
もちろん、私の行いに気付いてはいない。
私が連続殺人鬼だと知った時、妹はどう反応するだろうか。
私を恐れるだろうか。脅えるだろうか。悲しむだろうか。嘆くだろうか。
私を畏れるだろうか。怯えるだろうか。哀しむだろうか。怒るだろうか。
私を殺そうとするのが、一番よい。

そう徒然と物思ううち、私は足を止めた。
私の足下には、女の死体。
驚くまでもない。私はこれと同じものを生産し続けている。
しかし、これは私が殺したものではない。

今月、私が殺した女は15人。
しかし報道によると、19人の犠牲者が出ているのだという。
つまり、4人余分に殺されている事になる。
私の仕業に見せかけて、殺人を犯している愚か者が存在するということだ。

それが証拠に、この女の死体。
私の殺し方と同じように、腹が大きく裂かれていた。
だがそのやり方は、私の業とは大きく異なる。
まず腹を切開した際に、胃に傷をつけてしまっている。
内容物が漏れ出して、ひどい臭いだ。
さらに、血液も周囲に飛び散っていて見苦しい。
おそらく、死後すぐに切開したのだろう。
他にも、目立つ位置に死斑があったり、頭部にも傷があったりと、仕事が粗い。
見るに耐えない。不快だ。

このような稚拙なやり方で殺された女に、同情を禁じえない。
そして、こんなものが私の仕業と思われるのは、大いに不快だ。
犠牲になった4人の女を弔うためにも、この犯人は私の手で捕らえなければいけない。
私はそう決意した。犯人を、捕らえ屠る。
これからは、嫌な夜になりそうだ。
月はあんなに美しいのに。


          *          *          *

12:2003/11/09(日) 10:16

俺の経験した「初・肉親以外の手料理」は、非常に塩辛い結果に終わった。
だが、俺は満足だった。こんな日々が続くなら、他に望むものはない。
しかし、リナーはいつ俺の前から消えてもおかしくない。
料理を作ってくれたのは、休息場所を与えたという恩を返すためだ。決して親しくなった訳ではないのだ。
何とか、連絡先を聞くなどしてリナーと接点を持たなくては…
とは言え… リナーはなかなかに天然のようだ。
電話番号くらい、深く考えずに教えてくれるような気もする。
俺は、台所で後片付けをしているリナーの元に向かった。


「リナー。ちょっと聞きたいことがあるモナ」
俺は皿を洗うリナーの後姿に声をかけた。何枚か割れた皿があるが、見なかった事にする。
「この作業は非常に気を使う。あとにしてくれないか」
リナーは後ろを向いたまま言った。
「じゃあ、待ってるモナ」
俺はイスに腰をかけた。
そして、リナーの後姿を眺める。
皿を洗う時くらい、右腕を出せばいいのだが…
それにしても、美味しいシチュエーションだ。
まるで新婚さんではないか。
たまに聞こえるパリーンという音など、気にもならない。

「さて…で、何だ?」
俺が妄想している間に、皿洗いが終わったようだ。
「あの、連絡先とか、教えてもらえたらいいなーって…」俺はドキドキしながら聞いた。
「私の連絡先か? それは教えられない」
リナーはきっぱりと答える。俺は落胆した。
「そもそも君が私に何を連絡するのか疑問なのだが… とにかく、教える事はできない」
「そうモナか…」
俺はため息をついた。さっきまでバラ色だった周囲の空間が、真っ黒に見える。
余りにもヘコんでいる俺を、哀れに思ったのだろうか。リナーは優しく言った。
「すまない。たとえ親兄弟にさえ… いや、親しい者ならばなおのこと教えられんのだ」
それを聞いた時、俺の頭に数式がよぎった。

・俺=教えられない
・親しい者=教えられない
よって、「俺=親しい者」が成り立つではないか!!
ウッヒョー!!
なんと、俺はリナーにとって最も親しい人だったのか!!

「…あの。聞いているか?」
リナーが何か言っていたようだ。
「君が言いたい事は分かったモナ。モナも同じ気持ちモナ」俺は激しく頷きながら言った。
「君は大丈夫か?何か悪いものでも食べたのではないか?」
大丈夫。愛さえあれば、それにもすぐに慣れるさ。
…とか行っている場合ではない。事実上、リナーを引き止める材料は尽きたのだ。

13:2003/11/09(日) 10:17

「…まあいい。君には大変世話になって感謝している。私はそろそろ…」
来た!! 
このままではリナーが帰ってしまう。どうしよう。何とかして引き止めないと…
俺の苦悩は全く知らず、リナーは言った。
「おっと。一つ聞きたいのだが。商店街にはどう行けばいい?」
商店街?
この辺は住宅地なので、商店街はない。
買い物ならば、そこらのスーパーで済ませている。
俺はそれをリナーに伝えた。
「それは困るな。流石にスーパーにテントは売っていないだろうし…」
テント?
「テントで何をするモナ?」俺は思わず問い返す。
リナーは呆れたように言った。
「テントでする事と言えば、中で寝る以外にあるのか?
 他の使用法が思いつかない。君の質問はいつも意味不明だ」

ちょっと待て。
この女、こんな都会でテントを張るつもりか。どう考えても浮いている。
こんな自然から離れた場所でアウトドアとは、常人の発想ではない。
それより、これは大大大チャンスではないのか!?
「もしかして、今日泊まるところがないモナ?」俺は目を輝かせて聞いた。
「しばらくこの町を調査するので、その間はテント暮らしの予定だが?」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

「な、なら、しばらくウチに泊まったらどうモナ?」
リナーは少し考えてから、言った。
「私に断る理由はない。が、その意図が分からない。君に見返りがある訳ではあるまい?」
見返りならば、もう十分に!!
「キミみたいな華奢な子が、そんな何日もテント暮らししちゃ駄目モナ。風邪ひくモナ」
「…華奢な子か」リナーは少し嬉しそうに、そして悲しそうに微笑んだ。
「私にそんな事を言ったのは、君が初めてだ」
初めて… そうか。俺は初めての男だったのか。
満足げな表情を浮かべる俺に、リナーは言った。
「では、君の親切にもうしばらく甘えさせてもらう」

「禍福はあざなえる縄の如し」という格言が正しければ、とんでもない不幸が俺の身を襲っても
おかしくはないだろう。
俺は今、それくらい幸福だった。
だが、うかれてばかりはいられない。先に聞いておく事がいくつかある。
「じゃあ、リナー。聞きたい事があるモナ」
リナーは頷いた。
「ああ。君には聞く権利があるな。だが答えられない質問もあるということは、あらかじめ断っておく」
「言いたくない事は無理に言わなくていいモナ」
「すまない。知ってしまえば、君の身にも危険が迫る場合があるからな」
「気にしなくていいモナよ。まず…どうしてリナーはあんな道端に倒れてたモナ?」
「すまない。それには答えられない」リナーは申し訳なさそうに答えた。
「じゃあ、さっきこの町を調査するって言ったモナね。
 何を調査するモナ?そもそもリナーは何をしている人モナ?」
リナーはうつむいて言った。
「調査内容に関しては…分からない。とりあえず、この町で起こっている事を正確に知るのが第一だ。
 そして私は…ある組織から派遣されてこの町に来た。その組織に関しては言えない」
この町で起こっている事…? 
そういえば初めて気絶しているリナーに会ったとき、マーブルなんとかと呟いていた。
最近起きているという連続殺人事件と関係あるのだろうか。
「この町で起きている事って何モナ?マーブル何とかや、連続通り魔事件と関係あるモナ?」
リナーは驚いたようだ。
「空想具現化(マーブルファンタズム)を知っているのか!?」
「リナーがうわごとで口走ってたモナ」
「そうか…だが、詳細は言えない。おそらくその連続通り魔事件と関連はあるのだろうが…」
次に俺は、ずっと気になっていた質問をした。
「リナーは、なんのために銃を持っているモナ…?」
リナーは俺の目を見つめた。
「…知っていたのか。それでよく、私を家に連れ帰る気になったな」
まったくだ。
「答えは単純。私に必要だからだ」
答えていないも同然だ。使途には一切触れていない。だが、言及する気にはなれなかった。

「じゃあ、最後の質問モナ。リナーは、人を殺した事があるモナ?」

それを聞いて、リナーは深くため息をついた。
「何も分かっていない親切者と思いきや… 君の質問は痛いところばかりついてくるな」
それまでじっと俺をを見つめていたリナーが、目を逸らした。
「『人』という定義次第だろうが… 純粋な人間ならば、殺した事はない。
 人である事をやめてしまったものならば、今まで殺してきたし、これからも殺し続ける」
リナーはじっとうつむいて、自分の左手を見つめている。
俺はその重苦しい空気に耐えられない。
「と、とりあえず、普通の人は殺してないモナね。なら、気にしないモナ」
「それよりも…」リナーは顔を上げた。「君の言っていた、通り魔事件について聞かせてくれないか?」

14:2003/11/09(日) 10:17

俺も、モララーに聞いたくらいしか知らない。とりあえず、その範囲で説明した。
俺の話を聞き終わると、リナーは怖い顔をした。
「犯行は常に夜か。おそらく、当たりだな…」
リナーが怖い顔をすると、何とも言えない迫力がある。
怒らせるととても怖そうだ。
「とりあえず、今夜当たり調べてみるか。出会えればいいが…」
えっ!出会うって、もしかして…
「ああ。今夜にでも、外をウロついてみる。」リナーは俺の表情を読んで言った。
普通なら、止めるところだ。
だが、調査のために組織から派遣されたと言っていた。
これまでの様子を見る限り、言って聞くようなリナーではない。
止めても無駄だろう。なら・・・!
「モナもいっしょに行くモナ!」
リナーは呆れ果てた様子で言った。
「君の脳は満足に働いているのか?19人も殺した犯人にわざわざ会って、どうするつもりだ?」
それはこちらのセリフだ。
「だって…リナー一人じゃ、心配モナ…」
リナーはさらに呆れたような表情を浮かべた。この顔を見るのも、もう何度目だろう。
「杞憂もいいところだ。君が付いてきたところで、何が出来る?
 単純に戦闘能力を比較しても、君は私の足元にも及ばない」
確かにその通りかもしれない。俺は銃なんか触ったことがない。
だが、リナー自身はか弱い女の子なのだ。
それにも関わらず、リナーは続ける。
「例え君が1個師団で襲ってきたとしても、私なら1時間で殲滅できる。それでもついて来たいと言うのか?」
俺は頷いた。それでも、一人にはできない。
「それでも…俺がリナーを守るモナ!!」俺は立ち上がって叫んだ。
その拍子に、椅子が倒れて床を転がる。
リナーはこれ以上ないほど激しく呆れ果てた様子だ。
「全く…君ほど意味不明な者は初めてだ。なら、好きなようにしてくれ」
ようやくリナーは折れたようだ。
これで、話はまとまった。

「今は7時か… とりあえず、12時まで寝ておく」
リナーは椅子から立ち上がると、そう言った。
「そう、お休みモナ」
リナーは台所のドアを開け、そして振り向いて言った。
「悪いな。君の寝床を狭くしてしまって」
一瞬、意味が分からなかった。
俺は困惑しつつ告げる。
「モナの布団は、ちゃんとリナーとは別なのがあるモナ。一つしかない訳じゃないモナ…」
リナーは意外そうな顔をして言った。
「そうなのか。君の妹はそのせいで、他の場所に泊まりに行ったと思い込んでいた」
「そ、そうモナか…」
もしかして、とても美味しい話を、結果的に蹴ってしまったのではないだろうか。

「ところでリナー」俺は台所から去ろうとしているリナーに声をかけた。
「犯人に会ってどうするつもりモナ?」
「無論、殺す」
そう言って振り向いた時のリナーの目は、ゾッとするほど冷たかった。



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15:2003/11/09(日) 10:19
※リナーAA図

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
  /,ノノくj_''(†)jlつ
 ん〜''く/_l|ハゝ
      し'ノ

16:2003/11/09(日) 10:20

「〜モナーの夏〜  9月15日〜9月16日」


          @          @          @


サラリーマンは、久し振りの帰国に喜びを感じていた。
今までずっと仕事でヨーロッパにいたのだが、3ヶ月ぶりに帰ってきたのだ。
「では、私はこれで…」
飛行機内で知り合った青年が頭を下げた。
その動きを一つとっても、気品が漂っている。
サラリーマンもつられて頭を下げた。
こちらは、サラリーマンという職業ならではの現実的な頭の下げ方だ。

その青年は、飛行機で隣の席だった。
大きく十字架が刻印された礼服を着ていたその青年は、若くして神父をやっているらしい。
いくつか世間話を交わしたが、残念ながら名前までは聞かなかった。
柔らかい、人懐っこい話し方の青年だった。
一般に思われるような説教臭さなど、微塵もない。
日本語の発音も完璧で、話題もウィットに富んでいた。
日本には仕事で来たのだという。布教活動だろうか。

サラリーマンと青年は、空港のロビーで別れた。
サラリーマンは、青年の後姿を見ていた。歩き方も、実に様になる。
その時、予想外の事態が起きた。
前方を歩いていたガラの悪そうな若者と肩が当たったのだ。
どう控えめに見ても、若者がヨソ見をしているのが原因だった。
にも関わらず、若者と二人の仲間は青年に絡み出した。
サラリーマンに、間に入る度胸はなかった。
彼は、距離を置いて青年の無事を祈っていたのだ。
そのまま青年は若者3人に連れて行かれた。
サラリーマンはその後を追う。助けには入れなかったが、知らない振りも出来なかったのだ。

若者3人は青年をトイレに連れ込んだ。
何という事だ。中でリンチを受けていてもおかしくはない。
サラリーマンが警察への連絡を考えたその時、トイレのドアが開いた。
平気な顔をして、青年が出てきたのだ。服には汚れ一つない。
サラリーマンは、事実上見捨てることになった手前、青年に声をかける事はできなかった。
青年はそのまま人ごみに混ざってしまう。
どういう事だ?
サラリーマンは恐る恐るトイレに入ってみた。
そこには、血まみれの若者3人が転がっていた…という事は無かった。
清掃が行き届いていて、綺麗なトイレだ。
その時、サラリーマンは個室の方から呻き声がするのに気付いた。
ロックはされていない。サラリーマンは、そっとドアを開いた。

そこには、さっきの若者3人が倒れていた。
いや、3人であって3人ではない。
彼の胴体からは、もう一人の胴体が生えている。
肩の部分、つまり頭の横からは、もう一人の頭が突き出ていた。
残る一つの頭は、腹から生えている。
左手は3本まとまって肩から生えていたが、右手のうちの一本は背中から伸びていた。
足も同様に、奇妙な位置から合計六本生えている。
若者3人の体は、一つに混ざっていたのだ。
切り取って繋げた、という感じではないし、一滴の血も流れてはいない。
ただ、人体同士が綺麗に融合しているのだ。
そして、それぞれの顔が、苦悶の声を上げていた。
サラリーマンはそのまま気を失った。


          @          @          @

17:2003/11/09(日) 10:20

もうすぐ12時だ。
俺はあれからずっと、台所のテーブルに座っている。
もうすぐ、リナーと殺人鬼探しに行く訳だが…
これはッ! もしかしてッ! 深夜のデートではないかッ!!
でも目的は殺人鬼探し。
美味しいのか、美味しくないのか分からなくなってきた。
ついでに、明日は普通に学校がある。
いや、そんな事はどうでもいい。リナーは本気で犯人を殺す気なのだろうか。
あの目は、冗談の目ではない。
そう、俺はリナーについて何一つ知らないも同然なのだ。

「モナー、行くぞ」
突然呼びかけられた。心臓が止まりそうになる。
物音や気配などは全くなかった。
「じゃあ、行くモナ」
俺は動揺を隠して言った。
「おっと、その前に…」
リナーはスカートから、一本の大きなナイフのようなものを取り出した。
長さは30cmほどある。こんなものがどうやってスカートの中に収まっていたのだろうか。
リナーはその物騒なものを、俺のほうに差し出した。
「これは?」 俺は困惑した。今まで、こんなデカい刃物など扱ったことがない。
リナーは答えた。
「バヨネット(銃剣)。主に刺突用の武器だ。本来はその名の通り銃に装着して槍のように扱う。
 17世紀ごろからヨーロッパ諸国を中心に普及し始め、装填時や射撃後に無防備であるという銃兵の問題が
 解消された。初期のは銃口に直接差し込む『プラグ式』だったが、時代が進むにつれて装着したままでも
 装填・射撃が可能な『ソケット式』や『リング式』が発明され…」
「いや、そうじゃなくて…」 俺はリナーの聞きたくもない説明に割り込んだ。
「これを、モナがどうするモナ?」
「無論、護身用だ」 リナーはさらりと答える。
こんなもの、いきなり渡されても扱える訳がない。
が、いちおう所持しておく事にした。
こんなものを真夜中に持ち歩いていたら、間違いなくこちらが不審者だが。
「では、行くぞ」 リナーはそう言って、台所から出て行った。
このままでは置いてけぼりだ。俺は慌ててその後を追った。


とりあえず、家を出た。
だが殺人鬼を探すのに、どこへ行く気なのだろう。
「とりあえず、どこへ行くモナ?」
俺はリナーに訊ねた。
「特に当てはない。だが、奴等が好みそうな場所の見当はつく。人通りが少なく、薄暗い場所だ。
 適当に歩きながら、そういう場所をチェックしていく」
奴等…? 言い回しが少し気になったが、問い返しはしなかった。
「じゃあ、町を一周してみるモナ?」
「そうだな」
リナーは、俺の提案に乗った。
俺とリナーは2人で夜道を歩き出した。

俺達の間に、会話はなかった。
家にいた時のリナーと今のリナーはどこか違う。
どこか、張り詰めた雰囲気なのだ。
いわゆる、何者をも寄せ付けない雰囲気、というやつである。
ふと、リナーが足を止めた。
「前方にいる男、様子が変だ…」

俺は目を凝らした。
かなり離れた場所に、一人の男が立っていた。こちらに気付いている様子はない。
「ウヒ… ヒヒヒ…」 不気味な笑い声が聞こえる。明らかに、前方にいる男から発せられたものだ。
「イヒ… イッヒーーーーーーッ!!」 突然、男が背を反らし痙攣しだした。
激しく痙攣しつつも、裏返った声で爆笑している。
不審者どころではない。完全にいっちゃった人だ。
男は笑いながら、近くにあったポストに近寄った。
「赤… 血… チ! ウヒッ! ヒャヒーーーーッ!!」
奇声を上げながら、ポストを殴り始める。
みるみるポストはひしゃげ、バリバリと裂けた。
何という馬鹿力だ。やはり馬鹿力とは、その名の通り馬鹿に宿るものらしい。
ポストの裂け目から、投函されていた郵便物がボトボトと落ちた。
「ヒャッヒーーーッ! 血ーーッ!! イヒヒッ!!」
男は両手を高く上げると、奇声を上げながら再び痙攣しだした。

「念のため、聞いておく」 リナーは俺に視線を移動させて言った。
「私はこの国の文化に詳しくはない。今の行為は、この国の風習や慣習、または伝統行事に由来するものか?」
「由来するわけないモナ」俺はきっぱりと言った。
これだけは自信を持って言える。あの男はヤバい。
「では、今のは異常な行為と見て間違いないな?」
俺は大きく頷いた。
リナーはそれを確認すると… 何と、男の方へつかつかと歩み寄っていった。
「リ、リナー!!」
俺は、あんな男の近くになど寄りたくない。だが、そうも言っていられないようだ。
俺はリナーに渡されたバヨネットのグリップをしっかりと握ると、早足でリナーの後についていった。

18:2003/11/09(日) 10:21

男は俺達の存在に気付いたようだ。
「…ヒヒッ! …女!! 女女女女女ーーッ!!」
その途端、男は素早くリナーの方に駆け出した。
その手には、どこからか取り出したナイフが握られている。
このままじゃ、リナーが!! 俺は血相を変えてリナーに走り寄った。

銃声が響く。
男が地面に倒れる音。
冷たい瞳をした、リナーの横顔。
月明かりに照らされ、病的なまでに美しい。
その左手には銃が握られていた。
銃口からは、煙がうっすらと立ち昇っている。
仰向けに倒れた男の額に、十円玉ほどの穴が開いていた。
そこから冗談のように血が垂れている。
俺は… そのまま硬直した。状況の把握に時間がかかった。
リナーは汚物でも見るような目で、倒れ伏した男を見下ろす。
男の体は小刻みに痙攣していたが、すぐに動かなくなった。

「とんだ雑魚だったな。てっきり、吸血鬼が出てくるものとばかり思っていたが…」 
リナーは表情を変えずに言い放った。
「殺したのか…!?」
俺は独り言のように呟く。
「ああ。見て分からないか?」
リナーは当然のことのように言った。
そう、リナーにとっては当然のことなのだ。
「人間は殺さないって…!」 俺は絞り出すような声で言った。
「落ち着け。一応こいつは人間だが、ここに存在する人間ではない」
リナーは意味不明なことを言った。
「どういう事モナ?」
「こいつは多分、『殺人鬼』という属性だけを具現化した存在だ。元々この世にいる人間ではない」
「…?」 俺には、さっぱり意味が分からない。
「つまり…」 リナーは男の死体を見下ろす。「この男は、存在してはいない」
「でも、ここにいるモナ。意味が分からないモナ」
リナーはため息をついた。
「核心に触れないように説明しているのだから、分からないのは仕方がない。
 この男は、いわば真の殺人鬼の影だ。」
「ということは、この男は殺人鬼ではないモナ?」
「『殺人鬼』ではある。むしろ、『殺人鬼』そのものだ。だがこいつは、一連の殺人事件の犯人ではない。
 もっとも、犠牲者のうちの何人かは、こいつによる被害者なのかもしれんが…」
「じゃあ、本当の殺人鬼の部下みたいなものモナ?」
「それは違う。おそらく本物の殺人鬼は、こいつの存在は知らないはず」
さっぱり要領を得ない。
リナーは、銃をスカートにしまいながら言った。
「とりあえずは…一刻も早く、本当の殺人鬼を探し出さないといけないな。
 こんな影を何人も倒したところで、全く意味がない」
俺は仰天した。
「何人も、って… こんなのが何人もいるモナか?」
「ああ。このままだと、こいつのような殺人鬼の影が増えるだろうな」
俺はぞっとした。こんなアレな人達が大挙して現れるのだけは勘弁してほしい。
「じゃあ、行くぞ。殺人鬼捜索の続きだ」
「えっ!まだやるモナ?」
明日は学校だ。さすがに辛い。
「当然だ」そう言って、リナーは歩き出した。
死体はこのままにしていいのだろうか。
まあいいか。俺は慌ててリナーの後を追いかけた。

再び俺達は、無言で夜道を歩き出した。
率直に言って、俺はリナーに恐怖を感じていた。
いかに存在していない(意味は分らないが)とはいえ、見た目は人間だ。
それを、表情一つ変えずに撃ち殺した。
リナーはやはり、俺とは住む世界が違う人間なのだ。
何か、リナーが以前よりも遠くに感じた。



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19:2003/11/09(日) 10:21

「〜モナーの夏〜  9月16日・その1」


          @          @          @


スーツを着込んだ男は、ビルの最上階でため息をついた。
そのビルは8階建て。
男がここにいる目的は、向かいのマンションを監視するためである。
夏ももう終わりとはいえ、まだまだ暑い。
汗をぬぐいながら、スーツの男は手元の写真を見た。
雑踏に紛れて、一人の青年が写っている。
柔和そうな表情。
大きく十字架が刻印された礼服。
背景は、おそらくヨーロッパのどこかであろう。
男は写真から目を離すと、双眼鏡を覗いた。
向かいのマンション、4階。いちばん右端の部屋。
青年はそこで眠っていた。その姿がここからよく見える。
写真に写っている青年と完全に一致していた。顔も、体格も、衣服さえも。
カーテンをかけず、ベッドは窓際。
油断しているのか、誘っているのか…

「どうだ?」
不意に背後から声がした。
スーツ男は双眼鏡を下げて振り向く。
そこには、かなり長身の男が立っていた。手にはコンビニの袋を下げている。
「動きはありませんね。なさすぎるのが、逆に気になりますが」
スーツ男はそう言って、再びため息をつく。
長身の男は、コンビニの袋からサンドイッチを取り出した。
それを、スーツ男に差し出す。
「ほれ。で、どう思う?」
「誘いの可能性が高いでしょうね…」 そう言いながら、スーツ男はサンドイッチを受け取る。
包みを破いて取り出すと、無造作に口に放り込んだ。
長身の男は、スーツ男から双眼鏡を受け取り、覗き込んだ。
やはり、青年は眠っているように見える。
「協定違反ってことは承知の上か…」
憎々しげにつぶやくと、双眼鏡を下ろした。
袋からおにぎりを取り出すと、包みを破いて一口かじる。
サンドイッチを平らげたスーツ男が口を開いた。
「やはり、例の連続殺人の一件でしょうか…」
「その程度で、『教会』は動きやしない。まして、ここは無神論者の国だからな」
そう言って、長身の男はさらにおにぎりをかじった。
スーツ男は3度目のため息をつく。
「異教徒は何人死んでも構わないって訳ですね」
そのままサンドイッチの包みをコンビニ袋に入れる。
「公安の動きは?」 長身の男は訊ねた。
「テロリストという事で逮捕状を申請してるみたいですが…」
スーツ男は、そう言って肩をすくめた。
長身の男は呟く。「テロリストか。それなら楽なんだがな…」
「やはり、生け捕りは難しいですかね?」
スーツ男は双眼鏡を片付けつつ訊ねた。
「無理だろうな。空港のトイレに残った残骸から、奴の能力は判明したが…」
長身の男は、『混ざってしまった』3人の姿を思い返してしまった。少し吐き気がする。
「人体の結合ですか… かなり厄介な能力ですね…」
スーツ男も同様だったのだろう。冴えない表情をしている。
長身の男は腕時計を見た。もうすぐ、時間だ。
「あと15分だ。そろそろ行くぞ」
スーツ男の表情に、緊張の色が走った。


ピンポーン
来客を告げるチャイムが鳴った。
青年は目を覚ます。ドアの向こうに、人の気配。
ドアまで歩み寄ると、ノブを回す。
配達服に身を包んだ男が、ダンボールの包みを抱えて立っていた。
「お届け物です。ハンコお願いできますか?」
青年は微笑んだ。
「あ、はいはい。ちょっと待って下さいね…」
背を向け、部屋の奥に引っ込む。
少しの間の後、ハンコを片手に戻ってきた。
「どうぞ」
青年は、宅配便の男にハンコを差し出した。
「あっ!」宅配便の男は、ハンコを受け取りそこなった。
そのままハンコは音を立てて床に落ちる。
「あ、すみません…」 青年はハンコを拾おうとして腰をかがめた。
その刹那、宅配便の男の身体から、人型のヴィジョンが浮き上がる。
そのヴィジョンは、拳を青年の後頭部めがけて振り下ろした。
しかし、その拳が青年の頭部に命中する事はなかった。
宅配便の男の腹部に、バヨネットが深々と突き刺さったからだ。
「ぐっ…」
宅配便の男は、床に膝を着いた。持っていたダンボールが地面に落ちる。
刺し貫かれた傷から血が垂れて、床を真っ赤に濡らした。間違いなく致命傷だ。
青年は立ち上がると、右手についた返り血を払った。
「強盗には見えませんね。この国の対策部の人間…ってとこですか」

宅配便の男は、かすれた声で言った。
「5秒だ…」
青年は穏やかな笑みを浮かべる。
「何が5秒です? あなたの残り寿命ですか?」
「俺の手から離れて、5秒だ…」
「!!」
青年は、床に投げ出されたダンボールに目をやった。

20:2003/11/09(日) 10:22

轟音と爆炎。
「よし、突入だ!」廊下に待機していた長身の男とスーツ男が、爆発の起きた部屋の前へ駆け寄った。
足元には、焼け焦げた仲間の屍があった。腹部に刃物が突き刺さっている。
青年の姿はどこにもない。
逃げたのか、部屋の中に潜んでいるのか…
長身の男が、警戒しながら一歩ずつ部屋へ踏み込む。スーツ男が後に続いた。
元々、部屋に物がほとんどなかったのだろう。余り散らかってはいない。
窓ガラスは割れている。爆風の影響だろう。
他に目に付くのは…ベッドのみ。
その他に、隠れられそうな場所はない。
周囲の警戒を怠らず、2人はベッドに近づく。
長身の男は、振り返ってスーツ男を見た。
スーツ男は緊迫した表情で頷く。
長身の男の身体から、人型のヴィジョンが立ち上がった。
木製のベッドは拳の乱打を浴び、たちまち木片となる。
しかし、その中に人影はない。
長身の男は考えた。窓から逃げたのだろうか?
しかし、奴ほど戦闘経験が豊富な人間なら、自分に攻撃を仕掛けたものを放置はしないだろう。
それでも逃げたということは…爆風でダメージを受けたのだろうが。

「うわっ!」
背後から、スーツ男の声がした。
「!!」
長身の男は素早く振り返る。
だが、スーツ男の姿はない。
そこにいたはずなのに…忽然と消えていた。
「お、おい! どこへ行った!?」
長身の男は、周囲を見回した。姿どころか、気配すらない。
「おい! どこだ!?」

「神を信じぬ愚か者の行き場所は、地獄と相場が決まっています」
長身の男は、声のした方向を注視した。
床から、青年の頭が突き出ている。
そう、首を切り取って床に載せたように。

ズズズズ…

そのまま、青年の身体が床からせり上がってきた。
腕を組んだ姿勢のままで、昇降機に乗ったように。

「そんなことも、できるのか…」
長身の男は素直に感心した。
どこか他人事だ、男は自分でそう思って、可笑しくなった。
「天にまします我らの父よ。願わくば、御名をあがめさせたまえ…」
青年は、どこか観念したような男にゆっくりと歩み寄っていった。


          @          @          @


あれから町を一周したが、不審な者には会わなかった。
家に着いたとき、すでに4時を回っていた。
俺はいつも7時に起床しているので、あと3時間しか眠れない。
「じゃあ、モナは寝るモナ。リナーも休んだ方がいいモナ」
俺はそっけなく言うと、返事も聞かずに部屋に戻った。
リナーに対する不信感が、確実に俺に芽生えていたのだ。
そう言えば、リナーから受け取ったバヨネットを返すのを忘れていた。
まあ、明日でいいか。今は部屋の隅っこにでも置いておこう。
俺はベッドに寝転がる。
たちまち、深い眠りに落ちていった…


「助けて…」 リナーは俺にそういった。
ここはどこだろう?
そう、ここは地下牢だ。リナーは牢に幽閉されていた。
「ここから出して…」 リナーはそう哀願する。
俺の手には、鍵が握られていた。間違いなく、あの牢の鍵だ。
「ここは、嫌だ。暗い。狭い。怖い…」 リナーの目に涙が滲む。
普段の気丈さはカケラもない。
リナーは嘘をついている、そう俺は思った。
リナーは、暗くても、狭くても、怖くても平気だ。ただ、独りでいたくないんだ。
俺は、牢の前に歩み寄った。
「君のせいだ。これは…」リナーはそう言いながら、涙目でこちらを睨む。
その仕草は、殺してやりたいほど愛しかった。

「待て待て。私は、この牢を開けるつもりか?」
背後から、声がした。
そこには、俺が立っていた。
俺と寸分違わぬ外見。
だが、こいつは俺じゃない。私だ。
私は薄笑いを浮かべながら俺に言った。
「止めておけ。その怪物を解き放つのは止すんだ」
リナーが怪物?何を言っている?
目がおかしいんじゃないか?
俺は、私の正常に機能していないと思われる目をバヨネットで抉り出した。
そう、リナーから受け取ったバヨネットだ。
しかし、私はニヤニヤしたその不快なムカつく神経を苛立たせる殺したくなるような笑みを絶やさない。
「目を逸らすな。それとも、俺の目は節穴なのか?もっとも、私の目は本当に節穴になってしまったが」
そう言って、ゲラゲラと笑った。
心臓を一突きにし、首を切断する。
嘘のように静かになった。
もう、邪魔する奴はいなくなった。鍵を鍵穴に差し込む。
牢が開いた。
リナーは無言で俺の胸に飛び込んできた。
俺はそれを抱きとめる。
リナーの長い髪が俺の首筋に触れてくすぐったい。
これで、ゆっくりと、リナーを、殺せる。

21:2003/11/09(日) 10:23

目覚まし時計が鳴った。
せっかくいいところなのに… 
そう思いながら、俺は目覚まし時計を止めた。
夢を見ていた気がする。
どんな夢かは思い出せない。まあ、夢とはそういうものだ。
起き上がろうとして、身体の異常に気付いた。
腕と足がひどい筋肉痛だ。
リナーを運んだ時の影響だろう。腰もかなり痛い。
睡眠時間も短かったせいで、疲れも取れていない。
俺はよろよろと立ち上がった。
とりあえず、朝食だ。

台所には、萌えない妹、ガナーがいた。
「あれ、帰ってきたモナ?」
「うん。そのまま学校に行こうと思ったんだけど、
 友達の家で朝食まで厄介になるのも悪いから…」
「ま、そりゃそうモナ」
俺はパンを焼くと、すぐさま頬張った。
ガナーは冷蔵庫を開けた。
「あ、ご飯がある。あっためなおして食べよっと」
俺はパンを食べ終わると、フラフラしながら立ち上がった。
駄目だ。すごい筋肉痛だ。
俺はヨロヨロしながら台所を出る。
「兄さん、身体どうかしたの?」
ガナーが聞いてきた。
「いや、ただの筋肉痛モナ。普段使ってない筋肉を使ったから…」
「き、昨日はそんなに激しく…」
何か大変な勘違いをしているガナーを残して、俺は台所を後にした。


学校に行く仕度は整えた。
リナーをほっておく訳にはいかない。
だが正直、リナーに顔を合わせるのは気まずかった。
得体の知れない女…
平気で人を殺す女…
やはり、棲む世界が違いすぎるのだろうか。
覚悟を決めて、リナーがいる部屋をノックする。
「おーい、起きてるモナ?」
「ああ」
中から声がした。
「開けるモナよ」 俺はそう前置きしてから、ドアを開けた。
リナーは布団の上にちょこんと座っていた。
畜生、やっぱり可愛い。
「じゃあ、モナは学校に行ってくるモナ。今ガナーもいるけど、なんか遠慮してるみたいだから
 挨拶とかはいいモナ」
そう、ガナーは明らかに遠慮していた。朝から、リナーに関する事は全く聞かなかった。
もっとも、逆の立場だったら(ガナーが彼氏を家に連れ帰ったら)俺だっていろいろ遠慮するだろう。
ガナーは、リナーがしばらく家に泊まることは知らないはずだ。これも伝えとかないといけない。
「モナーが学校に行ってる間、ヒマだったらモナの部屋の本とか読んでてもいいモナ」
「了解した。私も本は好きだ」
実は、俺はかなりの読書家だ。
俺の部屋の本棚には、漫画・小説合わせてかなりの冊数が詰まっている。
リナーは言った。
「それと、一つ質問がある。私の荷物はコインロッカーに預けているのだが、この部屋に
 運びこんでも構わないか?」
「いいモナよ。その部屋はしばらくリナーの部屋モナ」
二人暮しで家が一軒。部屋は余っている。
「あと、お腹が減ったら適当に何か食べるモナ。じゃ、行ってくるモナ」
俺は、ヨロヨロしながら学校に向かった。

22:2003/11/09(日) 10:23

「おい、どうした?」
会うなり、ギコはそう言った。
「おはようモナ… なぁに、ちょっとした筋肉痛モナ…」
俺はそれだけを告げた。
「運動不足だ」 ギコは冷たく言った。
その後、他愛のない会話を交わしながら、学校についた。

靴箱まで来るだけでも、かなりの苦痛だった。
俺の靴箱は低い位置にある。
腰の痛みをこらえながら靴箱を開けた瞬間…
爆発した。
俺はその衝撃で、ぶっ倒れる。
「うおっ!モナーーー!!」 ギコが叫んだ。
そうだ、すっかり油断していた。

「アヒャ! ヒッカカッタナ!!」
靴箱の隅から、アイツが顔を出した。
そう、つーだ。
性別は不詳。行動は予測不可能。
ただ、一つだけ確かな事がある。つーは、多分俺の事が大嫌いなのだ。
しょっちゅうトラップを仕掛けて、俺を虐待してくる。
「アッヒャーーー!!」
そのままつーは走り去っていった。
「いくらなんでもやりすぎだ、ゴルァ!!」
ギコが叫ぶ。
「それはいいから、起こしてモナ…」
俺はひっくり返った姿勢のままで、ギコに嘆願した。

何とか教室についた。
机と椅子にトラップがないかチェックした後、腰を下ろす。
そこに一人の女子生徒が近づいてきた。
「すごい音がしたね。またやられちゃったの?」
おおう。憧れのじぃちゃんだ。
そう、得体の知れない女より、じぃちゃんの方がいい気がしてきた。
「朝からひどいモナ。つーちゃんは、モナの事が大嫌いだモナ」
俺は愚痴を吐いた。
「そうかなー? 多分、つーちゃんはモナー君のことが大好きなんだと思うけど」
驚きの返答だ。何をどうすれば、そんな発想が出てくるんだ?
「つーちゃんはモナー君の気が引きたくて、意地悪ばっかりするんだよ。
 そのくらいの愛情表現は見抜いてあげないと、つーちゃんが可愛そう」
とてもそうは思えない。たまに生命の危険を感じる事がある。
じぃちゃんはさらに続けた。
「好きな人に話しかけたくて、でも話しかけられなくて…
 で、いざ話しかけても、気恥ずかしくなって逃げちゃう…そういう気持ち、分かるな」
じぃちゃんは、何故だか悲しそうに言った。
そういう経験あり、ということだろう。
誰だろうか、じぃちゃんの思いに気付かない不届き者は。
「だから、つーちゃんはモナー君のことが好きなんだって」
結局、話が戻ってしまった。
「でも、モナの事を好きになってくれる物好きなんていないモナよ」
俺は話題を変えた。
つーの話をしていたら本人が忍び寄っていた…なんてのはゴメンだ。
「そうかなぁ…」じぃちゃんは首をかしげる。「モナー君の笑顔とか、私は好きだよ」
そう言って、じぃちゃんは席に戻っていった。
チャイムが鳴った。
ホームルームだ。


俺は、授業中にいろいろ思い返していた。
なぜ、リナーは倒れていたのだろう。
理由は不明だ。
そして、この町に危機が迫っている。
それにはマーベルなんたらが関連していて、連続殺人事件が起きている。
真犯人のほかにも、殺人鬼の影とやらがいる。それも複数。日がたつごとに、増えていくらしい。
そして、リナーはそいつを躊躇なく撃ち殺した…

『とんだ雑魚だったな。てっきり、吸血鬼が出てくるものとばかり思っていたが…』

不意に、その時のリナーのセリフを思い出した。
吸血鬼だって!?
そんなものが存在するとは思えないが…
まあいい。どうせリナーは肝心な事は教えてくれない。
リナーの調査とやらはいつ終わるのだろうか。
おそらく、今日の夜中も町を一周するのだろう。

真犯人を見つければ、それで終わりだろうか。
それが終われば、リナーは俺の前から姿を消してしまうのだろうか。
分からない。
俺自身が、リナーにいてほしいのか、いてほしくないのかも分からない。
分からない事だらけだ。
俺は、ため息をついた。


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23:2003/11/09(日) 10:25
※お怒りリナー
            ,、
    /´ ̄(†)ヽ  // `ヽ lヽ/ヽヘ/レz
   ,゙-ノノノ))))) //     V ガッガッガッ Z
   ノノ)ル#゚ -゚ノiv'/   ☆ }´レvヘ/ヽ!ヽl`
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 ん〜''く/_l|ハゝ リ  ☆ (;・∀・)つ <アアン
      し'ノ        /ヽ_) /

24:2003/11/09(日) 10:25

「〜モナーの夏〜  9月16日・その2」


今は4時間目。授業はさっぱり頭に入らない。
そういえば、今朝は連続殺人のニュースはなかった。
新たな犠牲者は出なかったのだろう。
だが、リナーが殺したあの男の事すらニュースにならないのが気にかかる。
まあ、まだ昨晩の出来事だ。ニュースになるには早いか。

リナーは、今何をしているのだろう。
リナーの日常なんて、想像もつかない。
まあ、俺の部屋の本を読んでもいいと言っておいたので、退屈は…

「うぁああぁあーーッ!!」
俺はとんでもないことに気がついてしまった。

「モナー、どうした?」
先生が言った。教室中の注目が俺に集まる。
そうだ。今は授業中だ。
「いえ、何でもありませんモナ」
「…」
先生は少し不審そうな顔をしていたが、すぐに授業は再開された。
じぃちゃんがこっちを見てクスリと笑った。

俺は頭を抱えた。
さっき気付いたとんでもないことというのは…俺のベッドの下に隠してある本の存在。
そう、俺は健全な高校生だ。それがベットの下にあることは悪くないと思う。
だが、本は自由に読んでいいと言ってしまった。
もし、リナーがそれを見つけてしまったら…
軽蔑されるだろうか。呆れられるだろうか。命を取られることはないと思うが…
見つけているだろうか… 見つけていないだろうか…
まあ、今さら悩んでも仕方がない。
チャイムが鳴った。昼食の時間だ。

今日は弁当を持ってきていないので、学食だ。
誰かを連れて行こうと思ったが、ギコもモララーも見当たらない。
仕方がない、一人で行くか… 
そう思いながら立ち上がった時、教室の前側の戸がガラガラと開いた。
「モナーく〜ん! いっしょにお昼ごはん食べようよ〜!」
うげっ!!レモナだ!!
「ノォーーッ!!」
俺は慌てて駆け出した。
そして、教室の後ろ側の戸を開けた瞬間…
プツン!
ワイヤーの切れた音がした。
俺の周囲が炎に包まれる。あらかじめ油を撒いていたようだ。
「アヒャ!モナーヤキダ!!」
またしてもつーだ。
「アッヒャー!」つーちゃんはバケツの水をブチ撒けた。
炎は消えたが、周囲は水浸し。もちろん俺の体も例外ではない。
つーちゃんは逃げようと背を向ける。
しかし、そこにレモナが猛烈な勢いで走ってきた。
「ちょっとー!! モナーくんに何てことするのよー!!」
レモナはそのまま、つーちゃんに体当たりをかまそうとした。
つーちゃんは素早く右に飛び退く。
レモナの体は、壁にめり込んでいった。ガラガラと崩れる壁。
だが、レモナは平気な顔で崩れた壁の中から出てきた。
レモナは笑みを浮かべる。
「はは〜ん、分かった。 つーちゃんも、モナーくんの事好きなんでしょ?」
つーは首を振って叫んだ。「バ、バカナコトイウナ!コノネカマ!!」
「素直になりなさいよ〜。 まあ、つーちゃんがどう思おうと、モナーくんは私のものだけど…」
つーちゃんはナイフをレモナの顔面目掛けて投げつけた。
「そんなの…」
レモナはナイフを軽く弾く。
だが、つーちゃんはその瞬間に間合いを詰めていた。
つーちゃんの鋭い爪が一閃する。
レモナは素早くバク転して、それをかわした…かに見えた。
だが、着地したレモナの頬には薄く切り傷が。
そこから、一筋の血が垂れる。
「ひっどーい!! 乙女の顔に…」
「ネカマノクセニ、ナニイッテヤガル!」
二人は睨み合った。
「ちょっとだけ、本気出しちゃおうかな…」 レモナは両手で髪を後ろに流す。
「コッチノセリフダ!アヒャ!」 つーちゃんは両手をプラプラさせた。
俺は… 昼メシを食いに食堂へ向かった。

25:2003/11/09(日) 10:26

パンと飲み物を買ってから、空いている席に座った。
身体はビショ濡れ。ところどころ火傷。
だが、筋肉痛は大分マシになっていた。
「また派手にやられたねー」
隣の席に、モララーが腰を下ろした。
「まったく、ひどすぎるモナ…」
俺は呟いた。チャームポイントのしっぽまで焦げている。
「モナー君は、レモナのこと好きなのかい?」
モララーは突然、脈絡のない質問をしてきた。
「確かに可愛いけど…男は勘弁モナ」
「じゃあ、つーちゃんは好き?」
「嫌いじゃないけど、たぶん向こうはモナのこと嫌いモナ」
「じゃあ…」 モララーは頬を染めた。「僕の事は好き?」
俺は飲んでいたジュースをブーと吹き出した。
モララーは恋する乙女の目で、じっと俺を見つめている。
すごいぜ! 俺、モテモテだッ!!
…家に帰りたい。

「モナー君、何やってるの? 汚いよ…」
いつの間にか、向かいにじぃちゃんが立っていた。
「…あ、汚いモナね」
俺はティッシュを取り出して、ジュースで汚れた机を拭き始めた。
神の助けとはこの事だ。この場でモララーと二人きりはヤバ過ぎる。
じぃちゃんは、俺の向かいの席に座った。
持っていた袋から、サンドイッチを取り出す。
「あれ?じぃちゃんって、弁当じゃなかったモナ?」
「あ、うん… 今日はたまたま」
じぃちゃんはそう言って包みを開けた。
「ところでモナー君…」モララーが話しかけてくる。
殺気!! 俺は素早く振り返った。
モララーの背後に、ギコが立っていた。
「…当て身」 ギコは、モララーの首筋に手刀を叩き込んだ。
「ぐはっ!」 机に突っ伏すモララー。
「…よっと」 ギコは意識を失ったモララーを抱え上げた。
「じゃあ、しっかりやれよ」 そう言い残して、ギコはモララーを引き摺りながら食堂を出て行った。
「な…何だったモナ」
「さあ、何だろうね」じぃちゃんは、当然のように答えた。
「…」
「…」
全く会話がない。
俺は、ちょうど昼食を食べ終えた。
「そろそろ、モナは教室に戻るモナ」 俺はそう言って、席を立つ。
「え?もう?」じぃちゃんは焦った顔をした。
「じゃあ、またモナ」
俺はそのまま食堂を出ていった。


教室前廊下はボロボロだった。
壁の何箇所かに大穴が開いている。
また、派手にやったものだ。
俺は教室に入った。
ギコとしぃが、何やら話している。
「邪魔者は潰したから、今頃は…」
アベックの語らいを邪魔するほど俺は野暮ではない。
…と思って横を通ろうとしたら、向こうの方から話しかけてきた。
「あれ!?何でここにいるんだ!?」 ギコは意外そうに言った。
「何でって言われても… 食べ終わったからモナ」
しぃは訊ねる。「えーと、じぃちゃん食堂にいなかった?」
「いたモナよ。今もお昼を食べているはずモナ」
ギコが急に大声をあげた。
「じゃあ、じぃをほっといて戻ってきたのか!?」
「そうだけど…何モナ?」
ギコは呆れきった表情を浮かべる。「お前って…信じられないほど馬鹿だな」
「馬鹿って言った方が馬鹿モナ!!」
俺は理知的かつ論理的に言い返した。叱責されるいわれはない。
「いくら何でも、あんまりだよ…」 しぃまでギコの邪魔をする。
あれだ。バカップルというやつだ。もっと、他人の気持ちを考慮した方がいい。
俺は頭を抱えながら席に戻った。
しばらくして、じいちゃんが教室に戻ってきた。
やけに暗い顔をしたじぃちゃんに、ギコとしぃが駆け寄る。
そして、3人で何やら話し始めた。
「どうしようもないほど鈍感だから…」
会話の断片が耳に入る。ギコの声だ。
どうせ、3人そろって俺のことを馬鹿にしているのだろう。
なぜ、俺がそんな扱いを受けるのだろうか。悲しくなってきた。
その時、5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

26:2003/11/09(日) 10:27

今日の授業は終わりだ。
俺はいそいそと帰り支度を始めた。
そういえば、5時間目からモララーの姿がない。早退でもしたのだろうか。
「おーい、一緒に帰ろうぜ」
ギコが声をかけてきた。そういえば、しばらくは部活は休みだと言っていたっけ。
その後ろには、しぃとじぃちゃんもいた。
俺は立ち上がってカバンを肩にかける。
「じぃちゃんが一緒に帰るって珍しいモナね」
じぃちゃんも、何か部活をやっていたはずだ。
やはり連続通り魔殺人の影響で休みなのだろうか。
俺達は4人で学校を出た。


「それで、昨日のドラマでね…」 しぃは言った。
「…ああ」 ギコは返事をする。
「可愛そうだと思わない?」 しぃは話を続けた。
「…ああ」 ギコがさっきと変わらない返事をした。
…こいつ、絶対に話を聞いていない。
ギコとしぃが二人きりになったら、どんな話をしているのだろう。
ギコのことだから、天気の話くらいしかしないのではないだろうか。
「アヒャ!オイ!オマエラ!」
背後から、聞き覚えのある声がした。
足音が近づいてくる。
やはり、つーちゃんだった。
「オレモ イッショニ カエルゾ!アヒャ!」
俺は周囲を警戒するが、トラップはなさそうだ。
どうやら、本当に偶然の遭遇だったらしい。

こうして、つーちゃんが合流した。
ギコとしぃが何やらヒソヒソ話している。
「また厄介な奴が…」
「どうするの…」
「オレが何とかする…」
そういう会話の断片が聞こえてきた。
いくらつーちゃんとはいえ、今はおとなしい。
そのつーちゃんを疎外するのは、ひどくないか?
ギコは、何やら携帯を取り出した。
誰かと話しているようだが、内容までは聞こえない。
「モナー君は部活には入らないの?」
不意にじーちゃんが話しかけてきた。
「運動は苦手モナ…」
俺は肩を落とす。
サッカー部に所属し、スポーツ全般が得意なギコとは正反対だ。
「タヌキダカラナ。アヒャヒャ…」
「つーちゃん、それはひどすぎるモナ…」
他愛ない事をしゃべりながら、俺達5人は繁華街に足を踏み入れた。
俺たちの高校に通っている生徒は、ほとんどがこの繁華街を通って帰る。
今は下校時なので、たくさんの生徒で賑わっていた。
「あ、何か飲み物配ってるよ」 しぃが、進行方向を指差した。

「新製品でーす。どうぞー」
何かのドリンクの、新製品キャンペーンらしい。
一口サイズの缶ジュースを無料で配っていた。
配っている人は…リナー!?
いや、違う。
リナーとは似ても似つかない、柔和そうな青年だ。
社員にしては若すぎる。おそらくバイトだろう。
顔も服装も全く違う。距離があったとはいえ、なぜリナーと間違えたのだろうか。
「もらいに行こうよ!」
「アッヒャー!」
しぃとつーちゃんが走り出した。
「全く、元気な奴らだ…」
ギコが後に続く。
「行こうか、モナー君」 じぃちゃんは言った。
俺は頷いて、じぃちゃんと共に3人を追いかけた。

27:2003/11/09(日) 10:28

俺達は、その青年からドリンクを受け取った。
「炭酸入りか?」
ギコは青年に訊ねた。
「はい…」 青年は頷く。
「じゃ、俺はいいわ」
ギコはドリンクを受け取らない。
「ギコは炭酸が嫌いモナ?」
「いちおう、スポーツやってるからな。炭酸飲料は禁物」
そう言えばそうだ。
俺達は再び歩き出した。
つーは、もう飲んでしまったようだ。
「ウマイゾ!アヒャ!」 そう言って、引き返そうと後ろを向いた。
もう1本もらいに行く気だろうか。
「あ、私のあげるよ」しぃが、つーちゃんに缶を差し出した。
「アッヒャー!」つーは受け取ると、嬉しそうに缶を開けて飲み干す。
「コーラとあんまり変わらない味だね」じぃちゃんは言った。
「そうモナか…」 俺は缶を開けた。

          *          *          *

「やめておけ。モルモットになりたくないならな…」

          *          *          *

「ん? 何か言ったモナ?」
俺は周囲を見回した。
「誰も何も言ってないぞ?」 ギコは不審そうに言う。
おかしいな。今、確かに誰かの声が…
何となく、飲む気が失せてしまった。
その時、空中で何かがキラリと光る。
「…流れ星?」
今は午後4時。そんなものが見えるはずがない。
「それ」はだんだん近づいてきて… なんと、目の前に着地した。
「レ…レモナ!!」俺達は驚愕した。
こいつ、空を飛んでなかったか!?
「ちょっとつーちゃん! またモナーくんをいじめたんだって!?」
「ソンナコト シテネーゾ!!」
現れるなり、レモナとつーちゃんは言い争いを始めた。
「嘘ばっかり! ちゃんと聞いたんだから!」
レモナは袖を捲り上げた。
「ヤッテネェッテ、イッテルダロ!!」
つーの爪が鈍く光る。
「避難するぞ!!」
ギコが叫ぶ。
俺達は、急いでその場から離れた。
「毒をもって、毒を制す…」
逃げる途中、ギコはそう呟いた。


繁華街の真ん中くらいまで走った。
「ここまで来れば大丈夫だな」
ギコは全く息が乱れていない。流石、鍛えている奴は違う。
ふと、ギコとしぃが顔を見合わせた。
「じゃあ、私達は寄るところがあるから…」と、しぃ。
「この辺でお別れだ、ゴルァ!」と、ギコ。
二人でどこかにシケ込むつもりか。
これだから、バカップルってやつは…
「じゃあ、がんばってね…」しぃはそう言って、ギコと共に繁華街に消えていった。

…あれ、もしかして、じぃちゃんと二人っきり?
どうしよう。俺は何を話せばいいんだ。
「…今日はいい天気モナね」
「…そうだね」
会話終了。

「…」
「…」
俺とじぃちゃんは、無言で歩き続ける。
とんでもなく気まずい。
「ねえ」 不意にじぃちゃんが声をかけてきた。
「さっき走って疲れたから、マクドナルドでも行かない?」
ちょうど、俺も小腹が空いていた。
「それはいいモナね」
俺とじぃちゃんは、マクドナルドに入っていった。

28:2003/11/09(日) 10:28

店内はそこそこに混んでいた。
俺はビッグマック2個とポテトLとコーラLを注文した。
じぃちゃんの注文は、チーズバーガーにポテトS、コーラS。かなり小食だ。
「ご会計はご一緒でよろしいですか?」
女性店員は、俺の方を向いて言った。
『男女二人連れの場合は、男の方が料金を払え』と暗に言っているのだろうか。
これは、男女差別ではないか!!
「別々で」
俺の葛藤を知ってか知らずか、じぃちゃんはさらりと言った。

俺とじぃちゃんは、2人掛けの席に座った。
俺はおもむろにビックマックの包みを開ける。
しまったッ!
ピクルスを抜いてもらうのを忘れていた。
そう、俺はピクルスが大嫌いなのだ。
ご丁寧に、ビックマックにはピクルスが2個も入っている。
俺はビッグマックを割って、ピクルスを抜き取った。
「あれ? モナー君、ピクルス嫌い?」
じぃちゃんは、俺の指につままれているピクルスを見て言った。
「隙とか嫌いとか… 前提が間違っているモナ。これは食べ物ですらないモナ。
 お弁当に入っている緑のギザギザと同じだモナ」
俺は胸を張って力説した。
「じゃあ、もらっていい?」
「いいモナよ」
俺はつまんでいたピクルスを、じぃちゃんに差し出した。
じぃちゃんは、それに顔を近づけてきて… 俺の手から直に食べてしまった。
てっきり、受け取ってから食べるものと思っていたのに。
じぃちゃんは、俺の顔をじっと見つめる。
その様子を見て、俺は言った。
「意地汚いマネは、やめた方がいいモナ」
じぃちゃんは、まるでギャグマンガのように前につんのめった。
机にヘッドバットをかました影響で、コーラがこぼれそうになる。
「ど、どうしたモナ!」
「な…なんでもないよ…」 じぃちゃんは頭を起こすと、ズレた帽子の位置を直した。
「全く…君の行動は意味不明モナ」 俺は言った。
「はあ…」 何故か、じぃちゃんは深くため息をつく。
俺は、ビッグマックを2個まとめて口に放り込んだ。
そのままポテトを口に中に流し込み、コーラを一気飲みした。
ふう。よく食べた。
「それ、消化に悪そう…」 じぃちゃんは、チーズバーガーをチビチビと食べていた。
「じぃちゃんは、そんなに少ない量で満足するモナ?」
「私もビッグマックとか食べたいんだけど… 好きな人の前で大口開ける訳にもいかないし…」
女心って奴か。
リナーはどうなのだろうか。
少なくとも、恥らったりはしなさそうだ。平気で人殺すし。
そんな事を考えているうちに、じぃちゃんも食べ終わったようだ。
こうして、俺達は店を出た。

そう言えば、すっかり忘れていた。
リナーがベッドの下の本を見つける前に、帰らないといけないのだ。
俺は少し急ぎ始めた。
「やけに急ぐんだね…」じぃちゃんが早歩きしながら言った。
「あ、いや、少し身体を鍛えようと思ってモナ」
「私も体鍛えようかな…」
じぃちゃんは速度を上げながら言った。
「今のままだと、レモナさんやつーちゃんと戦っても勝てないしね」
「?」 そりゃそうだ。ってか、なぜ戦う必要があるのだろう。
「でも、一番の強敵はモナー君だな…」
「??」
意味が分からない。きっと、じぃちゃんは疲れているのではないか?
ほら、何かすごい疲れた顔をしている。
じぃちゃんを、これ以上疲れさせる訳にはいかない。
「じゃあ、また明日モナーー!!」
俺は、高速でじぃちゃんから離れていった。
ちらりと振り向くと、じぃちゃんは究極に疲れきった顔をしていた。


俺は、家に帰るとすぐに、リナーの部屋に駆け込んだ。
リナーは本を読んでいた。もちろん、ベッドの下の本ではない。
「ああ、本を借りているぞ」
「それはいいけど………ベッドの下は見たモナ?」
俺は恐る恐る聞いた。
「なぜ、そんなところを見る必要がある? 何かあるのか?」
「いや、それならいいモナ! 何もないモナ!」
ふう。よかった。
「さて…日も暮れたことだし、そろそろ行ってくる」
リナーは本を置いて立ち上がった。
「あれ? 殺人鬼探しは真夜中じゃないモナ?」
「朝にも言ったが、駅のコインロッカーに私の荷物が入っていてな。
 それを回収してくる。人目につくわけにもいかないので、日が暮れるのを待っていた」
なるほど。
「モナも手伝うモナ」
「…君が役に立つとは思えないが」
なかなか失礼な発言だ。
「まあいい。君が来たいのならば、私は拒みはしない」
全く…これでも、リナーの細腕よりは力があるに決まっている。
やはり、俺は信頼されていないのか。

29:2003/11/09(日) 10:28

俺とリナーは、駅に向かった。駅まで片道5分もかからない。
すぐに駅のコインロッカー前に着いた。
リナーは鍵を取り出して、5つのロッカーを次々と開ける。
それぞれのロッカーに、リュックサックが入っていた。
家に運ぶのは、5つのリュックサック。
「じゃあ、モナが3つ持つモナ」
俺は、ロッカーからリュックを出そうとした。だが…
…重すぎて動かない。
何だ!? 何が入ってるんだ!?
俺は、そのリュックを開いてみた。
全部手榴弾だ。リュックの中にみっしりと。
「人目につく。ここでは開けるな」
リナーに注意された。俺はビビリながらリュックの口を閉じる。
リナーは一番左端にあったリュックを差し出した。
「君はこれを持つといい」
なるほど、結構軽い。これなら運べそうだ。
「それには、着替えや生活用品が入っている」
リナーはそう言いながら、リュック4個をひとまとめにして持ち上げた。
「ちなみに、この4つが武器や弾薬だ」
…なんて力だ。


帰途に着く途中で、ギコとしぃに会った。
「ん? 何でこんなとこに? じぃは…いや、それより…誰?」
ギコはリナーをじっと見つめた。こころなしか、赤くなっている。
そう。リナーは表向きはかなりの美人なのだ。裏では何を考えているか分からないが。
「ああ、友達のリナーモナ」
俺はリナーを紹介した。
「友達のリナーだ。よろしく」 リナーは軽く頭を下げた。
「いや、こちらこそ… よろしくお願いします」 
ギコも頭を下げる。なぜか丁寧語だ。
しぃのちょっと吊り上っている口の端が、ピクピク震えている。
これは血の雨が降るな…
「じゃあ、モナ達はこれで!」
俺はリナーの腕を引いて、急いでその場を離れた。
何か、今日はこんなのばっかりだ。
リナーは言った。
「女の方が殺意を抱いていたようだが… 放置していいのか?」
「…ほっといていいモナ」
「今、打撃音と男の悲鳴が聞こえたが…」
「さあ、早く帰るモナ」
俺達は、家路を急いだ。

家に帰ると、ガナーがいた。
「リナー、しばらく家に住むから」 俺はそれだけを告げた。
「なッ!!」
ガナーは仰天したようだ。
「嫌モナ?」
「嫌じゃないけど…兄さんが、遠くに見える…」
勘違いしているリナーを尻目に、俺はリュックをリナーの部屋に運び込んだ。

ガナーは、3人分の夕食を作った。
リナーの分は、俺が部屋に運んでいった。
いきなり3人そろって食卓というのは無理がある。
それから、台所に戻って夕食を食べた。
「リナーさんといっしょに食べればいいのに」
ガナーはそう言った。もっともだ。本音を言えば、俺もそうしたい。
そうこう考えながら、夕食を食べ終える。
俺は椅子から立って、ふと思い出して言った。
「あ、そうだ。モナとリナーで夜中に外出するけど、気にしないでほしいモナ」
「気になるけど、気にしない…」 ガナーは不服そうに言った。
まあ、もっともだろう。
そう思いながら、台所を後にした。


12時。
殺人鬼探しの時間だ。
部屋がノックされる。
ドアを開けると、リナーが立っていた。
「時間だ。行くぞ」
俺は、昨日渡されたバヨネットを手にした。
「じゃあ、行くモナ!」
俺とリナーは、夜の町に歩み出した。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

30:2003/11/09(日) 10:29

「〜モナーの夏〜  9月17日・その1」


          *          *          *


私は急いでいた。このところ暇がない。
あの女のせいで、私の活動できる時間が限られてしまう。
不本意だ。殺してしまうか。

あの女の姿を思い描く。
『教会』からの派遣者。
「代行者」「聖堂騎士」などと称される、対吸血鬼戦のスペシャリスト。
その中でも、トップクラスに位置する女。
そして――――おそらく、混ざっている。

「でよーーー!そしたら、ソイツがーーー!」
知能の低そうな声が私の思考を妨げた。
前方から男が3人歩いてくる。
路傍の石ほどの興味すらわかない。

「オレ、死ぬほどムカついてよー!! ブッ殺してやろうかと思ってよーー!!」

死…
おそらく、この男は「死」の重さを知らない。
生命の終着。「生」の対立命題。
殺…
おそらく、この男は「殺す」という行為の深さを知らない。
存在の抹消。外部からの動的干渉。

「おい、そこのヤツ!」
男は、唐突に私に向けて言った。
「何、ジロジロ見てんだ…ああ!?」

夏ももう終わりだというのに、飛んで日にいる虫がいるとは。
「てめー、ヒドい目に合いたいのか…?」
男はつかつかと歩み寄ってくると、私の襟首を掴んだ。
「ぶっ殺…」
そんな台詞、最後まで言わせるものか。
瞬時に男の首を寸断した。
殺そうという意志を抱いたとき、肉体は行動を終えている。
行動の前にいちいち相手に殺意を伝えるなど、三流以下だ。
事のついでだ。残り二人も殺しておいた。

31:2003/11/09(日) 10:30

町外れの教会。
その重い扉を開ける。
その青年、「蒐集者」はそこに居た。
大きな十字が刻印された、黒のロングコート。
暗殺装束に身を包んでいるあたり、私の来訪は予測済みだったようだ。
「ようこそ。懺悔の時間ですか?」
「蒐集者」は微笑みをたたえる。
私はバヨネットを取り出した。
その距離、15m。まだ遠い。
「まさか、あなたがこの極東の地にいるとは…偶然とは怖いものです」
「蒐集者」は、こちらにゆっくりと近づいてきた。
あと12m。
「猿芝居はいい。どうせ貴様の采配だろう?」
殺す相手に口をきくのは不本意だが、仕方がない。
「ハッ…ハッハッハ!」
「蒐集者」は可笑しそうに笑った。
あと10m。
「駒の配置はなかなかに難しいんですよ…」
「蒐集者」はそこから一歩踏み込んだ。
私は隠し持っていたナイフを、真上に投げつける。
ナイフは、シャンデリアの重量負荷部分を切断した。
シャンデリアは、轟音を立てて落下する。
その音や粉塵が「蒐集者」の五感を麻痺させる。
私は高く床を蹴って、飛び上がった。
そのまま天井を蹴って加速をつけ、「蒐集者」の脳天にバヨネットを打ち下ろす。
「蒐集者」は、左右の袖から3本ずつバヨネットを取り出すと、総計6本のバヨネットで私の攻撃を受け止めた。
そのまま着地して、首を狙う。
が、その攻撃も届かない。
「法儀式済みのバヨネットとは…どこで手に入れたんです?」
「蒐集者」の体から、スタンドが浮かび上がる。
この体勢では、避けきれない。
スタンドは私の左腕を掴むと、壁に押し付けた。
泥に押し付けられたように、私の左腕は壁に沈んでいく。
左腕は、肘の付け根あたりまで壁に埋め込まれた。
「これで、あなたの左腕は、完全に壁と融合してしまった」
「蒐集者」は下卑た笑いを浮かべた。「チェックメイト…ですか?」

私は、壁と左手を「視た」。
たしかに融合している。皮膚と壁の境界は曖昧で、神経や血管の一部は壁にまで侵食している。
だが、この程度ならば…
私はバヨネットを壁に差し込んだ。
壁に融合した皮膚、血管、神経などを、本来の手の型に切り出していく。
作業は5秒も経たずに完遂した。
左手は皮でも剥いだように血まみれだが、機能に損傷はない。
「蒐集者」は追撃もせずに、その様子をじっと見ていた。
やはり、こいつは私とは違う。
攻撃のチャンスを無駄に費やす愚かな男。
「素晴らしい…! あなたは、人体を知り尽くしている…!」
「蒐集者」は拍手を送った。
「その技術、そしてその目、是非欲しい!」
「蒐集者」は一瞬で間合いを詰めた。
鋭い突き。続く横凪ぎ。
それ自体をフェイントにしての、左からの切り上げ。
全てかわした。
一瞬の隙を突いて、私は懐に入り込む。
心臓を狙っての一撃。
だが予想通り、軽く防がれた。
互いに後ろへ飛び退く。
…もう時間だ。
面倒な奴が起きてしまう。
私は「蒐集者」に背を向け、入り口の扉へ向かった。
「蒐集者」はそのまま何もせずに私の背を見つめている。
「…追撃はしないのか?」
「大きな隙を作るのは、フェイントの基本でしょう?」
「蒐集者」は楽しそうに言った。
「『空城の計』ということもある…」
私はそう言って、教会から出ていった。


          *          *          *

32:2003/11/09(日) 10:30

昼と夜でリナーは違う。
昼間でも只者ではない雰囲気を醸してはいるが、夜の方が凄みが増す。
気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
やはり空気は重かった。

「…モナー」
いきなり名前を呼ばれて、俺は動揺した。
「君はここで帰れ」
「な…」
なんて事を言うのだろうか。
おそらく、何か危機が迫っている。リナーはそれを察知したのだ。
俺に何もできない事は分かっている。
だが、リナーを置いていくなんて出来るわけがない。
「帰らないモナ」
俺はそう告げた。
「…では、気を抜くな」
リナーはすぐに折れる。
…と思ったら、あらぬ方向に走り出した。
俺は急いでついていく。しっかりとバヨネットのグリップを握ったまま。

リナーは路地裏の真ん中で立ち止まった。
「出て来い、吸血鬼。そこにいるのは分かっている」
そして、虚空に声をかける。
その瞬間、完全に空気が変わった。
塀の上に、一人の男が立っていた。
リナーはあの男を吸血鬼と呼んだ。
漆黒の羽根が生えているわけでもないし、口元から血がしたたっているという事も無い。
別段、普通の服装である。
だが…人間じゃない。人のカタチをした、別の生き物だ。
なぜか、俺にはそれが理解できた。
空気が凍りつく。
寒気がする。
あの生物と戦ってはいけない…俺の本能はそう告げていた。



  /└────────┬┐
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33:2003/11/09(日) 10:31

「〜モナーの夏〜  9月17日・その2」


「女、何の用だ…?」
吸血鬼は静かに口を開く。
「愚かな事を聞く…貴様を葬るためだ」
リナーは鋭く言った。
殺気が強くなった。
足が震える。
一刻も早く、ここから立ち去りたい。
リナーは平気なのだろうか。
吸血鬼は、口の端を歪ませた。笑っているのだ。
「まったく愉快な夜だ。見知らぬマドモアゼルが、吸血鬼である私を土に還すと言う…」
「…土に還しはしない」
リナーは吸血鬼の言葉を遮った。
「この極東の地の土になる事すら許さん。貴様が還るのは、土ではなく塵だ」
やめろ。
それ以上、ヤツを挑発するな…
リナーを諌めようにも、声が出ない。

「非常に面白い…貴様の血も、我が糧にしてくれるゥゥ!!」
吸血鬼が、獣じみたスピードでリナーに飛び掛った。
だが、リナーが銃を抜く方が早い。
「そんなオモチャが、この私に通用するとでも…!」
銃声。
吸血鬼は吹き飛んで、塀に激突する。
「GYAAA!! これはァァァ! 『波紋』だとォォォ!!」
吸血鬼は悲鳴を上げながら転げ回った。
シュゥゥ…という音。
その胸の銃創から、肉体が蒸発しているのだ。
「私の武器は全て法儀式済みだ。貴様ら不浄の肉体に、『波紋』と同じ衝撃を与える…」
リナーは、吸血鬼にゆっくりと歩み寄った。
まずい! まだ、そいつは…!!
「確かにその銃は脅威だ… だが! 接近すればァァ…!!」
吸血鬼は、倒れた状態からバク転して起き上がった。
そして…
「SYAAAAAA!!この売女がァァ!!」
吸血鬼は一直線にリナーに飛びかかった。
リナーは懐から右腕を出した。
4本のバヨネットが指の間に挟まれている。まるで、爪のように。
その瞬間の、恐ろしいまでのプレッシャー。
俺は理解した。
さっきから感じていた人間離れした殺気は、全てリナーのものだ。
リナーは高く跳んだ。
吸血鬼など比較にならないほど、美しい身のこなし。
そのまま吸血鬼の頭を踏みつけた。
「ぐォォ!!」
吸血鬼の体が、うつぶせに地面に叩きつけられる。
「なぜ、ただの人間が…」
起き上がろうとした吸血鬼の首に、4本のバヨネットが横一列に突き刺さる。
「GUOAAAAA!!」
「接近すれば…何だ?」
リナーは言った。
殺気というより、憎悪。
そう、さっきから俺の足をすくませているのは、リナーの吸血鬼に対する憎悪。

34:2003/11/09(日) 10:31

吸血鬼は、地面に串刺しになってもがいていた。
リナーは、その姿を見下ろす。
「吸血鬼よ。まだ、その傷は致命傷に至っていない。今から私の質問に答えるなら、命だけは助けてやる」
「こ、答えるからッ! 命だけは…!!」
リナーは冷たく微笑った。
「ヤツの居場所を… スタンド『アルカディア』の居場所を言え」
「…し、知らん」
吸血鬼は嗚咽を漏らす。バヨネットが刺さった首筋からも蒸気が出ている。
「そうか」
リナーはどこからか取り出した日本刀を高く掲げた。
「いや、本当に知らんのだ!! 私がこの町に来たのも、ほんの最近なんだ!」
「では、知っている事を全て話せ」
「私の他にも、何人か吸血鬼がこの町にいるが…全員、最近集まったヤツだ…
 もともと、この国は吸血鬼が潜伏するのには都合が悪いからな…
 だが、これからは違う。『アルカディア』の力で、この町は変革する。
 これからも、アレに惹かれて集まるだろう… 吸血鬼やスタンド使いが…
 もう、この町は滅びたも同然だ…!! さあ、ここまで話したのだ。命だけは…」
「ああ、そういう約束だったな」
リナーは日本刀を掲げると、軽く振った。
吸血鬼の首が、胴体から離れる。
吸血鬼は、断末魔の悲鳴を上げる時間さえないまま蒸発してしまった。
そこには、バヨネットが4本刺さっているのみ。
「急がなければ…」
リナーは呟く。
殺気も憎悪も治まっていた。
そして、少し驚いたようにこちらを見た。
まるで、初めて気がついたように。
俺はおそらく、恐怖に満ちた目でリナーを見ていた。
そう、化物を見る目で。

リナーは無言で日本刀を腰の鞘に納め、右手を元通り懐に引っ込めた。
そして、「そのような目は、慣れている…」ポツリとそう言った。
嘘だ。
本当に慣れていたら、そんな事を口にしやしない。
さらにリナーは口を開く。
「いつでも、私を放り出して構わないんだぞ…」
それを恐れているくせに…
拒絶を恐れているくせに、自分から口にする。そう、この娘は不器用なのだ。
「そんな事はしないモナ」 俺はそう断言した。
「君は以前、私の事を『華奢な子』と言ったな。
 だが…私はそんな人間ではない事が分かっただろう?」
「そんな事は…最初から分かってたモナ」
「承知の上、という事か。君はやはり、意味不明だ」
リナーはそう言って、俺に背を向けて歩き始めた。
その声には、さっきまでのような暗さはない。
「ほら、何を呆けている?夜が更けてしまうぞ」
リナーは振り返って言った。
「待つモナー!!」
俺は走り出した。
この夜、良かったコトが一つだけある。
リナーの照れ隠しが判別できるようになった事だ。

35:2003/11/09(日) 10:31

もうすぐ今晩の見回りが終わる。時計の針は三時を指していた。
こんなことで、真の殺人鬼が見つかるのだろうか?
そして、俺の知らないことは余りにも多い。
さっきリナーが殺した奴は、吸血鬼と自称していた。
「リナー、吸血鬼について教えてほしいモナ」
俺はそう訊ねた。
「吸血鬼とは…その名の通り、血を吸う鬼だ」
リナーはあっさりと話し始めた。
実際にさっき目撃してしまったのだから、隠す意味はないと判断したのだろう。
「血を吸うといっても、厳密には違う。奴らは、血を媒介に生命エネルギーを吸い取る。
 そして吸血鬼を倒すには、脳を完全に破壊するか…もしくは、『波紋』と呼ばれるエネルギーを
 その体に流し込むか、そのくらいしか手段はない。それ以外の攻撃でダメージを与えても再生してしまう」
『波紋』… さっきの吸血鬼も言っていた。
「そして、私の所持している武器や弾薬は全て法儀式済みだ。これにより『波紋』と同じ効果を敵に与える」
俺は、リナーから受け取ったバヨネットをじっと見た。
「そう、それも法儀式済みだ。吸血鬼に対してのみ、大きなダメージを与える…」
そこでリナーは言葉を切った。
どこまで話すか考えているのだろうか。
「私は、『教会』と呼ばれる組織から派遣されてきた。この町で起こる危機を回避するために」
『教会』…?
俺は、町外れに立つ教会を思い浮かべた。
「『教会』とは、吸血鬼殲滅において最も古い起源を持つ機関。すなわち、ヴァチカンの法王庁。
 私は、その中の単独実行部隊の一員だ」
「…もしかして、知ってしまうとマズい話モナ?」
「そうだな。命が惜しければ、口外しない方がいい」
リナーはあっさりと答えた。
「で、話の続きだ。我々『教会』は、吸血鬼を異端として排除してきた。
 にも関わらず、吸血鬼は全滅することがない。なぜなら吸血鬼とは、人間が成るものだからだ」
「元は人間…」
俺は、何となく嫌な感じがした。
「そう。人間が吸血鬼になる方法は2つある。1つ目は、石仮面を使った方法。
 これを被って血を塗りつけると骨針が脳に刺さり、人は吸血鬼となる」
「結構お手軽モナ…」
「ああ。こんな簡単な方法で、吸血鬼になれる。だが、世に出ていた石仮面は全て『教会』が破壊した。
 今では、ヴァチカンに研究用が残っているのみだ」
なるほど。
では、石仮面による吸血鬼は増えないということか。
「吸血鬼になるもう1つの方法は、吸血鬼の血を体内に取り入れること。だが、これは非常に例が少ない。
 それも、ただ体内に吸血鬼の血を注入すればいいという訳ではないのだ」
「他にも、条件があるモナ?」
「その通り。その吸血鬼に対する忠誠心が非常に高くないといけないとか、いろいろ説があるが…
 はっきりしないのが現状だ。また、不完全な吸血鬼が生まれる可能性も高い。
 下手に吸血鬼の細胞を体内に取り入れれば、その親元の吸血鬼が死んだ時、細胞が暴走するという例もある。
 こちらは、言わばイレギュラーな方法だな」
何故か、動機が早くなった。
そんなのをどこかで見たような気が…
「話は以上だ。そして、この町に吸血鬼が集まりつつある。私は、それを全て滅ぼす必要がある、という事だ」
なるほど。
まだ腑に落ちない点がいくつかあるが、今日はこれ位にしておこう。
俺の理解力にも限度がある。
一言で言うなら、殺人鬼以外に吸血鬼も倒さないといけないという事だ。

36:2003/11/09(日) 10:32

その時、見覚えのある姿を目にした。
前方から、モララーが歩いてくる。
三時を過ぎたこんな時間に何をしているのだろうか。
「おーい、モララー!」 俺はモララーに呼びかけた。
「あ、モナー君! 僕に会いに来てくれたんだね!!」
モララーはこちらに満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。
そういえば、リナー連れだ。少し軽率な行動だったかもしれない。
「モナー君…その女は?」
モララーは、敵意を込めた目でジロジロとリナーを眺め回した。
「友達のリナーだ。よろしく」 リナーは軽く頭を下げる。
「友達ねぇ… こんな時間にねぇ…」
モララーは嫉妬に満ちた目で、リナーを見つめた。
「…私に敵意でも?」 リナーは睨み返した。
「ヒッ!」
モララーは身をすくめる。いくらなんでも相手が悪い。
「で、こんな時間に何をしているモナ?」
「誰かさんが学校で冷たい態度を取るもんだから、ヤケ酒してたのさ…」
そう言われれば、少し酔っているようだ。
「で、さっき店を追い出されたところだからな!」
いや、それ以前に未成年だろ。俺は心の中で突っ込んだ。
「そうだ、モナー君。これからいっしょにBARにでも飲みに行かないか?」
BAR!!
当然だが、未成年である俺はそんなアダルトな場所に行ったことがない。
BARというものを想像してみる。

俺   :「君の瞳をツーフィンガーで」
バーテン:「ホレ、坊主」
俺   :「なんだ、牛乳じゃねえか」
バーテン:「ハン、お子様にはそれがお似合いさ」

な、なんて恐ろしい…
そのような恐ろしい場所、俺には行けない。
ついでに明日は学校だ。夜更かしもできない。

「悪くない。私は賛成だ」
リナーは意外な言葉を口にした。
リナーは酒が飲めるのだろうか?
「まあ、リナーが行くのなら…」 俺はしぶしぶ承諾する。
モララーは複雑な表情を浮かべた。
「リナーとやらは、どう考えても邪魔!! だが、モナー君がBARに行くことに乗り気ではない以上、
 リナーを連れて行かなければモナー君も来ないのは明白!! …今日のところは、コブつきで我慢するか…」
「…全部、聞こえてるモナ…」
こうして、三時を回ったにもかかわらず、俺達3人はBARに向かった。


  /└────────────┬┐
. <     お酒はハタチになってから….| |
  \┌────────────┴┘

37:2003/11/09(日) 10:33
※ア○デル○ン・リナー

 我らは神の代理人
 神罰の地上代行者
        __
      ( Amen )       我らが使命は
       `─‐v' __     我が神に逆らう愚者を
              .'´ (†) ヽ   その肉の最後の一片までも
           ⊂匚^',ヾ   絶滅すること――
          |ル ゚ ゚ノ ノ 、
.         ──┼∩アr"/ _ゝ
          |く/_l|ハゝ'´
          .......し'ノ......
          ::::::::::::::::::::::::::::::
           ::::::::::::::::::::::::
          :::::::::::::::::
          :::::::::::

38:2003/11/09(日) 10:33

「〜モナーの夏〜  9月17日・その3」


BARに到着した。
どうやら、モララーの馴染みの店のようだ。
モララーが先頭で、その立派な扉を開けて中に入った。
照明は薄暗く、ジャズのような曲が流れている。
アダルトだ。
アダルトな雰囲気だ。
俺が女なら、こんな雰囲気の場所で口説かれたらその気になってしまう。
なんとなく横目でリナーを見た。特に普通そうだ。
幸い、カウンター席が空いていた。正面にはバーテンらしき人がいる。
「カ、カツカレーはありませんよ!」 マスターは怯えた声でモララーに言った。
どうやら顔見知りのようだ。
モララーは人差し指を立てて、チッチッチと左右に振る。
「今日はプライベートだからな。ちゃんと注文するよ」
「じゃあ、普段はビジネスでやってるんですか…?」 マスターは不服そうに言った。
モララーはマスターの正面の席に腰を下ろした後、
「さ、モナー君も座って」 と言いながら隣の席をポンポンと叩いた。
それまで、俺は雰囲気に呑まれて固まっていた。
ゆっくりと、モララーの隣の席に座る。リナーは、その俺の横に座った。
「ってか、あなたたち未成年じゃ…」 マスターが言った。もっともだ。
モララーはニッコリ笑って、
「じゃあ、カツカレー3人分」 と言った。
「す、すみませんでした…」 マスターは謝る。
このマスター、モララーに弱みでも握られているのだろうか。

「じゃあ …ドライ・マティーニで」
モララーが、斜め45度を意識したポーズをキメながら注文した。
「ブラッディーメアリを」
リナーも場慣れしているようだ。
「モ、モナは…オレンジジュース…」
俺はちっぽけな人間だった。
「オレンジジュースだって!?」
モララーは大声を上げた。
「せっかくだから、飲まないと!」
モララーはマスターの方に向き直った。
「マスター、モナーに…ウ、ウオッカオレンジを…!」
気のせいか、モララーの息が荒い。
「モ、モナはアルコールなんて飲めないモナ!!」
「大丈夫だよ。軽いお酒だからね…」 
そう言って、モララーはニヤリと笑った。

「ところで、昨日じぃちゃんと一緒に帰ったらしいね」
モララーは不意に訊ねてきた。
「そうモナよ。ギコとしぃちゃんもいたけど、すぐ帰っちゃったモナ」
「あいつら… そこまで、僕の邪魔をしたいんだな…」
モララーはそう呟いて、黙ってしまった。
「ところで、リナーはお酒飲むモナか?」
「ああ。たまには悪くない」
正直、俺が持っているリナーのイメージと合わない。
リナーのことだから、「酒など、飲むことに意義を感じない」などと言いそうなんだが…
「私を、感情のない女とでも思っているのか?」
俺の心を見透かしたように、リナーは言った。
何となく、気まずくなってしまった。

39:2003/11/09(日) 10:34

俺たちの前にグラスが並べられる。
三者三様にグラスを手に取った。
とはいえ、俺は何となく躊躇している。
モララーは一口飲んだ後、
「ドライ・マティーニってのは男のたしなみさ …クール!」 などと呟いた。
さらに斜め45度を意識したポーズを繰り出しながら、妙な流し目を送ってくる。
そこはかとなくウザい。
リナーはグラスを置いて、「見苦しい… 自分に酔う位なら、せめて酒に酔え」と呟いた。
「なッ…」
モララーは立ち上がった。
そして、きっとリナーを睨む。
「さっきから思っていたけど…僕は、君が気にいらないんだからな、この泥棒猫!!」
リナーは無視して、血のように赤い酒が注がれたグラスを傾けている。
モララーは両手を大きく広げた。
「男には、外に出たら7人の敵がいるという!
 僕にとっての7人の敵は…
 露骨にモナー君に擦り寄る恥知らずのネカマ、レモナ!!
 モナー君に気がある癖に虐待する精神幼児、つー!!
 泥棒猫候補その3!知名度微妙なじぃちゃん!!
 じぃちゃんとモナー君をくっつけようとする超余計な世話焼きバカップル、ギコとしぃ!!
 そして…君を最後の一人に認定しよう!!」
「一人、数が足りないようだが…」
リナーは冷たく突っ込んだ。案外律儀だ。

「ガタガタうるせーんだよ、クソガキがッ!!」
突然怒鳴り声がした。
奥のテーブルに座っていたオッサンが、こちらに近寄ってくる。
「大体、何でこんな時間にガキが酒飲んでんだ? とっととお家に帰って、学校行く準備でもしてな!」
ステロタイプの酔っ払いってやつだ。言ってる事が正論なのがちょっとアレだが。
「お前達、少し黙れ」
リナーはモララーと酔っ払いを一纏めにして言った。
少し、いつものリナーと様子が違う。
酔ってるのか?
「ウホッ!綺麗なネーチャンがいるじゃねぇか…」
酔っ払いはリナーの肩に手を置いた。
「危ない!!」
俺は咄嗟に、オッサンに体当たりした。
オッサンは全く警戒していなかったのか、俺のタックルがクリーンヒット。
体勢を崩した俺とオッサンは床に転がった。
「このガキ…!」
オッサンがヨロヨロと立ち上がる。
本当に危なかった。
もうちょっとで、このオッサンの腕が切断されていたところだ。
この素人の俺にもわかるほどの殺気。
どうやらリナーには酒を飲ませない方がいいらしい。
たった1杯なのに…

「なーネーチャン、俺とホテルに行かねーか…?」
ヤバい!こいつ、まだ諦めていない。
このままではオッサンが塵に還される。
俺の心配をよそに、リナーは言った。
「いいだろう。私に勝てるなら、ホテルでも何でも好きにするがいい」
「…あ? 勝てるってどういう意味だ? ケンカでもするのかよ?」
「その認識で、特に問題はない」
リナーは立ち上がる。「ここでは迷惑だ。外でやろうか」
「ヘヘッ!俺はこれでも、空手二段だぜ…!」
空手二段VS吸血鬼殲滅のエキスパート。
とてもオッズは成立しない。
俺はリナーをじっと見た。
「大丈夫だ。心配するな」
大いに心配だ。オッサンの身が。
「ヘッヘッヘ…ヒーヒー言わせてやるぜ…」
オッサンはリナーを連れて店の外へ出て行った。

40:2003/11/09(日) 10:34

しばらくして、ヒー!ヒー!という男の悲鳴が聞こえてきた。
オッサンの無事を祈りつつ、俺はようやくグラスに口をつけてみた。
思ったより口当たりがいい。
軽い酒、というのは本当だったようだ。
「ほっといて大丈夫なのかい?」 モララーは言った。
「命までは取らないと思うモナ …多分」
…多分。

結局、リナーが気になったのでほとんど飲めなかった。
リナーはすぐに戻ってきた。
「あのオッサンはどうなったモナ…?」
「殺してはいない」
リナーはそれだけを答えた。
ほんの少ししか飲んでいないのに、アタマがぐらぐらする。
何か変だ。
リナーが何かを言っているが、聞こえない。
床が揺れている。俺が揺れているのか?
意識が遠のいている。
モララーが心配そうな、なおかつ何かを期待しているような顔が印象に残っていた。
俺は…意識を失った。


どこかの教会で神父みたいな人と剣を交えた。
そこでの俺は信じられないほど強く、化物じみた強さの神父と互角に戦った。
そんな夢を見た。

ここは…どこだ?
確か、BARで意識を失って…

俺は起き上がった。
窓から太陽の光が差し込んでいる。
ここは…俺の家だ。
そうだ。思い出した。
俺は昨夜のBARで、少量の酒にもかかわらずぶっ倒れたのだ。
時計を見た。ちょうど、7時。起きる時間だ。
ここまで連れてきてくれたのはリナーだろうか。
大きく伸びをする。
左手に、僅かな異物感。
見ると、少し全体が火傷したようになっていた。
別に痛くはないし、動くのにも支障はない。
だが…全く覚えがない。
昨日のBARで、何かしたのだろうか。

そう思いながらベッドから降りた時、俺は珍妙なものを目にした。
黄色い煙?
ドアの隙間から、黄色い煙のようなものが部屋に入ってくる。
その黄色い煙は、ゆっくりと部屋中に広がっていった。
「どうやら、まだ酔ってるみたいモナ…」
俺は口に出して言ってみた。
少し頭はガンガンするが、体調は悪くない。
この黄色い煙は何なんだ?
手を振ってみた。
まるで本当の煙のように、空気中に拡散される。
パンの焼けた匂いがした。
そう、これは…匂い?
そう思った瞬間、黄色い煙はまったく見えなくなった。
まるで、今までが冗談のように。


俺は台所へ出た。
リナーが食パンを焼いていた。
「おはようモナ」
「ああ。おはよう」
リナーと挨拶を交わす。
そういえば、ガナーは?
いつもガナーのほうが先に起きているはず。
リナーがいるので遠慮しているのだろうか?
「ああリナー、昨日はありがとうモナー。ここまで運んでくれたモナ?」
「礼を言う必要はない。君があそこまで酒に弱いとは思わなかった。私の配慮が欠けていた」
やはり、リナーが運んでくれたようだ。
不覚だ。
酔い潰れて、女の子に家まで運んでもらうなんて…
「君の朝食も作ってみたが」
テーブルの上に、食パンとコーヒーが並んでいた。
質素だが、リナーの配慮に素直に感謝した。
こうして、俺はリナーの作った朝食をモシャモシャと食べ始めた。
食パンが真っ黒だったが、まあ気にはならない。
黒い液体はコーヒーじゃかった。温めた醤油だ。
まあいい。こういう朝も、たまにはいい。

41:2003/11/09(日) 10:35

ガナーの部屋をノックした。
「おい、遅刻するぞー!!」
中から、ガナーの呻き声が聞こえた。
まさか、ガナーの身に何かが!?
いかに萌えない妹といえども、放ってはおけない。
「ガナー、入るぞ!」
俺はドアを開けて、部屋に駆け込んだ。
ガナーは、ベッドで横になっていた。
「オナカ痛い…」
ガナーは、俺の姿を確認すると言った。
「何か悪いものでも食べたモナ?」
俺はガナーの腹を視た。
少し痛んではいるが、特に深刻なダメージはない。
冗談抜きで、悪いものでも食べたと思われる。
1日ゆっくり休めば、十分に回復可能…
「おなか壊したみたいモナね。今日はゆっくり休むモナ」
「うん。そうする…」
大したことはなかった。俺はガナーの部屋を出て行った。


台所では、リナーが温めた醤油を飲んでいた。
「リナー、ガナーが体調を崩して、今日は一日家にいるモナ」
念のため、俺は伝えておいた。
「了解した」
リナーはポツリと答える。
無愛想なのではなく、これがリナーにとっての普通なのだ。
いつも思うのだが、無機質な喋り方はなんとかならないだろうか。
「リナー、もうちょっと別の喋り方はできないモナ?今の喋り方は怖すぎるモナ…」
リナーは少し考えた後に、口を開いた。
「ど、努力してみる…モナ」
「モナが悪かったモナ…」
俺は素直に謝罪して、台所を後にした。


俺は学校へ向かった。
いつもの、変わり映えのない通学路。
だが…何かへンだ。
体調が悪い、というのではない。
言うなれば、感覚が研ぎ澄まされているのである。
自分の周囲の人間の配置が、足音だけで分かる。
後ろ3mに2人。その2mほど後ろには3人。
一番右端の人間は陸上をやっているのだろう、足の筋肉が発達している。
また、後方30mほど離れた場所にギコがいる。
少し早足で駆けてきて、今から5秒後に合流してくるだろう。

…5。

…4。

…3。

…2。

…1。

「よお、モナー」
やはり、ギコが話しかけてきた。
「どうした?妙な顔をして…」
「いや、何でもないモナ」
俺とギコは、そのまま歩き出した。
そういえばガナーの時も、一目見ただけで体調が分かった。
何か…変だ。
「ところでモナー」
ギコが話しかけてきた。
「昨日、一緒に歩いてた女の人は誰だったんだ?」
リナーのことか。しぃがいる分際で、なんでリナーの事を気にするんだ?
「ちょっとした知り合いモナ。別に彼女とか、そんなんじゃないモナ」
「おお、そうか」
ギコは納得したように言った。
俺は、ギコを視た。
この感情は…自分がリナーに横恋慕しているとか、そんなんではない。
むしろ、誰か友人に対する気遣い…?

「じゃあ、ちょっと先に行くわ」
ギコはそう言って、学校に走り出した。
おそらく、今のを誰かに伝えるため。
しぃ…だろうか。しぃも入っているが、メインではない。
その情報を誰に伝えようと…
「痛ッ!」
一瞬、頭に衝撃が走った。まるで、脳細胞が焼き切れるような。
何か、今日は変だ。

42:2003/11/09(日) 10:36

学校についた。
席に腰を下ろす。
ギコとしぃが何やら話していた。
内容も視ることが出来るが、意図的にカットする。
後方左斜め20m後ろから、視線。
戸惑いと親愛が混じった視線だ。
そう、話しかけるタイミングを計っている。
「じぃちゃん、何か用モナ?」
俺は後ろを振り向いた。
「あ…」
じぃちゃんは困惑したようだ。当然だろう。
「あのね…」
こっちに近づいて来た。
すこし離れたところで立ち止まる。
「今日の夜9時、この学校の中庭まで来てほしいんだ…」
その微妙な距離は、拒絶への恐怖を顕している。
「随分遅い時間モナね…分かったモナ。行くモナ」
じぃちゃんは、ぱっと明るい顔をした。
「本当!?絶対来てね!」
俺はじぃちゃんを視た。
心理的には、明るく振舞っているようで―――――
無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。
無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。
痛いのに 苦しいのに 体が裂けそうなのに もう限界なのに ここにいる資格も何もないのに
もう笑えないのに笑って その肉体は既にヒトのものではなく 精神は崩壊し 肉体は完全超過
それでも取り繕って取り繕って取り繕って取り繕って ただここにいたいために取り繕って

―――それでもただ、最期まで人でありたいと思っている―――


「!!!」
凄まじい頭痛。まるで高圧電流が流されたようだ。
俺は机に突っ伏してしまった。
「モナー君!」
じぃちゃんが叫ぶ。
「大変だ!!」
「先生を呼べ!!」
周囲から口々にノイズが聞こえる。
ブラック・アウト。
俺は…気を失った。

43:2003/11/09(日) 10:36

夜の教室。
生徒は誰一人いない。
俺だけが馬鹿みたいに机に座っていた。
そう、これは夢だ。それだけがはっきりと分かった。

「…あまり無理はするな」
一人の男が教卓にもたれかかっていた。
「その能力は体に負担がかかる。濫用すればたちまち寿命が縮むぞ。そうなっては私も困るのだ」
男はゆっくりと言った。
そう、あれも俺だ。
「私はあまり君に干渉したくはない… が、そうも言ってられんのでな。こうして君に会いに来た」
男はそう言って少し笑った。
何が可笑しいのだろうか。
「で、似合わんレクチャー役と相成った訳だ」
本当に似合わない。コイツは人にものを説明をするガラではない。
「最近、回路が少し違ってしまった。君に見えないモノが視えるようになったのはその影響だ。
 本来、君には能力が使えないシステムにしていたのだがな… いや、能力が君にも流出したというべきか」
やはり、よく分からない説明だ。
重点をボカして語る。そう、リナーと同じだ。
「この能力を理解するのは非常に難しい。一言で言うなら、『不可視領域に干渉できる』…というところか。
 だが、君はまだこの能力を完全には使いこなせない。
 今の君に『視る』ことのできるのは…心理・思考・感情・温度・匂い・殺気・生命エネルギーなど、その程度だ。
 実際に見えるモノに毛が生えたようなものだな」

能力…
なるほど、それで大体は納得できる。
夢だからか、信じがたい話でも抵抗なく受け入れられた。
いや、一つだけ納得できない事があった。
「ギコが合流する時間が分かったのはなぜモナ?未来を『視た』モナか?」

「いや、違う」
男は即座に否定した。
「あの時に君が『視た』のは、動きと距離、速度だ。それを無意識で計算して、合流時間を算出した。
 あれは、言わば「予測」だな。「未来予知」とは似ているようで根本的に異なる。
 …もっとも、君が能力を使いこなせば、概念なども可視化できる。「未来」といえども、例外ではない」

分かったような…分からないような…

「だが、心しておけ。さっきも言ったが、視にくいものを無理して視れば、脳に負担がかかる。
 あの頭痛を君は「脳細胞が焼き切れるよう」と表現したが、誠に正鵠を射た表現だ。
 現に、あんな女の内面を見てしまうから、君はこのザマだ。今後、軽挙妄動は慎め」

ぐにゃりと、男が教室の背景ごと波打った。
世界が歪んでいる。

「どうやら、目が覚めるようだな」

男の体が希薄になる。

「このスタンドは…ヴィジョンを持たないタイプだ」

教室も消えていく。

「スタンドパワーは全て能力に傾けられているのだな。故に、ヴィジョンを維持できない」

男の声が遠くに聞こえる。

「このスタンドを、ヴァチカンの連中はこう呼んだ…」

この世界はもう維持できない。現実に戻ってしまう。


「楽園の外を視る力…『アウト・オブ・エデン』」




俺は目を覚ました。
ここは…保健室だ。
あの後、すぐに保健室に運ばれたのだろう。
頭痛は嘘のように消えていた。
カーテンの向こう…校医が本を読んでいる。
本の内容までも視る事が出来る。
この程度なら、とくに脳に影響はないようだ。
俺はベッドから起き上がった。

物音を聞きつけて、校医がカーテンを開けた。
「あら、もう大丈夫なの?」
「はい、ただの睡眠不足でしたモナ」
嘘ではない。
実際、状態はそう変わらなかったのだろう。
意識を失って倒れたにもかかわらず、救急車も呼ばれことなく保健室で寝かされていたのだから。
「じゃあ、授業に行ってくるモナ」
時計を見ると、まだ11時だ。
「また、ここへ来ることのないように」
校医が腕を組んで言った。
「はいモナ」
俺は保健室から出て、教室に向かった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

44:2003/11/09(日) 10:37
過去に貼ったものは以上です。
ご迷惑おかけしました。

45N2:2003/11/12(水) 18:15
随分と遅くなってしまい、申し訳ありません。
今からモナ本モ蔵編第1〜4話を貼ります。
余談ですが、あらすじ製作中に「(タイトル)――その①」という表現が
原作に準じていないことに気付いたので、それだけ変更しました。

46N2:2003/11/12(水) 18:16

 始まりを告げる再開の巻 (モナ本モ蔵と『矢の男』 その①)

 最早丑の刻も過ぎた頃であった。
 ある男が、とある町へとその足を踏み入れた。
 近くで何か行事があった訳でもなく、それどころか今はそういう時期でもないのに和服をその身にまとっていることから、彼が随分と古風な精神の持ち主であるいうことは想像に難くない。それだけでなく、その立ち振る舞いが彼の荘厳さをより一層際立たせている。
 辺りを見回しても、こんな時間に繁華街ならともかく町外れを歩く者は彼以外にはいないし、それどころか近くに人が住んでいる気配もない。ただ夏の虫の音ばかりが響き渡っていた。

 刹那、彼の身に戦慄が走る。それまでの穏やかな「気」を簡単に打ち壊す、それでいてどこかそれ自身が穏やかな「殺気」。――間違い無い。奴だ。
 自分の背後からアスファルトの上を歩く乾いた音がする。後ろには、彼の「目的」がすぐそばにあった。

 後ろからやって来た男は、一瞬表情が固まったが、すぐにその顔はほころんだ。「まさか…君なのか!?久し振りじゃないか!何故君がここに…?」
 相手の戸惑いと喜びに満ちた言葉を否定するかのように、彼は答えた。「…貴様をこの手で討ち取る為だ」
 彼は腰に差した二刀は抜かず、それまでどこにも持っていなかったはずの3本目を突然手に持ち、その男に斬りかかる。――速いッ!!
 後から来た男は斬撃を辛うじてかわした。突然の出来事に、男の心臓は鼓動を速くする。男は気を取り直し、彼に向かって叫んだ。「…再会を懐かしむ言葉も無しにいきなり斬りかかるとは…、一体何のつもりなんだ!?」
 彼は相手の驚きに満ちた言葉に対し、眉一つ動かさず、ごく冷静に答えた。「…今言った通りだ。貴様を殺す。だから斬りかかった」

47N2:2003/11/12(水) 18:17

 ある少年――モナ免モナ蔵は生まれついてからある「宿命」をその身に背負っていた。
 その宿命とは、2ちゃんねるの各所に立てられた糞スレを立てた>>1・荒らしをその手で始末していくことである。幼少の頃から義父であるモナ免モ二斎による厳しい稽古を受け、その身に「擬古流」の剣術を叩き込まれた。
 元々彼は決して争い事を好む性格ではなかったが、かと言って自らの境遇を疑うこともなかった。…正確に言うなれば、そんなことを疑う余裕も無いほど過酷な特訓の日々が続いていたのである。

 もって生まれた「スタンド使い」である彼は、同じくスタンド使いである父に、その使い方も(ひょっとすれば剣術以上に)厳しく教え込まれた。
 彼のスタンドは、一般的なものと違い、ヴィジョンはまさに刀そのものであった。何か特別な能力を持つ訳でもなく、全くの刀でしかない。モナ蔵が手に持たねば、動くことすらない。モ二斎は彼のスタンドに成長の可能性がほとんど無いと考え、大いに落胆したが、それでも何もしないわけにはいかない。モ二斎はモナ蔵自身が「剣士のスタンド」となって戦うというイメージの下、彼の日常の一挙一動から厳しく指導した(そのことが後の彼の強さへと繋がるわけだが)。

 やがて彼は、その「宿命」を背に修羅の道を歩み始めることとなる。
 その道中で彼は数多くの>>1・荒らしを殺め、またその心は徐々に自らの行いに対する疑問と自責の念に捕らわれていった。已むを得ないことだ。いくら相手が罪人であるとは言え、己の宿命とやらに従って人を殺すのである。
 本当に自分の行いは正しい事なのか?彼は常にその疑問を抱き続けていた。そして徐々に、自らの命を絶つことでその苦悩を捨ててしまおうと考え始めるようになってしまった。少年の心はこのままその葛藤に押し潰されてしまうのか?

48N2:2003/11/12(水) 18:17

 ある時のことである。彼は道中で一人の青年が数多くの男達から集団で暴行を受けているのを目撃する。既にその青年が虫の息であることは遠くからでもよく分かった。
 彼は思わずその男達に斬りかかった。…見てくれは恐ろしくとも、結局は集団でいなければ何も出来ない弱い男達の集まりなのである。一人だけとは言え、殺気漂ういかにもその肉体が鍛えあげられたような男が真剣を持って襲い掛かって来たのだ。彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 数日後、彼の元にその青年が尋ねて来てこう言った。「君に是非ともお礼がしたい」
 彼には当然の事をしたという意識しかなかったが、素直にその求めに応じた。それからも青年はちょくちょく彼の下を訪れ、二人の間にはいつしか友情が芽生えた。

 彼には友人と呼べる者はほとんどおらず、いるとすればただの二人――同郷の友人であるモラ位田マタ八、それにおつーだけであった。
 幼い頃の大事な時間をも特訓に費やされ、友情というものをほとんど知らぬ彼の心には、非常に友好的な態度で接してくる青年ははすぐに受け入れられた。

 話をしている内に、彼は青年がどんな人物であるかを掴んできた。青年も一人で各地を旅していること。その目的は言えないが、それが大いなる目的のためであること。青年も彼と同じくスタンド使いであること。そして、口には出さなくとも青年もまた彼を必要としていること。
 その物腰は柔らかく非常に紳士的で、言葉遣いも丁寧であり、また博識である青年はまさに友人とするにこの上なく相応しい人物である、と彼は心の底から思うようになった。

 程なくして、彼は自らの行いに対しての疑問も打ち明けた。その時、青年がちゃんとした答えを返してくれる保障は無かったが、しかし彼には直感的に青年が自らの指針となってくれるような気がしていた。
 青年はこう言った。「君の行いを…100%善ということは確かに難しい。その事で君が大いに悩んでいるのもよく分かる。だがしかし、君はその行いに対してちゃんと『理由』を持っているのだろう?その『理由』がこの世の過半数の人々から指示されるものであるならば、君は正義の立場にいることになる。…君は正義だ。私が保障するよ」
 この言葉は、彼にとって大いに救いとなった。自らの行いを、生まれて初めて認めてもらえたのだ。彼は全面的に(そして半狂信的に)青年の事を信頼するようになった。

49N2:2003/11/12(水) 18:18

 青年は愛読家であった。
 青年に会いに行くと、本を読んでいないことの方がかえって珍しかった。
 彼はその度、青年に何を読んでいるのか尋ねた。青年はいつもその本の概要を丁寧に説明したが――、一度たりとも、「これは以前君に教えたことがある」とは言われなかった。それは単に青年が勘違いしていた訳ではなく、彼もそのことには気付いていた。
 彼が青年に自分から会いに行ったことは100回は下らないが、旅の身であるのにそれほどの本を一体どこに持っていたのか?その真相は定かではない。

 彼は青年の勧めで度々その手持ちの本の中から数冊を貸してもらっていた。その中に、どこかの大学教授の著書と、ホラー怪奇小説があった。そのどちらもが、彼にとっては新鮮な内容であった(小説の内容を簡単に説明するなれば、主人公は友人の奇病を治す為に敵陣へ乗り込むが、そこで彼は自らの師の裏切りに遭い、更にはその師が怪物と化してしまうというものである)。
 そのいずれか、それはもう彼は記憶してはいないが、確かにそのどちらかに印象的なフレーズがあった。
 「現実は非情である」
 修羅の道を歩んできた彼にとっては、そんなことはもう分かり切っている――それどころか、著者よりも分かっているつもりだと彼は思ったが、しかし今大切な友人と安息の日々を送る彼にとっては、少なくとも今はそれが嘘である、そう信じたかった。

 しかし、その直後、彼はその身をもって体験する!!まさにその教授か、あるいは主人公の師が言う通り、現実とは「常に」「無差別に」その非情なる牙を剥くことをッ!!

 数日が経ち、彼が川べりで剣術の訓練をしていると、遠くに土手を歩く青年の姿が見えた。
 駆け寄って声をかけようと土手を駆け上った彼は、ふと青年のすぐ後ろの土手下、そこに茫々と茂っている草むらの中に横たわる「もの」を目にした。彼は思わず駆け寄った。そしてその時から彼は大きな受難の道を歩み始めることとなる…。

 死体だった…。まだ体は暖かい。死んで間も無いと言ったところだ。そしてその死体には…心臓をあたかも『矢』で射られたような傷が残されていた…。

50N2:2003/11/12(水) 18:19

 モ蔵の決意――裏切られた友情の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その②)

 直後、彼は青年の方を見やった。青年は彼に全く気付いていない様子だった。彼は青年を呼び止め、手助けをして貰おうとした。…が、ある疑いが彼の脳裏を過ぎった。
 「青年が殺したんじゃないのか?」
 状況から見ても、その可能性は十分にあった。彼が見ていない内にこの男を殺し、そのまま立ち去ったと考えれば全く不自然ではない。
 しかし、それにしては青年の後姿は余りに冷静過ぎる。普通人を殺しておいて何事も無かったかのようにその場を去れるものだろうか?そして…あの青年が本当に人を殺したのか?それが出来てしまう程にあの青年の内面は穢れているのか?
 非常に人当たりの良い、良心的な青年のイメージと、それとは真っ向から対立する邪悪な青年のイメージ。ここで青年に声を掛ければ、自分はその邪悪な青年のイメージを肯定することになる。
 そうこう悩んでいる内に、彼は青年を見失ってしまった。気が付くと、辺りは大分薄暗くなってしまった。彼はそのまま警察に通報もせず、その場を立ち去ってしまった。

 翌日、青年に会うと、彼は全く普段と変わらぬ様子で接してきた。しかし昨日の夕刻の事が、どうしても彼には頭から離れなかった。
 青年は言った。「どうしたんだ?今日の君は様子が変じゃないのか?」
 ここで変に感付かれるのはマズい。彼は平静を装ったが――その時の「マズい」と察した心理がどうも真剣勝負の時の感覚――敵が一瞬の隙を付いて斬りかかってくる時の感覚に酷似していたのが、彼には恐ろしかった。
 折角出会えた親友が信頼出来なくなること、同時に青年の内面に相当な「邪悪」の片鱗が見え隠れすること。いずれもが彼にはショックだった。

51N2:2003/11/12(水) 18:19

 それから幾日かして、彼は青年に手合いを申し込んだ。お互いがスタンド使いであると知ってからは、2人は頻繁にスタンドバトルの訓練をしていた。だが、真剣勝負をしたことは一度も無い。青年は最初は乗り気ではなかったが、彼の熱気に圧され、応じた。

 決闘の場所は、敢えてあの川べりを選んだ。
 例の死体は、もう無かった。あれから、地元の新聞やニュースでは謎の殺人事件発生と大きく騒がれていたが、青年との会話でその事が話題に上ることは無かった。
 彼は青年に事件の話題を振ってみると、青年は「全く、この辺も平和かと思ったら随分物騒になったもんだな」と、動揺した様子もなく普通に返事をした。青年の顔はあの時、つまりこの間川べりを歩いていた時と同じように、全く平然としていた。その顔を見て、彼は「君は何か知っているんじゃないのか?」という言葉を発することが出来なくなってしまった。

 決闘は、初めは青年の方が若干優勢であった。具体的な人の形をしたヴィジョンは、全くの剣でしかない彼のスタンドになかなか一本を取らせない。しかも見るにタイプは近距離パワー型である。拳の一振り一振りが素早く、重い。がしかし、流石に幼少から修行を積んできた経験の差からか、最後はその攻撃の隙を見極め、鋭い一撃を青年に入れた。
 結局の所、彼が決闘を挑んだのは、青年に対する恐怖心を和らげる為でしかなかった。心のどこかに「闇」を潜めているかも知れない青年が万一自分に牙を剥いた時、勝てる自信が欲しかったのだ。彼は大いに安堵したが――、その感情が本来二人の間には起こってはいけないものであるとはもう考えてはいなかった。

 それからはまた、かつてと同じような日々が続いた。ただ、最初の決闘以来、2人は何度か真剣勝負をしたが、それらは全てモ蔵が勝利を収め(しかも勝負の度にその実力差は離れているようであった)、日に日に青年はモ蔵に対して闘いに関しては敵わない、と考えるようになり、またモ蔵は少しずつ(表には出さなくとも)青年に対して疑惑の目を向けていった。
 しかし、結局彼はその事を一度も口にすることは出来なかった。一人でいる時に募った不信感が、青年に会った途端に浄化されてしまうのだ。それだけ青年は清く、正しく、美しい雰囲気を放っていたのだ。

52N2:2003/11/12(水) 18:20

 青年と出会ってから7、8ヶ月経ち、彼は遠方で糞スレを乱立する者の噂を聞いた。2人に別れの時が来た。青年もこれを期にまた旅を再開すると言った。2人は別れの言葉を交わし、彼は去り行く青年を見送った。彼にとって、この青年との関わりはこれで終わる――はずであった。
 青年は別れ際に、何かを落としてしまった。それを拾ってみると…『矢』であった。矢尻は金色の石で出来ており、シャフトや羽根はかなり古いものであった。
 彼は青年を呼び止めた。『矢』を見せると、青年はモ蔵が『矢』を拾ってくれたことに大変感謝しているようであった。その『矢』は何か、と聞くと青年は「まあ…お守りみたいなものさ」と答えるだけであった。しかし、この時も彼は青年の穢れなき態度を目の当たりにして、その『矢』で人を射殺す青年の姿を全く想像することが出来なかった。

 それから何年か経ち、彼はとある町へと立ち寄り、何気なく酒場へと入っていった。隣ではどうやら常連とおぼしき男とマスターが話をしていた。
 「しかし、もうあんなひでえ事件から1年経つんだっけ?」常連は言う。大分酔っているようだ。
 「ええ、おっしゃる通りです。」マスターが返す。
 「あれって何人位死んだんだっけ?3人?4人?」酒が結構入っているせいか、あまり呂律が回っていない。
 「6人だった思いますが」若干その様子に対して呆れている様子だ。
 「ホント酷い真似する奴がいるもんだなあ。だってよ、あれ…何だか手口が全部同じで、心臓を何かで打ち抜かれてたんだろ?」
 彼の身に戦慄が走った。まさか、と思った。口に手を突っ込まれて腸をかき出されるかのように記憶を引きずり出された感じがした。彼は全く興味が無い振りをしながら、その続きを聞いた。
 「ええ、その通り…犯人は依然捕まっていませんしね。何でも当時この町にやって来た男が怪しい、とは噂されていましたけど」
 「へえ、そいつはどんな奴だってんだ?」
 「ええ、何でも物腰がとても柔らかくて紳士的で、言葉遣いも割と丁寧なんだけど、それでいてどこかヤバそうな雰囲気の男だと」モ蔵の中ではある答えが導き出されようとしていた。しかし、決め手が無い。
 「おいおい、1年も前の事件の犯人像を、あんたどうしてそこまでハッキリ覚えているんだい?」
 「ええ…実は私…見たんです。その犯人を」横目でチラッとモ蔵の方を見てから、マスターは小言で常連に言った。
 「…マジかよ。それってどんな奴だったんだ?」常連の顔色が変わった。その一言で酔いも醒めてしまったらしい。
 「ええ、あれは確か…冬の寒い、少し吹雪いていた夜でした。私はスーパーへと買い物に行って帰ってくる途中に、この辺で見かけたことの無い男と出会ったんです。彼は無表情ですが…でも何となく穏やかな顔で雪の道を向こうから歩いて来たんです。その表情は何て言うかその…まあ一言で言うなら何だか王様みたいな威厳が漂っていました。それで私が何となくそいつの顔に見とれてしまっていると…、向こうから『…何か用があるのかい?』と声を掛けてきたんです。わたしはその声に無性に怖くなってしまいました。本当のところを言うと、とても温かみがあって優しい声だったんですが、その裏にはドス黒いものが潜んでいるような気がしたんです。そうしたら今度は、『君が私に興味を持ったのも…何かの運命かも知れない。試してみるか?この『矢』の試練を…』と言っておもむろに弓矢を手に持ったんです」
 「…相当にクレイジーな奴だな。キテるぜ絶対」グラスのブランデーを飲み干してから、常連はこう返した。
 「…もうそれからは自分でもどうしたのか憶えていません。無我夢中で逃げに逃げて…、気が付いたらこの店の前に着いていたんです。もうその時には自分がどの道を通って来たのかさえ忘れていました。男の顔は覚えていても、どんな服装だったかとか、身長はどの位だったかとかも全て忘れていました。でも忘れられません、奴の持っていた『矢』だけは。あれは矢尻が金ピカな石で出来ていて、他の部分はもう相当に古びていました。なのにその矢尻が古そうな感じがしないって言うか、まあ異彩を放っていたのが印象に残ったんです。そしたら翌日、その男の会った近くで『矢』に撃たれた様な痕の残った死体が見つかったって言うし…」
 もう彼には後の会話が耳に入らなかった。間違いなく、あの青年である。疑惑は確信へと変化した。

53N2:2003/11/12(水) 18:20

 それからも彼は行く先々で『青年』の良くない噂を聞いた。しかもそれは、日を追う毎に数を増していった。
 彼は自責の念に駆られた。あの時命を救った相手が、今では数多くの罪無き人々の命を奪っている。気付くチャンスは幾らでもあったはずだ。そもそも、川べりで死体を見つけた直後に青年に声をかけて話を聞いていれば。その時でなくとも、青年を問いただしていれば。あるいは…例え後悔することになっても青年の「ヤバさ」に恐怖を感じ、寝込みを襲ってでも殺していたならば。それなのに、彼は青年の雰囲気に圧倒され、何もすることが出来なかったのだ。全ての責は、自分にある。
 彼は決心した。何としてでもあの青年の凶行を止めねばならない。それが、彼を殺めることでしか得られない結果であったとしても。
 彼はその名をモナ本モ蔵と改め、本来の旅の目的を果たす合間に必死で青年の行方を追った。そしてその中で、彼は大よその『矢』についての知識も身につけていった。

 そして彼は、最近になって青年の強行がピタリと止んだこと、そしてとある町へと向かっているのではないかという情報を耳にした。彼はすぐさまその町へと向かって行った…。

54N2:2003/11/12(水) 18:22

 友との決別の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その③)

 最初の一撃をかわした時、かつての青年――『矢』の男には全てが理解出来た。今自分が果たそうとしている目的、その過程における活動をモナ蔵――今ではモ蔵であるが――は知り、自分を討ち取ろうとしているのだろう。
 かつて彼が自分に対してどこか疑惑の念を抱いていたのを『矢』の男は知っていた。しかし結局そのことを口に出来なかったからこそ、それに対する責任として自分を殺そうとしているのだ。その事は良く理解出来る。
 が、しかしッ!ここで彼に討ち取られたならば、それではこれまで自分のやってきたことが全て無駄になってしまうッ!!ここは何としても無事に生き延びなければッ!!

 当然モ蔵は、彼が逃げ出そうとすることは容易に予想がついた。かつての試合ではっきりしていた実力差は、今ここで自分を討ち取ることによって生き延びようとする考えを彼には決して与えはしないことを。本当に命懸けではなかったにしても負けた相手をここで倒そうとするほど、こいつは馬鹿ではない。間違いなく、こいつは逃げることを念頭に入れる。しかし、決して逃がしはしないッ!!

55N2:2003/11/12(水) 18:22

 「サムライ・スピリットッッッ!!!」モ蔵が目にも留まらぬ速さで突きを連発する。人間技とはとても思えない。しかも、かつてのそれよりも格段にスピードが上がっている。
 「くっ…、うおおおおおおおおッッッ!!!」耐え切れず、『矢』の男は後ろに倒れ込みながら自らのスタンドでラッシュを打ち込む。近距離パワー型、しかもその中でもトップクラスの能力だ。
 「かつての試合のときはまだ直接戦闘の能力が完成してはいなかったッ!がしかし、今ではお前の突きに対抗できるッ!!」
 「…甘いッ!!」強い口調で叫んだ直後、モ蔵はラッシュの一発一発を全て避けながら、突きの速さを加速させた。――こいつ、まだ本気を出していなかったのか!!まずいッ!!
 突きは簡単にラッシュの間をすり抜ける。ふと『矢』の男が自らの腕に目をやると、そこには鋭い切り傷が幾筋も入ろうとしていた。緋色の鮮血がそこから勢いよくほとばしる。

 「う…うおおおおおおおお」吹き出す血を見て、気が動転する。
 「貴様の足跡を追う中で…」モ蔵はゆっくりとこちらへと歩いてくる。
 「貴様がどれだけの悪事を働いてきたか、否が応でも知る羽目になった…。貴様は何の目的かは知らんがッ!一般凡人に『矢』を打ち込むことによってッ!スタンド使いを増やそうとしているッ!同時に数多くの人々の命を奪ったッ!」
 息を荒くしながら『矢』の男は答える。「それは…君が私に対して偉そうな口を…利けることでは…ないんじゃない…のか?」
 「違う。確かに私も多くの者の命を奪った。しかしそれは、数多くの人々の平和を維持する為のこと!私利私欲の為だかは知らんが好き勝手に人を殺す貴様とは違う!」彼は厳しくも自信に満ちた表情で答えた。
 「フン…私の受け売りじゃ…ないか…」
 「確かにな…。だが貴様の言った事は確かに真実だった。だからこそ貴様は今こんな状況に陥っているのではないか?」モ蔵は『矢』の男から幾らか距離を置いて立ち止まり、見下すようにこう言った。
 「確かにそうだ…私の目的はその過程で…大きな犠牲を払うことは決して…避けられない。しかしその先には私なりの理想があるのだよ…」
 「…己の為だけに!人を殺して得ようとする理想が理想と呼べるか!」
 「なるほど…君の心はかつてと同じ、自分の信念へと真っ直ぐに向いているな…」
 「そして貴様の心は目的に向かって更に捻じ曲がった」皮肉と怒りを込めてモ蔵は返した。
 「…残念だよ、モナ蔵。こんな形で再会しなければならないなんて…」
 「それは…貴様の自業自得だッッッ!!!!」再び斬りかかるモ蔵。『矢』の男は反射的にスタンドでパンチを打ち込まずにはいられなかった。そうしなければ、まず命は無いからだ。しかし…刃に真正面からぶつかった拳には、いとも簡単に、そう、言うなれば包丁で豆腐を切るように、その中程までに鋭い隙間が出来た。
 「…っぐああああああああああ!!!!」
 「…喚け、叫べ。そして自らが殺めた者達と同じ気持ちを知るがいいッ!!」

56N2:2003/11/12(水) 18:22

 モ蔵はここで男は完全に追い詰められていると考えた。もうこいつは逃げることも出来ないし、戦うことも出来ない。
 「もう終わりだ。最後はかつての友の情けとして、一瞬で首を刎ねてやろう。何か言い残す事はあるか?」
 が、しかし、『矢』の男は全く予想外のことを口走った。
 「…随分といい気になったものだな、モナ蔵。君は今、私がもう何も出来ずに絶望していると考えているな…。だがッ!私は君如きの浅知恵に行動を予測されるほど愚かではないッ!!私が死ねば、私の目的は永久に失われるッ!!私は何としても!この場から逃れてみせるッ!!」
 『矢』の男は立ち上がろうとしている。予想外の行動に一瞬焦りを覚えたが、ここで奴を立たせれば逃げ出されるかも知れない。この刹那で決めなくては!
 「…哀れな。ならば死を実感させる間も無く命を絶ってくれようッ!喰らえッ!!奥義ッ!!暗・剣・殺ッッ!!!!」
 「!!!!!!」
 瞬間、モ蔵は『矢』の男の背後に回っていた。終わったか…。彼はそう思った。『矢』の男を仕留めたのだ…。

57N2:2003/11/12(水) 18:23

 仕留めたはずであった。しかし、手ごたえは無い。後ろを振り向くと、その姿は既に無かった。
 「ちっ…逃げられたか…」

 その瞬間、ズドン、と体に衝撃が走った。

58N2:2003/11/12(水) 18:23

 当然のことだ…。奴の素振りは明らかに私には敵わないと自覚している様子だったのだ…。誰もがあんな様子を見たら、何としても逃げ出すことを念頭に置いている、と予測するに違いない。事実、私はそうであった。だから、奴は『暗・剣・殺』をかわし、どこかにそのまま身を潜めたのだろう…。私も最初はそう思ったし、それは極自然のことだ。
 しかしッ!こいつは初めからッ!!私から逃げるつもりではなかったッッ!!今ここで私を確実に仕留め、平穏無事を獲得しようとしていたのだ――――ッッッ!!!!

 『矢』の男は、更に自分の背後に回っていた。そしてそのスタンドの腕は、無情にもモ蔵の腹を貫いている。
 「き……さ…ま」腹をやられてしまい、声になっていない。息にアクセントがついただけのようである。
 『矢』の男は、その腕から多量の血を流している。息は相変わらず荒い。更に、全身には相当の汗をかいている。
 「ハァッ…ハァー…ハァー……本当に…危なかったよ…君に…両断されても…全くおかしくなかった…やはり君は…強いな」
 貴様何を今更、と言いたくても、力が入らない。
 「だが…強いからこそ…ここで君を排除しなければならない…残念だったな」
 その言葉は、どちらかと言えばモ蔵に対してのものではなかった。むしろ、ここまで大いに苦戦してしまい、完全に動揺し、傷付いた自分を落ち着かせる暗示的なものにも聞こえた。彼は続けた。
 「そして…待っていろ、ひろゆき…かつて私が不運にも一度手放してしまったあの『矢』を自らのコレクションに加えおって…だが見ていろ…これから私は貴様の下へと行き、『矢』を取り返してみせるッ!…そして再びスタンド使いをこの手で増やし…我が崇高なる目的を達成させるッ!!」
 薄れ行く意識の中で、モ蔵は『矢』の男の表情を見た。先程までの恐怖と緊張は全く無い。むしろ完全に王者の尊厳さと恍惚に満ちた、敵であるにも関わらず、偉大の一言でしか表せない表情であった。
 
 「この町での私の目的はッッ!!何の障害も無く無事に遂行されるッッッッ!!!!!!」

59N2:2003/11/12(水) 18:24

 それぞれの再始動の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その④)

 既にモ蔵の意識はほとんど薄れていた。しかし、自分の命が失われてでも『矢』の男は倒さなくてはならない。彼は半ば無意識のうちにスタンドを再発動した。
 「既に瀕死の重傷を負っているのに…君はまだ何かするつもりなのか?」モ蔵の動きに、『矢』の男はすぐに気付いた。
 「その状態でスタンドを出したところで、私に傷一つ負わせることも不可能だろうが…、ここは君の強さに敬意を表し、最大限の警戒を払っておくとするか」
 『矢』の男はそう言うと、モ蔵のスタンドを掴み、自らのそれで砕き割った。痛みが腕の辺りに走る。が、最早うめき声すら出ない。
 「…ともかく、今日は忙しいんだ。これ以上君に構っている暇も無いんでね。ここらでお別れだ」
 『矢』の男は自らのスタンドの腕からモ蔵を振り払った。その勢いでモ蔵の身体は、近くの倉庫の壁へと激突した。腹から更に血飛沫が飛び出す。
 「…さよならだ、モナ蔵。安らかな眠りを…」そう言い残して、『矢』の男は市街地の方へと歩き出した。
 ――待て…行くな…。薄れ行く意識の中、必死に心の中でそう叫んだところで、その思いは相手に伝わることはない。やがてその姿は、漆黒の闇へと消えていった。
 ――ここまで…か…。無……様…な…も…の……だ………な…………。
 ……………………。
 彼の意識は、途絶えた。

60N2:2003/11/12(水) 18:25



 しばらくして、『矢』の男はとある建物の前にいた。随分と立派なビルである。が、その割には(時間も時間ではあるが)警備はそれ程厳重というわけでもなさそうである。彼はその内部へと侵入した。

 ビルの最上階の一室では、そこを拠点とするある一団の総帥と思しき男が仮眠をとっていた。その男は飲みかけのワインをテーブルの上に置いたまま、ソファーの上で横になっている。部屋の中には、柱時計の時を刻む音と彼の寝息しかしない。
 その静寂に同化するかの如く、『矢』の男は部屋へと忍び込んだ。
 仮眠している男の顔を見る。彼は正直言ってここでこの男を始末してしまいたかった。ここで生かしておけば、自分がここでの目的を果たしても男は執拗に自分を追い続けるだろう。それだけではなく、彼がかつて所有していた『矢』を自らの手中に収めているという事実が、彼には恨めしくて仕方なかった。しかし…先程のモ蔵との戦いで受けた傷は深く、一撃で男を仕留めることは難しい。そしてもしここで男に能力を使われてしまったなら…この状況下では、目的達成どころか命まで危ぶまれる。
 彼は男を放っておき、部屋の奥にある扉へと向かった。鍵は掛かっていたが、手持ちの万能キーで簡単に開いた。

 真っ暗な部屋の奥には金庫が1つ、重々しい雰囲気を放ちながら置かれている。それ以外には、何も無い。だがその重々しさは、決して部屋そのもの、あるいは漆黒の金庫から発せられたものでもない。今は視界に無い金庫の中身が、異様な空気を生み出しているのだ。彼はその雰囲気に覚えはあったが、その体感したこともない程の強さに身震いした。
 彼は思った。――今隣の部屋で寝ている奴は…、この金庫の中身を守り抜く為に(決してそれだけではないにせよ)ここまで巨大な組織を作り上げたのだろう。しかしながら、実際のところはその誰をも本当の意味で信用出来ず、金庫を自らの手元に置いておかねば安心出来ない。奴は表向きこそ尊大なサル山の大将ではあるが、実際はその従者達の裏切りに怯え、心の片隅で震えている子ザル同然である。だからこそ――奴はかつて、強大な悪の前に簡単に屈したのだ。
 金庫にはダイヤル式の鍵が付いていたが…、あらかじめ番号を知っていたのか、たまたまの偶然だったのか、あるいはスタンド能力によるものなのかは分からないが、彼はいとも簡単に解除してしまった。その中には、目的の『矢』が、それも3本も入っていた。

61N2:2003/11/12(水) 18:26

 突然、虫の騒ぎの様な予感めいたものに襲われ、ソファーに横たわっていた男は目を覚ました。激しい胸騒ぎがする。彼は何の証拠も無いが、しかし強い確信を持って奥の部屋へと繋がる扉のノブへと手を伸ばした。鍵は開いている。

 部屋の奥には、男が金庫の扉を閉めているところだった。彼は思わずあっ、と声を上げてしまった。
 その時、奥の男も彼の存在に気が付いた。手には『矢』を一本持っている。
 「あ…あなたはあの時の…!」その顔を見て彼は驚愕した。男はかつてエジプトで出会い、そして彼に『石仮面』なるものを手渡した者だったのだ。
 「久し振りだな…ひろゆき」追い詰められた、という感じは全く受けない。むしろ今自分の方が優位に立っている、という表情である。
 「そ…そこで一体何を…?」
 「…言わなくても分かっているんじゃあないのか?」全くその通りであった。この部屋に侵入している以上、目的は知れている。
 「私には3本も要らない…。かつて私が所有していたもの『だけ』で十分だ…。もう私は帰らせてもらうよ。」
 「くっ…逃がしはしませんッ!」彼は自分のスタンドを発現し、男に飛びかかった。しかしそれも簡単にかわされ、それどころか自分達の立ち位置を逆転されてしまった。
 「待つです!」振り向いて彼は走り出したが、男は既に部屋の窓を開け、その縁の上に立っていた。
 「ひろゆきよ…、君は本来私に構わず石仮面の力を得ていれば良かったんじゃあないか?」男は彼に問う。
 月光に照らされた男の腕は、先程は薄暗くて気付かなかったが、包帯でグルグル巻きにされている。しかもそれは真っ赤な血で染められていた。
 しかし今この組織で、この男にここまで傷を負わせられる者は、ましてやこの時間帯に建物の中にいる者の中にはいるはずがない。彼は強い疑問に襲われたが、それよりも男の問いに答えることが今の彼には最重要課題だった。
 「私は…あなたの言葉を信用したわけではないです…。あの石仮面を被ることで何が得られ、何を失うのか…。それがはっきりするまでは、私はあの石仮面は封印するです。そしてその全ての謎が解明され、不老不死の力を得たなら…、私はあなたを殺すです…!」
 「フッ、面と向かって殺害予告か。だが確かに…その声からは全く意思の曇りが感じ取れない。しかし!いずれ君は君自身の弱さが元となりこの私の前に屈することとなるだろう!その日を楽しみに待っているんだな!」男は窓から飛び降りるとそのまま姿を消してしまった。
 「……逃げられたです…」
 彼は金庫の中身を確認した。やはり『矢』は一本減っていた。
 彼は部屋にある電話の受話器を取り、夜勤の者へと内線を繋げた。そして、組織の幹部クラスの者達に召集をかけるよう要求した。

62N2:2003/11/12(水) 18:26

 何も見えない、真っ暗闇の中に彼はいた。何も考えられない。自分の肉体ばかりか、意識すら自分の意思の管理下に置かれていない。しかし、自らの周りが闇に包まれていることは『分かる』。まさしくこれは『死』であるのかも知れない。
 しかし、その闇を打ち崩すかの様に、ある声が頭の中に響いてきた。
 「起きろ!目を覚ませ!」天からの魂の導きであるのか、とも最初は思えた。しかし、その声は確かに現世から自分を呼び戻す声であった。
 「こんなところで何寝てるんだ、おっさん!早く起きろ!」
 モ蔵は目を覚ました。辺りはすっかり明るくなっている。目の前には、1人の初代モナー族の青年が立っていた。
 「やっと起きたか、おっさん。ひょっとして野垂れ死にじゃないかと思い始めてたところだったんだぞ?」青年はどこか自分を見下すかのように苦笑いした。
 「…私は…」虚ろな意識の中、昨夜自分の身に起こったことを思い出し、その瞬間目はすっかり覚めてしまった。彼は思わず自分の腹に手をやった。
 「…馬鹿な…傷が…」自分の腹には、風穴どころか傷一つ無かった。昨日のことは夢だったのか、とも一瞬疑ったが、あの戦いは決して夢などではない。確かに私は昨日、あの男に負けたのだ。
 「お主に一つ聞きたい…私はここにどの様にして寝ていたのだ?」
 「別に…ただそこの壁に寄りかかってグースカ寝てたんだよ。あんた浮浪者かい?」青年は呆れたような声で答えた。
 「いや…そんなことは、断じてない」彼は青年の疑問をきっぱり否定した。

 全くもって不可解であった。昨夜の出来事は紛れもなく事実である。ならばあの腹の傷は一体どうして治っていたのか?誰かの手によってならば、それは一体誰か?それだけではない。何故彼はあの時私の背後に回りこめたのか?彼の目的とは何か?全ての疑問がいっぺんに彼に襲い掛かる。そして、彼を取り逃がしたという重圧がそれら全てを上回ってモ蔵にのしかかる。が、しかし、ここで考えあぐねても仕方ない。モ蔵は腹の虫が鳴いていることに気が付いた。
 「この辺りにどこか飯を食える所はないか?」彼は尋ねた。突然の全く先程とは話題のベクトルが異なる問いには青年の方が驚いた。
 「ああ、そうだ、俺は最初マクドメルドに食べに行くつもりで出かけたんだ。そしたらおっさんが寝っころがってたってワケ。一緒に来るかい?」
 「…分かった。お主の好意に感謝する」彼は青年について行くことにした。時計は既に7時を回っていた。

 モナーが『矢』に射られたのは、その日の昼過ぎのことであった…。

┌───────────────────────────────────────────────────┐
|  モナ本モ蔵――『矢』の男に腹を打ち破られ、死亡…のはずが、何故かその時の傷が完全に治癒され、目を覚ました。 ..|
|            一体誰が彼の傷を治療したのか?また、何の為に?                            ............|
|  『矢』の男――‐ ひろゆきからかつて所有していた『矢』を奪い返し、「目的」の為に活動を再開。             .......|
|  ひろゆき―――『矢』を奪われた直後、組織の幹部達を招集し、「『矢』の男 対策本部」を設置した。          .......|
|  青年――――‐ この後、ファーストフード店でモ蔵と朝食をとった。                                 ..|
└───────────────────────────────────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

63N2:2003/11/12(水) 18:26

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃               スタンド名:サムライ・スピリット          ┃
┃              本体名:モナ本モ蔵              ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - A〜0 .┃   スピード - ―    .┃   射程距離 - E    ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - A   .┃ 精密動作性 - ―  .┃  成長性 ― C     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ .「刀」のスタンド。スタンドをそれ単体で動かすことは出来ず、本体...┃
┃ が自分の手に持たなければならない。                  .┃
┃ しかしその切れ味は凄まじく、ダイアモンドでも一刀両断すること .┃
┃ が出来る(ただし、本体の意思によってその切れ味は自由に調 ...┃
┃ 節出来る。切れ味を0にすることも可)。                  ┃
┃ また、これは恐らくスタンド能力の一端なのだろうが、本体はこの...┃
┃ スタンドを発現し、手に持って戦うことでスピードA、精密動作性A....┃
┃ クラスの運動能力を得ることが出来る。                 ..┃
┃ スタンドが破壊された場合、ダメージは腕にフィードバックするが、.┃
┃ その伝導率は低い。                           .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

64N2:2003/11/12(水) 18:31
以上、前スレに貼ったモナ本モ蔵編でした。
明日はギコ屋編2つを貼ります。

…でも、やっぱり改行増やすくらいの編集はすべきだったかな…。

>>さいたまさん
勝手で申し訳ないのですが、前掲示板でお貼りになった
リナー想像図をもう一度貼って頂けないでしょうか?
小説スレも一応あらすじを作っておこうかな、と考えているのですが、
モナーよりかは彼女の顔を入れた方が適切かと考えたので。

65:2003/11/12(水) 18:51
>>N2氏
このスレ>>15>>23>>37に貼ってあります。

66:2003/11/12(水) 18:52

「〜モナーの夏〜  9月17日・その4」


授業中、俺は色々と能力を試してみた。
思考までは視えないが、感情や体調は視ることが出来る。
透視のようなことも出来るようだ。
前の奴の背中を透かして、さらに前の奴が見える。

…待てよ。
この能力を生かして、女子の服だけを透かすことも…
俺はそっと、隣の女子を視た。

…ウホッ!!

その瞬間、頭に衝撃が走った。
よこしまな事に能力を使った罰だろうか。
俺は、本日3回目の気絶を体験した。


目が覚める。
学校の教室という空間特有の喧騒が、俺を覚醒させた。
俺は机に突っ伏していた。
周囲の人間は、ただの居眠りと思っているのだろう。
誰も、俺が気絶したことに気付いてはいないようだ。
まあ、面倒がなくていい。
ゆっくりと頭を上げる。
…ん? 妙なものが目に入った。
ノートに、覚えのない文字が書き込まれていたのだ。

「能力を使えば、脳に負担がかかると言ったはず。
 つまらない事で力を使うな」

…誰だ?
俺の字よりも遥かに達筆だ。
誰か、俺を監視しているのだろうか。
まあいい。些細なことだ。
とにかく誰かの忠告通り、この能力は普段は使わずにおいた方が良さそうだ。
時計を見る。12:00ちょうど。
まだ4時限目の途中のはずだ。
何故か、みんな休み時間のように立ち歩いている。
不審に思った俺は、前の席のフーンの肩をつついた。
「…何だ?」
「今、4時間目じゃないモナ?世界史の授業はどうなったモナ?」
フーンは椅子の上で反り返って、机の上で両足を組んでいる。
そう、こいつは授業中の態度が極端に悪いのだ。中身は八頭身フーンに近い。
「ああ、先生が欠席で自習だとよ」
フーンは面倒くさそうに答えた。
そういう事か。
自習の時間に、本当に自習をする馬鹿はいない。
仕方ない。もう一眠りするか…

67:2003/11/12(水) 18:53

昼食の時間になった。
誰とも話したくない気分だったので、一人で食堂に行こうかと思ったが…
ギコに捕まってしまった。
「おい、メシ食おうぜ」
ギコはそう言って、しぃ同伴で強引に俺を食堂まで連れていった。

「ところで、今日のじぃとの約束、ちゃんと守るんだろうな?」
食堂の椅子に座ってすぐに、ギコは訊ねてきた。
…今日の夜9時、中庭で会う約束。
気が重くなった。
「…その約束、なんでギコが知ってるモナ?」
「質問を質問で答えるんじゃねえよ、ゴルァ!」
ギコは逆切れで誤魔化した。
しぃはそんな俺たちを心配そうに見ている。
いや、俺の返答を待っているのか。
「…そりゃもちろん守るモナよ」
俺はそれだけを言った。
「そうか。確かに聞いたぞ。これは、俺との約束でもある。破ったら… ただじゃおかないからな」
「わ、分かったモナ…」
ギコは剣道の有段者だ。
それに限らず武道・格闘技マニアでもあり、筋トレは欠かさないらしい。
その彼がただじゃおかないと言った以上、破ったらシャレにならない。

「やあ、モナー君」
モララーが隣に腰を下ろした。
「昨日は大丈夫だったかい?」
「…ああ、大丈夫モナよ」
ギコが首をかしげる。
「昨日?何かあったのか?」
「僕とモナー君と、あと泥棒猫1匹で飲みに行ったんだよ。で、モナー君が酒に弱すぎて倒れちゃったんだ」
「不覚だったモナ」
俺はポリポリと頭を掻いた。
「自分の許容量くらいは分かっとけ、ゴルァ!」
ギコは言った。コイツはとにかく強そうだ。
モララーは悔しげな表情を浮かべてうつむく。
「あの後、僕がモナー君をホテルにでも連れて行こうと思ってたら… クソッ、あの忌々しい女が… あの女が…
 ことごとく僕の予定を邪魔しやがって… 泥棒猫…! 次に会った時は、覚悟した方がいいんだからな…!」
「全部聞こえてるモナ」
なるほど。リナーがいなかったら、俺は婿に行けない体になっていたかもしれないのか。
サンクス、リナー。
「また、いっしょにBARに行こうねモナー君。今度は二人で…」
モララーが頬を染めながら言った。
…お断りだ。
ギコは、突然大声を上げた。
「そうだ、今度、じぃちゃんと2人でそのBARに行ってみたらどうだ!?」
それに反応したのはモララーだった。
「…な! 僕は絶対に許さないからな!! モナー君は僕のものだからな!!
 ネカマにも精神幼児にも泥棒猫にもマイナーキャラにも渡さないんだからな!!」
そう叫びながら立ち上がったモララーだが、突然に前のめりにぶっ飛んで行った。
そのまま、炎上しながら食堂の壁に突っ込む。
めり込むモララー。パラパラと崩れる壁。
モララーの首がありえない方向に曲がっているような気が…

「ネカマって私のこと? 言うに事欠いて、モナー君は僕のもの?
 余りにも聞き捨てならなくて、ちょっとミサイルぶっ放しちゃった…」
そこにはレモナが笑顔で立っていた。
そして、俺の方を向く。
「モナーくん、一緒にご飯食べよ〜?」
「残念ながら、ほとんど食べ終わったモナ」
「なぁんだ…」
レモナはがっくりと肩を落とす。
そう言えば… 今日はトラップの脅威を感じない。
「つーちゃんはどうしたモナ?」
俺はレモナに訊ねた。
つーちゃんとレモナは同じクラスだ。
レモナが笑顔で答えた。「体壊しちゃって欠席だって。あのつーちゃんがねー」
信じられない。
あのつーちゃんが体調を崩すなんて…
鬼の霍乱というやつか。
「おい、そろそろ教室に帰るぞ」
ギコは唐突に言った。
気がつけば、昼食を全て平らげていた。もう、昼休みも終わる時間だ。
俺達はレモナに別れを告げて、教室に戻った。

68:2003/11/12(水) 18:54

あっという間に放課後。
すっかり眠っていて、最後の授業が終わったのにも気付かなかった。
今日は寝てばっかりだ。
俺は帰り支度を整えると、カバンを持って腰を上げた。
そういえば、モララーの姿を見ない。早退でもしたのだろうか。
ギコの姿も見当たらない。
しぃちゃんもいないので、一緒に帰ったのだろう。
さらに言えば、最近おにぎりの存在を忘れている。
学校休んでだんじり祭りを見に行ったとのことだが、つぶされてモチになってるんじゃないか?
とりあえず、仕方ないので一人で帰るか。


家に着いた。
リナーは、ガナーの部屋にいた。
驚いたことに、ガナーを看病しているらしい。
この機会に二人には仲良くなってほしいものだ。
いや、仲が悪いという訳ではないのだが、互いに遠慮しあう関係ってのも息が詰まる。
というか、さっきリナーの部屋を覗いたが、 …ダンボール増えてないか?
ダンボールの中に入っているモノは容易に想像できる。
なにやら、怪しい宅配業者も出入りしているらしいし…
まあ、細かいことは考えないことにした。
家の一角が武器庫になってしまった。それだけだ。
そう言えば、夕飯係のガナーが倒れたという事は…
そう、俺かリナーしかいない。
リナーに作らせるとまた犠牲者が出るので、俺が作るしか…
無理!!
俺にそんな甲斐性などない!!
しゃーない、コンビニ弁当でいいか。

という訳で、夕食を終えた。
ガナーには、おかゆを作ってやった。
ごはんをお湯に叩き込んでふやかすくらい、俺にもできる。
何て優しいお兄ちゃんなんだ、俺は。
そういう訳で、ガナーは部屋で眠っている。
台所には俺とリナー2人きりだ。
「あ、今日の9時ごろちょっと外出するモナ」
俺はリナーに告げた。
「最近は物騒だ。気をつけてな」
毎日殺人鬼探しで夜道をウロついているのに、物騒とは言いえて妙だ。
俺は少し可笑しくなった。
「もし、殺人鬼探しの時間に間に合わなかったら、先に行ってほしいモナ」
「ああ」
リナーはうなづく。
俺は、コンビニ弁当の残骸を袋に入れた。
それをまとめてゴミ箱に放り込む。
「さて…」
リナーは腰を上げた。ガナーの部屋に行くようだ。
俺は、リナーに訊ねた。
「もし今のモナが吸血鬼と出会ったら、どの程度戦えるモナ?」
「どの程度も戦えはしない。君には、奴等のスピードをとらえることは出来ないからな。
 あっという間に八つ裂きだ。意味不明な質問だな」
リナーは当然のように答えて、台所から出て行った。
「やっぱり、そうモナか…」
俺は呟いた。
だからといって、リナーに頼るわけにはいかない。
これは、俺の約束だ。俺一人でやる。

69:2003/11/12(水) 18:56

8時45分。
今から行けば、ちょうど9時には学校に到着する。
俺は、殺人鬼探しの時に所持しているバヨネットを手にした。
リナーから受け取った護身用。
法儀式済みの、対吸血器用の刺突用武器。
それを懐にしまう。
こんなものを使う事態など考えてもみなかった。
俺の今まで生きていた日常、そんなものは遠い過去だ。
俺は、踏み込んでしまった。
もう戻れない。
そう、戻れないのだ。俺も、あの子も。
だが感慨にふける時間はない。
躊躇も、恐怖も諦観も必要ない。
約束した… それで十分だ。


夜の学校に、全く人気はない。
そう。夜の学校は、昼間とは異質な空間だ。
俺はそんなことを思いながら中庭に出た。

鮮やかな月の光。
それを存分に浴びながら、じぃちゃんは立っていた。
一本だけ植えられた大きな木にもたれながら。
「…じぃちゃん」
俺は呼びかける。
じぃちゃんはゆっくりと振り向いた。
月光に照らされるじぃちゃんの姿。
妖艶――その言葉が一番似合う。
「来てくれたんだ…」
じぃちゃんは嬉しそうに、少し悲しそうに言った。
「そりゃ、約束だから来るモナよ」


俺はじぃちゃんに近づいていった。
「こうやって、二人で話せるって今までなかったよね」
「そうモナか?昨日、一緒に帰った時だって…」
じぃちゃんは、少しむっとした表情を浮かべた。
「全然話してないじゃない。モナー君、私の話なんか聞いちゃいなかったくせに」
「そ。そうだったモナか…?」
そういえば、そんな気もする。
「今までずっとモナー君がそんなんだったから… 私、嫌われてるのかと思って…
 モナー君、私がずっと好きだったこと、気付いてなかったでしょ?」
「すまないモナ。モナは鈍いから、全然気付いてなかったモナ…」
つくづくその通りだ。俺は、全く気付いてなかった。
「本当にねぇ…今までの私の努力は何だったのか…」
じぃちゃんがため息をついた。
このため息ももう何度目だ。
「本当に、モナは鈍いモナ… だから、聞きたいことが一杯あるモナ」
「うん、いいよ。なんでも聞いて」
じぃちゃんは嬉しそうに言った。
俺と話せることが、楽しくて仕方がないみたいに。
「ギコとしぃちゃんは、モナ達をくっつけようとしてたモナ?」
「そうだよ。あの二人、ずっと協力してくれて… 普通、あそこまで露骨なら気付くもんだけどね」
今まで、全く気付いていなかった。
俺の愚鈍ここに極まれり。
「いつからモナのこと好きだったモナ?」
「もう、覚えてないくらいずっと前から」
じいちゃんは頬を赤くした。
たぶん、俺の顔も真っ赤だろう。
「じゃあ…」
俺は、最後の質問に少しの間躊躇した。

「肉体を維持するために、何人の命を犠牲にした?」

じぃちゃんはうつむいた。
「5人、かな… 今のところは」
今のところは。
いずれ、その数は数え切れないほどに膨れ上がる。
そう、今まで食べたパンの枚数を覚えていないように。
「やっぱり、気づいてたんだね… 昨日から、体の調子が悪くて…
 人の血を吸わないと、生きれなくなったみたい…」
じぃちゃんは、うつむいたままで言った。
俺は、その姿をじっと見つめている。
「私の気持ちには気付かなかったくせに、そんな事は気付いちゃうんだね、モナー君は…」
じぃちゃんは、ため息をついた。
俺のせいでため息をつかせるのも、これが最後だ。
「…ごめんモナ」
俺は謝った。何に謝ったのかは、自分でも判らない。
今までのコトか。これからのコトか。
「こんな時に謝るなんて…本当に鈍いというか、デリカシーがないというか…」
じぃちゃんは顔を上げた。笑っていた。だが、哀しそうだった。

「じゃあ…殺し合おっか」
じぃちゃんは、寂しそうな笑顔を浮かべて言った。
「ああ…」
俺は懐からバヨネットを取り出した。

今日は本当に嫌な夜だ。
月はあんなに美しいのに。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

70ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/12(水) 19:40
N2 さん、さ さん
二人とも乙です。
二人の作品 SAVE しときました。
これからもかんばって下さい。

71N2:2003/11/12(水) 20:10
乙です!!
日常と異常の境界線がパッと見では気付かないくらい自然で、
ゾクッとしました。頑張って下さい。

後、リナーAAの件スイマセンでした。気付いておりませんでした。
嗚呼、我が節穴の目…。

72N2:2003/11/13(木) 22:59
予告しました通り、ギコ屋編を貼り直します。
…しかし、改めて読むと特に最初の2話が厨臭い…。

73N2:2003/11/13(木) 23:00

             本編と時間軸は同じだが違う町という設定である。
           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                      ○
                     O
                    o
                ゴルァ ゴルァ
                   ∧ ∧  |1匹300円|
             ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
               | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |____|     ||    ∩_∩ <今から「番外・逝きのいいギコ屋編」が始まるよ〜
                              G|___|  \_____
|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄             ( ・∀・)∩
|:;;:|Д゚;)< 私も出るぞ・・・              ⊂     ノ
|::;;|::U .:::...\________             ) _ (
|::;:|;;;|:::.::::::.:...                       (_) (_)∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
|:;::|::U.:::::.::::::::::...    ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀`  ) (    ) (    )
             (    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
             ( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
              (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

74N2:2003/11/13(木) 23:00

 アナザーワールド・アナザーマインド その①

 血――それは生命の象徴であり、かつ自らの先祖との繋がりの証である。
 我々は血を、単なる酸素運搬器官としてではなく、むしろ神秘的な存在として捉えている。
 しかしこの血を――、全く関係の無い者が他者の血を渇望することなど、果たしてあるのだろうか?
 いや、我々は知っている…。生けとし生けるものの血を糧とし、己の力とする怪物の存在を…。

75N2:2003/11/13(木) 23:01

 風の噂で、どこかの町では『矢』だか何だかで騒動が巻き起こっている、とは耳にしたが、そんなことはギコ屋の商売には一切関係が無かった。
 彼にとっては、その地での売れ行きが全てであった。
 「今なら逝きのいいギコが1匹300円だよ〜!はいはいそこの皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい、三陸沖で獲ったピチピチのギコ、こんなに逝きのいいのは滅多に手にはいらないよ〜!」
 「…全然売れねえな、ゴルァ」
 「…あ〜あ、全くだよ。最近売れ行きがとても悪いし、このまんまじゃまた夜逃げしなきゃいけないかな…。こうなったら、最近俺が習得したパフォーマンスで一気に客寄せするしかないぞ!」
 「…本気か?」
 「本気さ!じゃあやってみるよ!はいはい皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい、今から逝きのいいギコ屋の世にも不思議なパフォーマンスが始まるよ〜!!」

 宣伝の効果で、少しずつ通行人が彼の方を向き始めた。
 「まずこちらに、逝きのいいギコがいます。そして彼の首に注目!!」
 ギコ屋は相棒ギコの頭を掴んだ。かと思うと、相棒ギコの首は引っこ抜けてしまった。
 「はい、何とギコの首が抜けてしまいました〜!あ、皆さん待って待って、何もここで皆さんには虐殺ショーを見てもらおうとしたんじゃないんですよ、まだ続きがあります、続きが。で、ここで首と胴を近くに置きます。で、この切断面に私の頭に巻いてるタオルを被せます。そしてここで私が3つ数えると、何とギコの首は元に戻っているのです!あ、ちなみにちびしぃはどこにもいませんからね〜。ではいきますよ。1,2,3!!」
 ギコ屋がタオルを取り払うと、ゴルァ!という威勢のいい鳴き声と共にギコは飛び上がった。勿論、彼の首は繋がっている。
 「はい、皆さんいかがでしたか〜?この世にも奇妙なマジックは以上です〜!!」
 周囲の観客達は、大いに盛り上がった。
 (よし、これなら最低20匹は下らないぞ)
 ギコ屋は売り上げを期待したが…、観客達は盛り上がっただけだった。中にはこれがただの大道芸と思って小銭を投げつける者までいた。
 「…駄目じゃねぇか」
 「うう…、せっかくこんな不思議な力を手に入れたのに…」
 「…大体な、これをやられる方のことも少しは考えろよ。はっきり言って生きた心地がしねえんだぞ、ありゃ。大体お前もなんで自分がそんな事出来んのか分かってねえんだろ?」
 「いやまあ、それもそうだけどさ…。でも原理が何だろうと客がウケれば万事良しって…」
 「駄目なもんはどう手を尽くしても駄目だぞ、ゴルァ」
 「…商売って 難しいね…」

76N2:2003/11/13(木) 23:02

 観客達は徐々に彼の元を離れ始めた。しかしその中に、頭からフードを被り、マントを羽織った男が一人、ギコ屋の元へと歩いてきた。
 彼はギコ屋の前に札束を落とした。
 「…これでそのギコを…いや、お前を含めたこの場にいる全員を買いたい」
 突拍子もない質問にギコ屋は目を丸くしたが、とりあえず自分の相棒を買いたいということだけはまず理解した。
 「お客さ〜ん、こいつは済みませんけど売りもんじゃないんですよ。それに私を含めたこの場にいる全員っていった…」
 ギコ屋の返事が終わるのを待たずに、男は突然袖から『矢』を出すと、手馴れた感じでギコ屋の胸を一刺しにした。
 「…!? かはっ…」
 「!!?? おい、お前ッ!!俺の相棒に何を…」
 「…最も、金を払ったところで才能が無ければ何の意味も無いのだがな…」
 そう言うと、男は観客達が悲鳴を上げる前に、その全てを『矢』で貫いた。
 「てめぇッ!大事なお客さん達まで…!!」
 「…無論、君とて例外ではない」
 男は、今度はギコの首に『矢』を突き立てた。
 「あがっ…、て、てめぇ…」
 「どうやらそこらのクズどもとは違って、こいつには『才能』があるらしいな…。やはり私の見込み通りであった」
 男はギコの首から『矢』を抜き取り、そして彼の耳元で一言、こう言った。
 「君は『矢』に選ばれた。おめでとう」
 その言葉を聞き終える前に、彼は気を失った。
 「しかし、それでも他に一人二人は見つかるだろうかと期待していたが、結局こいつだけだとはな…。だがしかし、ここ最近はハズレばかりに当たっていたし、まあ良しとするか」
 そう言うと男はギコを抱きかかえ、その場を去ろうとした。しかし、自分の背後から只ならぬ殺気を感じ、男は振り返った。

 そこには、有り得る筈の無い光景があった。先程確かに『矢』に貫かれたギコ屋が、『矢』で貫いた瞬間には全く『能力の手ごたえ』を感じなかったギコ屋が、ふらつきながらも立ち上がり、こちらに鋭い眼光を浴びせていたのだ。
 「お前…お客さんたちを殺した挙句にうちの相棒をさらおうなんて…どういう神経してやがんだ〜!?」
 (こいつ、確かに才能は感じなかったのに…)
 「お前に何かで刺されたおかげで…何だか変に力が湧いてくる感じがするしよぉ〜」
 (まずいな…普通なら『矢』に刺されればどんな者でも気を失うのに…。そうすればその隙に連れて行くことも出来るが、こいつはまさに私と戦う気満々ではないか…)
 「ならばッ!貴様の能力は惜しいが!私の前に立ちはだかる以上は貴様を全力で駆逐するまでよぉ――ッ!!」
 男はスタンドを発現し、ギコ屋の心臓めがけて拳を振った。
 しかし、男の拳がまさにギコ屋の胸にヒットしようとした瞬間…、男の腕は、音も無く拳と肘の間でスッパリと切り落とされた。
 「…!!?? 何ィ――ッ!!こっ、これはッ!!」
 「お前は絶ッ……………対に許さん!!ギコをとっとと返せ!!さもないと今度はお前の全身がニクコプーンになるぞ、クラァ!!」
 (馬鹿な…一体こいつ、何の能力を…。いや、それ以前に何故『矢』に刺されて…)
 男は瞬間、全てを理解した。先程のギコ屋の路上パフォーマンス、あれがギコ屋のスタンド能力によるものだとしたら。そして彼もあの時は自らのスタンド能力を自覚できるほど能力が覚醒しておらず、この『矢』がその覚醒の最後の鍵となったのだとしたら!
 (まずいな…どうやら今回も『ハズレ』らしい…。しかも最悪の…)

77N2:2003/11/13(木) 23:02

                  どうでもいいがとっとと助けろ、ゴルァ
            〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                      ○
                     O
                    o
                ゴルァ ゴルァ
                   ∧ ∧  |1匹300円|
             ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
               | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |____|     ||   ∩_∩ <謎の男の腕が落ちた!!さてこれから先の展開は如何に!!
                             G|___|  \_____
|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄            ( ・∀・)∩
|:;;:|Д゚;)< 私もいよいよ・・・            ⊂      ノ
|::;;|::U .:::...\________            ) _ ( セツメイクサ…
|::;:|;;;|:::.::::::.:...                      (_) (_)∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
|:;::|::U.:::::.::::::::::...    ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀`  ) (    ) (    ) モトネタト セリフノカンジガ チガウゾ
            (    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
            ( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
             (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

78N2:2003/11/13(木) 23:03

 アナザーワールド・アナザーマインド その②

 ギコ屋は自分が今何をしているのか、実の所よく分かっていなかった。ただ何かに刺されたことで力が湧き、この男に対する憎悪をぶつけんが為に自らの『超能力』を使ったのだ。男の頭上に何か見たこともないようなものが漂っていることさえも、既に当然の如く感じられた。ともかく、ギコを何としても救わねば。彼の頭にはそれしかなかった。
 「さあ、ぼけっと突っ立ってないで、早くギコを返したらどうだ!」
 (まずいぞ…こうなれば、私の真の能力を使わねばならんのかも知れん…。しかしその上で万が一こいつに逃げられてしまったなら…これから『王』となる者として…、いや、スタンド使いとして敗北することになる…。ここで消えるか、それともこいつを消すか…)
 「何にもしないんだったら、こっちからいくぞ!!クラァ!!」
 ギコ屋は、やはり当然のように自らのスタンドのビジョンを出した。流石に商売柄からか、その顔はギコそのものである。しかしながら、どちらかと言えばその全体像は人に近く…、かつその四肢は人工の物の様である。
 (こいつッ、既にここまで…)

 「クラァ!!」
 ギコ屋はそのスタンドで一気に振りかぶった。そのパンチは男の顔をかすめた。
 (危なかった…いや、違う。こいつはスタンドを発現して本当にまだ間も無い。だからこそ、その扱いに慣れておらず、まだパンチの振りが必要以上に大きいし、しかも狙いが全然定まっていない。…だが、それでいてこのスピード、このパワーは何だ?このスタンド、想像以上に…危険だ!!)
 確かに男の予想通り、ギコ屋の拳の軌道は全く定まっておらず、すぐ背後の店のショーウインドウのガラスは見るも無残に割り砕かれていた。何発打とうとも、その全てが彼の頭上とか、あるいは胴を逸れてマントに当たるだけだった。だが、初心者対ベテランの戦いではあったが、そこには大きなハンディが存在した。
 (クソッ、だがいくら初心者相手とは言え、近距離パワー型に片腕一本で立ち向かうのは余りに辛い!もしこの状態でラッシュを打ち込まれたなら…)

79N2:2003/11/13(木) 23:03

 その時、男は気付いた。切り落とされた腕に、全く痛みが走っていないのだ。
 (…先程は余りに急な出来事の連続だったから気付かなかったが…、痛みが無いどころか、血の一滴すら落ちてこない)
 その落ちた手を見ると、それはまるで携帯電話のバイブレーションの様に震え出していた。かと思うと、腕は独りでに浮き上がり、凄まじいスピードで男の元へと戻って来た。そして、その切断面がピッタリと合わさると、何事も無かったかの様にまた一本の腕となった。
 「フ、フフ…。貴様の能力!見破ったぞ!!貴様の能力は!物体を一時的に切り離し!そしてまた元に戻るというものだな!!それさえ分かれば何も恐ろしいことは無い!」
 「…ちょっと違うな…。『切り離す』んじゃなくて、『分解』するんだ…」
 「それがどうした、たかがその程度の違いなど、無意味!!」
 男はギコ屋に対してラッシュの構えをした。
 「それはどうかな…?自分の周りをよくご覧よ」
 「何…!?」

 その一言で男が周りを見回すと、その壮絶な光景に恐怖した。彼の周囲には、まるで水晶で造られた剣の様なガラスの破片が無数に浮かんでいた。
 「俺がさっき、無意味に後ろのガラスを割ってたと思うなよ。ガラスを無数に分解し、その破片の一つをお前のマントの中に仕込んだ。今浮かんでいるガラスの破片はッ!お前のマントの中にある『破片』(パーツ)に引き寄せられるッ!!」
 「だがそれ位、私が防げないとでも思ったのか!!」
 「確かに、あんたの能力は凄いかも知れないが…、俺のラッシュがそこへと組み合わされば…どうかな?」
 男の返事を待たずして、ガラスの破片とギコ屋のラッシュが男に襲い掛かる。
 「クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァッ!!」
 「こうなったら仕方あるまいッ!『アナザー・ワールド』!!」

80N2:2003/11/13(木) 23:04

 彼が自らのスタンドの名を叫ぶと、途端に彼以外の全てのものは活動を停止した。…そして、じっくりとじっくりと、あたかもテープの逆再生の様に巻き戻されていった。
 「貴様には何を言っても分かるまい…いや、聞いても聞いていない過去へと巻き戻される訳だがな。我が『アナザー・ワールド』の能力は!世界の時間を巻き戻す!!そしてこの私だけが、無生物限定ではあるがその世界に干渉出来る!!時が戻る中で私が新たに『書き込んだ』活動は、再び時が再生された時に『逆再生』されるのだよ!!…丁度いい処刑方法を思い付いたぞ。果たして貴様ごときに防ぎ切れるかな…?」
 そう言うと男は、一本のナイフを懐から取り出し、その刃を持ってギコ屋の額へと投げ付けた。そのナイフは、柄の方からギコ屋の頭をすり抜けていった。
 「時が『再生』されれば、ナイフはお前の後頭部に突き刺さる。そしてお前は何も知らずに死んでいく訳だ。…私はこんな所で死ぬ訳にはいかないのだよ。必ずや…かの『DIO』の能力へと追い付き…空条モナ太郎、ひろゆき、そしてあの『矢の男』を超越してやる!!行くぞ、時よ、『再再生』しろッッッッ!!!!」
 再びガラスは動き出し、ギコ屋はラッシュを打ち出した。が、その場所には既に男はおらず、ギコ屋が仕込んだガラスの破片だけがその場に残されていた。

 「ば、馬鹿なッ!?」
 そして、彼がその突然の事態に気を取られている間に、ナイフは高速でギコ屋の後頭部目がけ飛んできていた。その様子を、男はギコ屋の遥か後方で眺めていた。
 「馬鹿は貴様だッ、ぶっ刺されぇぇ――――!!」
 その瞬間、近くの電柱の裏からまるでロボットの様な腕が飛び出し、そのナイフを弾き飛ばした。
 「…お前に弟が任せておけるものか、こうなったら私が救出しに行くまでだ!!待てえ――――ッ!!」
 電柱裏から一匹のどこかで見たようなギコが飛び出し、相棒ギコを抱えた男を追いかけていった。
 「えっと…、あれ誰だっけ???…ってそんな事は問題じゃない!」
 そう叫んで、ギコ屋も彼らの後を追いかけていった。だが、その時ふとあの客達が気になって後ろを見ると、彼は驚愕した。何と、あの男に刺された客達の傷が、全て塞がっていたのだ。しかし客も心配ではあったが、理由は分からなくとも傷が治っているし、目を覚ましはじめる者も中にはいたので、恐らくは放っておいても問題無いだろう、と彼は判断し、追跡を再開した。

 …スタンド使いはスタンド使いに引き寄せられる…。

 To Be Continued...

81N2:2003/11/13(木) 23:05

                        .______
                        │        .│
                        │都合により │
                        │無期限休業 |
                        | 致します。....│
            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ . . .|______|
   ドルァ ドルァ < By ギコ屋         ||
      ∧ ∧   \_____         .||
⊂  ̄ ̄つ゜д゜)つ                  ||
   | ̄ ̄ ̄ ̄|                    .||
   |____|                   


                        ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀` ; ) (    ) (    )
(    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
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 (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

82N2:2003/11/13(木) 23:05

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①

 結局、あれから相棒もあの男も、正体不明のギコも見つけることは出来なかった。
 それ以来、店は無期限臨時休業にして相棒探しを始めた。もう3日目だ。
 …あの日のことは、今でもよく分からないというのが本音だ。
 ワケワカラン男が突然現れたかと思うと何かで刺され、更には相棒を連れ去られた。
 心の中には、ぽっかりと穴が開いてしまった感じがする。
 オレにとっては、余りにも大きな損失だ。
 しかし、その矢みたいな物で刺されてからは、それ以前はおぼろげなものでしかなかった『超能力』が、もっと形ある物になったような気がする。

 「クラァ!!」
 叫び声と共に、オレの後ろからギコみたいな姿をしたやつが現れる。
 出て来い、と思えばこいつはすぐに出てくる。
 どことなく相棒のやつに顔が似ている気がしないでもないが、そんなことはどうでもいい。
 パンチを打て、と思えばパンチを打つ。
 キックを放て、と思えばキックを放つ。
 とにかくこいつは、オレの思うがままに動いてくれる。
 そして、こいつが何かを殴る時に「分解しろ!」と強く念じると、その物は粉々に、そして見えないほど小さく分解してしまう。
 が、どんなに強く念じても、必ず10数秒もすれば少しの狂いも無く元に戻ってしまう。
 …一体こいつは何者なのだろう?
 オレが言葉を掛けても、こいつは全然返事をしない。
 全く不気味だな…とは思うが、まあ、せっかくなんだし、使える物は有効活用させてもらおう。

83N2:2003/11/13(木) 23:06

 「すみませーん、この辺でこんなギコ見ませんでした?」(やべ、あらやだに声掛けちまった)
 「いやあ、全然見なかったわねぇ」
 「…そうですか、どうもすみません」(とっととこの場はずらからせてもらおう…)
 「あらやだ、でもこのギコちゃん、可愛い顔してるわね〜。家の近くの野良ギコちゃんもまたこれが可愛いんだけど、やっぱり人に飼われてるのは違うのかしらね〜」
 「は、はあ…。そうじゃないんですか?」(んなこと聞いてねえぞ)
 「でも、こんなに可愛いとあの野良しぃちゃんと一度会わせたくなってくるわぁ」
 「そ、そうですか…」(勝手なこと言うなよ…)
 「うん、そうよ!やっぱりこの子にはあの野良しぃちゃんがぴったりよ!」
 「そりゃ、どうも…」(…あんた、人様の飼い猫に野良をくっつけさせようなんてどんな神経してやがるんだ?)
 「ほらあんた、のんびりしてないで早くこのギコちゃん連れて来なさいよ!」
 「…あの、ですからそのギコを探しているんですが…」(てめえ、人の話聞いてたのか!?)
 「何よ、あんたいざって時に使えないわね〜」
 「……(去る)」(貴様、 頭   飛   ば   す   ぞ)

84N2:2003/11/13(木) 23:06

 もうこの町は片っ端から聞き込みをした。
 …だのに、全っ然目撃情報が無い。
 「はぁ…、あいつどこ行っちまったんだろ…」
 もうあいつとの付き合いは長い。
 お客さんから「こいつは、お前さんのところにいたほうがいいじゃろう」と返品されて、それを機にこれまでずっと2人3脚でこの商売を営んできた。
 いつも威勢のいい掛け声で客引きをしてくれた。時には大道芸もしてくれた。
 あいつをさらおうとした奴を帽子で撃退した時もあった(あの後相棒がやたら落ち込んでたのが気になったが)。
 どうしてもあいつがいいと言って聞かない客に駄目だと断ったら、そいつが運悪く地元の有力者で、見事に地域ぐるみで不買運動を喰らったこともあった。
 …いつもそばで支えてくれたのに、どうしてこんなことに…。
 …目の奥が熱くなってきた。こんな所で泣いたら大恥だ。
 オレは急ぎ足で裏通りへと入った。

 と、その時である。オレの前方に、見覚えのある姿が映った。
 「…あれっ!?」
 信じられない光景に、つい何度も目をこすってしまった。
 少し遠くて見え辛いが間違いない。相棒だ!!
 「お――いッ!ギコ――ッ!!」
 思わずあいつの名前を叫んでしまった。無意識の内に、足は勝手にあいつの方へと向かって地を蹴っていた。
 ところが…、あいつはオレの声を聞いてこちらをチラリと見るなり、走って逃げてしまったのだ。
 「あれっ…え…?」
 予想外の事態に一瞬戸惑ってしまったが、ここで逃げられたらもう一生会えなくなるかも知れない。
 オレは迷わずあいつの後を追った。
 「待て、ギコ――――ッ!後ろにマタタビ落ちてんぞ――ッ!」
 …全然見向きもしない。
 あいつは時折こちらを見ては、建物の間を野良猫の様に(元々猫だが…)スルリスルリと潜り抜けて行く。
 だが、決してオレの視界からは消えない。
 その様子は、オレを撒くと言うよりはむしろどこかへと誘導しているようであった。
 時々ポリバケツにぶつかったり、ドブにつまずいたりしながらも、オレは必死にあいつの後を追った。
 ふと、潮風が鼻へと飛び込んできた。
 「海…?」
 古びた雑居ビル郡を抜けると、そこは港だった。
 そこにある大きな倉庫の扉を開け、あいつはその中へと消えていった。
 オレもそこへと足を踏み入れようと、扉を引いた。
 …その瞬間、ある強烈な臭いが漂ってきた。血だ。
 マグロの解体作業か?んなこたぁーない。
 こんなに強烈な血の臭いがするだなんて、一体この中はどんなことになっているのか?
 そして、相棒は何故この倉庫に入ったのか?
 足が自然とすくむ。
 「が…頑張れ逝きのいいギコ屋!こん…こんな所でおじ…怖気付いてどうするんら…!!」
 …舌が回らない。
 それでも、いつまでこんな所に立ち往生していたら何のためにここまで来たのか、ということになってしまう。
 オレは意を決して、一気に扉を引くとその中へと飛び込んだ。

85N2:2003/11/13(木) 23:07

 相棒であるだなんて気付かなければ良かったのかも知れない。
 追っている途中でバテて諦めれば良かったのかも知れない。
 怖気付いて倉庫を前にして帰ったほうが良かったのかも知れない。

 中は、地獄絵図であった。
 地獄絵図と言うよりもむしろ地獄そのものであった。

 倉庫に入ってまず目に映ったのは、床に飛び散る大量の血肉だった。
 気が動転しているくせに、頭はすぐ冷静に自体を把握し始めた。
 まず、その大半が、元々はしぃ・ちびしぃであった『もの』であるということはすぐに判断出来た。
 しかし、そのどれもが、その肉体に大きな裂け目が入っている。
 次の瞬間には、これがただのしぃ虐殺厨の仕業ではないということを思い知らされた。
 奥には、多種多彩な者達だった『もの』が、所狭しと転がり、山積みにされていた。
 モナー、ギコ、モララー…、ぞぬ、ニダー、アヒャ…、とにかくそのどれもが誰だかすぐ分かる著名な連中ばかりであった。
 壮絶な光景に、オレも卒倒しそうになるが、かえって強烈過ぎて気を失えない。
 更に驚愕の事実は続く。
 奥の壁に、真っ赤な血人形が磔にされていたのだ。
 八頭身モナー?ギコ?フーン?
 …ところが、オレの予想はどれもハズレだった。
 血人形の下には、散りばめられた『白』が広がっていた。
 その『白』とは、よく見ると…羽毛である。
 …クックルだ。
 そんな馬鹿な。あのクックルがここまで無残な目に遭うはずがない。
 一体どこの虐殺厨の仕業だ?
 その瞬間、横でブボン、と鈍い爆発音がした。
 「グボエガロギガ…」
 「…骨がねぇーなぁー(w こいつも所詮はあの糞虫と同族ってことか…」
 何者かが、あのモンスターしぃを持ち上げていた。
 しかし、見た瞬間でこそまだモンスターしぃと判断出来たが、次第に肉は崩れ、血は吹き出し、すぐにそこらの肉塊と同じになってしまった。
 そして、その何者かとは…相棒であった。
 「……!!!!」
 「なあ、相棒よぉ――」
 突然声を掛けられ、身体がビクン、と飛び上がった。
 返事はとても出来ない。
 「虐殺…ってのはよ、しぃみてえに無抵抗で非力な連中にするのも面白いが…、普段強ぇ強ぇと呼ばれてる奴らを絶対的な力でねじ伏せるのはもっと爽快だな(藁」
 「ギコ…お前正気か?」
 聞かずにはいられなかった。あの口は悪くとも仁義に厚い相棒が、こんな虐殺なんて真似を出来るはずがない。
 「オレが正気かどうかは、顔見れば分かんだろ、ゴルァ」
 顔は…、アヒャってない。目も普通だ。普段の相棒と何ら変わりない。ただ1つ違うとすれば、その表情が異様に清々しいことくらいか。
 「おい…嘘だろ…お前はこんなことする奴じゃないだろ…」
 身体の奥底から、悲しみと怒りの震えが込み上げる。こんなやり場の無い怒りは初めてだ。
 だが、相棒はオレの想いを踏みにじるように、冷たく言い放った。
 「いいや、漏れの仕業だ…。この惨劇は、全てこの漏れが引き起こしたのさ!そう!この狭く暗い空間に閉じ込められた哀れな生贄達の絶望と苦しみの鎮魂歌!その指揮を執ったのは、まさしくこの漏」
 「黙れ!!!!」
 込み上げる怒りは、抑えられなかった。溢れ出る涙は、堰き止められなかった。
 「お前、一体何があったんだよ!?あの男に連れられてから、お前何が変わっちまったんだよ!!」
 「何も変わってはいないさ…。ただ1つ、あの『矢』に突かれてことで、この『バーニング・レイン』が発現したのを除けばな」
 相棒の後ろから、何者かが飛び出した。オレのものと同じ、『超能力』の塊だ。
 「まだ惨劇は終わっていない…。あと1人、最後の生贄がいる」
 「何!?」

86N2:2003/11/13(木) 23:07

 相棒の目線の先には、一匹のぽろろがいた。その様子は、ひどく怯えている。あの「最強」と謳われたぽろろが怯えるだなんて…。
 「てめえのやり方は最初っから気に入らなかった…。純真そうな振りをして何も知らねえ連中を喰らう、とはな…。漏れの『正々堂々』の心理に最も反する、最悪の大罪者だ。だからこそ、てめえは最後までとっといてやったんだぜ?他の手慣れの連中どもが為す術も無く肉塊に帰すのをただ見るしかねえ絶望を味わい、ギリギリまで追い詰められてから氏んでゆけ!!!!」
 相棒はその『バーニング・レイン』とやらを出したまま、ぽろろへと猛進していった。
 「氏ねッ、『最強』!!」
 ぽろろは壁の方へと後ずさりしていった。もうその表情は絶望の色しかない。
 「終わりだぁ――――!!」
 だが、相棒がぽろろを掴もうとした瞬間、ぽろろの顔つきが急に変わった。
 「ぃぇぁ!!」
 突然、ぽろろが巨大化した。
 「何ッ!!」
 ぽろろは敢えて腹を掴ませ、間髪入れずそのまま破壊される前に相棒を取り込んだ。
 「…ぃぇぁ」
 「こ…の下衆…や…ろ………」
 間も無く、相棒の声は聞こえなくなった。
 「………」
 ぽろろがこちらを見ている。その目は、どこかオレに申し訳なさそうであった。
 「…仕方ないよ、君のやったことは已むを得なかったんだ。確かにオレの大事な相棒ではあったけど、こんな目に遭ったのなら…」
 ふと、ぽろろを見る。様子がおかしい。
 「…おい、どうした!?ぽろろ、ぽろろ!!」
 「…ぃ…ぇ…」
 全身が痙攣している。目は白目を剥いている。オレの声は、もう耳には入っていない。
 次の瞬間、ボンと大きな音と共にぽろろの首が破裂した。
 直後、雪上がりの朝、屋根から水がまとめて垂れるような、ビチャビチャという音が倉庫に響く。
 そして…、ぽろろの首の代わりに、そこには血まみれの相棒の頭が生えていた。
 「…ぁ…」
 「『バーニング・レイン クラッシュアウト』…。てめえの身体には、有り余るほどのエネルギーを流し込んでやったぜ」
 相棒は、先程までぽろろ『だった』肉体から抜け出し、オレの方へと蹴り飛ばした。
 目の前に転がってきた首無し死体。一瞬うっ、と思うが、あのぽろろだ。首が無くなった位では、死ぬはずがない。
 「おい、ぽろろ、起きろよ!お前なら復活出来るだろ!!」
 首なしぽろろの肉体を必死に揺り動かす。普通なら、どんなに微塵になってもぽろろは復活できる。
 しかし、そんな兆候は一切表れない。
 「無駄だぜ」
 オレのすぐそばに、相棒は立っていた。
 「うわあ!!」
 掴まれる、という危機感を感じ、オレはすぐに後ろへと飛び退いた。事実、相棒が腕を振る姿が見えた。
 「漏れのスタンドは、物質にエネルギーを流し込む能力!ここにある屍は全て、『バーニング・レイン クラッシュアウト』で破壊した。過剰なエネルギーを注入された肉体は、その全ての細胞が核まで破壊される!核まで破壊されれば、何者でも蘇生は出来ない!ぽろろも!吸血鬼でさえも!!そう、こんな風にな!!」
 相棒はぽろろの身体を掴んだ。間も無く、その身体は崩れていった。
 「いいザマだ。これで『最強』はこのギコの手中にあるということが証明された!ギコハハハハハハハハ!!」
 「スタンド…吸血鬼?一体何のことだ?」
 吸血鬼はともかく、スタンドという聞き覚えのない単語。何を意味するか、思わず相棒に尋ねてしまった。
 「てめえは知る必要はねえ、ここで肉塊になるんだからな!!」

87N2:2003/11/13(木) 23:13



 「まさか、あれ程までとは…」
 暗闇の部屋で、かの男は悔やんでいた。
 (『矢』であのギコを貫いた瞬間、爆発的なエネルギーの流れを感じた。そこに天才的な才能を見出したからこそ、私は奴に部下のスタンドで洗脳を施したが…、よもやスタンドの方が暴走するとは思わなかった。あの『暴走バーニング・レイン』、奴はまだ私の意のままに動いてはいるが、もし私に牙を剥いたりでもしたなら…。クソッ、案じても仕方ない。ギコ屋よ…、あの私を差し置いて『最強』の座に君臨しようとしている愚か者を貴様の手で始末してくれよ…)



 「ここで貴様を頃し、あの男も頃す!『最強』のスタンド使いは、このギコ様だ!ギコハハハハハハハハハハ!!」
 「お前は…相棒なんかじゃない!絶対に化けの皮を剥いでやるッ!」
 (相棒はさっき、『正々堂々の精神』と言った…。本当の虐殺厨なら、あんなことは言わないはず。ということは、相棒には違いないがあの男に洗脳されている可能性が高い!待ってろ相棒!絶対にその目を覚まさせてやるからよ!)

88N2:2003/11/13(木) 23:13

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃        スタンド名:バーニング・レイン・コンチェルト        .┃
┃             本体:相棒ギコ(洗脳)              .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃   パワー - A   ┃   スピード - A    .┃   射程距離 - D  .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力- C  ....┃  精密動作性- A  .┃    成長性 -C  ....┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃物体にエネルギーを流し、あらゆる効果を及ぼす。         ....┃
┃燃焼・冷却・電流・推進・放射能等のエネルギーを使う事が出来る。.┃
┃小さい物体であれば、銃弾のように発射できる。             .┃
┃更に放射能を直接流せば、細胞の核を破壊する事が出来る。   .┃
┃尚、洗脳によって本来よりスタンドは格段に力が上がっている。   .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

89N2:2003/11/13(木) 23:15
以上です。
ご迷惑をお掛けしました。

90:2003/11/14(金) 20:54

「〜モナーの夏〜  9月17日・その5」


煌々と照りつける月光の下、俺達は殺し合う。
命を賭け、生を削ぎ合う。
こんなにも鮮やかな月の光。
その下で、俺達の舞台は幕を開けた。


じぃはこちらに突進して、その勢いで真横に爪を薙ぐ。
それがはっきりと視えた。
その動きをトレースするように、じぃは攻撃を繰り出す。
その場にしゃがみ込む事により、攻撃をかわしつつ懐に入ることができた。
心臓を狙ってバヨネットを突き出したが、いとも簡単にかわされる。
そう、この結果も視えていた。

俺の攻撃はスピードに欠ける。かすることすらできない。
一方、俺はかわすのが精一杯だ。
右から攻撃。頭部を狙った突き。じぃの攻撃は全て視える。
だが、かわしきれているかすら怪しい状況だ。

俺の体の様々な箇所から血が流れている。
じぃの攻撃は重すぎて、かすっただけでもダメージは大きいのだ。
だが、致命傷には達していない。
痛みも麻痺している。
弱音を吐く瞬間すら許されない。これこそが殺し合いだ。

じぃは高く跳び、そのまま爪を振り下ろした。
あと0.1秒、その場に留まれば即死。
だが、そう簡単に殺されてはやれない。
対象を失ったじぃの一撃は、地面に小規模のクレーターを作った。
砂が巻き上がる。
故意か偶然か、視界が阻まれる。
だが、俺の能力にいささかの遜色もない。
砂煙に紛れての一撃ですら、俺はかわすことができた。

だが… 決して俺が有利という訳ではない。
むしろ、俺のほうがはるかに死に近い。
じぃの体は人間のものではなく、スタミナも無尽蔵だ。
それは、俺が負けるのに充分な理由。
防戦一方では、疲労した俺がじぃの攻撃を食らってしまうのは目に見えている。
おそらく… 約7分後。
この目は、そんなことまで視えてしまう。

なら、俺の行動は明白。
右からの鋭い突き。そのあとの左腕の横薙ぎ。
何とか、それをかわす。
この攻撃をかいくぐって、体力が残っているうちに反撃しないと…
パワー、スピード、生命力、スタミナ、全てにおいて俺はじぃに遅れを取っている。
俺が勝っているのは、『視る』という能力のみ。
なら、この能力に勝機をかける…!!

91:2003/11/14(金) 20:56

俺は視た。
4秒後に、胸を狙ったじぃの突きが来る。
さらに視る。
動きだけではない。
もっと広く。もっと多角的に…
速さ、軌道、攻撃点、そして、俺自身を視る。
激しい頭痛。
しかし、構ってはいられない。
一瞬の勝機を視逃す訳にはいかないのだから。

じぃの腕が、俺の胸を貫いた。
通常なら即死。
そう、通常ならば。
俺は、貫かれる寸前に俺自身の身体を視た。
心臓はもちろん、肺にも脊髄にも重要血管にも影響がない隙間。
そのポイントを、意図的に貫かせた。

…もらった。
溢れ出る血液。勝利の余韻。一瞬の油断。
その全てが、じぃの判断を遅らせる。
今しかない。
だが、俺のダメージもかなり大きい。
立っていられるのも、あと7秒。
激痛に構ってなどいられない。
苦しみ悶えるのは、全てが終わってからだ。
俺はバヨネットをじぃの額に突き立てようとした。
だが… 俺はその手を止めた。

…見てしまったからだ。
じぃの瞳を。
そして思い出した。じぃとの思い出。
一緒に帰ったり、他愛ない話をしたり、一緒に食事をしたり…
この場には明らかに不必要な感情。
命を奪う相手の目を見てしまうとは―――なんて迂闊。
その躊躇が勝敗を決める。
そう、俺は完全に勝機を失った。

92:2003/11/14(金) 20:56

じぃは、腕を俺の身体から乱暴に抜き取る。
それだけの動きで、俺は地面に倒れそうになる。
溢れる血。感覚は完全に麻痺している。
じぃは右腕を高く上げた。
何の抵抗もなく、俺の身体を斬り裂くであろう鋭い爪。
俺は視た。
そのまま腕は振り下ろされ、俺の身体は袈裟斬り。
それでデッド・エンド。
もうかわす体力も気力も残っていない。
立っているだけで精一杯だ。

死ぬ寸前に、走馬灯のように記憶が呼び起こされるなんて嘘だ。
今の俺には、リナーの顔しか見えない。
もう、リナーと夜の町回りはできなくなるな… それだけが残念だった。
そして、振り下ろされる右手…

          *          *          *

そういう訳で、私に替わる。
『私』が舞台に立つのは不本意だが、これ以上のダメージは拙い。
振り下ろされる右手を切断。

驚きと共に飛び退く敵。
だが、戦意は喪失しない。
実力の差すら理解不能ときた。
吸血鬼として三流、戦闘者としては失格。
――ひどく無様。

突進しつつ、大きく振るう左手。
工夫がない。
もう見飽きた。その攻撃も、貴様の顔も。

緩慢で直線的な攻撃ごと、敵を斬り裂く。
左手を寸断し、胴体を袈裟斬り。返す刃でもう一度斬る。
心臓と頭部に一撃ずつ突き。そのまま首を刎ねる。
以上。
断末魔の悲鳴も別れの言葉も不要。

          *          *          *

ドサドサッ…
悪夢のような音。
バラバラになったじぃの身体が地面に落ちる音。
俺は…今、何をした?

地面に落ちたじぃの断片は、瞬く間に蒸発していく。

「うわあああぁぁぁぁ!!」
俺はその場に崩れ落ちた。
胸に激痛。
じぃに傷つけられた傷?
心の痛み?
分からない。何も分からない。

93:2003/11/14(金) 20:57

俺はじぃを殺すつもりだった。
学校でじぃの内面を見た時、吸血鬼化している事を理解した。
その時から、俺は殺すつもりだった。
そして、殺し終えた。
完膚なきまでに殺しきった。
じぃの身体は、一片たりとも残っていない。
俺は目的を果たした。
だが、それをやったのは「俺」ではない。
そもそも、なぜ俺はじぃを殺そうと思った?
楽にしてやりたかったから?
犠牲者が出ているから?
…それとも、単に殺したかったから?
じぃを殺したがっていたのは誰だ?

「…お前だったんだな!! 全部、お前がやったんだな!!」
俺は叫んだ。
こいつが…!
俺の中にいるこいつが…!
そう、少し前から薄々気付いていたのだ。
ただ認めたくなかっただけ。
「お前が…!!」
俺の叫びは中庭にこだました。
学校の中庭。
校舎に囲まれた空間。
俺がじぃを殺害した場所。
視界がボヤける。
胸の痛み。激しい眩暈。
もう、俺は壊れているのかもしれない。

「なあ、俺は何なんだ…?」
俺は、隠れているリナーに訊ねた。
「…気付いていたのか」
リナーが木の陰から姿を現した。
「彼女は、もう吸血鬼だった。人も殺している。君は、良い事をしたんだ。それ以上は考えなくていい」
「…黙れ!!」
俺は叫んだ。
「良い事だっただと!ふざけるな!!」
リナーに当たっても仕方がない。
分かってはいるが、言葉を止める術がない。
感情をブチ撒けないと、心がどうにかなってしまいそうだ。
「相手が吸血鬼だとか、人を殺してるとか… そんなんで割り切れる訳がないだろ!!
 俺は、お前のような化物とは違うんだ!!」

リナーは、驚いた顔をした後、うつむいた。
…長い沈黙
俺は、最低だ。

しばらくの沈黙の後、リナーは顔を上げた。

リナーは微笑んでいた。
――――――リナーは悲しみに満ちた表情を見せた。

「そうだな。私は…君から見ればしょせん化物だ」
――――――私は化物なんかじゃない。

「もう、殺すことにも心が麻痺してしまった」
――――――そうしないと、心が悲鳴を上げる。

「感情など、とうに無くしてしまった」
――――――そう思い込まないと、生きていくことすら立ち行かない。

全て視えてしまう。
俺は、自分の首を切り落としたくなった。
何がリナーを守る、だ。
そんな資格は、もうこれっぽっちもない。
じぃを殺した罪悪感…
俺が味わった以上の苦しみを、リナーは何度も何度も何度も経験してきたのだ。
「ごめん…」
今さら謝ったところでどうしようもない。
「いや、気にはしないさ」
リナーはまた嘘をついた。
「そんな事よりも…」
リナーは言葉を濁す。
そう、後に続く言葉を俺は知っている。
それは…聞きたくない。
だが、逃げるわけにはいかない。
耳を塞ごうと、顔を背けようと、真実は変わらないのだから。

リナーは、しっかりと俺の目を見据えて言った。

「…君が、殺人鬼だったんだな」





俺が戻れなくなったのはいつからだろうか?
リナーに会った時? いや、それは予兆に過ぎない。
吸血鬼に会った時? 関わらずに生きることもできたはず。
月光の下で吸血鬼と化した親しい女を殺した時、俺は戻れない場所に立ったのだ。
どこかで歌が聞こえた。
ひどく、哀しい旋律。
ここから俺の物語が幕を開ける…



「モナーの愉快な冒険」/プロローグ・〜モナーの夏〜 END

94N2:2003/11/14(金) 21:44
乙です!!プロローグとは思えません。
俺も明日には張れる!!…かも。

95ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/14(金) 21:56
昨日、最初から読み直してみましたが、
やはりモナーがそうでしたか。
ところで、小説を書いている時に
気をつけていることって何かあるのですか?
よければ教えてください。

…長々とすみません。

96N2:2003/11/15(土) 20:51
>>95
ぎゃあそれでは結末をほのめかす描写を気にせずに
最後の最後でびっくりした漏れは

次スレテンプレ議論スレに貼るのもどうかと思ったので、
こちらに小説のあらすじを貼ります。
不都合等御座いましたら指摘お願いします。

97N2:2003/11/15(土) 20:52

□小説スレ作品紹介

◎本編

.      /
   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇かつて『矢の男』と親交のあったモナ本モ蔵。
男の素性に薄々感付きながらも何も出来なかった
自分を責めるモ蔵は、男を討つべく茂名王町へと乗り込む!

 モナ本モ蔵と『矢』の男 その①──>>46-49
.                その②──>>50-53
.                その③──>>54-58
.                その④──>>59-63

◎不完全番外編

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧  |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇「すいませーん、このギコください。スタンド持ってるんですよね?」
「はい、しかしお客さん、こいつは売りAAじゃないんですよ。」
「何だと、この三流夜逃げ商売人がうわ何をするやめr」
「ギコ、証拠隠滅手伝え。クリ(ry)!!」

 アナザーワールド・アナザーマインド その①──>>73-76
                        その②──>>77-80

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①──>>81-88

◎完全番外編

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さいたま)

プロローグ・〜モナーの夏〜
◇俺、モナーは普通の学生として、普通の生活を送っていた。
しかし、謎の行き倒れの女・リナーを助けた日から、俺の日常は完全に狂ってしまった。
吸血鬼、「空想具現化」、殺人鬼…。
それら全てが繋がった時、俺の物語が始まる。

 9月15日・その1──>>3-5
.        その2──>>6-8
.        その3──>>9-10
.        その4──>>11-14

 9月15日〜9月16日──>>16-18

 9月16日・その1──>>19-22
.        その2──>>24-29

 9月17日・その1──>>30-32
.        その2──>>33-36
.        その3──>>38-43
.        その4──>>66-69
.        その5──>>90-93

※敬称略

98新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 21:44
前掲示板で消滅してしまったやつ書き直し(少し改造)。

合言葉はwell kill them!その①―アヒャと矢の男


虐殺ブラザーズを倒したつーは、自分の家へと急いでいた。
自分に付いている返り血はそのままなので、つーの事を見て気を失った人もいたが。
彼女の家は茂名王町(仮)の中にある私怨寺商店街の肉屋で結構お客の評判もいい。
「アーヒャヒャヒャヒャ!オメー何処で道草くってたんだよ!」
扉を開けると早速父親の声が飛んできた。エプロンがよく似合っている。
つーの家の家族構成は自分、父、兄、弟の四人で、母親はとっくに亡くなっている。
「ああ父ちゃん、何か知らんが俺に喧嘩ふっかけて来た奴らがいたから
 叩きのめしてやったんだ。」
「ほう、まだそんな命知らずな奴が居たのか!一般人でお前に勝てる奴なんて
 そうは居ないだろ。そんな事より夕飯の支度手伝え!今日は鍋だぞ。」
「了解!」
台所には所狭しと刃物が並べられている。もし地震なんかが起きた時に
こんな所に居ては、間違いなく怪我はするだろう。
「ところでアヒャの野郎は何処行きやがったんだぁ?俺より先に学校から
 帰ってきてるはずだぞ。」
「奴なら葱と豆腐が無かったから買いに行かしたぞ。それにしても遅いな、
 もう行ってから30分以上たってるぞ。」
「俺みたいに道草食っていたりしてな!」
二人は大きな声を出して笑った。はっきり言って五月蝿い。
そのせいで隣に住んでいる老人が心臓発作を起こし、危うく『天国の階段』を
昇りかけたのは内緒だ。


「あ〜〜〜ムカつく!何であんなとろいババア雇うかねぇあのスーパー!
 俺がナイフちらつかせなけりゃぁいったい何時間かかってたのか想像できねえよ!
 ちっくしょ〜!」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながらアヒャは家へと歩いていた。
「あーあ。退屈な日常だなー。なーんかこう人生まるっと変わるサプライズな事件とかって
 起きないもんなのかねー。」
その時だった。彼の言う事件が起こったのは。
「うわあああああああああ!!!!!!」
「おわっ!何だ何だ今の悲鳴は!?家とは反対の方向からだぞ!」

この後の彼の行動は大体の人が想像がつくでしょう。


「事件の香り・・・・・。行きますか!」

99新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 22:24

「くそ!こいつも駄目だったか・・・。」
ひっそりとした闇の中、二つの影が見える。
一つは何処にでも居そうなサラリーマン風の男で、もう息をしていない。
そしてもう一つが矢の男の物だった。
「まあいい。次の人材を探せばいいことか・・・。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「・・・誰かが来るな。」

「おっかしいなー、悲鳴が聞こえたのは確かここいら辺だった筈だぞ。
 もしかして俺の聞き間違いだったのか?」
やって来たのはアヒャだった。よく悲鳴一つで場所が割り当てられたもんだと
つくづく感心してしまう。
「・・・丁度いい。アイツならがあるかもしれん。物は試しだ。」
矢の男は懐から弓と矢を取り出すと、アヒャに向けて狙いを定めた。
「さあ、お前の『素質』、確かめさせてもらうぞ!」
パシュン!


ヒュウウウン・・・・。ズシャアァ!!
「があっ!な、何が起きたんだって・・・・これって・・・『矢』!?」
「ほう、死ななかった所を見ると私の予想どうり、君にはスタンド使いとしての
 『素質』が有ったのだな。しかしスタンドのヴィジョンが見当たらないとはどう言う事だ?
 確かに君からスタンドのエネルギーが出ているのだが・・。」
「な!てめえは矢の男じゃねーかどうしてこんな所に!」
「む?何故この私が君の言う矢の男だと判ったのかい?」
矢の男は少し以外だという顔をして尋ねた。
「俺の姉ちゃんと兄ちゃんがお前に出会ってそのスタンドとやらが発現してんだよ!」
「なるほど。兄弟そろってスタンド使いになったと言う訳か。
アヒャは自分に刺さった矢を抜くと男にむかって放り投げた。
「お前の目的は俺にもわかんねぇ。だけどスタンドを出してくれた事については
 礼を言う。ありがとうよ。」
「ふっ、礼を言われたのはこれが初めてだな。では、有効に使ってくれ。」
そういい残すと男は風のようにいなくなった。

100新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 22:54

「うわー滅多刺しにされてんなー。ご愁傷さまー。」
アヒャは矢の男が殺したサラリーマンを見つけた。
「とりあえず諭吉でも抜いておきますか。・・・にしても俺のスタンドって一体なんだ?」
そういって死体に近いた時だった。
・・・・じわり・・じわり・・・・・。
・・・・じわり・・じわり・・・・・。
「なんだ?なんか音がするぞ。」
よく見ると死体の周りの血液が、だんだんと自分の方へ向かってきている音だった。
「何だよこれ!なんで血が俺の方へ流れてんだよ!?・・・・まさか・・・。
 これがあいつの言ってた・・スタンド!?」
みるみるうちにアヒャの目の前で血液が集まり、人の形を作り出している。
「これか!これが俺のスタンドか!」
「ソウダ!俺ハオ前ノ分身ッテ訳サ!」
「なーるほど、ところでお前には名前ってついてんのか?」
「イイヤ。俺ニハ名前ナンテ無イ。コテハン名乗レヌ名無シサンッテ訳ダ!」
「じゃあ俺が名付親になってやんよ。そうだな・・・・。血・・。ブラッド・・。
 そんじゃブラッド・レッド・スカイってのどうよ?」
「イイナソレ!気ニ入ッタゾ!」



「案外この買出しも結構意味あったじゃん!行っといて正解だったな。」
アヒャは上機嫌で家へと向かった。

しかしアヒャは気づいていない。
自分がスタンド使いになった事でこれから巻き起こる
闘いの日々のことを・・・。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

101新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 23:09
 ∧
 | |
 | | |ヽ,,,ノ|   ∧_∧
 | |< ゚∀゚ >_ ( ゚∀゚ )
 ヽ   WWW+/ヽ+  つ
  ヽ  ヽ:::::::/ ヽ/ ヽ ヽ
   \  MM (_) (__)
   /     ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
  ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
   ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
    ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
     ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;

スタンド名:ブラッド・レッド・スカイ
本体:アヒャ

破壊力-C スピード-B 射程距離-A
持続力-B 精密動作性-C 成長性-C

スタンド像単体では発現できず、血液と一体化する。姿は決まっていない。
能力は、血液と一体化し、自由に操作する。
攻撃時に、「切る」、「縛る」、「ぶん殴る」等の攻撃手段を得意とする。
意志を持ち、性格は楽天的。

思考分離型、一体化、直接攻撃型。

102N2:2003/11/16(日) 10:11
乙です。
頑張って下さい。

103新手のスタンド使い:2003/11/16(日) 10:14
コメありがとうございます。

104ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/16(日) 12:51
遅れて乙ッ!!

105:2003/11/16(日) 13:26
>>95
AA作品を作る時も注意してる事ですが…

まず、キャラの行動やバトル発生の妥当性。
よく分からないシチュエーションでいきなりバトルが始まっても、
読む側はこれっぽっちも感情移入できないと思います。
勝っても負けてもどうでもいい、と読者に思われた時点で、作者としては負けですから。

あとは、セリフとか雰囲気作りとか伏線張りとか。
とりあえず、読む人間を意識するという点を重視。


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