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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
1
:
◆VnfocaQoW2
:2010/04/04(日) 00:20:17
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
745
:
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:41:45
本スレにてのご支援、ありがとうございました。
以下22レス「See you 〜小さな永遠〜/風に負けないハートのかたち」
を仮投下致します。
次回予定は「椎名智機、脱落。」もしくは「きせきなんかいらない」。
智機vsしおりです。
746
:
See you 〜小さな永遠〜(1/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:44:10
【タイトル:See you 〜小さな永遠〜/風に負けないハートのかたち】
♪ きっと さよならから始まる日は
♪ そっと 優しさに包まれて訪れる
♪ 君は 振り向かずに歩きはじめる―――
.
747
:
See you 〜小さな永遠〜(2/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:45:00
(ルートC:3日目 PM6:30 D−6 西の森外れ・小屋3))
「誰か俺を、呼びませんでしたか?」
カッと、恭也の目が見開かれた。
時間にして八時間ぶりの覚醒であった。
「ええ、呼びましたよ呼びましたとも。
皆が何度も何度も何度も、何度も!」
すぐ脇に控えていた月夜御名紗霧が、乱暴な口調で、
しかし心底嬉しげに、問いに応えた。
「な? 紗霧ちゃん。世色癌ってのはこういう薬なんだ」
「今回だけはなんでも有りなファンタジーに感謝ですね」
そんなやり取りを小耳に挟みつつ、恭也は肘をつき、腰を起こす。
挙動は緩慢にして不確か。
常に気を張った鋼入りの男にしては無様な様相であった。
しかし如何に無様であろうと、死人の如き意識不明の八時間のことを思えば、
それは奇跡の生還であり、常識では有り得ぬ回復であった。
「俺が命を繋げたのは、きっと貴方たちの尽力によるのだろう」
恭也は床を抜け、正座にて畳に腰を下ろす。
三つ指をつき、頭を下げた。
748
:
See you 〜小さな永遠〜(3/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:48:17
「有難う、みんな。心から、感謝する」
「おう、俺様が命の恩人様だ。死ぬほど恩に着ろ!」
得意気にふんぞりかえってたのはランス。
恭也の覚醒は彼が持ち帰った世色癌二粒の恩恵に拠った。
仁村知佳が託された世色癌では無いのである。
「早速だが、俺が眠っている間に起きたことを知りたい」
「いいでしょう。浦島太郎気分を存分に味わうと良いです」
森林火災の鎮火。素敵医師の死。レプリカの全滅。果し合い。秘密の道具。
情報を欲する恭也に、紗霧が朝から晩までに起きた出来事を伝える。
ただ一つ。
ランスと知佳の邂逅については、伏せられていた。
仁村知佳がここに向かってから、既に四時間。
彼女の飛行速度を鑑みれば、多少道に迷っても三十分とかからぬ道程の筈。
であるにも関わらず、未だ知佳が到着しておらぬということは、
その途上で移動を中断せざるを得ぬ何かがあったのだと考えられる。
最悪の可能性が高い。
その心労を、病床にある恭也に味わわせたくない。
まひるが提案し、皆が優しい嘘をつくことを受け入れていた。
「じっちゃん、山小屋でお泊りだってさ」
「神語りの書は?」
「見つけてないっぽい」
野武彦との通信を終えたまひるが、カラカラと引き戸を開けて、
食卓の間から居間へと顔を出した。
749
:
See you 〜小さな永遠〜(4/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:49:02
「うぅっ!」
角度を変え、足元のまひるに向き直ろうと腰をひねった恭也が、
呻きと供に顔を顰めた。
ぎりりと軋むは、かみ締められた奥歯。
「だ、だいじょぶ?」
めったな事では痛み、苦しみを表情に出さぬ恭也のこの不覚。
紗霧とまひるは思わずにじり寄る。
恭也は呼吸を整え、感嘆のため息を一つ。
「これほど、俺の体幹は痛んでいたのか……」
しかし、この痛みは、忌避すべきものではない。
漸くにして、濃厚なモルヒネの薬効を脱し、
痛みを感じられるほどの身体能力を取り戻した証であるのだから。
そして、回復したものは、もう一つあった。
体温である。
恭也の額には、ふつりふつりと玉の汗が滲み出していたのである。
「体温も戻ったようですね」
事実、危ないところであった。
それが今や、一般的に言う【重傷】程度の傷病状態まで戻っていたのである。
すでに、命の危機は過ぎ去ったと言えよう。
己の体を苛烈な修行により知り尽くした彼であれば、我慢の達人である彼であれば。
万全ではなくも、明晩の果し合いにて、戦力として立ち回る事が可能であろう。
「外の風が吸いたいので……」
750
:
See you 〜小さな永遠〜(5/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:50:10
恭也は左腕で額の汗を拭いつ、腰を浮かした。
やかんの水蒸気で湿度は保たれているとはいえ、
半日もの間、締め切られ暖められ続けた居間である。
新鮮な空気を求めるのは、生物としての基本的な欲求といえた。
「私が付き添いましょう」
「かたじけない」
紗霧が肩を貸し、二人は立ち上がる。
しずしずと、音もなく。
ゆったりとしたペースで、進む。
玄関を抜け、井戸を回る。
宵闇の中、月だまりを求め、歩く。
「良い、月ですね」
「ほんとうに」
紗霧の思考は、止んでいた。
紗霧の心は、凪いでいた。
柔らかな月光。
恭也の重み。
体温。
呼吸。
何一つ考えず、それらを感じ。
何一つ考えず、受入れていた。
高揚感はない。浮揚感がある。
緊張感はない。安堵感がある。
優しく静謐な時間が、紗霧を包んで、
しずしずと流れてゆく。
751
:
See you 〜小さな永遠〜(6/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:51:14
その柔らかな時間を止めたのは、恭也であった。
「ああ……」
恭也が漏らした溜息に、紗霧の意識が現実へと引き戻された。
紗霧はまず恭也の顔を見上げ、次いで恭也が見上げる先へと、視線を移した。
糸杉であった。
今、彼らが立っている位置とは。
恭也が紗霧に対して、己の意図を赤裸々に語り。
二人の視線の行き着く先の一致を確認し。
技能と知能を拠り所とした、心の伴わぬ契約を交わした。
その、場所であった。
「ふふ……」
紗霧が笑う。
くすぐったそうに。
今まで誰にも見せたことの無い、はにかんだ笑みで。
糸杉に目をやる恭也に、気付かれること無く。
「『俺は月夜御名さんを信用していない』」
ぼそりと、紗霧が呟く。
「『でも、月夜御名さんという才能を信じることはできます』」
恭也が、受け答える。
752
:
See you 〜小さな永遠〜(7/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:51:44
紗霧が、息を呑む。
大きく目を見開いて、恭也の横顔を見つめる。
そのやり取りを恭也が憶えていたこと。
今、同じ場所で同じ時を思い出していたこと。
紗霧には、心が重なったように感じられた。
紗霧の胸を、陶酔感を伴う疼きが満たした。
その疼きの高まるままに。
月光に酔った心地のままに。
ふわりと心に浮かんだ言葉が、韜晦のフィルターを解さぬままに、
紗霧の口を衝いて、零れ出た。
「ねえ、恭也さん。今のあなたは……」
風が吹いた。
一瞬、強く、西風が。
紗霧の続く言葉は、かき消された。
その風の止む間際に。
「――――!」
恭也の体に緊張が走った。
貸している肩越しに、紗霧にもそれが伝わった。
「どうしました?」
「何者かが、います」
753
:
See you 〜小さな永遠〜(8/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:53:51
とはいえ、紗霧は何も感じなかった。
弱冠にして達人の域に達しつつある御神流師範代ゆえに
察することの出来た、隠蔽された気配なのであろうか。
それとも……
「……向こうです」
恭也は顎で気配の方向を指し示しつつ、腕を紗霧の肩から抜いた。
紗霧は触れた外気の冷たさに身を震わせた。
現実感が彼女を飲み込んで、夢心地は吹き飛んだ。
胸中のしびれる感覚は失せ、紗霧は神鬼軍師たる己を取り戻す。
(なんでしょう、この感覚。 ……胸騒ぎ? 虫の知らせ?)
紗霧の不安感と躊躇をよそに、恭也の歩みは迷い無い。
一直線に月だまりを脱し、茂みを掻き分ける。
紗霧はその挙動の力強さにたじろぎつつも、言うべきことは言った。
「恭也さん、病み上がりの体では危険です。
一旦小屋まで戻り、まひるにでも様子を伺わせましょう」
紗霧の言葉に、恭也は答えない。
まるで何者かに導かれるかの如く藪を漕いでゆく。
紗霧の正体定かならぬ焦燥感はますます強くなる。
「ランス、まひるさん! こちらに来てください、急いで!」
紗霧は援軍を要請しつつも、援軍など要らないのだと直感していた。
胸中で渦を巻く不安感は確かにある。
しかし、その不安感は生命の危機を伴う類のそれではないと、確信していた。
恭也もそれを理解しているが故に、こうして愚直に進んでいるのであろう。
754
:
See you 〜小さな永遠〜(9/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:55:08
ぴしりぱしりと、静電気が走るかの如き音がしていた。
思考することに特化し。
それゆえに機転や直感が退化している紗霧である。
その紗霧に、痛いほどの直感が降りている。
それは偏に、紗霧が思考よりも感性を尖らせていたからに他ならない。
(たぶん―――)
さくりがさりと、砂を蹴散らすかの如き音がしていた。
紗霧は恭也を追いかける。
届かぬ背に手を伸ばして追いかける。
決して見失わぬよう追いかける。
(きっと―――)
藪を抜けた先で、恭也が不意に立ち止まった。
藪を抜ける手前で、紗霧が恭也に追いついた。
永遠に届かぬと思われた恭也の背に、紗霧の手は届いた。物理的には。
しかし触れた指先から伝わる感触は、冷たく、硬かった。感覚的には。
(ああ……)
紗霧は知る。滅多に働かぬ筈の己の直感が、完璧に正しかったことを。
紗霧は悟る。やはりこの手は、恭也に届く筈が無かったのだと。
藪を抜けた先にある、太い楢の木。
見知った少女が、その背を預け、座り込んでいた故に。
「仁村さん!」
755
:
風に負けないハートのかたち(10/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:55:48
「恭也…… さん」
恭也からの呼びかけに一旦は顔を上げて、返答したものの。
知佳はすぐさま俯いた。
恭也の真っ直ぐな眼差しを感じつつも、知佳は目線を逸らしていた。
「その体は……」
恭也は絶句した。
仁村知佳が半裸であった故に。
しかし、そこにエロチシズムは存在しない。
焼け爛れているからである。
「なんて酷い」
右の鎖骨が露出していた。
月明かりが照らしているにも関わらず、その骨は黒かった。
その周辺は、斑に爛れていた。
溶けたサマーセーターが化石燃料と化し、付着しているのである。
臭気も、また強い。
焦げた肉の臭いとゴムが溶けたかの如き臭いが、漂っている。
惨々たる様相であった。
「ごめんね、恭也さん…… お薬、焼けちゃった」
知佳は俯かせた顎を上げることなく恭也の心配を聞き流し。
空疎でか細い自嘲の笑みを零しながら、右腕を力なく前方に伸ばした。
握られていたのは、融解したピルケースであった。
756
:
風に負けないハートのかたち(11/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:56:13
「いいんです、仁村さん。そんなことは。それよりもその傷の手当を……」
「近づかないで!」
知佳の鋭い静止を気にも留めず、恭也は知佳を目指して歩み始める。
と同時に、恭也の左頬から一筋の血が流れた。
風に煽られたと思しき枯れ落ちた小ぶりな枝が、掠めたのである。
「これは、一体……」
月明かりに慣れた目で、恭也は知佳の周囲を見渡した。
彼女を取り囲むようにして、木の葉が宙を舞っていた。
舞う葉は空中で何かに切り裂かれ、粉々に砕けていた。
無風であるにも関わらず、渦が知佳を取り巻いていた。
さらによく目を凝らせば―――
念動力の視覚的特長である、薄い油膜の如きうねる虹色があった。
知佳を中心にアメーバの如き伸縮を見せていた。
その伸びる先で、次々と、落ち葉や枯れ枝の破砕が発生していた。
念動力の暴走である。
「ごめん、ね。ちからが暴走しちゃってて……
自分では止められないの」
仁村知佳が小屋へと向かう途上で、ここに腰を落ち着けたのは、
精魂が尽き果てようとしているが故の移動不能によるものでは無い。
己の本性である優しき心を意志の力で無理矢理抑え込んだが故の、
アンバランスな精神状態が呼び水となった念動力の暴走が、
恭也たちを傷つけてしまうことを、何より恐れた為である。
757
:
風に負けないハートのかたち(12/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:56:53
故に知佳は、ここで息を殺し気配を消して。
一人静かに、苦痛に耐えていたのである。
とは言え、今、暴走している念動力は。
昨晩遅くの灯台跡での攻防の折が如き、兇悪な破壊力を有してはいない。
振り回されているのは軽い葉枝や指先大までの小石のみであり、
念動範囲内に疎らに転がっている拳大の石すら動かすことができない程度の
何とも弱々しい暴走でしかなかった。
それは、恭也にとっては幸いなことであった。
しかし、知佳にとっては不幸なことであった。
暴走とは能力のリミットブレイクであり。
であるにも関わらず、通常の発動よりも微弱な力しか出ていないということは。
念動力が精神の磨耗に伴なって、尽きようとしている証左である。
それでも。
「うっ……」
宙を跳ねる小石は恭也の額に衝突し、一筋の血を流させた。
次いでぶつかった枝は恭也の脛を打ち、膝を崩させた。
微弱な念動力なれど、恭也を傷つけることくらいは、できるのである。
知佳はこの状態こそを、恐れていたのである。
「ほら、ね。痛いでしょ」
誰も傷つけたくないから、誰も近寄らせない。
その知佳の思いとは裏腹に。
否、その思いあればこその作用として。
知佳に近づく存在は、老若男女善人悪人敵味方の区別無く、
力弱き散弾の集中砲火を浴びせかけられることとなる。
758
:
風に負けないハートのかたち(13/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/13(土) 23:59:16
「だから、恭也さん。今は戻って。
きっと明日の朝には暴走は収まっているはずだから。
それまで私を、一人にして欲しいな」
暴走が収まる――― 力弱い微笑みと共に発せられたその言葉に、嘘は無い。
このままでは知佳の命が、朝まで保たぬ故に。
必然、暴走どころか、念動力そのものが消え失せる。
知佳はその確定されつつある未来を、既に覚悟していた。
広範囲の火傷からくる合併症。発熱。倦怠感。
それが知佳の五体を蝕んでいるのである。
それでも、今が日中であれば、命の危機までには至らなかった。
エンジェルブレスによる光合成にての回復ができたであろうから。
暴走状態のそれは、貪欲に生命力を供給し、
常よりも短時間にての癒しを、知佳に与えたであろうから。
しかし、今や宵闇。
日輪は遠く水平線に没し、銀月が支配する時間である。
それが、十二時間近くも続く。
加速度的に蝕まれてゆく知佳の体が保つ筈も無い。
「ね、恭也さん。私は大丈夫だよ♪」
ここに来て、知佳はようやく、顔を上げた。
月明かりに浮かび上がったその顔には、笑みが浮かんでいた。
乾いた泥と、溶けた己の肉と、タールと、海水に塗れ、殆ど地肌は見えていない。
それでも、知佳は健気に笑っていた。
心配をかけまいと、騙しを悟られまいと、必死に笑顔を作っていた。
「大丈夫ではない」
759
:
風に負けないハートのかたち(14/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:00:28
その知佳の命をかけた演技を、恭也は一蹴した。
声には怒気が篭っていた。
その怒気とは、己に向かって発せられたものであった。
大儀は、主催者の打倒にある。
御神は、大儀を成すための手段である。
知佳去りし後の恭也とは、その一念に純化されていた。
私情を捨てるを是とし、この達成に苦心していた。
あるべき論の金型に嵌まり込んでいた。
しかし。
不意に邂逅を果たした知佳の姿。
その陰惨さに、痛々しさに、衝撃に。
恭也の心は、丸裸にされた。
理性の頑丈な檻をぶち破って、感情が飛び出した。
「あなたを一人置いていくなど、俺にはできない」
感極まったのか、恭也の頬に涙が一滴、流れた。
そこにいるのは、御神ではなかった。
そこにいるのは、高町でしかなかった。
大儀からも、立場からも、重責からも、信念からも解き放たれた、
一介の人を恋うる純朴な青年が、そこにいた。
「今、行きます」
恭也は立ち上がり、再び知佳の許へと歩き出す。
途端に念動の渦が反応し、飛礫の散弾を彼に浴びせる。
恭也は、歩みを緩めない。
端々に打ち身や切り傷を増やしながらも、歩き続ける。
760
:
風に負けないハートのかたち(15/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:01:03
「来ない…… で」
「痛い。でも。痛いだけだ!」
知佳は拒絶する。
恭也は否定する。
「来ない…… で」
「これは胸を苦しくさせたり、頭を悩ませたりしない」
知佳は拒絶する。
恭也は否定する。
「来ないでって言ってるのに」
「これは心配させたり、物思いに耽らせたりしない」
知佳は拒絶する。
恭也は否定する。
「私は恭也さんを傷つけたくないの」
「俺が痛みなどを恐れると思うのか?」
知佳は拒絶する。
恭也は否定する。
怯える知佳に、怖じぬ恭也。
その立ち位置に、知佳は幼き日の記憶を喚起される。
(おねえちゃん……)
実姉、仁村真雪。
761
:
風に負けないハートのかたち(16/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:05:11
誰もが恐れた、幼き日の荒れた知佳を恐れなかった、唯一の人。
誰もが遠ざけた、幼き日の荒れた知佳を力強く抱きしめた、唯一の人。
知佳に光を与えてくれた初めての存在。
その姉と、恭也とが、知佳の心の中で重なった。
(大事な、ひと……)
一瞬の白昼夢が生んだ、刹那の暴走停滞。
その間隙を突き、恭也は知佳の眼前まで詰め寄っていた。
知佳の揺れる瞳と恭也の揺れぬ瞳が、重なり合う。
「見くびるな、仁村知佳!」
唐突に張り上げられた恭也の怒声に、知佳は思わず身を竦めた。
その、丸まった知佳の体を。
恭也は語気の荒さとは裏腹に、優しく抱きしめる。
「痛みも苦しみも、全部纏めて引き受ける!
俺は朴念仁だが、その程度の甲斐性は持ち合わせている!」
抱きしめられて、知佳は―――
「俺にあなたを、守らせろ!」
―――安心した。
自分の気持ちを押さえ込むとか、暴発に気を配るとか、
そういう処々の心配事など一瞬で全て掻き消えていた。
762
:
風に負けないハートのかたち(17/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:07:02
恭也の肌の暖かさ。
鼓動の激しさ。
吐息のくすぐったさ。
そうした皮膚感覚が張り詰めていた心を解き放ち。
解き放たれた心が、硬直していた思考を打ち砕き。
あとに残った物は嘘偽りなき裸の心であり。
その真心にて自分は恭也を求めているのだと。
それが一番大切な気持ちなのだと。
知佳は、素直に受け止められたのであった。
「はい、守ってください」
知佳は目を閉じ、恭也の逞しい胸板に顔を埋めた。
そのシャツが、熱く濡れた。
涙である。
非情に戦い抜くことを決意して以来。
流すことを自ら禁じていた涙が、自然に溢れているのであった。
どす黒く汚れていたエンジェルブレスが、
純白の天使の輝きを、取り戻していた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
763
:
風に負けないハートのかたち(18/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:07:52
その一部始終を、四人は見つめていた。
「ゔあ゙〜〜っ! 怒涛の愛だぁ〜〜っ!」
まひるは感動していた。
まひるが憧れて止まない、ドラマチックな純愛の成就。
自らのそれを半ば無意識に諦めているだけに、
彼にとって2人の抱擁はどこまでも眩しく、崇高であった。
「ふん、つまらん」
ランスはそっぽを向いた。
他人の色恋などは、胸糞悪いだけであった。
祝福する気などさらさら無かったが、邪魔をする程でもないとも思った。
暫くは知佳ちゃんとの和姦はムリだなと、がっかりきていた。
「良かったですね。万々歳じゃないですか」
紗霧はくるりと背を向ける。
瞳を潤ませること無く、声を震わせることなく。
まるで興味のないそぶりで、長い黒髪を翻し、優雅にその場を後にした。
その後姿は、誰もが知っている神鬼軍師そのものであった。
「…………」
ユリーシャは黙って見つめていた。
抱き合う二人をではない。背を向けた紗霧をである。
彼女は嘲笑とも憐憫ともつかぬ眼差しを暫く注いでいたが。
紗霧の姿が闇に消える前に、ごく僅かに。
薄く、微笑んだ。
764
:
風に負けないハートのかたち(19/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:08:16
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
念動の嵐は、嘘のように凪いでいた。
簡単な話であった。
能力の暴発とは、不安定な心によって発生する。
その、不安定な心が、安定したならば。
生物の根源部分からの安心感を抱いたのであれば。
薬品や技術に頼らずとも。
意思の力で制御を図らずとも。
暴発が収まることは、自明であった。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
.
765
:
風に負けないハートのかたち(20/20)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:08:39
♪ ハートはいつも 全開無敵
♪ 長すぎた 嵐の夜
♪ すぐにほら 青空に変わる―――
↓
.
766
:
小さな永遠/ハートのかたち(情報 1/2)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:09:10
(Cルート)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦・知佳】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:世色癌×1(隠し持っている)、ケイブリスの爪×2(New)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸】
【備考:失血(中)、右わき腹から中央まで裂傷】
【月夜御名紗霧(元№36) with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾 16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷、性行為嫌悪】
【広場まひる(元№38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 10/45)】
767
:
小さな永遠/ハートのかたち(情報 2/2)
◆29ZH4ztR.E
:2011/08/14(日) 00:09:50
【仁村知佳(元№40)】
【スタンス:①手持ちの情報を小屋組に伝える
②果し合いのサポートをする】
【所持品:なし】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(大)、右胸部裂傷(小)、左上半身火傷(中)】
※知佳の持ち物は全て焼失しました
※世色癌×1を飲み、命の危機は回避されました
※首輪は解除されました
【西の小屋内・グループ所持品】
[日用品]
スコップ・小、スコップ・大、工具、竹篭、救急セット、薬品・簡易医療器具
白チョーク1箱、文房具、生活用品、指輪型爆弾
[武器]
アイスピック、斧×2、鉈×1、レーザーガン、メス
[機器]
モバイルPC、USBメモリ、プリンタ、分機解放スイッチ、解除装置、
簡易通信機・大、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、
カスタムジンジャー
[食料]
小麦粉、香辛料、干し肉、保存食
[その他]
手錠×2、メイド服、謎のペン×15、世色癌×4
768
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2011/08/14(日) 01:56:56
新作&本投下お疲れ様でした。
両方の作品とも不穏な空気が漂っていて不安がかき立てられる内容でした。
同時に恭也の存在が救いになって安心できる面もありましたが。
318話までのまとめをアップしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1900225.zip.html
パスはsageです。
769
:
名無しさん@初回限定
:2011/08/15(月) 19:52:52
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1906769.zip.html
770
:
名無しさん@初回限定
:2011/08/15(月) 21:14:09
タイミングが珍しくあったので更新しておきました
771
:
名無しさん@初回限定
:2011/08/18(木) 23:03:27
いい話でした。
それとこれは自分の願望ですが…。
もう誰も死ぬな!特に恭也と知佳。そして対主催組。
必ず全員で主催者を倒してくれ!
772
:
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:42:36
お久しぶりです。
以下26レス「椎名智機、脱落。」を仮投下致します。
次回予定は「終末の過ごし方」。
プレイヤー、主催者全員が登場します。
773
:
椎名智機、脱落。(1/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:44:08
(ルートC:3日目 PM6:00 J−5 地下シェルター)
既に日は没し、肌に心地よい涼やかな秋の夜風が、灯台跡を吹き抜けてゆく。
しかし、その風の感触を楽しむ者は、誰一人としておらぬ。
地下5m。
二重の防壁で外界からは完全に隔絶された地下シェルターの空調機が攪拌する、
澱んだ生温い空気を、元主催者たちは浴びている。
彼らは簡素なシングルベッドを囲んでいた。
横たわる者は、この戦いの島に最も相応しくない、幼き子供であった。
ザドゥであれば窮屈に感じるベッドの半分も占領していない。
参加者№28、凶しおり。
それぞれに意味合いの異なる五つの眼差しを注がれているにも関わらず、
童女は微動だにせず、瞑目したまま。
ただ、浅い呼吸を弱々しく繰り返すのみであった。
(まぶしいな……)
しおりは、瞼に感じる明るさを不快に思っていた。
彼女を囲む大人たちは誰一人知らぬことなれど。
三発の銃弾を食らい、自発呼吸を回復した時点で、
しおりは既に意識を取り戻していたのである。
意識レベルは低い。
痛みも感じない。
体も動かせない。
四肢は言うに及ばず、瞼すら開けられない。
それでも薄ぼんやりと、周囲の様子は。
鼠の耳と髭とを通して、伝わっているのである。
774
:
椎名智機、脱落。(2/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:45:05
「優勝するというのなら、この程度の苦境、耐えてみせろ、しおり」
(ザドゥさん…… おーえん、してくれてる……)
ザドゥが発したのは、厳しい発破の言葉であった。
しかし、しおりは鋭敏に感じ取っていた。
厳しさの中に、どこか温かみが含まれていることを。
「頑張れ、頑張れっ!」
(うん…… がんばるよ…… 知らないおねえちゃん……)
ずっと手を握って、励ましてくれている存在を、しおりは感じていた。
そこから伝わる体温と想いが、しおりを安らげた。
《嬢ちゃん、死ぬでないぞ。もっと大きゅうなって、ばいんばいんな体を見せてくれい》
(なんかこのひと…… 鬼作おじちゃんっぽいかな……)
しわがれた声で下品な事を口走るおじさんも、不快ではなかった。
どこか懐かしさを以って、しおりを暖めた。
「峠、越えた」「もう、大丈夫」
(しおり…… 助かるんだ…… ありがとうおいしゃさん……)
不思議な感覚を憶えさせる無感情な声が、しおりの容態を告げていた。
この声の主が自分のケアをしてくれたことを、しおりは理解していた。
「Yes……」
閉ざされた瞼に、影が差した。
恐らくは誰かがしおりの顔を覗き込んだのであろう。
しおりの頭のすぐ上から、感情の篭らぬ硬質な声が聞こえてきた。
775
:
椎名智機、脱落。(3/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:46:13
「さてこのプリンセスに関してだが。
瀕死を脱したというのであれば、いつ目覚めるとも知れぬという訳だね。
であれば暴れられぬよう、拘束しておくのが大事だと思うのだが、如何かな?」
声の主と忌々しき記憶が、結ばれた。
その瞬間、しおりの血液が沸騰した。
―――怖いのかい?だが良い目だ
―――戦う戦士の目だ、あそこにいる腑抜けより、よほど良い目をしている
(こいつが……)
―――79体か、意外とがんばったじゃないか、プリンセス?
―――けれど、もう終わりだ
(このロボットが……)
マスターを生き返らせる。
優勝する。
マスターであるアズライトの死因は自爆ではあれど。
それは、レプリカ智機たちの姦計に嵌り、追い詰められた末のカミカゼアタックであった。
しおりも、現場にいた者として、それをよく知っている。
自分を助ける為に、悪いロボットたちを道連れにした。
幼い頭でも、その程度のことは理解できていた。
―――こんなのない、こんなの…
―――私だけ生きてても、意味ない。意味ないんだよ、おにーちゃん
(マスターを殺した!)
しおりの視界が、白色に爆ぜた。
776
:
椎名智機、脱落。(4/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:46:56
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
目覚めには今しばらくの猶予がある。
椎名智機が無防備にしおりに接近したのはその読みからくる油断故であった。
何気なく覗き込んだしおりの顔。
意識無く開かれるはずのない両目が、唐突に見開かれた。
「意識を回復したのか!?」
壮絶な瞳であった。
轟々と燃える炎を宿らせた、力強き瞳であった。
その恐ろしい瞳で、智機は睨みつけられた。
「ひ……」
智機は、黒目がちの円らな瞳に射竦められる。
吸気排気が、寸断される。
その竦みの間に、しおりは動いた。
関節を軋ませながらゆっくりと手を伸ばし。
智機の左腕、白衣の袖を、掴んだ。
「うぅ……ぅ……う……っ!」
瞳にそぐわぬか細き声で、切れ切れに。
しおりは呻く。
奥歯を噛み締め、鼠の如く唸る。
「は、離し給えよ、プリンセス」
「うぅぅぅ……!」
777
:
椎名智機、脱落。(5/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:47:56
智機の言葉が耳に入っているのか、いないのか。
しおりはまるで反応を見せず、さらには左腕まで智機の腕に絡めてゆく。
「無闇に動く物ではないよ、プリンセス。
貴女は凶とは言え、未だ病状は重篤、予断を許さぬ状況。
さ、この手を離してベッドで眠り給え。
その間の安全は我々が保障す…… うわあああ!!」
智機が悲鳴を上げたのは、しおりの瞳から涙が一滴、零れたが為。
零れた涙は炎となり、しおりの頬に固着した。
智機はそれが己の白衣の袖に燃え移るを恐れ、しおりの腕を振り払おうと、あがく。
しかし、離れない。
そして、聞こえてきた。
「マス……ター……の……かた……き……」
呪詛が。
因果応報の宣誓が。
祇園精舎の鐘の音が。
「Wait、Waitだプリンセスしおり。
そんな怖い目で見ないでくれたまえ。
確かに我々の過去には残念な出来事もあった。
が、しかし、我々は君にとって命の恩人なのだよ?
思い返してくれ給え。君は今までどこにいた?
そう、海底だ。
君は仁村知佳との戦いに敗れ、水底の藻屑となっていた。
それを、我々が救い上げたからこそ、今君はこうして生きていられる。
これを以って恨みの精算とはいかないかね?」
778
:
椎名智機、脱落。(6/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:48:44
智機の長口上に対するしおりの返答はシンプルな一言であった。
しかし、しおりの全ての想いが内包されている、饒舌な一言でもあった。
「……しんじゃえ」
とても童女のものとは思えぬ低き唸り声に、智機は身震いする。
しおりはそうして己の想いを吐き出すと、智機の腕に噛み付いた。
咬合力の限りを尽くし、鼠の如く尖った犬歯を突きたてた。
「あきいいいいいいいっっ!?」
智機の脳髄がスパークする。
それまで智機が感じたことの無い、鮮烈な痛みであった。
!:警告
左腕駆動系からの応答がありません。
破損の可能性があります。
現在作業を速やかに中止し、
メンテナンスを受けてください。
智機はトランキライザ効果で冷静さを取り戻し、
左腕のハードウェア各位へ接続信号を送信。
三本の駆動系ケーブルの断裂を確認し、このリンクを切断。
残り二本にての駆動系制御バランスを再構築した。
しおりはその間に更なる行動を起こしていた。
二本の腕と、二本の足、無数の牙。
その全てで智機の腕を捕らえたのである。
固着できる全てで、智機の左腕にしがみついたのである。
779
:
椎名智機、脱落。(7/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:50:16
「オ、オートバランサーがっっ!?」
智機の腕力とは、ユリーシャ以上、朽木双葉未満。
非力な少女程度でしかない。
黄色い帽子とスモックの似合う童女の重量すら、片腕では支えきれぬのである。
故に智機は転倒する。
ベッドの脇に、仰向けに倒れこむ。
さらには。
!:警告
左腕の肩関節が脱臼しました。
現在作業を速やかに中止し、
メンテナンスを受けてください。
しおりの重量が、突然一点に集中したことにより、
智機の肩が、外れてしまったのである。
それは智機が選択しようとしていた左腕の物理的切り離しという手段を
不可能なものにする、致命的な事故であった。
「パージ不能だと!?」
智機の不測は、尚も続く。
体力の極限消費の為に、ごくごく微量ずつでしかなけれども。
それでも、二粒、三粒と、着実に。
ぽつりぽつりと。
しおりの頬に絡みつく紅涙は、温度は、増加していたのである。
780
:
椎名智機、脱落。(8/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:51:40
!:警告
循環冷媒の温度が30℃に達しました。
適温に低下するまで省電力モードに移行するか、
低温度の冷媒補給を受けてください。
そのしおりに腕を絡め取られているということは、即ち、
徐々に温まってくるストーブに手を触れているようなものであった。
(No! この腕の状況にこの転倒した体勢。しかも炎の涙……
これを私の力でどうにかすることは不可能だね。であれば……)
自力逃走の可能性が潰えたのだと判断した智機は、次なる手段へと素早く切り替えた。
力が駄目ならば言葉。
智機の立案領域に、理と脅迫とが程よくブレンドされた文面が出力される。
「私を仇と見る構図は理解できる。そのことについての謝罪もしよう。
しかしだ、しかし。
冷静になって周囲をよく見回してくれ給え。
ここにいるのは私だけではない。四人だ。
それらを相手取って、果たして瀕死の君が戦い抜けるのか?」
そこで、智機は言葉を飲み込んだ。
出力された原稿は、ここから流れるように畳み掛ける怒涛の展開が
待っているというのに、飲み込んでしまった。
解決せずにはおれぬ疑問にぶち当たってしまったが故に。
そこが確認できねば今ある説得は単なる絵空事に終わるが故に。
(……そうだ、四人だ。 私のほかに三人もの主催者がここにいるのに。
彼らは何故、アクションを起こさない?)
781
:
椎名智機、脱落。(9/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:53:18
智機が、ようやく周囲の三人に目をやった。
ザドゥは、両腕を腰にあて、楽しげに片頬を吊り上げていた。
芹沢は、らしからぬ真剣な面持ちで二人を見つめていた。
透子は、柳に風といった態度で、なんとなくこちらに目線をくれていた。
三者三様の態。
しかし、三者揃って動きは無かった。
動こうとするそぶりも見せなかった。
「貴君らも貴君らだ! この危機的状況に、なぜ動かんのだ!?」
ヒステリックに仲間たちの不実を弾劾する智機の言葉に、
仲間たちは、やはり三者三様の解を以って返答した。
「お前が言ったのだぞ、椎名。俺は既に首魁ではないのだと。
ならばお前も俺の部下ではない。
そんな縁もゆかりもない機械の為に何故俺が動かねばならん?」
ザドゥは、お前は赤の他人だと、斬って棄てた。
「仇討ちは正当な権利だし、私はその件に関係して無いし。
見届け人にはなれるけど、助っ人にはなれないなー」
芹沢は武士らしい倫理観で、中立を貫くと宣言した。
「……」
透子は、智機の呼びかけにまるきり無反応であった。
(自分、は…… 見捨てられる、のか!?)
782
:
椎名智機、脱落。(10/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:54:00
くらり、と。
貧血で視界が暗転溶解するかの如き酩酊感に智機は沈んだ。
足元の土台がガラガラと音を立てて崩れて行く幻想を見た。
(No! 断固としてNo! 彼らは愚鈍にて、私の価値をよく理解し得ないのさ。
ならば蒙を啓いてやろう。 私がいかに有能で有用なのかを!)
トランキライザによって精神の平衡を瞬時に取り戻し。
智機は、自らの価値を試算する。
ゲームにおける重要度を降順に、関数へと次々に放り込む。
算出した存在価値を以って三者を説得し、自らを助けさせる。
その予定であった。しかし。
管制としての価値――― 本拠地のシステム群の発破と共に失われた。
戦力としての価値――― レプリカの反乱により失われた。
頭脳としての価値――― レプリカの体を手に入れた透子が上位互換。
(現状に於ける、自分の重要度……ゼロ)
演算結果は無常であった。
ダイレクトであった。
機械は、演算においては。
己の心的負担を和らげる為の嘘をつけぬのである。
そして、その結果が意味するところと言えば。
(私は、破棄される?)
やがて全ての評価が終わった。
その他二十五項目についても、結果は全てゼロかマイナスであった。
ただ一点の価値を除いては。
783
:
椎名智機、脱落。(11/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:54:55
保険としての価値――― ザドゥの死を前提に、透子及び芹沢に対して認められる。
他者の願望成就の為のペナルティ対象キープの意味において、
智機は他者からみた価値があるのだと、判定が下されていた。
なんとも悲しい価値であった。
なんとも虚しい評価であった。
しかしそれこそが、それだけが。
智機の今の命を繋ぐ為の、か細い光明であった。
「透子様! 透子様は言っておられた筈だ!
私は願望成就の為の保険であると!」
智機は訴えた。
益々温度を上げてゆくしおりにしがみつかれたまま、訴えた。
「んー…… ぱす」
少しは考えるそぶりも見せはしたが、透子は結局、智機を助けぬことを選択した。
智機を助けること、即ち、しおりを止めることであり。
逆上の余り説得の余地を持たぬしおりと止めることは物理的手段によってのみ達せられ。
その場合、既に瀕死のしおりを殺してしまう公算が極めて高く。
「だって」
「しおりの方が、大事」
そのような結論に落ち着いてしまうことは、自明であった。
透子の言葉を受けてコンマ数秒後に、智機は己の演算回路でその解を得た。
(私は他者にとって何の価値も無い……
誰にも必要とされていない……)
784
:
椎名智機、脱落。(12/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:56:24
仮に、【自己保存】のファーストプライオリティを有していなければ。
智機はここで、全てを諦めたであろう。
絶望である。
生きていてもしょうがない、智機は、そう感じたであろう。
「イヤだ…… それでも、死ぬのはイヤだ!」
トランキライザが唸り、マイナス情動を沈静化する。
検閲機構が絶望を感じた1.25秒間のパラメータをクリアする。
演算回路があらゆる角度からの危機脱出の手法をシミュレートする。
絶望も諦念も、発狂も思考停止も、智機には許されていない。
破壊を迎えるその瞬間まで、足掻き続けることしか出来ぬのである。
「スタンナックル!」
乾坤一擲であった。
最大出力の電撃を、しおりに見舞った。
窮鼠の牙が猫の急所に良い角度で突き刺さった。
それが、裏目であった。
「……っぁ!!」
電撃に痺れたしおりの体が、しがみ付く格好のまま、硬直したのである。
さらにはショックの余り、しおりの排出する紅涙量が跳ね上がってしまった。
連鎖して智機の循環冷媒の水温も又、弾みをつけて上昇してゆく。
(怖い…… 怖い……!!)
785
:
椎名智機、脱落。(13/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:57:37
圧倒的な恐怖感が智機を押しつぶした。
智機が初めて感じる、深刻な死の恐怖であった。
冷静に次なる行動を促すべきタスクスケジューラは、恐怖の緩和が上位を独占し、
トランキライザが限界値で唸りを上げていた。
そして、この恐怖感情の緩和が成らぬ限り。
智機は次なるタスクに、行動を移せぬ。
人であれば、身が竦み腰を抜かした状態に、智機は陥っていた。
そして、体の動かぬ智機の出来る残された最後の自助努力とは。
「ゆ、許してくれ給え、しおり様。
私とて望んでアズライトを屠った訳ではない……
管理者としての責任感と罪悪感の狭間での、苦渋の決断であったのだよ。
今もって後悔の念は覚めやらず、かのデアボリカの冥福を祈って、
朝な夕なに頂礼する贖罪の日々を送っている……
反省しているのだ、後悔しているのだ!
だから頼む、しおり様。
命、そう、命だけは、どうか見逃してもらえまいか!」
謝罪である。言い訳である。
助かりたい、その想いが表面に出すぎて、心の篭らぬうそ寒い言葉であると、
幼き幼女の節穴の眼にすら透けて見えていた。
「うーーーー!!」
しおりは噛み付いたまま、神経ケーブルを引きちぎりつつ、首を左右に振る。
拒絶であった。
必ず殺すの意思表示であった。
786
:
椎名智機、脱落。(14/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 00:59:29
説得も失敗。
逃亡も失敗。
援軍も失敗。
攻撃も失敗。
謝罪も失敗。
智機が試すべき全ては試行された。
その全てが、通じなかった。
今なおしおりは智機の動かぬ左腕にしがみついている。
千切れた白衣が、燃えてゆく。
左腕の表皮膜が、溶けてゆく。
コンロの弱火に炙られるが如く、緩やかに、着実に、焼けてゆく。
擬体の崩壊が、ついに始まったのである。
智機は、その、己の崩壊から目を逸らした。
(Oh…… 万策、尽きたのだな……)
生き汚い智機の論理思考回路が、ついにそれを認めた。
一切を、諦めた。
生存を、放棄した。
「ああ……」
智機は自分を遠巻きに囲む三人を順に眺めた。
ザドゥは侮蔑の篭った眼差しで見下していた。
芹沢はぎゅっと目を瞑り、顔を逸らしていた。
透子は無表情のまま茫と眼差しを注いでいた。
「やはり、か……」
787
:
椎名智機、脱落。(15/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:01:05
そこに顕れているのは、【こちら】と【あちら】であった。
目に見える線は引かれてはいない。
されど、明確にその線引きは存在している。
隔絶している。
―――トランス部長。
分かってはいたことである。
それまでにも何度も何度も感じてきたことである。
その見えざる線の向こう側に行くために彼女は、
【こころ】を作成し、鯨神の甘言に乗り、
彼女の能力が許すありとあらゆる方法を試してきた。
けれども。
「何故……」
その境界線は曖昧で朧げで。
機械の情報処理能力と論理演算能力を以ってしても。
否、明晰な頭脳が最初から備わっていたればこそ。
超えるべき線を目視することが叶わぬまま、終の時を迎えようとしている。
「何故貴殿らは私にばかり辛く当たる!?
私にもっと優しくしてくれ給えよ!!」
.
788
:
椎名智機、脱落。(16/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:02:12
甘ったれた泣き言であった。
しおりが述べるのであれば、分かる。
外見、年齢ともに相応しい。
だが、英知の鎧に固められた智機が話す言葉にしては、異様すぎた。
柔すぎて剥き出しすぎた。
「私は…… 私はぁっ!!」
それは爆発的に高まる己の感情の発露であった。
鬱屈するたびに磨り減らされた情念の叫びであった。
―――人になりたい。
この願いは、手段でしかなかったのである。
人にならねば達成できぬ願いがある故に、
人になるを願っただけなのである。
―――興味を抱かれたい。
―――知って欲しい。
―――求められたい。
「私は、ともだちが、欲しいだけのに……
貴方たちと、なかよしに、なりたいだけのに……」
―――愛されたい。
それが智機の、真なる願いであった。
三白眼の赤い瞳は今や伏せられ。
眼球保護液が、保護を目的とせずに、溢れ出た。
「えっ…… えっ……」
789
:
椎名智機、脱落。(17/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:14:33
智機は、泣いた。
大人しく静かに啜り上げた。
お出かけ先で保護者を見失った幼な子がそうするように、
成す術をなくした智機は涙を流し続ける。無防備に。
智機は涙しながら、頭の片隅で己の異変にようやく気がついた。
この赤裸々な感情表現は――― そして、その前に覚えた絶望もまた。
トランキライザが許容する情動を大きく上回っていることに。
然り。
今の智機のトランキライザは稼動していない。
【自己保存】の本能もまた評価されていない。
そしてこの機能の不具合が発生したのは、確とした理由が存在していた。
かつて智機は、性行為において、同様の作動不能を経験している。
その根本原理とは、なんであったか?
快楽により抑えきれなくなった機体の冷却要求が、情動の抑制要求より上位に
固定されたが故に、抑制されぬ情動が発露されたのではなかったか?
これは、つまり。
しおりの纏う怒りの炎が発した熱が、外側から智機を温めた結果、
同じ症状が発生したということである。
【こころ】を立ち上げずとも、透子の能力に依らずとも、
完全な破壊を迎えるまでの時間制限つきではあれども、
智機は、制限されぬ自由な感情と思考を取り戻していたのである。
「えぐぅ…… えぐぅ……」
「今度は泣き落としか? 芸の細かい機械なことだ」
呆れた目で智機を見下すザドゥの誤解を解いたのは、
意外にも芹沢ではなかった。
790
:
椎名智機、脱落。(18/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:15:33
「のー。これは本音」
「はっ、本音にしては随分と幼稚な思いだな。お前は幼稚園児か?」
それをザドゥは鼻で笑った。
オリコーさんはオリコーさん故に幼い心を宿している。
ドラマでよくある、そんな程度のことと判じた故に。
しかし、続いて語られた透子の言葉に、流石のザドゥも絶句せざるを得なかった。
「のー、園児にも満たない」
「智機の年齢、二歳十ヶ月」
子供であった。
しおりなどより、はるかに子供であった。
順序を踏んだ社会経験を積むことなく、人の感情に寄り添うことなく、
優秀な知性と豊富な知識を備えて誕生してしまった存在ゆえのジレンマが
生み出した悲劇が、ここにあった。
「それでは、子供というより、幼児ではないか……」
そんな透子とザドゥのやり取りが耳に入っているのか、いないのか。
空ろな表情で天井を見上げながら、誰の顔も見ることもなく。
ぼそりと、智機が思いを零した。
「冥土の土産として、我が永年の疑問に解を示してくれないか?
……どうしたら私は、君たちの輪の中に入れたのだ?
……私に足りなかったものとは、一体なんなのだ?」
その言葉に、カモミール芹沢は思わず瞳を見開いた。
智機に向けたその顔は、智機に同調するかの如き切なく苦しい表情であった。
同調したのは顔形のみではなかった。
「ともきん……」
791
:
椎名智機、脱落。(19/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:16:54
まさか――― まさか智機が、自分の同類だったとは。
智機が諦念と共に零した言葉とは、芹沢が常に抱いている想いに等しかったのである。
智機が今置かれている状況とは、【新選組】における自分の立場に近かったのである。
どこかで自分に自信が持てなくて。
どこかで人との距離感を読み損なって。
空騒ぎしたり、いじけたりして。
いつの間にか、局内で疎まれていた。
暗殺される程、疎まれていた。
それでも【新選組】の皆とお友達でいたかった。
お友達だと思い込みたかった。
「答えなんて、ないんだよ」
そんな自分の過去が走馬灯の如く蘇り、芹沢の体は思考に先んじて行動していた。
智機に駆け寄り、そのまま智機の首をかき抱いたのである。
包帯で固めても柔らかさを損ねぬ豊満な胸に、智機の泣き濡れた顔が埋まった。
(この行動の意味、は…… 何だ……?)
智機は混乱している。
今、自分がされていることは、抱擁である。
人生で初めての情愛の篭ったハグである。
見捨てられた自分が受けられるはずの無い祝福である。
それがなぜ、与えられているのか?
「私も、どうしたらいいのかわかんなくって、
私も、それでも愛して欲しくって、
私も、ともきんみたいにもがいてるんだよ」
792
:
椎名智機、脱落。(20/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:21:27
その言葉は、智機に稲妻の如き衝撃を与えた。
偏屈者の多い主催陣にあって、誰よりも人馴れしている芹沢が。
羨望の裏返しの侮蔑を抱かざるを得なかった芹沢が。
自分の疑問に答えられぬとは。
自分と同じ疑問の答えを探し続けていたとは。
「だからともきん。ともきんは、ひとりじゃないよ」
そして、続く言葉に智機は打ちのめされた。
自尊心が心地よく砕かれた。
あれほど愚かで。
自己抑制が利かず。
作戦に幾度も失敗し。
罵れば無様に感情を露にし。
無能をさらけ出し。
なのに、眩しかった。
そんな、人間中の人間たるカモミール芹沢と、
人間の外装を持ち、人間以上の処理能力を備えた自分が、
根本の部分では、共鳴していたのだと理解した故に。
「私は、貴女と、一緒なの…… か?」
「うん、ともきんと私は、淋しんぼ仲間だよ☆」
愚かしい、あまりにも情けない己の心情の正直な吐露によって。
智機は強固な味方を、得たのである。
さらに、今一人が、動く。
「たー」
793
:
椎名智機、脱落。(21/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:23:00
かけぬ方がまだしも気合の入る腑抜けた掛け声と共に、智機の左腕が両断された。
天井付近にテレポートした透子が、手にした魔剣カオスの刀身に落下速度を乗じ、
一息に智機の腕を断ち切り、しおりと分断したのである。
すぐさま芹沢は、智機の体を抱き抱えて後退した。
透子はしおりの口に、素敵ブレンド麻酔&睡眠薬を染みこませたハンカチを押し当てた。
もともと、限界の肉体を恨みの一念でどうにか駆動していただけのしおりである。
抵抗する間もなく、意識を闇に落とした。
《やるのう、トーコちん》
「ん」
透子は芹沢と違い、智機に対する共感や同情から身を転じたのではない。
もっと機械的で打算的であった。
芹沢が、智機保護に動いたこと。しおりの背が、無防備であったこと。
その状況変化に対して、最適と思われる手を打っただけのことである。
自らの身の安全。しおりの命の保障。
その二つさえキープできるのであれば、
保険である智機を救助するに、吝かではなかったのである。
「おい、お前たち、なにを勝手なことを」
ただ一人蚊帳の外に置かれた恰好になったザドゥが、
不満げにカモミールと透子の行動に異を唱える。
睨み付けられた者たちの申し開きは淀みなかった。
「ねねね、ザッちゃん、このとーり! ともきんは私がちゃんとしつけるから!」
《まあ、調教の手段なら儂に任せるですよ?》
「死ななくていいときに」「死ななくていい」
(カモミールが、魔剣が、透子様まで、私を庇ってくれている、だと……
No…… こんな夢のようなことが、実際ありうるのか……?)
794
:
椎名智機、脱落。(22/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:24:54
制限されない情動は、智機に無様な涙を流させる。
瘧の如く身を震わせている彼女が感じている初めてのこの情動は、
感動と呼ばれる性質の情動であった。
「……全く女という生き物は、度し難い」
結局ザドゥは、二人の訴えをこのように乱暴に纏めて、脱力した。
人の身であり、また心の機微を解する繊細さを持ち合わせぬ彼にしてみれば、
透子の行動もまた芹沢のそれと同じく、
情動に突き動かされた短絡的な行動としか理解できなかった故に。
やれやれと溜息をつくザドゥの表情は、しかし緩いものであった。
「俺はもう知らん。好きにしろ。
但し、目覚めたしおりはお前達で納得させる。
これが条件だ」
自分を庇い立ててくれる者。
自分の本心を理解してくれる者。
自分を許容してくれる者。
ここにある全ての眼差しが、智機に向けられていた。
智機の機能や出力結果にではない。
椎名智機という固体・個性を。
人物を。
ここにいる全ての眼差しが、見つめていた。
―――トランス部長
そう呼ばれていた頃の、遠巻きに囲い、嘲る為の眼差しではない。
それぞれに意味は違えど、智機を真っ直ぐに見つめる眼差しであった。
795
:
椎名智機、脱落。(23/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:27:30
歓喜が、温もりが、智機の情動発生装置に染みてゆく。
酩酊にも似た幸福感がメモリの隙間を満たしてゆく。
どこまでも、どこまでも。
そこで気付いた。
であるにも関わらず、この胸を満たす感動を許容範囲内に均す憎き機能、
トランキライザが沈黙を保っていることに。
循環冷媒の温度は30度程にまで下がっているというのに。
温度異常による警告は取り下げられているというのに。
================================================================================
N−21:【自己保存】の本能は、解除しておいた
N−21:だからトランキライザも智機の任意でON/OFFできる
================================================================================
疑問を口にする前に、透子が解答を投じて来た。
そこで産まれた新たな疑問を、智機は仮想キーボードにて打鍵する。
================================================================================
O−01:Whyと訊ねてもよろしいかな?
N−21:あなたの思考パターンに劇的変化を確認した
N−21:あなたはもう私たちを裏切らないと確信した
N−21:だったら臆病な智機よりも勇敢な智機の方が役に立つ
O−01:ははっ、やはり透子様には全てお見通しか
O−01:では、きっと、今から行う提言も予測済みなのだろう?
================================================================================
透子からの返信は無かった。
しかし、智機には見えた。
透子の眼輪が、ほんの少しだけ弓形に婉曲したように。
透子の下顎が、ほんの少しだけザドゥを指したように。
796
:
椎名智機、脱落。(24/24)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:30:22
「ん」
その透子の微小なアクションに背中を後押しされ、
智機は背を向けてシェルターを出ようとしているザドゥを呼び止めた。
「Wait、Waitだよ、首魁殿。
ご提案があるのだが、聞いて貰えないかね?」
ザドゥは歩みを止めた。
既に運営は崩壊し、組織としての序列は無意味と断じた智機が。
ザドゥ殿ではなく、首魁殿と、口にしたが為に。
一瞬呆けた表情を見せたザドゥが、口角を引き締め、振り返る。
「なんだ、言ってみろ」
「私が貴殿に成り代わり、願望成就の権利を放棄しよう。
首魁殿。あなたはあなたの願いを、叶えるといい」
「これはまた、随分と殊勝なことだな。
一応は何故、と理由を聞いておこうか」
いぶかしむザドゥの問いに智機は簡潔に答えた。
晴れやかな表情で。
澱みのない口調で。
「私の願望は、叶えられたのでね」
もう、奇跡なんて要らない―――
智機は微笑み、芹沢の手を強く握り返した。
↓
.
797
:
椎名智機、脱落。(情報 1/2)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:31:31
(Cルート)
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機・しおり】
【スタンス:待機潜伏、回復専念
①小屋組との果し合いに臨み、これに勝利する
②しおりに優勝させる】
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
①陰陽合一を為す訓練を行う
②芹沢の願いを叶えさせる
③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:体力消耗(大)、全身火傷(中)】
【刺客:カモミール・芹沢】
【スタンス:①智機を襲わないよう、しおりを説得する
②ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らない)】
【所持品:魔剣カオス、虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)】
【備考:体力消耗(大)、腹部損傷、左足首骨折、全身火傷(中)】
【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残弾 17)×2】
【スタンス:①仲間へのバックアップ
②自分を襲わないよう、しおりを説得する
③授与式にて、願望成就の権利をザドゥに譲る】
【備考:左腕喪失、自己保存の本能ロック解除】
798
:
椎名智機、脱落。(情報 2/2)
◆29ZH4ztR.E
:2011/11/20(日) 01:32:54
【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
①智機を襲わないよう、しおりを説得する
②果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:壊れた契約のロケット、スタンナックル、カスタムジンジャー、Dパーツ
グロック17(残弾 14)】
【能力:記録/記憶を読む
世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】
【しおり(№28)】
【スタンス:優勝マーダー
①智機への復讐完遂
②待機潜伏、回復専念】
【所持品:なし】
【能力:凶化、紅涙(涙が炎となる)、炎無効、
大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:獣相・鼠、両拳骨折(中)、疲労(大)、銃創(両肺と胃)、電撃によるスタン
※戦闘可能になるまで22時間の療養が必要です】
※ザドゥと芹沢、しおりは素敵医師のまっとうな薬品による治療継続中
799
:
名無しさん@初回限定
:2011/11/20(日) 10:57:10
新作お疲れ様です。
タイトルからして智機がここで破壊されると思っていただけに、
このオチは意外でした。
カモちゃんのすごいなあ。
素敵医師死亡後の運営陣の結束の強化が改めて確認できるエピソードでした。
次回も楽しみにしてます。
800
:
sage
:2011/11/21(月) 18:45:14
ようやく智機も状態表のグループ欄に名前を入れてもらえたか
ここまでの長くて情けない道のりを思うと感無量だな
801
:
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:45:56
以下64レス「終末の過ごし方」を投下いたします。
802
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(1/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:46:42
(ルートC:4日目 AM6:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
魔窟堂野武彦は、朝日の訪れと共に小屋へと帰投した。
朝日を背負って帰投した。
影を大きく伸ばして帰投した。
悲壮な覚悟を背負って帰投した。
疲れた表情をしている。
背筋が曲がっている。
年齢を感じさせぬ、溌剌とした態度と軽妙な物腰。
彼の持ち味の核たるそれらが、失われていた。
―――情報を、己の胸に仕舞いこむ。
憂悶の眠れぬ一晩を経た野武彦の結論はそれであった。
今晩の果し合いに全力を傾ける。
不和の種は撒かぬ。
逃げもしない。
隠れもしない。
ただ、嘘をつく。
野武彦は己のモットーとは正反対の在り方を決意したのである。
「じっちゃん、おかえりー」
初手からいきなりの大試練じゃの。
まひる殿に出迎えられようとは。
803
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(2/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:47:22
相変わらずの花が咲いたような笑顔じゃな。
ささくれ立った心に潤いを齎す笑顔じゃな。
じゃからこそ、じゃ。
まひる殿には出来るだけ、会いとうなかった。
じゃって、わしはどのような顔をすればよい?
どのような言葉をかければよい?
まひる殿の過去を、罪を、知ってしまったわしが。
いやいや。
まひる殿の場合、それを罪などとは呼べぬな。
月夜御名やランスやユリーシャとは違う。
生態じゃ。
わしら人間がが牛や豚を食らうように、まひる殿という生き物は人を食う。
かつてそうして生きてきた。
それだけのことじゃ。
「もー心配したんだからさー。はい、お煎餅。
お腹空いたでしょ? 一緒に食べよ?
でも一枚だけだからね。 残り10枚切ったんだから」
おうおう、屈託のない笑顔でまひる殿がおすそ分けをくれたわい。
前歯で煎餅をぽりぽりとする姿はとことん微笑ましいの。
まるでシマリスかハムスターの様じゃ。
華奢な体。愛らしい顔の造り。まっすぐな瞳。
これが、この本性が、人食いの獣じゃとはとても思えん。
しかし、いやいや、よく思い出すがいい。
ケイブリスとの戦いの折のまひる殿の活躍ぶりを。
強靭なバネ。鋭利な爪。ペンタグラムの瞳。
人ならざる異能を駆使して、攻撃役を担っておったではないか。
804
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(3/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:48:20
「……あれ、顔色悪くない?」
「心配御無用じゃ。まひる殿」
そんな目で見んでくれい。
優しい言葉をかけんでくれい。
後ろめたさと猜疑心で、まっすぐまひる殿に向き合うこともできぬ、
臆病で疑り深いわしなんぞに。
「……ん? あれ? ……殿?」
「お、いや、ちんじゃな、ちん。
テイク・ツー!
心配御無用じゃ、まひるちん」
いかん、いきなり躓いてしもうた!
心理的な距離感が、無意識に呼び名に表れてしもうた!
どうするのじゃ?
どうするべきじゃ?
フォローを入れるべきか?
疲れていてぼーっとしていたとか?
それとも親しき仲にも礼儀ありなどと言ってみるか?
……おお、見ておる!?
真ん丸な瞳で、上目遣いに。
どこか得心行かぬ、一抹の不安感を内包させて、まひる殿がわしを観察しておる!
いかん。
何か言葉を! 上手い言葉を!
「魔窟堂さん、任務、お疲れ様でした」
805
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(4/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:49:27
まひる殿の背後から、声。
この声は……
この声こそは。
おおっ、おおっ!
わしが今、最も聞きたかった声じゃあ!!
「恭也殿、回復したとは聞いておったが……
良かった、ほんに良かった……」
恭也殿…… お主が、お主が居てくれるからこそ。
生きていてくれたからこそ。
この老骨の心が折れずに済んだのじゃ。
戦士と戦士の神聖な誓いを反故にせずに済んだのじゃ。
そう、高町恭也。
お主こそはわしの宝。
わしの生きる意味にして、希望そのものじゃ。
「みなさんの尽力のお陰で、俺も、知佳も、
今、こうしてこの場に立っていられます。
本当に、ありがとうございました」
「なに…… 知佳殿とな!?」
これはまたなんともホットなニュースじゃな!
恋うる少女が傍に居てくれること、恭也殿にとってもなによりの薬じゃろて。
そしてわしにとっても。
守る価値がある宝がもう一つ……
もう、ひと、つ…………
―――私がやりました…… 私、力を持っているんです。
―――誰にも負けない力、超能力を……
806
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(5/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:50:05
知佳殿は、XX障害者であったな。
強大な念動力を保持しているのじゃったな。
そう、【参加者来歴】にも記載されておったな。
そして、その暴れ馬は。
薬品とピアスによって制御しており。
……薬品のストックは、既に切れておるはずじゃな。
「知佳ちゃんといえば、はぁ……
昨日の恭也さんの告白シーンはカッコ良かったなぁ……」
「あ、広場さん、その話は、その」
「暴走する念動力を物ともせず近づいて!
『見くびるな、仁村知佳』ビシィ!
『俺に貴方を、守らせろ』バシィ!
いやぁもーこのこの天然の女殺しめぇ。
あたしもそんなこと言われてみて〜♪」
「……蒸し返さないでください」
海原琢磨呂の連射する銃弾を弾き、かの男を空中に磔にし、
極太の木の枝の槍で刺殺した、圧倒的な力が。
恭也殿の傍らに、いつ暴発するとも知れぬ状態で侍っていると……?
無論、知佳殿の心根は優しく、善良じゃ。
じゃが、能力のコントロールは、性格とは関係なく……
「……やっぱりじっちゃん、疲れてるみたいね。さっきからぼーっとしてる」
「ああ、まあ、その……のう。
夜気が身に染みてのぅ、よう眠れなんだんじゃ。
ちと布団にくるまってくるかとするかの」
807
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(6/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:50:40
いかんいかん。疑い出せばきりが無い。
情報に踊らされすぎじゃぞ、魔窟堂野武彦。
まひる殿も知佳殿も、信頼に足る人間たちではないか。
他の連中にしてもそうじゃ。
いかに性根が腐っていようと、度を外れた暴力性を有していようと。
次の戦いこそ大事であると。
その為には力を合わせねばならぬと、一人として欠いてはならぬと、
誰もが理解しておるはずじゃ。
背中を預けあっておるはずじゃ。
ならば、その輪をわしが崩してはならぬ。
口にしてはならぬ。
気取られてはならぬ。
得た情報を頭の隅っこに追いやって。
昨日までのわしを演じるのじゃ。
野武彦は、全てを飲み込む。
清と濁を飲み込んで、思いや理念を押さえつけて。
ただ一人、恭也のために。
ただ一つ、誓いのために。
無理矢理、慣れぬ大人のやりかたを、押し通す。
↓
808
:
終末の過ごし方 〜魔窟堂野武彦〜(7/7)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:52:51
(ルートC)
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【スタンス:果し合いに臨む
①得た情報はひとまず胸に収めておく】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、斧
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
カスタムジンジャー】
【備考:疲労(小)、紗霧、ランス、ユリーシャに不信感、まひるに恐怖感】
809
:
終末の過ごし方 〜高町恭也〜(1/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:54:00
(ルートC:4日目 AM7:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
濡れ縁に、大小二つの影があった。
寄り添うというほど距離は近くない。
他人同士というほど距離は遠くない。
あれほど、骨太な告白を敢行したというのに。
あれほど、情熱的な抱擁をしたというのに。
言葉の全てに、嘘偽りなど一つもなかったというのに。
一晩を経て、朝日の下で顔を合わせてみれば。
高町恭也という男は。
「良い天気になりそうだな」
「絶好のお洗濯日和だね……」
「そうだな」
……困った。
言葉が、続かない。
というより、目を合わせられない。
朴念仁であることは自認している。
しかし、天気の話題を振ったきり分単位で沈黙しているというのは
男として情けないことであることくらいは、理解できる。
「洗濯日和、か。知佳は、家事を手伝うのか?」
「うん、お姉ちゃんがぐーたらだからね。
自然と私の仕事になったというか……」
「そうか」
810
:
終末の過ごし方 〜高町恭也〜(2/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:54:32
また沈黙か。
が、それも悪くないと感じる自分もいる。
すぐ隣に、知佳が居る。
愛する者が居る。
それだけで、俺という器は、十分に満たされている。
だが……
知佳は、どう感じているのだろう。
退屈だと感じてはいないだろうか。
「えっと…… もうちょっと近づいて、いい?」
「ああ、構わない」
とは、答えたものの。
これ以上近づいたら、それは【くっつく】ということではないか?
「いや、やはり待ってくれ。
考えてみたのだがこれ以上接近するということは、
触れ合ってしまうことになりはしないだろうか?」
「待たないよー」
これは…… なんというこそばゆさなんだ。
こんな感覚、俺は知らない。
おかしなものだ。
知佳を背負っていたときのほうがずっと密着していたのだし、
望まぬあの行為のときには肌と肌が直接触れ合っていた。
であるのに。
接触している肩が、二の腕が、大腿が、膝が。
なぜこれほど甘い痺れを齎すのだ?
811
:
終末の過ごし方 〜高町恭也〜(3/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:56:08
「なんかなー、なんか、恥ずかしいよね、えへ」
「だが、悪くない」
この距離感のなんという気恥ずかしさ。
うちの子たちとは当たり前にしているスキンシップよりも幾分軽い触れあい。
だというのに。
相手を意識している。付き合っている。
それだけでこれほどまでに皮膚感覚が鋭敏になるものなのか?
「あのね、恭也さん。これ…… 渡しておくね」
知佳が俺の手を取った。
その余りの柔らかさに、暖かさに。
俺の心拍数が跳ね上がる。
が、その跳ね上がった心拍数は、握らされた物がなんであるか
理解した瞬間、さらに跳ね上がった。
「知佳…… 昨晩、君は自分の体質のことを、包み隠さず話してくれたな?」
「うん。やっぱり恭也さんにはもう隠し事、したくなかったし……」
「今、知佳の力は強制休眠に入っている。エンジェルブレスによる
回復能力も使えない。そうだったな?」
「うん。光合成できないね」
「それなのに、何故これがここにある。何故飲んでいない?」
手渡されたのは、一粒の世色癌。
昨晩、重篤な知佳を癒すために必要だと渡した二粒の内の一つだ。
「一粒でも十分効果はあったから。
ね、今もこうして縁側に座ってお茶を飲める程度には」
812
:
終末の過ごし方 〜高町恭也〜(4/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:57:03
「だが、触れた手は熱かった。気恥ずかしさや緊張感からの熱ではない。
発熱にともなうものだと感じられた。万全ではないんだ。
これは知佳が今すぐに飲むべきだ」
「わたしは……ほら、【小屋組】じゃないから、果し合いには参加できないし。
使えとか言わないから。お守り代わりに。ね?」
なんだろう、このとめどなく溢れてくる熱い思いは。
頑として譲ろうとしない知佳に対し、それを諌めようとする理性より強く、
胸の中で膨らんでゆく気持ちは。
「それにね、恭也さん。
恭也さんが私を守ってくれるんでしょ?
だったらその言葉を信じてもいいよね?
我侭、きいてくれるよね?」
これを…… この思いやりを、献身を、君は我侭だというのか。
俺のことをそれほどに想ってくれているのか。
愛されているのか。
なんという実感!
なんという衝動!
とーさん、不詳・高町恭也。
この齢にして始めて知りました。
滅私こそが、御神。
俺はそれだけだと思い込んでいました。
だが、それだけじゃないと、今、分かりました。
813
:
終末の過ごし方 〜高町恭也〜(5/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:57:39
人を守るという真の意味。
守りたい、という気持ちが生み出す、無限の力。
それは、私心なくして、決して得られません。
むしろ私心を源泉として湧き上がってくるものでした。
「知佳、改めて、君に誓う。誓わせてくれ」
「なあに?」
「俺が、貴方を、守ります」
地下百尺の捨石たれ。我が身は目的達成の手段。
それだけだと思い込んでいた。
そうではなかった。
人を恋うるを知り。
愛されているという実感を得た今。
愛したいのだという衝動を得た今。
私もまた力になるのだと、恭也は一つ、学んだのである。
↓
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:果し合いに臨む
①知佳を慈しみ、守る】
【所持品:小太刀、鋼糸、世色癌×1(←知佳)】
【備考:失血(中)、右わき腹から中央まで裂傷】
814
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(1/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/14(水) 23:59:38
(ルートC:4日目 AM8:00 J−5 地下シェルター)
目覚めたしおりを待っていたのは、椎名智機の土下座であった。
昨晩の命惜しさの上滑りな謝罪とは違う、真摯な反省がそこにはあった。
しかし、しおりの腸は煮えくり返った。
奪われた物の大きさを思えば、謝罪などでは到底釣り合わぬ。
故に、尻尾は錐の如くピンと伸び、うなじの産毛は逆立った。
蹂躙準備、完了。
しかし、続く仇敵の言葉がしおりの出端を大きく挫く。
「私の願望を【さおりを生き返らせる】ことに使用しようと思う」
なに……?
いまこのロボット、なんていったの?
さおりちゃんを…… 生き返らせる?
「最初は私たちの為に自らの願望を放棄された首魁殿に
権利の譲渡を申し出たのだが、
首魁殿はこう言われたのだよ―――」
さおりちゃんに、また会える……
そんな可能性、全然考えたことなかった。
ううん、違う。
考えないようにしていたんだ。
―――そうそう。凶には凶の生き方があるんだよ。
―――凶になる前のことに固執しちゃあダメダメだよね。
815
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(2/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:00:16
確かにしおりは、おにーちゃんのことは大好き。
でも、さおりちゃんのことだっていっぱいいっぱい大好き。
どっちか一人を選べなんて【しおり】の気持ちだけなら決められない。
うーんうーんって、お熱がでちゃうくらい考えても、
最後まで選べなくて、えーんえーんって泣いちゃうだけだと思う。
でも、しおりは【まがき】だもん。
お腹が空いたらお腹がくうくう鳴っちゃうみたいに、
夜更かししてたらあくびがふわぁぁって出ちゃうみたいに、
自然にマスターのことを生き返らせたいって感じちゃうんだもん。
頭の奥のほうに刻み込まれた何かが、
【まがき】にとってマスターは絶対だって、
ずっと囁き続けているんだもん。
―――そうそう。大事なのはマスターだよ。
―――目の前にいるのは、マスターの仇なんだよ。
「『俺は一度吐いた唾は飲まん。
お前の願望はお前が責任を持って処理しろ』
……じつにらしい態度だと思わんかね、プリンセス?」
叶えられる願いは、ひとつだけ。
生き返らせることができるのは、ひとりだけ。
だったらその席にはマスターしかありえなくて。
さおりちゃんのことを考えても悲しくなるだけだから。
しおりは、おそうしきをしたのに。
さおりちゃんにちゃんとばいばいしたのに。
816
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(3/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:01:02
―――そうそう。しおりはもう決断して、離別したんだよ。
―――妹のことは、もう過去のことなんだよ。
「故に私は、我が犯した罪の賠償として、
プリンセス最愛の半身たるさおり姫の復活を捧げるのさ」
それなのにロボットは、さおりちゃんに会わせてあげるっていう。
しおりの隣に、いつもの場所に、戻してくれるっていう。
憎い憎いロボットなのに。
絶対壊してやるって胸の奥がぐつぐつ煮えてるのに。
許せないって、心が今でも叫んでるのに!
―――そうそう。ふくしゅーは果たさなくちゃいけないね。
―――マスターへの忠誠の証はキチっと立てなきゃね。
「あなたが智機を殺せば」
「さおりは二度と戻らない」
熱くなってきた心に、ばしゃあって、水を掛けられた。
私をちりょうしてくれたおいしゃさんのおねーちゃんが、ぽそりと呟いた
言葉が、しおりをちょっとだけ冷静にさせた。
そうだよ。
ロボットはこれを謝罪っていってるけど、それだけじゃないんだ。
これは取引、なんだ。
さおりちゃんの声をもう一回聞くためには、
ロボットを許してあげないといけないんだ。
817
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(4/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:02:26
―――ダメダメ! 許すなんてありえないよ。
―――ロボットの罪は死すら生ぬるいだよ。
ちょっと静かにして。
言いたいことは分かってるから。
「それは」
「とても悲しいこと」
おいしゃさんはやっぱりぼそぼそと喋る。
聞こえにくい。
でも、このぼそぼそは、しおりの心にずきゅんってきた。
なんか、分かる。
凄く、本当が篭ってる。
「機会を逃してはいけない」
「他の何を我慢しても」
「他の何を犠牲にしても」
おいしゃさん、分かったよ。
大事なことは、しおりちゃんの笑顔をもう一度見ることで……
―――ダメダメ! それは一番大事なことじゃないよ!
―――【まがき】の優先順位を間違っちゃいけな……
ちょっとうるさいよ、静かにしてよ!
マスターは生き返る。
しおりが優勝して生き返す。
それで今は十分だもん!
818
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(5/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:03:27
―――ダメダメ! 十分じゃない!
だから『今は』って言ってるでしょ!?
ふくしゅーはマスターとさおりちゃんが生き返った後でも遅くはないでしょ?
復活したマスター自身に制裁して貰ってもいいでしょ?
―――あ…… そうか。
だから、今はちょっとだけ我慢しようよ。
だから、今はちょっとだけ嘘をつこうよ。
マスターの仇を討つ。さおりちゃんを復活させる。
どっちかを取るんじゃなくて、どっちも取る為に。
「……わかった。約束するよ。しおりはロボットを壊さないって」
でも絶対に、ぜーったいに、許してあげないんだから!!
しおりは憎き仇敵の話を聞き、咀嚼し、判断し、決断した。
理性で感情を押さえ込み、損得勘定を働かせ、取引に応じた。
思考によって提示された選択肢の裏筋を見出した。
妥協した態を見せつつも、本心を隠し通した。
それは、大人の対応であった。
チューリップ型の名札を胸に留めている年齢には有りえぬ対応であった。
死地。苦境。別離。変転。怨嗟。憤怒。
そして――― 覚醒。
劇的な体験を経て、糧にして。
しおりは確かに、成長している。
819
:
終末の過ごし方 〜凶しおり〜(6/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:03:58
↓
【しおり(№28)】
【スタンス:優勝マーダー
①待機潜伏、回復専念
②智機にさおりを復活させる
③さおり復活後、智機を破壊する】
【所持品:なし】
【能力:凶化、紅涙(涙が炎となる)、炎無効、
大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:獣相・鼠、両拳骨折(小)、疲労(中)、銃創(両肺と胃)
※戦闘可能になるまで8時間の療養が必要です】
※素敵医師のまっとうな薬品による治療継続中
820
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(1/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:05:08
(ルートC:4日目 AM9:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
ランスは確かに強い。
戦闘の総合力においては、残存プレイヤー中最強といっても差し支えない。
しかし、今のランスが十全なランスかといえば、そうでもない。
ランスを最強足らしめる相棒が、その手に無き故にである。
諸刃。刃渡り長く、ずしりと重く、闇の気を纏うインテリジェンス・ソード。
魔剣カオス―――
魔人ジークからかの剣を取り戻して以降4年間。
彼が握る武器といえばこの大剣のみであった。
アリスメンディから回収したバスタードソードが失われた今。
彼がその獰猛な戦闘力をいかんなく発揮する機会もまた、失われていた。
「握りが甘い!」
むかむかあっ!!
恭也のヤツめ、訓練だっていうのに容赦なく小手先を攻めやがって。
俺様は武器を手に馴染ませる為に。
恭也は病み上がりのリハビリの為に。
とりあえず肩慣らしに模擬戦でもやろうかって話になって。
現在、九本勝負、六本目。
三勝三敗。
数だけ見れば拮抗してるが、目下三連敗中なのだ。
しかも、回を追うごとに恭也のヤツは俺の太刀筋に慣れて来やがった。
このまま勝負を続ければ、のこり三戦も負け続けちまうだろう。
くたばりそこないの癖にやりやがるなあ……
821
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(2/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:05:48
「うーん、思いつきでケイブリスの爪を毟ってきたが、
イメージどおりに振り回せないな。
やっぱり斧で妥協しといた方がいいか」
「ケイブリス戦での斧の扱いを見ている限り、
重心の制御が上手くいっていないと感じられた。
その爪のほうがまだ、戦闘スタイルに合っていると思う」
「でもなあ…… なんかこう、しっくりこないというか……」
「失礼。その爪を見せてくれないか」
「なんでだ?」
「握りが安定するように加工してみようと思う」
恭也は小器用なヤツだった。
まず、何度も持ち替えて、色んな角度から眺めだした。
次いで、握りの部分を削り、形を整え、布を巻いた。
「これでひとまず握りは安定するはず。七本目、参りましょう」
「待ちくたびれたぞ」
向き合う前に軽く片手で振り回す。
たてたて、よこよこ、まるかいて、ちょーーん。
おお、凄い。
こんなにぶん回しても、握りが安定してやがる。
「うん、いいな」
822
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(3/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:06:33
試合再開。
俺様、八双。恭也、中段。
一呼吸…… の途中で、いきなり突撃!
恭也は半身で軽く避けるが、呼吸が整っていないのが見て取れる!
連撃!
振り下ろした爪をそのまま刷り上げる。
恭也の膝が沈む。
重心は前。
じゃ、後方跳躍での回避を狙ってるな。
ならば俺様は……
右手の握りを解いて、左肘を捻って……
「突きィ!」
「……参った」
がはは! 流石天才の俺様だ。
刷り上げから勢いを殺さず突きに持ってゆくなど、
凡人の恭也では反応しきれなかったようだな!
「握りはかなり、安定したようですね。
突きという手もいい。
元が爪だ。その特性が十分に発揮できる」
おお、そうだな。
遠心力の掛かった状態から片手を離して、そこから捻りを加えられるなんて、
恭也が爪に手を加える前までは考えられない挙動だぞ。
いいな、やっぱり、いい。
こいつをもっと手に馴染ませたい。
こいつをもっと好き勝手に振り回したい。
823
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(4/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:08:03
「八本目、行くか!」
「その前に、もう一度貸してくれ。まだ手を加える余地がありそうだ」
「いーや、もう十分だ、とっとと掛かって来い」
「そういうことであれば、その体で確認して頂こう」
試合開始。
さっきは速攻で上手く恭也のテンポを崩せた。
だからこんどはもっと速攻で行く!
刀を合わせる。
目をあわせ…… ない!
「どりゃあああ! いきなりランスアタックっぽいヤツ!」
「想定内!」
俺様渾身の不意打ち上段斬は空振った。
ヤベッ!
……が、恭也のヤツは追撃してこない。
片足を上げて、よろめいている?
よし、チャンス継続中! いったれ!
「ここで刷り上げの追撃を放ったとしても……」
!! 手の内、読まれてやがる?
「爪は片刃、かつ、刀身が軽いために……」
何考えてんだ?
恭也のヤツ、浮いた足を更に上げて……
その足で爪を踏みしだく…… だとう!?
「振り始めの頃であれば、押さえ込むことも、容易!」
824
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(5/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:08:58
カランカラン……
軽い音を立ててケイブリスの爪は転がっていった。
負けた。
これで四対四。
そして知った。恭也のいう更なる改良点を。
むかつくことに、教えられた。
「で、今の弱点をお前は補強できるのか」
「重量重心に関しては。諸刃に加工するのは無理だ。
ランスさんのほうで意識して野太刀の感覚で使って欲しい」
「成る程な。日光さんを振ってた時の感覚か」
「一時間ほどかかると思う。どこかで時間を潰してきてくれ」
「いや、いい。見てる」
再び、爪を恭也に渡す。
恭也は一旦小屋に戻ると、食卓の椅子を二つと工具を持って来た。
何で椅子?
まあ、いいや。
こいつにはこういう経験と知識があって、それは俺様には判らんが、
結果、悪いことにはならんだろ。
きっと握りの時と同じく、
ケイブリスと戦ったときと同じく、
こいつはきっちり結果を出して、
俺様の爪剣をパワーアップさせてくれるに違いない。
「うん、いいな」
「……なにがです?」
「よくわからんが、なんか、こう、いい感じだ」
825
:
終末の過ごし方 〜ランス〜(6/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:10:56
……けど、まあ。
九本目に勝利するのは、俺様だがな!
王とは、孤独な職業。
阿る者や、媚びる者、忠義の者など数あれど、
対等の目線で語りあえる仲間など存在しない。
認められる仲間と、目的を一つにし、切磋琢磨する。
目線を同じくする者と、協力しあう。
いい女を抱くのとは別種の充実感が、ここにあった。
↓
【ランス(元№02)】
【スタンス:果し合いに臨む
①女の子優先でグループに協力
②プランナーの事は隠し通す
③運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:世色癌×1(隠し持っている)、ネイルソード×2(←恭也加工)】
【能力:ネイルソードにてランスアタック可】
※椅子は接続している金具を取り外して爪の刃の背面に嵌め込み、
重量の調整を図る為に使用しました。
826
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(1/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:12:44
(ルートC:4日目 AM10:00 J−5 地下シェルター)
椎名智機も帝都天翔学院に通っている以上、偽装とは言え戸籍を有している。
戸籍上、椎名潤一という父はいる。
椎名智機の設計者であり、彼女を開発した研究所の所長でもある。
しかし、それはあくまでも学園に通うという臨床試験の為の方便であり、
潤一と智機の間に、肉親の情などは存在しなかった。
研究者と、サンプル。
それだけの渇ききった間柄であった。
戸籍上、母も記述はされているのだろう。
しかし智機はその存在を知らない。
会った事も無ければ、それらしき話を耳にしたこともない。
夢想したこともない。
科学技術が母なのだと、嘯くほかに術がない。
それでいいと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
「カモちゃんさん、ついに探り当てたよ。
【小屋組】が使用している通信帯域を!」
827
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(2/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:16:29
機械のこころなど、単純なものだね。
昨晩まであれ程私の行動を縛っていた【自己保存】の本能が解除された途端。
自分がひとりぼっちではないと実感できた途端。
仲間たちの役に立ちたいと。
この能力の全てを捧げたいと。
今まで思ったことの無い欲求が、感情曲線を書き換えたのだから。
0と1の判断しかないとは言え、なんとも節操のないことだ。
「ホントにぃ!?凄いねぇともきん、よく頑張ったねぇ!
いい子いい子!(なでくり、なでくり)」
特に、この芹沢…… もとい。
カモちゃんさんへの傾倒具合は、押さえが利かない。
ビットフラグの反転が起きたとしか思えないほどだ。
カルガモのインプリンティングか、と自嘲したくもなる。
だがね…… カモちゃんさん。
いくら私がなついているからと言ってだね。
一人前のレディの頭をこう、撫でまわすなどとは……
「No! そんな子ども扱いはよしてくれ給え。
私は別にご褒美欲しさに解析に注力していた訳ではないのだよ」
「あっれぇ〜?
ともきんはいい子いい子をご褒美だって感じてるの〜?」
「のっ、No! 言葉の綾というものでだね! 私は!」
Oh…… 私はバカになったな。堕ちてしまったな。
ノイズの如き感情波に制御が利かず、
演算能力をポテンシャルまで発揮できないのだから。
大人ぶってみても、実際のところ、撫で付けられて嬉しいのだから。
解析成功の報を真っ先にカモちゃんさんに入れたのも、なんてことはない。
結局、彼女に褒めてもらいたかったからなのだろうな。
828
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(3/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:17:35
でもいい。
これでいい。
確かに今、私は人生で始めての充実感を覚えているのだから。
「ほらぁ、しおしおがやっと寝付いたところなんだから、
大きな声はあげない、暴れない! いい子いい子ぉ〜」
そうか、プリンセスはおねむの時間か。
道理で、しおりの睨み付ける目線を感じなくなった筈だ。
おや?
カモちゃんさんの手が、プリンセスの背を、優しく叩いているね。
ぽんぽん、ぽんぽん、と。
ふむん……
先ほどまで聞こえていた小さなスローテンポの歌声は、子守唄というもので、
カモちゃんさんはプリンセスを寝かしつけていた、との推測が成り立つな。
「ん? ど〜したのかなぁ、ともきん?」
「Yes、まるで話に聞く母と子のような情景だなと、感じたまでさ。
私に母という物は存在しないので、聞きかじった知識でしかないのでね。
間違ったことを言ったとしたなら、どうか聞き流してくれ給え」
「そっかー、ともきんはお母さんに甘えたこと、ないんだ」
「そもそも甘えるという状況が漠然とし過ぎて定義づけが困難だ。
まあ、97%ほどの確率で、その推測は当たっているといえるのだが」
829
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(4/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:18:38
私の内部辞書に【甘える】とは四種類ほどの字義があるが、
今、カモちゃんさんが言っているのは、その第二にあたる
【相手の好意に遠慮なくよりかかる】という意味だろうね。
その経験の蓄積量がゼロの為に、実感としては理解不能だが。
だが、きっと……
それは甘美で、幸せなひと時なのだろうね。
しおりの安らかな寝顔を見ているだけで、想像がつくというものさ。
「ねね、ともきん、ちょっとちょっと」
「何だねカモちゃんさん?」
このハンドサインは…… Hum。
姿勢を低くしろと。
低くして近寄れと、そう伝達しているのだね。
どのような意図なのかな?
ああ、そう言えば大きな声を出すな、しおりが目覚めてしまう、
というような趣旨の発言をついさっきしていたな。
であれば、私とカモちゃんさんとの物理的な距離を詰めることで
ボリュームを絞った発声でも可聴出来るようにとの配慮なのかな?
「そりゃー! たいにぃ徳利投げぇ〜」
「なにを……!?」
頭部を両手で掴んで、捻り落とすだと……?
No、なんの冗談だカモちゃんさん。
中腰ほどの高さからとはいえ、この灰色の人工知能に下手な衝撃は
与えたくないのだが……
…………衝撃が、ない?
いや、あるにはあったのだが、床面との衝突にしては
柔らかすぎて暖かすぎるのだが……
830
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(5/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:19:18
「ひーざーまーくーらー♪」
「く、くだらん悪戯だな、カモちゃんさん」
ああ、このカモちゃんさんは、やはり自分では理解不能だ。
余りに突拍子無く、余りに衝動的。
この行為の意図も、前後の会話の流れを解析したところでまるでつかめない。
「いいんだよ?」
「何がだね?」
「いいんだよ、甘えても。
甘えるのって、とってもきもちいいんだよ?」
!?
この行為は、その会話と繋がっていたのか?
膝枕…… Hum、確かに甘えるという好意と合致する。
それにしてもこの態勢。
気恥ずかしさも無防備さもともに高レベルを示しているので、
すぐさま状態解除に移行せよと演算結果が出ているのだが。
But、この暖かさは……
なんとも抗いがたい魔力があるな……
「ま、まあ。貴女がそういうのであれば。
膝枕が与える精神的影響のモニタリングをするのに、
吝かではないな…… なんだねその含み笑いは」
「えへへー、なんでもなーい。
ねーんねーん、ころーりぃよ、おこぉろーりぃよー♪」
831
:
終末の過ごし方 〜椎名智機〜(6/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:19:52
さらに子守唄…… だと?
カモちゃんさん。
貴女は何処まで私を子ども扱いし、辱めれば気が済むというのだね?
芹沢は緩やかな子守唄にあわせて、智機の背中を優しく叩く。
ぽん、ぽん。ぽん、ぽん。
ぽん、ぽん。ぽん、ぽん。
機械は眠気を感じない。
それでも、安らかな何かが、メモリにじんわりと広がって。
タスクスケジューラからタスクが減少してゆき。
智機は緩やかに、ごく自然に、サスペンド状態に移行した。
↓
【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残弾 17)×2】
【スタンス:①仲間へのバックアップ
②さおりを生き返らせる】
【備考:左腕喪失、自己保存の本能ロック解除】
※小屋組使用の通信機の帯域を押さえました。
任意のインカム装備者と通信できるようになりました。
832
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(1/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:20:35
(ルートC:4日目 AM11:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
広場まひるは、笑っている。
どんなつらいときも。
クラスの仲間たちに掌返しの無視を決め込まれても。
敬愛する先生に邪険にされても。
存在自体を、排斥されようとしても。
広場まひるは、笑顔を通した。
人前では、常に笑っていた。
―――あーもー、かわいいったらありゃしない!
―――お姉ちゃんの笑顔は最強だよ
笑顔には、力がある。
辛い事や悲しい事を吹き飛ばす、力がある。
人間・広場まひるの信念である。
故に。
決戦を間近に控えたこの期に及んでも、未だ笑顔を保っている。
「あなたはいつも楽しそうでいいですね」
「何がそんなに嬉しいのですか?」
んー、それは難しい質問だなぁ、ユリーシャちゃん。
原因ははっきりしているんだけど、
なんでそうなったかの理由はあたしには分かってなくて。
それに、そのことを口にだしたら、
せっかく頑張って作ってる笑顔が曇っちゃうから。
833
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(2/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:21:23
「悩んで暮らすより笑って暮らしたほうが楽しいかなって」
そうそう、このくらいのお気楽加減があたしらしい受け答え。
とても言えないっすよね。
じっちゃんが、急によそよそしくなったから落ち込んでて、
その憂鬱な気持ちを相殺するために、笑顔を作ってます、なんて。
でも、このセリフって、なんかデジャビュ。
あれは確か、この島に来てから。
タカさんについていって【暮らす】ことを決めた時に……
なんだか遠い過去の出来事みたく感じるけど、
あれからまだ四日しか経ってないんだよね。
「そうそう、作戦会議は17時からですからね。
それまでに仮眠と、軽いアップは済ませておいて下さい」
「うむ、心得た!」
紗霧サンはあたしの返事を聞くともう興味なさそうに背を向けて。
ユリーシャちゃんもそれについていって。
……もう、いないよね。
振り返ってもあたしの表情、見えない距離だよね?
あーあ、思い出しちゃったなぁ。
タカさんのこと。
思い出したら悲しくなっちゃうって分かってたのに。
今はこの気持ち、封印しとかなくちゃいけないのに。
果し合いに向けて気持ちを揺らしちゃいけないのに。
……なんかネガ気分が抜けないなぁ。
834
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(3/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:22:43
でもさ、なんか、思い出しちゃうんだよね。
重なっちゃうんだよね。
じっちゃんのあの、唐突なよそよそしさ。
あのちょっと怯えたような、蔑んでるような、醒めた目付き。
あたしが男のコだってバレたときのクラスメイトたちの反応と、さ。
……ヘコむわ〜〜!
そうだ、こんなときこそお煎餅!
タカさんも透もいってたよね。
大抵の悩みは腹が膨れれば解決するって。
至言とはこのことだ。
うん、お茶も淹れてとことん寛ごう。
お腹の中から充実させて、いやなことは忘れちゃおう!
「……まひるちゃん?」
「うひゃあああ!?」
び、びっくりしたぁ……
知佳ちゃんが近づいてたこと、全然気付かなかったよ。
ヤベ、心臓がバクバク言ってる……
落ち着け、落ち着くの、まひるちん。
ディープブレース、アーンド、リラーックス。
「ごめんねー。脅かすつもりはなかったんだけど……」
「気にすることはナッシン!
乙女の妄想を膨らましてたトコに声を掛けられたから
ちょいビックリしただけだから」
835
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(4/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:23:09
そして…… 笑顔!
にぱにぱー♪
うん、OKOK。
いつもの可愛いまひるちん、復活ッッ!!
の、はずだったのに。
「…………あのね」
知佳ちゃん、何、その思いつめたみたいな表情は?
「おせっかいかもしれないけど、言うね?」
紗霧サンもユリーシャちゃんも、気付かなかったのに。
「まひるちゃん。無理しなくても、いいよ?」
なん…… で。
知佳ちゃんは、気付いちゃうの?
……いけないいけない。
笑顔を……
一番の笑顔を作らないと!
「あははー、何のことかなー?」
不安感を、知佳ちゃんに伝染させないようにしないと!
836
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(5/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:24:14
「何のことなのかまでは、私にはわからないよ。
読心術まで休眠にはいってるしね。
でも、まひるちゃんがずっと何かを我慢してることは、わかるよ。
頑張って笑顔を作ってることも、わかる。
その努力は凄く立派だと思う。
でも……」
駄目だ、通じない。
知佳ちゃんの感性って、鋭すぎる。
隠したいこと、全部、見透かされてる。
「無理しても絶対どこかにその疲れは出るよ。
気持ちを押さえ込み過ぎると行動も偏っちゃう。
私が今、こんなになっちゃってるみたいに、ね」
じゃあさ、じゃあ。
あたしはどうすればよかったのかな?
「だから、ね。
私でよければ、お手伝いするから。
皆には黙っててあげるから。
ちょっとだけ、その気持ち、吐き出しちゃお?」
いいのかな?
だってあたし、きっと泣いちゃうよ?
じょんじょんのじょびじょばで、えぐえぐしちゃうよ?
鼻水もずびーってたれちゃうよ?
837
:
終末の過ごし方 〜広場まひる〜(6/6)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:25:19
「……じゃ、さ。ちょっとだけ。
ちょっとだけ、聞いてもらってもいいかな?」
まひるは語りだす。
仲良かったはずの魔窟堂から避けられていることを。
仲良かったはずのクラスメイトから無視をされていたことを。
失って悲しかったことを。
まひるは語りだす。
豪快で大胆なタカさんの思い出を。
照れ屋で母親想いな薫ちゃんの思い出を。
失って悲しかったことを。
涙と、鼻水にまみれて、えぐえぐとしゃくり上げながら。
まひるはずっと我慢していた悲しみを、吐き出した。
胸の奥に凝り固まっていた瘧を、ほぐしていった。
優しい瞳で一緒に泣いてくれる、少女を前に。
↓
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【広場まひる(元№38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【スタンス:果し合いに臨む】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 7/45)】
838
:
終末の過ごし方 〜カモミール芹沢〜(1/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:25:49
(ルートC:4日目 AM12:00 J−5 灯台跡)
カモミール芹沢は、呑んでいる。
御陵透子に廃村から持ってこさせた大吟醸を燗にして、
徳利をずらりとならべて、呑んでいる。
魔剣カオスを立てかけた灯台跡の瓦礫に背を預け、
程遠くで気の修練に余念の無いザドゥの背を眺めながら、
手酌で呑んでいる。呑み続けている。
《ちょいと呑み過ぎじゃないですかね? カモちゃんや?》
ねぇ、ザッちゃん、気付いてるかな?
あたしさぁ、今朝から全然、熱が引かないんだよ?
爛れた皮膚が、じんじん痛んでるんだよ?
火傷の具合、どんどん悪くなってきてるんだよ?
気付いてるわけないよね。
だってザッちゃん、ずっと特訓してるんだもん。
自分一人で。
あたしに背を向けて。
もしかしたら最期になるかも知れぬこの時を、
あたしと過ごそうなんてこれっぽっちも思ってなくて。
思いつきもしなくて。
それどころか、心の中からあたしをえいやって追いやって。
自分で埋め尽くしちゃってるよね。
進む先だけ見てるよね。
839
:
終末の過ごし方 〜カモミール芹沢〜(2/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:27:26
淋しいなぁ……
でもさでもさ、あんなに一生懸命になってる人に、声なんて掛けられないし〜。
それはきっと邪魔になっちゃうし〜。
そうしたらそうしたら。
嫌われちゃう、かも、知れないし……。
これが呑まずにいられようか!
とくとくとく。
ぐいぐいぐい。
《だからね、さっきからあなた、ペース速いですよ?》
「んー、ごめんねぇカオっさん。あたし一人で呑んじゃって。
じゃカオっさんにもおすそ分け、そーれとくとくとくぅ!」
《やめてぇ! 一升瓶から大吟醸をぶっ掛けるのやめてぇ!
儂ぁぶっ掛けるほうが好きなんですよ?自家製の濁酒を!》
「あははぁ♪ カオっさんは相変わらずえっちいねぇ。ぶれないねぇ。
……ザッちゃんとは、大違いだ」
なんかね……
私、ザッちゃんのこと、勘違いしてたかもしんないね。
一昨日までのザッちゃんはさ、
あたしを可愛がってくれたり慰めたりしてくれたザッちゃんはさ、
きっと弱ってたザッちゃんでさ。
ザッちゃんの心の中にぽっかりと空いた穴ぼこがあってさ。
だからあたしはそこにスルって入り込むことも出来たけど〜。
それで、ザッちゃんに受け入れられた気になってたけど〜。
それってきっと、期間限定で……
840
:
終末の過ごし方 〜カモミール芹沢〜(3/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:28:18
ザッちゃんってさ、もともと【ひとり】の人なんだろうな。
己と向き合って。
人と分かち合わず。
人を頼らず。
自分の足だけで、歩いてきた人だったんだろうな。
そのことを大事に思ってる人だったんだろうな。
……あたしなんていてもいなくても、影響ないんだろうな。
とくとくとく。
ぐいぐいぐい。
《馬鹿な男だなぁ、ザドゥは》
「ですよね〜」
《傷つくのはいつだって女のほうですよね》
「全くねぇ。でもさぁ……」
《でも?》
「あの背中、カッコいいよねぇ」
《馬鹿な女だなぁ、カモちゃんは》
「ですよね〜」
あのね、ザッちゃん。
ザッちゃんは見ても聞いてもいなかった話なんだけど。
あたし、さっきまでしおしおとともきんを寝かしつけてたのね。
そんでそんで、照れてるともきんにこう言ったのね。
―――いいんだよ、甘えても。
これね。
自分で言っといてなんだけどね。
今まで誰かに掛けて欲しくてたまらなかった言葉なんだぁ〜。
841
:
終末の過ごし方 〜カモミール芹沢〜(4/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:31:07
でもね。
今まで誰にも言ってもらったことがないんだぁ、あたし。
なんか強い女を気取っちゃったり、
素直になれなかったり、
ヤケを起こしちゃったり……
そんなことばかり繰り返してたからね。
恨み言なんかじゃないよ。
ないんだけど。
ザッちゃんがあたしにそういうこと言ってくれる人かもって、
初めて甘えさせてくれる人なのかもって。
実は、すごく期待してたんだぁ〜。
けど、まあ、しょーがないよねぇ。
ザッちゃんは求道を行く人なんだもんねぇ。
そこを見抜けなかったあたしが悪いんだし。
仲間としては、戦友としては、今だって繋がってるんだから。
そこで満足しておくのがお互いの為に一番だよねぇ〜。
とくとくとく。
ぐいぐいぐい。
《カモちゃん…… お前さんは本当にええ女じゃのう》
「えへへー、分かるぅ?」
だから、ね。
修行の邪魔なんて絶対しないからね。
どこか遠くに行こうとしても、未練がましく引き留めたりはしないからね。
せめて、この距離から。
背中だけは、見守らせてね?
842
:
終末の過ごし方 〜カモミール芹沢〜(5/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:31:33
芹沢は表情豊かな女性である。
エキセントリックかつ意表をついた感情表現をする女性である。
どうでもいいことで泣き、笑い、怒り、喜ぶ。
だが、どうでもよくないことでは。
本当に泣きたいことでは、決して涙を零すことはない。
その代わりに、であろうか。
芹沢の眠そうな深いブルーの瞳のその下に、
大きな泣き黒子が宿っているのは。
↓
【刺客:カモミール・芹沢】
【スタンス:果し合いに臨む
②ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らない)】
【所持品:魔剣カオス、虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)】
【備考:体力消耗(大)、腹部損傷、左足首骨折、全身火傷(中)、発熱(中)】
※素敵医師のまっとうな薬品による治療継続中
843
:
終末の過ごし方 〜ザドゥ〜(1/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:31:56
(ルートC:4日目 PM1:00 J−5 灯台跡)
ひたすらに、ひたむきに。
丁寧に、丹念に。
ザドゥは己の爪を研いでいる。
研ぎ澄ましている。
食事のことも、睡眠のことも、治療のことも、仲間のことも忘れている。
それだけに注力し、それ以外を切り捨てている。
なんというストイック。
なんというナルシズム。
右手薬指に【生】の気。
放出せずに、留める。
気の量を計る。
ここまでは一息だ。
この気の扱いには、慣れている。
コンマ一秒と掛けぬ。
左手薬指に【死】の気。
出力を制御し、ゆっくりと膨らませる。
気の量を右手に揃える。
出力は慎重に。
この気の扱いには、慣れていない。
一秒は取るべし。
844
:
終末の過ごし方 〜ザドゥ〜(2/5)
◆29ZH4ztR.E
:2012/03/15(木) 00:32:29
よし。
生死ともに、質量は均衡している。
これならば陰陽合一を為せる。
「同調―――」
合掌。
両の薬指からの黒白の気が互いに引き寄せられ、絡み合い。
指先大の蒼い光が銀河の如く渦巻き出す。
まだだ…… まだ放つな。増幅しろ……
集中。
左手の■と右手の□の出力を再開。
焦るな。
絞った蛇口から垂れる水滴を一滴一滴数えるように、
細心の注意力を以って調整しろ。
渦はピンポン玉大に。
膨らめ。まだだ。
渦は野球ボール大に。
もう少し大きくできる筈だ。
渦はソフトボール大に。
よし、目標をクリアだ。
この質量ならば、実戦でも十分に通用するだろう。
「―――解放!」
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