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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

1運営:2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。

432一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:45:26
こんばんは。またまた遅くなりましたが、ハグプリの最終回記念SSを投下させて頂きます。8〜9レスお借りいたします。
なお、このSSには、男女間の恋愛とも取れる内容が含まれています。かなり迷ったのですが、ハグプリの記念SSを書くなら自分としては避けて通れないテーマで、どうしてもこういうお話になり、書き上げてから運営で協議させて頂きました。
結果、保管庫Q&Aの3に該当する作品として、掲載させて頂くことにしました。
魂込めて書きましたので、どうぞその点ご了解の上、お読みいただけると嬉しいです。

433一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:46:08
 ガランとした建物の中に、わたしの靴音だけが響く。
 まるでずっと夜が続いているみたいな暗い空間を、あの人を探してひた走る。
 高い丸天井の大きな部屋。長く真っ直ぐに続く廊下。
 そのどこにも、あの人は居ない。

 壁には至る所に亀裂が入り、床には瓦礫が散らばっている。
 そしてここに入った時から、まるで地震みたいに足下が揺れている。
 だから早く、一刻も早く、あの人を見つけなきゃ。
 行く手に現れた、まさに人が出て行ったばかりのような半開きのドア。
 そこを駆け抜けると、突然目の前が明るくなった。

 壁一面がガラス窓の、何もない大きな部屋。
 ひび割れだらけの窓の向こうに、無数の巨大な瓦礫が落ちて行くのが見える。
 何だか現実離れした――えっと、マグリットだっけ、美術で習った絵みたいな光景。
 そんな景色を、あの人は部屋の真ん中に座り込んで眺めていた。

「やあ。また会ったね」
 力のない微笑み。まるでわたしが来ることが、分かっていたみたい。
「僕の負けだ。早くここから離れた方がいい。永遠の城は崩れゆく」
 そう言って、あの人はもう一度窓の方を見つめる。
「夢を見ていたのは、僕の方だったのかもしれないな。永遠など……」
 さっきまで戦っていたのが嘘みたいな、穏やかな声。
 だけどその声は、何だかとても寂しそうで、哀しそうで……。

 息を整えて、その背中のすぐ後ろに、そっと座る。
「これ……」
 ずっと借りたままだったハンカチを、ようやく返せた。

「一緒に行こう?」
「どこへ?」
「未来へ」
「無理だよ。僕は未来を信じない」
「嘘」

 ずっとこちらに背を向けたまま、彼がゆっくりと立ち上がる。
 またすぐに消えてしまいそうな気がして、わたしも急いで立ち上がる。
 そして彼の左手に、そっと自分の手を重ねた。
「本当に未来を信じていないなら、どうして……いつもわたしに「またね」って言うの?」

 後ろから、その身体にそっと両腕を回す。
 未来を信じない――その理由を、この人はわたしに見せてくれた。
 この人の目の中にある深い哀しみの理由も、それと同じなのかな……。
 分からない。だけど、せめてその哀しみを、わたしは抱き締めたい。

 彼の背中が、小さく震えた。
 小さな小さな笑い声――まるで泣いているみたいな声が、頭の上で微かに響く。
「君は、本当に素敵な女の子だね」
 その言葉と共に、わたしの腕は静かに振り払われ、彼の身体が離れた。

「またね」

 二歩、三歩、歩き出したあの人が、そう言ってようやくこちらを振り返る。
 その後ろには、昇り始めた朝日と、見る見る明るくなっていく空。
 ソリダスター――“永遠”の花言葉を持つ花びらが散って、二人の間で舞い踊る。
 そしてまばゆい光が視界を埋め尽くした時、再びあの人の声が耳に届いた。

――僕も、もう一度――

 目を開けると、部屋の中にはわたし一人。あの人の姿は消えていた。
 ふと目をやると、見覚えのある花が一輪、床にいつの間にか置かれている。
 クラスペディア――花言葉は、“永遠の幸福”。
 ポツンと寂しげなその花を拾い上げ、わたしはそっと胸に抱き締めた。

434一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:47:11
   エール・アゲイン



「委員長ぉ! ひとつ、お願いがあるんだけどっ!」
「な……何?」
 百井あきの勢いにたじろぎながら、さあやは何とか笑顔で問い返した。その隣には、さあや以上にたじろいだ表情のほまれと、ポカンと口を開けて成り行きを見守っているはなの姿がある。
 中学三年生になっても、さあやは変わらずクラスの委員長。だが最近は、彼女を「委員長」と呼ぶクラスメイトは少なくなった。そう呼ばれるのは、今のように何か頼み事をされる時くらいだ。そして、あきの口から飛び出したのは、さあやが今まで委員長として聞いて来た数々の頼み事の中でもトップクラスに大きくて、しかもなかなか無理難題の案件だった。

「我がラヴェニール学園中等部も、文化祭をやろうよ!」
「え……文化祭!?」
「ああ、そう言えばこの学校って、文化祭ないんだっけ」
 はなが今更気付いたように、ポツリと呟く。転校したばかりだった昨年は、はなにとってあまりにも濃密で多忙を極めた一年だったのだから、無理もない。

「そうなの! だからさぁ、わたしたちが中三の今年、記念すべき第一回の……」
「そんなこと言って、百井はまた十倉と漫才やりたいだけなんじゃねえの?」
 あきの後ろから、千瀬ふみとが唐突に割って入ってきた。
 つい先日行われた新入生歓迎会で、あきは親友の十倉じゅんなとコンビを組んで、漫才を披露した。それが初めてとは思えないくらい大受けで、会場の体育館を揺るがすほどの大爆笑だったのだ。

「バレたかぁ」
 そう言って頭を掻いたあきが、しかしすぐに元の勢い込んだ様子で級友たちを見回す。
「でもさぁ。文化祭って、やっぱ学校行事の花形だと思うんだよね〜」
「そりゃあ……そうだな」
「他の中学はやってる学校がほとんどなのに、うちだけ無いなんて、それって“ホットケーキに卵を入れず”だと思ってさぁ」
「それを言うなら“仏作って魂入れず”、ね」
 今年はクラスが別れてしまったじゅんなの代わりに、ほまれが冷静にツッコむ。いつものように力のない笑いを漏らす一同。が、それを遮って明るい声を上げたのは、はなだった。

「確かに……楽しいことは、一杯あった方がいいよね。わたしもこの学校で、みんなと文化祭、やってみたい!」
「ホント? はな!」
 それを聞いて、あきがパッと顔を輝かせる。
「うん。クラスのみんなでひとつのものを作ったり、部活の成果をみんなに観てもらったり。イケてる!」
 そう言って、はなは教室の後ろの方に駆けて行くと、ぐるぐると腕を回した。
「何でも出来る! 何でもなれる! 中学卒業まで、あと一年だもん。みんなで思いっ切り楽しいことして、とびっきりの思い出作ろうよ。フレ! フレ! みんな! フレ! フレ! わたし!」

 あきが目を輝かせ、ふみとは「やれやれ」と言いつつ、楽しそうにニヤリと笑う。そしてほまれは小さく微笑んでから、そっとさあやに問いかけた。
「本当に、出来るのかな」
「うーん、確かなことは言えないけど……まだ新学年が始まったばかりだし、可能性は十分あると思う」

「よぉし。じゃあどうせなら、高等部とも合同にしよう! それならもっと派手にやれるしさ」
「え〜! それじゃあ高等部のヤツらに、オイシイとこ持って行かれるんじゃ……」
 さらに張り切るあきの提案に、ふみとの声が小さくなる。だが、はなの方はそれを聞いて、俄然張り切った様子で言った。
「それいい! 高校生も一緒のオトナの文化祭を、わたしたちが言い出して実現するなんて……。それってめっちゃカッコいいよ!」
「でしょ〜! じゃあいっそのこと、学園全部の文化祭にしちゃおっか!」
「おおっ! めっちゃイケてる!」
 はなの言葉にあきがますますテンションを上げ、それを聞いて、はなのテンションもさらに上がっていく。その勢いにつられたように、周りの仲間たちもにわかに活気づいて来た。

「それじゃあ私はまず、生徒会の役員たちに話してみるね」
「さっすが委員長! じゃあ俺は高等部に行って、ガツンとかましてやるかな」
「かましちゃダメでしょ……。さあやの方が上手くいったら、わたしも一緒に行って、アンリと正人さんに話してみるよ。アンリはともかく、正人さんなら生徒会に知り合いも居そうだし」
「ほまれ、千瀬君、よろしく! 小等部はわたしとじゅんなに任せてよ。わたしたち、卒業生だからさ」

(やっぱり凄いなぁ、みんな。あっという間に分担が決まっちゃったよ。きっと今、ここにはアスパワワがいっぱいだよね)

435一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:47:50
 すっかり文化祭実行委員会のような雰囲気で盛り上がる仲間たちに、はなが愛し気な眼差しを向ける。そして改めて、一層明るい声を張り上げた。
「完璧じゃん。小等部、中等部、高等部! あと大学……は、流石に無いか。アハハ……」
「あるある」
「えっ?」
 あきの言葉に、はなが驚いて照れ笑いを止める。
「この学園、大学もあったっけ」
「ああ、はなは知らなかった? 高等部の隣にある建物、あれって大学だよ。まぁ、この敷地にあるのは、一部の学部だけどね」
 さあやの説明を聞いて、はなは初めて聞いた事実に、へぇ、と少々間の抜けた呟きを漏らした。



 その日の放課後。スケートの練習があるほまれと、撮影所の両親に届け物があるというさあやと別れたはなは、ふと思い立って、帰り道とは反対の方向へと足を向けた。
 高等部の校舎の前を通り過ぎ、その隣の建物を見上げる。
「ここが大学なのかな」
 表札などは見当たらないが、間違いなく学園の敷地内にある大きな建物。中を覗いてみたくて入り口を探すと、生け垣に隠れるようにして、小さな木の扉があるのが目に入った。

「まさか、これがドア?」
 少し躊躇したものの、好奇心には勝てず、ノブに手をかけてみる。ギィ、という低い音と共に、扉は簡単に開いた。恐る恐る中を覗くと、どうやらそこは裏庭らしい。そうっと中に足を踏み入れたはなは、そこで思わず棒立ちになった。

「なんで……どうしてあなたが、ここに居るの?」

 庭の真ん中に立って校舎をじっと見上げている横顔は、見覚えのある――いや、忘れようにも忘れられない人物。
 ジョージ・クライ。はなたちプリキュアの前に立ちはだかった、元クライアス社社長、その人だった。

 はなの声に振り向いた途端、彼もまた、その目を大きく見開いた。とても驚いた表情――いや、それだけではない。その瞳はせわしなく、落ち着きなく泳いでいる。
 まるで、悪戯をしている現場を見つけられたかのように。ここに居ることを、はなに知られたくなかったように――。
 が、それも束の間。その表情を隠すようにして、ジョージはくるりと踵を返した。そのまま足早に、その場を立ち去ろうとする。それを見て、はなは弾かれた様に彼の後を追った。

「待って! ねえ、どうしてここに居るの?」
「……ここは、僕の母校だからね」
「そうじゃなくて、どうしてまだこの時代に? 未来に帰ったんじゃなかったの?」
「……」
「それとも……帰れないの?」

 そこでジョージがぴたりと足を止めた。ハーっと大きく息を吐き出してから、観念したようにはなを振り向く。
「大丈夫。僕はいつでも帰れるんだ。帰ろうと思えばね」
「じゃあ……帰りたくないの?」
 前に会った時と同じ、何だか寂し気で、哀しそうに見える彼の眼差し。その目を真っ直ぐに見つめて、はなが問いかける。すると明らかに狼狽えていたジョージの眼の光が、心なしか、少し柔らかくなった。

「心配してくれるの? 僕は、あんなに君を傷付けたのに」
「それは……私だって、酷いことしたし」
「そうだった?」
「せっかく持って来てくれたお花、ぐちゃぐちゃにしちゃった……」
 俯くはなの頭上から、穏やかな声が降って来る。
「気にしなくていいよ。花は、いつかは散るものだ」
「でも! ……あれ?」
 勢い良く頭を上げたはなは、驚いて辺りを見回した。

 灌木に囲まれた、緑豊かなその場所に立っているのは、はなただ一人。ジョージの姿は、どこにもない。
「また、消えちゃった……」
 小さな声でそう呟いてから、はなはしゃがみ込んで、足元に咲いている小さな花を見つめる。
「ねえ。やっぱり未来に、帰りたくないの?」
 不意に一陣の風が吹いて、小さな花が盛大に揺れる。
「もう……「またね」って、言ってくれないの?」
 裏庭はしんと静まり返っていて、はなの問いに答えてくれる者は、誰も居なかった。


   ☆

436一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:48:29
「……はな? ねえ、はな!」
 教室の自分の席で、頬杖をついて窓の外を眺めていたはなは、ほまれの声で、ようやく我に返った。ほまれの隣には、心配そうにこちらを見つめるさあやの姿もある。
「ご、ごめん……何?」
「次、音楽でしょ? 早く移動しないと遅れるよ?」
「めちょっく!」
 慌ててバタバタと支度を始めるはなに、ほまれは何か言いかけて口をつぐむ。そしてそっと、さあやと目を合わせた。

 今日の音楽の授業は、合唱の練習だった。まずは先生のピアノに合わせて、メロディパートを全員で歌ってみる。
 軽やかな前奏に続いて、皆が一斉に息を吸い込み、歌い出す。まだ少し音がバラバラだけど、クラス全員で一緒に歌うと、ちょっとした高揚感と、少し気恥ずかしい嬉しさを覚える。

(でも……ルールーが居た未来には、音楽が無いって言ってたよね……)

 はなの視線が下を向き、教科書を持つ手が僅かに下がる。
 ルールーが居た未来。それはすなわち、ジョージが居た未来でもある。

(そして……あの人が帰りたくない未来でもあるのかな)

 そう思った時、ジョージが語った言葉の数々が、走馬灯のように蘇って来た。

――でも……君は、人間が悪い心を持ってないと言い切れる?
――二人で生きよう。傷付ける者のいない世界で……!
――明日など要らぬ! 未来など!

(どれも哀しい言葉……。そうだ、なんで気付かなかったんだろう。わたしにとっては未来でも、あの人にとって、それは……)

――僕の、時間は……もう動くことはない。

 はなの両手が、小刻みに震え出す。
 脳裏に浮かぶ、独りぼっちでのお弁当。クラスメイトたちの、突き刺さる視線。そしてあの時止まってしまった、友達のえりとの時間――。
 逃げるようにラヴェニール学園に転校した時、彼女との時間は、もう動くことはないと思っていた。でも仲間たちの励ましで、その時間はようやく動き始めた。

(それなのに、わたしは……わたしは、あの人を……)

 皆の歌声が高まる中、バサリ、とはなの手から教科書が落ちた。

「はな! どうしたの?」
 隣に居たさあやが驚いて問いかける。自分の身体を掻き抱くようにして震えているはな。その肩を、反対隣からギュッと抱き締めて、ほまれが落ち着いた声で言った。
「先生! 保健室に行って来ます」
「わ、わたしも行きます!」
 もうすっかり歌どころではなくなった級友たちのざわめきに見送られ、さあやとほまれに抱えられて、はなは廊下に出た。



「ごめん、心配かけて」
 保健室のベッドで横になっていたはなが、すまなそうに口を開いた。身体の震えは治まって、青白かった頬にも、ようやく赤みが戻ってきている。
「朝から様子がおかしかったけど、ずっと具合、悪かったの?」
「そうじゃないけど……昨日、あんまり眠れなかったから」
 さあやの問いに、そう答えながら起き上がろうとするはなを、ほまれが優しく押しとどめる。
「まだ寝てなきゃダメだよ」
「ありがとう。でも、ホントにもう大丈夫だから」
 弱々しい笑顔で小さくかぶりを振ってから、はなはベッドの上に身を起こした。
「少し話、いい?」
 さあやとほまれが、そっと目と目を見交わしてから、両側からはなを支えるようにして、三人並んでベッドに腰かける。

「実はね。昨日、あの人に会ったの」
「あの人って?」
「クライアス社の……ジョージ・クライに」
 さあやが、えっ、と小さな声を上げ、ほまれは険しい表情ではなの顔を見つめる。
「じゃあ、それで何か怖い目に遭って……」
「ううん。向こうも、わたしにバッタリ会って驚いてたみたいで……少し話したら、居なくなっちゃった」

437一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:49:05
「未来に帰ったんじゃなかったんだ……」
 さあやの呟きに、はなが顔を曇らせる。そして、昨日のジョージとのやり取りを一通り話してから、視線を膝の上に落したまま、ポツリ、ポツリと、言葉を押し出すような調子で言った。
「未来では、時間が止まる。だからその前に……破滅に向かう前に、時を止めたい――前に、ジョージさんからそう聞いた時にね。わたしは、それでも未来を信じる、みんなの未来を守りたい、って強く思った。その気持ちは、今も変わらないんだ。でも……」
 そこではなが、考え込むように言葉を切った。はなたちのクラスの授業だろう。ピアノの音と歌声が、静まり返った保健室に微かに聞こえる。

「あの哀しそうな目……。人類の未来は破滅に向かっているから――本当にそれが理由で、あの人はあんな哀しそうな目をしてたのかな」
「どういう意味?」
「人類の破滅とか、そんな大きな問題じゃなくて……あの人自身の時間を止めてしまう、何かとっても……立ち直れないような、とってもとっても辛い出来事が、あの人の過去にあったんじゃないのかな、って」

「あの人の、過去……。そうか、わたしたちにとっては未来だけど……」
「ジョージ・クライにとっては、過去ってことだね」
 さあやの呟きに、ほまれも続く。そんな二人に、うん、と小さく頷いてから、はなは膝の上に置いた手を、ギュッと握った。声と身体が震えそうになるのを抑えるように、強く強く拳を握る。

「あの人が、なんであそこまで未来を怖がっていたのか。それが不思議だった。でもわたし……それをちゃんと、聞いてあげられなかった……」

「そんなことない! はなは、ジョージ・クライと向き合ったじゃん。必死で説得しようとしてた!」
「うん、説得しようとした」
 思わず勢い良くはなの方に向き直ったほまれが、静かに頷いたはなの言葉に、ハッとしたように目を見開く。

「説得しようとしか、してなかった。わたし、自分のことで頭が一杯で、自分の言いたいこと、ばっかり言ってて……」
 はなの両手が再び、ギュッと握られる。
「わたし……あの人の話を、ちゃんと聞いてあげられなかった。未来の時間を止めたいと思うほどの、どんな辛いことがあったのか。一番応援しなきゃいけない人を、応援してなかった」
 俯いて小さく身体を震わせるはなと、そんなはなを言葉もなく見守るさあやとほまれ。その時、まるで遠い世界の出来事のように、保健室に終業のベルが響いた。


   ☆


 次の日は土曜日だった。いつもより少し遅めの朝ご飯を食べ、身支度を整えたはなが、玄関にある大きな鏡の中の自分と向き合う。
 一晩考えて、やはりもう一度、ジョージに会おうと決めた。いつも偶然――いや、もしかしたら向こうが会いたいと思った時にしか、会うことのなかった人。でも今度は自分の方から、彼に会いに行く。会って、自分の気持ちをちゃんと伝えるために。自分がやるべきことを、ちゃんとやるために。

「フレ、フレ、わたし。頑張れ、頑張れ、オー!」
 両手を握り、小さな声で鏡の中の自分を応援する。玄関のドアを開いて表に飛び出すと、はなの目の前に、二人の人物が立っていた。

「さあや……ほまれ……!」
 一瞬キョトンとしたはなの表情が、ぱぁっと明るくなる。
「気になって、来ちゃった」
「前にもこんなこと、あったね」
 駆け寄る一人と、迎える二人。彼女たちはお互いの顔を見つめて、嬉しそうに笑った。



「こういう時は、ビューティー・ハリーのありがたみが分かる気がするよね〜」
 颯爽とブランコを漕ぐほまれが、サバサバとした調子で言う。もしこの場にハリーが居たら、「こういう時だけか!」とすぐさまツッコむ場面だろう。
 三人は、近くの児童公園にやって来ていた。まだ比較的早い時間だからか、幸い三人以外に人の姿は無い。

「わたし、もう一度あの人に会ってみようと思うんだ。何が出来るか、そもそも会えるかどうかも、分からないけど」
 隣のブランコに座ったはなが、自分に言い聞かせるような調子で言う。それを聞いて、ほまれは小さく微笑んだ。

「ねえ、はな。わたしが跳べなかった頃のこと、覚えてる?」
 さらに勢いをつけてブランコを漕ぎながら、ほまれがはなに語りかける。
「わたしがもう一度跳びたいと思ったのはね。はなの姿を見たからなんだよ」
「えっ?」
「正確には、キュアエールの姿を見たから、かな」

438一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:49:37
 ほまれははなの方を見ずに、前を向いたままで言葉を続ける。
 大きな敵に、いつも真っ向から挑んでいくプリキュアの――エールの姿が眩しかった。自分ももう一度、あんな風に跳びたい。怪我をして、跳ぶのを諦めてから、初めて強くそう思った――。

「だからさ。きっと無駄なんかじゃないんだよ」
 漕ぐのを止めて、揺れが小さくなったブランコに、ほまれが長い足でブレーキをかける。
「ジョージ・クライに何があったのかは分からないけどさ。でも、絶対に諦めないエールの――はなの姿を見せられたことは、無駄なんかじゃないって、わたしは思う」
「ほまれ」
 少し照れたように、こちらを見ずに話すほまれの顔を見上げて、はなが目を潤ませる。その目の前に、今度はさあやが、持っていたタブレットの画面を差し出した。

「これって……」
「こっちがクラスペディア。そしてこっちがソリダスター。どちらもジョージさんが、はなに贈った花だよね?」
「うん……」
 コクリと頷くはなに、さあやはその細い指で、画面のある一点を指し示す。

「見て欲しいのはね、ここなんだ」
「花言葉? ああ、それは……えっ?」
 はなが驚いたように、さあやの手からタブレットを受け取ってじっと見つめる。
 クラスペディアの花言葉は、「永遠の幸福」。ソリダスターは、「永遠」。だが、花言葉はそれひとつきりでは無かった。どちらの花にも、それ以外の花言葉もあると記されている。

「クラスペディアは、「心の扉を叩く」。ソリダスターは「振り向いて下さい」。ね? 花言葉も、人の気持ちも、ひとつだけってことは無いと思う」
 そう言って、さあやははなの肩を、そっと両手で抱き締めた。ブランコから降りたほまれも、そんな二人に寄り添う。

「大丈夫。応援したいってはなの気持ち、きっと伝わるよ」
「応援に、遅すぎることなんて無いよ。それはわたしが、一番よく知ってる」
「さあや、ほまれ……ありがとう!」
 はなは、目を閉じて二人の親友の温もりを全身で感じてから、今度は力強く、うん、と頷いた。



 その後、三人はジョージ・クライを探して街を走った。以前、彼を見かけた場所に、片っ端から足を向ける。
 はぐくみタワー、ハグマン、つつじ公園。はながジョージの似顔絵を描いて、道行く人に、似た人を見かけなかったか尋ねてみる。だが、彼を見た人は一人も居なかった。

 やがて、公園の池のほとりを訪れた時、はなが、あっ、と叫んで空を見上げた。
「そうだ……。あの時、雨が降って来て、そして……」
 はなが突然、くるりと踵を返して走り出す。池を後にし、緑豊かな広場の真ん中を駆け抜ける。向こうに見えてくる小さな東屋。その片隅にポツンと座っている人影を見つけて、はなの足が止まった。

 ベンチに座る後ろ姿は、紛れもなくジョージ・クライ、その人のもの。息を弾ませてその姿を見つめるはなの肩に、彼女を追って走って来たさあやとほまれが、そっと手を置く。
「はな」
「フレ、フレ」
 はぁっと大きく深呼吸をしてから、はながゆっくりと歩き出す。そして、所在なげに空を眺めているその人の隣に、そっと座った。

「やぁ。また会ったね」
 今度はジョージも、驚いた様子は見せなかった。いつもの穏やかな、そしてやはり哀し気に見える瞳ではなを見つめてから、ゆっくりと立ち上がる。
「ダメだね。つい、来たことのある場所にばかり足が向いてしまう」
「わたしも、もしかしたらここかなって……何となくだけど」
 そう言いながら、はなもベンチから立ち上がる。そしてジョージの背中に向かって、勢い良く頭を下げた。

「ごめんなさい!」
「何故君が謝るの?」
 これには流石に驚いた顔で、ジョージがはなの方に向き直る。だが、続くはなの言葉を聞いて、その視線は再びはなから離れた。

「ねえ。あなたはやっぱり、未来に帰りたくない訳があるんだよね。私、自分のことばっかりで、あなたの話、ちゃんと聞けなかった」
「そんなことはないよ。僕も君も、自分の描く未来を、思う存分語り合ったはずだ」
「そうじゃないの」
 再びはなに背を向け、空を見つめたままで語るジョージ。その後ろ姿を見つめて、はなは激しくかぶりを振る。
「私、気付いてた。笑っていても、あなたはいつも泣いているみたい。きっと、何かとっても哀しいことがあったんだよね?」

439一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:50:09
「それは……」
 春風が、ジョージの黒髪を揺らした。さらに語りかけようとして、はなはその肩が震えているのに気付き、口をつぐむ。
「それは……」
 いつの間にか、はなの目にも涙が盛り上がっていた。涙でぼやける彼の後ろ姿に、一歩、二歩、ゆっくりと近付く。そしてギュッと握られた彼の左手の上に、自分の左手をそっと重ねた。

「辛いことを、無理にしゃべらなくていいの。ただ……ごめんなさい。とっても遅くなっちゃったけど、あなたのこと、応援させて」
 そう言って、はながグイっと涙を拭う。そしてジョージから少し離れたところに立つと、両腕をぐるぐると振り回し始めた。

「フレー! フレー! ジョージさん! 頑張れ! 頑張れ! オー!」

「ハハハ……」
 じっと背を向けたままではなの応援を聞いていたジョージが、そう言っていつもの乾いた笑い声を上げる。だがその声は次第に、ごまかしようのない程の涙声に変わっていく。彼にゆっくりと近付いて、その身体を抱き締めるはな。彼は天を仰ぎ、子供のように泣きじゃくる。

 どのくらいの間、そうしていただろう。
「驚いたよ。僕が、プリキュアに応援される日が来るなんてね」
 しばらくして、そう言いながら振り向いた時には、ジョージの顔には薄っすらと、少し照れ臭そうな笑みが浮かんでいた。
「キュアエール。いや、はな。君の応援で、皆がアスパワワを発するようになったこと……今なら分かる気がするよ」
 そう言って、ジョージがあの時のように、はなの腕を優しく振り払う。
「またね……未来で」
 微笑みながら去っていく後ろ姿を、片時も目を離さずに見送るはな。ジョージの姿は、今度は不意に消えたりなどせず、少しずつ小さく遠ざかって、やがてはなの目から見えなくなった。


   ☆


 あっという間に春が過ぎ、若葉の季節がやって来た。あれ以来、はなはジョージに一度も会っていない。
「きっと、はなの応援をもらって未来に帰ったんだよ」
 さあやはそう言い、ほまれも笑顔で頷いた。きっとそうなのだろうと、はなも思う。いや、そうであってほしいと思った。

 やがて、制服のブラウスが長袖から半袖になる頃には、文化祭の準備もいよいよ盛り上がって来た。
 クラスごと、クラブごと、それに有志による出し物や模擬店。一貫校の特色を生かし、小学生から大学生までの幅広いキャストが出演する演劇をトリに置いた、バラエティに富んだステージイベント。その中には、中学生になったえみると、はなの妹・ことりも出演するミニコンサートもある。
 スケートリンクでは、若宮アンリの振り付けで、ほまれを中心としたスケート選手たちによるアイスショーが行われることになっていた。
 多種多様な企画をひとつのお祭りとして成功させるために、さあやを含む生徒会の役員たちは、連日の打ち合わせに余念がない。
 はなの方は、たこ焼き屋のおじさん監修の元、クラスのみんなで屋台を出すことになった。今は、生徒たち以上に大張り切りのおじさんによる、厳しい修行の真っ最中だ。

 はなが、文化祭実行委員であるクラスメイトたちと一緒に再び大学を訪れたのは、そんなある日のことだった。この校舎に研究室を構えるドクター・トラウムから、文化祭に役立ちそうな発明品があるからと、実行委員会に連絡があったのだ。

 この前来た時とはまるっきり逆の方角にある正門から、大学の敷地に入る。入ったところで見知った顔に出会って、はなは目をパチパチさせた。
「……えみる? なんでここに?」
「は、はな先輩!?」
 中等部の制服姿のえみるが、目の前でワタワタと慌てふためく。
「えっと……ちょっと、所用がありまして……で、では、おさらばなのです〜!」
 逃げるように走り去っていく後ろ姿を、ポカンと見つめるはな。と、その時。
「よく来たね。さぁ、こっちこっち」
 記憶にある姿よりも、大分おとなしい身なりのドクター・トラウムが現れ、満面の笑みではなたちを手招いた。

「これが、千人分の注文を一度に受けられる接客ロボット。そしてこちらが、あらゆることを一分で説明できる案内ロボットだ。どうかね?」
「……す、凄いですね」
「……でも、千人分の注文って言われても、そんな量、模擬店じゃ作れませんし……」
「……なんか凄すぎて、文化祭に使うには勿体ないっていうか……」
 小型のロボットを前にして、まるで大好きなおもちゃの話をするように意気揚々と説明する大学教授に、中学生たちが目を白黒させる。

440一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:50:45
「それに、このロボットたちのバッテリーは、せいぜい五分が限界ですよ、ドクター。そうしょっちゅう充電が必要では、文化祭に使うのは難しいのではないですか?」
 不意に、新たな声が聞こえた。その声の主の姿を見て、はなが驚きに目を見開く。

(あの人だ……)

 白い開襟シャツに、はなが知っている髪型より短い黒い髪。専門書らしき分厚い本を小脇に抱え、背筋を伸ばした立ち姿――。
 それは未来から来たのではない、この時代に生きる、まだ学生らしいジョージ・クライの姿だった。

(そう言えばこの前会った時、「ここは僕の母校だ」って言ってたっけ)

 はなの視線に気付くはずもなく、ジョージがトラウムの隣の椅子に腰かける。
「私としたことが……。確かに君の言う通りだ。ああ、電力と同じくらい手軽に使えて、もっと強大なエネルギーがあれば、私の研究ももっとやりやすくなるのだがなぁ!」
「おっしゃる通りです」
 深々と溜息をつくトラウムに、ジョージが頷く。そして、緊張の面持ちで座っている中学生たちに、小さく笑いかけた。
「せっかく来てもらったのに、悪かったね」
 その声は、はなが知っている彼の口調と同じくらい穏やかで、その反面、はなが聞いたことのない明るさを伴っていて……。

(今はまだ、この人は哀しい目をしていないんだ……)

 心の中に、ゆっくりとひとつの想いが湧き上がって来た。雨が上がり、ゆっくりと空が明るくなっていく時のような、そんな希望に満ちた想いが。

(もし、今この人と友達になれたら……そうすれば、哀しい出来事が起こった時、わたしもそばに居られるかもしれない。独りじゃないって、抱き締められるかもしれない)

 自分の顔を、穴があくほど見つめているはなの視線に気付いて、ジョージが微かに怪訝そうな表情になる。次の瞬間、はなはサッと右手を挙げて立ち上がった。

「あの!」
「何だね?」
 今度はトラウムが、不思議そうな顔ではなに問いかける。その顔と、隣にいるジョージの顔に交互に目をやってから、はなはブンブンと腕を振り回しながら言った。
「ロボットは使えないけど……文化祭は、必ず来てくださいね。先生も、ジョ……お、おにいさんも。わたしたち、案内しますから!」

「おにいさん、か。初めてそんな風に呼ばれたな」
 一瞬、あっけにとられた顔をしたジョージが、そう言って楽しそうにハハハ……と笑い出す。
「ありがとう。君は、素敵な女の子だね」
 記憶の中のジョージの声と、目の前のジョージの声が重なる。不意に涙が出そうになるのを何とか堪えて、はなはにっこりと、心から嬉しそうに笑った。

 ラヴェニール学園の上に、初夏の日差しが降り注ぐ。それはまるでアスパワワのようにキラキラと輝いて、若者たちの明日を、静かに応援していたのだった。

〜終〜

441一六 ◆6/pMjwqUTk:2019/04/21(日) 21:51:17
以上です。どうもありがとうございました!

442そらまめ:2019/05/24(金) 18:42:15
こんばんは。投下させて頂きます。
「バイト始めました。」8話目です。
タイトルは、「バイト始めました。はち」です。

443そらまめ:2019/05/24(金) 18:42:52
読書はいいものだ。現実という抗えない物語から別の世界へと連れて行ってくれる。
物語はいいものだ。読む本によるが、ハッピーエンドを好む自分は物語の人物に憧れる。救いがあって、人間の本来持つべき良心を感じることができる。
現実は実に現な物語だ。見えたくないものまで見えてしまうのは、今の自分には辛すぎる。
よって、現実とはなんと酷な物語なのだろう。こんな現実なんて消えてしまえ。

「ねえ、本読んでるだけなのになんでそんな殺し屋みたいな目してるの…?」

若干引き気味の友人にそんなことを言われました。

図書館ていいものですね。静かだし。日常から離れられるような気がするから。
と、なんでここまで現実逃避したいのかといえば、座っているだけでもズキズキと主張してくる身体中の痣が、現実を突きつけてくるからさ。
あれから一週間が経ちました。奴らは案の定、武器を手に殴りかかるという正義らしからぬ攻撃で情報を引き出そうとしてきます。最近、とあるネットのサイトでは、そんな攻撃をしていたという目撃情報がまことしやかにされており、一部の方々が狂喜乱舞しています。でも世間ではそこまで話題にはなっていません。なぜかはわかりませんが、そういったコメントをした人のアカウントが、その後二度とログインしないからです。その事実に気づいた時、深く考えてはいけないと心のシャッターが自動で下りました。
それはそうと、殴られるとつい声が出ちゃう系敵になってしまった自分ですが、大切なことは絶対に口には出さないと決めている。命にかかわるから。

「あ、アキさんだ! アキさーん」

なんだかどこかで聞いたこのあるような声がしたけど気のせいかな。だってここ図書館だし。あんな叫ぶような声だすはずないよね。図書館だし。

「あれ? 聞こえないのかな…アーキ―さーん」
「ら、ラブっ!! ここ図書館よ! 静かにっ!」
「あ、ごめんせつな!」
「だから声大きいっ!」

そんなあなたもだんだん声大きくなってますよ。とは言わないよ。常識をありがとうせつなちゃん。ラブちゃんはここが図書館じゃなきゃ褒めてあげたいくらいコミュ力高いね。静けさしかないところでも構わずに自分を主張できるその勇気。ところでアキさんて誰のことだろう。

「こんにちは。アキさんっ」
「こんにちは」

何やら二人が話しかけてきた。周りをきょろきょろしてみたけど自分と友人①しかいない。ということはやっぱり自分?

「えーと、アキってもしかして…」
「はいっ! この前お母さんに名前聞いたので、こうきゅっと凝縮してみたらアキさんになりました!」

どうして名前をきゅっとする必要があるのかな? その理論でいくとラブちゃんはモブちゃんになるんだけどいいのかな。全然モブっぽくないんだけどな。むしろそのコミュ力なら主役になれちゃうよ。

「…まあいいか。それより二人はなんでここに?っていっても図書館だから本を借りるか勉強目的?」
「いえ!ちょっと買い物にきたんですっ」
「ホントになんでここに来たの…?」
「いえ、違うんです。買い物のついでに借りたい本があって寄ったんです」
「ああ、そういうこと」
「あと、随分前なんですけど、シフォンを助けてくれたこともお礼言わなきゃって思ってたんです」
「シフォン…? ああ、あの呪いの人ぎょ…じゃなかった、ぬいぐるみね。そういえばそんなこともあったっけ。言われるまで忘れてたよ」

そういえばそんなイベントもあったな。完全に忘れてたけど。
せつなちゃんに怒られ笑いながら謝るラブちゃん。平和な光景につい頬が緩む。こういう日常を壊しかねないことをしてると思うとなけなしの良心も痛むってもんですよね。
なんてね。日常を壊す前にプリキュア達に身体を壊されてる自分は敵として不釣り合いってとこですかね。体力の限界を感じて引退するアスリートの気持ちが今ならわかる。
あれ、いつのまにスポーツ選手になったのかな自分は。まあ一種の競技みたいなもんだからね。競技というよりは格闘技だけど。

律儀にもこの前の勉強のお礼をしてくれたラブちゃん。点数よかったんだってさ。なんか教えたとこが確認テストに全部でたみたいで。完全にまぐれです。友人①は自分が人に教えることができたのかと驚いていた。失敬な。
ラブちゃんとせつなちゃんは本を借り(借りたのはせつなちゃんだけだけど)家に帰っていった。また勉強教えてくださいと言われて「もちろん」と返さず「時間があったらね」と返事をした自分は人見知りだと思います。

444そらまめ:2019/05/24(金) 18:43:23

―――一週間前。

とある部屋の一室に、同年代の少女4人が机を囲み座っていた。各々下を向き、ある者は両手で顔を覆い、ある者は両肘を机につけどこかの司令官みたいな態勢で目を閉じ、またある者は両手を太ももに置き正座で、ある者は机下にいるイタチのような生き物の耳を親指と人差し指でふにふにとしていた。
会話の無い重い空気の中、一人の少女が口を開く。

「ねえ、アタシ達って正義の味方よね…?」
「うん…プリキュアだからね…」
「アタシ最近わからなくなる時があるのよね…あれ、自分今なにしてるんだろうって…」
「あ、それわかるよ美希ちゃん。なんでこんなことしてるのかなあって思う時ある」
「なんかさ、違う気がするんだよね。ほら、今までこんな悩むことなかったじゃん? 中学生にして正義について悩む時がくるなんて思いもしなかったよあたし」
「私も、プリキュアになって戦ってるはずなのに、たまにラビリンスを思い出す時があるのよね…既視感みたいな…」
「ダメだと思うのよねさすがに」
「そう、だよね…」
「うん。わかってはいるんだけど…いざ戦うってなると一番効率がいいかなって思っちゃってつい…」
「だからといってやっていいかと言われるといいともダメとも決まってはいないことだけど、人道的にはちょっとよくないわよね」
「でも、それで今の状況がわかるなら、それも仕方ないことかもしれないわみんな。ラビリンスがどういった作戦できているのかわからない以上、こちらもできることはするべきだと思う。それが今後の戦いの鍵になるかもしれないなら、とるべき行動の一つとして考えるべきだと思うの」

いくら話し合っても、今のやり方以外のいい方法が思い浮かばない。
そして行き着く先はやはり…


「いっいたいっ!! ほんともうやめてっ!! 痣だらけなんだよほんとにっ!」
「いや、アタシたちも好きでやってるわけじゃないのよ?」
「ちょっと目的とかあなたのこと教えてくれるだけでいいの」
「ほら、言っちゃえば楽になるよ?」
「いや、どこのヤクザだよっ?! 言ってること完全にアウトだろっ!! ぶぁっっ!」




なんて言葉を最後に浄化された。
今回もなんとか情報は吐かずに終われた。代償は大きなものだったが。鏡を見て驚愕。ついに顔まで殴られた。今までは見えないとこに痣つけられるくらいだったのに。そういえば顔にスティック当たった時「あっ」みたいな声聞こえた気がする。気のせいかもだけど。
顔に湿布はっとこ。ああ、傷だらけだよほんと。
いつまでこんなこと続くんだろ。バイト辞めるまでかな。辞めますって言い辛いんだよなあのおじさんの声。なんか圧を感じるし。となるとプリキュアが諦めるまで?諦めるって言葉あの子らの辞書には載ってなさそうなんですけど。先は長そう…



「あー今回もやっちゃったね…」
「わたし間違えて顔に当てちゃった…」
「どんまいブッキー、でもなんかもう関係ないよね。いたるとこ殴ってるし」
「全然言ってくれないわね。いつまで続ければいいのかしらこれ」
「あっちが折れて色々話してくれるまで?」
「先は長そうだね…」

結局何事もお話(物理)しないと始まらない。という結論で幕を閉じたプリキュアチーム。

結局あっち(プリキュア)が飽きるまで続くんだろうとこっちが諦め始める敵チーム(一人だけど)。

445そらまめ:2019/05/24(金) 18:46:53
以上です。
ありがとうございました。

446名無しさん:2019/05/25(土) 09:06:24
>>445
バイト君、何だかどんどん可哀想なことにw
そろそろ彼の辛さが通じますように。

447名無しさん:2019/12/01(日) 10:35:54
プリキュアシリーズ、第17弾のタイトル発表がありましたね!
「ヒーリングっど💛プリキュア」
ヒーリングというと、スマイルのレインボーヒーリングを思い出してしまうのは私だけ?
何はともあれ、プリキュア続いて良かった!
新シリーズも、佳境に入ったスタプリの今後も楽しみだぞ。

448名無しさん:2019/12/03(火) 00:22:04
ヒール・・・癒す
キュア・・・治す

449名無しさん:2020/03/16(月) 23:38:01
>>183の続き
いちか・・・下等生物
ひまり・・・塾生
あおい・・・剛毛
ゆかり・・・愛人
あきら・・・ギャランドゥ
シエル・・・レズビアン
はな・・・クソすべり社長
さあや・・・男性脳
ほまれ・・・るろうに剣心
えみる・・・薬物疑惑
ルールー・・・オイルだだ漏れ
ひかる・・・大根足
ララ・・・歯みがき星人
えれな・・・肉食系
まどか・・・デジャヴ
ユニ・・・上坂すみれ

450運営:2020/04/09(木) 20:52:00
こんばんは、運営です。
「オールスタープリキュア!イマジネーションの輝き!冬のSS祭り2020」、ロスタイムも含め多くのSSを投稿下さり、どうもありがとうございました!
お陰様で今年も楽しいお祭りになりました。
競作スレッドを過去ログ倉庫に移しましたので、競作SSの感想・コメント等は、今後はこのスレにてお願い致します。
通常モード(?)のSS投下も、いつでもお待ちしております!

451名無しさん:2020/04/18(土) 15:41:14
猫塚さんの作品への感想です。
なんか、ドキドキしました。まどかのホニャララを目の前に、えれながホニャララしちゃうなんて、凄い発想だなって。。。ドキドキしました。
来年も楽しみにしています!

452名無しさん:2020/04/21(火) 16:54:56
コロナで休校中、プリキュアの皆様は自宅で何をしているのか、想像してみた

なぎさ・・・食べて寝る、の繰り返し
ほのか・・・実験中、畳の一部を焦がす
ひかり・・・手作りマスク作りまくり
咲・・・筋トレしすぎてムキムキに
舞・・・絵を描きすぎて腱鞘炎に
満・・・薫を止める準備
薫・・・みのりを不安にさせるコロナを憎み、中国の方角を睨み続ける毎日
のぞみ・・・食べて寝る、の繰り返し
りん・・・花の世話しまくり
うらら・・・一人芝居上達中
こまち・・・羊羹を食べてコロナを撃退キャンペーン中
かれん・・・それなりに規則正しい生活
くるみ・・・のぞみへの文句を言いまくる毎日
ラブ・・・せつなとイチャラブ
美希・・・筋肉質になる
祈里・・・鼠や蝙蝠は美味いのかどうか気になってしょうがない
せつな・・・ラブとイチャラブ
つぼみ・・・植物の世話しまくり
えりか・・・部屋がヤバイことになっている
いつき・・・女子力上昇中
ゆり・・・消息不明
響・・・両親のセッションを連日聴かされ、ノイローゼに
奏・・・少しずつ太ってきている
エレン・・・音吉さんの本を読み漁る毎日。今後が懸念される
アコ・・・毎日、違った眼鏡をかけている
みゆき・・・食べて寝る、の繰り返し
あかね・・・上沼恵美子のおしゃべりクッキングが唯一の楽しみとなる
やよい・・・オタ度に拍車が掛かっている
なお・・・弟達の面倒を見続けて、体力が上昇し、学力が低下している
れいか・・・道について考えすぎて、おかしな方向に行っている
あゆみ・・・ゲーム三昧
マナ・・・六花によって柱に括り付けられる
六花・・・勉強しすぎてゾンビと化す
ありす・・・シェルターに避難中
真琴・・・ボイトレしまくって歌唱力上昇中
亜久里・・・レジーナとド突き合いのケンカの毎日。さながら、小動物同士の小競り合い
めぐみ・・・下っ手クソな手作りマスクを、ひめに駄目出しされる毎日
ひめ・・・少しずつ、大きくなってきている
ゆうこ・・・明らかに大きくなっている
いおな・・・マスクの値段を見て、舌打ちをする
はるか・・・ゆいと、変な遊びを思いつく
みなみ・・・会社が傾いてきている
きらら・・・インスタに色々あげている
トワ・・・ダンス沼にハマる
みらい・・・コロナに掛かって療養中
リコ・・・コロナに掛かって療養中
ことは・・・コロナに掛かって療養中
いちか・・・空手上達中
ひまり・・・勉強しすぎて右手の下が真っ黒になる
あおい・・・アホほどギターが巧くなっている
ゆかり・・・あくびばっかりしている
あきら・・・悶々としている
シエル・・・ビブリーとイチャラブ
はな・・・ルールー遊び
さあや・・・DIY三昧
ほまれ・・・インスタ三昧
えみる・・・色々心配しすぎて、遂にオカシクなる
ルールー・・・はなに弄ばれる毎日
ひかる・・・実は誰よりも地球の状態を客観的に把握していたりする
ララ・・・頭の触角で遊んでいたら、ほどけなくなった
えれな・・・少し色が白くなった
まどか・・・ダーツ沼にハマる
ユニ・・・マスクを高額で売っている連中からマスクを奪い、無料で配っている
まどか・・・マスク作りまくり
ちゆ・・・ダジャレノート(力作)が間も無く完成
ひなた・・・うっかり、ニャトランのオチ〇チ〇を指で引っ掻いてしまい、凄く怒られて、凹み中

453名無しさん:2020/04/21(火) 21:26:40
>>452
これ癒されるわ〜。
ゆりさん消息不明で噴いたw
あと、まどか→のどか でっせ。

454名無しさん:2020/04/21(火) 21:38:09
>>453
キュアップ・ラパパ! コロナよ、あっちへ行きなさい!

455名無しさん:2020/04/21(火) 22:26:51
のどか役の悠木碧さんは、魔法少女まどか☆マギカの鹿目まどか役だから、間違えたんだろう、きっと。

456名無しさん:2020/04/22(水) 17:38:39
魔法少女のどか☆マギカ草

457名無しさん:2020/04/28(火) 17:04:30
猫塚さんに続き、ドキドキ猫キュアさんの作品への感想です。
直感で書いてるというか、即興的で、スリリングな読み味でした。
あと、顔文字とか使ってて面白いなと思いました。
(某書き手さんの影響を受けているような・・・?)
来年も楽しみにしています。

458名無しさん:2020/06/25(木) 23:59:13
想像してみたPART.2

なぎさ・・・靴下は自分で洗濯することに決めた
ほのか・・・小火(ぼや)を出す
ひかり・・・タコ焼き器を使わずとも、まん丸いタコ焼きが作れるようになった
咲・・・球速150キロメートル
舞・・・「バンクシーって、スマホの画像を見ながら絵を描いてるんじゃないかしら…?」
満・・・みのりに、うまく説明している
薫・・・何故か、香港のデモに参加している
のそみ・・・こまちの店の手伝いをするようになってから、太った
りん・・・肥料と会話できるようになった
うらら・・マリー・アントワネットとジャンヌ・ダルクの霊が、日替りで憑依するようになった
こまち・・・アマビエを模した和菓子がバズッて、笑いが止まらない
かれん・・・こまちの店の手伝い
くるみ・・こまちの店の手伝い中、のぞみの悪行を目撃する
ラブ・・・政治に興味を持ち出す
美希・・・ケツが馬みたいになっている
祈里・・・美希ケツを見ると、変な気分になっちゃう
せつな・・・スーパーシティ法がスピード可決したニュースを見た辺りから、体調を崩す
つぼみ・・・土と会話できるようになった
えりか・・・コフレを拘束・監禁して、プリキュアの浄化の力を使って部屋を掃除した
いつき・・・コスプレに目覚める
ゆり・・・謎の大金を持って帰宅後、毎日、写経をしている
響・・・ジョギングしていたら迷子になって、今、パキスタン辺りをウロウロしている
奏・・・馬みたいなケツになっている
エレン・・・いつまで経っても10万円が振り込まれないのて、仕方なく音吉さんの本をブックオフで売って、資金難をしのいでいる
アコ・・・竹馬のギネス記録を達成する
みゆき・・・大人の階段をのぼり始める
あかね・・・上沼恵美子のおしゃべりクッキングのエプロンを着けて、毎日、鏡の前でポーズをとっている
やよい・・・男性になる夢を見る
なお・・・母乳が出るようになった
れいか・・・カレーライスの御飯の位置を右にするか左にするかで、兄と喧嘩する
あゆみ・・・「甲子園はEスポーツでやればいいのに…」と思っているとか、いないとか
マナ・・・環境相を浄化してあげたい
六花・・・医療従事者を励ます為に、空を飛んでいる
ありす・・・1,000,000,000,000円を寄付
真琴・・・医療従事者を労う為に、歌をうたっている
亜久里・・・おばあ様に、六角形の孔(あな)が沢山あいたクッションをプレゼントする
レジーナ・・・亜久里の下着を全て、セクシーなデザインのものにスリ替えるという、手の込んだイタズラをする
めぐみ・・・今更ながら、アンラブリーの喋り方にツボる
ひめ・・・激太り
ゆうこ・・・大森弁当がバズッて、笑いと涎が止まらない
いおな・・・姉と瓜二つになった
はるか・・・頭からキノコが生えた
みなみ・・・消息不明
きらら・・・トワのマネージャーになりつつある
トワ・・・ダンス動画をインスタにアゲ続けていたら、フォロワー数が世界一になった
みらい・・・テレ朝本社前を、よく箒で掃いている
リコ・・・インフルエンザに掛かって、療養中
ことは・・・国に帰った
いちか・・・父を超えた
あおい・・・指を切った
ひまり・・・背が伸びた
ゆかり・・・乳がデカなった
あきら・・・声が低くなった
シエル・・・おでこが広がった
はな・・・前髪が無くなった
さあや・・・電動ドリルを使っていたら、手を怪我した
ほまれ・・・恋をした
えみる・・・ライブ映像を配信している
ルールー・・・自身が絶対にコロナに掛からない事に悩んでいる
ひかる・・・地球と会話できるようになった
ララ・・・科学に疑問を抱く
えれな・・・プランターと会話できるようになった
まどか・・・納豆の混ぜ方を巡って、父と喧嘩する
ユニ・・・手作りマスクの内側の素材として用いるべく、アベノマスクを回収している
のどか・・・仔馬みたいなケツになっとる
ちゆ・・・ダジャレノートにココアをこぼす
ひなた・・・ニャトランの為に、貞操帯を作ってあげた(牛乳パックで)

459名無しさん:2020/06/27(土) 22:09:36
>>458
馬みたいなケツってどんなケツだw

460名無しさん:2020/06/29(月) 00:45:55
>>459
岡部友みたいなケツかと

461一六 ◆6/pMjwqUTk:2020/07/18(土) 09:18:56
おはようございます。
久々のSSの投稿です。10日以上遅れてしまいましたが、フレッシュで七夕のお話。
3レスお借りします。

462一六 ◆6/pMjwqUTk:2020/07/18(土) 09:19:29
「なぁ、サウラー。ちょっと気になることがあるんだが」
 バタン、とドアが開く音と、それと同時に聞こえて来たウエスターの声に、イースはハッと我に返った。この世界の情報収集のため、いつものようにこのリビングで本を読んでいたはずが、少しの間意識が遠のいていたらしい。
 あのカードを使うようになってから、戦闘が終わってもダメージが一向に消え去らない。こんな痛みや疲れなど早く払拭して、次こそメビウス様のご命令を果たさなくては――そう思いながら、慌ててソファの上で居住まいを正したところで、眉間に皺を寄せてこちらを見ているウエスターと目が合った。

「何? 私に何か用なの? ウエスター」
「いや……そうではないが……」
「それで? 気になることって何だい?」
 イースに切り口上に問い詰められて言い淀むウエスターに、折り良くサウラーが声をかける。ウエスターはこれ幸いとサウラーの方に向き直った。

「おお、実はだな。この館の前の森に、何やら他とは違う雰囲気の木が――ほら、緑色の細長い木が、たくさん生えている場所があるだろう? あそこに今日、やたらと人が集まっていてな」
「……一体どこのことだ?」
 サウラーが首を傾げながら、部屋に備え付けられているモニターを起動させる。館の周りの森の映像を少しずつ動かしていくと、ウエスターが「ここだ!」と言いながら画面を指差した。
 モニターに映っているのは、森の外れの一角にある竹林だった。夏でも涼し気に見えるその場所に、ウエスターの言う通り、何人もの人影がある。どうやら皆、手に手に刃物を持って、竹を切り出しているらしい。

「あんな細い木、一体何に使うんだ?」
「そう言えば、この国の歴史書で読んだことがあるよ。大昔はあの竹とか言う植物で、槍を作ることもあったらしい」
「何っ!? じゃああの人間どもは、まさかその槍でナケワメーケと戦うつもりなんじゃ……」
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
 我慢できなくなって、イースは読みかけの本をバタンと閉じた。吐き捨てるようにそう言って、鋭い目で二人を睨み付ける。
「プリキュアどもに頼りきりのあんな弱い者たちに、そんな度胸があるものか」
 そう言いながらイースがゆらりと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「おや、お出かけかい?」
「おい、イース! 今日はもう休んだ方が……」
「うるさいっ! お前の指図は受けん!」
 ウエスターを大声でそう一喝してから、イースはバタンと後ろ手でドアを閉めた。



   赤の願い、綴れない想い



 東せつなの姿になって、森の中をゆっくりと歩く。
 最近は、館に居ても落ち着けないことが多くなった。ウエスターも、そしてサウラーまでもが、何かというと話しかけ、ちょっかいを出してくる。メビウス様の特命を果たすために、色々考えたいことがあるというのに……。

(貴様らにとやかく言われなくても、次こそ必ずご命令を果たす! そして……)

 心の中でそこまで呟いて、せつながブン、と頭を横に振る。

(……とにかく、黙って見ていろ!)

 一人になりたくて館を出てきたのは確かだが、別の理由もあった。ああは言ったが、やはりこの街の人間たちの行動が気になったのだ。

(まさか、サウラーが話していたようなことはないだろうが……)

 一瞬、ウエスターの話に出た竹林に行ってみようかと思ったが、街中に行った方がより彼らの様子がよく分かるだろう、と思い直す。その考えに間違いはなかったが――商店街に着いてみると、予想を見事に覆す光景が広がっていて、せつなは目を丸くした。

 商店街の店という店の軒先に、槍になるとは到底思えない、細くて柔らかい竹や笹が立て掛けられている。しかもそれらは、色とりどりの数多くの細長い紙切れで飾り立てられているのだ。中には紙切れだけでなく、丸い紙の輪を幾つも繋げたようなものや、紙で作った網のようなものも飾られている。
 色鮮やかな飾りを無数に付けた竹や笹が、風にさわさわと揺れている――その様子を、半ば怪訝そうに、半ば物珍しそうに眺めながら商店街を歩いて来たせつなは、飾られている紙にどれも文字が書いてあるのに気付いて、足を止めた。

463一六 ◆6/pMjwqUTk:2020/07/18(土) 09:20:05
 一枚を手に取って、その文字を読んでみる。途端にせつなの顔が、ほんの一瞬、不快そうに歪んだ。
 もう一枚。さらにもう一枚……。その笹についている全ての紙に目を通そうとするかのように、せつなは片端から手を伸ばす。そして手に取るごとに、その表情は次第に険しく、不機嫌そうなものになっていく。

――ピアノが上手になりますように。
――今年は遅刻をしませんように。
――新しいゲーム、買ってもらえますように。

(こんな紙切れに願いを書けばそれだけで願いが叶うなどと、この世界の人間たちは本気で思っているのか? こんなことまで人任せにして、能天気に笑っているのか……?)

「ふん……なんてくだらない」
 何だかモヤモヤするのが腹立たしくて、わざと声に出してせせら笑ってみる。その声がやけに掠れて、余計気分が悪くなった。
 不思議なことに、紙に書かれた言葉に少しだけ見覚えがあるような気がする。そのことが、余計せつなを苛立たせる。こんなくだらない言葉、今まで目にしたことなど無いはずなのに。

――高校に合格できますように。
――親友とずっと仲良しでいられますように。
――病気のお母さんが、元気になりますように。

 気分が苛立っているためか、鼓動が速い。何だか少し息も苦しい。大きく深呼吸すると、今読んだ紙切れたちが、せつなを嘲笑うかのように、一斉にひらひらとたなびいた。
 鮮やかな色彩が目の前で渦を巻くように溶け合って――やがて世界がゆっくりと暗い闇に染まる。
 せつなの身体はずるずると崩れ落ち、風に揺れる七夕飾りの下に力無く倒れた。



 目を開けると、薄暗い天井が見えた。頭の下には薄べったいクッションのようなものがあてがわれ、身体には薄い布団が掛けられている。
「気が付いたかい?」
 跳ね起きたせつなに、少々ぶっきら棒な声がかけられる。
「暑さにやられたんだろ。ほら、これ飲みな」
 そう言ってペットボトルを差し出したのは、不機嫌そうな顔をした一人の老婆だった。華奢な身体つきで、差し出された手も皺だらけなのに、眼鏡の奥からこちらを見つめる眼差しは鋭くて、妙に威圧感がある。
「……いただきます」
 その眼光に気圧されるように、せつなはペットボトルを受け取ると、上品な手付きで蓋を開け、中身をひと口飲んだ。どうやら無味無臭の、ただの水らしい。途端に喉が渇いていたことに気付いて、ごくごくと飲み進める。
 冷たい水が、火照った喉に心地いい。一気に飲み干して思わず大きな息をつくと、老婆の目元がほんの一瞬、フッと緩んだ。と、その時。
「すみませーん」
 幼い声が、意外にもすぐ近くから聞こえた。

 声がした方が目を移すと、向こうに商店街の通りが見える。そして、せつなが居る部屋と通りの間のスペースには、左右に造り付けられた棚があり、その中に所狭しと、何やら様々な色や形の小さなものが置かれている。その棚と棚の間に、兄妹らしい二人の子供が立っていた。
「ちょっと待ちな! ――あんたはもう少しここで休んでな」
 老婆が子供たちに声をかけてから、せつなにそう言いおいて立ち上がる。
 見るともなく見ていると、子供たちは棚に置いてあったらしい品物をそれぞれ手に持っていて、老婆に小銭を渡している。それを見てようやくせつなは、ここがお店なのだということに気付いた。
 考えてみれば、商店街にあるのだから当然のことだ。だが彼らのやり取りは、それだけでは終わらなかった。

「あんたたち、七夕の短冊はもう書いたのかい?」
 老婆にそう声をかけられ、幼い兄妹が揃って首を横に振る。すると老婆はせつなが居る部屋に取って返して平べったい箱を手にすると、それを二人に差し出した。
「なら、好きなのを一枚ずつ選びな。願い事を書いたら、店の前の笹に吊るすんだよ」
「わかった!」
「ありがとう、おばあちゃん」
 おにいちゃんは何て書くの? などと話しながら、短冊と呼ばれた細長い紙切れを大事そうに手に持って、二人が店を出ていく。その後ろ姿を見送ってから、老婆が部屋に戻ってきた。

464一六 ◆6/pMjwqUTk:2020/07/18(土) 09:20:40
「短冊の願い事、あんたも書くかい?」
 老婆がそう言いながら、さっきの平べったい箱をせつなの目の前に置く。箱の中には、まだ字が書かれていない沢山の短冊が入っていた。紙の色は、青、赤、黄色、白、紫の五色だ。
「良かったら一枚選びな。昔は短冊の色にも意味があったそうだけどね、今は好きな色に好きな願い事を書けばいいのさ」

「願い事……だと?」
 さっきの能天気な願いの数々を思い出して、つい冷淡な口調になってしまった。それに気付いて、せつなが慌てて笑顔を作り、箱の中に手を伸ばす。
「あ……ああ、短冊ですか。紙に書いただけで願い事が叶うなんて、不思議ですね」
 アハハ……と引きつった顔で笑いながら、せつなは箱の中から一枚の赤い紙切れを手に取った。その様子を相変わらずいかめしい顔で見つめながら、老婆がゆっくりと首を横に振る。

「書いただけで願いが叶うわけないじゃないか。願い事を叶えるのは、自分だろ?」
「え? だって、短冊にお願いするんじゃ……」
「短冊は、七夕の空への――天の川への決意表明みたいなものさ」
「決意表明……なんでわざわざ」
「願い事は、目に見えないだろう? だから目に見えるように文字にすれば、心が決まって、それに近付けるんじゃないのかね」
 思わずぼそりと呟いたせつなに、相変わらずぶっきら棒な調子でこたえた老婆が、初めて少し頬を緩めてこう付け足した。
「みんな、何かが“できますように”って短冊に書くだろ? あれにはきっと続きがあるのさ。“できますように、頑張ります”とか“できますように、応援します”とか、そういう意味じゃないのかねえ」
 その途端――耳の奥に明るい声が蘇って来て、せつなは思わずハッと息を呑んだ。何故あの短冊の言葉に覚えがあったのか、やっとわかったから。

――せつながいつか、幸せをゲットできますように!

 首から下げたペンダントに、左手でそっと触れる。それは、このペンダントをくれた時、ラブが輝くような笑顔を見せながら言った言葉だった。

(ラブが私を応援……? 馬鹿馬鹿しい。それに、あれは私の願い事なんかじゃない。私の願い事があるとすれば、それは……)

「やっぱりまだ具合が悪そうだね。横になるかい?」
 老婆の声にハッと我に返ると、右手に持った短冊が、ブルブルと小さく震えていた。まだ胸の中に渦巻いている何かを瞬時に追い出し、何でもない風を装って、短冊を箱の中に戻す。そして老婆に向かって一礼すると、せつなは素早く立ち上がり、小さな店を通って商店街の通りに出た。
「ちょっとお待ち。もう少し休んでいかなくていいのかい?」
 老婆が慌てて後を追いかける。だが、老婆が店の外に出た時には、もうどこを探しても、せつなの姿は無かった。



「何だい、あの子は。大丈夫かねえ……あんな苦しそうな目をして」
 どっこいしょ、と言いながら再び部屋に上がった老婆が、ふと短冊が入った箱に目を留める。他の短冊と混じって、少し皺の寄った赤い短冊が――さっきせつなが持っていた短冊が、箱の中にふわりと置かれている。
 赤い短冊は、昔ながらの意味では、親や目上の者を慕い敬う気持ちを表す。そして無意識に選んだ短冊の色は、不思議とその人の願い事と関係が深いことが多いのだという。この赤は、あの少女の願い事と、関係があるのだろうか――。

 老婆は、何も書かれていないその短冊を手に取ると、再び外に出た。小さな身体で精一杯背伸びして、店の前に飾られた笹の葉のなるべく高い場所に、その短冊を吊るす。
「あの子の願い、どうか叶いますように……」
 赤い短冊は夏の風に吹かれて軽やかに舞い、笹の葉は数多くの願い事にその身をしならせながら、さらさらと涼やかな音を奏でていた。


〜終〜

465一六 ◆6/pMjwqUTk:2020/07/18(土) 09:21:14
以上です。ありがとうございました!

466運営:2020/07/23(木) 11:24:25
おはようございます。運営です。
ゾンリー様から、ことり&えみるの短編「True Relife」頂きましたので、代理投稿させて頂いた後、保管させて頂きます!
2、3レス使わせて頂きます。

467運営:2020/07/23(木) 11:25:23
「家出をするのです!」
 昼下がり、程よく暖房の効いた教室内でえみるちゃんは私――野乃ことりに話しかけてきた。
「……ほぇ?」
 眠たくなるような授業を終えたばかり。言葉の意味を理解するまで、数秒。
「……家出!?」
 思わず叫びかけた自分の口を咄嗟に塞ぐ。幸いにも一年A組の教室内は騒然としていて誰も気に止めていないようだった。
「と、とにかく放課後ゆっくり教えてよ」
 えみるちゃんの表情は決して「またまたー」と笑い飛ばせるようなものでなく、至って真剣だった。
 今日最後の授業は移動教室。もやもやした気持ちを抱えながら、私は誰もいなくなった教室に鍵をかけた。

 私たちが中等部に進学して八ヶ月。それなりにえみるちゃんの事を見てきたし、仲良くしていたつもりだった。
 一緒に勉強して、一緒におしゃべりして、時々歌の練習に付き合って……だから、あんな顔をしたえみるちゃんを見てるのは辛かったし、なんとかしてあげたいとは思う。
(思う……けど……)
 そんなことを考えてるうちに、えみるちゃんが中庭にやってきた。
「お待たせしたのです」
「ううん。気にしないで。……それで、どうしたの?」
 えみるちゃんは「二人だけの秘密」と前置きして、語り始めた。
「別に、学校が嫌になったとか、家族と喧嘩したとか、そういう訳じゃないのです。ただ……ぽっかりと穴が空いたような気がして」
 その穴がなんなのかは、考えずとも理解出来た。
「……」
 急に寒気がして、マフラーを首に巻く。冷たい風が吹いている中、えみるちゃんは防寒具も付けずに、ただただ虚空を見つめていた。
「それで、家出?」
「はい!もう家出するとお母様達にも言ってあるのです! 確固たる意思なのです」
「うん……うん?」
 確固たる意思。それは分かる。あれ?家出って家族に言うものだったっけ?
「……?……もしかして……家出ってこっそりやるものなのです!?」
「世間一般的にはそうだと思うけど」
「にゃんとおおおおおおおお!」
 そう驚くえみるちゃんを見て、私は表情を少しだけほころばせた。
(それでも……だよね)
 彼女が喪失感に苛まれているのは間違いない。何か、何か救う方法はないかと必死に思考を巡らせる。
 思いつくや否や、私は口に出していた。
「えみるちゃん、私も家出する!」
 口元を覆っていていただけのマフラーが外れ落ちる。
「そんなつもりじゃ!」
「ううん。頼ってくれたのが、嬉しかったから。少しでも力になりたいの」
「ことりちゃん……」
 果たして、これが正解なのかは分からない。それでもきっと、お姉ちゃんならそうすると思った。
「ねえ、せっかくなら家出ついでにキャンプしようよ。近くの公園がね、キャンプ場として営業してるらしいんだ」
 そう提案したのは、私の意思。家出といえど夜の町中に子供だけで出歩くのは憚られるから。
「はい!」
「じゃあ決まりだね!」――

 こうして始まった私たちの家出(?)計画。
 食材類はえみるちゃん。その他の用具は私が調達することにした。
 ……ということでやってきたのは毎度おなじみハグマン。
「いーなーことりー。えみると二人でキャンプなんてー」
「だからこうして買い出しに連れてきてあげたんでしょ」
 私とえみるちゃん、二人だけの秘密ということで、家族にはキャンプに行くとだけ伝えてある。お姉ちゃんには楽しいキャンプなんだろうけど、これはえみるちゃんを救うための大事なミッションなんだ。
 「そうだけどー」と不満げな姉の隣で、私は口を真一文字に結びエレベーターの上ボタンを押した。
「……おねえちゃん」
「ん? どうした?」
 エレベーターは私たちだけを乗せて上へ上へと上っていく。
「もし、さ……ううん。やっぱり何でもない」
 なんだか、お姉ちゃんに頼るのは違う気がして。私はなんとか話題をそらしながら、エレベーターが止まるのを待った。
「ことり」
 エレベーターが減速して、到着のアナウンスが鳴る。
「よく分かんないけどさ、きっと、大丈夫だよ」
 ああ、やっぱりお姉ちゃんには敵わないな。ため息を一つついてから、私はエレベーターを降りた。
「みてみて! 大っきい寝袋!」
「二人ぐらい入っちゃうよそれー」――
    ・

468運営:2020/07/23(木) 11:26:24
 そして、ついにやってきた実行当日。空は雨こそ降っていないものの分厚い雲が覆い、待ち合わせの三十分前に来ていたえみるちゃんの表情はやっぱり曇っていて、とても能天気に世間話を出来るような感じでは無かった。
「ことりちゃん、おはようなのです」
「もう、お昼だよ?」
「そ、そうだったのです!アハハハ……」
「……」
 空元気、かぁ。えみるちゃんの優しさだとは分かっていても、もう少し頼って欲しいなと思ってしまう私がいて。
(弱気になっちゃダメ!これからが本番なんだから!)
 自分に喝を入れて、それじゃ行こ!と歩き出して数分。たどり着いたのは周囲に木々が生い茂る川のほとり。
 四苦八苦しながらもテントを骨組みから組み立てていく。
「「せーのっ!」」
 骨組みの上からシートを被せれば、あとは結ぶだけ。思ったよりも早い完成に、私たちは暇を持て余した。空はまだ赤くなる気配を見せず、ただただ灰色の雲が晴れも雨降りもしないで無機質に覆っていた。
「……」
 流れる沈黙。このままじゃいけないと無理矢理話を振ってみる。
「えみるちゃんは、何持ってきたの?」
 以前、ハイキングに来たときとは打って変わって、えみるちゃんの荷物は必要最低限、といった感じだ。
「カレーの食材なのです!」
 次々とリュックから取り出していくのは、カレーのルーに無洗米、にんじんなどなど……もちろん、石橋をたたくような金槌は入っているわけがなく。
「あとはマシュマロ!マシュマロも焼くのです!スーパーの精肉コーナーに置いてあったのです」
 リュックの袖から取り出したのは丁寧に個包装されたマシュマロ……マシュマロ?
「それ、牛脂じゃない?」
「なっ!?」
「そんなに驚かなくても……」
 いつものえみるちゃんとは違うというもどかしさを感じつつも、それからは他愛のない話で盛り上がる。担任の先生の面白話だったり、気になる男子がいるか〜なんて話だったり。
 えみるちゃんも笑顔で答えてくれたけど、どうも私の表情を見ると、どことなく笑顔が曇ったような気がした。
「そろそろ、用意し始める?」
 ここで巻き返さなきゃと座っていた椅子から飛び上がる。そんな私の焦燥感を煽るように空は仄かに赤く染まり、足早に灰色の雲が流れていっていた。
 今回作るのはキャンプでは定番のカレーライス。
 家で作るのとはまた違って、簡易コンロはお鍋が安定せず、分量だって計量カップがないから目分量だ。それでもおいしいものを食べてほしいと躍起になって鍋とにらめっこ。
「私も何か手伝うのです!」
「ううん。えみるちゃんは座っててよ」
 コトコトと煮立ってきた鍋にルーを入れて、もうしばらく煮込む。
「できたっ」
 空の明るさは疾うに消え去り、持ってきたランプとえみるちゃんが別に起こしたたき火だけが、唯一の明かり。
「「いただきます」」
 恐る恐る、一口目を口に運ぶ。
「うっ……焦げてる」
 底の方で混ぜ損なったのか、にんじんの風味を損なう苦みが口全体を覆った。幸いえみるちゃんは焦げたとこには当たらなかったらしくおいしいと笑顔で完食してくれた。
 食べ終わった食器やらなんやらを片付けて、寝袋にホッカイロを入れれば寝る準備は完了。
 それでも寝るのが惜しくて、私たちは寒空の下でもう一度焚き火を囲んだ。
「キャンプファイヤーみたいなのです!」
「ほんとだね」

 流れる、沈黙。

「……ことりちゃん、今日はありがとうなのです」
「気にしないでってば。……私の方こそごめんね、何も、してあげられなくて」
 自分の無力さが憎くて、無意識の内に下唇を噛み締める。薪の炎が握りしめた拳を強く、強く熱していく。
「私は、ル……あの人の代わりにはなれない。分かってる。分かってるんだけど……っ!」
 ああ、えみるちゃんが泣きそうな表情をしている。そうだよね、ルールーの名前は出さない方が良かったよね。
 あれ?どうして、泣きながら笑っているの?

469運営:2020/07/23(木) 11:26:58

 私の火照った拳を、えみるちゃんの冷たい手が優しく包み込む。
 視界がぼやけて、えみるちゃんの顔がよく見えない。途端、抱きしめられて、涙がえみるちゃんの服に吸い込まれていった。
「ことりがそんな顔してたら、安心して悩めないのですっ……」
 ゼロ距離で、すすり上げる声が響く。
「えみ……る……」
 ダメ、私がなんとかしないと。そんな堤防はいとも簡単に決壊し、感情がとめどなく泣き声となって流れていく。
 どうにも形容できない感情が流れていく中で、彼女に必要なものが何となくわかった気がした。
 
 燻った薪の焦げたにおいで目を覚ます。
 あの後一緒の寝袋で寝たおかげで、全くと言っていいほど寒さを感じることはなかった。
 テントの隙間から差し込む光は、まだ朝には程遠い明るさで。
 「んむぅ……」
 「ごめん、起こしちゃった?」
 「ことりー……」
 もぞもぞと顔を寝袋内部へと埋め込んでいくえみる。
 「ふふっ、……これで、いいんだよね」
 私は本当の安心を噛み締めながら、もう一度微睡みに身を任せることにした。

470運営:2020/07/23(木) 11:27:43
以上です。ゾンリー様、ありがとうございました!

471名無しさん:2020/07/27(月) 01:25:44
>>467>>469
文章が優しいので、読み易くて分かり易い。マシュマロのところウケた。

472名無しさん:2020/08/07(金) 11:48:34
プリキュアに限らすだけど、Wikipediaをなんとかしたいなぁ。
概要が概要でなくなっているし、
キャラクターの説明も、ストーカーじみているし。
そう思っている人間が1人、ここにいることを表明いたします。

473名無しさん:2020/08/07(金) 11:58:02
ファンサイトを別に設けたほうが、双方を尊重する事になるんだけどねぇ。
Wikipediaを編集している人は、本当に見る人のことを考えているのかしら?

474名無しさん:2020/08/07(金) 12:06:00
Wikipediaが便所みたいになっている。
ストレスの捌け口にしている人達がいる。

475名無しさん:2020/08/07(金) 12:08:43
文字による情報はそこそこに、あとは作品を観ろ!これが一番美しい。

476運営:2020/08/14(金) 14:17:01
こんにちは、運営です。
副管理人・夏希作のフレッシュ長編『飛べないもう一羽のウサギ』を保管させて頂きました。
この作品は、140文字SSを連ねて、四コマ漫画の連作のような長編小説を書く、という新たな試みで、
Twitterからの全85ツイートによって綴られた長編となっています。
保管庫では物語の構成に沿った7章に分けて保管させて頂きました。是非読んでみて下さい。

477運営:2020/10/10(土) 23:57:47
こんばんは、運営です。
お蔭様でプリキュア!ガールズ掲示板・出張所(Twitter)のフォロワーが1500人を超えました!
感謝企画として、管理人・一六と、副管理人・夏希による1500文字SS競作(140文字×10+100文字)を行いました。
テーマは「フォロー」、ジャンルはフレプリです。

・一六『フレッシュプリキュア!31.5話:せつなとシフォン 大好きな町を守れ!』

・夏希『逆襲のイース』

保管させて頂きましたので、是非読んでみて下さい。

478運営:2020/10/11(日) 23:04:19
>>477
出張所のフォロワー様1500人達成記念に、フォロワーのみにー様からイラストを寄贈して頂きました!
こちらにもURLを貼らせて頂きます(最初のhを外しています)。
みにー様、どうもありがとうございました!

ttps://twitter.com/apgirlsss/status/1315254363124711424

479一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/01/02(土) 00:01:08
あけましておめでとうございます。
新年の御挨拶代わりに140文字×10の小ネタを書いてみました。
Twitterに投稿させて頂きましたが、こちらにも投下させて頂きます。
タイトルは『桃園家の初日の出』です。

480一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/01/02(土) 00:02:08
「ラブ。ねぇラブ、起きて」
「う〜ん……もうちょっと……」
ラブを揺さぶるせつなの手が一瞬緩む。昨日は夜遅くまで起きていたから、まだ寝足りないのだろう。
でももう起こさないと間に合わない。
せつなが意を決したように、ラブの耳元に顔を近づける。
「ラブっ! あ・さ・よ!」
「うわぁっ!」


「もう時間よ」
「あ、そうだった!」
その一言で、ラブがパチリと目を開いた。大急ぎで着替え、二人揃ってベランダに出る。辺りはまだ仄暗くてお互いの顔もよく見えない。
「はぁ、間に合った〜」
ラブの言葉に微笑んだせつなが、空を見上げてその顔を曇らせる。暁の空を、分厚い雲が覆っているのだ。


――初日の出?
――そう! 元旦の日の出に一年の願い事をするの。でも、いつも起きられなくってさ〜。

昨夜のラブとのやり取りを思い出す。
この世界の人々は何かと願い事をする。以前はそれが能天気に思えたが、少しずつわかってきた。敢えて願いを口にして、それを叶える決意を新たにしているのだと。


――だったら明日は私が起こしてあげるわ。

この世界での“年”という区切りの最初の日。自分も願い事ということをして、一年への決意を新たにしたい。そう思ったのだが……。
「ラブ。こんなに曇っていたら太陽は……」
天候のせいなら仕方がない。せつなが諦めかけた、その時。
「あ。見て、せつな!」


ラブが身を乗り出して空の一点を指差した。そちらを見て、せつなが思わず目を見開く。垂れ込めた雲の間から差し込む一筋の光。見ているうちに光は二筋となり、次第にその数を増して、闇に沈む町を柔らかく照らし出す。
「綺麗だね、せつな」
「ええ……何だか空が、この町を祝福してくれているみたい」


「さあ、あたしたちも願い事しよう!」
ラブが元気よくそう言って、パン、と手を叩く。
「今年もみんなで、幸せをゲットできますように」
朝日を浴びて、ラブのツインテールが金色に輝く。それを眩しそうに見つめてから、せつなもそっと目を閉じる。
「今年もみんなの笑顔のために、精一杯頑張ります」


合わせた手を下ろし、顔を見合わせて小さく笑い合う。その時。
「あら? ラブ、せっちゃん。そんな格好で外に居たら風邪ひいちゃうわよ?」
囁くような声が階下から聞こえて、二人は驚いて庭を覗き込んだ。
分厚いコートを着込んだあゆみと圭太郎が、白い息を吐きながら笑顔でこちらを見上げている。


「お父さん! お母さん!」
「大きな声出さないの。まだ朝早いのよ?」
あゆみにたしなめられ、ラブが、あ……と首をすくめる。
二人とも今朝は珍しく早く目が覚めて、せっかくだから初日の出を見に出て来たのだという。
「それにしてもラブが初日の出を見られるなんて。これもせっちゃんのお蔭ね」


「ううん、そんなこと……」
照れ臭そうに頬を染めるせつなを見て、ラブがニコリと笑う。
「ねえ、ここからの方がよく見えるよ。上がって来て」
「おお、それもそうだな」
「その前に、二人はちゃんとコートを着ること」
「「はーい!!」」
思わず元気に声を揃えた二人が、今度は揃って口を押さえた。


「まあ、綺麗ね〜」
「うちからの眺めもなかなかのものだな」
狭いベランダで肩を並べ、明けて行く町を眺める。
空には厚い雲があるけれど、目に映る景色は、こんなにもあたたかい。
「あけましておめでとう、ラブ、せっちゃん」
「今年もよろしくね」
四人の笑顔が朝日に照らされ、キラキラと輝いた。


〜終〜

481名無しさん:2021/01/03(日) 04:42:49
>>480
せっちゃんはかなり前からラブの寝顔を堪能していたと思
いい年明け迎えました!

482Mitchell&Carroll:2021/02/25(木) 01:00:38
『パプリカ』

ええい 口惜しいわ
あの空洞 何なのよ
まるでピーマンじゃないの
ビタミンPのピーはピーマンのピー
私 とってもハングリーでアングリーよ

ええい いまいましいわ
何がカラーピーマンよ
赤色 黄色 橙色
ビタミンPのピーはピーマンのピー
私 とってもハングリーでアングリーよ

もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと

いつか私が鳥になったら
空からお前を見つけてやるわ
このくちばしで突っついて
風穴だらけにしてやるわ

ええい えええい いじらしいわ
あなたたちったら 甘いのよ
なかなか みずみずしいじゃないの
ビタミンPのピーはパッションのピー
私 とってもセンチュリーでカンチュリーよ

もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと

もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと
もっと もっと くまもっと

(written by Higashi Setsuna)

483名無しさん:2021/02/25(木) 19:31:07
>>482
パプリ〜カ〜
熊本名物だったのか〜
っていうか、せっちゃんの荒ぶる心をその甘みで癒してくれたんだから、
競作でいいんじゃない?

484Mitchell&Carroll:2021/02/25(木) 22:28:41
>>483
確かに、そうですね。
では、競作ということで、宜しく御願い致します。

485名無しさん:2021/04/09(金) 22:51:08
丸見屋プリキュアカレーに柿の種を入れると美味しい。
スパイシーさが補填され、和風の味わいになり、カリカリ食感が楽しめる。

486名無しさん:2021/05/08(土) 15:08:39
フレプリもう絶対何十回も観てるのに、今日気が付いたこと。
26話で西隼人が「海はどっちだぁ!」と絶叫する小さな駅の駅名が「三塚(MITSUKA)」で、前の駅が「川田(KAWADA)」、次の駅が「岩井(IWAI)」。
これって25〜27話の演出の方の名前になってるんですね!

487一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:01:17
こんにちは。
今年の競作で書こうと思ってたフレッシュのバトル物が、ようやく書けました!
本編第15話の後くらいの時系列を想定しています。
タイトルは「新たな脅威!? トイマジン襲来!!」
7〜8レス使わせて頂きます。

488一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:02:45
 それは空が厚い雲に覆われた、星のひとつも見えない夜のこと。子供も大人も皆眠りの中にいる、闇が最も深い時間――。
 四つ葉町の外れにあるゴミ集積場の中から、不気味な声が響いた。
「集まれ……集まれ……ここに捨てられたおもちゃたちよ。捨てられた悲しみを抱えているなら、キミを捨てた子供への恨みを抱えているなら、ボクに力を貸してくれ!」
 暗く恨みがましい響きを持ちながら、どこか子供のようなあどけなさも感じさせる声。その声の主は、ゴミ集積場の真ん中に立っている異形の巨人だった。

 巨人の全身から暗黒のオーラが放たれる。すると、集積場にいくつも積み上げられた廃棄物の山が、一斉にカタカタと音を立てて震え始めた。やがて山の中から壊れたおもちゃが後から後から飛び出して、次々と巨人の身体に吸い込まれていく。
 こうして全てのおもちゃを取り込むと、暗黒のオーラは巨人の全身を包み込み、その身体が二倍、いや五倍以上にぐんと大きくなった。
「力がみなぎる……。これでいい。今こそボクたちを捨てた子供たちへの恨み、晴らしてやるんだ!」
 再びしんと静まり返ったゴミ集積場に、巨人の雄叫びがこだまする。やがてその巨体は夜の闇に紛れ、町の方へと消えて行った。



   新たな脅威!? トイマジン襲来!!



 眩しい太陽に、四つ葉町公園の若葉がきらめいている。土曜日の昼下がり。友達とはしゃぐ子供たちの声を聞きながら、カオルちゃんが鼻歌混じりに三皿のドーナツを準備し、テーブルに運んで来た。
「はい、お待たせ」
「ありがとう、カオルちゃん」
「いただきます」
 美希と祈里が笑顔でお礼を言って、早速ドーナツに手を伸ばす。だが、口に運ぼうとしたところで、二人は怪訝そうな顔で動きを止めた。いつもなら真っ先にドーナツにかぶりつくラブが、皿の上のドーナツを、ただじっと見つめている。
「どうしたの? ラブ」
「どこか、具合でも悪いの?」
「……へ? あ、ううん、そんなことないよ!」
 ラブが慌てて首を横に振って、ナハハ〜と笑って見せる。だが、なおも心配そうな二人の眼差しを見て、はぁっと力の無いため息をついた。
「ちょっと、この前の戦いのことを考えちゃってさ。ほら、ラビリンスの三人と戦った時のことを……ね」

――それは一人じゃ勝てないと、白状したってことかしら?

 イースの声が蘇る。アカルンと四人目のプリキュアを巡って、ラビリンスの三幹部と直接対戦した、あの時。みんなで力を合わせれば絶対に勝てると信じていたが、確かに一対一では全く歯が立たなかった。この先、またミユキが狙われるようなことがあったら……そう思うと、イースの言葉はラブの心に重くのしかかっていたのだ。

「ああ」
「あの時ね」
「あの時って、いつやぁ?」
 美希と祈里も俯く中、一人黙々とドーナツを食べていたタルトが首を傾げる。
 そう言えば、あの時タルトはその場に居なかった。三人が口々に説明するのを聞いて、タルトが小さな腕を組み、うーん、と唸る。
「そうかぁ。あんなでっかいナケワメーケをパンチやキックだけで倒すプリキュアが、まるで歯が立たんほど強いやなんて……そりゃ難儀やなあ」
「うん……それにあの強さ、何だかナケワメーケの強さとは……全然違う気がするんだよね」
 ラブが考え考え、そう口にした、その時。どーんという破壊音と、子供たちの悲鳴が間近で響いた。

 音のした方へ顔を向けた三人が、あっと息を飲む。
「何よ、あれ!?」
「噂をすれば、ラビリンス!?」
 いつの間に現れたのか、ロボットのような異形の姿がすぐ近くに見えた。公園の木々の上に、身体のほとんどが見えているという巨大さ。暴れているのは、どうやら公園の中。人々がピクニックやお花見をする、最も広々としたエリアらしい。

 ラブがギュッとリンクルンを握り締め、仲間たちを見回す。
「行くよっ、美希たん、ブッキー!」
「オーケー!」
「うん!」

「「「チェインジ!!! プリキュア!!! ビート・アーップ!!!」」」

 桃色、青色、黄色の光が辺りを照らし――そして現れる、三人の伝説の戦士。

「ピンクのハートは愛ある印! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望の印! 摘みたてフレッシュ、キュアベリー!」
「イエローハートは祈りの印! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」
「「「Let’s プリキュア!」」」

489一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:04:21
 華麗にポーズを決め、敵に向かって走り出す。その目指すエリアから、子供たちが一斉に駆け出して来た。どの子も皆大声で泣き叫び、恐怖に引きつった顔をして。そんな子供たちを追うようにして、異形の巨人がその姿を現す。
 黒々としたフルフェイスマスクに、同じく黒く長いマント。対照的に、まるで鎧を着たようなメタリックな体躯はカラフルで、パーツによって色が異なっている。
 巨人の目が、逃げていく子供たちの背中を見つめて赤く光る。だがその行く手に、三人の少女たちが立ちはだかった。

「はぁっ!」
「たぁっ!」
「やぁっ!」
 次々に飛びかかっていくプリキュアたち。だが、巨人は軽く腕を振るだけで、三人をまとめて薙ぎ倒した。
 即座に起き上がって、再びパンチを放つピーチ。だが。
「ええい、ボクの邪魔をするなぁっ!」
「えっ? ……うわぁっ!」
 驚いて力が抜けたピーチを、再び巨人の腕の一振りが弾き飛ばした。

 何とか着地したピーチが、巨人を見つめて目をパチクリさせる。
 ラビリンスが生み出す巨人――ナケワメーケが、こんなにハッキリと、しかも意思を持った言葉を喋るところなんて、今まで見たことがない。
 ピーチが思い切って、巨人に向かって呼びかける。
「ねえ! あなたは誰? どうしてこんなことをするの!?」
「ボクはトイマジン。ボクらを捨てた子供たちに、復讐してやるんだ!」
 怨嗟に満ちた、でもどこかあどけなさを感じさせる声が響く。その言葉を聞いて、三人は顔を見合わせた。

「やっぱり……ラビリンスじゃない!?」
「そんな、どうして……」
 戸惑うベリーとパインの隣で、ピーチはトイマジンと名乗った巨人を見つめ、グッとその拳を握る。
「ラビリンスだろうと誰だろうと、関係ないよ。子供たちに復讐なんて、そんなこと、あたしたちが絶対にさせない!」

「「「トリプル・プリキュア・パーンチ!!!」」」

 即座に跳び上がった三人が、必殺の合体技を叩き込む。相手がナケワメーケなら、確実に転倒させられるはずの強力な攻撃だった。だがトイマジンは体勢一つ乱さず、さらには右手でピーチの、左手でベリーとパインの足を掴み、ぐるぐる振り回して放り投げた。
「「「うわぁぁぁぁっ!!!」」」
 地面に叩きつけられ、折り重なって倒れるプリキュアたち。
「トリプルパンチも……まるで効いてないわね」
「うん。全然歯が立たない……」
「こうなったら、必殺技で行くよ!」

 何とか立ち上がった三人が、トイマジンから距離を取る。ピーチとパインがキュアスティックを召喚し、ベリーがパンと手を打ち鳴らしてエスポワール・シャワーの予備動作に入る。
 だがそれと同時に、トイマジンの両腕の装甲部分がパカリと開いて、中から多数の発射口が覗いた。
 ダダダダダダッ! という凄まじい音と共に、ミサイル弾が三人を襲う。跳び上がって避けても、誘導装置付きの弾はしつこく追い続けて逃してはくれない。

 肉弾戦ではまるで歯が立たず、離れればミサイル弾が飛んでくる。トイマジンはまだ一歩も動いていないのに、プリキュアたちはミサイルに追われて、次第にハアハアと荒い息を吐き始めた。
 そしてついに、パインがミサイル弾をよけきれずに直撃を受けてしまう。トイマジンの足元を狙って蹴りを放とうとしたベリーも、踏みつけられ、蹴飛ばされて地面に転がった。ピーチの渾身のパンチも軽く受け止められ、放り投げられて背中をしたたかに打ち付ける。そして動けなくなったベリーとピーチの上にも、ミサイルは容赦なく降り注いだ。
 ミサイルの爆発の衝撃で動けなくなったプリキュアをしり目に、トイマジンがゆっくりと、子供たちが避難した方へと歩き出す。次第に大きくなる子供たちの泣き声。その声が、ついに悲鳴に変わった。
「やめて……お願い……ダメーーーッ!」
 身じろぎ一つできない中、ピーチの悲痛な叫びがこだまする。

 その時だった――! ドーンという地響きと、トイマジンらしき呻き声が聞こえたのは。
 何とか身体を起こした三人が見たものは、仰向けに倒れているトイマジンと、その巨体を見下ろす二人の男の後ろ姿。その男たちの間に、黒衣を纏った少女が上空から華麗に着地する。
「そこまでね」
 少し前にも聞いた、冷え冷えとした声が辺りに響く。驚きに目を見開くプリキュアたちの前に立っていたのは、イース、ウエスター、サウラー。ラビリンスの三人の幹部だった。

「ウオォォォォォッ!!」
 跳ねるように起き上がったトイマジンが、三人目がけて巨大な拳を振り下ろす。次の瞬間、ズン、という鈍い音が響いたかと思うと、巨大な拳はガッチリと受け止められていた。それも――たった一人の人間の、小さな掌で。
「ええい、放せ!」
 躍起になって拳を放そうとするトイマジンの身体が、ぐらりと揺らぐ。そのまま体勢を崩された巨体は、再び地響きを立てて地面に倒れた。

490一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:05:46
「ふん。どうやらパワーが自慢のようだが、相手が悪かったな」
 いとも簡単にトイマジンを投げ飛ばしたウエスターが、パンパンと両手をはたきながら、涼しい顔で言い放つ。
「僕らのテリトリーで好き勝手してくれたんだ。覚悟は出来ているんだろうね?」
 即座に起き上がったトイマジンを見上げ、サウラーもニヤリと口元だけの笑みを浮かべた。
「お前たち、人間……か? 何者だっ!?」
「貴様こそ何者だ。この町で不幸を集めるのが、我らがメビウス様より与えられた使命。貴様などの出る幕ではない!」
 イースの切って捨てるような物言いに、トイマジンの拳がカタカタと震え始めた。

「ええい、どいつもこいつも……ボクの邪魔をするなと、言ってるだろう!」
 トイマジンの叫びと同時に、ミサイル弾が放たれ、三幹部を襲う。飛ぶように退避し、高速の動きで逃れようとする三人を、ミサイル弾が追尾する。が、やがてミサイル弾は揃って大きく向きを変えた。
「ぐわぁぁっ!」
 ドカン、ドカンという派手な音に混じって、トイマジンの悲鳴が響く。巨体は大きく後退し、そのあちこちから白い煙が上がった。
「何故だ!? 何故ボクのミサイルがボクを攻撃するんだぁっ!!」
 混乱するトイマジンに答えたのは、いつの間にか空間から呼び出した端末を操作しているサウラーだった。

「簡単なことさ。君のミサイル弾の方式を解析したんだよ。実に単純な、電磁波による誘導だろう? その波長に干渉してコントロールを奪ったまでさ」
「ええい、だったらこっちで!」
 トイマジンの両腕の発射口が切り替わる。今度は弾が一直線に飛ぶロケット弾。だが、誘導装置の無いその弾は、三人が避けるとそのまま真っすぐ飛んで、何もない地面に虚しく着弾した。
「おやおや。人のような小さな的に、真っ直ぐ飛ぶだけのロケット弾が当てられるとでも思うかい?」
「黙れ……黙れぇぇぇっ!」
 いきり立つトイマジンをしり目に、サウラーが誘導弾の標的をトイマジンにロックして、端末を再び空間に仕舞う。そして華麗に空を舞うと、トイマジンの腕の付け根に鋭い蹴りを放った。

「うおぉぉぉぉ……」
 トイマジンが腕を押さえた隙に、ウエスターが懐に飛び込む。そして体格差をものともせず、力任せの重いパンチを打ち付ける。
 打ち合いは互角どころか反射神経とテクニックでウエスターが勝り、トイマジンは二度ならず、三度、四度と地面に叩きつけられる。
 やがてよろよろと立ち上がったトイマジンが、悲鳴のような声を上げた。

「ボクの邪魔をするなぁっ! ボクは……ボクたちは、子供たちに復讐するんだ。子供たちに捨てられた恨みを、思い知らせてやるんだぁぁっ!」
 その途端、トイマジンの身体が大きく後退する。ウエスターの前に出る形でトイマジンと対峙し、その顔を憎々し気な赤い瞳で睨み付けているのは、イースだった。

「はっ!」
「やっ!」
「たっ!」
 打つ、蹴る、突く。当て身を喰らわせ、踵落としを見舞う。イースの波状攻撃が、徐々にトイマジンを追い詰めていく。
 攻撃のひとつひとつは、ウエスターほど強くはない。サウラーほどのキレもない。だが、相手に立て直す暇を与えぬスピードと、押しまくる熱は他の追随を許さない。
 体勢を崩されたままで、少しずつ後退するトイマジン。着地したイースが、両腕を胸の前に引き付け、ゆっくりと腰を落とす。
「たぁぁぁぁぁっ!!」
 イースの決め技、必殺の掌打。力を溜め、繋げ、練り合わせて、伸ばした腕を力の道に変え、その掌から一気に放つ。その技をまともに喰らったトイマジンの身体は弾け飛び、沢山の小さなパーツとなって地面に散らばった。

「ふん、なかなかやるじゃないか」
 一瞬驚いたように目を見開いたウエスターが、そう言ってニヤリと笑う。だが、すぐにその目は別の驚きで見開かれた。
 バラバラになったトイマジンの欠片が小刻みに震えだし、やがてひとつに集まって、あっという間に元のトイマジンの姿に戻ったのだ。
「何っ!? 再生しただと!?」
「ボクの身体は、捨てられたおもちゃで出来ている。ボクらを捨てた子供たちへの恨みで出来ているんだ。だから、子供たちに復讐するまでボクは不死身だ! ボクらを捨てた恨み、必ず思い知らせてやるんだ!」
 叫びと同時に、トイマジンの巨大な拳が振り下ろされる。イースを突き飛ばす勢いで前に出たウエスターが、再びそれを受け止める。

491一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:06:17
 再び壮絶な肉弾戦が始まった。今度はイースとサウラーは至近距離から狙って来るロケット弾を打ち落とし、ウエスターが何度もトイマジンを地に這わせる。が、いくら戦っても決着が付かない。身体を打ち抜こうが、腕をもぎ取ろうが、トイマジンの身体はすぐに再生してしまうのだ。
 次第に三人の呼吸が荒くなる。だが、トイマジンは変わらず重い拳を叩き付け、ロケット弾を放ち続ける。
 何十回目かの手合せで、ついにウエスターがトイマジンの拳を受け止めきれずに吹っ飛ばされた。イースとサウラーも一瞬の隙を突かれ、地面に叩き落とされる。そんな三人を見下ろして、トイマジンが勝ち誇ったような声を上げた。
「残念だったな。いくらロケット弾でも、これだけ至近距離なら外す方が難しい。これで――終わりだぁっ!」
 大量のロケット弾が、倒れ伏した三幹部に迫る――! その時。

「プリキュア! エスポワール・シャワー!」
「プリキュア! ラブ・サンシャイン・フレーッシュ!」
「プリキュア! ヒーリング・プレア・フレーッシュ!」

 高らかな声と共に、青色の光の奔流と、桃色と黄色の光弾がロケット弾を受け止め、消失させる。驚くトイマジンが見つめる中、ラビリンスの三幹部を庇うように立っているのは、三人のプリキュアだった。

「ええい、お前たち、まだ邪魔するのか!」
 忌々し気な声を上げたトイマジンが、次のロケット弾を発射しようとする。だが一瞬早く起き上がったウエスターとサウラーが、同時にトイマジンの両腕を蹴りつけた。バランスを崩したトイマジンに、イースがすかさず足払いをかける。
 またも地響きを上げて倒れるトイマジン。その隙に、六人は公園の木々の奥へと退避した。

「さっきは助けてくれてありがとう!」
「別に。貴様らを助けたわけではない」
 笑顔でお礼を言うピーチと目を合わせようともせず、イースがそっけなく答える。だがその掌を素早く掴み、ピーチが勢い込んで言った。
「ねえ、あたしたちも戦うよ。一緒にトイマジンを倒そう!」

「えっ?」
「ピーチ?」
 パインとベリーが驚きの声を上げる。
「なんで貴様らと。必要ないわ」
「ええい、足手まといだ。お前らの助けなど要らん!」
 イースもまた、一瞬でピーチの手を振り払い、ウエスターも即座に拒絶の声を上げる。
 そんな中、ただ一人仲間たちをなだめたのはサウラーだった。
「まあ待て、イース、ウエスター。せっかくプリキュアがああ言ってるんだ。手伝ってもらおうじゃないか」
「サウラー、本気で言ってるのか!」
「もちろん。このまま奴と戦っても、倒せそうにないからね」
 驚くウエスターにあっさりと答えて、サウラーが立ち上がろうとしているトイマジンの方に目をやる。

「ヤツの身体をひとつにまとめているのは、恨みの力、怨念の力のようだ。ならば、その力を緩め、それらを束ねている中心にプリキュアの浄化の力を当てられれば、ヤツを倒すことができるかもしれない」
「おお! ならばまたヤツの胴体を打ち抜いて、バラバラにしてやればいいんだな?」
「しかし、君の馬鹿力であまり広範囲に飛び散ってしまっても、どれが核となるパーツなのかわからなくなるね」
 サウラーの作戦を聞いて目を輝かせたウエスターが、少しの間考え込んでから、イースの方に向き直った。

「イース。さっきのお前の技をヤツの核とやらに当てられたら、ヤツをバラバラにせずに、身体を束ねている力を緩めることができるんじゃないか?」
 イースが無言でウエスターを見つめる。
「なるほど。ならば僕とウエスターとで、ヤツの攻撃とロケット弾を防ぐ。イース、君はヤツの懐に入って技を放て。あとはプリキュアの技がヤツの核に届けば……」
「トイマジンを倒すことができるんだね?」
 ピーチの問いに、サウラーは小さく頷いた。

「じゃあ、最初は僕たちの番だ。イースが技を放った後、君たちが……」
「待って。あたしたちも手伝うよ!」
 手順を説明しようとするサウラーに、ピーチが割って入る。
「足手まといだと言っただろう! お前たちは出番まで下がっていろ」
 再び顔をしかめるウエスター。その顔を真っ直ぐに見上げて、ピーチは首を横に振った。

「トイマジンは強くて大きいし、ロケット弾も使う。きっとチャンスは多くないと思うんだ。だったら、全員で力を合わせた方がいいでしょう?」
「それは確かに……」
「そうね」
 ピーチの言葉に、ベリーとパインも小さく頷く。そんな三人の様子を見て、サウラーも首を縦に振った。
「ならば、君たちは僕らを援護してくれるかい?」
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
 ピーチの顔を黙って見つめていたイースが、そう吐き捨てる。ウエスターはピーチたち三人の顔を睨むように見渡してから、ぼそりと言った。
「いいか。邪魔だけはするなよ」

492一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:07:42
「ええい……あいつら、どこへ行ったんだ!」
 ようやく起き上がったトイマジンが、キョロキョロと辺りを見回す。やがてその目が、林の前に並び立つ六人の人影を捉えた。
 トイマジンを静かに見つめているのは、イース、サウラー、ウエスターのラビリンスの三幹部。その後ろには、ピーチ、ベリー、パインの三人のプリキュアが続く。
「現れたか。今度こそ、邪魔なお前たちを排除してやる!」
「邪魔なのはお前の方だ!」
 叫ぶと同時にイースが高速で走り出す。右にはウエスター、左にはサウラー。三人のプリキュアが、その後ろに続く。

 トイマジンが両腕の発射口を開く。だが、今度はそれだけでなかった。両腕だけでなく、両足の太腿から足首にかけても発射口がずらりと並び、胴体の真ん中にも巨大な機関銃のような発射口が開いている。
 だがそれを見て、サウラーはニヤリと口の端を斜めに上げた。ウエスターも、ふん、と不敵に笑ってみせる。
 二人がすっとイースの前に出た。その隣に、青と黄色の人影が立つ。

「君は……何をしてるんだ?」
 サウラーが隣に立つベリーに声をかける。
「決まってるでしょ? あんなに数が多いんだもの、一人より二人の方がいいじゃない」
 サウラーの方を見ようともせず、トイマジンを挑むような目で見つめて、ベリーが静かに言い放つ。
「あなたはイースの道を開くのに専念して。それ以外のロケット弾は、アタシが引き受けたわ」
「……口先だけでないことを願いたいね」
 次の瞬間、二人は同時に走り出した。

「ええい、何故そんなところに居る!」
 ウエスターが隣に立っているパインに向かって、忌々し気な声を上げる。邪魔だ! と言いかけたウエスターだったが、彼女の手から零れる黄色い光に気付き、口をつぐんだ。
「大丈夫。これならきっと、援護できると思うから!」
「ふん、巻き込まれても知らんぞ」
 言うが早いか雄叫びを上げて走り出すウエスターを、パインが慌てて追いかけた。

 トイマジンのロケット弾が打ち出される。いくら真っ直ぐに飛ぶだけとは言え、流石に数が多すぎる。おまけにトイマジンがブンブンと腕を振り回すため、その軌道は全て異なり、まるでロケット弾の盾のようになっている。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
 ウエスターの闘気が切り替わる。眼光鋭くトイマジンを睨み付けながら、力任せにロケット弾を弾いていく。外角からウエスターを狙うロケット弾は、パインのヒーリングプレアで残らず消滅していく。
「はああっ!」
 サウラーが空中高く跳び上がり、目にもとまらぬ高速の蹴りを放つ。そのほとんどは、トイマジンめがけて正確に蹴り返され、胴体の発射口に着弾してそこからの発射を阻止した。ベリーはサウラーのスピードに必死で食らいつきながら、外から内へ入ろうとするロケット弾を、こちらも華麗にことごとく蹴り返す。

「ええい、ボクの邪魔をするな! ボクたちの恨みを思い知れ!」
 トイマジンは金切り声を上げながら、ひたすらにロケット弾を打ち出し続ける。
 見る見るうちに着弾の煙がもうもうと立ち込めて、辺りはほとんど何も見えない。だがイースの目には、目標であるトイマジンの姿がはっきりと見えていた。ウエスターとサウラーがロケット弾を弾き、ベリーとパインがその援護をして、懸命に作った一筋の細い道だ。その道をひたすら真っ直ぐに、イースは高速で突き進む。そんな彼女のすぐ後ろを、ピーチがぴったりと付いて走っていた。

「何故ついて来る。邪魔だ!」
 イースがチラリと後ろを振り向いて忌々しそうに叫ぶ。だがその直後、弾き損ねたロケット弾が彼女の背後を襲った。
「はあっ!」
 ピーチがすかさず拳で殴りつけ、打ち落とす。
「心配しないで。あなたの背中は、あたしが絶対に守る!」
「そんなこと……頼んでなどいない!」
 その言葉と同時に、イースの走るスピードが上がる。ピーチも負けじと追いすがった。

 分厚い煙幕を突き破り、突如頭上に現れた黒き人影。
「はぁぁぁっ!」
 反応が遅れたトイマジンが、イースのかかと落としをまともに喰らう。
「捨てられた出来損ないが! 主に恨みを晴らすだと? 馬鹿も休み休み言うんだな」
「何……だと……?」
 トイマジンはぐらりとよろめきかけて、かろうじて踏み止まった。いかつい拳がギュッと握り締められ、両手両足の発射口が残らず体内に仕舞われる。

 飛び道具なしでの、一対一の肉弾戦の構えを取って、トイマジンがイースに殴り掛かる。それをひらりとかわし、圧倒的な手数で反撃するイース。
 再び始まるイースの波状攻撃に、トイマジンの体勢が崩れ始める。だが、今度はトイマジンも一歩も引かず、イースを叩き落そうと両腕を滅茶苦茶に振り回す。

493一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:08:16
「うるさいっ! ボクたちを捨てた子供たちが悪いんだ!」
「愚かな。捨てられた貴様が悪いに決まっている。主から役立たずと言われた貴様がな!」
「言うなーっ!!」
 トイマジンの拳が地面を打ちつけ、亀裂が一直線にイースを襲う。高々と跳んで避けるイース。そこですかさず、トイマジンがイースの身体を大きな手で鷲掴みにした。
「イース!」
「何をやってる!」
 駆け寄ろうとするサウラーとウエスター。だがその時、再び両脚と左手の発射口が開き、ミサイル弾が彼らの行く手を阻んだ。
 歯噛みするウエスターとサウラー、それに三人のプリキュアが見上げる中、トイマジンがイースの身体を目の高さに持ち上げ、激しく吠える。

「ボクたちは役立たずなんかじゃない。あんなにずっと一緒に居たじゃないか。あんなに楽しく、一緒に遊んだじゃないか!」
「貴様の想いなど……知ったことではない!」
 高く悲しげに響くトイマジンの声に、凄みさえ感じさせる声音で答えるイース。ギュッと身体を締め付けられながらも、イースの赤い瞳はギラリと鋭い光を放ってトイマジンを睨み付ける。
「大切なことはただ一つ、主のお役に立つことだ。お役に立てなければ貴様は用無し。捨てられて当然だ!」
「黙れぇぇぇっ!!」

 トイマジンの手に力が籠る。イースの華奢な身体があわや握り潰されるかと思った、その時。
「はあぁぁっっ!!」
 桃色の閃光が、トイマジンの手首に激突する。ピーチが高々と舞い上がり、渾身の右ストレートを放ったのだ。トイマジンの拳が緩み、イースの身体が滑り落ちる。地面に激突する寸前に何とか受け止めたピーチは、その顔が苦悶に歪んでいるのを見てハッとした。
「……大丈夫?」
「放せ」
 ピーチの手を静かに振り払って、イースが素早く立ち上がり、再びトイマジンと対峙する。

 両腕を胸の前に引き付け、ゆっくりと腰を落とす。
 この一打に全てを賭ける――その想いと共に、身体中の力が急速に身体の中心へと集まって来る。
 意識するのは呼吸。そして筋肉の動き。息づき始めた力の塊に、動きによって生まれた力を繋げ、練り合わせる。

 脳裏に浮かぶのは、まだはっきりと拝んだことのない主の姿。物心ついた時から、いつか誰よりもお傍でお仕えすると、そう誓った絶対的な存在――。
 熾烈な競争に勝利して幹部になっても、まだ主を直接拝むことすら叶わない。ならばその高みに届くほどに、主のお役に立ってみせるしかない。そう、何度自分に言い聞かせたかわからないと言うのに。

(捨てられた出来損ないが、主に恨みを晴らすだと? そんなもの――私は断じて認めない!)

「はぁぁぁぁぁっ!!」
 放たれたイースの掌打がトイマジンの核を貫き、その巨体が震える。低い呻き声を上げながら、トイマジンがゆっくりと後ずさる。
「今だっ、プリキュア!」
「オッケー!」

 ピーチとパインがそれぞれのキュアスティックを召喚し、ベリーが頭上でパン、と両手を打ち鳴らす。

「プリキュア! エスポワール・シャワー!」
「プリキュア! ラブ・サンシャイン・フレーッシュ!」
「プリキュア! ヒーリング・プレア・フレーッシュ!」

 青色、桃色、黄色の光が溶け合って、巨体の胸の真ん中に命中する。トイマジンの身体は三色の光に包まれ、ボロボロと装甲が剥がれ落ちていく。
「ボクは諦めないぞ……。いつか……いつか必ず、子供たちに……!」
 断末魔の叫びが辺りに響き、ついにトイマジンの全身が崩れ落ちる。だが、光が消えた後、そこには何も残ってはいなかった。

「え……倒したの?」
 怪訝そうなピーチの問いに、サウラーが首を捻る。
「いや。ヤツが消え去る瞬間、時空の歪みを感じた。残念ながら、逃したかもしれないね」
「そっか……」
 残念そうにも、少しホッとしているようにも聞こえるピーチの声。それと同時に、イースが忌々しそうに吐き捨てる。
「ふん、負け犬が尻尾を巻いて逃げ出したってわけね」
「まあ、またやってきても同じことだ。俺様が捻り潰してやる」
 ウエスターは胸を叩いて、ニヤリと不敵に笑った。

「あのさ!」
 そのまま何事も無かったかのように去って行こうとする三人に、ピーチの声が飛ぶ。
「一緒に戦ってくれて、ありがとう!」
 その言葉に、三人は揃って足を止め、渋々後ろを振り返った。
「何を言ってる。貴様らのためであるものか」
「この町を不幸にするのは俺たちだからな」
「悪いけど、次に会った時は容赦しないよ」
 イース、ウエスター、サウラーは、思い思いの捨て台詞を残すと、瞬時に身を翻し、姿を消した。

494一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:08:54
 四つ葉町のある世界から、遠く離れた異世界――。
 時空の狭間を漂っていたトイマジンは、ふと懐かしい気配を感じて目を開けた。
 眼下に見える世界では、ジグソーパズルのピースたちが地面に敷き詰められ、ブロックでできた城壁の門を、おもちゃの兵隊が守っている。
 町の中を思い思いに闊歩しているのは、あらゆる種類のおもちゃたち。だが、そのおもちゃたち一体一体の中に、自分と同じ感情が宿っているのに気付いて、トイマジンはニヤリと小さく笑った。
 あの時、何故時空の彼方に飛ばされてしまったのか、トイマジン本人にもわからない。だが、もしかしたらこの世界のおもちゃたちの悲しみや恨みの心が、自分をここに引き寄せたのかもしれない。
「これはいい……。ここで身体を癒し、機会を待とう。機が熟したら、その時は――覚えていろ、全ての子供たちよ!」
 トイマジンの不敵な笑い声が、この世界――“おもちゃの国”に、高らかに響き渡った。



 陽の傾きかけた、カオルちゃんのドーナツ・カフェ。四つ葉町公園の一部は、地面が剥がされ、何本もの木が薙ぎ倒される被害に遭ったが、幸いこの界隈は無事だったようだ。
 もう他のお客さんは誰も居ないカフェの丸テーブルに、再びラブたち三人の姿があった。

「それにしても、ラビリンス以外の敵が現れるなんてね。それも、あんな強敵が」
「うん。しかも、ラビリンスが一緒に戦ってくれたなんて」
 もしあの時、ラビリンスの三幹部が現れなければ。彼らと共闘できなければ、自分たちだけではまるで歯が立たない相手だった。子供たちを、この町を、守れないところだった――。
 美希は悔しそうに右手でギュッと拳を握り、祈里は華奢な両手を見つめ、祈るように胸の前で組む。その時、ラブがドーナツを見つめながら、ボソリと呟いた。

「イース……なんか苦しそうだった」
「えっ?」
「さっき戦っていた時にね。トイマジンと言い合った後、とっても苦しそうな顔してた」
「……そうなんだ」
「もしかしたら、イースもなんか……悩んでるのかな」
「……」
 ラブの言いたいことを測りかねて、美希と祈里がそっと顔を見合わせる。ラブは顔を上げ、そんな二人の仲間に小さく笑いかけた。

「あたし、ラビリンスの幹部はメビウスの命令に従ってるだけなんだ、って思ってたけど……それだけじゃないんだね。きっといろんな想いがあって、悩んだり、苦しんだりもする。だからあんなに強いのかもしれない」
「確かに……そうね」
「うん、きっとそうなのかも」
 美希と祈里が、今度は揃って頷く。すぐ傍らから見た、彼らの戦いぶり。その時感じたのは、圧倒的な強さばかりではなかったから。彼らなりの想いの強さを、確かに感じたから。

「想いがあって、悩みがあるなら……きっと、夢もあるんだよね。イースやサウラーやウエスターにも、なりたい自分があるのかもしれない。ううん、あるんだよ、きっと」
 ラブの瞳が、キラリと輝く。
「よぉし! 美希たん、ブッキー、頑張ろうね。あたしたちは、絶対に負けない。そしていつか、あの三人の……イースの夢が何なのか、聞いてみたい」
 そう言うと、ラブは今日初めてドーナツを手に取り、勢いよくかぶりついた。口の中に広がる優しい甘みを噛みしめながら、まだ明るさを残した空を見上げる。
 公園の木々が初夏の風にざわざわと揺れて、そんなラブの姿を見守っていた。


〜終〜

495一六 ◆6/pMjwqUTk:2021/08/14(土) 14:10:48
以上です。ありがとうございました!

496名無しさん:2021/08/15(日) 07:14:56
>>495
ラビリンスとプリキュアの共闘が熱い!! バトル描写もさすがのクオリティで映画見てるようだった。
15話頃ってタイミングも良くて、3幹部との激突直後とかmktnまだソード持ってないとか懐かしくてもう一度見返したくなるね!めっちゃ良かった!!

497猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:23:39
今さらですが、去年の競作の続きを投下します。
14レスお借りします。

『映画ヒーリングっど♥プリキュア Connected World』 <前編>

(これまでの簡単あらすじ)

メガビョーゲンとの戦いに突如乱入してきたツナグと増子ミナ。
戦闘後、ミナはプリキュアを壊滅させ、ちゆは腹筋崩壊。のどか、生きてるって感じ。
ひなたが全員の個人情報を大暴露して、アスミが『メガネメガネ』。
ミナを現世に再召喚するため、、ひなたはキュアスパークルに変身。生贄である。
その後、キュアスパークルは、ツナグの活躍により頚骨が曲がって失神。
みんなは楽しく宴を始めた。

498猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:25:25
今さらですが去年の競作の続きを投下します。
14レスお借りします。

『映画ヒーリングっど♥プリキュア Connected World』 <前編>

(これまでの簡単あらすじ)

メガビョーゲンとの戦いに突如乱入してきたツナグと増子ミナ。
戦闘後、ミナはプリキュアを壊滅させ、ちゆは腹筋崩壊。のどか、生きてるって感じ。
ひなたが全員の個人情報を大暴露して、アスミが『メガネメガネ』。
ミナを現世に再召喚するため、、ひなたはキュアスパークルに変身。生贄である。
その後、キュアスパークルは、ツナグの活躍により頚骨が曲がって失神。
みんなは楽しく宴を始めた。

499猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:26:52

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「それでは、今から簡単にやけど、ツナグの歓迎会を始めます! かんぱーい!」 

 なぜかミナが乾杯の音頭をとる。
 ほかに誰もいないハート展望台のバルコニーに、ちゆの持ってきたレジャーシートを敷き、各々好きな場所に座って、グミのせジュースを持っている。
 ちなみにツナグの手にあるのは、ジュースの入った1オンスの紙コップ。試飲などに使われる小さな紙コップで、今、ヒーリングアニマルたちが持っているものと同サイズ。
 乾杯というものが理解できず、ボーっとしているツナグの紙コップに、ちょこん、と可愛らしく自分のカップを当てたのどかが、
「美味しいから、飲んでみて」
 と、優しくうながした。

「え…、ボク、これ飲んでいいの?」

 手渡されたものの、そこから先はどうしたらいいか分からず、ジュースを持て余していたツナグが驚いた顔を見せた。
 しかし、すぐにハッとした表情になって、いったん紙コップを脇に置き、自分のリュックの中身をあさり始めた。
 世界を旅してきたツナグは、人間たちの町で何度も見た。人間はお店の人たちから何かを貰う時、お礼に『お金』というものを渡すのだ。
 ツナグはお金をもってはいないが、代わりに、一番美味しそうな木の実や、形が綺麗な葉っぱ、海岸で拾った素敵な貝殻などを両手に乗せられるだけ乗せて、のどかに差し出した。

「こ…、これで足りますか?」

 のどかがニコッと笑って、それに答える。

「ツナグ、友だち同士でそういうのはしなくていいんだよ」
「ともだちっ!?」

 驚いて目を見開くツナグ。
 あやうく両手に乗せた物全部を落としそうになった。
 のどかの隣に座っていたちゆが、ペギタンと一緒に軽く身を乗り出して言う。

「のどかだけじゃないわ。わたしも、ひなたも、アスミも ―― 」
「ぼくやラビリン、ニャトラン、それにラテ様も、みーんなツナグの友だちペエ」

 ミナが、んっ?という表情になって自分を指差しているが、誰もそっちを見ない。

 ツナグは、呆然と「すごい…」と洩らし、両手の物をリュックにしまったあと、勧められるままにジュースを口にした。
 ―― たまに果実を口にすることもあるが、その汁よりもずっと甘みが深い!

「すごいっ!」
 と目を白黒させて、思わず紙コップの縁(ふち)から口を離してしまったツナグが、あわてて次の一口を飲み、また「すごいっ!」と目を白黒させる。

「これも美味しいラビ。すこやかまんじゅう」

 ツナグがジュースを脇に置いて、ラビリンが包みをはがして差し出した饅頭を手に取り、少し遠慮がちに口をつける。
 ほろほろと崩れる柔らかな食感に続き、上品な餡の甘みが口の中に染み渡る。
 頬の内側が『じわ…っ』と蕩けてしまいそうな、ツナグが初めて体験する甘さ。
 饅頭をほおばったまま「ふごいっ!」と叫んで、がつがつ食らう。

「そんなに急いで食べたら、のどを詰まらせちゃうペエ」

 ペギタンがツナグの傍まで飛んで移動し、ジュースを飲ませてやる。
 さっそく一個食べつくしてしまったツナグを見て、ミナが「はははっ」と笑う。そして、自身の分のすこやかまんじゅうの包みをはがして、彼の手に乗せた。

「今度はもっとゆっくり味わって食べや」

500猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:27:49

 ミナの声を聞く余裕もなく、手に乗せられたすこやかまんじゅうにかじりつく。
 そんな彼のほうへ、シートに座ったままズルズルと移動してきたひなたが、
「ツナグ、他にもお菓子あるよ〜〜。はい、あーんして」
 と、クリームチーズをはさんだクッキーサンドを右手でつまみ、その下に左の手のひらを添えて、ツナグの口元へと近づける。
 ツナグは興味津々といった感じですこやかまんじゅうから口を離して、差し出されたクッキーサンドを一口かじった。サクサクしたクッキー生地の歯触りと、スウッと歯が通るクリームチーズの柔らかさが一緒に口の中に飛び込んでくる。そして、口の内側全体が甘み一色に染まってしまうような感覚。

「…………っ!」

 すごい!という言葉の代わりに目を輝かせるツナグ。
 ひなたも嬉しそうに両目を細めて、ツナグが食べ終わるまで、その姿勢を維持。

「今日は遠慮しないでいっぱい食べて。ツナグはあたしの両目の恩人なんだから」
「あっ、そうだツナグ、これも美味いぞ」
 と、ニャトランがニボシを差し出す。
「いや、ニャトラン、お菓子食べてる流れで、ニボシはちょっと……」
「え……ダメか?」

 ショックを受けた顔になるニャトラン。
 でもツナグは、そんなニャトランの差し出したニボシを、はむっ、と咥えて、ほくほく顔で食べてしまう。これも気に入ったようだ。
 そばで見ていたミナが、眼鏡のブリッジを中指でクイッと中指で上げた。

「くくく…、ツナグは魚も嫌いやないんやね。せやったら、いずれ機会を見て、私と一緒にシュールストレミングを食べてみよっか」

 ―― シュールストレミング。ニシンを発酵させた缶詰。最大の特徴として、食べ物の中では世界一と言われるほどの凶悪な臭気を発することが挙げられる。
 そんな事は露も知らず、とりあえずシュールストレミングが料理名だと理解したツナグが、ミナを見上げて両目を期待でキラキラさせる。
 ちゆがにっこりと慈母のように微笑み、氷みたいに冷えた声でアスミに声をかける。

「いいわよ」
「ハイ」

 返事こそ丁寧だが、声に宿っているのは、容赦を感じさせない鉄の響き。『メガネメガネ』を執行すべく、アスミがミナの顔へと両手を伸ばした。
 ―― だが、いち早く両目の危機を覚えたひなたが、悲鳴を上げながら両手で顔を覆ってレジャーシートの上を転げ回る。全員、お菓子とジュースを持って散り散りに避難。

 一緒にバルコニーの手すりのほうへ逃げてきたちゆとのどかが、互いに顔を見合わせて苦笑。バルコニーの壁に背を預けるように並んで座る。

「こうしてると、ちゆちゃんとのどかちゃんって、なんか姉妹みたいやねぇ」

 突然話しかけてきた声に、二人そろって妖怪に出くわしたような驚き方をする。

「ミナさんっ!?」
「ヒッッ」

 のどかのすぐ隣に座っているのに、まったく気配がなくて気付かなかった。
 妖怪扱いの反応に気を悪くした様子もなく、ミナが再び話しかけてくる。

「別に二人の顔が似てるとかやなくて、ほら、ちゆちゃんって常に、のどかちゃんをサッと守ってあげられる位置におるやん? その気にかけ方がお姉ちゃんっぽいっていうか」

「そうなの?」と、キョトンとした顔で尋ねてくるのどかに、ちゆは困惑しながら「さあ、どうかしら?」と返す。
 でも、のどかがクスッと笑って、「ちゆちゃんが本当のわたしのお姉ちゃんになってくれたら、すごく嬉しいのにな」と裏表のない表情で言うので、ちょっと照れつつも「わたしはかまわないわよ」と冗談めかして答える。

 二人のほうは見ずに、ミナが独り言っぽくつぶやく。

「まあ、のどかちゃんを無意識に気にかけてたってコトやね。 ―― のどかちゃんに、昔、何かあったんかな?」

501猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:28:50
 
 ちゆたちが顔を引きつらせて、声を出さずに慌てる。
 ミナが率直な疑問で突いてきたとおり、のどかには、幼い頃にテラビョーゲンの母体となり、以来、長く苦しい入院生活を送ってきたという過去がある。
 それを知っているからだろうか? ―― ちゆが無意識で行っている自身の振る舞いの原因を求めようとしたが、隣にいるのどかの顔が目に入った途端、どうでもよくなった。
 つらかった記憶を思い出しているのか、表情が曇りかけている。
 守ってあげなくては ―― と、強い衝動が湧き上がってきて、胸が締め付けられる。
 とっさに話題をそらそうと口を開きかけたところで、ミナがポツンと言った。

「別にどうでもええか…」

 口から出かかっていた言葉を詰まらせて、ちゆが、がくっ、と頭(こうべ)を垂れた。
 反対に、のどかは小首を傾げつつ、ミナを見つめ返した。
 今の話の打ち切り方は、なんだか自分たちの空気を察して、あえて興味の無いように振る舞った感じだった。

(いやいや、でもミナさんだし……。むむむ……)

 すぐに両目を細めて『じーーーっ』と疑り深い視線をミナの顔へと向ける。
 その視線が、ふと下がって、のどかが「あっ」と小さな声を上げた。
 だらんとリラックスして座っているミナが、スマートフォンを使い、少し離れた場所でラビリンたちと打ち解けているツナグの姿を動画撮影している。
 隣のちゆも気付いて、眉をひそめながら声を上げようとした。……が、それを制するようにミナが自分の口もとに人差し指を当て、小さくウィンク。
 ちゆがまたもや言葉を呑み込んだところで、動画撮影を続けるミナが、二人にだけ聞こえるぐらいの小声で話し始めた。

「……ツナグって、ああいう風に誰かと ―― ううん、『友だち』と話したり、何かしたりするんは初めてなんとちゃうかな? それで、せっかくやから記念に撮っといたろ思って。
 ほら、ツナグ、ぎこちないけど一生懸命がんばってる」

 レンズの奥で温かみを帯びているミナの眼差しを追って、のどかとちゆがツナグたちのほうを見る。

 ちょうど多数の青く透き通った立方体がバラけ、そこに開いた虚空の穴からニャトランが出てきたところだった。

「おおーっ、スゲッ、本当にワープできた!」

 楽しそうに興奮するニャトランに、ツナグが雑談がてらに自分の能力を説明する。

「昔、雨の日に沢に落ちそうになってた子鹿を、このチカラで助けた事があるんだけど、自分のサイズよりも大きな出入り口を作るのはメチャメチャ疲れて」
「へぇー、大変だな」
「助けたあと気を失って、沢に落ちて流されちゃったんだ」
「…ってオイっ」

 次、あたしっ ―― と、ワープ体験をさせてもらおうと手を上げかけていたひなたが、二人のやり取りを聞き、ツナグに気付かれないようにそっと手を下ろして、「たはは」と力なく笑った。
 代わりに、ツナグの前に出てきたのがラビリン。……出てきたというか、ペギタンに背中を押されて、半ば強引に突き出された感じだった。

「ほ…、本当にだいじょうぶラビ?」
「だいじょうぶペエ。……ほら、よく見るペエ。ニャトランの体は何ともなってないペエ」
「なんだよ、俺は人柱かよ」

 腹を立ててペギタンに食ってかかっているニャトランは置いといて、ツナグがラビリンの手を取った。

「こわくないよ。安心して、ボクが一緒だから」
「わ、わかったラビ…」

502猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:29:48

 そう言いつつも、やはりおっかなびっくりのラビリン。彼女の手を優しく引いて、正面に開いた虚空の中へツナグが進んでいく。
 ワープ距離はニャトランの時と同様、約1メートル。
 二人はすぐに出口へと到着して、ほぼ一瞬でワープの旅は終わった。
 精神的に楽しむ余裕は無かったラビリンだが、すでに元の空間の面を取り戻している背後を振り返って、初めての体験に軽い興奮を覚えつつ、
「本当にワープしたラビ!」
 と、ニャトランを同じような感想をこぼした。

「だから言ったペエ。何ともないって」
「ま、体の外側は何ともなくても、内側がどうなってるか分かんねーけどな。ニシシ」
「怖いコト言うなラビィィッッ!!」

 今度は、ラビリンたちの様子をあたたかい微笑みを浮かべて眺めていたアスミの足元近くで空間の立方体がバラけ、虚空が開いた。
 こっそりと出てきたラテが、ツナグに感謝の視線を送る。次にアスミを見上げて「わんっ」とイタズラっぽく吠えた。アスミをびっくりさせてやろうという作戦だった。

「まあっ!」

 アスミはびっくりするよりも可愛らしさに心を打たれ、思わず胸の前で両手のひらを重ねて頬を染めながらしゃがみこみ、ラテを見つめ返した。
 ラテ、あらかさまに残念そうな顔になる。

 ……そんな皆の光景を、少しだけまぶしそうに目を細めて見ていたちゆが、しみじみと言葉をこぼした。

「たしかに、これは記念として残しておく価値がありますね」
「やろ?」
 
 ニッ、と人好きのする笑顔を見せるミナへ、ちゆがまっすぐに顔を向けて尋ねる。

「のどかの昔の話に興味はありますか?」
「んー、ぶっちゃけ私が知ったところで、お役に立てそうにもないからなぁ。のどかちゃんの助けになってやれる子は既に知ってるワケやし、それでええんやないの?」
「ふふっ。そうですね。『お姉ちゃん』らしく、のどかの助けになれるよう、がんばります」

 最初に会った時と比べて、ちゆのミナに対する雰囲気はずいぶん柔らかくなっている。
 のどかも自然と警戒を解いて、ミナに話しかけてみる。

「ミナさんは、何かの取材でこっちに来たんですか?」
「うん。ネットでニュースのネタを漁ってたら、この町に、しゃべるウサギやらペンギンやらネコやらがおるっていう信憑性不確かな怪情報を見つけてな」
「うっ…」
「そういう面白そうな情報見つけると、ついついフリージャーナリストとしての魂が……。それでイタリアからスッ飛んできたワケやけど、まあ、なんやかんやでニュースとしては扱われへんようになりましたとさ」
「あはは」
「ツナグを見つけた時は、この子が怪情報に書かれてたしゃべるネコなんやな…って勘違いしてしもて。
 ―― あ、そういえば、私な、昔、ケット・シーっていう猫の妖精たちが住む村に立ち寄ったコトがあるねん」
「ふわぁぁっ、ヒーリングアニマルじゃない猫の妖精ですか?」
「そうそう。いろいろあったけど、最終的に怒り狂ったケット・シー全員がグルカナイフ振り回しながら村の外まで追いかけてきたんや。懐かしい思い出やで」
「何をやらかしたんですか、ミナさんッッ!?」

 のどかの上げた大きな声に反応して、ラテを胸に抱きかかえたアスミが小走りで近寄ってくる。

「のどかっ、『メガネメガネ』ですねっ!?」
「アスミちゃんはちょっと落ち着いてっ!?」

 アスミの背後では、両目を押さえて叫びながら出鱈目に転げまわるひなたの姿が。それに巻き込まれそうになったツナグとヒーリングアニマルたちが必死で逃げ惑う。
 ちゆが「ハァ…」と諦めたような溜め息をついて、話題を変えようとした。

503猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:31:50

「……その、こっちへ来る前のイタリアでは、何をしてたんですか?」
「ほら、一年ほど前、イタリアでデッカイ地震あったやん。それでな、ほんまに倒れそうになってたピサの斜塔をこっそり何とかしたろうと思て。
 ―― 結果、メチャクチャ派手に倒して壊してしもてん」
「アスミ、いいわよっ!」
「ハイッ!」
「ちゆちゃんもアスミちゃんも落ち着いてっっ!?」
「あ、でもな、ちゃんと責任は取ったんやで! 地元の建築家の人らに協力してもろて、代わりの斜塔建ててきたから。
 ……約一ヶ月前に完成したばかりの出来立てホヤホヤ、名付けて『ミナの斜塔』!」
「世界遺産を馬鹿にしてるんですか?」

 ミナをきつく睨みつけるちゆ。
 彼女の隣でのどかが「ん?」という表情になって、ひと月ほど前に読んだ新聞の記憶をたどった。
 アホみたいに攻めまくった傾き方で建て直された斜塔……
「何ヶ月でぶっ倒れるか?」という話題で大盛り上がりのイタリア国内……
 倒壊の瞬間を目撃しようと連日押し寄せる観光客……

 のどかが声を上げるよりも早く、スマートフォンを取り出して操作していたひなたが呆然と洩らした。

「そっか、ミナさんって、ユニバーサル・コメディアンのミナだったんだ……」
「ユニバーサル……、えっ?」

 怪訝な顔でひなたを見つめなおすのどかの後ろから、ミナが抗議の声を上げる。

「コメディアンちゃうわ! ジャーナリストや!」

 それを無視して、ひなたがスマートフォンの画面をのどかに見せる。
 表示されているのは、ミナが管理しているSNSアカウントのプロフィールページ。
 のどかが「ふわぁっ…」と思わず声を洩らした。
 ―― フォロワー数:2000万。
 プロフィール画像は、パンク風の荒れた感じのする女性。メガネはしていないが、よく見るとミナだ。
 のどかとひなたが同時に向けてきた視線に、
「ミーアキャットに頭を蹴飛ばされて記憶喪失になってた時の写真やね。なぜかパンクロッカーしながら、お猿さん連れてガンダーラを目指してたんや」
 と、ミナが説明した。

 のどかとひなたは顔を見合わせて、納得したみたいに頷いた。

「「やっぱりこの人コメディアンだ」」

「コメディアンちゃうって言うてるやろ! 私はマスコミな感じの増子ミナ! 天も地も突き抜けてフリーを極めたジャーナリストや!」
「天と地どころか、マスコミもジャーナリズムも突き抜けてコメディアンを極めてるじゃないですかっ!」
「やかましいわっ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶミナ。
 鼻息荒く、自分がグローバルでフリーなジャーナリストであることを証明しようとする。

「えーーっとなぁ、そう、二年ほど前の取材!
 イエティの子孫を自称してた毛むくじゃらのおっちゃん ―― 皆から嘘つき呼ばわりされてたけど、私が密着取材を通じて、本物のイエティの子孫であるコトを証明してみせたんやで!」

 ひなたのスマートフォンをひったくってSNSの画面をスクロールさせ、目的の投稿記事を出して、のどかたちに示した。白銀の山頂で、毛むくじゃらのおっちゃんが歓喜の表情でポーズをとっている写真と、短い英文の内容。
【共有】と【共感】を示すアイコンは、共に1000万を超えている。

「本当にイエティの子孫ならアンナプルナぐらい登れて当然!
 ―― てなコトを思いついて試させてみたら、49回目のチャレンジで主峰の登頂に見事成功!
 フフッ、世界も『もうホンモンでええわっ』って温かく認めざるを得んかったわ」
「……49回もチャレンジさせたんですね……」
「させたんとちゃうで。顔真っ青にして首を横に振るたびに酒飲ませて説得を続けてたら、そのうちノッてきて、おっちゃんが自主的にチャレンジし始めたんや」

504猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:32:35

 ミナたちのやり取りを眺めていたツナグが、隣のニャトランにたずねてみる。

「ねえ、ニャトラン、いえてぃって誰かの名前?」
「うーん、いえ…てぃ……。家と……ティー? ―― 紅茶かっっ??」
「それよりもアンナプルナって何ラビ?」
「イエティっていうのは雪男のことで、アンナプルナはネパールの凄く高くて危険な山々ペエ」

 ペギタンが口にした『凄く高くて』という言葉に反応して、ツナグがパァァッと目を輝かせてミナのほうを向いた。

「ねえっ! その山にはミナも一緒に登ったの!? てっぺんから海は見えた!?」

 いきなり話題に食いついてきたツナグの勢いに圧(お)されて、ミナが珍しく引いてしまう。
 すぐに気を取り直して答えようとするも、それより早くツナグが「あっ、待って待って」とストップをかけてきた。

「やっぱりボク、自分の目で確かめたい。ねえ、ミナ、アンナプルナってどこにあるの?」

 ……再びミナが気を取り直して口を開きかけた瞬間、今度はペギタンがそこに割り込んできた。

「だめペエっ、ツナグ、アンナプルナは本当に危険な山ペエっ! 命を落としている人もたくさんいるペエっ!」
「そ、そうなんだ……」
「うん、そうやで。毛むくじゃらのおっちゃんも、ちょくちょく雪崩の直撃受けて、帰らぬ人になりかけとったからな」
「登らせるなよ、そんな危険な山。ていうか、何回も雪崩の直撃受けたのに生きてるって、そのおっちゃん、本当に雪男の子孫なんじゃね?」

 毛むくじゃらのおっちゃんはともかくとして、ツナグへ心配そうな視線を送るニャトラン。それに気づいたラビリンが明るい調子で言う。

「ツナグなら大丈夫ラビ。危険な場所はどんどんワープで回避しながら登ればいいラビ」
「あ、そっか。……うん、だよな」
「でも、それが出来たとしてもアンナプルナの標高は一番高い所で8091メートルペエ。ものすごく寒くて普通に行けないペエ」
「たぶんミナなら、立って歩く猫用の高性能な防寒着とか持ってるだろ。コメディアンだし。それ借りよーぜ」
「コメディアン言うなっ! ちなみに持っとるわっ! 立って歩く猫用の高性能な防寒着!」
「マジで持ってんのかよっ!」

 自分で言ったクセに、正直そんな物が本当に存在するとは思ってなかったニャトランが驚いて目をまん丸に見開く。
 ひなた、そのニャトランの顔が面白くて、思わず笑ってしまう。
 ラテを抱いたアスミも、皆の輪に加わる。

「ペギタン、ちなみにアンナプルナ主峰のてっぺんの寒さとは、どれぐらいなのですか?」
「えーーっと……」
「あ、待って。あたしが調べてあげるっ」

 ひなたがミナの手からスマートフォンを取り戻して、さくっと検索。

「標高を約8100メートルとして……うわっ、マイナス24度っ!? メチャ寒っ!」
「マイナス24度って、アイスクリームより冷たいラビ。そんなトコ行ったら、ツナグが凍っちゃうラビ」

「アイスクリーム……??」と、ツナグが口の中で言葉を転がしてみる。
 さっきペギタンに説明してもらった『いえてぃ』に続き、またまた出てきた自分の知らない単語。
 そっと傍らにしゃがみ込んだのどかが、気を利かせて説明してくれた。

「アイスクリームっていうのはね、牛乳とかを材料にして作る冷たくて甘いお菓子で、えっと、雪で織り上げた絹を、しっとり重ねたみたいな食感って言えばいいのかなぁ」
「……ッッ!」

 完璧にイメージが伝わったわけではない。だけど、絶対に美味しい!とツナグは直感。のどかたちが持ってきてくれたお菓子の中から、そのアイスクリームというものを見つけ出そうと視線を走らせる。

505猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:33:25

「ごめんなさい」
 と、近づいてきたちゆが中腰になり、ツナグに向かって申し訳なさそうな微笑みを浮かべた。

「今日は、アイスクリームは持ってきてないわね」
「……………………」

 ツナグ、ショックのあまり無言になる。

「あっ…」と、ちゆが微笑みを引きつらせた。間違ったことをしたわけではないが、自分の一言が引き出したツナグの反応に、表情を陰らせてしまう。
 それにいち早く気付いたのどかが、ちょっとあせって、あわわっ、とフォローに努めようとするが、とっさにうまく言葉が出てこない。
 代わりに「あっはっはっ」と無意味に明るく笑いながら、ミナがツナグの前にしゃがみ込み、彼の頭をぽふぽふと右手で優しく叩く。

「ツナグは山が好きなんやねぇ……。でもまあ、アンナプルナはやめとこか。40回以上もツナグを生死のふちに立たせるのは、さすがに罪悪感覚えるしな」

 横から少し厳しい顔でアスミとラテが抗議してくる。

「毛むくじゃらのおっちゃんに対しても罪悪感を覚えてください」
「ワンワンッ」

 ミナはあっさりと聞き流して言葉を続けた。

「そうやな……、富士山なんてどうや? この日本で一番高い山やで」

 ツナグが顔を上げた。

「一番高い?」
「それにな、富士山に登ると、海は海でも、海じゃない海が見えるんやで」
「エッ、何それっ!?」

 ミナの言葉に、ツナグが俄然と興味を示す。
 無論、ミナは答えを言わない。雲海だとすぐに気付いたのどかとちゆも、こっそりと笑みを乗せた視線を交し合うのみ。富士山以外の高い山からでも雲海を見れることを知っているペギタンだが、あえて水を差すようなまねはしない。
 ―― ひなた、ツナグと同レベルで真剣に悩む。

 ミナは穏やかな笑顔で、ツナグに提案する。

「富士山、一緒に行ってみるか? めっちゃアイスクリームの美味しい店も知ってるから、富士山登る前に立ち寄って、食べさせたるわ」
「ボク、行きたいっっ!!」

 思わず心からあふれ出てしまったツナグの本音。
 静かに受けとめたミナが優しく両目を細めて、「…うん」とうなずく。

 ……いい雰囲気ではあるが、ヒーリングアニマルたちは警戒心を緩めない。
 ツナグの前に、バッ、と飛び出し、盾になるように並んでミナと対峙する。

「ツナグっ、正気を失っちゃ駄目ラビ! 相手はミナラビ!」
「そうだぜっ。ミナについて行ったら、おまえまでコメディアンになっちまうぜ!」
「とりあえず不審者がツナグを連れて行こうとしてるって、おまわりさんに通報するペエ」
「ワンワンッ、ワンッ! ワンワンッ、ワンッ、ワンッ」

「こ、こいつらは……」

 激しい憤りに駆られたミナがワナワナ震えながら立ち上がる。

「なに好き放題言うてくれてんねん! 誰がコメディアンや!? 誰が不審者や!?
 あと、ごめんな。ラテちゃんだけ何を言ってんのか、さっぱりわからんかった」

 スッ…とラテの隣に進み出たアスミが、授かった神託を告げるみたいに、ラテの言葉を厳かに通訳した。

「ラテはこう言っています。 ―― もはや『メガネメガネ』では生ぬるい。眼鏡を噛み砕いて粉々にしてくれる、と」

 ラテがアスミを見上げて「くぅ〜ん」と啼(な)いた。そんなこと全然言ってない。
「フンッ」と鼻を鳴らしたラビリンが勝気な表情で、ビシッ!とミナを指差す。

「ラテ様のお手をわずらわせるまでもないラビ! ―― ペギタン、やってしまうラビ!」
「なんでぼくペエ!?」
「ほほぉ? 命知らずやな。我が増子一族に代々伝わる西ドイツ式ブラジリアン柔術をマスターした私に勝負を挑むとは」
「ペ……ペエエっ!」

506猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:34:23

 ペギタン、顔を真っ青にしてあせる。
 増子ミナの体から立ち昇る真紅のオーラ。 ―― が、彼の目には見えているのだ。
 しかし、気圧されて後ろへ下がろうとするペギタンに、ちゆから声援が飛ぶ。

「ペギタン、がんばって!」

 今度はミナの目に、ペギタンの体から噴き上がる蒼い闘気が映った。

「ペエエエエエエエエエッッ!!!」
「むっ! その構えは、古代マケドニア八極拳!」

 生命の危機を感じて体が勝手に後ずさろうとする。だが、ミナは意志のチカラを総動員して耐えた。

 ニャトランが二人のほうを指差して、横にいるラビリンにたずねる。

「なあ、西ドイツとかマケドニアとか、……こいつら一体何やってんだ?」

 腕組みしたラビリンが二人から目を離さず、瞳をギラリと光らせて答えた。

「西ドイツ式ブラジリアン柔術は、邪馬台国を発祥の地とする日本最古の格闘術ラビ。
 遠・近・中距離、全てにおいてバランスよく対応できるのが特徴で、大正時代、鬼の王を倒すための戦いで『柱』と呼ばれる者たちの切り札となったことでも有名ラビ。
 対して、古代マケドニア八極拳は、アレクサンダー大王が編み出したヘレニズム格闘技の一種で、近接戦最強を誇るラビ。
 これを極めた者の拳は鉄をも砕くと言われ、さらに、あるスキルを取得することで、1ターンにつき最大5回までの連続攻撃が可能になるラビ。
 ……フフッ、数々の名勝負を目にしてきたラビリンにも、この闘いの結果がどうなるかは分からないラビ」

「いや、俺はまずおまえが何言ってんのかが分かんねーよ」

 メンドくさくなって理解をあきらめたニャトランは、テキトーなノリで目の前の勝負を楽しむことにした。

「じゃあ、俺はミナを応援するぜ。そっちのほうが、なんか面白そうだしな」

 関係なさそうにスマートフォンを眺めていたひなたが、「あっ!」と声を上げた。

「ミナさん、いつのまにかあたしのアカウントをフォローしてくれてる! あたしもミナさん応援しよっ!」

 あっさりとミナの側についたひなたを、ジロッと睨んだちゆが、のどかを振り返って、何も言わずに微笑みかける。 

「う…、うんっ、もちろん、わたしはペギタンを応援するよ」

 たじっ…と軽く身を引きながら答えるのどか。
 腕組みしたまま仁王立ちしているラビリンは、中立。どうやら、この勝負の審判を務める気らしい。

 ラテがアスミを見上げて「わんっ」と可愛らしく吠える。ラテと視線を重ねあったままアスミがうなずく。今度はちゃんと伝わった。

「ツナグ、これを」

 差し出されたヒーリングガーデンの聴診器を受け取ったツナグが、身振りを交えたアスミの簡単な説明に従って自分の耳に装着し、おそるおそるチェストピースをラテの体に当てる。
 チェストピースが淡い光に包まれ、ラテの心の声がツナグの耳に流れ込んできた。

『ラテといっしょに、ペギタンを応援してほしいラテ』
「え、あ…、うん、わかった」

507猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:35:10

 初めての体験に驚きつつも素直に答えたツナグ。けれど、誰かを応援するなんて今までしたことがない。元気よく吠えてペギタンを応援するラテの隣で声を出そうとするが、やはり戸惑いが大きい。
 そんな彼を横目でチラッと見たのどかが、しゃがんだまま、口もとに両手を添えて大きな声援をペギタンに送った。

「ペギターーンっ! がんばれーーっっ!!」

 突然の大きな声に、びっくりした顔で見上げてきたツナグへ、のどかがニコッと優しく微笑みかける。
 ……うなずき返したツナグが、のどかを真似て口もとに両手を添え、ペギタンへと声援を送った。

「ペ…ペギタン、がんばれーっ!」
「がんばってーっ! ほら、ツナグも応援してくれてるよーっ!」
「ペギタンっ、自分を信じて! あなたなら勝てるわ!」
「わんっ! わんっ!」
「ラテが応援しているので、わたくしもペギタンを応援します。ペギタン、がんばってください!」

 ツナグたちの声援を熱として、西ドイツ式ブラジリアン柔術と古代マケドニア八極拳のぶつかり合いも盛り上がってゆく。

「虎の呼吸・伍ノ型! ―― 猛虎打線ッ!」
「甘いペエ! 覇海殺・肝臓爆発チョップ ―― 六連ッッ!!」
「ぐああああああっっ!?」

 さっそくミナ応援サイドよりブーイングが飛んだ。

「待ってよ! 古代マカロニ八宝菜の連続攻撃って最大5回までって言ってたじゃん!
 なのに、今、6回連続攻撃してたよ! これっておかしくないっ!?」
「そうニャ! チートだ、チートぉぉ!」

 この非難に対して、ラビリンは「ノンノン」と首を横に振った。ルール的には問題ないようだ。

「あ、意外とペギタン勝てそう」
「いけるわよ! その調子よっ、ペギタン!」
「ペギタンッ、次は眼鏡ですッ! 眼鏡を狙っていきましょうッ!」
「わんわんっ!」
「ペギタンっ! がんばれっ! がんばれっ! ペギタンがんばれーっ!」

 興奮のあまり身を乗り出してペギタンの応援を続けるツナグ。 ―― だが、唐突に胸にこみ上げてきた感情の塊に言葉をふさがれてしまう。
 不意に黙ったツナグに、ふと、ちゆが視線を向ける。
 ……ツナグの両目から、静かに涙があふれていた。

「ツナグっ!?」

 ペギタンの両頬をむにーっと左右から引っ張っているミナを含め、ちゆの声で全員がツナグのほうを見た。
 皆のまなざしを受けて、ようやく自分が涙を流していることに気づいたツナグが、あわてて両手でごしごしと目の周りを拭いた。

「ごめん。ボク、友だちの名前を呼ぶのって初めてで……。しかも誰かと一緒に、こんなふうに大きな声で叫ぶなんて想像もしたことなくて……」

 のどかの手が優しくツナグの背中をさする。そして、彼と目が合うと微笑みを表情に乗せて言った。

「これからはいつでも呼べるね、わたしたちの名前」

 ツナグが放心したような顔になった。
 でも、のどかの言葉に脳の理解が追いつくと、幸せのあまり泣き出しそうで、それでいて嬉しすぎてたまらないという感情が入り混じった笑みが、表情に広がり始めた。
 しかし、その瞬間 ―― 。

「 ―― くしゅんっ!」

 のどかが顔を背けて、可愛らしいくしゃみをした。
 笑みに変わりかけていたツナグの表情は、一瞬で凍りついたみたいにこわばった。
 瞳に浮かべる色は、恐怖。
 ……皆の目はのどかへと向いていて、誰も気づかない。

508猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:35:56

「ふふふ……、ごめんなさい」と少し恥ずかしげに微笑むのどかが、長袖インナーに包まれた左の二の腕を右手でさすった。日の光の暖かさでまぎれてしまうが、ほんの少しだけ寒気が肌を這っている。

「そろそろ朝晩も涼しくなってきたものね」
 と、ちゆが、もうすっかり秋だと苦笑しつつ、のどかの体調を軽く気にして隣にしゃがみ込む。腕をさする手をとめて、大丈夫だよ、と微笑みで返すのどか。その背中に、パサッとスーツのジャケットが掛けられる。

「羽織ってたら、ちょっとは温かいやろ。……ほら、お姉ちゃんが心配してるで」
「なっ…!」

 思わず顔を赤らめて、ちゆがミナを見返す。事情を知らない他の者たちが、何事かと興味津々に見つめてくるのが恥ずかしい。同じく、のどかも顔を赤らめているけれど、こっちは照れているのと嬉しいのが半々だ。

「ちゆちーがお姉ちゃんかー……」

 いいなぁ…という思いを込めて感慨深そうにつぶやくひなたに、すかさずニャトランが、

「学校から帰るなり『遊ぶ前に宿題しろーっ』とか言われるぞ、絶対」
 と、ツッコんだ。
 ひなた、何とも言えぬ顔で「あー」と洩らしてから、のどかに向かってパタパタと手を振った。

「ちゆお姉ちゃんのこと、末永くヨロシクねー」
「あ、押し付けやがった」

 ちゆが「どういう意味よっ」と軽く気色ばんで立ち上がろうとするのを、のどかが笑いながら引き止める。

「まあまあ……ちゆお姉ちゃん、落ち着いて」
「のどかまで……、もおっ!」

 そんな二人を囲んで皆が明るく笑う。 ―― ツナグを除いて。
 みんなと一緒に笑っていたのどかの目に、不意にツナグのうしろ姿が映った。

「……ツナグ?」

 きょとんとした顔になって、呼びかける。
 ツナグは自分のリュックを背負いつつ、背中を向けたまま言った。

「ごめん。ボク、今日はもう帰らないと」

 皆の笑い声は、いつのまにか消えていた。
 しん……とした空気にガマンできなくなったひなたが、残っていたお菓子をサッと手に取って、あえて明るい調子で話しかけた。

「ねえ、ツナグ、もうちょっとだけお菓子食べていかない? これなんて美味しいよ? 
 ……えーと、お腹いっぱいなんだったら、包んであげるから、持って帰って食べてもいいし」

 ひなたに続いて、ニャトランも声を張り上げる。

「急すぎるだろっ。なあ、そんなに今すぐ帰らなくてもいいだろっ!」

 ニャトランはツナグを責めているのではない。ただ、彼ともっと一緒にいたいだけだ。
 二人の声に振り向くことなく首を横に振ったツナグに、今度はアスミが問いかけた。

「もしかして、気に障ることでもあったのですか?」

 やっぱりツナグは静かに首を横に振った。
 彼のうしろ姿を見つめて、ラテが心配そうに「くーん」と小さく啼く。
 ……ツナグの様子のおかしい。それは全員が感じている。けれど、なぜそうなっているのかが全く分からない。
 戸惑いを表情に広げているペギタンが、ちゆと顔を見合わせた。
 ちゆはペギタンにうなずき返してから、優しい声でツナグにたずねてみる。

「ツナグ、どうしたの? 何か事情があるのなら教えてもらってもいい? もし、困っているのなら、わたしたちがチカラになるわ」
「ツナグは、ぼくたちの大切な友だちペエ。なんでも相談してほしいペエ」

 一瞬振り向きそうになったツナグが、ぐっとこらえて、強めの語調で返した。

「ゴメンっ、ボク……急いでるからッ!」

 拒絶の背中。
 ラビリンがバルコニーに立ちすくむ。ツナグが心配で声をかけようとしたが、結局、何も言えなかった。
 代わりにミナを見上げて、すがるように声を洩らした。

509猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:36:30

「ミナ、なんとかならないラビ……?」

 ラビリンの傍らにしゃがみ込んだミナが、その背を優しく撫でて謝る。

「ごめんな、ラビリン。ツナグの行動が誰かに命令されたり脅されたりしてるんやったらともかく、自分の意志で動いとる以上はなぁ。
 理由も分からんのに、相手の意志を無視して、こっちの感情だけで無理に引きとめるコトは出来へんねん」

 しかし、ミナは「それでも……」とつぶやいて立ち上がる。

「ツナグ、つらかったり、しんどかったりしたら、誰かに助けを求めるんが当たり前なんやで。それでな、逆に誰かがつらかったり、しんどかったりしたら当たり前に助けてやったらええねん。
 ―― もちろん、それを嫌がる人も当然におる。でもな、私は、助け合うのが人間の本当の姿なんやって、世界を取材しまくって気付いたんや」

 ミナはいったん言葉を切って、「だから ―― 」と右手を伸ばして、手のひらを上向けて大きく開いた。

「苦しいことを一人でかかえ込んだらアカン。……約束する。理由を話してくれたら、みんなで絶対に助けたる」

 ツナグの背中が小さく揺らいだ。
 ……泣いてしまいそうだった。
 ここにいるみんなが大切で、みんなと巡り合えたことが幸せで、だからこそ、立ち去ろうとする決意を強めて、前に一歩踏み出す。

「本当に心配しないで。ありがとう、みんな」

 ツナグの前方の空間が青く透き通った幾つもの立方体へと変化し、フワッとバラけて、虚空の入り口を開いた。

「ツナグっ」と、もう一度呼びかけたのどかが、立ち去ろうとする背に切なく微笑んだ。

「……また、あしたね」

 さようならとは言えない彼女の気持ち、痛いほどわかる。
 足をとめ、ツナグは黙ってうなずき返した。嘘の返事。 ―― また、あした。もう二度とみんなと会えないあした。
 再び進み始めたツナグの姿は、すぐに虚空の中に消え、元の状態を取り戻した空間が、彼のいた痕跡を消した。

 ……しばらく全員がツナグのいた場所を見つめて佇んでいたが、やがてミナがパンッ!と両手を叩いて、みんなを見渡して言った。

「ほら、いつまでもここを私らで占拠しとくワケにもいかん。さっ、手分けして片付けよか」

 明るめの口調で空気を切り替えようとする。 ―― レンズの奥の瞳は、最後に見たツナグの背中を忘れてはいない。しかし、この先、何をやるにしても、まずは目の前の事からだ。

「そうですね」
 と、ちゆが率先して動く。
 言いだしっぺであるミナも動こうとするが、ふと急に気になって上を向いた。
 透明なシリコンゴムシートを貼り付けたような、視覚的に違和感のある空。
 彼女の瞳が鋭さを帯びた。すこやか市を訪れた時から気にはなっていたが、今はそれを通り越して、明確な不愉快さをあらわにしていた。

「こいつ、まるで笑っとるみたいや」
「ミナ、どうかしましたか?」

 隣に並んだアスミも、共に空を見上げていた。

「わたくしも、ここ数日、気になっていましたが、ビョーゲンズ ―― さきほどの怪物の属する勢力とは関係ないようですね」
「そうか。でも、なんかこう……高いところから、得体のしれんモノに見下ろされてる感じがして、腹が立つねん」
「この空、ツナグと何か関係がありますか?」
「わからん。まずは情報収集やな。 ―― あっ、そうや」

510猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:37:15

 いったん話を切って、ちゆに呼びかける。

「ちゆちゃんのウチって旅館やってるって言うてたな。納屋でええから泊めてくれへん? まだ今日泊まるとこ決めてなかったんよ」

 片付けの手をとめて、ちゆが笑いながら振り返った。

「納屋じゃなくて、ちゃんとした部屋を案内しますよ」

 そして、今度は片づけを手伝おうとしていたのどかのほうを向いて、ニコッと笑った。

「のどかはいいわ。あなたの分まで、わたしがやっといてあげる」
「けど……」
「お姉ちゃんがいいって言ってるんだから、素直に聞きなさい。体調が本当に悪くなったらどうするの?」
「うぅ…」

 しぶしぶといった感じで従うが、のどかの表情はちょっと嬉しそう。優しいお姉ちゃんに甘える妹そのものだ。
 二人の様子を微笑ましく視界に収めていたミナとアスミが話を再開する。

「とは言っても、本格的なオカルト方面には、あまり頼れるツテがないからな。どこまで情報を集められるか……」
「なるほど、お笑いとオカルトは相性が悪いのですね」
「オイ、こらオマエ。
 ―― まあ、ええわ。念のため、NASAの知り合いが開発した超々小型のGPSトラッカーをツナグのリュックにこっそり貼り付けといて正解やったわ。とりあえず、ツナグの居場所は追えるな」

 アスミがふむふむとうなずく。詳しい技術のコトは理解できないが、現在の状況を考えると、ツナグを居場所を特定できる手段があるのは頼もしい。

「一体いつ貼り付けたのですか?」と素朴に口にしたアスミに、ミナが気さくに答える。

「ツナグがお菓子もらったりジュース飲ませてもらったりしてた時やね」

 それを聞いて、アスミの表情に、パアッ、と感心の色が広がった。

「すごいですね、ミナは! そんなに早くから、ツナグが何か問題をかかえていると気づいていたのですね!」
「えっ」
「……えっ?」

 アスミが真顔になって聞き返す。
 そして眉間にシワを寄せて、ミナを睨んだ。

「よもやとは思いますが、歓迎会が終わってからツナグを追跡して、わたくしたちがいないところで独占取材を決行しようとしていたのではないでしょうね?」

 ―― 図星。
 ミナが慌てふためいて釈明を試みる。

「あ…、いや、待って。確かにあの時はそんなこと考えてたけど……っ!
 落ち着いて、アスミちゃん、今はちゃうねん。今はホンマにツナグをしんぱ ―― 」
「 ―― 問答無用っ!」

 最後まで言わせず、アスミ、無慈悲に『メガネメガネ』を執行。 ―― と同時に、ひなたが両目を押さえて悲鳴を上げつつバルコニーの上を転げ回る。もはや阿吽の呼吸である。
 一足早く、転がってくる軌道上から逃げるラテ。とっさにラビリンを抱き上げたのどかがパッと飛びのく。ペギタンとニャトランはあわてて空中へと浮かび上がって回避。しゃがんで作業していたちゆの腰に、転がるひなたがドン!と後ろからぶつかった。

「きゃっ!」

 短い悲鳴を上げてつんのめったちゆが、すぐに振り向いて、ミナでもアスミでもなく、ひなたを叱った。ひなたにとっては理不尽の極みだ。
 のどかは、涙目になっているひなたへ同情の視線を送ってから、一人静かに、ツナグが消えたあたりの空間を見つめた。あのうしろ姿を思い出すと、理由の分からない不安がこみ上げてくる。

(ツナグ……)

 ぎゅっ、と小さくコブシを握る。
 今はただ、胸が苦しい。

511猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:37:59

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 深夜、ハート展望台のバルコニーの一角で、青く透き通った立方体の群れがフワッとバラけ、小さな虚空の出口を生じさせた。中から出てきたのはツナグ。
 昼間の歓迎会を思い出して微笑む。

(楽しかったなぁ、うふふ)

 背中からリュックを下ろし、星明りを頼りに中身を取り出して、バルコニーの隅に丁寧に並べていく。
 形の綺麗な葉っぱや色々な種類の貝殻、そして今日、日が暮れる前に海岸で拾ってきたツヤツヤした石。どれもツナグが宝物にしたくなるようなものばかり。
 素敵な歓迎会を開いてくれたのどかたちへのお礼のつもりだった。

(気付いてくれるかな……。よろこんでくれるといいな)

 再びここを訪れたのどかたちが、これらの品を手にして笑顔になってくれているのを想像すると、ツナグの表情にもまた、幸せそうな笑みが広がっていった。

 のどか。ちゆ。ひなた。アスミ。ラビリン。ペギタン。ニャトラン。ラテ。そしてミナ。

 みんなとの一つ一つの思い出を噛み締めながら、誰もいないバルコニーを見渡した。
 自然と両目から涙があふれてきて、視界がぼやける。

「本当に ―― うッ」

 一瞬、声を詰まらせてから、感謝の言葉を喉からしぼりだした。

「本当に…ありがとう」

 涙をぬぐって立ち去ろうとしたツナグが、一歩だけ踏み出して足をとめた。もっとここにいたいという感情に、どうしても心が引っ張られてしまう。
 あともう少しだけ。
 念のため、この街を早めに去ることにしたが、時間的な余裕はまだ十分にあるはずだ。

(そうだ、せっかくだから掃除していこう)

 リュックから古布(ふるぎれ)を出して、バルコニーの壁をごしごしこする。
 ちょっとでもキレイにして、みんなによろこんでもらいたかった。

512猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:38:39

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ―― 最初は自分のせいだとは気付かなかった。
 異国の街の片隅でひっそり暮らし始めたツナグは、大勢の人間がどんどん具合を悪くしていくのを見て、ここは怖い場所なんだと思い、逃げ出した。
 しかし、逃げた先でも同じことが起こった。
 ツナグは再び逃げ出し、また同様の事態に遭遇した。
 そして、気付く。空に妙な霞みがかかってきて『嫌な感じ』が増してくると、人間たちの具合が悪くなることに。
 さらにもうひとつ ―― その現象は、ツナグを追うようにして発生することに。

 ツナグは、人間たちが使う大きな『フネ』という乗り物に忍び込んで、もっと遠くまで逃げた。大陸を渡った。それでも現象はツナグを追って発生した。
 悲しくて、こわくて、ずっと一人で耐えた。
 同じ土地にいられるのは、せいぜい二週間から三週間。それぐらいなら『嫌な感じ』も、人間に影響を及ぼすほどの量には達しない。分かっているのはこの程度で、どうしたら現象の発生を防げるのかは見当もつかない。

( ―― さむい)
 閉じたまぶたの裏に思い浮かべる。大きな窓のある家。 ―― そこがどこだか思い出した。かなり前に訪れた国の、ひっそりとした郊外に建てられた白い平屋だ。
 老夫婦が静かに暮らしていて、天気のいい日には、おばあさんは必ず大きく窓を開いて、窓際で籐のチェアに座って編み物をしていた。
 離れた場所から、それをこっそりと眺めるのが好きだった。穏やかに日々を送っているおばあさんの姿を見ていると、心に暖かさが差した。
 おばあさんが自分に気付いて、優しく窓から迎え入れてくれる ―― そんなことを夢見ながら、一人でクスクス笑ったこともある。
 ……もし、そのたわいもない夢が叶っていたら、どんなに幸せだっただろうか。

 ―― 寒い、と感じてツナグはバッと身を起こした。掃除を終えて軽く休憩するだけのつもりが、完全に眠ってしまっていた。
 でも、まだ周りは暗い。夜が明けていないことにホッとして、次の瞬間、はじかれたように空を見上げた。

 異界の蒼さに染まった暗い空。透明な内蔵の表面を貼り付けたみたいに、空全体がうっすらと脈動している。
 ……『嫌な感じ』が、吐き気を催しそうなほど濃い。

「そんな……、まだ大丈夫なはずなのに……」

 愕然とつぶやくツナグ。
 この街に来て一週間ほどしか経っていない。早すぎる。
 突然、彼の背後で、空間の面が幾つもの青く透き通った立方体となってフワッと舞い上がった。
 ツナグの意思とは無関係に開いた虚空から、サーッと風が流れ込んでくる。
 冷たくて、『嫌な感じ』をたっぷりと含んだ風。

「えっ?」

 振り向こうとしたツナグが、バルコニーの手すりの向こう側、すなわち空中にも虚空が開いているのに気付いて固まってしまった。やはり、そこからも冷たい風が吹き出してきている。
 …………何が起こっているのか分からない。ツナグの背筋がゾッと冷える。
 異常は止まらなかった。むしろ加速していった。今や近くも遠くも、見渡す限りあちこちで空間が小さな立方体の群れをバラけさせ、虚空を開いている。

「あ…、あっ……」

 ツナグが立ちすくむ。
 恐怖。後悔。不安。絶望。全部がいっぺんに押し寄せてきて、精神が壊れそうだった。
 海と山に囲まれた美しいすこやか市全域を、まがまがしい気配が覆い尽くし、深く沈めてゆく。暗く蒼い空が、嗤うみたいに何度も揺らめいた。

(つづく)

513猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:47:34
……今回はここまでです。

しばらく(……かなり?)間があくと思いますが、
<後編>も頑張って投下していきたいと思います。

ちなみに、次回からツナグ地獄変が始まりますが、
『Connected World』の結末はハッピーエンドです。あと、微妙にのどちゆです。

514名無しさん:2022/01/15(土) 09:39:12
>>513
ペギタン無双に爆笑しました。増子美香強すぎぃ!
そしてツナグが切ない。後編も楽しみにしてます。

515運営:2022/01/16(日) 19:51:30
こんばんは、運営です。
例年2〜3月に行ってきたSS競作ですが、少し時期を見直した方がいいのではないかと運営で話し合いました。
これまでは、サイト立ち上げの記念日が2月ということもあり、ちょうどシリーズの入れ替わり時期、シリーズが終わった余韻もありつつ新キュアにワクワクしている時期を狙っていたのですが、SSを書くということを考えると
「まだ新キュアが始まったばかりでSSは書きにくい。一番注目を集めている現行シリーズのSSがもう少し書きやすい時期にした方がいいのではないか」
という意見が出たのです。
相談の結果、次回は「冬のSS祭り」ならぬ「春のSS祭り」ということで、4〜5月に行うことにいたします。
下記の内容で考えておりますので、どうぞ奮ってご参加のほど、よろしくお願いします!

タイトル:オールスタープリキュア!今日もトロピカってる〜!春のSS祭り2022

期間:2022年4月16日(土)〜5月8日(日)の23日間

テーマ:「やる気」または「人魚」

516名無しさん:2022/01/17(月) 01:31:04
>>515
テーマに、デパプリの「ごはん」「笑顔」も追加した方が良いのでわ?

517運営:2022/01/19(水) 19:14:40
>>516
ありがとうございます。検討しますね!

518名無しさん:2022/01/19(水) 23:30:19
タイトルも、トロプリとデパプリを掛け合わせて、
来年は来年のプリキュアに因んだタイトルにすれば、おさまりが良いような気がする御検討のほど宜しく御願い致しますぅ〜

519運営:2022/01/26(水) 06:45:49
>>518
重ね重ねありがとうございます!
検討しますね。

520運営:2022/01/29(土) 20:12:22
こんばんは、運営です。
出張所に投稿された小ネタ、こちらにも上げておきます。


たれまさ様 フレプリで「思いの重さ」

-----

ラビリンスの技術なら人の思いの強さを測る機械とか作れないかな。

「そうね、じゃあ試しに…美希のモデルの夢への思いを」ポチッ

チーン『66.52デス』

「え!?ちょっとこの機械信用できるの?アタシこんなに本気なのに!あ、じゃあブッキーの動物に対する思いを教えて!」ポチッ

チーン『82.33デス』

「わぁ!これは嬉しいかも〜♪じゃあ私も…機械さん、ラブちゃんの勉強に対する思い教えて?」ポチッ

チーン『3.14デス』

「あっはは!低っくい!!円周率じゃん!」
「むぅう…勉強は…やっぱり苦手なんだよね〜…そうだ!せつなの私に対する思いを教えて!っと」ポチッ
「ちょ、ちょっとラブ!それは…!」

ウィーンガガガギュイッギュイッ…ボンッ…チーン『99999999999999999999999』
((重っ!!))

521名無しさん:2022/06/10(金) 02:01:43
>>520
「ラブテスター」ってのが昔あったっぽい。てかあった。 任天堂。

せつな嬢はラブへの思いで手のひらビチョビチョ、機械を漏電させてこれまた故障に追い込むね。

522名無しさん:2022/06/10(金) 02:08:44
富岳をも故障させるだろう。人間が機械に打ち克つ刻が来たのだ。

523Mitchell&Carroll:2022/06/12(日) 01:32:46
『デリバリープリキュア!魂は五感に宿るの巻』

つぼみ「ボルシチ、出来ました〜!」
キュアマリン「ん〜、イイ匂い(鼻の穴全開)。ほいじゃ、一丁、ウクライナまで届けてくるっしゅ!」
つぼみ「行ってらっしゃい。ロシア軍に気を付けて」

キュアマリン「ただいま〜!」
つぼみ「おかえりなさい。喜んでもらえました?」
キュアマリン「3歳くらいのガキが「ママの作ったボルシチの方が美味しい」とか言ってたから、軽く頬っぺた、つねってやった」

524名無しさん:2022/06/12(日) 02:13:34
>>523
マリン、相変わらずの理由で変身してんな(笑)
今回は自分のためじゃなかったみたいだけど。

525Mitchell&Carroll:2022/06/15(水) 01:13:01
『逃亡者達』





「待つルン!!」

 ララのかすれ声も空しく、その者達は、地球を汚すだけ汚して、宇宙へと飛び立ってゆく。ある者は夢を語り、ある者は貝をばら蒔きながら。

「せめて、地雷の一つでも撤去してから行くルン!!」

 ばら蒔かれる貝に怯む事なく、ララは、その者達を裸足で追い続ける。

「せめて…せめて、太陽光パネルの残骸を片付けてから行くルン!!」

 とても、ララ一人で太刀打ちできる数ではなかった。ひかるは補習、えれなは花の水やりと兄弟の世話、まどかは御稽古、ユニは昼寝――そんな中、ロケットは次々と打ち上げられてゆく。

「せめて、せめて…!!」

 汚れた貝は、ララの涙をもってしても、綺麗になる事は無かった。

526Mitchell&Carroll:2022/06/15(水) 01:16:21
『風烈衆不離求愛』

羅舞「喰らえ!愛燦々(ラブサンシャイン)!!
刹那「愚唖唖唖唖(ぐああああ)!!」
羅舞「不破破破破(ふはははは)!!思い知ったか!我の愛燦々の威力を!!」
刹那「怒雄雄雄雄(ぬおおおお)!?体中に愛が漲ってくるではないか!!」
羅舞「其れが我の必殺技・愛燦々よ!!」
刹那「ならば!今こそ見せようぞ!!必殺・幸福針剣(ハピネスハリケーン)!!」
羅舞「不雄雄雄雄(ふおおおお)!?なんという数の破悪刀(ハート)だ!!だが!!全て受け留めてみせるぞ!!!」
刹那「雲往往往往(うおおおお)!!!」
羅舞「怒離也愛愛愛(どりゃあああ)!!!破破破破(はははは)!!!!どうだ、全て受け留めてやったぞ!!」
刹那「み、見事なり!!」
羅舞「貴様は我の熱い腕に抱かれる運命なのだ!!!」
刹那「無有有有(むううう)…これまでか!!」

527名無しさん:2022/06/15(水) 20:20:28
>>526
ミシェルさん絶好調!

528Mitchell & Carroll:2022/07/01(金) 00:02:15
『そうだ 日本、行こう。』

レジーナ「暑ぅ〜い…」
六花「そんな格好してるからよ」
真琴「ねぇ、なんでこんなに暑いの?」
六花「インドネシアとかマレーシアとか、東南アジアの木をみんな伐(き)っちゃったからよ」
マナ「熱を吸収するものが無くなっちゃった、って訳か…」
レジーナ「なんで伐るのよ、バカ!」
ありす「国立競技場の材料にする為です」
セバスチャン「なお、四葉財閥は一切関わっておりません」
亜久里「ほら、あそこに見えるのがそうです」
ダビィ「オランウータンが群がってるビィ」
アイちゃん「おさぅさん、きゅぴ〜」
シャルル「自分たちの棲みかに在った木を求めて、遠路はるばる、やって来たシャル」
ランス「野性の力は凄いでランス〜」
ラケル「僕だって、六花の為なら太平洋の一つや二つ、泳ぎきってみせるケル!」
セバスチャン「繰り返し申し上げますが、四葉財閥は、例の事案とは一切関わっておりません」

529名無しさん:2022/07/01(金) 20:28:17
>>528
セバスチャン、2回言ったら怪しいシャル!

530Mitchell & Carroll:2022/07/07(木) 14:25:58
『そうだ ド○キ、行こう。』

さんご「暑ぅ〜い…」
まなつ「さんごが白くなってる!?」
ローラ「骨が見えちゃってるじゃないの!!」
みのり「褐虫藻が失われてる…」
あすか「誰か、温暖化を止めてくれ!!」
キュアビューティ「プリキュア・ビューティブリザード!!」
キュアダイヤモンド「プリキュア・ダイヤモンドシャワー!!」
キュアジェラート「キラキラキラル・ジェラートシェイク!!」
まなつ「涼しい…」
キュアビューティー「取り敢えず、海水の温度を下げました」
ローラ「ありがとう!」
キュアダイヤモンド「北極の氷も、凍らせ直しといたわ」
みのり「何てお礼を言えばいいのか…」
キュアジェラート「ほら、褐虫藻だよ」
あすか「よく用意できたな」
キュアジェラート「ここに来る途中、ド○キに寄ったんだけど、無かったから海から持ってきた」

531名無しさん:2022/07/09(土) 23:47:45
>>530
いや、確かにド〇キ凄いけど、さすがにそれは……💦


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