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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

512猫塚 ◆GKWyxD2gYE:2022/01/01(土) 08:38:39

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ―― 最初は自分のせいだとは気付かなかった。
 異国の街の片隅でひっそり暮らし始めたツナグは、大勢の人間がどんどん具合を悪くしていくのを見て、ここは怖い場所なんだと思い、逃げ出した。
 しかし、逃げた先でも同じことが起こった。
 ツナグは再び逃げ出し、また同様の事態に遭遇した。
 そして、気付く。空に妙な霞みがかかってきて『嫌な感じ』が増してくると、人間たちの具合が悪くなることに。
 さらにもうひとつ ―― その現象は、ツナグを追うようにして発生することに。

 ツナグは、人間たちが使う大きな『フネ』という乗り物に忍び込んで、もっと遠くまで逃げた。大陸を渡った。それでも現象はツナグを追って発生した。
 悲しくて、こわくて、ずっと一人で耐えた。
 同じ土地にいられるのは、せいぜい二週間から三週間。それぐらいなら『嫌な感じ』も、人間に影響を及ぼすほどの量には達しない。分かっているのはこの程度で、どうしたら現象の発生を防げるのかは見当もつかない。

( ―― さむい)
 閉じたまぶたの裏に思い浮かべる。大きな窓のある家。 ―― そこがどこだか思い出した。かなり前に訪れた国の、ひっそりとした郊外に建てられた白い平屋だ。
 老夫婦が静かに暮らしていて、天気のいい日には、おばあさんは必ず大きく窓を開いて、窓際で籐のチェアに座って編み物をしていた。
 離れた場所から、それをこっそりと眺めるのが好きだった。穏やかに日々を送っているおばあさんの姿を見ていると、心に暖かさが差した。
 おばあさんが自分に気付いて、優しく窓から迎え入れてくれる ―― そんなことを夢見ながら、一人でクスクス笑ったこともある。
 ……もし、そのたわいもない夢が叶っていたら、どんなに幸せだっただろうか。

 ―― 寒い、と感じてツナグはバッと身を起こした。掃除を終えて軽く休憩するだけのつもりが、完全に眠ってしまっていた。
 でも、まだ周りは暗い。夜が明けていないことにホッとして、次の瞬間、はじかれたように空を見上げた。

 異界の蒼さに染まった暗い空。透明な内蔵の表面を貼り付けたみたいに、空全体がうっすらと脈動している。
 ……『嫌な感じ』が、吐き気を催しそうなほど濃い。

「そんな……、まだ大丈夫なはずなのに……」

 愕然とつぶやくツナグ。
 この街に来て一週間ほどしか経っていない。早すぎる。
 突然、彼の背後で、空間の面が幾つもの青く透き通った立方体となってフワッと舞い上がった。
 ツナグの意思とは無関係に開いた虚空から、サーッと風が流れ込んでくる。
 冷たくて、『嫌な感じ』をたっぷりと含んだ風。

「えっ?」

 振り向こうとしたツナグが、バルコニーの手すりの向こう側、すなわち空中にも虚空が開いているのに気付いて固まってしまった。やはり、そこからも冷たい風が吹き出してきている。
 …………何が起こっているのか分からない。ツナグの背筋がゾッと冷える。
 異常は止まらなかった。むしろ加速していった。今や近くも遠くも、見渡す限りあちこちで空間が小さな立方体の群れをバラけさせ、虚空を開いている。

「あ…、あっ……」

 ツナグが立ちすくむ。
 恐怖。後悔。不安。絶望。全部がいっぺんに押し寄せてきて、精神が壊れそうだった。
 海と山に囲まれた美しいすこやか市全域を、まがまがしい気配が覆い尽くし、深く沈めてゆく。暗く蒼い空が、嗤うみたいに何度も揺らめいた。

(つづく)


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