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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

468運営:2020/07/23(木) 11:26:24
 そして、ついにやってきた実行当日。空は雨こそ降っていないものの分厚い雲が覆い、待ち合わせの三十分前に来ていたえみるちゃんの表情はやっぱり曇っていて、とても能天気に世間話を出来るような感じでは無かった。
「ことりちゃん、おはようなのです」
「もう、お昼だよ?」
「そ、そうだったのです!アハハハ……」
「……」
 空元気、かぁ。えみるちゃんの優しさだとは分かっていても、もう少し頼って欲しいなと思ってしまう私がいて。
(弱気になっちゃダメ!これからが本番なんだから!)
 自分に喝を入れて、それじゃ行こ!と歩き出して数分。たどり着いたのは周囲に木々が生い茂る川のほとり。
 四苦八苦しながらもテントを骨組みから組み立てていく。
「「せーのっ!」」
 骨組みの上からシートを被せれば、あとは結ぶだけ。思ったよりも早い完成に、私たちは暇を持て余した。空はまだ赤くなる気配を見せず、ただただ灰色の雲が晴れも雨降りもしないで無機質に覆っていた。
「……」
 流れる沈黙。このままじゃいけないと無理矢理話を振ってみる。
「えみるちゃんは、何持ってきたの?」
 以前、ハイキングに来たときとは打って変わって、えみるちゃんの荷物は必要最低限、といった感じだ。
「カレーの食材なのです!」
 次々とリュックから取り出していくのは、カレーのルーに無洗米、にんじんなどなど……もちろん、石橋をたたくような金槌は入っているわけがなく。
「あとはマシュマロ!マシュマロも焼くのです!スーパーの精肉コーナーに置いてあったのです」
 リュックの袖から取り出したのは丁寧に個包装されたマシュマロ……マシュマロ?
「それ、牛脂じゃない?」
「なっ!?」
「そんなに驚かなくても……」
 いつものえみるちゃんとは違うというもどかしさを感じつつも、それからは他愛のない話で盛り上がる。担任の先生の面白話だったり、気になる男子がいるか〜なんて話だったり。
 えみるちゃんも笑顔で答えてくれたけど、どうも私の表情を見ると、どことなく笑顔が曇ったような気がした。
「そろそろ、用意し始める?」
 ここで巻き返さなきゃと座っていた椅子から飛び上がる。そんな私の焦燥感を煽るように空は仄かに赤く染まり、足早に灰色の雲が流れていっていた。
 今回作るのはキャンプでは定番のカレーライス。
 家で作るのとはまた違って、簡易コンロはお鍋が安定せず、分量だって計量カップがないから目分量だ。それでもおいしいものを食べてほしいと躍起になって鍋とにらめっこ。
「私も何か手伝うのです!」
「ううん。えみるちゃんは座っててよ」
 コトコトと煮立ってきた鍋にルーを入れて、もうしばらく煮込む。
「できたっ」
 空の明るさは疾うに消え去り、持ってきたランプとえみるちゃんが別に起こしたたき火だけが、唯一の明かり。
「「いただきます」」
 恐る恐る、一口目を口に運ぶ。
「うっ……焦げてる」
 底の方で混ぜ損なったのか、にんじんの風味を損なう苦みが口全体を覆った。幸いえみるちゃんは焦げたとこには当たらなかったらしくおいしいと笑顔で完食してくれた。
 食べ終わった食器やらなんやらを片付けて、寝袋にホッカイロを入れれば寝る準備は完了。
 それでも寝るのが惜しくて、私たちは寒空の下でもう一度焚き火を囲んだ。
「キャンプファイヤーみたいなのです!」
「ほんとだね」

 流れる、沈黙。

「……ことりちゃん、今日はありがとうなのです」
「気にしないでってば。……私の方こそごめんね、何も、してあげられなくて」
 自分の無力さが憎くて、無意識の内に下唇を噛み締める。薪の炎が握りしめた拳を強く、強く熱していく。
「私は、ル……あの人の代わりにはなれない。分かってる。分かってるんだけど……っ!」
 ああ、えみるちゃんが泣きそうな表情をしている。そうだよね、ルールーの名前は出さない方が良かったよね。
 あれ?どうして、泣きながら笑っているの?


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