したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ

1魔法少女リリカル名無し:2009/01/08(木) 00:01:53 ID:Qx6d1OZc
「書き込めないの!?これ、書き込めないの!?ねぇ!本スレ!本スレ書き込めない!?」
「あぁ、書き込めないよ」
「本当!?OCN規制なの!?ODNじゃない!?」
「あぁ、OCNだから書き込めないよ」
「そうかぁ!僕OCNだから!OCNだからすぐ規制されるから!」
「そうだね。規制されるね」



捻りが無いとか言うな

969R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:58:12 ID:.jmCVDEE
頭頂部に置かれる手。
エリオの右手だ。
思わず言葉を止めるキャロの目前、困った様な笑みを浮かべているエリオ。
そして、彼が告げた言葉。



「間に合って、良かった」



滲み、ぼやけるエリオの顔。
もう、耐えられなかった。
大粒の涙が頬を伝い、零れ落ちている事を感じながら、キャロは声を上げて泣く。
戦場の直中に在りながら、周囲は異様なまでに静かに感じられた。
無数の閃光が爆発し、リンカーコアに異常な負荷が掛かる程の魔力の余波を感じ取りながらも、それら全てが存在しないかの様に泣き続ける。
自身が何かを叫んでいる様にも思えたが、如何なる言葉を紡いでいるのかは当のキャロにも分からない。
ただ、胸中に渦巻いていたあらゆる感情、その全てをぶつけているのだという事だけは理解していた。

エリオは、何も言わない。
彼は無言のまま、自身の胸に顔を埋めて叫び続けるキャロ、その髪を撫ぜ続けていた。
何時かのスプールス、タントやミラと共に過ごした優しい時間。
その時に触れたものと寸分違わぬ、優しい手。
だからこそキャロは、更に声を上げて叫び続ける。
彼の表情、彼の目、彼の言葉、彼の声。
其処に込められた真意を理解してしまったからこそ、更に増す涙と共に泣き続ける。

彼は、自身が指揮官である事など、望んではいない。
殺し合いの直中に身を置く事など、望んではいないのだ。
彼が望んでいる事は、余りにも優しく、しかし余りにも残酷な事。

生きていて欲しい。
それがキャロに対する、エリオの願い。
出来得るならば戦いの場を離れて、幸福に生きて欲しい。
何ともありふれた、しかし如何にも彼らしい、優しく温かい願い。
何時か2人が共に願った、何時か未来に訪れるであろう日々を想う、幸せな祈り。
嘗てと同じそれを、彼は今も願い続けていてくれたのだと、キャロは悟った。
だが、その願いは優しくも、同時に最も残酷な形へと変貌を遂げていたのだ。

エリオが思い描く、自身の幸福。
その傍には、彼が居ない。
彼の存在が、何処にも無いのだ。
此方の幸せを願いながら、その隣に彼自身が寄り添う事など有り得ないと、そう結論付けてしまっている。
それが、此方を疎ましく思っての結論ならば、どれ程に救われた事か。
此方を見やる、彼の目。
その眼差しは嘗てと何ら変わり無く、未だに自身を、護るべき人、大切な人として捉えているそれ。
それ程に此方を想ってくれている癖に、此方が彼を想っている事すら知っている癖に。
彼を傷付けてしまった事を悔いている事にさえ、疾うに気付いている癖に。

彼は、それを受け入れられない。
彼は、恐れている。
共に在る事を受け入れてしまえば、二度と槍を振るう事など出来ぬと。
タントやミラ、その子供の生命を奪いながら、それを悔いる事も出来ぬ自身。
家族同然であった人々の死を悼む事すらできぬ自身が、大切な人の想いを受け入れる事が出来ようか。
縦しんば想いを受け入れ、自身が彼等の生命を奪った事を悔いてしまったならば、それ以後に槍を振るう事など出来る訳がない。
そうなれば自身は、間違い無く過去の罪に押し潰される。
自身の槍を振るい、大切な人を護る事すら出来なくなる。
その恐怖に、彼は全霊を以って抗っているのだ。

970R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:59:48 ID:.jmCVDEE
だからこそ、彼は。
護る為に。
只管に、護る為に。
「キャロ・ル・ルシエ」を護る槍、それを振るい続ける意思を失わないが為に。
「エリオ・モンディアル」はいずれ、自分の傍から消える心算なのだ。

「・・・ごめんね、キャロ」

優しい声。
これまでの距離を埋めようとするかの様に、キャロはエリオの胸で泣き続ける。
不思議と彼女には、今のエリオの胸中が我がものであるかの様に理解できた。
そして同時に、エリオもまた自身の心を覗いているのだと、そう確信している。
理由は解らないが、知ろうとも思わない。

離れていた心は繋がった。
だが、其処に浮き彫りとなったものは、決して共に歩む事の出来ぬ未来だけ。
2人が離れる未来を、エリオは納得尽くで受け入れているのだ。
だが、キャロはそうではない。
納得などしておらず、する心算もない。
2人の想いは、擦れ違ってなどいないのだ。
ならば何故、離れなければならないというのだ。
そんな答えなど、納得できる筈がない。

だからこそ、彼女は誓う。
波動粒子にも似た青い光の粒子が舞い踊る中、言葉にならない嗚咽を零しながらも、涙に濡れた目で以ってエリオを睨み据えるキャロ。
そうして、驚いた様な表情を浮かべる彼に向かい、宣言する。
声と、念話と、繋がった心と。
それら全てで以って「宣戦布告」を行うのだ。

「槍なんて振るわなくていい! 護る事だってしなくていい! ただ傍に居てくれれば、それだけでいい!」
「キャロ・・・?」
「エリオ君は何も悪くない! タントさんやミラさんの事だって、誰の所為でもない! 何もかもみんな、あの星と管理世界から始まった事なのに! ずっと未来の、まだ生まれてもいない人達から始まった事なのに!」
「キャロ、落ち着いて・・・!」
『離れなきゃ護れないのなら、護らなくていい! そんな幸せ要らない! 貴方を傷付けながら生きて往くくらいなら、此処で死んでしまった方がいい!』

双方の声は次第に、音とは異なるものへと変貌してゆく。
だがキャロは、気付かない。
熱に浮かされた様に叫び続ける彼女は、周囲の空間そのものが歪み始めた事ですら、知覚の外へと追い遣っている。
急激に高まる、空間中の魔力密度。
火花の如く弾ける、青い魔力素の光。

『そうでなければ駄目なの!? 誰かが戦わなければ、他の誰かが幸せになる事すら許されないの!?』
『キャロ、止めるんだ!』
『そんな世界なんて要らない! 誰かが不幸にならなきゃ存続できない世界なんて、護りたくない! そんな世界、私は絶対に認めない! そんな、そんな・・・!』

其処で、何かに気付いたのだろう。
エリオは、その表情に焦燥の色を浮かべ「両手」でキャロの肩を掴んだ。
彼が目にしている光景、それはキャロにも「伝わって」いた。
彼の視覚が、聴覚が、意識が。
余りにも鮮明に、宛ら我がものであるかの如く、キャロの意思へと投影されている。

より広範囲に亘り可視化する空間の歪み、キャロの周囲へと集束する青い光の粒子。
何らかのエネルギーが、彼女を中心として集束を始めていた。
周囲を埋め尽くす、青白い光。
その光景は、余りにも似過ぎている。
波動砲、波動粒子の集束。
此処だけでなく、背後のベストラ外殻上、その其処彼処でも同様の現象が起こっているらしい。
外殻上の数十ヶ所で、青白い光が膨れ上がっている。
異常な光景を視界へと捉え、驚愕と焦燥の念を抱くエリオ。
そしてキャロもまた、エリオの意識を通じて、その光景を認識していた。

971R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:01:28 ID:.jmCVDEE
それでも、彼女の言葉は止まらない。
彼女の「願い」は止まらない。
そして、極限まで圧縮された魔力素、無数の青い魔力球が周囲の空間を埋め尽くした、その瞬間。



『そんな世界、壊れてしまえばいい!』



閃光と共に、世界が「壊れた」。

*  *  *

閃光と共に消滅する、ドブケラドプスの幼体。
自身の背後に位置していたその個体は、遠方より放たれた直射魔導砲撃の直撃を受け、僅かな塵すら残さずに消失したのだ。
光条が消え去った後、残されたものは僅かに漂う魔力素の粒子のみ。
僅か1秒にも満たぬ事態の推移を、彼女は咄嗟に背後へと振り返ろうとした姿勢のまま、呆然と見つめていた。

『・・・大丈夫だったか?』

意識へと飛び込む念話。
砲撃を放った魔導師からのものだ。
此方を気遣いつつも何処かしら戸惑いの色を含んだそれに、彼女もまた若干の混乱を滲ませた念話で以って返す。
ただ、その内容は問い掛けに対する返答ではなく、相手に対する新たな問い掛けだった。

『どうやって、気付いた?』

それが彼女、ヴィータの脳裏に浮かんだ疑問。
急激な魔力出力の上昇、それに伴う一時的な感覚の混乱。
その現象は、彼女に致命的な隙を生じさせるには、十分に過ぎるものであった。
そうでなくとも、ベルカ式魔法の使い手であるヴィータは、高速にて飛翔する小型敵性体群への対処に手間取っていたのである。
僅かな集中の乱れは、遂に最悪の事態を招いてしまったのだ。

背後、排水口が詰まった際のものにも似た、不快な異音。
頭部を廻らせ、視界の端にそれを捉えた時には、既に事態は手遅れだった。
ドブケラドプス幼体、背後に占位、砲撃態勢。

しかし、極強酸性体液の奔流が、ヴィータを襲う事はなかった。
突如として空間を貫いた、直射魔導砲撃。
なのはのディバインバスターにも匹敵するそれが2発、僅かに数瞬の差異を以って飛来したのだ。
幼体は先ず下半身を、次いで残された上半身を消し飛ばされて消滅。
そうして、ヴィータは砲撃が飛来した彼方へと視線を遣り、今に至る。

気付く筈がないのだ。
ヴィータは念話を発しつつ戦闘を行っていた訳ではなく、咄嗟に援護を求める事など不可能であった。
そして、周囲の其処彼処で戦闘が行われてはいたものの、混乱の中で味方との連携など保たれてはいなかった。
偶然にヴィータの危機を目にしたのだとしても、それこそ彼女と殆ど同時に敵性体の存在に気付かなければ、あのタイミングでの砲撃など不可能である筈だ。

だが、彼は気付いた。
信じ難い事ではあるが、彼はヴィータとほぼ同時に敵性体の存在を察知し、反射的に砲撃を放つ事で彼女を危機的状況より救い出したのだ。
本来であれば、戦闘の最中に起こった幸運な偶然で片付けられる、その程度の出来事。
しかし、それが決して偶然などではない事に、ヴィータは気付いていた。

『お前、さっき「避けろ」って言ったか?』
『アンタ「ヤバい」って叫ばなかったか?』

972R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:02:35 ID:.jmCVDEE
双方より同時に発せられる問い。
その内容に、ヴィータは独り納得すると同時、驚愕を覚える。
やはり、気の所為などではなかった。
砲撃の主はヴィータの意識を読み、ヴィータもまた相手の意識を読み取っていたのだ。

『何だ、こいつは。念話の術式が暴走でもしたか?』
『そんなの聞いた事も無い。やっぱり、この青い魔力素が原因か』

念話を交わしつつ、ヴィータは周囲へと視線を奔らせる。
自身の周囲へと纏わり付く、青白い光を放つ魔力素の粒子。
何時からか身体へと帯び始め、次第に密度を増しゆくそれに対し、しかし何故か警戒感を抱く気にはなれなかった。
それどころか、密度が高まるにつれリンカーコアの魔力出力は更に増大し、更には全身の傷までもが癒え始めたのだ。

『本当に何なんだ、コレ・・・リンカーコアの出力増大も、ひょっとしてコイツが原因なのか』
『知るか、そんな事。大体、悪影響どころかこっちが有利に・・・敵機、接近!』

瞬間、またしても混濁した意識中に映り込む、白い機体の影。
「R-11S TROPICAL ANGEL」
ランツクネヒトの機体、ヴィータの背後から突進してくる。

「くそッ!」

悪態をひとつ、反射的に飛翔魔法を発動、瞬時に20m程を移動し衝突を回避するヴィータ。
巨大な風切り音と共に、宙空を突き抜けてゆくR戦闘機。
ヴィータは衝撃に吹き飛ばされながらも、咄嗟に鉄球を構築しグラーフアイゼンを叩き付ける。
シュワルベフリーゲン。
常ならば4個までである鉄球の同時構築数は、瞬間的な生成にも拘らず30を優に超えていた。
それらの鉄球はハンマーヘッドが打ち付けられるや否や、ライフル弾の如き速度で射出されR戦闘機を追う。

R戦闘機群の機動は、妙に鈍い。
真相は定かではないが、何らかの制約が掛かっているかの様に、以前の常軌を逸した機動性が鳴りを潜めている。
しかし、如何にR戦闘機群の機動性が異様なまでに落ち込んでいるとはいえ、鉄球の速度はR-11Sへと追い縋るまでには到らない。
瞬間的に亜光速へと達するような異常極まる機動こそ行わないものの、閉所ですら音速の数倍で飛行可能という信じ難い速度性は未だに健在なのだ。
鉄球が苦も無く引き離され、瞬く間に振り切られた事を確認するや否や、再度ヴィータは悪態を吐いた。

「くそったれ!」
『諦めろ。あれを撃ち墜とすには最低でも極超音速クラスのミサイルを用意するか、さもなきゃクラナガンみたいに砲撃魔法の乱れ撃ちでもするしかないぜ』
「じゃあやれよ! お前も砲撃魔導師だろうが!」
『たった1人で乱射なんぞできるか。こっちは機械じゃないんだ、タイミングを合わせるのだって一苦労なんだぞ』
「だからって・・・ああ、クソ!」

またもや、闇の彼方に白い影。
防音結界をも無効果する程の轟音が周囲を埋め尽くし、至る箇所で波動粒子と魔力素の青い光が爆発、明滅を繰り返している。
どうやらR戦闘機群は有機構造体の奥より押し寄せる無数のバイド生命体群を殲滅しつつ、折を見てベストラへと攻撃を加えているらしい。
詰まる所、此方との交戦は片手間で事足りると判断されているのだ。
その事実が、ヴィータには面白くない。

「畜生どもめ・・・」

忌々しげに呟き、自身の頭部を上回る大きさの鉄球を構築する。
コメートフリーゲン。
炸裂型の大型鉄球を打ち出し、制圧攻撃を行う中距離射撃魔法。
だが、嘗てはあらゆる敵に対し暴威を振るったこの魔法も、R戦闘機が相手では分が悪い。
幾らリンカーコアが強化されていようとも炸裂範囲の拡大には限界が在り、それこそ超高速性と高機動性の双方を有するR戦闘機群に対しては、半ば運任せで起爆する以外には運用の手立てなど無いだろう。

「もっと派手に吹っ飛ばせりゃあ・・・」

知らず、零れる呟き。
更なる爆発力、効果範囲が欲しい。
巨大な、それこそ空間を埋め尽くすほどの爆発を起こせるのならば、撃墜には到らずとも1機か2機の敵機に損害は与えられるだろうに。

973R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:04:32 ID:.jmCVDEE
「え・・・?」

瞬間、自身の周囲、膨大な量の魔力が集束する感覚。
突然に襲い掛かった異常な感覚に驚き、ヴィータは周囲を見回す。
何も変わりは無い、阿鼻叫喚の戦場。
今の感覚は何だったのかと、視線を正面へと戻す。

「何だ・・・」

それは、気の所為であったのか。
宙空に浮かぶ鉄球、自身が生成したそれが、青白く発光していた様に見えたのだ。
しかし、それも一瞬の事。
幾ら凝視しても、其処には何の変哲もない黒々とした鉄球が浮かんでいるだけだ。

「まさか、だよな・・・?」

恐る恐る、自らが生み出した鉄球へと触れる。
冷たい。
その単なる鉄球からは、自身が込めたそれ以外には魔力を感じ取る事ができなかった。
次の瞬間、頭上から襲い掛かる爆音。
反射的に上を見やれば、どうやら第17層外殻周辺にミサイルが着弾したらしい。
外殻上から噴き上がる業火、散発的な魔導弾の応射。
そして、外殻上を舐める様にして飛行し、次いで離れゆく白い影。
その光景を目にし、ヴィータは自身の迷いを強引に振り払う。

「あの野郎ッ、逃がすか!」

瞬時に鉄球から距離を置きつつ、グラーフアイゼンをギガントフォルムへと移行。
闇の奥に浮かび上がるR戦闘機の機影は、再び外殻上へと接近しようとしている。
此方の行動に気付かない事など有り得ないのだが、特に回避行動へと移行する様子は無い。
直撃などする筈もなく、縦しんば炸裂型であったとしても、効果範囲に捉えられる虞は皆無。
そう、判断されたのだろう。
ヴィータの意識を塗り潰す、憤怒と殺意。
彼女は、その負の感情に駆られるがまま、圧倒的質量の鉄槌を振り被る。
そして、咆哮。

「くたばれぇぇェェッ!」

魔力により強化された渾身の力で以って、巨大なハンマーヘッドが振り抜かれる。
大気を押し退けて空を引き裂いたそれは、鉄球を打撃面の中心へと的確に捉え、火花と轟音とを撒き散らしつつ砲弾の如く打ち出した。
ヴィータの魔力光による赤い光の尾を引き、闇の彼方へと消えゆく鉄球。
しかし、質量兵器の弾速には到底及ばぬ速度のそれを、R-11Sらしき影は苦もなく回避し、更に爆発効果範囲より容易に脱してしまう。
判り切っていた結果とはいえ、悔しさに表情を歪めるヴィータ。
その、直後。

「な、うあッ!?」



核爆発もかくやという閃光が、ヴィータの視界を完全に覆い尽くした。



「うあああぁッ!」

意識を破壊せんばかりの爆音、襲い来る巨大な衝撃と圧力の壁。
ヴィータは数百mに亘って吹き飛ばされ、漸く姿勢の安定に成功する頃には、既に意識が朦朧としていた。
だが、その意識を覆う霞さえも異常な治癒速度によって、身体異常と共に数秒で拭い去られてしまう。
そうして、再度に覚醒したヴィータは、改めて眼前に出現した爆発の残滓へと意識を向けた。
其処で、気付く。

974R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:06:36 ID:.jmCVDEE
「おい、まさか・・・」

視界を覆い尽くす、爆炎の残滓。
それは、想像していた様な紅蓮の炎ではなく、波動粒子にも似た青白い炎によって形成されていた。
そして、物理的な痛覚すら伴ってリンカーコアを圧迫する、余りにも膨大に過ぎる量の魔力素。
時折、残された業火の間を奔る紫電の光は、炎と化した青白い魔力素が結合して発生した魔力性の放電らしい。

そして、何よりも信じ難い事実。
周囲へと拡散する爆炎の一部、青白い光を放つ魔力残滓。
それらは紛れもなく、ヴィータ自身の魔力を内包していた。
青白い光を放つ粒子が消えゆく際に、明らかにヴィータの魔力光と判る、赤い光の残滓が拡散しているのだ。

「アタシが・・・やったのか? あの爆発が?」

呆然と、周囲を見回すヴィータ。
明らかに混乱していると分かる念話が間を置かずに飛び交い、現状を把握しようと各方面から報告が押し寄せる。
全方位へと発せられるそれらを拾いつつも、ヴィータは行動を起こすでもなく硬直していた。

『今の爆発は魔力か、誰がやったんだ!?』
『R戦闘機が爆発に巻き込まれたぞ! 誰か、敵機の状態を!』
『報告! R-11S、1機の撃墜を確認! バラバラだ、跡形も無い! もう1機が爆発に巻き込まれた様だが、そっちは逃げられた!』

R-11S、1機を撃墜。
その事実が、混乱へと更に拍車を掛ける。
だが状況はヴィータに、何時までも呆けている事を許しはしなかった。

『後ろだ、馬鹿!』

三度、意識の混濁。
ヴィータの背後、R-11S接近中。
相も変わらずの高速性だが、先程と比較すると幾分か遅く感じられる。
装甲の破片を撒き散らしている事から推測するに、恐らくはコメートフリーゲンによる爆発に巻き込まれたという、もう1機のR-11Sなのだろう。
幾分か速度が落ちている事から、回避は可能であろうと思われた。
だが、飛翔魔法を発動した直後に、予想外の衝撃がヴィータを襲う。

「あ、がッ!」
『おい!?』

電磁投射砲だ。
R戦闘機に標準装備されている、機銃型兵装。
波動砲への警戒が先行し、この兵装の存在を失念していたのだ。
そう思い至った時には、ヴィータの背面はバリアジャケットごと切り裂かれていた。
直撃ではなく、弾体通過の余波によるものだ。
縦しんば弾体が直撃していれば、今頃ヴィータの身体は粒子にまで細分化されていた事だろう。

「う・・・う・・・!」
『後ろに飛べ!』

念話での警告。
ヴィータは背面の激痛に呻きながらも、警告に従い咄嗟に後方へと飛ぶ。
直後、眼前を掠める、余りにも巨大な青い砲撃。
轟音に聴覚が麻痺し、撒き散らされる衝撃波によって更に後方へと弾かれつつ、ヴィータはそれが波動砲による砲撃であると判断する。
しかし、違和感。

何故、R-11Sとは反対の方向から、波動砲が放たれたのか。
他のR戦闘機による砲撃であったとして、波動粒子弾体が突き進む方向には、先程ヴィータを攻撃したR-11Sが飛行中である。
これでは、宛らR戦闘機を狙っての砲撃ではないか。
心中に浮かんだ疑問にヴィータが行動を起こすよりも早く、その答えは味方からの念話によって齎される。

975R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:08:25 ID:.jmCVDEE
『R-11S、更に1機の撃墜を確認! 今の砲撃は何だ、誰が放ったんだ?』
『さっきの爆発と同じ魔力光だ!』
『魔力残滓が緑色よ。爆発の時とは別人だわ』

それら念話の内容にヴィータは数瞬ほど呆け、次いで砲撃が飛来した方向へと視線を向けた。
その方向には、先程からヴィータとの間で意識の混濁を生じている砲撃魔導師、彼が居る。
推測ではなく、確信だ。
意識の混濁は続いており、半ば混乱している彼の思考までもが、この瞬間もヴィータの意識中へと流入しているのだから。

『・・・今の、お前の砲撃か?』
『その言葉からすると、さっきの爆発はアンタで間違い無いんだな?』

交わす念話は、それだけで済んだ。
同時に互いが、一連の現象について確信を得た事を知る。
コメートフリーゲンの爆発も、先程の砲撃も。
第三者からの介入によって、本来ならば有り得ない爆発力の付与、射程および破壊力の増大が為されていたのだ。
あの大量の魔力素、誰のものでもない青白い魔力光。

『・・・もう退がった方が良い。背中をやられてるんだろ? 治癒能力が向上しているとはいえ、医療魔法も無しじゃ遠からず死ぬぞ』
『要らねえよ。アタシは他人とは、ちょっとばかり身体の造りが違うんだ』
『成る程。ヴォルケンリッター、魔法生命体か』

自身の正体に関する発言。
だが、ヴィータは動じない。
意識の混濁が更に深部へと及び始めている現状、いずれは知れる事と予測していたのだ。
更に言えば、相手の素性もまた、ヴィータの知る処となっている。
隠蔽しようと望めば、恐らくは可能なのだろう。
だが、相手は特に隠す処も無く、情報を曝け出している。
ならばヴィータも、自身に関する情報を隠す気にはならなかった。
何より、この状況下で互いの素性を知った処で、其処に何の意味が在るというのか。

『そういうお前は、反管理局組織か。潜入工作とは恐れ入るぜ』
『元、だけどな。今となっては宿無しだよ。それよりアンタの身体、今じゃ殆ど人間と同じになってるんだろ。さっさと戻って治療を受けろよ』
『要らねえって言って・・・おい、どうした?』

突然、相手の意識がヴィータから逸れる。
互いの意識が剥離した事から推測するに、どうやら高次元での意識共有を維持する為には、常に互いの存在を認識しておかねばならないらしい。
そして数秒後、再度に意識が共有される。

『ああ、その・・・たぶん、問題発生だ』
『何がだ・・・いや、いい。こっちにも見えてる。確かに大問題だ』
『だろ?』

ヴィータは背後へと振り返り、巨大有機構造体の壁を見やった。
共有される視界、総合的に齎される各種情報。
無数の念話が、慌しく奔り始める。

『あれは・・・嘘だろ、何でこんな時に!』
『警告! 総員、直ちに北部外殻近辺より退避せよ! 未確認大型敵性体、接近中!』
『未確認? 新種の敵性体か?』

闇の中に蠢く、赤い光。
鋼色の異形が時折、構造物の陰より覗く。
ヴィータは、確かにそれを見た。
何かが、此方を覗き込んでいる。
有機構造体の奥、得体の知れない存在が、此方の動きを窺っているのだ。

976R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:09:45 ID:.jmCVDEE
『おい、何なんだ!』
『分からない。だが、あの奥に何かが居る・・・くそ、幼体だ! 幼体の群れが出やがった!』
『私達にも見えています! 砲撃が来る!』
『射線上の連中、こっちの考えは通じているよな? 其処を退け、撃つぞ!』

無数に交わされる念話、それらの内容。
やはり其処彼処で、味方間での意識共有が発生しているらしい。
そして、外殻上より放たれる、無数の魔導砲撃。
それら全てが青白い光を放ち、Sランクの砲撃魔導師ですら在り得ない程の、魔導兵器による砲撃にも匹敵する魔力の奔流となって、敵性体群へと襲い掛かる。
更に数秒後、着弾した砲撃が連鎖的に炸裂。
信じ難い範囲での魔力爆発が、有機構造体すらも細分化してゆく。
その光景を前に、ヴィータは堪らず叫んでいた。

「何なんだよ、これは! アタシ達に何が起こってるっていうんだ!?」
『知らねえよ! クソッたれ、身体が魔力炉にでもなった気分だ!』
『敵性体、更に接近中・・・駄目です、多過ぎる!』

魔力爆発によって殲滅された幼体群。
だが構造体の奥からは、更なる敵性体群が迫り来る。
その総数は、これまでに撃破した敵性体の総数、それすらも上回るだろう。
バイドが有する、無尽蔵の模倣能力。
その脅威が、眼前へと迫り来る。
R戦闘機群は2機が撃墜された事により、バイドと此方を潰し合わせる方針へと移行したのか、何処かへと消え事態を傍観しているらしい。
魔導資質が強化されているとはいえ、既に状況は生存者の手による対応が可能な範囲を逸脱していた。

『退却だ! 総員、ベストラより離脱しろ!』
『それで何処へ行けっていうんだ? ウォンロンはどうした、外部からの救援は?』
『ウォンロンは後方より出現した敵性体群と交戦中、外部艦隊による救援は絶望的だ!』
『おい、聞いてなかったのか? 向こうは駄目だ、挟み撃ちになってしまう!』
『それなら何処へ!?』

ヴィータは、ハンマーフォルムとなったグラーフアイゼンを肩に担ぎ、深い溜息を吐く。
彼女は、疲れていた。
これからどうすべきかと思考し、主の許へと戻ろうかと思い立つ。
事態が好転する様子など無く、この場を生きて切り抜けられる可能性は限りなく低い。
ならば最後くらいは、はやてと共に在ろうかと考えたのだ。
だが、その思考は思わぬ声によって中断する事となった。

「随分と悲観的な考えですね、副隊長」

背後から響いた声に、ヴィータは咄嗟に振り返る。
其処に、彼女は居た。
無重力中に漂う、赤味掛かった栗色の髪。
右手には拳銃型のデバイス、白と黒の配色が施されたバリアジャケット。
醒めた様に此方を見つめる、紺碧の瞳。

「気弱になっているんですね。似合いませんよ」



嘗ての部下、ティアナ・ランスターが其処に居た。



「ティアナ、お前・・・」
「ああ、キャロから聞いているんですね。御蔭さまで無事、戦線に復帰できました」

ヴィータの声に対し、身動ぎすらせずに答えるティアナ。
彼女の素振りに重傷を負っている様子は無く、キャロから聞かされていた負傷は既に完治しているものと思われた。
だが、それとは別の違和感が、ヴィータの胸中へと生じている。

977R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:11:14 ID:.jmCVDEE
「お前、何で・・・」
「私の意識が読み取れない理由ですか? 簡単です。この現象を起こしているのは、他ならぬ「私達」だからです」
「私達?」

轟音、絶叫。
有機構造体の方向へと振り返るヴィータ。
先の砲撃によって構造体の一部が千切れ、其処から無数の敵性体が此方へと押し寄せて来る。
宛ら洪水の様に迫り来る敵性体群の影に、ヴィータは他の念話を全て無視してティアナへと叫ぶ。

「訳の解らない事ばかりだけど、話は後だ! とっとと此処からずらかるぞ!」
「いいえ、その必要は在りません」

思い掛けない否定の言葉。
思わずその場に留まり、ティアナの顔を見つめるヴィータ。
相変わらず、感情の読めない瞳で以って此方を見やるティアナは、何処かしら作り物めいて見える。
余り愉快ではない想像を振り払おうとするヴィータに対し、ティアナは続けて言葉を紡いだ。

「そうですね、ある意味では作り物といえるかもしれません。私自身はもう、これがハードウェアという訳ではありませんから」
「お前、さっきから何を言ってるんだ? 良いから逃げろ、死にたいのか!」

此方の思考を一方的に読みつつ、現状を無視するかの様な発言を繰り返すティアナに、ヴィータは苛立ちと不安感を募らせる。
目前の人物は、本当に自身が知るティアナ・ランスターなのか。
そんな疑問が、脳裏へと浮かんでは消えてゆく。
だが、彼女はそんな思考を振り払うと、強引にティアナの腕を掴んだ。

「来い! はやて達と合流して逃げるぞ!」
「ですから、必要ないと言っているんです。救援は、もう到着していますから」

救援は到着している。
その言葉を耳にし、ヴィータは一瞬ながら動きを止めた。
ティアナの言葉、その意味する処を理解する事ができなかったのだ。
そして直後、視界の全てを埋め尽くす、白光の爆発。

「があッ!」

全身が砕けんばかりの衝撃。
奪われる視界、麻痺する聴覚。
数秒、或いは十数秒後であろうか。
漸く視覚が回復してきた頃、ヴィータは目元を覆っていた手を退かし、周囲を見渡す。
そして目にしたものは、信じ難い光景。

「何が・・・どうなってんだ?」



ベストラの周囲を埋め尽くす、100隻を優に超えるXV級次元航行艦。



「言ったでしょう。「救援」だって」
「まさか・・・救援要請は・・・」
「ええ、成功しました。彼等は本局の防衛に就いていた、管理局の艦隊です。救援要請を受けて、被災者を救助する為に此処まで来たんです。本来は合流まで、あと数時間は掛かる筈でしたが」

完全に消失した巨大有機構造体、そして敵性体群。
つい先程までそれらが存在していた空間を見据えつつ、ヴィータは何が起こったのかを理解した。
先程の閃光、恐らくはアルカンシェルによる戦略魔導砲撃だ。
あんなものを受ければ、バイド生命体とて一溜まりも在るまい。
接近中であったドブケラドプス幼体群は、文字通りに塵も残さず消滅したのだ。
飛び交う念話、歓喜に満ちたそれら。
だがヴィータには、喜びを分かち合う事よりも、更に気に掛かる事柄が在った。

978R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:14:17 ID:.jmCVDEE
「ティアナ。お前、アタシ達に何が起こっているのか、知っているのか」
「ええ」
「それは、お前がやっている事なのか」
「はい。「私達」がやっている事です」
「「私達」ってのは、誰の事だ」
「私とスバル、ノーヴェの3人・・・「3機」の事です」

ティアナへと視線を移すヴィータ。
彼女は相変わらず、無表情のままに其処に在る。
歯軋りをひとつ、ヴィータは更なる問いを投げ掛ける。

「艦隊の到着は、本来ならあと数時間は掛かると言ったな。あれはどういう意味だ」
「そのままの意味です。彼等はまだ、第10層を通過している最中だった。それを、貴方達が此処へ「呼んだ」んです」
「・・・さっきから訳が解らない事を。呼んだってのはどういう事だ、何を意味してる? お前等は私達に、いいや・・・「何に対して」何をしたんだ!?」

ティアナの眼を正面から鋭く睨み据え、幾分か声を荒げるヴィータ。
ティアナとスバル、そしてノーヴェは「何か」をしている。
その「何か」は個人の魔導資質および魔導機関を無差別に強化し、魔法技術体系にとって有利な状況を作り出しているのだ。
だが、如何にしてそれを成し遂げているのか、そして「何か」とは具体的にどの様な事なのか、核心たる情報が一切に亘って齎されていない。
心強さよりも不信感が勝る事は、自然な成り行きと云えた。
だからこそ、自身の胸中に蟠るそれを払拭しようと、ヴィータは更に問いを投げかけようとして。

「少し、世界に干渉しただけです。皆の「願い」が叶う様に」

ヴィータは、続く言葉を呑み込んだ。
「願い」。
そのティアナの発言に、彼女は呆気に取られて黙り込む。
だが、続くティアナの言葉は、忽ちの内にヴィータを覚醒させた。

「ジュエルシードって、御存知ですよね?」
「・・・ああ、勿論」
「所有者の「願い」を叶える宝石。スクライア族が発掘し、次元航行艦の事故によって第97管理外世界へと拡散した後、次元犯罪者プレシア・テスタロッサ・・・フェイトさんの実母によって奪取されたロストロギア」
「お前・・・ッ!」

何故それを、何処まで知っているのか。
激昂し掛けるヴィータであったが、何とか今にも掴み掛かろうとしていた自身の手を下ろす。
無駄だと悟ったが為の、諦観を含んだ抑制。
恐らくティアナは、此方の記憶を仔細漏らさず把握しているのだろう。
ならば、何を知っていても不思議ではない。

「プレシアは、娘であるアリシア・テスタロッサの死体を蘇生する為に、ジュエルシードを欲した。彼女の「願い」を叶えようとしたんです。結局は邪魔されて、実現されなかったけれど」
「・・・アイツ等が間違っていた、とでも言うのかよ」
「まさか。どんな要因が絡んだのであれ、プレシアは制御に失敗した。それだけが事実です」

ティアナが頭部を傾け、背後の管理局艦隊へと横目に視線を投じる。
同じくヴィータも其方を見やれば、XV級に紛れた数隻の支局艦艇から無数の魔導師が飛び立ち、此方へと向かっていた。
その中に、見慣れた黒いバリアジャケットと赤い髪を見出し、彼女は僅かな安堵と共に息を吐く。
接近する魔導師達へと視線を固定したまま、言葉を紡ぐティアナ。

「僅か9個のジュエルシードでは、直接的に彼女の「願い」を叶える事はできなかった。では逆に21個のジュエルシード、その全てが彼女の手元に在ったのなら? 彼女の「願い」は、問題なく叶えられたと思いませんか?」
「・・・いい加減に黙れよ、テメエ。それとも」
「全てのジュエルシードが在れば、リインフォースを救えたとは思いませんか」

瞬間、ティアナの頭部付近から、甲高い衝突音が響く。
無表情のまま微動だにしないティアナ、驚愕に眼を瞠るヴィータ。
ティアナの左側頭部を狙って振り抜かれたハンマーヘッドが、一切の前触れ無く空間中に現れた、青い薄層結晶構造体によって進行を遮られていた。
衝突音は、結晶構造体とハンマーヘッドが接触した際に発せられたものだ。
想定外の事態に硬直するヴィータを余所に、ティアナは表情を変えないまま左耳部に掌を当てる。

979R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:16:36 ID:.jmCVDEE
「非道いですね。鼓膜が破れましたよ」
「お前っ、それ・・・!」
「気付きましたか。そうです、これはジュエルシードですよ」

言いつつ、ティアナはグラーフアイゼンによって砕かれた薄層結晶構造体の一部、指先ほどの大きさとなった欠片を手にした。
それを、ヴィータへと差し出す。
呆然と、思考すら殆ど停止したまま、それを受け取るヴィータ。
次いで、自身の手の内に在るそれへと視線を落とし、彼女は背筋に怖気が奔った事を自覚する。

間違い無い。
オリジナルより遥かに小さく、また不格好ではあるが、紛れも無くジュエルシードだ。
この瞬間でさえ、自身のリンカーコアへと圧力を掛ける、指先ほどの大きさしかない青の結晶体。
ティアナはジュエルシードの薄層構造体を「発生」させ、それを防御壁としてグラーフアイゼンの一撃を防いだのだ。
そして、彼女の一連の発言。
その意味が、不鮮明ながらも理解できた。
彼女は、彼女達は、恐らく。

「お前等、ジュエルシードを・・・!」
「はい、複製しました」

どうやって、という問い掛けは発せられなかった。
その問いを発する以前に、ヴィータは現状に対して答えを導き出してしまったのだ。
そして、そんな彼女の思考を読んだのか、ティアナが言葉を繋げる。

「私達のシステムが本格的に起動した直後、誰かがこう願った。「地球軍のインターフェースに匹敵する、瞬間的な情報通信技能が欲しい」と。システムはその「願い」が有用であると判断し、それを叶えた」

2人の周囲、幾人かの魔導師が集まり始めた。
ヴィータを含む、それら全員の意識が共有され始める。
これが「願い」の結果。

「次に、彼女が願った。「大切な人が傷付く世界なんか要らない、壊れてしまえ」と。不利な制約を壊して再構築する事は既に始めていたので、システムは負傷者の治癒能力を例外なく向上させる事で、別方向からその「願い」を叶えた」

自身の肩に手をやるヴィータ。
背面の負傷は、何時の間にか痛覚が消失していた。
感覚が麻痺したのではなく、完全に治癒してしまったのか。
これも「願い」の結果。

「そしてこれは、魔法技術体系に属する、あらゆる人々が願った。「もっと出力を、容量を、射程を、威力を」。既にシステムはそれを成すべく活動していましたが、更にジュエルシードの魔力を供給する事で「願い」を叶えた」

波動粒子にも似た、青い光を放つ魔力素。
だがそれは、波動粒子などではない。
ヴィータは気付く。
これは、ジュエルシードの色だと。
これもまた「願い」の結果。

「それでも、押し寄せる敵性体群を前に絶望した人々が、救援の手を求めた。「救援を、1秒でも早く救援の到着を」。システムは緊急性の高い案件と判断し、人工天体内部の管理局艦隊をベストラ周辺にまで転移させる事で「願い」を叶えた」

周囲の管理局艦隊を良く見やれば、全ての艦艇が青い光を放つ魔力素の残滓を纏っていた。
恐らくは転移の際に、ジュエルシードより供給される魔力によって、機関最大出力を数十倍にまで増幅されたのだろう。
艦隊に纏う魔力素は、その際にバイド及び地球軍からの干渉を避ける為に展開されたのであろう、大規模次元障壁の残滓らしい。
この信じ難い現象もまた「願い」の結果。

「一体・・・どれだけのジュエルシードを・・・」
「数を訊いても、意味は在りません。恒久的に動作する「願い」を叶え続ける為のシステムですから」
「その、システム・・・ってのは、ジュエルシードの事じゃないのか?」

ヴィータは、それが気になっていた。
周囲の魔導師達も、同様なのだろう。
疑問が渦となり、共有された意識へと浮かび上がる。

980R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:18:13 ID:.jmCVDEE
「少し違います。全てのジュエルシードを統括する存在、世界への干渉を制御する中枢機構です」
「その、中枢ってのは、何処に?」
『後ろだ!』

突然の念話、警告。
ヴィータは周囲の魔導師が、一様に此方へとデバイスを向けている事に気付く。
だが、彼等の狙いはヴィータではない。
彼等は彼女の背後、其処に忽然と出現した「何か」に驚愕し、各々のデバイスを向けているのだ。

そして、ヴィータの背後より叩き付けられる、余りにも強大な魔力。
徐々に呼吸が乱れ、全身の感覚が麻痺してゆく。
視界の端で明滅する、青い光。
ティアナが右腕を上げ、徐にヴィータの背後を指した。

「「それ」が、システムの中枢」

錆び付いた機械の様に緩慢な動きで、ヴィータは背後へと振り返る。
徐々に視界を埋め尽くしてゆく、青く眩い魔力光。
そして数秒後、漸く「それ」を視界の中心へと捉えた瞬間、ヴィータの意識へと膨大な量の情報が流入する。
その結果、彼女は眼前の存在、その「異形」の正体を、正確に理解した。
理解してしまった。
否、させられたのだ。
青い魔力光を放つ、その巨大な結晶体。
余りにも異様かつ、決して許容できぬ存在としての外観を備えた、その「異形」。

「「それ」が、皆の「願い」を叶える宝石です」



ジュエルシードによって構築された、R戦闘機。



「そして、今の「私達」の中枢でもある」

反射的に、ティアナへと振り返る。
同時に、空間中へと響く、異様な咆哮。
全ての人員が視線を前方へと投じる中、ヴィータはティアナと向かい合ったまま、ガラス球の様に無機質な彼女の瞳を見つめていた。

怖いと。
恥じる事もなく、ヴィータは思う。
今のティアナは、怖い。
恐ろしく無機質、恐ろしく冷徹、恐ろしく希薄。
その身に纏うのは、人間としての温かみではなく、機械の様な冷たさ。
しかし圧迫感を感じる訳ではなく、それどころか眼前に佇んでいるというのに、其処に何も存在していないかの様に希薄な気配。
実態ではなく、立体投射画像であると言われれば納得してしまいそうな、得体の知れない存在。
それは僅かに視線を上げ、実際の発声であるのかすら疑わしい、音としての言葉を紡ぐ。

「私達は、この奥へと進む必要が在ります。其処に、バイドの中枢が在る」
「バイドの?」
「ええ。バイドが宿る殻、単一個体として完成された存在「R-99」が」

飛び交う無数の警告。
艦隊の全艦艇が、一斉に魔導砲撃を放つ。
青と白の光の奔流が、轟音と共に「何か」へと殺到。
だが、ヴィータは振り返らない。
砲撃が着弾したのか、魔力爆発の光が周囲を埋め尽くし、爆音が響く。
支局艦艇からの報告、攻撃失敗。
大型敵性体、健在。
目標、急速接近中。

981R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:20:25 ID:.jmCVDEE
「此処は、バイドにとっての最終防衛線です。此処を突破すれば、空間歪曲を利用して一気に中枢まで肉薄できる」
「正念場、って事か」
「ええ。当然、バイドも必死です。此処を通過する為には、防衛の要となっている敵性体を撃破する必要が在る」

ティアナが、視線でヴィータを促す。
徐に振り返り、魔力爆発の中心を見やるヴィータ。
そして、その異形を視界へと捉えた。
息を呑むヴィータ、無感動に言葉を紡ぐティアナ。

「可能かどうかは、また別の話ですが」

異形が再度、咆哮を上げる。
コロニーで提示された記録映像、なのはのレイジングハートに記録された映像。
いずれの外観とも異なる、更なる進化を遂げたらしきそれ。

節足動物のそれと酷似した下半身は脚部を取り払われ、慣性制御機構らしき5基のユニットが連なった、昆虫の幼生の如き外観へと変貌している。
片部から背面に掛けては、後方へと伸長する3連ユニット。
肩部からは前上方へと伸長する、左右対称のポッド型構造物。
主腕部の他に追加された、胴部に2対、脚部ユニットに1対の副腕。
上半身と下半身の接続部左右側面、突き出した1対の砲身。
修復された頭部装甲、更に巨大化した額のレリック。
周囲に纏う、虹色の魔力の暴風。
聖王の鎧、カイゼル・ファルベ。
此方を見据えるかの様に、空間中の一点へと留まる、その存在。

「今度ばかりは、データは在りません。全てが未知数ですので、其処は覚悟して下さい」



「BFL-011 DOBKERADOPS TYPE『ZABTOM』」



「・・・クソッたれが」

吐き捨て、グラーフアイゼンをギガントフォルムへ。
ザブトムの周囲、転移によって無数のドブケラドプス幼体が出現する。
恐らくザブトムは、同種生命体群の中枢として機能しているのだろう。
推測に過ぎないが、これまでに得られたバイド生命体群に関する情報を基に判断すれば、的を射ている可能性は高い。
バイドの適応能力を考慮すれば、中枢たるザブトムを撃破したところで種全体の絶滅には到らないであろうが、数時間に亘ってドブケラドプス種の戦力を大きく殺ぐ事ができるだろう。
数十名と共有された意識の中、結論は下された。
この場に於いて、ザブトムを撃破する。
それ以外に、選択肢は存在しない。

「やるしかねえんだろッ!」

982R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:21:06 ID:.jmCVDEE
咆哮。
2個の大型鉄球を生み出し、宙空へと放る。
そうして、グラーフアイゼンを振り被り、ヴィータは叫んだ。
共有意識を塗り潰す、壮絶な殺意。
それによって突き動かされるがまま、彼女は叫ぶ。

「要は、アレをぶっ殺すしかねえって事だろ!? ティアナ・・・いいや!」

その叫びに込められた、漆黒にして激烈なる感情。
諦観、嫌悪、哀情、憎悪。
視線の先の存在、そして背後に位置する存在。
巨大なバイド生命体、そして嘗ては「ティアナ」であった存在に対し。
ヴィータは、あらゆる負の感情を込め、絶叫した。



「この「化け物」め!」

983R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:39:45 ID:.jmCVDEE
以上で投下終了です
代理投下して下さった方、支援して下さった方
有難う御座いました

ティアナ「あなたも私も、後悔するような発言をしたことは事実です。でも、お互いの意見の相違は、この際、水に流しましょう。次元世界のためです・・・この人でなし」
ヴィータ「お前が言うな」

という訳で、1年振りの投下となりました
何とか怪我の回復も良好で、震災も切り抜ける事ができました
余震で納屋の天井が落ちてきた時は死ぬかと思いましたが、流石に我がスタンド(松葉杖)の防御を抜く事はできませんでした
松葉杖△
という訳で、今回の敵紹介です

『ドブケラドプス幼体』
読んで字の如くドブケラの幼体で『TACⅡ』にて登場
成体をそのまま小さくしたような外観ですが、何と毎ターン広範囲かつ長射程のチャージ攻撃を乱射してくるという、最終鬼畜胎児
ジャミングが切れた瞬間にあの世行き確定という無理ゲーです

『ムーラ』
『Ⅰ』で初登場、以降のシリーズでも亜種を含めて数回登場
やたらと長く、シャクトリムシの様に画面中を動き回り、しかも耐久性はそこそこというウザい雑魚
高難易度では発狂した様な速度で画面中を這い回りますが、本当に恐ろしいのは撃破時
作中での描写の通り、頭部を破壊すると当たり判定の大きい体節が高速で飛び散り、胴部をぶっちぎると残された頭部や体節が更に高速かつ、ランダムっぽい動きで画面中を蹂躙するという鬼畜使用
どっちに転んでも絶望なので、時には見逃す事も大事

『Λ』
常時発動状態のジュエルシード
使用回数無限のドラゴンボールみたいなものですが、システム側で願いを捨取選択されるのが玉に傷
選択してるのはあの3人ですが

という事で、漸くクライマックスの頭辺りに突入です
それでは、また次回




それでは、代理投下をお願い致します

984R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 17:32:21 ID:.jmCVDEE
ただ今戻りました、作者です

済みません、現在代理投下して下さっている方
投下の際は、専ブラを使用する事をお勧めします
未使用の状態では全部を投下するのはほぼ無理だと思いますので

それと、やはり長いので本スレには投下せず、数日後に保管庫に入れる事も考えております
感想等は本スレか保管庫に書いて戴ければ良いと思いますので、無理を押して本スレへの投下に拘る必要はないかと

考えが足りず、御迷惑をお掛けする事となってしまいました
本当に申し訳ありません

985リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc:2011/05/30(月) 15:40:29 ID:afTvLgkA
終了のあいさつ書こうとしたところでさるさんくらいましたorz

ひとまずここまでです

今夜にはLv2になるはずなのでもちっと書き込める量が増えると思いますが…アワワワ

986魔法少女リリカル名無し:2011/06/08(水) 10:04:55 ID:TQRxVuo.
ネットショップサイトが開店です、コスプレ、抱き枕、着ぐるみなどの商品が備えております、 www.chinazonejp.com

987FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:29:57 ID:5KXKWOXk
投下しようとしたら、規制されたうえにスレの容量がオーバー…
なので、次スレへの代理投下を依頼したいのですが、このスレも終わりに近付いている…
大丈夫…かな…?

988FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:30:30 ID:5KXKWOXk
「ミカヤ、なんだ?確かめたいことって。」
 サザが問いただす。唐突に、ベグニオンに言われてしぶしぶではあるが、支度を始めた。
 その隣でミカヤもかつての魔道書と杖を取り出し、サザにとって予想外の言葉を告げた。

「…死体よ。ベグニオンに行って死体を調べるの。」

 …今、なんと言っただろうか?
「ま、待ってくれ!死体を調べるだと!?」
「私だって、こんなことはしたくないわ。でも…もし、この予想が現実のものだったら、早く手を打たないととんでもないことになるわ。」
「…一体、何が起こるって言うんだ?」
「私も…よくは分からないの。でも、断言はできるわ。アイクとセネリオが異世界にいてしまったことと、確実に関係がある。」
 そこまで言う以上、それは真実なのだろう。
 「暁の巫女」ミカヤは幾度となく、神使としての力を使い未来を言い当てていた。今回も、おそらくそうだろう。

「それじゃ、行くぞ。」
「ええ。」
 支度を終えた二人が王城から外に出る。一応、しばらくの間留守にすることは地方の貴族たちにも伝えておいた。
 その間に何か起こしたら、あんたの秘密をこの国中にばらまいてやる、とサザが脅していたが、それは余談だろう。
「ところで、ミカヤ。今から行ってもベグニオンまでは数日かかるぞ。」
「いいえ、セフェランが去り際に残してくれた「リワープ」があるわ。」
 そう言って、ミカヤは先ほどから握っていた杖を見せる。
「サザ、捕まって。」
 その言葉に素直に従い、リワープの杖につかまる。
 その時だった。

「あれ…ミカヤ?」
「…ペレアス?」

 意外なところで再会を果たした。

「ペレアスか。済まないが、しばらくの間俺達はデインを留守に――――」
「ちょうどよかったわ、ペレアス。この杖につかまって。」
 いきなり、旅のお供に連れて行こうとした。
「ミカヤ!?」
「仲間は一人でも多い方がいい。違う?」
 そう言って、ミカヤはサザに微笑む。夫としては、それで許さないわけにはいかなかった。
「あ、少しいい?」
 唐突にペレアスが口を開く。

「旅のお供だったら、それなりの装備を整えてくるよ。そうだな、5分くらい、そこで待ってて。」
 と言い、二人を残して装備を整えてくる。


ペレアスは傷薬や、魔道書をポーチに放りこむ。もちろん、闇魔法最強クラスと言われた「バルベリト」も持参する。
「…これを使う事態だけは、避けたいけどな。」
 ポツリと呟いたが、いざという時のために念には念を入れる。
「さ、国王達を待たせちゃ、いけないな!」
 そう言い、ペレアスは家を飛び出す。
 その表情には、前の戦のときには無かった「楽しい」という感情が浮かんでいた。


「いい?行くわよ。」
 ミカヤが合図し、杖が光り始める。
 杖の光は3人を包み込み、ベグニオン帝国まで飛ばして言った。
 この瞬間から、二つの世界で起こっている事件がくっきりとつながることになった。

989FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:31:11 ID:5KXKWOXk
第15章「新たな局面」




 リワープによって一気に、ベグニオン帝国の皇居に転移した3人。
 そこには、サナキ以外に人がいた。
「む、姉上!」
 部屋に入るなり、マントを引きずりながらサナキがやってくる。
 その背後には、しばらく見ていない顔があった。

「お久しぶりです、皆さん。」
 そこに立っていたのは、
「セフェラン―――――」
 ベグニオン帝国元老院議員議長にして宰相、セフェラン。別名、「エルラン」。
 かつて、ベオクと呼ばれる人に近い人種と、ラグズと呼ばれる獣に近い人種が争いを起こし、人に絶望した人。
 絶望のあまり、この世界からベオクを、ラグズを抹消するために、女神アスタルテを起こすという大きすぎる過ちを犯した、「元」ラグズ。
 今では、セリノスの森で静かに暮らしているはずだったが。

「ところで、皆さんはなぜ、ここに?」
 穏やかな物腰でセフェランが尋ねる。
 その言葉を聞いて、ミカヤが切り出す。
「実は――――――」


 話はこうである。
 死んだはずの漆黒の騎士。それが異世界で生きている。では、これまで導きの塔で倒した相手たちはどうなのだろうか。
 彼が生きている以上、他の人間たちも生きている可能性がある。
 ならば、今生きている人間は誰なのか、そして、死んだはずの人間を「生き返らせた」のはだれか、を突き止めるためだった。

「なるほど…」
 口元に手を当てて、セフェランは考える。
「確かに、ゼルギウスが生きている以上、他の人たちが生きている可能性も否めない…」
「それに、異世界には団長たちが行ってしまった。これは、何かあると勘ぐるべきじゃないか。」
 サザがそう言って死体の調査を依頼する。
「………いいじゃろう。」
 皇帝が直々に、許可を下した。
「じゃあ、導きの塔の最下層へ行きましょう。」
 そう言って、一行は導きの塔へと歩き出す。



 女神の事件で死んだ兵士たちは、導きの塔の最下層に安置されていた。
 女神のために戦い、殉職した者たちへのせめてもの配慮なのだろう。
 その死体を一つ一つミカヤとセフェランが調べていく。
 死んだ兵士を見るたびに、ミカヤは思った。
(あまり、気持ちのいいものではないわね…)
 聖職者だろうと、なんだろうと、人の死体を見て気分がいいという人はいないだろう。
 しかも、自分たちが殺した人間ならば、なおさらだ。
「ミカヤ、恐れてはいけません。」
 ふと、セフェランから声がかかる。
「罪と向き合うのです。つらいことでも、受け入れることが大切なのですから。」
 そう言って、セフェランは作業に戻って行った。
(そう、目を逸らしちゃいけない。)
 それこそが、償い。少なくとも、ミカヤはそう思っている。
 どんな殺人も正当化はされない。なら、私は全てを受け入れる。
 受け入れること。それが、ミカヤの示した償いだった。
 それはさておき、奇妙なことにミカヤは気付き始める。
(………?)
 小さな違和感。
 それがまだ確信に変わることはなかったが、その違和感の正体は理解できた。
(この死体、外傷が無い…?)
 傷の無い死体。では、なぜこの兵士は死んだのだろうか?
 他にも外傷はあるが、どれも致命傷にはなりえない傷を負って死んでいる者もいた。
 これは、どういうことなのだろうか。



 そのことをセフェランと皆に説明した。そうしたら、セフェランから意外な言葉が返ってきた。
「光魔法か、闇魔法の影響ですね。」
「え?」
「外傷がないから、物理的攻撃ではない。と言っても、理系の魔法でもない。恐らく、光か闇の力で生命力に直接ダメージを与えられたのでしょう。」
「そんなことが…」
「あり得るのですよ。その証拠に、「リザイア」という魔道書があります。これは相手の体力を奪って自分を回復させる魔法ですから。」
 筋は通っている。すると、彼らは光か闇魔法で殺されたのだ。
 そして、次の問題。
「じゃあ、彼らは何のために殺されたんだ?」
 ペレアスが尋ねる。さらに、サナキも続けた。
「そもそも、こ奴らを殺したのは誰なのじゃ?」
 そう、この二つが問題だった。
「そう、それが問題です。誰が何のために彼らを殺したのか。それがわかれば…」
 その時だった。

990FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:32:16 ID:5KXKWOXk
 バン!!と大きな音が鳴り響く。その場にいた人々は、その音がドアを開けたものだと即座に気付いた。
 ただの開け方ではない。そう、乱暴に開けたような。
 基本、この塔は立ち入り禁止である。それは女神がここで眠っているからだ。
 それを承知で来るには、皇帝直々の許可がいる。今はミカヤ達意外に許可を出していない。
 とすれば――――――――――――――――――――
「奇襲!?」
 そうミカヤがつぶやいた時、「それ」が降りてきた。
 丸型のロボット―――向こうの世界では、ガジェットドローンと呼ばれるものだが、今のミカヤ達がそれを知っているはずはない―――が、約6体。
 先行する1体をサザが相手する。
 サザは、腰から短剣「ペシュカド」を抜き、ガジェットめがけて投げる。
 それを難なくかわし、ガジェットは光線をサザに向かって放つ。
「っ!!」
 それをサザは、ガジェットめがけて飛ぶことでかわす。
 刹那―――1人と1つがすれ違う。サザはすれ違いざまに叩き込まれた触手を、もう一つの短剣「スティレット」で切り落とす。
 ガジェットが着地し、ミカヤににじり寄る。
 ミカヤが光魔法「セイニー」を唱えようとした時だった。
 サザがガジェットの頭上からペシュカドを突き立てる。動力炉をやられたらしく、そのガジェットはその場で機能を失い、停止する。サザはミカヤに寄り添い、ペシュカドを構えなおす。
「ミカヤ、安心しろ。俺がいる。」
 その言葉だけで、ミカヤはどこか安らぐ気持ちになれたのだった。
 だが、戦いはまだ終わっていない。

「機械であろうと、女神の祝福があらんことを…」
 セフェランが光魔法「クライディレド」を唱えた。
 無数の光がガジェットを包み込み、幻想的な風景を作り出した。
その光がひときわ大きな輝きを放ち、辺り一帯が光で明るく照らし出される。
無数の光からの攻撃を浴びたガジェットは、もはや原形をとどめぬほど粉々にされていた。
その隣では、ペレアスが善戦している。
「くっ!」
 ガジェットの放つ光線に苦戦しながらも、闇魔法を唱える。
「ウェリネ!」
 闇魔法「ウェリネ」を解き放ち、周囲の物体ごと闇に引きずり込む。
 闇にのまれまいと必死に抵抗するガジェットだったが、機械ごときが抵抗してどうにかなるものではない。
 「ウェリネ」はそのガジェットを飲み込み、何事も無かったかのように消え去った。

「ぐぅっ!」
 その声を聞き、全員は振り返る。そこには、人質にされたサナキがいた。
「このッ、放せ!放すのじゃ!!」
 じたばたするが、あまり効果が無い。すると、残り2体のガジェットがサナキの方を向く。
「サナキ様!!!」
 セフェランが今まで出したことの無いような大声を出すが、それらは止まらない。
 もう駄目だ、そう覚悟してサナキは固く目を閉じた。


だが、その瞬間はやってこなかった。
 サナキを捕まえていたがジェットは、横一文字に綺麗に『切られていた』。
 1体は白いブレスに貫かれ、もう1体は何かにより壁まで吹っ飛び、動かなくなった。
「誰だ!!」
 サザがペシュカドを構え、爆発したガジェットの後ろにいる者を凝視する。
 その様子を察したのか、
「安心しろ、私たちは皇帝に用があるだけだ。」
と発する。
 次第に煙が晴れ、その姿があらわになる。
「ソーンバルケさん!?それにニケさんにナ―シルさんも!!」
 そこにいたのは、先の戦いで戦力として大いに役立ってくれた猛者ばかりだった。
「先ほど彼が言ったように、私たちは皇帝に用がある。」
 ニケが化身を解きながらサナキに向き直る。そして、ナーシルが続けた。
「私の方は主に、王子の代理です。正式にクルトナーガ様が王位を継承されたので。そちらの二人は、新たな国の建設に当たっての承認を得に来た、と言ったところでしょう。」
「その通りだ。私は「印付き」の国を、彼女は「ハタリ王国」を立ち上げようと思っている。どうか、承認を頂けないだろうか。」
 ソーンバルケがそう言うと同時に3人は片膝をつき、頭を下げる。幸いなことに、彼女は命を助けられてその願いを無下にするような冷たい皇帝では無かった。

991FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:32:48 ID:5KXKWOXk
「よかろう。3人の言い分を受け入れようぞ。ところで…」
 サナキが先ほどのガジェットに視線を移す。
「これは一体なんじゃ?なぜ我らを狙った?」
 その場にいる全員が一番聞きたいことを言う。

「それは異世界の文化。容易に触れてはいけないものよ。」

 その声の主は――ミカヤだった。だが、様子がおかしい。
「ミ、ミカヤ?」
「これはアイク達のいる世界にある兵器。あなたたちはまだ、この兵器の構造を知ってはならない。」
「ま、まさか…女神?」
 セフェランが恐る恐る尋ねる。
「そうよ。久しぶりね、エルラン。」
「ああ…女神よ…」
 感慨深そうにセフェランがつぶやく。しかし、彼らには干渉にふけるよりほかにやることがあった。
「女神。アンタに聞きたい。コイツを「異世界の文化」と呼んだか?」
 女神に対してもいつもの口調を崩さない。サザは、女神がミカヤの体を使うことをあまり快く思っていないからだ。
 先の戦いでも、恐らく、これからも。
「ええ。これらは異世界から来たもの。アイク達がいる世界から。」
「だとするとおかしくないか?」
 ソーンバルケが疑問をぶつけた。
「私は、彼らが異世界に行ったなどとは一言も聞いていない。恐らく、彼女と彼も同じだろう。」
 そう言ってニケとナーシルに目を合わせる。
 無言でうなずき、それが真実であると肯定した。
「なのに私たちはこれらに襲われている。こいつらとは何の接点も無いというのに。」
 よくよく考えてみればおかしい話だった。
 自分たちの利害に関係の無いを人物を襲うなど、ましてや、何の関わりも持たない人物を襲うなど、狂っているとしか言いようがない。
「次に。こいつらはこの世界とは全くと言っていいほど無関係だ。私たちも道中ではこんなものを見たこともない。…なのに。なぜ、ここにいる?」
 ソーンバルケは、先ほど壊したガジェットたちに目を向けた。
「魔道の理など私にはわからんが、少なくとも時空をゆがめるような魔法はリワープだけではないのか?」

 それらの二つの問いに、ミカヤ(の姿をした女神)は答えた。
「私にも、まだわからない。でも、あなたたちを襲った理由は見当がつく。」
 女神はサザを見つめる。
「この子は「ある予想」をしていた。恐らく、これらを送り込んだ人たちは彼女を消したかったのよ。その予想を、誰かに話してしまう前にね。」
 
 ちょっと、待て。それじゃあ――――――――
「その「誰か」は、もしかしたら、異世界からミカヤを暗殺しようとしたのか!?」
 その言葉で一同に動揺が走った。女神はそれを肯定するかのように、硬い表情のままだった。
「だからこそ、私がここに来たの。この塔の中なら私も力を発揮できるから。今から、ここに「扉」を作るわ。アイク達の世界につながっている、ね。そこへ数人を送り込んで、アイク達の手助けをしてもらうつもりよ。…さあ、誰が言ってくれる?」
 サザが真っ先に名乗り出た。
「俺が行く。俺は密偵だし、それなりに―――――――」
「いや、今のお前は国王の夫だ。いざという時にいなければ困るだろう。」
 ニケが釘を刺す。と、なれば行けるのは。

「私が行きましょう。」
「僕も、行きます。」
 ペレアスとセフェランが手を挙げた。
「なら、私も付いていくことにしよう。どうせ、私たちの国はオルグとラフィエルしかいないのだからな。」
 ニケも賛同した。
「私は遠慮します。王子…王にお教えすることが、嫌というほどありますので。」
「じゃあ、この3人ね。」
 そう軽く言葉を告げると、大きな光の扉が現れた。
「健闘を祈るわ。」
 女神のその一言を背に、3人は光の扉をくぐった。
 後々、彼らは、いや、2つの世界にいる人物たちは思い知ることになる。

生きるということの「罰」を、死ぬということの「罪」を。
そして何より、「人」はどれほど愚かで、脆いかということを――――――――――――。




To be continued……….

992FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:34:32 ID:5KXKWOXk
以上です。
今回はちょっとした伏線をはったりいろいろと考慮した結果、完全にFE回となってしまいました。
次回からは、なのはの世界へ戻ります。
それでは、申し訳ありませんが投下をお願いいたします。

993<削除>:<削除>
<削除>

994<削除>:<削除>
<削除>

995なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:38:03 ID:nmwzFrgQ
さるさんを喰らってしまいましたので、どなたか代理投下をお願いします。

996なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:38:39 ID:nmwzFrgQ
 一連の空間の変化から、マミは魔女の正体はピンクの人形であると判断したのだった。

「折角の所悪いけど、一気に決めさせて貰うわよ!!」

 標的を見定めたなら、後は攻撃するだけだ。マミの行動は迅速だった。
 一足跳びにピンクの人形が鎮座した長椅子の根元まで飛び込んだマミは、両手で構えた
マスケット銃を、鈍器の要領で振り抜いた。全力で放たれたマスケットの打撃攻撃は、人
形が座る長椅子を容易に叩き折って、それまで座っていた場所を失った人形は自由落下を
始める。
 抵抗する事なく落下して来た人形を、同じ要領でマミはもう一度殴りつけた。ホームラ
ンバットとなったマスケットの打撃は、本来の使い方とは違っているとはいえども強力だ。
 殴られた人形は、その小さな身体を思いきり凹ませて、半円の壁まで吹っ飛び、叩き付
けられた。初動から、ここまでの連続攻撃に掛かった時間はほんの数秒。瞬く間にマミは
先手を取り、抵抗する間すらも与えずに圧勝しようとしていた。
 今なら、どんな敵にも負ける気がしない。
 その確信が、マミの動きを速く、鋭く変える。

(身体が軽い……こんな幸せな気持ちで戦うのは初めて)

 今のマミは、一人ぼっちではない。
 損とか得とか、そういう打算無しで、これからもずっと一緒に居てくれると言ってくれ
た仲間がいる。一緒に肩を並べて戦ってくれるパートナーが、今、マミの勝利を信じて後
ろで待ってくれている。負ける事など許されない。カッコ悪い姿など、見せられない。
 マミを孤独から連れ出してくれた鹿目まどかの為にも、この勝利はまどかに捧げる。そ
して、終わったら一緒に最高の魔法少女コンビ結成を祝して、パーティをするのだ。美味
しいケーキを食べて、美味しいお茶を飲んで、それから、それから――。
 家族を失ってからというもの、ずっと一人ぼっちだったマミにも、ようやく生きて帰る
理由が出来たのだ。なればこそ、こんな魔女なんかにこれ以上割いてやる時間などはない。

(もう、何も怖くない!)

 突き付けたマスケットの銃口は、寸分の狂いなく人形を狙い定めていた。
 怒涛の勢いで、マミは激しい弾丸の嵐を見舞った。一発撃ったマスケットはすぐに投げ
捨て、次のマスケットを掴んでは撃ちを繰り返す。人の常識で計れる速度を遥かに超えた
圧倒的な速度の射撃は、人形の小さな胴を蜂の巣へと変えた。
 それでも魔女は魔女。回復能力は生物の比ではなく、落下するまでに穿たれた穴は大抵
塞がってしまう。だけれども、そんな事はお構いなしにマミは歩を進め、身動き一つ取ら
ずに落下した人形の頭にマスケットを突き付け、ゼロ距離で弾丸を発射した。
 人形の頭に気持ちがいいくらいの風穴が空いて、そこから溢れ出した金色の魔力が、無
数の帯となって人形を締め上げ、遥か上方へと吊り上げた。全身を拘束魔法に縛られた魔
女に回避など出来る訳もない。マミは最後の一撃を放つ為、巨大な大砲を作り出した。
 大砲から放たれた必殺の一撃は、狙い過たず人形の胴をブチ抜いた。
 マミの持てる最高威力の砲撃魔法を受けた人形に、これ以上の戦闘は不可能。そう思わ
れたが、身体を潰された人形は、その小さな口から、巨大な何かを吐き出した。
 人間の体よりもずっと大きく長い。胴は黒く、ウツボのようにしなっていた。
 何かが出て来た。目の前で起こった事象をそう捉えた時には、既に黒い何かは、マミの
眼前に迫っていた。巨大な身体からは想像もつかない程の速度で、しかしそいつは特に変
わった戦法を用いる事もなく、至って普通な動作で、ただマミに接近したのだった。

「――え?」

 時間が止まったように感じたのは、どうしてだろう。勝利を確信していたマミの眼前ま
で迫った黒い魔女は、白塗りの顔でマミを見下ろすと、大きな口を開いていた。口の中に
は白く輝く牙がびっしりと並んでいて、その奥に見える舌は、唾液にぬめっていた。
 まるで、これから好物のお菓子を食べる子供の舌のように。
 反射的に、直感的に、本能的に。食べられる、と思った。

997なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:42:16 ID:nmwzFrgQ
 身動きなんて取れる筈もなくて、マミはただ立ち尽くすだけしか出来なかった。目の前
で大口を開く魔女に意志の全てが集中していたマミは、魔女の遥か後方、チョコレートの
闇に覆われたドームの天井部分で、星々が煌めいた事にも気付かなかった。
 魔女の牙がマミの頭を飲み込もうとしたその刹那。夜空に輝く星々の如き輝きの中でも、
一際大きく、そして美しく輝く桜色の星が、人が知覚出来る光量を越えた閃光となって、
地へと降り注いだ。
 閃光は、今まさにマミを食い殺そうとしていた魔女の身体を猛烈な勢いで抉り、その巨
体を地へと縫い付ける。凄まじい轟音は、マミの耳を劈かん勢いで唸りを上げて、閃光が
伴った衝撃波は、マミの身体を吹き飛ばさん勢いでこの身を煽った。
 最も至近距離でその衝撃を受けたマミが感じたのは、痛みさえ覚える程の衝撃。それは
一瞬思考停止したマミの意識を、急速な勢いで呼び覚ましてくれた。

「一体、何が……!」

 見上げたマミの瞳を、眩い輝きが強く刺した。
 思わず目を背けたくなる思いを堪えて、それでも空を凝視する。チョコレートで出来た
闇は、最早夜空ですら無くなっていた。眩し過ぎて白銀にしか見えない夜空は、夜を引き
裂いて訪れた夜明けのようであった。
 やがて夜明けの光の中心から、何かがゆっくりと舞い降りてくる。
 純白の翼は、強い光を伴って美しく瞬いていた。眩しいくらいに輝いて見える白のロン
グスカートは、風に振られてふわりふわりとはためいて見える。優雅に舞い降りるその人
影は、光の天使のように思われた。

「高町……さん?」

 舞い降りた天使は、マミの良く知る高町なのはであった。
 良く見れば、胸元や腕は、機械の装甲のように見える。持っている杖だって、魔道師の
杖というよりは、赤い宝玉を金属の穂で覆い、それを白と青の機械の装甲で武装した槍の
ように見えた。だけれども、なのはが携えるソレの柄には青いグリップと引き金が付いて
いるようだし、それが杖なのか槍なのか銃器なのかは、マミにも検討は付かなかった。
 それ以前に、何故なのはが空を飛んでいるのか。何故なのはが魔法少女に変身している
のか。いくつもの疑問が濁流となって押し寄せて、思わずぽかんと見上げてしまうマミで
あったが、そんなマミの表情を見るや、なのはは満足そうに微笑んだ。

「良かった、マミさんが無事で……本当に良かった!」

 喜びも束の間だ。天使のように笑いかけるなのはの背後で、巨大な魔女がゆっくりと鎌
首をもたげた。魔女の表情は怒りに歪んで居るように見えたが、トゥーンコミック風の白
塗りの顔の所為で、些か滑稽に見える。だけれど、それはある意味では余計に不気味さを
引き立てるスパイスにも成り得る。
 なのはの危機に誰よりも早く気付いたマミは、状況の整理は後回しにして、まず叫んだ。

「高町さん、後ろっ!」

 それから、即座にマスケット銃を取り出し構えるが、マミの出る幕ではないようだった。
 何の警戒も示さないなのはを喰らおうと、魔女は大口を開けて迫る。だけれども、魔女
の牙がなのはに触れるよりもずっと早く、魔女の頭が爆ぜた。それから、胴、尻尾と、爆
発は次々と連鎖して、赤黒い爆煙を発生させた。先程のなのはの砲撃による魔力爆発とは
明らかに異なった、質量を持った兵器による爆発のように見えた。
 魔女は堪らず姿勢を崩し、ぐったりと横たわる。目の前の事実を認識し、なのはの無事
にマミが胸を撫で下ろした時には既に、もう一人の魔法少女がそこにいた。
 なのはの白とは対になる、黒の衣装を身に纏い。艶やかな黒髪を優雅に靡かせて佇む彼
女の名は、暁美ほむら。先程確かに、この手で拘束し動きを封じた筈の女だった。
 なのはは笑顔。ほむらは無表情。表情は全く違っているけれど、背中合わせに並んだ二
人は、同じ目的の為に手を組んだ仲間のように思われた。

「どういう事!? どうして二人が……まさか、高町さんまで!?」
「にゃはは……これには深い訳があって……えーっと、後できちんと説明しますから」
「その必要はないわ。もうこれ以上、巴マミに出る幕はないから」
「もう、ほむらちゃん……そういう言い方は良くないよ?」

998なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:44:22 ID:nmwzFrgQ
 
 例え魔法少女の姿をしていても、高町なのはは高町なのはのままであった。
 いつも通りの優しいなのはのままである事が分かって、マミは少しだけ安堵する。だけ
れど、状況がさっぱりわからない事に変わりはないし、マミの教え子であったなのはがい
つの間にか魔法少女になっていて、しかも敵である筈の暁美ほむらと共に現れたとなれば、
これはどうあっても納得の行く説明が必要だ。
 ちらと後ろを見れば、物陰に隠れていたさやかとまどかも、どう反応していいのか分か
らないといった様子で、ただ見ているだけしか出来ないようだった。

「あなたはそこで見ていなさい。あの魔女は、私が狩るわ」
「私達が、の間違いでしょ、ほむらちゃん?」

 ほむらは一瞬だけ、不服そうな表情でなのはを見遣るが、しかしそれ以上は何も言わず
に、その姿を掻き消した。何処かへ飛んだとか、移動したとか、そういう事では無く、本
当の意味で消えたのだ。不可解な現象に眉を顰めるマミを後目に、なのははにゃははと苦
笑いをした。
 それから、なのはのブーツから光の翼が現出して、なのはも飛び上がった。
 まるで大空を飛び回る鳥のように、自由自在に宙を飛び回るなのはを見ていると、魔女
が生み出したこの広大な空間でさえも、小さく狭い箱庭のように思われた。
 空を自由に駆け回るなのはを捕らえようと、魔女はその長い身体を屈伸させてなのはに
襲い掛かる。だけれども、どんなに魔女が空を飛び回っても、なのはの速度には敵わない。
捕捉する事など出来はしないし、追い付く事さえも出来てはいない。
 それでもなのはを追い掛けていると、魔女の身体が突然爆発した。もんどりうって苦し
む魔女の脇のテーブルに、涼しい顔をしたほむらが着地した。
 今回も、ほむらが何処から現れたのを見極める事は出来なかった。突然現れて、突然消
えてゆくのだ。あれがほむらの能力で、ほむらが敵に付くというのなら、あの瞬間移動の
トリックを見極めない事にはマミに勝ち目はない。
 今度こそほむらの動きを見極めようとするが、そんなマミの目を奪ったのは、桜色の閃
光だった。先程の閃光よりも小さいが、しかしまるで意志を持ったかのように空を飛び回
る光は、今度はほむらに襲い掛かろうとした魔女の眼前を横切って、翻弄する。
 そうしていると、いつの間にか消えていたほむらが、また別のテーブルの上に現れて、
同時に魔女の身体が派手に爆ぜる。だけれども、魔女はしぶとい。先程ピンクの人形が、
口から魔女を吐き出したのと同じ要領で、黒い魔女は再び口から自分を吐き出した。再生
された魔女は、先程までに受けたダメージなどは忘れたように元気そうに飛ぶ。
 だけれど、結果は同じだ。今度は、魔女が数メートル飛んだところで、爆発した。
 顔が、胴が、尻尾が爆発して、魔女は再び口から新たな身体を吐き出す。何度なのはの
砲撃を受けても、何度ほむらの爆発―恐らくほむらの攻撃だと思う―を受けても、魔女は
幾らでも再生する。これではキリがないと思った、その時であった。
 なのはが放った砲撃が、魔女を飲み込み、焼き払った。同時に、ほむらが空間の中心の
テーブル席に現れて――そこに座っていた小さな人形を、真上から踏み潰した。
 ぷぎゃ、と音が聞こえて、魔女の再生は止まった。

999なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:53:02 ID:nmwzFrgQ
 
 気付いた時には全てが終わって居た。マミの耳に入って来るのは、爆発音でもなければ、
破壊音ですらない。遠くから聞こえる自動車の走行音と、何処かで鳴く鴉の声だけだ。
 お菓子だらけの異質な空間なんて何処にもなくて、マミの目の前にあるのは大きすぎる
病院と、等間隔で並べられた色取り取りの自転車だけだった。
 高町なのはも暁美ほむらも、既に見滝原中学の制服姿に戻って居て、つい数十秒前に遡
れば、ここで魔女と魔法少女の戦いが繰り広げられていたなんて、信じられないと思える
程だった。
 魔女に勝ったのだという実感は、ない。
 事実として、マミは魔女に負けたのだ。命こそ助かったものの、これはなのは達がたま
たま駆け付けてくれたから、今こうしてここに立って居られるというだけの話だ。
 自分で倒すつもりで挑んだ魔女だって、いつの間にか彼女らに倒されて居たのだから、
この戦いでマミが成し遂げた事など、実際には何一つない。
 あまりにもあっけなさすぎる結末だと思う。命が助かったのは喜ばしい事であるが、そ
れを素直に喜べる程マミは能天気ではない。だけれども、なのはとほむらに対して負の感
情を抱くのも何か違う気がして、マミは気まずそうに俯いた。
 後ろを振り向けば、さやかとまどかも、怒っていいのか喜んでいいのかわからない、と
いうような複雑な表情をしていた。多分、今の自分も後ろの二人と同じような表情をして
いるのだと思う。
 だけれど、どんなに気分が良くなくても、何かを言わなければ始まらない。今はまず、
なのはとほむらの二人から話を聞く事が先決なのだと思う。マミは顔を上げて、真っ直ぐ
になのはを見据えた。

「……どういう事なのか説明して貰えるかしら、高町さん」

 なのはは嫌な顔一つせずに頷くが、ほむらはマミ達にそれ以上の興味などない様子で、
落ちていたグリーフシードを拾い上げた。それから、ちらとマミ達を見渡したほむらは、
何も言わずに立ち去って行った。
 なのははほむらを呼び止めようとしたようだったが、結局、何も言わずにその口を閉ざ
した。だけれども、そんななのはの表情は、どうにも釈然としないマミとは違っていて、
とても満足そうだった。
 なのははマミの無事を素直に喜んでくれた。その言葉にも、その笑顔にも嘘はないのだ
と思う。それは分かっているのに、分かっているからこそ、そんななのはの笑顔を見てい
ると、自分一人だけが惨めな気持ちになっている気がして、マミは誰にも気付かれないよ
うに緩く歯噛みをした。


今回はここで終了です。
最近の悩みはwikiで「* * *」がきちんと表示されない事くらいでしょうか。
……それから、wikiのコメントログとやらの実相についても少し悩んでいたりします。

海鳴と見滝原の設定を無理くり合わせてみたり、なのはが変身したり、今回は割と急展開です。
動きがあるSSというのはどうにも難しいもので、今回もまたいい勉強になったかと思います。
全体的に稚拙で見苦しい文章かとは思いますが、今後もよろしくお願いします。
それでは、また次回お会いしましょう。

1000魔法少女リリカル名無し:2011/08/26(金) 13:59:42 ID:6ZOSIo2A
復活しているぞ




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板