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( ^ω^)戦国を歩いたギタリストのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/02/12(火) 23:09:52 ID:71GE3tJQO
前作
( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/guitarist/guitarist.htm
文丸様
179
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:14:26 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「よく来たな、ブーン」
──その隣で悠々と座る、空流の姿だった。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:15:33 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「……なん、で」
言葉が出てこない。
何故そこにいる。
何故出麗が拘束されている。
何故、敵の目の前で笑っている。
素直空流。光世真宗。八尾井山。
渚本介と共に守るはずの存在が、まるで──
(;゚ω゚)「く、空流さん、あなたは…」
──まるで、吹連側に寝返ったかのように。
.
181
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:16:36 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「出麗から聞いたよ。お前、未来の日本から来たらしいな」
寒気のするほど美しい笑顔が、ブーンに向けられている。
川 ゚ー゚)「南蛮人のような恰好も、ぎたーの存在も、全部合点がいったよ。お前は──」
(;゚ω゚)「う、うるさいお!!」
思わず、叫ぶ。
空流の言葉が止まった。だが、その余裕のある表情は崩れない。
(;゚ω゚)「なんなんだお! どういうことだお!! 何で、お前が、」
川 ゚ -゚)「まだ分からないのか」
空気が一変する。
空流の表情から、笑みが消えた。
川 ゚ -゚)「吹連と光世真宗は、最初から敵対などしていなかった」
川 ゚ -゚)「天野が破れ、吹連が二茶根留攻めに失敗したのち、我々は天下統一のため結託した」
川 ゚ -゚)「我々の目的は同じだったからだ。この国を、この大地を治めるほどの、力が欲しかった」
182
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:17:53 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「だが、その為にはやはり二茶根留が邪魔だ。特に、天野を倒した実績と、あの戦魔の存在がな」
川 ゚ -゚)「だから、まず我々は敵対しているフリをした。戦魔が光世真宗の味方つく為にな」
川 ゚ -゚)「単独行動を好むあの戦魔なら、それでまず交渉をとると踏んだからだ」
(;゚ω゚)「…でも」
混乱した頭で必死に考える。
その流れだと、単独行動を取る渚本介を殺し、大軍で二茶根留に攻め入るつもりだったというところだろう。
だが、わからないことがまだある。
(;゚ω゚)「でも、なぜ僕と渚本介さんを分けたんだお」
川 ゚ -゚)「一つだけ予想外のことが起きたんだ」
空流が即答する。
その瞳は、ブーンを捕らえて離さない。
川 ゚ -゚)「──お前の存在だよ、ブーン」
.
183
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:19:02 ID:diF.uzzI0
(;゚ω゚)「…え?」
川 ゚ -゚)「お前の存在だけが予想外だった。どう対処していいかもわからなかった」
川 ゚ -゚)「どんな役割で、何故あの戦魔と組んでいるのかも知りたかった」
川 ゚ -゚)「それを知るにはちょうど良い材料もあったしな」
(;゚ω゚)「……出麗のことかお」
出麗の方を見る。
泣きそうな顔は変わらない。空流とブーンの顔を何度も見ている。
川 ゚ -゚)「そうだ。それに、戦魔とはどうしても一騎打ちをしたいという馬鹿がいてな。今頃、戦いの最中だと思うが…」
川 ゚ -゚)「まあ、それに勝とうが負けようが、戦魔はどうせ死ぬ。私の興味はそこじゃない」
空流の口角が上がる。
川 ゚ー゚)「未来から来たと言ったな。未来では音楽で生活していくための努力をしてるんだとか」
(;゚ω゚)「だ、だったら何だと言うんだお!」
184
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:20:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ー゚)「簡単だ。私の配下に就け」
思考が、止まった。
(;゚ω゚)「……は?」
川 ゚ー゚)「私は琴を教える立場でもある。天下統一の目的は、この地すべてに素直流の琴を広めたいというのもあるんだ」
川 ゚ー゚)「だが、私の世界観だけだと音楽は固くなる。琴には別の捉え方が必要だと思ってたところなんだ」
川 ゚ー゚)「ぎたーの音色、お前の演奏。あれは見事だった。私の配下に就き、私にその全てを伝授しろ」
(;゚ω゚)「い、嫌に決まってるお!」
ほとんど反射的に、ブーンが応える。
(;゚ω゚)「なんで、お、お前なんかの為に、僕がギターを教えなきゃいけないんだお! そもそも、僕はそんな事の為に来たわけじゃないお!!」
川 ゚ -゚)「…断るつもりか?」
(;゚ω゚)「当然だお!!」
185
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:21:03 ID:diF.uzzI0
ブーンにとって、もはや空流は裏切り者の極悪人だった。
そんな奴に関わりたくない。関わるべきではない。
第一、ブーンは出麗を救うために、この時代に来たのだ。
川 ゚ -゚)「なれば用済みだ。お前を殺し、出麗を殺し、これから二茶根留に攻め入る」
(;゚ω゚)「──!!」
川 ゚ -゚)「根野。こいつを始末しろ」
ブーンの後方へ、空流が声をかける。
思わず後ろに目を向ける。
(;`ー´)「………おいらが、ですかい」
根野と呼ばれた男は、此処にくる道中、ブーンの話し相手になった男だった。
.
186
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:03 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「ああ。早くしろ。戦魔への対策もしないといけないからな」
(;`ー´)「……」
根野は、腰に差した刀を抜かず、固まっていた。
空流が苛立った視線を向ける。
川 ゚ -゚)「何をしてる。やれ」
(;`ー´)「……」
川 ゚ -゚)「やれと言っている」
(;`ー´)「……」
根野の腕が、唇が、微かに震えている。
川 ゚ -゚)「根野、一体どういう──」
(;`ー´)「で、できません!!」
.
187
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:22:53 ID:diF.uzzI0
空流の目が、僅かに見開いた。
ブーンと出麗は状況が掴めず固まっている。
川 ゚ -゚)「…私の命令に背くということが、どういうことか、わかっているだろう」
恐ろしいほど冷たい声を向ける。
あれだけ気さくだった根野の顔は真っ青だ。
それでも、精一杯、抵抗する。
(;`ー´)「できません…だ、だって」
震える手を握りしめ、根野ははっきりと言い切った。
(;`ー´)「だって、こいつ、音楽が好きやと言ってました」
川 ゚ -゚)「──は?」
ζ(゚ー゚;ζ「?」
(;゚ω゚)「え…」
全員が全員、固まった。
誰も理解が追いついていないといった様子だ。
188
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:24:09 ID:diF.uzzI0
(;`ー´)「お、おいら、頼んでもねえのに武家に生まれて、好きでもねえ刀や槍の練習ばっかさせられてたんや」
(;`ー´)「嫌やったよ。何度人生をやり直したいと思ったか、数えらんねえくらいや。みんなそうだと思ってた。でも…」
根野がブーンを見る。
固まるブーンと目が合うと、無理やり笑顔を作った。
(;`ー´)「…でも、こいつ、生まれてからずっと続けてた音楽を、好きやと言いました」
(;`ー´)「この世界に、こんなこと言えるやつが、一体どれほどいることか。 少なくともおいらは初めてや」
(;`ー´)「だから、こんな勿体ないやつ、こんな勿体ない人生を、おいらが終わらせたくありません! 少なくとも──」
(;`ー´)「──あ、あんたよりは、こいつの方が立派や!」
静まり返る。
震える根野か、カチカチと歯を鳴らす音が聞こえる。
川 ゚ -゚)「…言いたいことは、それだけか」
189
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:25:11 ID:diF.uzzI0
空流が静かに立ち上がる。
根野の元へ、ゆっくりと歩き出す。
ブーンは思わず距離を取った。
前を向いたまま震える根野。
その周りを、空流が歩く。
川 ゚ -゚)「失望したよ。お前、結局奴らと同じなんだな」
空流が根野の背後に来た途端。
懐刀で、根野の首を切り裂いた。
(; ー )「カッ……」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃああああっ!!?」
(;゚ω゚)「………」
叫び声を上げる出麗。
声が出ないブーン。
空流だけが、怒気を含んだ冷静な声を漏らす。
190
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:02 ID:diF.uzzI0
川 ゚ -゚)「結局同じだ。百合町を担わせた山田竜兵衛も、武士道とやらに拘る堂土狗久流も、糞の役にも立たない駒だ」
川 ゚ -゚)「根野。お前は少々話好きなだけで、従順な部下だと思っていた。だが結局これだ」
ため息。
人の命を何とも思わない態度が、目に見えてわかる。
ζ;ー;*ζ「し、師匠、どうして…」
出麗の目から涙が溢れる。
絶望か。裏切りへのショックか。
血の滴る懐刀を握り、空流が出麗のもとへと歩き出した。
.
191
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:26:53 ID:diF.uzzI0
ζ;ー;*ζ「やだ、やだ、助けて…」
川 ゚ -゚)「弟子のよしみだ。苦痛なく殺してやる」
ζ;ー;*ζ「やめて、お願い、助けて……ブーン…」
( ω )「………」
ブーンは未だ固まっていた。
様々な思いが、記憶が、ブーンの中を駆け巡っていく。
戦を止める為、心を削って光世札を流通させた、山田竜兵衛。
そのせいで、居場所を失って傷付いた、斉藤又武貴。
自分を慕う出麗も、本気で味方として行動した渚本介も。
そして、正義感から勇気を振り絞った、根野も。
──全て、利用していただけだったのか。
.
192
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:27:51 ID:diF.uzzI0
(# ω )「待つお!!!」
叫ぶ。
ピクリと肩を跳ねさせ、空流はゆっくりと振り向いた。
川 ゚ -゚)「何だ。お前から死にたいのか?」
(# ω )「僕を配下にしたいと、そう言ったおね」
空流が片眉を上げる。
川 ゚ -゚)「…確かに言ったが、今更それがどうした」
(# ω )「配下に就いてやってもいいお。ただし──」
.
193
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:29:11 ID:diF.uzzI0
勢い良く立ち上がり、声を上げる。
(# ω )「僕と勝負するお!! 僕に勝ったら配下にするなり殺すなり好きにするお!」
(# ω )「僕がお前に勝ったら、今すぐこの場から退いてもらうお!!」
川 ゚ -゚)「…勝負、だと?」
(# ω )「そうだお。僕と──」
怪訝な顔を向ける空流を睨む。
荷袋から飛び出たギターのネックを、無意識に握りしめた。
(# ω )「──音楽で、勝負するお」
第七話 終
194
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 21:30:35 ID:diF.uzzI0
以上っす!
毎日投下してましたけど次はちょっと時間あけます!
195
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:13:52 ID:k5kv6ozM0
空くって数日だよな!?数日なんだよな!?
よろしい、全裸で待とう!
めっちゃ続き気になる
196
:
名も無きAAのようです
:2018/08/29(水) 23:49:01 ID:wqPu9D9.0
おま!!!おまえええええええええええええ!!!!!
ずっと待ってたんだぞこの野郎!!!!!!!!!
復活してくれてめっちゃ嬉しいぞ!!!!!!!
197
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:39:47 ID:bh8WsPgM0
>>195
ありがとうございます!
思ったより早くできました!
>>196
スマヌ…スマヌ…
期待を裏切らないよう頑張ります!
投下します!
198
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:40:30 ID:bh8WsPgM0
最近、映画『バタフライ・エフェクト』を思い出すことが増えた。
理由はよくわからない。
ただ、何となく、ふと考えてしまうのだ。
例えば、自分の先祖が結婚相手を間違えたり。
ちょっとしたすれ違いで運命の人に出会わなかったり。
結婚もしないまま人生を終えたり。
それだけで、自分という存在は無かったことになるかもしれないのだ。
『バタフライ・エフェクト』では、主人公が過去を操作することで、未来の凄惨な運命を変えようとした。
それを思い出すたびに、少し不安になるのだ。
有り得ない話だが、もし誰かが過去を操って、自分の運命を変えてしまったら。
運命どころか、自分の存在そのものに影響が出るとしたら。
ξ゚⊿゚)ξ(……私は、どうなっていたんだろう)
199
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:41:42 ID:bh8WsPgM0
就活に無意味さを感じるのは、自分のこれからの人生が、あまりにも見えてこないからだ。
まるで、近いうち、自分の存在が無かったことになりそうな気すらする。
妄想だと笑われるかもしれない。
だが、一つだけ、自分しか知り得ない事実がある。
時々、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
自分の名前を、忘れてしまうことがあるのだ。
──
200
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:42:52 ID:bh8WsPgM0
第八話
「歴史対決」
──
川 ゚ -゚)「お前と勝負だと?」
嘲笑。
空流は懐刀を振り、刃に付着していた血を飛ばした。
川 ゚ -゚)「お前如きの命一つに、二茶根留攻めを、天下統一を賭けろというのか」
川 ゚ -゚)「どうにも釣り合う気がしないな。だが…」
懐刀を布で拭く。
慣れた手付きだ。何度も使った経験があるのだろう。
鋭い視線が、ブーンに向いた。
川 ゚ -゚)「素直流の琴を進化させ、天下に広める為には、お前の…未来の音楽理論や技術が欲しいのも事実だ」
川 ゚ -゚)「面白い。お前の喧嘩を、買ってやろうではないか」
( ^ω^)「…決まりだお」
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン!!」
201
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:43:57 ID:bh8WsPgM0
慌てた様子の出麗が、声を上げる。
ζ(゚ー゚;ζ「師匠は…素直空流は、音楽界では知らぬ者がいない程の琴奏者なの!」
ζ(゚ー゚;ζ「琴最大の素直流、その元帥よ!? 私なんかじゃ足元にも及ばない! 無茶よブーン!」
出麗も名の知れた琴奏者だ。その師匠というのだから、よっぽど大物なのだろう。
光世真宗の座主でもあり、素直流琴の元帥。
確かに天下統一でも出来そうな立派な肩書きだ。
出麗の言う事もわかる。無茶な勝負かもしれない。
だが。
( ^ω^)「知ったこっちゃないお。僕はこの極悪人が、許せないだけだお」
ブーンにとって、そんなことはどうでも良かった。
こいつを止めるには、音楽しかない。
音楽勝負で、心を折るほど圧倒的に勝つしかない。
それだけが狙いだった。
ζ(゚ー゚;ζ「ブーン……」
川 ゚ -゚)「私を相手に、大した自信じゃないか」
202
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:44:42 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「それで、音楽でどう勝負するつもりだ」
( ^ω^)「シックスティーン・バースだお」
ブーンが応える。
空流と出麗が首を傾げた。
( ^ω^)「ジャズなんかでよくある、ソロの掛け合いだお。南蛮式の楽譜は知ってるかお?」
川 ゚ -゚)「ああ。横書きのやつだな?」
( ^ω^)「そうだお。まず一人が楽譜の16小節分弾く、続けて相手が16小節弾く、というのを繰り返すんだお」
川 ゚ -゚)「勝敗はどう決める」
( ^ω^)「流れに乗って弾けなくなったら。つまり──」
ブーンが、空流を睨んだ。
これが狙いだ、というのを空流に解からせる為に。
( ^ω^)「──心が屈して、演奏できなくなったら、負けだお」
203
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:46:16 ID:bh8WsPgM0
本来、音楽に直接勝負という概念は無い。
派閥の対立やカテゴリーの分裂、競争などは一般的にある話だが、
対決し勝ち負けを決めるというのは難しい。
例えば現代で行われるギターやベースやドラムバトル。DJやバンド対決。
それらの勝敗の決め方は、大抵「客の盛り上がり」か「審査員の判断」だ。
今この場には客もいなければ、公平な判断ができる第三者もいない。
だからこそ、勝敗の決め方は本人達に委ねられる。
現代で言うなら、ラップのフリースタイルバトルに近い。通常の掛け合いではあり得ない16小節という長さにしたのも、バトルが成立しやすくするためだ。
流れに乗れなかったら。音が出てこなかったら。心が屈したら。それが勝敗になる。
空流はもちろん初めてのことだろう。
ブーンも未経験のことだ。
川 ゚ -゚)「…なるほどな。演奏技術だけでなく、流れの読みや即興力が問われるわけか。面白い」
( ^ω^)「お前は琴で、僕はギターを使うお。お前から始めていいお」
川 ゚ -゚)「曲は、何でもいいんだな?」
空流が部屋の外にいる見張りの兵達を呼ぶ。
根野の死体を片付けて琴を持ってくるように命じると、彼らは急ぎ足で取りかかった。
204
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:47:22 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「…数年前、ある南蛮船が近くに漂流してきた」
座布団に座り、突然話し出した空流。
ブーンも対面して座り、ギターを膝に乗せる。
川 ゚ -゚)「彼らの持ち物の中に、非常に興味深いものがあってな」
空流の前に、琴が丁寧に置かれた。
兵達がそそくさと退室する。
空流は琴爪を付けながら話を続けた。
川 ゚ -゚)「楽譜だった。琴の楽譜とは違い、横書きで何やら記号だらけだった」
川 ゚ -゚)「私はそれを理解するために、彼らを留め、楽譜の読み方を習った」
川 ゚ -゚)「一年以上もかかってしまったよ。それで得た曲は、実に面白かった」
.
205
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:48:12 ID:bh8WsPgM0
指を構える。
驚くほど綺麗な姿勢。
人を殺したばかりとは思えないほどの、綺麗な指。
世界が、止まったように感じた。
川 ゚ -゚)「この神々しき旋律。まさに光世真宗に相応しい」
美しい音色が、室内に響き渡った。
.
206
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:50:08 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(外国音楽で仕掛けてくるとは…)
一音一音が、綺麗に伸びていく。
音自体の輪郭は非常にはっきりしている。琴の特徴だろう。
はっとするほど綺麗な音だ。
しかし、すぐ違和感に気付いた。
音の伸びはあるものの、音数そのものが非常に少ないのだ。
日本の古典的な音楽は、音数の多い流れるような曲、というイメージがブーンにはあった。
しかし、空流が今弾いてるのは本来の和製音楽ではないとは言え、これはいくらなんでも少なすぎる。
シックスティーン・バースとは言ったが、これでは掴みにくい。
リズムも難しい。
(;^ω^)(何の曲かは知らないけど、こっちも間伸びするような曲がいいのかお…)
しかし、ハードロックを好んで聴いていたブーンは、そのレパートリーは少ない。
そもそも、二人の音楽性には約500年のギャップがあるのだ。
207
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:51:24 ID:bh8WsPgM0
それでも、リズムをどうにか掴んだブーン。
そろそろタッチされる頃だ。
曲の雰囲気やコンセプトは、結局よくわからなかった。
しかし空流は適当に弾いてるわけではない。それだけは確かだ。
曲としては完成しているのがわかる。だが、とにかく掴みにくい。
ブーンを乗らせない為の、空流の狙いなのだろうか。
( ^ω^)(…とりあえず、耳コピで大まかな流れを弾いて、ベース音で主導権を握るお)
川 ゚ー゚)「……」
最後に丁寧な音を鳴らし、ブーンの方を見る。
さあ、お前の番だ。
そう言いたげな目を向ける。うっすらと笑みを浮かべながら。
琴の余韻が響き渡る中、頭の中でリズムに乗り、ブーンはピックでなく指を構えた。
.
208
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:15 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(行くお!)
まずは、楽器が変わることによるわだかまりを消し飛ばすため、開放弦を鳴らす。
そして、空流の弾いた曲に近い高音に加え、4、5、6弦を親指で刻むようなベース音を作っていく。
川 ゚ -゚)「……」
空流の顔つきが変わった。
自分の弾いた曲がその場で再解釈されて返されるのは、初めてなのだろうか。
少なからず、驚いているようだった。
( ^ω^)(……あれ?)
弾きながら、また違和感。
ベース音が作りやすいのだ。
まるで、和音をただ丁寧に解いたような。
ブーンの弾き慣れたアルペジオが、何も考えずとも出てくる。
そうなれば、あとは簡単だ。
.
209
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:52:58 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(主導権はこっちのもんだお!)
伸びる高音に、ベース音を刻み続ける。
リズムも取りやすい為、曲としての輪郭が明確になってくる。
川 ゚ -゚)「……」
空流は無表情でその様子を見ていた。
焦る様子は全くない。
ブーンの16小節が終わりに近づく。
川 ゚ -゚)「…勉強になったよ。これが未来の音楽か」
空流の番。
ブーンに慣い、同じような伸びのある高音に加え、弾くような低音を入れる。
琴の迫力に絶妙にマッチした音色だ。
低音が加わり、曲の全体像が見えてきた。
立体感を帯びたその曲は、まるで──
.
210
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:54:10 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)(──ルネサンス音楽かお?)
ルネサンス音楽。
ヨーロッパのルネサンス期に発祥した音楽だ。
宗教歌・聖歌として発展したものが多く、主に教会音楽として広まったと言われている。
やたら伸びのある高音にもこれで納得いく。宗教歌のメロディによくある曲の構成だ。
「南蛮船に乗っていた」というのは、恐らく宣教師か何かだろう。
それにしても、西洋音楽の知識が全く無いはずの空流が、リュートやオルガンといった西洋楽器で奏でる音楽を、琴一つで表現するとは。
それも僅か一年で。
外国の楽譜を読み、尚且つ自分の技術に当てはめたのは、この時代なら恐らく空流が初めてだろう、
川 ゚ -゚)「……未来には、きっと私の想像を超えるような音楽や楽器が溢れているんだろう?」
( ^ω^)「!」
空流が演奏しながら話し出す。
音色が、変わった。
.
211
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:55:29 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ -゚)「正直、私は今喜んでいるんだ。未来の音楽と、私の全てを賭けて戦っているわけだからな」
神々しい旋律は、より高揚感の出る旋律へ。
川 ゚ -゚)「来いブーン。お前の、未来の全てを、私にぶつけてみろ。素直流の最強を示す良い機会だ」
いや、音色だけでない。曲そのものが変わった。
まるで、音楽のカテゴリー自体が変わったような。
不穏な流れの中、ブーンの番が来た。
( ^ω^)「…浮かれてられるのも、今の内だお」
空流は次の番で何かを仕掛けてくる。旋律の不穏さでわかる。
それを払拭するため、ブーンは違った趣向の流れを鳴らし始めた。
仕掛けさせる前に、技術で上回ってやる。
.
212
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:56:24 ID:bh8WsPgM0
ベース音を刻みながら、音数を極端に増やす。
その旋律は、より芸術的に。より現代的に。
ブーンは、ある曲を勝負に出した。
( ^ω^)(行くお!)
──東京事変『丸の内サディスティック』のソロギターアレンジ。
ジャズやポップスの色が強いこの曲調は、テンポをどれだけ落としても、強烈なほどメロディアスだ。
恐らくは空流が見たことのない演奏技術、感じたことのない世界観だろう。
( ^ω^)(お望み通り、これが未来のミクスチャーだお!)
川 ゚ -゚)「……」
213
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:57:11 ID:bh8WsPgM0
空流の表情に変化はない。
だが、ブーンの演奏から目が離せないようだった。
やがて、16小節の終わりが近づく。
空流はまだ動かない。
( ^ω^)(決まったかお…?)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)
(;^ω^)「!」
.
214
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:58:24 ID:bh8WsPgM0
素敵な笑みを浮かべる空流。
ブーンの16小節が終わった瞬間、最初のブーンのように、空流は開放弦を大袈裟に鳴らした。
(;^ω^)(来る!!)
何かを仕掛けてくるのはわかってた。
そして、それが始まる。
直後、ブーンは全身の毛が逆立つのを感じた。
(;゚ω゚)「…そんな、バカな……」
思わず声を漏らす。
バカな。ありえない。
一体どうなっている。
川 ゚ー゚)「漂着した南蛮船の奴らを、私は数年留めた。私が作った曲を南蛮にも広めてもらう為にな」
.
215
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 22:59:20 ID:bh8WsPgM0
またも、演奏しながら話す空流。
空流が始めたそれは、聴き覚えのありすぎる曲だった。
川 ゚ー゚)「彼らにその曲を授け、ちょうど先日出航させたんだ。どう広まるか楽しみにしてたが…」
川 ゚ー゚)「……その反応を見る限り、未来にも継がれる曲と成ったようだな」
(;゚ω゚)「……」
何も言い返せない。
だが、空流の言うことが事実なら。
これが事実なら。
恐らく、世界史に影響するほどの事態だ。
空流の弾くその曲を、改めて言葉にする。
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216
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:00:03 ID:bh8WsPgM0
(;゚ω゚)「それは……『カノン』、かお」
ヨハン・パッヘルベルが作曲したと言われる名曲、『カノン』。
世界中で愛される、バロック音楽の代表的な曲の一つだ。
それを、空流が、作曲した?
(;゚ω゚)「そんなはずが無いお…」
そう、そんなはずが無い。
『カノン』が作曲されたのは、1680年頃と言われているのだ。もちろんこの1499年にバロック音楽などそもそも存在しない。
だからこそ、空流が作曲したなど、あり得ない。
川 ゚ー゚)「……」
(;゚ω゚)(でも…)
だが、実際に、空流は目の前で『カノン』を弾いている。
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217
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:05 ID:bh8WsPgM0
もし、空流の言うことが事実なら。
空流の作曲した楽譜が、南蛮船に乗って無事ヨーロッパに着いたのなら。
その楽譜を、およそ200年後に誰かが発掘したのなら。
発掘した楽譜を、パッヘルベルが再現できたというのなら。
空流は、当時の西洋音楽どころか、バロック音楽をも先駆けた日本の琴奏者であり。
音楽史上でも、トップクラスの作曲家とも言える。
川 ゚ー゚)「……」
演奏は続く。
ブーンは自らの両頬を叩き、無理やり気持ちを切り替えた。
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218
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:01:59 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)「……邦楽アーティストがよくカノンを取り入れる理由が、今ようやくわかったお」
皮肉を込めて呟く。
が、空流に完全に気圧されてどうしていいかわからない。
空流の16小節が、もうすぐ終わってしまう。
(;^ω^)(ど、どうすればいいんだお…)
どうすればいい。
この最強の作曲家、最強の琴奏者を、圧倒する為には、一体どうすればいい。
この勝負に敗れてしまえば、自分は本当に空流の配下になるかもしれない。
そうなれば、もう元の時代には戻れないのだろうか。
出麗を救うことも、叶わないのだろうか。
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219
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:05 ID:bh8WsPgM0
(;^ω^)(……いや、負けるわけにはいかないお)
負けるわけにはいかない。
空流を、音楽で、真っ向から倒さねばならない。
ネックを握りしめて考える。
『カノン』に勝る、方法を。曲を。
頭の中に残っているレパートリーを、全て漁っていく。
(;^ω^)(……あ!)
あった。
素直空流に、勝てるかもしれない曲が。
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220
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:03:46 ID:bh8WsPgM0
川 ゚ー゚)「さあ、来い」
空流の勝ち誇った笑みが、ブーンに向いた。
ピックを取り、空流を睨み返す。
16小節が、終わった。
( ^ω^)「…この曲は、僕が練習した中でも、最も難しかった曲だお」
空流の『カノン』の余韻を、ギターで引き継ぐ。
ピッキングの激しいミュートで、新たなリズム感と躍動感を作っていく。
空流の顔から、笑みが消えた。
( ^ω^)「素直空流、お望み通り聴かせてやるお!! これが、僕の全て──」
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221
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:09 ID:bh8WsPgM0
( ^ω^)「──『カノンロック』だお!!」
川; ゚ -゚)「!?」
空流が一瞬で青ざめる。
何が起きたか、すぐに理解できたようだ。
『カノンロック』。
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
バロック音楽をメタルアレンジすること自体は、昔からあった手法だ。
だが、『カノンロック』はその完成度の高さ、演奏力、親しみやすさなどが評価され、一躍有名になった。
一時は、世界中のギタリストが曲にアレンジを加え動画投稿するという流行を巻き起こしたほどだ。
細かい旋律。圧倒的に多い音数。
それでいて丁寧で、原曲の尊厳を保つアレンジ。
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222
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:05:52 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)(どうなっている…!)
狼狽する。
自分が数年かけて作った曲を。全身全霊をかけて作った作品を。
ブーンは、より優雅に、より激しく。
より新しく弾いている。
ビブラート、チョーキング、ハンマリング、タッピング。
この時代にはない技術を駆使し、ギターを鳴らしていく。
ζ(゚ー゚;ζ「な、何、あの弾き方…」
川; ゚ -゚)「……」
見たことないほど細かく動く左手。
見えないほど速く動く右手。
それでいて、原曲の形は、純粋な程に保たれている。
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223
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:06:51 ID:bh8WsPgM0
川; ゚ -゚)「…これが、未来か」
ブーンの16小節の終わりが近づく。
だが、どうしていいかわからない。
両手が震える。
手汗が、琴爪に伝っていく。
弾かなければ。
生涯最高の曲をブーンは返した。それをさらに圧し返さねば。
( ^ω^)「──さあ、お前の番だお!」
圧し返さねば。
.
224
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:07:38 ID:bh8WsPgM0
やがて、その震える指先から。
琴爪が、静かに落ちていった。
第八話 終
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225
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:08:24 ID:bh8WsPgM0
今回は以上です!iPhoneが熱い!ありがとうございました!
226
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:28:49 ID:bh8WsPgM0
あ、やべ
>>221
の
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、メタルアレンジの曲だ。
を、
2000年代、台湾の作曲家JerryCにより作られた、『カノン』のメタルアレンジの曲だ。
に変えたい!!読んでくださった方、脳内で変えてください!
227
:
名も無きAAのようです
:2018/09/01(土) 23:53:13 ID:bh8WsPgM0
やべえ、本当にすんません…
>>214
素敵な→不敵な
です。
228
:
名も無きAAのようです
:2018/09/02(日) 16:09:21 ID:hcVKGRFE0
誠に勝手ながら、ファイナル板に移動しました。
最初から投下し直しています。
よろしくお願いします!
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1535846063/l50
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