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機動戦士ガンダムZERO
1
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 03:10:32
17年前、地球と宇宙を混沌に導いた戦争があった。
―――「人類革命戦争」
第四次世界大戦とも呼ばれたそれは、長年圧力外交を迫った地球連合に対し、軌道スペースコロニー連合、O.S.C.F.が叩き付けた下克上であった。
地球連合に対して10分の1の兵力で無謀ともいえる戦いを挑んだO.S.C.F.。コロニー側の人間にすら勝利を信ずる者は少なかったが
しかし蓋を開けてみれば、「モビルスーツ」という新しい兵器、それを扱う「エンハンサー」というDNA操作で生み出された人間兵器を擁するO.S.C.F側が半年という期間のうちに地球側のすべてを制圧してしまった。
中でもエンハンサーの活躍は目を見張るものがあった。
外宇宙という未知の環境でも適応していくための進化の過程と銘打たれた「発展人類―エンハンサー―計画」だったが、実情は戦争のための手駒――「ウォー・キッズ」の育成に過ぎなかっのだ。
戦後すぐにこの事実を隠蔽しようとするO.S.C.F.陣営の陰謀によって研究所の存在するセクター2コロニー群「エレクトラ」ごと核ミサイルで爆破し、真実は闇に葬られてしまった。
そして、現在――宇宙共通暦[U.C.E.]0017年。
地球連合を吸収併合し人類統治の要になった「人類連合」によりもたらされてきた平和は、新たな人類の敵により終わりを迎えようとしていた…
2
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 03:12:45
※本作品は、2006年初版「機動戦士ガンダム 〜Mission The Destroy 『TINZYU』〜」のリメイク()笑い版になります。
3
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 05:09:56
第一話「始まりの刻―とき―」
――とてつもなく暇だった。
U.C.E.0017年9月3日、セクター6「アステロペ」第14コロニーの天気予定は晴れ。リフレクターから取り入れられた太陽光が暖かく大地を照らす。
そんな陽気な雰囲気と対照に、どこか冷め切っていた少年が高校の屋上で一人読書を嗜んでいた。
少年の名はミハエル・カーライズ。片手に持つ本に刻まれた傷やシミが何度も読み返されていることを物語っている。
彼のたたずむ大時計の短針は1と2の間を示していた。もう午後の授業は始まっている。
5限目の歴史の授業では、17年前の今日終わった人類革命戦争の話をしている事だろう。
少数精鋭の勇敢な戦士たちにによって断ち切られた過去の因縁。しかしミハエルは全く興味が無かった。
それよりも変化が無い毎日をただ憂鬱に過ごすことに飽き果てていた。
「コントロール、こちらミスティ所属第41MS中隊ヴァリエッタ。入港の許可を求む」
《こちらコントロール、入港を許可する。第8ドッグへ進入せよ》
ヴァリエッタ、ラジャー。そう短く返信すると若い女性通信士――マヤ・ハルヴェスはインカムを外し、わざとらしく背伸びをしてみせる。
「アキツ艦長、コーヒーでも飲みますか?」
コントロールモニターに自動入港シークェンスに入った事を伝える表示が出ている事を確認すると、マヤはヴァリエッタ艦長、シンジ・アキツに問いかけた。
「そうだな、一杯貰うとしよう」
殆どのクルーも肩の荷が下りたようでCIC内は先程と一転、朗らかなムードになっていた。
人類に忍び寄る新たな脅威、ヴェノムが姿を現すようになったのは7年前だ。
旧セクター2「エレクトラ」宙域にて哨戒任務に当たっていた人類連合軍のゼファー級巡洋艦2隻からの通信が途絶えたため、軍は偵察用MS、GUR-01リーコン・ヒュドラを用いて調査に乗り出た。
その宙域に佇む黒い影をガンカメラが捕らえた刹那、リーコン・ヒュドラは撃墜されてしまった。
その後5年の時を経て各所に出没するようになったヴェノムに対応しきれなくなった連合軍は、民間軍事会社に対処を依頼するようになった。
大手民間軍事会社「ミスティ」もその一つだ。
「―今日配備される新型が、私たち人類の新たな希望になるんですね」
シンジはマヤから片手でコーヒーを受け取り、事前に受け取っていた機密文書に目を通す。
Guardian-unit
Using
Next technology for
Development of
Advanced
Man-machine
project
「ガンダム、か…」
次期人型防衛ユニット開発のための次世代技術を用いた実証試験機――という頭字語を当てはめた「ガンダム」という機体に、シンジはどこか高揚感のようなものを抱いていた。
4
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 06:39:43
「それにしても、なんで連合軍に直接配備しないんでしょうか」
搬入要員を眼下に見下ろしながら、マヤは呟く。
「まぁ、そりゃあ人類連合の事をよく思ってない人間がそれなりにいるって事だろ」
実際、地球では反人連同盟という組織が未だに各地で論争を引き起こしているらしい。
そんな彼らを刺激しないようにと、今回新型機はミスティへ導入される流れとなった。
「なんだグレコ、来てたのね」
「なんだとはなんだ!」
ヴァリエッタ所属パイロット、グレコ・グレイフォードは、マヤが入れたいくつかのコーヒーの中から無造作に一杯を取り、それを飲む。
「そういえばジェイドはどこにいるの?」
アイツなら…と言い掛けたところで、グレコはある用事を思い出した。
「――リョーマぁ…どこ行ったんだよぉ…」
愛犬、リョーマを探しジェイド・A・ティレットは第14コロニーの繁華街を渡り歩く。
搬入要員に聞いた「繁華街に消えて行った」という情報のみを頼りに探し回るが一向に見当たらない。
グレコの野郎に暇そうだから頼んでみたものの、何の連絡も来ない。
「しょーがない…暑いしとりあえず喫茶店にでも行くか…」
なんたって人為的に気温を管理しているはずなのにこんなにも暑いんだ。そう毒づきながらジェイドは喫茶店の扉を開けた。
適当に学校を抜け出し、すっかり氷の溶けたアイスカフェラテを机の傍らにミハエルは読書を続ける。
この喫茶店は人気の少ないところに建っているため客はほぼいない。静かなので、ミハエルはとても気に入っていた。
何度も読んでいる本のはずなのに、1ページ、また1ページと読むたびに本の世界へと引き込まれていき、いつも読み終わるころには日が沈んでいる。
――が、今日は独りではない
目の前の椅子に秋田犬が一匹、ミルクをごくごくと飲んでいる。
ここに来る途中でいつの間にか後ろに着いて来ていた。
「お前、あいつが飼っていた犬に似ているんだよなぁ」
そう、たしか「リョーマ」。そんな名前だった。
まだ地球に住んでいた頃、同じ孤児院の親友がどっかから拾ってきたんだっけか。
あいつは元気にしているんだろうか…そんなことを思っていると、また一人来客がきた。
今日は大繁盛だな、この店。
「あーおっちゃん、ミルクティー一つ、ガムシロ多目ね、後この犬見なかった?」
ああ、その犬なら…とマスターはミハエルの方に目をやる。青年の目線が重なる。
「リョーマ!!こんなところにいたのかお前!!」
ん?リョーマ?まさか――
「ジェイド?ジェイド・A・ティレットか?」
「お前…まさかミハエルか!?」
驚きを二乗したかのように目を見開きミハエルに飛びつくジェイド。
そういえばいつも煩い奴だった。
「なんでこんなとこに居るんだお前!!」
それはこっちの台詞だ。ジェイドほど感情をあらわにはしないが、旧友との再会にミハエルの心も躍る。
「俺か?俺は…」
ジェイドは少し躊躇ったような、口ごもった後に
「―会社の出張みたいな奴?自動車工学の」
本当のことは言わなかった。軍事機密の手前もある。
ここ第14コロニーはちょっとした工業地帯でもあり、有名メーカーのエレカーの製造工場も存在する。
ミハエルはすぐに納得した。
5
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 06:50:25
訂正
×ミルクティー
○アイスティー な
暑いのに熱いもん飲んでどーすんねん
6
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 08:01:10
旧友というものは不思議なもので、何年も会ってないのにパタリと会うと昔の話をさも昨日の話のように話し込んでしまう。
今の二人もそうだった。
孤児院での話、友人達数人と悪だくみを働いたこと等、話の種は尽きない。
気付けば、二時間近くは経っていたのだろうか。
リョーマはいつの間にか眠っていた。
「あ、俺、そろそろ行かないと」
そう切り出したのはジェイドだった。
「なんだもう行くのか、もうちょっとゆっくりして行けよ」
「そういう訳にも行かないんだこれが、同僚にうるせえ女が居てね」
立ち上がるとジェイドはリョーマをぽんぽんと叩いて起こし、勘定を済ませる。
「ここであったのも何かの縁だ、番号渡しとくから、何かあったら電話くれよ」
受け取ったレシートの裏にボールペンで電話番号を書き込むと、机の上に置く。
「じゃ、また会う日までってか!」
景気良くそう言い残すと、ジェイドはドアに手を掛け
「お前の分も払っといたから、リョーマの事、サンキューな!」
お祭り男は店を後にした。
「あと3時間以内に積み込みすっぞ!!最終調整を間に合わせろ!!」
「起動テストの結果報告はまだか!?」
連合軍の整備ドックでは引渡しのための最終準備が行われていた。
傍らで見守るのはパイロットのジェイド。その顔つきは先程と違って引き締まっている。
「ジーファ、か…」
XGT-017-1 ガンダムジーファ。
ガンダムプロジェクトの1号機であるジーファは、連合軍のヒュドラA2やヒュドラのミスティ独自改修型、レーヴェンなど、既存のMSに捕らわれない設計思想をしている。
軽量であり高剛性を誇るガンダリュウム合金と呼ばれる全く新しい素材によって作り上げられた機体は、2本のアンテナを持つ顔と共に異彩な存在感を放つ。
次世代のガーディアン・ユニット――守護神となるべく生まれて来たMS。
最終チェックを終え、積み込みに入ろうという時だった。
「―――ッ!!!???」
轟音と共に世界は大きく揺らぎ、大地の割れたような音がした。
いや、実際に割れたのだ。
「なんだ…あいつは…!!」
恐怖で顔がゆがむ整備員の指差す方向には黒い影。
――ヴェノムだ。
コロニーの端のほうの裂け目から侵入してきている。
すぐさまジェイドの通信機に通信が入る。
「おいおいおいおい!!なんだってこんなところに珍獣が出るんだッ!!!!」
《私も分からないわよ!レーダーにも何の反応も無かったし新種のヴェノムかもしれない!ジーファは出れる!?》
「やってやるさ!」
言うか早いかジェイドがジーファに走るも、二度目の轟音――――
7
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 08:51:52
最初の轟音からミハエルは自宅へと向かっていた自転車を180度転回させコロニーの端の軍港に向かった。
――どこかで見た事がある。
遠い昔に似たような光景を見た。黒くて禍々しい悪夢のようなもの。
次に何が起ころうとしているのかは分からなかったが、何をすべきかは明白だった。
――アイツを倒さないと
でもどうやって?
けたたましいサイレンがコロニー内に響き渡る頃には、軍港まであと200mの距離だった。
その時だった。
自分の横を通り過ぎる一筋の光条――爆発。
目の前にあったはずの軍港は吹き飛び、至る所から地獄のように火が噴出している。
凄まじい爆風により吹き飛ばされるが、それでもミハエルは走る。
このまま近づけば自分の命が危険に晒されるのに、そんな事は少しも気に留めなかった。
整備ドック――とはもう呼べない廃墟にたどり着き目にしたものは、横たわる大きな巨人とうめき声を上げる連合軍人たち。
一瞬うろたえたミハエルだったが、その中で見知った顔を見つけ駆け寄る。
「ジェイド!!!!」
至近弾は逃れたものの、ジェイドは全身から血を流し意識は朦朧としていた。
「――ミハエル…か…秘密…ばれちまったな…」
「そんな事はどうでもいい!!喋るな!!今すぐ救急車を!!」
「俺に構うな…早く…逃げろ…」
―救う方法は…何か無いのか!?
ミハエルが振り向き、先程の大きな巨人――ジーファが視界に入る。
――あのMSでコロニー外へ誘導して救助までの時間を稼ぐ!!
最早迷いは無かった。
「パワーユニットは生きてる…各部損傷は軽微」
新型機ということはおろかMSの操縦席に座った事も無いのに、ミハエルにはジーファを乗りこなせるという確かな自信があった。
それがどこから来るものなのかは分からない。
―だけど、今はッ…!
ヴェノムの第三射が放たれる前にジーファはスラスター全開で懐にもぐりこみ、そのまま押す形で軍港から突き放す。
倒れこんだそれは黒い巨体を震わせながらコロニー内のサイレンの音を消し去るほどの咆哮を発した。
《ジェイド!無事だったの!?》
コックピット内に通信が入る――違う、俺はジェイドじゃない。
「俺はミハエル・カーライズだ!ジェイドの友人で今あいつは傷だらけで他の軍人さんたちと苦しんでる!!速く助けてやってくれ!!!」
スピーカーから戸惑いの声が聞こえる。無理も無い。極秘の新型機に見知らぬ民間人が乗っているのだから。
―とりあえず!ミハエルは続けた。
「あいつをコロニーからたたき出す!!どこか外に繋がってるところに誘導してくれ!!!」
ざわつきの中から、一人の男の声が聞こえてきた。
《カーライズ君、私はミスティ所属ヴァリエッタ艦長のシンジ・アキツだ―――》
8
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 10:08:31
「グレコ・グレイフォード、レーヴェン、出るぞ!」
間一髪のところで難を逃れたヴァリエッタから一機、MSがスクランブル発進した。
敵は一体のみ。しかし、正体不明の新種ヴェノムに対抗するは民間人の乗るジーファ。
現状集中整備中だったMSのなかで出撃できる機体といえばグレコ機のレーヴェンのみだった。
お世辞にも優勢といえる状況ではない。
《グレコ機はコロニー尾部の緊急開放ハッチにて待機、ジーファと共にヴェノムがコロニー外に出現次第、攻撃を開始してください!》
―このままヴェノムが出てこなかったら第14コロニーもろとも消し飛んでしまうかもしれない。
そうなればジェイドは助からない。ジーファという希望も失せてしまう。
グレコを含め見守るしかなかった。
――20秒後にハッチを10秒間開放する、その間にヴェノム引っ張り出せ。
かすれた声の艦長はしかし力強く、ミハエルにこう言った。
「俺一人に人類の希望が託されてるってか・・・」
――冗談みたいな話だ、ついさっきまではただの高校生だった俺なのに。
20秒のカウントの後、ミハエルはスラストペダルを奥まで踏み込み、ヴェノムを抱え込んだジーファは矢のごとき加速でハッチを突き抜ける。
「こちらグレコ、目標を確認、攻撃を開始する」
あんぐりと口を開いたハッチからヴェノムと、続いてジーファが飛び出した
ビームライフルを構え、ヴェノムをターゲットサークル内に捉え、トリガーを引く。
放たれたビームはヴェノムに向かって走る。しかし――
「効かない!?どういうことだ!!」
当たったように見えたビームの光条は、ヴェノムの周辺に張られた球体の膜により直前に消失してしまっていた。
それならッ!――レーヴェンは腰部のウェポンラックから筒状のものを取り出し、筒の先端から身の丈ほどのビームを発生させる。
ビームサーベルだ。
「インファイトで俺に適うものか!」
ビームサーベルを斜に構え、グレコのレーヴェンはヴェノムに肉薄する。
――これが、戦い。
全天周モニター越しに映る殺し合いはとても生々しくミハエルの瞳に映る。
激しいつばぜり合いの末、レーヴェンのサーベルの切先はヴェノムのコアを貫く。
決着がついた。ヴェノムはその姿を保てなくなり、自壊してゆく。
たった15分ほどの出来事が、ミハエルには一生分に感じられた。
《目標の殲滅を確認。グレコ、お疲れ様。》
「それにしても、このタイミングでヴェノムが攻めてくるなんてな」
―何かの予兆じゃなきゃいいんだが…
ヘルメットを脱ぎ捨て、腕で額を流れる汗を拭いながらグレコは視線の先にあるジーファを見つめる。
「――ジーファのパイロット…ミハエルとか言ったか…同行を願えるか?」
9
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 15:06:43
―――あの事故から4年と幾日が過ぎた。
第2話「新たな敵」
[U.C.E.0021 10月21日 暗礁宙域『オルセディア』]
「こちらミハエル。担当エリアの哨戒終了。」
本日も異常無し、だ。そう付け加えるとミハエルはバイザーを上げ、コンソールから取り出したドリンクチューブを口に咥える。
《ヴァリエッタ、了解。グレコやジェイドの方にも異常は見られないみたいね、帰投して》
スポーツドリンクのような味のドリンクで渇いた口を潤しながら、ミハエルはマヤに「ミハエル了解、RTB」と短く伝え、通信を終了。
ジーファはヴァリエッタに向けて暗礁宙域を縫うように飛んでいった。
あの日からミハエルはミスティのクルーとなり、ヴァリエッタと行動を共にしている。
本来軍の最高機密であるジーファに搭乗したミハエルは人類連合軍本部に召喚され、裁かれるはずであった。
しかし、この事故が明るみに出る前にミスティ陣営は「補充要員」としてミハエルを迎え入れる事にしたのだ。
もちろん、不祥事発覚による信用失墜を避けるため、という名目でもあるが、ミハエルを受け入れる事をミスティ幹部に進言したのはヴァリエッタ艦長アキツであった。
あの日、ジーファを駆るミハエルを直接目にしたアキツは、ミハエル本人のセンスに興味を持ったのだ。
――あの操縦技術は生まれ持ったものだ。
アキツはかつて人類革命戦争で戦った若かりし頃の自分とミハエルを重ねあわせる。
かつてエンハンサーと呼ばれた強化兵たち。アキツもその一人だった。
O.S.C.F.の捨て駒にされたエンハンサーは終戦後にその能力を恐れた軍上層部の人間に存在を抹消されている。
が、軍による陰謀から逃れ生き残ったエンハンサーを自分を含め数十人ほど存在するという。
――年齢から察するに、恐らくミハエルは最後のエンハンサーだろう。
アキツは戦況モニターに映る「XGT-017-1 Zihua R.T.B.」の文字を見ながら、手元のコーヒーを啜る。
11
:
きのぼりなみー
:2014/05/01(木) 18:07:50
ミハエル、ジェイド、グレコの3人でミッションを遂行したあとは、必ず行っている風習がある。
『だれが一番速くブリーフィングルームにたどり着けるか』
デブリーフィング後の三人の表情から、今回の勝者はグレコのようだった。
「また俺がドベかよ…これで連続三回目だぜ」
「約束は約束だ、今回もご馳走になるぞ、ジェイド」
悪態をつきながらとぼとぼと歩くジェイドに、グレコが追い討ちをかける。
最下位の者は勝者に食事を奢る。そんな事を言い出したのは誰でもない、お祭り男・ジェイドだった。
財布の中を確認し、さらに深いため息をつく。
「月末までもたねぇよ、コレじゃあ」
「そうなったらリョーマのメシでも分けてもらうんだな」
「ミハエル…冗談きついわ…」
和気藹々とした三人の姿は、食堂の奥へと消えていった。
定期哨戒任務を終えたヴァリエッタは、地球の人類連合アジア支部・香港に向けて、地球降下の準備を行っていた。
新型機と補給物資の受領、また人類連合の催す観艦式に参加するためだ。
前回までは軍直属の艦のみが参加していたが、今年はPMCであるミスティも参加する事となった。
「地球、ねぇ」
戦利品のカツ丼を頬張りながら、グレコは呟く。
「そういえばグレコは初めてなのか、地球」
「ああ、養成学校時代に教科書で見たことあるだけだな」
「ほぉー…」
別に珍しい話でもない。人類連合により人々の主な生活の場が宇宙に本格的に移行してからは、宇宙生まれ宇宙育ちという人間も少なくないのだ。
「あの子は元気にしているかねぇ…」
「あの子?」
唐突に話を切り出したジェイドに、ミハエルは少し驚く。
「トウカちゃんだよ、トウカちゃん!」
「ああ!」
トウカ・イノウエ。
孤児院でいつもつるんでいたメンバーの中の一人。
どこか男勝りの性格で、幼少の頃のミハエルよりも行動力があり、あのジェイドと肩を並べる子だった。
「俺もお前も、中学に上がるころには孤児院から独立してったしなぁ」
ミハエルはセクター6の名門中学へ、ジェイドは軍の養成学校へ。
時間は過ぎていくものだ、いつまでも同じ環境で過ごせるとは限らない。
「そういえばトウカは孤児院に残ったんだっけか、今頃何してるんだろうな―――――」
[同日 地球、日本]
人類革命戦争により宇宙の植民地と化した地球。
地質学、地理学の研究者たちが西暦2000年ごろに海面上昇の危険性を訴えてから300年と半世紀あまりの年月が流れ、果てには全体で40%の陸地面積を消失していた。
アジアの島国、日本もまた、例外ではなかった。
沿岸に位置するかつての首都、東京や大阪や愛知等の地方都市は70%以上が海面下に沈み、最早その機能を維持していなかった。
しかし、首都機能を内陸の群馬に移し、独自の通信技術や工業技術を積極的に海外に売り込むことにより、現在の日本という国は成り立っていた。
―そんな日本の首都、群馬県某所。
うっすらと海を見ることができるに山中に、小さな孤児院が建っていた。
12
:
きのぼりなみー
:2014/05/10(土) 23:10:06
『人連香港支部は、来月に開催される連合軍観艦式に向けての公開予行演習を行う事を発表しました』
「これで全部、っと」
手元の洗濯物を干し終え、ふぅ、と一息つくトウカ。
「キサカさーん!テレビのボリューム下げて!」
「大丈夫だって、ここいらじゃ住んでるのはワシ等以外に―――」
「そういう事じゃなくって!子供たちが起きちゃうでしょ!!」
観念したのか室内からニュースキャスターの声が聞こえなり室内に戻ろうと踵を返そうと振り向き、雀の編隊飛行に気付く。
飛びゆく雀たちに視線を送ると、山麓に広がる街と…
「トウカせんせー!」
ひょこっと小さな頭が視界に入った。
トウカは子供の目線と同じ高さになるようにしゃがむ。
「んー?ミツキ、さっきまで寝てたんじゃないの?」
「あんまり眠くないから起きちゃった」
「そっか」
トウカは手を伸ばし、ミツキの頭を撫でる。
「先生、何見てたの?」
「うーん、そうだねぇ…」
そういえば、私は何を見ていたんだろう?
雀たちの飛んでいった南の方――東京、杉並港。
既に日は傾き、太陽が地平線に半分埋めていた。
眩いオレンジ色の光が停泊していたヴァリエッタの白い船体を染める。
――ヴァリエッタ及び以下クルーは、5日後に行われる予行演習まで杉並港にて待機せよ
「早い話が休暇、ね…」
アキツの命令文を反芻し、ハンヴィーの後部座席でグレコは呟く。
「ま、いいんじゃないの?ここんとこ出ずっぱりだったし」
懐から煙草を取り出し火をつけるジェイド。
「ところでミハエル、あとどん位だ?」
「後30分くらいで高速を降りて、一時間ってとこかな」
助手席から漂ってくる煙に眉をひそめながら、ミハエルは故郷に向けてハンヴィーを走らせる。
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