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ソラの波紋

69心愛:2012/12/24(月) 20:07:46 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp






『わたくしは心が読めるの』



『……心?』



『そう。心の声を聴くことができる。全てのものが視える』



リリスは万人が褒め称える、艶っぽく麗しい笑顔で言った。



『わたくしの異能ですわ、落ちこぼれさん?』




空牙はしばし黙って紅い双眸を大きく開き、彼女を見つめていたが、




【……つらく、ないのかな】




ぽつりと、そう胸中で呟いた。



『……どういう意味ですの?』



それを聞き流すリリスではない。
問い詰めるように、身を乗り出した。



『つらい、とは』



『えっ……あ、あの、すみません』



空牙は慌てたようにまくし立てた。



『ひがんでるわけでも、馬鹿にしてるわけでもなくて。ただ、その……俺だったらつらくて頭おかしくなるだろうなっ……て、思って』



それが彼の、偽りなき本心だというのは―――思考を読まなくても、明らかなことだった。
一生懸命に考えながら、たどたどしく説明する彼。



『全部視えるっていうのは、この世界の全部を知る……全部を一人で背負い込むってことでしょう? それは、凄くつらくて、大変なことですから』



『……そんなこと』



『ありませんか?』



言葉に詰まる。
らしくもなく、リリスは狼狽していた。


それに、と空牙は不意ににこりと笑って。



『姫はとても努力家なのですね』



『……だから、何を言っていらっしゃるの?』



『これだけの本―――全部専門書ですよね。俺を待つ時間まで惜しんで、勉強していたのでしょう?』



机に積み上げた本を見て、空牙が感心したように言う。

そんなことか、とリリスは肩を竦めた。



『王として当然のことですわ。冷静で公平な判断には、あらゆる知識が不可欠ですもの』



『凄いですね』



リリスは眉を潜める。
本気で。
本気でこんなことを言う、この少年の意図が全く分からない。




『俺とそんなに変わらない年齢なのに、つらい思いをして、それでも民の為に努力して下さっている。やっぱり姫は、凄くて―――優しい方です』




リリスは目を見開いた。



『や……優しいだなんて! わたくしは、そんなこと考えたこともありませんわ!』



声を荒げる。
努力しているのは確かだけれど、そんな立派な理由じゃない。


こんな発言をしたことが知られたら、自分の今後にとって不利なのに―――それでも、何故だろう―――言わずにはいられなかった。



『わたくしはただ、自分の立ち位置を守りたいだけでっ―――』



『でも、結局そうでしょう?』



彼の前で、リリスは一人の少女だった。

ただの、……本当にただの子供にすぎない、か弱い少女。



『父も母も、街のひとたちもみんな言ってます。新しくエルゼリア王になったお姫様は、まだ小さいのに凄い方だって』



そして、空牙は、きっとリリスが生涯忘れることができないような―――そんな、眩しく晴れやかな顔で。




『お姫様が頑張っているお陰で、このエルゼリアは平和でいられるんだって』




―――だから、有難う御座います。




じわ、と熱くなった目もとを誤魔化すように。
頭を下げた彼を視界に入れないように、とっさに俯いた。



……そう思ってくれているひとが、いる。



勿論全員じゃないけれど、
それでも。


リリスが必死にしてきたことで、喜んでくれる。
有難うと、言ってくれる。

そんなひとがいる。


いた、のだ。




『俺は、異能が使えないし……キサラギでも発言力も何もない、一番の役立たずですけど』




極めて真剣に、空牙はリリスを見据えた。




『ずっと、俺が尊敬し続けている貴女の為に―――この俺に、どうか力を貸させて下さい』


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