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VaMPiRe
207
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/03(土) 22:18:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
白波涙は目が覚めた。
といってもはっきりと意識があるわけではない。意識は朦朧としているし、瞳は虚ろなまま薄っすらとただ開いているだけと同じだ。そんな彼女は本能的に辺りを見回してみる。目を開けて数秒後、両腕を後ろで戒められていることに気付き、さらに数秒後にどこか分からない廃屋のようなところにいると判断できた。
彼女は薄暗い部屋の全体を見ようと頭を動かそうとしたところで、後頭部に激痛が走る。
「……ッ!?」
その痛みでようやく彼女は全て思い出した。
深夜に悪魔を退治しに行った事。髪の長さを気にしていたら突然背後から襲われたこと。犯人を見ようとしたがその前に意識が途切れてしまったこと。
ここまで来てようやく自分は拉致されたのだと理解した。
「……ここは、一体……?」
彼女がそう呟いたと同時、右手に鉤爪を装着した男が近づいてくる。
彼は不気味な笑みを浮かべたまま白波に近寄った。
「よォ、お目覚めかよ」
「……紫々、死暗……? 私をここへ拉致ったのはアンタってこと? それとも『四星殺戮者(アサシン)』が関係しているの?」
「キヒヒ、やっぱお前はそう考えるんだな。あらゆる可能性を考えて、その上で打開策を練る。弟みたいでイラつくぜ」
紫々はそんなことを、鉤爪をがちがちと鳴らしながら言った。
「兄さん、僕を小賢しいみたいに言わないでよ。頭が足りてないのは兄さんの方なんだから」
部屋の隅から聞こえる声。
夜目にも慣れてきたせいかそこに誰がいたのか分かった。いや、言葉を聴いただけで誰かは明白だろう。紫々死暗を『兄』と呼ぶ時点で、答えは決まっている。
そこにいるのは紫々伊暗だ。
彼がいるのは部屋の隅だが、壁際の白波とかなりの距離がある。それだけでここはかなり広いんだと予測が出来た。
「それと白波涙だっけ? 君の予測は大ハズレだよ」
伊暗は立ち上がりながらそう言った。
彼はポケットに手を突っ込んで、壁に背を預けながら続きを口にする。
「今回の件に『四星殺戮者(アサシン)』は無関係さ。そもそも、誰が壊滅させたと思ってんの? 君らにやられてから日が浅いわけじゃないんだけど」
「……じゃあ、一体誰が……」
「キハハハハ!! やっぱり、魔界でのことを大体把握しているテメェでも知らなかったかァ!! 俺らが、実は『三兄弟』だったなんてなァ!!」
白波は言葉を失う。
紫々死暗の弟に伊暗がいることは知っていた。死暗が『四星殺戮者(アサシン)』を実質的に動かし、その作戦を綿密に立てるのが伊暗というのがスタイルだった。
彼らの上にさらにいたということは初めて知った。
「紹介しよう! アイツこそが、俺ら紫々兄弟の長男ぐふぅっ!?」
左手で白波から見て右側を指し、もったいぶる紫々の顔に警棒が直撃する。そのため、紫々の言葉が不自然に途切れ、彼は地面に倒れこんでしまった。
右側から不機嫌そうな溜息が聞こえ、紫々兄弟のトップは口を開く。
「だーれが長男よ。人を勝手に男にすんなっての。えーと、シロナミ? シラナミ? まあどっちでもいっか」
かつこつとブーツの音を鳴らしながら、紫々兄弟、改め紫々姉弟の長女が白波の目の前まで歩み寄ってくる。
腰近くまで伸びた紫の髪に、髪と同色の鋭い瞳。ニーハイブーツを着用したスタイルの良いその女性は、転がっている警棒を拾い上げ。腰のベルトに挿し込むと、
「初めまして、だけは言っておこうか?」
腕を組んで自分の名を告げた。
「どーもー。紫々三姉弟の長女、紫々浪暗(しし ろあん)でぃーす♪」
208
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/09(金) 23:22:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「―――紫々、浪暗―――?」
どんな敵が攻めてきてもいいように、魔界からかなりの情報を集めていた白波でも紫々兄弟に姉がいるなど初耳だった。
兄の紫々死暗は暗殺部隊『四星殺戮者(アサシン)』のリーダーであるから、有名なのは分かる。それを裏で仕切っているのが弟の紫々伊暗だ。この話も結構有名になってしまっている。
それに比べ、姉は表舞台に顔を見せていない。そのためか、認知度が低いのかもしれない。
彼女はニコッと笑みを浮かべ、きょとんとする白波に、
ゴッ!! と拾った警棒のようなステッキで白波の顔面を殴りつける。
「……ッ!?」
何が起こったのか分からない白波。
彼女は大きく目を見開いていた。殴られたと気付くのに数秒の時間を有した。
浪暗は片手で器用に警棒のようなステッキを回しながら、
「あー、愉しいわ。やっぱ何度やっても飽きないわよねー。こうやって、」
さらにもう一度。
浪暗は抵抗が出来ない白波の頭部を強く叩きつける。抵抗も出来ず、かわすこともままならない白波は、ただただ殴られるしかなかった。
一方で、理不尽な攻撃を加える浪暗は楽しそうな表情を浮かべている。
「無抵抗な人間をなぶるのってさァ」
浪暗は僅かな呻きをあげる白波の顎を、警棒のようなステッキの先でくいっと上げる。視線をこちらに向けるように。
彼女と目を合わせれば浪暗はつまらなそうな顔をして、
「そういえばさぁー、何で私がアンタを攫うように命令したか分かる?」
白波は質問に答えようと思考を働かせるが答えが出ない。
殴られたダメージで考えるどころではないのだ。元々疲弊していたのもあって、今の彼女にとっては殴られるのでさえ大きなダメージだ。
白波は朦朧とする意識の中、必死に言葉を紡いだ。
「……仇、討ち……?」
「はい残念ー♪」
ガッ!! とさらに彼女の顔を浪暗の理不尽な攻撃が襲う。
浪暗はくるくると手で警棒のようなステッキを回しながら、
「そんなこと私が考えるわけないでしょー? 勝手に行って勝手にやられてきた弟達を哀れむかっての。私はただ個人的に赤宮真冬達が気に入らないだけよ」
「……?」
言われても白波は納得できていない。
今の状態で思考を働かせるのに無理がある。本人でもそれは感じていた。
浪暗は笑みを浮かべたまま、
「ただっ、アイツらがっ、気に入らないだけよっ! だからっ、アンタを餌にしてっ、助けに来たアイツらを、ここで根絶やしにするっ!! そういうわけ」
ガッ、ゴッ、ドンッ!! と白波を殴る音が連続する。
散々殴られた白波はそのままぐったりと気を失ってしまった。無理も無い。疲弊しきっている上に何度も殴られたのでは、彼女じゃなくとも気を失うのはおかしいことではない。
浪暗は壊れてしまった道具を見るような目で白波を見つめ、やがて重たい溜息をついた。
「なんだぁー、もう終わっちゃったのかー。つまんないなぁー」
「姉さん。あんなにボコったら当然だよ」
「んもー、伊暗ってば。そんな素っ気無い返事返さなくてもいいじゃーん」
ぶー、と頬を膨らませて最大限の可愛さアピールをする浪暗だが、伊暗にばっさり『可愛くないから』と言われてしまう。
浪暗は警棒のようなステッキをベルトの間に挿し込み呟く。
「ま、いいか。いい加減自分達が弱いって気付かせてあげるよ。強いと勘違いしてる赤い吸血鬼さん♪」
209
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/24(土) 22:46:59 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第23話「狂気粉砕へ」
白波を攫った犯人が紫々死暗だと判明した日の深夜。真冬はこっそり霧澤の部屋から出て、家からも出る。別に家出というわけではない。彼女は携帯電話で呼び出されていたのだ。場所は朧月病院の屋上。呼び出したのはこの病院の院長の息子である朧月昴だ。
真冬が屋上へと行くとそこには朧月の他に朱鷺綾芽、茜空九羅々、茨瑠璃の姿があった。茜空と茨は真冬と同じように契血者(バディー)の奏崎を連れて来ていない。
着いた真冬はとりあえず、契血者(バディー)を連れて来ないように、と念を押した理由を聞いた。
「白波が何処にいるか、それはもう全員分かってる。だが、場所を知った霧澤は動くかも知れねぇ。まずは作戦を立てる。赤宮、お前には奴を制止してほしいんだ」
え、と朧月の言葉に微かに驚いたような反応を見せる真冬。
しかしながら、扇子で口元を上品に覆っている朱鷺は、真冬に視線を向けながら反論じみた言葉を放つ。
「別に貴方が危惧しなくても夏樹さんは大丈夫だと思うのですが。夏樹さんもそこまで馬鹿じゃありませんわ。むしろ、こういう時こそ彼はよく考えて行動するんじゃ―――」
「だと良いですけどね」
朱鷺の言葉を茜空が遮る。
彼女は屋上のフェンスに体重を預け、腕を組みながら立っている。妙にその体勢が格好よく映っている。この体勢が似合うのはこの中では、茜空と朧月だけだろう。だが、朧月は壁に寄りかかったりはしていない。
茜空のオレンジ色の左目が、僅かに光って見える。
「敵や囚われている人間にもよるでしょう。少なくとも、僕の時は状況が状況で考えてる余裕もありませんでしたがね。敵はかつての大敵。囚われているのは白波さん。まー、後先考えず行動しそうですよね。しかも、紫々が言った『早くしないと壊す』という宣告。この発言をどこまで信じるかは自由ですが、少なくとも僕は危機感を感じています。本当にやりかねないなっていう、危機感をね」
発言に、朱鷺は反論する材料が無いのか黙り込んでしまう。
「過去のこともあって、煽られちゃ、お兄ちゃんも焦っちゃうと思う。今回は、ちょっと冷静さを欠いちゃうかも」
茨の発言に、更に朱鷺は気まずくなり扇子で顔を隠してしまう。
その光景を珍しく思いながら真冬は、朧月に問いかける。
「だとしたら、乗り込むのはいつになるの? 私もクララちゃんと同じで紫々は本気だと思う。私達が遅れれば遅れるほど涙ちゃんの命の危険性は上がるよ」
「まあ待て。最近お前霧澤に似てきたな。まずは情報収集だ。つーわけで朱鷺、お前一回魔界に戻って調べて来い」
指名された朱鷺は、顔を隠していた扇子を払い、『はあ!?』という抗議の声を漏らす。
彼女の甲高い声が夜空に大きく反響した。
「ええー? まーたわたくし裏方ですの? 久しぶりに暴れられると思ったのに」
「契血者(バディー)がいなくて自由に動けるのがお前しかいないんだよ。いいから従え」
「命令口調が腹立ちますわ!」
口を尖らせて抗議体勢の朱鷺に、朧月は額に手を当てて溜息をついた。『この手を使うか』と朧月は用意していた切り札を使うような台詞を吐き、朱鷺にこう宣言した。
「任務を全うした暁には霧澤と一晩過ごせる券」
「乗りましたわ!!」
「ちょっと待ってよ昴くん!?」
朧月の発言に朱鷺が快く(目は血走っていたが)了承し、朧月のとんでもない提案に真冬が半ギレする。
その光景に茜空が溜息をついている。ぶっちゃけ霧澤と誰がベッドインしようが彼女には興味が無いし、その過程で霧澤との間に誰との子供が出来ようとも彼女には関係ない。そんな深いところまで考えているが、ぶっちゃけるとどーでもいい。いつの間にか三人の話し合いに『私も頑張るから今度お兄ちゃんと遊びたいー』などと茨も混ざった。こりゃ長く続きそうだと考えた茜空は馬鹿馬鹿しくなって一人だけ先に帰ることにした。
結果的には朱鷺が任務を全うしてくるので、真冬は霧澤を全力で守ることになった。茨の提案にいたっては、好きにすれば良いという結論にいたった。
210
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/25(日) 21:21:42 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
馬鹿どもの激しい論争が白熱する中、茜空九羅々は一人でさっさと帰っていた。
理由は馬鹿どもに付き合いきれないと思ったからである。あのままあそこにいては、自分も何らかの流れからあのどうでもいい話に巻き込まれそうな気がした。多分朱鷺あたりが『自分には関係ないと思っていたら大間違いですわよ!』などと言ってきそうな気がした。
ぶっちゃけると、彼女は霧澤夏樹に対して特別な感情は抱いていない。友達といえばそれまでである。本来ならば嫌ってしまいそうな人格だが、奏崎の友人(片思い中の相手)なら無下に嫌うことも出来ない。だから無理矢理といえば無理矢理、彼に対して好意的に接している。しかし、それも表面的な話であって、彼と二人になれば彼へ敵意を少々向けてしまうし、嫌悪感を少なからず放出する。
彼女があの場から去った理由はもう一つある。それは奏崎が気になったわけではない。ただ単に一人で考え事をしたかったからだ。
彼女は暗い夜道をとぼとぼ、という効果音が似合いそうな足取りで進んでいく。時折道の端に立っている街頭の光の眩さに僅かに目を細めたりしながら彼女は家路へと向かう。
「……なんつーか、かなり悠長ですよね、あの人達」
溜息でもつきそうな口調で茜空がぽつりと呟く。
オレンジ色の瞳で空を見上げる。眼帯によって隻眼となっている彼女のオレンジ色の瞳には、暗い夜空に浮かぶ星々を映し出していた。きれいだ、と思う。ただ素直に、率直な感想を彼女は抱いた。
「どっちにしろ、遅かれ早かれ紫々は行動に出る。それもこっちが看過できないような。それから動くか、その前に動くか。どっちにしろ今の状態では前者の方になりそうですね」
彼女は退屈そうに自分の髪をいじりながら言う。
街頭の下に彼女がいれば、その銀色の髪は自ら輝きを放っているかのように光りだす。
その美しい輝きを誰の瞳に映すこともなく、彼女は一人で呟き続ける。
「こっちの戦闘要員は僕を含めて三人。朱鷺さんを入れて四人。ちょいとキツイような気もしますね。やっぱ白波さんが抜けた穴はデカイですね」
でも、と茜空は続けながら右手を夜空に向けて伸ばす。当然だが何も掴めはしない。
「その大事な彼女を助け出すために僕らが尽力しないと、ですよね」
分かってます、分かってますよと言いながら彼女は家路へと向かう足を急がせた。
211
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/27(火) 16:42:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
今は何時だろう?
目が覚めてから白波が思ったことはそれだった。
薄暗い廃屋の中。カーテンで閉め切られている窓の光も何も無いこんなところでは時計があっても時刻を確かめることもままならない。しかし、白波は気になっていた。監禁されているとはいえ。人質になっているとはいえ。せめて今が何時なのか、それだけは把握しておきたかった。
すると薄暗いこの部屋に一人の人物が入ってきた。
紫々姉弟の長女、紫々浪暗だ。
長男の紫々死暗曰く、彼女はサディスティックな性格で、身動きが取れない相手を嬲(なぶ)ることが大好きらしい。しかし、意外と乙女的な一面もあるらしく、たまにだが恥ずかしがったり照れたりすることもあるようだ。しかし、会って早々散々殴られた白波にとってはそんな一面はどうでも良かった。あってもなくても、自分への接し方は変わらないのだから。
真っ直ぐ白波に近づいてきた浪暗は、警棒のようなステッキで自身の肩を軽く叩きながら、
「ただいま午前八時でございまーす。良い子の皆は元気に登校してる頃かな?」
白波の心を見透かすように時刻を言った。
あらかじめ時計か何かを見ていたのだろう、若干のズレはあるだろうが大体の時間が把握できれば問題ない。そんなに細かく分や秒を知ったってどうにもならない。
浪暗は溜息をつきながら、
「しかしここって不便よねー。時計もないし。っていうかアンタトイレとか大丈夫なの?」
僅かに視線を上げた白波は、睨みつけるような眼差しで浪暗に言う。
「……どうせ、行きたいって言っても行かせてくれないでしょ……?」
「馬鹿ね、行かせるわよ。女の子の失禁なんて誰が見て得すんのさ。どうせアンタの契血者(バディー)くらいしか興奮しないでしょ」
手は鎖で繋いだまま行かせるけどさ、と付け加えるように笑顔で言った。
すると白波のお腹が、きゅぅ、と可愛らしい音を鳴らした。
その音を聞いた浪暗はすかさずポケットの中を探り、
「食べないよりはマシでしょ。はい、口を開けなさい」
一つの飴玉を取り出した。
何か変な物でも入っているんじゃないかと疑う白波だったが、やがて素直に口を開くと飴玉を口の中に放り込まれた。何てことはない、普通のみかん味の飴玉だ。
その飴玉を口の中で転がしながら、白波は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
何故、この女は自分にここまでしてくれるんだろう?
時刻を伝えたり、トイレに行かせると言ったり、飴玉を差し出したり。
どう考えても監禁してる相手にする行為ではない。たとえ自分をここに連れて来た理由が、真冬達をここに誘うためでもここまでするだろうか?
白波は彼女の真意を測りかねていた。
浪暗は思い出したように、『あ』と呟くと、
「ちょっくら出かけてくるわね。あの馬鹿な弟どもももう少しで帰ってくるだろうけど、ちゃーんと大人しく待ってるのよ、涙ちゃん♪」
白波の頭を優しく撫でながら微かな笑みを浮かべて部屋から退室していった。
「……やっぱり、わかんない……」
勘繰れば余計に。
彼女といれば余計に。
紫々浪暗という人物像が掴めなくなってしまう。
212
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/30(金) 21:13:19 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
中々連絡が来ない。
朱鷺が魔界へと情報を収集に出かけて二日経つが、未だに霧澤にも朧月にも何の情報ももたらされなかった。霧澤達は昼休みに屋上に集まることが習慣だとでもいうように、自然に足が運ばれていった。
四角形になるように座った後、不安が募ってきた真冬が口を開く。
「……涙ちゃんがいなくなって五日くらい経つけど……、何の進展もないね」
真冬の言葉に返事は無い。
全員がどう言えばいいか分からないからだ。何て返せば正解なんだろうか。どう対応すればいいのか。励ました方がいいのか。正解の言葉も、対応の仕方も、励ます方法も思いつかない。いや、正解なんてないし、対応なんてできっこないし、方法なんてあらかじめ用意されてないのかもしれない。
霧澤は何気なく携帯電話を開くと珍しく汐王寺からメールが届いていた。
彼女とはフルーレティの一件以降連絡を取り合えるようにしており、メールは常に霧澤からだった。彼女とのメールの回数こそそこまで多くない。だが、今回ばかりは頻繁にするようになっており、大抵自分からメールしない汐王字からメールするなど、彼女も相当不安になっているようだ。
内容は『進展はあったか?』という女子のメールとしては、可愛らしさが足りない味気の無い内容だ。
『いいや』とこちらも短く返信すると『そうか。何かあったら連絡頼む』と男子とメールしているような内容のメールが届く。
「……白波さん、大丈夫だよね……?」
奏崎が口を開く。
大丈夫、というのは『死んでないよね』というニュアンスの言葉だろう。
死んだ、という内容を紫々が伝えに来る可能性は極めて低い。自分達が突入したら既に死んでいた、というパターンも考えられなくない。
そんな奏崎の肩にぽん、と茜空が優しく手を置く。
「大丈夫ですよ。感知されにくい場所にいるか、もしくはそういう結界を張っているせいか分かりませんが、僅かに白波さんの魔力を感じます。まだ生きてますよ」
茜空の言葉に奏崎はこくりと頷く。
だがそれもいつまで続くか問題だ。いつまでもこのままというわけにもいかないだろう。
そんな時、霧澤の携帯電話が着信音を鳴らす。
これはメールの受信ではなく電話だ。表示された名前は朱鷺綾芽。
霧澤は急いで携帯電話を開くと、微妙に荒くなった声で『もしもし!?』と返す。
その様子に驚いた様子で、朱鷺が話し始める。
『……どうかなさったんですか……? びっくりしましたわ。まあいいでしょう、それでは今からわたくしが手に入れた情報をお伝えしますわ』
霧澤は息を殺して朱鷺の言葉を待つ。
彼女は資料を見ながら電話しているのか、紙をめくったりした時に聞こえる音が微かに霧澤の耳に届く。
朱鷺は落ち着いた口調で、
『恐らく首謀者は三人ですわ。皆さんご存知の紫々死暗と紫々伊暗。そして、彼女達の姉―――紫々浪暗が今回の犯人ですわ』
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