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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

644earth:2011/07/02(土) 00:12:18
というわけで何とか書き上げた第1話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第1話

 太陽系そっくりの恒星系を一つ入手した耕平は、そこを拠点として自身の勢力圏の拡大を急いだ。 
 幸い耕平が居る世界の銀河は、天の川銀河と同じであったために恒星系の外の開発も、そこまで困難なものでは
なかった。あちこちの星に資源採掘施設を置き、そこから回収した資源を元素変換装置などで必要なものに加工していく。
 無数の無人機械が資源のために無遠慮に惑星を掘り返していく様は、姿形が違うとは言え、BETAを彷彿とさせる。
だが耕平にそんなことを気にする余裕は無い。

「防衛拠点の建設、そして資源地帯の開発は順調。何とか艦隊整備計画も進められるな」

 耕平は自室に持ち込まれたレポートを見て安堵した。だが採掘される資源の量は耕平を満足させられるものではない。

「でも資源が少ないのは変わらないな……以前の勢力圏よりも遥かに狭いし」

 敵がいないので、勢力圏の拡大は容易であった。しかしそれでも以前の勢力圏には及ばない。
  
「銀河系一つを支配できれば、もっと強力なユニットが……いや、でもあんなの大量生産して大丈夫か?」

 イデオンのような反則な兵器さえ現状では生産は出来る。だが必要となる資源の問題で現状で生産は難しい。
さらに耕平としてはあまりにも強力なユニットの生産には二の足を踏む。二度目の死は強力な兵器の暴走によって
起きている。下手なことをして、自分で揃えたユニットのせいで再び死ぬのは勘弁だった。

「……まぁ安全装置をつけて暴走しないように注意しておけば大丈夫だろう」

 取りあえずそういって耕平は自身の不安から目をそらす。強力なユニットの予期せぬ暴走には不安を感じるが
強力なユニットを作らずに外敵に負けては元も子もない。

「取りあえず当面の敵はBETA。それにその創造主の珪素生命体。まぁ運営が作っていた特殊ユニットってこと
 も考えられるけど……本当にそうなのかは判らない。叩くとしたら、取りあえずはアンドロメダ級の量産がある
 程度終ってからだな」

 10万トン級戦艦であるアンドロメダ級の生産に必要となる期間はそう長くは無い。建造期間、価格ともに戦力的
な価値から考えるとかなりお得な部類に入ると言える。まぁ改造しているだけコストは上がるが許容範囲であった。
  
「余裕が出来たら兵器の生産だけじゃなくて、工廠自体も生産する必要があるな……超大型工廠は中々作れないが
 中小のなら生産して各地に配備できる」

645earth:2011/07/02(土) 00:12:53
 黒旗軍が艦隊整備計画に基づいてアンドロメダ級を量産し、配備し始めた頃、BETAと戦い続けている
人類では史実には無い動きが広がっていた。
 西暦1997年8月。BETAとの戦いによって多くの列強が没落する中、世界の覇者として君臨する
アメリカ合衆国の首都ワシントンDCの一角にあるビルに背広姿の男達が集まっていた。
 彼らは表向き様々な派閥に属する者たちであり、本来なら反目しあう存在であったが、この建物の中では
そんな様子は全く無かった。
 男達は盗聴の危険が無い地下の会議室に集まるとすぐに口火を切る。 

「『あの世界』と同じようにユーラシア失陥は時間の問題だな」
「並行世界とは言え、歴史は繰り返すというわけか……日本は?」
「あの国もそれなりに足掻いているようだ。我々の『同類』がいるからな」
「我々だけが『情報』をもっていれば、もっと楽だったのだが……なかなかうまくいかないな」

 男達は苦笑するが、すぐに議論に戻る。

「しかし、よい事もある。あの国の軍、特に陸軍で反米感情が『あの世界』ほど露骨ではない。一部の有力者の
 間ではソ連や統一中華を警戒する動きさえある」
「WWⅢとクーデター事件のせいか」
「それと本土を蹂躙されたせいだろうな。西日本が灰燼に帰す可能性があるとなれば、少しでも我々との関係を
 維持しようとするのは当然だろう」
「あの雌狐は?」
「AL4と並行して、別の計画にも携わっているようだ。やはり連中も先駆けて接触したいのだろう。あの
 宇宙船の持ち主に」
「やはりか……あれだけの力の持ち主が現れる可能性が高いとなれば手を打つのは当然と言える。我が国は
 どうなっている?」
「監視体制の強化に加えAL5計画の一環で、太陽系航路の開発のためとしてG元素を利用した宇宙船の建造を
 進めることになった。これがあれば連中よりも早く接触できる可能性が高くなる。『伝言』の作成も順調だ」

 新たに出現するであろうBETAに敵対とする異星人とのいち早い接触は国益に直結した。
下手に他国に抜け駆けされては目も当てられないことになる。
 
「しかしBETAへの対処も問題だ。G弾、あれの大量運用に問題があるとなると面倒だな」
「詳しいことは今後、再検証する必要がある。ことがことだからな。だがソ連領へユニットが落着するのを
 防ぐために宇宙への配備は急ぐべきだろう。我が国の覇権を揺るがすような事態はさけなければならない」
「尤も、あの異星人が本格的に介入してくれば、我が国の覇権など吹っ飛ぶがな」
「だからこそいち早く接触する必要がある。そうだろう?」

 この言葉に誰もが頷いた。

646earth:2011/07/02(土) 00:13:34
 ワシントンDCで密談が繰り広げられている頃、日本帝国でも一部の有力者が京都の老舗料亭に集まって
密談を繰り広げていた。

「不本意だが、米国との関係は密にせざるを得ない」
「部下達の不満もあるが、補給の問題で米国との関係が必要なことを周知させるしかない」
「だな。あとは大侵攻にどう備えるかだ。正直、あの大侵攻を水際で退けるのは難しいぞ。時期も悪い」
「どうやっても、西日本は焦土と化すか。財務官僚が卒倒するな……」

 彼らは今後起こるであろうBETAによる日本本土侵攻の対策に頭を悩ませていた。
 尤も事情に詳しい者ならすぐに気付いただろう。彼らがBETAの侵攻時期や規模をすでに知っているか
のように話していることを。

「やはり海軍は展開できないのは痛い」
「日本海から侵攻されたら挟撃されて潰滅するのは確実。だが参謀本部は水際防御を諦めないだろう」
「侵攻がどの時期に起こるかがわかっていれば多少は打てる手もある。
 今回は四国への侵攻は阻止できるだろう。四国からBETAの側面を突ければ戦局も多少は好転する」

 だがそんな楽観的な意見が述べられた後、冷や水を被せるように一人の男が言う。

「『あの世界』の出来事どおりにいけばな」
 
 この言葉に他の人間は苦い顔をする。

「それを言っては元も子もないだろう」
「それにこれまでの歴史の動きは『あの世界』の歴史に沿っている。多少のズレはあっても丸っきり
 違うということはないはずだ」
「……全く、あの雌狐のいうことに縋ることになるとは」
「仕方ないだろう。あの理論に沿えば、我々の体験も説明できる」

 ワシントンDC、京都。この2つの都市で密談を繰り広げている人間達は、崩壊前の第8世界であった
出来事を覚えていたのだ。何故そのようなことが起きたかは正確には判らない。
 彼らと同じように記憶を持っていた香月夕呼は「因果の流入」と言っていた。彼らとしては釈然としない
思いもあったが、最終的にその結論を受け入れた。そして因果の流入で未来を知った男達は今後訪れるであろう
惨劇を回避するために日々動いていたのだ。

647earth:2011/07/02(土) 00:14:11
 そんな男達の中でも、頭痛の種の一つが今後現れるであろう新たな異星人であった。

「あとはあの異星人ですね」
「あの2隻の宇宙船の持ち主。彼らとの接触は急務だろう……他国に遅れるわけにはいかない」
「しかし米国はやる気です。分が悪い勝負になりそうですな」
「判っている。だがやるしかないだろう。これ以上、米国にでかい顔をさせるわけにはいかない。あの連中は
 誰よりも早く接触したら勝手に人類代表を自称してもおかしくないぞ」
「……まぁ彼らの国力で考えると、そう名乗っても問題ないのが痛いですが」
「茶々を入れるな。これ以上、米国の支配力が強化されるなど考えたくもないぞ」

 この意見に出席者達の多くが頷いた。尤も一部の人間はそんな米国を利用して日本の立場を強化するべき
ではないのかと考えたのだが、ここで言うと場が必要以上に荒れそうなので黙った。

「博士の計画は?」
「航空宇宙軍も巻き込んで進められている。表向きは監視体制の強化で何とかしている」
「伝言の作成は?」
「順調だ。言語学者を密かに動員している」
「そうか。他国に気付かれないように」
「判っている」

 その後、彼らは幾つかの質疑応答の末、散会した。そして一人の城内省の役人は散会の後、京都の御所に
向かった。男は一人の女性と合流した後、彼女に案内され、御所の一室に入る。
 その純和風の部屋に正座して待っていた少女に、男は平伏すると密談の内容を話す。 

「これが今回の結論でございます」
「そうですか。順調のようですね」
「はい。それと『あの世界』で反乱を起こした者たちへの対処、どうされます?」
「監視はつけてあります。それに、『あの世界』で反乱を起こした者たちの中に居た人間のうち、何人かを
 こちらにつけました。彼らから情報を入手できるでしょう」
「……判りました。それでは失礼します。殿下」

 殿下と呼ばれた少女。政威大将軍・煌武院悠陽は微笑みながら言った。

「今後も頼みますよ」
「命にかけて」

648earth:2011/07/02(土) 00:15:45
あとがき
主人公以外に逆行者(?)がいるお話です。
……第一部をもっと続けていれば、もう少し増えたんですけどね。
勿論、マブラヴ世界がこれなら、もう一方の蹂躙されたあちらも……。
それでは失礼します。

649earth:2011/07/02(土) 19:07:48
というわけで第2話です。
皆様から大人気(笑)の三脳も出番です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第2話

 資源地帯の開発、そして防衛拠点の建設が終った黒旗軍は、(第一次)艦隊整備計画を推し進めた。
黒旗軍は資源とエネルギーを全て兵器製造につぎ込むことで普通の国家なら不可能な軍備の拡張を短期間で
成しえたのだ。
 その結果を確認するため、そして自身の恐怖を和らげるため、耕平はシャングリラ周辺で大規模な観艦式
をひらいた。

「ヤマト世界、まぁそんなのがあったらだが……この光景を見た防衛軍関係者は卒倒するだろうな」

 改アンドロメダ級2番艦『三笠』の艦橋から見得る宇宙艦隊の姿を見て耕平は満足げに頷いた。
 三笠の周辺にはまず改アンドロメダ級の『春蘭』、『モンタナ』、『バーミンガム』が展開していた。 
(ちなみにガンダム世界のバーミンガムは不要ということで処分済み)
 この4隻だけでも、恐るべき打撃力を持っているが、さらにその外周にはアンドロメダ級戦艦が24隻 
展開している。この28隻だけで波動砲60門という大火力だ。
 さらに主力戦艦(以降マゼラン級と呼称)が75隻、完結編での防衛軍戦艦(以降ヴァンガード級)が30隻に 
アリゾナ級戦艦10隻が周辺を航行している。
 戦艦だけでも143隻。これに加えて巡洋艦(巡洋艦改造のパトロール艦含む)が412隻、駆逐艦824隻、
戦闘空母15隻、空母12隻、他にラジコン戦艦や補給艦、輸送艦、工作艦など合計して2000隻近い大艦隊が
集結している。
 ただしこれはヤマトタイプの艦に限ればだ。R−TYPEやマクロス等の艦を含めればその規模はさらに
膨れ上がる。

「ここの艦隊だけでガミラス帝国と正面から勝負できるな」

 これにR戦闘機が加われば、ガミラス帝国やガトランティス帝国が敵になっても、簡単に負けることはない。
 だがそれは星間国家と戦う場合だ。
 
「でも、あの連中はまだ可愛いほうって事実がな〜」

 宇宙怪獣のような勢力が襲ってきたら禁止兵器を連発するか、それとも無理にでもイデオンクラスの機体を
量産してぶつけるしかない。尤もそれをやったら勝てたとしても甚大な被害がでることは確実なので、あまり
物騒な連中(?)と積極的に関わり合いにはなりたくはない。

「改アンドロメダ級、アンドロメダ級の生産は完全には終っていないが……もう、そろそろ動いても大丈夫だろう。
 この艦隊、そして本拠地防衛の超兵器部隊。この二本柱で当面は何とかなる」

 観艦式の後、耕平は会議を招集し参謀本部、各艦隊司令官と意見交換を行った。だがその会議で他世界への
進出については否定的な見解が多数出される。

650earth:2011/07/02(土) 19:08:31
 黒旗軍の勢力圏はオリオン腕にあるこの恒星系を中心にして、天の川銀河の25%の領域に及ぶ。ヤマト世界の国家で
例えでいうならガルマン・ガミラス帝国に勝るとも劣らない領域であり、星間国家としては大国と名乗れるほどの勢力圏だった。
勿論、得られる資源も相応のものであった。故に耕平は動いても問題ないと考えたのだが、参謀本部は輪にかけて慎重だった。

「参謀本部は、その必要性は薄いと判断します」

 円卓の会議でのダメだしに耕平は渋い顔をするもすぐに反論する。

「しかしBETAの創造主である珪素生命体がどのような存在かは判らない。奴らが次元間航行能力を会得して侵攻して
 こないとも限らない」
「現状でBETAに喧嘩を売るのは非効率的かと」
「そうです。現状では銀河全土の併合とその開発に注力するべきです」
「幸いBETAは次元間航行能力は保持していません。あの世界で放置しておけば実害は無いかと」
 
 会議ではむしろBETAよりも、禁止兵器を隠し持っているかも知れない時空管理局が重視された。

「では管理局、いや次元世界探索に力を入れると?」
「それが妥当かと。発見した場合、戦力の集中も容易です」

 さらに言えば前回の経験から、管理局の勢力圏はBETAよりも遥かに狭いので、大兵力を集中させれば一気に制圧できる 
と誰もが判断していた。
 耕平も地を這う害獣よりも、宇宙怪獣みたいな勢力や次元や宇宙を平然と航行できる勢力への対処のほうが優先されるべき
と考えるようになる。

(わざわざマブラヴ世界を助けに行く価値はないか?)

 一瞬、「切り捨てるか」と耕平は考えた。彼にとって生き残ることこそが重要であり、それ以外は些事であった。
 
「……新兵器の実験テストや訓練の代わりというのはどうだろうか?」
「実験場ですか?」
「そう。いずれ本格的な戦争になるだろう。そのために実戦データを収集する。幸い標的としては申し分ない(数的な意味で)。
 それに……あの世界の人間と交渉させることで、こちらのアンドロイドの実地経験も積めるだろう」
「……確かに演習には丁度いいかも知れません。だとすると派遣する規模は?」
「長門艦隊を送る。それに万が一に備えてもう1個艦隊を予備として待機させる。これなら防衛線に大きな穴は開かない」

 この耕平の意見に誰もが同意する。かくして黒旗軍は長門艦隊をマブラヴ世界に派遣することを決定する。
同時に次元世界探索のため長距離の単独航海が可能な虎の子のアリゾナ級を各地に送ることが決定される。

651earth:2011/07/02(土) 19:10:33
 長門艦隊の派遣が黒旗軍で決定された頃、次元世界の守護者を自称する時空管理局は来るべき黒旗軍来襲にどう対応
するべきかで意見が真っ二つに割れていた。

「このままでは再び敗北を喫するでしょう。軍備を増強し、今度こそ返り討ちにするべきです!」
「加えて次元消滅弾頭などのロストロギアを解析し、同様の兵器を作れるようにするのがよいかと!」
「最悪の場合は、質量兵器を解禁するべきだ!!」

 強硬派はそういって軍備拡張を主張した。彼らを強気にさせたのは黒旗軍が危険視した次元消滅弾頭がロストロギア
保管庫に眠っていたからだ。
 これらの意見に三提督を筆頭にした穏健派は口々に反対した。

「黒旗軍とどれだけ技術力が隔絶していると思うんだ。勝てるわけが無い!」
「ロストロギアのせいで、本局どころか、次元世界が崩壊したんだ。そのことを忘れたのか?!」
「質量兵器の解禁など簡単に出来るわけが無い。下手に解禁すれば魔導師が猛反発するぞ!」
「この際、話し合いの席を設けるべきです。向こうは我々のロストロギアの管理体制の杜撰さや、管理局の拡張主義に
 警戒していました。ここを改善して話し合いに持ち込めれば」

 時空管理局の人間達も、京都やワシントンで密談をしていた者たちと同様に前の世界の記憶を持っていた。
 そして前回の敗戦を記憶していた者たちは、未来(?)の記憶を持っているのはロストロギアの暴走のせいということで
納得すると即座に黒旗軍来襲に対してどのような手を打つかで日々激論を交わしていた。
 何しろ何も手を打たなければ前回の二の舞。管理局は崩壊し、黒旗軍によって次元世界は制圧されるかもしれない。
そのことが彼らの危機感を煽っていた。

「手ぬるいですぞ。他所者に容易くロストロギアを引き渡すとなれば、管理世界政府がどんなことを言い出すか判った 
 ものではありません」
「質量兵器の解禁は確かに心苦しい。ですが負けるよりはマシでしょう」

 先の屈辱的な敗戦を記憶していた者たちはこのままでは勝てないと考え、技術革新と質量兵器の解禁を目論んだ。
勿論、法の番人である管理局がいきなり質量兵器を解禁することはできない。さらに質量兵器が長らく禁止されていた
ためかその技術も乏しい。
 故に管理外世界からの技術の入手さえ彼らは考えていた。もはや形振り構っていられないというのが彼ら強硬派の 
本音だった。
 そして最終的に最高評議会は軍備増強を行うが、積極的には戦わず、可能な限り話し合いに持ち込むことを決めた。

652earth:2011/07/02(土) 19:11:17
「人造魔導師の開発、戦闘機人の本格投入」
「さらに聖王のゆりかごの起動を急がねばならない。聖王のクローンの準備もだ」
「左様。あの者たちが持つ宇宙船には、管理局の艦は全くの無力。ゆりかごの跳躍砲撃は必要だ」
「だが新型艦の開発は急務だろう。ゆりかごばかりに頼るわけにはいかない」
「そうだ。外交というものには軍事力の裏づけがいる」

 三脳は次元世界を一蹴できる黒旗軍と真っ向から戦うつもりはなかった。双方が凶悪な質量兵器を携えて開戦すれば
世界は再び破壊される。最悪の場合は、前のように次元世界が崩壊。よくても秩序が崩壊し無法状態になる。それだけ
は防がなければならない。
 しかしかといって唯々諾々と従うつもりもない。少なくとも制圧するには骨が折れると思わせる位の力が必要だ。 
そうでなければ再び虫けらのように扱われ蹂躙される……彼らはそう考えた。

「質量兵器を解禁すると言っても、その整備のためには管理外世界と交渉することになるな」
「不本意だが仕方あるまい」
「だが完全な質量兵器を配備するのも問題がある。運用には若干でも魔力がいるようにしたほうが良いだろう」
「黒よりも灰色のほうが良い、そういうことか」
「政治とはそういうものだ。それにレジアスも大喜びだろう。これで地上の戦力不足は少しは解消されるのだ」
「海の魔導師が煩いのでは?」
「黙らせるしかない。改革には多少の痛みはつきものだ。愚か者を切り捨てなければ、今度こそ我らは破滅するぞ」

 三人とも黙った。あの超越者が次元の壁を乗り越えて侵攻してくる……それを思うだけで彼らは恐怖に支配される。

「最終的には黒旗軍の上位者や対抗勢力とも接触する必要があるかも知れません」
「次元世界さえ乗り越えられない我々に、そんな真似はできないだろう……出来たとしても当分、未来の話だ」
「研究は進めておく必要はある。我らの世界を、今度こそは守らなければならぬ」

 だがこの軍備拡張は管理世界の各政府に重い負担を強いることは確実だった。故に彼らは新たな手を打つ。
 最高評議会はレジアスの改革を後押しすると同時に半質量兵器(少しの魔力で起動する重火器)の導入を認めて
陸を質の面から梃入れした。これによって各世界の検挙率は大きく向上。治安の改善によって経済も上向いていく。
さらに無人の管理世界の資源地帯の開発や、植民都市を建設するなどの公共事業で市場の開拓を進めるなどして
経済を活発化させた。
 しかし同時にロストロギアと目される物が発見された場合は、即座に次元航行艦を急行させ強引に接収すると 
いう強攻策も取り始めた。魔導師の素質がある人間での勧誘もより強引なものとなっていく。
 黒旗軍への恐怖が、管理局を突き動かしていた。

653earth:2011/07/02(土) 19:12:51
あとがき
というわけで第2話でした。
長門艦隊出撃。ついでに管理局探索が始まります。
管理局は管理局でぴりぴりするでしょう。
それでは。

654earth:2011/07/03(日) 22:43:45
と言うわけで第3話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第3話

 アンドロメダ級戦艦『アルテミス』を旗艦とし、マゼラン級戦艦2隻、大型無人戦艦6隻、巡洋艦4隻、小型無人艦
16隻、戦闘空母2隻、パトロール艦10隻を中心とした長門艦隊と輸送船団は一路、マブラヴ世界の地球に向かった。
 戦闘能力だけで言えば、太陽系のBETAを滅ぼしてお釣りが来るものだったが、朝倉は陣容に不満たらたらだった。

「主力戦艦、いえいまはマゼラン級か。あの船を取り上げられて、換わりに配備されたのがラジコン戦艦とはね……
 おまけに護衛艦も大半がラジコン艦」

 アルテミスの艦橋ではぁ〜とため息をつく朝倉。美少女のため息というのは傍目に見ると絵になるが、見るのが
同性(?)の少女とアンドロイド将兵ばかりなので何の感動も与えられない。

「ため息をついても仕方ない。それに相手はBETA。宙対地爆撃がメインならこの艦隊でも問題ない」
「それはそうだけど、ね。正体不明の勢力と交戦状態になったら、どこまで臨機応変に戦えるやら」

 大型艦は拡散波動砲こそ2門とアンドロメダと同じだが、主砲は50.8センチ砲3連装2基6門(艦前半部に配置)で
しかない。ただ小型艦は拡散波動砲1門と20センチ砲10門(艦前半部の上下に3連装1基。艦後半部に連装1基)と
巡洋艦並みの火力を持っているため、前衛部隊の火力が期待できるのが救いと言える。

「そのときはラジコン艦を特攻させて時間を稼ぐ。総司令もラジコン艦は最初から捨て駒と割り切っている」
「曲がりなりにも戦艦1隻を鉄砲玉か。豪華な弾ね」
「次元消滅弾頭に比べれば低コスト」 

 朝倉は長門の言葉に若干、顔を引きつらせる。
 
「……あれを引き合いに出す?」
「でも事実」

 時空管理局との交渉で起きた失態、そしてその後の大惨事。朝倉は処分を覚悟したが、耕平は朝倉や長門を処分すること
なく使い続けた。
 朝倉としては意外だったが、耕平は曲がりなりにも崩壊前から配下にいた者を今更処分するのは躊躇ったのだ。まぁ今度
大失態をしたら本当に処分するつもりだったが。

「会議では管理局捜索も決定された。今回の任務を終えた後、そちらに志願する道もある」
「……そうね。リベンジはしないとね」

 耕平が聞けば「失敗フラグ乙」と言うかもしれないことを呟く朝倉。
 何はともあれ、長門艦隊はマブラヴ世界へ向けて順調に航行中だった。

655earth:2011/07/03(日) 22:44:44
 長門艦隊が地球に向かっている頃、耕平は自身を鍛えるべく鍛錬に励んでいた。普通のプレイヤーなら
あまり使わない軍事教練用の機材を持ち出して、自身のスキルアップを図る。

「戦略、戦術、そして戦場について本格的に学ばないと」

 31世紀のオリジナルと切り離されたものの総司令官としての権限は残っていた。このため耕平は軍の総司令官であった。
故に戦略、戦術を徹底的にマスターする必要があった。総司令官が戦略、戦術に疎いのでは大問題だったからだ。
加えて精神面も鍛え上げる必要もあった。脆弱な精神では、悪戯に判断を誤りかねない、彼はそう考えた。

「……本当はやりたくないんだけどな」
 
 嫌々ながら耕平はヘルメットのようなものを被り、さらにケーブルでPCと接続する。
 この教練用の機材と言っても実際に体を動かすのではなく、仮想空間で教練を行うものなのだが、本物
そっくりであり実際の戦争を体験するには丁度よいものだった。
 勿論、その分、ハードな面もある。故にプレイヤーでこれをするのはよほどの物好きだった。耕平も
今回のことが起こる前までは、見向きもしない機材だった。だが今は、それが必要だった。 

「まだ時間があるうちに、マスターしないと」

 こうしてシャングリラの片隅で、時折、耕平の絶叫が聞こえるようになる。
 耕平が絶叫しつつも己のスキルを向上させ、何とか総司令官と名乗っても笑われない程度の力量を見につけた
頃に、銀河を動き回っていた黒旗軍艦隊が未知の異星人との接触した。 

「……異星人のタイプは?」
「純粋なヒューマンタイプではありません。爬虫類から進歩したような連中です」

 総司令部のメインモニターには緑の肌を持った爬虫類面(敢えて言えばカエル)の異星人が映っていた。
 これを見た耕平は内心で(ネタ的に美少女タイプの宇宙人が相場だろうJK)と思ったが、それを表に出すことは無かった。

656earth:2011/07/03(日) 22:45:16
「向こうの要求は?」

 この問いにアンドロイド参謀が答える。

「彼らの母星がある恒星系周辺宙域からの黒旗軍の即時退去と謝罪、そして賠償です。彼らは自分達の縄張りを荒らして
 いると主張しています」
「……恒星系外に、向こうがたどり着き、領土化していたか?」

 主権が及ぶ地域なら、向こうの言い分が正しい。

「いえ。彼らは恒星系内部の開発はしているようですが、恒星系の外にまでは」
「しかし連中からすれば今後、自分が開発する地域によそ者が来ていると思って不快に思っている、そういうわけか」
「あと、ファーストコンタクトにも問題があったようです。こちらは敵意がないことをジャスチャーで伝えようとした
 のですが、どうも宗教的に問題があったようで……」
「……」

 31世紀でも宗教問題は尽きなかった。ここでもそれに悩まされるのか、そう思った耕平は頭痛を覚えた。

「……連中の技術レベルは?」
「22世紀初頭といったところでしょうか」
「……戦争を仕掛ければ楽勝かも知れないが、軽はずみに仕掛けるわけにもいかないか」

 耕平は謝罪と賠償は兎に角、黒旗軍を後退させることを伝えた。だが向こうはそれだけでは満足しなかった。
 どうやら向こうにとって宗教というのは非常に厄介な問題のようで、こちらが譲歩するか開戦するしか道はなかった。

657earth:2011/07/03(日) 22:45:48
「連中からすれば爬虫類こそが至上の生き物であり、他は下等生物。ましてアンドロイドの我々など異端の生き物。
 そういうことか」 

 会議の席に持ち込まれた調査の結果を見て耕平は改めてため息をついた。 
 同時に自分達がアンドロイドで構成された軍隊であるということ自体が、場合によっては火種になるということも
理解した。全く持って頭が痛い問題だった。

「NPCと同じように、人間でも作るか? でも人間だけ作ってもな」

 入れ物は作れる。だが作ったNPCに文明を構築させ発展させるには相応の時間と労力が掛かる。
自分の命が掛かっている状態で、そんな悠長なことをやっている余裕は無い。

「総司令、いまは目の前のことに集中するべきかと」
「ああ。爬虫類の文明のことだろう。あんなマジ○チと話し合いなんてしたくも無いんだが」
「ですがやらなければならないかと」
「……連中に同盟国は?」
「存在は確認されません。連中の宇宙艦隊が恒星系外縁部に集結していますが、外から援軍が来る気配はありません。
 援軍を要請した気配もありません」
「そうか」
「如何されます?」
「もし開戦した場合、制圧できるのに掛かる時間は?」
「ジオイド弾の使用を許可していただけるのなら、敵軍撃滅を含めて1週間あれば終ります。母星を正攻法で
 制圧するとなればさらに時間が掛かります」
「どちらにせよ、こちらの勝利は揺るがないと?」
「はい」
「………」

 暫く考える耕平。圧勝できると言っても軽々しく知的生命体相手に開戦するのは躊躇してしまう。
 さらに、もしも連中が隠し玉を持っていた場合を考慮すると軽々しく開戦を選択できない。

「不満だが、暫くは睨みあいで済ませよう。交渉で妥協点を探りたい。一応、こちらにも非はある。
 ただし交渉を有利にするための示威行動は必要だ。艦隊を集めて軍事演習を行う」
「了解しました」
「やれやれ、こんなことになるんだったら長門艦隊を残していたほうがよかったかも知れないな」

 かくして黒旗軍は演習のための艦隊を集結させると同時に次の使者を送ることにする。
 だがその結末は惨憺たるものだった。

「使者が殺された?」

 かくして戦争が始まる。

658earth:2011/07/03(日) 22:47:31
あとがき
というわけで異星人登場です。
昨今の流れなら猫耳美少女とか犬耳美少女がでるのでしょうが……
敢えて逆でいきました(爆)。
でも向こうからすれば、主人公のほうがある意味でBETAなんですよね〜
それでは。

659earth:2011/07/04(月) 21:35:22
さて戦争ですが、描写は薄いです(爆)。
反応に戦々恐々としつつも第4話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第4話

「自分達の基地に使者が付いた途端に重火器まで持ち出して殲滅って……連中、正気か?」

 テロリストもびっくりのやり方に絶句する耕平。そんな耕平にアンドロイド参謀が冷静に助言する。

「正気かどうかはわかりませんが、本気であることは間違いないかと。
 すでに恒星系外縁部に集結していた『敵』艦隊はこちらの艦隊の集結地点に向けて進撃を開始した
 とのことです」
「……」
「決断を」

 司令部に集まっているアンドロイド参謀、モニターに映る各艦隊司令官の視線が耕平に集中する。

「……」

 もうはやゲームではない。曲がりなりにも知的生命体と殺し殺されする戦争。それを開始するかどうか
の決断を耕平は迫られていた。21世紀と31世紀、両方の世界で過ごした時間を考えれば精神年齢は
30をとっくに超えている。だが耕平は一般市民である自分が国家の命運を決するような決断を下したり、
そんな場面に立ち会うなど想像すらしたことがなかった。
 確かに教練でスキルや擬似的経験は体験した。しかし教育を受けたからと言って即座に決断ができる
わけではない。

「……」

 沈黙する耕平。だが刻一刻と敵艦隊は味方の艦隊に向かっている。 
 技術格差からすれば、仮に防戦一方になっても問題はない。だが無為に犠牲を出すことになる。
総司令官が決断を下せなかったという理由で犠牲を出すのは馬鹿げている。ゲームなら許されるかも
しれない。だが耕平にとって、この世界はゲームではない。この世界こそ『リアル』だった。
 そして耕平は決断を下す。

「……は、派遣艦隊全艦に命令。敵宇宙艦隊を撃滅せよ」

660earth:2011/07/04(月) 21:36:00
 改アンドロメダ級『春蘭』を旗艦としアンドロメダ級『イシュタル』『アスタルテ』『テミス』を
中心とした派遣艦隊は総司令官の命令を受けて整然と進撃を開始した。

「漸く開戦か」

 派遣艦隊司令長官に任じられていたレビル中将(正確にはレビルを模したアンドロイド)は髭をなでた後
帽子を被りなおす。

「それでは征こうか、諸君」

 敵艦隊の様子は、すでにステルス艦から届けられていた。
 爬虫類生命体の艦隊は、旗艦と思わしき巨大な円柱型の艦、4つの球体を串刺しにしたような構造の艦から構成
されている。総数は60隻。さらに周辺には艦載機と思わしき円盤が飛び回っていた。

「……スペースコロニーをそのまま航行させているような艦だな」

 このレビルの呟きにアンドロイド参謀が同意するように頷く。

「移動する拠点といったところでしょう。動きは鈍そうですが、その分、攻撃力はあるかと」
「素直に連中と砲撃戦をすることも無いだろう。航空戦力で先制攻撃を仕掛ける」
「了解しました」

 派遣艦隊には戦闘空母4隻、空母2隻(信濃級)、そしてデスラー艦が配備されている。
 前の世界で管理局艦隊残存艦隊を一方的に殲滅した戦術をもって、敵艦隊に先制攻撃をかける。それが
派遣艦隊司令部の方針だった。

「それにしても、高々60隻で我々に挑むとはな」

 派遣艦隊だけでも総数は240隻。相手の4倍あった。

「交渉の際に、腰を低くしたことが原因かと。それに連中はこちらの規模を正確に知らないようですし」
「張子の虎と見られたか。まぁその傲慢の対価は、彼らの命で償ってもらおう」  

 レビルの言葉に嘘偽りはなかった。

661earth:2011/07/04(月) 21:36:35
 F−01、コスモパルサー(コスモタイガーⅡの後継機)が何も無い空間から突然現れると、敵艦隊は
大混乱に陥った。
 戦闘機の役割を担うらしい円盤が邀撃に向かったが、あっという間に叩き落される。円柱型の艦からは
盛んに円盤が発進したものの、各個撃破されていく。
 F−01の攻撃(ミサイル、小型波動砲)で、周辺の艦が脱落すると、あっと言う間に敵の旗艦と
思わしき巨大艦は丸裸となった。

「艦隊戦に慣れていないようだな。陣形の建て直しが遅い」
「恐らく、ここまで大規模な会戦をしたことがないのでしょう」
 
 F−01の小型波動砲、そしてコスモパルサーの対艦ミサイルの集中攻撃によって巨大艦は瞬く間に
火達磨となる。

「脆いな」
「さすがに、あれだけの攻撃を受ければ、仕方が無いかと」
「ふむ……このままなら、完勝できそうだな」

 アウトレンジ攻撃によって敵艦隊は一方的に打ちのめされていた。
 第二次攻撃隊の攻撃が終わった頃には、敵艦隊は3分の1以下にまでその数をすり減らされていた。 
それも健在な艦は皆無であり、どの艦も(黒旗軍から見れば)這うような速度で航行していた。

「……時空管理局の艦隊よりも弱いかも知れないな」

 司令部で様子をモニターしていた耕平は唖然となった。先ほどまで悩んだ挙句、決断を下した自分は 
何だったんだ……と思ったものの、すぐに頭を振って自身を戒める。

「だが闘志は彼ら以上か。全滅寸前にも関わらず撤退する気配はないし。敵巨大艦も辛うじて持ち堪えている。
 まぁこの場合は蛮勇というべきか?」
「降伏を勧告しますか?」

 参謀の問いに耕平は首を横に振る。

「降伏したと思って近寄ったら自爆されるかも知れない。ここは心を鬼にして殲滅するべきだ」

 管理局相手に交渉して、その後どうなったかを知っている耕平は、容赦が無かった。
 その後、爬虫類生命体の艦隊がどうなったかは言うまでも無い。彼らはアンドロメダ級戦艦、マゼラン級戦艦の
集中砲火を受けて1隻残らず、宇宙の塵と化した。
 1時間足らずの会戦で黒旗軍が失ったのは4機のコスモパルサーのみ。完全勝利であった。

662earth:2011/07/04(月) 21:37:11
「このあと、どうされます?」  

 アンドロイド参謀の問いに耕平は少し考えると決断した。

「補給を済ませた後、敵の恒星系へ侵攻を開始する。ただし罠や伏兵にやられないように、念入りに偵察は
 行うように」

 戦争は長々とするものではない。素早く侵攻して敵に対して城下の盟を強要しなければならない。
 かといってことを急いで背後を取られては元も子もない。

「まぁ、いくら何でも母星周辺を丸裸にされたら、負けを認めるだろう」
 
 だが耕平が思っていたより、宗教国家というのは頑迷であった。
 彼らは各地の基地や防衛艦隊が潰滅しても尚も抗戦の意思を崩さなかったのだ。それどころか恒星系の
他の惑星周辺を航行していたら、非武装らしき民間船が特攻さえ仕掛けてくる始末だった。
 
「連中は現実というものが見えないのか?」

 司令部のモニターに映る爬虫類が「神の恩寵を受けている我々が機械生命体に屈服することはない!」などと言って
喚いている(本当は画像の下側に字幕が出ている)姿を見て、耕平はため息をついた。

「ひょっとして銀河にはこの手の連中が沢山いるのか?」

 今回は弱い相手だったので何とかなったが、もしも自分を圧倒する力を持つ者が、この手の勢力だったら
と思うと耕平は寒気を覚えた。

「宗教や価値観で衝突したら目も当てられないな……」

 同時に自分達がロボット文明とも言えるものであることに気付かされた。

(俺も、他の連中からすれば、黒旗軍のほかのアンドロイドと同じか……二回死んだ挙句に、人ではすらなくなるとは)

 耕平は嘆息する。そして、自分が今では人間ですらないという事実に顔を歪ませる。
 
(だが俺は生きている。少なくとも意思はある。コピーや残滓かも知れないが、俺は俺だ。誰が何と言うおうとだ。
 そして俺は三度は死なない。いや死ぬとしてもムザムザとは死なない) 

 戦争が続く中、耕平は絶対に生き残ってやると再度誓った。

663earth:2011/07/04(月) 21:38:35
あとがき
爬虫類ボコボコです。
一方で主人公は自分達が、有機生命体からすれば異質の存在であることを
理解します。
それがどう影響するかは……まぁ後のお楽しみということで。
それでは失礼します。

664earth:2011/07/05(火) 21:40:58
第5話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第5話

 黒旗軍は爬虫類生命体の母星を丸裸にした後、再度の降伏勧告を行ったが向こうは頷く気配がなかった。
 
「……連中とは対話不能だな」

 総司令部で報告を聞いた耕平も処置無しと首を横に振った。 

「どうしましょう?」
「ジオイド弾で皆殺し……といきたいが止めておく。連中の宇宙港、主要軍事施設、政府施設を片っ端から
 吹き飛ばしておこう。原始時代に逆戻りさせてやれば無視しても構わない。
 ああ、ついでに衛星軌道に攻撃衛星でも置いておこう。一定の高度以上を飛ぶ物体を撃ち落せるのを」
「宜しいのですか?」
「……汚物は消毒だ〜って勢いで殲滅したいところだが、これからのことを考えると下手な手は打てない」

 いかに相手が自分達基準でマジキ○と言っても過言ではない連中でも、知的生命体を一つ完全に絶滅させた
というのは些か外聞が悪い。何しろこれから自分達は他の生命体とも遭遇するかも知れないし、他世界で交流
するかも知れない。
 そんなときに、知的生命体を星ごと吹き飛ばしたという事実は相手の警戒を煽ると耕平は考えていた。

(ただでさえ、俺達ってロボ文明だからな。そうすると、さしずめ俺はロボット軍団の親玉か?
 何か、劇場版ドラ○もんで出てきそうだな。悪役のボスとして)

 自嘲しつつも耕平は再び口を開いた。 

「今後は事前の探索に力を入れて、基本的に恒星間航行能力を持たない文明がある惑星や星系は避けるように」
「相手がその能力を有していたらどうされます?」
「……慎重に調査を行った後に接触するかどうかを判断する。あと向こうから喧嘩を売ってきた場合も
 向こうの力量を見てから判断する」
「了解しました」
  
 このあと爬虫類生命体の母星は、大規模な宙対地爆撃に晒された。
 大規模なEMP攻撃の後、宇宙港、各種ドック、軍事基地や各種工廠、エネルギー供給施設、政府関連施設などが
片っ端から吹き飛ばされ爬虫類生命体は事実上無力化された。
 
「これで静かになるだろう」

665earth:2011/07/05(火) 21:41:42
 かくして戦争に決着をつけた耕平だったが、今回の件からアンドロイド軍団というのはかなり警戒されると
言うことを自覚した。

「このままだとマブラヴ世界に干渉したときにも酷く警戒されそうだな」

 向こう側の事情など露も知らない耕平は本気でそう考えた。

「前回、BETAを駆逐してやったのに、内ゲバして自滅した連中だからな……何か姿を現してもBETAの親玉扱い
 されそうな気がしてきた」

 爬虫類ならイザ知らず、人間に敵意を向けられるのは辛い。だが今後のことを考えるとやらなければならない。   

「……余裕が出来たら、気晴らしに平和な21世紀世界でも探しておくか。平和な光景を見るのも気分転換にはなるかも
 知れない。何せ24時間ずっと戦争のことばかり考えていたら気が滅入る」
 
 いくら機械の体となったとは言え、メンタルまで鋼にはならない。
 何かしらの息抜きは欲しいというのが本音だった。

「でも見つかったのがエヴァ世界だったら笑えないな……EOE後だったら余計に気が滅入りそう。ハルヒだったら
 異世界人扱いで何か色々と巻き込まれそうだし……よく考えると20〜21世紀でも十分面倒な世界が多いな」
   
 耕平はため息を漏らす。

「まぁ全ては未来の話だ。今は生き残るための方策に全力を注ごう。アンドロイドによる軍団、いや機械軍団か。
 これの警戒を和らげるには、やはり有機生命体、人間が必要になるな。
 解決策は2つ。自分で作るか。それとも別の世界から連れて来るか、だ」
 
 後者の場合、つれてくると言っても、拉致するわけではない。滅びつつある世界を適当に見繕い、その世界の
人類を救済の名の下に黒旗軍の勢力圏下の地球型惑星に移民させる、それが耕平が考えているプランだった。

「でもつれてきても、世代交代したらあっさり反抗されそうだよな……アンドロイドに支配されるなんて嫌だろうし。
 NPCを地道に作るか? いやもう面倒だし、いっそアンドロイド用の人格ソフトを弄って人間の素体にダウンロードするか? 
 少し手間かも知れないが、反抗される恐れは無いし、別に何億人も作る必要は無い。精々、数百人いればいいし」

666earth:2011/07/05(火) 21:42:15
「でも一応、国民(?)が存在するとなると黒旗軍より、国家を名乗ったほうがいいか。今の勢力圏からすると『銀河帝国』?」
   
 昔のスペオペだなと苦笑いしつつも、昔の漫画を思い出す。

「おまけに帝国を支配しているのがコンピュータか。ジオイド弾といい、超人ロックと共通点を作るにも程がある。
 尤もこの場合だと、コンピュータ同士の相打ちで帝国崩壊になるけど」

 遥か昔に読んだ漫画を思い出して耕平は笑う。
 いや笑うしかない。何しろ自分がライガー1のような立場になると考えたこともなかったからだ。いやそうなると考える
ほうがどうかしている。

「まぁ人間が上層部にいるとなれば、少しは警戒も薄れるだろう。他の人間も連れてくるかはそのあとに考えれば良いさ。
 何かフィクション物のラスボスみたいになっているような気もするけど……まぁ気にしないようにしよう」

 かくしてたった一人の手によって銀河帝国が建国されることになる。
 生物学上は人間に分類される300人、そして多数のアンドロイドから構成される星間国家(?)が誕生することになる。
 
「主星(仮)は第3惑星に置くか。ああ、一応、帝都とか主要都市らしきものも建設しておこう」

 どこにどんな街を作るか考える耕平。

「……何か実物大のジオラマでも作ってる気分だな。まぁ気晴らしにはいいか」

 かくして銀河帝国は急速に体裁を整えられていく。
 勿論、今後、黒旗軍は銀河帝国と名乗るとの連絡は長門達にも届けられる。

「……正気かしら?」

 朝倉は目を丸くし、長門も僅かながら驚いたような顔(殆ど無表情だが)をする。

「今後、国家との交流と考えれば理解できないことではない」
「それでも銀河帝国って……まぁ良いか。とりあえず今後は帝国軍ということでいきましょうか」

 少し疲れたような顔をした後、朝倉は頷いた。
 かくして黒旗軍改め、銀河帝国軍はマブラヴ世界の太陽系第三惑星地球に向かう。
 かの世界が、前の世界とは若干異なるとも知らずに。

667earth:2011/07/05(火) 21:45:17
あとがき
主人公がラスボスっぽくなっているが気にしない(笑)。
それでは失礼します。

668earth:2011/07/08(金) 23:55:27
短めですが完成しました。日本本土決戦直前の第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第6話

 『黒旗軍』改め、『銀河帝国軍』地球派遣艦隊は何の妨害も受けることなくあっさり太陽系に侵入した。
 前回同様、BETAによる迎撃は無かった。

「……地球に関しては今回も一方的な爆撃になりそうね。重頭脳級も前回同様だったとしたら訓練にもならないんじゃ?」
「ラジコン艦の実戦データの収集には使える。ハイヴは核にも耐えられる構造。標的には丁度良い」
「まぁ対地砲撃訓練のための標的にしては十分かしら……あとは交渉の練習か」

 管理局と交渉した際の失態を思い浮かべて、朝倉は多少苦い顔になる。 

「本格的な大使には有機生命体ユニット、いや人間が任じられる。だが我々も経験を積むために交渉に赴く必要がある」
「人間ね……」

 元人間の耕平が人間と交渉するために人間を作る。実に皮肉が効いていた。
 以前の朝倉ならすかさず突っ込んでいただろう。だが今の彼女は、そんな非生産的なことをすることはなかった。

「前と同じような失態がないようにしないとね。本格的な交渉に取り掛かる前に万全の情報収集と次善の策も用意して
 おかないと」

 耕平と同様にその手の学習ソフトでスキルを向上させている彼女達であったが勉強と実践は違う。
まして相手は31世紀の常識からはかけ離れた連中(それも滅亡の瀬戸際で内ゲバする連中)でもある。考えられる
限りの方策を練るのは当然と言えた。

「でも爬虫類生命体のことを考えると、相手に侮られないように基本的には砲艦外交でいくしかないわね」
「それは否定しない」

 異民族相手に安易な譲歩は危険であることは、この前の戦いで認識されていた。

「取りあえず国交の樹立と大使館の設置を認めさせる」

 今回の太陽系進出は訓練と実験、外交交渉の練習とゲームで言うならチュートリアル的な意味が強かった。
故に交渉の窓口となる大使館の設置は必要であった。
 
「武力を背景とした強面で脅す傍らで、資源や技術力などの餌を与える。どれだけ最小限のコストでメリットを
 引き出せるか、これが課題ね」

 長門と朝倉は顔を突き合わせて色々と話し合った。地球の事情など知る由も無く。
 そして艦隊のナンバー1とナンバー2が話し合っている中、派遣艦隊はワープ航法で一気に地球に向かった。彼女達に
とって二度目の対BETA戦は目の前だった。

669earth:2011/07/08(金) 23:55:59
 銀河帝国軍が地球に向かっている頃、その地球では日本本土での決戦が目の前に迫っていた。
 参謀本部や日本本土防衛軍上層部は水際防御にこだわり、前の世界どおり西日本へ戦力を配備した。
 前の世界で西日本方面の部隊がBETAの奇襲で敢え無く壊滅した事を知る人間達は、西日本壊滅が時間の問題
と考え、次善の手として国民の避難計画の推進、そして西部方面隊が壊滅した後の軍の建て直しのための根回しを
急いでいた。

「そうですか。やはり……」

 悠陽は御所で男の報告を聞いて憂鬱そうな顔をする。

「政府や軍では楽観的な意見も少なくありません。こうなった以上は京都で持ち堪えるしかないかと」
「この街はやはり戦場になると?」
「ですが今回は四国への侵攻は阻止します。これによってBETAの側面を脅かし、犠牲を減らすことは
 できるでしょう。さらに『前の世界』より米軍の支援も期待できます」
「……私たちにできるのは、その犠牲を無駄にしないこと。それしかないでしょう」

 すでに西日本壊滅の責任を追及する形で、今の上層部を追いやる準備も進められていた。光州作戦の悲劇を
防いだことで将軍に近い軍人である彩峰中将を含め、かなりの人数の軍人が協力する姿勢を見せていたので、準備は
順調だった。
 勿論、彼女達は権力を握るために悲劇を利用しようとしている訳ではない。全ては真の挙国一致体制を構築する
ため、そして日本内乱を防ぐためであった。

「ですが京都決戦では私も出陣します」

 この言葉に月詠真耶が血相を変えるが、悠陽は譲らない。

「将兵を鼓舞するため、そして私が『国を守る政威大将軍』の地位を全うできることを、示さなければなりません」
「ですが殿下の御身になにかあれば……」
「私たちは帝国の命運を左右する賭けをしているのです。そして、賭け事に多少の危険は付き物です」

 そう断言する悠陽に、その場にいた2人は反論できなかった。

「他の摂家が私を捨て駒にしようと積極的に出陣を後押しするなら、それを利用するまで。
 彼らも出しゃばった真似をしたとは、口が裂けても言えないでしょう」

 こうして政威大将軍自らが斯衛軍を率いて出陣することが決定された。

670earth:2011/07/08(金) 23:56:30
 本土決戦の準備を進めつつも、前の世界を記憶を持つ者たちは、新たに出現する異星人へ接触するべく
動き出していた。

「異星人へ期待せざるを得ないとはね」

 研究室で香月夕呼は自嘲した。
 彼女としてはそんな他力本願なやり方には心から賛同できない。何しろ新たな異星人が第二のBETAでない
という保証は無いのだ。だが人類の状況はそんな異星人に頼らざるを得ないほど悪かったのだ。
 
(仮に連中の介入が無ければ、日本本土が陥落していた可能性もあったし)

 正史では横浜ハイヴが築かれることを知らない夕呼は、『前の世界』の状況では日本本土の陥落も時間の問題
だったのではないかと考えるようになっていた。
 
(どちらにせよ、日本が陥落すればAL5が、バビロン作戦が発動する。時間がない)

 『前の世界』を知る人間は、大量のG弾の使用で発生する重力異常が地球全体に途方も無い悪影響を及ぼす
ことを理解していた。しかしそれはまだ科学的に証明されていない。故にAL5、いやバビロン作戦は未だに健在だった。
この発動を防ぐにはAL4を達成し成果を出すしかないのだが、AL4を達成するには絶望的なまでに時間が無かった。
 故に彼女も得体の知れない異星人を頼りにした上で、彼らと交渉するという普通なら考えられない方策に手を貸したのだ。
 実際、彼女は対宙監視システムの強化、そして宇宙人との交渉のためのメッセージ作成やその送信方法の構築に
協力している。
 尤も実際に送信が行われるのはあの異星人達が介入してからになるが、それでもいち早く接触する体制を構築
しておくに越したことは無い。

「まぁ良いわ。あのふざけた真似をした連中に興味はあるしね」

 ふざけた口調で呟きつつも、彼女の目は真剣そのものだった。
 有無を言わさず全てのハイヴを吹き飛ばしたBETAと敵対する異星人。今の人類にとっては救世主ともいえる
存在かも知れない。だが彼らが第二のBETAにならない保証はどこにも無いのだ。AL4が期待されていないからと
言って彼女は不貞腐れるつもりはなく、最悪の事態も想定して動こうとしていた。
 だが日本がこのように準備をするのと同様に、アメリカも日本本土決戦への準備をしつつ、異星人とのコンタクトに
力を入れていた。
 日米が異星人との接触競争を行う中、日本本土決戦の幕は上がる。

671earth:2011/07/08(金) 23:58:53
あとがき
本土決戦直前の一幕でした。
いよいよ次回は介入となる予定です。それでは。

672earth:2011/07/10(日) 11:31:55
短めですが帝国側からの視点で話が進む第7話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第7話


「まぁこんなものか」

 培養液が満たされた透明のタンクに入っている『人間』を見て、耕平は取りあえず満足したとばかりに頷く。
だがすぐに培養液の中で眠る『人間』いや『少女』の容姿を見て苦笑する。

「アンドロイド、いや機械の身である俺が皇帝を名乗るわけにはいかないからな……それに下手に名乗ると
 うかつに動けないし」

 帝国軍における耕平の立場は宇宙艦隊副司令長官兼宇宙要塞『シャングリラ』司令官(階級:上級大将)。
要職についていると言えるが、銀河帝国の実態から考えると地位は低いほうと言える。だがそれはむしろ
耕平の望むものであった。

「スタンダードな黒幕なら帝国宰相が一番良いんだろうが、そんな面倒な役職は丸投げにするに限る。
 それに……これである程度は自由に動ける」

 所詮、銀河帝国など耕平の都合によって作られた虚構の王朝に過ぎない。たとえ表向きの地位は低くとも
実際の権限は彼に集中しているので問題はない。しかしその実態を声高に喧伝するつもりはない。むしろ政府の
影に隠れて動き回るつもりだった。

「ああ、そういえば王朝の名前、まだ決めていなかったな」

 皇帝となる少女の顔を見ながら、耕平はふと思い出す。

「……ふむ」

 公式では銀河の4分の1以上を支配下に置く王朝であるため、さすがに名無しではまずい。
 さてさてどうするかと暫く考えた後、耕平は一つの名前を思い浮かべる。

「『レムレス』。レムレス王朝と名乗らせるか。名は体をあらわすというし、ピッタリじゃないか」

 レムレス王朝。こうして強大な軍事力を保有しつつも、『この世に存在しない』という意味を持つ王朝が
誕生することになる。

673earth:2011/07/10(日) 11:32:25
「さて、次は……」

 耕平が次に打つべき手を考えている時、『SOUND ONLY』と書かれた映像が耕平の右横に表示された。

『派遣艦隊が地球に到着しました。作戦を開始するとのことです』
「そうか。長門中将は他に何か言ってきたか?」

 今の耕平からすればマブラヴ世界の重要度は高くない。故に淡々と質問したのだが参謀AIの返答は予想を
超えたものだった。

『はい。前の世界、そして原作とは若干、状況が異なるようです』 
「……は?」

 時は少し遡る。
 帝国軍艦隊は地球を射程に捉えようとしていた。朝倉はすかさず現在の状況を尋ねる。

「地球の様子は?」
「前の世界どおり、日本本土へ侵攻が行われています。ですが前と違って四国への侵攻は阻止。四国の部隊が
 東進するBETAの側面を突いています」
 
 アンドロイド参謀の答えに長門と朝倉の2人は意外そうな顔をする。

「四国を守りきったと?」
「橋の爆破が間に合ったのが大きい模様です」

 長門は少し考えた素振りをした後、ぽつりと呟くように言う。

「……この世界は、『前の世界』とは違うのかも知れない」
「運がよかったのか、それとも何か原因があるのか……判らないけど、さらに警戒する必要があるわね」

 マブラヴ人類が前史よりも健闘しているのを見て、2人は警戒心を露にした。  

「どうされますか?」

674earth:2011/07/10(日) 11:32:58
 アンドロイド参謀の質問に2人は僅かながら沈黙した後、口を開く。

「……予定通り行う。爆撃準備」
「ただし直掩機を増やして警戒を厳に。全艦、対艦対空戦闘用意」

 朝倉の指令で派遣艦隊は本格的な戦闘態勢に入る。
 ラジコン艦が周囲の警戒を行い、戦闘空母からはF−01や早期警戒機が発進していく。人類の技術力や
前の世界でのBETAとの戦闘を考えれば過剰と言ってもよい警戒振りであったが、一度失敗している彼女達
からすれば当然の措置であった。
 護衛艦隊が警戒する中、輸送艦に搭載されていた超大型ミサイル、そしてドリルミサイルが射出される。 
だがこれらは今回はデスラー艦ではなく、それぞれがワープして地球に向かった。

「新型のワープユニット。きちんと作動したようね」
「そうでないと困る。通信参謀、地球への通告は?」
「完了しました。最大出力で送っているので、傍受できない国は無いはずです」

 この言葉を聞いて2人は頷く。

「あとは総司令、いや参謀本部への報告ね」 

 チュートリアルとして、現場の裁量は認められているものの、報告は必要だった。

「場合によっては再調査、そして各国の再評価も必要になる」

 彼女達は厳しい視線を地球に向けた。

675earth:2011/07/10(日) 11:33:56
あとがき
次回、地球側の視線になる予定です。
それでは失礼します。

676earth:2011/07/11(月) 23:43:23
地球側からの視点での日本本土決戦です。
尤も戦闘描写は薄いというか、殆ど無いですけど(爆)。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第8話

 1998年7月。前の世界どおり日本帝国はBETAの大侵攻に見舞われた。
 九州、中国地方は瞬く間にBETAによって制圧され、西日本方面に配備されていた帝国軍部隊は
次々に文字通り『全滅』していった。
 だが国民の犠牲は若干ながら減少していた。将軍、そしてそれに近しい軍人や政治家、官僚たちが
密かに策定し根回ししていた避難計画がある程度機能したためだ。
 さらに四国へのBETA侵攻を食い止めたことで、帝国軍はBETAの側面を突くことが可能となり
本土決戦で『前の世界』よりも有利に戦えるようになった。しかしそれは比較論に過ぎない。
 圧倒的物量で迫り来るBETAによって、帝国軍はジリジリと後退を余儀なくされ、結果的には帝都
である京都周辺に追い詰められていた。

「速やかに京都を放棄し、首都を移転させるべきだ! 軍はこれ以上、帝都を維持することは出来ない!」

 帝国軍本土防衛軍の富永大将は、皇帝も出席する御前会議の席で速やかな首都の移転を主張した。 
 このときすでに首都機能の移転は進められ、市民の脱出も順調。故に京都の放棄は可能だった。前の世界よりも
時間を稼げたことが大きかった。
 だがそれは本土防衛軍首脳部にとって屈辱でもあった。自分達の無策振りを、戦略的な失敗を将軍に近い人間が
フォローする。それは彼ら(以後将軍派と呼称)が得点を稼いでいることに他ならない。

(何故だ、何故、連中はここまで先を見て動ける?! あの雌狐の研究の成果か?)

 内心で渦巻く疑問。だがいくら考えても答えなどでない。

(今更、将軍などカビが生えた者に国の大権を預けるわけにはいかん! 国家は軍が統帥してこそ生き残れるのだ!)

 そんな富永の内心を見透かすかのように、一部の出席者は冷たい視線を富永に向けていた。
 
(((どうせ『今回』も碌でもないことを考えているんだろう)))

 そんな中、皇帝が口を開く。

「もはや帝国軍に帝都を守る兵はないのか? 京都を含め近畿を放棄するしかないのか?」
「残念ながら……」
 
 かくして京都の放棄が決定される。だが同時に時間稼ぎと後の東日本での決戦に向けて京都でBETAを消耗
させることが富永から提案される。

677earth:2011/07/11(月) 23:44:00
「京都放棄はやむを得ません。ですが東日本での戦いを有利に行うために、京都でBETAを足止めする必要は
 あります」

 この提案に海軍大臣が反対する。

「京都で戦う必要はない。口惜しいがBETAが京都に侵攻してきたら、京の街ごと砲撃で粉砕したほうがよい。
 一兵でも多く撤退させたほうが決戦には有利だ」
「ですが集結には時間が必要です」
「準備は進んでいるはずだが?」

 将軍派の根回しで東日本の部隊の集結が進んでいることを指摘された富永は、少し顔を歪ませるもすぐに反論する。

「より多くの兵を集める必要があります!! 次の決戦で破れれば帝国は蹂躙されます!!」
「……だが西日本にいた部隊の多くは全滅。どうやって兵力を工面するつもりだ?」
「非常に心苦しいですが斯衛軍にお願いしようかと」

 これに出席者の多くが反発する。だが煌武院家以外の摂家に近い人間は沈黙していた。
 これを見た将軍派は彼らが富永と結託していることに気付く。

(やはり連中は殿下を囮にする、いや混乱に乗じて……)

 煌武院家出身の将軍である悠陽を戦乱の隙に亡き者にし、軍と結託して次の将軍の地位を我が物とする。そんな下種な
ことを考えているな、と将軍派の人間は考えた。そしてそれは外れてはいなかった。

(((この際、小娘には京都諸共消えてもらおう……)))

 現状ではお飾りに近い将軍の地位。それを狙う者たちは悠陽を消すつもりだった。さらに彼女を悲劇のヒロインにした
上で仇討ちとして次の決戦での士気を上げて勝利する……それが彼らの目的だった。 
 しかしそんな考えすら悠陽は利用するつもりだった。 

「……判りました。私自らが指揮を取り、時間を稼ぎましょう」

 この悠陽の言葉に、富永は内心で嘲りつつも大げさに感謝する素振りをする。しかし悠陽はそんな彼の内心を見透かしていた。

(私を利用するつもりなのですから、私に利用されても文句は無しですよ)

 こうして津波のように押し寄せるBETAを少しでも食い止めるために斯衛軍が出撃する。

678earth:2011/07/11(月) 23:44:38
 斯衛軍専用機である『瑞鶴』。この近代軍としては「あり得ないだろうJK」と言われることが確実な機体と武家から
選ばれた衛士たちは京都市街地に布陣した。
 死兵同然なのだが、千年の京での決戦ということで将兵の士気は高かった。加えて米軍も側面支援を行う事を通達して
いた。本土防衛軍首脳部からすれば「余計な真似を」と言われることが確実なのだが、この行動は米軍からすれば日本に
恩を売ると同時に、今後現れるであろう異星人に対するメッセージでもあった。

「『BETAと戦う覚悟がある』ということを示す必要がある」

 前の世界の記憶を持つ米高官はそう言った。
 一般の米軍将兵からすれば各国への支援などで十分に対BETA戦争に貢献しているのだが、前の世界で異星人がわざわざ
大気圏に宇宙船を降下させて真っ先に日本に侵攻するBETAを掃討したことから、一部の高官は異星人が日本に対して関心を
持っている可能性を考慮していた。
 故に異星人の目が向いているかも知れないこの京都の決戦に曲がりなりにも参加することを決めたのだ。ただし犠牲が多すぎる
と世論が煩いので、側面からの支援となったのだが、それでもかなりの援護となる。
 
「火力自慢の米軍戦術機が支援に加わるのは大きい」

 国粋主義者が多い斯衛軍の人間も後方からの支援が厚くなることは歓迎した。
 まぁ自分達の血を流したがらない姿勢に腹を立てる者もいたが、やはり支援があるとないとでは大きな差があることは理解して
いたので余り大きな声で米軍の悪口は言えなかった。
 だが雌狐だの魔女だのと悪名が響く香月夕呼の私兵も加わると聞くと少し顔をゆがめた。 
 
「何故、あの連中まで?」
「何か狙いでもあるのか?」
「判らん。それとも何か取引があったのかも知れん」 

 A−01が加わるのは大きい。だがあの『魔女』が無償で帝国に貢献するはずがないと誰もが思った。
 そして実際、彼女はただで部隊を参加させるつもりはなかった。

「前の世界から因果流入を招いた原因かも知れない異星人。連中が彼らに興味を持つかしら?」

 A−01は00ユニット候補の集まりでもある。その彼らに異星人が興味を示すかという実験は彼女にとって実施する
価値があった(まぁ実際には政治的取引で色々と利益も手に入れていたが)。
 さらに今回、A−01には『特別な』新米衛士が加わっていた。

「白銀武。前の世界の記憶持った人間もいるし」

679earth:2011/07/11(月) 23:45:50
 94式戦術歩行戦闘機『不知火』。それに白銀武は乗っていた。
 新米でありながらA−01に編入されたという異例の衛士として。

「いよいよ戦場か」

 前の世界の記憶が流入してから混乱したものの、それが事実と考えた武はあの悲劇を繰り返さないためとして軍に
入った。だが軍というのはそんなに甘いものではなかった。加えてあの悲劇を経験している武は上層部というものに
対する不信感が強かった。
 故に周りや上官と衝突する始末だった。だがそんな問題児だったが故に、彼は偶然、夕呼の目にとまった。
夕呼は得意の交渉術で武が前の世界の記憶持ちであることを引き出すと、00ユニット候補として A−01に放り込んだ。
 まぁそこでさらに武は地獄を見たのだが……その地獄の経験を代価として武はこの戦場に立つことができた。

「見ていてくれよ。俺達の意思と覚悟を」

 これから現れるであろう異星人。地球や月、火星のBETAを瞬く間に掃討していった存在は彼にとって救世主で 
あった。軍隊生活を送ることで、異星人が清廉潔白な救世主とは思えなくなっていたが、それでもBETAや前の世界
で日本を内乱に陥れた馬鹿よりはマシな存在と考えていた。少なくとも彼らは地球や人類を、自分達を救ってくれた。
奪うだけで何もしなかった連中と比べれば雲泥の差だった。
 そんな彼らに、人類の覚悟を示すまたとない機会と武は考えていた。そんな考え事をしていると、先輩の鳴海孝之
から通信が入る。

『ほかの事は考えるなよ。気を抜くとあっという間だぞ』
「! 了解!!」

 そんなやり取りがされる中、京都決戦の幕は上がる。迫り来る圧倒的な数のBETAに対して斯衛軍、そして
米軍は決死の抵抗を行った。

「千年の京。ここで恥かしい戦いは出来ません!」

 紫の瑞鶴に乗って、悠陽は各戦線で将兵を鼓舞する。さらに時には実際に戦場で戦い、BETAを撃破していった。
 勿論、要塞級のような大型は撃破できないが、中小のBETAを多く倒し、将兵を感嘆させた。お飾りであり、これ
まで戦場に出ることがなかった将軍が自分達と共に戦う。これは将兵に力を与えた。

「俺達の娘くらいのショーグンが戦っているんだ。後れを取るな!」

 米軍もこれに刺激されたのか、側面から激しい攻撃を加える。
 本来ならとっくに京都全域が焼け野原になっていてもおかしくないにも関わらず、両軍の奮戦によって京都は
丸焼けになることを防がれた。だがこのままでは京都の陥落は時間の問題。誰もがそう思った。
 そんな中、前の世界を知る人間達にとっては二度目の、そして何も知らない人間からすれば最初の宇宙からの介入が
起こる。尤もその前に、前の世界を知る人間にとっても予期せぬことが起こったが。

680earth:2011/07/11(月) 23:46:30
「銀河帝国?」

 悠陽は司令部で報告を聞いて驚いたような顔をする。だがそんなことに構わず通信参謀は話を続ける。

「はい。地球全域で観測されました。銀河帝国軍はこれより地球上の全てのハイヴを掃討する。そのような通信が
 行われています」
「銀河帝国……」

 悠陽は前の世界では決して名乗らなかった彼らが、自ら名乗ったことに驚いた。だが同時にこれはチャンスでも
あると感じた。

(名乗りを挙げるということは、私たちと話をする意思があるということ。確かに武力では天と地ほど離れている
 ものの、交渉となれば我が国にも機会はある)

 米国の先を越せないものの、越される恐れも無い。さらに多少は事情を知る自分達なら、他の国よりもスムーズに
交渉に入れる。そう悠陽は考えた。
 彼女が思考の海に沈む中、一般の将兵には信じられない報告が次々に飛び込む。

「世界各地のハイヴが吹き飛んでいるそうです!」
「カシュガルのオリジナルハイヴも消滅したとの報告が!」

 実質的にこのときをもって地球上での対BETA戦争は終った。だが悠陽は気を緩めることはなかった。彼女にとって
戦いはこれからだった。

「気を抜いてはなりません。ハイヴは消えても目の前のBETAは健在です」
「は!」

 米国は全ハイヴが消滅したことを確認すると支援に留めていたはずの部隊を正面に回した。さらに日本も彩峰中将の
部隊が参戦。日米連合軍は一気に攻勢に出た。加えて四国の部隊も後先考えない攻勢に出る。
 この急展開に慌てた本土防衛軍が部隊を回すころには、BETAは京都から追い散らされてしまう。 
 こうして京都決戦は日本の、いや人類の勝利で終った。だがそれは次の戦いの開始を告げるものでもあった。

681earth:2011/07/11(月) 23:49:32
あとがき
駆け足でしたが、本土決戦終了です。
次回以降、接触になる予定です。
管理局の出番は・・・もう少しお待ちください(爆)。

682earth:2011/07/14(木) 22:05:07
風邪でダウンしていましたが、何とか復活しました。
と言うわけで接触直前の帝国側の様子を描く第9話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第9話


「彩峰中将が健在で、四国が陥落しなくて、さらに京都防衛戦に米軍が参戦? どんなカオス世界ですか?
 むしろ何の二次創作?」

 シャングリラで開かれた会議の席で耕平は頭を抱えた。
 マブラヴ世界の『前の世界』からの、そして原作からの乖離は、それほどの衝撃を耕平に与えていたのだ。

「…まぁF−18やF−15とかの雄姿が見られたのはよかったけど」

 ぼそっと呟く耕平に参謀AIたちは心なしか冷たい視線を送る。
 参謀AIたちは如何にもプロの軍人と言った壮年男性の外見をしている。故にそんな彼らの冷たい視線(?)を
受けた耕平は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

(まぁさすがに美女美少女で回りを固めるつもりはないが、もう少し増やすか?)

 帝国軍の元になった黒旗軍のアンドロイドやAIは男性型がメインだった。最近になって女性タイプのものが
増えているが、それでも比率で言えば男が圧倒的に多い。耕平からすれば戦場に華は必要であっても、華で満たす
必要はなかった。

(いやいや、気分を切り換えなければ)

 耕平はわざとらしく咳をして気分を切り替える。 

「正直に言って、あの世界の調査が必要になると思う」

 あれが何故原作から乖離したのか、その原因が偶発的なものか、それとも何かしら別の要因があったのか。それを
見極める必要があると耕平は考えていた。そして参謀AIたちもそれに異論は唱えなかった。

「参謀本部としても賛同します。あの世界に何者かが干渉したのなら早急に調査し、正体を割り出す必要がある
 でしょう」

 この意見に耕平は頷く。だがすぐにそれに冷や水を浴びせる意見が参謀AIから出される。

「ですが最悪の場合は、あの世界からの撤退も考慮していただく必要があります。全面的な次元間戦争をするのは
 時期早々です」
「判っている。だが大規模な調査のためには頭数がいる」
「…予備兵力のパトロール艦を回しましょう。それと今後、巡洋艦改造の軽空母又は航空巡洋艦の建造を行うことを提案します」
「信濃や戦闘空母では不足と?」

683earth:2011/07/14(木) 22:05:46
 信濃級空母はアンドロメダ級の艦体を利用した飛行甲板を持つ大型空母だ。各種設備も充実し航空機運用能力はずば抜けている。 
 戦闘空母も前期生産型は航空戦艦伊勢のように後部を改造し艦載機を搭載できるようにしたものであるが、後期生産型は
飛行甲板を有しており、より多数の艦載機を搭載、運用できる。
 
「質ではなく、数の問題です。僅かであっても航空戦力の傘があるとないとでは大きな差となります」
「ふむ…今後、さらに手広くやるとなると必要か」
 
 まさかマブラヴ世界への介入が軍備にも影響するとは、と耕平は苦笑した。

「何はともあれ、取りあえず外交ルートの確立だな。長門中将の手腕に期待するとしよう。
 ああ、それと外交官も可能な限り急いで送らないと」
「帝都や各都市の建設は行っていますが、住み人間はまだいません。仮に早期に正式に国交を樹立し交流するように
 なると面倒なことになるのでは?」
「大使館を向こうに置くだけだ。連中をこの恒星系に、いやこの世界の銀河に招くつもりはさらさらないさ」

 公式上、銀河帝国帝都が置かれている主星のある恒星系は機密ということで秘匿することにしていた。
 
「せいぜい、前線に建設する要塞に招く程度だ。皇帝陛下と直接会談することもない。まぁ通信で会談することは 
 あるかも知れないが」

 この耕平の言葉に、参謀AIたちは取りあえずマブラヴ世界への対応に関しては納得して引き下がる。
 だが彼らの追撃は終わりではなかった。

「格下の地球が相手ならそれで良いかもしれませんが、出会う相手が格下ばかりとは言えません」 
「判っている。とりあえず300人の人間は作っている。アンドロイドも作れるだけ作る。多少は賑わうだろう」

 同時に帝国(笑)の実情を思い浮かべて耕平はため息を漏らす。
 
(領土は広いけど、よく考えると人類の感覚で言えば地方自治体が帝国を名乗っているみたいなものだよな……)

 少しと遠い目をする耕平。だがそんな状況でも参謀AIは容赦が無い。

「ですがイレギュラーを考えると不足なのでは?」
「仮に早期に交流を迫られる事態となると問題が起こります。帝国の構築計画を前倒しするべきかと」

 手痛い意見に耕平は思わず憮然とするが、自分にとって耳の痛い意見に怒っても意味が無いとして耕平は
気分を切り替える。

684earth:2011/07/14(木) 22:06:20
「アンドロイドや人間の『生産』を増やせと? だとしたら生産プラントの拡張が必要になるが…・・・」
「計画中の中規模兵器工廠の建設を断念すれば可能です。これによって領土拡張スピードが若干落ちますが
 挽回は可能な範囲であると参謀本部は判断します。詳細については後ほどレポートで提出します」 

 この言葉に少し逡巡した後、耕平は頷いた。だが同時に苦笑する。

(何か、昔の某作品を思い出すよ。あれも軍の将兵を工場で生産していたからな。まぁあれは女性ばかり
 生産していたから、その点は違うけど……気のせいだろうか、何か悪の帝国軍って感じがしてくるな。
 クローン兵士を増やすとなると、ボン太君よりもあの帝国軍の装備のほうがいいかも知れない)

 そこまで考えた時、耕平は頭を振って雑念を振りほどく。

「クローニングによる人間の量産、アンドロイドの大規模な量産体制の構築。これで1年以内に100万の人口を揃える。
 あと入力するソフトは単純な奴にしておく。感情豊かなのは構築するのが面倒だし。能力があれば当面は問題ない」
「了解しました」 
 
 こうして帝国の構築は前倒しされ、さらに当初考えられていたものより規模を拡張される。
 
「後はNPCの生産だが、こちらは当面先だな。さすがにそこまで労力は割けない」

 この意見に参謀AIは同意する。資源地帯の開発、そして帝国軍の拡張が最優先である以上、必要以上に資源を消費
する国民を作る理由はない。

「長門中将には、銀河帝国主星の総人口は100万と言うように命令しておこう。
 100万の人口で銀河の4分の1を支配できる高度な文明と考えてもらうほうが都合が良いし」
「詳しい歴史を聞かれたらいかがします?」
「その辺りはアドリブで任せるさ。まぁ第三次汎次元大戦は映像付きで教えてやれば良い。
 人口が少ないのも勝手に納得するだろうし」

685earth:2011/07/14(木) 22:06:52
 銀河帝国を名乗る勢力によって地上の全てのハイヴが掃討されたことが知られると、各国(日米除く)の指導部は
喜ぶよりも驚愕した。そして次に誰かの悪戯か、米国の陰謀ではないかとさえ考えた。
 だが帝国軍と思われる宇宙艦隊が地球周辺に遊弋していることが明らかになると、彼らは警戒態勢を取った。
 
「第二のBETAかも知れない」

 これまでBETAによって散々な目に合った人間達からすれば当然の反応であった。
 だがそんな中、日本とアメリカは国内の慎重意見を押し切って銀河帝国との接触を開始した。彼らはあらゆる手で
帝国艦隊にメッセージを送った。
 尤も前々から彼らが作っていた『伝言』を受け取った2人は呆気に取られることになる。
 
「…ラブレターかしら?」
「ある意味、恋文と言えなくともない」 

 日米両政府からは会談を要望するメッセージが多数寄せられていた。 
 警戒されているのではないかと考えていた長門と朝倉からすれば、この2国の反応は驚きであった。しかし素直に
喜ぶほど彼女達は純朴ではない。

「私たちが敵でないと判断しているのか、それとも罠か……」
「むしろ正体が判らないからこそ、積極的に接触を試みているとも考えられる」
「無知こそ罪と?」
「正体不明の艦隊がこのまま遊弋するよりはマシと考えたのかも知れない」 
「だとしても思い切りがいいわね。いや、この世界の動きからすればあり得なくはない?」

 朝倉は少し黙ると長門のほうを向いた。 

「このままじゃ埒があかないわ。代表団を招いて交渉、いえ顔見せといきましょう」
「彼らを招くと?」
「そう。連中が何か企んでいても、こちらのホームベースでなら対処は楽。それに銀河帝国が地球側に配慮している 
 ともアピールできるわ。いくら技術的に劣っているからと言って悪戯に怒らせて暴発させるわけにもいかないし」

 彼女達はマブラヴ世界の調査、そして情報の持ち帰りを命令されていた。故に必要以上に地球が騒乱状態になる
のは好ましくない。それを理解しているのか、長門は静かに頷く。

「判った。それでいく」

 かくして日米両政府に対して、宇宙で会談を行いたいとの通信を彼女達は送った。
 勿論、この返答を受けた日米両政府は承諾。彼らは再突入駆逐艦を使って会談場所として指定された月軌道、いや
月軌道に停泊している帝国軍艦隊に向かった。

686earth:2011/07/14(木) 22:09:20
あとがき
夏風邪で寝込んでいましたが何とか復活しました。
今も本調子ではないのですが(苦笑)。
というわけで次回、宇宙で会談です。
日米の担当者のSAN値がどうなることやら……。
それでは失礼します。

687earth:2011/07/15(金) 22:16:00
風邪がぶり返してきて少しグロッキー気味ですが何とかできました。
短めですが第10話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第10話

 銀河帝国軍地球派遣艦隊旗艦『アルテミス』。
アンドロメダ級の三女であるこの艦は排水量10万トンを誇る超大型戦艦であった。この原子力空母並みの大型艦が
宇宙に浮いている姿は、再突入駆逐艦の日米交渉団の団員に言い知れぬ威圧感を与えた。
 
「これが『アルテミス』……大きいですな。さらに速度も我々のものとは比べ物にならない。
 これだけの宇宙船を宇宙に浮かべるとは……」

 米国交渉団の人間達は、これほどの艦艇を宇宙の彼方から派遣してきた帝国の力に畏怖と警戒感を抱く。
 地球上のハイヴを一瞬で消滅させたその力、アルテミスやその周辺の宇宙船を見れば銀河帝国がどれほど強大な国家で
あるかが判る。

「しかし『アルテミス』という名前は本当なのでしょうか?」
「判らん」

 尤も会談場所として指定された艦の名前に首をかしげる者も多かった。一部では地球人に正確な情報を教えたくない
から偽名を言っているのではないかとさえ考える者もいるほどだ。
 だが判っていることは一つだけあった。

「攻撃しなくて正解だったな」
 
 交渉団長の男の台詞に誰もが頷いた。
 米国内部では、トラブルの種になりかねない新たな異星人を追い払ったほうが良いとの意見もあった。
 追い払うといっても退去を願うという穏健なものから、核ミサイルやG弾で攻撃して撃滅するという過激な案まで様々
であった。しかしレーザー種の迎撃をものともせず、BETAを一瞬で消滅させたことから、軍事力で対抗するのはまず
不可能との結論が下り、米国は交渉を求めることになったのだ。無論、影では前の世界の記憶を持つ者の後押しがあった
のは言うまでも無い。
 
(上は、新たな異星人と友好的な関係を構築したいと思っているようだが……難しそうだな。下手をすれば不平等条約の
 締結、いや占領、併合さえあり得る。全ては彼らの匙加減次第か)

 超大国として世界に君臨していたアメリカが、力自慢の田舎者、いや原始人に過ぎなかったことを思い知らされた交渉団で
あったが、ここで凹む彼らではない。この場においても国益を手にするべく頭をフル回転させる。

「何はともあれ、彼らが何を欲して地球に来ているのかを探ろう。
 取りあえずこれまでの彼らの行動から、人類の殲滅などと言う目的ではなさそうだからな」

 しかし米国以上に気合が入っているのが日本側だった。交渉団には、何と将軍の代行として御剣冥夜がいたのだ。

688earth:2011/07/15(金) 22:16:32
 京都決戦後、事実上復権を果たした悠陽によって彼女は表舞台にでることを許されていた。そしてその初の大任として
この銀河帝国との交渉に加わることになった。少なくない人間が妹に華を持たせたいためではないかと穿った見方をしたが
それは大間違いだった。

(前の世界での彼らの振る舞いから、我々を滅ぼそうとするつもりはないのは判る。
 ならば、彼らが何を目的として地球に来たか、これを探るのが我らの仕事になるだろう……) 
 
 彼女自身も前の世界の記憶もちであった。よって初めて帝国軍艦艇を見る人間よりは気圧される恐れが無いこと、さらに
身分も高いために交渉団の人間に選ばれたのだ。若さからの未熟を指摘する者もいたが、前の記憶を継承していることで 
それもある程度はカバーできている。
 だがそれ以上に驚くのは、香月夕呼、そして社霞がいたことだろう。
 AL4という国連の計画の中枢を担う存在でありながら、交渉団に彼女が選ばれたときには多くの人間が驚愕した。魔女が
また何か裏技を使ったとの噂が駆け巡ったほどだ。
 尤もそんなことなと露も気にかけない夕呼は、霞という切り札と共に交渉団に平然と加わり、今後のことを考えていた。

(彼らが第二のBETAかどうか見極めないと)

 夕呼からすれば信じられないほどの航行速度を持つ宇宙船を多数建造したり、BETAを一蹴できる超技術を持つ帝国が
何も野心がないとは思えなかった。
 国家である以上、国益を求めてわざわざ太陽系に来たことになる。無償で他国に奉仕する国家などあるはずが無いのだ。

(もしも何かが欲しいのなら、実力で手に入れていることができる。それなのにわざわざBETAを先に掃討した後 
 交渉に応じるということは実力行使ができない理由があるということ。
 軍事的なものか、政治的なものか、はたまた宗教的な理由か。うまく突き止めることができれば何らかのカードになる
 かもしれない)

 そう考えた後、夕呼はドレスのような軍服を着た霞に顔を向ける。

「私が言うまで何もしなくていいわ。ただし相手が何かしてきたら言って」
「はい」 

 彼女が霞を同行させたのは意外なことに相手の思考を読むためではなく相手のリーディングを警戒してのことだ。 

(さて連中はどんな手を打ってくることやら……)

 さすがの夕呼も緊張せずにはいられない。勿論、緊張しているのは彼女だけではなく、交渉団全員に当てはまる。
 しかしそんな彼らは予期せぬ歓迎を受けることになる。

689earth:2011/07/15(金) 22:17:06
 再突入駆逐艦からアルテミスに乗り込んだ交渉団を格納庫で出迎えたのは、多数のボン太君だった。
 
「……着ぐるみ?」

 誰もが唖然とする中、敬礼の号令と共に儀仗隊らしき多数のボン太君が捧げ銃の敬礼を行い、歓迎のためにボン太君が
楽器を演奏する。
遊園地なら子供が喜ぶかもしれない光景であったが、異星人との交渉で乗り込んできた交渉団からすると理解不能な光景
であった。
 だが呆然となったのも極僅かな時間であり、彼らはすぐに我に戻る。だがそんな彼らにさらなる追い討ちが襲う。
 
「始めまして、地球の皆様」

 誰もが声が聞こえた方向を見る。だがそこには、さらに信じがたい光景があった。 

「「「……」」」

 そこにいたのは、軍服を着たロングの髪を持つ日系の少女だった。  
 想像の斜め上をいく光景に、さすがの夕呼も少し硬直する。何しろBETAのような醜悪な侵略者のあとにきたのは
宇宙船に乗ったファンシーな着ぐるみと少女(それも美少女と言えるレベル)なのだ。
 これで驚かないほうがおかしい。だが彼らはすぐに現実に戻る。伊達に修羅場は積んでいない。日米交渉団の団長は
自身の名前を告げる。
 だが彼らの動きを見て朝倉は精神的な不意打ちに成功したことに満足した。  

(さて、次は……)

 しかしその彼女も不意を突かれる。交渉団の中に、トンでもないVIPがいたからだ。

(御剣冥夜に、香月夕呼、それに社霞? 何とまぁ豪華な……)

 勿論、不意を打たれたのは彼女だけではなかった。この様子をモニターしていた耕平は朝倉や長門よりも大きな
衝撃を受けた。

「……いきなり魔女と遭遇ですか」

 いきなりあのやり手と交渉かよ、とぼやく耕平であったが、すぐに開き直る。

「まぁ良い。多少失敗しても、この世界の人類なら脅威じゃない。良い経験にはなるさ」

 かくして日米交渉団からすれば国家の、いや人類の命運を掛けた交渉が、帝国からすればチュートリアルとしての
交渉の幕が上がる。

690earth:2011/07/15(金) 22:21:28
あとがき
夏風邪はきついですね。喉が痛いし咳も酷い。早く直さないと。
もうそろそろ憂鬱も進めないといけないか……。
次回、交渉に入ります。長門&朝倉VS夕呼になる…かも(爆)。
それでは失礼します。

691earth:2011/07/16(土) 22:16:25
というわけで交渉というか顔見せに近い第11話です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第11話


 朝倉は自身の内心を悟らせないようにポーカーフェースで、微笑みを浮かべながら自己紹介する。

「申し遅れました。私、銀河帝国軍地球派遣艦隊参謀長を務める朝倉涼子少将です。宜しくお願いします」

 この言葉に交渉団全員が驚愕する。 

(参謀長? 艦隊の参謀長が彼女?!)
(朝倉涼子? 日本人?)
(しかも見た目はどうみてもハイスクールの学生だぞ。それが少将?)
(我々を欺くための擬態か?)

 色々な憶測が飛ぶ。何しろ出向けたのが着ぐるみと女子高生位の年齢の艦隊参謀長(自称)となると
混乱しないほうがおかしい。
 しかしいつまでも混乱してはいられないので、彼らは朝倉に案内されて大会議室に向かった。
だがそんな中でも彼らはアルテミスの中を観察するのを怠らない。

(通路が広いな。仮に戦闘になっても戦闘員が余裕を持って動ける)
(それに重力もある。1Gの重力を発生させるとは)
(我々で同じ真似をしようとすれば、この艦よりも遥かに大型になるな。移民船が良い例だ)
(しかし行き来するのが着ぐるみとロボットだけだ。人間はいないのか?)

 交渉団の中でも、科学者である夕呼の驚きはさらに大きかった。帝国軍がいかに技術面で優れているかが
よく判るからだ。だが同時に帝国軍への分析も人より進めていた。

(あのロボット達は何らかの連携をしていた。それも遠隔操作ではない。ある程度の判断が可能な人工知能
 が積んであるってことか。帝国とやらは高度な機械化で軍の省人化を進めているのかも知れないわね。
 だとするとこの艦隊も、乗り込んでいる人間は思ったよりも少ないかも知れない)

 当たらずとも遠からずのことを考える夕呼。もしも彼女の思考を除けたら耕平は魔女の頭脳に畏怖すると
同時に賞賛することは間違いない。
 そんな風に彼女が考えていると、交渉団はついに交渉の場となる会議室の前に着いた。

「艦隊司令官がお待ちです」

 この言葉に襟を正す交渉団。しかしあけられた扉の向こうにいる人物を見て再び硬直した。

692earth:2011/07/16(土) 22:17:00
 どうみても小柄な日本人(日系)の少女が座っていたのだ。
 周辺には大人もいたが、回りの態度からして彼女が一番階級が高いことがわかる。

(((我々は銀河帝国を名乗る国家と交渉に来たはずなのだが……)))

 しかし頭を抱えるわけにもいかない。彼らは長門の正面側に用意された席につく。
 そして交渉団が人数分用意された席に全員が座ると武器を使わない戦い(帝国側からすれば練習でしかないが)が始まる。

「……初めまして。私は銀河帝国軍地球派遣艦隊司令官を務める長門有希。階級は中将。
 皇帝陛下から艦隊の指揮に加え、地球各国との交渉を行う権限も与えられている」

 事実を知る者からすれば失笑物の台詞だったが、事実を知らない地球側は真剣に受け取っていた。 
 そんな中、夕呼が手を挙げる。

「質問を宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「銀河帝国と名乗られましたが、貴方達はどこから来られたのですか?」

 色々と突っ込みたいことはいくらでもあった。だが相手の正体を知らないのでは話にならない。
 夕呼は相手が銀河帝国と名乗る以上、この銀河のどこかにある星間国家ではないかと考えていた。
だが帰ってきた答えは彼女の想像を超えたものだった。

「銀河帝国『レムレス王朝』の主星がある銀河は、この世界ではなく、別の世界にある」

 前の世界を知らない人間は混乱したが、夕呼を含め一部の人間は長門が何を言おうとしているのか理解した。 

「つまり銀河帝国はこの世界の銀河ではなく、別の世界、つまり並行世界の銀河系にある国家であると言うことですか?」

 この言葉に長門は頷く。

「そのとおり」

 取りあえず並行世界の国家であることを確認した夕呼は、さらなる情報を得るべく質問を続ける。

「銀河帝国というのはどのような国家なのでしょうか?」
「現在、主星がある銀河の3割近くを支配する星間国家。今は他の銀河や他の世界への進出も進めている」

693earth:2011/07/16(土) 22:17:43
 この言葉に交渉団たちの多くは危うく卒倒しそうになった。
 相手が嘘を言っていなかったとしたら、銀河帝国とは文字通り『銀河を支配する帝国』を自称しても何の問題もないのだ。
 銀河の3分の1を押さえ、銀河間どころか、他世界へさえ移動できる科学力を持った化物国家。自分達が逆立ちしても
敵う相手ではない。

「この艦の名前の『アルテミス』、それに貴方達の氏名を見る限り、地球の文化に近いものを感じられるのですが」
「帝国の建国には地球人類が関わっていた。その名残」

 この言葉に誰もが驚愕する。何しろ銀河帝国の建国に並行世界の地球人類が関わっていたと言うのだから
驚かないほうがおかしい。尤も真の事情を知る長門や朝倉は内心で苦笑していたが。

(嘘は言っていないわ。嘘は、ね)

 内心でそう呟くと朝倉はセンサーを使って日米の交渉団の血圧や筋肉の動きの変化からを見る。
そして交渉相手が少し安堵したと判断した。

(ESPを使えばもっと楽なんだけど……それじゃあ練習にならないし)

 朝倉たちはESPを使って相手の脳裏を覗く真似はしていなかった。
 勿論、向こうがしてきたら対抗措置はとるが、それまでは極力ESPは使わないようにしていたのだ。 

「……しかし何故、銀河帝国が太陽系に来られたのですか?」

 米国交渉団の質問に長門は淡々と答える。

「我々は太陽系外で貴方達がBETAと呼ぶ存在と遭遇した。帝国政府はBETAの詳細な調査を開始すること
 そして敵対勢力として掃討することを決定した。そしてBETAの調査を続けた結果、太陽系にたどり着いた。
 その際、先行させた偵察部隊の報告で地球人類が危機的状態になっていることを知った帝国政府は介入を決定した」
「人類を助けるために太陽系に艦隊を送った。そういうことですか?」
「肯定する。我が艦隊は月と火星のBETAも掃討する予定」    

 人類を助けるためにBETAを掃討するとの言葉は、一般人が聞けば喜ぶものであったが、交渉団の人間からすれば
一概に喜べるものではない。何しろ彼らは未だに本音を語っていないのだ。さらに言えば彼らは事前の通告はしたが
人類の同意を得ることなく地球への爆撃を行っている。簡単には信用できなかった。

694earth:2011/07/16(土) 22:18:14
「政威大将軍の代行として銀河帝国のご好意にお礼を申し上げます。
 しかし折角のご好意ですが、今の人類は帝国に御礼をするような余裕はありません」

 残念そうに言う冥夜。勿論、それは素振りだけだ。彼女はそういうことで向こうがどうでるかを伺っていた。
しかし長門は判っているとばかりに頷く。

「今の人類の状況は承知している」
(大人しそうな顔で中々に狸ね……)

 耕平からすれば「お前が言うか」と突っ込みが入ることが確実なことを考える夕呼。
 だがそんな内心を正確に知ることなく、長門は話を続ける。 

「詳細については大使着任後に再び話になる」
「大使ですか?」
「そう。双方のコミュニケーション不足や相互理解の不足で衝突が起こるのは好ましくない。話し合いの席を
 設けるために地球に大使を赴任させることを政府は考えている」

 銀河帝国と地球人類の実力差を考えれば、それは命令に近い。
 しかし交渉も出来ない状況に追いやられるよりはマシだった。何しろBETAとは対話すら不可能だったのだから。
 
(国家の規模や技術力からすれば、容易に第二のBETAとなり得る。でもうまく利用できればBETAの脅威を宇宙から
 払拭できるし、人類の飛躍的発展も可能になる)

 夕呼はこの新たな国家とどう接するかで人類の命運が分かれることを理解した。だが理解できないこともあった。
 
(それにしても、あんなふざけたもの(ボン太君)を作るなんて、並行世界の人類は何を考えているのかしらね?
 それとも何か大きな出来事でも起こって思考が変わったとでも?)

 交渉団は日米両国の状況について説明した後、本国に帰って政府と相談したいと願い出た。勿論、それを長門達は了承した。

(取りあえず反応は悪くない。今回はこれでよしとする)
(そうね。あと爬虫類の件もあるし、私たちが人間でないことはまだ話さないほうが良いわね)

 こうして銀河帝国と地球人類の顔見せは終わり、交渉は次の段階に入る。

695earth:2011/07/16(土) 22:20:13
あとがき
顔見せ終了です。
次回、地球側の動きになります。
銀河帝国『レムレス王朝』とどう付き合うかで各国は頭を抱えるでしょう。
特に共産国家は……。
それでは失礼します。

696earth:2011/07/17(日) 23:08:10
顔見せ後の日米の様子を書く第12話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第12話

 『アルテミス』から戻った交渉団の報告を受けた日米両政府は、銀河帝国の強大さに驚愕すると同時に
友好関係を如何に築くかで頭を捻った。
 向こうがハッタリを言っているのではないかと言う者もいたが、長門艦隊はそんな彼らを嘲笑うかの
ように宇宙を我が物顔に動き回った。
 さらに火星方面から来襲したと思われる降下ユニットを、偵察衛星や再突入駆逐艦が見る前で粉砕する
ことで宇宙艦隊が恐るべき力を持っていることを示した。
 だが同時に通信で日米と連絡は取り合うなど一定の配慮は見せていた。 

「彼らの言うとおり国交を開くしかないだろう」

 米国大統領はそう決断を下した。
 
「あれほどの軍事力を持った国の要求は無視できない。何より、他の国に遅れは取れない」

 大統領の決断に誰も反対しなかった。軍人達は軍人であるが故に、帝国軍との戦力差を認識していたし
閣僚達もあれほどの超技術の持つ主達と喧嘩するという意見は言えなかった。

「帝国軍と戦った場合、我が国の宇宙軍は対抗できません。G弾を使っても帝国軍が
 本格的に反撃すれば全ては終わりです」 
「むしろかの帝国と如何に友好関係を築くか、これが重要でしょう」
「そのためにはさらに接触する機会を増やし、相手のメンタルや内情を探るのが必要です」
「左様。本格的交渉は大使が来てからと言われたが、それでは他の国にチャンスを与えるようなもの。
 今のうちに我が国が世界の、いや地球の中心であり、地球の代表と見做してもらわなければ」

 米国大統領は閣僚達や軍人達の意見に頷く。

「幸い、銀河帝国建国には異世界の人類が関わっていたという。ならばそのメンタルが理解不能という
 ことはないだろう。しかし艦隊司令官や参謀がハイスクールの学生にしか見えないとは……」
「あれだけの超技術の持ち主達です。外見を自由自在に変えられてもおかしくありません」
「だとすると、実際には我々よりも年上だったという笑えないこともあると?」
「はい」

 本人達(特に朝倉)が聞けば憤慨しそうなことを言い合う男達。しかし女性の年齢についての話題を
避けられるほど彼らに余裕は無い。

「何はともあれ、さらに接触を続けろ。失礼がないようにな。それと日本、ソ連、それに統一中華の動き
 にも気を配れ」

697earth:2011/07/17(日) 23:08:46
 米国が銀河帝国への接近を目論んでいる頃、日本帝国政府は方針を決めかねていた。

「レムレス朝銀河帝国。この帝国と敵対することになれば我が国だけでなく、人類そのものが滅亡する
 ことになるでしょう。何としても友好関係を構築するしかありません」

 夕呼の意見に閣僚達は顔を顰めた。

「しかし相手は些か人類の主権を軽視しているのではないかね?」
「銀河の3分の1を押さえる星間国家ゆえに、我々のことを蛮族として軽く見ている証拠では?」
「確かに爆撃は助かったが、もしも帝国国内にハイヴがあったら周辺地域への被害は途方も無いことになっていた」

 この言葉に夕呼、そして冥夜など交渉に参加した人間は呆れた。 

(彼我の実力差からすれば地球人類は未開の蛮族。向こうの態度は、紳士的なほうよ)

 夕呼は侮蔑の感情を悟られないようにポーカーフェースを心が得て話を続ける。

「BETAやハイヴを掃討したのは、彼らの武力を誇示するのが目的だった可能性が高いかと」
「示威行為ということか」
「はい。彼らは大使館を設置し、本格的に交流を持ちたいと言っています。
 その際、武力を背景にして有利にことを進めたいと考えているのでしょう」

 閣僚達はどうするかと頭を突きつけあう。そんな中、榊が口を開く。

「つまり彼らは武力を背景にした外交交渉を仕掛けていると?」
「はい。彼らが何を欲しいのかは判りません。ですが何かを欲してきているのは間違いないでしょう。
 その気になれば武力で奪えるにも関わらず」
「何か理由があって武力を行使できないということか……だが向こうの逆鱗に触れれば話は違ってくる。
 その辺りを見極める必要がある。だがそのためには極力、彼らと接触して彼らのメンタルを理解する
 必要があるな」

 榊の意見を聞いて外務大臣が尋ねる。

「大使館を誘致すると?」
「出来れば、だ。しかしそうなると米国との誘致合戦になるだろう。AL計画を巡る競争よりも
 厳しくなる」

698earth:2011/07/17(日) 23:09:18
 巨大星間国家との交渉の窓口になる。
 それは大きな利益を日本帝国に与えるだろう。だが失敗すれば人類を危険に晒すことになる。

「アメリカはこの地球の盟主とも言える存在だ。彼らならある程度の無茶な要求に答えられるだろう。
 だが我が国では、もしも何かを求められたとき、迅速に対応できない場合も考えられる」
「ですが艦隊司令官は日系人です。何とか」
「情で何とかできる相手ではないだろう。それに本格的に着任する大使が親日とも限らない」
「「「………」」」
 
 沈黙する閣僚達。
 そんな中、悠陽が尋ねた。
  
「それでは銀河帝国の大使館誘致を諦める、と?」
「殿下、『急いてはことを仕損じる』とも言います。この際、米国に華を持たせることも必要でしょう」
「米国を地球の代表と認めるのですか!?」

 陸軍や本土防衛軍の人間が特に反発する。京都防衛戦で米軍の陰に隠れてしまった彼らは米軍を敵視する
機運が高まっていた。勿論、将軍派はこれを抑えようとしているものの、本土防衛軍は頑なだった。

「では帝国が地球代表を名乗ったとして、他の国が納得するかね?
 我が国は国土の半分が焦土なのだぞ。そんな状態で地球の代表として責任が果たせると?」
「それは……」
「アメリカを地球代表として矢面に立ってもらう。勿論、こちらがあっさり引き下がる代償も引き出す。
 米国も『統一中華』や『ソ連』に情報が流れるのは面白くないだろう」  

 前の世界を知る者たちは、中ソの名前を聞いて内心で嫌悪感を覚える。だがこの場合は止むを得なかった。

「……その方針でいきましょう」

 政威大将軍が賛同したことで日本帝国の方針は決した。
 かくして日本は米国を地球代表に推すことになる。

699earth:2011/07/17(日) 23:10:57
あとがき
というわけで日本政府、あっさり米国を地球代表に推します。
勿論、引き換えに色々な譲歩を引き出すでしょう。
憂鬱第50話は完成率約30%。早ければ今月中。遅くとも8月には
掲載したいと思っています。

700earth:2011/07/30(土) 12:09:42
久しぶりの更新です。でも短めですが。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第13話

 日本帝国とアメリカの反応が想定していたよりも良好であったことは、耕平にとって驚きであると同時に
喜ばしいことでもあった。耕平は自室の机で、今後の展開が少しは希望が持てると思って久しぶりに明るい
顔をした。
 
「爬虫類の二の舞になったらどうするかと少し心配していたけど、うまくいって何よりだ。次は国交の樹立だ。
 まぁ正直に言えば、色々な国と交流を持ちたいが手持ちの外交向けのユニットが少ないのがネックか」 

 銀河帝国の母体は黒旗軍であった。そして黒旗軍に外交官など存在していなかった。

「とりあえずは少数の軍人、そして外交官に経験を積ませて、それをフィードバックしよう。
 まぁ何事も勉強は基礎から、コツコツとやるに限る。下手に欲張ると基礎が疎かになるからな」

 基礎がなっていない状態で応用をやっても大失敗するだけだ。
 今後について色々と考えた後、耕平は目を瞑って呟く。
 
「さて、あとは国交樹立後に大使を送って本格的な交流か。ふむ。そこまでは彼女達に任せても問題ないか。
 それにしても、原作からの逸脱か。予期せぬイレギュラーも起こりえる……これが判っただけでもマブラヴ世界に
 干渉した価値があった」

 わざわざ参謀を押し切っただけの価値はあったと耕平は満足する。

「とりあえずマブラブ世界は調査を重視しよう。外交の練習も必要だが調査も必要だし。
 あとイレギュラーに対応するためにも銀河全土を併合を急ごう。その後に兵器の質を向上させる。
 F−01だと早晩、役不足になる可能性がある。だとするとやはりRシリーズか? しかし必要な資源も多いからな……」
   
 Rやそれ以上の超兵器の本格的量産となると必要になる資源(特に希少資源)もかなりの量になる。
 元素変換装置で揃えられないこともないが、希少金属への変換となると引き換えに必要となる資源の量も多くなるのだ。

「禁止兵器を、いや大量破壊兵器を量産し、それをステルス艦やステルス機で撃ちこんで、目標の世界を完全に破壊する
 戦略も必要か? いや相手に反撃能力があったら面倒なことにもなるし、こちらに影響がでるかもしれない。
 ……このオプションは相手を限定する必要があるか」

 前の世界で世界ごと滅んだ管理局の人間が聞けば卒倒しかねない非常に物騒なことを考える耕平だった。

701earth:2011/07/30(土) 12:10:14
 耕平の指示を受け長門と朝倉は、国交樹立の準備とマブラヴ世界の調査の準備を進めた。
 特に前回とは乖離が著しい要調査対象である日米への人員(?)の派遣が2人の間では重視された。

「あの2カ国は原作、いや前の世界とは異なっている。入念な調査が必要」

 長門の言葉に朝倉は即座に頷く。

「そうね。前の世界のグダグダ振りからすれば考えられない位団結しているし、合理的に考えている。何かあったと
 考えたほうが自然ね」

 前の世界のことを知るがゆえに、彼女達はこの世界を調べれば調べるほど日米の不自然さを感じるようになっていた。 
 
(朝鮮半島から日本本土防衛戦に至るまで、日本帝国は未来を知っていたかのように消耗をできるだけ抑えている。
 それに私たちが京都防衛戦で介入すると知らなければ、米軍が無駄な消耗になるであろう戦いに戦力を投入する筈が無い。
 何かあると考えて行動したほうがいいわね。ひょっとしたら未来予知のエスパーでもいるのかしら?)  
 
 朝倉は、日米によって自分達の行動が読まれていたのではないかとさえ疑いを持った。
 勿論、考えすぎなのだが……第三計画というものがある以上、現状で否定することは彼女にはできなかった。

「国交を結んだ際も日米を重視するべき。ただし力関係から米国を第一、日本を第二とするのが妥当」
「そうね。あと問題は彼らが、こちらの高圧的な要求を聞くかってことね。飴と鞭の要領でうまくやらないと」
「いきなり高圧的過ぎると反発される。しかし引くと舐められる」
「難しいわね」

 ジレンマだった。何しろ爬虫類生命体という前例があるため、下手には引けない。しかしあまり高圧的な態度も
取りにくかった。何せマブラヴ世界の異変を受け帝国はその外交方針を転換し、宥和政策をとることになっていたのだ。

「とりあえず月攻略戦を行い武力を誇示する人類が見ている中で、ハイヴを一瞬で掃討すれば我々を露骨に敵視する政策は
 取りにくくなる」
「そうね」

 かくして月のBETAも滅亡が宣告されることになる。

702earth:2011/07/30(土) 12:10:52
 長門達が次の手を考えているのと同様にマブラヴ人類もまた次の手を考えていた。
 日米はテーブルの上で握手し、下では壮絶な足の蹴り合いもとい、駆け引きをしつつレムレス朝銀河帝国との国交樹立を進めた。
 何しろ相手はBETAを一蹴できる存在。下手に喧嘩を売っても自殺行為になるだけだというのが両国首脳には判っていた。
 だが国内には異星人(自称:異世界人)を信用することはできないと考える人間も少なくなかった。何しろBETAという前例が
ある以上、宇宙から来る勢力に警戒を抱くのは不自然なことではなかった。

「現状で銀河帝国に敵対するのは自殺行為。無視したとしても彼らは地球以外の太陽系の惑星を制圧するだろう。
 そうなれば人類は地球に閉じ込められる」
「彼らを第二のBETAにしないためにも相互理解を進めるべき」

 日米両政府はそう言って国内の反対派を説得しに掛かった。 
 加えて日米両政府は地球周辺に遊弋する銀河帝国軍艦隊との通信手段を持っており、反対派の代表や有力者も通信で長門達と
対面し直接話をする機会が与えられた。これによって多少異質ながらも、BETAと違って話し合いは出来るという印象を彼らは
持つようになった。 
 
「少なくともこれまでの行動や言動から人類抹殺という考えは無いようだ。それならまだ話し合う余地があるだろう」

 反対派の一人であった米連邦議員はそう呟き、消極的ながらも賛同に回るなど、反対派は次第に縮小することになる。
 政府や議会の反対派縮小、それにマスコミへの工作もあり、日米の世論は異世界の人類とは友好関係を築いておくほうが良いとの
意見が主流を占めるようになる。特に日本国内では一部を除いて京都防衛戦で自分達を助けてくれた恩人を無碍に扱うのはどうかと
いう意見が強かった。
 それでも尚、不信感を抱いたり反対する者もいたが、自分達の頭上を遊弋する宇宙艦隊を無視することはできなかったし、予告どおり
帝国軍艦隊が月のハイヴを一瞬で掃討したことが明らかになると誰もが沈黙した。

「連中の爆弾の威力は核やG弾なんて目じゃないぞ」
「いや、そもそもどうやって一瞬であれだけの数のミサイルを移動させたのだ?」
「空間跳躍技術という奴だろう。並行世界を渡る技術があるなら持っていても不思議じゃない」

 圧倒的、そして模倣すら適わない超技術を前に誰もが抵抗は無意味であると改めて悟ったのだ。
 こうして日米両国では銀河帝国との国交樹立に向けた動きを妨げるものはなくなった。だが2カ国の外ではそうではなかった。

「日米両国が勝手に進めてよいものではない! ことは人類全てにかかわることなのだ!」

 ソ連、EU、そして統一中華の一部(中国共産党)などの国々はそう主張しはじめた。 
 特に米国に銀河帝国の大使館を設置し、そこを交渉の窓口とする準備が銀河帝国との合意の下で進められているとの話がもれると
その口調は一段と激しくなった。
 かくして人類同士の綱引きが始まる。

703earth:2011/07/30(土) 12:12:21
あとがき
マブラヴ人類お得意(笑)の綱引きの始まりです。
管理局の出番はもう少し後になりそうです。
それでは。

704earth:2011/07/31(日) 13:00:46
少し短めですが第14話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第14話

 1998年9月。国連総会は荒れに荒れていた。
 レムレス朝銀河帝国。異世界から来た地球人類が建国に関わった(とされる)星間国家との関係をどう構築するかで各国の
意見は割れていたのだ。

「銀河帝国との交渉は、国連の下に専門の機関を設置して進めるべきだ。一部の国が独占してよいものではない!」

ソ連の国連大使の言葉に、少なくない数の国の大使が賛同する。 
 ソ連やEUは各国(主に国連安保理理事国)の代表から構成される専門機関を国連の下に設置し、そこで銀河帝国との交渉を
行う事を主張した。彼らからすれば米国によって交渉が牛耳られるのは御免だったし、さらに米国の失敗=世界の破滅という
図式は彼らを恐怖させた。 

「アメリカの失敗に巻き込まれて破滅するのは避けなければならない」

 フランスの高官がそう嘯いたと言われているほど、各国の危機感は強かった。
 一方の日米からすれば下手に国際機関を設置しても、他国からの横槍が激しくなるだけでメリットがなかった。

「そもそも、銀河帝国との交渉ができるようになったのは、日米の交渉団の命がけの行動があってのことだ!」

 日米両国からすれば、帝国を警戒するだけで何のアクションも起こさず、交渉が可能な段階になってから割り込もうとする
他の国は図々しい以外の何物でもなかった。
 尤も日本国内では米国に銀河帝国の大使館を設置するのを認めた現政権への批判が行われていた。特に本土防衛軍や他の摂家は
現政権を叩くために国粋主義者を煽りたてた。
 
「帝国も交渉団に参加していたのだから、帝国本土にも大使館を置いてもらうように交渉するべきだ!」
「米国に交渉の窓口を独占させるのは国益に反する!」 
 
 これに対して榊政権は本土復興のためには米国との関係が欠かせないこと、現状の日本では銀河帝国との交渉の窓口になっても
地球各国を纏めるのは難しいことを理由に挙げた。

「帝国との交渉の窓口になるということは、地球各国を纏める必要がある。国土の半分が焦土と化している我が国ではそれは
 不可能。それに交渉の主導権をかけて米国と争えば銀河帝国との交渉が停滞し、結果的に不利益になる」

 理路整然と反論する榊政権に対して、軍部はソ連やEUと協調して国連の下で新機関を設置し、交渉に当たるべきと主張を
開始した。さらに一部の政治家がこれに同調することで日本国内の世論は再び混乱することになる。

705earth:2011/07/31(日) 13:01:18
 相変わらずのグダグダ振りを発揮するマブラヴ世界の報告を聞いた耕平は落胆すると同時に、安堵もした。

「ああ、この辺りは何も変わっていないな」

 要塞シャングリラの円卓会議で耕平は肩をすくめる動作をして苦笑した。
 尤も参謀AIは何の感慨も抱かなかった。むしろグダグダして状況が進まない事態を如何に打開するかが問題と捉えていた。

「あまり状況が進まないと『皇帝陛下』も心配されるのでは?」
「判っている」

 やれやれとため息をつきながら耕平は次の手を考える。

「交渉の窓口はある程度開いておこう。ただし大使館を置くのは米国のみ。2国間交渉を行うのは日米のみとする。
 他の交渉、地球人類全てに関わる交渉については国連の新機関を通じて行うものとする。これを通達する」
「それで宜しいのですか?」
「それでいくしかないだろう。外交官向きのユニットは手持ちが少ないんだし。新機関を作らせても米国が主導権を
 握れば問題ない。米国が主導権を握ることを期待していることを匂わせておけば、米国も奮起するだろう」

 米国にある程度の主導権を持たせていないとグダグダになるのが目に見えている。原作ではやたらと黒幕的存在であり
悪役ポジションであった米国であったが、そんな国がないと纏まりが無いのも事実だった。

「日本も、アメリカほどではないが銀河帝国から重視されていると考えれば自尊心も満たされるだろう」
「ですが譲歩が過ぎるのでは?」
「人類の歴史や情勢に理解があるとすれば良いさ。ただし、こちらの譲歩はそれまでとも言ってやる。それと『地球人類は
 帝国との友好関係を望んでいないのか?』とも聞いてやれ」
「了解しました」 
 
 銀河帝国からの通達に対して米国や日本は戦慄した。こちらのグダグダ振りを見て、帝国政府が苛立っているのではないか
と判断したからだ。
 だが帝国政府の配慮は日本にとっては有難かった。大使館こそ招けなかったが、2国間交渉をしてくれるという銀河帝国の通達は
国内の国粋主義者を満足させるには十分だった。

706earth:2011/07/31(日) 13:01:52
 最終的に日米は各国に配慮する形で国連の下で新機関の創設に同意した。
 ソ連やEUは相変わらず銀河帝国に重視されているように見える日米に対して不満を持ったが、これ以上の譲歩は引き出せ
ないと判断して引き下がった。

「新機関で何とか主導権を握る必要があるだろう」
「第三計画で作ったのを日米に対するスパイ活動に使って情報を集めよう」
「勿論だ。あとは帝国から必要以上に不興を買わないように、どのような手を打つかだ」

 ソ連首脳部は銀河帝国に共産主義国家である自分達が必要以上に敵視されないように手を打つ必要があると考えていた。
何しろ皇帝を頂点にした帝政国家と共産主義国家というのは水と油だ。もしも向こうが共産主義国家である自分達を露骨に敵視
すればあっという間に潰されかねない。

「露骨な革命輸出は控える必要がある。それに最悪の場合は、ある程度の開放政策が必要になるかも知れん」
「しかし下手な開放政策は共産党支配を崩壊させかねない」
「拘った挙句に、ハイヴと同じ運命を辿るのは御免だ。彼らを本気で敵に回せば我々は逃亡することさえできずに、一瞬で塵になるぞ」

 共産党幹部達は雁首をそろえて対応に苦慮した。

「今は新機関を通じて、銀河帝国のメンタルや情報の収集に全力を尽くそう。そして彼らが共産主義を、我々を敵視するようなら
 表向きでもよいから政策を変更する必要もあるだろう」
「それに銀河帝国以外にも星間国家がある可能性もある。友好関係を築き、彼らの懐に入り込めればそういった国々に接触できる」
「問題はそういった星間国家が帝国並みにこちらに配慮するか、だな。それに我々のために帝国を敵に回すかどうかも問題だ」
「今言っても仕方なかろう」

 こうしてソ連は動き出した。
 そして日本、米国、ソ連、EU、オーストラリア、統一中華などの有力国から構成される新機関が樹立され、地球人類と銀河帝国
との交流が始まることになる。

707earth:2011/07/31(日) 13:03:20
あとがき
いよいよ交流開始です。長かった。
もうそろそろ管理局も少し出すことを考えています。
それでは失礼します。

708earth:2011/08/01(月) 21:33:19
相変わらず短いですが第15話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第15話

 異星人との外交関係を取り扱う国連の新機関『外務委員会』の創設が発表されるのを見て、銀河帝国は国交樹立に向けて
動き出した。国交樹立に関する交渉を行うため長門艦隊旗艦のアルテミスが、護衛の小型無人艦3隻と共にアメリカ合衆国東部、
ニューヨークの沖合いに降下した。

「あれが銀河帝国軍の戦艦か」

 出迎えた米大西洋艦隊司令長官は戦術機母艦ドワイト・D・アイゼンハワーの艦橋でアルテミスを見て、技術力の格差を肌で
感じ取った。
 幕僚達も同様に技術格差を感じたが、同時に無遠慮に大型軍艦で乗り込んでくる銀河帝国に警戒感や不信感を感じていた。
 
「しかし長官。あれほどの大型艦で乗り込んでくるのは些か度が過ぎているのでは? これでは」
「砲艦外交という奴だろう。だが相手は曲がりなりにも銀河系規模の星間国家。これに比べてこちらは太陽系を自由に
 動き回ることさえ出来ない後進国。力関係を考慮すれば十分に紳士的だろう。我々のご先祖様と同じようなことをしない
 だけでも有難いさ」
「……」

 上官の台詞に幕僚達は反論できない。実際、過去にアメリカ原住民を虐殺し彼らの土地を簒奪して国を作ったのは
自分達の先祖なのだ。彼らが同様のことを考えたら、ハイヴもろとも殲滅されていてもおかしくなかった。 

「さて、あまり無茶な要求をされなければ良いのだが」

 そんな懸念を示す長官の前でアルテミスは着水した。
 そしてモンタナ級戦艦や巡洋艦群にエスコートされながら、アルテミスはニューヨーク港に入港することになる。
 しかしこのとき、すでに地球には銀河帝国のスパイがあちこちに入り込んでいた。彼らはESPなどを使って巧みに各地に 
潜入して情報の収集を開始していたのだ。
 その結果、耕平はさらなる方針の変更を余儀なくされる。

「……銀河帝国の総人口が少なすぎか」

 地球側が帝国の規模をかなり大きく見積もっていることを知った耕平は円卓会議の席で唸った。

709earth:2011/08/01(月) 21:34:18
「本国の、いや支配層100万人の下に無数のロボット群がいたとしても、軽く見られると?」
「可能性は否定できません」

 参謀AIの言葉に耕平は天井を仰いだ。アンドロイドや人間を量産したとしても短期間で億単位で増やすのは
無理なのだ。

「しかし人口は簡単には増やせないぞ。というかそんなに人口を増やしていたら今度は国家の運営にリソースを割く
 必要がでてくる。軍拡ができなくなる。しかし舐められると外交で行き詰まる」

 悩ましかった。仮にマブラヴ人類に侮られるようなら、他の星間国家と出会った場合も同様の反応が考えられる。
 そして侮られた場合対等な関係は築くにくい。下手をすれば組みやすしと思われて戦争になる危険もある。生き残る
ための戦争は辞さないが、無闇に戦争をするつもりも耕平には無い。
 彼にとって目的は生き残ることであり、戦争そのものが目的ではない。戦争は手段の一つに過ぎない。

「……いっそのことBETAの技術を使って炭素生命体のユニットとして人間を量産するか?」

 かなり外道なことを呟く耕平だったがすぐに首を振る。

「いかん。作れたとしても、人間の皮をかぶった作業機械だ。国民とは言えない」
「果たしてそうでしょうか?」

 参謀AIの言葉に耕平は眉を顰める。

「何が言いたい?」 
「BETAのように一度に大量の炭素生命体を揃えることが出来るシステムは便利かと。利用する価値はあるでしょう」
「だが出来るのは作業機械だぞ」
「構わないのでは? 使い捨てに出来る労働力、古代でいえば奴隷と考えればいいですし。まぁ多少は自律できるように
 改良する必要はあるでしょうが」
「……」
「『それら』を国民にカウントするのは多少卑怯ですが、交渉の際には押し通すこともできるでしょう」
(BETA式に量産された人間型作業機械の上に、クローン人間とアンドロイドが君臨するか。どんな国だよ?) 

 乾いた笑みしか浮かばない。

710earth:2011/08/01(月) 21:35:32
「G元素ではなく、別のエネルギーで動かす人形、いや奉仕種族を量産。それを国民、いえ臣民としてカウントすれば
 人口は短期間で億単位になります。使い捨てに出来、必要なエネルギーも最小限。非常に効率的かと」

 参謀AIとしては無駄に資源を消費する国民は作る価値を認めていない。だが逆に最小限の資源で、価値がある
『もの』が作れるなら問題は無かった。

「純粋に人間の形が取りにくいのであれば、別の形状でいくのもありかと。
 犬耳や猫耳でもつけて半獣半人の種族とすれば多少異質でも説明は付くでしょう」 

 この参謀AIの意見に耕平はため息をついた。

「銀河帝国は悪の帝国まっしぐらな気がするよ。まぁ虚構の王朝には相応しいのかも知れないな」

 やや脱力し、諦観の表情をした耕平はぐったりしたままで天井を仰ぐ。
 だがぐったりする時間はあまりない。

「総司令」

 参謀AIの急かす様な呼びかけに、耕平はわかっていると手を振って言う。

「参謀本部の提言を認める。
 BETAの生産施設を解析して帝国式の施設を作る。そしてそれを使って人型、またはそれに近い種族を順次量産していく。
 最終的には100億以上の奉仕種族、その上に皇族や貴族などの支配階級を置く」
「了解しました」
「長門中将にも、このことを連絡しておくように」

 この日を境にして、レムレス朝銀河帝国は臣民(?)の生産にも力を入れることになる。

711earth:2011/08/01(月) 21:37:34
あとがき
マブラヴ世界も振り回されますが、銀河帝国も振り回されます。
次回は長門たちの出番になる予定です。それでは。

713earth:2011/09/06(火) 20:39:37
ネタスレで載せている『嗚呼、我ら地球防衛軍』をこちらで掲載します。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第1話

 西暦2198年某月。日本関東地区の地下都市に置かれた地球防衛軍司令部の一室では10名ほどの
防衛軍高官、それに日本政府高官たちが集まっていてた。

「やはり、『ヤマト』建造は自力で?」
「はい。各国、特にアメリカ、中国、ロシアでは本土決戦を唱える軍部が台頭しており、こちらの
 地球脱出計画には協力しそうにありません」
「困ったな……」

 誰もが黙り込む。そんな中、一人の男が嘆息するように言った。

「まさか、こうなるとはな」

 原作では参謀と呼ばれる男。宇宙戦艦ヤマトの行動にやたらとケチをつけ、人気もなかったキャラクターで
あった男はそう嘆息した。
 ここに居る男達は全員が前世、正確には原作『宇宙戦艦ヤマト』の記憶を持つ者(以降、転生者と呼称)だった。
勿論、ここには居ない者たちもいる。彼らは各地で密かに活動していた。
 彼らは西暦2192年以前から活動しており、密かにガミラスとの戦いに備えていた。尤も何故か転生者は
日本人ばかりだったので、歴史を大きく修正することはできなかった。
 それでも原作知識を活かして、資源の備蓄、日本国内の地下都市や避難計画の早期の準備、戦場から落伍していた
ガミラス艦を鹵獲したりして必死に人類の底力の向上に努めていた。
 しかしそれでも大勢は変わらない。人類は宇宙から駆逐され、遊星爆弾によって地下都市への逼塞を余儀なくされていた。

「というか、こんな末期戦状態で出来ることなんてねーだろ!」
「地球の科学力でガミラスに勝つなんて、ルナティックを通り越してファンタズムだろう」
「沖田艦長の活躍に期待するしかない」
「むしろ、真田さんだろう。JK」

 転生者たちは挫けそうになるものの何とか己を奮い立たせる。何しろまだヤマトという希望があった。
 だが、状況はそう甘くは無かった。大量の地上軍を抱える米中露などの大国はガミラスとの地球における本土決戦を
主張していたのだ。皮肉なことに転生者の動きによって人類の底力が多少なりとも上がったことが彼らをそうさせていた。
 日本など一部の国は人類の種と独立を守るために地球脱出計画を提案していたのだが……このままでは本土決戦が
人類の方針となりかねない状況だった。勿論、それは日本が押す地球脱出計画、そしてヤマト建造が承認されないこと
を意味していた。

「長官は?」
「国連総長と話をしているが、所詮、国連事務総長は調整役に過ぎん。あの三ヶ国は抑制できんだろう」

714earth:2011/09/06(火) 20:40:10
 転生者たちは難しい顔で考え込んだ。
 参謀は苦い顔で口を開く。

「加えて地球防衛艦隊が事実上壊滅したことで、防衛軍そのものへの不信感も強くなっている。何しろ残っているのは
 日本艦隊のみという状況だ」

 アメリカ、ロシア、中国の宇宙艦隊はすでに壊滅している。これらの国々では宇宙軍の影響力が下がる一方で陸軍の
影響力が強まっていた。加えて大国のプライドもあり、本土決戦でガミラスに講和を強要するという政策が支持されていた。
 
「まぁTVの二期でも攻撃衛星なんて品物もあったからな……」
「あのあまり役に立たない衛星か」
「というか役に立ったか? ガトランティス艦隊にも歯が立たなかった気がするが」
「それどころか、ガミラスが地球に降下する必要すらないことに何故気付かないのだ?」 

 アメリカはロッキー山脈、ロシアはウラル山脈の地下に都市を建設して生き残っているに過ぎない。それも放射能に
よってこのままでは全滅は時間の問題だった。地下に逃げるといっても限界がある。
 そしてそれはガミラスも分っていた。彼らの母星であるガミラスも死に瀕しているが、それでも人類よりは長生きする。
根負けするのは地球側だ。

「こうなっては仕方あるまい。ヤマト建造を日本単独で進めるしかない」

 参謀の意見に誰もが頷いた。転生者の活躍によって日本の地下都市には原作よりも豊富な工業力、資源、エネルギーを
保有していた。それでもこの先を考えると余裕があるとは言えないのだが、ヤマトを建造するなら可能だった。

「問題は波動エンジンの始動ですが……どうやってエネルギー供給を取り付けます?」
「補助エンジンでも主砲は何とか撃てる。ヤマトを攻撃してくるだろうガミラス空母を撃沈すれば、協力してくるだろう。
 技術面の餌も用意すれば食いつく」
「やれやれ……ヤマト発進まではどれだけ労力がかかることやら」

 しかし参謀は弱気になる人間を叱責する。 

「ここで弱気になってどうする! 我々『名無しキャラ』の意地を見せるときだぞ!」

 地球防衛軍。地球圏最大の軍事力でありながらTV版2期を除いてたいした活躍をすることなく、ヤマトの引き立て役に
されてきた軍を支える男達の挑戦が始まる。
 
「でも、最後に良い所はヤマトが全てもっていきそうですけど」
「それを言うなよ……」

715earth:2011/09/06(火) 20:40:43
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第2話

 転生者たちはヤマト建造に乗り出す一方で、遊星爆弾による被害を少しでも低減させるために艦隊の温存に走った。
 冥王星にまで遠征させても自殺行為であり、無駄に艦隊と将兵と物資を浪費するだけと彼らは考えていた。

「あの三国が本土決戦を主張しているおかげで、艦隊を温存する口実が出来たな」

 参謀は防衛軍司令部でニヤリと笑いつつそう呟いた。
 米中露はさらに深い場所への地下都市建設と都市の要塞化を推し進めていた。日本が艦隊を温存し、地球近辺で
遊星爆弾の迎撃に専念させる戦略をとっても米中露は文句を言わなかった。何しろ日本艦隊が遊星爆弾を防いでくれている
間に本土決戦の準備ができるのだから。
 参謀は必要な根回しをしつつ、長官にヤマト建造が潰えていないことを耳打ちした。

「どういうことだね、参謀?」
「日本はまだ公にしていない備蓄物資があるということです。加えて出資者も集まっています」

 一朝一夕で資源が備蓄できるわけがないことを分っている長官は、参謀の台詞から日本や防衛軍の一部が長い間極秘裏に
準備をしていたことを悟った。
 
「……日本政府は、最初からこうなると考えていたと?」
「……『常に最悪の事態を想定するのが為政者としての務め』だそうです。ですがさすがに地球脱出用とは言えないので
 公式には新型戦艦ということになります。ですので」
「分った。君達に協力しよう」
「ありがとうございます」

 軽い足取りで去っていく参謀を見て、長官は久しぶりに気分が晴れた。

「防衛軍も、いや人類もまだまだ棄てたものではないな」

 かくして長官の支持を取り付けた転生者たちは、ヤマト建造にまい進した。
 尤も肝心の波動エンジンは手に入っておらず、鹵獲したガミラス艦から獲得した技術で作ったエンジンを搭載していた。
 これによって従来の地球の戦闘艦よりも遥かに強大な戦闘力を擁していた。尤もそれでもガミラス艦隊には勝利できない
だろうが……。

「まぁ波動エンジンへの換装できれば何とかなる。火星の準備も怠るな」

 そして防衛軍は、そして転生者たちは運命の日を迎える。

716earth:2011/09/06(火) 20:41:14
 転生者たちが密談のために使っている部屋で大声が響く。

「『ねんがんのはどうえんじん』を手に入れたぞ!」

 火星から帰還した古代達が提出したカプセルから波動エンジンの設計図があることを知った参謀は小躍りした。

「これで勝てる!!」

 やっと反撃の時だ、参謀は燃えた。
 一方的に撃ち減らされていく友軍を見続けてきた男はこのときを待ち望んでいた。同時に彼は自分達のような原作の
モブキャラがヤマト発進を支えるという状況にテンションを上げていた。

「確かに歴史では目立たないだろう! だが数十年後にはプロジ○クトXのような作品で紹介されて見せる!!」

 参謀の意見に他の名無しキャラが頷く。
 一部の原作では死亡確定組の人物(例:ヒペリオン艦隊司令)はさらに気合が入っていた。何しろガミラスに負けても
死亡。原作どおりでも歴史を改変しないと自分が死ぬのだからより切実だった。

「ショックカノンは他の宇宙戦闘艦にも搭載できます。早急に改装するのがいいでしょう」
「そうです。戦艦の建造は無理ですが小型艦なら建造できる余裕はあります」
「いやここは航空戦力を増強するべきだ」

 だがここで文官たちは首を横に振る。

「ヤマトで冥王星基地を叩いた後は温存していたプラントで、各惑星、特に木星などの資源地帯からエネルギー資源を
 得るべきだ。何しろヤマト建造には金と物資が掛かりすぎる」
「市民達の不満を多少は軽減する必要がある」

 この言葉に軍人組みはムッという顔をするが、市民が暴動を起こしてはたまらない。
 何しろ地下都市を建設した良いものの、市民同士の仲違いで自滅した地下都市も少なくないのだ。

「まぁ狸の皮算用をしていたも仕方ない。今はヤマト建造に全力を注ごう」

 参謀の言葉によって会議は終わりを告げた。
 そして後にヤマトは日本がほぼ単独で建造した、地球初の波動エンジンを搭載した戦艦として生まれることになる。

717earth:2011/09/06(火) 20:41:48
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第3話

「……やはり一から作ったほうが良かったのでは?」

 財務官僚の突っ込みに対して、参謀は苦笑いしつつ答えた。

「それをやるとジンクス的に怖いだろう? あくまで『ヤマト』は『大和』でなければならない。
 下手に弄って失敗したら目も当てられん」
「「「……確かに」」」

 ヤマトは原作どおり沈没した大和を利用して建造されつつあった。
 一部の人間は一から作ったほうが早いのではと思ったのだが……ここで原作をひっくり返すと後が怖いという考えが
支持された。実際、彼らが人類のために良かれと思って行動した結果が、本土決戦支持派の拡大に繋がったのだから
慎重になるのは当然だった。

「しかし沖田艦隊は温存できた。ブラックタイガーを載せれるように一部の艦を改造しておけば、かなりの戦力になる」

 参謀の言葉に誰もが頷く。
 一部の軍人は渋い顔だが、ガミラス艦を沈められる航空戦力は確かに必要なので反対できない。

「まぁ取りあえずは、ガミラス空母の来襲に期待するしかない。ヤマトの戦力を見れば各国も少しは意見を変えるだろう」
「ですが彼らが来襲したとなれば、温存していた艦隊で迎撃せざるを得ませんが……」

 黒い制服を着た軍人の意見に誰もが頷く。
 しかし参謀は問題ないと首を横に振る。

「日本艦隊は遊星爆弾の迎撃で消耗している。空母来襲前にドック入りさせれば良い。ただ万が一に備えてブラックタイガー
 の直掩機も周辺の基地に用意しておく。ガミラスが史実以上の部隊で来てもある程度は戦えるはずだ」

718earth:2011/09/06(火) 20:42:19
 そしてガミラスの高速空母は予定通り出現することになる。
 慌てる防衛軍司令部の中で、参謀は落ち着いて部下達に迎撃を命じる。幸い、ブラックタイガーの配備が間に合っていた
ためにヤマトの被害は軽減できている。血気盛んなパイロットの中には高速空母に攻撃さえかける始末だ。 

「さすが参謀。ガミラス空母の来襲を見越して手を打っていたのか」
「ああ。さすが、日本政府や防衛軍長官の信任が厚いだけのことはある」

 防衛軍のスタッフがそんな尊敬の目で見ていることなど知らず、参謀は一人突っ込みを入れた。

「……毎回思うんだが、あの円盤型空母はどうやって艦載機を収容するんだろうな?」
「さぁ?」

 司令部でそんなやり取りがされている中、ヤマトは無事(?)に補助エンジンを稼動させて出撃した。

「ふむ、これでこそ、ヤマトだな」

 遺跡と言っても良い大和の外壁を崩して出撃していく様は、原作を知る人間にとってみれば何とも感慨深いものであった。
 それも自分があの戦艦を建造したと思うと尚更だ。

「さてあとは波動エンジンの稼動だな」

 ヤマトが持ち前のショックカノン砲9門で、ガミラスの高速空母を撃沈したのを見て参謀は次の手を考える。
 波動エンジンの作動にはかなりのエネルギーが必要だった。日本単独でエネルギーを賄うとなると、今後地下都市の維持に支障が
出てしまう。よって少しでも他の国の支援が欲しい。
 まぁ仮に日本単独でやったとしても、残っている日本艦隊で資源を回収できればエネルギー事情も少しは改善するが、それでも
負担は少ないほうが良い。

719earth:2011/09/06(火) 20:42:58
「外務省や首相官邸、長官と国連総長に頼んで動いてもらうしかないな」

 日本はヤマトの戦闘映像を国連総会に提出する。
 すると、その高い戦闘力を見て波動エンジン搭載型戦艦の量産で戦局の挽回を図るべきだと主張する国が出始めた。アメリカなどは
保管していたアイオワ級を改造して戦艦に改造する案を提出する始末だ。
 だが波動エンジンを作るためのコスモナイトなど希少資源が少ないので、その計画は没となった。

「イスカンダル星にコスモクリーナDを取りに行かせるのが人類生存につながります!」

 日本大使は議場でそう主張した。実際、ヤマトはイスカンダルにまで長距離航海が可能な戦艦であった。
 だが無謀な航海をしてガミラスに対抗可能な戦艦を無為にすり減らすことを危惧する声もある。この紆余曲折の末、3つの方針が決定された。 

①ヤマトはイスカンダルへ向かい、コスモクリーナDを受領して帰還する。
②①の過程で冥王星基地を破壊する。これによって地球本土の安全を確保する。
③②終了後、日本艦隊によってガミラス残存戦力を掃討。太陽系の安全を確保した後に資源の採掘を再開する。
 採掘した資源によって地下都市の生活環境を改善。同時に工業の復活と防衛軍艦隊の再建を進める。

 かくしてヤマトは世界中からエネルギーの供給を受けて旅たつことになる。
 勿論、各方面を宥め、脅し、賺し、騙してエネルギーを掻き集めたのは参謀達、転生者だったのだが……地味な仕事ゆえに
脚光を浴びることはなかった。

「所詮、裏方の仕事なのさ」

 そう言ってふて腐れるものの、彼の仕事は確かに評価されていた。主にお偉方から。

「彼を戦場で死なせてはならない。防衛軍再建には彼の手腕が必要だ」

 こうして参謀はさらに後方で勤務することが決定される。
 彼が脚光を浴びる日がいつになるのか……それは誰にも判らなかった。

720earth:2011/09/06(火) 20:43:38
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第4話

 世界各地からエネルギー供給を受けてヤマトが発進した後、地球防衛軍は残された日本艦隊の補修と改装を急いだ。
 ヤマトが冥王星基地を破壊できたとしても、ガミラスの残存艦隊が跳梁跋扈する可能性は高い。これを排除するためには
艦隊戦力の強化が必要だった。
 残された希少資源で小型波動エンジンを生産し取り付けていった。出力が低いエンジンのため、エネルギー事情が悪化した
日本でも生産と稼動は可能だった。

「本当は各国にも手伝って欲しかったんだがな」

 参謀がぼやくものの、どうしようもなかった。
 何しろ多くの国は本土決戦のために宇宙船の建造よりも地下都市の要塞化と地上軍強化に力を注いでいた。おかげで貴重な
資源もエネルギーも浪費されており、宇宙艦隊を再建する余裕など無かった。
 まして三大国はヤマトが冥王星基地を突破できるか懐疑的な見方をしており、本土決戦に向けた準備を怠ることはなかった。

「波動エンジン、ショックカノン砲の技術など少なくない技術を分け与えてよかったんですか?」 

 通産省の官僚は不満そうな顔をするが、参謀達軍人は仕方ないと首を横に振る。

「仕方ないだろう。日本単独であの大型波動エンジンを起動させるのは難しかったんだ」
「地球全体の防衛力強化のためには、ある程度の技術の提供は必要だろう。我々が何から何まで独占すればいらぬ嫉妬を
 買って自滅するだけだ」
「国益の追求は必要だが、今は星間戦争中なんだ。必要以上にいがみ合っていては勝てる戦いも落す」

 地球防衛艦隊で残っているのは日本艦隊のみであり、人的資源も一番残されているのは日本だった。おかげで防衛軍で主導権を
握っているのは日本だった。
 しかしこれが米中露にとっては気に喰わないのか、色々と不満が多い。ちなみに、やたらと日本にケチをつけるはずの某半島国家は
手抜き工事のためか、地下都市が遊星爆弾で破壊されて壊滅している。今は中国の地下都市に亡命政府があるだけだ。

「まぁ今は防衛艦隊再建を急ぐのが正解だろう」

 参謀の意見によって密談は終る。

721earth:2011/09/06(火) 20:44:22
 ヤマトが紆余曲折の末、冥王星基地を破壊すると地球各国では喝采が挙がった。
 ガミラスの太陽系前線基地である冥王星基地の壊滅は、これまで負けっぱなしであった人類を勇気付けるものであった。

「今こそ絶好の好機だ!」

 参謀は防衛軍長官に直訴して、改装が終わった艦隊で資源輸送を行う事を提案する。
 後に『特急便』と言われるプランであった。また彼はこの作戦を指揮する人物として土方に目をつけていた。
 原作において艦隊決戦で唯一といってよい白星を得た男を、参謀は高く評価していたのだ。

「私より適任がいるだろうに。それに今、この学校を離れるわけにはいかんよ」

 宇宙戦士訓練学校の校長室でそう言う土方に、参謀は尚も言い募る。

「古代君はまだ若い。彼らを纏める人物が必要なのです。それに閣下なら、航空戦力を十分に活用できる、そう信じています」
「航空戦力か」
「はい。残念ながら、地球では満足に戦艦を建造するのはまだ難しい。ですので、『えいゆう』など大型艦を改造してブラックタイガーを
 載せれるようにしています。これがあればガミラス艦を早期に発見でき、対応できるでしょう。
 勿論、出撃に際しては土方校長の要望を最大限尊重します」
「……分った。いいだろう」 

 参謀の熱意に折れたのか、土方は艦隊司令官を引き受けた。
 参謀が軽やかな足取りで出て行くのを見て、土方は微笑む。

「あれが長官の懐刀と言われる男か。噂に違わぬ男だ」

 このとき、参謀は有名人になっていた(名無しキャラなのに)。
 何しろ本土決戦を主張する国々に従う振りをしつつ、裏ではヤマト計画を密かに根回しして進め、さらに日本が備蓄していた物資や
エネルギーを提供させた。
 それに加え、資源の輸送計画を入念に策定。さらに航空戦力の有用性を見抜き、それを活用する準備も進めるなど軍政家としての
才覚があると土方が判断してもおかしくなかった。
 実際、他国でも参謀の評価は高い。だがそれゆえに彼はますます前線に出るチャンスが減ろうとしていた。
 彼は目立とうとして頑張っているのに、裏方としての能力ばかりが評価されていたのだ。

「これでヤマトが帰ってくれば、防衛艦隊は早期に再建できる。うまくすれば、私も艦隊司令官になれる!」

 軽い足取りで皮算用をする参謀。
 彼の野望が叶えられるかは神のみぞ知る。

722earth:2011/09/06(火) 20:44:53
 かくして小型で低出力とは言え、波動エンジンやブラックタイガーを搭載した日本艦隊はガミラス残存艦隊の妨害を撥ね退けつつ
各惑星や小惑星帯から資源を採掘し、必死に地球に資源を輸送する。

「エネルギー事情を改善すれば地下都市の衛生状態も良くなる!」

 参謀や転生者たちはそう発破をかけた。勿論、新たに得たエネルギーを市民生活の向上のみに当てるつもりはなかったが
それでも何らかの餌は必要だった。
 また防衛軍首脳部は強化された防衛軍艦隊とガミラス艦隊が互角に戦う様子を流して、必死に市民を鼓舞した。
 
「人類はまだ戦える!」
「故に市民の協力が必要なのです!」
「欲しがりません。勝つまでは!!」

 防衛軍が戦える様を見て、絶望の淵にあった市民も多少は希望を取り戻した。
 また若干ながらも生活環境が改善されたことも、士気を上げた。

「負けるものか!!」
「ヤマトが帰ってくるまでは持ち堪えるぞ!!」

 特に我慢強い日本人達は一致団結した。おかげで日本にある地下都市の治安は大幅に改善することになった。
 残った市民はお互いに助け合い、生活を守った。また宇宙戦士への志願者も増えていった。
 少しずつであるが好転しつつある状況に誰もが未来を信じられるようになっていったのだ。

「暴動も減っている。食糧事情も好転している。ふむふむ、これなら何とかなる」
 
 自宅で朝食を取りながら、新聞を読んでいた参謀は非常に満足げだった。
 また米中露、それに欧州も宇宙艦隊再建に乗り出していた。勿論、駆逐艦や護衛艦が中心であるものの戦力が回復するのは
好ましかった。

「あとは頼むぞ、ヤマト。地球は……我々が守っておくからな」

 こうして地球は参謀達の努力もあり、原作よりは多少はマシな状況でヤマトの帰還を迎えることになる。

723earth:2011/09/06(火) 20:45:31
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第5話
 
 ヤマト帰還後、地球各国は復興に向けて動き出した。
 コスモクリーナーDによる放射能除去、そしてテラフォーミング技術による地球環境の修復は急ピッチで進められた。
 もともと資源的、エネルギー的に余裕があったことで地球の復興は驚異的なスピードで進んだ。また放射能が除去されたこと
で各惑星に残されていた生産施設が使用可能になったので、生産力も次第に回復していった。
 
「復興は順調のようだな」

 参謀の言葉に官僚達は頷いた。
 ちなみに彼らは相変わらず地下都市の防衛軍司令部を密談の場にしていた。

「皮肉なことに、戦前に比べて人口が激減したのが大きいでしょう」

 使えるようになった生産力や資源で十分に地球人類を養える状態だった。何しろ戦前は100億を越えた人口が今では
20億をきっているのだ。残された人口を養うのは難しくは無かった。

「それに、人口が激減したおかげでこれまで問題だった宗教問題や民族問題、貧富の格差は大分、スッキリしました」

 寒気のするような意見だったが、実際そのとおりだった。
 ガミラスの遊星爆弾は地球各地に降り注いだ。このせいで貧困地域は真っ先に滅亡した。また地下都市を建設しても
民族、宗教問題で内輪もめを起こして自滅した都市も多々ある。

「ガミラス戦前まで人類が抱えていた問題を、ガミラスが解決してくれたということか」

 参謀の意見は人道の観点からは問題だったが、事実だった。

「しかしそれでも残された国の統合は大変だな。まぁ地球連邦そのものは結成できそうだが……主導権争いを考えると
 頭が痛いな」

 宇宙艦隊や各種生産施設が最も充実しているのが日本であること、日本が建造したヤマトがコスモクリーナーDを持ち帰ったこと
から日本の影響力は大幅に拡大しており、日本は人類復興の中心的役目を果たしている。
 片や本土決戦のために準備をしていた国は、宇宙艦隊再編に手間取り、制宙権の維持を日本艦隊に頼らざるを得ないという状況に
陥っていた。
 勿論、史実より多少は余裕があるので国家再建は急ピッチで進められているが日本には遠く及ばない。故に嫉妬も強い。

724earth:2011/09/06(火) 20:46:03
「海外の連中は日本の奇跡とまで呼んでいそうですよ」
「新興国におされて斜陽だった我が国が再びここまで隆盛したんだ。まぁ奇跡といわれても仕方ないさ」
「まぁ奇跡と言うよりカンニングの賜物なんだが……それは言えないよな」 
 
 誰もが苦笑する。

「何はともあれ、地球連邦の創設、そして防衛軍の再建は急ぐ必要があるだろう。
 何しろ白色彗星帝国、暗黒星団帝国、ディンギル帝国と、一歩間違えれば死亡確定の敵が待ち構えている。
 人類が団結しなければ、この国難は乗り切れない」
 
 参謀の意見に反対意見はない。すぐにアンドロメダ星雲から白色彗星帝国が来るのだ。
 宇宙艦隊だけでも強大なのに、都市要塞、巨大宇宙戦艦まであるのだ。星間国家としては新興国にすぎない地球が
相手にするには荷が重い。だが交渉の余地は全くなく、戦うしかないのだ。
 
「日本一国で、原作ほどの宇宙艦隊は整備できまぜんからね……世界各国に負担してもらうしかないでしょう」

 財務官僚の言葉に誰もが頷く。

「とりあえずは巡洋艦以下の建造を急ぐ。そして各国に余裕が出来た段階で戦艦の建造に取り掛かる。これが妥当だろう」

 参謀はそう結論付ける。
 
「ただし、これからやってくる敵を全て地球のみで対処するのは負担が大きい。よって友好国を増やして、多国間による
 共同戦線を張れるようにする。これが地球の歩むべき道だと思う」

 これを聞いて外務官僚が尋ねる。

「どこと交渉するおつもりで?」
「穏健派の国ならシャルバートやアマールが適当だろう。しかし直接援軍は期待できない。だとすれば」
「ボラー連邦、ですか?」
「そうだ。少なくともあの国は話し合いの余地がある。原作では古代弟がぶち壊してくれたがね」

725earth:2011/09/06(火) 20:46:35
 参謀は苦い顔をする。
 史実におけるヤマトクルーの暴走は、結果として人類を救ったが、一歩間違えれば人類を破滅させかねない
危険なものも少なくなかった。
 特にボラー連邦を敵に回したのは、手痛い失敗だった。ガルマン・ガミラスを味方に出来たと言っても
デスラーが表舞台からいなくなったあとも、友好関係が続くとは限らない。何しろヤマトはガミラス本星を
壊滅させているのだ。恨まれていないわけが無い。
 
「ソ連をモチーフにしたあの国を信用するのは難しい。おまけに長く続いた平和のせいで、軍は弛緩している。
 しかしそれでも、かの国と友誼を結ぶのは決してマイナスではない」
 
 デスラーによっていいようにやられたことから、参謀はボラーが長らく続いた平和によってかなり呆けて
いると判断していた。
 だが機動要塞やマイクロブラックホール砲、各種戦略兵器は地球には無い魅力的なものばかりだ。
これらを擁する国家を後ろ盾に出来れば、今後の戦争も少しは楽になる。

「特に波動エネルギーが天敵である暗黒星団帝国は、地球を制圧しても人類の残存戦力とボラー連邦が結びつくことを
 考慮して、そうそう軽挙には及べないだろう」

 参謀は戦争で全てを解決するつもりはない。というか派手な活躍はしたいが、避けられる戦争は避けたいという
のが本音だった。

(防衛軍が消耗しすぎると人的資源が払底する。艦隊司令官になったは良いが、急造の戦艦と新米ばかりの兵士で
 戦争という事態は避けたい)

 輝かしい出番を用意するには、それなりの準備が要るのだ。

「とりあえずボラーと手を結び、国力を充実させるべきだ。それにボラー連邦のような強大な星間国家があることが
 外圧となる。それは原作にあった油断を打ち消し、人類を団結させるのに使える。それに星間外交の経験も積めるだろう」

 かくして彼らの暗躍が始まる。

726earth:2011/09/06(火) 20:48:05
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第6話
 
 西暦2201年1月。残された国々はガミラス戦役の反省から国連を強化した地球連邦政府の樹立を決定した。
残された有力国を中心として、地球は幾つかの州に再編されることになる。
 人類同士でいがみ合っていては異星人に対抗できないという考えは誰しも持っていたので、極端な反対はなかった。
しかし主導権を手放すかどうかは別だった。
 原作以上に力を蓄えてしまった日本はアジア州へ編入されることはなかった。他国は日本の生産力と科学力がアジアと
結びつくことを恐れたのだ。
 アメリカは日本と中国と手を組むのを警戒した。ロシアも隣国であり、伝統的に覇権思想の強い中国が日本と
同じ州になるのを嫌がった。中国は日本を取り込むことを目論んだものの、米露欧の反発で頓挫する。

「ここまで異星人にボコボコにされたのに、まだ隣国と争うか?」

 防衛軍司令部で報告を聞いた参謀は呆れ顔だった。同席していた艦長服を纏った男は肩をすくめる。
 
「まぁ史実よりも余裕があるせいでしょう」
「全く……それにしても復興スピードが速いな。さすが、ヤマトの世界のだけはある」

 各国は確かに主導権争いに血眼になっているが、参謀達が根回しした防衛艦隊再建は承認していた。ガミラス帝国の
残党が襲撃してくる可能性は否定できなかったのだ。彼らも再び地球を焼かれるのは御免だった。
 すでに巡洋艦クラスの軍艦の建造と配備に並行して、太陽系各所で防衛拠点の建設も行われていた。

「まぁあれだけ壊された戦艦がすぐに直り、毎年壊滅する宇宙艦隊がすぐに復活する世界ですので。
 23世紀の脅威の科学力といったところでしょうか」
「人的資源の補充は無理だがな。正直、20年は必要だろう」

 そう言うと参謀は話題を変える。

727earth:2011/09/06(火) 20:48:35
「日本政府はアジア州への編入ではなく、極東州の形成という形に持っていくことにしたそうだ」
「極東州ですか?」
「ああ。まず弱体化したロシアから樺太と北方領土を買い取り日本領に編入。そして日本と台湾で極東州を形成する」

 日本政府は近隣諸国の合併に熱心な国を横目にして、自国周辺の再編を最小に留めた。
 彼らが目指す先は地球ではなく宇宙の彼方だった。勿論、地球復興のために努力はするが州を必要以上に大きく
するつもりは皆無だった。むしろ太陽系の再開発、そして外宇宙探索を重視していた。

「連邦の首都はどこに?」
「当面は日本。メガロポリスだろう。だがあまりこちらが独占しすぎると外野が煩い。首都の名誉はいずれ欧米に譲る
 必要があるだろう。特にアメリカは、かつての地位にご執心だからな」

 旧アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ州は虎視眈々と復権の機会を狙っていた。 
 ロシアとEUが主体となったユーラシア州は復興を優先しつつも、弱体化しているアフリカ州や無人と化した地域へ介入する
チャンスを伺っている。アジア州ではインドと中国が綱引きを繰り返していた。
 
「地球防衛軍は宇宙軍と空間騎兵隊のみになる。恐らく陸海空軍は各州の州軍という形になるだろうな」
「緩やかな連邦制、夜警国家が関の山ですな。アメリカ合衆国程度に団結できれば御の字だ」
「そうだ。当面は日本人にとって負担が大きい世界になりそうだ。何しろ防衛軍は一番被害が少ない日本人が主力を担う必要がある。
 産業界、その後押しを受ける政治家とも喧嘩することになる」
「だとすると無人化、省力化は不可避ですな」
「ああ。ラジコン戦艦、いや自動戦艦を採用しないといけないだろう。景気が回復し民間の活力が増せば増すほど、軍人を削れという
 声が大きくなるのは目に見えている」

 復興が加速し、人手が足りなくなる状態では軍拡など不可能だった。産業界から総スカンを買うし、市民も反対するだろう。
彼らはより良い生活を求めているのだ。
 しかし今後、幾度も異星人に襲われることを知っている転生者としては軍拡に手は抜けない。そうすると行き着く先は原作同様の
省力化、自動化、無人化だった。

728earth:2011/09/06(火) 20:49:11
「原作の防衛軍はそれなりに合理的だった、というわけですな」
「相手が悪すぎたのだろう。何しろ相手はディンギルを除いて全て強大な星間国家だ。勝てたのだけでも奇跡に等しい」
「さすがヤマトといったところでしょうか」
「だろう。だがヤマト1隻のみに期待することは出来ん」
「では?」
「新兵器開発を急ぐと同時に、戦艦整備を中心とした次の防衛艦隊整備計画とは別枠で、新型戦艦と新型戦闘空母建造を
 司令部に上申する」
「……『ムサシ』と『シナノ』ですか」
「大和型戦艦三姉妹が揃えばかなりの打撃力になる。それにボラー連邦との接触のためには長い航続距離を持つ船が要る」
「外宇宙探索任務も兼ねると」
「そうだ。不測の事態は避けなければならん。それに……うまくすれば将来、ヤマト3姉妹のうち、どれかに乗れるかも知れん」
「……それが本音では?」

 発足した地球連邦政府は戦艦整備を主眼とした新たな防衛艦隊整備計画を採択した。
 復興のために必死な各国からすれば、乾いた雑巾を振り絞るかのような負担であったが、大きな文句は言えなかった。
何しろ人類の80%以上がついこの間死んだのだから。
 そして何より日本が『ムサシ』と『シナノ』を復活させることを発表したことも、防衛軍再建に関与させた。何しろ今や 
地球を救ったヤマトは防衛軍の象徴であると同時に日本の躍進の象徴でもある。
 日本が大和型戦艦三姉妹を全て復活させるというのは途方も無いインパクトであった。

「いつまでも日本に地球の守護者を気取らせられん!」

 各州、特に北アメリカ州は負けてられんとファイトを燃やす。
 かくして参謀も意図せぬところで急速な軍拡が実現することになる。

729earth:2011/09/06(火) 20:50:36
ネタスレで載せていた6話まで載せました。
あと短めですが7話が完成したので載せます。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第7話
 

 転生者たちは来るべきガトランティス帝国との決戦に備えて、地球防衛艦隊整備計画を力強く推進した。
 尤も一部の人間は「ダンボール装甲の艦隊で大丈夫か?」と危惧する者もいたが、アナライザーの簡易量産型の
ロボットをダメコン要員として大量配備すること、さらに万が一の場合はマニュアル操作によって艦を操作することが
できるようにすることで誰もが妥協した。

「凝った艦を作っていたら間に合わん」

 参謀が全てだった。何しろガトランティス帝国はすぐに来る。現状の地球で大量生産できる艦でないと意味が無いのだ。 

「アンドロメダがやられたのは、中枢が破壊されて操作不能に陥ったからだ。逆にマニュアル操作に切り換える
 ことが出来れば、タイタン基地には帰還できた可能性はある。この戦役で、2隻のアンドロメダ級が生き残れば
 後の戦役も随分と楽になる」

 余裕が出来たこともあり、アンドロメダ級戦艦は2隻が同時に建造されることになった。  
 転生者たちとしては2番艦であるネメシスには収束型波動砲を搭載したかったのだが、波動砲の大火力による
敵艦隊撃滅に拘る人間を説得し切れなかった。
  
「何はともあれ、原作よりも戦力は強化できる。ムサシには収束型波動砲を積めたからよしとしよう」

 しかしこのとき数名が、特に防衛軍の関係者が顔を顰める。これを見た参謀は嘆息する。

「……まだ根に持っているのか? 仕方ないだろうに」
「それは根に持ちますよ。ムサシを航空戦艦にするなんて」

 ヤマト級2番艦となるはずのムサシは、連邦内部の取引でキエフ級空母をモデルとした航空戦艦として
建造されることが決定された。設計図を見た転生者は「PS版かよ」と謎の突っ込みを入れたという。 

「純粋な宇宙戦艦となると他の州が煩かったんだ。それに次世代の空母の実験という名目があれば予算も得やすかった」
「ではシナノは?」
「ムサシの運用経験を基にして本格的な宇宙空母にすることにしたそうだ。建造は……早くともガトランティス戦役後だ」
「下手したらペーパープランで終りそうですね」

730earth:2011/09/06(火) 20:51:17
 防衛艦隊再建が進められる中、参謀は人事部に艦隊勤務を希望した。
 何しろこれから来るのはあのガトランティス帝国。そしてこれを迎え撃つのは最盛期の地球防衛軍。大艦隊決戦になる
のは目に見えている。

「今こそ、目立つとき! この目に優しい緑色の軍服から、黒色の渋いコート(艦長服)にクラスチェンジするときだ!」

 しかし彼の望みは敢え無く却下される。

「な、何故ですか、長官!?」
 
 長官室で参謀は防衛軍長官である藤堂に詰め寄るが、返答は非情だった。

「防衛軍再建のためには、君のような宇宙戦士が必要だからだ」
「ですが防衛艦隊再建は順調です。私が居ないからと言っても……」
「私は君の軍政家としての能力を買っているのだ。逆風の中、ヤマト計画を根回しして実現。人類復興の第一歩となった
 『特急便』、さらに太陽系の治安回復や防衛軍再建に大きな貢献を果たした君を戦場に出すのはリスクが大きすぎる」

 一言で言えば「お前はこれからもデスクワークをやれ」であった。 
 
「し、しかし前線は指揮官が……」
「古代君(兄の方)が居る。それに温存していた日本艦隊の指揮官もいる。いずれ沖田君も復帰できる。
 君が出て行く必要はない」
「……」
「それに彼らも言っていたぞ。君のような頼りになる人間がいるから、自分達は安心して戦っていられるのだ、とな」

 ダメだしだった。参謀は肩を落として長官室を後にする。
 この様子を見ていた古代(進)や真田は意外そうな顔をしていた。

「真田さん、あの人が?」
「ああ、ヤマト建造を実現させた名参謀だ。ガミラス戦役のころから切れ者参謀として名を馳せている」
「しかし安全な司令部に務めているのに、あんなに前線に出たがる人がいるなんて」
「彼も立派な宇宙戦士、そういうことなんだろう。沖田艦長や土方教官も彼のことは褒めていたよ。前線の言うことに
 真摯に耳を傾けて、自分達をサポートしてくれる人物だと」

 事情を知る人間からそれば突っ込みどころが満載だった。
 しかし事情を知らない人間からすれば、参謀はまさに後方で働くために生まれたような人間であったのだ。
 かくして参謀は、これまでやったことが原因で前線に出る道を閉ざされることになる。

731earth:2011/09/06(火) 20:52:54
あとがき
参謀の野望木っ端微塵。それも自業自得で(笑)。
それも微妙に勘違いされております。
彼が前線に出る日は来るのか……。

732earth:2011/09/07(水) 23:21:56
第8話投下です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第8話

 防衛軍再建の功績で参謀は参謀長にクラスチェンジした。
 これによって防衛軍総司令部では確固たる地位を参謀(元)は得た。だがそれは同時に防衛会議などの上位組織と
駆け引きする時間が増えることを意味しており、彼が希望した晴れやかな舞台とは真逆の仕事だった。

「来る日も来る日も、書類と会議ばかりか」

 参謀長は相変わらず密談の場として使っている地下都市の防衛軍司令部でため息をついた。

「仕方ありません。軍隊というのはそんなものです」
「いいじゃないか、君は。新しい概念の戦術の研究に余念がない。ガトランティス艦隊が来ても活躍できるだろう」
「命がけですよ。数分で『ヒペリオン艦隊壊滅!』なんて言われる可能性だってあるんですから。尤も防衛艦隊を
 壊滅させた戦術で、敵を迎え撃つっていうのは燃えますが」

 眼鏡をかけた男はそう不敵に言った。参謀長は一瞬、彼の背後に謎の踊りを踊る老人の姿を幻視したが気にしない
ことにした。

「防衛会議では楽観的なお偉方が多くて、こっちは大変だよ。
 あの長官は人望は厚いし、決断力もあるが……政治力については心もとないからな〜」
「そこをサポートするのが参謀、いえ参謀長の仕事でしょうに」
「ふん。体のいい、厄介ごと処理だ。全く、どいつもこいつも文句ばかり言いやがって。まぁここで不満を言っても
 仕方ない」
  
 そう言って彼は気分を切り替える。

(取りあえず目の前のガトランティス戦役を乗り越えることに全力を注ぐことにする。これを乗り切ればまだ
 華々しく活躍できる機会はあるはずだ)

 彼は諦めが悪かった。

733earth:2011/09/07(水) 23:22:30
「経済状況は? 防衛艦隊を強化するには、経済の再建が必要不可欠だ」
 
 参謀長の質問に、連邦政府高官となった元日本政府高官が答える。

「各州の再建は急ピッチで進んでいる。また防衛軍再建にも意欲的だ。おかげで次の防衛艦隊整備計画も予算が確保できる
 見込みだ。しかし……」
「その代わりに、横槍も煩いと?」
「ああ。まぁ何とか押さえているが……やはり外圧であるガミラスが消えたことは大きいな。ボラー連邦のような国家が
 あることが判れば、危機感を煽れるし、防衛軍強化ももっとスムーズにいくだろう」

 次の週、防衛会議では防衛軍長官の藤堂と参謀長から太陽系外の星域の探索が提案された。

「我々は太陽系外の情報は無知に等しい。もしもガミラス、いやそれ以上の敵対勢力が居たら目も当てられない」
「ガミラス帝国の残存艦がゲリラ攻撃を仕掛けてくるとしたら太陽系外に基地を作る可能性が高いでしょう」
「万が一に備えて、地球外で移民できる惑星を探索させるべきです。出来なくとも新たな資源を発見できれば大きな利益になる」
「備えあれば憂い無しとも言う。危機管理の重要性はガミラス戦役のことからお分かりでしょう?」

 参謀長はそう言って出席者を説得した。太陽系の開発こそ最重要と考える人間も少なくなかったが、ガミラス戦役の恐怖を
逆手にとって参謀長は説得した。何しろガミラスは本星こそ壊滅したものの残存戦力は侮れない。
 また全く未知の敵対勢力がいる可能性も否定できず、藤堂の強い要望と事前の参謀長の根回しもあって防衛会議は太陽系外の
探索を承認した。この任務にはガミラス戦役の武勲艦であり、長距離航海が可能なヤマトが当てられることになった。
 ちなみに艦長には暴走の危険がある古代進ではなく、完結編では地球艦隊司令官を務めていた男が就任することになった。

734earth:2011/09/07(水) 23:23:01
「栄転おめでとう」

 参謀長は軽い嫉妬交じりでそういったが、本人(勿論転生者)は激怒した。

「お前は俺を殺すつもりか?! ヤマトの艦長なら古代兄にでもやらせればいいだろう! PS版じゃ大活躍じゃないか!」
「彼には別の任務がある。それにヤマトはTV版のように改装して出撃させるぞ。旧式化はそこまで気にしなくても」
「違う。ヤマト艦長そのものが死亡フラグじゃないか。歴代ヤマト艦長は、古代弟を除いて殆ど死んでいるんだぞ!」

 劇場版を含めるとヤマトの艦長というのは死亡率が高い。第一艦橋が被弾しない代わりの人柱ではないかと思えるくらいだ。
死ななくても大怪我する可能性が非常に高いポストと言えるだろう。まぁ第三艦橋勤務に比べれば遥かにマシと言えるが……。

「くそ、俺にも主人公補正があれば!」
「そんなものは名無しキャラにあるわけないだろう。ああ、それと間違えるなよ。爆雷波動砲はまだ無いからな」
「言っておくが、あれは『拡大』波動砲だ。聞きづらいが……」
「そうか……しかし普通の波動砲と何が違ったんだ?」
「知らん。あっという間に全滅したからな、地球艦隊。完結編の戦艦は結構好きだったんだが」

 何はともあれヤマトは再び地球から飛び立つことになる。

735earth:2011/09/07(水) 23:24:42
あとがき
参謀は参謀長に進化しました(爆)。
ますます前線が遠のいていき、デスクワーカー一直線です。
このままだと後世では調整型軍人として名を馳せるでしょう。本人には不本意ですが。
次回でヤマト発進です。

736earth:2011/09/07(水) 23:29:31
すいません。調整型軍人ではなく、『軍政家』です。

737earth:2011/09/08(木) 20:59:04
第9話投下です。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第9話

 原作同様に改装され戦闘力を大幅に強化されたヤマトは、未知の世界である銀河系中央を目指して飛び立った。
 と言っても艦長は最初から目的地や状況を知っていたが……。 

「バース星か」

 ヤマトの艦長室でヤマト艦長となった男は原作を振り返る。

「バース星はボラー連邦の保護国となっていたな。まぁラム艦長のように、バース星人も軍人として起用されていたから
 奴隷化まではされていないようだが……」

 ガミラス帝国やガトランティス帝国は人類の奴隷化か絶滅を突きつけたし、ディンギル帝国は人類殲滅、デザリウム帝国は人類の
肉体を手に入れようとしていた。この四ヶ国については交渉の余地がない。

「まぁ新興国家だから舐められるのは間違いないだろうが……ガミラスを打ち破ったという実績を強調すれば、何とか
 なるやも知れん。しかし相手はあの気難しい独裁者だ。少しでも機嫌を損なえば大変なことになる。全く面倒な仕事だ。
 まぁ古代弟は、兄と沖田艦長が生きているおかげで、少しは気性が穏やかだ。私が気をつけていればあの首相と口論する
 ようなことはないだろう」
 
 そういった後、彼は艦長室を後にした。
 何しろヤマトは改装を受けたものの、その後の訓練は十分とは言えないのだ。
 不測の事態に備えて、練度を高める努力は必要だった。

「私が人柱にされないためにも頑張らなければ」

 ヤマト艦長という死亡フラグを押し付けられた男は割を必死だった。

738earth:2011/09/08(木) 20:59:34
 一方、地球防衛軍はアンドロメダ、ネメシスを完成させた。2隻はただちに訓練に取り掛かる。またアンドロメダ級の
3番艦以降の建造も進められている。
 また航空戦艦(転生者の間では機動戦艦と呼称)であるムサシの建造も進められていた。ヤマトに比べて太くなった
艦体を利用して60機もの艦載機を搭載できる。また飛行甲板が広いこともありヤマトよりも余裕を持った運用が可能
となっている。
 武装もほぼヤマトに準じるものであり46センチショックカノン砲こそ前部2基6門に減じたが、パルスレーザーは
針鼠のように搭載されている。さらにアンドロメダ級と同様にダメコン要員として簡易量産型アナライザーが多数搭載
されており、ヤマトに迫る防御力を持っている。ちなみにヤマトでは何故か第一艦橋の上にあった艦長室は撤去され
変わりにレーダーやセンサーなどの索敵用の機材が詰め込まれた。
 総合的な能力ではヤマトを超えるのではないかとさえ、関係者の間では囁かれていた。

「あとは長距離航海任務に適した巡洋艦が建造できれば完璧なのだが」

 ドックでムサシを見上げて参謀長はため息をつく。
 地球防衛軍はこの時点では沿岸海軍に過ぎない。
 またイスカンダルまでの航海で波動砲が活躍したこと、また拡散波動砲が実用化できたことで防衛軍の戦術は波動砲
に依存している。おかげでやたらと波動砲を艦に搭載したがる風潮があった。

「空間磁力メッキと同様の技術を敵が持っていた場合に備えて、航空戦、砲雷撃戦の研究、それに新たな対艦、対空兵器の
 開発が急務だな。他の新兵器も開発を急がなければ」

 波動カードリッジ弾、コスモ三式弾の開発は急ピッチで進められていた。 
 ガトランティス帝国戦までには何とか間に合う見込みだ。だがそれでもガトランティス艦隊とは絶望的な差がある。

「前衛艦隊に勝てても、次は都市帝国、それに巨大戦艦が相手。些か荷が重い。
 やはり……可能ならばボラー連邦を、ガトランティス戦役に引きずり込むのが望ましい」
 
 戦術で勝つための算段をしつつも、参謀長は戦略で状況の打開を目論む。

「だが……太陽系に来る、無礼な客人を歓待する用意もしないとな。我々のホームに入り込んでただで帰れると思うなよ」

739earth:2011/09/08(木) 21:00:04
 太陽系に侵入して防衛軍の撹乱を行うであろうナスカ艦隊の早期の捕捉と撃滅は必須だった。
足元の安全なくして決戦はない。

「それにしても金星基地を叩かれただけで、エネルギーが全ストップはないな」 

 原作で金星基地を叩かれただけで、あっさり機能が停止した地球の体制のもろさを思い出して参謀長は頭痛を覚えた。
 勿論、この世界では万が一に備えてバックアップを取っているし、地下都市に臨時のエネルギー供給施設もセットして
いる。仮に地上の施設が爆撃されても何とかなる。

「まぁ金星基地襲撃を防げれば言うまでも無い。コスモタイガーⅡの早期警戒機仕様を配備しておこう」

 コスモタイガーⅡの早期警戒機の生産は急ピッチで進んでいる。
 有利に戦うには、まずは先に相手を見つけなければならない。これはこれまでの戦訓から明らかであり、反対はなかった。
また地球側に余裕があることもこのような装備の充実を可能にした。
 参謀長としては11番惑星にも艦隊をおきたかったのだが、さすがに人員と予算の面から無理だった。しかしそれでも
定期的にパトロール艦が派遣され周辺を警戒するようにし、非常時に備えて偵察衛星、通信衛星も多数設置している。
 
「参謀長は心配性ですな」

 防衛軍司令部ではそう囁かれるほどなのだから、どれほど力を入れているか分る。

「当面やることだけでも太陽系防衛体制の強化、テレサの通信の傍受の準備、ボラー連邦との交渉の用意、他にも色々と全く
 地味な仕事ばかり増える」

 彼の地味な仕事(重要度は高い)に終わりが来るのかは、誰にも分らなかった。

740earth:2011/09/08(木) 21:02:03
あとがき
というわけで第9話でした。
次回、ボラーとの接触の予定です。
ガトランティスも迫ってくるので参謀長も大変になるでしょう。
地味な仕事で(笑)。

741earth:2011/09/09(金) 23:07:14
第10話です。少し展開が速すぎたかも(汗)。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第10話

 紆余曲折の末、ヤマトは取りあえずバース星にたどり着いた。
 途中でトラブルで遭難していたボラー連邦船籍の輸送船のクルーを保護していたこと、そしてボラー連邦の警備隊の
攻撃に反撃せずに通信を呼びかけ続けたことで、ある程度信用され、ヤマトは総督府から寄港の許可を得た。
 ヤマトクルーは新たな宇宙人(それも人型)との遭遇や人が住める惑星の発見から、少しテンションを上げていた
ものの彼らの上司である艦長は気が気でなかった。

「さて、いよいよか」

 ヤマト艦長は己を奮い立たせる。ファーストコンタクトは何とかなったが、相手はソ連みたいな国なのだ。
油断などできるはずがない。

「蛇が出るか、鬼が出るか」

 艦長がそう覚悟した後、輸送船のクルーを助けてくれたことへの感謝の印として総督府での会食へ招待された。
最初、艦長は古代のみを連れていくつもりだったのだが、古代の提案で第一艦橋のメンバーや佐渡先生まで連れて
行く破目になった。所詮、名無しキャラでは主人公の押しには勝てなかった。

「これが補正とでも言うのか……それとも歴史の修正力とでも言うのか?」

 嘆息しつつも、艦長は彼らを連れて総督府に赴いた。勿論、不用意な発言は慎むように厳命していたが。 
 バース星総督府の会食でヤマトクルーはボラー連邦についての説明やバース星が保護国になった経緯について
説明を受ける。

「ようするに侵略したってことじゃ?」
「胡散臭くないか?」

 非常に小さな声でであったもののヤマトクルーの発言に顔を引きつらせそうになる艦長。彼らの発言が聞こえて
いたらと思うと気が気でない。

(こ、この連中は……そういえば原作でも命令無視はよくあったよな……はぁ〜原作で防衛軍首脳がヤマトクルーを
 厄介者扱いした理由が判るよ)

 だが何とか場の空気を悪くすること無く、会食は終った。

742earth:2011/09/09(金) 23:08:23
「次に想定されるのは、囚人による襲撃だな」

 原作の設定どおり強制収容所がある場合は、囚人達による襲撃が予想される。警戒は必要だった。 
原作との乖離によって、相手が持っているのが衝撃銃だけとは断言できない。ここで下手にヤマトクルーを死傷
させるとガトランティス戦役に支障が出る可能性がある。

「戦闘班、及び空間騎兵隊は警戒体制をとれ」

 ヤマトには万が一に備えて空間騎兵隊も同乗していた。勿論、斉藤はいないが、陸戦になっても十分に戦える
ようになっている。 

「ここで囚人達の暴挙を口実にすれば、交渉の糸口になるか?」

 そして予想通りやってきた囚人達は、古代率いる戦闘班と空間騎兵隊の攻撃によって成す術も無く撃滅される
ことになる。何しろ相手は衝撃銃、こちらはコスモガンやレーザー自動突撃銃なのだ。勝負にならない。さらに
陸戦のプロである空間騎兵隊さえ居る。大人と子供の喧嘩だ。

「彼らは一体、何だったんでしょうか?」

 古代はそう疑問を呈する。勿論、艦長は知っていたが教えるわけにはいかない。

「装備や練度からして正規軍ではない。だとすれば犯罪者か、テロリストだろう。どちらにせよ、軍服を着用せずに
 戦闘行為をした以上、テロリストとして処分するしかない。生き残った者は尋問する。準備をしておけ」
「は!」

 生き残った囚人の尋問の最中に、ボラー連邦軍バース星警備隊隊長であるレバノスが訪れて謝罪した。またその後に
刑務所(本当は強制収容所)からの脱走者の引渡しを要請した。
 勿論、艦長は断ることは無かったが、囚人達による被害について話し合いをしたいと伝える。レバノスは少し逡巡した後
頷いて艦を後にした。

「何とか交渉の取っ掛かりになれば良いが。ああ、それにしても頭と胃が痛い……全く、何でこんな面倒なことを」

 この不幸な艦長は不平不満を漏らしつつ、自室で薬を飲んで暫く休んだ。

743earth:2011/09/09(金) 23:09:10
 だがヤマトからの報告を受けた地球連邦政府は休むどころではなくなっていた。何しろ銀河系の半分を支配する
広大な星間国家が居ることが明らかになったのだ。
 ガミラスが居なくなったことで気を緩めていた政治家や防衛軍高官は無様なまでに慌てふためいた。一部の
高官は「ヤマトを超える戦艦を持っているのだから恐れる必要は無い」と主張したが、防衛軍司令部の会議の席で
参謀長はそんな意見を切って捨てる。

「相手がガミラスより強大であったらどうする? それにガミラスは多方面に戦線を抱えていた。だが彼らには
 それが無いのだ。地球より優勢な生産力を背景にして、大量の物量で押し寄せられたら大変なことになる」
「では、手が無いとでも?!」
「ないことはない。そのためのアンドロメダ級の大量建造だ。それに太陽系の防衛計画の策定も進めてある」

 参謀長は万が一に備えて(実際はガトランティス戦役に備えて)、土星空域での決戦を考慮した防衛計画を
策定していた。これがあればガトランティス艦隊が攻め込んできても、土方が独断で戦力を土星に集めなくても
済む。

「しかし敵を攻め滅ぼすのは難しい。何しろ、こちらは太陽系周辺での戦いを想定しているのだ」
「ですが敵を撃退しつづければ」
「防戦一方となると息切れする可能性があるぞ。それに再度の総力戦は地球経済にも悪影響を与える。
 こちらにできるのは、地球は簡単に滅ぼせるような勢力ではないことを向こうに示し、相手が戦争しようとする気を
 なくすことだろう。幸い、ガミラスに勝ったという実績もある」

 実際には言った以上のことを考えていたのだが、それは口に出来ない。

(さすがに、いきなり彼らと同盟を組むとか、最悪の場合は傘下に入るとは言えんからな〜)

 そんな参謀長の考えを知ることなく、藤堂は深く頷いた。
 
「参謀長の言うことは最もだ。今の地球は戦争よりも復興と成長が必要だ。
 万が一の事態に備える必要はあるが、最初から喧嘩腰になるのは拙い。しかし必要以上に弱腰になることもない」
 
 藤堂の言葉に不満そうな人間も黙り込む。それは参謀長にないカリスマのなせる業だった。




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