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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

223ヒーローの条件・6  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:09:48 ID:lD9FiO4.
「!」
 そしてビルから出ようとして──左足を狙う銃弾を、すんでの所で立ち止まってやり過ごす。銃撃手は近くに見えない。
(狙撃……子荻か!)
 ──迂闊だった。要の悲鳴も彼女が原因だろう。
 彼女が自分の仲間を餌におびき寄せることを想像しなかったことは、最悪のミスだ。
「全員あたしの方に来るんじゃねえ! 森の方へ逃げろ!」
 彼らを視認するより先に、外に向けて叫ぶ。こちらの隙をつくために、彼らが狙われる可能性が非常に高い。
 そして遅れて、遠くの方に要の姿だけを確認できた。あの二人は、いない。
 胸中で舌打ちしつつ、とにかく彼を助けるためにビルから飛び出そうとして、
 ────ビルの角から現れた新手の少年の銃撃が、右肩に掠った。
(……こんな時に!)
 銃創を抉られた右肩と体重をかけられた左太腿の痛みをなんとか無視して、長い右脚で足払いを掛ける。
 少年がバランスを崩した瞬間、伸ばしきった足を斜め左に向かわせる。
 少年も何とか後ろに飛び退こうとするが、遅く、蹴り上げた足がその胸部を抉った。
「がっ……ぁ」
 倒れる寸前にふたたびショットガンの引き金が引かれたが、難なくかわす。
 ──その刹那。
「あぁあ……ぁあああ!」
 要の悲鳴が、ふたたび耳に届いた。
 ──少年が持っていたショットガンと拳銃とナイフを素早く奪い取り、外を横目で見る。
 ……向かって右手、ビルの角辺りに要が倒れていた。──足を撃たれている。
「──っの!」
 奪った少年の武器三つを、時間差を付けて投げた。どこかにいるアイザックとミリアに当たらぬよう、飛距離を落として。
 稚拙なフェイクだが、一瞬でも子荻の意識がこれらに向けばいい。
(あたしが行くまで、死ぬなよ──!)
 胸中で叫びつつ、哀川潤は地を蹴り出した。

224ヒーローの条件・7  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:11:12 ID:lD9FiO4.
 ビル内で“赤き征裁”と戦っている一人の少年のことを、萩原子荻は既に感知していた。
 ある店の庭から出てきた後、三人をしばらく監視しているところも見ていた。
 ──こちらのすることを邪魔されなければ別にいい。あくまで目標は脱出だ。
 なによりこの唯一の武器であるライフルは、弾数という足枷がある。無駄に使うわけにはいかない。
(ゲームに乗った者でしょう。
こちらの意図を汲んだのかどうかは知りませんが……あの少年を殺さずにいてくれたことには感謝します。
……ついでに彼女を倒してくれるのなら僥倖ですが、無理でしょうね)
 いくら怪我をしているといっても、“赤き征裁”だ。あの少年に勝てるとは思えない。
(──少しだけ、手伝いますか)
 森へ逃げようとする少年の右足を、撃つ。その悲鳴が彼女の隙を呼ぶことだろう。
 ──そして、しばらくすると。
 視界の中で、何かが動いた。



 悲鳴をあげる左足を無視して外へ────行かずに、全力で二階へと疾走。一階に正面以外の入口がないからだ。
 要のいた位置の真上に近い、角の部屋へと急ぐ。……銃声が三発、聞こえた。
 ──萩原子荻とあろうものが、あんなフェイクに引っかかったのだろうか?
(あいつはフェイクに弾を使うような馬鹿じゃない。……他のものを撃ったのか?)
 あの三人でないことを願いつつ、ひたすら走る。
 ──そして部屋へとたどり着き、側面にある窓を開けて、躊躇なく飛び降りた。
「────っ」
「潤さんっ!」
 いつもならたやすく着地できる高さだったが、左足が限界を迎えてしまい、バランスを崩してしまう。
 それでもここで立ち止まっているわけにはいかない。ビルの壁に手を突いて右足で立ち上がり、要を抱き上げる。
 そして素早くビルの裏側へと逃げ込んだ。──どうやら子荻の意識がこちらを捕捉する前に間に合ったようだ。
 彼女達は、あのとき北西に逃げていた。ならば、ここにいれば狙撃はこない。

225ヒーローの条件・8  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:12:07 ID:lD9FiO4.
「潤さん! 足が……」
「ああ、確かにお前の足は早く止血しないとな」
 心配そうな顔をする要に、笑顔で返事をする。
 スーツの下に着ていたシャツの布地を破り、要の右足にきつく巻いて止血する。
「……っ」
「痛いだろうが我慢しろよ。男の子だからなー」
「……はい」
 ──まだ怯えと不安の色はあるが、強く頷いてくれた。
「……んじゃ、そこにいろ。あたしはアイザックとミリアを助けてくる」
「でも、その足じゃ……!」
「あたしを誰だと思ってる?」
「……グリーン?」
「違う」
「……、“人類最強の請負人”?」
「そうだ」
 泣きそうな顔をしている要の頭を、くしゃくしゃと撫でてやった。
「……気をつけてくださいね」
 そして、左足をひきずり立ち上がった。
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」



 言葉が終る前に潤は要を突き飛ばし、その結果、乗り出した潤の胸を弾丸が貫いた。

226ヒーローの条件・9  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:12:58 ID:lD9FiO4.
【C−4/ビルの影(南側)/一日目/11:40】
【哀川潤(084)】
[状態]:内臓の創傷が塞がりきれてない。右肩が治ってない。左太腿が動かない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:──!
[備考]:右肩は自然治癒不可、太腿治癒にはかなりの時間がかかる
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要。
【高里要(097)】
[状態]:健康・上半身肌着
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ランダム武器不明)
[思考]:潤さん!?

【C−3/商店街/一日目/11:40】
【アイザック(043)】
[状態]:胸に銃創
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明
【ミリア(044)】
[状態]:腹部に銃創
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明

【C−4/ビル一階事務室・机の下/一日目/11:40】
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:催眠術で気絶中。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:なし
[思考]:気絶中
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要。

227ヒーローの条件・10  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:13:47 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川潤の殺害。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:気絶?
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:最後まで生き残る。

228Dooms・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:14:28 ID:lD9FiO4.
 少年──高里要の足を撃った直後。
 萩原子荻は、視界に何か動くものを捕捉していた。
(…………、睡眠は取ったのですが、まだ疲れがあるようですね)
 ──視界に映ったそれは、血液だった。
 もちろん、常識的に考えて血が動くわけがない。
 ただの睡眠不足が見せた幻だと判断し、ふたたびビルを睨もうとして、
「────!?」
 飛び散っていた血と肉が、撃って倒れたはずの──いつの間にかビルに向かって這っている男女の元に、ゆっくりと集まっていくのが見えた。



「うう、痛いよ、アイザック……」
「ががが我慢だミリア……。ビルに逃げ込んで休むまでの辛抱だ! 先に行った要も、潤を呼びに行ってるはずだ!」
 ──自分たちはどうやら狙撃されたようだ。それに気づいたのは、要が立ち去ってから少し経った後だった。
 始めは二人とも激痛のため動けなかったが、今は普通に会話もでき、少しずつ這うくらいなら動くことが出来た。
 痛みも急速に引いてきている。……きっと特殊な銃器だったのだろう。
「要は大丈夫かな?」
「大丈夫! きっと今ごろ俺達を撃った奴らをグリーンと一緒に懲らしめてるさ!」
「そうだね! 頭いいイエローと、強いグリーンが組んだら最強だよね!」
「ああ! だから俺達も早く合流、」

229Dooms・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:15:09 ID:lD9FiO4.
 ────ふたたび、銃声。
 アイザックの胸から、鮮血がほとばしった。
「ひゃあああああ! アイザック!」
 顔をくしゃくしゃにして、ミリアが泣き叫ぶ。
「だ、だだだ、大丈夫だミリア。……ピンクが恋人をおいて死んだら、ダメ、だからな……」
「そそそうだよ! ヒーローがこんなところで死んじゃうなんて、モリアーティーも死んだ子供達も許してくれないよ!」
「ぁ、ああ! レッドも、ピンクも、イエローも、グリーンも、ホワイトも、ブラックも! 誰かが欠けたらだめなんだ!」
「うん! ブラックもきっと戻ってきてくれる! またみんなでがんばれるよ!」
「だだだからそれまで、俺達は、死んじゃいけないんだ!」
「そうだよね! アイザック!」
 二人は強く決意して、先程よりもゆっくりと、ビルまでの道を這い始めた。

 ──────二つの銃声が響き、意識が白く染まるまで。


「ずいぶん驚いてるけど、何かあったの?」
「いえ、何も」
 問われ、そっけなく返す。──冷たい言葉とは裏腹に、胸中は穏やかでなかったが。
(やっと止まりましたね……)
 二人の頭を撃つと、男女と血と肉はやっと動くのをやめた。
(まったく……どんな化け物がいるんですか、ここは)
 “赤き征裁”も確かに化け物だが、それでも一応人類だ。
 血や肉自身が再構成されるなど、人間の範疇を超えている。
(まあ、殺せたのでどうでもいいです。……でも、一瞬でもビルから目を離してしまったのが痛いですね)
 “赤き征裁”、そして少年の姿はもう見えない。
 ビルの裏側か、森の中に隠れられたようだ。
(……また、逃がしたというのですか。不覚です)
 だが、まだこの周囲を狙っていることはわかっているだろう。そう簡単には動けないはずだ。
(……膠着状態ですね。我慢比べと行きましょう)
 ──まだ終ってはいない。そう自分に言い聞かせ、気を引き締めた。

 それが既に終っていることに気づくのは、約二十分後のことだった。

230Dooms・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:16:04 ID:lD9FiO4.
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」

 少年の眉間を狙って撃った弾丸が、突き飛ばした結果乗り出してしまった女の胸を貫いた。
 先に少年の方を殺して女の動揺を誘おうとしたのだが──かえってよい結果になった。
 その僥倖に感謝しつつ、間髪を入れずに動きが止まった女の眉間を撃ち抜いた。
「ぐ──」
「……っ」
 顔から血を流して倒れゆく女の目が、こちらを強く射抜く。
 ──目をそらすことすら出来ない、強すぎる眼光。悪寒と震えが身体に走る。
 横向きに倒れて顔が空の方を向くまで、それはキノの眼を貫いていた。

 ──胸を蹴られたあのとき、気絶はしていなかった。
 あっさりと返り討ちにあってしまったときには死を覚悟したが──こちらの容体を確認せずに、少年の救出を優先してくれて本当によかった。
 弾が残っている拳銃が、それほど遠くに投げられていなかったことも幸運だった。

 そして、後に残ったのは、まだ現実を飲み込めていない少年のみ。

「あ──、あ、」
 少年が呆けた声を漏らす。
 また叫ばれると、邪魔な人間を呼び寄せてしまうかもしれない。そう思い、銃口を向けると、
「…………ど、して」
「……?」
 少年から何かの言葉が漏れ始めた。
 訝しんだ刹那、何かが切れたかのように少年の口が開いた。
「……どうしてっ! どうして殺すんですか! 僕らは何もしていないのに! 殺していないのに!
ここから出たいっていう希望はみんな同じはずなのに! どうして! なんでみんなで、」
 ──言葉の途中で、キノは引き金を弾いた。

231Dooms・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:16:46 ID:lD9FiO4.
 銃声と少年の途切れた声が、耳に入る。
 見飽きてしまった赤い血が、目に映る。
 慣れてしまった血の臭いが、鼻を刺激する。
「……」
 デイパックごと、二人の荷物を持っていく。中身を見るのは後でいい。
 それと、最初に狙撃されたうちの一人は自分の銃を持っていた。回収するべきだろう。
 疲労は限界に達していたが、しょうがない。
「……」
 ──生き残らなければならない。どんなことをしても。
 そのことを、再び胸に刻み込む。
 撃たれた左足をひきずりながら、キノは歩き出した。
 涙に濡れた少年の目が、いつまでもこちらを見つめていた。

【043 アイザック 死亡】
【044 ミリア 死亡】
【084 哀川潤 死亡】
【097 高里要 死亡】
【残り77人】

232Dooms・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:17:36 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川達の監視。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:疲労が限界に近い。
[装備]:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)
[道具]:支給品一式×4、潤と要のデイパック(中身未確認・未整理)、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:森の人を回収→D-4森へ。最後まで生き残る。

※ベネリM3(残弾なし)と折りたたみナイフがビル周辺のどこかに放置されています。
 火乃香のカタナと森の人が、アイザックとミリアの死体のそばに放置されています。

233勘違いと剣舞 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:07:47 ID:Hw7b583Y
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃないわ、そんな死に方真っ平ゴメンだわ、そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった、周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた、少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ、なんの乱れも生じていない、この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。

「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す、中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける、普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみる、反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った、屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている、が、彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する、直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける、その剣士の名はギギナといった。

突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。が、彼らにはさっぱりだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する、無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲う、突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
剣撃がヒースを襲う、一撃めとは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2撃めもヒースはかわした、だが先ほどと違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。

234勘違いと剣舞 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:08:31 ID:Hw7b583Y
「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い、2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う、自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う、鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、
切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った、魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
それを見た朱巳は若干かったるそうに呟く。
「まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっと行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし、と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける、それに対して彼女は振り向いてニヤッと笑い
「まあ見てなさいって、『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。

「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない、その手に持つ大型剣、
魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きは増していた。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ、そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる、と、その間に・・・・・

「はいストップ。」

1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める、魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
 邪魔だ、後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
 そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う、その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した、女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。

がちゃん

それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる、動こうとするヒース、
だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
 そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる、そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。

235勘違いと剣舞 その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:10:31 ID:Hw7b583Y
「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ、あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した、その行為は万死に値する!」
そういえば、と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせん、今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
屍の言葉が蘇る

『壊した方が早くないか?』

「・・・・・もしかしてヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど

ヒースが鉄パイプでつっつき、

屍が壊したほうが早い

と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ、そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳、目を点にするヒース、くだらんといいそっぽを向く屍、
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない、だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。


その後、心の鍵を外し、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)


そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「そうか、貴様らがヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
 ならば今回はその行為に免じてひくとしよう」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった、名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ、
 次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「では――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した、
左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた、彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ、一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた、同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。
 無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。

【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】

【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。


【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。


【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】腹部に傷(戦闘に支障あり)、虚脱感
【装備】鉄パイプ(切断され通常の7割ほどの長さ)
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ギギナ】
[状態]:疲労。休息が必要なダメージ。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索

236Refrain(1/4)◆3LcF9KyPfA:2005/05/16(月) 04:03:07 ID:IUdB/xsA
「正直言うて、俺もキツいんやけどなぁ……」
「すまないな。止血しても、流石に限界で……肩貸してもらわないと、歩けそうにもなくてな」
 クエロが去ったあの後。俺は傷の応急手当をすると、緋崎に肩を貸してもらいD-1の公民館へ向かっていた。
 最初は緋崎から「休憩せなあかん。もう一杯一杯や」と、有り難くも拒否のお言葉を貰っていたが、放送も近いので少し無理をすることにした。
 放送。それがただの定時連絡だったなら何も問題はなかっただろう。だが、問題は禁止エリアだ。
 もしD-1が次の禁止エリアになったりしたら目も当てられない。放送前に、公民館でミズー達と合流する必要がある。
 そして、クエロ……まさか、こんなに早く出会うとは思っていなかった。いや、思いたくなかった、だけかもしれない。
 昔の同僚。昔の相棒。そして――昔の恋人。
 クエロは、俺を許さないと言った。自分が殺すまで生き延びろ、と。
 俺もクエロを許さない。それは同じだ。だが、俺にクエロが殺せるのだろうか……
「……ユス……? おい、ガユス? どないしたんや!? おい、しっかりせんかい!」
「え? あ、いや、すまない。どうやら、考え事に没頭していたらしい」
「……何を、考えてたんや?」
「そのレーザーブレードのこと」
 即答で嘘を吐いた。
 俺はご丁寧にも指を突きつけると、緋崎のベルトに挟んである剣の柄に視線を送る。
「……便利な道具、や。あの白いマントの奴が説明書持ってへんかったからな、細かい使い方までは解らへんけど」
「そのことなんだけどな、ちょっと思いついたことがあって考えてたんだ」
 舌と頭が同時に動く。もしかしたらもうバレているのかもしれないが、それでも嘘は出来る限り隠し通さなければいけない。
 クエロの事を話すには、まだ早い。
 ――俺の、心の準備が。
「なんや、言うてみい?」
「さっき、最後にクエロが放った咒式だが……」
「『魔法』みたいなもんやな?」
「ああ、そう解釈して構わない。で、その咒式に触れた刃の部分が、咒式の一部を吸収して変色するのが見えた」
「魔法の上乗せが出来る光の剣、っちゅうわけか?」
「おそらくは、な」
 スラスラと言葉が口から滑り出ていく。こんな時でも、俺の舌は絶好調らしかった。
 クエロのことを頭から追い出す為、忌々しい想いを込めていつもの精神安定剤を心の中で言葉にする。
 ギギナに呪いあれ!

237Refrain(2/4)◆3LcF9KyPfA:2005/05/16(月) 04:03:57 ID:IUdB/xsA

「お、ようやく到着やな。ほら、見えてきたで、公民館」
「ようやく、休めるな……もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見た時から休んでないからな」
「せやな。もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見てから休んでへんもんなぁ」
 本当に、あの熊は一体なんだったんだろうな……でもそれ以上は思考停止。もう忘れた。熊ってなんだ?
 それより、ミズー達はもう公民館に辿り着いてるだろうか?
 いざとなったら新庄の剣があるので、俺達より遅れるということもないとは思うのだが……
「で、どないする? 念の為に裏口回ってく?」
 俺と同じことを考えていたのか、緋崎が目配せをしてくる。
「……いや、正面からでいいだろう。
 確かに彼女達以外の何者かが中にいれば危険だろうが、裏口から回って万が一にでもミズーに敵と間違われたらもっと危ない」
 言って、その状況を想像してしまう。こんな時ばかりは俺の明晰な頭脳が恨めしい。
「というわけで、正面からいくぞ。足音を消す必要まではないと思うが、警戒は怠るなよ」
「先刻承知や」
 方針が決まり、俺達は公民館に近付いていく。
 ボロボロの俺達を見たら、新庄はまた驚くかもな……膝枕をしてほしいとか言ったらしてくれるだろうか?
 多分盛大に引かれるから言わないけど。
 ミズーはどうだろう? ……きっと呆れたような溜息でも吐くんだろうな。
 悔しいので、またからかってみよう。拗ねた顔が可愛かったし。
 ……勿論後が怖すぎるので自粛するが。多分。
 そして、目の前に公民館の入り口が近付いてくる。
「……ええか?」
 緋崎は小さく「光よ」と呟くと、光の剣を構えて扉の前に立つ。
 あの白マント程は刀身が伸びず、光の剣というよりは光の短剣という風情だったが。
「ああ、いくぞ」
 俺はと言えば、何もできないので時計だけ確認して扉を開ける。

 現在、十一時五十七分。

238Refrain(2/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b>:2005/05/16(月) 04:04:55 ID:IUdB/xsA

『――ルツ、014 ミズー・ビアンカ、01――』
 煩い。黙れ。言われなくても解っている。
 目の前に、死体があるんだから。
『――原祥子、072 新庄・運切――』
 あぁ、畜生。頼むからやめてくれ。もう何も言わないでくれ……
「あ……あぁ……」
 何を悲しむガユス? 人の死なんざ見飽きているだろう? 仕方なかったんだ。今はそういう状況なんだ。
「違う……見ろ、この傷。まだ新しい。三十分も経ってはいないだろう。
 つまり、俺が最初から公民館を目指していればこうはならなかったんだ……クエロにも遭わなかったんだ!」
 違うな、冷静になれガユス。お前がいたからといってどうなる?
 咒式も使えず、満足に戦闘行動もできない。そんなお前がいて、彼女達を護れたのか?
 最初から公民館を目指していたとして、本当にクエロに遭わなかったのか?
「関係無い!! 俺は認めない。俺を認めない……黙れ。黙れ! 俺の思考を邪魔するなガユス!
 落ち着け。落ち着け! クエロのことは今は考えるな!」
 そうだ、落ち着け。いつもの俺になれ。龍理遣いは冷静沈着に、だ。
 クエロのことは忘れろ……
 ――よし、意味不明で支離滅裂な喚き声はこれで終了。まずは現状を把握だ。
 緋崎は、放送が始まる少し前に「一応、他に誰かおらんか探してくるわ」と言って建物の奥に入っていった。
 放送も聞き逃してしまったし、後で緋崎に聞こう。
 そして、ミズーと新庄の死の原因……恐らく、この女だろう。
 見覚えのない黒髪の女が、ミズーの近くに倒れていた。その胸には、やはり見覚えのない銀の短剣。
 新庄がトイレの中で倒れている状況と照らし合わせる。

239Refrain(4/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b>:2005/05/16(月) 04:05:48 ID:IUdB/xsA
 恐らくは一般人の振りをしてここに逃げ込んできた第三の女が、ある程度打ち解けたところで気分が悪いとトイレに行った。
 新庄ならば、心配して覗きに行っただろう。
 その新庄を隠し持っていた短剣で刺し、トイレの入り口で駆けつけたミズーと相討ち。そんなところか。
 黒髪の女の行為は、つまり――
「……裏切り……」
 また、裏切り。この言葉は、どこまで俺を苦しめれば気が済むというのか。
 さっきの醜態も、裏切りという単語がクエロを連想させたからか……
 それとも、ジヴの代わりをミズーに見出していたのか……
 どちらにせよ格好悪いことこの上ない。
 ところで……
「あぁ……それにしてもなんで……」

 なんで俺は、泣いているんだろう……

【D-1/公民館/1日目/12:10】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。軽い心神喪失。疲労が限界。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ(太腿に装備)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:これから、どうしようか……
[備考]:十二時の放送を一部しか聞いていません。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。他に、なんか人おったり物落ちてたりせぇへんかな?
[備考]:六時の放送を聞いていません。 走り回ったので、骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
【061 小笠原祥子 死亡】
【072 新庄運切 死亡】
【残り81人】

240Rainy Dog1/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:55:35 ID:JdwCcAMg
「BB、火乃香……」
 この島の中で頼れる数少ない名前を唱えながら、しずくは湖岸を駆ける。
 地下墓地での一幕から二十分ほど。
 放送にはオドーの名前と祥子の名前があった。
 その事実に思考が停止しかけるのを、しずくは必死で耐えた。
 ほんの少しの間とはいえ、一緒にいた人に、もう会えない。
 死という現実に触れる痛みを知ってはいた。それが耐え難いものであることも、また。
 それでも、ここで泣いているわけにはいかないのだ。
(今かなめさんたちを助けられるのは、私しかいない)
 その事実がしずくの背中に確かな重みとなって存在していた。
 幸いにも、元の世界での知り合いたちは無事のようだった。
 ならばなんとしてでも合流して――――いや、彼らでなくてもいい。
 とにかく誰かに、自分が見た情報を伝え、助けを求めなければならない。
 しずくを袖口で目を拭いながら足を動かす。
 外見は人と変わらなくともしずくは機械知性体だ、その運動能力は生身の人間よりも高い。
 リスクを度外視してでも島を駆け回る覚悟はできていた。
 なんせ、タイムリミットは日没までだ。
 残された時間は決して多くないし、それに日没まで待たなくても宗介がその手を汚してしまう。
 千鳥かなめ。相良宗介。
 二人ともいい人だった。こんな島の中ででも、出会えてよかったと思えるほどに。
 だからこそ、しずくは二人を助けたいと思う。
 かなめを救い出したいと思うし、宗介に手を汚して欲しくないと思うのだ。
 再び溢れてきた涙を拭った時、視覚センサーが人影を捉えた。
 幸運としかいいようがない。
 こんなに速く誰かと接触できるのは予想外だった。
 しずくは速度を緩めて歩み寄ると、その人影――――皮のジャケットをまとった男に声をかけた。
「あ、あの!」
 声をかけられても、男は無反応だった。
 俯いているため顔は見えない。
 癖の悪い黒髪と、握り締めた両のこぶしが妙にしずくの印象に残った。

241Rainy Dog2/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:56:21 ID:JdwCcAMg
「いきなりすいません! でも、すごい困ってるんです。力を貸して――――」
「悪いな」
 いきなり割り込まれ、しずくは思わず言葉を止めた。
 え? と呟いた後、男の言葉が拒否を表すものだと思い至る。
 そしてそれが誤解だと気づくのに、一秒とかからなかった。
 思わず歩み寄ろうとしたしずくを遮るように、男が右手を突き出し、握る。

「憂さ晴らしだ――――付き合えよ」

 しずくが何かを言うよりも男のほうが速かった。
 その眼光が紅く尖る。
 そして、頭上に巨大な影が出現した。



 ナイフのような背びれが空気を切り、筋肉に鎧われた巨体が宙を泳ぐ。
 その動きは見る者が優雅さを感じるほどに滑らかだ。
 大きく裂けた口。
 びっしりと並ぶ牙の群れ。
 赤い眼球。
 縦に長い瞳孔。
 いくつかの点で相違はあるが。
 男の頭上を旋回するそれに近い生物は、しずくの知識の中に確かに存在する。 
(これって……)
 半ば愕然としながら、しずくは認めた。
 彼女の世界では支配種ザ・サード以外は知りえないだろう生物。

 それは三メートルを超える、巨大な鮫だった。

242Rainy Dog3/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:57:06 ID:JdwCcAMg
 甲斐氷太は暗い眼差しで少女を見た。
 久しぶりにカプセルを飲んだ高揚感も、悪魔を呼び出した興奮もない。
 体の芯にねっとりとした闇が巣食う感覚。
 血液という血液が死んだように冷たい。
 それもこれも、あの放送のせいだった。
 ありえない。許されない。
 あのウィザードが、物部景が――――……
 そこから先は言葉にせず、現実感が希薄なまま動く手足を確認して、甲斐は黒鮫に命令を下した。
 目の前の少女は細く、脆い。
 餌というのもおこがましい、惰弱な存在だ。
 言葉通り、ただの憂さ晴らしに過ぎない。
 子供がおもちゃを壊すように、あっけなく、容赦なく。

 ――――喰い千切れ。 


 猛烈な勢いで黒鮫が迫った。
 鼻先で突き殺そうとするかのような突進。
 切り裂かれた大気が悲鳴を上げ、巻き上げられた風にバランスを崩しかける。
 しずくがその一撃をかわせたのは奇跡に近い。
 横っ飛びに転がった数センチ横を、黒鮫が一瞬で通過していく。
 風に髪が叩かれる感触は、機械であろうとも背筋が寒くなるものがあった。
 デイバックから支給品を取り出しながら叫ぶ。
「は、話を聞いてください!」
 しずくの叫びを甲斐は黙殺。
 その時点でしずくは己の失敗に泣きそうになった。
 完全にゲームに乗った人間に声をかけてしまったらしい。
 それも理屈はわからないが巨大な鮫を操る危険人物に。

243Rainy Dog4/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:57:47 ID:JdwCcAMg
 嘆く時間すら、相手は与えれくれなかった。
 小さな弧を描いて鮫が反転、再びこちらに鼻先を向ける。
 顎が開き、びっしりと並んだ牙が光を弾いた。
 陽光を塗りつぶすように、甲斐の両目が紅蓮に瞬く。

 セカンド・アタック。

 コマ落としにすら感じる突進。
 唸りをあげる大気を従えて、鮫が黒い砲弾と化す。
 しかし一度目よりはわずかに遅い。
 こちらが横に逃げても追撃可能な速度――――つまり今度は横に飛んでも回避できない。
 理解すると同時に、いや、それより速く体は動き始めている。
 ザ・サードのデータベースに接続してから吸収した情報は莫大な量だ。
 その中には高度な知識を必要とする先端技術もあれば、辺境の遊びなども含まれている。
 
 
 たとえば、バットの振り方。

 
 凶悪な棘つきバットであるそれを振りかぶり、思いっきりスイングする。
 タイミングを計る必要はなかった。もとより、最速でも分の悪い賭けなのだから。
 激突は刹那のことだった。
 黒鮫の顔の側面にバットが当たる。
 一瞬で足が浮き、鮫とバットの接触点を軸に独楽のように弾き飛ばされる。
 瞬間的に手首に甚大な負荷――――破損した。バットを手放す。
 だがそれと引き換えに、しずくの体は宙を飛んだ。
 黒鮫の上をまたぐ形で、ほんのわずかな時間、飛翔する。
 青い空が視界に広がった。
 しずくの故郷とすらいえる、空。
 そこにわずかに見とれながらも、次にくる衝撃に備えて体を丸める。
 ――――激突。

244Rainy Dog5/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:58:47 ID:JdwCcAMg
 衝撃は予想よりもひどいものではなかった。
 足の短い草たちが、多少は衝撃を和らげてくれたらしい。
 それでも、行動に障害がでるレベルのダメージだ。
 駆動系の一部に異常。ただでさえ感度の落ちているセンサー類がさらにダウン。
「あ……」
 思わず声が漏れた。
 気がつけば後ろは湖だった。
 水まで一メートルといったところ。
 あれだけ勢いがついていて落ちなかったのは運がいいといえば運がいいが、次がかわせなければ意味がない。
 三度、黒い鮫と正面から対峙する。
 エスカリボルグは棘が肉に食い込み、鮫の顔面にそのままぶら下がっている。
 武器ももうない。

 サード・アタック。

 鮫の姿が近づいてくる。
 センサーの異常だろうか。
 なぜかゆっくりと見えるその光景を、しずくは自ら閉ざした。
 倒れたままきつく瞼を閉じて、最後を覚悟する。
 脳裏に浮かぶのは火乃香であり、浄眼機であり、オドーであり、祥子であり、
(ごめんなさい。かなめさん、宗介さん……さようなら、BB)
 いっそう強く眼を瞑り、しずくはその瞬間を待った。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 何もおこらない。
 恐る恐る瞼を上げると、目の前に足が見えた。
「え?」
 呟きをかき消すように、背後で轟音が鳴る。
 そして。

245Rainy Dog6/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:59:30 ID:JdwCcAMg
「きゃ!」
 降り注いだ無数の雫を浴びて、しずくは悲鳴をあげた。
 陽光は弾きながら、雨のように水が降り注ぐ。
 視覚センサーを手でかばいながら上空を見れば、まずはびしょ濡れの男が、そのさらに上に黒鮫が見えた。
 どうやら、鮫を湖に突っ込ませたらしい。
 この水滴は鮫の背中に乗った湖水が落ちてきたものだ。
 わけがわからず、しずくは目の前の男を見た。
 男――――甲斐氷太はあいもかわらず不機嫌そうに、赤い瞳でこちらを見ている。
 このままでは埒が明かない。
 しずくは口を開いた。


「あの……」
 少女がそこまでつぶやいて、再び黙る。
 こちらの顔が険悪になったのを見たからだろう。
 甲斐は胸中にわだかまる憎悪を意識した。
 ウィザード――――最高の好敵手を失った、憎悪。
 そう簡単にヘマをする奴ではなかったが、この異常な島ではいつも通りに立ち回れなかったのか。
 それとも他の理由があるのか。
 ひょっとすれば連れの女をかばったのかもしれない。
 あの女は、少し、姫木梓に似ていた気がする。

246Rainy Dog7/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:00:25 ID:JdwCcAMg
 甲斐は一人回想した。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」
 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩いた。
 視界の端に自分と同じくびしょ濡れの少女を捉える。
 悪魔を使いはしたが、突撃させただけの素人以下の操作だった。
 悪魔に関してはいくつか引っかかることもあるし、その確認も必要だろう。
 それでも目の前の線の細い少女は、よくがんばた方だと甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しかったのは事実だ。

247Rainy Dog8/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:01:13 ID:JdwCcAMg
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。

「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との……」
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
 
【D-7/湖岸/12:10】  
【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す

【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました(詳細は別途確認するつまりです)
※エスカリボルグはその辺に落ちてます。

248悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:34:55 ID:wMojAoZA
 骨折した部分が痛む。疲労で体が痺れてきた。昨夜の失血が体力を低下させている。
(あー、またしても死ぬとこやった……)
 小娘に吹き飛ばされ、熊に追い回され、今度は女に殺されかけた。
 二度あることは三度あると聞くが、三度あったことは何度あるのだろうか。
 前途多難な未来を憂い、軽い吐き気を感じたが、腹の中には水しかない。
 食事をとっていなかったことが幸いしたが、全然嬉しくなかった。
(曲がりなりにも連れができた途端に、連れの敵から目ぇつけられるとは……)
 自分もガユスも喋らない。お互い、そんな気分ではなかった。
 のろのろと力なくデイパックを開け、ガユスが止血を始めた。
 どう見ても、満身創痍の状態だ。殺そうと思えば、簡単に殺せそうだった。
(24時間後までに、誰も死なへんようやったら……その時、こいつが隣に居れば
 ……俺は、こいつを殺すんやろか?)
 そんなことを考えながらも、やるべきことは済ませておかねばならない。
 無惨に分断された死体の傍らに立ち、遺品をあさる前に、死者に声をかける。
「あんたの仇をどうにかする為にも、あんたの持ってた道具、使わしてもらうで」
 気分の良い行為ではないが、遺品は必要だった。作業しながら考え事を続ける。
(死人が出んと困るんは誰でも同じや。現時点で、そうそう多人数が殺されとるとも
 思われへん。まだ人口密度は高い。まず間違いなく他の誰かが殺してくれよる。
 まぁ一応、こんなんでも味方やしな。いつまでも味方とは限れへんけども)
 移動中にガユスと会話し、斧を持った女の方がミズー・ビアンカで、剣を持った
子供の方が新庄運切だ、とは聞いている。ミズーが敵の知人だったことも知った。
(……多分、そう遠くないうちに別行動せなあかん)
 フリウ・ハリスコーと合流すれば、ミズー・ビアンカは敵になるだろう。その時には、
おそらくガユス・レヴィナ・ソレルも敵になる。女に弱そうな傾向を見て確信した。
 フリウやミズーと再会しないままなら、ずっと協力できる可能性も出てくるはずだが、
そうならない可能性の方が高そうだ。やはり安心はできない。

249悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:35:53 ID:wMojAoZA
(まぁ、主催者しか刻印を解除できへんようやったら、誰でも最後には敵になるか)
 主催者の思惑通り、最後の一人になるまで殺し合わねばならないと確定したなら。
(その時は、どないしようか……)
 この『ゲーム』の目的は何か。参加者を殺すことではない。では苦しめることか。
苦しめることそのものが目的か。それとも苦しめることによって何かを得るのか。
 競わせる為の手段なのか。ならば何を競わせているのか。おそらく戦闘能力ではない。
ただ力が強いだけでは生き残れない。主催者は、参加者に何を望んでいるのか。
 何故この顔ぶれなのか。無作為に集められたにしては、知り合い同士が多すぎる。
因縁が必要だったのか。誰かに殺意を抱く者。戦えぬ弱者と、弱者の為に戦う強者。
戦うことに価値を見出す者。殺さねばならぬと考える者。掌の上で踊る参加者たち。
 価値観の違う隣人と、常識の通じない空間。未知の存在と、予想外の出来事。
疑念と誤解と混乱と、刻印による死の恐怖。破滅の火種は無数にある。最悪だ。
 この状況下で、何をすればいいというのか。従うべきなのか、逆らうべきなのか。
 逆らうことさえもが、予定調和の展開だったのなら……どうすればいいのか。
(まぁ、どんなに悩んだところで、結局なるようにしかならへん。そんなもんや)
 溜息を一つ。長々と考えた末に出た答えは、最初と変わらぬものだった。
(俺は、生き残る。生き残ってみせる。最後の最後が、どんな結末やったとしてもな)

250悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:36:41 ID:wMojAoZA
 特殊メイクじみた姿の男と、知性的な雰囲気の女が現れた、あの瞬間を思い出す。
 そこまでは良かった。少なくとも悪くはなかった。先手を取られてしまったものの、
攻撃の前に呼び声が来ただけでも幸運だった。そう、そこまでは。
 そこから悲劇が始まった。
 女はガユスの知り合いだった。男が女を疑い、女が男を裏切った。女はガユスの武器を
奪い、男は女を本気で狙い、自分は死闘に巻き込まれた。
 女は男と戦って、ド派手な大技をくらわせ、男を死体に変えてしまった。
 女の消耗が激しかったこと、女がガユスを苦しめたがっていたこと、自分の存在が
女にとって不確定要素だったこと――様々な事情が重なって、自分たちは生きている。
(あいつら、好き勝手し放題やったなぁ……あー、あれは『魔法』やったんやろか)
 女――クエロの使っていた技は、ずいぶん不可思議だった。ほとんど理解できない。
 悪魔と呪いの刻印には、分かりやすい類似点があったのだが。例えるならば、カラスと
コウモリ程度には似ていた。方法論が近いというか、同じ種類の機能美があった。
 同じように例えるならば、悪魔とクエロの技の関係は、カラスとペンギンのような
ものだ。根本的な共通点はあるが、それ以上に相違点が目立つ、といったところか。
 対して、男の使った技の仕組みは、おぼろげながらも理解できそうだ。もう一度だけ
例えてみるなら、悪魔と男の技は、カラスとハトくらいには似ているのだろう。
 特に、青い炎を出す術は、自分の得意技だった黒い炎に近いようだ。もっとも、
あの青い炎は、純粋に精神的ダメージを与える作用に特化していたようだったが。
 最初に使った、地面から岩の錐を出す術も、悪魔の物理的干渉に少し似ていた。
 自分の鬼火も、燃料こそ悪魔の力だが、炎自体は物理的なものだ。
(せやけど、『あの男だけが使える力』って印象やなかった。むしろ、あれは……)
 脳裏に少女の面影がよぎる。“最初の悪魔”にして“最強の悪魔”、女王だ。
(女王の加護みたいなもんか? 外界にある力を、術者が利用する技やとか)
 この島には、女王に似て非なるものが存在するのだろうか。悪魔によく似たそれは、
あるいは精霊などと呼ばれているものなのかもしれない。ふと、そう思った。
(……もしかしたら、それ、女王の遠い親戚なんかもしれへんな)

251悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:38:21 ID:wMojAoZA
 考え事をしながらも回収していた品に目を向け、顔をしかめる。
(この剣、どないしようか……)
 柄と刀身を繋がない状態なら、片手でも振り回せそうな重さだ。
 結局、男の遺品で無事だったのは、剣の柄と、その付属品だけだった。
(メモも地図も名簿も、既に灰や。案の定、どんな情報も残ってへん)
 だからこそ、クエロは放置していったのだろう。最初から期待はしていなかった。
クエロは、この剣を“光の刃を出す便利な武器”くらいに思っていたようだ。
確かめたわけではないが、きっとガユスも同じような見解だろう。
 だがしかし、本当に、それだけの物なのだろうか。
 知っている剣ではある。一番最初の会場で、真っ先に殺された騎士が使っていた剣だ。
 この不吉な予感は、かつての持ち主が二人とも死んでしまったからだろうか。
 何故だか自分でも分からないが、できれば関わるな、と本能が警告している。
 この剣が、予期せぬ形で災いを招くような気がして、どうにも嫌な気分になった。
 とはいえ、武器としては貴重な上に強力だ。この場に放置していくわけにもいかない。
 とにかく持って行かねばなるまい。あえて、危機感は無視することにした。
 ガユスの方を見る。止血は終わったようだが、その横顔に覇気はない。
(……頭も体も思いっきり不調か。大丈夫やないな、明らかに)
 とりあえず、この場から少し離れて、それから休憩するべきだろう。
「こら、そこのへなちょこ眼鏡。いつまで腑抜けとんねん。用は済んだし、移動するで」
「おい、ちょっと待て、誰がへなちょこ眼鏡だ? ええ、そこの田舎なまり丸出し野郎」
 元気な演技をする余裕くらいは戻ってきたようだった。喜んでいいのか微妙な感じだ。
 そのまま景気づけに、軽く毒舌の応酬でも始めようかと思い、口を開いた時だった。
 謎の轟音が響き、そして、呼びかけと、銃声と、悲鳴が聞こえてきた。

252悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:39:35 ID:wMojAoZA


【B-1/砂浜/1日目11:00】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

253そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:27:38 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

254そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:32:26 ID:pBSSTsig
「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って、辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!チサトダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか?」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ!」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *

「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らす。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 気が付いたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだよ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに突き立つ槍。人影はない。
『シクシク』
「おいおい、泣くのかよ」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

255そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:33:52 ID:pBSSTsig
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の左腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G−Sp2は呼びかけない限り風見に気づけません。

256Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:42:35 ID:yKn.3DL2
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

257Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:47:25 ID:yKn.3DL2
「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

258Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:15 ID:yKn.3DL2
悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界では文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…
しかし急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」

259Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:55 ID:yKn.3DL2
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

260Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:49:41 ID:yKn.3DL2
「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
 泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

261Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:50:35 ID:yKn.3DL2
【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

262Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:51:27 ID:yKn.3DL2
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、あたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

263Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:52:55 ID:yKn.3DL2
そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「またかなめさんのことを考えていたんですね…サガラさん」

その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
ああ…そうか、そうだったのか、今はっきりとわかった。
逆だ…逆なんだ、彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ…いやだよ。
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっと見ていないといけない、いつまでも…。
そんなのってひどい!

264Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:54:16 ID:yKn.3DL2
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「でも、そのおかげでサガラさんは人間の暮らしを取り戻すことができましたわ」
テッサは宗介の手を包み込むように握る。
「それも千鳥のおかげです、千鳥と過ごした時間があったからこそです」
頷くテッサ。
「だから…千鳥の分まで、大佐殿を…」
その続きを言おうとした宗介の口を指でふさぐテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ今こそ誓おう、千鳥の分まで君を幸せにすると…だから俺のことも宗介と呼んで欲しい、
 千鳥がそうしていたように…」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

265Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:04 ID:yKn.3DL2
でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
テッサは私の写真を手に取り、そして、
「かなめさん、天国で見ていてください、私たちはあなたの分まで幸せになります」
あたしの負けだと言った。

そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつもなき無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?」
美姫が挑発めいた言葉を口にする中、かなめはまだ悲しみに満ちた表情で
苦悶の涙を流していた。

266Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:52 ID:yKn.3DL2
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神に傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

267魔法と魔剣と断末魔 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/17(火) 09:57:02 ID:gze6IUQc
>>248-252の【悪魔と魔法と光の剣】を改題。少し描写を書き足しました。

>>251の最終行から後を、以下のように変更。

『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 謎の呼びかけが響き、銃声に中断され、悲鳴が聞こえて、静寂だけが残った。


「どっちも俺の知らへん声やったわ。お前は、あの二人の声に聞き覚えないんか?」
 あれがフリウの声だったとしても、こう言ったはずだ。本当に知らない声だったが。
「さっき初めて聞いた声だ。会ったことはない。……多分、もう会えなくなったな」
 呼びかけの途中で襲撃された男女は、どこの誰だか分からないままだった。
 お互いに、無言で視線をそらす。黙祷したわけではない。閉口しただけだ。
「さっき狙われた二人が、探すべき相手じゃなければいいんだが……」
 あの男女は新庄の知人だったのかもしれない。新庄は今、泣いているのだろうか?
 ガユスは今、必死で冷静になろうとしている。ミズーと新庄が無事でいるかどうか、
気になっているのだろう。苛立たしげな舌打ちが、隣から聞こえた。
 自分は今、空を眺め、目を細めて、大きく息を吐いている。
(ふむ。これでまた、今から24時間、誰かを殺さんでも済むようになったか)
 これでも、酷いことを考えているという自覚はある。反省する気は微塵もないが。


【B-1/砂浜/1日目11:05】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

※この後の『罪人クラッカーズ』について書かれた作品が、既に存在しています。

268instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:31:12 ID:yxHCzzcQ
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くかだ、なぁ」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも14時30分から雨が降る、こういう状況ならばよほどのことが無い限り雨中の移動は基本的には行うまい。
と、なると14時30分から雨が上がる17時までは拠点内での制圧戦になる。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。

「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

269instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:32:37 ID:yxHCzzcQ
あの男…やる!
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
弾は撃ち落とされてしまった。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

270instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:35:38 ID:yxHCzzcQ
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退り、また距離を置く…
そして、一度は退こうとした彼らが何かを察知したかのように、その身体を翻した時。
かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。
微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームは、宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。

「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」
今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」

至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうすんですか?そんなこと」
キノの言葉には僅かな動揺、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」

宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「ならここで死ぬまでやりあうか?俺も分が悪い駆けは張りたくないんでな、お前も同じだろう?
 続きは最後の2人になったとき、改めて行えばいいだけだ」
だが、俺はそこまで待つつもりはない、お前もだろうが、と心の中で呟く宗介。

271Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:36:25 ID:yxHCzzcQ
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
わけのわからないイデオロギーで振りかざすこともありえないだろう。
戦場においては利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に同盟が締結されたことを意味した。
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ、よろしく頼む」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。

272Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:40:40 ID:yxHCzzcQ
【B-5/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

273◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:06 ID:YJtIx1B.
「でよ、ちょっと野暮用でな、商店街までの道を聞きてーんだけどよ」 
 顔に刺青を入れた少年はぶっきらぼうに訊ねる。
「商店街? お前地図持ってないのか?」
 スィリーの所為で多少疲れ気味になっているのか、割と投げやりに聞く。
「それが置いてきちまってよ」
 両手を上げ、やれやれ、といったポーズをとる。
「それなら、ここから北西に真っ直ぐ1kmほど行ったところですわ」
「おっ、サンキュー。んじゃな。」
 言うなり、茉衣子が指を差した方へ向け歩いていく。
「まぁ、待ちたまえ。キミは何か目的があって商店街に?」
「おうよ、ちょっと水が足んなくなっちまってな、俺が集めてくることになった」
 宮野に止められ、振り向く零崎。
「ふむ、ということはキミのお仲間がいるということだな?」
「仲間、仲間ねぇ。ま、どっちでもいいけどよ、何人かいるのは間違いねぇ」
「良かったら我々を案内してはくれまいか?」
「わりーんだけど、急いでるんだわ、また会ったら教えてやっても良いぜ、んじゃな」
「そうか」
 意外とあっさり引き下がる宮野。
「少年、これを持っていけ」
 懐を探り、持っていた自殺志願をホルダーごと零崎に放り投げる。
「うぉっ、っぶねーな…、って自殺志願じゃねーか?!」
 ホルダーから大鋏を抜き出し、確認する。
 自殺志願、かつて零崎人識が兄の双識から殺してでも奪い取ろうとしたアイテムだ。
「私にはそのような物は必要ない、君が使いたまえ」
「ラッキー、念願のマインドレンデルを手に入れたぜ。
 わりーな、次会ったら今度は案内してやっからよ。じゃーな」
 今度こそ、少年は森の中へと消えていった。

274◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:48 ID:YJtIx1B.
「良いのですか?」 
「ふむ、私には関係ない」
「…? 何故彼に?」
「彼が持っているべきだと、そう思っただけだ、そもそも私に武器は必要無い。
 私は自分自身の能力に絶対の自信を持っているからな!」
 拳を握り、高らかに掲げる宮野。
「行っちまったな、どうすんだ?」
「また人を探すまでだ。彼とは別の方向に向かってみようか」
 
 そして、やっぱり適当に歩き出す宮野であった。
 
*** *** *** *** *** ***

 先ほどの青年は、ひとしきり何かを呟いた後さっさと行ってしまった。
 しずくは黙って見送り、立ち上がる。
 思ったよりもすぐ側にエスカリボルグは落ちていた。
 半壊しかけた腕を垂らしながら、逆の手で拾い上げる。

 ―――はふ。

 溜息。先ほどの黒鮫を殴った所為で右手は暫くの間は使い物にならない。
 システムチェック、アクティブ・パッシブ共にセンサーの能力低下。
 右腕上腕から末部に到るまでの神経系の物理的切断箇所多数。
 幸いフレームにはこれといった異常は見当たらない。
 歩いていく分には問題は無いが、激しい動きは控えた方が良いだろう。
 数時間安静にしていればこの程度の損壊などは修復できるのだが、現時点で安静に出来るような場所の確保などは難しい。

275◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:01:39 ID:YJtIx1B.
 それに、のんびりも言っていられない。かなめを助けなければならないのだ。
 宗介には「誰にも言うな、次に会えば殺す」と言われたが、出来る事ならば彼も助けてあげたいと思う。
 彼の戦闘能力は常人よりも遥かに高い、もし出会ってしまったら彼を抑えられる人間は限られる。
 火乃香や"蒼い殺戮者"の様に高い戦闘能力を持っていれば何とかなるだろう。
 その2人なら宗介だけでなく、かなめも助けてくれるに違いない。
 問題は、出会えるかという事だ。
 火乃香やBBで無くても良い、戦闘能力が高く、尚且つこちらに手を貸してくれる者。
 いるだろうか。
 しずくは考える。これからは人に声をかけるときは気をつけなければならない。
 かなめやオドーの様にこちらに好意的とは限らないのだ。
 朝、神社で襲撃された時点、いや、この争いが始まった時から解っていた事なのに。

 どうするべきだろうか。しずくは半壊した腕を抱え、何処へともなく歩き始める。
 じっとしていても始まらない、腕を完治させるのは後回しだ。
 ふと、思い出す。あの地下で眠っていた女性は何者なのかと。
 宗介や自分よりも速く動き、得体の知れない雰囲気を纏っていた。
 あの女性を倒すか説得するかしなければ、かなめは救われずに、宗介も殺人を繰り返す。
 それだけは、避けなければ。
 BBの「野生の感」といったようなものは無い、火乃香の「気」もない。
 レーダーセンサーが能力ダウンした今、頼りになるのは聴覚・視覚センサーのみだ。
 耳を澄まし、眼を凝らし、一歩ずつ確かに歩いてゆく。
 森を抜け開けた海岸に出、見渡してみるが誰もおらず、仕方なく引き返そうとする。
 振り向きざまに森の奥を見渡す。 

 誰か、いる―――。

276◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:02:20 ID:YJtIx1B.
 警戒しつつ木陰に隠れ、先ほど映った人影を再生する。
 白衣の男性、黒衣の女性と男性、3人を確認。敵か、味方か。
 向こうにも気付かれたようで、緊張が走る。だが。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」
 若い男性の声と、それに反応するように女性の声。
「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう?もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか?それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
「茉衣子くん、蟹味噌は蟹の脳ミソのことでは無いぞ!そんなことも知らんのかね!そもそも蟹味噌とはだな…」
「どうでもいいけどよ、あの子はほっといて良いのか?」 
 冷静な指摘で、最初の男はこほん、と咳をたて、
「む、そうであったな、では改めて。我々はこの空間から脱出できる人材を捜している。
 キミに心当たりは無いかね?」

 この人たちは、自分の頼みを聞いてくれるだろうか。

277たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:16:44 ID:mhhsWZag
「あーくそっ。遅れちまってる」
俺はようやく商店街に着きながら言った。
ちょっと前に三人組と会って道を聞いたまでは良かったが。
なにやら戯言昆虫がいたのは─まぁいい。予定外に時間を食われたのが間違いだったようだ。
コンパスも貰えばよかった…と手元の大鋏をくるくる回しながら考える。
危険極まりない大鋏だが、刃物の取り扱いは慣れている。
それにこのマインドレンデルは前から欲しかったものだ。
使うものが使えば首も容易に切断できる業物だ。
そしてこれは兄貴の形見──
「ん?」
疑問がよぎる。なんでこんなこと考えたんだ?そもそも兄貴って死んだっけ?
俺は、いつここの世界に連れ去られたんだっけ?
一つ一つ思い出す。欠陥製品との出会い。人類最強との戦い。そして逃走。さらに…
思い出せな──
そう思った瞬間様々な事が断片的に浮かんできた。
両手首の無い少女。倒れてる自殺志願。早蕨。舞織。死に顔。
止まる電車。ギザ十。『お前ら全員、最悪だ』知ってる。『人の死には悪が』俺が言ってる。
弾ける扉。入ってくる赤。言う少女。『それでは零崎を始めます』
そこまで考えて、記憶は雲散した。
もしかして、都合がいいように記憶が改変させられている?
「問題は『何』に都合がいいか、だな」
入ってきた赤との戦闘はまるで思い出せない。止まる物語。
デジャヴを感じたような、煮え切らない感じ。むかつく。
例えば<マンイーター>匂宮出夢。奴は「理澄が死んだ」と言っていた。
生憎そこまで殺し名世界の情報には詳しくないが、少なくとも<カーニバル>が死んだ、とは聞いていない。

278たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:01 ID:mhhsWZag
多分、違う時間に連れ去られてきたのだろう。何かの都合のために。
俺は最初殺した奴に「昼寝してた」と言ったが、どこで、いつ?
あの欠陥もあの人食いもあの策士も記憶が都合よく変えられ、奴らの物語は止まっているのだろうか。
そしてあの──
「さぁ盗むぞミリア!手始めは野菜だ!グリーンだからきっと青野菜が好きだな!」
一つ隣の通りで大声が聞こえた。さっきから気づいていたから今更慌てないが。
「ビタミンミネラルだねアイザック!」
「潤さんはむしろ赤って感じだけど…」
潤さん。…<砂漠の鷹>哀川潤だろうか。
仲間、か?あの赤の。
どうする。会ってみるか?俺より後の時間に連れてこられたとしたら、色々俺の疑問─あやふやになった記憶を保管できるが。
「んー」
考えながら手ごろな民家に入り込む。あいつ等はとりあえず無視。
炊事場を発見し、水道のコックを捻る。
「駄目、だよな。多分」
水が、では無い。哀川潤に会うのが。
俺より少し前に連れてこられたとしたら俺をぶっ殺すだろうし、後に連れてこられたとしても和解できてるとは思わねーし。
ボトルの中に水を注ぎ込む。あっという間に三本溜まった。
少し飲んでみたが、うれしいことにおいしい水道水だった。
デイパックを抱える。意外と軽い。まだ何か入りそうだが。
刃物はもういい。業物を持ってる。
食料は探してるとさっきの連中に会うかもしれない。哀川潤に俺の風貌を言われたら殺しに来るかもしれない。

279たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:42 ID:mhhsWZag
思い立って机を漁り、コンパスを取った。たしか南東を進めばいいはずだ。
ちらっと本棚を見る。本が大量に置いてある。
「なんだ。ライトノベルばっかだな」
端から見ていく。Dクラッカーズ、Missing、されど罪人は竜と踊る、アリソン、ウィザーズブレイン………かなりの種類のノベルが全巻揃ってる。
違う棚を見る。俺の好きな太宰治が置いてあった。それを嬉々ととり、デイパックに詰める。

──幸か不幸か、彼は「零崎双識の人間試験」と「撲殺天使ドクロちゃん」の背表紙を見ないで出て行った。

「よっし帰るか」
そういって彼は民家から飛び出す。
3キロの水と大鋏、それに太宰治の代表作をもって走り出した。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
聞こえてきた放送、そして銃声にも何の感慨も示さず、連れの待つ森へと向かう。

【C−3/商店街/1日目・11:05】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁  自殺志願
[道具]:デイバッグ(ペットボトル三本、コンパス)  砥石  小説「人間失格」
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 F-4の森に帰る
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
     大量の参加者たちのライトノベルを目撃しました。

280Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:06 ID:NLLJlQ1U
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くか、どう考える?」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも場合によっては拠点内での制圧戦を考慮に入れないといけない。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。


「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

281Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:50 ID:NLLJlQ1U
あの男…相当な技量だ。
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
トリガーを引いたのはおそらく向こうが速かった、弾が撃ち落とされたのは偶然に過ぎないだろうが。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、先程の彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

282Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:31:14 ID:NLLJlQ1U
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退る、宗介のナイフの第2撃が今度はキノの胸元を狙う。
今度はくぐもった音、キノの手にはいつの間にか折りたたみナイフが握られている。
それは宗介の持つコンバットナイフの凶悪なフォルムに比べるとチャチだが、
キノの手首が閃き、逆にすべるような軌道で宗介の首筋に刃が伸びる…実用度では引けをとらない。
防ぐのは間に合わないと判断しまた後退する宗介、しかし背後は壁だ、どうする?
宗介は迷うことなく渾身の力でバックジャンプし、その反動で壁を蹴り、

その勢いのままキノへとび蹴りを見舞おうとする。
前のめりになっているキノには逃れる術がないように思えたが、キノはこれも瞬時の判断で
素早く身を伏せ、前転することで宗介のキックをやり過ごす。
そして宗介が着地し、キノが立ち上がると同時に、かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。

微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームも宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。
「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」

今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」
至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうするんですか?そんなこと」
キノの言葉には動揺はない、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」
宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「考えろ、ここで死ぬリスクと俺と共闘することのメリットを、互いの利害が一致する以上、
 俺たちは共闘し、戦力を提供し合えるはずだ」
だが、俺は最後まで付き合うつもりはない、それはおそらくお前もだろう?、と心の中で呟く宗介。

283Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:33:26 ID:NLLJlQ1U
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
正義だの愛だの憎悪だの復讐だのと、わけのわからないイデオロギーを振りかざされると厄介だ。
戦場においては生存という名の利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に偽りながらも同盟が締結されたことを意味した、例えるなら
昨日の他人と明日の敵の間にはとりあえず今日の友人、という所だろうか?
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。



【B-5/廃墟/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

284Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:39:55 ID:NLLJlQ1U
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけたあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

285Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:40:59 ID:NLLJlQ1U
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。

286Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:41:45 ID:NLLJlQ1U
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫や先程の出来事を思い出す、倉庫に関しては断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す

『墓を暴くなんて…』
伏せ目がちながらも抗議する志摩子。
『君の気持ちはわかる、だが戦場においては死体こそが全てを雄弁に語るのだ、その気持ちを持って
 志半ばで死した者の冥福を祈ってくれないかね?』
周囲の状況を綿密に観察しながら、墓土を暴いていったメフィスト。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
それも殺されてからしばらく経過して、それだけのためにわざわざ心臓を取り出している。
周囲の状況からいって、埋葬した何者かが行ったことだろう。

となるとやはり…。
メフィストは自分の予感があたりつつあるのを感じていた、
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする外法。
例えば龍の血を浴び不死身となったジークフリードの伝説など、この手の話はよくあることだ。
もっとも自分の存在する世界では伝説や文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…

287Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:42:27 ID:NLLJlQ1U
「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…死体を切開した際の傷の角度や大きさ、
メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
志摩子の顔を見るメフィスト、…ダメだ、今彼女にこの事実を告げることは出来ない。
いずれ頃合を見て、ということになるのだろうか?
今はまだ早すぎる。

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子、
もしかするとメフィストが言わずとも何か察するところがあったのかもしれない。
「お願いします、祐巳さんを元に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「難しいな…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、
 そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、そのような忌まわしき真似を行ったかということだ。
無論、それだけで彼女がそのような存在になってしまったと断定は出来ない、
だが例の死体の解体現場に彼女が関係していたということだけはおそらく事実。
そして終のいう異形と化した彼女の姿、いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
まぁ、いずれにせよ全ては彼女と対面してからだ。

288Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:43:34 ID:NLLJlQ1U
「さて、となると大変なのはこれからだ、彼女を取り戻すにはまずは厄介な魔術師を何とかせねばならん」
終の方を見るメフィスト
「役目重大だぞ、君は先程までそのカーラだったのだ、ならばわずかな時間とはいえ彼女のやり方もある程度は
 分かるのではないのかね?」
「ああ、とりあえず今あいつが狙っている標的は2人だ」
「ほう」
「まずは俺よりちょっと年下の男子、もう1人はバンダナを頭に撒いた…黒いシャツを着た…うーん
 あれは男か女か…」
しかめ面で記憶を手繰り寄せる終、まぁ顔は覚えてるからと締めくくる。
「なるほど、ならば彼女に先んじて彼らと接触しよう、それはすなわち祐巳くんを救うことにも
 繋がるのだから」

志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいません・・・ありがとうございます」
「決して君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。

「それに彼女を取り戻した時こそ、君の本当の戦いが始まる、
 それは親友である君にしか出来ないことだ」
頷く志摩子、祐巳の身に何がおきているのかはわからない。
だが…それが何であれ、彼女がいかに変わり果てていようとも支えるのが自分の役目であり、
それは武器を振るい血を流す戦いよりも、遥かに困難なことのように思えた…それでも。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

289Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:45:35 ID:NLLJlQ1U
そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…本当に」
「君のためだけではないと言ったが、君だからこそという部分も勿論ある、
 そんな君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
それに彼は彼女の境遇を自分と重ね合わせてもいた。
(始兄貴、茉理ちゃん…)
泣きじゃくる志摩子に胸を貸してやるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

290最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その1 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:54:39 ID:Hw7b583Y
 男が鉄骨に腰を下ろしている。
 手足の長いスマートな体系をした少年、彼の名はリィ舞阪といった。
 だが彼をその名で呼ぶ人はほとんどいない。
 彼を知るものたちは畏怖をこめ、彼を《フォルテッシモ》と呼んだ。
 フォルテッシモの目的は、結局達成せずで終わってしまった。
 彼の探していた相手、ユージンは先ほどの放送で死者として名前を呼ばれ、
その放送は当然、フォルテッシモにも届いていた。
 彼はその放送を聞いてがっかりした。
 しかしそれは、子供がテストで悪い点をとったときのような、その程度のものでしかなかった。
 そしてすぐに気を取り直す。事実を分析するにつれて気持ちは高ぶっていく。
(奴が殺された。ということは奴を超える強者が、最低でも1人、この島にいるってことだ。
どんなやつかは知らないが、楽しみが1つ増えたと考えるべきだな……)
 笑みがこぼれる。
 だが残念ながら、フォルテッシモの予想は間違っていた。
 ユージンを殺したものは既に消滅させられていたのだ、とある神父の手によって。


 フォルテッシモが今いる場所、ここは彼の思い出の場所によく似ていた。
 この場所が自分に新たな宿命を持ってきてくれるかも知れない。
 そう考えた直後、彼は自分の考えに苦笑した。いつから自分はロマンチストになったのか。
 まあ特に急ぐことも無いので、誰かがくるのを待つことにした。

 まだ見ぬ強者を待つ間、彼は唯一自分に敗北を味合わせた男と、初めて会ったときのことを思い出していた。
(これで雨でも降ってれば完璧だったんだがな。そう都合よくはいかねーか。
……そういえば奴の名前は名簿になかったな。チッ、あいつらどういう基準で選んでんだ?)
 参加者に自分の知り合いがいないことを嘆くのは彼ぐらいのものだろう。
 彼の最も会いたい人物であり、戦いたい人物でもある高代亨は、彼に勝利した後姿を消していた。
 もしこの島に彼が来ていれば、フォルテッシモにとってこのゲームはまさに“傑作”となっていたのだが。
(まあ、殺し合いに傑作も糞もないか)
 彼にとって殺し合いそのものには価値は無い。その中にある『なにか』
 それこそ彼が追い求めるものであり、最も価値あるものだった。
 そしてフォルテッシモがそんなことを考えていたとき、1人の男が現れた。
 それはまさに――――宿命の出会いだった。

(……アイツは……)
 向こうから現れた男の雰囲気は、先程まで考えていた男のそれと瓜二つだった。
 ある程度の距離まで近づくと、彼はフォルテッシモに訪ねる。
「人を探しているのだが、目元を隠す仮面をつけた男だ」 
 相手の問いに対し、フォルテッシモは不気味な笑みを浮かべながら答える。
「そいつは舞踏会にでも行くつもりだったのか?
 ……まあいい。こっちも人を探してる。いやなに、おまえのように特定の人物ではないがな」
 フォルテッシモは鉄骨から降り、相手と向き合う。
 相手は怪訝な顔を見せるのも無視して、彼は宣言する。
「俺が探しているのは、そう――

―――俺を楽しませてくれる奴だ」
 抑えていた殺気を解き放つ。その場の空気が一気に重くなる。
 相手もそのオーラを感じとり、懐に差していた木刀を構える。
「くくっ、そいつがおまえの剣か? ……いいぞ、ますます気に入った」
(アイツも剣にはこだわってなかったからな)

291最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その2 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:55:28 ID:Hw7b583Y
(体の中に恐怖はないといえば嘘になる。相手の殺気は尋常ではない)
 だが彼、ヒースロゥ=クリストフも幾多の死線を潜り抜けてきた猛者であった。
 その殺気に負けない闘気を身に纏うことで、僅かながら残っていた恐怖を完全に断ち切る。
 相手までの距離は8m、いつでも飛び込める距離だ。
(仕掛けるか否か、できるなら話し合いで解決したいとこだが……)
 判断に迷っていると相手から声が掛かる。
「どうした、こないのか? ……こないならこちらからいかせてもらうぞ」
 ビュッという音とともにヒースロゥの頬が切れた。
 射程距離ギリギリで空間を断ち、それに付随して生じる
カマイタチを飛ばしたのだが、そんな事彼が知るはずもない。
(風の呪文か? これはあくまで牽制、狙いは別と見るべきだな……しかし)
 傷は2つ3つと増えていく。
 1つ1つにほとんどダメージは無いにしても、行動しなければこのままなぶり殺しだ。
(このままではじり貧となる――罠だと分かっていてもいくしかない!)
 心を固め、気合を込める。
「ハァアアア!!」
 いったん攻撃のラインから外れるため、横に飛ぶ。そして、一気に相手との距離を詰める!
 スピード、タイミング、共に十分すぎる。相手のけん制によって生じていた隙を完璧に突いた攻撃だった。
 だがその攻撃が相手に当たる直前、確かにあった筈のその隙が―――消えた。

「何!?」

 そんな気がしただけだ。だけなのだが、彼の本能は全力で攻撃を中止することを求める。
 本能に従い、剣を引き距離を取る。何が起こったのか、その木刀は柄から先が無かった。
 どうやら従って正解だったようだ。
 もし突っ込んでいたら、彼の体はこの木刀と同じ運命を辿っていただろう。
 ヒースロゥと対照的に、フォルテッシモの顔は余裕に満ちている。
「ほう、鼻先一つ掠らなかったか。やつはこれで片目を潰したんだが」
 満足そうにうんうんと頷く、どうやらヒースロゥは合格点をもらえたらしい。
 だがそれは決して、良いことではない。


(どういうことだ? やつの攻撃が見えなかった)
 相手の攻撃に全く検討がつかないまま、落ちていた鉄パイプを持ち再び身構える。
 何がおもしろいのか、相手がいきなり笑い出した。
「何がおかしい?」
 苛立ちの顔でヒースロゥは尋ねる。
「クックック…いやなに、おまえの行動がある男とそっくりでな。
 ……そういえば名前を聞いてなかったな。
 なんならその男と同じく、名付けてやってもいいが?」
 完全にからかっている声だった。
「……ヒースロゥ=クリストフだ。」
 ヒースロゥはわけが分からない。
 だがとりあえず、初対面の男に名付けられるのは御免だ。
「ほう、なかなか垢抜けた名前だな。
 俺の名はフォルテッシモ、呼びづらいならリィ舞阪とでも呼ぶといい」
(フォルテッシモ? ……音楽記号だったか?)
 意味も無く考えてしまった。
 音楽は趣味ではないが、それくらいは覚えているらしい。
 仕様もないことを考えてる自分に軽く苦笑するヒースロゥ、まだ余裕はあるらしい。
 だがフォルテッシモの次の台詞が、彼からさらに余裕を奪っていく。
「さて、俺の能力だが――見るやつから見れば、世界は無数の罅割れで覆いつくされている。
 そして、俺はそいつを広げられる、といったところだ」
 こんな風にな。と言うと、フォルテッシモは軽く手を振った。
 すると、彼がさっきまで座っていた鉄骨が一部分だけ、刳り貫かれて落ちた。
 その断面はさながら鏡のようにヒースロゥの姿を映し出す。
 世界一の剣士とも言われるヒースロゥの剣技を持ってしても不可能な芸当だった。
「なかなか便利なもんだろ」
 せせら笑うようにフォルテッシモは言った。
「さて、おまえはどんなものを持ってるんだ? 言いたくないなら無理にとは言わないが。」
 言葉とは裏腹に興味津々である。

292最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その3 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:56:13 ID:Hw7b583Y
「貴様のようなものならば、持ち合わせてはいない」
 ヒースロゥはその問いに素直に答えた。
「ほう……なんの能力も持たず、俺の攻撃をかわしたのか?」
 意外そうな顔をする、それほどまでの相手には彼は出会ったことがなかった。
「そんなもの、感覚を研ぎ澄ませれば自然とわかる」
 だが、実際のところはただ体が自動的に動いただけで、もう一度かわせるかは微妙なところだ。
 フォルテッシモはゆっくりと歩き始める。
 彼の攻撃の間合いまで、あと3歩程の距離だった。

「そういうものなのか?」
 あっさりとフォルテッシモは信じた。嘘が得意なタイプでもあるまい。
 ヒースロゥはその場を動かない。まだ飛び出すには早い。

 ――残り2歩

「そういうものだ」
 フォルテッシモは歩みを止める気配を見せない。
 対してヒースロゥは今にも動き出さんとする衝動を抑える。

 ――あと1歩

(まだだ……まだ飛び出すには早い)
「そうか――」

 踏み出された瞬間、ヒースロゥの周りの空気が、さらに重くなった。
(来る!)

「――なら、こいつはどうだ!?」

 射程距離に入ったと同時、ヒースロゥのいた場所が弾け飛んでいる。
 しかし、そこに彼の姿はない。2度目もかろうじてだが成功した。
 前と同じように横に跳ぶ。
「せいっ!」
 手に持っていた木刀の柄を投げつける。ダメージを与えるには充分なスピードを出している。
 しかし、この攻撃の狙いは無論、敵にダメージを当てるためではない。
 ただ突っ込むだけでは次こそ木刀と同じ運命を辿ることになる。ヒースロゥはそう考えたのだ。
「ふん」
 と、フォルテッシモが目の前で柄を砕いた。
 砕かれた破片は目眩ましとなり、一瞬視界ではあるが視界が奪われる。
 木片がその効果を失った時、ヒースロゥの姿は視界から消えている。
(もらったぞ!)
 視界が塞がれていた、あの一瞬の間に真後ろに回りこんだヒースロゥ、
躊躇いなくフォルテッシモの背後から、鉄パイプを降り下ろす!
 今度こそ、完全に決まったはず―――しかし、またしても攻撃は失敗に終わった。

293最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その4 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:57:09 ID:Hw7b583Y
「甘いな」
 振り向きもせずニヤリと笑うのはフォルテッシモ。 背後にまで罅割れを広げ、壁を作ったのだ。
 油断することを知らないその体は、彼に一分の隙も作らせない。
 全てを遮断するその壁は、ヒースロゥの渾身の一撃をも楽に受け止める。
 そして、彼が指を軽く動かすと同時に鉄パイプは砕け、ヒースロゥは吹っ飛ばされ鉄骨に激突する。
「ガハッ!」
 たたき付けられた衝撃でくぐもった声が漏れる。
「お前の負けだ」
 目の前に、威風堂々と最強が立ち塞がる。
 ヒースロゥは殺されるだろうと思い、覚悟を決めた―――

「くたばるにはまだ早い。
 ――お前には見込みがある。あの男と同じように、俺の敵になる見込みが」
 フォルテッシモの言葉に、ヒースロゥは唖然となった。
「おまえは、まだあるものにあっていない。その殻を破る前に死んでしまうにはあまりに惜しい」
 フォルテッシモは言葉を続ける。
 その言葉の真意に気づくと、ヒースロゥは激怒した。
「貴様……俺に生恥をさらせというのか!?」
 それは彼にとって屈辱に他ならなかった。
 フォルテッシモは無視してさらに続ける。
「おまえはあるものを探せ。そいつは、十字架のペンダントの形をしている。
 それを手に入れ、そして再びあったとき、今度こそ望み通り、息の根を止めてやろう」
 言葉を伝えた後、最強は風に背を向け歩き出す。
 その顔にはこれ以上ないほど凶暴な笑みが貼りついていた。
(あの男、いわばもう一人のイナズマといったところか……楽しみにしてるぞ)
 彼は天を仰ぐ、朝日の輝きが顔に当たる。
 しかし彼はその輝きに対しても不敵な笑みを浮かべた。
 それはまるで、その中にいる神に向かって『なかなか洒落た贈り物だ――』
と、感謝しているようだった。


 それに対しヒースロゥは激怒した。
 情けをかけた敵に対し、そして何よりも、弱い自分に対し。
 その心に広がる感情はその昔、似たような場所であの敵に出会った、ある男によく似ていた。


 再び彼らが出会う場所、それは宿命のみが知る……

294魔界医師の思考遊戯(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:13 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは、左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、というところであろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。

295魔界医師の思考遊戯(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:55 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきだろうか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
「では、最後に……」
 メフィストは、“気”を掌に集中させていく。いや、ここは解り易く差別化して、氣と表現した方がいいだろうか。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか? それとも……」
 魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

296魔界医師の思考遊戯(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:50:03 ID:IUdB/xsA
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

297Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:27:27 ID:MK/bu.h6
(なにをやってるのかしらね、私は……)
 心が暗く沈んでいくのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。
 黒髪が水のように空を滑る。
 ただそれだけの動作が絵になるほど、彼女の美貌は際立っていた。
 もっとも、唯一のギャラリーは見惚れるような迂闊さとは無縁だったが。
 パイフウの物憂げな黒瞳が自身の手元を注視する。
 117人の名前が連なった名簿。
 その内の36個は斜線が引かれ、この世界から削り取られている。
 パイフウ自身が削った名前は――彼女の認識とは一人分違い――わずかに二つ。
 彼女の背景を考えるなら、間違いなく少ないといえる。
(……歯車が狂ってる。重症ね)
 パイフウは静かに認めた。
 森では素人と大差ない二人相手に骨を折られ、逃亡し、どちらか片方さえ殺せなかった。
 少女の催眠術に手を焼いたのは確かだが、普段なら少女の接近にわけなく気づいたはずだ。
 少年とあわせて、瞬きする間に殺せる程度の障害。
 それを越えられなかった理由はなにか。
(技が鈍っている以前の問題。今の私じゃ素人ですら殺せない。
 ……そんな私がこの男を相手にしたら、一分と持たないでしょうね)
 黒衣の騎士は堰月刀を握ったまま、黙して地面を見ている。
 休んでいるようでその実隙がない。
 こちらが動けば刹那の間に対応するだろう。
 さらには、地下に行けばこの男の主とやらがいる。
 思い出すだけで背筋が冷たくなるあの威圧感。
 見えざる棘のように肌を、肉を刺し貫く鋭利な冷気。
 心臓を鷲づかみにされたような感触がパイフウに警鐘を鳴らしている。
 地下にいる化け物に、関わるべきではないと。
 もちろん自分から関わる気はなかったが……
「そんなことを気にする時点で、らしくないんでしょうね」
 空気に溶けるほど淡く、パイフウは自嘲の笑みを浮かべた。

298Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:28:16 ID:MK/bu.h6
 
 会話すらなく教会内で時間が過ぎる。
 大雑把に推測して、放送から一時間といったところか。
 左の鎖骨はいまだに繋がらない。
 もともとそう簡単に治るものでもないが、治癒が遅いと感じるのも事実だった。
(気が弱まってるのかしら)
 ヒーリングにはいつもと同じだけの厚みを持った気を練っている。
 それにも関わらず、作用する効果自体は弱まっているようだった。
(こういった違和感の積み重なりが歯車を狂わせている。
 気がつかないうちに、他の身体能力も下がっていたのかもしれない)
 この島に来てからの戦闘を回想する。
 軟派な金髪の男は動けないところを蜂の巣にしたので除外。
 城での乱戦、住宅街での奇襲、森での遭遇戦。
 なるほど。
 あらためて考えてみれば、普段の自分と比べて動きがわずかにずれている……ような気がする。
 まあ、とっかかりになればなんでもいい。
 パイフウは一つうなずくと、自身の能力を下方修正して思考を打ち切った。
 後は骨折が治るまでやることがない。
 黒衣の男と地下を含め、周囲への警戒は怠らないが。
  
 ステンドグラスをくぐった陽光が、柔らかくパイフウを包んでいた。
 その光の暖かさは、彼女の職場たる保健室で感じるそれに似ている。
(エンポリウム、か。あの子ならどうするのかしらね)
 家ともいえる街を人質に取られて、殺人を強要されたとしたら。
 火乃香がどうするか、パイフウにはわからなかった。
 エンポリウムを見捨てられるとも思えなかったし、マーダーとして暗躍するとも思えなかった。
 ディートリッヒらを倒そうとするのが一番ありえそうではあるが、現状では不可能だ。

299Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:03 ID:MK/bu.h6
 パイフウの視線が自身の左手に注がれる。
 殺し合いにおいて致命的なハンデを負った左腕。
 動かそうとして生じた激痛に眉一つ動かさずに耐え、パイフウは胸中で苦笑した。
(やっぱりあの子に汚れ役をやらせるわけにはいかないわ)
 そもそもディートリッヒが約束を守るかも怪しいが、そこは相手を信用するしかない。
 自分を見限ったディートリッヒが火乃香に接触することだけは、絶対に避けたかった。
 なんせまだ三人しか殺していないのだ。
 残念ながらこれ以上休んでいる時間はないだろう。
 不安要素を残したまま、パイフウは行動を決意した。

「行くわ」
「そうか」
 唐突なパイフウの台詞に、黒衣の騎士は短く答えた。
 パイフウの肩が完治していないのは見抜いているだろうが、特に言及してくることはない。
 アシュラムにとっては主の眠りさえ妨げなければどうでもいいのだろう。
 パイフウは長い黒髪を手でかきあげると、入り口に向けて歩き出す。
 いまだ肩は治っていないので、ウェポン・システムを右手で扱えるようホルスターはずらした。
 一流を相手に格闘戦はつらいかもしれないが、早撃ちと組み合わせれば切り抜けられるだろう。
(ディートリッヒは気に入らないけれど……仕方ないわ。尻尾を出すまで待ちましょう)
 もう余計なことを考える必要はない。
 主催者も参加者も関係なく、一人を除いた、この島にある全ての命をただ摘み取ろう。
 最高性能の殺人機械として。
 文字通りの“生き人形”として。
 いつもどおり無感情に、この世界を俯瞰するだけだ。
 淡い陽光の中扉に手をかけて、美しき死神は笑いもせずに囁いた。

「次に会うときは、あなたの主も含めて殺すわ」
 
 アシュラムは動じず、沈黙を保った。
 パイフウは揺るがず、扉をくぐった。
 教会が、再び静寂に沈んだ。

300Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:48 ID:MK/bu.h6
【D-6/教会/1日目・13:10】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る


【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

301魔界医師の思考遊戯ver2(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:45:25 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
 患部に直接指で触れ、器具無しに完治させてしまうそれは、しかし……
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、という感じだろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。
「恐らくは、私の“声”も同じか」
 メフィストの、声。魔界医師の、声。言霊によって相手の精神に絶対的な安らぎを与える技術も、不思議な制限の対象になっているに違いない、と推測する。
 ましてや他人の精神を縛るなど、以ての外だろう。

302魔界医師の思考遊戯ver2(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:09 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
 恐らく戦闘ともなれば、集中する時間も取れずに己の筋力のみで闘うことになる。
 しかし、メフィストは気にもしていないのか、更に“実験”を続ける。
「では、最後に……」
 メフィストは“気”を掌に集中させていく。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は風圧に散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか?
 それとも、主催者に都合の悪い記憶だけを狙って消す事が出来るというのか……?」
 口にはしてみるが、記憶に欠損は見つからない。今までに書物で仕入れた知識は全て頭に残っている。完璧だ。
「だが一応、せつらに出会うことがあれば記憶の確認をしてみるか」
 それを最後に、魔界医師は思考のパズルに没頭する。

 しかし、魔界医師は気付いていない。
 書物による知識が残っていても、それ以外から得た知識は一片たりとも残されていないことに。
 そして、「思い出せない」という意識すら覚えることなく消された記憶があることに。

 それでも魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

303魔界医師の思考遊戯ver2(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:52 ID:IUdB/xsA
【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

304真実と事実(1/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:03 ID:14CXvzZA
 目を覚ますと、木製の天井が映った。
(ああ……戻ってきたんだったわね)
 朦朧とする意識を引きずって、クリーオウと空目の待つ保健室へ辿り着いたところまでは覚えている。
 道中、他の参加者に出会わないかどうか気が気ではなかったが。
 毛布を被せて貰い、一言二言話をして……そこで安堵してしまったのか、どうやら私は気を失ったらしい。
 床に倒れていたはずだが、いつの間にかベッドに寝かされていた。
 身体の横に重みを感じる。涙でぐしゃぐしゃになった顔のクリーオウがしがみついていた。
 他に、サラとピロテースの姿が見える。彼女達も無事戻ってきたようだ。空目とせつらはどうしたのだろう。
「クリーオウ……」
 手を伸ばして頭を撫でてやる。
「クエロ! よかったぁ……気がついた……」
 泣き笑いの顔で安堵の声を漏らすクリーオウに、こちらも弱弱しく笑いかける。
 図らずも少し睡眠をとったというのに、身体の疲労は取れていなかった。
 ゼルガディスの出したあの青白い炎に触れてからだ。いまいましい。
 ……そう、彼――ゼルガディスのことをごまかさなくては。

「だから言ったろう。気を失っているだけだと」
「だ、だって……!」
 枕元にやってきたサラとクリーオウの会話。
 この調子では、私が気を失ったことでこの子は大騒ぎしていたに違いない。
「サラ、今の時刻は……?」
「12:10。今さっき、放送でゼルガディスの名が呼ばれた。……何があった?」
 ゼルガディスの名が出た瞬間に、服の裾を掴むクリーオウの手がびくっと震えた。
 ごめんねクリーオウ、恨むなら彼の用心深さと運の悪さを恨んでね。
「……ええ、話すわ」
 精一杯沈痛な表情を浮かべ、私は皆に『事の顛末』を語りだした。

305真実と事実(2/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:48 ID:14CXvzZA
 ――周辺エリアで、二人の参加者の死体を見つけたこと。
 その参加者の支給武器と思われる、"魔杖剣・贖罪者マグナス"を発見したこと。
 魔杖剣についてはマニュアルがあったことにした。今後、彼女達の前でこれを使う場面はきっとある。
 そして、元いた世界での敵――ガユスとの遭遇――

「なるほど、相手を騙し油断させて寝首を掻くのがその男のスタイルか」
「ええ、でもそれを知っている私がいたから……」

 ――友好的態度で接してきたガユスと連れの男――彼は緋崎と呼んでいた――は態度を豹変。
 私は緋崎の魔術を不意打ちで食らってしまい、今のこんな状態に――

「体内の精霊力に乱れがある……というより、酷く弱っているな。私も精神を磨耗させる精霊を呼べるが、それのさらに強力なものを受けたのだろう」
「そんな……それ、大丈夫なの?」
「しっかりと、まとまった時間の睡眠をとれば問題ないはずだ」

 ――戦闘が始まった。
 だが、私はほとんど前後不覚の状態で、実質二対一。
 ゼルガディスは私を足手まといと断じて逃げろと命じ、自身は私が逃げる時間を稼ぐためにそこに残った。
 そして、微かに聞こえた、彼の断末魔の声――

306真実と事実(3/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:57:34 ID:14CXvzZA
「ごめんなさい……私が、もっと注意を払っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
「クエロ……」
 嗚咽し、取り乱す私をクリーオウが抱きしめてくれる。
 声を出すと自分も泣き崩れそうなのだろう。身体が小刻みに震わせ、必死に声を殺しているのが分かった。
「――それは彼が自分で判断して取った行動の結果だ。あまり気に病まないことだね」
 扉を開けてせつらと空目が入ってきた。
 せつらはバケツを、空目はポットとトレイを携えている。載ってるのは……インスタントコーヒーの瓶?
「二人ともごくろう。……自分で探せと言っておいて言うのもなんだが、よく見つけたな。空目」
「職員用の給湯室で見つけた。ガス――火種も生きていた」
 サラが指示を出して持ってこさせたらしい。
 何に使うのかと思ったが、バケツになみなみと入ったお湯を見て、私の汚れを落とすためだと気づいた。
 転がって服の炎を消したり、ここへの道中幾度か転倒していたことで、かなり薄汚れてしまっているはず。
 ……というか、今気づいたけど下着姿じゃない。毛布で見えないけど。
「僥倖だな。さあ、男性陣は向こうを向いているのだ。こちらを向いたら同盟破棄とみなすのでそのつもりで」
「それは大変だ。お湯は水道水を暖めたものですが、よろしいんですね?」
「一応私が浄化する。そこに置け」
 ピロテースがなにやらよく分からない言葉を紡ぎながら湯に触れる。
 一瞬それを興味深そうに眺めて、せつらはおとなしく窓の外に視線を移した。

307真実と事実(4/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:58:41 ID:14CXvzZA
「――ギギナ? それも危険人物か」
「ええ。ガユスの仲間で、こっちは戦闘狂よ。……そういえば放送では?」
「呼ばれていない。容姿を詳しく教えてほしい」
 保健室に常備されていたタオルで身体を拭きつつ、私はサラの疑問に答える。
 汗と土で汚れた身体が綺麗になっていくのはやはり心地よい。
 擦り傷や軽い火傷もあったと思うが、それらはピロテースが治したらしい。
 もっとも、「精霊を呼ぶ際の消耗が普段より大きいので多用はできない」そうだが。
「はじめに危険人物のリストも作っておくべきだったか」
 ギギナの特徴をメモしたサラがそう漏らした。
 今回のはリストがあっても避けられなかったと思うけど、それには賛成。
 それに、魔杖剣は手に入ったし、邪魔な男も始末できた。
 結果オーライとはいえ、悪い展開ではなかったわ。私にとってはね。
「誰か他に危険人物に心当たりのある者はいないか?」
「……特定の個人としてではないが」
 サラの言葉に、そう前置きしてピロテースが口を開いた。
「実は、森でゼルガディスの探し人を見つけた。死体だったが」
「というと……つまり、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンか」
 サラが呟いた。その人も死んだということは、残る彼の知り合いはリナとか言う女性一人。
 精神的に強いかどうか分からないけど、下手をすると自棄になってゲームに乗りかねないわね。
 ピロテースがデイバッグから何かを取り出した。
 腕輪とアクセサリー。つまりは、アメリアの遺品だろう。
「そのアメリアの死因を探ってみたのだが、どうやら参加者の中にヴァンパイアがいるらしい」
 窓際で空目と缶詰談義をしていたせつらが反応した。
「詳しくはな……」
「同盟破棄」
「……振り向いてませんよ。詳しく話してくれませんか」

308真実と事実(5/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:59:48 ID:14CXvzZA
 せつらとピロテースの話を要約すると、こうだ。
 曰く、美姫という参加者がヴァンパイア――吸血鬼である。
 曰く、咬まれた対象はその眷属となり、血を求める危険な存在となる。
 曰く、アメリアには咬み跡があったにもかかわらず、眷属となってはいなかった。
 少ない情報だが、ここから導き出される結論は。
「アメリアを殺害したのは美姫ではない。他の吸血鬼か似たような存在が殺害した、ということか」
 美姫とその何者か。警戒すべき吸血鬼、もしくはそれに酷似したものが、最低でも二人以上いるということ。
 魔法、精霊、それに吸血鬼。本当に何でもありね、この世界は。
「ガユス、緋崎正介、ギギナ、美姫、謎の吸血鬼……最後のは容姿が分からないが、分かっている危険人物はこんなところか」
 サラがまとめつつコーヒーを差し出してくれた。
 礼を言って受け取り、一口飲む。……甘い。
 クリーオウはこれくらいが丁度いいのか、美味しそうに飲んでいる。
「糖分を摂取して眠るといい。起きたらまた行動開始だ」
「え、私は起きてるよ。皆が寝てる間、見張りを……」
「いいから寝るのだ。今のあなたに必要なのは休息だぞ、クリーオウ」
「それは皆のほう!」
 二人が口論しているうちに一気に飲み干し、ベッドに横たわる。
 疲れた身体と精神に暖かい飲み物とくれば、次に来るのは眠気だ。
 案の定、急激に眠くなってくる。
(悪いわね、ベッド一つ占領させてもらうわよ)
 言葉にするつもりだったが、それすらも億劫だ。
 心の中でだけそう言って、二人の声をBGMに私は意識を手放した。

309真実と事実(6/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 01:01:22 ID:14CXvzZA
【D-2/学校1階・保健室/1日目・12:25】
【魔界楽園のはぐれ罪人はMissing戦記】
共通行動:学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)
[思考]:みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。詠子と物語のことを皆に話す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により睡眠中
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: ゼルガディスを殺したことを隠し、ガユスに疑いを向ける。
    集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾の事を隠している

【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存

310金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(1/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:57:15 ID:8OL21RyU
サラとせつらが地下連絡通路から出ると、そこは城の地下室だった。
争いの様子が無い――そもそも人が居ない――事を確認し、慎重に調査を始めると、
しばらくして彼らは、僅かに漂う血の臭いに気づいた。
そして、その臭いの元となっている部屋を見つけ、踏み込んだ。
「――またも死体か」
開け放たれた扉からは鼻をつく濃厚な血の臭いが漂っている。
これが僅かにしか感じられなかったのは、単に距離が遠かったからにすぎない。
この部屋の中でなら、例え嗅覚が塞がっていても舌で血の味を感じるだろう。
「これは酷いな、殆ど抵抗できずに撃ち殺されている。
最初に足を撃たれ、その後に蜂の巣にされたようだ」
サラは、金髪の男の死体を見下ろしながら言う。
「死後硬直は殆ど完了している。8時間近く経っているな」
「ドッグタグが付いています。軍人さんかな? クルツ・ウェーバー、だそうだ」
「その名前なら、6時の放送の時に名前が有った」
淡々と会話をかわしながら検屍を終え、遺留品を纏める。
まずは廊下に落ちていた粉々になった謎のアンプル。
サラは匂いを嗅ぎ……心当たりを感じて一舐めすると、呑み込まずに吐いて、言った。
「揮発性の強い興奮剤だ。アンプルが割られた時に、対処無しにそれを吸い込めば、
動揺して冷静な判断がしづらくなるだろうな。戦闘か交渉に使われたのだろう」
次に、クルツ・ウェーバーの物と思われるデイパック。
水はこれ以上要らないとしても、パンはもらっておくに越した事は無い。
そして、最後に……
「さて。……なんだろうな、これは?」
おそらくはクルツの支給品と思われる奇妙な筒を手に取る。
「なんでしょうね。実験してみたらどうですか?」
「そうだな、そうしよう」
即決実行。サラは筒を壁に向けると、迷わずスイッチを押した。そして――

「これは良い物ですね。僕にピッタリだ」
――せつらの声に思わず喜色が混じった。
今、この超人は、この島で得うる支給品の中でも最高の物に出会ったのだ。
すなわちそれは、秋せつらにブギーポップのワイヤーである。

311金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(2/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:58:04 ID:8OL21RyU
「やたらと物に恵まれてきたな、わたし達は。とんとん拍子が過ぎる」
「生きている人間にはとんと会えませんけどね」
一つ目の死体でのリサイクル。二つ目の死体の遺留品。
この二つの死体との出会いにより、彼らの装備は万全となった。
だが、裏を返せば、彼らはまだ死者にしか出会えていなかった。
「さっきの放送の者達も死んでいる公算が高いですし。物騒な事です」
11時になる少し前の、おそらくは何らかの支給品か、あるいは放送施設で行われた、
非戦の呼びかけ。それを遮った銃声。そして、悲鳴と断末魔。
それにより得られた情報も有ったが、同時にまた、(確定ではないが)人が死んだのだ。

「この調子で生者に会えなければ、人を捜そうにもどうしようもないな」
上級魔術師と魔界都市一の捜し屋が揃っても、人に会えずに捜し人を見つけるのは困難だ。
「この城、他にも人が居そうなんですけどねぇ」
「時間があれば念入りに調べるのだが」
時刻は11時を回った。
幾ら地下通路により安全且つ一直線の移動が出来るとはいえ、
そろそろ帰還を考えなければいけない時刻だ。
「この部屋を見たら最後にしよう」
扉を開いた。
その部屋は、またも血の臭いが漂っていた。
だが、そこには生者が居た。

312金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(3/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:02:54 ID:8OL21RyU
彼は傷を負い、その上に意識を失っていた。
それは危機的状況だった。
もちろん、その状況自体が極めて危険な事は言うまでもないが、
それに加え、彼の倒れていたエリアは半日足らずでゆうに5回もの殺し合いが発生した、
いわばこの殺人ゲームの過密地と言えるとんでもないエリアだったからである。
その割に死者が2人に納まっている事はむしろ幸運だろう。
他に歩く死者が出入りしたり、普通なら死ぬ瀕死人が転がっているが、それはさておき。

そんな、とんでもなく危険で不幸中の僅かに幸運な場所で、
半日足らずで二回も意識を失った不幸な青年は、今回も生きたまま目覚める事が出来た。
正しく地獄に仏と言うべき事であった。
ただ、その目覚めは強烈な刺激臭を伴っていたが。

「〜〜〜〜っ!?」
ツーンと鼻に来る強烈な刺激臭に無理やり夢から引きずり起こされ、
思わず飛び起き――
その時、彼は確かに「カーン」という澄んだ音と共に星を見た
――もう一度石床に逆戻りし、頭を打ち付け呻き声を上げた。
(な、何ですか、一体!?)
必至に状況を把握しようと試みる。
今、どこで、ぼくは、どうなっている? 何が起きた?
しばらく目を瞬かせていると、徐々に目が慣れてきた。
……目の前には、一組の美しい男女が立っていた。

一人は息を呑む程に美しい青年。
彼自身、整った美形と甘いマスクで同性には疎まれる人間だったが、
目の前の青年はそれとは別、同性でさえ文句の付けようがない美形だった。
しかし、その表情は茫洋と緩んでおり、そのおかげでバランスが取れていた。
もう一人はそれよりは劣るが、整った容姿の女性。
綺麗な白い肌。黒い髪には艶があり、瞳は深く神秘的な色合いの藍色をしている。
その表情はまるで感情の見えない鉄面皮であり、
左手には刺激臭の根源らしき薬品の浸みた脱脂綿を。そして、右手には――

313金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(4/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:03:43 ID:8OL21RyU
そして、右手には――フライパンが握られていた。
おそらくこれが、自分が起きあがり様に頭をぶつけた物の正体なのだろう。
(…………な、なぜ?)
その視線を受けて、彼女は「ああ、これか」とフライパンに目を落とした。
よく見ると、彼女の足下にはおたまも転がっていた。
「いや、地球という世界では、フライパンをおたまで叩いて熟睡者を起こすと読んで」
「それで、やってみようと?」
隣の青年が少し呆れた調子で尋ねると、彼女は大きく肯いた。
「この殺伐とした世界で円滑にコミュニケーションを取るには、場を和ませる必要が有る。
まず気付け薬で起こした後にフライパンをおたまで叩くつもりだったのだが……
急に起きあがってきて頭がぶつかりそうだったのでガードさせてもらった。いや、すまない」
この場にツッコミ人種――例えばダナティア皇女――が居れば全力で色々とツッコミを入れただろうが、
生憎とこの場には誰も居らず、無表情無感動鉄面皮な確信犯的ボケ役を止める者は居なかった。が。
「僕は古泉一樹と言います。誰かは知りませんが、初めまして」
「僕は秋せつらです。それにしても災難でしたね」
他2名、鮮やかなスルーに成功。
「わたしはサラ・バーリンだ。よろしく頼む」
元から冗談が滑る事に慣れているサラも、流れるように話に付いていく。
そういうわけで、この件はそういう事になった。

「ところで、あなたはアシュラムという人物に会った事は有りませんか?」
「アシュラムさん、ですか? 少なくとも名前を聞いた事は有りませんね」
「そうですか。外見は、黒い髪で……」
せつらはピロテースから聞いたアシュラムの外見を伝えたが、古泉はやはり首を振った。
「ではアメリアやリナ、オーフェン……あと、ダナティア殿下に会った事も無いだろうか?」
サラの言葉にも、古泉は首を振った。やはり、どれも知らない人物だった。
「お役に立てず、残念です。ところで僕の方からもお訊きしたいのですが……」
そして、古泉の捜し人もやはり、せつらもサラも知らなかった。
「出会ったら、あなたが捜していると伝えておきましょうか? 僕達は集団で人を捜している」
目の前の青年が危険人物でないという保証は無い。だから、言付けだけの提案をした。
それに対し、古泉は少し考えると、言った。
「……そうですね、お願いします。それと、『去年の雪山合宿のあの人の話』と伝えて下さい」

314金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(5/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:04:29 ID:8OL21RyU
古泉の奇妙な言付けを預かると、去り際にサラはデイパック一つ分のパンを取りだした。
「血臭がする場所に有った物が混じっているが、どうか受け取って欲しい」
「はあ、これはどうも」
首を傾げながら受け取る。
薬品を染み込ませたとかそういった様子は無い。紛れもない、支給品のパンそのままだ。
「だけど、何故です?」
「荷物が思ったより多くなったので、やはり少し減らそうと思ったのだ」
判らないでもない理由だ。パンは重さこそ無いが、体積は有る。
「さて、わたし達はそろそろ戻らないといけないな」
「そうですね。それでは、僕達は行くとします。
そうそう、捜し人もまた僕達の仲間と言えます。貴方が敵対する事にならないと良いですね」
裏を返せば、捜し人と敵対すれば、彼らとも敵対する事になると釘を刺したわけだ。
「では、ごきげんよう。あと、自力で銃弾を摘出したのは見事な物だが、包帯はキチンと巻いた方が良い」
「はい、さようなら。……あの時は、余裕が有りませんでしたから」
苦笑しつつサラに返事を返した。我ながらよくやったものだ。
肩を見てみると、そこには……きっちりと巻いてある新しい包帯が見えた。
もしも彼が物を透視する事が出来たなら、その下の銃創まで縫合してあるのが見えただろう。
「これは……」
あなたがしてくれたのですか? そう言おうと振り返った時、二人は既に居なくなっていた。
(長門さんのように、何らかの手段で高速で移動する事が出来る人達なのか?)
少なくとも、ただ者ではないのだろう。
「敵に回したくはありませんね。さて、僕も行かないと……」
最初に動き出そうと決意した後、色々有った挙げ句に気絶したせいでかなり時間が経ってしまったが、
今度こそ長門有希を捜しに出なければならない。
怪我をした肩を庇いながら立ち上がると、古泉は歩き出した。

315金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(6/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:07:40 ID:8OL21RyU
「今の時間は……11時40分か。この通路が無ければ帰りが間に合っていないな」
「だからこそ縫合までしたんでしょう? あの治療は10分以上も掛かりましたよ」
「すまない。医術は専門でない事が祟ったか」
サラの治療は特別遅かったわけではなく、むしろ開業医になれる程の手早さだったのだが、
世界最高――いや、ここに連れてこられた者達の元居た世界全ての歴史を全て掘り返しても、
一人とて居ないほどの超人的医者を親友に持つせつらから見れば、稚拙に映った事は否めない。
だから、流石に『そうでもない』等という言葉は掛けず、ただ歩き続けた。
しばらく、無言で歩き続ける。
所々に付けられた光量の低い照明に照らされ、薄暗い通路は延々と続いている。
時間として
「ところで、あのワイヤーの具合はどうだった?」
唐突にサラが訊いた。
「ああ、良い物でしたよ。ただ……少し頑張って洗わなければいけないでしょうが」
ワイヤーが有った場所が場所だ。
ワイヤーは入れ物である筒ごと、べっとりとクルツ・ウェーバーの血に沈んでいた。
他の武器ならいざ知らず、細く軽く鋭くしなやかで柔軟な金属ワイヤーはそうは行かない。
「帰ったら、化学室から金属を腐食させずに凝固した血液を溶かせる薬品を出してこよう。
水で薄めてバケツに入れて、部屋の隅において2〜3時間。それで使えるようになる」
「それじゃ、そうする事にします。どうもありがとうございます」
彼らは地下通路を歩き続けた。
帰還した時に仲間の一人の死を知らされ、更に数分後にそれが証明される事など知りもせず。

316金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(7/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:08:40 ID:8OL21RyU
【G-4/城の地下・隠し連絡通路(学校へと移動中)/1日目・11:40】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)/ブギーポップのワイヤー
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
    依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。
    ブギーポップのワイヤーは帰ったら洗浄液入りバケツに漬け込み、部屋の隅に置く。


【G-4/城の中/1日目・11:40】
【古泉一樹】
[状態]:左肩、右足に銃創(縫合し包帯が巻いてある)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は満タン。パンは2人分。
[思考]:長門有希を探す

317ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:44:48 ID:hNdeEao2
チサト ーあの青年が確かだと思うもの、彼の幸い、彼の真実。自分はそれを、奪う。
アストラ ー己が確かだと思いたかったもの、己の妻。殺人精霊はもう居ない。
そして彼女の対なるミズーもまたー

( ー俺にはまた 何も無い)
一歩、また一歩を踏みしめながらは、ウルペンはひたすらにその言葉を繰り返す。
信じるに足る物など何も無い世界。
帝都、契約、絶対殺人武器。
それらは風のようにすり抜けていき、手の中には何も残らなかった。
心の奥に虚しさだけが募る。
信じるに足るものなど何も…
「…いや、一つあるか」
思わず声が漏れ、唇が皮肉に歪む。
それでも歩みはとまらない。
   
   ー死ー
彼がもたらし、彼に訪れ、彼の真実を奪い去った事もある。死。
この世界において唯一信じるに足る、必ず果たされる約束、いや、契約。
かつて信じていた契約、己の不死を保証するそれとは違う。
「契約者」の死、彼はそれを目撃した。
また「契約者」であった自身の死、それもこともなげに訪れた。
しかし、その死によって証明された事もある。

318ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:46:15 ID:hNdeEao2
『奪われないものなどなにもない』
それだけが、唯一絶対の真実。
(皮肉なものだな…。逆吊りの聖者には相応しい)
おそらく、それは絶望なのだろう。
規則性に欠けながらも途切れる事の無い歩調の中で自覚する。
俺は絶望しているのだーと。

唐突に、先ほどの青年の決然とした表情が浮かんだ。
信じるものがあるかと言う問いに、即座に答えたその表情。
ーー彼にも絶望を。
絶望した心中に生まれた願望ーチサトを殺し、彼から奪う。彼に絶望を教える事。
それは何か儀式めいた意味を持つように感じられた。
例え倒錯であったとしても構わない。
いや、あの青年だけでは飽き足らない。
参加者の全て。
絶望を知らない者の全て。
既に死したはずの自分と出会う生者の全て。
このゲームという名の殺しあいに否応無く飲み込まれた全てに。
思い知らせてやるのだ。死と喪失だけが人に約束された唯一のものだと。
そしてー やがては自身にも再び死が訪れるだろう。
だが、それまでに、果たしたい望みがある。チサトーそして…

319ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:48:02 ID:hNdeEao2
「これで…」
自然と歩調が早まる。
確かなものはなにもない、それが答え。自分はそれを証明する。
「これで満足か、アマワァあああああ!」
いつしか彼の内、出血に喘ぐ男の内は外見も知らぬ女と異形の怪物の姿に占められつつあった。

やるべき事は決まっている。
チサトを殺し、全てを殺し、アマワに答えを突きつけるのだ!
この島のどこかにいるアマワに…

彼は歩みをとめないー

 『地図の空白が失われた時、怪物はどこにいくのだろう?』

【G−3/森の中/1日目・12:30】

『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

320罠、そして……(1/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:13:15 ID:yl5Di1eM
 タイムリミットがあるからには、最大限に時間を有効利用する必要がある。
 自分の持てるあらゆる技能を駆使し、効率良く人を殺さねばならない。
「どこまで歩くんです?」
 横を歩くキノが訊く。
「あの森に着いたら小休止しつつ作戦を話す。引き続き警戒を緩めるな」 
 言われるまでもない、といったふうにキノは頷いた。
 
 森の中。二人は当面の安全を確保し、話を始める。
「おまえはトラップ作りは得意か?」
「……いえ」
 唐突な質問に、とりあえずは首を振っておく。
「そうか。ではおまえの役割は、適当な木を見つけその先端を尖らせる事だ。できる限り鋭利な槍を作れ。
そのナイフで支障があるようなら、こちらのサバイバルナイフを貸してやる」
「何をするつもりなんですか?」
 大方の想像はついたが、詳しく尋ねる。
「俺達だけではカバーできる範囲に限界がある。獲物を探しつつ罠を仕掛けていくのが効果的だ」
「なるほど。それで、どんな罠を?」

321罠、そして……(2/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:16:16 ID:yl5Di1eM
 小動物を捕獲するならば、スネアが最適だ。
 スネアとは、釣り糸・ワイヤ等で作った輪を、動物の首や足に引っかける罠である。
 だが、人間相手では効果が弱い。徒党を組んでいるとなるとなおさらだ。
 デッドフォール――餌を取った動物に上から重量物を落とす罠――は手間が掛かりすぎる。
 ならば、今回使う罠は。
「スピアトラップを仕掛ける。手早く生産でき、効果の高い罠だ」
 ジェスチャーを交え、宗介はその罠の詳細について説明し始めた。
 スピアトラップの構造は単純だ。
 先端を尖らせたスピアを、曲げられた枝等に固定する。
 獲物が餌を取ったり、ピンと張られた『ライン』に引っかかったりすると、
 即座に槍がその身体に突き刺さる、という罠である。
「――――以上だ。付け加えるならば、ベトナム戦争でベトコンが使った罠として有名でもある」
 と、宗介は説明を締めくくった。
 
「べとこんとかは良く分かりませんが……分かりました。それで、どこにその罠を仕掛けるつもりですか?」
「今の所、禁止エリアは南に集中している。南に居た参加者が北上する、もしくはしている可能性は高い。
さらにここ一帯の森林は島の中心部に当たり、水場もある。人の行き来は多いと推測できる。
以上の理由により、この辺りに広がる森林内で人が通りやすい箇所に、いくつかの罠を仕掛けるつもりだ」
 あの地下墓地に近い事もここに罠を仕掛ける理由の一つだったが、話す必要は無いので黙っておく。
「水を求めてやってきた人、見晴らしの良すぎる平原から避難して来た人にグサリ、という訳ですか」
「肯定だ」
 無感情なキノの声に、こちらも無感情な声が応える。
「質問等無ければ、早速作業を開始する」
「……ボクの作業には関係無いですけど、トラップに使うワイヤーとかはどうするつもりですか?」
 二人ともワイヤーや釣り糸のたぐいは持っていない。疑問に思ってキノが問うと、
「それには、これを使う」
 むっつり顔のまま表情を変えず、宗介はデイパックを指し示した。

322罠、そして……(3/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:19:52 ID:yl5Di1eM
 見つけた木の先端を削りつつ、横目で宗介を見遣る。
 彼は器用にデイパックを解体し、トラップ用の『ライン』を作っていた。
 確かにこのデイパックは頑丈だ。
 どんな支給品が入っていても耐え得るよう設計されているのだろうか。
 何の繊維を使っているのか分からないが、よっぽどの事が無ければ破れそうにない。
 この生地を使って獲物を引っかける『ライン』を作る。
 罠を看破されないよう細くかつ強靱なものを作らねばならないが、彼ならば可能だろう。
 
 何気なさを装って作業をしつつ、キノは足を進める。
 宗介にとって死角になる地点へと。
(この人は、危険だ)
 罠も作り慣れている。そして、戦い慣れている。おそらくは自分よりも。
 先程の戦闘では張り合えたが、次はどうだろうか。
 今はまだバレてはいないようだが、自分の性別が彼に知られたら?
 男女の力の差が目に見える形で現れる接近戦、それも武器を使えない状況での格闘戦に持ち込まれたら?
 その時点で自分の負けだ。
 いつどのように彼の気が変わるのかは分からないのだ。
 火力ではおそらくこちらが勝っているが、安心などとてもできない。
 いっそ、今の内に――
 
 地面に木を立て掛け、キノは片手で作業を続ける。
 先程までの風景と変わらないよう、シュッシュッと木を削る音もそのままに、
 もう片方の手で『銃』を用意。
 何気なく、本当に何気なく宗介に『銃』を向け――
 引き金を、引いた。


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