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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

123乾いた血の朝◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 10:37:29 ID:U/lyfmso
「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「かははっ、ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。

124乾いた血の朝2◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 10:39:22 ID:U/lyfmso
「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 軋識の大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「かははっ、この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「かははははっ、糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。

125乾いた血の朝3◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 10:40:26 ID:U/lyfmso
「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「かはははっ、ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──

126乾いた血の朝4◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 10:41:29 ID:U/lyfmso
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【F−4/森の中/1日目・09:15】
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ


【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:出雲とアリュセをどうしようか


【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 睡眠中。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 罠に掛かった奴を探す
[備考]:包丁の血糊が消えました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

127乾いた血の朝5◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 10:42:23 ID:U/lyfmso
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る


【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る

128乾いた血の朝1(修正)◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 14:15:12 ID:U/lyfmso
「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん。一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。

129乾いた血の朝2(修正)◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 14:16:42 ID:U/lyfmso
「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。

130乾いた血の朝3(修正)◆R0w/LGL.9c:2005/05/05(木) 14:17:37 ID:U/lyfmso
「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──

131夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/05(木) 21:56:50 ID:nwsRRXU.
 青年が目を開けると、そこは何もない世界だった。
 平坦な空と地面が続くだけの、シンプルな世界である。
 灰色がかった深い瞳が、呆然と地平線を見つめる。
「……なんや、これ?」
「夢だ」
「幻さ」
 地面に座る悪魔たちが声をかけた。
 背後にいる二匹に気づき、青年が振り返る。
「待っていたぞ、正介」
 と親しみのこもった声が言う。
「さて。また会ったね――という挨拶が正確かどうかという議論はひとまず
 置いておこうか。僕ら――という呼称が実は当てはまらないという複雑な現状の
 確認も後回しにさせてもらおう。なにしろ時間が足りないからね。これでも
 急いでるんだ。とにかくコミュニケーション優先で話を進めるとしよう。
 正介。僕ら『盟友の幻影』は君の奮闘を応援する」
 と嬉しそうに興奮した声が言う。
 青年――緋崎正介は、二匹の悪魔に目を向けて唸った。
「……ベリアルて言え」

 そうして悪魔は三匹になった。

132夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/05(木) 21:57:35 ID:nwsRRXU.
 ベリアルの体験談を聞き終え、『幻影』たちは顔を見合わせた。
「いや恐れいったね」
 とベルゼブブは愉快そうに言った。
「似たようなことを考える人間は、いくらでもいる――あの時そうは言ったけれど、
 さっそく巻き込まれるとは思わなかったよ。いや、違うか。僕らの主観的には
 半日も経ってないけれど、現世での時間経過に関しては謎だからね。その上、
 この島がある空間では、普通に時間が流れているかどうかも怪しい。いやはや、
 さすがに驚いたよ。この島も、集められた参加者も、呪いの刻印とかいう術も、
 何もかもが実に興味深い。ある意味、オカルティスト冥利に尽きるね」
 いきなり話が長くなりつつある。
「しかし、妙なことになったな」
 とバールは肩をすくめた。
「いったい何をどうすれば、『ベリアルを生き返らせる』なんて芸当ができるんだ。
 それに、こうやって話している俺やベルゼブブは何なんだ。説明できるか?
 悪魔をよく知る俺から見ても、異常だとしか言いようがないぞ」
 『幻影』の分際で細かいことを言う。
「知らんがな。むしろ俺が教えてほしいくらいやわ」
 とベリアルは眉根を寄せた。
「ああ、説明なら一応できる。この場で公正に証明する方法はないけれど。
 でもね、いくら説明しても無駄だと思うよ。記憶できなくなってるようだから。
 再構成された時に、僕らは認識を操作されたらしい。余計なことを忘れてしまう
 ように、忘れていることさえ忘れてしまうようにね。この夢が終わった時点で、
 この夢の記憶は忘却される。そういう操作のされ方だ。それでも聞きたい?」
 ベルゼブブの問いかけに、バールとベリアルは軽口を返す。
「もったいぶるなよ。無駄でも何でもいいから、とっとと話せ」
「そうや、そうや。ほんまは言いとうてウズウズしとるくせに」

133夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/05(木) 21:58:23 ID:nwsRRXU.
 彼らの反応は、どうやらベルゼブブを満足させたようだ。
「それでは遠慮なく、すべてを話そう。無論、信じるかどうかは君たちの自由だ。
 真偽のほどは君たち自身が保有する情報との整合性から判断してくれ。OK?」
「「OK」」
「グッド。では始めよう」
 穏やかに微笑を浮かべながら、ベルゼブブは語りかける。
「あんまり時間が残ってないし、もう結論から言ってしまおう。厳密に言うならば、
 緋崎正介は生き返っていない。『今のベリアル』の正体は、かなり特殊な悪魔だ。
 ベリアルの記憶と人格を継いだ『ベリアルのようなもの』――ってところかな。
 おや? “だったら肉体ごと蘇ってるのは何故なんだ”と、そう思ってるね?
 いいから黙って聞きなさい。その件も、ちゃんと具体的に解説してみせるから。
 ものすごく大雑把に表現すると、『今のベリアル』は実体化し続けている悪魔だ。
 カプセルと同じ……いや、それ以上の“成功例”だと思ってくれて構わない。
 物理法則を無視できないほど強固に実体化していて、もはや人間と大差ない存在だ。
 ベリアルの姿をしたが、人間に擬態している――と言えば分かりやすいかな?
 周囲の状況に合わせて、“人間だったらこうなるだろう”という状態を、自動的に
 再現し続けているわけだね。当然、物理的ダメージを無効化したりなんかできない。
 限界以上のダメージを与えられれば、二度と目覚めぬ停止状態をも再現するはずだ。
 つまり“永眠”してしまう。おお、我ながら的確な要約だ。エロイムエッサイム。
 人間のフリをしている以上、身体能力については、普通の人間と同じくらいだろう。
 とはいえ、一応は悪魔だからね。現状のままでも、どうにか鬼火くらいは出せるさ。
 大蛇を召喚したりとか、強力な火炎を操ったりとか、悪魔としての力を
 存分に発揮したいなら、普通の悪魔持ちと同様に、カプセルをのむしか方法はない」

134夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/05(木) 21:59:09 ID:nwsRRXU.
 ベルゼブブの口調に、からかうような響きが混じった。
「なぁ、ベリアル。認識を操作されているせいで、君は気づいてないようだね。
 この島にカプセルが存在するって発想は、本来とても奇妙なものなんだよ。
 あの夜、力の源を失って、悪魔もカプセルも消え失せたはずなんだから。
 もしも、たった一錠でもカプセルが残っていたりしたら……それは奇跡だよ。
 もっとも、僕らを再構成した連中なら、カプセルだって自力で造れるはずだけど。
 ……ああ、やっぱり何のことだか理解できないか。やれやれ、思った通りだ。
 悪魔とは認識に影響される存在であり、“もう悪魔は消えてしまった”という
 認識など持っていたら、君自身が消えてしまいかねない――って理屈だろうね。
 これは考えても意味がないけど……主催者の都合に合わせて造られた今の君は、
 主催者の招きたかったであろうベリアルと、はたして同じベリアルなのかな。
 そのへんについて主催者がどう思っているのか、ちょっとだけ気になるね。
 ちなみに『この僕』と『このバール』は、ベリアルの記憶から造られた『幻影』。
 まぁ要するに、擬似人格みたいなものだ。あんまり出来は良くないけど。
 僕らの人格はバールの肉体に同居していただろう? その時の“なごり”さ。
 非常に陳腐な言い回しで恐縮だけど、僕と彼は、君の心の中に生きているんだよ。
 けれども所詮は『幻影』。こうして夢の中に出てくるだけだ。他には何もできない。
 しかも夢に見た情報は、君の記憶に残らない。でも、これはこれで面白いかもね。
 うつし世は夢、夜の夢こそまこと。――さぁ、朝まで語り明かそう」
 ベルゼブブは上機嫌だった。
 バールが再び肩をすくめた。
 ベリアルの頬がひきつった。
 楽しい悪夢の始まりだった。

135夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/05(木) 21:59:56 ID:nwsRRXU.
 夢の中で見た幻を、ベリアルは既に憶えていない。
(そういや今朝は、なんか夢にうなされて目ぇ覚めたっけ……ずぶ濡れのまんま
 瀕死状態でビルまで移動したせいやな、多分。……ちょっと弱っとるなぁ、俺。
 まぁ、もう風邪ひいても平気やねんけどな。風邪薬には不自由してへんし)
 というか、現実と戦うだけで精一杯だった。


【この部分に緋崎正介の状態(最新版)を書く予定】

※夢の部分の内容は、「ベリアルは沈黙する」で見ていたものです。

136夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/06(金) 18:31:56 ID:wMojAoZA
>>131 変更点なし。ただし続きに以下の文章を追加。

 かつて楽園を追い出され、ヒトの子は地へと堕とされた。
 地上の世界は住み難く、ヒトの末裔は苦しんだ。
「神様は、僕らを愛していないのさ」
 ヒトの末裔は悪魔を呼んだ。三人が集い、儀式を試す。
 小さな悪魔が召喚されて、彼ら三人は喜んだ。
 けれども悪魔は怯えて逃げた。逃げ延びた先に誰かいる。
 少年が、一人でぽつんと立っていた。少年は笑い、悪魔に言った。
「ねぇ、僕は、君と友達になれるかな?」
 小さな悪魔は頷いて、少年の為に、少女に化けた。
 彼ら三人は悪魔を追って、二人の世界を見て驚いた。
 そこは美しい『王国』で、まるで楽園のようだった。

 舞台は、ここではないどこか。時間は、今より少し過去。
 その街にはセルネットという麻薬組織が存在していた。
 扱う麻薬の名はカプセル。カプセルは、錠剤に化けた特殊な悪魔。
 呑めば悪魔の力が宿り、幻覚を媒介にして悪魔を“認識”させた。
 素質ある者は力を捕らえ、魂の奥底から、分身たる悪魔を呼んだ。
 それも、今では過去の話――だったはずなのだが。

137闇の眷属_1◆1UKGMaw/Nc:2005/05/07(土) 01:31:54 ID:Ym7uuK4o
 森の中を行く影が一つ。
 黒い肌と長く尖った耳を持つ長身の女性――ピロテースである。
 オーフェン、リナ、アメリア、そして敬愛する黒衣の将軍――アシュラムの捜索のため、ピロテースは島中央の森を訪れていた。
 だが、
(……案外、遭遇しないものだな)
 時計を確認する。時刻は10:05。
 まだ時間はあるが、今までその四名どころか、他のどの参加者とも出会っていない。
 森の精霊達が微かに騒いでいる。幾人かの参加者がこの森を通過したことは間違いないだろう。
 だが、その者達と接触できないのでは何の意味もない。
 今までに見つけたものと言えば、無人の小屋だけだった。
 デイバッグと空のペットボトルが放置されていたので、誰かがここを利用していたのは確かだった。
 デイバッグの中身は気になったが、これ見よがしに置いてあること自体が怪しい。
 罠の可能性を考え、これには手をつけなかった。

(残りの時間は、あと半分か)
 その間に成果は上がるだろうか。
 現在のところ収獲なしだ。たとえ今後もそうであっても時間通りに戻らなければならない。
 この森からならば、警戒しながらでも40分もあれば戻ることが出来る。猶予はあと一時間強といったところか。
 さらに森の奥へ向かおうと足を踏み出したところで……、ピロテースは異常に気づいた。
「……血の匂い?」
 微かに風が運んできた、嗅ぎ慣れた匂い。
 ピロテースは警戒した面持ちになると、その匂いを辿り歩き出した。

138闇の眷属_2◆1UKGMaw/Nc:2005/05/07(土) 01:32:39 ID:Ym7uuK4o
 森を出て少し行った草原に、その墓はあった。
 墓碑銘は無い。
 ただ、そこだけ土が盛り上がって露出しており、その周囲に血溜りが出来ていることから、目の前のこれが墓だと判別できた。
(誰が眠っているのだ?)
 逡巡する。
 ここに埋葬されているのが自分達の探し人である可能性もあるだろう。
 死体を見るのは慣れている。死体の野晒しも慣れている。だが、だからと言って墓を暴く趣味は無い。が――
「……やむを得ないな」
 呟き、心の中で死者に詫びる。そして、
「"我が友なる地霊(ノーム)よ、豊かなる大地の子よ。その強大なる力をもって、大地に穴を空けよ"」
 精霊語(サイレント・スピリット)による詠唱が響く。瞬間――
 目の前の地面がいきなり陥没したように変形し、墓のあった場所を中心に円形の浅いクレーターが出現していた。
 そしてその中央に、一人の女性が横たえられていた。

 女性は出血が酷かったようで、その姿は見るに耐えないものだった。
 元は白かったであろうその服も、土と、そして死体自身のものと思われる夥しい血によって赤黒く汚れている。
 だというのに、ピロテースは僅かにほっと息をついた。
 死者に対してはすまないと思うが、自分にとって最悪の予想は外れてくれた。
 気を取り直して、その女性の死体をよく観察する。
 まだ少女だ。肩の辺りで揃えた癖の強い黒髪に白いローブ。腰の辺りに一房のアクセサリー……
(……待て)
 まさか、と思う。
 この容姿は、協力関係にある石人形のような肌の男――ゼルガディスの探し人と一致しないだろうか?
 確か、名前はアメリアといったはずだ。
(人違いであるに越したことはないが……一人脱落か)
 これは戻って報告しなければなるまい。
 そう考えると、今度は直接の死因を調べることにする。
 その死因を付けられる武器を持つ者がいたら、要注意人物と見てかかることができるからだ。とはいえ、
(……酷いな。これではどれが決定打かもわからん)
 アメリアの全身には、引き裂かれたような傷跡と出血の跡があった。
 言わば、その全てを総合して致命傷となっているというところか。
(まるで獰猛な魔獣にでも襲われたかのようだな。背後はどうなっている?)
 身体を返そうとしてアメリアの顔を動かした時、首筋に"それ"が見えた。

139闇の眷属_3◆1UKGMaw/Nc:2005/05/07(土) 01:33:40 ID:Ym7uuK4o
「!!」
 反射的に飛び退り、センス・オーラをかける。
 最悪の展開が脳裏をよぎった。
 アメリアの精霊力に異常が見えれば、彼女はヴァンパイア化していることになる。
 が、予想に反して精霊力に異常は見当たらなかった。
 首筋の、二本の牙の痕を露出させたまま、彼女はピクリとも動かない。
(ヴァンパイアではないのか? ……いや、しかし)
 首筋のあの痕。ピロテースの知る限り、闇の眷属の中でも上級に位置するヴァンパイアの仕業に違いない。
 だが、彼女がその眷属と化していないのはどういうわけだろうか。
(つまり……私の知らない類のヴァンパイア、ということか?)
 自分の知らない能力を持つ者なら、協力者の中にもいる。自分の知らない闇の眷族もまた、存在していてもおかしくはない。
 断定は出来ないが、この場ではピロテースはそう結論付けた。


 アメリアの腕輪と腰のアクセサリーを外し、自分のデイバッグへ移す。
 これらをゼルガディスに見せ、本当に彼女がアメリアかどうか確認する必要があるだろう。
 デイバッグを閉じたところで、足元の地面が僅かに震えたような気がした。
(時間切れか)
 そのまま、背後へと跳躍する。
 ピロテースが地面に降り立った時には、もうそこにはアメリアの身体もクレーターも無く、元通りの墓があるだけだった。
「収獲なしのほうがマシだったかもしれんな」
 そう独りごちて、墓に背を向ける。
 数歩踏み出したところで、最後にちらりと視線だけで振り返った。
(ヴァンパイア……気に留めておいたほうがいいかもしれんな)
 そしてピロテースは、また森へと消えていった。

 自覚もないまま殺人者となった哀れな少女がその墓を訪れる、僅か数分前のことだった。

140闇の眷属_4◆1UKGMaw/Nc:2005/05/07(土) 01:34:22 ID:Ym7uuK4o
【D-4/草原/1日目・10:20】

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存
[備考]:ヴァンパイアの存在に気づきました。

*行動:捜索後、学校へ戻り、アメリアの遺品をゼルガディスに渡す。

141紅白怪我合戦!:2005/05/07(土) 08:49:12 ID:mhhsWZag
ビルの事務室だった。
そこのソファーに哀川潤は寝転がっている。
その胸には白い子犬を抱き、その心には苛立ちと倦怠感を抱えて。
「ふん」
鼻でため息をつく。ため息。全く似合わない。いや、似合うのか?
あたしは何をしても似合うのだからある意味ため息をついていても似合うのではないか。
そこまで考えて、面倒になって止めた。
何をやっているのだ。あたしは。
遡る事数十分前──

ようやっと巨竜と化したシロちゃんをビルに運び込んだ。
そこらの自動車よりよっぽど重かったが、普段の彼女だったら余裕で持てたはずだった。
が、今は全身に裂傷が走っており、血も足りず、<人類最強>とは言い難い力しか発揮できなかった。
お気楽男と女、それと学生に手伝ってもらい、なんとか白竜をビルのホールまで運んだのだった。
「ふぅう・・・なんとか目立たない、な。
 おい起きろ起きろ。死んでしまうとは何事だ」
「大事ですよ」
「ホワイトを起こさないとね!」
「そうだねアイザック!」
バシバシと竜の頬…かどうか分からないがそれらしい場所を往復ビンタしてみる。
高里が心配そうに見ているが、とにかく彼女は起こそうとする。
「……お姉ちゃん痛いデシ」
「おお起きたか。そなたにもう一度チャンスをやろう」
「ロシナンテ、大丈夫?」
「ミリア!ホワイト隊員が起きたよ!」
「本当だアイザック!」
「ファルコン。犬の姿に戻れるか?」
「はいデシ……」
素直に従うシロちゃん。さっき殴られたのを少し怯えてるようだ。
あっという間に、元の白い子犬の姿に戻った。

142紅白怪我合戦!:2005/05/07(土) 08:49:54 ID:mhhsWZag
止血に巻いてた布が外れるが、哀川潤は再び巻きつける。
「よし。もう寝とけ。ほーれ、らりほーらりほー」
言葉も無く、哀川潤の指先を見つめ、数秒で眠りについた。催眠術である。
「潤さんも傷の手当てしないと」
「あん? こんなの唾つけとけば治るさ。あたしの唾はケアルラより効果が高い」
「無理ですって。僕の服あげますから血を止めてくださいよ」
服を脱いで、上半身が肌着のシャツになる。
やや不満そうな顔でその服を傷口に押し当てる。
あっちの事務室なら休めるか・・・そう思って視線を向けた先に、お気楽軍団がいた。
「食べ物だね・・・」
「食べ物だね・・・」
「あん?」
「よしミリア!グリーンとホワイトのために町に行って栄養のある食べ物を盗んでこよう!」
「泥棒だねアイザック!」
意気込んでいる二人を見て肩を落とす哀川さん。
「あのなお前ら」
「いいと思います」
高里が肯定的な発言をした。
「商店街はすぐそこですし、ついでに救急箱でも持ってきてもらえばきちんと包帯が巻けるではないですか」
「そうだねイエロー!さすが知性派!一緒にイエローも行くんだよ!」
はぁ・・・と哀川さんはため息をついた。
説得するのは無理だということが読心術を使わなくても分かる。
「わかった。行って来い。ただし12時までには戻って来い。
 危なくなったら『天さん!助けて!』と叫べ。あたしがバータより早く駆けつけてやる」
ちなみにバータとは某DBでの自称宇宙一の速度のザコである。
「行ってくるよグリーン!ホワイトをよろしく!」
「待っててくださいね、潤さん」
「絶対死ぬなよ。必ずだ。約束を破ったらキッツイお仕置きをするからな」

そういって見送ったものの、ヒマであった。
こんな傷では、子荻を殺すぐらいはできるけど、祐巳を助けてやるのは無理だ。
まだまともには走れない。しかし彼らの悲鳴が聞こえたら足が千切れても助けに行くつもりだった。

143紅白怪我合戦!:2005/05/07(土) 08:50:44 ID:mhhsWZag
商店街はすぐそこだからあたしの聴力なら悲鳴は聞こえる。
せめて足だけでも直して、あいつらと一緒に祐巳を探す。
あいつらと一緒ならば、きっとあの娘も笑えるはずだ。
あたしの支給品がまともなら持って行かせたのにな・・・・
デイパックをごそごそ探る。
出てきたのはペットボトル。硬い栓がされてある、銀色のボトルだ。
中身の説明がフランス語で書かれている。極悪な紋章と一緒に。
『種類:生物兵器
 プラスチック・ポリエステルを分解するバクテリア
 摂氏37度前後で大増殖・数時間で死滅
 副作用:肩こりが治る』
バカ兵器の一種か。
「ふん」
また鼻を鳴らして手元の子犬を撫でる。
ファルコンは死なせはしない。
あいつらも全員守る。そう思って聴覚を研ぎ澄ました。
なにやらふもふもいう音が聞こえて遠ざかっていったけど、まぁ関係ないだろう。

【C−4/ビル一階事務室/一日目/11:00】

【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。内臓は治ったけど創傷が塞がりきれてない。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に何かあったら絶対助ける ファルコンを守る
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要です。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:気絶。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:思考なし
[備考]:血を多く流したのと哀川さんの催眠術で気絶中です。
    回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

144紅白怪我合戦!:2005/05/07(土) 08:51:52 ID:mhhsWZag
町探査組

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:待っててグリーン!ホワイト大丈夫かな! 商店街で泥棒!

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな
[備考]:上半身肌着です

生物兵器:出展 フルメタルパニック!

145夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/07(土) 13:02:00 ID:wMojAoZA
>>136 の続きに以下の文章を追加。

 何故か、今ここに、セルネットのトップ・スリーだった三名がいる。
 ベルゼブブ。バール。ベリアル。それが彼らのコードネーム。
 “最初の悪魔”を召喚し、紆余曲折を経てセルネットを創設し、最後には
自らを悪魔と化してまで暗躍した、ろくでもない悪党たちである。
 ベルゼブブが発端となり、バールが追随し、ベリアルが加担した形だったが、
彼らは互いに対等な盟友だった。

 彼らは“最初の悪魔”を利用して、悪魔の力で『王国』を創ろうとした。
 強大な悪魔使いへと成長した少年――物部景や、その仲間たちと敵対し、
一度は勝利したものの……最後には敗北して、すべての力を失った。

 だから、このように、平気な顔して登場できる訳がないのだが。
 それでもやっぱり、今ここで、彼らは舞台に立っている。



>>132 
19行目を変更。
「ああ、説明なら一応できる。この場で公正に〜
 →「推論でよければ話せるよ。この場で公正に〜

146夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/07(土) 13:04:29 ID:wMojAoZA
>>133
2行目を変更。
「それでは遠慮なく、すべてを話そう。無論、信じるかどうかは〜
 →「それでは遠慮なく、仮説を述べよう。無論、信じるかどうかは〜

15行目を修正。
ベリアルの姿をしたが、人間に擬態している〜
 →ベリアルの姿をした悪魔が、人間に擬態している〜

最後の行を変更。
 存分に発揮したいなら、普通の悪魔持ちと同様に、カプセルをのむしか方法はない」
 →存分に発揮したいなら、カプセルを呑む以外に方法はないだろう」



>>135
状態および注意書きを変更。風邪薬を発見した直後に時間を変更。

【B-3/ビル2F、仮眠室/1日目・09:05】
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
[備考]:六時の放送を聞いていません。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

*この話は【サモナーズ・ソート(獅子と蛇の思索)】へ続きます。

[夢に関する注意事項]
 【ベリアルは沈黙する】で見ていた夢です。
 ごく普通の単なる夢だったのかもしれません。
 「認識の操作」「『今のベリアル』の正体」「『幻影』の存在」等、
 どの情報も、真実だと確定されていません。

147最悪の支給品(1/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/07(土) 23:48:49 ID:n5PCneaY
「ところで先から思っていたが、あなたは随分と良い男だな」
サラは唐突に言った。
せつらは茫洋と気の抜けた、それでも尚、自ら輝くが如き美貌の唇を動かして返す。
「おや、そうですか?」
「うむ、そうだとも」
サラは断言した。
「まずはその顔。井戸端会議の奥様方から深窓の御令嬢まで、
全ての女性、それどころか男性まで心ときめかせる事間違いなしだ」
全く持って事実であった。
だがしかし、それを話すサラ自身はいつも通りの鉄面皮である。
「その上、料理の腕も見事だときている。
先ほど皆で頂いたあなたの店の煎餅は素晴らしかった。
あの粳米の風味と香ばしさの多重奏を奏でる焼き加減の絶妙さ。
ザラメ一つとっても妥協しない、煎餅という物の奥深さを味合わせていただいた」
「せんべい屋としては当然ですよ。むしろ、それを判っていない職人が多すぎる」
(実にあっぱれな情熱だ)
自らの仕事に対する誇りに思わず感心しつつ話を続ける。
「副業の人捜しも見事な腕前だそうで」
「ええ。住んでいた街では一番を自負しています」
魔界都市新宿の人外魔境ぶりを考えれば世界一と言っても過言ではない。
「更に、女性に対する博愛主義の傾向があるようだ。主夫の神様にだってなれる」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どうしてそう思ったのですか?」
「うむ。いや、大したことはない。観察の結果だ」
「え?」
せつらの口がぽかんと開く。サラは滔々と理由を話した。
「実は、先ほど学校で皆と居た時、全員の行動を観察してみました。
例えばクリーオウが友人の死を知り、呆然となっていた時に倒れないように支えた。
ナイト役は最終的に空目がかっさらったが、実に自然で優しい動きだった。
他にも傍目には見えてこないが、女性陣への態度は他の二人に比べ実に穏やかだ」
「……ずっと観察していたんですか?」
「この状況で情報の量は金銀よりも価値があるから」
半ば趣味だとは言わない。

148最悪の支給品(2/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/07(土) 23:53:23 ID:n5PCneaY
二人は歩く。海岸のど真ん中の開けた場所を、堂々と。
「だから例えば、全員の癖だとか、角が立たないよう振る舞ってるのが居たとか、
今言ったようにあなたが女性に対して博愛主義の傾向が有る事にも気づいている」
「そうですか」
「おかげであなたの価値をまた一つ認識できた。
その上、“後腐れが無さそう”な事もわたしにとって実に理想的だ。
こんな状況でなければ口説いていたかもしれない」
やはり鉄壁不動の鉄面皮に平坦な口調で好きなタイプだと宣い出す。
彼女の真意は秋せつらにもよく判らなかった。
ただ、せつらの手の中に一つ紙切れが押し込まれたのは揺るぎない事だった。

『そんな、わたしにとって好みのタイプである上に信用出来る、
超一級の煎餅屋にして人捜し業まで営むナイスガイになら出来る依頼がある。
今もピロテースから依頼を受けているあなたに更に依頼は出来るだろうか』
『捜す人物が同一でなければ』
素早く返事が返る。サラは頷き、歩きながらの筆談を始めた。
『実は、捜して欲しいのは特定の個人ではなくある条件を満たす人だ。
“刻印”について何か知っている人、解除しようとしている人。
あるいは、もしも居るならば“刻印”によって死亡した者を捜して欲しいのだ』
『詳しい話をお願いします』
『わたしは刻印を外す事を画策している。
この刻印には、知っての通り管理者の任意でわたし達を殺す機能が有り、
更に生死判別機能、位置把握機能、盗聴機能を持っている事を確認している。
この刻印を外す手段を見つけなければ、わたし達は管理者達に手も足も出ない
そして――』
会話が筆音を誤魔化すように、波の音が僅かに残る筆音さえも掻き消していく。
海洋遊園地を出てから神社までの300mの波打ち際が、筆談を完璧な物にしていた。
『――というわけだ。というわけなので、空目以外の刻印への抵抗者を捜して欲しい』
現時点の情報と、それが空目との協力で得た物である事を伝え、依頼する。
せつらは頷いた。
『判りました。その依頼、お受けしましょう』

149最悪の支給品(3/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/07(土) 23:55:01 ID:n5PCneaY
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
更にその奥、通常なら御神体が納められている場所にそれは有った。
小さな木の扉を開いたそこに有ったのは明らかに異質なプラスチックのスリットだ。
サラとせつらは目を見合わせ、一度頷き、それを通した。
次の瞬間……神社はパカッと小気味良い音が聞こえそうなほどに勢いよく割れた。

まるで大地震でも訪れたかのように元神社が揺れ、大地が引き裂けていく。
「危ないところだった。感謝する。」
サラは、いつもの調子でそう呟いた。
彼女の胴体には幾筋もの銅線が巻き付いている。
地割れに呑まれ転落した彼女を救ったのは、せつらの鮮やかな糸技だった。
「全く、不親切な設計者だ」
「そうですね。荒っぽい開け方です」
神社は蓋だった。地下には巨大なドックが隠されていたのだ。
いや、このH−1エリア自体が巨大なドックの蓋だったのだ。
そして勿論、ドックには“船”が浮いていた。

「しかし、こんな物まで支給されているとは驚きですね」
相変わらず茫洋としたせつらの口調。それに抑揚の少ないサラの声が答える。
「確かに。しかし、ばらつきのある支給品だ。
極上の煎餅から暴れ牛。ただのナイフに、伝説級の魔剣。拳銃に、何かの弾のみ。
挙げ句にこんな物まで出てくるとは」
「隠し扉だと思っていたんですけどね。それで、調べてみますか?」
「勿論」
500mは移動しないと誰も居ない過疎地であり、この様な仮定に意味はない。
だが、もしここにツッコミ好きな人間が居たならこう言っただろう。
……あんたら、もう少し驚け。

150最悪の支給品(4/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/07(土) 23:57:36 ID:n5PCneaY
「「これは困った」」
声がハモった。
思わず顔を見合わせる。
二人とも、相変わらずまるで困った様子が見て取れない。
しかし、それでも二人は感じていた。これは危険だと。
「主催者の底意地の悪さが透けて見えるな」
せつらの操作により、マザーAIの電子音声が情報を羅列していく。
「艦の全長は218m。全幅は潜舵を除いて44m。
排水量は水上で30800t。水中で44000t。
主機はPS方式パラジウム炉3基/電気駆動/二軸・210000hp。
実用限界深度1200フィート、圧壊領域1600フィート。
最大速力は通常推進時30kt。EMFC使用時40kt。超伝導推進時65kt+。
武装は533mm魚雷発射管6門。多目的垂直ミサイル発射管10門。弾道ミサイル発射管2門。
Mk48Mod6ADCAP魚雷。アド・ハープーン対艦ミサイル。トマホーク巡航ミサイルを搭載。
ただし、攻撃目標は6時間につき1エリア、このエリア以外に限定されています。
艦長は参加者全て。秋せつら艦長、指示をどうぞ。
“トゥアハー・デ・ダナン”は現在、攻撃可能な状態にあります」
「艦内の防備は?」
「内部から艦に攻撃、あるいは戦闘能力を奪おうとした場合に限り、
機械人形部隊が起動し、干渉者に対して攻撃を行います」
「ドックから外海に出るには?」
「深度150(約50m)に水路が有ります」
データを呼び出す。水路は艦の幅に対しわずか10cmの余裕しかなかった。
この潜水艦は大雑把になら一人でも動かせるとんでもない艦だったが、
そんなとんでもない超精密操縦が出来るのは、この艦の全てを知り尽くし、
かつ己の手足よりも繊細に動かす事が出来る者のみだろう。
しかし、それでもチタン合金の船殻に包まれ、ミサイルを積んだ潜水艦だ。
全長200mを超える巨躯で有りながら、内部からの破壊さえも困難。
それは一見、武器としては大当たりに見えた。

151最悪の支給品(5/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/08(日) 00:01:31 ID:n5PCneaY
「放送について、もう一度」
「この艦の存在は、次の放送で発表されます」
溜息を吐く。
「……大外れですね」
「全くだ」

誰が放っておくだろう。こんな危険な悪魔を。
危険地域の様な事前放送も無しで、いきなりミサイルに焼き払われるかもしれない。
しかも、外からも内からもそれ自体を壊せないという事は、
そこを占領し、支配し続けるしか、安全を手にする手段はないのだ。
その為には中に乗り込む事になる。
ドックに浮いている潜水艦に乗り込むのは簡単な事だ。
そして、中に入れば反響する音が存在を教えるが、その正確な場所は判りづらい。
入り組んだ狭い通路は恐るべき戦場へと変わるだろう。
更に言うならば、この場所も最悪だった。
禁止エリアに囲まれた袋小路。人が集まった時、逃げ道が無い。
「ウツボカズラだな」
自らの命を繋ぐための蜜が有ると思わせる甘い匂い。
しかし、実際にそこに待っているのは死だけだ。
「僕の糸があれば、こんな罠など処分してしまえるのにな」
樹も切れないただの銅線では絞めたり投げたりが精一杯だ。
「わたしも、火力が強い爆弾が有れば時限爆弾で中枢を破壊出来るのだが」
学校にある材料で作った護身用の爆弾では火力が足りない。
つくづく万全でない事が悔やまれた。

だが、くよくよしていても始まらない。
「これからどうします?」
「今は10時。南の禁止エリアを安全に通過できる限界だ」
「城の方、見ていきますか?」
「……もし、空目達と擦れ違ったらまずい」
空目達の方で何かが有って、こちらに向かった場合に擦れ違うと、
昼から危険になる場所に向かわせてしまう事になる。

152最悪の支給品(6/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/08(日) 00:02:20 ID:n5PCneaY
だから、少し早いが帰る事になった。
ドックを閉じ直す事は出来なかったので、せめて潜水艦の入り口に瓦礫を乗せ、
少しでも出入りをしづらくすると、学校への帰路につく。
大した意味はないが、潜水艦を利用しようとする者に対して時間稼ぎにはなるだろう。

「捜す物が増えてしまったな」
「そうだね、困ったものだ」
新たな捜し物は潜水艦を破壊できる力。
あるいは、内部から潜水艦を破壊し、機械人形とやらの防衛機構に対抗できる戦力。
それに加えて各々の捜し人と刻印についての手がかりを捜す。
捜すものが多すぎた。

【H−1/ドック(学校に移動中)/1日目・10:30】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
潜水艦をどうにかする手段を捜す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
潜水艦をどうにかする手段を捜す/依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

H−1地点にドックとトゥアハー・デ・ダナン(218mの潜水艦)が出現しました。
神社は消滅しました。

153暖かい時間、凶弾と共に  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/08(日) 01:16:11 ID:Hw7b583Y
凪たちは森の中を歩いている。
先頭には零崎といーちゃん、
その後ろにはドクロちゃんと凪、
そして最後にはアリュセと出雲がついている。
ちなみに出雲の顔には青痣ができている。
その理由となった会話をアリュセと出雲は回想する。

隊列を決めるときに馬鹿が騒ぎ出した。
「却下だ。」
「いや、やはりここは
アリュセといの
『一部のマニアの妄想を引き立てるコンビ』が敵をかく乱し、
続いて零崎と三塚井の
『とりあえず避けて通ろうコンビ』が敵を引き付け、
そして最後に俺と凪の
パン…」
パン!というよりドコン!と形容すべき音が鳴り響いた。

以上、回想を終了しアリュセと出雲が出した結論は
『明らかに自業自得ですわ…。』
『やっぱり『ブルーストライプス』の方がよかったか?』
全く違うものだった。
ちなみに何故〝ス”がついたかは想像に任せるとしよう。
『最初のときはこんな…』
2秒で思い直した。
『はぁ、本当に変な人…。』
いいながらも2度目の悪言には
1度目と違う感情が込められていた。
自分がこの殺し合いの中にいながらも恐怖に震えることが
なかったのはこの男のおかげだった。
『きっとすぐに王子たちとも打ち解けますわ。
・・・もし生きてたらリリアとも。』
放送で名前があった事に落胆の色は隠せなかった。
「大丈夫か?」
ぱっと見上げると顔を覗き込むように出雲がいた。
「あ…うん、大丈夫ですわ!」
ビックリしながら答えるアリュセ
「そうか、なんかあったらすぐ言えよ?
ほれ、うまい棒食うか?」
照れからかうまい棒を取り出そうとする出雲を置き先に行く。
彼の優しさは感じていた。
自分のような他人を本気で心配してくれる彼の優しさは。
後ろを振り返ると出雲はうまい棒を2本持って悩んでいた。
どうやらたこ焼きにするかコーンポタージュにするかで
悩んでいるようだった。
「何やってるの?
早く行かないと置いてかれますわ。」
「ああ、ちょっとま…」
パン!
銃声が響いた。

154暖かい時間、凶弾と共に その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/08(日) 01:17:31 ID:Hw7b583Y
いきなりの銃声に全員が振り向いた。
「狙撃だ!全員木の陰に隠れろ!」
凪ちゃんが叫ぶ。
「方向は大体わかった、今回は多めに見てくれよ凪!」
零崎が駆ける。
そして僕は…
何をするわけでもなく立っていた。
視界の先に見えるのは出雲くんに駆け寄るアリュセちゃん。
彼女はこれから壊れていく、
僕が壊したあの娘のように
僕が壊したあの子のように
僕が壊した…あいつのように

アリュセは夢中だった。
後ろから凪が近づくなと警告していたが聞こえなかった。
いや、聞こえないふりをしていただけかもしれない。
ただ彼女が近寄ったことだけは事実だった。
そして凶弾は彼女を襲う。
風で弾道を逸らすも足に当たる。
「きゃ…!!」
転倒するアリュセ、銃弾は彼女の…

前に立ちふさがった男の体に命中した。
「ったく…俺がこんくらいでくたばるかよ…。」
アリュセの体を覆うように出雲は立っていた。
銃声はやまない、全て出雲の体に吸い込まれる。
「そんな…。」
「ばーか…何泣いてんだよ。」
銃声がやんだ。
「何って…!」
アリュセは背中を見た、そこには赤い水溜りがあった。
「だから…俺…が…こんくらいで…くた…ばる…かよ…。
まあ…ちいとばか…し…きつ…い…けどな。」
「そんな…いや、死なないで!」
「こん…くら…い…で…死ん…だら……笑…われ…ちまう…ぜ、
なあ、ち…さ…」
パン
…乾いた音と共に、出雲覚の命は終わった。
「そんな…いや、いや、いやあああああ!」
崩れるからだ、飛び散る血。
その血が暖かくて寒気がした。
彼女の正常な判断能力を奪うのに充分すぎる光景だった、
死体にしがみつきただ泣き崩れる少女に
襲撃者は容赦なく引き金を引く、
アリュセの心臓を凶弾が貫く。
彼女の中を走馬灯が駆け巡った、
仲間たちとの冒険の日々、
…新たな仲間との短い、でも大切な時間。
そして優しき少女の命は消えた。

2人の命を奪った男、名は…カシムと言った。
「作戦の第一段階は成功、続いて第二段階に移行する。」
冷たく機会のような声でつぶやく。
そのとき影から声がした。
「なっちゃいねえな〜、
おまえみたいなやり方じゃ殺人鬼としちゃ2流だぜ?」
「獲物に話しかける、暗殺者としては2流だな。」
振り向いてカシムが言った。

一旦終了。

155Tightrope Walkers(1/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 14:57:04 ID:jSDtGYms
「酒で酔わせてその隙に毒を盛り、刺殺……ひどいわね」
「真正面から殺すよりも、信頼させてから隙をついて殺す方が確実だ。生き残る方法としてはいい手段なんだろうな」
「……こちらを睨みながらで言われると、まるで私に対して言ってるように思えてしまうんだけど」
「どうだろうな」
 言って、ゼルガディスは居酒屋の中を調べ始めた。……こちらへの警戒を忘れずに。
 学校の周囲を調べ終った後。
 クエロとゼルガディスは、地図には書いていなかった南の商店街を見つけ、居酒屋の中でこの少年の死体を発見していた。
 ……彼の不信感は、学校にいたときよりも露骨になっていた。
(仕掛けてくるとしたらこの辺りね。さすがにいきなり斬る、なんて馬鹿な真似はしないでしょうけど)
 ──剣と魔法。
 彼はこちらに対して圧倒的な力の差がある。別行動した途端に、自分が死体になるのは怪しすぎる。
(にしても……クリーオウといい、ここにはきちんと参加者へのカモも用意されてるのね)
 死体に再び目を移す。こんなところで酒を飲む奴だ。ただの馬鹿か“一般人”なのだろう。
 つまり、人を疑う事を知らない平和主義者。こんな遊戯に巻き込まれることなど想像もしない、ごく普通の日常に生きている者達。
 単純な殺し合いの他にも、参加者同士の血生臭い葛藤も主催者は望んでいるようだ。
(その嗜好には虫酸が走るけど、駒じゃ指し手は倒せない。……例外が起こらなければ、ね)
 学校で結成された、反乱軍とも言える七人の同盟。
 こんな短期間に、これだけの有能な人物が集まることができたのは本当に僥倖だった。
 彼らといれば脱出できる可能性も十分にある。あるいは主催者を殺すことも。
 もちろん、その可能性が薄くなれば、あっさり“乗る”側に回るのだが。
(このまま脱出側になる場合、心残りなのはあの二人)
 ガユスとギギナ。脱出を考える場合、彼らには同盟の誰とも会わずに死体になってくれるのが一番いい。……だが。
(やっぱり、そう簡単には死んで欲しくないわね。できれば、私の手で苦しめて……潰す)

156Tightrope Walkers(2/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 14:58:10 ID:jSDtGYms
 彼らが苦しむことなく殺されてしまうことなど許されない。放送で名前が呼ばれるだけの死などいらない。
 ──学校に集合したときに、彼らのことは話すべきだろう。強大な敵として。
(もし会ってしまった場合……ギギナは有無を言わずに戦いを求めるだろうからいいのだけど……問題はガユスね)
 あいつのことだ。こちらと同じように、誰かと協力して脱出を企図しているだろう。
 彼と出会えば、瞬時に自分の思惑が露見される。……そうなれば、かなりややこしいことになる。
(どちらにしろ……こいつは邪魔ね)
 脱出するにしろ殺す側に回るにしろ、ゼルガディスは障害でしかない。ここまで疑われていては信頼を取り戻すことは不可能だ。
 他の五人からはきちんと信頼を得て、保持していかなければならない。
 そして、最終的には隙をついて彼を殺す。
 ──と、ゼルガディスが調査を終えてこちらを向いた。
「特に何もない」
「そう。この人の支給品も持って行かれてしまったみたいね。まだ時間に余裕があるから、北東の方の商店街に行きましょう」
「──待て」
 刹那、ゼルガディスが剣を抜き、白の切っ先をこちらの首に向ける。
 予想していたことなので特に抗わず、クエロはそのまま彼を不快感と不安の混じった目で見つめた。
「……何のつもり?」
「聞きたいことがある」
「尋問ってわけね。……脅すなら、その刀身は取った方がいいんじゃないかしら?」
「……」
 彼の表情に一瞬驚愕と焦りが見えた。予想は当たっていたようだ。
(……やっぱりね。あの剣には何かある)
 皆の前で武器を見せたとき、彼は“普通の剣”と言っていた。
 サラが言うには何か魔力のようなものが感じられたらしいが──詳細は不明とのことだ。
(魔力と言うからには、ゼルガディスが“普通”というのは少しおかしい。
……それに、無作為に渡される武器は、他の参加者の持ち物から選び出されている可能性がある。
彼がこの剣の本来の持ち主かも知れない)

157Tightrope Walkers(3/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 14:59:45 ID:jSDtGYms
 咒弾。自家製だというせんべい。そして、“知り合い”。
 七人中三人、という的中率は微妙だが──わざわざ百人以上の武器をどこかから調達してくるよりは、参加者から奪ったものを渡した方が効率がよい。
(そして、何らかの条件で選び出された参加者達。彼らの所持品は、他人に取っては不可解で特殊なものの可能性が高い)
 普通の剣や銃器が支給される確率の方が低いのではないだろうか? 今持っているナイフも、何らかの効果があるのかもしれない。
 ──仮説の上に仮説を重ねた、稚拙な空論。だが、鎌を掛けるには十分だった。
「……確かに、この剣の刀身と柄を分けるための針も鞄の中に入っていた。
刀身、あるいは柄が何かの効力を持っているとは思う。だがそれ以上はわからない」
「たとえば──何らかの方法で、柄から魔力の刀身が生えてきたりしてね?」
 架空小説のような人物が何人もいる世界だ。そんなものがあってもおかしくはない。
「その可能性もあるな」
 あくまでしらを切り通すようだ。──何にせよ、あの剣は要注意だ。
「それをなぜ、支給品を確認したときに言わなかったの?」
「俺はまだ全員を信用していない。……お前こそ、何故その弾丸のことを隠す?」
 その切り返しも予測済みだ。もちろん、素直に話す気はまったくない。────もっとややこしくしてやろう。
「隠してなんかいないけど? 私は本当にこの弾丸のことを知らない。…………そうね、仮説はあるんだけど」
「……言ってみろ」
「まず、この弾丸が私達の知らない特殊な銃器に対応するものの場合。これはあまり考えられないと思うの。
弾丸がここにあるってことは、その特殊な銃器は使えないわけでしょう?
弾丸のない銃器という、“はずれ”として支給する場合もあるだろうけど……それなら、もっと普通の銃器を選ぶはず。
主催者ならば、そんな特殊な武器があるならそれを使って存分に殺し合ってもらいたいだろうし。
弾丸だけもらった側としても、まったく使えないし意味がないから、捨てられてしまう可能性も高い。
そもそも、ここには銃器を知らない人もいるもの」
「……」

158Tightrope Walkers(4/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:00:43 ID:jSDtGYms
「ここからが本題。私はこの弾丸を、何らかの──たとえば脱出の手段としての“鍵”だと考えるわ。
……ええ、もちろん普通は鍵なんてこんな形はしていない。でも、だからこそ。
不要な者としてすぐ捨てられそうなものを“鍵”──つまり、一種の希望として支給品の中に放り込んでおく。
いかにもあの趣味の悪い主催者のやりそうなことじゃない?」
「飛躍しすぎている」
「わかっているわ。“鍵”は確かに極論だけど──私は、この弾丸を単体で効果を持つ特殊な道具と考えているの。
それこそ何らかの魔法で動く武器かもしれない。どちらにしろ、かなり特殊なものだと思うわ」
「それをなぜ、あのときに言わなかった?」
「長い仮説を唱えても議論は進まないでしょう? ……もちろん、私はみんなを信じているわ。あなたと違って、ね」



(確かにその可能性はあるが……やはり信用できん)
 こちらを牽制するように微笑するクエロを見て、ゼルガディスは胸中で舌打ちした。
 光の剣のことを見破られたことは厄介だが、それでもこちらの優位は変わらない。
 この状況なら、殺そうと思えばいつでも殺せる。だが、二人きりになった途端に彼女が死体になるのは露骨すぎる。
(この死体を殺した奴のように、こいつが手のひらを返して裏切る可能性は十分にある)
 そんな怪しい輩を、脱出という目標を掲げる同盟に入れておく訳にはいかない。
 もちろん、クエロに言ったように彼女以外の全員も完全に信じたわけではない。だが、彼女よりはましだ。
(こいつは冷静すぎる。この状況の中で──なぜそんなにも“主催者”視点で物事を考えられる?)
 まるで────自らも駒であるくせに、他の駒を操る“指し手”として考えているような。
 やはり底が知れない。完璧すぎる。
(ボロが出るまで待つのは長すぎる。……ならば)
 ──“いるにはいる”という彼女の知り合い。言い方からして、どうやら味方ではないらしい。
(そいつらとできれば接触して、情報を得たい。こいつ以上にたちが悪い相手かもしれんが……会う価値はある)
 彼らと協力して、クエロを追い出すこともできるかもしれない。

159Tightrope Walkers(5/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:01:31 ID:jSDtGYms
(おそらく次の放送で集合したとき、そいつらのことを話すだろう。
何割かは本当のことが混じっているかもしれないが……信用できるわけがない)
 ──クエロの言動と挙動を見極め、そしてクエロよりも早く彼らと接触する。それが今考えられる一番の対策だった。
(リナとアメリアを探すことも重要だが……不安要素は早めになくした方がいい)
 そう結論づけて、剣を納める。この場は引くしかない。
 クエロは一息ついて、
「……二人で疑い合っていても先に進まないわ。とにかく今は、周辺の探索を進めましょう」
 そう言った。────確かに、今は一挙一動を監視していくしかない。
「わかった」



(次の放送が分岐点ね。さて、どうでるかしら?)
(次の放送がポイントだ。さあ、どうでる?)



綱渡りはまだ、終らない。

160Tightrope Walkers(6/6) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:02:57 ID:jSDtGYms
【E-1(遊園地前商店街)/1日目・10:00】
【七人の反抗者・周辺捜索組】

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾
[思考]: C-3商店街へ。集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    +自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾のことを隠す

【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]: 健康、クエロを結構疑っている
[装備]: 光の剣
[道具]: 支給品一式
[思考]: C-3商店街へ。リナとアメリアを探す
[備考]: 光の剣のことを隠す

161フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(1/3) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:03:39 ID:jSDtGYms
 一度目。売られそうになって、眼を調べられた。
 ……村人が大勢死んだ。実父母が自殺した。──でも、ベスポルトがいた。
 二度目。養父となったベスポルトが重傷を負った。黒衣に殺されそうになった。
 ……村人が大勢死んだ。黒衣が死んだ。──でも、サリオンがいた。

 三度目。─────────────────────────────誰もいない。


 夢と現実の境界線を放浪する。熱と寒気と痛みが身体を侵す。
 はっきりと意識を自覚することも出来ず、深く眠ることも出来ない境界の虚ろ。
 何回目の夢なのか、あるいは何回目の現実なのか、それを考える暇もなく、フリウ・ハリスコーは静かに落ちていった。
 ただ、もうそこには────無力な子供は、いなかった。



 そこは荒野だった。生えていた草が蹂躙され、荒れ果てた土地。
 そこには死体があった。髭を生やした偉丈夫が死んでいる。
(父さん?)
 数ヶ月前に、帝宮の人工林で死んだはずの父──養父。ベスポルト・シックルド。
(……じゃあ、これは夢だね)
 数ヶ月前の、約束を守れなかった自分がいる夢の世界。信じる方法がわからず、彼を守れなかった自分。
 ──両目を閉じて眠る、その骸の顔に手を触れる。
 夢だからであろう、温かくも冷たくもなく、曖昧な感触だけが指先に伝わった。
 ただ屍臭だけがはっきりと鼻を刺激している。血はもう流れていない。
(……あれ?)
 夢だから──いや、それとは違う違和感がある。何かが曖昧なところにいるような、気持ち悪い感覚。
 血は流れていない。それでいいはずだ。
(えっと……)
 血は流れていない。
 血は流れていない。
 血は流れて──────いない?

162フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(2/3) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:04:25 ID:jSDtGYms
「あ」
 気づく。手を触れている顔は養父のものではない。
 髭を生やした偉丈夫。だがまったくの別人だった。──彼は、自分が殺した、
「あ、」
 思わず手を引っ込める。刹那、
「────っ?!」
 首がごろりと転がり、見開いた眼がこちらをのぞき込む。今更のように、血が流れ出した。
「あ────」
 あっという間に鮮血が足下を包む。温かくも冷たくもなく、曖昧な感触が伝わった。
 赤い液体は荒野を蝕み続ける。男の目がじっと見ている。ちぎれた首の付け根から白い骨が



「あああああああああああああああああ!」
 自らの絶叫で飛び起きた。
 最初に目に入ったのは赤ではなく、鮮やかな木々の緑だった。──血は流れていない。
(夢……だよね)
 実際には念糸で遠距離から殺した。血には触れていないし、骨も見えなかった。……今のはすべて妄想だ。
「でも、殺したのは現実。それからは逃げちゃいけない。忘れちゃいけない……」
 自分に言い聞かせるようにつぶやく。
 荒い息が収まらない。心臓の音がうるさい。悪寒がする。屍臭が相変わらず鼻を刺激している。
(…………あれ? 臭い?)
 ──これは夢ではない。だが、辺りには今まで気づかなかったのが嘘のような、濃厚な血の臭いがただよっていた。
(近くに、死体がある)
 見に行くべきだろうか?
 殺人者は、自分を見逃しているほどなので近くにはいないと思うのだが──やはり、まだ身体を動かす気にはなれなかった。
(死体って言えば……あたし、放送聞いてないね)
 死者の名前を無慈悲に羅列するという放送。気絶から即座に戦闘に巻き込まれていたので、ずっと忘れていた。
(あの人は……大丈夫だよね。呼ばれてないよね?)
 ミズーが死ぬことなど信じたくない。
 だが、辺りを包む屍臭が否応なく“死”を連想させてしまう。
(死ぬわけがない。武器なんてなくても、あの人は十分に戦える。……でも、さっきみたいな人とかと会っちゃったら……、
────だめだ、そんなことを考えちゃいけない。あたしは信じなきゃいけない)

163フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(3/3) ◆l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:05:26 ID:jSDtGYms
 一度不安を持ってしまうと、それが膨らむのは容易だった。
 疑念を抱く自身を責めるように、心臓の音がうるさく身体に響く。
(…………確かめるだけ。それで落ち着くなら、その方がいい。確かめるだけ。あたしは信じてる……)
 悪寒に耐えるように身体を抱いて、立ち上がる。
「────!」
 途端に、今まで消えていた火傷と骨折の痛みが身体を責めた。熱い。痛い。寒い。
「確かめるだけ、あたしは信じてる……」
 そのつぶやきの声は、自分でも驚くほど小さかった。


 言葉も動作も存在する、現実の世界で。
 フリウ・ハリスコーはふたたびそれらを拾って歩き出した。
 先程殺人を犯した時と、同じ理由がきっかけになっていることには気づかずに。
 ミズー・ビアンカの存在だけが、今の彼女を支えているとは気づかずに。
 そしてここでは、それがどんなに脆いものなのかわからずに。



【A-5/森の中/11:40】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的に消耗。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: 屍臭のする方向へ
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。茉理達の放送も聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

164血を分けた者の死神と(1/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:06:53 ID:3ABiJhFQ
「いや、見たことねぇ」
「悪いけど、僕も知らないな」
 風見千里やカイルロッド等、探し人の容姿を聞いた返答がそれだった。
「そうか……いや、ありがとよ」
 零崎人識といーちゃんの言葉に出雲覚は内心落胆を覚えたが、表面上は笑みを浮かべて礼を言った。

 結局誰も自分達の求める人と出会ってはいなかった。
 いや、約一名ずっと寝ている少女がいるが、起こすのもなんだし、「あー、聞いても多分無駄だぜ。頭痛くなるだけだ」
という零崎の言葉に不穏なものを感じたので彼女には聞いていない。
 凪には、ここに来る道中確認した。

「邪魔したな。んじゃ行くか、アリュセ」
 そう言って尻の汚れを払いつつ立ち上がる。
「え、もう行くのかい?」
「おう、愛しの女が待ってるんでな」
 いーちゃんの言葉に覚はにやりと笑ってみせる。
「よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えますわね」
 なんとなく面白くなさそうな顔でアリュセがぼやく。
 その様子に零崎が、かははと笑った。
 凪が見送ろうと立ち上がる。
「そうか……俺達としては、お前らにも仲間に加わって欲しいんだけどな」
「悪ィな。千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ喜んで仲間に……」

 そこまでしか覚の言葉は続かなかった。

165血を分けた者の死神と(2/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:07:42 ID:3ABiJhFQ
 その男は茂みの中で銃を構えていた。
 ここに来るまでに何度か試射を行い、ある程度の距離で動かない標的ならば当てられることが分かった。
 糸を使ったトラップを発見したことで人の存在を知り、その範囲から大体の位置を割り出した。
 そこに複数人が潜んでいるのは微かに聞こえる話し声で分かった。姿は見えなかったが。
 相手は複数、実力も分からない。
 だから、待った。
 狙撃できる瞬間を。
 男が立ち上がり、そして女も射線上に立ち上がった。
 そして――男は引き金を引いた。


 凪の背後、離れたところにある茂みで何かが光ったのを覚の目は捉えた。
(なんだ?)
 覚は一瞬訝しげな表情を浮かべ――次の瞬間、いきなり凪を押し倒した。
「な!?」
 ほぼ同時に聞こえる"ぎゅぼっ"という鈍い銃声。
 一瞬前まで凪がいた空間を銃弾が切り裂く。

166血を分けた者の死神と(3/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:08:41 ID:3ABiJhFQ
「凪ッ!」
「覚っ!」
 二人が倒れるか倒れないかのところで、零崎がいち早く飛び出した。
 少し遅れてアリュセも。
 いーちゃんは思わず罠の木の枝を見る。
(落ちてない……!)
 周囲数十メートルに渡って張り巡らせているトラップ。
 それが反応せずに、ここが銃撃を受けている。
 とすれば結論は一つ。罠を見破られたのだ。
 と、あるものに目を奪われいーちゃんの思考は中断された。零崎も同じものに気づいて足が止まる。
「「青色ストライプ!」」
 思わずハモッた零崎といーちゃんに、凪は倒れたまま無言で石を拾って投擲。
 あやまたず額に投石を食らって二人は悶絶した。
「そんなことやってる場合じゃない。敵襲だ!」
「だったら、さっさと退け」
 射殺しそうな視線で睨まれ、覚は身を低くしたまま、そそくさと凪の上からどいた。
 ここは木の根が露出しており隠れるのに適した場所だ。
 身を低くしていれば銃撃を受けることはないだろう。
 だが――

167血を分けた者の死神と(4/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:09:36 ID:3ABiJhFQ
「……ごはん?」
 今の騒ぎで起きてしまったドクロちゃんが、木の根からひょこっと顔を出してしまった。
「戯言使い!」
 とっさに凪が近くにいたいーちゃんに指示を出すが、それよりも早く銃弾が――ではなく、
「わわっ!?」
 ドクロちゃんの首に"銀色の糸"が絡み付いていた。
 そして、聞き覚えのない男の声が皆の耳朶を打つ。
「動くな。動けばこの娘は死ぬ」
 その言葉に、いーちゃんの動きはぴたりと止まった。
 振り返り、凪のほうを見る。
 凪は無言で首を振った。
「いつだって、その瞬間はこともなげに訪れる。呼びかけに答えろ、娘。そこに左目に眼帯をした娘はいるか。名は、フリウ・ハリスコー」
 ドクロちゃんの瞳に、隻眼の黒衣が目に映る。
 だが、状況を理解できていないドクロちゃんは「え? え?」と困惑するばかりだ。
「言え。さもなくば……」
 と、ドクロちゃんの表情が変わった。
「や……ひぅ、か……!」
 驚愕の表情を浮かべ、首を押さえて苦しみだす。
「やめろ! ここにはそんな娘はいない! 知りもしない!」
 飛び出しそうになる零崎を手で制しながら、凪が叫ぶ。
 同時に、ドクロちゃんの苦しみが楽になった。
 急激に乾いた喉で、必死に浅い呼吸を繰り返す。
「本当だろうな」
「本当だ!」
 男――ウルペンは思考しているのか、少し間が開いた。そして、
「……全員、そこから出て来い。出なくば、この娘の命はない」

168血を分けた者の死神と(5/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:10:33 ID:3ABiJhFQ
(苦しい選択を迫ってくれる……!)
 凪はギリッと奥歯を噛み締める。
 こちらには飛び道具の類は何一つない。
 出れば皆殺しにされる危険性が高いだろう。
 だが、出なければ三塚井が死ぬ。あの苦しみようは尋常ではなかった。
「凪、今回はいいだろ? 俺が回りこんで殺ってくる」
 小声で言ってくる零崎に、しかし凪は首を振る。
「いや、駄目だ。奴も不意打ちは予想しているはずだ」
 巧妙に隠したトラップを抜けてきた実力者だ。見つかる可能性が高い。
 三塚井の命を盾に取られている以上、その選択はあまりにリスキーだった。
「しゃーねぇ、出るか」
 ばりばりと頭をかきながら覚がぼやいた。
「ちょっと、覚……」
「仕方ねーだろーが、この場合。……あとは運を天に任す」
「待て、出雲!」
 立ち上がろうとする覚を凪が押し留める。
「なんだよ、それともなんかいい手があるってのか?」
 凪は必死に何かを考えるように押し黙った。
 だが、その言葉に、今まで黙っていたいーちゃんが口を開いていた。
「ある……かもしれない」
 その言葉に全員の視線が集中した。

「もう一度言う。全員そこから出て来い。三度目はないぞ」
 ウルペンの声が再度響く。
 時間は、もう無かった。

169血を分けた者の死神と(6/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:11:33 ID:3ABiJhFQ
「ほう……」
 声に従い出てきた面々に、ウルペンは内心舌打ちした。
 確かに凪達は全員姿を見せていた。
 ただし、巨木の左側からいーちゃん、頭上の枝に零崎、巨木から伸びる根の右側から他の木の背後を経由して覚、根と地面の隙間にアリュセ、
そして中央に凪、と、それぞれが離れた位置にである。
「これで全員だ。言っておくが、お前が妙な真似をした場合、俺達は全力でお前を潰す」
 中央に立つ凪が堂々と宣言する。
 ウルペンは、口の端を歪め、視線だけで相手の面々を見渡す。
 もし、ここで念糸なり炭化銃なりで攻撃を加えた場合どうなるか。
 相手の間隔が狭ければ問題はないだろう。
 だが、ここまで開いていては……この距離なら二人三人は自分のところまで到達する。
 これだけのの人数が固まっているとは予想外であった。
(考えたものだ)
 こんなところで手傷を負う気はない。
 相手としても、仲間を失う気はないだろう。
 互いに相手を傷つけたが最後、確実に互いにとって不幸なことになる布陣。
 ここでの最善の行動は、お互い無傷で収めることであった。
(仕方があるまい)
 最善の行動を選択する。
 フリウ・ハリスコーはこの状況で出てこない娘ではないと思えた。恐らく、本当に彼女はいないだろう。
 ならば、もうここに用はなかった。

170血を分けた者の死神と(7/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:12:29 ID:3ABiJhFQ
 ゆっくりと後ろに下がろうとしたところで、一人の少女が目に止まった。
(……なんだと?)
 自分が殺した面妖な術を使う少女。その少女と同じ服装、同じ顔立ちをした少女がそこにいた。
(なに……? 私を見てる?)
 確実に目が合った。しかも相手はその目を逸らそうとしない。
 アリュセがその視線に負けてたじろぎかけた時、ウルペンの唇が微かに動いた。
『双子か?』
「!!」
 声は聞こえなかった。
 だが、アリュセが見た唇の動きは確かにそう言っていた。
「待って! あなた、リリアに会ったんですの!?」
 急いで根の下から這い出し、森の奥へ消えていくウルペンへ向けて叫ぶ。
 突然のアリュセの行動に、皆の驚く視線が集まった。
「……やはり、身内か。リリアというのか、あの金色の髪の娘は」
「どこで、どこで会ったんですの!?」
 足を止めずに言うウルペンに、必死の形相で問いかける。
「港町で」
 初めて得た仲間の情報に、アリュセの表情に明るみが射す。
 だが、次の一言が、その表情を絶望の色へと――
「俺が殺した」
 ――塗り替えた。

「アリュセッ!!」
 放心し、その場に崩れ落ちるアリュセに覚が駆け寄り、その小さな身体を支える。
 ウルペンは微かに口の端を吊り上げると、踵を返して森の奥へと駆けて行く。
「逃がすと思ってんのか!」
「待て、零崎!」
 後を追おうとする零崎を凪が制止する。
 ドクロちゃんの首に巻きついた念糸は、まだ解かれていなかった。
 舌打ちする零崎が待つこと数秒、ようやく念糸が掻き消えた時には、ウルペンの姿は木に紛れて完全に見えなくなっていた。

171血を分けた者の死神と(8/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:14:05 ID:3ABiJhFQ
 んくんく、と喉を鳴らしてペットボトルの水をがぶ飲みしているドクロちゃんのそばで、覚は出立の用意をしていた。
「とんだ別れになっちゃったね」
 いーちゃんから自分とアリュセのデイバッグを受け取り、覚はまとめて左肩にそれを通した。
 右腕には失神してしまったアリュセを抱えている。
 覚は、市街地へ行く予定を変更し、黒衣の男が消えた方角――南へと進むことにしていた。
 方角的には戻ることになるが、城や、その西に広がる森など行っていない場所も多い。
 黒衣の男を追いつつ、仲間を捜すつもりだった。
「なら、これを持っていけ」
 凪が手渡したのは、彼女のサバイバルナイフだ。
「いいのかよ?」
「助けてもらった礼代わりだ。遠慮せずに持っていけ」
 それならばと遠慮なく受け取り、腰の後ろでズボンに挟む。
「悪ィな。さっきも言いかけたが、千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ……」
「お前といると無様なところばかり見られるような気がするけどな……ああ。共に脱出しよう」
 何かを思い出すような顔をした零崎といーちゃんに裏拳をぶち込みつつ、凪は答え――

 そして、凪達は去っていく二人を見送った。

172血を分けた者の死神と(9/9)◆1UKGMaw/Nc:2005/05/08(日) 18:15:28 ID:3ABiJhFQ
【F−4/森の中/1日目・09:50】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 多少乾いています。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。
[備考]:包丁の血糊が消えました。


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【覚とアリュセ】
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る/ウルペンの捜索(名前は知らない)

【アリュセ】
[状態]:健康/気絶中
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る


-----------------------------------------------------------------
【ウルペン】
[状態]:軽傷(二の腕に切り傷)
[装備]:炭化銃、スペツナズナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。

173戯言精霊の傑作殺し:2005/05/09(月) 19:56:01 ID:mhhsWZag
「んっく、んっく」
ドクロちゃんが水を飲んでいる。几帳面に音を立てて。
あの出雲さんとアリュセちゃんが立ち去ってからしばらく。
ずっとドクロちゃんは水を飲んでいる。
殺し屋から首を糸で絞められてからやたらのどが渇くそうだ。
零崎があの後、張られた糸を気づかれないように巧妙に張り直した。
僕ものどが渇いてきた。でも僕のデイパックはダナディアさんの所で失くしてしまったので、当然水も無かった。
「凪ちゃん、水のボトル持ってる?」
「俺のは三塚井にやった。飲みかけの一本は飲みきって、もう一本は今飲んでる」
「ドクロちゃんは…デイパック無いんだったね。零崎は?」
「ん? ああ俺の奴は一本は飲んだのと包丁砥ぐのに使っちまった。
 あと一本あるぜ」
ああじゃあそれを飲も──
「それじゃあ僕たちの残りの水は」
三人の気持ちが一つになった。一本。いや、ドクロちゃんの飲みかけが──
「ぷふぅ」
からん。ころころ。転がった空ボトル。どこからか吹いた風で転がる。からからと。空空と。

「いいか? ここから近くて水が採れそうなのは」
「湖は…飲めるかどうか分からないね。井戸も毒が入れられてないとも限らない」
「すると、この商店街か」
「やってくれるな? 零崎」
「俺しかいねーだろ?」
「全部詰めたら三キロになるけど、大丈夫か?」
「おいおい俺を誰だと思ってやがる」
「1時間以内に帰って来いよ」
「おう」
「なるべく殺すなよ」
「そりゃ保障できねーな。かははっ」
「おい!」

174戯言精霊の傑作殺し:2005/05/09(月) 19:57:03 ID:mhhsWZag
「じゃ、行ってくるぜ」
「ちっ…」
「あれ? ドクロちゃんが落書きしてるのって」
「零崎の…地図だな…」

「おかしーな。商店街が見えてこねぇ」
とことこ歩きながら呟く。辺りは森だった。横に普通の道が見える。
地図でもう一度確認しようとして、デイパックを探って──
探って探って探って。
地図を忘れた事を確認した。
「参ったなー。三塚井の奴に落書きされてそんまんまだったか」
一回戻って地図を持ってくるのも間抜けな話だ。
誰かに道を聞ければいいんだが…そう思ってとりあえず森を歩く。
なにやら少し先に三人組がいた。男二人女一人。
まったく用心せずに正面から近づいていく。ただし背中に隠した包丁はいつでも取り出せる。
三人の動きが止まる。先頭の目つきの悪い黒ずくめの男が警戒心丸出しで半身ずらすのが見えた。
「よぉあんたら。ちっとばかし道を聞きてーんだけど──つっても人せ──」
突然正面の男のデイパックの中から、青い虫のようなものが飛び出して語りだした。もちろん人生について。
「道を聞きたいと。そもそも道なんてのは人や場所や考えについて回るものだ。
 人ならば人道。街ならば街道。剣ならば剣道。沼なら沼道か?
 他人の作った思想の道を歩かないで済む方法を知ってるか?地位とほんの少しの勇気でいい。
 なんとも無いことをなにか有り気に言い切る勇気と、なんとも無いことなのに何故か重く聞こえるほどの地位だ──
 っておう。 それで思い出したけど何故あの占い機甲軍団は退屈なことばっか呟くのに、それを皆真に受けまくってあたふたせねばならんのだ」
「…先に言われちまった。戯言のように傑作だな」
笑みを深めて零崎は呟いた。
戦闘体勢をとってた黒ずくめのオーフェンは肩を落として声を上げた。
「頼むから、こいつに語り掛けないでくれ…」
それから数分間、オーフェンが止まらないスィリーをポケットに詰めるまで──
その『道』についての演説(内容はどんどん変わっていったが)は続けられた。

175戯言精霊の傑作殺し:2005/05/09(月) 19:58:08 ID:mhhsWZag
【キーフェンを出よう!-from the aspect of ENJOU-】
【残り85人/E6/森の中/1日目/09:55】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【オーフェン】
[状態]:精神的に疲労気味、いろんな意味で。行動には支障なし。 偏頭痛。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う) コイツどうしよう。スィリー黙れ。
※第一回放送を冒頭しか聞いていません。

【零崎人識】
[状態]:平常  迷子。
[装備]: 出刃包丁 (隠し持ってる)
[道具]:デイバッグ(空のボトル三個)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 水を汲みに商店街まで。道を聞く。11時までには戻りたい。
[備考]:包丁の血糊が消えました。

176戯言精霊の傑作殺し:2005/05/09(月) 20:00:02 ID:mhhsWZag
──────────────
【F−4/森の中/1日目・09:55】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 乾きは大体治りました。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

備考:水が残り1リットルしかありません。

177戯言精霊の傑作殺し(1/4)修正案:2005/05/09(月) 22:21:13 ID:mhhsWZag
「んっく、んっく」
ドクロちゃんが水を飲んでいる。几帳面に音を立てて。
あの出雲さんとアリュセちゃんが立ち去ってからしばらく。
ずっとドクロちゃんは水を飲んでいる。
殺し屋から首を糸で絞められてからやたらのどが渇くそうだ。
零崎はあの後、張られた糸を気づかれないように巧妙に張り直したようだ。
「今度こそバレずに引っかかるはずだぜ」
零崎と他愛の無い会話をしているとさっきの男との事がまた浮かんできた。
─あの時あの男が殺人行動にでたら
─最初の弾丸が凪ちゃんに当たってたら
─ドクロちゃんを絞める糸に力が加えられてたなら
物騒な想像をしていると口の中が乾いてきた。
でも僕のデイパックはダナディアさんの所で失くしてしまったので、当然水も無かった。
「凪ちゃん、水のボトル持ってる?」
「俺のは三塚井にやった。俺の飲みかけの一本は飲みきって、もう一本は今飲んでる」
「ドクロちゃんは…デイパック無いんだったね。零崎は?」
「ん? ああ俺の奴は一本は飲んだのと包丁砥ぐのに使っちまった。
 あと一本あるぜ」
ああじゃあそれを飲も──
「それじゃあ僕たちの残りの水は」
三人の気持ちが一つになった。一本。いや、ドクロちゃんの飲みかけが──
「ぷふぅ」
ドクロちゃんは飲み終わったボトルを地面に置いた。
からん。ころころ。転がった空ボトル。どこからか吹いた風で転がる。からからと。空空と。

「いいか? ここから近くて水が採れそうなのは」
「湖は…飲めるかどうか分からないね。井戸も毒が入れられてないとも限らない」
「すると、この商店街か」
「やってくれるな? 零崎」
「俺しかいねーだろ?」
「全部詰めたら三キロになるけど、大丈夫か?」
「おいおい俺を誰だと思ってやがる」
「1時間以内に帰って来いよ」
「おう」
「なるべく殺すなよ」
「そりゃ保障できねーな。かははっ」
「おい!」

178狂戦士の会合・改改  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/09(月) 22:52:02 ID:Hw7b583Y
森の中を男が歩いている。
彼の体には血が付いているが顔には
とても今さっき人を殺したとは思えない笑みを貼り付けている。
『ちっ、さっきのガキとっとと殺っちまったかのはまずったなぁ、
もうちょっと楽しんでから殺すんだった。
にしても、どいつもこいつも馬鹿みたいに馴れ合いやがって・・・反吐がでるぜまったく。
やっぱカシムの野郎も奴らみたいになってんだろうな、
全く腑抜けたもんだ。』
言葉と共に益々笑みを深くする。
そしてついには目の前にまるで本人がいるかのように呟く。
「とっとと本性現しちまえよ、一緒にゲームを楽しもうぜカシムゥ。」

ふと向かい側の方に人影が見える。
相手が視認する前に茂みの深いところに入って息を潜める。
気配を消しもせずにまるで散歩をしているかのように歩き回っている。
『おめでたい獲物はどこにでもいるもんだな。
次はキチンと楽しまねえとよ!』
先ほど殺した相手から奪い取った銃を
ためらいなく撃つ、距離は10m、弾は相手の体を貫いた筈だった。
だが少年は気にすることもなく歩みを止める気もない
よく見ると相手に残り1m程のところで弾丸は止まっている
『ああん?どういうことだ?』
驚きと共に呟く。
危険な予感がガウルンに逃走という選択を薦める。
彼がその予感に従おうとしたとき、向こうから声がした。
「隠れてないでてきたらどうだ?」
敵の目はガウルンをしっかり捉えていた。
銃弾の飛んできた方向から位置を掴んだらしい。
「あらら、ばれてんのかよ…!」

姿を表すと同時に3発放つ、乾いた音と共に凶弾が敵を襲う!
だが先ほどと同じ攻撃が効くはずもない、
同時にガウルンは敵に接近しながら義手の充電を始める。
「ほう…おもしろそうなおもちゃだ。」
その男の姿はごく普通だった、
体にフイットした服には土一つついていない、
見ると彼の歩いてきた場所には道が出来ている、
ぽっかりと開いた空間はどう見ても人為的なもので
その道は少年の1m程前で止まっている。
まるでその位置を境界として2つの世界が存在しているようだった。
そして全ての銃弾はその境界を越えることができず、
全て消滅してしまった。
だがその様を見てなおガウルンは充電をやめない、
敵の常識で計り知れない能力を
ラムダドライバと同タイプのものと判断したのだ。
そしてそのタイプの能力ならその力を超える物理的な力をもってすれば
打ち破れる、そう判断した。
「ああ…俺にはもってこいのおもちゃだぜ!」
強烈な一撃を敵の顔面に向け放つ、
骨すら残るまいとガウルンは確信した。

179狂戦士の会合・改改  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/09(月) 22:52:47 ID:Hw7b583Y
…だが現実は違った。
彼の義手は敵まであと10cmのところまで迫った、
だがそこで拳は止まり、電撃が周りに迸る。
その電撃が作用して目の前にある不可視の壁をガウルンの目が捉えた。
そして次の瞬間、彼の義手が弾ける。
「ちっ!?」
思わず舌打ちをする、これでガウルンの勝機はなくなった。

「どうした、まさかそんなもので俺を殺せると本気で思っていたのか?」
冷ややかな目で見下ろす敵の雰囲気は普通の少年のそれとは明らかに異なっていた。
「普通思うぜ、まったくよ!」
義手のない手を押さえながら背を向け逃亡を試みる。
だが急に足から力が抜け、その場に崩れ落ちる、
そしてガウルンは見た、目の前に転がる自分の足を。

ガウルンの顔に恐怖はなかった、
ただ苦虫を噛み潰すような表情が広がっていただけだった。
「そんな程度で自惚れていたのか?お山の大将にもほどがある。」
「…猿と同じ扱いとはひどいんじゃないかい?」
ガウルンは強がりを見せた。
対し少年はフン、と鼻を鳴らす。
「まあこれ以上生かしておいても意味はなさそうだ、
貴様は始末することにした。」
少年から出た言葉は絶対的な死刑宣告だった。

「ん?どうした?祈る時間ぐらいはくれてやるぞ?」
ガウルンは観念した、敵は見逃すつもりはないようだ。
「ああ、そんじゃあ《哀れな聖者に殺戮の加護を》とでも言っておくかな、
クックック。」
ガウルンは笑い始めた、少年が右手を振りかぶる。
『どうやらここで終わりみたいだな、愛してるぜカシムゥ、続きは地獄で…』
彼の思考が途切れた。
「まあそこそこに楽しめたな…
さて、俺と対等なものは一体どこにいるんだ?」

歩いていく彼の後ろには左腕と右足、そして首のない死体が一つ、
赤い花のように咲いていた


(A-5/1日目/4:45)
【死者】ガウルン
【残り人数】96人


【フォルテッシモ】
【状態】やや不機嫌気味。
【道具】ラジオ
【装備】荷物一式(食料は回復する。)
【思考】 強者を倒しつつユージンを探す、一般人に手を加える気はない。

2005/05/09
全面的に校正、ガウルンにぽさを。

180人界の魔王は斯く詮ずる(1/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b>:2005/05/09(月) 23:45:58 ID:pSENnXOc
 学校の一階、保健室。
 数時間前に一人の少女が寝ていたベッドに、今はクリーオウが横になっている。
 その寝顔を無表情に見やり、空目は手にしていた本を閉じた。
 机の上に置いてある地図や名簿を改めて見る。
 空目のデイパックはサラから開けることを禁じられているため、クリーオウのものだ。
 先ほどの会議で初めて見たが、そこには看過できない文字があった。
(十叶先輩――魔女、か)
 このゲームの主催者側ではないのかと思っていたが、彼女も“参加者”のようだ。
 だが、それならば自分のようにじっとしている人間ではないことは分かっている。
(とはいえ、それほどの脅威にはならないか……?)
 何しろ参加者達の国が違い、世界が違う。
 魔女の脅威は“異界”にあるのだから、そもそも知識基盤の違う人間の集まるここでうまく立ち回れるとは思えない。
 共通の物語を多人数に植え付けなければ異界は生まれない。
 そして何らかの手段で感染させようとしても、魔女には自分と同じく直接的な戦闘能力がない。
 物語をばらまく前に殺人者に殺されるであろうことは容易に推測できる。
 ならば仲間を作れば危険だろうかと思い、その可能性も否定。
 自分の場合は協力者を得ることが出来たが、生まれながらに発狂している彼女とまともにコンタクトを取れる人間などいはしないだろう。
 だが、一回目の放送でその名前が呼ばれることはなかった。
 隠れているのか、たまたま殺人者に遭わなかったのか。
 魔女の暗躍を否定する要素が揃ってるとはいえ、確定はしていない。
 仮に次の放送でも呼ばれなければ、再び集まった皆に言う必要がある。

181人界の魔王は斯く詮ずる(2/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b>:2005/05/09(月) 23:46:57 ID:pSENnXOc
(皆、か。俺も自分の立ち位置を決めなければならんな)
 椅子の背を軋ませ、空目は腕を組む。
 目を閉じ、結論に至るまでに要した時間はわずか十秒。
(選択肢が広がった以上、生存を選ぶのが妥当か)
 別に死んでも構わないと思っていたが、生き延びられるならそれに越したことはない。
 万が一、自分が死んで魔女が帰還するなどということがあっては目も当てられない。
 自分が死ねばあやめは空目家で永遠に自分を待ち続けるだろう。
 あやめがいなければ武巳達には異界に抗う術がなくなる。
 それは決定的な敗北を意味する。
 可能性が薄いとはいえ、刻印の解除を目指すのが最もマシだと判断した。
 何より――こちらの方が大きな理由なのだが――自分とは違う世界の人間。その知識は興味深い。
 刻印の解除に際しては多様な知識と見解が飛び交うことだろう。
(結局、異界でも屠殺場でも俺は変われんか)
 その事実に軽く鼻を鳴らし、再び本を開こうとし、
「……ん……恭一、そろそろ交代?」
 身を起こしたクリーオウが目を擦っていた。
 時間を見ると10:15。確かに交代の時間だった。

182人界の魔王は斯く詮ずる(3/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b>:2005/05/09(月) 23:47:57 ID:pSENnXOc
「ああ」
 短く答えるとクリーオウと入れ替わりにベッドに入った。
 思考のためには睡眠も必要だ。眠れるうちに眠っておくべきだった。
「じゃあ二時間……あ、放送の前になったら起こすね」
「ああ」
 平坦な声で再び返すと、目を閉じた。
 他人の体温で温まった寝台は、意外なほどに寝心地が良かった。

【D−2(学校1階・保健室)/1日目・10:15】

【居残り組:じゃじゃ馬と魔王】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。就寝。
[装備]: 図書室の本
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイパック(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い。放送まで睡眠。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。

183Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/10(火) 00:23:43 ID:.pSpfsu2
「やられたわね」
舌打ちするパイフウ…手の傷はともかく肩の傷が酷い。
癒しの術をかけてはいるが…骨が繋がり動くようになるまでにはまだ時間がかかる。
左利きでしかも銃器使いである彼女にとって左肩の傷は命取りになりかねない。
森の中をよろよろと進むパイフウ、どこかでしばらく落ち着かなければ…。
藪を掻き分けたその先には…墓地と…そして古ぼけた教会があった。

ふらりと教会の門を押し開くパイフウ、音もなく扉は開く…
「?」
その扉の開き方に違和感を覚えるパイフウ…床に目をやる。
(足跡?)
埃の中うっすらと残る幾人かの足跡を見やったその時だった。
「!!」
真正面からの斬撃、間一髪で飛び退るパイフウ…前髪がわすかにはらりと落ちる。
そして彼女の視界には闇から溶け出してきたような黒衣の騎士が立っていた。
(この男…強い)
あの大広間で散った二人の剣士もそうだったが、おそらくは彼も火乃香に匹敵する剣士だということを、
一瞬の邂逅で彼女は肌で感じていた。
いや純粋な剣技だけならば、わずかに上を行くかもしれない。

その黒衣の男の握る刃に龍を象った大薙刀が再び唸りを上げる、今度も紙一重で回避するパイフウ
しかしその顔に満足感はない…あるのは怒り。
「どういうつもり?」
彼女は気がついていた、この男がわざと最初の一撃は紙一重で斬撃を行っていたことを…。
でなければ自分は今頃真っ二つだ。
本気であろう二撃目をギリギリで避けられたのは少し自慢したくなったが。

「敵なら討つが…だが迷い人とも限らんからな…それに主の眠りを血で汚したくはない」
平然と言い放つ黒衣の騎士、その名はアシュラム。
「早々に立ち去るんだな…そしてここの事は口外するな」
「ちょっと!殺しかけておいてそれは無いんじゃないの?」
ついつい言い返してしまうパイフウ…アシュラムの目が鋭い光を放つ。
「やめておくんだな…利き腕を怪我しているのだろう?それを承知なら俺も舐められたものだ」
苦笑しつつも水を向けてやるアシュラム。
「お互い長生きしたいだろうからな」

その言葉にふっと息を吐くパイフウ。
皮肉にも今のやりとりがパイフウに失っていた自制と冷静さとを取り戻す契機になったようだ、
無論、焦りもあるし余裕もそれほどあるわけではないが。

184Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/10(火) 00:25:42 ID:.pSpfsu2
しかしそれでもこのお世辞にも万全とは言いがたき状況で、目の前の黒き騎士を相手にするつもりはなかった。
まして万全であってもレートはおそらく五分と五分、今の自分の力では、
死力を尽くして何とか相打ちにもっていくのがやっと、それは彼女の望む結末ではない。
スキあらば別だが、それでもこの男がスキを見せることなど期待するだけ無駄である。

ならばここは退くか?しかし、ズキリと痛む肩に顔をしかめるパイフウ、
一刻も早く落ち着いて休息を取らねば肩の傷が慢性化する危険が出てくる…、
だが、ここを出てその落ち着ける場所までたどり着けるのだろうか?
アシュラムをもう一度見るパイフウ、考えたくはないが正直このクラスがゴロゴロしてるとして、
そんな状況で往来を歩くのは自殺行為のように思えた、だから…。

「わかったわ、なら屋敷の中までは入らない、だから少しだけ休ませてくれない?」
まな板の鯉、大胆極まりない提案を持ちかけるパイフウ。
無論、彼女には彼女なりの計算もあった。
理由はわからないが彼にはここを動けない理由があるようだ、
なら自分の傷が治るまでついでに弾避けになってもらおう、もし手に余る相手が襲ってきたなら
彼を手伝って撃退するも、逆にそれに乗じるもありだ。
「その代わり誰かが襲ってきたら…出来る限りのことはさせてもらうわ」

(この女…狐だな)
アシュラムはアシュラムでとうに自分とやりあうつもりはないにせよ、
こちらの事情を察して盾にするつもりであろうパイフウの魂胆に気がついていた。
力ずくで追い払うのが本筋ではある…だがアシュラムもまたパイフウの実力を察している。
いかに手負いとはいえ一筋縄ではいかぬ相手…今の彼女ならば退けることもできるが、
捨て身の攻撃で相打ちに持ち込まれぬとも限らぬ…狐は最期の瞬間でも油断できないのだ。
それは何としても避けたい。
こちらの手の内は見せた、相手も状態が万全に戻ればおそらくは自ら退くだろう。
狐は機を見るに敏でもあるのだ。

「いいだろう…お互い死ねぬ身のようだ、ならば一時休戦といこう…入れ
 そこに立たれていては目だって仕方が無いのでな…ただし」
アシュラムは刃を床に滑らし器用に線を刻んでいく。
「この線より手前に入れば休戦協定を破ったとみなす、それなりの覚悟をすることだな」
「望むところよ…お互い長生きしたいんでしょ、少しでもね」
アシュラムの言葉に鼻白んで言い返すと、パイフウはそのまま壁にもたれて、
おもむろに銃の手入れを始めるのだった。

185Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/10(火) 00:26:43 ID:.pSpfsu2
カチャカチャと金属の触れ合う音が教会の中に響く、
空の薬莢がパイフウの足元に転がる…ちらりと横目でアシュラムの様子を伺う…水を飲んでいる。
握った薬莢に気を込めて指で射ちだす…狙いはアシュラムの手のペットボトル。
だが、アシュラムは右手に持った薙刀の刃をわずかに軽く翻す…それだけでパイフウの指弾を確認すらせず
何事も無いように弾き返した。
薬莢はパイフウが放ったそれと寸分違わぬ軌道で彼女の手の中に戻っていく。
「悪ふざけは止めろ」
「やっぱこの程度じゃ動じないか」

軽く唇をゆがめるパイフウ。
やはり一戦交えるのは避けるべきという思いを再認識するパイフウ…しかし。
もしその時が、チャンスが来たとして自分に我慢できるだろうか?
何かがあってくれればいいと思う反面、何もなく過ぎ去って欲しいと願うパイフウ。
「ねぇ?あんたの主って…」

その時地下でなにやら争う物音、アシュラムの視線が剣呑なものに変わるが…。
『心配はいらぬゆえ、お前はそこにいるがよい…おお1人客が増えたか…ふふふ』
地下から響く声にそのまままた静かに祭壇の上に腰を下ろす。
「で、俺の主とは誰のことを言っているのだ?」
アシュラムの言う主とは、1人はもちろん今は亡き暗黒皇帝ベルド、
もう1人はこの地下に眠っている姫君のことである。
洗脳されているとはいえ、ベルドへの忠誠が消えうせたわけではない。
だがそれに変わる生きがいを与えてくれた地下に眠る姫君への忠義もまた本物。
それが一時の偽りの感情であったとしても、自分に恥をそそぐ機会を与えてくれた以上は、
この身朽ち果てるまで尽くす、たとえ本当の自分が戻ってきたとしても、
せめて夕刻までは身を挺して盾となる…それが彼の結論だった。

しかしパイフウはアシュラムの思いなど、先ほどの質問などもうすでにどうでもよくなっていた。
「何よ…こんなのがいるなんて…」
あの争いの最中一瞬だけ感じた、地下から湧き出るような恐るべき鬼気…
まるで冥界から心臓をわしづかみにされたようなそんな気がした。
あれがアシュラムがいう主…なのだろうか?

それでも何とか二の句を告げようとするが、もはや言葉は出てこなかった。

186Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/10(火) 00:31:12 ID:.pSpfsu2
【D-6/教会/1日目・12:00】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る

【パイフウ】
 [状態]右掌に浅い裂傷(処置中)、左鎖骨骨折(処置中)
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
 [道具]デイバック(支給品)×2
 [思考]1.傷が治るまで休息 2.主催側の犬として殺戮を 3.火乃香を捜す

187未定  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:15:13 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』
とした。
今の自分の装備では未知の敵

…オドーを殺した相手のような、

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろう
この島では単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、
そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

188未定 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:16:11 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「…クルツ…」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『おいおい、流すだけかよ。
マオ姐さんはいいツッコミかましてくれるのに、
このネクラときたら。』
軽く手を広げ、やれやれと首を振りながら言う。
『まあいいや、端から期待してねーし。
…さて、今回は俺が死神だ、おまえに…』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
…前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「…《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

189未定 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:16:53 ID:Hw7b583Y
「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

『もう1度聞くぜソースケ。5人の命…』

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

『それとも、彼女1人の命…』

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

『おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える。
そして彼の出した結論は…。



『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは…殺戮を表すナイフだった。
『けどお前…あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は…彼女を幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
2つの要求をするつもりだった。
1つは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
そしてもう1つは…

…自分の記憶を彼女から消してもらうこと。
あの女ならそのようなことも出来るかもしれない、
そう思って考えた要求だった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通る気がした。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は…彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、
それが宗介には耐えられなかった。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
今度まで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている…答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
記憶を消したいとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

190未定 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:19:21 ID:Hw7b583Y
そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、
少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ、かなめが不眠不休だよ!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、
思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。
だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再び振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
だがあえて予想するとすればその感情は…


【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

この作品は◆3LcF9KyPfAさんにネタ、題名を提供してもらい、
一部の台詞を名も無き黒幕さんから頂いています。
こころより感謝!

191弾丸の選ぶ道 その1 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 20:59:45 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』とした。
今の自分の装備では未知の敵

――オドーを殺した相手のような――

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろうこの島では、
単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

192弾丸の選ぶ道 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:00:40 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「……クルツ……」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『反応無しかよ…まあいいや、端から期待してねーし。
……さて、今回は俺が死神だ、おまえに……』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
……前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「……《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

193弾丸の選ぶ道 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:01:28 ID:Hw7b583Y
『もう1度聞くぜソースケ。5人の命―

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

―それとも、彼女1人の命―

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

―おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える、そして彼の出した結論は…。


『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは、殺戮を表すナイフだった。
『けどお前……あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は彼女を、幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
1つの要求、お願いをするつもりだった。

それは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
今までの護衛方法は宗介が表から彼女を護衛し、
“レイス”と名乗る人物が彼女を影から護衛していた。
これからは自分がそのレイスとなり彼女を守る。
そして彼の要求とは自分の代わりを探してもらうことだった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通るだろう。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は……彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、それが宗介には耐えられなかった。
だが彼女の元から立ち去る気はない、彼女は死ぬまで自分が守ると決めた。
これまでとすることは変わりない、表からか、裏からか、その違いだけだ。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
…今度会うときまで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている……答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
近くに居たくないとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ!かなめが消えちまった!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再びナイフを振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

194弾丸の選ぶ道 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:02:11 ID:Hw7b583Y
少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
予想するとすればその感情は…

――鈍感な友の考えに対しての憤怒か、
    宿命に立ち向かうことに対しての悲哀か――



【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

195Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:10:54 ID:HpSi88X6
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「そうですか、愉快な方なのですね」
「新宿に用の際は、彼にガイドを頼むといい、私の名前を出せば費用も融通してくれるだろう」
話すメフィストの口元を、魚を頬張る口元をぼんやり眺める志摩子、
「食べたまえ、冷めると味が落ちる…それとも魚は嫌いかね?」
「いえ…そんな」
返事もどこか上の空だ…。
メフィストと出会って以来、数時間…志摩子は常にこんな調子だ。
完全に彼女はメフィストの美貌に魅せられてしまっていた、いや美貌だけではない。
一人の人間としても彼は充分に尊敬に値する人物だ。
ただ、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して何かを見つけ、そしてそれ以来
時折ひどく不機嫌な表情になるときがあるのが気になったが。

「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」
そう…今のような。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格もちっぽけな自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

196Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:11:42 ID:HpSi88X6
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、田…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。
やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。

メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧だったぜ、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

197Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:12:25 ID:HpSi88X6
終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」

「ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」
終を睨むメフィスト。

198Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:13:13 ID:HpSi88X6
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

199Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:14:29 ID:HpSi88X6
でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

やっぱり自分しかいないと思う志摩子、正直祥子様では…今の祐巳を傷つけるだけのような気がする。
紅薔薇こと小笠原祥子、表面的には優雅で大人物っぽいが、その内面は臆病な小心者だ。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終、もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無い
カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

200Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:18:38 ID:HpSi88X6
C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:あちこちにかすり傷 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

201Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/12(木) 01:22:39 ID:Kdvo/N3A
(修正)
「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。

の部分に以下を追加

最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

の部分に以下を追加します。

特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界ではとうに絶えた術だが…
しかし容易かつ急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

202Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/12(木) 01:36:53 ID:Kdvo/N3A
さらに
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」



「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
死者すらも蘇らせる男が苦渋の表情を見せる。

に修正

それから
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」


「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。
「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」

に修正

203最悪の支給品・改め・リサイクル(3/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:49:59 ID:dcYVsDDY
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
「ええ、生きた人は居ないようですね」
しかし、誰も『無い』わけではなかった。
神社の境内には、一つの死体がごろんと転がっていた。
銀色に輝く左腕を持つ、その死体の頭部は粉砕されていた。
それは、丁度3時間前にオドーに頭を叩き潰されたジェイスの死体だった。

サラは死体の数m背後の地面に屈み込んだ。
「何か見つかりますか?」
「ここに跳躍痕が有る。その姿勢と、手に握っている砕けた剣からして……」
地面を指差し、そこから死体へと放物線を示し、次に入り口の鳥居近くを指差す。
「跳躍して誰かに斬りかかろうとした所を、背後上空から何かに撃たれたようだ」
「背後上空からですか。鳥居の上に誰か居たのかもしれませんね」
鳥居を振り返るせつら。
サラは空を仰ぎ見た。
「あるいはそれこそ空を飛んでいたのかもしれない」
だが、澄み切った青い空には一片の影すら見当たらない。
例え空に何か居たにせよ、それはもうここには居ないのだ。
「どちらにせよ、今から気にする事でもないでしょう?」
「確かに。死斑と死後硬直が現れ始めている。死後2〜4時間という所か。
下手人は既に周辺には居ないと考えて良いだろう。
遭遇する事があるかも不明だ」
今考えるべきはカードキーの事。あるいは……
「しかし、限り有る資源は大切にしなければならない」
サラは、名も、顔も知らぬ首無し死体の残した物を見下ろした。

204最悪の支給品・改め・リサイクル(4/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:50:43 ID:dcYVsDDY
刀身を砕かれた魔杖剣・断罪者ヨルガの柄を握りしめる。
「それ、使えるんですか? 砕けてますよ」
「心配は無用だ。わたしの世界の“杖”は魔術のシンボル以上の役割を持たなかった。
それに対し、この“杖”は本来の機能こそ失われているが、
特殊な材質で作られた魔術の増幅具とでも言うべき物のようだ。
例えこんな有様になっていても――」
“杖”を一振り。それだけで空気中の水分が凍結し、氷の球体が生まれた。
空いている方の手で氷の球体を撫でると水に変わり、蒸気に変わり、霧散する。
「――そう捨てた物では無い。悪くない使い心地だ」
「なるほど。役に立つようですね」
「そう、役に立つ」
といっても、戦力としてではない。
元々、サラの世界の魔術は杖が無くても有る程度は使用できる。
(元の世界で杖が手元に無い時は、同時に魔術を封印されている事が多かったのだが)
また、そもそもサラは、戦いにおいてあまり魔術を使わないタイプだった。
彼女の得意とする武器は知略とハッタリと爆弾なのである。
彼女が魔術をよく使う場面は、格下の相手をあしらう時か、あるいはその逆。
ここぞという時、これという事の為だ。即ち、この状況では……
(刻印の解除の為に、杖は必要だ)

それと、サラはもう一つ気になる事が有った。
砕けた刀身を頭の中でパズルのように並べ、本来の形を復元する。
この“杖”は剣の形状をしている。
だが、弾丸を篭めるような奇妙な部分が有るのだ。
まるで杖であり、剣であると同時に、銃でもあるかのように。
そして、問題となるのはその弾倉。
(賭けてもいい。クエロが持っていた弾丸がすっぽりと納まる)
無論、たまたま同じサイズなだけかもしれない。
だが勿論、そうでないかもしれない。
(刀身も持っていった方が良いだろう。魔法生物の材料にだってなる)
サラは砕けた刀身を布でくるむと、デイパックの中に放り込んだ。

205最悪の支給品・改め・リサイクル(5/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:52:07 ID:dcYVsDDY
更に死者のデイパックを開封する。
「地図に禁止区域のメモが無いな。
どうやら6時より前、つまり3時間以上前に死亡したらしい。
水と食料が概ね残っている。……すまないが、頂いていこう。
おや、これは」
「どうしました?」
サラは『AM3:00にG-8』と書かれた紙と、鍵を見せた。
「どうやらわたしと同タイプの支給品は他にも有るらしい。
この男のものか、あるいはこの男が誰かから頂いた物だな」
それも、時間制限付きという、サラの物より更に制限の厳しい物だ。
「刀身に彼の物より乾燥した血糊が付いていたから、
もしかすると誰かを殺して奪った物だったのかもしれない」
「物騒な話ですね」
殺し殺され奪われる。仁義無き戦いだった。
「それで、リサイクルはもう終わりですか?」
「他に何か……いや、そうか」
サラはその問い掛けの意味に気づいた。
そう、恐らくジェイスの残した中で、最も価値のある物。
それは……
「………………死体か」

死体にまだ刻印の機能は残っているのか。
この死体をすぐ近くの禁止エリアに放り込めばどうなるのか。
あるいは、肉体が死を迎えれば、刻印は解除されるのか。
そのどれもが、これ以上無いほどに貴重な情報だ。
(だが、それは許される事だろうか?)
死者の物を勝手に頂いている以上、今更ではある。
医学を学んだ時に解剖実験に参加した事も有る。
前科無し傷害未遂の悪霊を狭い壺に押し込もうとしたり、
“本人”の許可が取れなくても死者の幻で悪人を脅かしてやろうと考えた事も有った。
禁断の死後の世界にずかずか踏み込んで見物して帰ってきた事も有った。
死者を、ではないが、罪無き恋する乙女を勝手に悪霊を呼ぶ囮にした事も有った。

206最悪の支給品・改め・リサイクル(6/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:53:00 ID:dcYVsDDY
(おや、振り返ってみるとなかなかの暴れん坊だな、わたしは)
実に今更であった。
既に魂の抜けてしまったこの死体が刻印を発動させても、誰も被害を受けない。
サラは、せつらに頷きを返した。

どうせ刻印に有ると思われる発信器としての機能で、この実験はバレるのだ。
ならばいっそ、宣言をした方が良いだろう。
「そうだな。禁止区域の範囲を正確に調べたい。その死体が使えるかもしれない」
そう、単なる禁止区域の範囲を正確に知るための実験と偽った。
地図ではその正確な位置は判らない。地図自体がやや大雑把な物だからだ。
だからこの建前は、十分に納得を与える物だろう。
「では、死体の方にご協力願いましょう」
せつらの鋼線が閃いた。
それに応え、ジェイスの死体がぎこちなく起きあがる。
秋せつらの魔技は人を意のままに操る事さえ可能とし、死者すらもその手中に落ちる。
例え扱いづらい鋼線であっても、視界内で簡単な動きをさせる程度は容易であった。
「行け」
せつらが重たげに腕を振る。
死体はゆっくりと歩き始めた。
……禁止エリアへ。

「あと1歩から10歩ほどのはずだ。ゆっくりとお願いする」
「判りました。10歩進んで発動しなかったら、戻りますからね」
死体の歩みが更に遅くなる。20秒に1歩。
……2歩。……3歩。……4歩。……5歩目を踏みだそうとしたその時。
忌まわしい刻印は、形骸へと役目を発揮した。

既に破壊されたその身が更に砕かれていく。
肉体としての器のみならず、魂としての器までもが浸食され、崩れ去る。
知識の為に行われる死体の更なる破壊。それは正しく、死体の解剖だった。
刻印の発動が納まると、せつらは鋼線を引き戻し、死体を回収した。

207最悪の支給品・改め・リサイクル(7/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:54:27 ID:dcYVsDDY
再利用は終わった。
実験にまで使わせてもらった死体を、データを取ってから浅く埋葬すると、
サラは、これでエリアの正確な位置が判ったと呟きながら、
この“解剖実験”により得られたデータを紙に書き込んでいた。
「少し顔色が悪いですよ」
「おや、そうか」
いつもながらの鉄面皮で首を傾げる。
そうかもしれない。彼女だって、気分を悪くする事は有る。
サラは僅かに寒気と吐き気を感じていた。
「問題無い。許容範囲だ」
間近で改めて見た、刻印のもたらす破滅は、相手が死体であっても残酷ささえ感じた。
だが、得られた情報も多い。
刻印の発動の様子。その後の破壊痕。死体だからか20秒ほど遅れた発動。
それらをしっかりとデータに纏め、紙に書き込む。

そんなサラを見やりながら考える。
(どうやら全くの冷血女でも無いようだ)
割と呑気に。せつらにとって、この実験は別に大した事ではない。
もちろん、得られた結果は重大な物だが、生憎とせつらの担当分野外だ。
サラに任せておくしかないだろう。
(よく冗談か本気か判りにくい事を言う癖は困ったものだけれど)
後腐れが無い貴方が好みだという発言の真偽は未だによく判らなかった。
冗談に思えたが、考えてみれば案外本気かもしれない。

しばらくすると、サラは顔を上げ、
びっしりと書き込まれたメモをデイパックの中にしまい込んが。
「それじゃ、行きますか」
「そうだな、行こう」
何処へ、と訊く必要は無かった。
まだ、ここへ来た最初の理由が残っているのだから。

208最悪の支給品・改め・リサイクル(8/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:56:18 ID:dcYVsDDY
賽銭箱に見つけたスリットにカードキーを通す。
すると賽銭箱がガラガラと横に移動し、その下に1m四方程の穴が開いた。
さっさと下に滑り込み、周囲を見回した。そこに有ったのは……
「地下連絡通路。それに案内板付きか。当たりかな、これは」
薄暗い通路が二方向に伸びていた。
北へ。海洋遊園地地下を経て学校、そこから地下湖に続く道。
東へ。海岸の洞窟を経て城の地下、そこから地下湖に続く道。
更にその通過地点全てに出入り可能を示すマークが付いていた。
つまり、隠された出入り口がそれらの地下に有ったのだ。
「ここを通れば、学校まですぐに帰れますね」
「それどころか城に寄って、地下から様子を見て地下湖を経て帰ってもいい」
顔を見合せる。
「さあ、どうしたものだろう」「どうしたものでしょうね」
恵まれすぎて恐い。

【H−1/神社の地下連絡通路/1日目・10:20】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

209第二会放送改訂版:2005/05/13(金) 00:30:37 ID:Dml9zD3M
ゲームに参加するものに等しく聞こえる声がある。
それは絶望と憎悪を振り撒く鐘である。

「諸君、これより二回目の死亡者発表を行う。

001物部景 010ヴィルヘルム・シュルツ 019シズ 027アメリア 075オドー  
081オフレッサー 099鳥羽茉理 103イルダーナフ 105リリア

……以上、9名だ。
次に禁止エリアの発表を行う。13:00に○○、15:00に○○、17:00に○○が禁止エリアとなる。
ふむ、先程からすると大分少ないな。何人かで同盟を組んで行動している者が多いようだが、まあいい。
しかしこれ以上殺し合いが起きないとなると困るからな、不本意ではあるがゲームの進行のために
少々フィールドに変化を与えることにした。
介入に少々時間がかかるゆえ今すぐとはいかないが、まぁその時を楽しみにしてるといい。
今一度言っておくが、これは己が生死を賭けたゲームだ。勝者はただ1人のみ、例外はない。
その事をよく考えて、殺し合いに勤しむといい。それでは諸君等の健闘を祈る」


[備考]
14:30より3時間、島内全域に雨が降る。雨が上がった後の1時間は霧に包まれる。

210Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:41:48 ID:s.j4Ec7Y
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、わたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「いよいよ明日ですね…サガラさん」

211Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:42:43 ID:s.j4Ec7Y
その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも、今はっきりとわかった。
逆だ…彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっとこれを見ていないといけない。
そんなのってひどい!

「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ

212Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:43:35 ID:s.j4Ec7Y
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「なら…恥ずかしいですけど、明るいままで…」
テッサは宗介をベッドに誘う…宗介も拒まない。

「中佐に知られれば自分は個人的に銃殺刑に処されるかもしれないです」
「怖いですか?」
「いえ、望むところです…では失礼いたします」
宗介はテッサの服を一枚一枚丁寧に脱がせていく。
その強張った表情に、苦笑するテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ…俺のことも宗介と呼んで欲しい、千鳥がそうしていたように」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

213Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:45:46 ID:s.j4Ec7Y
やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
2人はあたしの見ている前で…昼間のように明るい蛍光灯の下で…口づけを交わした。
手を握りあう2人の指には指輪が光っていた。
そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつも無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?…それにしても」
美姫は宗介のことを思う、今時おそらく珍しく一本気な男とみた。
己の手を血に染め、忠義を尽くすその姿はまるで古の趙子龍…いやいやそんな器ではあるまい。

「せいぜい虎痴というところかの?だが罪な男よ…愛するものを泣かせまいと思うほどに、
 女は逆に傷つくというのに」
放送はいつの間にか禁止エリアのことについて触れていた。
耳を澄ます美姫。

「つい先ほどまでは、このまま奴らの手にて踊るよりは潔く朽ちるも良しと
 思うておったがの」
また夢の中で苦悶するかなめの顔を優しく撫でる美姫。
「この2人…いや3人の行く末を見届けるのが楽しくなってきたわ…遊びの時間はまだ終わらぬ」

214Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:47:29 ID:s.j4Ec7Y
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

215そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:37:28 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。

216そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:38:16 ID:pBSSTsig
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『オドロカナイノ?』
「もう慣れた」
 穂首をがっくりと落とした、と思ったら今度は振り回す。誰かいるのか、とハーヴェイもそれに倣うが人影は見えなかった
『ヨンダ?』
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て!」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようペダルにしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ」

 衝撃。そして暗転。

 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 ここは建物の内部、あたりには瓦礫が散らばっていて、天井に開いた穴から青い空が見えていた。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登る。
 集合住宅の屋上らしき場所、あたりに人影はない。
 あるものといえば、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリートに突き立つ槍。
『シクシク』
「まぁ、そう気を落とすな」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

217そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:39:05 ID:pBSSTsig
【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:G−sp2はどこ?。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
 [状態]:健康状態 
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
      アメリアのデイパック(支給品一式)
 [思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
 [補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
     この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
     キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
ウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。

218ヒーローの条件・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:03:45 ID:lD9FiO4.
 青空の下の無人の商店街というものは、やはりどこか寂しく感じられた。
(ここにも、人が住んでいたのかな)
 それとも、わざわざこのゲームを開催するためだけにつくられたのか。
 前者の場合住人達はどこへ行ったのか──それを考えて、少し身震いする。
「どうした要! 寒いのか?」
「も、もしかして知恵熱? イエローいろいろ考えすぎだよ!」
「……知恵熱は赤ちゃんがなるものです」
 結局の所、その寂しい商店街の中にいても心細くならないのは、この二人のおかげだった。──しばしば頭痛がするけれども。
 そんなに大声でしゃべっていると“乗っている”参加者に気づかれないか──と言ったところ、
『大丈夫! この超絶勇者剣があればどんな化け物が来てもまっぷたつだ!』
『わあ! アイザックかっこいい!』
 そう返された。
 ……こうも緊張感がないことが、逆に相手を警戒させるかもしれない──そう思っておくことにした。
(……なんでこの人達は、こんな風にいられるんだろう)
 ふと、今更そんなことを思う。
 初めて会ったときも、必死で自分を励ましてくれた。
 壮大で無謀すぎる計画を立てて、勝手にイエローにされた。……知能派はブルーなのに。
 だが、ただのん気なだけのカップルではないのはわかっていた。
 ──先程あの悲惨な放送が流れたとき、彼らは悲愴な顔をして、本気で放送の主を助けに行こうとしていた。
 放送場所がわかっていたら、今すぐにでも駆け出しに行きそうなくらいの勢いで。
 きっと空気が読めないだけであって、事態が読めないわけではないのだ。
「……あの」
「どうしたんだ要?」
「どうしたの?」
「どうして……どうしてそんな風に明るく振る舞えるんですか?
ここじゃ、いつ誰が殺されてもおかしくないのに。どうして、そんなに」
 気がついたら、口が動いていた。
 先程の放送でぶり返してきた恐怖と絶望を、彼らの自信と明るさで吹き飛ばして欲しかった。
 ──彼らは顔を見合わせると、笑顔でこう言った。

219ヒーローの条件・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:04:25 ID:lD9FiO4.
「ヒーローってやつはさ、笑っていないとダメなんだよ!」
「そうそう! 誰かがピンチになったときに落ち込みながらかけつけてもダメなんだよ!
エニスみたいにさ! ぱーっとかけつけて、さーっと悪人をやっつけないとね! かっこよくないよ!」
「ああ! いつまでも泣いたままじゃあモリアーティーにも笑われちまうしな!」
「死んだ子供達にもね!」
「おう! だからさ、つらくてもとりあえずがんばる! なんとかする! 忘れる!」
「うんうん!」
「……」
「とにかくヒーローってのはさ、絶対落ち込むところをみせちゃいけないし、絶対死んじゃいけないんだよ!」
殺されていいのはライバルだけなんだ!」
「うん!……あれ? アイザックのライバルって誰?」
「…………ミリア?」
「ええ!? 私!? アイザック殺したくないよ!」
「……ってことはなんだ、俺達死なないのか! すげえ!」
「すごいね!」
「なんでそうなるんですか!?」
 ──言っていることは無茶苦茶。知識も相当いい加減。その根拠もやっぱりわからない。
 ……でも。
(この人達はそれ以前に……本当に単純に、いい人なんだ)
 どこか、暖かさを感じるような。どんな人も引きつけてしまいそうな、不思議な魅力があった。
(……最初に、この人達に会えて本当によかった)
 改めてそう思う。
 彼らでなければ、自分はあのまま震えていたか、誰かに殺されていただろう。
「……ありがとうございます」
「あれ? 何か感謝されたぞ!」
「なんでだろう? でもありがとう!」
「ありがとう!」

220ヒーローの条件・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:05:12 ID:lD9FiO4.
「……とにかく、食べ物を探さないと。約束の十二時までもうすぐだし」
 三人で笑い合った後、本来の目的を思い出す。
 彼女が言った、約束を破った場合の“お仕置き”はちょっと想像したくない。
「後調べてないのは北の方ですよね。まず、あそこの八百屋に行ってみませんか?」
「ヤオヤって何?」
「えーと、確か野球やフットボールの結果を賭ける、日本のマフィアの集まる場所じゃなかったか?」
「……全然違います。野菜を売ってるところです」
「むう、そうなのか。やっぱり要は物知りだな!」
「うん、すごいよね!」
 彼らの間違った日本の知識はどこから入ってくるのだろう。胸中で溜め息をつき



 刹那、ミリアの腹部から鮮血が吹き出した。



「…………!?」
「おおおおおおおおおおお!? ミリア!?」
 力なく倒れ伏すミリアに、アイザックが駆け寄る。
 目を見開き、悲鳴すら出せないままこちらを見つめるミリアが、見えた。
 赤い血が、見る間に地面に広がっていく。
「…………うあああああああああああああ!?」
 遅れて、絶叫。
(なんで!? なんでミリアさんが!?)
 頭の中が真っ白になる。
 ついさっきまで、自分を励ましてくれたのに。
 ついさっきまで、笑いあっていたのに。
 ──この人達となら、一緒に脱出できると思っていたのに。
「とととにかくミリアをビルに…………おおおおぅ!?」
 ──今度はアイザックの胸部から、赤。
 彼の血が、要の顔にぴちゃりと飛んだ。

221ヒーローの条件・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:05:57 ID:lD9FiO4.
「あ……、ぁぁあ、あ」
 温かな感触が、頬を伝う。足下にも血が侵食していく。
 ──限界は、すぐに訪れた。
「ぁぁあああああああああああ!」
 ──逃げないと、殺される。
 ──ここから離れないと、死ぬ。
 思考がそこまでたどり着いたときには、もう足は動いていた。



「ここからが本番ですね」
 逃げる少年の姿をスコープで確認して、子荻は気を引き締めた。
 ──ふたたび隠れようと思ったビルにたどり着くと、そこにはよくわからない着ぐるみがいた。
 見るからに怪しいその物体に接触することは危険きわまりない。
 結局この高架の上まで逃げることになり、小休止の後ふたたびライフルを握ることとなった。
 ……すなわち、哀川潤の殺害。
(追ってこなかった理由は……仲間に止められた、というところでしょうね)
 あの“赤き征裁”が、怪我を理由に追跡を止めるわけがない。
 ──彼女が身内に甘いのは有名だ。
 仲間の誰かが負傷していたか──こんな場所だ、負傷した彼女の足を一時的に止められる能力を持つ者がいたのかもしれない。
 ……さすがに、二時間近くも放置してくれるとは思っていなかったのだが。
(おかげで少し休めました。……今度こそ、仕留めます)
 こちらの姿は見られている可能性がある。
 ここから脱出しても一生追われるだろう。ならば、ここで殺すしかない。
(おとりは仕掛けました。仲間の状態と銃撃手の確認のために、“赤き征裁”なら必ず外に出てきます。
二時間経過し──さらに“人類最強の請負人”であるとはいえ、まだ本調子ではないでしょう。
こちらの位置が捕捉される前に、殺せます)
 ここから商店街はそれなりの距離があったが、それは萩原子荻にとっては些細な障害にしかならない。
「……では、逆殺です」
 ビルから出てくるであろう“赤き征裁”に、子荻は小さな声で宣戦布告した。

222ヒーローの条件・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:06:43 ID:lD9FiO4.
 胸元に抱いた子犬は、安らかな表情で寝息をたてている。
 その白い毛並みを撫で、哀川潤は口に微笑を浮かべた。
 こうしてみると本当にただの子犬にしか見えないが──身を挺して自分の命を救ったのは、他でもない彼なのだ。
「まったく、お前が死んだら意味がないだろうが」
 犠牲が出た時点で請負人失格だ。
 彼と、今は商店街にいる三人、そして福沢祐巳。──必ず彼らと共に脱出してみせる。
「祐巳は気がかりだが……あいつらはまぁ、大丈夫だろ」
 ごく普通の少年である高里要は少し心配だが、あの二人と一緒なら大丈夫だろう。奴らが死ぬところなどまったく想像できない。
(刀と銃器とあのバカ会話は牽制になる。放送も近いから、聞き逃さないために厄介ごとを避ける奴らが多い)
 たとえ知り合いの生死など関係のないマーダーであっても、禁止エリアの情報は必須だ。
 それに、いざとなったらいつでも飛び出せるよう聴覚を研ぎ澄ませている。
 左足の傷が開いてしてしまう恐れもあるが、彼らの命と比べたら些末なことだ。
(この足が治ったら祐巳を探して……子荻を何とかしないとな)
 彼女は“策師”だ。たった一人でこの島の全員を殺すことが不可能なことくらい理解している。
 邪魔な人間以外は殺さずに、巧みに策を練り駒にする。最終的に主催者を倒すかゲームに乗るかは知らないが。
 だが、彼女は“哀川潤”を殺し損ねたのだ。復讐を恐れて彼女は必ずこちらを狙ってくる。──手加減は無用だ。殺すしかない。
「なんであいつが生き返ってるのかは知らんが、本物だろうが偽物だろうがやることは一緒……────!」
 ──少年の絶叫が、耳に入った。
「要!」
 瞬時に身体を起こす。間違いなく緊急事態だ。
「ファルコン、すぐに戻ってくるからな」
 彼をソファの上から、見つかりにくい机の下へと移動させた。
「……待ってろ。真のレッドが今から行くからな」
 ヒーロー戦隊は、一人でも欠けたら意味がない。
 そしてそれを防ぐのがリーダーであるレッド──つまり自分の役目だ。断じてグリーンではない。
 後で決めポーズでも考えてやろうか──そんなことを思いながら、哀川潤はビルの入口へと急いだ。


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