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掌編小説スレ
1
:
管理人
:2004/04/25(日) 13:38
いしごまで短い(30レスくらいまで)のが書けたら、
ここへ投稿していただけると、うれしいです。
53
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:46:16
はぐらかした言葉がある。
はぐらかした気持ちがある。
それは、もうずっときっと。
そのまま宙に浮かべておけば、ふわふわと漂って消えてしまうものだと。
そう思っていた。
54
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:46:54
左の肩が熱い。
どうしたものか。
酔って体重を預けてくる後藤を左肩で受け止めながら。
潤んだ瞳は決してアルコールだけのせいではない。
涙目になりつつ、石川は凭れてくる後藤を眺めた。
「・・・ごっつぁん、呑み過ぎじゃない?」
「んぁー。そかも。なんかぼーっとするねぇ」
「するねぇじゃなくって。そろそろ部屋戻ろう?」
ホテルにない説された、所謂「お酒を出す」店で。
周りをスタッフに囲まれながら、後藤は些か呑みが過ぎたらしい。
頬がうっとりと桃色に染まり、石川を見る視線が時折・・・妙に熱っぽい。
(こ、怖い・・・ッ)
絶対に何か企んでいるのだと、石川は確信する。
後藤がこの瞳をした時は、ろくな目にあったためしがない。
着替え中に写メを撮られたことがある。
一緒に作ったクッキーの一つが、何故か塩辛かったこともある。
麦茶だと渡された飲み物がめんつゆだったあの瞬間の衝撃は忘れられない。
途端に口内に広がるめんつゆの風味を氷で薄れたアルコールで打ち消して。
石川は後藤を引きずるように、店をあとにした。
55
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:47:35
「ホラごっちん、ちゃんと・・・ちゃんと歩い、て・・・っ」
「よーしもーいっけんいこ〜」
「単に言いたいだけでしょそれ・・・ってか重いから!ホラってば!鍵は?鍵どこ?」
「どこだったかなー、さいふにつっこんだままかなー」
「ちょっと漁るよ?・・・カードキーってこういうとき不便だなぁもう・・・あ、あったあった。」
やっとの思いで宿泊しているフロアまで後藤を引きずり、後藤の部屋までたどりついた。
開けるよー、と前置きをして、石川はリーダーにカードキーを通す。
「着いたよごっつぁん。」
「んー?」
「お部屋だよ。」
「はーい。」
「・・・」
凄まじいほどの空返事ぶりに、一息つきつつ後藤を見やる。
頬の赤みが薄れている。
店内が暑かっただけなのだろうか。
そういえば、後藤と呑んだ数少ない体験を振り返ってみても、表情や態度にこれほど変化が出た記憶はない。
ホテルに宿泊だという安心感からか。
疲れていて酔いがまわるのが早かったのだろうか。
何にせよ、『酔い潰れる後藤』という珍しい現象を、石川はようやく少しだけ楽しんだ。
普段より、幼くなる。
カワイイなーなどと思いながら、それでもやはり身長は自分よりも幾分高い後藤を。
廊下を歩いてきた時と同様、引きずるようにベッドサイドまで運ぶ。
「ごっつぁん着替えは?」
「んー・・・ジャージ・・・」
「どこ?」
「かばんのなか・・・」
振り返れば、荷の解かれていないデイバッグ。
「・・・」
漁るのは面倒かもしれない。
と、いうよりもひっくり返した後の片付けが面倒だ。
石川は後藤の格好を足から順に眺める。
緩めのデニムにプリントのTシャツ。
このまま寝ても、それほど差し障りがないと、石川は勝手に判断し、勝手に納得した。
「よっし、ごっつぁん寝るぞー!」
「あーい。」
機嫌良く返事をして見せるが、石川に体重を預けたまま動こうという気配がない。
もはや石川も介抱することが当たり前のようにベッドの掛け布団を捲りあげ、後藤を座らせた。
56
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:48:12
そのまま横たわってくれると思いきや、石川の首根っこに引っ付いたまま離れない。
膝が疲れてきて、とりあえず石川もベッドに腰をおろす。
殆ど抱きしめられている状況で、至近距離からアルコールが香る。
「梨華ちゃん」
「なに?」
「前に聞いたね。・・・覚えてる?」
心臓が一度膨張したような感覚。
その後は、ただ只管に鼓動が早くなる。
覚えている。
「あの時、梨華ちゃんは『メンバーだ』って言ったね。」
首に絡んだ腕。
自然、声は石川の耳元で囁かれる。
「今は?梨華ちゃんもごとーも、もうモーニングのメンバーじゃないね?」
「あ、え、」
「キャプテンコンももう終わっちゃうからそれも無しね?」
「あの、だから、と」
するり。
二人の間に空間が生まれる。
絡んだ視線は、宙に放った問いを問われた時と同じだった。
石川には次の後藤の言葉が分かってしまう。
―――梨華ちゃんにとって、
57
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:48:51
「梨華ちゃんにとって、ごとーってどのポジション?」
消えかかっていたと思っていた言葉は、後藤によってあっさりと現実に戻ってきてしまった。
脳に直接血液が流れ込むようだ。
ドクドクととても騒がしい。
少し目線をずらしても、見つめられている感覚は消えない。
指先まで熱い。
「と、と・・・」
『友達』と言いかけて、それは逃げることだと思い、やめる。
それはこの場に相応しくない言葉であろうことを、石川は理解している。
酔った勢い。
けれど。
「あのね、あの・・・その、」
「―――・・・」
「ご、ご、真希ちゃん、」
緊張で喉が震える。
頬が熱い。
心地良い関係を、自分の答え方次第では崩してしまうことになるのかもしれない。
石川は、次の言葉が見つからない。
「だから、つまり、わたしは・・・」
58
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:49:23
「りかにゃんカワイイにゃ―――ん!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
59
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:50:06
どーんと。
緊迫した石川の声を遮って、後藤が唐突に叫ぶ。
そのままベッドに石川を引き倒し、脚を使って拘束した。
「ごごごごごっつぁん・・・ッ」
「もう寝るんにゃーん」
「はな、離し・・・」
「おやすみ〜」
「おやすみはいいんだけど、ねぇ、ちょ、ごっちん、重い・・・!!」
石川の必死の抵抗空しく、しばらくすると後藤から穏やかな寝息が漏れ出す。
唖然としてすぐ側にある寝顔を見つめる石川。
開いた口が塞がらない。
「・・・こっ・・このまま寝るのぉ・・・?」
情けない声に、返答はなかった。
60
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:50:40
+++ + +
61
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:51:16
押し倒した人が諦めたように体の力を抜いて。
そのまま自分の腕の下敷きになったままで、徐々に眠りに入っていく。
それを如実に皮膚で感じる。
規則正しい吐息。
後藤は目を開ける。
「『真希ちゃん』ね・・・。」
月明かりに照らされた寝顔を綺麗だと思う。
この感覚はいつからだったのだろうか。
妙な体勢で寝かせてしまったために、その表情は決して穏やかだとは言えない。
石川の頬にかかる髪を、はらう。
その頬を撫でるように。
『む』、だか『う』、だかと唸って、石川は少し身じろいだ。
幼い仕草に苦笑する。
「・・・まだやっぱ怖いや。」
62
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:51:46
宙に。
浮かべておけば消えるものだと思っていた。
会う機会が少なくなれば。
比例して薄くなっていく気持ちだと思っていた。
はぐらかした言葉がある。
はぐらかした気持ちがある。
それは、もうずっときっと。
そのまま宙に浮かべておけば、ふわふわと漂って消えてしまうものだと。
そう思っていた。
思っていたのに。
63
:
星屑の言葉
:2006/07/28(金) 00:52:27
+++星屑の言葉・ヲワリ+++
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